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合鍵

ルキア。

ルキア、ルキア、ルキア。

空白の1年と5カ月、ルキアのことを忘れたことはなかった。

ルキアをずっと求めていた。好きだった。

いざ霊圧が戻り、再会したルキアは1年と5カ月前とあまり変わらぬ姿をしていた。その内に秘める膨大な霊圧と、副官の証がある以外は。

「ルキア・・・」

ルキアは、懐かしい目で一護を見ていた。

「久しいな、一護」

「ルキア、俺は・・・・・」

「また、会いにくる。その時、つもる話をしよう。今は銀城を連れていくのが先だ」

魂葬を行い、尸魂界へと落ちていく魂たち。

守ることのできる力を、また手に入れた。

尸魂界を、ルキアを守る。

そう頑なに誓った意思は、ユーハバッハの侵攻によって遮られた。

大けがをおったルキアが、目を開いた。片目は負傷しており、片目だけで一護の姿を見ると、安堵したようだった。

「貴様が無事でよかった・・・・」

一護も大けがを負っていた。普通なら歩けないような重症である。

それでも、ルキアを見に来た。

「ルキア・・・守るから。きっと、お前を・・・・」

そのまま、一護、ルキア、恋次、百哉は零番隊の湯治で傷を回復させた。

一護は新たな斬月を手に入れ、ルキアは卍解を会得した。

たくさんの仲間に支えられて、一護は遂にユーハバッハを打ち倒した。

平穏が、やっと戻ってきた。

一護は高校を卒業し、大学へと進んだ。

将来翻訳家になるために、ドイツ語を選んだ。留学も3か月した。

一護は、大学生になってからずっとアパートで一人暮らしとしていた。学費は奨学金と、アパート代は将来返すという約束で父親の一心から出してもらっていた。

バイト代は生活費に消えていく。

ふとしたある日、授業を終えてバイトも終わり、家に帰ると鍵が開いていた。

泥棒かと思い、身構えると、中にルキアがいた。

「ルキア?」

「おお、帰ってきたか一護。部屋の前でぽつんと待っていると、大家さんが現れて、事情を説明すると中にいれてくれたのだ」

「そうか。くるなら事前に連絡くれよ」

「ああ、忘れておった。伝令神機でメールを使えたのだったな」

ルキアは天然ぽいところがある。

一人暮らしの男の家に転がり込んでくるなど、いくら見知った仲といっても、時刻も時刻だしと思うが、ルキアには関係ないようだった。

「これ、やるよ」

ルキアに向かって、チャリンと金属音をたてた合鍵を放り投げた。

高校を卒業して3年が経っていた。

ルキアは月に1、2回のペースで現世に遊びにくる。

留学時は、現世にはきていなかったようだ。

「合鍵か・・・・いつでもここにきてよいと、とってもいいのだな?」

「ああ。俺に会いたくなったら、その鍵で中で待っとくといい」

「一護・・・・私はな・・・・」

一護はルキアを抱き締めた。

「一護?」

「俺は・・・・どうしようもないくらいに、お前が好きだ。ルキア、ルキア、ルキア・・・空白の1年と5カ月、どれだけ苦しかったことか・・・・」

「一護・・・・私はな、現世にくるたびにいけないと分かりつつも、貴様の元に訪ねてしまうのだ。いけないと分かりながら、貴様の傍にいたくなるのだ」

「ルキア・・・・・・」

「私も、貴様のことが好きだ、一護」

「ルキア、俺も大好きだ」

抱き締めあい、そのままごろりとベッドに横になった。

「その・・・恋人という男女は・・・・」

「何もしねぇよ」

「私には魅力がないか?」

「そうじゃねぇ。大切にしたいんだ」

一護は、ルキアに触れるだけのキスをした。

「もう少し、現世にこれないか?」

「週末なら・・・・」

「じゃあ、約束。今週の週末、また俺の家に来てくれ」

ルキアは、その日一護の家に泊まった。

ルキアを腕の中で抱き締める形で、同じベッドで眠った。

ルキアは翌朝には尸魂界に帰ってしまったが、週末になったらまたきてくれると思うだけで、元気がわいてきた。

ルキアの好きな白玉餡蜜を買って、週末の土曜に家で待っていると、昼にルキアが合鍵を使って中に入ってきた。

白いワンピースに麦わら帽子と、まさに夏のスタイルだった。

「ふう、現世はクーラーがきいていて涼しいな。尸魂界の夏は暑くて好かん。扇風機なるものが最近出回っているが、それでも暑い」

「おかえり、ルキア」

「う、うむ。ただいま、一護」

クーラーのきいた一護の部屋は涼しかった。

「今日は土産があるのだ!スイカだ!」

「でかいな」

「兄様が、甘くて熟れたものを買ってきてくださったのだ!」

「そうか・・・・」

スイカを切り分けて、冷蔵庫で冷やしている間に、ルキアは白玉餡蜜を食べていた。

「なぁ、ルキア」

「なんだ」

「また、来週もきてくれるか」

「ああ、貴様がいやでなければ、毎週きてやる」

「そうか。俺たち、付き合わないか」

「えっと・・・・うむ。私のでいいのなら・・・・」

ルキアは真っ赤になって、俯いた。

ミーンミンミン。

蝉の声がうるさかった。

一護は、ルキアに口づけた。深い口づけだった。

「ん・・・・・ふあっ・・・・・」

ルキアの瞳がとろんとなる。

一護は、ルキアを抱き締めた。

「大切にしたいのに、めちゃめちゃにしたい。俺でもわけわかんねぇ。でも大切にする。ルキア・・・・」

「一護・・・私は、貴様になら何をされても構わない」

「そんな、煽るようなこと言うなよ・・・・・」

「これからは、会えない日は伝令神機でやり取りをしよう。私たちはもう、恋人同士なのであろう?」

「ああ、そうだな」

メールアドレスは交換していたが、メールのやりとりはしていなかった。

日曜はバイトがあったので、ルキアを待たせてしまう形になるが、こちらにも生活というものがある。ルキアはバイトしているラーメン店にきて、一護の手作りのラーメンを食べて家に戻ってしまった。

夕方になり、バイトを切り上げて、早めに自宅に戻った。

部屋に入ると、カレーのいい匂いがしてきた。

「ちょうどカレーできる野菜とルーがあったので、勝手に作ってしまったが構わぬであろう?」

「ああ。ありがとな。俺も夕飯カレーにしようと思ってたんだ。てかルキア、料理できたのか・・・・・」

「たわけ!これでも一応は花嫁修業と、料理くらいできるようには仕込まれている」

「ただいま、ルキア」

「お、お、お、おかえり・・・・・・」

ルキアが愛しくてたまらなかった。

合鍵をもたせたのは、パートナーの意味もあった。

エプロン姿のルキアを背後から抱きしめた。

カレーはすでに出来上がっていて、ルキアは真っ赤になりながら、目を閉じた。

キスをする。浅く深くを繰り返す。

ルキアのアメジストの瞳が見開かれた。

お互い、視線を絡み合わせながら、また抱き締めあった。

「恋人とは、妙に甘ったるいものなのだな」

「今度こそ、俺が守りぬく。だから、ルキア、傍にいてくれ・・・・」

「私は、ずっと傍にいるぞ。貴様とまた出会えたあの日から、貴様の隣にいることを考えていた。やっと、その願いが叶った・・・・」

死神と人間という大きな溝がある。

それでも、二人は惹かれ合う。

人生のパートナーとして、生きていこう。

ルキアと一護の新しいページが開こうとしていた。



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