桜のあやかしと共に35
「恨めしや。我を封印したあの男が憎い。我は復活をはたした。あの男を、今度こそ食い殺してくれる」
それは、飛頭蛮(ひとうばん)であった。
今から150年以上も前に、来栖春(くるすはる)、通称「春」に封印された人食いをしたあやかしであった。
150年が経ったことにも気づかず、また「春」がもうこの世にいないことも理解していなかった。
人間はただのえさ。
飛頭蛮は幼稚な頭で、考える。
どうすれば「春」を食い殺せて復讐できるのか。どうすれば「春」を悔しがらせれるのか。
たどり着いた答えは、「春」の大切なあやかしである、桜の王を食い殺すこと。
己の力の限界など知らず、まして桜の王ほどの妖力の高いあやかしにかなうことこないのも知らず、愚かな飛頭蛮は夜をさ迷うように空を飛び続け、人を襲うのであった。
「飛頭蛮が、「春」に復讐しようと、無差別に人を襲っているんだ。すまないが京楽、囮になっれくれるか?」
「その飛頭蛮って、「春」が死んでしまったことも知らないの?」
「150年前に、「春」が封印したあやかしだ。少ししか知性がないので、150年経ったことも、「春」がもういないことも知らないし、理解できないだろう」
「祓うしかないね」
「ああ。当時は封印だったが、今度は完全に消滅させてしまおう」
浮竹の言葉に、京楽は頷く。
飛頭蛮退治の用意をばっちりして、玄関で浮竹を待っていると。
「京楽、こっちだ」
浮竹がベランダに出て、手招きをする。
ちょっと行儀が悪いが、靴をはいたまま部屋を横切って、浮竹の元へ行った。
「飛頭蛮は野蛮だ。二人とも、気をつけろ」
寝ていたと思っていた白哉が、そういうとまた寝に部屋に戻ってしまった。
「どうしたの、浮竹」
「ここから移動する」
「へ?もぎゃああああああああああ」
京楽は、35階から浮竹に突き落とされた。浮竹も一緒に落ちていく。
地面にぶつかる!そう思って、目をぎゅっとつぶると、ぼふんと柔らかい何かに受け止められた。
「異界送りをした。ここは、異界にある俺の住処のベッドだ。危なくなったり、飛頭蛮は空を飛ぶから、退治しにくいと思う。何かあったらここに閉じ込めてくれ。今の京楽なら、思い描くだけで異界のゲートが開けるだろう」
「う、うん」
飛頭蛮が出るという町にやってきた。
異界を通ってきたので、すぐについた。
「京楽、異界のゲートをあけてみろ」
「分かったよ」
京楽は、異界を開くようにイメージした。目の前で空間が歪み、異界への入り口が開く。
「匂う、匂うぞ。憎き来栖春の匂いだ」
早速、飛頭蛮が現れた。厄介なことに、1匹ではなく3匹いた。
「縛!」
「効かぬ効かぬ。人を食って力をつけた。その程度の術は、我に効かぬ」
「そうよそうよ。憎き人の子め」
「来栖春、お前を食うのだけを目標に封印されてきたのだ」
「耳障りなあやかしだ」
浮竹が桜の花びらを吹いて、落雷を落とすが、ぴんぴんしていた。
「意外とタフだな?」
「くくくく」
「あはははは」
「くすくすくす」
笑う飛頭蛮たちに、京楽は桜鬼の姿になって、また術を使った。
「縛!」
「うぎぎぎぎぎ」
動きを封じれたのは一瞬で、飛頭蛮は浮竹に遅いかかった。
「来栖春の大事な大事な桜の王を食ってやる」
「桜よ!」
桜の花が咲き、幻影の浮竹を飛頭蛮は食う。
「桜の王、なぜ人の子を庇う。それは、我らあやかしの敵の術者ぞ」
「京楽は、「春」じゃない」
「異なことを。同じ匂い、同じ姿、同じ声」
飛頭蛮の一匹が、避けきれなくて浮竹の肩に嚙みついた。
「おお、なんといく美味よ。お前らも、食え食え。桜の王を食って、力をつけてもっと人間を食べるのだ」
「十四郎、大丈夫?」
「ああ」
京楽は、すぐに治癒する。
「十四郎を傷つけた罪、死んで詫びろ」
「京楽?」
京楽は、どこからか日本刀を出した。それは白哉のもつ千本桜に似ていて、桜の花びらをまとい、頭上に掲げると術が発動した。
「極滅破邪!天雷!」
「ぎゃあああああ」
「ひいいいいいい」
「うぎゃああああ」
飛頭蛮たちは、悲鳴を上げて飛び回る。
「これでもまだ死なないの。図太いねぇ。十四郎、一緒にいくよ!」
「ああ」
「「極滅破邪・天焔」」
異界のゲートに、逃げる飛頭蛮たちを押し込んで、閉ざされた空間に向けて、術を放った。
「我は‥‥‥こんなところで‥‥」
そう言って、飛頭蛮たちは息絶えた。念のために死体を浄化して、終わった。
「十四郎、傷見せて。咄嗟だったから、うまく治癒できてないはずだよ」
「大丈夫だ」
「だめ。もう1回治癒する」
浮竹の肩の傷はもうほとんど残っていなかったのだが、片鱗さえないように京楽は治癒術をかけた。
「依頼達成だな。京楽をただの人間と思い、「春」と間違えるからこうなるんだ」
飛頭蛮たちを倒した浮竹と京楽は、父を食い殺されたという依頼者に会って、退治し終わったことを報告し、報酬金をもらった。
「帰ろう」
「うん」
京楽は人の姿に戻っていた。
「なんで‥‥「春」が封印したのに、復活したんだろう」
「封印が時間が経って、効果がきれたんじゃんないか?」
「そうかもね」
「飛頭蛮ごときでは、傷を少しつけるだけかいな。まぁええわ。桜の王の血液は手に入れたからなぁ」
闇の中で蠢く影は、そう言って姿を消そうとする。
「藍染様に、渡すか」
[春」の封印を解いたのは、夏の王である朝顔の王の市丸ギンであった。
長老神の、忠実な部下である。
「まぁ、暇つぶしにはなったわ。また、遊ぼな」
去っていった浮竹と京楽を見送って、市丸はくすくすといつまでも笑い続けるのだった。
「
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