凍った砂時計 偽りの結婚式
市崎ナガレと市崎ルキアの結婚式だった。朽木家ではなく、市崎家で行われた。
他の4大貴族を呼んでの婚礼であるが、ルキアの部下の姿はなく、朽木白哉の姿もなかった。
朽木白哉は、今、睡眠薬を無理やり大量に投与され、ここ数日昏々と眠り続けている。
「ルキアが、市崎ナガレと結婚じゃと?」
呼ばれていた夜一は不審がるが、あまりにルキアが幸せそうな顔をしているので、ルキアが記憶を改竄され、好きでもない相手と結婚式をしているとまで思いつかなかった。
「ルキアよ。その方、一護はどうした」
「一護?ああ、あの死神代行のことか。あやつはもう、知らぬ。私は市崎ナガレの妻、ルキア。ナガレ以外に、慕いもうしているのは、兄様だけ」
「ふむ―—-----市崎ナガレ、貴様、白哉はどうした?」
「朽木白哉様なら、体調を崩されて臥せっておられる」
「ふむ・・・・」
こうして、恙なく婚礼は執り行われ、その夜初夜を迎えた。
「ああ、ナガレ!愛している!」
ナガレの体の下で、ルキアは乱れた。
「早く子供が欲しいですからね。少しちくりとしますが、我慢してください」
ナガレは、何かの注射をルキアに打った。
「これで、あなたは100%私の子を孕む。さぁ、ルキア・・・・・」
「ナガレ!」
口づけしていると、ふとルキアが止まった。
「いち・・・・ご・・・・・」
ボロボロと、涙を零す。
「ち、まだ完全でないか」
記憶置換を使った。
「ああっ、ナガレ!」
その日、ルキアは何度もナガレに抱かれた。そして、ナガレの言う通り、子を孕んだ。
一方、一護はずっと牢に繋がれていた。
傷の手当てはされたが適当で、捨て置かれていた。
「くそ、ルキア、ルキア!白哉!」
「その様子じゃと・・・ルキアは、心から望んで市崎ナガレに嫁いだわけではないようじゃな」
「夜一さん!」
「待っておれ、今ここを出してやる」
「それより、ルキアと白哉を!」
一護は訴えるが、夜一は首を振った。
「もう、手後れじゃ。ルキアは市崎ナガレと婚姻し、初夜を迎えた。白哉の居所が掴めんが、市崎ナガレの手の中にあるのは確実じゃ」
「ルキアが俺以外の男と結婚・・・・・初夜・・・・」
その言葉に、一護は大きなショックを受けたが、痛む傷に手を当てて、立あがる。
「待つのじゃ、一護、そのような身体でどこへいく!」
「決まってるだろ!ルキアを取り戻すんだ!」
夜一が殴りかかると、あっさりと一護は頽れてしまった。
「今は、傷が塞がるのを待て。これ以上、事態は重症化せぬ」
「でも!」
一護の気を失わせて、夜一は一護を牢から出すと、砕蜂の元へ向かった。
「夜一様!この者は、朽木白哉を襲った大罪人では」
夜一は、砕蜂に口づけた。
ごくりと、何かを飲み込まされる。
「夜一様に、それに黒崎一護?どうなっているのだ」
「警邏隊まで手が回っているということは、もはやこれは尸魂界をまきこんだ反乱じゃな」
けれど、今の市崎ナガレは、臥せっている白哉の代わりに、朽木家の当主も兼ねているという。
「元、4大貴族市崎家。そうそう、手を出せる相手ではないのお」
一護は、夜一の元で怪我が癒えるのを待った。
数日間であったが、一護には数十年に感じられた。
「白哉が巻き込まれているのであれば、儂も見ている、というわけにはいくまい。いくぞ、一護!」
「おう、夜一さん!」
市崎ナガレは、朽木邸にいた。
隣には、自分のものにした朽木家の姫、ルキアを侍らせていた。
「ナガレ・・・・私は、何かがおかしいのだ」
「何がですか?」
「眠ると・・・あの、黒崎一護という死神代行と、夜を共にする夢を見るのだ」
「そんなもの、ただの夢です。あなたは市崎ルキア。市崎家の次期当主を産む、愛しい私の妻です」
ルキアの顎に手をかけて、キスを与える。ルキアは幸せそうだった。
「ふふっ、そうだな。貴様以外の男など、おらぬ・・・ああっ。こ、このような場で」
「あなたは私の妻だ。妻を抱くのは夫の権利でしょう」
「だが、このような、誰かも分からぬ場で・・・・」
「ルキア、あなたのお腹の中には、小さい小さい大切な市崎家の次期当主である、私の子が宿っています」
その言葉に、ルキアは愛おしそうに自分の平らな腹を撫でた。
「男であろうか、女であろう?」
「100%妊娠するようにしたので、男の子です」
「そうか。名は・・・一勇というのはどうだ?」
「悪くありませんね。それにしましょう」
ナガレは、幸せそうにルキアを抱き寄せた。
「愛していますよ、ルキア」
それは、既視感。デジャヴ。
「どこかで、このよなことを何度も行ったような・・・・・・・いち・・・・ご・・・・助け・・・・・」
「ちっ、完全には記憶を改竄できないのですか。厄介ですね」
何度も記憶置換を使う。
「そういえば、あなたはそんな安っぽいアメジストの首飾りをずっとしていますね」
「それは*- ----------がくれたから、大切にしている。あ、--------とは、誰であろう?」
「そのような安物、渡しなさい。捨てて、市崎家にふさわしい首飾りをつけてあげましょう」
「いらぬ!この首飾りだけは、絶対に手放さぬ。例え、ナガレの頼みでも」
「ちっ・・・・まぁいいでしょう。あなたはこのまま、私と睦みあい、子を産めばいのですから」
その言葉に、ポロポロとルキアは涙を零した。
「あれ?嬉しのに、何故涙など・・・・・・」
ポロポロポロ。
涙は止まらない。まるで、ルキアの心の傷が泣きだしたように。
「不快ですね。今日は、別々に寝ましょう。また明日、たっぷりとかわいがってあげます」
ナガレは、部屋の奥へと消えてしまった。
「・・・・いち・・・ご・・・許して・・・・・くれ・・・・・いちごおおおお」
誰の名かも分からない。
もう、ルキアの中に死神代行、黒崎一護はいない。愛しているはずの一護はいない。
でも、誰のものかもわからぬ名をずっと呟いて、一護が買ってくれたアメジストの首飾りを握りしめながら、ずっと泣き続けるのであった。
凍った砂時計 市崎ナガレの妻、市崎ルキア
高校3年の、残された時はあっという間に過ぎ去ってしまった。
卒業式の日、ルキアは泣いていた。
この3年間で、半年たらずではあったが、友人たちに囲まれて生活をして、ルキアには一護の他に井上、茶虎、石田という大切な友人たちができた。
「卒業生代表、石田雨竜」
長々とした言葉が続き、継いで在学生代表がまた長々と言葉を続ける。
生徒全員が立ち上がって、校歌を歌いだした。一護も歌っていた。ルキアは校歌なんて聞いたこともないでの、口パクしていた。
一人一人に、卒業証書が渡されて行く。
一護も、卒号証書を受け取った。そしてルキアも。
ポロポロと流れ落ちる涙は、止まりそうにもない。
桜の花はまだ咲いていなかった。代わりに、梅の花が咲いていた。ルキアは桜の花が好きだった。義兄である白哉の千本桜が好きだった。
実の姉であるという、亡き白哉の妻緋真は、梅の花が好きだった。ルキアも、桜の花ほどではないが梅の花が好きだった。
高校の卒業式、ルキアは泣きまくった。
「うわーん、黒崎君、朽木さん、茶虎君、石田君、別れるなんていやだよー」
井上の言葉に頷きながら、井上と一緒になって泣いた。
「貴様らと別れるなど・・・」
「でも、朽木さんはいつでも現世にこれるだろう」
石田の言葉に、茶虎も頷く。
「進路先はみんな別々だが、時折集まって会おう」
「約束だからね、黒崎君、朽木さん」
「ああ、井上」
ルキアは涙をぬぐった。
「黒崎君、私黒崎君のことが好きなの!」
一護の心が、ズキリと痛んだ。
「俺は・・・・ルキアが好きだ」
「うん、知ってた!でも、私も黒崎君のこと好きだって、分かってほしい。また、黒崎君の家に遊びにいくから!」
もう、井上が会いにいっても、一護はその時いないだろう。
一護は選んだ。
ルキアを。
ルキアと共に、尸魂界で死神として生きることを。
「名残惜しいが、ここでさらばだ。井上、茶虎、石田、元気でな!」
「井上さんも元気で!」
尸魂界に帰っていくルキアの背中を、一護がゆっくりとついていく。
「え、黒崎君?」
「井上、ごめんな。俺、人間じゃなくなるんだ。死神になる。緊急事態がない限り、もう現世には戻らない」
「え・・・・」
茶虎と石田も驚いていた。
「おい、黒崎!」
「一護!」
「ごめん、さよならだ」
そうして、穿界門は、3人の前で閉じらてしまった。
井上が、ショックのあまり放心していた。
「黒崎君・・・朽木さんを選ぶってこと・・・・?」
ルキアを選ぶだけならまだいい。ルキアと、同じ死神になる・・・・つまりは、ルキアと生きるということ。
世界は軋む。
音を立てて。
尸魂界に帰還したルキアと、やってきた一護を、市崎ナガレが待っていた。
「あなたは・・・・・」
「待っていましたよ、市崎ルキア。あなたはもう私のものだ。籍をもう入れてあります。あとは婚礼を行って、初夜を迎えて子を産んでくださればいい」
「おい、てめぇ誰だ。ルキアと籍を入れただって?本人のいないところで、何好き勝手やってるんだよ!」
「兄様がこのようなこと、お許しになるはずがない!貴様、兄様に何かしたな!?」
「何、朽木白哉様の記憶を少しいじっただけのこと。涅マユリの薬は凄いですな。後は、あなたが私も元にくるだけだ」
「貴様、兄様を元に戻せ!」
斬魄刀を抜き放ち、切りかかってくるルキアを、市崎ナガレは斬魄刀で受け止めた。
「あなたは、私の妻だ」
記憶置換を、ルキアに向けて使う。
「一護、貴様はナガレの手にかかる前に、一度現世に戻れ!」
最後の力を振り絞って、ルキアは穿界門を開ける。
だが、一護はその場に残った。
ざっと現れた暗殺者たちに囲まれる。
「ルキア!俺を忘れるな!!記憶置換なんかで、記憶をいじられるな!」
「たわけ、当たり前だ!」
「おや、いいのですか?今、朽木白哉様の命が私の手の中にある」
「貴様あああああああああ!兄様を返せええええええええ!!!」
卍解をしようとしたルキアの目の前で、白哉が連れてこられた。
「ルキア、何をしている。早く、ナガレの元にくるのだ。婚礼を執り行わなければ」
「兄様!しっかりしてください、兄様!」
「私は・・・・ルキア、早くナガレの元にくるのだ。黒崎一護は、私が処分する」
「兄様!」
「散れ、千本桜・・・・・」
「白哉!!」
一護は、白哉を切れなかった。暗殺者たちは切り殺したが、白哉を切ることがどうしてもできなかった。
「黒崎一護。我が義弟となる市崎ナガレの邪魔だ。兄は、ここで死ね」
ざしゅっと。
白哉の千本桜が、一護の体に突き刺さっいた。
「いやあああああ!兄様、一護おおおおおおおおお!!!」
「少しうるさいですよ、ルキア。我が妻の元恋人を生かしておけるわけがないでしょう」
「貴様ああああああ!」
強力な記憶置換が、ルキアに使われた。
「ルキア!白哉!」
血を流しながらも、寸前で急所を避けたので一護は生きていた。
血さえ止まれば、なんとかなる傷だった。
砂時計は墜ちていく。
世界が軋む。
音を立てて。
砂時計が凍り付いた。
「ナガレ様、兄様、行きましょう。このような、死神代行など放っておいて」
「ルキア、ダメだいくな!」
ふらつく足で、ルキアの死覇装の裾を握った。
「汚らわしい!私は市崎ルキア。市崎ナガレ様の妻」
市崎ナガレは笑った。
「あははははは!これで、4大貴族の朽木家も私のものだ!」
「ルキアあああああ!」
去っていくルキアと、白哉。そして、市崎ナガレ。
また、暗殺者がたくさん現れた。
一護は、傷ついた体で撃破していく。
もう、目の見える場所に3人の姿はなかった。
「ちくしょおおおおおおおお!!!!!」
暗殺者たちを切り殺していく。
やがて、警邏隊がやってきて。捕縛されたのは一護だった。
「なんでだよ!なんで俺が捕まんなきゃならねぇんだよ!」
砕蜂が現れた。
「全て、貴様の仕業であろう、黒崎一護。朽木白哉の記憶を改ざんし、よりにもよって次期朽木家当主である市崎ナガレを暗殺しようなど・・・・・・」
砕蜂まで、市崎ナガレの手で記憶が改竄されていた。
一護は捕縛され、傷の手当てをされたが、牢に繋がれた。
世界が軋む。
音を立てて。
凍った砂時計 軋む世界
軋む音を立てて。
ルキアは見合いをしていた。
豪華な振袖を着て、黒い髪をまとめあげ、翡翠の髪飾りをしていた。
元流魂街の出身ではあるが、4大貴族朽木家の姫君として扱われた。
ルキアは見合いなどしたくないと言っていたのだが、どうしてもと何度も念をおされて、白哉が貴族の体裁をたもつためにOKしてしまったのだ。
身目麗しい人で、市崎ナガレという名の、4大貴族に勝るとも劣らない上流貴族の当主だった。
長々とした話を、ぼんやりと聞いていた。
ナガレには両親がついていたし、ルキアには白哉がついていた。
「ルキアさん、どうか私と結婚してください」
「すみんせん、私には心に決めた人が」
「それでも構いません。あなたには、私の子を産んでほしい」
ぎょっとした。
心の決めた相手がいるといったのに、全然動じることがなかった。
ああ、貴族の婚姻とはこういうものなのかと思った。
「私はあなたとは結婚しません。好きな方と結ばれます」
ナガレは、少しを顔をしかめた。
「私はあなたを手に入れる。どんな方法を使っても」
「無駄です。私の想い人は人間ですが、私はその方を慕っています」
「言ったでしょう。どんな方法を使っても手に入れると」
ルキアの顔が青白くなった。
この男、本当に何か卑怯な手段を講じてルキアをさらっていきそうな気配がする。
「今日の見合いはなかったことにしてください。それでは」
ルキアは席を立つと、去っていった。
朽木家で行われた見合いであった。
ナガレは両親に止められていたが、それでもルキアを手に入れてみると豪語していた。
「ルキア・・・・先ほどの見合いを破談にするのはいい。私が、ナガレ殿の謝罪しよう。だが、想い人が人間というのは・・・」
白哉は知っている。一護とできているのを。だが、しょせん人間だ。一緒に生きていくことなどできない。
だから、見合いをさせて平穏な死神としての幸せを享受してほしいと思っていた。
「兄様・・・・私には、一護がいるのです。もう、見合いはしません」
「ルキア、本気なのか。黒崎一護人間なのだぞ。結ばれることなどない。例え結ばれたとしても一時的なもの。先にいってしまう。幸せにはなれぬのだぞ」
「兄様。私はもう今十分に幸せなのです。一護の傍にいれる。それだけで幸せなのです。たとえ先にいかれても、魂魄はやがて尸魂界にくるでしょう。いつかまた、巡り合えます」
「ルキア・・・・・」
白哉は長い溜息を零した。
「お前がそこまで言うのであれば、心はもう決まっておるのであろう?ルキア、黒崎一護と本当に付き合うのなら、死神をやめてただの人間になってもらう。それでも、黒崎一護を選ぶのか?」
白哉は思った。
これで泣きついてくるようなら、市崎ナガレとの婚姻を進めようと。
市崎家の当主だ。きっと、ルキアを幸せにしてくれる。身分も確かだし、妾を作るような男でないことは、少しだけ交流のある白夜が知っていた。
ただ、少し我儘なところがあって、欲しいと思ったものは手段を選ばず手に入れきた。でも、そんなこと貴族としては当たり前のことだった。
「人間に・・・・一護と同じ時間を過ごせるのならば、喜んで人間になりましょう。死神とての責務も矜持も捨てることになって、一護を選びます」
また、白哉は大きいため息をついた。
「もうよい。黒崎一護を死神にする方法を、なんとか見つけよう。ルキアは、人間になってもらうといったが、私が嫌なのだ。義妹であるお前が人間になり、儚く散るなど。手放したくない。これは私の我儘だ。ルキア、お前は死神のまま幸せを掴め」
思ってもいない白哉の言葉に、ルキアのアメジストの瞳から涙が零れた。
「兄様・・・兄様、兄様、大好きです。お慕いもうしております、兄様」
白哉の服の裾を掴んで、ルキアはいつまでの白哉のために涙を零していた。
高校3年の終わりは穏やかに過ぎてった。
「貴様、私と結ばれるためならば、なんでもするか?」
「当たり前だろ。ルキアと一緒にいられるなら、なんでもする」
「では、捨てろ。家族も友人も」
そう言われて、さすがの一護も眉を顰めた。
「家族を、友人を捨てろだって?」
「そうだ。私のためなら、なんでもするのであろう?」
「そりゃそうだが、どういうことだよ」
「貴様は本物の死神になるのだ。私が人間になるという選択肢もあったが、兄様が貴様を死神にすると言った。一護、貴様は高校卒豪と同時に尸魂界に迎えられる。今までのように家族や友人と共にはあれぬであろう」
「そういうことか・・・・いいぜ。ルキアと一緒にいれるなら人間をやめる」
「本当によいのだな」
「ああ。死神だろうが破面だろうが、なんにでもなってやるよ」
ルキアは、一護を抱きしめた。
「すまぬ、貴様には辛い思いをさせる」
「お前と一緒にいれるなら、辛くなんてねーよ」
一護の部屋で、夜になり一緒のベッドで横になった。
「好きだ、ルキア」
「私も好きだ、一護」
たとえ、その引き換えに全てを失うことになろうとも。一護は、ルキアと共に在れる選択肢をするだろう。
ルキアの細い体を自分のほうに抱き寄せる。
シャンプーのいい匂いがした。
「ルキア・・・・」
「ん・・」
口づけると、ルキアは一護に甘えてきた。
舌が絡む口づけを繰り替えす。
「あまり、盛るな。貴様が辛いだけだ」
もう、黒崎家では体を重ねることはないだろう。
「大丈夫だ。抱きたいけど我慢するから。今までもずっと我慢してきたんだ。お前の傍にいらるなら、体の関係なんていらない」
「いちご・・・・」
高校の生活終了まであと3か月。
ルキアも一護も、1日1日を大切に過ごしていく。
朝起きると、ルキアは慌てた。
「学校に遅刻するぞ、一護!というか、もう完全に遅刻だ、一護」
時計を見ると、9時を回っていた。
「なんでもっと早く起こしてくれなかたったんだよ!」
「たわけ、貴様が夜中にキスなどしてくるから、ドキドキしてなかなか眠れなったのだ!」
それは本当だった。
一度、肉体関係をもったが、それ以後はそんな関係はなかった。
一護が黒崎家ではもう抱かぬと言っていたが、それでも抱かれるかもしれないと思い、ドキドキが止まらなかったのだ。
一護は、ハグやキスはするが、抱くような行為は一切しなかった。
結局、2時間目から授業に出た。
その日、最後の進路希望先が配られた。
ルキアも一護も、死神と書いて、先生に怒られた。
「こら朽木、黒崎!この死神というのはなんだ!朽木は実家の家業を継ぐ、黒崎は空座大学に進むんじゃなかったのか!」
「あ、先生、俺死神になるんで、大学行きません」
「死神というのが家業ですの」
そう答えると、こっぴどく担任から怒られた。
仕方ないので進路先は一護は空座大学、ルキアは家業を継ぐ、というのにかえた。
本当に、卒業したら死神になるのだが。現世の人間には理解されないであろう。
一護は迷っていた。家族に死神になって現世を捨てることを告げるかどうか。
世界の歯車は廻りだした。
時は加速していく。
緩やかだった砂時計が、砂を凍らせる。
一護もルキアも知らなかった。すでに、ルキアが尸魂界で、市崎ナガレの妻として籍を入れられていることを。
インフルエンザ
名を呼ぶと、ルキアは反応した。
同じ布団で眠っていた。
「なんなんのだ、一護」
「いや、俺のものなんだなーって思って」
「たわけ!いつ誰が貴様のものになった!」
ルキアは、真っ赤になって怒った。
ぽかぽかと殴ってくる手には力がこもっていなくて、それが余計に愛しいと感じた。
「一応、俺はお前の夫だろ?じゃあ、ルキアは俺のものじゃねーか」:
「夫婦でも、貴様のものになったつもりはない」
「じゃあ、この手はなんだ?」
殴ってくる手は、いつの間にか一護の服の裾を掴んでいた。
「べ、別に意味などない!」
「ルキア、かわいい」
抱き締めると、腕の中で細い体が身動ぎする。
「貴様は・・・しゃくだが、かっこいいな」
触れあうだけのキスをする。
「んあっ・・・・」
濡れた声を出すルキアに、けれど一護は我慢した。
昨日、睦みあったばかりだ。
連続だと、負担がかかるだろう。
苺花と一勇は、それぞれの部屋で眠ってしまっている。夜くらいしか、2人きりになれない。
眠る時間を削って睦みあうので、けっこうその次の日は寝不足になってしまう。・
「ルキア、かわいい」
「あっ、いちご・・・・・・」
口づけは、いつしか深いものに変わっていた。
一護は、今は13番隊の死神として働いていた。13番隊の3席だ。実力からいけば隊長なのっだが、隊長はルキアで、補佐する副官は仙太郎だった。
一護は、尸魂界のために死なば本望という、死神としての矜持がない。
真央霊術衣を出ていないせいもあるが、元々死神代行なのだ。その圧倒的な力で、仲間と力をあわせせて尸魂界を二度も救ったが、尸魂界のために死ぬなんてまっぴらごめんだった。
ルキアを救うためなら、死んでもいいとは思うが。
「このまま・・・体を、重ねるのか?」
「いや、明日から虚討伐の遠征だ。寝よう」
二人は、お互いに体に火をつけたまま、その日は眠った。
「母様、父様、何時まで寝てるの?」
「え?ええ、12時!?」
苺花に起こされて、一護はがばっと起き上がった。
「おい、ルキア・・・・ルキア?」
様子が変だった。
汗をかいている。
額に手を当てると、凄い熱だった。
「苺花、誰か呼んできてくれ」
「はい、父様」
一勇は、死神の初等部でかけてしまっていなかった。
苺花は、今日は学年全体で休みだった。
「ルキア様がどうなされたのですか、一護様」
「医者を呼んでくれ。すげぇ高熱なんだ」
「はい、わかりました。至急、かかりつけの医師をお呼びします」
10分程経って、医師がやってきた。
ルキアを診てもらう。
「熱は高いですが、インフルエンザのようですね。薬を飲ませて、点滴を打ち、水分を十分にとらせれば1週間ほどで快癒いたしましょう」
「インフルエンザか・・・・苺花、しばくの間ルキアと会うことを禁ずる」
「えー、何故ですか父様」
「うつるんだよ。俺はもう去年にはインフルエンザにかかったからいいけど、苺花と一勇はしばらくの間、ルキアに会せるわけにはいかねぇ」
13番隊の虚退治の遠征は、延期になった。暴れ回っている虚ではないので、延期になっても大丈夫だった。
「いちごお・・・・体が、熱い」
「インフルエンザだって。去年俺もなったけど、薬のましたし、点滴も受けさせてるし、3日くらいすれば熱も下がる。今はつらいだろうが、辛抱してくれ」
「いちご・・・・傍に、いてくれ」
「ああ。俺も休みをとった。ちゃんとお前の傍にいる」
「苺花と一勇は?」
「白哉と家人に面倒を見てもっている。今はなんの心配もせずに、早く病気がよくなるように、眠れ」
「一護・・・・・」
ルキアは、そのまま眠ってしまった。
ルキアの熱が下がるまで、一護はルキアの傍に付き添い、面倒を見た。
ようやく熱も下がり、食欲も出し始めたルキアに安堵する。
「貴様がインフルエンザにかかった時も大変だったのだぞ。会いたがる苺花と一勇を会わないように家人に預けて・・・・・・」
「あの時はルキアに世話になったからな。今度は、俺がルキアの面倒を見た」
苺花と一勇は、まだ白哉と家人に預けていた。
「早く完全によくなれよ、ルキア」
「言われなくともそのつもりだ。それよりインフルエンザなど、何処でもらってきたのであろうか」
「恋次だよ。あいつも、今インフルエンザで休んでる」
「兄様は!」
「心配いらねーよ。白哉は元気だ」
「よかった・・・・」
まるでに自分のことのように、白哉を心配するルキアは、相変わらずだなと思った。
「白哉も心配してたぜ。うつるから、顔出すわけにもいかねーから」
「兄様には、いらぬ心配をかけてしまった・・・・・」
「言っとくが、俺も心配したんだからな!インフルエンザって分かるまで、心が押しつぶされそうだった。何か酷い病にかかったんじゃなねーかって」
「すまぬ、一護。貴様は優しいな・・・・・愛している」
「俺も愛してる、ルキア。早く完治して、苺花と一勇と会おう」
ルキアがインフルエンザにかかって1週間が経った。
完全に治ったルキアに、苺花と一勇が泣きついてきた。
「母様が死ぬかと思ったの」
「母様、もう大丈夫?」
「ああ、心配をかけたな苺花に一勇、私はこの通りもう元気だ」
「よかった、母様。恋次さんも、インフルエンザでダウンして、それからうつったらしいって父様が言ってた」
「恋次も、今頃治っておるだろう」
苺花も一勇も、インフルエンザがうつらなくてよかったと、ルキアも一護も思った。
白哉もうつらなくてよかった。
「明日からは、虚退治の遠征だ。腕は鈍っていまいな、一護!」
「当たり前だろう!」
「ふ、そうでなくては。貴様は尸魂界を二度も救った英雄なのだ。堂々としろ」
「いや、別に堂々となくてもいいだろ、普通で」
ルキアの自慢の夫は、虚退治の遠征で、久しぶりに卍解を使って襲ってくる虚の群れを、一匹残らず切り捨てて、それを率いていた破面に月牙天衝を食らわせた。
「流石一護だ・・・・・」
袖白雪を始解させていたルキアであったが、切った虚の数は僅か5匹。
数百体いた虚の群れを、ほぼ一護一人で退治してしまった。
「んー。あんま手ごたえなかったなぁ。なぁ、ルキア、もっと強い敵はいねーのかよ」
「たわけ、おるわけがなかろう!体が疼くのなら、11番隊にでもいって、更木隊長にでも相手してもらえ」
「う、俺11番隊苦手なんだよな。一角さんも弓親さんまで手合わせしてこいってうるさいし」
「尸魂界はそこまで平和なのだ。良いではないか」
もう、大戦の爪痕はほとんど残っていない。
死んでしまった死神の数は多かったが、一護もルキアも生還を果たした。今いる者たち全てが大戦を経験したわけではないが、あの大戦はずっと語りづがれていくであろう。
「帰ろうか」
「ああ」
遠征で、1週間かかった。
苺花も一勇も、一護とルキアが帰ってくることを心待ちにしているだろう。
尸魂界は、緩やかに時が流れていく。
苺花と一勇も、いずれ真央霊術院に入り、死神となって、護廷13隊の席官になるだろう。
だが、それはまだまだ遠い遠い、未来のお話。
10番隊でクリスマス
10番隊の執務室に、クリスマスサンタの恰好をした浮竹が現れた。
京楽の手によるものなのだろう。ふりふりのふわふわで、かわいかった。
「ああ、浮竹か。メリークリスマス」
「甘納豆をもってきたぞ。食べてくれ。クリスマスプレゼントは、現世の「せがのびーる」君だ」
なにか、錠剤をもらった。なんでもカルシウムがたっぷりで、飲むと背が伸びるらしい。
「こんなもの、効くのか?」
「さぁ。現世の薬局で健康グッズ漁っていたら、売ってたから買ってみた」
「健康グッズ・・・・何してやがんだ」
「何か、せめて熱をあまり出さないようの体を鍛えようと思って、いろいろ探したが、いまいちぴんとこなかった」
現世にまでいって、健康グッズを漁る病弱な13番隊隊長・・・その姿を想像してみると、けっこう哀れかもしれない。
「あー、浮竹隊長めちゃくちゃかわいい!」
隊首室から顔を出した松本が、浮竹のサンタ姿を伝令神機で写真をとっていた。
「京楽が、これを着ないと襲うというから、着てみた」
「サンタ服で美味しくいただかれる浮竹隊長・・・・・クリスマスプレゼントはもちろん、浮竹隊長ですね!」
「それ、なんかやだな」
「いや、いいね!実にいいね!」
いつ来ていたのか、霊圧を消していた京楽が、松本の言葉に感動していた。
「浮竹、「俺を食べてくれ」ってその恰好でいってほしいな」
「いやだ!本当においしくいただかれるからいやだ!」
「そう言わずに」
「日番谷隊長、助けてくれ」
日番谷の後ろに隠れる浮竹。
「おい京楽、浮竹が嫌がってるだろ。あまり無理強いはするな」
「わかってないなぁ。これも愛だよ、愛」
「京楽の愛は、欲望にまみれている」
日番谷の後ろで、浮竹はそう言った。
「日番谷隊長を俺とお揃いの恰好にできたら、言ってやってもいい」
「おい、浮竹!」
いきなり矛先が自分に向いたので、日番谷が声を出す。
「お前、庇ってやってるのにそんなことを言いだしやがるのか」
「だって、絶対日番谷隊長このサンタ服、似合うと思うんだ」
「ふりふりのふわふわなんて、俺には似合わない・・・・・」
「縛道の六十一 六杖光牢」
「え、おい、京楽!」
鬼道で自由を奪われ、元からそのつもりだったのか、日番谷サイズのサンタ服を手に、京楽と松本がにじりよってくる。
「ぎゃああああああああ」
哀れ。
日番谷は、京楽と自分の部下である松本の手で、ふりふりふわふわのサンタ服を着せられてしまった。
「ああもう、こうなったらやけだ。今日はこの格好でいるぞ」
「やあん、隊長かわいいーー」
「かわいいなぁ、日番谷隊長」
松本と浮竹が、頭を撫でまくった。
「浮竹隊長と並んでくださーい。はい、写真とりますよ」
日番谷は、やけくそで浮竹と一緒にピースサインをした。
「はぁ・・・浮竹とお揃いか」
「嫌か?」
「もうどうでもいい」
本当に、どうでもよさそうだった。
京楽もいれて、4人でクリスマスケーキを包丁がなかったので、斬魄刀で切って食べた。
浮竹が、現世から買ってきたケーキで、とてもおいしかった。
日番谷は足りないのか、甘納豆を口にしていた。
「日番谷隊長、俺にもくれ」
あまりにも日番谷が美味しそうに食べるものだから、浮竹も欲しくなったのだ。
「浮竹、約束の言葉言ってよ」
そんな浮竹に、京楽が唇を尖らせる。
「え、何をだ」
「言ったじゃない。日番谷隊長を同じ格好にしたら、「俺を食べてくれ」と言ってもいいって」
「そ、そんな約束したかな?」
浮竹が誤魔化そうとするが、京楽はふりふりふわふわのサンタ服を着た浮竹を見た。
「言ってくれなきゃ、襲う」
「仕方ないな・・・・・「俺を食べてくれ」・・・」
「その言葉、確かに受け取ったよ!」
「え?」
がばりと、その場に押し倒された。
「お、おい、京楽・・・・・んあっ」
舌が絡まるキスをされた。
服の上から、敏感な部分を触れられて、流石にやばいと浮竹も思った。
「やん、京楽、盛るなら雨乾堂で・・・・やあ」
「お前ら・・・・俺も松本もいるのに、いい度胸だな」
「日番谷隊長・・・ああっ、京楽、やめ・・・・・」
「蒼天に座せ、氷輪丸!」
氷の龍は、盛った京楽と、それをぱしゃぱしゃと写真に撮っていた松本を巻き込んで、天高く昇っていった。
「日番谷隊長?俺は?」
「悪いのは京楽だろ。浮竹のせいじゃねぇ。甘納豆もくれたしな」
「うわーん、日番谷隊長ー!」
浮竹は、日番谷に抱き着いた。
「京楽のやつ、今日は盛りっぱなしで・・・・助かった」
浮竹と日番谷は、半壊した10番隊執務室で、甘納豆を口にしながら、お茶をすするのであった。
院生時代の部屋 クリスマス
「メリークリスマス、京楽」
特進クラス全体で、クリスマスパーティーが開かれた。
女子たちは、クリスマスケーキを手に、意中の相手と話し出す。
浮竹と京楽も、たくさんの女子に囲まれた。
「浮竹君、京楽君、クリスマスクッキー焼いてみたの。食べてくれる?」
「ああ、ありがとう」
今日はクリスマスパーティーだ。
いつもなら接してこない女子たちも、積極的に浮竹と京楽にアピールしてくる。
浮竹と京楽は、できているわけではない。
なので、二人の仲はいいが、別に他の誰かと付き合ってもいいのだ。
「ねぇ、浮竹君なんのシャンプー使ってるの。いつも甘い花の香がするんだから」
それが、生来のものであると話しても、理解してもらえないであろう。
「浮竹はのシャンプーは花王道のものだよ。僕が買い与えているんだ」
「えー、花王道のなの!あの人気の!いいなぁ、京楽君、私も欲しいなぁ」
甘えてくる女子に、京楽はそっけない態度をとる。
「買えるチケットあげるから、勝手にかえば?」
こそこそと、女子たちが話し合う。
「浮竹君、クリスマスツリー見に行こ!」
女子3人に、無理やり部屋を連れ出される浮竹。
「え、ああ・・・・・」
京楽は、5人くらいの女子に囲まれていた。
見目は浮竹のほうがいいが、京楽は上流貴族。付き合うことができて、将来結婚までもっていけばたとえ死神になれなくてに、人生安泰だ。
「浮竹!」
「すまない、ちょっといってくる」
京楽は女生徒に優しいが、浮竹のこととなると、それもあやふやになる。
「君たち、どういうつもり。浮竹を連れ出して、僕に何か用?」
「やだなぁ、京楽君。何も、男の浮竹君じゃなくてもいいじゃない。あたしたちといいことして遊びましょうよ」
一人の女生徒が、京楽の腕に胸をあてた。
その胸を乱暴にもみしだくと、女生徒は叫び声をあげた。
「きゃあああああああ!」
「こんな関係がお望みかい?」
「き、京楽君・・・・」
「僕はね、浮竹以外に興味ないの。たとえ裸で迫ってこられても、たたないって断言できるよ」
「ためしてみないと分からないじゃない」
女子生徒の中でも、クラスの中心人物の一人が、京楽の手をとった。
そして、京楽を連れて寮の自分の部屋までくると、服をぽいぽいとぬいで、妖艶な姿で誘ってきた。
「さぁ、京楽君も・・・・」
服を脱がされてかけて、ぴしゃりとその手をはねのけた。
「君にはたたない。無理」
「刺激与えたら、たつから」
服の上から、裸の女生徒は京楽に刺激を何度も与えた。
「え、嘘・・・・・」
いっこうにたたないのだ。
「こんなのおかしい!」
「おかしいのは、君の頭でしょ。僕の金が目当てなんでしょ?」
「そ、そんなことないよ!京楽君が好きなの!」
「じゃあ、僕が浮竹のことを好きになって追いかけるまで、女の子追い掛け回してた時になんでこなかったの」
「そ、それは・・・・」
「もう気が済んだでしょ。僕は戻るよ」
「あ、待って京楽君!」
無視して、学院に戻ると、ざわざわとざわめいていた。
「どうしたの?」
「浮竹が、女生徒を襲ったって!」
「ちっ」
浮竹のところにいくと、肌も露わな女生徒が泣いていた。
「浮竹君が突然!」
「僕の浮竹が、そんなことするわけないでしょ」
やってきた京楽に、女生徒は目を見開く。今頃、リーダーである女生徒と睦みあっているはずの京楽がいたのだ。
「俺は、何もしていない・・・・・ぐ、ごほっ、ごほっ」
精神的な負担が体にきたのか、浮竹は咳込んで血を吐いた。
「きゃあああああ!」
「浮竹、大丈夫かい!?」
「すまない京楽・・・ここに、いたくない」
京楽は、浮竹を横抱きに抱き上げた。
「こんな体の浮竹が、君を襲ったって?証人をたてても、無駄だよ。山じいにいいつけられたくなかったから、そこをどくんだね」
女生徒たちは、顔色を蒼白にさせながら、どいた。
「ちょっと、やばいんじゃない?」
「アキラの計画通りにしただけじゃない!」
「でも、京楽君がここにいるってことは、アキラ失敗したんでしょ。あたしいやよ!京楽家に睨まれるなんて!」
「あたしも!」
「あたしもいや!」
「ちょっと・・・・私はどうなるのよ!」
肌も露わな女性が叫ぶ。
「知らない」
「あたしたち、何もしらない」
クリスマスパーティーは、教師を呼ぶ事態になった。
「げほっげほっ・・・・」
「医務室にいくかい?」
「学院にいたくない・・・・寮の部屋に、帰りたい・・・・」
寮の自室に戻ると、浮竹の血で汚れた院生の服を着替えさせて、室内着に着換えさせた。
ベッドに横たえて、肺の発作を起こした時の緊急用の薬を飲ませる。
ズキンズキンと肺が痛んだ。
「鎮静剤打つよ」
「ああ」
発作が酷くなる前に、落ち着かせる必要があった。
罠にはめられかけて、気が動転している浮竹の右手に、鎮静剤を打った。
「すまない・・・」
「いいから、大人しくしてて。直きに効くから」
「すまない・・・・・」
「浮竹・・・僕のかわいい、想い人。安心して、騒ぎが全部僕が収まらせるから」
京楽は、鎮静剤で眠った浮竹を置いて、一度学院に戻った。
教師がきて、どういうことかと詰め寄ってくる。
「女生徒が、結託して僕と浮竹をはめようとしたんだよ」
「そうなのか、お前たち」
「違います、先生!」
「あたしたち、アキラに言われた通りにしただけです。全部アキラが悪いんです」
京楽の裸で迫ってきた女生徒の名前だった。
院生の服を着て、そのアキラが現れた。
「君・・・停学は覚悟できているだろうな?」
「私じゃないんです!京楽君が、こうしろって!」
「京楽、どうなんだ?」
「めんどくさいから、山じい呼んでよ」
騒ぎの大きさに、山じいが呼ばれた。
「・・だそうです、山本先生」
「春水の言葉に嘘はなかろう。紫紺アキラ、主を2か月の停学処分とする」
「いやああああああ」
学院で、山じいの手から停学処分に陥った場合、護廷13隊入りの可能性が薄くなる。
アキラという女生徒は泣いた。
「退学にせぬだけ、感謝せよ。春水、これでよいな?」
「うん、山じい。わざわざこんな時間にありがとね」
「何、我が子のような春水のためじゃ。労は惜しむまい。それより十四郎がどうなっておる。血を吐いたと聞いたが」
「寮の自室で、鎮静剤を打ったから、寝てるよ」
「春水、はよう十四郎の傍にいてやれ。お主たちは二人で一つじゃ」
「じゃあ、そういうことだから、戻るね。紫紺アキラ。今度手を出してきたら、京楽家の名の元に、潰す」
「うわあああああああん」
泣く女生徒を無視して、京楽は寮の自室に戻った。
浮竹は、大人しく寝ていた。発作はもう大丈夫なようで、その日はいろいろごたついて、結局京楽はクリスマスクッキーを口にしただけで眠ってしまった。
「おはよう、京楽」
「おはよう浮竹。体は大丈夫かい?」
「ああ。早めに鎮静剤を打ってもらったおかげで、大きな発作にならずにすんだ」
もう、冬休みに入っていた。
「しばらく、学院には行きたくない。食堂を利用する以外は・・・冬の、自己勉強会も、欠席する」
「うん、そうしたほがいいよ。あの連中とは、6回生まで一緒なんだから。早く、忘れててしまうことを祈っているよ」
「ああ・・・・・」
浮竹は、上着をはおって京楽がもってきた弁当を食べた。
「散々なクリスマスだった」
「そうそう、クリスマスプレゼント用意していたんだ。もらってくれるかい?」
「高価なものじゃないだろうな!」
ビーズ細工の、ブレスレットだった。ちょっと拙くて、見た目はあんまりよくない。
「実家の母上からもらった本を見ながら、僕が作ったんだ。手作りだから、見た目はあんまりよくないけど・・・・」
「俺は、翡翠のブレスレットより、こっちを選ぶ、お前の手作り、素直に嬉しい」
はにかみながら笑う浮竹は愛らしかった。
「(*´Д`)ハァハァ好きだよ、浮竹。僕と一つになろう!」
「調子にのるな!」
脛を思い切り蹴り上げられて、悶絶する京楽だったが、浮竹の幸せそうな顔をみて、京楽も満足するのだった。
たまには優しい 院生時代の部屋
京楽が、鼻歌まじりで洗濯物を干していた。
浮竹の洗い物も洗ってくれて助かったのだが、ベランダを見ると普通の院生の服以外にも、ずらりと浮竹のパンツが並んでいた。
アレ用のパンツで、汚れてしまったので洗っているらしかった。
その枚数、実に10。
最近、浮竹のパンツをまた盗まなくなったが、代わりに院生服が1着どこかへいってしまった。
どこだと探すと、京楽がアレ用のパンツと一緒に干していた。
手後れだった。
すでに、院生の服はナニに使われて、浮竹はもうあの院生服は着れないなと思った。
毎日院生の服で過ごすので、お互い10着くらいはもっていた。
1着がなくなったところでどうってことないのだが、ちゃんと分からせておかないと、京楽は浮竹の院生服を全部盗みそうだった。
ちょうど、学院の授業も終わり、夕食も食べ終わて湯浴みもして、自由時間になっていた。
寝るのは11時~0時くらいなので、あと3時間以上はある。
「京楽、ここにこい」
「何、浮竹」
(*´Д`)ハァハァと荒い息をついた京楽がやってくる。
「浮竹の匂い・・・すんすん。浮竹、今日もかわいいね」
「お前、院生の服1着盗んで、ナニに使ったな?」
ぎくりと、京楽が目を逸らす。
「ちゃんとこっちを見ろ、京楽。俺は怒っているわけじゃない」
「うん・・・ごめん」
「と思ったら大間違いだこのバカ!何院生の服までナニに使ってやがんだお前!今度、違う院生の服を盗んだら、お前のパンツコレクション、鬼道で全部灰にしてやる!ついでに、お前の大事な大事な俺の写真をプリントアウトした抱き枕も灰にしてやるから、覚悟しろ!」
叱られた犬のように、小さくなる京楽。
「だって最近、浮竹が触らせてくれないから」
この前、最後の砦のパンツを奪われそうになったのだ。警戒も、普通はする。
浮竹は、溜息をついてベッドの上に京楽を座らせた。
飴と鞭。
さっきは鞭だ。飴も忘れてはいけない。
「ほら!」
手を開いて、こいと意思表示すると、京楽は喜んで浮竹に抱きついた。
「すんすん・・・浮竹のいい匂いがする。甘い花の香・・・君に触れるの、1週間ぶりだね」
抱き締め返すと、京楽はしばらくの間浮竹を離さなかった。
「いい加減、どけ」
「やだ」
「ちょっと、もう30分以上この体勢なんだぞ。いい加減疲れてきた」
「僕は全然疲れてないもーん」
ずるずると京楽を引きずって、移動する。
それでも、京楽は抱き着いて離れなかった。
「この駄犬が!」
蹴りをいれると、それさえ喜ぶ京楽に、不安を抱く。
こいつ、耐性ができてきてるのか。
仕方なく、浮竹は京楽を引きずって、べッドに腰かけると、その顎をとらえて口づけした。
最初から濃厚なやつを。
「ん・・・・」
ぴちゃりと、舌が絡みあう口づけを繰り返す。
京楽の手が、浮竹の背中に回る。
そのまま、ベッドでもつれあった。
「んん・・・・」
やわやわと輪郭を確かめられた。
抱き締める腕に力がこもる。
「んあっ・・・・」
指を、口の中に入れられた。
それに舌を這わせる。
そのまままた口づけられた。
「ん・・・・」
10分ほどそうしていただろうか。
京楽が舌を引き抜いていく。つっと、銀の糸が伝った。
かっと、自分の行動と痴態に、体が熱くなった。
「浮竹・・・・僕だけの浮竹・・・・かわいい・・・・・」
腰に、硬いものが当たった。
「ん・・・言っとくが、抱かせてはやらないぞ」
「うん。キスだけで1回いっちゃたから、僕も満足だよ」
「キスだけで!?」
「君とのキス、1週間ぶりだった。凄く気持ちよかった。浮竹は?」
「悪く、なかった・・・・」
声を漏らすほど、腰にくるキスだったが、浮竹はそのつもりはなかったので、情欲を抱きはしなかった。
だが、京楽は情欲の塊だ。
浮竹がその気になったら、すぐにでも抱いてくるだろう。
「ん・・・暇だ。明日の予習でもする」
けっこう、院生生活は学院に通って自由時間になると、暇になるものだ。
「ん・・・あ・・・・・」
くらりと。
視界が揺らいだ。
「浮竹!?」
「ちょっと・・・熱がでてきたみたいだ。最近、臥せっていなかったから大丈夫と思っていたが、やはり俺の体は弱いな」
「病弱なのは仕方ないよ。吐き気とかない?」
「悪寒がする」
「冬だしね。暖かくしないと。ベッドで横になって、毛布と布団かぶって。湯たんぽ作ってくるから」
こういう時の、京楽はとても優しい。変態じゃない。だから、浮竹は京楽を嫌えないのだ。
「解熱剤、出してくれ・・・」
「うん」
水の入ったコップと一緒に渡されて、飲んで30分くらいしたら、少し熱がさがったのか、悪寒はするが眩暈はましになった。
「明日は・・・・元柳斎先生の授業があるから、休むわけには・・・・」
「浮竹、無理は禁物だよ。熱が下がらなかったら、引きずってでても君を帰らせるからね」
恩師である山本元柳斎重國の授業には、浮竹は少々体調が悪くても出てしまい、その結果悪化させて山本元柳斎重國からも怒られていた。
でも、どうしても授業を受けたくて、無理をする。
でも最近は無理やり京楽が引っ張って帰らせるので、山本元柳斎重國も怒ることが少なくなった。
「先生の授業に出たい・・・・」
「熱が下がったら、出てもいいよ。でも、下がらなかったら、僕が許さない」
うとうとと、解熱剤の成分に含まれる睡眠薬成分で、眠くなってきた。
「分かった・・・無理は、しない・・・・・」
それだけ言うと、浮竹は眠ってしまった。
かわいいかわいい浮竹は、山じいのことになると無茶をする。悪化すると分かっているのに、無茶をする。それを引き留めるのは僕の役目。
山じいからも「十四郎に無理をさせぬように」と言われている。
「明日、熱がさがっていたらいいね」
額に冷やしたタオルを置いて、京楽は眠ってしまった浮竹の唇にちゅっと、音をたてて触れるだけのキスをした。
浮竹が急に熱を出すから、その気になっていた息子さんは静かになってしまった。
まぁいいかと、京楽もベッドに横になり、消灯するのだった。
海燕の結婚
それは13番隊中にすぐに浸透して、みんなおめでとうと海燕と、妻になる都を祝福した。
「おめでとう、海燕」
「ありがとうございます、隊長」
「都は席官だし、しっかりしている。安心してお前を任せられる」
「隊長は、結婚しないんですか?」
ふとした疑問を抱いた。
「俺は・・・・あれだ。病弱だし肺を患っているしな」
「でも、たくさんの女性に恋文をもらっているでしょう。お見合いの話も何十件ときていたはすずです」
「俺には、京楽がいるから」
「やっぱりそうですよね。隊長が、京楽隊長以外と付き合うなんて想像もできません。もしも見合いなんてしたら、京楽隊長がめちゃくちゃにしそうだ」
「あるんだ、過去に1回。見合いをしたことが」
「ええっ!」
思い出す。
あれは、浮竹が隊長に就任して50年ほどした時だった。
上流貴族の姫君に、一目惚れをされたのだ。見合いをしろとしつこかった。浮竹は下級貴族で、逆らうわかけにもいかずに、ついに見合いを受けた。
「周防セツナといいます」
「はぁ。浮竹十四郎といいます」
「この度は見合いを受けてくださり、ありがとうございました」
「はっきり言います。俺は、あなたを幸せにできない」
「何故?」
「他に、好きな、愛している人がいます」
浮竹は、きっぱりと言った。
もうその頃には長い白髪は、腰まで伸びていた。
「何処の誰ですか」
「それは・・・・・」
見合いをしている周防セツナの館に、侵入者がいた。
「お待ちください、いくらなんんでも見合いの場に通せとはあまりな」
家人と両親が、困惑してその人物を見合いをしている二人の部屋に、入らないように必死で止めようとするが、その人物は立ち止まらない。
「浮竹、帰るよ」
「え、京楽!?なんでここが・・・・」
「海燕君に聞いたんだ。君は、見合いを受けちゃいけない」
「あなたは京楽家の・・・護廷13隊8番隊隊長、京楽春水様・・・・・」
セツナは、ほうとため息を漏らした。
浮竹は、正装していたが美しかった。女の自分よりも。そして、同じ隊長である京楽は、美丈夫だった。
「やはり、巷の噂は本当なのですね。浮竹様が京楽様と恋仲という噂」
関係を隠さない二人は、護廷13隊でも「夫婦みたいだ」として有名だった。
「セツナちゃんだっけ、悪いけど浮竹はもらっていくよ。浮竹は僕のものだ。見合いをめちゃくちゃにしたお詫びに、君に合いそうな上流貴族の男性との見合い話を進めておくから」
「いりません。ああ、素敵!」
「え?」
「へ?」
「上流貴族の若君が・・・・下級貴族の美しい青年に夢中・・・ああ、なんて素敵なんでしょう。二人並べば、本当にいいカップルですね」
「セツナちゃん、君・・・・浮竹と本気で見合いする気、なかったでしょ」
「はい。京楽様が怒って、乗り込んでくるのを心待ちにしておりました」
腐女子というやつだ。
京楽と浮竹は、その手の女子に非常に人気が高い。創作ものであるが、二人ができている小説が出回っているくらいだ。
「このセツナ、幸せにございます。京楽様と浮竹様の仲を間近で拝見できて」
京楽は、浮竹を抱き上げた。
「おい、京楽」
抱き上げたまま、キスをした。
「きゃあああああ!鼻血でそう!」
セツナは、鼻血を本当に出していた。
セツナの両親は呆気にとられている。自分の愛娘の縁談を破談しようとした京楽に怒りを抱いていたが、それも霧散してしまった。
「眼福ですわ。これで、小説の執筆もすんなりできそう。京楽様、今巷で流行ってる京楽×浮竹の小説は全部私が書いたものなんです」
「読んだことあるよ。すごくよかった」
「ああ、そう言われて幸せです。新作をどんどん書いていくので、また読んでくださいね」
「ちょっと!京楽!?見合いをぶち壊しにきたんじゃないのか!?」
もっと、荒々しく、浮竹を連れて見合いぶっ壊して、めちゃくちゃになることを危惧していた浮竹は、目を丸くしていた。
「壊しには、この通りきたよ。でも、周防セツナって有名だよ。小説家さ」:
「し、小説家・・・・」
「その子が、僕たちのカップリングの腐った小説書いてるの。いつもハッピーエンドと限らず、悲恋もあって・・・・結構楽しく読ませてもらってる」
「俺はそんなこと、露とも知らなかった」
「浮竹には刺激が強いと思って話してなかっからね。エロシーンがすごいから」
「え、エロシーン」
浮竹は真っ赤になった。
「どうか、後生です。もう一度、愛し合っている場面を見せてください」
「いいよ」
「おい、京楽!」
浮竹を押し倒して、舌が絡まるキスをした。
「ううん・・・・」
「見せつけてやりなよ。どれだけ、僕らはできているのかを」
「あ、京楽、こんな人目のある場所で・・・・ああっ!」
浮竹の服の裾から手を侵入させて、指を這わせていく。
浮竹は、怒って京楽に頭突きをした。
「痛い」
「盛るなら、人目のない場所でしろ!抱かせてやらないぞ!」
本気で浮竹を怒らすと、1週間は口を聞いてくれないので、浮竹を肩に担ぎあげて、京楽はセツナのほうを向いた。
「セツナちゃん、残念だけどここまでだよ」
鼻血をふきながら、セツナは口にする。
「十分でございます・・・・・・ありがとうございました。次の本は、京楽×浮竹の略奪婚に決めました」
「書き上げたら、一番に僕に読ませてね」
「はい、勿論です」
こうして、浮竹の長い人生の中の一度きりの見合いは終わったのだった。
「なんですかそれ・・・周防セツナって、あの文学賞とった、周防セツナですか?」
「ああ、そうだ。当時はあまり売れていなくて、同人誌として俺と京楽の小説を書いていてそれでなりなりの収入を得ていたそうだ。もっとも、上流貴族の姫君だし、今は一般隊士だけど、俺と同じような下級貴族と結婚して、子もいるが」
「はぁ・・・・隊長と京楽隊長の人気は、女性死神に高いですからね。俺も存在をちらっと聞いたことありますよ。隊長たちのできてる同人誌なるものがあること」
「俺は読んだことないけどな。京楽がいうにがエロシーンが凄いとかで・・・・読む気にもなれない」
「やっぱ、本物が一番だって?」
「海燕!」
浮竹は真っ赤になった。
「はははは、冗談ですよ、隊長」
「まぁ、でも確かに本物のほうがいい」
うわー。
言いきちゃたよ、この人。
羊なのに、狼に食べられることが好きなんだ。
海燕は、都も確かそんな小説を持っていたと思いだす。
「都ももってるんですよね。流石に俺も読む勇気は起こらないので、目のとまるとこに置いておかないように、言い聞かせないと」
「都までか・・・そんなに、俺と京楽ができているのって、女性に人気があるのか?」
「もう、夫婦ですかね」
「夫婦?」
「そう。みんな言ってますよ。隊長と京楽隊長は夫婦だって」
「はぁ・・・・・・」
痛む頭を押さえながら、今頃何を言ったところで変わることがないので、諦める浮竹であった。
海燕と都の結婚式が行われた。
正装して出席した浮竹は美人だった。ちらちらと、主役の夫婦よりも視線を集めていた。
浮竹は、仲人として出席した。京楽もだ。
「幸せになれよ、海燕、都」
「ありがとうございます、隊長」
「隊長、ありうがとうございます。私、すでに幸せです」
泣く白無垢姿の都に、涙をふけとハンカチを渡してやる。
「いつか、僕らもこんな風に結婚式をあげれるといいねぇ、浮竹」
「ばかをいうな。男同士で式が挙げられるか。そもそも白無垢なんて着ないぞ。着るならお前が着ろ」
「いいよ」
あっさりと言い放った京楽に、海燕も浮竹も、白無垢姿の京楽を想像して、げんなりするだった。
結婚記念日
妻である都と結婚して、ちょうど1年が経ったのだ。
浮竹は何をプレゼントしようと迷っていた。
海燕の好きなものはおはぎ。おはぎをあげるのもいいが、それではあまりにもいつもと変わらない。
そこで、京楽に頼んで現世の酒を購入した。
赤ワインとグラスとコースターを一式。
「京楽、海燕は喜んでくれるかな?」
「上官である君が心をこめてくれるものなら、例え安酒でも喜ぶだろうさ」
雨乾堂では、今日は浮竹は海燕の助けを借りず一人でおきた。少しでも仕事の負担を減らそうと、いつもは朝餉をもってきてもらうのだが、自分で取りに行った。
「隊長・・・・今日一体なんなんですか。全部自分で片付けようとして」
「ああ、いいんだ海燕。今日は特別だから、ほんとは休暇を与えたかったんだが、この前まとまった休暇を与えたばかりだから無理だったから、そのな、うん、なんていうか、今日の海燕には休んでほしいっていうか特別だから」
自分でも何を言っているのかよくわからなかった。
「海燕、結婚記念日おめでとう!」
花を、差し出した。
まるで、プロポーズみたいな。
見ていて、京楽がぴしりと凍り付いた。
「え、結婚記念日?・・・・ああ、俺と都、結婚して1年も経ったのか」
海燕は、そんなことすっかり忘れていた。
この前誕生日を祝ってもらったので、差し出された花をみてまた誕生日を間違えたのかと思った。でも違った。この上官は、自分でも忘れてしまうような結婚記念日をしっかり覚えていてくれたのだ。
嬉しさと恥ずかしさがない交ぜになって、海燕を襲う。
「隊長の、きもち、確かにうけとりました」
花を受け取る。
ピシリ。
その言動に、京楽がまた凍り付いた。
嬉しさと恥ずかしさがまざってドキマギしている二人を、べりっと無理やりはがして、浮竹を自分の後ろに隠す。
「いっとくけど、うちの子はあげませんからね!」
「いや、何言ってるんだあんた。隊長は俺の上官だ!」
「違う、僕のものだよ!」
「違う、俺の上官だ!」
「違う、僕のものだよ!」
「違う、俺の上官だ!」
二人して、ぜいぜいと言い争いを続けた。
「あのな。俺は俺だ。誰のものでもない」
浮竹が、呆れた声をだして京楽を押しのけた。
「結婚記念日のプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるか、海燕」
「え、この花がそうじゃないんですか」
「それは、ただの挨拶みたいなものだ」
そう言って、赤ワインとグラスとコースターが入っている箱を渡した。
「こんな高そうなもの・・・・」
「お前にはいつも世話になってるからな!」
「ありがとうございます。グラスとかも2つあるようだし、今日帰って都と二人で飲みます」
「ああ、そうしてくれ」
この時代、西洋の酒は珍しいもので、尸魂界に置いていないわけではないが、目の飛び出るような値段がするので、京楽に頼んで現世から購入したのだ。
なんとか、京楽の給料の範囲で買えた。
「はー。うちの上官がどうしようもないって思ってたこと、撤回します」
「何、お前そんなこと思ってたのか!」
「だって、自分で起きないし、放っておいたら熱だすし、やっと下がってまだ安静にしてなきゃいけないのに甘味屋に出かけるわ、甘味物を食べたらその包み紙を放置してほったらかすわ
・・・・どうしようもない上官だけど」
浮竹が悲しそう顔をする。
「でも、陽だまりみたいで。誰にでも優しくて、死神としての矜持をもっていて、見た目は儚いけど芯は強くて、・・・この前、入ったばかりの朽木が隊長にミスってお茶ぶっかけた時も笑って許して・・・逆に濡れた朽木のこと心配して。もう、いろいろと、俺はあんたにメロメロなんですよ。13番隊の副隊長についてよかった。あんたの副官になれたこと、幸せです」
「海燕・・・」
じーんと感動して、浮竹はほろりと涙を浮かべた。
「あー!海燕君が浮竹泣かした!いーけないんだ、いけないんだ!」
京楽は、二人の上官と副官の在り方としての、いいムードをぶっ壊してくれた。
「京楽隊長、あんたは帰れ!」
「言っとくけど、その結婚記念日用のプレゼントも花も、僕が入手したんだからね。浮竹はお金出して、手配してくれと頼んできたんだけど、僕がいなきゃ手に入らなかったんだからね」
「京楽、今海燕といい話をしているんだ。ちょっと黙ってろ」
京楽は恋人である浮竹に冷たくあしらわれて、いじけだした。
「いいもんいいもん。呪いの藁人形で海燕君のこと呪ってやるんだから」
「京楽・・・・・」
仕方ないなと、海燕が見ている前で京楽を抱き締めて、キスをした。
「ちゃんと、お前にも感謝しているから。機嫌を直せ」
「浮竹・・・・もっとキスして」
「ん・・・んあっ」
どんどん浮竹を貪っていく京楽の頭を、海燕がはたいた。
「何するの!」
「あんたは、少し盛るの控えたらどうですか。先週あんたが隊長をしつこく抱いたせいで、隊長熱出しましたよ」
「え、ほんとなの」
「微熱だ。気にするな」
「でも、僕は浮竹を抱くよ。今日は抱かないけど」
「京楽隊長、あんたはダッチワイフでも抱いてろ!」
「何、浮竹のダッチワイフあるの!?あるならぜひ欲しいんだけど」
「京楽・・・・このあほ!」
恋人である浮竹にまで頭をはたかれて、京楽はまたいじけだした。
「いいもんいいもん。どうせ僕はのけものだよ」
いい年をした大人が・・・それも、京楽のようなごついがたいの男がいじけていても、全然かわいくなかった。
京楽を放置して、海燕に浮竹は向き直る。
「とにかく、結婚記念日おめでとう、海燕。子供ができたら、ぜひ俺を名付け親にしてくれ」
「気が早いですよ隊長。まだ結婚して1年目だ。お互い忙しくて、子作りなんかそうそうできやしない」
「休暇が欲しいならいえよ。常識の範囲でなら、融通するから」
「ありがとうございます。ああ、都と新婚旅行に行けてないんで、来週から3日ほど休みもらっていいですか。ちょっと、現世の温泉に新婚旅行にいこうと思いまして」
「3日と言わす1週間休め!」
「でも、この前まとまった休暇もらたばっかだし、3日でいいです。それに隊長を一人にしたら、狼に食べれる羊を守る番人がいなくなるし、隊長の世話をしないと隊長のことだから昼ぐらいに起き出して、朝餉も食べずに昼餉だけ食べて仕事時間守らなさそうだし」
「俺って、そんなか?」
「はい。隊長の生活はだらだらしてます。びしっという人がいないと、昼寝とかするでしょう?勤務時間中に」
「う・・・・・・」
海燕がまとまった休暇をとっている間、浮竹は昼におきて、朝餉を食べずに仕事を昼からしだして、朝から起きている時勤務時間中に2時間ほど昼寝をしていた。
まぁ、仕事はちゃんと全部片すから、きつく怒られはしないのだが、他の護廷13隊の隊長がみたらなんていうか・・・。
病弱なのをいいことに、だらだらした生活を送ってしまうのも、事実だった。
「俺は心を入れ替える!ちゃんと朝に一人で起きて、昼寝もしない!」
「今年に入って、それ言うの5回目ですよ」
「う・・・・・・」
ずっと無視されている京楽は、お茶を飲んで縁側でぼーっとしていた。
「は~。存在を無視される隊長か。は~」
何かを悟ったような顔をしていた。
「海燕君、浮竹は僕が見ておくから、安心して新婚旅行にいっておいでよ」
「京楽隊長なら、確かに隊長をちゃんと起こしてくれるでしょうが、一緒になって仕事さぼって甘味屋にいったり、昼寝したり・・・・狼だし、心配ごとが多すぎて任せられません。俺がいない間の隊長の世話は、朽木に任せます」
「朽木ルキア・・・・白哉の義妹か」
「はい。いずれ、席官になると思っています。まだ13番隊にきたばかリで慣れてませんが、戦闘能力も高い。俺が自ら鍛えてやろうと思ってます」
「そうか。海燕に任せたら安心だな」
浮竹は笑った。
ああ、本当にこの人は陽だまりのような人だ。
海燕は思う。
京楽も、浮竹の笑顔にやられて、自然と微笑んでいた。
結局、海燕が新婚旅行にいった3日の間ルキアが浮竹の面倒を見ようとするのだが、京楽のいいようにいいくるめられてしまうのだった。
そして、狼である京楽に、美味しくいただかれる羊な浮竹の姿があったという。
白哉の誕生日
一護が、大きな欠伸をした。
「どうした、眠いのか?」
ルキアが、心配気味に視線を送る。
「いや、昨日琥珀のやつがにゃんにゃんうるさくて・・・子猫は里子に出したけど、盛りみたいでさ」
「貴様も盛っているからな」
「ぉい!」
「ははは、冗談だ」
「ほんとに盛るぞこのやろう。今日の夜、どうだ?」
一護が、ルキアの細い腰に手を回し、誘ってきた。
「なっ」
自分から、「貴様も盛っているからな」と言っておきながら、ルキアは真っ赤になった。
「今日はだめだ!兄様の誕生日なのだ!」
「へ、白哉の?」
「そうだ。そんな日に逢瀬を重ねるなぞ、ダメなものはダメだ!」
「仕方ないな。でも、白哉の誕生日か・・・・何か贈り物、贈ったほうがいいよな」
「貴様も、何かプレゼントするのか?言っておくが、兄様は並大抵のことでは心を動かされぬぞ」
ルキアの言葉に思案する。
「ちょっと、心当たりがあるんだ。白哉の喜びそうなもの・・・・それよりルキア、好きだぜ。愛してる」
「あっ、一護・・・今日は兄様の誕生日だから・・・ああ!」
ルキアと、舌が絡む口づけを繰り返した。
その細い体を抱き締め、深く浅く口づけを繰り返す。
体の輪郭をなぞり、抱き締めた。
「あ、一護、好きだ・・・・・愛している」
体は重ねなかったが、思い切り甘い時間を、朝から過ごすのであった。
一護は、現世にやってきていた。
一万円札を手に、義骸に入ってスーパーに入ると、カラムーチョをこれでもかというほど買い込んだ。
「くくくく・・・・このカラムーチョの海に、白哉は沈むに違いない」
一護の心当たりとは、カラムーチョのことであった。
現世のお菓子で、名前の通り辛いお菓子だ。けっこう人気があって、ロングセラーになっている。
尸魂界に戻ると、無断で仕事を抜け出して現世にいったと、ルキアに怒られた。
カラムーチョはすでに、ルキアとの寝室に包みにおいて隠してある。
「聞いているのか一護!」
「ん?」
「ん?ではない!13番隊副隊長ともあろう者が、仕事を放りだして現世に遊びにいくなど、言語道断だ!」
ぷんぷんと怒るルキアは、かわいかった。
「ああ、ルキア、かわいいいな」
「なっ!」
ルキアは真っ赤になった。
「貴様、誤魔化そうとしてもそうはいかぬぞ!」
「かわいい。ルキア、かわいい」
琥珀が産んだ子猫たちもかわいかったが、ルキアだって負けないくらいにかわいい。
13番隊の執務室で、一護はルキアをかわいいといって、手放さなかった。
昼休みになって、真っ赤な顔のルキアが、一護の手から逃れようとしている。
「なんなのだ、今日の貴様は!」
「ん?なんかなー。白哉が生まれてこなければ、ルキアが朽木家の養子になることもなかったし、死神になってたとしても俺と出会うこともなかったって考えるとな・・・・」
「一護・・・・・・・」
「好きだ、ルキア」
「私も貴様が好きだ、一護」
昼餉をとって、休み時間は二人でラブラブイチャチャした。
1時になり、一護も気持ちを切り替えて仕事をしだす。先週虚退治をしたが、ルキアも一護も腕は鈍っていなかった。
たくさんの虚を切って、霊子に戻していった。
死神の業務が終わる6時まで仕事をし終えて、ルキアと手を繋ぎあいながら、朽木邸に・・・・一護にとっても、我が家に帰ってきた。
まず二人で一緒に湯浴みをした。
湯殿でもイチャイチャラブラブしていたが、風呂からあがるとルキアは気持ちを切り替えて、白哉の方を向いた。
「お誕生日おめでとうございます、兄様」
その日の夜は、朽木白哉のバースディパーティーが、ささやかながら行われた。
恋次も来ていた。
いつもより豪華な食事が用意される。
「隊長、お誕生日おめでとうございます」
酒も用意された。
一護は酒を飲みながら、そっけなく白哉にいった。
「誕生日おめでとう、白哉」
「ふん」
ルキアと恋次の誕生日おめでとうという言葉は素直に受け取っていたのに、一護にだけこうだ。
「ムキーー!」
抑えろ、俺!
一護は、なんとか我慢した。
ルキアが、白哉に誕生日プレゼントを渡す。わかめ大使の、寝袋だった。
「ほう、これはいいものだな」
「そうでしょう、兄様!これがあれば、虚退治の遠征の時でも安心して眠れます!」
今度が、恋次が誕生日プレゼントを渡した。
現世から取り寄せたワインだった。
「ほう、これはつまらぬものだな」
「そう言わないでくださいよ、隊長!取り寄せるのに苦労したんすよ」
「ワインなど、朽木家の財をもってすれば、いつでも取り寄せれる」
がっくりと、恋次は項垂れた。
そのまま、白哉は一護を無視して酒を飲みだした。
「おいこら白哉義兄様!俺からのプレゼントを受け取りやがれ!」
「兄の?どうせ、ゴミであろう」
「キーーーー!」
「猿」
「ムキーーー!じゃなくって、真面目に用意したんだよ、白哉。これだ」
カラムーチョとかかれたスナック菓子を、白哉に渡した。
「菓子?」
「そうだ。お前、辛いの好きだろ。現世の辛い菓子だ。珍しいだろ」
「このような安いもの・・・・」
「まぁ、一口でいいから、食べてみろよ」
何かの罠かと警戒しながら、白哉はカラムーチョの封を開けると、中身を口にした。
「こ、これは!」
ぽりぽり。
ぽりぽりぽり。
白哉は、あっという間にカラムーチョを食べ終えてしまった。
「兄にしては、よきものであった・・・・・・・」
名残おしそうに、カラムーチョの袋を見る白哉。
「1つじゃ足りないだろ!これ全部カラムーチョだ!」
大きな包みに入れた、カラムーチョの山を、一護は白哉にプレゼントした。
「兄は・・・・」
嬉しそうな表情の白夜。
今日ばかりは、嫌がらせもなしだ。
白哉、恋次、ルキア、一護のメンバーで、夜遅くまで食べて飲んだ。
結果、恋次は酔いつぶれ、白哉は酔った挙句眠り、ルキアはべろんべろんに酔って、一護だけが酒をセーブしていたので素面だった。
「にいさまぁ、誕生日ほめれとうごじゃいます」
酔っぱらったルキアを抱き上げて、一護がパーティーが終わりだとばかりに、一度寝室に去った。
寄ったルキアを寝室に置いきて、酔いつぶれた恋次を客間のベッドに寝かせて、眠ってしまった白哉に、毛布をかけた。
「はぁ・・・・眠っていたら、美人だしかわいいんだけどなぁ」
白哉はルキアを溺愛していて、結婚した一護にいつも嫌がらせをしてくる。
見た目と違い、根性がどこかひねくれていた。
寝室に戻ると、ルキアがふにゃふにゃ言っていた。
「いちごおおおお、貴様、兄様にとりいり、兄様の大切な操を奪おうとしておるな!」
「ぶっ!ありえねーから!」
「兄様はあの通り美人なのだ。女だけでなく男からも想いを寄せられて、困っておられのにゃああああ」
「そうなのか」
「ふにゃー。世界がまわっているぞ、いちごお」
「お前は、もういいから寝ろ」
「ふにゃ・・・・・・」
ルキアに口づけて、消灯する。
次の日の朝、朝餉は一護にだけデザートがついていたし、いつもより豪華だった。
「兄様、ご機嫌ですね!」
「一護、あの菓子はすばらしい。買い溜めをするから、何処で売っているのか白状せよ」
「いや、白状しなくても現世のスーパーやコンビニで普通に売ってるから」
「そうか・・・・・」
白哉は、カラムーチョがよっぽど気に入ったのだろう。
毎日、3時に食べていた。
菓子なので、昼餉を食べ、ちょうど小腹がすくおやつ時間に、好んでカラムーチョを食す白哉の姿が、6番隊の執務室でいつも見れるようになるのだった。
見合いの後に
恋次は、6番隊の執務室で、白哉の額に額を当てた。
「うお、まじで熱あるじゃないですか!そんな涼しい顔していないで、屋敷に戻って寝てください!」
「熱など・・・あるのか?」
自分では分からなかった。
ただ、少し気温が暑いと感じただけだった。
立ち上がろうとして、眩暈をおこしてふらついた。
「危ない!」
恋次がその細い体を抱き寄せる。
「う・・・」
寒気を感じて、だんだん体が熱くなってきた。
「すまぬ、恋次。屋敷までもちそうにない・・・隊首室で寝る」
6番隊の隊首室は、恋次が使っていた。
白哉には屋敷があるし、恋次も席官クラス以上が屋敷を構える住宅街に、一応自分の屋敷をもってういたが、滅多なことがない限り使わない。掃除は時折するが、誰かが住んでいる匂いなど全くしなかった。
隊首室のベッドに、白哉は横になった。
恋次が、いつも自分の額に巻いているタオルのうち、新しいのを1枚だしてきて、水に濡らして白哉の額に置いた。
それから、朽木邸にいき、医者を呼んできた。
「ただ疲労からくるものでございます。解熱剤を飲んで数時間もすれば、熱も直にさがりましょう。薬はここに置いておきますので。白哉様、どうか無理などはなさらずに・・・・」
「薬、飲めそうっすか?」
「無理だ・・・・だるい」
恋次は、解熱剤を口にしてかみ砕くと、水を含んで白哉に口移しで与えた。
「んっ・・・・・」
熱に潤んだ射干玉の瞳に、押し倒しそうになって恋次はおし留まる。
隊長は、今は病人なのだ。
「寝れそうですか」
「ああ。ここはお前の匂いがする。まるで、恋次に抱かれているようだ・・・・・」
熱のせいで、自分が何を言っているのか分からないのかとも思ったが、そこまで重症ではなかった。
「少し、眠る・・・・・・」
スースーと、静かな寝息を立て始めた白哉の髪に手をやると、艶のあるそれは驚くほど柔らかくてサラサラだった。
男とにしては整いすぎた美貌が、今は色を少し失い、動かない。
このままずっと動かないような気がして、頬に手を当てる。
暖かかった。
白哉の顔を、飽きもしないで4時間ほど見つめていた。
「ん・・・・」
「隊長!」
「恋次か。まさか、ずっと私についていたのか?」
「はい」
「退屈であったであろうに」
「そんなことありません。あんたの寝顔を見ていると、自然と穏やかなきもちになれるんです。もう、熱は大丈夫なんすか?」
「ああ、心配をかけた」
つい先日、白哉は見合いをした。
恋次がしゃしゃり出て、めちゃくちゃにしたのだが、あの時の夜はお互いを求め合うように抱いた。
でも、まだ抱き足りないのだ。
「なぁ・・・あんたを今すぐ抱きたいって言ったら、あんたはどうしますか。あの見合いの夜は、長くなると思ったけど、一度しか抱かせてもらえませんでした。ねぇ、隊長・・・」
「一度、なら。今抱いてもいい」
「まじっすか!」
恋次は、白哉を押し倒していた。
「そのように、思い詰めて・・・・すまぬ、あの日は私は緋真を想うあまりお前にあまり構ってやれなかった」
「隊長、好きです」
隊長羽織を脱がせて、死覇装を脱がせていく。
しなやかな筋肉のついた、細い肢体が露わになる。
「あまり、見るな・・・・」
「無理言わないでください」
キスをすると、白哉はもっととねだってきた。
「ん・・・んあ・・・・・」
舌が絡みあう。飲み込み切れなかった唾液が、顎を伝った。
「隊長!好きだ、愛してる!」
あの、見合いの夜を思いだす。
シイナという女は、男腹で子を成せばほぼ100%男児を産むという。上流貴族の姫であるが、4大貴族の白哉と縁続きになれるのであれば、妾でもいいと言っていた。
白哉が唯一愛した人・・・・・今は亡き、緋真によく似ていた。
でも、性格が全然ちがった。
恋次には緋真の性格がどんなものであったかは、白哉がたまに語る思い出話でしか分からないけど、少なくとも恋次のような者に、「下賤」などと言わない。
恋次を「下賤な死神風情」と言ったあの言葉がきっかけで、白哉はああこのシイナという女はやはり緋真ではないのだと分からせてくれた。
「あっ、恋次」
一度だけと言われているし、熱が下がったばかりなのだ。
あまり、無理はさせられない。
白哉の自分のものと同じ物に見えない花茎に手をかけてしごくと、それがゆっくりと顔をもたげて、先走りの蜜を零した。
「ああああ!」
快感に、頭が支配される。
恋次は、白哉のものを逡巡もせず口に含んだ。
「ひあう!」
ねっとりとした熱い口の中に含まれて、じゅぷじゅぷと口淫されて、白哉はゆっくりではあるが、白濁した液体を恋次の口の中に放っていた。
「んあああ!」
潤滑油を手にとり、指にかけて蕾に指を侵入させる。
「んっ」
中で指をばらばらに動かすと、一つが前立腺を刺激した。
「あう!」
「ここが、いいんすね?」
「ああっ、恋次!」
こりこりと、前立腺を指でひっかいてやった。
「やああああ!」
びくんと、白哉の体が痙攣したが、精液がでていない。ドライのオーガズムでいったとわかり、そんな淫らな身体にしたのが自分だと分かって、恋次は満足そうだった。
全身にキスの雨を降らせると、白哉は夜鴉のように艶のある瞳でこちらを見てきた。
「私を、犯したいのであろう。好きにせよ」
「隊長、あんたって人は・・・・」
ぐちゅりと、音を立てて、穿った。
「あああ!」
深く深く挿入し、引き戻しては浅い部分をくちゃくちゃと音を立てて突き上げた。
「んあああ・・・・・・」
前立腺ばかりをしつこく、ぐちゅりとすりあげると、白哉はだらだらと先走りの蜜を零した。
「ここをこんなにして・・・・悪い子だ・・・・」
「ああ、ああん!」
紐で、白哉の前を戒めた。
「やあ、いきたい!」
「だめ」
突き上げると、びくんと白哉の体がはねた。
一度だけなのだ。
堪能するしかない。
「隊長好きです、愛してます!」
ぐちゃぐちゃと犯していくと、いきたいのにいけなくて、白哉は生理的な涙を滲ませていた。
「イきましょう、一緒に」
「あ、恋次・・・・・」
最奥を突き上げて白哉の中に熱を放つのと、白哉の前の戒めを解いてやるのが同時だった。
体を痙攣させて、長く白哉は射精した。
「ひあああああ!」
快感で頭が真っ白になる。
何も考えられくなって、意識を白哉は手放した。
「隊長・・・・・・」
意識を失った白哉にキスをして、恋次は白哉から引き抜いた。まだ硬さを保っている。あと2回くらいはいけそうだったが、白哉の体がもたないだろう。
引きびいた場所から、トロリと恋次が白哉の中に吐き出した欲望が、白哉の太腿を伝っていった。
ああ。
もっともっと、ぐちゃぐちゃに犯したい。
泣いて、やめてくれと何度も懇願されるくらいに。
恋次は、白哉のイった時の顔を思い浮かべながら、2回ほど自分で抜いて、すっきりした。
白哉を裸のままでいさせるわけにはいかないので、額に置いて横にどけていた濡れたタオルを手にとって、白哉との情事の痕を消し去って、白哉の中に放ったものをかきだしてふいて、死覇装と隊長羽織を着せた。
毛布をかけて、恋次もその横で眠った。
「ん・・・・・・」
白哉が起きた時、夜になっていた。
5時間は意識を飛ばして眠っていたのだ。
ズキリと痛む腰に眉を寄せながら、爆睡している恋次を起こす。
「恋次、恋次、起きよ」
「んー隊長大好きーーー」
「この愚か者!」
真っ赤な紅蓮の髪を思い切りひっぱると、恋次は飛び起きた。
「隊長!」
「恋次、私は朽木邸に戻りたい・・・・だが、足腰が立たぬのだ」
1回だけの交わりであったが、長くしつこかったので、白哉は腰を痛めてしまった。
「俺が送ります!」
横抱きにされて、瞬歩で朽木邸にまで向かう。
「好きだ、恋次」
「!」
あやうく、白哉を落としそうになった。
「隊長、卑怯ですよ!」
「ふふ・・・・・」
かすかな笑みを、白哉は零す。
それは、幸せに満ちた笑みで、恋次が顔を朱くしながら、白哉を朽木邸にまで届けるのであった。
浮竹死んだけど幽霊です憑いてます13 水浴びと西瓜
8月の半ば。
その年の尸魂界は、記録的な猛暑で、40度をこした。
「暑いー死ぬー」
1番隊の執務室で、じわじわとした暑さにやられた京楽は、死にかけていた。
エアコンが故障したのだ。
扇風機が生き残ったので、風を送るが生暖かい風だけがやってきた。
「浮竹は、こういう時いいねぇ。温度をかんじないんでしょ?」
「ああ。寒いとか暑いとかないな。便利だぞ」
「僕もなれるものなら幽霊になりたい・・・・」
「だめだぞ、京楽。そうだ、水あびでもするか?」
「お、いいね」
そんなこんなで、じわじわと暑い外に出て、水を浴びた。浮竹も水着姿になって、実体化して水を浴びた。
実体化すると温度を感じるので、汗を流した。
「ああ、きもちいい」
「本当。井戸水だから、水道の水みたいにぬるくなってないし、最高だね」
冷蔵庫には、スイカを冷やしてある。
水を浴びている間に、技術開発局の阿近に来てもらい、エアコンの修理を頼んでいた。
水遊びが終わる頃には、エアコンも直っているだろう。
「はっくしょん」
冷えた井戸水の冷たさに、浮竹がくしゃみをした。
幽霊になってからというもの、熱もでないし、血を吐くこともない。元気そのものだ。
「実体化してると、風邪ひいちゃうのかな?もしひいたら、霊体化した時もひいたまなのかな?」
「さぁ、どうだろう。俺は、そろそろ水浴びを終わらせる」
暑いが、黒い死覇装を着て、隊長羽織を羽織って、すーっと透明になって霊体化した。
「僕は、もう少し涼んどく」
海パン一丁の京楽は、毛がもじゃもじゃだった。
ぱしゃりと音を立てて、水遊びをする京楽を、浮竹は隣にいながら眺めていた。
「涼しいか?」
「うん。井戸水がよく冷えていて気持ちいいよ。この暑さだ・・・・水道水だと、ぬるくてねぇ」
「そろそろ、エアコンの修理も終わっているんじゃないか?それにしても・・・・昔はエアコンなんてなかったから、暑いのは当たり前だったけど、一度文明の利器に慣れると、どうしても昔のように戻ることができなくなるな」
エアコンには電気がいる。
発電機を、それぞれの隊舎に置いてあった。
「京楽総隊長、浮竹隊長、エアコンの修理終わりましたよ」
「お、ありがとう阿近君」
「ありがとう、阿近副隊長。そうだ、スイカが冷えているから、食べていかないか?」
「いいんですか?」
「いいだろう、京楽?」
「勿論だよ」
エアコンで室内の温度を28度くらいに保ちながら、冷蔵庫から冷えたスイカをもってくる。包丁がなかったので、斬魄刀で切った。
綺麗に三等分にカットする。
「今年のスイカはちょっと高いけど、甘くておいしいんだよねぇ」
京楽がかぶりつく。
逡巡したが、阿近もかぶりついた。
浮竹はというと、器用に赤い果肉の部分だけを食べていく。赤い部分だけが消えていき、皮と種だけが残った。
「なんていうか、本当に便利な幽霊ですね。涅隊長が実験体に欲しがるわけだ」
「いくら欲しがっても、うちの子はあげませんからね!」
「いや、いりませんから・・・・」
午後になって、暇なので白哉の家に遊びにいった。
朽木邸ではエアコンは、静かにかけられていて、涼しくも暑くもなかった。
「白哉、その恰好で暑くないか?」
死覇装に隊長羽織姿の白哉は、書道で何か文字を書いていた。
死覇装の上から、上着を着ていたのだ。
「浮竹か・・・・エアコンが利きすぎるのだ。かといって切ると、暑い」
暑いと、文字を書く。
達筆だった。
次に書いた文字は、浮竹十四郎。そばに、わかめ大使も書かれた。
「わかめ大使を用意してある。自由に食せ」
「お、すまないな」
「京楽総隊長は、機嫌が悪そうだな」
「だって君たち、仲良すぎ」
エアコンが適度に利いた室内で、浮竹は京楽に憑いてはいるのだが、最近は10メートルくらい離れてもどうってことないようになってきたので、わかめ大使が用意されてある部屋にいくと、さっさっと食した。食べたものは消える。
10個くらい食べて、なくなった。
「白哉、もう少し食べたい」
「戸棚の中にある。勝手に出して食せ」
実体化して、戸棚からもう10個くらいわかめ大使を出すと、袋を破って食べていく。
京楽は、部屋の隅で白哉が書道をしている姿をただ見ていた。
「面白くもなかろう。浮竹のところに行けばいい」
「そうするよ」
白哉も、大戦で一時が命が危ぶまれたが、なんとか繋がった。
浮竹は、その命を散らせたが。
浮竹が死んだその日は、何も喉を通らず、その夜密かに泣いた。
数百年連れ添った、最も愛した相手が死んだのだ。泣き叫ばないだけましだった。
京楽総隊長に、その頃すでになっていた。
一番上に立つ自分が泣いているままではいかなくて、戦い、大戦が終了した後は復興に尽力し、がむしゃらに生きた。
ある日、幽霊の浮竹がとり憑いた。
その日から、色を失っていた世界が鮮やかな色を取り戻した。
最初は成仏させるために、供養やらお祓いまでしたが、今は成仏してほしくない。
浮竹には悪いけれど、このまま幽霊として、時に実体化して体を交わせ、愛を紡ぎながら生きることを改めて誓う京楽だった。
浮竹死んだけど幽霊です憑いてます12 涅チャンネル
じわじわと汗ばむ季節。
みーんみーんと蝉の鳴く声がうるさかった。
「ああ、極楽だ・・・・・・」
外は暑い。
でも、室内は涼しい。えあこんなるものとせんぷうきなるものが1番隊の執務室に備え付けられて、それで浮竹も京楽も涼んでいた。
おまけに、京楽の手にはアイスクリーム。
京楽が食べていく他にもそれを浮竹が食べて、さっさっとアイスが減っていく。
「このエアコン。凄いな」
「冬には暖房もつくんだって」
「現世の文明ははかりしれない・・・・・・」
浦原が尸魂界に来るようになって、現世のものが一気になだれ込んだ。
それに負けないように、12番隊の技術開発局でもいろいろ発明されていて、涅マユリは伝令神機を顔が映るようにもしたし、ホログラムが出るようにもした。
「この伝令神機・・・・俺たちが死神になった頃にはなかったけど隊長となってもつようになったが、随分変わったな」
動画も見れるし、現世のネットサーフィンもできるし、音楽も聞ける。
今も、伝令神機で音楽を鳴らしていた。
最近現世で有名なアイドルグループの歌だ。動画が、ホログラムとして再生される。
「あ、この真ん中の子かわいい」
京楽のその言葉に、浮竹はむっとなる。
「どうせ、俺はアイドルグループの女の子のようなかわいさはないさ」
「あれ、浮竹嫉妬してるの~~~?」
京楽が、にまにまとこっちを向いてくる。
「さぁな」
「もう、浮竹かわいいーーー!」
技術開発局に開発してもらった、霊体に触れる手袋をして、京楽は手で浮竹を撫でまくった。
「ふあ・・・変なとこ、さわるなぁ・・・・きゃう!」
漏れてしまった声に、浮竹が自分の口を手で閉じる。
「かわいい~~~~~~」
京楽は、大分夏の暑さで頭がいっているらしかった。
「京楽のばか!」
手だけ実体化してパンチをお見舞いすると、京楽はそのまま床に沈んだ。
「あれ、京楽?」
「むふふふふ。怒る浮竹もかわいい」
「だめだこりゃ・・・・・」
浮竹は実体化して、冷蔵庫に移動して冷凍庫からアイスをとると、それを京楽の頬に当てた。
「ひあ、冷たい!」
「アイスでも食べて、まともになれ」
「んー。夏に浮竹と一緒に、エアコンの利いている執務室で食べるアイスは、格段にうまいね」
院生時代の頃からアイスはあったが、今は本当にいろんな味のものが出るようになった。
ガリガリ君の、ソーダ味を、しゃりしゃりと京楽は食べた。
ガリガリ君を、京楽は2本持っていた。
2本目は浮竹が食べていた。
一口ずつ消えていく。
「あーうまい。アイスも、やっぱ現世のものがうまいな」
尸魂界で出るアイスは、主にバニラ味だ。
甘味屋なら他にも味はあるが、味の多さでは現世に勝てない。
伝令神機を浮竹はいじっていた。
ケルト風味の民族音楽が流れだし、大自然を映した動画がホログラムとして再生される。
「ああ、この音楽いいな。そういえば、最近寝る前に音楽を聞いているよな。確かリラックスできる・・・・ヒーリングとかいう系の音楽か」
「浮竹も聞いてると眠くなってくるでしょ」
「ああ」
「疲れた時や眠る時に聞くのがいいんだって」
「へえ。ああでも、この民族音楽もヒーリングっぽいな」
「現世の民族音楽はいろいろあるからねぇ。それにしても、いくら浦原と競いあっているからって、涅隊長も、伝令神機すごいことにしたもんだなぁ」
チャンネルを涅マユリにしてみる。
ぱっと、毒々しい涅マユリの顔がホログラムになる。
「何かネ。何か用でもあるのかネ」
「この通り、チャンネルを涅マユリにすると、本人が出る」
「うわー」
浮竹は嫌そうな顔をした。
「言っておくがネ、この伝令神機で私のチャンネルにすると、そっちの声も全て聞こえているんだヨ!浮竹隊長を触れるように手袋を開発してあげた礼に、浮竹隊長をぜひとも実験体に・・・・・・」
ブツリ。
涅マユリチャンネルを切った。
でも、伝令神機がいうことをちゃんと聞いてくれない。
「言っておくがネ、私がいじった伝令神機は全部私の方で勝手につなげられるのだヨ。分かったなら、浮竹隊長を実験体に・・・・・」
京楽は、霊体を触れる手袋で、ホログラムの涅マユリの脇腹をくすぐった。
「きゃふふふふ!な、何をするのだネ!」
「あ、これこういう使い方もできるの。面白いね」
「げふげふ、変なところを触らないでくれないかネ。ああもうわかった、私が悪かった、浮竹隊長を実験体にするのは今度にするヨ!」
そう言って、涅マユリはぷつりと切れた。
「面白い。今度から、いやなことがあったら涅マユリチャンネルを開いて、手袋でこそばそう」
「俺を実験体にしたいという以外は、無害なんだがな・・・・」
涅マユリは、確かに言葉にできない非道なことをしてきた。だが、それを含めても12番隊隊長として必要とされているのだ。
大戦で、ゾンビ化した日番谷たちを救ったことは特に大きい。
「一応、君の伝令神機ももらってきたんだ」
「ああ、使わらせてもらう」
実体化して手に取り、透けると伝令神機も透けた。
透けたままでは使えないようで、実体化して京楽にかけてみる。
ブブブと、京楽の伝令神機が鳴る。
「どうしたの」
「いや、ちゃんと俺でも使えるかと思って」
「実体化したら、使えるでしょ?」
「ああ」
本当に。
大戦からここまで復興するとは、誰が思っただろうか。
便利になったものだ。
浮竹と京楽は、そんな時間を享受しながら、時を過ごしていくのだった。
浮竹死んだけど幽霊です憑いてます11 花見で外でウフフ
「花見をしよう」
そう、京楽が言った。
ああ、そういえば幽霊になってから一度も花見にいっていないのだと、浮竹は思い出す。
生きていた頃は、毎年花見にいっていた。
「いいな、行こうか」
「じゃあ、明日なんとか休暇もぎとるから、一緒に花見しようね」
4月のはじめ。
真央霊術院は、入学のシーズンを迎えていた。
花見に決めた場所は、少し離れた山の中。
桜が満開で、桜の他には何もないような辺鄙な場所。だからこそ、人の手が入っていないので、風が吹けば雨のように桜色の花びらが散った。
「綺麗だな・・・・」
「綺麗だね」
シートの上に寝転ぶと、このまま眠ってしまいたくなったが、睡眠は十分にとっていたために眠気は起こらなかった。
「お酒、飲む?」
「飲む」
互いに杯を交わしあった。
といっても、幽霊である浮竹の前に酒を注ぐだけなのだが。
幽霊となってからは、酔っぱらうことがなくなったので、京楽の飲む喉が焼けるような日本酒を飲んでも平気だった。
浮竹の好きな果実酒を注いでやると、浮竹は美味しそうに飲んだ。
飲んだと言っても、液体がさっとなくなるだけなのだが。
「ああ、お前とまた花見ができるなんて嬉しいな」
「僕もだよ。浮竹とこうして言葉を交わしているだけでも泣きそうなくらい嬉しいのに、たまに触れるし交わることもできる。もう死んでもいい」
「死ぬな」
「冗談だよ」
「冗談でも、死ぬなんて言うな」
浮竹は、悲しそうに翡翠の瞳を伏せた。長い睫毛が、頬に影を作る。
「俺は一度お前を置いていった。なのに、またお前を独占している。でも、それが許されるのならこのままでいたい」
「僕を独占していいんだよ、浮竹。君の存在が在る限り、僕らは二人で一つだ」
「京楽・・・・」
少しだけ実体化して、抱き合うと、自然と唇が重なった。
「ほんとは、桜の下で君を抱きたいけど、君は外では絶対にしないものね」
「誰が来るか分からないからだ。こんな辺鄙な場所でも、何か急用が起こって霊圧を辿れてて誰かがやってくる可能性もある」
「心配性だなぁ」
「とにかく、外ではだめだぞ」
「分かっているよ」
ちらちらと、桜の花びらが降ってくる。
「そうそう、朽木隊長に頼んで、特別にお弁当を作ってもらったんだ。僕の家の料理人の食事はいつも口にしているから、たまには違う味を堪能したくてね」
「白哉がか。良く許可したな」
「君のことを話すと、浮竹を頼むといって、了承してくれたよ。そうそう、ルキアちゃんが作ったお弁当もあるんだ」
「なんだって!朽木の手作り弁当だって!」
浮竹は、手がすけていなかったら京楽を揺さぶっていただろう。
「まぁまぁ、そう興奮しないで。今出してあげるから」
朽木家で作ってもらた弁当は、重箱だが螺鈿細工が美しく、箱からして高級感を漂わせていた。
「こっちだね」
一人分の、小さな弁当箱を取り出して中をあけると、浮竹の顔があった。
「キャラ弁・・・・ルキアちゃんもやるねぇ」
「もったいなくて食べられない~~」
浮竹は、嬉し涙を浮かべていた。
浮竹は、ルキアのことを実の娘のように思っている。
年齢から考えて、親子であるのは無理だが、兄妹というのにも無理があった。
まぁ、浮竹が十代の若い頃にこさえた子供にするのなら、ルキアはなんとか親子として通るだろうか。
「僕が食べちゃうよ?」
「お前にはやらん」
まず、卵焼きが消えた。
「うん、美味しい」
「へえ、ルキアちゃん4大貴族なのに・・・まぁ、阿散井君と結婚してるけど、料理できるんだ」
「そうだぞ。俺の副官だった頃、よく白玉餡蜜を一緒に食べた。他にも、出かける日とかにたまにお弁当をもたせてくれたんだ」
生きていた頃を思い出す。
「ルキアちゃんも女の子だねぇ」
「朽木の弁当はうまいぞ。あげないけどな」
「けち」
「ふふふふ」
浮竹は、ぺろりとルキアの作った弁当を全部食べてしまった。それから、重箱の朽木家の料理人が作った弁当も、二人で食した。新鮮な味で、実に美味だった。
桜の雨が、ちらちらと降ってきた。
「浮竹は、桜の精霊みたいだね」
「そうか?」
「透き通っているしね」
浮竹の髪の一部は、数か月まえにつけた柘榴の髪飾りがそのまま太陽の光に反射して、いろんな色を地面に影として落としていた。
実体化すると、さらさらと長い白髪が風に零れた。
「京楽」
京楽を抱き締める。
「どうしたんだい」
「お前を置いて行ってしまって、すまなかった」
舌が絡まる口づけをした。
「ふあっ・・・・・」
浮竹から舌を抜くと、唾液が銀色の糸を引いた。
「そんなこと・・・もう、いいんだよ」
「ああっ」
「外じゃ、だめなんじゃないの?」
「今日だけ・・・・・・だから」
1時間ほど、実体化して抱かせてやると耳元で囁かれて、鼻血が出るかとおもった。
「ああっ・・・・・・」
隊長羽織を脱がせ、死覇装を脱がせていく。
「じゃーん。僕の懐には、いつでもこれがある」
小さな瓶に、潤滑油が入れられていた。
「お前・・・・こうなることを期待して?」
「そうだよ。いつ君を抱けるようになるか分からないからね。ああ、2か月ぶりの君の香・・・甘い匂いがして、それだけでどうにかなってしまいそうだよ」
浮竹にキスをしていく。
首筋にキスマークを残すと、昔は怒られたが今は怒られなかった。
浮竹の鎖骨、胸、臍にかけて、いっぱいキスマークを残し、舌を這わせ、指で撫で挙げた。
「んんっ・・・・・」
立ち上がりかけている浮竹の花茎を口に含み、口淫を行うと、久しぶりなので浮竹はすぐに濃い液体をはきだした。
「濃いね・・・・」
「もう2か月はやってないから・・・・・」
幽霊でも、性欲を覚えて体液の薄い濃いはあるらしかった。
「僕は、君の喘ぎ声をおかずに定期的に抜いてるからいいけど、君がつらそうだね」
「ああ!」
潤滑油で濡らされた指が、くちゅりと体内に入ってくる。
前立腺ばかりを刺激されて、浮竹はまた精液を放っていた。
「早いね」
「本当に、久しぶりだから・・・・」
ぐちゅぐちゅと中を指で侵して、指を引き抜いて京楽の欲望を宛がわれる。
「んっ!」
ずちゅんと、音を立てて蕾が京楽のそれを飲み込んでいく。
「ふあっ・・・・・」
突き上げながら、浮竹にキスをすると、内部がきゅうとしまった。
「ん・・・・いっちゃそうだ。一度、出すよ」
びゅるびゅると、精液を浮竹の中に放つ。
とろりと、太ももを京楽がはきだしたものが伝った。
「お前も、かなりの量だな」
「だって、自虐と君を抱くの、この差はすごいよ」
「んあっ」
再び突き入れられて、浮竹は裸身に桜の花びらを受け止めていた。
「ああああ!」
京楽が突き上げるたびに、浮竹はビクンビクンと痙攣する。
「またいったの?」
「あ・・・・んあああああ!」
ドライのオーガズムでいきまくってしまい、浮竹は朱くなった。
「敏感なんだね・・・・・愛してるよ、十四郎」
「あ、春水、愛してる、キスをしてくれ」
浮竹に口づけて、なるべく前立腺をすりあげて、突き上げていくと、内部がしまって京楽も浮竹の中に二度目の精液を放ったいた。
「ああ!ああん!」
桜の花の下で、二人は乱れる。
騎乗位になって、深く抉られた。
「ひああああ!」
ぐちゅぐちゅと音を立てて突き上げる。浮竹の太ももに、二人の体液の混じり合った液体が伝い落ちていく。
「ひう!」
くちゅりと、浅いいい部分を犯してやれば、浮竹は息を飲んだ。
「ああ・・・・・やああ・・・・またいっちちゃう・・・春水、春水!」
「何度だっていっていいよ、十四郎。ほら」
ぐちゃっと中を蹂躙された。
何度も突き上げられて、浮竹ももう何度目になるかも分かない吐精をしていた。
「はぁはぁ・・・・・・・」
1時間近くが経ち、セックスは終わった。
「おしぼりしかないや・・・何もないよりましだけどね」
おしぼりで、浮竹の体をふいていく。
浮竹の太腿を伝う京楽の精液は、仕方ないので隊長羽織でぬぐった。
「この隊長羽織、もう着たくないや・・・・・」
「んあ・・・・・・」
まだ、浮竹は余韻に浸っていた。数百年睦みあって、初めて外でしたスリルもあり、何度もいった。
「ふあっ・・・・・」
「浮竹、しっかり!」
衣服を着せたが、とろんとした顔をしていた。
「あちゃー。犯し過ぎたかな」
そのまま、すーっと透けていく。
浮竹は、京楽の肩に座って、眠ってしまった。
「おやすみ、浮竹」
いろいろと始末して、帰る準備をする。
最後に桜の花びらと枝を手折って、桜の花を手に、京楽は帰還した。
「ん・・・・・・」
浮竹が意識を取り戻す。
そこは、1番隊の寝室だった。
「ああ、起きた?いきまくってたけど、大丈夫?」
その言葉に真っ赤になって、浮竹は京楽から離れた。
「どうしたの」
「しばらく、もうしないからな!」
「ああ、うん。君もそんなにしょっちゅう実体化を長くできるわけじゃないもんね」
浮竹は言えなった。体が熱くて、まだ抱かれたりないなどと。
「ほら、桜の花びらに桜の花。これで、少しは寝室でも花見気分を味わえるでしょ?」
「ん・・・・・・」
「どうしたの」
仕方なく事情を説明する。
「まだ、実体化できる?」
「30分くらいなら」
「流石の僕も、もういきすぎたから、指でになるけど・・・」
指でいじられまくって、浮竹は結局その後、体の熱がおさまるまで、ドライで何度も高みへと昇らさられるのであった。
震える尸魂界
それが見つかって、怒られる。
「こりゃ春水!勝手に入って来よってからに」
「山じい、別にいいじゃない」
幼い京楽は、山じいのことをからかって遊んだりしていた。
山じいはすぐ怒るので、説教を食らったことなど数えきれない。幼い頃から、京楽を放置する両親の代わりに、山じいが面倒を見てくれた。
「春水、きっと未来で学院に通い、護廷13隊に入るぞ、お主は。死神になるのだ」
「いやだよ。死神なんてかったるい」
「こりゃ!死神は尸魂界を守る大切な存在じゃ!」
「えー、でも忙しそうだし、命の危険もあるんでしょ?やだよ、僕はのらりくらり、ただの貴族として生きたい」
「死神になれ。きっと、大切な存在とも巡りあえるじゃろう」
その時は、そんなはずあるわけがないと思ってた。
学院に入り、京楽は浮竹と出会った。
世界が一気に色づいた。
白い髪に翡翠の瞳の麗人は、にっこりと笑って京楽に手を差し出してくる。
「首席の、京楽春水だな。俺も同じ首席なんだ」
「首席・・・・」
「浮竹十四郎という」
握手を交わして、別れた。
「こりゃ、春水、十四郎」
山じいの部屋に侵入するのが、一人ではなくなった。真面目な浮竹まで、子供のように山じいの部屋に侵入しては悪戯をした。
もっとも、学院に入学したてだけあって、まだお互い少年だ。
やんちゃも、ほどほどに時を過ごしてく。
「春水、十四郎、学院には慣れたかの?」
「楽しいよ、山じい。浮竹がいるからね」
「先生、見るもの聞くもの全てが目新しくて、楽しいです」
「そうかそうか」
「それに、僕たちできちゃったからね」
その言葉に、山じいの目が見開かれる。
「い、いまなんと?」
「だから、僕たちできちゃったの。体の関係結んでるよ」
京楽の言葉に、山じいは失神していた。
「そんなに衝撃的だったかなぁ」
「先生にいうなんて、お前はどうかしてる!」
「でも、いつかばれるんだし」
「それはそうだが・・・・」
浮竹は、白い髪を風にさらさらとなびかせながら、山じいのことを思う。
かわいい教え子が二人、できてしまった。
失神するほどなのだから、その衝撃は計り知れないものだったのだろう。
「隠しておくだけ、僕は無駄だと思うんだよ」
浮竹を抱き締めてくる京楽に、口づけを与えながら浮竹は思う。
恩師である。死の底ばかりを見ていた浮竹に、学院に通うように勧めてくれて、首席で試験を合格した。
京楽のように、幼い頃から世話になっているわけではないが、入学前から山じいの手で浮竹は面倒を見られていた。
山じいがいなければ、死神になろうとすら思わなっただろう。
そんな山じいを失神させてしまった。
心苦しい思いをしながらも、京楽との関係を絶とうとは思わなかった。
「山じいも、いつか理解してくれるよ」
山じいに怒られながら、切磋琢磨して6年。
「春水、十四郎、よくぞここまできた。護廷13隊は、喜んでお主らを迎えいれるじゃろう」
「山じい、僕らのことは何も言わなくなったね」
「先生・・・・・」
「もうよい。春水が十四郎を、十四郎が春水をお互いに必要としているのはよう分かった。もう、何も言うまいて」
それぞれ8番隊と13番隊の席官になり、副隊長になり、隊長になり。
「勘弁してよ山じい。こんな終わり、あんまりだよ」
京楽は、血だらけになりながら、灰となった山じいと、残された流刃若火を掴みあげた。
それは、ボロボロと崩れていった。
「山じい・・・・うっ」
「京楽、無理をするな!」
京楽を支えて、浮竹は涙を流していた。
「先生・・・こんなこと・・・」
ユーハバッハによる、尸魂界の侵攻と蹂躙。
京楽は、右目を失っていた。
右耳も欠けていた。
全部、敵にやられたのだ。だが、まだ京楽のほうがましだ。搬送された白哉は、生きているのも疑わしいほどの重症だった。
「白哉・・・・」
白哉まで失ってしまったら、浮竹は己を保っていられなくなる。
京楽が死んでいたら、気がふれていたかもしれない。
「絶対に、勝とう。山じいの敵を討つんだ」
「ああ・・・・・」
黒崎一護さえ、ユーハバッハに適わなかった。
一護の中に流れる滅却師の血が、一護を救った。
一護の中に滅却師の血が流れているなど、誰が思っただろうか。
その滅却師の王が、千年前に山じいが屠ったはずのユーハバッハの復活。
また、誰か死ぬことになる。
きっと、俺も。
浮竹は、心の何処かで分かっていた。
尸魂界のためならば、この命。
たとえ、愛する京楽を置いていくことになるとしても。
それでも。
俺は、尸魂界を選ぶ。
「早く、卯ノ花隊長のところにいこう。傷の手当てをしてもらわないと」
「この右目は多分、元に戻らない。戻す時間の余裕もない」
次にまたいつ侵攻してくるかも分からない敵の前で、移植手術をして寝ている暇などないのだ。
「京楽、約束してくれ。お前は、先に逝かないと」
「浮竹・・・・・」
「じゃあ、君も・・・・・」
「俺は、きっと・・・・」
お互いに口づけあいながら、その運命の日がやってくるまで、ただ静かにずっと傍にいた。
落ちていく。
山本元柳斎重國、卯ノ花烈。
そして、浮竹十四郎。
落ちていく。
色のない世界へと。
俺は、きっとお前を置いていく。
でも、泣かないでくれ。
お前と過ごしたこの500年、悪くなった。
俺は先に逝く。
お前は、総隊長だ。
あと千年くらいしたら、こちら側にこい。
なぁ、京楽。
愛している。永遠に。