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受難でない日番谷隊長

「日番谷隊長」

「二度と来るって言っただろうが!」

「そう言わないでくれ、日番谷隊長。真面目に相談したいことがあるんだ」

浮竹は、いつもより真剣な顔をしていた。

同じシロちゃん仲間であり、何かあるとお菓子を抱えて遊びにきたり、お菓子を与えて頭をなでらりするのが普通になってしまっていたので、日番谷はまた今回も浮竹が10番隊の執務室に入るのを許してしまった。

「松本副隊長はいないのか?」

きょろきょろ見回す浮竹に、お茶が出された。

「あたしはちゃんといますよ」

「ああ松本副隊長、君の意見も聞きたいんだ」

「どうしたんです?」

「もうすぐ京楽の誕生日なんだ」

「あ、そういえばそうですね」

日番谷が、茶をすする。

「誕生日プレゼントに悩んでいるのか?」

「その通りなんだ!」

浮竹が顔を輝かせた。

「お酒でいいんじゃないですかー?」

「ここ最近、ずっとお酒ばかりで・・・たまには、違うものをあげたいと思って」

「浮竹隊長かわいい!愛ですね!」

確かに、いじらしい浮竹は愛らしかった。長く白い髪を後ろで結いあげて、潤んだ翡翠の瞳で・・・・・。
ん?

なんでこんなに、瞳が潤んでいるのかと、日番谷は思った。

「お前・・・・まさか、熱あるんじゃねーのか?」

「え?」

松本が、慌てて浮竹の額に手を当てる。

「ちょ、浮竹隊長、京楽隊長呼びますから!」

地獄蝶を飛ばす松本。

日番谷も、浮竹の額に手をあてる。

「しゃれになんねーぞ!おい、松本氷もってこい!」

「氷輪丸で出した方が早いですよ、隊長!」

「それもそうか・・・・蒼天に座せ氷輪丸!」

氷の龍を呼び出して、一かけらの氷を作り出す。それを砕いて、ビニール袋にいれて、タオルでつつんで浮竹の額に置いた。

「日番谷隊長?」

「あんましゃべんな。こんな高熱で、よくうろうろできたもんだな」

「熱?そんなに、俺は熱があるのか?」

「それも分からないのか!?」

「ただちょっと・・・・いつもより、だるいかなと思って」

重症だ。、

「ああ・・・・視界がぼやけてきた」

「いいから、寝てろ」

長椅子に寝かせて、京楽が来るのを待った。

「地獄蝶から連絡うけて、きたよ」

やってきた京楽に、日番谷が非難の声をだす。

「お前、浮竹といつもいるんだろうが。恋人の体調管理くらいしてやれ。熱を出してうろついてたの、お前のせいでもあるんだぞ」

「僕のせいって?」

京楽が、浮竹を抱きかかえながら聞いてくる。

「お前の誕生日に、何がいいのかと聞いてきた」

「浮竹・・・・・君は・・・・本当に」

「きょら・・・く?」

「僕だよ。すぐに四番隊のところへいくから、少し我慢してね」

「プレゼント・・・・何も思い浮かばない。「俺」でいいか?」

「!」

思ってもいなかった言葉に、京楽は悦楽を感じた。

「それでいいよ。行こうか」

地獄蝶を4番隊のところに飛ばし、受け入れ準備は万全に整っている。

「京楽!」

「なんだい、日番谷隊長?」

「大事にしてやれよ。浮竹を」

「そんなこと、百も承知の上だよ」

瞬歩で去っていく二人を見送ってから、日番谷は思った。

「そういえば、初めて追うい払う目的以外で、氷輪丸を使ったな・・・・・・」

たまには、ためになる使い方もいいかと、思うのだった。


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日番谷の受難Ⅴ

「は~」

浮竹は、松本がいれたお茶をのんで、ほっこりしていた。

凝りもせずに、またやってきた浮竹を見て、もはや諦めかけていた日番谷がそれでも声を出す。

「くつろぐんなら雨乾堂でくつろいだらどうだ」

「いや、日番谷隊長が好きだから」

ぶーーーー!

日番谷は、お茶を吹き出した。

「お、お前何言ってやがる。お前には京楽がいるだろうが!」

「いや、ただ単に好きだなーと思って。ちなみに、白哉も同じくらい好きだぞ」

「ああ、そういうことか」

松本は目を輝かせていたけれど、残念ながら恋慕の類の感情ではない。

ただ、友人としてというか、ただの付き合いのある人間の好き嫌いの意味だ。

「朽木だって好きだし、一護君も好きだ」

浮竹のいう朽木は、義妹のルキアのほうだ。

「仙太郎と清音も好きだ」

「他には?」

「おはぎも好きだし、わかめ大使も好きだし・・・・・好きなものはいっぱいある」

「まぁ、分からないでもない」

日番谷は、氷輪丸の手入れをはじめた。

「普通の「好き」なんですか?つまんなーい」

「松本、うるさい」

「だって隊長~。浮竹隊長は女性死神協会でも根強い人気のある、京楽隊長とできてることで生まれる「萌え」の発祥地なんですよ」

もはや何をいっているのか、日番谷には理解できなかった。

「浮竹隊長と隊長って、どっちも受ですよね」

ブーーーー!

日番谷はまたお茶を吹き出した。

「てめぇ、何いってやがる!」

「えー。だって隊長かわいいし、絶対受ですよ」

「浮竹もなんか言ってやれ」

「いや、俺は受なのは本当だから」

お茶をのんでまったりしている浮竹の頭を殴った。

「痛いじゃないか」

「お前がそんなだから、松本とか女性死神協会の恰好の的になるんだ!」

「別に、隠してないんだし、構わない」

「そういえば、浮竹隊長って、シャンプー何使ってるんですかー」

松本が、白い浮竹の髪を触った。

「いい匂い・・・・甘い花の香がしますね。それにサラサラ」

「京楽がかってきたやつだ。品名は覚えないが、雪国ってメーカーだったと思う」

「雪国!?あの伝説の雪国のシャンプー!」

「いいやつなのか?」

「去年の売り上げNO1のやつですよ!売り切れ続出で、滅多に手に入らない高級品です」

「そうか。あたらしい試供品のやつもらったから、今度松本副隊長にあげよう」

「ほんとですか!うれしいー!」

日番谷は、京楽は、そういえば上流貴族だったなと思いだす。

松本と浮竹は、石鹸はボディーソープだの、リンスはなんだのと会話に花を咲かせていた。

見知った霊圧を感知して、浮竹がびくりと身を強張らせた。

「浮竹ぇ~」

ゆらりと、幽霊のように京楽が現れた。

浮竹は、その顔を見て日番谷の背中に隠れた。

「京楽、なんだぞの顔!」

額には肉とかかれていたし、目のまわりとかいろいろ黒で塗られてパンダ模様になっていた。

思わず、日番谷は吹き出していた。

「あははははは、京楽隊長の顔おっかしー」

松本は、遠慮なくげらげらと笑っていた。

「浮竹のせいだよ。寝ている間に落書きして・・・・しかも、油性マジックで!」

中々色が落ちないのだと、怒っていた。

「浮竹、素直に謝るなら許してあげるから。ね?こっちへおいで」

浮竹は、ぶんぶんと首を振って、日番谷の影に隠れていた。

「日番谷隊長、ごめんね」

日番谷を突き飛ばして、京楽は浮竹の腕をとる。

「お前が約束を守らないから!」

「それは悪かったよ。だから、謝っただろう?それなのに、こんな真似はないんじゃないかい」

「だって、昨日はしないっていった!なのに3回も!」


「・・・・・・・・・・・」

日番谷は、抜刀した。

「でも、気持ちよかったでしょう?」

「それは・・・・・んっ」


「蒼天に座せ、氷輪丸!」


執務室中を氷漬けにして、日番谷は外にでた。
瞬歩で屋根の上に移動した浮竹と京楽をみて、また氷の龍をとばした。

「あははは、またね、日番谷隊長」

浮竹を抱き上げて、屋根伝いに走っていく京楽に叫ぶ、

「もう二度とくんなーーーーー!」

でも、懲りずにまた浮竹は現れる。

日番谷隊長の受難は続くのであった。




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受難でない日番谷隊長

「出ていけ!」

日番谷の怒号が、10番隊の執務室中に響き渡った。

「そんなこと言わないでくれ」

「いいから出ていけ!ここはお前の隠れる場所じゃない!」

10番隊の執務室の机の下に、縮こまった浮竹が隠れていた。

はじめ、日番谷も気づかなかった。霊圧を完全に消していたし、物音もたてなかったし、何より壁と同じ色の布をかぶっていた。

鮮やかな緑の目が一瞬日番谷と混じり合ったせいで、日番谷に気づかれてしまった。

「そんな殺生な。京楽の魔の手から誰も救ってくれないんだ。最初は、白哉のところにいったんだ・・・・・・・」

浮竹は話し出す。

白哉の執務室に入って隠れていたら、見つかって追い出されそうになった。わかめ大使をもちいて懐柔しようとして、でも失敗した。
机の下から引きずり出された時に、形見にと置かれてあった白哉の妻、緋真へ贈ったという緋色の髪飾りを落として壊してしまい、「許さぬ」と千本桜に追われて、執務室を逃げ出した。

次にいったのが、11番隊の道場。
更木が、相手をしろとうるさいので、竹刀を手に蹴りをいれていると、たまたま股間にあたってしまった。
悶絶する更木を見かねた班目3席に散々竹刀でうちこまれ、綾瀬川弓親からも竹刀で打ちこまれて、双魚理で竹刀をスパスパときっていくと、復活した更木に「てめぇ見かけは華奢なのにやるじゃねーか」と、竹刀でまた襲い掛かられて、体力の限界を感じて逃げ出した。

次に訪れたのは4番隊舎の綜合救護詰所。体力を使いきったに近くて、卯ノ花から回道でちょっとした手当を受けていた。病があるのに11番隊で戦いまくったことを話すと、「そうですか、あれほど無理は禁物と言っていたのに」と、とてもよい笑顔を浮かばせた卯ノ花のその笑顔が怖くて逃げだした。

次に訪れたのは7番隊。執務室にいくと、狛村に珍しがられて髪の毛をポニーテールにされて、
そのお礼に狛村の毛をブラッシングしてあげると、もっともっととねだられて、ついもふもふしてしまい、そのもふもふに全てを忘れそうで逃げ出した。

次の訪れたのは12番隊。
行くべきではなかった。
実験体にされかけて、力いっぱい逃げ出した。

最後にやってきたのが、10番隊の執務室だった。

「浮竹。何から逃げてるんだよ」

がたがたと震える浮竹を少し哀れにかんじて、日番谷はお菓子をさしだした。

それを食べながら、浮竹は京楽の手で七緒からインフルエンザの予防の注射を打たれかけたことを言い出した。

「はぁ?インフルエンザの予防の注射が怖い?お前、卯ノ花にもあったんだろうが」

「今年は、研修を終えた伊勢副隊長がインフルエンザの予防をするんだ。俺は、点滴はいいが注射はだめなんだ!」

子供のような怖がり方に、日番谷が笑った。

「13番隊の隊長は注射が弱点なのか。そうかそうか」

ひとしきり笑われて、浮竹はそれでも隠れていた。

「みーつけた」

霊圧を乱したことで、居場所を察知した京楽が10番隊の執務室にやってきて、机の下にいる浮竹にむかって手を伸ばす。

「京楽、何勝手にはいってきてやがんだ」:

「そんなことはどうでもいいじゃない」

「無理、絶対無理だ!注射は嫌だ!」

「そんな子供みたいな聞き分けのないことを。去年、インフルエンザにかかって酷い目にあったの、忘れたの?」

「それでも嫌だ!点滴はいいが注射はだめなんだ!・・・・・あっ」

「蒼天に・・・・・」

抜刀し、始解しかけた氷輪丸を、京楽がおさえる。

浮竹の後ろ首に手刀をいれて、浮竹を気絶させた京楽は、日番谷の頭を撫でた。

「この子、いつも注射は意識ない時にさせてるから。日番谷隊長、騒がせせてすまなかったね」

そういって、軽々と浮竹の体を抱き上げて、京楽は去って行った。


「なんだよ。普通に出ていけるんじゃねーか」

始解されなかった表裏丸をを鞘におさめて、日番谷はそう零して、自分で茶をいれてすするのであった。

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比翼の鳥(院生)

「夢じゃないのか・・・・」

浮竹は後悔した。

京楽と、酒を飲んだことを。

隣を見る。見知った京楽が、布団をかぶってはいたが裸で寝ていた。
自分の姿を見る。体中に、多分京楽がつけたと思わしき痕があった。おまけに裸だ。

浮竹にその手の趣味はない。それは京楽も同じだった。

二日酔いにはなっていないが、頭が痛くなってきた。

二人して、夜更けまで酒を飲みあった。京楽は、好きな子ができたんだと酒をぐいぐい飲んでいた。杯に注がれるままに、浮竹も飲んだ。

何件か飲み屋をはしごにして・・・・・そこから先の記憶がぷっつりと、途絶えていた。

浮竹は、脱ぎ散らかされていた衣服をかき集めて、身に着ける。こんな痕のいっぱいついた格好では、授業にでれないと、学院を休むことにする。

「・・・・・・料亭か」

部屋を出ると、窓から見慣れた景色が見えた。

安宿なんかじゃない。高級料亭だ。それこそ、京楽くらい金をもっていない入れない場所だ。誘ったのは自分ではないと、言い聞かせる。

酒のせいだ。

一時の気の迷い。

そもそも、何も覚えていないのだ。

男同士でする場合、何処を使うかくらい知っている。痛みもない。

きっと、未遂だ。

そういい聞かせて、浮竹は料亭を去った。




痕が消えるまで、数日がいった。欠席を続ける浮竹の席を、京楽は面白くなさそうに見ていた。

「浮竹、いるかい?」

寮の浮竹の部屋を訪ねると、返事があった。

「なんだ」

「君、休んでばかりでどうしたんだい」

「ちょっと、風邪をひいて」

少し扉をあけると、京楽が部屋の中に入ってきた。

「君、覚えてないの」

「何を」

「料亭でのこと」

「な。なんのことだ」

「まさか、覚えてないの?」

悲げな京楽の顔に、ずきりと心が痛んだ。

「な、何もなかった!俺とお前との間には、何もなかった!」

「やっぱり、覚えてないんだ」

「俺はもう寝る!」

「待ってよ」

京楽を外に追い出そうとして、腕を捕まれた。

ちゅっと、音をたてて頬にキスをされて、浮竹は眉をしかめた。

「俺はお前の玩具じゃない!」

京楽の背中を蹴って、部屋から追い出した。

「浮竹!」

「知らん!」

浮竹は、毛布をかぶってベッドで耳を塞いでいた。

京楽が何かを言っていたが、聞こえないふりをした。

多分、君が好きだ・・・・・そう、京楽は叫んでいた。




それから数日が経った。

京楽は、あれ以来浮竹に接してこない。浮竹も、京楽と口を聞かなかった。

「どうしたんだよ、お前と京楽。あんなに仲が良かったじゃないか」

1回生の頃からの友人が、二人を心配して声をかけきた。

「喧嘩したんだ。多分、仲は元に戻らない」

「なんだって!」

友人は、京楽との仲を取り持ってくれると何度も言ってきたが、断った。

「俺たちは、終わりなんだ」

友人と親友という関係に訪れた突然の終わりは、心に軋む罅をいれた。


次の日、現世までの虚退治の訓練に参加した。浮竹と京楽の力は拮抗している。自然とペアを組まされた。
二人とも、無言だった。

「浮竹・・・・・・」

「何も、いうな。お前の玩具にはならない」

「浮竹、僕は・・・・!」

「ごほっ、ごほっ」

返事をしようとして、咳をした。

「ごほっ、ごほっ、ごほっ」

ごぽりと音がして、浮竹は吐血していた。

「浮竹!」

虚が現れた。

なのに、こんな時に病の発作だなんて。

ああ、ついていない。こんなことなら、京楽とちゃんと和解すればよかった。

鮮血を散らして倒れた浮竹を庇って、京楽は怪我をする。痛みを無視して、京楽は虚と切り捨てた。

「浮竹!」

「・・・・・・・・・すまな・・い・・・・覚えてないんだ。あの日のことを」

「そんなこと、どうでもいいから今はしゃべらないで!」

「すまない」

ただ謝って、浮竹の意識は途切れた。



次に目があくと、寮の中の自分の部屋だった。

ベッドのわきに椅子が置いてあって、京楽が寝ていた。手が、繋がれたままだった。

「京楽!」

「ん・・・・・浮竹、もう大丈夫なのかい!?」

「手を放してくれないか」

「ああ、ごめんね。もう、現世で君が発作をおこしてから3日も起きないから、とても心配したんだ」

「お前、怪我は?」

浮竹を庇って虚にやられた傷はけっこう深かった。なのに、京楽は平気そうだ。

「ああ・・・金を積んで、4番隊の席官の回道で治してもらった」

京楽は、上級貴族だ。下級貴族の浮竹などが、本当ならため口を話せるような立場ではないのだ。身分差は学院では関係のないことと言われているが、京楽の金使いの粗さは、上級貴族ならではのもので、浮竹は嫌いだった。

「京楽。もう、親友には戻れないのか俺たち」

「僕は、それを望んでいない。君が好きだ。愛している」

「俺は男だぞ!付き合っていた女性はどうしたんだ!」

「別れたよ。とっくの昔に。女遊びもやめた。本気なんだ、浮竹。君のことが」

「やめろ」

浮竹が耳を塞いだ。

京楽は、浮竹の体を抱き寄せた。

「好きなんだ」

口づけられて、でも不思議と怒りの感情はわいてこなかった。気持ち悪いとも思わなかった。

「・・・・・・・・・時間をくれないか。混乱しているんだ。気持ちを整理する時間をくれ」

それだけいうと、京楽は満足そうに浮竹に口づけて、去って行った、


時間だけが過ぎる。

大分長くなった白い髪がうっとうしいので、切ろうとすると京楽に止められた。

「君の髪は長いほうが似合っている」

まるで、女に愛を告白するように、京楽は浮竹に愛を囁いた。

もう慣れてきた。

浮竹と京楽ができているという噂がながれ始めた。

多分、わざと京楽が流しているのだろう。

昔のような友人の輪がそれで崩れることはなかったが、女生徒から黄色い声をあげられたり、告白してくる女性がいなくなった。

太陽のように明るく平等な浮竹の周りには、常に京楽がいた。

親友なのだとは思う。それ以上に思えるのか、まだ分からない。

時間だけが虚しく過ぎていく。

京楽に愛を囁かれ続け、抱きしめられてキスをされる。発作をおこすと、京楽が軽々と抱き上げて医務室まで運んでくれた。



「俺はお前のことを・・・」

「時間は、あるから。好き以外の言葉を聞きたくない」

なんて我儘なんだろう京楽は。

休日、いつもの友人と京楽と三人で、現世の海に出かけた。浮竹は暑い日差しの中では倒れてしまうので、ビーチパラソルの下にいた。

友人は女をひっかけて、車に乗って部屋に戻ってしまっていた。

そんな場所に戻ることもできなくて、浮竹は京楽と二人でずっと海を眺めていた。

「泳がないのか?」

「君を置いて、遊べるわけないでしょ」

「俺は大丈夫だ。女でもひっかけてきたらどうだ」

「怒るよ?僕は、君が好きなんだ。他の者はいらない」

夕刻になり、浮竹はとっていたホテルの部屋に戻った。京楽は、一人になりたいと夜の海にでかけてしまった。

「・・・・・・浅井?」

友人の名を呼ぶ。

がっと、後頭部を打撃された。

少し意識を飛ばしていた。

気づくと、手を戒められていた。

「おい、どういうつもりだ」

「ばかだなぁ、浮竹。ずっと、俺はチャンスをうかがっていたんだ。お前を手に入れるチャンスを!」

「!?」

音をたてて、着ていたシャツが破かれた。

「やめろ!」

「京楽とがしてるんだろ?俺でもいいじゃないか。俺を京楽と思えばいい」

「やめろ!」

口づけられて、相手の舌をかんだ。

「この、淫乱のくせに!」:

重いきり殴られて、口の中を切った。

錆びた鉄の味が広がる。

男の手が、肌をはいまわる。気持ち悪くて、浮竹は気づくと叫んでいた。

「やめろ、京楽!京楽!!!」

声が通じたのだろうか。思いが通じたのだろうか。

帰ってきた京楽は、斬魄刀で男を切りすてて、浮竹を助けてくれた。

「大丈夫かい、浮竹?」

「ん・・・・・平気だ」

「君は見た目がとてもいいんだから、気を付けて。あんな輩、今までもいたんだよ。全部僕がつぶしてきたけど」

戒めを解かれ、着換えの服を渡される。

「殴られたの?見せて?」

着換えおわると、京楽に手当された。

「こいつ、どうするんだ?」

友人だったはずの男は、京楽の斬魄刀で貫かれて死んでいた。

「虚に襲われて死んだんだよ」

「無理がなくないか?」

「京楽の名前なら、こんな雑魚の処分なんて簡単だ。浮竹に手を出した罰だ」

酷く冷酷な京楽の瞳に、初めて京楽が怖いと感じた。

その日浮竹は、京楽の腕の中で眠った。近すぎる距離に戸惑いはしたが、嫌悪感ははやりなかった。

次の日、現世に戻ると、友人だった男は虚に殺されたのだと火葬された。

周囲の誰もが違和感を覚えなかった。

一人、浮竹が京楽を怒らせとどうなるかを知った。

京楽が怖い。でも、助けてくれた。とても優しい京楽。

京楽は、無理強いをしてこない。

それが、浮竹を安堵させる原因になっていた。


また、時間だけが過ぎていく。

京楽の目の前に着替えていると、京楽が目を背けた。

「君さ、忘れてない?僕は、君が好きなんだよ。君を抱きたいと思っている」

触れられたり、キスされたりで、もう半ば浮竹の中にも想いができていた。

「俺は、お前になら・・・・・・・」

「浮竹?」

「もう寝る。おやすみ」

4回生になっていた。もう、料亭のことから、1年が経過しようとしていた。


4回生になって、京楽と同じ部屋になった。京楽は、相変わらず無理強いはしてこない。
京楽のベッドで共に眠るようになっていた。
京楽の腕の中で眠った次の日は、発作をおこしていても気分が楽になってたり、なおったりしていた。

京楽は、回道を身に着けているらしかった。

いつの間とは思ったが、全て君のためだよと微笑まれて、心の中に広がった罅は深くなり、ついには粉々になってしまっていた。

また、二人で飲み屋をはしごして歩いた。

したたかに酔って二人は、かつてきていた高級料亭にきていた。無論、京楽のおごりだった。

2階の部屋をとる。

褥が用意されていて、浮竹の体が少し強張った。

「浮竹?嫌なら、逃げていいんだよ」:

「俺は・・・・・・もう、逃げない」

「浮竹、愛している」

口づけられ、衣服を脱がされていく。

浮竹は、長くなった白髪を乱した。

「愛しているのか、まだわからない。でも、好きだ、京楽・・・・・」

褥の横たえられて、京楽に囁かれる。

「ほんとはね・・・一年前のあの日は、君としてなかったんだ。君を手に入れようとした僕の浅知恵だったんだ・・・・・今度こそ、君の全てを手にいる。酔っているけど、はっきりと認識している。君が好きで愛している」

浮竹は、いつの間にか涙を流していた。

心で粉々になったのは、親友としての京楽だ。でも、新しく恋人としての京楽が心の中で芽吹いていた。

「多分・・・愛してる」

貫かれ、揺さぶられて、涙をこぼしながら、囁いた。

「一緒に生きていこう、浮竹」

「俺の傍にいてくれるのか?」

「いつでも、君の傍にいるよ、浮竹」

褥の上で、何度も交わった。浮竹を手に入れた京楽は満足そうに眠っていた。浮竹は意識を飛ばしていた。

気づくと、もう朝だった。

「京楽!」

揺り起こされて、目をこすりながら京楽が起きてくる。

「どうしたんだい、浮竹」

「学院に遅刻する!」

「ああ、もう休むって連絡いれておいたから」

いつの間に・・・・・。
浮竹は、京楽に抱き寄せられた。

「おはよう。僕たち、恋人同士になったで、いいんだよね?」

「ああ・・・・・」

まだ、迷いは少しあったけれど。

4回生の初めになって、結ばれた。

京楽が浮竹に想いを抱くようになって、実に3年以上の月日が流れていた。

浮竹の中に芽吹いた、京楽という恋人は、ぐんぐんと背を伸ばして浮竹を支配していった。

京楽が傍にいないと落ちつかない時がある。

それは、依存症に似ていた。



京楽と共に、笑い、怒り、悲しみ、いろんなことを経験した。



「浮竹ぇ~」

雨乾堂に、今日も京楽が遊びにきていた。

あれから何百年時が経ったのかもう忘れてしまった。

「今行く、京楽」

ただ、二人はいつまでも寄り添いあう。

お互いが隊長となり、忙しくなっても時間があれば常に傍にいた。

尸魂界にに2つしかない、二対一刀の斬魄刀のように。

2つで1つ。二人で一人。

ただ、その傍に。

時間がある限り。

常に在ろうとする二人は、まさに比翼の鳥。


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鈴虫

リーンリーン。

秋の穏やかな午後に耳に心地よい虫の音が響いた。

雨乾堂の隅に、飼育ケースがあった。

仙太郎が、ついこの間親戚にもらったのだと、鈴虫をもってきたのだ。世話は、仙太郎がしている。

浮竹は虫を飼う趣味はなかったのだが、秋の音色を奏でる鈴虫は嫌いではないと思った。

「風流だねぇ」

雨乾堂に遊びにきていた京楽は、その音色に耳を傾けて、酒を飲んだ。

半年分の仕事をため込んで、浮竹に手伝ってもらって3週間と少しで片づけた京楽は、仕事をちゃんとこなすようになっていた。

数日分はためこむこともあるが、ちゃんと片してやってくるので、七緒も文句を言わなくなった。

浮竹も仕事が終わり、京楽がもってきてくれたおはぎを食べていた。

「仙太郎がもってきたんだ。秋を堪能するような遠出はできないから、せめて虫の音でもといわれて」

「鈴虫かぁ。子供の頃、外にとりにいって、カブトムシと一緒に飼ってたなぁ」

「俺は、体が弱かったから虫取りとかそういうのは経験したことはないんだが」

楽しいのかと聞くと、楽しかったよと返された。

「屋敷を抜け出して、貴族じゃない普通の子供たちに交じって遊んでたよ」

「少し、羨ましいな・・・・」

浮竹は、物心つくころからもう病弱で。家の外にでれることなど、めったになかった。肺の病を患って髪が白くなってからは、数少ないできた友人たちから気味悪がられ、うつるといって石を投げられた。

近所の大人も、石を投げた。

父と母が、兄弟が、かばってくれた。

「蜂蜜をとりにいったことならあるぞ」

浮竹の言葉に、京楽が驚く。

「浮竹が?子供頃かい?」

「ああ。当時は蜂蜜が高級品でとても手が出せる値段じゃなくて・・・母の誕生日に甘いものがあげたくて、兄弟そろってミツバチの巣を見つけて、煙でいぶって・・・・・・大分さされたけど、あの蜂蜜の甘い味は、今でも忘れられない。あれがきっかけで甘いものが好きになったな」

「子供の頃の君は、さぞかわいかったんだろうねぇ。変な大人についていったりしなかったかい」

「さらわれそうになったことならあるが」

聞き捨てならないと、京楽が浮竹の手を握る。

「身代金目的じゃなかったんだろうな・・・・・まぁ、子供の頃は丈夫になるようにと、女の子の恰好をよくさせられていたから」

昔にあった風習の一つだ。男児が、病で早世せぬようにと、願掛けをして幼少期の
間女の子の恰好をさせる・・・・・今でこそ廃れたが、ごく一部で江戸時代くらいまで存在した。

「君が女の子の恰好だって!貴族の一部では、確かに男子に元服前まで女子の恰好をさせる家もあったけど、大体がそういうのは上級貴族だよ。君は下級貴族なのに」

「そこまで、病弱だったってことだ。今も変わらないが」

「子供時代の君は、涅マユリの薬のせいで見たことはあるけど・・・女の子の恰好をした子供時代の君かぁ・・・・・もし今度」

「断る」

「まだ何も言ってないのに」

「何かよからぬことしか考えていないのがばればだ」

リーンリーンと鈴虫が鳴いた。

「勘違いしないでよ。僕は、今の君がすきなんだからね」

「それくらい、分かってる」

浮竹は、京楽の手から杯を奪って、酒を飲んだ。

「今から、虫取りにでかけよう!鈴虫をもっといっぱいとろう」

「は?今から?」

「そう、今すぐに」

「おい、京楽!」

京楽に手を引かれて、雨乾堂を後にする。知り合いだという流魂街の子供たちから虫取り網と虫かごをかりて、子供のように二人して野山を駆け巡った。




「もう限界だ」

足をとめる浮竹に、京楽が言う。

「もう少しで雨乾堂だから。頑張って」

「鈴虫結局何匹とれたんだ」

「12匹だね」

自然は多く残っているけれど、なかなか見つけ出せなくて、そんな数字だった。こおろぎならよくいるのだが、鈴虫の数は少なかった。


雨乾堂についたら、まずは夕餉をとった。
そして捕まえた鈴虫を、飼育ケースにいれる。

リーンリーンと鳴く音色の数が増えて、京楽は嬉しげだった。浮竹も嬉しいのだが、その前に疲れすぎて、ぐったりしていた。

「ごめん、無理させちゃったかな?」

「この年で虫取りをして草原を走り回るのは、楽しいが体力がもたない」

「浮竹は体力がないからね。あんなの走り回ったの、久しぶりでしょう?」

「本当に、久しぶりだ」

鍛錬は怠っていないが、野山を走り回るのはまた違った体力が必要だった。

「もう、鈴虫は飼うだけでいい。とりにいくのはごめんだ。でも楽しかった。ありがとう、京楽」

童心に返った気分を存分に堪能できた。

「今日はどうする?泊まっていくのか?」

「うん。七緒ちゃんには、その予定で連絡をいれているからね」

二人で湯あみをして、酒を飲み交わした後、床についた。

「ん・・・・・・京楽?」

畳に敷かれた2つの布団から、京楽が這い出してきて、浮竹のフ布団の中に入ってきた。

「悪いが、今日は相手できないぞ。疲れすぎて、くたくただ」

「分かってる。一緒に眠ろう?」

抱き寄せられて、浮竹は京楽の肩に頭をのせる。しばらくそうしていたが、京楽が黒い瞳で浮竹の翡翠の瞳をのぞきこんできた。

「どうした・・・・・・んっ」

舌がからみあう。深い口づけをされて、浮竹は目を伏せた。長い睫毛がが、頬に影を落とす。

「元気があったら、またどこかに行こう」

「遠出でなければ」

「瀞霊廷の近くに温泉宿があるんだ。そこなんてどういだい。そんなに遠くないだろう?」

「ああ・・・・・」

リーンリーン。

鈴虫が鳴いている。

京楽は、浮竹を抱き締める。

「あんなに走る元気な君を見るのは久しぶりだった」

「童心にかえってたな」

京楽と二人で酒を飲むのもいいが、たまには外の世界に出るのもいいかもしれない。

リーンリーン。

鈴虫が増えたせいで、秋の音色も増えた。

ただその音を聞きながら、京楽と浮竹は秋の深まりを感じながら眠るのであった。





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小説

夏のうだる暑さもすぎ、少しだけ涼しくなった。天気もいいのに、今日も浮竹は布団で臥せっていた。

乱れた白い髪が、畳にまで広がっている。白い布団にかけ布団も枕も白く、髪も白いし肌も白いし・・・・・・とにかく、白にまみれた中に、気だるげな翡翠の瞳が輝いていた。

「京楽」

京楽はというと、涼しげな顔で他愛もない恋愛小説を読んでいた。

「京楽」

名をもう一度呼ぶと、京楽が本を放り投げて、浮竹のほうにやってきた。

「どうしたの、浮竹」

「暇だ・・・・・寝すぎて寝れない。この熱じゃ遊びにもいけないし、何か面白い話でもないか」

「そうは言われてもねぇ」

京楽も、浮竹に無理をさせられないので、ただ静かに傍にいるだけで、実質なところ暇だったのだ。だから、陳腐な恋愛小説など読んでいた。

「小説でも読むかい?」

「この熱で、本を読めと?」

熱でくらくらするのに、文字なんておってられない。

「じゃあ、僕が読んであげる」

「ああそうしてくれ・・・・・」

「きゃああああああ。まち子は悲鳴をあげた。徹は、まち子の豊満な胸をもみしだき、これでもかというほど勃起させた一物をまち子に見せた。いやああああ。まち子は逃げ出そうとしたが、徹が許さない。徹はまち子を裸にむくと・・・・・・」

「京楽」

名を呼ばれて、棒読み状態だった京楽の朗読が止まる。

「なんの小説よんでるんだお前は!」

飽きれてものもいえないとは、こういうことを指すのだろうと、浮竹は思った。

「あれ、気にいらなかったかい。現世で売れてる小説なんだけど。タイトルは巨乳淫乱まち子」

「なんつー小説を。誰が買ってきたんだ」

「え、図書館においてあったんだけど」

「・・・・・・・」

瀞霊廷にある図書館は広い。いろんな、それこそ価値のある文献がいっぱいある。最近では、若者にも本を読ませようと、現世の本や雑誌なんかも置いてあった。
そんな中から、戯れに選んだ一冊だったのだが、浮竹には受け入れてもらえないようだった。

「他に違う本はないのか」

「あるよ。童話だけど」

「もうそれでいい。聞かせてくれ」

「あんあんあん。赤ずきんは、狼の巨根につらぬかれ、あられもない喘ぎ声をあげた。ぐへへへ、俺がくっちゃうぞ。あんあんだめだめ、そこはだめ。狼は、赤ずきんの足を大きく開かせて、自慢の一物を・・・・・・」

「京楽、わざとか?」

「え?いや、これ童話のとこに置いてあったんだけど」

「どう考えても大人向けだろう!」

起き上がって、京楽から童話とカテゴリされているらしい本をとりあげる。

クラリと熱にやられて、その体が傾いだ。

「浮竹!無理するから・・・・!」

「させたのは、どこの誰だ」

熱に潤んだ瞳で睨まれる。

「じゃあ、最後の一冊を・・・・・・」

「まともな内容なんだろうな?」

「多分」

布団に寝かせられて、浮竹は京楽の声を聞く。さっきから、頭痛までしてきた。解熱剤はんだが、一向に熱が下がらない。

こんな病弱な身体なんてと、自分で呪いながら、浮竹は京楽が本を読んでくれのを待った。

「あったんだ、本当に。本当に、楽園はあったんだ。ゾフィーは、その蒼い瞳を煌めかせて、仲間のシャルロットの方を向いて叫んだ。楽園だ!私たちが自由になれる場所は本当にあったんだ!」

浮竹は、目を閉じて京楽の朗読を聞く。

「シャルロットは、もともとフロス王国の王位継承権をもつ少年だった。ゾフィーと出会い、楽園を求めて旅をしていた。楽園とは、人間が悪魔に食べらるのことのない、世界でただ一つの安全な場所」

浮竹が止めないので、京楽は続ける。

「楽園で、ゾフィーはたくさんの人間を見た。悪魔に腕をかじられた少年は、命からがら外から楽園に逃げきたのだという。楽園の外には、今でも虐げられている人々がいて、悪魔が人間を攫ては食っていく。ゾフィーは、シャルロットの手をとった。私たちの力で、楽園を広げましょう。悪魔を退治して、虐げられている人々を救いましょう。ゾフィーは聖女だった。背中の白い翼を広げ、シャルロットを抱えながら空を飛んでく・・・・・・」

「続きは?」

「シャルロトは、剣を構え--------------」

長々とした朗読を聞き続ける。

「それで、シャルロットとゾフィーはどうなったんだ?」

「天使の子であるゾフィーは天界に帰り、シャルロットは人間だけれど、ゾフィーに祝福され、聖人となって天界で、楽園の管理者になりました・・・・・・・」

「終わりか?」

「いや、続くみたいだよ」

「続きが聞きたい」

「気に入ったの、この話?」

「なんとなく、続きが気になる。京楽、図書館にいって続きを借りてきてくれないか」

「いいよ。ちょっと待っていてね」

京楽は、浮竹に受け入れられなかった2冊の本と、さっき浮竹に聞かせてあげた「楽園のゾフィー1巻を手に、瞬歩で図書館にいくとまずは3冊を返却した。これまた瞬歩で続きの2巻を見つけて、司書に手続きをして本を借りてて、雨乾堂まで戻る。

「早かったな」

「瞬歩使ったからね」

楽園のゾフィ-2巻を読み出す。

「うっ・・・・・・・・」

「お前が泣いてどうする」

「だってゾフィー、シャルロットの命を助けるために自分の心臓を神にささげたんだよ!シャルロットの心境を思うと涙が・・・・・・・・」

けっこう、京楽は感動ものの小説に弱いらしい。
目頭の涙をふいて、京楽はよい話だったと評価した。

それは、浮竹もおなじだった。

「その作者の本、他にはないのか?」

「ん、作者・・・・・伊勢七緒!?」

「え?」

「うわほんとだ、七緒ちゃんの写真のってる。この本、七緒ちゃんが書いたらしいよ」

「本当か?」

少し熱が下がったのか、浮竹が布団からはい出てきて「楽園のゾフィー」2巻の巻末の作者のコメントをみる。

今より幼いかんじの、七緒のはにかんだ笑顔の写真がそこにあった。

「知らなかった。七緒ちゃん、童話作家だったんだ・・・・今度、サインもらおう」

京楽は、七緒ちゃんすてきとかしびれるとか言っていた。

「他の本は?」

「えーと・・・・・大空のアティー、翼のアントワル・・・・ある隊長のチョメチョメ」

「!?」

「ちょ、まさか」

京楽は、七緒に真相を聞き出す前に図書館から「ある隊長のチョメチョメ」を借りてきた。

二人して、ごくりと喉をならす。

赤裸々な自分たちを題材にした、BL小説でもあるのかと思って読んでいくと、山本総隊長の若かりし頃を描いた作品だった。

「心配して損した」

「いくら七緒ちゃんでも、上官の情事なんて書かないよ。多分」

ある隊長のチョメチョメは、思っていた以上に面白かった。

「今度、伊勢副隊長にあったら、サインをもらってきてくれ」

「毎日あうから・・・明日には、サインもらえるよ。それにしても、あの七緒ちゃんがねぇ・・・・・」

人は見かけによらないとはこのことだろうと、二人とも思うのだった。

「いい暇ぶつしになった。熱、お陰で下がってきた」

まだ微熱はあるが、起きていても大丈夫なくらい、体調は回復しつつあった。


うだるような暑さはまだ残っている。

浮竹は、畳の上にその白い髪を乱している。

口づけしてくる京楽を受け入れて、浮竹は目を閉じるのだった。








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仕事をためこまないようにしましょう

どかっ。

足で蹴られて、京楽は浮竹を見た。

「なんだい、足癖の悪い子だね」

「暇だ」

「僕は、仕事で忙しいの」

「構え」

「仕事が終わったらね」


京楽は、いつも雨乾堂に遊びにくる。仕事をほったらかして。
そのつけがやってきたのだ。大量の書類を前に、七緒が切れた。片付くまで、雨乾堂に近づくのも浮竹に会うのも禁止といわれた。

そりゃないよと、泣きつくと、自業自得だと一蹴された。

京楽が雨乾堂にこなくなって、1週間がすぎた。初めは、きっとたまにの仕事をしているんだろうと、気にも留めなかった。2週間が過ぎ、まだかと待ち続けた。

3週間が過ぎる頃、流石におかしいのではないかと、浮竹が8番隊の執務室を訪ねる。すると大量の書類に囲まれ、ハンコを押したり筆をとって書類に何かかきこんだりしている京楽の姿を見た。

「何してるんだ」

「見ての通り、仕事してるの」

「こんなに大量に・・・・どれだけの分、ためてたんだ?」

飽きれ気味に聞くと、

「半年分」

飽きれ返る答えが返ってきた。


半年分の書類に囲まれて、それの処理に京楽は精一杯で、雨乾堂にいくことができなかった。

会えないことにしびれを切らした浮竹のほうから訪ねてきてくれるのは、嬉しくもあったが同時にかまってやれないことへの罪悪感とまぜこぜになる。

「手伝う」

「ごめん、ありがとう」

手伝っても、手伝っても終わらない。

浮竹は思う。今度から京楽にはもっと真面目に仕事を平常時から片付けてもらおうと。

やっと終わりが見えてきた。5か月分くらいの仕事が終わって、京楽は目の下に隈を作っていた。

「ふー。今日はここまでにしよう。もう寝るよ」

精根尽きたかんじで、すぐに隊首室にいくと、長椅子で眠りだす京楽。

浮竹が、酒を飲み交わそうと、持ってきた酒瓶の中身が、寂しくちゃぷんと音をたてた。

その日は、浮竹も雨乾堂に帰って寝た。


次の日、また8番隊の執務室に浮竹はやってきた。一人で、酒を飲みながら、京楽が仕事をしている姿を見守る。

「暇だな」

京楽がかまってくれないので、とても暇だった。

文机に向かっている京楽の膝を足で蹴る。

「なんだい、足癖の悪い子だね」

「暇だ」

「僕は、仕事で忙しいの」

「構え」

「仕事が終わったらね」

そう答えられて、また酒を呷った。

いつもの、甘い果実酒だ。

「やっぱり、手伝う」

それくらいしか、することがなさそうだ。

「こっちの書類にハンコ押していって。後はこの書類の山を片付けたら、終わりだから」

浮竹が、ふーっと息をついた。

「もう少しだな」

「3週間以上かかったよ・・・・・・」

その日は、深夜まで二人して書類の束を片付けた。

「終わったー!」

「終わったな」

ためにためこんだ半年分の仕事は、3週間と数日で片付いた。浮竹が手伝ってくれなかったら、もっと時間がかかっていただろう。

その日は、湯あみと食事だけ一緒にとって、8番隊の隊首室のベッドで一緒に眠りについた。


「おはよう、浮竹」

「ここは・・・?」

いつもの雨乾堂じゃないのに戸惑ったが、すぐに思い出す。京楽に会いにいって一緒に仕事を片づけて、一緒に眠ったのだった。

いつもは、一緒に雨乾堂で過ごすことが多く、8番隊の隊首室にくるなんて、本当に久しぶりだった。

「おはようございます、京楽隊長、浮竹隊長」

朝餉を運んできてくれた七緒が、京楽の傍にくる。

「京楽隊長、やればできるじゃないですか。追加の仕事があるのですがどうします?」

「七緒ちゃん、マジで勘弁してよ。もう、しばらく書類の山はみたくない。ちゃんと片すから、執務室に置いておいて」

「分かりました」

七緒は、これまたけっこうな量の書類を、執務室の文机の上に置いていった。

「今日は、どうする?」

「甘味屋にいきたい」

「体調は大丈夫なの?」

京楽が、浮竹の顔をのぞきこんでくる。

「発作もないし、熱もない。最近は体調がいいんだ」

額に手があてられる。

「うん、大丈夫みたいだね。甘味屋いこうか」

手をつないで歩きだす。

甘味屋の前にくると、日番谷隊長がいた。

「あ、日番谷隊長!」

「げっ」

「げってなにさ、日番谷君」

京楽が、逃がすものかとばかりに退路を塞ぐ。

「シロちゃーーん」

「来るな!雛森!」

「え、どうしたのシロちゃん。あっ、浮竹隊長に京楽隊長、おはようございます!いい天気ですね!」

藍染のことも終わり、以前の元気を取り戻した雛森が、日番谷の隣にきた。

「くっ・・・・魔の手から救えなかった」

「日番谷隊長、俺たちは魔王かなにかか?」

浮竹が、笑っていた。

「似たようなもんだろ」

「日番谷君と雛森ちゃんは、甘味屋でデートかい?」

「なななな、違う、京楽、違うからな!」

真っ赤になって否定する日番谷を、浮竹と京楽は顔を見合わせて、ついでにまにました。

「まぁ中に入ろう。今日は僕がおごってあげるから」

「俺だって隊長だ。ここの勘定くらい、自分で払える!」

「まぁいいじゃないか日番谷隊長。京楽の言葉に甘えておけ」

結局、日番谷は雛森と二人きりの甘味屋でのデートを邪魔されて、面白くなさそうな顔をしていた。

「女将さん、ここからここまでの品全部お願いします」

浮竹の注文に、日番谷は呆れ、雛森は驚く。

「そんなに食べるんですか、浮竹隊長」

「ああ、今日は体調もいいし、腹も減ってるしな」

出されて行く品を次々に平らげる浮竹に、雛森は凄いと驚き、もう見慣れているので日番谷は無視し、京楽は嬉しそうだった。

「よく食うな・・・・・」

見ているだけで、胸やけを起こしそうで、日番谷は抹茶アイスを食べただけだった。

「日番谷隊長、もっと高価なもの頼んだほうがいいぞ。京楽はあほみたいに金があるからな」

「じゃあわたしも・・・・ジャンポパフェお願いしまーす」

ここの甘味屋は、現世のメニューも積極的にとりいれているので人気があった。

「シロちゃん、一緒に食べよ?」

「今回だけだからな!」

初々しいカップルに、浮竹も京楽も、優しく見守った。


「ごちそうさまでした」

「ふん・・・・・」

「もうシロちゃん、おごってもたったのにそんな態度とっちゃだめでしょ」

「うるさい雛森。行くぞ」

「待ってよ、シロちゃーん」

走り去っていく二人を見送って、浮竹と京楽は木陰にやってきた。

「はぁ・・・・もう、仕事は勘弁だぞ、京楽」

「ごめんごめん。今度から、たまる前に片付けるから」

麗らかな春の日差しが心地よい。二人して、木陰で午睡する。


浮竹は、基本仕事をためこまない。臥せっている間にたまった書類は、体調が戻った時に手早く終わらせてしまう。

一方の京楽は、副官の七緒に任せきりで、隊長じゃないとできない仕事もそのうち片付けるからと七緒から逃げ出して、雨乾堂にやってくる。

目が覚めると、日も落ちかけていた。

「起きろ、京楽!」

夜遅くまで仕事をしていたので、午睡のはずが寝過ごしてしまった。

「今日は、仙太郎と清音3時頃には帰ると伝えておいたんだ」

「あら。とっくにすぎちゃってるねぇ。地獄蝶飛ばしておくから、今日も僕の部屋に泊まっていきなよ」

構いきれなかった分、たっぷりとかわいがってあげるからと耳元で囁かれて、朱くなった。

「泊まるが・・・・・ほどほどにしてくれよ」

3週間以上浮竹に触れなかった京楽は、たまっていた。

浮竹が意識を飛ばすまで、体を重ね合った。

京楽は満足したが、付き合わされた浮竹は、起きると怒った。


「まぁまぁ。本当に、久しぶりに君に触れたからね・・・・・・愛してるよ、十四郎」

京楽に愛を囁かれて、浮竹も

「俺も愛してる」

そう言って、京楽の腕の中で眠るのだった。








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我慢Ⅱ

「入るぞ」

ノックもなしに部屋に入ってきたルキアを見て、一護は顔を朱くした。

「な、なんつーかっこしてやがんだ」

「何、雨に打たれただけだ」

1時間ほど前は、晴天だった。

急な土砂降りになって、傘も持たずにでかけたルキアの携帯に、連絡を入れようか迷っていたところだった。

純白のワンピースは、どしゃぶり雨のせいで濡れて、体のラインがくっきりと見える。控えめな胸を飾る、ブラジャーの形や色、レースの細かいところまでわかった。

「ほら、バスタオル!」

ばさりと、バスタオルを渡されて、ルキアはそれで髪と体をふいた。

「新しいワンピースあっただろ。あれでも着とけ」

「別に、ほうっておけばすぐ乾く」

着替えようとしないルキアの無防備さに、一護はため息を零した。

「お前な・・・・見えてるんだよ!下着が!」

「なっ・・・・・・」

真っ赤になって、ルキアは体を隠すが、すでにばっちりと一護に見られていた。

「たわけ!このむっつりスケベめが!」

「お前の不注意だろうが」

「着替えるから、見るなよ!」

「あほ、俺がいるところで着替えるな!部屋出るから、着替え終わったらいえよ」

一護は、ルキアを残して廊下にでた。

3分くらい経って、遅いなとイライラしだす。

5分経って、まだかと頭をかきむしった。

10分経って、いい加減しろこのやろうと、ドアをノックしてから中に入った。

「----------!なんで着替えてないんだ!」

「いやな、この格好意外と涼しくてだな・・・・・」

ルキアは天然だけど、ここまでくると煽っているとしか思えない。

「風邪ひくだろうが!」

ルキアのワンピースの上から薄め自分のトレーナーを着せる。

トレーナーはぶかぶかだった。

「貴様の匂いがする・・・・・・」

その言葉に、心拍数が上がる。

人間と死神。

死神代行と死神。


結ばれているようで結ばれていない線は、きっと延長したずっと先で、交わっている。


「ルキア」

「なんだ」

「アホ」

ぺしっと、額を指ではじくと、ルキアはぷんぷんと怒った。

「たわけ、何をする!」

「お前な。恋次にも多分言われてるだろうけど、自分が女だってこと、忘れてないか?」

「男尊女卑か!」

「違う、このアホが」

「アホというほうがアホなのだ!このウルトラアホ!」

ルキアはまくしたてるが、その細い体を抱き寄せた。

「一護?」

「俺も、これでも一応男なんだぜ。この前言ったよな、お前のことが好きだって」

「覚えておるわ、たわけ!」

「あのな。仲間だから、好きとかそういうんじゃないんだぞ。恋愛感情で好きんなんだ」

改めて言われて、ルキアの頬に朱がさした。

「ずるいぞ、一護」

「何がだよ」

「お前ばかり、いい思いをしているのであろう?私にも、少しよこせ!」

押し倒されて、一護はルキアを見上げた。

触れるだけの、口づけが降ってくる。

一護は、ぎゅっと目を閉じてるいるルキアの顎を掴んで、舌をいれた。

「んんっ!」

ぬるりと舌が入ってきて、目をあけた。

紫紺の瞳が、与えられる熱で潤んでいく。

「あ・・・・・」

背中のラインを、服越しからたどられて、ルキアは真っ赤になった。

「こういうこと、俺はしたいと思ってるから。お前も、それをちゃんと意識して、俺に接しろ」

「どうすればいいというのだ!」

「俺の部屋に入る時は、ちゃんとノックすること。無防備な姿にならないこと。俺を煽るような行動はとらないこと」

「3つめが、分からぬ。どうすればいいのだ・・・・」

一護は、頭をがりがりとかいた。

「とにかくだ」

ルキアを押し倒して、その桜色の唇に指をはわす。

「こうやって、近い距離にいることとか・・・いろいろ、俺もつらいんだよ!」

ルキアを解放して、一護はベッドに寝転がった。

「同じ屋根の下だもんな・・・・難しいけど、俺が我慢するしかねーか」

「何をぶつぶついっておるのだ、たわけ!」

のぞきこんでくる、顔の距離が近い。

肩より少し伸びた黒髪が、さらりと一護の頬にふれた。

「そういう行動が無防備で、煽ってるっていうんだよ!」

ルキアの頭をはたいた。

「おのれ、何をする!」

「あーもううるせー。お前は押入れで寝ろ」

「何故だ!妹たちの部屋が嫌だと言ったら、一緒のベッドでいいとぬかしたではないか!」

「今日は押入れだ」

「ぐぬぬぬ・・・」

うなるルキアを押入れに放り込んで、一護はベッドに寝転がった。

「っとに、人がどれだけ我慢してると思ってるんだ・・・・・・・」




翌日目覚めると、腕の中にルキアがいた。

「また勝手にでてきやがって・・・・・」

スースーと、眠りについているルキアを見る。睫毛が思ったより長いなと思いながら、一護はルキアの額に口づけた。

「んーむにゃむにゃ。兄様、わかめ大使が泳いできます・・・・・・・」

「なんの夢みてやがんだ」

今日もまた、一護の我慢する過酷な日の幕開けだ。

いつまで我慢できるだろうと思いつつ、一護はルキアを起こしてお互い制服に着替え、学校にいくのであった。



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日番谷隊長の受難Ⅳ」

「日番谷隊長」

「来るな浮竹!お前は10番隊の執務室出入り禁止だ!」

「まぁそう言わずに」

日番谷から見れば、浮竹はおっさんだ。

でも、長い綺麗な色の白髪と翡翠色の瞳をしていて、可憐に見える。京楽が浮竹を愛したがるのは、なんとなくわかった。

執務室に入ってきた浮竹は、勝手に長椅子に座る。

「お茶、どうぞ」

「ああすまない、松本副隊長。これをあげよう」

「なんですか、これ」

「わかめ大使だ。見た目は変だが、甘くておいしいぞ」

勧められるままに口にして、松本は目を見開いた。

「ほんとだ、美味しい!」

「俺の分はないのか」

「ああ、日番谷隊長の分はあるぞ」

どこに隠しもっていたのか、どさりと机の上に置かれた。

「こんなに食えるか!」

文句を言いつつも、日番谷はわかめ大使を食べていく。

「実はな、相談があるんだ」

「なんだ」

「中だしされるのって、当たり前なのか?」

ブーーー!

日番谷がお茶を吹き出した。

「な、なに言ってるんだお前!」

「中だしされると、後始末が・・・・でも、京楽は中だしは当たり前だって」

「そういうことは、京楽にいえ!」

もう、今すぐにでもこのおっさんをたたき出そうかと迷っていると。

「浮竹、最近日番谷隊長の執務室に来るのが多いね?まさか、浮気?」

勝手に入ってきた京楽が、浮竹を抱き上げた。

「浮気!?」

浮竹が、目を白黒させている。

「ああでも・・・・本当に浮気するなら、日番谷隊長がいいな」

ブーーー!

日番谷は、またお茶を吹き出した。その後、わかめ大使を飲みこんでしまい、けほけほとむせていた。

「攻は俺だ。日番谷隊長は受だな」

ブーーー!

またお茶をふきだした。

松本が、文句をいいながら机を拭いている。腐った女子脳を持つ松本は、浮竹と京楽の絡み合いに頬を染めていた。

「・・・・・・・・蒼天に座せ、氷輪丸」

氷を龍をだして、日番谷は京楽と浮竹をはるか彼方にまで押し上げた。

「ちっ、逃げたか・・・・・・」

流石、古参の隊長だなと思いつつも、日番谷は壊れた天井をみて。

「4回目か・・・・・・さすがに、山本総隊長に怒られるか」

そう言って、お茶をいれなおし、すすっていた。


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日番谷の受難ⅲ

「日番谷隊長、今日は甘納豆をもってきたぞ」

その言葉は嬉しかったが、できれば浮竹一人できてほしかったと、日番谷は思った。

浮竹の背後は、京楽がいた。

この二人のせいで、執務室ぶっこわしたことが2回あった。

「聞いてくれないか、日番谷隊長」

「なんだ浮竹」

松本が、耳をぴくぴくさせている。

「松本、盗み聞きしてないで茶でもいれてこい!」

「え~。たまには隊長がいれてくださいよ」

「お前、上官に向かってそれはないだろ!」

「ああ、お茶なら僕がいれるから」

京楽が、10場隊の執務室の奥にあるお茶のはっぱと急須をとりだしてお湯をいれ、まるで自分の執務室であるかのように動いて、お茶を4人分用意してくれた。

「京楽隊長やさしい。あたし、京楽隊長の副官になろうかしら」

「なりたきゃ勝手になれ」

「ひどい!」

泣き真似をするが、そんなことで騙される日番谷ではない。

「んで。今日はどんな要件なんだ」

「今度、男性死神協会で作る会誌に、のせるネタを聞こうと思って」

「男性死神協会・・・・・・?」

聞きなれないその言葉に首を傾げる。思いだす・・そういえば、女性死神協会はあるのだから、男性死神協会があってもおかしくない。

「俺が理事をしているんだ。あんまり会員はいないが・・・・・ちなみに、会長は射場副隊長だ」

どうでもいい情報だった。

「で、何が聞きてーんだ」

「転生できるとしたら、何をもっていくか!これだ」

「転生したらね・・・・・・俺は、氷輪丸だな」

「えー。もっといいのあるでしょ、隊長」

「松本、そういうお前はなんなんだ」

「あたし?あたしはこの美貌と胸かなぁ」

「お前の人のこととやかくいえねーじゃねぇか。そんなくだらないものもって転生して、何になるっていうんだ」

「あたしのこの美貌と胸があれば、転生した世界でももてもてのはずよ!」

大きなため息をつく日番谷の目の前で、浮竹は紙にかいていく。

「日番谷隊長は氷輪丸で、松本副隊長は美貌と胸・・・と」

「ちょっと、そのノート見せろ!」

日番谷が、浮竹からノートを奪った。

「何々・・・・朽木白夜は「誇り」 阿散井恋次は「力」 砕蜂は「夜一様」 大前田は「金」

雛森は「藍染隊長」 涅マユリ「実験体と実験材料」 吉良は「勇気」 檜佐木は「恋心」

更木は「強さ」 草鹿は「お菓子」 卯ノ花は「回道と慈悲」 山本総隊長は「若さ」 朽木ル

キア「兄様と一護」 黒崎一護は「卍解」」

「な、面白いだろ?」

浮竹は楽しげだが、こんなの知って何になるんだろうと思った。

「浮竹、お前はなんなんだ?」

「俺か?俺は「健康」かな」

その言葉に、京楽が泣き真似をする。

「酷いと思わないかい、日番谷君。僕は「浮竹」なのに、浮竹は僕じゃないんだよ」

「いや、別にいいんじゃないか?個人の自由だろ」

浮竹が健康を選ぶ理由もわかる。あれだけ病で臥せっていては、健康がほしくなるだろう。

「浮竹のばか!おたんこなす!」

「なんだと、京楽のアホ!」

低レベルな次元の会話を続ける二人。

「転生しても僕はいるだろう?」

浮竹の背後から抱き着いて、耳元で囁く。

「俺は健康が・・・」

「そんなこと言わずに、僕を選んでよ?ねぇ?」

「どこ触ってる!ん、やめっ・・・」



「蒼天に座せ、氷輪丸!」



 執務室を氷漬けにして、日番谷は部屋を去って行った。

「くだらねぇ」


氷の龍が、荒れ狂う。

「ひゅう、さすがは日番谷君。天童といわれるだけのことはあるね」

浮竹を抱き上げて、京楽は執務室の屋根の上にいた。

「あっ、ノートがまだ執務室に・・・・・・」

「僕がちゃんと記憶してるから大丈夫」

「それは頼もしい」

「でしょ。僕のこと、選ぶ気になった?」

「さぁ?」

悪戯そうに微笑んで、浮竹は京楽の背中に手を伸ばす。唇が重なった。


「だああああ!蒼天に座せ氷輪丸!」


日番谷の受難は続く。




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寄り添う

「!!」

京楽は、飛び起きた。

浮竹が死ぬ夢を見た。鮮血を吐いて、肺の病で弱りしんでいく夢だ。

最期を看取り、嗚咽を零した。

「あ・・・・・・・」

気づくと、泣いていた。

「京楽?」

京楽の隣で、眠っていた浮竹が眠たげな声をだして、目をこすっていた。

「なんでも・・・・ないよ」

「泣いてるのか?」

何故、と問われる。

「君を失う夢を見た」

事実、一度失った。なんの奇跡か、また浮竹に出会えたけれど、浮竹が自分の腕の中で息を引き取り死んでいった事実は消せない。

「・・・・怖いんだ」

この前、浮竹が破面に襲われけがをして記憶を食われ、視力を失った時もそうだった。

手の平から、零れ落ちていきそうで。

怖い。

そうまた呟くと、ふわりと甘い花のかおりで満たされた。

「浮竹?」

その暖かな体温と確かに伝わってくる鼓動に、安堵する。

「俺は、もう死なないし、お前を置いていったりしない。次に死ぬときは、お前と一緒だ」

そんな浮竹を抱き締め返す。

浮竹は、いつも京楽がそうしているように、京楽の涙を唇で吸い取った。

「泣くな。俺はここにいる。悪夢なんて、真実ではない。ただの夢だ」

浮竹が傍にいるのが幸せすぎて、頬をつねる。

「これは、現実だね」

腕の中の浮竹は、白い髪をかきあげて、京楽に口づける。

「安心しろ。俺は、お前の傍にいる」

「うん、そうだね」

愛しい恋人を抱き締めた。

「まだ深夜だ。もう少し寝ろ。悪夢を見たら、俺をたたき起こせ。追い払ってやるから」

浮竹の頼もしい言葉に、自然と笑みが零れる。

京楽は、浮竹の腕の中で静かにに目を閉じる。

いつもは京楽の腕の中で浮竹が眠りにつくのだが、今日は反対だった。

「浮竹。愛してるよ」

「俺もだ、京楽」

睡魔は、安堵したせいかすぐに襲ってきた。

傍らの体温はなくならない。

京楽は、眠りにつく。

浮竹は、京楽が眠るまでずっと彼を抱き締めていた。


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絶たれた絆と失った目

「・・・・・・・・!」

なんだろう。

何かが、聞こえる気かする。

「・・・・・・・・!!」

なんだろう。

懐かしい声だ。

「・・・・・・・四郎!!」

誰かが、俺の名前を呼んでいる・・・・?

でも、誰だろう。

「浮竹十四郎!」

名を呼ばれて、はっとなった。

「きょうら・・・・・く?」

真っ黒だ。

暗闇の中にいる。

「どこだ京楽。明かりは?」

「浮竹!?大丈夫か!?」

京楽は、どこだ?

「京楽・・・・真っ黒だ。どこにいる?」

「君の目の前にいるじゃないか!」

抱き寄せられたのか、ふわりと体重が一瞬浮いた。

ついで、すごくきつく抱きしめられて、その苦しさに息をつぐ

「浮竹・・・・・目が?」
 
「目?・・・暗闇じゃないのか?明るい場所なのかここは?何も見えない」

「浮竹!」

記憶もすっぽり抜けている。

「俺はどうしたんだ?何故目が見えなくなった?」

「何も覚えていないのかい!?」

「何かあったのか?」

「君は、僕らを庇って破面の攻撃を受けたんだ。名前は分からない」

破面?

藍染が封印されたことで、エスパーダたちは散り散りになったはず。

今も、単独で動いている破面がいるということか?

そもそも「僕ら」とは?

「京楽。傍に誰がいるんだ?」

「七緒ちゃんだよ!七緒ちゃんと僕を庇って、君はけがを・・・・目を・・」

そういえば、右肩から臍にかけて、血が流れているようだ。でも、痛みはあまりない。
それよりも、目が見えないことのほうがショックだった。

「自分でも、混乱していてよく分からない。俺は、伊勢副隊長と京楽、お前を庇って怪我をして、視力をなくしたんだな?」

霊圧を探ってみる。伊勢副隊長の霊圧も、京楽の霊圧も普通だ。

「こちら京楽総隊長。至急、4番隊を流魂街七十八地区 戌吊まで送りたし。浮竹が怪我をした」

「京楽・・・・・総隊長?」

「浮竹!?まさか、今までの記憶も!?」

「俺の知っている京楽は、8番隊の隊長だ・・・・それが総隊長?どういうことだ?」

ぐらりと、体が傾いだ。

目が、焼けるように痛い。ただ痛くて、意識を手放した。


-------------------------------------------


その日は、ごく普通の一日だった。

いつものように、総隊長として一日の仕事を始めて、昼になる前には仕事は一段落した。

僕は、愛しい人を起こすために、隊首室に奥にある寝室のベッドまできた。そこに寝ている浮竹を揺り起こす。

「浮竹、もう昼だよ。昨日は遅くまで交わってしまったけど、いい加減におきて」

愛しい恋人は、気だるげに髪をかきあげた。その姿に、ドキリとする。

何百年たっても、浮竹は変わらない。白い長い髪も、白い肌も、翡翠の瞳も。

麗人は、ゆっくりと起きて小さな欠伸をした。

「ごめん、昨日は無理させちゃったかな?」

昨日、浮竹を抱いた。2回ほど浮竹の中に精を放って満足して、湯あみをしてから二人でべッドに横になって眠った。

「お前は、朝から仕事か・・・・・も少し、ゆっくりすればいいのに」

「無理だよ。今日は、流魂街七十八地区 戌吊に出たという、破面を探し出すために、僕も出動が決まっているからね」

なんでも、その破面は、記憶を食うらしい。

もう何人かの先遣隊がやられている。殺されなかった者は、記憶を食われて廃人同然になっているか、記憶の一部を食われて混乱するかだった。

藍染が操っていたエスパーダの、ザエルアポロと呼ばれていた破面によく似た破面は、強くて席官クラスでも歯が立たなかったそうだ。

無事に戻ってきた者の中には、綾瀬川弓親がいた。顔に怪我を負ってはいたが、比較的軽症だった。11隊の3席だ。それでも、歯が立たなかったらしい。しかも、弓親も記憶を一部食われていた。昔の・・・・いつも一緒にいる、班目副隊長と出会った頃の記憶を奪われたらしい。
本人は、その記憶がなくても大丈夫と、元気さをアピールしていたが、やはり敗北はこたえるのだろう。
悲しそうな顔をしていた。

綺麗な子だから、顔の怪我が早く治ればいいのにとは思った。


時間がきて、出撃準備が整った。

副官の七緒ちゃんが率いる部隊でまずは誘いだし、僕のが率いる本隊で、仕留めるつもりだった。心配してついていくと聞かなかった浮竹は、七緒ちゃんのいるほうの部隊に交じってもらった。

双魚理を取り戻したことだし、死神としても戦える。何より、昔13番隊の隊長をしていた子だ。僕の愛しい恋人であるけど、儚いけど強い。信頼できる相手だ。

誘いだしには成功した。でも、次々と隊士がやられていく。七緒ちゃんに襲いかかろうとしているところを、浮竹が背後をとらえて切り捨てた。

仕留めたのだと思った。

でも、破面は死んでいなかった。理解不能な叫び声をあげて、七緒ちゃんに襲いかかった。僕は、身を挺して庇おうとした。それを、浮竹がさらに庇った。

「浮竹!」

鮮血を散らしていく。浮竹と破面は何度か切り結びあっていた。僕は、気が気じゃなかった。また、君を失うかもしれないと思って、卍解しそうになっていた。

「死ね」

斬魄刀で、切りつけた。また、悲鳴をあげる破面。

応援にかけつけてきた10番隊の日番谷隊長の攻撃が、逆にあだとなった。破面は、逃げ出してしまった。

「大丈夫かい、浮竹!?」

ピクリともしない。僕は怖かった。また、君を失うのかと思って。

何度か声をかけていると、意識が戻った。傷は、七緒ちゃんが回道で応急処置をしてくれた。、

「どこだ京楽。明かりは?」

浮竹が視線を彷徨わせる。怪我をしたショックのせいかとおもった。

「浮竹!?大丈夫か!?」

声をかけると、浮竹は僕の顔をみないで、視線を彷徨わせる。

「京楽・・・・真っ黒だ。どこにいる?」

「君の目の前にいるじゃないか!」

揺さぶろうとして、自分を止めた。浮竹を抱き寄せた。その細い体を。
きつく抱きしめると、浮竹が腕の中で身じろいだ。

「浮竹・・・・・目が?」
 
「目?・・・暗闇じゃないのか?明るい場所なのかここは?何も見えない」

「浮竹!」

「俺はどうしたんだ?何故目が見えなくなった?」

さっきの破面の攻撃で、目をやられたらしい。それもショックだが、前後の記憶がすっぽりとぬけているのだと思った。

どうか、記憶が奪われていませんようにと、神に祈った。

「何も覚えていないのかい!?」

「何かあったのか?」

「君は、僕らを庇って破面の攻撃を受けたんだ。名前は分からない」

「京楽。傍に誰がいるんだ?」

「七緒ちゃんだよ!七緒ちゃんと僕を庇って、君はけがを・・・・目を・・」

応急手当をすませたとはいえ、怪我は深い。痛み止めを打っておいて、正解だった。

また抱き締めてみる。目をみると、眼球そのものは大丈夫そうだが、黒い靄のようなものがかかっていた。

綺麗な翡翠の瞳に、濁りが見えた。

「自分でも、混乱していてよく分からない。俺は、伊勢副隊長と京楽、お前を庇って怪我をして、視力をなくしたんだな?」

僕は、伝令神機で4番隊に連絡をいれた。

「こちら京楽総隊長。至急、4番隊を流魂街七十八地区 戌吊まで送りたし。浮竹が怪我をした」

「京楽・・・・・総隊長?」

浮竹の言葉に、ぎくりとなった。

「浮竹!?まさか、今までの記憶も!?」

「俺の知っている京楽は、8番隊の隊長だ・・・・それが総隊長?どういうことだ?」

浮竹は。浮竹は、生き返った記憶を奪われていた。

ぐらりと、体が傾ぐのを、できるだけ優しく受け止める。

浮竹は、僕の手の中で完全に意識を手放した。



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これは復讐かもしれない。

護廷13隊の全力をあげて、例の破面を探し出すことに成功したが、生け捕りにはできなかった。自決したのだ。

まず、報告があった。

記憶をうばわれた、綾瀬川弓親が、記憶を取り戻したのだという。

「本当に、記憶がもどったんだね?」

「はい、総隊長。一角とつるんでバカやってた頃の記憶が、今も昨日のことのようにかんじれるんです」

顔の傷も治癒したようで、京楽もほっといしていた。

他にも、記憶を奪う破面にやられた隊士たちが全員、廃人寸前だった隊士まで回復して、破面の死により、奪われた記憶は元にもどったのだと思った。

それが、間違いだった。

「浮竹・・・・・・」

浮竹を抱き寄せる。

4番隊で見てもらった、浮竹の怪我は応急処置が早かったお陰で、跡も残らないくらい綺麗に治った。ただ、目のほうは眼球は無事だが、視力が自然に戻るのを待つしかないと言われて、また絶望感を味わった。

「京楽、俺の目はもう光を映さないのか?」

「大丈夫。時間がたてば自然に治る可能性が高いって」

「そうか・・・・・」

浮竹と会話しあった。

やはり、一度死んだことを覚えていなかった。総隊長となった京楽と、再び積み重ねていた今までの時間を、失っていた。

記憶は、藍染が倒された少し後まではある。そこから先の、今まで過ごしてきた大切な時間の全てを、奪われていた。


-----------------------------------------

数週間が経った。

相変わらず、浮竹の記憶は戻らない。目も、見えないままだった。

「京楽・・・・・別れよう」

その言葉に、京楽は鼓動が止まりそうになった。

「何言ってるんだい、浮竹?」

「だって・・・・こんな、目も見えないようなお荷物・・・・それに、お前が愛した浮竹は、もうどこにもいない」

「いるじゃない。僕の目の前に、君がいるじゃない」

「だが俺は、総隊長になったお前を知らない。俺が死んだというのも、生き返ったというのも、分からない。今の俺には、何もない」

「在るよ。今までの絆が、絶たれたわけじゃない」

「でも!」

浮竹を抱き寄せて、その耳に囁いた。

「僕なしで、生きていけるの?そんな淫乱な身体で」

「なっ・・・・・・・・」

言葉をなくしている浮竹の体を・・・・・背中を押すだけで、浮竹はよろめいた。

「そんな身体で、どうやって生きていくの。自分の面倒さえ、みきれないのに」

「故郷へ、戻る」

今まで。どんなにつらいことがあっても、浮竹が、たとえ冗談でも、別れ話を切り出すことなかった。

怒りを覚えた。

愛しいのに。

この愛しい生き物は、光を失って自暴自棄になっているのだと、気づいてはいたが、怒りが大きすぎて、京楽は自分をセーブできなかった。

その細い体を抱き上げると、いつもは大人しい、されるがままの浮竹が抗った。

それがまた癇に障って、京楽は浮竹を乱暴に、ベッドに放り投げた。

「やめろ」

「やめない。君は僕のものだ」

「俺は、俺だ。誰のものでもない」

いつもなら、お前も俺のものだといってくれるのに。

本当に、この愛しい生き物は残酷だ。

「やめっ」

「やめない。どんなに泣き叫んでも、やめない」

死覇装をはぎとって、帯で手を戒める。

襦袢姿にしてそれもはぎ取っていく。

「京楽、やめろ」

「やめない」

噛みつくように口づけると、浮竹は体を強張らせた。

全身にキスの雨を降らせて、輪郭をたどっていくと、愛しい生き物は甘い声をだした。

「やあっ」

足をばたつかせて暴れるので、急所を握って、握りつぶすと脅したら、大人しくなった。

足を大きく開かせる。

「目がみえなくよかったね。今、君はとても恥ずかしい恰好をさせられているよ」

「こんなの、ただの暴力だ。強姦だ」

「強姦でけっこう」

京楽は、浮竹の体中に痕を伸していく。

「やだっ」

目が見えないせいで、余計に不安に感じているのだろう。浮竹は泣いていた。

ちゅっと、キスして涙をすいとって、鎖骨から臍にかけて舌を這わせる。胸の先端をきつくつまむと、びくりと浮竹の体が反応した。

「体は素直だね」

「やあ」

うちももを吸い上げて、浮竹の花茎に舌を這わせた。

「!」

先端を口に含み、入りきらなかった場所は手で扱った。何度がしごきあげ、先端に爪をたてて、
吸い上げると、あっけなく浮竹は精を放った。

「ああっ!」

乱れていく浮竹が愛しくて、早く一つになりたくて、潤滑油をとりだすと、浮竹の蕾と自分の欲望に塗り付ける。

指にも塗り付けて、まずは中を解して傷つけないようにすることから始めた。

「ああっ」

指をつぷりと差し入れると、浮竹は逃げようとする。

「どこにいくの?」

「故郷に、かえる」

泣き出した浮竹をあやすこともせずに、指を3本に増やして突き入れた。

ぐちゃぐちゃにかき乱すと、流れ落ちてきた涙がシーツにしみをつくった。

「愛してるよ・・・・・・・」

前立腺をコリコリと刺激すると、浮竹の体は素直に反応する。そこばかりいじっていると、浮竹が自分の唇を舐めた。

ああ、この子・・・・・・強姦されてるのに、情欲してるんだ。

愛しいと思った。手放したくないと。

「!・・・・何をっ!」

蕾を、なめた。内部に舌をいれると、京楽はできる範囲で前立腺を舐めあげた。

「ひあっ」

今まで、この数百年睦みあったけれど、こんな行為をしたのはじめてだった。軽い興奮を覚えた。

見ると、浮竹は戒められた手でシーツをきつくつかみ、声を我慢していた。

舌をぬきさると、浮竹はほっとした様子だった。

でも、次に来る衝撃で、苦しげに体を折った。

みしりと、音を立てて、浮竹の蕾に自分の情欲を突き入れた。

「いたっ・・・・やめろ、京楽っ」

「やめないっていったでしょ」

ふとももを肩に担いで、欲望のままに腰に腰を打ち付ける。

「いあああああっ」

何度も、浮竹のいいとこだけをこすりあげてやると、浮竹はまた精を放った。

「僕は、まだ一度も満足してないよ」

「ああっ!」

最奥を突き上げる。何度も挿入を繰り返す。
じゅぷじゅぷと音をたてて、結合部は泡だっていた。

揺さぶられる動きと同時に、浮竹の長い白い髪が宙を舞う。

「やぁいやだっ」

「君のここは、もっと僕を欲しがっているよ?」

一度ひきぬきくと、勢いをつけて最奥までたたきつけた。

「あああああああっ!」

京楽は、浮竹の腹の奥で果てた。

ぬきとられていく灼熱に、浮竹が涙を流す。

「京楽・・・・もっと・・・・・・・・・おもい、だした。俺は・・・ミミハギ様を、神掛をして病気で死んで・・・・・・またお前と出会って・・・・・・」

「!!」

京楽は、涙を零した。

「愛してるよ、浮竹」

「別れるっていって、すまない。もう、二度といわない・・・・ああっ」

前立腺をこすりあげてやった。めいっぱい感じるように。

薄い浮竹の筋肉のついた腹が、外からでも侵されているのが分かった。

何度も何度も前立腺をこすりあげてやると、浮竹が啼き出した。

「やあああ、きもちよすぎて、変になるっ」

花茎を何度もしごいて、精を放たせてやっていると、さすがにもう何もでないのか、熱をもったまましおれてしまった。

すぷすぷと、音をたてて浮竹の体を犯していく。

何度目かもわからない精液を、浮竹の中に放って、京楽も力尽きた。

汗が、流れ落ちた。気だるげな時間を過ごす。

「愛してるよ、浮竹」

「ん・・・・俺も」

愛しくて、抱きしめた。

その跡、湯あみをして新しいシーツと布団を出して、二人でまどろんだ。



「浮竹?」

起きると、腕の中に浮竹はいなかった。

目が見えないので、あまり遠くにはいっていないはずだ。探すと、隊首室の隅にいた。

手に、地獄蝶を止まらせていた。

 綜合救護詰所に入院している、俺と同じように、視力をなくした者が、目の洗浄を何度か受けて視力が回復したらしい」

それは、嬉しいニュースだった。

ここ数週間、浮竹はずっと暗闇の中にいた。生活は、京楽が面倒をみてやっていた。片時も手放さなかった。

浮竹の視力が戻れば、何もかも元通りだ。

「ちょっと遅いけど、朝餉食べるでしょ?」

聞くと、こくりと浮竹は頷いた。

自分で食事をとり、次に浮竹に食べさせてあげた。今日の朝餉は和食だった。

4番隊の綜合救護詰所まで、手を繋いでゆっくり歩いた。浮竹が転ばないように、足元に常に気を配った。

綜合救護詰所につくと、虎徹勇音隊長が、浮竹をみてくれた。

目の洗浄を行うと、最初は光が見えるだけだった。何度か洗浄を続けると、目にかかっていた靄が消え、目の濁りもとれた。

綺麗な翡翠色の瞳がそこにあった。

「浮竹さん。見えますか?」

「見える」

「この指は、何本に見えますか?」

勇音が指を3本にすると、浮竹ははっきりと答えた。

「3本」

「はい、完全に目の方は完治したようですね。記憶のほうも戻ったと聞きますし・・・でも京楽総隊長、目の見えない半病人である方に、あまり無理強いはしないように」

念のため体全体を診てもらったのだが、性行の痕がたくさんあって、浮竹は平気でも京楽が恥ずかしい目にあった。

「気を付けるよ」

勇音隊長に礼を告げて、詰所を出る。

外に出て、浮竹を抱きあげてくるくる回った。嬉しすぎて、言葉では言い表せなかった。

陳腐だが、なんとか言葉をみつける。

「おかえり」

「ただいま」

浮竹を抱き締めた。ふわりと、甘い花のかおりがした。


-------------------------------


それから数日がたった。浮竹の体には異常はなかった。記憶もしっかりしているし、目もちゃんと見えていた。

「あ、シロ、お帰り」

数週間の間、浮竹が視力を失っている間全然こなかった、半分飼われているに近い小鳥が、窓から入ってきて京楽の肩に止まった。

「チチチチ」

まるで、浮竹の回復を祝っているようで。

エサを与えるようとすると、もう一羽の小鳥が入ってきた。

その鳥は、シロの個体と同じ種で、色が黒だった。

「ああ・・・・・伴侶を見つけたんだね」

仲良さそうにエサを啄む。

「チチチチチチ」

「チチッ」

「黒いから、この子はクロだな」

浮竹が、名前をつけた。

シロとクロは、仲良さげに大空に飛び立っていった。

京楽と浮竹は、断ち切られた絆を取り戻した。

浮竹は視力も取り戻した。

浮竹が、別れ話をすることは、それ以後決してなかった。


シロとクロのように。

違いを伴侶として、過ごしていく。

京楽は、一度浮竹を失ったが、浮竹は戻ってきた。浮竹は生き返ったとか平行世界からきたとか、よくわからぬ説であったけれど、浮竹を一人にすることはなく常に傍に寄り添っていた。



   













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ホットケーキ

「うまい」

目を輝かせる浮竹に、京楽も満足げな様子だった。

現世でいうホットケーキなるものを、材料を手にいてたので作ってみたのだ。、

かき交ぜて焼くだけだったが、食べてみてこれは甘味ものが大好きな浮竹なら大好物に違いないと、浮竹を呼んだのだ。

一番隊舎の厨房をかりて、総隊長自らが料理など、普通はありえないことを、京楽はしてしまった。専用の料理人が、自分が作るというのも断って、京楽は生まれて初めて自分で料理をした。

本当なら、もっと手の込んだフランス料理とか・・・・現世にいかないと食べられない食事をさせてあげたかったのだが、京楽の料理の腕は普通だった。

本場の場所で修行でもしない限り、コースものの料理など作れないだろう。

「京楽も食べてみろ」

一口サイズにカットされたそれを、口に含むと甘みが口の中に広がった。

尸魂界では蜂蜜は高級品だ。でも、現世にいけば蜂蜜の成分を含んだメープルシロップなるものがうっている。

手頃な値段で、甘くておいしい。

まだ浮竹と京楽が隊長になった頃の数百年前は、食事も質素なものだったが、ここ十数年でかなり変わった。

現世のメニューがよく登場するようになったのだ。

カレーとかシチューはけっこう昔からあったが、子牛のフィレステーキだの、フォアグラだの・・・・・。

現世でいう珍味や高級料理が、尸魂界の料理屋でも出るようになった。

ホットケーキも、かなり前に一時流行ったのだが、蜂蜜が高価になりすぎて、廃れていた。

「浮竹の喜ぶ顔がみたくてね」

京楽は、浮竹の頬にキスをした。

浮竹は、京楽を手招きする。

眼帯を外される。

いつもは見れない、京楽の右目が露わになる。醜い傷跡があった。

視力をなくした右目に、浮竹はキスをした。何度も。

それは、褥での決まり事。

右目にキスするのは、愛し合っている最中の、愛の証。

「浮竹・・・?」

どういうつもりなのかと様子を見ていると、浮竹は何度もキスをしてきたり、キスをせがんだりと、明らかに情欲していた。

自分の唇をペロリと舐めて、京楽の肩に服越しから噛みついてきた。

熱をはらんで潤んだ瞳に見つめられて、はっとなる。

「あ、まさか・・・・・・」

ホットケーキの元は、夜一から手に入れたものだ。

「まさか、夜一・・・・・・・」

伝令神機で、夜一をよび出す。

「なんじゃ」

「夜一、君ホットケーキの粉になにかいれたかい?」

「おや、もう気づかれたか。ちょっと、夜が激しくなる薬をな・・・・・」

「あほーーー!浮竹に食べさせちゃったじゃないか!」

「いいではないか。伴侶じゃろう?思う存分、愛してやればよい」

「夜一様・・・・・・・」

通話の途中で、砕蜂の甘い声が響いて、京楽は目も当てられないとばかりに天井を仰いだ。

「君、砕蜂ちゃんにも、何か飲ませた?」

「おお、よくわかるのう」

「夜一様、誰と通話しているのですか」

「おっと。まぁ、そういうことじゃ。ではな」

「ではな・・・・・じゃあない!」

すでに、通信は切れていた。

浮竹が、抱き着いてくる。

「苦しいのかい?」


浮竹を抱き上げて、隊首室の奥にある寝室に入る。

どさりと浮竹軽い体を横たえると、浮竹はまた甘えてきた。

「京楽・・・・・・」

それが、薬のせいなのは分かっている。

本当なら、思い切り抱いてやりたいが、昨日濃厚に交わったばかりだ。

これ以上、浮竹に負担をかけたくないし、出しつくしてしまって、交わる気になれない。

浮竹も、欲情はしているようだが、昨日あれだけ激しく交わったのだ。

性を放つことはできないだろう。


「あっ」

膝を割って、浮竹の熱に触れてみたが、やはり反応していなかった。

「京楽・・・・・・苦しいんだ。したくないのに、体が熱い・・・・」

浮竹は熱で潤んだ翡翠の瞳に涙をためていた。

「俺はおかしくなったのか?母のように、淫乱になってしまったのか?」

「そんなことんないよ、浮竹」

頭を撫でてやり、思い切り甘く甘く、唇をむさぼって、死覇装の中に手を差し入れる。

「んっ」

甘い声に、反応しそうになるが、やはり気分だけで体がおいついていかなかった。

胸の先端をつまむと、びくりと浮竹の体が強張った。

「するのか?・・・・・・・・だるくて、したくないけど、熱くて、苦しくて・・・・・どうにか、なりそうだ・・・・・・・・」

「僕が、責任もつから」

交わることはしない。

ただただ、甘く甘く貪っていく。

「あっ・・・・・」

浮竹が、京洛の右目に何度もキスをしてくる。何度も何度も。

「愛してる春水・・・・・・・」

せがまれて、舌が絡み合うキスをした。

「愛してるよ・・・・・十四郎」

浮竹の熱は反応していない。

ドライのオーガズムでいってしまった体を抱き締めると、浮竹は意識を手放していた。

京楽の体から、汗が滴った。

抱きたいのに、抱けなかった。

「きついね・・・・・」

抱きたいのに抱けないのが、こんなにきついものだとは思わなかった。想い人に手を出すことを禁止されているのに、近いものがあった。

京楽は、水浴びをして熱さましをして、寝室に戻る。浮竹は、大部薬から解放されたのか、起きていたがその瞳は熱をはらんでいなかった。

「俺も、水浴びてくる・・・・・・・・・」

少しよろけて立ち上がったが、足取りはしっかりしていた。

水浴びをしてきた浮竹の、濡れた髪をドライヤーでかわかしてやる。本当に、ここ十数年で便利になったものだ。浦原がもってくる、現世の技術のおかげで、TVまで見れるようになった。

「ホットケーキ・・・まだのこってるんだけど、どうしよう」

浮竹が、隊首室のテーブルにおきっぱなしの、食べかけのホットケーキを指さす。

一番隊は、執務室の奥に隊首室があって、さらにその奥に京楽専用のベッドルームがあった。

隊首室には、生活に必要なものがほとんど揃えられているし、広かった。

奥の部屋のベッドルームも、現世でいう五つ星ホテルのスィートルームクラスのものだ。

「もう、あれは食べちゃだめだよ」

「でも、もったいなくないか」

「また変になりたいの?」

首をぶんぶん振る浮竹。

もったいないが、捨ててしまおう。

もっと、通常時なら歓迎したかもしれないが・・・・・乱れ狂う浮竹など、めったにお目にかけることができないし。

日持ちするものでもないので、廃棄処分した。


その後、しばらく二人はホットケーキを食べることはなかったという。










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家族

「そこまで!」

なんでもありの一騎打ち勝負。

負けたのは、京楽。勝ったのは浮竹。

鬼道で姿をくらませて、竹刀で打ってこられて、反応すると鳩尾を蹴られた。ばばばっと、回転や側転をして距離をとって鬼道での攻撃。

それに交じっての木刀と蹴りの攻撃に翻弄されて、さしもの京楽も竹刀を手から取り落とした。

「勝者、十四郎」

山本総隊長の言葉で、試合は終わった。


「ほんと、足癖悪いよね、君って」

「蹴りを主体とした体術だ。足癖が悪いわけじゃあない」

「どこで習ったの、そんなの」

「学院時代に、帰郷したときにじいさまから」

「へ、じいさま!?」

「まだ生きてるぞ、俺の祖父は」

ほらっと、写真を見せてもらう。どこが浮竹の面影のある好々爺だった。

「浮竹も、おじいさんになったらこんなかんじになるのかな」

「さぁ。俺はどっちかっていうと母親似だから」

「ああ、だからそんなに美人なのか」

揶揄すると、頭をぽかりと殴られた。

「俺のことは置いといて、俺の母親は美人だぞ」

写真を見せてもらうと、まさに今の浮竹を女性にしておしとやかさと気高さを加えた感じだった。髪の色は黒だが。

「一度、会ってみたいなぁ」

「会わてやらん。間違いが起こったら大変だから」

「いや、いくらなんでも浮竹の母親に手を出したりしないよ、僕は」

「母が・・・・・手を出してきそうだから。合わせやらん」

「え、君の母親って手癖悪いの?」

聞いてみると、浮竹はなんともいえない顔を作った。

「8人も子供をつくるくらい、お盛んなだったからな。今の俺の給料がないと、きっと見た目がいいから体を売っていた。俺がもし病弱じゃなかったら、学院に受かってなかったら・・・・そっちの世界に、半ば無理やり入れられていたかもしれない」

初耳だった。

浮竹は、下級とはいえ貴族だ。父親母親、兄弟7人、それに他の親類・・・・・そのほとんどを、今の浮竹が養っている。

「浮竹、お金がいるなら僕にいってよ?」

「養える額は、俺も給料からもらっているし、これ以上お前に頼りたくない」

貧しいのは、昔から慣れている。贅沢さえしなければ、食うに困るほどではなかった。最初の頃は。

浮竹が肺の病を患い、母がもっと丈夫な跡取りをと子供を作っていくと、気づけば8人兄弟になっていた。

薬代が、医者代が、とにかくバカにならないのだ。

髪が白くなった時、両親は泣いていた。

少しでも生きながらえるためにと、ミミハギ様を宿らせた。そのおかげで、病で死ぬことはなかったが、治ることもなくなった。

仕送りに、薬代に、飲食代。

それで、浮竹の給料は消えてしまう。京楽がいなければ、切り詰めて生活していただろう。

「昔も裕福ではなかった。多分、今も裕福じゃない。でも、食うに困るわけでもない」

兄弟は、みんな自立しているが、浮竹の仕送りの額が多いので、つい頼ってしまうのだ。

「悪口は言いたくないが・・・・母は、淫乱だった。父も色狂いで・・・お互い、馬が合ったんだろうな。8人も子供を産んでもまだ、次が生まれるかもしれない」

そんな血を引いているのが、少しだけいやだった。自慢の父と母であるが、反面色に狂っているのだと知られたくなかった。

「でも、大事にしてもらっていたんだろう?まだましじゃないか」

「そうか?」

「僕のとこなんて、金があるから放置しまくりだよ。金さえ与えればそれでいいと思っているんだ。親の愛情なんて、注いでもらった記憶がない。僕の中の母親は、乳母だった」

「それはそれで、悲しいな・・・・・・・・」

「長男は特別。次男は二の次。父と母の顔なんて、うちにいた頃でも年に数回拝めればよいほうだったよ。乳母が死んで、僕は一人になって、僕をもてあました家族は、僕を無理やり学院に・・・・・って、なんで君が泣いてるのさ」

「俺は、小さい頃は孤独だったけど、兄弟がいたから。父と母は、ちゃんと面倒を見てくれて、愛してくれて・・・・でも、お前は」

「僕なんかのために、泣かないで」

抱き締められて、浮竹の翡翠の瞳からまた一粒、涙が零れた。

「もうやめよう、身内の話は」

「そうだな」

「気分を変えるために、飲みに行こう」

「こら、十四郎、春水!こんな真昼間から酒なぞ・・・・・・・逃げたか」


浮竹と京楽は、瞬歩で逃げた。

昼からあいている居酒屋を探して、酒を飲む。

馴染みの店が開いていたのはラッキーだった。


「浮竹、飲め飲め」

「そういう京楽ももっと飲め」

二人して飲む酒は、美酒だった。


いつか、時がきたら。

いつかきっと。

浮竹は思う。
京楽を、愛する人を家族に紹介しようと。

それは、浮竹もおなじだった。

時がきたら、あの放置主義のくせに、隊長になったとたん手の平を返してきた家族ではあるけれど。

紹介しよう。愛する人を。







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海(冬)

「寒くなってきたね・・・・・・」

「ああ・・・・・・」

ざぁんざぁんと、打ち寄せる波が、音を立てる。

人間に見えないのだからと、死覇装に隊長羽織をきて海にきていた。

本当なら、現世で虚を退治する真央霊術院の生徒たちをみていないといけないのだが、それは檜佐木に任せてきた。

大規模な虚退治なので、隊長副隊長格も、同行するようにとの命令だったが、檜佐木の他に吉良もいたし、今年の院生は大分腕が高いので抜け出してきたのだ。

ばれたら、きっと山本総隊長に怒られるなと思いながら、二人きりの時間を現世で過ごす。

「本当なら、もっと賑やかなとこにいって、遊びたかったんだけど、生徒たちをほっぽりだした上に遊びにいったとあっては、流石にお小言だけでは済まされないだろうからね」

山本総隊長の怒った顔を思い出すだけで、身震いがした。

「だったら、最初から抜け出さなきゃよかったのに」

浮竹は、浜辺で貝殻を拾っていた。

「海は、現世にしかないからね」

広がる広大な海を見つめて、ただ二人静に寄り添いあう。

「覚えてる?昔、みんなで海にきたよね。西瓜割とかして・・・・泳げない浮竹に、浮輪を渡して泳がせたりしたよね」

「きてすぐに日差しにやられて倒れたことも覚えている」

「また、あんな楽しい日々がくればいいけどね」

「一護君は、今霊圧をなくしているからな・・・・」

あの夏の海を企画してくれたのは一護だ。女性死神協会の協力があって成しえたのだが、一護がいなければ京楽が海にくるということもなかった。

「海は変わらないよ。何百年前かなぁ・・・・・現世の海に初めて遊びにいったのは、院生時代だったよね?」

「あまり覚えていないが、確かそうだったはずだ」


京楽は、まだあの時のことをはっきり覚えている。

浮竹は、自分が体が弱いのだと説明しておいた。おまけに、泳げばないことも伝えておいた。クラスメイトたちは、文武両道の浮竹の言葉を信じずに、まずは海に投げ入れられた。

結果、おぼれた。

京楽が人工呼吸をしてくれたことで、なんとかなったが、危うかった。

京楽は、時の扉をあける。



「またぁ、浮竹が泳げないだって?そんなはずないじゃないの」

京楽も、浮竹が泳げると思っていた。

まだ、春の4月に入学して3か月しか経っていなかった。病弱で肺の病をもっているといっていたが、一度として発作を起こさず、誰もが本気にしていなかった。

文武両道である浮竹をねたむ者も多かった。友人はできていたが、まだクラス全体に馴染めないでいた。

友人たちが、海に入っていく。友人たちは、浮竹があまりに嫌がるので、海にはいれなかった。

クラスメイトの数人が、嫌がる浮竹を無理やり海の中にひっぱっていった。

ざぁんざぁんと打ち寄せる波の音まで、はっきりと覚えている。

「俺は、泳げないんだ!」

「またぁ、そうやって嘘つく」

水着にさえ着がえていなかった。学院の服のまま引っ張っていかれる浮竹を見て、京楽が声をかける。

「ちょっと、無理やりは流石にないんじゃないの」

「黙ってろ」

「どうせ泳げるんだぜこいつ。何せ文武両道だし、肺の病持ってるとか嘘ついてるし」

京楽は、浮竹の存在を気になってはいたが、まだ好きとか嫌いだとか、そんな感情を抱いていなかった。

「~~~~!」

声にならない悲鳴をあげて、浮竹が沈んでいく。

「え。まじで泳げないの?」

「ちょ、やべぇんじゃね?先生よんでこい」

「助けるのが先決でしょ!」

京楽は、海に飛び込んだ。水を吸った衣服は重かったが、浮竹自体の体は軽かった。

「おい、浮竹!」

ぺちぺちと頬をたたいても、反応がない。息もしていない。

「おい、やばいぞどうしよう。こいつ、一応貴族だったよな。下級だけど・・・・・」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

浮竹に息を吹き込む。何度か繰り返すと、げほっと、海の水を吐いて、浮竹が意識を取りもどした。

ごほごほと咳込む。その背中を撫でていると、浮竹はやっと落ち着いたようだった。

浮竹を抱き上げて、京楽は先生にこのことを報告した。

京楽は上級貴族でも名のあるほうだ。睨みをきかせれば、さっきの流魂街出身のクラスメイトなぞ、学院から追放なりなんなりできた。

「すまない・・・・京楽」

お互い、名前は知っていた。でも、その程度だった。

「もう、大丈夫だから」

その時、現世にきていたのは夏期行事のおかげだった。現世で一夏を過ごして、友人同士の仲を深めようという行事だった。

次の日、浮竹は起きてこなかった。

前の日が前の日なので、心配になった京楽は浮竹の部屋を訪ねた。

「浮竹?」

返事はなかった。

「入るよ?」

ベッドに寝ている浮竹の近くにいく。ぜーぜーと、辛そうな呼吸をしていた。顔色だけで、熱があるのが分かった。

「先生、呼んでくるから!」

浮竹の返事はなかった。


結局、浮竹は寝込んで2日ばかり行事を欠席した。

現世では、虚退治についても学ぶ。

流石に入学したてで実力もないので、虚退治を実演することはなかったが、副隊長クラスの死神が中心となって、虚の存在をみせ、倒す場面を披露した。

「聞いたか、浮竹の話・・・・・・」

「ああ、溺れて死にかけたらしいぜ」

「全員解散!」

京楽は、浮竹のことが気になって相部屋の相手と部屋を交換してもらった。

「浮竹、大丈夫かい?」

げほげごと、扉ごしに咳込む音が聞こえる。

「相部屋の相手と部屋変わってもらったから、しばらく君の部屋で寝泊まりするよ」

中に入ると、ぞくりと京楽は身を凍らせた。

真紅。

真紅真紅真紅。
鮮血鮮血鮮血。

部屋は、浮竹のはいた血で真っ赤になっていた。

ベッドもカーテンも絨毯も。

「げほっげほっ」

咳込む音と一緒に、鮮血をまき散らす。よほど狂しいのか、泣いていた。

「すまな・・・・・・・薬が・・・・・荷物に・・・・・・・」

とぎれとぎれの言葉を繋いで理解し、勝手に浮竹の荷物を漁った。

薬らしき錠剤を手に、浮竹の元にいく。

なんとかコップに水をいれて、もっていく。

かたかたと、自分の指が震えているのが分かった。

怖かった。血というものの色が、こんなにも鮮やかなものなのだと初めて知った。

薬を何とか飲んで、それでも吐血を繰り返して・・・・・もはや、先生をよぶとか、そういうレベルじゃない。

京楽は、気づくと浮竹を抱き上げて走っていた。

「死ぬんじゃないよ!」

念のためついてきていた4番隊の死神のところに駆け込む。

「これは酷い!こんなになるまで、何故放置していた!?」

4番隊の死神は、席官クラスで実力もある。回道で癒されていく浮竹を見ても、まだ震えは止まらなかった。

浮竹浮竹浮竹浮

死ぬな。

死ぬな死ぬな死ぬな。

「君も、ちょっと休んでいきなさい。酷い顔色だ。震えは・・・止まらないのかい?」

まだ、自分の体は震えていた。

「浮竹は、助かりますか!?」

「一命は取り留めそうだよ。吐血することには慣れているみたいだし、薬も飲んだみたいだし・・・・あとはこの子の体力次第だね」

真っ白な髪の色が、吐いた血のせいで赤くなっていた。

「君も、着替えなさい」

自分の衣服をみる。浮竹の血がべっとりついていた。
汚いとは思わなかったし、気持ち悪いとも思わなかった。ただ、その緋色が。

怖かった。

浮竹のことを、たえず気に掛けるようになった。クラスメイトの前でも時折発作を起こして吐血した。

死んでほしくない。苦しんでほしくない。傍にいてあげたい。守ってあげたい。

いつしか、憐憫は恋慕に代わっていた。



「今でも覚えてる。初めて血を吐いた君が怖くなって・・・・・でも気になって。あれは、ショックなことだったけど、初恋だったんだ」

「はぁ?吐血した俺が初恋?」

「そう。怖いけど真っ赤で綺麗で。なんとかしてやりたい、身代わりになりたい、かわいそうで・・・そんな感情が渦巻いてた。気づくと。君に夢中になってた」

「おまえ、つくづく変なやつだな」

浮竹は、理解できないとまた貝殻を拾う。

「真紅が嫌いで、同時に好きになった」

「どっちなんだ」

「君が吐く血の鮮血の色は嫌いだよ。でも、衣服で染め上げられた真紅の衣装は好きだよ」

ほら、と、浮竹は首に巻いていた真っ赤なマフラーを浮竹に巻きつけた。

「君には血の色は似合わない。でも、衣服なら血の色でも似あう」

矛盾するその思い。


ざぁんざぁんと、波が満ちて引いていく。

京楽は、時の扉を閉めた。

「僕は、昔も今も、君が好きだよ。でも、君がもつ真紅は嫌いだ。でも、君が真紅の衣服を身に着けるのはとても好きだ。その白い髪と白い肌に、よく映えるから」

「わけのわからないやつだな」

「まぁ、君に夢中ってわけ」

冬の海は冷たい。

身を切るような、海にむかって、京楽は歩いていく。

「京楽!?」

浮竹が、京楽を止める。

「どうしたんだ・・・・・?」

「いや、冬の海は冷たいだろうなと思って」

「風邪でも引く気か!」

「そしたら、君に看病してもらおうかな」

「バカを言うな」

拾った貝殻が、地面に全部落ちる。

「お前には、健やかでいてほしい」

浮竹は、京楽に抱き着いていた。

「・・・そうだね。僕が風邪ひいたら、絶対君にうつして風邪ひかせちゃうものね」

「お前が元気でいてくれることが、俺の幸せなんだ」

「じゃあ、僕の幸せも君が元気にいてくれることだね。この想いは、きっと君の数倍もある」

浮竹が落とした貝殻を拾いあげて、京楽は微笑む。

「また、いつか二人で海にこよう。みんなを誘っていこう。きっとまた、楽しいよ」

「許されるなら・・・・・・・・いつでも、お前の傍に在りたい」

「許されなくても、僕は君の傍にいるよ。いつまでも」



ざぁんざぁんと、海が泣く。

数百年の時を生きる恋人たちは、貝殻を拾って、現世の持ち場に帰る。


いつまでも、海は泣き止まなかった。




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