始祖なる者、ヴァンパイアマスター28
血の帝国では、薔薇祭りが開催されていた。
至る所に薔薇が飾られてあり、薔薇を砂糖漬けにしたお菓子や、薔薇のエキス入れたワインなどが無料で振る舞われた。
わあああああ。
民衆は、声をあげて女帝ブラッディ・ネイを褒め称える。
馬車に乗りながら、ブラッディ・ネイはそんな民衆に手を振っていた。隣には、寵姫であるブラッディ・エターナルとロゼ、メフィストフェレスの姿もあった。
ブラッディ・エターナルは一度死に、ブラッディ・ネイの血族ではなくなっていた。
浮竹が、破壊と再生を司る炎の最高位精霊、フェニックスを召還して、再び命を吹き込んだ。
今は、他の寵姫たちと同じ疑似血族となり、ブラッディ・ネイはブラッディ・エターナルだけに固執せず、後宮の寵姫たちを平等に愛した。
お気に入りはいるが、寵姫から追放される者はいなかった。
そんなパレードを、浮竹と京楽は、屋台から薔薇のお菓子を買って食べながら、見ていた。
「人気あるねぇ、ブラッディ・ネイ」
「仮にも、この国の女帝だからな。この薔薇の砂糖漬けうまいな。もっとくれ」
始祖である浮竹も、血の帝国の建国に携わっていたが、こうやって遠くから実の妹を見守っていた。
「薔薇水が売ってるよ」
「なんだと、けしからん。買ってしまおう」
浮竹は、喉が渇いていたので薔薇水を買って飲んだ。
ほのかな甘みが、最高だった。
「薔薇祭りはいいな。東洋のお祭りもいいが、こちらのお祭りもまた違う味わいがある」
浮竹は、そう言って京楽の分の薔薇水まで飲んでしまった。
「あ、僕の分が・・・」
「また買えばいいだろう。店の主人、薔薇水を10個くれ」
「そんなに飲めないよ!?」
「アイテムポケットに入れておくに決まってるだろう!」
そんなやりとりを繰り広げていると、パレードの馬車から降りてきたルキアと会った。
「浮竹殿、京楽殿!パレードに参加しないと思ったら、こんなところで何をされているのですか!」
「いや、ただの見物」
「右に同じく」
「始祖であられる、浮竹殿を披露できないなんて・・・」
「ああ、俺は始祖であることをあまり公にしてないからな。パレードなんかで見せ物になるのはご免だ」
浮竹は、肩を竦めた。
「僕の浮竹を欲しがる人が増えちゃう」
「浮竹殿を披露しようという、兄様との計画が・・・・・」
「白哉まで、そんなことしようとしていたのか?」
浮竹は、白哉が皇族王としてパレードで通り過ぎるのを見ていた。
「だって、浮竹殿は全てのヴァンパイアの源。血の帝国の父ですよ!?」
「母はブラッディ・ネイなんだろ。あいつと同じ位置にいるのは嫌だ」
「浮竹殿・・・・」
浮竹は、ルキアの頭を撫でた。
「気持ちだけ、ありがたくいただいておく」
「浮竹殿?」
「京楽と一緒に、もう少しパレードを見て、屋台めぐりしてくる」
遠くから、ルキアの守護騎士である一護と冬獅郎が、駆けつけてくるのが分かった。
「ルキア、何突然パレードの馬車から飛び降りてんだよ!心配するだろうが」
「とんだじゃじゃ馬姫だぜ」
「すまぬ、一護、冬獅郎」
ルキアは、去っていってしまった浮竹と京楽を、いつまでも見ているのだった。
-------------------------------------------------
「エスタニシア」
「はい」
「分かっているね?」
「はい」
氷結の魔女エスタニシアは、始祖魔族と呼ばれる藍染の言葉に、ただ頷くのであった。
「封印は、この世界の者には解けない。精霊王にもだ。異界の者でもない限り・・・・・」
計画は完璧だと、藍染は笑う。
あの、異界の精霊ドラゴン平子真子でも召還しないと、封印は解けないだろう。
浮竹と京楽には、異界の存在である東洋の浮竹と京楽の存在があるのを、藍染は知らなかった。
--------------------------------------------------
「ふむ、このチョコバナナうまいな」
屋台で買い込んだチョコバナナを頬張りながら、浮竹はパレードが過ぎ去るのを見ていた。
「東洋の祭りみたいに、金魚すくいはないんだな」
「おたまじゃくしすくいならあるよ」
「おたまじゃくし・・・カエルになるんだろう。かわいくないからいらない」
「ひよこ釣りもあるよ」
「にわとりの世話なんてしたくない。却下だ。他にないのか?」
「もう、浮竹は文句ばっかり・・・・」
屋台はずらーっと並んでいて、たくさんのヴァンパイアで賑わっていた。
「射的なんかどう?」
「むう、ヴァンパイアハンターを思い出すな」
そう言いながらも、銀貨を2枚払って、おもちゃの銃を受け取る。
「てい」
適当に射撃したのだが、等身大ブラディ・ネイの抱き枕交換の券が入った、小さな小瓶に当たった。
「やりますねぇ。ブラッディ・ネイ様の等身大抱き枕ですよ!」
「いらん!!」
「ええ!」
「隣のやつと交換してくれ」
「え、この等身大朽木白哉様抱き枕ですか?」
「そっちの方がいい」
「仕方ありませんね~。力あるヴァンパイアロードとお見受けします。特別ですよ?」
店の主人は、そう言って等身大白哉の抱き枕をくれた。
ヴァンパイアロードでなく、世界で一人しかいない、ヴァンパイアマスターなのだが。
浮竹は、渡されたそれをアイテムポケットにしまいこむ。
「そんなのもらって、どうするのさ」
「恋次君にやる」
「確かに、恋次クンなら欲しがりそうだね」
その頃、パレードを終えて、城に帰還した白哉と守護騎士の恋次が、くしゃみをしていたのだった。
「あとは投げ輪とかあるけど」
「それもやる。む、銀貨が尽きた」
財布を見ると、金貨と大金貨しかなかった。
「金貨で支払ってもいいか?」
「お釣りが足りませんよ!」
「じゃあ、釣りはなしでいい」
そう言って、投げ輪を受け取ると、的に向かって投げた。
猫のぬいぐるみが当たって、浮竹は喜んだ。
「ちょっと、お釣りは!?」
「いらん。もらっておけ」
「でも、こんな大金!」
金貨5枚あれば、1カ月を4人暮らしで食べていける額だ。
「まぁまぁ、僕らは皇族なんだ。何も言わず、受け取っておいて?」
「こ、皇族の方でしたか!無礼を、お許しください!」
「おい、京楽、誰が皇族だ」
「え、だって君、ブラッディ・ネイの実の兄ってことは皇族じゃない」
「確かにそうだが・・・・・」
浮竹は、納得がいかなさそうだった。
------------------------------------------------------------------------
薔薇の祭りも、佳境に入ってきた。
空を飛ぶヴァンパイアたちが、薔薇の花や花びらを地面に降らせてきた。
「いいな、あれ。俺もやりたい」
「ちょっと、浮竹!」
浮竹はアイテムポケットから青い薔薇を取り出すと、風の魔法に乗せてその花びらを町中に降らせていった。
「青い薔薇の花びらだ!」
「素敵!」
「青い薔薇って、煎じて飲むと魔力があがるんだろう?」
「金運がアップすると聞いたぞ」
ヴァンパイアの住人たちは、青い薔薇の花びらを拾いはじめた。
「これも、くれてやる」
ブラッディ・ネイにあげようか迷っていた、青い薔薇を使った花冠をばらばらにして、自分の国でもある血の国の民に最後まで分け与えた。
「ふう、もうさすがに青い薔薇はない」
「綺麗だったよ、浮竹。青い薔薇が降り注ぐ中で、凛として立つ君が素敵だった」
浮竹は、赤くなって、京楽に薔薇水を持たせた。
「それでも、飲んでろ」
「うん」
京楽は、甘い薔薇水を口に含むと、口移しで浮竹に与えた。
「んっ」
ほんのり甘い薔薇の蜜の味がした。
「このバカ!」
京楽の頭を殴った。
不意に、肌寒い風を感じて、浮竹も京楽も、顔をあげる。
「この気配・・・・魔女だね」
「乱菊君か?」
「違う。もっと禍々しい・・・・」
首にかけていた水晶のペンダントが、眩しく光った後、濁った。
「敵だ!気を付けろ!」
「こんな町中じゃ危険だよ!空を飛んで、町の外にまで向かおう!」
二人は、ヴァンパイアの赤い翼を広げて、町を出て草原地帯までやってきた。
--------------------------------------------------------------------
「姿を現せ、魔女め!」
じわりと、空気が凍てついた。
身にまとっている魔力が、桁外れだった。
京楽と同じくらいの魔力をまとった、魔女だった。
「私は氷結の魔女エスタニシア」
「氷結の?道理で、寒いわけだ」
「氷かい。残念だけど、浮竹は炎の魔法が得意だよ」
「私の吐息は、全てを凍てつかす」
ごおおおお。
氷のブレスを吐く魔女に、浮竹は炎の魔法を放った。
「フレイムロンド!」
「その程度の炎、恐るるに足りないわ」
「浮竹にそれ以上近づかないでもらおうか」
京楽は、猛毒の血を刃にして、エスタニシアに切りかかった。
けれど、その血は凍って、エスタニシアに届くことはなかった。
「京楽、気をつけろ!この魔女、お前くらいの魔力がある!」
「たった一体の魔女が、こんな魔力を有するなんて!」
「それはそうよ。私は、藍染様のお力で、魔女の里にいた魔女全てから魔力を吸い取った存在なのですもの」
「また藍染か!いい加減にしてほしいな!」
浮竹は、藍染の名が出て眉を顰めた。
「自分の操り人形ばかり作り、自分からしかけてこない。魔族の始祖、藍染も落ちたものだ」
「あの方を侮辱しないで!」
エスタニシアは、腹を撫でた。
「このお腹の中には、あの方の子がいるの」
「うげぇ」
「うわぁ、やだなぁ」
「あの方の子のためにも、封印されておしまい、始祖のヴァンパイア!!」
それは、神の愛の呪いを止めるもの。
「アイシクルエターナルワールド、アイシクルエターナルフィールド!」
禁呪を2つ受けて、浮竹の動きが止まった。
「いけない、浮竹!」
京楽は、凍り付きはじめる浮竹を何とか助け出すと、浮竹の代わりに封印呪文の中心にいた。
「京楽!」
「ちっ、浮竹ではないけれど、あなたでもいいわ!あなたが封印されれば、この始祖は休眠に入る!」
「京楽、京楽ーーーーー!!!」
京楽は、2つの禁呪の封印魔法を受けて、その場に凍結されて封印された。
「よくやったね、エスタニシア」
闇の中から、藍染が滲み出た。
「藍染様・・・・・」
「君の役目は、もう終わりだよ」
「藍染様?」
エスタニシアは、藍染に力の全てを奪われ、その場に倒れた。
「京楽・・・・」
浮竹は、血を暴走させた。
血の海がいくつもの刃となって藍染に襲いかかる。
それを、エスタニシアから奪い取った力で、藍染は凍結させた。
「さぁ、君も凍ってしまえ。この京楽のように。異界の力でもないと、この封印は解けないよ」
「藍染!!」
真紅の瞳で、浮竹は血を暴走させて、凍っても凍っても途切れることのない、血の刃を向けた。
「おっと、君の手にかかって死にたくはないのでね。私はこの辺りで去らしてもらうよ」
藍染は、闇に溶け込んでいった。
「藍染ーーーー!!!」
----------------------------------------------------------------
ブラッディ・ネイと白哉、恋次、ルキア、一護、冬獅郎が見たのは、平原で凍り付き封印された京楽に寄り添い、休眠に入りかけている浮竹の姿だった。
「何があったのですか、浮竹殿!」
「ルキア君・・・・俺は、京楽のいない世界に、居たくない・・・・」
「この程度の封印など、私の聖女の力で!」
キィィィン。
京楽の封印は、ルキアの力を拒んだ。
「な、私の手でも封印が解けない!?」
「これは・・・・この世界の者だと、解けない絶対封印だね。精霊界の存在でも、だめだろう」
ブラッディ・ネイは、全てを悟り、休眠しようとしている浮竹の頬を叩いた。
「しっかりしてよ、兄様!異界の者を召還すればいいじゃない!」
その言葉に、浮竹がはっとなって、目を見開いた。
「異界の存在・・・・東洋の、俺と京楽!」
想いが通じたのか、その場に東洋の浮竹と京楽が召還されていた。
(え、なんだ?)
(何がどうなってるの?)
いきなり異界に召還された二人は、お茶の途中だったのか、ミルフィーユケーキを食べている最中だった。
「東洋の俺と京楽!俺に、力を貸してくれ!」
皆は、東洋の浮竹と京楽に驚いていたが、ブラッディ・ネイや一護は知っているので、殊更騒ぎたてる者はいなかった。
(なんだか分からないけど、西洋の僕のピンチみたいだね)
(力を貸すぞ、もう一人の俺!)
もっきゅもっきゅと、頬の中のケーキを噛んで飲みこんで、東洋の浮竹は泣いている西洋の浮竹の頭を撫でながら、説明を受けた。
(俺と春水の力で、この封印が解けるんだな?)
「ああ。俺の体に触れていてくれ」
西洋の浮竹に、力を注ぎ込むイメージで、東洋の浮竹と京楽は西洋の浮竹の背に触れた。
「異界の力よ、宿りてその封印を打ち消したまえ!ゴッドトライアングルキュア!」
3人分の、異界の力の混ざったその魔力は、じわじわと凍り付いていた西洋の京楽の氷を溶かし始めた。
(ああ、もうここにはいられない)
(俺もだ。ごっそり力をもっていかれた)
異界の、東洋の浮竹と京楽は、西洋の浮竹が涙をぬぐいさり、微笑んでいるのに安心しながら、元の世界に戻っていった。
「あれ、僕は、封印されたはずじゃ・・・・・・・」
「京楽!」
浮竹は、泣きながら自分の愛しい伴侶を抱きしめた。
「東洋の、俺たちに力をかしてもらったんだ」
「なんだか、意識の狭間で絶対封印って聞いたんだ。この世界の者じゃ、封印は解けないって。異界の、僕らが、力をかしてくれたんだね」
「ああ。よかった、京楽、京楽」
ややこしいので、その場にいた全員の、異界の浮竹と京楽が助けてくれたという記憶を消し去った。
ただ、ブラッディ・ネイと、一護はその存在に触れたことがあるので、記憶は消さなかった。
「よかったね、兄様」
「ああ。ブラッディ・ネイ。俺を叩いて目を覚まさせてくれてありがとう。お前の言葉がなかったら、俺はこのまま休眠に入っていた」
「藍染は、今頃悔しがっているだろうね」
「あいつ、絶対許せない」
「どうして!藍染様!」
その場に残っていた、エスタニシアは藍染に奪われた力を取り戻していた。
「あなたたちがいなければ!」
エスタニシアは、氷の刃を浮竹に向けた。
「ぐふっ!」
いつの間にか、全身に薔薇を咲かせて、エスタニシアは息絶えていた。
「ボクの兄様を悲しませた罰だよ」
「ブラッディ・ネイ・・・・今回は」
「おっと、その続きは無しだよ、兄様。ボクは兄様の幸せを祈っているんだから。もちろん、愛してるよ、兄様!」
抱きついてくる妹を押しやって、浮竹は京楽と共にエスタニシアを炎の魔法で灰にした。
反魂でもされたら厄介だった。
灰は、ブラッディ・ネイの薔薇の魔法で肥料として消えていった。
至る所に薔薇が飾られてあり、薔薇を砂糖漬けにしたお菓子や、薔薇のエキス入れたワインなどが無料で振る舞われた。
わあああああ。
民衆は、声をあげて女帝ブラッディ・ネイを褒め称える。
馬車に乗りながら、ブラッディ・ネイはそんな民衆に手を振っていた。隣には、寵姫であるブラッディ・エターナルとロゼ、メフィストフェレスの姿もあった。
ブラッディ・エターナルは一度死に、ブラッディ・ネイの血族ではなくなっていた。
浮竹が、破壊と再生を司る炎の最高位精霊、フェニックスを召還して、再び命を吹き込んだ。
今は、他の寵姫たちと同じ疑似血族となり、ブラッディ・ネイはブラッディ・エターナルだけに固執せず、後宮の寵姫たちを平等に愛した。
お気に入りはいるが、寵姫から追放される者はいなかった。
そんなパレードを、浮竹と京楽は、屋台から薔薇のお菓子を買って食べながら、見ていた。
「人気あるねぇ、ブラッディ・ネイ」
「仮にも、この国の女帝だからな。この薔薇の砂糖漬けうまいな。もっとくれ」
始祖である浮竹も、血の帝国の建国に携わっていたが、こうやって遠くから実の妹を見守っていた。
「薔薇水が売ってるよ」
「なんだと、けしからん。買ってしまおう」
浮竹は、喉が渇いていたので薔薇水を買って飲んだ。
ほのかな甘みが、最高だった。
「薔薇祭りはいいな。東洋のお祭りもいいが、こちらのお祭りもまた違う味わいがある」
浮竹は、そう言って京楽の分の薔薇水まで飲んでしまった。
「あ、僕の分が・・・」
「また買えばいいだろう。店の主人、薔薇水を10個くれ」
「そんなに飲めないよ!?」
「アイテムポケットに入れておくに決まってるだろう!」
そんなやりとりを繰り広げていると、パレードの馬車から降りてきたルキアと会った。
「浮竹殿、京楽殿!パレードに参加しないと思ったら、こんなところで何をされているのですか!」
「いや、ただの見物」
「右に同じく」
「始祖であられる、浮竹殿を披露できないなんて・・・」
「ああ、俺は始祖であることをあまり公にしてないからな。パレードなんかで見せ物になるのはご免だ」
浮竹は、肩を竦めた。
「僕の浮竹を欲しがる人が増えちゃう」
「浮竹殿を披露しようという、兄様との計画が・・・・・」
「白哉まで、そんなことしようとしていたのか?」
浮竹は、白哉が皇族王としてパレードで通り過ぎるのを見ていた。
「だって、浮竹殿は全てのヴァンパイアの源。血の帝国の父ですよ!?」
「母はブラッディ・ネイなんだろ。あいつと同じ位置にいるのは嫌だ」
「浮竹殿・・・・」
浮竹は、ルキアの頭を撫でた。
「気持ちだけ、ありがたくいただいておく」
「浮竹殿?」
「京楽と一緒に、もう少しパレードを見て、屋台めぐりしてくる」
遠くから、ルキアの守護騎士である一護と冬獅郎が、駆けつけてくるのが分かった。
「ルキア、何突然パレードの馬車から飛び降りてんだよ!心配するだろうが」
「とんだじゃじゃ馬姫だぜ」
「すまぬ、一護、冬獅郎」
ルキアは、去っていってしまった浮竹と京楽を、いつまでも見ているのだった。
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「エスタニシア」
「はい」
「分かっているね?」
「はい」
氷結の魔女エスタニシアは、始祖魔族と呼ばれる藍染の言葉に、ただ頷くのであった。
「封印は、この世界の者には解けない。精霊王にもだ。異界の者でもない限り・・・・・」
計画は完璧だと、藍染は笑う。
あの、異界の精霊ドラゴン平子真子でも召還しないと、封印は解けないだろう。
浮竹と京楽には、異界の存在である東洋の浮竹と京楽の存在があるのを、藍染は知らなかった。
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「ふむ、このチョコバナナうまいな」
屋台で買い込んだチョコバナナを頬張りながら、浮竹はパレードが過ぎ去るのを見ていた。
「東洋の祭りみたいに、金魚すくいはないんだな」
「おたまじゃくしすくいならあるよ」
「おたまじゃくし・・・カエルになるんだろう。かわいくないからいらない」
「ひよこ釣りもあるよ」
「にわとりの世話なんてしたくない。却下だ。他にないのか?」
「もう、浮竹は文句ばっかり・・・・」
屋台はずらーっと並んでいて、たくさんのヴァンパイアで賑わっていた。
「射的なんかどう?」
「むう、ヴァンパイアハンターを思い出すな」
そう言いながらも、銀貨を2枚払って、おもちゃの銃を受け取る。
「てい」
適当に射撃したのだが、等身大ブラディ・ネイの抱き枕交換の券が入った、小さな小瓶に当たった。
「やりますねぇ。ブラッディ・ネイ様の等身大抱き枕ですよ!」
「いらん!!」
「ええ!」
「隣のやつと交換してくれ」
「え、この等身大朽木白哉様抱き枕ですか?」
「そっちの方がいい」
「仕方ありませんね~。力あるヴァンパイアロードとお見受けします。特別ですよ?」
店の主人は、そう言って等身大白哉の抱き枕をくれた。
ヴァンパイアロードでなく、世界で一人しかいない、ヴァンパイアマスターなのだが。
浮竹は、渡されたそれをアイテムポケットにしまいこむ。
「そんなのもらって、どうするのさ」
「恋次君にやる」
「確かに、恋次クンなら欲しがりそうだね」
その頃、パレードを終えて、城に帰還した白哉と守護騎士の恋次が、くしゃみをしていたのだった。
「あとは投げ輪とかあるけど」
「それもやる。む、銀貨が尽きた」
財布を見ると、金貨と大金貨しかなかった。
「金貨で支払ってもいいか?」
「お釣りが足りませんよ!」
「じゃあ、釣りはなしでいい」
そう言って、投げ輪を受け取ると、的に向かって投げた。
猫のぬいぐるみが当たって、浮竹は喜んだ。
「ちょっと、お釣りは!?」
「いらん。もらっておけ」
「でも、こんな大金!」
金貨5枚あれば、1カ月を4人暮らしで食べていける額だ。
「まぁまぁ、僕らは皇族なんだ。何も言わず、受け取っておいて?」
「こ、皇族の方でしたか!無礼を、お許しください!」
「おい、京楽、誰が皇族だ」
「え、だって君、ブラッディ・ネイの実の兄ってことは皇族じゃない」
「確かにそうだが・・・・・」
浮竹は、納得がいかなさそうだった。
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薔薇の祭りも、佳境に入ってきた。
空を飛ぶヴァンパイアたちが、薔薇の花や花びらを地面に降らせてきた。
「いいな、あれ。俺もやりたい」
「ちょっと、浮竹!」
浮竹はアイテムポケットから青い薔薇を取り出すと、風の魔法に乗せてその花びらを町中に降らせていった。
「青い薔薇の花びらだ!」
「素敵!」
「青い薔薇って、煎じて飲むと魔力があがるんだろう?」
「金運がアップすると聞いたぞ」
ヴァンパイアの住人たちは、青い薔薇の花びらを拾いはじめた。
「これも、くれてやる」
ブラッディ・ネイにあげようか迷っていた、青い薔薇を使った花冠をばらばらにして、自分の国でもある血の国の民に最後まで分け与えた。
「ふう、もうさすがに青い薔薇はない」
「綺麗だったよ、浮竹。青い薔薇が降り注ぐ中で、凛として立つ君が素敵だった」
浮竹は、赤くなって、京楽に薔薇水を持たせた。
「それでも、飲んでろ」
「うん」
京楽は、甘い薔薇水を口に含むと、口移しで浮竹に与えた。
「んっ」
ほんのり甘い薔薇の蜜の味がした。
「このバカ!」
京楽の頭を殴った。
不意に、肌寒い風を感じて、浮竹も京楽も、顔をあげる。
「この気配・・・・魔女だね」
「乱菊君か?」
「違う。もっと禍々しい・・・・」
首にかけていた水晶のペンダントが、眩しく光った後、濁った。
「敵だ!気を付けろ!」
「こんな町中じゃ危険だよ!空を飛んで、町の外にまで向かおう!」
二人は、ヴァンパイアの赤い翼を広げて、町を出て草原地帯までやってきた。
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「姿を現せ、魔女め!」
じわりと、空気が凍てついた。
身にまとっている魔力が、桁外れだった。
京楽と同じくらいの魔力をまとった、魔女だった。
「私は氷結の魔女エスタニシア」
「氷結の?道理で、寒いわけだ」
「氷かい。残念だけど、浮竹は炎の魔法が得意だよ」
「私の吐息は、全てを凍てつかす」
ごおおおお。
氷のブレスを吐く魔女に、浮竹は炎の魔法を放った。
「フレイムロンド!」
「その程度の炎、恐るるに足りないわ」
「浮竹にそれ以上近づかないでもらおうか」
京楽は、猛毒の血を刃にして、エスタニシアに切りかかった。
けれど、その血は凍って、エスタニシアに届くことはなかった。
「京楽、気をつけろ!この魔女、お前くらいの魔力がある!」
「たった一体の魔女が、こんな魔力を有するなんて!」
「それはそうよ。私は、藍染様のお力で、魔女の里にいた魔女全てから魔力を吸い取った存在なのですもの」
「また藍染か!いい加減にしてほしいな!」
浮竹は、藍染の名が出て眉を顰めた。
「自分の操り人形ばかり作り、自分からしかけてこない。魔族の始祖、藍染も落ちたものだ」
「あの方を侮辱しないで!」
エスタニシアは、腹を撫でた。
「このお腹の中には、あの方の子がいるの」
「うげぇ」
「うわぁ、やだなぁ」
「あの方の子のためにも、封印されておしまい、始祖のヴァンパイア!!」
それは、神の愛の呪いを止めるもの。
「アイシクルエターナルワールド、アイシクルエターナルフィールド!」
禁呪を2つ受けて、浮竹の動きが止まった。
「いけない、浮竹!」
京楽は、凍り付きはじめる浮竹を何とか助け出すと、浮竹の代わりに封印呪文の中心にいた。
「京楽!」
「ちっ、浮竹ではないけれど、あなたでもいいわ!あなたが封印されれば、この始祖は休眠に入る!」
「京楽、京楽ーーーーー!!!」
京楽は、2つの禁呪の封印魔法を受けて、その場に凍結されて封印された。
「よくやったね、エスタニシア」
闇の中から、藍染が滲み出た。
「藍染様・・・・・」
「君の役目は、もう終わりだよ」
「藍染様?」
エスタニシアは、藍染に力の全てを奪われ、その場に倒れた。
「京楽・・・・」
浮竹は、血を暴走させた。
血の海がいくつもの刃となって藍染に襲いかかる。
それを、エスタニシアから奪い取った力で、藍染は凍結させた。
「さぁ、君も凍ってしまえ。この京楽のように。異界の力でもないと、この封印は解けないよ」
「藍染!!」
真紅の瞳で、浮竹は血を暴走させて、凍っても凍っても途切れることのない、血の刃を向けた。
「おっと、君の手にかかって死にたくはないのでね。私はこの辺りで去らしてもらうよ」
藍染は、闇に溶け込んでいった。
「藍染ーーーー!!!」
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ブラッディ・ネイと白哉、恋次、ルキア、一護、冬獅郎が見たのは、平原で凍り付き封印された京楽に寄り添い、休眠に入りかけている浮竹の姿だった。
「何があったのですか、浮竹殿!」
「ルキア君・・・・俺は、京楽のいない世界に、居たくない・・・・」
「この程度の封印など、私の聖女の力で!」
キィィィン。
京楽の封印は、ルキアの力を拒んだ。
「な、私の手でも封印が解けない!?」
「これは・・・・この世界の者だと、解けない絶対封印だね。精霊界の存在でも、だめだろう」
ブラッディ・ネイは、全てを悟り、休眠しようとしている浮竹の頬を叩いた。
「しっかりしてよ、兄様!異界の者を召還すればいいじゃない!」
その言葉に、浮竹がはっとなって、目を見開いた。
「異界の存在・・・・東洋の、俺と京楽!」
想いが通じたのか、その場に東洋の浮竹と京楽が召還されていた。
(え、なんだ?)
(何がどうなってるの?)
いきなり異界に召還された二人は、お茶の途中だったのか、ミルフィーユケーキを食べている最中だった。
「東洋の俺と京楽!俺に、力を貸してくれ!」
皆は、東洋の浮竹と京楽に驚いていたが、ブラッディ・ネイや一護は知っているので、殊更騒ぎたてる者はいなかった。
(なんだか分からないけど、西洋の僕のピンチみたいだね)
(力を貸すぞ、もう一人の俺!)
もっきゅもっきゅと、頬の中のケーキを噛んで飲みこんで、東洋の浮竹は泣いている西洋の浮竹の頭を撫でながら、説明を受けた。
(俺と春水の力で、この封印が解けるんだな?)
「ああ。俺の体に触れていてくれ」
西洋の浮竹に、力を注ぎ込むイメージで、東洋の浮竹と京楽は西洋の浮竹の背に触れた。
「異界の力よ、宿りてその封印を打ち消したまえ!ゴッドトライアングルキュア!」
3人分の、異界の力の混ざったその魔力は、じわじわと凍り付いていた西洋の京楽の氷を溶かし始めた。
(ああ、もうここにはいられない)
(俺もだ。ごっそり力をもっていかれた)
異界の、東洋の浮竹と京楽は、西洋の浮竹が涙をぬぐいさり、微笑んでいるのに安心しながら、元の世界に戻っていった。
「あれ、僕は、封印されたはずじゃ・・・・・・・」
「京楽!」
浮竹は、泣きながら自分の愛しい伴侶を抱きしめた。
「東洋の、俺たちに力をかしてもらったんだ」
「なんだか、意識の狭間で絶対封印って聞いたんだ。この世界の者じゃ、封印は解けないって。異界の、僕らが、力をかしてくれたんだね」
「ああ。よかった、京楽、京楽」
ややこしいので、その場にいた全員の、異界の浮竹と京楽が助けてくれたという記憶を消し去った。
ただ、ブラッディ・ネイと、一護はその存在に触れたことがあるので、記憶は消さなかった。
「よかったね、兄様」
「ああ。ブラッディ・ネイ。俺を叩いて目を覚まさせてくれてありがとう。お前の言葉がなかったら、俺はこのまま休眠に入っていた」
「藍染は、今頃悔しがっているだろうね」
「あいつ、絶対許せない」
「どうして!藍染様!」
その場に残っていた、エスタニシアは藍染に奪われた力を取り戻していた。
「あなたたちがいなければ!」
エスタニシアは、氷の刃を浮竹に向けた。
「ぐふっ!」
いつの間にか、全身に薔薇を咲かせて、エスタニシアは息絶えていた。
「ボクの兄様を悲しませた罰だよ」
「ブラッディ・ネイ・・・・今回は」
「おっと、その続きは無しだよ、兄様。ボクは兄様の幸せを祈っているんだから。もちろん、愛してるよ、兄様!」
抱きついてくる妹を押しやって、浮竹は京楽と共にエスタニシアを炎の魔法で灰にした。
反魂でもされたら厄介だった。
灰は、ブラッディ・ネイの薔薇の魔法で肥料として消えていった。
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