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祓い屋京浮シリーズ15

禁忌の術を使って、不老になってから半月が経過した。

禁忌の反動か、一時は浄化の力が弱まったが、今は以前よりも浄化の力が強くなっていた。

「伴侶である水龍神である僕が、元の寿命を取り戻したからね。それを従えている君の力が増すのは、仕方のないことだよ」

「そうか。お前のせいか」

「ちゅん!!!」

禁忌の術を使ってから、京楽はさらに浮竹を求めるようになって、それに応じるのも半分くらいになっていた。

「ちゅんちゅん!!」

浮竹を欲しても、応えてくれない場合、京楽は文鳥姿になって飛び回り、浮竹を困らせた。

「しつこいぞ、今日はしない。おとつい、したばかりだろう」

「ちゅんちゅん!!」

「おとついから日にちが経ってるって?当たり前だろうが」

「ちゅん!」

「うるさい!」

がしっと、文鳥姿の京楽は浮竹の手に捕まって、羽をむしられる。

「ちゅん~~~~~」

「自業自得だ」

「ちゅん」

それでもしつこくちゅんちゅんと浮竹にまとわりついて、怒られて、呪符のはられた鳥かごに放り込まれた。

「ごめんなさい、もう言わないから、出してえええ」

文鳥の姿で人語をしゃべる。力を消費するが、そうしないといつまで経っても浮竹に鳥かごにに入れられっぱなしなので、謝った。

「分かればいい」

鳥かごから出されて、京楽は人型に戻ると、浮竹を抱きしめた。

「おい、京楽」

「これくらい、いいでしょ。抱きしめるくらい・・・・・・」

「仕方のないやつだ」

次の日、依頼が飛びこんできた。

浄化と水を司る水龍神が、穢れをふりまいているというのだ。

「僕の他にも水龍神はいるからね」

「血縁関係は?」

「ないわけじゃないと思うけど、多分遠いいとこだろうね」

「祓うしかないか」

「そうだね」

依頼された現地に到着すると、池の魚が全滅して水面にぷかぷか浮かんでいて、水そのものも濁って、穢れが発生していた。

「これは酷いね。早めに対処しないと、人にも被害が出るよ」

「京楽、元になっている水龍神の居場所は分かるか?」

「うん。強い穢れを感じる。穢れを司る禍津神の君といるせいかな。穢れに敏感になった」

「よし、じゃあその水龍神のところに行くぞ」

「あ、浄化の結界を僕と浮竹にはっておくよ。物凄い穢れだ・・・・禍津神の君ほどじゃあないけど」

池の近くに、洞窟があった。

そこに、穢れをふりまいている水龍神がいるらしい。

洞窟に近づくと、空気が淀んでいるのが分かり、生き物の気配がしない上に、周囲の草木は枯れていた。

浮竹と京楽は、結界を維持しながら洞窟に入った。

「誰ぞ。我が領域に踏み込み荒らすのは誰ぞ」

「俺は浮竹十四郎。術者だ。こっちは水龍神で俺の式である京楽春水。名も知らぬ水龍神よ、穢れをふりまく存在となってしまった以上、浄化する」

「京楽春水・・・ああ、あのかわいかった童(わらべ)か」

「京楽、知り合いか」

京楽が、目を見開く。

「君は・・・・狂い咲きの王に魅入られた僕の叔父じゃないか!」

「ふふふ・・・・その狂い咲きの王に見捨てられたのだ。百花夜行をする狂い咲きの王は、椿の化身。狂い咲きの王の大切にしていた椿を、私が不注意から枯らしてしまい、見捨てられた。ご丁寧に、穢れを刻印してくれた」

「狂い咲きの王・・・・花鬼(かき)や全ての植物のあやかしを束ねる王か」

「そうだ」

「狂い咲きの王をなんとかすれな、叔父上は助かるの?」

「いや、もう手遅れだ。穢れの刻印が、心臓にまで達している。このまま生きていると、穢れで周囲の生きとし生ける者を殺すだけだ」

浮竹が、首を横に振った。

「春水よ。私を浄化してくれ」

「叔父上・・・・・」

「せめて、春水、かわいがっていたお前の手で死にたい。どうせ死ぬのであれば」

「分かったよ・・・叔父上ごめん。最後にあがくよ」

京楽は、ありったけの力をこめて、自分の叔父である水龍神の体を浄化した。

「うわあああああああ」

浄化される痛みで、穢れの水龍神は暴れまくった。

「やっぱり、だめか。心臓にまで達していては・・・刻印が身に刻まれただけなら、なんとかなったのに。狂い咲の王・・・・絶対に、許さない」

「春水、このまま浄化してくれ」

「分かったよ、叔父上。いくよ、浮竹」

「ああ」

浮竹と京楽は、凄まじい穢れをふりまく水龍神を浄化すべく、浄化の力をためこむ。

そして、一気に放出した。

「さらばだ、春水、それに術者の人の子よ」

「叔父上、どうか安らかに。仇はとるから」

術の効果の光が消えると、そこには卵があった。

「卵?」

「俺も力があがったからな。浄化して、再生を与えた。卵から、お前の叔父はまた生まれる。ただ、意識は違った存在になって、お前の叔父が生き返るわけじゃあないが」

「十分だよ。叔父上が違う形であれ、また生まれてくるなら」

「水龍神にはなれないぞ。下位の龍だ」

「それでも、いいさ」

周囲の穢れは祓われて、空気は澄んでいるし、枯れていた草木は芽をだして成長し、魚が死んでいた池は死んでいた魚が蘇り、池は澄みきっていた。

「ねぇ、浮竹、君の再生能力、半端なものじゃなくなってない?いくら僕の再生能力も利用したとはいえ、死んでいる魚を生き返らせるなんて」

「その程度だ。魚や小動物が植物が穢れのせいで死んだのなら、蘇らせることもできるが、それ以上の存在になると蘇らせれない」



「いやいや、大したものだよ」

「誰だ!!!」

洞窟から出ると、そこには柔和な顔立ちの男がいた。

「私は狂い咲きの王。名は藍染」

「狂い咲きの王!叔父上の仇か!」

「あれは、死んでしまったのか。新しい椿が咲いたので、穢れの刻印を取り除いてやろうと思ってきたのだが・・・・これでは、君たちが殺してしまったようなものだな」

「な・・・・」

「京楽、離れろ。こいつ、強いぞ。禍津神の俺くらい強い」

「そんなに?」

京楽と浮竹は、狂い咲きの王から距離を取る。

「ふふふ、今は殺さないから安心したまえ。いつか、また」

「待て!!!何故、椿を枯らしたくらいで穢れの刻印を与えた!」

「それは、私が椿の狂い咲きの王だからだ。椿は私の化身でもある。化身を殺されて、怒らないほうが無理だろう?」

「それは・・・・・」

確かに、自分の化身を殺されたら、あやかしなら力も弱くなるし、命に関わることもある。

「では、いずれまた」

そう言って、椿の狂い咲きの王、藍染は椿の花を残して消えてしまった。

「椿の狂い咲きの王・・・・・百鬼夜行ならぬ、百花夜行を支配する植物のあやかしの頂点に君臨する王・・・・・・・」

「京楽?」

「あ、ごめん、浮竹。ちょっといろいろ考えてた」

「もしも、俺たちに立ちはだかるようであれば、全力をもって封印しよう」

「うん、そうだね」

禍津神の浮竹ほどの力があるというが、力の増した今なら、二人がかりで全力を出せば倒せる気がした。

ただ、植物の頂点に君臨するので、殺すと植物そのものが枯れてしまう可能性が高いので、封印という形になるだろう。

「百花夜行か・・・・一度、見てみるか」

その日から、満月になった数日後、百花夜行が行われていた。

月に一度、満月の夜に植物のあやかしやそれに関係するあやかしたちが集い、酒を飲みながら練り歩く。

その最後尾に、藍染はいた。

「見学かい?」

気配を完全に殺していたのに気づかれて、浮竹と京楽は姿を現した。

「どうだい、私の子供たちは。皆美しいだろう」

見目麗しい花鬼(かき)が中心となって、百花夜行は続く。

「京楽春水、私の元にこないか。浄化と再生の力が欲しい」

「京楽、惑わされるな。こんな男の元に行くなよ!」

「言われなくても、浮竹の傍を離れないよ!」

「そうか。じゃあ、浮竹、君が僕の元にくれば・・・・」

藍染は、凄まじい洗脳を浮竹にかけるが、浮竹はそれをなんとか結界で破った。

「俺は術者だ。王とはいえ、あやかしの下につく気はない」

「それは残念だ。京楽、君の叔父上は簡単に私の洗脳にかかったのだけれど、君はそう簡単には洗脳されてはくれないのだろうね」

「当たり前だよ!」

百花夜行はまだ続く。

藍染は、笑い声をあげながら、百花夜行の最後を歩いていくのだった。



「ねぇ、浮竹」

「なんだ」

「きっと、いずれあいつは僕たちの前に立ちふさがる。その時は、封印しよう。力の全てをかけて」

「ああ」

京楽の叔父である、水龍神の卵を持ち帰っていたのだが、それが孵化して、龍の幼体が生まれてきた。

「にゃあああ」

はずなのだが、なぜか猫だった。

「水龍神の眷属の卵なのに、何故に猫なんだ」

「な~お」

「何、マオ、お前のせいか!」

「な~」

なんでも、猫の式神のマオが温め続けていたせいで、マオの霊力に染まってしまって、猫が生まれてきたらしい。

「まぁいい。新しい式にしよう。名前は・・・京楽、お前の叔父の名はなんだ」

「京楽烈火」

「じゃあ、今日からお前はレツだ」

「にゃあああ」

子猫だが、すでに京楽を狙っている。

「ちょっと、この子、文鳥姿になったら絶対マオみたいに襲ってくるよ!」

「まぁ、がんばれ」

「浮竹のばか~~~~」

浮竹に文鳥姿にされて、マオとレツは嬉しそうに文鳥姿の京楽に襲いかかる。

「ちゅんちゅん!!(食われてなるものか!)」

京楽は羽ばたいて、専用の鳥かごに入ると、マオとレツが諦めるまで、鳥かごの中でチュンチュンと鳴いて、浮竹のバカバカと連呼して、夕飯抜きの刑になるのであった。





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祓い屋京浮シリーズ14

「妻の・・・・記憶を消してください」

60歳くらいの初老の老人は、哀しそうな目で、浮竹を見た。

写真を受け取る。

まだ20歳になったかも分からない少女が映っていた。

「妻は・・・・年を取らないのです。私はそれを不思議に思いつつも、一緒に過ごしてきました。妻が氷女であることを知って、はじめは離縁しようと思ったのです。でも、妻に泣かれて、離縁を諦めました。妻は、私がいないと何もできない子で・・・・私は、末期がんなんです。もう余命いくばくもない。妻にそれを告げると、妻は一緒に死ぬというんです。妻に死んでほしくない。新しい人生を、氷女としてでも人間としてでもいいから、歩んでほしいんです」

「奥さんがそれを望んでいなくても?」

「はい。身勝手なのは分かっています。でも、妻に死んでほしくないのです」

「話は分かりました。今回は退治や浄化でなく、記憶の抹消ということでいいですね?」

「はい」

「浮竹、なんとかならないのかい。その氷女、かわいそうだよ」

「だが、夫のあとを追って死ぬが幸せと思うか?」

「そうは思わないけど・・・・・・」

浮竹と京楽は、溜息交じりにやりとりをすると、依頼人と一緒に、依頼人の家までやってきた。

「ヒナ、君を自由にするよ」

「あなた?その人たち・・・・術者と式ね!私を浄化するのね。覚悟はできているわ。あなたより先に、向こうの世界で待っているから・・・・・・・」

ヒナと呼ばれた、18歳くらいの氷目の少女は、哀し気に微笑んだ。

「違うんだ、ヒナ。君に新しい人生を歩んでほしい」

「何を言っているのあなた。私には、あなただけよ。あなたしかいらない。あなたが死んだら、私も一緒に死ぬわ。あの世で永遠に一緒に暮らしましょう?」

「ヒナ・・・・・お願いします、浮竹さん京楽さん、妻の記憶を・・・・・」

依頼人は、ヒナを抱きしめてから、離れた。

「あなた?まさか、私の記憶を!」

「ヒナ、お別れだ。この35年間、とても幸せだった。ヒナは、また幸せにおなり」

「いやよ!」

ヒナは、氷女として雪吹雪を出すが、浮竹と京楽の結界で防がれてしまった。

「いやよ、いやよ、あなたと一緒に最後までいるの!あなたの死は私の死!約束したじゃないの、いつまでも傍にいるって!」

「ヒナ、愛している・・・・・・・」

「始めます」

「いやああああああああああ!!!!」

氷女のヒナに、式を飛ばして束縛させると、浮竹が祝詞を唱えた。

「愛して、いるの・・・・・」

ヒナはボロボロと涙を零して、依頼人を見る。

浮竹は、複雑な気持ちでヒナの記憶からたくさんの大切な思い出を・・・・夫である依頼人と出会い、過ごしてきた時間を忘れさせた。



「ここはどこ・・・・・おじいちゃん、だあれ?」

「ここは私の家だよ。君は、道端で倒れていたんだ。それを、このお二人が運んでくれたんだ」

「そうなの。ありがとう。私はヒナ。暁ヒナ。氷女です。術者の方々ですね?」

「ああ、そうだ」

「そうだよ」

「私を退治したりしないんですか」

ヒナは、首を傾げた。

「依頼がないかよほど酷いことがない限り、もののけは退治しない」

「そうですか。私は、故郷の雪山に帰ろうと思います。ここは暑いわ」

まだ10月のはじめ。

残暑は厳しい。

氷をフィールドとして生きる氷女には、生きにくい土地だ。

「さよなら、ヒナ」

「あら、さようならおじいちゃん。じゃあ、術者の方も、さようなら・・・・・・」

ヒナは、一礼すると、吹雪となって消えてしまった。



「これで良かったんですか」

「はい。これで、良かったんです」

「僕はそうは思わないけどね。ヒナって子を、一緒に連れてってあげるべきだと思った」

「ヒナは若い。まだ生まれて50年も経っていない。氷女の寿命は500年くらいだそうで」

依頼人は、ヒナの映っている写真を撫でながら、涙を流した。

「愛していたんです。だから、幸せになってほしかった」

「ヒナちゃんは、あなたと出会えたことで十分に幸せになったと思うよ」

京楽の言葉に、依頼人は深いため息をついた。

「私は明日死ぬかもしれぬ身。人間の寿命で氷女が死ぬなんて、おかしい」

「そんなことはないと思うが」

浮竹が、口を開く。

「一応記憶は消しておいたが、完全に消えたわけじゃない。思いが深すぎると、戻ってくる。そうならないことを、祈っておく」

「はい。これは依頼料です。ありがとうございました」



「ねぇ、浮竹、あんなのってないと思うんだけど」

「言うな。もののけと人は、しょせん同じ時間を生きられない」

「それは、僕のことも言ってるの?」

「お前は、俺が連れていく。俺が死ぬ時は、お前も死ぬ。そういう契約で縛っているからな」

「うん」

浮竹は、水龍神である京楽を式にするとき、伴侶として迎える代わりに、同じ時間を生き、同じように年をとる道を選ばせた。

京楽は、喜んでそれを受け入れた。

京楽を式にして10年以上が経過しているが、まだまだ現役だが、確かに少し老けた。

屋敷に戻ると、緊急の電話があった。

記憶を消したはずのヒナが、戻ってきたのだというのだ。

来た道を戻る。

依頼人の家にいくと、氷女の姿で、妖気のほとんどを依頼人にさしだし、共に死にゆこうとしているヒナの姿があった。

「浮竹さん、ヒナを、ヒナの記憶をもう一度消してください!」

「無理だ。あれだけ深い暗示をかけて消したのに、記憶が戻ったということは、それだけ依頼人であるあなたを愛しているからだ」

「ヒナ、お願いだから一人で逝かせておくれ」

「いやよ。あなたと一緒に死ぬの。黄泉の道を、あなたと一緒に歩くの」

ヒナは、依頼人の儚い命に、吹雪をはきかける。

「ヒナ・・・愛しているよ。仕方ない、一緒に逝こう」

「ええ、あなた。一緒に、逝きましょう?」

二人は、浮竹と京楽が静かに見守る中で、黄泉の国に旅立っていった。

死体さえ、残らない。

氷女のヒナの死体も、依頼人の死体もなかった。

まるで氷のように、溶けてなくなった。

「僕は、これでよかったと思うよ」

「俺は・・・・こんなことを、お前に強いている。今からでもいい。取り消そう」

「やだよ!僕は今のままがいい。今のまま、君と歳をとって、死んでいきたい」

「水龍神は千年は生きるだろうが。それを・・・・・」

京楽は、浮竹を抱きしめてから、キスをした。

「ねぇ、浮竹。僕は幸せだよ。君の傍にいれて、君を愛せて。君と同じ時間を歩けて」

「俺は・・・・身勝手だ」

「それでも、愛してるよ。僕は、ヒナちゃんと同じ道を歩む。君が死んだら、僕も死ぬ」

「京楽・・・・・・・」

京楽は、水龍神の姿をとると、浮竹を背に乗せて、空を飛んだ。

「京楽?」

「まだまだ、僕らの道は終わらない。一緒にこの世界を歩いていこう」

「ああ」

水龍神である京楽の背にしっかりと乗って、浮竹は風を全身に浴びた。

「世界は広いからな。禁忌だが、人を不老にする術がある」

「いいねぇ。それ、使っちゃう?」

「そうだな。お前と永遠を生きれるなら」

浮竹と京楽は、空を泳ぎながら、悪戯を思いついた子供のようにはしゃいだ。

そして、屋敷に戻ると、禁忌の術を発動させる。

「不慮の死が分かつまで、永遠の時を」

「永遠の時を」

束縛と服従の契約を書き変える。

永遠を生きるように。

年をとらぬように。

「君は、永遠に僕のものだ」

「お前こそ、永遠に俺のものだ」

二人の式と術者は、こうして永遠を生きることになった。

死が二人を分かつまで。


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祓い屋京浮シリーズ13

「河童がでるんです」

「河童?今時に?」

「そうです。子供を川でおぼれさせたり、洗濯物をよごしたり、赤ん坊を泣かせたり、備蓄の食料を盗んだり・・・・・・はてには万引きまで。どうか、河童を退治してください」

「はぁ。最初の子供を川でおぼれさせるは分かるが、万引き?河童が万引き?」

浮竹は、首を傾げた。

万引きをする河童など、聞いたことがない。

「最近の妖怪は、最先端をいってるやつもいるからね。知り合いのあずきとぎなんて、DJしてたよ」

「あずきとぎがDJ・・・・・・」

京楽の言葉に、さらに首を傾げる浮竹であった。

そんなこんなで、河童退治に赴くことになった。

その河童は沼のどこかにいるので、沼のある場所の近くに、きゅうりをいれた罠をしかけて、河童がかかるのを待った。

「ぎぎゃぎゃ!罠だ!」

「いや、ほんとにかかるもんなんだね。河童ってきゅうり好きなんだ」

「河童と言えばきゅうりだろ」

そんなやりとりをしながら、罠にかかった河童を見ると、体中が傷だらけで、浮竹も京楽もまずは罠から解放せずに、河童の言い分を聞くことにした。

「お前、子供を溺れさせたのか?」

「違う。おぼれていたのを、助けただけだ」

「じゃあ、洗濯物を汚したのは?」

「雨が降ってきたから、取り込んでやろうとしたら、汚れがついてしまった」

河童は、自分が退治されるかもしれないと分かっていても、真面目な顔で答えた。

「赤ん坊を泣かせたのは?」

「かわいかったから近寄ったら、泣かれた」

「備蓄の食料を盗んだのは?」

「いつもきゅうりを備えてくれる会社の人が風邪になってこないから、きゅうりをもらいにいったら、他の妖怪が備蓄の職力を盗んでいて、その犯人にされた」

「じゃあ最後だ。万引きはしたのか?」

「万引きは確かにしたけど、美味い棒1本だ。後で、お金をちゃんと払った。レジの中に、お金をいれた」



「ねぇ、浮竹、この子・・・・・・」

「ああ、嘘はついていないようだ。嘘探知の式が反応を示さない」

「ねぇ、河童君。君を退治しろと、町の人がうるさいんだ。でも、君は退治されるようなことはしていない。僕らが退治しなかったら、次の術者が君を退治にくるだろう。引っ越しを提案するのだけど、どうだい?」

「むう、俺は町の人に怖がられているのか」

「怖がられているというより、嫌われてるね。河童はそう強くないから、人でも退治できるし」

「ぎゃぎゃ。このままでは、俺は死ぬしかないのか?」

「そうなるね。だから、住処を変えよう。僕たちは無益な殺生は好まない性質でね。引っ越しするなら手伝うよ」

「じゃあ、引っ越しを手伝ってくれ。大切な荷物がいっぱいあるんだ」

河童は、隣町の池に引っ越すことになった。

くだらないおもちゃやら、きゅうりをくれたおばあさんの形見やら、とにかくいっぱいものがあって、3往復した。

「ぎゃぎゃ。これで、俺は退治されずにすむのか」

「お前は、もう人前には出ずに、この池で静かに暮らせ。人と関わるな」

「ぎゃぎゃ。そうする・・・・・・・」

依頼人には、河童を退治したのではなく、移動させたと真実を伝えて、依頼料の半額をもらった。

「なんだか、少しかわいそうだったね、あの河童」

「河童は悪戯好きで、子供をおぼれさせて殺したりするからな。あの河童はいい妖怪だ。殺すのは可愛そうだったし、人と関わずに生きていけるなら、もう大丈夫だろう」

「でも、万引きする河童なんて初めて聞いた。しかも代金ちゃっかり払ってるし」

「いい河童だったな」

「そうだね」


屋敷に戻ると、ルキアが術者の京楽と禍津神の浮竹が来ていることを告げた。

「2人はお留守番だ。術者だけの式札の買い物にいってくる。お前たちをもっていることがばれたら、金にものをいわせて取り上げられそうだ。大人しく、留守番してるんだぞ」

「ええ、僕は留守番なの」

『俺も留守番なのか』

『十四郎、素直にセンパイの言葉に従って』

『むう。お前がそう言うなら、仕方ない\』

「僕が禍津神の浮竹と二人きりでお留守番・・・・・ぬああああ」

『鳥、留守番するぞ!』

「ああ、うん。ちゅん」

『羽をむしっていいのか?』

術者の浮竹と京楽が出かけて、二人きりになった式たちは、一方は小鳥になって、一方はその小鳥の羽をむしりたいと目を輝かせていた。

「ちゅんちゅん!!(鳥の姿でいると楽なだけで、羽むしらないで!)」

『鳥の姿にでいると楽・・・・やっぱり、お前水龍神じゃなくってただの鳥だろ!』

「違うよ!」

ぼふんと音をたてて、式の京楽は元の人の姿に戻った。

ぐ~~~。

その瞬間、禍津神の浮竹の腹が盛大になって、禍津神の浮竹は顔を赤くした。

『違う、これは鳥を見て腹が減ったから』

「何食べたいの?作ってあげる」

『鳥・・・お前、料理できるのか』

「浮竹の食べるものは大抵僕が作ってるからね。そっちも似たようなもんでしょ」

『むう。確かに俺は料理はできない・・・・・』

「簡単なもので、オムライスにしよう。作り方も簡単だし、教えてあげるから術者の僕に食べさせてあげなよ」

『鳥・・・・じゃなくて桜文鳥。お前って、けっこういい奴だな』

「鳥から進化した・・・・まぁいいけど」

こうして、式の二人はああだこうだとやりとりをしながら、オムライスを4人分作った。

お腹が減っていたので、式の二人は先に食べた。

『ただいま・・・ああ、疲れたよ。センパイは大丈夫?浄化の札を売ってくれって押しかけられてたけど』

「なんとか生きてはいる。疲れた。腹減った。飯食って風呂に入って、寝る」

『今から食事作るから・・・・どうしたの、十四郎』

にこにこ顔で、禍津神の浮竹は術者の京楽の手をひっぱり、ダイニングルームに連れていく。

『俺が、教えられながらだけど作ったんだ。食べてくれ』

『これ、十四郎が?』

『ああ』

『式のボクに教えられながら、作ったの?』

『そ、そうだ』

『ふふ、十四郎かわいい。いただきます。うん、美味しいよ』

『そうか、良かった』

禍津神の浮竹はにっこりと笑顔になる。

「浮竹も食べなよ。まだあったかいから」

「ああ、いただく。いつ食べてもお前の料理はうまいな」

「ふふん。水龍神の中でも名コックって、名前知れてたんだよ」

「今じゃ、水龍神どころかただの鳥だけどな」

『鳥じゃないぞ、術者の俺。桜文鳥だ』

「お、式の俺は、呼び方が変わったってことは、何かを認められたんだな」

「もちろん、料理の腕を・・・・・」

『いろいろ聞いた。夜の話とか』

バキポキ。

関節を鳴らしながら、オムライスをさっさと食い終わった術者の浮竹が、式の京楽に近づく。

「ぎゃあああああああ」

「いっぺん死ねえええええええええ」

「もぎゃああああああああ」

『『ご愁傷さま』』

離れた場所で、どたばたと暴れる二人を見ながら、術者の京楽と禍津神の浮竹はゆっくりと茶を飲むのであった。


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祓い屋京浮シリーズ12

その日、禍津神の浮竹と術者の京楽は、いつものように術者の浮竹と式の京楽のいる屋敷に遊びにきていた。

今日のお土産は苺ショートケーキで、ずっと眺めて食べない禍津神の浮竹の分の苺を。

「いらないのか。もらうぞ」

そう言って、術者の浮竹が食べてしまったものだから、怒ってしまい、禍津神の浮竹は涙を浮かべて泣き出した。

「すまない。いらないのかと思って」

『むう。好物だからとっておいたんだ。酷いぞ、術者の俺』

わんわん泣く禍津神の浮竹を、二人の京楽がなだめるが、禍津神の浮竹は穢れの黒い靄を出してしまい、これはいけないと、式の京楽が浄化の結界をはった。

やっと泣き止んだ禍津神の浮竹の頭を撫でながら、術者の浮竹は。

「今度、苺をたくさんやるから簡便してくれ」

『それなら、許す』

そんなこともあったが、平和に過ごして、夜になり何故か酒盛りをすることになった。

上等な酒ばかりが用意されて、禍津神の浮竹は少々酔ってしまい、術者の京楽もほろ酔い気分というところだろうか。

だが、術者の浮竹は実は酒に弱く、べろんべろんに酔っていた。

一方の式の京楽は酒豪で、どんなに飲んでも酔わない。

「京楽、おい、京楽、聞いているのか!」

「聞いてるよ。っていうか、そっちは術者の僕で、僕じゃないよ!」

「うぃ~~~~」

なんと、術者の浮竹はは術者の京楽を自分の式の京楽と間違えて、押し倒していた。

『ちょっと、センパイ、やばいですって』

「ん」

『ん~~~~』

キスをされて、禍津神の浮竹がそれを見て怒った。

『春水は俺のものだぞ!いくら術者の俺といえど、譲れない!』

「ん~?なんかいつもの京楽より若い・・・目が悪くなったのか、俺は」

『セ、センパイ』

強烈なキスに、術者の京楽もたじたじになった。

凄いテクニックで、キスだけでいきそうになってしまった。

これを、式の京楽は毎日のように味わっているのかと思うと、少しだけ羨ましい気持ちも出る。

『センパイの伴侶はこっち』

式の京楽は、あまりのことに口をあんぐりと開けて押し黙っていたが、我に返って術者の浮竹に口づける。

「消毒しとかないと」

『ボクは汚くないよ。失礼だね』

「その、浮竹がすまない。僕と勘違いしちゃったみたいで。酒には弱いほうだったけど、ここまでべろべろに酔わせたことはなかったから、こんなことになるなんて思わなかったよ」

『酷いぞ、術者の俺!』

ぷんぷん怒る禍津神の浮竹は、また泣き出した。

それを、二人の京楽がなだめてなんとか機嫌をなおしてもらった。

『ボクは十四郎だけを愛しているから。センパイがいくら魅力的でも、十四郎をとるから』

『当たり前だ。春水は俺のものだ。俺だけのものであるべきだ』

「いやぁ、ごめんねぇ、二人とも。ほら、浮竹も謝って」

「ふにゃ~~~~~。もっと酒もってこ~い」

「だめだこりゃ」



術者の京楽と禍津神の浮竹は、その日、術者浮竹の屋敷にまた泊まった。

今日は何もないようで、術者の浮竹は深く眠っていた。

『術者の俺は、大丈夫なのか。あんなに酔って、二日酔いとか』

朝になり、そう言って禍津神の浮竹が術者の浮竹のところに行くと、記憶を見事に飛ばしているが、元気な術者の浮竹がいた。

「その、昨日はすまなかったな。覚えていないんだが、何か凄いことを術者の京楽にしてしまったようで」

『二度目は許さないぞ』

「大丈夫だ、もう酒はしばらく飲まない。飲んでも酔うまでには飲まないようにする」

『そうしてくれ』

「浮竹は酒に強くないんだから、ほどほどにね」

「ああ」

「ほどほどにだよ?」

「分かっている」

「ほんとに?昨日は術者の僕なんかに・・・・・」

「細かいことは聞きたくない!記憶にないんだ。このままそっとしておいてくれ」

「君は、べろんべろんになって僕にベロチューしまくったの」

「え、そうなのか。皆の前で恥ずかしい・・・・・」

『騙されてるぞ、術者の俺』

禍津神の浮竹がそう言うと、式の京楽は怒られてハリセンではたかれる前に、文鳥になった。

「ちゅんちゅん!!」

「あ、ずるいぞ京楽!ええい、羽をむしってやる!」

「ちゅんーーーーーー!!!」

『俺もむしる!』

二人がかりで羽をむしられて、それを高速再生して、式の京楽は逃げるために自分から鳥かごの中に入った。

「ちゅんちゅん!!(虐待反対!!」

「どうせ生えてくるじゃないか」

「ちゅんーーー!!(そんな問題じゃない!!)」

『はぁ、少しすっきりした。術者の俺のことは許してやる』

「すまない」

『ただし、二度目はないからな』

「大丈夫だ。もう、皆がいる前では酒はな飲まない」

『約束だぞ』

「ああ」

指切りをする二人に無視されて、鳥かごの中で式の京楽は。

「ちゅんちゅん!!(僕にも構ってよ!!)」

と鳴きまくるのだった。

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祓い屋京浮シリーズ11

花鬼(かき)

それは花の精であり、花の化身であり、花のもののけである。

季節は秋。春の桜の花鬼はよく見かけられるし、桜の花鬼が引き起こす事件を解決するのも術者の仕事である。

しかし、今は秋。

桜はない。

代わりに、金木犀が甘い匂いをさせて満開だった。

「俺のこと、好きだっていってくる花鬼がいるんです。気味わるくて。花鬼って生気を吸い取って人を殺すんでしょう?退治してください」

依頼人は、見目のいい芸能人だった。俳優だそうで、時折ドラマなんかで見かけた。

「サ、サインをいただいても?」

式のルキアが、色紙とペンを持って、立っていた。

「ああ、いいですよ」

「やったー!サインもらえました、ご主人様」

「よかったな、ルキア」

「よかったね、ルキアちゃん」

「はい!」

ルキアが、場を明るくしてくれた。

「で、その花鬼は金木犀の花鬼なんだな?君を好きだと・・・・被害は?」

「つきまとわれるんです!俺の生気を吸い取ってるんだ。最近眠りも浅いし、目覚めも悪いし、食欲もあんまりでない」

「ねぇ、君、その花鬼と会話したことは?」

「ありませんよ、あんな化け物!一方的に好きだっていって、まとわりついてくるんです。退治してください。依頼料は前払いで150万」

京楽が、目を閉じた。

花鬼は確かに人の生気を吸い殺す悪いやつもいるが、大抵は人の生気を少しだけ分けてもらい、花を見事に咲かせる花の精だ。

その花鬼が好きだという相手は、もののけだからととりあってくれない人間であった。

浮竹も京楽も、話し合いで解決を望んだが、依頼人は退治を望んでいて、依頼されたからにはそうせざるをえないかもしれない。

術者は、時に冷酷さが必要だ。

依頼人の俳優が、その花鬼の出る金木犀の場所に案内してくれた。



「好きなの・・・・愛しい人。ただ、傍にいさせて」

「うわぁ、でたぁ!花鬼だ!祓い屋さん、早く退治してください!」

「君・・・こんな人間は放っておいて、違う人間にしなさい。もしくは恋心を忘れて、少しの間眠りにつくといい。金木犀が満開なせいで、人に見えるようになっている。時期がすぎれば、そんな一時の感情なんて忘れるよ」

京楽がそう言うと、13歳くらいの少女の姿をした花鬼は泣き出した。

「想いを受け入れてもらえないのは知ってるの。でも、好きなの。どうしようもないくらいに、好きなの。ただ、好きだから傍にいたい。だめ?」

「花鬼が傍にいるなんて知れたら、俺の仕事が減る!だめだだめだ、俺につきまとうなこの醜い化け物が!」

「私は花鬼の鳴(めい)。私のことをどうか忘れないで」

「知るか!」

依頼人は、冷たく花鬼に接する。

浮竹は、見ていられなくて、花鬼の鳴の手を取った。

「俺が、この依頼人のことの記憶を消してやろう。だから、諦めるんだ」

「そんなの嫌。死んでもいいから、記憶に刻まれたい」

「鳴・・・・・・・」

浮竹は、泣く鳴を抱きしめた。

「花鬼なのに、生気を全然吸っていないんだな。もろい。金木犀は満開だが、このままだとお前は消滅するぞ」

「それでもいいの。この人を見ていられるなら」

「ねぇ、浮竹かわいそうだよこの子。退治する以外でなんとかならないの」

「だから、今その方法を模索している」

「ちょっとあんたら、前金で150万も払ってるんだ。さっさとこの化け物を退治してくれ!」

浮竹は、依頼人に依頼料を投げ返した。

「この依頼は受けない。鳴、花の咲く場所を変えよう。俺の家の庭にくるといい。そして、新しい誰かと恋するといい」

「この恋を諦めて?」

「そうだ」

「でも・・・・・・」

「いいから、おいで」

浮竹に抱きしめられて、鳴は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。そう、言ってくれる人がいてくれるだけで十分。私、還るよ。天に」

「おい、鳴!」

「鳴ちゃん!」

金木犀の花鬼は、涙をぽろぽろ流して、すーっと空気に溶けていく。

「だめだ、消えたりしちゃ。怨念が残って、悪霊になる。お前はは生きるべきだ」

浮竹は、再生の力を与えて、消えゆこうとする鳴を、地上に押しとどめた。

「なんだよ、あんたら!依頼を遂行してくれないって、業界に流しやる」

「そんなことしたら、どうなるか分かってるの?」

京楽が、水龍神の瞳で、依頼人を睨んだ。

「ひっ。化け物おおおお!!ひいいいい!!!」

水が溢れて、依頼人を包み込む。

「お、俺が悪かった。何もしないから、殺さないでくれ!」

京楽は、溜息をついて依頼人を解放した。

浮竹は、業者を呼んで、鳴の宿る金木犀を運んでもらい、自分の屋敷の片隅に植えた。

鳴という名の花鬼は、消滅することなく、依頼人を忘れることにして、新しい人生を歩み出す。




「鳴」

「はい」

「元気か?」

「はい、元気いっぱいです。海燕さんが好きです」

鳴を、屋敷の庭にうつして一週間。

鳴は、優しく語りかけてくる浮竹の式神の海燕を好きになっていた。

京楽は安心した。

鳴が、自分か浮竹を好きになることがないように、祈っていたからだ。

浮竹を好きになられたら、残念だが記憶を抹消させるしかないし、自分を好きになっていたら、これまた抹消するしかない。

海燕も満更ではないようで、鳴と仲良くやっていた。

「依頼人、ほんとに僕らのこと業界に流さなかったね」

「お前の脅しが効いたんだろう」

「僕はちょっとだけ、力の片鱗を出しただけだよ」

「それでも十分脅しだ。水龍神だけに、水を操れるから人の体内はほとんど水でできている。血液を少しだけ沸騰させるだけで殺せる」

「僕は無駄な殺しはしないよ」

「当たり前だ」

浮竹は、甘い香りをさせる金木犀の下で、京楽に抱きしめられて、キスをしていた。

「ねぇ、僕がもしも花鬼だったら、君は受け入れてくれた?」

「ああ」

「本当に?」

「本当だ。現に水龍神という、花鬼よりもすごく厄介な存在だが、式にして俺の伴侶として受け入れているだろう」

「そうだね。好きだよ、浮竹」

「ん・・・・・・」

キスが深くなる。

「も、これ以上は・・・・」

「うん、寝室で・・・・」

そんな二人を、不思議な表情で花鬼の鳴は見送るのだった。


---------------------------------------------------------



「鳴」

「はい」

「気分はどうだ?」

「うん、いいよ」

もう金木犀も散ってしまう季節。

鳴は、花が散っても眠りにつかず、起きたまま冬を迎えようとしていた。

「海燕とは?」

「うん、付き合ってはもらえないみたいだけど、好きなままでいてくれてもいいって」

「そうか。新しい恋はしないのか?」

「うん。海燕さんが傍にたまにきてくれるから。私も、海燕さんの傍にいても、別にいいって海燕さんが」

「海燕には、都という婚約者がいる」

「うん、知ってる」

鳴は、少し哀しそうに微笑んだ。

「お前だけを思ってくれる式を作ろうか?」

「ううん、いいの。そんな偽りの愛なんていらない」

「そうか」

「ああ、ここにいたの浮竹。鳴ちゃん、数日ぶり」

「京楽さん、浮竹さんを大切にね」

「何当たり前のこと言ってるの。僕は浮竹のもので、浮竹は僕のものだよ。大切にしないはずがないよ」

その言葉に、鳴は微笑んだ。

「いいなぁ、相思相愛で。私も、いつかそんな恋をしてみたい」

「花鬼に寿命は長い。いつか、出会えるさ」

「こんな屋敷で咲いていても?」

「依頼人の中から探せばいい。きっと、理解してくれるいい人がいる」

「そうだといいなぁ」

鳴が、海燕と仲良くはやっていたが、海燕に婚約者がいることを知ったのはここ数日のことだった。

「海燕さん以上の人がいたなら、心代わりするかも」

「婚約はしているが、式だから結婚はできないんだ、海燕は。でも、海燕は婚約者の都を愛している。鳴のことも愛しているだろうが」

「うん」

「二股とはちょっと違うな。鳴への愛は、恋人への愛じゃない。どちらかというと友情の愛だ」

「うん。それでも、私は構わないよ。海燕さんが好き」

「お前も、厄介な相手を選んだものだ」

「浮竹さんや京楽さんを選ぶよりはましでしょう?この前、京楽さんが自分たちを好きになったら、記憶を抹消するしかないって言ってた」

「あいつ・・・・・・・」

「怒らないであげて?現に好きにはなってないんだし」

「ああ」

鳴は、笑った。

明るい笑顔だった。

「私、幸せだよ。あの愛した人は全然会話もしてくれなかったけど、海燕さんは私と同じ時間を歩んでくれる。それだけで、幸せだよ」

「そうか」

浮竹は、長い白い髪を風になびかせた。

「おーい、浮竹、夕ご飯の時間だよーーー」

浮竹を呼びにきた京楽に、浮竹が返事をする。

「今、行く」

「じゃあまたね、浮竹さん。私、冬になるし少し眠りにつくよ。海燕さんにも、そう言っておいて」

「ああ。また、春に」

「春に」

「おーい、浮竹ぇぇぇ?」

「うるさい、鳥!焼き鳥にするぞ!」

「ぴえ~~んん。ちゅんちゅん!!」

小鳥の姿になって、京楽は浮竹の肩に止まる。

一人の幼い花鬼は眠りについた。

それを、二人は静かに見守るのだった。

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祓い屋京浮シリーズ10

マオや禍津神の浮竹に狙われたりして、精神的に散々な目にあった式の京楽は、文鳥姿になると頭に10円はげをこさえていた。

「10円はげできてるぞ」

「いわないで。気にしてるんだから」

「超速再生能力でも治らないのか」

術者の浮竹がそう言うと、式の京楽は人姿に戻った。

「人の姿になっても、ほらここに10円はげが・・・・」

「むう。アデランス・・・・・」

「そういう問題!?少しは僕を労わってよ!あいたたたた」

「どうした!?」

いきなり京楽がおなかを抱えて痛み出すものだから、浮竹も顔色を変えた。

演技ではなく、本当に痛いようで、救急車をとか思って式の存在であることに気付いてその思考を、一蹴する。

「何か薬をとってくる。あと、治癒術もかけよう!」

「いたたた・・・・・浮竹、いかないで。うまれる!」

「へ?」

『どうしたの』

『そうしたんだ?』

隣の部屋で、羽毛クッションをもふもふしていた禍津神の浮竹が、術者の京楽と共に姿を現す。

「その、京楽が突然腹が痛いと・・・・回復術をかけても治らない」

『鳥・・・・浮気か?」

「へ?」

術者の浮竹には分からないようだったが、禍津神の浮竹には式の京楽の腹痛の原因が分かるようだった。

「ちゅん!」

式の京楽は、文鳥姿になるとソファーに座り、なんと卵を2つ産んだ。

「ちゅんちゅん!(僕と浮竹の子供だ!)」

「京楽が卵を・・・・・はうあっ」

あまりのことに、文鳥になった京楽はメスであることをすっかり失念していた術者の浮竹は卒倒した。

その体を、やんわりと禍津神の浮竹が抱きとめる。

『しっかりしろ』

「うーんうーん」

気絶した術者の浮竹は、式の京楽が子供を産んで、子供が京楽ママと浮竹パパというひどい悪夢を見る羽目になる。

『とりあえず、卵どうにかしないとな。捨てるか』

「僕と浮竹の卵だよ!」

『そんなはずないでしょ。鳥のメスは無精卵でも卵を産むときがあるからね。君の場合、ストレスがたまりすぎて、卵を産むって形になったんでしょ』

「ちゅんちゅん!僕の卵・・・・・」

文鳥姿でもその気になれば人語をしゃべれるので、式の京楽は取り上げられた卵を哀しそうに見ながら、しょんぼりとなった。

『庭に埋めるね。命の元にはなっていないけど、そうなる可能性のあったものだから』

術者の京楽は、そう言って取り上げた卵を庭に埋めにいった。

卵を産んだことで、腹痛のなくなった式の京楽は、気絶したままの術者の浮竹に膝枕をしてやる禍津神の浮竹に嫉妬した。

「どいて。僕が膝枕する」

人の姿になった式の京楽がそう言った。

『鳥、卵を産むのははじめてか』

「そりゃそうだよ。僕も卵産めるなんて知らなかったよ」

『今後も産みそうな可能性があるなら、術者の俺に説明しておけ。卵を産む度に卒倒されてはいろいろ困る』

「うーんうーん、京楽が卵を・・・・京楽がママで俺がパパ・・・うーんうーん」

『かなり酷い悪夢を見ているようだな』

「どいて。浄化術で悪夢を消す」

式の京楽は、立ち上がって術者の浮竹の体を預かると、浄化の術をかける。

すると、術者の浮竹が目覚めた。

「あれ?ここは・・・・はっ、俺と京楽の子供は!?」

『おちつけ。鳥というか式と人の、それも同性の間に子はできないだろう』

「むう、それもそうか。なんだかすごい嫌な夢を見ていた」

『災難だったな』

術者の浮竹の長い髪を、禍津神の浮竹が撫でる。

「僕のものだよ。あげないからね」

『誰もとろうとなんて思ってない。この鳥め』

「君がいたずらばかりしてくるから、僕は10円はげができたんだよ!」

『そうか。早く生えるといいな。育毛剤を買ってやろう』

「ムキーー」

「10円はげはストレス解消したら治るだろう」

「じゃあ、今夜の僕の相手、してくれる?」

「なんでそうなる!」

真っ赤になった術者の浮竹は、式の京楽をハリセンではたいた。

庭に卵を産めてきた術者の京楽が帰ってきた目の前で、キスをされたからだ。

『別にボクらの存在なんて気にしなくていいのに。ねぇ、十四郎、好きだよ』

『あ、春水・・・・・・・』

術者の浮竹と式の京楽の目の前で、いちゃつく二人を見て、変わったなぁと思った。

勿論、よい方向に。

その日は、術者の京楽と禍津神の浮竹は、術者の浮竹の屋敷に泊まっていった。

かすかな喘ぎ声が、2人の耳にも届いていたのは、秘密であった。


『朝早いな』

「んー。何もする気がおきない」

禍津神の浮竹に朝の挨拶をされて、術者の浮竹は物憂げな表情でソファーの上に寝転がっていた。

式の京楽の羽をつめて作った2つ目のクッションを手に。

「あのアホが・・・」

『盛ったんだろう?』

「う・・・・」

『隠してもバレバレだからな』

「客がきてるのに、あいつ」

術者の浮竹は、静かに怒っていた。

流されたとはいえ、そういう関係に陥ってもう長いが、客がきている日に盛られたのはあまり少ない。

「後で、羽むしってやる」


「へっくしょん」

寝室で、式の京楽は盛大なくしゃみをして起きて、隣に術者の浮竹がいないのに気づいて、着替えてリビングにいくのだが、盛大にハリセンが炸裂したのは言うまでもない。



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祓い屋京浮シリーズ9

『鳥臭い』

そう言いながら、禍津神の浮竹は、あげたばかりの羽毛クッションを使っていた。

「鳥臭くて悪かったですねぇ」

『鳥。こんなに羽毛を集められて、よくハゲにならないな』

「再生能力のおかげですぅ。どうせ僕は浮竹に毎度羽をむしられてるよ」

『鳥が、いらないことをするからだろう』

「う・・・・・」

図星をさされて、式の京楽は黙り込んだ。

術者の京楽と同じ術者の浮竹は、庭で結界を張り合い、お互いに攻撃をしたりして修行していた。

邪魔にならないようにと、式の禍津神の浮竹と式の京楽は、庭に出ずに屋敷のリビングでお留守番だった。

「ねぇ、鳥臭いって言ってるわりには、そのクッションよくもってくるよね」

『春水の愛用の品なんだ。だから、持ってきてる』

「へぇ・・・・・鳥くさいのに?」

『春水には匂わないらしい』

「君、嫉妬してるでしょそのクッションに」

『な、そんなことはない!』

「へーふーんへーそうなんだー」

悪戯心をちらつかせた式の京楽を、禍津神の浮竹がその頭がはたいた。

「痛い!暴力反対!」

『鳥が全部悪い』

「ちゅんちゅん!!!」

式の京楽は、旗色が悪いからと文鳥姿になって飛んで逃げようとする。

それを、禍津神の浮竹が捕まえた。

『焼き鳥にしてやる』

「ちゅんちゅん!!!」

羽をむしられて、それでもすごい速度で再生していくのが面白くなって、禍津神の浮竹は意味もなく式の京楽の羽をむしり続けた。

『何してるの、十四郎』

『あ、春水!修行は終わったのか?』

式の京楽をほっぽりだして、禍津神の浮竹は術者の京楽の元に走り寄る。

「お前、何かやらかしたのか。こんなに羽が・・・・・もったいない、2個目のクッションの材料にしよう」

「ちょっと、僕への心配はなし!?こんなに羽むしられたんだよ!」

「お前は超速再生能力があるだろう。特に、か弱い鳥の時には」

「それはそうだけど、式の君がやらかしたんだよ。怒ってよ!」

『禍津神の俺、京楽の羽をむしるときは一か所にまとめてくれ。こう散らかっていると集めるのが大変だ」

『分かった』

「なんでそんな話になるの!羽をむしられるのOKなの。酷い!」

ちゅんちゅんと文鳥姿になって、ふてくされた式の京楽は、術者の京楽の肩に止まってすりすりと、嫌がらせを(禍津神に)始めた。

『春水に触るな、鳥!!』

「ちゅんちゅん!(悔しかったら、君も鳥になってみればいい」

『むう、この鳥め!チキンソテーにしてやる』

本当にしかねない勢いの禍津神の浮竹に、術者の浮竹がその口にアーモンドチョコレートを入れて落ち着かせた。

「落ち着け、式の俺。こいつへの仕置きは俺がしておく」

術者の浮竹は、むんずと術者の京楽にすりすりしてる文鳥姿の京楽を鷲掴みにして、超速再生がはじまる前に羽をむしりだす。

「ちゅんちゅん!(ぎにゃあああああああああ!!!)」

「ふふふふふ、2つ目のクッションを作ってやる」

『術者の俺、クッションにするのはいいが、もういらないからな』

「ああ。俺が使う」

『災難だねぇ、式のボク』

術者の京楽は、式のルキアが入れてくれた紅茶を飲みながら、禍津神の浮竹の頭を撫でていた。

「ちゅんちゅん!(そう思うなら止めてよ!)」

『君の相方なんだし、好きにさせるのが一番だよ』

「ちゅんちゅんちゅんーーーーー!!!(こんな家出ていてってやるううう」

「そうか。なら出ていけ。俺は知らん」

「ちゅんちゅん!(嘘ですごめんなさい!羽むしっていいから、冷たくしないで!)」

『術者の俺、本当は出ていってほしくないんだろう?』

「う・・・・・」

禍津神の浮竹は、式の京楽の羽で作られたクッションにもたれながら、そう言った。

「で、こうなる原因はなんだったんだ」

『さぁ?』

もう、式の京楽の羽がむしられる原因を、皆忘れていた。

術者の京楽と禍津神の浮竹が去ると、術者の浮竹は2個目のクッションを作り、それを使いはじめた。

「さわりごこちはいいんだがな。ふわふわしてて」

「そりゃ水龍神でもある僕の羽だからね。浄化作用もあるし」

「まぁ、そこが術者の京楽も気に入っているんだろう。禍津神の俺はそれが気に入らないようだったが」

「僕の羽は安くないよ!」

「誰も金の話なんてしてない。そもそも超速再生があるんだから、ただも同然だろう」

「僕の羽は高いんですぅ!」

「そうか。じゃあ、今度から羽をむしるときに10円をやろう」

「たった10円!?酷い!100万はするよ!水龍神の浄化作用とリラックス効果と疲れ防止のついたクッションになるんだよ!」

「いろいろ効果があってお得なんだよな。禍津神の俺もちゃんと利用すればいいのに」

「ちゅんちゅん!!」

式の京楽は、羽をむしられる前に自分から鳥かごに入った。

「おい、京楽。羽が少し足りないんだ。むしらせろ」

「ちゅんちゅんーーーーーーー!!(いやあああああああ!!)」

こうして、また羽をむしられて、それを超速再生させる式の京楽であった。


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無題

「京楽、少し変わったか?」

「ん、分かる?暴走しちゃってから、いろいろ反省して禍津神の浮竹に修行に付き合ってもらったんだよ。これ、お土産のアップルパイ」

「式の俺に、修行とか・・・・あれは神の中でも災厄を司る神だ。大丈夫だったのか?」

「うん」

浮竹はアップルパイを受け取り、式のルキアに紅茶を入れてもらいながら、改めて自分の式である京楽を見た。

いつものちゃらんぽらんな雰囲気が消し飛んでいて、精悍な様子に見えた。

「その、かっこよくなったな・・・・・」

顔を赤くしながら、浮竹はアップルパイを口にした。

「うまい・・・・・」

「術者の僕の作るお菓子、おいしいからね。かっこよくなったでしょ?だから、今日は・・・・」

すっと尻を撫でてくる京楽をハリセンで叩いて、浮竹は真っ赤になってアップルパイを口にほうばって、京楽を文鳥姿にした。

「ちゅん、ちゅん!」

「お前という奴は、少し褒めるとそうやって下心をを出す!それがお前の最大の欠点だ」

「ちゅん~~~」

文鳥姿になった京楽は、浮竹の肩に止まって、寂しそうに鳴いた。

霊力を乗せて、文鳥姿のまましゃべる。

「がんばったんだから、ご褒美ちょうだいよ!」

「むう。今日だけだからな!」

「やったあぁ!」

人型に戻った京楽は、浮竹にキスをして、抱き寄せた。

「んっ・・・・・・」

『ありゃりゃ、お邪魔だったかな?』

突然の来訪を告げたのは、術者の京楽だった。

「な、なんでもない!そう、なんでもない。ただのあいさつだから!」

式の京楽をハリセンで殴り倒して、術者の浮竹は真っ赤になった。

『あーあ。修行つけたのに、下心は消えないのか、鳥は』

禍津神の浮竹は、殴り倒されてしくしくと泣いている式の京楽を見た。

「ちゅん!」

情けない姿をずっと晒せなくて、式の京楽は文鳥姿になって、術者の京楽の頭の上に乗った。

『おーい、頭に乗らないでくれないかな。今日は、依頼を一緒にこなすためにきたんだよ』

酷い悪霊に憑りつかれた男性が、女性を襲いレイプして殺しているという凄惨な事件が、ここ数日おこっていた。

『ボクらだけじゃあ、犯人が出る場所が分かりにくいからね。式を飛ばしても人数が足りないんだ。協力してくれるかい?』

『水龍神、修行のl成果の見せ所だぞ』

「引き受けよう、浮竹」

「あ、ああ・・・・・・。酷い悪霊か。祓うのに媒介が必要かもしれないな」

浮竹の場合、媒介は自分の血だった。

もしくは京楽の血か、ルキアの涙。

祓うのに血がいることが時にはあるので、血を流すことは気にしていないが、術者の浮竹に傷を作ってほしくないと、いつも式の京楽が血を与えていた。

『じゃあ、集合場所はここで。明日の朝10時からはりこみだよ』

酷い悪霊ではあるが、いつもはなりを潜めているため、見つけづらいのだ。


翌日。

集合場所で、術者の浮竹は長い白髪を結いあげて、女性ものの着物を着て、自分が囮になることを相談で決めた。

はじめは禍津神の浮竹だったのだが、嫌だと駄々をこねて、術者の浮竹が女装する羽目になった。

術者の浮竹は、一人で行動しているように見えて、式札にしている京楽をつれていた。

『じゃあ、気をつけて。ボクらは囮にひっかからない可能性を見て、他区域を担当するから。そのかっこ、似合ってるよ。ボクの浮竹にも着せたいくらいだよ』

『俺は、女の恰好なんてしないからな!』

『はいはい』

「かわいいよ、浮竹。食べちゃいたい」

式札からそんな声が聞こえるので、術者の浮竹は式札から器用に式の京楽の頭を出して、ハリセンで殴った。

「あいた!」

「あほ言ってないで、いくぞ。前回と前々回に犯行が行われた辺りに行く」

「君は、僕が守るから。安心して」

「ああ」


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「ひひひひ。綺麗な姉ちゃん、おれといいことして死んじゃえよ」

「うわ、これまた酷いどす黒い悪霊だねぇ。修行してなかったら、少し多めの血が必要だったかもしれないよ」

式札の京楽が姿を現して、悪霊に憑りつかれた男は困惑した。

「な、術者か!」

「正解だ。大人しく祓われろ!」

「いやだ、俺はもっと女を襲って、殺すんだああ!お前もレイプして殺してやる」

「僕の伴侶をレイプして殺すだって?」

ゆらりと、式の京楽からオーラがにじみ出る。

式の京楽は、ナイフで指を切って少量の血を流すと、それを媒介にして強力な浄化の力を出す。

京楽は、いつの間にか狩衣姿になり、水龍神の片鱗を見せて、凄まじい悪霊の霊気を相殺して、浄化してしまった。

だが、憑りつかれた男も同じような欲をもっていたので、悪霊を祓われても浮竹に襲い掛かってきた。手にはサバイバルナイフを。

「死ねええ」

浮竹は、式のマオを飛ばして、避ける。

悪霊がとれれば普通に戻ると油断していた浮竹の頬を、サバイバルナイフがかすめて、血を流させた。

「よくも、僕の浮竹に傷を・・・・・・」

暴走しそうで、しないギリギリの範囲でおしとどまり、男の首に手刀を叩き込んで、京楽は犯人を無視して、浮竹にかけよった。

「癒しの力よ・・・・・・」

「京楽、大げさだ。かすり傷だ」

「だめだよ。綺麗な顔にもしも傷が少しでも残ったら、僕が狂う」

「京楽・・・・・・んっ」

傷を癒させれ、ついでにと接吻を受けた。



『あのー。いつまでこうしてるといいのかな?』

「うわ、術者の京楽!それに式の俺まで!」

『ラブシーンは、あまり外でしないほうがいいぞ』

「違う、これは!」

「ラブシーン見たね!10万罰金だよ」

『金とるのかい』

『てもちは5万しかないぞ』

「やだなぁ、冗談だよ・・・・おぶ!」

術者の浮竹のストレートパンチを鳩尾に受けて、式の京楽はしゃがみこんでから、これ以上術者の浮竹の怒りを受けないために、文鳥姿になって、禍津神の浮竹の頭に止まった。

『鳥くさくなる!』

「ちゅん、ちゅん!」

「こんな時にだけすぐに文鳥になるなんて卑怯だぞ、京楽!」

「ちゅーーーーん!!」

怒った術者の浮竹に鷲掴みにされて、数枚羽をむしられた。

「ちゅん!(ごめんなさい、外ではもうしません)」

「はぁ。すまない、術者の京楽に禍津神の俺。悪霊は祓った。後はこの犯人を、警察につきだすだけだ」

『犯罪は犯罪だからね。罪を償うしかない。悪霊がついていたとしても、犯罪をおこしてしまったのだから、贖うしかない。かわいそうだけれど』

「かわいそうなことないよ!こいつ、悪霊がとれた状態でサバイバルナイフで浮竹をレイプして殺そうとしたんだよ!」

『なに、術者の俺をか!許せない、殺そう』

『こら、十四郎』

『あ、ごめん春水。警察だったな……』

結局、警察に引き渡された犯人は、後日6件のレイプ殺人事件で裁判を受けて、死刑判決を受けることになる。

『大丈夫か、術者の俺。襲われたんだろう?』

「ああ、大丈夫だ。頬を少し切られただけだ」

『綺麗に治ってるな。水龍神の力か』

「ああ、そうだ。前はこんなに治癒能力は高くなかった」

『やっぱり、修行の成果が出ているんだよ』

術者の京楽の言葉に、式の京楽は文鳥姿のまま、ちゅんちゅんと嬉しそうに鳴いて、術者の浮竹の肩に止まった。

「京楽、お前のがんばり具合は素直に認めてやる」

「ちゅん!」

「だからって、道端で盛るな!」

「ちゅん!」

「家に帰ったら、好きにするといい」

『『うわ~~~』』

女装しているせいで、妙に色香のある姿でそう言われて、術者の京楽と禍津神の浮竹まで赤くなった。

『その姿で誘うなんて、殺し文句だね』

「誘ってるわけじゃない。報酬だ」

『術者の俺、鳥が鼻血だしてる』

文鳥姿なのに、ぼたぼたと血を鼻から垂れ流して、式の京楽はまた術者の浮竹に鷲掴みにされて羽をむしられるのであった。







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祓い屋京浮シリーズ7

「付喪神が・・・夫を祟るのです」

「はぁ。付喪神のマーガレットちゃんですか?」

「そうです。死んだ愛猫のマーガレットちゃんをはく製にしたら、付喪神になって夜な夜な徘徊し、夫の眠りを妨げて、時には夫を食べそうに・・・・・」

金持ちのそうな婦人は、そう言ってさめざめと泣いた。

「どうか、マーガレットちゃんを祓ってやってください。付喪神を退治してください」

「依頼は受けますが、なぜに付喪神が人に害を・・・・・・」

「知りません!」

付喪神は、人に長く愛用された古いものに自我が芽生える妖怪の一種だ。

100年愛用されたものが神格化して、魂をもつものだと言われている。

依頼主のいうマーガレットちゃんのはく製は、100年なんてとてもじゃないが経っていない。

浮竹は、京楽を呼んだ。

婦人は、泣いてそのまま帰ってしまった。

「どう思う、京楽」

「うん、今日も浮竹は美人だなぁと思うよ」

スパーン。

ハリセンがうなり、京楽は文鳥姿になって逃げながら部屋にある止まり木の枝に乗った。

鳥の姿のまま、霊力を放出して話す。

「マーガレットちゃんとやらについているのは、多分動物の低級霊だと思うよ。マーガレットちゃん自体かも。付喪神ではないでしょ」

「そうだな。俺もそう思う。ほら、もうはたかないから降りて人間の姿になれ」

「チュン!」

京楽は鳴いて、浮竹の肩にとまって、その首元に頭をおしつけた。

「チュン、チュン」

「はいはい、愛してるね。俺も愛してるぞ」

「ちゅん!!!!」

「嘘くさい?ああ、適当だからな」

「酷い!」

京楽は人型になると、客間を抜け出してキッチンにこもり、紅茶をトレイに乗せて戻ってきた。

「とりあえず、依頼主の家にいかないとね」

「この茶を飲んだら向かうぞ。低級霊だろうと、殺されそうになるというのは異常だ」

「そうだね。ぱぱっと祓って、終わらせようよ。そして僕と甘い甘いスウィートな時間を・・・・あいた!」

ハリセンがスパーンと炸裂する。

「鳥。禍津神の俺に食われろ」

「酷い!家出してやる!」

「そうか。もう戻ってくるな。鍵を変える」

「ひ~ど~い~。しくしくしく」

文鳥姿になって、ちゅんちゅん鳴きながら、京楽は浮竹の肩に止まって、共に車に乗って依頼者の家にやってきた。


「ああ、きてくださったのですか、祓い屋のお方。妻が付喪神がついているなんていいますが、何もおきてません」

依頼人の婦人の夫は、はく製にしたマーガレットちゃん(猫)を撫でてから、新しい飼いネコのスコティッシュフォールドの猫を撫でた。

「マーガレットちゃんは綺麗な猫でした。私は愛しましたし、愛されていました。祟られるはずはありません」

「あなた!昨日はマーガレットちゃんのはく製に階段だから落とされかけたじゃないの!」

「あれは、俺が転んだだけだ。マーガレットちゃんは抱いていただけだし・・・・」

夫婦は、ぎゃあぎゃあとやりとりをはじめた。

「そのマーガレットちゃんを、拝借しても?」

「あ、ああ、いいですよ」

「あー。付喪神ではないねぇ。低級な動物霊・・・・と思ったら、猫又がついてるね」

「ああ、そのようだ」

浮竹は結界を張り、夫婦からマーガレットちゃんを完全に引き離して、浄化の札を張った。

「ぎにゃあああああああ!!!」

はく製のマーガレットちゃんの中から、黒い猫又が出てきた。

それに、夫婦は目を見開いて驚いていた。

「猫又でも、悪いことをするのは無視できない。祓い清めたまえ」

式の京楽を使い、浮竹は京楽に浄化の術を乗せると、京楽は水龍神としてもつ浄化の力をさらに増幅させて、はく製から出てきた猫又を祓った。

「にゃおおおおおおおおおん!!おのれ、我を虐待死させておいて、何が愛しているだ・・・・そのスコティッシュフォールドも同じ目にあっている。保護してやってくれ」

それだけを言い残して、猫又はこの世界から完全に成仏してしまった。

「猫又の言葉をまさか、魔に受けたりは・・・・・・」

「します。その猫はいったんこちらで預かります」

「シフォンヌちゃん!」

「にゃああああ」

シフォンヌという名のスコティッシュフォールドは、主人を威嚇して、浮竹の腕の中に飛び込んで震えていた。

「動物病院で診てもらいます。虐待の疑いがあれば、警察を呼びますので」

「なんだと!金を払ってやってるのに!」

「金と犯罪は別物です」

「私たちは犯罪なんてしていない!猫に少しきつくあたっただけだ!」

「それが、犯罪というんだ。動物虐待は立派な罪だ」

「そうだよ。浮竹の言う通りだね。この子、こんなに震えてる」

京楽が、浮竹の手からシフォンヌを受け取って、撫でた。

「にゃあああ」

「京楽、食われるなよ」

「何それ怖い!」

なんだかんだあって、依頼主は前のマーガレットという猫を虐待死させていたのが分かり、現在飼っているシフォンヌも虐待されていて、シフォンヌは浮竹が引き取ろうとしたのだが、鳥なので食われると泣く京楽を見かねて、保護猫として里親を見つけてもらい、引き取ってもらった。


「猫は、怖いんだよ!小鳥姿の僕を見ると襲いかかってくるんだから!」

「それは、お前が文鳥の姿になるかだろうが」

「マオだって、時折僕に襲い掛かってくるじゃない!」

マオは、浮竹のもつ猫の式神の名である。

『そうか。お前は襲われるのが好みか、鳥』

「ぎゃあ、びっくりした!禍津神の浮竹、驚かさないでよ!」

『やあ、センパイ。シフォンケーキを焼いてもってきたんだ。4人でお茶でもしないかい』

「お、いいな」

禍津神の浮竹の背後から、術者の京楽が顔を見せて、シフォンケーキの入った籠を見せる。

『早く食おう。鳥、鳥も食うのか?』

「食べます。んで鳥じゃなくて水龍神。もしくは式ね」

『焼き鳥・・・・チキンカレー・・・・・』

「もぎゃあああああ!」

禍津神の浮竹は、式の京楽の髪の毛を掴むと、式の京楽は文鳥姿になって逃げようとしたところを、術者の浮竹にわしづかみにされた。

「鳥になって逃げるな。ちゃんと、式の俺の相手をしてやれ」

「ちゅん!ちゅん、ちゅん!」

「だってじゃない。お前だけ、その姿でシフォンケーキつつくつもりか。鳥にやる菓子などないぞ」

『鳥のままの鳥にやるくらいなら、俺が食べる』

「人型に戻りますぅ!僕だってシフォンケーキ食べたいよ!」

『じゃあ、いただこうか』

3人がぎゃあぎゃあ言い争っている間に、式のメイドであるルキアから紅茶を入れてもらい、かカップを4人分テーブルに並べてシフォンケーキも4つ置いておいた。

『春水、気がきくな』

『十四郎は、そんなに鳥、鳥って、式のボクをからかわないの』

『だって鳥だし。焼き鳥にしたい』

「もぎゃあああ!!!」

「大丈夫だ京楽、お前は愛玩用の小鳥だ。食べてもまずい」

「そういう話じゃないの!焼き鳥にしようとする発想を浮かべないでよ!」

『『「だって鳥だし」』』

3人同時にはもるので、それを見ていたルキアがふきだした。

「ご主人様とお客さん、面白いです」

「ルキアちゃん助けて~」

「私は洗濯物を取り込まないといけないので。それでは」

ルキアが去っていくと、4人はシフォンケーキを紅茶を口にしながら、最近の祓い屋稼業のことを雑談しだした。

「付喪神がついてるっていいだした依頼人がいてな。ついていたのは、前に飼っていた猫が猫又になって化けたやつだった。浄化したが、かわいそうだったな」

『浄化されたのなら、そうでもないだろう。天国に行ける』

禍津神の浮竹が、出てきた式のマオを撫でた。

『この猫の非常食は、やっぱり鳥だよな?』

「ああ、うーん、まぁそうかもな」

「ちょっと、否定してよ浮竹!」

『さて、じゃあボクらはもう少しゆっくりしようと、ボードゲームの人生ゲームなんてもってきよたよ。懐かしくて遊び方忘れがちだけど』

術者の京楽が持ってきた人生ゲームをお茶の後に楽しんだ。

1位は禍津神の浮竹で、宝くじで億万長者になり、子供を4人作ってゴールした。

最下位は式の京楽で、奴隷になって売り飛ばされた先で病にかかって死んだ。

『鳥、病気には気をつけろ。性病にはなるなよ。術者の俺にうつる』

「ムキーーーー!そんなもんにはなりません!!!」

『でも、してるんでしょ?』

術者の京楽が、赤くなっている術者の浮竹に聞くと、術者の浮竹はこの話は終わりだとばかりに、ハリセンを3人に炸裂させた。

『いたい』

『あいたた』

「ちゅん、ちゅん!」

すぐに文鳥姿になった式の京楽は、慣れているので術者の浮竹の肩に止まった。

「恥ずかしいから、この話はなしだ!いいな?」

『『「は~い」』』

術者の浮竹は、術者の京楽と式の浮竹が無事帰路についたのを確認して、肩に止まったまま眠りこけている京楽の頭を撫でるのだった。




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祓い屋京浮シリーズ6

「普通のご飯が食べたい!」

鳥かごの中で、文鳥姿の京楽はそうのたまった。

また、お仕置きの途中だ。

寝ている浮竹の寝顔を見ていて、むらむらして襲ったのは京楽以外ありえない。

そういう雰囲気で流されるなら浮竹もそう怒りはしないし、同意の上で体を重ねるなら浮竹も自分に非があると認めて、回数が多いのに怒って、せいぜいハリセンで数回殴るくらいだ。

今回は、完全に京楽が悪かった。

「ごめんなさい、もうしません~~~~~~。ちゅんちゅん!!」

浮竹は、むすっとした顔で、鳥かごの中の桜文鳥姿の京楽を睨んだ。

止まり木と巣があるので、狭いが何気に綺麗に掃除も行き届いており、鳥であれば快適に暮らせるだろうが、京楽は鳥の姿をとることはあれど、本来は水龍神であり、浮竹のも人型の式だった。

『こんにちわ~。先輩、式の小鳥届けに来たよ』

『鳥が、落ちてた』

禍津神である式の浮竹が、そう言って鳥かごに入った桜文鳥を術者の京楽と一緒に届けにきた。

ルキアと海燕は、顔なじみであると知っているので、2人を通したようだった。

「お客様、今お茶をいれてきます」

『ありがとう』

『あれ、鳥がそっちにもいる。こっちの鳥は鳥じゃないのか?』

術者の浮竹もびっくりした。

手元に桜文鳥になった京楽の入った、鳥かごがある。

「こっちのほうが本物なんだ。それは、迷い鳥だな。どこかで飼われていたのが逃げ出したんだろう。飼い主が届け出をしているかもしれない。警察に届けよう」

『え、この鳥お前のとこの鳥じゃないのか』

『おなかすかせてるみたいだから、そっちの鳥かごに入れてやってもいい?』

式の京楽のマイホーム(しかし、鳥かご)に、違う桜文鳥を入れると、その桜文鳥は京楽のことをまずは無視してがつがつと餌を食べてから水を飲み、水浴びをしてから桜文鳥姿の京楽に求婚の踊りをしだした。

『この子、オスだったの』

『求婚されてるみたいだぞ。よかったな鳥。幸せになれよ。子供はたくさん作れ』

「僕も、オスなんですけど!!!!」

鳥かごの中で、式の京楽は羽をばっさばっさとふりあげて、交尾しようとしてくるオスの桜文鳥を妨害していた。

「このままつがいになるのか。それもまたよし」

「よしじゃあないでしょ!君の最強の式神が、寝取られちゃうよ!」

「寝取りは嫌だな・・・・・仕方ない、オスの桜文鳥は警察に届けよう」

術者京楽と禍津神の浮竹がもってきた鳥かごに、水と餌を設置して、なんとか鳥かごから出してもらえた式の京楽と一緒に、4人で交番にいった。

「迷い鳥ですか。ちょうど、昨日届け出があったんですよ。オスの桜文鳥を逃がしてしまった小学校3年生の女の子が、わんわん泣きながら、親と一緒に届け出をしてきましてね」

そうして、オスの桜文鳥は保護され、数時間後に飼い主の元に返ることになる。

『鳥のつがいはやっぱり鳥だと思ったけど、やっぱやることやってるから術者の俺なんだな』

『同じ桜文鳥だなんてややこしいね。でも、キミが桜文鳥になった時、何気にメスっぽいことを知って、なんか大きな秘密を掴んだかんじだね』

実は、京楽はオスとは言っているが、桜文鳥になるとメスになるのだ。

「もう、僕はしばらく小鳥姿にならないからね!オスにレイプされそうになったんだよ!」

「卵を産んで温めて子孫を増やせ」

術者浮竹の言葉に、式の京楽は泣き出しそうだった。

「ごめんなさああああいいい、もう寝てるとこ襲ったりしません!だから、待遇を改善してください!」

『寝込みを襲ったのか。鳥のくせに随分と強引だな』

『そりゃ、先輩が怒るのも無理ないよ』

いったん、術者浮竹の家に戻り、お茶をしながらぎゃあぎゃあとやりとりをしていた。

『この前、チキンカレーおいしかったぞ、鳥。鳥は鳥のくせにチキンは食えるか?』

「鳥、鳥って、僕には京楽春水って名前があるんですう!」

『鳥は鳥だ。もしくは焼き鳥』

『式のボク、十四郎の呼び方変わらないから慣れてね』

「なれたくないよ!」

「じゃあ、やっぱりもう一晩鳥かごで・・・・・・」

「ぎゃあああああ、ごめんなさい、慣れます、慣れますから鳥かごのひえとあわと水は簡便してくださいいいいいい」

さめざめと泣く式の京楽をいじり倒して、術者の浮竹は、術者の京楽と、禍津神の自分より年若い姿をした浮竹と笑いあった。


「ちゅん!!!」

いじられ続け、ついに人型でいるのを放棄した式の京楽は、文鳥姿になって、術者の浮竹の肩に止まった。

『じゃあ、今日はこのへんで。またな、鳥と術者の俺。京楽、またチキンカレーが食べたい』

『十四郎、そんなに急かさなくても、チキンカレーはちゃんと作ってあげるから、逃げないよ』

「僕を見てからチキンカレーにするって言わないでよ!」

「じゃあ、俺のところもチキンカレーにしよう。ルキアと海燕に伝える」

「あああああ、みんな僕のこと「鳥」って思ってる!」

「ああ、そうだが?お前、本体は鳥だろ?」

浮竹にそっけなく言われて、その肩でちゅんちゅんと鳴いてから、京楽は羽ばたいて浮竹の耳元で叫んだ。

「僕は君の式の京楽春水で、伴侶だよ!」

それに、真っ赤になって、術者の浮竹は、術者の京楽と禍津神の浮竹が帰っていったことを確認してから、桜文鳥の京楽を手で掴んで、鳥かごに放り込んだ。

「なんでーーー!!」

「恥ずかしいことを、人前で言いそうになるからだ。夕飯まで、そこで反省してろ」

「酷い!僕を愛していないの!」

「愛とか!そういうのは・・・・ああ、もう!」

鳥かごから出されて、人型になった京楽に抱きしめられて、浮竹は目を閉じる。

とくとくと、心臓の鼓動がお互いに聞こえた。

「んっ」

舌が絡み合うキスをしてから、そっと離れようとすると浮竹と、すでにスイッチが入ってしまった京楽と格闘になり、結局ハリセンでボコボコにされて京楽が負けるのであった。


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祓い屋京浮シリーズ5

「雷獣?」

「そうです。建設現場にあった雷獣の石碑を邪魔なので壊したら、空から雷が降ってきて、直撃ではないのですが、人が感電してしまうんです。死者もでています。どうか、空から降りてきたあの雷獣を退治してはいただけないでしょうか」

「石碑を壊されて、怒ってるんだろうね」

京楽が、依頼人に紅茶を出しながら、自分も紅茶を飲んだ。

「雷獣は気性が荒いが、そうそう人に害をなす妖怪じゃない。石碑を別の場所に建て替えても無理だっったのか?」

浮竹が、依頼人に聞くと、依頼人の工事現場の監督は、首を横に振った。

「あいている土地に移したんです。でも雷獣はあの土地に縛られているようで・・・・どうかお願いします。これ以上死者が出る前に雷獣を退治してください!」

「わかった。引き受けよう」

「人が死んでたら退治するしかないね」

依頼人は、顔を輝かせた。

「ルキア、彼を外の車まで送ってやってくれ」

「はい、ご主人様」

人型でメイドで式でもあるルキアは、依頼人を車まで送り届けた。


同じ人型の式である海燕は買い物に出かけている。

残っているのは、式の京楽。人型をとるが水龍神でもある。

浮竹のもっている式の中で最強であった。

同じくらい夜一も強いのだが、気まぐれであまり顔を見せず、猫の式神マオの食事を横取りしては、黒猫姿で町を徘徊していた。

夜一は人型になると褐色の肌をもつ、美女だ。

京楽より古くいるので、一時は京楽が浮竹にちょっかいを出す夜一に嫉妬したりしたものだ。

「死者も出ていることだし、仕方ないから退治するか。式はお前とルキアで行く」

「分かったよ。ルキアちゃんはサポート役かな?」

「ルキアの結界は強いからな。雷獣を足止めするにはちょうどいいだろう」

「じゃあ、早速出発かい?」

「もうすぐ夜だぞ。明日の朝だ」

浮竹は、窓の外から日が暮れていく様子を見ていた。


次の日、浮竹と京楽とルキアは、依頼のあった雷獣を退治すべく、建設現場にきていた。

「おお、いるいる。威嚇されてるねぇ」

ごろごろと、雲が集まって雷の音がした。

「雷獣よ!人を襲うのはやめて、大人しく封印されてはくれないか!」

「人間如きがこの俺を封印するだと?笑止。俺はこの土地を守るように、雷神様から土地に降ろされたのだ。この土地を汚そうとする人間は許さぬ。死んでしまえ」

ごろごろごろ。

がらがらぴしゃん。

雷が、浮竹のいた場所に落ちた。

「話し合いには応じてくれそうにないな」

「雷神って、あの雷神か」

「なんだ、京楽知り合いなのか?」

「いや、水龍神だった頃に何度か会ったことがある。人間嫌いの爺さんだった」

「水龍神か。神であろう者が人間の式になるなど・・・・プライドがないのか!」

雷獣は、京楽に雷を落とした。

「京楽様、大丈夫ですか?」

ルキアがすかさず結界を張り、すでに雷獣のいるフィールドはルキアの結界によって閉じられていた。

「この青二才が!雷獣である俺を閉じ込めれると思ったか!喰らえ、雷よ吠えろ!」

雷獣は、空からではなく自分から雷を打ち、浮竹と京楽とルキアに向かわせる。

その全てを、ルキアが結界で防いだ。

「雷神の子でもあろう雷獣を殺すのは少しかわいそうだけど・・・・縛!」

京楽が呪文を唱えて、雷獣の雷を出せなくして、ルキアが結界で雷獣の動きを封じた。

「おのれ、人間如きがああああ!!!」

暴れまわる雷獣は、京楽の縛で動きの大半を抑えられて、結界の中で自分で自分に向かって雷を放っていた。

「ご主人様、結界を解きます。どうか駆除を」

封印でなく、駆除するということは退治するということだ。

どんな理由があれ、人を殺した妖怪や霊の類は始末されるのが、この業界の基本だった。

「今だ、ルキア、結界を解いてくれ」

「はい!」

「うおおおおおお!!」

雷獣は吠えて、結界が解かれた一瞬の隙をついて、浮竹に強烈な雷をお見舞いする。

「反射!」

「ぬおおおおおお」

自分に自分の最大の雷を返されて、雷獣はもんどりをうって転げまわった。

「おのれええ、おのれええ、人間ごときがあああ」

「僕は水龍神でもあるんだけどねぇ」

式である京楽が、浮竹の前に立って、浮竹を守る。

「水龍神!人ごときの式になるなど」

「おあいにく様。僕は、浮竹の式になれて嬉しいんだよ。僕を怒らせようとしても怒らないよ」

「ぐおおおおお!!!!」

浮竹が呪符を何枚も雷獣に飛ばして、雷を吸収していく。

雷を吸収した呪符は粉々に崩れていく。

「うおおおお、力があああ!!!」

雷獣の本性は雷そのものだ。

「天に召されよ!調伏!」

「ぎゃああああああああ!!!」

「せめて、違う命に芽生えるように。祝福を」

京楽が、退治されて命を削られていく雷獣に小さな祝福を与えた。

すると、退治されたはずの雷獣は、芽吹く緑となって、芽を出した。

「こんな建設現場で生えてきても引っこ抜かれるだけだ。持って帰って植え替えてやろう」

浮竹が、新芽を根ごとゆっくりと掘り起こす。

「浮竹は優しいねぇ」

「別に優しくなんてない。無益な殺生はしたくなかったが、今回は仕方ない」

「ご主人様、土で汚れてしまいます。私にお任せください」

ルキアが、浮竹から植物を受け取る。

「すまないな、ルキア」

「いいえ、私はご主人様の式ですから」

「だそうだぞ、京楽。少しは見習ったらどうだ。おとついは盛りやがって」

「僕は十分浮竹の役に立ってるでしょ?式としてもプライベートでも」

「この色欲魔が!」

どこからか取り出されたハリセンで頭をはたかれると、京楽は桜文鳥になった。

「暴力反対!ちゅんちゅん!」

「ああ、小鳥になって逃げるつもりか!」

「ちゅん!」

「焼き鳥にしてやる」

「いやああああああ」

別の知り合いの術師京楽のもつ、禍津神の式である浮竹に焼き鳥と言われ、鳥扱いされたことを気にしているのか、焼き鳥をいうキーワードは京楽にとっては恐怖そのものだった。

「ちゅん!」

浮竹の肩に乗り、愛らしい姿でちゅんちゅんと鳴かれては、浮竹の怒りも静まるしかない。

「これが水龍神で俺の最強の式神だって言っても、きっと誰も信じないだろうな」

「ちゅん?」

「私は信じます、ご主人様!」

「ああ、ルキアありがとう。ルキアはいい子だな。帰りに白玉餡蜜を奢ってやろう」

「え、やったあ!」

「ちゅんちゅん!」

僕には?と聞いてきた京楽に、浮竹は冷たい視線を向けて。

「今の鳥かご広いからな。もっと狭い鳥かごに変えて、ぶちこむか」

「ちゅんーーー!!!!」

いやあああああ。

そう叫ぶ、京楽であった。

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祓い屋京浮シリーズ4

「ちゅんちゅん!!」

「だめだ、そのままの姿でいろ。盛るからだ」

「ちゅん!」

文鳥姿で、浮竹の式である京楽は特殊な結界をはった鳥かごに閉じ込められていた。

最近ご無沙汰だったので、盛ってしまい浮竹を抱いたのが昨日。朝起きると、京楽は簀巻きにされていて、風呂に入り情事の後を洗い流した浮竹がにこにこしていた。

「嫌だと言ったのに、しつこく何回も・・・・・」

「もぎゃあああああ!!」

ハリセンでボコボコにされて、しまいには文鳥姿を強制されて、京楽のその日のごはんは、ひえとあわと水だった。

「ちゅんちゅんちゅん」

「反省してます?本当か?」

「ちゅん!」

文鳥姿の京楽は必死で訴えた。

「そういえば、髪喰いを祓う依頼がきていたな。他にも術者を雇ったそうだが・・・・まぁ、共同で退治にあたればいいだろう」

「そうだよ。だから出して~」

文鳥姿で声を出すには力がいる。

京楽はもともとは水龍神であるので、力はあった。

他にルキア、海燕、夜一という人型の式を、浮竹はもっている。

その他には猫と鴉の式神だ。

ルキアと海燕は、屋敷のメイドと執事役をこなしていて、家事などをしてくれた。

「仕方ない。出してやる」

浮竹は京楽を鳥かごから出すと、京楽は人型になって、浮竹に抱き着いた。

「大好きだよ浮竹」

「また、鳥かごに戻りたいのか」

「ごめんなさい。簡便してください。それより、髪喰いは結婚前の長い女性の髪ばかり切って食べるらしいね。とある令嬢が被害にあって、それで僕ら以外にも依頼を出したみたいだよ」

「被害にあるのは未婚の女性・・・・・地域は決まってここらへんだ。次の被害が出る前に動こう」

「うん」


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『髪喰いねぇ。禍津神(まがつがみ)のキミが出るほどの相手じゃないと思うんだけど、依頼料が高いから引きう受けてはみたけど、まさか同じ術者を他にも雇ってくるなんて。よっぽど、髪喰いを退治してほしいらしいね』

それは、若い姿の京楽だった。

祓い屋業界でも名の通った、祓い屋であった。

式に禍津神の浮竹を従えていた。

『さっさと終わらせて、報酬でケーキバイキングに行こう』

『はいはい・・・・・』

式の浮竹は、ケーキが大好きだった。

負の神であるが、力は確かなもので、淀んだものを食べたりした。


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「ああ、今回の同じ依頼を受けた・・・・・」

『祓い屋の京楽春水です』

「俺は浮竹十四郎。後ろにいるのが、式の・・・・京楽春水。同じ名前でややこしいが」

『ボクの式は禍津神だけど浮竹十四郎というんだ』

「これまた、ややこしい・・・・」

『京楽が年をとったら、あんな風になるのかな?』

術者京楽の式の浮竹は、術者浮竹の式の京楽を見ていた。

禍津神である式の浮竹に、同じ式である京楽は手を振っていた。

『なんか、ちゃらいかんじがする。やっぱり、京楽はお前がいい』

『ちゃらい式・・・僕の姿をしてるだけあって、力はありそうだけどね?』

術者の京楽は、術者浮竹の式の京楽を見た。

「一応、水龍神だ。そっちの
禍津神ほどではないかもしれないが、力はある」

『神様同士の式か。強そうだね』

「よろしく頼む。俺たちは北側を当たるから、そちらは南側を対処してほしい」

『分かったよ』

『分かった』

術者京楽と式の浮竹は、南側に移動した。

「若い頃の浮竹みたいでかわいいねぇ」

「京楽、お前は飯ぬきにされたいのか」

術者浮竹と式の京楽との仲は、悪いわけではないが、術者京楽と式の浮竹のように甘いわけでもなく、それなりの関係を築いていて、肉体関係もあった。

「きゃああ!!あたしの髪があああ!!!」

北側で警戒していた浮竹の元に、悲鳴が飛び込んでくる。

「髪喰い、ここでお前は終わりだ!」

「クケケケケ、もっと髪をよこせ。若い女の髪を!」

髪喰いは子供くらいの鬼の姿をしていた。

「お前の食事も、今回が最後だ。いけ、京楽!」

「はいはい・・・・」

水を渦巻かせて、京楽は髪喰いを水の縄で戒めると、浮竹が呪文を唱え、髪喰いに浄化の術を施す。

「ぐげげげげげ、自由がきかない。術者ごときにやられてたまるか!」

髪喰いは、浮竹の白い髪に長い手を伸ばして、浮竹の白い髪は肩あたりで奪われてしまった。

「よくも、浮竹の綺麗な髪を!」

「ぐげげげげ、力が漲る・・・・なんだこの髪は。すごいぞ、女の髪を食わなくても力が溢れてくる・・・・・」

「滅せよ!」

京楽が、浄化の焔を噛み喰いに向けた。

「ぐぎゃあああああああ!!」

髪喰いは、怒った京楽の浄化の力で、滅した。

「ああ、僕の浮竹の大事な髪が・・・今、再生させるから」

「別に髪なんて・・・・・」

「だめだよ!僕は君の長い綺麗な白髪が大好きなんだから」

癒しの力で、京楽は浮竹の短くなってしまった髪を元通りにしてしまった。

「術者の京楽に式を飛ばすか。退治が終わったと」

「うん。マオ、頼むよ」

「にゃあ」

浮竹が従える猫の式を飛ばして、術者京楽たちに連絡を入れる。

お互い、依頼主のところにいって報酬をもらい、簡潔な別れを告げる。

『機会があれば、いずれまた』

『俺は別に興味ない。ケーキバイキングにいくぞ、京楽』

「術者同士の会合なんかで会ったら、よろしく頼む」

「ばいばい、かわいい浮竹ちゃん」

「京楽~~~?」

「あいたたたたた」

京楽は、式の浮竹に少し興味があるようで、主である術者の浮竹に頭をぐりぐりされていた。

「ちゅん!」

「あ、文鳥になって逃げるか!」

「ちゅん、ちゅん!」

京楽は数度羽ばたくと、浮竹の肩に止まった。

それを物珍し気に術者京楽と式の浮竹が見ていた。

「こいつ、都合が悪くなったらいつも文鳥姿になって逃げるんだ」

『でも、かわいいね』

『・・・・・・・焼き鳥・・・・』

式の浮竹の言葉に、びくりと文鳥の京楽は震えて術者浮竹の背後に隠れる。

『冗談だよ、ね、浮竹』

『夕食は焼き鳥にしよう』

文鳥になった京楽は、チュンチュン鳴いて、逃げ回った。

襲ってくる者はいないが。


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「はぁ。焼き鳥にされると思った」

「いくらなんでも、ペットにもなる文鳥を焼き鳥にする輩はいないだろ」

「分からないよ。あの浮竹ちゃん、僕をおいしそうに見てた」

「気のせいだ」

おいしそうというより、物珍し気に見ていたのを知っているので、浮竹はそれ以上言わなかった。

「この前はマオに襲われて食われかけるし、僕は文鳥から鴉にでもなろうかな」

「それはだめだ」

「どうして?」

「文鳥姿のほうがかわいいからだ」

「そうですか・・・・・」

「文鳥用の餌も鳥かごも無駄になるじゃないか」

「僕はペットじゃないんですけど」

「似たようなものだろう」

「酷い!愛がない!」

「愛が欲しいのか?」

浮竹が笑い、京楽の長い黒髪を手に取って引き寄せると、唇に唇を重ねた。

「はい、おしまい」

「え、続きは!?続きしようよ!ベッドまで運ぶから!」

「盛るな!」

浮竹は、ハリセンで京楽の頭を殴った・

「ええ、きっかけを作ったのは君でしょ!」

「昨日抱いたばかりだろう。俺は嫌だ」

「むう。じゃあ、一緒のベッドで寝るで我慢するよ」

「そうしておけ」

浮竹は、食事をして風呂に入ると、早々にベッドに横になった。

京楽も同じベッドで横になる。

「ああ、浮竹の匂いがする」

「変態か」

「君が好きだよ」

「知ってる」

軽くキスをかわして、照明を落とす。

浮竹はすぐに寝てしまい、京楽もまた力を使った疲労感からか眠りにつくのであった。


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祓い屋京浮シリーズ

「おい、起きろ京楽」

「うーん・・・げへへへへ、浮竹、愛してるよ」

「なんの夢を見てるんだ!いい加減起きろ!」

浮竹は、京楽の頭をハリセンでスパーンと殴った。

「はっ!僕の愛しいエロい浮竹が消えた!」

がばっと起き上がった京楽の目に映ったのは、正装している浮竹の姿だった。

「浮竹、どうしたのそのかっこ」

「依頼主に会うためだ。とある大会社の社長らしい。普段着ではまずいから、スーツを着た」

「スーツ姿の浮竹って新鮮だなぁ。脱がしたい」

「あほか!」

ハリセンで殴られそうになって、京楽は桜文鳥の姿になると、浮竹の頭の上に乗った。

「ずるいぞ。文鳥になるなんて」

「だって、浮竹のハリセン、容赦ないんだもの」

「そりゃ京楽相手だからな」

「酷い!」

はたから見れば、桜文鳥が浮竹の頭の上でちゅんちゅんと愛らしく鳴いているようで、実際は違った。

「とにかくお前も・・・・・ああ、めんどくさいから桜文鳥のままでいい。式だと説明すればいけるだろう」

そうして、用意した車を浮竹は運転して、とある大会社の社長に、応接室に通してもらった。


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「どうか、座敷童様をお守りください。とある退治屋が、代々我が家系の繁栄を約束してくれた大切な座敷童様を殺そうとしているのです」

「その座敷童はどこに?」

「私の邸宅の地下に」

「まさか、座敷牢などに監禁してないないだろうな?」

「チュンチュン!」

「まさか!座敷童様のために特別にあつらえた部屋で、静かにお過ごしになられております。飽きないように、術者を雇って、式で遊び相手をしてもらったりしていますし、座敷童様がその部屋を出たいと言ったことはありません。決して監禁などしておらず、地下室にいるのは座敷童様の意思です」

「ふむ・・・・その座敷童を殺そうとしている相手に覚えは?」

「商売敵のB社の手の者かと。退治屋を最近雇ったと聞きます」

「ふむ・・・・今回の敵は、同業者というわけだ」

「同業者同士の争いは、なるべくしたくないんだけどねぇ」

ちゅんちゅん鳴いていた桜文鳥が、いきなり人の姿をとったので、その社長はびっくりして腰を抜かした。

「ああ、俺の式の京楽春水。桜文鳥の姿をとるが、一応人型で俺が持っている中でも最強の式だ」

「さようで・・・・その、依頼のほうは受けていただけるので?」

「ああ、引き受けよう」

「そうだね。何もしてない座敷童ちゃんを殺すなんてひどいしね」

京楽は、浮竹用に出された茶菓子とお茶を飲みながら、一息つく。

「座敷童ちゃんは僕が守るよ。浮竹は術者を見つけて話をつけて。もしくは、不利になったら僕を呼んで。座敷童ちゃんを数時間は守れる結界をはるから」

「分かった」

こうして、浮竹と京楽は社長の邸宅の地下室にいる座敷童のところにいき、一度守ることを伝えると、座敷童はあどけなく笑った。

「お兄ちゃんたち、あたいを守ってくれるの。ねぇ、お手玉しよ?」

「はいはい、それはこっちの京楽がしてくれる」

「あ、ちょっと浮竹!?」

「式の気配がする。行ってくる」

「気をつけてね!これ、僕のお守り!攻撃を一度はじき返すように作ったやつ」

人型の紙人形を受け取って、京楽を座敷童の守り手にして、浮竹は気配のあった式がいるであろう場所へ向かった。

「隠れていないで出てこい。座敷童に手を出すことは許さない」

猫耳のついた巨乳美女の式がいた。

その式は、浮竹を見ると、微笑んだ。

「ギン、出番よ」

「乱菊、早いがな。争いもしないうちに、僕を呼ぶんかいな」

乱菊と呼ばれた式は、欠伸を噛み殺しながら、ギンと呼ばれた青年の中に消えていった。

「なんや、同業者かいな。こっちはその座敷童を処分せぇって依頼受けてるねんけどな」

「お前は・・・・市丸ギン!」

現れたのは、祓い屋や退治屋の中でもだんとつに力の強い、有名な退治屋だった。

「浮竹十四郎。人型の式神を4体。あとは猫と鴉の式神」

「どこでそれを・・・・・・」

「さぁ、何処でやろなぁ」

「座敷童には、手を出させないぞ!」

市丸ギンは、にっと笑った。

「依頼の価格安いしなぁ。まぁ、今回は退いたるわ。僕も罪のない座敷童なんて殺したくないしな」

「退いてくれるのか」

「ほな、またな」

市丸は神出鬼没で、ドロンと音を立てて、消えてしまった。

あとには、紙人形が残された。

紙人形を使って、本体でなく分身体で相手をしていたようであった。

「助かった・・・・・・・」

「おのれ、市丸ギンめ!お館様の命令を無視しおって!ええい、わしが相手じゃ!」

今度は、70台くらいのじじいの式が現れた。

術者はすぐ近く。

じじいの式は、浮竹に焼けこげるような炎を浴びせた。

ぼっと燃えたのは、京楽が念のためにと渡してくれた紙人形だった。

「京楽、来い!」

「チュン!」

「なんじゃあ、文鳥の式だと?わしをなめているのか!」

「あいにく、ただの文鳥じゃないんだよねぇ」

京楽は、人型に戻ると、水の玉を召還し、それでじじいの式を閉じこめた。

「がぼがぼ」

「そのまま溺れ死んでしまえば?僕の浮竹に手を出した罰だよ。それから、逃げようとしているそこの君、切り刻まれたくなかったら、ちゃんと顔を出して名乗りなよ」

「・・・・・日番谷冬獅郎。座敷童退治を受けたが、同業者と争えとは言われていない。こい、氷輪丸!」

氷の式を呼びだして、名乗った日番谷冬獅郎という年若い少年の退治屋は、京楽と浮竹から距離をとった。

「俺も、市丸のように退かせてもらう。お前は浮竹十四郎だろう。祓い屋の中で有名な相手とことをかまえるほど、バカじゃない」

「あれぇ、みんな退くの?バトルはなし?」

「京楽、争わないでいいならそれにこしたことはない」

「つまんないじゃない」

「京楽!」

浮竹は、京楽の頭を殴った。

「じゃあな。俺は退く」

冬獅郎は、じじいの式を回収して、去ってしまった。

「殴ることないじゃない」

「同業者で争うのは御法度だ。それくらい、知っているだろう」

「あれぇ、そうだっけ?」

「はぁ・・・・・・。依頼主のところに戻るぞ」

浮竹は、結界で守られているとはいえ、座敷童のことが心配だった。

市丸ギンや日番谷冬獅郎ほどの術者ならば、京楽の結界を破壊して、座敷藁を殺すこともできるだろう。

座敷童と依頼主のところに戻ってくると、2人とも無事だった。

だが、様子が変だった。

「あたいは、もう役目をまっとうした。汝らの一族に莫大な富を与えた。もう、自由になりたい」

「座敷童様、そんな我儘を言わずに!」

「いやじゃ。自由になりたいのじゃ」

「依頼主さん、座敷童を自由にさせてあげてくれ。あんたは十分に富を築いただろう」

浮竹の言葉に、依頼主は血走った目で頼みこんでった。

「どうか、座敷童様をこの地に呪縛してください!」

「そんなのいやじゃ!」

座敷童は、京楽の後ろに走ると、その陰に隠れた。

「さぁ、早く座敷童様に呪縛を・・・・・・」

「断る」

「同じく」

「なんだと!依頼料をとっておきながら、依頼主に逆らのか!」

「依頼を受けるも止めるも、術者の自由だ。何百年もこの座敷童の世話になってきたんだろう。もういい加減、解放してやれ」

「いやだ、私は、座敷童様の力でもっともっと、もっといっぱい金を稼ぐのだ・・・・」

「あーあ。低級霊が憑いてるね」

「そうみたいだな。祓うぞ」

「分かったよ」

浮竹は京楽に命じて、清浄なる結界を依頼主周囲に張り巡らせる。そして、穢れなき神の水を満たして、依頼主に憑いていた低級霊を祓った。

「あれ、私は?」

「君、霊に憑りつかれていたんだよ。金に目をくらませすぎてね」

「座敷童様・・・・・」

依頼主は泣き出した。

「ああ、もう、手のかかる主じゃのう。仕方ない、そなたがあの世にいくまでは、まだこの土地で、そなたの一族の繁栄を手助けしよう」

「座敷童様!!」

依頼主はわんわん泣いて、座敷童を困らせた。


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「じゃあ、この結界から、むやみに外に出ちゃだめだ。この結界は君を守るためのもので、特殊な術だ。祓い屋や退治屋から、姿も見えないし認識もできない。ここから俺が離れれば、俺も認識できなくなるから」

「すまんのう」

「浮竹って優しいでしょ」

「そうだのう」

「僕のお嫁さんなんだ。ふがっ!」

「誰が誰の嫁だ!」

浮竹は、京楽の股間を蹴り上げた。

「ぬおおおおおおおお」

じたばたする京楽を置いて、浮竹は歩き出す。依頼料はちゃんともらったし、同業者に根回しして、座敷童は去ったと認識させた。

「ちゅんちゅん!!!」

ばたばたともがきながら、桜文鳥になった京楽が、浮竹の肩に止まった。

「全く、お前は・・・・・・」

「ちゅん!」

「しゃべれるだろうが!」

「痛ひ・・・・・・」

「だろうな。そうなるように蹴ったからな」

「酷い」

「知るか」

「クスン。浮竹、好きだよ」

はためからは、文鳥がチュンチュン啼いて、飼い主がそれに答えているように見えた。

「帰るぞ」

「うん。帰ろう」

ルキアや海燕の待つ、マイホームに帰ることになった。

数日の出張になったが、2人ならうまく家を守ってくれているだろう。

「ねぇ、あの市丸ギンと日番谷冬獅郎って子、同じ系列の退治屋かな?」

「市丸ギンは単独だ。日番谷冬獅郎のほうは、術者日番谷家の一門だろう」

「何はともあれ、同業者と争いにならなくてよかったよ」

「そうだな」

自宅について、家の中に入る。

「おかえりなさいませ」

「おかえりなさい」

ルキアと海燕が、出迎えてくれた。

「ああ。ただいま」

「ただいまー」

浮竹と京楽は、着の身着のままで、そのままベッドに横になってすぐに眠ってしまった。

特殊な、座敷童を守る結界をはるのに丸一日を要したのだ。

くたくたで、眠気がすごくて、我が家に帰ってきてすぐに寝た。

「主、食事は・・・・・」

答えはなかった。

ルキアは、作った食事を冷蔵庫にいれた。

海燕は、たまった洗濯物を洗いにいった。

「ご主人様から、違う式の匂いがする。同業者と、いさかいでもあったのだろうか」

「それは俺たちには関係のないことだろう。どうせ、京楽が戦闘に出るだろし」

「むう、海燕殿は冷たい!」

「主のことは守るけど、あくまで俺たちは式だ」

「それは分かっているが・・・・」



「あああ、いいよ、いいよ浮竹すごい。すごいぬおおお、そんなこともしてくれるの!?」

眠っていた浮竹は、隣でうるさくわめきながら寝ている京楽を、ベッドから落とした。

「ああああ!あれ!?」

「文鳥になってろ!この盛りのついたばかが!」

「ちゅん!ちゅんちゅん!!」

浮竹の呪文で強制的に桜文鳥の姿にされて、鳥かごにぶちこまれて、京楽は浮竹が目覚める5時間後まで、鳥かごの中でちゅんちゅんと鳴き続けるのだった。

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無題

「今日も平和だなぁ」

「そうだねぇ」

魔王浮竹と勇者京楽は、中庭でまったりと午後の紅茶を楽しみながら、新勇者がモヒカンを三つ編みにしている光景を見ていた。

「るるるる~~髪の手入れは丁寧に~~」

新勇者は、何故か魔王城にやってきて、風呂をかりてアデランスで植毛した長いモヒカンの髪を丁寧に洗い、ふっさふさになると中庭で三つ編みにしだした。

「あれ、切ったら泣くかな?」

「泣くでしょ、そりゃ」

「そこの侍女、紅茶のおかわり~」

少年魔法使いが、侍女を呼び止めた。

少年魔法使いや女僧侶、獣人盗賊に青年戦士といった新勇者のパーティーもきていて、浮竹と京楽と同じようにテーブルについて、午後の紅茶を楽しんでいた。

「あー、ここのお菓子おいしいわぁ」

女僧侶は、タッパーを取り出してお菓子をつめこんでいく。

「あ、持ち帰りは禁止だ」

「えー。ちょっとくらいいいじゃない」

「だめなものはだめだ」

浮竹が言うと、女僧侶は仕方ないとタッパーをしまい込む。

「ああ、平和だ」

浮竹は、ぼけーっと空を見上げた。

京楽もついでに空を見上げた。

新勇者のパーティーも空を見上げた。

鷹が一羽、空を飛んでいた。

「るるる~~~~~ぎゃあああああああ」

ぺとっ。

鷹のふんが、新勇者の大切な大切なモヒカンを直撃した。

「う、ウォーターリフレッシュ!!」

水の浄化魔法でモヒカンを綺麗にしながら、新勇者は鷹に向かって人工聖剣エクスカリバーを投げたが、届かずに戻ってきて、新勇者の足に刺さった。

「ぎゃああああああ!!!」

新勇者は、貧乏のスキルを覚えていた。

(貧乏のスキル、とばっちりを覚えました。LVがあがりました。貧乏のスキルがカンストしました。ド貧乏のスキルを習得しました)

ピロリロリン。

そう音がして、新勇者が魔王城の風呂を借りる前に、アデランスのモヒカン三つ編みにする時に借金を背負いこんで、破産して風呂に入ることもできない暮らしになっていたので、あまりのくささに、浮竹は風呂を貸してやった。

1カ月は風呂に入っていなかったらしく、ただモヒカンの三つ編みだけはいつも手入れしていたらしい。

「平和だな」

浮竹は、新勇者の存在などないように、カップの紅茶を飲み干した。

「うおおおおおい、これのどこが平和だ!魔王め、俺のモヒカン三つ編みの輝きに嫉妬して、平和だと現実逃避しているな!?」

「カラミティファイア」

「ぎゃああああああ!!!」

京楽が、新勇者の足元を燃やした。

「モヒカン失うと、君、帰ってこなさそうだから、足にしておいたよ」

「そうか、それはありがとう勇者京楽・・・・じゃねえええ!!!何しれっと俺を攻撃してるんだ!」

「そういう君は、何しれっと敵の魔王城の風呂かりて、さっぱりして、あげくに午後の紅茶に参加しているんだい?」

「魔王は俺が倒す。この城はいわば、未来では俺のもの。だからだ!」

「カラミティウィンドエッジ」

ぱさり。

一房、新勇者のモヒカンが風の魔法で切りとられて、地面におちた。

「うわあああああ!!!俺のモヒカンがああああ!!!鬼、悪魔、魔王!」

「俺は魔王だがな」

風の魔法を放った浮竹が、そう答える。

「本当なら、ラーメンマンみたいになってほしいから、モヒカンの一部を残して魔法で切ってしまおう」

「いやああああああああ!!!」

浮竹と京楽は、にこにこしながら、魔法で鋏を操り、新勇者のモヒカンを辮髪(べんぱつ)にした。

新勇者は、泣きながらそれを三つ編みにした。

「俺の髪があああああ・・・・・でも、まだある。あるだけまだましだ・・・・」

(ド貧乏のスキルがLVマックスになりました。スキル、髪の毛ラーメンマンを獲得しました。ド貧乏のスキルが貧乏神になりました。アルティメットスキル、貧乏の運命を覚えました)

「さっきから、貧乏やらのスキルを覚えているようだが、負のスキルはマイナスにしかならないぞ」

「ええ!貧乏になったら幸福になるって、あの錬金術師言ってたのに!金貨10枚も払ったのに!」

「ねえ、この新勇者って、やっぱりおつむが・・・・・・」

「言ってやるな」

「おつむはくりっくりです!」

新勇者は、覚えたスキルを捨てようとして、捨てれないことに気付いて、浮竹を見た。

「魔王倒せば、リセットできるはずなんだ・・・・・」

人工聖剣エクスカリバーを引き抜き、浮竹に剣を向ける。

「本気か、新勇者」

「ああ、本気だとも!てやぁ!」

浮竹に切りかかる時に、足でバナナの皮を踏んづけて転び、新勇者は転んだ。

その喉元に、京楽が本物の聖剣エクスカリバーを突きつける。

「浮竹に何かしたら、その首が胴から離れるからね」

「ううう・・・うわああああああん」

新勇者は、京楽を押しのけて、パーティーのところにいくと、泣いて援護を頼んだ。

「私たち、今日は非番だから。新勇者一人で対処してね」

「僕らを巻き込まないでくれるか。一応魔王とは、ある程度の友好関係を築けているから、新勇者にはきてほしくないね」

「うわあああん!仲間が俺をいらないって言ったあああ!!!」

「そこまでは言ってないだろ」

浮竹がそう言うと、獣人盗賊がポーションを取り出して、新勇者に飲ませた。

「変なスキルカードを買って、覚えるからにゃん」

獣人盗賊は、猫系だった。

「仕方ないから、ツケで元に戻してあげたにゃん。このポーション高いから、馬車馬のように働けにゃん」

ぐすんぐすんと泣く新勇者を、優しく撫でるように見せかけて、足で頭をぐりぐりした。

「おら、これからお前はあたしの奴隷にゃん。モンスター狩りまくって、借金返済するにゃん」

「うわあああん、奴隷やだーーーー」

新勇者は逃げ出して、浮竹の背後に隠れた。

「やる」

浮竹はそれをつまみ出して、獣人盗賊に引き渡した。

「鬼、悪魔、魔王!」

「だから、俺は魔王だ」

「うわああああああああん」

「うるさいにゃあ。股間のものもぎとると静かになるにゃん?」

ぴたっと、新勇者の泣き声が止まる。

「そ、それだけは勘弁してください」

一度されかけたことがあるのか、冷や汗をいっぱいかきながら、恐怖の表情で獣人盗賊に縋りつく。

「さぁ、今日から2週間は休みなしでモンスター退治して、素材売って金にして、借金返済してもらうにゃん!」

「魔王、後生だ、助けてくれ!」

「やだ」

「そうか、やだか・・・えええええ!!なんで!」

「なんでって、俺は魔王でお前は新勇者。敵同士だからだ」

「俺、実は魔王様を崇拝しているんです」

「カラミティファイア!」

「もぎゃああああああ!!!!」

業火に飲まれて、嘘つきの新勇者は、服まで黒焦げになるのだが、ラーメンマンの髪だけは無事で、フルチンで魔王城を走りまくるという奇行に走り出して、浮竹に迷惑をかけまくるのであった。

「ちょっと、新勇者、せめて股間に葉っぱだけでもつけなさい!」

京楽が、フルチンで走り回る新勇者を捕獲して、股間に葉っぱをつけた。

その姿のまま町を徘徊して、新勇者は露出狂だという噂がたつのであった。




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堕天使と天使外伝

小さくなった。

いや、冗談ではなしに。

フェンリルの浮竹と天使の浮竹は、堕天使の京楽が闇のオークションで競り落としたという特殊な呪詛の魔石を与えられて、小さい10歳くらいの子供になってしまった。

「ああ、フェンリルの君まで小さくなる予定じゃなかったんだけど」

『なんだこれは!』

フェンリルの浮竹は、服も一緒に小さくなっていたので、尻尾をぴーんと立ててから、天使の浮竹の影に隠れた。

『怖い』

「フェンリルの俺?どうした」

『子供の頃の記憶が・・・・怖い、怖い』

「おい、京楽!このバカ、なんでフェンリルの俺も巻き込んだ!」

「いや、そんな予定じゃなかった・・・・君だけを小さくしようとしたら、フェンリルの君も魔石に触れたものだから」

『とりあえず、説明してね?』

にこにこと微笑んではいるが、すごい圧力のヴァンパイアの京楽に怒られてお説教されて、堕天使の京楽はこってりとしぼられて小さくなった二人の前に再び姿を現した。

「調子に乗ってました、すみません」

「いつ元に戻るんだ、これは」

「あああああ、小さい浮竹かわいい!(*´Д`)ハァハァ」

「ええい、苦しいから思い切り抱きしめるな!」

天使の浮竹は、堕天使の京楽に思い切り抱きしめられて、嫌そうにしていた。

一方、フェンリルの浮竹は、ヴァンパイアの京楽の抱き上げられて、その首筋に腕を巻き付けて、ぎゅっと抱き着いていた。

『解呪できる魔石を買ってくるから、浮竹をお願い』

「ああ、俺が守ろう。京楽は変態なだけであてにならないからな」

『くっさい洗ってないパンツの京楽だけはいやだ!』

子供の頃の記憶に翻弄されて、最初は怯えていたフェンリルの浮竹だったが、大分慣れてきたのかいつものツンデレが復活していた。

「だから、僕はくっさい洗ってないパンツじゃないよ!その匂いがするんでしょ!匂いを省略しないでよ!」

『お前なんて100年洗ってない黒ずんだパンツだ。このパンツ星人!ラフレシアパンツ星人!』

「言いたい放題・・・・しかし、今回は僕に非があるからねぇ。ぐぬぬぬぬ」

「フェンリルの俺、せっかく子供の姿になったんだ。子供料金でいける、子供だけしか入れないアトラクションに行こう!」

『なんだそれは!面白そうだな、行く!』

天使の浮竹は、フェンリルの浮竹を心配して誘ったのだが、フェンリルの浮竹は最初の怯えようとは打って変わって、好奇心むき出しの子供のようになっていた。

いや、姿も子供なのだが。

子供になったフェンリルの浮竹は、ばっさばっさを尻尾を横に振って、堕天使の京楽をいやいや保護者として付き合ってもらい、天使の浮竹と手を繋いで、ゆっくり歩きながら、アトラクションに入って1時間ほどの子供心をくすぐるいろんなアトラクションを天使の浮竹と2人きりで過ごした。

『クレープが食べたい』

フェンリルの浮竹が、アトラクションを終えてぽつりとつぶやいた。

「はいはい。買ってくるよ。大人しく、ここにいてね」

『天使の俺、遊んでくれてありがとう!お陰で、嫌な記憶も吹き飛んだ!』

「ならよかったよ」

フェンリルの浮竹は、天使の浮竹と手を握りあって、ぶんぶんと尻尾を振りながら、堕天使の京楽がクレープを買って帰ってくるのを待った。

『バナナ味がよかったのに』

いちご味を渡されて、耳をぺたんとするフェンリルの浮竹に、天使の浮竹が自分の分のバナナチョコ味のクレープを渡した。

「交換しよう。チョコ味も入っているが、バナナ味も入ってる」

『天使の俺、大好きだ!』

ほっぺにちゅっとキスをされて、天使の浮竹は目をぱちくりさせた。

「やー、何あの子かわいい。耳と尻尾がついてるわ」

「双子かしら」

何やら視線を集め出して、堕天使の京楽は、フェンリルの浮竹と天使の浮竹を両腕でそれぞれ抱えて、移動した。

「一人で歩けるのに」

『洗ってないパンツのくせに』

「ついには『京楽』も消えたまま!?」

ばっさばっさと尻尾をふって、耳をピコピコさせて、フェンリルの浮竹はバナナチョコ味のクレープを食べて、天使の浮竹からいちご味のクレープも少しもらって、何気にご機嫌だった。

洗ってないパンツにされた堕天使の京楽は、天使の浮竹も楽しんでいるので、今回ばかりはあまり嫉妬せずに、保護者役を完遂した。


『おかえり。その顔だと、どこかへ遊びに行って楽しんできたみたいだね』

洋館に戻ると、ヴァンパイアの京楽が元に戻る魔石を準備していた。

『京楽、あと1日子供のままでいる!』

『ええ!?』

『天使の俺もいいよな?もっと遊びたい!』

「お前がそう言うなら、俺は構わないが」

『そういうことで、百万年洗ってないパンツも、いいな?』

「もう、呼び方が無茶苦茶だ・・・・いいけどね、別に。でも、夜は・・・・・・」

『夜はもちろん、天使の浮竹と同じベッドで寝るぞ!』

「きいいいいい」

我慢していたが、嫉妬が復活しだした堕天使の京楽を置いて、天使の浮竹とフェンリルの浮竹は、もう1日子供の姿を楽しんだ。

食べるのも隣で、一緒に風呂に入り、寝る時も一緒だった。

大人の姿では、あまりできないことなので、フェンリルの浮竹は喜んでスキンシップを楽しんで、堕天使の京楽に嫉妬されまくった。

ヴァンパイアの京楽は、あくまで見守る形で、愛おしそうに浮竹たちを見ていた。

「君は平気なのかい。自分の伴侶がとられて」

『浮竹は、最後はちゃんとボクの隣にいてくれるからね。分かっているから、嫉妬はしないよ』

「僕は嫉妬しまくりだよ。ああ、でも楽しそうだなぁ」

『天使の俺、秘密基地を作ろう!薔薇園に行くぞ!』

「ああ、待ってくれ」

子供姿のまま、精神も子供になっている二人は、そのまま結局自然に解呪されるまで、1週間は子供姿でいたそうな。


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