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浮竹死んだけど幽霊です憑いてます21 大浴場

「ふんふーん」

京楽はご機嫌だった。

大浴場を貸し切りにできたのだ。いつもは人が多くて入る気はしないが、貸し切りなら話は別だ。

「京楽、髪を洗ってくれ」

「はいよ」

浮竹も、久し振りに実体化して風呂に入った。

別に霊体のまま汚れるというわけではないし、実体化してついた汚れは霊体化して波長を変えれば消えるので、風呂に入る必要がなかった。

でも、幽霊のままではじんわりとした温度しか感じられず、物足りない。

大浴場を貸し切りにしたと聞いて、浮竹も実体化して風呂に入ることにした。

いつものシャンプーで、京楽が浮竹の長い髪を洗ってくれる。気持ちよかった。

その後、リンスをされた。

いつもはしないのだが、今日は風呂のために実体化したのだし、いいかと思った。

「これで、浮竹の髪はつやつやだよ」

「俺は、別にシャンプーだけでいいんだがな」

「シャンプーだけでもサラサラだけと、リンスをすればもっと艶が出るよ」

「別に髪に艶なんて求めてないんだが」

「だめだめ!せっかくこんな綺麗な長い白髪をもってるんだから、大切にしないと」

京楽は、浮竹の長い白髪が大好きだった。

いつも、甘い花の香をさせている浮竹に、シャンプーと石鹸の匂いを与えると、なんともいえぬよい芳香となって、京楽を刺激する。

「言っとくが、今日は風呂に入るだけだからな。変なことはするなよ」

「分かってるよ」

いつも、京楽は浮竹が実体化すると手を出してくる。

なので、念を押しておいた。

「ふんふーん」

京楽の長いくせのある黒髪を、浮竹が洗ってやった。シャンプーは浮竹のとは別のものだ。浮竹の髪は女性用のシャンプーで、いい匂いがするやつで、京楽のシャンプーはメンズものの薬用シャンプーで、香は控えめだった。

「お前も髪が長くなったなぁ」

「そろそろ切ろうかと思ってるよ」

「俺が切ってやろうか?」

「勘弁して!10円はげはもうごめんだよ!」

昔、京楽の髪を切って10円禿をいっぱいこさえた。

さすがに浮竹も悪いと思って京楽に詫びて、涅マユリから育毛剤なるものをもらい、はげになったところに塗ったら、うねって長い黒髪が伸びた。

その気味の悪さに、浮竹はもう二度とあの育毛剤は使うまいと決めていた。

「はぁ。久しぶりの風呂は生き返る・・・・」

新婚旅行で温泉を味わったが、あれから数か月経過していた。

湯船に肩まで浸かり、長い髪は結い上げてまとめていた。京楽も髪が長いので、結い上げていたのだが、その姿の似合わないことこの上ない。

「お前は、あれだな。髪を下ろしたままのほがいい。結い上げると、なんというか奇妙だ」

「そういう君は、結い上げるとうなじが見えてセクシーだねぇ」

「変なことはするなよ!」

「しないって。たまには僕を信用してよ」

そのまま、京楽は風呂からあがった。

「浮竹も、早めに出てね。貸し切りの時間、2時間だから」

「ああ」

一向に出てこない浮竹を不思議に思い、大浴場をのぞくと風呂の上に浮かんでいた。

「浮竹!?」

「ほにゃら~。のぼせた~~~」

「ああもう、言わんこっちゃない・・・・・」

浮竹を風呂からあがらせて、髪の水分やらをバスタオルで吸い取り、服を着せていく。

いつもの死覇装に、13番隊と書かれていない、ただの白い羽織だった。

今は13番隊の隊長には、ルキアがついている。

実体化した時、時折間違われるので、隊長羽織は着ないことにした。でも、羽織がないと何か落ち着かないので、白いだけの羽織を着ていた。

「うー世界が廻る~」

「まってて、今つめたいスポーツドリンク買ってくるから」

尸魂界も大分近代化が進み、自販機が置かれるようになった。

念のためにもってきた財布から小銭を出していれて、スポーツドリンクを押すと、売り切れだった。

「ああもう、こんな時にうりきれとか」

とりあえず、冷たいものならなんでもいいかと、適当にボタンを押した。

ガチャン。

出てきた物体をみて、これはないかもと思った。

超健康、ビタミンカルシウムたっぷり健康エナジードリンクスーパーZとかいてあった。

「まぁいいか」

浮竹が待っている。

そう思って、そのドリンクを手に、浮竹のところにくると、のぼせて水を求めていた。

「水を・・・・」

「水じゃないけど、これ・・・・」

その健康ドリンクを飲ませると、浮竹はかっと目を見開いた。

「おいしい?」

「激まずい。のみこめない」

風呂場にもどり、口の中のものを吐き捨てて湯で流した。

「なんだこれは・・・・冷たいことは冷たいが、ドロリとしてねばついて・・イガイガしていて、味がとんでもない」

「そんなに不味いの?」

京楽は、自分でも飲んでみた。

「うへぇ、よくこんなの売ってるね」

一口、口にしたが、でもなんかパワーが溢れてきた。

「なんだろう。すごいやる気出てきた。これ、意外と効くかも?」

浮竹に無理やり飲ますと、浮竹は顔を赤らめた。

「これ、精強剤じゃないのか・・・・・」

「あ、ほんとだ。そう書いてある・・・・・」

「そんなもの買ってくるなんて、やはりいかがわしいことをしようと・・・」

「違う!不可抗力だよ!でもどうしよう、ビンビンだ」

「俺もだ。仕方ない、風呂場で抜くか」

二人は、浮竹が実体化していられる時間が少ないので、睦みあうことはせずに互いに抜きあった。

「味は不味いけど、使えるかも?」

「俺を抱く前に飲むなよ!」

「いやあ、一度ぜひとも試してみたいね」

「京楽のアホ!」

衣服を着たところで、時間がきて浮竹は幽霊に戻った。

すーっと、体がすけていく。

「今度ためしてみようよ」

「絶対に嫌だ!お前、さっき6回も抜いてただろう!」

「そういう浮竹だって5回は抜いてたじゃない!」

ぎゃあぎゃあ言い合っていると、貸し切りの時間が終わって、一般客が入ってきた。

「とりあえず、戻るか・・・水がほしい」

「1番隊の執務室の冷蔵庫に、冷えた麦茶があるから、そこにいくまで我慢してよ」

結局、超健康、ビタミンカルシウムたっぷり健康エナジードリンクスーパーZは今度浮竹が実体化した時に京楽が飲んで、5回もしてしまい不興を買うのだった。



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浮竹と京楽と海燕と 雪だ遊ぼう

「わぁ、積もったなあ」

浮竹は、雨乾堂の外の銀世界を見つめていた。

「ちょっと隊長、その姿のまま外にでないでください!」

海燕は、雪の積もった外に出ようとする浮竹に、上着を羽織らせた。ついでに防水の手袋とマフラーもさせた。

どうせ浮竹のことだから、はしゃいで雪だるまでも作り出すのだろう。

それは半分あっていた。

雪だるまのようなものを作ろうと頑張っているが、一人では無理なようで。海燕も手伝って、雪だるまをなんとか完成させると、海燕の顔面に雪の玉がぶつかった。

「あんた、手伝ってあげたのに!」

お返しとばかりに、雪玉をつくって浮竹に投げた。

ぽいぽい投げ合っていると、そこへ、京楽がやってくる。

「雨乾堂にいないと思ったら、楽しそうなことしてるねぇ。ぶべ」

京楽の顔面に、雪玉は命中した。

「ちょっと、僕は、ぶべ」

海燕も、日頃の鬱憤を晴らすように京楽に雪玉を投げまくった。

「ええい、こなりゃやけだ!」

京楽も、雪玉を作って海燕や浮竹に投げ出した。

浮竹と海燕は、別に共同作業をしているわけではないのだが、京楽に向けてばかりに雪玉を投げた。

「ちょっと、君ら僕だけターゲットってずる・・・ぶべ」

ぽいぽいと、雪玉を投げてくる浮竹と海燕に、京楽も堪忍袋の緒が切れた。

凄い勢い雪玉をつくり、浮竹と海燕に投げていく。

3人とも、雪まみれになっていた。

「あはははは、面白いけど寒くて冷たいし、疲れるね」

「そうですね」

海燕が、浮竹を心配しだした。

「隊長、このあたりで切り上げて、雨乾堂に入りましょう。そんな雪まみれの恰好でいたら、熱をだしてしまいますよ」

「嫌だ、もっと遊ぶ」

浮竹は、雪玉をこしらえて、海燕に投げた。

それは海燕の顔面に命中した。

「ったく、あんたは!」

海燕も雪玉をつくり、浮竹の顔面に命中させる。

今まで、浮竹は顔面に命中するのを避けていたのだが、気が緩んだのだろう。

「やったな、海燕」

「なんの!」

「僕も忘れないでよ!」

3人で、雪玉をまた投げ出した。

やがて1時間程経って、浮竹がくしゃみをした。

「はっくしょん」

「ああ、隊長もうだめです。時間切れ。風邪ひく前に、雨乾堂に戻ってください

仕方なしに、浮竹は言われた通りにする。

「楽しかったなぁ。雪が積もるの、何十年ぶりだろう。京楽と院生時代でも一度積もって、雪だるまや雪うさぎを作った」

「ああ、あの時は楽しかったねぇ」

昔のことに想いを馳せる。

その頃、海燕はまだ生まれてもいない。

「寒くなってきた・・・・悪寒がする」

火鉢に当たっていた浮竹は、毛布を羽織りガタガタと震えていた。

「ほら、いわんこっちゃない。お風呂入って温まりますか?」

「ああ、そうする」

海燕は、風呂を沸かした。

ちょいどいい温度になって、浮竹を呼ぶ。

「隊長、風呂沸きましたよ」

「ああ、すまない」

浮竹は、風呂に入り体を温めた。でも、髪の毛が水分を重たく吸ってしまい、タオルで水気をできるだけふきとったが、ばさりと背中に流れた。

「だめだ・・・・熱が出てきたみたいだ」

「ああもう、だから雪遊びなんてするから」

海燕は、文句を言いながらも浮竹のために布団を敷いた。

「横になっててください。幸いなことに雪がつもってるんで、氷枕つくってきますから」

「浮竹、大丈夫?」

京楽が、心配そうな顔で浮竹を覗き込んでくる。

「ああ、いつもの熱よりはましだ。少し横になって、薬を飲めばなんとかりそうだ」

京楽は、浮竹に口移しで解熱剤を飲ませた。

「隊長、氷枕つくってきました」

「ああ、ありがとう海燕」

その上に頭を乗せて、外で冷やしたタオルを、浮竹の額に乗せる。

「すまない、少し眠くなってきた・・・寝る」

スースーと、静かな音をたてて浮竹は眠りだした。

「まったく、隊長はこうなることが分かっていながら、なんで雪遊びなんてするんでしょう」

「君がいるからさ、海燕君」

「え、俺が?」

「そう。君に任させれば全て大丈夫だろうと、浮竹は思っているんじゃないかな。海憑君も、浮竹の雪遊びに付き合ったんでしょう?」

「そうですけど」

「浮竹は、一人じゃああまり雪の中へ行かないからね。発作とか起こすと大変だって分かってるし。君がいるから、はしゃいで遊んでたんだよ」

「そういうものですか」

「うん」

「早く熱下がるといいですね」

「そうだね。まぁ、下がっても浮竹はまた懲りずに雪遊びしそうだけどね」

「俺が許しません」

「浮竹も、よくできたけど姑みたいな副官をもって、幸せなんだか気の毒なんだか」

「誰が姑ですか!」

海燕が怒りだす。

「おっと、口が滑っちゃった」

「京楽隊長、そもそもあんたは・・・・・」

がみがみとお小言をもらいながら、京楽は笑う。

海燕の存在は、浮竹にとってはかけがえのないものなのだ。

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院生時代の部屋 ただのアホ

「はぁ~~~~~ほあちゃああ!!!」

朝起きると、京楽が浮竹のパンツをかぶって、ちゃんと院生の服をきてカンフーをやっていた。

どうでもよかったので、二度寝した。

「あたたたた、あたぁ!お前はもう、死んでいる」

次に起きると、京楽は世紀末覇者になっていた。

どうでもよかったので、三度寝した。

「我が人生に一片の悔いなし!」

次に起きると、ラオウになっていた。

どうでもよかったので、4度寝しようとしたが、流石に寝れなかった。

「ふあ~」

欠伸をしながら起き出す。ちょうど昼の12時だった。

「昼飯でも食いにいくか。おい、そこのラオウ。ラオウやめて京楽に戻れ」

「なに、浮竹~。今日もかわいいね」

「お前はもさいな。世紀末覇者になったり、ラオウになったり・・・・北斗の拳がそんなに好きなのか?」

北斗の拳は、遥か未来で現世で流行る漫画であった、何故ここにあるのかは説明できないので、置いておく。

「僕はラオウよりケンシロウが好きだなぁ」

「そうか。俺はレイとトキが好きだな」

北斗の拳について、会話し合った。

「レイは最後が切ない。ラオウにやられて2日の寿命を、トキに伸ばしてもらい、愛する者の仇討ちをして、愛する者を置いて死んでいった」

「うううう・・・・・まるで、僕と浮竹みたいだね」

「その場合、どっちがレイなんだ」

「僕かな」

浮竹は、首を横に振った。

「ありえない。お前はせいぜいジャギだろ」

「あんな雑魚じゃないよ!酷い、浮竹!そんな目で僕を見ているのかい!?」

「ジャギも京楽も、似たようなものだろ」

「そんなことないよ!僕は浮竹をこよなく愛するピュアな精霊だよ」

「ピュアな精霊は、人様のパンツを頭に被ったりしない」

京楽から、被っていたパンツを奪いとった。昨日干してやつだった。

「全く・・・俺のパンツをなんだと思っているんだ」

「しいていえば、楽園かな」

「やばい、早くなんとかしなければ・・・・・・・」

しかし、もう手遅れだった。

京楽菌が繁殖して、脳細胞まで京楽菌に侵されていた。

「ま、どうせ京楽だしな」

そう片付けて、昼食をとりに食堂にいった。

今日のメニューは、カツカレーだった。

「カツより、エビフライがいいな・・・・」

「へい、料理人」

指を鳴らして、京楽は自分ちの料理人を呼んだ。

「はい、坊ちゃん」

「エビフライを2人前!」

「はい!今から調理いたしますので、10分程お待ちください」

10分が経った。

できたてのエビフライが、京楽と浮竹のカレーの上に乗った。

「お前・・・・・実はドラえもんだろ」

「ノンノン。あんなたぬきとは違うよ」

なぜドラえもんを知っているのかも、ここは置いておく。

「まぁ、ありがたくいただこう」

できたてのエビフライはおいしかった。

カレーもおいしかったし、カツもボリュームがあっておいしかった。

今日は休日だった。

食堂には結構な人がいた。

「ごちそうさま」

京楽は食べ終わり、何かで口を拭っていた。

何かと思えば、浮竹のパンツだった。

とりあげると、京楽は懐からまたパンツを出した。それもとりあげると、右手の裾からパンツを出した。

それもとりあげると、次は左手から・・・・・右足、左足、服の裾、背中から。

「ぜーぜー。一体、いつも何枚の俺から盗んだパンツをもっているだ」

「んー今日は8枚」

「アホか!お前、やっぱりアホだろ」

「うん、僕は浮竹のことになるアホになるんだ」

「やってられない」

京楽を放置して、浮竹は寮の自室に戻った。

どういうことか、置いてきた京楽がいた。

「僕の愛しいパンツたちを返しておくれ」

「いやだ。これは俺のパンツだ」

「ナニに使ったパンツでも?」

「ええい、こんなものいるか!」

パンツをごみ箱に投げ捨てた。

「だめだよ、僕の愛しいパンツを捨てちゃあ。ほら、代わりに僕もパンツをあげるから」

京楽のパンツを・・・ヒョウ柄のボクサーパンツを、浮竹は頭に被せられた。

「いるか、こんなもの!」

鬼道で燃やしてやった。

「ああ、僕の勝負下着なのに!」

「誰と勝負するんだ?」

「でゅふふふふ。勿論、う・き・た・け♡」

「お前は、やっぱりただのアホだな。お前がどんなパンツはいていようが、俺には関係ない・・・って、何服を脱いでるんだ!」

「え、浮竹に僕がいまはいているパンツを見せてあげようと思って」

ラメ入りの、派手なボクサーパンツで、浮竹命と書かれていった。

「やっぱ、お前ただのアホだろ」

「そうかもねぇ」

うわ、こいつ認めやがった・・・・・そう思いながらも、夜は更けていくのだった。

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青春白書11

「一護、大人気ないぞ」

子供にルキアを独占されて、一護はルキアを抱き上げてしまった。

子供が背が届かないので、一護の足に蹴りを入れた。

「こら、親を蹴るな!」

「ママを返せー!バカ一護!!」

幼いながらも、しっかり血は変なところで受け継がれているようだ。ルキアを独占したいというところが、受け継がれている。それはそれはもう、しっかりと。一勇となづけられた長男は、とにかく一護の足を蹴った。

「ママは僕のものだ!バカ一護、返せ!」

幼い二人の我が子は、一護を蹴りi続ける。

ちゃんとしつけはしているのだが、一護に対して子供は母であるルキアを奪われると、ライバル心をむき出しにしてくる。

「パパー」

「おvなんだ?」

苺花と名づけられた、二人の子供である長女は、子供特有の大きな瞳で見上げて、一護を呼ぶ。

パパと呼ばれて、一護がルキアを地面に下ろした。

「パパー。大好きー」

「そうかー。俺も大好きだぞー」

子供を抱き上げると、子供は幼いのにどこでそんなことを覚えたのか、ルキアの血を引いているような言動をとる。

「大嫌い!」

「何をおおお」

逃げ回る子供を追い掛け回す一護。

そして、ルキアの背後に隠れて、じっとアメジストのルキアと同じ瞳で見上げてくる。

「大嫌いの反対」

「う」

この視線。ルキアの視線そのものだ。

この視線に弱い。

幼いくせに、目線の使い方をとてもよく理解している我が子に、一護はこれは年を重ねるごとに一筋縄ではいかないと思った。

「一護。愛している」

「俺もだ、ルキア」

二人はキスをする。

子供が背伸びをして、僕も私もとせがんでくる。

「僕も愛してるのー」

「愛してる」

幼い我が子の額にキスをして、ルキアは子供達を抱き上げる。そのルキアを、一護が抱き上げる。

ピンポーン。

チャイムがなる。

一護はルキアと我が子を抱き上げたままドアをあける。連絡は受けてある。

「恋次」

「恋次お兄さん」

嬉しそうに、子供は恋次の方を向く。

「はいはい、恋次お兄さんだぞー」

「恋次、大好きだ!」

ルキアは、昔と変わらない声と笑顔を恋次に向ける。

恋次は結婚したが、まだ子供はいない。そのせいで、遊びに来ることは多い。冬獅郎も、大学生になっていたが、よく遊びにきた。

「俺も大好きだぞ、ルキア」

そこに、昔のように女の子として恋次を慕うルキアはいない。

いるのは、一護の人妻で子供ありのルキア。

「おう、恋次、今日は泊まってけよ」

「言われなくてもそのつもりだ!」

「恋次お兄さん、遊んで!

子供が、ルキアの手からはなれてはしゃいで恋次の服をひっぱる。

そんな光景を、一護とルキアは二人並んで幸せそうに見つめている。

「大好きでだ、一護」

「俺もだぜ、ルキア」

そのまま唇を重ねる二人は、いつでも新婚気分だ。

「チャッピーーごっこしよ!一護もママも一緒にあそぼ!」

きゃっきゃとはしゃぐ我が子の愛しい声を聞きながら、二人はいつまでも抱きしめあっていた。

青春は、もう少し昔の出来事。

青春白書というドラマがあった。小説だったかもしれない。それが、どんな物語でどんな内容であったのかは二人は見ていないので知らない。

二人の青春白書は、ひとまずピリオト。


              青春白書
               fin



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青春白書10

「そうか。ああ、このままルキアは泊める。週末だし、このまま日曜まで家にいさせる。いいな、恋次?」

電話側の恋次は、安堵したように了承してくれた。

恋次から全て聞いた。

ルキアが恋次に「告白」をしてそれを恋次は受け入れず、そしてルキアは家を飛び出したのだと。

いわゆる家出のようなものだろう。

一護は自分の家にルキアが来てくれて心から安堵した。

「う・・・ん」

ベッドで寝返りをうつルキアの額にキスをする。

そのまま、同じベッドで眠った。

朝起きると、横にルキアはいなかった。一護は一人暮らしだ。

まさかどこかに行ったのかと焦ったが、靴があったのでほっとした。

でも、それもつかの間のことだった。

リビングルームで、ルキアはあられもない姿で座っていた。

綺麗に伸びた少し長めの髪が、無残なことになっていた。

「ルキア?」

鋏を持ったまま、放心しているルキアから鋏を取り上げる。切ったのは髪だけで、体に傷はつけていないようだった。

「ルキア」

ゆっくりと、アメジストの瞳が一護を見る。

「愛してくれ。私だけを愛してくれ」

服を脱ごうとするルキアを止める。

「何故だ?愛してくれないのか?」

「大丈夫、愛してる。でも、まだ早い。卒業するまで、体の関係はなしだ。それが最低限のルールだと俺は思う。教師と生徒だからっていうのもあるけど」

「本当に、私を愛しているのか?」

「ああ、本当だ。大好きだ。結婚しよう」

「・・・・・・・・・・恋次に振られた」

ルキアは泣き出した。

「恋次から聞いた」

「恋次のために伸ばした髪・・・こんなの、いらない!」

「ルキア」

頭をかきむしるルキアを抱きしめ、一護は唇を重ねると、はじめて舌を絡ました。

「ん・・・・・」

ルキアが震える。

そのまま組み敷くと、ルキアは顔を覆って震えながら泣き出した。

「怖い」

「だろ?無理に関係を求める必要なんてねぇんだ。俺は関係なんてなくてもルキアを愛している。結婚しよう」

「・・・・・・・・・私だけの一護でいてくれるのか?」

「ああ。お前だけの一護でいる。傍にいて、お前を守る。生涯かけて愛しぬく」

「・・・・・・・う、ううう、ひっく、ひっく」

ルキアは一護しがみついて泣きじゃくった。

そのまま、髪は一護がそろえてあげた。綺麗に伸ばされていた髪は、ルキアが自分でぎざぎざに切ったせいで、揃えると肩の高さになってしまった。

「約束してくれ。卒業したら、ちゃんと結婚してくれると」

「約束する。そうだな、不安なら婚約指輪を今度買いに行こうぜ」

たくさんのキスを受けて、一護の腕の中でルキアは落ち着いている。

「買いに行く。教会で結婚式あげたい。ウェディングドレス着てやる」

「うん、そうだな。いいな」

まるで新婚のように。

甘い夢を語りあう。

「一護」

「どうした?」

「大好きだ」

ルキアが、始めて一護のことを大好きと、好きといってくれた。

「愛してる。貴様が好きだ。恋次よりも好きだ・・・多分。同じくらい?まだここらへんが分からない。恋次が今まで私の全てだった。貴様が私の領域に入ってきた。恋次だけを見つめていた私の視線が、いつの間にか貴様を見つめていた。私の心を奪った責任をとれ」

「とる。だから、結婚しよう」

まるで子供のように駄々をこねるルキアの言葉にちゃんと答える一護

そのまま、しばらくの間ルキアは一護の家に泊まることになった。一護の家から通学するルキア。

ルキアが自宅に戻ったのは、2週間後のことだ。

恋次は髪を自分で切ってしまったルキアにショックを受けたが、また自分を変わりなく受け入れてくれるルキアに感謝した。

そして、そのルキアの指には一護から買ってもらったという婚約指輪が光っていた。

話を聞いて、恋次は気絶した。

「俺の大切なルキアがお嫁にいっちまう!」

学校の友人に、そして彼女にそういって男泣きする恋次の姿が数週間続いたという。

ルキアは、そのまま一護と付き合いながら高校三年になった。

それから季節は過ぎていく。

学校側は、ルキアと一護を受け入れた。正式に婚約あり、体の関係はなしという方向で。

自分たちから、正式に婚約をして付き合っているといいだしたルキアと一護。無論、問題にはなった。保護者である白哉が呼び出されもした。

教師と生徒なのだから、仕方ないことかもしれないが。

だが、昨今では体の関係などすでにあって、何もいわずに退学して結婚するケースもある中で、二人の毅然とした態度と約束は目を見張るものがあった。

すでに、この年齢で結婚の約束なしで付き合っている教師と生徒というケースはごまんとある。過去にこの学校でもあった。その中で、あえて自分たちから言い出し、約束を決めてそれを守るという姿勢を理事長も了承し、二人は学校でも公認のカップルとなった。

高校3年にもなると、もう公認でルキアは一護の家に住むようになっていた。

ルキアと一護の結婚式は、それはそれは華やかなものだった。
何せ、学校の教師全員に同じ学年の者たちが祝いに出たのだから。他にも旧知の友人の招待などもあったが、とにかくめでたくゴールインした二人を祝おうを学校で特別文化祭まであったほどに二人は祝福された。

「おめでとう!」

「おめでとう!!」

純白のウェディングドレスを着たルキアと、正装した一護

「ルキアああああ!俺はあああああ!うううう」

「落ち着け、恋次。鼻水でてるぞ」

俺はあああと、泣きまくる恋次も、次の年には彼女と結婚することになる。

冬獅郎が、恋次の鼻水を拭く。

ルキアは笑顔で恋次に「今までありがとう、大好だ恋次」といって、一護と並んだ。

恋次の泣きようはそれはもう凄いもので、鼻水の量も凄かった。一緒に出席した恋次の彼女も驚いたくらいに。

保護者であった白哉は、静かにルキアの、義妹の結婚式を見つめていた。

「緋真、見ているか。そなたの妹幸せを掴んだぞ」

ブーケを投げると、それを受け止めたのは恋次の彼女だった。

白哉の他に、ルキアの義理の両親も結婚式に出てくれた。ルキアは、虐待していた義理の両親を許した。義理両親は、長いこと悔やんでいたのだという。ルキアが緋真にあまりに似ていたため、虐待に繋がった。当時義理の母親は愛人もいて、そのせいで義理父親は精神的に不安定になって職も休んでいて、ルキアを襲ったのも本意ではなかったことらしい。覚せい剤をしていたらしい、当時。

荒れに荒れた場所から逃げたルキアは、白哉に保護され、そこから新しい恋次との出会いを生み、そしてそこから一護と出会うことになる。

一護の最初の両親も結婚式にきていた。一護も二人を許した。

長いこと、手紙で謝罪がきていた。実際にあって許そうと思ったのは、ルキアのお陰かもしれない。

二人の両親は、泣いて謝罪して、そして幸せになった二人を心から祝った

不良グループの頃の友人もきていた。当時世話になった警察官やおまわりさんまできていた。もう大所帯すぎて、とにかくにぎやかだった。

新婚旅行はニュージーランド。
新婚旅行なのに、二人は羊と戯れて、牧場で体験生活をしていたという。

ルキアは、結婚した後一護とそのまま一緒に住みながら、希望の大学に進んだ。

名前は変わっていない。朽木ルキアのままだ。白哉のことを思うと、名前をかえれなかった。一緒に暮らした時間は僅か2年であるが、愛しい義兄であった。一護も苗字が別々なのに同意してくれた。

二人はいつでも新婚バカップルだった。

恋次も同じ大学に進んだ。
大学2年の夏、3ヶ月大学を休学した。

新しい命が、二人の愛の結晶として産み落とされたからだ。

はじめ、ルキアは怖がっていた。自分が義理の親に虐待されていたせいで、子供を虐待するのではないかと。

けれど、一護と二人で歩んで一護はいつでも相談に乗ってくれたし、子供は素直に愛しいと思えた。ルキアは一護に支えられながら、育児と家事とそれに学業まですることになる。

家事を一護が全部引き受けてくれたり、恋次とその妻が子守をしにきてくれたりと、とにかくやっていけそうだとルキアは思った。

一人で子供のことに関して悩むことはなかった。初産の母親は育児ノイローゼになりがちだが、ルキアは周囲がとにかくこれでもか!ってくらいに世話をしにきてくれた。

特に恋次が。あと冬獅郎も。

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青春白書9

恋次は、とうとう覚悟を決めた。恋次の部屋に入る。恋次は宿題をしていた。

「恋次」

「どうした、ルキア」

「好きだ」

「僕もルキアのことが大好きだぞ」

「好きだ」

「俺も好きだぞ」

ルキアは、じっと恋次を見つめていた。そして首を振る。

「そういう好きじゃない。私は、ずっとずっと、恋次のことを異性として好きだった。だから恋次の彼女って人を見ると不安定になった。恋次は私のものじゃなのだ、私のものにはならぬのだと」

「え。俺のことを、異性として?」

「そうだ」。私は、恋次のことを女の子として好きのだ」

「ルキア」

「正直に答えてくれ。恋次は私のものになってくれるか?彼女と別れて、私の傍にいてずっと私を見て私を愛してくれるか?」

「すまん。ルキア、気づかなくてごめんな。ずっと苦しませてごめんな」

恋次は苦しそうだった。

つられてルキアも泣き出した。

「いいから、答えてくれ」

伸ばされた腕に抱きしめられて、ルキアは必死になって恋次の背中にしがみつく。

「俺は彼女を愛しているんだ。ルキアのことも大好きだぜ。でも、彼女と別れることはでねぇ。いつか、彼女と結婚して家庭をもつと思うんだ。お前が嫌でなければ、一緒に暮らそうと思っていた」

「そんなの嫌だ。私は恋次が好きなのだ」

「俺も好きだぜ、ルキア。でも、それ以上に彼女ことが好きなんだ、ルキアのことも大切だ。大好きだぜ」

「ああ、ありがとう」

ルキアは、とんと恋次を突き飛ばした。

「ルキア!!」

そのまま、ルキアは家を飛び出した。追いかけようとしたが、ルキアは足が早くて玄関のところでまかれてしまった。

「ルキア、ルキア、ルキア!!」

もしも、ルキアの身に何かあったら、全部俺のせいだ。

「そうだ、一護だ!」

恋次は、類阿がおきっぱなしの携帯で一護に電話をする。

だけど、最悪なことに外出中で留守電になっていた。

「くそ、どうすればいいんだ」

そこに冬獅郎が帰宅した。

「どうしたんだ、恋次」

「冬獅郎。どうすればいいんだ・・・」

恋次をなんとか説得して、冬獅郎がルキアを探すことにした。万が一帰ってくるときのために、もしくは連絡があるときのために恋次を待機させる。

気が動転した恋次に、外出させるのもある意味危険だと冬獅郎は判断した。

外は雨が降っていた。

しとしとと振り続ける雨の中、冬獅郎は傘をさしてルキアを探す。

一護は、昔の友人と飲み歩いていた。

「あー、もうこんな時間か」

「いいじゃんか。もっと飲もうぜ」

「いや、終電に遅れる」

「けちくせー」

「はははは。また今度な」

一護は酔ってはいるが、足元はしっかりしている。そのまま電車に乗って帰宅すると、家の前に人影があった。

「ルキア?」

びしょぬれになったルキアが、蹲っていた。

ルキアは泣いていた。

「どうしたんだ、ルキア。何かあったのか」

「ああ」

「こんなびしょぬれで。うわ、つめて!何時間ここにいたんだ」

「わからない・・・・気づいたら、一護の家の前にいた」

「いいから、中に入れ!」

ルキアを家の中にあがらせると、熱いシャワーを浴びさせて着替えさせた。ポタポタと髪から水を滴らせたままのルキアの髪をふく。

ルキアはずっと泣いていた。

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃない。・・・・・・・なぁ。抱いてくれ」

「ルキア」

一護はルキアを抱きしめた。

「そういう意味じゃない。私を抱いてくれ」

一護はルキアを抱きしめて、唇を重ねる。

「何もかも、忘れたい」

一護は、ルキアを抱きしめてベッドに連れて行ったが、ただ抱きしめるだけだった。

「一護?」

「もっと体を大事にしろ」

「私には魅力がないか?」

「そういう意味じゃない。恋次と何かあったんだな?」

「・・・・・うん」

ルキアは泣きじゃくった。一護はルキアを抱きしめて、ルキアが泣き疲れて眠ると、毛布を被せてルキアの家に、きっと待っているであろう恋次に連絡を入れる。

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青春白書8

また、いつもの朝がはじまる。

「一護」

3時間目になると、ルキアは保健室にやってくる。

教師はルキアが発作的に暴れたりすることが全くなくなったせいで、みな一護を信頼して、一護にルキアのことを任せていた。

ルキアは、一護のことを「一護」と呼ぶようになっていた。

鞄には、買ってあげたキーホルダーをつけているし、毎日一護があげた髪飾りをつけるようになっていた。

ためしに、違う髪飾りをプレゼントしてあげた。

翌日には、それをつけてきてくれていた。髪も恋次に綺麗に結ってもらって、周囲がみてもルキアは明らかに変わっていた。そう、とてもよい方向へ。

週末、いつものようにルキアの家に泊まりにいくと、ルキアは笑顔で出迎えてくれる。それから、一日の出来を一護に語って聞かせる。

「なぁ、俺のこと好き?」

そう聞くと、必ずルキアはこう答える。

「一護なぞ、嫌いだ」

そういいながらも、腕を引っ張って、自分の部屋に通してくれる。

夜になると、一護が買ったチャッピーのパジャマに着替えたルキアは、一護と一緒に寝ると言い出した。

いつもは恋次か冬獅郎と寝ているのだという。

誰かが傍にいると、とてもルキアは安心する。
一護は誘われるままに、一緒のベッドで眠る。ルキアを抱きしめて。

デートする回数が多くなった。

毎日、携帯電話で話をする。おやすみと、必ずメールがくる。朝になると、おはようとメールがやってくる。

一護の元で、カウンセリングに似たものを受けるルキア。

ある日、ルキアから重大なニュースが飛び込んできた。

はじめて、同じクラスで同性の友達ができたそうだ。とても嬉しそうにしていた。

活発的になったルキア。もう、以前のような退廃的な雰囲気はないに等しい

ルキアの周りに、恋次の友人以外の友人が増えた。同性の友達もできた。

以前ケンカを起こして騒ぎになった女生徒からの接触はあれからないらしい。他の女の子のグループから嫌がらせを受けることもなくなった。

ルキアはクラブに入った。委員会にも入った。
目まぐるしく変わっていく。

ルキアが、熱を出して欠席することも、突然倒れることも少なくなった。

恋次からは、正式にルキアのことをお願いすると言われた。それは、将来的な意味も含めてのことだ。一護は受け入れた。

「いや。行きたくない」

「なんでだ?」

2年の修学旅行に、ルキアは行きたくないと言い出した。

「一護がいないから嫌だ!」

一護は修学旅行には行かないことになっていた。」

「でも、みんなルキアが来るといいなっていってたぞ」

「でも、一護がいないから嫌だ!」

「じゃあ、俺がいればいいんだな?」

「ああ」

一護は、なんとか無理をして修学旅行に自費で一緒に行くことになった。生徒たちの安全を見守りたいということで、一護の個人的な我侭は通された。

何より、理事長が頭のいいティエリアのことを気にしていて、特別に計らってくれたのだ。

ルキアは学校はじまっていらいの天才だ。学力テストなどでは、全国でも必ず1位か2位をとる。今までは、学力テストも適当で、IQも高いと名高いのに、成績は今ひとつだった。

それが、飛躍的に一気に伸びたのだ。それはもう、理事長からしても、自分の学校にそんな生徒がいるとなると鼻が高いだろう。

一護は神的に不安定になりやすい、ルキアのケアをしていることもあり、理事長の耳にもその名前は届いていた。

修学旅行はイタリアだった。
2週間の旅になった。

修学旅行が終わった次の日、一護はルキアに尋ねた。

「なぁ、ルキア。俺のこと好きか?」

「一護なんて大嫌いの反対だ」

「え」

一護が聞き返した。

いつも「一護なんて大嫌いだ」と答えるルキアの返答が変わっていた。

「もっかい言って」

「いやだ」

ルキアは、一護に小さく舌を出して、そのまま教室に戻ってしまった。

「大嫌いの反対かぁ・・・・つまりは大好き?」

一人職員室でニマニマしている一護に、声をかける教師はいなかった。



神的に落ち着いたルキアに、恋次は自分の彼女と再び会わせた。
それが引き金だった。

また、ルキアが不安定になりだした。

恋次は自分の軽率な行動を悔やんだ。

熱を出して、保健室に運び込まれたルキア。

一護はルキアに事情を聞く。ルキアは素直に答える。

「まだ、恋次が好きなのだ。恋次の彼女を見ると、自分のものじゃないんだって再確認させらて・・・・なんか思考がぐるぐるして・・・・」

一護は、ルキアの右手首をみる。

リストカットしたあとはない。

「リストカットしたいと思ったか?恋次の気を引きたいって思ったか?」

「リストカットはしないと、貴様と約束した」

「うん、偉いな」

「恋次の気を引きたいかは・・・分からない。引いても、結局恋次は私のものにならぬ」

「そうか」

ルキアは、眠ってしまった。

熱は下がらず、結局早退となる。

週末、一護はいつものようにルキアの家に泊まりにいったが、恋次となんだかぎくしゃくしているようだった。

「ケンカでもしたのか?」

「違う。私が避けているのだ」

「そうか」

あまり、深いことは聞かない

これは恋次とルキア「の問題であって、一護が介入する余地はない。

「一護は、私のものでいてくれるか?ずっと私の傍にいてくれるか?」

「ああ。約束する」

「本当に?」

「本当だ。そもそも、恋次からその心を奪ってみせろといったのはルキアだぞ。俺は恋次からお前の心を奪うために必死になってる。今でも必死だ」

「ああ」

「眠いか?一緒にまた寝ようか」

「ああ」

一護は、ルキアのベッドで一緒に横になると、ルキアを抱きしめてその夜を過ごしたi。

ルキアはじっと、眠った一護の顔を見ていた

「どうした?見惚れるくらいにかっこいいか?」

「バカ

「ははは」

一護は優しくブラウンの瞳を細めると、ルキアを抱きしめて、髪を指で梳く。

「卒業したら、結婚しよう」

「え」

「俺は本気だ。ルキアは大学に進むんだろう?」

「ああ。その予定だ」

「もう結婚しても大丈夫な年齢だ、お互い。ルキアが嫌じゃなかったら、ルキアが卒業したら結婚しよう。そして一緒に暮らそうぜ。家族になろう」

「家族に?」

「ああ。毎日一緒にいられる」

「結婚。私だけの人でいてくれるのか?」

「ずっと前から決めてた。お前に、恋次から心を奪ってみせろっていわれた頃にはもう決めてた。結婚しよう。俺の家に遊びにきたことはあっても、流石に泊まらせることはできないからな。一応生徒と教師だし。俺が泊まりにくるのは、まぁ恋次の了解があるからだけど。お前を泊まらせることは恋次がNGだしてるから」

「恋次が」

「そう。大切なルキアに万が一のことがあったら困るってさ」

「・・・・・・そうか」

ルキアは、少し哀しそうに目を伏せて、そのまま一護の胸に顔を埋めてしまった。

「答え、急がなくていいから。今みたいな関係でいたいなら、それでもいいし。俺たち、付き合ってるだろう?」

「・・・・・・・・・これって、付き合ってるのか?」

腕のなかのルキアが首を傾げる。

「バカ。知らなかったのか。デートとか、付き合ってるからするんだろ」

「そうなのか」

どこまでも真っ白なルキア。
愛しいと思う。
生涯をかけて愛したいと思う。

「答え。来週、泊まりにきたとき答える」

「急がなくてもいいぜ。まだまだお前は子供なんだから。恋次の傍にいたいなら、この関係を続けてもいいし。ああ、俺が婿さんとしてこの家にくるってのもありだなぁ。今の親は怒るだろうけど」

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青春白書7

公園で待ち合わせをしたルキアと一護。

ルキアをしきりに気にする周囲の男たちを他所に、一護はルキアに近づく。

「時間きっかりだな。早くきたりはしてないだろ?」

「早くきても、他の男に声をかけられるだけだからな。それで、どこに行くのだ?」

「そうだなぁ。まずは買い物に行こうぜ」

「?」

「服を買おう」

「そんなお金はない」

「俺が出すから」

「でも、それでは」

「いいから、気にすんなって」

ルキアの服は男もので、しかも恋次のものを借りたのでサイズが合っていない。

自分で洋服を選ぶことのないルキアは、いつも恋次が適当に買ってきてくれる男ものの服をきていたり、冬獅郎の服を勝手に着ていたりで。

服を選びにいこうと、恋次と出かけても、いらないとルキアは首を横に振る。女ものの服の置いてある場所に連れて行かれても、興味は全く湧かなかった。


そのまま、ティーンズの少女向けの服が売ってあるブティックに入る

「私は、こんなものに興味は」

「はい、いいからいいから」

一護は適当に見繕ったものをルキアに持たせ、そのまま試着室に押しこんだ

少々強引ではあるが、ルキアも仕方なしに服を着替える。

萌葱色のミニスカートに、白のニーソ、上はタートルネックの長袖のシャツに、その上から白のサマーセーター。

「こんなの・・・・似合わないに決まっている」

「いや、すっごい似合ってるぜ。グッジョブ、俺」

ルキアはスカートをはくのは学生服で慣れているので、嫌ではないようだ。

ユニセックスな服装にしようかと一護は思ったが、いっそのことだからティーンズの少女らしい格好をさせようと思った。普通の靴から、膝丈まであるブーツに履き替えさせる。
全部、ニールが選んだもの。

「ありがとうございました」

他にもいろんな服を買って、荷物は全部一護が持った。

ルキアは、髪を両サイドを三つ編みにしてツインテールにすると、一護があげた髪飾りをしていた。

全部恋次がしてくれた。二人でデートだと事前に一護が恋次に教えておいたのだ。

恋次はおしゃれをしなければと、ルキアの長い髪を結ってくれた。そして、自分が買い与えたと、壊れたとは思っていない硝子細工のかわいい髪飾りをつける。

服装は男ものなのは仕方ない。女の子の服というものをルキアは持っていないから。恋次は、一護なら似合った服を買って着せるだろうと予想していた。それは的中する。

「うん、かわいい」

「こんなもの・・・・」

「かわいい、ルキア」

一護が自信たっぷりに、ルキアに声をかける。

ルキアは頬を赤くして、あらぬ方角を見てしまった。

異性に、こんな風に接してもらうことが極端に少ないのだ。恋次はルキアの家族としてあくまで接しているので、恋次からかわいいと言われることも多いが、こうやって違う異性から堂々とかわいいと言われるのは初めてなのかもしれない。

そのまま服の荷物はかさばるので、駅のコインロッカーに入れる。

そして一護は、ルキアと手を繋いで歩きだす。

「どこにいくのだ?」

「何処に行きたい?」

「別に、何処でも・・・・」

電車に乗って、駅を乗り継いで、一護はルキアと並んで歩きだす。

テーマパークにやってきた。

「こんなの、興味ない・・・・」

「いいから、いいから」

そのまま、二人分のお金を払って入場すると、一護はテーマパークの奥へ奥へとルキアの手を掴んで歩きだす。さも億劫というようなルキアの顔。
男女のカップルの男は、大抵ルキアを見れば振り返り、彼女に怒られている。そんな周囲はどうでもいいので放置する。ルキアの美少女ぶりは、とにかく人目をひく。それは、出あった時にすでに分かっている。

ある場所で、一護が止まる。

ルキアは、どうでもよさげにしていたが、目の前にきた着ぐるみに目を輝かせる。

「チャッピーだ!」

一護の手を離して、ルキアは駆け出す。

そこはチャッピーのイベントをしている場所だった。

並んだいろんな商品を楽しげに見つめるルキア。チャッピーグッズがある前にくると、本当に嬉しそうにしていた。

「なんでも好きなの選ぶといい。買ってやるよ」

「しかし・・」

「欲しいんだろ?俺とデートしてくれたお礼」

「じゃ、じゃあこれとこれとこれとこれ・・・」

ルキアは、チャッピーのキーホルダー、マグカップ、手の平サイズのぬいぐるみ、パシャマを選んだ。

「遠慮することねぇぞ。荷物が多ければ、タクシーで移動するし」

「!」

一護はとても優しく微笑んでいた。

「じゃあ、これとこれとこれも!」

ルキアは微笑んでいた。とても自然な笑みを刻んでいる。

事前に、恋次からルキアはチャッピーがとても好きだという話を、聞いておいてよかったと思った。
ルキアが欲しがったものをそのまま全部買った。一護はチャッピーのイベント場所でルキアが喜んでくれて、心から嬉しかった。

ルキアは上機嫌だった。荷物はまたコインロッカーに入れて、それまではタクシーで移動し、近くなれば歩いて手を繋いで移動する。

ルキアが見たいといっていたという映画を見て、水族館にいって、それから少し早いが夕食に少し高級なレストランに入る。ルキアは戸惑っていたが、慣れている一護にリードされて自然な状態を保っていた。

デートの一日が終わる。

たくさんの荷物は持ちきれなくて、タクシーでルキアを家まで送り届ける。

「なぁ」

「なんだ?」

「今日、楽しかったか?」

「・・・・・・ああ」

「そりゃ良かった」

一護は自分のことのように喜んだ。

「・・・・・・・・一護」

はじめて、ルキアが一護のことを名前で呼んでくれた。それまでは先生という呼び方さえもなかなかしてくれなかったのに。

「また、デートしてくれるか?」

「・・・・・ああ」

「そうか。好きだぜ」

「・・・・・・目、瞑って」

一護は、言われた通りに目を瞑った。

ルキアは、頬にキスをすると、そのまま走り去ってしまった。

「あーもう。ほんとかわいいな」

一護は夕暮れに向かって、呟いていた。

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青春白書6

次の日、ルキアは欠席した

携帯に電話を入れると、かわりに恋次が出た。

「恋次?」

「ああ、すまねぇば。ルキアの奴、熱をまた出しちまってな。最近は体調も良かったんだだが。なんか、学校でいざこざ起こしたんだってな。迷惑かけてすまん。俺も今日は調子が悪いから休みをとった」

「いや、別にいい。・・・恋次、気づいてたんのか?」

「そりゃな。携帯電話でまでやりとりしてるし、メールの交換もしてるし、家では一護のことも話すしな。多分始めてなんじゃないか、ルキアが誰かに恋をするのは。俺からも頼む。ルキアを大切にしてあげてくれ」

「本気か?俺は教師でルキアは生徒だぞ」

「ああ。問題は多いだろうけが・・・お前になら、ルキアを任せられると思う」

「そうか。・・・・・・なぁ、恋次」

「なんだ?」

「この鈍感バカ!」

そう言って、一護は携帯を切った。

ルキアが恋をするのは始めてじゃなのか。

ルキアはあんなにも恋次を慕い、恋をしているのに。
本人は気づいてもくれない。それで諦めれるならいいだろうが、ルキアは恋次にかなり依存している

同じ屋根の下に住んでいる以上、顔を合わさないわけにはいかない。

ルキアはきっと、とても苦しんでいる。

「どうしたもんだおるな・・・」

恋次に信頼されるのは嬉しいが。

「奪いきれるなら、簡単なんだけどな」

当のルキア本人は、一護という存在を認めて、悩み事打ち明けたり、他愛もない会話をしたり、挨拶のメールをくれたりするけど、それはあくまで対等である者としてみているからだろう。

「やべぇな・・・・俺本気かよ。24歳の男が、17歳の女の子に本気って。しかも教師と生徒。うわぁ、犯罪すぎる・・・・」

一おgは、保健室のデスクに肘をついてもんもんと悩んでいた。

次の日、ルキアはいつもの3時間目にやってきた。

手にはまだ包帯を巻いたままだ

「ルキア」

「何だ?」

「少しは俺のこと好きになってくれたか?教師としてとか友人としてとかじゃなくって、異性として」

「・・・・・わからなぬ」

ルキアは困ったように視線を彷徨わせている。

「恋次が好きなのも、依存してるのも分かるし、そこに俺が入る隙なんてないのかもしれねぇ。でも、俺はルキアのことが好きだ。恋してる」

ああ、ついに言ってしまった。
まぁ、隠しておく気もなかったし。

「私のことが好きなのか」

「そうだ」

「同情ではなく?」

「同情じゃない。家に戻ってもルキアのことが気になって、いつもルキアのこと考えてる。たまに見せてくれる笑顔に心がこうキュンキュンとな。やべぇ、俺乙女だ。どうしようルキア。俺、乙女になっちまった・・・」

「本当に私のことが好きか?」

「好きだ」

「じゃあ。じゃあ奪ってみせよ。私の心を、恋次から奪ってみせろ。私は恋次に恋してる。恋次が大好きだ。そこから私の心をさらっていってみよ」

「あーもう、お前は難題ばっかりふっかけるなぁ」

「貴様のことは嫌いではない」

一護は、ルキアの髪に、髪飾りを留めた。

「これは?」

「俺からのプレゼント」

ルキアが恋次から貰ったものと同じものだった。

「・・・・・・・・・・ありがとう」

「なぁ、キスしていいか?」

「いつも勝手にするくせに」

一護はルキアの細すぎる腰に手を回して、唇に唇を重ねた。
ただ触れるだけのキス。

少しの間抱きしめた後、ルキアは逃げるように教室にもどっていった。

頬が赤かった。

可能性がないわけではない。

「よーし、略奪愛な。いいぜ、奪ってみせようじゃねぇか」

一護も覚悟を決めた。

次の週末、一護はルキアをデートに誘った。

ルキアは、誘いに乗ってくれた。


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青春白書5

「どうしたんだ、ルキア。最近機嫌がよさそうだな」

朝食のテーブルについた恋次とルキアと冬獅郎。

「そ、そんなことはない」

ルキアは必死で首を振る。

「なんか・・・かわいくなった」

恋次の一言で、ルキアはぱっと顔をあげた。周囲に花が咲いている。

隣にいる冬獅郎はこういうことに疎いが、流石のルキアの反応は率直すぎてすぐに気づいた。ルキアは恋次を友人や家族としてではなく、異性として慕っている、恋をしているのだと。

それを恋次に教えるような冬獅郎ではない。ルキアはそんなことは望まないだろう、この友は。

ルキアは、思考の半分も行動もどこか男性のものに似ているけど、明らかに少女だ。疎い冬獅郎の目から見ても分かるほどに、恋次に恋をしている。

でも、恋次は鈍感すぎてそれに気づきもしない。

「そうだ、今日は髪くくってやるよ」

「ほ、ほんとうか?

「ああ。かわいい髪飾りもあるぞ。つけていくか?」

「ああ、つけていく」

「ルキアもせっかく美人なんだ。もっとおしゃれに気を使った方せいいぜ」

「そうか?」

ルキアは、別に自分の容姿なんてどうでもいいと思っている。ただ、誰の目をもひく美しさを与えられた。それだけだ。おしゃれしようなんて、思ったことはない。

自分のことに疎い恋次であったが、一護とルキアの仲には気づいていた。

一護に尋ねてはいないが、泊まりにくると二人は何か秘密を共有しあっているように見えた。ルキアの口から一護の話題が増えた。

恋次が話す一護の過去を熱心に聴いている。ああ、こいつは一護に恋をしているんだなと思った。一護になら、ルキアのことは任せられると思った。きっと、大切にしてくれる。

一護の過去はしっている。同じような傷を持つ二人は、きっと惹かれあうのだろう。

携帯で話しているようだし、メールのやりとりもしているようだ。教師と生徒いう障害はあるが、二人ならそれさえも取り除けると恋次は思った。

恋次は、ルキアの髪を綺麗にポニーテールにすると、硝子細工でできたかわいい髪飾りを留める。

自分の彼女にあげようと思って買ったものだが、ルキアにあげよう。

かわいく女の子になっていくルキアfを見るのも、恋次は好きだった。
そのまま、上機嫌でルキアと恋次と冬獅郎は、学校に出かけてしまった。

朝の3時間目。いつもルキアがくる時間。

ちょっとした問題児であるルキアが、一護の保健室に通い、心のケアをしていると教師の間では広まっていた。一護は担任の教師にまでルキアをお願いしますといわれたほどに信頼されていた。

ルキアが倒れたり、発作のように暴れるのは、教師一同皆知っていた。それがルキアの過去の、精神的なものからくるものだということも。

恋次が教師側にあらかた話し、理解と納得を促したのだ。

最近のルキアはとても落ち着いていて、何より生きている耀きに溢れていた。

3時間目、いつもはルキアが来る時間なのに、今日はこなかった。
まぁそんな日もあるだろうと、一護は普通に過ごしていた。
一護が呼び出された。

呼び出された先は、生徒指導室。

ルキアから事情を聞いてほしいとのことだった。他の教師には何も話さないのだと。一護になら話すだろうと他の教師が一護を呼び出したのだ。

生徒指導室に入ると、ルキアは黙って俯いていた。

手に、粉々に砕け散った髪飾りを握り締めていた。

なんでも、隣クラスの優等生で名高い女生徒といさかいをおこしたらしい。ただのケンカかと教師らは思ったが、ルキアが女生徒を拳でなぐりつけ、女生徒は鼻血を出して泣き出した。

優等生の生徒とルキアの接点は、周囲から見ると友人という位置にあったらしい。何度か同じ場所にいたり、会話をしているところを目撃されているし、ルキアは女生徒の友人にノートを見せているのだという。

優等生同志で友情を築くことはよいことだと、教師たちは思っていた。ルキアに同性の友人はクラスにいないので、よい友人になってくれると期待さえされていた。

その友人をよりによって拳で殴りつけた。周囲が必死で止めるまで、ルキアは暴れて女生徒にものを投げつけたりしていたという。

女生徒は念のため病院にいっている。
鼻血が止まらなかったのだ。

「なぁ。なんで・・・・」

二人だけにされた生徒指導室で、キッと、ルキアは一護を睨みつけたかと思うと開口一番にこう言った。

「私は謝罪しないぞ。何があっても謝罪しないからな」

「どうしたんだ、暴力なんてお前らしくもない」

ルキアは、発作的に暴れることはあっても、他人に暴力を振るったことは今までなかった。

「あの女が悪いからだ」

「あの子にいじめられいたのか?」

ルキアは、無言で俯く。

「いじめられてるなら、なんで相談を・・・」

「あやつは恋次の親戚なのだ!私が恋次に恋しているの知ってる。いうこと聞かないなら、恋次にばらすと・・・・・!」

「脅されてたのか」

いじめではあちがちなパターンだ。

「どうってことなかった。ただ、ノート見せろとかそれくらいだったから。金を要求してきたこともあったけが、つっぱねた。私が発作的に暴れると困るんで、相手もそれ以上はいってことなかった。かわりにノートとったり、宿題をするくらいなんの苦痛でもなかった。実際に、嫌がらせしてくるのはあの女のグループじゃなかったし」

「他にいるのか・・・」

一護は、ルキアの手をとる。

「破片が指につきささってるぞ。捨てないと」

「嫌だ」

手からは血が滲んでいた。大切な髪飾り。大好きな恋次がくれたもの。

「これ、あの子が壊したのか?」

「そうだ」

「はじめて髪飾りをしていった。そしたらあの女に呼び出されて、取り上げられた。取り返そうと必死になったら、あの女、これ地面にたたきつけたのだ。だから殴った」

「理由はなんであれ、人に暴力を振るうのはよくねぇ」

「じゃあ!じゃあどうすればよかったというのだ!恋次から、恋次からもらった大事なものなのだ!恋次がかわいいっていってくれたのだ。似合うと。今までいろんなものもらってきたが、こういうの興味ないからいらないと断っていた。はじめてもらったのだ、髪飾りを。髪だって、長いほうがスキだって恋次が言ってたからずっと伸ばしてる!・・・恋次が笑顔でつけてくれて、似合ってるかわいいと言ってくれたのだ!!」

ルキアは破片を握り締めたまま、震えていた。

一護はルキア抱きしめた。

「守ってやれなくてごめんな」

「・・・・・・う、うわあああああ」

ルキアは、一護の背中にしがみついて泣き出した。

結局、この事件は二人のただのケンカとして処理された。女生徒の傷は大したものでもなく、ルキアをいじめているとばれることを怖がって、女生徒は自分が友人であるルキアとケンカしただけなのだと言い出したのだ。

ルキアを保健室に連れて行き、破片のささった手を治療する。

「恋次に謝らなければならぬ。怒るであろうか?」

「大丈夫、許してくれるさ」

「ああ・・・・・」

恋次が迎えにきた。
そのまま、授業時間も全て終わって、ルキアは恋次と一緒に下校した。

割れた硝子細工の髪飾りの破片を、ルキアは大切にハンカチで包んで持って返った。

「恋次の奴、愛されてるなぁ」

一護は、軽い嫉妬心を覚えるくらいだった。

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青春白書4

二人は「約束」をした。

「いいぜ。でもかわりに、もうリストカットしないって約束だ。「特別」になるから、もうしないって。悩みがあったらちゃんと話すこと。いいか?」

「・・・・・・・・・・ああ」

紫水晶の瞳とブラウン色の瞳が交じり合う。
ルキアは涙を零すことを止めた。


どうせ。

どうせ、この大人もすぐに飽きてしまうだろう。

私にはなんの魅力もないから。可愛そうだと構っているだけだろう。

同じような境遇を過ごしていたということに、すごくひかれるものはある。でも、なまじ同じ環境を過ごしただけに同じ者の心の痛みは分かる。可愛そうという同情心は他人よりも大きい。

どうせ、私は。

お金よりもこの命は安いのだから。


そのまま、ルキアはまた眠ってしまった。

一護はしばらく傍にいたが、そのまま恋次の元に戻った。

事情を説明しようか迷ったが、ルキアは知られたくないだろうと思って秘密にした。

恋次に悪いと思いながらも、どうして自分がルキアという名の少女にここまで吸い寄せられるのかよく分からない。

似たような、いや自分よりも酷い環境を過ごしていたのも理由にあるが。

美しい容姿だからというのも確かにあるのかもしれない。放っておけないというのもある。

それ以上に、もっと何かがあるような気がした。そうだ、青春ドラマにありがちな運命の悪戯ってやつだろうか。

青春白書じゃあるまいに。

しかも相手は生徒。未成年だ。年齢は17歳。同じ学校の生徒で、一護は教師だ。

その障害は大きい。それなのに、どうしてだろうか。

まるで蜘蛛の糸にかかった蝶のようだ。でも、ルキアになら捕食されても構わないとさえ思った。
まだ知り合って数日だというのに。


週末があけて、月曜日。

一護はいつも通り保健室にいた

3時間目、ルキアがやってきた。

「お、どうした?」

「悩みがある。貴様がいった。悩みがあったら打ち明けろと」

「話してくれる気になったのか。どうした。クラスになじめないのか?女子の友達がいないらしいな。いじめられてるとか、そういう話か?」

「違う。クラスにはなじめなくったってどうでもいい。女の友達なんて別にいらない」

いじめのことについて、ルキアは触れなかった。

「恋次が好きなのだ。好きで好きでどうしようもないのだ。どうしたらいい?」

「あー・・・・・」

一護は天井を仰いだ。

確かに、重要な悩みだろう。まるで本当に青春白書。青春の悩みだ。

「恋次に告白はした?」

「してない。彼女がいるから振られるにきまってる。だからしてない」

「うーん・・・・」

恋だとかの悩みを打ち明けられるとは思ってもいなかったので、少し考える。

「そうだ」

「何だ?」

「俺にに恋しろ。俺を好きになれ。だって「特別」なんだろう?だったら俺にに恋をしろ」

「・・・貴様は馬鹿か?」

ルキアは、一護を睨みつける。

特別でいてくれとは言ったが、その存在定義はルキアにとっては仲間というようなもので、恋だとか好きだとかの特別とはまた違う。

バカと言われた保健室の先生は、朗らかに笑っていた。

「バカだよ俺は。なぁ、ルキア。恋次を好きなままでいいから、俺も好きになっていこうぜ」

「バカだ。相談した私もバカだ」

「はははは」

「帰る」

ルキアの手をとって、引き止める。

すぐに、テルキアはふらついた。

華奢すぎる体。

「ちゃんと食ってるか?」

「ある程度は。それ以上は体が受け付けない。嘔吐する。だから無理には食べない」

「そっか・・・・・」

ひきよせられる。

ルキアは一護の腕の中にいた。

「貴様は。・・・・これは同情か?」

「多分、違う」

「だったら何だというのだ」

ルキアの唇に、一護は自分の唇を重ねる。

ルキアは、真っ赤になって一護から逃れた。

「な、な、な!この犯罪教師!」

「おー、犯罪だよな、これ」

「帰る!」

ルキアは、保健室のドアを乱暴にあけた。かと思うと、一護の元に戻ってくる。

そして、アメジストの瞳で見上げる。

「これが、私の携帯番号とメルアドだ」

書かれたメモを一護に渡した。

拒否されているわけではないのだろうかと、一護も思う。

メモを渡してくるルキアの頭を撫でていると、ルキアは年齢よりも幼くみえた。視線の使い方を知っている。自分を守ってくれと訴えるような使い方だ。多分、義理の両親のせいでこんな使い方を覚えたのだろうと思うと、胸がチクリと痛んだ。

一護が抱きしめると、ルキアは瞳を閉じる。

「恋次と冬獅郎以外にこうされたことがない」

「居心地悪いか?」

「分からぬ」

そういって、またアメジストの瞳を開く。いつでも熱を孕んでいるように潤んだ瞳。

「帰る。貴様など、嫌いだ」

ルキアは、頬を赤くして保健室から逃げ出した。

「嫌いっていいながら頬赤くしてもなぁ。あーやべ、まじでかわいい。青春白書ってドラマあったよなぁ。こんな犯罪ちっくな内容じゃなかったけど・・・・」

一護は、ルキアがくれたメモを見る。

綺麗な執筆だ。

メモの裏には絵が描かれてあった。

「あー。なんだこれ?」

それは、ルキアの大好きなチャッピーだった。

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青春白書3

「すまない、遅れた」

冬獅郎がやってきた。中学生がくるとは思わなくて、一護はルキアの身柄を引き渡していいものかと悩んだ。

白哉が、実際のルキアの保護者になっていた。

籍は、白哉の両親の元にあるし、親権も向こう側がもっているが、あちらの義理の両親はルキアのことな
んて、本当にただ疎むだけの存在としてみていただけだ。

世間体を気にした義理の両親が捜索願を出していたため、ルキアは警察に保護された。

そうでなくとも、保護されただろう。不良グループの仲間に入り、中学生でありながら家に帰ることもせず、学校に通うこともせず、ただ不良グループの友人の家をわたりあるく。

白哉の家にやってきたルキアは、荒んでいた。
とても美しかったが、誰にも心を許すことはせずにしゃべりもしない。威嚇しているかと思えば、暗がりと閉鎖空間を嫌い、怯えていた。

病弱で、よく貧血で倒れたり、熱を出した。右手首をリストカットする癖が、その時にはすでについていた。今でも時折リストカットする。悩みを聞こうとしても、打ち明けてくれない。

精神科医のところにつれていったが、全く効果はなかった。それどころかリストカットが酷くなって、連れて行ったことを後悔したくらいだ。

恋次と暮らし出してから、恋次が傍で見守ることが多くなってから、次第に安定しだした。

一緒に暮らし始めて、リストカットなんてなくなっていた。だけど、いつからだろう・・・また再発したのは。

そうだ、恋次の彼女と出会わせてからかもしれない。ルキアは同性の友人がいないため、友人になってあげてくれと彼女に頼んだ。恋次の彼女に対して、ルキアは言葉を交わすこともせず、またリストカットがはじまった。

余計なことなんてしなければ良かったと思った。

ルキアと一緒に過ごす時間を多くとった。「お前を守る」といったときの、ルキアの笑顔が今でも忘れられない。あんなに綺麗に笑えるのだから、もっと笑ってほしかった。

恋次は知らない。ルキアが、恋次を愛していることを。異性として恋をしていて、彼女の存在がショックだったことを。

ルキアは、恋次が自分だけのものと思い込んでいた。自分を守ってくれる存在で、他人に奪われたりしないと思っていた。その分、彼女であり、婚約まで誓っているという女性の存在はルキアにとって衝撃的だった。


「すまない、ルキアを引き取りにきた」

「え、でもお前中学生だろう?学校はどうした?」

「今日は創立記念日で休みだ。タクシーを待たせてあるから、ルキアを渡してくれ」

「意識がないが、運べるか?」

「ルキアは軽いから、おんぶくらいできる」

保健室に案内し、椅子に座るように進めて、現状がどうであるかを確認するために一護は冬獅郎と会話を進める。生徒の心のケアも、保健室の先生の大事な仕事だ。

「このルキアって子、精神科医には診せたか?」

「診せた。でも逃げ出したりする。リストカットが酷くなって、やめた。何か悩み事があるときは恋次か俺が聞くようにしてる」

「リストカットは、まだやってるのか?」

「1ヶ月前に、1回。理由は分からない。どうしてするのと聞いても、答えてくれねぇんだ。でも、昔みたいに頻繁じゃなくなった。傷も浅い。恋次が彼女を連れてきた時、またリストカットするようになった。学校も不登校になっていた。恋次が彼女と一時的に別れてずっと傍についていたら、次第に回復した。学校も行くようになった。でも恋次がいうには同性にいじめられてるらしい。そんなこと何もいわないからな、ルキアは」

「恋次って子と同居してるらしいな」

「ああ。ルキアが同居したいって言い出してな。俺も心配だったし、両親がうざかったから家出して
、一緒に同居することにしたんだ」

「義理の両親から虐待されていたのが、リストカットの最大の原因だろが・・・。あ、これは恋次から聞いた話な」

「恋次から聞いたのか?」

「ああ。いじめられてるかもしれないとか、そこらへんも聞いた」

「ルキアの過去のこと、教える」

冬獅郎は、ルキアが義理の両親から虐待されていたこと、父からレイプ未遂を何度もされたこと、そしてついには家出をして不良グループの仲間に入り、その中の友人の家を点々として最後に警察に保護されたこと全てを話した。

「暗闇と閉鎖空間が嫌いなんだ。子供の頃、ルキアは義理の母親にしつけとしょうして、暗い地下室に閉じ込められてたんだってよ。そのトラウマかな」

「冬獅郎?」

「ルキア?起きたのか?」

「冬獅郎。いやだ、話さないでくれ。私の過去を、話さないでくれ。知っていいのは恋次と冬獅郎と兄様だけだ」

「俺は、新しく赴任してきた保健の先生だ。悩みがあるんだろ?俺に話してみないか」

一護は優しくルキアに近づく。

ルキアは、ベッドから降りるとフラついた足どりで冬獅郎の背に隠れる。

「いやだ。貴様なぞ、嫌いだ」

「ルキア、そんなこと言ちゃいけねぇ」

「いらない。恋次と冬獅郎以外いらない。貴様なんて嫌いだ。嫌い」

冬獅郎は怒ることはせずに、ルキアをおんぶした。

「熱が高いから、今日は家に帰ろう」

「冬獅郎、傍にいてくれるか?」

「ああ」

「帰りたい。家に帰ろう」

「ああ。帰ろう」

「うん」

冬獅郎は、一護に耳打ちする。

体調が悪い時のルキアは、とても幼いのだと。

そのまま、冬獅郎はルキアをおんぶして、待たせてあったタクシーの後部座席に乗せると、自宅へと戻った。

「俺は嫌い、か・・・・」

一護は見送りをしながら、一人で呟いた。

それからルキアは三日間にわたり欠席した。

熱がなかなか下がらなかったのだ。医者が嫌いなルキア。病院に連れて行くこともできない。

自然のままに体調がよくなるのを待った。恋次は学校がある日はちゃんと行って、帰ってくるとルキアの看病をした。冬獅郎もルキアの看病をする。

中学2年の冬、警察に保護されてからルキアは恋次と知り合い、友人となった。
そして、恋次に恋をした。だが,、恋次にはもう好きな人がいた。

恋次と友人になったのは、恋次も複雑な家庭事情を抱えて、よく頻繁に家出を繰り返していたと聞いたのがきっかけだった。それまで、ルキアには上辺だけの存在で、不良グループの仲間以外、友人といえる存在がなかった。同じく、孤立していた恋次。どこか自分に似た存在。ルキアは恋次の親友となった。

恋次は、一護を自宅に呼んだ。恋次と一護は親戚同士だったのだ。つもる話をしながら、再会を祝う。次の日は連休だったので、一護は恋次の自宅に泊まることになった。


「恋次・・・・?」

ルキアはやっと熱も下がって、廊下に出る。

「恋次、傍にいてくれ!」

そこですれ違った恋次と思った人物に思わず、いつものように抱きついた。

「ごめんな。俺、恋次じゃないんだ」

「あ・・・・」

優しく頭を撫でてくる人物は、恋次と同じくらい背が高かった。

「保健室の先生?どうして?」

「恋次とは親戚なんだ。ほら、足元がふらついてるぞ。まだベッドにいないと。無理して起き上がるな」

一護はルキアを抱き上げて、部屋まで連れていくとベッドに寝かせた。

「恋次は?冬獅郎は?」

「リビングルームにいる。今日は泊まることになったから」

「そうか」

ルキアは、保健室の先生をじっと見つめた。

恋次の親戚。恋次の友人。恋次の・・・・特別。

「なぁ。なんで、リストカットするんだ?」

「そんなの、貴様には関係ない」

そう言ってのけたが、一護は左手首をルキアに見せた。

そこには、ルキアの右手首にしたリストバンドの下のような傷痕があった。

「俺な、両親と妹をテロで亡くしてるんだ。それから・・・親戚に引き取られて、そこで過剰なしつけ・・・いわゆる虐待にあった。他に行き場所もなくてさ。新しく親となった相手と何度もケンカして。虐待がばれて、違う親戚に引きとられたけど、やっぱりそこにも俺の居場所はなくてさ。自分はなんで生きてるんだろうって思って、中学生の頃に手首切ったんだわ。まぁ傷はそんなに深くなかったけどよ。それから、ストレスがたまると発散のためにリストカットした。今思えばバカなことしたなぁって思う」

「・・・・・・・・・」

ルキアは泣いていた。

「なぁ、俺なら話せる?」

「・・・・・・・・・・うん」

何度も涙を零して、それから一護の優しい顔を見て、小さく頷いた。

一護はルキアの頭を何度も優しく撫でる。

その手に手を重ねて、ルキアは泣いていた。

「私も、虐待にあっていた。生まれた頃からずっと・・・・兄様に引き取られるまで、ずっと15年間。義理の父親からは何度も強姦されそうになった。生きているのが辛くて、リストカットした。この縦の傷、意識不明の重体になって、でも助かって・・・」

「うん。辛いか?ゆっくりでいいんだぞ」

「・・・・・・・」

ルキアは、ベッドから半身をおこしてせきこんだ。

ベッドに座った一護が、ルキアを抱きしめる。ルキアは、一護にしがみついて、泣き続けた。

「・・・・・・・・意識を取り戻した時、義理の両親がいったのだ。お前なんてこのまま死ねばよかったのにって。せっかく生命保険かけてるのにって・・・・。私の命はお金以下なのだ」

「ひでぇな」

流石の一護も、眉を顰める。同じく虐待にあってはいたが、そこまで酷く言われたことはなかった。死にたいと思うほどに虐待を受けていたわけでもない。でも、このルキアという少女は生れてから15年間ずっと虐待されて育ってきたのだという。義兄の白哉が庇ってくれていたが、それにも限界があった。

「・・・・・それから家に帰らなくなって・・・・」

不良グループに入って、そこのリーダーの女性と親しくなって、姉のように優しく接してくれたのだという。不良グループは、みんなルキアのように両親がなんらかの問題を抱えていたり、いじめられていたり・・・社会にうまく溶け込めなかったり、とにかくなんらかの問題を抱えた者たちの集まりで、そこにいると皆、仲間を大切にしていて、ルキアはやっと自分の居場所を見つけたのだと思った。

でも、長くは続かなかった。警察に保護されて、もう終わりだと思った。またあの家に帰らなければならないのだと思った。

義理の両親はルキアを引き取ったが、親権はもったままだが、白哉に全てを託すようになった。

恋次との出会いがあった。それが、ルキアにとっては運命の出会いだった。

恋次がいるから生きているのだと思う。そうルキアは語る。

「時折、どうして生きているのかバカらしくなってリストカットする。でも、他に意味があるのだ。恋次は、ずっと私だけのものだって思ってた。婚約者だって彼女を紹介されて・・・・私は、また手首を切った。恋次がいつの間にか私の全てになっていた。恋次の気をひくために、リストカットするがある。恋次が彼女と別れてしまえばいいのにと思うのだ。そんな自分が嫌で・・・・自己嫌悪に陥って、またリストカットする。そんな繰り返しで・・・・私など、恋次に相応しいはずないのに。冬獅郎にだって、相応しくない。私は最低の人間だ」

「じゃあ、俺も最低の人間だな」

「え?」

「お前の気持ちよく分かる。リストカットはじめてしたとき、義理の親が凄く優しくなってくれて。傷をつければ、親は優しくいてくれる。周囲の人間が自分を特別扱いするって思った。そんな俺も最低だろ?」

「私は・・・・」

「恋次の特別でありたかったんだろ?」

「・・・・・・・・ああ」

「大丈夫、十分特別だ。それでも満足いかないのなら・・・・自分だけに特別な人間が欲しいなら、俺に相談しろ」

「貴様に?」

「俺が、お前の特別になってやる。お前だけを見て、お前を守って」

一護は、ルキアの頬にキスをした。

「・・・・・・・・・私の、特別?」

ベッドに押し倒した少女は、とても華奢だった。ルキアは、一護に抱きついてくる。

これって犯罪だよなぁと、一護は心中で苦笑した。

とても哀れな少女。

「じゃあ、なってくれ。私の秘密を聞いた罰だ。私の特別になれ」

まさか、そんな答えが返ってくるとは思ってもみなかった。

特別は恋次だけだ、そんな答えが返ってくると思っていた一護。

「本気か?俺は教師だぞ?」

「貴様が、そういったのではないか。背徳でもなんでもいい。私の特別になれ。恋次の「特別」であった貴様になら、私と同じ境遇を過ごした貴様になら・・・・・・約束、だぞ」

ルキアはとても綺麗な顔で微笑んだ。言っている内容は凄いけど。

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青春白書2

朝起きると、恋次はすでに全て仕度を終えて、テーブルについていた。

ルキアはパジャマ姿のまま、欠伸をしてテーブルにつく。

朝ご飯は冬獅郎がいつも作ってくれる。家事のほとんどは居候の冬獅郎がする。

朝食は、トーストとサラダ、それに苺という簡単なものだったが、それだけでもありがたい。

ルキアは、食が細い。長い間、食事をまともに与えられてもらえなかった時期があるせいか、胃が小さいのだ。

トーストを半分食べ、サラダを少量食べた。それから苺だけは好きなので全部食べた。

「俺の分も食うか?」

恋次が、苺を盛った小皿をルキアの目の前に置く。

苺に限らず、果物が好きなルキアを恋次はよく知っている。

「すまない。ありがとう」

半分になってしまったトーストをかわりに恋次に渡す。

恋次はそれと受け取って食べてしまう。

「早く支度しろよ。待ってるから」

通学する時は一緒だ。

徒歩でいける距離のマンションを恋次は選んだ。

「すまぬ、今着替えてくる」

制服はブレザーだった。

ルキアは着替えた。それから、洗面所にいって歯を磨いて顔を洗う。顔なんて石鹸でごしごし洗う。

髪なんてシャンプーだけだ。

女の子なんだから・・・・そんな台詞を恋次から受けるが、女の子という感覚がルキアからは欠如していた。

「うーん。うーんうーん」

少し長くなった髪を結ぼうとしても、なかなか上手くいかない。

めんどうくさいので、そのままにした。

「いってきます」

「いってきまーす」

鍵をかけて、寝ているであろう冬獅統を起こさないように気をつける。

外は快晴だった。ゴミはすでに冬獅郎が出してくれたのか、影も形もなかった。

「おはよう」

「おはようございます、兄様」

同じ高校の教師である、義兄の白哉が朝の挨拶をしてきてくれたので、ルキアは白哉をみた。緋真姉様だけを愛し抜くという白哉は、緋真が死んでから周りの女性がアプローチしてくるのだが、一向に興味を示さなかった。

「ルキア、先に教室にいってるぞ」

「ああ、分かった恋次」

下駄箱をあけると、毎日のようにラブレターが何通か入っている。

ルキアは、それを読むことはしない。そのままゴミ箱に捨てる。酷いかもしれないが、自分が今好きなのは恋次なのだ。それ以外の男性に興味なんてない。

それでもラブレターは毎日のようにしつこいほど入っている。ストーカー被害にあうことだって、多い。

それも全ては朽木家の名をもつのと、ルキアが無防備なせいだった。

だから、なるべく目立たないように、他の女子のようにかわいいリボンで髪を結んだり、おしゃれをすることはしない。それでも目立つ。

「いっ・・・」

靴を履こうとして、足の裏に激痛が走った。

「くそ」

足の裏に完全にささった画鋲をとりのぞくと、地面に叩き捨てる。

その姿をみてクスクスと笑う女子のグループがいた。またあいつらか。

ルキアは男子にもてる。それが、女子には面白くないらしい。ルキアに女子の友人はいない。恋次の友人たちが、ルキアの友人だ。

ルキアは、靴を履き替えるとそのまま教室に向かった。

「遅いぞ、ルキア」

恋次が、鞄をもってくれた。

「ああ、すまぬ」

ちなみに、恋次は女子にもてる。おまけにルキアと同居しているとなれば、皆誤解する。

「ひゅうひゅう、朝っぱらからなんだ?」

からかいの声が飛ぶ。

恋次は無視するし、ルキアも無視する。

「大丈夫か?顔色悪いぞ」

恋次が顔を覗き込んでくる。

「いや、なんでもない」

なんだか、今日は少し体調が悪いかもしれない。

なんだろう。

よく分からない。

少女にしては発育が悪い体。胸なんてあまりない。

できれば男に生まれたかったな。
そんなことを思う。

1時間目、2時間目と授業を受けたあと、3時間目は体育だった。移動する。体操服を持って、ルキアは恋次とその友人たちとしゃべりながら、教室を後にする。

「でさ、恋次のやつ告白された女子を振った言葉、なんだと思う?ルキアより背の高い女の子は嫌なんだってさ」

「ぎゃはははは、なんだよそれー」

「ルキア、身長はまだ伸びる。多分・・・・」

「ルキアの身長、女の子にしても低いからな」

友人たちと談笑している時、ふいに眩暈に襲われた。

そのまま、ルキアは倒れた。

「おい、どうした!」

「すまねぇ。俺が保健室につれていく」

ルキアはよく倒れる。それが精神的なものなのか、身体的なものなのかはよく分からない。ただ、ルキアは生まれつき体が弱かった。

もう慣れてしまった恋次は、ルキアを抱きかかえて保健室に向かった。

それを見ていた女子は、明らかにバカにする。またわざと倒れたと。男子の気をひくために倒れるなんて、バカじゃないのって声が、意識が遠ざかっていルキアの耳にも聞こえた。

「失礼します」

ガラリと保健室の扉をあけると、先生がいた。

「あれ?あんた誰だ?」

「教師に向かって誰とは失礼な生徒だな。俺は黒崎一護。今日から保健室の先生だ」

黒崎一護は、少女を抱いた少年にそう自己紹介した。

「んで、どうした?」

「多分、いつもの貧血だ。倒れたんだ」

「そうか。ここまで運んできてくれてご苦労様。後は俺に任せろ」

保健室の先生とは思えない、オレンジ色の髪をした保険医だった。

ふと、ルキアが目をあける。

「きゃああああああ!いやあああああ!!!!」

暴れだす。

「ちょ、どうした!」

「いつもの発作だ。多分、精神的なものだ」

黒崎一護と名乗った保健教師は、暴れるルキアをなんとかしようとしている。

「おい、ルキア。俺は恋次だ。お前を守るから。落ち着け」

「恋次・・・・」

次第に大人しくなっていく。

そして、完全にルキアは意識を失った。

「どうなってるんだ?」

「新任ってことは、ルキアのこと何も知らないみたいだな。ルキアは、幼い頃からずっと義理の両親から虐待を受けて育ってきた。それで、義理の父親からレイプされそうになったことが、何度かあるみたいだ。本人がいってた。多分、そこらが原因じゃねぇのか、こういうのは。俺は精神科医じゃねぇから良く分からねぇけど」

一護は、言葉を失った。

少女を抱いてベッドに寝かせる。靴を脱がすと、大きな血のしみをつくった靴下が目にとまる。靴下を脱がすと、何かが刺さったような傷痕をみつける。

「この傷は?」

「またか・・・・多分、画鋲がささったんじゃないのか。ルキアは女子の友人がいないからな。いじめられてるらしい。本人が何も言わないから、誰がやったのかも分からねぇから、対処のしようがない」

「・・・・・・・・」

一護は、また言葉を失う。

「じゃあ、俺は授業があるから。ルキアのこと頼みます、先生」

やっと、教師に対してらしいものの言い方をした恋次は、そのまま保健室を去った。

「朽木ルキアね・・・・朽木財閥のお嬢さんか」

一護は思う。

白哉とは、見知った仲だった。その義妹が、この学園に通っていることは知っていたが、虐待を受けていたとは知らなかった。

白哉も精一杯庇ったのだろうが、白哉の目の届かない時に義理の両親はルキアを虐待した。

「とりあえず、怪我の治療っと・・・」

一護は傷口を消毒し、固まった血を拭き取るとガーゼをあてて包帯を巻いた。

見るからに痛そうだ。傷口は深いが、血は止まっている。普通に歩くこともできないだろうに。

手当てもしないまま、この少女は普通に歩いていたのだろう。靴下に広がった血の染みが大きい。

「恋次?」

少女が紫水晶の目を開く。

「いや、俺は・・・」

ルキアは、手を伸ばして一護の首に手を回す。

熱が出ているのだろうか。意識が朦朧としているようだ。

「恋次、私には貴様しかいないだ・・・・・・・」

一筋の涙を零して、また意識を失った少女に、一護はどうしたものかとその手を払いのけることもできずにいた。

しばらくその苦しい体勢のままいたが、一護は少女の額に手を当てる。

「こりゃ高熱だ。早退だな」

思っていた以上の高熱に驚く。多分、39度はこえている。体温計でルキアの体温をはかると、39度6分という温度だった。

一護はすぐに氷枕を用意して、額に冷えピタシールをはる。

それから、職員室でルキアの家に連絡するために、連絡先を調べて電話をかけた。

「あの、もしもし。こちら学校の者ですが、ルキアさんが高熱のため早退させたいんですが、迎えにこれますか?」

電話先の相手は、慌てたように答えを返した。

「また、倒れたのか。今すぐ向かえにいく」

まだ、幼い少年の声だった。

また、という言葉から、一護はルキアが頻繁に倒れているのだと知る。

念のため、白哉にも声をかける。

「おい、白哉。お前の義妹のルキアが高熱をだして倒れたんだ。早退にさせるけど、いいよな?」

「またか。ルキアはよく熱を出すのだ・・・兄には迷惑をかける。すまない」

保健室に戻って、ベッドの中のルキアを見る。

ふと、右手首にされていたリストバンドが気になって外してみる。

「やっぱり・・・か」

そこには、いくつも手首を切った痕があった。

自傷行為。精神的に不安定な者は、そういった行動に出ることが多い。

「精神科にはかかってねーのかな」

見た様子だと、精神科にかかっている気配はない。かかっていれば、発作のように暴れたり、自傷行為も少ないはずだ。右手首の傷をみる。つい最近つけたとみられる、傷がいくつかあった

それから、かなり昔のものだろうが、動脈付近を縦に切った傷を見て、一護はルキアの髪を優しく撫でた。

自傷行為をするには、いろいろ理由がある。ストレス発散だったり、突発的だったりもあれば、誰かに構ってほしいからという理由でするものもいる。

横に切ると、何度も傷口ができる。自殺しようとしても、うまく動脈を切れないのだ。

でも、縦に切るのは本当に死にたいから。横に切るよりも、縦に切ったほうが傷口は深く、動脈付近を切れば本当に死ぬ。

「こんなに若いのに」

死にたいと思わせる人生を歩んできたのだろう、ルキアは。

一護は今までいろんな生徒を見てきた。

同じように、自傷行為をしていた生徒を見たことはあるが、今現在している、悩みを抱えたままの生徒はまだみたことがなかった。

保健室を受け持つ教師となってまだ2年。

前の学校は平和で、むしろ保健室にさぼりにくる生徒を叱ったり、不登校になって保健室にくる生徒の悩みを聞いたりするくらいだった。

自傷行為をするまでに精神的に追い詰められている生徒と接したことはまだなかった。
 
「朽木ルキアか・・・・・・・」

一護の心に、ルキアの存在は深く刻まれるのだった。


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青春白書1

「恋次。起きているか?」

同じ家の同居人である阿散井恋次に、ルキアは声をかける。

恋次はというと、椅子に座って机にノートと科学の教科書を開いたまま、その上から手を置いて寝ていた。

「恋次、恋次」

声をかけるが、起きる気配はない。

「全く、仕方ない・・・」

ルキアは自分が着ていたストールを、恋次の肩にかけた。

今日の宿題に出された科学の教科書を開くと、ルキアは15分ほどで問題を解いてしまったi。

ルキアは頭がよく、将来が有望視されている。

難関の大学に進むだろうと、進路指導の先生も楽しみにしているようだ。実際に、進路志望で提出した大学の名前は国内でもTOPの大学だ。

だが、ルキアにとってそれはあくまでも、周囲を納得させるための「答え」だった。

実際に行く大学とは違う。そのうち、進路指導の先生と相談することになるだろう。周囲は納得しないかもしれないが、どこの大学にいくのもルキアの自由だ。

恋次と同じ大学に行こうと思っている。

まぁ、まだ先の話だ。

ルキアと恋次は、高校の寮には入らなかった。

ルキアには実の両親はいない。恋次もいない。
恋次は高校に入って一人暮らしをはじめるはずだった。遅かれ早かれ、大学に進めば一人暮らしをして独立することが決まっていた。

ルキアは、居候だ。同じく、遠い親戚の日番谷冬獅郎という中学1年生と一緒に住んでいた。

ルキアは両親がいなかったが、施設暮らしをしていたわけでもない。高校から、義兄である朽木白哉に、育てられた。白哉は、今ルキアが通っている高校の教師でもあった。

白哉の両親は、白哉の亡き妻の妹であるルキアを、どこの馬の骨とも知らぬと疎んだ。実際、虐待されていた。ネグレクトが基本だったが、身体的虐待もあった。白哉がいつも庇ってくれた。

義理の父親は、ルキアを異常な目で見ていた。主に虐待するの義理の母親で、父親はそれを放置していた。父親が、異性としてルキアのことを見ていると 白哉から告げられた時、寒気を感じた。強姦されそうになった中学2年の春、とうとうルキアは家を飛び出した。

幼い頃はただ愛されたいと必死になっていた。虐待されるのも、全部自分が悪いのだと思っていた。中学に入った頃から、父親の異常な視線に気づきはじめた。

その頃から、ルキアはしょっちゅう家出を繰り返すようになっていた。不良グループの仲間に入り、学校にもいかなくなった。容姿のよいルキアを彼女にしたがる男は多かった。


ルキアは、やがて一人暮らしをはじめた白哉に、に引き取られた。ルキアは冬獅郎と親友の恋次と義兄の白哉以外、誰も信用できなくなっていた。

「今日から、私と一緒に住もう。ルキアは、緋真の妹だ。私が養育する義務がある」

優しくさし伸ばされた白夜の手を、今でも忘れたことはない。
とても優しい微笑み。頭を撫でられ、抱きしめられた。

ルキアを前にした白哉は、くるくると表情を変えるルキアに、亡き妻の緋真を重ねていた。また虐待されていたということを知っていたせいで、まるで腫れ物にでも触るように扱ってきたこともあったが、基本は優しかった。

でも、やはり血の繋がりがないのは大きかった。一人で生きていく力が欲しいと思った。親戚の中で引き取りたいと声を出す者は誰もいなかった。

朽木ルキアではなく、ただのルキアを愛してくれる者なんていない。そう思っていた。
恋次に出会うまでは。

恋次とは、本当に親友をこえた仲であった。恋次は優しかった。いつでも、包み込んでくるように。

抱きしめられた時も、最初はその頬を叩いた。それでも、恋次は怯まなかった。

不良グループの仲間にいたせいで、暴力を振るうことに対してなんの抵抗感もなくなっていた。

不良グループのリーダーは女性だった。ルキアを気に入り、またルキアの可憐な容姿のせいで異性から無理やりを強制されるだろうと恐れ、庇護下に置いた。

そして、リーダーだった彼女は、財閥の令嬢でもあった。ルキアは、彼女から自分の身を守る方法というものを教わった。

ルキアは水のように吸収していく。護身術を身につけたルキアは、もう義理の母親から身体的に虐待されることはなくなった。

義理の父親から強姦されそうになったときも、彼女から教わった護身術で身を守れた。

でも、同時にもうこの家にはいられないと思った。だから家を飛び出して、不良グループの仲間の家を点々として、中学校にも完全に通わなくなった。

無論、世間体というものを気にする義理の両親は、無理やり連れ帰ろうとするが、その度に同じ不良グループの者が匿ってくれた。

だが、このままでいいはずもなし。

まだ中学生という少女が、不良グループの男性の家に寝泊りするのを許す者などいない。

不良グループの皆は、ルキアを実の家族のように扱ってくれた。

交際を申し込まれた時もあったが、断ってもまるで実の妹に接するようにしてきてくれて、ルキアにとっての家族は大きく歪んだ形となっていた。

警察に保護されたとき、ああもう終わりなんだなと思った。

そして恋次と出会う。
何度頬をぶっても、恋次は優しく抱きしめてくれた。

そして、ルキアは本当に、心の底から泣いた。子供のように震えて泣き叫んだ。

恋次はずっと抱きしめていてくれた。
ルキアが、恋次と一緒に住むことを決めたのは、その澄んだ瞳を見た時だった。

中学を卒業した頃から、白哉の元で生活をしていたが、ルキアは恋次を受け入れた。

不良グループの仲間も決して悪くはなかったが、やっぱり他者に対して暴力をふるうという行為は、ルキアにとっては相容れないものだった。

虐待を受けてきながらも、ルキアは決して他者に暴力を無意味に振るうことはなかった。あくまで自分を守るためだけの力だった。


「お前は、こんな私を愛してくれるのか?私の朽木家という名はただの飾りだ。大財閥の朽木ルキア
はここにはいない。それでも、私を見てくれるか?」

泣きながら尋ねるルキアを抱きしめながら、恋次は言った。

「もう大丈夫だ。だから、少しづつ変わっていこうぜ一緒に。俺と一緒に暮らしながら。愛しているとも」

愛されたかった。

ルキアの虚勢は、ただ愛されたかったゆえに成り立っていた。

それが崩れていく。中学2年の冬。ルキアは、ただの少女に戻った。

不良グループから抜けた。手紙でのやり取りもあるし、携帯電話で話たり、会って笑いあって帰ることだってある。完全に、抜けたというわけではない。

だって、それまでルキアをずっと守ってくれたのは彼ら。

友人だと思っている。今までのように、誰かの家に寝泊りしたり夜を遊び歩いたりすることはなくなった。

そうする必要がなくなった。不良グループの皆は、ルキアが事情を説明すると、自分のことのように泣いてルキアを抱きしめ、いつでも会えるからと、泣きあった後に最後は笑顔で別れを告げた。

恋次とルキアは、高校2年になってから一緒に生活をしだした。

楽しかった。

愛されていると分かった。恋次のことを、ルキアは呼び捨てにしていた。それだけ仲が良かった。

やがて受験も終わり、進学する高校が決まった。更生したルキアに、もっと上の高校を進める先生は多かったが、あえて恋次と同じ高校に進学する。

そして、高校になって恋次が一人暮らしするといいはじめた。
ルキアは、高校2年になった時、恋次に一緒に暮らしてもいいかと聞いた。恋次は良いと答えた。

借りたマンションに、まさかルキアだけでなく、その遠い親戚の冬獅郎まで一緒についてくるとは、流石の恋次も思っていなかっただろう。

「ルキアのこと一人にできねーからな」

ルキアも、冬獅郎と離れることは考えていなかった。

冬獅郎は自分が住んでいた家を家出してしまって、もはや恋次も止めることはしなかった。

生活費もマンションを借りるお金も全額白哉が出してくれた。こんな好条件に乗らない手はないだろう。

義理の親の仕送りがなく生活ができる。

バイトだけでは、生活は成り立たない。

こうして、恋次のマンションにはルキアと冬獅郎が同居することになった。

「恋次の奴、寝ちまったか?」

冬獅郎が部屋に入ってきた。二人がかりで、寝てしまった恋次を抱きかかえてベッドにおくと、毛布と布団を被せた。

「俺も、もう寝る。ルキアは?」

「ああ、もう少ししたら寝る」

「そうか。俺は明日創立年日で休みだから、朝食は作っておくけど、多分寝てる」

「分かった。おやすみ」

「おやすみ、ルキア」

おやすみのキスを頬に受けて、ルキアも同じように頬にキスで返す。

理想の家族を手に入れた。

辛いものなど、どこにもないはずだった。
そう、どこにも。

自分が、恋次に恋していると気づくまでは。

恋次には、かわいらしい彼女がいた。家に何度も遊びにきていた。ルキアは恋次の彼女と決して仲良くなろうとはしなかった。

どんなに想っても、この恋は報われない。

報われることは一生ないだろう。恋次を家族の愛ではなく、異性として愛していると告白することもないだろう。

恋次がが幸せであればそれでいい。ルキアはそう思う。

ルキアは、電気を消した。

「おやすみ、恋次」

そして、自分の寝室に向かう。ベッドの中に入っても、先ほどの恋次の穏かな顔がちらついて中々眠りにつけなかった。

「バカだな私は。恋をしても無駄なのに」

今になって、やっと分かる。

異性から、付き合って欲しいといわれたときの、相手の気持ちが。

好きでもないのに、付き合って欲しいと言われることもあっただろう。それはルキアが朽木の名をもつことと、美少女だからだ。

見栄のため、というものあったかもしれない。でも、憧れはあっただろう。本気で自分に恋していた相手もきっとあったはず。

きっと、こんな苦しい気持ちをしていたのだろう

不良グループの仲間以外は、笑って「貴様はばかか?私と付き合おうなど、何様のつもりだ?」ってそう冷たく何度もあしらった。その時のショックを受けた相手の顔を見ても、その時は何も思わなかった。

誰かを好きになってから、今になって、酷いことをしたなと思うが、もはや過去のできごとだ。

「好きだ、恋次・・・」

言えない相手に向かって、言葉を投げる。

やがて、ルキアは眠りについた。


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ルキアを忘れた一護 里帰りと苺花

一護がルキアの記憶を思い出してから2年後、ルキアは待望の子を身籠った。

性別は女だと分かり、白哉が早速振袖を作った。

「兄様、あまりにも早すぎます・・・・・・」

身籠ったことで、ルキアは里帰りとして朽木家で生活していた。

何故か、一護も一緒だった。

何故かと聞くと「ルキアと離れたくない」と言われた。

子を身籠っているため、ルキアと睦み合えないが、そんなことはどうでもよさそうだった。

「おかわり」

一護は、朽木家でも自分の家にいるように過ごした。

食堂で、おかわりを所望する一護に、白哉は少し眉を寄せた。

「ここは、兄の家ではないのだぞ」

「いいじゃねぇか、白哉。ルキアの家は俺にとっても実家みたいなもんだ」

「黒崎家はどうなる」

「時折帰ってる。家人だけでなんとかやってけそうだけど」

10日一度くらいは、黒崎家の屋敷に一護は戻っていた。

それから数か月が過ぎて、ルキアは痛みを訴えた。

「陣痛だ!白哉、医者は?」

「すでに待機させてある。産婦人科が最近できた。そこから医師を派遣している」

「ルキア、頑張れ。産むまで相当痛いらしいが・・・・」

「この程度の痛み、貴様が私を忘れていたころの心の痛みに比べれば、いくらでも我慢できる」

ルキアは、初産で少し難産だったが、無事に女児を出産した。

名は、苺花と名付けられた。

一護の名前から、きていた。

初めての自分の子に、一護はメロメロだった。それは白哉もだった。

「なんで白哉が苺花を抱いてるんだ」

「私の義妹の娘だ。私が抱くことに問題があるのか?」

「苺花を独占しすぎだ!」

「そのゆうなこと、知らぬ」

白哉の手の中で、無邪気に苺花は微笑んでいた。

一護が抱き出すと、泣き出した。

「ええ、なんで!」

「ミルクの時間なのだろう。今作ってくる」

今では乳母でなく、粉ミルクが普及していた。昔は貴族の子は母親ではなく、よく乳母の乳で育てられたりしたが、今では乳母の存在はあっても、粉ミルクをあげるのが普通だった。

栄養バランスが高く、はじめはルキアも母乳をあげていたが、1週間が過ぎる頃には粉ミルクに切り替えていた。

粉ミルクを美味しいそうに飲む苺花。それを抱き上げるルキアの姿も、様になってきた。

始めは泣いただけで、おろおろしていたが、流石に慣れて、ミルクかおしめか、分かるようになてきていた。

ただ単に泣いてる時もあるが、そういう時はルキアは苺花をあやして子守唄を歌っていた。

「そんな歌、どこで覚えたんだ?」

「流魂街で。いつかは、覚えておらぬ。多分赤子の私を拾った者が、乳を与えながら歌ってくれたものだろう」

「ルキアは流魂街出身だもんな」

「そうだ。霊力もなく、兄様の義妹になれなかったら、今頃私は春を売って生き延びるか、のたれ死んでいたかのどっちかだ」

一護は、改めて白哉に礼を言った。

「白哉、ルキアを養子にしてくれてありがとう」

「全ては、緋真に言え。あれが、ルキアを妹にしてくれと遺言で残したのだ」

「緋真さんだっけ。今度、苺花も連れてお墓参りにでもいくか」

「私も行こう」

「当たり前だろ。あんたの奥さんだろうが」

今度、4人で緋真の墓参りにいくことになった。

その当日はよく晴れていた。

朽木家の立派な廟堂に、緋真は眠っていた。

「姉様・・・私は、今幸せです」

苺花を抱いて、緋真の墓の前で紹介する。

「私と一護の子です。姉様の血は、私の中に、そして苺花の中に引き継がれています」

「緋真、愛している。どうか、私がそちらにいくまで、見守っていてほしい」

「緋真さん、ありがとな。あんたのお陰で、ルキアと出会えた」

線香をあげ、菊の花と早くも開花した、緋真が好きだったという梅の花を供えた。

そして、みんなで、朽木家に戻った。

1か月が経ち、ルキアと苺花は黒崎家に戻ってきた。

まず恋次が顔出してきた。

「うわぁ、かわいいなぁ。なんとなく、俺に似てねぇか?髪の色とか」

「偶然だ、恋次。貴様の子の可能性はない」

「わーってるよ。言ってみただけだ」

苺花は、名前の通り紅色の髪をしていた。恋次と同じ髪の色だった。

もしも一護とルキアが結婚していなければ、恋次の子供かと疑ったことだろう。

次に、石田と茶虎が顔を見せた。

「苺花ちゃんか」

「いい名だな、一護」

「ああ、僕もお嫁さんもらおうかなぁ。現世では妻をもたなかったから」

「む、俺には奥さんがいたぞ。まだ他界していないから、こっちにくるのを待っているんだ」

茶虎の言葉に、一護が現実をつきつける。

「でも茶虎、普通の人は現世のこと覚えてないぞ」

「それでも、きっと巡り合う。そう信じている」

「そっか・・・・・また、巡り合うか。俺とルキアのようになれるといいな」

「うむ」

しまいに、苺花は石田の腕の中でぐずりだした。

「ああ、この時間だとおしめだ。ちょっと交換してくる」

「一護も、すっかりお父さんだな」

「まぁ、慣れだな」

「石田、茶虎、何もない家だがゆっくりしていってくれ」

ルキアが、料理人に頼んで4人分の食事を用意してもらい、4人はその日、苺花のことはちよに頼んで、食べて飲んで騒いだ。

「ああ、なんかいいなぁ、こういうの。現世にいた頃みたいだ」

ルキアが笑顔を見せていた。

一護は、もうこの笑顔を失うようなことはすまいと、強く決心する。

それから、けっこうな頻度で白哉、恋次、石田、茶虎は顔を見せにきた。

そこに井上の姿はなかったが、したことがしたことなので、仕方ないだろう。

ただ、井上も4番隊の男性と結婚し、子を産んだと聞いて、匿名で花束を贈った。

ルキアを忘れた一護は、ルキアを取り戻し、家庭を築き、13番隊副隊長であると同時に、貴族黒崎家の当主として、伴侶13番隊隊長であるルキアと共に、後世まで名を残すのであった。




            ルキアを忘れた一護

              fin






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