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最後の冬 一護の我儘

「ルキア・・・・」

この1年5カ月、ずっとルキアを思っていた。いや、それはルキアが処刑されるために尸魂界へと、連れ去られたのを助け出したのをきっかけで、ずっとルキアを思っていた。

そして先の大戦から数週間後。

ルキアは、高校生として現世に帰ってきた。

高校卒業まで現世にいさせてほしいという、一護の願いが通じたのだ。

尸魂界を救った英雄。一護はそう呼ばれていたが、英雄でもなんでもない。みんなの力があったから、ユーハバッハを倒せたのだ。

先の大戦で、山本元柳斎重國、卯ノ花烈、浮竹十四郎というメンバーが死んだのは知っていた。

ルキアにとっては、上司である浮竹の死は一番こたえたのではなかろうか。葬儀の時、とてもたくさんの涙を零していた。

浮竹の死は尸魂界侵攻のほぼ終わり頃なので、一護もまだ尸魂界にいて、葬儀に参加した。

真っ白い百合に囲まれた浮竹は、真っ白な髪とあいまって、百合がよく似合っていた。ルキアを含む席官たちが涙を流す。いつも一緒にいた京楽も、とても悲しそうな目をしていた。

「浮竹隊長!」

「ルキア、こっちへこい。一人で泣くな。俺の胸で泣け」

そういうと、ルキアは一護の死覇装を握りしめて、ポロポロといつまでいつまでも泣いていた。

浮竹の棺が蓋をされ、火葬されて灰になって。

ただ、泣いていた。

彼女が泣き止んだのは、葬儀が完全に終わって2時間ほどしてからだった。

泣きはらした目で、朽木邸に帰っていくルキアを、一護は送った。まだ数日尸魂界に滞在する予定だったので、朽木家に泊めてもらった。

これから復興がはじまる。

隊長副隊長は忙しくなる。

分かっていて、京楽に切りだした。

「なぁ、京楽さん。ルキアを------------------せめて、高校卒業まで、現世にいさせてくれないか」

「これまた無茶をいうねぇ、一護君」

「これから復興で忙しいのは知っている。しかもルキアの隊は浮竹さんを欠いている。それでも・・・・ルキアと一緒に過ごす時間が欲しいんだ」

「尸魂界の恩人だしねぇ。まぁいいよ。高校卒業まで、あと5か月もないでしょ。13番隊には、僕からなんとかなるようにしておくから」

「すまない、京楽さん」

朽木家に戻り、ルキアにそれを話すと、ルキアはきょとんとした目をしていた。

「私が現世へ?何故だ」

「高校卒業まで、現世にいさせてくれって京楽さんに頼んだんだ」

「だから、何故だと聞いておる!」

「ああ、もう少しは察しろよ!」

一護は、ルキアを抱き締めていた。

「なななな、何をする!」

顔を真っ赤にさせたルキアに、耳元で囁く。

「好きなんだ、ルキア。お前のことがどうしようもなくらいに、好きだ」

「わわわわ私も・・・・・好きだ」

蚊の鳴くような声だった。

それでも一護にはちゃんと届いていた。

「恋次のことも好きか?」

「ああ、好きだ」

「石田に茶虎に井上のことは?」

「無論好きだ」

一護は長い溜息を零した。

「そいう好きじゃなくって、俺は恋愛感情でルキアのことが好きなんだ」

ルキアは真っ赤になって、倒れた。

「おい、ルキア!」

「たたたたわけ!私の心臓を止める気か!」

ルキアは、朽木邸のルキアに与えられた部屋の中で、真っ赤になって逃げ道を探していた。

「なんで逃げるんだよ」

「にににに、逃げてなどおらぬ!」

「ならこっちにきて、ちゃんと答え聞かせてくれ」

「わわわ私は・・・・・・」

見てるだけで分かるくらいの反応だった。

それでも、答えが聞きたくて、ルキアの細い腰をぐいっと自分の方に抱き寄せた。

一護の腕の中にすっぽりと納まってしまったルキアは、頬を朱くしてぎゅっと目を閉じていた。

「何も、とって食ったりしてーよ」

「ほ、本当か?」

そーっと目を開けるルキア。

ドアップで、一護の顔を見てしまい、そのかっこよさにルキアはプシューと音をたてていた。

「私も貴様のことが恋愛感情で・・・このバカカレーはうまい、兄様に一度は食べさせてあげねば・・・・・・」

ルキアは、真っ赤になって、一護の腕の中にいた。

「少し落ち着けよ」

「落ち着いていられるか馬鹿者!この手を離せ!」

「え、ああすまねぇ」

ルキアを解放すると、ルキアは布団にもぐりこんだ。

「どうしたんだよ、ルキア?」

「すでに答えなら言ったであろう。私も貴様のことを恋愛感情で-----------------と」

ルキアの肝心な部分の沈黙に、一護が言う。

「いや、肝心の部分が聞こえてねぇから」

「貴様を!恋愛感情で!好きだと言っておるのだ!」

「んで、照れて布団被ってるのか?」

「そうだ!何か悪いか!」

「悪くねぇけど、かわいい」

くすくすと笑う一護に憤慨して、ルキアは頭突きを食らわした。

「いってぇ」

「いつまでこっちにいる気なのだ!現世に戻り、高校に通うのであろう?」

ルキアの問いかけに、一護が答える。

「ああ、明後日には現世に戻ろうと思ってる」

「では、明後日には私も現世へか。13番隊はどうなるのだ。隊長副隊長不在では・・・・」

「そこらへんは、京楽さんが何とかしてくれるって言ってた」

「京楽総隊長が・・・・・」

それでも、どうしても不安が残る。隊長副隊長不在が、約5か月ほど続くのだ。

「俺の我儘なんだ。ルキアともっと一緒にいたい。残り5か月もないけど、一緒にいたいんだ」

一護が、背後からルキアを抱き寄せた。

「こら、一護!」

「ルキアの匂いがする・・・・・」

「一護・・・・・」

「ルキア、大好きだ」

ルキアは、ぽろぽろと涙を零した。

「ルキア?」

「分からぬ。分からぬが、心が痛いのだ。浮竹隊長は亡くなられた。なのに、私だけこんな幸せを享受していいのかと・・・・・」

ルキアの頭を撫でた。

「一護・・・・」

「今日、お前の部屋に泊まってもいいか。何もしねぇから。これは絶対だ。何もしねぇと誓う」

「兄様が・・・・許してくれるかどうか・・・・・」

「ああ、それならもうずっと前に、妹さんを俺に下さいって言っておいた。千本桜で切り刻まれそうになったけど、了承はもらったみたいだ」

「兄様・・・このような者、斬り捨ててくればよかったのに」

「そりゃねーだろ、ルキア」

抱き寄せてくる腕に力が籠る。

それでも、優しい腕だった。

「では、貴様は今日も明日もこの私の部屋で寝泊まりするのか?」

「ああ、そうだ」

ルキアは真っ赤になった。さっきから赤くなってばっかりだ。

「だから、何もしねぇよ。まぁ抱き着いたりくらいはするけど。現世にいた頃も、俺のベッドでよく一緒に寝てただろ?あんなかんじだよ」

「あの頃は、お互い何も思っても口に出さなかったからよかったのだ!恋愛感情で好きと言われて、気にしないほうがおかしいであろう!」

「まぁまぁ」

もう夜も遅い。ルキアは、すでにひいていた布団の隣に、もう1つの布団をしこうとして、一護に止められた。

「なんだ」

「お前と一緒の布団で眠りたい」

「勝手にしろ!」

ルキアが布団に入ると、その隣に一護が入ってきた。

「ルキアの心臓すっげードクドクいってる」

「は、恥ずかしいのだ!」

後ろから一護に抱き締められて、腕の中にすっぽりと納まってしまっていた。

一護のほうには恥ずかしく顔を向けれないので、背をむけていると、一護の手がルキアの頭を撫でた。

「子供扱いするな!」

「してねーよ。さらさらの髪だなと思って。昔とちっともかわってねぇな」

1年と5カ月前の頃と、本当に何も変わっていない。少なくとも、外見上は。その戦闘能力は、卍解に至るまでになった。

「ルキア、もうちょっと俺の方に寄って」

「うむ・・・こうか?」

ちゅっと。

音をたてて、頬にキスをされた。

「き、貴様、何もせと言ったであろう!」

「いいじゃねぇか、頬にキスくらい」

「一護のあほ!」

ルキアは拗ねたように、一護の方を向いたと思うと。

ちゅっ。

一護のの頬に、キスをしていた。

「ルキア?」

「これで、お互い同じだ!いいな!」

一護が笑う。

「あーもう、マジでお前かわいい」

「な、何もするなよ!キスもだめだぞ!」

「わーってるって」

一護が、抱き締めてくる腕に力をこめると、細いルキアの肢体は、一護の胸の中へ。

互いに体温を共有し合って眠った。



---------------------最後の冬が、訪れようとしていた。

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