僕は君の瞳の色の名を知らない
まだ未成年の、少女めいた美貌が眩しかった。
長く伸びていく白髪を手ですいてやると、気持ちよさそうに目を細める彼のことが好きだった。
初めて出会った時、白い髪に驚いて、手で触れた。
「白い髪・・・・綺麗だね」
「え?あ・・・そうかな」
白い髪の少女とも少年ともつかないその子は、ふわりと綺麗に笑った。
----------------------
「京楽は、今年は座学は何をとるんだ?」
少年時代を抜けきれない、まだ幼い眼差し。
それの虜になっていると知ったら、彼は何というだろう。
「あーうん。歴史の他は経済学でもとろうかと・・・・・」
「お、一緒だな」
ふと微笑むその笑顔が眩しかった。
長い白髪に、緑の瞳、女の子に間違われてしまいそうな美貌に華奢な体。
ああ。
僕は、浮竹に恋をしているんだ。
そう自覚した時、それが初恋であることに気づいた。
なんでもない一日が、また始まる。
でも、京楽は気づいてしまった。
傍で微笑む親友に、恋をしていると。
隠さなきゃいけない。ばれてはいけない。
そう思いつつも、スキンシップは止まらない。
抱き着いたり、抱きしめたり、頭をなでたり、髪をすいたり。
浮竹は、なんの疑いも抱かずに、京楽の隣にいる。
京楽が自分のことを恋愛感情で好きなのだと、全く気付いていなかった。
あふれ出る感情を殺そうとしても、同じ寮の相部屋でもあるせいか、とにかく浮竹の傍にいることが多かった。
浮竹を邪な視線で見る輩から守るのも、京楽の役目だった。
浮竹だけは、守りたい。
世間の柵(しがらみ)からも、何からも。
ある日、浮竹は上級生に呼び出されて、京楽にすぐに戻るからと告げていなくなってしまった。
嫌な予感がした。
京楽は、浮竹の霊圧を探ってみると、急激に上昇したり下降したりしているのがわかって、屋上だと場所を特定して走った。
屋上には倉庫があった。
鍵がかけられていたが、鬼道で破壊すると、その中に院生の服を破かれて涙を零し、ガタガタと震えている浮竹を見た時、何かが弾けた。
浮竹を襲おうとしていた上級生に、手加減のない鬼道を使う。
上級生は気を失い、浮竹は京楽を見て破れた衣服を手で隠しながら、京楽に抱き着いた。
「京楽・・・・怖かった・・・・京楽!!」
「浮竹、もう大丈夫だから」
浮竹を襲ったその犯人は、後日退学処分になった。
「泣かないで、浮竹。もう大丈夫だから」
「でも、こんな格好だと・・・・」
「その上級生は縄でしばって屋上の隅に転がしておくから、この倉庫に隠れてて。新しい院生の服、取りにいくから」
「あ、京楽!」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないんだ。早く帰ってきてくれ」
「うん。瞬歩使うから、すぐだよ」
数分して帰ってきた京楽の手には、浮竹の新しい院生の服があった。
それに着替えて、浮竹がまた涙を零す。
「俺・・・・こんな目にあうの初めてで、・・・学院でまで襲われるなんて思っていなかった」
「やっぱり、君、こういうの初めてなの?」
「子供の頃から見た目がよいせいで、声をかけられるとか、少しつきまとわれるとかあったけど、こんな怖い思いをしたのは初めてだ」
「ごめんね、浮竹。ちゃんと守ってあげられなくて」
「京楽のせいじゃない。ちゃんと用心しなかった俺が悪いんだ」
まだカタカタと震えている浮竹を、京楽の大きな体が包み込む。
「不思議だ・・・京楽にこうされると、落ち着くんだ」
どくんと、京楽の鼓動が高くなった。
多分、赤い顔をしているだろう。
「その、本当にすまない」
「いいんだよ。君が無事でよかった」
京楽は、浮竹の肩を抱いて寮の相部屋まで戻った。
互いに風呂に入り、夕飯を食べて就寝の時間になった時、浮竹が京楽に声をかけた。
「京楽・・・まだ怖いんだ。今日だけでいいから、同じベッドで眠ってくれないか」
浮竹に他意はないのだと分かっていても、京楽はまた鼓動が高鳴った。
浮竹を腕に抱きしめて、その日は浮竹のベッドで眠った。
「おはよう・・・・・」
「ああうん、おはよう」
「ありがとう、京楽。お影で、怖くなくなった」
「そう。それはよかったね」
京楽にとっては、甘いシャンプーや石鹸の匂いをさせる浮竹を抱きしめて寝るのは、けっこうな根気が必要だった。
好きなんだと、ばれてはいけない。
そう思うほど、心は苦しくなった。
浮竹は、朝からシャワーを浴びた。
まだ水の滴る白髪からぽたぽたと伝い落ちる水が、キラキラと太陽の光に輝いて眩しかった。
「ちゃんとかわかさないと、風邪を引くよ?」
「ああ、うん。俺の髪も伸びたな・・・・切ろうかな」
「もったいない!」
京楽は、タオルでごしごしと浮竹の髪の水分をとってあげながら、もったいないと悲鳴をあげていた。
「浮竹の白い髪は綺麗だし、肩まで伸びたんだしいっそこのまま伸ばしたら?僕はそのほうが嬉しいなぁ」
「変な奴だなぁ。俺のこの白い髪を綺麗というのは、お前くらいだ」
「そんなことないでしょ」
「俺はこの白い髪が嫌いだった。でも、お前が初めて会った時、白い髪が綺麗だと言ってくれたので伸ばす気になった。いっそ、腰まで伸ばすか」
「そうしてくれると嬉しいなぁ」
僕はまだ・・・・・。
君の瞳の色の名を知らない。
長く伸びていく白髪を手ですいてやると、気持ちよさそうに目を細める彼のことが好きだった。
初めて出会った時、白い髪に驚いて、手で触れた。
「白い髪・・・・綺麗だね」
「え?あ・・・そうかな」
白い髪の少女とも少年ともつかないその子は、ふわりと綺麗に笑った。
----------------------
「京楽は、今年は座学は何をとるんだ?」
少年時代を抜けきれない、まだ幼い眼差し。
それの虜になっていると知ったら、彼は何というだろう。
「あーうん。歴史の他は経済学でもとろうかと・・・・・」
「お、一緒だな」
ふと微笑むその笑顔が眩しかった。
長い白髪に、緑の瞳、女の子に間違われてしまいそうな美貌に華奢な体。
ああ。
僕は、浮竹に恋をしているんだ。
そう自覚した時、それが初恋であることに気づいた。
なんでもない一日が、また始まる。
でも、京楽は気づいてしまった。
傍で微笑む親友に、恋をしていると。
隠さなきゃいけない。ばれてはいけない。
そう思いつつも、スキンシップは止まらない。
抱き着いたり、抱きしめたり、頭をなでたり、髪をすいたり。
浮竹は、なんの疑いも抱かずに、京楽の隣にいる。
京楽が自分のことを恋愛感情で好きなのだと、全く気付いていなかった。
あふれ出る感情を殺そうとしても、同じ寮の相部屋でもあるせいか、とにかく浮竹の傍にいることが多かった。
浮竹を邪な視線で見る輩から守るのも、京楽の役目だった。
浮竹だけは、守りたい。
世間の柵(しがらみ)からも、何からも。
ある日、浮竹は上級生に呼び出されて、京楽にすぐに戻るからと告げていなくなってしまった。
嫌な予感がした。
京楽は、浮竹の霊圧を探ってみると、急激に上昇したり下降したりしているのがわかって、屋上だと場所を特定して走った。
屋上には倉庫があった。
鍵がかけられていたが、鬼道で破壊すると、その中に院生の服を破かれて涙を零し、ガタガタと震えている浮竹を見た時、何かが弾けた。
浮竹を襲おうとしていた上級生に、手加減のない鬼道を使う。
上級生は気を失い、浮竹は京楽を見て破れた衣服を手で隠しながら、京楽に抱き着いた。
「京楽・・・・怖かった・・・・京楽!!」
「浮竹、もう大丈夫だから」
浮竹を襲ったその犯人は、後日退学処分になった。
「泣かないで、浮竹。もう大丈夫だから」
「でも、こんな格好だと・・・・」
「その上級生は縄でしばって屋上の隅に転がしておくから、この倉庫に隠れてて。新しい院生の服、取りにいくから」
「あ、京楽!」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないんだ。早く帰ってきてくれ」
「うん。瞬歩使うから、すぐだよ」
数分して帰ってきた京楽の手には、浮竹の新しい院生の服があった。
それに着替えて、浮竹がまた涙を零す。
「俺・・・・こんな目にあうの初めてで、・・・学院でまで襲われるなんて思っていなかった」
「やっぱり、君、こういうの初めてなの?」
「子供の頃から見た目がよいせいで、声をかけられるとか、少しつきまとわれるとかあったけど、こんな怖い思いをしたのは初めてだ」
「ごめんね、浮竹。ちゃんと守ってあげられなくて」
「京楽のせいじゃない。ちゃんと用心しなかった俺が悪いんだ」
まだカタカタと震えている浮竹を、京楽の大きな体が包み込む。
「不思議だ・・・京楽にこうされると、落ち着くんだ」
どくんと、京楽の鼓動が高くなった。
多分、赤い顔をしているだろう。
「その、本当にすまない」
「いいんだよ。君が無事でよかった」
京楽は、浮竹の肩を抱いて寮の相部屋まで戻った。
互いに風呂に入り、夕飯を食べて就寝の時間になった時、浮竹が京楽に声をかけた。
「京楽・・・まだ怖いんだ。今日だけでいいから、同じベッドで眠ってくれないか」
浮竹に他意はないのだと分かっていても、京楽はまた鼓動が高鳴った。
浮竹を腕に抱きしめて、その日は浮竹のベッドで眠った。
「おはよう・・・・・」
「ああうん、おはよう」
「ありがとう、京楽。お影で、怖くなくなった」
「そう。それはよかったね」
京楽にとっては、甘いシャンプーや石鹸の匂いをさせる浮竹を抱きしめて寝るのは、けっこうな根気が必要だった。
好きなんだと、ばれてはいけない。
そう思うほど、心は苦しくなった。
浮竹は、朝からシャワーを浴びた。
まだ水の滴る白髪からぽたぽたと伝い落ちる水が、キラキラと太陽の光に輝いて眩しかった。
「ちゃんとかわかさないと、風邪を引くよ?」
「ああ、うん。俺の髪も伸びたな・・・・切ろうかな」
「もったいない!」
京楽は、タオルでごしごしと浮竹の髪の水分をとってあげながら、もったいないと悲鳴をあげていた。
「浮竹の白い髪は綺麗だし、肩まで伸びたんだしいっそこのまま伸ばしたら?僕はそのほうが嬉しいなぁ」
「変な奴だなぁ。俺のこの白い髪を綺麗というのは、お前くらいだ」
「そんなことないでしょ」
「俺はこの白い髪が嫌いだった。でも、お前が初めて会った時、白い髪が綺麗だと言ってくれたので伸ばす気になった。いっそ、腰まで伸ばすか」
「そうしてくれると嬉しいなぁ」
僕はまだ・・・・・。
君の瞳の色の名を知らない。
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