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無題

「今日も平和だなぁ」

「そうだねぇ」

魔王浮竹と勇者京楽は、中庭でまったりと午後の紅茶を楽しみながら、新勇者がモヒカンを三つ編みにしている光景を見ていた。

「るるるる~~髪の手入れは丁寧に~~」

新勇者は、何故か魔王城にやってきて、風呂をかりてアデランスで植毛した長いモヒカンの髪を丁寧に洗い、ふっさふさになると中庭で三つ編みにしだした。

「あれ、切ったら泣くかな?」

「泣くでしょ、そりゃ」

「そこの侍女、紅茶のおかわり~」

少年魔法使いが、侍女を呼び止めた。

少年魔法使いや女僧侶、獣人盗賊に青年戦士といった新勇者のパーティーもきていて、浮竹と京楽と同じようにテーブルについて、午後の紅茶を楽しんでいた。

「あー、ここのお菓子おいしいわぁ」

女僧侶は、タッパーを取り出してお菓子をつめこんでいく。

「あ、持ち帰りは禁止だ」

「えー。ちょっとくらいいいじゃない」

「だめなものはだめだ」

浮竹が言うと、女僧侶は仕方ないとタッパーをしまい込む。

「ああ、平和だ」

浮竹は、ぼけーっと空を見上げた。

京楽もついでに空を見上げた。

新勇者のパーティーも空を見上げた。

鷹が一羽、空を飛んでいた。

「るるる~~~~~ぎゃあああああああ」

ぺとっ。

鷹のふんが、新勇者の大切な大切なモヒカンを直撃した。

「う、ウォーターリフレッシュ!!」

水の浄化魔法でモヒカンを綺麗にしながら、新勇者は鷹に向かって人工聖剣エクスカリバーを投げたが、届かずに戻ってきて、新勇者の足に刺さった。

「ぎゃああああああ!!!」

新勇者は、貧乏のスキルを覚えていた。

(貧乏のスキル、とばっちりを覚えました。LVがあがりました。貧乏のスキルがカンストしました。ド貧乏のスキルを習得しました)

ピロリロリン。

そう音がして、新勇者が魔王城の風呂を借りる前に、アデランスのモヒカン三つ編みにする時に借金を背負いこんで、破産して風呂に入ることもできない暮らしになっていたので、あまりのくささに、浮竹は風呂を貸してやった。

1カ月は風呂に入っていなかったらしく、ただモヒカンの三つ編みだけはいつも手入れしていたらしい。

「平和だな」

浮竹は、新勇者の存在などないように、カップの紅茶を飲み干した。

「うおおおおおい、これのどこが平和だ!魔王め、俺のモヒカン三つ編みの輝きに嫉妬して、平和だと現実逃避しているな!?」

「カラミティファイア」

「ぎゃああああああ!!!」

京楽が、新勇者の足元を燃やした。

「モヒカン失うと、君、帰ってこなさそうだから、足にしておいたよ」

「そうか、それはありがとう勇者京楽・・・・じゃねえええ!!!何しれっと俺を攻撃してるんだ!」

「そういう君は、何しれっと敵の魔王城の風呂かりて、さっぱりして、あげくに午後の紅茶に参加しているんだい?」

「魔王は俺が倒す。この城はいわば、未来では俺のもの。だからだ!」

「カラミティウィンドエッジ」

ぱさり。

一房、新勇者のモヒカンが風の魔法で切りとられて、地面におちた。

「うわあああああ!!!俺のモヒカンがああああ!!!鬼、悪魔、魔王!」

「俺は魔王だがな」

風の魔法を放った浮竹が、そう答える。

「本当なら、ラーメンマンみたいになってほしいから、モヒカンの一部を残して魔法で切ってしまおう」

「いやああああああああ!!!」

浮竹と京楽は、にこにこしながら、魔法で鋏を操り、新勇者のモヒカンを辮髪(べんぱつ)にした。

新勇者は、泣きながらそれを三つ編みにした。

「俺の髪があああああ・・・・・でも、まだある。あるだけまだましだ・・・・」

(ド貧乏のスキルがLVマックスになりました。スキル、髪の毛ラーメンマンを獲得しました。ド貧乏のスキルが貧乏神になりました。アルティメットスキル、貧乏の運命を覚えました)

「さっきから、貧乏やらのスキルを覚えているようだが、負のスキルはマイナスにしかならないぞ」

「ええ!貧乏になったら幸福になるって、あの錬金術師言ってたのに!金貨10枚も払ったのに!」

「ねえ、この新勇者って、やっぱりおつむが・・・・・・」

「言ってやるな」

「おつむはくりっくりです!」

新勇者は、覚えたスキルを捨てようとして、捨てれないことに気付いて、浮竹を見た。

「魔王倒せば、リセットできるはずなんだ・・・・・」

人工聖剣エクスカリバーを引き抜き、浮竹に剣を向ける。

「本気か、新勇者」

「ああ、本気だとも!てやぁ!」

浮竹に切りかかる時に、足でバナナの皮を踏んづけて転び、新勇者は転んだ。

その喉元に、京楽が本物の聖剣エクスカリバーを突きつける。

「浮竹に何かしたら、その首が胴から離れるからね」

「ううう・・・うわああああああん」

新勇者は、京楽を押しのけて、パーティーのところにいくと、泣いて援護を頼んだ。

「私たち、今日は非番だから。新勇者一人で対処してね」

「僕らを巻き込まないでくれるか。一応魔王とは、ある程度の友好関係を築けているから、新勇者にはきてほしくないね」

「うわあああん!仲間が俺をいらないって言ったあああ!!!」

「そこまでは言ってないだろ」

浮竹がそう言うと、獣人盗賊がポーションを取り出して、新勇者に飲ませた。

「変なスキルカードを買って、覚えるからにゃん」

獣人盗賊は、猫系だった。

「仕方ないから、ツケで元に戻してあげたにゃん。このポーション高いから、馬車馬のように働けにゃん」

ぐすんぐすんと泣く新勇者を、優しく撫でるように見せかけて、足で頭をぐりぐりした。

「おら、これからお前はあたしの奴隷にゃん。モンスター狩りまくって、借金返済するにゃん」

「うわあああん、奴隷やだーーーー」

新勇者は逃げ出して、浮竹の背後に隠れた。

「やる」

浮竹はそれをつまみ出して、獣人盗賊に引き渡した。

「鬼、悪魔、魔王!」

「だから、俺は魔王だ」

「うわああああああああん」

「うるさいにゃあ。股間のものもぎとると静かになるにゃん?」

ぴたっと、新勇者の泣き声が止まる。

「そ、それだけは勘弁してください」

一度されかけたことがあるのか、冷や汗をいっぱいかきながら、恐怖の表情で獣人盗賊に縋りつく。

「さぁ、今日から2週間は休みなしでモンスター退治して、素材売って金にして、借金返済してもらうにゃん!」

「魔王、後生だ、助けてくれ!」

「やだ」

「そうか、やだか・・・えええええ!!なんで!」

「なんでって、俺は魔王でお前は新勇者。敵同士だからだ」

「俺、実は魔王様を崇拝しているんです」

「カラミティファイア!」

「もぎゃああああああ!!!!」

業火に飲まれて、嘘つきの新勇者は、服まで黒焦げになるのだが、ラーメンマンの髪だけは無事で、フルチンで魔王城を走りまくるという奇行に走り出して、浮竹に迷惑をかけまくるのであった。

「ちょっと、新勇者、せめて股間に葉っぱだけでもつけなさい!」

京楽が、フルチンで走り回る新勇者を捕獲して、股間に葉っぱをつけた。

その姿のまま町を徘徊して、新勇者は露出狂だという噂がたつのであった。




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