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始祖なる者、ヴァンパイアマスター14後編

猫の魔女、松本乱菊の滞在は長かった。

やってきてすぐに、浮竹と京楽の友人として打ち解けた。

一度は魔女の里に帰ったが、また遊びにきた。

その時の乱菊はヴァパイアの始祖を屠れという密命を帯びていたが、始祖のヴァンパイアである浮竹を殺す方法などないし、友人を手にかけることなどしたくないと、魔女会議で決定された事柄を無視した。

乱菊が戻ってきて、3日が過ぎた頃、エリクサーの材料で、市場で出回っていない世界樹の雫を手に入れるために、S級ダンジョンにもぐることにした。

S級ダンジョンは1つではない。

世界にいくつか存在した。

3人は、1週間分の食料を3人分アイテムポケットにいれて、出発した。

まず、S級ダンジョンのある国の首都に、空間転移魔法陣を起動させて、転移する。そこから馬車で2時間ほど揺られて、ダンジョンの最寄りの街に移動して、宿屋で一日休息をとり、空間転移で失った魔力を補充した。

街から徒歩一時間ほどした場所にS級ダンジョンはあった。

まだ来たことのないS級ダンジョンであった。

主にドラゴン系が住み着いており、難攻不落とも言われていた。

ドラゴン系といっても、個体数200しかいないドラゴンうち2体がボスをしているだけで、後のドラゴンは雑魚で真のドラゴンとしては分類されなかった。

200体しかいないドラゴンは竜族と呼ばれている。

その他のドラゴンは、ただの雑魚ドラゴンだ。

かつて、浮竹が退治したブラックドラゴンやファイアードラゴンは竜族だ。

竜族と雑魚ドラゴンの違いは、人語を理解し人型をとる知恵あるドラゴンか、人語を理解しない頭の悪いドラゴンかの違いであった。

始祖竜であるカイザードラゴンは、人型をとり人語を理解する。

もっとも、浮竹は竜族だろうが雑魚ドラゴンであろうが、関係なく倒してしまうが。

一階層を進むと、プチドラゴンと呼ばれる、雑魚ドラゴンの幼体ができてた。

「このダンジョン、雑魚ドラゴンや竜族でできているから、素材が金になる」

浮竹は、スパスパと血の刃ででてくるプチドラゴンを倒していった。

乱菊も魔法を使い、プチドラゴンを倒す。

京楽は、倒されていったプチドラゴンの素材にできる部分だけを切り取って、アイテムポケットに収納していった。

「あ、宝箱!」

「ちょっと、浮竹!」

「あがががが、いつもより痛い!」

浮竹をがじがじと噛むミミックは、エンシェントミミックだった。

「暗いよ~狭いよ~怖いよ~生暖かいよ~」

乱菊は、腹を抱えて笑っていた。

「あはははは、始祖ヴァンパイアがミミックに食われるなんて・・・おかしい、あははは」

「見てないで助けてあげて?浮竹ってミミックが大好きで、宝箱を発見してそれがミミックでもわざと食われにいくんだよ」

京楽は、エンシェントミミックに食われてじたばたしている浮竹の下半身を見ていた。

「京楽、助けてくれ」

「全く、君のミミック好きには毎度あきれるよ」

エンシェントミミックも通常のミミックと同じで、押し込むことでおえっとなって、浮竹をはきだした。

「ボルケーノトライアングル!」

浮竹が、火の範囲魔法でエンシェントミミックを退治する。

「ちょっと、オーバーキルだよ」

「今日初めて会ったミミック様だ。盛大に燃やそう」

「ミミック様って・・・」

「古城のポチを象徴として、俺が勝手に設立した、ミミック教だ!」

それを聞いて、京楽は眩暈を覚えた。

「ミミック教っていっても、ミミックは結局倒すんだね」

「倒さなきゃ、宝物を落としてくれないだろうが」

「あはははは!あなたたち、いつもダンジョンでこんな風なの?漫才してるみたい」

「これが俺と京楽の通常運転だ」

「違うよ、乱菊ちゃん!浮竹が暴走してるだけだよ」

「お、魔法書が3つか。ラッキー」

浮竹は、エンシェントミミックが残していった魔法書を手にとった。

2つは民間魔法で、肩こりが余計にひどくなる魔法、10円ハゲを作る魔法だった。

「あまり役に立ちそうにないな」

2つの民間魔法を習得する。

「役に立ちそうにないとかいいながら、ちゃんと覚えるんだね」

「京楽、10円ハゲできる魔法使ってもいいか?」

「やめてよ!僕を実験台にしないで!」

京楽は、乱菊の後ろに隠れた。

「ちょっと、あたしもいやよ!10円ハゲなんて!」

「血をやると再生するから、10円ハゲを作らせてくれ」

「血がもらえるの?10円ハゲ、こさえてもいいわよ」

乱菊は、現金だった。

浮竹が魔法を唱えると、豊かな金髪に10円ハゲができた。

「おお、本当に10円ハゲができた」

「血をちょうだい。治さなきゃ」

浮竹は、自分の血の入った小瓶を、乱菊に渡した。

再生の力だけが宿っていて、レアなポーションの材料になる血ではなかった。

「あら、魔力を帯びていないのね。残念。でも、これはこれで大けがを治すとかによさそうだから、とっておくわ」

乱菊は、血を少しだけなめた。

10円ハゲだった部分にぶわっと髪が生えてきた。長くなりすぎたので、もっていた短剣で適当な長さに切った。

「もう一つの魔法書は・・・古代の、炎の魔法。おお、すごいぞ、俺がまだ覚えていない魔法だ。攻撃魔法で覚えていない魔法を覚えるのは久しぶりだ。えーと、ファイアオブファイア!」

ごおおおお。

すさまじ炎が踊り、地面が黒こげになった。

「浮竹、その魔法あんま使わないでね?火力強すぎるよ」

「そうだな。ドラゴン系の素材を燃やしてしまったら、もったいない。これからも今まで通り、血の刃で殺すとしよう」

「あたしも覚えられるかしら」

「試してみるか?」

「ええ」

浮竹は呪文の詠唱を破棄しているが、魔法は通常呪文の詠唱がいる。

「その身に宿るのは己が意思の炎。天よりきたりて我が前に立ちふさがりし愚者を炎の贄にせよ!ファイアオブファイア!」

シーン。

魔法は発動しなかった。

「だめだわ。魔力が足りないみたい。浮竹さん、よくこんな魔法を簡単に使えるわね」

「俺は魔法を極めているからな。魔力も、自分でいうのもなんだがこのガイア王国一だと思う。
血の帝国でも多分一番だ。ブラッディ・ネイが魔法の腕をあげていなければの話だが」

「ブラッディ・ネイって、血の帝国の女帝の名前だわよね?」

「そうだよ。浮竹の実の妹だよ」

京楽の言葉に、乱菊が驚く。

「ええっ、女帝の兄!あの女帝は8千年も血の帝国に君臨し続ているのに、浮竹さんは女帝の代わりに皇帝になったりしないの?」

「一時期、皇族王をしていた。皇帝にはなる気はなかったな。俺には、血の帝国の統治には向いていない。ブラッディ・ネイは一人のヴァンパイアとしては問題がありすぎたが、血の帝国をちゃんとまとめあげて政治を行っている。今は白哉が、皇族王の地位にあり、摂政としてブラッディ・ネイの右腕をしている」

「白哉クンも大変だよね」

「選んだのは白哉だ。後宮に入り浸るブラッディ・ネイを快く思わない者もいるからな。そういう女帝排斥派を黙らすのが、白哉の仕事でもある」

そんな会話をしながら、モンスターを倒して5階層にまできた。

「ボスはワイバーン。数は1体。楽勝だな」

「ワイバーンはあまり素材にならないからね」

「さっきの魔法でやっつけちゃえば~?」

「シャアアアアアア」

襲い掛かってくるワイバーンの攻撃を3人とも躱して、浮竹は魔法を使った。

「ファイアオブファイア!」

「シャアアアアア!」

ワイバーンは雄叫びをあげて、灰になった。

骨すらも残らなかった。凄まじい火力であった。

「ちょっと、これ禁呪に近いかもしれない。あまり使わないようにする」

浮竹が、覚えたての魔法を初めてモンスターに使ったが、その威力の高さにびっくりしていた。

「そうだね。ちょっと威力が高すぎるかな。ボス戦以外では、使わないようにしようよ」

「ボスはドラゴン系だから、ボスにも使わない。素材がだめになる」

あくまで、浮竹の中でドラゴン系統は素材の山という認識だった。

10階層まで進むと、アンデットドラゴンがボスとしてでてきた。

骨だけのドラゴンだった。

「骨と牙と爪は素材になる!コアを破壊しよう!」

スライムなどの不定形の魔物や、アンデット系の魔物にはコアへの攻撃が一番よく効いた。

「ファイアオブファイアじゃ、骨も残らなさそうだな。京楽、任せてもいいか?」

「もちろんだよ!」

「あたしは援護にまわるわ!」

「頼む!」

「エクステンドアイビー!」

浮竹は、蔦を伸ばす魔法を使って、アンデットドラゴンの動きを封じた。

乱菊がコアの周りの骨を、魔法で破壊する。

そこに、聖なる魔力を宿した、京楽のミスリル銀の剣がコアを粉々に切り崩した。

「ギャルルルル」

雄叫びをあげて、アンデットドラゴンは活動を停止した。

「ドラゴン素材だ!金になる!」

道中の雑魚ドラゴンより、このアンデットドラゴンの素体は竜族であったので、素材として雑魚ドラゴンの2~3倍はした。

竜族の素材には魔力が満ちている。

雑魚ドラゴンの素材には魔力がない。どちらを加工すればいい武具ができるかなど、一目瞭然であった。

そうして、一行は4日かけてダンジョンの最深部までやってきた。

S級ダンジョンなだけあって、出てくる敵は強く、階層が下になればなるほど、ボスのような個体がわんさかと出てきた。

始めは素材のため、と言っていたが、出てくる数が多いので、ファイアオブファイアで焼き払う始末だった。

「は~。やっと70階層まできた。このダンジョン、何階層まであるの?」

「確か、105階層だ」

「うえーまだそんなにあるの」

ボス部屋の前のセーブポイントで昼食をとって休憩を入れながら、浮竹はこう言った。

「世界樹の雫がとれる階層は、77階層。ここのボスを倒したら、終わりだ」

「やったー!地上に帰れる!」

「あたし、お風呂に入りたい」

リフレッシュの魔法で体の清潔さを保ってはいるが、お風呂に入る爽快感はない。

「さて、いこうか」

「うん」

「ええ」

---------------------------------------------------------

「きしゃああああああああ!!!」

75階層で待ち受けていたのは、真のドラゴン、竜族であった。

だが、呪いでステータス異常を起こしていた。

魂にまで刻み込まれた呪いなので、聖女でもいない限り解呪はできないだろう。

「竜族か。話し合いで片をつけたかったが、憤怒のステータス異常だ。解呪できないし、このままにするのも哀れだ。せめて、俺たちの手で屠ってやろう」

ドラゴンは、エンシェントドラゴンであった。

カイザードラゴンほどではないが、3千年は生きている、竜族の中でも古い個体だった。

「エンシェントドラゴンが、100年ほど前にいなくなったと聞いていたが、こんな場所にいるとは」

「ぎゃるるるるる」

炎のドラゴンブレスを吐かれて、浮竹と京楽はシールドを展開する。

そのシールドに罅が入った。

浮竹が、もう一枚シールドを増やす。

「何て威力だ。ブレス特化か!」

次は、氷のブレスを吐いてきた。

シールドでずっと防ぎ続けるが、魔力の消耗が激しかった。それほどの威力のブレスだった。

炎、氷、雷、水、風、大地、光、闇。

エンシェントドラゴンは、全ての属性のブレスを吐いた。

それを、シールドで防ぎ続ける。

「このままじゃ、こっちの魔力が尽きる」

「なんとかしないと!」

乱菊は、危ないのでセーブポイントにいてもらった。

乱菊のレベルでは、竜族にダメージを負わせるのがやっとで、足手まといになるからと、説得した。

「がんばって、浮竹さん、京楽さん!」

扉の向こう側で、そんな乱菊の言葉が聞こえた。

「ドラゴンの弱点である、顎の逆鱗をついてくれ、京楽!」

「そうは言われても、このブレスじゃあ、近くによることもできないよ」

「俺がなんとかする。エターナルアイシクルワールド!」

禁呪でもある氷の魔法を放ち、エンシェントドラゴンの下半身を氷漬けにすると、エンシェントドラゴンは、炎のブレスで氷を溶かそうとしていた。

封印の威力もあるので、氷の魔法は溶けない。

「ぐるるるるるる!」

エンシェントドラゴンの瞳には、浮竹が映っていた。

「我を・・・・殺せ。始祖の、ヴァンパイア」

「エンシェントドラゴン?呪いが消えたのか?」

「我は、100年前、始祖魔族藍染惣右介の手で、ここに閉じ込められた。外に出ることもかなわず、ただSランク冒険者の相手を、時折していた。殺さず先に行かせたことも何度かある。我の呪いは魂への呪い。時折ふと元に戻ることはあれ、もう呪いは解けぬ。このような場で生き続けるよりも、我は死して新たなるエンシェントドラゴンとして生まれ変わりたい」

輪廻転生。

それは竜族だけがもつ、転生の在り方。

「分かった。京楽!」

「うん!」

炎の魔法を帯びた魔剣で、京楽はドラゴンの弱点である、逆鱗を斬り裂いた。

「ありがとう・・・・我は眠る。次にまた会いまみえることがあれば、我は幼体であろう。その時は、かわいがってくれ」

「さよなら、エンシェントドラゴン」

エンシェントドラゴンはずどおおんと、巨体を倒して、死んでいった。

浮竹と京楽は、エンシェントドラゴンの体をアイテムポケットに入れる。

体が巨大なので、浮竹のアイテムポケットには入りきれなくて、結局中身があまり入っていない京楽のアイテムポケットに入れた。

「勝ったの、浮竹さん、京楽さん」

「ああ、一応な」

「エンシェントドラゴンは?」

「倒したので、素材としてアイテムポケットにいれた」

その言葉に、乱菊が顔を引き攣らせていた。

「真のドラゴン、竜族も素材にしちゃうのね」

「また竜族の個体が減ったな。恋次に連絡して、減った数のドラゴンを孵化させてもらおうか」

「うん、そうだね」

「じゃあ、77階層目指して、がんばりましょう!あと一息よ!」

るんるんと前を歩く乱菊の後を追う。

「ちょっとたんま。休憩しよ」

京楽が、魔力切れを起こしていた。浮竹の魔力もかなり減っていた。

76階層のモンスターは、上のほうの階層のボス並みの相手がほとんどだ。

なんとかセーブポイントを見つけると、浮竹はテントを張った。周囲には、念のための魔物避けのお札を置いた。

「今日は、ここで休息しよう。俺も京楽も、随分と魔力を消費した。一日経てば元の状態に戻るだろうから」

「じゃあ、あたし食事つるくわね」

浮竹のアイテムポケットから食材を出してもらい、乱菊は豪快に野菜をきっていって、鍋でいためて水をそそいで、シチューを作っているらしかった。

なんともいえない、つーんとした匂いのするシチューができあがった。

「味見したか?」

「いやねぇ。するわけないじゃない!だって不味いんだから!」

「不味いなら、最初から作るな!」

「あら、そんなこと言っていいの?これ、魔女の特選のレシピ、魔力を回復させるシチューよ?本当なら薬にして、1個金貨3枚はいただくんだけど」

乱菊は、もってきていた薬草のほとんどを鍋にいれてしまったらしかった。

「せめて、薬の形がよかったよ・・・・・」

京楽は、文句を言いながらもシチューを全部食べた。浮竹もそれを見習って、不味くて苦いが、シチューを全て食べた。

「お、大分魔力が回復してるな」

「ほんとだ」

「ふふふふ、魔女の調合する薬をなめないでもらいたいわ」

そのまま、3人は時間が夜になっていることもあり、テントで就寝した。

------------------------------------------------

「これが世界樹の雫・・・・・・」

乱菊は、目をウルウルさせていた。

77階層に生えている世界樹の葉に宿る、虹色に光る世界樹の雫の結晶を、そっと大切そうに鞄にしまいこむ。

「ここまできたんだ。とれるだけとってしまおう」

浮竹は、世界樹の雫の結晶をいっぱいとって、アイテムポケットに入れていた。

世界樹の雫は、液体ではない。液体だとすぐに蒸発してしまうので、宝石のように固まった結晶だった。

「これだけあれば、エリクサーも作れるだろう」

浮竹も乱菊も、好きなだけ世界樹の雫をとった。

このS級ダンジョンの77階層に生える世界樹しか、世界樹の雫を生み落とさないので、S級ダンジョンにもぐるSランクの冒険者が、世界樹の雫を冒険者ギルドに売らない限り、市場には出回らない。

乱菊はちまちま市場に出して、金を稼ぐつもりであった。

大金になると、喜んでいた。

浮竹は、エリクサーの材料にするので売る気はなかった。

ガイア王国に帰り、3人は冒険者ギルドの解体工房でエンシェントドラゴンの遺体を出した。

受付嬢は、浮竹と京楽が以前ブラックドラゴンを持ち込んだ時に居合わせたので、驚くものかと心がけていたが、更に上位のエンシェントドラゴン、真竜に口をぽかんとあけて、その鮮度の高い遺体を見ていた。

「肉はある程度もらう。あと、瞳と血もだ。残ったのを買い取ってくれ」

認識阻害の魔法をかけているので、浮竹はエルフの魔法使いで京楽はハーフエルフの剣士にみえた。乱菊は獣人族の盗賊に見えていた。

ギルド長が、他のギルド職員と相談して、買取金額を提示してきた。

「ブラックドラゴンの時が金貨5千枚だったが、今度はエンシェントドラゴンの真竜。魔力の保有量が桁違いだ。状態もいい。瞳と血と肉以外でも、金貨7千枚で買い取りたい」

「いいぞ。その値段なら、売ろう」

浮竹は、あっけなく売ることを承諾した。

乱菊はその値段の高さに、もう慣れてきたとはいえ、驚いていた。

「あの、世界樹の雫を1つ売りたいのですけど」

「世界樹の雫だと!今、ちょうど市場でも出回っていなくて、ミスリルクラスの錬金術士が欲しがっているんだ。金貨2千500枚でどうだろう?」

「お売りします」

乱菊は、世界樹の雫を売った。

こんなに高価だとは思っていなかったので、喜びを隠しきれないでいた。

「自分で使う分を置いておいても、あと10個はあるわ。里の近くの冒険者ギルドで定期的にうりましょっと」

乱菊は、里にある自分の家をもっと広い家に建て替えて、魔女として薬の調合の腕もあがったことだし、良い薬を作って、里の外の人に薬を売ろうと思っていた。

商会は通していないので、乱菊は自分で薬を売る。

貧民や平民には安価に、貴族や大金持ちには少々高く売りつけた。

いろんな病気の薬だったり、怪我を治癒するポーションだったり、毒を無効化する薬だったりと薬の内容は多岐に渡った。

痺れ薬、毒薬、惚れ薬、自白剤・・・そんなものも取り扱っているが、顧客は王侯貴族である。

薬を買って、それをどう使うかは、買った者の自由であった。

だが、犯罪に使われるようなら、冒険者に依頼して、薬を取り返してもらっていた。

----------------------------------


「約束だ。エリクサーを調合しよう」

「待ってました!」

浮竹は、京楽も伴って、錬金術に使っている館で、乱菊の前でエリクサーを調合した。

はじめの5回は失敗。

失敗するたびに爆発するので、京楽にシールドを張ってもらった。

6回目にしてようやく成功した。

液体に世界樹の雫を液状化したものを混ぜると、エリクサーになる予定の小瓶に入った水色の液体は、まざりあい虹色の光をきらめかせた。

キラキラと光る七色の液体は、まぎれもない本物のエリクサーであった。

「成功だ。最後に、世界樹の雫を入れるんだ。肌の温度と同じくらいに液状化したものでないと、失敗する」

「うわぁ、本物のエリクサーだぁ。そうやって調合するのね。失敗すると爆発すると」

乱菊は、メモに材料と調合の時の注意点などを書いていた。

「俺の弟子になったことで、今乱菊は金クラスまで腕があがっているはずだ」

「ほんとぉ?やったあ!」

上から3位目のクラスだ。

「魔女の最高位クラスでプラチナが一人いるだけなのよね。金クラスは8人いるけど、あたしをいれてこれで9人だわ!大金持ちになったし、魔女の里でのあたしの地位もあがるはず。あたしをおばさん呼ばわりした始祖ローデン・ファルストルめ、ざまーみろだわ。仇のヴァンパイアの始祖に弟子入りした魔女なんて、絶対未来永劫あたしくらいだわ」

「その、いいのか、乱菊。仇である俺の弟子になったこと」

「いいのいいの、気にしないで。魔女の始祖は、世界征服するとかアホなこと言ってたけど、それに同意していたのはごく一部の者よ。血の帝国に戦争しかけて、敗戦して。戦後賠償金を払わないといけないから、里の者たちにも罰金がくるのよ」

「ああ、ローデン・ファルストルが戦争をふっかけてきたけど、血の帝国全土を巻き込む大きな戦いにならなかったから、ブラッディ・ネイが出す戦後賠償金もそれほど桁は大きくないと思うよ」

京楽が、賠償金に悩んでいる乱菊に助け舟を出した。

「京楽、かっこよく決めているつもりだろうが、髪型がアフロなせいでアホに見えるぞ」

浮竹と乱菊をエリクサー調合の失敗の爆発から、シールドでその身を守っていたが、一度自分自身を守るのを忘れたのだ。

京楽の髪は、アフロになっていた。

「ムキー!アフロで悪い!?」

「あはははは!」

乱菊は、腹を捩って笑っていた。

「ついでに、十円ハゲを作ってやろう」

「ぎゃはははは!!」

アフロのいたるところに10円ハゲができて、乱菊は笑いすぎで呼吸が苦しそうだった。

「浮竹、僕のこと本当に愛してるの?」

「ああ、愛して・・・・・ぷっ」

浮竹もまた、ひどい恰好になった京楽の姿を見て、笑った。

「酷い!」

「悪い悪い。血を飲んでいいぞ」

「遠慮なくもらうよ」

京楽は、浮竹の首に噛みついて、その血を啜った。

髪型が元に戻っていく。

「ああ、君の血の味は甘いね。チョコレートや砂糖菓子より甘い」

「んっ」

乱菊は目を手で隠していたが、指の隙間からばっちり見ていた。

「見せつけてくれるわねぇ」

「あ、すまない乱菊。京楽の吸血行為はいつものことだ。乾きを覚えたら、俺の血を吸うようにさせてあるから」

「そういえば、京楽さんは人工血液飲まないのね?」

「僕は浮竹の血だけでいい。浮竹になにかあって、乾いていたら人工血液を口にすることはあるけど、あの微妙な甘ったるさは嫌いだよ。浮竹の血のほうがまろやかで美味しい」

「ふーん。あたし、明日には魔女の里に帰ろうと思うの」

「急だな」

「でも、これ以上長居したら、その、あなたたちの夜の生活がね?」

浮竹は真っ赤になって、京楽も少しだけ照れていた。

「じゃあ、今日はお別れの送別会を開こう。戦闘人形に、フルコースを作るように頼んでおく」

「ありがとう、浮竹さん!」


その日の夜は、乱菊の送別会としてささやかなパーティーが行われた。

七面鳥を焼いたものやら、フォアグラやトリュフやキャビアやらと、高い食材をふんだんに使った料理がでた。

エンシェントドラゴンのステーキもあった。

ちなみに、ポチは今古城で放し飼いになっていた。晩餐の広間にやってくると、勝手にドラゴンステーキを食べていた。

「こら、ポチ!食べる前はちゃんと牙を洗いなさい」

「浮竹、それ無理あるから。ポチもお腹すいてるんだね。もっとドラゴンステーキあげていい?」

「いいぞ」

「よかったね、ポチ」

ちなみに、ポチはミミックだ。

最近は浮竹を見てもすぐには噛みつかない。餌をくれようとする瞬間に、えさごと噛みついた。

京楽がポチにドラゴンステーキをあげるのを、羨ましそうに浮竹が見ていた。

「浮竹が、ポチにご飯あげる?」

「そうする!」

ポチにエンシェントドラゴンのドラゴンステーキを与えた。

「うわー、暗いよ狭いよ怖いよ息苦しいよーーーー」

ポチに噛まれた浮竹を助け出している京楽に、乱菊もまじって浮竹を救出した。

「るるる~~~~~~」

ポチはそう鳴いた。

「ポチが初めて鳴いた!あと、ポチの中にダイヤモンドがあった」

大粒のダイヤモンドを、ポチは浮竹に与えた。

いつもドラゴンステーキをくれるお礼だった。

その日は、遅くま騒ぎ合った。



「じゃあ、いつかまた」

「またね、乱菊ちゃん」

「浮竹さん、京楽さん、ほんとにお世話になったわ~。また遊びんいきていいかしら?」

「いつでも遊びにおいで」

「うん、僕も待ってるよ」

「じゃあ、あたしもう行くわね」

猫の魔女、松本乱菊は、猫に化身して、空を飛ぶほうきに乗って、去って行った。

「いい子だったね」

「ああ。京楽がいなかったら、血族にしたいくらいの子だった」

「浮気はだめだからね、浮竹?」

「お前もだぞ」

二人は、顔を見合ってから、古城の中に戻っていった。













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