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2月の終わり

「2月も終わりだというのに、雪か・・・・」

白哉は、どんよりと曇った空を見て、ちらちら降りだした雪を手に受け止めた。

雪はすぐに水になってしまった。

今週は最後の寒波で、これがすぎると大分温度も温かくなるだろう。

梅の花も終わりか。

そう思いながら、執務室の窓硝子を閉じた。

「隊長、寒いでしょう」

恋次が、ストーブを近くにもってきてくれた。

「ああ、すまぬ」

「2月も終わりってのに雪ですか。なんか季節外れですね」

「雪ももう終わりだ。春の足音が聞こえてくる」

桜が満開になったら、千本桜も喜ぶだろう。同胞だと。

「3月が終わったら4月・・・・人事異動の季節ですね」

「お前には関係ないであろう」

「でも、席官がたまに入れ替わったり、新しい死神が入ってきますからね」

6番隊でも、新しい死神が10名ほど配属される予定だった。

みんな、白哉に憧れての入隊だった。

「入隊動機が、隊長に憧れてってばかりなのが気になりますが」

「そういうお前も、6番隊の副官になったのは私に憧れてであろう」

「まぁ、憧れがほとんどでしたけど、隊長を追い抜きたいって動機もありました」

「若造だった分際で、目標が大きすぎるな」

今では、卍解も双王蛇尾丸となり、副官に配属された頃に比べると数倍も強くなった。

それでも、まだ白哉に届かない。

届いたと思ったら、白哉は更に高みにいってしまう。

「いつになった、隊長に届くんですかね」

「お前は副隊長だ。私に届かなくともよいのだ。今のままでも十分に強いのだから」

「隊長・・・・・・」

白哉の細い体を抱き寄せる。

「いつか、追い越してみせます」

「できるものなら」

唇が重なった。

「ん・・・・」

「夜の技なら、負けないんですけどね」

かっと、白哉が赤くなる。

「お前は、何を言っているのだ」

「冗談ですよ、隊長。そう距離をとらないでください」

恋次が何かしかけてくるかもしれないと、身構える白哉を見て、恋次が笑う。

「今年の新人死神もしごくぞー」

「ほどほどにしておけ」

恋次の修行はきつい。新人にはたまったものではないだろう。

「隊長の修行のほうが、よほどきついですよ」

「そうか?」

「精神的にきますからね。自分の斬魄刀との対話もできないような死神は、6番隊にはいらないって言いますし」

「事実だ」

「でも、対話できるようになるのも時間がかかるんですよ」

「死神になった時点で、斬魄刀を持っているのだから、対話できないほうがおかしい」

「いや、新人はなかなか対話までいけませんから」

恋次がつっこむが、白哉は対話もできないほどの死神には、精神修行をさせた。

それがまたきついのだ。朝も昼も夜も、飯ぬきで、ただ座禅をして斬魄刀と向き合う。かろうじで水をとることは許されるが、それが2日は続くのだ。寝ることも許されない。

でも、それを乗り越えた死神は自分の斬魄刀と対話できるようになり、始解できなかった者も始解できるようになる。

6番隊の平隊士は、圧倒的に他の隊の平隊士より始解できる者が多い。

「命を賭けるのだから、始解くらいできぬような死神に、価値はない」

まぁ、どうしても始解までいけなくて、鬼道や白打で死神をしているような子もいるけれど。

「隊長は、そこらが厳しいです」

「そうか?」

恋次は、白哉の黒髪を手にとって、口づける。

「言いたいことはわかりますけど、入ったばかりの隊士を追い出すような真似はしないでくださいね」

「分かっている」

大戦を経験してからの白哉は、厳しさも緩くなった。昔は孤高であったが、今は隊士たちと歩み寄ったりしている。昔に比べて・・・白哉も変わったのだ。

優しくなったと思う。

「俺は、昔の気高い隊長も好きですが、どっちかっていうと、誰かを気遣うことを覚えた今の隊長のほうが好きです」

「そうか。今の私は、確かに昔の傲慢だった私を捨てた」

「隊長は、傲慢っていうより厳しいんですよ。自分自身に対して」

「ふ・・・・」

「隊長?」

「変わったのは、お前のせいかも、しれぬな。お前に愛されて、人を愛することを覚えた。弱い自分を受け入れることを覚えた」

「殺し文句ですか」

「んう・・・」

舌が絡まるキスをされて、恋次の腕の中で白哉は目を閉じた。

「変わろうと思えば、変われるものなのだと、知った」

白哉は、恋次の背中に手を回した。

「愛している、恋次」

「それはこっちの台詞です、隊長。愛してます」

ちらちらと降る雪はいつの間にか止んでいた。

2月の終わりの最後の雪は、あまり長く降らなかった。

季節が移ろうように、人も移ろう。

だが、白哉と恋次は変わらない。共に歩み道を進んでいくのだ。










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