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僕はそうして君におちていく外伝2

浮竹が霊王になって、100年が経った。

浮竹の姿は変わらず、若すぎるわけでもなく老いたわけでもない、隊長の頃の姿のままだった。

京楽は、少しだけ年をとった。

でも、見た目の変化はほとんどなかった。

山本総隊長は2千年を生きた。

京楽もまた、2千年は生きるだろう。

けれど、霊王である浮竹は年齢を重ねても死なない。不死であった。

いつか、別れがくる。

それを事実と受け止めないように、月の一度の逢瀬を重ねて100年が経っていた。

まだまだ、京楽は浮竹のことを愛していて。

浮竹もまた、京楽のことを愛していた。

「昨今の死神は、霊圧が高い者が多いな。上流階級や4大貴族も、子供が多く生まれているのは、先代の霊王の呪いが消えたせいか」

前の代の霊王は、尸魂界全体に呪いをかけていた。

上流貴族ほど、子を作れない呪いだった。

下級貴族である浮竹は、8人兄弟であった。

4大貴族に近くなるほど、子は作りにくかった。

かつて、朽木白哉は妻をもった。緋真という妻は、子を産むことなく死んでしまった。

霊王の呪いなければ、子を産んでいただろう。

白哉には実の兄弟も姉妹もいなかった。それも呪いの影響であった。

ルキアを義妹にして、白哉はルキアの子に朽木家を継がせることにしているようだった。

「たまには、お前以外とも会いたいな。白哉や、日番谷や」

「僕じゃ不満かい?」

「いや、懐かしく感じるだけで、お前がいてくれるだけで、俺は満足だ」

もしも、京楽と会うのが1年に1回なら。もしも、京楽と会えなくなったら。

気が狂ってしまう。

そう思った。

京楽がいるお陰で、霊王として生きようと思えるのだ。

この尸魂界を、世界を支える柱として、神として贄になろうと。

浮竹は、霊王の力を利用して、世界に霊力を降り注いだ。

それは大地を潤し、死神の力を増して、瀞霊廷は今までにないほどの繁栄を謳歌していた。

瀞霊廷は、貴族だらけの場所ではなくなった。多くの流魂街からの者が、死神となり、力をつけて出世していった。

大戦の傷跡はもうない。

ただ昔、霊王と先代の総隊長が殺されたというだけの、昔話になっていた。

完全に復興を遂げた瀞霊廷で、総隊長である京楽は、仕事をしながら、次に浮竹と会える日を楽しみにしていた。

少し日時をずらして、冬の真っただ中、浮竹の誕生日に会えるように調節していた。

浮竹と会ったら、翡翠の簪をあげようと、大前田のところでかった、金細工のかわいい小鳥の形をあしらった鈴のついた、翡翠の簪が入った箱を、大切そうに何度も撫でた。

「早く君に会いたいよ、浮竹」

その日、瀞霊廷はしんしんと降り積もる雪によって、閉ざされた。

霊王の住まう霊王宮には、雪は降らない。

なので、京楽は自分で作った雪兎を、特殊な金属にいれて保存し、浮竹と会えたその日にプレゼントした。

翡翠の簪も渡した。

「お前が、つけてくれ」

「うん。ああ、似合っているよ」

翡翠の簪は、チリンチリンと、動くたびに小さな音を立てた。

十二単の衣をまとった浮竹に、よく似合っていた。軽く髪を結い上げて、まるで天女かと思うほど、美しかった。

「雪か・・・・次に瀞霊廷に降りるのは4年後だな。霊王の力で、雪を降らせてしまおうか」

「そんなこと、できるの?」

「できない。さすがに天候だけは、どうにもならない」

その言葉に、京楽はクスリと笑って、浮竹を抱きしめた。

「君は霊王だから、なんでもできそうなんだけどね」

「一人の男の心を、射止めておくだけで精一杯だ」

「僕の心は、ずっと君だけのものだよ」

「俺が霊王になってもう100年か・・・月日が過ぎるのは早いな」

「そうだね」

瀞霊廷も尸魂界も平和だった。

小さないざこざはあれど、大きな戦いはなく、霊王である浮竹を狙う輩もいなかった。

「誕生日、おめでとう」

「ああ、ありがとう」

京楽が自分でつくった雪兎をプレゼントすると、浮竹は思った以上に喜んでくれた。霊王の力で雪を霊子に変えて、いつまでも溶けないようにして、寝室にあるテーブルに飾った。

「お前がくれたものは全部嬉しいが、この雪兎はとても嬉しい。霊王宮の外はいつも春の気候で、雪が降らないから」

「いつも春なら、君の体にもいいね」

霊王になった時に、肺の病は癒えた。同時に病弱であった体も健康体に戻った。

月に一度の逢瀬が、肺の病や熱が出るから無理、というのはなくて正直嬉しかった。でも、時折浮竹は熱を出した。

病弱であった体の名残が、霊王になってもまだ付きまとっていた。

春の気候は、浮竹の体にとてもよかった。

「春水、俺を抱いてくれ」

浮竹は、自分から京楽を押し倒していた。

「わお、熱烈だね。大歓迎だよ」

「月に一度しか会えないんだ。体が疼く」

霊王になる前は、週に一度は抱かれていた。月に一度は、少ないけれど、霊王である浮竹が京楽に会うには限度がいった。

霊王は清浄なる存在。

いくら、霊王を抱いて同じような清浄の気を宿した京楽でも、浮竹を抱くことは汚すに等しい。

それでも、浮竹は京楽に抱かれたがった。

院生時代に覚えた浅ましい欲は、霊王になっても消えなかった。

隊長になってから、ずっと京楽に抱かれてきた。京楽に抱かれるのは、好きだった。

「いいよ。おいで、十四郎」

すり寄ってくる浮竹を抱きしめて、京楽は苦労して十二単を脱がせながら、浮竹の白い肌にキスマークを残して、花を咲かせていった。

「んっ」

胸の先端を甘噛みされて、ぴりりと浮竹はしびれる体をもてあます。

今から抱かれるという思いに、花茎はだらだらと先走りの蜜を零して、京楽が与えてくれる快感に夢中になった。

「ああ!」

やんわりと手でしごかれて、たまっていた体はあっけなく吐精していた。

「随分早いね。たまってた?」

「俺は、自分でぬいたりしてないから・・・たまってる。もっとお前をくれ」

「十四郎、愛してるよ」

深く口づけると、浮竹は京楽の背中に手をまわした。

「んっ、春水、俺も、愛して・・・ああっ」

京楽は、潤滑油を手に浮竹の蕾に指を侵入させた。

まだ心の準備が整っていなかった浮竹は、いきなり入ってきた指に驚いて、びくんと体をはねさせた。

「きつい?」

「いや、いきなりで驚いただけだ。続けていいぞ」

「うん」

蕾をぐちゃぐちゃと解して、指を3本まで増やした。

ぬるりと、そこに京楽の舌がはいってきて、浮竹は声をあげた。

「やっ、何を!」

「君はここも甘いんだね」

浮竹は、霊王になってから体が甘くなった。純度の高い霊子で構築された体は、とにかく甘かった。

秘所に舌をはわして、浮竹を刺激しつつ、京楽は服を脱いだ。

ぎんぎんにそそり立った己のものを、浮竹の腰にすりよせる。

「あ!」

それで犯されるのだと、浮竹は期待で体が疼いた。

「挿れるよ。力ぬいて」

「ああああ!!!」

一気に引き裂かれて、けれど痛みはなく、快感に頭が真っ白になった。

ぐぽんと結腸にまで入ってきた京楽を強く締め付けて、京楽はそれに眉を寄せる。

「んっ、君を味わいたいけど、いきなりだけど出そうだ。奥に注ぐから、孕んでね」

「あ、出して!春水の子種、俺の奥にいっぱい」

びゅるびゅると、京楽は浮竹の奥で弾けた。

「ああ!」

何度も何度も突き上げられて、浮竹は精液を零しつつ、乱れた。

オーガズムでいくことを覚えた体は、射精しながら同時に中いきをして、浮竹は呼吸を荒くする。

「あっ、や、もれる、やだ、やだ!」

「潮でしょ。十四郎、大丈夫」

「あ、や!」

潮をふきあげて、浮竹は最奥の結腸にごりごりと京楽のものが押し付けられるのを認識しながら、またオーガズムでいっていた。

「やぁ、奥は、奥は弱いから、やぁっ!」

「でも、いいんでしょ?好きだよね、奥をごりごりされるの」

「いやぁ」

前立腺をすりあげられて、最奥もつかれて、浮竹は啼くことしかできなかった。

「ねぇ、浮竹。太もも、閉じられる?」

「え?」

「素股やってみたい」

「あ・・・・うん」

浮竹は、広げていた足を閉じた。

そこに、京楽は怒張したままの己を、背後から浮竹の閉じられた浮竹の太ももにはさんで、sexをしているように、出し入れを繰り返した。

「気持ちいい?」

「うん、最高だよ。浮竹の中もいいけど、これもすごく気持ちいい」

京楽は、浮竹の太ももに精液を散らした。

「まだいけるよね?今日の日のために、涅隊長から特製の精強剤作ってもらって飲んできたから。まだまだ、付き合ってもらうよ」

「あ、や・・・・・壊れる」

「壊れるくらい、抱いてあげる」



「やぁっ、もうやっ・・・許してぇ」

「僕は、まだいけるよ。十四郎もがんばって」

最奥に侵入してきた京楽を締め上げながら、浮竹は泣いていた。

泣かせてしまったことに罪悪感を抱きながらも、浮竹を抱けるのは月に一度だけなので、京楽は思うまま浮竹を貪った。

結局、京楽は7回はいった。

それに付き合わされた浮竹は、意識を飛ばしてぐったりしていた。

「ごめんね、十四郎」

あげた翡翠の簪は畳の上に転がっていた。

浮竹を抱き上げて、風呂に入らせた。かなり無理をさせてしまったみたいで、いつもなら覚醒するのに、浮竹は眠ったままだった。

京楽に汚されても、浮竹の存在は清いままで、逆に京楽が清められた。


浮竹の長い髪を、京楽は乾かしていた。

風呂で浮竹の中に吐いたものをかき出すと、とろとろと零れていき、自分でもよくこんなに出したものだと思った。

「ん・・・京楽?」

3時間ほどして、浮竹が気づいた。

「浮竹、大丈夫?」

「うあ・・・腰が痛すぎる。回道かけとこう」

霊王であるが、死神の頃に覚えた鬼道や回道は使えた。

やがて、腰の痛みもとれた浮竹は、京楽に身を寄せて、甘い京楽という名の毒に浸る。

「俺は、気を失っていたのか」

「うん。ごめんね、ちょっとやりすぎちゃった」

「まぁいい。俺も、気持ちよかったし」

京楽と交わるのは、一種の毒。

それを霊王の力で浄化して、そして交じりあう。

京楽は霊王である浮竹を抱きすぎて、その体は清浄なる者に近くなっていて、霊王しか出入りできない空間でも入ることができた。

その気になれば、霊王宮にも侵入できるだろうが、後が怖いのでそれはしなかった。

「今の京楽なら、穢れも払えるな。今度、霊王宮で尸魂界の穢れを払う祭事がある。使いをよこすから、お前も参加しろ。清める者は多いほうがいい

「浮竹に会えるなら、参加するよ。でも、僕ってそんな力あるの?」

「俺を散々抱いたせいでな」

「なんだか不思議な感覚。君を抱けるのは嬉しいけど、そんな風になるなんて思ってもみなかった」

霊王である浮竹は、世界の柱。世界そのもの。神。

そんな浮竹に触れることが許されるのは、この世界では京楽だけ。京楽だけが浮竹のいる霊王宮まで来ることができて、浮竹を抱くことができた。

院生時代に覚えた浅ましい欲は、隊長になって想いが通じあったことで具現化し、浮竹が霊王となった今でも続いていた。

「浮竹、おいで。髪結ってあげる。翡翠の簪も飾ってあげる」

浮竹は、素直に京楽の傍にやってきた。

螺鈿細工の櫛で、浮竹の長い長い白髪を梳りながら、髪の一部を結い上げて、翡翠の簪を飾った。

ちりんちりん。

浮竹が動くたびに、ついている金の鈴が軽やか音をたてる。

今まで、たくさんの贈り物をしてきたが、浮竹は受け取っても大切にしまいこむ性質で、翡翠の簪は常に身に着けられるので正解だった。

「京楽がまたくる次の月まで、これを京楽だと思って大切にする」

霊王は、下界を見ることができる。

京楽が恋しくなったら、浮竹は時折下界にその眼(まなこ)を向けて、京楽を見つめていた。

見ることはできるけれど、近くにいれない。そのもどかしさが、苦しかった。

月に一度の逢瀬は、浮竹の我儘から始まった。京楽に会えないなら自害すると、首に剣をあてて本当に頸動脈の近くをかき切った。

慌てた零番隊が、京楽を浮竹の元に送り届けてきた。

月に一度、と決めて、浮竹は京楽と出会えるようになった。

本当は、下界に降りたいのだけど、霊王は虚の特上の餌なので、霊王を損なうことは世界を失うことなので、10年に一度の祭事にだけ、下界に降りることを許された。

護廷13隊の隊長副隊長が見守る中で祭事を行う。

護廷13隊が揃っていれば、虚の心配もない。

といっても、霊圧を消して浮竹は京楽と、下界に降りた後も睦み合っていた。霊王としての力がを制御するのは簡単ではない。

それでも、京楽の隣に居たい一心で、コントロールを可能にした。

「また、会いにきてくれ。今度は1月の半ばだ」

「正月の祝いもの、持ってくるね」

「ああ、楽しみにしている」

霊王宮では、四季の祭りごとがない。それでも、霊王である浮竹を喜ばせようと、身の回りの世話をする者たちは、下界の季節の祝い事を真似てくれた。

大晦日には、年越しそばを食べて、正月には、餅を焼いて食う。

しめ縄を飾り、年明けを祝った。

でも、隣に京楽がいないので、浮竹はいつもどこか寂しそうだった。

京楽がきた次の日から数日は、浮竹は上機嫌で、身の回りの世話をする者も零番隊も、そんな浮竹をみて、ほっと心を穏やかにするのであった。

当代の霊王は、総隊長の死神に夢中である。

霊王宮のある天界で、それを知らぬ者はいなかった。

それほどに、霊王である浮竹は京楽に夢中だった。

霊王なった時から、100年経った今でも、そしてこれからもそれは変わらない。

悠久の時を、二人は逢瀬をを楽しみながら、生きていく。














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僕はそうして君におちていく外伝

霊王が降りてくる。

下界へ。

10年の一度、霊王は下界に降りてきた。

それは、浮竹が霊王になってからのことだった。

前の霊王は水晶に閉じ込められていて、楔だの人柱だの言われていた。

今の霊王は、清らかな空気をまとった、長い白髪に翡翠の瞳をもつ麗人だった。

「霊王様だわ!いつ見ても麗しい」

「ほんと、雲の上の方ってかんじ」

十二単をまとい、髪を結い上げて、金銀細工で象られた宝冠を頭にかぶっていた。

司祭が祝詞を唱えて、霊王に10年間世界が平穏であったことへの感謝をしめす。

霊王は宝剣を抜き、護廷十三隊の隊長副隊長の肩に、宝剣を触れさせて、清浄なる力を流して、霊力の上昇を促した。

中には、見違えるように霊圧が上がる者もいた。

京楽は、霊王の宝剣を受け取り、声高々に宣言する。

「尸魂界に霊王はおわす!霊王いる限り、世界は続く!平和を、高い天上の霊王宮にて祈られている!それに我らは、答えねばならぬ!霊王万歳!」

「霊王万歳!」

「霊王様万歳!」

「霊王様!」

「霊王様万歳!」

霊王を祭る祭儀場は、死神と人々の声で熱気があふれていた。

霊王は、その姿を見届けて、霊王宮に戻った。

戻った、ように見せかけた。

「よう、京楽。遅かったな」

「祭事を抜け出すなんて、なかなかできないからね。さぁ、僕の霊王様は、今日はどんな我儘を言うんだい?」

「花見がしたい」

「なんの花?」

「桜だ」

「今七月だよ。桜、咲いてない・・・・・・」

「俺が力を注ぎ込めば、桜は咲く」

「じゃあ、僕の別邸にいこうか。大きな桜の木があるんだ」

10年に一度、霊王は下界に降りてきて、祭事をする。

けれど、本当は京楽に会うために降りてくるのだ。


京楽の別邸に、二人は歩きながら向かった。

浮竹は、霊王ではなく普通の死覇装をまとい、まるで死神として復活したかのような出で立ちだった。

認識阻害の術が浮竹にはかけられていて、浮竹を見てもそれを霊王だと思う者はいない。下界に降りてきても、浮竹のことを知っている隊長や副隊長、その他の死神は浮竹とは違う者の姿を目でとらえて、誰も霊王が浮竹であると気づかなかった。

京楽だけが、例外だったのだ。

霊王に愛されているこの男は、あろうことか霊王と契り、霊王の残滓を身に宿すようになった。

清浄なる気を、生み出す力。

そのお陰か、月に一度の逢瀬で、京楽の気に触れて散っていく草木や花は、散ることがなくなった。

月の一度の逢瀬を、隠し事にせずに堂々としていられた。

今の零番隊は、新たに招集された面子でできており、京楽のことや浮竹のことを知らない。

ただ、霊王の意思に従い、守るだけだ。

「ここだよ」

京楽が、歩みを止めた。

何度か浮竹も来たことのある、京楽の持つ館の一つだった。維持に人は置いているため、急な帰りにも対処できるようにしていた。

ただ、食事は食材を手に入れいれなければならないので、少し事前に知らせておいた。

今頃、厨房は慌ただしいことになっているだろう。

「酒は?」

「あるよ。君の好きな果実酒もあるよ」

霊王である浮竹は、隊長であった頃よりさらに膨らんだ霊圧を、葉桜になっていた大樹に流した。

ざぁぁぁ。

葉桜が散り、桜色の蕾ができて、次々に開花していった。

「すごいね」

「今なら、お前のその右目を治すこともできる」

「遠慮しておくよ。これは、僕のけじめだから」

総隊長となった証でもあるのだからと、浮竹の願いであるが、それだけは聞き入れられないと、京楽はいつも頑なに拒んだ。

「料理、もってきてもらうから、飲もう」

「ああ」

京楽と浮竹は、月が出るまで酒を飲んで、語り合った。


「でね、七緒ちゃんが・・・・・・」

浮竹は、むすっとしていた。

「どうしたの、浮竹?」

「さっきから、伊勢の話ばかりだ。面白くない」

「ああ、ごめん。君は、僕に会いにきてくれたんだよね」

寝室に移動して、浮竹を押し倒した。

サラサラと、白い腰よりも長くなった髪が畳に流れる。

「髪、長いね。洗うの大変じゃない?」

「身の回りの世話をしてくれる者が洗ってくれるので、大分楽だ」

その言葉に、京楽が眉を寄せる。

「君の肌を、誰かに触らしているの?」

「いや、髪を洗ってもらうだけだ。体は自分で洗っているし、せいぜい十二単を着る手伝いをしてもらうくらいで、あとは食事の用意や風呂の用意をしてもらったり、暇つぶしに本をもってきてもったり・・・・お前が思っているようなことは、ない」

「僕の浮竹に触れていいのは、僕だけだから」

「霊王になってもか」

「うん」

「髪くらいは、許してやれ。一人で洗うのは大変なんだ」

「切っちゃえば?」

「霊王の肉体は霊力に満ちているから。髪の一本、爪の欠片さえ、負なる物の恰好の餌になる」

「虚とか?」

「そうだな。だから、霊子に返すために、常に身は清浄であらねばならない。下界に降りれない最もな理由はそこだ」

「今から僕とすること、清浄じゃないよ。それでもいいの?」

「京楽、お前は俺を抱き続けたことで、霊王の残滓を魂に混じらせている。今のお前は、清らかな存在だ。霊王である俺と交じりあっても、なんの害もない」

「それを聞いて安心したよ。ねぇ、抱いていいかな?」

「もとよりそのつもりで降りてきた。好きなようにしろ」

「愛しているよ、十四郎。僕の、霊王」

「春水・・・俺だけが、愛した者。霊王である俺は、春水を愛している」

今でも時折、先代の霊王の意思がまじって、意識が混濁することがあるが、大分慣れた。

浮竹は、はじめ自分が霊王だと言えなかった。

霊王の代わりにされたと思っていた。けれど、浮竹はもう代わりでもなんでもなく、霊王そのものだった。

「んっ」

ぴちゃりと、首筋を舐められた。

耳を甘噛みされて、京楽の黒髪に手を伸ばす。

「んあっ」

浮竹の桜色の唇を啄んでいた京楽が、口を開いた浮竹の口内に舌を入れる。ぬるりと入ってきた舌は、浮竹の舌を絡め合って、歯茎などをなぞっていった。

「んんっ」

呼吸が苦しそうなので、いったん舌を引き抜くと、情欲で濡れた翡翠の瞳と視線が合った。

「もっと・・・」

「かわいい」

浮竹を抱きしめて、正装である十二単ではない、普通の死覇装を脱がしていく。十二単を脱がすのは苦労したが、死覇装はすぐに脱がせれた。

鍛錬をやめたわけではないようで、浮竹には薄いが筋肉がきちんとついていた。

「あっ」

胸の先端を口にふくまれて、転がされる。

京楽の唇は、鎖骨と胸に花びらを散らした。

そのまま、腹、へそへとさがっていき、最後に花茎を口に含んだ。

「んあ!」

霊王の体は、なんと甘いことか。

甘露だ。

「やぁっ」

何度も舐めて先端を舌でぐりぐりと舐めながら、全体を手でしごいていると、浮竹は精液を京楽の口の中にはきだしていた。

その味もまた、甘かった。

霊王になった浮竹は、純度の高い霊子で構築されていて、甘かった。

「綿あめみたい」

「そんなに、俺は甘いか」

「うん、甘いよ。飴みたい」

くすりと、浮竹は笑って、自分から足を開いて京楽を迎え入れる。

京楽は、すぐに挿入はせずに、まずは潤滑油を手の温度になじませて指ですくいとると、蕾に指を押し入れた。

「あっ」

前立腺をかすめた指先に、声が漏れる。

「もっと声、聞かせて?」

「ああ、やっ」

くちゅくちゅと、指を増やして蕾を解していく。トロトロに溶けた頃合いを見計らって、京楽は自分の熱に潤滑油をぬりたくり、浮竹を貫いた。

「ああああ!!!」

そのまま、ゆっくりと浮竹を起き上がらせる。

「あ!」

騎乗位になっていた。

自分の体重で、ずぶずぶと京楽のものを飲みこんでいく。

「好きなように動いていいよ」

「春水・・・・」

浮竹は、ゆっくりと動いた。前立腺を自分ですりあげるように動いて、浮竹は精液を京楽の腹に散らせた。

「もういいかな?僕も動くよ」

「あ、まだだめ、いってる、途中、だ、から・・・・・ああああ!」

下から思い切り突き上げられて、ごちゅんと結腸にまで京楽のものは入ってきた。

「や、深い・・・・」

「ここ、好きでしょ?」

奥でぐりぐりと動くと、浮竹はこくこくと頷いて、京楽に全てを任せた。

「やっ、大きい・・・・・」

「僕の子、孕んでね」

最奥にびゅるびゅると精液を注ぎ込んで、京楽は果てた。

それでも足りずに、3回ほど浮竹を好きなように犯してから、ぐったりとなった浮竹を抱きしめた。

「寝ちゃってる・・・お風呂は、起きてからでいいか」

浮竹の体をふいて清めて、中に出したものをかき出した。

唇を重ねると、やはり甘かった。

「愛してるよ、十四郎。僕だけが、君にこうやって触れられる。僕は満足だよ。君を、霊王宮に戻したくないけど、月に一度会えるならそれでいい」

本当は、毎日のように会いたいけれど。

生きる世界が違うのだ。

はるか天上にある霊王宮は、神の領域だ。

霊王は、ある意味神だ。

神を抱いているなんて知ったら、他の死神や流魂街の住人は仰天するだろう。

だが、その神自体が、霊王そのものが京楽に抱かれるために、京楽を月に一度、霊王宮に招き入れるのだ。

全ては霊王の御心のままに。

眠り続ける愛しい人の、長い白髪を撫でながら、京楽もまた眠りにつくのであった。






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僕はそうして君におちていく13

私は、小さかった。

私は、愛されていた。

私も、愛していた。

私は世界。私は死神が嫌いだ。

私は楔。あるいは人柱。

私は霊王。

霊王は私。

小さき者。

右腕。

私は殺される。ユーハバッハに。

けれど、私は私を宿した者に蘇る。

私の右腕を、宿らせた者の中に、私は宿る。


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大戦があった。

長い平和を脅かした藍染の反乱から約2年後。

大戦があった。

多くの死神が死んだ。

霊王もまた、ユーハバッハの手により、死んだ。

そして、世界はゆっくりと崩壊していく。

浮竹は、自分の肺に宿らせたミミハギ様を解放して、神掛を行った。

世界の崩壊は止まった。

浮竹は、死ぬはずであった。

けれど、そこに呪いがあった。霊王の呪い。

己の右腕を宿らせた者にの中に、霊王は宿った。

浮竹は、霊王になった。

霊王になった浮竹は、尸魂界の瀞霊廷にいることはできなかった。

零番隊の守る、霊王がいるべき霊王宮へと移動を余儀なくされた。

霊王になった浮竹に課せられたのは、世界に在り、ただ見守ること。

私は霊王。俺は霊王。私は俺。俺は私。

混合する意識の狭間で、浮竹はまどろみながら思う。

愛した人がいた。愛していた。いや、今も愛している。

隻眼の、鳶色の瞳をした男。

総隊長と、呼ばれる者。


私は、夢を見る。

京楽という名の男に、愛される夢を。

そして、私は願う。

また、京楽に会いたいと。

その腕に抱かれたいと、浅ましい欲を抱く。


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「霊王につきましては、ご機嫌うるわしゅう・・・・・・」

「堅苦しいことはいい。俺がお前を呼んだんだ。お前も、霊王ではなく俺をただの浮竹として接しろ」

「しかし、今の君は霊王だ。僕なんかが、触れていいはずがない」

「だから、それもなんとかする。今、霊王の意識は眠っている。ここにいるのは、ただのお前に愛された、浮竹十四郎だ。京楽、俺を抱け」

霊王の意識を身体の隅に追いやった浮竹は、京楽を見た。

京楽の瞳には、死んだはずの浮竹が、霊王として生きているという喜びがあった。

本当は、触れることは禁忌。

まして、霊王をその手で抱くなど、存在を汚すようなものだ。

けれど、霊王でもある浮竹はそれを欲していた。

私は、俺は、浮竹十四郎。総隊長、京楽春水に愛された、1人の死神。

「俺を、抱け」

「言われるままに・・・・」

京楽は、十二単の衣をきた浮竹を胸にかき抱き、衣を脱がしていく。

やや乱暴に口づけると、浮竹は自分から唇を開いて、京楽の熱い舌を受け入れた。

十二単の衣を全部脱がせるのは、重労働だった。

やっと肌着になった浮竹の最後の服を脱がす。

「あっ」

体の全体を愛撫して、薄い胸に舌を這わせて、先端を口に含んで転がすと、浮竹は声を出していた。

何度も交わったせいで、すでに性感帯となっていた。

京楽は、浮竹の花茎を口に含んだ。

「ああっ」

浮竹がのけ反る。

弱い部分を舐めあげながら、潤滑油に濡れた指を蕾に居れた。

「あ、前も後ろもなんて、あ、あ、ああああ!!」

浮竹は、びくんと痙攣して、京楽の口の中で果てていた。

「やっ、いってるから、いってるから!」

前立腺をこりこり刺激されて、オーガズムでいってしまっていた。

「も、いいから・・・・・こい、春水」

「だめだよ。もっと、とろとろになるまで解さなないと。大事な霊王の体に、傷なんてつけれないからね」

「やあっ」

「ああ、いいね、その視線。ぞくぞくする」

睥睨するような、霊王としての顔に、京楽は支配するという優越感を抱いた。

霊王が、自分の下で乱れ、啼いている。

誰もが崇める、あの霊王が。

「あ、春水・・・・・」

切なそうに見つめられて、京楽も我慢ができなくなった。

「挿れるよ」

「んっ」

カリの部分がズッと音をたてて入り込むと、あとはずるずると中に侵入していくだけだった。

「ああああ!」

引き裂かれる痛みと快感に、生理的な涙が零れる。

その涙を吸い上げて、京楽は浮竹に口づける。

「ひあ!」

何度も入口まで引いて、奥まで突き上げた。

「ああ!」

ごりっと音がして、京楽のものが浮竹の最奥である結腸に入ったのがわかる。

「君の奥が、きゅんきゅんしてる。ぶちまけるから、全部飲んでね」

「あああ!」

ごりごりと奥を、前立腺をすりあげて突き上げられて、浮竹は精液を迸らせていた。

同時に、京楽も浮竹の奥で、熱い熱を放った。


「ん・・・・俺は、意識を失っていたのか?」

「大丈夫、浮竹?」

「ああ。体を清めてくれたのか」

「うん。ご満足かな、霊王様」

「ああ、下等な死神に抱かれて満足だ」

そこは霊王宮。

普通なら、零番隊や身の回りの世話をする者だけが立ち入りを許される場所。

そんな場所に、京楽はいた。

浮竹・・・・霊王は、月に一度、霊王宮に京楽を招きいれた。

京楽は、呼ばれると禊を行い、自分の身を清浄にしてから、霊王である浮竹と会った。

霊王である浮竹は、瀞霊廷をその眼(まなこ)で見ていたが、暇であった。

何より、愛しい者が傍にいないことが不安だった。

「京楽春水、霊王のお召しに参上仕りました」

「よくきたな。私は・・・・俺は、霊王であると同時に浮竹十四郎である。堅苦しい言葉遣いはいらない」

「じゃあ、浮竹。また、会いにきたよ。月に一度だもの。今日は、君が嫌っていっても抱くよ。とろとろになるまで、愛してあげる」

私は、俺は、恋をしている。

隻眼の鳶色の瞳をした、この男に。

遠い昔から、好きだった。

出会ってから、ずっとずっと。

「俺を抱け、春水」

霊王としての意識を眠らせて、浮竹は十二単の衣を引きずって、京楽と共に寝所に向かう。

十二単は、霊王である浮竹の正装であった。

美しい布に包まれた浮竹もまた、美しかった。

昔のような中性的な容姿を保ったままで。

これからも、霊王である浮竹が望む限り、許されし月に一度逢瀬を重ねる。


私は、俺は、霊王。

けれど、死神であった。

この男を、愛している。

そして、愛されていた。


「愛しているよ、十四郎」

「俺もだ、春水」

霊王は、今日も霊王宮で月に一度の愛を囁き囁かれる。

どんなに汚しても、霊王は清らかだった。不浄なる存在にはなりえなかった。

浮竹十四郎。

それは、私の残滓が残した、かわいい私の器にして、私そのもの。俺そのもの。

私は生きる。

俺は生きる。

霊王として。

京楽に愛された、浮竹十四郎として。



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僕はそうして君におちていく12


「京楽・・・・その目は?」

鳶色の綺麗な瞳は片方を損ない、眼帯がされてあった。

「ちょっとやられちゃって。再生手術受ける時間もないし、きっと僕はこのままにする」

「傷を見せてくれ」

そっと浮竹は眼帯を外した。

ぽっかりと穴のあいた眼窩には、緑色の義眼が入っていた。

「どうして、緑色を?」

「君とおそろいにしたくて」

愛しい。

ただ純粋にそう思った。

浮竹は、京楽の失われた左目にキスをして、同じく欠けてしまった耳を触った。

「傷、深かったんだな」

「まあ、命に別状はないから後回しにしてたら、片方失明しちゃったけどね。義眼にも視力は多少あるけど、普通の左目と一緒に見ると眩暈が起こるから、眼帯が欠かせない」

「その傷、俺が欲しかった」

「何を言うの!君が傷つくなんて嫌だよ!」

「俺だって、お前が傷つくのは嫌だ」

「君は・・・君はいつもそうだ。自分を率先して犠牲にしようとする。あの場にいたら、君は僕を庇って死んでいただろう」

「それでもいい」

「よくない!死んだら、終わりなんだよ!?」

「お前のために死ねるなら、悪くない。まぁ、もっともこの命は護廷十三隊のために捧げているけどな」

浮竹は、そう言って笑った。

「僕は怖い」

「何が」

「君が、護廷十三隊のために散ってしまうかもしれないことが」

「死神は皆、そうあるべきだ。当たり前のことを、否定しないでくれ」

「僕は嫌だ。君には生き残って、一緒に引退まで隊長をしたい」

「ああ、そうなれるといいな。敵はどうだ。いつまた来ると思う?」

「多分・・・・2、3日後じゃなないかな。奴さんら、本気で僕たちを潰しにかかるだろう。ユーハバッハの狙いは霊王だ」

霊王。

そうと聞いて、浮竹は肺の痛みにせきこんだ。

「浮竹!?」

「いや、なんでもない。ミミハギ様が・・・少し、暴れているだけだ」



私は霊王。私は楔。私は贄。

私には四肢も心臓もない。私は水晶に封じ込められていて、自由もない。

何もできない中で、唯一右腕だけが動かせた。

私は、私を宿らせる者の中に芽吹こうとしていた。

私は霊王。私は世界。私は世界の始まり。



「京楽・・・・もしも、霊王が死んだら、俺は・・・・」

きっと、霊王になる。

とは、言えなかった。

霊王になってしまえば、霊王宮で暮らすことになる。あの地は清浄なる地。

京楽に抱かれることなど、穢れの極みとして、もう京楽の姿を見ることもできなくなってしまうかもしれない。

「なぁ、抱いてくれ」

「どうしたの、浮竹」

「なんでもない。ただ、俺はお前が生きているのを確認したいんだ。抱け」

浮竹から誘ってくるのは珍しくて、夜になるのを待って、京楽は雨乾堂で浮竹を抱いた。


「あああ!」

激しい争いの後だったせいか、京楽は気が立っていた。

少々乱暴に抱かれながらも、浅ましい体は快感を覚えて、白い肌は薄紅色に染まる。

「んあ!」

背後から貫かれて、浮竹は生理的な涙を零した。

「あ!春水、顔が、顔が見たい」

背後からでは、京楽の顔が見れないからと訴えた。

「ううん!」

体を反転させられて、中がごりっと奥を抉った。

「あああーーー!!」

京楽の頬を両手で挟んで、浮竹は自分から京楽に口づけた。

「十四郎・・・・愛してる」

「俺も、愛してる、春水・・・ああ!」

奥をごりごりと抉られて、浮竹はびくんと体を痙攣させた。

オーガズムを覚えた体は、女のようだった。

「ああ・・・んう」

何度も胎の奥で子種を出されて孕むと思った。

「お前の子を、孕みたい」

「じゃあ、もっとたくさん注がないとね」

京楽は、浅ましい欲を浮竹にぶつけた。

浮竹もまた、浅ましい欲でそれを受け入れた。


時間は、あまり残されていない。

愛しい男と共にいる時間も。

霊王宮に入ってしまえば、そこの理に縛られる。

きっと、京楽とも会えなくなってしまう。

そう思うと、もっともっとと、京楽を強請った。


--------------------------------------

霊王は死ぬ。

そして私は死ぬ。

けれど蘇る。

私の器の中の者に。

浮竹十四郎は、霊王となった。

霊王は、ずっと霊王宮にあり、下界の者と接触してはいけない決まりになっていた。

だが、今回の霊王は、意思をもっていた。

決められごとを無視して、下界の京楽を月に一度、霊王宮に招くことを周囲に承諾させた。

そうしないと、霊王は自害すると言い出したのだ。

無論、本当に自害するつもりはなかっただろうが、血を見た零番隊と身の回りの世話をする者は、慌てて下界から京楽を呼んだ。

「一芝居打ったの?」

「ああ」

「霊王様と、呼べばいいの?」

「今まで通り、浮竹でいい」

「浮竹、何も血をこんなに流すことなかったんじゃないの」

首の頸動脈をかき切りそうな勢いの傷は、今は包帯を巻かれていた。

「こうでもしないと、霊王である俺は、お前に会えなかった。会いたかったんだ、京楽」

戦いが終わり、半年が経っていた。

霊王となった浮竹は、霊王宮に閉じ込められて、ただ下界を眺めていた。

愛しい隻眼の、鳶色の瞳をした男は、浮竹の墓を作った。他の死神たちは、浮竹は殉死したものだと思っている。

京楽にだけ、真実を伝えた。

京楽の腕の中で息絶えた浮竹の体は、淡い光を放ち、消え去った。

呆然とした京楽の前で、浮竹は言葉を残した。


「俺は霊王になる。生きている。必ずまたお前と出会う。しばらくの間だけ、お別れだ」

「霊王・・・浮竹、いったい君の身に何が起こっているんだい」

その質問に、答える者はいなかった。


京楽は、戦後の復興処理と死神の人員確保など、慌ただしい毎日を送っていた。

そこに、白い小鳥がやってきて、「霊王があなたに会いたがっている。ここまで来るように」

そう言い残して、霧散した。

半信半疑で、指定された場所にいくと、気づくと霊王宮にいた。

「霊王様・・・・・?」

「私は、俺は霊王である。同時に、浮竹十四郎である」

京楽は、禁忌であると分かっていたが、霊王に触れた。抱きしめた。

あの日冷たくなっていった体は、トクントクンと鼓動をうち、温かかった。

「京楽・・・月に一度、お前と会うことを決めた。これは俺が決めたこと。従ってくれ」

「月に一度でもいいよ。浮竹に出会えるなら」

京楽は、微笑んでいた。

片眼は失ってしまい、愛する人も失ってしまった。でも、愛する人は生きていた。

霊王として。



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僕はそうして君におちていく11


私は、彼を愛していた。

彼もまた、私を愛してくれた。

私・・・いや、俺を。

俺は世界。俺は柱。俺は霊王。


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浮竹と京楽が隊長になって、100年が過ぎようとしていた。

虚退治やら、謀反やらいろいろあったが、尸魂界には基本平和だった。

「隊長、また羽織間違てますよ!」

「え、まじか」

副官の海燕の言葉に、自分が13番隊の・・・・京楽の羽織を着ているのだと分かって、浮竹は顔を赤くした。

「そんなに照れなくても、みんな隊長が京楽隊長とできてるって知ってるんですから、大丈夫っすよ」

「でも、恥ずかしいものは恥ずかしい・・・・・」

穴があるなら入りたい気持ちだった。

「やぁ、浮竹に海燕君。遊びにきたよ。あと、浮竹、隊長羽織間違えたでしょ。もってきたよ」

「ああ、すまない。ありがとう」

瀞霊廷のおしどり夫婦と噂される仲になっていた。

京楽は浮竹を手に入れた。浮竹もまた、京楽を手に入れた。

院生時代は親友であった。

今は、恋人同士だ。

いつも傍にいた。

2人は、比翼の鳥のようであった。

持っている斬魄刀も、二対で一つのもの。

「今日は泊まっていくか?」

「うん、そうする」

京楽は、よく雨乾堂に遊びにくるだけではなく、寝泊りもした。

仕事がたまると、副官である新人の伊勢七緒に耳を引っ張られて、8番隊の執務室に強制送還される。

よくもまぁ、あれだけ仕事をためこむものだと、月に数度、京楽のいる8番隊の執務室を訪れるが、山もりになった書類の、雪崩をおこしそうなその量に開いた口が塞がらない。

「仕事、持ってきたか?」

「うん。七緒ちゃんが3日前切れて、8番隊の執務室に強制送還されて、ずっと仕事片付けてた。仮眠もしたけど、流石に疲れたよ」

「仕事を溜めこむからだ」

ふああと大きなあくびをして、京楽は雨乾堂に持ってきた書類の束を、黒檀の文机に置いた。

黒檀の机は細かな金の細工がされてあって、京楽が雨乾堂で浮竹と一緒に仕事をするためにもちこんだものだった。

これまた高そうなものをと、最初は置くことを渋っていた浮竹だったが、京楽と一緒に居れる時間が増えるならいいかと、許可を出した。

その黒檀の机だけで、多分浮竹の給料の3か月分はするだろう。

筆なんかも高級品で、墨もまた高級品だった。

上流貴族だけあって、金をいろんなところでかけていた。

そのくせ、隊長羽織の上から羽織る女ものの着物は安いものを選んでいた。

最初は、趣味が悪いと思っていた浮竹だった。周囲も、趣味が悪いと思っていた。でも、ずっと着ているうちに、それが当たり前になって貫禄の中にも風情が出た。

長くなった、緩やかに波打つ黒髪を一つに束ねて、女ものの簪をさしていた。

簪はいつも同じもので、女ものの着物だけがたまに変わった。

浮竹の長い白髪はさらさらだが、京楽の黒髪はうねっている。固そうに見えて、意外とさわり心地はよかった。

「眠そうだな。少し仮眠するか?」

「君が膝枕してくれるなら」

そうからかい半分に答えると、浮竹は「いいぞ」と了承してくれた。

「え、ほんとにいいの?」

「ただし、俺は仕事をするからな」

「うん」

浮竹の膝に頭を乗せていると、さらりと浮竹の白い髪が顔にかかった。

「ああすまない、髪が邪魔だったな」

「いんや、これでいい・・・君の匂いがする。ちょっと寝るよ。おやすみ」

京楽は、浮竹の白い髪に口づけて、目を閉じた。

いつもかぶっている笠は、黒檀の机の上だ。

浮竹は、正座したまま京楽を起こさないように、上半身だけ動かした。

「海燕、ここの数字間違ってる」

「え、ほんとですか・・・・あちゃー簡単な計算ミスですね。すみません、書いた者に後で連絡しておきます」

海燕は、その書類をもって、新しい書類をどさどさと浮竹の机の上に置いた。

「けっこうあるな」

「隊長が寝込んでた分、けっこうたまってるんで」

「俺も、京楽のことを他人事のように言えないな・・・・・」

「何言ってるんすか隊長!こんな仕事さぼり魔人と、浮竹隊長は違います!それに、隊長は好き好んで仕事をためてるわけじゃないでしょうが。臥せっている時が多いから、仕方ないです」

「本当に、この体はなんとかならないものか」

生まれて数百年。

肺の病はミミハギ様を宿らせたことで、死にそうな目にあうこともあったが、死ななかった。

「うーん」

2時間ほどして、京楽が目覚めた。

「よく寝れたか?」

「うん。君の膝枕のお陰で深い睡眠をとれた。もう眠くないよ」

京楽は起き上がり、黒檀の机の上に置いた笠をどけて、もってきた仕事の書類をどさりと置いた。

けっこうな量であった。

京楽は、普段さぼるが決して仕事ができない男ではない。

たださぼり癖が酷く、限界までため込むことが多かった。

「ちょうど、休憩にしようと思っていたところだ。海燕、茶とおはぎを用意してくれ」

「浮竹、いいの?君のためのおはぎじゃないの?」

京楽の分まで用意していなかっただろうに、浮竹は自分の分のおはぎを京楽に分けてあげた。

「今度、甘味屋行こうね。好きなだけ食べていいよ」

「好きなだけ、食べていいんだな。財布は重くしろよ」

京楽は苦笑する。

浮竹は、甘味物なら人の2~3倍をぺろりと平らげてしまう。

自然と財布の中身も軽くなる。

「仕事が終わったら、天気もいいし、ちょっと外に散歩にでもいこうか」

「ああ、今は桜が見頃だな。花見もいいかもしれない」

「じゃあ、お酒もっていこう」

「海燕に、弁当を作ってもらうように頼んでおく」

海燕は、浮竹の食事をよく運ぶ。調理係にお弁当を作ってくれと言って、海燕は京楽が浮竹と仲良く寄り添っているのを、ただ黙して見ていた。

二人の付き合いは、約150年になる。

このまま、穏やかに時が過ぎていくのを、海燕は祈った。

ミミハギ様。

それが霊王の右腕であるなど、誰も知る由もなかった。


浮竹は知らない。

ミミハギ様が霊王そのものであることを。

霊王をその身に宿し、霊王に何かあった際には、浮竹が霊王となる。

そんなこと、夢にも思わないだろう。



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私は、死神が嫌いだ。

私を封じ込めた5大貴族が憎い。

いや、今は1つ欠落して4大貴族だったか。

とにかく、私は死神が嫌いだ。

なのに、私の半身はある小さき死神に宿っている。

私は世界。私は楔。私は贄。

私は、世界の始まり。


3歳の子の命が散るのが哀れで、私は私を宿らせた。私の右腕を。

他の四肢や心臓は思い通りに動かなかった。

右腕だけが、自由に動かせた。

幼い子供は、無垢でかわいく、そして死にそうだった。

助けてあげたい。

ただそう思い、宿った。

結果、子供は命を取り留めた。

それと同時に、私を宿した。

私は世界。私は楔。私は贄。

いつか、この小さき死神に私は宿り、私と混ざり合って、私は再び霊王となり霊王宮に住まう。

私は俺。俺は私。

遠くない未来、俺は、霊王となる。


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僕はそうして君におちていく10

浮竹と京楽は、正座していた。

お互いに向かい合い、ぺこりとお辞儀をした。

「じゃあ、いいかな」

「ああ、いいぞ」

浮竹は隊長羽織をばさりと脱ぎ捨てて、死覇装も脱いで裸になろうとしていた。

「いやいやいや、待って、十四郎」

「なんだ?まさか、今になって抱きたくないとか・・・・」

「そうじゃない。服を脱がせるのも、僕の楽しみの一つなんだから、全部脱がないで」

「あ、ああ・・・・・」

浮竹は、意識しすぎて真っ赤になった。

そっと、褥の上に横たえられた。

乱れた死覇装の中に、京楽の手が入ってくる。

「ん・・・・・」

薄い胸板を這う指が、こそばゆかった。

「あ・・・」

胸の先端をさすられて、クニクニといじられると、そこは固くなっていた。

「んんっ」

京楽の舌が、浮竹の肌を這う。

舌でもう片方を転がされて、ビリビリと全身がしびれるような感覚を覚えた。

「ああ・・・もう、こんなに濡れてる」

浮竹の下肢は、先走りの蜜をダラダラ零して、ゆるりとたちあがっていた。

「やっ」

下着の上から、直接握り込まれた。

そのまま下着を脱がされて、上下に扱われた。それだけで、快感で頭がどうにかなりそうだった。

「ああっ!」

京楽は、浮竹のものを口に含んだ。

根元をしごきながら、チロチロと鈴口を刺激してやると、あっという間にう浮竹は熱を京楽の口の中に放っていた。

「やっ、飲むな!」

ごくりと嚥下してしまった京楽の行為が信じられなくて、浮竹は顔を手で覆ってしまった。

「十四郎、顔見せて。声聞かせて。隠さないで」

「春水・・・・」

「好きだよ」

「俺も・・・・」

唇を重ね合う。

「俺も、する」

「え?」

「俺も、その、お前の、飲みたい」

「いや、そんなのしないでいいから」

「いいから、やらせろ」

浮竹は、京楽を押し倒して、京楽に跨ると、京楽の勃起している熱い熱の塊に、そっと触った。

びくりと、京楽の背がはねる。

「はは、すごいな、お前の」

浮竹は、京楽のものの先端にキスをすると、そのまま口に含んだ。

「・・・・・っあ」

「京楽も、声を出せ。感じているんだろう?」

「十四郎・・・・いいよ、そのまま、そうそう、舌を這わせて・・・・」

「こうか?」

「うん、そう」

ジュぷじゅぷと音をたてて、唾液をつけて舐めあげて、カリ首を吸い上げると、京楽のものが弾けた。

「うわ!」

びゅっと飛んで、それは浮竹の顔にかかった。

「ごめん、十四郎!」

「いや、いい」

浮竹は、顔にかかったものを舐めとった。

「苦い」

「飲まなくていいのに」

京楽が、浮竹を押し倒した。

「初めてでで怖いだろうけど、僕に任せて」

「分かった」

京楽は、用意していた潤滑油を指にまとわせると、浮竹の蕾に指を侵入させた。

「あっ」

「ここ、いい?」

こりこりと前立腺を刺激されて、こくこくと浮竹は頷いた。

ぐちゃぐちゃ。

音をたてて、中を解していく。3本の指を飲みこめるようになった頃には、浮竹の中は熱くてとろけるようだった。

「挿れるから、力抜いて」

「あ、ああ・・・・・んっ!」

ズッと音をたてて、京楽のものが浮竹の中に入ってきた。

「ほら、分かる?僕のものが、浮竹の中に入ってるって。僕たち、今一つになってる」

外側からでも分かるほど、腹部は膨らんでいた。

「やっ、大きい」

「でも、切れてないし、うん、このまま続けるよ」

「んあっ」

ぐちゅぐちゅと水音を立てて、京楽のものが浮竹の中を出入りする。

「きもちいい?」

「あ、きもちいい・・・・・・」

前立腺ばかり突き上げられて、浮竹は頭が真っ白になった。

「あ!」

空いきの、オーガズムを初めて体験して、浮竹は呼吸を乱した。

「もしかして、いっちゃった?」

「あ、あああ!」

「僕も、そろそろ限界かも・・・・・中で出すよ。いい?」

「うあ!」

ズズっと突き上げてくる熱は、最奥の結腸にまで入りこんできた。

ゴンゴンとノックされて、ぱくぱくと結腸が蠢く。

「出すよ、いいね?」

「いあああああ!あ、あ、あ・・・・・・」

最奥に、愛しい男の熱を受け止めながら、浮竹は意識を失った。


気が付くと、眠っていた。

隣では、京楽が眠っていた。

起き上がろうとして、ズキリと痛む腰に手を当てる。

「ああ・・・ほんとに、抱かれたんだ」

「浮竹、大丈夫?」

京楽が、起き出した浮竹に気づいて、こっちを見つめていた。

「僕、まだおさまってないんだ。続き、してもいい?」

「ああ。好きなだけ、抱け」

「その言葉、後悔しないでよ」



「もお、やぁっ」

何度、射精しただろうか。

もう、出すものもないのに、前を扱かれながら、突き上げらていた。

背後からだったり、騎乗位だったりと、京楽の好きなように貪られていた。

「やっ」

「まだいけるでしょ?がんばって」

「無理っ」

「女の子みたいに、なっちゃったね」

「あ、あ、もれる、やだ、やだ!」

潮を吹いた浮竹は、漏らしたと思いこんで、泣きだした。

「ううう・・・・・・」

「十四郎、これは潮だから。女の子みたいにいっちゃっただけだから、おもらしじゃないよ」

「本当に?」

「うん」

「うあ!」

最奥を突き上げられて、浮竹は頭が真っ白になった。

「ああああーーーーー!!!」

オーガズムでいっていた。

京楽は、もう何度目かも分からない精液を、浮竹の中にぶちまけて、やっと満足した。




「お風呂、入ろうか」

「ん・・・・・」

力の入らない浮竹を抱きかかえて、風呂に入った。

中に出したものをかきだすと、白い精液が大量に出てきた。

「いっぱい、十四郎の中で出しちゃった」

「あ、孕んでしまう」

「孕んでよ。俺の子を」

「やっ」

むずがる浮竹を撫でて、京楽は満足げに微笑んだ。

「浮竹の、初めて、確かにもらったよ」

「俺、もうお婿にいけない」

「僕と結婚しよう」

「ああ、それもいいかもな」

浮竹は、うつらうつらと、意識を失い始めた。

疲労感から、眠気を感じている浮竹をささっと体を洗って、風呂からあがらせて、長くなった腰まである白い髪の水分をふきとって、布団をしいてそこに横にさせると、浮竹はすぐに眠ってしまった。




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僕はそうして君におちていく9

「では、以上をもって、京楽春水を8番隊隊長に、浮竹十四郎を13番隊隊長に任命するものとする!」

厳かな声が響き渡った。

ばさりと、隊長羽織を羽織った2人を、他の隊長副隊長が祝ってくれた。

「2人とも、あっぱれじゃ。よくも、学院を卒業してから、僅か50年で隊長にまで昇りつめたものじゃ。真によい」

山本総隊長は、愛弟子である2人が、学院卒業以来初の隊長ということに、学院を建設した意味を見いだせたと、嬉し気であった。

浮竹を隊長にすると推薦した時、病で臥せがちなのでは、という声もあったが、院生時代からもつ高すぎる霊圧も、隊長に見合うものだった。

何より、若いが卍解を使える。

2人とも隊長になるまで、50年かかった。

その間、2人は別れることなく、親友としての地位を築きあげたまま、寄り添いあっていた。比翼の鳥のようであった。

2人の仲が良すぎると訝しむ者も中にはいたが、院生時代からの親友であると知ると、そうか、と納得した。


「なぁ、浮竹。今日の夜、空いているかい?」

「空いているぞ」

隊長に就任した祝いの座を早々に引き払って、2人は雨乾堂という、山本総隊長が浮竹のために、療養地であり、仕事場であり、生活の場である立派な建物を建ててくれたその廊下にいた。

「じゃあ、お酒をもっていくから、いろいろと語りあかそう」

「ああ」

夜になって、京楽はこれまた高い酒をもってきていた。

おつまみだと、さきいかを出すと、京楽は酒を飲みながら、さきいかを口にした。

上流貴族の口にあうものではないだろうに、京楽はそんなこと気にしていないようだった。

「今日は満月か。月見にもいいかもな」

「満月か。風情があっていいね」

空には、銀の涙を地上に零す満月が浮かんでいた。

酒の力もかりて、京楽はいよいよだと覚悟を決めた。

「僕はね、浮竹、ずっと君のことを好きだった」

「え」

「ずっとずっと、君のことを愛していた。君を何度、頭の中で汚しただろう。こんな僕は、気味悪いよね。僕のこと、親友じゃないって言ってくれても・・・・・」

「俺も!」

「?」

「俺も、ずっと京楽が好きだった!」

「え」

お互い、顔を見合わせた。

「僕たち、相思相愛なまま、時間だけかけてたってこと?」

「そう、なるな。ちなみに、お前が院生時代の頃から好きだった」

「僕もだよ。君と出会った瞬間に一目ぼれして、恋に落ちていた」

「俺は一目ぼれじゃなかったけど、優しくしてくれるお前に甘えて、いつの間にか好きになっていた・・・・・・」

「こんな僕でいいの?」

「そういうお前こそ、俺は男だぞ。女好きの名が廃るぞ。俺でいいのか?」

「君じゃないと、意味がないんだよ」

「俺も、お前じゃないと意味がない」

2人は、距離を縮めて、そっと触れるだけの口づけを交わし合った。

布団をしいて、ごろごろと横になり、どちらが上か下かも分からないくらいごろごろと転がりあった。

口づけを交わしあい、もつれる。

浮竹の白い髪が、京楽の黒い髪にからまる。

京楽は鳶色の瞳で、浮竹は翡翠の瞳で互いを見て、目を閉じて口づけした。

ごそごそと、浮竹の隊長羽織を脱がそうとする京楽の手に、浮竹が待ったをかけた。

「ん・・・・ま、待ってくれ」

「嫌だよ。君を僕のものにする」

浮竹は、京楽をどけて起き上がった。

「だから、ちょっと待て!何故俺が下なんだ」

「え」

「え」

「君、僕を抱きたいの?それならそれで、構わないけど」

京楽のまんざらでもなさそうな態度に、浮竹は軽い眩暈を覚えたが、首を横に振る。

「いや、多分お前に抱かれたい」

「じゃあいいじゃない」

京楽は、浮竹を再び押し倒して、隊長羽織を脱がした。

「待て待て!そういうことをするとは、聞いていない!」

「だめだよ。50年以上も待ったんだよ。これ以上は待てない」

「待てと言っている!」

ばきっ。

殴られて、京楽もようやく浮竹の上から完全にどいた。

「お前とそうなるとは思っていなかったから、その・・・・準備とか、してないから」

「あー。男同士だと、準備いるもんね」

「ああ、だから・・・その、こういうのは、今度の休みの時にしよう」

「約束だよ。逃げないでね。逃げたら、その場で犯すから」

「なっ」

浮竹は真っ赤になった。

「お前は・・・・俺を、院生時代からそんな目で見ていたのか?」

「そうだよ。抜く時だって、君をおかずにしてた。君の温もりを思い出して、君をあられもない目にあわせて・・・・・」

「ああもう、それ以上言わなくていい!」

「ごめん。でもこれだけは言わせて。愛してるよ、十四郎」

「俺も愛している、しゅ、しゅ、春水・・・・・・・・」

深い口づけを交わしあった。

京楽が、浮竹の舌をからめとると、びくんと浮竹の体がはねた。

そんな反応を楽しみながら、浮竹の口腔を犯した。

「ふあっ・・・・・」

「ふふ、いい顔。とろとろになってる。きもちいい?」

こくこくと、浮竹は頷いた。

「じゃあ、続きはまた今度」

「ああ。その、準備とか、ちゃんとしとくから・・・・」

「自分で指でやらないでね。君の初めては、全部僕がもらうから」

「・・・・・・っ」

浮竹は、真っ赤になって布団をかぶって出てこなかった。

それにクスリと笑って、京楽は子守唄を歌った。

懐かしい旋律だった。

院生の頃、熱を出して横になった浮竹の傍で、よく京楽は子守唄を歌ってくれた。

「春水、好きだ」

「僕もだよ、十四郎」

別れる間際に、浮竹はもぞもぞと布団からはい出てきて、京楽に抱きしめられて、触れるだけのキスをする。

「君はもう、僕のものだ」

「じゃあ、お前も俺のものだ」

「うん」

「なんだか、夢みたいだ」

「それはこっちの台詞だよ。君と相思相愛になれるなんて、本当に夢みたいだ」

抱きしめる腕に、互いに力を込めた。

「じゃあ、また今度・・・・」

「ああ・・・・・・」

2人は、そうして別れた。


「よお、早いな」

隊首会で、浮竹は京楽に声をかけた。

昨日のことを思い出して、浮竹は赤い顔をしながらも、京楽を見つめていた。

京楽は、浮竹の額に触れる。

若干高い体温に、眉を顰める。

「昨日、あれからちゃんと寝れたかい?」

「いや、緊張して嬉しくて、あんまり眠れなかった」

「奇遇だね。僕もなんだ」

お互い、隊首会だというのに、あくびをしながら山本総隊長が来るのを待った。

その耳元で、そっと囁く。

「今度こそ、君を僕のものにするよ」

浮竹は耳まで赤くなりながら、ただ頷くのだった。


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僕はそうして君におちていく8

5回生になり、順調に死神に交じって仕事を請け負い、気づけば6回生の終わりになっていた。

山本総隊長の出した結論は、それぞれ、京楽を8番隊に、浮竹を13番隊の席官にするという結論だった。

意義を申し立てる死神も多かった。

けれど、総隊長である山本元柳斎重國の言葉に、逆らえる者はいなかった。

京楽も浮竹も、納得がいかぬ様子であったが、総隊長の言葉を受理した。

やがて、卒業式の日がきた。

桜の花が満開だった。

「おめでとう、十四郎。父さんは、十四郎なら死神になれるって信じていたぞ」

「母さんも、父さんと同じ思いよ。よく死神になるまでがんばったわね、十四郎」

浮竹には両親が来ていて、泣いて浮竹が死神になることを喜んでいた。

京楽の元には、誰もこなかった。

両親を残して、浮竹は京楽の元に行った。

「京楽は、ご家族の方はきていないのか」

「僕が死神になろうが、あいつらには意味がないのさ」

「じゃあ、一緒に祝いの席で飲もう!」

「いや、君、久しぶりに両親に会えたんでしょ?水を差したら悪いよ」

「何言ってるんだ、京楽。お前はもう、俺の家族みたいなもんじゃないか」

その言葉は、素直にうれしかった。

「なれたらいいね。君と家族に」

「なんなら結婚するか?」

笑って話してくる浮竹の肩に手を回して、京楽はその耳元で囁いた。

「席官の、将来隊長になるかもしれない優良物件だよ。申し込みはお早めに」

頬にキスをされて、浮竹は赤くなった。

「こら、京楽!俺をからかって遊ぶな!」

「あははは、冗談だよ。多めに見てよ。今日は卒業式だよ。酒でも飲んでぱーっとこう。そうだ、君と君の両親も招くから、僕の屋敷においで」

「いいのか」

「うん。居酒屋とかは卒業した死神たちでいっぱいだろうし」

浮竹は、両親と一緒に京楽の館に行った。

学院時代、何度か京楽の館に来た事はあるが、それとは違う別邸のようであった。

「お前、ほんとに金持ちだな。こんな屋敷、まだいくつか所有してるんだろ?」

「うん。金なら腐るほどあるからね。統学院に放り込まれたついでに、屋敷を6つほどもらったよ」

「贅沢の極みだな。まぁ、そんなお前を親友にもてたおかげで、俺は金の苦労はあまりせずに済んだが」

浮竹の両親は、京楽に「息子を頼みます。これからも仲良くしてやってください」とか言っていた。

「僕が君と仲良くやるなんて、今更だよね」

「そうだな。お前とはもう腐れ縁だ」

京楽は鳶色の目を細めて、上等な酒を飲み、御馳走をほうばる浮竹を見ていた。

ああ、汚したい。

あの白い喉に噛みついて、血を啜ったら、浮竹はどんな顔をするんだろう。

浅ましい欲を追い払いながら、自分も酒を飲んだ。

浮竹の両親はいい人だった。

何度も息子を頼みますといって、帰っていった。



「なぁ、京楽。俺は、たまに夢を見るんだ。水晶に閉じ込められている夢を」

「何それ」

「動こうにも、動けないんだ。両手足がなくって、あるはずの心臓もないんだ。でも、生きてるんだ。そして、世界であるんだ」

「そのこと・・・山じいには、話した?」

「いや・・・話してはいけないと、「私」が言っているから・・・・・」

「浮竹?」

「いや、なんでもないんだ。忘れてくれ」

浮竹はそう言って、両親と共に京楽の館を後にした。



卒業してから、数週間の休暇をもらえた。

これが、死神となる前の最後の休みであった。

すでに死神に交じって仕事をしていたので、仕事の手順やら虚退治やらは理解していた。

席官といっても、きっと末席だろうと思っていたが、いきなり5席を用意されていた。

「本当に、山じいも困ったものだね」

「いきなり5席はな・・・・」

休暇もすぐに終わってしまい、まだ心のどこかで院生である感覚のまま、死神となった。

けれど、その忙しさにすぐに自分たちは本物の死神であるのだと実感できた。


浮竹と京楽は、仕事に忙殺されて、あまり会う機会がなくなっていた。

たまに会えば、居酒屋にいって近況を報告しあい、酒を飲んで別れた。

院生時代のほうが、よほど隣にいれた。

院生時代が懐かしかった。

京楽の心の中にはまだ浮竹がいて、浮竹も心の中に京楽がいた。

「なぁ、京楽。もし、隊長になれたら、お前に伝えたいことがあるんだ」

「奇遇だね。僕も、隊長になれたら、伝えたいことがあるよ」

お互いの気持ちをぶつけようと。

2人は、同じ考えであるということに、今だ気づかぬままだった。

気づかぬまま、時は過ぎていく。

じょじょに席官の地位をあげて、副隊長になった。

その頃には、浮竹も京楽も、できるだけ傍に居続けようと心がけて、非番の休暇をなるべく重なるようにとった。

「ああ、今度はあの居酒屋で飲もう」

「いや、もっと西にある居酒屋の、この前いったとこのほうがいいよ」

「あの店は高すぎる」

「お金なら、僕が出すから」

死神としての給料は十分にもらっていたけれど、浮竹の場合家族への仕送りと自分の薬代でほとんど消えてしまう。

「お前におごられてばかりだと、なんだか悪い」

「そんなの今更でしょ。学院時代はいつもおごられてたじゃない」

京楽に出世払いして返すといっていた金は、もう返したが、相変わらず浮竹は京楽におごられていた。

「あの頃は、収入がなかったから。でも、今は収入がある」

「でも、仕送りとか薬代で消えてしまうんでしょ?」

「う・・・・・・」

そう言われると、強く言い返せなかった。

始めは、山本総隊長の愛弟子だから、贔屓されていると思われていた2人であったが、実力は確かにあり、8番隊と13番隊でそれぞれ才能を生かし、認められていた。

まだ他の隊には、やっかむ者もいるが、いずれ2人の実力は分かるであろう。



久々に大型の休暇をもらって、2人は現世にきていた。

院生時代に修学旅行できた海のある場所で、夏の暑さもあって2人は海の中に入り、涼んだ。

「体、冷やしたままじゃだめだよ。風邪ひくから」

「分かっている。13番隊に配属されてからも、病弱なのは皆承知の上で扱ってくれる。無理は禁物と隊長にも言われているし・・・・・・」

「じゃあ、今日はあの宿に泊まろうか」

「ああ」

海の近くにできた旅宿は、そこそこに賑わっているように見えた。

温泉もあって、2人は小旅行という形でつかの間の休暇を楽しんだ。


京楽は、浮竹と温泉に入るのを嫌がった。

「どうしたんだ、京楽」

「いや、1人で入ったほうが気が楽になると思って」

「背中流してやる。お前も入れ」

服をぱぱっと脱がされて、京楽は結局、浮竹と一緒に温泉に入った。

久々に見る、浮竹の裸は目の毒だった。

ドクドクと、心拍数が上がるが分かる。

同じ男の体をしていると分かっていても、相手が浮竹というだけで、院生時代から飼いならしていた欲は、もやもやと頭の中を横切る。

「うわ!」

いきなり湯をかけられて、京楽は驚いた。

「ほら、背中流してやるから・・・・お前、そこ、なんでそんな風になってるんだ?」

勃起していた。

「いや、これはね。隣の女の子の湯から、声が漏れててね、想像してたらむらむらしちゃって」

「そうか。まぁ、見なかったことにしてやる」

そのまま、浮竹に背中を洗ってもらい、ついでにと髪を洗ってもらった。

浮竹が見て見ぬふりをしている間にぬいて、すっきりさせた。

おかずはもちろん裸の浮竹だ。

「もういいか?」

「あ、ごめん。もういいよ」

「お前、いつも風呂で抜いていたのか」

「うん」

「花街には行ってるんだろう?遊女は抱かないのか」

花街には今でも通っているが、もう何年も遊女に手を出していなかった。

やけ酒を飲みすぎて、たまに遊女を浮竹と間違って押し倒すことはあったが、基本女は抱いていない。

男が好きなのだろうかと、一度綺麗な色子と夜を共にしてみたけれど、夜通しで囲碁をしたりで、意味がなかった。

僕は、やっぱり浮竹だけが好きなんだ。

改めて実感させられた。

浮竹の長い白髪を見る。

「浮竹、髪伸びたよね」

腰の位置まである浮竹の髪を、京楽が洗いながらそんなことを言うと、浮竹は湯のせいかほんのりピンク色に染まった頬で。

「お前が伸ばせば似合うというから、伸ばしている。それだけだ」

「え・・・・・・・」

「ほら、もうあがるぞ」

「ちょっと、まだ温泉に十分に浸かってないよ」

「明日の朝にまた入ればいい」

その日は、同じ部屋で眠った。

院生時代は、すぐ隣で寝ていたが、こうして隣で寝るのは久しぶりだった。

「ねぇ、そっちのベッドにいっていい?」

「好きにしろ」

「うん」

京楽は、浮竹のベッドに侵入すると、浮竹を抱きよせた。

「君は、変わらないね。声も姿も」

「これでも、院生時代に比べれば男らしくなったんだぞ」

「うん。身長、伸びたよね。筋肉も薄いけど、綺麗についてる」

「くすぐったい」

「ごめんごめん」

2人は、クスクスと笑い合いながら、互いの温度を共有しあった。

隊長になったら。

想いを告げよう。

2人は、そう思うのだった。








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僕はそうして君におちていく7

二人だけでひっそりとクリスマスパーティーをして、プレゼントを交換しあった。

京楽からのプレゼントは手袋で、浮竹からのプレゼントはマフラーだった。

「寒い季節だから、いいね」

「ああ、京楽もありがとう。手袋、大事に使わせてもらう」

京楽は、浮竹からもらったマフラーを首に巻いて、浮竹は京楽からもらった手袋をした。

暇な時もあるが、編み物をしている時間はないので、それぞれ呉服屋で買ったものだった。着物ばかりを扱っているわけではなく、いろいろと取り扱っていた。

冬のバーゲンセールで買ったもので、京楽は高い手袋を買ったが、浮竹はあまり金がないので安いマフラーを購入した。

「俺のは安物だから、すまないな」

「言えば、お金あげたのに」

「お前にプレゼントするものを、俺がお前にもらった金でどうする!」

「僕は、君にもらえるなら何でも嬉しいよ」

京楽は、浮竹を抱きしめた。

その柔らかな白髪に顔を埋める。

最近、京楽にハグされることが増えた。でも、友人の関係上なのだろうと思って、浮竹は何も言わない。

京楽は、それが心地よくもあり、苦痛でもあった。

嫌なら嫌だと、はっきりしてほしかった。

拒絶されないということは、少しは自分のことを好きになってくれているのだろうか。


年末も一緒に過ごし、年明けには初詣にいった。

人がいっぱいで、浮竹は京楽とはぐれて、一人と神社の裏側にいく。

京楽が霊圧を辿って見つけてくれたので、すぐに合流できた。

「おみくじ引いてたんだ。はい、これが君の分」

「ああ、ありがとう」

京楽は大凶で、浮竹は吉だった。

「今年の僕の一年は、ついていないんだろうか」

「俺がいるだろ。お前の大凶なんて、吹き飛ばしてやるさ」

頼もしい浮竹の言葉に、京楽も笑った。

京楽も浮竹も、山じいからお年玉をもらった。

京楽には5千環を、浮竹には3万環を。

「この違いって何、山じい」

山じいに聞くと、山じいは「日頃の行いじゃ」と言って、去って行った。

「なんだか、この年でお年玉って少し恥ずかしいな。先生の気持ちは嬉しいが」

「ああ、僕からも君にお年玉あるんだよ。受け取って」

差し出されたお年玉袋を、浮竹は受け取らなかった。

「受け取ってもらえないなら、捨てるか燃やすしかないね」

本当に捨てるか燃やすかしそうなので、仕方なく浮竹は受け取る。

中には、10万環入っていた。

「京楽、さすがにこんな額は」

「甘味屋にでもいって、ぱーっと使おう。君のおごりで」

浮竹は、苦笑する。

ようは、一緒に出掛けてその時かかるお金に使ってほしいようだった。

いつもは京楽のおごりなので、浮竹も素直にお年玉をもらった。

新しい小説がちょうど欲しかったのだ。それに使っても、ばちは当たらないよなと思いながら、浮竹は大事そうにもらったお金を鍵付きのタンスにしまいこむ。

新しい一年も、また仲良く過ごしていけそうだった。


ある日の午後の授業は、稽古試合だった。

京楽と浮竹は向かいあい、礼をすると、どちらともなく木刀を手に襲いかかる。

何度も切り結びあう。

「破道の4、白雷」

浮竹は、鬼道の腕が京楽より優れていた。

詠唱破棄でも、十分に威力はある。

それをさっと避けて、木刀で喉を一突きしようとすると、さっとかわされた。

15分ほど切り結び合い、浮竹が汗で地面を足で滑らせたところに、京楽の木刀が浮竹の首元にやってきて、勝者は京楽となった。

「運が悪かったな」

「今度は、俺がお前を負かせてやる」

「再戦、いつでも受けつけるよ」

「しばらくはいい。お前とはいつも剣を交えているから。先生に言って、訓練を受けてみよう」

「げ、山じいのあの訓練を受けるの?」

「お前を負かすためだ」

「よくやるね・・・・・」

地獄ともいわれる、山本総隊長の訓練は、過酷を極めた。

それを、体の弱いはずの浮竹は、汗水を垂らしながらも克服する。



「のう、春水、十四郎」

「はい、先生」

「なんだい、山じい」

「そなたらは、卒業したらそれぞれ席官になってもらおうと思っておる。昨今の死神不足は大変でのう。貴族というだけで死神になったような輩もいる。質をよくするために統学院を建設したが、きっとお主らは、隊長まで昇りつめると思うのじゃ」

「ちょっと、まだ院生だよ。話が飛びすぎでしょ」

「俺もそう思います、先生。普通の死神になって経験を積んでから、席官になるほうがいいと思います」

「そうは言うてものう」

「こればっかりは、譲れないね。いきなり席官なんて、他の死神が黙っていないでしょ」

「うーむ。難しいのお」

山本総隊長は、立派な長い髭を触りながら、思案する。

「まだ卒業まで猶予はある。5回生、6回生は普通の死神に交じって、実地訓練も頻繁に行う。その結果を見て、判断することにしよう」

その当時は、まだ学院は6年生まであって、飛び級で卒業することはできなかった。

飛び級で卒業できるなら、京楽も浮竹もすでに死神になっているだろう。

山本総隊長は、京楽と浮竹を下がらせた。

「霊王の、意思・・・・か・・・・・」


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私は、生まれついてずっと霊王だった。

世界であった。

私は四肢を切断され、心臓を奪われて水晶の中に閉じ込められた。

私はそれでも世界だった。

私は、ふとある日右腕が誰かに宿っていることを知った。

私は、その者を見守った。

その者の持つ感情が、私を震えさせた。

私は動けない。

けれど、その時の私は自由だった。

水晶の中に閉じ込められたままの私は、自由を、仮初の体で体験した。

私はそれでも世界であった。

死神を憎んだ。

私をこうなるようにした死神を。

私の右腕を宿した者は、死神になろうとしていた。

それを、私は止めることができない。

できることなら、私の代わりになってほしかった。

私は自由が欲しかった。

ただ、それだけなのだ。

私は、また長い眠りについた。

ふと目を覚ますと、私は右腕になっていた。

愛しい。

そう思った。

右腕を宿らせた、私から見れば赤子よりも小さい存在が、愛しかった。

ただ、それだけだった。

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4回生になっていた。

京楽も浮竹も、成績はよく、剣の腕も鬼道の腕も、普通の死神以上だった。

それでも、学生であることはかわりなく、授業を受け続けた。

浮竹と京楽は、二人で他の死神に交じって実地訓練をすることが多くなった。

すでに、卍解を習得済だった。

それを知っているのは、恐らく山本総隊長のみ。

山本総隊長の企みかはわからぬが、席官クラスが請け負う虚の退治を任されることが多くなっていた。

時折、手傷を負うこともある。

普通の死神以上といっても、まだ正式な死神ではない。

生死をかけた戦いに、まだ慣れていなかった。


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私は、世界であり続けようとした。

私が死ぬ時、それは世界が滅びる時。

私が残した右腕は、呪詛がかかっていた。

私を宿すと、私になるという。

いつか。

「私」になったその時。

私は、はじめてこの世界から解放される。

それを心待ちにしながら、私は世界であり続けた。

また、長い眠りに私はつく。

どうか、目覚めた時は自由でありますように。

その願いは、目を覚ますたびに叶わなかった。

私は世界。

霊王。

私を宿らせるは、すなわち霊王となること。

それを、赤子より小さいあの死神になる青年は、知らなかった。

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僕はそうして君におちていく6

3回生の秋。

学院では、文化祭が行われていた。

当時の学院では、死神を育成するにあたって、娯楽要素も取り入れていた。修学旅行しかり、文化祭しかり。

浮竹のクラスの出し物は、コスプレ喫茶だった。

落ち武者の恰好をさせられたクラスメイトを、みんなが笑う。

京楽は巫女姫の恰好をさせられて、そのごつさと胸毛のこさに、みんなが笑った。

浮竹も、巫女姫の恰好をさせられていた。

中性的な容姿にはよく似合っていて、写真をとられまくっていた。

浮竹はそれを嫌がり、京楽の後ろに隠れた。

「浮竹ちゃん、かわいいー。もっとこっち向いて」

「浮竹、似合ってるぞ。そのまま、僕の嫁になるか?」

「浮竹君は、私のものよ!」

普段、浮竹を取り巻いている友人たちが、浮竹をかけて争っていた。

「ああもう、浮竹は僕の嫁だから。みんなにはあげない」

京楽がそう宣言すると、みんなどっと笑った。

「その胸毛の濃さで、落とすのね!」

「ああ、この胸毛で・・・って、なんで胸毛だけなのさ!」

「だって、京楽君の巫女姫姿・・・・ぷくくくく」

「あーっはっはっはっは」

みんな、京楽を取り巻いて笑っていた。

背後で縮こまっていた浮竹も、釣られて笑い出す。

「京楽、はっきり言って、似合ってない。女装は、なるべくしないほうがいいと思う」

「浮竹まで~」

笑いの渦で、浮竹も京楽も一時の幸せを噛みしめていた。

冗談で、浮竹は僕の嫁と言ったが、心の中では本心だった。できることなら、浮竹に想いを伝えて結婚したかった。

でも、浮竹も男だ。しかも長男。

いずれ、どこぞの者ともわからぬ女と結婚して、家庭を築くのだろう。

そう思うと、虚しさに心が空虚になる。

それは、浮竹も同じことだった。

京楽は、次男とはいえ上流貴族。いずれ、どこぞの姫君と見合いでもして、結婚するのだろう。

2人の思いは、すれ違う。

お互いを好きなのに、その想いを告げることなく、親友として院生時代を過ごす。



そんな生活の中、浮竹がこれまでにないほどの大きい発作をおこした。

ヒューヒューと、喉がなる。

血を吐くが、それが止まらない。

瞬歩をすでに会得していた京楽は、医務室に浮竹を連れて行ったが、処置のしようがないので、4番隊の隊長、卯ノ花烈を紹介された。

「浮竹、もう少しの辛抱だよ」

自分の服が、浮竹の吐く血で汚れるのを構わずに、瞬歩で学院を出て、4番隊の救護詰所にはじめて向かった。

「どうしたのですか」

初めて会う、卯ノ花は、優しそうな女性だった。

「僕の友人が血を吐いて倒れて!重症なんです、みてやってください!」

京楽の名を告げられて、上流貴族のあの京楽であると知った4番隊の者が、直接たまたま居合わせた隊長である卯の花に声をかけたのだ。

「そこに横にしてください。回道をかけます」

卯ノ花の腕は確かなもので、医務室にいた教師の回道などと、まるで親子のような差があった。

しばらくして、青白かった浮竹の顔に少しだけ赤みが戻ってくる。

「しばらく安静にする必要があります。院生ですね?山本総隊長を知っていますか」

「山じいは知ってます」

「この生徒の身柄を、いったん預かります。入院という形になるでしょう」

「助かりますか!?」

「ええ、私の名にかけて、助けてみせましょう」

卯ノ花は微笑んで、血まみれの京楽に、服を着替えるように促した。

「浮竹、頑張って・・・早く、元気になってね」


浮竹は、そのまま救護詰所に入院した。

集中治療室に連れていかれて、京楽はガラスごしに面会した。

天敵の管に繋がれて、酸素マスクをつけた浮竹は、生死の境をさまよったが、肺にミミハギ様を宿らせているせいか、死ぬということはなかった。

「この子は・・・・そう、霊王の、右腕を・・・・」

卯ノ花は、浮竹に回道をかけながら、京楽には分からないことをぶつぶつと呟いた。

霊王。

それは、この世界の始まり。

この世界の中心。

授業で習ったが、知識はあやふやすぎて、京楽にはちんぷんかんぷんだった。

山じいも、心配して見舞いにきてくれた。

「十四郎の容態はどうじゃ、春水」

「危機は脱したそうだよ。あとは、意識が回復するのを待つだけだって。もう、普通の病室に移れるそうだ」

「ふむ。十四郎は、ミミハギ様を宿らせているからの。死ぬようなことはないと思うが、万一ということもある」

「ねぇ、山じい。そのミミハギ様ってなんだい?」

「知らぬのか、春水。十四郎から、何も聞いておらぬのか」

「うん」

「十四郎はな、3歳の時に死にそうになって、当時にその土地の土着神であったミミハギ様を肺に宿すことで生還を果たしたのじゃ。そのミミハギ様という存在がまた厄介でのう・・・・」

霊王がどうのこうのと言われたが、京楽は理解できずにいた。

難しい話は、昔から苦手だった。

ただ、浮竹がその霊王となんらかの関わりがあることだけは、理解できた。


数日後、浮竹は意識を取り戻した。

「京楽?」

自分のベッドにつっぷして、眠っている京楽の黒髪に手をやる。

「ん・・・」

「京楽、ここは病院か?」

「浮竹!意識を取り戻したんだね。どう、具合は」

「ああ、もう大丈夫だと思う。血を吐いたところまでは覚えているんだが、京楽にすごく迷惑をかけたんだろうな。すまない。そして、ありがとう」

「いいんだよ。君が生きているだけで、僕は・・・・・」

僕は、君を好きだから。

君を愛しているから。

だから、助かってよかった。

「だから、助かってよかった・・・・・」

告げたい思いを胸にしまいこんで、京楽は卯ノ花を呼んだ。

念のためにもう一度回道をかけられて、それから数日で浮竹は退院となった。


「ああ、久しぶりの我が家・・・というわけじゃないが、寮の部屋か」

「君が入院していた間のノートは、みんなの分を借りてまとめておいたよ」

もう、昔のように授業をさぼる京楽の姿はなかった。

浮竹に散々さぼりを邪魔されて、また授業に真剣に取り組む浮竹に感化されて、京楽も真面目に授業を受けるようになっていた。

ただし、浮竹が倒れたりするとさぼった。

浮竹の病欠と、京楽のさぼりはリンクする。浮竹に怒られて、京楽だけで授業を受けることもあったが、中身は頭に入っていなかった。


2週間ぶりの登校だった。

浮竹の友人たちは、皆心配そうに、浮竹を取り囲んだ。

京楽は、笑顔の仮面をつけながら、心の中で僕の浮竹に気安く近づく、話しかけるなと叫んでいた。

「補習受けることになるんだろう?」

友人の一声に、苦々しく浮竹が答えた。

「ああ、出席日数が足りなくなる危険があるから」

「浮竹、また補習うけるの?」

京楽が、浮竹を自分の隣に誘導して、その翡翠の瞳を覗き込む。

「京楽も受けるか。俺が入院して休んで間、どうせお前もさぼっていたんだろう?」

「ご名答」

京楽は、浮竹と補習を受けることになった。

少しでも、浮竹と同じ空間にいたかった。

浮竹を閉じこめて、出してあげれなくしたいと、狂気に似た思いを募らせる。


必要な出席日数を、補習を受けることでカバーした。

出席日数が足りなくても、優秀な場合試験で免除される場合がある。

浮竹と京楽は、なんとか試験を受けることなくすんだ。

「もうすぐ冬休みだな。クリスマスは、どこかに行くのか?」

「ううん。寮で過ごす」

「そうか。二人きりでクリスマスパーティーしようか」

浮竹が冗談でそういうと、京楽は目を輝かせた。

「いいの!?年末は家族の元に帰らないの?」

長期休暇の時は、故郷に帰る生徒たちが多い。

「俺の家族は多いから、俺が帰ると余計な金がかかるから。あと3年してちゃんとした死神になってから、父上と母上に会おうと思っている」

浮竹は、父親と母親から時折文をもらい、近況を報告していた。

いつも、お金を仕送りしてあげれられなくて済まないと書かれていた。

一方の京楽は、父親にも母親にも会いたくなかった。放蕩三昧の挙句にいれられた統学院だ。期待もされていないし、邪魔なだけだと会ってさえくれないだろう。

「じゃあ、クリスマスパーティーをして、二人で元旦と新年を迎えて、年明けには初詣にいこう」

「いいね。すごくいいよ」

浮竹と二人でいられる。

幸せだった。


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私は孤独だった。

私は死神が嫌いだった。

けれど、私の右腕を宿らせた者は孤独ではなかった。

死神の匂いに満ちていた。

私はそれが嫌だった。

私を水晶に閉じ込めた、4大貴族に近い貴族の匂いがした。

私はそれがたまらなく不愉快だった。

けれど、私の器はそんなこと気にせずに、匂いの強い貴族と一緒に居ることを選んだ。

私は贄。私は楔。私は人柱。

そして、私は世界。


私が私でなくなっていく。もう、私の意識は消えかけていた。

「京楽」

私を宿し、霊王となった白い髪の美しい器は、鳶色の隻眼の男を抱きしめて、口づけていた。

「愛してる、春水。霊王であるけれど、お前を愛している」

「僕もだよ、十四郎。たとえ君が霊王であっても、僕の愛は変わらない」

私は消えていく。残滓を器に残して。

霊王であった私は、俺になった。

俺は贄。俺は楔。俺は人柱。けれど、前の霊王のように動けない不自由な暮らしではなかった。

自由だった。動き回れた。

霊王であるのに、その理(ことわり)を曲げて、愛しい男を月に一度、霊王宮に出迎える。

俺は霊王。

俺は、世界。

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僕はそうして君におちていく5

3回生の夏。

現世で、海に遊びにいく、いわば修学旅行のようなものがあった。

虚退治も兼ねているが。

特進クラスでも、もう3分の1が内容についていけずに、他のクラスに移籍していた。

退学する者もいた。

現世での虚退治の演習はきつく、仲間の死を見るのも当たり前のようになっていた。

浮竹と京楽は、すでに2回生の頃から斬魄刀をもっている。

特進クラスの半数は、斬魄刀を所持していた。

「尸魂界に海はないからねぇ。思いっきり泳いで、はしゃごうよ」

京楽は、水着はこうでもないああでもないと、迷っているようだった。

「浮竹も、水着買うでしょ?」

浮竹の肌を他人に見られるのは嫌だが、たまには気楽に遊ぶのもいい。

「いや、俺は泳げないからいらない」

「じゃあ、僕と砂浜でも歩いて、砂のお城でも作るかい?」

「そうだな。波打ち際で遊ぶくらいなら、いいかもしれない」

現世では、真夏だった。

尸魂界にも四季はある。

だが、現世のほうがはるかに暑かった。

みんな、思い思いに水着を着て、海ではしゃいで泳ぎ回っていた。潜水して、魚を捕まえたり、珊瑚をとってくる者もいた。

浮竹は、水着には着替えずに、ハーフパンツにTシャツ、パーカーを羽織った格好で、波打ち際で引いては押してくる波を、受け止めていた。

「浮竹、バケツに海水汲んできたよ。お城、作ろうか」

最近の京楽は、浮竹と行動することが多く、それまで多くいた浮竹の友人は、少し離れがちになっていた。

「なぁ、お前もみんなと一緒に遊んできたらどうだ。俺なんかに構わずに」

「何言ってるの。浮竹は目を離すと、真夏のこの太陽の下で倒れちゃうでしょ」

「まぁ、それはいえてるな」

帽子をかぶってくればよかったと、遅まきながら思う。

生ぬるい風が、吹いていた。

それでも、海水に足をひたしていると、少しは涼しさを感じた。

京楽と浮竹は、二人で砂でお城をつくった。

けっこうな力作で、クラスメイトたちが写真をとったりしていた。

「かき氷だって・・・・浮竹も、食べるよね?」

「ああ、喉がちょうど乾いていたところなんだ」

京楽は宇治金時を、浮竹はイチゴのシロップをかけたものを食べた。

京楽は、浮竹に宇治金時を食べさせて、自分も浮竹のイチゴシロップのかき氷を食べた。

いつも、食事をたまに分け合ったりする。

「ねぇ、京楽君って、浮竹君となんでそんなに仲がいいの?昔は、そうでもなかったよね」

特進クラスの女子の一人が、カキ氷を食べながら、そんなことを聞いてきた。

「京楽は、俺が病弱だから、元柳斎先生が、俺の面倒を見るようにって気を遣ってくれたんだ。ほら、俺は発作を起こして倒れたりするだろう。介抱する者がいないと、とてもじゃないが特進クラスではやっていけない」

「そういえば、そうだよね。浮竹君が倒れたら、京楽君が慌てて抱き上げて医務室に向かうし・・・」

「京楽には、いつも世話になっているよ」

「嫌だなあ、浮竹。当たり前のことをしているだけだよ。僕たち、親友でしょ」

「ああ、そうだな」

親友という言葉で、傍に在れるなら、それでよかった。

「そういえば、京楽君最近花街に行ってないよね。告白してきた女の子も振ったりしてるって聞くし・・・・・」

「そうなのか、京楽。俺に気にせずに、誰かと付き合っても全然かまわないんだぞ」

「僕はもういいの。なんていうか、付き合うとかそういうのに疲れたっていうのかな。まぁ、花街も遊女に金をかけるのにも飽きたし」

「京楽君、実は浮竹君のこと好きなんでしょ」

きゃはははと笑いながら、女子は去っていった。

残された浮竹と京楽はぽかんとなって、お互いの顔を見合わせる。

そして、くすくすと笑いあった。

「そんなわけないのにな」

「うん、本当に」



ねえ、浮竹。

僕が、本気で君のことを好きだって知ったら、どうする?


京楽は、笑顔だが心の中では動揺していた。

浮竹もまた、笑顔だが心臓がどきどきしていた。

年頃の女の子は恋愛に聡いところがある。

ばれてはだめだと、お互い、親友だと笑いあって、修学旅行の1日目は終わった。


2日目は、虚退治だった。

「浮竹、そっちにいったぞ」

「破道の4、白雷!」

詠唱破棄の鬼道で、浮竹は素早い、他の院生のクラスメイトたちが苦戦していた虚を、あっという間に倒してしまった。

「浮竹、もう一体そっちにいったぞ!」

「え、あ?」

さっきよりも更にすばしっこい、手傷を負わせて来る虚が、浮竹の背後に近づいていた。

「よっと」

それを、京楽が花天狂骨で斬り裂いた。

「浮竹、一匹を倒したからって、安心しちゃだめだよ。一瞬の隙が命取りになる」

「ああ、京楽すまない。助かった」

浮竹は、素直に礼をいって、双魚理を構えた。


ざーーっと、雨が激しく降ってきた。

虚はまだいる。

みんな、虚に気を取られて、散り散りになっていく。

風もでてきて、雨はばけつをひっくり返したかのような勢いで降り注ぎ、虚退治は一時中止になった。

京楽は、浮竹の霊圧が弱まったのを感じた。

「浮竹、洞窟がある。降りておいで」

「あ、ああ・・・・・」

ぶるりと、身を震わせる浮竹に、京楽は湿っていなかった枝を集めて、火を鬼道でおこした。

「ほら、院生服脱いで、乾かそう。そのままじゃ、風邪ひいちゃうよ」

「え、ああ。そうだな」

浮竹の白い肌を見ないようにしながら、京楽は浮竹と隣合わせになって、体温を共有しあった。

「京楽は、あったかいな・・・・」

「浮竹、熱でてきたね・・・僕が見張っておくから、寝るといいよ。数刻した頃には、雨もあがるだろうし」

「ああ、すまない・・・・少し、休憩する・・・・・」

浮竹も京楽もであるが、何処でも寝れるように訓練されていた。

死神は、死と隣り合わせの世界だ。

虚にやられて殉職する新米の死神は多い。

そんなことになってたまるかと、京楽も浮竹も、あがくのだ。

雨は、まだざーざーと、降っていた。

「浮竹・・・好きだよ」

眠ってしまった浮竹の頬を、ぱちぱちと爆ぜる炎が、影を躍らせる。

肩より長くなった白髪にキスをして、京楽もまた眠った。

虚がくれば、気配で分かる。

今は、休息が必要だ。



はっと起きると、隣に浮竹がいなかった。

「浮竹!?」

慌てて探しにいこうとしたら、乾いた院制服を着た浮竹が、果物を手に京楽の元に帰ってきた。

「食べれそうなもの、探してきた。携帯の食料だけじゃ、味気ないと思って」

「それならそうと、言ってからにしてくれればいいのに」

「いや、京楽はよく寝ていたし、火を起こしてくれたり、いろいろと世話になったから」

「そりゃ、お互いさまだよ」

京楽は安堵の息をついて、浮竹を抱きしめた。

「京楽?」

「心配させないで。僕を一人にするときは、ちゃんと声をかけて」

「分かった。すまない」

浮竹は、柑橘類の果物を京楽に渡した。

皮をむきながら、携帯食料と一緒に食事をとっていく。

腹ごしらえが終わったら、虚退治の続きと、皆に合流する必要があった。

「5月くらいなら、びわが食べ頃なんだけどな。8月じゃあ、手に入らないか」

「瀞霊廷で、いくらでも買って食べさせてあげるよ、そんなもの」

京楽は知らない。

浮竹の髪をすいてキスをした時、浮竹が起きていたことを。

けれど、浮竹はなかったこととして、取り扱った。京楽が自分のことを好きなはずがない。京楽は柔らかな女の子が好きなのだ。こんな病もちを、好きなはずはない。

そう決めつけて、自分で傷つくのだった。


皆と合流して、浮竹と京楽は虚退治をした。

虚のほとんどを京楽と浮竹が倒してしまって、京楽と浮竹だけ、強い虚が出る区域を任された。

死神の席官が見守っていた。

「破道の4、白雷!」

虚はそれだけでは、死ななかった。

「浮竹、僕がいくよ」

「ああ、その後ろのは俺がやる。君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き 南へと歩を進めよ 破道の三十一 赤火砲(しゃっかほう)!」

完全なる詠唱の果ての鬼道の威力は凄まじかった。

空間が爆発する。

残っていた全ての虚を巻き込んで、大爆発を起こした。

逃げようとする虚を、京楽が花天狂骨でトドメをさしていく。

「凄いな・・・とても院生とは思えない。まだ三回生なんだろう?」

「え、あ、はい」

「浮竹の鬼道、凄いでしょ。死神でもここまで鬼道を極めてるの、きっと席官クラスくらいだと思うんだけど」

「そうだな。下手すると、副隊長クラスだ」

席官の死神に褒められて、浮竹は恥ずかしそうにしていた。

「君の鬼道は、どんな腕なんだい」

死神に聞かれて、京楽の代わりに浮竹が答えていた。

「京楽の鬼道も凄いです。でも、あんまり使わない。花天狂骨で退治するのがいつものパターンで」

「僕は、浮竹ほど鬼道の才には恵まれていないからね。確かに普通の生徒よりはできるけど、それでも浮竹には敵わない。比べられるのが嫌だから、あんまり使わないけど」

「初めて鬼道を使った時、破道の4の白雷で、自分を焦がしていたな」

「ああ、そんなこともあったねぇ」

虚退治は終わったみたいで、安堵を覚えてクスクスと笑った。



その日の夜は、海辺でバーベキューをした。

肉の代わりに魚だったので、生徒の中には文句を言う者もいたが、この時代に肉は貴重である。

干し肉にしたりするので、遠征の者の食事になることを優先されて、まず尸魂界の流魂街の庶民では口にできるものではない。

上流階級の貴族でやっと、肉を食うことができるが。

食用の牛を飼うのは、上流貴族くらいだ。

上流貴族以外が肉を口にするとすれば、猟師やらがしとめた、猪や野うさぎの肉といったものだろうか。

「海老がうまいな。ほたてもうまい」

浮竹は、海鮮バーベキューが気に入ったのか、美味しいといいながら黙々と食べていた。

浮竹は、よく食べる。

細いのに、よくそんなに入るなってくらい食べる。

そのくせ、熱を出したりしたら食欲をなくし、ほんの少しのおかゆすら残す有様であった。

「僕の分も、食べていいよ」

「本当か?」

海老やホタテは数が限られていたので、浮竹は嬉しそうだった。

ああ。

君の笑顔で、僕は幸せになれる。

浮竹は、京楽の分の海老とほたてを食べてしまった。

「代わりにこれをやる」

渡されたのは、玉ねぎとトウモロコシを焼いたものだった。

「ありがとう」

それを食べながら、今度肉を食べさせてあげようと、京楽は思うのであった。


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人生ゲーム

「日番谷隊長、人生ゲームをしよう」

そういって、浮竹は人生ゲームを10番隊の執務室に持ってきた。

「俺と、日番谷隊長と、京楽と、あと松本副隊長で、4人で人生ゲームをしよう」

浮竹の背後には、京楽がくっついてきていた。

日番谷は、いつもの二人にため息を零す。

また、きっと執務室は半壊か全壊だ。

「浮竹~僕といいことして遊ぼうよ」

「一人で遊んでろ」

「酷い!僕とのことは遊びだったのね!」

「ああ、遊びだ。遊びだから、人生ゲームするぞ」

浮竹は、京楽の泣き真似に何も感じず、もってきていた人生ゲームを広げた。

日番谷は、ちょうど執務を終わらせたばかりだった。

気分転換にいつも人騒がせなアホの二人に付き合うのもいいかと、人生ゲームのやり方を聞く。

「松本副隊長は?」

「あいつなら、隊首室で寝てる。今日の朝方まで吉良や檜佐木と飲んでたらしい。二日酔いだな」

それに心配した浮竹が、いつも持ち歩いている薬の中から、吐き気にきくものを、松本に渡した。

「ありがとうございます、浮竹隊長・・・・・んんん、なんか、すごい効く!?あれだけあった吐き気も頭痛もなくなりました!」

「うん、12番隊の涅マユリ特製の薬だから」

「おえー。そんなの飲んでも、副作用はないんですか?」

「ん、あるぞ。飲んだ次の日はしゃっくりが止まらなくなる」

「なんですか、その地味で嫌な副作用」

「さぁ、涅隊長のその時の気分で作られた薬だからな」

「浮竹、この薬飲んでよ」

京楽が、浮竹に何かの薬を渡すが、浮竹はそれを窓の外に投げ捨てた。

「ああ、僕の2日分の給料が!」

「どうせ、女体化とか、語尾にニャンがついたり、猫耳と猫の尻尾が生えたり・・・あるいは、ただの媚薬か、とにかくろくでもないもんだろ」

「心の声が、漏れる薬だよ」

「いいか、絶対飲まないからな!お茶やお菓子に混ぜて飲ませたら、絶交だからな!」

「えー。浮竹の素直な心が聞きたいのに」

「絶対嫌だ!」


「おい、お前ら、人生ゲームするのかしないのかはっきりしろ」

「あ、するする」

「浮竹がするなら、僕もする」

「あたしも混ぜてください」


こうやって、4人で人生ゲームをした。

1位は日番谷で、子供を6人こさえて大金持ちになってゴールした。

2位は松本で、子供を2人こさえて、会社の社長になってゴールした。

3位が京楽。子供はおらず、老人ホームに入ってゴールした。

最下位は浮竹だった。子供はおらず、ゴール直前で、大きな病気になって入院でゴールした。

「日番谷隊長は子だくさんだねぇ。桃ちゃんとの間に、何人子供作る気だい」

京楽のからかい声に、日番谷は真っ赤になった。

「な、俺と雛森は、そんなんじゃねぇ!」

「おー赤くなって照れちゃって、かわいいねぇ」

「京楽、お前は老人ホームにでも入ってろ」

浮竹が、もっていたハリセンで、スパンと日番谷をからかいまくる京楽の頭を叩いた。

「すまん、浮竹」

「ああ、ごめんな、日番谷隊長。こいつ、朝ずっとこんな様子で、絡んでくるんだよな。うっとうしいから蹴り飛ばしたら、泣きだして・・・・涅隊長の変な薬でものんだのかな」

「そうなんだよ、浮竹。新しくできた精強剤を飲んだら、なんか他人をからかいたくなったり、涙もろくなったりして・・・・・」

「はぁ?精強剤?」

浮竹は、京楽から離れた。

「こっちくるな。今日はもう、お前と一緒にはいない。日番谷隊長のところにいる」

「酷い!僕とのことは遊びだったのね!」

さめざめと泣きだす京楽は、泣きに泣きまくった。

「あめちゃんあげるから、泣き止め京楽」

「僕とピーーーしてくれる?」

「するか!」

調子に乗って、抱きついてきた京楽を投げ飛ばした。

「甘いよ、浮竹」

「ん・・・ちょ、何処さわって・・・・」

「ああ、君は僕の全てだ」

「ちょ、やめ・・・・・・」

松本は、腐った目で腐っている二人を熱のこもった視線で見守っていた。

「生ですよ、生。見ないと損ですよね、隊長」

「お前も京楽も、それに浮竹も・・・・みんなまとめて、どっかいけ!蒼天に座せ、氷輪丸!」

ひゅるるるるる、どっかーーーん。

10番隊の執務室を半壊して、3人は吹き飛んで行った。


「あ、人生ゲーム面白いから、雛森としようと思ったのに、一緒にふっとばしてしまった・・・・」

そう後悔する、日番谷だった。

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僕はそうして君に落ちていく4

3回生になっていた。

二人は、相思相愛なことに気付かずに、時間だけが流れていく。

京楽は浮竹に嫌われるのが怖くて、気持ちを隠していた。浅ましい欲を抱いていることを理解しながらも、親友といして浮竹の傍にいれるなら、それでよかった。

浮竹も、京楽に愛想をつかされるのが怖くて、親友であろうと傍にいた。

二人の距離は、1回生や2回生の頃よりぐっと近くなっていた。


浮竹は、髪を伸ばしていた。

京楽に、長い方が似合うと言われたからだ。

肩よりも長くなった髪は、さらさらと音をたてて、零れていく。

「ねぇ、浮竹、ちょっとだけ抱きしめてもいい?」

「え、なんでだ?」

「浮竹の肉が落ちてないか確かめたくって」

そう言い訳をして、浮竹を抱きしめた。

甘い花の香りがした。それが浮竹が使ているシャンプーのせいだとは知っているが、まるで誘われているような錯覚を覚えた。

「君は抱き心地がいいね」

京楽の腕の中で、浮竹は固まった。

顔を真っ赤にさせて、言葉を紡げないでいた。

「うん、体重少し減ったかな。この前も寝こんでたし。もっといっぱい食べて、肉つけようか。鍛錬もしないと」

「え、ああ、うん。京楽はすごいな。抱きしめただけで、俺のことがわかるのか」

そりゃ、君のことが大好きだから、とは言えなかった。

「俺も、京楽を抱きしめていいか?」

「え?」

浅ましい欲が、ずくりと心臓を打つ。

「なんだか、いつもハグされたりで、俺だけなのは納得いかない」

そういって、浮竹は京楽抱き着いた。

「でかいな」

「うん。身長190センチはあるからね」

京楽を抱きしめて、それからさっと離れた。

「俺も、京楽と同じくらいになりたい」

「君は今のままでもいいと思うけどね」

「身長伸びてるから、京楽を追い越せなくても、近いくらいには成長したい」

浮竹は、少年から男性へと変貌していた。

でも、白くて綺麗で、中性的なかんじは否めず、やはり浮竹は可愛いなぁと、京楽は思った。

どんなに成長しても、浮竹は京楽より華奢だった。

病気のせいもあって、成長が他人より少し遅かった。

それでも、浮竹の身長はいつの間にか頭一つ分はあったのに、京楽と並んでも視線が少し下になるくらいまで、身長は伸びていた。

それでも、京楽の中で浮竹は、自分のものにしたい、という欲を抱かせたままだった。

浮竹が成長し男性らしくなれば、浅ましい欲も消えるのではないかと思っていたが、浮竹はいつまでたっても中性的な容姿をしていて、京楽の心を刺激した。



「今日は学院は休みか」

「創立記念日だそうだよ」

「京楽、行きたい甘味屋があるんだ。一緒に行かないか?」

「うん、いいよ」

学院の近くに、新しい甘味屋ができた。

最近の浮竹は、その甘味屋に行くのが楽しみの一つになっていた。

お金はあまりないので、たくさんは注文できなかったが、節約していた金を使っていろいろ注文して食べていた。

「今日は僕が奢ってあげる」

「え、本当か!?」

「うん。お金なら、不自由してないから」

浮竹は、顔を輝かせて今まで高くて手が出せないでいたメニューなどをたくさん注文した。

「その量、一人で食べれるの?」

注文された量に、京楽が心配する。

別に食べ残してもいいが、食べ過ぎてお腹を壊したりしないだろうかと、心配になった。

「ああ、大丈夫だ。一度でいいからこのメニュー食べてみたかったんだ」

ぱくぱくと軽快に食べる浮竹は、可愛かった。

テーブルの上に並んでいた甘味物は、次々と浮竹の胃の中に収まっていく。

「ほら、ほっぺたについてる」

京楽は、白玉餡蜜だけを注文して、それを食べ終えて、浮竹の頬についているあんこを指でぬぐって、それをぺろりと舐めた。

「お前、その、恥ずかしいこと平気でするな」

浮竹が赤くなっていた。

「え、ああ。ごめん、ごく自然に動いちゃった」

京楽は、浮竹に謝りながら、温かい茶を飲んだ。

「浮竹、無理に全部食べなくていいからね。残しても、僕は文句は言わないから」

「残すわけないだろう。ずっと食べたかったんだ」

浮竹は、本当に全部完食してしまった。

軽く3人前はあったと思うのだが。

甘味物の力って、怖い、と京楽は思った。

勘定を済ませると、結構な金額がふっとんでいったが、浮竹のためならそんなこと些細なものだった。

「ふー、食べた食べた。もう、流石に夕飯は食えないな」

「うん。僕も、見てるだけでお腹いっぱいになったよ」

その日は夕食はとらずに、二人は寮の部屋に帰宅した。



先に風呂に入った浮竹に、京楽はそわそわしていた。

いつもは脱衣所で服を脱ぐのだが、今日の浮竹は部屋の中で院生の服を脱いでしまっていた。

白い肌と、華奢ながらも薄い筋肉のついた均整のとれた体に、目が釘付けになった。

「ほんとにもう、浮竹ったら僕の想いも知らずに煽るようなことを・・・・」

そわそわ。

やがて、浮竹は京楽がプレゼントした部屋着を着て、風呂からあがってきた。

「いい風呂だったぞ。京楽も、入ってこい」

「うん。そうするよ」

風呂の中で、京楽は浮竹の半裸の姿を思い出して、抜いた。

若いだけあって、一度では足りずに、3回ほど抜いた。

浮竹の男の体を見れば、欲もなくなるんじゃないかと思っていた。でも、反対に欲は深まるばかりで、爆発する前に抜いた。

風呂からあがると、浮竹はもう寝ていた。

寝るの早いなぁと思いながら、京楽は浮竹の少し長くなった白髪をなでる。

「浮竹、君が好きだよ・・・・・」

京楽の告白は、浮竹に伝わることなく、部屋は静かに時間を刻んでいった。



「京楽、起きろ!やばい、遅刻だ!」

「んー、あと1時間・・・・・」

スパン。

頭をスリッパで殴られて、京楽は目覚めた。

「どうしたの」

「とっくに授業はじまってる!」

昨日が創立記念日なので、夜更かししたわけではない。

ただ、深夜に目が覚めてしまって、なかなか寝付けなくて、京楽もそんな浮竹に気づいたのか目を覚まし、二人で深夜の時間にトランプとかオセロとかして、結局再び寝たのは明け方だった。

京楽は、慌てなかった。

「今日の授業は必須科目じゃないでしょ。そんなに慌てなくても、大丈夫だよ」

「でも、寝坊して遅刻なんて、だめだ」

「あーうん。とりあえず、着替えたりして、学院に行く準備をしようか」

忙しそうな浮竹を落ち着かせると、浮竹ももうその授業はどうあってもほとんど受けられそうにないので、次の時間の授業から出ようと思った。

「朝食食べてる時間ないね。準備できた?」

「ああ。瞬歩で移動しよう」

二人は、瞬歩を会得していた。まだ他の生徒は瞬歩を使えない。

さっと学院まで来ると、ちょうど1限目の授業が終わるチャイムが鳴った。

「あれ、浮竹。今日は病欠じゃなかったのか?」

「京楽と一緒に遅刻なんて、珍しいな」

浮竹は、特進クラスのリーダー的存在であった。特進クラスは、落ちこぼれは他のクラスに移動したり、優秀な生徒が特進クラスに編入してきたりと、細々とした変化はあったものの、基本6年間同じクラスである。

そんな3年間同じクラスだった浮竹の友人たちが、浮竹と京楽を取り囲んだ。

「二人そろって寝坊か?」

「ああ。夜は早めに寝たのに、深夜に覚醒してしまって、遊んで夜明け前に寝たらこの有様だ。余裕で起きれるだろうと、目覚まし時計を設置していなかったせいもある」

「浮竹、目覚まし時計使ってないのか。自然に、起きてるのか?」

「ああ。いつもは授業がはじまる1時間前には起きる」

けっこうギリギリだった。朝食をとったりしていたら、ほんとに時間ぎりぎりだ。

浮竹にとって、睡眠は安らげる時間であり、睡眠不足は大敵であった。

本当はもっと早くに起きるべきなのだが、寝るのも早いし、とにかく体調を万全なものにするためにもよく寝た。

「次の授業、稽古試合だってさ」

「何、本当か!?」

浮竹の顔が輝く。

「京楽、今日こそ決着をつけるぞ」

「浮竹に負けるわけにはいかないねぇ」

それまで沈黙を通していた京楽が、浮竹の肩に手を回した。

「こら、京楽!」

京楽は、それから浮竹の腰を引き寄せて、抱き寄せる。

「お前ら、ほんとに仲いいな」

「浮竹は僕のものだから」

「京楽、悪乗りしすぎだぞ」

ばきっと頭を殴られて、それでも京楽は浮竹を抱き寄せていた。

「ほら、稽古試合が待ってる。木刀になるが、今日こそ決着をつけよう」

「そうだ、勝ったほうが負けたほうの言う事一つきくってのはどう?」

浮竹を解放してから、京楽が鳶色の瞳で悪戯を思いついたとばかりに口にした。

「いいぞ。どうせ俺が勝つから。俺が勝ったら、甘味屋のメニュー全部おごってもらうからな」

「じゃあ、僕が勝ったら、浮竹には抱き枕になってもらおうかな」

「絶対俺が勝つ!」

「勝つのは僕だよ」

浮竹を抱き枕にできる。そんな欲にかられた京楽は、本当に浮竹に勝ってしまった。


「う・・・・約束だから抱き枕にはなるが、変なことはするなよ」

その日の夜、寝間着に着替えた浮竹を抱きしめて、京楽は微笑んだ。

「うーん、手が滑ってちょっと触っちゃうかも」

「京楽!」

京楽が浮竹をハグすることが多くなっていた。

それでも、浮竹はまかさ京楽が自分のことを好きだ、なんて気づかなかった。

抱き枕になるといって、早々に浮竹は眠ってしまった。

「君の傍にずっといれるなら、僕はそれだけでいい」

例え、想いを告げらずとも。



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「会いたかった、京楽」

霊王宮で、霊王になった浮竹は、愛しい男の到着に心を弾ませた。

「霊王におかれましては・・・」

「堅苦しいことはなしだ。茶菓子を用意させたんだ。食べていくだろう?」

霊王になっても、浮竹は変わらない。

ただ、その存在は遠い神に限りなく近い位置にあるが。

「好きだよ、浮竹」

「そんなの、知っている」

浮竹が花のように笑う。清浄な力が漏れて、飾られていた花がさらに花を咲かせる。

霊王の力は強大だ。

「俺も大好きだ、京楽」

院生時代は、好きだと告げれなかった。想いが実ったのは、その遥か先。

霊王となった浮竹は、下界を見たり書物を読んだりして暇を持て余す。月に一度、京楽がきてくれることが、何よりの楽しみだった。




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僕はそうして君に落ちていく3

2回生の冬。

雪が積もった。

浮竹ははしゃいで、院生服のまま雪遊びに夢中になった。

京楽は、そんな浮竹にため息をついて、自分が羽織っていた外套を浮竹に着せた。

「寒いでしょ。あんまり体冷やすと、また熱を出すよ」

「でも、雪が積もるっているのを見るのは始めてだから!」

「ああ、浮竹は南のほうの出身だったね。暖かい地方だから、雪をみるのも初めてかい?」

「ああ。雪って、ほんとに冷たいんだな。ああ、せっかく雪兎作ったのに、明日には溶けちゃってるかな・・・・・」

浮竹が作った雪兎が、寮の庭でちょこんとかわいくそこにあった。


京楽が危惧した通り、雪遊びをしたその翌日、浮竹は熱を出した。

「すまない・・・お前の言葉に従っていれば、こんな世話をかけることもなかったのに」

「いいよ。君を看病するの、嫌いじゃないから」

熱をだした額に水をふくんだタオルを置いてやり、湯たんぽを足元においた。

火鉢が、ぱちっと弾ける音を出す。

室内は温められていて、浮竹が寒気を訴えることはなかった。

「京楽・・・・」

「どうしたんだい、浮竹」

「子守唄を歌ってくれないか」

「え、なんで?」

「風呂で、時折口ずさんでいただろう。いいメロディーだと思って。聞きたい」

「仕方ないなぁ」

まるで、恋人同士になったような、甘い錯覚を覚えた。

京楽は、浮竹のために子守唄を歌った。一度ではなく、もう一度、もう一度と強請られて、浮竹がいつの間に眠るまで歌わされた。

その疲労感は、まるで甘い毒のようだ。

浮竹は、甘い毒だ。

ただ甘いだけじゃなくって、毒があって病みつきになる。

意識のない浮竹の唇に唇を重ねる。

花街には、そういえば最近行っていない。

たまったものは、風呂場で浮竹を頭の中で汚して抜くようになっていた。

「僕も・・・・・落ちたものだね。親友を、頭の中で何度も犯してる」

親友。

でも、なりたいのはそんな関係じゃない。

恋人同士になりたかった。

一目ぼれだった。

時間が経つにつれて、少女めいた美貌が、中性的になり、中性的から男子へと変貌していくさまを見ていても、まだ好きだった。

愛に性別も種族も関係ない。

そんなことを言っていたお偉いさんか何かを思い出して、まさにその通りだと思った。

浮竹が、好きだ。

前よりも、ずっとずっと。

欲している。

浮竹を自分のものにしたい。

浅ましい欲は離れず、京楽は浮竹の少し長くなった白い髪を、いつまでも撫でていた。


「京楽?」

浮竹の看病をしたまま、眠ってしまった京楽に、浮竹は毛布をかぶせてやった。

「いつもすまない・・・・・」

浮竹は、本当にすまなさそうに京楽の黒髪を一房手に取った。

見た目は堅そうだが、意外と柔らかい。

京楽の髪に、口づけた。

「京楽、俺は、お前を利用してばかりだ。親友なのをいいことに、お前を独占している」

京楽も、自分のことなど放置しておけばいいものを。

山じいに頼まれたからといっても、限度がある。

京楽は、本当に浮竹を大切にしてくれた。

「ん・・・・浮竹?熱は、下がったの?」

ベッドに半身を預け、眠ってしまっていた京楽が、目覚めた。

「え、ああ。もう大丈夫だ」

「本当に?」

おでことおでこをくっつけられて、浮竹はちょっと赤くなって、京楽に頭突きをした。

「あいた!何するのさ!」

「近い!顔が、近い!」

「ああ、こういうの苦手?ごめんね」

京楽は、浮竹の額に手を当てる。

「うん、熱はもうないね。動きまわっても平気なの?」

「ああ。元気いっぱいだぞ」

ぐううう。

浮竹のお腹が鳴った。

浮竹は真っ赤になった。

「これは、違う、その」

「僕もお腹すいたし、食堂に夕飯食べにいこうか。少し早いけど、別にいいでしょ」

「うん」

昼を食べそこねた浮竹は、お腹がすいていた。

同じく昼をとっていない京楽も、空腹を覚えた。

並んで、寮の部屋を出る。

こうやって連れ立って食堂にいくのも、いつもの光景の一つだった。

「京楽、看病ありがとな」

「何言ってるの。山じいにも頼まれてるしね。僕たち、親友でしょ。当たり前のことをしただけだよ」

「ああ、そうだな」

浮竹は、親友、という言葉に少し戸惑いを覚えた。

この気持ちは、なんだろう。

ざわざわと、落ち着かない。

二人の関係は、変わることなく親友同士として時間は過ぎていく。

京楽は浮竹のことが好きだ。

浮竹もまた、京楽に親友以上の気持ちを抱きつつあったことを、京楽は知らなかった。

浮竹は、ざわつく心を落ち着かせるために深呼吸する。

ああ。

俺は、京楽のことが好きなんだ。

浮竹は、自分の気持ちに愕然とした。

知られてはいけない。京楽に見捨てられる。

浮竹は、気持ちを押し殺して、京楽の傍でいつもの朗らかな笑みを浮かべるのだった。



その日の夕食のメニューは、天ぷらを選んだ。

浮竹は病み上がりなので、おかゆだった。

京楽は大盛を頼んだので、大きなえびの天ぷらが乗っていた。

それを、食い入るようにじーっと浮竹は見ていた。

「あげるよ」

「え、いや、そんな別においしそうだから見ていたわけでは!」

ぐうう。

お腹が鳴って、浮竹は真っ赤になりながら、京楽からえびの天ぷらをもらった。

「おいしい」

さくさくとした衣の下のえびは美味しく、浮竹はお腹もすいていたせいもあって、夕飯のおかゆをぺろりと平らげて、物足りないのでデザートを多く注文した。

「そんなに食べて大丈夫なの?病み上がりでしょ」

「いや、本当にもう平気だから。念のためおかゆにしたけど、物足りなさすぎる。だからって、他のメニューを頼むのもな」

「別にいいんじゃない。食べ残しても、誰も叱らないよ」

「食べ残しだなんて、作った人に悪い!俺の家は貴族とは名ばかりの下級貴族で、兄弟姉妹で8人だったから、食事の量も半端じゃなくってな」

「うん」

「畑を持っているし、鶏も飼っているし、大体を自給自足で暮らしていたけど、やっぱり両親を含めた10人分を食っていくには大変で。おまけに俺は病をもっているから、薬代がかさんで、親は借金をしていた」

「京楽の家の話、初めて聞くね」

「ああ、まぁあまり周囲には言ってなかったから。お前に話すのも初めてだ。それで、妹や弟は、幼いうちから別の家族の畑仕事を手伝ったりして、賃金を得ていた。そうしないと、10人で食っていけなかったんだ」

浮竹は、故郷に残した家族を思い出していた。

「食うに困ることもあった・・・・この学院は、学費はいらないし、寮にはただで入れるし、飯も金がかからないし、服は支給されるし・・・死神になりたかったから学院に入ったが、肺の病をもった俺がいなくなったことで、家族も少しは楽な生活ができているんじゃないかな」

まるで、自分をいらない子のように話す浮竹に、京楽は浮竹の頭を撫でていた。

「薬代稼ぐのに、たまに下級生の勉強を教えて、お金もらってたね」

「ああ。仕送りは無理だから」

「浮竹の薬代、僕が出すよ」

「何言ってるんだ!けっこう高いんだぞ!」

「僕は上流貴族だよ。金なら腐るほどある。親友の君を助けたいんだ。ねぇ、僕に甘えてよ」

「京楽、それは・・・・」

それはできない。

はっきりと断りたかったが、薬代に関しては借金までできていて、今の収入ではどうすることもできなかった。

「死神になったら、返す、という形で借りていいか?」

「返さなくてもいいよ」

「それはだめだ!俺の矜持に反する!」

「分かったよ。じゃあ、出世払いってことで」

京楽は、浮竹の薬代を出すことになった。

京楽は浮竹のために、高い高級な薬を用意した。

浮竹は戸惑いを覚えつつも、その薬を服用した。驚くほどに、今までよりも体調が改善されて、血を吐く発作も少なくなった。

苦くて嫌いだった薬も、甘い味に変わっていて、服用が楽になった。

「なぁ、京楽、この薬いくらしたんだ?」

「ひ・み・つ」

「おい」

「気にすることないよ。死神になったら、請求書書いて渡すから」

すでに、普通の死神の1カ月の給料を平気で上回っているなんて、浮竹は思いもしないのだった。



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僕はそうして君に落ちていく2

2回生になっていた。

親友、という地位を築いたまま、京楽はよく浮竹の傍にいた。

相変らず花街には遊びにいくし、浮竹に似た遊女にはまって、大金をつぎ込んだりもした。

ある日、集会があった。

夏の暑い日だった。

山じいの話は長くて、ああ、浮竹がふらついている、これは倒れるなと思い、近づいてそっとその体を抱き上げた。

「春水、十四郎!?」

「ごめん山じい、浮竹熱中症みたい。医務室につれていくよ」

お姫様抱っこと呼ばれる形で抱き上げて、医務室に連れていくと、朦朧とした意識の狭間で、浮竹が京楽に謝っていた。

「すまな・・・・い・・・迷惑を・・・・」

「いいから、ほら、水飲んで」

氷水の入ったコップを手渡すと、こくこくと氷水を嚥下するその白い喉に、ごくりと唾を飲みこんだ。

艶やかだった。

今までのどの遊女よりも、妖艶だと思った。

浮竹をベッドに寝かせて、氷枕を作ってやり、体全体を冷やしてやった。

医務室に教師はおらず、浮竹と京楽の二人きりだった。

浮竹の意識はない。

ごくりと、京楽はまた唾を飲みこんだ。

浮竹の、桜色の淡い唇に、自分のそれを押し付けた。

浮竹の反応はなかった。

それに安堵する。

「君が、好きだよ・・・・・」

僕はもう、君に魅入られているんだ。

君の元へ落ちていく。

いつか、君も僕の元へ落ちてきてくれたら・・・・・・。

淡い願いを胸に、浮竹の介抱を続けた。



秋になり、浅打は斬魄刀として、二人の手の中にあった。

2回生で斬魄刀を手にするような優秀な生徒は初めてで、教師たちも山じいも喜んだ。

きっと、よき死神になると。

その頃、京楽も浮竹と同じ死神になろうと思っていた。

元々、放蕩がすぎて入れられた学校だった。死神になる気はなかった。

だけど、浮竹に出会ってしまった。

浮竹は、家族に恩返しがしたいと、死神になりたくて必死だった。一緒に死神になれたら、きっと学院を卒業しても隣にいれると思えた。

浮竹を自分のものにしたいという、浅ましい欲望を抱いたまま、浮竹の傍で親友として隣に立ち、笑い時には喧嘩もして、けれど比翼の鳥のようにお互いを支え合った。



「今度の実習は、現世で行われるそうだ。浅打しか持たない者がほとんどだから、本物の死神もついていくし、虚を退治することになるが、弱い虚しか出ない場所の予定だ」

教師の言葉に、浮竹と京楽は、現世にいってみたいという、虚退治とは違う思いを現実にすることになる。

やがて、実習が始まった。

「ほんとに、弱いのしか出てこないね」

すでに始解をして二つの斬魄刀の姿になっている、元浅打は、面白いようにスパスパと襲い掛かってくる虚を両断した。

「気を抜くな!」

「大丈夫。お互い斬魄刀があるからね。鬼道も使える。それに、念のためにと席官の死神さんもいることだし・・・・」

襲い掛かってくる虚を退治しながら、京楽は気楽でいた。

ほんの一瞬のことだった。

「京楽、よけろ!」

突然のことで、京楽は何が起こったのかわからなかった。

席官が、血を流して傷ついていた。

「なんだ、こんな強い虚が出るなんて聞いてないぞ!」

他の院生たちは、散り散りに逃げ出している。

「緊急退避だ!援軍を呼べ!」

ざわめく実習で、京楽はただ浮竹を抱きしめた。

京楽を庇って、浮竹は背中に大けがを負っていた。

「許さない・・・」

ゆらりと。

高まっていく霊圧に、浮竹を傷つけた虚が、餌がここにあるとやってくる。

京楽は、たった一撃で、席官を傷つけた虚を退治してしまっていた。

「浮竹、今4番隊の人に診てもらうからね!」

「京楽・・・・・無事で、よかった・・・・・・」

「浮竹、しっかりして!」

「お前は、俺の光・・・・・」

それが何を意味するのか、結局実習が緊急退避で終わった後も分からなかった。



血を流す浮竹の傷は深かった。

「僕を庇うなんて、なんて無茶をするの」

4番隊の死神に回道をかけられる浮竹を見ながら、守ってくれたことに感謝より悲しみが深かった。

僕を庇うなんて。

浮竹は、親友を庇ったつもりなのだろう。

でも、京楽は浮竹が傷つくことを恐れた。

ただでさえ体が弱いのだ。

そこに虚の傷まで加えてしまえば、きっと生死に関わる。

幸いなことに、傷は深かったが、傷に急所はなかったので、処置が終わり救護詰所で入院、という形になった。

「浮竹・・・・・」

病院のベッドの上で、青白い顔で眠る浮竹は、美しかったがまるで死んでいるようで、京楽はその頬に手をあてて、その暖かな温度に浮竹が生きているのだと、安心した。

「浮竹、好きだよ」

そっと唇に唇を重ねて、浮竹の少し長くなった白髪を撫でた。

浮竹は、3日間昏々と眠り続けた。

京楽は、学院をさぼってずっと浮竹の傍にいた。

「ん・・・京楽?俺は・・・ああ、お前を庇って、俺は倒れたのか」

「浮竹!何処か痛いところはない!?」

京楽が、目を覚ました浮竹に、声をかける。

「ちょっと、背中が引きつるような痛みがある」

「僕を庇うから!本当に心配したんだよ。君が死んでしまうかと思った」

「いや、大げさだろう。虚でやられたくらいで、死にはしない」

でも、4番隊が駆けつけるのが遅かったら、最悪失血死もありえた。

「浮竹、約束して。もう僕を庇ったりしないって」

「それはできない。お前は、俺を庇うだろう?」

「それは・・・・・・」

「なら、俺もお前を庇う」

「お互い、強くなろう。虚なんかにやられないくらい、強く」

「ああ、そうだな。虚なんかにやられて、死神になる前に命を落とすなんて、ばかげている」

今回の実習では、死者が3人でた。

今後の実習でも、死者は出るだろう。

お互い、強くなろうと心に決めた。

浮竹は、意識を取り戻したものの、まだ全快ではなく、数日入院を余儀なくされた。



「浮竹、傷はもう大丈夫なの?」

「ああ、京楽。ありがとう、もう大丈夫だ。あさってには、退院できるって」

4番隊の死神に傷を大分癒してもらったおかげで、浮竹の入院は1週間ですんだ。

「何か、欲しいものとかない?」

「アイスが食べたい」

「暑いもんね。後で買いに行くから、二人で食べようか」

「ああ!」

浮竹は甘いものが好きで、夏場はよくアイスやらかき氷やらを好んで食べた。

そんな浮竹が愛しくて、京楽は浮竹の願いならなるべく叶えた。

「京楽のお陰で、無事退院できた。いろいろと付き添ってくれて、ありがとう」

「僕たち親友じゃない」

「そうだな」

「比翼の鳥みたいだね」

「どちらかが欠けると、飛べなくなると?」

「そんな関係でいたいってだけだよ」

頭の中で、何度浮竹を組み敷いて犯したことだろうか。

浅ましい欲を抱えたまま、親友として笑っていた。

ああ。

落ちていく。

君の元へ。


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