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インフルエンザ

「ルキア」

名を呼ぶと、ルキアは反応した。

同じ布団で眠っていた。

「なんなんのだ、一護」

「いや、俺のものなんだなーって思って」

「たわけ!いつ誰が貴様のものになった!」

ルキアは、真っ赤になって怒った。

ぽかぽかと殴ってくる手には力がこもっていなくて、それが余計に愛しいと感じた。

「一応、俺はお前の夫だろ?じゃあ、ルキアは俺のものじゃねーか」:

「夫婦でも、貴様のものになったつもりはない」

「じゃあ、この手はなんだ?」

殴ってくる手は、いつの間にか一護の服の裾を掴んでいた。

「べ、別に意味などない!」

「ルキア、かわいい」

抱き締めると、腕の中で細い体が身動ぎする。

「貴様は・・・しゃくだが、かっこいいな」

触れあうだけのキスをする。

「んあっ・・・・」

濡れた声を出すルキアに、けれど一護は我慢した。

昨日、睦みあったばかりだ。

連続だと、負担がかかるだろう。

苺花と一勇は、それぞれの部屋で眠ってしまっている。夜くらいしか、2人きりになれない。

眠る時間を削って睦みあうので、けっこうその次の日は寝不足になってしまう。・

「ルキア、かわいい」

「あっ、いちご・・・・・・」

口づけは、いつしか深いものに変わっていた。

一護は、今は13番隊の死神として働いていた。13番隊の3席だ。実力からいけば隊長なのっだが、隊長はルキアで、補佐する副官は仙太郎だった。

一護は、尸魂界のために死なば本望という、死神としての矜持がない。

真央霊術衣を出ていないせいもあるが、元々死神代行なのだ。その圧倒的な力で、仲間と力をあわせせて尸魂界を二度も救ったが、尸魂界のために死ぬなんてまっぴらごめんだった。

ルキアを救うためなら、死んでもいいとは思うが。

「このまま・・・体を、重ねるのか?」

「いや、明日から虚討伐の遠征だ。寝よう」

二人は、お互いに体に火をつけたまま、その日は眠った。

「母様、父様、何時まで寝てるの?」

「え?ええ、12時!?」

苺花に起こされて、一護はがばっと起き上がった。

「おい、ルキア・・・・ルキア?」

様子が変だった。

汗をかいている。

額に手を当てると、凄い熱だった。

「苺花、誰か呼んできてくれ」

「はい、父様」

一勇は、死神の初等部でかけてしまっていなかった。

苺花は、今日は学年全体で休みだった。

「ルキア様がどうなされたのですか、一護様」

「医者を呼んでくれ。すげぇ高熱なんだ」

「はい、わかりました。至急、かかりつけの医師をお呼びします」

10分程経って、医師がやってきた。

ルキアを診てもらう。

「熱は高いですが、インフルエンザのようですね。薬を飲ませて、点滴を打ち、水分を十分にとらせれば1週間ほどで快癒いたしましょう」

「インフルエンザか・・・・苺花、しばくの間ルキアと会うことを禁ずる」

「えー、何故ですか父様」

「うつるんだよ。俺はもう去年にはインフルエンザにかかったからいいけど、苺花と一勇はしばらくの間、ルキアに会せるわけにはいかねぇ」

13番隊の虚退治の遠征は、延期になった。暴れ回っている虚ではないので、延期になっても大丈夫だった。

「いちごお・・・・体が、熱い」

「インフルエンザだって。去年俺もなったけど、薬のましたし、点滴も受けさせてるし、3日くらいすれば熱も下がる。今はつらいだろうが、辛抱してくれ」

「いちご・・・・傍に、いてくれ」

「ああ。俺も休みをとった。ちゃんとお前の傍にいる」

「苺花と一勇は?」

「白哉と家人に面倒を見てもっている。今はなんの心配もせずに、早く病気がよくなるように、眠れ」

「一護・・・・・」

ルキアは、そのまま眠ってしまった。

ルキアの熱が下がるまで、一護はルキアの傍に付き添い、面倒を見た。

ようやく熱も下がり、食欲も出し始めたルキアに安堵する。

「貴様がインフルエンザにかかった時も大変だったのだぞ。会いたがる苺花と一勇を会わないように家人に預けて・・・・・・」

「あの時はルキアに世話になったからな。今度は、俺がルキアの面倒を見た」

苺花と一勇は、まだ白哉と家人に預けていた。

「早く完全によくなれよ、ルキア」

「言われなくともそのつもりだ。それよりインフルエンザなど、何処でもらってきたのであろうか」

「恋次だよ。あいつも、今インフルエンザで休んでる」

「兄様は!」

「心配いらねーよ。白哉は元気だ」

「よかった・・・・」

まるでに自分のことのように、白哉を心配するルキアは、相変わらずだなと思った。

「白哉も心配してたぜ。うつるから、顔出すわけにもいかねーから」

「兄様には、いらぬ心配をかけてしまった・・・・・」

「言っとくが、俺も心配したんだからな!インフルエンザって分かるまで、心が押しつぶされそうだった。何か酷い病にかかったんじゃなねーかって」

「すまぬ、一護。貴様は優しいな・・・・・愛している」

「俺も愛してる、ルキア。早く完治して、苺花と一勇と会おう」

ルキアがインフルエンザにかかって1週間が経った。

完全に治ったルキアに、苺花と一勇が泣きついてきた。

「母様が死ぬかと思ったの」

「母様、もう大丈夫?」

「ああ、心配をかけたな苺花に一勇、私はこの通りもう元気だ」

「よかった、母様。恋次さんも、インフルエンザでダウンして、それからうつったらしいって父様が言ってた」

「恋次も、今頃治っておるだろう」

苺花も一勇も、インフルエンザがうつらなくてよかったと、ルキアも一護も思った。

白哉もうつらなくてよかった。

「明日からは、虚退治の遠征だ。腕は鈍っていまいな、一護!」

「当たり前だろう!」

「ふ、そうでなくては。貴様は尸魂界を二度も救った英雄なのだ。堂々としろ」

「いや、別に堂々となくてもいいだろ、普通で」

ルキアの自慢の夫は、虚退治の遠征で、久しぶりに卍解を使って襲ってくる虚の群れを、一匹残らず切り捨てて、それを率いていた破面に月牙天衝を食らわせた。

「流石一護だ・・・・・」

袖白雪を始解させていたルキアであったが、切った虚の数は僅か5匹。

数百体いた虚の群れを、ほぼ一護一人で退治してしまった。

「んー。あんま手ごたえなかったなぁ。なぁ、ルキア、もっと強い敵はいねーのかよ」

「たわけ、おるわけがなかろう!体が疼くのなら、11番隊にでもいって、更木隊長にでも相手してもらえ」

「う、俺11番隊苦手なんだよな。一角さんも弓親さんまで手合わせしてこいってうるさいし」

「尸魂界はそこまで平和なのだ。良いではないか」

もう、大戦の爪痕はほとんど残っていない。

死んでしまった死神の数は多かったが、一護もルキアも生還を果たした。今いる者たち全てが大戦を経験したわけではないが、あの大戦はずっと語りづがれていくであろう。

「帰ろうか」

「ああ」

遠征で、1週間かかった。

苺花も一勇も、一護とルキアが帰ってくることを心待ちにしているだろう。

尸魂界は、緩やかに時が流れていく。

苺花と一勇も、いずれ真央霊術院に入り、死神となって、護廷13隊の席官になるだろう。

だが、それはまだまだ遠い遠い、未来のお話。


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