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小説掲載プログ
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色のない世界番外編 花の神と夢魔

「京楽?」

浮竹は、闇の中にいた。

ああ、これは夢だ。

京楽が、血を流して倒れていた。心臓に、斬魄刀を突き刺して、自害していた。傍らには、吐血して絶命した自分の姿。

ああ、嫌な夢だ。

早く覚めてくれればいいのに。

(今、夢だと思ったな?違う、これはいつか来たるべきそう遠くない未来の世界。そのヒトコマ)

声がして、はっとなった。

「夢見せの虚か!」

最近話題というか、現実になる夢を見せるとして有名な「夢見せの虚」に夢を見せられたのだと分かって、意識を覚醒させる。

「こんなもの、ただの夢だ!」

通常、夢見せの虚に夢を見せられた者は、そのまま廃人となって虚に食われるか、逃れてもその夢の通りになって死ぬという。

「こんな夢!」

双魚の理を始解して、夢見せの虚を切り裂いた。

「ぎゃああああああああ!ゆ、夢の通りになる・・・・いつか、お前はあの夢の通りに死に、愛する男を・・・・あああああ・・・・・・」

霊子の塵となっていく虚を無視して、剣を収めた。

「大丈夫ですか、隊長!」

かけつけてきたルキアが、声をかけてくれた。

「隊長は、お前のほうだろう」

浮竹は、苦笑した。

13番隊の席官の一人が、夢見せの虚にやられ、夢を見せられてそのまま夢の通りに死んだ。

他の隊でも、夢見せの虚にやられる死神が後を絶たず、13番隊隊長のルキアと、元13番隊隊長であった浮竹が、共に討伐に乗り出したのだ。

花の神の力でもう一度、この世に生を受けた浮竹は、肺の病を完治させている。

それから考えても、あんな夢の通りにはならないはずだ。

でも、夢見せの虚は、現実になる夢を見せるという。

それは、強い暗示でもあった。

「ぐ・・・・ごほっごほっ」

肺がずきりと痛み、気づくと吐血していた。

「隊長!そんな、病は治ったはずじゃ!」

「こんな・・・・ばかな・・・・」

吐血しながら、浮竹は意識を失った。



次に気づいた時は、一番隊の寝室だった。

「大丈夫、浮竹?」

京楽が、心配そうにこちらを見ていた。

「ああ、大丈夫だ。肺も痛まないし、一時期的なものだろう」

「一応、虎鉄隊長に見てもらったけど、肺の病ではないって」

「そうか、よかった」

花の神に、病まで癒してもらたのだ。

肺の病が再発する可能性はゼロではないが、違うと分かって安堵した。

「あんな夢・・・・」

「夢見せの虚に、夢を見せられたんだろう?どんな夢なの」

見た夢をそのまま語ると、暗い表情で京楽が浮竹を抱き締めた。

「大丈夫。君の肺の病は癒えている。僕は、確かに君を失えば後を追うかもしれないけれど、大丈夫」

大丈夫と強く言い聞かせてくる京楽は、かたかたと震えていた。

「京楽、お前の方こそ大丈夫か?」

「僕は・・・君が吐血したと聞いて、真っ暗になった。また君を失うんじゃないかと・・・・」

京楽を抱き締めると、かたかたと震えていた京楽の震えも治まった。

「この命は、お互い花の神にもらったもの。そんな簡単に、死んだりしない・・・ぐっ、ごほっごほっ」

ぼたりぼたりと、血を吐いた。大量に吐血した。

「何故・・・・・」

そのまま、浮竹はガクリと、息絶えた。

「浮竹!うきたけーーーーーーーー!そんな!」

京楽はたくさんの涙を零して、浮竹を抱き締めていた。でも、その瞳は見開かれたままで、瞬きをすることは永遠になかった。

「君のいないこの世界なんて・・・・・・!」

京楽は、斬魄刀を引き抜くと、自分の心臓に突き刺していた。

たくさんの血が流れて、京楽も絶命する。

これで、二人の未来は終わり。花の神にもう一度もらった、その命も終わり。




「生きろ、俺!目覚めろ、俺!これは全てまやかし。夢だ!生きて、意識を取り戻して剣をとれ!」

真っ暗になった世界に響く声。

そして、彼は目覚めた。

ぶわり。

甘い花の香させて。

「よくも・・・・・俺だけでなく、京楽にまでこんな夢を・・・・・」

ぶわりと、花の香が広がる。

それは、虚に限りなく近い、精神存在。人にとりついて、命をすする、夢魔。

とりつかれている相手と一緒に殺すか、その精神存在を殺すしかない。

夢見せの虚と呼ばれる虚に寄生していた、精神存在を、浮竹は同じく精神存在となって、剣をとり引き裂いた。

(ばかな・・・・精神体である私を、死神ごときが切れるはずが・・・・・)

ふわりと。

空間に、もう一人、甘い花の香をさせる男がやってきた。

「よくもまぁ、あんな夢を・・・・確かに、浮竹が死んだら僕も死ぬけど、勝手に殺さないでほしいね」

「京楽、剣は握れるか」

「勿論」

二人は、始解すると、夢魔を粉々に切り裂いた。

「さて、どうすれば現実に戻れる?そもそも、現実はどうなっているのかな?」

「花の神が・・・・道標をくれるようだ」

神の領域に、精神体(アストラル)として入ってしまった二人は、地面に散らばる花びらの後を辿って辿って、現実世界に戻った。


目を開ける。

「あっ、目覚められました!」

1番隊の寝室だった。

浮竹は、自分の体に何処も異常がないのを確認して、半身を起こす。

「嫌な夢だったねぇ」

隣では、京楽がこれまた異常なく半身を起こした。

「俺たちは、どうなっていたんだ?」

その問いに、ルキアが答える。

「浮竹隊長が、夢見せの夢魔を葬った後、意識をなくして、そのまま同じ糸がついていた京楽総隊長も意識を失われて・・・・・夢魔に、とりつかれていました」

「ふうむ」

「うーん」

「夢魔に一度とりつかれると、精神世界で己を取り戻して夢魔を殺すか、一緒に殺すしかないので・・・・どうにか、方法がないかと、皆で探っていた途中でした」

ぶわりと、花の甘い香が広がった。

存在をなくしていたはずの、花の神が降臨する。

「愛児たちに手を出すからだ。粉々にできる力を愛児たちに与えた。粉々にしたのだろう?」

「勿論」

「当たり前だ」

時が、止まっていた。

ルキアたちには、花の神の存在は見えない。見えてはならない。

「愛児たちの紡ぐ未来に、水をさすからこうなる夢魔のナイトメア」

じわりと、空間に闇が広がった。

「花の神か・・・・・どうりで、甘い匂いがする獲物なわけだ。夢魔である私を粉々にするとは・・・まぁいい、次の獲物を探しにでもいく」

夢魔ことナイトメアは神に近い。

それだけを言い残すと、闇の残滓となって消えてしまった。

「私が命を与えたのだ。そうやすやすと、命を刈り取られるなよ、愛児たちよ」

「分かっている」

「ああ」

花の神は、紅色の髪と瞳の青年の姿をしていた。花を思わせる豪奢な作りの衣服を着ていた。

「私は、また世界を渡る。それでは、また会う時まで」

花の神は、桜の花びらをたくさん降らせて、いってしまった。

時が動きだす。


「ええっ、花びら?どうなってういるのですか、浮竹隊長、京楽総隊長!」

説明すると長くなるので、命の恩人が来たとだけ伝えた。



「それにしても、夢魔に見せられた夢はいやなものだったね」

「ああ。俺たちが、花の神に命をもらわないと、実際にああなっていたかもしれない未来を思いおこさせる」

浮竹と京楽は、他の者たちに下がってもらっていた。

二人きりでいたいと。

「やっぱり、花の神が降臨したせいかな・・・・・甘い花の香が部屋中に広がってる」

京楽は、浮竹を抱き締めた。

浮竹も、京楽を抱き締める。

「お互い、引退するまで、一緒にいようね」

「いつ引退するんだ」

「さぁ。500年くらい、先じゃないかな」

「随分と、遠い未来だな」

くすくすと、二人で笑みを零す。

花の甘い香を、しばらくの間二人は濃くしていたのだった。






花の神は、世界を渡り歩く。

やがて、1つの世界へとたどり着く。



「禁忌という名の」https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18422255に続く。


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パンツ仮面再び現る

「フーフー」

朝起きると、パンツ仮面がいた。

浮竹のパンツを首まで被り、目と口のところに穴をあけたパンツを被っている京楽のことだ。

浮竹のパンツの匂いをかぎたいのか、鼻のところに穴はあいていないので、ふーふーと息が荒く聞こえた。

「ふあ~~」

浮竹は、パンツ仮面を見ても動揺することなく、欠伸をしていた。

京楽の朝は早い。

浮竹が起きる1時間前には起きて、浮竹の干しているパンツを盗んだり、保管している実用のパンツを手で洗ったり。

浮竹が起きるまで、その寝顔を見守って一人でぐふぐふと笑うのだ。

「はぁ。今日は休みだな」

「そうだね。そうだ、下町に行って甘味屋にでもいかない?」

「それはいいな。でも、その前にそのパンツ仮面をなんとかしろ」

「素敵でしょ、このパンツ仮面」

「変態だ」

「うん、僕は変態だよ」

「パンツ仮面をやめない限り、俺はお前を冷たくあしらうし、キスもハグもさせてやらない」

「パンツ仮面、廃業します!」

そういってパンツをとるが、廃業は絶対嘘だ。実用用のたんすに、パンツ仮面用のパンツを大事そうにしまう京楽の行動からして、嘘と丸わかりだ。

まぁ、そんな京楽が今に始まったことではないので、浮竹も慣れてしまっているので、京楽と一緒に下町にまで出かけて、甘味屋に入った。

おはぎとぜんざいと白玉餡蜜を3人前食べた。あとは、みたらし団子に桜餅も食べた。

「食べすぎだよ」

今日は、お腹が減っていたのか、いつもより多めに食べていた。

浮竹の胃はどうなっているんだろうと思いながら、勘定を払う。

「あ”、お金忘れた」

「おい」

浮竹は、一銭ももっていない。

このままでは、食い逃げになってしまう・・・・・と思ったら、常連だったのでつけがきいた。

それでは迷惑だからと、砂金の入った袋を出す。

何故そんなものを持ち歩いているのかは知らなかったが、上流貴族のぼんぼんだから遠慮することはないと、店の主事は砂金の袋をもらい、にまにましていた。

きっと、浮竹が食べた分の10倍を食べても、おつりがでるだろう。

「まぁ、京楽だしな・・・・」

そのまま、金もないのに下町をぶらつき、暇をつぶした。

この時代、娯楽は少ない。

本屋にいって、立ち読みをする。別に欲しい本はなかったが、京楽が読んでいる本を見ると、「衆道とは」という本を見ていたので、引いた。

確かに、浮竹も京楽も男だ。男同士ですること衆道と呼び、今現在の現世は戦国時代。主従の中に衆道が混じっているのも確かだ。
現世では衆道は当たり前のことで、尸魂界でもその風潮があるのか、花街なんかでは陰間茶屋や普通の廓でも色子を扱っていたりした。

「ねえ、一度花街にいってみない?」

「別にいいが・・・金はないんだろう?」

「ああ、馴染の店があってね・・・そこでは、金は後払いでいいんだよ」

誘われるままに、花街に出かけた。

廓に上がらされて、酒と高そうな飯を御馳走になる。

「どういう思惑だ?」

「これ着て!一生のお願い!着てくれなきゃ、襲う」

それは、値のはりそうな女ものの打掛だった。

「嫌だと言ったら?」

「まじで襲う」

はぁはぁと、息も荒く、目も血走っていて、これはやばいと思った。

仕方なく、その打掛を手に奥の座敷にいくと、遊女たちに囲まれた。

「これが、京楽の旦那の想い人でありんすか」

「かわいいでありんす」

「さぁ、今着ている服はぬいで、これを・・・・」

下着は男もののままでよかったが、遊女のきる着物を着せられて、最後に打掛を羽織り、肩までの長さの髪を三つ編みにして、金細工の髪留めで留める。

「あら、かわいいでありんす。髪がもっと長ければ、もっとに似合うでありんすに」

まるっきり、色子か遊女のような恰好だった。

その姿で京楽の前にくると、京楽は鼻血を吹き出した。

「おい、京楽」

「けけけけけ、けしからん!」

ぱしゃりと、写真をとられた。

「ポーズつけてー」

もうやけくそで、適当にポーズをつけると、京楽はぱしゃぱしゃと写真をとっていった。

「満足か?」

甘味物をおごってもらった手前、返せるとしたらこれくらいだ。

「もうちょっと、胸元をはだけてご主人様って言ってくれると、昇天する」

このさいだから、胸元どころか、肩も露出させて、太もももちらつかせて「ご主人様」と、すごく甘えた声を出してやった。

京楽は、すごい量の鼻血を出して倒れた。

「ちょろいな」

ちょろい。

そう思った。

この程度で鼻血を出すなら、本当にそういう関係になっていざ本番となると、どうなるのかと思ってしまう。

まぁ、この変態とそういう関係に陥るとしても、数年先であろうが。

京楽の懐を探ると、やっぱり浮竹のパンツを持っていた。

それで、鼻血まみれの京楽をふいて、元の衣服に着替えて、一人で酒を飲んでいた。

「はっ・・・・ここは天国?」

「お前の頭の中はいつでも天国だろう」

「あっ、着替えちゃたのか。でも写真はばっちりとれたし、僕は満足だよ」

女のものの打掛を、ばさりと京楽に渡す。

「高いんだろう、これ?」

「うん。普通の家が一軒買える」

「京楽の鼻血で汚れなくてよかったな」

「はっ、これは大事な僕の浮竹のパンツ。そうか、鼻血をぬぐってくれたのかい。ありがとう」

打掛をだめにして、弁償しろと言われたら、京楽に身売りするしかない。

そんなことにならなくてよかったと、浮竹は思った。

「またこんな高い着物、どうしたんだ?」

「将来、嫁にくる相手のためにしつらえられたものだよ。僕には浮竹だけだから、浮竹に着て欲しかったんだ」

「そうか。言っとくが、俺はお前の嫁にには行かないからな」

「またまたぁ。浮竹のお父さんとお母さんからは、浮竹をもらっていい許可まであるんだよ」

いつの日だったか、帰郷に京楽がついてきて、両親に「息子さんをください」といって、許可をもらっていたのを思い出す。

父も母も、のほほんとした人だから、相手が上流貴族であると知って、その身を預けても大丈夫だろうと思ったのだろう。

「お前が嫁にくるなら、考えてやってもいい」

「え、僕が白無垢を着れば、浮竹は結婚してくれるのかい!?」

「いや、やっぱいやだからいいわ」

本当に、もじゃもじゃなのに白無垢を着そうで嫌だった。

少し酔っぱらたのかもしれない。

頬をほんのり朱色に染めた浮竹を連れて、寮まで戻る。京楽の手にしなだれかかっている状態で、その時の記憶があまりなかった。

次の日、ついに京楽と浮竹ができたという噂が広がって、浮竹は怒るのであった。





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海燕の一日。

「いい加減に起きてください」

「寒い~~布団から出たくないー」

布団にしがみついたままの浮竹を、海燕が離させようとするが、浮竹はなかなか布団を離してくれなかった。

「火鉢用意しますから」

「じゃあ、用意するまでの間布団の中にいる」

「だめです!」

「けち!」

浮竹はしぶしぶ起き出した。時刻を見ると、朝の10時を回っていた。顔を洗い、服を着替えると浮竹は朝餉はまだかと海燕を急かした。

「今火鉢の用意してるから、少し待ってください」

寒いので、押し入れからだした毛布にくるまっていた。

火鉢が用意され、それにあたりながら、でも毛布も被っている。

「ああ、もう11時だ。朝餉はなしにして、少し早いけど昼餉にしましょう」

朝餉が食べれない程度で文句をいう浮竹ではないが、本当に副官泣かせだ。

冬になると、毎年こうだ。

寒いのが苦手らしく、気づけばいつも毛布を被っていた。

毛布を最初はとっていたのだが、直すたびに毛布を取り出してまた被るので、もうそのままにしておいた。

「腹減ったー。昼餉でいいから早くー」

ああ、本当にこの上官は手がかかる。

子供みたいだ。

海燕はそう思いながらも、世話を焼く。

こんな浮竹が、嫌いではないのだ。むしろ好ましく思ってしまう。

もっと他の隊長は自立して、きっと副官が起こしにくることなどないのだろう。執務室と隊首室と療養室をかねた雨乾堂だからできる我儘を、できるだけ叶えてあげていた。

昼餉を食べて、満足したらしい浮竹は、やっと仕事にとりかかった。

真剣な表情で、文机に向かっている。

さっきまでの我儘な浮竹の姿の片鱗すらにおわせなかった。毛布も、被っていない。

一度仕事に取り掛かると、休憩時間になるまで大抵動かない。

子供のような浮竹と、時折戦闘に参加する、凛とした佇まいや、仕事をしている真剣な時のどれが一体本当の浮竹であるのかが、時折分からなくなる。

3時になって、休憩の時間になった。

お茶を入れて、おはぎを菓子として出すと、浮竹は嬉し気にそれを食した。

そして、また毛布を被りだす。

「遊びにきたよー浮竹ー」

「まだ仕事が残っているから、まだ構ってやれないぞ。今は休憩時間だ」

「別にいいけど・・・・毛布、また被ってるの?今日は特別寒い日でもないよ」

「寒いものは寒いんだ」

火鉢に当たりながら、最後のおはぎを食べる終えると、毛布を放りだして、文机に向かう。

真剣な表情の浮竹に、京楽は海燕を見た。

「この子、大変でしょ。手がかかって。そのくせ、こうして真面目に仕事したり、戦闘の時は先陣を切ったり部下を庇ったり・・・・どれが本当の浮竹か、分からなくなるでしょ」

「そうなんですよ」

「僕にも、未だにどれが本当の浮竹なのか分からなくなるよ。ただ、本質は甘えっ子みたいなところがあるからね」

「京楽、暇なら手伝え。ハンコを押していくだけだ。お前にもできるだろう。いつも俺がお前の分の仕事を手伝うんだ。たまには反対があってもいいだろ」

「はいはい。謹んでお受けいたしますよ」

わざと丁寧語を使うと、浮竹はむすっとなった。

「嫌味か」

「別に~」

6時まで、そうして仕事をして、鐘が鳴り響き、死神の職務の終了時間を告げる。

「はー。今日もがんばった。海燕、肩をもんでくれ」

「はいはい。けっこう凝ってますね」

「そりゃ、休憩時間があったといっても、6時間以上は執務仕事をしていたんだ。肩もこる」

他の隊の副隊長は、上官の肩をもむなんて真似、しないだろう。

浮竹の身の周りの世話まで任されている海燕だが、この仕事を大変だと思ったことはなかった。

「僕も揉んであげる」

「京楽は、変なところ触ってくるからいやだ」

「ちぇっ」

京楽は、笠を被り直して、幸せそうな浮竹を眩しそうに見つめていた。

「今日は、泊まるんだろう?」

「うん」

前々から、その予定で通していた。

急にきて、夕餉が突然二人分になって、厨房係を忙しくさせることもあるが、今日みたいに前々から二人分の食事が必要だと分かっていれば、厨房係も苦労しなくて済む。

「夕餉の支度しますから、湯浴みにいってください」

「わかった」

「はいはい」

京楽は、泊まりにくるとき8番隊で湯浴みをしてこない。雨乾堂の風呂で、浮竹と一緒に湯浴みをするのが常だった。

まぁ、恋人同士なので、海燕も何も言わない。

ただ、ごくたまに湯浴みの時に盛られて、浮竹がのぼせてしまうことがあったので、その時は怒ったが。

「はぁ、我ながらできる副官だ」

夕餉を二人分おいて、座布団も二人分用意して、お茶も用意する。

海燕が夕餉をとるのは、浮竹たちが食べ終えてからだ。

湯浴みをすませた浮竹と京楽が雨乾堂に戻ってきた。浮竹は、いつもより甘い花の香を濃くしていた。その手の趣味の男なら、整った容姿にこの匂いでいちころだろう。その手の趣味がない京楽でさえ、浮竹を選んでいるのだ。

「今日は蕎麦か」

蕎麦に、タイの蒸し焼き、白飯、胡瓜と蛸の酢のもの、味噌汁、デザート。

食べきれる量だけなので、浮竹のタイの蒸し焼きはきってあったし、白飯も少ない。

浮竹は、甘味物なら3人前はペロリと平らげるが、普通の飯は京楽が食う3分の2くらいしか食べないので、最初の頃その量を京楽にも出してしまい、京楽は腹をすかせて寝る前に空腹を抱えてよくお腹を鳴らしていた。

改善されるようになったのは、海燕の働きによるものだ。

本当に、よくできた副官だ、海燕は。

浮竹は幸せ者だと、京楽は思う。

「浮竹、海燕君に感謝しないといけないよ」

「そんなもの、毎日してる」

そう面と向かって言われて、海燕のほうが恥ずかしい思いをした。

「ああもう、そういうことはどうでもいいから、早く食べてください。片付けないと、俺も飯食えません」

「すまん、海燕。なんなら、ここに夕餉をもってきて、3人で食うか?」

「いえ、いいです。2人の邪魔はしたくないので」

仲睦まじく、デザートを浮竹にあげる京楽を見てから、雨乾堂を後にする。

30分程経ってから、夕餉の膳を下げに海燕がきた。

浮竹と京楽は、暇なのか花札をしていた。

「ふう・・・・」

これで、一日の業務は終了だ。布団は、浮竹が自分でしくので、流石に夜まで世話は焼けない。

少し遅めの夕餉を海燕はとって、自分の屋敷に帰るのだった。

志波海燕の一日は他の副隊長よりも少しだけ早く、そして遅いのだった。






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春うらら

「隊長・・・・・いい匂いがする」

「白桃の湯に浸かったのだ。その匂いであろう」

「あー抱き締めたい。抱きしめていいっすか?」

念のため、承諾の許可をとる。

「好きにしろ」

そう言われたので、白哉を腕の中に抱きしめた。

「最近、ずっとこんな甘い香させてますね。食べたくなっちゃいそう」

「食べられては困る」

美しく整った顔に、少しだけ笑みが浮かんだ。

沈着冷静、鉄面皮。

表情を出さないことが多いだけで、何も感情をまるっきり外にださないわけではないのだ。

微笑む時もあるし、怒る時もある。

「そろそろ離れろ。ここは執務室だ」

「あー残念。別邸の館なら、あんたを押し倒していたのに」

その言葉に、白皙の美貌に朱がさした。

気品があり、気高く、けれど儚く、けれど強く。

白哉を表現するには、一言では無理だ。

恋次は、そんな白哉が好きだった。自分の体の下に組み敷かれて、その細く白い体で乱れる様を見るのが好きだった。

白哉を―——隊長を乱れさせるのは、自分だけと分かっているから、優越感にも浸れる。

「好きです、隊長」

「私は・・・・・」

いつも、言葉を途中で止めてしまう。

でも、抱いている時は素直に好きだといってくれる。

「隊長、今夜いいですか」

「だめだ」

「どうしてですか」

「恋次、お前は盛りすぎだ。3日前も抱いたばかりであろう」

「俺としては、毎日抱きたいんすけどね」

「私の体がもたぬ」

「優しくしますから・・・・だめ?」

「だめなものはだめだ」

その会話は終わりだとばかりに、恋次の前にどさりと書類が置かれた。

「恋次も、仕事をしろ」

「はぁ、やっぱだめか」

残念がりつつも、仕事をこなしていく。

ぽかぽかと、春の日差しが窓から入ってくる。

気づくと、うとうとしていた。よく怒られなかったものだと、白哉の方を見ると、なんと珍しいことに白哉が、眠っていた。

起こしたほうがいいのか逡巡する。

別に、最近睡眠不足というわけでもなさそうだ。ただ、春のうららかな日差しにやられてしまっているようだった。

恋次は、済に置かれていた仮眠時用の毛布を、そっと白哉の肩にかけた。

「ん・・・・・・」

起こしてしまったかと思ったが、白哉の眠りは深いようで、起きなかった。

1時間ほどして、白哉は起きた。

副官が、毛布をかけてくれていたことに驚くが、その副官が書類の上に頭を乗せて寝ているのを見て、白哉は恋次の頭をはたいた。

「起きろ。仕事をしろ」

「はっ・・・俺、寝てました?」

「よだれのあとがある」

「うわ、最悪だ。すんません、隊長。隊長も寝ていたから、お相子ですよ」

「私は、今日の分の仕事はもう全て片した後に眠ってしまったのだ。恋次の仕事はまだあるぞ」

「うわ、これ急がないと終了時刻まで間に合いそうもない」

「言っておくが、手伝わぬからな」

そんな優しい白哉ではない。

恋次は、何故寝てしまったのかと自分を呪いながら、結局残業する羽目になるのであった。

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それは狂気に似た想い

起きると、布団が蒼薔薇でまみれていた。

どうしたのかと見ると、京楽がいた。

「どうしたんだ、これは」

「蒼薔薇、花束を君にあげたかったけど、10本しか購入できなかった。だから、やけになってみた」

「また、蒼薔薇なんて高いもの・・・違う色の薔薇にすればよかっただろうに」

「あ、それもそうか」

と、元のいつもの飄々とした京楽に戻って、浮竹はほっとした。

でも、すぐに京楽の機嫌は崩れた。

「知り合いのやつが・・・・もうお前には売れない、この10本が最後だからっていうから頭にきてね・・・・蒼薔薇はまだたくさんあるのに、売ってくれないから」

「そんなことで腹を立てても仕方ないだろう」

「僕は、自分でいうのもなんだけど、金の力でけっこう動かしてきたから・・・・思い通りにならないことは少ない人生を送ってきた。こんなにきっぱり拒絶されたのは、君に初めて告白をして振られた日以来かな・・・・・・」

「どんな人生だ」

思い出す。

院生時代、女遊びが激しくて、廓にまで入り浸っていた京楽に告白されて、遊ばれるのかと断ったのだ。

その後、何度もプロポーズを受けて、女遊びも廓にいくこともやめて、浮竹だけを見て、甲斐甲斐しく世話をやかれて、プロポーズを受け入れたのだ。

きっと、一時のものになると思いつつも。

それが、こんなに長い間続くとは思ってもいなかった。

京楽は浮竹に本気だったし、浮竹もそんな京楽に本気だった。

蒼薔薇をかき集めて、浮竹は微笑んだ。

「10本でも嬉しいぞ」

「浮竹・・・・・」

京楽が、抱き着いてきた。

「好きだよ、好きだよ、浮竹。ずっと傍にいてね」

「本当に、どうしたんだ京楽」

「女性だけど・・・・飲み友達だった友人が、自殺したんだ。肺の病を抱えていて、治らないからと自殺を・・・・・」

息をのんだ。

「京楽、俺は大丈夫だ。自殺したりしないし、病にも負けない」

「うん・・・・」

京楽は、その女性の自殺で酷く傷ついているようだった。

「京楽、俺の顔を見ろ」

「うん」

「この顔が、お前を置いて自殺したり、病で死んでしまいそうに見えるか?」

「ううん、見えない」

京楽を優しく抱きしめて、浮竹は言った。

「俺は、お前を置いて何処にもいかない。もしも、逝くことがあるとしたら、ちゃんとお別れをいう」

「そんなこと言わないで、浮竹」

「ああ、すまない。ちょっと、縁起が悪かったな」

京楽は、強く浮竹を抱き締めた。

浮竹も、強く京楽を抱き締めた。

そのまま、布団に横になる。お互いの体温を共有しあった。

触れるだけのキスを繰り返す。

今日の京楽は、浮竹を抱く気はないようで、浮竹も京楽の傷ついた心を癒してあげようと、京楽に優しく接した。

「なんだか、こんな風に抱き合ってごろごろしていると、院生時代を思い出すね」

「そうだな」

院生時代は、付き合うようになってから、体の関係にいくまでに3年はかかった。

仕事もせず、2時間ほど布団の上で体温を共有し合い、ごろごろしていたら、昼餉の時間になった。

「清音、いるか、清音ーー」

「はーい隊長!」

「すまないが、昼餉を二人分もってきてくれ」

「分かりました」

清音は、すぐに二人分の昼餉をもってきてくれた。

「天ぷら丼か・・・」

「おいしそうだね」

「ほら、京楽、海老をやる」

「いいの?」

いつもなら、京楽が浮竹にメニューの何かをやるのだが、今日は反対だった。

今日は、京楽の気が済むまで甘えさせてやろうと思った。

「大好きだよ、浮竹」

「俺も大好きだ、京楽」

唇が重なり合う。

やはり、今日は京楽は浮竹を抱くつもりはないようだった。

夕餉をとり、夜になった。

「何処にも行かないで・・・・」

「おいおい、明日の仕事のことを仙太郎に言いにいくだけだ」

「僕も一緒に行く」

「まぁいいが」

隊舎で、仙太郎に話をつけた。京楽は、浮竹の後ろから浮竹の腰に手を回して、抱き着いていた。

「京楽隊長、今日ちょっと変じゃありませんか?」

「ああ、ちょっと傷心気味なんだ。甘えたい気分なんだ、好きなだけ甘えさせてやってるんだ」

「そうですか」

雨乾堂まで戻ると、京楽は浮竹を強く腕にかき抱いた。

「君が、誰かをその瞳に映すのがいやだ」

「おい、京楽・・・・・はぁ、今日だけだぞ」

京楽を、甘えるだけ甘えさせた。

やはり、夜になっても京楽は浮竹に手を出してこなかった。

「君の瞳に映るのは、僕だけでいい」

「京楽、愛してる」

「僕も、浮竹、君を愛してる」

とさりと、布団の上で横になる。

体温を共有しあっていると、二人はいつの間にか、眠りに落ちてしまっていた。

次の日、朝を迎えると、京楽はつきものが落ちたような顔で、普通に接してきた。

「朝餉、食べない?」

「ああ、そうだな。おーい、仙太郎ーーー!」

朝餉は、焼いた鮭におにぎり、卵焼き、味噌汁に漬物だった。

朝のメニューは、けっこう普通で、他の隊と似たようなものだ。

夜のメニューが豪華なのだ。昼もそこそこ豪華だが。

朝餉を食べ終えると、京楽は、すっきりした顔で、8番隊執務室に帰って行った。

浮竹は、仕事を終えると、念のために8番隊の執務室を訪れた。

京楽は、七緒にお説教を受けながらも、溜まった仕事を片付けていた。

「浮竹?どうしたの、8番隊の執務室までくるなんて珍しいね」

「いや、昨日のお前の様子がおかしかったからな。今日は大丈夫だろうかと思って」

「浮竹は、いつも優しいね」

「京楽こそ、いつでも優しいぞ」

「僕はもう大丈夫だよ」

「そうか。うーん、せっかくだし、8番隊で夕餉をとって帰るか」

「ここの食事、13番隊よりは劣るよ」

「構わないさ。豪華なものを期待しているわけじゃない。お前と一緒に食べたいんだ」

その言葉に、京楽が笑顔になった。

ああ、この笑顔を見るのも、2日ぶりくらいだ。

いつも飄々としていて、そうとは分からないが、京楽はけっこう繊細なのだ。だから、女性の死のことが気になっていた。

もう、乗り越えたようで、浮竹も安堵するのであった。



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白桃の湯2

浮竹は、京楽と一緒によく湯あみをする。

雨乾堂に備え付けてある湯殿は、一人用には少し広くて、二人用には少し狭い。

よく京楽が泊まりにくるものだから、雨乾堂には、京楽の衣服に下着が置かれてあった。

「今日も、白桃の湯にしたよ」

「またか。金が流れていくんだな・・・・・」

白桃の湯の元はけっこうお高い。

互いの髪を、それぞれ違うシャンプーで洗っていく。浮竹のものは女もので、匂いもよくて長い白髪に艶を出すために高めのシャンプーを、京楽が買い与えていた。

一方の京楽のものは、どこにでもあるような一般のシャンプーだった。

京楽の髪も長いが、くせ毛で波打っていた。

女ものシャンプーの匂いが自分からするのはあまり好まないので、京楽は浮竹にあげたシャンプーで髪を洗われることを嫌がった。

二人で、白桃の湯に浸かる。

「あーいいお湯だ。この甘い匂いがすごく好きなんだ」

「この湯の湯上がりの浮竹って、すごくいい匂いでおいしそうなんだよね」

「食うつもりか」

「食べていいなら」

「じゃあ、ここで食べていくか?」

「え、いいの」

冗談かと思った。

でも、浮竹にしては珍しく、風呂の中でエッチをしていいらしかった。

「声、やっぱり響くかな?」

「いや、今誰もいないでしょ。ルキアちゃんは隊舎だし」

この度、はれて朽木ルキアは、13番隊副隊長に就任した。

「ん・・・京楽・・・・」

キスをしだす。

「浮竹、愛してるよ」

舌と舌が絡みあう。

「んうっ」

湯の中で、お互いの体を弄りあう。

「あっ」

胸の先端をつままれ、指ではじかれた。

そのまま、首筋に吸い付いてくる京楽の頭を抱え込んだ。

「京楽・・・」

浮竹が、とろんとした瞳で京楽を見つめる。

「なんて顔するの・・・・」

その顔をみているだけで、腰に響く。

ちゃぷんと、お湯が鳴った。

「あああ!」

湯の中で、指が蕾に埋め込まれる。

潤滑油がないので、するりとはいかないが、ゆっくりと入ってきて、コリコリと前立腺を刺激されて、浮竹は啼いた。

「ああああ!・・・・きょうら・・・ああ!」

指で何度も前立腺を刺激していると、浮竹が限界を迎えたのか、湯の中で体がはねた。

「ああっ!」

「いったのかい?」

「俺だけなんて・・・・・」

「いいから、もっと気持ちよくなって」

ずるりと指がひきぬかれると、熱いものが宛がわれた。

「んあああああ!」

ゆっくりと侵入していく。

「あっ、お湯が・・・・・」

入ってくるのと一緒に、湯まで体内に入ってきた。

「後でかき出すから」

ちゃぷんちゃぷんと、湯が揺れる。

「あ、あ、あ」

ずっずっと、浮竹の中を侵していく。

白桃の湯の甘い匂いに、頭までおかしくなりそうだった。

「ああっ」

一番最奥を突かれて、浮竹の体がはねた。

「ここも、感じるの?」

「あ、言うな・・・・・」

前立腺をすりあげると、浮竹は京楽の体にしがみついた。

「ああっ・・・・・きょら・・・俺の中で、いけ・・・・」

「んっ・・・・一度、中で出すよ」

浮竹の前立腺をすりあげてから、最奥に欲望を叩きこんだ。

「あんまり、長湯してるとのぼせるからね。一度、あがろうか」

「んあっ」

ずるりと引き抜かれて、湯船から出て、立ったまま交じりあった。

「あ、あ、あ・・・・こんな体勢、深いっ・・・・ああっ!」

ずくずくと、欲望を飲み込んでいく蕾が広がっていく。

「こんなにくわえこんで・・・・いけない子だ」

ぱんぱんと、音がなるくらい京楽は浮竹の腰に腰を打ちつけた。

「ああっ、激しっ・・・・」

前立腺を突かれて、浮竹が体を痙攣させる。

「んああああ!」

二度目になる精を放つと、京楽も少しして、二回目を浮竹の中に注ぎ込んだ。

少し湯冷めしたので、また白桃の湯に浸かった。

浸かる前に、浮竹の中に残した白濁した液と、お湯をかきだした。

「ああ、きもちいい・・・・でも、これに精液混じってるって考えると、ちょっとあれだな」:

「そういう細かいことは気にしないほうがいいよ」

白桃の湯は、甘ったるい匂いを放っている。

浮竹の放つ生来からある、花の甘い香もそれにまけないようにと、甘くなる。

浮竹は、体も甘い。

甘いものだらけで、京楽は嬉しい悲鳴をあげそうだった。

湯の中で交わるのも、一風変わって、いいかもしれないとい思うのだった。


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酔っぱらったルキア

結婚から、4か月が経とうとしていた。

白哉との仲は相変わらずだ。

嫌がらせをされたり、したり。

仕事も終わり、一護はルキアと一緒に、居酒屋を訪れた。

「たまには、外食もいいよな。酒も飲めるし」

朽木邸で酒が飲めないわけではないのだが、健康のためと飲み過きになる前に下げられてしまう。

「一体どうしたのだ、一護」

「いや、二人きりの時間が欲しいからさ」

「朽木邸や執務室で、いつでも二人だけの時間を作れるではないか」

「それとは別に、お前と飲んだりして他愛もないことを話せる時間が欲しいんだよ!」

「一護・・・・流石にこんな店では、白玉餡蜜は売っていないか」

「居酒屋だぜ。売ってないだろ」

鳥の串焼きを二人前注文して、冷えたビールを注文する。

「貴様、本来ならば現世では未成年で飲めないのではないか?」

「え、ああそうだけど。ここは尸魂界だし、子供の冬獅郎だって飲んでるし、別にいいだろ」

「まぁ、問題はないが・・・・」

鳥の串焼きがやってきた。熱いうちにぼうばると、じゅわりと肉汁が口いっぱいに広がった。

「うまいな、これ」

「ああ、うまいな」

「ルキア・・・・好きだぜ」

「ぐっ・・・急に何を言い出すのだ。思わず中身を吹き飛ばしそうになったではないか!」

「お前は、俺のこと好きか?」

「そうに決まっておろう。そうでなければ、結婚式など挙げたりせぬ」

「そっか。嬉しいな」

ルキアの隣に座り直して、一護はルキアの頭を撫でた。

「なんだ、子供ではないのだぞ」

「ルキアって、小さいもんな。144センチだっけ」

「そうだが、何か問題でもあるのか」

「いや、俺180センチあるから、約40センチも身長が違うんだなって思って」

冷えたビールが持ってこられた。それを、一護もルキアもごくごくごくと飲んでいく。

「くー冷えた生ビールはうまいな!」

「そうだろ!この味が分かるようになった分、お前も大人になったな!」

「たわけ!私はすでに成人しておる。見た目は若いが・・・・・」

身長も低く、細いせいもあり10代半ばといわれても、否定できそうにないが。

鳥の串焼きの次は、焼肉を頼んだ。あとはホルモン焼きとか。肉類が豊富で、馬刺しまであった。

二人で、時間を忘れて食べて飲みあった。



「うーい。いちごお。世界が廻っておるぞ」

「やっべ。飲ませすぎた・・・・」

一護は限界を知っているので、酔うまでは飲まなかったが、ルキアはまだ自分がどれほど飲めば酔うのか分かっておらず、酒をぱかぱかと飲んでいた。

楽しそうだったが、こうなる前に止めておければよかったと思うが、後の祭りだ。

「いちご。好きだ・・・・・・」

店の前で、ベロチューされた。

「おい、ルキア、酔ってるんだろう。少し休んでいくか?」

「酔ってなぞおらぬ。うーーーい。いちごめぇ、貧乳派だな、貴様は」

「いきなり何言い出してたんだよ!」

「私のことを、ういっく、好きなのであろう?大好きで大好きで、死にそうなほど好きなのであろう?」

「ああ、そうだぜ。お前のことが好きすぎて、死にそうだ」

そう真顔で返すと、酔っているだけではない、頬に赤みがさした。

「恥ずかしいやつめ」

「言い出したのはお前だろ!」

ルキアの手を握りしめて、徒歩で朽木邸に向かう。

「いちご、ぺろちゅーもう一回だ!」

「へいへい」

舌が絡むキスをしていたら、ルキアがすり寄ってきた。

「んあっ・・・・・・いちご、きもちいい・・・」

「おい、頼むから道端で寝るなよ!?」

「うーい。大丈夫だ、私は素面だ。はははははははは」

今度は笑いだした。

千鳥足のルキアに肩をかしながら、歩いていく。

「こんな風になっても、ルキアのことが大好きだ。付き合う時間がなかったから、口説けなかったけど。ほんとは、もっと甘い時間を過ごして、ゴールインしたかったんだよな」

一護は、ルキアにそう言い聞かせた。

「何おう、籍をいきなり入れられたのは不満だというのか!」

「いや、そんなことはねぇけど」

「ならよいではないか。うーい。お日様が照ってる・・・・・・」

どこに?と言おうとして、つるりんとした頭の一角が見えた。

「あ、一角さん弓親さん。飲んでたのか?」

「あれ、一護じゃねぇか。手前も飲んでたのか?」

「うーい。まぶしいぞ、太陽め!つるつるだな!」

「おい、この酔っ払いなんだ」

「ああ、ちょっと飲ませすぎたみたいだ」

弓親が、ルキアの酔っぱらう姿に眉を潜めた。

「朽木隊長、酔ってるのかい?酔い方が美しくないね」

「酔うのに美しいも醜いもねーだろ」

「ふ、僕なら美しく酔うよ」

「誰も聞いてねぇ・・・・」

一角も弓親も隊舎に帰る途中だったようなので、少し会話して離れた。

「うーい。いちご。おぶれ」

「あーはいはい」

ルキアをおんぶして、暗い道を歩いていく。

尸魂界には街灯がないので、瀞霊廷の中からでも星がよく見えた。

「私は、いつか世界征服をしてチャッピーを世界中に広めるのだ」

「大それた野望だな」

「そして、兄様のわかめ大使も世界中に広めるのだ」

「まずが尸魂界に広めろよ」

「うーい。星が、綺麗だな・・・・・・」

「ああ。月も綺麗だ」

そのまま、朽木邸につくと、眉間に皺を寄せた白哉が待っていた。

「こんな時間まで、飲み歩いていたのか。ルキアは、酔っているな」

「うーい。兄様、わかめ大使を、尸魂界中に広めるましょう」

「ルキア」

「うーい?ふふふ、兄様かわいい」

白哉に抱き着いて、そのままルキアは眠ってしまった。

「一護、兄は、ルキアを酔わせすぎだ」

「すまねぇ。それには反省している。こんな変な酔っぱらい方するとは思わなかった」

「だから、私は常日頃、ルキアにあまり酒は飲まさぬのだ」

「そうなのか」

一護は、驚いた。

ルキアにあまり酒を飲ませたがらないのは、こんな悪酔いをするからなのかと、初めて知った。

「ルキアを連れて、寝所へ行け。湯あみは、明日の朝にするように。湯をその時にわかせておく」

「分かった。なぁ、白哉」

「なんだ」

「白哉も今度、飲みに行こうぜ。ルキアも一緒に。といっても、ルキアに酒はほどほどにしておくが」

そんな誘いを受けるとは思っていなかったのか、白哉は吃驚していた。

「考えておく」

それだけ言うと、白哉は自分の寝室に戻ってしまった。

眠ってしまったルキアを抱き上げて、その軽さに驚きつつも、一護も寝室に戻り、そのまま服を着替えて寝た。

翌日。

「うう・・・・地面が廻っている。気持ち悪い」

「そりゃあんだけ飲んだんだ。普通は二日酔いになる」

「く、適当なところで止めておけばよかった。昨日はふわふわしていて気持ちよかったが、その次の日がこれだと、もうふわふわするのはいらぬ」

今日は、ルキアは二日酔いで仕事は欠席であった。

休暇が大分溜まっていたため、一護も同じく休暇をとった。

白哉は、一度ルキアの様子を見て、薬を飲ませた後、8時には朽木邸を出てしまった。

「俺、これから湯あみだけど、ルキアはどうする」

「こんな気分で、であるけぬ。夜に入ることにする」

「そうか」

今日は、白哉が帰ってくるまでの間、二日酔いのルキアを相手ではあるが、ラブラブイチャイチャできると思っていた。

ルキアは、一護が湯あみを終えると、眠ってしまっていた。

「白哉か・・・・・」

二日酔いの状態を味合わせえるより、眠剤を与えて自然に治るまで寝かせるべきだと判断したのであろう。

「ま、いいか。ルキアの寝顔でも見とこ」



午後の3時頃になって、ルキアが起き出した。

「おう、二日酔いはどうだ?」

「嘘のように治まっている」

「そうか、よかったな。とりあえず、湯あみして昼餉でも食えよ」

「うむ。腹が減った」

ルキアは湯あみをして、寝室に戻ると、少し長くなったその髪を、一護がかわかしてくれた。最近はやりのドライヤーであった。

「何か、食べるもんもってきてもらうわ」

厨房にいき、ルキアの食事を頼むと、豪華なメニューが寝室まで持ってこられえた。

「こんなに、食べきれぬ」

「残ったら、俺が食うから」

「ふむ。それなら安心だ」

ルキアは、普段残すことをあまりしない。白哉もだ。メニューは豊富であるが、その量は少ないのだ。飯時に、食事を残すような不作法はしないのだ、二人とも。

貴族だから、てっきりいろんなメニューを好きなだけ食べて、残ったものは捨てるのだと思っていた、一護であった。

6時半になり、白哉が帰ってきた。

一護の顔を見て、猫缶を投げてよこした。

「琥珀の分か?」

ルキアが飼っている、オッドアイの白猫の名前だ。

「琥珀には、先ほど餌を与えた。兄の分だ。兄はそれでも食していろ」

ピキピキピキ。

一護は、血管マークを浮かべながらも、猫缶を受け取った。

夕餉の時間になって、ささみと猫缶の中身が、一護の席に置かれてあった。

その程度のことで動じる一護ではない。

ぺろりと、ささみと猫缶を平らげて、おかわりがほしいといって、普通の食事にもありついていた。

白哉は、それを残念そうな目で見ていた。

もっと怒ると思っていたのだろう。

ちなみに、白哉の真実に忍び込み、褥に琥珀のトイレの砂をまいておいたので、今日の嫌がらせは一護の勝ちのようだった。

「にゃあ」

「琥珀、おいで」

ルキアが、琥珀を抱いて、寝室にまで戻る。一護は、白哉にあかんべーをしてから寝室に戻った。

一方の、白哉は。

「く・・・・・・やられた・・・・・」

琥珀のしたうんこまで、砂とまみれてざらりと褥に広げられていて、どうやって一護に次の嫌がらせをしてやろうかと悩むのであった。



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まるで犬みたい

恋次が、普通の着物から死覇装へと着換えていた。

ふと、恋次の背中が見えた。

刺青が綺麗に入っているその肌に、いくつもの爪痕によるひっかき傷を見て、白哉はやや頬を朱に染めた。

「恋次・・・・背中の傷は、平気なのか」

「あ、これっすか。隊長が残してくれたもんだから、別に痛くないしもうなれてます」

「やはり、犯人は私なのだな」

少し罪悪感を覚えて、白哉は死覇装を着こんだ恋次に少しだけ近寄った。

「隊長?」

「詫びだ」

恋次の頬に手で触れた後で、その唇に唇を重ねた。

触れるだけのキスであったが、恋次は吃驚していた。

何せ、ここは朽木邸ではないのだ。

誰かが入ってくるかもわからぬ、執務室だった。

「これ以上はここではできぬ。夜を待て」

「え、夜まで待てばまさか隊長と―——」

えろい妄想をして、恋次は鼻血をだしていた。

白哉は、それを見て引いた。

「やはり、今日の夜はなしにしよう」

「ええっ、そんな!」

まるでお預けを食らった犬のような顔をする恋次。

「恋次、お前は犬のようだな」

「またそれっすか。俺の何処か犬なんすか」

いや、みたまんまだと、白哉は思った。

嬉しいことがあると、尻尾をばっさばっさを振っているように喜ぶ。

悲しいことがあると、主人に叱られた犬のようにへこむ。

斬魄刀の始解も「吠えろ 蛇尾丸」だし。

なんだか、存在から犬っぽいかんじがする。

「俺は犬っぽくありません!」

「ふ・・・・・」

少しだけ微笑んで、白哉は文机に向かい、仕事を始めた。

「あ、隊長、今日の夜は?」

「なしだ。この間、私を抱いたばかりであろう」

「俺は、隊長、あんたをずっと抱いていたい」

「私の体がもたぬ」

「今日の夜は―—―」

「しつこい」

ぴしゃりと言い切って、白哉は昼餉の時間になるまで、恋次を無視するのであった。

待てを言われた犬のような恋次は、昼になって白哉がまた声をかけると、喜んで尻尾を振るのであった。



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夜の修行?いえいえ普通の修行です

仕事も終わったとある1日。

研磨しあっている、一般隊士を見て、自分もと思った。

だが、席官クラス相手でも、浮竹の修行相手になりそうにない。

ふと、いつも一緒にいる京楽ならどうだろうと思った。

ちょうど遊びにきた京楽に、声をかける。

「修行しよう、京楽」


「え、夜の修行だって?」

「このバカ!」

浮竹は、真っ赤になって京楽を殴った。

「ただの、修行だ!強くなりたいんだ」

「浮竹は十分強いと思うけどね」

京楽が、笠をかぶり直す。

「それでも、高みにのぼりたいと思うだろう」

「そうだね」

浮竹は病弱であるため、剣の腕が鈍っていないか心配しているのだ。

「僕でいいなら、修行の相手になるよ。夜の修行も歓迎だけど」

「茶化すな!」

浮竹は、京楽の頭をまたぽかりと殴ってから、場所を指定してお互いに斬魄刀を始解しする。

「高鬼」

「くっ」

「色鬼、白」

「くそっ」

攻撃を避ける。

浮竹の斬魄刀は、主に相手の攻撃を吸収して跳ね返すものだ。京楽のような斬魄刀とは、馬が合わない。

「破道の4、白雷!」

「甘いね!」

ざっと、さっきまでいた空間を、京楽の花天狂骨が切り裂いた。

お互い、手加減はしているが、斬魄刀を始解したのだ。

一撃か決まれば、ただでは済まない。

「色鬼、黒」

「くそっ」

浮竹は、また咄嗟に避けた。

花天狂骨に、直接斬撃を浴びせる。そして霊圧を吸収し、左の刃から斬撃を放った。

「ひゅう、霊圧を吸収して攻撃とか、やるね」

「うーん。お前が相手だと、どうにもやりにくいな。白打や鬼道に頼りがちになってしまう」

「そりゃあ、僕の斬魄刀の能力は、子供の遊びだからね。浮竹のように、相手の放った攻撃を吸収して跳ね返す攻撃の修行相手には、あんまり向いてないかもね」

「今まで何百年もお互いで競い合ってきたからなぁ。京楽の太刀筋は分かるし、癖とか知ってるし・・・・・日番谷隊長か白哉に頼むか」

そう言って、剣をしまった。

京楽も、剣を収める。

「日番谷隊長のほうがいいんじゃない?あの子、強くなりたがっているから。朽木隊長は、鍛錬のために付き合ってくれるか分からないなぁ」

「白哉とは、何度か剣を交えたことがあるぞ。千本桜を吸収して跳ね返したら、嫌な顔をされたのを覚えている」

「じゃあ、日番谷隊長のところにいってみますか」

「そうだな」

こうして、二人は10番隊の執務室にやってきた。

「日番谷隊長、修行の相手になってくれないか」

「は?」

首を傾げる日番谷に、京楽が言う。

「夜の修行じゃないよ」

「まだ言うか、お前は」

ぽかりと京楽の頭を殴って、日番谷に頼み込んだ。

「京楽だといつもと同じで、修行にあまりならないんだ。日番谷隊長、甘納豆好きなだけ買ってあげるから、修行につきあってくれ」

「甘納豆はいらんが、いいぞ」

「ほんとか!」

浮竹が顔を輝かせた。

京楽と浮竹と日番谷との3人で、先ほど京楽と剣を交えていた場所にまでやってきた。

「蒼天に座せ、氷輪丸!いけぇ!」

氷の龍を、浮竹は右の剣で吸い取った。そして、微妙に威力を調節して左の剣から繰り出す。

「うおおおおおおお」

日番谷は、それを物ともせずに切りかかってきた。

浮竹も、本気で切り結ぶ。

氷の龍が暴れまくった。

日番谷の息が切れだす。それは浮竹も同じことだった。

「やるね、日番谷隊長」

「浮竹、お前もな」

白打、鬼道も駆使して、攻撃をしあった。

やがて、浮竹が剣をしまった。

「もう十分だ。ありがとう、日番谷隊長」

「おう」

日番谷も、氷輪丸を収めた。

帰り道で、甘納豆を買った。それをいらないという日番谷に渡すと、日番谷は嬉しかったのか、歩みが軽やかになっていた。

「浮竹の斬魄刀は、使い辛そうだな」

「うーん。俺にはこれがしっくりくるんだが、双魚の理は、相手が攻撃してこないと、跳ね返せないからな。まぁ、普通にこっちから斬撃を浴びせることもできるけど、相手の放った技を吸収して、調節して跳ね返すからな」

甘納豆を口にしながら、日番谷は言う。

「そういえば、いろんな死神の卍解は見てきたが、今まで一度たりとお前が卍解している姿を見たことがないな」

「あー。俺の卍解は、京楽と一緒でちょっと特殊だから」

「そういえば、京楽の卍解も見たことがない」

「見せるような、簡単なものじゃないよ。範囲系だからね。その範囲にいた全ての命を摘み取るよ、僕の卍解は」

「そうか。それを考えれば、俺の卍解は使いやすい部類なんだろうな」

耐久時間が限られているとはいえ、氷を身にまとう日番谷の卍解は、戦闘特化といえるだろう。

「何はともあれ、今日は助かった。また、機会があれば修行に付き合ってくれ」

「ああ、分かった」

また、甘納豆を日番谷は口にした。

なでなで。

思わず、日番谷の頭を撫でると、日番谷が怒る。

「子供扱いすんな!」

「じゃあ、またな、日番谷隊長」

「ああ」

10番隊の隊舎まで送って、ふと京楽をみると、笠をとってじっとしていた。

「なんだ?」

「僕の頭も撫でて」

「変なやつ」

なでなでと撫でると、京楽は満足したのか、笠を被った。

「浮竹、僕との夜の修行は・・・あべし」

しつこく夜の修行という京楽の鳩尾に、軽く拳をいれる浮竹だった。




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6話補完小説

「喉が渇く・・・・」

浮竹は、からりとした大気の暑さを感じいた。

山本総隊長が、卍解したのだ。

じりじりと暑くなっていく気温。

敵を前に、喉の渇きに悲鳴をあげてしまいそうになる。

「元柳斎先生・・・・・」

きっと、師であるあの人なら大丈夫。

だが、どこかで恐れを抱いていた。

敗れることなどないはずだ。

それなのに、なぜこんなに心がざわめくのだろうか。

京楽は大丈夫だろうか。

そう、気にかかった。




一方、京楽は。

「唇切っちゃったね・・・・」

その傷から出るはずの血も、乾いてしまう。

大気の暑さに、尸魂界中が悲鳴をあげている。

「山じい・・・・頼んだよ」

京楽も、心のどこかでざわめきを覚えた。

師である山じいなら大丈夫。

尸魂界中から水分がなくなっていく。

浮竹は大丈夫だろうか。

ふと、心に思った。



誰が思っただろうか。

山本元柳斎重国が、やられるなど。

ユーハバッハに。


乾いた大気が、泣き出して雨を降らせてた。

大気が潤っていく。

同時に、山本元柳斎重国のすさまじい霊圧が掻き消えていくのを、浮竹も京楽も感じていた。

「元柳斎先生!」

「山じい!」


そんな、まさか。

胸騒ぎは、最悪の形で具現化するのであった。

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飲み会

「もう、11月だな」

「そうだねぇ」

「もう少ししたら、クリスマスか」

「お、サンタになる?」

雨乾堂で、こたつでぬくぬくしていた二人は、みかんを食べながら、今後の計画について話あっていた。

「今年は京楽がサンタになれ。お前にサンタ服を作らせると、ふりふりのふわふわで嫌だ」

「いいじゃない、ふりふりのふわふわ。似合うよ」

「年を考えろ、年を」

「年なんて、考えだしたら何も着れなくなるよ?」

「少なくとも、ふりふりのふわふわを着る年齢ではない」

こたつがあったかくて、ついついそこから出ることができないでいた。

「こんな時に海燕がいればな・・・・・・」

「そうだね」

海燕が逝ってしまい、もう50年は経つだろうか。

少し悲しいきもちになって、浮竹は次のみかんに手を伸ばした。

「みかん、食べすぎじゃない?もう5つも食べてるでしょ」

「そっちだって、さっきので4個目だぞ。似たり寄ったりだ」

こたつは暖かくていいが、出れなくなってしまうのが難だった。

「12月は・・・僕がサンタになるか。だから、浮竹もサンタになってよ」

「ふりふりじゃなかったら、着てもいい。ふわふわは許す」

院生時代は、ふりふりふわふわのサンタ服をよく着せられていたが、あの頃は若かったし、見た目も中性的だったので、何とか見れたが今の年でふりふりのふわふわはきついものがあると、浮竹は思った。

「浮竹なら、今でもふりふりふわふわでもいけると思うんだけどなぁ」

「丈が長くてズボンもついているなら、ふりふりでも許す」

「えー」

「えーじゃない。去年は着なかったけどあのふりふりのスカートにニーソックス・・・まるっきり、お前の趣味全開じゃないか」

「浮竹なら似合うと思うんだけどなぁ」

「まず、俺が嫌だ。着たくない。いっそお前がきろ。ふりふりのふわふわで」

「ええっ!僕のふりふりのスカートにニーソックス姿をみたいの?」

「うわ、想像するだけできつい・・・・・」

なんとかこたつからぬけて、みかんが大量に入っている段ボール箱から、10個ほどみかんを籠の中にいれると、こたつの中に戻る。

「はぁ・・・こたつ。冬に、人間はいいものを思いつくものだ」

また、みかんを食べたす京楽と浮竹。ごみ箱は、みかんの皮だらけになっていた。

故郷からみかんが3つ分も段ボールで送ってこられて、どうしようかと思っていたが、この調子なら食べつくしてしまいそうだ。

「はぁ・・・・ここは、こたつがあっていいよね。僕も、執務室にこたつを設置しようとしたら、七緒ちゃんにダメだってとりあげられちゃった」

「隊首室に設置すればいいんじゃないか?」

「隊首室で寝泊まりしないからねぇ。雨乾堂に泊まらない日は、自分の屋敷に戻ってるし」

「屋敷には、こたつはあるんだろう?」

「勿論さ。みかんはないけど」

こうやって、ぬくぬくと過ごすにも相手が必要だ。一人だと、こたつに入っていても1時間もしないで出てしまう。

こたつで寝ると寝汗を大量にかくので、布団で眠るようにしている。

「そもそも、雨乾堂にこたつをもちこんだの誰なの?」

「ん?白哉だが、それがどうかしたのか?」

「朽木隊長か・・・見えないとこで、けっこう浮竹の世話焼いてるよね」

「そうか?お返しに、酒を大量に送ったんだが、飲んでくれただろうか」
  
結構高めな酒を用意して送ったのだが。

「さぁ、どうだろう。朽木隊長は、酒豪ではないし、飲む姿もあんまり見かけないし、飲み屋に誘ってもこないからねぇ」

「あれ、誘われたことないのか?高級店の居酒屋に何度が誘われて、一緒に飲んだことがあるぞ」

「僕は誘われなかったよ。浮竹との、個人の親しさの差だね」

「よし、今度は朽木隊長も誘って、高級店で飲もう」

「お、いいな。無論感情は京楽もちな」

「はいはい・・・・・・」

浮竹の給料では、仕送りと薬代で、高級店なんていけないのだ。



数日が経ち、浮竹が白哉を飲みに誘った。

高級店の居酒屋の名前をいうと、飲みにいくと約束してくれた。

すでに、京楽が飲んでいた。

「2名様入りまーす」

「あ、こっちこっち」

京楽の隣に浮竹が座り、浮竹の隣に白哉が座った。

「まぁ、好きなお酒飲んでよ。お金は僕が払うから。それとも、今飲んでる僕の酒、一緒に飲むかい?」

「兄の飲む酒は強いからな・・・・すまぬ、この酒を一人分。それからつまみはこれを」

つまみは、キムチだった。

辛い物好きな、白哉らしいといえばそうだが、さすがに辛過ぎないかと思った。

つまみが出された。

おそるおそる、浮竹がきむちを口にしてみる。

「これは辛いな!」

甘い果実酒をごくごくあおって、口直しをするほどの辛さだった。

「私は、これくらいなら平気だ」

「白哉は昔から辛いものが好きだからなぁ」

「浮竹は、甘いものが好きであろう」

「ああ」

「つまみは、これなどどうだ」

「お、よさそうだな。すみません、これ1つ」

3人は、深夜まで飲み明かした。

「あははははは、世界が廻ってるー」

「世界は平らだ・・・・・・・」

「あーどうしよ」

尸魂界に、タクシーがあればいいのにと、京楽は思った。

二人の酔っぱらいができあがった。しかも、二人とも見目がよく麗しい。隊長であるから大丈夫だとは思うが、不埒な輩に絡まれる可能性もある。

「とりあえず・・・浮竹も連れて、朽木邸にいくか」

「世界は平らだ・・・・・」

そればかりを繰り返す白哉を、朽木邸に送り届けた。

「に、兄様!こんなに酔っぱらって、しっかりしてください」

義妹のルキアが、白哉を介抱していた。ルキアに任せれば安心だろう。

「次は浮竹か・・・・・」

雨乾堂まで送り届けると、髪をひっぱられた。

「痛い、痛いから!」

「あはははは、お星さまがいっぱーい」

「ああもう、流石にこんな時間に清音ちゃんも仙太郎君もいないか・・・・・」

布団をしいて、酔っぱらった浮竹を寝かせた。

「あはははは。京楽のばーかばーかばーか」

ひげをひっぱってくる手を退けると、きょとんとした顔になった。

「こたつ星人め!みかんを食らえ!」

ぽいぽいと、段ボール箱に入っていたみかんを投げつけられて、そのまま京楽は退散した。

「こたつ星人ってなに・・・・・・」

浮竹は、酔うと笑い上戸になったりする。

かわいかったが、手を出すわけにもいかないし、介抱する前に多分寝る。

10分ほどしてから、雨乾堂の中を覗いてみると、浮竹は寝ていた。

「あーあ、こんなに脱ぎ散らかして」

足袋やら隊長羽織をぬぎちらかしていた。

布団にちゃんと寝かせて、毛布と布団をかける。

さらりとした白い髪を一房手に取って、口づける。

「おやすみ」

二人の酔っ払いは、幸せな夢をみながら、次の日には二日酔いを抱えるのであった。









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11月のある日

11月になった。

肌寒い季節に、火鉢にあたりながら恋次は、文机に向かったままの白哉を見る。

いつもと同じ、死覇装の上に隊長羽織。

恋次は、そっと毛布を取り出すと、それを白哉の肩にかけた。

「なんだ?」

「いや、寒いでしょうと思って」

「確かに寒いが、これくらい平気だ。だが、心使いはありがたく受け取っておく」

毛布は、6番隊のものではなく、白哉個人のものだった。

手触りがよく、膝掛にも使えそうだった。

恋次も、白哉が目を通した書類にハンコを押していく。

昼餉を食べ終わり、仕事をして6時になった。

鐘がなり、死神の業務時間の終了を知らせる。

「今宵は・・・恋次、この後暇か」

「え、暇っちゃ暇ですが・・・・」

白哉は、朽木家の別宅の屋敷に、恋次を呼んだ。

「なんなんすか」

「酒でも、たまには飲み交わそうと思ってな」

「隊長が!?明日槍がふるかも・・・・・」

「いらぬなら、去れ」

「いやいや、いります!」

朽木家に恥じない豪華な夕食が出てきた。これ本当に食べてもいいのかと思いながらも、はし
を伸ばしていく。

酒は、高級酒であり、とても美味だった。

少し辛口の味が、白哉の好みなのであろうと分かった。

「隊長、辛いもの好きですよね」

「それがどうした」

「いや、この料理も辛いの多いなと思って」

「口にあわぬなら、食べずともよい」

「いやいや、食べますって」

こんな御馳走、滅多に食せないのだ。

杯に酒を注ぎあっていると、けっこう酒に強い恋次はいいとして、白哉は頬を朱くして明らかに酔っていた。

「酔ってませんか、隊長」

「これくらい酔っているうちには・・・・」

ぐらりと傾ぐ体を、そっと受け止める。

「すまぬ」

そういって、元の体勢に戻った。

やがて、料理が全て下げられて、酒だけが残る。

「もうこれ以上飲まないほうがいいっすよ」

「なぜだ」

「なぜって、あんた明らかに酔ってるじゃんないっすか」

「ふ・・・・・」

杯の中身を口にして、白哉がそれを恋次の喉に流しこんだ。

「なっ」

ふわりと、髪からシャンプーのいい匂いがした。

「ああもう、あんた、煽ってるんすか!?」

「そうだとしたら」

「上等だ」

白哉を抱き寄せて、隊長羽織を脱がし、銀白風花紗をとり、死覇装に手をかけていく。

「あ・・・せめて、褥の上で」

料理を食べた隣の部屋には、布団が用意されてあった。

そこに抱きかかえて、そっと寝かせる。

白哉も、恋次の死覇装を脱がせていく。全身に入れ墨の入った、恋次の鍛えあげられたら裸体が露わになる。

一方の白哉は、同じ男なのかと思いたくなるような白い肌で、細かった。

「ああ、もう」

荒々しくキスをすると、もっととせがまれた。

「恋次・・・・」

「隊長・・・・」

全身を愛撫するように、キスをしていくと、白哉は震えた。

「あ・・・・・・」

薄い胸の先端にかじりつくと、きつく恋次の背中に爪をたてられた。

「やっ・・・」

「こんなに濡らして・・・・いやじゃないでしょう」

すでにとろとろと先走りをだしていた白哉の花茎は、恋次が手でしごくと、あっという間に射精してしまった。

「んあああ!」

潤滑油を手に取って、指を濡らして白哉の体に侵入させる。

「んう・・・キスを・・・」

ねだられてキスを繰り返しながら、コリコリと、前立腺を指で刺激し続けていると、白哉の体がはねた。

「ああっ!」

「もしかして、またいったんすか?」

「わからぬ・・・・」

精液はでていなかった。

ああ、オーガズムでいってしまったのかと、恋次は白哉に口づける。

「もう、入れてもいいっすか?」

「好きにしろ・・・・」

「う・・・あつっ・・・・」

白哉の中は熱くてとろとろしていて、中ぎゅうぎゅうと締め付けてくる。

「動きますよ」

「あ・・・・・・あ、ああ、あん、んあああ」

動きにあわせて、艶のある白哉の声が耳を打つ。

前立腺をすりあげてつきあげると、白哉は恋次の背中に手を回した。

「んああああああ!」

一度欲望を白哉の中に放ち、また突き上げた。

「隊長・・・顔、隠さないでこっち見て」

「れん・・・・じ・・・・ああっ」

舌を絡ませあう。飲み込み切れなかった唾液が、白哉の顎を伝って流れ落ちた。

何度も挿入し、引き抜き、穿っていると、白哉もまた限界を迎えたのか、吐精した。

恋次も、また白哉の腹の奥で欲望を弾けさせていた。


「湯あみをする・・・・」

行為の後は、湯あみを欠かさない白哉。

酔っていることもあって、恋次も一緒に湯あみした。

「ん・・・・」

湯の中で、中にだしたものをかき出すと、けっこうな白濁した液体が出てきた。

「すんません、だしすぎました」

「別に、構わぬ」

湯あみをすませて、お互いの長い髪をふきあって、シーツを変えた褥に寝転んだ。

「隊長、好きです」

「ん・・・はぁっ」

舌と舌が絡むキスをした。

「私は・・・・・」

その言葉の先は、恋次にしか聞こえなかった。

恋次は、少し濡れている黒髪に口づけて、白哉と一緒に、意識を闇の中に落としていった。


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京楽には分かる

隊首会があった。

ただそれだけのこと。

いつも病欠の浮竹がいた。

ただそれだけのこと。

「ああ、もう」

隊首会が終わる前に、京楽は浮竹を肩に担ぐと、瞬歩で消えてしまった。

「こりゃ、春水!」

山本総隊長が名を呼ぶが、もう遅かった。

「全く・・・十四郎のこととなると、勝手に振る舞いおって」

その十四郎は、遠く離れた雨乾堂の廊下にいた。京楽に担がれて。

「浮竹、前にも言ったよね。体調悪いときはちゃんと休みなさいって」

肩の上にいる浮竹は、申し訳なさそうに、小さな声で

「すまない」

とだけ答えた。

とさりと、静かに雨乾堂内の畳の上に浮竹の体を降ろして、布団をしいた。

そこに横たえる。

「いつ気づいた?」

「初めから」

熱があったのだ。隊首会に参加した時は微熱だった。

立ったまま話を聞いているうちに、眩暈を覚えた。体が熱くて、立っていられなくなると思ったときには、京楽の肩に担がれていた。

本当に、どうして京楽には分かるのだろうか。不思議で仕方なかった。

「どうして、お前は俺の具合が悪くなると分かるんだ」

「長年の付き合いだけど、一種の感みたいなものかな」

院生時代からそうだった。熱を出して倒れる前に、京楽は気が付き、浮竹を支えたり抱き上げたりして、運んで行った。

「お前には、かなわないな」

「いいから、ちゃんと薬のんで寝なさい」

白湯と、解熱剤を渡された。幸いにも、昼食をとった後だったのですきっ腹に薬というわけではなかった。

布団を被ると、窓から雪が入ってきた。

「窓、扉、しめるよ」

「ああ・・・・・」

毛布と布団をかぶっているのだが、寒気がしてきた。

かたかたと震えていると、布団の中に京楽が入ってきた。

「人間ホッカイロ。いる?」

「いる」

暖かい京楽に抱き着いていると、寒気も治まった。

「京楽は便利だな」

「何それ」

「まるでお母さんのようだ」

「君にだけだよ」

「うん」

体温を共有しあっていると、眠くなってきた。

「少し、眠る・・・」

「ああ、おやすみ・・・・」

浮竹が寝ると、そっと布団からでた。

女物の上着を、布団の上にかけて、山本総隊長のところにまで行った。

「山じい、今回の隊首会だけど、何か特別なことあった?」

「なんじゃ春水。今頃来よってからに」

「だって浮竹が」

「分かっておる。十四郎には、後で伝えるつもりじゃった。十四郎の副官に、朽木ルキアを置くものとする」

「ルキアちゃんが!こりゃ、浮竹も喜ぶだろうな!」

京楽も喜んだ。

「だが、十四郎のやつは、志波海燕を亡くしから、頑なに副官を置くことを拒んでおった。朽木ルキアを拒絶しないかどうかと思っておったのだが、お主の顔を見る限り、杞憂であったようじゃ」

「他に連絡事項は?」

「特にない。虚退治には11番隊を遠征にいかせることが決定したしのお」

「11番隊なら、問題ないでしょ。猛者が集っている」

更木剣八の下につく者は、みんな血を見るのが好きだ。戦闘狂ともいえる。

「じゃあ、僕はこれで戻るよ」

「春水」

「何、山じい」

「身を固めるつもりはないか?四楓院夜一との結婚話があがっておるのじゃ」

「はぁ!?何それ。夜一と僕はただの飲み友達で、そんな気全然ないよ!それに僕には浮竹がいる。夜一は・・・・そうだな、同じ4大貴族同士、朽木隊長とでも結婚させればいいんじゃないの。じゃあね」

「あ、またぬか春水!」

京楽は、これ以上戯言など聞きたくないのだと、一番隊の執務室を後にした。

雨乾堂に戻ると、浮竹はまだ眠っていた。布団の中にもぐりこみ、浮竹の暖かな温度に包まれながら、京楽も眠った。

「京楽・・・京楽・・・・」

揺り起こされて、思っていたよりも眠ってしまっいたようで、はっとなる。

「浮竹、熱は下がったんのかい?」

「ああ、お陰様で。これ、お前の着物」

布団の上に置いてあった女ものの着物をひらりと着て、京楽は浮竹に告げる。

「君の副官が決まったそうだよ」

「え・・・・」

「ルキアちゃんだ」

「本当か!?」

浮竹は、京楽の着物の裾を引っ張った。

「山じいが言ってた。決定事項だって。まさか、ルキアちゃんを副官にするのは嫌だなんて言わないだろうね」

「嫌なものか!そうか朽木か!兄妹そろって、隊長副隊長か。朽木家も、出世したなあ」

浮竹には、四楓院夜一と結婚話があがっていることは、言わなかった。



数日後、副官として雨乾堂に出入りするルキアの姿があった。

「ああ、朽木お茶をもってきてくれたのか。すまないな」

「いえ、隊長。他にすることはありませんか?」

「そうだな、この書類を6番隊の白哉のところにまでもっていってくれ」

「兄様のところにですか?」

白哉と聞いて、ルキアが顔を輝かせた。

「ああ、他に急ぐ案件はないから、白哉と話をしてきてもいいぞ」

「行ってまいります!」

ルキアは、書類をもって少し浮かれ気分で6番隊の執務室へと消えて行った。



浮竹は、ルキアがいないので自分で昼餉をとりに13番隊隊舎にやってきた。

「だ、そうだよ。ほんとなのかなぁ?四楓院家の姫と、京楽隊長が」

「でも姫といっても、今は出奔しているも同然だろう。まぁ、それでも四楓院家の名前はついてまわるか。京楽隊長と結婚するとして、浮竹隊長はどうなるんだ?」

「さあ・・・・恋人として、囲うんじゃないか?」

そんな言葉が、聞こえてきて、浮竹の体が固まった。

「あ、浮竹隊長!」

「今の話は・・・・本当か?」

「い、いえただの噂話です」

「噂話でも、そんな話が流れているだな?」

「し、失礼します!」

一般隊士たちは、蒼い顔いろになった浮竹を置いて、逃げるように去ってしまった。

「京楽・・・・・」

ずきんと、肺が痛んだ。

「いけない・・・・・」

雨乾堂に戻る前に、肺の発作を起こして、血を吐いた。

「きゃああああああ、隊長が!」

発見した一般隊士たちに、4番隊まで運び込まれた。

幸いにも発作は軽く、2~3日安静にすれば大丈夫だそうだ。

浮竹が血を吐いたと連絡を受けて、急いでやってきた京楽は、案外平気な顔をしている浮竹を見てほっとした。

でも、浮竹はいつもとどこかが違った。

「京楽。四楓院夜一との結婚話が出ているって本当か」

「あちゃー。誰が教えたの」

「教えられたわけじゃない。偶然聞いたんだ」

「もちろん断ったよ。浮竹がいるのに、結婚するわけないじゃないか。そもそも夜一とは飲み友達だ。結婚相手として見れないよ」

その言葉に、浮竹はほっとしていた。

「京楽。今度からは、そんな話があったのなら、俺にも教えてくれ」

「でも」

「知らないで他から聞くより、直接言われたほうがショックが少ない」

「分かったよ」


もう一度、山本総隊長から、夜一との結婚の打診があったが、結局夜一のほうも否定してきたので、その縁談話はお流れとなった。四楓院家の当主が、姉に身を固めてほしいということからきた我儘話だったそうだ。


「もう大丈夫だね、浮竹」

京楽が、抱き着いてキスをしてきた。

「あっ、京楽・・・・んっ」

「ここ半月、ずっとお預け食らってたんだもの。いいでしょ」

「バカ!まだ、皆が働いて・・・・誰か入ってきたら・・・・」

まだ、4時だ。6時までは死神たちは業務についている。

「雨乾堂には、君かルキアちゃんくらいしかこないよ」

「ああっ!」

「失礼します、隊長、京楽隊長、お茶をおもち・・・・・・きゃあああああ、ごめんなさいいいいいいい」

「あ」

「あ」

ルキアは、敬愛する上官の浮竹が、京楽とそういう関係であることは、女性死神協会とか他を通して知っていたが、実際に浮竹と京楽が睦みあう姿を見て、真っ赤になって悲鳴をあげて出て行った。お茶はこぼれ、ぼんも湯呑も転がっていた。

「まぁ、いいか。好きだよ、十四郎」

「ああっ、春水!」

二人の恋人は、かつて海燕がいた時のように気にせず睦みあうのだった。



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解毒薬はどこだーー!!

「日番谷隊長、結婚しよう」

「は?」

浮竹は、10番隊のに執務室やってくるなりそう言った。

「浮竹、お前またマユリの変な薬飲まされただろう」

「俺は、親しい者に恋慕するという薬しか飲んでいない。京楽に飲まされたんだが、京楽が好きでであったことは確かだが、今は日番谷隊長しか見えない」

「朽木はどうなんだ」

「ああっ、白哉もいた・・・。日番谷隊長が正妻で、白哉が第2夫人というのはどうだろう」

「解毒薬はどこだーーー!!」

日番谷が叫ぶと、こそこそと京楽が泣きながら。

「ここにあるんだ」

と、解毒薬を日番谷に持たせた。

「京楽、お前はばかか?親しい者に恋慕する薬なんて・・・・・」

「僕のことをもっと好きになってくれると思ったんだよ!僕が一番浮竹と親しいし」

「薬のませなくても、浮竹はお前にほれているだろう」

「最近させてくれないから、つい」

「アホか、お前は!」

「(ノД`)シクシク・・・・・・・」

浮竹は頬を朱くして潤んだ瞳で日番谷をみてきた。

「日番谷隊長、結婚式はいつにする?白哉ともしなければいけないから、3人の都合のつく時間で・・・・・」

「すまん、浮竹」

首の後ろに鋭い手刀をいれると、浮竹は意識を失った。

浮竹の意識がない間に、なんとか解毒薬を飲ませた。

「う・・・・俺は?」

「京楽に変な薬飲まされて変になってたんだ」

「またか・・・・日番谷隊長、結婚しよう」

「おい、京楽、治ってないぞ!」

「あれ?おかしいな・・・・・ああっ、これ惚れ薬の解毒薬だった。すぐに解毒薬とってくるから、しばらく浮竹の相手よろしくね」

「ちょっとまて京楽ーーーー!!」

薬でおかしくなった浮竹を置き去りして、去って行ってしまった京楽に、ちょっと殺意を覚えた。

「白哉のところにも、結婚しようと言いにいかなければ・・・・・」

「浮竹、朽木のところにはいくな!」

浮竹が結婚しようとかいいだしたら、白哉のことだから、京楽を攻撃するに違いない。仲のいい浮竹をこんなにした責任をとれと。

「もうちょっと、結婚式について段取りとかとろうぜ」

なんとか、京楽が戻ってくるまで引き留めておかねばと、ありもしない結婚式話をする。

「そうだな。日番谷隊長は和式か洋式、どちらが好きだ?」

「んー。やっぱ見慣れてるから和式かな?」

「そうか。日番谷隊長のウェディングドレス姿もみたいし・・・・最近、現世ではやりの、白無垢とウェディングドレスにお色直しするという、和式と洋式を合体させたのはどうだろう」

「ああ、いいな。ちなみにウェディングドレスも白無垢も、お前がきてくれ」

「え、俺が妻になるのか?」

「そうだ」

うーんと、浮竹はうなりだした。

この調子で引き留められればいいんだが。

「日番谷隊長には悪いが・・・・・・俺は京楽なんかと付き合っていた時期があって、処女じゃないんだ」

「ああ、知ってる」

早く戻ってこい、京楽!

心の中で叫んだ。

「それでもいいのか?」

「ああ」

「じゃあ、さっそく式場に予約しにいこう!」

日番谷の手を掴んで、伝令神機で結婚式場に電話をかけだした。

「はい、もしもし」

「すまん、間違い電話だ!」

その電話を切った。

「どうしたんだ、日番谷隊長・・・はっ、もしかしてもう結婚していたのか!?」

誰とだよ!心の中で叫んでいた。

「そうか・・・・日番谷隊長も、京楽の魔の手に・・・・」

よりによって京楽かよ。きついな!

「俺はそれでも構わない!京楽の魔の手が、これ以上日番谷隊長に及ばないように・・・ちょっと、白哉のところにいってくる!」

「あ、待て浮竹!」

浮竹は、瞬歩でとび出していってしまった。



「白哉、結婚しよう!」

「ああ、遅かった・・・・・」

日番谷は、がくりと項垂れだ。

「兄は、何を言っておるのだ」

「お前のことが大好きなんだ。結婚してくれ」

「兄には、京楽がいるだろう」

「あんなの、もうどうもでもいいんだ。俺の妻になってくれ!」

ピクリと、白哉が身じろぐ。そして、背後にいる日番谷に気づいて。

「悪戯か何かか?それとも何かの罰ゲームか」

「いやな、こいつ涅マユリの作った変な薬飲んで、俺とお前に恋してるらしいんだ」

「飲ませたのは京楽か」

「その通り」

「あの男・・・・浮竹をこのようにしておいて、姿も見せぬとは・・・・」

「いや、今解毒薬とりにいってるから」

「ふうむ。浮竹、すまぬが私は永遠に緋真以外を愛することはないのだ。結婚はできぬ」

「そうか・・・・じゃあ、日番谷隊長とだけ結婚する」

とぼとぼと、10番隊の執務室に戻ってきた。

「日番谷隊長は、俺と結婚してくれるよな?」

「あ、ああ。だから、もうちょっと大人しくしててくれ」

「明日、新居の家を買いに行こう。ペットも飼おう。子供は5人くらい欲しいな」

おいおいおい。

どんどん無理がある方向にずれている。

「結婚するなら、婚前交渉もありだよな。日番谷隊長・・・・」

「すまん、浮竹!」

首の後ろに手刀を入れた。

ぐったりとなった浮竹を、長椅子に座らせる。

「日番谷隊長、解毒薬なんとかもってきたよー」

ぜいぜいと息をきらして、瞬歩で京楽がやってきた。

「早く飲ませてやれ」

「ああ、気を失わせているのか」

「それが一番安全だからな」

京楽は、解毒薬を口に含むと浮竹に口移しで飲ませた。

「ん・・・・京楽?」

「浮竹、僕のことどう思う?」

「へたれ」

「おし、元に戻った」

「本当か?おい、浮竹、俺と結婚したいと思うか?」

「え?思うぞ」

「解毒薬はどこだーー!!おい京楽!」

「はははは、嘘だ、日番谷隊長」

「だーもう、蒼天に座せ氷輪丸!」

はははと笑う浮竹に、ぜぇぜぇと息の荒い京楽を巻き込んで、二人はふっとんでいく。

「最初から、こうしておけばよかったのか・・・・・・」

今更ながらに気づく。でも、浮竹のことだから、ふっとばされてもくるだろうな。

京楽は、浮竹を宙で抱き留めて、瞬歩で去って行く。その背中に、千本桜の桜が襲い掛かっているのは見間違いではないようだ。

「京楽隊長、兄は浮竹をなんだと思っている」

「ごめん朽木隊長!もうしないし迷惑かけないから、剣を収めてくれないかな」

「白哉俺は平気だから、俺のために怒ることはないぞ」

「兄がそういうなら・・・・」

白哉は剣を収めた。


今宵も、月が綺麗だ。

京楽がもたらした事件は、結局マユリに札束ビンタをした京楽の手で片付けられるのだった。










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耳かきと天ぷら

「海燕、お腹減った。何か作ってくれ」

「まだ4時ですよ。12時に昼餉食べたばかりでしょう」

「でも、今日は甘味物をたべていないから、お腹がすいた。何か作ってくれないと、駄々をこねるぞ」

「好きに駄々こねてください」

じたばたした後、ごろごろを畳を転がりだした浮竹に、海燕は大きなため息をついた。

「何か、果物でもないか見てきます」

「そうしてくれ」

隊舎に戻ると、柿が山ほどあった。

その柿を手に戻ってくると、浮竹は皮つきのまましゃりしゃりと食べだした。

「ちょっと、皮剥かなくていいんですか」

「ああ、子供の頃から柿は皮つきのまま食べていた。主に、弟が盗んでもぎ取ってっきた柿を」

「隊長は8人兄弟ですからね・・・・両親の稼ぎだけじゃ足りなかったんじゃないですか?」

「おまけに、俺は肺をやられていて、薬代に借金までこさえていた。隊長になった今は、今まで苦労をかけた分、仕送りをしている」

「隊長の仕送りの額って半端じゃないですからね」

「一族が、俺の仕送りに頼っているからな。本当は、もう少し自立を促したいんだが」

「いっそ、仕送りやめたらどうですか」

海燕の言葉に、京楽は首を横に振った。

「弟妹が、仕事についていないんだ。俺が仕送りをやめると、困窮する」

「はぁ・・・・隊長になったらなったで、そういう問題も起こるんですね」

「そういう海燕はどうなんだ。仕送りとかしているのか?」

「いや、うちんとこは没落したとはいえ、元5大貴族ですよ。金はまだあります」

「そういえば、海燕は一応元上流貴族だったな」

「一応は余計です」

浮竹は、海燕の膝に頭を乗せた。

「なんですか、甘えて」

「耳かきしてくれ」

「はいはい」

耳かきをされて、その気持ちよさに欠伸が出る。

「う~き~た~け~」

暖簾をかき分けて入ってきた京楽、海燕に耳かきをしてもらっている浮竹を見て、おどろおどろしい声をだしていた。

「どうした、京楽。けっそうな顔をして」

「う~わ~き~は~ゆ~る~さ~な~い~よ~~」

「浮気?これが?ただ海燕に耳かきをしてもらっていただけだぞ」

「海燕君、耳かきの道具かしてくれる?」

「あ、はい」

選手交代だ。

京楽の膝に頭を乗せて、京楽に耳かきをしてもらった。

「んー。やっぱ、海燕のほうがうまい」

「そんなこと言わないで。海燕君とのスキンシップはほどほどに」

「京楽は、焼きもち焼きだな」

「そうだよ。浮竹のことになると、僕は独占的になるの」

「海燕にまで嫉妬するなんて、大人げないぞ」

「大人げなくて結構」

浮竹は、今日の分の仕事にとりかかった。

京楽も、8番隊からもってきた仕事を片付けていく。

海燕は思う。ちゃんと8番隊の執務室で仕事をすればいいのにと。でも、浮竹のことがすきだから、傍にいたいんだろうなという気持ちも分からないでもなかった。

「そういえば、海燕、都とはどうなんだ?」

「なっ、どこでそれを!」

「いや、都が言ってきたんだが」

今海燕は都という13番隊の席官の女性と付き合っていた。

「はぁ・・・・都のばか。よりによって隊長にいうなんて」

「なんだ、俺に知られてはまずいことでもあるのか?」

「隊長のことだ、絶対からかってくる!」

にまにました顔で、浮竹は首を横に振った。

「いやいや、愛しい副官をからかうだなんてそんな」

「その笑みはなんですか」

「いやいやいや」

「結婚式には、僕も呼んでね」

「京楽隊長!余計なこと言わないでください!」

「結婚かぁ。海燕も立派になったものだなぁ」

「まだ、付き合ってるだけですからね!」

ぐー。

浮竹の腹がなった。

「浮竹、お腹すいたの?」

「柿をいくつか食べたんだが・・・足りないようだ」

「ちょっと、壬生の甘味屋まで、おはぎ買いに行ってくるよ」

「いいのか、京楽?」

「愛しい浮竹にひもじい思いなんてさせれないからね」

さっと瞬歩で去って行った京楽は、15分ほどして帰ってきた。

重箱につまったおはぎを、浮竹はぺろりと平らげた。

「ほんと、甘味物はよく食べるね。3人前はあったんだけど」

「夕餉も食べるぞ」

「はぁ、ほんとによく食べるね」

京楽と浮竹は、夕餉の間まで抱き合ったりキスしたりして、ごろごろしていた。

「俺は空気ですか」

「ああ、いたのか海燕」

「ずっといました」

「空気というか、置物だな」

「どっちにしろ、酷いです」

海燕は、時間なので夕餉を2人分もってきてくれた。

「今日は天ぷらか・・・・・・」

「隊長、好きでしょう?特別に海老3匹です」

夕餉をぺろりと平らげた浮竹は、デザートの杏仁豆腐を食べていた。

じっと、京楽の杏仁豆腐を眺めるものだから、京楽があげようとして、海燕に止められた。

「隊長は、物欲しそうに他人の料理をもらわないこと!」

「えーけち。海燕のけちー」

浮竹は、また駄々をこねだした。

本当に、この上司は手がかかる。

でも、駄々のこね方とかかわいいので、ほっこりする。

ごろごろと畳を転がりだした浮竹に溜息をついて、海燕は京楽が残してくれた杏仁豆腐と、結局浮竹に食べさせてしまうのだった。

我ながら甘いと思いつつも、上官の畳を転がるわけのわからない駄々のこね方ってなんなんだろうと思うのであった。


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