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小説掲載プログ
10 2024/11 14 2324 28 29 30 12

浮竹死んだけど幽霊です憑いてます9メリークリスマス!

一番隊の執務室で、クリスマスの飾りつけをしている京楽。

「少し休憩をいれないか」

幽霊の浮竹が、3時だからとおやつを所望する。

「そうだね。おはぎ買っておいてあるから、それ食べようか」

「おはぎ!」

浮竹は嬉しそうだった。

おはぎは浮竹の大好物である。戸棚からおはぎをだして、皿の上において、茶を入れた。

まず、玉露の茶がなくなった。

幽霊浮竹は飲み喰いができる。飲んだり食べたものは消えてしまうのだ。

お皿に3個おかれたおはぎが、さっと一瞬で3個もきえてしまった。

「ああ、そんなに急いで食べなくても、1個ずつ味わって食べればいいのに」

その京楽の言葉に、浮竹は悲しそうな顔をした。

「それもそうだった・・・・何も、一瞬で全部食べることなかったよな」

「仕方ないなぁ。僕の分もあげるよ」

「本当か!」

浮竹が顔を輝かせる。

1個は京楽が食べてしまった。

2個残っていたおはぎを、浮竹はゆっくり食べた。まず、1個目の3分の1がきえて、次に3分の2が消えて、最後にはおはぎが1個消えた。

「そんな食べ方もできるなら・・・今度から、食べ方変えてみたら?味が長くしたほうが、幽霊とはいえ楽しみにもなるでしょ」

「うん、そうする」

そうして休憩を終えて、またクリスマスの飾りつけをしだした。

クリスマスプレゼントは配り終えたが、1番隊の執務室でクリスマスパーティーをすることになったのだ。

参加者は護廷13隊の隊長副隊長全員。

強制参加だ。

たまにはこんなイベントでも開かない限り、互いの隊で仲良くすることがないのだ。

個人的に親しい間柄ならいいが、あまり交流のない隊とも親しくしてほしい。京楽の願いでもあり、幽霊浮竹があまり交わることのない他の隊の者と話す機会でもあった。

2時間ばかり、部屋の飾つけを行い、大きなクリスマスツリーに飾りとイルミネーションをつけて、電気を入れる。

ぱっぱっと、虹色に瞬くイルミネーション。

「綺麗だな」

「夜になると、もっと綺麗だよ」

「現世の夜は、きっと綺麗なイルミネーションだらけなんだろうな」

「行きたいの?」

「いいや。このイルミネーションだけで満足だ。浦原がきてからというもの、この尸魂界も大分近代化して変わっていっているな」

テレビが、一般家庭ではまだだが、貴族や席官クラス以上の死神に普及してきた。洗濯機、冷蔵庫、掃除機・・・・・いろいろと便利なものが、尸魂界にに入ってきていた。

もっとも、冷蔵庫は尸魂界でも独自の進化を遂げて存在していたが。そうでないと、食物がもたないのだ。

現世の冷蔵庫のほうが食物が長持ちするので、現世の冷蔵庫は普及しまくっている。

1番隊の執務室の隣にある、応接室にも小さいが現世の冷蔵庫があった。

さてさて、日付も24日になったの日の夕方から、盛大なクリスマスパーティーが行われた。

護廷13隊の隊長副隊長全員ということで、がやがやと賑わっていた。

普段ならこんな場所に姿を現さない白哉の姿を見て、浮竹が幽霊のまま京楽から離れて白哉のほうにいってしまう。

「白哉!メリークリスマス!」

「浮竹か・・・メリークリスマス。兄には、この前のクリスマスチキンの礼に、現世から赤ワインをとりよせたのだ。飲んでくれるか」

「当たり前だ、白哉!」

赤ワインのせん栓を抜き、シャンパングラスに注いで浮竹の方に向けると、中身が消えた。

「本当に面白いな、兄の飲み方は」

「うお、これ美味いな。高かっただろう」

「ほどほどにな」

残りを、京楽に渡して、白哉はイルミネーションを見上げた。

「美しいな・・・・人工的な光でも、このような美しいものが作れるのだな」

「12番隊の技術開発局が協力してくれたんだ。特別に、虹色に瞬くイルミネーションだ」

「12番隊といえば・・・・涅隊長も来ている」

「げっ」

「うわー」

浮竹と京楽は、それぞれそんな声を出した。

自分たちで呼んだとはいえ、あの涅マユリだ。一筋縄ではいかないだろう。

「く、涅隊長メリークリスマス」

「思うのだがネ、浮竹隊長。なんでも、実体化できるらしいじゃないか。ぜひとも、実体化して実験体に・・・・・・・・・」

「この子はあげません!」

京楽が、幽霊浮竹を背後に隠した。

「何、ほんの1分でいいんだヨ。この、霊が虚化する薬を飲んでくれるだけで・・・・・」

「うちの子を虚にはさせません!」

京楽は、涅マユリをしっしと追い払った。

「ふん、いつか絶対、幽霊の浮竹隊長を実験体にしてやるのだヨ」

「怖いなぁ」

浮竹は、京楽の背中でちぢこまっていた。

それから、ルキアの姿を見つけてそっちでふらりと寄っていく。京楽にとり憑いたばかりの頃は足はなかったが、実体化できるようになって足はあるが、歩いてではなく、すーっと浮いて移動した。

「朽木、メリークリスマス!」

「浮竹隊長、メリークリスマス。これ、この前のクリスマスプレゼントのお礼です」

チャッピー型のキャンディとチョコレートがたくさん詰まった箱を、京楽が代わりに受け取った。

「ありがとう、朽木!味わって食べる方法を覚えたので、大切に食べさせてもらう」

浮竹は、最後は日番谷のところに姿をみせた。

「メリークリスマス、日番谷隊長」

「ああ、メリークリスマス浮竹。これは、この前の礼だ」

これまたお菓子セット、京楽が代わりに受け取る。

そうやって、全部隊長副隊長と話しをしながら、クリスマスプレゼントの礼を、京楽は代わりに受け取った。

「思うんだけどさ・・・・・」

「どうしたんだ、京楽」

「僕も一緒にクリスマスプレゼントあげたのに、僕だけお返しがない!」

(ノД`)シクシクと、悲しみだす京楽に、全ての隊長と副隊長が並び出した。

「メリークリスマス、京楽総隊長、浮竹隊長!全員で作った、クリスマスケーキです!」

ルキアが、皆を代表してそう言った。

「みんな・・・・・・( ノД`)シクシク・・・嬉しすぎて」

焦げたりしていたが、そのクリスマスケーキはちょうど二人分だった。京楽だけでなく、浮竹の分も含まれていた。

口にすると、ちょっと砂糖のいれすぎだったが、まぁまぁおいしかった。

幽霊浮竹も、自分の分として切り分けられたものをさっと食べて消していく。

「食べた方も面白いのだヨ。やはり実験体に欲しいネ」

涅隊長のそんな言葉に震えあがりながらも、クリスマスパーティーは盛り上がった。

立食会形式であるが、京楽と白哉が金を出しあって、料理の用意をして酒を選んだ。ごちそうと美酒がただで食べて飲めると、普段浮竹に接しない隊長や副隊長も礼を言いながら、夜遅くまでクリスマスパーティーを楽しむのだった。




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貞子がやってくる 怖がりの朽木兄妹

結婚して半年が経った。夏は終わり、冬になっていた。

「一護、起きろおおおおお」

「ぬあああああ!?」

布団からごろごろと這いずりだす。まだ、夜だ。

「なんだよ、ルキア!」

尸魂界は、浦原が戻ってきて急激に現世と同じ文化を歩むようになってきた。

「貞子が、貞子が!」

「はぁ?」

一護とルキアの寝室にもテレビが置いてあった。テレビの他にDVDプレイヤーも置いてあった。

そのDVDプレイヤーに「リング」というホラームービーのDVDが入れられていた。

一護も見たことある。「リング」という現世ではちょっとしたブームになったホラームービーだ。

「貞子がくる!テレビから、長い黒髪をうねらせて、やってくるのだ!」

ルキアはカタカタと震えて、涙を浮かべていた。

「なんだよ、お前幽霊が怖いのか?」

「たわけ、本物の幽霊なぞ怖くない!魂葬すればいいだけだからな。ただ、作り物と分かっているとはいえ、貞子は・・・・」

「こんな夜中に、一人でそんな怖い映画見るからだろ。ほら、布団の中に入れよ。一緒に寝ようぜ。それなら、怖くないだろ?」

「一護・・・・・・」

ルキアは、滲ませていた涙をぬぐいながら、一護の布団に入った。そして、眠った。そして、一護を蹴り飛ばして爆睡した。

「寝相悪いやつだな」

また蹴り飛ばされてはごめんだと、もう1組布団をしいて、一護はその上で眠った。

朝になった。

「一護、貞子が夢の中にでてきた。テレビから這いずり出てきて、私の首を絞めるのだ!苦しくて花瓶で殴ると、血が飛び散って私の頬にかかるが冷たくて・・・・・」

カタカタ震えているルキアを抱き締める。

「ただの夢だ、忘れろ」

「一護・・・・・」

しばらく抱き締めていたら、ルキアも平気になったのか、いつもの元気な顔色に戻っていた。

「一護の傍におれば、貞子もこぬな」

「あれは作りものだから、元から出てこねーよ」

「分からぬぞ!この世界には虚もいるのだ。貞子のような虚が・・・・想像しただけで・・・うきゃあああああああ」

だめだこりゃ。

重症のルキアを引っ張って、食堂にいくと白哉が蒼い顔をしていた。

「貞子が・・・・・」

お前もかよ。

この兄妹は、揃ってリングの映画を夜に見たらしい。

ルキアも白哉も、自分の寝室で、深夜に。

「貞子の呪いがかからぬよう、塩をまかねば」

ばさっと、一護に向かって塩が巻かれた。

「白哉、俺に塩かけてどーすんだよ」

「そうだぞ、一護、貴様がこれは面白いというから、深夜に見ればもっと面白くなるというから見たのだぞ!」

「あー?それ、1週間以上前の俺の言葉だろう。今更見て、怖がっても、俺のせいじゃねぇよ」

「いや、貴様のせいだ。貴様がDVDぷれいやーなるものを購入してきて、DVDなるものを購入してきたのだ。全部貴様のせいだ!」

ルキアも、白哉と一緒になって塩をつかみ、一護にむかって投げた。

「お清めだ!清めぬと、貞子がくる!」

「貞子・・・なんという怨念。兄が買った映画は趣味が悪い」

リングのDVDをぽいっと放りなげられた。

「おい、乱暴に扱うなよ。見れなくなるだろ」

「このようなもの、もう二度と見ぬ」

白哉は、貞子が嫌いなのか、リング2があると言ったら、眉をしかめた。

「リング2だと・・・・見ねばなるまい」

なんで!?

「白哉、お前怖いんじゃないのかよ!」

「怨念が、2まであるのあろう。全部見て、供養してやらねば、祟られる」

白哉もかわいいところがあるんだなと思ったら、思いっきり足を踏みつけられた。

「に、兄様、私も見ます。今日の夜、一護も一緒に3人で見ましょう。リング2を」

「おいルキア、あんなに怖がっていたのに平気かよ!」

「リング2を見ねば、貞子が祟ってくる!見終えて、供養して成仏させるのだ!」

「いや、ただの作り物で映画だから・・・・・」

結局、その日はそれぞれ6番隊と13番隊に仕事に出かけた。

お守りを、白哉もルキアも握りしめていた。

どんだけ怖かったのだろうかとも思うが、あれだけ怖がりながらリング2も見るという酔狂さに、少し呆れた。

死神の業務が終了し、朽木邸に戻り、湯浴みと夕餉をとった。

夜の10時になり、白哉の部屋のテレビでリング2を見だした。

「ひいいいいいい」

貞子の登場に、悲鳴をあげながらもルキアは食い入るように画面を見ていた。白哉のほうをみると、何か念仏のようなものを唱えながら見ていた。

リング2を見終えて、朽木家の兄妹は、互いを抱き締めあいながら、塩を一護にかけた。

「だからなんで俺なんだよ!」

「現世の怨霊はこわい・・・・・」

ルキアが、塩をまきながら、お守りを手に念仏を唱えだす。

「このDVDは、普通のリングのDVDと一緒に、高僧にお祓いをしてもらう」

いや、怖がり過ぎだろ。

白哉の言葉に、こう言う。

「ただの作りものだ。そんなに怖がる必要ねーよ」


「祟ってやる・・・・・」


「おい、今誰か何か言ったか?」

「何も言っていないぞ」

「私もだ」


急に、テレビの電源がついた。

ザーザーという画面に、長い黒髪の女が映る。

「冗談だろ」

「ひいいいい」

「南無阿弥陀仏」

べたべたと血の痕が、部屋の中に残った。

ぷつんと、テレビは消えた。

見ると、ルキアは気絶し、白哉も気絶しいた。

「おい、ちょっと、まじなのこれ!?俺置いて気絶しないでくれよ!この血の痕とかめっちゃこえーんだけど!」

一護も、念仏を唱えだした。

お守りを手に、DVDプレイヤーからリング2のDVDを出してパッケージに直そうとして、長い黒髪がパッケージに絡みついているのに気づいて、流石に一護も怖くなった。

3人そろって、次の日には高僧のいる寺までいって、リングとリング2のDVDにお祓いをしてもらい、寺に収めてもらった。

朽木邸に帰ると、日常が戻ってくる。

一護が湯あみをしようと湯殿にいくと、湯がなかった。

「白哉義兄様め・・・・・」

シャワーが出るようになったので、問題はなかったが、やはり湯船に浸からぬと12月なので凍えるように寒かった。

白哉が湯あみしている隙に、理髪店で集めた、長い黒髪を白哉の枕元に置いておいた。

十数分後、白哉の悲鳴が聞こえて、一護はうししししと一人ほくそ笑んだ。


結局、テレビに映った長い髪の女の正体も、部屋に残った血の手の痕も、パッケージについていた長い黒髪の原因も分からずじまいであったが、供養が効いたのか、それ以後奇怪な現象は起こることはなかった。





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おかしな京楽と席替え

「はい、今日は席替えを行います」

えーという反対の声と、おーという賛成の声が入り混じった。

浮竹は思う。

ああ、これで京楽から少しが距離をとれると。

酔狂なことに、浮竹を好きだと言ってきた京楽。その好きだと言われた言葉に、はっきりとNOだと告げた。それなのに、京楽は毎日のように自分をアピールしてくる。

いい加減、疲れてきた。

「じゃあ、順番に番号を引いていってください」

今の京楽の籍は隣。これ以上最悪なことにはならないだろうと、クジのような番号を引いていく。

京楽は、最後のほうで番号を引いた。

「えー、黒板の通りです。出た番号に、席を変えてください」

荷物をもって、18と書かれた席に移動する。

見ると、京楽が隣だった。

「またかああああああ」

一人、そう叫んでしまって、クラス中の視線を集めた。

「僕と隣なんて、浮竹ついてるね。この幸せ者め」

いや、幸せなのはお前の脳内だろう。

浮竹は思った。

チャイムがなり、授業がはじまる。

(好きだよ)

そう書かれた紙を投げてよこされた。

(俺は普通だ。廓にでもいってこい。女抱いて来い。俺に干渉するな。どっか行け)

(またまたぁ。照れっちゃって、かわいいね)

(死ね)

(死ぬほど、浮竹のことが好きだよ。僕が死んじゃったら、寂しさで浮竹も死んじゃう)

(授業に集中しろ)

(浮竹に集中しとく。今日も髪がサラサラで綺麗だね。この前あげた翡翠の髪飾りで留めると、きっともっと似合う)

(あの髪飾りはお前に返しただろう)

(だから、寮の浮竹の部屋の荷物入れにいれといた)

(この大馬鹿野郎!)

(僕は浮竹バカなの)

(ああもういい、お前とこうやってやりとりするだけ、時間の無駄だ)

(そんなことないよ。人生をもっと楽しみなよ。僕と付き合えば、もっともっと人生が薔薇色になるよ)

(薔薇色のなのはお前の脳内だ)

(ばれた?いつも、浮竹のあられもない姿を想像している)

「ふざけるなーーーーーー!」

叫んで、立ち上がった。

教師が、びっくりしていた。

「浮竹くん?」

「先生、すみません脳内に薔薇が咲いた男を処分してきます」

がたっと、京楽が立あがる。

「僕の脳みその中、薔薇色なんだー」

ああ、またか。

教室中の死神がそう思った。

京楽が、浮竹に迫って、浮竹がそれを拒絶していると、クラス中の誰もが知っていた。

浮竹は、京楽の服の襟をつかんでずるずると引きずっていく。

少し遠く離れた場所で、「破道の4 白雷」

という声と、ピシャンという雷の落ちる音がした。



saide S


浮竹は、今日も美人だった。僕が惚れただけあって、才色兼備だ。ああ、そういえば今日席替えの日か。今は浮竹の隣だ。また隣になれたらいいなぁ。

番号を引いて、荷物も持って移動すると、浮竹が隣だった。

「僕と隣なんて、浮竹ついてるね。この幸せ者め」

そう言うと、浮竹はめっちゃ嫌そうな顔をした。そんな顔でもかわいいんだから、僕は心配になってしまう。

浮竹は男にも女にも持てる。女はいい。無理やり関係なんて築けないから。でも男は厄介だ。今まで何度、浮竹に想いを寄せる男を闇に葬ってきたことか。

紙をなげて、やりとりをした。

僕を拒絶するくせに、律儀に答えてくれる。

だから僕は君がすきなんだ。

(ばれた?いつも、浮竹のあられもない姿を想像している)

そう書いてよこすと、浮竹が切れた。

「ふざけるなーーーーーー!」

ああ、怒っても浮竹はかわいい。

思わず見とれてしまいそうになった。クラス中の視線が集まっている。嫌だなぁ。浮竹を見るのは僕の特権なのに。

「浮竹くん?」

「先生、すみません脳内に薔薇が咲いた男を処分してきます」

僕はたちあがった。ああ、浮竹と二人きりになれる。運がいいな。

「僕の脳みその中、薔薇色なんだー」

ああやっぱりと、クラス中の者が僕をみる。でも、そんな視線にも慣れている。

浮竹は僕だけのもの。

浮竹が怒るのも、僕だけ。

怒った浮竹は、僕の襟をつかんで引っ張っていく。ああ、浮竹からはいつも甘い花の香がして、今日ものその匂いを肺いっぱいに取り入れた。

浮竹、大好きだよ。

「お前は、少し痛い目を見ないと分からなようだな」

ご立腹らしい浮竹も、かわいかった。

「君がくれるなら、たとえ痛みでも快感になる」

「破道の4 白雷」

ばちばちばちっ。

雷が降ってきて、僕の意識はぷつんとだえた。


起きる、浮竹が心配そうに僕を見ていた。

「すまない、やり過ぎた」

ああもう。本当にかわいいんだから。

「もうちょっと、近づいて」

「なんだ」

ちゅっ。

唇にキスをすると、浮竹は真っ赤になって僕の頭をぽかりと思い切り叩いた。

その痛みさえも甘い。

浮竹とのキスは甘酸っぱかった。

もっともっと欲しい。

「浮竹、愛してるよ」

「少しだけ、考慮しておく」

「やった!」

僕と浮竹の仲に、今後進展ができるかもしれない。

僕は胸がどきどきしだすのだった。


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あんたは俺のもの

「白哉!」

一護がそう呼ぶと、白哉は微かな笑みを浮かべて、一護を迎え入れた。

「ルキアとは、どうだ」

「ああ、ルキアとはうまくいっている」

愛してやまない義妹と付き合っている一護のことを、白哉はそれなりに好いていた。

一護なら、ルキアを幸せにしてくれると。

「隊長、一護と何を話してるんすか?」

「恋次、貴様には関係のないことだ」

その言葉に、恋次はむっとなった。

「関係なくない。俺と隊長はできてる。そういう仲だから一護、この人と仲良くするのもほどほどにな」

「恋次!」

白哉の怒った顔など、初めて見たかもしれない。

「恋次、貴様という男は・・・・一護、兄はもういけ」

「ああ。ルキアのことは俺に任せてくれ。それと恋次、俺は浮竹さんと京楽さんができてることを知っている。そういうことで嫉妬するなら、白哉がかわいそうだ」

「兄は・・・・優しいな」

かちんときた。

恋次には、白哉だけなのに。

「なんすか、まるで俺が優しくないみたいなものいい」

「恋次、貴様は乱暴だ。言葉も行動も」

「とろとろに優しくしたら、あんたは俺だけを見てくれますか」

「無理だな」

「じゃあ、やや乱暴になっても仕方ありませんね」

一護が去ったのを確認してから、白哉を抱き締めてキスをする。

「その気にならぬ・・・・・」

「じゃあ、そういう気になるようにしてあげます」

白哉は、恋次と距離をとった。

「貴様のことは好いておるし、それなりに特別だと思っている。それだけでは、足りぬのか?」

白哉が、悲しそうに目を伏せた。

長い睫毛が、頬に影を作る。

夜烏のような瞳は潤み、訴えかけてくる。

だめだ、今抱いては。白哉を傷つけつことにしかならない。

「あんたがそんな顔するなんて・・・・俺のこと、本当に特別なんすね」

そう分かっただけでも、十分だった。

「言ったであろう。それなりに特別だと」

「それなりってなんすか?」

「他にも特別はいる。ルキアのように」

「ルキアはまぁ・・・・仕方ないっすね」

男にしては華奢な身体を抱き寄せる。

「ん・・・・・・・」

舌が絡むキスを繰り返すと、白哉の夜烏のような瞳に艶がでる。

「その気になりました?」

「ならぬと、言っておる。させたとしても、心は開かぬぞ」

「それじゃ意味がない。確かにあんたの体も欲しいけど、一番欲しいのはあんたの心だ。俺を愛していないのは分かっている。でも、好きでいてほしい」

白哉は頑なに、恋愛感情では亡き妻の緋真のみを愛している。

恋次と体を交わせるような関係になって、10年ほどになっただろうか。

未だに、心を完全に開いてくれない。

きっと、緋真の存在が、今はもうないとしても、心に在る限り、完全に恋次のものにすることはできないであろう。

そう分かっていても、白哉の全てが欲しかった。

体も、心も。

「いつになったら・・・・あんたは、俺だけのものになってくれるんすか」

「さぁな。永劫に、私は貴様一人だけのもにはならぬであろうな」

「いつか、その心も全部、俺で満たしてみせる」

「できるものなら、やってみろ」

恋次は、噛みつくようなキスを、白哉に与えた。

「まるで野良犬だな」

「どうとでも。あんたは、俺のものだ」

恋次の世界は、ルキアと共にあった。ルキアを養子に迎えた白哉の姿を一目見た時から、運命は変りだした。

研磨し自己鍛錬を繰り返し、6番隊の副官となり、白哉に近づいた。

そして、その心と体を手に入れる隙をずっと伺っていた。体の方はわりと簡単に手には入れたが、心がどうしても完全に手に入らない。

緋真の存在に、嫉妬をしまくった。

「私は、私だ」

「それでも。俺のものだ」

まるで、自分に言い聞かせるように。恋次は、そう囁くのであった。


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終章

ルキアは、男児を出産した。

一勇と名付けられた。

「ああ、一勇よしよし」

泣きじゃくる赤子を、あやすルキア。子をまた成したのに、少し胸は大きくなったが、細い体がは相変わらずだった。

苺花が、一勇をのぞきこむ。

「この子、私の弟なの?」

「そうだぞ、苺花」

「あんまり私に似てなーい」

「父親が違うからな」

「四楓院の父様も優しかったけど、今の父様も好きー」

その言葉に、一護がでれる。

「苺花、いい子だな。飴ちゃんあげるぞ」

「わーい」

苺花は、5歳になっていた。実の父ではないが、一護によく懐いた。

「苺花を、死神にするための初等部に通わせようと思うのだが、どう思う?」

「いや、いいんじゃねーか?俺たちが仕事中、女中とかに面倒見てもらってるのが現状だし・・・初等部にいって、読み書きも計算もできるけど、同い年の友人を作るいいチャンスだろ」

「そうなのだ。このままでは、苺花に同い年くらいの友人ができるのは、真央霊術院になってからになってしまう。幼いうちから、友達がいないのは悲しいからな。まぁ、女中の子らと遊ばせてやっているが」

こうして、苺花は初等部に通うことになった。

一勇を、仕事中は、雇った乳母に世話をさせた。

ルキアは、13番隊の隊長になっていた。一護は、副隊長だ。力の順であれば、一護が隊長であろうが、隊長としての職務などがわかっていないため、副官の座についた。

真央霊術院を卒業せず護廷13隊入りした、珍しい例となった。更木剣八とは違うが、それと似たようなもので、力をもっていると周囲に認知された。

「ルキア、好きだぜ・・・」

「私も好きだ、一護・・・・」

その年の夏、一護とルキアは、遅いが式を挙げた。

一護たっての望みで、和風も洋風も、どちらも取り入れた式になった。

始めは白無垢で。次に化粧直しをしてウェディングドレスを。

ルキアの指には、エンゲージリングが光っていたが、ちゃんとしたダイヤモンドをあしらった、結婚指輪を一護は自分の給料で用意した。

ルキアと指輪を交換しあい、誓いの台詞を口にして、キスをした。

式には、恋次や一角、弓親といった親しい死神から、大戦を経て新しく隊長副隊長に就任した者たちも出席してくれた。

朽木家での披露宴だったので、豪華な食事と酒が振る舞われた。

「苺花ちゃんお母さん綺麗~」

苺花の友達も数人きてくれていた。

流石に子供なので、2次会まではいけなかったが。

ルキアと一護は、幸せだった。

子にも恵まれて、幸せを噛みしめていた。

一度、その関係は粉々に崩れた。だが、また築き上げられた。

「一護、ブーケを投げるぞ」

「うむ、苺花、受け取れるなら受け取れ」

投げたブーケは、七緒の手に落ちた。

「あれぇ、七緒ちゃん、七緒ちゃんもそろそろ実を固めないとってことかなぁ」

総隊長である京楽が、苦笑を零した。

「まず、総隊長であるあなたが身を固めてください。この前も、縁談ほうりだして!」

「いやぁ、浮竹に悪いからね。あの子と約束してたんだ。結婚するなら、一緒に式をそれぞれ挙げようって」

今は亡き、13番隊隊長浮竹十四郎の存在を、知らぬ者ももうでてきた。

苺花のような、大戦後に生まれた命には、歴史として教えられるだけだ。

「ルキア、今俺はすでに幸せだけど、もっと幸せになろうな」

「ああ。貴様と、いつまでも一緒だ。勿論、苺花と一勇も」

一護は、ルキアとの間にさらに二人の子をもうけることになる。

それは、遠い未来のお話。



          隠していた想い

            fin



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苺花とルキアと一護

一護が、ルキアと一緒に尸魂界にきて、1年が経とうとしていた。

式は挙げなかったが、籍を入れた。

朽木一護になるのか思ったが、黒崎ルキアになるらしい。

式は、そのうち挙げるらしい。

4大貴族から籍を抜くことになるのだが、一応4大貴族の死神の婚礼には変わりない、いろいろと、他の貴族がうるさかったそうだ。元、四楓院家の当主と婚姻しておきながら、いくら尸魂界の恩人ではあるが、名もない死神と籍をいれるとはと。

四楓院家を侮辱しているのかとも言われた。

ルキアは、散々な言われようだった。一人娘を、四楓院家の当主に預けて、間男と逃げただの、もともと四楓院家を侮辱するためだけに当主と結婚して子を成しただの。

全部、白哉が黙させた。

今日も、一護はルキアと一緒に、13番隊執務室で働いていた。

ルキアの娘、苺花を、ルキアは引き取ることを決意した。四楓院家の当主は苺花を愛したが、今度妻を迎えるにあたって、苺花の存在が邪魔で、結婚予定だった相手が毒殺してこようとしたらしい。その婚姻は破綻となったが、苺花が四楓院家にいる限り、命が狙われる可能性があると分かり、一護にも相談して、朽木家に迎えいれることがきまった。

黒崎苺花になるのだ。四楓院苺花から、黒崎苺花へ。

貴族の暮らしになるが、貴族から一般市民へとなる。

まだ、苺花は4歳だ。

苺花と4年ぶりに再会したルキアは、涙を零した。

「苺花、寂しいしい思いをさせてしまってすまなかった」

「母様?本当に、あなたが私の母様ですか?」

「ああ、そうだ」

ルキアは、苺花を抱き上げた。

「父様は?もう、父様とは会えないの?」

「四楓院家の父様とは、しばらく会えない。今日から、このオレンジ頭の男が、お前の父様だ」

「えー、私もっとかっこいい父様がいい。白哉様みたいな」

「これ、苺花!」

「やーだやーだ、こんな父様やーだー」

「俺、子供に嫌われやすいのかな・・・・・・」

自分の娘になるはずの苺花に嫌われたようで、ショックを隠せない一護である。

「そのうち、一緒に暮らしていると慣れる・・・・あ」

「どうした?」

「苺花は、しばらく兄様に預かっていただろう」

「なんでだ?」

「言っておいたであろう。子が、できやすいのだ、今の私は。悲哀色狂病に一度かかると、治ってから4年目に、1か月ほど子ができやすくなるらしい。苺花だけではかわいそうだし、私も貴様との子供が欲しい。褥を共にしたいのだ」

この1年、何度も体を重ねてきたが、子供はできなかった。

一護との子が欲しいと言われて、一護は赤くなりながらも頷いた。

「男の子が欲しいな・・・・・名前は一勇。親父が一心、俺が一護、で、息子予定は一勇だ」

「良い名だ。一護の名前も、一つを護る。良い名を、与えられたな」

「今頃、俺の一回忌かな。会いにいきたいけど、人間としては死んでるからな。まぁ仕方ねーか」

「それについてなのだがな、一護・・・・・・・・」

一護の死を、黒崎一心は分かっていたらしい。死神として生きるためで、人間としての死であると。一心も、死神なのだ。しかも、没落した5つ目の貴族である志波家の、死神。

つい最近、尸魂界にきたらしい。遠くから、一護がルキアと幸せそうにしているのを眺めて、満足して帰って行ったらしい。

「そうか、親父が・・・・ってことは、遊子と夏梨にも知れたのかな?」

「そうであろうな。それに、石田と茶虎も記憶置換がきかなかったらしい。井上には、涅隊長が特別に作った記憶置換で、一護は死んだものとして記憶してもらった。尸魂界にきてまで、騒がれては困るからな・・・そうそう、その井上だが、傷心なところに石田がフォローにきて、今石田と交際しているらしいぞ」

「そっか・・・井上も、ちゃんと未来を歩き出しているのか・・・よかった」

「一護、好きだ。今夜は、お前と寝るぞ」

「ああ、寝る・・・・って、そっちの意味の寝る!?」

苺花がいることを、ルキアは忘れているようだった。

「ねぇ、おねんねするの?」

「苺花!一護、すまない、兄様のところに預けてくる」

苺花を1か月の間、白哉が預かってくれることになった。

一護とルキアは、子供を作るために体を重ねた。

「あ・・・・・」

「隠すなよ。全部見せろよ。今更だろう?何十回抱いてきたと思ってるんだ」

「一護・・・・・ああっ」

胸の先端を口に含まれ、胸全体をやわやわと揉まれた。

秘所に手が伸びる。

「ああ、こんなに濡れて」

さわるだけで、くちゅりと音が鳴って、ルキアは目を閉じた。

舌が、秘所を這った。

「い、いちご、そ、そのような!」

「気持ちよくなってくれ」

ぴちゃりぴちゃりと、ルキアの愛液をすすりながら、秘所に舌をさしこみ、指で陰核をつまみあげて、秘所の中の前立腺を刺激する。

「んああああ!」

ルキアは、軽く一度いった。

愛液はどんどん溢れて、そこはもう潤って、一護がくるのを今か今かとまっていた。

「抱くぞ、ルキア」

「ああ、一護。愛している」

「俺も愛してる、ルキア」

「ああああ!」

貫かれて、ルキアはそれだけでまたいってしまった。

「おい、大丈夫かよ、ルキア」

「も、問題ない・・・続けてくれ、一護」

ルキアを何度も貫いて、ゆすった。

体位を変えると、ルキアが上になる騎乗位になった。

「あ、このような・・・・」

「いいだろ、たまには」

下から突き上げてくる一護に、ルキアは長くなった黒髪を宙に乱した。

「あ、ああん!」

何度も突き上げられた。奥の子宮にまで入られて、甘い声がさらに甘くなる。

「んあっ!」

唇を重ねる。舌と舌が絡みあうキスを何度も栗化した。

ルキアを褥に押し倒す。

中の抉る箇所が変わり、ルキアは啼いた。

「んあああ!」

前立腺ばかりを突き上げるとルキアはびくびくと体を痙攣させた。

「あ、またくる・・・いっちゃ、いちごお」

「何度でもいけよ。好きなだけ、高みにのぼれ」

「ああああああ!」

ルキアは、女であるという悦びを、何度も味わった。

その日から、ルキアと一護は、2日に1回は交わった。

そして、1か月後。

待望の妊娠が、明らかになった。


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死神の一護

一護は、荷物をまとめて尸魂界にやってきた。

「お、一護じゃねーか」

「おう、恋次久しぶりだな。4年ぶりくらいか?」

「おう、そんなもんだな。ルキア、一護を連れて帰ってきたってことは、ルキアが人間になるんじゃなくって、一護が死神化するのか?」

紅い髪の恋次は、風に髪を揺らせていた。

「ああ、俺が死神になるんだ」

一護がそう答える。

「なんでも、5年の猶予を与えたって隊長がいってたけど、早かったな。2週間ちょいか?考えると、早すぎねーか?」

「いいんだよ。俺ももう21だ。5年後には26になってる。年をとればとるほど、ルキアとの距離は広がっちまう。だからといって、ルキアが人間になって白哉や恋次と会えないのはかわいそうだしな」

その言葉に、恋次が笑った。

「ルキアは、本気で人間になるつもりだったんだぜ?俺に、伝令神機で「人間になる、許してくれ」ってメール送ってきてた」

「まじかよ、ルキア」

「そ、それはだな・・・・」

ルキアが視線を彷徨わせる。

「あ、兄様!」

「白哉」

「隊長」

三者三様に名を呼ばれて、白哉は頷いた。

「黒崎一護。死神になるのだな?」

「ああ」

「現世の全てを捨てることになる。いいのだな?」

「ああ」

「分かった。ついてこい」

皆で、ぞろそろと移動した。ついた場所は、12番隊の技術開発局だった。

「恋次はここで待て」

「分かりました、隊長」

中に入ると、涅マユリがいた。

「てめぇ!」

「おっと、怒らないでほしいネ。君の記憶を操作してくれと言ったのは、井上織姫という人間の女であって、私がしたかったわけではないのだからネ」

「涅マユリ。例の薬を」

「ほう。死神化するというのかネ。まぁ、死神代行が本物の死神になるだけで、それほど変わりはないと思うだがネ」

「大ありだよ、バカ野郎」

どろどろとした、きつい匂いの紫の液体を渡された。

「死神化した今の状態で飲め」

白哉に言われて、そのまま一気飲みした。

「アレ・・・・意外とうまい。オレンジの味が・・・・ううう」

ばたりと、一護は倒れた。

「おい、一護!兄様、一護が呼吸していません!」

ルキアがおろおろしだすが、白哉は冷静だった。

「今、黒崎一護の人間が死んだのだ。直だ」

ゆらりと。

肉体から、魂魄が滲み出てきた。

それは、また肉体に戻った。

「ん・・・あれ、もう終わりか?」

「そうだ。たった今、人間としての黒崎一護は死んだ。もう、尸魂界の住人だ」

「そうか・・・・俺、一応死神として食って行こうと思ってるんだけど、泊まるとことかないんだけど、どうすればいいんだ?」」

「しばしの間、朽木家で過ごすがよい。我が義妹の想い人だ。特別に許可をやろう」

「お、白哉、すまねーな」

「いいのですか、兄様!」

「構わぬ」

12番隊の外で恋次と落ち合って、白哉は恋次を連れて去ってしまった。

「今日は、もうすることがねーな。そういえば、ルキアは13番隊副隊長やめたんだっけ?」

「そうだな・・・私も、することがない。力も戻ってきているようだし、副隊長に復帰するか」

二人で、京楽春水のところへ行った。

「何、一護君が死神化しただってーーーーーー!?」

結局、隊首会が開かれることになった。

尸魂界を二度にもわたって救った英雄が死神になった。それを置いておくにはあまりにも勿体なさすぎると。

ルキアの復帰願いもあり、ルキアは13番隊の副隊長として復帰し、しばらくの間は13番隊の席官と形で一護は落ちついた。

朽木家にずっと泊まっているのもなんなので、隊舎で部屋を借りることになった。

だが、ルキアまで朽木家を飛び出して、隊首室で寝て一護を毎朝迎えにいくことに、義妹を溺愛している白哉が折れて、一護を正式に朽木家に迎えることになった。

いわゆる、婿入りだろうか

「まじかよ・・・・」

朽木家の広い寝室の一つをルキアと一緒に与えられて、一護は自分の頬をつねっていた。

「痛い」

「何をしているのだ、一護」

「いや、なんかルキアと一緒に朽木家でずっと住めるなんて、夢かと思って」

「夢などではない、たわけが!」

ルキアの蹴りが、一護に炸裂した。

「うお、この感触・・・・・・実に3年ぶりくらい」

一護は、ルキアに蹴られて喜んでいた。

「ええい、喜ぶな・・・・一護の死を、現世に知らせねばならぬな」

「それならば、もう済ませた」

白哉が、いつの間にか部屋の中に来ていた。

「うお、何処からわいてきやがった」

瞬歩でやってきたらしい白哉であったが、物音一つ立てなかった。

「本日の夜8時に、黒崎一護はトラックと事故を起こして死亡した。そう、あの井上という哀れな女も含めて、貴様の家族にも記憶を書き換えた」

「わー。白哉毒舌」

井上については、もうどうしよもないので、庇うような言い分もしなかった。

「私の義妹をあれほど悲しませたのだ。許せぬ」

「ルキア、白哉に愛されてるなー」

ルキアは真っ赤になって、わたわたしだした。

「兄様は、いつも通りだ!」

「うわーブラコンもここまでくるとすげーな。まぁ白哉のシスコンに比べたらましか?」

「何か言ったか?」

「いえいえ、なんでもございません」

ぎろりと白哉に睨まれて、一護は首を横に振った。

「何はともあれ、これからも世話になるぜ、白哉」

「仕方あるまい。ルキアが家を出ていくよりましだ」

白哉は、本当にルキアを愛していた。

義妹であるが、実の妹のように見ている。

ルキアは幸せだな。そう思った。

やっぱり、俺が死神になって正解だ。そうも思った。

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本当の一護

「なんだよ。また来たのかよ」

一度、一護は自分の部屋に荷物を取りに帰った。その時は、ルキアは浦原商店にいっていいて、いなかったのだ。

井上の家にいくと、冷たい声の一護がいた。

「一護。井上に何をされた。涅マユリに、何をされた!」

その言葉に、それ見たことかと高をくくっていた井上が、真っ青になる。

「何言ってるの、朽木さん」

「この部屋には、昨日確かに涅マユリの霊圧の名残があった。残念だったな、井上。完璧にことを起こすには、涅マユリに霊圧を消して来いというべきだったな」

「黒崎君は渡さない!」

ルキアは、記憶置換を一護に使った。

「ルキア?俺はなんで・・・・・・・」

「一護、どうだ?」

「どうだってなんだよ。さっさと消えろよ」

「やはり、無理か・・・・・兄様・・・・・」

ふわりと。

朽木白哉が、室内に現れた。

「朽木白哉・・・・・・」

ひっと、井上は息を飲んだ。

「兄は・・・一護に。一護、しっかりせぬか。涅マユリがすぐに白状した。お前に、強力な記憶置換を使ったと」

「嫌よ、黒崎君は私のものなんだから!」

「哀れな、女だ・・・・・・」

白哉は、黒い記憶置換を、一護に向けた。

「だめえええええええ!」

井上が、白哉にを押しのけようとする。それをさっと避けて、白哉はその記憶置換を使った。

「あれ。俺、どうしたんだ?」

「一護、私が分かるか?」

「何言ってるんだよ、ルキア」

「一護!」

ルキアは顔を輝かせて、一護を抱きしめた。

けれど、一護の表情が変わる。

「なんだよ、白哉まで呼んで。そんなに、俺が恋しいのか、ルキア?」

「いち・・・・ご・・・・・もう、元には戻らぬのか?」

「元々こうなんだよ。さっさと帰れ、このアバズレ!」

「兄は・・・・・」

義妹を侮辱されて、白哉は怒った。

「止めてください、兄様!」

「兄は、その程度の男なのか!涅マユリ程度に記憶を操作されて、愛しい者のことも忘れる程度の・・・・・・」

白哉が抜き放った千本桜の刃を、一護は自分の太ももに突き刺していた。

「兄は・・・・・?」

「いってぇええええ。でも、これでまともに思考できる。白哉、もう1回あの記憶置換を使ってくれ。それで、元に戻るはずだ。ルキア、愛してるからな。たとえ、記憶を歪まされても、俺が心の底から想っているはお前だけだ」

白哉は、一護に言われた通り、記憶置換を使おうとした。

三天結盾、私は拒絶する!」

「井上、そこまで・・・・・」

「黒崎君は渡さない!」

「この程度の結界。笑止」

ずっと、結界の中に白哉は踏み込む。千本桜を始解させて、結界を粉々にして、一護にもう一度記憶置換を使った。

「井上。もうやめろ」

「黒崎君・・・・・うわああああああああああああん」

泣きだした井上を抱き締めて、太ももから血を流しながら、一護はその頭を撫でた。

「ごめん。お前を選んでやれなくて、ごめんな」

「うわああああん」

井上は大泣きした。

「一護、太ももの怪我を見せろ!」

「ああ、これくらい大丈夫だ。ごめんな、ルキア。ルキアにも辛い想いをさせて」

「兄は・・・・もう、元に戻ったようだな。私の出番はここまでだ」

ふっと、瞬歩で白哉は去ってしまった。

「ルキア、帰ろう。俺たちの家に」

「うああああん、黒崎君、黒崎君、黒崎君、いかないでえええええ」

「井上。今回ばかりは、お前に幻滅したよ。さようなら」

「いやあああああああああ」

泣き叫び、暴れ出す井上を放置して、ルキアを連れて一護は自分の家に戻った。一度まとめてもっていった荷物は、ルキアが持った。

「はぁ。疲れた」

一護の家についた。

「まずは、傷の手当てせねば」

井上には、治す余裕もないだろう。

ルキアの回道で血止めをしてから、傷口を消毒して、ぐるぐると包帯を巻いた。

「俺、決めた」

「何をだ?」

「俺が、死神になる」

「それは!」

まだ、答えを出すには早すぎると思ったが、ルキアはその言葉を受け入れた。

「そうだ、ちょっと待っててくれ」

「?」

一護は、たんすをごそごそと探りだした。

それから、小さな箱を取り出した。

「手、出してくれ」

「うむ」

素直に手をだすと、ルキアの細い指に、指輪がはめられた。

「貴様、これは?」

「3年前・・・・お前が、出ていく前に買っておいた、エンゲージリングだ」

ルキアは目を見開いた。

それから、アメジストの瞳から涙を零した。

「一護、貴様は、3年間ずっとこれを・・・・」

「ああ。高かったから、処分に困ってて、売ろかとも思ったんだけど、それだけは残しておいたんだ。受け取ってくれ、俺の想いを。結婚してくれ、ルキア」

「いちご・・・・・・・」

ルキアの指にはまったエンゲージリングは、中央に花形にカットされたアメジストがあしらわれていた。

「一護、大好きだ。愛している」

「俺も好きだ。愛してる。俺が、死神になる。ルキアに、寂しい思いはさせない」

「まだ、5年も猶予があるのだぞ?」

「社会人になって、あれこれ柵(しがらみ)ができちまったら、いろいろと大変だろ。もういいんだ。家族には後で別れを言うし。尸魂界に行こう」

「今日は、このまま、この部屋で眠ろう。明日、尸魂界に共に戻ろう」

その日の夜は、お互いを抱きしめあう形で眠った。

夜、途中でルキアが起きて、泣いていた。

「ルキア?」

「いちご・・・私は、井上に、なんといえばよいのであろうか」

「井上のことは、もう忘れろ」

「いちご・・・・・私は、こんなに幸せで、よいのだろうか?」

「ああ、いいんだ。お前は散々悲しい目にあってきた。例え俺以外の男に抱かれて子供がいようと、俺が許す。俺を信じろ。俺は、お前だけを愛しぬく」

「一護・・・・・・・」

唇が重なった。

そのまま、体を重ねた。




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交差する想い

時間が経つのはあっという間で。

2週間が過ぎた。

「おいルキア、学校行くぜ」

「待ってくれ、一護」

記憶置換で、ルキアも大学4年生であるとした。

大学に通い、授業内容はちんぷんかんぷんだが、いつも一護の傍にいて、一緒に笑いあった。

一護は大学でも友達が多く、その輪の中にルキアも混ざった。

「しかし、びっくりだなぁ。この前まで、織姫ちゃんと付き合ってたのに、こんなかわいいルキアちゃんと付き合いはじめるだなんて。巨乳好きかと思っていたが、実は貧乳派だった?」

「おい、ルキアに謝れ」

一護が、怖い顔をしてその友人を睨んでいた。

「あ、ルキアちゃんごめん、別にルキアちゃんが貧乳っていうわけじゃ・・・」

「別に、よい」

ルキアは笑っていた。

一護の傍にいれるなら、少々好まぬ相手がいようと、友人としてあろうと。

昼になり、食堂に行く。

ルキアはカレーが好物で、今日はカツカレーを注文した。

「ほんとに、よく食うなぁ」

「頭を使った後は、腹が減るのだ」

カツカレーの他にサラダとデザートを注文して、それを全部食べていくルキアを、一護は呆れた表情で見ていた。

「この後の授業が終わったら、どうするのだ?」

「ルキアとずっと一緒にいたいけど、まだ井上にちゃんと別れ話してなかったから、ちゃんと身辺整理をしてくる」

「井上と、別れるのか」

「そりゃそうだろ。同時に付き合うほど器用じゃないし、そこまでクズ男じゃねーよ」

「ふむ」

「ただなぁ。ずっと、井上の携帯に電話いれてるんだけど、電源いれてないか、留守電になってて、出てくれないんだ。まさか、自殺なんてしてないと思うけど、ちょっと心配でさ・・・」

「井上には、悪いことをしたな」

「仕方ねーよ。元から、ルキアの代わりにって付き合ってたし」

「ふん、けっこうなクズ男ぶりだな」

「うっせーな。自分でも分かってるよ。だけど、原因は全部ルキアにあるんだぞ。お前が俺を捨てていくから」

その言葉に、ルキアが瞳を潤ませる。

「書置きを、ちゃんと残した」

「あんなんで、分かるかよ。ただ、捨てられた、そう思うだろう、普通」

ポロリと、ルキアの瞳から涙が零れた。

「すまない・・・寂しい想いをさせて、捨てたと思わせて、すまなかった・・・・」

「おい、こんなところで泣くなよ!勘弁してくれ!」

ルキアを抱き締めて、涙をぬぐってやると、ルキアは悲しそうな顔をした。

「今頃、井上はどれほど辛いであろうな・・・」

「井上のことは、俺がなんとかするから。どうにもならなかったら、ルキア、お前の力をかりるかもしれない」

その日の午後に、井上の家に一護はいくことになった。




ずっと、連絡をとろうとしても出てくれなくて、直接井上の家を訪れると、井上は泣いていた。

ずっとずっと、泣いていたのだろう。

まともに大学にも通わず、泣きはらした目でこちらを睨んできた。

「黒崎君・・・・・・」

「井上、ごめん。ルキアが好きで、ルキアを愛しるんだ。別れてくれ」

「嫌」

「いやっていわれても、もう俺は井上の家にはこないし、もう会わない。俺を殴ってくれても構わない。でも、ルキアを恨まないでくれ」

「いや、いやよ!黒崎君は、私のものなんだから!今更しゃしゃり出てきて朽木さんなんかに、あげない!」

「井上!」

しゅっと、何か液体をかけられた。

とたんに、眩暈を起こして立っていられなくなった。

「おやまぁ、ほんとに、簡単に罠にかかるものなのだネ。だが、それでこそいじりがいがあるというものだヨ」

「涅マユリ!?なんで現世に・・・・・」

「頼まれたのだヨ、この人間の女に。将来、死んだらその特殊能力についての実験体になるから、黒崎一護、お前から、朽木ルキアという死神が好きだという感情を奪ってくれと」

「井上・・・・・お前・・・・・」

「黒崎君が悪いのよ。私がいながら、朽木さんなんかに、また乗り換えようとするから」

意識が、暗くなっていく。

一護はいい聞かせた。

自分の魂に。

例え、死んでも・・・・・ルキアを忘れるな。

忘れるくらいなら、死のうと。



いつまで経っても、一護は帰ってこなかった。

心配したルキアは、念ために教えてもらっていた井上の家を訪れる。

「あははははは、黒崎君はこれで私のもの。朽木さんになんか渡さない」

部屋の中で、笑っている井上を見つけた。

傍らには、ぼんやりとした表情の一護。

「井上、一護に何をした!?」

「あははは、残念でしたー。もう、黒崎君はあなたのことなんて、好きじゃないって。私のことだけを見てくれるって」

「何を言っておるのだ、井上。一護、おい一護!」

かすかだが、涅マユリの霊圧を感じた。

何かをされたのだと分かったが、どういう状況なのか飲み込めなくて、ルキアは一護を抱き締めた。

「さわんなよ」

「・・・・一護?」

「もう、ルキア、お前とは終わりだ。俺は、井上と結婚する」

「え」

「俺も、もう21だからな。結婚できる。来月にでも、式を挙げるつもりだ」

「一護?」

「そんな泣きそうな顔しても、もうお前には飽きたんだ。勝手に俺裏切って、俺を捨てておいて、今更やり直そうなんて、むしが良すぎるんだよ!」

じくじくと、心臓から血があふれ出しそうだった。

「一護・・・いやだ、私を捨てないでくれ」

「うっせーな。俺は井上のほうがいいんだよ!このアバズレ!」

「いち・・・・ご・・・・・」

ルキアの、アメジストの瞳から、たくさんの涙が溢れてくる。

つっと、頬を伝う涙は止まらない。

「いやだ、いちご、いちご、いちごおおおおおおおおお!!!」

一護に抱き着いて泣き叫ぶと、一護がルキアを蹴った。

「あう!」

「俺、この井上の部屋で新婚生活スタートさせるから。じゃあな、ルキア」

「いち・・・ご・・・・・うわあああああああああ」

ルキアは、泣きながら、井上の家を後にした。

そして、一護の部屋に戻ると、ベッドにもぐりこみ、カタカタと震えながら、丸くなった。

あの、優しかった一護が。

この2週間、ずっと私だけを見てくれていた一護が。

どうして。

「どうして?」

一護のためなら、恋次や兄様も、死神とての長い寿命も捨て去ろうとさえ思ったのに。

一護が、私ことが嫌いだという。

裏切者だと。

アバズレだと。

「私は・・・・・」

ルキアは、一晩中泣きあかした。

そして、けれど決意する。このまま現世に戻ったら、永久に一護は戻ってこない。

確かに、涅マユリの霊圧の名残を感じたのだ。

一護は、マユリに何かをされたのだ。

もう一度、明日一護のところに行こう。それでダメなら兄様の力を借りよう。

そう思った。

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白哉との約束

現世にきたとき、白哉と約束をしていた。

もしも想いが実らず、振られたのならば、もう一生現世にいかぬようにと。たとえ、黒崎一護が寿命を迎え、その魂魄が尸魂界に来ても、決して会うことなどするなと。

ルキアは、遠くから一護の姿を見守っていた。

一護の隣には、井上がいた。

にこにこと笑んでいて、楽しそうだった。一護と一緒にいて、幸せそうだった。

本来なら、あの場所は私のもの。

そう思った。

なんて醜い。愛した人を裏切り、捨てて、一度尸魂界に戻り、理由も告げずに他の男と婚姻し子供までもうけた自分。

それなのに、あの位置に戻ることを欲していた。

二人のあとをつけて、水族館に入った。

ふわふわと揺れる海月が、まるで自分に見えた。

世界の片隅で、一護を求めてふわふわと漂う海月。一護をその、触手の先にある毒でからめとって、自分の傍まで落としていきたい。

海月はまるで私だ。

何処に行く当てがあるわけでもなく、ふわふわと世界を漂う。

触手で一護を絡めとって、毒で自分のものにしてしまう。

井上など、いなくなってしまえ。

一護は、私のものだ。

井上など、存在しなくなれ。斬魄刀で、井上を切り裂いた。そして、放心している一護に「貴様は私ものだ」と囁いた。

ああ、なんて醜いこの想い。



はっと起きると、一護の部屋だった。

「夢か・・・・なんて酷い夢だ」

井上をその手にかけるなど。寝汗をかいていたので、一護に頼んで朝のシャワーを浴びせてもらった。

昨日のうちに処理したのか、井上のものとおぼしきシャンプーはなくなっていた。

一護の使っているシャンプーで髪を洗い、ボディーソープで肌を洗った。

シャワーからあがると、いい匂いがしていた。

「おい、ルキア。スクランブルエッグでもいいよな?トースト焼いたから、服着たら皿だして冷蔵庫からバターだしてくれ」

「ああ、分かった」

ルキアは、昨日とは違うワンピースを着た。今は5月。

一護と別れて、ちょうど3年と少し。

服を着たルキアは、皿をだしてトーストを置くと、冷蔵庫からバターを取り出して、二人分のバターをトーストに塗った。

「なぁ、今度はいつまでこっちにいられるんだ?」

一護が、トーストをかじりながら、聞いてくる。

「兄様と、約束をしたのだ。想いが実らずに振られたら、もう一生現世にはいかぬと。その代わり、想いが実ったのなら、5年の期間を与えると」

「5年?そんなにいられるのか」

ルキアは教えてくれた。

4大貴族にしかならない奇病のせいで、13番隊副隊長を引退したこと。その後、病が癒えたとはいえ、心の傷になっていて、とても13番隊副隊長に復帰できないこと。

全ての決着次第で、現世には永久にいかぬこと。ただし、想いが実ったのであれば5年の期間を与え、その間に人間になるか、死神のままでいるかを選ぶこと。

「人間になる?ルキアが?」

「そうだ。兄様と話しをつけたのだ。5年後のありよう次第で、私は朽木ルキアという名を捨て、ただのルキアになる。尸魂界から、追放という形で」

「そっか・・・そこまで、白哉が・・・・」

一護は、しんみりとしていた。

そして、今までの3年間どうしていたかを今度は教えてくれた。

翻訳家を目指している。

始めは、医者を目指していた。だが、頭がそこまでよくないし、インターン生など、寝る間もあまりないという。ルキアのことを考えると、インターン生は無理だと思った。

石田とスマホで直接話したが、石田はすでにインターン生として忙しい毎日を送っているという。茶虎も、プロボクサーとしてもう名前は世界中に響き渡っている。

英語もそこそこ話せるが、英語は翻訳できる者が多いため、ドイツ語を選んだ。

3年生の時、3か月間留学した。

ドイツ語はもう日常会話も平気でできて、分厚い本でも読むことができる。

4年生になった今は、就職先の出版社を探している。

井上とは、ルキアが去った次の日には会い、慰めてもらい、誘われて誘われるまま、蛾が蛍光灯に群がるように抱いて、3年間付き合っていたこと。

将来、結婚も視野にいれていたこと。

そこにルキアがやってきて、全ての未来像が大きく歪んだこと。

「私は・・・・本当に、これでよかったのだろうか」

愛する者を、たとえ病のためとはいえ、産んだ子供を尸魂界に永久に残すかもしれないことに。

「俺は、お前の子なら、たとえ俺の血を引いていなくても育てるぞ」

「心配ない。四楓院家の姫君として育ててくれると、四楓院夕四郎咲宗殿がおっしゃってくれた」

「俺以外の男のことは考えるな。忘れちまえ」

「うむ・・・・」

「そうだ、今日は休みだし、昨日の水族館にもう1回行かねーか?なんか、昨日のままだと、酔い思い出にならないから」

「でも、井上が・・・・デートなど、してよいのだろうか」

「井上のことは、俺に任せてくれ」

きっちりと、別れ話をすると。

そう言ってくれた。

その日は、昨日きた水族館に来ていた。昨日は違う彼女と。今日は本命と。

たいした、クズ男だ。

自分でも嫌気がさす。

「海月・・・・好きなのだ。まるで私のようだ」

ふわふわと漂う海月を見ていた。

飽きもせず、10分くらい眺めていた。

「もういいだろ。次、行くぞ」

「ああ」

一護の隣に、またいれる。

恋次には止められたが、私はきっと、人間として生きる道を選ぶ。

朽木家を捨てて。

ただの、ルキアになる。

もともとがそうであったように。

恋次と、義兄の顔がちらついた。気づけば、涙を流していた。

「ルキア?どっか痛いのか?」

恋しい。

恋次が。白哉が。

人間になると、全てを捨てなければならない。

そのことを素直に一護に話すと、一護は別の方法はないかと言ってきた。

「別とは?」

「俺が、死神になる、方法だ。本物の死神になる方法」

「あ・・・・・・」

そんな可能性、一つも考えていなかった。

白哉に伝令神機で連絡をとると、死神化できるのなら、本当の死神になる方法もあると言われた。

「でも、一護、貴様が死神になれば、家族と・・・・・・」

「家族より、俺はルキアをとる」

「一護・・・・」

涙が溢れた。

「愛してる、ルキア」

「愛してる、一護」

その二人の姿を、呪うように見ている女がいることなど、二人は気づかなかった。

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ルキアと一護の悲しみ

「兄様!一護も、双方剣を収めてください」

ルキアだった。

3年前と、何一つ変わっていない。

アメジストの瞳も、髪も背丈も細さも。その心の中にある強さも。

白哉は、千本桜をしまった。

一護も、死神化を解いた。

「あとは、当人たちでやれ。ルキア、病の説明はしておいた。あとは、一護次第だ」

さっと、音もなく白哉は去っていった。

「ルキア・・・・」

「黒崎君!」

はぁはぁと、荒い息をついて、井上もやってきた。

「井上・・・・」

「やだよ、黒崎君!私を捨てないで!」

井上はボロボロ泣いていた。

ずきりと、一護の心が痛んだ。

「俺は・・・・・・」

ルキアか、井上か。

ふとルキアが悲しそうにアメジストの瞳を伏せた。

「よい。もうよいのだ、一護。貴様を待たせすぎた私が全ての元凶なのだ。一護が、まだ私を想っていてくれている。それが分かっただけでよい。もう、現世には・・・・・」

ルキアの目を見開かれた。

ルキアは、一護の腕の中にいた。

「そんな・・・・・黒崎君・・・酷い!」

井上は、ぼろぼろと泣きながら走り去ってしまった。

「ルキア、ルキア、ルキア・・・・・・・」

3年だった。

たった3年。でも、もう3年。

一護は、泣いていた。

「愛してたんだ。ずっとずっと、愛してたんだ。好きだっていう感情を封印して、お前と思い出のつまったものは全部処分して、お前のものも処分して・・・・・」

「一護・・・・愛している、一護。泣くな・・・・・私まで、涙が・・・」

二人で、青空の下で泣いた。わんわんと、声をあげて。

しばらくして、一護は泣き止んだ。ルキアは、まだ泣いていた。

「しばらく、こっちにいるんだろう?白玉餡蜜と、夕食の材料、買いにいこうぜ」

「一護、井上とは・・・・・」

「もう、いいんだ。俺は酷い男だから。井上とは別れる」

「でも、それではあまりにも井上が!」

「なら、お前が身を引くか?引いても、手放さねーけど」

一護が、ブラウンの瞳で優しくルキアを見ていた。

「一護・・・・もう、手放さないでくれ。私は貴様のもので、貴様は私のものだ」

唇を重ねなった。

3年ぶりになるキスだったが、甘い味がした。


3年前、別れた時のようにハヤシライスに白玉餡蜜だった。

「尸魂界に戻って、後悔したのだ。やはり、事情を説明してくるべきだったかと。だが、兄様に言われた。何も言わずに、ただ黙して病を癒せと。事情を説明したらしたで、貴様を苦しめるだけだと分かって、私は兄様の言葉に従った。だが、事情を説明しないほうが、傷つけてしまったのだな・・・・・・・・」

「もういいんだ、ルキア」

ハヤシライスを食べて、白玉餡蜜を口にして、ルキアは幸せそうだった。

「貴様と、またこうして肩を並べ合うことができるとは、思っていなかった」

「俺もだ。浦原さんに頼んでも、尸魂界に行けなくて、ルキアは俺を捨てたんだと思っていた」

「違うのだ、一護!捨てたわけではなく」

「ああ。病の治療のためには、どうしようもなかったんだろ?四楓院夕四宗郎咲って人、優しかったか?」

「ああ。病のためだと分かっていてたが、本当の妻のように扱ってもらった。子は、置いてきたが・・・女の子で、名前は苺花という。一護の名前を与えたかったのだ」

「そうか・・・・」

その日、一護とルキアは褥を共にした。

「あ、一護・・・・」

ルキアの、子を産んだせいか、少し膨らみが大きくなった胸に手を当てる。

「すげードキドキしてる」

「当たり前だ。子を成すために交わったのは一度だけ。涅マユリの薬を飲んで、100%妊娠できるようにして抱いてもらった。儀式的なもので・・・貴様とは全然違う」

「俺の胸も触ってみろ」

「ん・・・ドキドキしてて、暖かい」

唇を重ねあう。

「一護、好きだ、愛してる。ずっとずっと、この3年間貴様を想っていた」

「俺もだ、ルキア。お前に捨てられたと思っても、心の何処かにはお前がいた」

ルキアの秘所に手を伸ばす。

そこは潤み、一護がくるのを心待ちにしていた。

「こんなに濡れてる・・・・・」

「ああっ・・・・夕飯を、食していた時から・・・夜はこうなるかもしれないと、思って、ずっとずっと、体が疼いて・・・・・」

ずっと、一護がルキアの中に侵入する。

「ああ!」

「いいか?」

「あ、きもちいい、一護。もっと奥まできて」

もう処女ではない。まして、違う男に抱かれ、子を産んだ。

でも、そんなこと信じられないくらい秘所はせまくて、そしてぶちぶちと音がして、秘所から血が流れ落ちた。

「おい、血が・・・・・」

「あ、良いのだ。涅隊長に頼んで、処女膜を再生してもらっていたのだ」

「ルキア・・・」

せめて、心の中では一護に操を立てるように。

ルキアは病気が治っているかどうか4番隊に診てもらい、呪術的な病気であるからと、12番隊にも診てもらった。他の男と交わったことは消せないが、処女膜を再生できると打診されて、それに縋りついた。

「あ、あ、あ・・・・・」

一護が突き上げると、ルキアは甘い痺れを感じた。

「ああ、一護・・・・ああああ!」

このベッドで、井上を抱いたのだ。

その罪悪感を抱えたまま、ルキアを貫いた。

「いああああ!」

前立腺のある場所ばかりをくちゃくちゃといじってやると、ルキアは呆気なくいってしまった。

「ああああ!」

一護も、ルキアの中に欲望を放った。

行為の後、二人で湯浴みをした。行為前にも湯あみしたので、ただ情事の後を流すためだけに湯船に浸かった。

「このシャンプーとかリンス・・・・」

「ああ・・・・井上が、よく泊まりにきたから。でも、全部処分する」

「そうか」

一護は、もう井上を忘れ去るほどにルキアに夢中になっていた。

ちくちくと、ルキアの心が痛んだ。

「井上、すまぬ」

そう呟いた。




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悲哀色狂病

「黒崎君!やだよ、黒崎君!朽木さんの代わりでいいって、確かにいったけど、黒崎君はもう私のものでしょう!?」

井上が、ポロポロ涙を零しながら、ルキアを抱き締めた一護の体を揺さぶっていた。

一護ははっとなって、ルキアを離す。

「ごめん、井上。ルキアもごめん」

走って、一護は逃げ出した。

最低だ。

今の彼女である井上を泣かした上に、戻ってきたルキアに心を持っていかれそうになった。

「俺は・・・・・・」

井上が好きだ。でも愛してない。

ルキアはもう好きじゃない。でも愛してる。

「最低だ、俺・・・・・」

二人の女の子を泣かせて。

今更、どんな顔をしてルキアの手をとればいい?

ルキアのいつか戻ってくるかもしれないという手紙を信じず、井上と付き合いだして。

井上との未来を想像しだしていた。

井上は知っている。一護が、まだルキアのことを愛していると。

一護は、本当に逃げ出した。

家に帰り、鍵をかけて、スマホの電源も切った。

「もう俺のことは放っておいてくれ・・・・」

ルキアも井上も。

傷つけるだけで、どちらの手も握れない。最低のクズ男だ。

一護は、もうこれ以上、傷つくのも傷つけるのも嫌だった。




「井上・・・・一護と、付き合っているのだな」

取り残された水族館で、ポロポロお互いに泣いて視線を集めていたので、いったん外に出た。

「もう、黒崎君は私のものだよ。例え、朽木さんにだって渡さない」

「一護は言った。もうお前とは終わっているのだと。でも、だったら、なぜ抱き締めた?」

ぐっと、井上が言葉につまる。

「朽木さんは、同じ4大貴族の四楓院家の当主と結婚して、子供を産んだんでしょう?もう、そんな穢れた体で、元の鞘に収まろうなんてずうずうしすぎる!」

「そうだな。少し前の私は、四楓院ルキアだった。だが、世継ぎを産み、病を克服して、私は戻ってきた」

「・・・・病?」

「一護には言わなかった。4大貴族にかけられた、呪いのような病だ。同じ4大貴族と結ばれ、子を成さなければ、色狂いになって死んでしまう奇病。「悲哀色狂病」というのに、私はかかっていた」

「悲哀色狂病・・・・」

「私は養子だから大丈夫だと思っていたのだ。だが、4大貴族であることが病気の原因なのだ。兄様の母君も、この悲哀色狂病にかかってお亡くなりになられた。兄様が、私を助けるために、四楓院家の当主である四楓院夕四郎咲宗殿との婚姻をなせるように取り計らってくれたのだ。子をもうけ、次の次期当主を産み、私は悲哀色狂病を克服した。一護が、待っていてくれるのであればと思ったが・・・・もう、遅いのだと分かっていたのだ。でも、一護は私を抱き締めてくれた」

ルキアは顔をあげた。

もう、泣いていなかった。

「井上、貴様には悪いが、一護は私がもらっていく」

「この卑怯者!病気だったからって、それが何!黒崎君は、今私と付き合っているの!体の関係だってあるんだから!」

その言葉に、ルキアの瞳が潤んだ。

「そうか・・・・一護は、井上と・・・・」

「たとえ、代わりでもいいからって最初は思ってた。でも、もう戻ってこないからって、黒崎君の方から求めてきてくれた。黒崎君を渡したくない。たとえ朽木さんでも!」

井上の決意は固いようだった。

昔の井上のような優しさは、今は感じられない。それはそうだろう。一護を一度捨てておきながら、また奪おうとしているのだから。

「私は・・・・卑怯でかまわない。また、一護に会いにいく。その時に、一護に答えを聞かせてもらう」

ルキアは、伝令神機を取り出して、尸魂界と連絡をとった。

「すまないが、しばらくの間こちらに残ることになりそうだ。兄様に、くれぐれも手を出さないようにと、言っておいてくれ、恋次」

「いや、もう無理だルキア。隊長のやつ、もう現世に行っちまった」

「何!?」

「見ていたんだってよ。水族館で、他の女連れてたの。ルキアを抱き締めてから逃げ出して、隊長は舌打ちして一護の後を追っていった」

「兄様!」

ルキアは、一護の家に走って向かった。

井上はわけがわからなかったが、とにかく黒崎君に会わなきゃと言って、ルキアの後を追った。




「ここを開けよ、黒崎一護」

「・・・・・・・・・」

「開けぬなら、無理やりこじあける」

「なんだよ・・・・白哉。お前の大切な義妹は、俺を裏切って、俺以外の男を選んで子供を産んで・・・・」

つっと、千本桜の切っ先が、一護の首に当てられた。

「ルキアが、本当に兄を裏切ったと思っているのか?」

「そうじゃねぇか!同じ4大貴族の四楓院家の当主と婚姻して、子供まで孕んで・・・無事生まれたんだろう?よかったじゃねぇか。姪っ子か甥っ子かどっちか知らねーが、子供ができて」

「貴様は、本気でそう思っているのか?」

「何がだよ」

「ルキアが、本気で貴様を裏切ったと、思っているのか?好き好んで、お前をいたぶったとでも?」

「もう、ルキアとは終わったんだ」

切っ先が、少し肌に食い込んだ。血が流れる。

一護も、死神姿になった。

「なんだよ、白哉。言いたいことあるなら、はっきり言いやがれ!」

斬月に手をかけて、白哉の千本桜を押しのけた。

「ルキアは・・・・・貴様に何も言わなかったのだな。ルキアは、4大貴族の者にだけかかる特殊な病気にかかっていた。養子であるから、大丈夫であろうと思っていたのだ。病の名は「悲哀色狂病」私の母も、この病気で死んだ」

長々と、病気の説明をされた。

「なんだよそれ!そんな病気本当にあるのかよ!じゃあ、ルキアは俺を裏切ったわけじゃなく、病気を治すために、愛してもいない男と結ばれて子供を成したっていうのかよ!」

「兄の言う通りだ」

「そんな・・・ルキア・・・・・」

一護は、世界が真っ白になった。

ルキアに拒絶されて、裏切られたのではないのだ。ルキアには、やむにやまれぬ事情があり、四楓院家に嫁ぎ、操を捨てて、子を成して・・・・愛してもいない四楓院家の当主と。

「ルキア・・・・・」

戻ることなら、3年前に戻りたかった。

病気の説明を受けて、納得した上で、ルキアと一時的な別れをしたかった。

でも、もう遅い。3年経った。

僅か3年だ。けれど、もう3年だ。

「兄ら人間には3年の月日は長いであろう。私たちには一瞬でもある。だが、ルキアの3年は長く、そして悲しく苦しく・・・・兄である私が断言しよう。ルキアは、貴様のことだけを想い、貴様のことを今も想い続けている」

「ルキア!」

一護は、叫んでいた。

会いたい。

ルキア。

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悲しみの一護

次の日、現世にまだいると言っていたルキアの姿がなかった。

ただ、書き置きだけが置かれていた。

(すまない、一護。きっと謝っても仕方のないことだと思う。私は、もう朽木ルキアではないのだ。四楓院ルキア。四楓院夕四郎咲宗殿と、婚礼をあげ、お腹にはもう子がいる。お前の朽木ルキアは死んだのだ。朽木ルキアは、最後までお前を愛していた。それだけは本当だ。いつか、朽木ルキアに戻る時がくるかもしれない。その時まで、愛していてくれるのなら、待っていてくれ)

「なんだよコレ・・・・ルキア!いねぇのかルキア!」

どんなに探しても、ルキアの姿はなかった。

浦原のところにいき、尸魂界まで送ってくれというと、拒否された。

「いやー、朽木さんに硬く禁止を食らいましてねぇ。朽木白哉さんのほうからも圧力がかかって・・・黒崎さんを、尸魂界に行かせることはできないんす」

「なんだよそれ・・・・・」

一護は、目の前が真っ暗になった。

昨日、はじめて睦みあって、これからだという時なのに。

ルキアは、俺を裏切っていたのか?

子供がいるってことは、高校時代から?

いつか朽木ルキアに戻るかもしれないから、その時まで愛しているなら待っていてくれ?

随分と、自分勝手だな、ルキア。

「・・・・・・もういい浦原さん」

伝令神機にメールを送る。

着信拒否になっていた。

「ルキアのバカ野郎ーーーーーーー!!!」

一護は、家に戻ると泣いた。

ルキアのことが、大好きだった。

たとえ、結婚していて、誰が違う他人の子を孕んでいても、愛する自信はあった。でも、拒否された。

いつか朽木ルキアに戻る時はくるかもしれないから。

そんな、可能性の言葉、信じられなかった。

「ルキア・・・・」

昨日の、ルキアの泣きそうな顔を思い出す。お腹は平らだった。多分、妊娠してまだ1か月も経っていないと思う。

「ルキア・・・・」

ルキアのいないこの世界は、真っ暗だった。

ルキアが、例え遠くても居ると思うから、頑張ってきた。

でも、もうどうでもいい。

ルキアに捨てられたのだ。

もう、俺がルキアを愛しても、ルキアは俺を愛してくれないのだろうか。

一護は、携帯からルキアのメールアドレスを削除した。

そして、一護は、井上に電話をかけた。



尸魂界には、何度か浦原のところに行けないかと頼みんでみたが、やはり無理だった。

今、一護は井上と付き合っていた。

井上はかわいい。

俺のことを愛していると言ってくれるし、何より裏切らない。

井上と、何度か体を重ねた。

ルキアと別れて、3年の月日が流れていた。

「井上、今日は俺の部屋に泊まってけよ」

「え、いいの、黒崎君」

「お前がよければだけどな」

一度、井上を抱いた時にルキアと呼んでしまい、とても悲しそうな目をされた。でも井上はいう。ルキアの代わりでいいから、傍に置いてくれと。

一護は、井上を好きなんだろう。多分。愛しているとまでは言えないが、好きだとは言えた。

「井上・・・・好きだ」

「あ・・・黒崎君、私も、黒崎君のこと大好きだよ」

体を重ねながら、ふとルキアの最後の手紙を思い出す。

(いつか、朽木ルキアに戻る時がくるかもしれない。その時まで、愛していてくれるのなら、待っていてくれ)

もう、3年だ。

1年目は待った。

井上と友達からスタートしながら。

2年目になって、諦めがついた。

3年目になり、絶望が残った。

もう、ルキアは戻ってこないのだ。

尸魂界には、もう行こうとも思っていない。

今は、井上がいる。

でも・・・・心の中では、ルキアをまだ愛していた。

だから、井上に好きだとは言うが、愛しているとは、言えなかった。

「井上、明日暇か?」

「うん、どうしたの、黒崎君」

「なんか、俺の家にきて俺の飯ばっかくって、一緒に泊まるだけだろう、最近。デートしようぜ。水族館のチケットとってあるんだ」

「水族館?わぁ、嬉しい!久しぶりのデートだね!」

このまま、ルキアを忘れて、井上と結婚して暖かい家庭を築こう。

そう、思い始めていた。

いつかと、ルキアのために用意しておいたエンゲージリングは、値段のせいもあって捨てられないまま、タンスの中にしまってある。

置いてあったルキアの衣装は全て処分した。

この部屋に、ルキアの物はもう何もない。ただ、エンゲージリングだけが冷たくタンスの中で眠っている。いつか、ルキアにプロポーズするときのために置いておいたものだから。

次の週の日曜日、水族館で待ち合わせをして、井上と水族館の中を回った。

イルカショーなどを見たりした。

井上は熱帯魚がお気に入りなのか、アマゾンの熱帯魚コーナーにずっと張り付いていた。

「井上、次いくぞ」

「はーい」

ふと海月(くらげ)のコーナーにきた。

ふわふわとただよう海月が、癒しの感覚を与えてくれる。

そういえば、高校時代ルキアとデートした時、海月をみてそれをルキアはじっと眺めていたな・・・そんなことを思いながら、海月を見ていると、アメジストの瞳と目線があった。

ここに、いるはずがない。

ついに、恋しさのあまり幻覚まで見るようになったのだろうか。

だが、そのアメジストの瞳は本物だった。いつか大学の授業を受けた時と同じようなワンピースに、ファーのついたコートを羽織っていた。

「一護・・・・・・」

「ルキア!?」

「一護、愛している」

ぽろぽろと、涙を零しながら、こちらにくるルキアに、井上がきっと顔をあげた。

「こないで!朽木さん、黒崎君は今私と付き合っているの!あなたが、黒崎君を酷く捨てたんでしょ!こないで!現世にこないで!尸魂界に帰って!」

「一護・・・・・」

「帰れ、ルキア。お前とは、もう終わった・・・・・」

ルキアは、とても傷ついた顔をしていた。

「そうか・・・・やはり、待ってはくれなかったのだな。分かった。もう二度と、現世には・・・・・」

井上が見ていた。

井上のことが好きだ。

ルキアは俺を捨てた。

他の男を選んだ。

ルキアに裏切られた。

それでも。それでも。





「ルキア!」




気づくと、その細い体を、抱き締めていた。





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卒業

「うわーん、別れたくないよう、黒崎君」

井上が、わんわん泣いていた。

一護は無事、志望校に合格し、4月からは大学生だ。

その日は、卒業式だった。

ルキアが、現世にいられる最後の日。

「卒業おめでとう、ルキア」

「貴様もおめでとう、一護」

ルキアは、死神に戻るが、進路先は家の家業を手伝うことになっていた。

桜はまだ咲いていない。

高校の卒業式は、桜の季節よりも少し早い。少しだけ長い春休みを迎えて、それが終わったら、大抵の者が大学生になる。一部はもう就職だ。

「桜・・・・咲いてたらよかったのにな」

「仕方なかろう。桜の咲く時期に、また一護に会いにいく」

「ああ、待ってる。ずっと待ってるから」

石田も、茶虎も、井上も大学に進学する。石田は将来医師として、茶虎はプロボクサーとしてという、しっかりとした夢があった。

井上と一護くらいが、まだぼんやりとこうなりたいかもしれない、という程度の夢を抱いていた。

一護は、できれば翻訳家になりたいと思っていた。

なので、国際系の大学を受験して合格した。英語の成績はいい。

「帰ろうか、家に」

「ああ」

友人たちに別れを告げて、一護とルキアは手を握りしめあいながら、帰宅した。

その日の夜は、最後なのでたくさん話した。

たくさん抱擁しあった。たくさんキスをした。

やがて、次の日になり、義骸を脱いで死覇装の死神姿になったルキアが、穿界門の中へ消えていく。

「メール送るから!返事くれよな!」

「ああ、分かっている!」

ルキアは尸魂界に戻ってしまった。

一護は、少し寂しい想いを抱えたまま、けれど霊力をなくした時は1年と7か月も耐えたのだ。

今は伝令神機でメールのやりとりもできる。

(愛してる、ルキア。どんなに離れていても、心はお互い一つだ)

(もう早速、寂しいのか?貴様も寂しがり屋だな)

(悪いかよ。この3か月、ずっと毎日お前といたんだ。寂しくなるの、当たりまえだろう)

(正直、私も少し寂しい。だが、私はこれから尸魂界の復興を手伝っていかねばならぬ。もう時間だ、返信はまた今度にする)

そのまま、メールは途絶えた。


大学が始まった。

桜の花が咲く季節、約束通りルキアがやってきた。

「ルキア!」

「一護!」

大学の、桜の木の下で、抱き締めあった。キスをした。

ちらちらと散っていく桜の下で見たルキアは、長袖のワンピースにフリルのついたコートを羽織っていた。

かわいいと思った。

背中には、チャッピーの鞄。

「メールの連絡がないから、来てくれないのかと思った」

「たわけ。メールではなく、ちゃんと貴様と言葉を交わしたかったからだ」

入学式も終わった大学は、新入生であふれかえっていた。けっこう大きめの大学に入学したので、大学のキャンバスも広い。

「俺、今日は授業あるから・・・お前も一緒に受けるか?」

「ああ」

尸魂界ではやっと復興のメドが経ってきたらしい。ユーハバッハとの大戦は大きな爪痕を瀞霊廷に残し、特に1番隊あたりは焦土となって何も残らなかったらしい。

住民の避難は完了していたので、住民への被害は少なかったが、死神の実に過半数が死んだ。

山本元柳斎重國、卯ノ花烈、浮竹十四郎。

3人の死は、瀞霊廷に大きな衝撃を与えた。

特に、山本元柳斎重國は総隊長であるだけあって、戦時中に走った衝撃は計り知れず、一護も言葉をなくしたほどだ。

「尸魂界、今大変なんだろ?こっちにきて大丈夫なのか?」

「確かに大変だが、総隊長より特別の許可をいただいている。非番の日は、こちらにきてもいいように取り計らってもらっていて、その分通常の仕事は大変だが、今のところなんかなっておる」

その言葉に、一護はほっとした。

英語の授業をルキアと一緒に受けた。少人数制だったので、無理かと思ったら、そんなことに使っていいのかと思う記憶置換を使って、ルキアは生徒の一人として教室で認識された。

「ではここを・・・朽木ルキアさん。解いてください」

「え?」

ルキアは真っ青になった。

英語は得意にちんぷんかんぷんで、テストの点はいつも10点くらいだった。

教科書もないので、教授が訝しみだす。

「おやぁ?何故教科書がないのですか。そもそも朽木さんは・・・・おや?そんな生徒、いたかな・・・・・」

「失礼しました!」

ルキアは逃げ出した。一護も、トイレといって、ルキアの後を追った。

「うーん。浦原のところで買った記憶置換は、効能がいまいちだな」

「そんなもんに頼らずに、素直に待ってればよかったのに」

「貴様の傍に、少しでも長くいたかったのだ」

「そっか・・・この食堂で、悪いが待っててくれ。カレーでも食っとけ。金はあるよな?」

「背中のリュックに200万いれておる」

「おい、それ生徒の前で見せるなよ。ったく、白哉と一緒で金銭感覚ずれてるんだから。俺は授業の続きに出てくる。将来の夢のための一歩なんだ」

「そうか!では行ってこい!」

ルキアは、一護を見送った。

「さて・・・・・」

ルキアは、カレーを注文して、美味しそうにほうばった。

一護は30分程で授業を終え、ルキアのところにきた。

2杯目のカレーを食べているルキアに苦笑しつつ、一護もカレーを注文した。

一護はエビフライつきのカレーを頼んでいた。ルキアがじーっと、一護のエビフライを見つめているものだから、溜息を零しつつ、エビフライをルキアの皿にのせた。

「すまんな!」

「食い意地だけは一人前だな」

「うるさい」

また、この何気ない日常が、たとえ1日だけとはいえ戻ってきて、一護は安心する。

一護は、もう一人暮らしを始めていた。金はないので、将来ためて返すという約束で、父親である一心から、金をかりてアパートをかりた。バイトもしている。大学の授業料は、一心が「息子の教育を最後まで見届けるのが親の責任だ」といって、全額負担してくれるらしかった。

私立だったので、正直バイトで金をためても、食費くらいしか稼げそうになかった。将来仕事を得ても、奨学金を返すのは辛いところだったので、父親の言葉に甘えた。

「次の授業は、クラス制じゃないから、普通にでれるぞ」

「そうか」

昼飯を食べ終えて、次は日本歴史の授業だった。

ルキアと隣同士で、授業を受けた。ルキアが、伝令神機で一護にメールを打つ。一応授業中なので、私語は厳禁だった。

(実は、明日も現世にいれるのだ。今日は授業が終わったら、貴様のアパートに泊まってもよいか?)

(ああ、かまわねーよ。ただし、一人暮らしようだから狭いぞ)

(狭いのはあの一護の部屋の押し入れで慣れておる)

「ぶっ・・・・」

一護が吹き出した。

(笑うな、愚か者)

(はいはい。夕食は何がいい?)

(カレーは昼に食べたし・・・・ハヤシライスがいい)

(分かった)

授業が終わり、一護はルキアと買い物をして帰った。

夕食は、ルキアの希望通りハヤシライスにした。そして特別にデザートに白玉餡蜜の材料を買い、デザートとして出すと、ルキアは顔を輝かせてそれを食べた。

「うまい。一護の作る料理は、うまいな」

何度か、高校時代手料理を作って、ルキアに食べさせたことがあった。反対にルキアが作ることもあったが、簡単なものしか作れなかっし、料理は得意ではなさげだった。

一護は、今ラーメン店でバイトしていた。その前は中華料理店。大戦のあと、なんでも屋のうなぎ屋をやめたのだ。

「ルキアとこうして、日常を過ごせるのって幸せだな」

「ああ、私もだ」

その日、二人は初めて体を重ねた。

「ルキア・・・綺麗だ」

白い肌も露わなルキアは美しかった。肌はすべすべで、手に吸い付いてくるかのようだった。

僅かな膨らみしかもらぬ胸を優しくもんで、先端を口に含むと、ルキアは甘い痺れをかんじた。

「ああっ・・・・」

秘所を手で弄ると、濡れていた。

「もうこんなに濡れてる」

「あ、いうな・・・ああ!」

秘所の奥のほうの天井をくちゅくちゅとこすってやると、ルキアはびくんと体を痙攣させた。

いってしまったのだ。

「ああああ!」

はぁはぁと荒い息をつくルキアに口づける。

「俺のものだ、ルキア」

秘所に、一護は侵入した。

「あ、あ、あ・・・・・」

秘所の浅い部分をこすりあげて、前立腺ばかりを刺激して、陰核を手でつまむと、またルキアはいった。

「あああ!」

「何度でもいけ、ルキア」

「ああっ一護」

何度もルキアの中を突き上げて、一護はルキアの中に欲望を放った。

「愛してる、ルキア」

「私も、愛している・・・たとえ、何があっても・・・・・」

一護は、知らなかった。

ルキアが、すでに婚姻していたことを。ルキアの中に、一護とのものでない新しい命が宿っていることも。



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隠していた想いの果てに

「なぁ、ルキア」

「なんだ」

高校3年生の冬。

冬休みになっていた。

本来なら、ルキアはここにはいない。尸魂界で、13番隊の副隊長として大戦の後の復興を手伝わなければいけない身の上だった。

一護の我儘だった。

どうか、ルキアを高校卒業まで現世にいさせてほしいと。

ユーハバッハを倒した尸魂界の英雄に、京楽は渋い顔をしながらも、ルキアが現世に残ることを承諾してくれた。

それにルキアは驚きだけで。

何故、一護がそんなことを言い出したのか、ほんのりと胸の中では分かっていた。でも、知らないふりをしていた。

これからも知らないふりをするつもりだった。

デートというわけでもなく、暇なので冬の海にきていた。

ざぁんざぁんとなる海が綺麗だった。

「お前、綺麗だよな」

「は?」

「ばーか。冗談だ」

「このたわけ!」

怒りだしたルキアを、そっと抱き留める。

「一護?」

「春になって、現世を去る前に、伝えたいことがある」

「言うな!」

「なんでだよ。まだ何を言うかもわかってねぇじゃねぇか」

「分かっておる。気づいておるのだ」

「ルキア・・・・」

「やめろ、一護。私は死神、貴様は人間・・・・・この埋められぬ溝が」

ざぁんざぁんと、おしては引き返す波の音だけがした。

一護は、ルキアにキスをしていた。

目を見開くルキア。アメジストの瞳から、ぽろりと涙が零れた。

「貴様はずるい・・・・・」

「ルキア、お前のことがどうしようもないくらいに好きなんだ。俺の手をとってくれ!俺と生きよう!」

ルキアは、その手を払いのけるはずだった。

だが、抱き締められてまたポロポロとアメジストの瞳から涙を零した。

「私は死神・・・・貴様は人間。それでも・・・・それでも・・・・・」

ルキアは、一護の手をとっていた。

「大好きだ、ルキア」

「私も貴様が大好きだ、一護」

ざぁんざぁんと、おしては引き返す冬の海が、とても幻想的に見えた。



それからの日々は、いつもと違った。冬休みがあけて、学校が始まった。

お互い恋人同士として振る舞った。

黒崎家でも、学校でも。

「ねー、一護、もしかして朽木さんと付き合ってるの?」

たつきの質問い、一護は

「ああ」

とだけ答えた。

その答えを聞いて、井上が泣きだした。

「ちょっと、織姫、屋上いこう」

井上が、一護を好きなのは、一護自身も気づいていた。でも、井上ではだめなのだ。

ルキアでないと、だめなのだ。

「一護、貴様・・・井上が泣いていたぞ」

「俺たちが付き合っているっていったら、泣きだした」

「井上は・・・・そうか、お前のことを」

「気の毒だから身を引こうなんて思うなよ」

「たわけ。私も貴様のことを好いておると言っておるであろう。誰に反対されても・・・たとえ、恋次や兄様に反対されても、貴様と別れるつもりはない」

一護は、ルキアを連れて人気のない廊下にきた。

そして、思いっきり抱き締めた。

「ああもう、こんな学校でそんな嬉しいこと言われても、なかなか抱き締めたりキスしたりできねーじゃねぇか」

「たわけ、貴様学校でなど・・・」

スリルはあった。でも、それを楽しむつもりはない。

「ルキア・・・卒業しても、こっちにきてくれよな?」

「当たり前だ。私の彼氏、なのだろう?会いにいくに決まっておる」

その日は、二人手を繋ぎながら、ゆっくりと帰った。

家につくと、いつものように一護の部屋で過ごした。

好きだと言って、抱き締めたりキスしたりする以外は、前と変わらない。

ただ、密着すると温度が気になる。

ルキアは、疲れたのかベッドに横になっていた。同じベッドで、一護もルキアを腕の中に抱いて、横になる。

「なぁ」

「なんだ」

「こんな甘い日々も、あと2か月ちょっとで終わりなんだな」

「そうだな」

卒業式まであと2か月と少し。

おまけに、一護には大学受験が控えている。勉強はもうできるだけやったので、後はその日を待つだけだ。

「ルキア、好きだ」

「知っておる」

抱き寄せてくる腕は、けれどまだ互いにキスとハグ、それ以上には進めないでいた。

黒崎家だから、というのもある。

一護の父親や妹たちがいるこの家で、体を重ねる勇気などなかった。

「俺、大学生になったら一人暮らししようと思ってるんだ。そしたら・・・・なぁ、その、なんでいうか・・・・」

「いいぞ。抱きたいのであろう?」

その言葉に、一護は真っ赤になった。

「なんで分かってるんだよ!」

「だって、お互い好きで恋人同士なら、自然な関係であろう。貴様も男だ。こんな私に劣情を抱く者がいるのは珍しいが、そんな気になってしまうであろう。私とて、我慢しているのだ、一護」

ルキアが、甘く囁いてくる。

「貴様を、私のものにしたい、一護」

「ルキア・・・・」

唇が重なった。

舌と舌が絡み合う深い口づけと、ふれるだけの浅い口づけを繰り返す。

「ああ、もう。その気になっちまう。我慢だ我慢」

一護は、ルキアと付き合う以前からずっと我慢していた。

キスやハグができるようになって喜んでいたのだが、それ以上に進みたくなった自分に戸惑いを覚えているのも確かだ。

「なぁ。もう1回言ってくれ。好きだって」

「何千回、何万回でも囁いてやる。好きだ、一護」

高校3年の終わり。一護とルキアの交際はスタートした。

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