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小説掲載プログ
03 2024/04 2728 29 30 05

彼はきたれり(3期劇場版設定)

ヴェーダへのアクセスをしなくとも、パソコンを開けるとそこには小さなティエリアの画像があり、こちらが言葉をかける暇もなく悪態をついてきた。

「暇だ。ヴェーダの中にいるのもいいが、刺激がない」
「ヴェーダを選んだのはお前だろう?」

刹那が苦笑する。誰でもない、ヴェーダと意識を共有することを選んだティエリア。けれど、情報が頭にはいってくるだけで、新しい情報もこれといって共感するものはなった。
ふっと、パソコンの中からティエリアの画像が消えた。

「ティエリア!?ティエリア?」

刹那が何度呼びかけても、ティエリアの反応はなかった。

それから3日後、なんとティエリアは生身の姿で刹那の前に現れた。
「よかった。消えたわけじゃなかったんだな」
「僕の意識、記憶の全てはヴェーダが掌握している。こうやって生身の姿になったからといって、ヴェーダから消えたわけではない」

ティエリアが、イノベイドの身体で生きるのはこれで三度目だ。一度目はリボンズに撃たれてしに、二度目は地球外生命体から刹那を守るために死んだ。

それでもまだイノベイドのままのティエリアは、イオリア・シュヘンベルグの秘密基地に何体も眠っている。3代目が死ねば、次は4代目が現れるのかもしれない。

「会いたかった。ずっと」
「変なことを言うな、君は。僕は毎日パソコンを通じて話し合っていたではないか」
「それはそうだが。やはり生身のティエリアに会いたかったんだ」

いきなり、ぎゅっと抱きしめられて、制服に身を包んだままのティエリア身じろぎした。

「今度こそ、失いたくない」
「刹那・・・・」

唇が重なり合う。

そこへ、少女の域を脱したミレイナがやってきた。

「うわぁ、アーデさんセイエイさんとラブラブですう。これはぜひ皆に知らせなけれな」
「ま、まて。ミレイナのことも忘れていない。どんな姿になっても好きといってくれたあの言葉今でも覚えている」

ミレイナは頬を染めて、いやいやと首を振った。

「ミレイナはアーデさんの一番でいたいんです。でもセイエイさんがいる限りかないません。悲しいですう」

芝居がかった行動で、いやいやと首を振るミレイナの頭を撫でて、ティエリア・アーデは再び肉体をまとって帰還したことを皆に告げるべく、刹那の手をとって操舵室に向かう。
アレルヤとライルにもたくさん迷惑と心配をかけた。

彼らには謝らないといけない。

イノベイターの上種であるイノベイドでいる限り、ティエリアが死ぬことはないだろう。肉体のスペアが続く限り。
スペアが一体なくなれば、自動的に同じDNAでできたティエリアが作られる。だから、これは永遠に続く連鎖なのだ。
それが嫌で、ヴェーダの中にいたのだけれど。
刹那に会いたくなって、スペアに宿りこうしてやってきた。

「そういえば、言ってなかったな」
「何をだ」


「おかえり」
「ああ・・・・ただいま」

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冬(1期)

寒いと思ったら、ちらちらと雪が降ってきた。
傘はもってきていない。そもそも、大嫌いな地上に降りるのだって、ロックオンと一緒でなければ拒否しただろう。

今は、刹那の家を借りている。
アイルランドのロックオンの生家には何度か行ったことがあるが、冬の季節は雪が本当によく降って、寒すぎて凍えそうな気持ちになる。
暑いのは嫌いだが、寒いのも嫌いだった。

トレミーの、一定に保たれた温度に慣れすぎてしまっているのだろう。

「待たせて悪かったな」

ロックオンが、急ぎ足でこちらに向かってくる。
ティエリアは、つんとした態度で反応した。

「別に、待ってなどいない」

待ち合わせの場所を、経済特区東京のある公園でしたのだが、寒くてティエリアは少し震えていた。いつものカーデイガン姿では薄着だった。
ロックオンはというと、装いも冬のものに完璧に着替えていた。

「ほら、寒いだろ。これ羽織ってろ」

ロックオンは、自分が着ていたコートを脱ぐと、ティエリアの肩にかけた。それはロックオンの体温で暖まっていて、肌にふんわりと馴染んでくる感触がした。

「こんなことをすれば、あなたが寒いのでは?」

「いーや、気にすんなって」

といいつつ、ロックオンの服装は、コートをとるとなんと半そでだった。見ていてこちらが鳥肌が立ちそうになる。
ティエリアは、肩にかけられたコートをロックオンに返した。

「入りません。あなたのほうが、はるかに寒そうな格好だ。

ちらつく雪は、ふわふわと宙を漂いながら天から落ちてくる。まるで神様が流した涙が凍って、それを天使たちが地上に落としていくみたいだと思った。
神様なんて信じていないけれど。

「早く帰りましょう。用事はすんだのでしょう?」
「あ、ああ。タクシーで帰ろうか」

寒いから、と、ロックオンは付け足した。

「これ、あげます」

ティエリアが、荷物から取り出したのは一対の手袋だった。ティエリアがロックオンがいない間に、店で購入した代物だった。

「奇遇だな。俺もほら」

かわいい熊さん模様の、一対の手袋が入った包みを渡される。
二人は、額をこすり合わせて、小さく笑った。

「することは、二人同じですね」
もう冬だから。

宇宙に戻れば関係のない話だけれど、地上にいる間は寒さに悩まされるだろう。早く暖房のきいたいつもの刹那の家に戻りたい。
二人はそう考えるのだった。

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さようなら(1期終了後)

「あなたは・・・・ここにはいない」

もう何度目かになる呟きを、新しいトレミーで呟いた。
ティエリアの紅玉の目は、何も映していなかった。まるで、心が何処かにいってしまったように呆けている。
涙は、もう流れない。
泣きすぎて、もう涙を流すことも忘れてしまった。
それに、泣いたところで彼が帰ってくるわけでもない。

新しいガンダムを作る作戦は、黙々と進められている。このトレミーがある場所だって、人工衛星に見せかけて作られた、CBのあじとの一つである。

「ティエリア、あけて」
その声は、フェルトだった。

クリスティナとリヒテンダールは、最後の戦いで逝ってしまった。スメラギ・李・ノリエガはCBを去って行った。ドクターモレノも死んだ。残ったのは、フェルト、イアン、ラッセくらいのものだろうか。

「あけて。ロックを解除して。お願いだから、ティエリア」

宙を蹴って、ロックを解除すると、フェルトが部屋に飛び込んできた。

「どうした、いきなり」
「それはこっちの台詞!2日も部屋に閉じこもって・・・もしかしたら、死んでるんじゃないかって、心配で心配で」
「そんな愚かな真似はしない」
「でも!」

前にも、何も口にせず、3日ほど部屋に閉じこもりっぱなしだったことがある。だから、フェルトは過保護なまでにティエリアに歩み寄る。
他のクルーはティエリアをそっと静かに置いておくのに、フェルトだけは何かある度に、ティエリアと接触していた。

「もう、泣かないのね」
そう言ったフェルトの大きな瞳から、涙が零れて宙に舞う。
それはキラキラと輝いて、人工の光に反射してとても綺麗だった。

ロックオンだけでなく、ヴェーダとのアクセスまで失ってしまった今、ティエリアは生きる意味を探していた。
今のCBに、生きる意味は見つからない。

虚無。

ティエリアを支配したのは、魂の抜け殻のような虚無感だった。

「お願いだから!ちゃんと人と会って会話をして、そして食事をきちんととって、そして眠って!」
ドンと、胸を手で叩くフェルトの柔らかなピンクの髪に、顔を埋めると、ティエリアが使っているのと同じシャンプーの匂いがした。

「お願い!何度だっていうわ。ここで朽ちないで!残ったガンダムマイスターはあなただけなの!」

「ここで朽ちないで・・・・か・・・・」

いっそ、朽ちてしまえれば楽になるだろうか。
でも、置いていけない。
残った皆を。虚無感に包まれていようとも、最後に残ったガンダムマイスターとしての責任がある。皆を守り、次の来るべき戦いに向けて歩いていかなければならない。

「泣いていいの。だから、自分を押し殺したりしないで」
フェルトは泣き続けていた。
「ロックオンが、みんなが死んで、悲しいのはあなただけじゃないって知って欲しい」
「ああ、そうだな・・・・だが、もう泣かないと決めたんだ」

じわりと、胸が温かくなった。それは、フェルトの体温によるものだ。
以前より一段と細くなったフェルトを抱きしめて、ティエリアは目を瞑った。
「みんなが心配してるの。だから、部屋に閉じこもったりしないで」
ティエリアが部屋に閉じこもっている時、食事は決して口にせず、ろくに眠りもしない生活を送っていることを、フェルトは知っていた。

放っておけない。ティエリアに立ち直ってもらわなければならない。ガンダムマイスターとして。

「ちゃんと生きて!みんなの分まで・・・・」
「彼の分まで?」
「そう。ロックオンの分まで。ロックオンが庇ってくれた大事な命でしょう。捨てるような自暴自棄な真似はしないで」
「ああ・・・・そうだな」

涙は、もう零さないと決めた。
だから、泣くことはない。

彼のことを思い出しても。

「お腹すいてるでしょ?食事にいこ。ほら・・・・」
手をひっぱられて、自然とティエリアの体は部屋の外に出た。ピンク色のカーディガンが、宙に翻る。そして、フェルトはもう一度抱きついてきた。
「忘れないで。刹那もアレルヤも、絶対生きてるから。今リーダーシップをとれるのはティエリア、あなたしかいないの」
「リーダーシップか・・・」

この抜け殻のような中身で、果たしてそれができるのだろうか。
否、しなければならないだろう。

いつまでも、過去を悔やんでいても、彼のことばかりを考えていても仕方ないのだ。

「私、ロックオンにまた手紙を書いたの」
「そうか。新しい機体はセラヴィといったな。機体テストのために、宇宙に出ることが決まっている。一緒に、その手紙を彼に・・・・・ロックオンに、渡しにいこう」
「うん」
フェルトは、ようやく泣き止んで、ティエリアの絶対的な美貌にしがみついていたのが今更恥ずかしくなったのか、頬を染めてあらぬ方角を向いていた。
「僕も書く。手紙を」

きっと、それは想いの綴った長いものではなく、簡素なもの。


ありがとう。そして、さようなら。


ティエリアが、フェルトの頭を撫でる。フェルトがびっくりしていた。
「ティエリア、優しくなったね」
「そうだろうか。昔と変わらないと、僕は思うが」
「ううん。柔らかくなった」
纏う雰囲気が、随分と柔らかくなった。昔は同じガンダムマイスターにも適正がないと、銃を向けていたのに。もう、過去の話であるが。

手紙を、ロックオンに書こう。

ありがとう、さようならと。そして、あなたの意志は受け継ぐと。

手紙を、書こう。


ロックオン・ストラトス。
僕を人間にしてくれて、ありがとう。

ロックオン、ストラトス。
もう会えないけれど、あなたは僕の心の中で生き続けている。だから、あえて言おう。

さようなら、と。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

ティエフェル?ありえないカップリングだけど1期終了直後ならありそう。
刹フェルがサイト傾向ですけど。そういや最近刹フェル打ってないな。今度アニメ見終わったら書こうかね。

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接吻(2期)

「ティエリア、よく似合っている」

刹那は、黒いドレスを身にまとったティエリアの耳に囁きかけた。ふっと息が吹きかけられて、ぞくりと背筋が泡立つ。

「そういう刹那こそ、似合っていると思うが」

黒いスーツ姿の刹那が眩しくて、ティエリアは目を細めた。
ティエリアの肩まである紫紺の髪は、上手く纏められて、いつもは見れない白いうなじに視線がついついいってしまう。

ティエリアは、今回も女装という出で立ちだが、手慣れたもので、ドレスに身を包む姿は可憐な少女以外の何者にも見えなかった。

アロウズの高官たちが集うパーティーに、ミッションのために潜入した二人は、人々の視線を釘付けにしていた。

「少し目立ちすぎだな」

ティエリアが、手に持っていた花束を握る手に力を入れる。

「大丈夫。偽の身分証も完璧なものだ。ティエリアがいるから、これだけ視線が集まるんだ」
「それを言うなら、刹那もだろう!」

ティエリアは、小さいため息をつく。

「ほら、百合の花だ。お前に似合っていると思う」
「僕は、花をもらいにこのパーティーに出席したわけではない」
「そう言うな。せっかく咲いているんだから」

刹那が、口元に百合の花をもってきて、接吻をした。それを、ティエリアに渡す。

「本当なら、ティエリアに口づけたい」
「そ、そういうことは、こ、ここで言うべきではない!」

少し紅くなって、ティエリアは刹那から貰った白い百合に接吻するのだった。そう、刹那が口づけた場所と同じ花弁に。

ミッション開始まで、あと僅かの出来事であった。

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喪服2(2期)

黒い服に赤いターバンを首に巻いて、刹那は無言でロックオンの墓の前に立っていた。備えたのは白い百合の花。
艶やかに咲いて、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。

「あんたは・・・・・間違っていない」

彼がしたことを、否定するのではなく肯定する。
家族の仇は結局うてなかったのだが、代わりに刹那がうつと、もう心に決めていた。

あの時、刹那の機体がもっと早く到着していれば、あるいはニール・ディランディはロックオン・ストラストのまま死ぬことはなかったかもしれない。だがそれは仮定の話であって、事実はどうなったか分からない。

「あんたの夢は俺が叶える」

世界から、テロを、紛争をなくすことを。
彼の代わりに、成し遂げてみせよう。そう強く心に誓う。

「そしてあんたは置いていってしまったな」

誰でもない、ティエリア・アーデというもう一人のガンダムマイスターを。ティエリアとロックオンは恋人同士だった。トレミーの誰もが知る仲の良さだった。
それさえも捨てて、命を投げ出したロックオン。
それが愚かなのかは分からない。
ロックオンのことが分かるのは、やはり彼自身なのだから。
「じゃあな。またくる」

「おっと。刹那か」

すれ違いになったのは、今のロックオン・ストラトスことライル・ディランディだった。

「今日は命日だそうだから。朝にはティエリアもきてたぜ。アレルヤと一緒に」

「そうか。ティエリアもアレルヤも、この日は忘れていないんだな」

ニールが散ってしまった敗北の日を。
誰もが忘れることができない。心に刻まれたままだ。その日の出来事は。その日のまま、ティエリアは時間が凍り付いたように生きている。それを溶かすことができるのは、今は刹那ただ一人だった。

「俺は先に宇宙に戻る。あんたはどうするんだ」

「いや、このアイルランドには生家があるんだよ。兄さんが管理してたみたいだけど、流石に無人の時間が長いと荒れるからな。ちょっと掃除とかしにいく予定だ」

「ああ・・・・それなら、ティエリアが合い鍵をもらっていたらしい。家の管理もある程度はティエリアがしていたと思う」

「そうなのか。あのかわいい教官殿がねぇ」

ティエリアになら、生家をいじられてもいいかと、ライルは空を見上げた。

「じゃあ、宇宙で会おう」

「ああ」

刹那は、止めてあった黒い車に乗って去って行った。次は、ライルが墓参りにくる番だった。

「さて、兄さん。兄さんが死んだなんていまだに実感がわかないよ。俺たち、ずっと離れ離れだったからな。今俺は兄さんの名前を受け継いでCBにいるんだ。ガンダムマイスターになったよ」

墓前にそっと置くのは、刹那が備えたのと同じ白い百合の花だった。

「こんな場面に薔薇とか、ちょっと悲哀すぎるもんなぁ。日本では菊が定番と聞いたが・・・・あいにくそんなもの売ってねーし。ここはアイルランドだしな」

ディランディ家の墓前には、アレルヤとティエリアが捧げただろう、白い薔薇の花が置いてあった。そして、さっき来ていた刹那がおいてあった白い百合の花も。

「花が重なっちまったみたいだが、ま、許してくれよな」

それじゃあな、と、ひらひら手を振って、ライルはスポーツカーに乗り込むとエンジンをかける。そのままディランディ家の墓前から消えていった。

それを待っていたのは、ティエリアだった。
ずっと、墓の近くにある休憩所で、アレルヤを先に宇宙に帰して日が暮れるのを待っていたのだ。
イノベイターであるティエリアの瞳が、黄金がまじった銀色に輝く。

「流石に命日は、皆来るな・・・・」

少しでも、彼の近くにいたかった。少なくとも、今日だけは。

「もう何度目だろうな。ここに来るのは」

季節が移り替わる前、雨が降っている中、刹那に運転を頼んでは墓参りにきた。その時捧げた花は深紅の薔薇だった。今回はアレルヤも一緒だったので、白い薔薇にした。

「今日で、宇宙に戻ります。また、来ます」

それだけ言い残して、深く頭(こうべ)を垂れた後、ティエリアは少しずつディランディ家の墓から離れていく。
首都圏までは遠いが、近くにバス亭がある。
行きはタクシーでアレルヤときて、アレルヤはタクシーで同じように戻って行った。

また、来年命日が来て、生きていたならガンダムマイスターたちは、この墓を訪れるだろう。ティエリアはもう5年以上、ほぼ季節が移ろうごとに墓参りにきている。
アロウズのこともあり、これから先はしばらく墓参りは無理だろう。

戦闘がどんどん重くなっていく。
世界は、歪んだままだ。
この世界をいつか、歪みのない世界にしたい。

ガンダムマイスターであれば、誰でも思うこと。

ティエリアは、もう泣かない。最初にこの墓を見つけた時は、号泣した。もう、涙も枯れ果てた。
5年間、たくさん泣いてきた。夢を見ては目覚めた。
もう、流す涙も乾いてしまったけれど、心は今でも泣いている。
それを押し殺して、ティエリアは空を見上げた。

夕暮れの藍色を帯びた紫の空が、純粋に綺麗だった。さわさわと緑を揺らす風に、紫紺の髪がもっていかれる。

一度後ろを振り返ったあと、目を一度閉じてから、前を向いて歩き出す。
刹那、アレルヤ、ロックオンとなったライルと、そしてトレミーの仲間と共に。

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喪服(2期)

ティエリアは、喪服の黒いスーツに身を包んでいた。
雨が降る中、嫌いな地上に降りる。目的地はアイルランド。
ディランディ家の墓の前まで、刹那が運転する車でやってきた。
手には、赤い薔薇の花。まるで、彼が流した血のような色で、鮮明すぎて目が痛くなる。彼は、きっとこんな色の血を流して宇宙に散ったのだろう。そう思うだけで、手が震えてきた。

雨が、降っていた。まるで、ティエリアの心みたいに。

しっかりしろ。

心の中で、自分自身を叱咤する。じっと見つめていた地面から、顔を上げるのもつかの間、また地面に視線を落とす。
ピチャピチャと、雨が水たまりを作る音だけが耳に響く。
天気の時にくるよりも、雨の時に来たほうが何故か心が少し落ちついた。天気の時は心がざわついて、叫びたくなる。

こんなことは、真実ではないと。

いくら否定しようが、真実は真実。
彼は、アリーアル・サーシェス、家族の仇を打つことを選んだ。ガンダムマイスターであることよりも。ティエリアも置いていった。何にも言わずにいなくなるなんて、卑怯者と罵ってやりたいけど、そんなこともできない。

「お久しぶりです。元気ですか?」

答えはないと分かっているのに、墓に声をかける。
そうすることで、彼ーーーロックオン・ストラトスがまだ身近にいるような気がして。ただの錯覚であるとは分かっている。
でも、いつも自分の近くにいるーーそんな気がした。
彼は、ティエリアの心の中でまだ生きている。鮮やかな記憶と共に。

「あなたの分までーーー」

生きて、生き抜いて。仲間と共に、世界を変革し、平和をもたらそう。

なんて傲慢で我儘な願いだろうか。それでも、ロックオンが庇ってまで守ってくれた命だ。いけるところまで、生きたいと思う。この5年間、どれほど辛かったか。
トレミーの生き残った仲間達がいなければ、きっと挫折していたに違いない。
いくらイオリアの計画を遂行するためのガンダムマイスターといえど、人間だ。ティエリアの場合イノベイターだが、人間になってしまった。それは彼のせいでもある。

人間と触れ合い、感情を覚え、喜怒哀楽を示す。それが、人間。

「またきます」

傘を片手に、墓前に薔薇の花を捧げると、一度だけ振り返る。そして顔を上げて、前を向く。未来へと歩み出すために。
刹那が運転している車に乗り込むと、刹那がピジョンブラッドのルビー色の瞳でこちらを見ていた。

「もういいのか」
「ああ。もういい。帰りも頼む」
「了解した」

一度瓦解した心は、刹那が手をとってくれたことで再構築された。心の傷は疼くが、いつまでも過去を見ているわけにもいかない。
「さようなら」

遠くなっていくロックオンが眠っているわけでもない墓に、別れの言葉を告げる。戦闘が落ち着いて、季節が変わったらまた墓参りにいくだろう。
それが、ティエリアがロックオンに対して唯一できる贖罪のような気がして。

守ってもらった、お礼を言えなかった。そのことが心残りだった。ティエリアのせいで利き目を失い、そのせいで彼は死んだ。今でも、彼が怪我さえしていなければ、ロックオンの名をライルが名乗ることなく、生きていたかもしれない。だが、そんなことを考えても杞憂に終わる。

本当のあなたは、宇宙で眠っている。でも、宇宙は広すぎて。だから、墓などという場所にくる。きっと、魂はそこで眠っていると思うから。

刹那は私服だったが、ティエリアより先にディランディ家の墓参りをすませている。私服は黒を基調としているが、赤いターバンを、マフラーのように首に巻いていた。
出身のクルジスの出で立ちに似ている。
私服になるたびに、いつもターバンを首にマフラーのように巻いていた。5年前とそれは変わらない。ティエリアも、5年前と何も変わっていない。刹那は成長し、大人になったのに、ティエリアだけ時間を止めたままだ。それがイノベイターであるせいだとも分かっている。

この体が、いつまでもつのは分からない。50年生きるのか、それとも100年をこえても生きるのか。でもきっと、いつかあなたの元へいけるだろう。
いつか、きっと。

雨に濡れた深紅の薔薇は、透明な滴を流して、それはまるで泣くことがなくなったティエリアの涙そのものであるかのように見えた。

「随分濡れたな。傘をさしていたんじゃなかったのか」
「さしていた。でも、薔薇を墓に置くとき、雨に濡れたくなった」
「風邪はひくなよ。ホテルについたら着替えろ」
「ああ、分かっている。・・・・・分かって、いるさ」

雨に打たれたら、冷えていく彼の体のように冷たくなることができるかなどと、馬鹿なことを考えていたのだ。
ティエリアは、いつも喪服を身にまとっている。
体ではなく、心が。

ロックオンの安寧を祈り。

今は、ロックオンを失った痛みを引きずりつつ、刹那と共に歩みだした。比翼の鳥のように、お互いが欠けることができない。

ロックオン・ストラトスーーーニール・ディランディ。
どうか、あなたに静かなる眠りがあらんことを祈り。

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皆既月食(3期)

ロックオンとティエリアの二人は、久しぶりにトレミーを降りて、アイルランドのロックオンの生家にきていた。

「ロックオン。今日は皆既月食が見れるそうだ」
「へぇ。珍しいな」

ティエリアは、ニュース番組で皆既月食が今晩は見れると知って、デジタルカメラを用意していた。
何年に一度かの、今回は、月がほとんど欠ける、何十年かに一度の皆既月食らしい。どのテレビ番組のチャンネルを回しも、時間帯がニュース放送にあたっているせいか、皆既月食のことをリポーターが話している。

ティエリアはTVを消した。
もう少し月が高くなって、皆既月食が綺麗に見える時間帯に、撮影してみよう。ティエリアはそう思っていた。
TVを消したせいか、虫の鳴く声以外は、静寂に包まれる。

「ティエリア、笑って~」
ロックオンが、ティエリアがもっていたデジカメを彼から取り上げて、ティエリアを勝手に撮影しだした。

「ロックオン、僕なんかとっても楽しくない!」

「いやいや、俺は楽しいから!」

ほんとに楽しそうに、小さな笑みさえ浮かべているロックオン。
ロックオンからデジカメを取り返そうにも、身長差でどうにもならない。

「これでも、背は高いつもりなのに」

ふう、とため息をつく。
170センチは超えている。少なくとも低いという身長ではないが、180をこえるロックオンの背には届かない。
しばらくの間、ロックオンは楽しそうにティエリアを撮影していた。

「お、そろそろかなぁ。外行こうぜ」
「はい」

月が高く空に輝いているはずなのに、ぼやけた輪郭しかない。皆既月食だ。

「ティエリア、そこに立って。その台の上」

下からのアングルで、ティエリアと皆既月食が起こった月を同時にシャッターにおさめた。

ティエリアの、紫紺の髪が風にさらさらと揺れる。

「もう一枚とらせて」

パシャリ。ウィーン。機械的な音をデジカメが地面に落とす。
ティエリアは、半分拗ねた顔で白皙の美貌を曇らせる。

「自分でとるつもりだったのに」
「いやいや。俺はティエリアも一緒にとりたいの。だからもう一枚」

すでに2枚とったのに、もう一枚欲しいらしい。

「今度はティエリアだけ~」

ティエリアは、クスリと笑みを刻むと、シャッターを切ろうとしているロックオンの両頬を手ではさみ、そして唇に軽いキスを落とす。

「あ、もっかい」
「だめ。終わり」

ティエリアを撮影しそこねたけれど、それよりもいい思いができた。ロックオンの茶色のくせ毛が、風でふわりとティエリアの視界を奪う。

「ん、う」

ロックオンのほうからの口づけだった。巧みに角度を変えて、心がとろけてしまいそうな口づけに、ティエリアは茫然となる。それから、舌を絡み合わせてから、ティエリアのほうから離れていった。

「もっかい」
「だめ。今度こそ、終わり。部屋に戻りますよ」

ロックオンからデジカメを取り上げて、ティエリアは先に部屋に戻る。もうすぐ冬だ。アイルランドの冬は厳しい。
肌寒いから、青いカーディガンの上から上着を羽織っていた。
ロックオンとお揃いの。

今度こそ、ティエリアは扉をあけて室内に戻る。

「んー。まぁいいか」

ロックオンは、もっと皆既月食を楽しみたかったのだが、ティエリアのいない空間には飽きてしまう。だから、家の中に戻るのだ。

ティエリアといつでも、一緒。それが、二人が手に入れた未来であった。


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ししゃも(1期ロクティエ)

カチンコチン。
ティエリアは固まってしまった。

いつものようにロックオンの部屋で寝泊まりをして、朝はジャボテンダー体操を二人でアホよろしくこなして、パジャマから着替えて、いつもの服装になって食堂に向かったはいい。
明るいピンク色のセーターが、無重力の中ふわふわ泳いでいる。ロックオンが背後からティエリアの手をとって、食堂へと向かわせる。
ティエリアの手の中には、いつも通りのジャボテンダーの抱き枕があった。
もう見慣れてしまった光景。

B定食を頼み、でてきたランチをロックオンがティエリアの分までもって、席についた。ティエリアはというと、ジャボテンダーが今日もよく光合成ができるようにと、人工ライトの下に置いた。ジャボテンダーの特等席であるそこには、人工のライトとジャボテンダーが座る(?)ことのできる大きな椅子が置いてある。ティエリアはいつもそこにジャボテンダーを椅子に無理やり座らせた。

「ジャボテンダーさん、今日も葉緑体の活動はよろしいようで。昨日より葉緑体が2000以上増えて活動していますね」

ペコリとジャボテンダーにお辞儀をする。その行動を見て、すでに食事をしていたアレルヤ、刹那は笑いをこらえて、吹き出すのを我慢しているため全身がぷるぷる震えている。

「えっと。では今日はコーラでいいですね?」
答えはない。ジャボテンダーはただの抱き枕だ。それを人間扱いするティエリアのアホさは、かわいいだけで被害はあまりロックオン以外には及ばない。

コーラのジュースをコップに並々とついで、ティエリアはそれをジャボテンダーの前に置いた。

それから、ロックオンの隣に座る。

カチンコチン。
ティエリアは固まってしまった。

ししゃもがそのままの形で、トレイの上に乗っているのだ。ティエリアが大嫌いな、原型を留めてしまった魚が。

「こ、これは世界の悪意が!」

いやそれ、ただのししゃものフライだから。
携帯するべきだったと、銃を探してもない。こんな日常生活に銃など必要ないからと、戦闘時か緊急時以外は銃は身についていなかった。

「ロックオン!世界の悪意だ!歪んでいる!今すぐに駆逐すべきだ!」

「はいはい」

ロックオンは、ティエリアの分のトレイにのっていたシシャモのフライを、自分のフォークで突き刺すと、一口で食べてしまった。それを見て、ティエリアは安堵する。

「世界の悪意は消えました。これで安心できる」

ししゃもが世界の悪意なら、海は世界の悪意で満ち溢れているだろうさ。

ロックオンはそう思ったが、何も言わずにかわいい恋人のアホさを、ただかわいいなと思うだけだった。苦笑しながら、ロックオンはティエリアに席に戻るよう促した。

「目標駆逐したぜ。ほら、座って」

「はい」

そして、二人して食事を始める。

そんな日常。
海鮮物の姿には結構慣れてきたはずなのに、まだ魚はだめみたいだと、ロックオンはティエリアの頭を撫でながら、そんなことを考えていた。

「はっ!世界の悪意を食べたロックオンも世界の悪意に!?」

身構えるティエリア。

「おいおい」

ロックオンは、もう食事を終えてしまっている。いろいろ考えていたティエリアはまだ食事中だった。

「俺が世界の悪意だったらどうするんだ?」

「僕が・・・・駆逐します。ジャボテンダーで!」

ティエリアも食事を終えた。そして、ジャボテンダーをもって、それでロックオンを追い掛け回す。

はたから見れば、ウフフアハハと、二人して遊んでいるように見える。そう見えるのだから仕方ない。

「アレルヤ、いこうか。胸焼けがしてきた」
「刹那。同じだね、僕も胸焼けが・・・・・」

刹那とアレルヤは食堂を去っていく。

その時、緊急事態に陥った。

敵艦が近づいているというのだ。

ロックオンが舌打ちする。ティエリアは、ジャボテンダーを放り投げて、顔つきから改まってまるで別人のようだ。

「ロックオン。先に出撃します。デュナメスは、僕のあとから発進してください」

いつものアホくてかわいいティエリアはそこにはいない。
ガンダムマイスターとして、ヴェーダとのリンクが切られようとも、一人の戦士としてのティエリアがそこにいた。
大人びた表情と、柘榴の瞳を瞬かせて、ノーマルスーツに着替えるべく食堂を先に去っていく。

「まったく、ティエリアの変わりぶりにはいつも驚かされるぜ」

ガンダムマイスターである、ティエリア・アーデは、ガンダムマイスターとしての存在が必要とされると、別人のように厳格になる。
だが、そこもロックオンにとっては愛しい部分なのだけれど。

敵との戦闘は、間もなく開始された。

「ティエリア・アーデ、出ます!」

「デュナメス、目標を狙い撃つ!」

帰還すれば、またいつもの平和な日常に戻れるのだが。
厳格なティエリアも、ロックオンは愛している。かわいくアホで、そのくせIQだけはやたらと高いティエリアのことも大好きだ。

今は、とりあえず戦闘を終了させることだけを考える。ししゃもではなく、現実の世界の悪意を断ち切るために。


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20話補完小説「痛み」

「お前が!お前がアニューを!!」

トレミーに戻ったガンダムマイスター達。
ライルは遅れてやってきた刹那に、ギリと歯をきしませると、刹那の顔を思い切り殴りつけた。
何度も、何度も。

刹那の顔は痛いほどに腫れ上がり、口の中を切ったのか、唇の端から血を流していた。

「アニューは戻ろうとしていた!それなのに、お前がアニューを!」

バキっと、また殴られる音。

ライルの背後で、大人しく見ていたティエリアも、流石に止めに入った。もう何十回殴られたのかも分からない。

殴られるだけの理由が刹那にはあった。ライルが愛していたアニュー・リターナを殺してしまったから。

「もういい加減にするんだ」

ティエリアの華奢な手が、ライルの腕を掴む。ティエリアの見た目に反比例した力の強さだった。

「離せ!」

「いい加減にしろ。刹那も無抵抗でいるにもほどがある。お互い頭を冷やすべきだ」

二人の間に介入する。

アレルヤは傍観に入っているようで、何も言わない。

「大切な人失う痛みは、刹那だって知っているはずだ。ああしなければ、ライル、あなたが殺されていたんだぞ」

「それでも!」

刹那ではなく、床を叩くライル。
そして、ふらりとライルは自分の部屋に向けて宙を蹴った。

「手当てしよう。刹那、こちらにこい」

残されたティエリアと刹那。アレルヤの姿はもうなかった。

「いらない」

「・・・・反論は許さない」

冷却スプレーをあてられて、それから流れ出る血をハンカチで拭われる。はれた右頬に、もう一度冷却スプレーをあててから、氷が入ったビニール袋を持たせて、それで冷やすように命令される。

「ティエリアは、俺を責めないのか」

「責めてどうする。君があの行動をとらなかったら、ライルは今頃ここにはいなかった。君を責める理由などない。君の行動は間違ってはいなかった。だが、ライルには酷すぎた」

「そうだな。俺がアニューを殺した」

「もしも近くに僕がいたならば、僕が殺していた。引き金を引く覚悟くらい、僕にだってある」

ティエリアは本気だった。刹那が全ての罪を背負ったのであって、他のガンダムマイスターがあの状況で、近くにいればアニューを撃っていただろう。

「痛いか」

「痛い」

「それがライルの痛みでもある。しばらくはライルと会うな」

「分かっている」

「ライルがもしも、刹那を撃ったりしたら、僕がライルを撃つ」

「・・・・・・本気か」

「本気だ」

ティエリアは、そっと刹那の体を柔らかな肢体で抱き寄せる。無性の中性だからこそもつ、女性に似た体の柔らかさ。
はれた頬にそっと唇を寄せる。

「痛みは、誰にでもある。心の痛み、過去の痛み、記憶の痛み・・・・・現実の痛み」

「意味がよく分からない」

ティエリアは、もう一度刹那の頬にキスをしてから、そっと離れた。

「世界は痛みで満ちている。歪んだ悪意という名の痛みに」

「イノベイターか。イノベイターは許すことができない」

刹那がぽつりと呟いた。

「ふ。そんな僕もイノベイターだがな」

「ティエリアは別だ。仲間だ」

刹那は、明るいルビー色の瞳で、柘榴色のガーネットに近い同じ赤い緋色のティエリアの瞳を覗き見る。

「ヴェーダさえ取り戻せていれば。こんなことにはならなかったかもしれない」

あくまで例えの話をティエリアはする。けれど、現実は、過去は変えれない。変えることができるのは未来だけだ。

「ライルへの接触は僕がしよう。しばらくは一人にしておくが、このまま憎しみだけを育てられても困るし、悲しみに浸るだけなのもダメだ。今はライルの力が必要なんだ」

痛みがあっても。
それでも、前を向いて戦っていかなければいけないのだ、今は。

いずれ、安息がくるだろう。それが死であるのか、勝利であるのか、まだ分からない。ただ、比翼の鳥の片方は傷ついている。だから、もう片方のティエリアが今は支えるのだ。
たとえ、その身がイノベイター、敵と同種であったとしても二人の絆に罅が入ることはない。お互いを信頼しあっている。刹那の痛みはティエリアの痛みでもある。

ティエリアは、無言のまま刹那の、はれが引き出した頬に手を伸ばすのだった。



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2期8話補完小説

「万死に値する!」

ティエリア・アーデは深いため息をついた。ガンダムマイスターは全員が男だと知られている。正確には、ティエリアは中性であるが、男性と形式上ではなっている。

「これは・・・・さすがに」

敵がいるとされるパーティー会場へ、情報収集を含めて乗り込むことになったのはいい。自分から「僕も同行する」と名乗りだしたのはいい。

だが刹那は普通の私服で車の運転手。ティエリアだけ女装でパーティー会場へ。

本物にしか見えない胸バッドをつけて、ひらひらの、露出度が高いドレスを身にとまわされて。いくらティエリアでも我慢の限度というものがある。太ももをさらし、さらには偽の胸の谷間を強調するようなドレスは、他の男の視線をひくだけだと、スメラギ・李・ノリエガ、フェルト、ミレイナとああだこうだと言い合いになっている。

「もう少しましな衣装はないのか」

「えー。似合ってるのに」

「なるべく隠密に行動したい。目立つのは避けたい」

「まぁそれもそうよね」

いくつか衣装をこれでもない、あれでもないとまるで着せ替え人形のようにされて、結局決まったのは少し胸を強調したマーメイドドレス。裾が長く、露出度は控えめ。
最後にロングストレートのかつらをかぶって、ティエリアの女装のパーティーいきの格好は決定した。

そして、みんなにお披露目となる。

「いいんじゃないかな。すてきだよティエリア」

アレルヤは、マリーを伴って正直に答えた。

ライルは口笛を吹いた。

「変わるもんだなぁ。これなら俺がエスコートしたいくらいだ」

ティエリアを待っている間、正装に着替えた刹那を見ると、紳士的な服装になっていた。

「それでいいだろう。ティエリアのことは俺が守る」

「お熱いことで」

ライルが茶化す。

そっと、刹那が耳元で囁いた。

「似合っている。とても・・・・・ティエリアだからそこまで似合うんだ」

頬を少し赤くしてしまう。ロックオン・ストラトスことニール・ディランディを失ってから誰とも付き合うことはないのだと思っていた。だが、刹那と再会し、恋人同士に似た関係を築きげた。比翼の鳥というのだろうか。お互いどちらが欠けることもできない関係。

それは恋人同士そのものだろう。ティエリアはまだニールのことが忘れられない。刹那はそれも含めて、ティエリアを抱擁している。肉体関係もある。たまにライルと行動を共にすることもあるけれど、今のティエリアに必要なのは誰でもない刹那だけであった。

刹那が、ニールがいなくなった溝を埋めてくれる。

寂しさを。悲しさを。孤独を。

「刹那がいうなら。この格好でいく」

ティエリアはマーメイドドレス姿で、パーティー会場へ行くことを決めた。刹那が運転手として付き従う。そして、護衛として。パーティー会場では、刹那の顔が割れている可能性があるため、ティエリアのみの行動となるが、何かあればすぐ駆けつけれるように、銃を携帯していた。

ティエリアはそして出会う。

世界の無垢なる歪みと。自分と同じイノベイターと。

リボンズと踊り、賞賛の拍手を浴びたあと、ティエリアはリボンズ、世界の歪みそのものと会話をした。

「君は随分と人間に感化されたようだ。あのロックオン・ストラトスのせいで」

「彼のことを悪くいうな」

ティエリアは、本気でリボンズを殺そうとしたが、違うイノベイターによってそれは邪魔された。
そして、階上の部屋にあるにも関わらず、窓を割って飛び出し、音もなく地上に着地すると、刹那に無線で連絡をいれた。

「世界の、歪みをみつけた」

「そうか。今向かう」

ティエリアが見つけた、世界の歪みであるリボンズのこと、イノベイターのことを、他の仲間に知らせるのをためらうティエリアがいた。
その側には、常に刹那がそっと比翼の鳥のように一緒にいるのだった。

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二人のティエリア「死」

それは、突然のことだった。
あまりに突然で、ロックオンは最初声を失い、茫然とした。

ティエリアが、亡くなったのだ。

疑似太陽炉をもつ機体と、ヴァーチェはキュリオス、デュナメス、エクシアと共に戦場を駆け抜けた。そして破壊の光を敵に浴びせ、戦闘は勝利で終わった。敵が撤退していくのを確認して、それぞれトレミーに帰還した。
それなのに、ヴァーチェから一向にティエリアが降りてこないのだ。
心配したロックオンが、無理やりハッチを開けると、そこには吐血して、微笑んだまま絶命しているティエリアがいた。

「・・・・・・・・」

声を失う。

すぐにドクター・モレノが呼ばれ、救命処置をしたが、無理だった。
ティエリアは、帰らぬ人となった。

「ティエリア?嘘だろ。おい、目を開けてくれよ・・・・」

戦場で、無線の通信もした。出撃する前は笑顔で答えてくれた。
そんなティエリアが、なぜ急死したのかが分からない。

戦闘で負傷した傷はない。ただ吐血して、死んでいた。

「おい・・・・」

アレルヤと刹那は泣いていた。
ロックオンは泣くことさえ忘れて、ティエリアに話しかけていた。

「ティエリア」

信じられない。
あのティエリアが。
さっきまで、笑ってくれていたティエリアが。

ティエリア、ティエリア、ティエリア、ティエリア。
こんな終わりって、あんまりじゃないか。
どうして、何もいってくれないんだティエリア。
なぜ、冷たくなっていくんだ、ティエリア。
ティエリア、ティエリア、ティエリア、ティエリア。ア。

答えてくれよ。
俺を見てくれよ。
もう一度、笑ってくれよ。

どうしてだ、ティエリア。どうして。

「ティエリアに止められていたが、寿命だったんだ。彼自身、いつ死ぬか分からなかっただろう。でも、寿命がもうすぐだとは分かっていたとは思う」

「じゃあなんで、俺に言ってくれなかったんだ!」

「それを知ったら、ロックオンが悲しむからだろう」

刹那が、冷たくなっていくティエリアの紫紺の髪をすいた。

「ティエリアーーーーーーーーーーーー!!」

ロックオンは、あらん限りの声で叫んだ。ポタポタと、ティリアの白皙の美貌の頬に涙の滴が、滴り落ちる。

「ティエリア、目をあけてくれ。こんなの嘘だろ!おい、ティエリア」

「ロックオン」

止めようとするアレルヤを、刹那が止めた。

「好きなようにさせておけ。最愛の人が死んだんだ。取り乱しても仕方ない」

「そうだけど。こんなのないよ。ロックオンだけおいて、いきなりティエリアだけいなくなってしまうなんて」

「婚約したのに!結婚する約束だってしてたのに。全部嘘だったのかよ、ティエリア!」

「それはない。ティエリアは本気だった」

刹那が、泣き続けるロックオンを見る。

「ティエリア・・・・・」

遺体に縋り付き、ロックオンは静かにずっと泣き続けていた。ティエリアの指には、ロックオンから渡された婚約指輪が、光り輝いていた。

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二人のティエリア「罪」

「だからさ。冬になったらアイルランドにいこうか」

「あなたの生まれた町に?」

「そうだ。お前さんを一度、連れていきたいんだ。生家はまだあるから、一度見せてみたい」

「ありがとう。その気持ちだけで僕は」

交わされるいろんな約束。ロックオンの生家によるなんて、今はとても無理な戦況状態だ。それでもロックオンは常に未来を見ている。
ティエリアと、婚約をかわした。

ティエリアの指には、ロックオンとお揃いのペアリングが輝いていた。

恋人同士になってから、ロックオンにプロポーズされたのだ。それだけで、ティエリアは生きていてよかったと思うほどに幸せを噛みしめた。

「ティエリア。後悔してないか?」

ロックオンが、顔色の優れないティエリアの顔を覗き込む。

「後悔なんかしていません」

後悔なんてするわけがない。ロックオンと結ばれたことで、ティエリアは人間になったのだ。人間になれて、ティエリアはよかったと思っている。イノベイターであることに変わりはないが、もう人間と呼ぶに相応しい感情を身につけた。

「でも最近、顔色悪いぞ。何かあったのか?」

「いえ。少し疲れがたまっているだけです。気にしないで」

「そっか。今日は早めにねろよ」

「はい」

その日は、本当に早くに寝た。ロックオンと同じ部屋で生活をしだして、もう何か月かが過ぎている。疲労の色が濃いティエリアは、すぐに深い眠りに旅立った。

ヴェーダとのリンクが、完全に途切れてしまったのだ。それまでかろうじてアクセスだけはできたものの、今のティエリアにはアクセスさえできない。

それが疲労の元になったのだろう。ヴェーダの申し子と言われていたティエリアにとって、人生の中で指折りのショックな出来事だった。

ロックオンと、いつか結婚するんだろうか。

意識が浮上する。深い眠りから、覚醒に向かう間に夢を見た。ロックオンと結婚式を挙げて、仲間の皆に祝われて、ロックオンの生家で暮らし始める夢を。

ティエリアは女性よりの中性である。女性のもつ子宮などない。それなのに、子供を産んで、ロックオンと家族をもつ夢を見た。産めるはずもないのに、子供が欲しいという人間の心が疼く。

ふっと目覚めると、ロックオンの寝顔がそこにあった。
ティエリアは、愛しそうにその輪郭に触れる。ロックオンは静かに眠っている。ティエリアは、ロックオンの額に接吻した後、起床した。

約束。

それは、交わされるから約束なんだ。

でも、約束が必ずしも現実のものになるとは限らない。

条件を満たしていなければ、約束は現実のものにならない。

「う・・・」

ティエリアは、激しい頭痛に見舞われ、ドクター・モレノから特別に処方された薬を飲む。

これは、罰だ。

ロックオンと、たくさんの約束を交わした、罰なんだ。


ティエリア、固体名「NO8」は長い間稼働してきた。生きてきた。その命の灯は、消えかけの蝋燭のようなものになっていた。

寿命が近づいている。活動時間に限界が。

それでも、ロックオンといたい。たとえ、この命が尽き果てようとしているのだと、しても。


「ごめんなさい、ロックオン。約束、全部叶えたい。でも、できないかもしれない」

婚約も。結婚も。築き上げる未来の理想像も。
全て、ティエリアの命の終焉で、終わりになりそうだと。

ティエリアは、泣いた。

一人、嗚咽を漏らす。ロックオンに聞こえないように。そして、気づかれないように。この命が尽き果てようとしていることを、気づかれないように。

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二人のティリア「約束」

疑似太陽炉をつんだ機体が襲撃をかけるようになってきた。戦いは激しさをまし、ほんの僅かな休息も、いつ終わるのだろうかと内心で想うほどの激しい戦闘が繰り広げられる。

疑似太陽炉をつんだ敵機と、地上で戦いの火花を散らす。

なんとか撃退し、つかの間の平和がトレミーに訪れた。

「あなたが、いつかいなくなりそうで怖いのです」

ティエリアが、ロックオンの部屋で、彼に抱き付いた。

ロックオンは、デュナメスで大きな銃で敵を遠距離から叩き打つ、どちらかというと後方支援型のタイプである。接近戦ができないわけではないが、やはり接近戦はどちらかというと後方射撃ができないため、後方射撃で敵を撃ち落とす時よりは、腕が落ちてしまう。
そんなところを、敵にたくさん囲まれでもしたら。

ロックオンがいなくなるなんて、考えたこともなかったのに、新型の機体たちは疑似太陽炉をもっている。稼働条件がフラッグなどとは違う。ガンダムと互角にやりあえる腕の持ち主だっているだろう。

以前ロックオンが負傷し、ティエリアはヴァーチェで護衛をして、ロックオンをデュナメスごと回収したことがあった。大した傷ではなかったが、平和だった頃のティエリアの心は、大きく揺れ動いていた。

「あなたの側にずっといたい。あなたがいなくなるなんて嫌だ」

嗚咽まじりに、ロックオンの服を握りしめる。ロックオンは、静かにティエリアの頭を撫でた。

「俺がお前さんを置いていくなんてそんなことないから」

「本当に?」

「ああ、本当だ」

強く抱きしめられて、唇を重ねあわせる。中性のティエリアにとって、苦手だった肌を重ねる行為ももう慣れた。
舌が絡むほどに貪りあって、離れる。

ティエリアは眼鏡を外した。

涙が自然と流れてくる。

こんな、こんなことで。ロックオンがいなくなると考えただけで、泣いてしまうなんて。僕は、俺は、私はなんて弱くなってしまったんだろうか。
ヴェーダにリンクできていた頃と、まるで別人のようになってしまった。
それでも、ロックオンを手に入れた今、昔に戻りたいとは思わない。

「約束してください。離れないと。死なないと」

「ああ。いくらでも約束するさ」

「あなたは軽い」

「いやこれ性格だからな」

「それでも僕はあなたを信じる」

信じるしかいないのだ。そうしないと、胸が不安で潰されそうになる。

「今日はジャボテンダー体操をしましょう」

「おいおいこんな時にか」

「こんな時だからです」

ぶんと、ティエリアの手からジャボテンダーがうなり、ロックオンをべしっと叩く。

IQは高いのに、ロックオンと関わるとかわいくアホになるティエリア。いつもジャボテンダーの抱き枕を片手に、朝食はジャボテンダーの分までドリンクを置くというアホさ加減。

いっちにさんしと、二人してジャボテンダー体操をはじめるアホが二人トレミーにいました。
平和なので、誰も咎めません。

暗い気分に陥った時には、こうやって気分転換をするのだった。


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二人のティエリア「ロックオンとティエリア」

「あなたのことが好きです」

そう告白されてどれくらい経っただろうか。
ティエリアと、トレミーで同じ部屋で生活を始めた。毎日面白おかしく、それでいてラブラブな日々を送っていた。

誰にも頼らず、ヴェーダだけを信じていたテイエリアの過去を思い出すと、人と触れ合うということを覚えた今のティエリアは、昔とは比べ物にならないくらい、人らしくなっただろう。

イオリア・シュヘンベルグの計画のために生み出されたデザイン・ベイビー。

イノベイターであることを、ティエリアはロックオンに告白した。
母はおらず、人工の羊水の中で今も何体かのティエリアが、計画のために今のティエリアに何かあった時のために、眠っている。
イオリア・シュヘンベルグの秘密基地で。

ティエリアの背中には刻印が刻まれていた。NO8。それがティエリアの番号であり、名前のようなものだった。

ティエリア・アーデという名を、イオリア・シュヘンベルグから受け取った。イオリアが生きていた頃から、ティエリア・アーデは生きていた。それは今のティリアではなく、別のティエリアである。
何代か代替えをして、今のティリアに至った。
ガンダムマイスターとなるべく、生まれてきたティエリア。人ではないティエリア。全てを含めて、ロックオンは愛という名の抱擁をした。

「俺もお前さんを愛してるよ」

ヴェーダにあれほど、人を愛してはいけないと言われていたのに。ティエリアは、その約束を破ってしまった。

それでも構わないと、今のティエリアは思う。ロックオンが隣にいてくれるだけで、ヴェーダを必要としていた日々と違う生き方ができた。

「もしも、僕がもう一人現れたらどうする?」

ある日、そんなことを聞いてみた。

ロックオンは、困った顔をしてそんなことは起こらないと笑った。

お互い、離れ離れにならないと、約束を交わした。

「俺は今のティエリアがいいんだ」

「ロックオン・・・・」

デザイン・ベイビーであろうが、計画のために生まれた命であろうが、イノベイターであろうが、ロックオンはティエリアを必要としてくれた。

「愛しています」

「俺も愛してる」

そっと抱き合って、そして唇を重ねる。

ヴェーダに反対されたっていい。ロックオンと一緒にいられるならば。
たとえ計画の中でこんなことが含まれていないのだとしても。

もう、元には戻れないのだから。

それほどロックオンを愛してしまった。必要としてしまった。もう過去には戻れない。イオリア・シュヘンベルグが作りあげた、完璧なはずのイノベイターであり、計画を実行するガンダムマイスターの存在の意味が違ったとしても。

「あなたの側にいられるなら。僕は全てを放棄してもいい程、あなたの側にいたい」

「お互いガンダムマイスターじゃないか。でも、俺も同じ意見だ。お前さんのいない未来なんて考えたくもない」

トレミーのロックオンの部屋で、生活を初めて何か月が経っただろうか。

毎日、一緒に寝食を共にし、時に肌を重ねる。ガンダムマイスターとしての責務を忘れてはいない。戦いが起こればノーマルスーツに着替え、ガンダムに乗り込んで世界に武力介入する。
二人は、あくまでソレスタルビーイングの一員であった。

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ジャボテンダー病(3期)

さて、今日もトレミーは平和である。
宇宙を地球が見える場所で漂っている。そんなトレミーの船員たちも、これまた平和を満喫していた。無論ガンダムマイスターとて同じである。

大規模な戦争のなくなった、平和な世界。
テロや内紛戦争などはまだ少し見られるものの、以前の地球と比べれば格段に平和になっただろう。

そんな一日の朝は、ジャボテンダーから始まった。

ティエリアは、ニールの部屋で一緒に寝泊りしている。

ティエリアが自分の部屋で寝る時は、ニールがやってくる。

たまに刹那やアレルヤ、リジェネかライルの部屋で寝ることもあるけれど、基本はロックオンことニールの部屋である。
「起きろ!ジャボテンダー体操の時間だぞ!」

いつもの柔らかな口調を消して、ティエリアはかつてガンダムマイスターとして戦っていた時期のように、きつい口調でニールの頭をジャボテンダーで思い切りぶった。

「いって。なんだ、いきなり!?」

時計を見ると、まだ4時半。
地球では朝日もでてないような、早朝である。

いつもは8時過ぎまで怠惰に眠りをむさぼるというのに、一体どうしたことであろうかと、ニールは眠い目をこすりながら、ティエリアを仰ぎ見た。

すでにパジャマから、いつものピンクのカーディガンの服装に着替えている。
ジャボテンダーを両手にもち、再びニールを攻撃した。

「あべし!」

ジャボテンダーで思い切り叩かれて、痛くないはずがない。

「白羽どりいい!!!」

再び頭上から振り下ろされるジャボテンダーを白羽どりしてから、ティエリアの様子を何気になく伺う。

「万死に値する!ヴェーダがそういっている。あなたはガンダムマイスターに相応しくない」

「おいおい、一体なんだよ」

ぽふ。

次にやってきたのは、少し柔らかいティエリアの体そのものだ。

慌てて抱き寄せる。

「ジャボテンダーさんで、世界はヴェーダが・・・・駆逐したのが平和で・・・ニールはマイスター・・・・・・・・・・・・」

ぐー。
ぐーぐーぐー。


思いっきり寝ていた。


「っとに、お前さんは手がかかるなぁ」

寝ぼけた行動もティエリアらしく、破天荒だ。

しかし、その行動はその日だけでは終わらなかった。

1週間と続いたので、心配したニールが医者に見せた。結果は不明。ただの寝ぼけていた行動と判断された。

「大丈夫か?」

「なんでもありません。でも恥ずかしいです。毎日寝ぼけてジャボテンダー振り回してニールをこきおろすなんて」

いやまぁ、毎日いろいろこき下ろされているような気もしないでもないけど。

ニールはこれをジャボテンダー病と名付けた。

1週間が過ぎるころには、目覚めると隣で丸くなってティエリアは寝ていて、ニールは欠伸をしてから二度寝する日常に戻った。

ティエリアの中で異変が起こったわけでもない。

結局、毎日平和に起きるとジャボテンダー体操を、二人でいっちにさんしと、号令をかけながらやっている日常が戻ってくる。

阿呆な光景は、毎日の日課としてトレミーのニールの部屋で見れるのであった、とさ。




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