覚悟
更木剣八。11番隊きっての戦闘狂。
卯ノ花烈。4番隊の癒しの慈母。
互い詳しい過去など、お互い何も知りはしない。
ただ、卯ノ花烈はかつて卯ノ花八千流と名乗っており、初代護廷13隊11番隊隊長だった。
更木は、恐怖を知らない子供だった。
死体の山を築いて、卯ノ花に切りかかった。
子供と油断してたとはいえ、当時の卯ノ花に傷を負わせるだけの技量。
その時、卯ノ花は思った。
自分の後を継がせるのは、この子しかいないと-------------------。
「京楽」
「どうしたんだい、浮竹」
「本気なのか。卯ノ花隊長と更木隊長を切り合わせるなんて」
「ああ、本当だよ」
そう言う京楽の顔に、いつもある優しさがなかった。
「どちらかが死ぬかもしれないんだぞ!?」
「それでも------------これは、卯ノ花隊長が望んだことでもあるしね」
「卯ノ花隊長が・・・・」
卯ノ花は華道が好きだった。
よく、花を手入れしていじっていた。
山本総隊長の茶道にもよく顔を出していた。
「卯ノ花隊長・・・・・」
よく、熱が下がると病室を抜け出して甘味屋にいき、帰ってきたらばれてて、般若になった卯ノ花に説教をされたものだ。
卯ノ花と、特に親しい交流はなかったが、よく入院して回道をかけてくれるので、他の隊の隊長よりは仲が良かった。
「どうしてだ、卯ノ花隊長!」
「ちょっと落ち着きなよ、浮竹」
卯ノ花が死んだら、4番隊はどうなる?
ただでさえ、人でが足りないのだ。
次の侵攻で、またどれだけの死神が死ぬのかも分からない。
「止めにいっても、無駄だよ」
後ろから羽交い絞めにされて。一呼吸すると、浮竹も落ち着いた。
「少しは、冷静になった?」
「ああ・・・・・」
どうか。
どうか卯ノ花隊長、意味もなく命を散らせるな。
散らせるなら、更木を目覚めさせろ。
「はっくしょん!・・・・ああ?なんか誰かが俺の噂でもしてんのか」
「隙、ありです」
右手に、剣を突きたてられた。
それを引き抜く。
「生ぬるいんだよ!本気で俺と命のやりとりをする気はあんのか!?」
「あるに、決まっているでしょう」
更木の剣が、卯ノ花の腹を刺した。
致命傷に見えた。
けれど、卯ノ花はその傷を自分の回道で癒してしまった。
片や、血まみれでボロボロの更木。
片や、ほとんど衣服を血で汚していない、酷薄な笑みを浮かべる卯ノ花。
「その程度では、私をこえらえれませんよ?」
「ほざいてろ!」
更木の霊圧が、これでもかというほど大きくなる。
一撃だった。
更木の放った突きが、卯ノ花の胸に吸い込まれた。
「おい、この程度でくたばんじゃねぇ!俺はもっと戦っていたいんだ!」
これは、私の罪。
そして、私への罰。
こほこほと咳をして、ごぽりと血を吐いた。
もう、回道などでは補いきれない傷だ。
「あなたは、強くなる。私をこえて、さらに高みへ-----------」
「おい、死ぬな!こんなところでくたばるな!俺はあんたのことが・・・・・」
好きだった。
そう言おうとして、卯ノ花が最後の力を振り絞って更木に触れるだけのキスをした。
「最強の剣八は、今日からあなただ」
死の接吻は、酷く甘美な味がした。
「卯ノ花隊長・・・・」
消えていく霊圧を感じた。
そして、より大きくなった更木の霊圧もかんじた。
「ねぇ。もしも僕が、君と戦うとしたらどうする?」
総隊長になった京楽が、ふいにそんなことを言った。
「事情を聞いて説得する」
「剣でしか、語れないなら?」
「手合わせをする。でも、絶対に死なせない」
このあたりが、浮竹には限界だろう。
「そう。僕なら、卯ノ花隊長と同じ道を辿るだろうね」
「京楽!」
心配してくる、浮竹の頭を撫でた。
「心配しなくても、大丈夫だよ。僕らは、そんなことに絶対にならない」
浮竹には、卯ノ花の覚悟も、更木のような荒々しい強さもない。
ただ、そこに凛とさく白い花のようだった。
「さて、一護君が戻ってくるまで、敵が侵攻してこないことを祈るのみだね」
今、一護は零番隊の霊王が住まうとされている場所にいる。
彼がどれだけ強くなるかで、今後の尸魂界の運命は大きく左右される。
破滅か、存続か--------------------。
戦いの火ぶたは、切っておろされようとしていた。
- トラックバックURLはこちら