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16話補完小説

「卍解、大紅蓮氷輪丸」

シュテルンリッター、「I」のツァン・トゥは日番谷の卍解を使った。

それを倒れ伏したままの日番谷が見ていた。

「君の卍解だ。そちら側から姿を見るのは初めてだろう。浮くしい卍解だ。そしてこの卍解も「君と共に生きたもの」だ。この卍解だけを君から奪い去り、君が死んだ後も生き永らえさせてしまうことを、心から申し訳なく思うよ」

日番谷は黙していた。

浦原からの言葉が伝わり、出てきた黒い錠剤のものに触れる。

ドクン、ドクン。

鼓動の音が高鳴るのが分かった。

いきなり、ツァン・トゥの氷の翼に亀裂が入り、翼が大地に落ちる。

「なんだ、どうなっている?」

いける・・・。

卍解を取り戻せる。

よろよろと立ち上がった日番谷の背中に、氷の翼が生えていた。

「メダリオンに異常はない。それなのに何故、卍解が君の元へ戻り始めているんだ?一体何をした?」

ツァン・トゥに事情を説明する義理などない。

「氷輪丸が、戻りたいって言ってんじゃねぇか」

ツァン・トゥは飛び上がり、氷の刃を日番谷に向けて放つ。

「無茶させてんじゃねぇよ。自分で自分に攻撃できるわけねぇだろ」

氷輪丸を氷輪丸の手で壊すことはできない。

「さっきといい、今といい、卍解に心があるような物言いはやめてくれないか」

ツァン・トゥは小柄な日番谷の体を蹴り上げた。

上空まで飛んでいくその姿を追って、ツァン・トゥも飛び上がる。

「汎神論は肌に合わない」

「卍解に心が無いって、そんなこと本気で言ってんのか?」

日番谷は、己のうちに宿る力に話しかける。

(ああ、どうやらそのようだ)

ああ。

やっと聞けた。

「久しぶりに声を聴くな、よく帰ってきた」

日番谷は上空で踏みとどまる。

「氷輪丸」

その背には、氷の龍がいた。

「カオがジャマくせぇと思ったら、そういや卍解を一瞬虚化させるとか言ってたな」

浦原の言葉を思い出す。

日番谷の顔には、アランカルにある仮面があった。

「仕方ねぇ、このままいくか」

「くそ!」

ツァントゥは、拳をあわせて必殺技を使う。

しかし、それは大紅蓮氷輪丸の氷に飲み込まれた。

「十字の華は氷輪丸の紋章だ。五芒星にしてやれなくて、すまなかったな」

圧倒的な力の前で、ツァン・トゥは氷漬けになり、十字の中心で凍り付き、息絶えた。

ぜぇぜぇと、日番谷は血を吐きながら地上にいる、打ち捨てられた松本を見る。

「終わった・・・・・待ってろ、松本、今助ける・・・」

ガシャリと。

背中の翼が壊れ、日番谷は地面に倒れふした。

「松本・・・・」

息があるのかさえ、分からない。

今、意識を失うわけにはいかないのに。

自分の副官を助けなければいけないのに。

ダメージは大きく、日番谷は意識を失った。


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「すぐそこだってのに・・・・遠い・・・」

黒崎一護は、真っすぐな道を、ただ歩いていた。

全身に重圧が伸し掛かっているようで、足元がふらつく。

明るい先のほうへほうへと、歩いていく。

ふと、脳裏に映像がよぎった。

「今のはなんだ」

意味の分からない、カットされた画像が繋ぎ合わさって、できたイメージ。

「なんでもいい、進むしかねぇんだ」

一護は歩き続ける。

映像が、また一護の脳内で再生される。

「まただ」

なんだろう、この映像は。

どこか懐かしいような。怖いような。

ドクンドクンと鼓動が聞こえる。

「進まなきゃ・・・みんなを、守るんだ・・・」

少しでも早く、この道を抜けないと。

この道を抜けると、自分は絶対に強くなっている。

「ユーハバッハ・・・・・」

憎むべき、敵の名を口にする。


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「黒崎?」

ふと名前を呼ばれた気がして、石田雨竜は背後を見ていた。

いるわけがない。

敵対しているのだから。

ユーハバッハは、楽しそうに瀞霊廷を見下ろしていた。

「予想はついていた。卍解を奪われた死神たちが、何も手を打たない訳は無い。いずれ卍解を取り戻す手段を見つけるだろう。だが、予想のついていたこととはいえ・・・」

ユーハバッハは、玉座に深く座った。

「喜ばしいな、シュテルンリッターよ。ここからが、本当の絶望だ」

雨竜はユーハバッハの背後で、眉を顰めた。

ああ。

また、死神たちが死んでいくのだろう。

だが、今の雨竜は「A」の称号を与えられた滅却師の、ユーハバッハの後継者。

いずれ、一護と刃を交えるだろう。

ユーハバッハの言いなりのように。

黒崎・・・どうか、尸魂界を守ってくれ。

雨竜は、静かに目を閉じた。

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