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月見

その日は満月だった。

月見の季節で、雨乾堂の板張りの廊下で、静かに京楽と浮竹は酒を飲んでいた。

「月、綺麗だね」

「ああ。星も綺麗だしな」

まぁ一献と、酒を勧められるままに飲んだ。

団子を頬張るその姿が、どこかかわいいのだと、京楽は苦笑を零す。

「こんな月が綺麗な日は、昔のことを思い出すねぇ」

院生時代、よく月見をしては酒を飲みかわした。

「お前に連れられて行った廓のこと、まだ覚えているぞ」

女遊びの激しい京楽が、ぴたりと女を買うのをやめたのは院生の1回生の終わり頃。もうその頃には、浮竹を好きになっていた。

「そういえば、そんなこともあったねぇ」

嫌がる浮竹を連れて、馴染みの廓に行った。京楽は女を買うことはせず・・・・・無論、浮竹も女を買うようなことをしなくて、ただ遊女を侍らせて飲んだ。

廓の酒は驚くほど高くて、女を買わなくてもこんなに金がかかるのかと、浮竹はその値段に驚いたものだ。
女を買わなくても、指名するだけで買ったのと同じ値段がした。

「君、未だに童貞でしょ」

酒を飲む京楽は、笠を少しあげると月を仰ぎ見る。

「誰のせいだと、思っている」

まだ若い院生時代に、京楽のせいで男に抱かれて啼くことを覚えこまされた体は、たとえ遊びでも女を抱くことを躊躇させた。

「君の初めては、僕だものね」

「お前の初めてを、もらう気は全然ないがな」

酒を飲む。

もじゃもじゃの京楽に抱かれることはあれど、反対はない。

互いの杯に酒を注いで、呷る。

浮竹の飲んでいる酒は、アルコール度が高くて喉が焼ける。

浮竹の酒は、甘い果実酒だった。

「君の飲む酒は、甘いね」

「ああ。お前の飲む酒は、焼け付くようだ」

「高い日本酒だよ」

「俺は、果実酒のほうが好きだ」

自分の杯に、自分で用意した酒を注いでそれを一気に飲むと、月が笑ったような気がした。

「酔ったかな・・・・・・・・」

くらりと、視界が揺れる。

何度か互いの酒を交換して飲んだ。アルコール度の高い京楽の酒のせいで、浮竹は少し火照った体を手であおいだ。

「こっちにおいで」

呼ばれるままに傍にいくと、京楽は自分がかいた胡坐の足を、ぽんぽんと叩く。そこに、寝ろというのだ。

浮竹は、促されるままに京楽の足に頭を乗せた。

「月の光で、髪の色が余計に綺麗に見えるね・・・・」

長い白髪に手をやり、口元にもってきて口づけられた。

「お前のせいで、こんなに伸びてしまった」

院生時代から、綺麗だから伸ばせといわれて、自分ではさみをいれなくなった。長くなりすぎると、いつも京楽が切ってくれた。

「浮竹?おーい、浮竹ー」

「んー」

浮竹は、酒のせいもあってまどろみかけていた。

「こんなところで寝ると、風邪ひくよ」

「京楽が運んでくれるから、いい・・・・・・・・・・」

別に、甘えているわけではない。

浮竹が意識を失うと、京楽はいつも彼を雨乾堂の布団の上に横たえてくれた。酒に飲み潰れたりしてもだ。

「おう、飲んどるか?」

雨乾堂の廊下に、夜一がやってきた。

「なんだ、浮竹はもう酔いつぶれたのか」

面白くなさそうに、夜一は持ってきた酒を板張りの床において、胡坐を組んだ。

「まだ起きてる・・・・・・」

大分眠そうではあるが、浮竹はまだ意識があった。

「わしの酒を飲め」

「無理いうな。もう、今日は酒はいい・・・・・・・・」

京楽の膝に頭を乗せて寝転んだ浮竹は、スースーと眠ってしまった。

「つまらんやつじゃのう」

「まぁまぁ。酒なら、僕が付き合うから」

夜一の杯に酒を注いで、京楽は寝てしまった浮竹に、自分の女ものの着物の上着をかけた。

「砕蜂も呼べばよかったかのう」

「あの子は、酒あんまり飲めないでしょ」

「そうなのだ。酒を飲みかわすことができる酒豪となると、おぬしくらいしかいないからのう」

互いの杯に、互いの酒を注ぎあい、それを呷った。

「く、強い酒だの。美味じゃが。浮竹が飲み潰れるのが分かる気がする」

京楽の酒は、喉が焼けるようだった。

「浮竹は、甘い果実酒ばかり飲むからねぇ。僕の酒は、きつすぎるみたいだ」

「酔わせて、手を出すつもりだったか?」

「まさか。酔いつぶれて寝てしまった浮竹に手を出すなんて、面白くも何もないじゃないか。意識がない浮竹を抱くような真似はしないよ」

「その言い方、意識があれば手を出すと言っているのと同じじゃぞ?」

「勘弁してよ」

酒を飲んで、苦笑した。



京楽は夜一と一時間ばかり酒を飲みかわすと、浮竹を抱き上げた。

「風邪、引いちゃうからね」

「おーおー、見せつけてくれるのう」

京楽は、雨乾堂に敷かれたままの布団の上に、そっと浮竹を寝かせると、毛布とかけ布団をかぶせてやった。

浮竹は、スースーとよく眠っていた。

「おやすみ、浮竹。よい夢を」

額に口づけをしていると、雨乾堂の廊下から夜一の声がした。

「京楽、酒もってこーい。飲みたりんぞー」

「はいはい、今行くよ」

雨乾堂に隠していた酒をもちだして、封をあける。浮竹のために買っておいた酒だが、別にいいだろう。また、新しい酒を買ってくればいいだけだ。

「甘露じゃのお」

少しきつめの、でも甘い果実酒だった。

夜一は、それを浴びるように飲んでいく。

京楽は、夜一ほどの酒豪を他に知らない。いつも酒を飲みかわす浮竹は、酒に弱いわけでもないが、強いわけでもない。

「これ飲み終わったら、お開きにしようか」

「そうじゃの。砕蜂のことも気になるからの」

夜一は、褐色の肌に朱がさすほどに酒をのんで、帰って行った。



「僕もねるかぁ」

浮竹の布団にもぐりこんで、目を閉じるとすぐに睡魔がやってきた。

「京楽・・・・・・?」

朝になって、浮竹はいつの間に寝てしまったんだろうと思いながらも、まだ京楽が寝ているので
ゆっくりと布団から這い出した。

廊下をみると、空の酒の瓶がいくつも転がっていた。


自分が意識を失った後も、夜一と酒を飲みかわしたのだろう。遅くまで起きていたであろう京楽を気遣って、浮竹は雨乾堂を出ると、隊舎にいって清音を呼んだ。

「清音、いるか?」

「はい、隊長、おはようございます」

「朝食を二人分、頼む」

「はい、かしこまりました」




浮竹は、雨乾堂に帰ると、まずは顔を洗った。それから、京楽の髪に手を伸ばした。

くせっ毛で、浮竹のさらさらした髪とは違い、少し硬かった。

ゆっくりと、京楽の黒い瞳が開く。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

浮竹の翡翠色の瞳に、京楽が映っている。

京楽は、起き上がると、浮竹の頬を手ではさみこんで、触れるだけのキスをした。

「おはようのキスだよ」

「朝食の用意ができている。食べて帰るだろう?」

「ああ、そうだね」

帰ったら、七緒ちゃんに叱られるなと思いながら、顔を洗ってから、京楽は浮竹と朝餉をともする。

「今日の夜、またきてもいいかい?」

「ああ、いいぞ。ただ、酒は飲まないからな」

もう十分飲んだ。酔い潰れるまで飲むのは、久方ぶりだった。


「んー。いい朝だね」

ゆっくりと伸びをする京楽を見習うように、浮竹は伸びをした。

「今日も一日、がんばろう」

「お互いにね」

こつんと額を合わせて、それから深い口づけをかわす。


「八番隊隊舎に帰るよ」:

「ああ」



世界は廻っている。

比翼の鳥は、羽ばたきはじめる。

時に互いを気遣いあいながら。





















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花火

「浮竹ぇー。遊びにいかないかい」
雨乾堂で文机に向かい、書類の整理をしていた浮竹に、京楽は被っていた笠をとって、浮竹にかぶせた。
「なんだ、いきなり!」
笠を手で払いのける。
「だからー、遊びにいかないかい?」
「こんな真昼間っからか。あいにく、俺には仕事があるんだ。またの機会にしてくれ」
つれない恋人に、京楽は近づいて、畳の上に落ちた笠を拾い上げる、
「10年に一度の祭りがあるんだ。出店だっていっぱい出るし、浮竹の好きな林檎アメや綿菓子だって、あると思うんだけどねぇ」
ぴくりと反応した浮竹は、軽く思案する。
「夕方からでも、いいか?どうしても今日中に片づけないといけない仕事があるんだ」
「夕方からでもいいよ。それに夜になれば花火もあがるしね」
「花火か・・・・・・」
久しく、見ていないなと浮竹は思った。
「じゃあ、夕方の6時半頃に迎えにいくから。それまでには、仕事終わらせといてね」
「ああ」
去っていく京楽の後ろ姿を確認してから、3席の二人を呼んだ。
「仙太郎、清音、いるか?」
「はい、ここにいます」
「私もここにいます」
「なんだこの鼻くそ!京楽隊長が用があるのは俺だ!」
「何よこの目くそ!京楽隊長は、私に用があるの!」
二人は、顔を合わせるなりぎゃーぎゃーと騒ぎ出した。
「二人とも、もっと仲良くできないのか・・・・・まぁいい。確か、5年くらい前に京楽からもらった浴衣があったはずだ。祭りに行く時に着ていくから、出しておいてくれ」
二人は、言い争いながら、それでも浮竹の願いをちゃんと聞き届けてくれる。
「隊長、浴衣きるんですね!想像しただけで色っぽすぎて、鼻血がでそう」
すでに、清音は鼻血をだしていた。
「うわこの変態女!大事にな浴衣に鼻血ついたらどうするんだ、このくそくそ女!」
「何よこの猿男!隊長が浴衣着るのよ!」
想像しただけで、仙太郎も鼻血をこぼしだす。
「おいおい。浴衣、鼻血で汚さないでくれよ」
「「ふぁい!」」
二人は、ティッシュを鼻につめこんで、大きな声で頷き合った。
緊急の仕事が終わり、6時頃になった。
浮竹は、隊長羽織と死覇装をぬいで、浴衣に袖を通した。
「今日も暑いからな・・・・・・清音、髪を結い上げてくれないか?」
「はい、隊長!」
浮竹の長い白髪は、清音の自慢だった。
とても綺麗で、さわりごごちがいい。螺鈿細工の櫛で梳いてから一つでまとめあげて、高価そうな翡翠の髪飾りで留めて、清音は満足したように浮竹の全身をみた。
「すごくお似合いです隊長!これなら、京楽隊長もきっと喜んでくれると思います」
「いや、別に喜ばすために着ているではないんだがな」
苦笑する。
でも、浮竹が身にまとっているものは、ほとんどが京楽からプレゼントされたものだった。
「浮竹、いるかい?迎えに来たよ」
「もうそんな時間か。すぐいく」
雨乾堂の外から響いた京楽の声に、小銭の入った財布をいれた巾着袋を手に、浮竹は京楽の元に向かった。
「あらまぁ・・・・えらい色っぽい恰好だねぇ」
浴衣姿を見た京楽は、笠を少しあげるとまじまじと浮竹の姿を見た。
白い肌と白い髪によく似合うような、紫紺色の浴衣。髪は結い上げられており、京楽が浮竹にと渡した髪留めで留められてあった。
いつもは見えない白いうなじがまぶしくて、京楽は目を細めた。
まるで、誘っているのはないか?
そんな錯覚を覚える。
一方の浮竹は、ただお祭りを楽しみたい一心だったので、京楽の手をとってぐいぐいと歩きだした。
「早く行くぞ!」
「はいはい。そんなに急かなくたって、祭りは逃げないよ」
「うわぁ、凄い人だなぁ」
その日は、10年に一度のお祭りだ。
流魂街でも比較的治安がよく、上級貴族なんかの邸宅もある地区での祭りだった。
「こんな人混みじゃあ、はぐれると大変だな。手を繋ごうか」
浮竹からの嬉しい申し込みを断るはずがない。
京楽は、浮竹と同じように浴衣を着ていたが、しぶい色合いの浴衣だった。浮竹の存在は、祭りの中でも目立っていた。
「あれ、浮竹隊長じゃない?」
「隣にいるのは京楽隊長だな」
「やだ浮竹隊長色っぽーい」
護廷13番隊の死神たちも、けっこう祭りに参加しているようで、二人を姿を遠巻きに見る見物人も出てくるしまつだった。
「まずは林檎飴だろ・・・・・・・・」
林檎飴の屋台にくると浮竹は小銭を出して京楽の分も買った。
「僕はいいのに」
「そう言うな。せっかくの祭りだし、楽しもうじゃないか」
林檎飴をかじりながら、浮竹は手を繋いだままの京楽と歩きはじめる。
「次は綿菓子だ」
子供が、綿菓子を作ってもらい、喜んで走っていくのを目にする。
「2つくれないか」
「毎度。おや、隊長じゃないですか!」
「あれ、そういうお前は・・・・」
店の主は、13番隊の、死神だった。
「色っぽい恰好ですね、隊長。綿菓子2つですね。ちょっとお待ちください」
京楽は、色っぽい恰好の浮竹の隣にいれることは嬉しかったが、変な虫がつかないように気配りを忘れていなかった。
熱い視線を送りこんでくる男がいれば、霊圧をむけて威圧した。
「お待ちどうさま!祭り、楽しんでいってくださいね」
金を払って綿菓子をもらい、それを口にしながら、歩いていく。
出店の道は、山の入口にある神社まで続いているらしかった。
「お、チョコバナナだ」
珍しい現世のお菓子をみて、浮竹は京楽を急かして、走り出した。
「すまないが、2つくれないか」
「いや、僕はいいから」
「じゃあ、1つ」
「毎度あり」
次々に甘いものを平らげていく浮竹に、京楽はちゃんとした食事をとらないとだめだなと思い、提案する。
「たこ焼きと、焼きそばも買おうか」
「ん?ああ、別にいいが」
二人分かいこんで、祭りを楽しみながら食べた。
「お、金魚すくいやってる。懐かしいなぁ」
何十年か前に、今日と同じように京楽と祭りにきた浮竹は、金魚を持ち帰った。はじめは雨乾堂の中の金魚鉢でかっていたが、大きくなりすぎて今では雨乾堂の鯉にまざって生きている。
「よし、1回やろう。ぼーっとしてないで京楽もするんだ。どっちが多く金魚とれるか、競争だ」
「僕、こういうの苦手なんだけどねぇ」
「いいじゃないか、たまには。祭りなんだし」
浮竹のポイは、ほどなくしてすぐに破れてしまった。
「大きいの狙ったのがあだになったか・・・・」
「この勝負、僕の勝ちだね」
20匹ほどの金魚をすくいあげて、お椀の中を見せる京楽。
「金魚、持って帰りますか?お持ち帰りだと、追加のお金がかかりますが」
「いや、僕はいいよ。浮竹はどうする?」
浮竹は、逡巡した後首をふった。
「寝込んで世話できない可能性あるからな・・・・雨乾堂の池に放とうにも、鯉がでかくなりすぎて、金魚を食べてしまいそうだ」
少し残念そうに、金色の金魚をみる浮竹。
「じゃあ、僕が持って帰るよ。8番隊の隊首室で飼おう。世話は僕がするから、浮竹は見に来ればいいよ」
浮竹が、僕の隊首室にくるいいわけにもなるし、という言葉は飲み込んだ。
ひゅるるるるる、パーン。
「お、花火だ」
「浮竹、いい場所知ってるんだ。こっち!」
浮竹は、京楽につれられるまま、河原にやってきた。途中、林檎飴を購入する。、
河原には、人はほとんどいないかった。
「この祭りの花火は、ここから見るのが絶景なんだよ」
「そうか。綺麗だな・・・・・・・・・」
ひゅるるるる、パーン。
花火は次々に打ちあげられて、夜空に光の花を咲かす。
花火は儚い。光の雨となって、消えていく。
京楽と浮竹は、河原に座り込んで、ただじっと花火を見つめていた。
1時間ばかり、空を見上げていた。花火も終わってしまい、出店も閉じられていく。
帰り道に、浮竹は京楽にお礼をいった。
「祭りに、誘ってくれてありがとう。また、機会があればこような」
うなじの白さに、ドキリとする。自分があげた髪飾りを、つけてくれている。浴衣も、自分があげたものだ。
「君が望むなら、何度だって連れていくよ」
抱き寄せる。
京楽の手首には、金魚の入った透明な袋がぶら下げらていた。
金魚を落とさないように注意しながら、浮竹に口づけた。浮竹は、河原に来る前に林檎飴を再度購入していた。
「・・・・・甘い」
キスは、林檎飴の味がした。
浴衣から見える白い肌に、京楽は目の毒だなと思いつつも、つい目をやってしまう。
「浮竹。僕のいないところで、そんな恰好しちゃだめだよ」
「?なんかおかしなところ、あったか?」
「色っぽすぎるんだよ」
白い髪に手をやり、口づける。
「俺は男だし、そんな気を起こすのはお前くらいだ」
浮竹は分かっていない。自分が、どれだけ儚く美しいのかを。
「少し、冷えてきたね。帰ろうか」
京楽は、念のためにともってきていた上着を京楽に着せて、雨乾堂に浮竹を送り届けた。
「ただいま」
「隊長、お帰りなさい!」
浮竹は、清音と仙太郎の分の林檎飴も購入していた。
「これ、お土産だ」
「ありがとうございます、隊長!」
「感激で涙が止まりません、隊長!」
三席の二人を見るのは飽きないなと、浮竹を送り届けて帰る寸前だった京楽は思った。
「隊長!やっぱりその浴衣、よく似合ってます!」
「このくそ女!俺の台詞とるな!」
「なにぃ、この鼻くそ仙太郎が!」
「なんだと、この鼻くそ清音!」
「お前のほうがすごい鼻くそだ!」
「いいや、お前のほうが巨大な鼻くそだ!」
「ロケット鼻くそのくせに!」
「なんだと!この鼻くそ隕石が!」
「相変わらずだねぇ」
京楽は、自然な笑みが零れるのを自覚した。
「じゃあ浮竹。また明日」
「ああ。わざわざ送ってくれて、ありがとう」
大分出店で食べたので、今日はもう夕飯はいらないと、三席の二人に告げて、浮竹は湯あみを済ませて色合いの薄い着物に着替えた。
その着物も、京楽が浮竹に与えたものだ。
いつも処方されている肺の病のための漢方薬を飲んで、お茶をすする。
「鼻くその鼻くその鼻くそ!」
「巨大隕石の鼻くその目くそ星人!」
雨乾堂では、清音と仙太郎がまだ言い合いをしていた。
「清音、すまないが少し早いが横になる。布団をだしてくれないか」
「すみません隊長!布団しくの忘れてました!」
「ふふん、俺は覚えたぞ。隊長、俺がだしますね!」
仙太郎が、清音を放り出して押入れから布団をだすと、手早く広げた。
「あーっ、このくそ仙太郎!隊長は、私に布団を出せと頼まれたのよ!何勝手にあんたが布団だしてるのよ!」
「うるさい、このくそ清音!早い者勝ちだ!」
二人の言い合いを耳にしながら、まだ寝るには早いので図書館から借りてきた恋愛ものの書物を読みだす。
「ふむ・・・・・喧嘩するほど仲がよくて好きあっている・・・・」
陳腐なその内容に、目の前の二人をあてはめてみる。
「清音、清音は仙太郎のことが好きなのか?仙太郎も、清音のことが好きだから、喧嘩してるのか?」
「!?」
二人は互いに顔を見合わせてから、真っ青になった。
「こんな類人猿!好きなはずありません!」
「それはこっちの台詞だこのミトコンドリア!」
二人は、ぎゃいぎゃいいいあって、ふと気づく。
「隊長。何読んでるんですか」
「いや、京楽からすすめられた本を・・・・・・・・・・」
「変な内容じゃないですよね!?」
「いや、変といえば変かな。男同士で恋愛しているから」
いわゆる、現世でいうボーイズラブの小説だった。
「あのくされ隊長、うちの隊長にまた変なものを!」
仙太郎は、浮竹からボーイズラブ小説を奪うと、自分が借りていてきていたギャグ探検ものの小説を手渡した。
「あ、こっちのほうが面白いな・・・・・・・・」
奪い取られた小説に未練など全くない。
「隊長、この腐った小説はこの仙太郎が責任をもって京楽隊長に返しておきます!」
「ああ、そうしてくれ」
浮竹は、ギャグものの探検小説が気に入ったのか、のめりこんでいく。
「まったく、あの腐れ隊長・・・・・・・・・うちの隊長に手を出すだけでも許しがたいのに・・・・・・・」
「それ、私も同意だわ」
仙太郎と清音は、珍しく意見が一致した。
二人で顔を合わせる。
京楽隊長の魔の手から、浮竹隊長をどうやって救いだそうかと、二人はこそこそと議論しだす。
「はっくしょい」
その頃、腐れ隊長こと京楽は、さぼっていたために残っていた書類を片付けていた。
「浮竹が、僕のうわさしてるんだろうなぁ」
全然あってなかった。

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浮竹は、甘いものが好きだ。

甘味ものに目がない。果物も好きだった。

季節は初夏。

桃をむくと、その甘ったるい匂いに釣られて、浮竹が寝ていた布団から這い出してきた。

「お前が食べるのか?」

ほしいと、顔にかいてあった。

京楽は苦笑して、皮を剥いて適当な大きさにカットした桃を入れた器を渡した。

「ちゃんと冷やしておいたから、きっと美味しいよ」

ルキアに、氷をだしてもらい、それで冷やしておいた。現世には冷蔵庫という便利なものがあるが、尸魂界は基本的に氷をいれて冷やす冷蔵庫しかない。

桃を一つかじって、浮竹がつぶやく。

「甘い・・・・・・」

甘ったるい匂いが、雨乾堂に漂う。

「京楽、お前も食え」

爪楊枝でさされた、カットされた桃を口元にもってこられる。

京楽はそれを一口だけ食べて、浮竹に口づける。

「んっ」

浮竹の喉から、甘い声が出た。

「京楽・・・・・?」

浮竹の、長い白髪を指ですいてやると、口中に桃の味が広がった。

口に含んだ桃を、口づけのついでに渡されて、それを咀嚼して飲み込むと、ゴクリと自分が思っていた以上に大きな音がたった。

「ふっ・・・・・・」

浮竹が、桃の汁にまみれた京楽の指に舌を這わす。

「誘ってるのかい?」

「さぁ?」

押し倒すと、桃の甘ったるいにおいにまじって、浮竹の甘い香りがした。

ぱさりと、畳に浮竹の長く白い髪が流れる。

口づけを交わす。

桃の味がした。

「桃、もう一つあるんだけど、食べるかい?」

「今は、いい・・・・・・」

お前を貪りたいのだとばかりに、口づけられる。

全体の輪郭を確かめるように指を這わすと、浮竹がびくりと体を強張らせた。

「力、ぬいて?」

また口づける。

何度も口づけると、甘ったるい気分になってきた。

「きょうら・・・く・・・・・・」

京楽の体の下で、浮竹は乱れていく。

そうさせることができるのは、自分だけなのだと、刻むように見えない場所に痕を残した。

「あ、あ、あ・・・・・・・」

刻む律動に、浮竹が上ずった声をあげる。

浮竹の中は、吸い付いてくるようで、酷く心地がよかった。

「ごめん、潤滑油、少し足りなかったね」

「大丈夫、だから・・・・・・」

相手を思いやる気持ちを、忘れてはいけない。

京楽は、一度浮竹の中から出ると、己の熱に潤滑油をぬりこんで、また浮竹の中を侵した。

「あっ」

浮竹の声のトーンが、あがっていく。

そろそろ限界が近いのだと、お互いに認識しあう。

「あうっ」

浮竹のいいとこを突きあげると、彼は白い髪を乱してあえぐ。

「十四郎、愛してる」

「あ、あ、あ・・・・・・・春水っ!」

名を呼ばれたのと同時に、浮竹の中に熱を放った。浮竹も、京楽の手の中に熱を放った。

ぐったりと弛緩した体を抱きしめる。

「浮竹?」

「・・・・・・・ん」

ほんの少しの間、意識を飛ばしていた浮竹は、京楽の肩に爪をたてた。



「桃、もう一つ食べる?」

「食べる・・・・・・・・・」

雨乾堂には、甘ったるい匂いが満ちている。

桃の果実と、浮竹の、甘いにおいに。

冷蔵庫から桃をとりだして、むいていく。浮竹に食べさせてやる。

行為の後のせいで、気だるげな浮竹はそれはそれは色っぽかった。

桃を食べ終えると、その耳朶を噛んで、耳元で囁いた。

「もう一回、抱いてもいいかい?」

こくりと、浮竹は頷く。


かわいい恋人は、とても儚げだ。でも、芯は強い。病弱で細い体をしているが、お互いの命を預けて、背中合わせに戦うことができるくらいに、強い。

そんな浮竹の、乱れる姿を見ることができるのは、京楽だけだ。


「桃、また買ってくるね・・・・・・」

「んー・・・・・・」

甘ったるい果実は、浮竹に似ていると、京楽は思った。



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飲んだくれ

日番谷と松本と、ルキアと一護と恋次、んでもって浮竹に京楽というわけのわからない面子がそろっていた。

一護の部屋で、松本と浮竹と京楽は酒を飲んでいた。

日番谷とルキアと一護と恋次は、ジュースを飲んでいた。

恋次は、酒もたまに飲んでいたが、ルキアに合わせてコーラなんて飲んでいた。

飲料のお金をだしてくれたのは、京楽だった。一護にぽんっと、一万円札を渡して。

ルキアと一護が、ジュース類の他にお菓子、あとは酒を飲む三人のためにつまみを買い出しに行った。

そして今に至る。

すでに、松本はかなり酒が入っていて、酒くさかった。

「じゃーん。今回のタイトル・・・・・・・・ずばり、初めてのキスの相手は誰だ!さぁ、順番に・・・・・・・・まずは隊長から!」

日番谷は、さらりと答えた。

「雛森だ」

「「「おおーーー」」」

誰しもが、納得した。

日番谷と雛森が、拙いながらも交際をしていることは、尸魂界ではちょっとした噂話になっていた。

「じゃあ次はあたしー。あたしは、ギンかな。亡くなっちゃたけど・・・・」

松本が暗くなると、みんなもつられて少し暗くなった。

「じゃあ次、ルキア!」

「むっ・・・・・わ、わたしはその・・・・秘密だ」

「えーんいけずう」

松本が、酒を呷る。

「じゃあ次、一護!」

「俺か?俺はルキアだな」

「なにぃ!」

一護の答えに、恋次が一護の首を締めあげた。

「てめぇ、いつの間にルキアに手だしたんだ!」

ルキアは真っ赤になって、あわあわしだした。

「恋次、やめぬか!そういう恋次も、幼い頃私に口づけをしたであろう!」

「なんだと・・・・おい恋次、初耳だぞ」

今度は、一護が恋次につめよると、二人して喧嘩をしだした。ルキアが止めに入っている間も、松本は止まらない。

「次、浮竹隊長!」

「俺か?俺は・・・・京楽だが?」

隠すこともしない答えに、その場にいた全員が、静かになった。

「じゃあ、京楽隊長はもしかして?」

「ああ、僕も答えは浮竹だよ。もっとも、キスだけじゃなくってヴァージンなるものももらちゃったけどね」

その場にいた、浮竹と京楽以外のみんなが、恥ずかしそうにしていた。

「やーん、京楽隊長!浮竹隊長といつからできてたの!」

松本は、酒を呷って赤くなりながらも、京楽に探りをいれてくる。

「院生時代からかなぁ。現世でいう、16、17あたりの頃にはできてたよ。なぁ、浮竹?」

「院生の2回生だから、もう少し後じゃないのか」

浮竹と京楽は、互いの関係を隠していない。

さらりと真実を打ち明けられて、その場にいた大半の者が朱くなった。

「やっぱ浮竹さんって京楽さんとできてたんだな・・・・」

こそこそ耳打ちする一護に、ルキアは頷く。

「尸魂界では、公認カップルになっている」

「もう、ここまでくると、夫婦みたいなもんだぜ」

恋次が零す。

尸魂界で一番仲のいいカップルは誰かと聞かれたら、十中八九、浮竹と京楽と答える死神が多いだろう。

「くだらねぇ・・・・・・」

日番谷は、オレンジジュースを飲み干した。

浮竹と京楽ができていることなど、もうかなり前から知っている。

その関係を隠さないのは、潔いといえばそうだが、よく恥ずかしくならないなとも思う。


その後、しばらく京楽ののろけ話が続いたそうな。


数分後、べろんべろんによっぱらった松本は、日番谷に連れられて尸魂界に帰っていった。恋次もそれについていった。

ルキアは、現世に残るらしい。

「俺たちも、お暇するか」

「そうだねぇ。酒もなくなったことだし」

京楽と浮竹も、ひとしきり酒を飲んで満足したのか尸魂界に帰っていった。


残されたルキアと一護は、溜息を零した。

京楽ののろけ話に。

それを聞いて、平気でいられる浮竹の器の大きさに。


「一護」

「なんだ、ルキア」

「後片付けは、貴様に任せたぞ!私は、ちょっと浦原の店にいってくる」

ルキアはその場を逃げ出した。

「あっ、ずりぃ!」

大人数が飲み食いしたせいで、ゴミは相当な量になっていた。

「ま、たまにはいいか・・・・・・・」

京楽と浮竹がくるのは、予定外だったが。

一護の部屋には、よく死神が集まる。現世組やら、派遣されてきた死神やらが。

「それにしても浮竹さんと京楽さん、仲よかったなぁ」

互いを比翼の鳥のように必要としあっているのが、接しているだけでもわかった。

そんな仲にルキアとなれたらいいなと、一護は思うのだった。






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あいつ

いつも、起きるとあいつの顔を思い出した。

はねた黒髪に、珍しい紫色の瞳。

「たわけ!大ばか者!」そういって、けっこうな威力の蹴りを放つあいつの姿が、頭から離れなかった。


「これはどうやって飲むのだ?」

現世に来た頃は、同じクラスになっていた。

パックジュースの飲み方さえ知らない、その純白の雪のようなあいつが、現世のいろんな知識に触れ、なじんでいくのが面白かった。


「住むところも、お金もないんです」

親父の前で、ウソ泣きするあいつに苦笑を零した。

いつものように、俺の部屋の押し入れで寝起きするあいつの、朝のあいさつを聞くのが日課になっていた。


「弱くて、すみませんでした!」

俺の頭を、井上の前で無理やり下げさせる、あいつはけっこうな腕力があって。

その細い体から、どこをどうすればそんな力が出るのだと思った。


「舞え、袖白雪!」

舞を舞うように、氷を自在に操るあいつは、見た目よりずっと強かった。

席官クラスの実力をもっていると聞いたのは、それから少し後のことだった。



あいつは、強い。

確かに脆い部分もあるが、芯が強くて、何より仲間を大事にした。

俺に対しての言動は、少し雑なところがあったが、それも心地よかった。


気づいたら、俺は。

あいつのことを、好きになっていた。


その想いを、全部内に秘めたまま、時間だけが過ぎていく。


あいつの姿が、霊力をなくしたことで消えていく。

「別れは言わぬぞ」

「ああ・・・・・・またな」


あいつの、紫の瞳に映る俺の姿は、少しだけ悲しそうな色をしていた。


「ルキア!」

あいつの名を叫ぶと、少しづつ見えなくなっていくあいつが、振り返った。

「また、いつでも遊びにこいよな!」

姿が見えなくて、声がきこえなくとも。

書かれた文字を読むくらいは、できる。

あいつの霊圧を完全に感じれなくなったころ。


俺は、あいつに向かって、自分でも驚くほどのめちゃくちゃ明るい笑みを刻んで、手を振っていた。

「ルキア、またな!」


永遠の別れではない。

力を失い、皆を守ることが確かにできなくなってしまったけれど。

あいつとの繋がりが、全て消えたわけではない。




「何々・・・・冷蔵庫に、シロクマアイスを買って入れておけ・・・?また、アイスばっかだな、あいつは・・・・・・・・」

あいつの姿は見えないし、声も聞こえないけれど。

確かに俺たちを結ぶ糸は繋がっている。

たとえ、霊力をなくしても。

ノートに書き綴られた、あいつの上手いとはいえない絵と文字に、苦笑を零す。

俺とあいつは、確かに繋がっている。


あいつに、好きだと伝えなかったことを、後悔はしていない。好きだと伝えなくても、その糸は繋がっているから。


あいつは、きっと俺にとっての太陽のようなものだろう。


あいつは、強い。

けれど儚く脆い。

矛盾するあいつの全てが好きだ。


時間は過ぎてく。

世界は廻っている。


いつか、またあいつの姿が見れるようになったら。あいつだけでなく、たくさんの仲間を守れるようになったら。

繋がった糸がくっきりと形を成すようになったら、伝えよう。

好きだと。

ただ、あいつにだけ伝えよう。


この狂おしい気持ちを。









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吐血

定期的に行われる、隊首会がめんどくさくて、京楽は山本総隊長の様子を見てはあくびをかみ殺していた。

「では、解散!」

13番隊隊長たちが、それぞれ自分の隊舎に戻っていく中、浮竹は強く手を握りしめて立っていた。

「浮竹?」

ぽたぽたと、手から血が流れる。

「浮竹!?」

ぐらりと、その細い体が傾ぐ。

「げほっ・・・・・ごほっごほっ」

強く咳き込んだ。

傷ついた手のひらからの出血ではない、吐血による血が床に広がる。

「すまない・・・・・・ごほっ、ごほっ」

他の隊長や山本総隊長に、弱い部分を見られるのがいやで、発作を我慢していたのだ。手のひらに爪をたてるほどに。

「謝罪なんていいから!4番隊隊舎に連れて行くよ!」

浮竹の軽い体を抱き上げて、京楽は立ち上がった。

「京楽、着物に血が・・・・・ごほっ」

ごぽりと、音をたてて大量に吐血する。

血が喉につまったのか、気管からヒューヒューと音がする。京楽は逡巡もなしに浮竹から血を吸い上げると、床に吐き出した。

「すま・・な・・い・・・・・・・・」

弱弱しく謝って、浮竹は意識を手放した。



「卯ノ花隊長はいるかい!?」

瞬歩で、浮竹を胸に抱いたまま、京楽は四番隊隊舎にやってくると、その場にいた死神を捕まえた。

「卯ノ花隊長なら、先ほどご自分の隊首室に戻られましたが・・・・」

「そうかい」

礼をいう暇も惜しい。

腕の中の浮竹は、意識を手放しているが苦しそうに呼吸していた。肺の病の発作が最近なかったので、京楽はどこかで安堵していたのだ。

彼が、真紅を吐き出すのがいやでいやで。
その真っ赤な色が、浮竹の命を削っていくのがいやで。

発作の少ない浮竹の小健康状態に慣れてしまっていたのが、仇になった。

「卯ノ花隊長、失礼するよ!」

瞬歩で卯ノ花隊長のいる隊首室にやってくると、ふすまを足であける。

「京楽隊長?」

勇音とお茶を飲んで談笑していた卯ノ花が、立ち上がった。

京楽の着ている隊長羽織が、浮竹の吐血で真っ赤になっていた。

「すぐ、部屋に運んでください、京楽隊長!勇音もきなさい!浮竹隊長が倒れたのはいつですか!?」

「さっきだよ!」

浮竹の体を寝台に横たえる。

発作を起こしてすぐに卯ノ花隊長に診てもらい、回道で手当てを受けたの幸いして、浮竹は大事に至らなかった。

だが、一週間ほど意識を取り戻さなかった。

「僕はバカだねぇ。君が、肺を患っていることをすっかり失念していた」

寝込んだまま、点滴に繋がれた細い手が、痛々しかった。

京楽は、仕事を浮竹の病室にもちこんでまでして、ただ傍にいた。

真っ白な肌の色が、余計に病気で青白くなっていくのが、悲しかった。真っ白な髪は好きだが、それも病気のせいだと思うと、どこか悲しくなった。

「京楽?」

翡翠色の瞳があいた。

「うん、僕だよ。君、今の状態わかるかい?」

「確か、隊首会で、発作を我慢して倒れて・・・・・・すまない、あまり覚えていない」

「浮竹」

京楽は、どこか怒っていた。

「京楽?何を怒っているんだ」

「君が、手に爪を食いこませるほど、発作を我慢していたことに、怒っているんだ」

「ああ・・・・・元柳斎先生に、心配をかけたくなくて・・・・・」

「だからって、発作を我慢することないでしょ?我慢すればするほど、苦しくなって酷くなるの分かってるでしょ?」

「すまない・・・・・・・」

浮竹は、握っていてくれた京楽の手を握り返した。

「もう、発作の我慢なんて真似、しない」

「うん。本当に、そうしてくれないと、心配で心配で僕が倒れるよ」

浮竹が倒れるのは仕方ない。肺を患っているせいで、吐血して倒れる浮竹を抱き上げて、4番隊の隊舎に連れていくことにも慣れてしまった。

院生時代からだ。院生時代は、発作に倒れた浮竹を医務室に送り届けるようなことをしていた。

「ほんとに、これ以上心配かけさせないでよ」

京楽は、浮竹に触れるだけのキスをする。

「すまない」

「それ、君の悪い癖だよ」

「え・・・・・」

「いちいち、謝らなくていいから」

「すまない・・・って、ああ、いい慣れてしまっているから。他にどう言葉をかけていいのかが、分からない」

「卯ノ花隊長のところにいってくる」

浮竹が意識を取り戻したことを、伝えなくてはならない。

「京楽!」

「なんだい、浮竹」

「その・・・・・・ありがとう」

やっと聞けた感謝の言葉は、少し小さかった。



誰もいなくなった病室は、静かだった。

「俺は・・・・京楽にばかり、重荷を背負わせて・・・・」

感謝してもしたりないのだ。

京楽は優しい。発作で倒れたりしたら、いつも傍にいてくれる。看病だってしてくれる。

「こんな体じゃなきゃな・・・・」

京楽に心配をかけたくないが、病に蝕まれた体はいうことをきいてくれない。せめて、早く元気になろう。

「京楽・・・・・本当に、ありがとう」

早く元気になって、雨乾堂でいつものように酒を飲みかわそう。それを想像するだけで、少し気持ちが楽になった。



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〇ッ〇しないと出れない部屋

浮竹と京楽は、気づくと真っ白な部屋にいた。
「ここはどこだ?」
「わからないなぁ」
扉がある。
けれど、霊圧をぶつけても斬魄刀で切りかかっても、びくともしなかった。
扉の上に、文字があった。
〇ッ〇しないと、出れない。
噂で聞いたことはあるが、なんでもその部屋は、看板の通りのことをしないと出れないらしい。
真っ白な部屋には、豪華なダブルベッドが置かれていた。
「エッチしないと、出れないんじゃない?」
「そんなバカなことがあるか!」
「でも〇ッ〇しないと出れないって書かれてあるし、ダブルベッドまであるし・・・浮竹ぇ」
うなじに口づけられて、浮竹は京楽から距離をとった。
昨日、交わったばかりだ。そうほいほいと、肉体関係になるには無理がありすぎる。
京楽の性欲が多いのは分かっていた。だが、浮竹はやや淡泊で、とてもじゃないが交わった次の日にまた交わるなんて無理だ。
京楽の情欲した瞳に射抜かれて、背筋がぞくぞくした。
「〇ッ〇だろう!エッチとは、限らない!」
浮竹は、京楽に噛みつくような荒々しいキスをした。
「キッスだ!答えは、キッスだ」
「またまたぁ。エッチだよ。浮竹、おいで?」
ダブルべッドに腰かけて、京楽はぽんぽん自分の隣にこいと合図する。
「絶対、嫌だからな!」
「いいじゃない・・・・・エッチしないと、出れないんだし」
「いいや、キッスだ!」
もう一度、今度は深く口づけを交し合うと、部屋の扉は開いた。
「よし!」
浮竹はガッツポーズをとる。
浮竹は、京楽を貪ることができなくて舌打ちした。
「〇ッ〇だから、どっちでもよかったんだ」
京楽に押し倒されなくてよかったと、浮竹は安堵した。京楽のペースにはまってしまえば、たとえ前日体を重ねたといっても、また交じりあうことになるだろう。
「こんなばかげた部屋、さっさと出るぞ」
部屋の扉をくぐって外にでる。
京楽は、残念と浮竹の後をついて部屋をでた。
外に出るといつもの変わらぬ尸魂界だった。扉はまだ残っている。
「こんなもの!」
双魚理で、扉を破壊して、浮竹は満足した。
「あーあ。エッチだと、思ったのにな。その気になっちゃったのに」
「自分で処理しろ」
「浮竹ってば酷い。こんなに愛してるのに」
「知るか!勝手に盛るからだ!」
浮竹は、しょんぼりとした京楽を連れて雨乾堂に帰るのだった。

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停電

がらがらがっしゃーん。

凄い音を立てて、近くに雷が落ちた。雨つぶが大地を叩く音がする。

「停電だー!エアコンと扇風機が!」

一護の部屋で、アイスをかじりっていたルキアは、停電で視界が急に暗くなったのに驚いた。現世ならではの夏の快適グッズが雷で止まってしまって、ルキアは叫んだ。

「一護、なんとかせんか!暑くなるだろう、たわけが!」

「んなこと俺に言われてもしらねーよ。時間たてばすぐ復旧するだろ」

一護は、階下におりて、懐中電灯をもってきた。

「一人にするな!怖いではないか!」

がらがらがっしゃーん。

また雷が落ちた。

その細い体で一護に抱き着いて、ルキアぎゅっと目を閉じていた。

「もしかして、雷が怖いのか?」

「そそそそそ、そんなたわけたことがあるはずがなかろう!」

意外なルキアの弱点に、一護はかわいいとこあるじゃねぇかと、心の中で呟いた。

「それにしても、電気復旧しねぇな」

もう、かれこれ15分はたっただろうか。

室内の温度が、じわりと上がってきた。

「あちぃ」

「熱いぞ、たわけ・・・・・・」

懐中電灯で、時計を照らすと、午後9時を回っていた。

寝るには、まだ早すぎる。

でもまぁいいかと、ルキアを抱き上げて、ベッドの上で横になった。

「なんなのだ、一護」

「いや、暇だしさ。電気復旧するまで、こうしてようぜ」

暗闇が、全部を隠してくれる。

別に、いちゃいちゃしてるわけではないが。ルキアと一緒に、ベッドに体を横たえながら、一護はルキアの少し高い体温を感じていた。

「今日はあちぃからなぁ。早く、電気復旧すればいいんだけどな」

「早く復旧させろ、このたわけが!」

「無理いうなよ」

「たわけたわけたわけ!ひゃっ、どこを触っておる!」

ルキアの背中にあたった手を、ルキアがつまみあげた。

日番谷と同じ、氷の斬魄刀をもつルキアは、暑さに弱い。

「いててて、わざとじゃねぇから!」

「いいや、わざとだ!そうに決まっておろう」

「触るなら、もっと胸とか尻とか触るぜ」

「このエロ魔人が・・・・・!」

意思をもった手で、ルキアの頬に手をあてると、ルキアは一護の手に手を重ねた。

触れるだけのキスをすると、ルキアは一護の腕の中で体を震わせた。

「あちぃな」

「暑い」

くっついていると、余計に暑くなって、二人は離れた。

ほどなくして、電気が復旧する。

エアコンをかけ直して、扇風機の電源を入れると、ルキアは嬉しそうに紫の瞳を瞬かせた。

「一護、アイスもってこい」

「自分でとりにいけよ」

「キスしただろう!代金を払うかわりに、もってこい!」

「キスくらいで金とる気かよ」

「四大貴族の一人だぞ、私は!」

そのわりには、身分でどうのこうのいうことは少ない。

「へいへい、全く、我儘な生き物だな」

本当なら、姫と呼ばれる身分なのだ、ルキアは。

一護は、文句を零しながらもアイスをとりにいく。

「雷は、嫌いだ・・・・・・」

昔、流魂街にいた頃、雷に打たれかかって、死ぬような思いをしたことがある。

その時の恐怖を思い出して、ルキアは戻ってきた一護に抱き着いた。

「おい、アイス溶けるぞ?どうしたんだよ、ルキア・・・・・」

「うるさい。しばらく、動くな」

溶け始めたアイスを、一護は食べた。

「ああっ、私のアイス!」

「食べないお前が悪い」

「くっ・・・」

がらがらぴっしゃーん。

「ひゃあっ!」

また雷がなって、ルキアは飛び上がった。それから一護にまた抱き着いた。

「雷そんなに怖いのか?」

「そそそそそそ、そんなわけがなかろう!」

そういうルキアは半分涙目になっていた。

強く抱きしめると、ルキアは一護を見あげた。

「一護?」

「今は、俺がついてるだろ。雷なんかで、おびえるな」

「たわけが・・・・・・・・」

ルキアの白い頬に、キスして、一護はルキアを抱きしめる腕に力をこめる。

ルキアは、紫の瞳でを閉じた。

自然と、唇と唇が、重なり合う。

「んっ・・・・・」

甘いルキアの声が、耳に心地よかった。

「たわけめ・・・・・」

頬を朱くして、ルキアは一護から離れた。それから、いつものように押入れに入る。

妹たちの部屋を寝室にと宛がわれているが、ルキアは一護の部屋の押し入れがすきだった。

狭くて小汚いけど。


「ねぇさーーん!」

抱き着いてくるコンを、一護のほうに投げ捨てて、ルキアは押入れの戸をしめた。

真っ赤に火照った顔を、隠すように。















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まどろみ

優しく優しく接した後、浮竹は京楽の腕の中で眠ってしまった。

最近、浮竹はよく肺の病の発作を出すので、抱くことはしていない。

ただ、何度も甘く口づけを交わして、全体の輪郭を確かめるように体のラインをなぞる。京楽は、自分で欲望を始末して、浮竹の負担を減らしていた。

ふと、眠っていた浮竹が薄く目をあけた。

翡翠色の瞳はとても綺麗な色をしている。

「京楽・・・・・・その、しなくていいのか?」

もう1か月近く交わっていない。

「何、浮竹。僕としたいの?」

「いや・・・・・・ただ、我慢を強いてるんじゃないかと思って」

「僕のことはいいから。君は、早く元気になることだけを考えて」

長い白髪に手が伸びる。優しく髪をすいていく指の動きに、気持ちいいのか浮竹は京楽にすり寄った。

「もう。誘うようなこと、しないでよ・・・・・」

我慢が、限界をこえてしまう。

「その、よければ俺が処理してやろうか?」

「いいのかい?」

京楽の雄は、熱をもっていた。

おずおずと、自分から京楽に口づけて、浮竹は京楽の熱に指をからめる。

いつも自分がされているようにすれば、京楽の熱はあっという間に弾けて、浮竹の手に欲望を放った。

「ん・・・・・・・・・」

まだ硬い熱に、浮竹は意を決して唇を這わせた。

「浮竹!」

今まで、ほとんどしてこなかった行為だ。浮竹は、京楽の熱に舌をからめると、京楽をくわえこんだ。

「無理、しなくていいから・・・・・・・」

浮竹の、白い髪を掴む。少し微熱を出しているのか、浮竹の潤んだ瞳と目が合った。

「浮竹、体が熱いよ?もしかして、熱だしてるの?]

「・・・・んう」

片方の手でしごきあげて、硬くなった熱にちろちろと舌を這わす。先端を吸い上げれば、先ほど放った京楽の体液の青臭い味が、口内に広がった。

何度か舐めあげられ、しごかれているうちに、京楽は熱い浮竹の口内に欲望を迸らせた。

ごくり。

音を出して飲み込む浮竹。

ぺろりと、自分の唇を舐める。

ああ、この子欲情してるんだ。

京楽は、けれど熱のある浮竹を思いやって、浮竹の誘いには乗らなかった。

「きょう・・・らく?」

不思議そうに、小首を傾げる浮竹。

その姿がかわいくて、京楽は浮竹の顎に手をかけた。

「何・・・・?」

綺麗だと思う。浮竹は、その容姿も、まとう色も、綺麗だ。

真っ白な長い髪をなでながら、京楽は浮竹の唇に触れるだけのキスをした。

「んっ・・・・・・・・」

浮竹は、甘い声を出した。

「今日は抱かない。熱もあるみたいだし。もうちょっと回復したら、ね?」

「気遣わなくても、いいのに・・・・・」

「気遣うに決まってるでしょ!バカ言わないで」

優しい優しい京楽。その京楽に、甘える浮竹。

浮竹は、自分から触れるだけの口づけを京楽にして、京楽の腕の中で微睡みはじめた。熱が出ているようで、起きたら解熱剤を飲ませなければ。

「愛してるよ、十四郎」

熱のせいか上気した浮竹の白い頬に唇をあてて、京楽はただ浮竹の白い髪を指ですいていた。

サラサラと零れ落ちていく長い髪。

伸ばせと囁いて、ここまで長くなった。

浮竹からは、甘い花のかおりがした。

寝ているだけなのに、どこか淫靡に見えて、京楽は視線をずらす。雨乾堂で、二人はただ抱き合いながら、朝を待っていると、京楽もいつの間にか眠ってしまっていた。

「浮竹?」

腕の中に、浮竹がいない。探して視線を彷徨わせると、雨乾堂の隅でがさごそしている浮竹と目が合った。

「どうしたの?」

「あ・・・・・薬、飲んでただけだから・・・・」

解熱剤といつも処方されている漢方薬を飲んだのだと、浮竹は白湯の入ったコップを手に、京楽の元まで戻ってくる。

白湯を全部飲みほして、浮竹はまた京楽の腕の中に戻ってきた。

「熱ひかないみたいだから、もう少し寝る」

「うん、おやすみ」

浮竹を抱きしめて、京楽はその火照った体から熱が去っていくのを、ゆっくり感じた。

浮竹が起きたら、好物の梅干し茶漬けでも食わせてやるか。

そんなことを考えて、腕の中の麗人を抱きしめる。

「大好きだよ」

返答はなかった。

浮竹が飲んでいる解熱剤には、少し睡眠薬も含まれているらしくて、スースーとよく眠っている。

昼になって、浮竹が起きた。彼が起きるまでずっと抱きしめていたので、体のあちこちが痛い。でも、甘い痛みだ。

京楽は、浮竹のために梅干し茶漬けを用意した。

雨乾堂の近くの隊舎に控えていた清音に、材料をそろてもらった。

食の細い浮竹は、お茶漬けが好きだ。特に、梅干しをいれたものを好んだ。

そういえば何も食べていないな・・・・・・・京楽は、自分の腹がすいているのを感じて、浮竹と同じ梅干し茶漬けを食べた。

思ったより美味しくて、おかわりしてしまった。

「浮竹、熱は下がったかい?」

「ああ・・・・・」

梅干しを頬張る姿に、苦笑する。

後で、甘味ものでも、食べさせてやるか。京楽は思った。

甘い甘い時間を、何百年も過ごしている。けれど、全然飽きない。

京楽は、浮竹の長い白髪を、螺鈿細工の値のはる櫛ですいてやった。今から20年ほど前に、誕生日プレゼントにと、あげたものだ。

大切にされているので、新品同然の輝きを放っている。

「後で、一緒にお風呂入ろうか。昨日入ってなかったから」

「ああ」

その長い白髪を、洗ってあげよう。浮竹の髪を洗うのは、好きだった。

京楽も、大部髪が伸びた。そろそろ、切ろう。そういえば、浮竹の髪もいつもより大分伸びてしまっている。ついでだし、切ってあげよう。


とりとめのない、日常。

それが、とても幸せだ。


願うならば、こんな幸せがいつまでも続きますように。


















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安静と嫉妬

「隊長、梅干し茶漬けもってきましたよ」

「ああすまない海燕。そこに置いておいてくれ」

肺の病で、せきこんで吐血まではいかなかったが、発作が酷くて4番隊隊舎に運ばれた浮竹は、
二日間の安静を言い渡された。

だが、以外にも早く回復してしまった。

好物である梅干し茶漬けを食べながら、暇だなぁと浮竹はどうやって時間をつぶそうかと考えていた。

いつも、京楽がきてくれるわけじゃあない。

この前、たまった仕事に、雨乾堂を訪れていた京楽は副官の伊勢に連れ帰られていった。今頃、仕事に忙殺されているんだろうなと思うと、傍にいてくれないことが少し不満で、長い白い髪を無造作に耳にかける。

「海燕、暇だ。花札でもしないか?」

「花札?俺、これでも仕事で忙しいんですけど」

「たまにはいいじゃないか」

安静といわれても、体はもう大丈夫だ。寝ているのにも飽きた浮竹は、半ば海燕を無理やり誘って花札をしはじめた。

しかし、1時間もして飽きた。

「海燕、将棋はできるか?」

「はあ、一応ルールは知ってますが」

「じゃあ、将棋をしよう。ただの将棋じゃ面白くないな。そうだ、勝った方は負けた方の我儘を一つ聞くこと。そうしよう」

将棋で海燕に負けるはずがない。

そう思っていた浮竹に、海燕はあっさり勝ってしまった。

「仕方ない。言い出したのは俺だ。なんでも我儘を聞いてやる」

その桜色の唇に、唇を重ねていいですかなんて、とても言えない。海燕は、言いたかった我儘を飲み込んで、浮竹の翡翠色の瞳を見た。

「じゃあ、耳かきしてください。膝枕してもらいながら」

「なんだ、そんなことでいいのか。こんなおっさんの、膝枕でいいなら」

海燕は、正座した浮竹の膝に頭をのせて、耳かき棒を渡すと、耳かきをしてもらっていた。

「こんなこと、都にさせればいいのに」

あなただから、してもらいたいんだ。

海燕は、また声を飲み込んだ。

都は確かに愛しい。でも、同じくらいに上官を愛しいと感じている。もってしまってはいけない感情を、浮竹に抱いてしまっている。

居心地の良さに、軽い眠気を感じた頃、あまりにも冷たい霊圧に、海燕は体を起こした。

「何してるんだい、志波君」

「ああ、京楽!仕事は終わったのか?」

海燕は、殺意に似た霊圧に、言葉を飲み込む。海燕だけに向けての霊圧で、浮竹には感じさせていない。

「京楽隊長・・・・」

「志波君。ほどほどにね?」

あんまり調子に乗ったら、怪我するよ。

そう瞳で語られる。

海燕がどいた浮竹の正座した足に、京楽が頭をのせる。

「僕にも、耳かきしてよ、浮竹」

「いいぞ。それより、仕事は終わったのか?」

「ああ、あらかた片付いたよ。後は七緒ちゃんでもできる仕事だから、任せてきた」

「そうか」

京楽の耳かきをしてやりながら、浮竹は顔を蒼くした海燕を見た。

「どうしたんだ、海燕?」

「いや・・・ちょっと、具合が悪くなったんで。失礼します」

「・・・?」

浮竹は気づいていなかった。鈍感な上司をもって、志波君もかわいそうにと思う気持ちと、副官であることを利用して浮竹に接してくる志波君が鬱陶しいんだとまぜこぜになった想いで、京楽は浮竹の白い髪を手に取った。

「この髪に触れていいのは、僕だけだからね、浮竹」

「変な奴だな」

海燕に触らせないようにといっても、浮竹のことだから、海燕にもこの白くて綺麗で長い髪を櫛ですかせたりするんだろう。

想像しただけで、ちょっと嫉妬心がわいた。

「志波君には、気をつけて」

「海燕に?意味が分からない」

ほんとに鈍感だなぁ。

京楽は、仰ぎ見たまま、浮竹の白い髪を手に取ると、口づけをした。

「君は僕だけのものって意味」

京楽は、浮竹の白い顔(かんばせ)に顔を近づけると、深い口づけをした。

「んっ・・・・・・・」

浮竹は、目を閉じた。

角度を変えて何度も貪っていると、浮竹の綺麗に整った爪が、浮竹の肩に食い込んだ。

「も、いいだろ、京楽」

「君は、僕だけのものだ・・・・・」

決して、誰にも渡すものか。

京楽は、浮竹を貪る。

甘すぎて、とろけそうだ。

浮竹からは、いつも甘い香りがする。花のような香りだ。

時折太陽のにおいもする。

京楽の腕の中で、浮竹は長い睫毛を伏せて、翡翠色の瞳で京楽を見ていた。、

「どうしたんだ、京楽」

「なんでもないよ」

嫉妬って怖いよね。そう言葉を飲み込んで、京楽は浮竹を抱きしめる腕に力をこめるのだった。












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わかめ大使

「やぁ、白哉」

浮竹は、朽木家の屋敷にまで来ていた。

「なんだ。兄は、何用で我が屋敷にきているのだ」

「いや、わかめ大使のお菓子、ほしいなぁと思って。隊長室を尋ねたら、屋敷にいるっていわれたので来てみたんだ」

白哉が考案したわかめ大使なるお菓子は、堂々と発売されていたのだが、あまりの人気のなさに発売中止になっていた。

「わかめ大使、うまいからな」

「兄は、見る目があるな。少し待て」

白哉は人を呼ぶと、大量のわかめ大使のお菓子をもってこさせた。

「えっと、いくらになる?」

財布をとりだした浮竹に、白哉は首を振った。

「兄から金をとる気はない。好きなだけもっていくがいい」

「お、悪いな。じゃあ、お言葉に甘えて・・・・・・京楽!」

浮竹は、京楽の名を呼んだ。

屋根の上にいた京楽は、浮竹の元にやってくると、紙袋の中にわかめ大使をつめこんでいく。

「わかめ大使ねぇ・・・・・」

あんまりおいしそうじゃないなと思いながら、つめこんでいく。

浮竹も、もってきた紙袋に大量のわかめ大使をつめこんでいた。

「全く浮竹はもの好きだねぇ」

こんなこと、3席である清音や仙太郎に任せればいいのに。

「そういうお前も、もの好きだろう。わざわざ荷物もちについてきてくれたんだから」

「僕は、ただ浮竹傍にいたいの」

わかめ大使を詰め終えて、けっこうな重さに少し辟易となるが、愛しい浮竹のためだ。

「兄には、特別にこれをやろう」

白哉が、浮竹にわかめ大使のキーホルダーを投げてよこした。

「お、ありがとう白哉。大切にする」

「礼など、いらぬ」

白哉は、わかめ大使を好きだといってくれた浮竹に、好印象を抱いた。

わかめ大使は、見た目こそ変だが、上品なあんこが入っていて甘くておいしい。

甘いもの好きな浮竹は、部下であるルキアからわかめ大使を渡され、それを食べてからもっと食べたいと思うようになっていた。

そして、今に至る。

「じゃあな、白哉」

手を振って去っていく浮竹と、それに黙ってついていく京楽を見て、白哉は少しだけ分からないほどの笑みを浮かべた。



「やっぱり、美味い」

雨乾堂で、浮竹はわかめ大使を食べていた。

「見た目は変なんだけどねぇ」

京楽は、わかめ大使を食べる気にはなれなくて、食べていく浮竹をただ見つめていた。

「お前はいらないのか、京楽」

「んー。僕はこれでいいよ」

わかめ大使を食べていた浮竹に、深く口づけすると、甘いあんこの味がした。

「なっ!」

浮竹は、真っ赤になってわかめ大使を飲み込んだ。

「ばかっ、食っている最中にキスするやつがあるか!」

「えー。別にいいじゃない。減るもんでもなし」

「減る!」

浮竹は、またわかめ大使を食べた。

「ほんとに、甘味ものはよく食べるねぇ」

いつもは食の細い浮竹。この甘味ものを食べるくらいに食事の時に食欲があれば、少しは肉がつつくんじゃないかと京楽は思った。

浮竹は、軽すぎる。病や熱を出して寝込むことが多いし、食も細いので、体が細い。

20個くらいわかめ大使を平らげて、浮竹は満足した。

京楽は、部屋で控えていた清音からお茶をもらって、それを飲みほした。

浮竹はというと、今度はおはぎを食べだしていた。

「ほんとに、甘味ものは別腹ってかんじだねぇ」

その細い体のどこに、こんな量が入るのだろうというほど食べる浮竹。

そんな浮竹を見て、京楽は苦笑した。

そして、酒瓶をとりだして、一人で酒盛りをはじめた。

「こんな朝っぱらから酒か」

「だって、どこかの誰かがかまってくれないんだもの」

二人は気づきているのだろうか。

雨乾堂に、清音と仙太郎が控えていることを。

京楽は、平気でキスをしていたので、きっと存在を忘れているのだろう。いや、気づいていて見せつけるためにキスしたのかもしれない。

「隊長・・・・・私たち、お邪魔のようですし、下がりますね」

「清音、いたのか!仙太郎も・・・・・うわぁ」

二人の目の前で、浮竹は京楽にキスされたのだ。

いつも二人のいない時にする。

仲の良すぎる浮竹と京楽に顔を赤くさせて、清音と仙太郎は雨乾堂を後にした。

「見られてた」

「別にいいんじゃない。僕たち、関係隠すようなことしてないしね」

日本酒を杯に注いで、それを呷る京楽の頭をはたいて、浮竹は顔を手で覆った。

「恥ずかしくて、しばらく清音と仙太郎の顔見れない!」

「浮竹は恥ずかしがりやだねぇ。別にえっちしてたわけじゃないんだから、いいじゃない」

「よくない!」

酒を飲む京楽に足蹴りをかます浮竹。

「ほんとに、君は足癖が悪いねぇ」

杯を空にして、その細い足首をとらえた。

「放せっ」

「悪いことする子には、お仕置きだよ」

足首をきつく吸われて、キスマークを残された。

まぁ、人目につくところではないので、浮竹も怒らない。

「浮竹も一杯やるかい?」

「ああ・・・・」

京楽から杯を受け取り、注がれた中身を呷る。

「今日は仕事もないし、もうやけだ」

浮竹は、雨乾堂の奥から、よく飲む果実酒を取り出して、京楽と飲み始めた。




一方その頃、朽木家では。

「ルキア、この調子でもっとわかめ大使を広げるのだ」

「はい、兄様!」

ルキアが、浮竹にわかめ大使を食べさせたのは、偶然ではなく謀(はかりごと)だった。

ルキアは、愛しい義兄のために、わかめ大使を恋次や一護に食べさせて、さらには他の隊の隊長や副隊長に広げてくのであった。
















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日宇場Ⅱ

同じ屋根の下で暮らして、はや数か月。

まだうだる暑さが残る夏の終わりのある日、ルキアはいつもの押し入れではなく、一護のベッドの上でスース―と、静かな眠りについていた。

「なんだ、寝てんのか」

虚退治から帰還した一護は、ルキアを起こさないように窓からそっと室内に入った。

「しっかし、こんな暑い中よく寝れるもんだな」

エアコンはついていなかった。

虚退治で、軽い運動をしたような一護は、あちいと呟いて、エアコンのスイッチをいれた。

「ん・・・・一護・・・・・・・」

「ルキア起きてんのか?」

ただの寝言らしい。

どうやら、一護の夢を見ているようだった。

石田雨竜からもらった、ワンピース姿だった。ルキアは、ワンピースが好きなのか、買い物に行って服を買う時も、よくワンピースを選んだ。

「一護が巨大な苺に・・・・うーん兄様、わかめ大使が・・・うーんうーん」

「うなされてんのか」

変な夢を見ているらしい。

うーんうーんとうなされるルキアの細い手首をとって、一護はルキアの手を握った。

「ルキア、おい起きろ」

「うーんうーん」

起きそうにもなかった。

一護は、眠りについたままのルキアを見る。

朽木家の姫君だけあって、可憐な姿をしていると思う。男のようにさばさばした性格で、口調もどこか尊大だが、それがルキアであって、ルキアという少女を構築している全てが、一護は好きだった。

ルキアの、桜色の唇に、気づけば指を這わせていた。

「起きない、おまえがわるいんだからな」

一護は、そっと触れるだけのキスをした。

キスといえるのかもわからないようなキスだった。。

好きだと伝えたのに、ルキアは一護の前ではあまりにも無防備だ。

ルキアの存在は、一護にとっては本当は高根の花であった。

「ん・・・・・・・・・一護?帰ったのか」

目をこすって、眠そうにあくびをするルキアの頭を、ぐしゃぐしゃに撫でた。

「何をする、たわけ!」

ルキアはぷんぷんと怒った。

その姿かかわいくて、一護はルキアに顔面を足蹴りされるまで、笑っていた。

押入れが、そっと開いた。

そこから登場してきたコンが、ルキアの元にくると、一護をぬいぐるみの手で指さした。


「みーてーたーぞー一護!ねぇさん、聞いてくだせぇ、一護のやつ、眠っているねぇさんに!」

「うっせぇ!」

「もぎゅ」

コンを踏みつけて、一護はルキアの小さい手を握りしめる。

「アイスでも、買いに行こうぜ」

「む、コンビニにか?」

「そう。ファミマでいいよな?」

「うーん、個人的にはセブイレブンのシロクマアイスが食べたい・・・・・・」

「じゃあ、セブンいくか」

「ああ」

コンを念入りにふみつけて、一護とルキアはアイスを買いに出かけた。




「あ、当たりだ・・・・」

くじつきの棒アイスを食べたルキアは、嬉しそうに当たりとかかれた棒を一護に見せる。

「シロクマアイスが食べたいんじゃなかったのかよ」

「たわけ!その時の気分次第で、アイスは変わるのだ!それより、戻ってこの当たりをアイスと交換せねば・・・・・・・」

「もう、家がもうすぐだぜ。今度にしろよ」

コンビニは、少し離れた場所にあったので、今から戻るのは時間がかかる。

日差しはギラギラと照っていて、暑かった。

早く、家に帰ってエアコンをつけて扇風機で涼みたい。

「シロクマアイスも買っとけばよかった・・・・・・」

ルキアは、少ししょんぼりしていた。

「今日の夜は少し涼しくなるらしいから、そん時にでももっかいコンビニに連れていってやるよ」

ルキアは、まだコンビニまでの複雑な道のりを覚えていなかった。

「約束だぞ」

「ああ」

指きりげんまんをした。

「ルキア」

「なんだ一護」

ルキアを抱き寄せて、一護はキスをした。

「アイスの味がする・・・・・」

「こんな道中で・・・・たわけがっ」

真っ赤になって、ルキアは一護の足を思い切り踏みつけた。

「いいじゃねぇか。減るもんじゃなし」

「減るわ、たわけ!乙女の唇を、なんだと思っているのだ!」

一護は、ルキアを置いて歩き出した。

ルキアとのキスは、ルキアが食べたバニラの味がした。

甘い甘い、バニラの味だった。


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記憶喪失

その日、虚の大群が尸魂界を襲った。虚の大群を率いていたのは、見たこともないアランカルだった。

護廷13隊は、11番隊と10番隊、8番隊と13番隊が処理にあったっていた。

更木率いる11番隊が、次々と虚を駆逐していくが、宙にあいたままの入口から次々と虚がやってくる。

「ちっ、きりがねぇぜ。あのでかぶつが虚を呼んでるみてーだな」

アランカルをみて、更木は舌打ちした。

「俺がいく・・・・・・おおおお、卍解大紅蓮氷輪丸!」

卍解した日番谷が、氷の龍をアランカルにぶつける。アランカルは、氷の龍を反射させながら、悲鳴のような声をあげて、虚を駆逐していた8番隊の副官、伊勢七緒に向かっていった。

「女ぁ、まずお前から記憶を食ってやる!」

「七緒ちゃん、危ない!」

京楽は、七緒をかばって背中に傷を負った。

「くそっ・・・・・」

「俺の氷輪丸をはじき返しただと!?」

氷をはじき返し、氷で攻撃してくるアランカルに、日番谷が目を見開いた。

波悉く(なみことごとく)我が盾となれ
雷悉く(いかずちことごとく)我が刃となれ 双魚理。

静かな声が響いた。

はじき返される氷を、片方の刀で受けて、片方の刀で放出する。

アランカルは、氷漬けになりながらも、傷を負った京楽に狙いを定めた。

「京楽!」

鮮血が散った。

双魚理でアランカルを刺したが、京楽をかばった浮竹もアランカルにやられていた。

「浮竹ぇ!」

京楽の悲鳴が、響く。

空中から、失墜していく浮竹に、アランカルは襲いかかる。

「せめて、お前だけでも記憶を食ってやる!」

間に合うか?

瞬歩で近づき、背中の傷が痛みの悲鳴をあげるのを無視して、京楽は花天狂骨でアランカルを真っ二つにした。

「へっ、やるじゃねぇか」

更木が、満足そうに言葉を放つのを合図に、虚の完全駆逐へと死神たちが移行する。

消えていく虚が、増えることはなかった。

「大丈夫か、浮竹、おい、浮竹!」

肺をやられたのか、血を吐いた。

ごぽりと、音がする。

肺の病での発作ではない。もっとひどい・・・・・・肺が潰れているのだ。

たさくんの吐血をして、浮竹は完全に意識を失った。


虚やアランカルにやられた死神たちが、4番隊隊舎に運ばれていく。浮竹を抱き上げて、京楽は自分の傷を無視して、卯ノ花のところに浮竹を運んだ。

「肺をやられているようですが、なんとかしましょう」

「頼む、卯ノ花隊長!」

「あなたの怪我も相当に酷い。勇音」

「はい、隊長」

「京楽隊長の傷を治してあげなさい」

「はい!」

別室に連れていかれて、手当を受けている間も、京楽は浮竹のことを思うと気が気でなかった。

それに、殺す前にいっていた「記憶を食らう」という言葉が酷く気になった。






京楽より酷い怪我を負った浮竹は、3日間生死の境を彷徨った。なんとか容体が落ち着き、二週間が経過した。

仕事も放置して、京楽は浮竹の看病をずっとしていた。

潰れた肺は、結局臓器移植でなんとかなったが、ずっと昏睡状態が続いていた。

ゆっくりと開いた翡翠の瞳で、浮竹はぼんやりとした表情で、天井を仰ぎ見る。

「・・・・・・ここは?」

「よかった、意識が戻ったんだね、浮竹」

京楽の喜びは、相当なものだった。

「お前・・・・・誰だ?」

自分の手を握っている男を、浮竹は不思議そうに見た。

顔を合わせての一言目に、京楽は被っていた笠をくいっとあげた。

「またまた~。変な冗談はよしてよ、浮竹」

「?」

きょろきょろととしだす浮竹。

「ここは?俺は確か、学院にいたはずだが・・・・・・・・・」

「冗談はやめてよ」

「お前・・・・・・京楽に似ているが、親戚か何かか?」

京楽は、その言葉に愕然とした。

         「記憶を食ってやる・・・・・」

その言葉は、まさに本当だったのだ。



「診察の結果では、脳に異常はありませんでした。その、記憶を食らうというアランカルは、京楽隊長が退治なさったのでしょう?」

浮竹の寝ている病室の外の廊下で、卯ノ花と京楽は話し込みあっていた。

「消去された記憶は、普通その術者が死ねば解除されます」

「だけど、浮竹は・・・・・」

「ええ。どうやら、学院時代までしか記憶がない様子。隊長となった頃のことは、完全に忘れているみたいですね。どうやったら回復するのか、今の状況では見当がつきません」

卯ノ花の言葉に、京楽は戸惑っていた。

浮竹が、自分のことを忘れた。綺麗さっぱりではなく、学院の頃までの記憶はあって、しかしそれ以降の記憶がない。今の浮竹にとって、隊長となってしまった大人の京楽は、他人なのだ。

しかし、解せない。

記憶を食うアランカルの存在など、今まで確認されたことがない。可能性があるとすれ、反逆者となった藍染が、崩玉を使って新たに生み出したアランカルなのかもしれない。

「今は、様子を見ましょう。記憶も、混濁が落ち着いてきたようですし。なるべく、浮竹隊長の傍にいてあげてください。あなたの存在が、記憶を取り戻すのに一番効果的な気がします」

中途半端に記憶喪失の浮竹は、それから1週間後には退院して、雨乾堂に帰っていった。

「本当に、お前はあの京楽なのか?」

「そうだよ。こんなもじゃもじゃのおっさん、まさに学院後の京楽ってかんじがするだろう?」

「確かに、友人であった京楽は、もじゃもじゃだったが・・・・・・しかし、おっさんって・・・・・・:」

「君と仲良く、おっさん同士さ。まあ、浮竹と僕が同い年だなんて、誰も信じてくれないけどね」

一度手鏡を渡され、年齢を重ねた自分がそこにいるのを認めて、浮竹は自分が一時的な記憶喪失に陥っていると納得はした。だが、まだ完全に受け入れられないでいた。

「お前からは、確かに京楽の霊圧を感じる。かなり、今まで感じていたのより強いが」

「だから、僕は隊長になった未来の京楽なんだってば」

「未来の京楽か・・・・・・」

京楽は、長い浮竹の髪に手をもっていった。

「この白い髪を、ここまで伸ばせっていったのも、僕だよ?」

「このうっとしい長い髪がか?」

「綺麗じゃないか。雪のようで」

「こんな髪・・・・・・」

浮竹にとって、コンプレックスでしかない長い白髪が好きで、京楽は浮竹に伸ばさせた。

「長いと、その、何かいろいろと不便だな。まぁ、京楽が切るなというなら切らないが」

中途半端に記憶喪失の浮竹の記憶は、学院時代の2回生の春ごろのものだった。両想いになる夏の終わりより前のところで、浮竹の記憶はぷつんと途切れていた。

「愛しているよ、浮竹」

「俺は、その・・・・・」

京楽に、いつものように愛を囁かれても、素直に受け入れられない。

学院時代の京楽は、浮竹の傍にいたが、あくまで友人、親友としてだった。

「愛してる」

耳元で囁かれて、髪を長い指がすいていく。

髪をすいていくその指の動きが気持ちよくて、浮竹は目を閉じた。

触れるか触れないかのキスをされて、翡翠の瞳が瞬いた。

「本当に、俺と京楽は、恋人同士に・・・・・?」

「そうだよ」

京楽は諦めない。
浮竹が自分のことを忘却してしまったのなら、もう一度刻み込めばいいのだ。

どれほど、狂おしいまでに愛しているのかを。


「あっ・・・・・・・」

ゆっくりと、京楽に押し倒されて、浮竹は戸惑った。

「その、するのか?」

「しない。でも思い出して?」

記憶のない浮竹を抱いても、満足するものは得られるかどうか分からない。

ただ、甘く甘く、とろけるように甘くしてやればいい。

果実のように甘く囁いてとろけさせて、頭の中を京楽で満たしてしまえばいい。

京楽は、浮竹に啄むような口づけを何度も交わして、彼の細い体のラインをたどった。

「京楽・・・・・・」

4番隊の病室にた頃の浮竹は、消毒用のアルコールのにおいがまじっていたが、今の浮竹はいつものように花のような甘いかおりがした。

入院している間、ふくことくらしかできなかった髪を、洗髪したのも京楽だ。

いつものシャンプーと違うものを使ったのに、浮竹の髪からも甘い花の香りがした。

「んっ・・・・・・」

隊長羽織を脱がされて、侵入してきた指の動きに、浮竹の声がうわずった。

膝を膝で割られて、浮竹は逃げようとした。

だが、がたいのいい京楽に押し倒されていて、体を少しずりあげることしかできなかった。

「やっぱり、するのか・・・・・・・」

「最後まではしない。愛していいかい?」

「いやだといっても、するんだろう?」

「ご名答」

「やっ」

やわやわと花茎をはう手が、その長い指が浮竹を追い上げていく。

「やあっ、きょうら・・・・く・・・・」

真っ白になる世界。体が、痙攣する。

墜ちていく浮竹を、京楽はしっかりと受けとめる。

「愛している、十四郎」

耳元で囁けば、浮竹の白い頬は薔薇色に染まっていく。

浮竹の体は、甘い果実のようだ。いつもは嫌がる浮竹がいないのをいいことに、京楽は好きなだけ浮竹の白い肌に痕を残した。

何度めかの性を半ば無理やり吐き出させられて、浮竹はまどろむように意識を飛ばした。

そのまま意識を失った浮竹を抱きしめて、京楽もまた眠りについた。



朝起きると、腕の中にいた愛しい人は、いなかった。
布団の上を、手を這わせて確認する。

まだ、暖かい。

まだ、近くにいるはずだ。

「浮竹・・・・・?」

愛しい人の姿を探して雨乾堂の外にでると、欄干ごしに浮竹が鯉に餌をやっていた。

「起きたか、京楽」

浮竹は、どこかさっぱりしていた。

「まさか、もう記憶が?」

昨日のことを思い出して、浮竹は鯉にさらに餌をまき散らした。

「その・・・いや、それより俺の記憶がないのをいいことに、散々痕をつけやがって」

真っ白な浮竹の白い肌には、京楽が刻んだ情欲の証がいくつも刻まれていた。

「雨乾堂から、しばらく出れない。責任とれよ」

「浮竹ぇ!」

甘ったるくしたのが成功だったのか、それとも術が解けたのか。

ともかく、浮竹は元に戻っていた。

そんな浮竹に思い切り抱き着いた。

浮竹は、京楽の体重を支え切れずに、雨乾堂の板張りの廊下の上に倒れこむ。

「重いぞ京楽。どけ」

「ごめんごめん」

京楽は、浮竹の手を取って起き上がらせた。

「お前を庇うと、ろくなことにならないな」

「浮竹!今後、あんな無茶はしないでよ!」

「分かっている」

鯉に餌をやり終わった浮竹を抱き上げる。昨日、体の全体のラインを確かめたが、昏睡状態が長かったせでい、浮竹は悲しいほどに体重を落としていた。ただでさえ、細いのにさらに細くなってしまっていた。

「肉をつけるには、やっぱり肉を食うに限るね。今日は焼肉だ」

四番隊の隊舎にいた時は、病院食のような質素なものしか出なかった。

「快気祝いをかねて、ぱーっと派手にやろうよ」

一緒に戦った、更木や日番谷も呼んで酒を飲もうという京楽の提案に、浮竹は同意した。ただ、日番谷を飲みに誘うというのには、少し逡巡する。

「だが、日番谷隊長を飲みに誘っていいのか?あの子はまだ子供だろう」

「なあに、死神だし年齢は関係ないよ。現世じゃあるまいし。そんな法律も条令もない」

「日番谷隊長には、オレンジジュースでいいだろう。その方がいい気がする」




「はっくっしょん」

「あれー?隊長、風邪ですか?」

「違う。誰かが噂してやがるんだ。13番隊か8番隊あたりの、誰かが」

もう一度くしゃみをして、日番谷はまとめていた書類にハンコを押した。

伝令の蝶が飛んできた。松本は、それを手に止まらせて内容を受け取ると、目を輝かせた。

「隊長、浮竹隊長が記憶を完全に取り戻したらしいですよ!快気祝いに、11番隊と8番隊と10番隊と13番隊で、ぱーっと飲んで肉食べるそうで、京楽隊長のおごりですって!」

今から楽しみだと、松本は浮かれていた。

京楽隊長がおごってくれる店は、馴染みの店の時もあるが、時折高級な店の時がある。集まる店が高級店であると知って、松本は今から何を飲んで食べようかと悩んでいた。

「肉か・・・・・たまには、いいかもな」

がっつり、肉を食うことなどあまりない。



「のめのめ~」

京楽が、松本の杯に酒を注いでいく

「この酒おいしーい!ひっく・・・・・流石京楽隊長が選んだお酒だけ、ありますね。ひっく・・・」

松本は酒豪ではない。京楽が勧めるままに、杯を呷ってすでにべろんべろんに酔っていた。

「浮竹隊長も、のみなさ~い。ひっく」

浮竹は、いつもの果実酒を飲んでいた。そこに、松本が日本酒を注ぎ込む。

「松本副隊長、ちょっと飲み過ぎじゃないか?」

「なに、まだまだいけるわよぉ?ひっく」

「ふん、酒はいいが肉が足りねぇ」

いつもは一緒に飲むことなどない更木は、肉料理ばかり手をつけていた。

「うっきー、記憶もどってよかったね!」

「ああ、草鹿副隊長、ありがとう」

やちるは、更木の肩のうえで肉を食べながら、ぶどうジュースを飲んでいた。

日番谷は、離れたところで肉を食べながら、オレンジジュースを飲んでいる。

席官以上の人間が集まっていたが、四隊にもなると、けっこうな大人数になった。

「京楽、金はたりるのか?」

「なーに、心配しなさんさ。この前、一件別館を売りとばしたから、金には余裕ありまくりだよ。まぁ、売りとばさなくても金は腐るほどあるけどね」

上流貴族の出身である京楽は、金持ちだ。その金銭目当てで、寄ってくる女性も多い。見た目も悪くないし、女性には優しいし、上流貴族ということもあって、女性死神によくもてた。

下級貴族であるが、誰にでも平等に優しく、身目麗しい浮竹は、女性だけでなく男性死神にももてた。

「浮竹隊長、傷が癒えてよかったっす!俺の愛をうけとってください!」

酒にべろんべろんによっぱらった、11番隊の席官が、浮竹の手をとって指輪をはめようとしてくる。

「君、そこまでだよ」

殺気を漲らした京楽が、名も知らぬ席官の首に斬魄刀を当てていた。

「ひいっ」

男死神は、逃げていった。

「浮竹ぇ。僕の傍にいなさい」

「え、ああ・・・・」

肉より野菜を多めにとりながら、浮竹は果実酒を呷った。

「浮竹、せっかく高級店を選んだんだから、もっと肉食べなさい」

「ああ・・・・・」

肉を食べるが、その量は他の人に比べて少ない。

「そんなんだから、細いままなんだよ、君は。もっと食べて肉つけなきゃ」

「いや、俺はあんまり肉がつきにくい体質だから。食べても食べても、あんまり太らないし・・・・」

「何それぇ。すごく羨ましいですよ、浮竹隊長。ひっく」

松本が、酒の勢いもあって絡んできた。

「肉がだめなら、飲みなさい!もっとのめのめ~ひっく」

半ば、無礼講なだけあって、みんなわいわいと騒いでいた。

「松本ぉ!恥をかかせるな。酒はそれぐらいにしろ!」

「なんですか、隊長!隊長も、さけのみなさーい」

松本は、その豊満すぎる神々の谷間を、日番谷におしつけて、日番谷に無理やり日本酒を飲ませた。

「うっ、なんだこれ。喉が焼ける・・・・・・・・・」

始めて知る酒の味に、あまりうまそうな顔をしない日番谷。

きっと、大人になっても酒好きにはなりそうもない。

「うっきーの、回復を祝って、みんなで乾杯しよー」

やちるが、ぶどうジュースの入ったコップを手に、更木の肩の上で、乾杯と叫んだ。

「「「「乾杯!」」」」

たくさんの人が、浮竹の回復を祝った。

浮竹も、勧められるままに酒を呷って、そして酔いつぶれた。

「あーあ。寝ちゃった」

浮竹は、酔いつぶれると寝てしまう。そんな浮竹を抱き上げて、京楽は笠を深く被り直すと、残った面子に言い放つ。

「勘定は済ませといたから。0時まで、飲み放題食べ放題だ。まぁ、後はみんなの好きにすればいいよ」

瞬歩で、浮竹を雨乾堂に送り届けると、清音が布団をしいてくれたので、そこに浮竹をそっと寝かす。

「あれぇ?」

浮竹は、知らない間に京楽の、少し伸びた黒髪を掴んでいた。手を離させようにも、しっかりつかんで離さない。

「僕に、帰ってほしくないんだね」

京楽は苦笑して、浮竹の隣に横になる。酒をしこたま飲んだせいで、睡魔はすぐにやってきた。

すーすーと、静かに寝息を立てる自分の隊長の、安心しきった表情を見て、清音も自然と笑みが零れた。

「おかえりなさい、浮竹隊長。それからありがとうございます、京楽隊長」

かつては、こんな二人の面倒をみるのは海燕の役割だった。彼が死んで、もう何十年も経過していた。

浮竹は、まだ副官を置かない。

海燕の死が、浮竹の心に穴をあけているのを、清音も仙太郎も、そして京楽も知っていた。


今日は、満月だった。

眠り込む二人を包み込むように、窓から月光が入ってくる。



比翼の鳥は、寄り添いあいながら、しばしの休息をとる。

比翼の鳥は、片方は優しすぎて、片方は儚いが強さをもっていた。

比翼の鳥は、まどろみ、眠りへとついた。


闇空に、月が浮かぶ。

太陽のようにではないが、優しくそして平等に、その光は降り注ぐのであった。


















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日常

学校の帰り道。

一護は、ルキアとゲーセンに寄った。

夏休みも終わり、秋がこようとしていた。まだうだる暑さを含んだ大気は、当分残暑が続きそうだった。

「一護、これはなんだ?」

「あー?プリクラだ。写真とるようなもんだ」

「ほうほう。一度、とってみたいぞ。貴様とでいい」

「なんだその言い方」

カチンときたが、一護はルキアと一緒にプリクラをとった。

「おお、すごいな。文字も入れれるのか。ただ、値段が少し高いな。まぁ、兄様からたくさん小遣いをいただいているので、どうでもよいが」

「お前、一体いくら白哉からもらってるんだよ」

「ふふふふ、秘密だ」

少なくとも、10万以上はあるなと、一護は思った。

ブランドものの衣服を、時折買ってくることがある。ティーンズファッションのモデルにならないかと、芸能人スカウトされたことのあるルキアは、男のようなさばさばした性格と口調のわりには、高貴な身分だけあって、どこか気品があった。

「しっかし、白哉も変わったもんだなぁ」

「そうだな。兄様は、だいぶ変わられた」

義妹を素直に愛せなかった分を、取り戻すかのように、甘やかしている。

女性死神協会のメンバーと海に行った時など、わかめ大使とかいうわけのわからない砂細工を作っていた。となりででこぼこのチャッピーを作っているルキアと、まさに似た者義兄妹。

「一護、あれはなんだ」

「ああ?クレープ屋だよ」

「ふむ。金をやるから買って来い」

「なんで俺が買うんだよ。食いたいのはルキアだろうが。自分で行け」

「たわけ!愛しい彼女のために、働くのが現世の男子というものだろう」

「別に愛しくなんかないぞ」

「今までの私との関係は、遊びだったのか!」

「いや、俺らただの死神仲間だろうが」

別に、付き合っているというわけではない。交際するなら、まずは白哉の許しがいるだろう。

「泣くぞ!」

「わーったよ。買ってくればいいんだろ!」

ハンカチを目に添えられて、ぶつぶつと文句をいいながらも、一護は自分の分も含めて2つクレープを買った。

「うむ。美味いな。食べないなら、貴様の分もよこせ!」

「意地汚いやつだな!今から食べるんだよ、俺は!」

ルキアにとられる前に、一護はクレープを食べてしまった。

「むう。もう1つ買って来い」

「だから、自分で行けよ・・・・・・」

一万札を渡されて、一護はため息を零した。

あー。なんだこの生き物。かわいいけど、我儘で傲慢不遜だ。

そんなルキアに慣れてしまったのか、一護は素直にクレープを買いにいった。おつりをもらうのに少し時間がかかった。

「たわけ、遅いぞ!」

「ほんの数分も待てないのかよ」

「よこせっ!」

一護の手からクレープを奪いとるルキア。

「さっきと違う味がする。こっちのほうがうまいな」

「どれ」

食べかけのルキアのクレープを、一護は少しだけ食べた。

それに、ルキアは真っ赤になった。

「貴様!このたわけ者!」

まるで、彼氏彼女のようではないか・・・・・・・その言葉を飲み込んで、ルキアは歩き出す。

「現世は、やはりいいな」

「そうか?」

いつまで、現世にいられるの分からない。藍染との戦いが、一段落したら、ルキアはまた尸魂界に帰るのだろう。

「現世に、ずっと一緒にいられたらいいのに・・・・・・」

ルキアの声は、小さすぎて一護には届かなかった。




今は、穏やか日々を享受しよう。

決戦の時は、近づいていた。

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比翼の鳥Ⅳ

「ああ、また散らかして・・・・・・・」

海燕は、雨乾堂でばらばらになった書類を、片付けていく。

ハンコはもう押されてあった。

後は、次の隊に回すだけの書類だ。

「またこんな場所で・・・・・」

浮竹と、京楽が寝ていた。

畳に敷いた布団の上で、京楽は、浮竹を抱きしめていた。京楽の腕の中で、浮竹はすーすーと眠っている。二人とも、よく眠っているようだ。

いくら京楽の手の中だからといっても、あまりにも無防備だ。

「隊長・・・・」

海燕は、浮竹のやや薄い桃色の唇に指で触れる。

起こすまいと、優しく。

「んー・・・・・・」

京楽が、身じろぎした。

自分の今しでかしたことに気づかれたのかと、ぎくりとなった。

浮竹は、変わらずスースーと眠りに入っている。京楽のほうが、眠りは浅いようだった。

真っ白な長い髪が、布団の上で乱れている。

その髪に、そっと触ってみると、サラサラと指の間から零れ落ちた。

「ん・・・京楽の、あほ・・・・」

眠っていた浮竹が、少しだけ動いた。

また、気づかれたのかと、ぎくりとなる。

自分には、都という名の妻がいる。浮竹と出会う前から、結婚していた。もし、妻帯していなかったら。もし、浮竹に京楽がいなかったら・・・。

敬愛する上官に抱いてしまった劣情に、海燕は首を振って想いを抑え込んだ。

「二人とも、風邪ひきますよ」

かけ布団を二人にかぶせて、拾い上げた書類を手に、海燕は雨乾堂を後にした。



「・・・・・・・・・」

ゆっくりと、京楽が目を開ける。

残っていた霊圧に、眉をしかめる。

愛しい浮竹の霊圧に触れるように、少しだけ霊圧の名残があった。

それは、浮竹が京楽の他に最も信頼しているはずの、副官のものだった。

確か、名前は志波海燕。妻帯者で、浮竹の世話をよくやいてくれる、京楽も頼りにしている相手だった。

「ちょっと、まずいんじゃないの・・・・・・」

もしも、浮竹を取られでもしたら、嫉妬で身が滅びそうだ。

「君は、僕だけのものだからね」

腕の中で眠る、白い髪の麗人を抱きしめる腕に、力を籠めると、僅かに翡翠色の瞳が開いた。

「ん・・・きょうら・・・く?」

交わったわけではない。だが、ぐずぐずになるように、甘く甘く、耳元で囁くように浮竹に接した。
何度も口づけして、体のラインを確かめた。

「まだ、眠い・・・・・・」

浮竹は、京楽のもじゃもじゃの胸毛のはえた胸筋に、頭をこすりつける。

浮竹の白い髪や体からは、甘い花の香りがした。

いつもそうだ。

香水も使っていないのに、甘い香りがする。花のような香りだ。

さらさらと零れ落ちていく、白い長い髪を、手に取る。

「誰にも、渡さない・・・・・・・」

やや乱暴に、口づける。

「んー・・・・・・きょうら・・く・・・・」

「どうしたんだい、十四郎」

下の名前で呼ぶと、ぴくりと浮竹の体が反応した。

「春水・・・・・・」

触れ合うだけのキスをする。

「浮竹は、甘いねぇ」

とろけるようなキスも、触れるようなキスも、甘くて甘くて。

まるで、果実のようだ。

「春水・・・・・・・愛してる・・・・・・」

「僕もだよ、十四郎」

その甘さを貪るように、覆いかぶさって、深く口づけた。

「誰にも、渡さない」

もしも、浮竹に自分以外の愛しい人ができたら、きっと相手を殺してしまう。

狂気じみた愛だ。



比翼の鳥の片割れは、貪欲だった。欲しいだけ貪る。
もう片方の比翼の鳥は、貪られて啼くことを覚えた。


優しく甘い時間は、あっという間に過ぎていく。


比翼の鳥は、お互いを抱きしめあいながら、熱を孕んで飛び立っていく。


休息を何度も取りながら。


ただ、真っ白な世界へと。



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