始祖なる者、ヴァンパイアマスター26
ブラッディ・エターナル。
ブラッディ・ネイの寵姫にして唯一の血族。
他の疑似血族の寵姫たちのようでない、本当の血族にブラッディ・ネイはブラッディ・エターナルを迎えていた。
喉から手が出る程に欲しい兄の、血を受けつぐ子供。
浮竹と京楽に子はいない。
だが、猫の魔女乱菊から性別転換の秘薬を盛られて、女体化した浮竹は男性のままの京楽と睦み合った。
その時、受精した卵子を、ブラッディ・ネイは呪術で盗みだし、自分の寵姫の腹にいれた。
その寵姫は、僅か3日で臨月を迎え、子を産んだ。
産まれた子は、わずか1週間で12歳にまで成長した。
ブラッディ・エターナルという名を与えられて、ブラッディ・ネイの寵愛を欲しいままにしていた。
でも、ブラッディ・ネイが真に欲しているのは兄である浮竹だ。
そのことが、ブラッディ・エターナルには気に食わなかった。
「ブラッディ・ネイ。あたしがいるのだから、始祖の浮竹のことなんてどうでもいいわよね?」
「そんなことはないよ。ボクは兄様を愛している。その事実だけは、何があっても変えれない」
「始祖、浮竹十四郎・・・・」
ブラッディ・エターナルの心に、どす黒い闇が憑りつく。
「あたしの母親に値するヴァンパイアの始祖・・・・」
母親と言われても、ピンとこなかった。
自分には父も母もいないものだと思っていた。
呪術で、生まれ落ちるはずの命ではないと知った時、ブラッディ・ネイに感謝をするのではなく、憎悪を抱いた。
でも、その憎悪はブラッディ・ネイに愛されることで霧散した。
「始祖の浮竹・・・・ブラッディ・ネイが唯一不遜に愛する存在」
ゆらりと、ブラッディ・エターナルの血が揺らめいた。
始祖の浮竹の子であるのは本当なので、ただの寵姫ではなかった。
------------------------------------------------
古城の庭にいた。
目の前にいる、ブラッディ・エターナルは浮竹によく似ていた。
浮竹が12歳くらいなら、きっと判別がつかないくらいに。
「あなたが、あたしの母様と父様・・・・・」
「ブラッディ・エターナル。俺はお前の母親じゃない」
「僕も君の父親じゃない。娘をもった気はないよ」
「そう。じゃあ、あたしが始祖の浮竹を殺しても、何も問題はないわよね?」
ブラッディ・エターナルの言葉に、まず京楽が身構えた。
「俺は神の愛の呪いを受けている。お前程度に、殺せたりできない」
「あら、それはやってみないと分からないじゃない」
ブラッディ・エターナルは、血の刃を作りだして、それを浮竹に向かって放った。
「やめるんだ、ブラッディ・エターナル!ボクはキミを愛してる。それだけじゃ、不満なのかい!?」
制止するブラッディ・ネイの言葉に、ブラッディ・エターナルは頷いた。
「ブラッディ・ネイ。あなたはあたしに愛を囁くけれど、本当はこの始祖に囁きたいのでしょう?始祖の身代わりだなんて、ごめんだわ。始祖を殺して、あたしがあなたの一番になるの」
「ブラッディ・エターナル!」
「悪いけど、浮竹を害そうとするなら容赦はしないよ」
猛毒でもある京楽の血の刃を、全てブラッディ・エターナルが相殺した。
「あたしはブラッディ・ネイの本物の血族。そして始祖の血を引いている。そんなあたしに、あなたの血の毒は効かないわよ?」
「血の毒が効かなくても、僕にだって力はある!」
血の鎌を作りだして、ブラッディ・エターナルに切りかかるが、それをブラッディ・ネイが止めた。
「やめてよ!あの子は、ボクの寵姫で血族なんだ!
「ブラッディ・ネイ。君の頼みでも、僕の浮竹を傷つけようとする存在は許さないよ」
「ブラッディ・エターナル!いい子だから、やめるんだ!」
「愛しているわ、ブラッディ・ネイ」
ブラッディ・エターナルは、ブラッディ・ネイのオリジナルの薔薇の魔法を使った。
薔薇は浮竹と京楽に絡みつき、血をすする。
「フレイムロンド!」
浮竹は、炎の魔法で血を吸う薔薇をもやしていく。
一方、京楽の血を吸った薔薇は、猛毒である京楽の血のせいで枯れていった。
「薔薇の魔法でもだめ・・・じゃあ、これはどう?」
ブラッディ・エターナルは、自ら血液となって、浮竹の体に侵入した。
「浮竹!」
「ごふっ!」
体中を滅茶苦茶に暴れるブラッディ・エターナルのせいで、浮竹は真っ赤な血を吐いた。
「俺の体から出ていけ!」
浮竹が魔力をこめると、ブラッディ・エターナルは外にはじき出されていた。
「ちっ。始祖が・・・・・」
「ブラッディ・エターナル。今ならまだ間に合う、やめるんだ!」
「ブラッディ・ネイの言葉でも、それは聞けないわ」
「ボクはキミを愛してるんだ!」
涙を流す実の妹に、浮竹がブラッディ・エターナルにとどめを刺すのを躊躇する。
その瞬間を狙って、ブラッディ・エターナルは自身を刃に変えて、浮竹の心臓を突き刺した。
「浮竹!」
「ぐ・・・・・」
ゆらりと、浮竹の体が傾ぐ。
それを受け止めて、京楽は青い顔をしていた。
心臓が、破裂していた。
ドクドクと流れ出る血が止まらない。
「浮竹!」
けれど、浮竹は神の愛の呪いで不老不死だ。
流れ出た血は逆流し、まるで時間が遡っていくように、心臓の怪我は治ったしまった。
「どうして死なない!心臓を、コアを貫いたはず!」
「言っているだろう、俺は始祖ヴァンパイアだと。神の愛の呪いで、不老不死だ」
ゆっくりと、ブラッディ・エターナルを追い詰めていく。
「お前から、俺と京楽の記憶を奪う。ブラッディ・ネイがあれほど愛しているんだ。殺すことはしないでおいてやる。来い、炎の精霊フェニックス!」
浮竹は、フェニックスを召還していた。
「ああああ・・・」
その絶大な魔力に、ブラッディ・エターナルは戦意を消失していた。
「フェニックスの業火に焼かれ、生まれ変わるといい!」
「いやあああああああああ!!!」
フェニックスは、赤い炎の翼を広げて、ブラッディ・エターナルを灰にした。
その灰から、芽が出てみるみるうちに育ち、花が咲き実がなった。
その身の中には、新しい命を与えられた、ブラッディ・エターナルがいた。
「兄様、ありがとう、兄様!ブラッディ・エターナルを殺さないでくれて」
ボロボロ涙を零し、礼をいう実の妹の頭を、浮竹は撫でた。
「ブラッディ・エターナルから俺と京楽の記憶を消した。もう、ブラッディ・エターナルに俺たちのことを言うな。お前の兄様愛してるって言葉は、死んだ俺に向けてということにしておいた。だから、いつもの台詞は言っても大丈夫だ」
「ありがとう、兄様!兄様、愛してる!」
わんわんと泣きながら、実の兄に縋りつくブラッディ・ネイに、京楽は二人を引きはがしたかったが、我慢した。
「ん・・・ブラッディ・ネイ?あたしはどうしたの。いやだ、あたし裸じゃない!」
「これでも着て」
京楽は、アイテムポケットにしまってあった、バスローブをブラッディ・エターナルに渡した。
「誰か知りませんが、ありがとう。あら、そっちのあなた、あたしに似てるのね。不思議ね。他人の空似ってやつね」
浮竹は、鼻水を垂らす美しい顔の妹を押しやった。
「ああ、ただ偶然似ているだけだ」
「ブラッディ・エターナル。血の帝国に帰るよ」
「あ、待ってブラッディ・ネイ!ちょっと、何をそんなに怒っているの!」
「ブラッディ・エターナルのせいなんだからね!兄様に頭撫でられた・・・・」
「兄様?やだ、ブラッディ・ネイってば夢でも見たのね。あなたの兄は、300年前に死んでいるのだから」
そんな二人のやり取りを聞きながら、浮竹も京楽も安堵する。
「破壊と再生を司るフェニックスを使うなんて、考えたね」
「一応、俺とお前の血を、引いているんだろう。殺したくはない」
「そうだね。たとえ生まれ落ちるはずのなかった命でも、もう生まれ落ちてしまった。ブラッディ・ネイがちゃんと制御してくれるさ」
「一度コアを破壊された。再生するのに魔力をたくさん消耗した。今日は、魔力回復のポーションを飲んで、もう、寝る。疲れた」
ふらりと立ちくらみを起こす浮竹の体を抱き抱えて、京楽は激しい戦闘で荒れ果てた庭をどう修理しようと考えながら、古城の中へ戻っていくのだった。
-------------------------------------------------------------------
「疲れた・・・・・」
浮竹は、魔力回復のポーションをたくさん飲んで、眠った。
「おかしい・・・」
次の日になっても、浮竹の魔力は回復しなかった。
「どうしたの、浮竹」
「京楽。魔力が回復しないんだ。何かに吸われてる気がする」
「まさか、ブラッディ・エターナルのせいで?」
「いや、違う。ブラッディ・ネイのせいでもない・・・フェニックスを出した後から、魔力切れが続いている」
もしかしてと思って、浮竹は炎の精霊イフリートを召還した。
「この魔力の消耗、精霊王を召還したのに似ているんだが、炎の精霊王は精霊界にいるか?」
「いいえ、汝がフェニックスを召還した瞬間に強制召還をさせて、今こちらの世界にきています。召還しっぱなしの状態なので、魔力が回復しないのでしょう」
「炎の精霊王め。何処にいるか分かるか?」
「汝の古城のキッチンで。食べまくってます」
ふんがーーー。
浮竹は切れた。
京楽は、それをはらはらと見ていた。
「おいこら、炎の精霊王」
「おお、我が友ではないか。どうした」
戦闘人形に勝手に調理をさせて、それをできあがるはしから、次々と炎の精霊王が食べていく。
「うむ、こちらの世界の食事は美味だな。ワインもうまい」
「召還してないのに、勝手に出てきて、挙句人んちで勝手に飲み食いするとは、いい度胸だな?」
「我が友よ、少しくらいいいではないか。穏便に、穏便に済ませよう」
「このボケナスが・・・・力が、入らない」
「おっと、我が友の魔力を消耗しすぎたようだ」
「え、浮竹!?」
見ると、浮竹は10歳くらいの姿になっていた。
「魔力切れの弊害か。この姿になるのは、800年ぶりだ」
きらんと、京楽の目が輝いた。
「浮竹、めちゃくちゃかわいい!君の子供時代って、こんなにかわいいの!?」
京楽に抱きしめらて、浮竹は苦しそうにしていた。
「京楽、とりあえず離してくれ、苦しい」
「ああ、ごめん。君があまりにも愛らしいから、つい」
「炎の精霊王。この姿になったってことは、魔力が完全に切れた。お前の存在だけこの世界に存在し続けるのは難しいだろうし、魔力切れの症状が治らなないので、精霊界に戻ってくれ」
「我が友・・・ぷくくく。やけに愛らしい姿だな?たくさん食べて飲めたので、我は満足だ。言葉通り、精霊界に戻るとしよう」
「あ、精霊界には、魔力回復の飲み物が・・・・・!」
「もう去っちゃったよ」
「くそ・・数日、この姿でいないとだめだ」
きらんと、京楽の目が輝いた。
「とりあえず、町にいって、子供服買おうか!」
「京楽?楽しんでいないか?」
「そ、そんなことないよ!」
「あやしい・・・・」
町に繰り出した。
普通に歩けると言っているのに、京楽は浮竹を抱っこして、町までやってきた。
認識阻害の魔法は使えなかった。
とても愛らしい子供の浮竹は、人目を引いた。
「かわいい君に、周囲もメロメロだね」
「どうでもいいから、早く服を買って帰ろう」
居心地が悪そうに、浮竹は京楽に抱っこされながら、自分に降り注ぐ人間の視線を気にしていた。
「あら、かわいい。この子の似合う服ね。これなんかどうかしら」
オカマの店長に進められた服は、ゴスロリの少女用の服だった。
「おい、俺はおと・・・・・」
「それ買った!早速、着替えさせてくるね」
「おい、京楽」
「いいじゃない。女の子になった時も、女の子の服平気で着てたでしょ?その延長戦上と思えばいいよ」
赤いゴスロリの少女服を着せられて、ヘッドドレスまでつけられた浮竹は、愛らしい10歳の少女にしか見えなかった。
「すごい似合ってる。ああ、このまま君をお持ち帰りしたい」
「あらん、似合ってるんじゃない!こっちはお父さんかしら?」
「いや、恋人だよ」
「そう。10歳の子に、こんな恋人・・・・犯罪じゃないの」
金貨をちらつかせると、オカマの店長は何も言わなくなった。
「毎度あり~」
その店で、他にも数枚ゴスロリの少女服とヘッドドレスを買って、浮竹と京楽は店の外にでた。
「やあああん、かわいい。あなたのお子さんですか?」
何故か、京楽の子に間違われた。
まぁ、年齢的に京楽の子であっても仕方ないので、浮竹は怯えるそぶりをして、浮竹の背後に隠れた。
今の浮竹は魔力がない。自慢の血の魔法も使えなかった。
「京楽、古城に戻っても、戦闘人形はいないぞ。町で、食べて帰ろう」
「ああ。戦闘人形は君の血と魔力で動いているからね」
手近なレストランに入った。
「2名様ですね」
浮竹の前には、お子様ランチがあった。
「一度でいいから、食べてみたかったんだよな」
「お子様ランチを頬張る浮竹・・・・かわいすぎて、鼻血が出そう」
すでに鼻血を出していた。
「京楽、俺がこんな姿になったの、楽しんでるな?」
「そうだよ。120年間一緒にいて、君がこんな姿になるなんて初めて知ったからね」
「魔力切れは怖いんだ。自分の身を守れない」
「大丈夫。僕が君を守るから・・・・」
「京楽・・・・・」
「浮竹・・・・」
いつもの調子で口づけようとして、注がれる人間の視線に気づき、二人とも咳払いをして誤魔化した。
レストランで食事をして、その日は古城に戻った。
ブラッディ・ネイの寵姫にして唯一の血族。
他の疑似血族の寵姫たちのようでない、本当の血族にブラッディ・ネイはブラッディ・エターナルを迎えていた。
喉から手が出る程に欲しい兄の、血を受けつぐ子供。
浮竹と京楽に子はいない。
だが、猫の魔女乱菊から性別転換の秘薬を盛られて、女体化した浮竹は男性のままの京楽と睦み合った。
その時、受精した卵子を、ブラッディ・ネイは呪術で盗みだし、自分の寵姫の腹にいれた。
その寵姫は、僅か3日で臨月を迎え、子を産んだ。
産まれた子は、わずか1週間で12歳にまで成長した。
ブラッディ・エターナルという名を与えられて、ブラッディ・ネイの寵愛を欲しいままにしていた。
でも、ブラッディ・ネイが真に欲しているのは兄である浮竹だ。
そのことが、ブラッディ・エターナルには気に食わなかった。
「ブラッディ・ネイ。あたしがいるのだから、始祖の浮竹のことなんてどうでもいいわよね?」
「そんなことはないよ。ボクは兄様を愛している。その事実だけは、何があっても変えれない」
「始祖、浮竹十四郎・・・・」
ブラッディ・エターナルの心に、どす黒い闇が憑りつく。
「あたしの母親に値するヴァンパイアの始祖・・・・」
母親と言われても、ピンとこなかった。
自分には父も母もいないものだと思っていた。
呪術で、生まれ落ちるはずの命ではないと知った時、ブラッディ・ネイに感謝をするのではなく、憎悪を抱いた。
でも、その憎悪はブラッディ・ネイに愛されることで霧散した。
「始祖の浮竹・・・・ブラッディ・ネイが唯一不遜に愛する存在」
ゆらりと、ブラッディ・エターナルの血が揺らめいた。
始祖の浮竹の子であるのは本当なので、ただの寵姫ではなかった。
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古城の庭にいた。
目の前にいる、ブラッディ・エターナルは浮竹によく似ていた。
浮竹が12歳くらいなら、きっと判別がつかないくらいに。
「あなたが、あたしの母様と父様・・・・・」
「ブラッディ・エターナル。俺はお前の母親じゃない」
「僕も君の父親じゃない。娘をもった気はないよ」
「そう。じゃあ、あたしが始祖の浮竹を殺しても、何も問題はないわよね?」
ブラッディ・エターナルの言葉に、まず京楽が身構えた。
「俺は神の愛の呪いを受けている。お前程度に、殺せたりできない」
「あら、それはやってみないと分からないじゃない」
ブラッディ・エターナルは、血の刃を作りだして、それを浮竹に向かって放った。
「やめるんだ、ブラッディ・エターナル!ボクはキミを愛してる。それだけじゃ、不満なのかい!?」
制止するブラッディ・ネイの言葉に、ブラッディ・エターナルは頷いた。
「ブラッディ・ネイ。あなたはあたしに愛を囁くけれど、本当はこの始祖に囁きたいのでしょう?始祖の身代わりだなんて、ごめんだわ。始祖を殺して、あたしがあなたの一番になるの」
「ブラッディ・エターナル!」
「悪いけど、浮竹を害そうとするなら容赦はしないよ」
猛毒でもある京楽の血の刃を、全てブラッディ・エターナルが相殺した。
「あたしはブラッディ・ネイの本物の血族。そして始祖の血を引いている。そんなあたしに、あなたの血の毒は効かないわよ?」
「血の毒が効かなくても、僕にだって力はある!」
血の鎌を作りだして、ブラッディ・エターナルに切りかかるが、それをブラッディ・ネイが止めた。
「やめてよ!あの子は、ボクの寵姫で血族なんだ!
「ブラッディ・ネイ。君の頼みでも、僕の浮竹を傷つけようとする存在は許さないよ」
「ブラッディ・エターナル!いい子だから、やめるんだ!」
「愛しているわ、ブラッディ・ネイ」
ブラッディ・エターナルは、ブラッディ・ネイのオリジナルの薔薇の魔法を使った。
薔薇は浮竹と京楽に絡みつき、血をすする。
「フレイムロンド!」
浮竹は、炎の魔法で血を吸う薔薇をもやしていく。
一方、京楽の血を吸った薔薇は、猛毒である京楽の血のせいで枯れていった。
「薔薇の魔法でもだめ・・・じゃあ、これはどう?」
ブラッディ・エターナルは、自ら血液となって、浮竹の体に侵入した。
「浮竹!」
「ごふっ!」
体中を滅茶苦茶に暴れるブラッディ・エターナルのせいで、浮竹は真っ赤な血を吐いた。
「俺の体から出ていけ!」
浮竹が魔力をこめると、ブラッディ・エターナルは外にはじき出されていた。
「ちっ。始祖が・・・・・」
「ブラッディ・エターナル。今ならまだ間に合う、やめるんだ!」
「ブラッディ・ネイの言葉でも、それは聞けないわ」
「ボクはキミを愛してるんだ!」
涙を流す実の妹に、浮竹がブラッディ・エターナルにとどめを刺すのを躊躇する。
その瞬間を狙って、ブラッディ・エターナルは自身を刃に変えて、浮竹の心臓を突き刺した。
「浮竹!」
「ぐ・・・・・」
ゆらりと、浮竹の体が傾ぐ。
それを受け止めて、京楽は青い顔をしていた。
心臓が、破裂していた。
ドクドクと流れ出る血が止まらない。
「浮竹!」
けれど、浮竹は神の愛の呪いで不老不死だ。
流れ出た血は逆流し、まるで時間が遡っていくように、心臓の怪我は治ったしまった。
「どうして死なない!心臓を、コアを貫いたはず!」
「言っているだろう、俺は始祖ヴァンパイアだと。神の愛の呪いで、不老不死だ」
ゆっくりと、ブラッディ・エターナルを追い詰めていく。
「お前から、俺と京楽の記憶を奪う。ブラッディ・ネイがあれほど愛しているんだ。殺すことはしないでおいてやる。来い、炎の精霊フェニックス!」
浮竹は、フェニックスを召還していた。
「ああああ・・・」
その絶大な魔力に、ブラッディ・エターナルは戦意を消失していた。
「フェニックスの業火に焼かれ、生まれ変わるといい!」
「いやあああああああああ!!!」
フェニックスは、赤い炎の翼を広げて、ブラッディ・エターナルを灰にした。
その灰から、芽が出てみるみるうちに育ち、花が咲き実がなった。
その身の中には、新しい命を与えられた、ブラッディ・エターナルがいた。
「兄様、ありがとう、兄様!ブラッディ・エターナルを殺さないでくれて」
ボロボロ涙を零し、礼をいう実の妹の頭を、浮竹は撫でた。
「ブラッディ・エターナルから俺と京楽の記憶を消した。もう、ブラッディ・エターナルに俺たちのことを言うな。お前の兄様愛してるって言葉は、死んだ俺に向けてということにしておいた。だから、いつもの台詞は言っても大丈夫だ」
「ありがとう、兄様!兄様、愛してる!」
わんわんと泣きながら、実の兄に縋りつくブラッディ・ネイに、京楽は二人を引きはがしたかったが、我慢した。
「ん・・・ブラッディ・ネイ?あたしはどうしたの。いやだ、あたし裸じゃない!」
「これでも着て」
京楽は、アイテムポケットにしまってあった、バスローブをブラッディ・エターナルに渡した。
「誰か知りませんが、ありがとう。あら、そっちのあなた、あたしに似てるのね。不思議ね。他人の空似ってやつね」
浮竹は、鼻水を垂らす美しい顔の妹を押しやった。
「ああ、ただ偶然似ているだけだ」
「ブラッディ・エターナル。血の帝国に帰るよ」
「あ、待ってブラッディ・ネイ!ちょっと、何をそんなに怒っているの!」
「ブラッディ・エターナルのせいなんだからね!兄様に頭撫でられた・・・・」
「兄様?やだ、ブラッディ・ネイってば夢でも見たのね。あなたの兄は、300年前に死んでいるのだから」
そんな二人のやり取りを聞きながら、浮竹も京楽も安堵する。
「破壊と再生を司るフェニックスを使うなんて、考えたね」
「一応、俺とお前の血を、引いているんだろう。殺したくはない」
「そうだね。たとえ生まれ落ちるはずのなかった命でも、もう生まれ落ちてしまった。ブラッディ・ネイがちゃんと制御してくれるさ」
「一度コアを破壊された。再生するのに魔力をたくさん消耗した。今日は、魔力回復のポーションを飲んで、もう、寝る。疲れた」
ふらりと立ちくらみを起こす浮竹の体を抱き抱えて、京楽は激しい戦闘で荒れ果てた庭をどう修理しようと考えながら、古城の中へ戻っていくのだった。
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「疲れた・・・・・」
浮竹は、魔力回復のポーションをたくさん飲んで、眠った。
「おかしい・・・」
次の日になっても、浮竹の魔力は回復しなかった。
「どうしたの、浮竹」
「京楽。魔力が回復しないんだ。何かに吸われてる気がする」
「まさか、ブラッディ・エターナルのせいで?」
「いや、違う。ブラッディ・ネイのせいでもない・・・フェニックスを出した後から、魔力切れが続いている」
もしかしてと思って、浮竹は炎の精霊イフリートを召還した。
「この魔力の消耗、精霊王を召還したのに似ているんだが、炎の精霊王は精霊界にいるか?」
「いいえ、汝がフェニックスを召還した瞬間に強制召還をさせて、今こちらの世界にきています。召還しっぱなしの状態なので、魔力が回復しないのでしょう」
「炎の精霊王め。何処にいるか分かるか?」
「汝の古城のキッチンで。食べまくってます」
ふんがーーー。
浮竹は切れた。
京楽は、それをはらはらと見ていた。
「おいこら、炎の精霊王」
「おお、我が友ではないか。どうした」
戦闘人形に勝手に調理をさせて、それをできあがるはしから、次々と炎の精霊王が食べていく。
「うむ、こちらの世界の食事は美味だな。ワインもうまい」
「召還してないのに、勝手に出てきて、挙句人んちで勝手に飲み食いするとは、いい度胸だな?」
「我が友よ、少しくらいいいではないか。穏便に、穏便に済ませよう」
「このボケナスが・・・・力が、入らない」
「おっと、我が友の魔力を消耗しすぎたようだ」
「え、浮竹!?」
見ると、浮竹は10歳くらいの姿になっていた。
「魔力切れの弊害か。この姿になるのは、800年ぶりだ」
きらんと、京楽の目が輝いた。
「浮竹、めちゃくちゃかわいい!君の子供時代って、こんなにかわいいの!?」
京楽に抱きしめらて、浮竹は苦しそうにしていた。
「京楽、とりあえず離してくれ、苦しい」
「ああ、ごめん。君があまりにも愛らしいから、つい」
「炎の精霊王。この姿になったってことは、魔力が完全に切れた。お前の存在だけこの世界に存在し続けるのは難しいだろうし、魔力切れの症状が治らなないので、精霊界に戻ってくれ」
「我が友・・・ぷくくく。やけに愛らしい姿だな?たくさん食べて飲めたので、我は満足だ。言葉通り、精霊界に戻るとしよう」
「あ、精霊界には、魔力回復の飲み物が・・・・・!」
「もう去っちゃったよ」
「くそ・・数日、この姿でいないとだめだ」
きらんと、京楽の目が輝いた。
「とりあえず、町にいって、子供服買おうか!」
「京楽?楽しんでいないか?」
「そ、そんなことないよ!」
「あやしい・・・・」
町に繰り出した。
普通に歩けると言っているのに、京楽は浮竹を抱っこして、町までやってきた。
認識阻害の魔法は使えなかった。
とても愛らしい子供の浮竹は、人目を引いた。
「かわいい君に、周囲もメロメロだね」
「どうでもいいから、早く服を買って帰ろう」
居心地が悪そうに、浮竹は京楽に抱っこされながら、自分に降り注ぐ人間の視線を気にしていた。
「あら、かわいい。この子の似合う服ね。これなんかどうかしら」
オカマの店長に進められた服は、ゴスロリの少女用の服だった。
「おい、俺はおと・・・・・」
「それ買った!早速、着替えさせてくるね」
「おい、京楽」
「いいじゃない。女の子になった時も、女の子の服平気で着てたでしょ?その延長戦上と思えばいいよ」
赤いゴスロリの少女服を着せられて、ヘッドドレスまでつけられた浮竹は、愛らしい10歳の少女にしか見えなかった。
「すごい似合ってる。ああ、このまま君をお持ち帰りしたい」
「あらん、似合ってるんじゃない!こっちはお父さんかしら?」
「いや、恋人だよ」
「そう。10歳の子に、こんな恋人・・・・犯罪じゃないの」
金貨をちらつかせると、オカマの店長は何も言わなくなった。
「毎度あり~」
その店で、他にも数枚ゴスロリの少女服とヘッドドレスを買って、浮竹と京楽は店の外にでた。
「やあああん、かわいい。あなたのお子さんですか?」
何故か、京楽の子に間違われた。
まぁ、年齢的に京楽の子であっても仕方ないので、浮竹は怯えるそぶりをして、浮竹の背後に隠れた。
今の浮竹は魔力がない。自慢の血の魔法も使えなかった。
「京楽、古城に戻っても、戦闘人形はいないぞ。町で、食べて帰ろう」
「ああ。戦闘人形は君の血と魔力で動いているからね」
手近なレストランに入った。
「2名様ですね」
浮竹の前には、お子様ランチがあった。
「一度でいいから、食べてみたかったんだよな」
「お子様ランチを頬張る浮竹・・・・かわいすぎて、鼻血が出そう」
すでに鼻血を出していた。
「京楽、俺がこんな姿になったの、楽しんでるな?」
「そうだよ。120年間一緒にいて、君がこんな姿になるなんて初めて知ったからね」
「魔力切れは怖いんだ。自分の身を守れない」
「大丈夫。僕が君を守るから・・・・」
「京楽・・・・・」
「浮竹・・・・」
いつもの調子で口づけようとして、注がれる人間の視線に気づき、二人とも咳払いをして誤魔化した。
レストランで食事をして、その日は古城に戻った。
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