貧乳派とパンツ
たつきの言葉に、一護もルキアもお互いの顔を見合った。
「ないない。こんな色気の欠片もねーやつ」
「あるわけなかろう。こんな下品なやつ!」
「言ったな!?」
「何んだと!?」
ぎゃあぎゃあ言い合って、一護がこう言った。
「この貧乳!」
その言葉に、アメジストの瞳が揺れた。
「どうせ、私には井上のような豊満な胸はない!」
一護の顔に蹴りを入れて、ルキアは走り去ってしまった。
「あーあ。後で朽木さんに謝りなよ。いいすぎだよ、あんた」
たつきの言葉に、なんであんなこと言ったんだろうと後悔する一護がいた。
ルキアの霊圧を追う。
「あいつ、どこいっちまったんだ」
まだ、授業中である。
それを抜け出したのだ。よほどショックだったのだろう。
学校から離れた公園で、ルキアを見つけた。
ブランコをこいでいた。
「おい、ルキア」
「なんだ、たわけ。どうせ私は貧乳だ」
「大丈夫だ。俺は巨乳より貧乳派だ!」
「この変態!」
「ああ、変態だ。ただしルキア専門」
「あっちへ行け」
きーこきーこと、またブランコをこぎだすルキア。
「言いにくいんだけど、パンツ丸見えだから。そんな丈の短いスカートでぶらんこなんてこぐから・・・・・」
「わきゃあああああああ!き、貴様見たのか」
「おう。ピンクのチャッピーだな!」
「たわけ!乙女のパンツをただ見するとは許せん!」
一護の顔面に、蹴りを入れるルキア。
「し、白玉餡蜜おごってやるから、今日喧嘩したことはなしにしてくれ」
たつきにはああ言ったが、二人は付き合っていた。
高校3年の終わり。
付き合いはじめて、2カ月が経とうとしていた。
ファミリーレストランにより、白玉餡蜜を2人前注文した。
「貴様、白玉をよこせ」
「仕方ねーな、ほら、あーん」
素直に口をあけるルキアが可愛かった。
学校にいる時は、付き合っているのがばれないように過ごしているはずだったのに、ばればれだた。何せ、ずっと一緒にいるのだ。これで付き合っていなければおかしいって程に。
「隙を見せたな!」
ルキアが、一護が窓の外を見ていたのをいいことに、一護の皿から白玉を全部盗み喰いしてしまった。
「ああ、俺の分が!」
「隙を見せる貴様が悪いのだ」
「この野郎」
脇腹をくすぐってやると、ルキアはすぐに降参した。
「あははは、やめよ一護。私が悪かった」
「それよかさ。俺ら財布はもってきてるけど、鞄とか高校に置きっぱなしだ」
「今からとりに行けばいいであろう」
「それもそうか」
ルキアと手を繋いで、歩き出す。
高校まで、15分の距離だった。
鞄を手に、また手を繋いで歩きだす。
ふと、ルキアが先を行き、悲しそうに笑った。
「この関係も、あと2カ月で終わりだな」
「え?言っとくけど、俺高校卒業しても、お前と別れる気ないから」
「なんだと!?」
驚くルキアに、一護の方が驚いた。
「おい、お前別れるつもりだったのかよ」
「大人しく尸魂界に戻り、恋次あたりとでも結婚するのだと考えておった」
ルキアの細く小さな体を抱きしめる。
「恋次には、渡さねぇ」
「一護・・・・・・」
「今まではっきりと言ってこなかったが、お前が好きだ、ルキア」
「一護」
ぽたぽたと、ルキアのアメジストの瞳から涙が零れ落ちた。
「そうか・・・そうであったのか。私の中にあった、この言葉では言い切れぬ感情は、一護への恋心だったのだな」
「ルキア、一緒に生きよう」
それはプロポーズ。高校3年の少年が、普通口にする言葉ではない。
「喜んで・・・・・」
一護の手をとった。
交際から2カ月あまりで、婚約を交わした。
何気ない日常を大切にした。
土日にはデートに出かけた。卒業前の連休で、二人で一泊二日の温泉宿に泊まった。
体の関係はなく、お互い清いままだった。
卒業式が終わり、1日の休暇をとってから、ルキアは尸魂界に帰るために穿界門を開けた。そこに、一護がついてきた。
「貴様、どういうことだ!」
「ちょっと、白哉に妹さんをくれって言おうと思ってな」
「兄様に!?殺されるぞ、貴様!」
「大丈夫だ。白哉はルキアに甘いから、きっと許してくれる」
尸魂界についてからが、大変だった。
怒った白哉の卍解を受けて一護も卍解した。破壊された建物の数々。
怒った京楽に止められて、二人は斬魄刀をしまった。
そのまま、隊首会に一護は連れていかれ、正式な死神になることが決まった。、
一度現世に戻り、家族と友人に別れを告げた。
でも、いつでも戻ってこれるので、悲しむ者は少なかった。
恋次が寂しそうだったので、飲みにつれていくと、どれだけルキアのことが好きだったか愚痴られた。
酔って、しまいには「奪い返す」とかいってきたので、恋次の屋敷にいきとりあえず簀巻きにしておいた。
「ルキアは、みんなに愛されてるんだな。パンツ見えなくなるの、こんなに悲しいものだとは思わなかった・・・・・・」
ルキア専門の変態一護がいた。
「それほど、あの現世の服が良いのか?」
「うん」
「では、今一度着てやろう」
ルキアのブレザー姿はやっぱり滅茶苦茶かわいかった。
短いスカートが揺れれば、パンツが見えそうになる。
ルキアが気にしてスカートを抑えこんでいるので、屈んでパンツを見た。
「水色のチャッピーか・・・・・・」
「貴様、パンツ星人か!パンツを見るな!」
「でもさ、死覇装だとパンツ見えねーじゃねーか。今のうちにパンツ成分を補給しとかないと・・・・・」
ぽいっと、水色のチャッピーのパンツが投げられた。
「もう、それは捨てようと思っていたのだ。やる」
ルキアは新しいパンツをはいた。
「おおおおおおおおおおおおおお」
一護は、ルキアのパンツを拝みだした。
「貴様、そこまで私のパンツが良いのか」
「ああ」
「こここ今度の日曜・・・そのなんだ・・・・体を・・・・な?」
「パンツ拝めるのか?」
「好きなだけ拝める」
「よっしゃああああ」
「おい、一護。貴様、パンツと私とどっちが大事なんだ」
「・・・・・・・・そりゃルキアだろ」
「その最初の沈黙はなんだ!」
顔面にルキアの蹴りを入れられながら、パンツを生み出した現世の人間は素晴らしいと思う一護であった。
忘れな草
白哉が、忘れな草の花束を手に、執務室にやってきた。
「隊長、それ俺にくれるんですか?いやぁ、隊長のことを忘れないようにって?」
「寝言は寝て言え」
ぴしゃりと、はねのけられた。
「冗談ですよ、冗談。誰にもらったんですか?」
「ルキアだ。13番隊の裏で、育てているらしい」
「ふーんルキアが。あいつでも、女らしいことあるのか」
「貴様、我が義妹を侮辱するのか?」
おっと。
怒らせてしまったようだ。
白哉はルキアにとことん甘い。
そのルキアは、今は現世だ。一護のところにいる。
いくら尸魂界を二度にまで渡って救った英雄といっても、しょせんは一護は人間。白哉も長いこと悩んだ。悩んだ末に、二人の交際を許可した。まぁ、許可が下りる前から二人は付き合っていたし、肉体関係もあった。
「隊長には、忘れな草みたいなかわいい花も似合いますね」
眉を顰められた。
「寝言は寝て言え。それより、この花瓶に水を汲んでこい。生ける」
「はいはい」
そう大きくもない花瓶に水をいれてもってくると、白哉は適当に花束をつっこんだ。
「ああ、それじゃダメです隊長。花に水が届きません」
「こうか?」
「いえ、違います」
「ああもう、恋次、貴様がやれ」
恋次は、器用に忘れな草を花瓶に生けた。
「これ、何処に置きます?」
「机の上は倒してはいけないからな。掛軸の前にでも置いておけ」
数百万はくだらないであろ、見事な掛軸のまえに、花瓶を置いた。
一輪だけ手にとって、白哉の髪にさした。
「なんの真似だ」
「俺のこと、いつまでも忘れないように」
「・・・・今日、あの館にこい」
「おっしゃ!」
夜のお誘いである。ここ2週間ばかり声をかけられていなかったので、そろそろだと思っていたのだ。
夜になり、いつもの館にくる。
夕食を食べて、湯浴みを済ませた。
少し酒を飲み交わしあった。
その部屋にも、忘れな草が置かれていた。
可憐な花に、どこか白哉を重ねた。
「ん・・・・・・」
キスをすると、白哉は恋次を抱き締める。恋次が抱き締めると、その背中に手を回す。
変わったものだ、本当に。
昔は、行為をする前もした後も、甘い空気なんてなかった。
今は、とろけるように甘い。
「ふあっ・・・・」
舌が絡むキスをすると、白哉が恋次を押し倒した。
「え?」
いつもと逆の立場で、ちょっと混乱する。
白哉は、恋次の死覇装を脱がせながら、入れ墨のあとにキスをしてきた。
「よっこらしょっと」
「あ・・・・」
「積極的なのは嬉しいけど、あんたを抱くのは俺なんで」
白哉が押し倒されていた。
「ん・・・・・」
唇を重ねると、ピチャリと水音がした。白夜の口腔を存分に楽しんで、舌がぬかれいく。銀の糸が引いた。
隊長羽織を脱がし、死覇装を脱がしていく。
真っ白な肌だった。
少し長めの黒髪は艶があり、漆黒の瞳は深い夜を思わせた。
「んあ・・・」
死覇装からは見えない位置に、キスマークをこれでもかというほどに残してやった。
平坦な胸を撫でて、先端を指で転がし、ひっかくと、白哉が声をもらした。
「ああ・・・・・」
「ここ、いいんだ?」
「し、知らぬ!」
何度もいじっていると、白哉は身を捩った。
もう、反応している花茎からだらだらと先走りの蜜を零していた。
「こんなに濡らして・・」
「し、知らぬ!」
キスをしてやると、白哉は大人しくなった。
潤滑油で濡らした指を体内にもぐりこませると、白哉は息を飲んだ。
「ひうっ」
「息、ちゃんとしてください」
体から、力を抜く。
スムーズに指が3本入った。前立腺のある場所ばかりを刺激していると、ビクリと白夜の体がはねた。
「あ・・・・」
いってしまったのだ。
その後で、またとろとろと先走りの蜜を零す。
「隊長、かわいい・・・・・・」
抱きしめてから、白哉を熱で引き裂いた。
「ああああああああ!」
痛みで、涙が零れた。
「ん、ん、ん!」
はじめは、痛みを少しで和らげるためにと前を宥められる。トロトロと蜜を零すその場所は、いじられることで2回目の射精を迎えた。
「んあああああ!」
白哉をなるべく気持ちよくさせてやろうと動く。汗が滴った。
「私のこととは良い・・・・好きにせよ」
その言葉に、恋次は奥を突きあげてそこで熱を放った。
「あああ!」
白哉の体を少し強引に開かせていく。
「はうっ!」
前立腺ばかりを突き上げていると中が締まり、恋次は二度目の熱を白夜の体の中に放った。
「今日はここまでにしときましょうか。明日も仕事だし、響くと困るので」
「そうだな・・・・・・」
二人で、湯浴みをした。
今日は2回だけだったので、白哉の体内からかき出した恋次の体液も少なかった。
湯浴みを終えて、シーツを変えた褥に横になる。
ふと、恋次は数本の忘れな草を花瓶からとって、白哉の髪につけてヘアピンで留めてしまった。
「おなごではあるまいし・・・・・」
「ちょっとだけ、その姿でいてくださいよ」
ぱしゃりと、伝令神機で写真を撮った。
「隊長には、椿のような豪華な花も似合うけど、忘れな草みたいな可憐な花も似合いますね」
「おなごではないと、言っている」
髪から忘れな草を外し、元の花瓶に生けてやった。
「知ってますか。忘れな草の花言葉」
「私を忘れないで、であろう」
「その他にもあるんです。誠の愛。真実の愛。俺たちにぴったりだと思いませんか?」
「世迷言を・・・・・」
「愛しています、隊長」
「私も・・・貴様を愛している、恋次」
忘れな草が、水色の可憐な花びらを散らしていく。
白哉と比べると、忘れな草の水色の花りも、白哉のほうが可憐だと思う恋次であった。
翡翠に溶ける 席替えの夜
特進クラスはクラス替えなどないが、実力次第で編入してきたり、逆に落ちこぼれて去っていく者もいた。浮竹と京楽はそうならないように努力していたが、山本総隊長の秘蔵っ子といわれるだけあって、常にクラスとのTOPにいた。
ある日、席替えがあった。
「クジを引いて、黒板に書いてあるその番号にある席に移動してください」
どうか、浮田の隣になりますように。そう京楽は祈った。
浮竹はクジを引いた。1番だった。中央の、真正面の席だった。
京楽もクジを引いた。5番だった。浮竹の隣だった。
「やっほう!」
はしゃぐ京楽を、浮竹は冷めた視線で見つめていた。
いくら付き合っているとはいえ、一緒に過ごす時間があまりにも長いのだ。授業中くらい、存在を忘れたかった。
授業が始まる。
いつもなら、眠いといいながら受ける授業だが。
とんとんと、肩を叩かれた。
京楽の方を見ると、ノートにかわいいと書かれてあった。
浮竹は、自分おノートを破りこう書いた。
(俺はかっこいいんだ)
(うんかっこかわいいね)
(おまえの頭の中は花が咲いているのか)
(うん。それで、浮竹っていう蜜蜂が寄ってくるんだ)
(大スズメバチになって刺してやろうか)
(優しめでお願いします)
(授業に集中しろ)
(かわいい)
(ああ、そうか。お前はかっこいいな)
半ばやけになってきた。
(そうでしょ?このもじゅもじゃがたまらないでしょ?)
(通販で脱毛クリームが売っていたんだが、買おうかな)
(やめてよ!僕からもじゃもじゃをとるとただの春水になってしまう)
(はぁ・・・・)
(君はかわいいね。君のいく顔を想像していたら・・・・たっちゃった)
「ぶばっ」
「浮竹君?」
「すみません、先生、なんでもありません」
京楽が手を挙げる。
「どうしたんだい、京楽君」
「お腹が痛いんで、ちょっと厠にいってきます」
ああ。絶対、俺をおかずに抜くつもりだ・・・・。
数分して、抜いてスッキリした京楽が戻ってきた。
京楽も浮竹も若い。
その気になれば、いつでも抱きあえる。もっとも、今のところ浮竹にその気はなかったが。
(学校で盛るな)
(だって、君があまりにもかわいいものだから)
(お前くらいだぞ、そんなにかわいいと連呼するのは)
(うん。なんだって、僕は君の彼氏だし)
(おい、いつ俺が彼女になると言った)
(ええ!でも君受けでしょ)
(勝手に決めるな)
(じゃあ、僕を抱ける?)
(無理だ)
(じゃあ、やっぱり浮竹が彼女だね)
チャイムが鳴った。
昼食時になり、食堂に移動すると人がたくさんいた。
食堂のメニューは豊富な上に量もあって美味しいときて、人気が高かった。山本総隊長も、時折ここで食べていく。
「Aランチ定食を」
「僕はBランチで」
なんとか、空いていた席を確保した。
「この唐揚げおいしいよ。食べてごらん」
そう言われて、浮竹は口をあけた。
「はい、あーん」
「んー。なかなかにおいしいな。こっちのメンチカツもそれなりだぞ」
京楽の口に放りこんでやった。
女生徒たちの黄色い悲鳴があがる。
何があったのかと見ると、互いに食べさせ合っているところを、たくさんの人に目撃されたらしい。
昔の浮竹なら逃げ出していたが、今は根性が座っているので、ああなんだ、自分たちのせいかと思うくらいだった。
「何かソフトドリンクもらってくるよ。何がいい?」
「オレンジジュース」
「はいはい」
食後のデザートはアイスだった。
ほんのりとミカンの味がした。
オレンジジュースを飲み干す。いつもなら、一番安いメニューを頼むのだが、最近は代わりに京楽が金を出してくれているため、悪いと思いつつも、高めのメニューも注文することがあった。
まぁ、その程度の金は自分専用の屋敷をいくつもかまえる京楽にとっては、微々たるものであろう。
寮に戻り、湯浴みした。
寝るまでの時間暇だったので、お酒を飲んだ。
京楽の飲む酒はきつい日本酒で、喉が焼けるようで、浮竹は酔っぱらってしまった。
「京楽のあほー。好きだぞーーーー」
べろんべろんに酔った浮竹に、キスをすると、もっととねだってきた。
パジャマのボタンが外される。
「あ・・・・・」
胸の先端をかりかりひっかかれて、甘い痺れを感じた。
「やあああ!」
いきなり、京楽が浮竹のズボンと下着をぬがせて、まだ反応もしていない花茎を銜えた。
「やああ!」
刺激を与えると、浮竹のそれはたらたらと先走りの蜜を零した。
「いっちゃいなよ、浮竹」
「ううん・・あああ・・・・やああ・・・・・・」
音がなるくらい口淫されて、浮竹は京楽の背中に爪をたてた。
舌で鈴口をいじってやると、けっこうな量の白濁した液がでてきた。
それを零さず口で受け止めて、嚥下する。
「やあ、そんなの飲むな!」
「今日はちょっと濃いね・・・ここ数日してなかったから」
「京楽は?」
「僕は、昼に処理したからいいよ」
「嫌だ、俺もする」
「ちょっと、浮竹!」
酔っぱらっているせいか、やけに積極的だった。
京楽のズボンと下着をずらして、期待で大きく膨らんでいたそれに、ちろちろと舌を這わす。
湯浴みは終えているので、汚いとは感じなかった。
「ん・・・・・」
京楽が、浮竹の与えくる刺激に夢中になる。
銜えることできず、浮竹は鈴口を何度も舐めた。
「浮竹、手を動かして」
「こうか?」
上下にしごくと、浮竹のものが脈打った。
そして、びゅるるると、勢いをつけて精液をはきだした。
「あ・・・・・・」
顔射になっていた。
浮竹の白い髪にまでこびりついてしまった。
「ごめん!風呂入ったばかりだけど、また入ろうか」
「ああ」
浮竹を残して、京楽は風呂からあがった。湯を浴びただけだった。浮竹は髪を洗うといっていたので、待っているが、いつまっで経ってもあがってこない。
心配して浴室の様子をみると、浴槽に沈みかけながら寝ていた。
「危ない!」
「・・・ふあ?」
「ああもう、君って子は」
浮竹の体をふいてやり、パジャマを着せた。そのまま、京楽のベッドに誘うと、大人しくついてきた。
「ああもう、ほんとに君はかわいいね」
浮竹を腕の中に閉じ込めるようにして、その日は眠った。
覚悟
更木剣八。11番隊きっての戦闘狂。
卯ノ花烈。4番隊の癒しの慈母。
互い詳しい過去など、お互い何も知りはしない。
ただ、卯ノ花烈はかつて卯ノ花八千流と名乗っており、初代護廷13隊11番隊隊長だった。
更木は、恐怖を知らない子供だった。
死体の山を築いて、卯ノ花に切りかかった。
子供と油断してたとはいえ、当時の卯ノ花に傷を負わせるだけの技量。
その時、卯ノ花は思った。
自分の後を継がせるのは、この子しかいないと-------------------。
「京楽」
「どうしたんだい、浮竹」
「本気なのか。卯ノ花隊長と更木隊長を切り合わせるなんて」
「ああ、本当だよ」
そう言う京楽の顔に、いつもある優しさがなかった。
「どちらかが死ぬかもしれないんだぞ!?」
「それでも------------これは、卯ノ花隊長が望んだことでもあるしね」
「卯ノ花隊長が・・・・」
卯ノ花は華道が好きだった。
よく、花を手入れしていじっていた。
山本総隊長の茶道にもよく顔を出していた。
「卯ノ花隊長・・・・・」
よく、熱が下がると病室を抜け出して甘味屋にいき、帰ってきたらばれてて、般若になった卯ノ花に説教をされたものだ。
卯ノ花と、特に親しい交流はなかったが、よく入院して回道をかけてくれるので、他の隊の隊長よりは仲が良かった。
「どうしてだ、卯ノ花隊長!」
「ちょっと落ち着きなよ、浮竹」
卯ノ花が死んだら、4番隊はどうなる?
ただでさえ、人でが足りないのだ。
次の侵攻で、またどれだけの死神が死ぬのかも分からない。
「止めにいっても、無駄だよ」
後ろから羽交い絞めにされて。一呼吸すると、浮竹も落ち着いた。
「少しは、冷静になった?」
「ああ・・・・・」
どうか。
どうか卯ノ花隊長、意味もなく命を散らせるな。
散らせるなら、更木を目覚めさせろ。
「はっくしょん!・・・・ああ?なんか誰かが俺の噂でもしてんのか」
「隙、ありです」
右手に、剣を突きたてられた。
それを引き抜く。
「生ぬるいんだよ!本気で俺と命のやりとりをする気はあんのか!?」
「あるに、決まっているでしょう」
更木の剣が、卯ノ花の腹を刺した。
致命傷に見えた。
けれど、卯ノ花はその傷を自分の回道で癒してしまった。
片や、血まみれでボロボロの更木。
片や、ほとんど衣服を血で汚していない、酷薄な笑みを浮かべる卯ノ花。
「その程度では、私をこえらえれませんよ?」
「ほざいてろ!」
更木の霊圧が、これでもかというほど大きくなる。
一撃だった。
更木の放った突きが、卯ノ花の胸に吸い込まれた。
「おい、この程度でくたばんじゃねぇ!俺はもっと戦っていたいんだ!」
これは、私の罪。
そして、私への罰。
こほこほと咳をして、ごぽりと血を吐いた。
もう、回道などでは補いきれない傷だ。
「あなたは、強くなる。私をこえて、さらに高みへ-----------」
「おい、死ぬな!こんなところでくたばるな!俺はあんたのことが・・・・・」
好きだった。
そう言おうとして、卯ノ花が最後の力を振り絞って更木に触れるだけのキスをした。
「最強の剣八は、今日からあなただ」
死の接吻は、酷く甘美な味がした。
「卯ノ花隊長・・・・」
消えていく霊圧を感じた。
そして、より大きくなった更木の霊圧もかんじた。
「ねぇ。もしも僕が、君と戦うとしたらどうする?」
総隊長になった京楽が、ふいにそんなことを言った。
「事情を聞いて説得する」
「剣でしか、語れないなら?」
「手合わせをする。でも、絶対に死なせない」
このあたりが、浮竹には限界だろう。
「そう。僕なら、卯ノ花隊長と同じ道を辿るだろうね」
「京楽!」
心配してくる、浮竹の頭を撫でた。
「心配しなくても、大丈夫だよ。僕らは、そんなことに絶対にならない」
浮竹には、卯ノ花の覚悟も、更木のような荒々しい強さもない。
ただ、そこに凛とさく白い花のようだった。
「さて、一護君が戻ってくるまで、敵が侵攻してこないことを祈るのみだね」
今、一護は零番隊の霊王が住まうとされている場所にいる。
彼がどれだけ強くなるかで、今後の尸魂界の運命は大きく左右される。
破滅か、存続か--------------------。
戦いの火ぶたは、切っておろされようとしていた。
卯ノ花と更木
「そうこなくっちゃな!切り甲斐があるってもんだぜ」
ああ・・・・・あなたは死線くぐる度に強くなる。それこそがあなたが科した過ち。そして私の罪--------------。
切り合いを続けた。
私の跡を継ぐものは、この者しかいない----------------。
あなたは弱い。私は強い。
でも、それを捻じ曲げて、あなたは遥かなる高みへいく・・・・。
何度更木を切っても、更木には恐怖がないのか、死を賭けた切り合いを楽しんでいた。
「まだまだだぜ!」
キンキンカキン。
剣がこすれ合う音が、無闇に広がった。
やがて、お互いに疲弊してきた。更木は、特別な一撃を放った。
胸に、ザシュリと更木の剣がくいこんだ。
「おい・・・・あんた、死ぬのかよ」
応えはなかった。
「死ぬな!!」
更木は吠えた。
卯ノ花は満足そうな顔をしていた。
役目を果たして死ねることのなんと幸福であることか。
もう、卯ノ花は立ち上がることもできないでいた。
「おい、その程度の傷回道で癒せ!死ぬな!あんたとはもっと戦っていたいんだ!」
「ふふ・・・何を、泣きそうな顔をしているのですか。私は、これで本望です。やっと、剣八の名をあなたにわたせる・・・・・」
「卯ノ花!」
「ふふ・・・・私は、なんと幸福なこと・・・・・か・・・・」
瞳孔が開ききる。
だらんと力をなくした体。
少しずつ冷たくなっていく。
「うおおおおおおおおお!」
更木は吠えた。
そして、卯ノ花の体を抱き上げて、無闇からでてきた。
「更木隊長、卯ノ花隊長は!」
待っていた浮竹に、卯ノ花を渡す。
「死んだ。死んだら、戦うことも楽しめなくなるのに-------------死にやがたった。俺のために」
「そうか・・・京楽、葬儀の用意を」
「うん」
浮竹と京楽は、卯ノ花を遺体大事そうに抱きあげて、戻っていく。
「なぁ。あんたは、これで本当に本望だったのか?」
青空に話しかけていた。
「俺は・・・本気で、あんたのことが好きだったんだぜ?」
答えはもうどこにもない。
愛する者を手にかける。なんと残酷で淫靡な味のすることか。
その日の夜には、殉職した卯ノ花の葬儀が行われた。
「隊長!卯ノ花隊長!」
手紙で思いを伝えられたとはいえ、卯ノ花の死を勇音はすんなり受け入れないでいた。
葬儀に立ち会った者たちは少なかった。
更木の姿もなかった。
ただ、菊の花を添えてくれと、浮竹に渡した。
その菊の花を、棺の中央にいれた。
なんと安らかな死に顔であるだろうか。血のあとはぬぐいとられ、まっさらな死覇装と隊長羽織を着せられていた。
「卯ノ花隊長-----------どうか安らかに」
我慢できなくなって、浮竹は京楽の隣に並んだ。
「ねえ、卯ノ花隊隊長。満足でしょ?更木剣八は、始めてて斬魄刀を持った。君のお陰だよ」
更木を高みにのぼらせるためとはいえ、卯ノ花の死は大きかった。
4番隊の隊長が死ぬ----------それだけ、治癒に余計に時間がかかる。
「卯ノ花隊長、どうか安らかに」
「おやすみ、卯ノ花隊長」
浮竹と京楽は、棺を閉じて火をつけた。
ぱちぱちと、火が爆ぜる。
空高く昇っていく煙は、山本元柳斎重國の時と同じように、雲一つない晴天へと還っていく。
「卯ノ花隊長!」
勇音は、何時までいつまでも泣いていた。
やがて、棺が灰になる。
遺骨を拾う。
一緒に入れて置いた斬魄刀は、灰にはならなかった。
「仕方ない。斬魄刀は、墓にいれようか」
京楽の言葉に、皆頷いた。
大戦が終わり、仮のものではなくきっちりと建てられた卯ノ花の墓の前に、京楽は来ていた。
「満足かい、卯ノ花隊長。更木隊長は強くなり、敵を葬ったよ」
山本元柳斎重國が死に、卯ノ花烈が死に・・・・・愛しい、浮竹十四郎も死んだ。
「今回の大戦は、尸魂界の歴史の中で一番厳しいものだったね」
卯ノ花の墓の前に、菊を添えた。
「でも、悲しくないでしょう、卯ノ花隊長。そっちには、山じいの浮竹もいる。案外、楽しそうに過ごしたりして」
人が死にゆくと尸魂界に来る。
死神が死ぬと、その膨大な霊圧は霊子の流れに還る。
「浮竹ー!寂しくなんて、ないよね!?」
浮竹十四郎の葬儀は終わったが、墓はまだだった。雨乾堂を取り壊して、そこに墓を建ててやろうと思っていた。
聞こえるはずもない、浮竹に話しかける。
「僕は元気でやってるから、君も元気でね」
卯ノ花の墓石に、酒を注いだ。
今は、死者を尊ぶ真似もできない。死神の実に半部以上が死んだ。瀞霊廷は焦土と化した。
「君たちも、天から見守っていてよ。居残った、僕らのあがきを-----------」
例え、這いずり周りながらでも生きていく。
それが人という生き物。
潔く散った3人には悪いが、これ以上隊長副隊長を死なせるわけにはいかない。
「いうか僕もそっちにいくから、3人仲良く待っててね」
空を見上げる。
雲一つない、青空だった。
9話補完小説
山本元柳斎重國の遺言により、京楽春水が総隊長となった。
「大丈夫か、京楽」
「あ、うん・・・昨日の今日で、ちょっと寝れてないだけだよ」
「それにしても、先生が京楽を総隊長に任命する遺言を書いていたなんて・・・・」
「ほんとに、冗談にしてほしいよね。でも、決まりだ。総隊長には、今から僕がなる」
「がんばれよ、京楽!後は無理はするな!」
恋人を抱き締めて、口づけた。
京楽の右目は、。光をなくした。耳も欠けた。
今は、黒い眼帯に覆われている。
「卯ノ花隊長、本当にいくのか?」
「どうしたのですか、浮竹隊長。そんな蒼い顔をして」
「だって、更木隊長と切り合いってことは・・・・・・」
「ええ。どちらかが死ぬでしょうね。多分私が」
浮竹は、卯ノ花を抱き締めた。
「浮竹隊長?」
「あなたには世話になった。先にいくとしても、きっと俺も後に続くから」
「ええ。寂しくはありません。すでに山本元柳斎重國がいるのですから」
京楽は、四十六室にいき、卯ノ花と更木の切り合いを承知させた。
「ほんとに、四十六室は、自分の保身だけでいやになるね・・・・・」
浮竹のところに戻ってくると、その膝枕に頭を乗せた。
「少し眠るよ・・・・」
「ああ、おやすみ・・・・・・」
卯ノ花は、死を覚悟して罪人を閉じ込める空間の無闇に、更木と一緒に消えていった。
「卯ノ花隊長-----------------」
護廷13隊のために死なば本望。
命を散らせてまで、更木に強くなってほしいのだ。
山本元柳斎重國の次は卯の花烈。きっと、その次は自分。
そんな予感を抱きながら、深い眠りについてしまった京楽を布団の上に寝かせて、その隣で寝転んだ。
「山本元柳斎重國、卯ノ花烈、そして浮竹十四郎--------------」
死者と死にゆく者へ、自分の名を並べてみる。
なんとも、一番印象が薄い。
山本元柳斎重國は総隊長、卯ノ花烈は卯ノ花八千流と名乗っていた、初代剣八。
その中に自分が並んだとしても、色あせてしまうなと思いながら、京楽の眼帯に手をかける。
そっと眼帯をずらして、摘出した眼球のかわりに入れられていた義眼に、キスをした。
「忙しくなるな・・・・・」
卯ノ花の、葬儀をしなければならない。
まだ、今は生きているが、死ぬのも時間の問題だ。
「死ぬのが怖くないんだな、卯ノ花隊長---------------」
自分は恐い。
死にたくないと思う。
無闇に去り際の。卯ノ花のことを思い出す。
死にに行くにしては、楽しそう顔をしていた、久し振りに、自分の本性を現せるのだ。死をかけた、命をかけた切り合いが楽しくて仕方ないのだ。
さすが、初代剣八といったところか。
「俺も、少し眠るか・・・・・・」
起きた頃には、卯ノ花の遺体が棺に入れられるだろう。
山本元柳斎重國のように、白い百合の花で満たしてやろう。そう思った。
----------------------------------
キンキンカキン。
斬魄刀がぶつかり合う。
「今日は随分饒舌なのですね。私は、寡黙なあなたのほうが好きです」
「ぬかせ!」
何度、剣を合わせただろう。
「けっ、こんなもんかよ!」
更木が、卯ノ花の剣を叩き折ろうとした。
けれど、その剣はびくともしない。
「くそっ・・・・・俺は、あんたに憧れてた」
「剣を交じり合わせての戯言は聞きません」
「あんたが・・・・あんたが、俺に恐怖をくれた。暗闇だった俺の空間に、切ることで生きがいができた」
卯ノ花の背中を切ろうろした・
「甘い!」
卯ノ花の剣が、それを制する。
「卯ノ花八千流・・・・あんたのことが、好きだった。護廷13隊の初代11番隊隊長にして、最強の剣八!」
ザシュ。
いくつもの傷が、更木を血まみれにする。
「俺は、あんたが好きだ」
「戯言を・・・・・」
剣で右肩を貫かれながら、卯ノ花を抱き締めた。
「ああ、一度でいいからあんたを抱きたかったなぁ」
「更木剣八・・・・・あなたは弱い。けれど、死線を潜り抜く度に強くなる。あなたの強さが、今の尸魂界には必要なのです」
唇を重ねていた。
血の味がした。
「何を・・・・・」
「尸魂界きっての大罪人だ、俺もあんたも。護廷13隊の隊長であるということがなければ」
「その程度のこと、知っています」
「続けようじゃねぇか。殺し合いを!」
「望むところです!」
ああ---------------。
私は、この男に殺される--------------。
その味の、なんと甘美なことか。
「死を覚悟なさい!」
それは、私だ。
私が、死を覚悟しなければいけない。
更木剣八。
私の---------------卯ノ花八千流の死体を踏み台にして、その強さを高みの先へと伸ばせ。
ザシュ。
「あ・・・・・・」
ぽたりと、卯ノ花の口から血が溢れた。
「おい、まだ終わりじゃないだろうな!」
「なんのために、私が回道を学んだと思っているのです」
回道で、血止めだけして、また更木と切り結びあった。
ああ。
この浴びせられる斬撃の痺れは、とても甘い。
死の香がする----------------。
卯ノ花と、更木は血を流し、傷だらけになりなあがら、一心不乱で切り結びあった。
「私は、卯ノ花八千流。初代剣八にして、初代護廷13隊11番隊長」
にっと、笑った。
残酷な笑みだった。
私の願いに適わぬ程度なら、いっそ殺してしまおう。
どうかどうか。
私を踏み越えて、高みへと昇ってくれ。
相反する感情を抱きながら、二人は切り結び合うのだった。
翡翠に溶ける 南国の島
そこは亜熱帯地方で、薄着できてよかったと浮竹も京楽も思った。
海はとても綺麗で、珊瑚礁が広がっていた。
山じいから、泳ぐこともできると言われていたので、水着を用意していた。
二人とも、夢中になって海の中に潜った。
綺麗な色の魚が、たくさん泳いでいた。サメの姿もあったが、霊圧をぶうけると何処かへ行ってしまった。
その日は、1日中海の中にいた。
こんな綺麗な海に潜ることなど、きっとこれから千年も近い人生を歩む中でもないだろう。
ふと、京楽が何かを見つけて拾い上げる。
天然の真珠だった。
二人して、海からあがった。
「これ拾ったんだ。あげる」
「こんな珍しいもの、いいのか?」
まだ、真珠の養殖による産出はない。真珠はかなり高価な代物だった。海のない尸魂界では、幸せの証として、上流貴族の姫なんかが、髪飾りにつけたりしている。ネックレスになるほど産出がないので、髪飾り簪の他に、指輪が流行っていた。
「元がただだからね」
「それはそうだが、こんな高価なもの・・・・・」
「いいから、もらっておいてよ。ああ、髪飾りにでもしようか。一度よこして」
京楽に渡すと、今日浮竹にあげる予定だった髪飾りの一部に、天然真珠を埋め込んだ。
「これ、今日の記念に」
そういって渡されたのは、翡翠の髪飾りだった。中央に、さっきまであった天然真珠が光っていた。
「こんな高そうなもの・・・・・」
「いらないなんて言わないでね。受け取ってくれないなら、海に放り投げる」
「分かった、受け取るから!」
本当に放り投げそうで、浮竹はその髪飾りを受け取った。
肩より長くなってしまった髪を器用に結い上げて、髪飾りで留められた。
その日は、館で湯浴みをして食事をしてから、外で寝袋を用いて寝た。
満天の星が綺麗だった。
「星が掴めそうだ」
「空ごと落っこちてきそうだね」
何十万年、何百万年、何千万年と輝く星々。
それを見れるだけでも、現世にきた甲斐があったというもの。
次の日は、二人で釣りをした。
京楽はよくヒットして突き上げたが、浮竹は全然だった。
「かかった!」
やっと何かが釣れたと思ったたら、海藻だった。
「海藻か・・・・・・」
浮竹は、水着に着替えて海に潜りだした。
「どうしたの」
「今日の食糧は、俺たちでとらなきゃいけないんだろう。貝をとってくる」
食べられそうな貝を、潜っては浜辺に並べた。
「南国だけあって、貝も綺麗だねぇ。焼いたりした後の貝がらは、お土産に持って帰ろうか」
「それ、いいな。浜辺にも綺麗な貝殻が落ちていたんだ。もう十分、今日の夕食の分はとれたから、お土産の貝殻を拾ってくる」
浮竹は私服のシャツとハーフパンツに着替えて、浜辺を散策しだした。
京楽は釣りの続きだ。鯛が3匹とれた。十分だろうと思いつつも、また釣り竿を垂らす。
ヒットしたのは、南国らしい艶やかな魚だった。
生け簀に放り込んで、京楽は浮竹の後を追った。
浮竹は、浜辺を歩きながら海のが引いては押し寄せる様を楽しんでいた。
「そんなに夢中になって大丈夫?熱出さない?」
隣に、京楽がやってきた。
「こんな生き物がいた」
ヤドカリを見せた。
「うん、食べれそうだね」
「だめだ、かわいいから食べない」
「全く、君って子は・・・かわいいのは、浮竹、君だよ」
拾っていた貝殻が落ちる。
抱き寄せられていた、
「好きだよ、浮竹」
「俺も好きだ、京楽」
唇が重なった。
深い口づけを何度も繰り返す。
ざぁんざぁんと、おしては引いていく波の音だけがした。
散らばった貝殻を拾い集める。
「クラスの女子にはこれでいいとして、男子にはどうしよう?同じ貝殻でいいかな?」
「貝殻でいいんじゃない?珍しいものだから、きっと欲しがるよ」
貝殻は、巻貝がほとんどだった。
浮竹の爪の色や唇の色と同じ、桜色の貝殻が目立った。
その日の夕食は、自分たちがとった魚や貝をいれた鍋だった。館には使用人はいたが、1日分しか食事は用意されておらず、自分たちで調達するしかなかった。
鯛から南国の適当な魚、貝をぶちこんだ鍋に、味噌をいれる。
思っていた以上に、美味しかった。
その日の夜は、ベッドが2つ用意されていたが、1つのベッドで眠った。
「浮竹、起きてる?」
「ああ・・・・・」
「楽しかった?」
「ああ。海にきたのも、潜ったのも初めてだ。あんなに綺麗なものだとは思わなかった」
「そうだね。僕も初めてで、書物で読んだことはあるけど、目の当たりにした初めてだよ。きっと、この日を一生忘れない」
「俺もだ」
唇が重なった。
お互い、付き合っている。
肉体関係も少しだがある。
でも、浮竹は恐くて次の段階に進めないでいる。京楽は、何年でも待つつもりだった。
「京楽は、辛くいないのか?」
「何が」
「その、俺を抱けなくて」
京楽はにまーっとした顔になった。
「凄く凄く辛いよ。抱かせてくれるの?」
「ばか、俺はそんな安い男じゃない!」
「そうですよねー。でも、いつか君を抱きたい」
「男が男を抱くんだぞ?平気なのか?」
「何、女の子を抱くのとあんまり変わらないよ。アナルセックスなら、女の子で経験済みだし」
もろな台詞に、浮竹が赤くなる。
「お前の凶暴なまでにでかいそれが、あんな場所に入りきるとは思わない・・・・」
「試してみる?」
「まだ駄目だ」
「そうですよねー。でも、いつか僕は君を抱くよ」
ドクンと、鼓動が高鳴った。
「すごい、ドキドキしてる・・・・・」
浮竹の胸に、京楽が手を当てる。
「僕もドキドキいってるよ・・・・・・」
浮竹の手を、京楽は自分の心臓のある位置にもってきた。
「すごい。京楽もどきどきいってる」
「うん。僕も緊張してる。君を抱くと思うだけで」
「京楽・・・・」
「浮竹、大好きだよ。かわいい」
「ふあっ・・・」
何度も唇を重ねた。
その日は、浮竹を胸の中に抱くように、丸くなって眠った。
翡翠に溶ける いつか桜の木の下で
鬼道の訓練は、さらに種類が増えて広がった。
瞬歩の訓練も始まった。
剣の授業は、木刀で切り結びあうのだが、浮竹と京楽の域についていける者は、教師にもいなかった。だから、剣の稽古になると、浮竹と京楽はいつもペアを組まされた。
「何か物足りないな・・・・先生に、稽古をつけてもらおうかな」
「やめときなよ浮竹。流刃若火で尻に火をつけられるよ!」
「それは京楽だけだろう。この前、先生に稽古の相手をしてもらったとき、痣は少しできたが、尻に火をつけられたことなど、一度もないぞ」
「くそ、あの山じいめ!僕は幼い頃から山じいを知っているけど、1年に3回は、尻に火をつけられるよ」
浮竹が笑った。
強姦されかけた頃は、笑顔が見れなかったけれど、京楽と交際をスタートし、順調だった。
「明日は現世で、虚退治にいく!チームでの行動になる。くれぐれも、一人での行動は慎むように!」
力を均等にするために、浮竹と京楽は違うチームになった。
翌日。
現世に続く穿界門が開かれる。
「僕、現世ってはじめてなんだよね。ちょっとドキドキする」
「俺も初めてだ」
断界をぬけて、現世の空に立つ。
少し離れた場所に、海があった。尸魂界に海はないので、みんな虚退治を忘れてはしゃぎだす。
「この餌で虚を誘い出す。残らず処理するように!」
教師が、虚をおびき寄せる餌を撒いた。
じわり。
闇から滲み出すように、虚が数匹出現する。1体1体、そえぞれのチームが撃破していく。浮竹と京楽はそれぞれサポートに回った。
力がありすぎて、ただの虚如きでは訓練にならないのだ。
いずれ、護廷13隊入りをして人の上に立つだろう。そう考えて、教師たちも文句はいわなかった。
じわり、じわり。
「少し虚の数が多いんじゃないですか、先生」
「ばかな・・・・・この撒き餌では、10体が限度のはず・・・・・」
すでに30体はでてきており、浮竹と京楽も互いのチームと連携をとりながら、虚を切りすてていく。
じわり。
「こあああああああああ!」
すごい音がした。
黒腔(ガルガンタ)が開いた。
「大虚(メノスグランデ)だ!至急、尸魂界に応援を!」
「穿界門をあける!早く逃げろ・・・・・おい、浮竹、京楽!」
「これくらじゃなきゃ、力試しにならないからね!」
「そうだな!」
互いに斬魄刀を始解させる。浮竹は大虚がはなった虚閃(セロ)を右の刃で吸収し、左の刃で鋭く調整して大虚に当てて、巨大な穴をあけた。
「ごおおおおおおおおおお!!!!」
大虚が吠える。
それに京楽が、花天狂骨で切りつけた。ざんっと、袈裟懸けに巨大な体を切り裂く。
大虚は、霊子の塵へと還っていった。
「すごい・・・・まだ2回生なのに・・・・・」
「流石は山本総隊長の愛弟子・・・・・」
教師たちが舌を巻いた。
他に出現した虚も全部処分して、浮竹と京楽は、開けられたままの穿界門をくぐり、尸魂界へと戻った。
緊急でかけつけた死神たちは、何もない現世で頭をひねっていた。
今回のことは、山本早退著の耳に入った。
「そうか。春水と十四郎は、まだ2回生になったばかりでありながら、大虚を倒すほどに成長しよかったか・・・・」
山本総隊長は、自分のことのように嬉しげだった。
「それにしても、あの悪戯小僧の小童の春水がちゃんと学院に来ているのも・・・十四郎のお陰かもしれんな」
その日、二人は山本総隊長に呼び出された。
「ねえ、僕たち怒られるようなことした?」
「あの大虚を倒して、勝手に行動したのがまずかったのだろうか・・・・」
ひそひそと話合う二人に、山本総隊長が向き合う。
「此度の大虚退治、見事であった。報告を受けた。そなたたちがいなければ、死人や怪我人が出たかもしれんと」
「山じい、怒ってるんじゃないの?」
「何故に怒る必要がある?」
「だって僕ら、無断で行動したんだよ」
「その末の大虚退治であろう。大虚が訓練で出るなど、今までに例がない。お前たちがいてくれてよかったと思っておるのじゃ」
「それならよかった・・・・・」
「この度の働きに感謝して、京楽春水と浮竹十四郎に、2日間の現世への旅行を許可するものとする!」
「え、ほんとにいいの、山じい」
「尸魂界にはない海のとある孤島に、館が建っておる。人を遣わせて世話をするように頼んだ。明日から2日間、存分に、現世の海を楽しんでこい」
「やったー!釣りするぞーー!」
「先生、ありがとうございます」
その日は、そのまま解散となった。
「ねぇ、浮竹、起きてる?」
「なんだ、京楽」
「明日が楽しみ過ぎて寝れない」
浮竹は起き出して、京楽のベッドにもぐりこんだ。
「浮竹?」
「その、すっきりさせれば眠れるか?」
「あ、うん!」
浮竹の手が、ぱじゃまから下着に入ってくる。ゆるゆると扱われて、すぐに反応した。
「お前のはでかいな・・・・」
ぐちゃぐちゃと音をたててしごい、鈴口に爪を立てると、京楽はあっけなくいってしまった。
「ほら、浮竹も・・・」
「俺はいい」
「まぁ、そう言わずに」
パジャマと下着の中に手が入ってくる。
「んあっ・・ああああ!」
「君の声いいね・・・聞いてるだけでいっちゃいそう」
ゆっくりとなでられて、浮竹のそこは先走りの蜜を垂らした。
「もうこんなに濡れてる・・・・・・」
「あ、京楽・・・・・」
「好きだよ、十四郎」
名を呼ばれて、びくんと浮竹の体がはねた。
「ひああああ!」
一度いったそこを、さらにすりあげて、すぐに二度目にいかせることに成功した。
「はぁはぁ・・・・・・」
「下着、汚れちゃったね。湯浴みするには遅いから、濡れたタオルで体をふいて、下着だけ交換しようか」
「ん・・・・・」
まだ余韻に浸っている浮竹にキスをする、
二人は、下着だけ変えて、濡れたタオルで体をふきあって、パジャマをまたきて、ベッドに横になった。
ぬいたせいで、適度な疲労を感じて、すぐに眠りの海に落ちていった。
朝になって、浮竹が朱くなっていた。
「俺は・・・いくら寝れないからと、自分からあのような行為を・・・・・」
「浮竹、後悔してるの?」
「少し・・・・」
「でも、僕は浮竹から求めてくれてすっごく嬉しかったよ。浮竹も気持ちよくなったでしょ?」
「癖になりそうで、嫌なんだ」
「別に、抜くくらい誰でもやってるよ。ただ、付き合っている好きな子の手だと、すごくきもちいい」
浮竹はまた真っ赤になった。
「でもこの前の抜いたばかりだし、現世の海に泊まる時はキスくらいで終わらせようか」
その言葉に安堵する浮竹。
「浮竹はかわいいね」
「普通だ」
「いや、かわいいよ。見た目もだけど、中身もね。そうだ、いつか桜の木の下で想いを伝えあおう。きっと、その時にはもう肉体関係はあるだろうけど」
浮竹は、また真っ赤になった。
「桜の木の下で------------------いつか、お前に全てを伝える」
それは確認作業になるだろう。何せ二人は、もう正式に交際をしているのだ。少しだが、肉体関係にもなってきている。
あの、雨の散るような桜の木の下で。
そう思うだけで、軽い眩暈をおぼえた。
翡翠に溶ける 交際のスタート
ちらちら降る雪が、冷たかった。
傘をもっていなかった浮竹に、京楽が傘を差しだす。
二人並んで、一つの傘で学院に登校した。
入学した日に、自分の斬魄刀になる元の刀を渡される。それを在学中に始解させて、死神になった暁には自分の斬魄刀として授与される。
浮竹と京楽の斬魄刀は、二人ともすでに始解できた。
名を、それぞれ双魚理と花天狂骨といった。
山本総隊長が我が子のように可愛がるのも分かるような、成長ぶりだった。鬼道の腕もいい。
特に、竹刀を使った剣の腕は、二人は学院の中でもトップクラスだ。上級生でも、ここまで戦える者はいないだろう。
今ある真央霊術院なら、スキップ制度で3回生になっていそうだったが、当時の死神統学院にはスキップ制度がなかったため、二人は6回生まできちんと出席し、卒業する必要があった。
浮竹は、体が弱く肺病を患っているために、よく学院を休んだ。出席日数を確保するために、本来なら休みの土曜や夏季休暇、年末年始の休みに補習を受けた。
未来ある浮竹を、留年させまいと、教師たちも頑張っていた。
「どうじゃ、春水。十四郎は」
山じいが、ある日補習を受けに学院に残った浮竹の付き合うために、学院で待っていた京楽に声をかけた。
「んー。病弱で休むこともあるけど、補習受けたりして頑張ってるよ。補習を受けなくても、出席日数は足りると思うんだけど、同じことが習えなかったって必死さ」
「ふむ。春水、今後も十四郎を支えてやってくれ」
「分かってるよ」
その日は、夕暮れまで浮竹は補習を受けていた。
時間が時間なので、そのまま食堂で夕食をとる。
次の日、浮竹は呼び出された。相手は6回生の男で、護廷13隊入りが決まっていた。
浮竹の霊圧がすごく乱れていたのが気になって、呼び出されたという屋上までいくと、院生の服をぼろぼろにされて、組み敷かれて涙を零している浮竹を見つけた。
「京楽!」
「貴様ああああああ!」
京楽は、殴りかかった。でも、相手はは6回生。花天狂骨を抜くと、6回生の男も斬魄刀を抜いた。
「かわいい浮竹ちゃんは、俺がもらってやるよ」
一撃だった。
風が吹いたのかと思った。
京楽は、6回生の斬魄刀を折り、その体に峰内を食らわせていた。
「こんな・・・・1年坊主如きに・・・・・・」
どすんと、巨大が床に沈む。
「浮竹、大丈夫!?」
「あ、ああ・・・未遂、だったから・・・・・」
肌も露わな院生の服が毒だった。
医務室から毛布をかりてきて、一度寮に戻ると新しい院生の服に着替えさせた。
カタカタとずっと震えていた。
京楽が抱き締めると、震えは収まった。
「今日はもう無理だ。休みなさい」
「分かった・・・・」
「僕は、山じいのところに行ってくる」
山じいに、6回生の男が浮竹を強姦しようとしたことを話すと、山じいは凄く怒って、その生徒を停学2カ月と護廷13隊入りを取り消した。
山じいの処分に、京楽も納得する。
本当なら、退学処分にして欲しかったが、護廷13隊入りを白紙にされたのだ。十分であろう。
寮に帰ると、浮竹が泣いていた。
「どうしたの!」
「こんな自分が情けなくて・・・こんな見た目のせいで・・・・」
「浮竹は何も悪くないよ」
「でも!言い寄ってくる男が後を絶たない」
「それ、本当?」
京楽は怒っていた。浮竹にではなく、浮竹に言い寄る男の存在に。
「お前が一緒にいるときは大丈夫なんだ・・・でも、補習の時とかの休み時間に・・・」
「いっそ、僕たち付き合っていることにしない?」
「でも、それじゃあ京楽に迷惑が!」
「女遊びも、君の存在を忘れるためにしていたことだし、未練なんてないよ。好きだよ、浮竹」
面と向かって、真剣な表情で告白されたのは始めてかもしれない。
「俺は、そういう目でまだお前を見れない。でも、俺も好きだ、京楽。お前は優しい・・・・」
その日から、浮竹と京楽は正式に交際をスタートし、その件は山じいのも耳にも入り、呼び出された。
「何故、呼び出されたか分かっておるの?」
「はい、先生」
「分かってるよ、山じい」
「儂はお前たちに仲のよい友人でいてほしかったのじゃ」
「もう遅いよ」
「先生、すみません」
「謝るということは、噂は本当なのじゃな?春水、十四郎を幸せにできるか?」
「できるよ。僕に不可能はない」
「小童が・・・・まぁよい、十四郎ことを頼んだぞ、春水」
「山じい・・・・」
「先生・・・・ありがとうございました!」
学院内で、浮竹と京楽ができていると噂になっていた。けれど、友人たちは祝福してくれて、気味悪がる者はいなかった。それがせめてもの救いか。
それから、浮竹に言い寄ってくる男はいなくなった。京楽は相変わらずもてて、ラブレターをもらったりしていたが、前のようにいいよってくる女子に優しくすることがなくなったので、次第に言い寄ってくる女生徒もいなくなった。
付き合いはじめて1か月が経つ頃。
「ねぇ。僕らももう一歩歩み寄ってみようか」
「何をだ」
「体の関係」
「俺は・・・・・」
「こっちおいで?」
京楽のほうに行くと、抱き締められて、舌が絡まるキスをされた。
「ふあ・・・・・・んんんん!?」
京楽の手が、袴の中に入り、やんわりと浮竹の花茎を握りしめ、扱いだす。
「やあああああ」
「君の手は、俺のをお願い」
硬くなった京楽のものに、手が触れ。
与えられる刺激に夢中になりそうになりながら、京楽のものをしごいた。
「君、ほんとに始めて?上手いね・・・・」
「やああん、あああ!」
浮竹は、京楽の手の中に欲望を吐きだしていた。
ほぼ同時に、京楽も浮竹の手で射精した。
「あーあ。シーツと服が汚れちゃったね。一緒に湯浴みしようか。変なことはもうしないから」
「本当だな?」
浮竹は、いったばかりで呼吸が乱れていた。
潤んだ視線で見つめてくる。
「その、風呂の中で一人で処理するかもしれないけど。君があまりに色っぽくてかわいいから」
「俺のせいかのか?じゃあ、俺が責任をとる」
結局、湯浴みの途中で浮竹の手で2回抜いてもらった。たまっていたので、まだいけそうだったが。
お礼にと、少し嫌がる浮竹をいかせた。
性欲というものに淡泊な浮竹は、衝撃でぼーとなった。京楽が体と髪を洗ってあげた。
「あ・・・・」
まだいっている余韻の体をふいてあげると、浮竹はのろのろとパジャマを着た。
髪をふいて、かわかしてあげた。
「どう?気持ちよかった?誰かの手でいかされるなんてはじめてでしょ?」
「きもちよかった・・・・世界が真っ白になった」
「僕は女の子と付き合ったことあるから慣れてるけど、君はふだんどうしていたの?自分で抜いていたの?」
恥ずかしそうに、浮竹は言う。
「エロ本見て抜いてた・・・・」
浮竹もお年頃なのだ。
二人は、大人の階段を一歩昇ってしまった。
翡翠に溶ける 大きな発作
1回生の冬になった。
寮の室内にいた。
寒い空気を吸ったのがいけなかったのか、浮竹は久しぶりの肺の発作で血を吐いた。
それまで、影で発作を起こして自分で鎮静剤を打ち、薬を飲んで大人しくしていたので、京楽の前での発作は初めてだった。
影で発作を起こしていた時は、吐血は少しだった。
でも今回の発作は酷く、手の隙間からぼたぼたちと吐いた血を滴らせていた。
「浮竹!」
ひゅっと、呼吸が止まる。
「浮竹!」
「ごほっごほっごほっ・・・・・京楽、服が汚れる・・・」
「そんなことどうでもいいから!今医務室に連れていくから!」
浮竹を横抱きにして、学院に走った。
まだ瞬歩を1回生のため学んでいないのが、もどかしかった。
「浮竹、しっかりして・・・死なないで!」
浮竹は、意識を失っていた。
医務室にいくと、4番隊の隊士が保険医だった。
「血を吐いたんだね?」
「はい」
「山本総隊長から聞いている。肺の病の子がいると。とりあえず、回道をかけよう」
回道をかけられていくうちに、青白かった浮竹の頬に赤みがさしてきた。
「とりあえず、これで大丈夫だろう。鎮静剤はあるかい?」
「あ、はい」
念のため、浮竹の薬箱をもってきていた。
保険医は、慣れた手つきで浮竹の手をアルコール消毒し、鎮静剤を打った。
「これでもう大丈夫。あとは寝かせて、体力が回復するのを待とう。僕も付き合うから、この子を寮の自室へ戻そう」
担架が用意された。
浮竹の体に負担をかけないよう、運んでいく。
「じゃあ、僕はこれで」
「ありがとうございました!」
保険医に礼を言って、眠ったままの浮竹の頬に手を当てる。
暖かかった。
「君が肺病を患っているのを、失念していたよ」
きっと、今までも発作があっても隠してきたんだろう。
京楽は、浮竹の血の付いた院生の服からパジャマに着替えてしまった。そして、眠っている浮竹の血で濡れた院生の服を脱がして、パジャマを着せた。
同じ男とは思えない、華奢で色白な体だった。細い。
抱き寄せると、いつも浮竹からする甘い花の香がした。
それから1週間、浮竹が目覚めることはなかった。あまりにも長いので、点滴が用意された。
4番隊の隊長だという、卯ノ花という優しそうな女性に診てもらったが、久しぶりの大きな発作で体が疲弊していて、今は休養のために眠っているだけだと言われた。
「浮竹・・・・早く、起きて?」
浮竹のいない学院はつまらなかった。
とうとうさぼりだし、浮竹の傍にいた。
「ん・・・・・・」
ゆっくりと、浮竹が瞼をあける。
「浮竹、大丈夫!?」
「腹が、減った・・・」
実に昏睡状態から目覚めるまで、10日を要した。
寝ている間に体をふいてあげたり、髪を洗ってあげたりしたけど、完璧ではない。
「気持ち悪いので、湯浴みしてくる・・・・・」
そういって、ふらつきながら湯殿に消えてしまった。
時間が長いので、大丈夫かと様子を見に行けば、髪を洗っている浮竹を見てしまった。
「なっ!」
浮竹は裸だった。
「ご、ごめん!あんまり長いから、風呂場で倒れているんじゃないかって」
浮竹の裸体を見たのは初めてだった。
点滴だけだったせいで、肋骨が浮きだしそうなくらいにまで、元々細い体から肉が削げ落ちていた。
風呂あがりでさっぱりした浮竹は、まずはオレンジジュースを飲んだ。
体が糖分を欲しているせいか、もうすぐ目覚めるだろうと用意していたおはぎをぺろりと食べてしまった。
「京楽、心配をかけた・・・そのすまないが、京楽家の料理人の飯が食いたい」
「うん、全然いいよ」
料理人を呼んで、簡単なキッチンのついている寮で調理してもらった。
カニ鍋だった。
二人分用意されてあった。
「病み上がりでカニとか無理?」
「いや、大丈夫だ。お腹がすいてすいて・・・でも、食堂の食事では足りなさそうだったから」
カニを、2匹分では足りないかと、3匹分いれて、他の海鮮物と一緒に野菜もいれた。うどんやもちも入れた。
食べ終わると、雑炊にした。、
よほど腹が減っていたのだろう。いつもの2倍は食べた。
「ふう・・・・満足だ。ありがとう、京楽」
「どういたしまして」
京楽家の料理人にも礼を言った。
「ぼっちゃまの想い人のためならば!」
浮竹は真っ赤になった。
「ねぇ」
「ん?」
「君を抱いて寝ていいかな」
「俺はまだ・・・・・」
「ああ、勘違いしないで。ただ、同じベッドで眠るだけ」
「それくらいならいいが・・・・・」
「ちょっとエッチなことしてくるかもしれないよ」
「飯もごちそうになったし、少しくらいなら我慢する」
「やった!」
その日、浮竹と京楽は同じベッドで眠った。
抱き締められて、舌が絡むキスを何度か繰り返してきた。
「んあ・・・・・」
パジャマの中に手が入る。脇腹と胸を撫でられた。
「細いのに、余計に細くなっちゃったね・・・・もっと食べて体力つけて、肉もつけないと」
その日は、それ以上京楽が触ってくることはなかった。
そのまま、二人は眠りに落ちていった。
鴉の濡れた羽のように
俺は、そっと眠っている隊長の桜色の唇に触れる。
「ん・・・恋次・・・・」
びくりとなった。
気づかれたかと思った。
隊長は、スースーと静かな寝息をたてて眠っていた。
今日は睦みあわず、ただ一緒に眠ることにした。
そんな時もある。隊長が乗り気でない時に誘っても、あまり触れさせてもらえずにお預けをくらうことも多々あった。
10年ばかりこの関係を続けてきるが、隊長の心を手に入れたのはつい最近だ。
「恋次?」
隊長が目覚めて、不安げな視線を送ってきた。
「そんな不安そうな目をしなくても、何もしないし傍にいます」
その言葉に安堵するかのように、薄く微笑む隊長。
「私の隣に来い」
空いているスペースを手で叩かれて、素直に隊長の隣で寝た。
「恋次の匂いがする・・・」
抱き着かれて、この人は本当に今日はしないつもりなのかと疑問に思う。
自分に対して劣情を抱いている相手に、気を許しすぎだし無防備だ。
「隊長、キスでしてもいいですか」
「キスだけなら」
いつも、キスから始まった。
それ以上のことは考えず、隊長の桜色の唇を奪う。
「ふあっ・・・・・」
声だけでいけそうだ。
「もう1回・・・・・・・」
「んあっ」
隊長はキスが好きだ。舌が絡み合うような深いやつが。
そっと舌を引き抜くと、銀の糸が引いた。
「隊長、好きです」
そういって抱きしめると、背中に隊長の手が回ってきた。
「今の私には、もう貴様だけなのだ・・・・」
愛しい義妹であるルキアは、一護の元へ行ってしまった。
ルキアに対して何も思っていないのかと聞かれると、多分好きだったんだろう。幼馴染で、子供の頃はルキアに憧れた。
ルキアを養子に迎えてきた隊長の姿を一目みて、恋に落ちた。
いずれ護廷13隊の死神になるのなら、あの人の下がいいと思った。
初めは違う隊に所属されたが、やがて6番隊の副隊長に任命されて喜んだ。
でも、隊長はとても冷たい人で。
でも、冷たく見せかけているだけなのだと気づいた。
俺が、冬に肩に毛布をかけてやると、「すまぬ」と言って微笑んだ。
茶をいれると「ご苦労」とって目を細めた。
隊長。
俺はあんたに出会って変わった。確かにルキアを処刑しようとしたあんたに牙を向けて、その喉笛を嚙みちぎろうとした。
でも、隊長に己の牙はかろじで届いたくらいで。
その圧倒的な力の差に、絶望を感じたのは確かだ。
誰もいない夜に、あんたが卍解して一人鍛錬をしてるのを知っていた。
あんたは強い。でも、俺ももっと強くなる。
ユーハバッハの侵略で、俺も隊長もどうしようもないくらいの大怪我を負った。零番隊の湯治のお蔭で命を拾い、鍛錬して敵を撃破するくらいに強くなった。
俺は、それでもまた隊長に届かない。
「愛しています・・・・・」
そう言って抱きしめれば、隊長も目を細めてこう言う。
「私も、愛している・・・・」
あんたを口説き落とすのに3年。全てを手にれるのに7年。
そしてあんたの全てを手にれて1年。
10年以上この関係を続けて、つい最近やっと隊長の全てを手に入れた。
「もう、二度と手放さない。あんたを守る。死ぬときは一緒です」
ユーハバッハの侵略によって、死にかけた時のような真似はもうさせない。
どんな敵がきても、俺の蛇尾丸で守ってみせる。
「平和になったのだ。それに、私は貴様に守られるほど弱くはない」
「それでも!」
強くその頭を胸にかき抱くと、隊長は俺の頭を撫でた。
「心配はいらぬ恋次。私は貴様を残していきはせぬ」
「約束ですよ、隊長」
それは、守れるかどうかも分からぬ約束。
それでもずっとあんたの傍にいたい。
あんたを抱いて啼かせてやりたい。
「もう、寝る・・・・・」
隊長の、濡れた鴉の羽のような艶のある黒髪を手ですいた。
柔らかくて、シャンプーのいい匂いがした。
眠りだした隊長の暖かい体温を感じながら、俺もゆっくりと瞼を閉じた。
「おやすみなさい・・・・」
俺の意識も、闇に落ちていくのだった。
翡翠に溶ける あの時の姿で
芸術の秋。
学院では、選択形式で美術の授業があった。美術の他は、書道、茶道、華道。
浮竹は美術を選択した。自然と、京楽も美術を選択する。
肌も露わば女性のスケッチだった。
顔を朱くしながらも、スケッチしていく。
「もう少し脱いでくれないかな」
「こら、京楽!」
「だって女性はそこにいるだけで華だよ。もっと煽情的なポーズのほうが描きやすい」
「ばかいってないで、デッサン続けるぞ」
その日の美術の授業が終了する。
「ぶっ、何それ」
京楽が、浮竹のデッサンを見て笑った。
「微笑む女性------------そう名付けた」
まるで、ピカソの絵のようだった。
京楽の絵を見ると、綺麗になデッサンの絵があった。
「う・・・お前、絵まで上手いとか反則だ」
美術に雇われた臨時教師が、浮竹の絵を見た。
「ほほう、これは素晴らしい。シュール中に微笑む女性がいる。浮竹君といったかね・・・絵で食べていくことはしないのかね?」
「え、あいえ、死神希望なので・・・・・・」
「勿体ない。たまに絵を描きなさい。素晴らしい腕だ」
褒められて、浮竹もまんざらではなさそうだった。
「僕のは?」
「京楽君の絵か・・・うまいが、それだけだね。光るものがない」
そう言われて、京楽はがっくりとなった。
「やっぱり、分かる人には俺の絵は分かるんだ」
「君の絵、子供の悪戯描きのようじゃない。どこがいいんだかさっぱり分からない」
「ふ、俺の芸術は奥が深いんだ」
その日から、時折暇を見つけては浮竹は絵を描いた。何かにのめりこむのはいいことなので、京楽もつられて同じ題材の絵を描いた。
それが、山じいの目に留まった。
山じいを描いたのだが、まるで写真のようだと褒められた。
「春水の絵は、文句なしに上手いのう。十四郎の絵は、少し独特じゃな」
「元柳斎先生、これは絵なのです。上手ければいいというのじゃありません」
「ふうむ。そう言われると、十四郎の絵は深くて芸術とういかんじがするのう」
「そうでしょう、先生!」
「いや、下手なだけでしょ」
「なんだと!」
「いやごめん、ほんとのこと言ちゃった」
怒ってぽかぽか殴ってくる浮竹はかわいかった。
「ごめん、ごめんってば」
「十四郎も、春水と打ち解けたようで何よりじゃ」
「先生、京楽のやつ意地悪ばかりしてくるんです!」
「いやー、そんなことないよ。愛だよ、愛」
「先生、いつか俺は京楽に美味しくいただかれてしまいます」
「美味しく味わうよ~。時間かけてたっぷり味わうから」
「この京楽が!」
「やったな、浮竹!」
山じいの理事室で、ものを投げ合う二人。
「春水、十四郎、そこまでじゃ!」
山じいの恫喝に、動きが止まった。
「仲がよいのはよい。だが、それで道を見誤らぬように」
「はい」
「勿論だよ」
そのまま、寮の自室に戻った。
「ねぇ。君の絵を描きたいから、モデルになってくれない?」
そう京楽に言われて、アルバイト代を出すならいいと答えていた。
「じゃあ、これくらいでどう?」
その提示された金額に驚いて、引き受けてしまった。
「じゃあ、この服着てちょっと肩を露出させてね。エロ本を始めて見た時のような、恥じらいの表情がほしいな。髪は軽く結って・・・よし、これでいい」
「おい、京楽、この格好・・・・・」
「あ、気づいた?君が遊女の時にしてた恰好に近いものを選んだんだよ。何せ、今思えばあれが初恋だったのかもしれない」
遊女の恰好ではあるが、自分でいうのもなんだが、随分と煽情的な恰好になっていた。
「恥じらないの表情、忘れないで」
どうすればよく分からなかったが、ちょっと照れたように笑ってみた。
「いいね、いいね。ああ、いい絵が描けそうだ」
シャッシャッと鉛筆でデッサンを描いて、陰影をつけていく。
ただ姿と留めるだけなら写真があるが、あえて手描きで、浮竹との出会いを思い出すように絵を描いていく。
「できた」
2時間ほどで、絵は完成した。鉛筆によるデッサン絵だったので、それほど時間はかからなかった。
「ねぇ。お小遣い余計にあげるから、今日1日その恰好でいてくれないかな」
遊女の恰好は、昔から売られかけるたびにさせられていたので、抵抗はなかった。
「別にいいが、露出はしないぞ」
「うん、いいよ」
遊女の恰好のまま、生足が太腿まで露わになるのも気にせず、ベッドに横になる浮竹に、京楽はごくりと唾を飲みこんだ。
「好きだよ・・・・・」
「知ってる」
「大好きだよ・・・・・」
白い足を手が這う。
「やっ」
女ではない。そう分かっていても、止まらなかった。
「ああっ!」
太腿から這い上がった手が、敏感な場所を刺激する。
「や、やめろ!」
浮竹の白い足が、京楽の顔を蹴った。
「おぷ・・・ぐはっ」
京楽は、鼻血を出して気絶した。
「危なかった・・・・」
パンツは死守した。
本当に、俺が欲しいんだ。
そう思うと、顔から火が噴きそうだった。
今後、同じ寮の同じ室内ということが、吉と出るか凶と出るかわからなかった。
今の浮竹には、まだ京楽を受け入れる覚悟はなかった。
「あれ?僕どうしたの」
「俺に襲い掛かってきた」
「え、あ・・・・・・・」
思い出した。
白い足があまりに艶めかしいので、手を這わせて下着に手をかけようとして、顔を蹴られた。
そして、撃沈した。
「ごめん、僕が悪かった!」
「もう、気にしてない」
寝る前だったので、浮竹は遊女の姿からパジャマに着替えていた。
「ねぇ。あの恰好、またしてくれていったら、着てくれる?」
「報酬しだいなら」
浮竹は貧乏だ。薬代のせいで、仕送りは消えてしまう。食費もぎりりで、いつも安いものばかりを食べていたのだが、最近は京楽が資金援助してくれるので、助かっていた。
それでも、個人的に本などの欲しいは出てくる。
それまで京楽に買わせるわけにもいかなくて、我慢していた。
今回、モデルとなったのと、遊女の恰好でいたこと対する報酬で、節約すれば半年は買い物に困りそうにないと思った。
京楽春水。女好きで、廓によく通う上流貴族。
浮竹は知らない。廓で買う女が、どこか浮竹に似ていることを。京楽が、浮竹の代わりに女を抱いていることを。けれど、それを最近ぱったりやめてしまったことを。
翡翠に溶ける 氷室と熱
浮竹は、院生の服をはだけさせて、だらしなくベッドの上でごろごろしていた。
ほとんど、半裸に近い。
「なんて恰好してるの!暑いからって、ちゃんと服を着なさい!」
顔を朱くした京楽に、浮竹が小首を傾げる。
「なんでだ?流石にこんな暑さなら、少々脱いだところで熱は出ない」
「君、分かってる?僕、君が好きなんだよ?」
その言葉に、今度は浮竹が朱くなった。
友達から始めましょうと言われたが、京楽のものになると誓ったようなものなのだ。借金のかたに身売りをしたに近い。
「君の艶めかしい白い肌。目に毒だ」
いそいそと、院生の服をちゃんときた。
うちわであおいで風を送るが、全然涼しくなかった、
「そうそう、僕の所有する氷室をあけるから、かき氷を食べよう」
「本当か!」
「うん」
京楽の屋敷まで、足を延ばした。少し遠かったし暑かったが、幸いにも今日は曇りで、直射日光に浮竹がやられることはなかった。
夏季休暇に入るまで、外で授業があるとよく倒れた。
やがて、氷室から出された氷がもってこられる。それをかき氷機でしゃりしゃりと削っていった。
氷の欠片をもらい、それを額や手に当てている浮竹に、苺味のシロップのかかったかき氷が渡された。
「んーひんやりして美味しい」
屋敷の中のに入っているので、外より数度気温が低いが、それでも暑かった。
夢中で食べていくと、すぐなくなってしまった。
京楽はそれに苦笑して、お替りを作ってくれた。今度はメロン味のシロップだった。
「ああ、大分体が冷えた。満足だ」
「どうせなら、今日この屋敷に泊まらない?井戸水でスイカも冷やしてあるんだ」
「泊まる!」
寮の自室でだらだら過ごすよりはいいと思った。
風が入りやすい造りになっていて、室内だが寮の自室にいるより涼しかった。
夕食前に、冷えたスイカが出された。
ペロリと平らげる浮竹に、京楽は呆れつつも、夕食も楽しみにしておいてねと言った。
夕食はちらし寿司と天ぷらだった。
良く冷えた、麦茶がついてきた。
その麦茶のお替りばかりもらいながら、豪勢な夕食を平らげた。
夜には、氷水をいれたたんぽが用意されて、それで体を冷やしながら寝た。
体を冷やし過ぎたのか、次の日浮竹は熱を出した。
幸いなことに氷室があるので、冷えたタオルを額に置かれた。
「京楽・・・・・傍にいて・・・・」
熱で潤んだ瞳でそう言われて、京楽は片時も浮竹から離れなかった。
「キスしてもいい?」
ダメ元で聞いてみると。
「キスしてもいい・・・・」
と返ってきた。
夏休みになるまで、何度か触れるだけのキスをしたことがある。
「深い口づけでもいい?」
「構わない・・・・・」
ゴクリと、喉がなった。
「いただきます」
唇を重ねる。口をあけない浮竹の顎に手をかけて、少し口を開かせると、舌を入れた。びくりと縮こまる舌をおいかけて、歯茎を舐め、何度も舌を絡めあった。
「ううん・・・んあっ」
濡れた声の浮竹のそれだけで、たっしてしまった。
つっと、銀の糸を引いて舌をぬく。
「ちょっと、湯浴みしてくる」
反応してしまった息子さんを大人しくさせるために、風呂場で浮竹の乱れた姿を想像して3回ほどぬいて、すっきりした。
新しい服を着て戻ると、浮竹の姿がなかった。
「京楽・・・・どこ・・・・」
熱のある体で、廊下に立っているのを見つけると、抱き上げてベッドに寝かせた。
「京楽・・・・どこにも、行かないで・・・・・」
ああ。
普段が、今の3分の1でもかわいかったらいいのに。
熱を出した浮竹は甘えてきて可愛かった。
このまま時が止まってしまえばいいと思った。
だがそういうわけにもいかず、夕飯に卵粥を食べさせて、解熱剤を与えた。
浮竹は、すぐに眠ってしまった。
京楽も、浮竹と同じベッドで眠った。
「ん・・・・京楽?」
「あ、おはよう。起きたのかい?」
「狭いのに、一緒のベッドで寝たのか」
「だって君、離れないでって・・・・・」
「俺はそんなこといわない」
どうやら、熱を出していったこととかは覚えていないようだった。
「はぁ・・・・・キスは覚えてる?」
浮竹は真っ赤になった。
「はじめてのディープキだけど、君の声聞いてるだけでいちゃたよ。風呂場で3回抜いた」
「お、俺のせいじゃない」
「君がかわいすぎるからだよ」
ちゅっと、音をたてて、頬にキスをされた。
「おい、京楽!」
「あはは、ほっぺにキスくらい許してよ」
氷室があるせいで、その年の夏は休みが終わるまでずっと京楽邸で過ごすのであった。
翡翠に溶ける 桜散る場所で
「おはよう・・・」
なんでもない毎日が、また始まろうとしている。
1回生の春だった。
遅咲きの桜が散っていた。
「ねぇ、浮竹」
「なんだ?」
「いつか、僕はこの桜の下でその時持っている感情を君にぶつける。それまで、友人でいてくれるかい?」
「俺はこんな体だ・・・・・お前の想いとやらに応えれるかどうかは分からないが、その時抱いていた感情を、俺もぶつける」
「約束だからね」
「ああ」
桜の木の下で、浮竹と京楽は手を握りあった。
清い関係だった。
まだ出会って日も浅いということもあって、キスも1回しかしていない。
「春水様ー!」
「なんだ、桜かい」
幼馴染の、吉祥寺桜。
同じ死神統学院に、合格した、特進クラスの女生徒だった。
「あら、浮竹君いたの?」
浮竹のことを、目の敵にしていた。
「いちゃ悪いか」
「下級貴族如き、春水様となれなれしい!」
「桜!」
叱ると、桜は怯えた顔をした。
「春水様・・・桜のことは、もう抱いてくれませんの?」
その言葉に、浮竹が傷ついた顔になる。
「桜、春水様に抱かれるの好き」
「君とはもう終わったんだ。あっちに行きなさい」
しっしと追い払うと、浮竹は完全にへそを曲げていた。
「吉祥寺桜。上流貴族吉祥寺家の一人娘・・・・お前には、似合いの相手だな」
「ちょっと、浮竹!あの子とは終わったんだから!」
「どうだか」
浮竹は、怒ってそれから1週間口を聞いてくれなかった。
席替えがあった。
浮竹と隣同士になった。結局、浮竹が自分が悪かったと謝ってくれて、入学して早々に関係が破綻ということにはならなかった。
吉祥寺桜は、何かあるごとに浮竹を侮辱して、自分が女であるとアピールしてきた。
5月のうららかなある日、浮竹は桜に呼ばれて校舎の裏まで来ていた。
「本当にいいんですか、桜お嬢様。このお方、春水様の想い人であられるのでは・・・・・」
「春水様のまわりをうろうろとするハエですわ。どうか、思い知らせえてやってくださいな」
屈強な男3人に襲われた。
でも、浮竹はその見た目の良さで、悪戯さえそうになったり、人攫いに攫われそうなったりといった人生を過ごしてきたので、細い見た目とは裏腹に、蹴りを重心に置く護身術を身に着けていて、強かった。
「なっ、生意気な!」
3人の男をのした浮竹を殴った。
なので、浮竹も拳で桜を殴った。
「きゃああああああああああ!」
自分の服をびりびりと破いて、桜は悲鳴をあげた。
それにかけつけた者が、泣き叫ぶ桜と、のされた学院の者ではない気絶している大男3人と、顔を思い切り殴られた痣のある浮竹を見て、目を見開く。
「浮竹君が!浮竹君が、護衛の3人に手をかけて、私を襲おうと!」
肌も露わな泣き叫ぶ桜に、浮竹に視線が集まる。
「嘘だね」
かけつけた京楽が、一言そう言った。
「そんな、私のこの姿を見てください!」
「どうせ、自分で破いたんでしょ」
「春水様、酷い!」
「みんなはどう思う?浮竹が、女の子を襲うような人物に見える?」
すると、浮竹の友人の一人が声をあげた。
「あの浮竹が、そんなことするはずがない!」
「そうだそうだ!」
人込みになっていた。騒ぎの大きさに、教師まで出てきた。
「まぁ!桜が自作自演したというの!?」
「そうだよ。吉祥寺桜は、そんな女だ」
「春水様!」
「めんどくさいから、山じいよんで」
「ひっ」
桜は息を飲むが、もう遅い。
山じいが呼ばれ、ことの真相を桜と浮竹から聞いた。
「吉祥寺桜を、退学処分とする!」
「そんな!桜は何も悪くありません!」
「お主が、十四郎をはめようとしたのは証拠もあがっておる」
「何処に!」
「護衛と言っていた3人が白状しおった。吉祥寺桜の命令で、十四郎を暴力で痛めつけようとしていたと!」
「あんな下賤な者たちの言葉を信じるというのですか!浮竹十四郎は、この桜を手ごめにしようとしたのですよ!?」
「それがありえんのじゃ。十四郎は、まだ女性とも付き合ったことのない清らかな存在じゃ。いきなりその方を襲う真似などせんと、儂が断言する」
「この・・・・・!」
桜は、光るものを手に浮竹にぶつかった。
「う!」
「浮竹!」
「十四郎!」
ナイフが、浮竹の太腿に深々と刺さっていた。
傷は動脈にまで達していた。
「いかん、はよ4番隊の席官を呼べ!」
「あはははは!」
桜は、狂ったように笑っているところを身柄を拘束され、警邏隊に引き渡された。
その場にいた教師たちが、回道を行ったことで、幸いにも失血死は避けられた。浮竹はやってきた4番隊の席官から回道を受けて、傷は塞がったが、失った血までは戻せないということ、輸血のために病院まで搬送された。
「吉祥寺桜・・・・あんな、愚か者だったなんて。はぁ、僕の周りにはろくな女がいないね」
京楽が、浮竹の見舞いにきた。
念のための、肺の検査も兼ねた3日間の入院だった。
「おはぎ、もってきたよ」
げんなりしていた表情の浮竹の顔が輝いた。
「お前の傍にいるのは、苦労するな」
「もう、流石に桜みたいなバカは出てこないはずだから」
浮竹は、おはぎを食べた。
「助かる。ここの病院食、質素すぎる上に味付けが薄い」
「あら、そうですか?」
「うわ、卯ノ花隊長!」
4番隊の卯ノ花が、山本総隊長の愛弟子の様子を見にやってきたのだ。
「な、なんでもないです!」
「まあ、言われな慣れてますけどね。だからといって、食事を豪華にしたり、味付けを変えることはありませんが。そんなに嫌なら、京楽家の料理人に食事を作ってもらったらどうです?それには一向にかまいませんよ」
「京楽、頼めるだろうか」
「任せなさい。美味しい料理、食べさせてあげる」
その日の夕食は、豪華だった。京楽家の料理人の腕は確かで、おいしかった。
やがて、退院の日を迎えた。
まだ傷が痛むので、京楽に肩をかしてもらいながら歩きだす。
そのまま、時は流れる。
1回生の夏休みに入ろうとしていた。
翡翠に溶ける 花街での出会い
「ねぇ、君。そうそう、君、君」
京楽は、かわいい遊女を見つけた。
「何処の子?」
「夏姫・・・・・」
「夏姫?あんな格下の廓にいるの?」
こくりと、その少女は頷い。
「今から遊びにいったら、相手してくれる?」
こくりと、その少女はまた頷いた。
「よし、行こう!」
夏姫は、その花街の中でも下から数えた方が早い廓だった。花魁もいないし、こうぱっとする遊女がいるわけでもない。
「僕は京楽春水っていんだ。君の名前は?」
「・・・・・翡翠」
「そう。翡翠色の瞳をしているもんね。かわいい」
その少女は愛らしかった。白い肩までの髪に安物の簪をさしていた。
「そうだ、これあげる」
いつもの花魁にあげようと思っていた、瑪瑙の簪を、翡翠の髪に飾ってやった。
翡翠は、あどけない顔で笑った。
夏姫に、京楽をつれていくと、ちょっとした騒ぎになった。上流貴族がくるような廓でなく、食事も美味いといえるものではなかったが、翡翠が気に入ったのでそのまま居座った。
「お酒、飲みますか」
「ああ、いただこうかな」
酒を飲んでいると、急に眠くなってきた。
そのまま、京楽は寝てしまった。
気づくと翡翠の姿はなく、廓の女将に聞いても、翡翠は今日きたばかりの遊女の見習いでと言われた。
服はそのままだったが、金目のものがごっそりもっていかれていた。
「ああ、やられてしまった・・・まぁいいか。かわいかったし・・・」
また、いつか会えるといいなぁ。
そんなことを考えながら、それから2年後には死神統学院に入っていた。
首席であると思っていたが、もう一人首席がいた。
興味が沸いて、山じいのお説教を受けるの覚悟で、今日は休んでいるというその首席の子のいる寮の部屋の前にきて、そっと扉をあけて中にいる子を見た。
「え、翡翠!?」
「え・・・・・」
翡翠が、そこにいた。
「君、翡翠でしょ。僕からお金奪っていった悪い子・・・・」
「あ、あの時の・・・・・・」
翡翠は、少女ではなかった。少年だった。
遊女の服をきて、化粧をしているのだから、てっきり少女だと思い込んでいた。
「あの時はすまない・・・・妹が、売られそうで、まとまった金が必要で・・・いつ返すから、待ってくれないか」
「じゃ、君が僕のものになるならいいよ」
「え」
翡翠が、上ずった声をあげる。
「俺は男・・・・・・」
「うん、分かってる。名前は?」
「浮竹十四郎」
「じゃあさ、浮竹、君が僕のものになるなら、お金返さなくてもいいよ。けっこうな額のお金が入ってたんだ・・・・君が、死神になれたとして、返済までに時間かかるよ。君が僕のものになるなら、ちゃらだ」
「妹が、また売られそうになったら、金を貸してくれるか?」
「ああ、いいよ」
「なら、お前のものになる------------」
ぽろりと。
浮竹の瞳から涙が零れ落ちた。
「ちょっと!何も今すぐとって食おうなんて思ってないよ!そうだ、友達になろう!」
「友達?」
「うん。僕は京楽春水。改めて、よろしくね」
「こりゃあああああ、春水!どこじゃあああああ!」
「いっけね、山じいだ!入学式さぼちゃったから。またね」
京楽は、風のように去ってしまった。
「こりゃ、春水」
杖で、ぽかりと頭を叩かれた。
「首席で合格したお前が、入学生代表になるはずじゃったのに、抜け出しおってからに。どこにっておったのじゃ」
「ちょっと、同じ首席の子に興味があってね」
「十四郎のところにおったのか!十四郎は肺を病で欠席じゃった!無理をさせたのではあるまいな!」
「んー。昔、騙されて大金とられてねー。僕のものになるなら、返さなくていいっ言ったら、泣いてた」
「十四郎が、春水を騙したじゃと?何かの間違いではないのか?」
「でも、浮竹は僕のものになるって言ってくれたよ」
「こりゃ春水!もしや、金でなんとかしたのではあるまいな」
当たらず遠からずというところだった。
もしも、また妹が売られそうになった時には、金を貸してやると約束した。そして、とられていった金のかわりに京楽のものになれと、脅しに近い言葉で納得させた。
「でも、かわいかったなぁ・・・・・」
肩まである白い髪に、翡翠色の瞳。女の服を着せて化粧させれば、きっと今でも少女に見える。
「山じい、あの子のこと教えてよ----------------」
山じいに聞いたところ、下級貴族の8人兄弟の長兄だという。治らぬ肺の病を患っている上に病弱だが、類まれな霊圧を持っており、山じいが保護者ということで、学院の寮に入っているらしかった。
「ねぇ、山じい・・・あの子と、同じ部屋にしてよ」
「なんじゃ、春水、寮はあれほどいやだと言っておったじゃろう。近くに屋敷を建てるからと・・・・・」
「んー。浮竹と同じ部屋なら、寮に入っていい」
「寮に入ってもらったほうが儂の目も行き届く。よかろう、十四郎と同じ部屋になることを許可しよう」
「やった!」
次の日、休みだったので荷物を最小限にして2人部屋である浮竹のいる寮の部屋に入った。
「京楽・・・・・」
「今日から、一緒の部屋で住むことになったから。よろしくね」
「よ、よろしく・・・」
出会いが最悪だったため、浮竹は京楽にしばらくの間、心を開かないでいた。
でも、同じ1回生として、同じ特進クラスで学んでいくうちに、氷だった浮竹の心も雪解け水のように溶けていった。
「甘味屋へ行こう、浮竹」
デートというか、いつも一緒に行動した。
浮竹は甘いものに目がなく、甘味屋に誘うと100%OKをもらった。
「ほら、口についてる」
あんこをとって、食べると、浮竹は顔を朱くした。
「どうしたの?」
「その、お前は、俺を抱きたいのか?お前のものになれってことは・・・・・」
「うーんどうだろう。今は君を抱きたいとは思ってないね。ただ、親友として一緒に在りたいとは思っているよ。ただ、君のことが好きなのは本当だ。将来抱きたいというかもしれない。怖いかい?」
「怖くない-----------------でも、俺のどこがいいんだ?」
「全部だよ。君の声も姿形も性格も。全部、僕の好み」
「悪趣味な奴だな」
そう、浮竹は笑った。
甘味屋でその細い体の何処に入るのだというくらい食べて、寮の部屋に戻った。
「すまない、おごらせてばかりで。金がないせいで----------」
謝る浮竹を抱き締めると、吃驚したようで、硬くなった。
「緊張しすぎ。もっとリラックスして」
やっと体の力が抜けていく。
浮竹は、おずおずと、手を京楽の背中に回した。
そのまま、触れるだけのキスをすると、浮竹は赤くなって京楽を突き飛ばして、布団の中で丸くなてしまった。
「どうしたの」
「俺のファーストキスが・・・・・」
「ああ、君キス初めてだったの。僕なんて、童貞もとっくの昔に捨てたし・・・・・」
「ななななな」
「ああ、君やっぱ性格通り、童貞なんだ。綺麗だから、卒業してるかなと思ったけど」
「京楽!」
浮竹が怒った声を出す。
「はいはい、ごめんよ」
楽しいおもちゃを見つけた。そんな気分だった。