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小説掲載プログ
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始祖なる者、ヴァンパイアマスター3

ヴァンピール。

ヴァアンパイアと人間の間に生まれ落ちた、呪われし子。

通常、ヴァンパイアと人間の間に子は生まれない。時折生まれるも、普通のヴァンパイアを凌ぐ力を持って生まれてきて、その力に溺れて、制御できなくなって命を落とす。

そんなヴァンピールの少年が、捨てられた。

名前は日番谷冬獅郎。

父がヴァンパイアで、母が人間だった。

父親であったヴァンパイアは、冬獅郎の母親を無理やり犯して、妻として迎え入れた。通常、花嫁になる者は血を与えられて、ヴァンパイアにされる。

それを、冬獅郎の父は人間のまま妻として迎え、犯して子を何人も産ませた。

冬獅郎の母は、珍しい血を持っていて、ヴァンパイアの子を孕んで産むことができた。

父親は、力になるヴァンピールを求めていた。

自分の手足として動く、力あるヴァンピールを。

冬獅郎には5人の兄弟姉妹がいた。

4人とも、力に溺れて自分の力を制御できずに、幼くして死んでいった。

唯一生き残った冬獅郎は、父親に期待されていた。

けれど、母親であった人間の母は、冬獅郎を連れて父親の元から逃げ出した。

父親は、母親を殺した。もう、子は必要ないと。

冬獅郎さえいれば、それでいいと。

冬獅郎は、気づけば父親を殺していた。

親殺しのヴァンピールと蔑まれて、生きてきた。仲間であるヴァンパイアたちは、孤児(みなしご)である冬獅郎を、蔑みはしても一応は育ててくれた。

でもある日、ヴァンパイアの、冬獅郎と同じくらいの少女が、氷漬けになって死んだ。

それは、冬獅郎が自分の力の制御に失敗したせいだった。

ヴァンパイアたちは、冬獅郎を殺そうとした。

それを、気づけば冬獅郎が返り討ちにしていた。

俺は、いらない子。この世界に不必要。

血の帝国の外で生まれた冬獅郎は、血の帝国という存在を知り、そこに行きたかった。

女帝を殺して、この世界から血の帝国をなくして、世界からヴァンパイアを駆逐したかった。

冬獅郎は、血の帝国に入り、そこで同じヴァンピールである黒崎一護と出会った。

一護は、ヴァンピールであるのに、皇族の朽木ルキアの守護騎士であった。

鮮烈だった。

守護騎士になれるヴァンピールが存在するのか。

とてつもなく惹かれた。

ヴァンピールである自分も、生きていていいんじゃないかと思った。

そこに、女帝ブラッディ・ネイが介入してきて、ルキアと一護を、冬獅郎ともども、浮竹と京楽の住む古城に押し付けた。

「あー。朝っぱらから、厄介なことを。ブラッディ・ネイめ、覚えてろ」

浮竹は、突然の訪問者たちに、ただ実の妹であるブラッディ・ネイを恨んだ。

「ブラッディ・ネイもやってくれるね。厄介ごとを、僕たちに押し付けるなんて」

浮竹の隣で紅茶を飲んでいた京楽は、浮竹を見た。

浮竹は頭を抱えて、唸っていた。

やってきた訪問者は三人。皇女である朽木ルキアと、その守護騎士黒崎一護、そしてブラッディ・ネイの命を狙った孤児のヴァンピール日番谷冬獅郎。

古城で、お茶を飲むルキアの隣に座って、一護はルキアを守護していた。いつも魔剣を所持していた。

甘いケーキの茶菓子を、生まれて始めて食べる冬獅郎は、その甘さに目を丸くしていた。

「甘い。美味い」

「あ、おかわりあるぞ?」

まだ子供の冬獅郎に、浮竹は甘かった。

「おかわり、もらっていいか?」

ヴァンピールは、人の血を吸わない。人と同じ食事で生きていける。それに、ヴァンパイアのように太陽の下にいても、普通に生活できる。

ルキアもまた、皇族であり、ブラッディ・ネイの血を引く存在のヴァンパイアロードだったので、太陽の光は大丈夫だった。

「眠い・・・」

ルキアは、大きな欠伸をした。

夜型の生活のルキアと一護にとって、朝という時間は、今から寝る時間である。

「俺の城にきたからには、日中活動にしてもらう。ここは血の帝国じゃない。夜は眠る時間だ。昼に寝たら、たたき起こすからな」

「ふぁい」

半分眠りかけながら、ルキアは返事した。

一護は、そんなルキアに毛布をかけてやろうとして、京楽にスリッパで頭をはたかれていた。

「姫であっても、たたき起こしなさいな。浮竹のいるこの古城では、浮竹のとる生活時間で成り立っている」

「京楽さん、ルキアは昨日眠っていないんだ。血の帝国からここにくるのに、空間転移魔法陣を展開するのに時間をかけて、不眠不休のままだった。ちょっとだけ、眠らせてやりたい」

「仕方ないねぇ。三時間だよ。それ以上寝たら、叩き起こすから」

「ああ」

「浮竹、んでどうするのさ」

「んー。とりあえず、血の帝国と転移魔法で行き来が可能になっているから、ブラッディ・ネイに抗議の嫌がらせ魔法を含ませた式でも飛ばしておく」

「転移魔法ができるようになったなんて、前回僕らが苦労して血の帝国に行ったのはなぜだったんだろう」

京楽が、一人でツッコミを入れていた。

「始祖である俺が、血の帝国に入ったことで、停滞していた神の魔法が使えるようになった。転移魔法は神の魔法だからな。転移装置を動かすのにも、力がいる。よほど魔力が高くないと、転移魔法陣は動かない。今回は、ルキア君のお陰で無事こちら側にこれたようだが」

浮竹は、始祖ヴァンパイアだ。

始祖と知って、冬獅郎は威嚇しだした。

でも、のほほんとお茶を飲むただの麗人に、毒気を抜かれた顔をして、勧められるままに茶菓子を口にする。

「美味しい・・・・・・」

クッキーを口にして、冬獅郎は浮竹の前で初めて笑った。

「あ、今笑ったな?写真、写真とろう」

「うるさい、始祖ジジイ」

「始祖ジジイ・・・・」

ぷっと、京楽が吹き出した。

笑いをこらえているその頭に拳を炸裂させて、浮竹は眠るルキアとそれを見守る一護を見て、最後に冬獅郎を見た。

「冬獅郎君は、力の制御の仕方を覚える必要があるな。あと、一護君も基礎になるかもしれないが、冬獅郎君と一緒に力の制御の仕方を学んで、彼に教えてやってほしい」

「はぁ・・・・・」

一護は、気乗りしないようであった。

「修行に付き合ってくれたら、俺の血をやろう。君の力を増幅させるだろう」

「始祖の、血ですか。でも、眷属になるのでは?」

「眷属にならないように、魔法をかけたものをあげよう」

「力が増すのなら、俺は構いません。引き受けます。ルキアを守れるのであれば」

ルキアの守護騎士一護は、ブラッディ・ネイからルキアを守る必要があった。

ブラッディ・ネイは、ルキアを手に入れようとしつこい。

ルキアが断っても、ルキアを後宮に入れたがっていた。ルキアが聖女であるので、ルキアは後宮に入らずにすんでいる。

だが、もしもブラッディ・ネイが本気でルキアを手に入れようとすれば、どんな手を使ってくるか分からない。

一護は、どうてもルキアを守りたかった。

「ブラッディ・ネイはルキア君にご執心のようだ。始祖の血から生み出される力の前では、いくらブラッディ・ネイでも抗えない」

ごくりと、一護が唾を飲みこんだ。

「始祖の血の力・・・・・・」

「始祖はこの世界で俺だけだからな。ブラッディ・ネイでも、俺の血の力の前では抗えない」

神の寵児、始祖の浮竹と、呪われしヴァンピール、一護、冬獅郎。

その関係は、対極のようで、でも近い。

浮竹は、神の寵児である。だが、神の呪いを受けている。永遠に死ねない呪い。不死の呪いに。


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「人間がいっぱいだ」

隣町に足を運んだ一行の中で、ルキアが目を輝かせた。

もう何度か外の世界に出ているので、浮竹も京楽も人の多い人間社会には慣れていた。

「人間なんて、珍しくもなんともねぇ」

冬獅郎は、つまらなさそうに人ごみを見ていた。

最初、みんな黒いフード付きのマントを被っていたのだが、人数が多いので逆に悪目立ちしてしまうので、普通の服装で外にいた。

ルキアは、白いワンピース姿に麦わら帽子をかぶっていた。

一護は、普通のシャツとズボン。冬獅郎も似たような恰好だ。

浮竹と京楽もラフな格好で、外の世界で買い物をした。

「まずは、ルキア君と一護君、冬獅郎君も外の人間社会に慣れてもらう」

浮竹が、三人を連れて、いろいろと町の中を案内した。京楽は、念のために見張りをしていた。

一護は魔剣をぶら下げていた。

街の中で武装している者は冒険者が多いので、一護たちは冒険者と思われているようだった。

「どうせだから、人間の冒険者ギルドにでも行って、冒険者登録してダンジョンでも潜るか?」

浮竹の言葉に、京楽が頷いた。

「ああ、それいいかもね。モンスター相手なら、力が暴走しても平気だし」

「おい、俺は修行なんてしないぞ」

嫌がる冬獅郎を引きずって、浮竹たちは冒険者ギルドに移動した。

「初めてのご登録では、銀貨二枚が必要になります」

「金とるのかよ」

一護が、文句を言った。

ギルドの受付嬢は、にこにこした笑顔で冒険者登録用紙を、五人分渡してきた。

浮竹が、銀貨十枚を支払った。

銀貨二枚とは、舐められたものだ。新米の冒険者だと、登録できない値段だ。普通、銅貨五枚とかが相場なのだが、この町はインフレが起きているのか、他の街に比べて物価が高かった。

「名前とか適当でいいんすか?」

「今後も利用するかもしれないから、名前とかは本名でいいだろう。ただ、魔力測定があるから、そこは力をセーブして測定されるように」

「浮竹、ずっと前に登録しようとして、魔力がSランクだって言われて、慌てて逃げてたからね」

クスクスと、京楽が笑った。

「とにかく、魔力はほぼない状態で測定されるように」

「魔力がほぼない?どうやってやるんだ?」

「ああ、冬獅郎君はコントロールがまだできないだろうから、素のままでもいい。多分、Aランクの魔力とか言われるけど、測定器の故障ということにされるだろうから」

見た目が12、13歳の冬獅郎が、魔力がAランクなはずはないと、結局は本当に測定器が壊れたということになった。

浮竹のジョブは魔法使い。京楽が剣士で、ルキアが神官、一護が魔剣士だった。冬獅郎は、精霊使いになっていた。

「氷の魔法を使うなら、精霊魔法が一般的だからな。実際、契約しているんだろう?」

「ああ。フェンリルと氷女を使役している」

「その年でフェンリルを使役できるなんて、才能にあふれてるな」

浮竹が、羨ましそうにしていた。

「浮竹も、フェニックスとなら契約してるじゃない。イフリートには振られちゃったけど」

「振られたわけじゃない。フェニックスと契約しているなら、私はいらないなって、去っていっただけだ」

「それを振られたっていうんだよ」

「違う」

「僕は魔法はからっきしだから、それでも羨ましいけどね」

「京楽は俺の血族だろう。魔力はあるから、その気になれば魔法は使えるはずだ」

「適性の問題なんだよね。覚えれた魔法は身体強化とかエンチャント系の魔法で、浮竹みたいに炎を操ったり、冬獅郎クンみたいに氷を操ったりできないから」

京楽は、身体強化の魔法を使ってみせた。

「あ、俺も同じっス。属性系の魔法は使えません」

「おお、一護クン。同志だね」

「俺はエンチャント系も身体強化の魔法も使えないっす。魔力はあるけど、魔法は使えないみたいで・・・・・・」

「一護君の場合、魔剣に魔力を吸わせているから、魔剣がなんらかの属性を持っているんじゃないか?」

「あ、そうですね。雷系の魔剣です」

「魔剣を使うことで魔法も使えるはずだ」

「そうなんすか?」

「冒険者登録もすませたし、修行のためにダンジョンへ行こう。初心者向けだと人目があるから、A級ダンジョンに行こうか」

「A級ダンジョンだと、見張りの兵士がいるよ。どうするの」

京楽の問いに、浮竹が答える。

「眠りの魔法をかける」

「君、炎の魔法以外も使えたの」

「炎が一番適性が高いだけで、一応どの属性の魔法も使えるぞ。さすがに回復魔法はないが」

「君って、そんなに力あったんだ」

「これでも始祖だからな」

浮竹は、ふふんと鼻で笑った。

結局、皆はA級ダンジョンへやってきた。

見張りの兵士には、浮竹が眠りの魔法をかけて、ついでにいい夢がみれるようにルキアが好きな夢を見れる魔法をかけた。

「あはん!いいわ、いいわ!」

びくり。

もだえだした兵士に、皆驚いた。A級ダンジョンにもぐって1分もしないうちに、モンスターと出くわした。

A級ダンジョンといっても、一階層は雑魚でできていた。

「ゴブリンだ。さして強くない。日番谷君、ゴブリンを殺さない程度の魔法を使ってみろ」

「殺さない程度・・・・難しいな」

冬獅郎は、氷の刃を作り出して、ゴブリンを攻撃した。

それは、ゴブリンの首をはねてゴブリンを氷漬けにして、殺してしまった。

「うーん、魔力が過剰すぎるね。もっと、押し殺すかんじてだしてみて・・・・あ、宝箱!」

浮竹が、宝箱を見つけた。

「浮竹、きっとミミックだからやめたほうがいいよ」

「いや、たとえミミックでも中に何か持っているはずだ。ゴミに見えても、けっこういいものだったり・・・・・・」

浮竹は宝箱をあけた。

ミミックだった。

「暗い~怖い~狭い~息苦しい~~~」

「ほーら、いわんこっちゃない」

「京楽、助けてくれ~~~」

浮竹をひっぱるけど、なかなか出てこない。、

「あ、ひっぱるのがだめなら押し込んでくれ。ミミックがおえってなって、離れるはずだから」

京楽は、浮竹をミミックに押し込んだ。

ミミックはおえっとなって、浮竹を吐き出した。

「ファイアボール」

めらめらと燃えたミミックの後に、古い金貨が残された。

「やった!古い金貨だ」

「それ、価値あるの?」

「いや、金貨だろ?金貨だから・・・・」

「古すぎて使えないよ?」

京楽の言葉に、浮竹が困惑する。

「金だから、溶かせば何かに」

「たった一枚の金貨を溶かして、何を作るの。そもそも、そんなことをしてくれる人がどこにいるの」

「京楽がいじめる!」

浮竹は、ルキアに抱き居ついた。

「ちょ、浮竹さん、ルキアに抱き着かないでくれ」

「浮竹殿、その、離してもらえないだろうか」

「バカじゃないのか」

冬獅郎は、そんな面子を見て、先に進んだ。

「あ、だめだよ、そこは罠・・・・・・」

「え」

ごろごろごろ。

大きな丸い岩が転がってきた。

「うわあ、お約束!どうやって・・・・」

「破壊するぞ。ルキア、下がっててくれ」

「一護、無理はするなよ!」

一護は、魔剣を抜き放って、大きな丸い岩を細切れ状に斬り裂いていた。

「凄いね」

「うん」

浮竹と京楽は、まだ年若いヴァンピールである一護が、此処まで強いとは思っていなかったのだ。

「一護君の魔力の流し方は完璧だ。冬獅郎君、一護君みたいにできるか?」

「分からない。ただ、魔法の力のセーブの仕方は少し分かった気がする」

出てくるゴブリンを倒しながら、一行は先へと進む。

訓練のために、一護と冬獅郎に討伐させた。

「冬獅郎君、半殺しにできるかい?」

「やってみる」

氷の刃でゴブリンの両足を斬り裂いた。

ゴブリンはうぎゃぁと叫んで、自分の血の海に沈んだ。

「上出来だ。その調子で、魔力のコントロールを覚えるんだ。それが、力のセーブに繋がる・・・・・・あ、また宝箱!」

「いや、どうせまたミミックでしょ。って浮竹、あけないの!」

「うわー、ミミックだぁ!暗い~怖い~狭い~息苦しい~~~」

「はいはい、引っ張るんじゃなくって押し込むね」

京楽は、もう慣れたようで、浮竹をミミックから解放していた。

ミミックを倒した後には、魔法書が残った。

「何々、静電気で感電死する魔法?使えないね」

「好事家には、涎ものだ!新しい魔法だぞ!持って帰る!」

浮竹は、アイテムポケットに魔法書を入れてしまった。

一階層で、浮竹は5回ミミックに食われた。

ミミックは、必ず何かしらの宝物を残した。

古代の遺物とか、どう見てもゴミな代物を、浮竹は宝物だといって、アイテムポケットにいれた。

神代(かみよ)の時代から生きるヴァンパイアの感覚って分からないと、皆思うのであった。

2階層に移動した。

「あ、宝箱」

「てやっ」

ルキアが、結界魔法を反転させた魔法で、ミミックをこじ開けた。

ミミックは、悲鳴をあげると宝物を落とした。

「どうしたの、浮竹」

「ミミックに食われないと、宝物を得たかんじがしない。なのでルキア君、宝物は俺に任せてくれ。あ、あっちにも宝箱・・・・・・」

ルキアは京楽を見た。

京楽は、首を横に振った。放置しておけということだった。

「暗い~怖い~狭い~息苦しい~~~」

「はいはい、今出してあげるから」

京楽は、もうそんな浮竹が可愛く見えて、わざわざ付き合っていた。

「今度の宝物は、メダルか。そういえば、さっきの別れ道でメダルをはめるような場所があったな。きっと宝物のある隠し部屋への鍵だ!」

「はいはい、先に進むよ」

「京楽、宝物が先だ!宝物、宝物!ミミックでいいから、宝物!」

地団駄を踏む浮竹に、皆ため息をつきつつ、この始祖ってかわいいと思うのであった。

結局、隠し部屋にいき、宝箱がたくさんあった。

けれどミミックはいなくて、浮竹はがっかりした。

「ミミックのいない宝箱なんて魅力を感じない」

「あんた、どんだけミミックが好きなんだ」

一護が、呆れた声を出していた。

京楽が、浮竹の代わりに宝箱をあけていく。毒矢が飛び出してきたり、罠がしかけられていた。

「これだと、ミミックの方がましかもねぇ」

出た宝物は、武器や防具で、浮竹は興味をそそられななかった。

「この肩当て、ミスリルでできてる。売れば結構な額になりそうだ」

一護が、ミスリルの肩当てを人工の光に掲げてみてた。

「それ、呪わているぞ、一護!」

「え、まじか!」

ルキアの言葉に、一護がミスリルの肩当てを落とした。

「身に着けたら、ステータスに衰弱がつく。HPが徐々に減っていく。解呪には、幸い私は使えるが神聖魔法が必要だ」

ルキアは呪文を唱えて、白い清浄な光で解呪した。

「もう大丈夫だぞ。解呪しておいた。呪いはない」

「そうは言われても・・・・・まぁいいか、浮竹さん、アイテムポケットに」

「俺のアイテムポケットは、そんな武器防具を入れるためにあるんじゃない。武器防具は京楽のアイテムポケットでも使え」

つーんとそっぽを向く浮竹に苦笑しつつ、京楽が一護から武器防具を受けとってアイテムポケットにしまった。

一護とルキア、それに冬獅郎はダンジョンの潜るなんてはじめてで、冒険者が持っていて当たり前のアイテムポケットがなかった。

浮竹と京楽のアイテムポケットは特別製で、屋敷がまるまる入る容量をほこる。

売れば金貨百枚はくだらないだろう。

浮竹は、アイテムポケットから何やら怪しいものを取り出しては、それをモンスターに投げたり、罠の解除をしたりしていた。

分厚い本も出した。

地図が自動的にマッピングされる魔法書で、これまた金貨五十枚はするだろう代物だった。

「この先を右にいこう」

2階層のモンスターは、ホブゴブリンとゴブリンシャーマン、それにふわふわの何か分からない毛玉だった。

ふわふわの毛玉は、現れてはぽんぽんはねるだけで、かわいかった。

「浮竹、だめだよモンスターだよ!」

「元々精霊もモンスターだろう」

浮竹はそっとふわふわの毛玉に触れてみた。毛玉は牙をむき、浮竹の腕を噛んで血を啜った。

「浮竹!」

「やばい、血を吸われた。始祖の血をとりこんだモンスターは厄介だ」

ゴゴゴゴゴ。

毛玉は震えて巨大になっていく。牙をむきだしにした、醜悪な姿になった。

「浮竹さん、下がって!ここは俺と冬獅郎でなんとかする!」

「何故俺まで入っている!」

「力の制御、大分できるようになったんだろ?」

「そりゃまぁ・・・・・・」

「きしゃああああああ」

有無を言わせずモンスターが襲い掛かってきた。それを魔剣で斬り捨てるが、傷はすぐに再生した。

「俺の、始祖の血をとりこんだから再生力が無尽蔵なんだ。炎でもやしつくすくらいか・・・ああ、冬獅郎君、力を爆発させる勢いで、その化け物に氷の魔法を放ってごらん」

「どうなっても、知らないからな」

冬獅郎は、もてる魔力のほとんどを氷にして、化け物にむけた。

「ぎいいいい」

化け物は氷の彫像になった。でも、まだ生きている。ちなみに、周囲の空間も氷漬けになった。

「俺に任せろ!」

一護が、氷漬けになったモンスターに魔剣をふりおろして、粉々に砕いた。モンスターはまだ生きていた。

「再生する。俺が燃やす」

「浮竹殿は手を出さないでください。私がなんとかします」

ルキアが前に出て、呪文を唱える。

モンスターの肉の破片が、灰になっていく。

「ルキア君、すごいな。聖女と言われるだけある。ヴァンパイアが神聖魔法を使うと知ったら、ヴァンパイアハンターの連中が嘘だっていうだろうな」

浮竹は、ルキアが聖女であるいことに、納得がいったようだった。

「浮竹さん、始祖の血ってすごいっすね。あんな大人しそうなモンスターが、たった数滴吸っただけで、再生力の無尽蔵な化け物になるなんて」

「ふん、元をただせばあんなモンスターに血をとられる浮竹のせいだ」

「こら、冬獅郎!」

一護が冬獅郎を怒るが、冬獅郎はそっぽを向いた。

「ふん」

「それにしても寒いね。冬獅郎クン大丈夫?大分魔力を使ったようだけど」

京楽が、周囲まで凍らせてしまった冬獅郎を見た。

「どうって、こと、ない・・・・・」

「冬獅郎殿、魔力を回復させる魔法をかける」

「朽木ルキア・・・・余計なことを」

「こら、冬獅郎!ルキアが癒してくれるなんて、普通なら1回金貨200枚なんだぞ」

「そんな大金、もってねぇ」

「ふふ、私も冬獅郎殿からとりたてるような真似はせぬ」

魔力回復の魔法をかけられたお陰か、冬獅郎の顔色もよくなった。

ヴァンパイアの力の源は血。その血を使った術の他に、魔法を使えた。人間の魔法より遥かに強力で、ヴァンパイアが恐れられる原因の一つになっていた。

一護は、冬獅郎に力の制御についてあれこれと教えて、時折ルキアが説明の足りない部分をカバーしたり、実際に魔法を使って見せたりした。

浮竹と京楽は、そんな三人をほっこりしながら見ていた。

「ブラッディ・ネイに式を放ったのは悪かったかな。たまにはこんな、知り合いと冒険もいいな」

「まぁ、ブラッディ・ネイの真意はどうであれ、冬獅郎クンの力の制御はなんとかなりそうだね。これなら、もう暴走する心配もないだろう」

「だが、その存在をどうするかだ。いっそ、俺たちの子として引き取るか?ブラッディ・ネイのいる血の帝国は嫌いなようだし」

ぎゃあぎゃあ言っていた三人が、浮竹を見た。

「浮竹、俺は血の帝国に入る。ルキアの守護騎士見習いになることにした」

「え、そこまで話すすんでたの」

「ああ、冬獅郎は筋がいい。同じヴァンピールだし、冬獅郎は行く当てもないみたいだから」

「僕らの古城で、住んでもいいんだよ?」

京楽の甘い誘いを、冬獅郎は蹴った。

「お前らみたいな平和ボケしたヴァンパイアと生活してたら、こっちまで怠惰になる。一護と一緒にルキアを守りたい」

「冬獅郎殿、無理はしないでいいのだぞ」

「俺が決めたことだ。俺は、ルキア、お前に忠誠を誓う」

すっと片方の足を跪かせて、冬獅郎はルキアの手に接吻した。

「あ、冬獅郎てめぇ、ルキアに何してやがる!」

「ふん。ヴァンパイアの、花嫁にするための行動だろう?俺は、ルキアに求愛している」

「冬獅郎殿!」

ルキアが真っ赤になった。

すると、反対の手に一護が片足を跪かせて接吻した。

「もてもてだねぇ、ルキアちゃん」

「もてもてだな」

「京楽殿、それに浮竹殿まで!」


「あれ、いいね。僕も君に求婚するよ」

さっとその場で片足を膝まづかせて、京楽は浮竹の右手をとって、接吻した。

「僕の花嫁になってくれるかい」

「いやだ」

「振られちゃった・・・・・」

がっくりと項垂れる京楽に、浮竹が言う。

「お前が嫁に来い」

「え、そっちなの?そっちならOKなの?」

「俺はお前を血族にした。俺が求婚すべきだろう」

「まぁ、どっちでもいいけどね」

一行は、結局3回層まで進んで、ダンジョンを後にした。

途中で、浮竹がミミックに食われること、実に十二回。

もう、みんな浮竹はミミックに食われるものだと思った。浮竹はミミックから京楽に助けられてはファイアーボールでミミックを倒し、宝物を手にした。

武器防具は捨てていくので、京楽が回収する。

魔法書を、浮竹は特に喜んだ。始祖は、多彩な魔法を使う。炎属性が一番適性があるので炎の魔法を好むが、闇や光の魔法も使えた。

後は、呪術やら式を使役したりもしていた。

一行はダンジョンを出て、戦利品を冒険者ギルドに売った。初級冒険者がミスリルの防具を持っていたことに、受付嬢は驚きはしたが、一護の魔剣を見て納得したようだった。とてつもない魔力を帯びているのを、肌で感じ取ることができた。

「Eランクですが、Bランクへの昇格試験を受けてはどうですか?」

「興味ないからいい」

一護は、そっけなかった。

「では、他の方々もCランクへの昇格試験を・・・・・・・」

「いや、別に冒険者稼業やっていくわけじゃないから」

「右に同じだよ。浮竹が受けないなら、僕も受けない」

「私もいらぬ」

「俺もいらねぇ」


いきなりEランクからCクラスやBクラスに昇格試験を受けるのは、相当な手練れだということだ。

それを断るとは。

ざわめく冒険者を無視して、モンスターの素材やら魔石、あとは宝箱から出た武器防具を売り払って、金貨40枚になった。

「5人で分けると、金貨8枚か。しけてるな」

冬獅郎の言葉に、受付嬢は顔を引き攣らせた。


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それから4週間は、ルキア、一護、冬獅郎は浮竹と京楽の住む古城で世話になった。

浮竹が、つきっきりで冬獅郎に、力の制御を教えた。

ルキアは一護と一緒に、ダンジョンに潜ったりしていた。モンスター討伐が楽しいらしい。

A級ダンジョンの最深部まで攻略したと聞いて、浮竹も京楽も驚いた。

「あのA級ダンジョンの最深部のボスはドラゴンだろう。大丈夫だったのか?」

「それが、古代語であるならば理解する知恵あるドラゴンでした。友人になりました」

「そうなんだよ、ルキアのやつ、危ないからやめとけっていってるのに、ドラゴンに近づいて話しかけて・・・びっくりしたけど、害のないモンスターだった」

友人の証である、ドラゴンの宝玉のネックレスを見せられて、浮竹も京楽も冷や汗をかいた。

さすがに力の強いヴァンピールである一護に守られてるとはいえ、ドラゴン相手だと殺される可能が高い。

ドラゴンは、始祖ヴァンパイアと同じで、始祖ドラゴンがいる。その始祖から誕生した血脈のドラゴンは、とにかくめちゃくちゃ強い。

A級ダンジョンに住まうドラゴンは、始祖の血脈である。

始祖同士は神代(かみよ)の時代から生きていて仲がいい。ルキアから始祖の匂いを感じ取ったドラゴンは、好意的であった。


時が流れるのは早く、冬獅郎は完全に力の制御の仕方を覚えた。もう、暴走させることはないだろう。ルキアの元で守護騎士見習いとして、一護のサポートをするらしい。

「では、浮竹殿も京楽殿も、達者で。短い期間でしたが、ありがとうございました」:

「ルキア君、堅苦しいことはなしだ。血の帝国とは空間転移魔法で行き来が可能だから、俺たちも近いうちに、また血の帝国にいくさ」

「その時はぜひ、遊びにきてください!」

ぱっと顔を輝かせたルキアの背後で、守護騎士の制服に身を包んだ一護と冬獅郎の姿があった。

「お前たちも元気でな!」

「ルキアちゃんを、ブラッディ・ネイから守ってね!」

「当たり前だ!あ、浮竹さん、血をもらうの忘れてた!」

「あ、俺も忘れてた。ほら、これがそうだよ」

小さな瓶に入った浮竹の血液を受け取って、一護は浮竹に礼を言った。

「ありがとうございました!また、遊びにきます!」

「その血には、魔法をかけてあるから、悪用はできない。一護君の力を増す役割を果たすし、ブラッディ・ネイにも魔剣の力が届くようになるだろう」

ブラッディ・ネイは始祖ではないが、始祖の次に生まれた、神代から生きる、転生を繰り返すヴァンパイアだ。その体に通常攻撃は効かず、ブラッディ・ネイを倒すには魂を、精神体を攻撃する必要があった。

もっとも、精神体を攻撃されてもダメージを受け、依代である肉体を離れて休息に入るだけで、ブラッディ・ネイを殺せるのは、実の兄である始祖の浮竹だけだ。

ブラッディ・ネイはいろいろ、年端もいかぬ少女を後宮に入れて、欲を満たしたりしてだめなところもあるが、あれでも統治者としては優れている。

八千年もの間、伊達に血の帝国に女帝として君臨しているわけでない。

空間転移の魔法陣は、浮竹の古城の地下にあった。

ルキアが祈りをこめて、魔力を流す。こちら側に来たときは初めて神の魔法に触れたので、一昼夜かかったが、浮竹も魔力を流してくれたので、すぐに転移魔法陣は動きだした。

「では、お元気で」

「またな」

「浮竹さん、京楽さん、本当にありがとう!」


転移魔法が発動し、三人の姿が消えていく。

浮竹と京楽は、去っていった三人に向かって、手を振るのだった。


---------------------------------------------


「んっ」

京楽に、ベッドに押し倒されていた。

「京楽?」

「やっと邪魔者たちが去ったんだ・・・今夜は寝かさないよ」

「春水、愛してる」

「僕も愛してるよ、十四郎」

互いを貪りあうよう、深い口づけを繰り返して、京楽の下で浮竹は乱れた。


「朝食の用意ができているよ。今日は僕が作ってみたんだ。早く起きて」

浮竹の長い白髪を手ですきながら、京楽は浮竹の眠るベッドに腰かけた。

「ん・・・誰かさんが、明け方までしつこかったからまだ眠い」

「朝食とってから、また寝たら?」

「そうする」

バスローブのガウン姿で、浮竹は起きて、京楽の首に手を回し、キスをした。

「誰かにいっぱい血を吸われたせいで、くらくらする」

「人工血液剤あるよ」

「五錠ほど、くれ」

独特の苦みがある人工血液剤を噛み砕いて飲み干すと、貧血はすぐに治まった。

「また寝るから、着替えはいいか」

浮竹は起きだして、京楽に手をひっぱられてダイニングルームまできた。

「おいしそうな匂いがする」

「オムライス作ってみた。隠し味に、処女の血を数滴」

「誰の血だ」

「昨日、町に買い物ににいったら幼い孤児の少女が身を売っていたので、注射器で血を少々いただいて、金貨10枚を握らせて、孤児院に置いてきた」

「誰にも見られなかっただろうな。最近、隣町の近くにまでヴァンパイアハンターがきているらしい」

「冒険者ギルドにも、懸賞金がかかって乗ってたよ。普通のヴァンパイアだけど、処女の幼い少女を六人も殺しているそうだよ」

「京楽、見つけ次第駆除しろ。俺たちの生活を脅かす存在は、人間であろうがヴァンパイアであろうが、許さない」

浮竹の翡翠の瞳が、真紅になっていた。

始祖の血が、敵は排除しろと疼く。

ふっと、怒りを鎮めて、浮竹はオムライスを食べた。

「案外うまいな」

「戦闘人形のメイドに、作り方教えてもらったからね」

「処女の血の隠し味がうまい。やっぱり、俺もヴァンパイアだな。人工血液も好きだが、人間の血もうまい」

「それは、どのヴァンパイアでも同じだよ。血の匂い嗅いでたら、君の血が欲しくなった」

「昨日、あれだけ吸血しておいて・・・・・」

「食べてもいい?」

「ああもう、好きにしろ。人工血液を、用意しておけ」

始祖の血は、中毒性のある甘美な麻薬。

それにすっかり虜になっている京楽は、浮竹が嫌がるまで吸血した。


「もお、やぁっ」

セックスをしながらの吸血行為は、酷く快感を吸われる者に与える。

「あ、や・・・・・」

ズチュリと中を侵す熱に、意識が飛びそうになる。

「昨日、あれだけ抱いておいてまだ足りないのか」

「一カ月ぶりだよ。君を抱くの。以前は一週間に一度は抱かせてくれてたじゃない。ああ、君の血は甘い。毒だね、まるで」

「始祖の血をここまで飲めるのは、お前くらいだ」

過去に血族にした者もいたが、渇きを覚えるたびに血を与えたことはなかった。

ぐちゅっと音をたてて、結腸にまで入り込んできた京楽のものに、意識をもっていかれそうになる。

「あああーーーー!!」

中でいくことを覚えた体は、射精せずとも高みへと浮竹を導いた。

「あ、だめぇ、いってるのに、吸血は、だめぇ」

浮竹の太ももに牙を立てて、京楽は血を啜った。

その快感は浮竹には大きすぎた。

射精しながら、びくんびくんと体を震わせた後、意識を失った。

京楽は、浮竹の胎の奥に子種を注ぎ込む。

「君は、僕だけのものだ。君の血も、僕だけのもの・・・・」

浮竹が一護に、浮竹の血の入った小瓶を渡すのに、嫉妬を覚えたなんていえない。

浮竹の白い頬を手でなでて、その白い長い髪を手ですいていく。


ざわり。

浮竹の張った結界に侵入者を探知して、京楽は衣服を整えると、浮竹にガウンを着せて、窓を開け放った。

「ヴァンパイアハンターか・・・・」

銀の匂いに、眉を顰めた。







































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色子と京楽春水

京楽春水は、上流貴族だった。

色事に長けていて、護廷13隊の8番隊隊長であった。

よく花街に出入りしていた。

その日も、いつもの馴染み廓、桜亭で花魁の桜姫(おうき)を抱いていた。

普通の遊女ならともかく、花魁はとにかく金がかかる。話をするだけでも、一般庶民の数日分の稼ぎが消えていった。

そんな花魁と火遊びをしていて、ふと桜姫が最近の話題に上っている、色子花魁のことを口にした。

「翡翠っていってね。色子なのに、花魁なの」

「花魁の色子?」

「隣の椿亭に居る子なの。とっても綺麗でね。私より美しいかもしれない」

「君より美しいって、どれだけ綺麗な子なのか、興味がわくね」

桜姫に、その色子についていろいろ教えてもらった。

京楽は、色子には興味なかったが、色子が花魁をしていると聞いて興味を持った。

次の日、桜姫の元にはいかず、椿亭にやってきた。

「色子の花魁に会いたいんだけど」

廓の女将に、じろじろと見られた。それから、女将は京楽が上流貴族であるのを知って、にこやかに笑って、色子花魁の翡翠を呼んだ。

「翡翠、お客さんだよ」

「女将、俺は今日は眠いんだ。微熱もあるし、休みをもらいたい」

「会うだけ、会ってやってくれないかい。上流貴族のお偉いさんだよ。頼むよ翡翠。後で、甘いもの好きなだけ食べさせてあげるから」

「女将がそこまで言うなら・・・・」

京楽は、奥の間に通された。

そこに、色子花魁はいた。

長い白い髪を結い上げて、いくつもの上等な簪をさしていた。

首飾りには大きな翡翠があしらわれていた。着物は椿模様の、金糸の縫い取りのある上等なものを着ていた。

美しかった。白粉や紅をさした様子もないのに、肌は色白で、唇は桜色をしていて、思わず吸い付きたい感覚を覚える。

長い白髪を持っていて、瞳が名前の通り翡翠色だった。

「俺が、色子花魁の翡翠だ」

「翡翠・・・・源氏名だね。本名は?」

「浮竹十四郎」

「綺麗だね。君みたいな綺麗な子が色子なんて、信じられない」

京楽は、浮竹に触ろうとして、浮竹に止められた。

「俺は、今日は誰にも抱かれるつもりはない」

「口づけもだめなのかい?」

「金をたっぷりとるぞ」

「それでもいいよ」

「んっ」

色子花魁の翡翠こと浮竹を抱きしめて、そっと唇を重ねた。

桜色の唇は、紅をさしていなかったが、甘い味がした。

「甘いね・・・」

「さっきまで、甘露水を飲んでいたから。肺を患っていて、あまり客の相手ができない。なのに、廓の女将は俺を色子花魁にして、金もうけをしている」

「君の客は多いのかい」

「ほどほどに。馴染みの旦那も、何人かいる」

「僕も、その中に入れるかな」

「金次第だ」

京楽は、もう一度浮竹を抱きしめて、口づけた。

シャランと、浮竹の髪に飾られた簪が音を立てる。

「ちょっと、しつこいぞ。しつこい客は嫌いだ」

「ごめん。あんまりにも綺麗なものだから」

そっと、京楽は離れた。

色子花魁に魅入られると、もう他の花魁じゃあ勃たなくなると、隣の桜亭の桜姫が言っていたのを思い出す。

本当に、その通りかもしれない。

浮竹に夢中になった京楽は、次の日から毎日のように、浮竹の元に通うようになっていた。


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もう、通い始めて半月が過ぎていた。

かなりの金が飛んでいった。色子でも花魁であるから、客の選り好みはできる。

元々体が弱く、よく熱を出したり、酷い時は発作をおこして吐血するので、酒を飲んで他愛のない話をして、夜は過ぎていく。

「今度君を抱きたい。いいかい?」

「もう、通い始めてくれて半月だからな。いいぞ。いつにする?」

「3日後に。お代は、女将に先に払っておくから」

「分かった」

ついに、浮竹を自分のものにできるのだと、京楽はドキドキする胸を押さえて、浮竹と別れた。

浮竹は、その次の日に血を吐いて倒れた。

約束の3日後も、臥せったままだった。

「約束破ってしまってすまない・・・・・」

布団に横になり、会うだけだと廓の女将に念押しされて、京楽は浮竹と会った。

「君の肺の病、治らないのかい?」

「今の医学では無理だそうだ。死ぬわけじゃあないし、人にうつるものでもないから、花魁としてまだ在れるが、こうも臥せりがちだと、そのうち花魁じゃなくなってしまうかもな」

「じゃあ、僕が君を身請けしても問題ないね?」

「は?おい、まだ俺を抱いたこともないだろう」

「君が好きだ。身請けしたい」

「せめて抱いて、もっと考えてからにしたらどうだ」

布団の横になりながら、話を進める京楽に、浮竹は呆れていた。

「君が、他の男に抱かれるのが嫌だ」

「そんな子供みたいな・・・・・・」

「五億環。これだけあったら、身請けできる?」

五億環。

浮竹の身請け金は二億環だ。

「そんな大金・・・・確かに俺を身請けできるが、そんな大金を俺につぎ込んで大丈夫なのか?」

「僕は上流貴族だよ。君のためなら、全財産をなげうっててもいい」

「その話、女将にはするなよ。身請けの金額を釣り上げるだろ、あいつは。今日はとにかく、もう帰れ。今度来た時、身請けの話を聞く」

「うん、分かった」

京楽は、浮竹の口づけると、椿亭を後にした。

次に京楽が来た時、浮竹は元気そうだった。

「京楽、来てくれたのか」

浮竹は、京楽に抱き着いた。

「俺を身請け、本当にしてくれるのか?お前になら、身請けされてもいい」

酒を飲み料理を食べながら、そんな話をしていた。

「女将に、身請けについて相談したよ。2億環でいいと言われた」

「俺が売られた金額が3千万環だからな。随分稼いだし、病気もあるから身請け金はこれ以上値上がらないと思うんだが」

「明日、二億環をもってくるよ」

「気をつけろ。最近、身請けの金を巡っての強盗が流行っている」

「僕は護廷13隊の8番隊隊長だよ?」

「そうだったな。お前は隊長さんだった」

浮竹は、安堵したかのように胸をなでおろした。

翌日、京楽は馬車でやってきた。

「いろいろ、持っていくものも多いでしょ」

「こんな豪華な馬車、見たのは初めてだ」

「僕の屋敷で所有しているものの中で、一番立派なやつを持ってきた」

「ばか、余計なことしてると・・・・・」

「翡翠の身請け話、ちょっと先延ばしにさせてほしいの。値段を間違えていたわ」

椿亭の女将が、にまにまとしながら、浮竹を京楽から奪い、男たちに身を預けさせた。

「約束が違う」

「あら、そんな約束したかしら」

「女将、いい加減にしろ。京楽が上流貴族だからって、搾り取ろうとするな」

「翡翠は黙っていなさい」

男に口を塞がれて、浮竹は身を捩った。

京楽は、馬車の扉をあけると、そこから金塊やら宝石と札束を取り出して、地面に無造作に放り投げた。

「十億環分ある。浮竹は、身請けするよ」

一億環で、現世でいう一億円になる。それの十倍だ。

女将は、欲望に顔をたぎらせて、店の者と一緒になって、地面に転がされた金塊やら宝石、札束を拾っていた。

「金よ、金だわ!あはははは、翡翠、せいぜいその旦那に尽くすことね。大金だわ、あはははは!」

浮竹は、京楽のもつ馬車に揺られて、京楽の屋敷にやってきた。

京楽の屋敷の広さに驚きながら、浮竹は物珍しげにきょろきょろと周囲を見ていた。

色子になるまで、下級貴族の長男として育てられた。薬代がかさみ、借金のかたに売られた。

13の時に売られて、客をすぐに取るようになった。

そんな色子稼業を続けて18歳になっていた。

京楽は、20代前半くらいだろうか。

精悍な引き締まった体をもつ、美丈夫だった。

一方の浮竹は、18歳。病気のせいもあり、年齢も見た目より幼く見えて、見た目は15歳くらいだった。

「ばか、あんな大金払う必要なかったのに!」

「僕にとって、君はあの金以上に魅力がある。今度こそ、本当に抱くよ。いいね?」

「ああもう、好きにしろ。お前に身請けされた瞬間から、俺はもう、お前のものだ」


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「あ、あ、あ」

じゅぷじゅぷと音をたてて、京楽のものが浮竹の中を出入りする。

男を銜え込むことを覚えた体であったが、京楽のものは大きすぎて、全部を受け入れるのに一苦労した。

「あ、いい、そこ、もっと!」

「ここかい?」

そこを突き上げられて、浮竹は全身を震わせながら、精液を放っていた。

「やっ、俺ばっかり・・・・京楽も、いけ。俺の中で」

京楽のものをわざと締め上げると、京楽は少しうめいて、浮竹の胎の奥に、精液をびゅるびゅると注いでいた。

それに、ぺろりと浮竹は自分の唇を舐めて、京楽に口づけると、騎乗位になった。

「身請けされた分、体で払うから」

浮竹が動き出す。

そのテクニックに京楽はすぐに果てた。

「ああ、君をじっくり味わいたいのに」

「そうか、それを先に言ってくれ」

浮竹は、京楽の上からどいた。

浮竹の蕾から、京楽の出したものが滴り落ちてくる。

「もっといっぱい、しよ?」

色子花魁といわれるだけあって、性的なことは浮竹のほうが数段と上だった。

「俺を本気にさせてみろ。んっ、ああ、いい。そこ、そこいい。んっ」

正常位で浮竹を突き上げて、いいという場所をしつこく突きあげて抉り、最奥まで犯した。

「ああああーーーー!!」

浮竹が背を弓なりに反らせて、射精することなくいっていた。

ふと悪戯心をくぐすられて、浮竹のものを扱いて射精させると、浮竹は涙を零した。

「やあ、二重はだめぇっ!いってるのに、いってるのに・・ああああ!!!」

ブレーカーが落ちるように、ガクリと浮竹は意識を失った。

「十四郎、十四郎?」

ぺちぺちと頬を叩くと、浮竹は気づいた。

「あ、俺は意識を失っていたのか?」

「うん」

「お前、凄いな。こんな大きな一物をもっているだけじゃなくって、テクもすごい。男抱くの、始めだろう?」

「そうなるね」

「何人の女を泣かせてきたんだか」

「今は君を啼かせたいね」

「すでに、十分啼いた。もう、今日はしまいでいいか」

「まだ余力あるんだけど」

「嘘だろう。あれだけ抱いておきながら、まだするのか?」

「だめかな?」

「仕方ない、俺が口でしうてやる」

ぴちゃぴちゃと、自分のものを舐めあげる浮竹は、情欲に濡れた瞳のままだった。

「翡翠」

「何だ?俺の名前、翡翠で呼びたいのか?」

「いや、違う。ただ、君の瞳の色は本当に翡翠色で綺麗だと思って」

「お前の瞳の色も綺麗だ」

鳶色の京楽の目を見あげながらも、浮竹は京楽に奉仕していた。

「んっ、もういくから、離して」

「俺の口の中で出せ」

色子としてのテクニックは健在で、京楽は浮竹の口の中に出していた。

「何度も出したのに、まだ濃いな。まさか、まだ抱くとか言わないよな?」

「だとしたら?」

「簡便してくれ。俺は体が弱いんだ。手加減というものを覚えてくれないと、今後抱かせてやらないぞ」

「我慢する。ちょっと、風呂場で抜いてくるよ」

「俺がいるのに、風呂場で抜いたりするな。もう一度、口で奉仕してやるから」

もう一度奉仕されて、京楽もさすがに出すものがなくなった。

風呂に入り、清めて中に出したものをかきだされて、シーツを変えた布団で、浮竹はクスクスと笑っていた。

「上機嫌そうだね」

「お前、男を抱くのは初めての割にはうまかったな。きもちよかった」

「勉強したからね」

「他に色子でも抱いていたか?」

「いや、書物で」

また、浮竹はクスクスと笑った。

「君には、笑顔が似合う」

ふと思い出して、近くにあったたんすの引き出しから、翡翠細工の髪飾りを出してきて、それを浮竹の髪に飾った。

「似合うね。君のために買ったものだったけど、渡すのを忘れていたよ。10億環出すのに、屋敷を一軒売ったからね」

「痛い出費だったか?」

「いや?屋敷はまだいくつもあるから」

浮竹は、京楽に口づけた。

「旦那様って呼ぼうか?」

「いや、春水でいいよ」

「じゃあ、春水、これからもよろしくな」

「うん」

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「楽しそうだね」

「ああ、新しい鬼道を習ったんだ。詠唱破棄でもけっこうな威力が出るから」

「学院は楽しいかい?」

浮竹は霊圧が高かった。

真央霊術院に入り、今2回生になっていた。

将来、死神になって、京楽と同じ8番隊に所属するのだと、嬉しそうだった。

「特進クラスだからな。あと1年で、卒業できるって言われてる。学院は楽しいぞ。友達もたくさんできたしな」

「誰も、君を元色子花魁だと思う者はいないだろうね」

「まぁ、ばれないほうがいい。色子だったことがばれると、いろいろ言われそうだ」

「僕と君だけの、秘密だね」

甘い毒を共有しあった。

京楽ははっきりと、周囲に浮竹を娶ることを公言していた。両親は大反対をしていたので、連絡はとっていない。

「卒業したら、結婚しよう」

「本当に、こんな俺でいいのか?」

「君だから、結婚したいんだよ」

もう、そこに色子花魁と言われていた少年の姿はなかった。

美しいが、死神見習いであった。

「君が卒業したら、8番隊にくるように根回ししておくから」

「その、総隊長に何か言われないか?」

「山じいのお説教には慣れているからね」

手を握り合って、啄むようなキスを繰り返した。

「俺は、幸せだ。お前に身請けされてよかった」

「君の幸せは、僕の幸せでもある」

その後、1年経って浮竹は学院を卒業し、死神となって八番隊に入り、よく京楽の傍にいた。

やがて出世して、席官となる。

それでも、京楽の傍にいるのだった。

二人は、比翼の鳥のように、日々を過ごすのであった。










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オメガバース京浮短編6

浮竹はオメガだった。

浮竹には許嫁がいた。上流貴族の男だった。

オメガの男は、子を産むことができる。死神の隊長にまで上りつめた浮竹の子は、霊圧が高くてきっと将来隊長になるだろうと、望まれての縁談だった。アルファの子を産めば、その子供のほとんどがアルファになった。

浮竹の婚約者は、アルファだった。


浮竹は、京楽のことが好きだった。

ずっと、学院時代から。

でも、自分は違う男と結婚するのだと、すでに諦めていた。

始めてヒートになった学院時代、浮竹は京楽に抱かれた。京楽はアルファだった。

ヒート抑制剤を飲んでいたが、ヒートは収まらず、京楽に助けを求めて抱かれた。

京楽との関係は、不思議なものだった。

恋人というわけでもなく、けれど親友以上で。

浮竹は、婚姻を何かと理由をつけて先延ばしにしていた。

ヒート期間に京楽に抱かれるたびに、アフターピルを飲んだ。


そんな浮竹も、婚約相手が雨乾堂までやってくるようになって、京楽のことを諦めて嫁ぐ覚悟を決めた。

結婚式は盛大に行われた。

初夜で、浮竹が初めてではないと知った夫は、怒りはしなかった。

優しかった。

それが、辛かった。

首筋をかまれて、番となった。

ああ、俺はこの男を愛するのだ。

愛さなければ。

けれど、心は京楽を愛していた。

結婚して日にちが経つたびに、けれど夫のことも愛するようになっていた。

「愛している、十四郎」

「俺も、愛している」

夫のことは、嫌いではなかった。

逢瀬を重ねるたびに、京楽に抱かれ慣れていた体は、やがて夫の色に染まるようになっていた。

京楽は、長い間遠征に出ていた。

帰ってきた時、浮竹は上流階級の男に嫁いだ後だった。


身を引き裂かれる思いを抱いた。

京楽は、浮竹を奪おう。

そう心に決めた。


浮竹は、妊娠していた。

大切にされて、幸せだった。

その幸せを全部ぶち壊すかのように、現れた京楽は、浮竹を有無を言わせず攫った。

「京楽、どういう真似だ!」

「君が、僕以外の男のものになるのが許せない」

「俺が婚約相手を持っていると、知っていただろう!」

「まさか、本当に結婚するなんて思ってなかった」

「俺はもう、結婚してあの男の番で妻で、子を妊娠しているんだ」

びくりと、京楽の体が強張った。

「じゃあ、そのお腹の子は僕の子ってことにする」

そう言いだす京楽に、浮竹は恍惚となった。

ああ、俺は京楽に愛されている。

「君を愛している、浮竹」

「俺も、お前を愛している」

夫も愛しているが、それよりも京楽を愛し続けていた。

「僕はばかだ。もっと早くに君を番にすればよかった」

「俺は、夫の番だ。どうするつもりなんだ」

「金があれば、番を解消させる薬なんかも手に入れられるんだよ。これだ」

透明な薬を見せられた。

雨乾堂に連れてこられて、布団をしいてその上に横たえられた。

「ねぇ、浮竹。僕だけのものになって」

「京楽・・・・俺は、もう、お前のものじゃない」

「じゃあ、体に教えてあげる」

透明な薬を京楽は口に含み、浮竹に口移しで飲ませた。

「あ、あああ!?」

ズクリと。

体が熱くなった。

番の印である噛み傷の痕が消えていた。

そして、浮竹は強制的なヒートになっていた。

「熱い。体が熱い。助けてくれ、京楽」

夫の名は口にしなかった。

遠い昔から、京楽を愛していた。夫も愛するようにと心がけて、やっと愛せるようになったのに。

その矢先の出来事。

まさか、京楽がこんな強硬手段に出るとは思っていなかった。

「大好きだ、浮竹。こんなことになるなら、学院時代に君を番にすればよった」

「あ、俺はもう何度も夫に抱かれて・・・・」

「そんなの関係ない。君は僕のものだ。僕のものであるべきだ」

京楽は、独占欲の塊になっていた。

愛しい相手が、遠征から帰ってきたら他の男の妻になっていた。

そんなこと、耐えられるはずがない。

たとえ上流貴族同士のいざこざが起きても、もう浮竹を手放すつもりはなかった。

死覇装を脱がされて、浮竹は学院時代に戻った錯覚を覚えていた。

この浅ましい体は、ヒート期間京楽に抱かれたことをきちんと覚えていた。

「抱くよ。そして、僕の番にする」

「あ、番にしてくれ、京楽。お前以外、もう何もいらない」

浮竹は妊娠していた。

そんなこともお構いなしに、やや乱暴に口づけた。

「んう」

舌と舌を絡みあわせて、どちらのものかもしれない唾液が顎を伝った。

「かわいいね、十四郎」

すでに浮竹のものは、とろとろと先走りの蜜を零していた。

「あ!」

それを、京楽が口に含んだ。

根元を手でしごきながら、鈴口を舌で突かれて、浮竹は京楽の口の中に精を吐き出していた。

「薄いね。君の夫は、何度君を抱いたの」

「あ、昨日、抱かれた。何度になるか、数えたことはない」

「君を、再び僕色に染めないと。僕だけのものだって、体に刻まないと」

そういって、京楽は服を脱いだ。

「あ、春水、春水」

学院時代のヒート期間に戻ったかのようだった。

浮竹はただ京楽を求め、京楽もまた浮竹を求めた。

薄い胸板を撫でて、先端をつまみあげて、もう片方を舌で転がした。

「春水、はやく、きてくれ」

「指で慣らさないと」

「そんなのいいから!どうせオメガの俺は濡れる。だから、だから!」

求めてくる浮竹に応えて、京楽は己のもので浮竹を貫いた。

「ああああああ!!!」

同時に噛みつかれた。

番になった証が、右の首筋にくっきりと浮かび上がる。

電流が体中を走り回った。

「あ、番になった・・・・俺は、夫をもちながら、京楽の番に・・・・」

どちゅんと最奥の子宮口を貫かれて、浮竹は背を弓ぞりにしならせた。

「あああ!」

「ここ、好きだよね。奥でぐりぐりされるの」

「や、だめ、赤ちゃんが、赤ちゃんが」

「君の赤ちゃんも、僕の精液が欲しいっていってるよ。ここきゅきゅうしめつけてくる」

「あ、や、春水」

前立腺ばかりを突かれて、京楽はは勃ちあがった浮竹のものを手でこすった。

「あ、やぁ、変になる!やぁぁ、や!」

「中でもいけるでしょ。外も一緒にいけばいい」

「やああああああ!!」

ドライのオーガズムでいかされながら、射精していた。

二重にいかされて、浮竹はびくんと体をしならせた。

「ああ・・あ・あ」

何度も、京楽のもので突き上げられ、揺さぶられ、抉られた。

京楽が満足して、浮竹の子宮口にびゅるびゅると、濃い精液を注ぎ込む頃には、浮竹はぐったりしていた。

「大丈夫?」

「も、無理・・・・・・」

「まだ、僕は一回しかいってないよ。最後まで、付き合ってね」

「やっ」

内部の熱は、高まって硬いままで、浮竹は口では嫌といいながら、体は浅ましくもっともっとと求めていた。

「胎の奥で、もっと出してくれ。赤ちゃんが、お前の子供になるように」

「うん、いっぱい注いであげる」

京楽は、浮竹の妊娠していることに、気遣うこともなく抱いた。

流産するなら、すればいい。

自分の子供ではないのだ。

その日、浮竹は京楽に激しく抱かれ、次の日熱を出した。

「ごめんね、浮竹。久しぶりすぎて、加減できなかった」

「お前の気持ちを確かめもせずに、嫁いだ俺も悪い」

「そうだね。僕のこと好きなら、婚約破棄してくれればよかったのに」

「相手は上流貴族だ。下級貴族の俺に決定権はない」

「その上流貴族で、元君の夫であった死神と、今日話つけてくるから」


京楽は、浮竹を寝かしつけて、浮竹の夫である死神の元に向かった。

話は、浮竹がまだ京楽のことを好きで、番を解消させて、自分と番になったことを話すと、夫であった男は諦めたかのようにため息をついた。

浮竹と番になるのを認め、離婚を承諾した。

代わりに、浮竹の子は、後継ぎとしてもらう、ということで話は解決した。


それから数カ月が経ち、浮竹は男児を出産した。帝王切開で子を産み、双子だった。

浮竹の意識が戻らないうちに、双子の子は、浮竹の元夫であった者の手に落ちていった。

意識を取り戻した浮竹は、子供を一度も抱くことなく取り上げられたことを悲しんでいたが、京楽が耳元で囁いた。

「退院したら、君を強制的にヒートにして抱くよ。僕の子を孕んでもらう」

ヒートは、薬である程度コントロール可能だった。

なくすことはできないが、ヒートにさせたり、遅らせたりすることはできた。

「京楽!」

真っ赤になる浮竹が愛しくて、京楽は笑っていた。

「結婚式を挙げよう。君が挙げた結婚式よりも派手で、もっと華やかなやつを」

「いや、身内だけでいい」

「だめ。君が僕のものであるって証をみんなに見せないと」

結局、京楽の言う通り、派手な結婚式を挙げた。

オメガの浮竹が短期間で二度も結婚式を挙げたもので、瀞霊廷ではささやか噂になっていた。

あの上流階級の京楽が、なんでも嫁に行った浮竹に懸想して、無理やり奪っていったと。

実はその通りなので、京楽も浮竹も、噂を聞いても何も言わなかった。

やがて、浮竹は女児を妊娠した。

ちゃんとした京楽との間の子で、浮竹も京楽も、生まれてきた我が子をこれでもかというほどにかわいがり、少し我儘でおませな子に成長してしまった。

「ねぇ、今夜二人目作ろうよ」

「でも、明日は隊首会だ」

「一回で終わらせるから。いいでしょ?ああ、それともヒートになる薬を使おうか。そうしよう。そしたら、君は休暇を認められて、夫である僕も休暇を認められるから」

「ちょ、京楽!」

京楽は有無をいわせず、金で買いあさった裏マーケットの品に手を出した。

浮竹に飲ませると、浮竹はヒートを起こした。

既に前のヒートから2カ月半が経っていたので、ヒートがきてもおかしくない時期だった。

「あ、あ・・・・熱い。苦しい・・・京楽が欲しい。京楽の子種を、奥でいっぱい出してほしい。京楽、助けて・・・・・・」

弱弱しく抱き着いてくる浮竹を抱きあげて、京楽は過ごしている自分の屋敷の離れに移動した。

生まれた女児は、乳母が面倒を見てくれていた。

隊長として忙しい二人は、なるべく子育ても自分たちでするようにしていたが、隊長だけにいつも傍にいられるわけではなかった。

「今、熱を鎮めてあげるから」

浮竹に口づけながら、京楽は完全に自分のものになってしまった浮竹に、うっとりとしていた。

「あ、早く!」

急かしてくる浮竹を宥めて、抱いた。

その日、浮竹は4人目の子を懐妊した。

始めに違う男の双子を、次に京楽の子である女児を、その次もまた京楽の子を。

京楽は、番である噛み後をなぞるように、浮竹の首を噛んだ。

「あ!」

浮竹は全身を震わせて、いっていた。

「浮竹、次は男の子がいいな。避妊はしないでね」

「あああ!」

京楽の声は遠く浮竹の元に響いていた。結局その日はアフターピルを飲まなかった。

それなのに、その一夜だけで懐妊した。

オメガは、アルファの子を産む相手として見られがちで、元浮竹の夫であった男も、アルファで浮竹にアルファの子供を出産してもらおうとしていた。

その目論見は成功し、浮竹の元夫は、双子のアルファの男児を手に入れた。

噂では、ベータの女性と結婚したらしい。

ベータの子は、ベータになるのが基本だ。アルファの跡取りがいるので、気楽だろう。


京楽は、生まれてきた男児を、上の女児と同じぐらい可愛がった。

「京楽、もう俺はお前の子は産まんぞ。二人で手一杯だ」

京楽の番にされて、十年以上の時が過ぎようとしていた。


変わらず京楽は浮竹が好きだったし、浮竹もまた京楽が好きだった。

まだ若いので、ヒート期間になると屋敷の離れで睦みあった。

もう、お互いを離さないと、心に決める二人であった。












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始祖なる者、ヴァンパイアマスター2

ホウホウ。

梟の鳴き声で、浮竹は目を覚ました。

京楽と同じベッドで眠っていた。窓辺には、城全体に結界を張っておいたにも拘わらず、梟が開け放たれた窓から入ってきて、浮竹の手に止まった。

足に付けられた紙をとって、梟を外の森に放つ。

窓を閉めた。

夜の肌寒い空気に、眠っていた京楽が起きた。

「寒い・・・・浮竹、どうしたの」

「いや、なんでもない。寝てくれ」

「眠いから、お言葉に甘えるけど、浮竹ももっかい寝なよ。夜明けまで、大分時間あるから」

浮竹と京楽は、ヴァンパイアであるが、朝から夕方にかけて生活していた。

ヴァパイアは夜の住人であるが、京楽が人の名残で、朝方に目を覚ましてしまうので、浮竹もそんな生活に付き合っていると、すっかり昼型のヴァンパイアになってしまった。


梟がもってきた手紙を読む。

浮竹は、頭を抱えた。

向かい側の大陸にある、血の帝国。女帝ブラッディ・ネイが治める、ヴァパイアだけの楽園。

ブラッディ・ネイは浮竹の実の妹だ。

本当の名を、浮竹白(しろ)。

始祖である浮竹の次に生まれた、ヴァンパイアであった。浮竹を生み出した神は、この世界を創造してから間もなく、異界に旅立ってしまった。

浮竹は、その神の寵児。

同じ寵児である、ブラッディ・ネイは始祖ではないので、何度か死んだ。

死ぬ度に転生を繰り返し、ヴァンパイアの皇族の中に生まれ、芽吹き、女帝となる。女帝となるために、10歳以上の少女の中に転生して、元の少女の意識を丸ごと飲みこんで、女帝として君臨した。

女帝、ブラッディ・ネイがいないのは、死後の数日だけ。

数日かけて、ブラッディ・ネイは復活する。

我が子がブラッディ・ネイになるのを、少女の元の母親と父親であった者は喜んだ。神でもあるブラッディ・ネイの血を与えられて。

ヴァンパイアは不老であるが、不死ではない。

その寿命は、個体にもよるが大体千歳程度だった。

千歳以上を生きるのヴァンパイアは、時にヴァンパイアロードとも呼ばれる、始祖の血を口にした者。

ブラッディ・ネイは、10代前半の少女を好き好んで、ヴァンパイアロードにした。その少女たちは、ブラッディ・ネイのお気に入りとして、可愛がれた。

ブラッディ・ネイは同性愛者だ。始祖の浮竹もまた、男を愛する傾向にあった。

生まれた頃は、姿形もほとんど同じで、よく間違われた。

そして、互いに子を成すことはできない、不完全品であった。だが、ヴァンパイアは血を与えればその相手を同じヴァンパイアにできるので、問題はなかった。


今のブラッディ・ネイは・・・・確か、6代目か。8千年続く血の帝国の、6代目女帝、ブラッディ・ネイ6世。

そのブラッディ・ネイが死去した。

半年も経つのに、次のブラッディ・ネイが覚醒しない。

手紙の内容は、そんなことを書いてあった。他にも続きがあった。

これまた厄介なことで。

(どうか、7代目ブラッディ・ネイを見つけてください。実の兄である始祖のあなたなら分かるはず。もしもブラッディ・ネイが本当に死んだのであれば、皇族の少女の一人を血族にして血を分け与えてやってください。始祖のあなたの血をもらった者が、新たなブラッディ・ネイとなり、先代のブラッディ・ネイの残した膨大な記憶を受け継いで女帝となります)

簡潔に書いてあったが、内容は複雑だ。

ブラッディ・ネイが本当に死んだとも思えない。

あれは、少女の、ヴァンパイアの形をしたモンスターだ。

同胞の血肉を喰らう。

死なない程度に血肉を喰らい、再生させた。

ブラッディ・ネイの食事は生きたヴァンパイアであった。

だが、食われるヴァンパイアはそれを名誉として受け入れ、嬉しがる。

ブラッディ・ネイは1日に3人のヴァンパイアを食べた。命までは奪わない。再生をさせて、礼としてブラッディ・ネイの涙をもらえる。

ブラッディ・ネイの涙は血と同じで、寿命を延ばす。

ヴァンパイアロードほどではないが、大幅に寿命が延びるので、ブラッディ・ネイに食べられたがる者は多かった。

「ああ、関係ないと、しらをきりたいんだがなぁ。そうはいかんだろうなぁ」

実の兄である、浮竹のところに手紙がやってきたのだ。

ブラッディ・ネイは多分死んでいない。

なんらかの方法で、覚醒を邪魔されている。もしくは、自分から覚醒をしていないか。

神の寵児である始祖とその血脈をもつ者を、殺せる者は存在しない。

例え、それがヴァンパイアハンターでも。

死しても、浮竹は生き返る。灰となっても、復活する。それは、始祖の呪い。永遠の生命。

親であった創造神は、浮竹に世界の在り方を学ばせた。

今の浮竹にはうろ覚えの記憶だったが。

神代(かみよ)の時代から生きる浮竹に、昔の記憶はあまりない。情報量が多すぎるので、古い順から欠落していくのだ。

ブラッディ・ネイは、その欠落していく古い記憶を、魔法を使って水晶に封じ込めて、覚醒してから水晶を使い、前世の記憶を呼び覚まさせる。

血の帝国は、その名の通り、血の幕を帝国中の空にはっていて、太陽の日光が当たらない。そんな安全な世界で、ヴァンパイアたちは人工血液を口にして、偉大な統治者の女帝を崇め、与えられた職につき、一生を終える。

食事も賃金も住むところも、全部用意されていた。

浮竹は、血の帝国が嫌いだった。

何処へ行っても、真紅の瞳をしたヴァンパイアで満ちていた。自由がなかった。自由に生きようとするヴァンパイアがいなかった。

血をくれと、せがまれた。

女帝の兄として、女帝ブラッディ・ネイの補佐をしていたが、ある日嫌気がさして出奔した。

血の帝国をふらふらして、そして人間の世界に出た。血の帝国では人間は生きれないので、血の帝国から出るヴァンパイアは少なかった。

浮竹が眷属にした者たちが、ヴァンパイアとなって世界中に散っていった。始めは、浮竹一人だった。浮竹が血を与えて血族したヴァンパイアが、また次の人間に血を与えてヴァンパイアにした。

そんな方法で増えていったヴァンパイアは、人工血液を血の帝国から得ることができず、人を襲って血を啜った。そして殺した。

そして、ヴァンパイアハンターは生まれた。

ある一人のヴァンパイアは、千人の処女の生き血を啜り、始祖の血なしでヴァンパイアロードへと至った。

冷酷なヴァンパイアが増えた。

血の大陸から、人工血液を輸入できるようになったのに、ヴァンパイアたちは人間を襲った。

浮竹が飲む人工血液も、血の帝国から輸出されたものだ。

もうかなり古い友人である、朽木白哉からもらっていた。

白哉の両親が、浮竹から血を分け与えられたヴァンパイアロードだった。皇族ということになっている。

血の帝国に、妹の朽木ルキアという皇女がいる。その守護騎士が、黒崎一護。

驚いたことに、黒崎一護は人間とヴァンパイアの間に生まれたヴァンピールだった。

人間とヴァンパイアが愛し合う世界もあるのだと、その存在を知った時、感銘を受けた。


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浮竹は、京楽に全てを話し、血の帝国に旅立つことにした。

「君の妹か~。きっと、君に似てかわいくて綺麗なんだろうなぁ」

「想像するのは簡単だが、死んでは転生を繰り返して、10代の少女に命を宿らせて女帝として復活する化け物だぞ」

「僕たちだって、人間から見れば立派な化け物じゃない」

「あれは・・・もう、俺の手には負えない、はっきり言って。まぁ、匂いだけはわかるから、一応探してはみるが、封印されているとしたら、誰が封印しているかだ。あれは、一応始祖の次に長生きの、神の寵児だからな」

浮竹が化け物というブラッディ・ネイに、京楽はますます会いたくなった。

浮竹と京楽は、使者としてやってきた、黒髪の美しい青年と一緒に、馬車で揺られていた。

「それで、この子は?」

「朽木白哉。俺たちを、血の帝国まで案内してくれる」

「朽木白哉だ。名乗るのが遅れた。すまぬ」

「二人旅を想像してたんだけどねぇ。新婚旅行みたいな」

「兄は、そんな気持ちで血の帝国に行くのか?」

「いや白哉、こいつは俺と一緒に生活してただけで、ヴァンパイアとしての常識とか欠落してるから、多めに見てやってくれ」

「ふん」

白哉は、面白くなさそうに、浮竹のほうを見ていた。

「兄の趣味は変わったか?前は、もっと純粋そうなのを血族にしていたであろう」

「いや、死にかけてたから血族にしたんだけど。まぁ、俺は白哉も好きだけど、京楽のことも大好きだから」

その言葉に、京楽が文句を垂れる。

「何、この白哉って子のこと好きなの?」

「血族の子だからな。俺にとっては実の息子のようなものだ。血の帝国にいた頃からの付き合いでな。一応皇族だから、あまり文句を垂れないように。不敬罪として切り捨てられても、知らないぞ」

「何それ怖い」

京楽は、浮竹の後ろに隠れた。

普通なら、浮竹が京楽の後ろに隠れるのだが、今回ばかりは血の帝国に行くためには、血の帝国内部からの手助けがいった。

この大陸では、血の帝国に向かう船がない。

なので、白哉が血の帝国を出て、わざわざ迎えの船のをよこしてきてくれたのだ。

「手紙は、受け取ったのであろう?」

「ああ」

「ブラッディ・ネイは本当に死んだと思うか?あのマザーが」

「いや・・・どこかで、封印されていると思う。7代目が必要だとすると、次のブラッディ・ネイに選ばれるのは、聖女であるお前の妹だろう」

白哉には、妹がいた。

名を、朽木ルキアという。

どんな病も癒せる聖女として崇められていた。皇女であるが、言葉遣いは男のようであったが、気品あふれる姫君だった。かなりのお転婆ではあるが。

「さぁ、船の乗るぞ」

浮竹が、馬車から降りて、大きな船を見上げた。それを、京楽も見上げた。

「うわ、この大きな船に?」

「人工血液の輸出も兼ねてきていたからな。最近では、人間の血も扱っている。血の帝国のヴァンパイアの間では、人間の世界でいうワインのようなものだ。
人間社会も少し変わった。
血の帝国のヴァンパイアの血を欲しがる者も増えた。もっとも、ヴァンパイアの血を飲んでも、直接ヴァンパイアから血を与えられない限り、ヴァンパイア化することはない。まぁ、ヴァンパイアの血を飲むと、病や傷が癒えるから、今ではエリクサーと同等の扱いだ」

浮竹の説明に、京楽がぽかんとしていた。

エリクサーは、怪我や万病に効くという、珍しく高価な聖なる薬だ。

その代用品として、血の帝国のヴァンパイアの血が求められた。

普通のヴァンパイアの血では駄目なのだ。人語を理解しない、グールという低級なアンデットになる。

血の帝国、マザー、女帝であるブラッディ・ネイに守られた、ヴァンパイアだけの楽園にも、変化が訪れた。

血を売って、住み着く人間が増えたのだ。

血の帝国では、人間は住めないわけではないが、人間には住みにくい土地だ。

人間はよく食事をしなければ死んでしまう。

ヴァンパイアは、別に食べなくなくても、人工血液があれば生きていける。それでも、よく嗜好として食事はとられていた。

なので、人間も食べていけることはできる。

人間の新鮮な血は高いが、ヴァンパイアが人間をさらって、血を抜いて売るような真似をする者はいなかった。

最初にその罪を犯した者はいたが、女帝によって裁かれ、太陽の下で焼け焦げて死ぬまで晒された。

浮竹や京楽もそうだが、白哉もまたヴァンパイアロードの血をもっているので、昼でも活動できた。

「これからは、夜が活動時間の大半になる。今のうちに、夜行型に慣れておくことだ」

「ああ、そうだな」

白哉のもっともな言葉に、浮竹は頷いて、京楽の手をとって船に乗った。

カモメが飛んでいる。

太陽は眩しいほどに輝いていた。


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血の帝国に向かって出発して、1週間が過ぎようとしていた。

京楽と浮竹は、まだ船の中にいた。

夜型に慣れるようにと、徹夜を繰り返して、寝不足気味だった。

最近、ようやく夜目覚めて朝に眠るようになってきた。

「ねぇ、喉が渇いた。血をちょうだい」

「少しだけだぞ・・・・んんっ」

京楽に吸血されて、その快感に全身がピリピリする。本当なら交わりたいが、旅の途中であるから我慢していた。

浮竹は、人工血液剤をかみ砕いた。

人工血液剤は、最近開発されたもので、一錠で一回分の血を吸ったことになる。

人工血液を飲むより手軽で、だが味が最悪なので、服用する者と、今まで通り人工血液を飲む者で別れていた。

「兄ら、もうすぐ着くぞ。下船の準備をしておけ」

「あ、分かった」

「荷物まとめないと」

浮竹と京楽は、荷物をまとめると、停泊した船から降りた。

夜なので、血の帝国は寝静まることなく、活気にあふれていた。

何処を見ても、ヴァンパイアだらけだった。

「さすが、血の帝国。夜が、ヴァンパイアたちにとっての昼だな」

「あそこで血を売ってるよ。買ってきていいかい?」

(新鮮、人間の血あります)という看板を指さして、京楽が浮竹に強請った。こうやって強請るのはいつもは浮竹なので、新鮮であった、

「いいぞ」

「浮竹も、飲む?」

「いや、俺はいい。人間の血を口にすると、魔力が溢れて暴走しがちになるから」

浮竹は魔法が使えた。

主に、火属性の魔法だった。いつもは、暖炉に火をおこすくらいで使わないが、その気になれば人をたくさん焼き殺すこともできた。

「兄の判断は正しい。人間の血など、口にするだけ穢れる」

「いや、いいすぎだろ、白哉」

「血の帝国はヴァンパイアだけの楽園。そこに人間が入り込むなど・・・・駆除すべきだと女帝に進言したが、取り合ってもらえなかった」

「そりゃね。ブラッディ・ネイ・・・・妹にも、妹なりの思惑があるんだろうさ」

その、ブラッディ・ネイは今神隠れしている。

早急に探さないと、白哉の妹に浮竹が血を与えて、7代目ブラッディ・ネイとして、人未御供よろしくになってしまう。

浮竹と京楽は、白哉に案内されて、血の帝国の後宮に入った。後宮が、一番怪しいのだという。

十代前半の少女たちが、肌も露わにして過ごしていた。

「ここは、ブラッディ・ネイの後宮か」

「かわいい子がいっぱいだね」

「死にたいのか、京楽」

「いや、僕の浮竹が一番かわいくて綺麗だよ」

目をキラキラして見つめてくるので、とりあえず目つぶしをかましておいた。

「目が、目がああぁぁあ!」

「うるさい」

「兄は、どう思う?この後宮に満ちた魔力・・・・・。女帝のものだと、私は思うのだが」

「うーん、ブラッディ・ネイの魔力は特殊だからなぁ。愛された少女たちにも宿っているようだし・・・・・・」

ブラッディ・ネイは、長い研究の末、未婚の年若い、十代の少女を自らの手で懐妊する方法を見つけた。

懐妊した少女は、ブラッディ・ネイに愛されて後宮から解放され、離宮へと移される。

現在、懐妊したのは3人。

うちの一人は、皇族だった。二人はすでに子を産んで育てている。残りの皇族の姫が、まだ後宮に留まっていた。

「あの子の体・・・・ちょっと、宿っている魔力がけた違いじゃないか」

「どれどれ・・・ほんとだね。まるで、浮竹みたいだ」

「間違いない。あの子の腹に、ブラッディ・ネイは宿っている」

懐妊して、まだ離宮に移されていない、皇族出身の姫だった。

「ねぇ、君のお腹にいる子・・・・女帝でしょ」

びくり。

少女は顔をあげて、泣きだした。

「ブラッディ・ネイ様が・・・・私を、私を失いたくないと。私の腹の中の子に宿って、女帝になるまで、育ててくれと・・・・・・・」

「ブラッディ・ネイはそんな甘い女じゃない。聞こえているんだろう、ブラッディ・ネイ。出てきたらどうだ」

少女は、少し大きくなった腹を撫でて、クスクスと笑いだした。

「いやだなぁ、兄様。ボクのことを兄様が探すなんて。この子の子供、凄く器にいいんだよ。でも男の子でさ・・・・・ボク、男の子にはなりたくないから、この子が胎児であるうちに器を支配して、この子の体をもらおうと思ってさ・・・・・・」

「ブラッディ・ネイ。後宮は、確かにお前の遊び場だが、普通に転生できないのか」

「それが、ルキアちゃんの術で防がれちゃっててさぁ。ボク、ルキアちゃんが欲しいんだよね。ルキアちゃんの中に転生しようとしたら、結界を張って防がれちゃって。行き場をなくしたボクは、自分の愛する少女の子供に宿ちゃったの」

「で?」

「女の子なら、そのまま育つまで待つのもいいかなぁって思ったんだけど、他の女の子と遊べないじゃない。だから、この子の体、いただこうと思ってさ」

「浅ましい欲でできた妹だな」

「兄様だって、欲にまみれているじゃない。その鳶色の目の青年、兄様のものでしょ」

「京楽は、俺と対等だ」

「あはははは!対等?神の寵児であるこのボクらと対等だって?」

白哉は、自分の愛しい妹が、ブラッディ・ネイに狙われていたのだと知って、蒼い顔をしていた。

「兄に、ルキアはやらぬ。たとえ、女帝でも」

「なんだ、ルキアちゃんのお兄さんか。ルキアちゃんのお兄さんは、兄様の血族の血を引いているんだよね。兄様を抱いたことはある?」

「そのような低俗な行為、したことなない」

「はじめはみんな、そう言うんだよ。でも兄様は、ボクよりも美人だから。みんな、兄様を見ていた。それが悔しくて、ボクは兄様が血の帝国から出て行ってほっとしたよ。でも、ボクを探しに戻ってくるなんて」

「ブラッディ・ネイ。ルキア姫は俺が説得するから、その子を解放しろ。無論、ルキアにも宿るな。念のための、空の器を用意してあるのだろう。それに宿れ」

「何、兄様、それはお願い?」

「命令だ。従わないのなら、妹であっても、消す」

「ひっ」

凄い魔力を向けられて、ブラッディ・ネイはガタガタと震え出した。

「ごめんなさい、兄様。兄様、兄様。いや、いや・・・・。ボクを、置いていかないで。ボクは、兄様がいれば他の女の子だっていらないんだ」

「また嘘をつく」

クスクスと、少女は笑った。

「もう、遅いんだよねぇ、兄様。術式は完成してるんだ。この子は、もうボクのもの。そうだ、この体に宿る男の子に、兄様が転生するってのはどう?兄様は、8千年も同じ体だから、いろいろとガタがきて、苦労してるでしょう?」

ブラッディ・ネイの言葉に、浮竹は首を横に振った。

「お前のように、魔力を無駄に食い散らかして、器の体をだめにしたりしてない。あれほど、魔力調整は練習しておくようにといったのに」

「それができないから、ボクは転生するんだよ。神の寵児は、そんなことも許される」

「それは、お前がそう思っているだけだ」

ふらりと、浮竹はふらついた。

「大丈夫、浮竹!?」

「ブラッディ・ネイ・・・・・俺から、魔力を奪う気か」

「アハハハハ。兄様が出奔してからの7千年で、ボクもいろんな魔法を身に着けたんだ。神の寵児は便利だね。神しか使えない、魂の魔法も使える」

ブラッディ・ネイは浮竹を見えない縄でしばりあげた。

「やめろ!」

「兄様、ボクと一つになろうよ。きっと、気持ちいいよ。吸血されたり、セックスなんかより、もっときもちいいこと、しよ?」

「浮竹を離せ!」

京楽が、ブラッディ・ネイの体を水の魔法で拘束した。

「こんな魔法・・・・あれ。解けないよ兄様、どうして?こんな下等な、兄様の愛人なんかに、ボクがいいようにされていいわけがない」

ブラッディ・ネイは、その愛らしい顔を歪ませて、じたばたともがいた。

「だめだ、これ以上はダメだ!子が!ボクが、流れてしまう」

「えっ」

京楽の拘束が解ける。

少女は、局部から血を流していた。

「流産か!医者を呼べ!」

白哉が、叫んだ。

自由になった浮竹を抱きしめて、京楽は震えていた。

「僕の魔法のせいで・・・・・」

「違う。あの少女の魂が、本体に戻ってきてたんだ。ブラッディ・ネイの体に入って、でも器に魂は一つしか入らないから。妊娠していた男児にブラッディ・ネイは移ろうとしていたけれど、俺が邪魔をした」

「え、浮竹が?」

「念のための空の器に、今頃ブラッディ・ネイは宿っているはずさ」

少女は、結局男児を流産した。

しばらくして、くすんだ灰色の髪と、浮竹と同じ翡翠色の瞳をした少女が、自分はブラッディ・ネイだと言い出した。

「ボクはブラッディ・ネイ。マザーだよ」

神代の魔法を披露して、皆頭を下げて敬礼した。

浮竹と京楽は、ただ黙してそれを見ていた。

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「ああ、兄様のせいで、こんな冷凍していた器に宿ってしまった。次に転生の魔法が使えるまで八百年はいるね。兄様がきたら、ろくなことにならない」

「お前は、また後宮に少女を集めさせているそうだな」

「それの何が悪いの。ボクの趣味まで、とやかく言われる筋合いはないよ」

「お前がこの国に必要でなかったら、お前を消せるのになぁ」

「止めておいたほうがいいよ。太陽の光を遮る、血の結界はボクの魔力で維持されている」

「だから、俺はお前が死んだなどと、思っていなかったんだ」

「そうなの、浮竹」

「兄様、趣味悪くなった?そんなもじゃもじゃな男、兄様にはふさわしくない。白哉みたいな、美しい男が、美しい兄様には似合うと思う」

「もじゃもじゃ・・・・・・」

「京楽俺は気にしてないぞ。お前がもじゃもじゃでも、好きだぞ」

「あは、趣味わるっ」

「うるさい!」

ばちっと、火が散った。

「兄様、怒ると火が爆発するよ。愛しいもじゃもじゃを焼かないように、気をつけることだね」

「ブラッディ・ネイ。いや、浮竹白(しろ)。お前は、本当に嫌な奴だな」

「ありがとう、兄様、最高の褒め言葉だよ」

白哉は、ルキアの無事を確かめるために、ルキアを守るために宮殿のルキアの部屋で、ルキアをずっと見守っていた。

「ルキアちゃん、欲しかったなぁ」

「諦めろ。聖女に手を出したら、流石のお前でも無事ではいられないだろう」

「そうなの、兄様」

「ルキアって子は、魂に神格を宿している。俺たちの父であった、創造神と立ち位置は同じだ」

「うわー。ルキアちゃん、そんなにすごいんだ。後宮に閉じ込めちゃおうかな」

「やめておけ。どんな手を使ってでも、白哉が止める」

「ああ、ボクって愛されてないなぁ。ボクは愛する少女たちも、僕の体液が目当てで、ボクを真剣に愛してくれないし」

「ほいほい、乗り換えるからだ。そもそも、女の身でありながら後宮をつくり、少女を閉じ込めること自体が間違っている」

「兄様が皇帝だったら、そのもじゃもじゃを閉じ込めるんでしょ。それとも、もっといい男を探す?」

「なんで男限定なんだ」

「だって兄様、女抱けないでしょ。男に抱かれるのが、兄様は好きでしょ」

「浮竹、浮気は許さないよ?」

「きょうら・・・・・・ぎゃあああああああああああああ」


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無事、七代目ブラッド・レイは即位した。

たまっていた仕事をさっさと片付けて、後宮でお気に入りの女の子を抱いて、好き放題しているらしい。

浮竹と京楽は、自分たちの住む古城へ戻った。

戦闘人形たちが城を維持していたお陰で、古城には塵一つなかった。

「ねぇ、浮竹。君、処女じゃなかったんだ」

「いや、悪い。昔、遊んでた」

はっきりと言って、浮竹は京楽に謝った。

「神代(かみよ)の時代から生きてるもんね。彼氏や彼女が、数百人いても、不思議じゃないよね」

「俺は、ブラッド・レイのような遊び方はしていなかったぞ。ちゃんと、1人の相手と恋愛していた」

「過去に、何人いたの?」

「5人くらい・・・・・・・・・」

「誰が一番好きだった?」

「京楽、お前が一番好きだ」

「こんなもじゃひげを?」

「そのもじゃもじゃが、これまたいいんだ」

「浮竹って、けっこう悪趣味だよね」

京楽は、からからと笑って、人間の血をいれたワイングラスの中身を飲み干した。

「人間の血って、ワインみたいだね。酔う」

「俺は飲まない。魔力が乱れる。昔、生き血を飲んで、城をふっとばした。引っ越しを余儀なくされた」

「神代の頃は、何を口にしていたの。人工血液がなかった時代」

「普通に、人間の食べ物を食べて生活していた。あと、魔力を維持するために、精霊を体に取り込んでいた」

「精霊。そんなのいるんだ」

「いるぞ。炎の精霊なら呼べるから、呼んでみようか?」

「うん。見てみたい」

「サラマンダーよ、わが呼び声に答えよ!」

じゅわあああああ。

ワインの中の血が沸騰する。

「うわぁ、熱い!」

「熱量を下げてくれ、サラマンダー」

「きゅいいい」

炎を纏わせた人のサイズくらいのトカゲは、身に纏う炎を小さくして、浮竹の頬を舐めた。

「きゅいいい」

「あ、浮竹舐めるなんて、ずるい!僕も舐める!」

「おいおい」

「ついでに、啼かす」

浮竹は、サラマンダーを精霊界に返した。

京楽に横抱きにされて、寝室まで運ばれると、キングサイズのベッドに押し倒された。

「京楽」

「血を吸って、いいかい?」

「最近ご無沙汰だったしな。好きにしろ」

浮竹の衣服を脱がしながら、キスをして、舌に少しだけ噛みついて流れる血を啜った。

「ん・・・・」

ヴァンパイアに吸血されるのは、大きな快楽を伴う。

「あ、首筋を、噛んでくれ。そのほうが、感じる・・・・」

浮竹の服を脱がせて、薄い筋肉のついた胸板を撫で、先端を口に含んだ。

「んっ」

潤滑油に手を伸ばして、浮竹にキスをする。

舌の傷は再生していた。

舌を絡め合わせる。

「ん」

蕾に指を侵入させて、早急に解していく。

「ああ、我慢の限界だ。挿れるよ」

「あああああ!!!」

熱い熱に引き裂かれて、浮竹はいってしまっていた。

同時に、首筋に噛みついてやった。

「ひあああああ!!!」

浮竹は、白い体液を弾けさせながら、びくんびくんと痙攣した。

「きもちよかった?」

こくこくと頷く浮竹は、快楽が強すぎて涙を浮かべていた。

「あ、お前もいけ。俺の中で」

「うん」

京楽のものを締め付けて、浮竹は目を閉じた。

最奥にごりごりと入ってきたものに、目を開ける。

「あ、ああ、深い!」

「ここ、好きでしょ?奥にいっぱい出されるの、好きだよね?」

「あ、あ、好きだからいっぱい出して。血も吸って」

「いただきます」

浮竹の最奥に精液を叩きつけながら、京楽は浮竹の首筋にまた噛みついて、吸血していた。

「あああ・・・あ・あ」

「君の血は、美味しいね。君の体も美味しい。甘いよ。本当に、毒があるみたいに病みつきになる」

「あ、いく、またいく・・・・・」

「何度だっていっていいよ」

「ああああーーーーー!!!」

がくっと、浮竹は意識を失った。

「はぁ。浮竹、大丈夫?」

ぺちぺちと頬を叩くと、浮竹は気が付いた。

「中で出したな」

「君が中で出せっていったんだよ」

「風呂に連れていけ。あと、人工血液剤を5つほど、頼む」

「はいはい」

京楽は、言われるままに動く。


血の帝国から帰ってくるまでの間、吸血行為だけで抱くことをしなかった。

京楽もたまっていたのだ。

互いに発散させあった。

半月ぶりだったので、快感は大きかった。

「たまに禁欲みたいな生活送ってみるのも、悪くないね」

「それじゃあ、吸血もなしだな」

「そんなぁ」

京楽のがっかりした顔を見て、笑う浮竹であった。






















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始祖なる者、ヴァンパイアマスター 1

浮竹は、始祖ヴァンパイアだった。

ヴァンパイアマスター。

始祖、始まりのヴァンパイア。

浮竹の血から、世界に存在するヴァンパイアは生まれ、眷属として仲間を増やしていった。

だが、始祖である浮竹は孤独であった。

あまりに長い時を生き過ぎた。

浮竹の血から生まれた眷属たちは、もう死んでしまった。ヴァンパイアハンターに退治されて。

稀に力をもち、千年以上生きる眷属もいたが、それすらの浮竹の前ではなんの意味もない。

神代(かみよ)の時代から生きる浮竹にとって、孤独は悲しいものではあったが、人生のほとんどを眠っていたせいで、孤独の寂しさ、というものはあまり実感がなかった。

浮竹は、滅びた王国の古城に住んでいた。

そこを訪れる者はいない。

時折ヴァンパイアハンターがやってくるが、浮竹が生み出した戦闘人形の手で葬られた。

浮竹は、自分の身の回りの世話も、戦闘人形にやらせていた。

始祖ヴァンパイアは、悠久を生きる。

ほとんどを眠って過ごした。

そんなある日、血の匂いをまとませた青年が、古城に入ってきた。

たまたま起きていた浮竹は、すぐに排除しようと、戦闘人形をさしむけた。けれど、青年は瀕死の重傷を負っていて、浮竹は驚いて青年の怪我を見た。

もう、治しようがない。

数百年ぶりの、人間。

血族にしてみよう。

気まぐれが起きた。

そうして浮竹は、青年を血族にするために自分の血を与え、眷属とした。



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京楽は、もともと貴族であった。

王国の王位継承権問題に巻き込まれて、淘汰される貴族の中に京楽の両親がいた。両親に待っていた運命は、極刑。

ギロチンで処刑されてく両親を、叫びながら見ていた。

何故、何故。

ただ、第一王子の派閥にいただけなのに。

国王が崩御して、第一王子は、王位継承に敗れて、殺された。第二王子は、容赦のない人物で、第一王子の派閥の中心にいた貴族たちを、次々と処刑していった。

京楽は、伯爵家の次男坊だった。親を殺されて、京楽は第二王子を殺そうとした。

両親は処刑されたものの、なんとか兄と自分だけは助かった。

兄は伯爵となり、第二王子に取り入ろうとしていた。

納得がいかなかった。

親を殺した相手にすり寄る兄を、見ていられなかった。

まだ国王として即位していない第二王子を、その側近である近衛騎士を昏倒させて、京楽は第二王子を殺そうとした。

けれど、第二王子は強かった。

京楽は捕らえられた。

処刑されるのだ。ただ、時を待った。

呪われたかのように呪詛を言葉にして、京楽は自分が処刑される日を待った。

国王として即位した元第二王子は、恩赦を罪人たちに与えた。

京楽は処刑されることなく、奴隷として隣国へ売られた。

「僕を殺さないなんて、きっといつか後悔させてやる」

その言葉を胸に、京楽の他に奴隷落ちした貴族を乗せた馬車で、隣国まで送られた。

隣国に辿り着くその手前で、モンスターに襲われた。

馬車の御者も、馬も、護衛として雇われていた冒険者も、他の奴隷たちも次々とモンスターに食われていった。

「ああ、こんな場所で死ぬのか」

そう思いながら、京楽はモンスターに右腕を食われた。

右腕がなくなったことで、戒めは解かれた。

モンスターは腹いっぱいになったのか、京楽を完全に食わずに森の中へ消えていった。

「痛い・・・ああ、死にたくない。一思いに殺してくれればよかったのに」

ろくに抵抗もできない状態だったので、右腕を食われてしまった。

あと、内臓も。

出血が多すぎて、もう助からない。

分かっていたので、よろよろとした足取りで、歩きだした。

森のすぐ近くにある古城で、せめてそこで息絶えよう。野ざらしのまま死ぬのは嫌だった。

きっと、死体は野犬や鴉に食われてしまう。あるいは他のモンスターの餌になるだろう。

せめて、人の形をしたまま死にたかった。

古城に入ると、そこは廃墟ではなかった。煌びやかな世界が広がっていた。

故郷の王国の王城よりも、美しく華やかだった。

けれど、警備の者もメイドも見当たらない。

「誰か、いないのかい?」

ぽたぽたと滴る血は、一応は止血しておいたけれど、もう血を流し過ぎた。

後は死ぬだけだ。

「ごめん、死に場所間違えたね。このまま僕は死ぬけど、どうか死体は埋葬してほしい。こんな美しい高価そうな絨毯を、血で汚してごめんね」

京楽は、どこから現れたのかも分からない、真紅の瞳をしたメイドの姿をした戦闘人形に囲まれていた。

「ああ・・・ここは、そうか。ヴァンパイアの住処か・・・・僕の血を啜っていいよ。どうせあとは死ぬだけだ。糧になれるなら、それもいい」

「勝手なことを。俺にも、血を吸う相手の選り好みはある」

真っ白な髪に、緑の瞳をした青年が、京楽の傷を診ていた。

美しかった。今まで、こんな美しい人は見たことがなかった。

社交界で見たことのある、貴族の令嬢なんて、足元にも及ばない。

「おい、死ぬのか」

京楽の傷を見るが、もう手当てのしようがなかった。

「・・・ああ、僕夢を見てるんだね。最後にこんな美人に看取られるなんて」

「死ぬのか・・・暇だし、血族にならないか。最近起き出しただが、本当に暇なんだ。人の世界に行くのも面倒だし、眷属が欲しい。俺の血族になれ」

「いいよ。生きれるなら、なんにでもなってやる」

生き延びたら、あの第二王子を・・・国王を、殺してやろう。

浮竹は牙で自分の指を噛んだ。

ぽたぽたと滴る血を、京楽に飲ませる。

京楽はそれを嚥下した。


ざわり。

全身の血液が沸騰する。

失われた右腕が再生していき、内臓の傷も癒えた。

同時に、激しい渇きを覚えた。

「うあ・・・・・・」

「血が飲みたいのか。俺の血で我慢しろ」

差し出された右手に噛みついて、その血を啜った。

甘美な味だった。


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「ん・・・・・」

「気が付いたか」

大きな天蓋つきのベッドで眠っていた。

実家の、自分のベッドより大きくて立派だった。

「あ、ごめん。突然君の城にやってきて、血で汚してしまって・・・・・」

「いや、いい。お前はもう俺の眷属だ。名前は?」

「京楽春水」

「いい名だな。俺は浮竹十四郎。ヴァンパイアマスターだ。始祖のヴァパイアと、人は呼ぶ」

「始祖・・・!僕は、ヴァンパイアになってしまったのかい?」

「そうなるな。だが、俺に吸血したから、別に人を襲って吸血する必要はない。俺の血で、足りるはずだ」

差し出された白い右腕に、噛みついた跡があった。

「ずっと寝ていたので、再生力が落ちている」

「君は、人を襲うの?」

もしそうだとしたら、大変なことだ。ヴァンパイアになってしまった自分が言うのも変だが。

命の恩人が、人を襲って殺すなら、止めたかった。

「いや、人は襲わない。人工血液を口にしている。京楽も、喉が渇いたら俺の血か、人工血液を口にするといい」

ヴァンパイアはこの世界では、ひとつの帝国を築くほどに繁栄していた。

人間を襲うのは、もはや時代錯誤。

人工血液がつくられて、それは本物の人間の血よりも甘美で、ヴァンパイアのほとんどが人工血液を口にして暮らしていた。

人のように食事を楽しむ者も多かった。

それでも、時折人を襲って血を啜り、殺してしまうヴァンパイアがいるので、ヴァンパイアハンターは存在した。

「食事の用意をさせてある。俺の血で作り出した戦闘人形のシェフだが、味はいいはずだ。食べるだろう?」

最初に覚えた渇きはもうなかった。その代わり、お腹が減っていた。

普通の空腹だった。

「うん、いたただくよ」

出された料理はどれもおいしく、デザートまであった。

でも、食べて満足していくと同時に、渇きを覚えた。

「喉が渇くんだ。水を飲んでも乾いて乾いて、仕方ないんだ」

「俺の血を飲め。俺の血には少し中毒性があるからな」

「でも、君が傷つく」

「始祖だ。その気になれば治る」

浮竹は、白い長い髪を背中に流して、白い首筋から肩を見せた。

ごくり。

喉が鳴った。

「ごめん」

そう言いながら、浮竹の白い喉に噛みついて、吸血していた。

「んっ」

吸血鬼に血を吸われるのは、得も言われぬ快感を得る。

浮竹は、他のヴァンパイアに血を吸われることで、性的欲求を満たしていた。

「ああ、もっとだ」

「でも・・・・」

「人工血液を飲むから、平気だ。もっと吸ってくれ」

きもちがいいからとは、言えなかった。

しばらく京楽に血を与えてから、京楽も浮竹も満足して、離れていった。

「俺は人工血液を飲んでくる。お前はどうする?」

「俺は、復讐に・・・・誰に?誰に、何を復讐するんだろう」

京楽が眠っている間に、京楽の記憶を覗きこんだ浮竹は、京楽の記憶から国王のことを消していた。

京楽が、自分の元を去らないように。

もう700年ぶり以来の、血族だ。

孤独はいやだ。

戦闘人形は家事やヴァンパイアハンターの駆除をしてくれるが、感情がない。だからといって、ヴァンパイアハンターを血族にすることはしない。

何より、ほとんど眠って過ごしていたせいで、そのヴァンパイアハンターとさえ会わなかった。

起きていると孤独でむなしいので、眠ることを選んだ。

浮竹の年齢は若いまま止まっていた。

ヴァンパイアにされた者は、その年齢から年をとらない。

京楽もまた、年をとらないだろう。

浮竹は、人工血液を口にして、失ってしまった血液を作り出して、補給をすませてから京楽の元に行った。

「何かしたいことは、見つかったか?」

「いや、特には・・・・・」

「じゃあ、ずっとこの古城に住まうといい。俺の傍で、俺の血族として」

「・・・・・・うん」

京楽は、何か大切なことを忘れている気がしたが、浮竹の傍にいた。


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10年が経過した。

京楽は浮竹の血族として、浮竹の隣にいた。

いつの間にか、恋人同士になっていた。

先に求めたのは浮竹なのか京楽なのか、今となっては分からなかった。

「あ!」

京楽のものがずるりと中に入ってきて、浮竹は背を仰け反らせた。

「やぁっ」

前立腺をすりあげられ、最奥を突かれながら、京楽は浮竹の首筋に噛みついて、吸血した。

その快感はすさまじく、セックスと同時の吸血に、頭がおかしくなりそうだった。

「あ、あ、いくから、いくからもう、やめっ・・・・・」

ずちゅりと奥の結腸を突かれて、浮竹は射精していた。

「ああああーーー!!!」

京楽も、浮竹の中にドクドクと精液を注ぎ込んだ。

京楽は、音をたてて浮竹の血を飲んだ。

はぁはぁと、荒い息を浮竹も京楽もついた。

「僕たち体の相性はいいよね」

「中で出したな。あれほど、中で出すなと・・・・・」

「ごめん。お風呂いこうか」

「人工血液を飲んでからにする。京楽に、血を吸われたから少し血が足りない」

浮竹は、飲んだ分の人工血液を、自分の血液に変換できた。

京楽は喉の渇きを訴えると、浮竹から血をもらった。

人工血液を口にしたことはあるが、血の味がして受け付けなかった。

人工血液で失った血液を補った浮竹は、京楽と一緒に風呂に入った。古城の風呂は広く、浮竹の血液から生まれた戦闘人形たちが、メイドとして二人の面倒を見てくれた。

「何か、大切なことを忘れてる気がするんだ・・・・」

「気のせいだろう」

「僕は、なんで君の血族になったんだろう。確か、森で死にかけてたのをたまたま見つけてだよね?」

「あ、ああ」

京楽の記憶を操作してしまったなど、今更言えなかった。


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ある日、古城にヴァンパイアハンターがやってきた。

浮竹は、一撃で殺してしまった。

右腕をもがれたヴァンパイアハンターは、何も言わない屍となった。

「あ・・・・・・」

もがれた右腕。

失った右腕。

モンスターに食われた。奴隷だった。元は貴族だった。

両親を殺された。

憎い国王。

「思い、出した・・・・浮竹!」

「なんだ、京楽」

「君、僕の記憶をいじったね?僕は、この古城に死ににきたんだ。失血死するしかなくって、この城で息絶えようとしていたのを、君が血族にした。
僕は伯爵家の次男で、両親を王国の国王に殺された。その復讐をしようとして、奴隷に落とされた。僕は森で迷って死にかけていたんじゃない。
隣国に売られるはずだった元貴族の奴隷を乗せた馬車が、モンスターに襲われて、僕は右腕を食われて・・・・・」

「京楽、すまない。お前の記憶をいじったのは俺だ。何をすれば、許してくれる?」

浮竹は、素直に頭を下げた。土下座しそうな勢いに、京楽が浮竹を抱きしめた。

「分かってるよ。僕に、どこにもいってほしくなかったんだね。愛してるよ、浮竹」

「京楽・・・・・俺は、ずっと孤独だった。だから眠っていた。でも、お前が血族になってくれて生きるのが、起きているのが楽しくて・・・・」

「うん、全部分かってるから。ヴァンパイアになって、孤独がどれだけ怖いのかが少し分かった気がする。七百年も一人だと、孤独で眠ることしかなかったんだよね」

「京楽・・・・・・」

「君は、僕のことを愛していない?」

「いや、愛してる。愛してもいない、しかも同じ男に体を許すほど、安くはできていない」

「それだけ、十分だよ」

浮竹が、京楽を血族にしたのは気まぐれだった。

でも、それは必然となった。

京楽は、怒らなかった。

京楽の優しさに包まれて、浮竹はまどろんでいるような錯覚を覚えた。


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浮竹の血族になって、百年が過ぎようとしていた。

古城の外に出ることはあまりない。

時折、ヴァンパイアハンターがくるが、浮竹の戦闘人形が殺してしまった。

「たまには、外に出たいな・・・・・」

「隣町にでも行ってみるか?」

「いいのかい?」

「俺は始祖だ。太陽の下でも活動できる。その血族で眷属であるお前も、昼に出歩いても平気なはすだ」

念のためにと、黒いフード付きのマントを羽織って、太陽が一番高く出る時間に人間の世界に交じった。

「わぁ、変わらないなぁ。王都ほどじゃないけど、この町も賑わってるね」

「隣国が近いからな。貿易の中継都市だ。昔からこの町は賑わっている。それこそ、数百年前から・・・・・・」

最後に血族にした少女は、八百年ほど前に、浮竹のことを喜ばせたいから、珍しいものを買ってくるといってこの町に出かけて、ヴァンパイアハンターに殺されてしまった。

どくりと、鼓動が高鳴る。

ヴァンパイアハンターが襲ってきたら、有無を言わず浮竹は殺すだろう。

ヴァンパイアハンターもバカではない。何度も返り討ちにしてくるような強力なヴァンパイアが、無害であるのなら放置するにこしたことはない。

あの少女は、殺しはしなかったが、当時は人工血液がなくて、人を襲って血を飲んでいた。その血を、浮竹が少女を介して啜ることで、浮竹は生きていた。

今思えば、残酷なことを代わりにさせていたんだと思う。

でも、今隣にいる京楽は違う。

浮竹の血を啜ることで、生きている。

始祖の血は力そのもの。他に食事もするが、始祖の血だけで完成されたヴァパイアは普通のヴァンパイアではなく、ヴァンパイアロードになれる。

京楽は、ヴァンパイアロードにすでになっていた。

瞳の色は真紅に変わり、浮竹の瞳も、いつもは穏やかな翡翠色だが、真紅にもなった。

「京楽、日が沈む。夜はヴァンパイアの時間だ。それを狩るヴァンパイアハンターと。帰ろう」

3日分ほどの食料を買い込んで、その日は古城に戻った。

食料品は、基本戦闘人形が買いに町までいく。

自分たちで選んで買うのは初めてで、なんだか気分が高揚して、二人ははじめて料理というものに挑戦してみた。

結果、焦げたすごい匂いの謎な物体ができあがった。

「食べれるのかな、これ」

「案外、見た目よりいけるかもしれないぞ。俺は毒無効はもってないから、お前が食え」

京楽は、ステータスに毒無効があった。

なので、生贄のように。

食べてみた。

「苦い。しょっぱい。とても食べれたもんじゃないね」

結局、その日の夕食もまた、戦闘人形のシェフに作ってもらった。


その日の夜、浮竹と京楽は同じベッドで眠った。

「ん・・・・どうしたの、浮竹。眠れない?」

「なんか、むしょうにむらむらしてきた」

「って、わぁ!服脱がさないでよ!」

「血を、吸ってくれ。今夜は、それだけでいい」

「僕は、それだけじゃあ満足できないよ。君を抱くけど、いいかい?」

「好きにしろ」


始祖ヴァンパイアは、性欲があまりなかったのだが、京楽を血族して交わるようになってから、性欲が強くなった。

血を吸われるのが好きだった。

そのえもいわれぬ快感が。

ヴァンパイアマスターであり、始祖であるのに、血族の眷属に血を吸われて、抱かれてイッてしまうなど、人間から見たら異常だろう。

京楽は、浮竹の血族であると同時に眷属である。

その気になった浮竹には、逆らえない。でも、浮竹は京楽を自由にさせていた。京楽は浮竹が好きなので、一緒にこの古城に住み続けている。

両親の敵であった国王など、とっくの昔に王位を狙う簒奪者の手によって毒殺されてしまっていた。

もう、人の世界に戻りたいとは思わない。唯一血を分けた兄にさえ、会いにいってなかったのだ。

今はもう、領地は孫かひ孫が継いでいるだろう。

「浮竹、僕はずっとそばにいるからね」

「あう!」

浮竹の胎の奥に子種を注ぎながら、京楽は浮竹のものを握り込む。

「やぁっ、いかせてぇっ」

浮竹に噛みついて吸血しながら、京楽は浮竹のものから手を放した。

「あああ!!!」

吸血されながら、射精していた。

快感の上の快感に、浮竹が泣く。

「あああ、あ、あ・・・・・・・」

始祖のヴァンパイアというが、かわいいものだ。

京楽の下で乱れ、喘ぎ、吸血されて。

美しい顔と体のまま、浮竹は京楽に汚されて、それでも美しく居続けるのだった。


これからも、京楽は浮竹の傍で生きていくだろう。浮竹も、眠りにつくことはせずに、生き続けるだろう。

浮竹の始祖の血をたっぷり吸い続けてきた京楽は、ヴァンパイアロードの力をさらに上回っていた。

血の帝国。

いつか、ヴァンパイアだけの国に行ってみたいと思いながら、二人のヴァンパイアは古城で静かに生活をするのだった。

ただし、ヴァンパイアハンターがきたら殺した。

血の帝国から、手紙がきていた。

血の帝国の女帝、ブラッディ・ネイ。

浮竹の、実の妹。



つづく・・・・・・・かもしれない。

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ケーキバース京浮

世界には、ケーキ、フォーク、その他の人間が存在する。

ケーキは自分がケーキであることに気づかない。

反対に、フォークは味覚が通常なく、ケーキを甘くかんじて捕食行動をとる。時に本当に食べてしまうので、予備殺人者とまでいわれている。

フォークにとって、ケーキのもたらす味は病みつきになるもので、ケーキは個体によってその味が変わった。


そんな世界で、浮竹はケーキで、京楽はフォークだった。

浮竹は自分がケーキであることを知らない。

京楽は、院生時代には味を感じれたのに、隊長になってから味が分からなくなった。フォークになったのだと気づいた頃には、ケーキである浮竹を捕食して、食べてしまいたいという衝動に駆られた。

本当に、その血肉を喰らってしまいたかった。

それでは、まるで虚ではないか。

虚と大差ないと気づき、京楽は自分を恥じた。

そんな京楽は、勇気を出して浮竹に告白した。

「君のことが好きなんだ、院生時代からずっと好きだった。僕と恋人になって!」

振られると分かってはいたが、フォークの衝動が収まらず、せめて恋人同士になってキスだけでも・・・・。

そう考えていたが、浮竹はあっさりと、付き合うことを了承した。

「いいぞ。お前が俺のこと好きなのは気づいてたし、俺も結構お前のこと、気に入ってるから」

「まじで、いいの?」

「ああ、まじでいいぞ」

そんな押し問答を繰り返して、京楽と浮竹、フォークとケーキは付き合うことになった。


「ん・・・・・」

手を舐められた。

何処かれ構わず、京楽は浮竹の手を舐めた。

それがフォークとしての行動であると、浮竹も理解していたが、恥ずかしかった。

「ああ、君は甘いね。チョコレートの味がする」

そう言いながら、京楽は浮竹の手を舐めた。

隊首会でも舐めていたので、山本総隊長に怒られて、火を放たれてあちちちと、逃げ回っていた。


「ねぇ、キスしていい?」

「いいぞ」

「僕のキス、しつこいかもよ?それでもいいの?」

「あんまりしつこかったら殴るから、それでもいいならOKだ」

京楽は、そっと浮竹に口づけた。

唇を舐めると、浮竹は唇を開いた。

ぬめっとした京楽の舌が入ってくる。

手を舐める以上に甘く感じて、京楽はその味にうっとりとなって、しつこく浮竹とキスをしまくった。

浮竹の唾液を何度もすすった。

「あ、も・・・・しつこい!」

ばきっ。

頭を殴られて、京楽は涙目になっていたが、嬉しそうだった。

「君の唾液、甘くておいしい。皮膚だけじゃないんだね。どこを舐めても甘いし、君のあそこの体液も甘いのかな?」

京楽は率直だった。その隠さない問いに、浮竹は赤くなって京楽の頭を再び殴っていた。


それからというもの、京楽はお腹がすくたびに、浮竹にキスをして、その唾液の甘さを味わってから、食事をした。

隊首会でもキスをしていて、いくら隠していなかったとはいえ、山じいの前でのキスは、流石の山じいも固まっていた。その後、京楽を黒こげになるまで炎で燃やしていたが。

13番隊の食堂で、浮竹は飯を食べているところに、京楽がやってきて、ものを食べているにも関わらず、京楽がキスしてきた。

「お前、時と場所をわきまえろ!」

浮竹に怒られても、京楽はへらりと笑うだけだった。

「だって、僕フォークだもの。食事の味が分からないんだ。君は甘い。甘い甘い、チョコレートの味だよ」

京楽の行為で、自分がケーキであると知った浮竹であったが、このまま流されていいのかと思った。


付き合って、毎日何度もキスをした。

付き合い初めて、半年が経とうとしていた。

京楽は相変わらずキスが好きで、お腹が減ると雨乾堂にきては、浮竹に濃厚なキスをかまして去っていった。

「なぁ、京楽、お前はキスだけでいいのか?」

「え、食べてもいいの?」

「どういう意味の食べるだ」

フォークの食べる=人を食べるというイメージがぬぐえないので、浮竹は心配になった。

「君とチョメチョメすること」

率直に言ってきたので、浮竹は飲んでいたお茶を噴き出していた。

「もっと、オブラートに言えないうのか?」

「じゃあ、君とセックスすること」

「同じだ、ばか!」

浮竹は真っ赤になっていた。

「その、お前はこの半年キスばかりで・・・フォークだし、味が分かるのは俺の体だけで・・。甘いから、その味が欲しいだけで、俺と付き合っているのかと、思ってしまった」

京楽は首を横に振った。

「確かに、僕はフォークで毎日君にキスして、甘い味を堪能しているけど、ちゃんと恋愛感情ももっているよ。好きだよ、浮竹」

「んっ」

啄むようなキスをされて、浮竹は京楽の背中に手を回した。

「俺も、お前が好きだ、京楽」

「じゃあ、ちょめちょめしちゃおっか」

雨乾堂にいた。

他に人はいないし、人払いをしている。

おまけに、なんと都合のいいことに、夜になろうとしていた。

「君とちょめちょめしたい。ちょっと、瞬歩でローションもってくる!」

そう言って、京楽は風のように過ぎ去ってしまったかと思うと、すぐに戻ってきた。

にまにまと、笑んでいた。

「いつか、君とちょめちょめするために・・・・・」

「普通に、抱くといえ」

「ああ、うん。君を抱くために、現世の通販グッズで買ったんだ。ローションっていって、同性同士とかでも使うやつらしい」

「ああもう、恥ずかしいやつだな!」

浮竹は、京楽を押し倒していた。

「浮竹?」

「我慢していたのは、お前だけじゃない。俺も、我慢していたんだ」

京楽の死覇装を脱がせて、京楽のものを口に含む。

「あ、僕もする」

「え」

京楽は、あっという間に浮竹の服を脱がしてしまうと、浮竹のものを口に含み、舐めあげた。

「んっ」

「ああ、君はここも甘い。体液も甘いんだろうね」

舐めあげて、扱いていくと、先走りの蜜がでてきた。

それを舐めとって、口の中でよく味わった。

「おいしい」

「やっ」

京楽に奉仕しようとしていたのが、逆に奉仕されて、浮竹は京楽にされるがままになっていた。

「君の精液が飲みたい」

「お前・・・もう少し、オブラートに・・・んんっ」

鈴口に爪をたてられて、浮竹は射精していた。

それを、京楽が舐めとっていく。

「濃厚だね。生チョコの味がする」

「ばか!」

「甘い。浮竹、このまま続けけてもいい?」

「ん・・・ちょ、お前のソレ、でかすぎないか?」

本当に、あんなものが体に入るのだろうか。

男として立派すぎるものに、浮竹が恐怖感を覚えた。

「怖い?」

「怖い」

「じゃあ、今日はいれないで済ませよう」

「抜きあいっこか?」

「ううん、素股で」

「すまた?」

「浮竹、きゅって足閉じて」

浮竹は、言われるがままに足を閉じた。

「そうそう。その、閉じた間に僕のもの出し入れするから」

京楽は自分のものにローションをかけて、滑りをよくすると、閉じた浮竹の太ももの間を出入りさせた。

「あ、あ、なんか、変なかんじだ」

「ごめん、僕だけ気持ちよくなってる・・・・後で、君もいかせるから」

「んっ」

素股をしながら、京楽は浮竹のものを触った。

少しいじりながら、京楽は布団のシーツの上にぱたたたと、精液を零していた。

「次は、浮竹の番だね。素股する?」

「いや、俺はいい・・・・」

「じゃあ、僕が口でしてあげる。浮竹の体液は甘いから、飲みたい」

京楽は、浮竹のものにしゃぶりついた。

「あああ!」

先走りの蜜も、精液も、全てを味わって、京楽はおいしいおいしいと、もっともっととせがむ。

「ああ、や、もう無理っ」

出すものがなくなっても、京楽は浮竹のものを口に含んでいた。

「もう限界かぁ。美味しかったよ、ありがとう」

「体中がべたべたする・・・・・」

交わったわけではなかったので、疲労感はあったが、意識はちゃんとしていた。

「お風呂入ろ。ローションぬるぬるして気持ち悪いでしょ」

「一緒に入るのか?」

「雨乾堂の風呂なら、一緒に入れる大きさでしょ?」

「何故知っている」

「こんな日のために、事前調査を」

ばきっ。

浮竹は、京楽の頭を殴った。

「なんで殴るの。僕のおつむがパーになったらどうするのさ」

「お前はもとからくるくるパーだ。俺の唾液が欲しければ、俺の体を洗え」

「君の体液をもらえるなら、できることならなんでもするよ」

京楽は、石鹸を泡立てたタオルで、浮竹の体を洗ってあげて、シャンプーで髪を洗ってあげた。

「ご褒美の、キスちょうだい」

「んっ」

舌と舌を絡め合わせた。

京楽は、浮竹から唾液を奪い、それを美味しそうに嚥下した。

「ああ、甘い。やっぱり、君が一番だ。昔、他のケーキとキスしたことあるけど、あんまり甘くなかった。やっぱり、愛があれば甘くなるんだね」

「そうなのか?」

「いや、知らないけど」

京楽は、フォークだが人の血肉を口にする他のフォークとは違う。

そんな京楽が愛しくて、浮竹は毎日キスを、更に今まで以上にねだってくる京楽に、唾液を分け与えるのだった。







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オメガバース京浮短編5

浮竹は、自分をずっとベータだと思っていた。

だって、今まで検査でベータと言われ、オメガのヒートもきたことはないし、オメガのフェロモンにあてられるようなアルファでもなかったので。

それは、突然だった。

ある日、熱を出した。

ただの熱ならよかったのだが、体中が熱くて、自分が性的欲求をおこしているのだと知った。こんな姿、とても4番隊に診てもらう状況じゃなくて、浮竹は熱にうなされながら、どうにかするために、地獄蝶を飛ばして京楽に助けを求めた。

京楽は上流階級出身として当たり前のように、アルファだった。

浮竹には、今自分が抱えている熱がオメガのヒートであるなど、分かる由もなかった。

「どうしたの、浮竹・・・・うううっ」

雨乾堂にやってきた京楽は、その猛烈なオメガのフェロモンに当てられて、ドクリと鼓動が高鳴るのを感じつつ、冷や汗を出した。

「浮竹・・・君、オメガだったの?」

「あ、京楽、助けてくれ。熱くて体が疼くんだ・・・・・」

「これ、ヒートだよ。浮竹、ベータじゃなかったの・・・・」

京楽は、浮竹のオメガ独特のヒートのフェロモンに当てられて、正常な思考を維持するのがやっとだった。

「だめだよ。僕じゃ、浮竹を助けられない」

「じゃあ・・・白哉を呼ぶ」

その言葉に、京楽は首を振った。

「だめだよ、浮竹。君はオメガだ。朽木隊長はアルファだ」

「じゃあ、どうしろって・・いうんだ」

「僕もアルファだ。責任はちゃんととるから。僕に任せて」

「あ、京楽・・・この、高ぶりを沈めてくれるのか?」

まさか、ベータと言われていた浮竹が、オメガだったなんて。

浮竹とは、親友以上であるが、恋人というわけではなかった。

たまにハグはするけれど、キスをしたこともなかった。

浮竹は、熱にうなされていた。

京楽は地獄蝶を4番隊に飛ばして、オメガのヒート抑制剤を持ってくるように頼んだ。

雨乾堂に届けてほしい。決して、中には入るな。

そう地獄蝶に託して、京楽は女物の着物を脱ぐと、隊長羽織を脱ぎ捨てた。

浮竹から出るフェロモンに当てられて、思考が麻痺していく。

それでも、京楽はなんとか己を保って、浮竹の隣にきた。

「今から、君を抱くよ。責任をもって番にするから」

「あ・・・・」

オメガは、アルファの番になることが多いのだと、浮竹は熱にうなされながら思った。

「きょう・・・らく。お前をまきこんで、すまない」

「緊急事態だよ。後天的にオメガになる子は、零ではないからね」

はじめはアルファやベータでも、後天的にオメガになる場合が、本当に極稀にあった。

浮竹は、きっとそうなのだろう。

ベータであったことは事実。でも、今はオメガだ。

浮竹の隊長羽織と死覇装を脱がしていく。

薄いが、ちゃんと筋肉のついた体に、京楽は今まで心の奥底にいた、欲の塊がにじみ出てくるのを感じていた。

浮竹の隣で、親友として一緒に過ごせるなら、それだけでよかった。

恋人になりたかったけれど、振られるのが怖くて、その想いは封印していた。

「今更だけどね、浮竹。僕は、君を好きだったよ。君をこうしたいと、考えたこともあった」

浮竹の薄い胸を撫でながら、京楽は告白をしていた。

「浮竹・・・こんな、君を、僕のものにする僕を、許してほしい」

「あ、京楽・・いいから、もう・・・きて」

浮竹は、自分から京楽を迎えた。

「んんっ」

啄むようなキスを何度も繰り返す。

「やっ、焦らさないで・・・・」

「君、初めてでしょ?優しくしたいんだよ・・・・」

「京楽・・・・・」

「春水って呼んで。僕も十四郎って呼ぶから」

「あ、春水・・・・」

「好きだよ十四郎」

「俺も、好き・・・・・」

「本当に?」

鎖骨を甘噛みして、胸の先端をひっかいていると、浮竹の言葉に京楽は浮竹を見つめた。

「十四郎、本当に僕のこと好きなの?」

「あ・・・・昔から、好き、だった。優しいから、恋人だと錯覚してしまいそうだった」

「それは僕もだよ」

「好きでもない相手と、ハグしたり、しない・・・・」

親友以上恋人未満。

そんな関係を数百年続けていた。

浮竹は、熱が鎮まるならと、京楽に隠していた本心を打ち明けた。

京楽は、喜びに打ち震えた。

「なんだ、僕たち相思相愛だったんだね。なのに、ずっと友達以上恋人未満を続けて」

京楽の唇が、浮竹のものを含んだ。

「あ!」

浮竹は、体を震わせえて、京楽の黒髪をひっぱった。

「やぁ、そんな・・・・」

「一度出しておかないと、つらいでしょ?」

「でも」

浮竹のものを舐めあげながら、手で扱く。

先端の鈴口を指でぐりぐりすると、浮竹は先走りの蜜を零したあと、吐精した。

それを、京楽は舐めとってしまった。

「春水・・・あ・・あああ・・・・」

「濡れてるね・・・・」

オメガのそこは、男でも女のように濡れると、聞いたことがある。

濡れてぐしょぐしょになった蕾は、すぐに京楽の指をすんなりと受け入れた。

「やわらかい。もしかして、自分でいじってた?」

ぶんぶんと、浮竹が首を横に振る。涙を滲ませていた。

「ごめん、意地悪なこと言っちゃたね」

蕾は、たやすく3本の指を飲みこんだ。

それをひきぬいて、京楽は浮竹の耳元で囁く。

「番にするから。君は、僕のものだ」

「あ、春水・・・・ああああ!」

凄く熱くて質量のある熱が入ってくる。

ズズズっと、中に侵入してくる熱を、浮竹は締め付けていた。

「く、ちょっと、君の中すごい。一度出すよ」

「あ、あ、中で?俺の中でいって、春水」

入り口付近で、ビュルビュルと濃い精子をまき散らせて、京楽は硬さのなえない己で、浮竹を貫いた。

「あああ!」

びくんと浮竹が背を仰け反らせる。

前立腺をすりあげて、奥にきた熱は、ぱちゅんと音を立てた。

「ひあ、あ・・・春水が、中で、俺の中で・・・・」

「うなじ、噛むよ。番にするからね」

京楽は、浮竹と交わりながら、その首に噛みついた。

電撃が走り、互いに番になったのだと分かった。

「これで、君は僕のものだ。もう誰にも渡さない」

京楽は、微笑んだ。

浮竹は、京楽にキスをねだった。

「春水、キスしてくれ」

「いいよ」

何度啄むように、そして舌を絡め合わせたりして、何度もキスを繰り返した。

今までハグだけして、キスをしていなかった分を取り戻すかのように。

「ああ、君の中はすごいね。もう一度いくよ」

「ひあっ」

一度引き抜かれて、背後から貫かれた。

「あ、あ、あ、あ!」

ぱちゅんぱちゅんと音を立てながら出入りする京楽のものは、大きかった。

「や、出る、出ちゃう!」

「好きなだけいっていいよ」

「やああああ」

前立腺を突き上げられ、子宮にまで入り込んできた京楽の雄をしめつけながら、浮竹は射精していた。

同時に、中でもいくことを覚えた。

2重にいっていて、浮竹は思考が真っ白になる。

「うあ、や、中でも、外でも、いってる、ああああ、変になるぅ」

「大丈夫、すぐ慣れるよ」

今後、浮竹のヒートが来るたびに抱くつもりである京楽は、浮竹が孕んでしまうことを考えていた。

「十四郎、僕の子なら、産んでくれる?」

「や・・・やぁ」

浮竹は、熱に思考を麻痺させられて、会話が成り立たないでいた。

「十四郎、僕の精子で、僕の子を孕んで」

「あ、あ、あ・・・・・」

ごりごりっと、最奥を抉られて、浮竹は全身を痙攣させながら、また吐精していた。

「ああああーーーー!!!」

ぐったりと弛緩した浮竹の体を抱きながら、京楽もまた浮竹の中にまた精子をぶちまけた。

避妊はしていなかった。

オメガのヒートは、子を成すための期間である。

初めての京楽とのセックスで、浮竹は妊娠した。



「ねぇ、本当にいいの?堕胎してもいいんだよ。君の負担になる」

「俺と京楽の、愛の結晶だ。産むよ」

帝王切開になるが、浮竹の体が妊娠に耐えれるか分からなかった。

何度も4番隊の卯ノ花隊長の世話になりながら、ひましに大きくなっていく腹を撫でながら、浮竹は京楽との子供を産もうとしていた。

「性別は男の子だそうだ」

「名前、考えないとね」

京楽と浮竹は、番になったことを周囲に公表して、結婚した。

浮竹の子供は、正式に京楽家の跡取りとなることが決まっている。成人するまでは手放さないが、いずれ上流貴族の波にもまれるであろう。

京楽の両親は、どこの馬の骨とも分からぬ、オメガの浮竹を睥睨した目で見ていた。

それに怒った京楽が、ブチ切れた。

京楽の両親は、震えながら、自分の子がオメガ結婚することをしぶしぶ受け入れた。

「僕の兄が健在だったらねぇ。後継ぎ問題なんて、なかったんだけど」

京楽の兄は、すでに他界していた。

京楽を当主に添えたいが、京楽は頑なに拒んで、首を縦に振ったことはない。

オメガの男と結婚するなんて。そう蔑まれたが、浮竹が京楽の子を妊娠していると分かって、その子が男子であると分かり、両親は手の平を返したかのように、京楽と浮竹に接するようになった。

「まぁ、成人するまでは俺たちで育てるからな。成人してから、後はこの子の意思に任せればいい」

少し大きくなったお腹をさすって、浮竹は京楽と手を握りあった。

「子供は多い方はいいね」

「俺は、あまり多いのは嫌だぞ。子育てが大変だ」

なまじ、8人兄弟の長兄として生まれたせいで、両親に代わって、弟や妹の面倒を見てきたことがある。

子供も世話は、とにかく大変なのだ。

「隊長、辞めないでしょ?」

「当たり前だ」

「じゃあ、念のために乳母を雇おうか」

「産休はあるんだろう?」

「あるけど、ずっとっていうわけにはいかないでしょ。普段の子供の世話は乳母に任せればいい。僕の乳母は、いい人だったよ。彼女に頼もう」

「ああ、京楽の乳母なら安心だな」

未来を、描いていく。

京楽と共に。



浮竹は、ヒートの度に京楽と共に休暇をとり、一緒に過ごした。

二人目を作ると決めた日以外は、ずっと避妊していた。

京楽は、浮竹とならヒート期間以外でも睦み合った。

夫婦なので、別におかしいことではなかった。

「子供は、二人まででいい」

上の子が8歳になったとき、二人目の子を産んだ。

浮竹は、もうそれ以上子供を作りたくないようで、京楽もそれに従った。

成人すれば京楽家の人間になると分かっているから、少し甘やかして育ててしまい、ちょっと上の子は我儘になった。

逆に下の子は甘えたがりで、よく上の子に泣かされていた。

それを仲裁しつつ、二人は二人の子供に恵まれて、その子たちが成人するまで手元で育てるのであった。

隊長として忙しい時期は、京楽の乳母であった女性が、子供たちの面倒を見てくれた。

本当にいい人で、浮竹も安心して子供を任せた。

「京楽、今日の夜、いいかい?」

耳元で囁いてきた、愛する夫である男に、浮竹は少し赤くなりながら、頷いた。

「離れの屋敷で、過ごそう」

京楽と浮竹は、仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれるのであった。


















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アイスバース京浮~京楽の場合~

世の中には、アイスとジュースというものが存在する。
アイスの特徴は、体温が冷たいこと、体が弱いこと、もう一つはジュースと結ばれると3分以内に体が溶けてしまうこと。

ジュースはアイスに好意を抱いてしまうことが多く、アイスとジュースが結ばれることはアイスの死を意味している。

ジュースは自分がジュースであるということを知らない場合がほとんどだ。

アイスもジュースも稀なので、検査などたまにしか行われなかった。

京楽は、アイスだった。

そして、浮竹はジュースだった。

京楽は、浮竹を愛していた。浮竹が好きだった。

だが、浮竹は京楽のことを親友と思っていた。

だから、京楽は浮竹に想いを伝えることはせず、一緒に隊長を続けていた。

二人は、親友として寄り添い合っていた。

「浮竹、今日の気分はどうだい?」

「ああ、京楽か。今日は熱も下がって、大分気分がいいんだ」

「でも、無理しちゃだめだよ?体を大切にしなきゃ」

京楽がが、ぎゅっと浮竹の手を握る。

「いつも思うんだが、お前の手って冷たいな」

ぎくりとした。

自分がアイスであると、ばれてしまうのではないかと思った。

「手が冷たい分、心は温かいっていうしな」

朗らかな浮竹の笑顔で、心の中の氷はじわじわと溶けていった。

ああ。

浮竹に、好きと伝えたい。

そして、想いをうけいれてもらいたい。

そうしてアイスとして溶けていけるなら、それでもいい。幸せなまま死ねるなら。

そうとさえ思った。

こんなちっぽけな命。

浮竹のために溶けていけるなら、それもいい。


統学院時代、アイスバースの検査があった。

京楽と浮竹は、正常といわれていた。

真実を知った京楽が、金の力で京楽がアイスであり、浮竹がジュースであることをもみ消したのだ。

愛していた。

愛されたかった。

でも、思いが通じあうことは、京楽の死を意味にしていた。

もしも、浮竹が京楽のことを好きになってしまえば、想いを告げた時に京楽はアイスであるから、溶けて水となって消えてしまう。

残される浮竹のことが、とても心配だった。

浮竹
のことだから、後を追うようなことはしないだろうが、きっとすごく塞ぎこんで、悲しみのドン底を味わうだろう。

それが嫌だった。

浮竹には、常に幸せでいてほしかった。

隊長になって、またアイスとジュースの検査があった。

アイスとジュースは、稀に成長した後でもなることがあるのだ。

今回は、京楽がアイスで、浮竹がジュースであることが公になった。

アイスとジュースであるということが、二人に溝を作り、いつしか二人はあまり話さないよになっていた。

というか、浮竹が強制的に京楽から引き離された。

浮竹の副官である海燕が、浮竹が悲しむのを警戒して、京楽を近寄らせなかった。

浮竹は、寂しかった。

浮竹もまた、院生時代からずっと続く友情に、疑問を抱いていた。

きっと、京楽は自分のことが好きだ。

そう思った。

何故なら、浮竹は京楽のことを好きだったから。

自分がジュースであることは知っていた。京楽がアイスであることも知っていた。

溶けて死なせてしまうことなんてできないので、想いを告げずに、告げられても受け入れるつもりはなかった。

時はたち、藍染の反乱が終わったと思ったら、その後に後に大戦と呼ばれる滅却師の襲撃があった。

始めの襲撃で、京楽は右目を失い、右耳も半分失っていた。

敵はユーハバッハ。

狙いは、霊王。

浮竹は、もしもの時のために、神掛の準備を行っていた。

護廷十三隊のために死なば本望。

やがて、霊王はユーハバッハの手で無へと還された。

浮竹の神掛のみが、世界を支えていた。

「ぐっ・・・・ごほっ」

浮竹は何度も血を吐いた。

ミミハギ様を失った肺は、病を進行させていた。

黒崎一護が、ユーハバッハを打ち倒した。

朗報を耳にして、浮竹は安堵した。

もう、残り僅かなこの命、せめて京楽のために散ろう。

そう思った。

「浮竹・・・・じっとしてなきゃだめだよ。どうしたの、一番隊のこんな場所にきて」

京楽は、眼帯をしていた。

右目の再生手術は失敗に終わり、義眼をはめてはいるが、いつも眼帯をしていた。

そんな京楽の傍にいき、京楽に口づけた。

「浮竹?」

「京楽、俺はお前が好きだ。愛している」

「うき・・・たけ・・・・・」

「お前は?お前は、俺をどう思っている?」

「僕は・・・・・」

言ってはいけない。

言っては、尸魂界を、傷ついた瀞霊廷を、たくさんの死神達を残して水になって溶けてしまう。

「京楽、楽になってしまえ。俺と一緒に、きてくれ。俺と一緒に、死んでくれ」

浮竹の命は、風前の灯だった。

「ごほっごほっ」

「浮竹!」

血を吐いて倒れた浮竹は、泣いていた。

「お前が好きだ、春水」

ああ。

もう、何もかもどうでもいい。

愛しい浮竹が、僕のことを好きで愛してくれているという。

ジュースの浮竹は、僕が想いをつげて溶けても、アイスの僕のように溶けることはないだろう。

でも、すでに浮竹は限界にきている。

命を落とすだろう。

もう、助ける方法はない。

京楽は決意する。

浮竹を抱き上げて、かろうじで残っていた雨乾堂に行き、浮竹を横たえた。

「京楽は?京楽も、俺のことを好きなんだろう?」

頬に手をあてられた。

京楽も、泣いていた。

「好きだよ。出会った頃から、ずっと好きだった。でも僕はアイスで、君はジュースで・・・想いを今まで伝えられなかった。ごめんね」

「いい。最後に、お前の全部を手に入れられた」

暖かい浮竹に抱かれながら、愛を告げて受け入れられたアイスの京楽は、浮竹に愛を注いで、溶けるまでの3分間、好きだよ愛してるよと告げて、水になって溶けてしまった。

ばさりと、8番隊の羽織が残された。

ぐっしょりと濡れた死覇装を手にして、浮竹は静かに泣いた。

そして、血を吐いた。

「京楽・・・・俺も逝く。お前と一緒に。行こう、一緒に・・・・・」

京楽春水、浮竹十四郎。

歴史では、二人とも大戦で命を失ったとされた。

愛を告げ合って、心中のように死んでいったことなど、ごく一部の者しか知らなかった。


二人は、一緒の場所にいた。

霊子の海に還り、浮遊していた。

ふとした意識の狭間で、愛を囁き合い、魂が輪廻するのを待つ。



「やぁ。僕は春(ハル)っていうんだ。君は?女の子でしょ?」

「俺は男だ!」

男の子と名乗った、白い髪のふわふわした翠色の瞳をした子は、自分の名を告げる。

「俺は白(しろ)。なんだろうな、春とは初めて会った気がしない」

「奇遇だね。僕もなんだ」


魂は、霊子へと還って輪廻を続ける。

魂がある限り、現世でいき、尸魂界にいき、また現世にいき、尸魂界にいき。

出会いは、繰り返される。


アイスとジュースを克服して、魂は廻る。










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血と聖水1-5

血の聖水となった京楽が、同じヴァンパイアロードの心臓を食らう。

驚異的な回復で再生する心臓に噛み付き、そして全身にヴァンパイアの毒である水銀をいきわたらせる。

水銀は危険であるため、人間では取り扱いができない。使役魔も同じだ。主に接触する可能性があるため、使うことはできない。

京楽は、ヴァンパイアの最大の弱点でもある水銀を使う。

それで千年の間生き延びてきたのだ。

同じヴァンパイアの血肉になることもなく、狩られることもなく。

京楽は水銀で同じヴァンパイアを殺し、そしてヴァンパイアハンターは実力で殺した。

ドロドロと、とけていヴァンパイアロードは、ついに灰となった。

ビームサーベルをひきぬく二人。

京楽はすぐに血液となり、元の姿に戻る。

「灰を・・・とらないと」

浮竹が、ハンター協会に提出するために灰を手に取ろうとするのを、京楽が止めた。

「さわらないで。僕がとるよ。水銀にまみれてるから・・・人間にとっても毒だ」

「いつも思うが、なぜ京楽は水銀を使う?」

白哉が首を傾げていた。

「水銀が、ロードにもマスタークラスにも有効だからだよ」

「しかし、兄の命にも影響があるだろう」

「残念。僕は、水銀からうまれたんだよ。水銀の汚染で、3つの王国は勝手に滅びた」

「兄も、賞金首になっているのを知っているか、京楽?」

白哉のビームサーベルが、京楽の胸の前につきつけられる。

「白哉!京楽は、もう昔に吸血行為は俺のみとすると誓った」

「だからといって、過去の罪が消えるわけではない」

「西の帝国を滅ぼした、鷹のヴァンパイアロード。元々ヴァンパイアでありながら、ヴァンパイアハンターとして生きる君に、罪をどうこういういわれはないよ」

京楽は、ビームサーベルを片手で掴んだ。

肉のこげる匂いに、浮竹が泣きそうになった。

白哉は、ビームサーベルをおさめた。

「浮竹の情夫になど、興味はない」

「だ!!だから、京楽は情夫などではない!」

浮竹が真っ赤になって叫ぶ。

「えー。あんなことやこんなことしてるのに?」

「京楽!!悪乗りしすぎだ!」

浮竹が、紅くなったまま京楽を殴り飛ばした。

その時は突然だった。

浮竹の瞳が金色に輝き、背中に六枚の金色の翼が現れたのだ。

「ほう。覚醒か」

ヴァンパイアハンターに現れる、潜在能力を極限にまで引き出す。それが覚醒。

「覚醒?これが・・・って、何もかわったかんじがないが」

翼はすぐに消えて、瞳の色も翡翠色に戻った。

「おかしいな。覚醒をした者は、飛躍的に力がUPすると聞いているが」

「にゃーにゃにゃ。主の星の数が増えてるにゃ」

フェンリルが、目を回していれう京楽のかわりに、自動でLVを告げる星システムの3つ星が4つ星になっているのを見つけた。

「3つ星が4つ星か・・・・ふっ」

白哉は背中をむけてちいさく笑っていた。

「うるさい!!」

浮竹は、怒って白哉を投げ飛ばそうとするが、するりと避けられてしまった。



家には、京楽が召還したナイトメアの背に乗って帰った。

協会に、覚醒を告げ、星が一つ増えたことを嬉しげに伝えると、皆プッって笑っていた。

覚醒で星がたった一つ増えたなんて、はじめてだった。通常はもっと強くなる。

「怒ると、綺麗な顔がだいなしだよ?」

「怒ってなどいない」

「にゃーにゃ。にゃっ」

フェンリルを猫じゃらしで遊ばせながら、京楽は浮竹の額にキスをする。

「情夫って響きはねぇ。せめて彼氏くらいじゃないと」

京楽は、猫じゃらしを浮竹の目の前にもってきた。

浮竹は、それごと京楽を投げ飛ばすのであった。

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血と聖水1-4

「血と聖水の名において・・・・いでよ、シルフ!切り裂け!」

白哉が、風の精霊シルフを召還し、真空の刃で京楽を切り裂く。

幾つもの傷が、京楽にできるが、すぐに再生した。

「殺しあうがいい」

京楽の中に入ったヴァンパイアロードは、京楽の血で戦闘人形を呼び出す。

その強さは、さっきまでのヴァンパイアロードの血でつくったそれの、比ではなかった。

「ぐ・・・・」

白哉が、戦闘人形の一匹と切り結ぶ。

「強い」

ビームサーベルで、頭と胴を切り離しても、血でできているためにすぐに元に戻る。

「きりがない、浮竹」

「分かっている」

浮竹も、ビームサーベルを手に、戦闘人形を切り倒していくが、すぐに血になり、また戦闘人形に戻っていく。

「白哉、氷属性の精霊の使い魔はいないのか?」

「炎と風属性ばかりで、氷はない」

「そうか。炎でなんとかなるか?」

「血と聖水の名において・・・フェニックス!血を蒸発させろ!」

凄まじい火力が場を満たす。 炎の地獄の猛火が、京楽を包んだ。

「手加減くらいしろ、白哉!あいつは俺の使い魔でもあり、パートナーでもある!」

「いや、単に情夫であろう?」

「じょ、じょ・・・・」

浮竹は顔を真っ赤にした。

「フェニックス、そのまま燃やし尽くせ」

「血と聖水の名において、フェンリルよ!凍てつくせ!」 フ

ェニックスの炎を止めるように、猫くらいの大きさの白い狼が、氷のブレスを吐く。 それは油をかけた火種に、一滴の水を加えるようなものだった。

「にゃあ、にゃあああああ。無理だ、主よ。主の力が足りないにゃ」

「そこをなんとか、フェンリル」

「主が消せばいいにゃ」

「なるほど、それがあったか」

白哉が頷いて、浮竹を燃え盛る京楽向かって投げ捨てた。

投げ捨てた。

普通、仲間を投げ捨てたりしないよね。でもするのが、白哉。

「うわああああ?」

投げられて、とっさに受身もできなかった浮竹は、そのまま燃え盛る京楽に横抱きにされていた。

「熱い!とっても熱い!!」

浮竹が我慢できずに叫ぶと、火が消えた。

「にゃあ。ほら、京楽が主を守るために火を消したにゃ」

「京楽?」

とてつもない温度の炎で焼かれていたというのに、髪一つ焦げていない。

真紅の血の瞳は、鳶色の優しい色に戻っていた。

「いい加減、僕の体から出ていけ!」

京楽の体から追い出され、ヴァンパイアロード、は血の海となって、姿を形づくる。

「どうする?」

京楽が、浮竹を地面に降ろした。

「どうするのだ、浮竹」

「ビームサーベルで、心臓を突き刺そう」

「分かった」

白哉が、肩で息をしているヴァンパイアロードの背後から、ビームサーベルで心臓を突き刺す。

「がああああああ」

「京楽!」

「分かったよ!血と聖水の名において、我血の聖水とならん」

京楽の姿が溶けて、真紅の血液となり、ビームサーベルにまといつく。 そ

のビームサーベルで、浮竹はイルジオンの精霊に残像を作らせ、シルフの力をかりて横にすべり、そこからヴァンパイアロードの心臓を突き刺した。

「ああああああああ!!!!」

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血と聖水1-3

「ゆけ、フェニックス!」

白哉は、契約している炎の精霊を、ヴァンパイアロードに向ける。

ヴァンパイアロードは、蝙蝠となって四散し、炎を避ける。その蝙蝠の群れに、白哉は容赦なくフェニックスの炎を向ける。

白哉の体は空中にあった。

巨大な金色の鷹に乗り、宙を飛べるヴァンパイアロードと対峙する。

「しつこい・・・・・」

ヴァンパイアロードは真紅の翼で空をかける。白哉に向かって、自分の血で作ったオートマティックバトルドールたち、戦闘人形をけしかける。

メイドの姿をした少女たちは、皆背中に真紅の翼を生やし、いろんな武器で白哉に向かって切りかかったりする。

「しつこいのはそちらであろう」

スパン。

鋭い音がした。

白哉の乗っていた、金色の鷹の首がもげた。
 
落下していく白哉の体。白哉は瞳を金色に輝かせる。

それは、覚醒者としての証。

金色に輝く六枚の翼が現れる。

そのまま、戦闘人形たちをシルフのつくりだした突風でバラバラにすると、白哉は宙を走る。

ギィン、キィン。

ヴァンパイアロードと、直接刃を交える。

ヴァンパイアロードは血でできた真紅の刃、それに対して白哉は、七つ星のハンターにのみ与えられたビームサーベルを手にしていた。

何度も切り結ぶ。

白哉は何度も使い魔を召還した。

黒い狼を召還すると、白哉はシルフの風で空に飛ばし、何度も蝙蝠になるその蝙蝠を食わせた。
 
「我が肉体を食らうというのか」

「駆逐する」

「お前が駆逐されろ」

「いや、兄だ」

「お前だ」

「兄だ」

「お前のかあちゃんでべそー」

「私に母はいない。人工生命体だ。でべそは兄のほうであろう?」

「ばれた!?」

ヴァンパイアロードは臍の位置をおさえた。
 
「いけ、戦闘人形ども!」

自らの血をまた流し、ヴァンパイアロードは何度も戦闘人形を召還する。

白哉は呪札を飛ばした。

それは一枚一枚が口となり、戦闘人形たちを食らっていく。
 
「遊んでいるのか、白哉?」

フェンリルで上空から、二人の戦いを見ていた浮竹は困った顔になった。

多分、本人たちは真剣なんだろうが、漫才を見ている気分だった。

そのまま、フェンリルで地上にまでおりると、浮竹と京楽は銃を構え、それぞれヴァンパイアロードを撃つ。

「新手か・・・」

すでに手負い状態のヴァンパイアロードは、敵側に同じヴァンパイアロードの姿を見て、唇を吊り上げた。

「ハンターよ、ヴァンパイアロードを使い魔にしたつもりか。知っているか。ヴァンパイアは、より強い者の下につく掟があることを」

しかし、京楽はヴァンパイアロードに向かって銀の弾丸を撃つ。

「ち。力は上か」

ヴァンパイアロードは、血の渦となって、京楽の体に吸い込まれた。

「あれ?えーと・・・・」

はじめ、京楽はぼけっとしていた。

次の瞬間には目が鳶色から真紅ににごり、衣服を破ってヴァンパイアの証である真紅の翼が飛び出した。

「従属せぬのであれば、操るまでよ!」

「京楽!」

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血と聖水1-2


「武器は・・・聖水と、銀の弾丸の入った銃、それに銀のナイフとビームサーベル。こんなものかな?あとは十字架に・・・」

ヴァンパイアハンターである浮竹の武器を、勝手に身につけていくその青年は、名を京楽春水といった。

浮竹のマスターである。

その昔、とある滅びた王国の公爵家の跡取り息子であったが、ヴァンパイアとなり、千人の人の生き血を啜って、ヴァンパイアロードになった。

ヴァンパイアロードである京楽に、通常の聖水や銀の弾丸、銀の武器、十字架は効かない。

だが、使うものの方法次第ではヴァンパイアロードにもダメージを与えれる。たとえば、心臓に何度も銀の弾丸を撃ち込めば、ヴァンパイアロードでも死ぬ場合がある。

ビームサーベルは、ハンター協会から七つ星以上の最高クラスのハンターにのみ与えられる武器だ。

浮竹は、生まれた時は七つ星クラスのヴァンパイアハンターだった。

だから、無条件で与えられたのだ。

だが、実際に狩りを行い、報告で3つ星にまで落とされた。こんなことは初めてだった。

いきなり4つも星を落とされるヴァンパイアハンターなんて聞いたことがないと、今でも笑い種だ。浮竹だって、特殊な生命体であるから無条件に七つ星にされただけであって、好き好んでそうなったわけではない。

浮竹は、ヴァンパイアロードである京楽に眷属にされた、ヴァンパイアであった。ヴァンパイアロードの特徴をもっていて、ヴァンパイアハンターをするヴァンパイアであった。

ヴァンパイアたちにとって、浮竹の存在は異質で、裏切者だった。

「なぁ、京楽。猫の缶詰なんて・・・フェンリルも連れて行くつもりか?」

「勿論。僕は猫は好きだよ」

「いや、フェンリルは氷の精霊でしかも狼・・・」

「にゃあ。にゃあにゃああ」

開けられた猫の缶詰を、おいしそうにフェンリルは食べていた。

「猫じゃらしも忘れずに、と」

まるで、どこか旅行にいくかのようだ。

これから、大物のヴァンパイアを倒しにいくとは、とても思えない。

浮竹は、使い魔のスズメで朽木百邪と連絡をとりあっていた。白哉の使い魔は、金色の鷹。すずめと鷹・・・ここらへんからして、力量の違いが見えているが、浮竹はくじけない。

朽木白哉も日番谷冬獅郎も、ヴァンパイアハンターとしての「覚醒」をすでに終えている。

浮竹はまだ覚醒していない。

昔、覚醒していなくても、白哉と冬獅郎は七つ星ハンターであった。

浮竹にとって、まぁ人生ほぼ不老不死で長いんだし、そのうちきっと強くなるよみたいなかんじで、焦ってはいなかった。

ヴァンパイアなのに何故ヴァンパイアハンターをしているのかと聞かれる。

何故かは、自分でも分からない。

ヴァンパイアハンター教会の掟で、今の浮竹は他のヴァンパイアハンターから守られている。それはマスターであり、ヴァンパイアハンターの補佐をしてくれる京楽もだった。

パートナーである京楽は、ヴァンパイアロード。千年以上も前にロード直前のハイクラスとなった、つまりは千年間ずっとハンターを返り討ちにしてきたので、ある意味最強である。

本名は、京楽 次郎 総蔵佐 春水
というそうだ。京楽 次郎 総蔵佐 春水といえば、千年前に魔女狩りを引き起こす原因となり、南の王国3つを滅ぼしたとして有名なヴァンパイアだった。

それが、今ではこんな腑抜け。当時は空気さえも凍てつくといわれていたのに。

話では、999人目の処女として選んだのが95歳のおばあさんの魔女で、一緒に5年間孫として生きているうちに人間の情が移ってしまったのだという。

魔女の魔法でもあったのかもしれない。

それから、千人目に浮竹で選んだのがさらなる間違いだった。

浮竹は男はであり、処女といえば処女だが女ではない。

女性の処女を吸血しなければならないしきたりのある中、それまでの吸血が全て無意味となった。すでにロードであったが。でも、すっごい人間臭くなった。

コンコン。窓がノックされて、浮竹
は窓を開ける。

白哉の使い魔である、白の鷹が入ってきた。白哉は複数の鷹の使い魔を持っている。

鷹は、窓に文字となって消えた。それを読む。

(敵、ヴァンパイアロードと確認。現在交戦中)

「白哉が、敵を確認したようだ。ヴァンパイアロードらしい。急ごう。白哉がすでに交戦中だ」

「フェンリル」

「にゃあ?」

京楽が、牙で自分の親指を噛み切る。そこから滴る甘美な血を、フェンリルに舐めさせた。

ヴァンパイアロードの血は、分け与えた者に力を与える。

京楽は浮竹を両手で抱えた。

「な、何をする!自分で歩けるぞ!」

「いけ、フェンリル」

「にゃああ・・・・・オオオーン」

窓の外に、フェンリルが飛び出す。

すると、真っ白な狼は、狼らしい遠吠えをあげた後、3メートルはあろうかという巨大な狼になった。その背中に、京楽がひらりと飛び乗る。

そっと、浮竹を降ろした。

フェンリルの背にまたがり、二人は白哉の元へと向かった。

フェンリルは、京楽の血を得て、通常よりも巨大に実体化し、空を駆けた。

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血と聖水1-1

むせ返るような血の匂い。錆びた鉄の匂いが空気に四散している。

浮竹は、無残にもヴァンパイアに血を吸われた死体を検分していた。

「まだ生暖かい」

死体は、まだ先ほどまで生きていたのだろう。

「血と聖水の名において・・・アーメン」

浮竹に信じる神はない。

浮竹は、もっていた銃で、死体の頭部を撃ち抜いた。

銃の弾丸は銀でできていた。

そうしないと、「ヴァンピール」という、ヴァンパイアの下等な、本能で血を求めるだけのヴァンパイアとして蘇ってしまう可能性があるからだ。

ヴァンピールも一応はヴァンパイアだ。知能はゼロだが、並外れた身体能力を有する場合が多い。

本当なら、心臓に杭をさして聖水をかけ、墓地に埋葬しなければいけなかったが、そんなことをしている時間はない。

死体の血をすすった、ヴァンパイアがまだ近くにいるはずだ。

銃の銀の弾丸が、聖水のかわりになってくれる。頭部を銀の弾丸でうちぬけば、ヴァンピールは死ぬ。


「美しい人・・・・このような荒れ果てた町へようこそ」


背後から声がした。

浮竹は飛んでいた。

地面から体が離れ、ほんの一瞬浮遊感を味わったかと思うと、家のレンガに叩きつけられていた。

「匂いがする・・・・銀の匂いが。ヴァンパイアハンターか」

ぎりっと、長く細い手が伸びて、浮竹の細い首を絞めた。

「かはっ」

目の前にいたのは、美しい容姿をした20代後半のヴァンパイア。

黒一色の服をまとい、血の色のマントをしていた。一般的なヴァンパイアの服装だ。

「それにしても美しいな・・・・」

恍惚とした表情で、ヴァンパイアは浮竹を見た。

浮竹は、目の前のヴァンパイアよりさらに美しかった。長い白髪に、翡翠の瞳、白い肌。

ヴァンパイアの手が、浮竹の喉から外れる。

浮竹は酸素を求めて大きく呼吸すると、いっきに駆け出した。

「血と聖水の名において・・・アーメン!」

長い真紅のコートの下から銀の短剣を取り出し、ヴァンパイアに向かって投げる。

ヴァンパイアは余裕でそれをかわし、一度無数のこうもりの姿になる。それにむかって、銀の短剣を投げる。

「106人目の生贄となってもらおうか」

1000人の人間の生き血を飲むと、ヴァンパイアは完全なる存在となり、銀の武器も、聖水もきかなくなるという。

朝日を浴びて灰になることさえない。

普通の日光の下でも、ヴァンパイアは活動できるが、朝日だけは浴びると必ず灰となった。

朝日の光を浴びても灰にならぬ、その完全存在をヴァンパイアたちはヴァンパイアロードと呼んだ。



浮竹が跳躍し、ヴァンパイアと距離をとる。

ヴァンパイアは、浮竹の影に潜んでいた。

「な!」

ビリビリ。

真紅のコートが凄まじい力で破られ、白い肌が露になる。
その首筋に、ヴァンパイアが牙をたてる。

「くっ!」

抗うが、凄まじい力にはなす術もない。

浮竹は、血を吸われ、そしてゆっくりと微笑んだ。

「俺の血を飲んだな?」

「うぐああああ、喉が、喉がやけるうう!」

浮竹の血には、銀が混じっていた。

「血と聖水の名において、出でよフェンリル!」

もがくヴァンパイアに向かって、銀の短剣を投げて描いた陣で、使役魔を呼び出した。

フェンリルと名づけた狼は、氷を司る精霊だ。凍てつく氷のブレスを受けて、ヴァンパイアは凍結した。

氷の彫像と化したヴァンパイアに、浮竹は銀の弾丸を撃ち込んだ。

ガラガラと、氷の彫像が崩れ、そして灰になっていく。

「血と聖水の名において」

灰を小さなカプセルの中に入れ、ヴァンパイアを倒した証とする。灰と引き換えに、ヴァンパイアハンターは報酬金をもらっていた。

「あ。ごめん。戻ってくれ」

呼び出したフェンリルに、ペコリと浮竹はお辞儀した。

でも、フェンリルは実体化したまま尻尾をふって、浮竹にじゃれてくる。

「すまない。戻ってくれないだろうか」

「わん」

「狼なので、わんと咆えないでくれ」

「にゃあ」

「いや、もっと違うから・・・」

浮竹は、銃をホルダーに直し、カプセルを懐にしまうと、ため息をついた。

いつもこんなかんじで、いつまでたっても一流のヴァンパイアハンターになれない。

使役魔の数は他のヴァンパイアハンターと比べてもひけをとらないが、使役魔は主に服従絶対であるのに、浮竹の使役魔は時々いうことを聞いてくれない。

他のヴァンパイアハンターに、バカにされることもしばしばだ。

もう十年もヴァンパイアハンターを続けているのに、未だに字(あざな)をもらえない。

年下の朽木白哉や日番谷冬獅郎は、七つ星をもつ一流のヴァンパイアハンターで、字も持っているのに。


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黒魔法使いと白魔法使い2

魔法使いの第一級テストの監督をこなし終えて、浮竹と京楽はやっといつもののんびりとした平穏な時間を取り戻した。

上から、弟子をとれだのああだこうだ言われているが、新婚なのでそんな気は全くない。

キャッキャアハハウフフと、毎日を甘く過ごしていた。

京楽は公爵家の出で、お金は腐るほどもっていた。

浮竹も、第一級魔法使いの称号をもっており、白魔法が使えて、浮竹の使う白魔法は重篤な病を癒したり、体の欠損まで補うので、はるか違う大陸から、その奇跡の魔法を受けるためにやってくる者たちがいた。

大量に謝礼金をもらうので、金には困っていなかった。

京楽は、だが魔物料理が食べたいと疼きだしていた。

ちょうど前のダンジョン攻略終了から半月が経っていた。

「浮竹、京楽。半月が経った。また、俺たちのパーティーに入ってくれないか。新しくできたダンジョンに潜りたいんだ」

この前のパーティーのリーダーであった、剣士がそう誘うと、京楽は顔を輝かせた。

「新しいダンジョンだって!踏破した者はいるのかい!?」

「いや、まだ25階層までしか攻略されていない」

「どんな魔物が出るかも分からないんだね!今から楽しみだよ!」

「引き受けてくれるか、京楽」

「いいよね、浮竹。ね、ね」

京楽に甘い浮竹は、京楽の言葉に乗った。

「まぁいいだろう。俺も暇だしな。しばらく患者は来る予定がないし・・・ダンジョンに潜る期間はどれくらいだ?」

「1週間を想定している」

「京楽の魔物料理に付き合ってもらうことになるが、いいか?」

「ああ。京楽の魔物料理は美味しいし、何かあったら浮竹の魔法で助かるから、大歓迎だ」

「僕の魔物料理が好評のようで、嬉しいよ。さぁ、今すぐ行こう。出発だ!」

「いや、まだ準備できてないから」

「そうだぞ、京楽。まずは1週間分の食材と調味料を確保しておかないと」

完全に魔物だけで料理するわけではない。

調味料も大切だが、野菜や肉も使う時があるので、調達しておく必要があった。

2日かけて準備をして、新しいダンジョンができた村に向かった。

金のない者は馬車や徒歩で向かうのだが、金のある者は瞬間移動の魔法をかけてもらい、村の近くにある地方都市まで飛ばしてもらった。

「よし、セーブポイント作成。何かあったら、転移魔法でこの地方都市まで戻れるよ」

黒魔法には、転移魔法もある。

攻撃魔法がメインだが、転移しまくって敵を混乱させて、強いモンスターなら背後から倒したりした。

「では改めて出発!」

京楽が、杖を掲げて先頭を歩く。

地方都市から、歩いて4時間の場所にダンジョンはあった。

地方都市への往復馬車が出ているが、新しく発見されたダンジョンだけあって、活気にあふれて馬車に乗ることもできないくらい、冒険者であふれていた。

ダンジョンで死ぬと、普通外で蘇生される。

よほど酷い原型をとどめていない死体や、モンスターに食べられたなんかの場合以外、ダンジョンで死んでも蘇生できるので、冒険者は駆け出しの者も含めて多くいた。

そんな新ダンジョンの、1階層2階層を進んでいく。

5階層まではアンデット系ばかりで、お腹がすいたが、アンデット系は食べられないので・・・食べたら、呪われるしステータス異常をおこして、神聖魔法でしか解除できないので、京楽は我慢した。

6階層は、密林だった。

「お、ハーピーがいる!」

京楽は、ハーピーの肉は鶏肉に近いので、焼き鳥にしようかなどと脳内で調理していた。

「本当だ!上からくるぞ、気をつけろ!」

他の冒険者も、ハーピーと戦い、手傷を負って後退する者がほとんどだ。

「うりゃあああああ!!!」

新米の斧使いが、ハーピーに向かって斧を投げる。

斧のあたったハーピーは、地面で動かなくなった。

「でかした!ハーピーの巣はあるかな?」

うきうきとした京楽の顔を見て、剣士がハーピーの巣のあるであろう場所を指さした。

「ちょっといって盗んでくる」

「おい、何を盗むんだ!?」

浮竹のつっこみに、京楽はニンマリと笑うだけだった。

京楽は、マッハで密林をかぎ分けて、一人行ってしまった。

「ハーピーの数が多いな。近くに巣があるんだろう」

攻撃魔法の要である京楽がいなかったが、他の剣士、獣人盗賊、新米斧使い、盾使いもそれなりに力はあるので、ハーピーを倒していく。

もう5体は倒しただろうか。

傷を負うと、浮竹が癒してくれた。

「ヒール」

「てやー」

「ヒール」

「とう!」

「ヒール」

「なんの!」

「ヒール・・・って、いちいち怪我するな!魔力は十分にあるが、癒すのがめんどくさい!」

みんな、浮竹がいるので防御を捨ててハーピーを倒しまくった。

「たっだいまー」

京楽が帰ってきた。

「お、ハーピーいい数倒してるね。全部は無理だけど、解体しようか」

他のハーピーは、京楽がヘルインフェルノを空に打ち上げたのに驚いて、逃げていった。

「おい、あの黒魔法使い、ハーピーを解体してるぞ」

「魔物食じゃないか?かかわらないほうがいいぞ。かわいそうに、干し肉を買う金もないんだろう」

周囲の冒険者からそんな言葉を浴びせられるが、京楽は全く気にしていなかった。

「ドライアドもいたから倒してきた」

アイテムポケットから、ドライアドの体を取り出す。

そしてかまどを作って火をおこした。

ハーピーは、人間の頭をした頭部を切り落として、鳥の胴体部分の羽をむしって内臓をとりのぞき、水で綺麗にあらう。足のほうは、丸焼きにする。

胴体の肉はある程度の大きさに切る。玉ねぎをきって、フライパンで炒める。ハーピーの卵をボウルで溶かす。

フライパンにサラダ油をぬって、ハーピーの肉を焼く。ある程度火が通ったら、玉ねぎを入れてこんがり狐色になるまで焼く。水気がなくなったら、卵の3分の2をいれて、卵が半熟状になったら、残りの卵をいれて、10秒ほど炒めてあからじめたいておいた米の上にのせる。

「じゃじゃーん!ハーピーの親子丼!」

きつね色にほくほく輝く肉と卵、米は、美味しい匂いを周囲に散らせた。

「ごくり」

周囲の冒険者の視線を集めているが、京楽は気にしない。

「ドライアドは、よく洗ってみじん切りにして、鍋にいれて味噌を溶かして、ドライアドの味噌汁に!ドライアドの実には蜂蜜をかけて、ドライフルーツと一緒に煮込んで、少し時間を置いて蜂蜜漬けにしてみたよ!」

今日の昼食の完成だ。

「おい、あいつらハーピー食ってるぞ」

「ハーピーって食えるんだ」

「ドライアドも食ってるぞ」

「ドライアドの実って、毒だよな、確か」

事前に、浮竹がドライアドの実から毒を抽出して、実は毒をぬいて生で食べても安心の状態にした。

京楽と浮竹のパーティーメンバーは、ハーピーの親子丼を食べた。

「うまい!」

「これ、ハーピーか?高い鶏肉の味がする!」

「卵がふわふわだ!」

浮竹も京楽も食べた。

「ほんとだ、ふわふわしてて、少し甘くて美味しい」

浮竹も、ハーピーの親子丼を美味しそうに食べていた。

「ドライアドの味噌汁もうまいな。いい出汁がでてる」

「ハーピーの骨と乾燥させていた昆布から、出汁をとったよ」

他にも、ハーピーの足を焼いたものは、もも肉がうまかった。

デザートのドライアドの実の蜂蜜漬けは、とても甘い中に少しの酸味があり、口当たりがよかった。

じーーー。

他の冒険者の視線を集める。

「ああ、よければハーピーの親子丼食べてく?」

匂いにつられて行きそうな冒険者を、その仲間が引き留めた。

「おい、魔物食に一度とりつかれたら病みつきになって、変なモンスター食べて命落とすのがほとんどだからやめとけ」

「えー。僕の魔物料理は大丈夫なのに」

京楽は口を尖らせて不機嫌そうだった。浮竹が、その肩をたたく。

「京楽、先を行こう。腹ごしらえは終わったし、この密林じゃあ、休息をとる場所も限られているだろうから、先に進もう」

「浮竹の言う通りだ。先に進もう。7階層で、今日は休息しよう」

7階層は、湖のある森だった。

その湖のほとりで、一行は本日の休息をとることにした。

夕飯にはまだハーピーの親子丼とかが残っていたが、新しいメニューに挑戦したくて、浮竹と京楽は湖に釣り糸をたらして、そして新米斧使いを餌に、罠をしかけた。

「おお、大量だ!ブラックシュリンプ(黒い大きいエビ)と、人食いピラニアがよく釣れる」

ちなみに、新米斧使いは浮竹に水中で呼吸できる魔法をかけられて、水底で餌になっていた。お化け貝が新米斧使いを襲い、すぐに引き上げて、新米斧使いは無事だった。

お化け貝を入手した!

「うーんいいね。海じゃないけど、海鮮パスタといこうか」

京楽は、まずは浮竹にブラックシュリンプの殻をむくように頼んだ。

「むき終わったぞ、京楽」

「うん。じゃあ、人食いピラニアの頭部を切って、はらわたをとりのぞいて3枚におろしてくれるかな」

「ああ、分かった」

京楽は、大きな鍋でお化け貝を煮込んでいた。

熱に耐えきず、死んでぱかっと口をあけたお化け貝の身をはぎとって、塩をふる。

パスタを茹でて、別の鍋で細切れにしたブラックシュリンプ、人食いピラニア、刻んだお化け貝の身を炒めて、トマトソースをいれて、ゆであがったパスタにトマトソースをベースにした新鮮魚類の具をかける。

「海鮮パスタもどきの完成だよ!」

名前からしておいしそうだった。

「僕の腕にかかれば、モンスターの人食いピラニアもブラックシュリンプも、お化け貝も、おいしい魚介類さ」

みんな、そのおいしさに涙を流しながら食べた。

浮竹は慣れているので、泣かなかったが。

「浮竹には、僕の下で啼いてほしいから」

ゴスっ。

白魔法使いの聖典の角で、浮竹は真っ赤になって京楽をノックダウンさせた。

「あー。そういえば、お前たち新婚だったよな。すまないな、冒険に参加してもらっている間は、その禁欲生活を強いてしまうから」

「ああ、気にしないでくれ。京楽が性欲が強すぎるだけなんだ。冒険している間は、ハグやキスはするけど、それ以外はしないと約束する」

「えー。やらせてくれないの」

いつの間にか復活した京楽が、浮竹の長い白髪にキスをしていた。

「アホか。ダンジョンで盛るやつがどこにいる!」

「ここにいる!」

「お前は!」

また聖典の角で頭を殴られて、京楽は昇天した。

「今日は、ここでベースキャンプを開こう」

テントをはって、皆思い思いに寛いだ。

7階層はモンスターが少なく、京楽と浮竹をのぞくパーティーメンバーで、一応見張りをしながら、朝を迎えた。

「さぁ、8階層に向かうぞ」

旅はまだ始まったばかり。

目指せ、未踏破の25階層!

浮竹と京楽の旅は続く。

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黒魔法使いと白魔法使い

この世には、魔法がある。

黒魔法と、白魔法だ。

あと、精霊魔法と神聖魔法もある。

黒魔法は攻撃用の魔法で、白魔法は主に治癒やサポートの役割を果たす魔法だった。

そんな世界に、京楽春水という黒魔法使いと、浮竹十四郎という白魔法使いがいた。

普通、黒魔法使いと白魔法使いは、仲が悪い。

でもこの二人は、仲が悪いどころかできていた。

結婚したての、ほやほやの新婚さんだった。

「京楽、火の魔法でこの野菜を炒めてくれ」

「あいよ。浮竹、浄化する魔法で、この水を飲めるものにしてくれないかな」

浮竹も京楽も、第一級魔法使いなのに、弟子も取らず新婚旅行に魔女の森を飛び出して、人間世界でウフフアハハとやっていた。

そんな二人は、あるパーティーに、ダンジョン攻略の仲間にならないかと勧誘された。

なんでも、前の黒魔法使いは老人で、老衰で死んでしまったのだという。白魔法使いはいなくて、代わりに神官がいて神聖魔法を使っていたのだが、神殿に呼び戻されて治癒する者がいないのだという。

神聖魔法は、神に祈りをささげる事でもたらされる、奇跡を使った魔法だ。

白魔法よりも高位に存在し、けれど使い手は少なかった。

白魔法使いの第一級を所持している浮竹ならば、聖職者の使う神聖魔法よりもすごい魔法が使えた。

例えば、神聖魔法では体が欠損すると、その部分を治癒するだけで、生えてこない。

でも、高位の白魔法になると、欠損した部位が復活する。

浮竹の元には、たまに大けがをして負傷して、体を欠損した者が訪れる。たくさんの謝礼金をもらって、浮竹はそうした者の治癒をおこなった。

昔に失った腕でも生えてくる。

浮竹の名前は、魔法使いの世界ではけっこう有名だった。

一方京楽は。

魔物食いの京楽と呼ばれていた。

黒魔法でモンスターを倒して、モンスターを解体して食べる、魔物食い。

金銭の乏しい冒険者は、時折モンスターを倒して、その肉を食べたりする。食べれるモンスターと食べれないモンスターがいた。

たとえば、亜人系のゴブリンやオーク、リザードマン、アンデット系やゴーストなどの浮遊系は食べれない。

ちなみに、スライムは倒してよく乾燥させると食べれた。

動物系のモンスター、植物系のモンスターは大半が食べれた。

さて。

なんだかんだあって、金には困っていなかったが、暇を持て余していた二人の魔法使いは、そのパーティーに入ることを承諾した。

ただし、京楽の魔物料理を食べること。

これが、引き換え条件だった。

食中毒になれば、白魔法使いの浮竹がいる。なので、パーティーメンバーは、しぶしぶ了承した。

「ああ、スライムがいっぱいだ!あのスライムは、ゴールデンメタルスライム!金だ!」

京楽は、金が好きだった。

浮竹の稼いだ金を管理もしていた。

元々公爵家の次男坊で、次男であるが領地を与えられて管理していた。

その領地はモンスターがよく出て、作物をあらして不作の時が多かった。

魔法使い学園を卒業した京楽は、そんなモンスターを駆除して領民の生活を安定させた。そして動物系モンスターの味を知ってしまい、魔物食いの京楽と呼ばれるようになった。

さて、今日のメニューは。

ゴールデンメタルスライムのみじん切りに玉ねぎを入れて炒めたもの、マンドレイクのスープ、魚人の刺身。

ゴールデンメタルスライムは、表皮の金をはぎ取られて、ただのスライムになっていた。

それを京楽の火魔法で急速に乾燥させて、食べれるようにしたものを、少し甘味のある玉ねぎと一緒に炒めて、ケチャップで味付けをした。

マンドレイクは、引っこ抜くときの悲鳴を聞くと死ぬので、収穫する前に息の根を止める。

魚人は、焼いても食えるが、焼くと苦みがまして、生のほうがうまい。

「本当に、京楽は魔物を食うのが好きだな」

「浮竹だって、なんだかんだいって、僕の魔物料理食べてくれてるじゃない」

二人は、ラブラブだった。

他のパーティーメンバーは、そんな二人をちょっと遠くから見ていた。

「いてててて・・・・この魚人、寄生虫いるんじゃないか!?」

刺身だったので、寄生虫がいたようだ。

パーティーメンバーのタンクである盾使いが、突然の腹痛を訴えた。

「今、退治して治癒する」

ぱぁぁぁと、浮竹の手が光り輝く。呪文の詠唱もなしで、浮竹は盾使いの腹痛を取り除いてしまった。

「京楽、今度からは寄生虫のことも考えて調理してくれ」

盾使いが、そう文句を言うと、京楽はニンマリと笑った。

「浮竹の魔法使う姿、かわいい」

ズコーー。

パーティーメンバーのみんなが、ずっこけた。

「お、次の階層は海原か」

ダンジョンは、時によって階層ごとに地形が変わる。

地味なボロ船に乗って、陸地を目指す。

「水中を歩行できる魔法はないのか?」

そう聞かれて、浮竹はこう答えた。

「水中で呼吸できる魔法ならある」

「それじゃだめだ。荷物が水に浸かって使えなくなってしまう」

「そうだよ、調味料とかいろいろアイテムポケットに入れてるんだから、もしも海水を飲みこんだら、調味料がだめになっちゃう」

京楽も、水中呼吸をして水中の移動は避けたいようだった。

「見ろ、水中にでかい影がある!」

「わーい!クラーケンだ!」

京楽は喜んだ。

他のメンバーは、クラーケンと聞いて臨戦態勢に入った。

浮竹は、パーティーメンバー全員に、スピードがあがる補助の魔法をかけた。

「気をつけろ、下からくるぞ!」

パーティーメンバーのリーダーである剣士がそう言うと、京楽が持っていた杖を掲げた。

「サンダーストーム!」

びびびびびびび。

大量の電撃を浴びて、クラーケンはあの世に旅立って、死体がぷかりと浮かんできた。

「見て、浮竹。イカだよ、イカ!イカ焼きにしよう!今日の夕飯は、イカ焼きだ!」

魔物食いの京楽。

みんなは、京楽の魔法の腕の高さに凄いと思いながらも、あくまでモンスターを食うその魂を、根性あり、と認めた。

ちなみに、その晩に食べたイカ焼きはあほみたいにおいしかった。

魔物食になじんでいないメンバーもおかわりをするほどに。

5階層が海原で、6階層は砂漠だった。

パーティーは、砂漠で夜のうちに急速をとることにした。

「水・・・・水はないか・・・」

喉を乾かした剣士がそういうと、浮竹がもっていた水袋を渡してくれた。

「中身がほとんどないな」

「そうか。足しておく」

浮竹の手がぱぁぁと光り、飲める透明な水がわきだした。おまけに冷たく冷えている。

みんなその水を飲んだり、その水でタオルをひたして体を拭いたり、髪を洗ったりした。

みんなが寝静まる頃、浮竹は京楽と同じテントで、眠りにつこうかというところを、京楽に邪魔された。

「なんだ、眠い」

「少しだけ。好きだよ、十四郎」

抱きしめて、口づけをしてくる京楽に、浮竹が応える。

冒険中だし、仲間もすぐ近くにいるので、交わることはせずにキスとハグだけで終わらせた。

「俺も好きだぞ、春水。イカ焼き、明日の分もあるか?」

浮竹は、クラーケンでできたイカ焼きが気に入ったみたいだった。

「アイテムポケットにアホほど入れたから、いつでも食べれるよ」

アイテムポケットは、その名の通りアイテムを収納できるポケットで、冒険者には重宝される代物だ。

たいていの冒険者がもっているが、せいぜい食料を1週間分いれておくのが限界で、京楽は金に任せて、屋敷が一軒建つような高級なアイテムポケットをもっていた。

京楽のアイテムポケットは、中では時間が経たず、大きな屋敷が丸ごと入るくらいの収納スペースがある。

今寝泊まりしているテントも、京楽のアイテムポケットから出したものだ。

二人は、お互いを抱きしめ合いながら、静かに眠りについた。

そのまま、一行は7階層、8階層、9階層と進み10階層のダンジョン最深部のボスが出る場所にやってきた。

浮竹と京楽を除くパーティーメンバーは、そこのボス、ミノタウロスに負けた。

ちなみに、黒魔法使いの京楽、白魔法使いの浮竹以外のメンバーは、タンクである盾使い、リーダーである剣士、獣人盗賊、新米の斧使いだ。

「ミノタウロス・・・・牛肉だね。霜降り和牛かな」

「バカ、ミノタウロスが霜降り和牛なわけあるか!」

京楽の嬉しそうな声に、浮竹が突っ込みを入れる。

「光よ!」

浮竹は眩しい太陽を生み出して、ミノタウロスの視界を奪った。

「まぶしい・・・ええいままよ!」

剣士が、剣を振りかざす。

斧使いは斧をぶん投げた。

盾使いは、ミノタウロスの暴れる腕を抑えている。

「じっくり焼きましょう。ヘルインフェルノ!」

京楽が出した火の熱さに、みんな耐え切れずミノタウロスを残して後退する。

「京楽、魔法を出すときは何か言え!」

浮竹が、皆の言葉を代弁する。

「あ、ごめん。牛肉食えると思ったら、つい」

京楽は暴走していた。

牛肉が食える。

ずっと昔に食べた、ミノタウロスの肉は、ほっぺが落ちそうに美味しかった。

「じっくりこんがり焼きましょう、おまけのファイアストーム、ヘルインフェルノ、ボルケーノトライアングル!」

火属性の魔法ばかりを放った。

ミノタウロスは、こんがりと焼かれて息絶えた。

「これ、食えるよな?」

極上のステーキの匂いを出すミノタウロスに、皆ごくりと唾を飲んだ。

京楽が、慣れた手つきで解体していき、火の入っていない部分を焼いて、みんなにミノタウロスのステーキを食べさせた。

「やばい、おいしすぎる」

「今までの肉の味じゃねぇ」

「うまい、うまい」

「よかったな、京楽。うん、美味いぞ」

浮竹におかわりを渡しながら、京楽もステーキを食べた。

あの時と同じだ。

ほっぺが落ちるほど、美味しかった。

「さぁ、宝箱の部屋にいくぞ。分配は均等にいこう」

リーダーの剣士の言葉に、浮竹と京楽が異議を唱えた。

「俺たちの分はいい。京楽は公爵家の人間で金は腐るほどあるし、あと俺も治癒魔法でけっこう稼いでいるからな」

「うん、みんなで分けて」

「いいのか、京楽、浮竹」

「うん。魔物食を楽しんでくれる仲間ができて、楽しかったよ」

「俺も、久しぶりに冒険ができた。それだけで十分だ」

京楽と浮竹の言葉に、パーティーメンバーは涙をこらえながら、四人で宝物を分配した。

「さて、帰りますか」

「そうだな」

「このまま、パーティーには残ってくれないのか」

「うーん、魔物食をまだ探求したいけど、今はまだいいかな。また機会があれば、誘ってよ」

「半月後くらいなら、多分暇を持て余してる。魔法使い一級認定の仕事があるから、半月後によければ合流しよう」

そのまま京楽と浮竹は、パーティーから別れて、帰宅した。

「イカ焼き、残ってるか?」

「浮竹、イカ焼き好きだね」

「クラーケンはでかすぎて、食べれないとばかり思っていたからな」

「あはは。リヴァイアサンなら食べれないけど。倒すことはできても、食べれないんじゃ意味ないしね」

リヴァイアサンは海のドラゴンだ。

聖獣としても崇められている。

なんだかんだで、二人はいちゃいちゃしながら冒険を楽しんだのだった。

ダンジョン攻略は、普段会えないモンスターに会い、食べれるから面白いのだ。

また、いつか二人だけでもいいから、ダンジョンに潜ろうと決意するのであった。








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