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好きから始まる物語 まるで雪解け水

ルキアを、自分の家に案内した。

一護は、大学生になってから一人暮らしを始めていた。

そう広くもない、一人暮らし用のアパート。

うなぎ屋をやめて、普通のラーメン店でバイトをしていて、家賃は無理だがせめて食費くらいは自分で出せるようにしていた。大学の費用やアパート代は、父親がもってくれた。

「成人しても仕事につくまでは俺の子供だ」

そう言って、学費の面倒までみてくれるので、甘えていた。

いつか卒業して金が溜まったら、学費を返還する予定だった。

「まぁあがれよ。何もない場所だけど」

「これは・・・・井上のものか」

クローゼットにある女ものの衣服を見て、ルキアが溜息を零す。

「いいのだぞ、一護。無理をしなくても。貴様は、井上が好きなのであろう?」

「確かにそれなりに好きだけど・・・もともと、ルキアを忘れるために付き合っていたんだ。ルキアと井上、どっちかをとれと言われたら、俺はルキア、お前をとる」

「一護・・・・・・」

「夕飯の買い出しにいこうぜ。白玉餡蜜作ってやるよ」

「ああ、行こう」

せめて今だけは、安らかな時間を享受しよう。そう思うルキアだった。

スーパーに行って夕飯の買い出しをした帰り道、偶然であるが井上と会った。

仲睦まじそうに手を繋いで歩く一護とルキアの姿に、涙をポロポロと零した。

「黒崎君、いやだよ!私を捨てないで!」

「井上・・・・・」

一護は、苦しそうな顔をしていた。

「なんでもするから!私を捨てないで!」

「ごめん、井上。俺、やっぱりルキアが好きなんだ。別れよう」

「別れない!私、絶対に黒崎君と別れない!」

「井上!」

「朽木さんも朽木さんよ!今更現れて、横から私の黒崎君を盗っていくなんて!このドロボーー!」

井上の言葉に、一護の顔が歪む。

「井上・・・・お前、そんな酷い奴だったのか」

「ち、違うの黒崎君!これが気が動転してて!」

「もういい。悪いが、お前との婚約もなかったことにしてくれ。俺は、ルキアと共に生きる」

「いやああああああああ!」

井上は、泣き叫びながら去ってしまった。半狂乱であった。

「井上を追わずによいのか!?」

「今追っても、事態は最悪な展開にしかならねーよ。それより時間を置いて、別れるように説得する」

「一護、私は・・・・」

「言っとくがルキア、身を引こうとか思うなよ。もしも尸魂界に戻ったら、俺はどんな手段をとってでも、お前に会いに行く」

「一護・・・・・好きだ」

「俺も好きだ」

帰宅して、一護は夕飯を作ってくれた。

カレーだった。ルキアの好きなメニューだ。白玉餡蜜をデザートして出してくれた。

その味を堪能する。

「やはり、貴様の作ったご飯はうまい」

「おかわりあるぞ?もっと食うか?」

「ああ、頼む」

白玉餡蜜のお代わりをあげながら、一護は言う。

「ルキアが帰ってくるとは思ってなかったんだ。だから、井上と婚約してた」

ルキアの顔が大きく歪む。

「でも、ルキアは俺のこと、忘れてなかった。俺たちの時間は高校3年の時に凍り付いて、やっと雪解け水になってきたんだ」

ルキアを抱き締めた。

一護からは、お日様の匂いがした。

「一護・・・・私は、どうしようもないくらいに、貴様が好きだ」

「それは俺もだぜ」

その日は、昔のように同じベッドの上で、丸くなって眠った。

腕の中のルキアの体は細くて小さい。

自分の方に抱き寄せた。

「なんなのだ、一護」

「俺のものだ、ルキア。何もかも」

「ふふ、くすぐったいぞ」

「もう、離してやらねぇ。俺がお前が大好きなんだ、ルキア」

「一護・・・・」

自然と、唇が重なった。

初めてのキスは、味がしなかったがなんとなく甘い気がした。


朝になり、一護は大学に行く準備をしていた。4回生になったばかりで、キャンバスには桜の花が咲き乱れいた。

一緒についてきていたルキアは、桜を見上げた。

「綺麗だな」

「ああ。高校の卒業式じゃ見れなかったしな」

「桜を見ていると、兄様を思い出す」

「そういや、白哉は元気か?恋次は?」

「どちらも元気だ。病気だったことを知り、恋次には散々好きだと言われた。でも、その気にはなれなかったのだ。私の心の中には、一護、貴様が住んでいたから」

「ルキア・・・・・・」

抱き締める。

細い体は、相変わらず細かった。

「よ、一護じゃねーか」

「よ、お前か」

一護の友人の一人だった。

「なんだよ、お前すっげー綺麗な子連れてるじゃねぇか。井上はどうしたんだ?」

「別れた。正確には別れようとしている」

「ええ!あのお前べったりの井上を振るなんて、お前鬼畜だな!婚約までしてたんだろう?」

「それでも、もっと大切な存在に巡りあったんだ」

「その子か?」

ルキアは、一護の後ろに隠れていた。

「今日、井上休みだよ」

「ああ・・・俺のせいだ」

「電話でさ。殺したい相手がいるって言ってたぜ」

「井上が?」

「ああ」

「そうか・・・・・」

きっと、一護を殺したいのだろう。

そう思っていた。

「紹介する、朽木ルキア。俺の大切な人だ」

「うわ、お前ひでぇな。まじであの井上のを振るつもりなのか。じゃあ、俺が井上に好きだって言っても、止めないよな?」

「ああ」

おっしゃと、友人はガッツポーズをとった。

できることなら、このまま穏便に井上と別れたかった。

そして、新しい恋人と生活をスタートしてほしかった。

一護は知らなかった。井上が、ルキアに殺意を抱いていることを。


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