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僕は子猫。

にゃーお。にゃあん。

にゃあにゃあ。にゃーお。

鳴き声をあげて、人のご機嫌をとって今日のエサにありつく。

おかしいな。こんな予定ではなかったんだけど。この前まで、ゆらゆら揺れるお魚の人生を歩んでた。
同じ熱帯魚に生まれ変わったロックオンとの間にいっぱいいっぱい子供を作って、天寿を全うしたんだけどさ。

「お、にゃんこだ」

すれ違い様に、緩くウェーブのかかったブラウンの髪の男性に抱き上げられた。

「ふぎゃーーー!!!」

一瞬ロックオンと見間違えた。でも僕には分かった。

違う違う。

あなたはライル!!

僕が探しているロックオンは、同じ名前でもニールのほうなの!

「野良猫かな。よし、お前うちの子になれ。ちょうど兄貴んちに引っ越したばかりでなんか物足りなかったんだよな」

「ふにゃあああ」

人生なるようにしかならない。

ニールが猫になってるかどうかもわからないし

この人がライルってわかったのは直観かな。見た目も前の時とほとんど変わらないし。

も、もしかするとこの人の兄がニールだなんて可能性もある。媚びをうっとこう。

「にゃーお」

子猫な僕は、できるだけ愛想を振り撒いた。

子猫でいられる時期も限られてるし、その日暮らしの野良猫ニャン生はどうも厳しい。

「にゃお。にゃあー」


僕は、ライルに抱き上げられて、自宅に連れていかれ、高そうなマンションの上階に住むことになった。

「よお、お帰りライル。猫なんかつれてきたのか」

「ああ兄さん。いいだろ、どうせこのマンション動物飼うのOKだし」

「にゃあ」

僕は飛びついた。

もちろん、ニールに。

ニールがはにかんで、小声で僕の耳に囁く。


「せっかくまた一緒になれると思ったのに、お前猫なのかよ」

「にゃーあ」

それでも。それでも。

貴方に会えただけで、僕は幸せです。

僕はずっと貴方を探していました。

野良猫の人生ならぬニャン生を送りながら、来る日も来る日も、貴方に会えることだけを考えていた。

ああ、ほんとにずるい。神様ってずるい。

ニールは人なのに、僕は猫だなんて。

神様なんて最初から信じていないけどさ。

でも、貴方に例え子猫と人間という差があっても、出会えて幸せだ。

ニールは、僕の頭を何回も撫でて、弟のライルと一緒に、僕を飼うための必要なアイテムを買いにペットショップへ。

「にゃあん」

置いてかないで。

僕はそう鳴いたけど、言葉は不思議と通じるようで、ニールは車の中に残ってくれた。

「名前、ティエリアでいいよな?」

「にゃおん」

もちろんだとも。

僕は、ニールの膝の上で丸くなって尻尾を揺らしながらニールに甘えまくった。

つ、次こそ。

一緒に人になって結婚してやる。

だから、それまでは僕は子猫。

にゃおん。

猫でいるのも、まぁ悪くはない。ニールがそばにいてくれるから。

とても幸せだ。

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僕は熱帯魚

ゆらゆらゆら。

水槽の中で泳ぐ僕は熱帯魚。

綺麗な水と、新鮮なエサで綺麗な色を浮かべて泳ぐ僕は熱帯魚。

ゆらゆらゆら。

半月に一度は水を全部変えられて、いつでも新鮮な水の中で泳いでる。

ほら、僕の蛍光色の色が綺麗だから人がよってきたよ。

僕は小さいけど、他の熱帯魚よりも色が綺麗だから。

小さい子供なんかは、ずっと僕を見てる。

でも最近は、隣の水槽の子が僕をずっと見てる。

同じ種類なのに、鮮やかさは僕のほうが上。

なんで一緒の水槽じゃないんだろう。

僕より少し大人しめの色だけど、同じ種類のお魚なのに。

ねぇ、買われていくなら一緒がいいな。

だってそうでしょう?

あなたは僕のパートナーになるんだから。

あなたはいつでも求愛のダンスを僕に見せている。それに僕は魅入ってしまった。



「あの魚と隣の水槽のこの魚をください」

「かしこまりましたお客様。少しお待ちください」


パシャン。

ゆらゆらと揺れる水草の近くから、網ですくわれて僕は小さなビニール袋の中へ。

隣の気になってたあの子も、同じく網ですくわれて僕のいる小さなビニール袋の中へ。

お客様と呼ばれた人間は、僕たち2匹を購入した。


「やぁ。やっと会えたね」

「ああ、やっと会えた」


僕たちは、喜びの踊りを小さなビニール袋の中で交わす。

店員が袋に空気をいれて、器用に蓋をして、僕らは揺られて買われていく。


僕たちは、巡り巡り今では小さな熱帯魚。

ゆらゆらゆれるお魚さ。


でも変わらない。

あなたを愛しているから。

あなたに愛されているから。


この命が尽きて、また生まれ変わるならもう少し自由のきく生き物がいいな。

ねぇ、そう思わない?

ゆらゆらゆら。

熱帯魚も悪くないけれど、水槽が別々だったもの。

僕は言葉もしゃべれない。

でも泳ぐことで意志は伝えれる。

ゆらゆらゆら。

僕は熱帯魚。貴方も熱帯魚。

二匹して、誰とも知らないお客様に買われていくの。

でも、その先には一緒の水槽があるだろうからとても嬉しい。


「ロックオン、やっとまた会えましたね。ニールと呼んだほうがいいですか?」

「どっちでも好きな方でいいさ。ティエリア」


僕たちの運命はまた巡り巡り、やがてまたヒトへと変わるだろう。

だけど今はただの熱帯魚。

ゆらゆら揺れて、綺麗な色で人を楽しませる。いつかまた、ヒトになったら今度こそ結婚式をあげたいな。

だって前のヒトだった頃は、ロックオンは僕を残して逝ってしまい、僕はとても悲しんだ。僕は数年後ヴェーダに意識を少し残して朽ちていった。

だから、さ。    
 

















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そんなある日

どこまでも吹き抜ける青い空だった。白い羊雲が緩やかな風に流されて、陽光は優しく大地を包んで、芽吹く命たちに平等に光を与えている。さわさわと揺れる緑の音が耳に心地よい。
空を仰ぐと、眩しい太陽が目に焼きつく。

「な~ティエリア~~~」

少し間の抜けた声で、ロックオンは自転車のペダルをこぎ続けるティエリアに声をかける。
チリリンと軽快な音をたてて、自転車は舗装された道路の真ん中をこぎ続けていく。

道路の両側には麦穂が金色の波となって揺れている。
続く道路の先は終わりが見えず、地平線にそって真っ直ぐに続いている。

「なんでしょう、ロックオン」

ティエリアのこぐ自転車の後ろに腰かけたまま、ロックオンはぼーっと空を見上げた。

「天気いいなー」

「そうですね」

チリリン。

自転車の音がやけに大きく聞こえる。
普通なら体格的に、後ろにティエリアが乗るべきなのだが、ティエリアが自分で自転車をこぐといって聞かなかったので、ロックオンが消去法で後ろに乗っかる羽目になった。
自転車は頑丈なものを選んで買った。

ティエリアとは背中合わせの格好で、自転車の後ろにまたがっている。

空が青かった。

ただそれだけのことが、まるでいつもの戦闘におわれる日々の日常を忘れさせてくれる。

雲が白かった。

当たり前のことであるが。

「どこまで行く気なんだ」

「道がなくなるまで」

「なんだよ、それ」

ロックオンは笑って、ティエリアに、自分が被っていた帽子をポスンとかぶせる。

「わーわー!前が見えない!」

それはティエリアには大きすぎて、目の前がふさがって自転車は大いによろけて地面とぶつかった。

「大丈夫か?」

「もう、悪戯はよしてください」

「悪かった。今度はやっぱり俺がこぐよ」

「どちらでも、お好きなように」

怪我は二人ともなかった。ロックオンが自転車がよろめいた瞬間には飛び降りて、横倒しになる自転車とティエリアを支ええていたから。

いつでも、ロックオンはまるで騎士(ナイト)みたいだと、二人を見る人たちは言う。
ロックオンはティエリアだけの騎士だって。

言葉にされるとティエリアは真っ赤になって否定する。

そんなことはない、と。

だったら、守られるティエリアはお姫様だろうか。

周囲の人は頷く。

でも問われると、そんなこと絶対にないと真っ赤になって否定する。どっちの場合もロックオンはにやにやして、相手に合わせるのだ。

ティエリアはそんなロックオンが、嫌いではない。

中性であるが、女のようにエスコートされることにもう慣れてしまった。けれど、戦場ではしっかりと男として見てくれる。だから、否定しない。
中性というありえない性別。両性具有でもない中途半端な体。性別を持たずに生まれてきたくせに、女性に似た器官を備えた体のことをティエリアは大嫌いだった。

でも、ロックオンと肌を重ねるごとに、中途半端な中性に生まれてきてよかったと思うようになる。

「ほら、後ろに乗って」

「はい」

チリリン。
自転車の音がする。

さわさわと揺れる麦穂は、光を浴びて金色の波となって何処までも続いている。

ロックオンと背中を向い合せにして、ティエリアは口を開いた。

「麦畑綺麗ですね」

「綺麗にはえそろった草だろ」

答えに、噴き出してしまった。

「なんですかそれ。こんなに金色に綺麗に揺れているのに」

「だから、綺麗な生えた麦って草。速度あげるぞ」

ロックオン曰く、綺麗に生えそろった草は、金色にさざめいている。
風が少しでてきた。
ティエリアは、ロックオンから渡された帽子を浅く被り直して、太陽に微笑んだ。

今日も一日平和だな、と。



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弁当だよ人生の危機

「はい、僕の愛のこもった弁当です」

ギギギギギギ・・・・ギギギ。
壊れかけた機械時計のような音を立てて、ロックオンは振り向いた。

「はははは・・・・・・あ、ありがとよ」

らんらんと鼻歌まで歌って、上機嫌でキッチンで何かしているとは知っていたけど、新聞紙を広げて見ないふり、聞こえないふりをしていた。
ティエリアが、キッチンに立つ。
それはロックオンにとって、愛を試される試練の時でもある。

なるべく自分がキッチンに立って、食事はロックオンがティエリアの分まで作っているのだけれど。
けれど、朝起きるとそこにはもう、エプロン姿のティエリアが立っていた。

自分が作ると言ったのだが、彼はどいてくれなくて。彼女といってもいいようなそんな容姿のティエリアは、エプロン姿でエビを・・・・・・エビフライにするつもりだったのだろう。なぜか油にではなく、そーめんのつゆを煮えたぎらせて、そこにマヨネーズとプリンと、大根をつっこんだ鍋にえびをいれていた。
水分は沸騰してぐつぐつと音を立てていた。
他に何を入れたのか分からないのだが、まるで魔女の鍋の中身のような煮えたぎる音と、匂い。そしてティエリアは夕飯に出すはずだったエビを、煮えたぎるマグマのような鍋にぼちゃぼちゃいれまくっていた。
それも全て見ないふりをした。

そうして2時間が経過した。

ドロドロの物体を弁当箱の一番下にいれて、その上にライスをいれてかきまぜ、生のえびをぶちこんでいた。
見ない、見ないと決めていたのに、気づけば新聞紙に穴をあけて、ティエリアの致命的な料理を、固まったままロックオンは見ていたのだ。


「できました。どうぞめしあがれ」

異臭。
ぱかりと弁当箱をあけられた瞬間、鼻がつんとして涙が出まくった。ティエリアはなぜか平気らしい。
緑のスライムのように蠢く、何か分からない物体が、一段目の弁当に入っている。

「これは、ジャボテンダー弁当です」

「へぇ。そうなんだ」

「ジャボテンダーさんの味がするように、葉緑体をたくさん混ぜておきました」

ど、どうやって?

つっこみたいけど、とりあえずここから逃げ出さないと。


でも、にこにこにこと微笑むティエリアの眩しいばかりの笑顔に、ロックオンはつられて笑み返し、弁当箱を受け取って、彼の目の前で食べる羽目になっていた。

「ちょっと、ごめん。刹那に電話してくる」

携帯を取り出し、ティエリアから離れてとなりの部屋にいき、刹那に電話を入れる。

「ああ、俺ロックオン。ああ、ニールのほうな。頼む・・・・・・2時間しても連絡が、もう一度そっちに行かない時は、救急車よろしく」

「またか」

先月もじゃなかったか?と嫌そうに聞いてくる刹那の声が遠い。

「ロックオン。さぁさぁ、食べてください」

携帯をとりあげられて、ずるずる引きずられてキッチンに戻った。こんな時のティエリアは、やけに力があって、本当にその細い体のどこにそんな力がと問いたくなる。

「ああ、弁当ありがとな。いただきます」

涙をだらだら流しながら、ロックオンは感涙したのではなく、煙に目をやられて泣いているだけなのだが、ティエリアから見れば泣かれるほどに嬉しいのだとしか見えなかった。
緑の蠢く物体をスプーンですくい、ロックオンは意を決して口の中に入れた。

そして。


いつものように、2時間後、刹那に連絡がいかずに救急車で病院に運ばれるロックオンの姿があったという。


「おかしいなぁ。今日こそ、葉緑体を活性化するエキスの開発に成功したはずなのに」

搬送されるロックオンに付き従いながら、首を傾げるティエリアの姿があった。

「う、うまれる!」

「ロックオン、元気な男の子生んでくださいね!」

「う、うまれ・・・・うまれる、がくっ」


いつも、搬送されるたびに「うまれる」とロックオンはうなされる。一体どんな味であったのか。何かがうまれそうな味なのは、多分、確実だ。

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え、うませちゃった?

しつこくも夏季休暇である。もう秋も深まり始めたのに、ティエリアとロックオンは、刹那の東京にある自宅で夏季休暇を取り続けていた。
それだけ今、彼らは暇なのだ―――言ってはいけない言葉である、それは。

刹那はトレミーでの生活を続けている。時折ふらりと、東京の我が家にやってきては家に何日か泊まり、またトレミーに帰っていく。アレルヤは、東京で刹那の自宅の近くに家をかりて、ペットショップでバイトを始めている。

どれをとっても、ソレスタルビーイング所属のパイロットたちがする行動ではないのであるが、まぁ暇なものは暇であって、休暇を長くとっても支障がないほどに、武力介入の余地がなさすぎる平和な世の中であるのは、いいことだ。


ある日の朝、ティエリアは顔を蒼白にして、ロックオンをベッドに押し倒して、そしてその頬を往復ビンタして、泣き伏した。

「ほんとにうまれました。浮気もここまでくると酷いです・・・・・・」
「はぁ!?ちょっとまて、産ませてないから!俺が誰に産ませたっていうんだ。ジャボテンダーか!?」
「いいえジャボテンダーさんはそんなふしだらな女ではありません」

女なんだよな。ティエリアがいつももっているあのジャボテンダー。
ジャボ美だかジャボ子だか・・・・名前忘れまった。
まぁ名前は置いておいて、それがうんだんじゃないとくると、何が産んだのか。

「あ・・・あ~~~?」

ロックオンは、そこではたと気づいた。
あまりに長い夏季休暇なので、少しくらいペットを飼ってもいいと思い、パンダマウスなる小動物、ハムスター系だけれども立派なねずみであるものを、ペットとして今飼っているのであった。
アレルヤがバイト先で分けてもらい、それを譲り受けたのだ。刹那の家を引き払う頃には、里親を見つけなければいけないが。トレミーで動物を飼うことは禁止されているためだ。

アレルヤが言うには、ペットショップの先輩にあたるバイトの人が里親になってくれるそうなので、安心してそのパンダマウスをペットとして家族に迎えて18日目。ほんとに産まれたのである。

もしかしてと、パンダマウスを飼育しているケースの小さなハウスの屋根をとると、そこには3匹の小さな赤ちゃんがもぞもぞと動いて、母親になったパンダマウスの下でミューミューと元気に鳴いていた。

「産まれてる・・・・そっか、ペットショップではオスメス両方同じケースに入れてたのか・・・・だから、この家にきたときにはもう妊娠してたんだな」
「酷い!パンダマウスと浮気して産ませるなんて!」
「いや、だからお前さん俺の話聞いてたか?そもそもこんなちっこいねずみにどうやって産ませるんだよ、俺が!」
「あなたの絶倫ならできそうです。おとつい寝かせてくれなかった・・・」

顔を赤らめながら、俯きがちに凄いことを言うティエリア。

「いやいや。俺が産ませたいのはティエリアだけだし?」
ベッドのところまで、不機嫌そうなティエリアの手を引いてくると、真剣な表情で押し倒して、唇を重ね合った。
隣のベッドでは、ティエリアのジャボテンダーがそれを見ている。

「ミューミュー鳴いてかわいかったです。無事育つと、いいですね?」
疑いが晴れたロックオンは、ほんとにマウスの父親にされたらどうしようと内心、疑いがそのままだったらティエリアを口説きまくるつもりでいたのだが、安堵しながらティエリアの紫紺の髪を撫でる。

数は増えてしまいそうだけれど。トレミーに戻る頃には、里親に出さなければならない。それまでに、無事に育ってくれればいいなと、一生けん命子育てをするパンダマウスを見て、二人は無言で笑み合うのであった。


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それじゃない

「ロックオン、それとってください」
「はいよ」

いつもの食堂での出来事。昼食をとりにきた二人は、いつものようにカウンターの席に座ってBランチを注文した。
ロックオンの隣にティエリア、その隣にはジャボテンダー。
ジャボテンダーの席の前には、いつもの如く、彼が飲むとティエリアが定義づけたメロンソーダがしゅわしゅわと、炭酸飲料独特の音を立てている。

「違う。これじゃない。それっていったら、ソースでしょう!」
「それっていったら、塩だろ!?」
二人は、いつもの仲の良さはどこにやら、いがみ合うが、すぐに元の調子に戻った。

カチャカチャと、フォークやスプーンが動く音だけが定期的に響いた。

「ティエリア、あれとってくれ」
「はい」
「おい、これコショウじゃないか!あれっていったら、醤油だろ!」
「あれっていったら、醤油かマヨネーズかジャボテンダーさんでしょう!」
「最後の選択肢、なんか違うくね?ジャボテンダーB定食にかけるのか!?かけれるのか!?」
「かけれます」
真剣な顔で、そう頷いたので、その場にいたロックオンを含めたアレルヤ、刹那、他のクルーたちまで、そうか、ジャボテンダーって、料理にふりかけて食べることできるんだとか、阿呆な納得をした。

ジャボテンダー汁かな?
緑すぎて更に苦そうな汁だな?
案外美味しいかも?

人それぞれが、脳内で阿呆なことを考えている昼。

「あっちのあれとってください・・・・違う、もう、どうしてロックオンは!」
「おう、なんだ!」

立ち上がったティエリアの怒りを受けて立つとばかりに、ロックオンも席を立った。二人には身長差があるので、背が高めなティエリアでもロックオンと目を合わせようと思ったら、顔をあげなくてはならない。

「二人とも、仲良くしようよ。ね、刹那」
「俺はガンダムガンダムガンダムだ」

刹那は違う世界にいっているらしい。戻ってくることもなさそうだ。
二人を止めようとしたアレルヤは、どうしていいのかわからずに、お決まりの台詞を決めて座った。

「ど、ドンマイ☆」

あいた~~。
いたいな、アレルヤ毎度。

その場にいた、アレルヤ以外の全ての人がそう思った。

「どうしてロックオンは・・・・・・」
ティエリアの瞳が金色になって、伏せられた。
その場にいた、誰もがあーあ、ロックオンてばティエリア泣かせた~と心の中で十字を切った。
「どうしてそんなにかっこいいんですか!」


「だぁ!」


誰もが、床にこけた。

痴話喧嘩にもならないのか、この二人は。
ロックオンといえば、満更でもなさそうに少し照れて、ティエリアの頭を撫でている。

「ありがとな。ジャボテンダーをB定食にかけても食えるように精進するわ」

無理だから。
無理無理。

皆の心のツッコミなど、恋という名の魔法に耄碌したロックオンには気づくことはないだろう。


勝手に精進してろ。
早めに昼食をとったメンバーたちが、二人の世界に浸りだしたロックオンとティエリアを残して去っていく。二
人は、仲良く昼食をとったあと、ジャボテンダーのメロンソーダをいつものように、ティエリアが飲み干して、そして食堂を後にした。
ジャボテンダーを背中にしょって、ティエリアは甲板に出るのだと走り出す。その後を、ロックオンが甘い空気を周囲に散らせながら追いかけていく。

あははは、うふふふ☆

そんなかんじだ。
どんなんだ。

一人残されたアレルヤは、二人の門出(?)を見送ってから、涙を流した。

「ドンマイ、僕」



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いい湯だなぁ

「1、10、100」
「はいはい、おとなしく100まで数えような」
真っ白なタオルを頭に乗せて、裸体のティエリアが、湯の中でじっと足を抱えていた。
お湯は桃の湯とかいうのを選んだせいで、そんな気分でもないのにピンクだ。いい匂いがする。甘ったるい、鼻孔をくすぐる桃の臭いに、湯あたりするまでの間隔が短くなりそうな気がした。

そう広くもない、部屋に備え付けのバスルームで、二人揃って入浴するのはいいが、二人揃ってバスタブに入るのには少し無理がある。
おまけに、ティエリアはいつものようにジャボテンダーを湯船の中に沈めているし。

大分、湯はそこに加重された体積の分、流れていってしまった。

「この桃の天然水好きです」
「それ飲み物だから。これ飲めないから。これは「桃の湯」だ」
「桃の天然水のお湯があったら素敵だと思いませんか。甘くて、飲み放題です」
「いや、そんなお湯に入りたくないから」
ほんと、そんな湯があったら体中べとべとして入るにも入れないだろうと思った。

紫紺の髪を、バレッタでまとめあげて、ティエリアのうなじが丸見えで、いつもは見えないそんな場所に視線がいってしまう。
中性なので胸なんか絶壁だし、女性がもつロックオンの好きな大人の色香なんか全くないティエリアであるが、ティエリアは無垢で純粋で、そしてただひたすらに綺麗だ。
色気がないわけではない。湯につかっていることで、上気した頬とか。
真っ白な肌、白皙の美貌は柔らかで、大分リラックスしていると分かる。
綺麗に整えられた爪が、ロックオンの肩に触れる。

「また、伸びてきたな。今度、切ろうな」
「爪くらい、自分で切れます」
「綺麗に伸ばしてるのに。勿体ないからだめ。俺が切る」
ティエリアに任せれば、綺麗に整えられた爪も深爪ぎりぎりのところまで切ってしまうし、おまけに長さがばらばらになるし、磨くことをしないので、ひっかかれた時にとても痛いのだ。
綺麗に長く伸びていても、先を丸くなるように磨いていれば、引っかかれても、痛いことは痛いが、まだ我慢できる範囲になることに気づいたのは、もう一年以上も前か。

こうしてティエリアと同じ部屋で生活しだしてから、気づいたことがたくさんある。
ジャボテンダーを風呂にいれるのだって、その一つ。
まぁ、干すのはロックオンなんだけど。

眼鏡を外した裸眼のティエリアは、視力が悪いというわけではない。イノベイターとして、人工光にも太陽光にも弱い眼球を、眼鏡で保護しているのだから。
キラリと、バスルームの光が目に入って、ティエリアは目をこすった。
「目が、痛い」
「どうした?ゴミか睫でも入ったか?」

伏せられたティエリアの睫は、頬に影を作るほどに長い。
「違います。最近ずっと裸眼だったから・・・」
「ああ、そうか」

一緒にいるようになって、気づいたこと。
彼の眼は、眼鏡がないと光に弱い。そして闇に強い。明かりもない中、彼の瞳はものを見ることができる。時折、闇夜の中で、彼の柘榴色の瞳は、まるで刹那のような真紅の光を宿して輝き、更に暗くなると金色になって、ロックオンを驚かせたことも数えきれない。
一緒のベッドで眠っていたはずなのに、いないと気付いてトレミーを探して、暗いままの食堂の奥で金色の視線をこちらに向けられたあの時。
まるで、しなやかながらも残酷な豹に睨まれた錯覚に陥った。

窓の外の星の海を眺めていたのだと、ジャボテンダーを抱きしめながらティエリアは、あの時言った。遠い遠い昔に造られた兄弟たちと、あの光を見て目覚めるのを切実に願っていたのだと。
覚醒もしていない状態で、星の光が見れたのは、きっとリンクしているヴェーダのせいだろう。

人に恋してはいけないよ。
そう教えてくれたヴェーダに離反するような形となり、結局リンクは切れて、ティエリアは激しく動揺し、生まれて初めて真の孤独にぶち当たった。
でも、気づけば一人じゃないことに、視野を広げればわかることができた。
ロックオンがいる。
アレルヤも刹那も。トレミーのたくさんの仲間たちがいる。

例え彼らが人間で、自分がイノベイターという不老の新人類でも。
その間に愛を築くとができるのだと、たとえ女としても男としてもあやふやの中性で生まれてきても、人に愛されることができるのだと分かったのだから。

生まれてきてよかったと、思う。


「ジャボテンダーさんが桃の天然水を飲みたいといっています」
水分を含んで重くなったジャボテンダーを、湯船の底から振り上げて、ロックオンをはたいた。
「あべし!」
ロックオンは、ジャボテンダーにのしかかられて、湯の中でぶくぶくいっていた。
「はいはい、風呂からあがったらちゃんと冷えてるのあるから、一緒に飲もうな」

桃の湯も好きだけれど。桃の天然水も好きだ。あの甘さと爽やかなまでの清涼感。まるで、二人の恋みたいだと、ティエリアはジャボテンダーで顔を隠して照れた。

甘いくらいに仲がよくて。でもロックオンは大人でとってもかっこよくって。それに惚れてしまって、女子学生がするような初恋の甘酸っぱさと、恋が実ったことでついてくる清涼感があるから。

「ロックオン」
「ん?」

「大好き、です」

ジャンボテンダーをバスタブから放り出して、ティエリアは手を伸ばして、ロックオンの緩くウェーブのかかった茶色の髪に、長い爪と細い指を絡めて、耳元で囁いてから、ほっぺたにキスをした。

「って、ティエリアぁぁぁぁ!?」
「ふにゃああ。湯あたりですねこれ・・・・」

ふにゃふにゃにふやけたティエリアを抱き上げようとして、彼が面倒だといってバスタオルをいつものように巻いていないことに気づいて、どこに視線を合わせていいのかわからなくなって、ロックオンは赤面する。
肌だって何度も重ね合ってきたというのに。
いつだって、気分は初恋。

腰にしっかり巻いたタオルを、ふにゃふにゃしたティエリアにもっていかれそうになって、慌ててバスルームから出ると、ティエリアを大きめのバスタオルで包み込んで、自分もバスタオルを被った。

そんな光景を、ずっと風呂場に残されたジャボテンダーさんが、「いい湯だなぁ」って顔して、見てましたとさ。

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じゃぼてんだぁ

ぶんぶんぶんぶん。
今日も元気よくティエリアは、お気に入りのジャボテンダーを投げ回し、ロックオンをそれで殴る。
殴られてもロックオンは常に笑顔か、真剣白羽どりのようにジャボテンダーをはしっと受け止める。

「万死!」

隙をついて、ロックオンの股間にジャボテンダーを思い切りたたきつけた。ロックオンは笑顔から顔を青ざめて、床に埋没した。

男性とも女性ともいいきれないティエリアの存在は、いろんな意味で神秘的で意味不明だった。
行動は子供のようにあどけなく、それでいてミス・スメラギが舌を巻くような戦術理論を展開させたり、ヴァーチャルシステムやコンピューターのプログラミングを得意とし、知能指数そのものはかなり高い。

それ故の弊害なのであろうか。
人ではない、人類をこえた存在であるティエリア。イノベイターという特殊な存在。
中性として生を受けた世界は、ティエリアにとって面白くない蒼い箱庭だった。宇宙で漂いながら、その蒼い箱庭を見下ろすのが好きだった。
ロックオン――ニール・ディランディに出会うまで、人間の温かみというものに欠けて、そして飢えていた。

床に沈没したままのロックオンを置き去りにして、ティエリアは対になっているカップを出すと、それにアッサムの紅茶を注ぎ、そして向かいの席にジャボテンダーを置いた。
柔らかな湯気が、ティエリアの眼鏡を少し曇らせる。カーディガンの裾でそれを拭ってから、アッサムの香りを楽しんだ。

「ジャボテンダーさん、どうぞ召し上がれ」
「そりゃねぇって、ティエリア」

後ろから、柔らかく抱擁されて、ティエリアは柘榴の目をゆっくり瞬かせてから、ロックオンのほうを仰ぎ見る。そして、ティエリアから手を伸ばして抱き着き、唇を重ねた。

「今日はね、少し我儘を言っていいですか」
「なんでも。俺の大切なお姫様」

ロックオンは、ティエリアを腕の中に抱き上げると、その紫紺の髪を撫でた。

「あれが、欲しいです」

ティエリアが指差したもの。
それは、窓から見える遠い、蒼い箱庭、エデンという名の地球。

「地球儀でいい?」
ロックオンは、ティエリアのためなら、世界を手に入れてもいいと思ったけれど、あの箱庭には箱庭のシステムと生命がある。誰のものにもなりはしない。

「はい。ジャボテンダーさんが眺めれるような大きさがいいです」

ようは、彼ははじめから地球を欲しているのではなく、地球儀が欲しかったのだ。
その言葉に出さない曖昧さがかわいいと、ロックオンは思う。ロックオンの首に手を伸ばして、体を委ねる。

「ジャボテンダーさん、ここからは見ては、いけません」

くすくすと、小悪魔のような囁きと微笑みに、ロックオンはいつの間にかティエリアを抱き上げたまま、寝台へと歩きはじめていたのだった。

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あ、あれ?


HPを止めないでとのメールをいただきありがとうございます。すごい励みになります。
HPが見当たらなかったってあれ、まだ前のサイトのURLはおいてあるのになぁ。
違うページにブックマークしてた場合削除しちゃったので、見当たらないかと思います(小説ページとか)


「寝ぼけてます、いつでも」


ぼとぼとぼとぼと。
ココアに入れられる、たくさんの角砂糖。
まぜまぜぜまぜ。
スプーンでかき混ぜられる。
砂糖はもう溶けることもできなくって、ココアの甘味は体の疲れを癒してくれる限界をこえて、ねっとりとしてもう何の液体が分からなくなっている。
ねばねばねばねば。
まるで納豆をかき混ぜるように、溶けることのできなくなった砂糖は、ココアの水分をすいとってねばねばとしている。

「はい、ロックオン」
「お、おう・・・」

ぼけーっと、寝ぼけ眼でココアを作られて、嬉しいのだけれどはっきりいって飲みたくない。
あまりに糖分が高すぎると、ロックオンは心の中で嘆いた。

糖尿病にならないといいけどな、俺。

とりあえず、空中で十字を切る。アーメン、俺。
渡されたのはもう手に馴染んでしまった、白い上品なティーカップになみなみと注がれた、茶色のココアだったはずの液体。
最後には、ティエリアはあくびをしながら、塩をいれてコショウまで入れていた。

料理の腕、壊滅的だけれど彼は。でも、紅茶を入れるのはうまいし、ココアをこうして飲みたいと言ってくれた時、二人分作って、優しくカップを手渡してくれるその仕草が好きだ。
朝だといつも欠伸をしている。
昨日も顔を磨いて歯を洗っていた。
どこをどうすれば、そんな器用なことができるのだと思うが、ティエリアは立ったままでも寝る。一度電源が切れたように動かなくなって、焦ったことがある。
立って、目を開けたまま寝ていたのだ。
流石にその時はドクター室に運んだけれど、ただ本当に寝ていただけだった。寝不足というわけでもない。なのに、彼はよく寝る。
そして寝ぼける。更に低血圧で、朝起きるのが億劫そうな毎日を過ごしている。

「なぁ、ティエリアは飲まねぇの?」

ティエリアの分も、テーブルの上にはある。
「ああ・・・・・・」
ふぁ~と、小さく欠伸をして彼ははっきりこうのたまった。

「これはアレルヤに飲ませてきます。作り方間違えましたから」

おい、はっきりいったな、おい!
その間違ったの、俺にも渡したよな!?
愛か!
俺は愛をためされているんだな!?

「お、おう、俺は飲める、いくぞおおお」

まるでガンダムに乗って宇宙の海に出発するような勢いで。
飲みました。


ザー。
口から、甘さが噴火したココアが流れていきます。

「ぐー・・・・・・」

真っ白になったロックオンのすぐ前の席で、ティエリアは眠りへと旅立っている。
ロックオンは愛の試練を受けたわけではなかった。そして、数分でこちらの世界に戻ってきたティエリアは、また欠伸をして、意識不明になったロックオンを乱暴にベッドに寝かせると、部屋を後にした。もう一つの作り方をミスったココアを、アレルヤに飲ませるために。

「アレルヤ、ココアを作ったんだ飲まないか」
「ああああ、またそんな恰好でトレミー歩いてるし!!」

アレルヤは顔を真っ赤にしていた。ロックオンのシャツ一枚だけ、下半身は下にパンツだけというこれまた、ベタな恰好でトレミーを歩き回った彼の後には、鼻血を出した死体が点々と残されていた。すれ違ったクルーたちだ。真っ白な肌が、華奢な肢体の曲線を美しさを余計に際立たせていた。
「ぐー・・・・」
「こんなとこで寝たら風邪ひくよ。とりあえずありがとう、飲むね・・・・・・」

合掌。
ロックしていない扉の向こう側に、カップをもったまま、アレルヤは白目をむいて倒れた。その衝撃で、数秒の眠りから彼は目覚める。
「はぁ。ロックオンの部屋に戻って、もっかい寝よう・・・・」
ロックオンがその場にいたら、ティエリアを隠してしまうような、いかにも同棲してますといった恰好で、またティエリアはトレミーを歩きだす。足が寒かったので、アレルヤの部屋からふかふかのスリッパを勝手に拝借して。
ロックオンの部屋に戻ると、彼はまだ気絶していたのであった。

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聖なる棺

撃たれた傷は綺麗に縫合され、真っ白い顔は額が割れて鮮血を流していたのを綺麗にふきとられて、頭の傷は見えないように、紫紺のサラサラとした髪をなでつけてまるで、眠り姫のようであった。
頬に触れると、彼独特の、少し低めの体温を感じられる、そんな気がした。

刹那は彼に触れてみた。
そっと、そっと壊れ物を扱うかのように。
恐る恐る手を伸ばして、頬に触れてその冷たすぎる体温を確かめてから、静かに名を呼んでみる。

「ティエリア。もう、目をあけて俺を見ることはないのか」

すでに死を迎えてしまった彼の身体は、もう器としては意味をなさない。
魂のない器など、ただの肉の塊なんだから。
でも、彼の器は生きている頃となんら変わらりないくらいに壮絶なまでに美しかった。普通は女性に施すものなのだが、唇の変色を分からないように、紅いべにをさされていて、本当に眠り姫みたいで。
薄く化粧を施された彼は、茨の森の眠り姫のようで。

でも、彼が呼吸をすることもないし、鼓動を打つこともないし、刹那と対になるような柘榴色の瞳を開けることはもう永遠にこないだろう。

ティエリア・アーデは死去した。
リボンズ・アルマークに撃たれて。ヴェーダの内部においておくしかなかったその遺体を回収できたのは、全てが終わった後だった。

「今までありがとう。俺の親友にして、愛した人・・・・・」

刹那は聖なる棺に入れられたティエリアの冷たい唇に指で触れたあと、そっと唇を重ねた。
氷みたいに冷たい温度に、少し泣きそうになった。

地上から取り寄せられたたくさんの花たちに飾られて、ティエリアは花に埋もれて、そのまま生き残ったCBのメンバーがお別れの言葉を順々に放ち、別れを惜しみ、泣きじゃくり、そしてそっと棺の蓋が閉じられた。

刹那は知っている。ティエリアがヴェーダに意識体を宿らせているのを。けれど、彼は人としては死んでしまったのだ。イノベイドとしての存在になり、もう会うこともないのかもしれない。
刹那が強く望み、ヴェーダにアクセスを試みているが、未だに反応はない。

「さようなら・・・・・」

比翼の鳥であった、友であり愛しかった恋人よ。
さようなら。

「宇宙へ・・・・流してくれ」

ハッチがあけられて、聖なるその棺は、地上嫌いな彼を地球に葬ることなしに、ティエリアの最愛の人が眠る宇宙に流されていった。
その白い棺が見えなくなるまで、皆ガラスにはりついて泣いていた。

「きっと、届くよ。お前の意思は」

それは、ティエリアの遺言のようなもの。何かあって命を落とすことがあったらなら、宇宙に遺体を流してほしいというもの。本当は灰にしてばらまいてほしかったらしいのだが、彼のあの美しい身体を灰にすることなど、刹那だけでなくCBの誰もができなかった。
焼いてしまえば、本当に永遠に、ヴェーダに宿っているはずの彼まで消えてしまう気がした。


(ありがとう。刹那、いつかまた何処かで。僕はロックオンを探す)


ふっと、脳量子波でそう語りかけられて、刹那は涙を流しそうになっていた真紅の瞳を見開いた後、小さく微笑んだ。

「そうだな。また何処かで会おう」

永遠の別れではない。
人としての離別なのだ。

彼も刹那もイノベイターとなった種。人を超越してしまった存在。
比翼の鳥は、片方の翼を失った。しかし、ヴェーダとなったもう片方の翼が、いつまでも刹那を支え続けていくことだろう。

だから、彼は眠らせてあげよう。
ロックオン・ストラトスを愛し、人間になり、恋人同士となってロックオンを失い、そして刹那との邂逅の後、人を愛するということをやめれなかった彼。
刹那を愛し、未来を背負い、人という全てをまで愛した彼を。
もう、眠らせてあげよう。
今はただ、安らかに眠れ。

愛しい愛しい、眠り姫よ。
人として愛した最愛の人と一緒に、この深淵なる宇宙で眠れ。

さようなら。そしてありがとう。


「さようなら。ありがとう。またどこかで・・・・」

刹那は制服のジャケットを着なおすと、まだ見送りを続ける皆を残して踵を返すのだった。


未来は、まだ続いてるのだから・・・・・・。

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あなたがいなくても

自分には不釣合いな、ロレックスの腕時計。
細い手首にはぶかぶかすぎて、するりと手を細めてしまえば床に落ちてしまいそうだ。

音もなく秒針を刻む腕時計を、ずっと見つめていた。
その腕時計は冷たい。手首にはめていても、今の持ち主――ティエリアの体温の温もりを反映してくれない。
普通、腕時計などの金属でできたものでも、長時間つけていれば持ち主の体温に暖められて、少しは金属独特の冷たさを失っているものだ。
でも、その腕時計はどんなにつけ続けてても、少しも温かくならない。

ティエリアの体温は、通常の人間よりやや低めであるが、それでも生きているのだから体は温かいし、皮膚に触れれば生きている人間と同じ温かみを感じることができる。

それなのに、その腕時計は、決して温かくなってくれない。
冷たいままだ。

ティエリアが唯一愛した彼・・・・・アイリッシュ系の白人男性の持ち物だ、これは。
遺品というのが一番正しいだろう。
形見というには、あまりにも忍びない。

彼は、生きてティエリアの元に戻ると約束してくれた。同じ戦場に立つ者同士、避けることのできぬ戦闘であったとは分かっている。
でも、ロックオンが最後にとった選択は、あまりにも、ティエリアを絶望に叩き落とすことしかできない結果をうんだ。
ティエリアは中性だ。女性でも男性でもない。それでも惹かれあい、ロックオン、ニール・ディランディと恋人同士として付き合っていた。それは女性と男性が付き合うのとは少し違う、まるで少年と青年が付き合うようなものに似ていたけれど、ティエリアは少年でもなかった。自我は男性のものであるが。
幼い子供のような無垢な部分をもつティエリアが、ヴェーダ以外に初めて心を開いたのが、ロックオンであった。

人を愛すること、愛される素晴らしさというものを、生まれて初めて体験した。

ほんの僅かな時間であったけれど。
幸福だった。
この瞬間が永遠ならと、祈るほどに。

「冷たい・・・・・」

全く温かくならないのが、まるで亡くなったロックオンの、頑なな意思そのものに思えて、ティエリアは仄かにピンク色なっていた唇をきつくかみ締めると、その腕時計を床に叩き落として割ってしまった。

「いらない。こんなもの、こんなものいらない!僕がほしいのは、こんなものじゃない!あなたが!あなたが、あなたじゃなきゃだめなんだ!」

顔を手で覆ったが、もう泣きすぎて涙はでてこなかった。
かわりに、枯れたような声が喉から出てきた。

「いらない。形見なんて。あなたの遺品なんて。全部、全部いらない。あなたがいない世界もいらない」

こんなことではだめだ―――そう心の中で呟いた。
まだ最後の戦闘の傷は癒えておらず、全身のいたるところに包帯が痛々しく巻かれていた。
立って歩けるくらいには回復した。
でも、まだ心の傷口は血を流し続けている。

まだ、ロックオンが死んだと、信じられないでいる。

笑顔で普通に戻ってきて、「ティエリア」と微笑みかけてくれそうな気がして。
そんな気がして、ボロボロになったトレミーを彷徨うように歩いて、ロックオンの部屋に入り、ロレックスの腕時計を戦場に出る前に、貰ったのだと思い返して、自分の部屋に戻って、大切にしまってあったそれを手首につけたけれど。

結果は、床に叩きつけられて無残な姿になったそれ。

「いらないんです。こんなもの」

拾い上げて、もう一度思い切り床に叩きつけようとして振り上げた手が、ふいに止まった。

「・・・・・・っく」

もう流れないと思った涙が一筋溢れて、床に零れ落ちた。

「何故、この世界にあなたはいないんだ!」

半ば屑折れるようにその場に座り込んだ。
壁に背を預け、長い間放心していた。」
どれくらい時間が経過しただろうか。手の中の腕時計は、割れていたけれど時を刻み続けていた。
そう、まるでティエリアのように。
壊れかけても、まだ時を刻んでいる。そして、足掻いて足掻いて生きていこうとしている。それが今のティエリア。
腕時計から目をはなす。
静謐に満ちた時間が流れた。
また、涙が溢れてきた。膝を抱えて、声もなく泣いた。

生き残った仲間たちと、行方不明のままの刹那とアレルヤの顔が順番に脳裏を横切って、ティエリアは星が瞬く窓に近づいて、最後の涙の痕を拭き取った。

「泣くのは今日で終わりだ。強くなれ、ティエリア・アーデ。彼の分まで生きて、彼がなしえなかったことを、その意思を受け継ぐんだ」

まずは、ボロボロになったこのトレミーをなんとかして、それから壊滅的な状況のCBを率いていかなければ。
リーダーが必要だ。
先を歩く者が。
指導者が。

今、なりえるのはティエリアだけだろう。生存が確認されているマイスターはティエリア一人だ。

「生きろ。泣くな。歩け。未来へ」

自分自身に命令する。
でも。
でも、まだこんなにもあなたを愛しています。
愛し続けたままでもいいですか?
あなたが右目を負傷していなければ、きっとあなたは生きていた。
これは贖罪なんです。
あなたを永遠に愛し続けて、僕はけれどあなたからもう愛されない。
でも、それでもいい。

思い出の中に閉じこもらないように。
あなたを愛しながら、歩いていく。
一度は拒絶したこの世界を。

きっときっと、アレルヤも刹那も生きている。
きっと、僕は一人じゃない。
いつか、また昔のように皆で笑いあうんだ。たとえそこにあなたがいなくとも。

さぁ歩け。
歩きだせ。

彼は少し長くなった紫紺の髪を宙に靡かせた後、部屋を後にした。彼は、歩きはじめた。

そう、仲間達のそして失った最愛の人のためにも。

歩き続けるのだ。

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夏の音

ジーワジーワと、日差しが高くなつにつれて蝉の鳴く音が大きくなってきた。
吹く風は乾いていて、じっとりとした暑さに汗を流すしかない。
遠くから、チリリンと、風鈴の音が優雅に聞こえてきた。ロックオンとティエリアは、手を繋いで、麦藁帽子を被ったまま時折民家の見える田園風景が中心となった道を歩いていく。
刹那の暮らす東京から少し離れれば、まだこうした開発されていない、緑化を心がけた政府によって森や田んぼといったものが昔ながらに形を留めて残っていた。

「暑くないか?」
「暑いです。溶けそうです。どろどろ。ああ、ジャボテンダーさんも溶けていく」

ティエリアは、背中にジャボテンダーを紐でくくってしょっていた。
そんなに重量はないのだが、今は鞄に改造されてしまっているので、ちょっとした小物が入っているのでいつもよりは少し重いかもしれない。

空を見上げれば、棚引く白い雲に紺碧の空。
そして向日葵のように優しい眩しい太陽が目に痛かった。
蝉のなく音が、緑のざわめきと一緒に大地に落ちて、反響するように耳に飛び込んでくる。
夏の音だ。風鈴も、夏の音。

「お、あそこにバス停がある。ちょっと休憩しようか」
「はい。そうしてください」

すでに夏の暑さにばてたティエリアは、麦藁帽子を被ったまま歩くペースを少し速めた。
バス停のすぐ側に、自販機を発見したからだ。
喉は、これでもかというほどに渇いている。もってきたペットボトルのお茶はもう飲み干して、一滴もなくなってしまった。
早い歩きから、次第に走りにかわっていくペース。
そして、ロックオンを置いて、バス停にくると、自販機の前にきて、コインを入れてソーダを2つ買うと、その冷たさに、自販機がここにあったことに心から感謝する。
早朝から歩き始めて、もう日は大分高く昇り、多分時間にすると午前の10時頃だろうか。
田園風景を見ながら、ロックオンと他愛もなく会話をして、自然と戯れながら歩いていたのだが、いつもは宇宙空間で生活しているティエリアには少しきつかったかもしれない。
でも、ロックオンとこうして時間を過ごせることが嬉しくて、疲れはあまり気にならなかったけれど、喉の渇きばかりはいかんともしがたかった。

「はい、ロックオン」
「サンキュー」

手渡されたドリンクをの蓋をあけて、飲み干す。炭酸がきいていて、リフレッシュにはもってこいだった。二人して、バス停の日陰のベンチに座って、ソーダを飲んでいく。

「ほら」

ひやりとした感触が、ティエリアの頬にあたった。

「冷たいです」

ティエリアは僅かに微笑んだ。
すでに飲み干してしまったソーダ。残りを、ロックオンがくれるという意思表示であった。
素直に受け取って、コクコクと喉を鳴らして残りを飲み干して、やっと一息ついた。

「もう10時か。そろそろ刹那の家に戻るか」
「そうですね。もう、歩けません」
「ごめんな。つきあわせて」
「いいえ。誘ってくれてありがとうございました。日本の夏は嫌いではありません。ただ、少し暑すぎるかと」
「確かにそうだなぁ。今年は猛暑らしいから」

全国各地で、水難事故や熱中症で倒れたり死んでいる人があいついでいると、新聞を読んで知った。
CBからもらった夏季休暇を、刹那の家で過ごすと決めた二人。とうの刹那は、勝手にしろとばかりに一人で家の中で惰眠を貪っている。
クーラーが効いた部屋で寝るのが刹那の常識。日本の夏の過ごし方。

「帰ったら、スイカも冷えてだろうし、刹那を起こして3人で食べようか」
「はい」

ティエリアはまた笑顔を浮かべるのだった。背中のジャボテンダーを背負いなおして、バスがくるのを二人でひたすらまった。
のどかすぎる時間が、平和に過ぎていく。

ミーンミーン。蝉の音が少し遠のいていた。
夏は、まだ始まったばかりだ。

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出会いは突然に①

「列車が参ります、白い線の内側までお下がり下さい」

ティエリアは、英語の勉強をするために、英語の電子辞書ノートに英語で出題された問題をタブペンで答えを書いていく。
ぼーっとしていた。
うかつだったといえばうかつだった。
今日も電車は満員だろう。

トン。

「え?」

誰からの手がぶつかって、ティエリアは気づくと線路の上に落ちていた。
この駅に止まるはずの列車がだんだん近づいてくる。全身が恐怖で震えて動かなかった。

「大変だ、女の子が落ちたぞ!」
「大変だ!」
「誰か救出を!」
その声だけが大きく響いた。

「きゃあああああああ!」

誰かの耳を劈かんばかりの悲鳴。
ティエリアは目を見開いた。
あ、こんなところで死ぬのか。人生意外とあっけなかったなぁ。学力テストのために、駅で勉強なんてしなければ良かった。

そんな考えが脳裏に過ぎり、頭に両親のことや友人のこと、今までのことが思い浮かんでは消えていく。
ああ、これが走馬灯というやつか。
そんなことを冷静に考えていた。

ガタンガタン。
列車は急ブレーキをかけて止まった。

「何やってんだ!死ぬ気か!」

気づくとティエリアは、スーツ姿の男性に駅のプラットホームの、ちょうど電車とコンクリの間の空間。僅かばかりの空間に押し込まれていた。

「あ」

今になってがたがたと全身が恐怖で震え、涙が零れた。

「ひっく、ひっく、ああ・・・」
「参ったな」

男性にしがみついて、ティエリアは泣き続けた。こんな恐怖を感じたのは生まれて初めてだ。
こうしてティエリアは救助された。翌日の新聞にも載った事件。
ティエリアを助けてくれた男性は、何も言わずに駅の、ティエリアを心配して集まった人ごみに紛れていなくなってしまった。

ティエリアは念のためにと救急車で運ばれ、一日だけ精神が不安定になりすぎているために安静をとるように入院措置がとられ、次の日には無事に帰った。

「ただいま・・・」
「おかえり。心配したよ」

居候の従兄弟のアレルヤと、隣に住む刹那が家に来ていた。

「大丈夫か、ティエリア?」
「あ、うん・・・・」

刹那に抱き締められて、ティエリアは安堵のため息をもらす。

「勉強のしすぎじゃないのか」
「そんなことないよ」

刹那とは幼馴染で、男女の垣根さえこえた親友だ。

「今夕ご飯つくるから。刹那も食べてく?」
「ああ」

ティエリアの両親は海外赴任している。
ティエリアは現在高校2年生の17歳。隣の刹那も同じ高校に通う2年生だ。刹那はまだ16歳。
アレルヤは20歳で、大学生。
両親は一人暮らしになるティエリアが心配のあまり、従兄弟に頼んで面倒をみてもらうようになって、アレルヤとの生活が始まった。
そこに、いつものように隣家の刹那が混じって、3人はまるで本当の兄弟のように仲が良かった。

「名前、聞き忘れた」
「助けてくれた人?」
「そう。お礼したいのに」
「スーツ姿だった。多分アレルヤより年上」
「ふーん。でも同じ駅を利用してるなら、また会えるかもよ?」
「そうだね」

次の日、大学が休みのアレルヤに見送られて、刹那とティエリアは一緒に登校した。
駅で助けてくれた男性を探すが、それらしい人はいなかった。
やがて学校につくと、みんな心配して近寄ってきてくれた。普段は口を聞かないようなクラスメイトまでも。

「ありがとう、みんな」
「ホームルームを始めます。それから、交通事故で入院してしまったイオリア臨時講師のかわりに、新しい臨時講師の先生がきています」

みんなざわつく。
イオリア先生といえば、もう老年なのに、でもまだまだ元気いっぱいのおじいさんだった。みんなにも好かれていた。
ガラリと入ってきた臨時教師に、ティエリアは立ち上がって叫んだ。

「昨日の人!!」
「あー!昨日の自殺少女!」

二人に視線が注目する。

「なになに、知り合いなの?やだ、講師の先生かっこいい!」

アイリッシュ系の白人の男性だった。

「誰が自殺少女だ!たまたま誰かの手にあたって線路に落ちただけだ!」

ティエリアはまくしたてる。

「はいはい、ティエリアさん、講師の先生とお話がしたいなら後でね」

ティエリアは担任に注意されて真っ赤になって席に座る。

「えーと、俺はニール・ディランディ。交通事故で足をぽっきりいってしまったイオリア先生のかわりに1ヶ月だけこの学園で英語を教えることになった臨時講師だ。よろしくな!自殺少女もよろしくな!」
明るく挨拶する。

今思えば、出会いの仕方としては、最悪な部類だったかもしれない。
誰が自殺少女だ。

ティエリアの美貌は高校内でも有名だが、告白してくる男子はあまりいない。いつも側に刹那がいるせいだ。
アレルヤから、ティエリアに変な虫はつかないようにと刹那は言われていたので、高校でも親友としていつもティエリアの側にいたし、教室移動も一緒だ。クラスメイトは二人が付き合っていると思っているらしい。

だけど、刹那には隣クラスのフェルトという学級委員長のことが好きだし、刹那ははっきりいって、男女な性格のティエリアのことなど女としてみていないだろう。
二人はティエリアの家で、高校2年なのに同じ部屋で泊まることがあるくらい仲よしだった。二人は男友達のような関係だ。

そもそもティエリアは、自分が少女であるという意識も薄い。両親は男の子を望み、生まれてきたのはティエリアただ一人。小学校まで男の子として育てられた。
紫の髪にガーネットの瞳の美少女は、外見とは裏腹にツンデレで、性格もきつめだった。

英語の授業が終わると、ニール講師をとりまく女生徒たちからニールを奪いとり、その手をむんずと掴むと屋上までつれてくる。

「なんだ、愛の告白か?」
「助けてくれたことには礼をいいます。ありがとうございます。お陰で助かりました」
清楚な少女がそこにはいた。

「いやいや。気をつけろよ?こんなに美人でかわいいんだから」
頬に触れてくる手を、うるさそうにティエリアははたき下ろした。
「あれ?」
ニールは、いつも女生徒に囲まれキャーキャー騒がれるのが当たり前と思っていた。女子高生とつきあったことも何度かある。

ティエリアは息を吸い込んで。

「誰が自殺少女だ!万死に値する。死んでこい」
それだけいうと、教室に戻っていった。

「え?万死?俺をこんなにこきおろすとは・・・面白い子だなぁ」
最悪な印象を刻んでやろうと思ったのに、ティエリアの思いとは裏腹に、ニールはティエリアに興味を抱いてしまったのであった。

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