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小説掲載プログ
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僕はそうして君に落ちていく1

私は霊王。

霊王は私。

俺は霊王。

霊王は俺。

霊王の残滓、右腕が残した、霊王の器、浮竹十四郎。霊王宮で、彼はまたいつものように、愛しい京楽春水がやってくるのを待つ。

月に一度の、逢瀬を楽しみにして。


-------------------------------------



「この子は、浮竹十四郎という。お主の寮の部屋の相部屋の相手じゃ。体が弱くてのぉ。肺を患っていて、時折血を吐いて発作をおこす」

そういう、山じいの言葉を、どこか遠くで聞いていた。

まだ、少年独特の幼さの抜けない愛らしい顔立ちの少女に見えた少年は、にこりと微笑んだ。

「浮竹十四郎という・・・・・ええと、京楽春水であってるかな?これからよろしく」

「ああ、うん」

差し出された手を握りしめる。

華奢で、温かかった。

「聞いておるのか、春水!」

「ん、ああ、何、山じい」

「たわけ!」

山じいに、頭を殴られた京楽は、頭を手でさすりつつ、怒る師を見上げた。

「じゃから、この十四郎は体が弱い。いろいろと助けてやってくれ」

「うん、分かった」

一目ぼれ。

山じいに引き合わされた時、女の子かと思った。でも違った。

でも、胸はときめいたままで。

これが、世にいう一目ぼれというやつなのだろう。

相手は同性だ。

ということは、自分はいわゆる同性愛者なのだろうか?

でも、女の子は好きだ。

遊郭にだって、通い始めている。

好きになるのに、性別など関係ないのだと、その時初めて理解した。




死神統学院に入学して早々に、浮竹が血を吐いて倒れた。

その体を抱きとめて、医務室に運ぶ。

身体が軽すぎて、驚いた。

同じ性別なのかと思うくらい、華奢で。

白い髪は、なんでも3歳の時に病にかかって死にかけた時に色素を失ったのだという。でも、白い髪は京楽には神秘的に見えた。

翡翠色の瞳を際立たせる色だと思った。肌の色も白いし、院生の女ものの服をきせたら、女の子で通るんじゃないかと思った。

浮竹は、勉強もよくできたし、鬼道の腕も高いし、持っている霊圧はすごく高くて、剣の腕も強かった。

でも、体が弱いせいで、よく授業を欠席していた。

京楽はというと、浮竹と同じクラスになったはいいが、浮竹と顔を合わせると胸がどきどきしてしまうので、なるべく離れて過ごした。

よく授業をさぼった。

浮竹のことを忘れようと、遊女を抱くのだが、遊女に浮竹と名を呼んでしまい、「旦那の大切な人でありんすか?」と問われる始末だった。

「は~。重症だよねぇ、僕。いっそ、告白してみようかな・・・・」

でも、絶対に断られる。そう思った。



浮竹は、とにかくなんでも卒なくこなした。

発作を起こしたり、熱を出したりして授業を欠席すると、補習を受けて、出席日数を確保していた。

京楽は、落第にならないように、授業をさぼるときもあれば、出る時もあった。

そんなある日、京楽は浮竹に屋上に呼び出された。

まさか、自分の想いがばれたのだろうか。

それとも、浮竹も自分のことが好きなのだろうか。

そんな夢見がちなことを考えている京楽に、浮竹は怒声を放った。

「京楽、お前はちゃんとできるのに、何故授業をさぼるんだ!剣の腕だってあるし、鬼道だってできるし、その気になれば勉学だってできるだろうに!」

「え。なんで、知ってるの」

真顔でそう問われて、浮竹は困ったように微笑んだ。

「だって、友達だろう?」

ああ、うん。

友達だね。

今の関係は、友達といえるかも怪しいけど。

「分からないところがあったら聞いてくれ。もっと、俺を頼ってくれ。俺が病気や熱を出して休んだ時には、お前を頼るから・・・・・・」

浮竹は、すでに特進クラスでリーダー的存在になっていた。

その浮竹が、何を好き好んで、不良とかいわれている上流貴族の、学院をなめまくっている京楽の傍にいるのかというと、やはり寮で同じ部屋だということが大きいだろう。

山じいに、世話を任されているから。

そう言い聞かせて、京楽は浮竹への想いを封じ込めた。

浮竹に屋上で怒られた日から、京楽の生活は変わった。

浮竹が、授業をさぼっていると、やってきてひきずってでも、授業を受けさせるのだ。

仕方なく、京楽もさぼることをなるべく少なくした。



鬼道の腕もそうだが、特に剣の腕では京楽と浮竹が群を抜いており、二人が組まされることが多かった。

「京楽、本気でこい!」

「分かってるよ!君こそ、手加減はしないでよ」

木刀で、何度も切り結びあった。

時間だけが過ぎていく。

結局、引き分けになった。時間オーバーで。

どっちが本当に強いか。そんなことが、賭けの対象になったりしていた。


1回生の秋。

浮竹は、隣のクラスの女子に呼び出されていた。

京楽はその姿をたまたま目撃してしまい、こっそりと後をつけてしまっていた。

「浮竹君・・・・・あなたのことが好きなの!お願い、付き合って!」

女の子は、かわいい顔をした、浮竹に似合いそうな子だった。

心の中で、浮竹は僕のものだと、叫んだ。

「ごめん。今、そういうこと考えていられないから。ほんとにごめん」

「好きな人、いるの?」

「ああ・・・・」

ショックを受けた。

誰だろう、浮竹の好きなやつって。

ああ、後なんてつけるんじゃなかった。



京楽は、女遊びがさらに激しくなった。

付き合ってといってくる、金目当ての女を選んだ。純真でできているような子は、後後がめんどくさい。

金ももっていて、見かけもいい京楽はもてた。



ある日、花街に遊びにいって、酒を浴びるように飲んで帰ってきた京楽を、浮竹が叱った。

「京楽、女遊びはほどほどにしろ!酒ばかり飲んで女と戯れて・・・そんなことで、死神になれると思っているのか!」

「うーん。僕は、別に死神になりたいわけじゃないからね。女遊びをほどほどにねぇ・・・それとも、君が女の子の代わりをしてくれるの?」

そう言うと、浮竹は赤くなって、京楽の頬を叩いた。

「俺は男だ!」

「知ってるよ・・・・・ねぇ、君のことが好きっていったら、どうする?」

「俺は、男だ。京楽は女が好きなんだろう。見た目はこんなでも、俺は男だ」

中性的な外見を、浮竹は嫌っているようだった。

「知ってるよ・・・・・」

浮竹を抱き寄せて、ただ抱きしめた。

はじめは浮竹はビックリしてもがいていたが、大人しくなった。

「京楽とは、親友でありたい」

「うん、そうだね」

そうやって、少しずつ浮竹を壁に追いやっていく。

いつか、手に入れてみせよう。

京楽は、そう決意した。

浮竹から離れて、京楽は朗らかに笑った。

「君があんまりいい匂いするから、つい抱きしめちゃった。シャワー浴びるから待ってて。朝食、一緒に食べにいこう」

「ああ。俺、何か匂うか?」

「んー。なんか花の甘い香がする」

「ああ、ただのシャンプーの匂いだ。隣のクラスの女の子からもらったんだ。綺麗な髪をしているからって。こんな、老人みたな白髪、不気味なだけなのにな」

「そんなことないよ。僕も、その子には同意見だな。君の白髪は神秘的で綺麗だよ。短いのが少し寂しいかな。伸ばしてみたらどう?」

「でも、手入れとか大変だろう」

「何事も、慣れ、だよ」

「そうか。お前がそこまでいうなら、伸ばしてみようかな・・・・・・」


僕は。

僕は、そうして君に落ちていく。

君は、そうして僕に落ちていく。


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きっといつか

「どうか、止めてくれるなよ」

ミミハギ様、つまりは霊王の右腕を解放することを決めた浮竹を見て、京楽はそれでも、と思った。

「君は僕を置いて、先に逝ってしまうのかい?」

「最終的にはそうなるな。だが、この命、元より尸魂界に捧げている。護廷十三隊のために死なば本望」

もう、浮竹を止めることはできないだろう。

浮竹は、強い。

その心は、すでに世界をつなぎとめるために命を落としたとしても、本望なのだという。

「霊王が・・・・」

霊王という存在が、この世にいなければ。

でも、そうなると浮竹は3歳の時に死んでいて、京楽と巡りあうこともなかっただろう。

ああ。

もどかしい。

京楽は、隻眼の鳶色の瞳で浮竹を見つめると、胸にかき抱いた。

「京楽?んんっ・・・・・・・」

深く、深く口づけた。

啄むように、時に舌を絡め合い、互いの唾液を流し込んで、嚥下していく。

「きょうら・・・・く・・・・」

クタリとなる浮竹を抱きしめて、京楽は溢れてくる涙を止めることができなかった。

「このまま、君をさらって、違う世界へいきたい」

「だめだ・・・俺が神掛をしないと、世界は滅ぶ」

もうすぐ、霊王は殺される。

ユーハバッハさえいなければ。

ぎりりと、殺意を覚えた。

けれど、ユーハバッハを倒すのは、一護に任せている。きっと彼なら、ユーハバッハを倒せる。

「俺が逝って世界が平和になったら、お前は俺のことを忘れて、妻をもって子をなして、幸せに暮らしてくれ」

「無理だよ・・・・」

「お願いだ、京楽。俺のことを、忘れくれ」

「無理だ。君のことを忘れることなんてできない。君を忘れるくらいなら、死んだほうがましだ」

「京楽・・・・・」

「愛してるよ。自分でも、どうしようもないほどに君を愛しているんだ」

「俺も、京楽を愛している」

この瞬間が永遠であればいいのに。

一緒に過ごしてきたこの数百年を振り返る。

院生時代から、今までを。

何度も交じりあった。

何度も愛を確かめ合った。

何度も愛を囁いた。


もう、終わりにしないといけないのか。

運命とは、かくも残酷である。

何故、僕から浮竹を奪う?

命より大切な、浮竹を。


「もう、行く・・・・」

「浮竹!」

「棺桶の中には、白ユリで飾ってくれ」

茶かすように、微笑んだ。

その微笑みが悲しくて寂しそうで、また涙が溢れそうになった。

でも、こらえる。

浮竹。

こんなにも愛しているのに。

君のためなら、世界を手放したっていい。

この総隊長の地位すら、いらない。


でも、そういうわけにはいかないのだ。

京楽は、もう総隊長なのだから。

個の感情で、動いてはいけない。


ああ、僕は。

僕は、なんて非力なんだろう。

愛した人の最期を見届けることになるなんて。

助けられないなんて。


「またな、京楽。いつか、どこかでまた会おう」

そう言って、浮竹は去ってしまった。



さよなら、僕の愛した人。

いつか、時が来たら僕は君の元へいくよ。


きっと、いつか。

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子守歌

すうすうと、浮竹はよく眠っていた。

隊首会で血を吐いて倒れ、回道をかけられて安静に、という浮竹を京楽が雨乾堂まで抱き上げて運んだ。

「全く、君は無茶をする」

血で汚れた死覇装と隊長羽織を脱がして着替えさせて、布団に横にさせた。

はじめは苦しそうにせきをしていたが、薬がきいたのか、今は静かに眠っていた。

浮竹の発作は、突然訪れる。

先刻まで元気だったのに、急に具合が悪くなって、血を吐いたりする。

その姿を見るたびに、京楽は自分の寿命が縮むような気持ちを味わった。

おまけに体が弱く、気温が寒すぎたり暑すぎたりすると、熱を出した。体を冷やすのはよくないとあれほど言っているのに、雪が積もった日には薄い着物一枚で、雪遊びをしたりする。

「ん・・・・京楽?」

ふっと、浮竹が目を開けた。

「起きたの?まだ夜だよ。血を吐いて倒れたんだ。安静にって言われてるから、もっかい寝なさいな」

「京楽も、一緒に寝よう」

「僕は湯たんぽか何かかい?」

そう言いながらも、京楽も嬉しそうだった。

1つの布団で寝るには狭すぎて、2組目の布団をしいて、浮竹を抱き込むようにして京楽は子守唄を歌い出した。

「京楽の、声、安心する・・・・。温度もあったかくて・・・ああ、眠い。すまない、今日は、もう・・・・」

そう言って、浮竹はまた眠ってしまった。

京楽も、浮竹を抱きしめたまま、いつの間にか微睡みの海へ意識を手放した。


「京楽、起きろ!朝だぞ!」

「んー、もう少し・・・・・」

「見ろ、雪が降ってる!」

「浮竹?安静にって言われてたでしょ。動き回っちゃだめだよ」

「でもな、雪が・・・」

起き上がった京楽は、動き回る浮竹をふわりと抱き上げて、布団に横にさせた。

「食事はとれそう?」

「ああ。京楽も食べていくだろう?」

「うん。お言葉に甘えるよ」

3席が食事を用意してくれて、二人で食べた。

浮竹の分は、念のためにおかゆになっていた。京楽は普通の食事だった。

デザートに白玉餡蜜がついていて、それを食い入るように見つめる浮竹に、仕方なく「あげるよ」と言うと、浮竹は「やった!」と喜んだ。

浮竹は、薬を飲んで、また布団に横になることを京楽に強いられた。

「こんなに元気なんだがな・・・・」

「だめだよ。血を吐いて倒れたんだよ?もっと、体を大切にしないと」

「ああ、心配をかけてすまない」

布団に横になりながら、もう眠れそうにないと、浮竹は京楽の髪をひっぱった。

「どうしたの」

「昨日の子守歌、歌ってくれ」

「あんまり上手じゃないよ」

「聞いてるだけで、安心できるんだ」

「仕方ないねぇ」

京楽は、子守唄を歌い出した。

その声に耳を傾けて、浮竹は遠い故郷の母親が、幼い頃によくこうやって子守唄を歌ってくれていたことを思い出した。

「京楽の子守歌、俺は好きだぞ」

「君くらいだよ。僕に子守唄を強請るなんて」

「雪、つもるといいな」

「つもっても、雪遊びするならちゃんと着こむんだよ。あと、あんまり長い時間外にいないように」

火鉢が、パチッと爆ぜた音を出した。

室内の気温はある程度暖かいから、安心できた。

会話をしながら、子守唄を歌ったり、他愛ない話をしたりしていると、いつの間にか浮竹は眠っていた。

「君の寝顔だけで、僕はとても幸せになれる」

手をぎゅっと握ると、温かくて、浮竹が生きているんだと分かった。

長く白い髪は、いつから腰に届くようになるまで伸ばすようになったんだっけ。

京楽が、浮竹に君の白い髪は綺麗で長い方が似合ってると、院生時代に言った頃から、浮竹はそういえば髪を伸ばし始めたなと、京楽はふと思う。

「僕は君がいれば、それだけでいい。愛してるよ、十四郎」

いつか、ミミハギ様を解放する時がきたとしても。

浮竹を愛する心は変わらない。

例え、その存在が遠くなったとしても。

君を想う、この気持ちは誰にも消せない。


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払い屋京楽シリーズ2-2

「ふああああ、おはよう」

その日、浮竹は寝過ごした。

その前の日に、京楽に抱かれた。京楽の強い性欲に足腰が立たなくなるまで抱かれて、怒った浮竹は呪符で封じた鳥かごに、文鳥姿の京楽を放り込んでしまった。

「チュンチュン!」

「京楽は、しばらくそこで反省してろ」

「そりゃないよ浮竹!同意の上じゃないか!」

「だからって、6回はないだろ!おまけにねちねちと・・・・・」

「僕との愛を確かめ合っただけじゃないか」

「お前の場合、性欲がありすぎるんだ。いくら霊力をそそぎこまれても、回数が多すぎたら意味がない」

「チュン・・・・・」

京楽は、反省したのか文鳥としてのライフをエンジョイするかのように、水浴びをした。ばっしゃばっしゃと、水をはねて、わざと浮竹に浴びせた。

「マオの餌になるか?」

「ごめんなさい、反省してます」

マオとは、浮竹のもつ猫の式神の名だ。

マオはキャットフードを好む。無論、小鳥も食べる。

浮竹のもつ式神は、食すということを好んだ。

「主、今日はいい天気ですね。布団や毛布を干すので、ベッドはもう使えませんよ」

ルキアが、家政婦のように、海燕と共に屋敷の家事をしてくれた。

浮竹や京楽も手伝うこともあるが、基本、海燕とルキアに一任していた。

「ああ、天気もいいし散歩にでもいくか。なぁ、マオ」

「にゃあ」

召還された猫の式神は、嬉しそうに鳴いて、喉をごろごろならして、浮竹にすり寄った。

「いいなぁ」

「禁欲半月を守るなら、籠から出してやる」

「うーん。悩むなぁ。2週間かぁ」

「で、どうするんだ」

「キスとハグはありでいい?」

「いいぞ」

「じゃあ、籠から出して。禁欲半月守るから。鳥かごの中の生活って、凄くつらい」

浮竹は、京楽の入っていた鳥かごの呪符をはがした。

呪符で結界をはり、人型になって籠を破壊させないためであった。

鳥かごの入り口を開けると、ちょんちょんと出てきた文鳥の京楽が、浮竹の肩に止まる。

それを、マオが食べたそうに見ていた。

「ちょっとマオ、僕は餌じゃないよ!」

「にゃああ」

マオは、京楽を食べたそうにしていた。

「マオ、こんなの食べると腹壊すぞ」

「にゃあああ」

「こんなのって酷い!」

「いつまでも文鳥の姿でいるのか?」

「ううん」

ぼふんと音をたてて、京楽は文鳥から人型になった。

「今日は天気もいいし、桜も見頃だから、花見にでもいかない?」

「それはいいが、今からか?お弁当とか作ってもらってないぞ」

「コンビニのお弁当でいいじゃない」

「まぁ、暇だしな。ここ数日、依頼らしい依頼はないし・・・」

「主、外にでるのでしたら、牛乳をついでに買ってきてください。今夜はクリームシチューです」

ルキアの言葉に、京楽が顔を輝かせる。

「ルキアちゃんのクリームシチューはおいしいんだよねぇ」

「ああ、そうだな。花見にいくついでに、買ってくる」


そうして、浮竹と京楽は近くの桜が咲いている公園まで、花見に出かけた。

ビニールシートをひいて、コンビニで買った弁当を食べて、チューハイを飲んだ。

「あ、花鬼だ」

「あ、ほんとだ」

ちょこちょこと、子供の花鬼が、花見に訪れている人たちから少しずつ生気をもらって食事をしていた。

「あんな花鬼ばかりなら、退治の依頼なんて舞い込まないんだけどな」

「そうだね」

人を食べることに、その味を知ってしまった花鬼の中には、干からびるまで生気を吸い取って、殺してしまう者もいる。

さっきの花鬼は、誕生してまだ10年も経っていないだろう。

幼い妖に、浮竹と京楽は自然と顔が緩んだ。

「妖も、悪いのだけじゃないからな。いい妖もいる」

「うん」

「でも、人を食うやつも、人を殺すやつもいる。だから、俺みたいな払い屋や退治屋がいる」

「そうだね」

ちょこちょこと動いていた幼い花鬼は、こっちにやってきた。

「やぁ」

姿が見えていると分かって、びくりと幼い花鬼は小さくなる。

「別に、取って食おうってわけじゃない。どうか、大きくなっても今みたいな食事の方法を続けてほしい」

「・・・・・・・」

花鬼は、にこりと笑うと桜の花びらとなって散っていった。

桜の大樹があった。

そこに、吸い込まれていく。

「大樹から生まれた割には、幼かったな」

「見た目だけかもよ。もしかしたら、何百歳も年くった花鬼かも」

「でも、妖力が低かった。まだ生まれて10年も経ってないだろうな」

花鬼は、嫌いじゃない。

花をより一層美しくしてくれる。

でも、前に退治した花鬼のように、人を食うやつもいる。

妖とは、不思議な生き物だ。

人に害を成す者もいれば、平和を好み、人のいない場所で暮らしたり、人に交じって生きる妖もいる。

人に害を成す妖や霊を払うのが、浮竹の仕事である。

払い屋は、退治屋と違って必ずしも対象を駆逐するわけではない。封印で済むのなら、封印する。

退治屋は、依頼されれば、たとえその妖がいい妖でも、退治してしまう。

退治屋は、浮竹には向いていなかった。だから、払い屋になった。

「いい天気だなぁ」

空を見上げると、青空が広がっていた。

太陽はぽかぽかと輝いていて、眠気を誘う。

浮竹は、いつの間にか眠っていた。起きると、夕刻も近かった。

京楽も、寝ていた。

「おい、京楽、帰るぞ!牛乳かわなくっちゃ!」

ルキアの買い物のお願いを忘れるところだった。

牛乳を買って帰宅すると、「遅い」と、ルキアが頬を膨らませて怒っていた。

ルキアの作ってくれたクリームシチューは、とても美味しかった。

また、いつか花見にいってあの花鬼が成長しているか見てみたいと思う浮竹だった。そんな浮竹をハグして、京楽は禁欲2週間を守るために、我慢しながら浮竹に接するのであった。

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払い屋京浮シリーズ2-1

「憑かれたか」

ゆらりと、少女に憑依した妖怪は、少女とは思えない速度で走り出し、浮竹の首を締め上げてきた。

「浮竹!」

「きょうら・・・・これいくらい、なんてことはない」

ギリギリと首を締めあげられるが、浮竹は少女の額に手を添えて、清浄な気を流した。

「ふしゅるるるるる・・・・・」

少女に憑いていた妖怪が、少女から離れる。少女の体が頽れる。それを、京楽が支えた。

少女から離れた妖怪めがけて、浮竹は呪符を投げた。

呪符は清浄なる力を発揮して、燃え上がる。

「ぎゃん!」

妖怪は、子狐だった。

「山へお帰り。ほら、母狐が待っているよ」

「コンコン」

母狐は、人の姿をとって、浮竹に助けを求めてきた。

かわいい我が子が、不浄なる穢れた気に当てられて、人に憑りついていると。

子狐は、母狐に首をくわえられて、山に帰っていった。

「今回の報酬は・・・・・魚だ。一応札束も用意してくれてたみたいだけど、木の葉でできていたから、使えないな。まぁ、妖(あやかし)からの依頼だから、ボランティアみたいなものだ」

鮎を3匹。

普通、払い屋は人からの依頼しか受けない。

浮竹は、妖怪や霊の依頼も受けた。

報酬はあまり期待できないが。

妖同士のいざこざも依頼されるが、あくまで人間が関係している依頼しか受けない。

妖同士のいざこざは、人間に被害が出る恐れがある時だけ引き受けた。

「ああ・・・・今年も、桜が狂い咲いてるな。花鬼(かき)が、出そうだな」

花鬼。

特に桜の花鬼は、人を桜で惑わし、養分を吸い取って殺してしまう。



ある村からの依頼があった。

花鬼が出たのだ。

もう3人の若い男性が襲われていて、死んでいる。

花鬼が出るという桜の大樹の下で、浮竹と京楽は、花鬼が出るのを待った。

ふわり。

甘い香がして、それは浮竹を包みこんだ。

式である京楽も、甘い香に包まれたが、浮竹が姿を消していることに気づき、狼狽する。

「浮竹?浮竹どこだい!?」

浮竹は、花鬼にさらわれて、異界の地に足を踏み入れていた。

「ふーむ。魅入られたか・・・ここは、妖の、花鬼の世界か」

浮竹は物珍しげにきょろきょろ視線を彷徨わせる。

一面桜だらけで、桜の狂い咲きだった。

「こっちにきて、愛しいあなた」

「あいにくと、俺は花鬼と番う気も、魅了されて生気を絞られる気もない」

「愛しい・・・愛しい人。美しい白い人」

「名はあるか?」

「桜花(オウカ)」

現れた花鬼は、桜色の着物をまとった美しい女性だった。額に、鬼の証である角があった。

「名のある花鬼に出会えたことは嬉しいが、普通に人の生気を少しずつ吸い取って生き永らえようとは思いいたらなかったのか。死に追いやれば、払い屋や退治屋に調伏される」

「美しい白い人・・・・どうすれば、私のものになってくれるの?」

「お前のものになんてならない」

浮竹は、呪文を唱え出す。

風を使って、桜の絨毯に円陣を描き、清浄なる力を注ぎ込む。

「あああ、私の世界があああ!!!」

清浄すぎる空気に満たされて、花鬼の空間は壊れ去った。

桜花と名乗った花鬼は、浮竹と共に現実世界に戻っていた。

「おのれ、払い屋か!それとも退治屋か!」

「払い屋だ。おとなしく、滅されろ」

「浮竹!」

京楽は、浮竹が帰ってきてくれたことに喜び、抱き着いた。

「ええい、京楽、今はそんなことしてる場合じゃない。花鬼だ!」

京楽は、水を操って花鬼の体を呪縛した。

「なに、こんなもの!」

花鬼は、ざぁぁあと花びらとなって散った。

そしてまた、形をとる。

「じゃあ、これはどうかな?」

花びらごと水全体で包みこみ、閉じ込めた。

「払い屋あああぁぁぁぁ!」

花鬼は、桜の花びらを鋭利な刃物にかえて、浮竹に降り注がせた。それは、京楽がはった結界で弾き飛ばす。

「一気にいくぞ」

「うん、分かってる」

京楽と浮竹は、二人で聖なる気を練りあげて、花鬼にぶつけた。

「ああああ・・・・私は、もっと、もっと喰ってもっと生きて・・・・・・」

花鬼が、桜の花びらとなって散っていく。

花鬼が浄化されたとたん、咲き狂っていた桜の大樹は、しおれて枯れてしまった。

はらはらと、桜の花びらを散らせながら。

「花鬼の本体は、この大樹だったんだな」

大樹には呪符がいくつも張られていて、花鬼が大樹の中に逃げ込むのを阻止していた。

「いきなり消えるから、本気で心配したんだよ!」

ぎゅっと、京楽に抱き着かれて、浮竹は京楽の結われた長い黒髪を撫でた。

「花鬼の世界に閉じ込められたんだ。自力で戻ってこれたが」

「心配したんだから」

「ああ、すまない」

京楽は、浮竹の頬に口づけしながら、次に文鳥の姿になって浮竹の肩に止まった。

「村の人に、退治したと知らせなければ」

「そうだね。僕は力を使ったので、ちょっとこの姿でいるよ」

他人が見れば、チュンチュンと文鳥が鳴いて、飼い主に懐いているようにしか見えなかったが。

桜の咲く時期は、花鬼退治の依頼が多い。

1週間前も、花鬼を退治したばかりだ。

その花鬼は、男で、幼い少女ばかりを生気を奪って殺していた。

問答無用で滅した。

名のある妖は、力が強い。

だから、前の花鬼は普通に退治できたが、今回は花鬼の世界に誘われた。

奪った命の数だけ、力は増す。

遠い昔から、あの花鬼は若い男を生気を奪って食い殺してきたのだろう。

花鬼は、血肉は食わない。

生気だけを好む。

なので、死体が残る。

だから、花鬼のしわざだと分かる。

ミイラのようにしおれた死体が見つかるたびに、花鬼だと騒がれた。

「また、花鬼の依頼くるかな」

「僕は当分もうきてほしくないね。浮竹の生気が少し抜かれてる。だるいでしょ?」

「現役の払い屋だ。この程度で音をあげているようじゃ、やってけない」

肩に文鳥の京楽を乗せて、浮竹は村の長に報告をして報酬をもらった。

現金の他に、鏡をもらった。聖なる力をためておけるらしく、元は祭具であったという。ありがたく、ちょうだいしておいた。

古い鏡で、浮竹が聖なる力をこめると、キラリと輝いた。

邪を払う効果があり、ポケットに入るサイズなので、京楽に持たせた。京楽は元は水龍神である。正確にいえば、水龍神の次男坊だが、水龍神の血族であることには変わりない。

神の力をもっている。

ちょっとやそっとのことではやられないが、浮竹よりは邪を払う力が弱いので、念のために持たせることにした。

「はぁ・・・・春は、凄しやすい季節だが、桜の花鬼がよく出るから、よく依頼が舞い込んでくる。稼ぎ時だが、花鬼に魅入られると妖の世界に閉じ込められるからな」

「だから、浮竹の姿が消えたの」

「そうだ。あの花鬼の世界に引きずりこまれていた。力がなければ、生気を吸い取られてミイラだな」

「ミイラの浮竹は嫌だ」

「俺も嫌だよ」

クスリと笑い合いながら、帰宅するために車に乗りこんだ。

さらさらと、桜の花びらが散っていく。

花鬼は、生気を少しだけもらって生きる者がほとんどだが、中には今回のように全ての生気を貪り食って殺すことがある。

払い屋や退治屋が出番の季節でもあった。

春は、うららかだが、稼ぎ時でもあった。





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払い屋京浮シリーズ1-2

「ん・・・・・」

「起きた?朝食、それとも朝風呂、それとも僕?」

ふりふりのエプロンをつけた京楽をみて、浮竹は眠気もふっとんだ。

「なんて恰好してるんだ、京楽!」

「いや、現代ではこういうのが流行ってるって聞いて・・・・・」

「誰から」

「夜一から」

「あー。夜一の奴、帰ってきてたのか」

「猫に変化して、マオ用のキャットフード食べてどっかにふらりと消えちゃったよ」

マオとは、浮竹が所有している猫の式神の名前だ。

式神は、食事など必要としないのだが、京楽をはじめとして、浮竹の式神は食事を楽しむ傾向があった。

夜一もまた、浮竹が所有している式神の一人だが、自由すぎていつも気ままにふらふらと現世とあの世を彷徨い、召還に応じることは稀だった。

人型でいる時もあるが、黒猫に変化する時が多くて、金色の目が特徴的な黒猫の姿をとる。

「主、今日は休みではないのですか」

ルキアが、掃除機をかけ終わって、起きてきた浮竹にホットコーヒーを渡した。

「ルキア、今日は急に仕事が入った。お前の力もかりたい」

「はい。私は主の式。主の思うままに、使役してください」

「ほんと、どこかの誰かさんと違って、いい式神になったなあ」

「どこの誰だろうね」

京楽は、嫌味のつもりで文鳥の姿になっていた。

「チュン」

「お前は、一人、小鳥の餌でも食ってろ」

「ああ、そんな殺生な!」

朝食の用意がされてあった。

浮竹と京楽の分の他に、今日力を借りると言われたので、ルキアもまた朝食をとった。

浮竹の持つ式神は、食事をするのが好きだ。

「今日は廃病院にとりつく、屍鬼を払う。屍鬼だが、半分霊体で、ちょっとややこしい」

「屍鬼なんて、珍しいね。平安時代なんかにはよくいたけど、こんな現代にいるなんて」

屍鬼。

人の血肉と魂を喰らう化け物。

アンデットの一種である。

分類すれば、妖怪ではあるが、一応西洋の妖怪ということになる。

「廃病院が、これまた広いんだ。結界を張るにも一苦労だ」

「じゃあ、依頼受けなきゃいいじゃない」

「いや、俺が受けなきゃもう受ける相手がいないって泣きつかれてな・・・・・・」

西洋の妖怪を相手にしたがる払い屋は、まずいない。

「主、今回は屍鬼が相手であるなら、聖水もいるのでは?」

「そうだな、ルキア。一応、用意しておいてくれるか」

「承知しました」

ルキアは、聖水を作りにキッチンに下がっていった。

教会の、正式な祈りを受けた聖水でなくてもいい。

塩を含んだ水に、力をこめても、聖水はできあがる。

払い屋独自の聖水であった。

西洋の妖怪を払うには、特にアンデット系には聖水が効く。

浮竹は、食事をとり終わると、京楽とルキアを連れて、その廃病院までやってきた。

まだ日は高いので、いたるところに聖水を振りまき、結界を構築する。結界を生み出すのは浮竹の力で、維持はルキアに頼んだ。

そのまま、夜を待った。

「うヴぁぁぁぁぁ」

屍鬼が出た。

こっちにくるように、浮竹は自分の手を切って、血を数的垂らした場所に、円陣をチョークで描き、結界内で清浄な力を解き放つ。

呪文を唱えるが、その屍鬼にはあまり効かないようで、この前の人形なんかより数段に各上の相手だった。

「京楽、ルキア、頼む!」

「任せてよ」

「主の御心のままに」

京楽とルキアは、京楽は水の刃で、ルキアは氷の刃で屍鬼を切り刻んだ。

「ヴぁああああ」

屍鬼の傷は、再生されていく。

「京楽、ルキア、細切れになるまで頼む!」

「分かったよ」

「はい!」

京楽がまずは水で屍鬼を包み込み、ルキアが凍らせて、それを京楽の力で砕いて粉々にした。

肉片は、うねうねと動き、また再生しようとしていた。

その核となっているものに、浮竹は聖水を振りかける。

そして、呪文を唱えて、呪符を張った。

屍鬼の再生はなくなり、静かになったかと思うと、ゆらりと屍鬼から人の魂が、食われた魂たちがあふれ出す。

「調伏!」

浮竹は、いっそう力をこめて、聖水に自分の力を乗せて、その穢れた魂たちを浄化していった。

「あああーーーー」

「うああああ」

「きもちいい・・・・・」

「自由になれる・・・・」

穢れた魂たちは、浮竹の力で浄化されて、天に昇っていった。

「屍鬼は一体だけと聞いたが、念のために調べるぞ」

「もう、ここは清浄な空気に満ち溢れているよ。いても害のない霊だけじゃないかな」

「念のためだ」

浮竹は、ルキアを伴って、廃病院の中を歩きまわった。

京楽は、結界内にある廃病院の外を見回ることにした。

「ふむ、異常なし。聖水が余ったな・・・・作りすぎたか」

ルキアが、どばどばと中身を廃病院の外に氷にして行き渡らせた。

「ルキア、別に使わなくても」

「でも、せっかく作ったのに、もったいないので」

浮竹は、苦笑しながら、ルキアの黒髪の頭を撫でた。

「結界の維持で、けっこう力使っただろう。帰ったら、白玉餡蜜を作って食べてもいいぞ」

ルキアの顔が、ぱぁぁと輝いた。

ルキアの好物は白玉餡蜜である。食べることを好む浮竹の式神たちは、好物を持っている。

ルキアを先に帰らせて、京楽と浮竹は二人で、ぶらぶらと居酒屋に入った。

「生ビール2つ。あと日本酒を。おつまみはこれを」

適当に頼んで、二人で乾杯した。

廃病院の屍鬼の依頼は、いつもより高額を支払われたので、ちょっとお洒落な高い店に入った。

そこで2人は飲みまくって、べろんべろんになった浮竹を、京楽がタクシーを拾って、屋敷まで一緒に帰宅した。

「んー、もう飲めない・・・・」

浮竹をベッドに寝かせる。

「浮竹、愛してるよ」

「京楽、俺も愛してる」

愛を確かめ合おうをして、浮竹にキスをするが、浮竹はすでに眠ってしまっていた。

「ちょ、浮竹、そりゃないんじゃない?」

「ZZZZZZ・・・・・・・」

慣れぬ西洋の妖怪の退治で、少し疲れたのかもしれない。

キングサイズのベッドの中心で眠る浮竹をパジャマに着替えさせてやり、毛布をかけて、もってしまった熱を発散するために、京楽は熱いシャワーを浴びた。


次の朝。

「うーん。頭がガンガンする・・・・」

「飲みすぎだよ、浮竹」

京楽は、またふりふりのエプロンをつけていた。

「朝食にする、それとも朝風呂、それとも僕、それとも二日酔いの薬?」

「お前でいい」

「え?まじで?」

浮竹は、呪文を唱えると、呪術に入る術で、京楽に二日酔いを移した。

「あああ、頭が痛い!?」

「ふう、すっきりした。朝風呂入ってくる。京楽は、二日酔いの薬でものんどけ」

「酷い!僕を愛してないんだね!」

「お前は式だろう。頭痛くらい治せるはずだ。治るとイメージしてみろ」

「あ、ほんとだ。治った」

けろりとなった京楽は、浮竹の朝風呂に怒られないように、文鳥の姿でついていくのだった。

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払い屋京浮シリーズ 1-1

払い屋。

それは金を払って、力ある者が妖怪や霊を払うという仕事。

時には命の危険さえある。そんな払い屋の中に、浮竹十四郎という名の者がいた。

もつのは、式神を6体。

人型を4体と、猫、後は鴉の式神。

人型といっても、式神であるのだから変化は自由自在で、猫と鴉の式神はあくまでその形が基本なのであって、たまに違う形になる。

「京楽、あの家に憑いているのは・・・・何か、分かるか?」

浮竹の問いに、浮竹のもつ人型の式神の一人である京楽は、頷いた。

「人形だよ。人形の中に宿った霊魂が、悪さをしている。負の魂が入り混じって、人の形をして現れて、あの家の住人を害そうとしている」

「見せてもらったが、日本人形でまさに呪われてますってかんじだったな。あれが本体と見ていいだろう。結界を張る。京楽は、その補佐を頼む」

「ああ、任せてよ」

浮竹は、今回依頼された人形を払うのに、家全体が人形の思念に汚されていて、清浄にしないとまた何か悪いものが憑きそうなので、結界を張って人形ごと家中の悪いものをなくすための、払いをしようとしていた。

(ああああああああ)

人形の呪いの声が聞こえる。

(殺してやる・・・・・血に染めてやる・・・・・・)

人形の元の持ち主は、すにで人形の呪いで交通事故にあい、入院している。残された妻と子供が心配で、払い屋浮竹に人形の払いを依頼したのだ。

本来なら、人形などは寺で供養するものなのだが、今回の人形は負の感情を集めすぎて半ば妖怪化していて、人の姿を形どっては残された妻と子供たちを怖がらせ、殺そうとしている。

「浮竹、結界は完璧に張ったよ」

「ああ。ありがとう」

浮竹は、呪文を唱え出した。

庭の地面に円陣を描き、そこに思い切り力を注ぎこむ。


ぱぁぁぁぁぁぁ。

結界の中で、庭の円陣を中心に、光が家中を満たしていく。

(ああああああ、ああ、口惜しや、口惜しや・・・・あと少しで、主人だけでなく、妻も子も呪い殺せたものを・・・・・・)

呪いの人形が、光に包まれて、粉々に散っていく。

光が収まった時、その家は穢れを払われた、ただの普通の家に戻っていた。

「ふう、お疲れさま!」

浮竹は、払いを終えて、額を手で拭った。それほど力は消費していないが、結界を張るのは少し骨が折れる。

「浮竹、僕はもういいの?」

「ああ、うん。今回は俺だけの力で払えたから」

「じゃあ、いつもの姿になるね」

人型が基本であるが、京楽は常に主である浮竹の傍にいるのが好きで、桜文鳥の姿になると、ちょんちょんと浮竹の肩に止まった。

「浮竹、今日はもう払い屋の仕事はないんでしょ。家に帰ろう」

「うーん。明日、払い屋の会合があるんだよなぁ。俺のところは代々続く名門じゃないから、一応声はかけられてはいるが、欠席しよう」

「それがいいよ。払い屋の多くは、浮竹の代だけで有名になった浮竹のこと、よく思っていない奴らが多いから」

他人から見れば、文鳥が浮竹の肩にとまり、チュンチュンとかわいげに鳴いているようにしか見えなかった。

京楽は、式神であるが、移動する時などは文鳥の姿をとって、常に浮竹の傍にいた。

ついでに、式神であるが他の人間にその姿は見える。それほど強い力を注がれていたし、自前で強い力をもっていた。

元々、京楽は浮竹の式神ではなかった。

代々、生贄をと求めてくる、水龍神の次男坊だった。

その水龍神を浮竹が払い清め、普通の水龍神に戻した後に、浮竹に一目ぼれしたといって、眷属から抜け出して、浮竹の下につく契約を交わし、式神となった。

水龍神の式神。

水を操るのが得意で、清らかな力ももっているため、結界を張ることもできるし、浮竹に代わって小物の妖怪や霊なら、払うこともできた。


浮竹は、払いを終えたので車に乗り込んだ。

「京楽?どうした、いきなり黙り込んで」

「うん・・・・なんか・・・・視線を感じる」

「ああ、昨日譲り受けた、付喪神のついた壺のせいだろ」

車の後部座席には、ガタガタと音を鳴らす壺があった。

「付喪神自体は、あまり悪くはないんだ。ただ、恐れられるから、よく捨てられる。結界を張られた俺の屋敷の物置にでも、入れておくさ」

付喪神を払うことは基本ない。

悪い付喪神もいるが、その時は問答無用で払うが、付喪神は物に魂が宿ったもの。大切に使われてきたものに魂が宿ったもので、妖怪の一種ではあるが、神の名がつく通り、基本は悪いものではないのだ。

「家についたぞ」

京楽は、人型に戻って車から降りると、浮竹と並んで屋敷とも呼べる広い家に入っていった。

「おかえりなさいませ」

「おかえりなさい」

「ああ、ありがとう」

浮竹は、迎えにきてくれた式神に、礼を言う。

式神である海燕とルキアは、主人の帰りを待っていたのだ。

屋敷というほどに広い浮竹の家を管理しているのは、この2体の式神であった。

他に、夜一という式神をもつが、夜一は気分屋で、めったなことでは召還に応じてくれず、実質浮竹がもっているのは3体の人型式神と、猫と鴉の式神だ。

「主、食事の用意が整っています」

ルキアがそう言ってきた。

「ああ、もう夕飯の時間だな。いただくとするか」

食堂で、浮竹と一緒に京楽も夕飯をとった。

普通、式神は食事を必要としないのだが、京楽は水龍神が元であるので、食事もとれた。他の式神も、食事をとろうと思えばできた。

浮竹の式神は食べることが好きで、ルキアと海燕も、主である浮竹の食事が終わった後に、自分たちの食事をする。

「浮竹、何考えてるの」

食事も終わり、ソファーの上でぼーっとしている浮竹に、風呂からあがった京楽が、浮竹の白く長い髪を撫でた。

「いや、明日の会合のことをな。欠席にするにも、どれか式を飛ばさないといけないから、誰にしようかと・・・・」

「僕は嫌だよ。君の傍を離れたくない」

「ああ、うん。京楽は会合に行くとそのまま交じって酒飲んで帰ってきそうだから、はじめから除外してある」

「僕ってそんなに信用ない?」

「うーん。酒の誘惑に弱いからな。よし、マオを飛ばすか」

猫型の式神の名であった。

「にゃーん」

「マオ、この書状を会合のある屋敷まで運んでほしい。住所はここだ。わかるな?」

「なーお」

猫の式神は、書状を首輪の隙間に入れられると、ふっと消えてしまった。

「よし、俺も風呂に入るか」

「僕も風呂に入る」

「お前は、さっき入ったばかりだろう。言っとくが、一緒に入るつもりはないぞ。文鳥姿なら、一緒に入ってもいい」

「じゃあ、文鳥になる」

ぼふんと音をたてて、文鳥の姿になった京楽は、浮竹と一緒に風呂に入った。

洗面器の中で、水浴びならぬ湯浴びをして、上機嫌だった。

「ああ、風呂はいいなぁ」

何度も湯を浴びながら、京楽は浮竹の頭に止まった。

チュンチュンと、鳴いているようにしか見えないが、文鳥の姿でも人語を解すし、話す。

力ある者が見れば、この文鳥がただのかわいい小鳥ではなく、強い式であると分かるだろう。

風呂からあがって、掃除や洗濯をしてくれている海燕とルキアを手伝って、浮竹はその日の一日を終えようとしていた。

「京楽は、今日はどこで寝る?」

「もちろん、君の上・・・・」

ばきっ。

人型だった京楽は、浮竹の拳で顎を殴られて、涙目だった。

「チュン」

文鳥の姿になって、文鳥の鳴き真似をする。

「うっ・・・・・」

浮竹も、文鳥姿の京楽に、これ以上の暴力はふるえなかった。

「卑怯だぞ、京楽。こんな時ばかり変化して」

「チュン」

「分かった、俺の隣で寝たいんだろ。許可するから、文鳥の真似はやめろ」

「大好きだよ、浮竹!」

ぼふんと人型に戻った京楽は、浮竹に抱き着いた。

「んっ・・・・・」

浮竹の唇を奪い、そのまま押し倒そうとする。

浮竹が、鴉の式を出して、京楽の頭をつつかせた。

「痛い!」

「盛るな!」

「えー。だって、もう2週間もしてないじゃない」

背後には、ルキアと海燕が控えていた。

真っ赤になって、浮竹は京楽の頭を、はいていたスリッパで殴る。

「そういうことは、他の式がいる前で言うな!」

「えー。別に知られてるから、いいじゃない」

「よくない!」

浮竹は、京楽の頭をすっぱーんとスリッパで殴って、呼吸を落ち着かせた。

「もう寝るぞ」

「おやすみなさい、ご主人様」

「おやすみなさいませ、主」

海燕とルキアは、下がっていく。

浮竹のもつ人型の式神は、京楽以外は基本館の中で過ごしていた。

京楽だけが、浮竹と共に外の世界によく出て、払いの仕事を補佐する。海燕やルキアを連れていくこともある。夜一を呼ぶ時は、よほど切羽詰まった時以外ありえない。


浮竹は、明日は仕事がないのでゆっくりしようと、キングサイズのベッドに横になる。

その隣に、当たり前のように京楽がいた。

始めは寝所は別々に分けていたのだが、式でもであるのに、京楽と情交を交わしてしまうことがあるので、京楽は浮竹の隣で眠るようになった。

京楽は水龍神である。

もてあましている力を、霊力という形で、浮竹に注ぎこむ時があった。

「今日はしないからな」

「ケチ」

こんなでも、元は水龍神。神様だ。

でも、浮竹と二人きりの時は、すけべえになるのであった。

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勇者と魔王 モヒカンですがいかに?

魔王浮竹は、魔王城の庭で、勇者京楽と一緒に梅の花を愛でて花見をしていた。

「今年も綺麗に咲いたねぇ。あと1カ月ちょいもすれば、桜も見頃だね」

「ああ、その時は魔王城をあげての無礼講花見パーティーをしようと思っている」

「お、いいね」

「酒もあるだけ出そうと思っている。料理は料理人を何人か雇い入れて・・・・・・」

ああだこうだと、少し先の未来を描くだけで、やっぱり二人でいられるのはいいと、浮竹も京楽も思った。

京楽は、ぐいっと酒をあおってから、浮竹の長い白髪を手ですいた。

「ねぇ、花見しながらはどうだい」

「だめだ。外ではしない」

「たまにはいいじゃない」

「無人じゃないんだぞ。まぁいつもは人はいないが・・・・」

配下のモンスターは、魔王城にいなくもないが、各地に散って、魔王の配下であると声高々に、盗賊退治をしたりしている。

盗賊を退治して、金品を奪い、そしてリリースする。

キャッチアンドリリースだ。

人を害したりはしないし、どちらかというと魔王の領土の知性ないモンスターをやっつけていたりする。冒険者ギルドに登録もしていて、モンスターといっても、魔王浮竹の平和主義に染められていた。

「ねぇ」

「んっ・・・・だめだってば」

深く口づけてくる京楽をやんわりとなだめながら、浮竹はこれ以上するならハリセンで頭を殴ろうと、アイテムボックスからハリセンを出した。

「我は偉大なる新勇者なり!さぁ、いざ勝負!」

浮竹のハリセンは、新勇者の顔に炸裂した。

「おぶっ!」

「し、新勇者!どこから見てた!」

「初めから」

「おぶっ!」

新勇者の答えに、浮竹は赤くなってハリセンをまた新勇者の顔に炸裂させた。

「ちょ、ま、まじで顔はやめて。これでも・・・おぶっ」

今度は、邪魔された京楽がスリッパで新勇者の頭を叩いた。

「今日の恰好は一段と奇抜だねぇ」

新勇者は、ひらひらの服の上からスケスケのフルプレートアーマーを着て、頭は何故かモヒカンだった。

「モヒカン似合ってるよ」

「そうだろう!死滅した毛根に、アデランスで毛を植毛したのだ!でも全部できる金はなくって、モヒカンになった!」

「ほう。植毛か。そんな金・・・・そういえば、最近、純金の燭台がなくなったりしているんだが・・・・・」

「ふははははは!魔王城にあるものは、新勇者のものだ!いずれ、魔王城を乗っ取るのだから、前払いにもらっておいた・・・・おぶっ!」

顔にまたハリセンが炸裂する。

「ファイアボール」

浮竹は、炎の魔法で新勇者のモヒカンを燃やそうとした。

「ふっ、甘い!ウォーターボール!」

新勇者は、モヒカンの部分だけ純度の高い魔力を集めて、水で死守した。

新勇者の頭の上で炸裂した浮竹の魔法は、新勇者のウォーターボールによって防がれてしまった。

「なんだと・・・・・・」

浮竹が、ショックを受ける。

「お前もモヒカンになれ!ファイアボール!」

新勇者は、少年魔法使いが放ったファイアボールを受け取って、更にそこにファイアーボールをつっこんで、浮竹の長い白髪を燃やそうとした。

「ウォーターシールド!」

とっさに、京楽がシールドを張る。

京楽の張ったシールドは、新勇者のファイアーボールと相殺になり、たくさんの蒸気を出してお互い消滅した。

「魔法の腕、あがったかい?」

京楽が、新勇者の魔法の威力に、驚く。

ただのアホウだと思っていたのに。いや、変態のアホウか。

「LVUPしたからな!あと、魔法の札で魔力を強化している」

「ウィンドカッター」

ばしばしばしと、新勇者が見せた魔法の札を、浮竹が風の魔法で粉々にした。

「何してくれるんだ、一枚金貨20枚もするんだぞ!」

新勇者は、凄くおちこんだ。そして怒った。

「また食堂の黄金の燭台盗まないと・・・・・!」

「ウィンドカッター!」

浮竹が呪文を唱える。

シュパッ。

「くっ、これ以上魔法の札はやらせは・・・・ってあれ?頭部が涼しい・・・ぎゃあああ、俺の、俺のモヒカンがああああ!!!」

新勇者のモヒカンは、見事にざっくりと切られていた。

モヒカンを失ったことで、新勇者は恐慌状態に陥った。

「サイレンス」

京楽が、新勇者に沈黙の魔法をかける。魔法を使えなくするだけで、言葉はしゃべれた。

「あああああ、コッペパンとアハンアハンした後のパンを、女僧侶に食べさせて、少年魔法使いの財布から金貨3枚ちょろまかして・・・・・」

恐慌状態からステータスに混乱がついた新勇者は、自分がしていた悪事を口にしてしまっていた。

「なんですってぇ!あたしが食べたコッペパンとアハンアハンしていたですって!」

「僕の財布から金貨3枚もちょろまかすとは・・・道理で、金貨が少ないわけだ」

青年戦士と、獣人盗賊は、怒りに燃える女僧侶と少年魔法使いをなだめにかかる。

ぎゃいぎゃいうるさくなった新勇者パーティーに、浮竹も京楽も頭を抱えた。

「サンダーストーム」

「ライトニングボルト」

しびびびびびび。

全員しびれたのち、黒こげになった。

生きてはいたけど。

「ああああ、俺のモヒカンが黒こげにぃぃぃぃ!!!」

他のメンバーは頭髪は無事だった。

ただ、新勇者の頭髪のモヒカンは、黒こげになって、もう焼け野原になっていた。

「アデランスにいかないとおおおおお!!!」

「京楽、頼めるか」

「うん」

京楽は、魔法で鎖を作り出すと、それで新勇者パーティーをぐるぐる巻きにして、風の魔法で魔王城の外にぺっと放り投げた。


「うわああああん!俺のモヒカンがあああ!!」

「新勇者、覚悟できてるわね?」

「金貨3枚分、殴るから」

パーティーメンバーにボッコボコにされて、新勇者は泣きながらまた魔王城に忍びこみ、黄金の燭台を盗んで、売り払った金でアデランスにいって、モヒカンに植毛してもらうのであった。







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たまってたんです

「日番谷隊長、遊びにきたぞー」

「ああ、浮竹か。そこらへんに座って茶と茶菓子でも食ってろ」

日番谷は、仕事をてきぱきとこなしながら、よく10番隊に遊びにくる浮竹を拒絶することなく迎え入れてくれた。

ちなみに、茶菓子はわかめ大使である。

前に浮竹が大量に白哉からもらったものを、日番谷にもおすそわけしたのだ。それも、大量に。

白哉はわかめ大使を作りすぎて、処分に困っていたのを全部浮竹に丸投げしたのだ。

浮竹はそれを喜んで受け取り、学院などに寄付したりと、いろんなところにおすそ分けして、日番谷のところにも大量におすそわけした。

わかめ大使は見た目があれだが、美味しいことには変わりなかったので、評判は上々であった。

白哉はというと、わかめ大使の他にも何かキャラクターを作って、わかめ大使のように流行らせたがっていたのだが、肝心のわかめ大使があまり注目を浴びていないので、また思案中の段階であった。

「よし、仕事が終わった」

日番谷は、真面目で勤勉で、仕事を良くこなす上に天童と誉れ高い最年少の隊長である。

「日番谷隊長、暇だ。ババ抜きしよう」

「二人でババ抜きなんかして、楽しいのか?」

「松本副隊長も呼ぼう」

「おい、松本ー」

「はーい」

隊首室でダラダラと怠けていた松本は、浮竹が来ていることに喜んで、顔を出した。

「浮竹隊長、今日は京楽隊長と一緒じゃなんですか?」

「あんな奴しらん。今週は、週2を週4にしやがった。あんなエロ魔人・・・・」

ぶーーーーー。

日番谷は、口に含んだ茶を噴き出していた。

「やーん、週4だなんて京楽隊長おさかん!」

腐った脳みそと目玉をもっている松本は、腐女子だ。よく京楽×浮竹の小説を同人誌として発売していて、その収入は副隊長としての収入より上だった。

「おまけに1日に5回だぞ」

ぶーーーーー。

日番谷はまたお茶を噴き出した。

「京楽のやつ、お前が体が弱いことを知っているんだろう?」

こほこほとせき込みながら質問すると、浮竹はぷりぷり怒りながら頷いた。

「今週は体調が珍しくかなりいいからっていったら、今までお預け喰らってたぶんを回収するって・・・・・・」

3人でするババ抜きは、面白いわけでも面白くないわけでもなかった。

「浮竹~ごめんてば~~~~~」

10番隊の執務室の窓の外で、窓にはりついた京楽がいたが、浮竹は無視していた。

「おい、浮竹あれ・・・・」

「知らん。俺は何も見ていない」

「浮竹~~~、半月の禁欲受けるから、機嫌なおしてよ~。君に無視され続けるのはさすがに堪える」

「ああいってるんだ、許してやったらどうだ?」

「ああもう、仕方ないな」

浮竹は、京楽を10番隊の執務室に入れた。

「ババ抜きだ。もしも京楽が1位で勝ったら、半月の禁欲もなしにして許してやろう」

「本当に!?」

げっそりとなってた京楽の顔が輝く。

こうして、4人でババ抜きした。

めちゃくちゃ霊圧をあげて、他の追随を許さぬ形で、京楽が1位で勝った。

「む・・・・・」

浮竹はその結果に思ってもみなかったので、ちょっと焦った。

「京楽、許してはやるが、しばらくはさせないぞ!」

「君は素直じゃないね」

浮竹に抱き着いて、そのうなじにかみつく。

「やめっ・・・・・」

「京楽、ババ抜きはまだ終わっていない・・・ってきいてねぇな」

「ちょ、やばい、やめろって」

「君は僕の全てだ・・・・」

「んああ・・・・・」

「蒼天に座せ、氷輪丸!」

しゅるるるるるどっかーーん。

「なんであたしまでええええ」

松本を巻き添えにして、日番谷が出した氷の龍は天高く昇っていく。無論、浮竹と京楽は瞬歩で
攻撃を避けている。

「この、ケダモノがーーーっ」

日番谷は、京楽に向けてさらに氷の龍を出した。

京楽は、斬魄刀を抜くこともなく、軽やかにかわしていく。

そして、浮竹を肩に担ぎあげて、京楽は雨乾堂の方に向かって去っていくのだ。

「浮竹・・・・成仏しろよ」

日番谷は、半壊した執務室から、浮竹と京楽が去っていった方を見て、ため息をつくのであった。






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おかん

「海燕、何気にいい体してるよな」

ペタペタペタ。

海燕の体を触る浮竹に、海燕はこそばゆそうにしていた。

「そりゃ、鍛錬してますからね。隊長も、鍛錬してるんですから、それなりに筋肉あるでしょう」

「いやあ、寝込むことが多いからなぁ」

今度は、海燕が浮竹の体を触った。

「あー。ちょっと肉落ちてますね。しっかり食べて体動かさないと、いざっていう時が大変っすよ」

「そうなんだよなぁ。でも食べて鍛錬しても、また熱が出たりして寝込んで、意味がない時が多いような気がして・・・・・」

「それでも食べて鍛錬しないと」

「ああ、そうだなぁ」

浮竹の脇腹あたりを触って、海燕は眉を顰める。

「肋骨の位置がわかりますね。ちょっと肉落ちすぎです」

「今回は10日も臥せっていたからな。大分肉も落ちてるだろう」

血を吐いて倒れた。

入院こそしなかったものの、体力が回復して起き上がって動き回れるようになるまで、10日かかった。

「海燕の筋肉いいな。俺もほしい」

ペタペタ触ってくる浮竹に、お返しだと薄い筋肉しかついていない浮竹を触ってると、すごい霊圧の高ぶりを感じて、海燕は浮竹から距離をとった。

「海燕君~~~~?何、浮竹を嫌らしい手つきで触ってるのかな?」

にこっと笑みながら、殺気を含ませている。

「いや、京楽隊長誤解です!俺は邪(よこしま)な感情で触ってたわけじゃありません!」

「僕の浮竹に触れていいのは、僕と診察する卯ノ花隊長くらいだよ」

じわりと、高ぶった霊圧が海燕に集中する。

海燕はその霊圧の高さに、冷や汗をかいた。

浮竹は、海燕の手からいつも突っ込みに使うハリセンを奪って、京楽の頭をばしばしと叩いた。

「痛い!痛いから浮竹!」

「海燕は、俺の副官だ。俺が寝込んで肉が落ちたことを気にかけてくれて、触って確かめていただけだ!海燕をいじめるな!」

「分かったから!僕が悪かったよ!」

ばしばしとハリセンでさらに何度か叩いて、浮竹は満足したのかハリセンを海燕に返した。

「京楽、今日は暇か」

「暇じゃないと、こうやって遊びにきてないよ」

本当は、書類仕事がたまっているのだけれど、愛しい浮竹に会うために放置していた。

そのうち、伊勢に耳をひっぱられて、監視付きで仕事をさせられるだろう。その時は、まぁその時で。

京楽は、浮竹をお姫様抱っこした。

「おい、京楽!」

「うーん、大分肉おちちゃったね。甘味屋いこうか」

お姫様抱っこだけで、浮竹の体重がわかるほど、京楽は浮竹のことを知り尽くしていた。

京楽は、浮竹を床に降ろす。

甘味屋という言葉に、浮竹の目が輝く。

「しばらく行ってないからな。すごく行きたい」

海燕は、京楽の怒りがもう自分に向いていないことに安堵した。

「京楽隊長、浮竹隊長にいっぱい食べさせて、あと鍛錬も一緒につきあってやってください」

「海燕君、怒って悪かったね。君が浮竹をどうこうするわけはないと分かっているのに、目の前で実際に見ると、どうにも怒りの感情が先走ってしまってね」

「いえ、俺も悪かったですから」

海燕は、京楽にぺこりと謝った。

「海燕、京楽に謝ることなんてないぞ。京楽、ほら甘味屋いくんだろう!俺の財布はお前なんだから、行くぞ」

京楽を財布扱い。

海燕は、噴き出すのをこらえた。

4大貴族に並ぶほどの上流階級の貴族である京楽を、財布がわりだなどというのは、浮竹くらいだ。

浮竹は給料のほとんどを仕送りで使って、残った金で薬を買い、付き合いで飲み食いするときのために金を残しているが、京楽と一緒になって食べに行ったり飲みに行ったりする時は、いつも京楽が金を出してくれる。

なので、浮竹の中で京楽は財布になっていた。

「今日は新作メニューが出るらしいよ」

「よし、行くぞ。海燕もどうだ?」

「いや、俺はいいです。仕事ありますし」

浮竹は、自分の分の仕事は既に終わらせていた。10日間臥せっている間の仕事はほぼ海燕が処理して、浮竹が必要な書類だけは残しておいた。

それを、浮竹は2日はかかるであろう仕事を、4時間で終わらせてしまったのだ。

浮竹は優秀だ。

病で臥せり、隊首会を欠席したりすることはあれど、仕事はちゃんとこなすし、その戦闘能力の高さは折り紙つきだ。

霊圧の高さだけなら、京楽よりも上かもしれない。

浮竹の異様なまでの霊圧の高さが、浮竹の肺に宿るミミハギ様のせいでもあるいうことを、浮竹以外は誰も知らない。

浮竹自身、ぼんやりとそうかもしれないと思っているかんじで。

「甘味屋に行くぞ!ほら、京楽!」

すでに雨乾堂の外に出ていた浮竹を追うように、京楽がその後に続く。

「海燕、お土産買ってくるから、留守番よろしく!」

浮竹は、海燕に手を振った。

それに応えて、手を振る。

「京楽隊長の財布をすり減らす勢いで、食べてきてください。それから、鍛錬も忘れないように」

浮竹が笑顔になるのは、いつも京楽と一緒にいる時が多い。海燕の前でも笑顔になってくれるが、京楽が傍にいると、その確率は数段にアップする。

本当に、仲がいい二人だ。

「夫婦ってやつですか。んで俺はあの夫婦の姑かおかんか・・・・・」

自分の立ち位置を、ふと不思議になって検証してみるが、やはりあの二人のおかんってかんじだろうか。

浮竹も京楽も、海燕をおかんだと思っているだなんて、海燕は知らないのであった。

浮竹は食べまくり、京楽の財布の中身をごっそり減らした。

海燕におみやげのおはぎを買って、鍛錬の意味を兼ねて走って帰った。

海燕におはぎを渡して、久しぶりに二人は木刀を手に、庭で打ち合いをした。稽古だ。

浮竹が勝ったり、京楽が勝ったりで、どちらが強いのか明確には分からなかった。

「浮竹隊長、風呂わいたので入ってください!稽古で汗流して、そのまま放置するとまた風邪ひくでしょう!」

おかんな海燕の声に、京楽も浮竹も。

「海燕君って、絶対に浮竹のお母さんだよね」

「否定はしない」

そう思うのであった。

海燕はおかん。

京楽と浮竹だけでなく、その周囲の者もそう思っていることを、海燕は知らない。







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卯ノ花と浮竹と京楽3

4番隊隊長、卯ノ花烈は菩薩のようで、慈悲深く回道の腕に優れ、酷い怪我や病気も癒してくれる、まるで女神のような存在だ。

そんな卯ノ花は、阿修羅の顔ももっている。

にこにこと穏やかな笑みを浮かべながら、病室を抜け出して甘味屋にいくような患者・・・浮竹を簀巻きにしたりする。

京楽の血が珍しいからと、しおしおになるまで献血したりする。

ちなみに、注射の腕は下手だ。

何度もブスブスと刺されるが、回道で癒すので問題はないと思っているようだった。

「卯ノ花隊長、この薬苦すぎるんだ。どうにかならないか」

数日前、肺の病で血を吐いて、入院することになってしまった浮竹は、大分回復して卯ノ花にどどめ色の粉薬を見せた。

「これは、とても効能があるのです。良薬口に苦しというでしょう。諦めて飲んでください」

「そんなぁ」

卯ノ花に飲めと言われたら、飲むしかない。

救護詰所のボスである卯ノ花に逆らえる者はいない。

「この簀巻き、いい加減解いてくれないだろうか」

昨日黙って病室を抜け出し、弁当屋で弁当を頼んでそれを昼食にした件で、勝手に病室から抜け出さないようにと簀巻きにされた。

食事と風呂とトイレの時は自由になるが、その時間以外は簀巻きでベッドの上で放置プレイである。

ただでさえ暇なのに、救護詰所内を散歩もできないし、ずっとベッドの上はきつかった。

「浮竹、見舞いにきたよ~」

「ああ、いいところにきましたね京楽隊長。献血でも・・・・・・」

「急用を思い出したので、帰るね!」

瞬歩で去ろうとする京楽を、がしっと卯ノ花が阻んだ。

「献血、しましょうね?」

「ひいいい」

「京楽、俺の分まで血を抜かれてこい」

「浮竹、そりゃないよ」

「まぁ、冗談はこのくらいにして」

え、冗談だったの?

二人して、目を瞬かせた。

「浮竹隊長は簀巻きから解放します。ですが、くれぐれも許可なく病室を抜け出したりしないように。救護詰所を許可なく出て行ったら・・・どうなるか・・・・わかりますね?」

にこにこにここ。

注射器を片手に、卯ノ花は微笑んだ。

ひいいいい。

浮竹だけでなく、京楽も青ざめた。

「新しい毒に対する血清が完成しまして、それのテストがまだなので・・・・」

ひいいいいいいい。

毒打たれる!

血清打たれても、そういう毒は絶対猛烈に痛かったりするのだ。


浮竹は簀巻きから解放されて、卯ノ花は病室を去っていた。

「浮竹、大丈夫かい?」

「ん、ああ。相変らず4番隊の飯は味がしないので、昼飯を許可なく抜け出して弁当買ってきて食べたら、簀巻きでベッドに放置プレイされた」

「せめて許可はとろうよ」

「飯の味がしないからという理由では、許可が下りないんだよな、俺の場合」

他の患者は救護詰所の飯に文句をいったりしないので、浮竹が悪い、ということになる。

「君の好きな桃をもってきたんだ。むいてあげるから、食べるでしょ?」

「ああ」

浮竹は、京楽に桃をむいてもらい、一口サイズにカットされたのを食べながら、小首を傾げた。

「それにしても、卯ノ花隊長は恐ろしい」

「うん」

「優しくて綺麗だけど・・・・山姥(やまんば)みたいだよなぁ。悪鬼ともいうべきか。菩薩の顔の裏に阿修羅を隠してる」

「浮竹、めったなこと言うもんじゃないよ!卯ノ花隊長に聞かれたら殺されるよ!ほら、話をすれば卯ノ花隊長が」

「ひいっ」

「あはははは、冗談だよ」

からからと笑う浮竹の頭を拳で殴って、浮竹はベッドに横になった。

「明日には退院できると思う」

「そう。よかった」

叩かれた頭をなでながら、京楽が微笑む。

お見舞いの桃の他にあったおはぎを食べながら、京楽と浮竹は他愛ない会話をした。それから、口づけを交わし合い、互いを抱擁する。

「浮竹隊長、京楽隊長」

音もたてずに現れた卯ノ花に、二人は真っ青になった。

「こここここ、これは別になんでもないぞ!」

浮竹は、京楽を突き飛ばして、ぶんぶんと首を振っていた。

「病室でいちゃつくのは、ほどほどにしてくださいね?」

にーっこりと、卯ノ花は微笑む。

手術を終わらせてきたのか、血の匂いがかすかにした。

「京楽隊長は、とても元気そうですね。献血しましょうか」

ずるずると、卯ノ花に引っ張られていく京楽。

「助けて~浮竹~~~」

「なむ」

「誰か~~助けて~~~~」

助ける者など誰もいないと分かっていても、京楽は助けを求めた。

献血のためと、10回以上も注射器を刺されて、なかなか血管が浮き出てきませんねぇと、回道をかけながら、卯ノ花は笑う。

「浮竹のばか~~~~」

卯ノ花に文句は言えなくて、助けてくれなかった浮竹に文句をたらす。

「京楽のあほおお。京楽が浮竹浮竹うるさいから、俺まで献血に!」

隣のベッドにやってきた浮竹は、副隊長の虎徹に献血のための針をさされた。

「お、うまいな、虎徹副隊長」

「いえ、普通ですよ」

「僕なんて・・・・・」

もう10回以上針を刺されている。それでやっと血管を見つけて、卯ノ花は献血を開始した。

二人して、ちゅーっと血を抜かれていく。

しおしおになるまで。

「はい、献血してくださったご褒美です」

卯ノ花に野菜ジュースを渡されて、それを飲みながら、二人はふらふらと休憩室にかけこんだ。

「絶対、抜く血の量多すぎるよな」

「そうだね。しおしおだ」

野菜ジュースは、おいしくなかった。

「浮竹、なるべく入院しないでね」

「そうしたいが、体がなぁ」

卯ノ花が怖いからとは、二人とも言えない。

だって、背後に卯ノ花がいたのだ。

気づいた時には背後にいて、心臓が止まるかと思った。

「京楽隊長、また献血にきてくださいね。京楽隊長の血は珍しいので、いつでも不足気味なのです。浮竹隊長は、体を大切にしてくださいね。最近寒いので、風邪にも気をつけてください」

にこりと微笑んで、卯ノ花は去っていく。

「こ、怖かったー」

「僕、心臓一瞬止まったよ」

卯ノ花烈。

彼女が、初代剣八であることを、二人はまだ知らない。

長く戦うためだけに、回道を身につけたことも。

それが今や、瀞霊廷で癒し手として欠かせない存在となっていた。












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浮竹の一日

「起きてください、隊長!」

「嫌だ!後2時間寝る!」

「浮竹隊長!」

「あと2時間!」

「もう仕事開始の時間ですよ!起きてください!」

「寝るーー」

浮竹は、たまにねぎたない。

海燕に布団を引っぺがされて、毛布だけをなんとか死守してまだ半分眠りの中にいた。

「ええい、いい加減にしてください!」

何処から取り出したのか、ハリセンでスパンと浮竹の頭を勢いよくはたいて、海燕は浮竹から毛布を奪った。

「寒い!死ぬ!風邪をひく!」

「ほら、起きて顔洗って歯を磨いて、朝食食べてください」

海燕の上官である浮竹は、たまに手がかかる。

海燕は、まるで自分が浮竹の母親になったような錯覚を覚えた。

「んー・・・・・・」

「ほら、食べたまま寝ない!」

「ふにゅ・・・・・・」

スパーン。

ハリセンが飛ぶと、浮竹も目を開けて、食事をつづけた。

昔はスリッパだったが、勢いが足りずにハリセンになった。


「やあ、おはよう浮竹。一緒に仕事しよ・・・・って、まだ朝食とってるのかい」

「京楽隊長!京楽隊長も、浮竹隊長に言ってやってくださいよ。この人、放っておくと昼まで寝るんですよ!」

「いっぱい寝て元気が出るならいいじゃない。病気で臥せっているよりもまだましじゃない」

「そりゃそうですけど、いい大人が一人で決まった時間に起きれないなんて、恥ずかしいです」

海燕にとって、浮竹は大切な上官だ。

その世話を焼くのが嫌なわけではないのだが、冬になると冬眠したように長く眠る浮竹が、心配だった。

「一度、卯ノ花隊長に相談したほうが・・・・・」

海燕がそういうと、浮竹は飛び上がった。

「海燕、卯ノ花隊長だけはやめてくれ!明日からきちんと起きるから!」

入院している時、何度怖い目を見たのか数えきれない。

浮竹にとって、卯ノ花隊長は病を癒してくれる大切な友人でもあるが、同時に天敵でもあった。

「ははーん、浮竹、卯ノ花隊長が怖いんだね。まぁ、僕も怖いけどね。この前の献血、僕の血は珍しいってしおしおになるまでとられたからね」

「そうだろう。卯の花隊長は、菩薩だが同時に阿修羅だ」

散々な言われようだった。

その頃、卯ノ花隊長は4番隊の宿舎でくしゃみをしていた。

「誰かが、噂してるのかしら」


「約束ですよ。明日から、きちんと時間通り、8時には起きてくださいね」

ちなみに、死神の仕事の始まりの時間は9時である。

7時には起きていて欲しいが、冬は何故か睡眠の長い浮竹のために、8時に起きることを条件にした。

1時間もあれば、身支度はできるだろう。

京楽はというと、身支度を整えた浮竹の隣で、黒檀の机にもってきた仕事を広げて、少しでも浮竹と一緒にいたいので、一緒に仕事をしていた。

京楽の副官である伊勢は、まだ副官になったばかりだったが、京楽が仕事をためまくって、雨乾堂にくるのを耳を引っ張って連れて帰ることが何度もあったので、浮竹の元に行っていても、仕事をもっていって自分でやってくれるなら、それでいいかという思考の持ち主であった。

浮竹と京楽は、自分たちの関係をあまり隠していない。

尸魂界でもオシドリ夫婦として有名だ。

二人は、一緒に昼飯をとり、午後も仕事をして、仕事が終わると二人でどこかに出かけたりして、夕飯の時間には帰ってくる。

京楽の分まで夕食を用意しないといけないのが面倒だったが、浮竹が喜ぶのであれば、それもやぶさかではない。

京楽は、浮竹の調子が良い時はよく雨乾堂に泊まった。

仕事に忙殺される時などは、自分の館に泊まることもあったが、その時は逆に浮竹のほうが京楽の8番隊に顔を出すのだった。

浮竹も、自分の館をもってはいるが、主に雨乾堂で生活している。

館は他の席官にかしており、浮竹には帰る場所というと雨乾堂なのだ。

そして、それは京楽にとっても同じようなものになっていた。

二人はとにかく距離が近い。

そのくせ喧嘩をして、顔を見合わせなくなると、海燕や伊勢が心配しまくるのだ。

「海燕、風呂入ってくるー」

「僕もー」

お前は一人で入れと、京楽に突っ込みを入れたいが、二人は本当に仲がいい。

雨乾堂の風呂は少し広く作られており、成人男性二人が湯船に浸かっても、少し狭いかなというかんじのところだ。

「今日は泊まるねー」

「今日も、でしょうが」

海燕がハリセンで京楽の頭をスパンと殴ると、京楽は浮竹の分まで布団をしいた。

ああ、やっと帰れる。

海燕は新婚だが、浮竹の面倒を見ていることが多くて、帰る時間が遅い時がある。

「俺は帰りますよ。くれぐれも、無茶はしないでくださいね」

海燕が雨乾堂を後にすると、京楽と浮竹はゴロゴロ布団の上で転がった。

互いの体を貪りあうこともあるが、基本は京楽は泊まるだけだ。

浮竹に無理をさせすぎると、熱を出してしまうので、加減の仕方も心得ている。

「あー、憂鬱だなぁ。8時に起きなきゃいけないなんて」

「僕はいつも6時半には起きてるけどね」

「6時半なんてまだ夢の中だ」

京楽は、6時半には起きて、一度8番隊の隊舎に戻る。

そして9時になると、その日の仕事を手に、また雨乾堂にやってくる。

「もう9時だ。寝るぞ」

「まだ9時だよ」

「いい子は寝る時間なんだ」

「僕ら、いい子じゃないでしょ。ねぇ・・」

「知らん。今日はしない。寝る」

「けち」

「知るか」

消灯。

翌日、京楽はいなくなっていて、海燕にハリセンで頭をはたかれて8時に起きた。

「うー。寒い眠い死ぬ」

昨日と同じような台詞を吐きながら、浮竹は着替えて歯を磨いて顔を洗って朝食を食べた。

9時前には、仕事の準備ができていて、海燕は手のかかる子供がようやく少しだけ成長した気分になった。

ふと、地獄蝶が飛んできた。

「ん?」

メッセージは、今日は一緒に仕事ができないという、京楽からの私的なメッセージであった。

「また仕事がたまったのかな」

京楽がもってくる仕事の量は、そう多くない。仕事がたまりすぎて、きっと伊勢あたりに外出禁止令でも出されているのだろう。

「ああ、隊長、実は今日様子を見に卯ノ花隊長が・・・・」

「ひいい」

卯ノ花が来ると知って、浮竹はガクガクと震え出した。

「冷静に、冷静に・・・・・」

「あ、きました」

「こんにちは、浮竹隊長。お体の具合はどうですか?」

やってきた温和な笑みを浮かべた卯ノ花隊長に、浮竹はにこにことつくり笑いを浮かべて、対応する。

「体のほうは大丈夫だ。ここ1カ月発作もないし、微熱を出したのが2日あったくらいで」

「そうですか。それはよかったですね。くれぐれも、無茶はしないように」

「卯ノ花隊長、浮竹隊長が朝なかなか起きてくれないんです。何か策はありませんか?」

海燕が、余計なことを聞いてくるので、浮竹は海燕の脇腹を蹴った。

「いてっ・・・ったく」

「朝ちゃんと起きれるような薬を、煎じておきましょう。飲めば、きっかり朝に起きます」

「それはいいですね!ぜひその薬をください!」

「やめろおおお、海燕、俺を殺す気か!」

「おや、浮竹隊長は、私の薬で死ぬとでも?」

「いいえ、めっそうもない。大丈夫。薬なんてなくても、自力で起きれる」

顔が青くなっていた。

「お顔の色が悪いですね。どこが悪いところでも?」

あんたのせいだーーー!!!

浮竹は、心の中でそう叫んだ。

海燕のバカヤロー!

後で、海燕のハリセンで海燕をはたいてやろうと思う、浮竹だった。

浮竹の一日は、そんなかんじで朝からはじまるのだった。






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説教

「京楽、やめっ・・・・」

「いいじゃない」

「やっ」

「ほら、もっと奥まで入るよ」

「やぁっ」

雨乾堂の中から、そんな声が聞こえてきて、海燕はハリセンを手に扉をあけた。

「昼間っから盛るな!」


「え?」

「へ?」

浮竹と京楽は、固まった。

京楽の太ももに頭を預けて、浮竹は耳かきをしてもらっていた。


「いや、ただの耳かきだよ」

「盛ってないぞ、海燕・・・・・あ、そこ、そこきもちいい」


京楽の手が動いて、浮竹の耳の奥に耳かき棒を入れる。

「ほんと、君は時折甘えてくるよねぇ」

「耳かきは、誰かにやってもらったほうが気持ちいいんだ」


海燕は、ハリセンを構えた。

バシバシッ。

京楽と浮竹の頭をはたく。

「いたっ、上官に向かって何するんだい!」

「海燕、どうしたんだ!」



「紛らわしいんだよ、あんたらは!昼から盛ってやってると思ってしまっただろうが!」


「やだー、海燕君のエッチー」

「卑猥だぞ、海燕」

たしなめてくる二人を、再度ハリセンでスパーンと叩いて。


「そういって、この前朝からやってたのはどこの誰でしょうね!浮竹隊長、京楽隊長」

「ど、どこの誰だろうねぇ、浮竹」

「ああ、どこの誰だろう」

冷や汗をかきながら、二人は海燕から距離をとる。


「どうせ、耳かきの後情事になだれ込むつもりだったんでしょう」

ぎくりと、二人が固まる。

「今日という今日は許しません。そこに正座してください!」

ハリセンでスパーンと二人の頭を叩いて、海燕は1時間以上も京楽と浮竹に説教をするのであった。



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呼び声

「もしも・・・俺が、目覚めないような状態になったら、俺の名を何度も呼んでくれ。きっと、お前の元に帰ってくる」

「やだなあ、そんな縁起の悪いこと言わないでよ」

「本気なんだがなぁ」

「冗談にしては性質が悪いよ」

雨乾堂で、浮竹と京楽はおはぎを食べながら、そんなことを話していた。

ここ3カ月、浮竹は発作という発作も起こさず、熱をだしても微熱程度で健康状態は比較的良かった。

「天気もいいし、散歩にでもいかないかい?」

「ああ、いいな」

おはぎを食べ終わり、仕事も片付いて暇をもてあました浮竹は、了承した。

京楽はというと、また仕事を溜めこんでいるらしいが、あまりに溜まると七緒が問答無用で連れ去っていくので、今はまだセーフの状態なのだろう。

春の季節になっていた。

ぽかぽかした陽だまりがきもちよくて、二人はふらりと少し早い桜の咲く並木道を、二人並んで歩いていた。

「今年も満開だな」

「そうだね。今度、花見しようよ。山奥のいいところ知ってるんだ」

「ああ、いいな。弁当をつくってもらって、酒も用意して二人でばーっと騒ぐか」

「うん」

他愛ない会話を交わして、その日は別れた。

次の日、浮竹は肺の病を急激に悪化させて、血を大量に吐いて倒れた。

3席である小椿が、見つけた時にはすでに血を吐いた後で、意識を失っている浮竹をすぐ、4番隊の救護詰所に連れて行き、浮竹は集中治療室に運ばれた。

容体はかなり悪かった。

下手をすると命が危うい状態だった。

「浮竹・・・・・・」

集中治療室の外で、ガラスごしに京楽は、昨日まで屈託なく笑っていた浮竹の、柔らかな笑みを思い出す。

「花見・・・絶対に、行こうね」

浮竹は、一週間たっても、二週間たっても、目を覚まさまなった。

点滴の管が痛々しい。

まだ集中治療室にいるので、面会はできない。

京楽は、毎日ガラスごしに浮竹に会いにきていた。

「浮竹、桜の枝をもってきたよ」

ガラス越しに京楽は、浮竹に見せるかのように、見事な枝ぶりの桜をもってきていた。

集中治療室に飾ってもらった。

「ねぇ、浮竹。僕はもう何度も君の名を呼んでいるよ?なんで、君は起きてくれないの?僕を一人にしてしまうの?」

このまま浮竹が亡くなってしまうかと思うと、気が気ではない。

最近は仕事もままならない。

そんな日々を送っていると、浮竹の容体がよくなって、個室に移された。

「浮竹・・・・帰ってきて」

元々細いのに、点滴だけで栄養をとっていたので、また細くなってしまった浮竹の頬に手で触れる。

「帰ってきて、浮竹」

浮竹の返事はない。


「また、桜の枝もってきたよ」

もう、満開の季節を過ぎて散り気味の桜の枝だったが、殺風景な個室の病室に飾るには申し分ななかった。

「ねぇ、浮竹。帰ってきて」

浮竹の唇に唇を重ねる。

「きょうら・・・・く?」

ゆっくりと、翡翠色の瞳が開かれていく。

「浮竹!」

「苦しい・・・そんなに・・・・抱き着くな」

「浮竹、ああ、よかった。このまま君が死んでしまうんではないかと思った」

浮竹は、少し生気の戻った顔で弱弱しく微笑んだ。

「川を渡っていたんだ・・・・きっと、三途の川だ。亡くなった祖父が、俺を呼ぶんだ。でも、京楽の俺を呼ぶ声がずっと聞こえていて・・・・川を、渡らなかった」

「名前を呼んだら帰ってきてくれるって、本当だったんだね」

「心配をかけたな・・・・・」

浮竹は、実に三週間もの間、眠り続けていた。

京楽は、仕事を片付けて毎日浮竹に会いにいっていた。

「お前の声は、毎日届いていた」

「うん。毎日、呼んでいたから」

「ありがとう、京楽」

「卯ノ花隊長に、連絡しないと」

京楽は、卯ノ花隊長に浮竹の意識が回復したことを報告した。

浮竹の容体はかなり落ち着いて、一時期は命を危ぶまれたが、危機を脱して快方に向かっていた。

京楽は、浮竹が退院するまで毎日病室を訪れた。

「花見、今年はできなかったね」

「何、また来年すればいいさ」

「君が意識を失ったら、僕は君の名を呼び続けて傍にいるよ」

「仕事、放置するなよ」

「ちゃんと片付けてからきてるから、大丈夫」

退院した浮竹を抱き上げる。

「うわ!」

「体重、軽くなったね。美味しいものいっぱい食べて、体力つけようね」

「京楽、一人で歩ける」

「だめ。さっき少しふらついたでしょ」

「お前には、本当に何も隠せないな」

浮竹は肩をすくめて、京楽の首に手を回した。

「愛してる、春水」

「僕も愛してるよ、十四郎」

そのまま、京楽は瞬歩で浮竹を抱きかかえて、雨乾堂まで戻ってきた。

「うわー、仕事たまってるなぁ」

「仕事はまだしちゃだめだよ。ちゃんとご飯食べて睡眠とって、もっと元気になってからだよ」

「でも、仕事がどんどんたまるだろ」

「君のとこには優秀な3席が2名いるじゃないか」

3席の子椿と虎徹は、優秀だ。たまった仕事も、片付けるのを手伝ってくれるだろう。

ただでさえ、書類仕事を寝込んでいる時になど任せているのだ。

浮竹がいない間、多忙すぎて書類仕事にまで手を出せないでいたみたいだが、浮竹の復帰で声をかける前から書類仕事をこなしてくれているようだった。

「京楽・・・・もしもまた、俺が倒れたら、名を呼んでくれ。絶対に、帰ってくるから」

「何度でも呼ぶよ。愛しい君を。できるなら、もうそんなことにならないことを祈るよ」

浮竹は、京楽の呼び声で死の淵から帰ってきた。

浮竹は、これからも倒れることがあるだろう。

けれど、その度に京楽が名を呼んで、現実世界に帰ってくるように促すのだ。

それは、一種の魔法に似ていた。

浮竹は、酷い発作をおこしても、京楽がすぐ傍にいるとましになる。

京楽は、浮竹にとって一種の薬のようなものだった。

愛し愛され。

二人は、二人三脚で人生を歩んでいくのだった。

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オメガバース京浮短編4

浮竹はオメガだった。

体が弱いし肺の病をもっているしで、問題はいっぱいあった。

だが、生まれつきものすごく高い霊圧を持っていて、浮竹の子は限りなく死神の頂点に君臨できると思った両親は、ある上流貴族との婚約を進めた。

婚約相手も、まだ子供だったが、高い霊圧をもっており、何よりアルファの上流貴族だ。

婚姻して番になり、子を産めば、浮竹も幸せになれると両親は思い込み、浮竹を上流貴族の妻にするために、女の子のように育てた。

だが、浮竹はそれとは反対のように、剣が好きで生粋の男の子として生きたがった。

いつも女装させられていた。

白くなった髪も、長く伸ばされてかわいくおさげにされていた。リボンをつけたり、女ものの着物を着せられても、性格はちゃんとした男だった。

「さぁ、紹介するよ。君の未来の妻の浮竹十四郎だ」

「十四郎?女の子なのに、男みたいな名前だね」

婚約相手の京楽春水の前で、ぷくーっと頬を膨らませて、美少女にしか見えない男の子の浮竹は、叫んだ。

「俺は男だ。オメガだが、お前の妻にはならない!番は、女性となる!」

「へ?男?」

「春水、知っているだろう。アルファとオメガは番になれる。オメガは男でも子を生せる。この十四郎は、すごい高い霊圧をもっている。君たちとの間に生まれた子供は、きっと例外なく死神となり、隊長になれる」

「俺は、京楽春水の妻になんてならない!ベータの女の子と結婚して、女の子に子供を産んでもらうんだ!」

「十四郎、君はオメガだ。アルファの子を生すのが仕事だ」

「知らない!ふん!」

浮竹は、怒って走り去ってしまった。

「僕の婚約者がオメガの男・・・・・。でもかわいい・・・・。うう・・・・・」

京楽は、別に子を生せればオメガの男でも仕方ないと思っていたが、想像していた以上に浮竹がかわいくて、頭から浮竹のぷくーっと頬を膨らませた顔が離れないでいた。

「落とす。僕の一生をかけて」

子供であるのに、すでに京楽はアルファとして、オメガの番になるであろう浮竹に好意を抱きまくっていた。

そうして、それぞれの家庭で育てられて、時折顔を見合わせあって。

10年が経とうとしていた。

浮竹は、美しい麗人に育っていた。長い白髪を背に流し、ベータの女の子と付き合っていた。

「浮竹は僕のものだよ」

浮竹の彼女に、京楽は脅しをいれて、浮竹を振らせた。

それを知ってしまった浮竹は、京楽の家に怒鳴り込んできた。

「京楽春水はいるか!」

「僕はここにいるよ」

にこにことした京楽の頬を、浮竹は思い切り叩いた。

「俺の彼女に、何を吹き込んだか知らないが、俺はお前と結婚する気はないからな!ベータの女の子と結婚して、幸せな家庭を築くんだ!」

「いいや、君は僕のものになる。僕の子を産んで、幸せな家庭を築くんだよ」

くすくすと笑う京楽に舌を出して、浮竹は走り去ってしまった。



そろそろ、ヒートがくる年齢にきていた。

浮竹にヒートがきたら、京楽が問答無用で抱いて、うなじを噛んで、番にするのだ。

でも、浮竹にはヒートがなかなか訪れなかった。

浮竹は、年頃になっていたので、京楽の家で京楽の妻としての生活を強いられた。

浮竹は、それを嫌そうにして、京楽と同じ屋根の下で暮らすのを嫌がり、離れに住んでいた。

「ねぇ、好きだよ、浮竹」

「俺はお前のことが大嫌いだ、京楽」

毎日、そんなことを言い合って、生活をしていた。

浮竹にヒートがくれば、すぐにでも落とせるのに。でも、浮竹にヒートはなかなかやってこない。

なので、京楽はヒートがきやすい薬を、隠れて浮竹の食事に混ぜた。

「あ・・・・・・」

ある日、京楽の家で母屋を訪れていた浮竹は、違和感を覚えた。

ヒートがこないのを理由に、京楽との婚姻を拒み続けていたが、本当にヒートになった。

「あ・・・助けて。誰か・・・誰か助けて。苦しい・・・」

「浮竹?」

「あ・・・来るな、京楽!俺は、ベータの女の子と結婚して、幸せな・・・ううう」

「つらいでしょ?今、楽にさせてあげるから」

オメガのフェロモンをもろにくらって、理性が飛びそうになるのを何とか我慢した。

京楽は、この日を待っていた。

待ちに待った浮竹のヒートに、気分が高揚する。

浮竹を風呂にいれてやり、それから寝所に抱きかかえて連れてきた。

「あ・・・嫌だ、嫌だ、オメガとして生きるなんて、嫌だ」

嫌がる浮竹の浴衣を脱がしていく。

「いや・・・・」

「好きだよ、浮竹。愛してる」

「俺は好きじゃない。愛してない。ああ、誰か助けて。俺はオメガとしてなんて、いやだ」

真っ白な肌に、京楽は夢中になった。

雪のような白い肌と髪に、翡翠の瞳をもつ浮竹。ずっとほしかった、番となるべきオメガ。

「痛くないようにするから」

「嫌だ・・・・・あああ」

首筋にキスマークを残されて、浮竹はヒートの熱にうなされながら、首を横に振った。

「こんなの・・・卑怯だ」

「卑怯でもいいよ。君を僕のものにできるなら」

浮竹の唇を奪う。

「んうっ」

ぬるりとした舌が入ってきて、浮竹は目を閉じた。

どんなに嫌がっても、しょせんはオメガ。アルファの支配には逆らえない。

「せめて・・・優しく、しろ」

「うん。優しくするから!」

やっと少し心を開いてくれた浮竹を貪るように、口づけを何度も交わした。

平らな胸をなめて、先端を口に含み、もう反対側をクニクニと指でつぶしていると、浮竹が熱に侵された瞳で見上げてきた。

「前戯なんていい・・・早く、来い」

「だめだよ。ちゃんと気持ちよくさせてあげたい。だから、僕は君を抱く」

「どうせ、突っ込むことに変わりはないだろうが」

「それでも、君に気持ちよくなってほしい。大好きだよ、浮竹」

京楽は、優しかった。

体の全体を愛撫して、浮竹の花茎を舐めあげて、浮竹は京楽の口の中に精を放ってしまっていた。

「あああ!」

快楽に、思考が麻痺する。

嫌だと、心は思うのに、体は貪欲に京楽に種付けされることを望んでいた。

「あ、あ、あ」

潤滑油に濡れた指が、つぷりと浮竹の体内に入ってくる。

そこは熱くて、締め付けがすごかった。

ここに、自分のものをいれるのだと考えただけで、鼻血がでそうだった。

浮竹の前をいじりながら、京楽は手探りで浮竹の前立腺を探した。指の一本が前立腺をかすめて、浮竹が反応する。

「あ!」

「ここ?」

「やぁっ」

「君のいいところ、見つけた」

浮竹の前立腺ばかりを刺激して、前もいじっていると、浮竹は熱で潤んだ瞳で京楽を見上げた。

「もう、いいから・・・子種を、くれ」

「浮竹・・・・・・」

「十四郎と呼べ。俺も、春水と呼ぶ」

蕾をとろとろになるまで解してから、京楽は浮竹の蕾に自身をあてがい、ゆっくりと侵入した。

「あ、あああ!」

ゆっくりと、引き裂かれていく。

潤滑油を大量に使ったおかげで、そこは切れることはなかった。

「ひあ」

とん、と奥をつくと、浮竹の反応が変わった。

「奥、いいの?」

「し、知らない」

一度ずるりと引き抜いて、前立腺をすりあげて奥まで侵入すると、浮竹は甘い声をあげた。

「んあああ!」

「十四郎、我慢しないで。声、出して」

「んあ・・・あ、あ、あ」

熱いうねる熱に包まれて、京楽も限界が近くなっていた。

浮竹のいい場所を突き上げて、こすり、抉った。

「あああ、あ、あ、春水」

「奥に出すよ。受け止めて、孕んでね」

「やっ」

ズッと、子宮口まで侵入してきたものは、浮竹の中で熱を弾けさせた。

最後の一滴までを浮竹の中に注いで、京楽は満足して抜き去ろうとするが、浮竹が締め付けて離さない。

「もう一回、する?」

最初は嫌がってはいたが、快楽の波に支配されて、浮竹は頷いていた。

もう一度、じっくりと交じりあって、そして京楽は浮竹のうなじをかんだ。

「あ!」

全身を支配するような感覚。

番になったのだと、お互い実感した。

「今日のsexで、多分子供がきでる。君は僕の妻になる。いいね?」

浮竹は、満たされてヒートの熱は一時的に引いたようで、不満を口にしながらも、了承してくれた。

「浮気、するなよ」

「しないよ。妻は君だけ。愛人とかも作らないし、花街にもいかない」

浮竹を抱くために、花街に数回いき、女を抱いた京楽であるが、本物の浮竹の方が何倍もきもちよかったし、愛しく感じた。

浮竹は、間もなくして妊娠した。

京楽の家で、浮竹に大事にされている。

子が生まれるまで、ヒートは3カ月に1回やってきた。

京楽と浮竹は、離れで交わりあいながら、生まれてくる子のことを思った。

医者の診断では、アルファの男児とされた。

京楽家の、跡取りだ。

京楽には兄がいたが、もう亡くなってしまっている。

「名前、なんにしよう」

「何がいいだろうな」

浮竹と京楽は、いつの間にか相思相愛になっていた。

やがて産み月になり、帝王切開で浮竹はアルファの男児を産んだ。

「もう、俺はいらないだろう?」

哀しそうに微笑む浮竹に、京楽が首を振る。

「子供はもっといっぱい欲しいし、君を幸せにしたい」

「俺は、お前のことを・・・・・」

「まだ、嫌い?」

「いや・・・・・好きだ。愛している」

「僕も好きだよ、十四郎」

「春水・・・・・」

口づけを交わし合いながら、番になったことを、浮竹が後悔することがなくてよかったと、ほっとする京楽がいた。

散々嫌いだと言われてきた。

ヒートを利用して、自分のものにした。

浮竹の、普通の女性と結婚して子供をもうけるという夢を壊した。

でも、京楽は本気で浮竹を愛していた。浮竹もまた、京楽が自分を愛するあまり、少々強引な手を使ったのだと知ってもなお、別れることはなかった。

二人は、三人の子をもうけて、それぞれ統学院に入り、死神となって隊長となった。



「んあ・・・・もう、子はいらないだろう。アフターピルを飲むぞ」

「もう一人、欲しくない?」

「他の兄弟と、年齢の差がありすぎる。子はいらない」

隊長となっても、番であることに変わりはなかった。

ヒートがくると、浮竹は休暇をとり、京楽家の離れで京楽と過ごした。

子が成長するのは早い。

すでに成人となった三人の子を見守りながら、浮竹はミミハギ様を解放する決意を出す。

大戦で、京楽は最愛の妻、浮竹を失う。

だが、子供たちに囲まれて、穏やかな生活を送った。

「浮竹・・・・そっちに行くには、もう少し待ってね」

総隊長にまで上り詰めて、引退し、余生を過ごした。

寿命を終えようとした時に、迎えにきた長い白髪に翡翠の瞳をした麗人に、微笑みかける。

「待たせたね」

「ああ、ずっと待ってた」

「逝こうか」

「ああ」

二つの魂は、交わりながら、霊子へと還っていく。

京楽家は、浮竹の産んだ子が次々と隊長になり、その孫も隊長になり、長らく栄えるのであった。












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