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無題

「‥‥‥‥俺は誰だ?」

「君は浮竹十四郎。ボクの恋人だよ」

総隊長、京楽春水には秘密があった。

それは、失ってしまった恋人と同じ者を愛しているということ。

上流貴族の金を使って、京楽は死んでしまった浮竹のクローンを、涅マユリに作らせて、大金を支払って口止めしていた。


「俺は浮竹十四郎というのか。お前は?」

「ボクは京楽春水。君は、長い間昏睡状態にあって、記憶が欠落してしまっているんだよ」

「そうなのか。恋人のお前の名前も顔も思い出せないなんて、重症だな」

「ゆっくり歩いていこう」

「ああ」

浮竹は、許可なく外に出るのを許されず、いつも日当たりのいい部屋で眠っていた。

起きている時間は1日に4時間程度。

京楽が1日に浮竹に接していられる程度の時間だった。

「眠い。寝ていいか?」

「いいよ。ボクが子守唄歌ってあげる」

優しい旋律を聞きながら、浮竹は長い眠りにつく。

次に起きるのは、明日の夕方。今から約20時間後だ。

「浮竹、愛しているよ」

京楽は、愛おしそうに浮竹の長い白髪を撫でる。

浮竹は幸せそうに眠っている。

「君がいるから、ボクは狂わないでいられる。いや、君を作り出させて愛している時点で、狂っているのかな?」


しとしとと、雨が降る。

6月になった。

少し暑くなってきた。浮竹はあじさいを見ながら、臥せっていた。

クローンの元も病弱で、そのクローンも病弱だった。

ただ、肺の病はなく、血を吐いて生死の堺をさまようことはなかったが、季節の変わり目はよく風邪をひいた。

浮竹の存在が存在なので、4番隊に診てもらえない。

京楽が偽って、薬を手に入れて浮竹に飲ませた。

「ん‥‥‥京楽?」

「浮竹、眠いなら寝ていていいよ。起きたら、上のほうにおいてある食事をとって、薬を飲んでね?」

「今日は、俺を抱かないのか」

「君は今風邪をひいているから、抱かないよ」

「そうか」

京楽は、たまに浮竹を抱く。

浮竹の体調のいい日に。月に2~3回程度だった。

「京楽」

「なぁに?」

「俺は、どれだけ時間が経ってもお前のことを思い出せない。でも、お前は俺を愛してくれている。俺も、お前を愛している」

翡翠の瞳から、ポロリと涙が流れる。

「与えらえれた時間は少しだけだ。京楽、俺の死を受け入れられなかったのか?」

「浮竹?」

「そうだ。本物の浮竹だ。地獄から少し舞い戻った」

「浮竹!!」

京楽は、浮竹を抱きしめる。

「京楽、こんなものを作るくらい、お前は壊れてしまったんだな」

「君がいないから‥‥‥‥」

「確かにこの世界に俺はもういない。でも、こんな俺を作って愛してどうする?」

「死んでしまった君には分からないよ。残された者の気持ちなんて」

「確かにな。俺が悪かった。俺のクローンを愛するのはやめろとは言わない。ただ、もっと世界を見て生きていけ。俺のクローンにも、世界を見せてやれ」

「うん‥‥‥」

京楽は、涙をぽろぽろ流しながら、クローンの体に一時的に宿った本物の浮竹を抱きしめる。

「ああ、この瞬間が永遠であればいいのに」

「おっと、もう無理なようだ。戻る。いいか、クローンの俺に俺を重ねるなら、もっと自由にしてやれ。ずっと閉じ込めたままじゃ、いつか壊れる」

「うん‥‥‥‥」

「じゃあな」

ふっと、浮竹の霊圧が消えた。

「あれ、俺は‥‥?」

「十四郎。今日から、君を十四郎と呼ぶよ。薬を処方してもらって、長い時間起きていられるようにしよう。君を外に出す」

「俺は、外に出てもいいのか?」

「うん。この庭以外の外も出ていいようにするから」

京楽は、浮竹のクローンを作ったことを責められたが、殺すわけにもいかないので、浮竹は結局京楽の手に委ねられた。

「今日は暑いね。冷えたスイカをもらってきたんだ。二人で食べよう」

「春水、愛してる」

浮竹のクローンは、事実を知ってもすりこみ現象のように京楽のあとをついてまわる。

「ボクも愛してるよ、十四郎」

「いつか、本物の俺の話をもっとしてくれ」

「うん。今度、時間があいたらね」

クローンの浮竹は、自分がクローンであるということを受け入れていた。

ただ、愛しかった。

京楽が。

クローンの浮竹は、自由を与えられた。だが、ずっと京楽の傍にいた。

番のように、二人は寄り添いあいながら、生きる。

もう、二度と失わないように。

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