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酒を飲んでも飲まれるな

「なんだこれは」

朝起きると、横に白哉が寝ていた。

「ん・・・・・・」

美し顔(かんばせ)が、ゆっくりと目を開こうとして、また閉じられた。

いやいやいや。

何この状況。

昨日は・・・・確か、ルキアと白哉と酒を飲みあって・・・・・。

後のことは、覚えていなかった。

いやいやいや。

白哉の衣服が乱れていたり、美しく整った顔は綺麗だが、まさかまさかと。

同じ布団で寝ていたのだ。

おまけに一護は上半身裸で、パンツ一丁という姿。

記憶もあやふやだし、まさかとは思うが、白哉に手を出したわけではないだろう、多分。

そう願いたい。

「兄様、朝ですよ!」

愛しい義兄が珍しく非番とはいえ、遅くまで寝ているのを心配したルキアは、わざわざ白哉を起こしに来た。そして、パンツ一丁の一護と、乱れた衣服のまま眠っている眠り姫こと、白哉を見て固まった。

まだ眠っているとはいえ、衣服の乱れた白哉と、なぜか上半身裸のでパンツ一丁の一護を見て、ルキアは涙をボロボロと零した。

「一護の浮気者!」

ルキアは、一護に強烈なビンタをかまして、走り去って行った。

「あいたたたた」

すごいビンタだった。

思いっきり頬に痕が残った。

とにかく、誤解を解かないといけないので、散らばっていた衣服を着て、ルキアの後を追おうとした時、白哉が起きた。

「おい白哉、なんだこれ!俺ら、なんでもなかったよな!?酒のせいでやちゃったってことないよな?」

「んー・・・・・覚えておらぬ」

「ぐわああああああ」

白哉は、首を傾げていた。ぱらぱらと、長い艶のある髪が頬に零れる。

「先ほど、ルキアの声が聞こえた気がしたが」

「この状況見て誤解したんだよ!浮気者って言われた!」

「ふむ。浮気者が」

「ぐああああああ。俺は何もしていないはずだああああ!」

一護は、衣服を着ると、猛烈な勢いで白哉の寝室を出て、ルキアの霊圧を探りながら、走り出す。

朽木家の本家はとにかく広い。

霊圧を探るのは苦手だが、なんとか感情の高ぶりのためか霊圧があがっているルキアのいる場所を突き止めて、一護はそこに向かった。

椿の花が咲いていた。

それを、ルキアは黙ってただ見ていた。

「ルキア」

「浮気者」

「俺と白哉はなんでもねーって。なんもしてないはずだ。俺にはルキアがいる。ルキアとしか、そういうことはしない」

「浮気者。兄様に手を出すなんて・・・・」

「だから、酒飲んで多分ひゃっはーって気分になってああなっただけで、誤解だ。俺と白哉はなんでもない。白哉はただの義兄だ」

「本当に、信じてよいのだな?」

ルキアは、潤んだ瞳で一護を見つめてきた。

う。

かわいい。

「ルキア、大好きだ」

ルキアを優しく抱きしめると、ルキアもおずおずと抱き返してくれた。

「一護の言葉を信じる」

「ああ」

椿が咲き狂う庭で、口づけを交わした。

「一護の匂いがする。兄様の匂いがない。信じる」

ルキアは、太陽のように笑った。

泣いたり笑ったり、忙しい。

一護は、ルキア成分をたっぷり補充した。

「なぁ、ルキア、今晩・・・・・・」

「兄様はとにかく、一護は当分、酒は禁止だな」

「まじか」

「オレンジジュースでも飲んでいろ」

「まぁ、仕方ねーか」

誤解はあっけなく解けた。

白哉も一護もルキアも、昨日はべろんべろんになるまで飲んだので、皆記憶があやふやだった。

一番素面に近かった一護が、酔いつぶれた白哉を介抱して、そのまま眠気に任せてずるずると寝てしまったのだ。

なんでパンツ一丁だったのかは、その時の一護に聞いてみないと分からない。

一護は飲みすぎると、パンツ一丁になるという噂が、13番隊で流れるようになったのは、後日の話。

その頃の白哉はというと、身なりを整えて、持ち帰っていた仕事をしていた。

休みなのだから、休めばいいと思うのだが、することが特にないそうなので、自由にしておいた。


「一護、ルキア、今日飲みに行かないか」

そう恋次に誘われて、ルキアは首を横に振った。

「つい先日、兄様と一護と飲んで羽目を外してしまい、泥酔した。しばらく酒は飲まない。一護は酒は当分禁止だ」

「なんだ、つまんねーな」

「兄様でも誘え」

「隊長、居酒屋なんかの酒飲むのか?」

「案外いける口だぞ。現世のビールとか、やっすい酒も好きみたいだし」

一護がそう言うと、恋次はうなりながら、白哉を誘うことにしたようだった。

夕飯の席で、白哉は果実酒を飲んでいた。

ルキアはココアを。

一護はオレンジジュースだ。

他のジュースも飲みたいといったのだが、なぜかオレンジジュースに固定されていて、我儘をいうなとどやされた。

「一護は、オレンジ色だからオレンジジュースしか飲んではいけないのだ」

「なんだよそれ」

ルキアを抱き寄せて、耳を甘噛みすると、ルキアが飛び跳ねた。

「ひゃん」

「オレンジジュース飽きたー。バナナオレが飲みたい」

「仕方ないな」

ルキアは、給仕の係に、バナナオレを作って持ってこさせるように言った。

「ふふっ、結局私は一護に甘いな」

「夫婦なんだから、いいだろ」

白哉が、いきなり大きな罅をいれてきた。

「泥酔したあの日、兄は私をルキアと間違えて押し倒して、衣服を脱がそうとした」

「ぶーーーーーー」

持ってこられたバナナオレを、一護はルキアの顔面に噴き出していた。

「一護・・・・私に飲み物を噴き出してかけるとは、いい度胸だな。兄様に迫ったのか・・・とんだ浮気者だな!」

解決したと思っていた案件に火が噴いた。

「おい、白哉!」

怒るルキアの頭をなでながら、白哉は一護にべーっと舌を出した。

「ぐぬぬぬ・・・・・・」

白哉の意地の悪さは変わらないようで。

義妹が一番かわいい白哉は、義弟になった一護をからかったり、怒らせたたり、とにかく嫌がらせをしてくる。

今日の風呂の湯を、白哉が入る前に全部抜いてやろうと、子供のような復讐を企む一護。

しかし、尸魂界も大分機械化が進み、朽木家にはシャワーもある。

白哉専用の、シャンプーとボディーソープの中身を入れ替えてやろうと、ついでに企んだ。

決行した次の日。

朝食の場で一護の席はなく、段ボールの上にめざしが置かれていた。

「ぐぬぬぬぬ・・・・・・」

「兄には、それがお似合いだ」

熱い茶をすすりながら、白哉は席を立って出勤する。

「一護、めざしだけでは腹が減るだろう。ほら、味噌汁ぶっかけご飯だ」

ようするに、猫まんま。

白哉に、一護は猫まんまが好きだと刷り込まされているルキアは、精一杯の優しさを出したつもりだった。

「ルキアがくれるなら、まぁ猫まんまでもいいか」

ルキアの紫紺の瞳が、嬉し気だった。

昼は、ちゃんとしたご飯をたべて、夕飯も普通だった。

風呂に入ろうとしたら、湯がなかった。

シャワーで体を洗おうとしたら、ボディーソープの中身がリンスになっていた。

「く、白哉め!」

やったらやり返される。

それを知っていながら、二人は争いを続けるのだった。




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