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魔王と勇者

京楽は、勇者だった。

上流貴族であるが、その放蕩ぶりに呆れられて、なりたくもないのに冒険者となるために、冒険者アカデミーに入れられた。

無事卒業し、冒険者として生きていこうとする中、城下町で祭りがあった。

新しい勇者を生み出す祭りだった。

聖剣エクスカリバーを引き抜けば、勇者となり、魔王討伐に旅立つのだ。

次々と若い冒険者たちが台座からエクスカリバーを引き抜こうとするが、誰も引き抜けない。

京楽は、遊びの気持ちでそれに参加した。

すると、聖剣エクスカリバーは京楽の手でするすると台座から引き抜かれた。

民衆がわっと歓声をあげた。

「新たな勇者の誕生だ!」

いや、そのつもり全然なかったんだけど。

「僕は勇者になんてなりたくないよ」

エクスカリバーを投げ捨てるが、エクスカリバーは鞘に収まって京楽の背中にくっついた。

何度投げ捨てても戻ってくるので、京楽も諦めた。

「汝、京楽春水を、これをもって正式に勇者と認定する」

王様にそう言われて、ショックを受けた。まさか、自分が勇者になるだなんて。

「パーティーメンバーを決めたり、武具を買ったりいろいろと金が必要じゃろう。ここに白金貨100枚を用意してある。これを軍資金に、魔王を討伐するのじゃ」

白金貨は、普通の金貨の10倍の価値がある。

つまりは金貨1千枚を渡されたことになるのだ。

京楽は、白金貨には手を付けず、パーティーメンバーとしてやってきた仲間を放置して、ひたすら周囲の森でスライムを殺した。

スライムに恨みはないが、一応モンスターを討伐して勇者らしいことをしなければと、スライムを倒し続けた。

スライムは素材としては悪くなく、金もたまった。

いろんな種類のスライムを退治した。中には純金やらレアメタルでできたスライムもいて、財布が潤った。

京楽は、気づけはLV99になっていた。

それは、聖剣エクスカリバーにあったチートスキルのせいだ。獲得経験値×10と、様々な魔法をのスキルを覚えられるというもの。

勇者のレベルがカンストしたと聞いて、国王は今まさに魔王を打ち滅ぼす時だと、京楽を城に呼び、パーティーメンバーを与えた。

僧侶、魔法使い、戦士、盗賊であった。

翌日には出発するという時に、京楽はレベルがカンストしたことで覚えた、テレポートの魔法を使って街を抜けだし、パーティーメンバーなぞ足を引っ張るだけでいらないのだと、魔王城を目指して一人ふらりと旅に出た。

テレポートの魔法を多用していたせいで、1週間で魔王城についた。

おどろおどろしい城か煌びやかな城を想像していた京楽は、その城を見て、驚いた。

すごくぼろかったのだ。

財政不足かな?

そう思って庭をみると、畑が広がっていた。

鶏や牛、豚やヤギなどが飼われており、自給自足の生活をしているようだった。

魔王って、貧乏なんだ。

京楽の中の魔王像が、粉々に壊れていく。

「あれ、京楽じゃないか」

「え、浮竹!?」

畑を耕していた、幼馴染に、京楽はビックリした。

浮竹とは、冒険者アカデミーに入る前の普通の学校で一緒で、幼馴染だった。

肺の病をもっており、病弱な浮竹を京楽はよく見舞いにいった。

長い白髪に翡翠の瞳をもつ、見目麗しい青年であったが、京楽と同じ冒険者アカデミーに通うには体が弱すぎるという理由で、一緒にいられなくなった過去がある。

京楽は、浮竹のことが好きだった。

「何してるんだい、こんなとこで。まさか浮竹が魔王とか・・・・あははは、あるわけないね」

びっくりした顔で、浮竹が京楽のもつ聖剣エクスカリバーを見る。

「そうか。京楽は勇者なのか。魔王を討伐にきたんだな・・・・こっちにこい。案内する」

城の中を案内される。

ぼろいが、それなりに広かった。

玉座と書かれたパイプ椅子に座って、浮竹は京楽を見た。

「第16代目魔王、浮竹十四郎だ」

「え、まじで?」

「魔王福引会で、2位の金貨1千枚を狙って福引したら、魔王が当たった」

「どんな選び方なのそれ。魔王って、そんな適当でいいの?」

「いいらしいぞ。とりあえず、存在すればいいらしいから。でも、俺は魔王の加護のお陰で健康な肉体を得た。魔王といっても、ただこの城で生活しているだけで、部下はいるけど同じように生活しているだけだ。ちなみに2位の金貨1千枚は偽物だった。貧乏だからな、魔王は」

「魔王って、悪くないんだ。人間の存在、脅かしてないんだ。おまけに貧乏なんだ・・・・・」

京楽の中で、魔王を倒すという意味がなくなっていく。

「ここにね、白金貨100枚あるんだ。これで、ちょっとは生活よくなる?」

「白金貨!」

浮竹が驚く。

白金貨を目にするのは数年ぶりだ。

浮竹は下級貴族出身で、兄弟姉妹が8人もいて、浮竹の肺の病の薬に金がかかるということで、幼い頃から兄弟姉妹たちはスライムなんかの弱いモンスターをやっつけて、素材を売って金にして両親や浮竹を助けていた。

「本当は、冒険者になりたかったんだ。でも、冒険者アカデミーで体弱いということで入れなくて、ギルドには登録はしてあるが、ちゃんとした冒険者じゃない」

「うーん」

京楽は、浮竹の傍に近寄る。

「魔王、やめれないの?」

「やめると、加護がなくなって健康じゃなくなる。魔王の加護は、近しい者にも与えられるから・・・京楽こそ、勇者やめないか?勇者やめて、ここで俺と暮らさないか?」

「プロポーズ?」

その言葉に、浮竹が真っ赤になる。

「違う、そういう意味じゃ・・・・そりゃ、お前のことは好きだけど」

「奇遇だね。僕も君が、好きなんだ」

二人は、触れるだけのキスをした。

「勇者やめたら、新しい勇者が浮竹を倒しにくるだろうから、勇者のままで魔王側に寝返ることにする」

(勇者したままだけど、魔王と恋人になったので、魔王城で暮らします)

そう書いた手紙をしたためて、伝書鳩を飛ばした。

後日、勇者パーティーに入るはずだった者たちと一緒に、新しい勇者と名乗る男が魔王城にせめこんできたが、魔王の加護を受けた京楽の敵ではなかった。

魔王の加護には、LV制限突破がある。

勇者京楽LV395。魔王浮竹、LV415。

この二人にかなう者など、まず世界に存在しない。

京楽は、近くの冒険者ギルドで適当に依頼を受けて消化し、金銭を得てそれで浮竹と一緒に魔王城に住んだ。恋人同士になっていた。

基本自給自足の生活を成り立たせていたので、暮らしは質素だが幸せだった。

「僕、勇者になれてよかった。君とこうして一緒にいられるから」

「俺も、魔王でよかった。健康になれたし、京楽とまた出会えたから」

魔王と勇者は、仲良く過ごした。

ちなみに、パイプ椅子だった玉座は、普通の玉座に変わっていた。金銀細工が施されて、魔王が座るのに威厳を損なわぬものになった。

京楽が勇者だということは、近場の冒険者ギルドにばれたが、国王がもう魔王は脅威でないとして、魔王討伐をやめたので、問題はなかった。

勇者京楽と魔王浮竹は、人類史上最も仲のいい勇者と魔王として、後世にまで名を遺すことになるのであった。


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