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やちる

「うっきーお見舞いにきたよー」

「ああ、草鹿副隊長。お菓子、好きなだけ食べていってくれ」

雨乾堂にたまに遊びに来る草鹿やちるは、浮竹のお見舞いにきては、お菓子を食べて去っていく。

子供が好きな浮竹は、やちる用に用意してあったおやつをやちるに与えて、二人して清音がいれてくれたお茶をすすった。

「うっきー、少しは元気になった?」

その小さい体で、畳に座り込んだ浮竹の膝に乗ると、小さな手で額に手をあてる。

「うっきー熱あるよ?」

「ただの微熱だ。薬も飲んだし、大丈夫だ」

やちるの好きなようにさせていると、やちるは浮竹の白い髪を三つ編みにして遊んでいく。

「またくるね、うっきー」

ばいばいと手を振って、去っていく後ろ姿を見守ってから、浮竹はやちるの食べ散らかしたお菓子の後片付けをしていた。

「浮竹、入るよ」

「ああ京楽か。少し散らかっているから、ちょっと待ってくれ」

「やちるちゃんがきたのかい?」

霊圧の名残を察知して、京楽は苦笑した。

やちるがくると、浮竹は寝込んでいても歓迎する。少しばかり無理をする浮竹が心配で、京楽は浮竹の額に自分の額をあてた。

こつんと、小さな音がする。

「熱があるね。素直に、布団に横になりなさいな」

「いや、ただの微熱だ」

その割には、少し苦しそうだった。倦怠感を覚え、浮竹は京楽の前で、弱さを見せたくないのだが、京楽の手を借りて布団に横なった。

「水を・・・・・・」

コップにいれられた水を渡されて、その中身を飲もうとしたら、咳き込んでしまった。

「ごほっ、ごほっ」

ぱしゃり。

水をこぼしてしまった。

着物が濡れた。

京楽は、すぐにタオルでふいてくれたのだが、布団も濡れてしまった。

「新しい布団だしてあげるから。その間に、着替えれるなら着替えて」

京楽は、てきぱきと動いてくれる。

新しい着物に手を伸ばすと、眩暈を覚えた。どさりと倒れこんで、京楽が慌てる。

「浮竹!?」

「すまない・・・少し、眩暈がしただけだ」

額に手をあてられる。

微熱ですまない温度まで、体温はあがっていた。

「じっとしてて」

着替えさせられ、新しくしかれた布団に横たえられる。半身を起こすと、解熱剤と白湯を渡される。

「一人で、飲めるかい?」

白湯の入ったコップは、京楽の手で支えられていた。

「京楽・・・・・・」

「なんだい?」

「傍にいてくれ・・・・」

「いるよ。君が寝ても、傍にいるよ」

解熱剤の他にも、肺の病のための漢方薬をいくつかのんで、浮竹は布団に横になる。解熱剤に含まれる睡眠薬成分が効いてきたのか、浮竹は苦し気な様子から解放されて、まどろみだす。

「・・・・・・・寝てしまう。京楽ともっと話をしたいのに」

「いいから、寝なさいな。寝て起きれば、きっと体調もよくなっているよ」

「・・・・せっかく遊びにきてくれたのに、いつも寝込んでばかりですまない」

「慣れてるからいいよ。おやすみ」

目を閉じさせる京楽の手の暖かさを感じなら、浮竹は眠りにおちていった。




数時間寝て、浮竹はふと目覚めた。

隣に、京楽の寝顔があって、少しびっくりした。

ああ、寝ている間も言葉通りずっと傍にいてくれたのか。その気づかいが嬉しくて、浮竹は京楽を起こさないようにそっと布団から這い出した。

熱は下がったようだ。少し倦怠感が残っているが、肺のほうの発作も大丈夫みたいだし、薬がきいたのだろう。

いつもなら、浮竹が起きると同時に起きてしまう京楽なのに、今日は深い眠りに入っているのか、起きてくる様子がなかった。

清音に頼んで、夕餉を二人分もってきてもらう。

ぎりぎりまで寝かせてあげたくて、浮竹は京楽を起こさなかった。

京楽が、目を覚ます。

浮竹は、すでに夕餉を終えてしまい、文机で仕事をしていた。

「浮竹?熱はいいのかい?」

伸びてくる手を額に触れされて、安心させる、

「京楽、夕餉を食べて帰るだろう?」

「ああ、もうそんな時間か・・・・・大分、寝てしまったみたいだね」

「起こしたほうがよかったか?」

「うーん。でも、ちょっと仮眠しすぎたね。夜が寝れないよ」

「眠くなるまで、ここにいればいい。8番隊には、地獄蝶で連絡を入れておくから」

浮竹は、京楽の見守るなか仕事を片付けて、二人で湯あみをすませると、雨乾堂の外にでた。

星が綺麗で、甘い果実酒を飲み交わしあいながら、他愛ない昔話に花を咲かせる。

「山じいは妖怪だと思うんだ。千年前から、姿が変わってないらしいよ」

「元流斎先生は、長生きだからな」

夜風が少し冷たくなって、京楽は浮竹に上着を羽織らせた。

「季節の移ろいはあれど、夜は少し冷えるからね」

リーンリーンと、雨乾堂の近くにある草原から、虫の鳴く声が聞こえる。パシャンと、池の鯉がはねた。

「また、立派な鯉だねぇ」

「ああ、最近また増えた。どうしてだろうな?」

「さぁ・・・・・・・」

それが、やちるのせいであるとは、二人は露知らず。


夜は、静かに更けていく。







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魚釣り

「浮竹、今度こそ海に行こう」

「この前は、紅葉狩り行こうとかいってなかったか?」

「言ってたね・・・・・」

「結局、雪国もいかなかったよな・・・・」

「そうだね・・・・・・」

年も明けて、夏がきて秋がきた。

「海に、いくのか?いけば、現世へはもう今年はいけないぞ?」

隊長クラスの現世への行き来は制限されている。年に2、3回いければ、まだいいほうだ。

京楽は迷った。今年のクリスマスこそ、現世で綺麗なイルミネーションを見せたいと思っていたからだ。

「じゃあ、川にしよう!川なら、現世にいかなくても尸魂界にあるし、魚だって釣り放題だ」

現世の汚い川みたいに汚れていないし、飲み水として使っても平気なほどの川ばかりだった。

「そうときまったら、レッツゴーだよ」

確か、去年に浮竹の誕生日を祝うためのカモフラージュに買った釣り竿を、持って帰ってきておいたのだ。

探すと、雨乾堂の物置の中にあった。

「あったあった」

「何を勝手に、人の部屋の物置にいれてるんだ」

「まぁいいじゃないの。君のお酒を、僕の隊首室に置いてあるだろう?あれみたいなものさ」

「かなり違うと思うんだが」

確かに、京楽の隊首室には、浮竹の飲む酒が置いてあるが、あれは京楽がたまに8番隊の隊首室まで遊びにくる浮竹のために、京楽が買い与えたものだ。

「いいから、釣りに行こう」

半ば強引な京楽に連れられて、浮竹は川に釣りをしにいく羽目になった。



「また、ヒットした」

「えー、またかい?僕は全然だよ・・・・・」

もう、アユを浮竹は10匹は釣っただろうか。京楽の釣り竿はぴくりともしない。

「お、きた!」

京楽の浮が沈んだ。急いで釣り上げると、長靴だった。

「ははははは」

浮竹は、長靴をつりあげた京楽をからかい半分で笑っていた。

京楽は、やる気を失って釣りをやめた。


そのまま火をたいて、塩をまぶしたアユを木の枝にさして、焼いていく。

「今日の夕飯はアユか。けっこう豪勢だな」

アユは、川魚としては豪華なほうだった。

浮竹が釣ったアユの7匹を京楽が食べて、3匹を浮竹が食べた。甘味もの以外だと食の細い浮竹のために、山菜やキノコ、野イチゴ、山葡萄やアワビといったものを京楽は近くの山でとってきて、料理した。

浮竹は、それを少し口にして、あとは好物でもある果物として、アワビや山葡萄、野イチゴなどを美味しそうに口にしていた。

その日は、野宿した。

地面に毛布をしいて寝転がる。

眼前に広がる、星の海に浮竹は言葉を失った。

「綺麗でしょ?」

「・・・・・・・・まるで、墜ちてくるみたいだ」

「手を伸ばせば、届きそうでしょ?」

「そうだな」

瞬く星たちは、静謐の光を生み出し、降り注ぐ。

「綺麗だな・・・・」

「あの星、緑色だよ。浮竹の瞳みたいで、綺麗だね」

「俺の目は、そんなに綺麗じゃないぞ」

「綺麗だよ。宝石の翡翠みたいで、とても綺麗だ」

浮竹の隣に寝転がった京楽は、厚めの毛布を浮竹の体にかけた。

「野宿だし、夜は冷えるからね。風邪、ひいちゃだめだよ?」

「今日は比較的暖かいし、多分大丈夫だ。最近は肺の発作もないし」

「でも、念には念のためだよ」

京楽の心配は尽きない。

本当に、浮竹はいつ倒れてもおかしくないくらいに病弱なのだ。一緒に行動するときは、とにかく熱を出したりさせないように心を配る。

楽しい時間も、浮竹が熱を出したり、発作を起こしてしまえば終わりだ。

酷くなると四番隊隊舎に運ばれて、数日間帰ってこない。

「流れ星だ・・・・・・」

「本当だね。何か、祈った?」

「ああ・・・・こんな日がいつまでも続くようにと、祈った」

「僕は、浮竹が元気になりますようにって祈ったよ」

「俺は今元気だぞ?」

「それが、日常になりますようにって意味だよ」

「本当に、そうなればいいんだがな」

浮竹の肺の病は、酷くなる時はあれど、よくなることは決してなかった。

そっと、隣にいる浮竹の白い髪を手に取って、口づける。

サラサラと零れる神は、月の光を受けて輝いて見えた。

京楽の想い人は、儚く麗しい。

星を見上げながら、浮竹は京楽の肩に頭を乗せた。自然と距離が近くなる。

「キスしていいかい?」

「いつもは、了解なんかとらないだろう。どういう風の吹き回しだ」

「君が、星の光に弾けて、消えてなくなってしまいそうだから」

そっと、触れるだけのキスをして、京楽はまた地面にひいた毛布の上に、ごろりと横になった。

「また、ここの星を見にこよう。この土地の星が、こんなに綺麗だとは思わなかったよ」


もし、流れ星が願いをかなえてくれるなら、何を引き換えにしてもいいから、僕から浮竹を奪はないで。

何度も、祈る。

浮竹の隣に在れることを。



星は弾ける。

何万光年、何十万光年、何百万光年という光を。

星空の下で、二人の恋人は穏やかな時を過ごす。


星は弾ける。

二人の恋人は、寄り添いあいながら、ただ静か眠りにつくのだった。



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ハッピーバースディⅡ

「海に行こう」

雨乾堂に遊びにきてそうそうに、京楽は浮竹をそう誘った。

秋も終わり、冬がきた。

「この前は、雪を見に行こうといっていなかった?」

北の方にいけば、雪国になる。

「雪国ももちろん行くよ。でも、その前に海だ!」

「もう、冬だぞ?」

「何も、海にいくのが夏だって限られたわけじゃないよ」

「そうか」

「そうだよ。七緒ちゃーん」

京楽は、副官の名前を呼んだ。

「どうも、浮竹隊長、お久しぶりです」

やってきた七緒の姿をみるのは久しぶりだった。京楽が仕事をしないと、昔は雨乾堂にまでやってきて、その耳をひっぱって8番隊隊舎に帰って行ったりしてた七緒だが、最近は京楽がちゃんと仕事を片付けてから浮竹のところにくるので、顔を合わせるタイミングがなかったのだ。

「頼まれていたものです」

そう言って、七緒は京楽と浮竹に、ルアーのついた釣り竿を渡した。

「明日には、現世から戻ってきてくださいね。隊長格が現世に遊びにいくなんて、本当なら許されないのですから。京楽隊長が大量の仕事を数日で片付けたご褒美です。二人で、楽しんできてください」

「七緒ちゃん、ありがとね」

「別に・・・・・」

七緒は、瞬歩で雨乾堂から去って行った。

技術開発局に頼んで、作らせておいた義骸に、二人そろって入る。現世に遊びにいくには、死神姿では人々には見えないからだ。
別に見えなくてもいいだろうにとは思ったが、用意されてあったので義骸に入った。

「さてさて。技術開発歔欷に頼んで、穿界門’(せんかいもん)を開いてもらいますか」

通信機で、12番隊の技術開発局に連絡をいれて、穿界門’が目の前に現れた。

尸魂界に、海はない。

穿界門を通り、現世にくると海が広がっていた。

「本気だったんだな。何を釣るんだ?」

「ははははははは」

いきなり大声で笑う京楽に、浮竹はびっくりした。

「成功成功。さて、いきますか」

京楽は、浮竹から釣り竿を奪って、自分の分もあわせて、ポイッと捨てた。

それから、浮竹を抱きかかえて瞬歩で街中まで移動すると、衣服を売っている店に入った。

京楽は、上級貴族だ。金がありあまっている。

「いらっしゃいませ」

「この子と、僕に似合いそうな衣服を、見繕ってくれないかい」

死覇装と隊長羽織では、現世では目立ち過ぎる。札束のお金をちらつかせると、店員はカジュアルな今時の服装を浮竹に、シックな装いを京楽にと、見繕った服を渡した。

着換え室で着替える。着換えおわると、お互いにお披露目する。

「浮竹、似合ってるよ」

「そうか?でも、京楽も似合っているぞ」

「ありがとう」

お金を現金で払って・・・京楽は、浮竹の手をとって歩き出す。

「おい、どこにいくんだ、京楽!」

「ディズニーランド!」

「はぁ!?男二人でか!?こんな寒い中!?」

「そうだよ。たまには遊ばなきゃ。息抜きもかねてね」


結局、京楽に誘われるままに、ディズニー―ランドにいって、ミッキーマウスと握手したり、絶叫マシーンに乗ったり・・・・・その日のは、目まぐるしく過ぎて行った。

「楽しかったかい?」

「楽しいが・・・少し、疲れるな」

なにせ、何百年も生きてきたが、現世の遊園地やレジャーパークにきたのは初めてだった。

「でも、たまにはいいいかもな。こんな息抜きも・・・」

京楽は、クレープを買いに行った。浮竹に数種類の味のクレープを渡す。それを口にして、浮竹は目を輝かせた。

「やはり、現世のお菓子はおいしいな」

「きて、よかったでしょ?」

「そうだな」

クレープを食べにきただけでも、おつりがくる、そんな思いだった。

すっかり、夕刻になってしまった。

京楽は、フランス料理の店を選んで、浮竹と食事をした。値段とはりあうだけに、とても美味しかったが、料理の値段に浮竹は本当にいいのかと、京楽に聞いたくらいだ。

ここでも札束が飛んで行った。

どれだけもっているんだと思うが、現世は何事も金次第なので、黙っておく。

そして、夜になった。

「どこに泊まるんだ?」

「怪しいとこ」

「は?」

ネオン街につれていかれた。

尸魂界にある花街のような場所だった。

「あそこがいい。最近できたてで、いろいろあってベッドが回転するんだよね」

「京楽!?」

ラブホテルに連れ込まれて、浮竹は慌てた。

そんなつもりは全然なかったので、いきなりの京楽の行動に吃驚する。

フロントで自動でキーを手に取り、先にお金を払って部屋をとる。

ラブホテルの一室に連れ込まれて、浮竹は覚悟を決めた。

でも、京楽は浮竹の頭を撫でて、回転するベッドではしゃいでいた。

「京楽?」

「いやー現世は楽しいねぇ。この回転するベッド、一度体験してみたかったんだよね」

「その、しなくていいのか?ここは、そういう場所なんだろう?」

京楽は、浮竹を抱き締めて、触れるだけの口づけをした。

「ハッピーバースディ、浮竹。君が生まれてきたことに感謝を」

「京楽・・・・・・・・・」

わざわざ、浮竹の誕生日を祝うために、現世を選んでいろんな場所に遊びに連れて行ってくれたんだと思うと、目頭が熱くなる思いだった。

「ありがとう、京楽」

「愛しているよ、十四郎」

「俺もだ、春水」

回転するベッドをとめて、照明も普通なものにかえて、湯あみをして二人で豪華な広いベッドに寝転がる。

「現世で誕生日を祝われるのは、初めてだ」

「悪くないでしょ?」

「俺は、ただの魚釣りでもよかったんだがな」

傍に京楽がいれば、それだでいいんだと囁くと、京楽は嬉しそうだった。

「来年の僕の誕生日、期待してもいいかな?」

「ああ、何か考えておく」

現世でデートのような、こんな楽しい時間は作れないかもしれないけれど。

浮竹の誕生日の夜はふけていく。


たくさんの隊士たちに囲まれて、祝われるのもうれしいが、京楽と二人で穏やかな時間をすごすのも、浮竹をとても幸せな気分にしてくれた。


どうか、願うならば、こんな時がまた何十年、何百年と続きますように・・・・・



けれど。


その願いが叶うことは、許されなかった。










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酒を飲み交わす(IF

院生時代、よく校庭の中庭にある大きな桜の木の下で、酒を飲み交わした。

ちらちらと、桜の花びら散る季節。

春のうららかな日差しの下で、京楽と浮竹は昔のように酒を飲み交わしあっていた。

今の学院の名前は、真央霊術院とよぶ。昔、京楽と浮竹が通っていた当時の名前は死神統学院という。

昔と少し校舎が増えたりして、見た目は変わったが、それでも院生時代の懐かしい思い出の詰まった学院に足を踏み入れるのは嬉しくもあった。

今日は、学院は休日で、人もいない。人払いをしていた。

桜の大木はもう樹齢千年はこえているであろう。京楽と浮竹が初めてであったのも、この桜の下だった。

「懐かしいねぇ」

「そうだな」

風で舞っていく桜の雨を浴びながら、二人はもちこんだ酒を互いの杯に注ぐ。

ひらりと、お互いの杯に桜の花びらが舞い落ちらた。

風流だと思う。

浮竹は、桜を見上げて、白い長い髪を風に靡かせた。

その光景があまりに綺麗で儚くて、京楽は酒を飲むことをやめた。

「浮竹は、桜がとても似合っているね」

「そういう京楽こそ、似合っている」

京楽が桜にまみれている姿はとても雅で。儚くはないが、桜の雨に包まれている姿はとても凛々しかった。

「君のほうが似合っているよ。儚くて美しい」

「男に向かって使う言葉じゃないぞ」

怒りはしないが、浮竹は自分の見目麗しい容姿があまり好きではないので、京楽の杯にこれでもかとうほどの酒を注ぎたした。

「零れる、零れる」

京楽は、杯を手に零れないように飲み干すのに苦労していた。

本当なら、京楽のような凛々しい姿で生まれたかった。美丈夫である京楽は、見た目もいい。男らしいがっしりとした筋肉に覆われ、浮竹のように細くしなやかな筋肉しかつかぬ体とは比べ物にならないくらい、男らしい。

「京楽のような見た目になりたい」

「簡便してよ。僕は、もじゃもじゃの浮竹なんて嫌だよ」

想像しただけで、寒気がした。

「肺の病さえなければ・・・・この体が、病弱でさえなければ・・・」

きっと、それなりの男らしい体つきになっていただろう。

だが、考えても仕方ない。

「浮竹は、細いがしなやかな筋肉があるその体がいいんだよ」

情欲をそそるからと、耳元で囁かれて、浮竹は京楽の頭を殴った。

「何するのんだい」

「知るか」

酒を注ぎ足して、一気に呷った。

「ああ、それ果実酒じゃないよ。別にとっておいた、強い僕のお酒だよ」

「え」

かっと、喉が焼ける感触がした、

「くっ・・・・やっぱり、お前の酒は強いな。こんな酒をよくも大量に飲めるものだ」

くらりと、くる。

なんとかやり過ごすと、浮竹は口直しに果実酒を飲んだ。

「君の酒は甘いし、アルコール度が低いからねぇ。僕にとってはジュースみたいなものだよ」

「そうだな」

「そういえば」

「?」

「いやぁ、君がこうして生きてるから、君のお墓にいくことがなくなったなぁと思って。いつも君の好きな果実酒を買って、墓石に注いでいたんだ」

「そうなのか」

意外なことを知って、京楽を残して逝ってしまったことへの悔恨と、また出会えたことへの感謝の念がごちゃまぜになって、浮竹を襲った。

「少し酔ったみたいだ。水をとってくる」

浮竹は、立ち上がるとが学院に入り、水道の蛇口をひねって、水を飲んだ。ついでに顔をあらって、手ぬぐいでふく。

外に戻って、桜の木の下にいくと、京楽の頭の上に見知った影があった。

シロだ。

「チチッ」

小さく鳴いたあと、地面におりて、ちょんちょんと歩く。

その姿がかわいくて、浮竹は手を伸ばした。

「おいで」

「チチチ」

浮竹の手の上に、シロは乗った。

「お、ついに手乗りかい」

元から懐いていたが、手乗りではなかった。

「僕の手にも乗ってくれるかな?」

京楽が手をさしだずと、シロは大空に飛び立って行ってしまった。

「嫌われたな」

苦笑を零すと、京楽は隻眼で浮竹を見た。

「気まぐれなんだよ。浮竹みたいに」

「俺みたいにか?」

「そう。甘えてきたり、拒絶したり・・・・君によく似ているよ」

「そうか?」

浮竹は桜の雨の中、目を瞬かせた。

チチチチチチチ

空を舞う、シロの鳴き声がする。

浮竹は、ずっと空を見上げていtた。酒を飲み交わすのも忘れて。

「今日の花見は、ここでお開きにしようか」

京楽が、酒が尽きたので雨乾堂で飲もうと誘ってきた。その答えに逡巡していると、ひょいっと抱き上げられた。

「京楽!?」

「桜の雨の中の君は、何処かに行ってしまいそうで、不安になる」

失った右目が疼く。

「俺は、お前の傍にいるぞ?今度こそ、もう一人にはしない。先には、逝かない」

「君が逝く時は、僕も一緒さ」

桜が散っていく。

ひらひらと。

幻想的に。

ひらひらと。

音もなく。

桜の雨は、止みそうになかった。










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斬魄刀(IF設定

巨大な虚が現れた。

それは、平和なある日の午後だった。次々とやられて行く隊士たち。主だった隊長副隊長は、現世の任務で尸魂界を留守にしていた。

「このおおおおおお!」

留守を預かっていた死神が、切りかかる。

大きな爪に体をえぐられて、大地に落ちていく。

その鮮血が、浮竹の頬に生暖かく散った。

「波動の33、双火墜!」

鬼道で攻撃すると、ゆらりと虚はこちらに狙いを定めた。

浮竹は、留守を預かっていた。斬魄刀もないのに、とは思ったが、流石に元隊長だ。人望も厚く、生前の頃のように慕われていた。

「もう、誰も殺させない・・・・・・」

ゆらりと、緑の瞳が黄金色に輝いた。斬魄刀が・・・・双魚理が欲しいと極限まで願った時、それは成就された。

「双魚理・・・・・?墓の下にあったんじゃないのか」

斬魄刀は、主を選ぶ。そして、一度従うと他の者には始解さえさせない。

「卍解……………………!」

誰にも見せたことのない、卍解をする。そして、一太刀で山のように大きな虚は切り殺され、霊子となって崩れていく。

「ふー。何十年ぶりかすぎて、ドキドキするな」

自分の卍解姿を見る。

こんな格好、京楽には見せれない。いや、誰にも見せたくない。

異質な卍解は、浮竹自身もあまり好きではなかった。



「浮竹・・!」

一刻ほどして、連絡をうけたて戻ってきた京楽総隊長は、尸魂界を手薄にしたことを大変悔いた。

「生きていてくれれよかった、浮竹・・・・。あれ、双魚理?掘り返したのかい?」

「いや、勝手に斬魄刀のほうからきた」

「そんな事例・・・・ないわけでもないけど、珍しい・・・・」

うーんと、双魚理と浮竹を見る。

「まぁ、斬魄刀も戻ってきたことだし。14番隊でもつくって、隊長になるか」

冗談でいったのだが、居合わせた浮竹を慕う隊士たちが、14番隊をつくって所属したいという嘆願を京楽にだしてきたので、流石にそれには驚いたが。

まぁ、14番隊などないので、元から話にもならなかったが。

ただ、隊長格を泳がせておくのはもったいない、せめてどこかの隊に所属して席官になれと、現隊長副隊長たちに言われたのだが、そのつもりはないと、浮竹は悉く拒否した。特に、阿散井ルキアは13番隊にきてくれとしつこかった。

「俺は、もう、死神としては緊急時以外は闘わない」

「そんな・・・・・・!」

ルキアの願いを無碍にするのは心痛かったが、仕方ない。朽木・・・ではなく、阿散井ルキアは、13番隊隊長の座を、浮竹に返還するとまでいってきたのだ。

それを、浮竹はつっぱねた。

「今はもう、お前が隊長だろう、朽木・・・じゃなかった、阿散井」

「浮竹隊長・・・・・」

「だから、俺はもうとっくの昔に隊長やめてるんだから、隊長と呼ぶのはよしてくれないか」

「では、浮竹さん・・・・・」

なんだか、むずがゆい。

「阿散井というのも、言いにくいにな。昔みたいに、朽木と呼んでいいか?」

「じゃあ、私も昔みたいに隊長と呼ばせてください。13番隊に、復帰してください」

お互いの顔を見合わせる。

それでもいいかと、納得の上で交渉は成立した。

「緊急時は、13番隊に配属されるということで」

「分かった」


放っておかれていた、京楽はすねていた。

「どうした京楽」

「僕だけのけものなんて酷いねぇ」

「いつも一緒にいるだろう。たまには、一人にも慣れろ」

寝起きさえ、いつも一緒なのだ。仕事をしている時も一緒、食事さえ一緒という始末。


昔より大分過保護になった京楽の自分に対する扱いに、浮竹は苦労していた。

「君を奪われないように、いっそ座敷牢にでも閉じ込めてしまおうか」

チチチチと、白い鳥が鳴いた。

「シロ」

浮竹の肩に止まる。

「俺はどこにもいかない。お前の傍に在る」

浮竹は、静かにそういった。

「閉じ込めておきたいなら、そうすればいい」

京楽の耳元で、囁くようにいえば、京楽は浮竹を抱き上げて、隊首室の奥の自分の部屋にくると、ベッドの上に浮竹を押し倒した。

チチチチと、シロが窓から飛び立っていく。

「教えてあげるよ。僕が、どれほど君を必要としているかを」

浮竹が、挑戦的な京楽を前に、ぺろりと自分の唇を舐めた。

生き返っても、変わっていない癖だ。

京楽が浮竹を抱こうとするとき、または抱いている時にする癖。浮竹にとっての、欲情したというサインだった。

「本当に君は、いつまで経っても変わらない・・・・・・院生自体から、変わらないね」

「何が」

「僕の扱い方だよ。よく理解してる」

「?」

日が沈む前から、総隊長がこんなのでいいのかと思ったが、まぁ京楽が総隊長になって十数年も平和が保たれているのだ。

いらぬ心配だろう。

浮竹は、京楽に死覇装をはぎとられながら、天井を見上げる。

シロがまた、窓から部屋に入ってきた。


「十四郎?」

耳元で囁かれて、ピクリと反応する。

「なんでもない、春水」

行為に没頭しだした京楽に合わせて、浮竹も乱れいく。


斬魄刀は、呼びかけに答えてくれた。

もう一期、死神として生きるのも悪くない。


そう思う、浮竹だった。







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お墓参り(IF浮竹生存設定

風邪をひいた。

肺の病はなくなったが、病弱なのは生き返っても同じのようだった。

そもそも、時間軸がばらばらすぎて、生き返った、というのも怪しい。

雨乾堂にはちゃんとした浮竹の墓があり、そこで浮竹は永遠の眠りについている。

でも、浮竹は今、一番隊の隊首室の奥にある、京楽の寝室でベッドに横になっていた。

隻眼となってしまった京楽の、右目に手をはわせると、その手をとって京楽は口づける。

「あまり、傍にくると、風邪がうつるぞ」

「僕は頑丈にできているから大丈夫。君がまだ隊長だった頃は、何度もお見舞いにいっても、風邪をひかなかったでしょ?」

「それはそうだが・・・・・・・・・」

「今は、とにかく眠りなさいな」

そっと手で目を閉じられて、その手の暖かさに安堵する。

「少し、眠る・・・・・・・」

ほどなくして、浮竹はスースーと眠ってしまった。

「さて。今のうちに仕事を片付けますかね」

総隊長となった京楽の仕事は、8番隊隊長だった頃の比ではない。山じいは、こんなに大変な思いをしていたのかと思うと、ふと山じいにも会ってみたいと思った。

そうだ。浮竹の風邪が治ったら、山じいのお墓参りにいこう。

そうだ。そうしよう。

ちょっとしたお出かけ気分なのは不謹慎かもしれないが、山じいも、愛弟子二人がわざわざ会いにきてくれたら、きっと喜ぶだろう。



一週間が過ぎた。

すっかり風邪もよくなった浮竹は、いつもの死覇装に、今は隊長羽織を着ていない。かわりに、白い上着の着物をきこんでいた。

一見すると、隊長羽織にも見えないこともない。

紛らわしいのだが、すでに阿散井ルキアがいるために、浮竹を隊長と呼ぶのは、ルキア、清音、仙太郎くらいのものだろう。その清音も、今では4番隊の副隊長だ。

時間がたつと、こうまで人が入れ替わるのだなと、浮竹は思った。


「先生・・・・・お久しぶりです。俺も死んで・・・生き返った?っていうか並行世界に迷いこんだ?か何だかよくわかりませんが、今は生きてます」

わけのわからない挨拶に、京楽が苦笑をもらした。

「素直に、元気にしてますでいいじゃない」

「いや、それもそうなんだが・・・・・・なんていうか、やはり先生にはちゃんと事実を伝えたくて」

浮竹は、菊の花を墓に添えて、冥福を祈った。

京楽は、お線香をたいて、墓前で手を会わす。

実に、2千年もの間、尸魂界を支えてきた山本元流斎重國は、偉大な男だった。

その跡を継いだ京楽も、これから千年以上の時間を総隊長として過ごすのだろう。その隣に、いつも在りたいと思う。

病を持っていた頃は、願うだけ無駄だった想いだ。

最期まで、共に在りたいと思う。

一度、先に逝ってしまったのだ。置いていかないでくれという懇願を無視して。

死ぬとわかっていて、ミミハギ様を手放した。

鮮血を吐いて、浮竹は散った。


いまでも、時折京楽は浮竹の死の夢を見てうなされる。

起こすと、これでもかというほどに抱きしめられて、生きていることを確認された。



「またくるね、山じい」

「またきます、先生」

双極の丘に近い墓地だった。

もう今は、双極などという物騒な死刑の装置はない。双極の丘も、京楽の命令で取り潰しが決まり、新しい隊舎が建てられる予定だ。

「いつか、ここに眠るようなことがあったら、今度こそ、一緒にいこう」

「不吉だねぇ。でも、もう時間はあるとか、大丈夫だとかの嘘はなしだよ」

ミミハギ様を失った。でも、病も消えていた。

今の浮竹はただの病弱な、霊圧の高い死神だ。斬魄刀さえない。双魚理は、雨乾堂の下で自分の骨と一緒に眠っている。

隊長でもなくなったし、戦う必要もなくなった今では、斬魄刀もいらないだろう。いざという時は、鬼道がある。

浮竹の鬼道の腕はそこそこだ。

斬魄刀のない死神。中途半端な存在である。いつか、時が満ちれば双魚理を、また自分の手で握り、大事にしたいと思う。

今はただ、山本元流斎重國の冥福を祈り、そして愛しい人の傍にあれる幸福を享受しよう・・・・。








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小鳥(IF浮竹生存設定

「ん・・・・・朝か」

隣を見ると、浮竹がいた。

「何かあったのか?」

浮竹もさっき起きたばかりのようで、まだ眠たげだった。

同じベッドで、ただ眠っただけなのだが、それが久しぶりすぎてなんだが、昔よりも気恥ずかしい。

「起きるのか?」

「うん。仕事があるからね」

「京楽が仕事ね・・・・人って、変われば変わるものなんだな」



総隊長となった京楽の一日は、忙しかった。

「手伝おうか?」

暇そうにしていた浮竹が、そう言ってくれた。

「この書類に、ハンコを押してくれないかい。もう読んだから、後はハンコ押すだけ」

簡単な仕事だった。

ぺったんぺったんとハンコをついていくが、すぐに飽きてしまった。

「外に出ていいか?」

浮竹が生きているということを、もうたさくんの人が知っているので、ダメとは言わなかった。

「やぁ、日番谷隊長は、いつまでたっても背が伸びないなぁ」

「そういう浮竹は、死んだくせになんで生きてやがる」

甘味屋の前で、日番谷と松本に会った浮竹は、言葉を交わすのが本当に久しぶりなのだと、嬉しげだった。

「京楽から、お小遣いをもらったから、何か食べて行こうかと思って。日番谷隊長もどうだい?」

「お前のおごりならな」

「よし、じゃあ決定だな。松本副隊長もおごるよ」

「えーほんとですかー。嬉しいー」

じゃらりと、持たされた金子を見せる浮竹に、日番谷はお茶をふきだした。

「なんつう額、持ち歩いていやがんだ!」

「いや、京楽がなんでもかっていいって、もたせてくれた」

「屋敷でも買うつもりか!」

「そんなに価値があるのか?この金子は」

世間知らずな浮竹を、かわいがるだけの京楽からは、煙草のにおいと京楽がいつも使っている柑橘系の香水の匂いがした。

「お前・・・・・まだ、京楽とできてんのか?」

「あ?いや、一緒に寝ただけだが?」

「それができてるっていうんだよ」

溜息をこぼして、抹茶アイスを食べる日番谷に、浮竹はその頭を撫でた。

「ええい、鬱陶しいな」

「いやー、日番谷隊長といるとなごむなぁ。昔と、隊長副隊長が全然かわってて、正直話したことのない人すらいて悲しくなるんだが、日番谷隊長は変わらないな。髪型が少しだけ変わったくらいか?」

「そういう浮竹は・・・・死ぬ前より、顔色がいいな」

「ああ、もう肺の病はなくなったから。一度死んだ時よりは、健康だぞ」

けらけら笑う浮竹のところには、おはぎの皿が置かれた。

それを口にすると、浮竹は立ち上がった。

「シロに、餌やるの忘れてた」

「はぁ?俺のことか?」

「違う。京楽が飼ってる、小鳥のシロだ。この前猫の襲われて、籠の中で完治するまで飼っているんだ。その子の餌箱からにしてそのままなの、忘れてた」

京楽に、シロと名付けられた小鳥は、浮竹と同じ白い羽に緑の瞳をもつ野生の小鳥だ。本当なら黒い羽の色をしているのに、突然変異で色素が抜けてしまったのだ。

それがまるで浮竹のようだと、京楽は戯れにシロと名付けた。

可愛がるようになって、もう数年になる。

「すまない、日番谷隊長。お代はこの中から払っておいてくれ」

「おい、こんな額うけとれるか!きいてるのか、おっさん!」


浮竹は、瞬歩で1番隊の隊首室へと戻ってきた。

チチチチと、翼を羽ばたかせて怒っているシロを外にだすと、餌箱に小鳥用の餌をいれる。水もかえて、青菜もかえた。水浴び用の容器にも新しい水をいれる。

「浮竹?」

「ああ、京楽・・・仕事は、一区切りついたのか?」

「うん。今日の分は終わったよ」

「そうか。それならよかった。ちょっと、一緒に散歩でもするか?」

「そうだねぇ。天気もいいし・・・・・今度、花見に行こうか」

「ああ、もうそんな季節か・・・・・・」

チチチチチと鳴いて、シロが京楽の肩に止まった。

「よく、懐いてるなぁ。その種の小鳥は、人を嫌うはずなんだけど」

「君の分身と思って、可愛がってたんだ。そしたら、群れから弾きだされたようで、いつもこの近辺に住んでるよ」

浮竹の肩にとまった。そしてふんをされた。

「俺にはこうか」

「小鳥は、体の構造上すぐ排泄してしまうからね。仕方ないよ。僕も何度も隊長羽織にやられたし」

他愛ない話をして、手を繋いで人のいない道を選んで歩き出す。

小鳥は、どこまでも一緒についてきた。


青空が広がっている。

争いはもうない。

等しく訪れる平和に、浮竹は本当は自分は死んでいるはずなのにと、ふと思う。

でも、生きている。

生きている限り、京楽の隣にいようと、浮竹は思った。

それは、京楽のほうが強く抱いている願いだった。


小鳥は、青空の下を羽ばたき、飛んで行った。




浮竹は、花の神、別名「椿の狂い咲きの王」にもう一度命を与えられた。

浮竹は赤子の頃、両親がこの赤子が長生きをしますようにと、花の神に捧げられ浮竹は花の神に愛され愛児となった。浮竹の肌や髪から、花の甘い香がするのは、花の神に愛されている証。

この世界にもう一度生を与えられた。花の神の存在を、浮竹はまだ知らない。

ただ、この世界を生きる。

二人で----------------------------

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色のない世界

ふと、夜中に目が覚めた。

少し眠かったが、腕の中にいたはずの浮竹がいなくて、京楽は少しだけ明かりをつけて、室内を見まわした。

「浮竹?」

京楽は、浮竹と共に流魂街にある、京楽の別邸にきていた。人は住んでいないが、使用人を雇い、定期的に手入れをしてもらっていた。

「浮竹?」

室内を見回しても、浮竹の姿はなかった。

からりと襖をあけて、奥の部屋を見てみるが、やっぱりいない。

本当に、今日だけしかないというのに。

ユーハバッハが、尸魂界に攻め込んできた。山本総隊長はなくなり、次の総隊長にと京楽が推された。

浮竹は、病を凍らせていたミミハギ様を・・・・神掛を行った。

自然、凍り付いていた病は時を刻みだす。

日に日に酷くなっていく肺病の発作に、4番隊の隊長格でさえ、手が施せなかった。


「死に場所は、自分で選ぶ」


そう言って、病室からふらりと消えた浮竹を探し当てたのは、京楽だった。

その霊圧は、消してはいないだろうに、消えそうになっていた。


「きょうらく・・・・・?」

一番奥の部屋。

障子をあけて、月の光を体中に浴びる浮竹は儚くも美しかった。

隊長羽織を脱いで、次の世代へと、ルキア用の隊長羽織を清音と仙太郎に言い聞かせて作らせてある。

双魚理を帯剣することもなくなった浮竹。

「酷く心地いいんだ・・・・・・・一人でないと、分かって死ぬのは」

丸い丸い月を見上げながら、浮竹は歌うように言葉を刻む。

「世界は美しい・・・この美しい世界を、失ってはいけない」

虚圏、現世、尸魂界。すべての世界が、霊王の死にとって緩やかに崩壊をはじめた日から、浮竹の運命はもう・・・・いや、ユーハバッハが尸魂界に侵攻してきた時にはもう決まっていたのかもしれない。

「僕は、正直世界よりも君を選ぶ」

「一緒に、死んでくれるか?」

「喜んで」

その言葉に、浮竹の翡翠の瞳が揺れた。

「お前を残していきたくない。お前と離れたくない・・・・・・本当は、もっと、生きたい・・・・・・!」

でも、もう十分すぎるほど、生かされたのだ。

500年以上は生きただろうか。

もう、十分だ。

「骨は・・・・・双魚理と一緒に、雨乾堂に埋めてくれ」

それはもはや遺言だ。

「そんなこといいなさんな。探そう?君が、もっと生きれる方法を」

「無理だ。ミミハギ様を失った俺は、もう終わりなんだ」

「そんなこと言わないでよ」

ぽろりと、黒い瞳から涙が零れ落ちた。

いつもの飄々とした姿はなかった。

生気のない浮竹の膝にすがりついて、京楽は泣いた。

「君と、もっと生きていたい!君を失いたくない!君を愛しているんだ!君のいない世界なんていらない!」

「そんなこと、言ってはだめだ」

浮竹が、枯れ枝のように細くなってしまった手で、京楽の頭を撫でた。

「まだ、少し時間はあるから」

それは、嘘だった。

浮竹が、京楽に初めてついた嘘。

「最期の時まで、傍にいるから」

色づく世界から、色のない世界にならないように。

嘘をつく。

浮竹は、京楽を抱き締める。

全ての想いをこめて。

「すまない。今まで、ありがとう・・・・・・・」

京楽は、思いきり泣いた。泣き疲れて眠ってしまった体に、浮竹は自分が羽織っていた着物をかけて、ふらりと外に出る。

リーンリーン。

虫のなく声だけで、世界は静謐に満たされ、こんなにも静かだった。

浮竹は目を閉じた。

色のない世界へと、足を踏み入れる。




朝起きると、浮竹の姿はなかった。捜索したが、その姿はようとして知れなかった。霊圧を探っても、もう浮竹の霊圧を感じることはできなかった。

尸魂界に平和が戻っても、結局浮竹の遺体は見つからなかった。

遺言通り、ただ双魚理だけが雨乾堂に埋葬され、京楽は浮竹の墓石を作った。その下に、浮竹はいない。

正式な総隊長になって何年経っただろうか。

ざりっと墓石を撫でて。

「君は、最初で最後の嘘を僕についた。せめて、看取らせてほしかったな・・・・・・」

死に場所は自分で決める。

それはまるで、自分の死を悟り、群れから孤立していく野生動物に似ていた。

色のない世界にいるから。

浮竹が、最後の夜に囁いた言葉を思い出す。

「色のない世界に行けば、君に届くのかい?」


伸ばした腕に、シロと名付けた小鳥が止まった。


「ただ・・・・・・君に、会いたい」


切望しても、望みは叶わない。

分かっているから、望んでしまう。



そこは、色のない世界。

死んだ隊長たちの墜ちる場所。

山元源流斎重國、卯ノ花烈、浮竹十四郎。

色のない世界へ墜ちていく。


ただひたすらに、色のない世界へと。



色のない世界の果てに、花の神はいた。愛した愛児の魂を、しっかりと抱き込む。

「愛児よ。お前は生を求めるか?」

愛児となった浮竹に語り掛ける。魂となってしまった浮竹は、生きたいと強く願った。

「そうか。愛児は、生きることを望むか-----------------------」






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人魚姫

昔々、あるサンゴ礁が広がる広大な海に、人魚姫という美しい人魚がいました。

人魚姫の声は美しく、それを聞いた人間は魅了されるといいます。

「おいおいおいお、またかい!また僕が主人公なのかい!しかも人魚姫なら、王子が浮竹じゃないと僕は海の泡となって消えるしかないじゃないの!」

その人魚姫は・・・・・・胸毛がもじゃもじゃのおっさんでした。

いえ、京楽でした。

「なに、このかっこ!まるっきり変態じゃないの!」

足の部分は、魚でした。でも上半身は裸で、胸のところは貝でブラジャーをつけていました。

人魚姫は変態でした。

いえ、繊細でした。

多分。

ある日、嵐がおきました。

「こわい」

「怖いわ」

他の姉妹の人魚たちは、洞窟に隠れて嵐がおさまるのを待っていました。

でもおてんばの京楽は、嵐の海の中を泳いでいきます。

「なんだ、船が沈没でもしたのかな・・・・・・・あっ、人だ」

海に面する王国の、王子の船でした。

「このままでは、おぼれ死んでしまう」

京楽は、沈んでいく船を無視して、オレンジ色の髪の少年を海の中で抱き上げると、凄い速度で泳ぎ、海辺までもっていきました。

「これでよし・・・・って、一護君じゃないか。この国の王子ってまさか一護君?」

京楽は、一護があまり好きではありませんでした。想い人である浮竹の副官、海燕に似ているからです。浮竹は、一護のことを特に気に入っていました。それに、京楽がいい顔をするはずがありません。

「王子が浮竹じゃないなら、僕はもう人魚姫やめるよ。海の泡となって消えるなんて、ごめんだからね」

そうは問屋がおろしません。物語は続きます。

京楽は、逃げるように海に帰っていきました。

そんな京楽の元に、人魚の魔女である浮竹が姿を現しました。

「浮竹!」

「京楽、お前に人間の足をやろう。かわりに声をいただく。あの人間の王子、一護君と結ばれなかったら、お前は海の泡となって消えるだろう。それを防ぐには、王子の心臓の血を浴びるしかない」

ぱくぱく。

愛しい京楽に愛を囁こうにも、声を奪われてしまった京楽は何も言えませんでした。

(浮竹!)

「期限は1か月。努々(ゆめゆめ)、忘れるな・・・・」

ぶほんと、浮竹は消えてしまいました。

(浮竹ーーーーー!)

叫びが、声になることはありませんでした。

そして、京楽は助けた一護の元に戻ります。でも、そこに一護の姿はありませんでした。

「お前が俺を助けてくれたのか?俺の名は一護。このクロサキ王国の王子だ。一緒にきてくれ、お礼がしたい。パーティーを開こう」

一護は、褐色の肌の美女を、命の恩人だと思い込んでいました。

「わしの名は夜一じゃ。ほーう、パーティーか。おもしろそうじゃのう」

京楽は浜辺で立ち上がります。

「おや?そこにいるのは京楽ではないか」

京楽と夜一は、酒飲み仲間の友人同士であったため、互いを知っていました。

「ぬおおおおおお、フルチンのおっさん!?」

京楽はびっくりしました。

何せ、人魚の部分は失い、人の足をもっていたからです。

裸でした。

フルチン状態でした。

やっぱりへんた・・・げほごほ。

「これでも着て前を隠せ!」

一護が、京楽に自分のマントを投げ捨てました。


そして、一護は夜一と京楽を連れて城に帰還しました。

「すぐに、宴の用意を」

「かしこまりました一護様・・・・・なんていうと思っているのかこのたわけ!」

「おぶっ!」

メイドのルキアからの蹴りを顔面に喰らって、一護はその場に頽れます。

「また、奇妙な人間を連れて帰ってきてからに。名前は?」

「夜一じゃ。こっちは京楽じゃ」

「何すんだよルキア!」

「それはこっちの台詞だ!メイドである私に手を出しておきながら、まだ物足りぬというのか!」

「ああ、物足りないね。俺は、夜一さんと結ばれる運命なんだ」

「たわけ!」

スリッパで、一護の頭をひっぱたくルキア。

そんなやりとりが続いた翌日、豪華な、王子の生還記念のパーティーが開かれました。

京楽は、そのごつい体にひらひらでふわふわのドレスを着せられていました。鏡に映る自分の姿に、幻滅しています。

夜一はというと、扇情的なドレスを着ていましたが、パーティーの御馳走ばかり食べていました。

「夜一さん。俺の命の恩人だ。結婚してくれ」

ダンスをかねた求愛を申し込むと、夜一は首を振りました。

「わしには、すでに心にきめた砕蜂がいるからのう。お主と結婚はできぬ」

「じゃあ、京楽さん、あんたでいい俺と結婚してくれ」

途中で、声色が変わりました。

「ってルキアお前!何俺の真似してるんだ!」

ルキアが、一護の声真似をして京楽を口説きます。

それに、京楽はこくこくと頷きました。

「って、京楽さん!?」

(結ばれたくなんかないが・・・・殺して心臓の血を浴びるよりは・・・・・)

京楽も、一護を殺すことまではできかねているようでした。

時間は流れます。


1か月の月日が流れました。

京楽は、生きていました。一護と結ばれ、結婚したのです。

海の泡になることもなく、一護を殺して心臓の血を浴びる必要もありませんでした。夜一が砕蜂という恋人を通しててにいれた、惚れ薬の効果でした。

「一護!私というものがありながら、何を京楽隊長と結婚しているのか!しっかりしろ、お前は惚れ薬を使われているのだ!」

「なんだよルキア。俺は今幸せなんだよ。京楽さんの、もじゃもじゃした胸毛に顔を埋める至福の時を邪魔しないでくれ」

「一護!」

ルキアは、涙を流して一護に抱き着きます。


パリン。

どこかで、罅が入った音がしました。

ルキアという少女の涙は、人魚姫の涙でした。人魚姫は実はもう一人いたのです。それはルキアでした。

嵐の海の日に一護を助け、一護に一目ぼれしてしまったルキア。魔女の浮竹から、足を与える代わりに、斬魄刀を失い、死神の力を全て失いました。

一護と結ばれなかったら、海の泡になる。

そうなる前に、ルキアは一護と結ばれました。

けれど、一護は魔王藍染の呪いを受けており、ルキア一人を愛するだけでは足りなくなっていたのです。ルキアが人魚姫だったことを忘れ、ただの手を出してしまったメイドと認識していました。

「ルキア・・・・・なのか?」

「正気に戻ったのか、一護!」

二人は、お互いを離そうとせず、抱擁しあい、キスをしました。

「結局、僕はふられるわけね」

ひらひらのドレスをきた京楽は、煙管の煙草に火をつけて、ゆっくりと煙をすいました。

夜一はというと、近衛騎士の位を与えられ、恋人の砕蜂と王宮で幸せに暮らしています。

今幸せでないのは、京楽くらいでしょうか。

紫煙をくすぶらせていると、それはやがて人の形をとり、ぼふんと魔女の浮竹が現れました。

「みんなハッピーエンドになるのに、お前だけに寂しい思いはさせられないからな」

「浮竹!」

一護と結婚したことで、京楽は声をすでに取り戻していました。ただ結婚しただけで、一護と京楽の間にはなんの関係もありませんでした。

そして、一護が愛するのは本当の人魚姫だったルキアでした。

浮竹は、京楽の手をとります。

「還ろう。あの海へ」

浮竹が魔女になっていたのも、藍染の呪いによるものでした。


全てはありのままの形に。


京楽は人魚に戻り、同じただの人魚に戻った浮竹と、サンゴ礁の海漂いながら、幸せに暮らしています。

浮竹は、愛染の呪いに抗い、一度海の泡になりました。そこから霊子をためて、なんとか人魚の魔女の姿になると、訪れてくる人魚に難題を与えることで、生気を得て、生きていました。

人魚姫のルキアが、魔王の呪い解く乙女の涙という古代のアイテムを生成してくれたお陰で、魔
王藍染の呪いにかかってい人たちは皆解放されました。

そして、時は刻まれます。

ルキアと手をとって立ち上がった王子、一護が、魔王愛染を倒したのです。

その日は、世界中でパレードがおこなわれました。花びらが舞い散り、踊り子たちがルキアと一護の結婚を祝います。

そんな姿を、海の底から浮竹と京楽が見ていました。

「外の世界は、楽しそうだねぇ」

「また、いってみるか?外の世界へ」

「いいや、海の中でいいよ。ここが僕たちのいる居場所なんだから」


人魚姫は、海の泡になることも、愛した王子を殺し、心臓の血を浴びることもなく。

いつまでもいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。








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白雪姫(おまけ・イチルキ「運命をこえて走り出せ」

昔昔、あるところにとても美しい少女が住んでおりました。

その名を、白雪姫といいます。

白雪姫は・・・・・・ぬいぐるみに入れられた改造魂魄の、コンでした。

「おいっ!思いっきり配役ミスりやがって!この小説、これがはじまりなんだろ!なんとかしやがれっ!」

ぬいぐるみの白雪姫は、叫びます。

「うるさい!」

「おぶ!」

近衛騎士のルキアが、コンを踏みつけました。

ぐりぐりと容赦なく踏みつけられて、コンは幸せそうでした。

「ねぇさん!そのねえさんの絶壁の胸で、俺を抱き締めて!」

「今の私の配役は確かに男性だが、絶壁とは聞き捨てならん!」

さらにグリグリと踏みつけていると、父親である王の恋次が、ルキアを呼びました。

「おーいルキア。菓子もらったんだけど、食うか?」

「たわけ!もっと堂々としろ!仮にも、一国の王だぞ」

「そう言われてもよぉ。普通白雪姫でいくなら、ルキアが白雪姫だろ?斬魄刀も袖白雪だし・・・・なんで、白雪姫がコンなんだ。ただの改造魂魄じゃねぇか!」

「そんなこと、私が知るわけなかろう!やり直し!take2だ!」

近衛騎士のルキアは、本来白雪姫には登場しません。でも、どうしてもルキアがいないと物語が進まないため、無理やり役を与えられました。

「おーいコン、菓子もらったんだけど、食うか?」

「ばかにするなっ!こちとら、男とお菓子を食べる趣味はねぇっ!」

「うっせーな、改造魂魄の分際で」

恋次は、ぐりぐりとコンを踏みつけます。

「わた、綿でるからぁっ!」

なんだかんだで、白雪姫のコンは父親の国王恋次にばかにされ・・・・・いや、寵愛を受けていました。




「鏡を鏡よ、世界で一番美しいのは誰・・・・・・・って、なんで僕が王妃役なんだ!」

雨竜は、白雪姫の母親の役でした。

「だいたい、なんで白雪姫がコンなんだ。普通、朽木さんとか井上さんとか・・・・」

ちなみに、鏡役は日番谷でした。

「うっせーな。鏡である俺が告げる。世界で一番美しいのは雨竜、お前でなく、お前の娘のコンだ!」

「なんだと!」

雨竜はショックを受けました。

「くそいまいましいコンめ!どうしてくれよう・・・・でいいんだっけ?」

台本を読みながらの雨竜ですが、話は進みます。



白雪姫のコンは、溺愛してくる父王から逃れるため、また意地悪をしてくる母の王妃から逃れるために、城を抜け出しました。

森の中に逃げ込んだコンは、迷子になりました。

「んー?ここどこだ?」

わらわらと、7人の小人がやってきました。

「かわいいねぇ、君」

「かわいいな」

「くっそかわいいぜ」

「僕の方がかわいいよ!」

「・・・・・・夜一様のほうが美しい」

「おう、これは珍しいいきものだのう」

「おやコンさん、どうなされました?」

上から順に、京楽、浮竹、一角、弓親、砕蜂、夜一、浦原でした。


7人の小人に囲まれて、コンは幸せな日々を過ごします。

でも、その幸せもつかの間のものでした。



「鏡よ、いまコンがどこにいるのかわかるかい?」

「コンは、南の森にいる」

鏡役の日番谷は、氷輪丸で鏡を割って自由になると、どこぞなりと去って行きました。

「おのれコンめ。世界で一番美しいのは、滅却師である僕だ!」

雨竜は、この日のために毒林檎を育てていました。

魔法で醜い老婆の姿になると、森へいき、小人と楽しそうに過ごしているコンに近づきました。

「お嬢さん・・・美味しい林檎はいかが?」

「おっ。けっこううまそうだな。もらいっ」

コンは、老婆から毒林檎をぱくると、もきゅっと音をたてて食べました。ぬいぐるみの分際で、飲食できるのか?そういうのはまぁ省いて。

「うっ」

コンは、毒林檎を落としました。

「ふっふっふ、僕が渡したのは毒林檎だ。これで、世界一の美女は僕だ!」

雨竜は、滅却師模様の施されたマントを着ていました。マントを風でなびかせて、コンが息絶えたことを確認すると颯爽と去って行きました。

「やぁ、かわいそうだねぇ」

京楽が、コンを抱きかかえました。

「花畑があるから、そこに寝かせればいいんじゃないか?」

浮竹が、コンの体を預かって、花畑へ行くと置いてあった棺の中に、そのぬいぐるみの体を横たわらせました。

「ほれほれ、砕蜂、次はおぬしの番じゃ」

「夜一様・・・・・!」

砕蜂と夜一は、役目を放棄してババ抜きをしていました。

一角は強いやつはいねぇかと飛び出していき、それを追った弓親は、僕は美しいとかいいながら去っていきました。

「こりゃ、荒れますねぇ」

浦原は、コンに美しいドレスを着せて、花畑の棺に王子様のキスで目覚めると看板を立てました。

やがて時はたちます。

7人の小人たちが、コンの存在を忘れた頃。

隣国の王子様がやってきました。

「何々・・・・美しいお姫様が眠っている。口づけで目を覚まし、あなたの伴侶となるでしょう?なんだこりゃ」

隣国の王子である一護は、花畑にやってきました。

「美しい!・・・・・・・・わけねーだろ」

棺を足蹴りしました。

「こんなぬいぐるみに、誰がキスするんだ?」

「貴様がだっ!」

近衛騎士のルキアが現れて、一護とコンを無理やりキスさせました。

「おえええええええ」

「うげええええええ。一護とキスしちまった!姉さん、慰めて!」

コンをぐりぐりと足で踏みつけて、ルキアは言います。

「今日から、これが貴様の伴侶だ」

綿の飛び出たコンを突き付けますが、一護は舌打ちします。

「こんなぬいぐるみを、伴侶にしろだって?バカいうなよ」

「こいつは、この国の姫だ。隣国の王子である貴様とは、身分が釣り合うであろう?」

「そんな問題じゃねーよ。伴侶にするなら、ルキア、お前しかいねぇ」

「え、え、え!?」

一護は、近衛騎士であるルキアにキスをしました。すると、すべての魔法が解けていきます。

白雪姫はコンではなく、ルキアでした。災厄の魔王、藍染によって、国中に呪いがかけられていたのです。

「私が白雪姫だと・・・・・」

父王の恋次はいなくなり、初老の国王がそこにはいました。意地悪な王妃の雨竜もいなくなり、ただ美しいだけの王妃がいました。

「これで、めでたくイチルキだ・・・・・兄は、一人の男として最後までルキアを守れ。それが誇りとなる」

「兄様!?」

王家の鏡に封印されていた死神の、朽木白哉が蘇りました。

「兄様・・・・やはり、ご無事だったのですね」

ルキアが嬉しそうに白哉に抱き着きます。

「ルキア・・・・・・義兄といえど、あんまり他の男といちゃいちゃするんじゃねぇ」

一護が、そんなルキアを抱き寄せます。

「どうしたのだ、一護」

「これ、一応イチルキってことになってるからな」

その細い体を抱き締めて。一護はルキアの耳元で囁きます。

「結婚しよう。大切にする。愛している」

「一護・・・・・・・・」

二人は見つめ合いキスを交わして、そして二人は結ばれ、隣国の王子と白雪姫は、長い時を幸せに過ごしましたとさ。


「ん?なんか忘れてねぇか?」

「そうか?」

一護とルキアは、二人で首を傾げます。

「あ、コンだ。存在そのものを忘れてた」

「ああそういえば。まぁいいか」



「ねえさーん、一護ーーー!!どこにいっちまったんだよー!俺を置いていかないでくれーー!」


パラレルワールドから弾かれたコンは、ふわふわと現実に還っていきます。








「姉さん!一護!」

はっと起きると、そこは一護の部屋だった。

「なんだ、夢かぁ」

押入れから顔をのぞかせると、一護がベッドで眠っていた。一護が、霊圧をなくしてもう1年以上になる。

「姉さん!」

慣れ親しんだ霊圧を感じて、コンは顔をあげた。

「しーっ」

ルキアが、尸魂界からぬけだしてこっそりと一護の部屋にやってきたのだ。

「騒ぐな」

「ねぇさん、一護が起きていない間でいいのか?」

「たわけ。一護は、私の姿は見えず、声も聞こえないのだぞ。技術開発局が開発した、霊圧をもたぬ者でも死神が見える、スーパーチャッピー丸がないと、一護には何も届かん。スーパーチャッピー丸はとても希少で、金があっても買えないのだ」

朽木家の財力をもってしても買えない代物なのだと、苦笑する。

「でも、文字をかいたり、触れることはできるって・・・・・」

「今はそれすら危うい。私の霊圧があがったせいで、一護に触れることができなくなっている・・・でも、今日は特別だ・・・・」

「ああ、一護の誕生日か」

「そうだ。プレゼントも、ちゃんと用意してある」

プレゼントは、チャッピーの着ぐるみだった。

うわぁ、一護、これ着ないだろうなぁとコンは思ったが口には出さなかった。

「誕生日、おめでとう一護。今、隊長副隊長が集まって、剣に霊力を注ぎ込んでいる。絶対に、もうすぐ貴様は霊圧を取り戻す」

そうしたら。

何を話そう?何をしよう?

ルキアは、眠っている一護の頬に手をあてて、そっと触れるだけのキスをした。

「貴様と、私は、歩む道が違う。きっと、結ばれない。それでも・・・・・・・」

それでも。

私は貴様のことが好きだ、一護。


そう言葉を飲みこんで、ルキアは懐から霊圧がない者でも見える手紙を机の上に置いた。

そして、机の上に置かれてあった、この前一護にところにきた時に渡した手紙の返事の手紙を懐に大切そうにしまう。

「またな、一護」


いつか、道が違うとしても。

重なり合った心は消えない。

築きあげた絆は断ち切れない。


それは、朱い糸に似ている。

運命を、こえて。

たくさんの障害物を粉々に打ち砕いて。


いつか、きっと。

お前と、共に、永遠を。


たとえ、道が違おうとも。

運命をこえて、走り出せ





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ムキムキ再び

「ムキムキになる薬をぜひ。ムチムチじゃなくってムキムキになる薬を・・・・」

実験で忙しそうな涅マユリには言わずに、副官である涅ネムに、今度こそムキムキになる薬をと頼んでくる浮竹。

「さっきから騒々しいネ。浮竹隊長、一体なんなんだネ」

「ああ、涅隊長!ムキムキになる薬がほしいんだ。この前みたいな、ムチムチになる薬じゃなくって、ムキムキになる薬が・・・・・・・!」

この前、涅ネムがマユリに、浮竹隊長がムチムチになる薬を所望していると訴えられ、悪戯心もあって美女になれる薬と作ってやったというのに、それでは満足できないらしい。

当たり前だろう。

浮竹はムチムチの美女になりたいのはなく、バッキバキに腹筋の割れたムキムキになる薬が欲しいのだ。

「そんなにムキムキになりたいなら、ちゃんと食事をとって筋肉トレーニングをしていれば、自然とムキムキになるだろニ。それでは、不満なのカネ?」

「何度もちゃんと食事をして鍛錬した。でも、ムキムキになるどころか、発作で倒れて体重は減るわ、痩せるわで・・・・・・・・」

ムキムキになれないのだ。

バッキバキに割れた腹筋とか、一度でいいからなってみたいと熱弁すると、涅マユリは浮竹にぽいっとなんかの薬を渡した。

「ムキムキになれる薬だヨ。副作用には注意だがネ」

「ムキムキになれる薬!ありがとう、涅隊長!」

浮竹は、風のような早さで去って行った。


さっそく薬を服用してみた。

「養命酒の味がする・・・・・」

この前、日番谷隊長にもらった養命酒を思い出す。お菓子をあげすぎたせいか、怒った日番谷が皮肉の意味で送ってきた養命酒であったが、普通に浮竹は喜んでもらっていた。

「・・・・・・おおおおお」

エネルギーが、体に漲る。

筋肉がもりもりと、浮き上がってくる。本当に、浮竹はムキムキになった。その姿を京楽に見せたくて、雨乾堂を出た瞬間、ぽんっと音がして全身の筋肉が消えた。

「・・・・・・・・・あれ?」

念のために、薬の瓶の奥に入っていた説明書を読む。

「限定時間ムキムキになれる。効き目は個人別。ただし、副作用で子供の姿になる」

「ええええええ!?」

体が縮んでいく。ぶかぶかの死覇装と隊長羽織を着ているのがやっとの状態で、10歳くらいの子供の姿になっていた。

「清音!清音~~~!」

「はい隊長~おおおおお!?なんですか、そのかわいらしい恰好は!」

「また、薬で体がバグった。すまないが、日番谷隊長のところにいって、服を借りてきてもらえないか」

今の体で一番近い死神といえば、身長が133センチしかない日番谷だろう。私服も子供用だし。

清音は、なんとか日番谷の死覇装を手に戻ってきた。ただし、日番谷本人と松本も一緒に。

「やーんかわいい浮竹隊長!」

「うっ」

神々の谷間に押しつぶされる浮竹。

「子供になったっていうから、嘘だと思ってついてきてみれば、本当だったとはな・・・」

日番谷は、笑いをこらえていた。

同じ目線になった浮竹と、背の比べいあいをする。浮竹の方が若干高かった。

「くそ・・・・負けた」

「勝った・・・・・・じゃなくって」

いそいそと、日番谷の死覇装に着替えながら、浮竹は声を低くした。

「京楽には、内緒にしておいてくれ。あいつのことだ、俺がこんな姿になったと知ったら、きっと大変なことに・・・・・・」

「僕が、なんだって?」

にーっこりと現れた京楽に、浮竹は脂汗を浮かべた。

「浮竹の霊圧がすごく強くなった後に、急激に弱くなったから、何かおこってると思ってきてみれば・・・・・・まぁまぁ、かわいい姿になっちゃって。また、涅隊長の変な薬でも服用したのかい?」

こくこくと、無言で浮竹は頷いた。

女体化してしまったときは、交わっては元に戻れないと書かれてあったため、なんとか操は守れたが。

さすがに、子供姿になった浮竹に情欲はしないだろう。いくら京楽でも。

京楽は、軽々と浮竹を抱き上げた。

「肩車しようか?」

「いや、普通に接してくれ」

「無理でしょ。めっちゃくちゃかわいいからね」

雨乾堂の池に映る自分を見てみる。腰までの位置の長い白髪に、緑の瞳の・・・見た目は、髪のせいで思いっきり女の子だった。

「黒髪には、戻らないのか」

髪が白くなったのは、もっと幼い頃だ。

8歳頃だろうか。

日番谷が、浮竹にペロペロキャンディーを差し出した。

「食うか?」

こくこく。

頷ずくと、日番谷に頭を撫でられた。なんだか妙な気分だ。

「やーん、隊長、そうやってしてると京楽隊長と兄弟みたい。白髪と銀髪と髪の色も似てるし、瞳も緑色でおそろいだし」

松本は、絶えずきゃーきゃーと騒いでいた。13番隊の清音もいい勝負だが、松本にには勝てないだろう。

「わかめ大使だ。食うか?」

日番谷に好物になったわかめ大使を渡されて、また浮竹はこくこくと頷いた。

頭を撫でらる。

「少し、浮竹の気持ちが分かる気がする・・・・・・・」

日番谷に、お菓子を与えて撫でてくる浮竹の気持ちを。

「とにかく、その姿のままでは、これから何か任務がある時に支障をきたす。いつもとに戻れるのか、分からないのか?」

日番谷の問いに、浮竹は飲んだ薬の瓶に入っていた紙をまた広げた。

「副作用は、2日間続きます・・・・・・」

「やーん、浮竹隊長、現世にいって服かいにいきましょ!絶対かわいいの似合うから!」

「いや、いい。涅隊長のところにいって、元に戻れる薬がないか聞いてくる」

瞬歩をしようとしたが、できなかった。

仕方なく、京楽の腕の中に納まる。

「涅隊長のところへ。瞬歩でだ」

「はいはい」

京楽は、浮竹を頭を散々なでまわして、それから瞬歩で12番隊隊舎にやってきた。

「おや、珍しいお客人だネ」

「涅隊長。浮竹を元にもどす薬はないかなぁ?」

「ないネ。2日で自動的に戻れるからネ。解毒薬とかそういうのは一切つくってないヨ」

「だそうだよ、浮竹ぇ」

「もういい。雨乾堂に帰って、元に戻るまで閉じこもる」

世話は、清音と仙太郎がしてくれるだろう。

「勿体ない。子供なら、飲食店も半額だったりするよ。流石にお酒は飲ませれないけど」

飲食店が半額ときいて、おなかが減っていたのでわかめ大使を貪り食っていた浮竹が、問う。

「甘味屋もか?」

「うん、そうだろうね。いつも君がいってる店、12歳(見た目)以下は半額のはずだよ」

「そうか!」

浮竹の目が輝いた。

日番谷と松本も誘って、4人で甘味屋にいき、思う存分食べた。流石に今回は自腹だったが。

残った時間を、京楽が見守る中、子供目線で流魂街を彷徨い、同い年くらいの少年少女たちと仲良くなった。

2日という日数は、あまりにも早く過ぎてしまった。

大人に戻った浮竹は、あんな風にはしゃいで遊んだのは、肺の病を患う前のほんの幼い頃なので物足りなさを感じていた。

「もう少し、小さいままでもよかったかもな」

「勘弁してよ。大好きな君に、キスさえできない。何かしたら、性犯罪者になっちゃう」

「ははは・・・・・確かに、あんな子供の姿の俺に手を出したら、性犯罪者だな」

「そうでしょ?」

雨乾堂で、寄り添いあう。

子供の浮竹は活発で、元気があった。

だが、大人の浮竹は、落ち着いていた。元気はあるが、子供独特のものではない。

まだムキムキになれる薬は残っていたが、京楽が中身を捨ててしまった。

「子供は、純粋に残酷だよな」

幼い頃、遊び友達がたくさんいた。肺の病で血を吐いたとき、みんな悲鳴をあげて逃げ出した。

髪の毛が真っ白になった時、老人みたいだと指をさして笑ってくる。近づこうとしたら、病気がうつるからあっちへいけと石を投げられた。

院生時代にも、一部の上流貴族から、病がうつるかもしれないから近づくなと言われたことがある。

「君の白いその髪・・・・・・僕は、大好きだよ?」

「俺は、嫌いだ・・・・・・」

「君の髪からは、甘い花の香がする・・・・・・・」

京楽の肩に、頭をもたせかけて、浮竹は目を閉じる。京楽の動きがわかる。

触れるだけの口づけをされて、浮竹は目をあけた。黒い瞳と視線がぶつかり合う。

「愛してるよ、浮竹」

「俺も愛している、京楽」

二人で、寄り添いあう。



比翼の鳥のように。

ただ、静かに。














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椿の狂い咲きの王

昔、王がいた。

その名を、狂い咲きの王。

冬に咲く、椿の姫を娶った。

やがて、椿の狂い咲きの王と呼ばれた。









「お前は朝顔に似ているな。瞳の色が、庭で咲き乱れる水色の朝顔にそっくりで綺麗だ」

まだ、髪が黒かった頃、幼馴染の少女にそういうと、少女は嬉しそうに照れて、いつも浮竹の後ろをついてきた。

肺の病にかかり、病気がうつっては困るのだと、少女の両親は浮竹から少女を遠ざけた。浮竹は髪が真っ白になった。

治ることのない病をかかえた浮竹を、少女の両親は汚いものを見る目つきで見ていた。我が子をそんな目で見るなと、浮竹の両親は少女の両親と縁を切った。

ほんの幼い頃の記憶・・・・・少女の名前はもう忘れてしまった。

でも、庭に植えて咲き乱れていた水色の朝顔と同じ瞳をもった少女に、確かに恋慕していたと記憶している。

今思えば、あれが初恋だったのだろう。

「どうしたんだい、浮竹」

「いや・・・・ちょっと、昔のことを思い出して」

京楽を酒を飲み交わしていた。

なんで、今のタイミングでこんな幼い頃の、忘れていた記憶が甦るのだろうか。

紫煙をくすぶらせる京楽の、煙草のにおいは嫌いではなかった。多分、どっちかでいうと好きなんだろう。

京楽からは、いつも酒と煙草と、あとなにか香水でもつけているのか、柑橘系の香りがした。





「たまには、気分を変えて飲みに行こうか」

高級の居酒屋に行くのかとおもったら、廓だった。

酒と豪華な食事が用意されていた。

しゃりんしゃりんと、簪の揺れる音がする。

座敷に通されて、数人の遊女が浮竹と京楽の元に侍った。

「気に入ったのなら、どの子でも、手を出していいよ」

冗談だろう。

浮竹は京楽を見た。

京楽は、珍しく酔っているらしかった。

「もっとも、僕がその前に君をさらっていくけどね」

やっぱり、冗談だった。

確かに、美しい女性と飲む酒はうまかった。少しアルコール度の高い酒を飲みほして、すみっこで震えている遊女に声をかける。

「そこの君。怖がらなくていい。何もしないから」

「でも護廷13番隊の隊長さんでありんしょ?わっち、とても勇気がでないでありんす」

たどたどしく、遊女の言い回しをする女性は、思ったより年がいっているらしかった。他の遊女が10代後半~20代前半なのに比べて、30代の終わりと見てとれる遊女は、けれど美しかった。

その美しさは、他の遊女にはないものがあった。

「朝顔?」

瞳の色が、すごく稀な水色していた。

「君、朝顔か?いや、名前を覚えてなくて悪いんだが・・・・・その、俺は浮竹十四郎という。君、僕の幼い頃の幼馴染に似て・・・・・・・」

「シロちゃん?シロちゃんなの!?」

そうだ。思い出した。あの朝顔の水色の瞳をもつ少女は、いつも浮竹のことをシロちゃんと呼んでいた。

遊女は、名をカナといった。

なんでも思春期に両親を亡くし、莫大な借金が残った。年頃の彼女は貴族というわけでもなく、当たりまえのように冷たい世間に翻弄され、借金のかたに廓に売られ、廓を転々としては体を売ってきたのだという。

「お前を、身請けする」

気づくと、そう口にしていた。酒を飲みながら、二人の様子を見ていた京楽は、浮竹の言葉に驚いたようだった。

「でも、借金がかなりありんす・・・・・」

「俺が、なんとかする」

自然と、京楽を見てしまった。目と目があって、状況を理解したらしい京楽は、どさりともっていた金子を見せた。

「こんなに・・・わっちを身請けしてもおつりが出るでありんす・・・・・」

ごくりと、遊女の喉がなる。

「京楽・・・・・すまない、一つ貸しになる。甘えてもいいだろうか?」

「浮竹のためなら、金子を出すなんてさほど大したことじゃない。ただ・・・・・・」

遊女を身請けした場合、その妻か妾になるのが当たり前。大抵が妾で、別宅で囲うのだ。

「結婚することも、妾にすることも許さない。浮竹、君は僕のものだ」

侍っている遊女を蹴散らして、浮竹の元までくると京楽は浮竹と舌が絡み合うほどの深い口づけをした。

「ばか、こんな女性たちが見ている前で何を・・・・・・・」

「君たちもわかってるよね?浮竹に手を出したら・・・・・殺すよ」

カチリと、斬魄刀を見せる。京楽は本気だった。

元々、こんな廓に連れてきたのは京楽だというのに。女を買う廓で、女を買うどころか遊女が手をだしてきたら殺すのだという。
なんという矛盾だろうか。

「わっちは、どうなるでありんすか?」

カナは、京楽の殺気に震えていた。水色の瞳に涙をためて。

「カナちゃんっていったっけ。まともな金額の結納金をあげるから、どこかに嫁ぐといい。いい嫁ぎ先、探してあげるから」

浮竹が身請けするのだ。その後の人生まで世話をしてあげないといけない。

金を与えて放り出すこともできるが、それは浮竹が許さないだろう。

「そうだ。ねぇ、君たち、浮竹をね・・・・・・」

ごそごそと、遊女たちと話をする京楽の声は、こっちまで届かなかった。

遊女たちは、面白そうに、あるいはびっくりしたように反応して、最後は京楽の見せる男の色香にやられていた。



「こっちへ来るでありんす」

「足元に気をつけて」

カナのことは話がついた。明日には、身請けをして一時は浮竹の元にくるだろう。そこから、上級貴族の京楽の手で、嫁ぎ先を探させる。おそらく、下級か中級あたりの貴族の妻になるのだろう。

「さぁこっちへ」

誘われるままに、奥の座敷に踏み入ると、浮竹は隊長羽織と死覇装を慣れた手つきで脱がされてしまった。

「ええ!?ちょっとまってくれ!」

制止の声も空しく、襦袢姿にされる。そして、それも脱がされ、女ものの襦袢をまずは着せられた。

「!?」

何枚も女のものの着物を着せられて、手を引かれる。遊女たちは、白粉を浮竹の顔に塗るか塗らないかで、喧嘩しだした。結局、肌が元から白いので、白粉はなしにされた。

綺麗に整った足と手の爪を、綺麗に紅色でぬって、長い白髪を編み上げて、いくつもの簪で彩りを加える。

最後に、その桜色の唇に紅をさして、遊女たちは満足げに溜息をこぼした。

「わっちらより美しいでありんす」

「本当に」

「さすがは京楽様の想い人でありんす」

手鏡を見せられて、浮竹は天を仰ぎたい気持ちになっていた。

何故、京楽が廓に連れてきたのかが分かったというものだ。始めから、こう企んでいたのであろう。

「恥ずかしいなこれは・・・・・」

足元がスースーする。簪をたくさん飾った頭が重い。

浮竹は、花魁の恰好をさせられていた。



「京楽様、できたでありんす」

「いやぁ、ありがとう。・・・・・・・ほんとに浮竹かい?」

「俺以外の誰が、いるというんだ」

花魁姿の浮竹は、磨き上げられた立派な遊女に見えた。

女装姿・・・・・しかも花魁の恰好にさせられて、浮竹は気分を害していた。

「褥は、奥の部屋にありんす」

その先にまつものに、赤面する。

「それでは、わっちらはこれで。酒は置いておくので、好きにするといいでありんす」



カナも遊女も、去ってしまった、

浮竹はぷんすか怒っていた。まずは、それをなだめるのに必死な京楽。

「酒を注げ」

命令口調で、大きな杯に酒を注がせると、一気に飲み干した。

「酔わなきゃ、やってられん」

女装の趣味などない。何が悲しくて、花魁姿にさせられねばならないのか、納得がいかないようだった。

「いろんな浮竹を見てきたけれど、今宵の浮竹は本当に綺麗だね」

「そんな台詞で、ほだされるとでも思っているのか」

「思っていないけれど、本当に綺麗だよ・・・・・・・」

唇が触れるだけの口づけをされる。それから、京楽は酒を口に含むと、口移しで浮竹に飲ませる。

「この廓は、色子も置いてあるんだよ。その姿で見世に出れば、女も男も関係なく、人が群がるだろうね。想像するだけで、嫉妬心で身が焦げそうだ」

「こんな姿のどこが・・・・・・あっ」

首筋をきつく吸われて、痕を残されれる。見える部分で痕を残されるのが嫌いな浮竹は、京楽の手に噛みついた。

「痕を残すな・・・・・・」

綺麗に整えられた爪は、紅色に塗られていた。手入れをしていないが、爪は綺麗に伸びていて。

指先を口に含むと、浮竹は長い睫毛に彩られた瞳を伏せた。

「春水」

「愛してるよ・・・・・十四郎」

触れるようなキスを何度も繰り返す。

浮竹の鼓動の音が聞こえる。

京楽は少しずつ花魁の着物をはいでいく。帯をしゅるるとはずせば、最後に真紅の女物の襦袢があった。

「見るな・・・・・・」

手を交差して、目を塞ぐ浮竹の手をとって口づける。

「あっ」

襦袢の中に、手が入ってくる。全身の輪郭をたどる手の平の動きに、意識が集中してしまう。

何度も口づけられる。

「ん・・・・・っ」

舌と舌とをからませあい、お互いの唾液を混ぜて、歯茎をなめて口内を蹂躙する動きに、呼吸が早くなる。

「あっ」

胸の先端をやわやわともまれ、きつくつままれた。知らない間に性感帯にされてしまったその場所は、じんじんと疼いた。

「く・・・・・・」

もう片方を舌で転がされて、 声がどうしても漏れる。それがいやで、指を噛んでいると。

「声、我慢しないで聞かせて?」

そう京楽が甘く囁いて、指にキスを落とした。

膝で膝を割られる。

もうすでに限界なのだと主張する京楽の雄が、臀部にこすりつけられて、びくっと体が反応した。

「んっ」

内ももをはう手が、刺激で少し反応している花茎を手でしごいていく。

「あ、あ、あっ」

直接の刺激に耐え切れなくなって、浮竹は啼いた。

口に含まれ、じゅるじゅると唾液をすりつけられて、鈴口を吸うように舐められると、限界を迎えて射精した。

びゅるるるると勢いののった体液が、京楽の口の中へ。それを見せつけるように飲み込まれて、浮竹はこくりと喉を鳴らした。

「んっ」

潤滑油を手に塗り付けた指が、つぷりと内部に侵入してくる。はじめは1本。次に2本。最後に3本。

指をくわえこんだ蕾は、与えられる刺激に歓喜していた。

「・・・・・っ」

内部を解すように動いていた指が、前立腺をかする。そのもどかしさに、浮竹は涙をにじませる。

ぐりぐりと、前立腺をすりあげられると、飲み込み切れなかった唾液が褥に零れた。

「力抜いて?」

「やっ、そんな大きいの、無理っ」

浮竹の倍以上はある京楽の雄は、今にもはちきれんばかりだ。

「大丈夫、馴染ませるから。力、ぬいててね?」

「いっーーーーーー」

いくら潤滑油の力を借りれているといっても、本来はそんなことに使う器官ではないのだ。排除しようとする動きは、中をしめあげるのに似ていた。

「いった・・・・・・」

京楽は、馴染ませるといった通り、しばらく動かなかった。

「中が、吸い付いてくる」

「やっ、しらないっ」

ずくりと、腹の中で京楽が弾けた。

「?」

いつもなら、何度も突き上げてから果てるのに、今日はどうしたのだろうかと思う浮竹が、京楽を見る。

「君の中がよすぎて、いっちゃたよ。お互い、気持ちよくなろうね?」

「やめっ」

浮竹が抗議の声を出すのも無視して、京楽は動き出した。限界にまで広げられた内部を、何度もこすりあげていく。

「やあっ・・・・・・」

前立腺をすりあげられて、浮竹は啼いた。

「あ、あ、あ」

ぱちゅんぱちゅんと、浮竹の腰に京楽は雄を押し付けて内部を侵す。最奥を突き上げると、浮竹の翡翠の瞳から生理的な涙が零れ落ちた。

それを唇でなめとって、またぱんぱんと音がなるくらいに交じりあう。

「あーーーーーーーーーーっ」

浮竹が、前立腺をこすりあげられたことで、白い体液を弾けさせる。その根元を、京楽が手で戒めた。

「やっ、いきたい。やだっ、やだっ。いってるのに、侵さないでっ」

浮竹の鎖骨のラインにそって舌を這わせて、京楽は思い切り突き上げた。

「っ!」

手の戒めを解放すると、びくびくと浮竹の体が痙攣した。

オーがムズでいかされることを覚えた体は、精液を吐き出すことと中をいじられることで同時にいってしまっていた。

「やああ、もうやだぁっ」

ぐずぐずに、内側から溶けていく。

「っ」

どさりと、体を反転させられる。

浮竹の綺麗な背骨のラインを、舌がはい、指がなでていく。

髪を梳きあげられる。

ほんの刹那に見せられた優しさに、浮竹はぐすぐすになって溶けていく。

「もう一回、いいよね?」

「無理っていっても、するくせに!」

「ご名答」

体位が変わったことで、ごりっ内部をえぐる箇所がかわる。深く深く挿入されて、浮竹は声も出なかった。

「っ」

「おいで・・・・・・・・」

騎乗位になった。浮竹は、その体位があまり好きではない。

「やっ、奥までくるっ」

軽いとはいえ、浮竹も男だ。自分の体重で京楽の雄をかるがると飲み込む蕾がいやで、首を振る。

「これ以上、くるなっ、あ、ああっ!!」

下から何度も突き上げられて。簪が落ちていく。綺麗に結い上げられていた髪が、動きの激しさに耐え切れず、零れ落ちた。

宙をまう白い髪が綺麗だと、京楽は思う。

「好きだよ、十四郎」

「あっ、あっ!~~~~~春水っ!」

腹の奥で、京楽が弾けるのがわかった。じんわりとした熱が広がっていく。

京楽の形を覚えこまされたそこは、潤滑油と互いの体液がまじりあって、濡れていた。

「女の子みたいだね、十四郎?こんなにここを濡らして・・・・・」

「やっ、知らない!」

もう交わるのはいやだとばかりに、浮竹は京楽が去ってもまだ火照っている体を見られないようにと、女ものの襦袢で体を隠す。

足首を掴まれた。

ちゅっと音がなるキスがされる。

「あと1回・・・・ね?浮竹も、まだ熱をもっているようだし」

「いやだっ!」

拒絶の言葉も構いなしに、また京楽のペースで侵されていく。

「この性欲の塊がっ!」

最後は、浮竹がもてる力をふりしぼって京楽に頭突きをしたことで、呆気なく終わった。



廓の湯殿をかりた。

死覇装で見えない場所にいくつも痕を残された。

「んー」

京楽の手で、髪を洗われるのは好きだった。

「お姫様、どうかご機嫌なおして」

「誰が姫だ、この性欲の権化がっ」

ぷんすかと、浮竹は怒っていた。女装させられただけでも頭にくるのに、男なのに同じ男である京楽に好きなようにされて散々啼かされたのだ。

「腰と尻が痛い」

「もんであげようか?」

「どこさわってる!このどすべがっ!」

「ぐげっ」

京楽の鳩尾に、肘をたたきこんで、浮竹はちゃぷんと湯船に浸かる。

ぶくぶくぶく。

意識を飛ばしたのは、いった瞬間くらいだ。後は熱にうなされたかんじに近いが、けっこうはっきりと覚えている。

今日中には、カナを身請けにこなければ。交わったあと少し眠ったので、もう朝方だ。仮眠もといりたいので、廓にくるのは昼過ぎでもいいだろう。

体を清めて、伸びている京楽を無視して、浮竹は湯殿からあがった。

「・・・・・・・・・椿?」

死覇装の上に、椿の花が置かれていた。

「もうそんな季節か・・・・・・」

冬も、大部深まった。

くすくすと、子供の笑い声が聞こえた。色子になる前の子供たちの声だった。その輪に交じってしまうと、憐憫から子供たちを欲望の手から救い出したくなってしまうだろう。

だが、浮竹の財力には限りがある。

等しく接することもできない。一人だけなら救い出せるかもしれないが、その子を育て上げる自信もない。

隊長羽織まできちんと着ると、京楽が湯殿からあがってきた。

「おや・・・・それは、椿かい?かしてごらん」

椿を京楽の手に乗せると、京楽はそれを白い浮竹の髪に飾った。

「椿のお姫様だねぇ」

「バカをいうな。さっさと、雨乾堂に戻るぞ」

京楽のすねを蹴った。

「あいて。本当に、君は足癖が悪いなぁ」

体重が軽く体力に限りがある分、拳では不利で、威力の高い蹴りを主体とした体術を学んだ。

お陰で足癖が悪いと京楽に言われるがが、どうでもいい。

浮竹の白い髪に飾られた椿は、真紅の色をしていた。






                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        
昔、王がいた、

その名を、狂い咲きの王。

冬に咲く、椿の姫を娶った。

やがて、椿の狂い咲きの王と呼ばれた。











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死というもの

志波海燕が死んだ。


13番隊がどれだけ揺らいだだろう。

「隊長・・・・ありがとうございました」

礼をいって、部下を見殺しにした上官に微笑むように。

「朽木・・・・すまねぇ」

まだ、入ったばかりの朽木ルキアに全てを背負わせるように・・・・・・。

浮竹は揺らいでいた。

自分の決断が、間違っていたのではないかと。




海燕の葬儀は、静かに執り行われた。

海燕の、葬儀に訪れる者は少なかった。

朽木ルキアも、そして浮竹十四郎の姿もなかった。

仙太郎と清音が、かろうじで出席していた。

もしも、その場に朽木ルキアと浮竹十四郎の姿があれば、志波家の者が通さなかっただろう。

妻の都と同じように、白い花で包まれた棺が、火葬されていく。

霊圧を完全に殺して、浮竹は天に昇っていく煙をただ見ていた。

「海燕・・・・・俺は、お前を・・・・・・・」

大切にしていた。家族のように。本当の兄弟のように思っていた。

だが、海燕が浮竹に向けてくる想いは違っていて。


ずっと、気づかないふりをしていたのだ。

それなのに、海燕は最期まで浮竹を責めなかった。

「すまない、海燕・・・・・・・・」

黙祷を捧げた。祈るように。



「浮竹?」

雨乾堂にやってきた侵入者にも気づかずに、浮竹は書類を見ていた。

「・・・・・・・・・ああ、どうした?」

遅まきに、それがいつもの京楽だと気づいて、顔に無理やり笑みを刻む。

「無理、してるでしょ?」

「してない」

「してる」

「してない」

「最近、ちゃんと寝てる?」

「寝ている」

「嘘だね」

悪夢でうなされて、深い眠りにつけないでいる。まどろむような浅い睡眠の合間に、大切な副官の死を見せられて、うなされる。

「俺は・・・・」

「今は、ただ・・・・何も考えないことだね」

そんなこと、言われても無理なのだ。

頭を、いつも海燕のことがよぎる。

ふと後ろを振り向けば、いつものような飄々とした姿で、隊長!と懐いてきそうで。

「俺は間違っていたのだろうか」

「海燕君は、満足して死んでいったんでしょう?なら、間違ってなんてないよ」

「お前は、他人事だからそう言い切れるんだ」

「そうだよ。僕と海燕君は、他人だからね」

「お前!」

浮竹の胸倉を掴みあげる。怒りに震えた手は、けれどすぐに力なく落とされた。

「なんだい。怒るなら、怒ればいい。感情を殺すのが、一番よくない」

「俺はっ!」

全てを包み込むように、京楽は浮竹を抱き締めた。

「なに・・・・・・・」

目隠しをされて、浮竹が戸惑う。

「今は、何も考えないで。ただ、悲しいなら悲しめばいい。それが、あの子への手向けになるだろうから」

「京楽っ」

浮竹は、京楽の手に噛みついた。

それから、京楽の喉と肩にも噛みついた。

犬歯をたてて。

「僕でいいなら、ついていてあげるから、思い切り悩めばいい。悲しめばいい。怒ればいい」

「京楽っ」



それは死という別れ。

誰もが経験するもの。

ただ、それが理想とは違った。

部下の死を、望んだわけではない。だが、部下が望むままに死なせた。

浮竹の苦悩は止まらない。

「京楽っ」

京楽の名を呼んで、噛みつくようなキスを何度もして。

浮竹は、その日久しぶりに深く眠った。不思議と、海燕の死の夢は見なかった。


やがて、13番隊全体に海燕の死が、馴染んでいく。


浮竹は、それから数十年の間、副官を置くことばなかった。

浮竹にとっての副官は、志波海燕であったから。

何度、副官の推薦があっても、応と答えず否と答えた。

やがて、成長した朽木ルキアが、副官の座につくまで。本当に、百年近く副官の座を空席にしていた。

「朽木、期待しているぞ」

「はい、浮竹隊長!」

今ではもう見なくなってしまった、海燕の夢。昨日、久しぶりに海燕の夢を見た。朽木と海燕と浮竹と京楽で、酒を飲み交わしている夢だった。

夢の中の海燕は、昔とかわらない表情で笑っていた。

いつか、そっちにいったらたくさん謝ろう。

そして、副官でいてくれたことにたくさんの感謝をしよう。

死というものが、来るときまで、それまでは待っていてほしい。


海燕。

どうか、待っていてはくれまいか。



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子猫

ごほごほと、咳込むのはもう何度目だろうか。

真紅の血を吐いて倒れて、もうそれから5日目になるか。高熱もでていて、氷枕はすぐに溶けてしまう。

「すまない、京楽・・・・・・・・」

いつものように、雨乾堂に遊びにきていた京楽は、遊び相手が寝込んだことで、自然と看病することになってしまった。

「頼みがあるんだが」

「なんだい、なんでもいってごらん」

「体をふいてくれないか」

「ああ、いいよ」

いつもは清音や仙太郎にしてもらっているのだが、京楽があまりにも暇そうなのもあって、京楽に頼むことにした。

「服、ぬいで」

はらりと、着物を脱ぐと、白い肌が露わになった。

「いつみても、白い肌だね」

肩甲骨から背骨のラインがあまりにも綺麗だったので、背中をふいてから指でラインをたどると、浮竹はくすぐったそうにしていた。

白い髪をかきわけるので、首の後ろもふいてやった。背中をもう一度丹念にふいてから、しなやかな筋肉のつく胸から腹をふく。

手足をふいて、体中ふきおわると、次に桶を用意した。

ちゃぷんと、湯が音をたてる。

「ゆっくりでいいよ」

浮竹が、桶に頭をひたす。

真っ白な長い髪が、湯の中で広がった。

軽くシャンプーをつけて頭皮を中心に洗う。

長い髪を洗うのはけっこうな大仕事で、毛先まで丹念にあらい、桶の湯をかけて泡を注ぎ落すと、さっぱりしたのか浮竹が満足そうに微笑んだ。

「ありがとう。きもちがいい・・・・・いつもすまない」

綺麗好きな浮竹は、寝込んで風呂に入れないのが嫌いだった。だから、意識があるときに体をふいてもらったり、髪を洗ってもらったりする。

風邪をひかないようにと、ごしごしとタオルで髪の水気をふきとられる。

「何か食べるかい?お腹すいてるでしょう」

食欲はなかったが、何かを食べないとだめだ。薬をのむためには、胃に少しでも食物をいれておいたほうがいい。

「おかゆ、もらってくるね」

京楽が、13番隊隊舎に出かけて行った。

しばらくして帰ってきた京楽の手には、おかゆの入ったお椀があった。おかゆの他に漬物もついている。

焼いた鮭の切り身がのったおかゆは、それなりに美味かった。

「ええと、食後の薬がこれで・・・解熱剤と・・・あとは・・・・・・」

いつもは自分で管理している薬箱。

熱のせいで、なんだか世界が白く染まっているようであやふやで、なんの薬を飲めばいいのかわからなかった。

「これとこれとこれ飲んで」

渡される薬を口にいれて、白湯で飲み干すと、ほろ苦い味が広がった。

「苦い・・・・・」

「漢方薬だからね」

解熱剤を飲んで、少しだけ眠ってしまったらしい。



「きょうら・・・く?」

姿が見えないので、不安になって布団から這い出す。

「まだ起きちゃだめでしょ!」

浮竹の寝ていた布団のちょっと離れたところで、京楽は地獄蝶から通信を受けていた。

「京楽・・・・・・」

甘えるような声で、京楽の名を呼ぶと、彼は苦笑して浮竹の額に口づけた。

「虚が大量に出たそうだ。ここから近いらしいから、片付けてくる」

「京楽・・・・傍に、いてくれ・・・・・」

甘えてくる浮竹に、京楽は後ろ髪をひかれる思いで、彼を置いて出撃した。13番隊も、清音と仙太郎を中心とした主だった面子が出撃した。

数刻もしないで帰ってくると、浮竹は雨乾堂の外にいた。

「熱、下がったのかい?」

額に手をあてると、まだ高熱が続いていた。

「だめでしょ、ちゃんと寝てなきゃ」

「京楽がいないから・・・・・・」

まるで、子供だ。

熱のせいだから仕方ないのだけど、浮竹は高熱をだすとたまに甘えてくる。

「ほら、解熱剤もう1個飲んで」

白湯と一緒に渡されたそれを、浮竹はゆっくりと飲んだ。

こくりとなる白い喉に、噛みつきたい衝動に駆られる。

いけないいけない。

目の前の浮竹は病人だ。手を出してはいけない。

浮竹を寝かしつけて、京楽は浮竹に触れるだけに口づけをしてから、離れた。

「早く元気になってね、浮竹」




次の日には、高熱を出していたのが嘘のように、熱が下がっていた。
肺病からくる発作も収まっていて、久しぶりに浮竹は死覇装に隊長羽織を着て、池の鯉に餌をやっていた。

「浮竹、無理はしないでね?」

「大丈夫だ。それより、昨日もしかして俺は、お前に甘えていたか?もしそうならすまない」

いい年をした大人が、みっともないと、浮竹は恥を覚えた。

「いや、全然甘えてなんかなかったよ」

嘘を囁くのは本当ならいけないことだ。



でも、それで傷つかずにすむのなら、僕は君にいくつでも嘘をつこう。

むしろ、甘ている君はとてもかわいいので、つい手が出したくなってしまう。

悪い癖だ。


「午後からは、自由かい?」

「ああ・・・仕事は、明日からにしろと清音と仙太郎がうるさいので、今日は暇だ」

「久しぶりに、甘味屋にいかないかい?」

甘味屋と聞いて、浮竹の目が輝いた。

「もちろん、行く。その前に、軽く湯あみをしてくる」

「髪、一人で洗うの大変でしょ。僕も一緒にはいるから、洗ってあげる」

別に、下心があるからそういったわけではない。

浮竹と共に過ごす時間は多くて、一緒に酒を交わしたり、食事をしたり、仕事をしたり、鍛錬したり、風呂で汗を流したり。

とにかく、一緒にいる時間が長すぎて、一緒に風呂に入るのもごく自然の成り行きだった。

「浮竹」

「?」

「いや、なんでもないよ。元気になってよかったね」


本当は、昨日のように甘えられるのは大好きだ。

そのまま押し倒すことは流石にできないけれど。浮竹の我儘を聞き入れるのも好きだ。

浮竹は、まるで子猫だ。

暖かさに釣られて、すり寄ってくる。そのくせ、気が乗らない時はかまってあげようとしても逃げていく。

「浮竹は、子猫みたいだね」

「は?」

「いや、なんとなく」

「お前のほうが、よほど猫に近いぞ?気まぐれで飄々としていて、自由だ」

そういわれるとそうかもしれない。

二人で雨乾堂に備え付けられていた浴槽に入り、汗を流した。浮竹は白い長い髪を、京楽に洗ってもらった。

そのまま髪をタオルでふいて、水分をとって完全に乾かしてから、新しくだした衣服を身に着ける。

久しぶりの甘味屋だと、浮竹は嬉し気にしていた。


「あら~浮竹隊長じゃないですかー。京楽隊長と一緒に・・・デートかしら?」

甘味屋にいくと、松本と日番谷がいた。

「松本、うるさいぞ。黙って食えんのか」

日番谷が甘味屋にいるのが珍しくて、浮竹は日番谷の隣の席に座った。

「日番谷隊長が甘味屋にいるなんて、珍しいな」

「松本に無理やり誘われた」

それでも、松本に付き合ってあげるだけでも優しいというものだ。

「京楽、俺の隣でいいか?」

「ああ。席はどこでもいいよ」

まだそんなに混んでいないので、浮竹と京楽は好きなものを注文して、日番谷と松本と談笑しあう。

他愛のない、一日が始まろうとしていた。

浮竹がいつまでも元気でいればいいのにと、京楽は思うのであった。






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桜に染まりゆくを

その日、浮竹は学院にこなかった。

約束をしたわけではないけれど、無断欠席なんて珍しいなと、京楽は思った。

浮竹と知り合ったおかげで、学院に通うのも好きになった。授業をさぼると、いつも浮竹が迎えにきてくれた。

迎えに来て来るのを待つために、わざと授業をさぼることがあるくらいだ。

京楽にとって浮竹は、もはや居なくてはいけない、大切な人だった。この想いは、まだ浮竹に伝えていない。

浮竹に知られてはいけない。

知られたら、今までの関係がすべて壊れてしまう。

ガラス細工のように繊細に、浮竹に触れる。浮竹は翡翠の瞳で、京楽を静かに見ているだけで、京楽の狂おしいまでの想いに、まだ気づいてはいなかった。




その日の授業が全て終わった。

同じ特進クラスであるが、浮竹が無断欠席するなど普通はありえない。

浮竹の友人たちが

「浮竹のやつ、どうしたんだろう?」

「もしかして、倒れてたりして」

などと悪ふざけで言い合っていたが、京楽はその言葉に背筋が凍りそうな気がした。

浮竹は、体が弱い。肺の病を患っているせいで、吐血して倒れることがある。熱を出しても倒れる。

「浮竹・・・・・・・」

京楽も浮竹も、実家を出て寮に住んでいた。

しかも、部屋は別々だが京楽の部屋から浮竹の部屋はけっこう近かった。


「いるかい、浮竹?」

コンコンと、浮竹の部屋をノックしても、返事はなかった。

「浮竹?」

部屋には、鍵がかけられていた。

そっと、集中してみる。浮竹の霊圧の低さに、はっとなる。感じる浮竹の霊圧は、今までにない以上に弱っていた。

「君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽ばたき・ヒトの名を冠す者よ!真理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪をたてよ!破道三十三 蒼火墜!」

扉を、破道で破壊するとけっこうな音がした。

焦げ臭い匂いを無視して、中に入ると、浮竹は寝台の上にいた。意識をなくし、倒れていた。

「浮竹!」

寝台のシーツは、吐血したであろう浮竹の血で血まみれだった。

真っ赤な色は、少し黒みを帯びていて、少し乾燥していた。多分、昨日の夜中にでも発作を起こしたのだろう。

丸一日、誰も気づかなかったなんて。

口元に手をもっていく。息をしていない。

「嘘でしょ!?」

浮竹の軽い体を抱き上げる。胸に耳を近づけると、鼓動の音がしない。

「浮竹!」

習ったばかりの破道で、浮竹の心臓にショックを与える。同時に、人工呼吸を数回繰り返すと、ごほりと、浮竹が自発呼吸をした。

「ぐ・・・・・・・」

苦しそうに、顔を歪める浮竹の、還ってきた命に感謝をしながら、彼を抱き上げて医務室まで走り出した。

「早く、早く、早く!」

まだ瞬歩を自在に操れない。

自分の無力さが、いっそ憐憫を誘うほどに、虚しい。

愛しい人をこれで亡くしてしまったら、一生後悔する。

「急患だ!!」

医務室に運ぶと、浮竹はすぐに護廷13番隊の一つである4番隊の隊舎に運び込まれた。

医務室の医者では、手の施しようがなかったのだ。

友人だから特別にと、浮竹が治療を受けている間も4番隊舎にいることを許可された。

「十四郎は、大丈夫じゃ」

「山じい・・・・・」

山本総隊長が、かわいがっている教え子が危ないと知らせを受けて、駆け付けてくれた。

「しっかりせぬか春水。十四郎は大丈夫じゃ。あの子は強い。こんなことで命を落としたりはせぬ」

浮竹は、集中治療室に入った。窓ガラスごしに、人工呼吸器と点滴の管が見える。それが痛々しくて、その日京楽は寮の部屋に戻らなかった。

山本総隊長に怒られて、なんとか学院には顔をだしたが、昼すぎになると浮竹のいる4番隊隊舎の病室にやってきては、まだ目覚めない浮竹の白い髪を撫でた。



一週間が過ぎた。

浮竹は、目を覚まさないが、病状は安定したとのことで、普通の病室に戻されていた。

「・・・・・・・・・ここは?」

翡翠色の瞳が開いた。

「僕がわかるかい、浮竹」

「ああ・・・また俺は発作を起こして倒れたのか」

「君ね!ただ倒れたなんてことですむレベルじゃなかったんだよ、今回は!」

京楽は、浮竹を抱き締めた。

「京楽?」

「死んでしまうかと思った」

「俺は、こんなことでは死なない」

「手のひらから砂が零れ落ちていくように、君がいなくなってしまうのかと思った」

気づくと、京楽は泣いていた。

ぽたぽたと、浮竹のいるベッドのシーツに広がっていく涙に、京楽はただ黙して浮竹を抱き締めた。

「好きなんだ。君のことが。狂おしいほどに」

「京楽?」

ガラス細工の浮竹。

触れると壊れてしまいそうな。

その浮竹に、自重していた想いを吐露してしまった。

ああ。

浮竹との関係も、ここで終わりかな。

そう思えばとても寂しくはあるけれど、浮竹が生きていてくれるだけで十分だと思う自分がいた。




涙は自然と止まった。

「君が好きだ、浮竹。きっと、君は拒絶するだろうけど、君を愛している」

その細い体を抱き寄せて、触れるだけの口づけをすると、京楽は部屋を去ろうとした。

「待て、京楽!」

浮竹の目を見つめ返すことができない。

「げほっげほっ・・・・・・・待ってくれ・・・・・・」

吐血はしないが、咳込んだ浮竹を無視することができず、浮竹の傍に近寄ると、その白い髪を手にとって、口づけた。

「僕は、君が思っている以上に、君に固執している。この感情が何なのか、自分でもわからない」

「俺は・・・・・京楽。俺はお前の想いに答えてやるとしたら、簡潔に答えをいおう」

まるで、判決を裁かれる時のような錯覚を覚える。

「こたえはイエスだ。傍にいてくれ、京楽」

京楽は、浮竹の言葉を何度も脳裏で反芻する。

歓喜。

ただ一言で表すならば。

世界が色づいてみえる。これは真実なのかと、自分のほっぺたをつねった。

「頬が痛い・・・・・浮竹、夢じゃないんだ、これ」

顔を輝かせて浮竹に頬ずりをする京楽。

「ひげが、痛い」

「ごめんごめん」

「俺も、京楽、お前のことが好きだ。・・・・・ただ、その」

「なんだい?」

「いきなりキスはないだろう!」

浮竹は真っ赤になっていた。それがかわいくて、京楽は白い頬に口づけた。

「君は、菓子のように甘い・・・・・それを味わうのは、当たり前でしょ?」

「ごほっ・・・・・」

「浮竹」

「すまない。続きは今度で・・・・・・ごほっ、ごほっ」

酷く咳き込む浮竹のために、4番隊の隊員を呼びにいく京楽。

ともすれば拒絶されるかもしれなかった。

しかし、満ちた感情は明るい。



「もう少し、寝るよ・・・・おやすみ、京楽」

薬を飲まされて、催眠作用のあるせいで、浮竹はまどろんでいく。

完全に眠りにおちた浮竹の姿を見届けて、京楽は寮の自室に戻った。



それから2週間。

退院した浮竹は、いつものように学院で授業を受けていた。京楽はさぼりだ。

「京楽?京楽はいないのか・・・・・・・?」

授業を教えてくれる教師が、浮竹を呼ぶ。

「浮竹、京楽を連れて戻ってこい」

完全に、教師から京楽がいないと浮竹を出せば戻ってくると理解されていた。



「京楽、ここにいたのか」

のどかな春の季節。

桜散る大木の下で、どこでくすねてきたのか酒を飲んでいる京楽の隣に座る。

「君も飲むかい?」

「いや・・・・・」

ひらひらと舞い落ちる桜が、京楽の杯に色を添える。

風が吹いて、桜がざああぁぁと散っていく。

桜の雨に、肩より少し長くなった白い髪が、一緒に流れるように動く。

「酒はそこまでだ。授業に戻るぞ」

「えー。もう少し、二人でここにいようよ」

「授業をさぼるわけにはいかないだろう。放課後なら、好きなだけ付き合うから」

その言葉に、京楽は黒い瞳を輝かせた。

「その言葉、覚えておくからね?」

「好きにしろ」

桜色に、人生が染め上がっていく。

桜に染まりゆく、京楽と浮竹。





「ああ、今年も咲いたね」

桜の大木を見上げて、京楽は特別講義に浮竹と学院にきていたのだが、何百年たっても色あせない光景に、目を細める。

「学院時代は、よくこの桜の木の下で、酒を酌み交わしたね」

記憶もまた、色あせない。

桜に染まりゆくを。

「今度、ここを借りて花見でもしようか」

浮竹の提案に、京楽もそれはいい、そうしようと、すでに授業のことなど頭から離れ気味だ。

「いっとくが、授業の講師として呼ばれたんだ。ちゃんとしろよ」

「はいはい。山じいの目もあるし、がんばりますよっと」


桜に染まりゆくを。

儚くも雨のように散りゆくを。

色づいた世界は、かくも美しき。













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