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始祖なる者、ヴァンパイアマスター42

「どうして!どうして、血の帝国に入れないの!」

女神アルテナは叫んでいた。

分身体を血の帝国に向けた。

だが、結界が張られているように、女神アルテナの体は血の帝国に入ることができず、その存在を弾かれた。

「まさか、この前ブラッディ・ネイと会った時に、始祖浮竹かその血族の京楽が何かをしたというの?」

まさに、その通りであった。

浮竹が、二度と女神アルテナを血の帝国に入れないように、大金貨2万枚という大金を払って、猫の魔女乱菊に女神アルテナの存在が血の帝国に入れないようにする、小さな水晶玉の魔道具を作ってもらったのだ。

「く、こうなれば、私が直接、浮竹と京楽を叩いてやる!」

女神アルテナは、学習能力がなかった。

一度オリジナルに極めて近い分身体で、浮竹と京楽に敗れていた。

ただ自分には絶対の自信があるので、あの時はまぐれなのだと思い込んでいた。

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「浮竹、起きて。朝だよ?」

「んー。あと4時間・・・・」

「もう昼の12時だよ?あと4時間だと、夕方の4時になっちゃう」

京楽の揺り起こされて、浮竹は大きな欠伸をしてやっと起きた。

「朝食が昼食になっちゃたけど、食べるよね?」

「朝食と昼食、両方食う」

その細い体のどこに入るのか、浮竹は本当に朝食と昼食をペロリと平らげてしまった。

デザートの苺を口にしながら、京楽を見る。

「なぁ。お前、自分が魔神になりかけてるの、知っているか」

「は?」

京楽は頭にはてなマークを浮かべた。

浮竹は炎の精霊王を呼び出した。

「なん用だ、我が友よ」

「お前は、この京楽という存在を見て、どう思う?」

「ふむ。魔神だな。カルマを積みすぎて、存在が歪み魔神と化している」

炎の精霊王は、ごく当たり前のように出されてあった紅茶を飲んだ。

「魔人は人間がなるもの。それに比べて、魔神は上位存在がなるもの。魔神となって、我を忘れて暴走する前に、これを授けよう」

炎の精霊王は、金色の首飾りを出してきた。

「これを身に着けている限り、魔神となっても、我を忘れて暴走し、周囲を傷つけることはないだろう」

浮竹はその金色の首飾りを受け取って、京楽に付けさせた。

「では、我は帰る」

紅茶を飲みほして、炎の精霊王は精霊界に戻ってしまった。

「最近のお前は敵に残酷だ。おまけに神に匹敵する魔力を有している。俺の血族であるには変わりないが、その存在がヴァンパイアロードから魔神になりかけている。俺は、お前が魔神になってしまった後、どうなるのかが不安だ」

魔神。

それは神の中でも邪悪な存在がなるもの。もしくはカオスな存在か、カルマを背負いすぎた存在がなるもの。

今の京楽はカルマを背負いすぎて、魔神になりかけていた。

「僕が魔神に・・・でも、僕は今までの僕と基本は変わってないよ?」

「俺は魂に神格があって神になれるらしいが、お前は魔神になれる。二人して、怪物だな」

「僕は、浮竹を守れるなら、魔神にだってなんだってなってやる」

京楽は、金の首飾りを引きちぎった。

「京楽!」

「浮竹、本気で僕が魔神になったとして、君を傷つけると思ってるの!?」

京楽は怒っていた。

浮竹に怒りを抱くのは、数十年ぶりだった。

「違う、俺は!」

「こんな首飾りをつけさせて、僕が暴走するのが前提になってるじゃない!」

「京楽、話を聞け!」

「僕は間違ってない。浮竹、君を傷つけないし、暴走もしない!」

そう言って、京楽は古城から走り去ってしまった。

「京楽・・・・・・」

一人残された浮竹は、じわりと涙を浮かべながら、魔神になっていく京楽のいきつく先を心配していた。

京楽はすぐに戻ってくるものだと思っていた浮竹は、翌日になっても戻ってこない京楽を心配していた。

血の帝国にいき、京楽が来ていないか聞いてみたが、答えはNOだった。

それから3日経っても、京楽は戻ってこなかった。

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「そう。あなたは、魔神なのね。でも大丈夫。あなたの存在は、間違っていない」

女神アルテナの分身体に抱かれながら、怒りに支配されていた京楽は、目を閉じる。

「僕を取り込もうとしても無駄だよ、女神アルテナ。僕は浮竹のものだし、浮竹を傷つけるようなことはしない」

「あら、それは分からないじゃない。ほら、段々浮竹が憎くなってきたでしょう?」

憎悪を抱かせるお香を焚いていたが、京楽にはきいていなかった。

「さぁ、あなたは浮竹が憎くてたまらない」

「浮竹が憎い・・・・」

京楽は、そう装った。

そのほうが、この女神アルテナを絶望させられる。

「僕は、行くよ。浮竹を滅ぼしに」

「流石、魔神ね。さぁ、いってらっしゃい!あなたの雄姿を、私が見守っていてあげる」

女神アルテナの空間から解放された京楽は、古城にきていた。

古城に顔を出すと、浮竹が顔を輝かせて出てきた。

「どうしたんだ、京楽!3日も連絡をよこさず、勝手に消えたりして・・・」

京楽は、完全に魔神になっていた。

「お前、本当に京楽か?俺の血族の、京楽か?」

「ほほほほほ!その子は、もう私の言いなりよ。さぁ、京楽、憎き主である浮竹を屠るのよ!」

京楽は、血の鎌を作り出して、浮竹の胸を貫いた。

「ほほほほ!!」

貫いたふりをして、女神アルテナの胸を貫いていた。

「ほほほほ・・・・な、なぜ・・・・」

「僕が、浮竹を裏切るわけがないでしょ?魔神になっても、僕は僕だ。浮竹のことが大好きで、浮竹を愛している。僕は永遠に浮竹のもので、同時に永遠に浮竹は僕のものだ」

「おのれえええ」

女神アルテナは、貫かれた胸を再生させながら、血反吐を吐きながら、京楽を亡き者にしようと女神だけに許された聖剣エクスカリバーを手に、京楽を貫く。

「ぐふっ・・・・それだけかい?」

「何故!魔神なら、聖剣の力で滅ぶはず!」

「だから、僕は魔神であると同時に、浮竹の血族だって言ってるでしょ。君、バカなの?」

「ふざけるなあああ!!!魔神となった存在が、邪悪でないだと!聖剣で滅ぼせないだと!ふざけるなあああ!」

「ふざけてるのは、君の存在でしょ」

そう言って、京楽は血の剣を作り出して、女神アルテナの胸からへそにかけて、斬り裂いた。

「ああああああ!私の体が!」

女神アルテナは、血しぶきあげながら、京楽を呪う。

「女神の怒りを、思い知れ!」

けれど、自分より上位存在であった京楽には、通じなかった。

「何故!」

「それは、純粋に僕が君よりも強いから」

京楽は、血の刃で女神アルテナを袈裟懸に斬り裂いた。

女神アルテナは、分身体を保っていられなくなり、アストラル体になって逃げようとした。

「動くな」

その魔神の言葉だけで、女神アルテナのアストラル体は、動けなくなった。

「バカな!魔神如きの言葉で、拘束されるはずが!」

上位神なら分かるが、魔神になったばかりの京楽如きの言葉に束縛されるはずはないと、女神アルテナは叫んだ。

「やれ、お前たち!」

女神アルテナは、自分が流した血から使徒を召還すると、京楽ではなく浮竹を狙った。

浮竹はすぐに血のシールドを作りだして、それを防いだ。

「おのれえええ!どいつもこいつも、女神である私をこけにしやがって!!」

「もういいよ。滅んで?」

「いやあああああああああ」

京楽は、いつもの魔剣を手にしていた。

ミスリル銀でできたそれは、京楽の魔神としての血を吸収して、真っ赤な刃になっていた。

最初は右手の指を。次に左手の指を。

指の次は手を。

手の次は腕を。

細切れにされながら、女神アルテナは泣きわめいた。

「私が、私が悪かったわ!許してええええ」

「まだ、足が残っているよ?」

「京楽、魔神になったのはいいが、俺の言葉はちゃんと届いているか?」

「うん、大丈夫だよ、浮竹。僕は魔神になっちゃったけど、基本は以前の僕と、同じだよ」

「そうか。ならいいんだ」

浮竹は、安堵した。

「女神アルテナ。分身体であるとはいえ、そこまでダメージを受ければ、本体までダメージはいくだろう。京楽」

「うん、分かってる」

京楽は、浮竹の傍に寄り添って、お互いの手を握り合わせながら、魔力を練っていく。

「「エターナルフェニックス」」

神の寵児と、魔神はの魔力は、一体となって一つの不死鳥を呼び出す。

「シャオオオオオオ」

それは唸り声をあげて、女神アルテナのアストラル体を焼き尽くしいく。

「この私が、この私が、魔神と始祖ヴァンパイア如きにぃぃ!!」

それだけ言い残して、女神アルテナの分身体は、灰となって崩れ落ちた。

「僕は魔神だけど君の血族(モノ)だよ?」

その言葉に頷いて、浮竹に抱きしめられていた。

京楽も、浮竹を抱きしめ返す。

「僕、魔神になっちゃった」

「でも、以前の京楽のままだ」

「うん」

京楽は、浮竹に口づけていた。

「んっ」

「魔神となった僕の血、飲んでみる?」

「そうだな」

京楽の首に噛みついて血を啜る。魔神になった証のように、その血液は魔力を帯びていた。

「前より、甘くなった」

「僕の血を飲めるのは、世界で君一人だけだからね」

「お前の血は、いつでもうまい。お前が魔神になることに恐れを抱いていたが、杞憂だったようだ。それよりこの3日間何をしていた。まさか、女神アルテナを油断させるために、ずっと傍にいたとかいうんじゃないだろうな?」

「ぎくっ」

強張る京楽に、浮竹はにーっこりと笑った。

「この浮気者ーーー!!」

「違うから!確かに傍にはいたけど、手を出したわけじゃないし、出されていないから!」

浮竹の手からハリセンを奪い取り、抱きしめる。

じっと鳶色の瞳で見つめられて、浮竹は赤くなった。

「まぁ、お前がそう言うなら信じる」

3日の間にたまった洗濯ものや浮竹の食事の世話は、いつも通り戦闘人形のメイドがしていてくれたようで、京楽は安心する。

「3日間も君を放置していたけど、気が気でなかったよ。君が悲しんでいるんじゃないかと、思っていた。実質、喧嘩別れみたいなものだったしね」

「俺は、あのくらいじゃ・・・・」

「泣かせて、ごめんね?」

京楽が、浮竹を抱きしめる腕に力をこめる。

「何故、俺が泣いたと分かる」

「ん、予知夢かな。夢の中で、君が波を滲ませているシーンを見た」

「だったら、なんでさっさと戻ってこなかった。ああ、女神アルテナのせいか」

「ごめんね?」

「いや、いい。女神アルテナにも相当ダメージがいったはずだ。今頃、苦しみまくっているだろう」

京楽は、苦しんでいる女神アルテナを想像して、邪悪そうな笑みを浮かべる。

「こら、京楽、何を考えている」

「ん。ちょっと、女神アルテナのことをね?」

それに、浮竹が頬を膨らませる。

「今は俺がいるんだ。俺だけのことを考えろ」

「はいはい。僕のお姫様は、本当にツンデレなんだから」

「誰がツンデレだ!」

ぽかりと殴ってくる浮竹を再度抱きしめて、耳元で囁く。

「君が欲しい」

浮竹は真っ赤になったが、頷いた。

「先に風呂に入り、夕食をとってからだ」

「うん」

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「あ・・・・」

京楽に胸の先端を甘噛みされて、浮竹は声を漏らしていた。

「んんっ」

京楽が、今度は指でつまみあげながら、浮竹にディープキスをしてくる。

「んっ」

舌と舌を絡ませあいながら、浮竹はもぞもぞしていた。

すでに勃ちあがったものは、触れたくてうずうずしていた。

「あ!」

京楽に勃ちあがったものを舐められて、その快感と恥ずかしさに唇を噛んだ。

「んっ」

京楽の指が、口内に侵入してきた。

「噛むなら、僕の指を噛んで?」

その指に舌を這わせると、京楽はくすぐったそうにしていた。

「愛しているよ、十四郎」

「俺も愛している、春水」

お互い、体液でぐちゃぐちゃになるほど交じりあった。

「あああああ!!」

京楽の熱に引き裂かれて、浮竹は精液を自分の腹にぶちまけていた。

「ひあう!」

ごりっと、京楽のものが最奥を抉って、浮竹は射精しながら、オーガズムでいっていた。

「君の中にいっぱいあげるからね?ちゃんと、受け取ってね?」

「ああああ!!」

熱い飛沫を体の奥で感じて、浮竹は快感と満足感を味わっていた。

「もっとだ、もっと、春水、お前をくれ」

「淫乱な子だね?もっと僕が欲しいの?」

コクコクと、浮竹は頷いた。

「じゃあ、いっぱいあげる。君が嫌がっても、止めてあげない」

「ひああああ!!」

またゴリゴリと奥を侵入してきた熱が弾ける。

「んあっ」

浮竹は、京楽に吸血されていた。

「あああ・・・・・・」

オーガズムの海に巻き込まれて、浮竹は意識を飛ばしそうになるが、京楽の律動で我に返った。

「僕が満足するまでだよ。もっと注いであげるから、頑張って」

「いやあああ」

「嫌がっても、止めてあげないって言ったでしょ?」

「やあああ」

何度も京楽の子種を注がれて、浮竹は意識を失った。

「ごめんね、浮竹。今の僕は、愛しい相手に手加減できないみたいだよ」

すーすーと眠る浮竹の白い前髪をかきあげて、額に口づける。

ずっと音をたてて引き抜くと、京楽が浮竹の中に放った大量の精液が逆流してきた。

それをタオルで受け止めて、濡れたタオルで浮竹の体を拭ってあげて、京楽は浮竹の体内に出したものをかき出す。

「愛してるよ、十四郎。魔神になった僕を変わらず愛してくれて、ありがとう」

京楽の精液にも、魔力が宿っていた。

それを受け止めた浮竹も、また魔力の最大値があがるだろう。

交じりあうのは、愛を確かめあうだけではなく、お互いの力を均等にする役割も果たしていた。

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「あああああああ!!」

魔国アルカンシェルで、女神アルテナは 見えない消えることのない業火を身に浴びて、転げまわっていた。

「熱い、熱い、熱い!!」

「女神アルテナ!この薬を!」

藍染は、女神アルテナにエクリサーを与えた。

「ありがとう、愛しい人。あの京楽、魔神になったわ」

「魔神だと?」

「そう。カルマを積みすぎて、魔神になったの。利用しようとしたけど、返り討ちにあったわ」

「そうか。魔神か・・・・」

藍染は思案する。

「少し様子を見る必要があるな。誰か、魔王グレスを呼んで来い!」

呼ばれてやってきた魔王グレスは、藍染に不満そうな顔をした。

「もーなんなの。あたし、忙しいんですけどーー」

「魔神と、戦ってみたくはないかい?」

「魔神!?戦ってみたい!」

「そうか。じゃあ、今から教えるから、その場所に魔神がいる・・・・・・」

「魔神かー。楽しみだなぁ。魔王であるあたしより、強いのかしら」

目をキラキラさせて、魔王グレスは、魔神京楽の姿を水鏡に映されて、さらに興味をもつのであった。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

「東洋の俺、強くなったな?」

古城に遊びにきた東洋の二人を迎え入れて早々、西洋の浮竹がそんなことを言った。

(え、そうか?)

「ああ。魔力ではないが・・・・妖力というのか?人外の力が強くなっている」

(ああ、川姫の一件があったからかな)

水神の白蛇として覚醒した東洋の浮竹は、その一件以来、確実に力を増していた。

(ああ、これ俺が作ったチーズケーキ。よかったら、食べてくれ)

「東洋の浮竹って、どんどん料理が上手になるね」

(そりゃ、ボクの愛の指導によるものだからね)

「僕のところの浮竹も少しはましになたったけど、砂糖とタバスコを間違えるわで、まだ一人で調理させれないよ」

(砂糖とタバスコ・・・どうやったら、そんなの間違えるの?)

「僕に言われても分からないよ。まぁ、マンドレイクを生で料理にぶちこまなくなっただけ、ましかな」

「おい京楽たち、何をぶつぶつ言ってるんだ。お茶にするぞ」

「はいはい」

(君のところの十四郎も、ちゃんと君が指導すればまともなものが作れるようになるさ)

お茶は、ダージリンとアールグレイだった。

皇室御用達の茶葉で、最高級の一品だった。

(やっぱり、西洋の俺のところの紅茶はうまいな。本格的だし、茶葉をいいの使ってるからか、俺たちの世界の紅茶より美味い)

「よかったら、茶葉を持って帰るか?」

(え、いいのか!?)

「紅茶の茶葉くらい、いくらでもくれてやる」

(やったぁ。春水、これで向こうの世界に戻っても、美味しい紅茶が飲めるぞ)

(そうだね。良かったね、十四郎)

東洋の京楽に頭を撫でられて、東洋の浮竹は嬉しそうにしていた。

「ん、このチーズケーキというのうまいな」

(そうだろ!レシピをやるから、西洋の俺も作ってみたらいい)

チーズケーキを頬張りながら、二人の浮竹はそれぞれダージリンとアールグレイの紅茶を飲んで、和んでいた。

(それより、西洋の俺、心配があって相談事をしたいじゃないのか?)

「なんで分かるんだ?」

(そりゃ、西洋の俺は大親友だし、兄弟みたいなものだから)

言いながら、東洋の浮竹はかーっと赤くなった。

釣られて、西洋の浮竹も赤くななる。

「京楽には聞かれたくない。どうしうよう」

(お使いとか頼むのはどうだ?」

「お、それいいな。おい、そこの京楽たち、実が折り入って相談が・・・・」



こうして、西洋と東洋の京楽は、古城からほど近いアラルの町に住んでいる、猫の魔女乱菊に大量のマンドレイクを納めにいくことになった。

(なんでボクまで・・・・・)

東洋の京楽は不満そうだが、西洋と東洋の浮竹だけを残していくのは心配なので、大量の黒い蛇をその陰にしこんだ。

「じゃあいこうか」

(分かったよ)

こうして、西洋と東洋の京楽は、古城を出た。



「俺のところの京楽が、再覚醒して魔力が俺と同じくらいになるまで強くなったんだが、敵に対して今までに見たこともないくらい、残酷になって、それが心配なんだ」

(あー。そういえば、西洋の春水って、俺の春水と同じくらいに力をあげてたからなぁ)

「俺に対しては優しいだ。でも敵には残酷で。その二面性が少し、怖い」

自分の体を抱きしめるようにした西洋の浮竹は、けれど東洋の浮竹に抱きしめられていた。

「東洋の俺?」

(きっと、お前の京楽は今まで力が足りなかった分、お前を守りたいと躍起になっているんだ。残酷なの面も出てしまうかもしれないが、壊れたりはしない。大丈夫だ)

「お前にそう言われると、そうなりそうで安心する」

西洋の浮竹は、東洋の浮竹に抱きしめてもらいながら、安堵の声を出した。

(そうだ、京楽たちがお使いにいっている間に、チーズケーキを二人で作ろう)

「え、俺でも作れるのか?」

(大丈夫、レシピはあるし、俺が作り方を教えてやる)

「そうか。悩みごとを聞いてもらってすっきりしたし、一緒にチーズケーキ作るか」



その頃、西洋と東洋の京楽は、猫の魔女乱菊に大量のマンドレイクを届けるついでに、二人の京楽をじろじろ見ていた。

「ふーん。世界が違うところからきた京楽さん・・・・面白いわねぇ。解剖してみたいわ」

二人の京楽は、マッハで逃げ出した。

古城への帰り際に、Aランクのヴァンパイアハンターと名乗る男に出会った。

「始祖の浮竹を葬るつもりだったが、先に血族の京楽、お前から仕留めてやる!」

「へぇ。僕の浮竹に、危害を加えるつもりだったんだ。たかが、Aランクのヴァンパイアハンターのくせに」

西洋の京楽は、ニタリと笑って、そのヴァンパイアハンターの体に猛毒である自分の血を注ぎ込んだ。

「うぐっ・・・・うわあああ」

「そう簡単に死なないでよ。ほら、ほら」

西洋の京楽は、血の刃を作り出して、息も絶え絶えなヴァンパイアハンターの体を切り刻んだ。

「あれ、もう死んじゃったの?つまんないな」

その姿に、東洋の京楽がやや引いていた。

(おい、西洋のボク。やりすぎだよ)

「だって、僕の浮竹に手を出そうとしていたんだよ。これくらいのバチは当たっても、別にいでしょ?」

(はぁ…ボク、言ったでしょ?“やりすぎ”だって)

「だって、僕の浮竹を傷つけようとしてるんだよ?だから、死んでもらわないと…」

西洋の京楽は東洋の京楽ににっこりと微笑む。

笑みは狂ったような狂気を含んでいる。

対して、東洋の京楽は金色にした目を冷たく澱ませて、西洋の京楽を見て呆れている。

(…勝手にすればいい。それで、キミの身が滅んでもボクは嘲笑うことしかできないね)

「僕は、そんなことしないよ?だって、僕には浮竹がいるしね」

そう言う西洋の京楽に興味をなくしたように、東洋の京楽は何も言わずに二人の浮竹が待つ古城へ先に向かう。

それを首を傾げて、西洋の京楽は東洋の京楽の後を追う。



「帰ってきたか、二人とも」

(割と早かったね)

「うん、ただいま」

’(ただいま)

「ん?なんかいい匂いするね」

(そういえばそうだね)

いい匂いがしてきて、それに二人の京楽は興味をもったようだった。

「実は、俺と東洋の俺で、チーズケーキを作ったんだ」

(そうそう。もう一回、お茶にしよう)

「えええ。浮竹がチーズケーキ!やばいよ、東洋の浮竹。ちゃんと作ってるシーン目撃した?」

(いいや、レシピを渡して作り方を教えて、それぞれで作った)

「あああああ」

(どうしたんだい、西洋のボクって、ああ・・・・やっぱりね)

東洋の浮竹がもってきたチーズケーキは白っぽかった、西洋の浮竹がもってきたチーズケーキは赤かった。

「浮竹、味見した?」

「するわけないだろう」

さも当然のように、西洋の浮竹は答える。

「いいから、食え!」

問答無用だとばかりに、西洋の浮竹は西洋の京楽の口の中に、一口分のチーズケーキを入れた。

「ぎゃああああ!!チーズケーキなのに辛い!君、また砂糖とタバスコ間違えたね!?」

「あれ、また間違えてしまったのか。まぁいいだろう。全部食え」

次々に口の中にチーズケーキ(激辛)を放り込まれるが、西洋の京楽は結局全部食べてしまった。

(うわお。君の西洋の十四郎への愛は本物だって、少なくとも分かったよ)

「見てないで止めてくれ、東洋の僕・・・・・」

東洋の浮竹は、赤いチーズケーキを自分で食べていく。

「辛いが、これはこれでうまいと俺は思う」

(いいね。ボクにも食べさせてよ)

東洋の京楽の分はなかったので、西洋の浮竹は、自分が食べていたチーズケーキを東洋の京楽の口に放り込んだ。

(んー。辛いけど、それがいいね。タバスコだけじゃなく、他にも香辛料いれた?)

「少しだけ」

(東洋の俺、砂糖とタバスコを間違えたのか。今度から、気をつけろよ?)

東洋の浮竹は、あわあわしていた。

「ああ、そうする」

西洋の京楽は、胃薬を飲んでいた。

「京楽。胃薬なんてなくても、俺の料理を食えるだろうが」

「簡便してよ。君ってば、料理できるようになったと見せかけて、すごい代物作ってくるんだから!この乱菊ちゃん印の胃薬がないと、僕の胃に穴があいちゃう」

「ほう。じゃあ、今晩の夕食は、俺が作ってやろうか」

額に血管マークを浮かべた西洋の浮竹の笑みに、西洋の京楽が飛び上がった。

「今夜の夕食は僕が作るから!いいね!?」

「仕方ないな・・・・」

しぶしぶ納得する西洋の浮竹に、東洋の浮竹と京楽は苦笑いするのであった。

その日の晩は、西洋の京楽と戦闘人形が作った夕食を口にして、4人は就寝した。

次の日の朝、首筋にキスマークのいっぱいついた西洋の浮竹を見て、東洋の浮竹は全てを察知して、真っ赤になった。

(その、西洋の俺。キスマークが・・・・)

それに自分がキスマークをいっぱいつけられたのだと思い出して、西洋の浮竹も赤くなる。

「あの駄犬が!」

「わああああああ」

西洋の京楽は、西洋の浮竹にハリセンを手に追いかけられていた。

(じゃあ、俺たちはこのへんで・・・・・)

(二人ととも、ほどほどにね)

「ああ、またな。待て、京楽」

「またねええええ。ぎいやあああ」

東洋の浮竹と京楽は、西洋のこんな二人の姿に、心配しすぎるのも杞憂かと思うのだった。






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始祖なる者、ヴァンパイアマスター41

「本当に、大丈夫だろうね?」

「しつこいな、俺を信じろ!」

「だって君、不器用そうだから」

京楽は浮竹に小突かれて、そのまま口を閉ざした。

京楽の髪が大分伸びてきたので、浮竹がカットすることになったのだ。

浮竹は、いつも京楽に髪を切ってもらっていた。その京楽はというと、いつも近くの町の美容院で切ってもらっていた。

それが気に食わなくて、浮竹が自分で切ると言い出したのだ。

あえて、鏡のない部屋に通されて、ブラシでやや癖のある長い黒髪をすいていく。

「お前の髪、硬そうにみえて柔らかいんだとな」

京楽の髪を一房手に取り、ひっぱった。

「あいたた、ひっぱらないでよ」

「す、すまん。じゃあ、切るぞ?」

「もうさっぱり、短くしちゃって」

人間の頃の京楽は、髪が短かった。

あの頃の髪型を思い出して、はさみでばっさりといった。

「あ”」

「え、何?何か起こったの!?」

「な、なんでもない!」

どうしよう。

浮竹はいきなり京楽の頭に10円ハゲをこさえてしまった。

「ええい、なるようになれ!」

そのまま、勢いで髪を短くしていると、10円ハゲが4つできた。

「ああああ~~~~~~」

「ちょっと、鏡見せて!」

京楽は、浮竹の手から手鏡を奪うと、自分の顔を見た。

「なんじゃこりゃああああああ!!」

京楽の悲鳴が、古城中に響き渡るのだった。


結局、浮竹の血を口にして、元の長さと同じくらいまで京楽は髪を伸ばした。

「美容院いってくる」

「俺もいく」

「どうして。君の髪は、この間僕が切ったでしょう?それ以上短くしたいの?」

明らかに髪を短くするのに不満気な京楽に、浮竹は小声で。

「お前と、離れていたくない」

そう口にして、カーッと真っ赤になった。

「浮竹、かわいい!」

抱きしめてついでに口づけてくる京楽に、浮竹は脅し入れる。

「また、10円はげこさえたいのか?」

「いえ、ごめんなさい。調子に乗りすぎました」

「分かればいい」

そうして、古城から一番近くの町、アラルの町にやってきた。

冒険者ギルドにもついでに顔を出した。

今急ぎの依頼はないようで、これといったクエストもなかったので、浮竹も京楽も、冒険者ギルドを後にする。

風の噂で、アリス・マキナというSランク冒険者が、4人パーティーで40階層あるS級ダンジョンを踏破したと聞いて、頑張っているのだなと思った。


「ここが、僕の行きつけの美容院」

「あ~らいらっしゃ~い。春水ちゃん、今日は髪のカットだけ?髪も洗いましょうか?ひげもそる?」

店長はオカマだった。

時折ひげのない京楽がいるのは、この美容院のせいだと分かって、浮竹は面白くなさそうに、そソファーに腰かけた。

「あら~。こっちのかわいい子は、春水ちゃんのいい子?」

じろじろと見られて、浮竹はたじたじになった。

「もう、店長、そういうのはやめてって言ってるでしょ!」

「あら、この前の金髪のかわいい子と違うのね。どっちが本命?」

店長の言葉に、浮竹がゴゴゴゴと怒る。

「やん、怒っちゃや!」

「京楽、金髪の子とは・・・・・・」

「わあああ!乱菊ちゃんだよ!いい美容院教えてって言われて、一度だけ一緒にきたんだ」

浮竹はほっとした。

まさか、京楽が浮気なんて、そんなことするわけはないとは分かっていたが、それでも肝が冷えた。

「ファッション雑誌か・・・・」

今を時めくモデルやらが、表紙を飾っていた。

「あら、そっちの白い髪のかわいこちゃん・・・・」

「浮竹だ。浮竹でいい」

「浮竹ちゃん、良ければこの美容院の専属モデルにならない?あなたくらいの綺麗な子を探していたのよね~~~」

「悪いが、断る。顔をあまり知られたくない」

「あら残念だわぁ」

店長はくねくねと動いた。

見た目がいいオカマならいいが、けつ顎で、マッチョな姿に圧化粧をして、ふりふりのゴシックロリータの服を着たオカマを見続けては、気分も悪くなるというもので、浮竹は一生懸命雑誌を見るふりをした。

「あら、それ、逆さまよ?」

「ああ、気が動転していた」

見ていた雑誌を反対にもって、浮竹は心を無にした。

オカマの店長の存在を、なかったことにした。

「いや~~ん。京楽ちゃん、魔力がすごーい!どうしたの、この魔力!

「ああ、ちょっとわけがあってね」

店長は京楽の髪を洗い、魔法で熱風をだして乾かすと、ブラシで癖のある京楽の髪をまっすぐにして、髪を切っていった。

リズミカルに、チョキチョキと切っていく。

その技が欲しくて、気づけば浮竹はオカマの店長の傍にきて、その手をじっと見ていた。

「いやん、浮竹ちゃん。求愛なら、後でね?うふん」

浮竹は精神に1000のダメージを受けた。

「求愛・・・」

ズーンと沈みこんで、ソファーにまた腰をかけて、ファッション雑誌に適当に目を通した。

いつも、京楽が買ってくる適当な服を着ているつもりだったが、それがファッション世界ではやっている衣服だと知って、浮竹は京楽に後で礼を言おうと思った。

「あっは~~~ん。じゃあ、ひげ剃るわね?」

「ああ、頼むよ」

髭をそられてしまい、髪を切られた京楽は、いつもと違った風に見えて、浮竹はドキドキしていた。

「どうだい、浮竹。似合うかい?」

「け、け、け」

「け?毛?」

「けしからん!!!」

京楽を抱きしめて、つるつるしたほっぺに頬ずりをして、口づけていた。

「ちょっと、浮竹、店長が見てる!」

じーっと穴があくほど、店長の熱い視線を感じた。

「春水ちゃん、あたし、ずっと春水ちゃんのことが好きだったの」

「京楽は渡さないぞ!」

「浮竹ちゃんも素敵だし、よかったら3Pで、あたしと(以下放送禁止用語)とか、しない?」

浮竹と京楽は、金を払ってその場から逃げ出した。


「ま、まさか店長はオカマなだけでなく、そっちの趣味もあったとは・・・・・」

「僕、好きだとか告白されちゃった。今度から、あの美容院いけないね。代わりの美容院探さないと」

二人して、手を繋いで歩きだした。

このアビスの世界は同性愛者が多いので、不思議がる者はいなかった。

人類の3分の2が男性で、残りの3分の1が女性である。当然、あぶれた者の中には、浮竹と京楽のような関係になる者も多かった。

「猫の魔女乱菊のところに行こう。この前依頼していた魔道具が、そろそろ出来上がっているはずだ」

アラルの町の外れにある、屋敷を訪れた。

チャイムを鳴らすと、神々の谷間も露わな乱菊が出てきた。

「乱菊、ちゃんと衣服を着ろ!」

「あら、シャワー浴びてたのよ。気配であなたたちだって分かったから、出てきただけよ。ちゃんと自己防衛はできるし、心配しなくてもいいわよ?」

「と、とにかく乱菊ちゃん、服を着て!」

浮竹も京楽も真っ赤になっていた。

「そうそう、頼まれていた魔道具、できたわよ?」

それは、小さな水晶玉だった。

「こんなに小さいのか?」

「女神アルテナとやらの、侵入を防ぐ効果があるわ。血の帝国全てを覆いつくすほどに範囲を広げておいたから」

「約束の大金貨2万枚だ。小切手で払う」

「毎度あり~~~♪」

乱菊は、らんらんと鼻歌を歌いながら、その神々の谷間に小切手を入れた。

乱菊への用も終わり、二人は古城に帰還した。

それから、急いで血の帝国にいき、ブラッディ・ネイに水晶玉を渡して、それはブラッディ・ネイが首飾りにして自分に身に着けた。

「ボクが血の帝国の中心だからね。これでいいでしょ、兄様?」

「古城に遊びに来るときは、それを寵姫にでも身に付けさせておけ」

「分かってるよ、兄様」

そのまま、浮竹と京楽はブラッディ・ネイの宮殿に一晩泊まり、翌日古城に戻っていった。

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「あー。とえあえず女神アルテナについては、血の帝国に関しては一安心だ」

「そうだね。でも、気をつけないといけないよ。また、女神アルテナと藍染の子供がくるかもしれない。あのレキとサニアって子も、二人の子供だったようだし。よくもまぁ、こんな短期間で4人も子供を作って、ある程度の年齢まで仕上げたものだよ」

「禁呪だな。人体に使用してはいけない、成長促進の秘術を使っているんだろう」

そんなことを言っていると、来客の知らせがきた。

リンリンリン。

誰かと思い、姿を見ると、オカマの店長がフードを深く被った子供を連れてきていた。

「なぜ、オカマの店長がこの古城を知っている」

「前に、つけられたことがあったんだ。その時に知ったんじゃないかな?迷惑きわまりないことだけど」

とりあえず、浮竹と京楽は、客人として迎え入れるつもりで扉を開いた。

「死ね!」

いきなりの攻撃に、浮竹は対処しきれずに、胸を血の刃で貫かれていた。

「子供!?浮竹にそっくりだ!」

「いやあああああ!!浮竹ちゃんになにするの!」

オカマの店長は、迷子になった浮竹の弟を連れてきたのだと説明しながら、浮竹の傷を見てくれた。

「幸い、致命傷じゃないわ」

浮竹が傷を癒していく姿を見ても、驚かない。

何故かと思っていると、店長は人間とヴァッパイアの間に生まれたハーフのヴァンピールだった。

「この子、敵なのね!?」

「ああ、そうだ。わざわざ連れてきて、ありがた迷惑だ」

「どのみち、あなたたちを襲っていたわ。私は力になれそうにないから、奥に引っ込んでいるわね?」

「そうしてくれ」

京楽は、魔力をどす黒く染め上げていた。

「よくも僕の浮竹を・・・・・」

「何故、俺と同じ姿をしている!」

「そうなるように、あんたの血から作られたからだよ、始祖の浮竹。僕はイザベル。お前たちを殺せないまでも、痛めつけて僕は自由になるんだ!」

ニタリと、京楽が笑った。

「僕の愛しい浮竹と同じ姿をしていたら、攻撃を加減されるとでも思ったのかい?」

猛毒の京楽の血を注がれて、イザベルは苦しんだ。

「なぜ、血族の血に毒が・・・!」

「東洋のお札を吸収したからね。僕の血は、浮竹以外には猛毒だよ」

「化け物が!」

「嬉しいね。最高の褒め言葉だよ」

ニターっと、京楽は不気味に笑った。

それを、浮竹が不安そうに、心配そうに見ていた。

「死ね!!」

血の刃を作り出して、攻撃してくるも、魔力は浮竹の半分以下で、京楽は獲物を弄ぶようにじわりじわりとイザベルを追い詰めた。

「さぁ、君の番だよ」

イザベルは血の鎌を作り出すと、京楽を無視して、浮竹に向かっていた。

「フレイムウィンド!」

炎をまとった風に追いやられて、血の鎌は浮竹には届かず、イザベルは舌打ちした。

「僕と同じはずの存在なのに!」

「全然違うよ。僕の浮竹は、君みたいに醜くない」

京楽は血の刃をいくつも作ってイザベルを更に追い詰める。

イザベルは、再生が追い付かない体を捨てた。

「な、アストラル体!神だというのか!」

「正確には、神の魂をもっているだけさ。僕は、イザベル。でも、女神リンデルでもある!」

アストラル体となったイザベルは、浮竹を魔力で締め上げようとして、愕然とする。

「始祖浮竹、何故お前の魂に神格がある!お前も、神だというのか!」

「なんのことだかわらかんな!ゴットフェニックス!」

アストラル体には通常攻撃は効きにくい。

不死鳥をまとった炎が、イザベルのアストラル体を襲った。

「熱い、熱い、熱い!」

転げまわるが、神であるために易々と死ねない。

「あははは。神の魂を宿したことに後悔するんだね。君が死ぬまで、業火で燃やしてやろう」

「京楽?」

浮竹が、また不安そうに京楽を見た。

「僕は大丈夫。さぁ、続きといこうか、イザベルとやら?」

「もう、いっそ一思いに殺してくれ」

「そんなわけにはいかないねぇ。浮竹を傷つけた代償は高いよ?」

「ああああああああ」

自我が崩壊しそうになるまで、炎でじっくりいたぶり、京楽は満足した。

「もう、死んでもいいよ」

「僕は神なのに、なんで・・・・・ああああ、父さま母さま」

そう言い残して、イザベルは完全な灰となって滅んでいった。

「京楽?」

「どうしたの、浮竹?」

そこには、いつも通りの京楽がいた。

「戦闘だと、お前が別人のように感じる」

「そう。でも、僕は僕だよ?」

「ああ、分かっている。俺が心配すぎなだけなんだろう」

「ごめん。君を不安にさせてしまったね?ごめんね?」

頭を撫でらて、キスをされた。

それを、オカマの店長は全部見ていた。

「いや~~ん、愛しい姫の為に魔王になる京楽ちゃん!萌えだわ~~」

「お前はさっさと出ていけ!」

浮竹はヴァンピールであるために、記憶は奪わず、古城に続く森へのゲートをあけて、そこに店長を放り込んだ。

「また、私の美容院、利用してね?」

うっふんとウィンクされて、浮竹と京楽は顔を青くした。

「もう、二度と利用しない」

「そうしろ。あいつは、別な意味でやばい」

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「あれが、始祖浮竹。創造神ルシエードのただ一人の神の寵児か・・・・・・」

オカマの店長・・・・いや、創造神イクシードは、始祖の浮竹を見て、納得した。

「ルシエードの子らしい。血族に甘すぎるところとか、昔のルシエードにそっくりだ」

創造神イクシードは、魂に神格のある浮竹を神にするかしないかの調査にやってきたのだ。

「少なくとも、神にするには未熟すぎる。血族の暴走も止められないのでは、話にならない」

「あら、きていたの」

古城の外の森で、妖艶な美女と創造神イクシードは巡り合った。

「女神アルテナ。お前は極刑になったはず!」

「うふふふ。魂だけの存在になって、このサーラに逃げてきたの」

「お前の存在は、神々の怒りを買っている!滅べ!」

その絶対の力は、働かなかった。

「やはり、ヴァンピールの依代には限界があるか。女神アルテナ、この世界から去れ。さもなくば、神々の怒りでお前の魂は永遠の氷獄へ閉じ込められるであろう」

「ふん、創造神イクシード。神になるのは、私の夫藍染よ」

「あれは神になれぬ。魂に神格がないし、その資格もない」

「いずれ、彼は神になるわ。その側には、私がいるの」

ゆらりと、女神アルテナは消えてしまった。

「女神アルテナを敵に回しているのか・・・一応、ルシエードの耳にいれておくか」

創造神イクシードは、依代であったヴァンピールの体から離れて、サーラの世界へ帰還する。

「あらやだ私、どうしちゃたっのかしら。浮竹ちゃんの弟を古城にまで連れていったのは覚えているけど・・・・・・」

店長には、創造神イクシードに憑依されていた間の記憶はなかった。

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「まただめだったか・・・・・」

「あなた・・・・・・」

「魂が神でもだめだと?ふざけるな!」

藍染は、ものに当たり散らしていた。

「今度は、私の分身体がいくわ。血の帝国であいつらの大切やつらの命を奪って、あの始祖浮竹と血族京楽を、あっと言わせてみせるわ」

「女神アルテナ・・・・それは面白い策だ」

女神アルテナは知らなかった。

自分の存在が、分身体であろうとも、血の帝国に入れないようにされていることを。


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始祖なる者、ヴァンパイアマスター40

浮竹と京楽は、血の帝国にいた。

女帝ブラッディ・ネイが懐妊したというのだ。しかも、実の兄である浮竹の子を。

「兄様、ボクはついに兄様の子ができたよ」

愛おしそうに、平らな腹を撫でる実の妹に、浮竹はため息をはきながらも、神の涙といわれるエリクサーを飲ませた。

エリクサーはどんな状態異常や呪いも回復してくれる、奇跡の薬だ。

最高ランクのミスリルランクの錬金術士だけが調合できて、それでも成功率は5%くらいだった。

この前、錬金術用の館を何度も爆破させて、破壊してやっとできた1つだった。

「あれ・・・ボクはどうしていたの?」

「俺の子供を妊娠していたとか言い出してた」

「え、ボクが兄様の子を!?産みたい!」

ブラッディ・ネイは、浮竹にハリセンで頭を殴られていた。

「酷い、兄様」

「ばかな騒ぎを起こすからだ。そう思いこんだ元凶はなんだ?」

「誰かに洗脳されていたみたいだね。ブラッディ・ネイを洗脳するなんて・・・どんなやつだろうね?」

京楽の問いに、ブラッディ・ネイが答える。

「確か、女神アルテナとか言っていたかな。すごい美人だったけど、年をとっていたのでボクの好みには入らなかったけど、少しだけ会話をしたよ」

「女神アルテナだと!?他に何もされていないな、ブラッディ・ネイ!」

「兄様痛い、痛いってば」

「ああ、すまない」

まさか。女神アルテナがこの血の帝国にまで来るとは思っていなかった浮竹は、実の妹の体を隅から隅まで見渡した。

「どこも異常はないようだな」

「ボクをまるで珍獣のように見ないでくれないかな、ひげもじゃ」

「せっかく人が心配してあげてるのに・・・・」

「女神アルテナって、やばい存在なの?」

「目下、俺たちの敵だ」

「ええ!そんな存在なら、ボクもただじゃ返さなかったのに!」

ブラッディ・ネイが悔しそうな声をあげた。

「女神アルテナは、このアビスの世界を去ったはすだ。なのにまだこの世界にいるということは、サーラの世界で死んだか追放されて、このアビスの世界にやってきたってところか?」

「そういえば、真剣に女神アルテナについて、話し合ってなかったね」

「相手は女神。仮にも神だ。もしも魂を滅ぼさないと倒せないなら、今のところ封印するしか策はないな」

神という存在は、不確かな存在であるように見えるが、この世界には存在した。

ちゃんと肉体をもった生物として生きていた。

ただ、その持つ力は次元を超えており、生きる時間も不老不死に近い。

「そうだね。僕が女神アルテナを倒したのは、オリジナルに極めて近い、分身体だったからね」

「ああ。何処までダメージが本体にいったか分からないが、サーラの世界からこのアビスの世界にきたということは、深いダメージを負ったんだろう」

事実その通り、女神アルテナは創造神ルシエードの「滅びよ」というその言葉だけで肉体を灰にされて、この世界に魂だけとなってやってきた。

「ブラッディ・ネイ。今度から、女神アルテナという存在には気をつけろ」

「分かったよ、兄様。匂いを覚えたから、大丈夫。魂に神格があるから、独特の匂いがする。魂に神格があると言えば、兄様もなんだけどね」

「え、俺か?」

「そう。兄様、いつの頃からか魂に神格をもってる。その気になれば、神になれるよ」

「神なんかにはならない。そんな存在になりなくもないし、なりたいとも思わない。今の始祖というだけでも俺には重い」

神の愛の呪いの不老不死。

死ねない時を、浮竹は生きている。もう、8千年も生きている。

うち5千年を休眠して過ごした。孤独に耐えきれずに。

今は血族の京楽もいるし、幸せだった。

藍染がいなければ、もっと幸せな人生を送れていただろうが。

「じゃあ、俺たちは古城に戻る。何かあったら、式を飛ばしてくれ」

「分かったよ、兄様」

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古城に戻ると、浮竹は錬金術をやりはじめた。

大量に金をつぎ込んで買ってきた、エリクサーの材料を手に、錬金術で使っている館で調合をして失敗し、館を爆発させていた。

同じ館で、4回爆発を起こし、焦げ気味になって、浮竹は京楽の傍にやってきた。

「どうしたの、浮竹!ボロボロじゃない!まさか敵襲!?」

「落ち着け。錬金術でエリクサーを作っていただけだ」

「エリクサーの調合って、そういうえば難しいって言ってたね。成功したの?」

覗き込んでくる京楽を押しのけて、ソファーに静かに座る。

「25回分チャレンジして、2本やっとできた。赤字だな」

「まぁ、念のために使う分でしょ?ストックはないの?」

「ストックの最後の一個を、ブラッディ・ネイに使ったからな。だから新しく調合していたんだ」

「浮竹、君の綺麗な白い髪が焦げちゃってるよ」

「京楽、血をよこせ」

京楽は、手を差し出した。

それに噛みついて、京楽の血を啜ると、焦げた髪は元に戻った。

「着替えてくる。今着ている服は処分しておいてくれ」

「この服、高かったのに」

一着で金貨200枚もする、高級な絹をつかった金糸の刺繍が至る所にされている、衣服だった。

上下セットで金貨250枚だ。

金は腐るほどあるので、浮竹は気にしなかったが、京楽は処分が決まった服が好きで、その服を着ている浮竹は、本物の皇族のように気品があって、かっこよいと思っていた。

もっとも、今では浮竹だけでなく京楽も、勇者王として皇族に叙されているが。

浮竹は、着替えてきた。

今度は黒いラフな格好だったが、灰色のマントを背中から左肩、それに胸にかけて、垂らせていた。

マントを背中から左肩、それに胸にかけて垂らすのは、血の帝国の皇族の証である姿だった。

「少し、猫の魔女乱菊のところに行ってくる」

「ああ、僕もいくよ」

「じゃあ、お前も正装しろ。俺のようにマントを羽織れ」

「どうして?」

京楽が首を傾げる。

「猫の魔女乱菊に、血の帝国の皇族として、正式に依頼がある」

「分かった。じゃあ、僕も着替えてくるよ」

京楽が、皇族の姿をするのはこれで二度目であった。一度目は、勇者王として、ブラッディ・ネイに皇族に叙された時、正装をしていた。

「やっぱり、お前には似合っているな、そのかっこ」

「浮竹ほどじゃないよ。浮竹ってば、僕と違ってラフな格好してるのに、マントを羽織るだけで気品が溢れてるよ」

「まぁ、生まれつき皇族で、昔は白哉の地位の皇族王もしていたからな」

やがて乱菊のところまでくると、乱菊は快く迎えてくれた。

「乱菊、今回は血の帝国の皇族として依頼しにきた」

「あら、どうしたの、改まって」

「今戦っている相手が、俺の妹に接触してきた。今後、その存在が血の帝国に立ち入れられない魔道具が欲しい。錬金術で作ってくれ」

「いいけど、相手の何かが必要よ?」

乱菊は、やや険しい顔をした。

「ここに、このアビスの世界にいた、女神アルテナの分身体の血がある。これで足りるか?」

「女神!また厄介な相手と戦っているのね。分かったわ、その依頼引き受けるわ。女神アルテナが、血の帝国にこなけばいいのね?」

「ああ」

「頼むよ、乱菊ちゃん。血の帝国には、浮竹の妹のブラッディ・ネイを始めとして、白哉クン、恋次クン、ルキアちゃん、一護クン、冬獅郎クンといった友達がいっぱいいるんだ。利用されでもしたら、大変なんだよ」

京楽の言葉に、乱菊は頷いた。

「あたしの力の限りを注いで、成功してみせるわ」

「頼む。俺は薬系統の錬金術は得意なんだが、魔道具に関してはいまいちなんだ」

「あら、浮竹さんはミスリルランクなのに、魔道具の錬金が苦手なのね?うふふ、意外な弱点みつけちゃって、ちょっと嬉しいわ」

「報酬は、大金貨2万枚」

「わお。さっそく、とりかからなくちゃ」

忙しく動き出す乱菊の邪魔をしないように、二人は古城に戻っていった。

マントを外して、浮竹はソファーにごりとだらしなく横になる。

「皇族として振る舞うのは嫌いだ。肩がこる」

「僕も、嫌だねえ。慣れないよ」

京楽もマントを外して、浮竹の白い髪を撫でた。

その日は早めに夕食をとり、浮竹は前回京楽とアリスと一緒に踏破したS級ダンジョンで手に入れた、賢者メイエドの遺産の本を読んでいた。

「賢者メイエドはすごいな。67歳までしか生きなかったのに、精霊王を3人も若い頃から従ええいたそうだ」

「浮竹だって、炎と氷の精霊王を従えているでしょ?それに、きっとその気になれば、今の魔力なら、8人の精霊王を従えられると思う」

「賢者メイエドの凄いところは、人間であったところだ。俺は始祖ヴァンパイアでここまで魔力が高くなるのに8千年もかかった。だが、賢者メイエドは、僅か13歳にして王都の賢者となり、3人の精霊王を従えていた」

浮竹は、賢者メイエドの手記を読んでいた。

「それに、知らない魔法をお陰でいくつか習得できた」

「良かったね」

「ああ。ミミックに齧られなかったのは寂しいが」

「問題はそこなの!?」

京楽が、ベッドの上で寝転がりながら賢者メイエドの手記を読んでいる浮竹に、つっこんでいた。

「ああ、そういえば今日はポチにドラゴンステーキをやるのを忘れていた。あげてくる」

「僕も行くよ、浮竹。魔王の元から帰ってきた時のポチの怒りはすごかったからね。半月も古城を留守にしていたから」

「ポチーーー」

「るるるる!るるるるーーー!!」

ポチは浮竹のところにやってくると、浮竹にかみついた。

「狭いよ暗いよ怖いよ息苦しよーー」

「もー、何やってんの、浮竹」

京楽に救出してもらいながら、浮竹はアイテムポケットからドラゴンステーキをだした。

「るるる♪」

ポチはそれを丸かじりすると、ねぐらとして決めている暖炉に中に戻ってしまった。

その日は、そのまま就寝した。

次の日の朝、ピリリリリと警戒音がなった。

「侵入者だ。庭にいこう」

庭は、何度か侵入者を迎え入れたので、クレーターができたりして荒れていた。ただ、古城に面したプランターには、東洋の浮竹と京楽からもらった桔梗の花が綺麗に咲いていた。

「おとうさまのために、きました。僕はレキ」

「私はサニア」

「「死んで?」」

二人は、はもりながら、浮竹を攻撃してきた。

それは、銃というにはあまりにも巨大で、あまりにも弾が早かった。

ガトリングガン。

サーラの世界で、戦争に使われる兵器だった。

「浮竹!!」

いきなり攻撃に、もろに弾丸を浴びた浮竹は、浅い呼吸を繰り返しながら傷を癒していく。

「こっちだよ!」

京楽は、わざと的になるために、レキとサニアの前に立った。

「死んで?」

レキがガトリングガンを放つ。そのガトリングガンは、レキの右腕についていた。

ドガガガガ。

鋭い弾丸を血の炎で燃やし、京楽は伸ばすた血の刃でレキの右腕を切り離した。

「無駄無駄無駄!」

レキの手には、またガトリングガンが生えてくる。

「こいつ!」

京楽は瞳を真紅に変えて、レキの首をはねた。

「あれ、ぼくの首が・・・・・」

「まだ死なないのかい!」

「京楽、気をつけろ。そいつら、俺の血を持っている。ヴァンパイアロード並みの再生力があるぞ!」

浮竹の言葉に、京楽は本気モードになった。

「「死んで?」」

「君たちが、死ぬといいよ。浮竹を傷つけた報いを、受けてもらうよ!」

京楽は、ニタァと笑った。

京楽は、見よう見まねで、血でガトリングガンを作り出すと、一気に射撃した。

「うわああああ!!」

「きゃあああああ!!」

着弾した弾は、血の炎となって、二人を燃やしていく。

「浮竹、お札を!」

浄化のお札を使うと、二人が身にまとっていた再生能力の元である、浮竹の血が浄化されて、レキとサニアは火だるまなって転げまわった。

「最後の手よ!」

「危ない、浮竹!」

サニアは、火だるまのまま素早く動いて、浮竹の元で自爆した。

「浮竹ーーーー!!」

「げほっ、げほっ。俺は大丈夫だ」

煙の中から、浮竹が現れた。

大丈夫だと言いながら、血を吐いていた。

上半身の一部が吹き飛ばされていた。

「まさか、自爆してくるなんて」

ただの肉塊になったサニアを見る。

「今、僕の血で癒すから!」

京楽は、自分の血の刃で手首を切ると、あふれ出す血を浮竹に注いだ。

「今回は、苦戦したな」

「まさか、あんか火器や自爆するとは思わなかったよ」

浮竹は吹き飛んだ上半身の再生を完了した。

「お前の血が、勿体ない」

まだ流れ続けている京楽の血を、浮竹は口にした。

「甘い・・・・・」

京楽は、切った手首の傷を癒した。

「京楽、もっと血をくれ」

「人工血液飲んでからね」

浮竹と京楽は、人工血液を口にして、それを己の血に変換した。前までは浮竹しかできなかったが、再覚醒後の京楽もできるようになっていた。

京楽の血液を、浮竹は飲んでいく。

やがて満足したのか、瞳を真紅にした浮竹が、京楽に白い喉を差し出してきた。

「お前も吸え。おまえは人工血液だけではだめだろう。俺の血を吸え」

京楽は、ごくりと唾を飲んだ。

浮竹の日に焼けていない肌が、日に照らされて白く輝いてみてた。

「じゃあ、もらうよ」

プツリと音をたてて、浮竹の白い喉に噛みついて、吸血した。

「んっ・・・・・」

浮竹は、さっき口にした京楽の血の色をした唇をぺろりと舐めた。

その仕草は妖艶で、京楽はそれが好きだった。

「京楽・・・」

浮竹は、濡れた瞳で京楽を見下ろした。

首に噛みついていたので、京楽のほうが今は頭が低かった。

「お前が欲しい・・・・・・」

耳元でそう囁かれ、京楽は浮竹を抱きあげて、寝室にまで運んでいく。

「んっ」

移動中の間に、京楽が浮竹の耳元を甘噛みした。

「あ、意地悪しないでくれ」

クスクスと、浮竹は笑う。

つられて、クスクスを京楽も笑った。

戦闘の後で血を見たというのに、浮竹は京楽を誘う。それに乗って、京楽も浮竹を自分のものにしようとしていた。

ベッドに降ろされると、浮竹の長い白髪がシーツの上に乱れた。

衣服を脱がされ、全裸にされると京楽も服を抜いだ。

良く鍛え抜かれた筋肉が見える。浮竹も薄いが筋肉はついていたが、どちらかというと華奢だった。

「あ、や・・・・・」

京楽が浮竹のものを口に含んで、奉仕してくる。

「やああああ」

浮竹は、京楽のテクニックの前で、吐精していた。

「お前は、こんなことばかりうまくなって・・・・」

「君に感じてもらいたいからね?」

ローションを手に取り、肌に馴染ませて浮竹の蕾に丹念に塗り込んでいく。

「あっ」

侵入してきた指を、気づけば締め付けていた。

「浮竹、もっと力を抜いて。リラックスして」

言われるままに、浮竹は力を抜く。

ずるりと指を引き抜いて、京楽は自分のもので浮竹を引き裂いていた。

「ああああ!!」

生理的な涙を滲ませる浮竹の涙を吸いあげて、京楽は動いた。

「ひああああ!!」

最奥と前立腺を的確にすりあげてくる京楽の熱に、浮竹はオーガズムでいきながら、自分の腹に欲望をぶちまけていた。

「あう!」

ごりっと最奥まで入ってきた京楽の熱を締め付けると、京楽は我慢できずに浮竹の胎の奥で熱を弾けさせていた。

何度も最奥を抉られて、浮竹はもう出すものがなくて、オーガズムでいきまくるばかりだった。

「あ、あああ・・・・・・・」

何度目のものかも分からぬ京楽の子種を体の奥で受け入れて、浮竹は意識を手放した。

----------------------------------------------

「浮竹・・・・・・僕は、君しかいらない。君さえいれば、他の全てを捨ててもいい」

まるで病んでいる京楽の言葉を、浮竹は微睡みの中で聞いていた。

「君が必要だというなら、この世界さえも手に入れよう」

まるで、藍染みたいなことを言う。

そのまま、浮竹の意識は闇に落ちていった。

ふと起きると、隣に京楽の姿がなかった。

ガウンを羽織り、逢瀬の名残を綺麗に拭われた体で、毛布を手に京楽の姿を探す。

京楽はベランダにいた。

珍しいことに、煙草を吸っていた。

「京楽」

「わ、びっくりした、浮竹。どうしたの」

「お前は、俺のためなら世界を手に入れてもいいと言っていたな」

「聞いてたの?」

京楽が困った顔をする。

「お前は、ああはなるな。藍染のようには」

「大丈夫。君が傍に居る限り、あんなふうに堕ちたりないよ」

「本当だな?」

持っていた毛布を、京楽の被らせた。

「浮竹!」

京楽が、浮竹を抱きしめていた。

「どうしたんだ、京楽」

「僕がどんなに醜くなっても、捨てないで」

「ばかか。血族のお前を捨てたりするものか!」

浮竹は、抱きついてくるく京楽の背中をなでて、頭を撫でた。

「お前が嫌だといっても、血族は解いてやらない」

「浮竹・・・・愛してるよ」

「ん、俺もだ」

京楽は煙草をもみ消して、被せられた毛布を浮竹に被せて、手を握りあって寝室に戻り、静かに眠りにつくのだった。

--------------------------------------------------------------------------

「さぁ、出ておいで、イザベル」

イザベルは、体を震わせていた。

12歳くらいの浮竹の姿をした少年が、試験官の中で震えていた。

「どうしたんだい、イザベル?」

「始祖が・・・その血族が、僕を殺そうとしている」

それは、未来を見る力だった。

「大丈夫だ。君は始祖とほぼ同じだ。年齢差はあるが、始祖と同じようになるように作った」

藍染の言葉は、矛盾していた。

始祖と同じように。

イザベルには神のような魔力もないし、神の愛の呪いの不老不死もなかった。

「僕は、行きたくない」

藍染は顔を歪めて、イザベルを折檻した。

「やめて、あなた!せっかくの最高傑作が、壊れてしまうわ」

女神アルテナに止められて、真っ赤な鮮血にまみれても、傷を再生していくイザベルに、藍染はこう囁く。

「始祖の浮竹か、血族の京楽か。どちらかを苦しめたら、君を自由にしてあげよう」

「本当に?本当に、父様」

イザベルは顔を輝かせた。

自由になれる。この仮初の命から、自由に羽ばたける。

「死した女神リンデルの魂を入れたのが間違いだったかしら」

女神アルテナは、ため息を零す。

「リンデルは、僕だよ」

「いいえ、あなたはイザベル。リンデルの魂を、神格を魂に宿させた、ヴァンパイア」

「神格?よくわからない」

「いいこと。自由になるには、その魂が神であることを利用なさい。いざとなればアストラル体になれるはず」

女神アルテナがアストラル体、神の肉体になったように。

イザベルは、劣化版の浮竹のコピーだった。

けれど、その魂は神のもの。

神を滅ぼせる存在など、一握りだ。

その一握りの中に、始祖浮竹と血族京楽が入っているこを知らずに、女神アルテナは笑い続けた。

「神の怒りを買って、苦しむといいわ、浮竹、京楽。ほほほほほ!!」

女神アルテナの声が耳障りなので、イザベルは血の鎌を作って、女神アルテナの首をはねた。

「イザベル・・・ふふふ、それでいいのよ。さぁ、始祖浮竹とその血族京楽に、目に物をみせてやりなさい」

「自由になるために・・・・・・・僕は、始祖浮竹と血族京楽を、苦しめる」

血の波となって、魔国アルカンシェルを後にする。その血の波に飲み込また者は、血液を全て吸い取られて、ミイラのようなるのだった。





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始祖なる者、ヴァンパイアマスター39

勇者グレイセルが、魔国アルカンシェルをたって、1カ月が経とうとしていた。

やっとのことでガイア王国の、浮竹のいる古城までやってきた。

古城から出てきた二人の後をつけた。

やってきたのはS級ダンジョンであった。

何をしているのかと見ていれば、宝箱を漁り、ミミックに噛まれている構図だった。


ミミックに上半身を食われ、じたばたしていた。

それを、偽勇者であるはずの京楽が、助けていた。

「本当にもう、君はミミックに噛まれるのが好きだねえ」

ミミックを魔法で退治した魔王であるはずの浮竹は、古代の魔法書がドロップされてご機嫌だった。

「あれが偽勇者?あれが魔王?」

勇者グレイセルの中の、偽勇者と魔王の図がガラガラと崩れ落ちていく。

とりあえず、勇者グレイセルは同じSランク冒険者のソロのふりをして、二人の後をついていった。

「暗いよ狭いよ怖いよ息苦しいよ~~~」

宝箱が現れる度に、浮竹はミミックに食われていた。

もう間違いない。

あれは、魔王でもなんでもない、ただの始祖ヴァンパイアで、偽勇者はただのその血族だ。

そう答えに辿り着いた勇者グレイセルは、浮竹と京楽の前にくると、名乗り出た。

「私は勇者グレイセル。魔王浮竹と偽勇者京楽を倒しにきたんだけど・・・あなたたち、ただの始祖ヴァンパイアとその血族ね?」

浮竹は、それを聞かずに違うミミックにかじられていた。

「暗いよ狭いよ怖いよ息苦しいよ~~~」

勇者グレイセルは、聖剣イルジオンで、ミミックを倒した。

「あ、ありがとう。Sランク冒険者のソロか。よくこの階層までこれたな」

古代の魔法書がドロップされて、すぐに浮竹の関心はそっちに移った。

「なんか、勇者とか名乗ってたけど」

「この世界に、今は人間の勇者はいないはずだろう?」

「勇者グレイセルって聞いたことあるよ。30年前に、魔王カイザルを倒して、その後病で亡くなった女勇者だよ」

「つまりは、反魂・・・・藍染の手の者か!」

浮竹は威嚇しだした。

「待って。私は争うつもりはないわ」

その言葉も、浮竹がきょとんとなる。

「え、そうなのか」

「そう。私は死んでいたのね。藍染というやつに利用されたってことかしら。この反魂とやらは、効果はいつまでなの?」

「術者が死ぬか、対象者がダメージを負いすぎて、体が維持できなくなったら、終わりだ」

「つまり、争わなければ生きていけるのね?」

「そうなるな」

「やっほーーーい!!私、冒険者になりたかったの!仲間にいれてくれないかしら!」

「ええ、でも藍染の手の者なんだろう」

「あんなやつの言葉を信じた私がばかだったわ。せっかく生き返ったのだし、第2の人生を謳歌してやるんだから!」

勇者グレイセルは、お茶目というか前向きな考えの人間であった。

「勇者グレイセルとは、もう名乗れないわね。今日から私はアリス。アリス・マキナって名乗るから、気軽にアリスって呼んでちょうだい」

「アリス、いいのか?藍染に反魂で蘇らされたんだろう?俺たちをやっつけるためにきたんだろう?」

「そうだったんだけど、藍染が私に嘘をついていたの。あなたたちを魔王と偽勇者だと言っていたわ」

背後から襲い掛かってきら、グレータードラゴンを、アリスは一撃で仕留めてしまった。

「強いんだな」

「これでも、魔王カイザルを滅ぼした勇者よ。あ、元勇者になるのかしら」

「こっちの京楽は、魔王アレスを倒した勇者だ」

「魔王アレス!私の倒した魔王カイザルよりよほど強い魔王ね!そんな人と知り合いになれるなんて、私ついてるわ~」

こうして、元勇者であり反魂で蘇ったグレイセル・マキナは名をアリス・マキナと改めて、浮竹と京楽と一緒に、S級ダンジョンをもぐっていくのであった。

50階層までくると、ボスのブラックワイバーンの群れが襲ってきた。

「そっちにいったぞ」

任せてちょうだい。

アリスは跳躍して、ブラックワイバーンの背中に乗ると、聖剣イルジオンでブラックワイバーンの心臓を一突きした。

「ぎゃおおおお」

ブラックワイバーンが地面に倒れる前に、次のブラックワイバーンの背中にのって、心臓を一刺しだ。

「強いな・・・・敵じゃなくてよかった」

敵だったら、多分苦戦を強いられたことだろう。

ブラックワイバーンの群れは、結局ほとんどをアリス一人で倒してしまった。

「財宝の間だ」

ゴゴゴゴゴと開いてく、ボスを倒した報酬の財宝の間をはじめて見るアリスは、目を輝かせた。

「うわぁ、金銀財宝がいっぱい!」

「欲しいならもって行け。予備のアイテムポケットをやろう」

「いいの?私がもらったら、あなたたちの取り分がなくなっちゃうわよ」

「ブラックワイバーンはドラゴンではないが、素材としてギルドに持ち込めばそこそこの値段がつく。それに俺と京楽は、よくS級ダンジョンを踏破しているから、金銀財宝なんてはいて捨てるほどある」

「踏破!強いのね。敵じゃなくてよかったわ」

「あ、宝箱!」

財宝の間の中心に置かれた宝箱は、見るからにミミックだった。

だって、小刻みに動いていた。

「ミミックよ!私が倒すわ!」

「待って、アリスちゃん。浮竹の好きなようにさせてあげて」

「でも、ミミックに」

浮竹は、すでにミミックに上半身をかまれていた。

「暗いよ狭いよ怖いよ息苦しいよ~~~」

じたばたをもがく浮竹を、アリスは呆れた顔で見ていた。

「ミミックにかじられた浮竹はね、こうやって。よいしょと」

ミミックに更に押し付けると、ミミックはおえっとなって、浮竹を吐き出した。

「フレイムロンド」

「ぎゅいいいいい」

炎の魔法で燃やされて倒れていったミミックの後には、古代の魔法書が残されていた。

「魔法書!」

浮竹がそれを取ろうとすると、隣にあった宝箱のミミックが浮竹を噛んだ。

「暗いよ狭いよ怖いよ息苦しいよ~~~」

「またやってる・・・・・・」

「ごめんねぇ。浮竹はミミックにかじられるのが大好きなんだ。趣味みたいなものかな」

その言葉に、アリスが引き気味に顔を強張らせた。

「ミミックにかじられるのが趣味の、始祖ヴァンパイア・・・普通なら、怖いイメージしか浮かばないんだけど、ミミックにかじられるのが趣味って聞くと、なんだかかわいいわね」

「かわいくていいから、助けてくれ」

じたばたともがく浮竹を、京楽が助けた。

ミミックを倒すと、金よりレアな、神の金属であるミスリルのインゴットが出た。

「なんだ、ミスリルか・・・魔法書じゃないなら、いらないな」

「え、放置しておくの!?」

アリスが驚いていた。

ミスリルの値段は高い。そこらの金銀財宝よりも。

「いらない。欲しければアリス、お前がもっていけ」

京楽もいらないようで、アリスは唾をごくりと飲みこみながら、自分のアイテムポケットにミスリルのインゴットを入れた。

「結局、この財宝の間の魔法書は3冊だけか」

くまなく財宝の間を探索して、浮竹は隠し扉を見つけた。

「京楽、この奥に隠し扉がある!」

「仕掛けは?」

「この壁の窪みだと思う」

浮竹が壁の窪みを押すと、ガコンと壁が動いて、人が一人入れるだけの入り口ができた。

「危ないかもしれないから、浮竹はここで待ってて?」

「分かった」

先に、京楽が隠し部屋に入った。

「きても大丈夫だよ、浮竹、アリスちゃん」

浮竹とアリスは、隠し部屋に入った。

そこは賢者が住んでいたようで、いろんな書物が溢れていた。

魔法書から、古代のレシピ、創作の物語、日記まで。

「これは・・・・賢者メイエドの遺産だな」

「賢者メイエド?」

「今から700年くらいまでに、魔法を極め、3体の精霊王を従えたという伝説の賢者の名だ」

「その遺産が、こんなところに・・・・」

隠し部屋は、壁に光苔をはやしており、光はいらなかった。

「どうするの、浮竹」

「魔法書の他にも、気になる本とかある。全部、持って帰る」

「そう言うと思ったよ」

京楽は、諦めて自分のアイテムポケットの中に、棚にしまわれていた本を放り込んでいく。

一通り収納して、3人は隠し部屋からでた。

「いやぁ、収穫が多いと気持ちいいな」

「浮竹にはね。僕は早く深層まで辿りついて、古城に戻りたいよ」

「ミスリルのインゴットに金銀財宝・・・・ふふふふ」

アリスは、危ない扉を開けかけていた。

そのまま60階層まで潜り、ボスのブラックドラゴンを倒して、財宝の間に入ると、魔力が付与された武器防具がそろっていた。

「これは・・・ミスリル銀!」

ただのミスリルよりも上位の金属に、剣士であるアリスは目を輝かせた。

ミスリル銀でできた鎖かたびらと、胸当てがあった。

「これも、もらってもいいのかしら?」

「身に付けれそうなものがあったら、もっていけ。ただ、ミスリル銀は貴重なので、身に付けないものは回収する」

「じゃあ、この鎖かたびらと、胸当てをもらうわ。ミスリル銀の剣も欲しいけど、私には聖剣イルジオンがあるし」

「その聖剣とやら、一度見せてくれないか」

「いいけど、この子には意思があるわ。存在が隠だと、その存在を焼いてしまうの」

その言葉を聞きながらも、浮竹は聖剣イルジオンを触った。

最初は火傷したが、もっているうちに熱さが消えて、火傷は治ってしまった。

「あなたの存在は、隠だけど、けれどとても陽に近いのね。イルジオンが、そう言ってるわ」

「ふむ。聖剣を返す」

「ありがとう」

「僕は・・・駄目だね」

「そうね。イルジオンが言っているわ。あなたは残酷だって」

「まぁ、浮竹を傷つける者はみんな殺すからね」

残酷に笑う京楽に、アリスは背筋がぞくっとした。

その日は、60階層の財宝の間で一晩を明かした。テントは1組してもってきていなかったので、アリスに使わせた。

夕食は、来る前に京楽が作っておいたビーフシチューと、ドラゴンステーキだった。

浮竹と京楽は、硬い地面に直接布団をしいて、その上で毛布をかぶってねた。

その次の日は、最下層の90階層まで降りた。

「何故!何故、魔王カイザルがここにいるの!」

90階層のボスは、アリスが倒したはずの魔王カイザルであった。

「ある方の手で、復活をしたのだ。ここで会ったが運命!我を滅ぼした勇者グレイセルよ、覚悟せよ!」

「もう私は勇者じゃないわ。グレイセルという名を捨てた、ただのアリスよ!」

「アリスちゃん、ここは僕らに任せて?」

「でも、危険だわ!相手は魔王よ!?」

「いいから、任せて」

京楽は、自分が愛用しているミスリル銀の剣を抜いた。

「ある方って、どうせ藍染でしょう?」

「そうなのか、京楽?」

「あのゴキブリがしそうなことだよ。勇者が意のままに動かないから、その封印された魔王をもってくる。あいつがやりそうな手だね」

「藍染め・・・・」

アリスは、自分を反魂してくれたとはいえ、こんな形にもってきた藍染に呪詛のような言葉を吐く。

「絶対、許さない、藍染!」

「まぁ、おちついて」

「アリス、危ないからこっちにこい」

浮竹は結界を作り、そこにアリスを避難させた。

「フレイムロンド」

ぽっ、ぽっ、ぽっ。

京楽の周囲に、いくつもの鬼火のような青い炎が灯る。

それは意思をもち、魔王カイザルを燃やそうとした。

「く、我は魔王ぞ。復活したのだ、魔王ぞ」

「魔王アレスより格段に弱いんでしょう?死んじゃってよ」

「ぐ・・・お主の大切なものを殺してくれる!」

魔王カイザルは、魔力で満ちた矛を浮竹に向けた。

それは浮竹の張ったシールドをやすやすと貫いて、浮竹の肩を抉っていた。

「ぐ・・・・」

「大丈夫、浮竹!?」

アリスが、浮竹の傷を押させた。

すぐに血はとまり、再生していくが、魔王カイザルは目の前で立ち上る魔力の高さに、足を震わせいた。

「なんだ、足がいうことを聞かぬ」

「君の本能が言ってるんじゃない?浮竹を傷つけられた僕の力が怖いって」

「そんな馬鹿なことがあるか!勇者ならいざ知らず、たかが小物のヴァンパイア如きに・・・」

「ファイアオブファイア。ヘルインフェルノ。トライアングルボルケーノ」

立て続けに、3つの威力の高い炎の魔法を使われて、魔王カイザルの右手は炭化していた。

「ええい、ヴァンパイア如きが!」

魔王カイザルが、魔法を使う。

魔力の礫が皆に襲い掛かる。

それは、浮竹の放ったシールドで防がれた。

「ありがとう、浮竹」

京楽が、礼を言う。

「魔王カイザルって、こんなに弱かったかしら」

「いや、京楽が強すぎるだけだ」

浮竹は、京楽の、自分と同じ神に匹敵する魔力が、揺らぎながら尖っていくのを感じていた。

魔王カイザルは、奥の手だととっておきの魔法を放った。

「凍てついて死ぬがいい!エターナルアイシクルワールド!」

禁呪の氷の魔法に、残酷に笑った京楽が、魔法を放つ。

「エターナルフェニックス!」

それは、炎の最高位精霊を使った炎の禁呪。

「ぬおおおおおおおお」

氷は、不死鳥を模った炎に溶かされていた。

「我の負けだ!我を殺すな!我はまだ人間界に復讐をしておらぬ!汝とて、ヴァンパイア。人間を守る義理など、ないであろう?」

「勘違いしないで。僕は人間がどうなろうと知ったこっちゃないよ。ただ、君は浮竹を傷つけた。僕は、それが許せない。カイザーフェニックス!!!」

再び、炎の不死鳥が呼び出される。

「我が、我がこんなヴァンパイアごときにいいいいい」

その言葉を最後に、体の全てを炭化させて、魔王カイザルはボロボロと灰となり崩れていった。

それを、浮竹が不安そうな顔で見ていた。
「さぁ、終わったよ・・・浮竹?」
「お前、本当に京楽か?あの平和が大好きな京楽か?」
「僕は僕だよ」
そして腕の中に浮竹を抱きしめた。
浮竹は、仕方なく京楽の頭を撫でた。
「えへへへ」
「すごい。私があんなに苦戦した魔王カイザルを、あっけなく滅ぼしてしまうなんて。流石、魔王アレスを倒しただけはあるわね」
アリスは、京楽の魔力の高さとその冷酷さに、背筋の寒いものを感じながらも、浮竹に甘やかされてそれに甘える京楽の姿に、心のどこかでほっとしていた。

最後の財宝の間が開いた。

ミスリル銀のインゴットで溢れていた。

「きっかり3当分しよう」

もっともな浮竹の意見に、皆賛成した。

アリスは、大量の金になるものをアイテムポケットに入れいるので、辺りをきょろきょろと見回っていて、ちょっとした不審者に見えた。

「アリス。S級ダンジョンを踏破したんだ。もっと誇れ」

「でも、最後は私の出番はなかったわ」

「とりあえず、ガイア王国の冒険者ギルドに戻ろう」

3人は、ガイア王国の冒険者ギルドに戻った。

S級ダンジョンを踏破したとして、ギルドマスターに呼ばれいた。

「君が、浮竹と京楽の二人とS級ダンジョンを踏破した、アリス・マキナだね?」

「はい」

「ギルドは、君をSランク冒険者として認定しよう。このガイア王国の冒険者ギルドでの活躍を、今後期待しているよ」

浮竹と京楽は、今回のS級ダンジョン攻略で手に入れた魔物の素材を買い取ってもらった。

魔物素材には、ドラゴンも含まれていたので、大金貨2万枚になった。

「ミスリル銀製の武器防具があるんだが」

「全部、ギルドで買わせていただく!」

ミスリル銀のインゴットも売って、大金貨10万枚になった。

大金貨1枚で、4人家族で半年食べていける。
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「私、故郷には戻れないから、このガイア王国に住もうと思うの。どこかいい場所はないかしら」

「それなら、このアラルの町がいいと思うよ。僕たちの住んでいる古城から一番近い町なんだ。猫の魔女乱菊ちゃんも住んでるし、冒険者ギルドもあるし、Sランク冒険者として生きていけばいいと思う」

「そうね。この街はアラルというのね」

「そうだ。王都にある冒険者ギルドよりでかい冒険者ギルドがあって、冒険者で賑わっている町だ」

「私、決めたわ。せっかく再びこの世に生を受けたんですもの。今度は勇者じゃなく、普通の冒険者として世界を巡ってみたいわ!」

「それもいいね」

「ああ、それがいいだろう」

こうして、勇者グレイセル・マキナはアリス・マキナといしてアラルの町の冒険者ギルドのSランク冒険者として、名声を高めていくのであった。

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「勇者はいい手ごまだと思ったんだがな。自由意思をもたせたの失敗だったか。反魂の時に、コアをくり抜いて、こちらで保存しておけばよかった」

魔国アルカンシェルで、藍染はイライラしながら爪を噛んだ。

勇者グレイセル・マキナはいい駒だったが、結局浮竹と京楽と戦わずに終わってしまった。魔王カイザルの封印を解いて、ダンジョンに配置したはいいが、呆気なく京楽にやられてしまった。

「愛しいあなた。4番目の子も完成したわ。5番目の子を・・・・あの始祖ヴァンパイアから入手した血を元に、作りましょう?」

いつだったか、始祖浮竹を拉致した時に、その血液を大量に抜いて、魔族の戦士に与えて聖帝国へ攻め入らせた。

その時に残っていた血液を元に、ゼイラムという浮竹の細胞をもつ子どもを作りあげたが、失敗した。

今度は、基礎から浮竹の血をべースにした、ヴァンパイアの子を作ってみせるか。

藍染は、女神アルテナが宿った、寵姫のヴァンパイアを身ごもらせて、そのヴァンパイアをベースに、浮竹の血を大量に与えて、小さな浮竹のクローンのような存在になるように作り始めた。

「この子が完成するまで、時間を稼いでおいで。レキ、サニア」

3番目と4番目の女神アルテナと藍染の子は、やはり10歳くらいの体で、レキが男の子でサニアが女の子だった。

「「行ってきます、父上、母上」」

レキの体には銃火器を、サニアの体には自爆機能を備え付けておいた。

「今度こそ・・・・・・・」

サーラの世界からやってきた、女神アルテナの知識を頼りに、サーラの世界の武器を作り出し、それを我が子に植え付けた。

我が子に対しての愛情など、欠片もなかった。

ただ、始祖浮竹と京楽を、少しでも苦しめられるならそれでよかった。

レキとサニアは、古城に向かって歩きだす。

その頃、浮竹と京楽は血の帝国にいた。

ブラッディ・ネイが懐妊したのだという。それも、浮竹の子を。

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/ 始祖なる者、ヴァンパイアマスター38-2

古城に戻り、夕飯を食べて風呂に入って、寝室のベッドに上にくると、どちらともなしに口づけをしてきた。

ディープキスを繰り返しながら、お互いに衣服を脱がせていく。

「浮竹、この印は?」

「ああ、魔王のものの証だと、刻まれたものだろう」

鎖骨の下で、淡く紅色に光る桜の花びらの形をした文様に、京楽が触れると、文様は消えてしまった。

「何もされてないんじゃなかったの?」

「服の上から、我のものだって言われただけだぞ。その時はなんの異常もなかったし、さっき初めて気づいた」

「僕の浮竹に文様を刻むなんて許せないね。煮たった鍋に放り投げてこようか・・・・」

「魔王はもう、封印されて静かな眠りについている。そっとしておいてやれ」

「君がそういうなら、それに従うよ」

「あっ」

京楽の手が、鎖骨の下にあった文様を、まるでかき消すように噛みついて、そこから血をすすった。

そして、キスマークを残した。

「これで、僕のものになったね」

「やきもち焼きだな」

「仕方ないでしょ。君が孕まされたって聞いた時は、腸(はらわた)が煮えくり返ったよ」

「ただの嘘だ。本当に孕ませれてたら、お前に会う顔がない」

本気そうな浮竹に、京楽が哀しそうな顔をする。

「そんなこと言わないで!君がたとえ他の男に汚されても、僕は君を愛するよ?」

「不吉なことを言うな」

「うん、ごめんね」

また、ディープキスを繰り返していく。

「んあっ」

浮竹のものを握り込んで、指ですりあげた。

「ひあう」

浮竹のものはどんどん硬くなっていき、先走りの蜜をこぼした。

それを、ぱくりと頬張れて、その刺激に浮竹の体が跳ねた。

「ああああ!!!」

浮竹は、京楽の口の中に精を弾けさせていた。

「ああ、君の体液はやっぱり甘い」

「や・・・・」

浮竹の精液を飲みこんで、味わうようにもう一度浮竹のものを口にする。

「やああああ!!」

すぐには吐精せずに、浮竹は京楽の背中に爪を立てた。

「んあああ」

ローションを手に取って、人肌の温度になじませると、浮竹の蕾にぬりこみ、指とすでに昂っている己にも塗りこんだ。

「あ・・・・」

まずは、指が入ってきた。

1本、2本とだんだん増やされて、最終的には指は3本になっていた。

「やあああん」

「ここが、浮竹のいいところ」

前立腺を押されて、浮竹は体をくねらせた。

「やっ」

「君の中に挿入るよ?いいね?」

「ひああああああ!!」

ぎしりと、大きな天蓋つきのベッドが軋んだ。

「ああああ!!」

浮竹は背中を弓ぞりにしならせて、吐精していた。

「あ、や!」

感じていっている瞬間も、京楽の律動は止まらない。

前立腺をすりあげて、浮竹の最奥に辿り着く。

「僕の子種をあげるから、孕んでね?」

孕めないと知っていながら、わざとそんなこを言う。

「ひあ、孕む、孕むからもっと子種をくれ!」

浮竹の内部が締め付けてくる。

それに合わせて、京楽は精子を浮竹の胎の奥に注ぎ込んでいた。

「あああ、孕んじゃた・・・・」

「それは嬉しいねぇ」

ごりっと音をたてて、京楽のものが結腸に入っていく。

「ひあああああ!!」

「ここ、ごりごりされるの好きだもんね?」

「好き、好きだから、もっと孕むから、春水のザーメンちょうだい」

「いい子だね」

浮竹を貫き、抉り、揺すぶって、京楽はまた浮竹の中に精液を注ぎ込む。

「ああああ!んあっ」

首の動脈に噛みついて、散る血液を啜ってやった。

ベッドのシーツが血まみれになる。

「ああ、君の血が。勿体ないことをしちゃったね?」

動脈の傷を癒しながら、今度は浮竹が京楽の肩に噛みついて、ごくごくと血を飲んだ。

「僕の血は美味しいかい?」

「美味しい」

「じゃあ、下の口でも僕をいっぱい味わってもらわないとね?」

「やああああ」

ズクリと貫かれて、浮竹は最後の熱をシーツの上に吐き出していた。

「やああ、もう出ないからぁ!」

それでも、京楽はしつこく萎えた浮竹のものをしごいた。

ぷしゅわああ。

勢いをつけて、浮竹は潮をふいていた。

「あ、あ、潮いやあぉあ」

その潮ををペロリと舐めあげる。

「やあああ、そんなの、舐めないでええ」

「君の体液は、なんでも甘いよ?」

「やあん」

京楽は、もう啼くことしかできない浮竹を犯し、蹂躙した。


「あああ・・・」

もう何度目か分からない熱を吐き出されていた。

浮竹の腹は、外からでも分かるほどの、精液を注ぎ込まれて腹部がぽっこりとなっていた。

「これが、最後だよ」

「やああ・・・・・」

最後の熱を吐き出すのと同時に、浮竹はぐったりとなった。

浮竹が、京楽の中から出ていく。

タオルを用意していたが、だらだらと零れていく己の精子の、尋常ではない量に少し興奮した。

「僕は、こんなに十四郎の中に出したのか・・・十四郎が孕んでも、おかしくないね?」

「やああ、春水のバカ。孕めるわけ、ないだろ」

ぐったりしながらも、なんとか意識を保っていた浮竹が反論する。

「さっきは孕んだって言ってたじゃない」

「その時の気分に流されただけだ」

「よっと」

浮竹を抱きあげて、京楽は風呂場に向かう。

「君を孕ませられなかったから、かき出さないとね」

「ん・・・・」

かき出されれる行為にも、浮竹は敏感に反応した。

「もう、煽らないでよ。息子が元気だったら、ここでも犯していたよ?」

「やあああんん」

「浮竹の声って、ほんとに腰にくるよね」

「ばか・・・・・」

風呂に入り、情欲の後を洗い流して、二人はシーツを変えたベッドに横になると、睦み合った疲れからか、寝てしまった。

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「君の名は?」

「勇者グレイセル。グレイセル・マキナ」

藍染は、反魂で先代の勇者を蘇らせた。女勇者で、まだ少女であった。

魔王を打ち滅ぼした後、突然の病気で儚くこの世を去った伝説の勇者だった。

魔王は、この世界では複数確認されていた。

魔王アレスではなく、魔王カイザルを滅ぼした勇者だった。

魔王カイザルは、ヴァンパイアロードだった。

「この世界に、偽勇者と、新たなヴァンパイアマスターの魔王がいるんだ。滅ぼしてくれるかい?」

「悪は許さない。偽勇者も」

勇者グレイセルは旅立つ。

聖剣イルジオンを手に。

「悪は、許さない。始祖魔王浮竹、偽勇者京楽。覚悟しなさい」

藍染は、笑っていた。

「魔王がだめなら、次は勇者だ。ははははは」

「愛しいあなた。3人目の子はもう完成したわ。4人目の子を、作りましょう?」

「ああ、愛しい女神アルテナ。君の女神としての力には脱帽だよ。まさか魔王や勇者を手ごまにできるなんて」

「うふふふ。あなたほどの人が、神じゃないなんておかしいわね」

「私は、いずれ神になる」

「その時は、隣に私がいるわ。うふふふふ」

「あはははは」

二人は、狂ったように笑い続けるのだった。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター38

浮竹は、魔国アルカンシェルの離島ハンニバルの、古城にいた。

伴侶にすると言われたが、乱暴に扱われることはなく、古城にはちょっと風変わりな、極東の島国の昔の着物であった、十二単を着させられていた。

魔王アレスも、浮竹のように血でメイドを作り出し、浮竹の世話をそのメイドたちに任せていた。

首飾りに触れる。

豪華な翡翠のあしらわれた首飾りであったが、魔封じの首飾りでもあった。

普通の魔法どころか、血の魔法さえ操れず、浮竹は魔王の元で軟禁されて、ただ時が過ぎていく。

「京楽・・・・・」

今頃、あの愛しい血族は、躍起になって浮竹を救いにくる手はずを整えているだろう。

魔国アルカンシェルと、自分の古城のあるガイア王国は遠い。

「京楽・・・早く、俺を助けにきてくれ。俺は、籠の中の小鳥だ・・・・」

魔法を封じられて、魔王アレスはよく浮竹に歌を歌えと命じた。

適当に、知っていた子守唄を歌うと、魔王アレスは眠っていた。

今だと、外に出ようにも、扉はびくともしなくて、窓にも結界が張ってあって、古城の外には出られなかった。

「汝は、我が花嫁。次の月が満ちる時、汝には我の子を授ける」

次の満月まで、あと半月。

浮竹は、捕らわれの姫のように、ただ京楽が助けにきてくれることを祈るのだった。

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「というわけなんだ。平子クン、力を貸してくれないかい」

「お安いごようやで。友人のためや、人肌脱ごうやないか」

血の帝国で、古代の遺跡を守護していた星の精霊ドラゴン、平子真子は竜化して、白い羽毛が生えた10メートルほどのドラゴンになると、京楽を乗せて魔国アルカンシェルまで向かった。

魔国アルカンシェルに行くには、いくつもの山脈を越えねばいけず、天候の悪い時は飛ぶことができずに、休憩をとりつつ、一週間かけて京楽と平子は、魔国アルカンシェルに到着した。

そこで地図を買い、離島のハンニバルまで更に飛んだ。

「ここが、魔王の居城・・・・・・」

「ほんとに、俺は手助けせんでええんか?」

「これは僕と浮竹に降りかかった試練だ。ここで待っていてくれないかい」

「分かったで。ここで待機しとくわ」

平子は、ドラゴンの姿のまま、離島ハンニバルにある魔王アレスの古城の中庭に待機するのであった。

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「浮竹、助けにきたよ!」

扉ごと魔法で破壊して中に入ると、魔王アレスが奥の間の玉座にいた。

「よくきたな、勇者京楽」

「はぁ?誰が勇者だって?」

「魔王が連れ去った姫を助けるのは、勇者の役割であろう」

「そんなことはどうでもいい。浮竹を返してもらう!」

「あれは、もう我が子を孕んだ。汝の元に帰しても、我が子を産むだけだぞ」

京楽の顔が一気に青くなった。

「たとえそうだとしても、浮竹は返してもらう!子は、僕の子として育てる!」

その言葉に、魔王アレスはさも愉快そうに笑った。

「此度の勇者は、魔王討伐よりも姫のことに、夢中のようだ」

「当たり前でしょ!僕は浮竹の血族!僕は浮竹のもので、浮竹も僕のものだ!」

ゆらりと、魔王アレスが魔力を揺らめかせた。

「決着をつけようぞ。我は2千年前に人間の勇者に封じられし魔王アレスである」

ぐらりと空間が歪んだ。

「我の空間だ。古城を傷つけたくないのでな。さぁ、どこからでもかかってこい」

京楽は、まずは小手調べだと、炎の魔法を放つ。

再覚醒してから、魔法が自分で使えるようになっていた。

「フレイムロンド!」

「アイスエッジ」

京楽が唱えた火の魔法を、魔王アレスが氷で相殺した。

「なるほど。魔王って名乗るのも、嘘じゃないみたいだね」

渦巻くその魔力の本流に、京楽は好敵手を見つけたかのように、笑んだ。

「我は、あくまで魔王ぞ。そこらの魔族と一緒にしないでもらおうか」

「フレアサークル!」

「アイシクルランス!」

二人の魔力は、ほぼ互角であった。

魔王は余裕をもって、京楽の相手をする。そこに隙を見つけた。

「うおおおおおお!!」

猛毒の血の刃をいくつも作りあげて、魔王アレスに放つ。

魔王アレスはいくつもの血の刃に斬り裂かれて、血を滲ませていた。

「我を傷つけるとは、なかなかやるな。だが、我はこの程度では倒れんぞ?」

傷を再生させながら、魔王アレスは手を伸ばした。

その手は、巨大な影となって、京楽の喉を締め上げた。

「ぐっ・・・・」

血の魔法で、影を切ろうにもすり抜ける。

本体に向けると、血は蒸発した。

「うぐっ・・・・」

「もう終わりか?」

「まだだ・・・エターナルアイシクルワールド!」

絶対零度の氷が、魔王アレスに襲いかかる。

「ほお、氷の魔法の禁呪か。だが、それなら我も使える。エターナルアイシクルワールド」

お互い、氷になりながら、魔力をうねらせていく。

まず、京楽が氷の魔法を割って、アイテムポケットからミスリル銀の魔剣を取り出すと、炎の魔法をまとわせて、魔王アレスに切りかかった。

魔王アレスは全身を炎で焼かれた。

「我はこの程度では死なぬ!」

けれど、魔王アレスは炎に飲まれたまま、京楽の体をその腕で握りつぶしにかかった。

「うおおおおおお」

魔王アレスを包みこむ炎が、京楽にも遅いかかる。

「く、ウォーターワールド!」

水の世界を作りだして、お互い鎮火する。

「ウォーターランス!」

「エアリアルエッジ!」

水と風の魔法がぶつかりかあう。

京楽は、炎の最高位精霊フェニックスを呼び出した。

「ゴットフェニックス!」

それに対して、魔王アレスもまた氷の最高位精霊フェンリルを呼び出す。

「ゴッドフェンリル!」

炎の不死鳥と氷の魔狼は、お互いの属性をぶつけ合いながら、消滅した。

京楽は、ニタリと笑った。影を潜めていた残酷さが滲み出てくる。

「ブラッディ・サークル!」

自分の血を円形状にして、その中にいた魔王アレスをずたずたにした。

「まだ、生きてるの。しぶといね」

魔王アレスは、傷を再生しながら、笑った。

「ふはははははは」

「あはははははは」

二人は笑いあいながら、お互いの隙を狙っていた。

「そこだ!」

魔王アレスが、魔法で作り出した槍で、京楽の胸を貫いた。

「ぐふっ」

吐血しながら、京楽も自分の血の槍で、魔王アレスの胸を貫いていた。

「ごふっ・・・・」

お互い、倒れる。

「よくぞ、我にここまでダメージを負わせた。エターナルアイシクルワールド・・・」

ああ、駄目だ。

僕はここで負けるのか。

そう思った瞬間、浮竹の声が聞こえた気がした。

「京楽、俺を助けにきたんだろう!そんな奴に負けるな!」

浮竹は涙を流していた。

浮竹の涙を見るのは、嫌だだった。

「エターナルアイシクルフィールド!」

さっき唱えた氷の禁呪の魔法よりも、更に高位の禁呪の魔法を繰り出す京楽。

「ぬおおおおお!!!」

魔王アレスは、氷に閉じこめらられていく。

「エターナルアイシクル・・・・・」

呪文の途中で、完全に凍り付いた。

凍り付いた両足をぱきんと割って、上半身でなんとか空間の歪みから脱出すると、目の前には涙を流している浮竹がいた。

「京楽、京楽!」

「僕は大丈夫」

「大丈夫なものか。足がないじゃないか!」

「ああ、魔封じをされているんだね。今、とってあげるから」

魔力を流し込むと、魔封じの首飾りはパキンと割れた。

「今、治癒してやるからな!」

浮竹は自分の血を大量に使い、京楽の足を形成してくっつけた。

「だめだよ、君の血が足りなくなってしまう」

「念のために、血液製剤を服に忍ばせておいた」

それを不味そうにがりがりとかじり、血を補給して、浮竹は京楽に抱きついた。

「バカ!俺のために無茶をしやがって!」

「でも、僕はお姫様を助ける勇者だからね」

「勇者なら、魔王くらい簡単にやっつけて、俺を迎えに来い!」

浮竹は、無茶難題を言ってきた。

「厳しいことを言うねぇ」

「本当に、心配したんだからな!」

「それはこっちの台詞だよ!子を孕まされてはいないね?」

「ああ、何もされていない」

完全に回復した体で、京楽は浮竹を抱き上げた。

「その恰好、どうしたの?」

「魔王アレスが似合っているって、俺にくれた」

「確かに、凄く似合ってるよ。ちょっと重いけどね」

浮竹は真っ赤なった。

十二単を着た浮竹を抱きあげて、古城を出ようとすると、封印されたはずの魔王アレスが立っていた。

「僕の後ろに隠れて」

浮竹は、言われた通り京楽の後ろに隠れた。

「汝は、見事に我に打ち勝った。金銀財宝はないが、代わりにこれをやろう」

すーっと、京楽の手の中に、赤く輝く魔法石のようなものがやってきた。

「これは?」

「世界の賢者や錬金術士たちが欲しがる、本物の賢者の石だ」

「本物の賢者の石だって!」

京楽の背後から浮竹が出てきて、賢者の石を手にとった。

「うわぁ、本物だ。はじめて、本物の賢者の石を見た・・・・」

別名、神の血。

神々でも最高ランクの上位神が流した血が、賢者の石となった。

錬金術でも作れるが、それは仮初の賢者の石であった。

最高位神・・・たとえば、浮竹の父である創造神ルシエードクラスの神が流した血のみが、本物の賢者の石になりえた。

「お前は、これを使わなかったのか」

「我にはいらぬものよ」

賢者の石を使うと、なんでも願いが叶うと言われていた。

例えば、王になりたいとか、世界を支配したいとか、神になりたいとか。

どんな望みでも叶うと言われている。

浮竹は、賢者の石を手に取ると、砕いた。

「何を!?我が秘宝は本物だぞ!?」

「だからだ。こんなもの、世界にあっちゃいけないんだ」

「ふむ・・・・・・」

「もしも藍染の手に渡ると、奴は神になるだろう」

「そうやも知れぬな」

魔王アレスは、同意する。

「だから、こんな賢者の石なんていらない」

「浮竹・・・・」

「俺には、血族の京楽が傍にいてくれる。それだけで、満足だ」

京楽は、感動していた。

錬金術士でもある浮竹なら、喉から手が出るほどに欲しいだろう、賢者の石を砕くとは。

自分がいてくれたら、それだけでいいと言ってくれた。

それだけで、京楽は満足だった。

「お前はこれからどうするんだ?」

「我か?我は、また長い時を眠る。いつか封印が解けた時、また魔王としてこの世界に君臨しようぞ。だから我が嫁にならぬか、浮竹。汝なら、我が封印も解けるはず」

「お断りだ。京楽以外の子を産みたくない。もっとも、俺も男だから子供なんで欲しいとも思わないが」

「賢者の石があれば、可能だったのだぞ。汝らに子を授けることもできただろう」

「それでも、いらない。俺は京楽さえいれば、それでいい。それに育児なんて大変だし、母親の苦労なんてしたくない」

「そうか。引き留めて悪かった。さぁ、いくといい。魔王を倒した勇者として、世界中がお前たちの存在を歓喜するだろう」

魔王アレスの言葉に、浮竹は首を横に振った。

「俺たちは古城でひっそり暮らしている。騒がしいのは、ご免だ」

「つくづく変わった者よ。勇者京楽」

「なんだい」

「この姫の浮竹を、大事にするのだぞ」

「もちろんだよ」

「姫ってなんだ姫って!」

ぷんぷん怒る浮竹がかわいくて、京楽は魔王アレスの前で口づけていた。

「ちょ、京楽、お前!」

「熱いのう。いつか我にも、そのような存在が欲しいものよ。我はまた眠りにつく。始祖ヴァンパイアは悠久を生きる。いつか、また会おうぞ」

「ばいばい」

「じゃあね」

魔王アレスの魂は封印の眠りについていった。

「外の中庭で、平子クンを待たせてあるんだ。彼に乗って、帰ろう」

「ああ、分かった」

中庭に出ると、平子が目を開いた。ドラゴンの姿をしていた。

「なんや、けったいな恰好してるなぁ、浮竹」

「ほっとけ。俺に趣味じゃない」

「でもようにおうとるで。まるで勇者に助けられたお姫様やな」

「どいつもこいつも俺を姫だと・・・・」

浮竹は、怒りそうなったが、平子もわざわざ自分を助けるのに力をかしてくれたので、礼を言った。

「平子、俺を助けにきてくれてありがとう」

「どういたしてましてやな。京楽、あんたは魔王を討ち取ったんやろ?」

「うん。封印だけどね。一応討ち取ったことにはなるのかな」

「血の帝国中で、祝い事せなな。勇者京楽の誕生や!」

「おい、平子、そういう騒がしことは!」

「たまにはええやんか。血の帝国の民はお祭り好きやのに、肝心の祭りがないって嘆いとったで」

「仕方ない。血の帝国に凱旋だ!」

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始祖浮竹の血族、京楽が魔王を討伐したという話は、すぐに血の帝国中に広まった。

新しい勇者として、正式にブラッディ・ネイから勇者王の名を与えられて、皇族に叙された。

「あの京楽が、俺と同じ皇族か・・・・・」

「不満なのか、浮竹」

「ああ、白哉か。別に不満はないが・・・・」

白哉は、恋次を伴って、その戴冠式に出ていた。

「これで、キミも皇族だ。兄様以外の伴侶をとるべきだ」

「いやだね。そこはなんと言われても、僕は浮竹以外の伴侶をとることはないよ」

「勇者の血は、残さなければいけない」

「ブラッディ・エターナルがいるでしょ」

「ああ、それもそうだね」

ブラッディ・エターナルは、浮竹が魔女の秘薬で女体化した時に、そのままの京楽に抱かれたことでできた、受精卵から生まれた子供であった。

だが、公式に浮竹と京楽の子であるとは言われていなかった。

「ブラッディ・エターナルを、今この瞬間をもって、正式に始祖浮竹と血族京楽の子として、皇族にするものとする」

「ああ、また勝手に・・・・あの愚昧は」

浮竹も京楽も、ブラッディ・エターナルを愛していないし、ブラッディ・エターナルも両親として認めたわけではなかった。

「まぁ、勝手にしてくれ。京楽の勇者の血族として必要なら、連れていけばいい」

ブラッディ・エターナルはブラッディ・ネイの寵姫であるが、皇族ではなかった。その存在が皇族に変わったところで、さしたる変化もないであろう。

「帰るぞ、京楽」

「うん、ちょっと待って」

「今をもってこの日を、勇者記念日として、毎年祭りを開催するものとする」

ブラッディ・ネイの言葉に民衆はわああああと、歓声をあげた。

「やってられない。帰るぞ」

「じゃあ、僕は戻るから。あとはそっちで勝手にやっておいて」

「浮竹さん、ほんとにいいんすか!京楽さんも!」

恋次が、二人を呼び止める。

「俺たちには、もう関係のないことだ。勇者記念日とかいうが、ただ祭りをしたいだけだろ」

「そりゃそうでしょうけど」

「だから、ブラッディ・ネイに任せるといいよ。あの子は、性格は歪んでて僕の浮竹に伴侶としての愛を囁くけど、統治者としては有能だから。なんとかしてくれるでしょ」

そうして、浮竹と京楽は古城に戻っていった。


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始祖なる者、ヴァンパイアマスター37

魔女の秘薬。

それは様々な効果をもつ。

媚薬だったり、一時的な若返りの薬だったり、一時的な性別転換の薬だったり。

京楽は、浮竹に内緒で猫の魔女乱菊から、一時的な若返りの薬を買った。おまけに効果は5歳児になるというもの。

いつの日だったか、3歳児になった東洋の浮竹と京楽の可愛さにやられて、自分のところの浮竹が5歳になったらどうなるのだろうかという、純粋な好奇心からきていた。

浮竹の飲み物に、5歳児になる魔女の秘薬を混ぜた。

「京楽、お前俺に何か・・・・」

そう言って、ぼふんと音をたてて、その場に5歳の子供の姿に若返った浮竹がいた。

自分の体を見て、小さく縮んでいるのを確認して、5歳の浮竹はぷりぷり怒りだした。

「魔女の秘薬を飲ませたな!京楽のアホ!」

「浮竹、かわいい!」

ひげづらでほっぺに頬すりされて、浮竹は苦しがった。

「痛い!ひげが痛い!」

「ああごめん。君は、5歳になっても中身はあんまり変わらないんだね。少し残念だよ」

「変わってほしいのか。春水お兄ちゃん」

「今の、今のもう一回言って!」

「春水お兄ちゃん」

見上げながらの浮竹に、京楽は鼻血を出しながら、浮竹を抱きしめた。

「うわあああ、鼻血、鼻血!」

浮竹が、ティッシュを探す。

「この秘薬の効果はどれくらいだ」

「3日間くらいかな」

「長いぞ。京楽のばか!」

ぷりぷり怒る5歳の浮竹がかわいすぎて、京楽はまた浮竹のほっぺに頬ずりしていた。

「痛い!ひげが痛い!!」

ぽかぽかと殴ってくるが、所詮5歳児。

力は全然なくて、京楽は浮竹の手をって服を買いにいこうと言い出した。

今浮竹が着ている衣服も一緒に縮んでいたが、他に着る服がないので、まずは町に服の買い出しにいくことにした。

「迷子にならないようにね?」

「恥ずかしい・・・・」

二人は、ずっと手を繋いでいた。

子供服の店にくると、京楽は浮竹が疲れて帰りたいと言い出すまで、着せ替え人形にした。

「じゃあ、この服とこの服をこの服を買うよ。会計、たのめるかな」

「合計で金貨1枚と銀貨20枚になります」

そこそこ有名なブランドで、少しお高めだった。

「浮竹、その服は着て帰るから、そのままの姿でいてね?」

「納得できん。何故俺の服が猫耳つきのフードの猫の服なんだ」

浮竹の恰好は、猫の着ぐるみの恰好に頭に猫耳のフードがついたものだった。

「それはかわいいから。浮竹はかわいすぎてなんでも似合うけど、着ぐるみみたいな服はめちゃくちゃかわいくて僕がけしからんとなるから」

「言ってることがむちゃくちゃだぞ」

「うん、君のかわいさにやられたから」

帰り道は、浮竹が疲れた様子だったので、京楽が抱き上げて帰った。

古城に戻ると、まずは写真をとられた。

「勝手にとるな!」

「かわいい君の姿を残しておきたいからね」

「むう」

ぷくーっとほっぺを膨らませる浮竹に、京楽はまた鼻血を出しそうになっていた。

「か、かわいい・・・」

「こんな姿、誰にも見せられない・・・」

(やぁ、元気にしてた・・・って、東洋の浮竹、その姿は?)

(西洋の俺!かわいすぎる!)

何故そんな姿になったかも聞かずに、東洋の浮竹は小さくなってしまった西洋の浮竹を抱きしめて、頭をなでて抱き上げた。

「京楽に、若返りの魔女の秘薬を飲まされた、今日から3日間はこの姿だ。中身は元のままだからな」

「それでもかわいい!」

「ちょっと、東洋の俺。東洋の京楽、止めてくれ」

(かわいからいいじゃない。十四郎に、好きなだけ可愛がられるといいよ)

「むう、覚えてろ」

ぷくーっと頬を膨らませる西洋の浮竹に、東洋の浮竹は手土産にもってきたドーナツをちらつかせた。

「ドーナツ!」

味覚は子供に戻ってしまっているようで、東洋の浮竹からドーナツを受け取って、西洋の浮竹はそれをもぐもぐ食べていく。

ちなみに、東洋の浮竹の膝の上だった。

(かわいいなぁ、西洋の俺。ああ、このまま持ち帰りたい)

ダメだよ?西洋の浮竹は西洋のボクのものなんだから持ち帰っちゃダメ!

東洋の浮竹は、まるでおかんのような目つきで、東洋の浮竹をたしなめた。

「ちょっと、いくら東洋の浮竹でも持ち帰りは許さないよ。こんな姿になっても、浮竹は僕のものなんだから」

「お前が悪いんだろが!」

東洋の浮竹の膝の上で、西洋の浮竹は近づいてきた西洋の京楽のひげをひっぱった。

「あいたたた、ひげひっぱるのはやめて!」

「ふん」

(西洋の俺、食事はまだか?)

「ああ、まだだな。そう言えばそろそろ夕飯の時間だな、腹が減った」

(よし、俺がお子様ランチを作ってやろう。春水、手伝ってくれるか?)

(もちろんだよ。立派なお子様ランチを作ってあげるね?)

「むう、俺は見かけはこうだが中身は元のままなんだがな」

「浮竹、彼らの気が済むまで付き合ってあげたら?」

「仕方ない。そうする」

やがてできあがったお子様ランチは、とても美味しくて西洋の浮竹は残さず食べた。

(残さないなんて偉いぞ)

東洋の浮竹に頭を何度も撫でられる。

(ああ、弟ができたみたいで、こういうのいいなぁ)

その日は一緒に風呂に入りたいという東洋の浮竹に負けて、西洋の浮竹は東洋の浮竹に風呂に入れてもらい、髪と体を洗われた。

パジャマは、カエルさんだった。

(ああ、可愛すぎる・・・・)

「東洋の僕ら。ゲストルームで泊まってね?」

(むう、この小さな東洋の俺を独占する気だな)

「まだ、この姿の日は続く。明日はお前と寝るから、とりあえず今日は就寝しよう。俺も疲れて、眠い・・・・・」

こっくりこっくり船をかぐ西洋の浮竹をベッドに寝かしつけて、東洋の二人は仕方なくゲストルームで寝た。

次の日の朝、朝食を皆でとった後、西洋の浮竹がこう言い出した。

「なんだか、むしょうに遊びたい。体がうずうずする」

(じゃあ、木登りでもする?こう見えて俺は木登りが得意なんだ)

「する!中庭に生えている大樹なら、俺も何度か上ったことがある!」

「気をつけるんだよ、浮竹。怪我しないよにね」

(気をつけてね、十四郎と西洋の十四郎。僕とこっちの僕は、食事の後片付けと昼食の用意、それにお菓子を作っておくから)

「お菓子!」

(お菓子、俺の分もあるよな?)

きらきらを目を輝かせる東洋の浮竹と、西洋の浮竹だった。


「ほら、この木の上からだと、一番近い街がよく見えるだろう」

(いい景色だな)

二人は、木登りをした。

東洋の浮竹がするするとあまりにも自然に上るものだから、西洋の浮竹は東洋の自分に助けてもらいながら、木登りした。

「じゃあ、後は追いかけっこ」

(いいよ。僕が鬼になるから、西洋の俺は逃げてね)

(はーち、きゅうー、じゅう!)

数を数えて、東洋の浮竹は逃げる西洋の浮竹を追いかけた。

(待てーーーー)

「うわ、早いな!負けるものか!エアウォーキング!」

魔法を唱えて、西洋の浮竹は空を飛んでしまった。

(じゃあ、俺はこうだ)

東洋の浮竹は、巨大な白蛇を召還してその上に乗ると、宙にいる西洋の浮竹を捕まえてしまった。

「まいった、降参だ」

白蛇は、東洋の浮竹の服を掴んで離さない。

そんな様子を、古城の窓から西洋と東洋の京楽が、微笑ましそうに見つめていた。

(捕まえた。そろそろお昼だな。昼食を食べに行こうか)

「ああ」

東洋の浮竹は西洋の浮竹の小さな手を握って、古城の中に戻った。

昼食を食べ終えて、西洋の浮竹は眠そうに船をこいでいた。

「お昼寝の時間かな」

(そうみたいだね。中身は元の西洋の十四郎のままでも、体が子供だから、お昼寝を体が求めてるんだと思うよ)

(じゃあ、俺が寝かしつけてくるな)

東洋の浮竹は、西洋の浮竹を抱き上げて、寝室に入るとベッドの上にそっと寝かせて、毛布をかぶせた。

(早く元に戻るといいな。その姿もかわいくて大好きだけど、普通の西洋の俺に会いたい)

やがて3日が経ち、西洋の浮竹は元の姿に戻った。

そろそろだろうと、ぶかぶかの元のサイズの衣服を着せれていたので、いきなり裸になるとかいうハプニングは起きずに済んだ。

「世話をかけた。でも、楽しかった」

(俺も楽しかった!まるで弟ができたみたいで!)

(ボクはやっぱりその姿のままが一番だと思うね。今回はどこの誰かさんのせいで、苦労したね)

「全くだ。おい、京楽。覚悟はできてるんだろうな?」

「ぎくり」

「マンドレイク、5本生のまままるかじりだ。いいな?」

「はい」

東洋の京楽は、しゅんとする西洋の京楽の肩をぽんと叩いて満面の笑みで。

(がんばれ)

しょんぼりする今回の騒ぎの犯人あった、西洋の京楽は皆が見ている前でマンドレイクを生で5本まるかじりの刑に処された。

(じゃあ、俺たちは戻るな)

「ああ、本当に世話になった。兄ができたようで、嬉しかった」

(じゃあね、西洋の十四郎。あと、西洋のボクはほどほどにね)

「マンドレイクが、マンドレイクがあああ」

ちょっと混乱に陥っている西洋の京楽を残して、東洋の浮竹と京楽は元の世界へ戻っていった。

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「やっと、帰った・・・・・」

古城の様子を伺っていたゼイラムは、浮竹と京楽が二人いるのに驚き、身を潜めていた。

そして、改めて古城に乗り込んだ。

「やっと出てきたか」

「気配は察知していたんだよね」

浮竹と京楽は、追いかけてくるゼイラムを利用して、庭にまでやってきた。

古城の中では、思う存分に暴れれないからだった。

「俺の、存在が、ばれて?俺は、ゼイラム」

「ばればれでしょ。女神アルテナと藍染の匂いをそこまでさせといて」

ゼイラムは、血の刃を作りだすとそれで京楽に切りかかった。

「な、血の魔法!?ヴァンパイアか!?」

「違う。こいつ、俺の細胞を持っているようだ。気を付けろ。お前が狙われている」

「力の、弱い、血族の、京楽、殺す」

ゼイラムは、浮竹にも攻撃するが、しつこく京楽を狙ってきた。

「京楽、強い、何故?」

「僕は再覚醒したからね。今までの僕と思ったら、痛い目をみるよ!」

京楽は渦巻く魔力を血の鎌にかえて、ゼイラムを袈裟懸けに斬り裂いた。

その傷口は、シュウシュウと音をたてて癒されていく。

「く、ヴァンパイアの癒しの力か」

「灰になるまで攻撃すれば、それも意味をなさないだろう」

「そうだね」

「俺が、殺す、血族の、京楽」

「お前の力を、そいつに見せつけてやれ!」

「分かったよ!」

浮竹の言葉を受けて、京楽は渦巻く魔力を炎に変えて、次に雷にかえた。

「フレイムサンダースピア!」

炎と雷の2重の属性を持った槍が、ゼイラムに襲い掛かる。

「ぎゃあああ!でも、俺には、浮竹の、細胞がある、死なない」

ゼイラムは、血の刃で京楽の首の動脈をかき切った。

「京楽!」

「大丈夫だよ、これしきの傷」

しゅうしゅうと、音を立てて鮮血を噴き上げていた傷がなおっていく、

「俺の存在を、忘れるな」

浮竹が、血の刃を操り、ゼイラムの背中を斬り裂いた。

京楽は、ニタリと笑って、ゼイラムに埋め込まれていた浮竹の細胞を、えぐり取っていた。

「ぎゃああああ、俺の、俺の、力の、源が・・・・・・」

浮竹の細胞は、ゼイラムの右目に集中していた。

ただ、全身にもあるようで、右目をくりぬいたものの、凄まじい速度で再生が始まる。

京楽は残忍に笑った。

「僕の浮竹を傷つけようとする存在は、許さないよ」

右手で、再生されていったゼイラムの右目を再度くりぬいた。

「京楽、行くぞ!」

「うん!」

「「エターナルアイシクルワールド!!」」

それは禁呪の氷の封印魔法。

それをもろに浴びて、ゼイラムは氷ついていく。

「何故、京楽、魔法、使える?」

徐々に氷ついてく体を、ゼイラムはなんとか血の魔法でどうにかしようとするが、浮竹と京楽の魔力は絶大であった。

「俺、死にたく、ない・・・・・」

完全に凍り付いた体に、京楽がトドメをさす。

「アイアンメイデン!」

鋼鉄の処女、拷問器具のアイアンメイデンが現れて、ゼイラムを閉じ込めると、その中にある針で串刺しにした。

血が滲みでていく。

それを、京楽がアイアンメイデンごと、ゼイラムの体ごと業火で焼き払った。

「ヘルインフェルノ!」

アイアンメイデンの鉄が溶けていった。

「終わったね」

「ああ。それにして、京楽、本当に強くなったな。それに残酷になった」

「今までの僕は、君を守りたいと思っても、結局は君に守られていた。君を傷つける存在は、僕が許さない」

「再覚醒すると、ここまで強くなれるものなんだな」

浮竹は、京楽を見た。

「それは、君が強いからだよ。血族として再覚醒した時、君と同じ力を手に入れた。やっと、君を守るための力を手に入れた」

京楽は、浮竹を胸にかき抱いた。

「愛しているよ、浮竹」

「ん、俺もだ、京楽」

------------------------------------------------------------------------

「ああ!」

ベッドの上で、浮竹は喘いでいた。

京楽のものに貫かれて、シーツの上にぽたぽたと欲望を零していた。

「あ!」

京楽のものが、ごりっと音を立てて最奥を抉る。

「ひあああ!!」

浮竹は、ドライのオーガズムでいっていた。

「ああ!」

「愛してるよ、十四郎」

そう耳元で囁かれて、浮竹は自然と唇を自分の舌で舐めていた。

その仕草が、京楽は好きだった。

「ああ、君はやっぱり淫らでエロいね」

「んっ」

浮竹に肩を噛まれて、吸血される。

その凄まじい快感をやり過ごしてから、浮竹も京楽の肩に噛みついて、吸血した。

「んっ・・・いいよ、十四郎。喉が渇いてるんだね?もっと吸っていいよ」

浮竹は、溢れる血を啜って何度も嚥下した。

「お腹いっぱいかな?じゃあ、ご褒美あげないとね?」

ごりっと、奥に侵入した京楽のものが爆ぜた。

「あああ・・・・・・・」

じんわりと広がっていく熱を感じながら、浮竹は自分が京楽のものであると、安堵した。

「春水、春水」

「どうしたの」

「愛している。何が起こっても」

「僕も、愛しているよ。何が起こっても」

「ずっとお前の傍にいたい」

「僕が、君を離さないよ」

二人は、舌が絡みあうキスを繰り返しながら、更に乱れていくのであった。


―-------------------------------------------------------------------------

それは、ずっと封印されていた。

魔王と人間たちが呼ぶ、存在であった。

魔王は、藍染の手で封印を解かれた。

「これが、始祖浮竹だよ」

水鏡で、魔王アレスは藍染に、始祖ヴァンパイアの浮竹の姿を見せられていた。

「強い。我の力と同じかそれ以上に。我の伴侶として、欲しい」

「え、伴侶に?」

「そうだ。我は力の強い者なら、男でも女でも妊娠させれる」

藍染めは、引き気味に魔王アレスを見ていた。

「汝も強い。だが、我の好みではない。この浮竹という始祖ヴァンパイアは美しい。我の妻に欲しい」

「できれば、殺してほしいのだけどね」

魔王アレスは、藍染を睨んだ。

「うわ!」

睨まれたあけで、藍染の手は石化していた。

「我のは絶対。我は欲のままに生きる」

そう言って、魔王アレスは浮竹のいる古城にまでやってきた。

「ヴァンパイアの始祖、浮竹十四郎」

「なんだ。また、藍染の手の者か?」

「ちょっと、浮竹、気をつけて。そいつ、藍染並みに強いよ!」

「我は魔王アレス。藍染に封印を解いてもらった。始祖浮竹よ、汝を我の伴侶とする」

「何を言っている!」

魔王アレスは、浮竹の背後にくると、浮竹の体を抱き寄せて、浮竹を自分の方に向かせると、唇を奪っていた。

がりっ。

浮竹は、魔王アレスの舌を思い切り噛んでいた。

「血迷ったことを。俺は京楽のものだ」

「ますます気に入った。汝を、我が花嫁としよう」

「俺は男だ!」

「我は男でも女でも妊娠させられる」

その言葉を聞いて、浮竹は暴れ出した。

「離せ!離せ、この!!」

「浮竹!」

京楽が血の鎌で切りかかると、魔王アレスは右腕を切り取られただが、すぐに再生してしまった。

「魔国アルカンシェルの離島、ハンニバルに我が城がある。この我が伴侶を助けたければ、そこまでこい」

「浮竹ーーーー!!」

浮竹を腕の中に、魔王アレスは影の中にとぷんと沈んでしまった。

「浮竹・・・・絶対に助け出すから、それまで無事でいてね!!」

京楽は、魔国アルカンシェルに向かうための助力を、星の精霊ドラゴン平子真子に頼むのであった。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

東洋の浮竹と京楽が遊びにきた。

それは、西洋の浮竹が目を離している隙に起こった。

古代の魔道具を、出しっぱなしにしていたのだ。

東洋の浮竹と京楽は、その魔道具をただのランプと思って、部屋が暗かったので灯りをつけた。

「あ、それは!!」

気づいた時には、東洋の浮竹と京楽は、その年齢を一時的に3歳にするという魔道具のせいで、3歳の幼児になっていた。服も縮んでいた。

東洋の浮竹は、西洋の浮竹を見上げて、こう言った。

(お兄たん?)

自分によく似た西洋の浮竹を、兄と勘違いしているらしかった。

「くっ」

西洋の浮竹は、実の弟のようにかわいがっている東洋の浮竹から「お兄たん」と呼ばれて、頭がくらくらしていた。

「浮竹、何かあったの?」

そこに、西洋の京楽がやってきた。

「うわ、その二人の子供・・・・・もしかして」

「ああ。この魔道具を使ってしまったらしい。置いておくんじゃなかった」

東洋の京楽は、ただじーっと西洋の浮竹と京楽を見ていた。

人見知りが激しいらしく、感情を表に出すのが得意ではないようだった。

「浮竹、その魔道具の効果時間はどれくらい?」

「24時間だ」

「じゃあ、1日中彼らの世話をしなくちゃいけないんだね」

「元を正せば、そんな魔道具を置いていた俺のせいだ。二人は責任をもって、俺が見よう」

(お腹すいた。お兄たん、お菓子ちょーらい)

「確か、クッキーがあったはずだな。京楽、持ってきてくれるか」

「クッキーだね。確かキッチンにあったはず。あと、何か甘い飲み物ももってくるよ」

(・・・・・お腹すいたぁ。あーん)

(じゅーしろー。泣くな)

「おい、京楽、クッキーはまだか!」

「今、飲み物作ってるから、少しだけ待って!」

「十四郎に春水、ちょっとだけ、待ってくれ」

(うん)

キラキラした瞳で笑われて、西洋の浮竹はダメージをくらった。

(しゅんすい、どーしたの?)

(ん・・・手、放したくない)

東洋の京楽は、東洋の浮竹の手をぎゅっと握っていた。

「さぁ、クッキーだよ。あと、蜂蜜を入れたミルクももってきたよ」

西洋の京楽は、クッキーの入った籠と、2つのカップを持って戻ってきた。

カップに入った蜂蜜入りのミルクを受け取って、東洋の浮竹は小さい手でそれをこくこくと飲んでいった。

(おいしー。おかわりー)

「おかわりだね!今作ってくるから!」

西洋の京楽は、空になったカップを手に、またキッチンに急いだ。

(しゅんすい、クッキーたべる?)

(ん)

東洋の浮竹が差し出したクッキーを、さくりと齧る。

(おいしい)

(おいしーね?)

東洋の浮竹もクッキーをかじりながら、にこにこしていた。

そして、キラキラした瞳で西洋の浮竹を見上げた。

(おいしーい。お兄たん)

「ぐっ」

西洋の浮竹はまた、ダメージをくらった。

「このまま拉致したい」

それくらい、3歳になった二人はかわいかった。

(あ、おかわりだー)

西洋の京楽が、蜂蜜たっぷりのミルクをもってきてくれた。

(おいしーね)

(ん)

(あまーい)

(ん)

「東洋の京楽は、あまりしゃべらないんだな」

様子を見ていた西洋の浮竹が、東洋の京楽の頭を撫でた。

(やだ)

「かわいいなぁ。やだだって」

「かわいいねー。僕にも触らせて?」

西洋の京楽が、東洋の自分を触ろうとすると、東洋の京楽は影から蛇を出して威嚇してきた。

「お、小さいのにやるな」

(じゅーしろーは、渡さない)

「誰もとりあげたりしないぞ」

(あやしい)

「ぐっ。拉致したいとか思ってるけど、しないぞ」

(あたりまえ。じゅーしろーは、ボクの)

「3歳になっても、仲はいいんだなぁ」

「まるで僕たちの子供みたいだね」

(お兄たん)

「ん、どうした?」

(おしっこ)

「わーーー!京楽、おまるはあるか!?」

「そんなものあるわけないじゃない!」

「十四郎、トイレに行くぞ!」

(や)

東洋の京楽が、東洋の浮竹を抱き上げようとした、西洋の浮竹に反抗した。

「おい、春水。手を離してくれ」

(ボクもいく)

「分かったから、急ぐぞ」

東洋の二人を抱き上げて、西洋の浮竹はトイレに行き、無事用を足した東洋の浮竹が手を洗うのを手伝った。

(お兄たん、大きい。どうやったら、俺もおーきくなれる?)

「ん、いっぱい食べて、いっぱい寝ることかな」

(じゃあ、いっぱい食べていっぱい寝る!)

夕食の時間になり、西洋の京楽はお子様ランチを作った。

(おいしー)

(ん)

二人は、美味しそうにお子様ランチをゆっくり食べた。

それから、西洋の浮竹と京楽と一緒に風呂に入り、髪と体を洗ってもらった。

(お兄たん、くすぐったい)

急きょ買いに出かけた西洋の京楽のお陰で、うさぎさんの形をした3歳児くらい用のパジャマを着せた。

「今日は、俺たちと一緒に寝ような」

(お兄たん、絵本読んで)

「え、絵本か。京楽!」

「こんなこともあろうかと、古城の図書館に行って子供向けの本探してきたから」

「お前、なかなかやるな?」

「ふふん」

(ねむい)

東洋の京楽は、そう言って一足先に眠ってしまった。

「そこで、お姫様は王子様と結ばれて、幸せに過ごしました」

(すーすー)

「あら、東洋の浮竹も寝ちゃったね」

「ああ、今日は一日大変だったな。明日も、元に戻るまで大変だが、がんばるか」

「お菓子、作らないとね」

「俺も手伝おうか?」

「君は、幼い彼らを見ていてあげて?」

「分かった」

そうして、皆は就寝した。


(ピーマンやー。にがいー)

朝食はピラフだった。

ピーマンを嫌がる東洋の浮竹に、西洋の浮竹が困った顔をする。

「好き嫌いしてると、大きくなれないぞ」

「こっちの春水は、なんでも食べるんだけどね」

(じゅーしろーのピーマン、ボクが食べる)

そう言って、東洋の京楽は東洋の浮竹の食べていたピラフのピーマン全部食べてしまった。

「こら、春水」

(ふん)

「むー、お前は3歳児になっても、東洋の俺に甘いな」

(あたりまえ)

「まぁいい。あと8時間もすれば、元に戻るだろうし」

昼食を食べさせて、昼寝をさせて、お菓子のドーナツを与えた後、二人は元に戻った。

(あれ、俺は何をしていたんだ?)

「覚えてないのか」

(どうしたんだ?)

「いや、覚えてないなら、それはそれでいい。それにしても、かわいかったなぁ」

西洋の浮竹は、いい思い出ができたと、心の中で東洋の浮竹に起こった出来事をしまいこんだ。

(なんの話だ?)

(十四郎、覚えてないんだ)

(だから、何をだ?)

(いや、覚えないなら、思い出さなくていいよ。きっと、恥ずかしがるから)

(よくわからん)

「いやぁ、君は覚えてるんだ」

ニマニマした顔の西洋の京楽に、東洋の京楽は。

(貸しひとつだ。いずれ、返すよ)

「返してくれなくてもいいんだよ。君も十分にかわいかったから」

(十四郎には、内密にね)

「分かっているよ」

こうして、東洋の浮竹と京楽が、3歳児になってしまった事件は、終末を迎えるのだった。



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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

(遊びにきたぞ)

(おーい、いないの?)

古城をのぞいてみると、肝心の二人がいなかった。

「ひいいいいい」

「ぎゃあああああ」

(中庭で悲鳴がする!)

(敵襲かい!?)

急いで二人が見に行ったところには、地獄の雄叫びのような悲鳴をあげているマンドレイクを収穫している、西洋の浮竹と京楽の図があった。

(な、何してるんだ?)

「お、遊びに来てくれたのか。見ての通り、マンドレイクを収穫している」

(これがマンドレイク・・・・)

中庭にズラーっと並んでいる人参の色のような物体は、蠢ていて、収穫されるのを待っていた。

「ひぎゃあああああああ」

「マンドレイクの悲鳴は、普通の人間が聞くと死ぬけど、お前たちなら大丈夫だろう?暇なら、マンドレイクの収穫を手伝ってくれ」

(う、うん)

(十四郎、無理はしなくていいんだよ。ボクが手伝うから)

「そうだよ、東洋の浮竹。こいつら、悲鳴だけはすごいから」

「ぎええええええええええ」

そう叫ぶマンドレイクを、東洋の京楽がほいほいと収穫していく。

(よ、よし俺も!)

そのマンドレイクは、涙を流していた。

収穫されるのを拒んでいた。

「東洋の俺、見た目に騙されちゃいけないぞ。一気に引っこ抜くんだ!」

東洋の浮竹が掴んでいたマンドレイクの葉を、一緒になってひっぱった。

「人でなし~~~」

そう言って、泣いていたマンドレイクは収穫されてしまった。

(こ、こんなにマンドレイク収穫して、どうするんだ?)

「ん、近所に住んでいる猫の魔女の乱菊に安価で売るんだ。マンドレイクは収穫の時の悲鳴を聞くと、普通の人間なら命を落とすから、あまり栽培している農家がなくてな。俺も錬金術や料理で使うから、自家栽培を始めたんだ」

(そ、そうか・・・・)

「そうだ。せっかく生きのいいマンドレイクが手に入ったんだ。みんなでマンドレイクを使った料理を作ろう」

「えー。浮竹が料理作ったら、またゲテモノができるよ」

(俺が、西洋の俺に野菜スープの作り方を教えてやろう。マンドレイクも刻んでいれれば、きっとおいしくなると思う)

「東洋の俺、いつの間に料理の腕があがってないか?」

(ふふふふ。春水のおかげさ)

「こっちの京楽は、教えるの全然だめだぞ」

「だめっていう前に、君が途中で放棄してそのまま煮込むからでしょ!」

(ふう、だめだね、こっちのボクは。叱ってばかりじゃ、誰でもいやになるよ?ようはアメとムチさ)

そう言って、東洋の京楽は、生きのいいマンドレイクを数本選び、キッチンに向かってしまった。

西洋と東洋の浮竹も、それぞれ1本ずつマンドレイクをもって、キッチンに向かった。

「待って~~」

西洋の京楽も、マンドレイクを2本手に、キッチンに入った。

コンロでぐつぐつ煮た鍋の中に、いきなり洗っただけのマンドレイクをぶちこみそうになった西洋の浮竹を、東洋の浮竹が止めた。

「どうした?」

(だめだ。ちゃんと、刻まないと。あと、出汁もとらないと)

「出汁?」

教えるところは、まずそこからだった。

(西洋の春水、出汁をとれるものはあるか?)

「ああうん、そっちの棚の上に、かつおぶしと煮干しが入ってる」

東洋の浮竹は、きょとんとしてる西洋の浮竹の前で、まずは鍋に中に煮干しとかつおぶしを入れて、出汁をとった。

「これが、出汁・・・」

(そう。野菜スープの基本材料になるものだ)

「ふむ。メモする」

自動的にインクが滲むマジックペンで、西洋の浮竹は東洋の浮竹から、作り方を聞いてはメモしていた。

(まずは、この人参、じゃがいも、玉ねぎと、マンドレイクを洗って手ごろな大きなに切り分けよう)

「切るのか。マンドレイクを・・・・・」

(切るよ。切らないと、料理にならないからね)

「そうなのか。今まで、生でぶちこんでも料理になると思っていた」

(さぁ、切ろう)

「ああ」

ズダン!

その包丁さばきに、東洋の浮竹がびっくりした。

(そ、そんなに豪快に刻まないで、もっと小さく切って)

「こ、こうか?」

「浮竹が・・・・あの浮竹が、ちゃんと料理してる!」

西洋の京楽は、涙を流していた。

(そんなに驚くことなの、西洋のボク)

「僕が指導してきても、マンドレイクを刻まなかったあの浮竹が、マンドレイクを刻んでる!」

マンドレイクは、刻まれるたびに悲鳴をあげていたが、細切れにされると何も言わなくなった。

一方、西洋の京楽も西洋の京楽と一緒に、マンドレイクを使ったビーフシチューを作り始めた。

(人参はそれくらいで。うん、いいかんじ。やればできるじゃないか)

「そ、そうか?」

(あとは、刻んだ野菜を鍋に入れて、柔らかくなるまで煮込もう)

「なんだか一緒に料理するのって、照れるな」

(でも、楽しいでしょ?)

「ああ、楽しい。料理をするのが楽しく感じたなんて、生まれてはじめてだ」

(西洋の春水は、こっちの俺に料理を教えるのが下手なんだな)

「ぎくっ」

西洋の京楽は、野菜を煮込みながら強張った。

(ほら、続きするよ。固まってないで)

「あ、ごめん」

東洋の京楽に急かされて、西洋の京楽も動くのだった。

煮込んで柔らかくなった野菜に、キャベツを足してまた煮込む。

最後に塩コショウで味つけして、出来上がった。

「早速、味見してみよう」

(そうだな)

「ん、うまい!いつもよりうまい!さすがだな、東洋の俺!」

(西洋の俺も、やればできるじゃないか)

「ほとんどをお前がしてくれただろう」

(ううん、共同作業だ。やればできるじゃないか)

東洋の自分に褒められて、西洋の浮竹は赤くなった。

「こっちもできたよ~」

(マンドレイクを刻んでいれたビーフシチューだよ)

匂いをかいで、西洋と東洋の浮竹は、お腹を鳴らした。

それに、二人そろって真っ赤になる。

「少し早いけど、夕飯にしよう」

(そうだね。出来立てを食べるのが一番おいしいからね)

西洋と東洋の京楽の言葉に、西洋と東洋の浮竹が頷いた。


ダイニングルームにうつり、それぞれ皿にビーフシチューと野菜スープを盛る。

「いい匂いだな。さすが京楽のコンビだけあるな」

(うん、匂いからしておいしそう。でも、俺たちの野菜スープも負けてないぞ)

まずはビーフシチューを頬張り、西洋と東洋の浮竹は、ふにゃりとなった。

「肉が柔らかくて美味しい」

(このまったりしたルーの味がたまらない)

「そうだ、俺たちの作った野菜スープも、食べてくれ」

(うん。西洋の俺も頑張って作ったんだぞ)

「どれどれ・・・・・」

まず、西洋の京楽が野菜スープを一口飲んで、涙を流していた。

「あの浮竹が、たとえ指導があったとしても、こんなおいしいものを作るなんて!」

「京楽、大げさだろう」

「浮竹、やればできるじゃない」

「東洋の俺のお陰だ」

(うん、ほんとに美味しくできてるね)

東洋の京楽に褒められて、西洋の浮竹は赤くなった。

「お前から褒められると、一番照れるな」

(春水のお墨付きだ。もっと誇ってもいいんだぞ、西洋の俺!)

「ああ。これからは、俺もマンドレイクはちゃんと刻んで料理する。東洋の俺のお陰で、料理するのが楽しく感じれた」

(それはよかった)

(うん、本当に)

「あの浮竹が・・・・」

「しつこい」

まだ涙を流して嬉しがっている、西洋の京楽を、ハリセンで赤くなりながら、西洋の浮竹が殴った。

「お陰で、美味しい夕食が楽しめた。ありがとう」

(こっちこそ。こんな機会があって、嬉しかった。ちゃんとやればできているからその調子でやってくれ。お前はやればできる子だから!)

東洋の浮竹は、西洋の浮竹の肩をがしっと握った。

西洋と東洋の京楽は、お互いに握手しあっていた。

「マンドレイクも、ちゃんと調理すれば食べられるのが分かったよ」

(元々は野菜でしょ、あれも)

「まぁ、分類するなら野菜かな」

その日の晩は、東洋の浮竹と京楽は、古城に泊まって次の日の朝に帰っていった。

「京楽、引っこ抜いたマンドレイクの畑に、苗を植えるぞ。また、美味しいマンドレイクを育てよう」

「うん、そうだね」

西洋の浮竹は、その日からたまに、西洋の京楽の料理の手伝いをするようになるのであった。


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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

西洋の浮竹と京楽は、東洋の浮竹と京楽の住む雑居ビルを訪れていた。

「花火大会をしよう」

いつの日だったか、遊園地で見た花火が忘れられなくて、西洋の浮竹と京楽は、大量の家庭用花火を手に、押しかけた。

(まだ花火をする季節じゃなんだけどねぇ)

まだ、春になったばかりであった。

「季節なんて関係ない。したいと言ったら、俺はする」

「ごめんねぇ、そっちの僕に浮竹。こっちの浮竹は、一度言い出すと聞かなくて」

(俺は別にいいぞ。いつでも大歓迎だ。花火大会をしよう)

「分かってくれるのか、東洋の俺!」

西洋の浮竹は、東洋の浮竹に抱き着いた。

(わわわ)

それに東洋の浮竹がびっくりして、顔を赤くした。

(東洋の俺、落ち着け)

「ああ、すまない。いろいろあって、最近お前たちのところにこれなかったから。どうしているかと思って、花火大会を口実に、会いにきたんだ」

西洋の浮竹も、自分でかなり恥ずかしい言葉を言っていると自覚しているのか、顔を赤くしていた。

「ああ、かわいいねぇ」

(そうだねぇ)

もじもじする二人を、西洋と東洋の京楽は心から、平穏であると噛みしめながら、幸せそうにしていた。

「まずは、バケツに水を用意しよう」

(うん、じゃあ俺が汲んでくるから)

「重いだろう。俺が水の魔法で水を出すから、バケツは空のままでいいぞ」

(魔法って、ほんとに便利だな)

「まぁ、その分制約とかも多いがな」

雑居ビルの裏に出て、人通りの少ない道を選んで、花火をすることにした。

空のバケツに、西洋の浮竹が魔法を唱える。

「ウォーター」

何もない空間から水がドバドバ出て、バケツから溢れた。

西洋の浮竹はいきなり家庭用花火1つに、まるまる魔法の炎で火をつけた。

(わあああああ!やりすぎだぞ!)

「浮竹、一気に火をつけすぎだよ!」

(わあ、やっちゃったね!)

ぱちぱちと火花が散って、鎮火する頃には、1つの家庭用花火は焦げてしまっていた。

それにしゅんとなる。

「すまない。一つ一つに火をつけるんだな。俺の火の魔法じゃ強すぎてだめだな」

(西洋の俺は、知らなかっただけだろう?今度から気つければいい)

東洋の浮竹に頭を撫でられて、西洋の浮竹ははにかんだ笑みを零した。

(ろうそくに火をつけて使おうよ)

東洋の京楽が、当たり前な・・・・けれど、西洋の二人には考え付かなかったことを口にした。

「なるほど、ろうそくに火をつけて、それで花火をするのか」

(そうだぞ、西洋の俺)

東洋の浮竹は、まずはロケット花火に火をつけて、離れるように指示を出す。

ロケット花火は宙を飛び、ぱぁんと小さな花火を咲かせて、終わったしまった。

「意外とあっけないな」

「こんなものでしょ。家庭用花火なんだし」

(次の花火をしよう。西洋の俺、その花火に火をつけて)

「わあ・・・綺麗だなぁ。花火の色が変わった!今の見たか、京楽!」

「見たよ!すごいね!」

西洋の浮竹と京楽には、炎の色が変わるのが不思議でならなかった。

(次の花火をしようか)

次の花火は、炎が青から白に変わった。

(そっちの浮竹とボクは、家庭用花火をするのは初めてかい?)

「ああ、初めてだ」

「うん、僕も初めてだよ」

(そうか。じゃあ、この線香花火は、一つずつもって、火をつけるんだよ。ぼとって落ちたら、終わりだからね)

そういって、東洋の京楽は、西洋の浮竹と京楽に線香花火を持たせた。

ぱちぱちと弾ける火花は小さく、あっという間にぼとっと地面に落ちてしまった。

その小さな火花が気に入ったのか、西洋の浮竹は線香花火ばかりをしていた。

「ああ、もう終わってしまった・・・・」

「僕の分もあげるから」

「本当か!」

目を輝かせる西洋の浮竹に、ならばと、東洋の浮竹と京楽も、自分の分の線香花火をあげた。

「ありがとう」

そう言って、一つ一つに火をつけて、線香花火をじっくりと味わった。

他にもたくさんの花火をして、その夜の花火大会は終わった。


「今日は、泊まって行ってもいいか?」

(いいけど、狭いぞ?布団なんてないし)

「空間ポケットに寝袋が入っているし、毛布も布団も入ってる」

(わあ、やっぱりいろいろと便利そうだな)

「まぁ、モンスターに襲われないことを考えると、こっちの世界のほうが、暮らしやそうだが・・・そうか、金を手に入れるには働かないとだめなんだな。俺と京楽は、主に冒険者稼業でもうけているから・・・・」

(こちらの世界でも、悪い妖とかいたりして、たまに苦労するぞ)

「どちらの世界も、平穏無事というわけには、いかないのだな」

(そっちの僕、明らかに強くなってる気配がするんだけど、何かあったの?)

「ああ、ちょっと再覚醒したんだよ。僕の世界の浮竹と同じくらいに魔力はあがったし、魔法も自分一人の手で使えるようになったよ」

(今度、手合わせしてみたいね)

「負けないぞ」

(それはボクもだよ)

そんな会話をしながら、皆で両方の世界の京楽が作った夕食を食べて、西洋の浮竹と京楽は、ダイニングルームとかの空いている空間に布団と毛布をしいて、寝てしまった。

ちなみに、東洋の浮竹と京楽は、同じベッドで眠ってしまった。

それは西洋の浮竹と京楽も同じで、二人は同じ布団で毛布をかぶり、寝ていた。

(起きてきたのか?)

「ああ、ちょっと目が覚めてしまって)

(ココアでも飲むか?)

「なんだそれは?」

(ちょっと待ってくれ。今作ってあげるから)

そう言って、東洋の浮竹は自分の分と、西洋の自分の分もココアを作り、渡した。

「甘い・・・・・」

(暖かいから、体があったまるぞ。春とはいえ、まだ夜は冷えるしな)

「なぁ、東洋の俺」

(なんだ?)

「今、幸せか?」

(うん、幸せだぞ。春水もいるし、こうして時折だけど、お前たちとも会えるし)

「それならいいんだ」

(どうかしたのか?)

「俺のせいで、京楽が傷つくのが怖い」

(それは俺もだ。でも、信じることはできるだろう?そっちの春水も強くなったんだろう?)

「そうだな。伴侶を信じるのは、当たり前だな」

(俺の春水は、とにかく優しいんだ。俺を駄目にさせるのかと思うくらいに優しい」

「俺の京楽も優しいぞ。戦闘メイドがいるのに、わざわざ俺の好きなデザートを作ってくれる」

(お互い、伴侶に恵まれたな)

「そうだな」

顔を見合わせあって、クスリと笑んだ。

「ココアごちそうさま。眠くなってきたから、もう少し寝てくる」

(うん、おやすみ)

そうして、二人はまた眠った。

(ちょっと、二人ともいい加減に起きて。もう9時過ぎだよ)

朝起きると、9時を回っていた。

「わあ、寝すぎた」

「わ、ほんとだ」

実は、東洋の浮竹も8時半には起きてきていた。おはようと言いながら、船をこいでいた。西洋も東洋も、どちらの浮竹も朝に弱いようであった。

(グッスリ寝てたから起こさなかった。朝食の用意はできてある。食べていくだろう?)

「そこまで世話になるつもりはなかったんだが、せっかくだからいただこう」

「いつもは僕が朝に起きて浮竹を起こすんだけどね。向こうの世界と、少し時間の流れが違うのかな?」

「さあ、どうだろう。どっちみち、今日はすることはなかったし、ゆっくりしよう」

東洋の浮竹も京楽も、依頼が来ていないので暇をしていた。

(今日はスーパーでお一人様一品の特売日をしているんだ。よかったら、買い物に付き合ってくれ)

西洋の浮竹と京楽も買い物に付き合った。

おばちゃんの波に押されて、ぐったりしていた。

(こっちの世界のスーパーでの買い物は初めてか)

「いや、花火を買った時とかには利用したが、特売日があるとこうまで女性が多く押しかけてくるとは・・・・・」

雑居ビルに帰って、東洋の浮竹はお一人様一品の品物が4つも買えて、喜んでいた。

(また、遊びに来た時には、スーパーでの買い物に付き合ってくれたら、嬉しい)

「またあのおばちゃんの波にもまれるのか」

「まぁ、いいじゃない、浮竹。世話になってるんだし」

「そうだな」

(じゃあ、昼は・・・)

「ああ、俺たちはもう戻る」

(ああ、じゃあこれ持って帰れ。昼用に作ったお好み焼きだ)

「お好み焼き・・・?」

「こっちの世界特有のメニューっぽいね。レシピはある?」

(これだよ)

いつものように、西洋の京楽に東洋の京楽は、レシピを渡していた。

「じゃあ、僕たちは帰るね。また今度、会おう」

「またな!」

(またねぇ)

(次来たときは、おかしのレシピを用意しといてあげるよ)

そうやって、西洋の浮竹と京楽は、自分たちの世界へと帰っていった。

東洋の浮竹と京楽は、今度は

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター36

「あーんあーん」

小さな女の子が泣いていた。

「どうしたんだ?」

浮竹はその場にしゃがみこんで、女の子と視線を合わせた。

「母様が、命令するの。私、それが嫌で逃げてきたの」

「そうか。じゃあ、俺たちの古城においで」

女の子は、浮竹に手をひっぱられて、古城にやってくる。

その背中を、小さな女の子が刺していた。

「どうして・・・・・」

「あははは!死んで、始祖浮竹!」

再び刃物を手に、女の子は浮竹が動かなくなるまで刺しまくった。

「次は、あなたの番よ?」

ニタァと笑う女の子に恐怖して、京楽は気づけば浮竹の血まみれの体を抱えて、逃げ出していた。

がばり。

起きる。

全身に、ぐっしょりと汗をかいていた。

「ん・・・京楽?まだ夜明け前だぞ・・・」

隣には、ちゃんと無事な浮竹がもぞもぞと眠たげに寝返りを打っていた。

「夢・・・・でも、ただの夢じゃないね。予知夢というやつかな」

京楽は、寝汗を流すためにシャワーを浴びにいった。

シャワーを浴びて、また眠気が襲ってきたので、京楽はまた寝た。

次の夢は、浮竹と花畑で花の冠を作りあって、それを被せ合う、平和な夢だった。

「うーん浮竹、愛してるよ・・・」

そんな言葉を口にして、京楽は結局昼過ぎまで寝過ごすのであった。

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「小さな女の子に気をつけろ?」

「うん。君が刺される夢を見たんだ」

「ただの、夢だろう?」

「いや、あれは予知夢だと思う。女神クレスの血を口にして再覚醒してから、たまに未来の君の姿を見ていた」

浮竹が首を傾げる。

「それは、当たっていたのか?」

「うーん、微妙だね。ただの夢だった時もあるし、全然当たってない時もあるし、ごくまれに見た夢が本当に現実になった時もある」

浮竹は頷いた。

「よし、じゃあ俺は小さな女の子の傍には行かない。それでいいだろう?」

「うん、そうして。何か用があった時は、僕が対応するから」


冒険者ギルドに行くと、ラニとレニと会った。

「あ、浮竹様・・・・・・」

「元気にしていたか、ラニもレニも」

ラニとレニは涙を浮かべて、浮竹に泣きついた。

「うわあああん。裏切ってごめんなさい、浮竹様」

「ごめんなさい、浮竹様」

「冒険者として、立派にやっていけてるようだな」

涙をふいて、ラニとレニははにかんだ。

「私たち、Cランク冒険者になりました。今はBランク冒険者のパーティーにいます」

「Bランクへの昇格も間近だって、ギルドマスターが言ってました」

「そうか。よかったな、ラニとレニ。藍染に、何かされていないな?」

「はい。父様には何もされていませんし、コンタクトもありません」

「このまま成長して、立派な冒険者になるんだぞ、ラニ、レニ」

「「はい!」」

ラニとレニはそう言って、冒険者ギルドの外に出て行ってしまった。

「浮竹。言ったよね。小さな女の子には気をつけてって」

仏頂面で、京楽が浮竹を見下ろしていた。

「ラニとレニは13歳くらいだろう。そんなに、小さな女の子じゃない。それに、藍染とは決別したようだし」

「それでも、僕は心配なの!14歳くらい以下の女の子の近くには行かないこと。いいね?」

「なんだか、浮気を疑われている夫の気分だ」

そう口にして、浮竹と京楽は冒険者ギルドのギルドマスターと会った。

「すまない、急に呼び出して」

「いや、別にいい。それより、依頼の内容は?」

「ガイア王国の闘技場で、今度冒険者ギルドが主催する、闘技大会があるんだ。君たちには、是非闘技に参加して欲しい。どうだろう?」

「俺たちは目立ちたくない」

「僕もだね」

「君たちが、認識阻害の魔法をかけたヴァンパイアであるということは、すでに俺とごく一部の者も知っている。冒険者ギルドで今後も活動したいなら、出てくれないか」

「それは脅しか?」

「どうとってもらってもかまわない。ただ、闘技場に出てくれればいい」

「わざと負けてもいいのか?」

「Sランク冒険者のTOPとして、モンスターと戦う予定になっている。相手はモンスターだから、手加減する必要はないぞ。あと、参加してくれるなら、この間A級ダンジョンで発見された古代の魔法書を10個進呈しよう」

「参加するぞ、京楽」

「ええええ、浮竹!?ほんとにもう、魔法書をちらつかされたら、弱いんだから・・・」

こうして、浮竹と京楽は、闘技場でSランク冒険者として、モンスターと戦うことになるのであった。

--------------------------------------------------------------

わああああああ。

闘技場が、熱で溢れかえっていた、

たくさんの冒険者や王国の騎士、それに腕に自信のある者が参加して、白熱のバトルを繰り広げていた。

参加者は全員で150人。

それぞれ、6つのブロックに分かれて、戦っていた。

6つのブロックからの勝利者が、準々決勝、準決勝、決勝と試合を進めていく。

浮竹と京楽は、優勝した王国騎士の騎士団長と刃を交えることもなく、特別セレモニーとして用意さえたモンスターと戦うことになった。

「うわぁ、あれドラゴンじゃないか!」

「本当だ!ドラゴンを、あのたった二人のSランク冒険者が倒すのか?」

みんな、ざわついていた。

ドラゴンが檻から出される。

大分弱っていたが、それでもドラゴンだ。

飛翔して、ドラゴンブレスを吐き出した。

「魔法兵、前へ!」

王国騎士団の魔法兵たちが、観客たちに被害がいかないように、結界を張った。

それは、浮竹と京楽が逃げ出すのを防ぐ役割もしていた。

「こんなドラゴン程度で、逃げると思われているなら、そんなことはないと思い知らせてやろう。いくぞ、京楽」

「うん」

二人は、灼熱の業火を身にまとう。

「「フレアランスフィールド!!」」

真っ赤な炎の槍が、ドラゴンの周囲を取り囲み、一気に射出される。

「ぎゃおおおおおおおお!!」

ドラゴンは、断末魔の悲鳴をあげて、どおおおんと倒れた。

「おーっと、これは強い!さすがガイア王国一のSランク冒険者、浮竹十四郎と京楽春水だーーー!!」

マイクをもったナレーターが、浮竹と京楽を皆に紹介するかのように、マイクをもってこっちにやってきた。

そのマイクをぶんどって、浮竹は一言。

「俺たちは強い。未踏破のS級ダンジョンも踏破した」

「おーっと、ここで魔法使い浮竹の言葉がでたー!剣士京楽は、魔法も使えたのですね?」

認識阻害の魔法で、浮竹はエルフの魔法使いに、京楽はハーフエルフの剣士に見えていた。

「あ、やば・・・・・」

京楽は再覚醒してから、身体強化とエンチャト系以外の普通の攻撃魔法も使えるようになっていた。そもそも、その気になれば浮竹の血族であるので、浮竹の魔法は使うことはできたが、京楽はそれを嫌っているようで、自分から魔法を使うことは少なかった。

「京楽、ずらかるぞ」

「待ってよ、浮竹!」

わぁぁあという歓声の合間に手を振りながら、浮竹と京楽は闘技場を後にした。

ギルドの戦士受付所で、報酬の魔法書10冊を受け取り、浮竹はアイテムポケットにそれを入れた。

「お兄ちゃん、すごいね!」

現れたのは、10歳くらいの男の子だった。

女の子ではなかったので、京楽は安心して浮竹の元へ行かせた。

「つめが甘いんだよね」

「がはっ」

男の子は、帽子をとった。

波打つ紫の髪をした、女の子だった。

浮竹は胸を特殊な金属で刺されて、吐血していた。

「きゃああああああ!!」

通行人たちが突然のことに悲鳴をあげる。

京楽は、とっさに浮竹を抱えて古城に戻るゲートを開けて、そこに飛び込んだ。

距離は近かったので、京楽でも帰還の魔法は使えた。

そのゲートに、女の子も一緒についてきていた。

「私の名はセイラン。女神アルテナと、始祖魔族藍染の子」

浮竹は胸に刺さった短剣を投げ捨てた。

「女神アルテナの子・・・これまた、厄介だな」

なんとか血の魔法を使って、止血だけはしておいた。特殊な銀を使っていて、浮竹はダメージを受けていた。

「うふふふ。この特殊な銀は、ヴァンパイアロードを屠るために特別に開発されたもの。傷がすぐに癒えないでしょう」

「浮竹、大丈夫!?」

「ああ、傷はそれほど深くはない。止血はしておいた。再生に時間はかかるが、問題はない」

「よくも僕の浮竹を・・・・・・」

ざわりと、京楽の血が踊り出す。

「特殊な銀を味わえ!」

そう言って、セイランは銃を取り出すと、浮竹と京楽めがけて発砲した。

ドロリと、その弾丸は、京楽の血の炎によって溶かされた。

「そんなばかな!」

セイランが叫ぶ。

「お返しだよ」

「きゃあああああ!!!」

血の炎に囲まれて、セイランは生きながら焼かれた。

「嘘よ、全部嘘!アルテナ母様から、藍染父様から無理やり殺せと命令されたの!私の意思じゃないわ!」

その言葉に、京楽は血の炎をおさめる。

「あははは、死ねぇ!」

京楽の腹を、特殊な銀の短剣が貫いていた。

「京楽!」

京楽はニタリと笑った。

その笑みに、セイランは恐怖を感じて、京楽から距離を取ろうとする。

けれど、特殊な銀をの柄をもった手が、離れなかった。

「子供だからって、容赦はしないよ」

「いやあああああああ!!」

セイランの体が燃え上がる。

再び生きたまま焼かれた。

でも、先ほどの炎よりも高い熱で、セイランが魔法でなんとかしようとしても、炎は消えなかった。

「京楽、大丈夫か?」

「浮竹こそ、大丈夫?」

「ばか、内臓がはみ出しているじゃないか!今、血で癒す」

浮竹は、自分の血を操り、深い京楽の傷を癒した。

「いやああ、助けてええええ!死にたくない!!」

「そのまま、死んでしまうといいよ。女神アルテナも藍染も、僕らにとっては敵だ。その子供というだけで、万死に値する」

「京楽?」

いつもと違う酷薄な京楽に、浮竹が戸惑いがちにその服を引っ張った。

「ん、どうしたの浮竹」

灰となってしまったセイランを確認して、京楽は優しい声を出した。

「いや、なんかいつもの京楽と違うなと思って」

「僕だって、残酷になれるよ。君を傷つけ者は、誰であっても許さない」

「ん・・・京楽、元のお前に戻ってくれ」

浮竹が京楽を抱きしめると、京楽は渦巻く血の海をひっこめて、いつもの京楽に戻っていた。

「うん、心配かけてごめんね、浮竹」

「元に戻ったのなら、それでいいんだ」

優しい鳶色の瞳を確認して、浮竹は京楽を抱きしめ続けていた。

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「藍染って、まるでゴキブリだね」

「それは前から俺も思ってた」

風呂場でそんな会話をしながら、お互いの体を髪を洗い合った。

「あ・・・・・」

京楽の手が、浮竹のものを撫であげた。

「ばか、風呂場だぞ」

「別にいいじゃない。ベッドに行くまで、待てないよ」

「んあああ」

京楽の手にしごかれて、浮竹は京楽の手に欲望を放っていた。

「ああ!」

シャワーで、その手の精液ごと泡が流されていく。

「念のために、ここにもローション置いておいて正解だったね」

「春水の、バカ・・・・・」

そう言いながらも、浮竹の体は貪欲に京楽を求めた。

「あ・・・・・」

京楽の手が、浮竹の胸の先端をつまみあげる。

「んっ」

浮竹のものは、また勃ちあがりかけていた。

京楽はローションを浮竹の蕾に垂らして、意地悪く言う。

「自分でならしてみて?」

「あ、や・・・」

そう言いながらも、おずおずと浮竹は自分の蕾に手を入れて、中をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。

「あ、春水のじゃないと、いいところに届かない。春水、お前をくれ」

「エロくなっちゃったねぇ。ご褒美をあげなくちゃね」

「ひあああああああ!!!」

京楽の熱に引き裂かれて、浮竹は精液を放っていた。

「やあああ」

「こんなに飲みこんで、淫らだね?」

「やっ」

「ほら、鏡に映ってるよ」

結合部を鏡で見せられて、浮竹は眩暈を覚えた。

「やあああ!春水、今日のお前は意地悪だ・・・・・」

「ごめんごめん。優しく愛してあげるよ」

「あ、あ、あ、あ!」

京楽が刻むリズムと一緒に、浮竹が声を漏らす。

「ああああ!!!」

京楽が、浮竹のうなじに噛みついて、血を吸った。

パシャンと、お湯の中に浸かった。

「ああ、や、お湯が入ってくる・・・・あああ」

「ああ、君は僕のものだって、体に刻みこんであげないとね?」

「ひあ!」

ごりっと、結腸にまで入ってきた京楽のものを、浮竹は自然と締め付けていた。

「んっ、中に出すよ?受け止めてね」

「ひああああああ!!!」

びゅるびゅると勢いよく、京楽の精子が浮竹の胎の奥に注がれる。

「まだまだ、いっぱいあげるからね?」

「あ、やあああああ」

結局、二人はのぼせた。

「やっぱり、お風呂でエッチはしないほうがいいね。声が響いていいけど、のぼせちゃう」

「のぼせるまで、お前がエロいことをするからだ!」

浮竹は、氷水を飲んだ。

それを、口移しで京楽にも与えた。

「んっ」

舌を絡められて、浮竹が京楽の頭をこづく。

「もう、今日はしないぞ」

「うん、分かってるよ」

のぼせた体を冷やしてから、二人は寝間着を着てベッドに横になる。

浮竹は、すぐにすうすうと眠りに旅立っていった。

「僕の再覚醒は、君を守るためにあるんだよ・・・・・・・」

京楽は、眠りに旅立った浮竹の白い長い髪を、飽きもせずずっと撫で続けるのであった。


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「また失敗か。まぁいい、次の子はもういる」

藍染は、巨大な試験官の中に漂う、8歳くらいの男の子を見ていた。

「お前の名は、ゼラムだ。さぁ、生まれておいで」

試験官の中の黄金の水が吐き出されて、ゼラムと名付けられた、女神アルテナと藍染の子は、自分の父を見上げた。

「おとうさま?」

「そうだ。私が君の父親だ。母親は女神だ。君は選ばれた子だ。何をすればいいか、分かっているね?」

「始祖の、浮竹と、血族の、京楽を、葬る・・・・・・」

たどたどしい言葉で、ゼラムがそう口にした。

もう、魔人ユーハバッハに血は使っていなかった。

使っても、意味がないと分かったのだ。

女神との間に生まれた子は、飛躍的な身体能力をもっていた。

「ぼく、殺す。始祖、浮竹と、血族、京楽を」

ゆっくりとゼラムは立ち上がり、服を着て、藍染を見上げた。

「おとうさま、ぼく、行ってくる」

「ああ、行っておいで」

幼い我が子を、死地に追いやるように、藍染は笑った。

「ゼラム、君には浮竹の細胞を混ぜておいた。再生能力だけなら、きっと血族の京楽を超えるはずだ」

藍染は知らなかった。

血族の京楽が再覚醒し、浮竹と互角なほどに魔力があがっているのを。

強くなっているのを。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター35

始祖魔族、藍染惣右介は自分の配下であるグリムジョーに、魔人ユーハバッハの血を大量に注射した。

グリムジョーは魔人ユーハバッハの意識に飲まれそうになりながら、己を保った。

「始祖浮竹と血族の京楽・・・・」

藍染にすりこまれた、敵の名前であった。

すこまれた怒りと憎悪は、グリムジョーの心を真っ黒に染め上げた。

「殺す。俺が殺す」

ただ血を求めて、グリムジョーは歩き始める。

魔国アルカンシェルで、グリムジョーは藍染を手にかけていた。

自分をこんな風にした藍染に、耐えきれなくなったのだ。

ぐしゃりと、藍染の顔を床に叩きつけて、その脳みその中身をぶちまけてやった。

でも、藍染は不老不死だ。

ゆっくりと傷を再生する藍染を最後まで見守ることもなく、グリムジョーは魔国アルカンシェルを後にするのだった。

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「浮竹、そのまま動かないで」

古城で、京楽は浮竹をモデルにして絵を描いていた。

「ちょっと見せろ」

「ああ、動いちゃだめだよ!」

浮竹が見た京楽の絵は、例えるならピカソであった。

「これのどこが俺なんだ」

「ほら、こことかちゃんと髪長いし、君のエロティックな瞳もここにちゃんとあるし、桜色の唇だってここに」

スパーーン。

ハリセンをうならせて、浮竹は京楽の頭を殴った。

「恥ずかしいこと言うな!」

「まぁまぁ。続き描きたいから、もう一回座ってモデルになって?」

始めはヌードモデルをしろと言われて、京楽の頭をハリセンが殴り続けたら、普通の姿でいいと言われた。

ソファーに腰かけて、ただ動くこともできずにじっとしてるのは、苦痛だったが。

やがて2時間ほどが経って、絵は完成した。

絵具で塗られた絵は、やはりピカソのようであった。

「ほら、どこからどこを見ても、君にそっくりでしょ?」

「俺がこんな姿なら、顔から目と唇がはみ出ている」

「あくまで君の個性を重点的に描いたから」

瞳は赤く、真紅だった。

背中には、出していなかったヴァンパイアの翼が描かれていた。

「俺かどうかはさておき、とりあえずヴァンパイアを描いたことだけは分かる」

「やだなぁ、そんなに僕の絵が気に入ったの?アトリエとして使ってる部屋に、君の絵は何枚もあるから、壁にでも飾ろうか?」

「やめろ、この美しい古城の中身が損なわれてしまう」

美しく高い調度品が溢れる古城に、京楽の絵を交えると、そこだけ不毛な空間ができそうな気がして、浮竹は断っていた。

「やほー。遊びにきたわよ」

「お、乱菊じゃないか」

「乱菊ちゃん、ちょっとだけお久しぶり」

この前、乱菊が遊びにきたのは今から1カ月ほど前。

ちょうど、浮竹が女神に攫われて4カ月が経った頃だった。

浮竹は相変わらず強いが、京楽は再覚醒をして、今までと比べ物にならないくらい強くなっていた。

「相変わらず、京楽さんの魔力の高さには驚きの言葉しか浮かばないわ」

「僕も、強くなりたくてね。きっかけがあって、再覚醒したんだよ」

「その再覚醒の内容、詳しく聞きたいけど、駄目よね?」

乱菊は、そっと京楽の手をとって、神々の谷間に誘導した。

「いくら乱菊ちゃんでも、言えないね。浮竹が嫉妬しちゃからね」

「おい、京楽、その手はなんだ」

乱菊の神々の谷間に手をつっこんでいる状態に、気づけばなっていて、京楽は焦った。

「いや、これは乱菊ちゃんが勝手に」

「問答無用!」

スパーンとハリセンで叩かれて。京楽は少しだけ涙目になるのであった。


「いやーん、やっぱりこの古城のご飯おいしいわ~」

「好きなだけ滞在するといい」

「じゃあ、お言葉に甘えて、1週間ほどここに泊まってもいいかしら?」

「ゲストルームはいくつもあるし、どれも空いてる。好きなようにするといい」

「やったあ!」

乱菊は、それから1週間泊まった。

その間に、京楽は乱菊にモデルになってくれと頼み、乱菊の肖像画を2枚完成させた。

「うーん、なんていのかしら。斬新だと言われれば、斬新ね」

「僕の浮竹は駄作っていうんだよ。僕の芸術を理解してくれなくてね」

「うーん。でも、プロの人が見たら、何か意見くれるかもね」

「僕にも浮竹にも、プロの芸術家の知り合いなんていないよ?」

「あたしにつてがあるの。ちょっと任してちょうだい」

そうして、乱菊は京楽の絵の何枚かをもって、出かけてしまった。

帰ってもってきたのは、金貨の袋だった。

「凄いわよ、京楽さん。先生が大絶賛なの。絵を売ってくれって言われて売っちゃたけど、別にかまわないわよね?」

「うん、僕はかまわないよ」

「信じられん。あの京楽の絵が売れたのか」

にわかに信じがたくて、その画商の名を聞くと、そこそこ有名な画商で、浮竹もその画商から何枚か高価な絵をかって、古城に飾っていた。

「あの絵がなぁ」

浮竹は、まだ納得がいかないようだった。

「もう、浮竹も素直に僕を褒めてよ!」

「ああ、良かったな京楽。あんな幼稚園児の落書きのような絵が評価されるなんて」

「酷い、何気にけなしてる!」

「まぁ、祝いだ。今日は俺が何か作って・・・・・」

「わあああ!お祝いとかいいから、今日は僕が作るね!」

そう言って、京楽はキッチンに向かってしまった。

その日の夕食を食べて、次の日の朝には乱菊はガイア王国の、古城に近い街にある屋敷に帰っていった。

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「あのー、浮竹さん、京楽さん、これ届け物なんすけど」

現れたのは、一護だった。

「誰からだい、一護君」

「ブラッディ・ネイから」

浮竹は荷物を受け取り、中身を見る。

そして中身を流し台に捨てて、容器をゴミ箱に放り投げた。

「何が入ってたんすか?」

「媚薬だ。おまけに強烈なやつ」

「ええ、勿体ない!」

京楽が、流し台を見るが、全部綺麗に流れた後だった。

「京楽に飲ませたら、お前朝まで俺を犯すだろう!ブラッディ・ネイは変なものしか送ってこない。この前は、大人のおもちゃだったか・・・叩き壊したが」

「はは・・・・」

一護は、乾いた笑いを浮かべるのであった。

「じゃあ、俺の用は済んだんで、戻りますね」

ピリリリリリ。

いきなり、警告音が響いた。

「な、なんすか?」

「侵入者だ。一護君は、安全な場所に避難していてくれ。奥のゲストルームにでも入っていてくれ」

「はい」

「行くぞ、京楽」

「うん、分かってるよ」

侵入者は、若い男だった。

「藍染の匂いと、魔人ユーハバッハの匂いがぷんぷんする」

「魔人ユーハバッハの血を、大量に注射されてるようだね」

「俺はグリムジョー・ジャガージャック。大人しく、殺されやがれ!」

グリムジョーは、鋭い爪で襲い掛かってきた。

「なんて速さだ!反応速度がはやい」

「足場を悪くしよう」

浮竹は、そう言って、足場を沼地にかえた。

「ちっ、これくらいで俺の素早さを奪ったつもりか!」

「浮竹!」

グリムジョーの爪が、浮竹の肩に触れた。

鮮血が舞う。

「よくも浮竹に傷を・・・!」

京楽は、その神に匹敵しうる魔力をとがらせて、グリムジョーに向けては放つが、グリムジョーは特技のスピードで、それを避けてしまった。

「く、ちょこまかと・・・・・」

「フリーズアイビー!」

浮竹が呪文を唱えた。

それは氷の蔦となってグリムジョーの体にまといつき、グリムジョーの動きを封じた。

「今だ、京楽!」

「うん、分かってるよ!」

京楽は、自分の血でできた槍で、グリムジョーの腹を貫ていた。

「がはっ」

「グリムジョー!?」

出てきたのは、一護だった。

「一護君、危ない!」

怪我を負ったものの、致命傷にはなりえず、グリムジョーは尖らせた爪で一護に襲いかかろうとした。

「一護!?一護じゃねぇか!」

グリムジョーは、振り上げていた手を下げた。

「やっぱりグリムジョーだ。懐かしいな」

「一護君、知り合いか?」

「ああ、浮竹さん。こいつ、ヴァンピールなんだ。生まれ故郷で一時期一緒に暮らしてた」

「今回の敵が、一護の知り合いだったとはな。止めた止めた。強そうで勝てそうにねぇし、命は惜しいしな」

そう言って、グリムジョーは尖らせていた爪を元に戻した。

殺気が消えて、一護の知り合いということもあって、浮竹と京楽も昂っていた魔力を通常に戻す。

「君は、魔人ユーハバッハの血に汚染されているね。取り除いてあげるから、こっちいおいで」

「なんだと?そんなこともできるのか?」

グリムジョーは半信半疑で京楽に近寄る。

京楽は魔法陣を描きだすと、グリムジョーの中の血液から、魔人ユーハバッハの血だけを取り除いた。

魔人ユーハバッハの血は、蠢いて次の標的に京楽を選んだ。

「おっと、危ない危ない」

京楽は自分の血を燃やし、ついでに魔人ユーハバッハの血を燃やして蒸発させた。

「これで、君はもう大丈夫だ」

その言葉に、グリムジョーが簡単に動く。前よりもスピードは落ちているが、いつもの自分の肉体だった。渦巻くような血液の濁りが消えていた。

腹の傷も塞がっていた。

ふと、グリムジョーが一護を見た。

「一護、今てめぇは何してやがるんだ」

「ああ、血の帝国で聖女ルキアの守護騎士をしてるぜ」

「守護騎士だぁ?面白そうじゃねぇか。俺も混ぜろとはいわねぇが、お前についていく」

「え、まじかよ。まぁ、俺のだちだし、ルキアに迷惑かけないなら、連れていってもいいぜ」

一護の言葉を受けて、グリムジョーは嬉しそうにしていた。

グリムジョーは戦いが好きだった。戦いの中で己を見つけていた。

「やっぱお前とのバトルが一番滾るからな。一護、今度俺と勝負しろ」

「とりあえず、ルキアの許可を得てからだな」

「話は決まったな。じゃあな、始祖の浮竹とその血族の京楽。藍染からお前らを殺せって命令されてたが、俺にはあいつの言葉を守る義理はねぇ。あばよ」

そう言って、突然襲いかかってきた藍染の手の者は、自分たちに危害をほとんど加えずに、血の帝国に一護と一緒に帰ってしまった。

「なんだか、台風のような子だったね」

「それより京楽、お前いつの間に魔人ユーハバッハの血を取り除けるようになったんだ?」

「ん、再覚醒してからだね。今度、君に魔人の血が入っても、僕が浄化できるから、安心していいよ」

「いや、まずそんな状態になってたらピンチだろ」

二人とも顔を見合わせて、血の帝国に行ってしまったグリムジョーの成功を祈った。

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「グリムジョーめ!あの裏切者が!」

魔国アルカンシェルでは、藍染が怒りに顔を歪ませていた。

「拾って育ててやった恩を忘れるとは・・・・・」

「藍染様」

「なんだ!」

「寵姫アルテナ様がお見えです」

「愛しいあなた」

ゆらりと、女神アルテナの魂を宿した女性が現れた。女神アルテナは、創造神ルシエードに滅ぼされる直前に、魂だけの存在となり、このアビスの世界に逃れてきていた。

「愛しいあなた。今度は、私たちの子がいくわ。注いでやった女神の力で、あのにっくき始祖浮竹と、その血族京楽を殺してやるのよ」

魂だけの存在となった女神アルテナは、アビスで女神の器を探して、藍染と出会った。藍染は、器にと、魔人ユーハバッハの血を与えた寵姫を差し出してきた。

その器は、嘘のようによく女神アルテナの魂と交じりあい、女神アルテナは復活した。女神としての力は魂にあった。憎き始祖ヴァンパイア浮竹とその血族京楽を葬れるなら、女神アルテナはなんでもした。

「女神と始祖魔族の子、セイラン」

「はい、母様」

女神アルテナは、藍染との間に子を産んでいた。子はセイランと名付けられた女の子であった。

臨月までに1カ月、あと4か月をかけて、セイランは10歳まで成長した。

「さぁ、行ってらっしい。始祖魔族と血族京楽を、いたぶってくるのよ」

「はい、母様」

セイランの顔には、なんの感情も生まれていなかった。

あくまで、女神アルテナにとっても、藍染にとっても、駒にしか過ぎなかった。

「女神アルテナ、次の子を産んでくれ」

「いいわ、愛しいあなたのためなら、何人でも産んであげる」

女神アルテナと、藍染は口づけを交わし合いながら、次の子を作るために寝所に引きこもるのだった。





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始祖なる者、ヴァンパイアマスター34

「浮竹・・・・・」

むざむざ、愛しい者を攫われた京楽は、自分の力のなさに嘆き悲しんだ。

血の暴走は止まらず、自分自身を傷つけながら、血の竜巻を起こしていた。

体が燃えるように熱かった。

何かが、自分の中で弾けていた。

ふと、京楽の傍に違う女神が立っていた。

「女神アルテナ、よくも浮竹を!浮竹を返せ!」

それは、浮竹を攫って行った女神アルテナによく似ていた。

「私は女神アルテナの妹、女神クレス」

「そんな存在が、僕になんの用だ!」

「女神アルテナから、伴侶を取り戻したいのでしょう?私の血を飲みなさい。あなたは再覚醒を始めています。私の血を飲めば、再覚醒を成功させるでしょう」

京楽は、その言葉に逡巡した。

「他意はありません。愚かな姉の後始末をしたいだけです。私の血を飲めば、あなたの再覚醒は確実なものとなるでしょう。ただ、私の血を飲むのはきっかけです。始祖ヴァンパイアの血族であることには、変わりありません」

「血を飲めば、強くなれるのかい?その再覚醒とやら・・・この熱い体の鼓動が、どうにかなるのかい?」

「再覚醒をすれば、少なくとも、女神アルテナから伴侶を連れ戻すくらいには、なれるでしょう」

その言葉に、京楽はごくりと唾を飲みこんだ。

女神クレスは、聖杯を取り出し、その中に己の血を注いでいく。

「このまま女神アルテナに愛しい伴侶を奪われたまま嘆くか、それとも私の血を飲んで再覚醒し終わり、女神アルテナから愛しい伴侶を連れ戻すか・・・決めるのは、あなた次第です」

京楽は、やや戸惑いがちに聖杯を手にとった。

そして、中身を一気に飲み干した。

「ああああああ!!!!」

激しい痛みが、京楽を襲った。

「痛いでしょう、苦しいでしょう。でも、それを乗り越えた時、あなたは神の子の血族として、再覚醒するでしょう」

女神クレスは、それだけを言い残して、世界から消えてしまった。

「うああああああ!!」

京楽は苦しんだ。

その、気が狂いそうな痛みと苦しみは、三日三晩続いた。

次に京楽が目覚めた時、己から湧き上がる魔力に驚いた。

「魔力が・・・浮竹くらいになってる・・・・」

じっと目をこらす。

確かに、女神アルテナの残滓と浮竹の気配を感じ取った。

「浮竹を、返せ・・・・」

空間を破り、京楽は女神アルテナの支配下にある空間に、忍び込む。

「誰!?侵入者よ!」

女神アルテナは、自分を守護する使徒たちを、京楽に向けた。

京楽は、猛毒でもあるその血の刃だけで、使徒たちを葬っていた。

「ここは私、女神アルテナの聖域。何人たりとも、無断で立ち入ることは許さないわ」

「許さないのは、僕のほうだよ・・・・・」

ゆらりと揺らめくその魔力は、創造神ルシエードの子、浮竹の魔力のようであった。

「来ないで!この子がどうなってもいいの!?」

女神アルテナは、自分の傍にいた浮竹の首の動脈に、ミスリルの短剣を向けた。

「く、卑怯な」

神の愛の不死の呪いをもっていても、神に殺されるとどうなるか分からない。

「ふふふ。あなたも、この子のように、私の虜にしてあげる」

女神アルテナが近付いてくる。

その魅了の魔法にかかったふりをして、女神アルテナに近づいた。

女神アルテナの胸を、京楽の血の刃が貫いていた。

「ぐふっ・・・そんな馬鹿な・・・女神である私が・・この血の匂い、そうか、女神クレスか!」

女神アルテナは、美しいその容貌を醜くして、叫んだ。

「死んでおしまいなさい、あなたなんて!」

神の呪いがふりかかる。それは即死魔法だった。

でも、京楽はそれを魔法で反射していた。

「ぐ・・・こうなったら、その血、奪うまでよ!」

女神アルテナは、京楽の体から血を抜き取ろうとした。

反対に、自分の血を抜き取られていた。

「ひああああ!?私の、生命の源が!」

女神アルテナは、浮竹にしがみついた。

「助けて、愛しいあなた。私を助けて・・・・」

浮竹は動いた。

まだ女神アルテナの術中にあるだろうと、京楽は攻撃を止めた。

「浮竹、戻っておいで?君のいるべき場所はそこじゃない。僕の隣だ」

浮竹の翡翠の瞳に、光が戻っていく。

「いかないで、愛しいあなた!私を助けなさい!あの、京楽という血族を始末なさい!」

ゆらりと、浮竹の魔力が蠢いた。

女神アルテナでも、ぞっとするくらいの魔力であった。

「こんな存在が、神の子であるなんて・・・どうして、神ではないの?」

そんなことを言う女神アルテナの心臓を、浮竹は自分の血の刃で貫いていた。

「いやああああああ、私の体が!」

美しかった女神アルテナは、神としての力に耐えきれないほどに体が破損していた。

「許さない。絶対に、許さない」

肉体を捨てて、アストラル体となって、浮竹と京楽に襲いかかった。

その、神の証であるアストラル体を、浮竹は血の刃で斬り裂いていた。

「俺は創造神ルシエードの子、始祖ヴァンパイアマスターにして、神の子・・・・」

浮竹は、京楽と手を握りあった。

「京楽、いけるか?」

「僕はいつでもOKだよ」

二人の神に匹敵する魔力が、うねり、波となる。

「あ・・・・助けて」

女神アルテナは、その時になって自分が虜にした存在が、神である自分を超えているのだと知った。

浮竹は精霊神を宿らせて、魔人ユーハバッハの血液を浄化してもらった後、魔力が更にあがった。

そしてついこの間、創造神ルシエードが、始祖浮竹のために生み出した力の残滓である人間の姿をした浮竹を吸収したことで、魂に神格を宿していた。

「助けて・・・・」

「勝手なことを言う。俺を好きなように操っておいて・・・・・」

「助けてくれれば、女神の祝福を与えるわ!不老不死になれるのよ!」

「残念だが、俺は元々不老不死だ」

女神アルテナは、創造神ルシエードの子が神のように不老不死であると知らなかった。

「じゃ、じゃあ金義財宝を好きなだけあげる!」

「金には困ったことはない」

「じゃ、じゃあ・・・・・」

浮竹は、酷薄に笑った。

「この世界から、消えてなくなれ。どうせ、サーラの世界に本体があるんだろう?」

「何故、それを・・・・・・」

女神アルテナは目を見開いた。

「まぁ、こちらもほぼ本体と同じように構築されてある。死ねば、少しは本体にもダメージがくだろう」

「もう、この世界に干渉しないでね。バイバイ」

京楽が、浮竹と手を握りあいながら、空いていた手で女神アルテナに手を振った。

「「ゴッドフェニックス・バーストロンド」」

二人が放った魔法は、二羽のフェニックスの形を纏い、女神アルテナのアストラル体を焼いた。

「いやあああああああ!!!!」

「僕の浮竹に手を出したことを、後悔させてあげる」

火だるまになりながら、転げまわる女神アルテナに、京楽は猛毒の血を滴らせた。

それはじゅわっと音を立てて、女神アルテナの顔を焼いた。

「本体に届くように、女神クレスの血を混ぜておいた。じゃあね」

「いやああああ、私の、私の美貌が!私の顔があああああ!!!」

しばらくのたうちまわった後、女神アルテナはこの世界から消えた。


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「いやああ、私の美貌が、私の顔が!!」

異世界サーラで、女神アルテナの本体は身悶えていた。

アビスの世界で葬られた分身体は、限りなくオリジナルに近くしておいた。

そのせいで、受けた傷も、本体にまで届いた。

女神アルテナは、自慢の美貌が焼けただれていることを知り、自分より身分が下の処女の女神を呼び出すと、殺してその生き血を顔に塗った。

焼けただれていた美貌は、元に戻っていた。

「この私が、ヴァンパイアとその血族如きに・・・・覚えてらっしゃい、必ず後悔させてやる」

復讐心に燃えるが、サーラとアビスの世界へのゲートは閉じてしまっている。

「誰か、誰か女神クレスを呼びなさい!」

下働きの者たちに命じて、自分の実の妹を呼び出した。

「あなたも、分身体をアビスに残していたのね。あなたのせいで、私は屈辱を味わったわ、覚悟はできているんでしょうね?」

「これは、なんだと思います?」

女神クレスは、さっき女神アルテナが殺した下級女神の魂を、保護していた。

「何故、魂がここに!」

「同族殺しは極刑。忘れたわけでは、ありませんね?」

「違うのよ、違うのよこれは!」

「創造神ルシエード。あなたが、決めてください」

現れた、6枚の翼をもつ美しい創造神は、一言だけ言った。

「滅びよ」

その言葉だけで、女神アルテナはさらさらと灰になっていく。

「創造神ルシエード、私はあなたに愛されたかっただけ・・・・・」

それだけ言い残すと、女神アルテナは灰となって消えていった。

「女神アルテナは、あなたの子に干渉しました。どうしますか?」

「あれは、私の手を離れている。私はあれをどうこうしようと思わない」

「御意」

女神クレスは、創造神ルシエードに優雅に礼をすると、女神アルテナが創造神ルシエードの怒りを買い、処刑されたと他の神々にふれて回った。

創造神ルシエードは、神の世界のヒエラルキーのTOPに位置していた。

同格の神々は他にもいたが、皆違う世界で神として君臨し、好き放題していた。

創造神ルシエードは、世界に干渉しない。

創造神として世界を作りあげ、生命を生み出し、しばらくはその世界に留まるが、世界が安定したら、その世界を去った。

アビスとサーラをはじめ、今まで10個の世界を作り上げてきた。

アビスとサーラは双子のような存在で、世界そのものは似ていなかったが、そこに住まう住民である種族は似ていた。

他の世界には、ヴァンパイアは作らなかった。

アビスとサーラの世界にだけ、ヴァンパイアという種族が存在した。

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「浮竹、ああよかった。戻ってきてくれたんだね?」

「京楽、すまない。心配をかけた。それにしても見違えたぞ。いつの間に、そんなに強くなったんだ?魔力に至っては、俺と同等くらいじゃないか」

「女神アルテナに君が攫われた後、再覚醒してね。女神アルテナの妹女神クレスの血を飲んだら、再覚醒を終えたんだよ」

その言葉に、浮竹がそっぽを向く。

「ふん、どうせ女神クレスとやらがさぞかし綺麗だったんだろうな。そんな女神から血をもらえてよかったな」

「浮竹、嫉妬してるの?」

「な、違う!」

浮竹は顔を真っ赤にさせた。

「ああ、嫉妬する浮竹はかわいいね」

京楽は、腕の中に浮竹を抱き込んだ。

「一緒にお風呂入ろ。その後は・・・ね?」

お風呂に入り、身を綺麗にしてから、浮竹はいつもの寝室の天蓋つきのベッドに押し倒されいた。

「ああああ!」

硬くなった京楽のものが、浮竹の中を出入りしていた。

「んああ!」

ずりずりと中のいいところをすりあげて、最奥まで届く京楽のものに、浮竹は涙を零しながら求める。

「あ、春水の、いっぱいちょうだい?俺を満たして」

ペロリと唇を舐める妖艶な浮竹に、京楽は夢中になっていた。

「何度だって、出してあげるよ。君が望むまで」

すでに、浮竹の中で一度熱は弾けていた。

同時に、浮竹のものも弾けて、自分の腹に白い液体を零していた。

それを、京楽が舐めとる。

「やあああ」

「君の体液は甘い。もったいない」

ぺろりと全部なめて、京楽は浮竹の首筋に噛みついて、ジュルジュルと血液を啜った。

「あああああ!!!」

最奥をごりっと抉られながら、吸血されて、浮竹はいきながら吸血されることの快感にも酔わされていた。

「ひあああ!?」

結腸の中を、ごりごりと京楽のものが入っていく。

はじめて味わう感触に、浮竹は泣きながら、許しを請うた。

「やあああ、もうやめ、春水、春水」

「君の中に何度何度でも注いであげるっていったでしょ?」

京楽は、浮竹の最奥に精液を注ぎこんだ。

「ひあう!やあああ!!」

ぷしゅわああと、浮竹は潮をふいていた。

「やああ、潮でちゃう、やだあああ」

「もっと感じて?僕だけのものだよ、十四郎」

「あ、春水、春水」

名を呼ばれて、京楽は浮竹に口づけた。

「十四郎・・・愛してるよ」

「あ、俺も愛してる、春水」

二人は熱い抱擁をしあいながら、更に乱れていった。


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「グリムジョー、期待しているよ」

魔族の始祖である藍染は、十刃の一人であるグリムジョーに魔人ユーハバッハの血を注射した。

「うおおおおおお」

駆け巡る熱い鼓動を抑え込む。

「俺は俺だ!魔人ユーハバッハなどに乗っ取られててたまるか!」

そう言って、藍染に更に魔人ユーハバッハの血を注射される。

「ははははは!私こそ神だ!この世界は全て私のものだ!さぁいっておいでグリムジョー。その大量の魔人ユーハバッハの血で、世界を赤に染め上げるのだ」

藍染は、そう言って笑い続けるのであった。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター33-2

それから、90階層の財宝の間で一晩明かしてから、一気に最深の120階層まで降りた。

120階層のラスボスは、本物にそっくりのコピーだった。

「ちっ、ここまで正確にコピーされるとやりにくい。京楽は補助を。平子が俺を叩け。俺が平子を叩いて、京楽も叩く」

コピーは真っ黒な泥人形でできていたが、持っている魔力から身体能力、魔法までコピーされていた。

「ファイアロンド!」

浮竹のコピーが打ってきた魔法を、平子の魔法がかき消す。

「フレアサークル!」

ごおおおおと燃やされても、浮竹のコピーはぴんぴんしていた。

2時間ほどを費やして、3人はやっとコピーを倒した。

「ああ、もう魔力がすっからかんだ」

「僕もだよ」

「俺もや。魔力切れの時の為に、魔力回復のポーションもってきといたんや。分けたるわ」

「ありがとう、助かる」

「ほんと、助かるよ」

3人は、魔力回復のポーションを飲んだ。

その味のまずさに、水を飲む。

「少しだけ魔力が回復した。これでダンジョンの入り口まで転移できそうだ」

浮竹は、最後の財宝の間をあけた。

金銀財宝から珍しい生き物のはく製、毛皮、貴重なマジックアイテム、それに古代の魔法書があった。

「古代の魔法書がこんなに!見ろ、京楽、平子!」

二人は、魔力切れでポーションで少しは回復したものの、疲れて眠ってしまっていた。

「仕方ないな」

浮竹はテントを出すと、平子と京楽の体を運び、テントの中に寝かせて毛布をかけた。

「今日は、ここで休憩してから、明日帰るか・・・・」

浮竹も、疲労感から眠気を催して、いつの間にか眠ってしまった。

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「浮竹、起きて、浮竹」

「ん・・・・・・?」

「魔法書が、奥の棚からたくさんでてきたんだ」

「何!」

浮竹は、がばりと起き上がった。

「浮竹は魔法書を覚えてコレクションするのが趣味なんやろ?俺は別に新しい魔法なんていらんから、全部持って帰り」

「ありがとう、平子!」

浮竹は、思い切り平子に抱き着いて、スリスリしていた。

「平子君、浮竹は渡さないよ・・・・・」

「ちょお、誤解やって!ぎゃああああ」

京楽にハリセンでしばかれて、平子はドラゴンでもあるので、金銀財宝を欲しそうに見ていた。

「ああ、欲しいなら好きなだけもっていけ。俺は古代の魔法書があればそれでいいからな」

「ええんか?この広間の金銀財宝、全部持って帰るで?」

「いいぞ。別に、金には困ってない。倒したレッドドラゴンをギルドで売れば、ここにある財宝くらいの値段はつく」

「ほんじゃ、遠慮なくもらうわ」

平子は、自分のアイテムポケットに大切そうに金銀財宝を収めた。

「ああ、俺の金銀財宝のコレクションがまた増えたわ。この前、留守の間に大分盗まれてしもうたからなー」

「ああ、浮竹みたいにドラゴンの金銀財宝だけぶんどって、逃げるような存在がそっちにもいるんだ」

「京楽、人聞きの悪いことを言うな!ちゃんと、ドラゴンを殺さず勝利して、戦利品をいただいてるだけだ」

浮竹は、京楽の頭を小突いた。小突かれながらも、京楽は構ってもらえて嬉しそうだった。

「真竜の、竜族を意味もなく殺すことはできないからね」

「あー、こっちではドラゴンの全てが人の形とって、人の言葉しゃべるわけやないからな。昨日のレッドドラゴンは、竜族やないねんろ?」

「そうだ。ただのドラゴンだ。竜族はこの世界には200体ほどしかいないからな。貴重だし、強いからよほどの事情がない限り、手を出さない」

「始祖の竜、カイザードラゴンとは友達なんだよ、僕ら」

「へぇ、すごいんやな。始祖の竜か・・・こっちの世界にもおったけど、不老不死じゃないから、冒険者に倒されて死んでもうたわ」

「カイザードラゴンは不老不死だからな」

「始祖の呪いは、この世界独特のもんやな」

しんみりした空気を追い払うように、浮竹は古代の魔法書をアイテムポケットに入れて、古城で見るつもりだった。

「さぁ、踏破したし戻ろう」

120階層のS級ダンジョンを踏破したとして、ギルドでまた注目を無駄に集めてしまった。

平子は冒険者ギルドに登録したばかりのEランク冒険者なのに、浮竹と京楽と一緒にS級ダンジョンを踏破して、受付嬢を失神させた。

「いやぁ、悪いことてもうたかな」

ギルドの解体工房で、15体のレッドドラゴンの死体を出すと、ギルドマスターも青い顔をしていた。

「ぜ、全部で大金貨6万5千枚になります・・・これ以上は出せません。ギルドが破産してしまいます」

以前のように、金貨かと思っていたら、ドラゴンの素材が不足しているということで、大金貨で買い取ってもらえた。

財布の中が潤った。

そのお金で、浮竹はさっそく魔法屋に出かけて、怪しい古代の魔法書5冊を金貨500枚で買ったりしていた。

「さぁ、とにかく古城に戻ろう。魔法書を見るためにも」

魔法書を手に、目をきらきらさせている浮竹は可愛かった。

「じゃあ、戻ろか」

「うん、戻ろう」

3人は、こうしてまだ未踏破だったダンジョンを攻略して、帰っていった。

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2週間ほど、平子は古城で厄介になった後、血の帝国でドラゴンの竜族が守護すべき金銀財宝のある遺跡があいてると聞いて、平子はそこに行きたいと言い出した。

「いいのか?サーラの世界に戻らなくて」

「あっちの世界は刺激がなくてつまらんねん。女神とその使徒がいばり散らかしててな。服従しろとうっさいねん。このアビスの世界が、よほど心地ええわ」

「じゃあ、この世界に残るのか?」

「うん、そうするわ」

平子の言葉に、京楽が心配そうになる。

「でも、サーラの世界とのゲートはもうすぐ閉じちゃうんでしょ?本当にいいの?」

「他の神々は帰っていったけど、俺は神いうたかて、神界に入れる神とちゃうからな。大丈夫や。たまに遊びに行ってもええか?」

「もちろんだ。盛大にもてなそう」

「おおきに。ほな、俺行くわ」

「元気でな!」

「元気でね!」

こうして、星の精霊ドラゴン平子真子は、この世界、アビスの存在となった。

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浮竹は、S級ダンジョンで手に入れた魔法書を読んでいた。

ちなみに、S級ダンジョンで手に入れた魔法書の数は162冊。

大量だった。

売れば、古城がいくつも買える金になるだろう。

「これも民間魔法か・・・・効果はぱっとしないな」

S級ダンジョンで手に入れた魔法のほとんどは民間魔法で、効果は微妙で、役に立ちそうな魔法書は5冊だった。

それぞれ、違う属性を組み合わせた魔法の魔法書であった。

浮竹はそれを読み、魔法を習得した。

試し打ちしようにも、古城を破壊してしまいそうなので、浮竹はさっそく遊びに来た平子に、次元の空間へと転送してもらい、そこで魔法を放った。

念のために京楽と平子もついてきていた。

「サンダーフレアスピア!」

かっと、青い雷の槍が出現した後で、その場を焦がすような炎が踊った。何もないはずの空間に、罅ができていた。

「ちょお、強すぎへん、その魔法。空間に罅できとるで」

「うーん。威力の調整が難しいな。サンダーフレアスピア!」

さっきより出力を下げて魔法を使うと、いいかんじだった。

「じゃあ、他の魔法も試し打ちするか」

そうやって、次元の空間は浮竹の魔力で揺れた。

「堪忍や。もう、この空間保ってられへん」

「僕も、シールドこれ以上はれないよ」

浮竹の魔法は、その威力の高さを知らずに最大限にまで引き延ばしてしまって、炎やら雷やらが京楽や平子のところにまできて、それを京楽がシールドを張って防いでいた。

「ああ、ありがとう。お陰でどんな魔法か分かった。どれも禁呪に匹敵する。使う時は威力を下げて使う」

「使うことがないよう、祈っておくよ」

「空間から出るで」

3人は、元の古城の中庭に戻っていた。

「今日は、平子の分まで俺が夕食を作ってやろう」

「え、浮竹、料理できたんかいな?」

「ばっちりだ!」

京楽は、顔を真っ青にして首を横に振っていた。

「ま、まぁ食べてみいひんことには、美味いか不味いかもわからんからな」

その日の夕食は、いつの日にか見たことのある、緑色の蠢くカレーだった。

「すごい匂いしとるな。マンドレイクとドラゴンの血、ぶちこんだんやな」

「お、分かるのか」

「マンドレイクもドラゴンの血も大好物やで」

そう言って、平子はスプーンでカレーを口に入れた。

「なんやこれ、めっちゃすごい味するやん。おもしろうて、もっと食べたなるわ。おかわり」

ついでに、京楽は食べ終えて気絶していた。

「お、俺の料理を分かるとは、なかなかだな」

京楽が気が付いた時には、平子は3回おかわりをした後だった。

「平子君、毒消しのポーションと胃腸薬を!」

「そんなものいらへんで?おいしかったし」

「浮竹の料理がおいしい・・・・かわいそうに、今までろくな食べ物食べてこなかったんだね」

涙ながらに、京楽は平子の肩を叩いた。

「まぁ、いつもは竜化して獲物丸のみやからな。毒とか酸もったモンスターは大好物やで」

「つまり、浮竹の毒料理に耐性があるということかい・・・・・」

「おい京楽、誰の料理が毒料理だって・・・・・?」

「いや、違う、これは言葉のあやで・・・・うぎょええええええええ」

口の中に緑色で蠢くカレーと、生きたままのマンドレイクをつっこまれて、京楽はまた意識を失った。

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そうして、平子は血の帝国に、浮竹が作った料理の数々をアイテムポケットに入れて、帰ってしまった。

「浮竹、いい加減機嫌治してよ」

「つーん」

「ああ、ツンデレのツンになってる。君が大好きだよ、十四郎」

耳元で囁かれて、浮竹は赤くなった。

「何をする!」

「君を抱きたい」

「きょ、京楽・・・・」

「春水って呼んで?いつもみたいに」

「あ、春水・・・・・」

ベッドの上に押し倒されて、浮竹は情欲で濡れた瞳で京楽を見つめていた。

「んっ」

京楽のキスを受け入れて、浮竹は自分から舌を絡めた。

「あっ」

胸の先端を甘噛みされて、浮竹は震えた。

衣服を脱がしていく京楽を、ただ見つめていた。

「んっ」

ぴちゃりと浮竹のものに舌が這う。

「ひあ!」

その刺激に耐え切れず、浮竹は精を京楽の口の中に放っていた。

「んっ・・・・」

「どしうたの十四郎、今日はいつもみたいに乱れないんだね?」

「あ・・・春水」

蕾を指でぐちゃぐちゃに解される。

「んあっ!」

貫かれて、浮竹は喘いだ。

「春水、春水」

ただひたすらに、京楽を求めた。

「あ・・・・・・・」

じんわりと広がっていく京楽の熱を感じながら、浮竹は安らかな眠りに落ちて行った。


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「ここが、星の精霊ドラゴン、平子真子の言っていた、創造神ルシエード様の子がいる場所・・・・・・」

それは、女神だった。

サーラの世界に存在する、女神アルテナ。サーラとアビスの世界が繋がった時、こちら側の世界に降りてきていた。

女神は、創造神ルシエードを愛していた。だが、創造神ルシエードが愛していたのは、始祖のヴァンパイアであり、我が子である浮竹十四郎。

その存在が、欲しくなった。

喉から手が出るほど。

その存在を手に入れれば、きっと創造神ルシエードも振り向いてくれるに違いない。

そんな妄想に憑りつかれた女神は、神の力に抗う術を持たぬ浮竹に、魅了の呪文をかけた。

「愛している、アルテナ」

「うふふふ。嬉しい。私も愛しているわ、浮竹」

「浮竹、しっかりして!浮竹!」

女神アルテナは、空間を開いた。そこに、浮竹を誘い入れる。

「ぼうやの浮竹は、私がもらってあげる。私は女神アルテナ」

「浮竹ーーーーー!!」

京楽は、血の暴走を始めていた。

再覚醒が、静かに始まろうとしていた。

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