翡翠に溶ける 海燕2
「ほらほら、さっさと起きてください」
「まだ眠い~」
「そんなこと言ってないで起きる!」
海燕は、浮竹の世話を率先して行ってくれた。
顔を洗い、着替えて朝餉を食べる。
海燕がいない時は、いつも朝食は抜きで、10時頃に起き出して動き出す浮竹を、8時にはたたき起こしていた。
「海燕君はすごいねぇ。僕でさえ、起こせなかった浮竹を、こんなに簡単に起こせるなんて」
「簡単じゃありません。とにかく布団を奪うんです。それで大抵起きます」
「布団を奪う・・・・僕は、浮竹に幸せに起きてほしいから、無理だねぇ」
京楽はよく雨乾堂を訪れるし、逢瀬の時も雨乾堂を使っていた。
この二人、見られていても平気で睦みだす。
海燕がそんな雰囲気になると、姿を消すようになったのは、睦みあいの最中に雨乾堂に入ってしまった時がきっかけだった。
浮竹も京楽も若くないが、まだまだ男盛りだ。
とくに京楽の性欲は旺盛で、1回の睦み事に3~4回は出す。
ある日、京楽がしつこいのだと相談を受けて、「ならば禁欲生活を送らせたらいい」というと、「俺も溜まるから無理」と言われてしまった。
京楽も浮竹も、心は院生時代のままなのだ。
付き合い始めた頃から、変わったのは外見と地位、あとは睦みあう回数くらいか。
学院時代には週に二度は睦みあっていたが、最近は週に一回程度だった。
お互いを想い合う心は、院生時代から不変である。
「はい、仕事をはじめる!ああもう、寝ようとしない!」
海燕は、浮竹を文机に誘導して、今日の仕事をどさどさと置き出す。
朝餉を食べても寝ぼけていたが、文机の前にくると少しずつ覚醒する。
ばりばりと働き出す。よくまぁそんあ速度で仕事ができるものだなと、浮竹の後ろ姿を京楽は見つめていた。
京楽も、今日は仕事をしようと。8番隊から仕事をもってきていた。
京楽のためにと、浮竹の隣に誂えられた黒檀の文机で、京楽も仕事をしだした。
「はい、12時!昼飯です」
海燕は、時間にきっちりだ。
昼餉をとり30分ほどうたた寝をして、1時から6時まで仕事。
6時に、やっと死神業務の終了時刻だが、海燕には浮竹の世話がある
湯を沸かして風呂においたてて、夕餉の準備をして、食べ終わった夕餉を下げてやっと、海燕の一日も終わる。
「あがります。お疲れさまでした」
「ああ、お疲れ」
「お疲れ~」」
去っていく海燕を見送って、今日は泊まることにした京楽は、浮竹の長い髪を結い上げていた。
「うーん、やっぱり髪の毛結った方が似合うと思うんだけどなぁ。翡翠の簪をさしたり・・・・そういえば、あげた簪や髪飾りとかはどうしてるの?」
「たんすの奥にしまってある。大切にしているぞ?」
たんすの中を開けて、見せてくれた。
「うん。売っても構わないけど、なるべく持っててほしいな」
「お前からもったもだ。売るはずがない」
「でもずっと前にあげたエロ本、売ったよね?」
京楽が浮竹に、抜くときのためにと、エロ本をあげたのだが、浮竹はもう女性の裸を見た程度では、たたなくなっていた。
「あんなくだらないもの、もってても無駄だ」
「けっこう高価なものだっただよ」
「ああ、いい値段で売れた」
「そしてそのお金はどこへ?」
「おはぎに消えた」
「そうかい。エロ本はおはぎになったのか・・・・・」
なんだか感慨深い。
京楽も、昔は女性の裸でたっていが、今はえろい動画を見ても何も感じなかった。
その代わり、頭の中で浮竹に変換して妄想するだけで、たった。
もぅ・・・300年以上は生きているだろうか。
長生きをしすぎで、途中から年を数えるのを止めてしまったため、自分たちが正確に何歳であるかは分からなかった。
「ああもう、こんなに散らかして!」
畳の上に、後て捨てようとまとめていた開けた菓子袋を見て、海燕が掃除を始めた。
「おい、そんなに頻繁に掃除しないでも」
「甘い!ほこりがたまってからじゃあ遅いんです!清潔であることが、隊長の肺にもいいんですから!」
「そういうものなのか?」
京楽の顔を見る。
「さぁ?」
京楽にも分からないようだった。
「どいたどいた!」
ちりとりと箒で、畳の上を掃除していく。
「ほら見てくださいこの髪!人は毎日髪がぬけるんですから!」
長い白髪に交じって、時折京楽のものらしい、黒髪があった。
「海燕は、お母さんみたいだな」
「ああ、よく言われます」
「否定しないのか」
「都もうるさいです。掃除のしすぎだとか、洗濯物を洗う頻度が高いとか。俺、汚れているのって見ていていらいらするんです」
浮竹は、妻の都に同情した。
「都も大変だな・・・・・そうだ子供ができたら、俺が名づけ親になってやろう」
「ちょ、気が早すぎです。まだ結婚して1年ですよ!?」
「お前の子供に、老後の面倒を見てもらうのもいいなぁ」
「なに勝手に人の家庭環境に自分を入れてるんですか!」
海燕の批難を無視して、続ける。
「いつか、引退して京楽と同じ屋敷で、ぼーっと毎日寝ていたい」
「あんたの脳には寝るしかないのか!」
「いや、性欲と食欲もあるぞ。それより睡眠欲がでかいだけで」
「あんたの睡眠欲はでかすぎだ。この前の日曜、昼の1時まで寝てたそうですね」
がみがみとお説教を食らう浮竹。
京楽は、我関せずという形で茶を飲んでいた。
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