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僕は君の瞳の色の名を知らない2

死神統学院に入って2年目の春。

親友のポジションを獲得していた京楽は、浮竹に甘かった。

「浮竹、今日は顔色がちょっと悪いね」

「そうか?別にどうってことないんだが・・・・・げほっ、げほっ」

「大丈夫?」

京楽が、浮竹の背中をなでる。

「大丈夫・・・・ごほっ」

ごぼりと、血を吐いて、浮竹は倒れた。

「浮竹!」

京楽は浮竹を抱きかかえて、医務室まで連れていった。

保険医から、回道の処置を施してもらった浮竹は、意識を朦朧とさせながらも、京楽の手を握っていた。

「僕はここにいるよ。君の傍にずっといるから」

「京楽・・・・本当に?」

青白い顔であったが、幾分生気を取り戻した浮竹の頬に手を添えて、触れるだけのキスをする。

「京楽?」

「ごめんね。ごめんね」

京楽は、そう言って泣いた。

なんで謝るんだろう。

浮竹はそう思った。

「君は真っ白で綺麗なのに・・・僕が君を汚してしまう。君の傍を離れなきゃ」

「ずっと・・・傍にいてくれるんじゃあ、ないのか・・・?」

うつらうつらと眠りかけながら、浮竹はそう言って眠ってしまった。

そんな浮竹の傍で、浮竹が目覚めるまで京楽は傍にいた。


---------------------------------


「京楽、次は経済学の座学だろう?一緒に移動しよう」

「うん、そうだね」

浮竹の笑顔がいつでも眩しかった。

この前のキスのことについて、浮竹は何も言ってこなかった。

夢だと思っているんだろう、多分。

最近、浮竹が眠っている時に時折キスをするようになってしまった。堪えなければならないと分かっていても、目の前に大好きな浮竹が無防備な姿でいると、つい手を出しそうになる。

これではいけない。

だからといって、浮竹から離れることもできない。

ぐるぐると思考が回る。

浮竹の傍にいるのは、我慢をしなければならないことだけど、傍にいれるのは心地よかった。

「ああ、教科書を忘れてしまった。ちょっと、ロッカーまでとりにいってくる」

「うん。先に教室移動して、君の分の席もとっておくから」

経済学の教室に入り、自由席の窓に近い場所をとって、浮竹が来るのを待つ。

浮竹はすぐに戻ってきた。

「ありがとう、京楽。席をとっておいてくれて」

「窓の外、見てごらん」

京楽は、浮竹にそう促した。

「うわぁ。桜が満開だな」

「うん。綺麗だね。あと4回は、この桜が見れるんだろうな」

「早く卒業して、死神になりたいなぁ」

「浮竹は、どうして死神になりたいの?」

「ああ、言ってなかったかな。家族のためだ。実家は下級貴族だけど兄弟姉妹で俺を含めて8人になるんだ。俺の薬代とか借金してまで親は工面してくれたんだ。兄弟姉妹にももっといい生活をしてほしいし、死神になって仕送りをしようと思っているんだ」

「そうなの」

家族のための資金援助なら、京楽もできるが、浮竹は受け取らないだろう。

だけど、仕送りの少ない浮竹のために京楽は金を出してやることはけっこうあった。甘味物が好きな浮竹のために、甘味屋へ連れていくと、浮竹は金がないからと渋る。京楽が奢るからといえば、浮竹は喜んで甘味屋に入った。

一方の京楽は、なぜ死神になるのかというと、上流貴族の京楽家から厄介払いされたような形になる。自由気ままに生きるよりは、せめて霊圧があるのだから死神になれと、強制的にこの死神統学院に入れられた。

「僕の家族が、浮竹のような家族ならよかったのに」

「言っておくが、大変だぞ?人数が多いから、家も狭いし」

「うん・・・でも、僕は上流貴族でも厄介払いされたかんじだから」

浮竹と仲がよくなる前は、よく花街にいっていた。

今でも時折いくが、買う女はどこか浮竹に似たような雰囲気の女ばかりだった。

ああ。

浮竹の傍を離れたくないけど、このままいけば浮竹を汚してしまう。

でも、傍を離れられない。

そんな矛盾が、心に痛い。


次の授業、京楽はいつものようにさぼった。いや、さぼろうとした。

しかし浮竹に見つかって、半ば強制的に授業に出させられた。

授業が終わり、桜の木の下に来ていた。

「ねぇ、浮竹」

「なんだ」

「キスをしたいって言ったら、どうする?」

きょとんと眼を丸くする浮竹は、少しだけ笑って、こう言った。

「俺が寝ている時、時折キスしてくるだろ。今更じゃないか」

ああ、気づかれていたのか。

「じゃあ、今してもいい?」

「俺の事、好きなんだろう?」

「うん」

「俺もお前のこと、けっこう好きだから、別にいいぞ」

京楽は、浮竹を抱きしめていた。

「好きだよ、浮竹」

ちらちらと、桜の花びらが散っていく。

浮竹の緑の瞳にも映っていて、それが綺麗で見とれていた。

「京楽?」

「好きだよ」

「ん・・・・」

京楽は、浮竹の唇を奪っていた。

いつもの触れるだけの口づけとは違う、大人のキス。

舌を絡めあいながら、浮竹の咥内を攻めて、陥落させる。

「はぁ・・・・・んん・・ふっ・・・・・」

息が苦しそうな浮竹から離れると、顔を真っ赤にした浮竹が京楽の胸の中で顔を隠していた。

「多分顔が真っ赤だ・・・・見るなよ」

「君の瞳に、ちらちらと桜が映っていて綺麗だったよ」

「ばか・・・」

浮竹はまた真っ赤になって、京楽から離れると桜を見上げた。

浮竹も散っていってしまいそうに見えて、京楽が浮竹の細い手首を握って、抱きしめる。

「京楽?」

「君が・・・・桜の花びらになっていなくなってしまいそうで、怖い」

「俺は散ったりしないぞ」

「うん」



君の瞳に映るのは桜。

僕は君の瞳の色の名を知らない。

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