浮竹に髪を切られ、10円はげをこさえた京楽
「浮竹?」
「んー」
「どうしたの」
「んー」
8番隊の執務室に珍しくやってきた浮竹は、京楽の髪の毛で遊んでいた。
黒いくせっ毛で、かたかったが手入れは行き届いているのでつやはあった。
「お前の髪・・・強制ストレートパーマとかあてたら、面白そうだ」
「ちょ、そんなことしないからね!?さらささらな黒髪の僕なんて、自分でも嫌だよ」
「そうだな。京楽はいまの髪型がいい」
「君の髪の毛も、今のままがいい。さらさらさだし、白い色も綺麗だし、長い白髪が風に揺れる様を見ているだけでも絵になる」
「俺としては、もう少し短くてもいいんだがな。たまに、院生の頃のように短くしたくなる」
「でも、切らないでよ?そこまで綺麗に伸ばすのに、10年以上はかかってるんだから」
浮竹の髪は、京楽が切っていた。腰より長くなると、いつも京楽が腰より少し高い位置で切り揃えてくれた。
「京楽も、髪伸びたな。切ってもいいか?」
「いいけど・・・・ちゃんと、加減してよ?」
仕事をいったん終わらせて、浮竹が京楽の髪をきっていく。
ジョキジョキと遠慮のいらぬ音で、ばさばさときっていく。
「ああ、もうあれだ。不毛だ」
「ちょ、え、まじで?10円はげできてるんだけど!」
「ここに、涅隊長のつくった、「髪のびーる」っていう薬がある。これを濡れば・・・・あら不思議・・・・・ぎゃあああああああ」
10円はげのところにぬると、すごい量の髪の毛が生えてきた。
「ちょっと、浮竹!?」
「く、この髪の毛め!」
ジョキジョキと切っていくと、10円はげが3つできた。
「さっきより酷くなってるんだけど!もう、自分で切り揃えるから、その「髪のびーる」で僕の10円はげになったところ、伸ばしてよ」
「分かった」
ばさぁと伸びた。
「京楽の髪の毛でおぼれ死ぬ!」
「どんな死に方だい、それ!」
浮竹から髪切り用の鋏を手に取り、雑に切っていく。ある程度切った後、京楽は七緒を呼んだ。
「七緒ちゃん、ごめんだけどちょっと髪揃えてくれないかな」
「どうなっても知りませんよ」
「ええっ、ちょ、10円はげだけはやめてね!?」
はさみでちょきちょきと、うまい具合に切っていく。京楽は、前より幾分が髪が短い、というよな髪型になった。
「ありがとう、七緒ちゃん」
「すまない、伊勢」
「どういたしまして。この黒い髪、全部隊長のものですか」
「そうだけど」
「ちゃんと、後でごみとして片づけてください」
「うん、分かった」
七緒は、自分の部屋に戻って行った。
「んー悔しいなぁ。俺でも京楽の髪くらい切れると思ったんだが」
「君が切ると10円はげがいっぱいになることが分かったから、今度から美容院か、七緒ちゃんに切ってもらうことにするよ」
「10円はげのある京楽も、きっと・・・・多分・・・・・それなりにかっこいいかもしれないぞ?」
「今、君疑問形にしながらしゃべってるでしょ」
「お前の髪くらい、切り揃えてやりたいが、それができない自分が情けない」
「そんな深刻にならなくても」
「でも、涅隊長の「髪のびーる」があってよかったな。10円はげ3つもこさえた8番隊ハゲ隊長ににならずにすんで」
「8番隊ハゲ隊長!酷い名前だ」
髪の海をゴミ袋につめこむと、2袋分になった。どれだけ伸びたのかが分かった。
「んーー」
京楽が仕事している間、暇なので隊舎で飼われている、タロという子犬と遊んでいた。
京楽は猫アレルギーなので、猫自体は好きなのが、飼えないのだ。
「わんわん」
「といれかな?」
「ああ、散歩の時間なんだよ。浮竹、暇そうだし散歩に出も連れにいってくるかい?」
犬用の、フンを始末するしゃべると袋を渡された。
子犬を連れて、隊舎の外を歩く。
リードをちゃんとしていたのだが、浮竹が石につまづいてこけかけた時に、リードを手放してしまった。
「あ、タロ!」
急いで後を追うが、子犬しか入れない狭さの路地をいかれて、行方不明になってしまった。
「どうしよう・・・・・」
きょろきょろと見回す。
仕方なしに空から瞬歩を使って探し始めた。
「この子犬、どこかの隊舎の犬か」
「さぁ」
狛村が、タロを抱き抱えていた。
「狛村隊長!その犬、8番隊のタロというんだ。さっき、リードを離してしまった時に逃げ出して・・・・・」
「そうか、8番隊でも子犬を飼っているのか。犬はいいぞ」
「狛村隊長、タロをこっちに」
タロは、狛村の手の中でぶんぶん尻尾を振っていた。
そして、狛村が手を離して地面に置くと、狛村の足にでおしっこをしだした。
「ああ、タロ!狛村隊長、すまない!」
「ははは、元気があってよい」
何度もあやまって、もっていたタオルでぬぐったが、やはり匂いがついてしまっていた。
「隊長、隊舎についたらすぐ服を洗いましょう」
一緒にいた席官が、そう言う。
「本当にすまない」
「浮竹隊長、どうかその子を叱らないでやってくれ」
「あ、ああ」
タロを抱いて、瞬歩で8番隊までくると、大きなため息をついた。
「どうしたんだい、そんな溜息なんかついて・・・・」
「タロが・・・・」
事情を説明すると、京楽は笑った。
「笑いごとじゃない」
「いやごめん。狛村隊長は、自分の隊の隊舎で飼ってる犬をよく世話しているから、その程度のことで腹を立てるような人物じゃないよ」
「そうか・・・・それより、仕事は終わったのか?」
「うーん、追加でまたきてね。最近さぼってたから」
「仕方ない、手伝おう。このまま仕事をするお前を見ているだけでは暇だから」
「ごめんね、京楽。せっかく遊びにきてくれたのに、構ってあげられなくて」
「そいいうお前も、よく雨乾堂に遊びにきて、俺が臥せっていて無理な時も多いだろう」
「ああ、まぁお互いさまというわけか」
「そうだ」
京楽の仕事を手伝っていると、ミスを発見したりして、浮竹の事務能力の高さが分かった。
2時間ほどして、とりあえずためていた仕事は片付いた。
「もう、夕餉の時刻だね?どうする?」
「たまには、俺が泊まる」
「そうだね、僕の本宅の屋敷にいこうか」
「ああ」
京楽家の屋敷は広かったが、何度か来たことがるので、どこのなんの部屋があるのかくらいは、うろ覚えだが分かった。
家人に頼み、二人分の夕餉を出してもらう。
普段浮竹が雨乾堂で食べる食事よりも数倍豪華な食事が出された。
「なんだか悪いな・・・・こんな豪勢なもの」
「お金はあるだけじゃ意味ないからね。たまには、使わないと」
ぱあっと使っても、京楽の金が尽きることはない。
4大貴族の白哉ほどではないとしても、上流貴族らしく蓄えはたくさんあった。
屋敷をいくつも抱え、それに家人を置いて管理させているだけでも、相当な金が飛ぶだろうに。
「酒は飲むかい?」
「ああ、いただこう」
その日は、深夜まで飲み交わした。
次の日、京楽の髪がうねっていた。
「な、なんだいこれ」
「ああ、涅隊長の薬の副作用だ。1日だけ、うねって生き物にようになるとか」
「そんな薬、塗らないでよ!」
「でも、10円ハゲを作ってしまったんだぞ」
「ああ、こんな髪が外出もできない。今日は休みをとるよ」
「じゃあ、俺も」
京楽の髪がうねるさまを、面白げに見ながら、二人は共に休暇を過ごすのであった。「
- トラックバックURLはこちら