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奴隷竜とSランク冒険者

そのドラゴンは、鱗ではなく白い羽毛を体表にもつ。

瞳の色は深い緑。

卵の頃、親元から盗まれて奴隷屋に売られて、生まれた時から奴隷だった。

人の姿をとれたが、それを知られるのが怖くていつも檻の中で子ドラゴンの姿でいた。

見せ物小屋に貸し出されて、値段が高いせいでそのドラゴンは奴隷ではあるがなかなか売れなかった。

しまいには、はく製にしようという意見まででたので、そのドラゴンは仕方なく人の姿を見せた。

更に値段はあがった。

ドラゴンでも人型をとれるのは真竜のみ。ドラゴンの中のドラゴン。

人の姿をしている時でもとれない、隷属の奴隷の首輪をいつか外して、自由になるのが夢だった。

名は、浮竹十四郎。

卵の頃に親が名付けた名前だが、親の顔は知らないが名前だけは覚えていた。

卵の頃でも、声は聞こえていた。

「ねぇ、君、人の姿をとれるんだよね?」

巨大な檻の中にとじこめられていた浮竹の前に、高ランクらしい冒険者の青年が現れた。

「僕は京楽春水。君を買ったんだ。今日から、君のご主人様ってわけ。名前は浮竹十四郎であってるよね。ねぇ、ドラゴンの姿も綺麗だけど、人の姿になって?」

隷属の首輪が、反応する。

京楽を主として、その命令に応えるように首を絞めつけてくる。

「わかった・・・・・」

浮竹は、人の姿になった。

虹色の不思議な衣服をまとった、長い白髪の緑の瞳をした青年の姿をとる。

「ああ、人の姿でも綺麗なんだね」

京楽と名乗った青年は、うっとりして浮竹を檻から出した。

「もう、自由だよ。といっても、僕の奴隷になるんだけどね」

「それは、自由とは言わない」

「うん、そうだね。でも、隷属の首輪は・・・・・」

京楽は、浮竹の隷属の首輪を外してしまった。

「京楽?」

「隷属の首輪は君には似合わない。ドラゴンなのに首輪なんておかしい。人の姿を取っている時も、僕の命令に従うように首を絞めつけてくるんでしょ。痛い思いをしてほしくない」

浮竹は、目を瞬かせた。

今逃げれば、きっと京楽は追ってきて、無理やり力ずくで従わせるのだろうか。それとも、声をあけて帰ってきてくれというのだろうか。

「ねぇ、今度はまたドラゴンの姿になって」

「どうしてだ」

「白いドラゴンを見るのも初めてだけど、鱗じゃなしに羽毛を持つドラゴンなんて初めて見た。
背中に乗って、空を飛んでみたい。ねぇ、いいでしょ?」

「隷属の首輪を外して、俺が逃げないと思っているのか?」

「うん。君は、そんなことしない子だ。自由になったところで、行き場所もなくのたれ死ぬだけだよ」

実際その通りなので、浮竹は大人しく自分の新しい主となった京楽を背に乗せて、ドラゴンの姿になって羽ばたいた。

「うわぁ、高いなぁ」

「しっかりつかまっておけ」

丘をこえて、街をぐるりと一回りして帰ってくる。

「君を買うのに、Sランク冒険者稼業でためたお金をほとんど全部使っちゃったけど、いい買い物ができたよ。僕は君の主だけれど、解放奴隷のような存在だ。気楽に京楽とよんでね」

「ああ・・・・・・」

浮竹は話そうか迷った。

満月の夜は竜化して、竜の羽毛の翼に角、尻尾をもつ半竜人の姿になれることを。

半竜人になれるドラゴンは、真竜の中でも僅かしかいない。

「京楽、俺は、満月になると・・・・・・」

「ああ、半竜人化するんでしょ。僕はSランク冒険者だよ。君と同じ真竜を何度か見てきたし、屠ったりもしたよ」

「ドラゴンスレイヤー・・・・・」

竜殺しの英雄は、ドラゴンスレイヤーと呼ばれる。

それは、浮竹にとって恐怖の存在だ。

「ああ、意味もなくドラゴンを討伐したりしないから。安心して。君を殺すつもりもない」

「どうして、俺を、買った・・・・・」

「だって、白い羽毛をもつ希少種の中の希少種ムーンホワイトドラゴンだよ!本でしか見たことがない!実物が売ってるなんて、買うしかないでしょ!」

勢いよくまくしたてられて、浮竹は半歩下がる。

「あ、ああ・・・・・」

「ああ、綺麗だ。ムーンホワイトドラゴンを手に入れたと知ったら、ギルドの奴らどんな顔をするだろう」

くすくすと、京楽は笑う。

この高位ランクの冒険者は、ただ自分の欲が赴くままに浮竹を買ったのだ。

それが、少し哀しくはあったが、解放奴隷となり、偽りであるが自由を手に入れた。

「京楽、春水。ムーンホワイトドラゴン、浮竹十四郎の名にかけて、汝を主と認める」

浮竹は親指を噛み切って血を流すと、京楽と契約を交わした。

主従の契約であった。

「僕のこと、ご主人様とか呼ばずに、普通に京楽ってよんでね」

「ああ、わかった。京楽、腹がすいた」

ぐ~と腹をならす浮竹に、京楽は笑って、居酒屋に連れていく。

「おや、そんな美人どこでひっかけてきたんだい」

居酒屋の女将が、浮竹の姿を見て驚く。

「ああ、僕のパートナーみたいな存在。契約してね。実はドラゴンなんだ」

「はいはい。ドラゴンスレイヤーだからって、竜が人に従うはずないでしょ。もっちと面白い冗談にしておくれ」

「冗談じゃないのに・・・・・・」

がっくりと項垂れる京楽に、浮竹は酒をすすめた。

「飲んで、気を紛らわせ」

「君は酒は飲んだことはある?」

「ない」

「じゃあ、君はカクテルを。女将さん、この子に甘いカクテルあげて」

「まーた、酔わせて食べるつもりでしょ」

「意地の悪いこと言わないでよ」

京楽が苦笑する。

「今まで、何人の女の子があんたにひっかかったことか。まあ、本人たちも悪い気はしていなかったようだし、別にいいけれどね。この子は・・・・あれ、よく見ると男の子かい?」

「そうだよ」

「俺は男だ。どこからどう見ても、男だろう」

中性的な容姿と服装と長い白髪のせいで、女性に間違われていた。

「京楽、あんた趣味変わった?」

「うーん。まぁ、いろいろあってね」

「俺は確かに京楽のものだが・・・・」

「もう手を出したのかい!」

「いや、違うよ。奴隷だったのを、買ったんだ」

「おやまぁ、かわいそうに。若いのに、奴隷だなんて。今日はあたしがステーキをおごってあげるよ。京楽に買われてよかったわね。こいつ、見かけはちゃらんぽらんだけど、けっこう誠実で一途な男だから。あたしが保証するよ」

女将に好き勝手いわれて、Sランク冒険者の京楽は酒を飲みながら、浮竹にも酒をすすめる。

「酔っても何もしないから、飲んでごらん。甘くておいしいよ」

浮竹は、おそるおそる綺麗なピンク色に光るカクテルを一口飲んだ。

「甘い!おいしい!」

「おかわりしたかったら、女将さんに注文するといい」

「もっと飲みたい」

「はいはい。この子、名前は?」

「俺は浮竹十四郎」

「十四郎ちゃんね。春水坊のお気に入りかい。パートナーってことは、同じSランク冒険者としてやっていくんだろうから、がんばってねぇ」

女将は、次の客のために料理を作りにいった。

「俺は・・・・その、Sランク冒険者になるのか?」

「うーん、正確にはちょっと違うねぇ。君は僕がテイムしたモンスターって扱いだ。一緒に戦うけど、冒険者登録とかはいらないよ。ただ、ギルドではじめ、いろいろ説明を受けてもらうけど」

「めんどくさい・・・でも、お前を主と認めた。仕方ないから、その説明は受けよう」

浮竹は何杯かカクテルを飲んで、眠ってしまった。

京楽は、浮竹をお姫様抱っこして、いつも泊まっている高級宿に戻る。

「ムーンホワイトドラゴン・・・・ああ、僕のものだ。君は、僕のものだ・・・・」

京楽は、眠る浮竹の唇に唇をそっと重ねて、浮竹と同じベッドで眠りにつくのだった。

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無題

「まさか、そんな・・・・・・・・」

「今まで、隠していてすまない」

浮竹は、京楽に自分がオメガであることを告白した。

京楽は、上流貴族だけあってアルファだ。

統学院で、同じ寮の相部屋となり、友人となった京楽にこれ以上隠し通せないと思い、浮竹は自分がオメガであるということを教えた。

ごくりと、アルファの京楽が喉を鳴らす。

「じゃあ、君は男性とも結婚ができるの?」

「確かに、法ではそうだが・・・・俺は、誰とも結婚する気はない。ヒートを迎えることもないような薬が最近できてきている。高いが、それを飲んで・・・・・・」

「僕は、君がいい。君が欲しい」

「京楽?」

京楽は、浮竹がオメガということを知って、抑えていた欲を見せた。

「初めて会った時から、欲しいと思っていたんだ、君を。君がオメガであるなら、僕と付き合って結婚するのも可能だ」

「京楽、俺は、誰とも・・・・・・・!んっ」

浮竹は、京楽に口づけられて、ベッドに押し倒されていた。

「ああ、ヒート抑制剤を飲んでいるんだね」

「京楽!」

「今日はキスだけ。でも、覚悟していてね。君がオメガと知った今、君は僕の性欲対象だ」

「きょうら・・く・・・・?」

浮竹は、親友の変貌ぶりに、目を見開いた。


次の日には、京楽は浮竹の飲んでいるヒート抑制剤を捨てて、逆にヒートがくる薬をもらってきて、それを浮竹に無理やり飲ませた。

「あ・・・・・・」

はじめてくるヒートの熱に、浮竹はうなされる。

その体をさらうようにベッドに運び、キスをする。

「君が好きだ。入学式の日に見たときから、惹かれていた。でも、君は男性に性の対象にされるのを嫌っていたし、僕も手を出したら、もう二度と君は僕を見てくれないと思って諦めていた。
でも、君がオメガなら、君を僕のものにできる。オメガはヒートがこないままだと、短命で終わる。君を失いたくないし、君を僕のものにしたい。ちゃんと結婚もしよう」

「あ・・・京楽・・・・熱い、たすけ、て・・・・・・」

始めてヒートになった浮竹は、熱にうなされる体をもてあましていた。

「責任はとるから・・・・浮竹、好きだよ」

「あ、京楽・・・・・・」

衣服を脱がされる。

「あ、もう・・・・・」

浮竹が求めるほどに肌を愛撫すると、京楽は浮竹のものを口に含んで、なめあげた。

「ひああああ!!」

「蜜みたいな味だね・・・オメガだけあって」

浮竹は、京楽の口の中で精液を吐き出してしまっていた。

「あ、あ、あ、やあああ」

すでに濡れている蕾に指が侵入してくる。

「あ、ああ!」

ばらばらに動かされて、肉をかきわける指が一か所を刺激した。

「やあああ!」

「ここ、いいの?」

「やだあああ」

「僕だけのものになって。浮竹」

「あ、あ・・・・・」

浮竹は、京楽の昂った熱にゆっくりと引き裂かれた。

「あああ!はう!」

「ゆっくり呼吸して・・・・馴染むまで、待つから」

京楽は、ゆっくりと動いた。

なえかけていた浮竹のものが、またたちあがっていた。

それに手を添えてしごきながら、浮竹を貫いて揺さぶる。

「やああああああ!!!」

ぶわりと、オメガのフェロモンに京楽はやられそうになったが、自制した。

「あ、あ、あ、や」

「ここ、いいんだよね?」

「いやあああ」

「嫌なら、やめる?」

「あ、やだ。抜かないで・・・・・」

浮竹は、京楽を求めた。

「たくさん注いであげるから、僕の子を身籠ってね」

「やあああ、妊娠は、まだ、したくない・・・・」

中で射精されるのを嫌がるが、体は貪欲に子種を求めていた。

「そんなにきつくしめたら、出すしかないよ?」

「あ、やああ、体が」

浮竹は熱にうなされているように、意識は曖昧で、眩暈をおこしていたが、自分が京楽に抱かれている事実は受け止めていた。

「あ、バカ、京楽・・・・もしも本当に子どもできたら、責任とれ・・・・」

「うん。結婚して、一緒に子を育てよう。誰の子供よりも愛するよ。君と一緒に」

「ああああ!!!」

最奥にごりごりと侵入してきた熱は、そのまま浮竹の奥にある子宮に熱を直接ぶちまけた。

「あ、京楽が、弾けて・・・・熱い」

「愛してるよ、浮竹。番になろう。君は、もう僕のものだ」

「あああ・・・・・・・・・」

飛んでいく意識の狭間で、京楽の子を身籠った気がした。



1カ月後、検査すると本当に京楽の子を身籠っていた。

京楽に初めて抱かれてから、数日おきに京楽は浮竹を求めた。番になってしまった二人は、本能が赴くままに交じりあい、快楽を分かち合った。

「京楽・・・・その、今日の検査で、陽性で・・・・お前の子が、俺の、腹に・・・・」

「それは本当かい!?学院を卒業するまでは婚姻はしないでおこうかと思ったけど、結婚しよう。責任は全部とるから。今日から、君も京楽家の者だ」

「う・・・・上流貴族や、いやだ」

「大丈夫。親は放任主義だし、僕がオメガと結婚すると言っても、勝手にしろって怒られた」

「京楽の親・・・・・・」

「会いたいの?」

「会いたくない」

浮竹は首を横に振った。

オメガの自分なんて、どうせ侮蔑の対象となるだけだし、京楽も親に浮竹と会わせる気はなかった。

学院にの回生の時に、婚姻した。

4回生の終わりに、浮竹は女児の双子を出産し、浮竹と京楽は死神としての学業におわれながらも、京楽家のつてで乳母を雇いつつ、子育てもした。

「ねぇ、僕を恨んでる?」

「なんでだ?」

双子の女児をあやしながら、浮竹は京楽に問う。

「僕が、君を手に入れてしまったから。本当なら、君は違う誰かと番になっていたかもしれない」

浮竹は、クスリと少しだけ笑った。

「今更だぞ、京楽。俺を無理やり自分のものにした上に、子まで産ませたくせに。結婚もした」

「そうだね。今更だね。ねぇ、今、幸せかい?」

「少なくとも、不幸じゃない。家族がいるしな」

「そう、良かった・・・・・・・・」

子を乳母に預けた浮竹は、京楽に向き直った。

「俺の夫だろう、お前は。もっと自信をもて!」

「うん、そうだね。でも、浮竹の願い通り、名前は浮竹のままで京楽の名を名乗る必要はないから」

「それについては、少し迷惑をかけた」

「ううん、君が僕の傍にいてくれるだけでいいんだ。ほんとは、傍にいれるならオメガとかアルファとかどうでもよかったんだよ」

「今更だな」

「そうだね。君はオメガで僕はアルファ。そしてお互い番であり、結婚して子もいる」

「俺は、今の自分を幸せだと思っている」

「浮竹・・・・・・」

「愛してる、京楽」

「うん、僕も愛してるよ」

二人のオメガとアルファは、寄り添いあいながら死神として生きてくのであった。




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祓い屋京浮シリーズ30

「どうか、海坊主を退治してください」

「海坊主か・・・・」

「はい。突然現れて、船をひっくり返すんです。幸いまだ死者は出ていませんが、漁業に出れなくてとても困っているんです」

依頼人は、漁業を生業とする若い男性だった。

「こちらには、腕のいい術者さんがいると聞いて・・・・」

禍津神の浮竹と、夜刀神の京楽が最近祓い屋を少し休業しているらしく、依頼がこちら側に舞いこんでくる。

「はぁ。夜刀神の京楽にでも紹介されたか・・・・・」

「はい、そうです。京楽さんという術者の方に紹介されました」

「仕方ない、引き受けよう」

「ありがとうございます!」

依頼人の漁師は、ぺこぺこと頭を下げて帰っていった。

「海坊主だって」

話を聞いていた京楽が、海坊主にはあまりいい思い出がないらしく、嫌そうな顔をしていた。

「何か、昔海坊主とあったのか」

「僕が龍の姿で海を泳いでいたら、海坊主に捕まってね。あやうく食べれるところだった」

「食べられる?海坊主はそんなに狂暴ではないだろう」

「うーん、個体差があるんじゃないかな」

京楽は、紙にペンで海坊主を描いた。

「こんなかんじの、海坊主だった」

身の丈は5メートルはあろうかという巨体を、船を比較して描かれてあった。

「海坊主が数が少ないからね。多分、僕を食べようとした海坊主と同じ海坊主じゃないかな」

「ふむ・・・・・」

浮竹は思案する。

そして、ポンと手を叩いた。

「京楽、お前龍の姿になって海を泳げ。その上に俺が乗って、海坊主がお前を食いに現れたところを退治する」

「えー。僕、餌なの?」

「それとも、俺を乗せるのは嫌か?」

「そんなことはないけど・・・・・・」

過去に食われそうになったのは、実はトラウマであった。

まぁ、水龍神だし、少々体を食われたところで再生できるのだが。

「じゃあ、明日出発だ。今日は、もう寝ろ」

「浮竹と一緒に・・・・」

スパーンとハリセンを炸裂させて、浮竹は京楽を追いだして、ベッドで横になる。

「しくしく・・・・・・」

ドアの外で、泣いている京楽を放置して、そのまま眠りについた。


翌日、海燕がドライバーをしてくれる車で、海坊主が出る漁場までやってきた。

いつもなら、カニ漁なので賑わっているのだが、閑散としていた。

「あ、術者の方!船は、出しますか?」

昨日の依頼人がきていた。

依頼料は、漁業組合から出されていて、今は船を出すのを禁止しているのだが、退治してくれるというので特別に船を出してくれるらしい。

「いや、船はいい。式の水龍神を龍の姿にして囮にする」

「式が水龍神!なんか、すごいですね!」

「すごいってー。僕すごいんだってー」

自分をアピールする京楽の頭をハリセンではたいて、浮竹は準備をする。

京楽は、龍の姿になった。

10メートルはあろうかという、長くて巨大な龍だ。

その首元に跨り、浮竹は京楽に海を泳がせた。

依頼人は、あまりの凄さに口をぽかんと開けていた。

「匂いがする。神の匂いが・・・・・うまそう、うまそう」

海坊主が、ざざぁと海を割って現れた。

「わぁ、きたぁ!」

「京楽、浮き上がれ」

「うん!」

京楽は空を飛び上がり、海坊主から距離を取る。

「うまそう。おりてこい、おいてこい。うまそう、うまそう」

「食うことしか能がないらしいな。話をするだけ無駄だろう。いけ、神の雷よ!雷撃の雷よ!」

浮竹は、最近身に着けた雷撃を使った。

海坊主に直撃して、海坊主は真っ黒焦げになって、どーんと海に倒れ込む。

「滅!」

浮竹は、腐るしかない海坊主の体を浄化して灰にした。

「ねぇ、僕の出番は?」

「十分あっただろう。囮になったじゃないか」

「それだけ!?」

「そうだ」

海坊主退治は呆気なく終わり、依頼主からけっこうな額の依頼金をもらって、館に戻った。

『あ、いたいた。どこにいってたんだ?』

館には、禍津神の浮竹と夜刀神の京楽の姿があった。

「ちょっと、海坊主退治に」

『ああ、ボクのとこにきた依頼、そっちに回しちゃったからね』

「祓い屋をしばし休業するそうだな。何かあったのか?」

『うん・・・・まぁ、ちょっといざこざがあってね。ボクは神に完全になってしまって、術者じゃなくなってるし』

「完全にやめるわけではないのだろう?」

『うん。少し休憩を取るくらいかな』

『鳥臭い水龍神、羽をむしってやるから文鳥姿になれ!』

「いやだよ!」

「京楽、相手してやれ」

術者の浮竹が、式の京楽を文鳥姿にした。

禍津神の浮竹が、嬉しそうに文鳥姿の式の京楽を鷲掴みして、羽をむしっていく。

「ちちちちちーーーー!!!」

式の京楽は悲鳴をあげるが、術者の浮竹は知ったことではないといったそぶりだった。

『まぁ、しばらくボクらの分まで依頼が舞い込むかもしれないけど、頼んだよ』

「あんまり忙しいのは好きじゃない。他の術者にでもできそうな件は、他に回すがいいな?」

『好きにしてくれたらいいよ。ああ、十四郎、そんなにむしるとまた羽毛布団作られて使う羽目になるよ?』

『鳥臭い羽毛布団はもうこりごりだ』

禍津神の浮竹は、文鳥姿の京楽をポイ捨てした。

「ちゅんちゅん!!」

むしられた羽を再生させて、式の京楽は術者の浮竹の肩に止まる。

「ちゅん!」

術者の浮竹にかわいさをアピールするが、今のところ効果はない。

「ちゅちゅん!」

『やっぱり・・・・羽を・・・むしりたい・・・・・』

危ない目つきをしている禍津神の浮竹に、ルキアが持ってきたガトーショコラのケーキを出すと、禍津神の浮竹は興味をそちらに変えた。

『うまいな』

『十四郎、式のボクの羽をむしるのは、ほどほどにね』

『分かってる』

『ほんとに分かってるのかな?』

「まぁ、京楽の羽をいつでもむしりにこい。いつでも遊びにきていいぞ」

「ちゅんーーー!!(そりゃないよ!)」

式の京楽の抗議は、ただ空気に吸い込まれるのだった。

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祓い屋京浮シリーズ29

鎌鼬(かまいたち)

つむじ風にのって、切りつけらると刃物で切ったような傷ができて、しかし痛みも血も出ないという、不思議な傷をつくる妖怪である。

その鎌鼬が、人を斬り殺す事件が起きていた。

依頼人は、かろうじで生き延びた村人。

数匹の鎌鼬が群れを作って、ある村を襲撃した。

その村は数十人の死傷者を出して、壊滅的になった。始めは、依頼人も鎌鼬と気づかずに、誰かに刃物ので切り刻まれたと思っていた。

鎌鼬の姿を、偶然見かけて、これはと思い浮竹のところに飛び込んできた。

「どうか、村を襲った鎌鼬の群れを駆除してください。まだ生きている者もいるかもしれません。でも、鎌鼬が居続ける限り、救出もできません」

「鎌鼬が群れを作って、村人を多数死傷させた?本当だとしたら、大事だな」

「本当なんです!この傷を見てください!」

依頼者は、鎌鼬に切られた傷を見せた。

傷は深いが、血を出さずに痛みさえ感じないようで、ますます鎌鼬が群れを作って村を襲撃したという事件が、明るみになる。

「緊急だな。すぐに退治にあたる」

浮竹は、ちゅんちゅんと桜文鳥姿で遊びにでかけていた京楽を至急召還した。

「どうしたの、浮竹」

「緊急依頼だ。村が一つ、鎌鼬の群れに壊滅的打撃を受けた」

「鎌鼬が群れ?鎌鼬って、普通一匹でいて群れないでしょ?」

「それが、依頼人が言うには群れで襲ってきたそうだ」

「それは、村がやばいね。生き残りはいるのかい?」

京楽は、依頼者の村人を見る。

【何十人か、生き残っているはずなんです。死者は20人ほど出ていますが、軽傷の者もけっこういて・・・・でも、鎌鼬のせいで救出できないんです」

「鎌鼬は、それから襲ってこないのか?」

「はい。不思議なことに、襲撃は一度きりでした。傷を負った者を救出しようとすると邪魔をしてきて、とにかく一刻も早く退治を!」

「分かった」

浮竹は、破壊の力をこめた式札を何枚か懐に入れた。

「京楽、今回は最初から飛ばしていけ」

「水龍神になっていいってことだね?」

「ああ。鎌鼬たちを水で包みこんで、そのまま駆除しよう」」

浮竹と京楽は、駆除方法をあらかじめ決めてから、その村に向かった。

海燕がドライバーをする車は、制限速度を無視して、村へと向かう。

「いるね。鎌鼬だ」

村につくと、一匹の鎌鼬が死んでいるであろう村人の体を切り刻んでいた。

「縛!」

浮竹は、式札を飛ばして、その鎌鼬の動きを止める。

そこに、水龍神姿になった京楽が水で鎌鼬を包み込み、そのまま水を圧縮させて、鎌鼬を殺した。

「京楽、複数でもいけるか?」

「これでも神様だよ。鎌鼬くらいなら、群れできてもなんとかなるよ」

「じゃあ、俺が囮になるから、頼んだぞ」

「あ、ちょっと、京楽!」

京楽が止める暇を与えずに、浮竹は鎌鼬の群れにつっこんで、自分を囮にした。

「縛!」

しかし、ただでは囮にならない。

鎌鼬の群れの動きを封じて、その隙に京楽が水で鎌鼬を包み込み、水圧で圧縮させて殺していく。

「見ろ、鎌鼬のボスだ」

群れを失うと、一匹の巨大な鎌鼬が現れた。

「誰ぞ。我が子らを屠るのは、誰ぞ」

「お前の子供たちは、人間を殺した。よって、排除する!」

浮竹が完結に言うと、その巨大な鎌鼬はつむじ風を起こした。

浮竹と京楽の体に、いくつかの切り傷ができる。

傷が深いわりには痛みもなく、血もでない。

しかし、ダメージは確かに受けていて、浮竹は癒しの式札を出す。

「快!」

浮竹と京楽の負った傷が、見る見る癒えていく。

水龍神は、元々浄化と癒しの神だ。

傷を再生させることなど、容易だ。

「愚かなり、人の子。我らはこの村人たちに利用され、宝石泥棒の手助けを強制させられた。嫌だという我が子らを、殺して・・・・・」

「おい、依頼者、それは本当か!」

「ち、ち、違います!鎌鼬が嘘を言っているのです。あやかしを犯罪に使う者なんていないでしょう?」

「いや、実際にいるから、確認を・・・・・」

依頼人は、浮竹にサバイバルナイフを出すと、切りかかった。

「な!」

浮竹が顔色を変える。

あやかしや霊に憑かれたわけではないようであった。

「く、鎌鼬の言っていることのほうが本当のようだ」

嘘を識別できる式を出した。

「京楽、行くぞ」

「うん!」

「縛!」

「眠!」

村人を束縛して動きを封じて、眠りに強制的に陥らせる。

「悪いが、たとえ悪用された仕返しとはいえ、人を殺したあやかしは退治する」

「我らが間違っていた。人の子など、信用するべきではなかった」

鎌鼬のボスは、涙をぽろぽろ流した。

「砕!」

浮竹が、戸惑いを見せつつも鎌鼬のボスを破壊する。

「京楽、村人の救出と癒しを。生きている村人を集めて、事情を聞く」

京楽は、倒れているが生きている村人たちの傷を癒して一か所に集めると、浮竹を待った。

「お前たち、鎌鼬を利用して宝石泥棒をしていたそうだが、偽りはないな?」

「ふん、鎌鼬を利用することのどこが悪いんだ!」

「そうだそうだ!おまけに仕返しで仲間を殺しやがった!」

浮竹は、溜息をついた。

「お前たちは、一度灸をすえる必要があるな。マオ」

「にゃあああ」

「この村人たちに、悪夢を見せてやれ。とっておきの、グロいやつを」

猫の式神、マオは夢を操ることができた。

マオに術をかけられた村人達は、眠りながら悲鳴をあげる。

「警察に通報だ」

「うん。これ以上、僕らで村人を傷つけるわけにはいかないからね」

生き残った村人たちは、宝石泥棒を集団でおこなった罪で捕まっていった。

「後味が悪いな」

「仕方ないよ。人は良くもあれば悪しきもある」

死んでしまった村人たちを、怨霊にならないように浄化して、埋葬した。

「マオ、よくやったな。この人数に悪夢を見せるの、疲れただろう」

「にゃあああああ」

「帰ったら、思う存分チュールやるからな」

「なあああ♪」

マオを抱き上げて、浮竹は京楽と共に村を後にする。

鎌鼬の群れは、駆除した。

だが、鎌鼬も利用されて殺されたのだ。

村人と鎌鼬。

どちらも悪いので、喧嘩両成敗のような形になった。

「にゃおおおおお」

「ちょっと、マオ、人の姿なのに僕を食べたそうに見ないで!」

「にゃああん」

「文鳥姿になれ、だとさ」

「食い殺されるうううう!!!」

悲鳴をあげながら、京楽はマオがいる限り文鳥姿にはならないようにしようとすると、浮竹に文鳥姿にされた。

「ちゅんちゅんんん!!!」

「にゃおおおおおんん!!」

「ちゅーーーーん!!!」

マオに追っかけられて、文鳥姿にさせられた京楽は、ばっさばっさ羽ばたいて、浮竹の頭の上に乗って、避難するのであった。

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夜に揺らめく

ハル。それが通り名。本当の名は浮竹十四郎。

遊女や色子が集まる花街で、桜花屋(おうかや)という名の、陰間茶屋で人気ナンバー1の色子であった。

長い白い髪に、花魁でも負けそうな容姿、洗練された仕草、まだあどけなさを残す年齢といい、桜花屋でも人気の色子たちを置いて、贔屓にされている色子であった。

ハルをよく買いにくるのは、なんと瀞霊廷で死神の隊長を務める京楽春水という名の、上流階級出身の貴族だった。

「十四郎、こっちを向いて」

「お前など、知らん。俺を十四郎と呼ぶな。ハルと呼べ」

浮竹は、ハルという源氏名をもっているので、自分のことを本名で呼ぶ、いつも自分を買いにくるこの京楽春水のことは、代金をたくさん支払ってくれるし、いろんな高価な贈りものをしてくれるので、嫌いではなかったが、ハルと呼んでくれないので、特別好きというわけでもなかった。

花街ので恋愛は御法度だ。

身請けされるならまだしも、そうでない者たちの間での恋愛は不幸しか呼ばない。

浮竹は、子供の頃体が弱く、親がたくさんの借金を背負い、ついに返しきれなくなって、両親は泣く泣く浮竹を売ったのだ。

浮竹は8人兄弟の長男で、色子で稼いだ金を仕送りしては、家族はどん底の貧乏からそれなりの裕福な暮らしができるようになっていた。

浮竹は、7人の弟や妹が学校に通えるように、金をもっと溜める必要があった。

学校に行くには金がかかる。

しかし、学校にいけば読み書きも計算もできるし、就職に有利になるので、どうしても7人の妹や弟たちを学校に通わせてやりたくて、借金を申し込んで、売れているのだが色子としての年季は10年と長かった。

「ねぇ、君を僕だけのものにするにはどうすればいいの」

「知らん。ここに通い続けて、俺を買い続ければいいだろう」

「お金かかるねぇ」

「上流貴族のお前には、はした金だろう」

「そうなんだけどさぁ。ねぇ、十四郎、こっちを向いて?」

「ハルと呼べと言えば何度分かるんだ。ん・・・・・・」

京楽は、浮竹に口づけて、押し倒す。

さっきまで睦みあっていたので、浮竹はまだ火の灯る体を悟られないように、京楽の口づけに応えながら、身を捩った。

「ねぇ、してもいい?」

「さっき散々抱いただろう」

「でも、君は僕のものだって証を刻みたい。ねぇ、僕以外の客をとらないでよ」

「無理なことを言うな。俺は色子だ。客がくれば体を売る。それが仕事だ。それとも、俺を身請けでもしてくれるのか?」

「身請け、したいんだけどねぇ。金額がけっこうあって・・・親に金を貸してもらわないと足りなさそうで・・・親は、色子を身請けしたいと言ったら、切れてね」

「まぁ、普通そうだろうな」

普通の親は、花街の花魁を身請けするのでさえ嫌う。

遊女も同じで、まして色子など論外であろう。

子を産んでくれるわけでもない、ただの厄介者としか、客の親には映らないはずだ。

まだ、遊女なら子を産んでくれるからと、仕方なしに納得する親もいるだろうが。

それにしても、京楽が20代後半くらいとはいえ、親の援助がないと身請けできないという事実を知って、浮竹は少し落胆した。

京楽なら、身請けしてくれるかもしれないと、心の何処かで思っていたのだ。

ただ、花街でも人気ナンバー1と言われる浮竹の身請けには、本当に膨大な金が必要で、上流貴族であろうとも、そうほいほいと出せる金額ではないのは確かである。

桜花屋の主は、金にがめつく、色子の浮竹が稼げるだけ稼ぐのを望んでいて、身請け話が出る度に金額を釣り上げていた。

「ねぇ、春水って呼んで」

「春水」

「ねぇ、愛してるって言って」

「愛してる」

「はぁ。どれも、感情がこもってない。ねぇ、僕のこと嫌いなの?」

「好きでも嫌いでもない。ただの上客だと思っている」

浮竹がそう言うと、京楽は哀しそうな顔で、浮竹を見る。

「僕は、こんなにも君のことが好きなのに」

「色子を好きになるなんてやめとけ。火遊び程度にしておけ」

「でも、僕は必ず君を身請けするよ?」

「期待しないで、待っている」

その日を境に、京楽が浮竹のところに、浮竹を買いにくることがなくなった。




「京楽・・・何をしているんだろう」

いなくなってしまえば寂しいもので、やっと己が京楽に恋心を抱いていたのに気づく。

浮竹は、他の客をとりながら、もう京楽のことは忘れようと何度も考えた。

チリン。

鈴の音がする。

京楽にもらった、翡翠の鈴のついた簪の音だ。

「こんなもの・・・・・」

投げ捨てようとして、ポロリと涙がこぼれた。

「京楽・・・会いたい・・・・・・」

浮竹の上客の中でも、京楽は特別優しくて、浮竹を甘やかしていた。

「京楽・・・・今頃、結婚してるかもな」

上流貴族だ。見合いでもして、同じ上流貴族の姫君と婚姻しているかもしれない。

浮竹は、京楽のことを忘れることにした。

でも、忘れようとすればするほど、想いは募り、恋しくなる。

「京楽・・・・俺を、買いにこい・・・・・」

また、ポロリと涙がにじんだ。



「待たせたね、十四郎」

「きょうら・・・く?」

半年も会いにこなかった愛しい相手は、少しやつれた様子で姿を現した。

「半年、金策に手こずったけど、君を身請けできる金額ができた。君を、名実共に僕だけのものにするよ」

「京楽!」

浮竹は、京楽に抱き着いた。

「寂しかったんだからな!」

「ごめんね。この半年、君が他の客に何度抱かれているだろうと思うだけで、身が焦げそうな想いだった。でも、それも今日で終わりだよ。ハル」

「ハルって呼ばなくていい。今まで通り、十四郎でいい」

「十四郎・・・・会いたかった」

「俺も、会いたかった・・・・・」

そのまま、もつれあいなながら、どちらともなしにキスを繰り返した。

「ああ!」

京楽は、浮竹を何度も抱いてきているので、浮竹のいいところは知り尽くしていた。

「んあっ」

着物を脱がされて、直接浮竹のものを舌で愛撫する京楽は、飢えた獣みたいであった。

「ごめん、久しぶりで手加減できないかも」

「いいから・・・・早く、こい」

色子として、体を開くのは慣れていたが、相手が京楽というだけで、少し緊張した。

「あああああ!!!」

貫かれて、久しぶりに感じる京楽の少し暴力的な熱に、うなされそうになる。

「あ、あ、あ!」

揺さぶられて、突き上げられて、浮竹は涙を流した。

「あ、好き・・・・京楽」

「僕も大好きだよ、十四郎」

交じりあいながら、愛を囁く。

「あああ!!!」

最奥までゴリゴリと侵入してきた京楽の熱は、大量の精液を吐き出した。

「ご無沙汰だったから・・・・ごめんね、手加減できない」

「いい。もっと抱け。もっと、俺を京楽のもので満たしてくれ」

「言うねぇ」

京楽は、手加減なしで浮竹を何度も抱いた。

色子として体を売るのは慣れているとはいえ、京楽は回数が多いので、浮竹は最後には意識を飛ばしていた。



「あ・・・俺は?」

「ごめん、僕が抱きつぶした」

「そうか」

浮竹は、京楽の腕の中で微睡むようにまた眠る。

「夢なら・・・・覚めないでくれ・・・・・」

「十四郎・・・・」

次に浮竹が起きると、真新しい上等な着物を着ていた。

京楽の姿がなくて、昨日の夜のことは夢だったのだろうかと、京楽の姿を探す。

「京楽?京楽?いないのか?」

「あ、起きた?ごめんごめん、君を身請けしたから、荷物とかまとめてたんだよ」

「本当に、俺を身請けしてくれるのか?」

浮竹は、京楽に抱き寄せられる。

「この半年、君を身請けするためだけに翻弄した。君が僕以外の客をとっているのは知っていたし、止めることはできなかったけど、もう体を売る必要はないよ。僕だけを見て、僕だけのものになればいい」

「あ・・・・・・」

舌がからまるキスをされて、浮竹は涙を零す。

「この半年、寂しかった」

「ごめんね」

「でも、もう俺はお前のものなんだな。嬉しい」

「じゃあ、馬車を手配しておいたから、まとめた荷物と一緒に、僕の館に帰ろう。そこが、今日から君の家だよ」

「俺の家・・・・・・」

浮竹は、まだ昨日の熱が覚めないのか、少しぼんやりとしていた。

「どうしたの?」

「その、昨日が激しくて、腰が・・・・・」

「うわ、ごめんね。僕が抱えるから」

京楽は、浮竹をお姫様抱っこすると、馬車まで運んでくれた。

花街ナンバー1の色子が身請けされると知って、いろんな遊女や色子、客たちが見ていた。

「京楽、みんなが見ている」

「いいじゃない。君は僕のものだ。もう、僕以外に触らせない」

「京楽・・・・・」

浮竹は、京楽の首に手を回す。

「ねぇ、京楽じゃなくって、春水って呼んで?」

「春水・・・・・」

「今日から、僕のことは春水って呼んでね、ハル」

「こんな時だけ、通り名で呼ぶなんて意地悪だ」

「ふふふ・・・・・・」

京楽は悪戯気に笑う。

浮竹は、京楽の腕の中で幸せそうに微笑んだ。


「春水、愛してる」

「僕も愛してるよ、十四郎」



身請けされた浮竹は、京楽と末永く幸せに暮らしたそうな。

夜に揺らめく、色子はもういない。

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好きなものは好き18

「一護?何をしておるのだ?」

「んー。ルキアの寝顔見てた」

一護は、ベッドで眠るルキアの顔を見てにまにましていたのだが、ルキアが起きてきたので、表情を引き締めた。

「私の寝顔など見ても、何も楽しいことなどないであろうが」

「そうでもないぜ?ルキアの寝顔、めちゃくちゃかわいい。襲いたいくらいに」

その言葉に、ルキアが真っ赤になる。

「な、朝っぱらから何を言っておるのだ!」

「んー。ルキア、かわいいなぁと思って」

ルキアは、一護の頭をはたいた。

「あいて」

「朝っぱらから、恥ずかしいことを言うな!」

「そうか?俺は別に恥ずかしくなんてないけどな」

「私が恥ずかしいのだ!着替えるから、どけ」

ルキアは、パジャマを脱ぎ捨てると、下着姿になって、たんすをあけて白いワンピースを着る。

「何をしておるのだ」

「お前の下着姿見ないように、目を閉じてる。襲わない自信がないから」

「な!」

恋人同士とはいえ、好きな相手の目の前で着替えるのは、少し問題があるのかと、ルキアは遅まきに気づく。

「も、もう目をあけてもよいぞ。着替え終わった」

「ん・・・ああ、今日もかわいな、ルキア」

「たわけ!毎日毎日、かわいいだの綺麗だの、聞きあきたわ!」

「じゃあ、食っちまいたい」

「な!」

ルキアはまた赤くなった。

「ど、どのように食うのだ」

「そうだな、まずは目玉焼きを・・・・ああ、朝ごはん作るな?」

からかわれたのだと気づいて、ルキアはクッションを一護に投げた。

一護は、小さな笑い声をあげて、それを受け止めて投げ返してきた。

「むう、一護のやつ・・・・・」

ルキアは、クッションを抱えて悶々する。

「朝飯できたぞ。今日はトーストとサラダ、目玉焼きだ」

「食べる。おかわりはあるか?」

「ルキアは食いしん坊だな。もう一枚トースト焼いてやるよ」

「うむ、すまぬ」

朝ごはんを食べ終えて、休日なので何処かへ出かけようと提案する。

「まだ残暑も厳しいから、家でごろごろしようぜ」

「確かに、まだ熱中症警戒日だしな。仕方ない、家で過ごすか」

ルキアと一護は、冷房のきいた室内で、雑誌を読み始めた。

でも、時間の流れはあっという間で、昼食の時間になった。

「作るのめんどくさいし、デリバリー頼むか。ピザでいいだろ?」

「うむ。飲み物は、あのしゅわしゅわするやつで」

「コーラだな」

一護は、一番近くのピザ屋に注文して、配達を頼んだ。

15分ほどして、ピンポーンとチャイムが鳴る。

「きたみたいだ。やっべ、一万円札しかねぇ」

「私が出す。たまには、私にも払わせろ」

ルキアは、愛用しているチャッピーの財布を取り出すと、扉をあけてピザを受け取り、お金を払った。

「うまそうだな」

「この店、うまいって評判いいからな」

二人は、あつあつのピザをコーラを飲みながら食べた。

それから、眠くなったので、少しだけ寝ることにした。

「ルキア・・・・・もう寝たか?」

「ん・・・・まだ、かろうじで、意識はあるが・・・・寝落ちしそう、だ」

「ルキア、愛してるぜ」

「ん、一護、私も・・・・・」

ルキアはそれだけ言うと、スースーと眠りについてしまった。

一護もまた、眠りにつく。

次に起きると、時計は4時半をさしていた。

「やっべ、寝過ごした!ルキア、起きろ!」

「んん?」

「もう4時半だ。4時間以上寝ちまった。夜の買い出しに出かけるぞ」

近くのスーパーまで、急いで歩く。

「昼寝をしすぎたな。今日の夜が眠れぬかもしれぬ」

「そんときはそんときだ。お買い得品、さすがにもう売り切れてるだろうな」

「主婦みたいだな、一護は」

「ピザを取る時もあるけど、一応は節約生活だからな」

「むう、私も金を出しているだろう。節約などせずとも」

「ああ、お陰でバイトかなり減らせれたし。でも、お金があるからといって豪勢な生活は性に合わねぇからな」

ルキアと一護は、買い物をして、手を繋いで帰路につく。

今日は、夜のデザートはルキアの大好きな白玉餡蜜で、帰り道のルキアは上機嫌だった。

「ルキア」

「なんだ?」

振り返ったルキアの唇に、唇を重ねる。

「な、一護!」

「ははは、あんまりにかわいいから」

「人前かもしれぬのだぞ!家に戻ってからにしろ!」

「家に戻ったら、キスしていいのか?」

「そ、それは、まぁ、その・・・・」

「とにかく、帰ろうぜ」

夕焼けを浴びて、影が長く伸びる。

二人は夕焼けに真っ赤に染まりながら、歩き出す。

ルキアは、自分が真っ赤になっているのを隠せて、ちょうどよいと思うのであった。




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好きという言葉

「ルキア?」

「なんだ、一護」

「パンツ見えて・・・おぶっ」

屋上で座っていたルキアの白いパンツが見えてしまい、一護は注意しようとしたのだが、当のルキアに蹴り転がされた。

「この変態が!」

「な、俺はただ、注意しようと」

「見たのだろう!」

「す、少しだけ」

顔を赤くして、遠い方角を見る一護に、ルキアはその鳩尾にパンチを入れる。

「ぬおおお」

「チャッピーの白パンツで悪いか!」

「だ、誰もそこまでみてないし、そんなこと言ってない」

「兄様、一護にパンツを見られました」

ルキアは、白哉専用の伝令神機で、白哉にそうメッセージを送ると、穿界門が現れて、白哉が姿を現した。

「兄は、ルキアの見てはいけないものを見た。散れ、千本桜・・・・・」

「ぎゃあああああ、お前ら二人そろって俺を殺すつもりか!」

「笑止。殺すつもりだ」

「のあああああああ」

一護は、死神姿になると、千本桜の本流から逃げ出した。

「がんばれ、一護、兄様」

「ルキアのあほおおおお」

「あほとはなんだ、あほとは!」

「ぎゃあああああああ」

一護は白哉の千本桜の桜の海に包まれる。

なんとかかすり傷だけになるように回避して、また逃げ出す。

白哉には、説得とかそういうものがきかない。

「白哉、ルキアと俺は付き合っているんだ!」

「な・・・・んだと?」

白哉が固まる。

「な、誰が貴様と付き合っているだと!」

「この前、俺のこと好きって言ってくれただろ!」

「違う、あれは、ただ友人として!」

ルキアが真っ赤になった。

「むう。仕方ない、ここは退こう。今度、じっくり話し合いをしよう」

「話し合いなんてしたくない。早く尸魂界に帰れ!」

一護が手をしっしと振ると、白哉は何か言いたそうな顔をしていたが、尸魂界に帰っていった。

「あ、兄様!」

「ルキア。いい加減、俺を好きなこと、認めたらどうだ?俺はルキア、お前のこと好きだぜ」

「い、一護・・・・・・・」

ルキアは、真っ赤になって固まった。

「好きだ。改めて、付き合ってくれ」

「わわわわ、私は」

「俺のこと、好きだろ?」

耳元で囁かれて、ルキアはこくんと首を縦に振った。

「日曜、デートしようぜ」

「でででででーと?」

ルキアは真っ赤になりすぎて、頭から湯気を出していた。

「はうあ」

オーバーヒートして、一護の胸に倒れ込む。

「おい、ルキア?ルキア??」

「はれひれほれ~~~~~」

「だめだこりゃ」

ルキアをお姫様抱っこして、一護は保健室までルキアを送るのであった。


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祓い屋京浮シリーズ28

禍津神の浮竹と、完全に神化した夜刀神の京楽に稽古をつけてもらって一週間。

確実に力が増していて、術者の浮竹と式の京楽は、修行してよかったと思っていた。

そんなある日、依頼者が訪れた。

なんと、あやかしだった。

「山の魑魅(ちみ)が、我ら川の魑魅の川を、泥をながして泥水にして汚染するのだ。それに、山の魑魅は自分の体液を流しもしている。山の魑魅をどうにかしてくれまいか」

「基本、俺たちはあやかし同士のいざこざには手をかさないんだが」

「山の魑魅は、川の我らを汚染して、汚染した水を人間に飲ませるつもりだ。そうすれば、人間にとって毒でもある山の魑魅の体液が、人間の体に堆積して、死者がいずれ出るぞ」

「それは見過ごせないな。山の魑魅を退治すればいいのか?」

浮竹はそう聞くが、川の魑魅は首を横に振った。

「山の魑魅がいなくなると、自然界のバランスが崩れる。退治せず、説得してほしい」

「これまた、厄介な依頼だねぇ」

京楽が、川の魑魅に紅茶を出した。

「人の食べ物はうまいな」

川の魑魅は、茶菓子も食った。

「頼んだぞ、水龍神の子らよ」

「まだ引き受けるって言ってないのに、去ってしまった」

「まぁ、依頼料の代わりに新鮮な川魚をいっぱいもらったし、たまにはあやかしの依頼を受けてもいいんじゃない」

「ふむ・・・・とりあえず、明日その山の魑魅の元に行ってみるか」

次の日になって、浮竹と京楽は、海燕が運転する車で山の麓まできて、山を登った。

山がざわざわとざわついて、二人の前に山の魑魅が複数でてきた。

「きけけけけ。人の子め。川の魑魅に言われて、のこのこやってきたか」

「山の魑魅よ!川を汚し、人に害を与えようとしないでくれ!場合によっては、退治する!」

「きけけけけ。我らを退治すれば、自然界のバランスが崩れて、山の生き物が死ぬ。退治など、できぬくせにほざくものよ」

「浮竹、なんとかならない?」

「うーん、そうは言われても・・・・そうか、封印すればいいのか。殺すわけじゃなしに、封印しておけば、生きているし、山の生き物に被害が出ることはないだろう」

「きけけけけ。封印だと!人の子の分際で!」

山の魑魅は、石を投げてきた。

それを、現れた川の魑魅が投げ返す。

「この方たちは、人の子ではない。川を守護しても下さる水龍神様だ」

「何!水龍神様だと!山神様より偉いのか!」

「多分、同じくらいに偉い」

川の魑魅は、山の魑魅に頼み込む。

「どうか、川の汚染をやめてほしいのだ。川神様も怒っている。山神様にも頼みこんだが、山神様は長い眠りについていてだめだったから、水龍神様にお願いした」

「山の魑魅よ。封印されたくなければ、川の汚染をやめろ」

浮竹は、半ば脅すように封印の術札を取り出した。

「分かった、分かった。川を汚染するのはやめる。だから、封印はしないでくれ。自由がいい。他の山の魑魅にも納得させるから、その怖い術札をもつ水龍神をなんとかしてくれ」

「水龍神様、ありがとう。もう大丈夫そうだ。あとはあやかし同士で話し合いをつけるので、帰ってくれて大丈夫だ」

「ああ、そうか」

「水龍神様、生意気をいってすまなかったのだ。これは山の幸だ。どうかこれで、無礼にふるまったことを許してほしい」

数匹の山の魑魅が、野苺、山ぶどうといった山の果物を浮竹と京楽に渡す。

「我らはあやかし。人の世俗にまみれて生きるあやかしもいるが、我らは人とは関わりをあまりもたぬ。それゆえ、人の世界の金というものがない。これで許してもらえるか」

山の魑魅は、不安そうに浮竹と京楽を見上げた。

「ああ、十分だ。ありがとう。お前たちを封印はしないし、あとは川の魑魅と話し合いで解決してくれ」

「もう、川を汚染しちゃだめだよ」

「分かった」

山の魑魅は、仲が悪いはずの川の魑魅と交じりあって、話し合いを始めた。

それを見届けて、浮竹と京楽は帰路についた。



館に戻ると、夜刀神の京楽と禍津神の浮竹が遊びにきていた。

『お、水龍神様たち、おかえり』

『勝手にお邪魔しているぞ。このステーキうまいな』

禍津神の浮竹は、式のルキアに頼みこんで、松阪牛のシャトーブリアンのステーキを焼いてもらって、二人の許可なく勝手に食べていたのだが、術者の浮竹も式の京楽も、ただ溜息をついた。

「修行の苦痛を思いだすよ」

「なんだかんだ言って、楽しかったが修行、きつかったからな」

「もぐもぐ・・・・術者の俺も食え。はい、あーん」

『ちょっと、禍津神様、ボクは!?』

術者の浮竹は、素直に口をあけて禍津神から、ステーキをもらって食べた。

『禍津神様、ボクも!』

『むう、春水もか。仕方ないな、あーん』

『あーん』

夜刀神の京楽は、嬉しそうにしていた。

「僕だけのけもの・・・・・」

『水龍神にやるステーキはない。焼き鳥でも食ってろ』

「水龍神って、浮竹も水龍神だよ?」

『じゃあ、鳥臭い水龍神に言い換える。おい、鳥臭い水龍神』

「ひどい!僕は鳥臭くないよ!」

『鳥臭い。このクッションも鳥臭い』

鳥臭いといいながら、京楽の羽毛100%クッションをもふもふする、禍津神の浮竹であった。

『むう、お前から術者の俺の匂いがする。また盛ったな、この桜文鳥!』

「僕たち結婚して、新婚さんなんだし、別にいいでしょ!」

『むう、新婚さんか・・・・春水、ちょっと羨ましいぞ』

『禍津神様、ボクらも結婚する?』

『俺はいらない。そんな形だけの形式なんかなくても、お前はいつも俺の傍に居てくれる』

『禍津神様・・・・・』

『春水・・・・・・・』

二人の世界を作りだすので、式の京楽は文鳥姿になって、ちゅんちゅんと飛び回って邪魔をする。

浮竹といえば、水龍神化して、禍津神の己の手をひっぱった。

「禍津神の俺、遊んで?」

『むう、術者の俺はかわいいな』

術者の浮竹をぎゅーっと抱きしめて、夜刀神をほうりだした禍津神の浮竹は、術者の浮竹と一緒に鬼ごっこをすると言い出して、外に出てしまった。

置き去りにされた夜刀神の京楽は、にこにこ微笑んではいるが、ちょっと嫉妬が混じっていた。

『君のとこの伴侶の水龍神様、ボクの十四郎をたまに独り占めするよね』

「僕だって、浮竹とられて悔しいんだから」

『でも、禍津神様の望みだしね・・・・・・』

「浮竹、禍津神の自分には優しいんだよね・・・・・・」

『でも、君にも素直でしょ?』

「ツンデレの時が多いけどね」

「京楽喉乾いた。冷たい麦茶を二人分用意しろ」

「はいはい」

鬼ごっこをしている浮竹たちは、楽しそうにしていた。

『ボクも混ぜて』

『いいぞ。春水が鬼だ』

「にげろーー」

術者の浮竹が、にげろといって、禍津神の浮竹の手をとって走り出す。

「僕だけまたのけもの・・・いいもん、いいもん」

麦茶を二人の浮竹に飲ませて、式の京楽は文鳥姿になると、術者の浮竹の肩に止まった。

「ちゅんちゅん!(これで僕も一緒だよ)」

「お前は呼んでない!夕飯の準備でもしてろ!」

ツーンと、ツンデレな術者の浮竹にそう言われたが、文鳥姿の京楽はしつこくねばった。

「ちちちちちち」

「耳元でうるさく鳴くな、この鳥!」

「ちゅんちゅん!!(僕にもかまって!)」

「じゃあ、羽をむしって焼き鳥の準備でもするか」

「ちゅんちゅんーーーー(いやだああああああ)」

逃げようとする式の京楽を捕まえて、術者の浮竹は羽をむしりだす。

『術者の俺、鬼に捕まるぞ!』

「あ、そうだった。京楽、ちゃんと夕飯の準備しとけよ」

術者の浮竹にぽいっと投げ捨てられて、式の京楽は、しくしくと泣く。

水龍神の姿になった浮竹は、精神年齢が幼くなるので、式の京楽を放置してお気に入りの禍津神の自分と遊ぶのを好んだ。

「ああ、僕の浮竹はそれでもかわいい」

冷たくあしられても、式の京楽は最終的には自分の元に帰ってくるので、術者の浮竹を自由にさせていた。

「今日はすきやきにでもしますか・・・・・・」

夕飯の準備にとりかかる。肉は、もちろん高級なものを四人分。

「酒も用意しときますかね」

術者の浮竹には、オレンジジュースだ。

禍津神の浮竹にはカクテルを。

夜刀神の京楽と自分にはアルコール度数の高い日本酒を用意する。

「夕ご飯の支度できたよ。みんな戻って!」

『夕飯だ!』

『またごちそうになるね』

「京楽、いいとこだったのに」

「はいはい、浮竹も手を洗って席について」

「言われなくても、そうする」

つーんと、ツンデレな術者の浮竹は、人の姿に戻るとオレンジジュースを飲みだす。

その仕草がかわいいと、式の浮竹は思う。

『お前の分の肉もいただくぞ!』

禍津神の浮竹は、少しぼーっとしてしまった式の京楽の分の肉をさらっていくのだった。

結局、禍津神の浮竹は酔いつぶれて、術者の浮竹もカクテルを間違って口にして酔いつぶれて、京楽達二人で、酒盛りをする。

「僕の浮竹はね、とにかく妖艶で綺麗でかわいいの」

『ボクの禍津神様もかわいいよ!』

延々と、夜が更けるまでお互いの伴侶について、語り合い、自慢話を続けるのであった。





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祓い屋京浮シリーズ27

「これが・・・呪われた面の、片割れです。もう一方の面は般若の面で、被った妻が暴れて生気を吸われて、発狂して今、家のベッドで拘束して寝かしてあります」

古い資産家の男性は、そう言って呪わているというお面をテーブルの上に置いた。

「面霊気(めんれいき)だね。付喪神の一種だよ。こっちの面には少しだけその名残がある。般若の面のほうが、面霊気の本体だね」

「なぁ、面を乱雑に扱わなかったか。面霊気は、大切にされると何もおこさないはずだ」

「はい。古いし気味が悪いので処分しようとしたら、般若の面が妻の顔にとりついて離れなくなり、妻の生気を吸い取った上に発狂させたんです。どうか、面の呪いを解いてください!」

浮竹は、こう説明した。

「付喪神は悪い神ではない。面霊気も、大切に扱っていれば、こんな騒動をおこなかっただろうに。これは面の呪いではない。あやかしの仕業だ」

「あやかし。あなたたちの相手ですね。どうか、妻にとりついた面霊気とやらを祓ってください!」

「分かった。引き受けよう」

「浮竹、付喪神の一種だし、一応説得しよう」

「ああ、分かっている」

二人は、依頼者の家にいき、ベッドで拘束されている依頼者の妻とあった。

般若の面を被った女性は、拘束されているのに暴れていた。

「ぬおおおおお、憎い憎い。我を捨てるなど、愚かな人間が」

「面霊気。その女性を解放してはくれないだろうか。お前を大切に扱うようにさせるから・・・・・」

「憎い憎い。人間が憎い。付喪神となった我を捨てようとした人間どもが憎い!」

浮竹は、面霊気を痛みのない炎で包みこみ、怒りを鎮めようとしたが、逆効果になった。

「人間め、我を祓うつもりで術者を呼んだか!ああ、口惜しや。もはや、この体がどうなってもよいわ!」

ぶちぶちと、怪力で拘束していたベルトを破り、面霊気は浮竹に襲いかかった。

「京楽、面だけを狙え!」

「分かってるよ!でも、こう激しく動かれちゃ、面以外の部分もダメージを与えそうだ。一度、動きを封じるよ!」

「おのれ、水龍神か。神でありながら、我と同じ神でありながら、我を殺そうとするのか」

「付喪神は、神格があるだけで正式な神じゃないよ」

「うるさい!ええい、お前もお前も、この体も、この体の夫も、みんな呪い殺してやる!」

呪詛を唱えだし、面霊気は呪いを四人にかけた。

浮竹と京楽は、呪いをはじき返す。

「おのれええ、我の呪いが効かぬか!いっそ、この体を壊してくれる!」

京楽の術の準備が終わり、面霊気は動けなくなっていた。

「ぎがががが、動けぬ。動け、体よ」

「僕の術はその程度では破れないよ」

「おのれ。こうなれば、その白い美しい男に我が憑りついてやる」

面霊気の般若の面は、女性を解放すると、浮竹めがけて飛んでいく。

「させないよ!」

京楽が、霊刀のシンクを抜き放ち、面霊気を一刀両断した。

「ぎががががが」

半分に別れた面霊鬼は、呪詛をふりまく。

依頼者とその妻は、狂ったように暴れ出した。

それを、浮竹が式札を飛ばして呪いを浄化して、呪いを解いてやった。

「ああ口惜しや口惜しや。滝夜叉姫に愛されていた我が、このような・・・・・・」

「滝夜叉姫・・・・どうりで、普通の面霊気よりしぶといわけだ。滝夜叉姫は、この件に関係しているのか?」

「滝夜叉姫ええぇぇぇ、どうか、我の仇をとってくれえええ」

そう言い残して、面霊気は浄化されてただの半分に分かたれた、般若の面になった。

「終わったね」

「いや、まだだ・・・・お前、滝夜叉姫だな?」

般若の面を被っていたのは、美しい女性だった。

呪われて狂ったふりをしていたが、浮竹はかすかに感じる妖力を感知していた。

そして、面霊気から、この女性の妖力が溢れていたのに気づいていた。

「滝夜叉姫!?こんな場所に、いるのかい!」

「滝夜叉姫、さぁかくれんぼは終わりだ。正体を現せ!」

浮竹が式を放つと、滝夜叉姫は甲高く笑い声をあげた。

「ホホホホホ!わたくしの正体に気づくその力、容姿、どれをとっても悪くない。我が夫とならぬか?」

「ちょっと、何浮竹ナンパしてるのさ!浮竹は僕の伴侶だよ!」

「水龍神が二人・・・・ふふふ、獲物としては上々」

滝夜叉姫として姿を現した女性は、美しい十二単の着物を着た貴族の姫君の姿をしていた。

「妻が・・・妻が、滝夜叉姫!?」

依頼者は、パニックを起こして、尻もちをついて後ずさる。

「正確には、滝夜叉姫に憑かれている。あなたの妻は、あの体の持ち主として、ちゃんと世界に存在している」

「どうか、どうか、妻を!」

「分かっている。滝夜叉姫、その女性の体から出てこい!」

「ふふふ。こんな依代とはいえ、人間だ。人間ごと、切ることはできまい?」

「それはどうかな?」

浮竹が、禍々しい色で燃え上がる、京楽の霊刀シンクを指さす。

「あの刀は特殊でな。その気になれば、霊体だけを殺せる」

「な、なんじゃと!」

「え、そんな能力まで備わってるの!」

京楽は、シンクの持ち主としては若干知識が欠けているようだった。

シンクを生み出したのは、浮竹の霊力の根源であり、神の力である。

「京楽、霊だけを斬るつもりで、滝夜叉姫を斬り捨てろ」

「分かったよ!」

京楽は、禍々しく輝く霊刀シンクの柄を握り直すと、滝夜叉姫ごと女性を斬った。

「ぎゃああああああ!!痛い、痛い!」

女性の中から、本当の滝夜叉姫が出てくる。

十二単を乱し、美しい顔を歪ませて、長い黒髪をうねらせて、京楽に襲い掛かる。

「滅!」

浮竹が、最上級の浄化の祝詞を唱えて、滝夜叉姫にダメージを与える。

「嫌じゃ嫌じゃ、こんな場所で死にとうない。どうか、慈悲を!」

「人に憑りついて生きている段階で、駆除対象だ」

「おのれえええ、せめてお前も道づれにしてやる」

滝夜叉姫は、浮竹を長い黒髪でぐるぐる巻きにした。

それを、京楽が放った青白い破壊の炎が焼いていく。

「嫌じゃ嫌じゃ、一人で死ぬのは嫌じゃ」

「面霊気が、向こうで待っているぞ」

「嫌じゃああああああ!!!」

狂ったように叫び、滝夜叉姫は酷い穢れを出してきた。

それを、京楽と浮竹は浄化してしまう。

水龍神は、特に浄化の力が強い神である。

滝夜叉姫といえど、あやかし。

あやかしが、神に勝てるはずなどない。

「ああああ、体が、体が焼けるううう」

滝夜叉姫は、浮竹と京楽の力を合わせた強力な浄化の結界の中で、浄化の焔に包まれていた。

「あああ、嫌じゃ・・・・滝夜叉姫ともあろう者が、術者に殺されるなど・・・」

「さようなら、滝夜叉姫」

「覚えていろ!いつか、復活してやる!これは仮初の滅び。我の核はここにはない!」

「そうか。なら、復活したらまた殺してやろう」

浮竹は、残酷に微笑んだ。それがまた妖艶で、京楽は滝夜叉姫なんてどうでもいいとばかりに、浮竹ばかりを見つめていた。

「浮竹十四郎、京楽春水。名乗りもしないお主たちの名、しかと我が魂に刻みつけた。我は滝夜叉姫。平家の末裔ぞ」

それだけを言い残して、滝夜叉姫は浄化の焔に飲みこまれて、灰となった。

「これで、終わりだな」

「うん、そうだね。核がここにないとなると、いつかまた現れるかもしれないけど」

「その時は、その時だ」

「お前、お前、しっかりしろ!」

依頼者の男性は、気を失っていた自分の妻を揺さぶった。

「あなた・・・・ここは?この方々は?」

浮竹と京楽は、大ざっぱに自己紹介と事情を説明する。

「そうですか。あなた方が、私を助けてくれたのですね」

依頼者は、冷静さを取り戻すと、約束の5倍の報酬金を払ってくれた。

「妻を助けていただき、本当にありがとうございました」

「いや、こちらも仕事なので」

「少ないですが、どうか謝礼金を」

一千万はありそうな札束を、少ないというのだから、金持ちは怖いと京楽は思った。

それを、平然と受け取る浮竹も、さすがに名家の富豪だなぁと京楽は思った。

「京楽、シンクをちゃんと扱えるようになれよ」

「う、うん。君の霊刀だけあって、君がピンチの時ほど切れ味が鋭くなる。あと、滝夜叉姫を屠ったせいか、もっている霊力が増してる」

「シンクは、あやかしを屠れば屠るほどに強くなっていく、進化する霊刀だ」

「うん。僕も、強くならないとね」

京楽は、シンクを鞘に戻した。

「そう思うなら、修行するか?」

「そうだねぇ」

「禍津神の俺と術者のお前に、稽古をつけてもらうように頼みこむか」

「ええ、あの二人!?いくらこっちが水龍神二人といっても、きついよ?」

「きついから、修行になるんだろうが」

「それはそうだけど・・・・・」

京楽は、あまり気乗りしないようだった。

禍津神の浮竹と修行したことはあるが、かなりきつかった思い出がある。

「俺もついていくから、安心しろ」

「うん。僕も、神の力に飲まれないように、強くならないとね」

水龍神であるが、高位のあやかしを屠り続けて、神としてのランクが高くなっていた。

「とりあえず、家に戻ろうか。お腹すいちゃった。今日はピザとナポリタンスパゲッティ作るね」

「確かに、俺も腹が減ってきた。帰るか」

依頼者が、食事を提供するというのを丁重に断って、二人は館に戻る。



夜になり、浮竹の寝室に京楽が忍び込んできた。

「ん・・・・なんだ、夜這いか?」

「うん、そうだよ」

「んん・・・・・んう」

深く口づけられて、飲みこみきれなかった唾液が、シーツに染みを作った。

「んあっ」

体全体を弄られて、浮竹は控えめな声を出した。

「ねぇ、もっと感じて?もっと、声出して?」

「ん、あああ!!」

浮竹の衣服をはいで、裸にさせると浮竹のものを口にふくむ。

「やあああああ」

ちょっとご無沙汰だったので、思っていたよりも多い量の精液が、京楽の口の中で弾けた。

「あ、ああああああ、あ!」

ローションで濡れた京楽の指が、蕾に入ってくる。

「んあああ」

ばらばらに動かされて、浮竹は涙を流す。

「あ、やあ、そこやっ」

「ここ?ここ、好きだよね?ぐりぐりされるの」

「やああああ!!!」

前立腺のある場所をぐりぐりと指で刺激されて、浮竹は射精してしまっていた。

「まだいれてないのに、こんなに濡らして」

「あ、早く来い。お前が、欲しい・・・・・」

艶やかに誘ってくる浮竹に、ごくりと喉を鳴らして、京楽は硬くなった己で浮竹を貫いた。

「ひああああああ!!!」

「んっ、きつい。もうちょっと、体の力抜いて」

「やああ、無理、やああ」

「一度、出すよ」

中で京楽が弾けると、コポリと蕾から京楽の精液が少しだけ溢れた。

量の多い京楽の精液で、蕾はローションなしでもぬるぬると滑り出す。

浮竹を貫き、揺さぶり、何度も挿入を繰り返していると、浮竹の思考がぐずぐずに溶けていく。

「あ、もっとぉ。もっと、ちょーだい?♡」

「君って子は・・・・・」

背後から貫いて、結腸にまでぐぽりと入り込むと、浮竹は喘いだ。

「あ、あ、熱いのでいっぱい。あ、あ、溢れちゃう」

「まだ、欲しいの?」

「うん。もっと、いっぱい俺の中にザーメンだして♡」

「どうなっても、知らないからね」

京楽は、浮竹が意識を完全に飛ばすまで抱いた。

結局、浮竹の中で5回は精液をはなっていた。

「愛してるよ・・・・・十四郎」

「ん・・・・・・」

浮竹は、うっすらと目をあけて、言葉を紡ぐ。

「俺も、愛してる・・・・春水」

誓いあうように、何度も口づけを繰り返して、結局朝がくるまで睦み合うのだった。


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祓い屋京浮シリーズ26

鬼蜘蛛。

上半身が鬼で、下半身が蜘蛛のあやかしであった。

普通は人のいる場所に現れず、巣を作って蜘蛛の糸で、動物や他の妖怪がかかるのを待ち、食べる。

人は襲わないわけではなく、人を襲うと退治されてしまうと知っているので、人が自分の巣にかかると食い殺さずに逃がした。

そんな鬼蜘蛛が、人の多い街に現れて巣を作った。

無論人がかかり、その鬼蜘蛛は人を食べた。

それだけでも厄介なのに、その鬼蜘蛛は、食べた人の姿をとるのだという。

すぐに依頼が舞い込んできた。

鬼蜘蛛に妹を食い殺された兄からの依頼だった。

「鬼蜘蛛を退治してください!妹が食い殺されたあげく、妹の姿をとって、人を巣に近づけて襲って食べるんです!」

「要件は分かった。すぐに退治に趣こう。街で巣を作るなんて異常だ。術者に退治してくれと言っているようなものだ」

「お願いします」

「ねぇ、浮竹。鬼蜘蛛ってけっこうパワーのある妖怪だよ。大丈夫?」

「俺が危うくなったら、お前が助けてくれるだろう?」

耳元で囁くと、京楽は自分の胸を叩いた。

「君のピンチには、僕がいるからね!大船に乗ったつもりでいてよ!」

水龍神化した浮竹は、神でもあるため、あやかしになど食われないだろうが、用心するにこしたことはない。

依頼者の後を追って、街に向かい、鬼蜘蛛が巣をはっている場所を教えてもらった。

「もう、妹の姿をとっていないかもしれません。食った人間に自由に変化できるので」

「厄介だねぇ」

「そうだな」

式のマオとレツを放ち、巣に誰もかかっていないことを確認すると、浮竹と京楽は巣に青白い炎を放った。

「あーんあーん」

子供の泣き声がして、浮竹が走り寄る。

「しっかりしろ!今、助けてやるからな」

蜘蛛の巣の端っこに、マオとレツを放った後で、子供が巣にひっかかった。

「あーんあーん。食わせろおおお」

子供は、ばりばりと音をたてて元の鬼蜘蛛の姿に戻ると、浮竹の肩に噛みついた。

「ぐげげげ、なんだこの血は!体が焼けるううう」

血しぶきをあげて、浮竹がよろめく。

京楽はすぐに浮竹の肩の傷を再生させて、浮竹の体を受け止めた。

「俺の血は、神聖なものらしい。水龍神だからな。それより、子供を食ったのか!」

「ぎぎゃぎゃ。子供は、そうだなぁ、三人くらい食ったなぁ」

「被害者の数は不明だが、十人はこしていそうだな。京楽、刀を」

浮竹が、京楽のためだけに与えた、霊刀を京楽は抜き放つ。

浄化の力できらきら虹色に輝いていた。

「試し斬りには、いい相手だね」

「俺の霊力の全てを一度こめてある。鬼蜘蛛程度なら、紙のように切れるだろう」

「ギャギャギャ!俺に食い殺されろ!白い長い髪のお前、外見が気に入った。食ったら、お前の姿になろう」

「そんな浮竹はご免だよ。食わせる気もないし、傷つけた報いは受けてもらわないとね!」

京楽は、霊刀で鬼蜘蛛の下半身の足を切り飛ばす。

「痛い、痛い!」

「被害者の人間も痛がっていただろう。それを、お前は食った。人を食うあやかしは放置できない。滅せよ!」

浮竹が霊力で五芒星を描き、その中心に京楽が立つ。

霊刀が、血のように真紅に輝いた。

「人生にさよならはできたかい、鬼蜘蛛。じゃあね」

「ぎゃああああああああああ」

全ての足を切り飛ばされて、胴体と下半身に切り分けられた鬼蜘蛛は、上半身だけで逃げようとする。

血が、瘴気となって辺りに漂う。

「この程度の瘴気、なんてことはない。滅べ」

浮竹は、霊力でできた弓で矢を放った。

「ぎいやあああああ!!」

それは上半身だけになった鬼蜘蛛の額にささり、鬼蜘蛛の上半身を浄化の炎が青白く燃え上がる。

「ねぇ、この霊刀に名前つけていい?」

「好きにしろ。巣を全て焼き払うぞ」

「君の力で真紅に輝くから、「シンク」がいいな」

「シンクか。悪くない」

鬼蜘蛛の残った下半身と巣を浄化の炎で焼いていくと、建物の奥に蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされら物体があった。

静かだが、呼吸をしていた。

「生存者か!後で食おうとしていたんだろうな。今、助けるからな!」

ばりばりと、糸をはがされてでてきたのは、鬼蜘蛛の子供だった。

「お兄ちゃん、だあれ?」

まだあどけなさを残す、上半身は人の姿をかろうじで保っていた。

鬼蜘蛛になりきる前の、幼体であった。

「かわいそうだが、ここで処分する」

「母様はどこ。人の肉を早く食べたい。お兄ちゃんが、今日のえさ?」

「シンク、頼むよ!」

シンクと名付けられた霊刀は、幼体の鬼蜘蛛の首をはねた。

ころころころ・・・・。

転がってきた首を、浮竹が焼いていく。

「アハハハ。これで、ボクを殺したつもり?」

灰となったはずの鬼蜘蛛の幼体が、再生していく。

「どういうことだ!」

「浮竹、気をつけて!シンク、結界だ」

結界をはって、濃い瘴気を漂わせる鬼蜘蛛の幼体から離れた。

「ふふふ、人を食ったのはボクさ。母上は、捕まえただけ。食った人の姿に化けると、人は面白いように罠にかかる」

「京楽、そのまま結界の維持を。俺が片を付ける」

浮竹は、浄化ではなく破壊の炎を手の平に生み出す。それを、左手で生み出した浄化の炎を混ぜ合わせた。

すると、小さなブラックホールができた。

「永遠に、苦しむがいい。人を食い殺し続けた、罰だ」

「嫌だ、ボクはもっと人を食って、力をつけて、この世を支配・・・・・・・」

「名も知らぬ鬼蜘蛛よ、さらばだ」

浮竹は、生まれたブラックホールを鬼蜘蛛の幼体に投げた。

「いやだ、ボクはもッと生きて人を食うんだあああ」

鬼蜘蛛の幼体は、ブラックホールに飲みこまれていなくなってしまった。

周囲の瘴気も吸いとり、更には建物まで吸い込もうとする。

「浮竹、力が過剰だよ。抑えて」

「ああ、分かっている。強力な術だが、少し強力すぎるか・・・・・」

ブラックホールを閉じて、浮竹は結界を解いた京楽に近寄り、シンクに吸い込んだ鬼蜘蛛の妖力を分け与えた。

「この霊刀は進化する。京楽の力と、屠った獲物と、分け与えられた力で」

「うわお。すごい刀だね」

「大切にしろよ。俺の出せる全霊力を注ぎ込んだ一品だからな」

「うん。大切にするよ。毎日手入れする」

「さて、鬼蜘蛛の件は片付いた。依頼者に報告しよう」

「うん、そうだね」

神の名を冠する二人にとって、鬼蜘蛛は脅威ではないが、隙を見せたら傷を負う可能性もある相手だった。

実際、浮竹は肩を怪我した。

「君を傷つける者は、僕とシンクが容赦しない」

「俺がやられても、正気を保っていろよ」

「縁起でもないこと言わないでよ」

「ふふ。帰ろうか」

「そうだね。帰ろう」

依頼者に報告し、依頼料をもらって家に帰る。

鬼蜘蛛に限らず、最近あやかしが活発化してきていた。

さてはて、次の依頼は何か。

浮竹と京楽は、束の間の穏やかな時間を過ごすのだった。


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祓い屋京浮シリーズ25

夢魔は、普通夢の中にでてきてその夢の主の生気を喰らう。

だが、その夢魔は特別で、一部の記憶だけを喰らった。

「ふふふ・・・・神に直接手出しはできんが、この方法なら・・・・」

狂い咲きの王は、夢魔を改造した。

そして、術者の浮竹の夢の忍びこみ、記憶を喰らうように命令した。


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「おはよう、浮竹。もう10時だよ。いい加減に起きて」

「う・・・・ここは・・・・・お前は、誰だ?」

「もう、朝からそんな冗談に付き合っていられないよ」

「ここは、俺の館・・・・お前は誰だ」

「浮竹?」

式の京楽は気づいた。

夢魔に、記憶を食べられてしまったことに。

夢魔にとりつかれた名残が匂いがあり、記憶を食べられた片鱗があった。

「僕は京楽春水。君の式の水龍神で、君の伴侶で君の夫だ」

「俺は人間だったはず・・・・なぜ、水龍神に」

浮竹は、自分の体を見る。

水龍神化して、鏡の前に立つと、人ではないあやかしの神になった己がいた。

「分からない・・・・お前が誰なのか、分からないのに、胸が苦しいんだ」

浮竹は、ぽろぽろと涙を零した。

「泣かないで、浮竹」

「触るな」

浮竹は、警戒心を出して、京楽から距離をとった。

「浮竹、今は思い出せなくても、絶対に記憶を取り戻してみせるから!君の記憶を食った夢魔を、殺してやる」

「夢魔に・・・記憶を食われた?」

「そうだよ。今の君は、僕に関する記憶だけを食べられたはずだよ」

浮竹は、首を傾げる。

「お前の記憶・・・・・大切なことを、忘れてしまっているのか」

また、ぽろぽろと涙を零した。



『遊びに来たぞー』

禍津神の浮竹が、術者の京楽と共にやってきた。

「あ、術者の僕!ちょうどいいところに・・・・・・」

『なんだ、桜文鳥。またなにかしでかしたのか。術者の俺が泣いてるじゃないか!』

禍津神の浮竹が、式の京楽の首を絞める。本気の力で、術者の京楽はなんとかふりほどいて、事情を二人に説明した。



『記憶を食う夢魔ねぇ。いるにはいるけど、希少存在だよ。それを探して殺すといっても、どこにいるのか・・・・・・』

「夢魔は、またやってくる。浮竹の記憶の味を味わったなら、虜になるはずだよ。今日の晩にでも、また記憶を喰らいにやってくる」

『じゃあ、そこを叩けばいいのか』

「協力してくれる?」

「術者の京楽と禍津神の俺と知り合いなのか、お前」

「そうだよ。君と一緒に知り合った」

「思い出せない・・・・・・」

術者の浮竹は、頭に手を当てた。

思いだそうとすると、酷い頭痛が起きた。

「俺は・・・このまま、お前のことを忘れたまま・・・・・」

浮竹の精神は、夢魔に記憶を食われた弊害か、感情が乱れやすく、精神年齢も幼くなっていた。

「このまま・・・・じゃ、いや、だ・・・・・・」

『俺たちがついてるから、大丈夫だ!』

禍津神の浮竹は、術者の己を抱きしめた。

「禍津神の俺・・・・俺は、本当に、この京楽という男の伴侶で、こいつは俺の式なのか?」

『そうだぞ。いつもお前にスケベ心をもつ、いかれた桜文鳥だ』

「ちょっと、何吹き込んでるの!浮竹が信じちゃうでしょ!」

「いかれた・・・・・すけべ・・・・・桜文鳥・・・頭が、痛い」

『そんなスケベはほっといて、夜まで時間があるんだし、遊ぼう!』

禍津神の浮竹がそう誘うと。

「遊んで、遊んで。何をしよう。鬼ごっこ?かくれんぼ?」

精神年齢の幼くなった術者の浮竹は、笑顔を浮かべて、水龍神化して、角や尻尾を生やした姿で、禍津神の浮竹の手をひっぱって、部屋の外に出ていく。

「あ、浮竹!」

『大丈夫、水龍神様。禍津神様がついてる限り、安全だよ』

「それはそうだろうけど・・・・・あんな幼い浮竹、僕はもっと味わいたい」

『それ、スケベな意味で?』

「違うよ!純粋に、ただもっと触れ合いたいだけだよ。あんな幼い浮竹、そうそうお目にかかれるものじゃない。でも、記憶を食った夢魔は許せない。八つ裂きにしてやる」

『記憶から消されたの、相当怒ってるね』

「当たり前でしょ」

二人の京楽は、夢魔が出てきたらどう処理しようかと相談しだした。


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『今度は何して遊ぶんだ?』

「鬼ごっこも隠れんぼもした。室内で遊ぼう。すごろくしよう」

『ああ、いいぞ』

禍津神の浮竹は、術者の自分にとても優しく接する。

「浮竹、ちょっといい?」

びくりと、術者の浮竹が禍津神の浮竹の背後に隠れる。

「いやだ、傍にいると、胸が苦しくなって、頭が痛くなる」

「ねぇ、君の夢に出てきた夢魔はどんな夢魔だったの?」

「・・・・・花。彼岸花」

「そう。ありがとね」

術者の浮竹が覚えていた夢魔は、彼岸花の着物をきていた。人型の夢魔だった。

「彼岸花の夢魔ねぇ。聞いたこともない」

『どうだったの』

「彼岸花の夢魔だそうだよ」

『それ、花鬼(かき)じゃない?どこその誰かが、花鬼を改造してけしかけてきたのかも」

「狂い咲きの王か。あいつのしそうなことだね」

『うん。それより、センパイは大丈夫そうだった?』

「禍津神の浮竹とすごろくはじめてた」

『すごい、交じりたそうな顔してるね』

「僕も、幼いかんじの浮竹と遊びたい!」

『警戒されてるし、傍にいると頭痛起こすから、我慢だよ』

術者の京楽は、式の京楽の頭を撫でた。

「撫でられるなら、浮竹がいい」

『わがままだねぇ』


やがて夜になり、術者の浮竹は式の京楽の羽毛でできた羽毛布団の上ですーすーと、静かに眠りについた。

隣の部屋では、術者の京楽と禍津神の浮竹が、緊急時の時のために備えており、式の京楽は夢魔がくるの待つために、眠っている術者の浮竹の傍で起きていた。

「夢を、記憶をちょうだい。あなたの記憶、すごくおいしい。もっと、もっと・・・・・」

すーっと現れた、彼岸花の夢魔は、眠る浮竹の中に吸い込まれてしまった。

「これ以上、奪わせるものか!」

精神体となって、眠る術者の浮竹の中に入り込んだ式の京楽が見たものは、術者の浮竹が禍津神の浮竹と今日遊んだ記憶だった。

「欲しい。その記憶、ちょうだい?」

「そこまでだよ!」

「誰!邪魔しないで!」

「邪魔なのは君のほうだよ。浮竹の記憶を返してもらうよ!」

浮竹の精神世界の中で暴れまくるわけにはいかず、夢魔を外に引きずりだした。

「こんな、こんなことになるなって聞いてない!」

「ああそうだろうね。どうせ藍染にそそのかされたんだろうけど、相手が悪かったね。死んでもらうよ」

「待って!私を殺すと、この人は記憶を取り戻さないわ!」

「じゃあ、記憶を返して」

「いやよ。こんな美味しい記憶・・・・・」

「返す気が起きるように、するだけだよ」

ニタリと、式の京楽は残酷に笑んだ。

「いやあああああああああ」

破壊の炎と浄化の炎になぶられて、さしずめ酷い拷問といったところだろうか。

彼岸花の花鬼の夢魔が、自分から記憶を返すまで痛めつけた。

「ひっ、い、命だけは助けて」

「だめだね。僕の浮竹に手を出した罰だ」

「ひいいいいいいいいいいい」

夢魔は、枯れた彼岸花を残して、この世から消え去った。


『うまくいったのか?』

『僕たち、助太刀するつもりだったのに』

「君たちに任せたら、すぐ終わってしまいそうだったから」

隣の部屋で、夢魔の酷い叫び声を聞いていた二人は、式の京楽を本気で怒られるとどういう目にあうの少し分かったようだった。

水龍神であるが、今回は町が水没するような怒りではなく、夢魔一人を拷問して殺す怒りだった。

「あ・・・・きょう、ら、く・・・・・・・」

うっすらと目を開けた術者の浮竹が、ゆっくりと半身を起こす。

「俺は・・・・彼岸花の夢魔に、お前の記憶を食われて・・・・・お前を拒絶して・・・」

「もぅ、終わったことだから。気にしなくていいんだよ、浮竹」

「俺は、お前を忘れた。夢魔に記憶を食われたとはいえ、大切なお前のことを」

術者の浮竹は、式の京楽の背中に手を回して抱き着くと、その体温を確かめる。

「記憶、戻してくれて、ありがとう。禍津神の俺、術者の京楽も心配をかけたな」

『元に戻ってよかったね』

『むう。俺は、もう少し素直な術者の俺と一緒に居たかった』

『こら、禍津神様。無理難題をふきかけない』

『とりあえず、記憶が戻ってよかったな、術者の俺!」

「ああ・・・・彼岸花の夢魔は死んだのか」

「僕が殺した」

「そうか」

「裏で糸を引いているであろう、狂い咲きの王に関しては、情報が少なすぎるからこっちから趣くのは無理だね。すごく拷問してくびり殺したいけど」

いつもの温和な式の京楽は、残酷に笑った。

『じゃあ、俺たちは帰るな』

『お邪魔だろうし』

「え、あ、え」

術者の浮竹が何かを言う前に、式の京楽に押し倒された。

「僕が、どれだけ心配したと思ってるの。もう、僕のこと忘れられないように、その体に刻みつけてあげる」

「盛るな!」

「無理。君を抱くよ」

「んんっ」

去って行った二人の見送りもできずに、記憶の戻った術者の浮竹は式の京楽に、その体に刻み込むように愛を与えていく。

「ああ!!!」

「もう、僕を忘れないで。約束できる?」

「約束するから、あ、あ、あ、もうやぁあああ」

京楽に乱されながら、浮竹は京楽に口づけた。

「お前だけを、愛している」

「僕もだよ、十四郎」

「あ、春水・・・もっと・・・・・・」

求めてくる愛しい伴侶に、京楽はごくりと喉を鳴らした。

「愛してる・・・・・・」

妖艶で、淫らな浮竹を見ることができるのは、京楽だけ。

京楽は、キスマークを浮竹の体中に残しながら、愛しあうのだった。


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祓い屋京浮シリーズ24

「おお、姫よ。そなただけを、我は愛してるいる」

「やめて!私は姫なんかじゃないわ!ただの女子高校生よ!あなたは落ち武者でしょう!あなたは死んでいるのよ」

「姫よ、何を言っておるのだ。来月には祝言をあげると誓い合ったではないか。我と共に、ゆこうぞ」

「嫌よ!私には、好きな人がいるの!浮竹十四郎と言って、すごい術者なんだから!」

「なんと!姫をたぶらかす悪しき者がいるのか。おのれ、許さぬ浮竹十四郎。煉獄に送ってくれようぞ」



「落ち武者の霊に、姫と呼ばれて攫われそうになるんです。とっさに、あなたの名前を口に出したら、煉獄に送るとかいいだして・・・すみません、高校生なので依頼料は10万しか出せませんが・・・・・落ち武者を祓ってくれないでしょうか」

「君ねぇ、よりによって浮竹の名前を・・・・」

「黙れ、京楽」

「ちゅん」

京楽は、桜文鳥の姿にされて、ちゅんちゅんと抗議してから、浮竹の肩に乗った。

「かわいい・・・・」

触ろうとする女子高校生の手を、京楽は嘴でつついた。

「いたたた」

「こら、京楽!」

「ちゅん!」

「話は分かった。落ち武者の霊は、必ず浄化しよう。今は憑いていないようなので、しばらくこの屋敷で生活してくれ。落ち武者が現れ次第、浄化しよう」

「あの、あなたのことが好きなのは本当なんです!」

女子高校生は、顔を真っ赤にさせながら、叫んだ。

「すまない。俺はこの水龍神・・・今は文鳥の姿をしているが、そいつと結婚式まで挙げてしまったし、こいつのことだけを愛している。君の気持には答えてやれない」

「いえ、いいんです。ただの、一目ぼれでしたから・・・・」

依頼者の女子高校生は、涙を流した。

「ルキア、後を頼む」

「はい、ご主人様」

同世代の少女になら、心を開くだろうと、ルキアにフォローを任せて、その落ち武者について文献を漁る。

「ふむ。平家の落ち武者だな」

「平家かぁ。壮絶な最期だったらしいし、やっかいな落ち武者に憑かれたものだね」

「霊能力者に、一応お祓いを受けて、一時は憑かれなくなったそうだが、また憑いたり憑かなかったりで、今度は攫っていきそうになるそうだ。浄化するしかない」

「そうだね。落ち武者は自分が生きていると勘違いしてる連中が多いから」


それから数日が経ち、同じ屋敷で生活している女子高校生の悲鳴で、浮竹と京楽は目を覚ました。

「きゃあああああああ!!!」

「現れたか!」

「我を裏切ったか、姫よ!よりにもよって、浮竹十四郎の館にいるとは!密通していたな!?我以外の子を身籠ったか!」

「違うわ、あなたはもう死んでいるの!それに私はあなたなんて知らない!あなたの姫なんかじゃない!」

「ああ、口惜しや。この身がもっと動けば、姫を・・・・・・」

「そこまでだ」

「そこまでだよ」

「出たな、浮竹十四郎という術者とそのお供!」

「誰がそのお供だよ!僕は京楽春水。浮竹の伴侶で夫だよ!」

「修道か。珍しくはないが、我が姫をたぶらかした罪、その命で贖ってもらおう!」

浮竹は、落ち武者に向かって式札を飛ばした。

「む、動けぬ」

「そのまま、浄化されろ」

「なんのこれしき!」

落ち武者は、兜と鎧を残すと、霊体のみの体で浮竹に体当たりをしかけた。

「ぐっ」

霊体に直接ダメージがいって、浮竹が蹲る。

「マオ!」

「にゃああああ!!!」

浮竹に呼ばれて現れた式の猫のマオは、落ち武者に噛みついた。

「ひいい、猫は、猫はいやじゃあああああああ」

「マオ、そのままで。京楽、浄化するぞ」

「分かったよ!」

二人は、力を合わせて浄化の炎を作り出すと、落ち武者に放った。

「むう、我はただの落ち武者にあらず。雷神を食うた、半神よ!」

ばちっと雷の音がして、浄化の炎が消された。

「雷神を食っただと!厄介な!」

「僕たちは水龍神。雷神を1匹食ったくらいで、やられはしないし、神は食われると普通滅びる。お前に宿っている力は、雷神そのものではなく、残滓だ」

「雷神の力を受けるがいい!」

落ち武者は、雷を飛ばすが、途中で消えてなくなった。

「な、何故だ!姫、逃げるぞ!」

「やめて、こないで!」

女子高校生にもたせた、強力な浄化の札で、落ち武者が怯む。

「今だ、いくぞ、京楽!」

「分かってるよ!浄化の力よ、燃え上がれ!」

ぽっ、ぽっ、ぽっ。

落ち武者の周りに浄化の炎による五芒星が描かれ、その中に落ち武者が吸い込まれていく。

「ああああ、姫、我を助けよ!その命を差し出し、我の糧となれ!」

「きゃああああああ!!!」

現れた、落ち武者が最後の力で投げた霊刀に、女子高校生は貫かれた。

「踊れ踊れ、浄化の焔よ!踊れ踊れ、癒しの焔よ!」

浮竹の祝詞で、女子高校生の霊刀で貫かれ、血しぶきをあげていた傷が塞がっていく。

「姫えええ、ああ、姫ええ」

落ち武者は、それだけを言い残して、浄化された。

「大丈夫か!」

「君、大丈夫!?」

「ええ、なんとか・・・・それより、落ち武者は!?」

「浄化して滅びたよ。もう、君をつけ狙うこともないだろう」

「ありがとうございます。あの依頼料少ないですよね。数日ここでお世話になったし・・・社会人になったら、ちゃんと依頼料を払いますから!」

「いや、気にすることはない。10万のままでいい。もう、家に帰っても大丈夫だぞ」

「そうですか・・・・長居するのもなんなので、私帰りますね。ありがとうございました!」

女子高校生は、手早く荷物をまとめると、足早に去っていった。

「浮竹、傷見せて」

「気づいていたのか」

「あの祝詞は、誰かの傷を肩代わりするためのもの。霊刀で貫かれた女子高校生の傷を、肩代わりしたね?ああ、ひどい火傷だ」

雷神を食ったというのは本当らしく、落ち武者の残した傷は深く、浮竹は血を廊下に流した。

「癒しの力よ・・・・・」

「癒しの力よ・・・・」

京楽が注ぎ込む癒しの再生の力に、浮竹が己の治癒能力を乗せる。

「よし、もう大丈夫だね。依頼人を守るためとはいえ、無茶をしたね」

「仕方ないだろう。あのままじゃ、依頼人が死んでた」

「肝が冷えたよ。なるべく、あんなことはしないで」

「分かっている」

浮竹の傷は、傷跡も残らないほど綺麗に消えていた。

「助けて!!」

「この声は?」

「花鬼(かき)の鳴(めい)の声だ!何かあったんだ、行こう!」

「うん!」

庭に出ると、椿の狂い咲の王が、花鬼の鳴の首を締め上げていた。

「鳴を放せ!」

「この花鬼は、私に服従しない。花鬼の全ての頂点にいる私を」

「破壊の焔よ!」

京楽が、破壊の渾沌の炎を藍染に向けると、藍染は鳴を放して、後ずさった。

「神々の力は、厄介だな」

「僕たちは神だ。椿の狂い咲の王程度、いつでも殺せる」

「さぁ、それはどうかな?」

椿の狂い咲き王は、京楽の背後に回り込んで、霊力をかすめ取る。

「破滅の焔よ!」

今度は、浮竹が混沌の力を使う。隙をつかれた椿の狂い咲きの王は、体を焼かれながら笑った。

「はははははは、私を焼いても無駄だ。新しい私が生まれ落ちるだけだ」

「椿の精・・・・本体を枯らさないと、だめってことか」

「ふふふふ・・・・・」

「覚悟しておけ。俺がお前の本体がどこにあるのか、知らないとでも思っているのだろう」

「まさか・・・・」

「他の花鬼から、お前の本体がある位置を教えてもらっている」

「く、引っ越すしかないか」

「滅せよ!」

「ぐああああああ」

椿の狂い咲の王は、灰となったが、本体の椿を枯らしたわけではないので、またいずれ復活するだろう。

「すごいね、浮竹。いつ、花鬼から椿の狂い咲きの王の本体の場所を知ったんだい」

「ただのはったりだ」

「ほえ~」

「今頃、慌てて引っ越してるだろうさ。次の土地に馴染むまで、時間がかかる。しばらくは、姿を見せないだろう」

「浮竹、素敵!」

「きもい!」

「酷い!ちゅんちゅん!!!」

「かわいこぶっても、きもい」

「ちゅんちゅん~~~!!!」

京楽は、かわいこぶりっこをして、浮竹の前で文鳥姿で踊りだす。

求愛のダンスだった。

「鳴、大丈夫か」

「はい。助けてくださって、ありがとうございます」

「家族だろう。当たり前のことをしただけだ」

「あの、椿の狂い咲きの王の怒りを買ったのでは・・・・・」

「知らん。あの男のことはくわしくないし、たまに目の前に現れるが、戦いを挑んでくるわけでもないし、京楽の言った通り、神でもある俺たちにの前では、倒されるしかない」

「そうですか・・・・でも、何かありそうです。どうか、お気をつけて」




「浮竹にこの場所を知られていたなんて、とんだ失態だ。花鬼ども、急げ!次の土地にひっこすぞ!」

一人、慌てる藍染の姿があったという。

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祓い屋京浮シリーズ23

「禍津神の浮竹がいなくなった?」

『うん。朝起きると、十四郎がいないんだ。気配を探してもいないし・・・』

「禍津神の浮竹なら、ゲストルームで「鳥臭い」と言いながら、式の京楽の羽で作った羽毛布団にくるまって寝ているぞ?」
 
『ええ、センパイの家におしかけたの!?』

「押しかけたっていうか、朝になると扉の外で寝てた。喧嘩でもしたのか?」

『ううん、ちょっと、その、夜の営みを・・・・・』

術者の京楽は口ごもる。

「ああ、拒絶されたのか。それをしつこくしようとして、逃げられたんだな」

『しつこくなんてしてないよ!』

「式の俺は欲求には素直だが、食い気が多いからな。腹をすかせていたようだったし、俺の家のゲストルームで寝る前にカニ鍋食べてたしな」

『またカニ鍋・・・・・』

「はまってるんだそうだ。毎日カニ鍋なんだろう、そっち」

『お察しの通りで・・・・栄養バランスが崩れるから、だめっていったら涙浮かべられるものだから、つい・・・・』

術者の浮竹は溜息をついた。

「あんまり、甘やかすなよ?たまにはムチも必要だ。アメばかりだと、だめになる」

『分かってはいるんだけどねぇ』

「浮竹おはよー」

「おはよう」

式の京楽が起きてきた。

「なんか、朝に禍津神の浮竹が家の外で寝っ転がってたけど、喧嘩でもしたの?」

『いや、なんていうか』

再び説明するのが恥ずかしくて、術者の京楽は黙り込む。

「カニ鍋を食べにきたけど、眠くなって寝ていただけだ」

術者の浮竹が助け舟を出した。

「またカニ鍋ぇ?禍津神の浮竹がくる度にカニ鍋でしょ。たまには違うのが食べたい」

「じゃあ、今日は松阪牛のシャトーブリアンのステーキにしよう」

「わお、豪華だね!」

「たまには肉を食いたくなるしな。どうせなら、一級品を食べよう。両親が富豪だったせいで、金は腐るほどあるからな。その上で術者をして、依頼料だけでもかなり貯まってるし」

『うわお、お金持ち―』

「そういう術者の京楽も、そこそこ金はあるだろう?」

『あるけど、禍津神様のせいでかなり減ってきてる』

3人は、溜息をついた。

「あのブラックホールをなんとかしない限り、食事代で依頼料も消えるな」

『でも、禍津神様は・・・十四郎は食べるのが好きだから』

「まぁ、気軽にいつでも今まで通り、夕飯を食べにくるといい。朝食でも昼食でもいいぞ。なんなら、夜食だって・・・・」

『それは本当か!?』

起きてきた禍津神の浮竹は、目をキラキラさせながら、術者の己を見ていた。

「俺たちが起きていない時は、ルキアと海燕に言えば、食事を用意できるように手配しておく」

「ちょっと、浮竹、アメとムチでアメが多すぎるよ」

「はっ。あの瞳で見られると、つい・・・・・」

「失礼します。依頼者の方がお見えです」

ルキアが、そう言って入ってきた。

「ああ、通してくれ。京楽、リビングルームに移動するぞ」

客人である、術者の京楽と禍津神の浮竹は、ゲストルームに引っ込んだ。

「のっぺらぼうが出るんです!ただ出るだけならいいけど、顔が欲しいと、人の顔の皮をはいでいくんです!もう被害者が5人も出ていて、みんな顔の皮をはがれて、重症です」

「のっぺらぼうは、普通顔を欲しがらないんだがな」

「ですが、事実顔の皮をはいでいまして。被害者が言うには、「顔が欲しい、顔をよこせ」と言って、逃げても追いかけ続けて、顔の皮をはがれてしまうんです」

「退治するしかないな。この件、引き受けよう」

「大丈夫、浮竹?自分を囮にする気でしょ」

「依頼を受けてくださり、ありがとうござます。前払いで200万・・・どうか、のっぺらぼうを退治してください」

「分かった。京楽、俺も水龍神になったんだ。たとえ、顔の皮をはがれてもすぐ癒しの力で再生できる」

依頼人は、ぺこぺこと何回もお辞儀をして、出ていった。

「さて、のっぺらぼう退治といくか」

『話は聞こえてたぞ!おもしろそうだな、俺も・・・もがー』

『だめだよ、十四郎。これは遊びじゃないんだから。センパイの仕事の邪魔、しちゃだめだよ』

「今回は、俺たちで当たる。禍津神の俺、留守番を頼む」

『カニ鍋してもいいか?』

「好きにしてくれ」



こうして、術者の浮竹と式の京楽は、のっぺらぼう退治に乗り出した。

「ここが、依頼のあった村だ」

海燕に車を運転してもらい、依頼があって被害の出ている村にやってきた。

近くには大きな病院があって、被害者から話を聞いた。

いわく、仕事の帰りに背後から忍び寄って脅かされて、逃げようとすると顔が欲しい、顔をよこせと、顔を皮を無理やりはがれるらしい。

被害者は皆見目麗しい男性で、若かった。

「俺が囮になろう」

生きたま皮をはがされる痛みは、想像を絶するが、浮竹は自分が囮になると言って聞かなかった。

「ねえ、やっぱり僕が囮になるよ」

「俺のほうが、弱そうに見える。髭の生えたお前より、髯のない若い男の顔を好むようだし、自分で言うのもなんだが、顔立ちは整っているほうだ。まだぎりぎり若いし・・・・」

浮竹は、仕事帰りを装って、被害者が出た道を歩いていく。

その上を、空から桜文鳥姿で、違和感がないように、京楽が飛んでついていく。

2日は収穫がなかったが、3日目の夜にのっぺらぼうが出た。

「顔が欲しい。顔をよこせ」

「出たな、のっぺらぼう!お前の悪事もここまでだ。退治する!」

「おのれ、術者か!関係ない、顔をいただくぞ!」

「うっ!」

浮竹は、顔の皮をはがれてしまった。

顔面が血まみれになるが、癒しの力で再生させて、のっぺらぼうが消える前に、その体に式を放つ。

「ぎゃあああああ、顔が、せっかく得た顔が燃えるうううう」

浄化の炎の式札は、のっぺらぼうの顔を焼いた。

浮竹の顔をしていたので、文鳥姿から人型に戻った京楽は、愛する者の顔の皮を奪ったのっぺらぼうが許せなくて、わざとじわりじわりとその身を、最近夜刀神でもある術者の京楽から教えてもらった破壊の力で、焼いていった。

「よくも僕の浮竹を傷つけたね」

「顔が、私の美しい顔が!」

「お前は醜い。どんなに美しい顔の皮をはいだって、それは本当の顔じゃない。のっぺらぼうには顔はないんだから、皮を被ったところで腐ってしまうのがおちだ」

顔の皮をはがされたとは思えない浮竹の言葉に、京楽も頷く。

「浮竹を傷つけた報いだ。被害者たちの分もある。苦しみながら死ぬといい」

京楽は、破壊の力で混沌の炎を生み出し、のっぺらぼうの全身を焼いた。

じわり、じわりと全身を焼かれて、のっぺらぼうが叫ぶ。

「退治するなら、一思いに殺してくれ!痛い、痛い、熱い、熱い!」

「お前がしでかしたことの報いだ。焼け焦げで死んでしまえ」

やっと全身を焼かれて、のっぺらぼうは灰となった。

「浮竹、顔は!?」

「再生させたが?」

「傷跡とかない!?」

「だから、完全に再生させた。俺の再生能力は、お前が知っているだろう」

「それはそうだけど、愛しい人が顔の皮をはがされるなんて、心臓に悪いよ」

「まさかいきなり顔の皮をはがされるなんて思っていなかったからな。まぁ、退治できたし、結果オーライだろ」

「オーライじゃないよ。痛かったでしょ?」

「この程度の痛み、気絶するほどのものじゃない」

「被害者たちは、あまりの痛みに失禁したり気絶したって言ってたけど?」

「俺も今やあやかしだ。痛みに強くなった」

「そう。もう、無茶はしないでね!心臓が止まるかと思った」

「ああ、悪い。心配をかけた。さて依頼主のところに行く前に、被害者たちの傷を癒していこう」

「うん、そうだね」

浄化と再生・・・・癒しを司る水龍神の二人にかかると、顔の皮をはがされた被害者は元の姿にすぐに戻った。

謝礼金をいただいて、その足で依頼者の家にいく。

「被害者の傷まで癒してくれたそうで・・・・被害者の中に俺の兄がいたんです。ありがとうございました。これ、追加の報酬金です」

「ありがたく、いただいておく」

術者は、命をかける仕事だ。

危険な場所に乗り込んで、あやかしを退治したり封印したりする。

「もう、のっぺらぼうは出ませんよね?」

「完全に灰にしたからな。もう出ないはずだ」

そんなやりとりを、遠くから見ている影があった。



「ほお。顔の皮をはがされても、怯むこともないか・・・・・・」

椿の狂い咲きの王であった。


見られているとも知らず、二人は帰路につく。

「神となったその力・・・・私は欲しい」

そう言って、椿の花を残して、狂い咲きの王は消えてしまった。



「ただいま」

『おかえり~』

すっかり、住民と化してしまった禍津神の浮竹が、出迎えてくれた。

『カニ鍋は卒業したぞ!今は松阪牛のステーキにはまってる!』

「そうか。まぁ、好きなように食べるといい」

『ちょっと、センパイどうしたの。顔の皮、再生したね?』

目ざとい術者の京楽に、術者の浮竹は苦笑いを浮かべた。

「ちょっと、のっぺらぼうに顔の皮を奪われてな」

『な、痛かったでしょ!大変じゃない!』

『何、やられたのか!傷は!』

「はいはい、二人とも落ち着いて。浮竹は水龍神となったことで癒しの力が倍くらい強まってるから、大丈夫だよ」

『桜文鳥がついていながら、傷を負わせたのか』

「それには面目もございません・・・・・」

『傷跡が残っていなくても、痛みはあっただろう。かわいそうに』

禍津神の浮竹は、術者の浮竹の頭を撫でた。

「こそばゆい」

術者の浮竹は、式の己の頭を撫で返した。

こうやって仲良くしていると、少し年の離れた兄弟にしか見えない。

「眼福ですな」

『そうだね』

「お腹へった。俺も、松阪牛のステーキ食べる。おい、海燕、食事の用意をしてくれ」

「主の望むままに・・・・・・」

ルキアは、黒崎一護と出かけており、屋敷にいる人型の式は京楽と海燕しかいなかった。

海燕は料理の心得もあるので、式の京楽が料理をしない時は、ルキアと一緒になって術者の浮竹の食事の準備をした。ついでに自分たちと式の京楽の分も。

術者の浮竹の式たちは、人並みに欲を持っていた。

だから、おなかもすかせる。

食べなくても生きていけるが、主である浮竹が自由意思を尊重しているため、食事と睡眠はきっちりととるようにしていた。

「松阪牛のシャトーブリアンのステーキです」

「お、うまそうだな」

『俺も食べたい』

『こら、十四郎はさっき食べたばかりでしょ』

「京楽、お前も食え」

「ああ、うん・・・・・」

式の京楽は、椿の狂い咲の王の視線に実は気づいていたのだが、何も言わなかった。

相手の企みが何かすら分からないのだ。

のっぺらぼうをわざとけしかけたわけでもないようなので、ただ周囲にもう椿の狂い咲の王の気配がないかを探知する。

「食べないなら、禍津神の俺にやるぞ」

「あ、食べるから!!!」

式の京楽のステーキは、半分は禍津神の胃に消えてしまうのであった。



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祓い屋京浮シリーズ22

『新婚旅行のおみやげ、うまかったぞ!また送ってくれ!』

禍津神の浮竹が一人で、おみやげの夕張メロンも白い恋人を食べてしまったのは、いうまでもない。

「いや、もう新婚旅行にはいかないから、おみやげはないぞ」

『え、ないのか!哀しいぞ!』

食いしん坊の禍津神の浮竹は、冷凍保存されて送ってこられたカニを見ていた。

『カニ・・・・』

「カニ鍋するから、食べていくか?」

「氷女の雪を止ませる依頼を北海道で受けたら、依頼料が金のかわりに大量のカニになったんだよねぇ」

『カニ・・・もちろん、食べていくぞ!』

『ほら十四郎、カニはこの前食べたばかりでしょ』

『うまいものは何度食っても飽きない!』

『はぁ。センパイにたかるのはどうかと思うんだけど』

「気にするな。量が多くて、誰かに分けようと思っていたくらいだ」

術者の浮竹は、禁忌の術を使って不老不死になったが、式の水龍神である京楽の強い霊力を浴び続けたせいで、眷属化してさらに進化して、水龍神そのものになってしまった。

龍の姿にはなれるし、水龍神化した姿にもなれるが、水を自在に操り、再生能力と浄化能力が飛躍的にあがった。

元から浄化能力も再生能力もあったが、倍ほどの力になっていた。

「カニ鍋をしよう。術者の京楽も食べていけ」

『いや、悪いねぇ。十四郎が食べたそうにしているから、僕も食べていくよ』

夜まで新婚旅行の話で盛り上がり、夕飯の時刻になって、大きめの鍋に3匹分のカニが入れらてやってきた。

『春水、カニだぞカニ!この足、もらい!』

「式の俺、まだゆで上がっていない。それはお前のものにしていいから、ちゃんと火が通るまで待て」

『むう』

禍津神の浮竹は何か言いたそうにしていたが、ちゃんと言いつけを守る。

「湯であがった。みんな、食べよう」

『こっちの胴体の部分ももらうぞ。カニみそが美味いんだ』

「はいはい、好きなだけ食べてよ。まだまだカニはあるんだから」

結局、4人で6匹分のカニを食べた。

そのほとんどが禍津神の浮竹のブラックホールの胃に消えていった。

「最後は、雑炊でしめだ」

『カニの出汁がきいていて、美味いんだよな』

禍津神の浮竹がまたほとんどを食べてしまったが、みんなちゃんと自分の分は食べたので文句をいう者はいなかった。

『術者の俺、明日もカニが食べたい!』

「いや、さすがに連日は・・・・・」

『駄目か?』

キラキラした瞳で見つめられて、術者の浮竹は根負けした。

「明日は、カニの天ぷらにしよう」

『やった、カニだ!』

『ちょっと、十四郎、センパイに悪いよ。二日も夕ご飯をご馳走になるなんて』

「気にするな」

『そうだぞ、気にしていたらカニは食えない!』

禍津神の浮竹は、雑炊を食べたばかりだというのに、術者の浮竹と式の京楽が自分たち用に買ってきた温室育ちの夕張メロンを食べていた。

冷たく冷えていて、禍津神の浮竹たち以外も食べることにしたが、カニをたらふく食べた後なので、控えめだ。

『甘くておいしい。お代わりをくれ』

「式の俺、夕張メロンはあんまり買ってこなかったんだ。これで最後だ」

『むう、美味いものはすぐになくなる」

「それは、君が食べまくるからでしょ」

『うるさい、桜文鳥。鍋に入れるぞ』

「京楽鍋か。案外うまかったりしてな。水龍神の鍋」

「ちゅんちゅん!!!」

式の京楽は、文鳥姿になって抗議して、飛び回った。

それを、禍津神の浮竹が飛び上がって捕まえる。

「ちゅんーーー!!!」

「水龍神鍋・・・・ちょっと、うまそう」

「ちゅんちゅん!!(絶対にごめんだよ!)」

いつものように羽をむしられながら、ちゅんちゅんと式の京楽はなんとか禍津神の浮竹の手から逃れて、愛しい伴侶の肩に止まる。

「ちゅん!(暴力反対!)」

「お前のその姿を見ていると、俺も羽をむしりたくなるんだ」

今度は愛しいはずの伴侶から羽をむしられて、式の京楽はちゅんちゅんと抗議してから術者の京楽の頭に乗った。

それを、二人の浮竹が狙う。

「ちゅんーー!!(家出してやるうう)」

「暗いから、早めに帰ってこいよ」

「ちゅん(分かったー)」

そう言って、式の京楽は家出というか散歩というのかのに出かけてしまった。

「今日は泊まっていくのか?」

『ううん、新婚さんの邪魔をするほど野暮じゃないよ。今日は自分の家に帰る」

『俺は泊まりたい!この屋敷のゲストルーム豪華だし、ベッドふかふかだし、朝食もうまいから、帰りたくない!』

『十四郎、センパイに迷惑かけちゃだめだよ』

術者の京楽が、禍津神の浮竹を窘める。

『俺たちがいちゃ迷惑か、術者の俺』

「いや、大丈夫だ。泊まって行け」

『やったぁ!』

『センパイ・・・・いや、水龍神様、ありがとう』

「今まで通りセンパイでいい。水龍神は二人いるし、ややこしいしな」

『水龍神って、龍になれるんだろう?いいな、背中に乗ってみたい』

「いいぞ。今なら夜だし、人目もつかないから乗せてやろう」

術者の浮竹は、龍になると、禍津神の浮竹を背に乗せて、空を飛んだ。

『わぁ、すごい、すごい』

念のためにと、術者の京楽も乗っていた。興奮しすぎて落っこちそうな禍津神の浮竹を支えていた。

龍になった術者の浮竹は、水を浮かべさせながら空を10分ほど飛ぶと、降下して元の姿に戻った。

『ありがとう、術者の俺!空を飛ぶのは始めてだった!ネオンが綺麗だな!』

「クリスマス時期の前になると、駅前やらでイルミネーションが綺麗に点滅するぞ。ネオンの海にも負けない」

『春水、クリスマスになったら、イルミネーション見に出かけよう!』

『いいけど、それまで待てるの?あと2カ月はあるよ』

『むう、俺だって辛抱くらいできる!』

『十四郎、かわいいね』

『急になんだ、春水』

『いや、僕たちも結婚式挙げたいなぁと思って』

『そんな形だけの約束なんてなくても平気だろう?』

『まぁね。十四郎がドレス着たら、綺麗だろうね』

『ドレスは嫌だ!術者の俺みたいな恰好だったら許す』

術者の浮竹も、式の京楽にドレスを着てくれと言われたのだが、断固拒否して、白い着物と袴姿で、結婚式を挙げた。

ただ、ヴェールはかぶっていたし、ブーケももっていたので大分花嫁らしかった。

「俺は嫌だったけどな、花嫁は。でも、花嫁を京楽にさせると・・・・・」

式の京楽の白い着物姿でヴェールをかぶり、ブーケをもった姿を想像してしまい、3人は顔を青くした。

『想像してしまった。キモい』

「同じくだ」


「帰ってきたよー。おみやげはタコ焼き!」

「全部お前が悪い!」

帰ってきたところを、いきなりハリセンで殴られて、式の京楽は涙を浮かべて、たこ焼きをテーブルの上に置くと、外に出ようとする。

「いきなり酷い!もう家出してやる!二度と帰ってくるもんか!」

そう言って、文鳥姿になって、羽ばたく。

「消灯前には戻ってこいよ」

「ちゅん!(分かったー。ちょっと家出してくるー)」

全然家出になっていなかった。

ちなみに、式の京楽が買ってきた4人分のたこ焼きは、禍津神の浮竹のブラックホールの胃に消えるのであった。






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祓い屋京浮シリーズ21

人であることに、意味はあるのか。

人でないことに、意味はあるのか。

どちらを選んでも、生きていることには変わりない。

浮竹は、水龍神である京楽に愛され続けて、その身に霊力を浴び続けて、水龍神の眷属になりかけていた。

それを、京楽に黙っていたのだが、ある日突然覚醒して、瞳が金色になり、角を生やしている姿を京楽に目撃されて、京楽はショックを受けた。

「君を、あやかしにするつもりはなかったんだ。でも、君と交じりあっていれば、君が水龍神の眷属にいずれなると分かっていた。でも、愛したかった。僕は身勝手だね」

「別に俺は、お前と生きれるなら、人であろうと、人でなかろうとどちらでも構わない」

「水龍神の眷属というか、君も水龍神そのものになってしまってる。僕が霊力を注ぎすぎたせいで」

「つまりはSEXしまくったせいか?」

恥じらいもない言葉に、京楽は少し赤くなって、浮竹の手を握った。

「こうなってしまった以上、責任はとるよ。結婚しよう」

「はぁ?」

浮竹は、間の抜けた声を出した。

結婚?

今更?

もう結婚もして子もいるようなそんな生活を送っているのに?

「お前の気が済むなら、結婚するか」

「結婚式を挙げよう。術者の僕と禍津神の君も客として招待して・・・・・」

『結婚するのか?』

「「わぁ!!!」」

いきなりスーッと現れた禍津神の浮竹の言葉に、二人は驚いて心臓が口から飛び出しそうになっていた。

「禍津神の俺、入ってくるならせめてノックくらいしてくれ」

『だって、ルキアって子が入っていいって、鍵をあけてくれた』

『ごめんねぇ、水龍神様・・・・あや、術者の君まで、水龍神様になったの?』

「どうやら、そうらしい。で、結婚式を挙げたいんだと。招待されてくれるか二人とも」

『喜んで、式には出るよ』

『俺もだ』

「母上や兄上も呼んでいいかな?」

「好きにしろ」



水龍神である一族のほとんどに囲まれて、結婚式を挙げることになった。術者の京楽と禍津神の浮竹は、その中でもひときわ目立っていた。

『使役されるのではなく、眷属としてでもなく、同じ水龍神と結婚して対等の立場でいられることに、私は誇りを感じています。どうか、うちの息子と末永く幸せになってください」

式の京楽の母親は、自分の息子を式として使役する術者の浮竹のことを嫌っていたが、身内である水龍神になったことで、一族の者であるということを認めることにしたようだ。

「弟は変わり者でスケベで不甲斐ないが、どうか幸せにしてやってくれ」

式の京楽の兄にまでそう言われて、どれだけ京楽が一族の中で異端であったかが分かる。

「もう、あなたたちの仲を邪魔する者はいないでしょう。水龍神の一族の名にかけて、祝福を」

「「「祝福を」」」

『なんか、俺たち場違いの場所に来た感じだな』

『まぁいいじゃない。水龍神様をこんなに見られる機会なんてめったにないんだから」

術者の京楽は、水龍神たちを一人一人こっそり観察していた。

神と名のつく仲間に弱いし、興味があるらしい。



「京楽春水。永久に、この者を愛すると誓いますか」

「誓います」

「浮竹十四郎。永久に、この者を愛すると誓いますか」

「誓う」

「ここに、二人の若い水流神の結婚を認めます。皆さま、拍手を」

式の京楽は水色の着物と袴を、術者の浮竹は白い着物を袴を着ていた。

結婚式らしく、ブーケをもたされて、浮竹だけヴぇールをかぶせられた。

結婚指輪をはめあって、キスをした。

花びらが舞い落ちて、二人を祝福する。

知り合いの花鬼(かき)も何人か来ていた。

「おめでとう!」

「おめでとー!」

「なんか、大事になったな。別に、今までの暮らしが変わるわけじゃあないのに」

「形式でも、結婚は大事だよ。君が僕の本当の伴侶になってくれた証だから」

指輪は、術者浮竹の元の瞳の色である翡翠があしらわれていた。

「新婚旅行に行こう。海外に行きたいとこだけど、海外のあやかしのごたごたに巻き込まれるのは嫌だから、北海道にしよう」

「はぁ。もう、好きにしてくれ」

結婚式がつづがなく終わり、二人は初夜を迎える屋敷に案内された。

「初夜だってさ。お前と何百回交わってきたことか」

「今日は初めての気分でいてよ」

「無理言うな」

「せっかくの初夜だし、薬でも使ってみる?」

「そんなことしたら、離婚するぞ!」

「しない。しないから離婚しないで!」

その日は、浮竹が嫌だというまで焦らされた。

いつもより深く愛し合い、浮竹は意識を久しぶりに飛ばした。

朝起きると、すでに湯浴みをされて、後始末をもされて、浴衣を着せられていた。

「一週間は、新しい水龍神が生まれた祭りのために、僕の生まれ故郷であるこの湖の傍の城で過ごしてくれってさ」

「まぁ、別にいいが」

「愛してるよ、浮竹。・・・・・十四郎」

「俺も愛してる、春水」

唇を重ねると、遊びにきた術者の京楽と禍津神の浮竹が部屋に入ってきた。

『あ、お邪魔だったね』

『水龍神、まだ朝だぞ。盛るな』

「ただキスしてただけだよ!」

「さすがに朝からはしない。昨日したばかりだ」

『うわぁ、熱いねえ』

「初夜だったしな」

『お前たちに、初夜という言葉が向いていないと思うんだが』

「まぁ、俺もそう思う」

結婚式も終わり、水龍神の城で一週間滞在してから、新婚の二人は北海道へ一週間の旅行に出かけた。

少し肌寒い季節であったが、いろんなおいしいものを食べたりできて、二人とも幸せだった。末永く幸せに暮らせと言われたが、そんなこと言われずとも禁忌の術を使っているので、長い時おを式の京楽と生きることに変わりはない。

「おみやげ、白い恋人でいいか。夕張メロンも一応買っておこう」

温室で育てられた夕張メロンを、ホテルで食べたが、とても甘くておいしかった。

術者の浮竹はおみやげを、術者の京楽と禍津神の浮竹、それに海燕とルキアと、マオとヨルに、夜一、それに花鬼(かき)の鳴(めい)と、家族に近い相手を選んだ。

一方の京楽は、おみやげを本当の家族であった水龍神の一族、母と兄と従兄弟などに配ることにした。

「はぁ。カニはうまいな」

「うん、おいしいね」

ホテルの夕食に出されたカニのフルコースを食べ終えて、術者の浮竹と式の京楽は満足気だった。

別に、浮竹の屋敷でも食べれるのだが、本場の土地の新鮮なカニは、また別格の味だった。

北海道を散策し、おいしいものを食べてお土産を送り、一週間はあっという間に過ぎてしまう。


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「あんたら、よそのもんか。術者だな。どうか、雪を降らし続ける氷女を説得してくれんか。このままでは、作物が育たない」

依頼料代わりにカニをたくさんもらって、それを冷凍保存して屋敷充てに送ると、浮竹と京楽はその氷女のいる場所に向かった。

「なぁ、氷女。雪を降らし続けるのを止めてはくれないか。町の人が困っている」

「雪が降らないと、あの人が帰ってこないの」

「どういうことだい?」

「約束したの。雪が降る時期にもう一度会おうって。そのことを、事故にあって50年間も忘れていたの。約束したの。雪が降れば、あの人はまた・・・・・」

「氷女、その相手はもう死んでいる」

「何故、そう言い切るの?」

「お前の傍に、幽霊の男性がいる」

「え。あなた、あなたいるの?私には見えない。ねぇ、教えて。どうすれば見えるの!」

「今、お前にも見れるようにしてやる」

浮竹が霊力を注ぎ込み、霊体の男性を人でも見れるようにした。

「あなた!」

「ああ、やっと声が届く。ありがとう、術者の方。カホ、私は47年前に、交通事故で死んでしまったんだよ。カホ、約束を果たせなくてごめんな。どうか、お前だけでも幸せにおなり」

「いやよ!ずっとあなたを待っていた!私も、そっち側に行くわ!」

「カホ・・・・・・」

「あなた、愛しているわ」

氷女は、雪を降らせるのを止めると、霊体の男性を包み込み、少しずつ溶けていく。

「これでいいのか、氷女」

「ええ、いいの。あの世で、またこの人と幸せになるわ。種族は違っても、生きる時間が違っても、きっと永遠はあるわ」

「氷女ちゃん、新しい命をあげる」

京楽は、溶けていく氷女と霊体の男性に再生の力を与えた。

二人は、白い小鳥となって、寄り添いながら飛んでいく。

「力、かなり使ったな?」

「でも、あのまま消えるのはかわいそうだよ」

「俺の力を分けてやる」

キスで力を分けられて、京楽は浮竹を抱きしめた。

「永遠は、あるよね?」

「ああ、あるさ」

屋敷に帰る前日、ホテルの外に二羽の小鳥がいた。

「ちちちちち」

「ちちちち」

「ああ、仲良くしてるみたいだよ」

「お前、たまにはいいことするんだな」

「たまにって何!いつもいいことしかしません~~~」

「盛る鳥のくせに」

「ぐ・・・・・」

痛いところをつかれて、京楽はあらぬ方角を見る。

「とにかく、帰りますか。我が家に」

「ああ、そうしよう。帰ろうか」

二人は、氷女と男性のように、寄り添いあいながら、歩き出す。

「ちちちちち」

そんな二人を祝福するかのように、白い小鳥はいつまでもいつまでも鳴き続けるのだった。



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