虚を食い、虚と同一化した青年
「くく・・・・・ここまで、うまくいくとは」
その青年は、笑った。
学院でも名高い有名な浮竹と京楽のペアの部屋に泊まっても、怪しまれなかったのだ。
教室中のみんなが、生還してきたきことを祝福してくれた。
でも、誰一人、青年の名を口にした者はいなかった。
「ああ、うまい。久しぶりの食事だ・・・・」
ぼりぼりと、青年は、同じ部屋に泊まっていたはずの、女子生徒を絞め殺し、その血肉を啜っていた。
生徒全員から、その女子生徒の名前は脳内から削除されていた。教師からもだ。
ただ、書類の中には残されていた。
特進クラスの少女A。
みんな、失踪したと記憶した。
そうなるように、青年が仕組んだ。
青年は、死神でも人間でもなかった。同時に、死神でも人間でもあった。虚を口にした青年は、虚となり、そして死神見習いとなった。
誰一人、その青年が虚でもあるということを見抜けなかった。
教師もだ。
あの山本元柳斎重國さえ見逃した、死神としてまとう霊圧に、誰もその青年が虚でもあるなどと、分からなかった。
「名前がないと不便だな・・・・・そうだ、朝凪にしよう」
今日から、青年は朝凪となる。
朝凪勇気。
青年が食らっている、少女Aの名前だった。
朝凪とは。
少女Aの記憶を食らう。そして、その能力を身につけた。
上流貴族、朝凪勇気。
朝凪家当主の、朝凪勇気。
少女Aの地位を、自分のものにした。少女Aの身の回りのものを自分のものとした。
誰も、少女が食われて、存在を奪われたとなど、気づかなかった。
「さて、次は誰を食おうか・・・・」
ふと、白髪の友人を思い出す。
屈託なく笑う、朝凪勇気が、青年が虚と一体化する前からの本当の友人。
「浮竹、十四郎・・・・・・綺麗な子だった」
少女Aのように、犯して食ってしまおう。
そう思って、ニヤリと笑んだ。
朝起きると、頭痛がした。
「なんだ・・・・」
その頭痛がなんであるのか、分からなかった。
昨日、朝凪勇気を迎えて宴を開いた。
その後で、咄嗟に名前が出なくて不思議に感じたが、今は分かる。
あの青年は、朝凪勇気。上流貴族朝凪家当主の、朝凪勇気。
浮竹とは1回生からの付き合いで、虚の遠征退治に混ざって3か月後に、一人だけ生還した、不思議な青年。
「顔を、見に行くか・・・・・」
なぜか、とても彼に惹かれた。
蜘蛛の巣がそこにあるとは気づかずに、浮竹は行動を起こす。まず、京楽を起こした。
一緒に、朝凪勇気を迎えに行こうといって、その浮竹の笑顔に、京楽は何も言わなかった。
そこで、浮竹は違和感に気づいた。京楽が、たとえどんなに仲のいい友人であっても、朝に迎えに行こうなどと言ったら、むすっとして膨れて、駄々をこねる京楽が、変態行為もなしで普通にいるのだ。
「熱でもあるのか?」
京楽の額に手をあてるが、平熱だった。
「君・・・・朝凪勇気には、気をつけて」
「え?なんでだ?」
「僕の第6感が、危険だと告げている」
「変な奴だな。置いていくぞ」
京楽を伴って、朝凪勇気が泊まっている寮の部屋にきた。チャイムを押すと、朝凪が出てきた。
「ここに泊まっていたんだろう?なんで、元から部屋が空いているのに、この前俺たちの部屋に泊まったんだろうな?」
「懐かしかったからさ」
「そうそう、懐かしかったからだ」
そう、意識が誘導された。
だが、京楽が顔をしかめた。
何故だ。他の誰もが・・・総隊長でさえ、朝凪勇気を受け入れたのに、京楽だけが素直に朝凪勇気を受け入れない。
朝凪は、計画を変えた。
まずは、邪魔な京楽から食い殺してしまおう。そして浮竹を食い殺し、特進クラスのメンバー全員を食い殺した暁には、大虚(メノスグランデ)のギリアンはおろか、アジューカス以上になっているはずだ。
計画はゆっくりでも早くてもいい。
授業の暇を見ては、京楽を洗脳しようと試みた。
でも、ばちりと弾かれて、やはり京楽は何かが違った。変態故なのか、浮竹のことに関しては特に弄れなかった。
京楽と浮竹が、できているわけでもなく、ただの友人に戻そうとした。
浮竹の周囲に常にいる京楽が邪魔だった。
朝凪は、計画を実行した。
午後になって、一人になった京楽を、朝凪が斬魄刀で刺した。はずだった。
「え・・・・・?」
ごぽりと、血を吐くのは朝凪のほうだった。
「虚・・・を、食ったんだね。飢えの果てに」
憐れみの視線で、朝凪をみる京楽。
「朝凪勇気。それは、少女の名だ。君は、名前さえない、虚を食った死神もどき・・・・・」
どうしてだ、どうしてだ、どうしてた。
「お前を食って、京楽春水になってやる!」
ズンと、心臓を貫かれて、朝凪勇気は生命活動を停止したかに見えた。
朝凪勇気の体から、何かが染み出してきた。それの気配に、学院中で悲鳴が起こる。
「何故だ!?学院の中から、虚の気配が!」
「こっちだ!」
「しまった・・・・・」
朝凪勇気の体に戻り、手早く再生すると、身を隠した。
もう、全員の洗脳が解けていた。
朝凪勇気が食った少女Aの地位と記憶はあるが、朝凪勇気は虚の遠征退治で死んだものとされた。
居場所がなくなった。
なので、朝凪は京楽が彼を探しているうちに、部屋に一人でいる浮竹をターゲットにした。
「誰だ!」
「俺だよ」
「お前は・・・・?友人だった・・・朝凪勇気。でも、朝凪は遠征で死んだはずじゃ・・・・」
虚の力で、押し倒された。
「犯しながら食ってやる」
「なっ!虚!?」
衣服が破かれていく。
「いやだ、京楽!京楽!」
熱いものが宛がわれて、引き裂かれる瞬間、朝凪の首と胴が離れた。
「僕の浮竹に手を出したことを、永遠と後悔するといい」
「何故だ。何故、分かる?何故俺が虚でもあると分かった?何故、朝凪勇気が、少女Aであったと分かった?何故・・・・・・」
京楽は、それ以上言わせず、朝凪勇気の体を細切れにした。
「あう」
虚として滲み出た存在の核に、とどめをさす。
「京楽!」
ほとんど裸に近い状態で、がたがたと京楽に抱き着いて、血まみれになって泣いている浮竹を、そっと毛布で包み込んだ。
「犯されてないよね?」
「怖かった・・・京楽!」
「大丈夫。「朝凪勇気」は最初からいなかった。虚退治の遠征で死んだ青年は、「朝凪勇気」ではなく、虚を食って死神化した、名もなき愚か者」
学院中で、騒ぎが起こった。
山本総隊長でさえも、見抜けなかった事件であった。
後に、山本元柳斎重國が、遺書として自分が死した後は、京楽春水を総隊長にせよと、したためる出来事であった。
「朝凪勇気・・・・食い殺された少女の名前。「朝凪勇気」・・・・食って名と記憶と地位を奪った、虚を口にした死神・・・・・・」
「よく、分からないんだ」
「僕にも、よくわからない。でも、あの朝凪勇気は虚だった。飢えの果てに虚を口にして、虚と一体化した、特別存在。学院の者を襲わなければ、普通に隠れて人を食べながら、虚でいられたのに」
「なぜ、俺を犯して食べようとしたんだろうな?」
「君が綺麗だからだよ。ただ食べてしまうには、もったいなかったんだろう。少女・・・本物の朝凪勇気も、犯された後に食べられたそうだよ。そんな痕跡が、霊圧から見つかったんだ」
本物の、朝凪勇気の僅かな霊圧が部屋に残っていたのだ。偽者の「朝凪勇気」の霊圧は染みるほどにあったが、やはり人間のそれと同じだった。
京楽が壊した核と、浮竹の証言がなければ、「朝凪勇気」はすでに消えた虚として処理されるところだった。
「名前を・・・・思い出せなかった。そこから、僕の意識に侵食する「朝凪勇気」を見つけて断ち切った。おかげで、虚であると分かったよ」
「いつ、断ち切ったんだ?」
「君と僕の部屋に泊まった時に。眠っている間に、侵食しようとしてきた。それを、僕の浮竹に対する愛のパワーと変態で、捩じり伏せた」
「お前の変態が、俺を救うなんて・・・・世も末だな」
「酷い!君は犯されそうになってたんだよ!助けなきゃ、ほんとに引き裂かされて食べられてたんだからね!」
「それには、深く感謝している」
浮竹は、京楽に自分から深いキスをした。
「浮竹・・・・」
「京楽・・・・」
「さぁ、めくるめく愛の世界へ!」
京楽が飛びついてくるのを避けて、浮竹は亡くなった本物の朝凪勇気の冥福を祈るのだった。
その青年は、笑った。
学院でも名高い有名な浮竹と京楽のペアの部屋に泊まっても、怪しまれなかったのだ。
教室中のみんなが、生還してきたきことを祝福してくれた。
でも、誰一人、青年の名を口にした者はいなかった。
「ああ、うまい。久しぶりの食事だ・・・・」
ぼりぼりと、青年は、同じ部屋に泊まっていたはずの、女子生徒を絞め殺し、その血肉を啜っていた。
生徒全員から、その女子生徒の名前は脳内から削除されていた。教師からもだ。
ただ、書類の中には残されていた。
特進クラスの少女A。
みんな、失踪したと記憶した。
そうなるように、青年が仕組んだ。
青年は、死神でも人間でもなかった。同時に、死神でも人間でもあった。虚を口にした青年は、虚となり、そして死神見習いとなった。
誰一人、その青年が虚でもあるということを見抜けなかった。
教師もだ。
あの山本元柳斎重國さえ見逃した、死神としてまとう霊圧に、誰もその青年が虚でもあるなどと、分からなかった。
「名前がないと不便だな・・・・・そうだ、朝凪にしよう」
今日から、青年は朝凪となる。
朝凪勇気。
青年が食らっている、少女Aの名前だった。
朝凪とは。
少女Aの記憶を食らう。そして、その能力を身につけた。
上流貴族、朝凪勇気。
朝凪家当主の、朝凪勇気。
少女Aの地位を、自分のものにした。少女Aの身の回りのものを自分のものとした。
誰も、少女が食われて、存在を奪われたとなど、気づかなかった。
「さて、次は誰を食おうか・・・・」
ふと、白髪の友人を思い出す。
屈託なく笑う、朝凪勇気が、青年が虚と一体化する前からの本当の友人。
「浮竹、十四郎・・・・・・綺麗な子だった」
少女Aのように、犯して食ってしまおう。
そう思って、ニヤリと笑んだ。
朝起きると、頭痛がした。
「なんだ・・・・」
その頭痛がなんであるのか、分からなかった。
昨日、朝凪勇気を迎えて宴を開いた。
その後で、咄嗟に名前が出なくて不思議に感じたが、今は分かる。
あの青年は、朝凪勇気。上流貴族朝凪家当主の、朝凪勇気。
浮竹とは1回生からの付き合いで、虚の遠征退治に混ざって3か月後に、一人だけ生還した、不思議な青年。
「顔を、見に行くか・・・・・」
なぜか、とても彼に惹かれた。
蜘蛛の巣がそこにあるとは気づかずに、浮竹は行動を起こす。まず、京楽を起こした。
一緒に、朝凪勇気を迎えに行こうといって、その浮竹の笑顔に、京楽は何も言わなかった。
そこで、浮竹は違和感に気づいた。京楽が、たとえどんなに仲のいい友人であっても、朝に迎えに行こうなどと言ったら、むすっとして膨れて、駄々をこねる京楽が、変態行為もなしで普通にいるのだ。
「熱でもあるのか?」
京楽の額に手をあてるが、平熱だった。
「君・・・・朝凪勇気には、気をつけて」
「え?なんでだ?」
「僕の第6感が、危険だと告げている」
「変な奴だな。置いていくぞ」
京楽を伴って、朝凪勇気が泊まっている寮の部屋にきた。チャイムを押すと、朝凪が出てきた。
「ここに泊まっていたんだろう?なんで、元から部屋が空いているのに、この前俺たちの部屋に泊まったんだろうな?」
「懐かしかったからさ」
「そうそう、懐かしかったからだ」
そう、意識が誘導された。
だが、京楽が顔をしかめた。
何故だ。他の誰もが・・・総隊長でさえ、朝凪勇気を受け入れたのに、京楽だけが素直に朝凪勇気を受け入れない。
朝凪は、計画を変えた。
まずは、邪魔な京楽から食い殺してしまおう。そして浮竹を食い殺し、特進クラスのメンバー全員を食い殺した暁には、大虚(メノスグランデ)のギリアンはおろか、アジューカス以上になっているはずだ。
計画はゆっくりでも早くてもいい。
授業の暇を見ては、京楽を洗脳しようと試みた。
でも、ばちりと弾かれて、やはり京楽は何かが違った。変態故なのか、浮竹のことに関しては特に弄れなかった。
京楽と浮竹が、できているわけでもなく、ただの友人に戻そうとした。
浮竹の周囲に常にいる京楽が邪魔だった。
朝凪は、計画を実行した。
午後になって、一人になった京楽を、朝凪が斬魄刀で刺した。はずだった。
「え・・・・・?」
ごぽりと、血を吐くのは朝凪のほうだった。
「虚・・・を、食ったんだね。飢えの果てに」
憐れみの視線で、朝凪をみる京楽。
「朝凪勇気。それは、少女の名だ。君は、名前さえない、虚を食った死神もどき・・・・・」
どうしてだ、どうしてだ、どうしてた。
「お前を食って、京楽春水になってやる!」
ズンと、心臓を貫かれて、朝凪勇気は生命活動を停止したかに見えた。
朝凪勇気の体から、何かが染み出してきた。それの気配に、学院中で悲鳴が起こる。
「何故だ!?学院の中から、虚の気配が!」
「こっちだ!」
「しまった・・・・・」
朝凪勇気の体に戻り、手早く再生すると、身を隠した。
もう、全員の洗脳が解けていた。
朝凪勇気が食った少女Aの地位と記憶はあるが、朝凪勇気は虚の遠征退治で死んだものとされた。
居場所がなくなった。
なので、朝凪は京楽が彼を探しているうちに、部屋に一人でいる浮竹をターゲットにした。
「誰だ!」
「俺だよ」
「お前は・・・・?友人だった・・・朝凪勇気。でも、朝凪は遠征で死んだはずじゃ・・・・」
虚の力で、押し倒された。
「犯しながら食ってやる」
「なっ!虚!?」
衣服が破かれていく。
「いやだ、京楽!京楽!」
熱いものが宛がわれて、引き裂かれる瞬間、朝凪の首と胴が離れた。
「僕の浮竹に手を出したことを、永遠と後悔するといい」
「何故だ。何故、分かる?何故俺が虚でもあると分かった?何故、朝凪勇気が、少女Aであったと分かった?何故・・・・・・」
京楽は、それ以上言わせず、朝凪勇気の体を細切れにした。
「あう」
虚として滲み出た存在の核に、とどめをさす。
「京楽!」
ほとんど裸に近い状態で、がたがたと京楽に抱き着いて、血まみれになって泣いている浮竹を、そっと毛布で包み込んだ。
「犯されてないよね?」
「怖かった・・・京楽!」
「大丈夫。「朝凪勇気」は最初からいなかった。虚退治の遠征で死んだ青年は、「朝凪勇気」ではなく、虚を食って死神化した、名もなき愚か者」
学院中で、騒ぎが起こった。
山本総隊長でさえも、見抜けなかった事件であった。
後に、山本元柳斎重國が、遺書として自分が死した後は、京楽春水を総隊長にせよと、したためる出来事であった。
「朝凪勇気・・・・食い殺された少女の名前。「朝凪勇気」・・・・食って名と記憶と地位を奪った、虚を口にした死神・・・・・・」
「よく、分からないんだ」
「僕にも、よくわからない。でも、あの朝凪勇気は虚だった。飢えの果てに虚を口にして、虚と一体化した、特別存在。学院の者を襲わなければ、普通に隠れて人を食べながら、虚でいられたのに」
「なぜ、俺を犯して食べようとしたんだろうな?」
「君が綺麗だからだよ。ただ食べてしまうには、もったいなかったんだろう。少女・・・本物の朝凪勇気も、犯された後に食べられたそうだよ。そんな痕跡が、霊圧から見つかったんだ」
本物の、朝凪勇気の僅かな霊圧が部屋に残っていたのだ。偽者の「朝凪勇気」の霊圧は染みるほどにあったが、やはり人間のそれと同じだった。
京楽が壊した核と、浮竹の証言がなければ、「朝凪勇気」はすでに消えた虚として処理されるところだった。
「名前を・・・・思い出せなかった。そこから、僕の意識に侵食する「朝凪勇気」を見つけて断ち切った。おかげで、虚であると分かったよ」
「いつ、断ち切ったんだ?」
「君と僕の部屋に泊まった時に。眠っている間に、侵食しようとしてきた。それを、僕の浮竹に対する愛のパワーと変態で、捩じり伏せた」
「お前の変態が、俺を救うなんて・・・・世も末だな」
「酷い!君は犯されそうになってたんだよ!助けなきゃ、ほんとに引き裂かされて食べられてたんだからね!」
「それには、深く感謝している」
浮竹は、京楽に自分から深いキスをした。
「浮竹・・・・」
「京楽・・・・」
「さぁ、めくるめく愛の世界へ!」
京楽が飛びついてくるのを避けて、浮竹は亡くなった本物の朝凪勇気の冥福を祈るのだった。
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