交差する想い
時間が経つのはあっという間で。
2週間が過ぎた。
「おいルキア、学校行くぜ」
「待ってくれ、一護」
記憶置換で、ルキアも大学4年生であるとした。
大学に通い、授業内容はちんぷんかんぷんだが、いつも一護の傍にいて、一緒に笑いあった。
一護は大学でも友達が多く、その輪の中にルキアも混ざった。
「しかし、びっくりだなぁ。この前まで、織姫ちゃんと付き合ってたのに、こんなかわいいルキアちゃんと付き合いはじめるだなんて。巨乳好きかと思っていたが、実は貧乳派だった?」
「おい、ルキアに謝れ」
一護が、怖い顔をしてその友人を睨んでいた。
「あ、ルキアちゃんごめん、別にルキアちゃんが貧乳っていうわけじゃ・・・」
「別に、よい」
ルキアは笑っていた。
一護の傍にいれるなら、少々好まぬ相手がいようと、友人としてあろうと。
昼になり、食堂に行く。
ルキアはカレーが好物で、今日はカツカレーを注文した。
「ほんとに、よく食うなぁ」
「頭を使った後は、腹が減るのだ」
カツカレーの他にサラダとデザートを注文して、それを全部食べていくルキアを、一護は呆れた表情で見ていた。
「この後の授業が終わったら、どうするのだ?」
「ルキアとずっと一緒にいたいけど、まだ井上にちゃんと別れ話してなかったから、ちゃんと身辺整理をしてくる」
「井上と、別れるのか」
「そりゃそうだろ。同時に付き合うほど器用じゃないし、そこまでクズ男じゃねーよ」
「ふむ」
「ただなぁ。ずっと、井上の携帯に電話いれてるんだけど、電源いれてないか、留守電になってて、出てくれないんだ。まさか、自殺なんてしてないと思うけど、ちょっと心配でさ・・・」
「井上には、悪いことをしたな」
「仕方ねーよ。元から、ルキアの代わりにって付き合ってたし」
「ふん、けっこうなクズ男ぶりだな」
「うっせーな。自分でも分かってるよ。だけど、原因は全部ルキアにあるんだぞ。お前が俺を捨てていくから」
その言葉に、ルキアが瞳を潤ませる。
「書置きを、ちゃんと残した」
「あんなんで、分かるかよ。ただ、捨てられた、そう思うだろう、普通」
ポロリと、ルキアの瞳から涙が零れた。
「すまない・・・寂しい想いをさせて、捨てたと思わせて、すまなかった・・・・」
「おい、こんなところで泣くなよ!勘弁してくれ!」
ルキアを抱き締めて、涙をぬぐってやると、ルキアは悲しそうな顔をした。
「今頃、井上はどれほど辛いであろうな・・・」
「井上のことは、俺がなんとかするから。どうにもならなかったら、ルキア、お前の力をかりるかもしれない」
その日の午後に、井上の家に一護はいくことになった。
ずっと、連絡をとろうとしても出てくれなくて、直接井上の家を訪れると、井上は泣いていた。
ずっとずっと、泣いていたのだろう。
まともに大学にも通わず、泣きはらした目でこちらを睨んできた。
「黒崎君・・・・・・」
「井上、ごめん。ルキアが好きで、ルキアを愛しるんだ。別れてくれ」
「嫌」
「いやっていわれても、もう俺は井上の家にはこないし、もう会わない。俺を殴ってくれても構わない。でも、ルキアを恨まないでくれ」
「いや、いやよ!黒崎君は、私のものなんだから!今更しゃしゃり出てきて朽木さんなんかに、あげない!」
「井上!」
しゅっと、何か液体をかけられた。
とたんに、眩暈を起こして立っていられなくなった。
「おやまぁ、ほんとに、簡単に罠にかかるものなのだネ。だが、それでこそいじりがいがあるというものだヨ」
「涅マユリ!?なんで現世に・・・・・」
「頼まれたのだヨ、この人間の女に。将来、死んだらその特殊能力についての実験体になるから、黒崎一護、お前から、朽木ルキアという死神が好きだという感情を奪ってくれと」
「井上・・・・・お前・・・・・」
「黒崎君が悪いのよ。私がいながら、朽木さんなんかに、また乗り換えようとするから」
意識が、暗くなっていく。
一護はいい聞かせた。
自分の魂に。
例え、死んでも・・・・・ルキアを忘れるな。
忘れるくらいなら、死のうと。
いつまで経っても、一護は帰ってこなかった。
心配したルキアは、念ために教えてもらっていた井上の家を訪れる。
「あははははは、黒崎君はこれで私のもの。朽木さんになんか渡さない」
部屋の中で、笑っている井上を見つけた。
傍らには、ぼんやりとした表情の一護。
「井上、一護に何をした!?」
「あははは、残念でしたー。もう、黒崎君はあなたのことなんて、好きじゃないって。私のことだけを見てくれるって」
「何を言っておるのだ、井上。一護、おい一護!」
かすかだが、涅マユリの霊圧を感じた。
何かをされたのだと分かったが、どういう状況なのか飲み込めなくて、ルキアは一護を抱き締めた。
「さわんなよ」
「・・・・一護?」
「もう、ルキア、お前とは終わりだ。俺は、井上と結婚する」
「え」
「俺も、もう21だからな。結婚できる。来月にでも、式を挙げるつもりだ」
「一護?」
「そんな泣きそうな顔しても、もうお前には飽きたんだ。勝手に俺裏切って、俺を捨てておいて、今更やり直そうなんて、むしが良すぎるんだよ!」
じくじくと、心臓から血があふれ出しそうだった。
「一護・・・いやだ、私を捨てないでくれ」
「うっせーな。俺は井上のほうがいいんだよ!このアバズレ!」
「いち・・・・ご・・・・・」
ルキアの、アメジストの瞳から、たくさんの涙が溢れてくる。
つっと、頬を伝う涙は止まらない。
「いやだ、いちご、いちご、いちごおおおおおおおおお!!!」
一護に抱き着いて泣き叫ぶと、一護がルキアを蹴った。
「あう!」
「俺、この井上の部屋で新婚生活スタートさせるから。じゃあな、ルキア」
「いち・・・ご・・・・・うわあああああああああ」
ルキアは、泣きながら、井上の家を後にした。
そして、一護の部屋に戻ると、ベッドにもぐりこみ、カタカタと震えながら、丸くなった。
あの、優しかった一護が。
この2週間、ずっと私だけを見てくれていた一護が。
どうして。
「どうして?」
一護のためなら、恋次や兄様も、死神とての長い寿命も捨て去ろうとさえ思ったのに。
一護が、私ことが嫌いだという。
裏切者だと。
アバズレだと。
「私は・・・・・」
ルキアは、一晩中泣きあかした。
そして、けれど決意する。このまま現世に戻ったら、永久に一護は戻ってこない。
確かに、涅マユリの霊圧の名残を感じたのだ。
一護は、マユリに何かをされたのだ。
もう一度、明日一護のところに行こう。それでダメなら兄様の力を借りよう。
そう思った。
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