魔王と勇者と22
藍染は魔力をもっており、藍染の方法は悪魔が魔神になる方法だった。
魔族と悪魔は似ているが、異なる種族だ。藍染が悪魔になるには、今の肉体を捨てて新たに転生しなければいけなかった。
転生は必ずしもうまくいくとは限らない。
今のところ、藍染が悪魔になる気配はなかった。
『でな、京楽は魔神になれるんだ』
「ふむ。でも、肝心の元魔王の京楽はどうなんだ?魔神になりたいのか?」
『うーん、どうだろう。ボクは今のままがいいかな』
「じゃあ、魔神なんて物騒な存在にはならいでほしいな。まぁ、元魔王の京楽が魔神になったところで、存在意義が変わるだけで、中身は変わらなそうだが」
浮竹は、元魔王の京楽にお茶を出す。
魔王京楽の城で、4人はお茶会をしていた。
「元魔王の魔神。うーん、いつか魔神に覚醒しちゃうかもね」
「なんでそう思うんだ?」
「だって、君もエトナの子として覚醒しちゃたじゃない。何かの拍子で覚醒するのはけっこうあることだよ」
「ふむ‥‥‥」
京楽は、浮竹を見る。
「まぁ、今悩んだところでなんにもならないけどね」
『京楽には、魔神にならないでほしいが、魔神の京楽はそれはそれでかっこよさそう』
フェンリルの浮竹はしっぽを揺らす。
『ボクは、今のところ魔神になる気はないよ』
「ああ、それがいい。いつかなってしまったとしても、今のようにいられるならそれでかまわない」
『どうだろうねぇ。魔神はディアブロくらいしか知らないから。存在自体分からない』
『京楽は魔神になってしまったとしても、京楽だ。俺は今まで通りメイドとして接するぞ?』
フェンリルの浮竹はしっぽをぶんぶん振り、京楽と浮竹は苦笑する。
「魔神になったら、姿形もかわるんだろうか」
「そうかもね」
『え、俺は今の京楽がいい』
フェンリルの浮竹のしっぽが、へにゃりとなる。
「魔神の存在自体がないからな。憶測だ。多分、見た目に違いはあまりないだろう」
『そうだといいなあ』
『うん。何気に角はえてたり耳とがってたりドラゴンの尻尾あったりするけど、今の見た目それなりに気に入ってるから』
京楽は、古い本をもってきた。
「これに、魔神ディアブロについて少しだけ書かれている」
「なになに‥‥‥魔神は人の魂を食らうかもしれない‥‥‥見た目が4メートル‥‥‥目が10個‥‥‥なんだこれ。全部いい加減じゃないか」
「それだけ、魔神は珍しいってことだよ。魔神ディアブロは異界にいたからね。こっちの世界にはたまにしか顔を出さなかったそうだよ」
「まぁ、魔神だしな。勇者とかが退治にくるだろうし」
『京楽が魔神になったら、勇者の俺はやっつけるのか?』
フェンリルの浮竹の尻尾がへにゃりとなる。
「まさか。今まで通り、友人として接する」
浮竹の答えに、フェンリルの浮竹は尻尾をぶんぶん振った。
「念のため、エトナ神の祝福をやろう。魔神になったとしても、自我を保っていられるように」
浮竹は、光り輝く翼で元魔王の京楽を包み込む。ぱさりと、12枚の翼が広がる。
「偉大なるエトナよ、この者に祝福を‥‥‥」
天から光がさしこんで、元魔王の京楽を包み込むj。
『エトナ神の加護かい。魔神になったとしても、じ魔族から魔神になれるのは、生まれつき魔力がない場合だと判明した。
浮竹は、ついでにだと京楽とフェンリルの浮竹にもエトナ神の祝福をかける。
『これはなんの祝福だ?』
「いいことが起こるように。幸運をあげている」
『あ、金貨見っけ』
フェンリルの浮竹は、しゃがみこんで金貨を拾う。
『こ、これも祝福の効果か?』
「そうなるな」
『もっといいことおこるといいな』
「ボクには何も起きないんだけど」
「お前には仕事がよくできる祝福を与えておいた」
「嬉しいのか悲しいのかよく分からない」
京楽は、仕事ができてもなぁと、ちょっと不服そうだった。
「俺と一緒にいれる時間が増えるぞ。抱かせてやってもいい」
「うん、祝福は偉大だ!」
180度態度を変える京楽に、皆苦笑する。
「紅茶のおかわりをもってこよう」
『あ、俺がするぞ!』
「頼めるか?」
『うん』
二人の浮竹を見て、二人の京楽はほんわりとなる。
「ボクの浮竹って美人だよね」
『ボクの浮竹ってかわいいよね』
二人そろって、のろけるのであった。
オメガバース京浮読み切り短編10
京楽はアルファであったが、ヒートが訪れない浮竹を番にしたいが、浮竹が嫌がるので手を出さず、そのまま卒業してしまった。
死神になり、お互い仕事で忙殺される中、久しぶりに京楽は浮竹と会った。
浮竹は、見知らぬ上流貴族の妾として番にされていた。
「浮竹、首の噛み痕‥‥‥‥‥」
「ああ。上流貴族の伊集院家の当主の番にされたんだ。アルファの子を産むために。妾だがな」
「なんで、ボクは拒否して、その伊集院家はいいの?」
「京楽には、迷惑をかけたくなかったから。伊集院家からは、番にならないと実家に手を出すと脅されてな。まぁ、下級貴族だが一応貴族だし、見た目もいいからと無理やり番にされた。今思えばば、お前と番になっていたかった」
「じゃあ、そうしよう」
「え?」
京楽は、浮竹を抱きしめた。
「1週間待って。君を自由にするから」
その日も、浮竹は当主の男に抱かれるはずだった。
だが、待てども男は一向にこない。
男が事故死して、遺体が発見されたのはそれから3日後のことだった。
「まさか京楽が‥‥いや、まさかな」
番の相手を失った浮竹は、まだ子を懐妊していないせいで、伊集院家をおわれた。行くあてもない浮竹を、待っていたかのように、京楽が迎えにきてくれた。
「ボクの家においで」
「でも」
「君をボクの番にしたい。幸い、前の男は死んで番は解消されたから」
「まさか、お前が?」
「さぁ、どうだろうね?」
クスクスと、京楽は笑う。
浮竹は、自分は京楽と番になりたかったのだと、今更ながらに気づく。
「いいのか、俺で。他の男の番だったオメガだぞ」
「そんなの関係ないよ。たとえ君がアルファだったとしても、ボクは君を手に入れた。ボクは君がずっと好きだった。けれど、番になることを拒まれて、ボクも臆病になっていた。君が他の男のものになるくらいなら、拒絶されても無理やり番にしておくんだったよ」
京楽に思い切り抱きしめられて、浮竹は涙を浮かべた。
「京楽‥‥‥‥伊集院家の番にされたのは無理やりだったんだ。お前のことを忘れた日は一日もない」
「浮竹、つらかったね。もう、苦しめる相手はいないからね」
浮竹は、京楽の背中に手を回して、泣いた。
「京楽‥‥‥ずっと、会いたかった。お前と学院時代に番になればよかった」
「もう、君はボクのものだ。番にするけど、いいよね?」
「ああ」
浮竹と京楽は一緒に風呂に入り、用意された褥に向かう。
「綺麗だよ、十四郎」
「他の男の手あかにまみれてしまった。すまない」
「そんなの関係ないよ。抱くよ?」
「ああ、好きにしてくれ」
「あ、奥はだめええええ」
「いいんでしょ?さっきから締め付けがすごい」
「ひああああん」
京楽のものが奥を抉るたびに、浮竹はびくんと体を震わせていってしまう。
「あ、こうなるように、調教されたから‥‥‥‥」
「それでもかまわないよ。君は君のままでいい。どんな君だって受け入れてみせる」
「ひゃあああん」
ごりっと奥を貫かれ揺すぶられて、浮竹は中いきをしながら精液を出していた。
「ひあああ、こんな快楽、知らない」
「前のやつは、どうやって君を抱いていたの?」
「ただ突っ込まれて、相手が満足すればそれで終わりだった」
「最低だね」
「ひあう、子種ちょうだい。春水の子を産みたい」
京楽は、浮竹にせがまれて、浮竹の子宮に精液をぶちまけた。
「生で出してるから、本当に妊娠してしまうよ?」
「あ、構わない。うなじを噛んでくれ」
「うん。番になろう」
交わったまま、京楽は浮竹のうなじを噛んで、浮竹を番にした。
「あ、きたあああ。番になったあああ」
「うん、ピリピリするね。もう、他の男に番にされないように、首にはストールを巻いてね」
「俺を番にしたがっててた男はけっこういたから」
「うん。君は貴族の上にオメガで見た目がいいからね」
闇マーケットでは、番を解消する薬も売っている。そんなものを飲まされて、番を解消させられないように、うなじを保護するために京楽は柔らかい生地のストールを用意していた。
「あ、春水もっとおお」
「十四郎、かわいい」
京楽は、番になった後も浮竹を抱いた。
4回ほど中に生で出して、満足すると浮竹も満足したようで、一緒にまた風呂に入って眠る。
次の日には浮竹にヒートがきて、2週間は交わったり眠ったりを繰り返した。
死神稼業は、ヒートということを正式に発表して、休暇をもらった。
上流貴族の京楽家にうまく取り入ったと影口を叩かれることもあったが、それを京楽は許さず、浮竹を悪く言う者はいなくなっていった。
京楽と番になって数週間後、浮竹の懐妊が明らかになる。
「生まれてくる子は、アルファだといいな」
「オメガでもベータでもいいよ。君との愛の結晶だ」
京楽は産着を用意したり、気が早かった。
「名前、一緒に決めようね?」
「ああ。俺は女の子がいいな」
「ボクはどっちでもいいよ。どうせ、兄弟ができるんだし」
「俺に何人産ませるつもりだ」
「たくさん」
「ふふ。そんなに産めないぞ?」
「そうだね。子供に浮竹をとられっぱなしはいやだから、避妊もするようにしようか」
「そうだな」
数か月後、早産であったが帝王切開で無事女児を産み、浮竹は京楽と式を挙げて籍も入れた。
「京楽、愛している」
「ボクも愛してるよ、浮竹」
番として、互いにアルファとオメガとして二人は幸せに生きた。生まれてきた子たちは皆アルファで、京楽家の子ということになった。
「永遠の愛をお前に」
「永遠の愛を君に」
二人は、比翼の鳥のように寄り添いあいながら生きていくのだった。
一護と白哉
「あ、一護‥‥‥‥‥」
ルキアと一護は寝室でいいかんじになっていた。
「ルキア」
「に、兄様!」
突然ノックして入ってきた白哉に、一護はルキアに突き飛ばされて壁にめりこんでいた。
「明日のことなのだが‥‥‥」
明日、朽木家も参加して4大貴族とそれに近い上流貴族のあいさつ回りにいくことになっていた。
「はい、兄様」
ルキアは白哉と楽し気に話し出す。
「で、この愚弟も参加するわけだが」
「誰が愚弟だ!確かにあんたとは義兄弟になるが、愚弟よびされるいわれはないぞおおおお」
「で、愚弟がやらかさないか、ルキア、見張っていてくれ」
「はい、兄様!」
「邪魔をした。それでは私は戻る」
「しっしっ」
一護は、白哉を邪険に扱う。
「一護、兄様に失礼だぞ!」
「白哉なんか馬に蹴られればいいんだ」
「一護!」
「ルキア、続きは‥‥」
「しない。そんな気分ではなくなった」
「やっぱり」
がくりとなる一護は、明日がくるのが憂鬱だった。
「で、これが愚弟の朽木一護だ。ルキアの夫の」
「あらまぁ、 尸魂界を救ってくれた英雄の」
貴族の挨拶回りに引っ張り出さた一護は、作り笑いを浮かべて白哉に紹介される。
隣にルキアがいるのが、せめてもの救いだった。
「ああああ、疲れたああああああ」
「あと30件残っている」
「まじかよ。こんなこと、毎年してるのか?」
「そうだ。軟弱な兄にはもう無理か?」
「む、まだまだいける」
「兄様も一護もほどほどに」
ルキアは、酒の宴の席で酒を飲む一護と白哉を心配していた。
ケンカにはなっていないが、酒を飲むペースが早い。
30件の貴族のあいさつ回りが終わった頃には、二人ともべろんべろんに酔っていた。
もっとも、白哉は涼しい顔をしているが、中身は酔っぱらっている。
「兄は、もっと貴族の作法を身に着けろ」
「ばーろー、これでも精一杯やってるつーの」
言いあらそいをしながら、まだ残っている酒を、朽木家で飲んでいた。
「おたんこなす」
「どあほ」
「ドアホは兄だ」
「いいや、白哉だな」
「兄だ」
「白哉だ」
「ふん」
「ふん」
さらに酒をあおって、二人は飲み潰れた。
「兄様も一護も‥‥‥はあ、仲がいいのか悪いのか」
次の日、一護が風呂に入ろうとすると湯船は氷水だった。
「つめてぇ!」
シャンプーの中身はボディーソープだった。
「白哉めええええ」
白夜が風呂に入ろうとすると、湯船は熱すぎた。
「一護め‥‥‥」
シャンプーの中身は空っぽだった。
「いつか、ぎゃふんと言わせてやる」
朝食の席でそんなことを一護が言うものだから、ルキアは慌てた。
「兄様に失礼だぞ、一護」
「ぎゃふん」
涼しい顔で、白哉がそう言うものだから、一護はムキーっとなった。
「バーカバーカバーカ」
「散れ、千本桜‥‥‥‥‥」
「もぎゃああああああああ。斬月!」
食堂から移動して外に出て、お互い斬魄刀を手に切り結び合う。
「白哉なんて馬に蹴られて死んじまえ」
「兄など、虚にやられて霊子に還れ!」
朝っぱらから、元気な二人にルキアはため息をつきつつも、仲裁するために袖白雪を抜いて二人を氷漬けにするのであった。
酒にのまれた。
朝起きると、恋次はすっぱだかだった。
隣には、同じく裸の白哉。
「隊長と飲みにいって‥‥やべぇ、そこから先の記憶がねぇ」
「ん‥‥‥‥」
隣で、ごそごそと白哉が動く。
白い肌が目の毒なので、布団をかぶせた。
「起きたのか、恋次」
「すんません!何も覚えてませんが責任とります!」
「え」
「え?」
「は、裸‥‥‥‥何かしたのか、恋次」
「すんません、記憶にぜんぜんないです」
「私も記憶がない。恋次と酒を飲んだことまでは覚えているが‥‥‥」
お互い、顔を見合わせる。
何もなかった。
そう言えたら、どんなに楽だろうか。
周囲にはティッシュやらタオルやらにまみれていて、死覇装はくしゃくしゃで、白哉の隊長羽織には精液がこびりついていた。
「腰が痛い‥‥」
「責任とります。付き合いましょう、隊長」
「ふむ‥‥‥‥」
こうして、恋次と白哉は付き合いだした。
だが、何かが変わったわけでもなく、しかしいざ付き合いだしてみると、恋次はもともと白哉のことが好きだったので、それに拍車をかける。
「ああ、なんで隊長と寝た記憶がないんだろう。もったいねぇ」
白哉は、触れるだけのキスとハグは許してくれるが、それ以上は許してくれなかった。
「ああ。隊長と寝たい」
「声が漏れているぞ、恋次」
「もぎゃあああああ!冗談です!」
「私と寝たいのか?」
「は、はい‥‥」
「百万年早いわ」
「はう」
その日の晩、恋次は白哉と飲みに出かけた。
そのまま勢いで体の関係になった。
寝て記憶が抜け落ちないように、メモを書いておいた。
「もぎゃああああああああ」
朝になると、やっぱり恋次の記憶はふっとんでいて。
白哉は今回は覚えているらしく、ほんのりと紅くなって、衣服を身に着ける。
「覚えていないのであろう」
「いえ、メモしときました」
メモを読んでいると、記憶が蘇ってくる。
「た、隊長、俺は隊長の体目当てじゃないですからね!?ちゃんと愛してます!」
「私が、体目当てのような相手に体を許すとでも?」
「え、あ、はい、すみません」
「一度しか言わぬ。私も愛している、恋次」
白哉からキスをされて、恋次は目を見開く。
「た、隊長!」
「服を着ろ。執務時間に間に合わなくなる」
「あ、はい!」
酒でふきとんだ記憶は、断片的に戻ってきている。
淫らな白哉を思い出してしまい、恋次は鼻血を垂らしながらティッシュをつめて執務室に、白哉のあとを追って向かうのであった。
魔王と勇者と21
普段は一対の翼で、眠る時などは翼を消すことができた。
「今日も綺麗だね、浮竹」
「そうか?いつもと変わらないぞ」
「浮竹はもともと美人だったけど、エトナの子として覚醒してからさらに綺麗になったよ」
「エトナは美と愛の神でもあるかなら」
エトナの彫像などは、どれも美しい青年の姿をしていた。
今の浮竹と少し似ている。
「エトナ教が騒がしいね。予言されていたエトナの子が地上に降臨したって。浮竹、一人であまり町中なんかに行かないでね」
「過保護だな」
「君がエトナの子だってばれたら、エトナ教の信者がさらいにきそうだ」
「予言者のせいで、すでにエトナの子は俺だってばれてるぞ」
「ええ!警護を厳重にしないと!」
「落ち着け。エトナ教には必要時には力を貸すといってあるし、魔王であるお前を監視するために傍にいるといったら、あっさりひいていった」
浮竹は、おかしそうに笑った。
「でも、それは昔からあるエトナ教でしょ。聖女教から派生した新エトナ教は君を狙っているはず。教祖に据えたがっているだろうね」
「ああ、昨日町に出たら攫われそうになったのでボコボコにしておいた」
「浮竹ええ!?ちょっとは自分の身の安全を確保できるからって、さらっと攫われそうになったとか!絶対、今度からボクか元魔王のボクかフェンリルの浮竹と一緒に行動して」
浮竹は困った顔をする。
翼がゆらりと揺れる。
「お前はただでさえ仕事で忙しいのに」
「浮竹のためなら、仕事なんて放置するよ」
「まぁ、一人で行動しないようにする。どうしても心配なら、一応護衛つけるか?」
「うん。そうだ、同じ勇者の白哉くんに警護を頼もう。一護くんは今恋人ができたらしくて勇者稼業おやすみしてるし」
京楽は、旧知の仲の朽木白哉を魔王城に呼んだ。
「つまりは、新エトナ教に狙われているから、一人で行動しそうな時は、警護せよということだな?」
「うん」
「分かった。警護の件は引きうけよう。まぁ、エトナの子であれば、魔王さえ倒せそうだが」
白哉は、エトナの子の証である浮竹の輝く白銀の翼を見る。
「俺は京楽を倒したりしないぞ?」
「分かっている。今の魔王が、京楽、兄でいる限り平和が保たれている。兄が望むのであれば、伴侶の警護もしよう」
「助かるよ、白哉くん。浮竹、いいかい、白哉くんと一緒に行動するんだよ」
「分かった」
その日、浮竹はモンスター退治に出たが、白哉と一緒だった。
それが1週間は続き、町に出る時も白哉が一緒なので、京楽も安心していた。
『久しぶりに遊びにきたぞ。おや、勇者か』
フェンリルの浮竹が、白哉を見て尻尾を揺らす。
「兄らがきたということは、私の役目は一度休憩だな」
『ん?どういうことだ?』
フェンリルの浮竹は頭に?マークを浮かべる。
「ああ、俺が一人で行動してるときに新エトナ教徒にさらわれそうになったんで、警護として白哉がついてくれているんだ」
『勇者の俺をさらうだって!』
フェンリルの浮竹はしっぽをびーんとたてて、威嚇する。
「いや、俺も一応勇者だし、エトナの子の力があるから、ボコボコにした」
フェンリルの浮竹も、元魔王の京楽も安堵する。
『それにしても、美人になったねぇ。元から美人だったけど、拍車をかけたかんじだね』
「エトナは美の神でもあるからな。加護もちの俺はそう見えてしまうんだろう」
『エトナ教徒でなくても、手を出してきそうだな。そんな奴がいたら、俺がボコボコにしてやるからな』
「そこにいるぞ」
浮竹は、京楽を指さす。
「ボ、ボクは君の伴侶だよ!?」
「この前、いやだっていったのに手を出してきた」
『京楽、この場合魔王の京楽をボコボコにするべきか?』
真剣に悩むフェンリルの浮竹は尻尾が揺れていた。
ボコボコにちょっとしたいらしい。
「簡便してよ!友達でしょ!」
『む、むう。そうだな、友達だな!』
フェンリルの浮竹は、しっぽをぶんぶん振っていた。
「フェンリルの俺、空を飛びたいと言っていただろう。重量の魔法で体重を0にして、空を一緒に飛んでみるか?」
『と、飛べるのか?一緒に!』
フェンリルの浮竹の尻尾は、ちぎれんばかりにぶんぶん振られていた。
『いいよ、いっておいで』
「ボクも地上で見とく」
浮竹は、重力の魔法でフェンリルの浮竹の体重を0にして、12枚の光り輝く翼を出すと、フェンリルの浮竹を抱えて大空を飛んでいく。
『わぁ、京楽があんなに小さく見える』
「もっと上に飛ぶぞ。しっかり掴まっていろ」
『わわわわ』
「怖いか?」
『ぜんぜん!こんな風に空を飛んだのははじめてだから興奮する!』
空中でも、フェンリルの浮竹の尻尾は素直でぶんぶんと振られていた。
『わぁ、鳥まで集まってきた』
「エトナ神は創造神で美と愛の神だからな。野生動物に好かれるようになった」
『すごいな、勇者の俺』
二人は、10分ほど空を飛んで帰ってきた。
『どうだった?』
『こう、ぶわっともあっとしてしゅーーだった』
『そう。それはよかったね』
『うん!』
「何いってるんだろう‥‥‥」
「俺は理解できるぞ?」
「え、理解できないのボクだけ!?」
京楽をのぞく3人は、笑い合う。
「なんか、のけものにされてる気分。くすん」
ちゅっと、浮竹が京楽の頬にキスをする。
「まぁ、そうむくれるな」
「も、もっかい!」
「だーめ。今夜までお預け」
浮竹は妖艶に微笑む。京楽は、がぜんやる気を出して、残っていた仕事を全て片付けて、元魔王の京楽とフェンリルの浮竹と浮竹の4人でお茶をするのであった。
魔王と勇者と20
その日は、なぜか胸がざわついてなかなか眠れなかった。
その次の日、聖女教から、魔王領でされている聖女教の布教の禁止の廃止と、聖女教の存在を認めるようにと大神官が派遣されてきた。
「魔王京楽様、どうか聖女教を」
「禁止なものは禁止だよ。前からどうかと思っていたけど、魔神崇拝を掲げてからの聖女教はおかしくなった。モンスターの活発化にも影響しているらしいし。何より今のTOPの16代目の聖女が先代の魔王の藍染を夫としているし、前の17代目聖女アナスタシアとの間にできた聖女と魔族の子、聖者カインを聖剣セイクリッドアポカリプスで贄にすれば魔神になれるとか。とにかく、物騒なので禁止」
「この魔王め!」
大神官は、錫杖を抜き放ち、鋭い刃物を取り出す。
「死ね!」
「お前が死ね」
背後で様子をうかがっていた浮竹が、聖剣セイクリッドアポカリプスでもある魔王剣ディアブロで大神官の首をはねた。
「あーあ、殺しちゃった」
「まずかったか?」
「いや?どのみち帰ってこないという時点で、あちらもやられたって気づくでしょ」
「大神官でこの程度か。今の聖女教は弱体化してるな」
「それもそうでしょ。ちゃんとした聖職者は藍染の洗脳から逃れて聖女教を抜けてる。神エトナを崇拝する、新しい宗教に信者も流れてるらしいよ」
「エトナ‥‥‥懐かしい響きだ」
「え、知ってるの?」
「いや、初耳だ。ただ、昔どこかで聞いたことがある気がして」
その時、大神官の死体が動いた。
「危ない!」
浮竹は、京楽を庇って刺される。
「くくく、その傷は聖女アナスタシア様しか治せない」
「あ、そう」
大神官の遺体を焼いて、京楽は回復魔法をかけるが傷はいっこうに塞がらない。
「仕方ないね」
京楽は、聖女教の本部に浮竹を抱えて転移する。
「16代目聖女アナスタシアはいるかい」
「何者だ!不敬であるぞ!」
その神官の首を跳ね飛ばして、京楽は聖女のいる聖女の間にやってきた。
「あら、意外と早くきたのね」
「浮竹を治せ」
「そのかわり、聖剣セイクリッドアポカリプスをもらいます」
「いいだろう」
違う聖剣を与えると、先代の魔王の藍染が出てきた。
「それは、聖剣セイクリッドアポカリプスじゃない。本物を渡せ」
「浮竹を治すのが先だ」
「いや、聖剣セイクリッドアポカリプスを渡すのが先だ。勇者浮竹は、私たちの手で保護する」
藍染は、京楽に無理やり転移魔法を使い、魔王城に戻してしまった。
「浮竹!!」
京楽は、再度聖女教の本部に転移しようとして、結界がはられていてできない。仕方なしに本部のある町に転移して、走る。
「勇者浮竹。聖女のものになれ」
傷を癒された浮竹は、藍染から強烈な洗脳を受けるが、洗脳の効かないタイプなので、洗脳されたふりをする。
「アナスタシア様と藍染の御心のままに」
「ふはははは!あの勇者浮竹も私の傀儡だ!」
浮竹は、隙を見て聖剣セイクリッドアポカリプスを手にして、藍染の胸を貫く。
「な‥‥‥私の、洗脳が効かないだと?だが、お前には隠された力があるはずだ。聖女教のために働いてもらうぞ」
「言っとくが、洗脳は効かないぞ」
「いうことを聞かなければ、魔王京楽を殺す」
いつの間にか、京楽が走ってではあるが、戻ってきていた。
京楽は、衛兵にとらわれていたが、いつでも脱走可能のようであった。
「エトナの神を殺すために、その血肉を捧げよ、勇者浮竹」
浮竹は、びくんと反応する。
「エトナ‥‥‥‥神‥‥‥‥」
藍染は、聖剣セイクリッドアポカリプスで作られた傷を治癒するのに手いっぱいで、浮竹の変化に気づかない。
「どうしたの、浮竹!」
「思い、出した。俺はエトナの落とし子。エトナの涙から生まれた天使」
ばさりと、浮竹の背中から12枚の翼が現れる。
「な、エトナの子だと!?」
「藍染、話が違うわ!」
藍染と16代目聖女アナスタシアは叫ぶ。、
「エトナを害しようとする者よ。神の裁きを受けるがいい。ホーリージャッジメント!」
「ぎゃああああああ」
「きゃあああああ」:
最後まで見届けず、浮竹は京楽を連れて魔王城まで転移する。
「浮竹?」
「なんだ?」
「その翼、本物?それにエトナの落とし子って本当?」
「本物だぞ。触ってみるか?あと、俺はエトナ神の涙から生まれた天使だ」
「温かい‥‥」
京楽は、浮竹の翼を触った。空も飛べるようで、京楽を連れてふわりと宙を浮く。
「君が何者でも、ボクは君を愛してるよ、浮竹」
「俺も、たとえ天使でもお前を愛している、京楽」
二人は触れ合う口づけを交わし合う。
「藍染と16代目聖女アナスタシアは生きているだろうな。手加減はしなかったが」
「今度浮竹を襲ったりしたら、ボクが殺す」
京楽は、翼ごと浮竹を抱きしめる。
「俺は、強いぞ?エトナの子として覚醒したからな」
「ボクとどっちが強い?」
「さぁ、どうだろう。魔王としてのお前の強さは本物だからな」
クスリと浮竹は笑う。
「おのれえ、勇者浮竹め。エトナの子だと!?エトナ神は絶対神。その子の力は推し量れない‥‥」
「藍染、エトナ神はやばいわ。エトナ神に手を出そうというの?」
「今のところはやめだ。聖剣セイクリッドアポカリプスをもう一度手に入れて、我が子聖者カインを贄に、魔神になる」
「早く魔神になって、私に力をちょうだい」
「分かっている」
エトナ神。
このイスラの世界を支える絶対神にして創造神である。
エトナの神は、神界で愛しい落とし子が覚醒したのに微笑む。
「イスラの世界よ。繁栄あれ」
エトナの神の祝福を受けて、浮竹の体は光り輝くのであった。
魔王と勇者と19
「ああ、もちろんだ」
『仕方ないねぇ』
『乗りかかった船だ』
京楽は、ここ数週間前に新たに魔王領に加わったキリア王国から、モンスターの被害が酷いので助けてくれとせがまれ、魔王自らが動くことにした。
ただ、王国中となると範囲が広いので、浮竹と元魔王の京楽、フェンリルの浮竹にも手伝ってもらうことにした。
軍も動かして大規模な討伐隊が組まれているが、強いモンスターの多い高原地帯には魔王自らが赴くことになった。
「君たちには、キリア高原に出るモンスターをお願いしたいんだよ。ボクたちもキリア高原のモンスター討伐に行くから」
『なにか、厄介なモンスターでもいるのか?』
フェンリルの浮竹の問いに、京楽は渋い顔をする。
「ダークドラゴンと、アンデットドラゴンが出る」
『ドラゴンかい。こりゃまた厄介だね』
元魔王の京楽も、ドラゴンの強さは知っていた。
「アンデットドラゴンには知能はほとんどないけど、ダークドラゴンは知能が高い。人語を理解するが、どんなに説得しても人間を襲うのを止めてくれないらしく、討伐することになった」
京楽は、できればダークドラゴンは討伐したくないようであった。
「ダークドラゴンは絶滅危惧種だから」
「うん。でも、人に危害を加えるなら仕方ないね」
こうして、4人はキリア王国のキリア高原に向かった。
雑魚のモンスターでもそこそこ強く、直接討伐に向かってよかったと京楽は思う。
『でたよ。まずはアンデットドラゴンだね』
「ヘルフレイム!」
『ファイアストーム』
「顕現せよ、炎の精霊王イフリール。ヘルインフェルノ!」
『おまけのファイアボールだよ』
アンデットドラゴンの弱点は聖と炎だ。
元魔王の京楽は、魔法を使うと初級魔法でも上位魔法の威力になるので、ファイアボールの初級の炎の魔法を使った。
「きしゃああああああああ」
アンデットドラゴンは、4人の炎の魔法に包まれて、悲鳴をあげて死んだ。
灰と骨なったアンデットドラゴンがもう蘇らないように、骨は素材になるので回収し、灰は聖水で清めた。
「しょせんはアンデットか。我の力を食らうがいい。ダークブレス」
「ダークドラゴンだ!気をつけて!」
京楽は、バリアをはるが、ダークドラゴンのブレスの威力はすごくて、罅が入ってくる。
『ボクに任せて』
「ああ、うん」
『知能の高いドラゴンの割には、ブレスだけでどうにかなるとでも思ってるの?』
元魔王の京楽は、ダークドラゴンをあおる。
「なんだと、虫けらの分際で」
『さぁ、どっちが本物の虫けらなんだろうね?フレア」
「熱いいい!!!ぎゃあああああああ!!」
初級魔法すら上位魔法になってしまう元魔王の京楽の中級魔法を受けて、ダークドラゴンは自慢の黒い鱗を燃やされて、もだえ苦しんでいた。
「この!」
ふりおろされるダークドラゴンの爪の攻撃を、フェンリルの浮竹がもっている自分の2つの剣で受け流す。
『京楽を傷付けようとする者は、ドラゴンであっても許さない』
「顕現せよ世界の終わりの終末の精霊王ジ・エンド。ワールドエンド」
浮竹が、自分と契約している精霊王の中でも、滅びを司る精霊王を呼び出し、禁忌を唱えさせる。
「ちょっと浮竹、やりすぎなんじゃ!」
「これくらいしないと、このダークドラゴンは死なない」
「おのれえええ、羽虫の分際で‥‥‥きしゃあああああ」
断末魔の叫びを残して、ダークドラゴンは世界の滅びの魔法で跡形もなく消えてしまった。
『やるな、勇者の俺!』
フェンリルの浮竹は、しっぽをぶんぶん振っていた。
その愛らしい姿に、浮竹も京楽もほんわりとなる。
『じゃあ、あとは雑魚だけだね。別れて一掃しようか』
「分かった。じゃあ、俺は北の方角を」
「じゃあ、ボクは南を」
『それじゃあ、ボクは東を担当するから浮竹は西をお願い』
『わかった!』
フェンリルの浮竹は、しっぽを揺らしっぱなしだった。
「フェンリルの俺、モンスター退治だが楽しいのか?」
浮竹が不思議に思って口にする。
『ん、ああ。見たこともないモンスターをやっつけれて、楽しいぞ!』
「冒険者ギルドに登録すればいいのに」
『ん。俺はメイドの上にアサシンをしていたからな。普通の冒険者ギルドには登録できないんだ。すでに、違うギルドに登録されてあるし』
「そうなのか」
4人は雑魚モンスターを一掃して、あとの違う地域のモンスターは魔王軍が退治することになった。
軍もたまには動かさないと、兵士がただ飯を食っていることになるので、定期的にモンスター討伐などに動かしていた。
『いっぱい倒したぞ。素材になりそうなモンスターは、言われた通りアイテムポケットに入れておいた』
『浮竹、偉い偉い』
『えへへ~~~』
元魔王の京楽に頭を撫でられるフェンリルの浮竹。
浮竹も、真似てフェンリルの浮竹の頭を撫でた。
尻尾をぶんぶんと降っていて、どうやら嬉しいらしい。
「キリア高原だけでなく、各地で人を襲うドラゴンが出ている。聖女教はおかしくなってモンスターの行動の活発化を放置してるし、これはもう聖女教は排除したほうがいいかもね」
京楽は、そう結論づけた。
「今の16代目聖女アナスタシアの夫は藍染だろう?」
「うん。放置しておくわけにもいかなくなってきたね」
だが、藍染は強い。
京楽は、たまたま藍染を退けて魔王になれたのであって、お互いが本気を出し合えばどうなるか分からない。
国の一つや二つは滅びるかもしれない。
「ボクも、魔王として動かないとね」
今の聖女教は静かだが、裏でモンスターの活発化と繋がりがありそうだ。
ぐうううう。
フェンリルの浮竹のお腹が鳴って、みんな目を合わせて笑った。
「撤収して、ごはんにしよう」
『賛成』
『お、俺は腹なんて‥‥』
ぐ~~とまたフェンリルの浮竹のお腹が鳴って、フェンリルの浮竹は赤くなる。
「魔王城に帰ろう。すぐに食事の準備してくれるから。君たちへの少しでもの恩義になれば」
『浮竹、言葉に甘えよう。お腹減ってる君に作らせるのもなんだしね』
フェンリルの浮竹は、尻尾を揺らして、浮竹の手を握る。
「フェンリルの俺?」
『あの精霊王ジ・エンドの召喚には生命力も使うと聞いた。失った生命力が戻る秘術をかけた。手をつないでいる間、周囲のマナから返還できる』
「ありがとう」
浮竹派、愛しい者を見る目でフェンリルの浮竹を見る。
そうしていると、種族は違うが双子に見えるのであった。
魔王と勇者と18
「いつまで経っても仕事は終わらないし、浮竹はモンスター退治した後に元魔王のボクとフェンリルの浮竹のところに行っちゃうし‥‥‥ああ、やめだやめだ。今日の仕事はここで終わり!」
「魔王様!まだ目を通していただかないといけない書類がこんなに!」
猫の亜人の大臣が、紙の束を抱えている。
「今日の仕事は終わり!ボクも浮竹のところにいってくる!」
「あ、逃げた!」
京楽は、毎日の仕事に飽きて、浮竹を追って、いつの間にか地下に設置された転移魔法陣で元魔王の京楽とフェンリルの浮竹の住む城にやってくる。
「浮竹だけずるい」
「いや、お前は仕事があるだろうから。仕事はどうしたんだ?」
「大臣に任せて放り出してきた」
「まぁ、毎日仕事ばかりだもんな。息抜きもしたくなるか」
「浮竹成分が足りない」
京楽は、浮竹を抱き寄せた。
「おい、見られてるぞ」
「見せつけてるの」
元魔王の京楽とフェンリルの浮竹は、そっちがその気ならといちゃつきはじめた。
『はい、あーん』
フェンリルの浮竹が、茶菓子のプリンを元魔王の京楽の口元にもっていく。
『あーん』
それを、元魔王の京楽が口をあけて食べる。
「ねぇ、浮竹」
「自分で食え。あれはしないぞ」
「くすん」
それでも、京楽は浮竹と一緒にいられるのが嬉しくて、にこにこしていた。
フェンリルの浮竹の尻尾が揺れているのを見て、思い出したとばかりにアイテムポケットから何かの薬を取り出す。
「なんだそれ」
「狼の耳と尻尾が生える薬」
「何そんなものもってきてるんだ」
「フェンリルの浮竹と双子みたいになりたいと思わない?」
「双子‥‥‥」
浮竹は悩んだ。
『俺は勇者の俺とお揃いになりたい』
フェンリルの浮竹は尻尾をぶんぶん振っていた。
『ボクも見てみたいかも』
皆に言われて、浮竹はしぶしぶ薬を飲んだ。
ピョコンと狼の耳が生えて、尻尾も生えた。
「服があわないな」
『俺のメイド服をやる。一緒にメイドになろう』
「いや、女装は‥‥‥‥」
『だめか?』
うるうるとした瞳で見つめられて、浮竹はあっけなく陥落した。
「着替えてくる」
『初めて着るんじゃ、着かたが分からないだろう。教えてやる』
フェンリルの浮竹に連れられて、浮竹は城の奥に入っていく。
数分して、メイド姿になった浮竹が現れた。
「おお、似合ってるね。そうしてると、ほんとに双子みたいだね」
『うん、悪くないね』
『ふふ、双子みたいだって』
「けっこう恥ずかしいんだが」
『慣れたら平気になる』
メイドの姿で、浮竹は京楽に紅茶を入れてフェンリルの浮竹の作ったラズベリータルトを出す。
浮竹の尻尾も、フェンリルの浮竹のように揺れていた。
「きゃう!」
京楽にいきなり尻尾を握られて、浮竹は変な声を出してしまった。
『大丈夫か、勇者の俺』
「京楽、この薬もしかして‥‥‥‥」
「あ、ばれた?性感帯になるの」
「あほおおおおおおおお!!!」
浮竹は、綺麗なアッパーを京楽に決める。
「ひゃう」
フェンリルの浮竹に耳をにぎにぎされて、また声を出してしまう。
「京楽、解毒剤は!」
「ないよ。ちなみに誰かと交わらないととれないから」
「ぐぬぬぬぬ、はめたな!」
浮竹は、くやしそうだが尻尾は揺れていた。
「げふふふふ。こうも簡単にひっかかってくれるとは」
『魔王のボクって‥‥…』
『京楽、きっと仕事のしすぎで勇者の俺とできなくてたまってるんだろう』
『部屋、貸してあげるけど?』
「いや、一度帰るよ」
京楽は、浮竹を姫抱きにして転移魔法陣に乗って、一度戻っていった。
2時間ほどどして、メイド姿だが耳も尻尾もない浮竹ががやってくる。京楽は上機嫌で、反対に浮竹はぐったりしていた。
『勇者の俺、大丈夫か!』
「性欲の権化の餌食にされた」
「おかげですっきりしたよ」
「この魔王め!」
「そうだよ、ボクは魔王だよ?あと魔族だから悪魔でも通じるかもね」
「悪魔めええええ」
『なんだかんだいって、仲がいいんだね』
『むう、せっかく双子のようになれたのに。少し残念だ』
「じゃあ、浮竹にもう一度薬を‥‥‥」
「誰が飲むか!」
京楽は、鳩尾に拳を入れられて、それでも嬉しそうににまにましているのだった。
魔王と勇者と17
「あ、そう。ちなみに33代目勇者は他にいるよ」
「そいつは偽物だ。ということで、魔王京楽、退治されろ」
自称33代目勇者は、本物の33代目勇者である浮竹に殴られた。
「な、何をする!親父にも殴られたことないのに!」
「33代目勇者は俺だ」
浮竹が、自称勇者をもう一度殴る。すると、自称勇者は叫んだ。
「俺が33代目だ!聖女教に認められたんだぞ」
ハルバロッサとかいう勇者は、偽物ではないようであった。
「今の聖女教は狂ってるからね。そんな場所で勇者と認められてもねぇ。第一、そのぼろい鋼の剣はなんなの。勇者なら、聖剣くらいもってるでしょ」
「そ、そんな金のかかる装備、聖女教でもくれなかったぞ」
「まぁ、今の聖女教は藍染がしきってるからね」
「藍染様を悪く言うな!あのお方はいずれ魔神になられるのだ」
ハルバロッサは、うっとりとした表情になる。
「どいつもこいつも、聖女教の連中は藍染の洗脳下だな」
「うん」
「伝説の聖剣を探している。セイクリッドアポカリプスという。それで聖者カイン様を贄にすれば、藍染様は魔神になれるらしい。魔王よ、心当たりはないか」
京楽は、ぎくりとなる。
「知っているんだな。よこせ!情報だけでもいい」
「ボクと戦って勝てたら、あげるよ」
「言ったな!くらえ、セイントビーム!」
よくわからんが、目から光線を出してきた。
京楽はちりっと、焦げた。
「目からビームとか、ある意味すごいね」
「セイントフレア!」
マッチで火をつけて、それに燃料をいれて大きくなった炎を風の魔法で投げてきた。
「すごいんだかアホなんだか」
「両方だろう。魔法の使い方はアホだが、火の魔法を使えないのをマッチでおこした火で代用するとかある意味すごい」
浮竹は、更に攻撃してこようとするハルバロッサに炎の魔法を投げる。
「セイントフレア」
それは、本物のセイントフレアの魔法だった。
ハルバロッサは丸焦げになり、それでもぼろい鋼の剣で京楽に切りかかる。
今度は明確な殺意があった。
「イノセントグラビティ」
「ぐぎゃあああああ!?」
何十倍もの重力におしつぶされて、ハルバロッサはぺしゃんこになった。
数センチにプレスされた肉塊を、浮竹はクリーンの魔法で消してしまう。
「なぁ、京楽」
「な、なんだい?」
「この魔王剣ディアブロ、本当の名前は聖剣セイクリッドアポカリプスなんじゃ‥‥」
「しーーーー!聖剣を魔剣にして使ってるから!セイクリッドアポカリプスは魔神復活のカギとなりえる。だから、ボクの目の届く範囲で使ってもらってる」
「聖剣なのに、魔剣にされてちょっとかわいそうだが、今まで通り魔剣として使うぞ?」
「うん、それでいいよ。くれぐれも藍染の手に渡らないようにね」
「厳重に警備しなくていいのか?」
「それだと聖剣のままになってしまうから、情報が漏れてしまうかもしれない。魔剣として使われていた方が安全だよ」
京楽は、浮竹が使っている魔王剣ディアブロを見る。とても禍々しくて、とてもじゃないが聖剣には見えない。
「君にあげるとき、魔力吸収のエンチャントつけておいたのがよかったみたいだね。倒したモンスターの魔力を吸収して、いいかんじに禍々しくなってる。まぁ、元から使用者の魔力を吸って力に変える剣で、昔のボクが愛用してたけど」
「宝物庫にあるよりは、俺の手の中にあったほうが、安心か」
「うん。藍染の手に渡らないためにも、君が使っていて」
「分かった」
聖剣セイクリッドアポカリプスと、聖者カインの命。
聖者カインとは、藍染と17代目聖女アナスタシアとの間にできた子が、聖者カインであった。
藍染は、魔神となるために聖女と魔族の子が必要だった。いないなら、作ってしまえばいい。
17代目に産ませて、お払い箱になった17代目聖女アナスタシアは、藍染の洗脳の支配下に置けないために、藍染の手の者で処分され、今は16代目聖女アナスタシアが聖女教のTOPにいるが、藍染の洗脳下で、実質聖女教は藍染のものになっていた。
ただ、本部だけで田舎の支部などは正常に機能しているが、藍染の色に染まるのも時間の問題と思われた。
「3代目魔王、京楽春水は、魔王領における聖女教の布教を禁ずる。また、聖女教の存在を許さないものとする。すでに聖女教に入っている者は脱退すること」
突然の魔王の発表に、聖女教に入っていた民は慌てたが、聖女教から脱退すると相応の金銭が得られると知り、皆自分から聖女教を脱退していった。
「私の次の魔王、京楽春水か。目障りだな」
藍染は、魔王領の外で16代目聖女アナスタシアを侍らせて、今の魔王をどうしようか悩みだすのだった。
魔王と勇者と16
「んあっ」
「ふふ、まだいけるでしょ?」
「やあああ、もう何回目だと‥‥」
奥を貫く京楽のものはまだ硬い。
「やあん」
「もっと、啼いて?」
「京楽のばかぁ」
浮竹は、胎の奥で京楽の子種を受け止める。
「ひああああ!」
「もっともっと、たくさんあげるね?」
「やあああ」
ちゅどんと奥の奥まで貫かれる。
「やああ、いっちゃううううう」
浮竹はオーガズムでいっていた。
「もっといっていいよ?」
「ひああああん」
奥をごりっと抉られて、浮竹は啼く。
「あ、春水、もっとおお」
「ふふ、十四郎、かわいいね?」
その後、浮竹は意識を飛ばすまで抱かれ続けた。
「抱きたい時は、ちゃんとそう言え」
「だって、忙しい上に肝心の君はモンスター退治でいなかったり、元魔王のボクのとこに行ったりしてるから」
「はぁ。まぁ、新婚なのに俺たち全然してなかったからな。俺も悪かった」
「ううん、ボクのほうこそ我慢できずにごめんね」
「それにしても、おみやげがウェディングケーキとは」
浮竹は、アイテムポケットから取り出したお土産を見て、ため息をつく。気をつかわせてしまったかなと。
「二人で食べようか?」
「ああ、そうだな。せっかく作ってもらったんだ。食べないとな?」
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そんなある日。
「大変だよ。ケロちゃんがチョコ食べちゃった」
「ケロちゃん?」
「魔王城で飼ってる地獄の番犬のケルベロスのケロちゃん」
「ま、また物騒なモンスターを飼ってるな?」
「ケロちゃんいい子だよ。魔王のボクを殺しにきたやつをたまに食べちゃうけど」
浮竹は、ケロちゃんがちょっと怖いと思った。
「それで、そのケロちゃんがチョコを?」
「うん。厨房でおやつもらってたんだけど、まちがってチョコレート食べちゃってね。犬にとってチョコレートは害だから。部下に言って、動物病院に連れてってもらったよ」
動物病院にかかるケルベロス。どうなんだろうと思いつつも、浮竹は返事する。
「何事もなければいいな」
「うん。ケロちゃん、病院の先生に火のブレスはかなきゃいいけど」
やっぱり怖いと浮竹は思った。
「魔王様、ケロちゃん大丈夫でした!」
「わん!」
京楽の部下が、巨大な3つの頭をもつケルベロスを連れてくる。
「おお、よかった。ケロちゃん、チョコはもう食べちゃだめだよ」
「ワン!」
そこへ、ちょうど遊びにきた元魔王の京楽とフェンリルの浮竹がやってきた。
『やぁ、遊びに来たよ』
「がるるるるる!」
『もぎゃああああああああ!?』
ケロちゃんは、元魔王の京楽を食べようとかみつく。
「ケロちゃん、それは食べ物じゃないよ。ぺっしなさい」
「ぺっ」
『きょ、京楽大丈夫か?』
フェンリルの浮竹が元魔王の京楽に近づく。
「がるるるるる。くーんくーん」
『へ。俺には腹を向けるのか?』
「フェンリルは狼だけど、ケロちゃんもある意味狼だしね」
京楽は、ケロちゃんの頭を撫でた。
『納得いかない‥‥』
かじられた元魔王の京楽は、ケロちゃんと距離をとる。
「ケロちゃん、元魔王の京楽だ。俺たちの友達なんだ」
「くーん」
浮竹が説明すると、ケロちゃんは元魔王の京楽にも腹を見せた。
『噛みつかれた後で見せられても‥‥』
『京楽、意外とかわいいぞ。もふもふだ』
フェンリルの浮竹は、ケロちゃんをもふりまくる。
しっぽをぶんぶん振りながら。ケロちゃんのしっぽもぶんぶん振られていた。
「なんか、フェンリルの俺に似てるな」
『え、そうか?でも俺はフェンリル姿になっても頭は3つもないぞ?』
「見た目じゃなくって、嬉しがる反応が」
『ああ、そうだな。でも、俺は腹はみせないからな?フェンリル姿になっても』
「そういえば、フェンリル姿になれるんだろう?見てみたい」
『仕方ないなぁ』
フェンリルの浮竹は、狼のフェンリルの姿になった。サイズを調整してあるので、犬くらいの大きさだった。
「か、かわいい」
『く、くすぐったい』
浮竹はフェンリル姿のフェンリルの浮竹を抱き上げて、頬ずりする。
「毛並みいいな」
『そりゃ、ボクの手入れがいき届いてるからね』
えっへんと自慢気な元魔王の京楽を放置して、京楽もフェンリルの浮竹をもふる。
『ちょっと、誰か反応してよ!』
『京楽、くすぐったいぞ。しっぽのぶんぶんが止まらない。なんでだ』
『嬉しいからでしょ?』
『あ、ああ、そうか』
喜ぶと、自然と尻尾が揺れる。
フェンリルの浮竹は、犬サイズのままもふられ続けて、疲れて元に戻ると眠ってしまった。
「俺も一緒に寝る」
『君だけだよ。ボクの浮竹と寝て許されるのは』
「お前は京楽と寝てたらどうだ?」
『やだよ。何が悲しくてこんなひげもじゃと。ボクもひげもじゃだけど』
「ボクだってやだよ?浮竹と寝たい」
「今の俺は、フェンリルの俺と寝たいんだ。モンスター討伐で朝帰りだしな」
こうして、浮竹とフェンリルの浮竹は、魔王城の浮竹の部屋で一緒に眠り、それをそっと陰から京楽達が見て、心を和ませるのだった。
魔王と勇者と15
「ダンジョンって、冒険者が探索するあのダンジョンか?」
「うん、そう。魔王領にあるキリア共和国に新しいS級ダンジョンが発見されたんだよ。S級以上の冒険者しか入れない。ボクは一応冒険者ギルドに登録してあって、Sランクだよ?」
魔王な冒険者ってどうなのだろうと浮竹派思った。
「まぁ、いいが」
「そう言うと思って、勝手に冒険者ギルドに登録しといたから。勇者ってことでSランクだよ」
「早いなおい」
「元の異世界じゃあ、魔法も剣もない世界だったからね。魔王になる前はよくダンジョンにもぐったものだよ」
京楽はしみじみと言う。
浮竹は勇者として異世界召喚されたが、京楽もまた600年以上も前に時空をこえて、浮竹と孤児院で過ごしていた頃に同じ今の世界に召喚されて、魔族として精神だけが残り、肉体は粉々になった。
なので、孤児院で過ごしていた頃の京楽は、今の白めの肌に黒い髪、鳶色の瞳ではなかった。
褐色の肌に金髪、青い瞳を当時していた。
浮竹が京楽を見ても、京楽のことを思い出さないのが当たり前なほど、顔立ちも変わっていた。当時は子供ということもあり、よく少女に間違われたが、今はダンディな男性だと浮竹は思う。
「アイテムポケットに回復材とかテントとか食用いれておいたよ。マッピングしながら進もう:
「やる気ありありだな」
「だって、浮竹と二人で冒険だよ。子供の頃に憧れてもできなかったことが、実現しようとしてるんだよ」
「はいはい。防具はいらないから、魔王剣ディアブロ以外にも一応武器もっていくか」
「そう言うと思ってこんなの用意してみたよ。魔銀の球が出る銃」
「この世界に、銃なんてあったのか」
「今はまだ珍しいけどね」
『ダンジョンに行くんだって。俺絵たちも同行していいか?浮竹が一緒に行きたいってきかなくてね』:
フェンリルの浮竹と元魔王の京楽は、突然現れると突然そんなことを言い出した。
「隠形使ってた?」
「わあ、びっくしりた」
突然の来訪に二人は驚きながらも、浮竹はフェンリルの浮竹の耳をわしゃわしゃした。
「もちろん、一緒に行っていいぞ」
『やったぁ!』
フェンリルの浮竹は、しっぽをぶんぶん振っていた。
「相変わらずかわいいな」
『ん?』
「いや、なんでもない」
フェンリルの浮竹は、浮竹から見てもかわいかった。
『じゃあ、食料とかはボクたちはボクたちで準備してるから』
「お前の手料理食べれるのか?」
浮竹が、フェンリルの浮竹の頭を撫でながら言う。
『ああ、俺がつくるぞ』
「君の料理の腕はいいから、保存食を食べる必要もないかな」
『任せておけ』
こうして、一向はダンジョンにおもむくことになった。
攻略に3日かかった。
浮竹とフェンリルの浮竹は一緒に眠ったりして、京楽たちをほんわかとさせた。
「ギルドにお土産ができたね?」
京楽は、最終フロアにいたヒュドラをあっさりと倒してしまった。
素材のために死体を回収する。
『さすが魔王だな。強いな、魔王の京楽!』
フェンリルの浮竹はしっぽを振りパなしだった。
よほど、一種にいれるのが嬉しいらしい。
ちなみに、ざこのほとんどはフェンリルの浮竹が処理してしまった。
「家事もできて、戦闘もできるなんてハイスペックだな」
『そうだろう、そうだろう』
フェンリルの浮竹は胸を張る。
『ボクのだからね。あげないからね』
「いや、ものじゃないんだから」
『俺は京楽のものだぞ』
「ええ、そうなのかい」
「みたいだな」
『契約してるからね』
元魔王の京楽は、フェンリルの浮竹を抱き寄せる。
『見る?キスシーン』
「見ないよ」
「やめとく」
『ちぇっ、つまらないね』
『京楽、ところかまわず発情しよとするな』
フェンリルの浮竹に怒られて、元魔王の京楽は反省する。
『今日魔王城に泊まったら、明日帰ろうか。魔王のボクの仕事もあるだろうし』
「まぁね。ダンジョン攻略するために執務大事に任せてあるけど、そろそろ限界だよ」
『むう。もっと遊びたいのに』
「俺だけでよければ、遊びに行くぞ?」
『本当か?』
フェンリルの浮竹は、しっぽをぶんぶん振っていた。
「ちょっと浮竹、ボクは?」
「魔王の仕事でもしてろ。俺の仕事はモンスター討伐だからな」
「ひどい。ボクに一人で仕事しろと?」
「もともとお前の仕事は俺にはちんぷんかんぷんだ。じゃあ、そういうことで俺はフェンリルの俺と元魔王の京楽についていく」
『やったー。勇者の浮竹と一緒だ。お泊りだ!』
フェンリルの浮竹は無邪気にはしゃぐ。
『ありがとう、勇者の浮竹。ボクの浮竹のためを思ってくれたんだね』
「ああ。かわいいしな。もっと一緒にいたい。心が和んだ」
魔王の京楽は仕事に忙殺される中、浮竹は勇者とか関係なく、元魔王の京楽の城でフェンリルの浮竹と遊ぶのだった。
魔王と勇者と14
16代目聖女は死んだとされていたが、ずっと昏睡状態だった。
17代目聖女がクローンとしてつくられ、16目聖女は死亡したと発表された。
今の17代目聖女が元魔王の藍染と婚姻し、子をもうけているのが16代目聖女を押す結果となっていた。
17代目聖女が、元魔王藍染と婚姻し子をもうけたことは、聖女教でも問題になっていた。
「わたしが聖女よ!」
「元魔王と婚姻して子をもうけるなど、聖女の風上にもおけない。16代目である私が聖女にふさわしい」
聖女同士で争いあう。
「ねぇ、藍染、あなたも何か言ってやって」
「16代目のアナスタシア。私を夫とする気はあるか?」
「な、何を言っているの、藍染!」
「私が聖女として返り咲く手伝いをすれば、夫としてもよいでしょう」
「その言葉、忘れるなよ」
藍染は、洗脳しきれない17代目聖女アナスタシアを疎ましく思い始めていた。子はなしたし、もう用済みだ。
藍染は、信者の一人を洗脳して、17代目アナスタシアをナイフで刺させた。
「きゃああああああああ!!」
17代目聖女を助けようとする者はいない。
皆、藍染に洗脳されていた。
「16代目聖女アナスタシアよ。これで、お前が聖女だ」
「あはははは!17代目、いい気味ね。私こそが、聖女にもっともふさわしい」
16代目聖女アナスタシアも、すでに藍染の洗脳下だった。
「まずは、勇者認定をなくします。魔神崇拝主義を取り入れます」
「それでいい」
藍染は、笑う。
乳母に任せてある、17代目聖女との子カインが、おぎゃあおぎゃあと泣いていた。
「聖女教では、17代目聖女が死んで、16代目が聖女に返り咲いたそうだよ」
「背後に藍染がいるんじゃないか?」
「その通り。密偵が確かめたんだけど、信者のほとんどが洗脳されてるって。密偵には洗脳防止の処置を施しているからね」
「その密偵の命も危ういだろう。早めに帰還するようにしろ」
「うん。すでに、聖都アルカンシェルをたったよ」
聖女が住まう都は、聖都アルカンシェルといった。
身分の高い者たちが住まう都で、どこの都よりも繁栄していた。
『やあ』
「お、元魔王のボクじゃない」
『俺もいるぞ』
「フェンリルの浮竹も一緒かい」
フェンリルの浮竹を見た浮竹は、じーっと耳と尻尾を凝視していた。
『さ、触りたいのか?いいぞ』
「いいのか?じゃあ、さわる」
『こ、こそばゆい』
わしゃわしゃと、フェンリルの浮竹の耳と尻尾を触るが、フェンリルの浮竹はこそばゆそうにしていた。
「尻尾、ふさふさだな」
「あ、ボクも触っていい?」
『君はだめ。ボクの浮竹だからね。勇者の浮竹は特別』
「ケチ」
京楽は、悪態をつく。
『今日は忙しくないのか?』
「ん。昨日までは忙しかったよ。今日は大臣に全て任せてるからね」
『そうか。じゃあ、遊びにきたけどかまってもらえるな?』
フェンリルの浮竹は、尻尾をぶんぶん振っていた。
「なんなら、泊まっていくかい?」
『いいの?』
『いいのか?』
「今度遊べるの、いつか分からないからね。今日と明日とその次の日は、休みにしてるんだよ」
『じゃあ、2日泊まってく!』
『浮竹、2日もなんて』
『やだ、勇者の俺と一緒にいたい』
「俺はかまわんぞ?」
浮竹がそう言うと、フェンリルの浮竹は顔を輝かせた。
『わーい、2日お泊りだ』
「京楽の転移魔法で、ここの近場の観光スポット巡りでもしようか。金貨はもってきてないだろう?ほしいものがあれば、京楽に言うといい。無駄に金持ちだから」
『遠慮しなくていいんだな?』
フェンリルの浮竹は、尻尾をぶんぶん振っていた。
「星金貨200枚までなら、何を買ってもいいよ」
『ほ、星金貨!?1枚金貨の千枚相当じゃないか!魔王って、もうかるんだな』
フェンリルの浮竹はぽかーんとする。
元魔王の京楽も、その値段にぽかーんとしていた。
「元魔王の藍染の残したお金がほとんどだけど、魔王領にくわわった国々から税をとりたてているし、けっこうあるよ、お金」
『よし、じゃあ俺の武器をグレードアップしてもらおうかな』
フェンリルの浮竹は、二つの剣を見せる。
「お、いいのもってるね」
『ふふふ。俺の自慢なんだ』
「これなら、マジックキャンセラーの他にも、いろいろエンチャントができそうだな。いい鍛冶屋があるんだ。案内しよう」
浮竹と京楽は、元魔王の京楽とフェンリルの浮竹を伴って、近場のエルル王国に転移して、鍛冶屋工房を歩いていく。
「ここだ。ドワーフが鍛冶屋をしていて、エンチャントも取り扱ってくれている。値段はけっこうするが、京楽のおごりだ」
『わぁ、ドワーフ、初めて見る』
「腕は確かだぞ。何をエンチャントしてもらいたい?」
『ええと‥‥‥‥』
フェンリルの浮竹は尻尾を振って、ドワーフの鍛冶師につけてもらういたいエンチャントをいっぱいいう。
「綺麗な兄ちゃん、さすがにそんな数のエンチャントは武器が壊れてしまいますぜ」
『むう。じゃあ‥‥‥』
フェンリルの浮竹は、武器強化と炎属性付与のエンチャントを選んだ。
「炎は、この剣の刃に念じると炎属性がつくので。武器強化は、今までよりさらに切れ味がよくなって扱いやすいようにしておいた」
『あ、ありがとう』
短時間でエンチャントしたドワーフの腕は確かなようだった。
「勘定を」
京楽が、財布を取り出す。
「金貨2千枚になりやす」
『ひいい、金貨2千枚!』
フェンリルの浮竹は、その値段に顔を蒼くするが、浮竹が笑って囁いた。
「星金貨200枚までなら、自由だ」
『そ、そうか』
『あんまり、無駄遣いはしないようにね?』
元魔王の京楽は、ため息をつくのであった。
魔王と勇者と13
魔王京楽は、二人の勇者相手に軽口をたたく。
「聖女教から、兄を討伐せよと言われてやってきた」
「俺も。聖女教の命令で」
黒崎一護と朽木白哉は、浮竹と同じ勇者である、聖女教から勇者の認定を受けている。
「でも、ボクを倒す気はないんでしょ?」
「当り前だ。兄のような優しいよき魔王を倒して、次の魔王が藍染のような輩になったら困る」
「俺も白哉と同じ考えだ。京楽さんには魔王であり続けてほしい」
「は、はじめまして。勇者の浮竹十四郎という」
浮竹は一護と白哉と会うのは初めてで、緊張していた。
「兄が、3人目の勇者か。噂は聞いている」
「京楽さんと結婚しちまった勇者があんたか」
浮竹は、京楽のに影に隠れる。
「よ、よろしく」
「うむ」
「ああ」
白夜と一護は笑って、京楽のに影に隠れて少しおびえている浮竹と握手をする。
「おびえずとも、何もせぬ」
「そうだぜ。同じ勇者同士、仲良くしようぜ」
「せっかく勇者が3人もぞろったんだし。お茶会でも開こうか」
「好きにせよ」
「魔王城の飯うまいから、ちょっと楽しみだな」
浮竹は、テーブルと椅子のある中庭に一護と白哉を案内した。
「俺は聖女教の勇者の認定を受けていないんだ。でも、一応勇者だ」
「別に、聖女教が勇者をどうこうするのは少ないからな。まぁ、今回みたいに魔王を討伐せよとか命令されるけど、従わなくてもいいし。浮竹さんが認定受けてなくても、世界が勇者って認めてたら、もう勇者だ」
「俺は世界に、人々に勇者と認めてもらえているのか?」
「うむ。北の勇者浮竹十四郎と言われている」
「そ、そうか」
浮竹は少し赤くなって照れながら、京楽の執事が紅茶を入れてくれるのを手伝った。
「茶菓子はバームクーヘンだよ」
「お、うまそうだな」
「兄の城は、いつ見ても無駄に豪華だな」
白夜の言葉に、京楽は笑う。
「元魔王の藍染の城をそのまま使ってるからね。成金趣味はないけど、あったのは藍染だよ。まぁ、城の一部が金箔はられてぴかぴかしてたのはどうかと思ってはがしたけどね」
「藍染といえば、聖女アナスタシアの夫になっているな」
「まじ、ありねぇ。17代目聖女アナスタシアはどこかおかしいんじゃないのか。魔王排斥を掲げておきながら、元魔王を夫にして魔族との間に子をもうけるなんて」
一護が、バームクーヘンを頬張りながら、現聖女である17代目聖女アナスタシアへの愚痴を言う。
「確かに、おかしいね。藍染に洗脳されている可能性が高いけど、聖女で女神でもあるアナスタシアがそう簡単に洗脳されるとも思えない」
京楽は、執事にお茶のおかわりをいれてもらいながら、一護の言葉に同意する。
「この前の勇者の反魂といい、聖女の枠からずれた行動をしているな」
浮竹は、前回の勇者のことを思い出し、少し哀れに思った。
「あの元勇者、何代目の聖女か知らないけどアナスタシアの夫だったんだろ。聖女はクローンで生まれてきても、記憶は継承され続けるから、今のアナスタシアにとっても、夫であっただろうに、扱いが酷いな」
「確かに。17代目の聖女アナスタシアはどこかおかしいな」
白哉も頷いた。
「今の聖女アナスタシアは藍染を魔神にしようとしているらしいよ」
「え、本当なのか?」
「まことか?」
一護と白哉は知らないようだった。
「密偵を送り込んでいるからね。確かな情報だよ」
一護と白哉は、大きくため息をつく。
「今後、聖女の言葉には従わねぇ」
「私もだ」
「いいのか?聖女教に敵対されたら」
「大丈夫だよ、浮竹。聖女教は確かにこの世界で一番の宗教だけど、モンスターを退治してくれる勇者のおかげもあって普及しているんだよ。一護くんと白哉くんをどうにかまではできないよ」
「なら、いいんだが」
浮竹は、一護と白哉と友達になった。
「じゃあ、今度会いに来る時は、聖女教がどうこうじゃない時にくるから」
「私もだ。帰って、モンスター討伐をせねば」
「二人とも、俺と友達になってくれてありがとう」
「どういたしまして」
「勇者の友が増えるのはよいことだ」
去っていく二人の勇者を見送って、浮竹と京楽も魔王城に戻る。
「魔神か‥‥‥。そんな存在になれたのは、悪魔王ディアブロくらいなんだけどね」
「魔族と悪魔は違うんだろう?」
「うん。魔族は種族で、悪魔は悪魔っていう種族だよ。まぁ、魔族は悪魔に近いから、悪魔になる魔族もけっこういるけどね。基本は別ものだよ」
そんな会話をしている京楽と浮竹の元に、一通の手紙がフクロウの足に結ばれてやってくる。
「なんて書いてあるんだ?」:
「16代目聖女アナスタシアの生存を確認。聖女教で16代目と17代目をめぐって争いが起きているって」
「先代の聖女はまだ生きていたのか!」
「そうなると、聖女になるのは16代目だね。17代目は不正に生まれてきたことになるから」
「また、きな臭いことになりそうだな」
「そうだね」
浮竹と京楽は、聖女教が内部で瓦解すればいいのにと思うのであった。
ほっとけーきだけにほっとけ
京楽は、パンツ一枚でベッドの上に寝っ転がって、浮竹を誘う。
甘い香りがした。
京楽は、両乳首とへその上に、ホットケーキを乗せて浮竹が食べてくれるのを待っていた。
「誰が食うか、そんなものおおおお!!」
浮竹は、京楽に蜂蜜をぶっかけて、蹴り転がす。
「ああん、ボクのミルク入りの特製ホットケーキが!」
「なんちゅうものいれとるんじゃわれええええ!!!」
浮竹は、もしも食べていたらを想像すると、鳥肌が立った。
「おかわりあるよ!まだ焼いてないだけで!」
「お前が自分で食え!」
「え、浮竹のミルクもらえるの!?」
「誰がそんな変態なことするかああああ!!!」
ツッコミを入れすぎて、浮竹はせきをする。
ごほごほとせきこんでいると、ゴポリをと血を吐いた、
「浮竹!!!」
「いいから、服を着ろ。一人で4番隊のところに行ける」
「でも」
「そんな変態な恰好で外に出るつもりか」
「浮竹が望むなら」
「アホか。いいからシャワー浴びてきて着替えろ。ごほっごほっ」
「マッハで浴びてくるね」
5分後、マッハでシャワーを浴びて、院生の服に着替えた京楽を見て、浮竹は安堵する。
「ちょっと、自分だけじゃ4番隊のところに行けそうにない」
「薬は飲んだ?」
「飲んだが‥‥‥‥ごほっごほっ」
また吐血を繰り返す浮竹をお姫様抱っこして、京楽は4場隊のところまで瞬歩で移動する。
「あら、浮竹さんじゃありませんか」
ちょうど、隊長の卯ノ花がいて、浮竹を診てくれた。
「軽い発作です。一日安静にしていば、大丈夫でしょう」
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
浮竹は卯ノ花から直々に回道をかけてもらい、少し元気になった。
「何も入ってない、普通のホットケーキなら食ってやってもいい」
「ええ!ボクのミルクいれたほうが絶対おいしく・・・・・・・おぶ」
鳩尾を蹴られて、京楽は黙り込む。
「お前は、自分の精液が入ったホットケーキが食えるの か?」
「そんなもの、食べれるわけないじゃない。ばっちい」
「そんなものを俺に食べさせようとするなああああ!!!」
「もぎゃああああああああああ!!!」
「はぁはぁ」
浮竹は、荒い呼吸をする。
安静にしようと、ベッドに横になる。
「ボク、君のミルク入りなら、食べれるよ?」
「誰がやるかああああああああ!!」
安静にしなきゃいけないのに、同室の変態のせいで浮竹は発作が悪化し、2日間寝込むことになる。
それに、京楽は反省するのだった。
ほんの少しだけ。
魔王と勇者と12
契約者であり、主でもあった。
聖女教が認定した勇者であった。もう何百年も昔の話なのに、元勇者は目の前にいた。
「哀れだな、オリヴィエ。死してなお、聖女教の傀儡となるか」
「私は死んでなんていませんよ?」
「オリヴィエ、お前は死者だ。魂は一度冥界にいった。反魂で蘇ったにすぎん」
「反魂だろうとなんだろと、今を生きています。さぁ、ゼイアス、契約に従い私に従いなさい」
オリヴィエは、6代目勇者であった。現代の今の勇者は3人で、30代~33代目にあたる。
オリヴィエは、金の巻き毛に青い瞳をした、7代目聖女の婚姻相手でもあった。
「聖女アナスタシアのため、魔王は殺します」
「今の17代目聖女アナスタシアはお前が愛したアナスタシアではない」
「そうでししょうね。でも、アナスタシアは代々クローンで世襲している。記憶も前の聖女のものをもって生まれてくる。正確には私の愛したアナスタシアではないかもしれないけれど、同時に私が愛したアナスタシアでもある」
白竜ゼイアスは、契約のためにオリヴィエに逆らえない。
「く、契約とはこういう時う不便なものだ」
「ゼイアス、私とアナスタシアの子はどうなったか知りませんか」
「ロセアなら、ロセア王国の初代国王になった」
「ほう。私の子は、国を作ったのですね。さすが聖女アナスタシアと勇者であった私の子だ」
「ロセアも、もうこの世にはいないぞ。いるのは、お前が愛した記憶をもつ17代目の聖女アナスタシアと、元魔王である藍染の間に生まれた聖者ミネルだ」
白竜ゼイアスは、契約にしばられてオリヴィエを殺すことができない。
「こうなったら、我が古き友にして現魔王である京楽に全てを委ねるか‥‥‥」
ゼイアスの意識は次第ににごっていく。
魔王京楽の友、白竜ゼイアスではなく、6代目勇者の親友の聖竜ゼイアス・クラインになっていた。
「魔王京楽、覚悟!」
「あーあ。今日はついてないね。浮竹の前で紅茶股間に零して火傷するし、聖女教の刺客は次々とくるし」
もはや、聖女教は浮竹を勇者として認めず、魔王京楽の伴侶である敵として見ていた。
「京楽、愚痴ってないで手を動かせ。このアンデットたち、元勇者の兵士だろう。どこかに操っている元勇者がいるはずだ」
「浮竹には、怒られるし‥‥」
「真面目にしないと、離婚するぞ京楽!」
「元勇者目、どこにいる!」
とたんに反応を切りかえる京楽に、浮竹は苦笑するしかなかった。
「巨大な影‥‥‥‥ドラゴンか!ドラゴンの背に、元勇者がいるようだ」
「ばかな。あれは白竜ゼイアスだ。なぜ、彼が元勇者に従ってる。‥‥‥‥古の契約か。せめて、ゼイアスは正気になって生き延びてもらおう」
京楽は、空中にいくつもの複雑な魔法陣を描くと、1つの魔法を構築する。
「ハイ・エリクシア!」
神の薬エリクシアと同じ効果のある究極の癒しの術であった。傷を癒すだけでなく、どんな状態異常も元に戻す。
白竜ゼイアスは我に返り、契約者であった6代目勇者オリヴィエを背中から放り出す、
「ゼイアス、裏切る気ですか!」
「このゼイアスが契約し、友としたオリヴィエは死んでいる。反魂で蘇ったお前は、まがいものだ」
「私は正真正銘の勇者オリヴィエですよ!?」
「今の勇者は、3人いる。下に魔王京楽と一緒にいる浮竹十四郎、そしてここにはいない黒崎一護、朽木白哉だ」
「同じ時代に勇者が3人も?ばかな時代になったものだ。まぁいい、いけ、私の兵士たちよ!」
オリヴィエは、同じく反魂で大量に蘇った自分の兵士たちを京楽と浮竹にさしむける。
「ええい、らちがあかん。炎の精霊王よ、顕現せよ!」
浮竹は、炎お精霊王イフリールを呼び出して、アンデットたちを焼き尽くす。
「おのれ、精霊王と契約して‥‥幻のエレメンタルマスターですか。厄介な」
「もう、君を守る兵隊はいないよ?さぁ、覚悟するんだね、6代目勇者オリヴィエ・カイントス」
「おのれえええ。聖女アナスタシアのためにも、魔王は私が滅ぼします」
「無理だよ。ハイ・エリクシアの光を君も受けたはずだ。反魂も一種の状態異常。もうすぐ、君は消えてなくなる」
「ならば、道連れにするまでですよ!」
オリヴィエは、禁忌の魔法を発動させる。
「ワールドエンド」
「京楽!」
「大丈夫。ボクもだてに魔王やってないよ。ブラックホール」
京楽は、オリヴィエの放った終末の魔法をブラックホールの魔法で食らっていく。
「おのれえええ、魔王京楽!!!」
「ジ・エンドだよ?」
オリヴィエの背後から現れた浮竹が、魔王剣ディアブロで反魂の核である胸にある魔石を切り砕く。
「ああああああああ!愛しています、アナスタシア!聖女万歳!」
オリヴィエは、灰となって消えた。
「すまぬ、勇者浮竹、魔王京楽。古の契約により、反魂で蘇ったオリヴィエに服従を強いられていた。それすらも消すとは、ハイ・エリクシアの魔法はすごいな。聖女アナスタシアでも使えないのではないか?」
「そりゃそうでしょ、。ボクのオリジナル魔法だもん」
「京楽、お前ってっすごかったんだ」
「ちょ、浮竹!?今頃何言ってるの!」
「ただのスケベな優しいだけのアホ魔王だと思ってた」
「スケベは余計ですぅ」
京楽はすねる。
「はははは、京楽、お前の伴侶は面白いな。聖女見習いだった、カリーナを思いだす。カリーナとお前は恋人同士だったが、アナスタシアに殺されたのであったな」
「あ、カリーナのことは」
「話していないのか?」
「う、うん」
「京楽?俺は、お前に昔恋人がいても気にしないぞ?」
「浮竹、そう笑顔でいいながら足ぐりぐりするのやめてよお。今は浮竹一筋なんだから」
「ふん、どうだか」
騒ぎが終わり、魔王城に避難していた人が出てくる。
「あ、ドラゴンだ!」
「おっと、我は人は苦手なのだ。カララッカに戻る」
白竜ゼイアスは、巨大な体を翻して、羽ばたいて消えていく。
「もう大丈夫だ」
「本当、魔王様?」
「魔王様、お怪我は!?」
わらわらとよってくる民と適当に距離を置いて、京楽はふてくされている浮竹の手を引っ張って魔王城に入っていく。
「京楽?」
「ボクが、今愛しているのは浮竹だけだから。カリーナは300年ほど前のボクの恋人だった聖女見習いの少女だった。ボクは魔王候補に選ばれていて、聖女アナスタシアに殺されてしまったけれど」
「す、すまん。そんな事情があったなんて‥‥」
「ううん、いいんだよ。ただ、聖女アナスタシアと元魔王藍染だけは許せない。今回のことも、二人が原因だろう」
「こんなに反魂できるなんて、聖女か魔王か、あるいは両方だものな」
「あら。オリヴィエはまた死んでしまったの。せっかく、新しい命をあげたのに」
「アナスタシア。我らの子のカインが泣いているぞ」
「あら。ミルクはあげたし、おしめかしら。それとも、高濃度魔力が切れたのかしら」
聖女アナスタシアは、自らの子に高濃度魔力を与えて、その力を増大させていた。
「カインは、近いうちに私たちの手ごまとして使う。いいね、アナスタシア」
「ええ、愛しいあなた。子なんて、また産めばいいだけなんだから」
クスクスと聖女は笑う。
十代前半で肉体の年齢を止めた聖女は、あどけない顔で笑い続けるのであった。
