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桃が食べたい

「桃が食べたい」

唐突だった。

「みかんの缶詰も食べたい。いや、でも桃のほうが食べたい気がする。桃の缶詰は味が変わってしまっているからいまいちだ」

げほごほ、ごほ。

布団から半身を起こしていた浮竹は、咳をした。

「ほらほら、横になって。まだ熱高いんだし、無理しないで」

「桃が食べたい」

「分かった分かった。買ってきてあげるから、大人しくしてるんだよ」

しきりに、桃が食べたいと訴える浮竹を寝かしつけて、京楽は雨乾堂の外に出た。夏が、はじまろうとしていた。

太陽の光はじわじわと体力を奪っていく。こんな季節は、海にいきたいが、今の浮竹を海に行こうと誘う気にもならなかった。

夏風邪をひいてしまったらしい。こじらせて、かなり長引いていた。

尸魂界の市場で、値段のはる高級な桃を数個買い込んだ京楽は、市に並んでいた髪盛りに視線を移した。

「へぇ、翡翠細工か」

本物の翡翠があしらわれた髪飾りを手に取ると、値段をみる。隊長の1か月分の給料の数倍はした。繊細な細工のそれを、気に入ったとばかりに購入した。

京楽は、上流貴族だ。お金は、腐るほどにある。次男だが、生前分与でかなりの額を両親からもたされており、銀行に預けっぱなしだった。

浮竹のために使う金は、けっこうな額になった。飲食代だけでも相当なものだ。

「浮竹に似合うだろうねぇ」

翡翠細工の髪飾りをあげても、女の子じゃないからと、浮竹があまりつけたりしないのを分かっていても、買ってしまう。

ただ、一時でもいいから身につけさせれば、それで満足だった。

浮竹は、贅沢を好まない。どちらかというと、質素なものを好む。

髪飾りだの、宝石だの、そういうものを好まない。衣服も、高いものは受け取ってくれないことが多い。

唯一、酒は高いものをプレゼントしても喜んでくれた。




「ただいまー」

雨乾堂は、もはや我が家に近かった。毎日のように浮竹に会いに来る京楽を止める者は伊勢七緒くらいだ。

二人ができていることを知ってはいるが、頻繁すぎると怒られた。

気にしない、気にしない。

七緒の怒った顔もかわいいけれど、恋人の浮竹の儚い美しさにはかなうものはいないと思う。

「桃、買ってきたよ。むいてあげるから」

「んー?」

布団からのそのそと顔をのぞかせて、浮竹は氷で冷やした冷たい水を飲んで、京楽のほうを向いた。

「西瓜が食べたい」

「おいおいおいおい。桃が、食べたかったんだろう?」

「西瓜がいい」

「そりゃないよ。高い美味しそうなの、買ってきたのに」

「じゃ、それでもいい」

猫のように伸びをして、まだ少し高い熱に瞳を潤ませて、こちらを見てくる浮竹に、京楽は買ったばかりの髪飾りを、その白い長く伸びた髪にさした。

「ん?」

「髪飾りだよ」

「俺は、女じゃないぞ。そんなものもらっても、嬉しくない」

「分かってるよ。今、つけてくれてるだけでいいから」

「・・・・・うん」

簪や、髪飾りを京楽は好んだ。京楽は自分の髪にも、女ものの値段のはる簪をしている。

髪飾りを、浮竹は手にとってみてみた。

「これ、翡翠じゃないのか」

「いいや。ただのガラス玉さ」

「そうか」

多分、本物であると気づいているだろう。高い髪飾りや簪は、もうたくさんある。全部、京楽が浮竹の髪にと、買ったものだった。

今浮竹がもっている、京楽から贈られた髪飾りや簪を全部売り払えば、屋敷が建てれるくらいの値段にはなるだろう。

高価なそんなものより、京楽が昔編んでくれた花冠のようなものが好きだった。

手作りの置物や、現世から部下に購入させた安価なキーホルダーのようなものを好んだ。

甘味ものを特に好む浮竹には、プレゼントはスイーツ系のものも多い。

食べ物と酒なら、少々値がはっても喜んでくれる。

「ほら、桃がむけたよ」

無言で、じっと見上げてくる。

まだ、熱は完全に下がっていない。

「はいはい。口開けて」

皮をむいて、適当な形にカットされた桃を口元にもっていくと、浮竹はぱくりとそれを食べた。

甘えん坊なのは、熱が高い証拠だ。

「甘い」

「甘いだろうね」

ぺろりと、唇をなめる浮竹の唇に触れる。

少しだけついた桃の雫を味わって、京楽は浮竹に桃を食べさせていく。

甘ったるい匂いが、むしろ心地よい。


お互い、護廷13番隊の隊長であることを忘れて時を過ごす。

「早く、治るといいね。元気になって、8月になったら海にいこうか」

「海か・・・・・・西瓜が食べたい」

「西瓜、好きだねぇ。桃の方が甘くておいしいんじゃないの?」

「西瓜もすきだ。塩をかけると甘味がます」

去年は、女性死神協会主催の海の旅行についていった浮竹だが、暑さにやられて倒れて、お墓のようなもの作られて、山本総隊長からの金一封をてにいれたらしいが、その時は忙しくて京楽は一緒に行けなかった。

「桃、もっと食べたい」

「はいはい。甘えん坊だねぇ、浮竹は」

京楽のいうままに、伸ばした白い髪が、畳の上で乱れている。

「後で、体ふいてあげるよ。今日は熱が高いから、お風呂はだめだよ」

浮竹はけっこう綺麗好きだ。熱があっても、風呂に入る時が多いが、湯冷めし具合を悪くすることなど日常茶飯事だった。

「むー」

「そんな顔したってだめなものはだめ」

ついばむような口づけを交わした。

桃の、甘ったるい味に、京楽は苦笑する。

「浮竹は、甘いね」

「甘味ものか、俺は・・・・・・・・」

「髪、ほつれてる。すいてあげるよ」

20年ほど前に、買ってあげた螺鈿細工の櫛を渡される。贈り物は、大事には、してくれているようだ。

白く長くなった髪をすいていると、きもちいいのか浮竹はすり寄ってきた。

「浮竹ぇ、僕を煽ってるの?病人なんだから、その気にさせないでよ」

浮竹は、キスが好きだ。触れるだけのやつも、深い口づけも。

額に口づけて、京楽は浮竹の髪をすいていく。



もうすぐ、夏も本格的になる。

それまでには、こじらせた夏風邪も治っているだろう。

8月になったら、海にいこう。

みんなを連れていくのもいいかもしれない。楽しく、西瓜割でもしよう。


京楽は、窓の外の太陽を見上げた。











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会いにいく

ダン!

床を蹴る足は、軽やかだ。

木刀を京楽に向かって振りおろす。

ぶんっ!と風を切る音が聞こえ、京楽は浮竹のもった木刀を間一髪よけると、居合の要領で浮竹の胴を狙った。

浮竹の体が、軽く飛び上がる。

竹刀は空を切った。

翡翠色の相貌が、楽しそうに輝いていた。

ダン!

床を蹴ると、衝撃で穴があいた。浮竹の真正面からの攻撃に、竹刀を盾代わりにして受け止める。

本当に、軽い体重に細い体をしているというのに、どこにそんな力があるのだろう。

受け止めた竹刀を握る右手が、力に押し負けて、ぐっと下がる。左手を添えて力を出すが、このままでは力に押し負ける。一度離れて距離をとると、浮竹の鋭い一撃がやってくる。

カンカンカキン。

何度も木刀で切り結びあう。

もし、刃のある刀だったら、きっと京楽は出血で倒れていただろう。

「右ががらあきだぞ、京楽!」

左側ばかり責められて、竹刀を受けるのも左側ばかりで、右側にまで気が回らなかった。

カーン。

高い音をたてて、京楽の手から竹刀が浮竹の竹刀にからめとられ、宙を舞って床に転がった。

ニッと、浮竹が笑んだ。とどめとばかりに、首元に竹刀が。

「そこまで!」

山本総隊長の声を無視して、京楽は落ちた竹刀を握りしめると、浮竹に振り下ろした。

浮竹は、真正面から受けずに、右足で浮竹の竹刀を蹴り上げた。

「足癖、悪いなぁ」

竹刀で一騎打ちをしている間に、何度か蹴りが襲ってきた。実戦なら、その蹴りの一撃で片がつくだろう勢いの、蹴りだ。

「そこまで!これ、十四郎、春水、言うことをきかぬか!」

「山じい、やられっぱなしは性に合わないんだよ。あともうちょっと」

竹刀を、2つもつ。

尸魂界に、2つしかない二対一刀の斬魄刀をもつ二人は、両利きだった。

院生の卒業まであと3か月。

すでに、京楽と浮竹は護廷十三隊入りが確定している。院生でいる時代に斬魄刀を扱える者など、今までの学院の歴史にはなかった。

山本総隊長の指導の元、剣術の稽古に励んでいのだが、浮竹が京楽と一騎打ちをしたいといいだして、今に至る。

「そおら、どうする!?」

右、左、左、右下、上、左下、頭。

「京楽、あまいぞ!」

次々と、竹刀を打ち下ろしていく京楽を、浮竹はまるで舞を舞うような軽やかさで避けている。だが、浮竹の長くなった白髪が、宙を舞った。髪を束ねていた髪ゴムが、衝撃に耐えきれずにちぎれたのだ。
繰り出される、京楽の突きを、間一髪でかわすが、空気が渦を巻いて浮竹の頬をかすめた。

白い肌が裂け、血が流れだす。

「おっと。大丈夫かい、浮竹」

「たわけっ!そこまでじゃ!」

山本総隊長の大声が、道場中に響き渡った。

竹刀だというのに、剣圧だけで空気を切り、かまいたちを起こす京楽の腕に、浮竹は舌打ちした。

いつもののほほんとした浮竹ではない。
命のやり取りをするときの、浮竹の姿がそこにあった。

優しいのに、冷酷で、血の色を好むように自分自身を朱に染め上げる。

率先して、前をいく武闘派ではないが、一度敵と認識すると、容赦はしない。

「これくらい、大丈夫だ」

頬の傷を手で拭うと、思ったより出血が多く、血が止まらなかった。

「あーあー。綺麗な顔に傷つけちゃった。傷跡、残らなきゃいいんだけど」

本気で心配してくる京楽が、山本総隊長を無視して真新しい手ぬぐいを、浮竹の傷にあてた。

「全く、十四郎も春水も、手がかかるのお」

道場は、二人が暴れたため、壁はぶち壊れていたり、床に穴があいていたりと、散々な様子だった。竹刀での一騎打ちだけで、ここまでできるのは、なかなかにいない。しかも、二人の霊圧は、護廷十三隊でも、隊長クラスに匹敵した。

「医務室いこう。念のため、ちゃんと手当してもらったほうがいいよ」

「こら十四郎、春水!話はまだ終わっとらんぞ!」

「山じいまた今度ね」

「元柳斎先生、ありがとうございました」

浮竹は、ぺこりとおじぎするが、京楽は手をひらひらとさせるだけだ。

山本総隊長を残して、京楽は浮竹の手を握ると、医務室まで歩いていく。その長いようで短い時間が、心地よかった。

浮竹は、かなり久しぶりに本気で暴れた。その相手が務まるのは、同級生でも京楽くらいのものだろう。

京楽も浮竹も、汗をかいている。お互い、本気をだして一騎打ちをしていた。流派とかあったものではなかったが。

二人とも、山本総隊長から剣を学んでいるが、それに我流を加えている。

「すみませーん。けが人だよー」

がらりと、医務室の戸をあけると中には誰もいなかった。

京楽は、消毒用のアルコールを綿にひたして、浮竹の頬の傷を消毒した。

「しみる。いたい」

「ごめんよ。まさか、剣圧で切れるとは思ってなかった」

「手を抜かずに相手してくれた証拠だから、別にいい」

傷跡が残っても、男の勲章としようと思う浮竹とは別に、京楽は綺麗な顔に傷跡が残ったらどうしようと本気で考え込んでいた。

手際よくガーゼを切って、傷口に宛がう。そのままテープで固定して、手当は終わった。1週間もすれば、傷跡も大分薄れるだろう。

「本当に・・・・ごめんね」

「だから、別にいいといっている」

思い切り抱きしめられて、浮竹はため息をついて、京楽の体に身を委ねた。

「君の血の色は、あまり見たくない」

吐血して、頽(くずお)れる瞬間をよく目の当たりにしているので、浮竹の真紅は命の色そのものだった。京楽にとっては。

「傷跡残ったら、責任とってお嫁さんにもらってあげるよ」

二人ははじめ、ただの親友同士だった。だが、京楽は浮竹に恋をしてしまった。ずっと秘めていた想いに気づかれたのは、2回生になった頃。そして、2回生の夏あたりから京楽の想いは通じて、二人は恋人同士になった。

「お前は次男だろう。長男の俺が、嫁にもらってやるよ」

「こんなもじゃもじゃの毛深いお嫁さんでいいのかい」

「脱毛エステを受けさせる」

クスクスと、他愛ない冗談で笑いあった。

コツンと、額をぶつけ合う。身長差は、ほとんどなくなった。初めの頃は、京楽のほうが身長が大分高かったが、今では数センチくらいしかかわらない。

ただ、病をもっている浮竹はどんなに鍛錬しても、京楽のような男らしい筋肉がつくことができなかった。吐血したり、熱をだしては寝込み、食事もとらないような日々がある。

今は小健康状態を保っているが、いつ熱を出して倒れてもおかしくなかった。

「教室に戻ろう」

浮竹の手を、京楽が握った。

「君の、殺気、凄かった。ぞくぞくしちゃったよ」

「そういうお前の殺気も、相当なものだったぞ」

触れるだけのキスをされて、浮竹は目を伏せた。長い睫毛が、影を落とす。

「卒業したら、今までのように毎日一緒にいられなくなるな」

「そうだね。どの隊に入っても、会いに行くから」

「ああ。俺も、会いにいく」

卒業まであと3か月。院生として学院にいる時間もあとわずかだ。

卒業と同時に、死神になり、護廷13隊の席官の地位が用意されてある。

そのうち、訓練であったように、虚退治で命をかける日々が訪れるだろう。穏やかだけれど、危険と隣り合わせの日々が始まるのだ。

「会いに、いく。必ず」

「僕もだよ」

卒業と同時に、京楽は8番隊の、浮竹は13番隊の席官になった。その後、数年足らずで、若くして隊長の座を任されるようになるのは、まだ少し遠い未来のお話。


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比翼の鳥Ⅱ

「好きだよ。愛している」

そう言われて、2年が過ぎた。

浮竹の髪は、京楽が伸ばせといったまま、もう肩の位置まで伸びてしまった。

ぬるま湯のような関係は、破局の冷水にならずに、想いの通じ会う熱湯になった。

京楽の想いを受け入れて、熱湯になった。

浮竹は、かくも儚く、白い髪に、白い肌、翡翠の瞳に、鍛錬をつんであるわりにはあまり筋肉がついていなかった。
そんな浮竹を、京楽は美しいと思った。

秀麗な容姿のせいで、浮竹は女にもてた。女好きの京楽ほどではないが、もてた。

京楽の想いを知っているのか知っていないのか、今はそんなことを考えれないからと、告白してきた女生徒を振ったのは、半年前のこと。

この前も告白されたが、好きな人がいると、はっきりと断った。

浮竹は、かくも儚い。

真っ白になった髪は、肺の病のせいだ。

今でも、血を吐いて倒れる。

そのたびに、京楽の世話になった。

そんな京楽の想いに、気づいたのは院生になって2年目の夏だった。

今までにない、大きな吐血をして、生死の境を彷徨った。京楽は泊まりこみで浮竹の面倒をみて、命が儚くなっていく浮竹に、憔悴しきった表情で、戻って来いと囁いた。

京楽の想いが通じたのか、浮竹は一命を取り留めた。山本元柳斎重國が、死神の救護施設である4番隊の隊長を呼んでくれたお陰だった。

山じいも、たまにはいいことするね。

京楽は、そう山本元柳斎重國に礼をして、浮竹の元に戻った。

悲しいほどに、体重が落ちて痩せてしまった。

数週間も寝込み、意識を取り戻した浮竹は、自分が生きているのが不思議なくらいだと思った。

点滴の管をつながれた腕は、自分が覚えている腕より細くなっていた。

「愛してるよ、浮竹」

憔悴しきった京楽の言葉に、浮竹は自然と答えていた。

「俺も、愛して・・・る・・・・・・」

「本当に?」

京楽の瞳が、一気に輝きを戻した。憔悴しきっていた表情は、歓喜で笑みが刻まれていた。

「その言葉、信じてもいいんだね?」

「ああ・・・・・・・」

まだ弱弱しい浮竹を気遣い、京楽はその手を握るのが精いっぱいだった。



それから、半月が経った。

病は大分いえ、学業にも復帰した。遅れを取り戻そうと躍起な浮竹の傍に、京楽は常に傍にいた。

比翼の鳥は、愛を覚えた。

意識を取り戻して、元気になって半月。

はじめての、意識がある浮竹とのキスは、甘すぎた。

「も、やぁっ」

何度も、深く口づけられた。いやになるほどに。

「まだ、先があるんだよ?今日はここで我慢するけど」

潤んだ翡翠の瞳に浮かんだ涙を吸い取って、京楽は悲愴的になりそうなほど痩せていた浮竹の、少し肉がついてきた体をかき抱いた。

自分の想いをぶつけるには、まだ浮竹はうぶすぎる。

少しずつ、教えていけばいい。どれだけ、狂おしいほどに、京楽が浮竹を愛しているのかを。



「本当に、いいのかい?」

「ん・・・・」

大分肉がついて・・・・・それでもまだ細かったが、病的にやせていた頃に比べれば随分とましになった。

「僕は、君が愛しくて愛しくて、でも壊してしまうかもしれないよ?」

「大丈夫、だから・・・」

もう、覚悟は決めていた。

京楽の愛に答えたことで、肉体関係を持つことは避けれないものだと。お互い、まだ若すぎる。京楽は、女を買うことをやめ、浮竹だけを愛するようになった。浮竹だけを求めていた。

浮竹は、京楽に我慢をずっと強いていた。少しずつ、大人の関係を覚えていった。

7月の京楽の誕生日に、浮竹はプレゼントを用意しなかった。

ただ、代わりに、俺の全てをやると言われて、京楽は天を仰いだ。ようやく、浮竹の全てを手に入れられるのだ。

2年と半年かかった。

「嫌がっても、やめてあげない」

比翼の鳥たちは、欲望を覚えた。


「あっ、やっ・・・・」

薄い胸の先端を何度もつまみあげられ、かじられる。輪郭全部を愛部する手が、白い頬にあてられた。

「愛してるよ、浮竹」

浮竹は、こくりとうなずいて、体から力を抜いた。

「痛いかい?」

「んっ・・・・大丈夫・・・」

潤滑油で濡らされた指が、意思をもって浮竹の内部をせめる。蕾に三本も指をくわえて、浮竹は翻弄される熱の行き場を求めて、京楽の背に爪をたてた。

「あっ・・・・・・・・」

前立腺を刺激されて、浮竹は唇をかんだ。血がにじむ。

「だめだよ浮竹。ちゃんと、声聞かせて?」

血の出た唇を舐められ、深く口づけされる。浮竹は、京楽のキスが好きだった。何度もせがむ。

「あっ」

挿入された瞬間、衝撃で意識が飛びそうになった。性急ではなく、緩慢な、浮竹の体を気遣った行為であったが、それでも浮竹の負担は大きかった。

何せ、がたいのいい京楽のことだ。それをくわえこむ浮竹の内部を侵す熱は、相当のものだ。

「んっ・・・・・動いて、いいぞ」

時間をかけて、質量に慣らしていると、浮竹の了承がおりた。

「あ、あ!」

前立腺を突き上げてくる、少し乱暴な動きに、浮竹は涙を浮かべた。

「ごめん、もっと優しくするね」

きついのは京楽も同じだ。吸い付いてくる浮竹の内部を思いっきり犯して、熱を放ってやりたいが、初めてなのだ。優しく、優しくしてやるべきだ。

緩慢な動作で、挿入と抜くことを繰り返されて、浮竹は後ろで快楽を覚えられるのだと初めて知った。

「十四郎!」

何度も前立腺をこすりあげられて、浮竹のほうが最初に熱を放った。

真っ白になっていく世界。

それから、最奥を貫かれて、意識が飛びそうになる。

「愛してる・・・・・・・」:

じんわりと、腹の奥で放たれた熱を感じて、浮竹は瞼を閉じた。

瞼をあけると、京楽と視線があった。

お互い、少し恥ずかしそうに。

「春水・・・・・・・・もう、俺のものだ」

京楽は、浮竹の全てを手に入れたと思っていた。だが、それは浮竹も同じだった。



「あっ、あっ、もうやぁっ」

足首を捕まえられて、逃げることもできない。もう何度犯されたのか、覚えていない。最初は優しかったが、京楽が壊してしまうという台詞通りになっている状況。

結合部が、お互いの体液でぐちゃぐちゃだ。

浮竹の花茎を手でしごき、無理やり性を放たせると、浮竹が軽い悲鳴をあげた。

「春水っ!」

「十四郎。もう僕のものだ。絶対、誰にも渡さないよ」

欲望のこもった熱い瞳に射抜かれる。

浮竹の翡翠の瞳は、涙を浮かべて与えられる快楽という行為を受け止めていた。

「あっ。あーーーーーーーーー・・・・・・」

もう、性を放てない。でも、頭は真っ白になっている。初めてのオーガズムを経験して、浮竹の足が痙攣した。

「十四郎・・・・」

最後の熱を、浮竹の最奥にたたきつけて、京楽も果てた。もう、これ以上は交われない。

「気持ちよかった?」

逡巡気味にきくと、こくりと浮竹は頷いた。

手練手管で、浮竹を落とした。

もう、俺だけのものだ。

比翼の鳥は、交じりあうことを覚えた。

欲望を、お互いにぶつけあうことを覚えた。

もう、ただの比翼の鳥ではない。

「キス、して・・・・・」

浮竹の甘い声に、京楽は答る。浮竹はキスが好きだ。

舌をからめあう。



「痛いとこ、ない?」

「んー。腰が重い」

二人で、寮の個室備え付けの、狭い浴槽に入っていた。京楽の放った体液をかき出されて、その感覚にまたドライでいきそうになったが、浮竹はかろうじで我慢した。

体を洗われて、髪も洗われた。熱いシャワーを浴びて、お互いに身を清めた。

「また、今度も抱いていいかい?」

京楽も浮竹も若い。欲望は、すぐに出るだろう。

「もう少し、回数を制限するなら。月に2回くらいまでなら、OKだ」

「んーそう言わずに。1週間に1回にしようよ」

「無理!」

「そう言わずに」



比翼の鳥は、飛び立つことを覚え、お互いを支えながら愛を語る。

比翼の鳥は、愛を囁きながら、翼を羽ばたかす。

そして、数百年の時を刻むのだ。





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ぬるま湯

「髪、綺麗だねぇ。肌も白いし。翡翠色の瞳も素敵だ。でも、ちゃんと食ってるかい?細いよ」

学院に入ったころの、京楽はよく浮竹をにそんな言葉を囁いた。

「ちゃんと食べてるぞ。寝込むことはあるし、食欲がない時もあるが、なるべく食べるようにはしている」

もう、京楽に綺麗だとかかわいいとか、そういうことを言われ慣れた。

「ほら、また京楽が浮竹口説いてる」

クスクスと、他の院生が笑っていた。

勉強のよくできる、座学も鬼道も剣の腕もTOPの浮竹。下級貴族ではあるが、貴族という身分をもつ。

一方の京楽は、四大貴族ほどではないが、名も有名な上級貴族。もしも女として生まれてきていたら、姫君として育てられて、学院にはこなかっただろう。霊圧が半端なく、次男ということもあって護廷13隊に入る死神になるためにと、学院に半ば無理やりいれられた。

座学は中の上。だが、鬼道と剣術は、浮竹に勝るとも劣らない。

よく授業をさぼる京楽を、先生の代わりに叱って連れ戻すのは、浮竹の役目になっていた。

今日の朝も、さぼろうとしている京楽を、教室に連れ戻した。

浮竹は、入学テストを首席で合格した。頭がずばぬけていい。だが、自慢したりは一切せずの努力家で、先生からも他の生徒からの信頼も厚かった。



浮竹が、倒れた。血こそ吐かなかったが、せきをして、倒れた。

救護室に浮竹を抱き抱えて運んだ京楽は、ベッドの上に浮竹を寝かすと、意識を取り戻すまでの数時間、ずっと傍にいた。

「あれ?ここは・・・・・・そうか、俺はまた倒れたのか」

ゆっくりと起き上がる浮竹。その手を握って、心配そうにのぞき込んでくる京楽に、浮竹はすまないと、謝った。

「すまない、京楽。また世話になったようだ」

「いいんだよ、そんなことは。浮竹が目覚めてよかった」

握っていた手を放し、半身を起き上がらせた浮竹に、囁く。

「ねぇ、浮竹」

「なんだ?」

「髪、伸ばしなよ」

「どうして?」

「綺麗だから。真っ白で、太陽の光にあたったら銀色に見える」

「俺が、この白い髪を嫌いなこと、知ってていってるのか?」

「うん」

京楽は、浮竹の短い白髪を手ですいた。

柔らかくて、サラサラだった。

「伸ばしなよ。きっと、長い方が似合う」

京楽は、浮竹のことが好きだった。だが、浮竹は京楽の想いを知らない。

友人の延長戦だと思っている。

まだ、浮竹の意識があるときに、キスをしたこともない。浮竹が倒れて意識がないのをいいことに、触れるだけのキスを何度かしたことがあった。

あとは、ただ、抱き上げられたり、抱きしめられたり。

「んー。君からはお日様のにおいと、なんか甘いかおりがするねぇ」

抱きしめられて、浮竹は京楽の肩に頭を乗せた。

「甘えん坊だなぁ、京楽は」

「そうなの。もっと甘えていい?」

「いいぞ」

「好きだよ、浮竹」

「俺も好きだぞ、京楽」

京楽の好きと浮竹の好きは、意味が違う。

京楽は恋愛感情で。浮竹は友情でだった。

それが分かっていたので、京楽は寂しそうに微笑んだ。

本当なら、想いのたけをぶつけてぐちゃぐちゃに犯して、自分のものにしたい。それができないから、いっそ殺して自分だけのものにしてしまおうか。

浮竹の白い細い首に、手をかける京楽。

「京楽?」

不思議そうな翡翠の瞳はあくまで穏やかで、京楽は浮竹の喉から手を離すと、その手を背中にまわし、力いっぱい抱きしめた。

「苦しいぞ、京楽」

「ごめんね」

「変な奴だな」

浮竹の少し高い体温が心地よかった。

愛していると、心の中で呟いて、京楽は浮竹を離さなかった。

愛しているといって、拒絶されるのがすごく怖かった。京楽にとって、浮竹からの拒絶は絶望だ。

だから、まだ愛しているとは言わない。いや、言えない。

「授業はもう終わったし、まだ熱があるようだから、もう少し寝なさい」

「いや、明日の分の予習が・・・・・」

「勉学より、体調のほうが大事でしょ!」

京楽に怒られて、浮竹は素直にベッドにまた横になった。

「2時間くらいしたら、迎えにくるから。起きなくても構わないよ。寮の部屋に送り届けるから」

抱きかかえて、と付け足された。

「すまない。世話になってばかりで」

「いいんだよ。僕が、好きでやってることなんだから。とにかく、今は熱を下げて体調を回復させることだけを考えて」

「ああ・・・・・・」

明日は、剣術の稽古がある。浮竹の尊敬する、山本元柳斎重國の授業だが、参加はできなさそうだ。

「山じいとは、今度個別で指導してもらえばいいから。とにかく、今日と明日は休んで」

「分かった」

山本元柳斎重國は、浮竹と京楽の師である。たくさんいる教え子の中でも、彼らは特別のお気に入りで、まさに実の子供のようにかわいがっていた。

そのせいもあって、個別に指導もしてくれる。

「京楽」

「なんだい?」

「いろいろとすまない。心配ばかりかけて」

「体が弱いのは仕方ないよ。だけど、できるだけちゃんと飯を食べること。君、細すぎるよ。筋肉がないわけじゃないけど、触ると肋骨が分かる」

肋骨が浮き出るほどに痩せているわけではないが、輪郭を確かめると肋骨が目立つ。

「食べては、いるんだがなぁ」

好きな甘味もののおはぎを、腹いっぱい食べても全然太らない。高カロリーの食事をとっても、肉がつかない。

体重が軽く痩せていることも、浮竹のコンプレックスの一つだった。

この白い髪ほどではないが。

京楽は、浮竹と違って背が高く、がっしりしている。浮竹の背が低いわけでもないし、まだ成長期だから、伸びてはいるのだが、肺の病のせいで鍛錬しても筋肉は薄くしかつかず、体重は軽かった。

「おやすみ、浮竹」

「ああ、おやすみ」

浮竹の額に口づけて、京楽は去っていった。

「・・・・・・京楽は・・・」

多分、好きだという意味が違うのではないか。自分が思っている好きとは、違うのではないかと、京楽の言動で、少しずつではあるがそれは確信に近づいていた。

「俺は、どうすれば・・・・・・・・」

京楽の想いに、答えることはできるのだろうか。

分からない。

京楽が嫌いなわけではない。抱きしめられたり、頬に手を伸ばされたり、白い髪をすいていったりとした行動は、どちらかというと心地よい。

だが、京楽の想いは深い。

まだ、今の浮竹にはその想いに答えるだけの勇気はなかった。

ぬるま湯のようだ、今の関係は。

冷水にもなれず、熱湯にもなれない。

想いを拒絶することも、受け止めることもできない。

なんて半端なんだろう、自分は。

浮竹は、悩みながらもまどろんでいく。高くなってきた熱にうなされる。

「いつか、答えはでるんだろうか・・・・」

想いが互いに通じあうのは、まだ当分先のことだった。

今は、ぬるま湯でいい。

比翼の鳥のように、お互いを必要としあうだけでいい。

いつか。

いつかきっと、今の関係は壊れる。

それが、冷水なのか熱湯なのかはわからない。

今はまだ、分からなくていいのだ。












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見られた

「浮竹隊長・・・・はわわわ、ごめんなさい!きゃああああああああああ」

顔を真っ赤にして、朽木ルキアは去っていった。

雨乾堂にきたルキアが見たものは、壁に押し付けられて、京楽と深い口づけを交わしている浮竹の姿だった。

「あ、朽木!・・・・・・・行っちゃった」

京楽を押しのけて、浮竹は乱れた衣服を整える。

別に、隠しているわけじゃないから見られても困るものでもないが、たいていこういうシーンに出くわした男女は真っ赤になって去っていく。

見物とばかりに見ていくのは夜一くらいのものだ。

そういう夜一も、浮竹と京楽が本気になっているときは去っていく。

「いいじゃないか浮竹。ルキアちゃんは、前から僕と君の関係を知っているよ」

「まじか」

「まじだよ」

「はぁ・・・・・・・・関係、隠したほうがいいのかな?」

「無理じゃない?もう、護廷13隊中に知れ渡ってるよ。僕らのこと」

「はぁ・・・・・・・」

深いため息をついて、浮竹は畳の上にしゃがみこむ。

何百年も恋人関係を続けていて、隠さなくなったのは学院を卒業した頃だろうか。

隊長になる頃には、浮竹と京楽はできていると、もっぱらの噂だった。

「ねぇ、浮竹」

「なんだ」

「僕と、こういう関係になったこと、後悔してる?」

「いや・・・・・後悔は、してない」

「なら、なんの問題もないじゃないの。・・・・続き、してもいいい?」

「好きにしろ」

毛深い京楽の胸に抱き寄せられて、浮竹は吐息を零した。

浮竹の唇に指をはわせると、浮竹はそれを口に含んだ。甘噛みして、そして再び京楽と深い口づけを交わした。

「すんません、ルキアみませんでしたか浮竹さん・・・・・・・・・・・・・・」

雨乾堂に入ってきた、黒崎一護は固まった。

「え?一護君?」

「気にしない、気にしない」

膝をわって、覆いかぶさってくる京楽を無理やりどけて、浮竹は固まったままの黒崎一護を揺さぶった。

「ああっ、まさか俺らのこと知らなかった?」

「みたいだねぇ」

固まったままの黒崎一護は、我に返って真っ赤になった。

「あ、あんたたちって、できてたのか」

「そうだよ」

あっさりと肯定する京楽と、違うんだと言い訳する浮竹。

浮竹の中で、黒崎一護は少し特別な存在だった。亡き、副官によく似ているせいで。

「違うんだ一護君、これはね、その、やぁっ」

京楽は、黒崎一護が見ているのもお構いなしに、浮竹の首にキスマークを残す。

「こういうことだから、ね?」

京楽が、ぎらついた瞳を黒崎一護に向けた。

「す、すんませんでしたっ」

潤んだ浮竹の翡翠の瞳と黒崎一護の視線がぶつかりあい、真っ赤になった黒崎一護は、先ほど朽木ルキアが去っていったように、その場から逃げて行った。

「京楽っ・・・・・さかるな、このあほっ」

「いいじゃない、浮竹。見せつけてやればいい。君が、僕のものだって、教えてあげればいい」

もう黒崎一護はその場にはいなかったが。


「きょうら・・・・ああっ」

声が、もれる。

必死に、口を手でふさぐが、それを京楽が浮竹の細い手首をとって、口づけると畳の上にぬいつけた。

「京楽っ」

黒崎一護に今度会ったら、どんな顔をすればいいのだろうと考えながらも、京楽が与える刺激に体は敏感に反応した。

恋人同士になって数百年。体を重ねること数千回。

二人の関係は、変わらない。








「なぁ、浮竹さんと京楽さんってできてたんだな、ルキア」

「ああ、そうだ。護廷13隊で知らない者はいないというくらい、大っぴらな関係だぞ」

「京楽さんって、女好きだって聞いてたから、ちょっと驚いた」

「確かに、女性とよく飲んでたりするが。浮竹隊長は・・・・・儚い人だからな。院生時代の頃からそういう関係だったと、兄様から聞いたことがある」

朽木ルキアの義兄である朽木白哉も、浮竹と京楽の関係を知っている。

というか、二人の関係を知らないのは、さっきまでの黒崎一護と、茶虎、井上、石田くらいのものだろう。

「っていうか、浮竹さんが女役なんだ」

「浮竹隊長は美人だからな。もじゃもじゃの京楽隊長が受けだとあまりそそられない」

ちょっと腐女子な意見のルキア。

「お前、知ってたのか」

「たわけ。なぜ、すぐに気づかぬ」

あれほど、堂々と抱きあっていたりするのに。

「いや・・・・浮竹さん体が弱いって聞いてたから。京楽さんが抱き上げたり、額に手をあてたりしてたの、ただの親切心からだと思ってた」

「女性死神協会で発行する新聞では、二人のことを扱った記事とかあるぞ」

「まじかよ」

「ちなみに、二人のツーショットはよく売れるらしい」

「まじかよ」

黒崎一護は、理解できないが、まぁ浮竹の白く儚い容貌は確かに女性には売れそうだ。あと、どこか危険なにおいのする京楽も女性受けはよさそうだ。

「なんか尸魂界って、変な場所だな。隊長同士ができてて、それが公認だとか」

「たわけ。尸魂界だからこそ許されるのだ。数百年も愛し合い続けるなんて、夢のようじゃないかっ」

「げっ。あの二人、そんなに生きてるのか」

「たわけ!」

ルキアは、一護をはたいた。

「浮竹隊長は、かりにも私の上司だぞ。一番隊隊長の山本元柳斎重國殿も、千年以上は隊長をしていらっしゃるのだ。その愛弟子であられる浮竹隊長と京楽隊長が数百年生きてても不思議ではあるまい!」

「あの爺さん、そんなに生きてるのか。すげー」

すでに、一護の思考は二人のことから山本元柳斎重國のことで頭がいっぱいだ。

ルキアと一護はああだこうだといいながら、浮竹と京楽が、幸せでありますようにと思うのだった。



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甘いもの

「おはぎ食べる?」

「食べる」

「羊羹食べる?」

「食べる」

「あんこ餅食べる?」

「食べる」

「桜餅食べる?」

「食べる」

「団子食べる?」

「食べる」

「たい焼き食べる?」

「食べる」

もっきゅもっきゅ。

京楽がもってきた甘味ものを、浮竹はすごいスピードで平らげていく。

「相変わらず、甘味ものはよく食うねぇ」

「そうか?」

清音がいれてくれたお茶を、ずずーっと飲んで、浮竹は小首を傾げた。さらさらと、白い髪が零れ落ちる。

「もう、かわいいねぇ、浮竹は。でも、甘味ものを食べても全然脂肪つかないもんね。食事はちゃんとしてるかい?」

「最近は、1日3食ちゃんと食べているぞ」

「ほんとに?」

「ああ」

「どれ」

京楽は、浮竹を軽々と抱き上げた。

「やっぱ、細いよ君。もっと肉つけなきゃ」

抱き抱えられ慣れているので、抵抗はなかった。

「お前がごついだけだろう。最近は寝込んでないし、ちゃんと食べてるし鍛錬もしてる」

「でも、細いよ。腰なんかこんなに細い」

「くすぐったい」

清音がいることを、すでに二人は忘れていた。

清音は顔を真っ赤にして出て行った。

「おはぎのおかわりあるんだけど、食べる?」

「食べる」

おはぎは浮竹の好物だ。

「お前も食うか?俺ばっかり悪いだろ」

「いやいいよ。全部、君に食べてもらうために買ってきたものだしね」

京楽は甘いものが好きというわけでも嫌いというわけでもない。ただ、浮竹は甘いものが大好きだ。

「今度、尸魂界に新しい、現世の甘味ものを出す店ができたんだよ。一緒にいくかい?」

「行く!」

即答だった。

「朽木がいっていたんだが、パフェとかいうものがおいしいそうだ。出るかな?」

「出ると思うよ。アイス系の甘味ものも多いらしいから」

「よし、今すぐ行こう」

「ええ、こんなに食べたのにまだ食べるの?」

「甘味ものは別腹だ」

デザートは別腹というやつだ。

京楽の腕から降りて、浮竹は京楽を促した。

「仕方ないねぇ」

二人そろって、新しい店に行くことになった。

尸魂界でも、治安が比較的良い場所にその店はあった。

洋風の建物で、ドアをあけるとチリンとベルが鳴った。

「お洒落な店じゃない」

京楽は、店の洋風な中にも和風を取り入れた内装が気に入ったようだった。

「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」

「ああ、そうだよ」

浮竹は、高そうな店だなぁと、金は足りるだろうかとか考えていた。

「ああ、浮竹、心配しなくても僕のおごりだから。好きなもの、好きなだけ食べるといいよ」

案内された席につき、メニュー表をみた浮竹は、京楽のおごりという言葉に甘えることにした。

酒を飲むときとかでも、しょっちゅうおごられているので、もう違和感さえない。

「すまない、この上からこの5つまでの品をお願いしたい」

パフェ系を5つも注文する浮竹に、京楽は笑った。

「本当に、甘いものには目がないね、浮竹は」

京楽は、上流貴族だ。隊長としての給料以外に莫大な財産を銀行に預けている。

それに対して、浮竹は下級貴族だ。貧しくこそなかったが、金持ちというわけでもなかった。高額な隊長としての給料の半分は、仕送りしている。

残りの半分で、飲み食いすればもう残らない。

京楽におごられることに、申し訳ないという心はすでに麻痺していた。

しばらくして、パフェがテーブルの上に5つ並んだ。

「京楽は、頼まないのか?」

紅茶を頼んだだけの京楽に、少し申し訳なさそうにする浮竹の頭を、京楽は撫でた。

「君の食べてる姿を見てるだけでいいんだよ、僕は」

「そうか」

パフェにスプーンをいれて、口に運ぶ。ひんやりとしたアイスが、おいしい。

「うまいぞこれ。京楽も食べてみろ」

アイスをスプーンですくって、京楽の口元にもっていく。

それを、京楽はさも当たり前とばかりに口にした。

「うん、おいしいね」

京楽は、浮竹に触れるだけのキスをして、頬に手をあてる。

白い髪に手を伸ばすと、翡翠の瞳がふせられた。睫毛の長い浮竹の翡翠の瞳は、宝石のようだ。

周囲のことなど、二人は気にしていないし、気にするつもりもなかった。関係を隠すことのない二人のやりとりを、女性だけでなく、男性死神も顔を朱くしていた。

「例の隊長だぞ。仲いいな」

「しーっ!せっかくの目の保養なんだから、邪魔しないで」

「浮竹隊長って、あんなかわいかったっけ」

「京楽隊長かっこいい」

「浮竹隊長は、どちらかというと綺麗よね。美人だもの。女の私でも嫉妬しちゃうくらい」

さざめく見学者たち。

二人の関係を、汚いものとして見る者はいない。

何百年も恋人関係を続けていたら、もう周囲の者のことなど、あまり気にしなくなるものだ。

パフェを全て平らげて、浮竹は満足そうだった。何回か京楽にも食べさせた。

「また、こようね。おごってあげるから」

「ああ」

浮竹の外での飲食の3分の2以上は、京楽が出している。

女なら、高いブランドもののバックや化粧品、衣服などに金を費やすだろうが、浮竹は男だ。

衣服はあまり欲しがらないし、高価な贈り物も拒絶する。そんな浮竹にできるのは、食べ物や酒をおごってあげるくらいだ。

浮竹は、酒なら高いものでもあまり嫌がらない。

高い酒ほど、美味いからだ。

「ごちそうさま。勘定、ここにおいていくからね。おつりはいらないよ」

多めにだした金銭をテーブルの上に置いた京楽は、傘をかぶり直して、店を先に出た浮竹の後を追った。

「すまないな、京楽。いつもおごってもらってばっかりで」

「いいのいいの。僕が好きでやってることなんだから」

浮竹をおごるのは、好きだった。浮竹は、初めの頃は逡巡しがちだったが、今では京楽が甘やかせばそれにすり寄るように、おごられてばかりだ。

「よっと」

「うわっ」

道の真ん中で、浮竹を少し抱き上げると、やはり悲しいくらいに細かった。

「うーん、まだまだだなぁ」

もっと肉をつけてもらいたい。

浮竹をおろすと、京楽は傘をあげて、浮竹をみた。

「夕飯、どっかに食べに行こうか」

「いいが。そうだ、今日の夕飯は俺がおごろう。たまにはいいだろう?」

「うん、うれしいね。高い店じゃなくていいからね」

馴染みの料亭でいい。

値段はほどほどで、酒がうまい。

京楽は、笑った。それにつれられて、浮竹も微笑む。

風に、長い白い髪が流れていく。

どうか、願うならばこんな穏やかな毎日がずっと続きますように。


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かき氷

ミーンミーンミン。

蝉の声がうるさい、夏の季節がやってきた。

「今日も暑いなぁ」

宇治金時のかき氷を食べながら、浮竹は雨乾堂の外の欄干で、板張りの廊下に座り込み、池を見ながら暑い日差しをにらんでいた。

「浮竹ぇ。こんな暑いのに、外でかき氷かい?」

「ああ、京楽か」

日番谷隊長に頼み込んで、氷輪丸で氷をたくさん作ってもらい、13隊の全員にかき氷を配った。
シロップはいちご、練乳、メロン、ブルーハワイ、宇治金時だ。

文句をいいつつも、日番谷隊長は氷をだしてくれた。そんなことのためにある斬魄刀ではないのだが。

「京楽もくると思って、かき氷用意しといたぞ。メロン味だが、別にいいよな?」

「え、僕の分まであるの?」

「ああ。来るだろうと思ってたから」

昨日も会ったばっかりだ。

京楽は、時間があれば浮竹に会いにくる。浮竹が臥せっているときは自重するが、浮竹が元気な時には、暇つぶしとばかりに遊びにくる。

「いいねぇ」

浮竹が、雨乾堂に戻り、メロンシロップのかけられたかき氷をもってくる。普通の氷と違って、日番谷隊長が出す氷輪丸の氷は、溶けにくい。

少しくらいおいておいても、溶けないので、京楽の分も用意したのだ。

「甘い。こんな暑い日にかき氷なんて贅沢だねぇ」

「何、外にでればかき氷くらいうってるだろう」

「まぁそうなんだけど。とても暑くて食べに出かける気にもならないよ。こんな暑い中、死神の黒装束の上に隊長羽織だよ?脱ぎたくなるけどそういうわけにもいかないしねぇ」

シャリシャリと、かき氷をを口に運びながら、京楽は浮竹を見た。

夏の日差しに、京楽はすっかり日に焼けてしまったが、色素を失った浮竹は太陽の光を浴びても日に焼けることがない。

白い髪に白い肌、翡翠の瞳。秀麗な容姿。実に涼やかだ。

「浮竹は、日に焼けないよね」

「あー。そういえばそうだな。夏になっても、暑い日差しをどんなに浴びても日焼けしないな」

「羨ましいねぇ」

「そういう京楽は真っ黒だな。日焼けしすぎじゃないか?」

「なに、いつものように、屋根の上で寝てたら日に焼けちゃってねぇ」

「こんなくそ暑い時期でもお前は屋根の上で寝るのか」

「うん、そうだよ?変かな?」

「想像するだけで暑そうだ」

京楽は、メロンのかき氷をすぐに平らげてしまった。

そして、浮竹が食べていた宇治金時のかき氷を見た。

「見ても、分けてやらないぞ」

「わけてくれなくてもいいよ。こうするから」

かき氷の器を奪い取って、浮竹に口づけた。舌をいれられて、浮竹が京楽の頭をなぐった。

「痛いじゃないか」

「キスで味わるくらいなら、わけてやるに決まっているだろう」

「いやぁ。宇治金時の味がして、おいしかったよ。もっかいしていい?」

「だめだ。あと、ハグも禁止。暑いから」

「こういう時、現世のエアコンってのがほしくなるねぇ。まぁ、扇風機があるだけましか」

先ほどから、生暖かい風を扇風機が送ってくる。

現世のものを取り入れることが多くなった尸魂界では、扇風機はまだ珍しいが、隊長くらいになれば入手も困難ではなかった。

「氷枕がほしいくらい暑いし、いっそ日番谷隊長の氷輪丸で氷漬けにしてほしいくらいだ」

「そりゃ僕が止めるよ。浮竹は夏風邪をひきやすいんだから。熱中症対策もしなきゃいけないけどね」

「水浴びしたいなぁ」

「まぁ、この天気なら水浴びくらいしてもいいんじゃないの」

「よし、一緒に浴びるか」

「ええっ」

それっと、浮竹はどこにそんばか力があるのか、自分よりも重い京楽を池に投げ捨てた。

「ちょっと!」

「俺もだ」

ザパーン。

池に飛び込んだ浮竹を見て、京楽は眩暈を覚えた。

少年のような瞳で京楽に水をかける浮竹。

かわいい。ハグしたい。

「こっちもしかえしだよ」

池の水をかけて二人でしばし水のかけあいをした。

池にいる錦鯉が、二人の邪魔をしないように遠くを泳いでいく。

「あまり、長い間濡れたままだと風邪をひくよ。そろそろあがろう」

「そうだな。お陰で大分涼しくなったし」

水を吸った白い髪をかきあげて、浮竹は池からあがった。

それに、京楽も続く。

「冷えるまえに、着替えなさい」

京楽は、浮竹にバスタオルをなげると、新しい服を出してきた。

「心配しすぎだろう。これくらいで風邪をひいたりしないぞ」

「いいや、放置してると絶対風邪ひくね」

「そうか?」

「君は、自分が思っているよりも体が弱いんだから」

バスタオルで、白い髪をごしごしふいて、濡れた衣服を脱がしていく。

肌にはりついた衣服を見ていると、少し欲情してしまった。ぶんぶんと首をふって、京楽は濡れた自分の衣服も髪もふいて、浮竹に新しい服を着させてどっかりと、座り込んだ。

「扇風機の風に当たるのは禁止ね」

京楽だけが、扇風機の風を独り占めする。

「むっ。ずるいぞ」

「だーめ。今の状態で扇風機なんかにあたって体を冷やしたら、絶対熱だすんだから」

「今年の夏はまだ2回しか風邪をひいてないぞ」

「十分多い。普通の人は、ひかないよ」

「むう」

「いい子だから、いうことききなさい」

「京楽のどけち」

「はいはい」

まるで、ちょっとした痴話喧嘩だ。

「また今度日番谷隊長に、氷をだしてもらってかき氷をつくるか」

「日番谷隊長も大変だねぇ」

氷輪丸を、そんな使い方にされて気の毒だと、京楽は思ったが、浮竹が喜ぶのであれば日番谷隊長にはがんばってもらわねば。




「っくしゅん」

「あれぇ?隊長、風邪ですか?」

くしゃみをした日番谷は、松元の言葉に首を振った。

「多分、誰かが噂してるんだ。13番隊の隊長あたりが」

ビンゴだ。

日番谷は、夏によく氷を出してくれると頼まれる。もう慣れてしまったので、氷をだすくらいはしてやった。

「今年も夏も、暑いな」

暑さに弱い日番谷は、氷輪丸を使って涼んでいる。松本が、それをずるいと口をとがらせていた。



ミーンミンミン。

蝉も声がする。

夏は、まだ真っ盛り。

暑い日は、しばらく続きそうだった。





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加工された写真

「できた!うむ、我ながら完璧だ」

そこには、死神代行の黒崎一護の写真があった。隠し撮りらしく、ちゃんとカメラをみて映った様子がなかった。

その一護の写真は、オレンジの髪がマジックで黒く塗りつぶされ、下睫毛が追加されていた。

「うわー、ひどいねぇ、浮竹。それ、一護君じゃないの?もう、違うものになってるよ」

一護の写真をマジックで加工して、かつて失った副隊長の志波海燕にしていた。

浮竹のいる雨乾堂を訪れきた京楽がみたものは、加工された一護の写真。、

「いやぁ、ほんとに酷いよ浮竹。いくら志波君が好きだといっても限度があるでしょ」

「京楽か。本当は、黒いカツラをかぶって下睫毛をつけて、13番隊の副官の姿をしてほしいんだが、実物に頼むにはけっこう抵抗があってな」

「まぁ流石の一護君も、そこまでしてはくれないだろうねぇ」

「だろうなぁ。おはぎあげても、無理かな?」

かわいく、小首をかしげる浮竹に、うっときたが、京楽は我慢した。何この子かわいい。そう、京楽の顔に書いてあった。

「いや、流石に無理なんじゃないの。食い物でつられるような子じゃないでしょ」

「うーん。この写真、ポスターにするか」

「そこまでするの?うわー、僕ちょっと引いちゃうよ」

「一護君が、副官になってくれたらいいのになぁ」

「いや、流石に無理でしょ」

「だなぁ。死神代行だしな」

死神代行、黒崎一護に、一目ぼれした状態の浮竹に、京楽はため息をついた。

「浮竹も、いい年してるんだから、若い子を巻き込むのはやめなさい」

「むっ。年の話はするな。これでもまだまだ現役だ」

齢数百歳になるが、人の年齢にしてみると30代後半~40代前半あたりだろうか。

真っ白な髪と白い肌、翡翠色の瞳の浮竹は実年齢より100歳ほど若く見えた。

「代行証は渡したしな。ふふふふふ」

どす黒く笑う浮竹は、いつものほんわかとしてふわふわした浮竹と違った。

昨日など、13番隊の隊長羽織を着ずに、間違えて、京楽の8番隊の羽織を着ていた。誰の目から見ても、できている二人は、別段関係を隠すことをしていない。

さすがに黒崎一護は、8番隊の隊長羽織を着ていた浮竹につっこんでいたが。

京楽と、肉体関係をもつ深い仲であることには、まだ気づいていないようだった。

「一護君に、手をだしちゃだめだよ、浮竹」

「うーん」

純粋に、ただ懐かしいのだ。

副官として、面倒を見てきてた志波海燕のことが。

京楽にとって、志波海燕とはあまり好きな相手ではなかった。浮竹との仲を知り、浮竹が京楽と関係をもって、寝所を共にしたあと、熱を出す浮竹を心配して仲を裂こうとしたことがあるからだ。

何度か志波海燕は、浮竹に京楽と別れるように進言したが、浮竹はそれを聞き流していた。

そんな志波海燕によく似た、黒崎一護を、京楽は最初あまりいい印象を抱かなかった。だが、すぐに誰とでも仲良くなれて、強く、仲間を守るために命をかける一護に好感を抱くようにはなった。

「はぁ。一護君にまた会いたいなぁ」

「まだしばらく尸魂界にいるらしいから、また会えるでしょ」

「でも、会ったら・・・・そうだ、今度はツーショットで写真をとらせてもらえるように頼んでみよう。それから、現世に誘ってデートでも・・・・・・」

「浮竹ぇ」

「ん?」

「君、バカだろ」

「なんだと!」

「僕がいるのを、忘れてないかい」

「ん?」

小首を傾げる浮竹は、破壊的にかわいかった。

「なんだ京楽、焼いているのか。いっちょまえに、やきもちか!」

「いっちょまえとは酷いねぇ。そんなこという口はこうだ」

「んーーーーーー!」

浮竹の唇を強引に奪って、言葉の続きを紡げなくした。

「んんっ」

角度をかえて、何度も浮竹に口づける。

京楽は、浮竹を抱きしめて、今度はきつく首筋にキスをして跡を残した。

いつもなら、浮竹が嫌がるので、跡は残さないのだが。

いわゆる、所有物の証というものだった。

「京楽のあほっ!おたんこなす!」

「はいはい。あんまり言うことを聞かないなら、犯すよ?ぐちゃぐちゃに」

耳元で低く甘い声で囁かれて、鳥肌がたった。

ざわりと、背筋が冷たくなる。

黒崎一護とデートをしようものなら、お仕置きだと酷く犯されることは目に見えていた。

それが怖いので、浮竹は大人しくなった。

「浮竹はいい子だね」

すっぽりと、京楽の腕の中だ。

身じろぎもできなくて、浮竹は、困った。

「じゃりじゃりする!」

浮竹が、ひげごと顎を、浮竹の頬にすりよせた。

「ほらほら」

京楽のひげで、じゃりじゃりさせられるのを浮竹はあまり好きではなかった。

ちょっとしたお仕置きだ。

愛しい子が、他の子に関心をもつから。

我ながら心が狭いなと、京楽は思う。

「もう、分かったから・・・・・」

薄い腹の筋肉を撫でていく京楽の手に、危機感を感じた。貞操の危機だ。

冗談じゃない。

おとつい、散々啼かされたばかりだ。

浮竹に対しては、京楽はどこまで貪欲になる。何度犯しても、足りない。何度手にいれても、満足しない。

「あの、隊長・・・・・すみません、見てはいけないものを見てしまいました!」

「ああっ、清音いるの忘れてたっ!」

雨乾堂の隅に、目立たないように控えていたのは、3席である
虎徹清音だ。
自分の隊長が、他の、しかも男である京楽隊長にいいようにされている場面を目撃してしまい、真っ赤になっていた。

今までも、何度か軽いキスやらハグやらのシーンは見てきたが、それ以上は見ていなかった。

清音は、耳まで真っ赤だ。そして、去って行った。

「京楽!アホバカまぬけおたんこなす!」

「あーはいはい。続き、しちゃうけどいいよね?」

「いやだっ」

身を捩る浮竹を抱き上げて、畳に転がすと、全身の輪郭をなぞるように愛撫していく。

淡泊な浮竹と違い、どす黒い欲望をもった京楽は、毎日でも浮竹を抱きたがる。

「京楽、俺が悪かった。だからやめ・・・・っ」

「スイッチはいちゃったから。もう、無理」

「やぁっ・・・・」」

雨乾堂の外にいた清音は、浮竹のあげる甘い声を耳にして、さらに真っ赤になって完全に去って行った。

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温泉宿

「いやぁ、貸し切りっていいなぁ」

温泉宿に京楽と泊まりにきた。京楽と旅行に出かけるのは珍しいことではないが、長期休暇をとっての温泉旅行ははじめてだった。

「いい場所でしょ」

立地条件も悪くない。
緑に包まれた温泉宿の中でも、特別高い店だ。

「ああ、気に入った」

外では、ふわふわと雪が舞っている。

普段、こんな時期に長い間外にはでない浮竹であったが、有名な温泉宿が貸し切りになるときいて、京楽の誘いに乗って、温泉旅行にでかけた。

「早速温泉に入ろう」

いそいそと、荷物をとく浮竹。

浴衣と、シャンプーやリンス、ボディシャンプーに櫛にタオル、バスタオルなどの銭湯グッズをもって、ルンルン気分で、浮竹は温泉に入っていった。

男湯を選んで、着物を脱いで腰にタオルを巻く。湯船に髪をひたしてはいけないからと、髪留めで髪を結いあげて留めていた。

髪留めは、京楽が浮竹の誕生日プレゼントにあげたものだ。できるだけ質素なものを選んだつもりだが、それでも浮竹の給料の1年分はする。その価値を知らない浮竹は、好んで、自分の瞳の翡翠色に輝く髪留めを使っていた。

「京楽も早くこい」

体に湯をかけて、さっと体を洗うと、温泉に入った。

「浮竹、君、早いよ。せめて、荷物を全部といてからにしなよ」

そう文句をこぼしつつ、温泉に入ってきた京楽を見た浮竹は、顔を朱くした。

逞しく鍛え上げられた体。いつも、体を重ねあう時には見慣れているのに。

何より、タオルで前を隠していなかった。

その一物のでかさに、浮竹は視線をそらせた。

あれで、ここ数百年何度も啼かされてきたのだ。

「京楽・・・・・・・・いくら二人きりだといっても、その、前くらい隠したらどうだ」

「隠す?今更だよ、浮竹。何度も見てきただろう」

「それはそうだが」

「浮竹こそ、隠さないでよ。綺麗なのに」

男に綺麗はないだろう。

浮竹は、ぶくぶくと温泉につかって泡をだした。

京楽は、体を洗うと、温泉に入ってきた。髪は結い上げてはいるが、はっきり言ってあまり似合っていない。

浮竹が、給料の一か月分をだして京楽の誕生日にあげた髪留めで、京楽は意外と長い黒髪を、結い上げている。

派手なものを好むから、できるだけ派手なものを選んでみたのだが、気に入ってくれたのか時たま・・・・温泉とか、銭湯にいく時に使ってくれている。

「浮竹は、やっぱり綺麗だねぇ」

湯煙の中で、水面に揺れる白い髪と、温泉の熱でやや上気した白い肌を見ているだけで、今すぐにでも浮竹を啼かせたいと思う京楽は、浮竹をじっと見つめてから目を離した。

温泉は、室内に設置されたものだった。

露天風呂に入るには、季節が寒すぎる。温まりにきたのに、逆に風邪をひきそうなのでやめておいて正解だった。

体の弱い浮竹では、露天風呂から出て体を洗っているうちに熱をだしそうだ。

京楽を一言で言い表すと、でかい。

十分に長身である浮竹よりさらに背が高く、どっしりとしていて体も鍛え上げられている。同じく鍛え上げいるはずの浮竹の体は、肺の病で寝込むことが多いので、あまり筋肉がつかないでいる。

食が進まない時もあり、痩せてしまうこともあった。

今は小健康状態を保っているが、いつ寝込むかもわかったものではない。

「浮竹、おいで」

手招きされて、近づくと京楽は、浮竹の髪留めを外してしまった。

ぱらりと、音をたてて広がっていく白。

湯船の中を漂う。

「やっぱり、浮竹は結っていない方が綺麗だよ。もちろん、結っている浮竹も綺麗だけどね。こうやって、湯の中を漂う髪を見ていると、まるで人魚に見える」

「冗談を・・・・」

「冗談じゃないよ」

触れるだけの口づけをされて、浮竹は翡翠の瞳を見開いた。

「京楽、まさか盛っているんじゃ・・・・」

「いやいや。これはね、ただの熱膨張さ。決して、裸の浮竹を見て欲情しているわけではないんだよ」

「嘘くさい」

「はははは」

京楽から距離をとる。

温泉の中で体を重ねる気はない。夜ならば、とにかく。

湯船からあがって、髪を洗っていると、京楽がやってきて、髪を洗ってくれた。それから、背中を洗ってくれた。

お返しに、髪を洗い背中を流してやると、熱をもっていた京楽のものはすでに処理したのか、正常に戻っていた。

「浮竹は、本当に綺麗だ」

しっとりと濡れた白い髪を櫛ですいて、京楽は後ろから浮竹を抱きしめた。

「そういう口説き文句は、女の子にすればいい」

「したら、浮竹が嫉妬するでしょ?」

「別に」

本当に、京楽が女の子を口説いているシーンを想像するだけで、腸(はらわた)が煮えくりかえりそうになった。

「嘘ばっかり」

「京楽、ここではだめだ。部屋に戻ってからにしてくれ」

浮竹に明らかに欲情している京楽に、浮竹は声を低くした。

「温泉でってのもいいと思ったんだけどね」

「俺はいやだぞ。湯あたりしそうだ」

切実だった。

「ああ、きもちいいねぇ」

再び髪を結いなおして、温泉につかる。

長期休暇をとったといっても、2週間ほどだ。あまり、隊長が不在ではいろいろと支障がでる。

2週間、二人だけで過ごす。

大切な時間だ。

いつでも大切だが、一緒にこうして二人きりだけで過ごすことができる時間は、いつもなら限られている。

「そうだ。一護君にもらったあひるさんがある」

死神代行の、黒崎一護が浮竹にあげたあひるさんは、ルキアが企んで一護から浮竹に渡したものだった。

かわいいものが好きなルキアの上司だけあって、浮竹もかわいいものが好きだ。おはぎとか甘いものほどではないが。

ネジをまくと、あひるさんはぱしゃぱしゃと湯船の中を泳いだ。

「おお、泳いだ」

「浮竹・・・・」

かわいすぎる。犯罪だ。

目を輝かせてあひるさんと戯れる姿に、京楽は眩暈を覚えた。

「もう、僕はそろそろあがるから。浮竹も、ほどほどにしておきなね」

「ああ、先に戻っていてくれ。あと5分くらいで俺もあがるから」

温泉の後には、豪華な夕飯が待っていた。

伊勢海老が、4匹くらい調理されてでてきた。新鮮な刺身を中心に、肉料理や野菜料理もあるし、デザートにはアイスもついていた。

夕食を堪能し、夜になる。

「その・・・・・する、のか?」

「いやかい?」

「いやじゃないけど・・・・・その、これだけは言わせてくれ」

「なんだい」

「前のにゃんにゃんきゃんでぃとかいう、変なのは禁止だ。媚薬もだめだ!」

「ちっ」

「おい」

舌打ちする京楽に、浮竹はつっこみをいれる。

「わかったよ」

「あと、1回だけ、だからな」

「ちっ」

「おい」

何回するつもりだったのだろうと、浮竹は思った。

京楽とのセックスは、麻薬みたいなものだ。快感にひたされて、ただ気持ちよくなって、そして後から熱をだす。禁断症状もでる。京楽が、欲しくなるのだ。愛されたいと思うようになる。そう思うように、京楽に仕込まれた。体が疼く時があるように、京楽に慣らされた。

行為の後に、微熱を出すことが多い浮竹であるが、それでも京楽を受け入れた。京楽が、満足するまで何度も。

今夜は、浮竹はあまり乗り気ではない。温泉にきたのを楽しみにしていたのであって、セックスをしにきたわけじゃないのだ。

それは京楽も分かっていたが、夜になれば浮竹を求めるのは自然のことだと思っている。最近はご無沙汰というわけでもなく、一週間に一度は交わっていたので、年を考えれば十分すぎた。

「じゃあ、いただきます」

布団ではなく、ベッドだった。

音もなく、浴衣姿の浮竹を寝台の上に横たわらせて、京楽はごくりと喉をならした。

浴衣姿。

温泉に入ったせいで、上気した肌が色っぽい。まだ濡れたままの、白い髪から甘いシャンプーの香りがする。

「あまり、見るな」

人工灯の明かりを消した。

多少声がもれても、客は浮竹と京楽しかいない。宿の女将たちは、違う建物にいる。

「やっ」

浴衣の裾から手を侵入させて、やわりと花茎を触る。いきなりで、浮竹は身をよじった。

「全部、見せて?ああ、下着つけてないのか。期待してたって、思っていい?」

「ちがっ、京楽っ」

深く口づけされる。

浮竹は京楽との口づけが好きだった。口腔を乱暴に侵されるのが好きだった。はじめての頃は、触れるだけのくちづけでも躊躇していたのに、今では舌を絡めあうようなディープキスが当たり前で、それが行為の最初の儀式のようになっていた。

細い足首をとらえられて、肩に乗せられた。

そのまま、花茎を口に含まれて、今までされたこともほとんどないその経験に、頭が真っ白になる。直接、口の中で愛撫されるのは刺激が強すぎた。

「ああっ」

すぐに達してしまい、吐き出されたものを京楽はごくりと音をならして飲み込んだ。

「京楽」

「大丈夫。手加減するから」

いつものような、激しい交わりはしない。

1回だけと、決められているせいで、ゆっくりと浮竹を味わっていく。

浴衣を着せたまま、乱れさせ、喘がせる。

素直に啼く浮竹が愛しくて、京楽は浮竹の中にゆっくりと侵入した。すでに、いつもの潤滑油で蕾をほぐし、指で、前立腺を少しいじっただけだった。

「あ、あ・・・・・・・・・」

ゆっくりと。

ずくんと、腹の中を京楽が入ってくる異物感に、浮竹は目を閉じた。

小さく突き上げると、浮竹は啼いた。

「あっ」

「きもちいい?ねぇ、きもちいい、十四郎?」

「んっ・・・」

ぐちぐちと、前立腺を緩やかに突き上げて、京楽は汗を流した。

浮竹を気遣って、交わるのはあまり得意ではなかった。いつもは思いのたけをぶつけるかんじで、一方的に犯しているようなものだ。

「気持ちいいなら、キスして」

京楽に、浮竹は自分から口づけた。

「きもちいいんだね、十四郎。優しくするから、力ぬいて」

緩やかに最奥まで入ってくる。

薄い浮竹の腹の中を割って入ってくる熱は、外から見ても分かった。

京楽のものの形が分かる。

「あうっ」

浮竹が、全身から力をぬくと、ぬぷぷと、京楽のものが出ていき、そしてゆっくりと入ってくる。

「春水・・・・」

「もう少し、君を犯すよ。1回だけだから、まだ終わらせない」

ぐちぐちと、結合部が水音をたてる。

緩慢な動作に、浮竹がしびれを切らした。

「春水・・・も、いいから。気遣わなくて、いいから。いつもみたいに、してもいいから。もっと、春水がほしいっ」

京楽に一方的に犯されるかんじの多いことに慣れてしまっている浮竹の体は、貪欲になっていた。

「十四郎・・・・・・・・・・」

性を放たないように、浮竹を攻めるのは苦しかった。

吸い付いてくる内部が心地よくて、すぐに性を放ちそうになるが、1回と約束しているので我慢する。

浮竹の体に溺れるようになって、貪るようになって、数百年。

恋人同士である二人は、時にはお互いを大事にしながら、時には一方的に。もう、何千回と犯されている浮竹の体は敏感なまでに感じるようになっていたし、京楽に侵略されることに慣れていた。

「・・・・っ」

最奥をえぐると、浮竹がシーツをつかんだ。

涙がこぼれおちていく。

頭が真っ白になって、墜ちていくのを感じる。

「十四郎、愛してる」

「俺もっ」

ぐちゅりと音をたてて、前立腺をすりあげて、最奥を貫くと衝撃で浮竹の白い髪がシーツに零れた。ぐっと、こらえていた射精感が爆発する。

「ん・・・・」

京楽が、浮竹の中の性を放ち、京楽が歓喜の声を低くあげた。

一度きりの交わりだったが、いつもより満足できた。

「やっ」

抜き去られて行く熱に、浮竹が声をあげる。

「何が嫌なの?」

「あ・・・・・春水・・・・」

「ああ、まだいってなかったのかい。今、いかせてあげるから」

浮竹のたちあがったっままの花茎に手をかけて、先端に爪を少したてると、呆気なく浮竹は熱を放った。

何度か、中を犯されることでオーガズムで達していたらしい浮竹は、深く息を吐いて、浮竹の毛深い胸に顔をこすりつけた。

「いつもより、きもちよかった・・・・・・」

「そうだろう?やればできるんだよ、僕は」

「いつもこうなら、いいのに」

「そうしてあげたいけどねぇ。僕の体力がもたないよ」

大抵、最後には意識を飛ばすことが多い浮竹。京楽との交わりは、いつもは激しいものだ。

本当に、京楽とのセックスは麻薬に似ている。快感で満たされて、溢れて、でも禁断症状で貪欲にもっともっと欲しくなる。

「温泉、いこうか。べとべとだし。髪と体、洗ってあげる」

「ん」

乱れた浴衣を直して、京楽は浮竹を抱き上げると、新しい浴衣とバスタオルを手にもって、温泉に身を清めにいった。

「んーきもちいい」

京楽に髪を洗ってもらって、浮竹はご機嫌だった。

セックスをした後に、ご機嫌になることは珍しい。

そういえば、今日は酒を飲んでいなかった。

風呂上がりに、最近尸魂界で人気の現世のビールという酒の缶をあけて、乾杯した。

「苦いけど、うまいな」

「この苦さがいいんだよ。日本酒のほうが好きだけどね」

浮竹は、果実酒が好きだった。
甘いものも好きだ。

「おまけだよ」

ポイッと投げられたチョコレートを、浮竹はキャッチするとすぐに食べた。

「やっぱ甘いものはいいな」

「あんまり、甘いものばかり食べてると、虫歯になるよ。甘味を食べているわりには、太らないしねぇ。君、痩せすぎだから。もっとちゃんと食べて、鍛錬しないと」

「分かってはいるんだが、食べても食べても、なかなか体重が増えない」

「この温泉宿で、いいものをいっぱいくって、運動しよう」

「その運動ってまさか・・・・」

「そそ。セックス」

「馬鹿かお前は。毎日なんてできるか。年を考えろ、年を」

「僕はできるけどねぇ?」

「お前は無駄に元気がよすぎだ。この性欲魔人がっ」

「ひどいいわれようだ」

「知るかっ」

クスクスと、笑いあう。

もう、何万回にもなる、同じ夜を一緒に過ごす。何百年も、恋人同士であるので、もう何千回を通りこして万になるほどの夜を一緒に過ごす。

「浮竹ぇ」

「なんだ」

「愛しているよ」

「言ってろ、ばか」

俺も愛してるよよ、心の中で浮竹はつぶやいた。





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にゃんにゃんキャンディ

「ほら、これが頼まれていたものダヨ」

「ああ、すまないねぇ、涅隊長」

涅マユリが、京楽に渡したのは小さな箱だった。

「まったく、これっきりにしてほしいね。わたしは実験と研究に忙しいのダヨ。まぁ、稼がせてもらったけれど、二度目はないからね」

「はいはい」

京楽は、渡された白い箱をもってにんまりと笑んだ。

大金をつんで、涅マユリにあるものを作らせた。上級貴族出身である京楽は、遊ぶ金がたくさんある。隊長になっての給料も大分あるのに、現世でいう銀行に、たくさんの貯金があった。その一部をつかって、涅マユリに作らせたものは、小さな箱に入るようなものだった

「これで浮竹は・・・・・・・むふふふ」

これから現実にする野望を胸に、京楽は瞬歩で12番隊の退舎を去って行った。


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「浮竹ー!」

雨乾堂を夕刻に訪れた京楽は、いつものようにずかずかと中に入っていく。

京楽を咎める者はいない。

京楽と浮竹の関係を知っている13番隊の3席である二人は、京楽がくると退舎まで下がっていった。

「浮竹ぇ~?」

「なんだ騒々しい」

京楽の永遠の想い人である浮竹が、何かの書類にハンコを押していた。

「いやぁ、浮竹。今日もかわいいねぇ」

「脳に水虫でもわいたか」

浮竹は、にまにました京楽のほうをむいた。

「飴、食べる?」

京楽は、先ほど涅マユリからもらった白い箱を懐から取り出すと、中身を浮竹の口元にもっていった。

「ん」

小粒のキャンディーだった。浮竹はなんの疑いももたずに、京楽の指ごとキャンディーを口に含んだ。

「ん?なんの味だこれは」

「抹茶すぺしゃるチョコレートうるとらいちご味」

「なんか分からんが、うまいな。甘い」

甘いものに目がない浮竹は、キャンディーを舌で転がしていた。

「何しているんだお前は」

京楽は、勝手に押入れから布団を取り出すと、それを畳の上に広げた。

「ここで寝ていくのか?」

別にそれでも構わないと、浮竹は思った。京楽が、雨乾堂にまできて眠りにくることも珍しくない。特に、浮竹が臥せっているときは、お見舞いにきてそのまま泊まっていくことも多い。
浮竹が元気な時も泊まっていくが。

よく副官の伊勢七緒に怒られているが、雨乾堂に京楽が2週間以上来ない時は、浮竹が8番隊の退舎に顔をだした。

「寝てもいいが、俺はまだ仕事が残っているから・・・・・・あれ?」

ぐらりと、浮竹の視界が揺れた。

「なんか・・・・体が熱い?」

「ふふーん」

布団に肘をついて寝転がっていた京楽は、浮竹の様子にご満悦の様子だった。

「京楽・・・・・お前、まさか飴の中に何か盛ったか?」

「正解」

今までも、酒の中に媚薬を入れられたりした経験があるので、浮竹は京楽のところまでなんとか移動すると、彼の首元の襟を締めあげた。

「このばか京楽!」

細い体躯では、京楽の首を締めあげることはできない。正常時なら、投げ飛ばすことはできるが、今かそんな力もでない。

「媚薬いりの、その名もにゃんにゃんキャンディ。気に入ってくれた?」

「なんだ・・・そのふざけた名前は」

「だから、猫になるんだよ、君は」

「猫?」

「そう。耳と尻尾が生えてくるんだ」

「そんなばかなことが・・・・・ふあっ」

手首をつかまれて、押し倒され、深く口づけされる。にゃんにゃんキャンディーとやらを飲み込んでしまい、浮竹は京楽の大きな体の下で逃れようと必死になる。

「やめろ。まだ、仕事が・・・・」

「そんなの明日にすればいいよ」

「はっ・・・」

呼吸が荒くなる。媚薬がきいてきて、熱をもった体をもてあました浮竹は、京楽を翡翠の瞳で睨みつけた。

「なんか・・・へん」

ぼふん。

音をたてて、浮竹の頭には猫耳が、臀部には尻尾が生えていた。

「いやぁ、いやぁ。かわいいねぇ、浮竹。とっても似合っているよ」

京楽は、拍手した。

浮竹は、死にたくなった。

この男は。また、ろくでもないことをしてくれた。溜息さえでそうだ。

でも、熱をもってしまった体はいうことをちゃんときいてくれない。

「猫耳だ~。ふわっふわっ」

「んっ」

猫耳を手でゆるゆると愛撫されて、浮竹は翡翠の瞳を潤ませた。

「こっちはどうかな?」

「やっ」

ゆらりと揺れた猫の尻尾に、京楽の手が伸びる。全体を撫でて、そしてくるくると器用に指に巻き付けていく。

「京楽っ」

柔らかく全身の輪郭を、手で撫でていく京楽の手のひらに、熱をもってしまった浮竹の体はあっけなく墜ちていく。

「耳、かわいいね?」

もふもふ。

京楽の唇が、浮竹の猫耳を食んだ。京楽の手は、慣れた手つきで浮竹の隊長羽織も黒装束もぬがしていく。

「京楽・・・・・・」

「ん?いい子だね、どうしてほしいの?いってごらん」

「このばか京楽っ・・・」

そんな恥ずかしいこと言えるか。

口にしない浮竹を焦らすように、薄い胸をなでて、先端をつまみあげた。

「あっ」

その感覚に、熱に苛まれた体は正直に反応した。

「京楽・・・・・」

「尻尾が揺れてるよ?気持ちいいのかな?」

浮竹の尻尾は、ゆらゆらと揺れて、京楽の手首にまきついた。

「ちゃんと気持ちよくしてあげるからね。責任をもって」

耳に息をふきかけられて、耳朶をかまれた。浮竹の白い髪をかきあげて、首筋にキスをする。

せめてもの仕返しだとばかりに、浮竹は全身を愛撫する京楽の右手を噛んだ。

「いててて。牙も生えてるなぁ」

口の中に乱暴に指をつっこまれて、そのまま指で咥内をぐちゃぐちゃにされる。唇が重なった。

かちりと、浮竹の牙が京楽の歯とあたって硬質な音をたてる。

「う・・・ん・・・」

息を継ぐことを忘れそうな、乱暴でしつこい口づけに、浮竹の猫耳がへたりと折れた。

「耳、感じるかい?」

猫耳をもふもふされて、そこが性感帯になっていたせいで、浮竹は布団の上で京楽の大きな体に尻尾をからみつけた。

「かわいいね、十四郎は。猫になった部分も、感じるんだね?」

「あっ、春水!」

すでに熱をもっていた花茎をなであげられて、浮竹は悲鳴に似た声をあげた。

いつの間にか閉じていた翡翠の瞳を開くと、京楽と視線が絡み合った。熱にうなされている浮竹の花茎に自分の雄をすりつけて、京楽は息を乱した。

「その表情、最高だよ。エロいねぇ」

「あっ」

花茎をしごかれ、あっけなく性を放つ浮竹。白濁した液体を京楽は手のひらで受けとめて、用意していた潤滑油をまぜて、浮竹の蕾に塗り込んでいく。

「っ」

京楽は、いつも潤滑油を使ってくれる。少しでも浮竹の負担を軽くするためだ。女ではない浮竹の秘部は、濡れることがない。

「んっ」

指が侵入してくる感覚に、生理的な涙が零れた。

はじめは入口をほぐすように動き、次に内部でばらばらに動く。2本だった指が、3本まで増やされると、浮竹の猫耳がぴんととがった。

「猫耳が反応してる。かわいいね」

いい年をした男を捕まえて、かわいいを連呼する京楽の気が知れないと、浮竹は思った。

病のせいで、軽くなった体重と細い体躯の浮竹は、その秀麗な容姿もあって、かっこいいというより綺麗だと言われることが多い。

でも、かわいいというのは京楽くらいのものだろう。

「ああっ」

指が、前立腺を刺激した。熱をもった体は、その喜びに尻尾をゆらりとゆらした。

「ここがいいんだね?」

「いやあっ」

何度もしつこく指でぐりぐりと刺激されて、浮竹は涙をこぼした。京楽の行為に慣らされてしまった体は、後ろだけでオーガズムで達することを覚えてしまった。

酷く淫乱になってしまった。

真っ白の髪のように、純白だった浮竹は、京楽のせいでにごり、墜ちていく。

「やあっ」

ぐちゅりと、音をたてて、去って行った指の代わりに京楽の雄々しい雄が侵入してくる。内部を侵す熱は、とてつもない重量だ。

体の大きな京楽の雄は、体に見合っただけあって大きい。それで犯される浮竹の体には、大きな負担がかかる。

だから、絶対潤滑油は欠かせなかった。

「あうっ」

内部をすりあげていく熱に、浮竹の白い髪が乱れる。布団の上のシーツを握りしめて、熱にうなされた体に与えられる刺激に敏感に反応する猫耳が、かわいいと京楽は喉をならした。

「にゃあって、いってみて?」

「いやだっ・・・・・・ああっ!」

前立腺を突き上げられて、浮竹は京楽の体にしがみつくと、肩に牙をたてる。

「かわいいねぇ、必死な抵抗して。でも無駄だよ」

ぐいっと、足首を持ち上げられる。人工灯に、繋がっている個所が晒される。ぐちゃぐちゃに犯される。水音をたてては、出入りする雄は、少しも萎える様子はなく、浮竹は追い上げられていく。

「にゃあっていってくれなきゃ、いかせてあげない」

「春水っ」

前を京楽の手で戒められた。

イきたいのに、イけない。内部を犯されることで、性を放たないまま頭が真っ白になり、オーガズムで達してしまった。

「ほら、十四郎」

「にゃあっ!」

ゆらりと、尻尾が揺れた。

猫の声を出すと、前を戒めていた手が離れ、浮竹の花茎はすぐ限界を迎えて性を放った。

「やっ、イってるのに、イってるのに、犯さないでぇっ」

精液を吐き出す浮竹の花茎をしごきながら、京楽は浮竹の前立腺をこすりあげ、突き上げていく。

「も、やぁっ!」

また性を放った。普段は淡泊な浮竹は、媚薬をもられたせいでいつもより乱れて性を放つ回数も多い。

オーガズムでも、もう何度も達してしまっていた。

「あ、あ、あ、春水、春水、にゃああ・・・・!」

自分でももう何をいっているのか浮竹は理解していなかった。

媚薬に侵された体は、京楽が与える刺激に敏感に反応した。

ゆらゆら揺れる尻尾と、ぴくぴくと痙攣する猫耳。

体位を変えられ、後ろから犯され始めた。本当なら、何度ももう浮竹の内部に熱を放っているところだが、今日は特別に京楽も薬を使っていた。

長く、犯せるように。

「にゃあって、いったのにぃぃ」

まだ解放されなくて、浮竹は布団のシーツを、猫化したことで長くなってしまった爪でひっかいた。

すでに京楽の背中はひっかき傷だらけだ。

「あ、あ、あ、も、や・・・・・」

ずちゅずちゅ。ぐちゃり。

結合部は激しい交わりに、泡立ち、ピストン運動を繰り返す京楽も限界が近づいてきていた。

「愛してるよ、十四郎・・・・っ!」

じんわりと、熱い熱が、浮竹の体の最奥に放たれた。ドクドクと、飲み込んでいく内部はとろけそうに熱い。

「も、終わりにしてくれっ・・・・変になる・・・愛してるから・・・・にゃあああ」

一度性を放っただけで、京楽は満足しなかった。

「にゃあ!」

思考まで、もうほとんど猫化が進んでいる浮竹。、

媚薬の量は、少なかったが、浮竹には十分すぎる量だった。

浮竹の最奥を突き上げながら、体を揺らすと、浮竹の翡翠の瞳が涙を零した。

「は・・・・・・・・も、無理・・・・・・・・・」

二度目の性を、浮竹にぶつける頃には、浮竹はすでに意識を手放し、真っ白な闇に墜ちていた。

「あー最高。愛してるよ、十四郎」

満足して、結合部から雄をぬきとると、とぷんと白濁した液体が布団のシーツに零れ落ちた。



にゃんにゃんプレイ。楽しませてもらいました。

涅マユリに感謝。

手で拝んで、慣れた手つきで意識を手放した浮竹の体を蒸したタオルで綺麗にふき、中に放った性をかきだす。

黒装束と、隊長羽織は洗わないといけない。

体液がこびりついている。

まぁ、変えはあるのでよしとしよう。

浮竹を味わった京楽は、猫耳と尻尾が消えるまでそれらをいじっていた。

薬の効果は5時間ほど。

長く浮竹を犯していたので、3時間はにゃんにゃんキャンディで交わっていたことになる。

「最近短かったからなぁ。久しぶりだったし、浮竹が起きたら謝らなきゃ」


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「最悪だ。起きたら体中が痛いし、腰は重いし、何より・・・・内容をあんまり覚えていないが、最悪だった」

「またまたぁ。浮竹も、にゃんにゃん鳴いて、かわいかったよ?」

後ろから抱きしめられて、ぶすっとむくれた白い美貌の浮竹は、うなじに口づけしてくる京楽に体重を委ねた。

「あほ京楽」

「ははははは。でも、きもちよかっただろ?」

「知るか!」

顔を真っ赤にして、やはり少しは記憶が残っているらしい浮竹。

はじめて媚薬を酒に盛られた時は記憶がふっとんでいたが、今回は量としては少なったので記憶が残ったのだろう。


「愛してるよ、浮竹」

「ん」

さも当たり前だとばかりに、京楽に甘える浮竹。

院生時代から肉体関係をもって、数百年。マンネリ化するのを防ぐために、京楽は手練手管を使って浮竹を翻弄する。

「愛しているって、いって?」

「いやだ」

「まだ、犯され足りないのかな、君は」

うなじをなめられて、浮竹は身震いした。

「愛している京楽、もうけっこうだ」

しばらくは、えっちは禁止だろうな。京楽は思った。

院生時代は、それこそ若く盛っていたが、大人になり、護廷13隊の隊長になり、数百年。
齢を重ねたせいもあり、体を求めあうのは少なくなったが、内容は濃くなっているかもしれない。

浮竹の意識を飛ばすまで、求めることが多くなった。もともと淡泊な浮竹は、病のこともあり、肉体関係を求める京楽に、仕方なしに応じていることがある。

京楽の浮竹への執念は、狂気じみたところがある。

下手をすれば、浮竹を壊してしまいそうだ。

分かっていながら、浮竹を求めてしまう。

「本当に、愛しているんだよ・・・・・・」

浮竹の髪に顔を埋めて、京楽は病で細くなったその肢体を抱きしめて、お互いに体温を共有しあった。

浮竹は、行為の後に微熱を出すことが多い。本当は、交わるべきではないのだと、分かっていても、自分だけのものにして、閉じ込めておきたい。

あの翡翠の瞳に、僕だけを映すようにしたい。

いっそ、二人きりで逃げ出そうか。

でも、どこへ?

「愛してる」

「ん」

浮竹は、小さく相槌をして、伸ばされた京楽の大きな手に頬を摺り寄せる。

まるで、子猫だね。

言葉を、京楽は飲み込んだ。

「とにかく、今回だけだからな。今度媚薬やら変な薬とか使ったら、半年はエッチしないからな」

「えー。そりゃないよ。せめて、半月にしてよ」

「半年だ。1年でもいい。俺は別に、お前と違って交わらなくても生きていけるからな」

純白で純粋な浮竹を、どす黒く汚して墜としていくのは京楽にとって愉悦に近かった。

黒く汚しても汚しても、純白を失わない浮竹が好きだった。肉体関係なしでやっていくことはできるだろうが、できれば浮竹を自分のものとして染めていきたい。

真っ白な浮竹。

何も知らなかった。

自慰さえ、知らなかったに近い。

全部、京楽が教えた。男なのに、男に抱かれて喜ぶことも教えた。鳴かせることを覚えさせた。

おっと。

いけないいけない。

謝っておかねば。

「ごめんねぇ、浮竹」

「もう、別にいい」

京楽の膝の上に座って、浮竹は怒ってはいないようだった。

にゃんにゃんキャンディはまだあるが、もう使えないだろうな。一度使って満足したので、まぁそれでいいのかもしれない。

浮竹は、薬とか道具とかを嫌がるから。

大切にしようとすればするほどに、傷つけてしまっている気がする。

「今度、温泉にいこうか。うまいもの、食いにいこう」

「ん」

浮竹は、短く答えて、京楽に抱き着いた。

「どうしたの」

「なんでも、ない・・・・・・・」

浮竹の体温が熱い。微熱より高い体温になっている浮竹を抱きあげて、京楽は新しくだした布団の上に浮竹を寝かせた。

「まだ、朝早いから。無理させてしまったね。熱の下がる薬を飲んで、寝なさい」

「京楽、お前はいくな」

「薬をとりにいくだけだよ」

「目の届くところにいろ」

「無茶いいなさんな。ちゃんと側に戻って、目覚めるまで一緒にいるから」

「本当に?約束できるか?」

「ああ、本当だとも」

甘えてくる浮竹の、白い髪を手ですいてから、京楽は浮竹の少し熱を持つ額に口づけた。

「いつまでも、そばにいるよ、浮竹」

「信じてやる。約束だ」

恋人になって数百年。

時をいくら刻んでも、お互いの想いは変わらない。

きっと、終焉を迎える時まで。


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ひらひらと。

ひらひらと。桜が降る。

季節は春。

「やっぱ、この場所をとってよかったねぇ」

「ああ、そうだな」

現世にも四季があるように、尸魂界でも四季がある。

桜の花に囲まれながら、京楽と浮竹は花見をしていた。無論酒をのんでいる。

ひらひらと。

一枚の桜の花びらが、浮竹の杯の上に浮かんだ。

「風流だねぇ」

「ああ。綺麗だ」

「僕は、浮竹のほうが綺麗だと思うけどね」

白い髪に白い肌、翡翠の瞳、秀麗な容姿。

さらさらと風に吹かれて長い髪が流れるのと一緒に、さぁぁぁと桜の花びらが散って優しい雨が浮竹を包み込む。

まさに幻想的。

「桜の木の下には、死体が埋まってるって知ってるかい。だから薄紅色なんだよ」

「ただの迷信だ」

酒をぐっと呷って、浮竹は空になった杯に酒を注ぐ。

浮竹は酒に弱いわけではないが、強くもない。

逆に、京楽は酒豪だった。浴びるように飲む。酔わないわけではないが、飲み潰れることはなかった。

京楽と付き合って飲んで、先に潰れるのはいつも浮竹だった。

「伊勢君を呼ばなくてよかったのか?」

「そういう君こそ、三席の二人を呼ばなくてよかったのかい」

「あの二人は頼もしいけど、すぐにケンカするからなぁ。それに、たまには俺も京楽と二人だけで花を見ていたい」

それって殺し文句だよ。

京楽は、言葉を飲み込んだ。

「まぁ、一杯」

京楽が自分でもちこんだ酒を、浮竹の杯に注ぐ。浮竹は、逡巡もなしにそれを呷った。

「く、強いなこれ」

アルコール度の高い酒だ。現世にいった部下に買ってこさせた、ウォッカという名の酒だ。

「ウォッカっていってね。極北の地で、体を温めるために飲むものだそうだよ。浮竹にはちょっときつかったかな」

「俺は、もう少しアルコール度の低い酒の方が好きだな」

ぺろりと、唇を舐める浮竹の仕草に、京楽の喉がなった。

「ねぇ、ちょっといいかい?」

「何が・・・・ふわっ」

ついばむような口づけをされて、浮竹は驚いて目をきょとんとさせていた。

酒の勢いで、性行為をすることはけっこう多いが、流石に外ではしない。浮竹が嫌がるからだ。

「離れろ京楽」

唇を指でなぞられ、白い頬から細い首筋に落ちていく京楽の手を、浮竹が遮った。

「外だぞ、ここは。誰がくるかわからない、やめ・・・・」

深く口づけられる。舌がするりと入ってきて、上あごをくすぐり、歯茎をなぞって、浮竹の舌をからめとる。

「きょうら・・」

頭がぼんやりとなる。京楽のペースに飲み込まれるのは時間の問題だ。

「はい、おしまい」

せめてもの抵抗とばかりに、ぽかりと殴られて、京楽は浮竹を貪ることをやめた。本当なら、今すぐ押し倒してぐちゃぐちゃに犯したいが、外での行為を浮竹は嫌がるので、我慢だ。

「まったく・・・・・・・」

少し乱れた衣服を整えて、浮竹は京楽の杯をぶんどると、ぐいっと呷った。

「ああ、僕のお酒!もう、ちょっとしかなかったのに!」

「ふん。盛るからだ、このばか京楽」

ひらひらと、花びらが降ってくる。

馴染みの店で買った弁当を敷布の上に広げて、浮竹は酒はもういいとばかりに、花を見ながら卵焼きをかじっていた。

京楽も弁当を食べながら、酒を飲んでいる。

二人きりの花見は、静かだ。

わいわいとした、部下たちと一緒に花見するのもそれはそれで楽しいが、たまにはゆっくりと二人きりで花見をしたい。

京楽の誘いに、かじりついた形の浮竹だったが、京楽にとっては浮竹と二人きりになれる口実だ。

京楽は、浮竹を愛している。あまり表に出さないが、浮竹も京楽を愛している。

もう、院生時代からの付き合いだ。肉体関係をもった恋人になって、数百年もたつ。

おじさんといわれても仕方のない年齢にまできたが、それでも浮竹の秀麗な容姿は衰えなかった。

白い髪は、京楽が綺麗だから伸ばせばいいと何度も囁くので、伸ばしていたらいつの間にか腰より少し短いほどに伸びてしまった。

洗髪とかかわかすのとかけっこうめんどくさいが、似合っている、切るなと言われて伸ばしたままだ。長くなりすぎると、京楽が切りそろえてくれた。

京楽は、アルコール度の強い酒より、甘めのアルコール度の低い酒を好む。現世でいう果実酒やカクテルなどだ。

今日も、浮竹がもちこんだ酒は果実酒だった。

「ああ、幸せだなぁ」

浮竹の膝枕に寝転んで、京楽はご機嫌である。

浮竹は、同じく伸びた京楽の黒い髪を撫でていた。

京楽の髪はくせっ毛で、肩甲骨のあたりまで伸ばして結って、女ものの簪をさしている。女ものの着物も羽織っている。

それが似合うのだから、京楽の容姿も十分にいい。浮竹のように儚い幻想的な色を帯びた容姿はもたないが。

二人の関係は護廷一三隊でもかなり有名だ。できてるって、ほとんどの死神が知っている。

隊長羽織を互いに間違えてたり、浮竹からは京楽の酒の香りがしたり、逆に京楽からは浮竹の甘い花のような香りがしたり。

人目を憚らずいちゃついているわけではないが、本人たちはあまり隠そうとしていない。

「そういえば、このまえ日番谷隊長に、お菓子をプレゼントしたら、養命酒を送り返された」

「ぶっ」

京楽はふき出した。

「養命酒か。まぁいいんじゃないの。酒であることには変わりないだろうし」

「なんだか年寄り扱いされているようで」

「実際、僕たちいい年だからねぇ。何百歳になるっけ?数えるのやめてから随分と経つなぁ」

日差しがぽかぽかとしていて心地よい。

二人は、また酒を飲みあった。

京楽が浮竹に酒を注ぎ、浮竹が京楽に酒を注ぐ。

そんなことを繰り返していたら、もちこんだ酒が切れてしまった。弁当も食べ終わってしまい、後はただ桜の花を見上げるばかり。

ひらひらと、桜の雨が降る。

二人は、草っぱらの上で横になって、桜を見上げた。

「浮竹ー」

「なんだ、京楽」

「また、来年も二人で花見にいこうね」

「ああ、そうだな」

「今年は、そうだな。黒崎一護くんや朽木ルキアちゃんも誘って、わいわいやろうか」

「それもいいな。日番谷隊長や朽木隊長も誘おう。他にもいろんなメンバーを誘おう」

みんなでわいわいする花見もまた楽しいものだ。

尸魂界は、かろうじではあるがまだ平和が保たれている。

現世に赴くことのほとんどない浮竹と京楽は、現世に派遣される死神たちからいろいろと贈り物をもらうことが多い。

甘いものがすきな浮竹には甘味ものを。酒が大好きな京楽にはいろんな酒を。

「少し、眠ろうか」

「そうだな」

二人で見る花見。満足していたら、眠くなってきた。

今は二人以外誰もいない。仕事はもう片付けてある。さぼりがちな京楽だが、浮竹と二人の時間を作る時は本気で仕事を大量に短時間で済ませてしまう。

浮竹は、臥せっていない間に仕事を片付ける。

「ああ、風邪はひかないようにね」

浮竹に上着をかける京楽。

「あれ、浮竹ぇ?」

もう、すーすーと眠ってしまっている。浮竹は寝付きがいい。特に酒を飲んだ後はよく寝てしまう。

京楽は、浮竹の手をとって、口づける。

「おやすみ。いい夢を。さて、僕もねるかなぁ」

ひらひらと。

二人の上に桜が降り積もる。

ひらひらと。

浮竹の白い髪に、桜の花が降り注ぐ。

ひらひらと。

京楽の笠に、桜の花びらが舞い落ちる。

ひらひらと、ひらひらと。桜の薄紅色に包まれる世界。

静謐に満ちた、薄紅色の世界だった。

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比翼の鳥

「やあ、浮竹」

「・・・・・なんだ、京楽か」

雨乾堂を訪れた京楽を待っていたのは、病に臥せっている浮竹だった。

「外はいい天気だよ。もう少し熱が下がったら、一緒に川辺でも散歩しようじゃないか。きっと風がきもちいいよ」

京楽は、かぶっていた笠をとって、浮竹の寝ている布団の隣に座った。

「散歩か。ここ一週間は外出してないからな。それもいいだろうな」

今は、とてもじゃないが、散歩にでかけれるような体調ではなかった。

大分熱は引いたが、まだ微熱が続いている。肺の病は、浮竹の体を確実に蝕んでいる。熱をだすのもしょっちゅうだ。

院生時代よりは少しましになったが、それでも護廷十三番隊、隊長であることを否定するかのように、病に倒れてしまう時がある。

山本元柳斎重國も、浮竹を護廷十三番隊の十三番隊長に任命をすることを、少しだけ逡巡したほどだ。

隊長に任命されても、病はかわらず浮竹を蝕んでおり、臥せっていることが大半で、任務がある時は無理をしてでも出陣する。

そして疲れ、また臥せる。小健康を取り戻しても、四番隊の世話になるくらいだ。

「京楽・・・・」

熱で潤んだ翡翠の瞳が、懇願してくる。

京楽は、にこりと笑って、浮竹を抱き上げた。

「太陽に当たりたいんだね」

「ああ、頼む」

もう、一週間も寝込んだままだった。体は部下の死神の3席である二人がふいてくれたりして、清潔は保っていたが、それでも湯あみをしたい。それがかなわないと分かっているから、せめて太陽の光にあたりたかった。

雨乾堂は、設計上日の光が入ってきても、淡い光しか入ってこない。ましてやぽかぽかした太陽の光に当たりたい時は、外に出て池の前に座りこむくらいしかない。

よく、池の鯉に餌をやるのだが、最近なぜか鯉が増えてきたような気がする。

それが11番隊の副隊長であるやちるのせいだとは、まだ気づいていない。

やちるは、お見舞いともちこまれた浮竹のお菓子を遊びにきては平らげ、去っていく。

やちるは、お礼にと名家である四大貴族の朽木家の鯉をとってきては、雨乾堂の近くにある池に放っていた。

布団から京楽の腕の中に移動した浮竹の体重は、悲しいほど軽かった。

「食事はちゃんととらないとだめだよ。また痩せたね?」

「食欲がなくてな・・・・栄養はとらないと、分かってはいるんだが」

さらりと、浮竹の長い白髪が、外にでたことでふいてきた小さな風で京楽の頬をくすぐった。

「ここでいいかい?」

「ああ。すまないな」

京楽に抱きかかえられるのは慣れている。

痩せたねと、悲しい顔をされるのも慣れている。


「ごほっ、ごほっ・・・・・・」

「ああ、やっぱりまだ無理だ。部屋に戻ろう」

「いや、もう少しだけ。鯉に餌もやりたいし」

浮竹を抱えたまま、京楽は懇願してくる浮竹の我儘を、聞き届けることにした。

欄干ごしに、京楽の腕の中から鯉に餌をやると、面白いほど鯉が集まってきた。

「相変わらず凄い数だね」

「俺の自慢なんだ。いい色合いをした子がおおいだろ」

「ああ、あの白に赤の模様がある子。浮竹に似ているね」

白い肌、白い髪。吐血するときの鮮明な真紅。

鯉に餌をやり終わる頃には、ぽかぽかとした陽気にあてられて元気がでたようで、浮竹は京楽の腕からおりて、板張りの通路に自分の足で立っていた。

「浮竹は、まるで白い花だね。太陽の光を浴びて元気になって白い花を咲かす」

花に例えられても仕方ない秀麗な容姿をしている浮竹。

「なら、お前は太陽だな」

お互いに背を向けあって、通路に座り込む。板張りのせいで、冷たくはない。

だが、上着をきていない浮竹を気遣って、京楽は自分がいつも着ている女ものの、値段が驚くほど高い着物を、浮竹に羽織らせた。

「やっぱり、君は赤が似合うね」

色素の抜けた髪と、色素がないような肌に、京楽の赤みを帯びた着物はよく似合っていた。

「赤は、あまり好きじゃない」

吐血するときの色だ。生命の色だ。

京楽とは、院生時代からの付き合いだ。この腐れ縁は、もう数百年にもなる。

何処までも、浮竹に甘く優しい京楽。それに自然と甘えてしまう浮竹の全てを、京楽は愛していた。

「浮竹、じっとしていて」

「?」

京楽は、音もなく優しく浮竹を抱きしめた。それから、触れるだけのキスをして、離れていった。

「病み上がりの君に無理させられないからね。しばらくお預けをくらっとくとしよう」

「この前、微熱があったのに襲ってきたのはどこのどいつだ」

「さて、知らないなぁ」

クスクスと笑う京楽。ため息を零す浮竹。

「早く元気になりなよ。もう、一か月以上、君を抱いていない」

京楽は、紳士的ではあるが、一度火が付くと浮竹に夢中になってしまう。浮竹に無理をさせていると分かっているのに、その体を求めてしまう。

院生時代のように、若さに溺れての行為はなくなったが、それでも京楽は浮竹を欲しがった。
もう数百年も続いているこの関係が、不思議でもあった。

愛というものは不滅であると思うほどの時間を、二人で過ごしてきた。

お互い、いい年をした大人だ。子供から見れば、おじさんと呼ばれるような年齢になってもなお、二人の関係は変わらない。

「ごほっ、ごほっ!」

浮竹が、せき込んだ。

口元を手で覆って、せきこむ。

ぽたり、ぽたり。

真紅が、浮竹の指の間からこぼれた。

「浮竹!四番隊のところにいこう。吐血するほど、悪かったなんて思わなかった、すまない!」

浮竹の、悲しいほどに軽い体重を抱き上げて、京楽は走った。


四番隊の退舎につくと、浮竹はすぐに運ばれていった。


「浮竹・・・・・・・俺が太陽なら、君は月だよ」

運ばれていく浮竹の頬をなでてから、悲しそうに目を伏せた。

浮竹が、京楽を太陽と例えた。ならば、対をなす月は浮竹しかない。月のように、儚い浮竹。


「早く、元気になっておくれ」

処置が終わり、面会を許された。

白く細い指をした浮竹の手を握りしめながら、京楽は祈った。

早く、よくなってほしい。

また、酒を飲みに行こう。花見にいこう。散策をしよう。買い物にでかけよう。何か美味しいものを食べに行こう。温泉もいいかもしれない。

「浮竹、愛してるよ。不滅の愛を、君に。だから、早くよくなって、また微笑んでくれ」

浮竹の意識が戻るまで、傍にいたかったので、四番隊の病室で椅子に座りながら手を握ったまま、いつの間にか京楽は眠ってしまった。

ここ半月、浮竹の調子が悪いせいもあるし、仕事に忙殺されてなかなか会いにこれなくて、時間をみつけて仕事をさぼって会いにきてみれば、悲しいほどに痩せて、儚さが一層増した浮竹。

白い髪は、切られることも忘れて腰の位置より少し長くなっていた。
いつもなら、腰の位置にくる前に切り揃えてあげるのに。
浮竹は、副隊長だった志波海燕を亡くしてから、副隊長をあらたに選ぶことがなかった。 

周囲の世話は、第3席である小椿仙太郎と、虎徹清音が率先して行っていた。


「・・・・・ん」

「気づいたかい、浮竹」

浮竹の意識が戻ったのは、その日の夕暮れだった。半日近く眠っていた。

「もう少し、寝ていたほうがいいよ」

「・・・・・・京楽、ずっと傍にいてくれたのか。すまない・・・・・・」

「いいんだよ。僕が好きでやってることなんだから」

「とにかく、もう少し眠りなさい」

「無理だ。寝すぎて、逆に頭が痛い」

具合は大分よくなっていて、せきもしていないし、熱もひいていた。これなら、もうすぐしたら、許可を得て、雨乾堂に戻っても大丈夫だろう。

「じゃあ、横になっていて。何か話をしてあげる」

「子供か、俺は」

「まぁそういわずに。この前ね、七緒ちゃんが・・・・・・」

他愛もない会話をして、笑い、驚く。

比翼の鳥は、片方が失われると失墜する。

それは京楽と浮竹だ。

二人は、二つで一つのようなものだ。

太陽と月。そんな関係。

何百年も変わらない。

「でね、山じいが・・・・・・」


「はははは」

浮竹が笑うと、京楽も楽しくなる。浮竹が悲しくなると、京楽も悲しくなる。浮竹が苦しい時は京楽の心が苦しくなる。

まさに、比翼の鳥。

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白い白い世界

「好きだよ」
はじめてそう言われて何百年がたっただろう。


下級貴族の長男としてうまれ、育った浮竹。家庭環境は貧しくもなかったし、金持ちでもなかった。
大貴族の次男として生まれた京楽がもし、浮竹の生い立ちに代わりになっていたならば、あの暮らしは退屈なものだっただろう。

贅沢をする余裕はあまりない。父親と母親も働いているが、子供が5人もいて、しかも長男が病で薬代にばかみたいにお金がかかる。
病で髪が白くなったとき、もう自分は長くないのだと思った。肺の病は癒えない。鮮血をちらして、倒れては寝込む。

妹や弟の面倒を、それでも浮竹はみていた。だが、体が弱すぎた。

浮竹にとっては、毎日寝たまま窓から見える景色だけが全てだった。四季の移ろいも、色あせていくほどに、病に蝕まれていく。

けれど、彼は助かった。健康とは呼べないものの、吐血するときもあるが、昔ほど寝込むことが少なくなった。

そして、自分に霊力が並外れてあると悟った両親は、浮竹を護廷十三隊に入れると有名な学院に、試験を受けさせてくれた。死神になろうと思ったことは、子供の頃の浮竹にはなかった。
だが、父や母の手を煩わせずに、死神として成功すれば。

少しでも親孝行ができるのなら。

望んで、試験をうけ、首席で入学した。特別クラスになれた。

未来は、色づいて見えた。



「好きだよ、浮竹」

あれから数百年も経つのに、京楽の想いは変わらぬままだ。白い白い浮竹を好きになってしまい、長くなって結うのも面倒になった髪は、京楽が伸ばしてほしいといった言葉を受け入れたまま、もう何百年も長いままだ。腰より少し上で、いつも切りそろえる。

京楽は、浮竹のことが好きだった。その想いに気づいたのは、院生の頃。気づけば、いつも京楽の傍にいた。
京楽の隣にいるのが当たり前になっていた。

「京楽は、もの好きだな・・・・・」

今でも思う。想いのたけをぶつけるのは京楽のほうで、浮竹はそれを受け止めてやんわりと微笑む。

京楽のことが、嫌いなわけじゃない。嫌いなら隣にいたりはしない。

むしろ好きだ。

京楽とそういう関係になって、数百年。

お互いが一番大切。時折暴走しがちな京楽に、振り回されることはあっても、あくまで穏やかに時間は流れていく。

それぞれ隊長となったが、院生の頃と変わったのは髪の長さや強さだけではない。

恋愛というかけひきが、数百年にも及ぶとは思わなかった。いつか終焉が訪れると分かっていても、別れなかった。

ただ、比翼の鳥のように、お互いを支えあった。
他愛もないことを考え、笑い、遊び、鍛錬したあの頃が懐かしい。





今から数百年前。
首席で院生となった浮竹は、病のせいもあり座学の成績が落ち気味になっていた。それでも勉学に励み、常にTOPを争うほどの成績になれたのは、院生になって2年も経った頃だ。

すでに京楽春水とは出会っていた。

入学式の日に、上流貴族が学院に入ると噂をされて、入学してきた京楽を、浮竹は目で追った。

視線が絡みあう。

「その髪・・・・・染めてるの?」

真っ白な、髪。

浮竹にとってはコンプレックスに等しい。

翡翠色の瞳が、少し悲しげに揺れた。

「染めていない。子供の頃、病のせいで色素がぬけてこうなってしまった。この髪の色は嫌いだ」

だから、短めにしていた。

「綺麗なのに。伸ばせばもっと綺麗になるよ?僕は京楽春水。よろしくね」

そっと髪にふれてくる手を、打ち払わなかったのは、京楽春水と名乗った人物がやけにふわふわとして、心が読み切れなかったから。

白い髪のせいで、奇異の目で見られることは少なくなかった。霊力があるから余計に遠巻きにされて、子供の頃は友と呼べる存在があまりいなかった。

「俺は浮竹十四郎だ」

ふわりと微笑んで、伸ばされた手と握手する。京楽の手は、暖かかった。

満開の桜がふわりと風に散って、浮竹の髪に落ちた。

それをつまんで、京楽は優しい目で浮竹を見た。

「友人にならないかい?できれば、親友に」

「ああ、いいが。だが、まだ出会ったばかりだぞ?」

「いいの。僕が君を気に入っちゃったんだから」

「変なやつだな」

浮竹は笑った。



きづけば、本当に京楽春水と、友になった。親友になった。

院生になって2年がたった頃、よき友人となっていた彼、京楽春水は、明るかったがどこか悲しげだった。

「浮竹。本当に調子はいいのかい?」

治ることのない肺の病を抱え、数日前倒れて3日ほど寝たきりになっていた浮竹を、京楽は心配そうにのぞき込んだ。


「ああ、いつものことだ。気にしないでくれ」


差し障りのない会話。


白くなった髪に、そっと触れてくる京楽は優しかった。

「君、もう少し肉を食ったほうがいいよ。少し痩せたんじゃないかい」

「ああ、そうだな。今日は調子もいいし、焼肉でもくいに行くか?」

症状はおさまっている。消化にいいものを最初にたべ、そろそろ普通の食事もしていいはずだ。

「君は、本当に・・・・・・」

京楽は言葉を飲み込んだ。

頭に手が伸ばされる。

少し伸びた白い髪を、その手がすいていく。

そしてわしゃわしゃと、浮竹の頭をぐちゃぐちゃにした。

「何するんだ。前が見えなくなる」

浮竹は不機嫌そうな声をだして、京楽の手を払いのけた。

短かった髪は、今は肩まで伸びている。

京楽が、綺麗な髪だから切るのはもったいないと何度も囁くので、伸ばしていた。

「好きだよ、浮竹」

京楽の声が好きだった。
その優しい手が好きだった。
「ああ、俺もだぞ」
でも、京楽の好きと浮竹の好きの意味は違った。
京楽は恋愛感情で、浮竹は友として、だった。
「じゃあ、夜に迎えにいくから酒でも飲みながら肉を食おうか。うまい店を知っているんだ」
京楽は酒が好きだ。同じくらいに女も好きだ。
そんな彼が、何故浮竹を恋愛感情で好きになったのかは分からない。彼だけが知っている。
酒と女遊びが派手な親友だったが、院生1年の終わり頃から、京楽は随分静かになった。
朝帰りもなくなったし、廓で女を買うこともなくなった。
「じゃあもういくね。好きだよ、浮竹」
何度好きだと京楽が浮竹に伝えても、それは友として処理され、伝わらない。
いっそ、無理やり自分のものにしてやろうかと考えたことは一度や二度ではない。だが、京楽は浮竹を失うのを何よりも恐れている。
今の関係を壊してしまったら、二度と元に戻れぬのではないかと。
親友という位置はよかった。浮竹の隣に常にいれる。浮竹の笑顔を見て、笑いあって話せる。
浮竹を落胆させることはしない。授業をさぼるのも少なくなった。課題を出されても、提出するようになった。大貴族である京楽が、酒に溺れていても注意する者はいない。
大貴族という身分の隔たりが、京楽と他の院生との間に溝を作っていた。そんな中、浮竹は酒に溺れるなと叱ってくれる。
別に、京楽に浮竹以外の友がいないわけではないが、浮竹のような親身になって世話をしてくれる友はいなかった。
浮竹は、京楽の堕落を止めるストッパー的役割だった。
窘め、反省させ、道がずれそうになったら戻してくれる。
浮竹は、体こそ弱いが、剣の腕も鬼道もずば抜けた成績だった。京楽もだ。だが、座学では浮竹のほうがはるかに上だ。
いつもTOP争いをしている。
そんな浮竹の頑張り具合を見るのも、京楽の道楽の一つだった。本気になれば京楽だって10位以内には入れる。だが、分からないふりをして浮竹から勉強を教わるのはやめれない。
浮竹の傍にいる理由にもなる。
浮竹の周囲には常に友人があふれており、京楽にはそれが眩しかった。
自分にはもっていないものを、浮竹はいっぱいもっている。
肺の病のせいで白くなった髪を浮竹は嫌っていたが、京楽は好きだった。だから伸ばせと囁いたのだ。
自分の言葉通り、髪を伸ばす浮竹が愛しくてたまらなかった。
白い髪、白い肌、秀麗な容姿、誰にでも優しいその暖かさ。
その暖かさに触れていくうちに、京楽まで暖かくなっていた。
「風呂にでもはいってくる。じゃあな、京楽」
浮竹は、3日もねこんだせいで、風呂に入れなかったので汚れを落とすために風呂にいった。
院内の寮は、個人部屋もあれば相部屋もある。浮竹も京楽も寮に入っていて、お互い一人部屋だ。
風呂に消えていった浮竹に手をひらひらとふりつつ、京楽は浮竹の部屋を出た。
「うまい」
浮竹の目が輝いている。
連れてきてよかったと、京楽は思った。
最近馴染みになった焼肉の店だ。無論酒もたくさんあって、何を注文しようか迷ってしまう。
「これも食べてごらん」
京楽は、自分の分の肉も浮竹に食べさせていく。
浮竹は高い料亭などを苦手としている。下級貴族であることもあり、贅沢は好きでない。金銭的な面では、肺の病のせいでその薬代にほとんど消えていく。
今日は、京楽のおごりだった。
肉は美味で、酒もうまかった。
連れてきて正解だったと、京楽は思う。
「お前ものめ、京楽」
頬に赤みがさしている。
少し酔いが回った浮竹の杯に、京楽は酒をつぎ足し、浮竹がすすめてくる果実酒を、京楽は一気に飲んだ。
「ここの酒はうまいな」
普段は日本酒を飲んでいるが、果実酒も好きだ、浮竹は。
京楽は酒であればなんでも好きだ。
「頼むから、飲み潰れてくれるなよ」
酔った京楽を介抱するのは浮竹の役目だったが、その反対はかなり珍しい。
肉だけでなく野菜や魚も口にして、果実酒をおかわりして、京楽も少し酔いがまわってきた頃には浮竹は完全に酔っていた。
珍しい。
ここまで、浮竹が羽目を外すのは。
「浮竹?おーい浮竹ー」
揺さぶってみるが、とろんとした目で京楽を見上げると、浮竹はふわりと笑って倒れた。
「浮竹!」
慌てて抱き起すが、すーすーと眠っている。
「あらまぁ」
すっかり酔いつぶれた浮竹を背負って、勘定を済ますと京楽は店を出た。
ここ最近は浮竹も背が伸び、京楽とあまり差がない。
ただ、体重は違う。肺の病のせいで、何も喉を通らないことや寝込んだままの時のある浮竹は、鍛え上げているため筋肉がついていないわけではないが、京楽よりはるかに軽い。
「おいとましますか」
本当はお姫様抱っこというのをしたかったが、人目がおおいので背負った。
浮竹が血を吐いて倒れるのを、救護室に抱きかかえて運ぶのはもはや京楽の役目になっていた。
軽い体重。
動きにあわせて揺れる白い髪。
ふわりと甘い匂いがする。果実酒のにおいだ。浮竹からは他にお日様においがした。浮竹のにおいだ。
「どっこいせ」
寮の、浮竹の部屋まで彼を運んだ京楽は、眠りこんでしまった浮竹を寝台に横にして、その白い髪をすいた。
「浮竹・・・・」
今日は月夜だ。
ぼんやりと人工灯と月夜に照らされる浮竹は、幻想的なくらいに綺麗に見えた。
「ちょっとだけ・・・・ね?」
京楽の手が伸びる。
浮竹の唇を手の指でなぞり、そっと口づけした。
口づけすること自体は、初めてではない。倒れた浮竹の意識がないのをいいことに、何度かしたことがある。
「京楽・・・・・・」
はっと、身構える。
軽く口づけするつもりが、少し長くなってしまった。
意識を取り戻した浮竹が、こちらを見ていた。
ごくり。
京楽の喉がなった。
頬を朱くして、浮竹はじっと京楽を見上げていた。
その熱のこもった視線に、京楽は困惑した。もっと、侮蔑するような視線を気にしていたからだ。
「京楽・・・・こっちに、こい」
寝台の上の隣をぽふりとたたいて、浮竹は京楽を促す。
京楽はそれに従った。
ぱさり。
浮竹の髪が、頬を撫でた。
覆いかぶさってくる浮竹に、京楽は逡巡する。
「気づいてないとでも、思っていたのか」
浮竹の瞳が、潤んでいた。
「いやー、まぁそのつい」
「誰にでも、こんなことを?」
「いいや。浮竹だけさ。好きだよ、浮竹」
「俺は・・・・・・」

「無理をしなくていいよ。気持ち悪いなら、突き放してくれていいから」

覚悟を決めた京楽が、覆いかぶさったままの浮竹の、白い頬に手を添えた。

「気持ち悪くなんか、ない。ただ・・・・どうすればいいか、分からないだけだ」

「この体勢でそう言われてもねぇ」
浮竹の体勢が入れ替わる。
京楽に押し倒されて、浮竹は酒で火照った体を京楽にすりつけるように、体を抱きしめてきた京楽に触れる。
酒の飲みすぎのせいにしてしまおうか。

迷う。

京楽の、狂おしいまでの愛に、浮竹は気づいていた。だが、答えたことはない。

「俺は・・・・京楽が、好き、なのか?」

浮竹は、京楽が頬やこめかみにキスを降らせてくるのを、嫌がりはしなかった。

分からない。嫌いではない。好きだ。

だが、同じ男性だ。

浮竹にその手の趣味はない。それは京楽もだろう。

「好きだよ、浮竹。・・・・・・・・・・・十四郎」

耳元で囁かれて、びくりと体が反応する。

「きょうら・・・・・っ」

口づけられた。今までのものとは違う。ぬるりと唇を何度もなめられて、半ば強引に入ってきた舌が逃げる浮竹の舌をからめとり、歯茎をなぞり、浮竹を追い上げていく。

「ふわっ・・・」

頭がスパークする。

深い口づけを終わらせて、去っていく京楽の舌が銀の糸をひいていた。のみこみきれなかった唾液が、浮竹の顎を伝って寝台にシミを作った。

「抵抗しないの?怖くないの?」

「怖い。でも、お前、泣きそうな顔してる」

京楽の切なそうな表情に、浮竹は目を閉じた。翡翠色の瞳が見えなくなる。

「分からないんだ。京楽のことが、そういう意味で好きなのかどうか」

「続き、しちゃうよ?やめるなら、今のうちだよ?」

「俺は」

「タイムオーバー。君をぐちゃぐちゃに犯すから。覚悟して。2年間我慢してたんだ。もう我慢できないよ」

それだけ、京楽を焦らせていたのだろうか。

服の襟元をはだけられて、首筋に跡を残された。まるで自分の所有物の証であるとばかりに、跡を残していく京楽に、浮竹が慌てた。

「あまり、跡をつけないでくれ」

「どうして?君が僕のものだって、みんなに教えてやりたいのに」

「あさっては・・・・・先生と、稽古が」

「山じいとの稽古は、欠席だね」

気づくと、ほとんど裸に剥かれていた。

「お前ばかりずるい・・・・・お前も、脱げ」

「もじゃもじゃしてるよ?いいの?」

「いいか、ら」

薄い胸をなめあげて、右の先端を舌で転がし、左のほうをつまみあげると浮竹が朱くなった。

「京楽・・・・声がっ・・・・あっ」

「こんな時間、みんなもう寝てるよ。それに、聞かせて?十四郎の、声を」

「春水・・・・」

はじめて下の名前で呼ぶと、ぶるりと京楽が体を震わせた。

「僕、もうこんななっちゃってる。十四郎も、苦しそうだね?」

京楽の、凶暴な熱が、浮竹の腰に当たった。

膝を足で割られ、少し熱をもったものに手を伸ばされ、こすられると何も考えられなくなっていく。

「あ、あ、あ」

「一度、一緒にいこう?」

「あ、あ!」

声がどうしてももれてしまう。唇をかみしめる。血がにじんだ。、

「声、我慢しないで。もっと、聞かせて?」

「!」

お互いに熱をこもった肉塊を、京楽は長い指で愛撫して高めていく。そして、浮竹の先端に爪をたてた。

「はうっ!」

久しく自慰行為などしていない浮竹には、もう何がなんだか分からなかった。真っ白になっていく世界。

白く白く、世界が染められていく。まるで浮竹の肌や髪の色のように。

キスを繰り返し、京楽はごそごそと、脱いだ衣服を手で探って、黒い瓶を取り出した。

「ここは、自然には濡れてくれないからね。ちょっと我慢してね」

「京楽、何を!」

やっと射精の快感から現実に戻ってきた浮竹がかんじたのは、そんなことをするためにあるはずのない器官を、冷たい潤滑油を指につけて、おしこまれていく京楽の動きだった。

そうだ。男同士なのだ。女のように、濡れる秘所があるわけがない。体も柔らかくないし、筋肉も薄い、ごつごつした体だろうに、何がそんなに愛しいのか、京楽は何度も抱きしめてきた。

「やっぱり、もう少し肉をつけたほうがいいねぇ。痩せすぎ」

「あっ」

体内で、指をばらばらに動かされて、前立腺を直接刺激されて、また頭が白くなりそうだった。

「ほんとは、もっと時間をかけてゆっくりしたいけど、早く君を手に入れたいから。一つになりたいから。愛してる、十四郎」

ぐちゃぐちゃと、音をたてる蕾を弄ぶ指が抜き去られたかと思うと、比重にならないくらいの暑い熱が、肉をえぐる音をたててめり込んできた。

「ぐあ・・・・あ」

「苦しいよね?少し、我慢してね」

あまりの痛みに、浮竹は涙を流した。

それを吸い上げて、一度最奥まで突き上げて、京楽は浮竹を抱きしめた。

「分かる?今、僕たち一つになってる。君を犯してる」

「春水・・・・」

「ちゃんと、気持ちよくするから」

一度引き抜かれていく熱を、肉が離そうとしない。

「すごいな君の中。吸い付いてくる」

「やぁっ・・・・」

ひきぬかれた熱を潤滑油まみれにした京楽は、再び浮竹を犯した。

入口の浅い部分を突き上げて、リズムをつけて最奥までぐちゃぐちゃに挿入する。

「やっ」

浮竹の体が、自然と逃げようとする。

京楽は、強靭な肉体でそれを許さなかった。

「あ・・・・・・・・・・・・」

深くキスされて、膝を肩に乗せて、京楽は深く突き上げてきた。

それでいて、前立腺もしっかり突き上げる。

何度も同じ行為を繰り返していくと、くったりと力をぬいた浮竹の体を抱きしめた。

「ごめんね。十四郎、ごめんね。でも愛してるんだ」

「ああっ!」

前立腺を熱い肉塊で突き上げられて、浮竹はまた世界が真っ白になるのを味わった。

ぱたぱたと、白い体液がシーツを濡らす。

同時に、じんわりと腹の奥で京楽の熱がはじけるのを味わった。

「愛してる、十四郎。好きだよ」

「俺も・・・・好きだ、春水。愛してる」

「えっ」

初めての浮竹からの告白に、熱を一度失った京楽の凶器に、再び硬さが増してきた。

「あっ・・・・まだ、終わらない、のか?」

「ごめん・・・・・君から愛してるって言ってくれるなんて。嬉しくて」

浮竹を味わいつくしたい。骨の髄までしゃぶりつきたい。

その後、体勢を替えたりして2時間ばかり浮竹を犯しつくして、京楽はやっと満足した。5回は彼の体内で性を放っただろう。

熱を引き抜くと、結合部からとぷんと、京楽が吐き出したものがあふれてきた。

「ごめんね、十四郎」

すでに、浮竹は意識を手放していた。

タオルと湯をもってきて、浮竹の体を綺麗にふいて、中身をかきだして後始末をして、浮竹に服を着せる。

シーツを替えて、性行の痕跡を消して、少し長くなった浮竹の白い髪をなでた。

優しく優しく。

触れるだけの口づけを繰り返す。

自分のものになった浮竹を抱きしめて、そのまま京楽も眠りについた。




「あいてててて」

「大丈夫かい、浮竹」

「大丈夫もくそもあるか。思いっきりやりやがって」

何度犯されたのか覚えていなかった。

意識が戻った浮竹は、横ですーすーと幸せな満足感を伴った眠りについていた京楽を寝台の上から蹴り落として、痛む腰に手をあてていた。

「だからごめんってば」

「ごめんですんだら、死神はいらん」

いや、その死神になるために、院生をしているのだが。

「朝飯はどうする?」

「どうせ今日は休日だ。昼になったら食べる。今は湯あみがしたい」:

「一応、後始末も体もふいたよ?」

「そういう問題じゃない」

湯の中でリラックスしたかった。なにせ、腰が痛くて仕方ない。タオルでふかれたといっても、違和感はぬぐえない。京楽が刻み込んだ跡が肌に残っているため、湯殿にはいけそうになく、個室の浴槽に湯をはってはいった。

「今度、温泉にでもいこうか」

「お前のおごりなら」

「なら決定だねぇ。どこがいいかなぁ」

うきうきわくわくといった京楽の頭をぽかりと殴って、浮竹はため息をついた。

「はぁ。これからお前と何年生き続けてこんな関係を保っていくんだろうな」

「永遠だよ」

「永遠なんてない」






「好きだよ、浮竹」

始めて、そう言われて数百年の時がたっただろう。

常に背中を任せて戦闘に出た。いろんな体験をした。先生こと山じいに怒られ、隊長まで登りつめても関係は変わらない。

どちらが上というのはない。

力は拮抗している。尸魂界で、2つしかない対をなす斬魄刀をもった京楽と浮竹。

「ああ、俺も好きだぞ、京楽」

今では、恥もなくいえる。

すでに他の隊員や隊長、はては山じいにまで知られてしまっている。隠すことのない京楽に、逆らうように誤魔化してきたが、何度も遊びにいったら朝帰りで、しかも隊長羽織を互いに間違えているようなこともある。

公認カップルになっているが、彼らをからかう者はせいぜい夜一くらいのものだろう。

「髪、長くなったねぇ」

京楽が、さらりと流れる白い長い髪を手ですくいあげた。

「誰かさんが、短くするとうるさいからな」

「はてさて。誰だろうねぇ」

髪に口づけして、京楽は笑った。

「酒、のまないかい?」

「こんな朝っぱらからか?」

「たまにはいいじゃない」

「まぁ、な。今のとこ、何もないようだし。仕事も片付いているしな」

浮竹は今日の分の仕事を早朝に終わらせているが、京楽は仕事がたまっていて、七緒に怒られてばかりだが、二人の仲を引き裂くようなことはしない。

「ん~好きだよ浮竹ぇ」

「暑苦しい!離れろー!」

尸魂界は、今日も平和だった。


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お久しいなぁ。

かなり久しい。

ブリーチの京楽×浮竹にまたはまってしまって、小説をかきだした。
サイトでUPするかわからんけどプログにはUPする予定

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あー

2018年秋。

最後の小説更新は去年の12月

終わっとるwwww

ペット新しくデグーかったけど逃走したり噛みまくらたりえらいことになった。

ピアノの下に逃走して捕まえるのに6時間かかった。

親父が近所の人に助け求めてピアノ動かすことになってたけど、自力でゲットできた。

デグーゲットだぜ!

ファンシーラットもかった。説明文、ドブネズミを改良したもの。泣けるw

親父はピアノの底の隙間に二度とデグーが入れぬように、家になぜか置いてあった廃材の木の板とガムテープで穴の隙間を固定して、もうピアノの下にはハムスターもいけないぜ。

死んでいくハムスターもいれば買ってきた子もいるし今繁殖させようとペアにしてる。

冬までに生まれてきてくれたらいいんだけどね。

2回流産でメスが死んだから、その時ペアリングしてたオスはケージに戻してもうペアリングには使わないことにした。

ひゃっほい3連休だぜーとか

あんまり思わない。

仕事しに行きたい。暇だし。

スカイプチャンネルにまた投稿して誰か適当なチャット相手でもみつかるかw

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