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祓い屋京浮シリーズ25

夢魔は、普通夢の中にでてきてその夢の主の生気を喰らう。

だが、その夢魔は特別で、一部の記憶だけを喰らった。

「ふふふ・・・・神に直接手出しはできんが、この方法なら・・・・」

狂い咲きの王は、夢魔を改造した。

そして、術者の浮竹の夢の忍びこみ、記憶を喰らうように命令した。


--------------------------------------------


「おはよう、浮竹。もう10時だよ。いい加減に起きて」

「う・・・・ここは・・・・・お前は、誰だ?」

「もう、朝からそんな冗談に付き合っていられないよ」

「ここは、俺の館・・・・お前は誰だ」

「浮竹?」

式の京楽は気づいた。

夢魔に、記憶を食べられてしまったことに。

夢魔にとりつかれた名残が匂いがあり、記憶を食べられた片鱗があった。

「僕は京楽春水。君の式の水龍神で、君の伴侶で君の夫だ」

「俺は人間だったはず・・・・なぜ、水龍神に」

浮竹は、自分の体を見る。

水龍神化して、鏡の前に立つと、人ではないあやかしの神になった己がいた。

「分からない・・・・お前が誰なのか、分からないのに、胸が苦しいんだ」

浮竹は、ぽろぽろと涙を零した。

「泣かないで、浮竹」

「触るな」

浮竹は、警戒心を出して、京楽から距離をとった。

「浮竹、今は思い出せなくても、絶対に記憶を取り戻してみせるから!君の記憶を食った夢魔を、殺してやる」

「夢魔に・・・記憶を食われた?」

「そうだよ。今の君は、僕に関する記憶だけを食べられたはずだよ」

浮竹は、首を傾げる。

「お前の記憶・・・・・大切なことを、忘れてしまっているのか」

また、ぽろぽろと涙を零した。



『遊びに来たぞー』

禍津神の浮竹が、術者の京楽と共にやってきた。

「あ、術者の僕!ちょうどいいところに・・・・・・」

『なんだ、桜文鳥。またなにかしでかしたのか。術者の俺が泣いてるじゃないか!』

禍津神の浮竹が、式の京楽の首を絞める。本気の力で、術者の京楽はなんとかふりほどいて、事情を二人に説明した。



『記憶を食う夢魔ねぇ。いるにはいるけど、希少存在だよ。それを探して殺すといっても、どこにいるのか・・・・・・』

「夢魔は、またやってくる。浮竹の記憶の味を味わったなら、虜になるはずだよ。今日の晩にでも、また記憶を喰らいにやってくる」

『じゃあ、そこを叩けばいいのか』

「協力してくれる?」

「術者の京楽と禍津神の俺と知り合いなのか、お前」

「そうだよ。君と一緒に知り合った」

「思い出せない・・・・・・」

術者の浮竹は、頭に手を当てた。

思いだそうとすると、酷い頭痛が起きた。

「俺は・・・このまま、お前のことを忘れたまま・・・・・」

浮竹の精神は、夢魔に記憶を食われた弊害か、感情が乱れやすく、精神年齢も幼くなっていた。

「このまま・・・・じゃ、いや、だ・・・・・・」

『俺たちがついてるから、大丈夫だ!』

禍津神の浮竹は、術者の己を抱きしめた。

「禍津神の俺・・・・俺は、本当に、この京楽という男の伴侶で、こいつは俺の式なのか?」

『そうだぞ。いつもお前にスケベ心をもつ、いかれた桜文鳥だ』

「ちょっと、何吹き込んでるの!浮竹が信じちゃうでしょ!」

「いかれた・・・・・すけべ・・・・・桜文鳥・・・頭が、痛い」

『そんなスケベはほっといて、夜まで時間があるんだし、遊ぼう!』

禍津神の浮竹がそう誘うと。

「遊んで、遊んで。何をしよう。鬼ごっこ?かくれんぼ?」

精神年齢の幼くなった術者の浮竹は、笑顔を浮かべて、水龍神化して、角や尻尾を生やした姿で、禍津神の浮竹の手をひっぱって、部屋の外に出ていく。

「あ、浮竹!」

『大丈夫、水龍神様。禍津神様がついてる限り、安全だよ』

「それはそうだろうけど・・・・・あんな幼い浮竹、僕はもっと味わいたい」

『それ、スケベな意味で?』

「違うよ!純粋に、ただもっと触れ合いたいだけだよ。あんな幼い浮竹、そうそうお目にかかれるものじゃない。でも、記憶を食った夢魔は許せない。八つ裂きにしてやる」

『記憶から消されたの、相当怒ってるね』

「当たり前でしょ」

二人の京楽は、夢魔が出てきたらどう処理しようかと相談しだした。


----------------------------------------

『今度は何して遊ぶんだ?』

「鬼ごっこも隠れんぼもした。室内で遊ぼう。すごろくしよう」

『ああ、いいぞ』

禍津神の浮竹は、術者の自分にとても優しく接する。

「浮竹、ちょっといい?」

びくりと、術者の浮竹が禍津神の浮竹の背後に隠れる。

「いやだ、傍にいると、胸が苦しくなって、頭が痛くなる」

「ねぇ、君の夢に出てきた夢魔はどんな夢魔だったの?」

「・・・・・花。彼岸花」

「そう。ありがとね」

術者の浮竹が覚えていた夢魔は、彼岸花の着物をきていた。人型の夢魔だった。

「彼岸花の夢魔ねぇ。聞いたこともない」

『どうだったの』

「彼岸花の夢魔だそうだよ」

『それ、花鬼(かき)じゃない?どこその誰かが、花鬼を改造してけしかけてきたのかも」

「狂い咲きの王か。あいつのしそうなことだね」

『うん。それより、センパイは大丈夫そうだった?』

「禍津神の浮竹とすごろくはじめてた」

『すごい、交じりたそうな顔してるね』

「僕も、幼いかんじの浮竹と遊びたい!」

『警戒されてるし、傍にいると頭痛起こすから、我慢だよ』

術者の京楽は、式の京楽の頭を撫でた。

「撫でられるなら、浮竹がいい」

『わがままだねぇ』


やがて夜になり、術者の浮竹は式の京楽の羽毛でできた羽毛布団の上ですーすーと、静かに眠りについた。

隣の部屋では、術者の京楽と禍津神の浮竹が、緊急時の時のために備えており、式の京楽は夢魔がくるの待つために、眠っている術者の浮竹の傍で起きていた。

「夢を、記憶をちょうだい。あなたの記憶、すごくおいしい。もっと、もっと・・・・・」

すーっと現れた、彼岸花の夢魔は、眠る浮竹の中に吸い込まれてしまった。

「これ以上、奪わせるものか!」

精神体となって、眠る術者の浮竹の中に入り込んだ式の京楽が見たものは、術者の浮竹が禍津神の浮竹と今日遊んだ記憶だった。

「欲しい。その記憶、ちょうだい?」

「そこまでだよ!」

「誰!邪魔しないで!」

「邪魔なのは君のほうだよ。浮竹の記憶を返してもらうよ!」

浮竹の精神世界の中で暴れまくるわけにはいかず、夢魔を外に引きずりだした。

「こんな、こんなことになるなって聞いてない!」

「ああそうだろうね。どうせ藍染にそそのかされたんだろうけど、相手が悪かったね。死んでもらうよ」

「待って!私を殺すと、この人は記憶を取り戻さないわ!」

「じゃあ、記憶を返して」

「いやよ。こんな美味しい記憶・・・・・」

「返す気が起きるように、するだけだよ」

ニタリと、式の京楽は残酷に笑んだ。

「いやあああああああああ」

破壊の炎と浄化の炎になぶられて、さしずめ酷い拷問といったところだろうか。

彼岸花の花鬼の夢魔が、自分から記憶を返すまで痛めつけた。

「ひっ、い、命だけは助けて」

「だめだね。僕の浮竹に手を出した罰だ」

「ひいいいいいいいいいいい」

夢魔は、枯れた彼岸花を残して、この世から消え去った。


『うまくいったのか?』

『僕たち、助太刀するつもりだったのに』

「君たちに任せたら、すぐ終わってしまいそうだったから」

隣の部屋で、夢魔の酷い叫び声を聞いていた二人は、式の京楽を本気で怒られるとどういう目にあうの少し分かったようだった。

水龍神であるが、今回は町が水没するような怒りではなく、夢魔一人を拷問して殺す怒りだった。

「あ・・・・きょう、ら、く・・・・・・・」

うっすらと目を開けた術者の浮竹が、ゆっくりと半身を起こす。

「俺は・・・・彼岸花の夢魔に、お前の記憶を食われて・・・・・お前を拒絶して・・・」

「もぅ、終わったことだから。気にしなくていいんだよ、浮竹」

「俺は、お前を忘れた。夢魔に記憶を食われたとはいえ、大切なお前のことを」

術者の浮竹は、式の京楽の背中に手を回して抱き着くと、その体温を確かめる。

「記憶、戻してくれて、ありがとう。禍津神の俺、術者の京楽も心配をかけたな」

『元に戻ってよかったね』

『むう。俺は、もう少し素直な術者の俺と一緒に居たかった』

『こら、禍津神様。無理難題をふきかけない』

『とりあえず、記憶が戻ってよかったな、術者の俺!」

「ああ・・・・彼岸花の夢魔は死んだのか」

「僕が殺した」

「そうか」

「裏で糸を引いているであろう、狂い咲きの王に関しては、情報が少なすぎるからこっちから趣くのは無理だね。すごく拷問してくびり殺したいけど」

いつもの温和な式の京楽は、残酷に笑った。

『じゃあ、俺たちは帰るな』

『お邪魔だろうし』

「え、あ、え」

術者の浮竹が何かを言う前に、式の京楽に押し倒された。

「僕が、どれだけ心配したと思ってるの。もう、僕のこと忘れられないように、その体に刻みつけてあげる」

「盛るな!」

「無理。君を抱くよ」

「んんっ」

去って行った二人の見送りもできずに、記憶の戻った術者の浮竹は式の京楽に、その体に刻み込むように愛を与えていく。

「ああ!!!」

「もう、僕を忘れないで。約束できる?」

「約束するから、あ、あ、あ、もうやぁあああ」

京楽に乱されながら、浮竹は京楽に口づけた。

「お前だけを、愛している」

「僕もだよ、十四郎」

「あ、春水・・・もっと・・・・・・」

求めてくる愛しい伴侶に、京楽はごくりと喉を鳴らした。

「愛してる・・・・・・」

妖艶で、淫らな浮竹を見ることができるのは、京楽だけ。

京楽は、キスマークを浮竹の体中に残しながら、愛しあうのだった。


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祓い屋京浮シリーズ24

「おお、姫よ。そなただけを、我は愛してるいる」

「やめて!私は姫なんかじゃないわ!ただの女子高校生よ!あなたは落ち武者でしょう!あなたは死んでいるのよ」

「姫よ、何を言っておるのだ。来月には祝言をあげると誓い合ったではないか。我と共に、ゆこうぞ」

「嫌よ!私には、好きな人がいるの!浮竹十四郎と言って、すごい術者なんだから!」

「なんと!姫をたぶらかす悪しき者がいるのか。おのれ、許さぬ浮竹十四郎。煉獄に送ってくれようぞ」



「落ち武者の霊に、姫と呼ばれて攫われそうになるんです。とっさに、あなたの名前を口に出したら、煉獄に送るとかいいだして・・・すみません、高校生なので依頼料は10万しか出せませんが・・・・・落ち武者を祓ってくれないでしょうか」

「君ねぇ、よりによって浮竹の名前を・・・・」

「黙れ、京楽」

「ちゅん」

京楽は、桜文鳥の姿にされて、ちゅんちゅんと抗議してから、浮竹の肩に乗った。

「かわいい・・・・」

触ろうとする女子高校生の手を、京楽は嘴でつついた。

「いたたた」

「こら、京楽!」

「ちゅん!」

「話は分かった。落ち武者の霊は、必ず浄化しよう。今は憑いていないようなので、しばらくこの屋敷で生活してくれ。落ち武者が現れ次第、浄化しよう」

「あの、あなたのことが好きなのは本当なんです!」

女子高校生は、顔を真っ赤にさせながら、叫んだ。

「すまない。俺はこの水龍神・・・今は文鳥の姿をしているが、そいつと結婚式まで挙げてしまったし、こいつのことだけを愛している。君の気持には答えてやれない」

「いえ、いいんです。ただの、一目ぼれでしたから・・・・」

依頼者の女子高校生は、涙を流した。

「ルキア、後を頼む」

「はい、ご主人様」

同世代の少女になら、心を開くだろうと、ルキアにフォローを任せて、その落ち武者について文献を漁る。

「ふむ。平家の落ち武者だな」

「平家かぁ。壮絶な最期だったらしいし、やっかいな落ち武者に憑かれたものだね」

「霊能力者に、一応お祓いを受けて、一時は憑かれなくなったそうだが、また憑いたり憑かなかったりで、今度は攫っていきそうになるそうだ。浄化するしかない」

「そうだね。落ち武者は自分が生きていると勘違いしてる連中が多いから」


それから数日が経ち、同じ屋敷で生活している女子高校生の悲鳴で、浮竹と京楽は目を覚ました。

「きゃあああああああ!!!」

「現れたか!」

「我を裏切ったか、姫よ!よりにもよって、浮竹十四郎の館にいるとは!密通していたな!?我以外の子を身籠ったか!」

「違うわ、あなたはもう死んでいるの!それに私はあなたなんて知らない!あなたの姫なんかじゃない!」

「ああ、口惜しや。この身がもっと動けば、姫を・・・・・・」

「そこまでだ」

「そこまでだよ」

「出たな、浮竹十四郎という術者とそのお供!」

「誰がそのお供だよ!僕は京楽春水。浮竹の伴侶で夫だよ!」

「修道か。珍しくはないが、我が姫をたぶらかした罪、その命で贖ってもらおう!」

浮竹は、落ち武者に向かって式札を飛ばした。

「む、動けぬ」

「そのまま、浄化されろ」

「なんのこれしき!」

落ち武者は、兜と鎧を残すと、霊体のみの体で浮竹に体当たりをしかけた。

「ぐっ」

霊体に直接ダメージがいって、浮竹が蹲る。

「マオ!」

「にゃああああ!!!」

浮竹に呼ばれて現れた式の猫のマオは、落ち武者に噛みついた。

「ひいい、猫は、猫はいやじゃあああああああ」

「マオ、そのままで。京楽、浄化するぞ」

「分かったよ!」

二人は、力を合わせて浄化の炎を作り出すと、落ち武者に放った。

「むう、我はただの落ち武者にあらず。雷神を食うた、半神よ!」

ばちっと雷の音がして、浄化の炎が消された。

「雷神を食っただと!厄介な!」

「僕たちは水龍神。雷神を1匹食ったくらいで、やられはしないし、神は食われると普通滅びる。お前に宿っている力は、雷神そのものではなく、残滓だ」

「雷神の力を受けるがいい!」

落ち武者は、雷を飛ばすが、途中で消えてなくなった。

「な、何故だ!姫、逃げるぞ!」

「やめて、こないで!」

女子高校生にもたせた、強力な浄化の札で、落ち武者が怯む。

「今だ、いくぞ、京楽!」

「分かってるよ!浄化の力よ、燃え上がれ!」

ぽっ、ぽっ、ぽっ。

落ち武者の周りに浄化の炎による五芒星が描かれ、その中に落ち武者が吸い込まれていく。

「ああああ、姫、我を助けよ!その命を差し出し、我の糧となれ!」

「きゃああああああ!!!」

現れた、落ち武者が最後の力で投げた霊刀に、女子高校生は貫かれた。

「踊れ踊れ、浄化の焔よ!踊れ踊れ、癒しの焔よ!」

浮竹の祝詞で、女子高校生の霊刀で貫かれ、血しぶきをあげていた傷が塞がっていく。

「姫えええ、ああ、姫ええ」

落ち武者は、それだけを言い残して、浄化された。

「大丈夫か!」

「君、大丈夫!?」

「ええ、なんとか・・・・それより、落ち武者は!?」

「浄化して滅びたよ。もう、君をつけ狙うこともないだろう」

「ありがとうございます。あの依頼料少ないですよね。数日ここでお世話になったし・・・社会人になったら、ちゃんと依頼料を払いますから!」

「いや、気にすることはない。10万のままでいい。もう、家に帰っても大丈夫だぞ」

「そうですか・・・・長居するのもなんなので、私帰りますね。ありがとうございました!」

女子高校生は、手早く荷物をまとめると、足早に去っていった。

「浮竹、傷見せて」

「気づいていたのか」

「あの祝詞は、誰かの傷を肩代わりするためのもの。霊刀で貫かれた女子高校生の傷を、肩代わりしたね?ああ、ひどい火傷だ」

雷神を食ったというのは本当らしく、落ち武者の残した傷は深く、浮竹は血を廊下に流した。

「癒しの力よ・・・・・」

「癒しの力よ・・・・」

京楽が注ぎ込む癒しの再生の力に、浮竹が己の治癒能力を乗せる。

「よし、もう大丈夫だね。依頼人を守るためとはいえ、無茶をしたね」

「仕方ないだろう。あのままじゃ、依頼人が死んでた」

「肝が冷えたよ。なるべく、あんなことはしないで」

「分かっている」

浮竹の傷は、傷跡も残らないほど綺麗に消えていた。

「助けて!!」

「この声は?」

「花鬼(かき)の鳴(めい)の声だ!何かあったんだ、行こう!」

「うん!」

庭に出ると、椿の狂い咲の王が、花鬼の鳴の首を締め上げていた。

「鳴を放せ!」

「この花鬼は、私に服従しない。花鬼の全ての頂点にいる私を」

「破壊の焔よ!」

京楽が、破壊の渾沌の炎を藍染に向けると、藍染は鳴を放して、後ずさった。

「神々の力は、厄介だな」

「僕たちは神だ。椿の狂い咲の王程度、いつでも殺せる」

「さぁ、それはどうかな?」

椿の狂い咲き王は、京楽の背後に回り込んで、霊力をかすめ取る。

「破滅の焔よ!」

今度は、浮竹が混沌の力を使う。隙をつかれた椿の狂い咲きの王は、体を焼かれながら笑った。

「はははははは、私を焼いても無駄だ。新しい私が生まれ落ちるだけだ」

「椿の精・・・・本体を枯らさないと、だめってことか」

「ふふふふ・・・・・」

「覚悟しておけ。俺がお前の本体がどこにあるのか、知らないとでも思っているのだろう」

「まさか・・・・」

「他の花鬼から、お前の本体がある位置を教えてもらっている」

「く、引っ越すしかないか」

「滅せよ!」

「ぐああああああ」

椿の狂い咲の王は、灰となったが、本体の椿を枯らしたわけではないので、またいずれ復活するだろう。

「すごいね、浮竹。いつ、花鬼から椿の狂い咲きの王の本体の場所を知ったんだい」

「ただのはったりだ」

「ほえ~」

「今頃、慌てて引っ越してるだろうさ。次の土地に馴染むまで、時間がかかる。しばらくは、姿を見せないだろう」

「浮竹、素敵!」

「きもい!」

「酷い!ちゅんちゅん!!!」

「かわいこぶっても、きもい」

「ちゅんちゅん~~~!!!」

京楽は、かわいこぶりっこをして、浮竹の前で文鳥姿で踊りだす。

求愛のダンスだった。

「鳴、大丈夫か」

「はい。助けてくださって、ありがとうございます」

「家族だろう。当たり前のことをしただけだ」

「あの、椿の狂い咲きの王の怒りを買ったのでは・・・・・」

「知らん。あの男のことはくわしくないし、たまに目の前に現れるが、戦いを挑んでくるわけでもないし、京楽の言った通り、神でもある俺たちにの前では、倒されるしかない」

「そうですか・・・・でも、何かありそうです。どうか、お気をつけて」




「浮竹にこの場所を知られていたなんて、とんだ失態だ。花鬼ども、急げ!次の土地にひっこすぞ!」

一人、慌てる藍染の姿があったという。

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祓い屋京浮シリーズ23

「禍津神の浮竹がいなくなった?」

『うん。朝起きると、十四郎がいないんだ。気配を探してもいないし・・・』

「禍津神の浮竹なら、ゲストルームで「鳥臭い」と言いながら、式の京楽の羽で作った羽毛布団にくるまって寝ているぞ?」
 
『ええ、センパイの家におしかけたの!?』

「押しかけたっていうか、朝になると扉の外で寝てた。喧嘩でもしたのか?」

『ううん、ちょっと、その、夜の営みを・・・・・』

術者の京楽は口ごもる。

「ああ、拒絶されたのか。それをしつこくしようとして、逃げられたんだな」

『しつこくなんてしてないよ!』

「式の俺は欲求には素直だが、食い気が多いからな。腹をすかせていたようだったし、俺の家のゲストルームで寝る前にカニ鍋食べてたしな」

『またカニ鍋・・・・・』

「はまってるんだそうだ。毎日カニ鍋なんだろう、そっち」

『お察しの通りで・・・・栄養バランスが崩れるから、だめっていったら涙浮かべられるものだから、つい・・・・』

術者の浮竹は溜息をついた。

「あんまり、甘やかすなよ?たまにはムチも必要だ。アメばかりだと、だめになる」

『分かってはいるんだけどねぇ』

「浮竹おはよー」

「おはよう」

式の京楽が起きてきた。

「なんか、朝に禍津神の浮竹が家の外で寝っ転がってたけど、喧嘩でもしたの?」

『いや、なんていうか』

再び説明するのが恥ずかしくて、術者の京楽は黙り込む。

「カニ鍋を食べにきたけど、眠くなって寝ていただけだ」

術者の浮竹が助け舟を出した。

「またカニ鍋ぇ?禍津神の浮竹がくる度にカニ鍋でしょ。たまには違うのが食べたい」

「じゃあ、今日は松阪牛のシャトーブリアンのステーキにしよう」

「わお、豪華だね!」

「たまには肉を食いたくなるしな。どうせなら、一級品を食べよう。両親が富豪だったせいで、金は腐るほどあるからな。その上で術者をして、依頼料だけでもかなり貯まってるし」

『うわお、お金持ち―』

「そういう術者の京楽も、そこそこ金はあるだろう?」

『あるけど、禍津神様のせいでかなり減ってきてる』

3人は、溜息をついた。

「あのブラックホールをなんとかしない限り、食事代で依頼料も消えるな」

『でも、禍津神様は・・・十四郎は食べるのが好きだから』

「まぁ、気軽にいつでも今まで通り、夕飯を食べにくるといい。朝食でも昼食でもいいぞ。なんなら、夜食だって・・・・」

『それは本当か!?』

起きてきた禍津神の浮竹は、目をキラキラさせながら、術者の己を見ていた。

「俺たちが起きていない時は、ルキアと海燕に言えば、食事を用意できるように手配しておく」

「ちょっと、浮竹、アメとムチでアメが多すぎるよ」

「はっ。あの瞳で見られると、つい・・・・・」

「失礼します。依頼者の方がお見えです」

ルキアが、そう言って入ってきた。

「ああ、通してくれ。京楽、リビングルームに移動するぞ」

客人である、術者の京楽と禍津神の浮竹は、ゲストルームに引っ込んだ。

「のっぺらぼうが出るんです!ただ出るだけならいいけど、顔が欲しいと、人の顔の皮をはいでいくんです!もう被害者が5人も出ていて、みんな顔の皮をはがれて、重症です」

「のっぺらぼうは、普通顔を欲しがらないんだがな」

「ですが、事実顔の皮をはいでいまして。被害者が言うには、「顔が欲しい、顔をよこせ」と言って、逃げても追いかけ続けて、顔の皮をはがれてしまうんです」

「退治するしかないな。この件、引き受けよう」

「大丈夫、浮竹?自分を囮にする気でしょ」

「依頼を受けてくださり、ありがとうござます。前払いで200万・・・どうか、のっぺらぼうを退治してください」

「分かった。京楽、俺も水龍神になったんだ。たとえ、顔の皮をはがれてもすぐ癒しの力で再生できる」

依頼人は、ぺこぺこと何回もお辞儀をして、出ていった。

「さて、のっぺらぼう退治といくか」

『話は聞こえてたぞ!おもしろそうだな、俺も・・・もがー』

『だめだよ、十四郎。これは遊びじゃないんだから。センパイの仕事の邪魔、しちゃだめだよ』

「今回は、俺たちで当たる。禍津神の俺、留守番を頼む」

『カニ鍋してもいいか?』

「好きにしてくれ」



こうして、術者の浮竹と式の京楽は、のっぺらぼう退治に乗り出した。

「ここが、依頼のあった村だ」

海燕に車を運転してもらい、依頼があって被害の出ている村にやってきた。

近くには大きな病院があって、被害者から話を聞いた。

いわく、仕事の帰りに背後から忍び寄って脅かされて、逃げようとすると顔が欲しい、顔をよこせと、顔を皮を無理やりはがれるらしい。

被害者は皆見目麗しい男性で、若かった。

「俺が囮になろう」

生きたま皮をはがされる痛みは、想像を絶するが、浮竹は自分が囮になると言って聞かなかった。

「ねえ、やっぱり僕が囮になるよ」

「俺のほうが、弱そうに見える。髭の生えたお前より、髯のない若い男の顔を好むようだし、自分で言うのもなんだが、顔立ちは整っているほうだ。まだぎりぎり若いし・・・・」

浮竹は、仕事帰りを装って、被害者が出た道を歩いていく。

その上を、空から桜文鳥姿で、違和感がないように、京楽が飛んでついていく。

2日は収穫がなかったが、3日目の夜にのっぺらぼうが出た。

「顔が欲しい。顔をよこせ」

「出たな、のっぺらぼう!お前の悪事もここまでだ。退治する!」

「おのれ、術者か!関係ない、顔をいただくぞ!」

「うっ!」

浮竹は、顔の皮をはがれてしまった。

顔面が血まみれになるが、癒しの力で再生させて、のっぺらぼうが消える前に、その体に式を放つ。

「ぎゃあああああ、顔が、せっかく得た顔が燃えるうううう」

浄化の炎の式札は、のっぺらぼうの顔を焼いた。

浮竹の顔をしていたので、文鳥姿から人型に戻った京楽は、愛する者の顔の皮を奪ったのっぺらぼうが許せなくて、わざとじわりじわりとその身を、最近夜刀神でもある術者の京楽から教えてもらった破壊の力で、焼いていった。

「よくも僕の浮竹を傷つけたね」

「顔が、私の美しい顔が!」

「お前は醜い。どんなに美しい顔の皮をはいだって、それは本当の顔じゃない。のっぺらぼうには顔はないんだから、皮を被ったところで腐ってしまうのがおちだ」

顔の皮をはがされたとは思えない浮竹の言葉に、京楽も頷く。

「浮竹を傷つけた報いだ。被害者たちの分もある。苦しみながら死ぬといい」

京楽は、破壊の力で混沌の炎を生み出し、のっぺらぼうの全身を焼いた。

じわり、じわりと全身を焼かれて、のっぺらぼうが叫ぶ。

「退治するなら、一思いに殺してくれ!痛い、痛い、熱い、熱い!」

「お前がしでかしたことの報いだ。焼け焦げで死んでしまえ」

やっと全身を焼かれて、のっぺらぼうは灰となった。

「浮竹、顔は!?」

「再生させたが?」

「傷跡とかない!?」

「だから、完全に再生させた。俺の再生能力は、お前が知っているだろう」

「それはそうだけど、愛しい人が顔の皮をはがされるなんて、心臓に悪いよ」

「まさかいきなり顔の皮をはがされるなんて思っていなかったからな。まぁ、退治できたし、結果オーライだろ」

「オーライじゃないよ。痛かったでしょ?」

「この程度の痛み、気絶するほどのものじゃない」

「被害者たちは、あまりの痛みに失禁したり気絶したって言ってたけど?」

「俺も今やあやかしだ。痛みに強くなった」

「そう。もう、無茶はしないでね!心臓が止まるかと思った」

「ああ、悪い。心配をかけた。さて依頼主のところに行く前に、被害者たちの傷を癒していこう」

「うん、そうだね」

浄化と再生・・・・癒しを司る水龍神の二人にかかると、顔の皮をはがされた被害者は元の姿にすぐに戻った。

謝礼金をいただいて、その足で依頼者の家にいく。

「被害者の傷まで癒してくれたそうで・・・・被害者の中に俺の兄がいたんです。ありがとうございました。これ、追加の報酬金です」

「ありがたく、いただいておく」

術者は、命をかける仕事だ。

危険な場所に乗り込んで、あやかしを退治したり封印したりする。

「もう、のっぺらぼうは出ませんよね?」

「完全に灰にしたからな。もう出ないはずだ」

そんなやりとりを、遠くから見ている影があった。



「ほお。顔の皮をはがされても、怯むこともないか・・・・・・」

椿の狂い咲きの王であった。


見られているとも知らず、二人は帰路につく。

「神となったその力・・・・私は欲しい」

そう言って、椿の花を残して、狂い咲きの王は消えてしまった。



「ただいま」

『おかえり~』

すっかり、住民と化してしまった禍津神の浮竹が、出迎えてくれた。

『カニ鍋は卒業したぞ!今は松阪牛のステーキにはまってる!』

「そうか。まぁ、好きなように食べるといい」

『ちょっと、センパイどうしたの。顔の皮、再生したね?』

目ざとい術者の京楽に、術者の浮竹は苦笑いを浮かべた。

「ちょっと、のっぺらぼうに顔の皮を奪われてな」

『な、痛かったでしょ!大変じゃない!』

『何、やられたのか!傷は!』

「はいはい、二人とも落ち着いて。浮竹は水龍神となったことで癒しの力が倍くらい強まってるから、大丈夫だよ」

『桜文鳥がついていながら、傷を負わせたのか』

「それには面目もございません・・・・・」

『傷跡が残っていなくても、痛みはあっただろう。かわいそうに』

禍津神の浮竹は、術者の浮竹の頭を撫でた。

「こそばゆい」

術者の浮竹は、式の己の頭を撫で返した。

こうやって仲良くしていると、少し年の離れた兄弟にしか見えない。

「眼福ですな」

『そうだね』

「お腹へった。俺も、松阪牛のステーキ食べる。おい、海燕、食事の用意をしてくれ」

「主の望むままに・・・・・・」

ルキアは、黒崎一護と出かけており、屋敷にいる人型の式は京楽と海燕しかいなかった。

海燕は料理の心得もあるので、式の京楽が料理をしない時は、ルキアと一緒になって術者の浮竹の食事の準備をした。ついでに自分たちと式の京楽の分も。

術者の浮竹の式たちは、人並みに欲を持っていた。

だから、おなかもすかせる。

食べなくても生きていけるが、主である浮竹が自由意思を尊重しているため、食事と睡眠はきっちりととるようにしていた。

「松阪牛のシャトーブリアンのステーキです」

「お、うまそうだな」

『俺も食べたい』

『こら、十四郎はさっき食べたばかりでしょ』

「京楽、お前も食え」

「ああ、うん・・・・・」

式の京楽は、椿の狂い咲の王の視線に実は気づいていたのだが、何も言わなかった。

相手の企みが何かすら分からないのだ。

のっぺらぼうをわざとけしかけたわけでもないようなので、ただ周囲にもう椿の狂い咲の王の気配がないかを探知する。

「食べないなら、禍津神の俺にやるぞ」

「あ、食べるから!!!」

式の京楽のステーキは、半分は禍津神の胃に消えてしまうのであった。



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祓い屋京浮シリーズ22

『新婚旅行のおみやげ、うまかったぞ!また送ってくれ!』

禍津神の浮竹が一人で、おみやげの夕張メロンも白い恋人を食べてしまったのは、いうまでもない。

「いや、もう新婚旅行にはいかないから、おみやげはないぞ」

『え、ないのか!哀しいぞ!』

食いしん坊の禍津神の浮竹は、冷凍保存されて送ってこられたカニを見ていた。

『カニ・・・・』

「カニ鍋するから、食べていくか?」

「氷女の雪を止ませる依頼を北海道で受けたら、依頼料が金のかわりに大量のカニになったんだよねぇ」

『カニ・・・もちろん、食べていくぞ!』

『ほら十四郎、カニはこの前食べたばかりでしょ』

『うまいものは何度食っても飽きない!』

『はぁ。センパイにたかるのはどうかと思うんだけど』

「気にするな。量が多くて、誰かに分けようと思っていたくらいだ」

術者の浮竹は、禁忌の術を使って不老不死になったが、式の水龍神である京楽の強い霊力を浴び続けたせいで、眷属化してさらに進化して、水龍神そのものになってしまった。

龍の姿にはなれるし、水龍神化した姿にもなれるが、水を自在に操り、再生能力と浄化能力が飛躍的にあがった。

元から浄化能力も再生能力もあったが、倍ほどの力になっていた。

「カニ鍋をしよう。術者の京楽も食べていけ」

『いや、悪いねぇ。十四郎が食べたそうにしているから、僕も食べていくよ』

夜まで新婚旅行の話で盛り上がり、夕飯の時刻になって、大きめの鍋に3匹分のカニが入れらてやってきた。

『春水、カニだぞカニ!この足、もらい!』

「式の俺、まだゆで上がっていない。それはお前のものにしていいから、ちゃんと火が通るまで待て」

『むう』

禍津神の浮竹は何か言いたそうにしていたが、ちゃんと言いつけを守る。

「湯であがった。みんな、食べよう」

『こっちの胴体の部分ももらうぞ。カニみそが美味いんだ』

「はいはい、好きなだけ食べてよ。まだまだカニはあるんだから」

結局、4人で6匹分のカニを食べた。

そのほとんどが禍津神の浮竹のブラックホールの胃に消えていった。

「最後は、雑炊でしめだ」

『カニの出汁がきいていて、美味いんだよな』

禍津神の浮竹がまたほとんどを食べてしまったが、みんなちゃんと自分の分は食べたので文句をいう者はいなかった。

『術者の俺、明日もカニが食べたい!』

「いや、さすがに連日は・・・・・」

『駄目か?』

キラキラした瞳で見つめられて、術者の浮竹は根負けした。

「明日は、カニの天ぷらにしよう」

『やった、カニだ!』

『ちょっと、十四郎、センパイに悪いよ。二日も夕ご飯をご馳走になるなんて』

「気にするな」

『そうだぞ、気にしていたらカニは食えない!』

禍津神の浮竹は、雑炊を食べたばかりだというのに、術者の浮竹と式の京楽が自分たち用に買ってきた温室育ちの夕張メロンを食べていた。

冷たく冷えていて、禍津神の浮竹たち以外も食べることにしたが、カニをたらふく食べた後なので、控えめだ。

『甘くておいしい。お代わりをくれ』

「式の俺、夕張メロンはあんまり買ってこなかったんだ。これで最後だ」

『むう、美味いものはすぐになくなる」

「それは、君が食べまくるからでしょ」

『うるさい、桜文鳥。鍋に入れるぞ』

「京楽鍋か。案外うまかったりしてな。水龍神の鍋」

「ちゅんちゅん!!!」

式の京楽は、文鳥姿になって抗議して、飛び回った。

それを、禍津神の浮竹が飛び上がって捕まえる。

「ちゅんーーー!!!」

「水龍神鍋・・・・ちょっと、うまそう」

「ちゅんちゅん!!(絶対にごめんだよ!)」

いつものように羽をむしられながら、ちゅんちゅんと式の京楽はなんとか禍津神の浮竹の手から逃れて、愛しい伴侶の肩に止まる。

「ちゅん!(暴力反対!)」

「お前のその姿を見ていると、俺も羽をむしりたくなるんだ」

今度は愛しいはずの伴侶から羽をむしられて、式の京楽はちゅんちゅんと抗議してから術者の京楽の頭に乗った。

それを、二人の浮竹が狙う。

「ちゅんーー!!(家出してやるうう)」

「暗いから、早めに帰ってこいよ」

「ちゅん(分かったー)」

そう言って、式の京楽は家出というか散歩というのかのに出かけてしまった。

「今日は泊まっていくのか?」

『ううん、新婚さんの邪魔をするほど野暮じゃないよ。今日は自分の家に帰る」

『俺は泊まりたい!この屋敷のゲストルーム豪華だし、ベッドふかふかだし、朝食もうまいから、帰りたくない!』

『十四郎、センパイに迷惑かけちゃだめだよ』

術者の京楽が、禍津神の浮竹を窘める。

『俺たちがいちゃ迷惑か、術者の俺』

「いや、大丈夫だ。泊まって行け」

『やったぁ!』

『センパイ・・・・いや、水龍神様、ありがとう』

「今まで通りセンパイでいい。水龍神は二人いるし、ややこしいしな」

『水龍神って、龍になれるんだろう?いいな、背中に乗ってみたい』

「いいぞ。今なら夜だし、人目もつかないから乗せてやろう」

術者の浮竹は、龍になると、禍津神の浮竹を背に乗せて、空を飛んだ。

『わぁ、すごい、すごい』

念のためにと、術者の京楽も乗っていた。興奮しすぎて落っこちそうな禍津神の浮竹を支えていた。

龍になった術者の浮竹は、水を浮かべさせながら空を10分ほど飛ぶと、降下して元の姿に戻った。

『ありがとう、術者の俺!空を飛ぶのは始めてだった!ネオンが綺麗だな!』

「クリスマス時期の前になると、駅前やらでイルミネーションが綺麗に点滅するぞ。ネオンの海にも負けない」

『春水、クリスマスになったら、イルミネーション見に出かけよう!』

『いいけど、それまで待てるの?あと2カ月はあるよ』

『むう、俺だって辛抱くらいできる!』

『十四郎、かわいいね』

『急になんだ、春水』

『いや、僕たちも結婚式挙げたいなぁと思って』

『そんな形だけの約束なんてなくても平気だろう?』

『まぁね。十四郎がドレス着たら、綺麗だろうね』

『ドレスは嫌だ!術者の俺みたいな恰好だったら許す』

術者の浮竹も、式の京楽にドレスを着てくれと言われたのだが、断固拒否して、白い着物と袴姿で、結婚式を挙げた。

ただ、ヴェールはかぶっていたし、ブーケももっていたので大分花嫁らしかった。

「俺は嫌だったけどな、花嫁は。でも、花嫁を京楽にさせると・・・・・」

式の京楽の白い着物姿でヴェールをかぶり、ブーケをもった姿を想像してしまい、3人は顔を青くした。

『想像してしまった。キモい』

「同じくだ」


「帰ってきたよー。おみやげはタコ焼き!」

「全部お前が悪い!」

帰ってきたところを、いきなりハリセンで殴られて、式の京楽は涙を浮かべて、たこ焼きをテーブルの上に置くと、外に出ようとする。

「いきなり酷い!もう家出してやる!二度と帰ってくるもんか!」

そう言って、文鳥姿になって、羽ばたく。

「消灯前には戻ってこいよ」

「ちゅん!(分かったー。ちょっと家出してくるー)」

全然家出になっていなかった。

ちなみに、式の京楽が買ってきた4人分のたこ焼きは、禍津神の浮竹のブラックホールの胃に消えるのであった。






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祓い屋京浮シリーズ21

人であることに、意味はあるのか。

人でないことに、意味はあるのか。

どちらを選んでも、生きていることには変わりない。

浮竹は、水龍神である京楽に愛され続けて、その身に霊力を浴び続けて、水龍神の眷属になりかけていた。

それを、京楽に黙っていたのだが、ある日突然覚醒して、瞳が金色になり、角を生やしている姿を京楽に目撃されて、京楽はショックを受けた。

「君を、あやかしにするつもりはなかったんだ。でも、君と交じりあっていれば、君が水龍神の眷属にいずれなると分かっていた。でも、愛したかった。僕は身勝手だね」

「別に俺は、お前と生きれるなら、人であろうと、人でなかろうとどちらでも構わない」

「水龍神の眷属というか、君も水龍神そのものになってしまってる。僕が霊力を注ぎすぎたせいで」

「つまりはSEXしまくったせいか?」

恥じらいもない言葉に、京楽は少し赤くなって、浮竹の手を握った。

「こうなってしまった以上、責任はとるよ。結婚しよう」

「はぁ?」

浮竹は、間の抜けた声を出した。

結婚?

今更?

もう結婚もして子もいるようなそんな生活を送っているのに?

「お前の気が済むなら、結婚するか」

「結婚式を挙げよう。術者の僕と禍津神の君も客として招待して・・・・・」

『結婚するのか?』

「「わぁ!!!」」

いきなりスーッと現れた禍津神の浮竹の言葉に、二人は驚いて心臓が口から飛び出しそうになっていた。

「禍津神の俺、入ってくるならせめてノックくらいしてくれ」

『だって、ルキアって子が入っていいって、鍵をあけてくれた』

『ごめんねぇ、水龍神様・・・・あや、術者の君まで、水龍神様になったの?』

「どうやら、そうらしい。で、結婚式を挙げたいんだと。招待されてくれるか二人とも」

『喜んで、式には出るよ』

『俺もだ』

「母上や兄上も呼んでいいかな?」

「好きにしろ」



水龍神である一族のほとんどに囲まれて、結婚式を挙げることになった。術者の京楽と禍津神の浮竹は、その中でもひときわ目立っていた。

『使役されるのではなく、眷属としてでもなく、同じ水龍神と結婚して対等の立場でいられることに、私は誇りを感じています。どうか、うちの息子と末永く幸せになってください」

式の京楽の母親は、自分の息子を式として使役する術者の浮竹のことを嫌っていたが、身内である水龍神になったことで、一族の者であるということを認めることにしたようだ。

「弟は変わり者でスケベで不甲斐ないが、どうか幸せにしてやってくれ」

式の京楽の兄にまでそう言われて、どれだけ京楽が一族の中で異端であったかが分かる。

「もう、あなたたちの仲を邪魔する者はいないでしょう。水龍神の一族の名にかけて、祝福を」

「「「祝福を」」」

『なんか、俺たち場違いの場所に来た感じだな』

『まぁいいじゃない。水龍神様をこんなに見られる機会なんてめったにないんだから」

術者の京楽は、水龍神たちを一人一人こっそり観察していた。

神と名のつく仲間に弱いし、興味があるらしい。



「京楽春水。永久に、この者を愛すると誓いますか」

「誓います」

「浮竹十四郎。永久に、この者を愛すると誓いますか」

「誓う」

「ここに、二人の若い水流神の結婚を認めます。皆さま、拍手を」

式の京楽は水色の着物と袴を、術者の浮竹は白い着物を袴を着ていた。

結婚式らしく、ブーケをもたされて、浮竹だけヴぇールをかぶせられた。

結婚指輪をはめあって、キスをした。

花びらが舞い落ちて、二人を祝福する。

知り合いの花鬼(かき)も何人か来ていた。

「おめでとう!」

「おめでとー!」

「なんか、大事になったな。別に、今までの暮らしが変わるわけじゃあないのに」

「形式でも、結婚は大事だよ。君が僕の本当の伴侶になってくれた証だから」

指輪は、術者浮竹の元の瞳の色である翡翠があしらわれていた。

「新婚旅行に行こう。海外に行きたいとこだけど、海外のあやかしのごたごたに巻き込まれるのは嫌だから、北海道にしよう」

「はぁ。もう、好きにしてくれ」

結婚式がつづがなく終わり、二人は初夜を迎える屋敷に案内された。

「初夜だってさ。お前と何百回交わってきたことか」

「今日は初めての気分でいてよ」

「無理言うな」

「せっかくの初夜だし、薬でも使ってみる?」

「そんなことしたら、離婚するぞ!」

「しない。しないから離婚しないで!」

その日は、浮竹が嫌だというまで焦らされた。

いつもより深く愛し合い、浮竹は意識を久しぶりに飛ばした。

朝起きると、すでに湯浴みをされて、後始末をもされて、浴衣を着せられていた。

「一週間は、新しい水龍神が生まれた祭りのために、僕の生まれ故郷であるこの湖の傍の城で過ごしてくれってさ」

「まぁ、別にいいが」

「愛してるよ、浮竹。・・・・・十四郎」

「俺も愛してる、春水」

唇を重ねると、遊びにきた術者の京楽と禍津神の浮竹が部屋に入ってきた。

『あ、お邪魔だったね』

『水龍神、まだ朝だぞ。盛るな』

「ただキスしてただけだよ!」

「さすがに朝からはしない。昨日したばかりだ」

『うわぁ、熱いねえ』

「初夜だったしな」

『お前たちに、初夜という言葉が向いていないと思うんだが』

「まぁ、俺もそう思う」

結婚式も終わり、水龍神の城で一週間滞在してから、新婚の二人は北海道へ一週間の旅行に出かけた。

少し肌寒い季節であったが、いろんなおいしいものを食べたりできて、二人とも幸せだった。末永く幸せに暮らせと言われたが、そんなこと言われずとも禁忌の術を使っているので、長い時おを式の京楽と生きることに変わりはない。

「おみやげ、白い恋人でいいか。夕張メロンも一応買っておこう」

温室で育てられた夕張メロンを、ホテルで食べたが、とても甘くておいしかった。

術者の浮竹はおみやげを、術者の京楽と禍津神の浮竹、それに海燕とルキアと、マオとヨルに、夜一、それに花鬼(かき)の鳴(めい)と、家族に近い相手を選んだ。

一方の京楽は、おみやげを本当の家族であった水龍神の一族、母と兄と従兄弟などに配ることにした。

「はぁ。カニはうまいな」

「うん、おいしいね」

ホテルの夕食に出されたカニのフルコースを食べ終えて、術者の浮竹と式の京楽は満足気だった。

別に、浮竹の屋敷でも食べれるのだが、本場の土地の新鮮なカニは、また別格の味だった。

北海道を散策し、おいしいものを食べてお土産を送り、一週間はあっという間に過ぎてしまう。


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「あんたら、よそのもんか。術者だな。どうか、雪を降らし続ける氷女を説得してくれんか。このままでは、作物が育たない」

依頼料代わりにカニをたくさんもらって、それを冷凍保存して屋敷充てに送ると、浮竹と京楽はその氷女のいる場所に向かった。

「なぁ、氷女。雪を降らし続けるのを止めてはくれないか。町の人が困っている」

「雪が降らないと、あの人が帰ってこないの」

「どういうことだい?」

「約束したの。雪が降る時期にもう一度会おうって。そのことを、事故にあって50年間も忘れていたの。約束したの。雪が降れば、あの人はまた・・・・・」

「氷女、その相手はもう死んでいる」

「何故、そう言い切るの?」

「お前の傍に、幽霊の男性がいる」

「え。あなた、あなたいるの?私には見えない。ねぇ、教えて。どうすれば見えるの!」

「今、お前にも見れるようにしてやる」

浮竹が霊力を注ぎ込み、霊体の男性を人でも見れるようにした。

「あなた!」

「ああ、やっと声が届く。ありがとう、術者の方。カホ、私は47年前に、交通事故で死んでしまったんだよ。カホ、約束を果たせなくてごめんな。どうか、お前だけでも幸せにおなり」

「いやよ!ずっとあなたを待っていた!私も、そっち側に行くわ!」

「カホ・・・・・・」

「あなた、愛しているわ」

氷女は、雪を降らせるのを止めると、霊体の男性を包み込み、少しずつ溶けていく。

「これでいいのか、氷女」

「ええ、いいの。あの世で、またこの人と幸せになるわ。種族は違っても、生きる時間が違っても、きっと永遠はあるわ」

「氷女ちゃん、新しい命をあげる」

京楽は、溶けていく氷女と霊体の男性に再生の力を与えた。

二人は、白い小鳥となって、寄り添いながら飛んでいく。

「力、かなり使ったな?」

「でも、あのまま消えるのはかわいそうだよ」

「俺の力を分けてやる」

キスで力を分けられて、京楽は浮竹を抱きしめた。

「永遠は、あるよね?」

「ああ、あるさ」

屋敷に帰る前日、ホテルの外に二羽の小鳥がいた。

「ちちちちち」

「ちちちち」

「ああ、仲良くしてるみたいだよ」

「お前、たまにはいいことするんだな」

「たまにって何!いつもいいことしかしません~~~」

「盛る鳥のくせに」

「ぐ・・・・・」

痛いところをつかれて、京楽はあらぬ方角を見る。

「とにかく、帰りますか。我が家に」

「ああ、そうしよう。帰ろうか」

二人は、氷女と男性のように、寄り添いあいながら、歩き出す。

「ちちちちち」

そんな二人を祝福するかのように、白い小鳥はいつまでもいつまでも鳴き続けるのだった。



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祓い屋京浮シリーズ20

「できた!京楽100%羽毛布団!!!」

「はぁ・・・羽むしられすぎてストレスで10円はげが3つできた」

「名誉の勲章だと思え!」

「普通、こんなか弱い小鳥の羽むしる!?いくら超速再生があるからって、小鳥一羽で羽毛布団の材料をとか無理ありすぎ」

ここ数日、黙々と羽をむしられ続けた京楽は、ストレスで10円はげが3つできていた。

「アデランスか育毛剤・・・・」

「いいよ、再生能力高まらせて治すから!」

京楽の体が金色の光り、瞳も金色になってて瞳孔が縦に収縮する。

半ば水龍神の姿になって10円ハゲを再生させた京楽は、自分の羽毛100%の布団で寝てみた。

「お、案外悪くないね。ふかふかだ」

「そうだろう。クッションもふかふかだったし、羽毛布団も作りたかったんだ」

「はぁ。君を愛しているから許すけど、普通ここまでされると怒って二度と振り向いてくれないからね」

「京楽は、俺のものだろう?」

悪戯気に目を輝かせて、浮竹が羽毛布団に寝ころんだ京楽に口づけた。

「んっ」

「お、お誘いかい?」

「ここまで。お預け。続きは夜に」

「サービスしてよ?夜の営みもなしで羽むしられ続けたんだから」

「それは、気が向いたら」

「えー。けちー」

いちゃいちゃしてるところに、遊びにきた禍津神の浮竹と術者の京楽がやってきた。

『あ、お邪魔だったかな』

「そんなことはない」

自分のさっきまでキスをしてた式の京楽を蹴飛ばして、術者の浮竹は二人を迎え入れた。

「ほんと、なんでタイミングこうも悪いの」

『昼間っから盛る桜文鳥が悪い』

「はいはい。どうせ僕が悪いですよ」

「ずっと作ろうと思ていた、京楽の羽毛布団が完成したんだ!使ってみてくれ!」

『鳥臭い・・・ごほん、なんでもない』

禍津神の浮竹が、羽毛布団を見る。

術者の京楽は、羽毛布団に寝転がってみた。ふかふかだった。

「ふかふかだね。高級羽毛布団にも負けないよ」

「そうだろう。禍津神の俺も使ってみてくれ」

『えー。鳥臭い羽毛布団ってやだな。まぁ、術者の俺がかわいそうだから使ってやるが』

ためしに寝転んでみて、クッションよりもふかふかなのに驚く。

『鳥臭くなければ、欲しいところだな』

「残念なことに、まだ1つしかないだ。俺が使うから、あげれない」

『いや、鳥臭いからいらない・・・・』

「みんなで鳥臭い鳥臭いって、僕は水龍神だよ!小鳥の姿は仮の姿!」

『羽毛集められるから、いいんじゃないのか』

「僕は羽毛のためにいるんじゃないよ!家出してやるーーー!ちゅん!!!」

文鳥姿になると、窓から飛び出して行った。

「ヨル、念のために監視を頼めるか。ちょっと羽むしりすぎて、ほんとにちょっと家出してしまうかもしれない」

「かあ」

ヨルと呼ばれた鴉の式神は、京楽の後を追って窓の外から飛んでいった。

『あれも、君の式神?』

「ああ。鴉のヨルという。主に監視用に使っている」

『心配なら、式の京楽の足に位置が分かるリングでもつけたらどうだ』

「むう、そういう手もあるか。でも、京楽は今まで一度も家出すると言って、帰ってこなかったことはない。長くても半日の家出だ」

『あ、いけない!新しい式札を納品するの忘れていたよ!ごめん、十四郎、僕一度家に戻るね』

『あ、春水が戻るなら俺も帰る!』

二人は、慌ただしく帰っていき、術者の浮竹だけが残された。

「ふむ。一人だとけっこう寂しいな。ルキア、お茶にしよう。ルキアも飲んでいけ」

式のルキアを呼んで、二人でお茶をした。

式の京楽が作り置きしておいたバームクーヘンとアッサムの紅茶を飲みながら、ルキアに問う。

「最近、黒崎一護って男の子と仲がいいらしいな」

「な、一護は関係ありません!別に親しくなんか!」

「いや、式神だからって遠慮することはないんだぞ。海燕なんて婚約して結婚はできないと説明しておいたのに、結婚式挙げてしまったからな」

「海燕殿が、正直羨ましいです」

「ルキアも、もっと積極的になっていい。一護君を落としてこい」

「ご主人様!」

ルキアは顔を真っ赤にした。



一方、式の京楽は。

自宅に戻り、式札を納品した術者の京楽の家にきていた。

術者の浮竹の屋敷ほどではないが、そこそこに広い家だった。

『春水、桜文鳥がカレーの具になりたいって来てる』

『水龍神様・・・・どうしたんだい?』

「浮竹って、ほんとに僕のこと好きなのかなぁ?求めれば応じてくれるけど、羽むしるし、ハリセンではたいてくるし・・・・・・」

式の京楽は、ちょっとナーバスになっていた。

しくしくと、桜文鳥の姿で泣き出す。

『好きじゃなかったら、君と同じ時を生きようとはしないでしょ?禁忌の術を使ったくらいなんだから、よほど愛されているよ』

「禁忌の術って、何かあるの?」

『水龍神様、知らないで使わせたの?一緒に使った相手がいなと、時折激しい悪夢を見たり、激痛に苛まれる副作用があるよ』

「ええ、なんだって!」

『桜文鳥、心配なら家に帰れ。お前の飼い主が、今苦しそうにしている』

「え、分かるの?」

『式のヨルが、消えてる。術者の俺のことは、なんとなく分かるんだ。今、孤独の中にいる』

術者の浮竹は、ルキアと海燕が買い物にで出かけたことで、屋敷に本当に一人ぼっちになってしまった。

禁忌の術の副作用で倒れ、痛みを我慢して、羽毛布団の上で丸まって耐えていた。

「今すぐ帰る!」

式のヨルを維持できないくらいの痛みに、いっそ気を失いたいと思った。

「きょ・・・ら・・・く・・・・・・」

助けて。

言葉にならない言葉を紡ぐ。

式の京楽は、文鳥ではありえない猛スピードで術者の浮竹の家に帰ると、窓から中に入った。

「浮竹、しっかりして。何処が痛いの!」

「ああ、京楽・・・・家出は終わりか?心配なんて、していないんだからな」

「強がりはいいから!僕は君の傍にいるよ。離れてごめん」

「・・・・ん、ああ。大分楽になった。禁忌の術の呪いは、分かっていたことだから、お前が謝まる必要はない」

「浮竹、君だけを愛しているよ」

「知ってる」

文鳥からいつの間にか人の姿に戻った京楽に抱きしめらて、浮竹はその背中に腕を回した。

「お前と同じ時を生きれるなら、どんな呪いでも受け入れる」

「そんなこと言わないで。僕は傍にいるから。呪いなんて、はね返してやる」

「家出は終わりか?今日の記憶は1時間30分。最短だな」

「もう、浮竹。ほんとにもう大丈夫?」

「ああ、もう大丈夫だ。心配をかけた。ただ、少し眠い。京楽も、一緒に寝よう。羽毛布団で」

心配して訪れた術者の京楽と禍津神の浮竹が見たものは、妊婦の胎内に居る双子のように丸くなって、鳥臭いと言われた羽毛布団の上で丸くなって眠っている二人の姿だった。

『風邪、引かないようにね』

毛布をかけてあげると、うっすらと術者の浮竹が目を開ける。

「すまない、眠くて、相手できない・・・・」

『ゆっくり休め。な、春水』

『うん。ゆっくりおやすみ、術者の浮竹と水龍神様』

ちゃっかりルキアを呼んでお茶をして、夕食もごちそうになり、ゲストルームで一泊していった。

次の日。

「お前なんか、家出してしまえ!」

「ああ、家出してやるよ!こんな家、二度と戻ってくるもんか!」

ケンカをして、まだ家出する式の京楽の姿があった。

念のためにと、夜刀神の京楽が、禁忌の術の呪いを抑えこむ式を術者の浮竹に与えたものだから、常に傍にいなくても呪いが侵食することはもうなかった。


3時間後。

残暑が厳しいからと、アイスを4人分買って、何気ない顔で帰ってくる式の京楽の姿があったそうな。

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祓い屋京浮シリーズ19

「九頭竜様が、お怒りで生贄を要求してくるんです。どうか、九頭竜様のお怒りを鎮めてください」

「退治ではなく、怒りを鎮めるでいいんだな?」

「退治なんてめっそうもない!あの方は神で、私たちの土地を守ってくださっていた。バカな若者が、九頭竜様の住処に忍び込んで、九頭竜様が大切にしていた玉を割ってしまったんです。九頭竜様はお怒りになって、その若者をさしだせと。しかし、いくら愚か者といっても、同じ土地の人間だし、玉を割ったからといって殺させるのも問題です」

「確かにそうだな。大切なものを壊されたからといって、生贄の要求は間違っている。分かった、この件引き受けよう。ただし、九頭竜に少し被害が出るかもしれないことを、承知しておいてくれ」

「はい・・・・・・」

依頼人は、九頭竜が守っている土地の人間の代表者だった。

九頭竜は、気性は荒いところがあるが、竜神であるため、神聖なものとして崇められ九頭竜もまたそれに答えて土地を守ってきた。

その九頭竜が怒って、玉を割った若者を生贄に要求してきた。

多分、話し合いだけでは決着はつかないだろう。

かといって、退治するにも神だから骨が折れるし、ここはなるべく穏便にいきたいところだった。

「ねぇ、浮竹大丈夫なの?九頭竜はあんまり優しい相手じゃないよ」

「話し合いで分かってくれなかったら、無理やりにでも黙らせる」

「うわ、浮竹かっこいい。惚れ直しそう」

「言ってろ。海燕、車の運転を頼めるか。今回は夜一も連れて行く」

「わあ、夜一ちゃんかぁ。会うの久しぶりだなぁ」

夜一は、浮竹のもつ人型の式だ。

褐色の肌をもつ美しい女性だった。ただ、猫の姿をとることが多くて、マオの高級ネコカンをこっそり食べて、雑多な人間社会に猫の姿のまま紛れこんで、浮竹の命令もあまり聞かず、自由気ままに暮らしているのだが、今回は夜一も連れていくことにした。

夜一は、夜叉神だ。

水龍神である京楽のように、神の一種だ。

同じ神である九頭竜の説得に、力を貸してくれるよう、浮竹は頼み込んだ。

「なんじゃ、無理やり呼び出しおって」

「実は・・・・・・」

事情を説明すると、夜一はどこから取り出し方も分からない牛丼を食べながら、頷いた。

「話は分かった。わしが、説得に応じなかった時は、神の力で黙らせればよいのじゃな?」

「言っとくけど、あまり傷つけないように。あと、殺すのは絶対になしだ」

「つまらんのう。たまには暴れたいぞ」

「暴れたいなら、いつもの依頼についてこればいいだろう。退治する妖怪も多い」

「嫌じゃ。めんどくだい」

「はぁ・・・・・夜叉神なのに、面倒な性格をしているな、夜一は」

「それが魅力なのじゃ」

夜一は、肌も露わな黒い服を着ていた。

慣れているので、浮竹も京楽も何も言わない。

「むう、この妖艶な姿に惑わされないとは、やはりお主たちは女性に興味がないのか」

「ただ単に、夜一、お前の姿に慣れているだけだ」

「夜一ちゃんは、かわいいし綺麗だよ。でも浮竹のほうがもっとかわいくて綺麗だ」

「惜しいのう。京楽が浮竹に興味などなかったら、わしが相手をしてやるのに」

「こら、夜一!」

「ははははは、冗談じゃ浮竹。そう目くじらをたてるな。お主たちの仲は知っている。邪魔をしようとは思わん」

海燕が運転する車の中で、またどうやって取り出したのか分からない、2杯目の牛丼を食べながら、夜一は欠伸をした。

「よく食うな、相変わらず。専用の冷蔵庫に食べるものを用意しているのに、食べつくしてこっち側の冷蔵庫の食品にまで手を出すのはなしにしてくれ」

「無理な相談じゃ。人型を保つのは、腹がすくのじゃ。猫の姿でいいなら、今からでもなるが?」

「一度猫になると、一週間はそのままだろう。頼むから、人型のままでいてくれ。帰りににバイキングに寄ってやるから」

「む、バイキングじゃと。食べ放題ではないか!約束じゃぞ」

「ああ、分かっている」

「夜一ちゃんはやっぱ色気より食い気だね」

「当たり前じゃ。まぁ、絶世の美女であるわしをなんともないように扱うのは、お主らくらいよ」

夜叉神は、好戦的な神であるが、腹をすかせていなければ案外温和だった。

「自分で絶世の美女とかいってるよ」

「何か言ったか、京楽?」

「な、なんでもないよ!」

「目的地に着きました」

海燕が、車を停めた。

「さて、その九竜頭とやらに灸をすえてやらねばな」

「なるべく穏便にだぞ!」

「穏便にだよ!」

「分かっておるわ」

3人は、村に移動してそのまま、九頭竜が住む大きな洞窟に案内された。

「人の子か。我は今機嫌が悪い。大切な玉を割った人の子を差し出せといっているのに、人の子たちは応じない。この地を守るのをやめて、水に沈めようか・・・・・」

九頭竜は巨大な竜で、頭が9つあった。

「九頭竜、新しい玉だ。前の玉ほど美しくはないかもしれないが、これで玉を割った人の子のことを許してはもらえないだろうか」

浮竹が、京楽の水龍神としてもっていた玉の一つをもらって、九頭竜に差し出した。

「ふむ。なかなかよい玉だ。しかし、我が玉を故意に割った人の子は許せぬ。血祭にあげてくれる」

「九頭竜、お前が人を殺せば退治しないといけなくなる。どうか、穏便にすませられぬだろうか」

「無理だな」

「そうか。じゃあ、わしの出番じゃな」

「な、夜叉神!」

九頭竜が、一歩後ろに下がる。

「夜叉神を従えているのか、人の子よ。恐ろしい・・・・」

「その昔、力試しに神と名のつく者に戦いを挑んでは勝ちまくっていたからな、わしは。その中に、九頭竜もいた」

「夜叉神よ、人の子の式になったのか」

「飯に困っているところを助けてもらってな。わしはよく食うじゃろう。いつも思う存分食わせてくれるから、従っている」

浮竹の最強の式は京楽だが、それに負けないほどに夜叉神の夜一も強かった。

事情はあれど、夜一は飯のことだけでなく、浮竹の力を認めて自ら式となった。

「夜叉神とは戦いたくない」

「そう言わずに、ほれ」

夜一は、俊敏な速さで動き、巨大な九頭竜をもちあげると、地面に向かって投げた。

「あいたたたた。我の負けじゃ。玉を割った人の子のことは許す。今まで通り、この地を守護して静かにくら・・・・おぶ」

「はっはっはっは、まだまだ!」

「こら、夜一、穏便にといっただろうが!」

「だから、穏便にすませているじゃろう。殺しておらぬし」

「式札の中に戻れ、夜一」

「な、いきなり卑怯だぞ浮竹!ああああ、吸われる・・・・」

夜叉神は好戦的で、一度暴れ出すと式札に戻さないと止まらないという事実を、長い間夜一を式として活用していなかったため、すっかり念頭から忘れ去っていた。

「すまない、九頭竜。許してくれるか」

「ごめんねぇ。僕のところの夜一ちゃん、夜叉神だけに戦闘が大好きだから」

「もうよいわ。命があるだけめっけものだ。今回の無礼も許そう・・・・白い髪の人の子よ。汝も、神に近いのだな。神を従えることができる者は、神かその領域に近い者だけだ」

「ああ、うーん。禁忌の不老の術も使ったしなぁ」

「人の子は長くを生きぬ。長くを生きるのであれば、その水龍神を大切にすることだ。伴侶なのだろう?」

「な、なんでわかるんだ!」

「ふふふ。人の子、汝から水龍神の匂いがひしひしと漂ってくる」

「京楽のアホーー!!!」

ハリセンではたかれて、京楽はなんでという顔をしてから、桜文鳥になって逃げだした。

「ちゅんちゅん!!!」

「水龍神は、人の子にかなわぬようだな。愉快愉快」

洞窟を揺らして笑うと、九頭竜は人の姿になった。

14歳くらいの、子供の少年だった。

「我はまだ140歳。子供だ。玉に関しては、子供の我儘と許してほしい」

「140歳で子供・・・・神ってよくわからない」

「僕で今数え年70歳だからね」

「京楽は、40歳じゃなかったのか」

「ああ、水虎(すいこ)の時の話だと、40歳になるけど、水虎のあの子と出会ったのは、30歳の時だったから。すごい子供の頃だよ」

「神の年齢って・・・長いな」

「同じ時を生きる君も、これから何十年何百年と姿を変えずに生きていくんだよ」

「傍に、お前がいてくれるだろう?」

「当たり前だよ」

「・・・・・いちゃいちゃするのは、我のいない場所でしてくれぬか?」

「ぬお、九頭竜、いたんだ」

「ここは我の住処ぞ」

「帰ろう、京楽」

「そうだね。九頭竜の怒りも静まったことだし」

「怒りが静まったというより、夜叉神をけしかけられて脅されたのだが」

二人は、聞こえないふりをして洞窟を後にする。

「ふむ。次の祭りまで半年。することもないし、人の子でも呼んで、将棋でも打つか」

神々は長くを生きる。

その長さで眠りにつく神も多い。

活動している神の大半が、人の世俗に飲まれていた。



「ということで、九頭竜の怒りは静まった」

「ありがとうございます。こちら、報酬金となります」

「今回は夜一ちゃんのお陰でもあるしね。夜一ちゃんとは、バイキングに行くって約束してたから、そろそろ自由にしてあげなよ」

「ああ、そうだったな」

式札から夜一が現れる。

「浮竹、バイキングに行くぞ!」

「分かっている、夜一。この報酬はお前に。これで、好きなだけ食べ歩くといい」

「おお、けっこうな額ではないか。喜んでいただこう。これで高級猫缶も人の飯もたくさん食える」

「なんで、夜一ちゃんは猫の姿をとるの?」

「それはこちらの台詞だ。なぜ、桜文鳥の姿をとる?」

「う。言えない」

「わしも言えぬ」

「ほらほら、予約していたホテルのバイキングの時間に遅れるぞ。二人とも、車に乗れ」

「分かったよ、浮竹」

「バイキング。食べまくってやる」

「夜一、食い尽すなよ」

「それはわしの気分次第じゃな」

こうして、九頭竜の怒りは静まり、また平和な日常が戻ってくるのであった。


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祓い屋京浮シリーズ18

『いやぁ、ボクにも神様が宿ちゃってね』

「「は?」」

挨拶を言うような気軽さで、告白されて、術者の浮竹と式の京楽は見事にはもった。

そして、同時に首を傾げた。

『嘘じゃないよ。ね、十四郎』

『そうだぞ。春水には、夜刀神という神が宿った。ちなみに俺ラブだ』

「もとから、そうだった気がするんだが」

「そうだね。っていうか、神様が宿ったなら僕を労わってよ!日頃から、君がラブな禍津神の浮竹に羽をむしられたり、拷問されたりしてるんですけど!」

『なんだ、桜文鳥いたのか』

「ちゅん!(酷い!)」

思わず桜文鳥の姿になり、式の京楽は術者の己の肩に止まった。

『ということで、京楽に神様が宿った記念パーティーを始めるぞ!』

「なんだそれは」

『硬く考えるな。ただ飲み会だと思え』

「酒!酒をもってこーい」

人型に戻った式の京楽は、メイドのルキアに高級な酒をもってきてもらった。

アルコール度数の高いやつで、それを水のように飲んでいく。

『僕にもちょうだい。アルコールに大分強くなったからね』

「俺も・・・・」

「浮竹はだめ!カクテルでもだめ!酒は禁止!オレンジジュースで我慢しなさい」

「なんで俺だけ・・・・・」

「酒に弱いから。この前、酔っ払って術者の僕を押し倒したの忘れたの」

「う・・・・オレンジジュースでいい」

術者の浮竹は、オレンジジュースにコーラ、スプライト、リンゴジュースと、用意されていたソフトドリンクを飲んでいく。

種類を用意したのは、式の京楽で、酒を飲ませられない術者の浮竹への配慮からであった。

取り寄せたご馳走を皆思い思いに口にする。

『うまいな、この料理』

『うん。どこから取り寄せたの?」 

「レストランシャノワール」

式の京楽が答えると、術者の京楽の顔色が変わった。

『三ツ星レストランじゃないの。お金、かかったでしょ?』

「浮竹が、そこのオーナーの依頼をこなしたことがあって、取り寄せることができたよ。100万以上は吹っ飛んでるけど」

『ありゃー。これは、全部ありがたく食べないとね』

「残しても、ルキアや海燕も食べるし、大丈夫だぞ」

『そう。じゃあ、無理して食べる必要もないかな』

日頃の感謝をこめて、ルキアと海燕の分も別に用意しているが、食べ残しになったらその分も食べてくれるだろう。

「コーラよこせ~~~。うぃっく」

「ああもう、浮竹にカクテル飲ませたの誰!」

『すまん、俺だ。甘いからジュースだと思って、術者の俺にも飲ませてしまった』

「浮竹はここで脱落だね。ベッドに寝かしつけてくるよ」

『変な気は起こすなよ、桜文鳥!』

「さすがに、パーティーしてる最中に盛ったりしないよ」

式の京楽は、術者の浮竹を寝かしつけに行ってしまった。

その場に残ったのは、禍津神の浮竹と、術者の京楽だった。

『これ、おいしいよ。飲んでごらん』

『ん・・・甘い』

『カクテルだね。浮竹の澄んだ緑の瞳みたいな色だ』

『春水・・・・・』

『十四郎・・・・』

「おーい。人に盛るなっていっておいて、何いい雰囲気かもしだしてんの」

戻ってきた式の京楽に邪魔されて、二人は甘い空気を霧散させた。

『術者の俺は大丈夫だったか?』

「うん。酔っ払てたけど、すぐに寝ちゃったよ」

『そうか。じゃあ、パーティーを続けるぞ。飲むぞー、食うぞー』

『十四郎、飲むのはほどほどにね。君もアルコール強いわけじゃないんだから』

『むう、分かっている。つぶれたら、介抱してくれるだろう?』

『まぁね』

式の京楽は、二人の邪魔にならないように、ルキアと海燕を交えて、二人のために用意しておいた料理も出して、パーティーを続行した。

終わる頃には、二人の酒豪の京楽二人を除いた面子が酔いつぶれていた。

『じゃあ、ボクは十四郎とゲストルームを使わせてもらうから、君はルキアちゃんと海燕君をお願い』

「分かってるよ」

酔いつぶれてしまったルキアと海燕を、それぞれ部屋のベッドに寝かせて、その日はお開きになった。



「うーん、頭が痛い・・・・俺はまた、酒を飲んだのか?」

「そうだよ。禍津神の浮竹が、甘いからって、カクテルをジュースと間違えて、君に飲ませたんだ」

「そうか。式の俺も酒を飲んだんだろう。そう強くはないはずだ。酔いつぶれなかったか?」

「ううん、酔いつぶれたよ。術者の僕が、ゲストルームに運んでいったけどね」

「今何時だ」

「昼前の11時」

「皆は起きているか?」

「うん。君が最後だよ」

「ばか、なんで起こさない」

「だって、気持ちよさそうに眠っていたから」

浮竹は顔を洗って着替えると、術者の京楽と禍津神の浮竹が、遅めの朝食をとっている場所に出くわした。

『はい、アーン』

『あーん。今度は、そっちが食べたい』

『ふふ、十四郎は食いしん坊だね』


「なんだ、あれ」

「さぁ。昨日からあんなかんじで・・・術者の僕にはいった夜刀神とやらは、よほど禍津神の浮竹にご執心のようだよ。禍津神の浮竹も浮竹で、術者の僕にめろめろさ」

『ああ、起きてきたの。おはよう』

「おはよう」

『春水、次そっちを食べさせてくれ』

『ふふ、十四郎は甘え上手だね』

『春水にしか、しない』

「なんだか見ていて、ほっこりするけど、恥ずかしい」

『どうして術者の俺が恥ずかしいんだ?』

「年齢は違えど、お前たちと同じ見た目をしているせいだ。まるで若くなった俺が、若くなった京楽に食べさせてもらっているみたいで\・・・・・」

『じゃあ、遅めの朝食を、桜文鳥に食べさせてもらえばいい。うん、いい考えだ。たまには仲良く人前でもいちゃつけ』

「無理言わないでくれ」

「僕は一向にかまわないよ。はい、浮竹アーン」

「一人で食べれる!」

スプーンを奪い取って、エビピラフを術者の浮竹は一人で食べた。

「ちゅんちゅん!」

エビピラフを、文鳥姿になった式の京楽がつつく。

「お前はあわとひえでも食べてろ」

「ちゅん~~(あんまりだー。昨日は我慢して、ちゃんと寝かしつけてあげたのに)」

「我慢して当たり前だ!客が来ている時は、一切盛るな」

「ちゅん(この前のことなら、反省してます)」

「本当か?」

術者の浮竹は、文鳥姿の京楽をじっと見つめた。真摯な眼差しに、式の京楽の目が泳ぐ。

「ちゅんちゅん(多分、反省してた)」

「羽、むしってやる」

「ちゅん~~~~!ぴ~~~~(いやあああ、やめてええええええ)」

「今度は、羽毛布団を作ってやる。むしりまくるからな」

「ちゅんちゅん(助けて~~~~)」

そんな式の京楽は、逃げて鳥かごに入るまで、羽をむしられ続けて、けっこうな量の羽毛が確保できたので、術者の浮竹は本気で羽毛布団を作るようだった。

『桜文鳥の羽毛布団?鳥臭そう・・・・・・』

『こら、そんなこと言っちゃかわいそうでしょ』

「ちゅんちゅん!!(その前に、羽むしられてるの止めてよ!」

『いや、そういう愛情表現なんだろう?』

式の禍津神の浮竹の言葉に、術者の浮竹は少しだけ赤くなった。

「そんなんじゃない」

『あ、照れてる』

「気のせいだ。ああ、これも何もかもお前が悪い!」

鳥かごを揺らされて、式の京楽は。

「ちゅん!ちちちちちち!!!(なんで、僕のせいなのさ。浮竹のばかぁ!)」

ちちちちちと、高く囀って、鳥かごから出ると、外に飛んでいった。

「ちちちちちち(家出してやるううう)」」

「夕飯までには帰って来いよ~~~。後、猫に気をつけろ」

「ちちちちち(分かった~)」

『あれ、家出なのか?』

「たまに家出する。3時間くらいで帰ってくる」

『それ、ただの気分転換の散歩じゃない?』

「むう、そうなのか」

『こら、春水、術者の俺を悲しませるな』

『いや、そんなつもりじゃなかったんだよ。ごめんね』

「いや、別にいい。京楽は外に飛んでいくことは、たまにあるし。大体、買い物して帰ってくる」

その言葉通り、きっちり3時間後には、スーパーで新鮮な野菜と果物を買い込んで、レジ袋をもった式の京楽が帰ってくるのであった。





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祓い屋京浮シリーズ17

その昔、京楽には友達がいなかった。

水龍神の次男として生まれ、水龍神として育てられ生きてきた。

高貴な者たちに囲まれて、ちっぽけで寂しい人生を送っていた。

ある日、いつも遊びに出かける湖で出会った水虎(すいこ)がはじめての友達となった。

水虎は人の生気を吸って生きる。

その水虎は、魚の生気を分けてもらい、ひっそりとちっぽけで寂しい人生を送っていた。

孤独な者同士惹かれあい、親友になっていた。

その水虎の名前は風流(かる)

風流は、暇を持て余した京楽が来るたびに相手をしてくれて、湖の中で呼吸する術を二人は知っていたので、よく澄んだ湖に潜り、遊んだ。

魚釣りをしたりして、それを焼いて夕飯にして、京楽は家に帰らずに、風流の家に泊まったりもした。

風流は両親が産み落として放置していたのを、哀れに思った近くの村人が育ててくれた。

生気を吸うというのが分かり、育ててくれた人が早くに亡くなったので、風流のせいにされて退治されそうになったのを、逃げ出して湖の洞穴に住むようになった。

食事は生気だ。魚の生気をたくさんの魚から分けてもらい、生きてきた。

風流を育ててくれた恩人は、風流が知らない間に子供の頃に生気を吸ってしまい、早くに亡くなった事実を知って、風流は人との関わりを絶ち、あやかしの世界で生きた。

そのあやかしの中に、京楽という高貴な変り者がいて、その京楽はときに生気を分けてくれた。

魚の生気だけではどうしようもない時がたまに訪れる。

その時は、釣った魚と引き換えに、水龍神の一族に少しだけ生気を分けてもらっていた。

ある日、水虎の風流が消えて10年が経ち、20年が経ち、30年が経った。

京楽は浮竹と出会い、浮竹を伴侶として式になることを受諾した。

風流のことを忘れたことは、一度もなかった。

人や術者に退治されたとは聞かないから、どこか遠い土地で生きているのだと信じていた。

「水虎(すいこ)の退治依頼がきた。場所はお前の生まれ育った湖の近く。人の生気を食いつくして、もう10人も殺しているらしい。名があり、名は風流(かる)というらしい」

「水虎の風流だって!何かの間違いじゃないの!その子、僕の親友だった子だよ。今から40年ほど前のことだけど」

あやかしの寿命は長い。

種族によっては、40年など子供の時代と言ってもいい。

「お前の親友でも、ことは急を要する。今から発つぞ。明日には、お前の生まれ故郷の湖につく」

海燕をドライバーにして、車で移動した。

浮竹は車の中で仮眠していたが、京楽は信じられないと眠れないでいた。

あの、明るくて優しい風流が、人の生気を吸うとしても、吸い付き殺すまでするとは考えられなかった。

湖につくと、京楽の一族が顔を出した。

「春水、戻ってくる気になったのですか」

「違います、母上。友達の水虎が人を襲っているので、それを止めにきただけです。僕は浮竹の式であり、もう湖の守護者ではありません」

それだけ言って、京楽は水龍神の一族の住む城をあとにした。浮竹は、水龍神を式にしているので、安全な結界をはった車の中で待ってもらっていた。

「大丈夫だったか?」

「うーん。母上や兄上は、顔を真っ赤にして怒ってたけどね。人間の支配下にいるなんて、プライドがないのかとか言われた」

去り際に投げかけられた言葉を、思い出す。

肉親よりも、伴侶して愛する者をとっただけの話である。

「じゃあ、水虎の最新の被害が出た村に行くぞ」

「うん」

海燕は寝ていない。その気になれば寝る必要などないのだ。

何故なら、浮竹の式だからだ。

同じく、京楽も寝る必要はないのだが、浮竹の生活に合わせて眠ることを覚えてから、よく昼寝とかしていた。

「着きました」

海燕が、車のドアを開く。

浮竹がまず降りて、次に京楽が降りた。

「まずは、聞き込みだ」

被害者の家族や、他の村人たちに聞いてまわっても、水虎の風流が出て生気をとっていったの一点張りで、思うような収穫は得られなかったが、一人の村人が重要なことを話してくれた。

「風流には、伴侶と子供がいるそうなんです。多分、どっちかが死にかけてる。だから、大量の生気を奪っていく」

「ありがとう。戸締りをしっかりして、夜は外に出ないように」

「はい。高名な術者さんだとお聞きしました。どうか、風流とその一家を殺してください」

京楽は、身を切る思いだった。

かつての親友を、この手にかけないといけない。

「マオ、レツ、この式を湖の周囲に置いてきてくれ。監視役にする。風流は湖の中に住んでいるようだ。陸にあがったところを、叩く」

「ちょっと待って、浮竹。風流は僕の親友なんだ。昔は魚の生気をもらって、細々と生きていたんだ。人を襲うはずが・・・・・」

「どれだけ昔の話だ」

「よ、四十年前・・・・・」

「人は変わる。同じように、あやかしも変わる」

「そうだけど・・・・」

「今回は死者が多すぎる。話し合いはなしだ」

「浮竹・・・・」

京楽は、自分の力のなさに歯がゆさを覚えた。

村に2日滞在した日の夜、湖のほとりに風流が出た。式が警戒音を鳴らして知らせてくれた。

「行くぞ、京楽!」

「あ、うん」

風流が現れた場所に行くと、ちょうど若い娘から生気を吸い取っている風流がいた。

「水虎の風流だな。人を殺し過ぎた報いだ。滅べ」

「ちょっと待って!風流、僕だよ。分かるかい?京楽春水だよ。ねぇ、風流、なんでこんなことを・・・・・・・」

「ああ、そんな親友のふりをしていたやつもいたな。俺が人に捕まってどんな目にあったのかも知らないくせに。俺の子が死にそうなんだ。生気が欲しい。その術者と春水、お前たちは村人とは比較にならないほどの生気を漲らせている。もらうぞ!」

生気をいきなり吸われて、怯んだ浮竹を押し倒して、更に生気を吸おうとしている風流に向かって、京楽は浄化の炎で、風流を包み込んだ。

「うぎゃあああああああ!!!」

「風流・・・・優しかったあのころの君は、もういないんだね。浮竹に手を出す者は、たとえ親友であっても容赦はしない!滅びよ!」

「娘と妻を、見逃してやってくれ。どうか、退治は俺だけに・・・・・」

「無理な相談だ。風虎は全て駆除する。それだけの数の人を、お前は殺した」

「自業自得というやつか。水龍神という恵まれた種族に生まれたお前が羨ましい、春水」

「風流!」

浄化の炎が弱まる。それを、浮竹が力を注いで風流を青白い炎で包み込み、この世から消滅させる。

「せめて、娘と妻だけは・・・・・・・」

そう言い残して、風流は死んでいった。

「京楽」

「今は、そっとしておいて」


翌日、風流を退治したとして、二人は丁重に村で迎えられた。

「まだ、風流の妻と娘がいる。水虎だ。また人を襲うかもしれない。追加料金はいらないので、退治にとりかかる。船を出してくれる人が欲しい」

「あ、それなら俺が出します。半年前にかったボートでよければ」

「それで十分だ。京楽、分かっているな?」

「・・・うん。僕の力で、湖の風流の家族のいる位置の湖の水をよけさせて、泳げなくなっている間に叩く」

「そうだ。行くぞ」

「うん」

覚悟を決めた後楽は、浮竹が探知した風流と同じ水虎のいる場所の湖の水をなくして、まだ幼い病気で弱っている水虎の風流の娘と、それを必死で守ろうとする妻を、容赦なく二人は浄化した。


「この度は、本当にありがとうございます。お陰で、もう死者が出ることはないでしょう。報酬金は、遺族の方も敵討ちをしてくれたと出してくださいまして、1千万ほどになります」

「ありがたく、いただいておく。また、何かあやかしや霊関係で、トラブルがあったら言ってくれ。格安料金で仕事を引き受けよう」

「そちらの連れのお方、顔色が悪いようですが・・・・・」

「構わないでくれ。海燕、出してくれ」

車に乗り込み、浮竹と京楽は京楽の生まれ故郷を後にする。

「僕は・・・自分が情けない。親友一人救えない」

「でも、俺を助けてくれただろう」

「当たり前でしょ!君は僕のもので、僕の伴侶だよ。傷つける者は、例え肉親でも容赦しない」

「ああ。お前の選択は、間違っていない。10人も死んだんだ。滅んでも仕方ない」

「うん・・・・・・」

「ほら、膝をかしてやる。泣きたいなら、泣け」

「ちゅん!!!」

人の姿で泣くのは恥ずかしいので、小鳥の姿になって、京楽は涙を流した。

「ちゅんちゅん。ちゅん~~~」

「ああ、お前はよくやった。よく我慢した」

「ちゅん」

「帰ろう。家に。そして深く眠れ。つらいなら、記憶を俺が消してやろう」

「ちゅんちゅんん(記憶は消さないで。風流と過ごした大切な思い出もあるから)」

「そうか。じゃあ、今はただ眠れ」

「ちゅん(うん)」


風流の件は、京楽の心に深い傷を残した。

それを取り除いてやるのは、浮竹しかいない。浮竹が笑うだけで、そんな嫌な記憶が薄らいていく。

浮竹が怒るだけで、愛しさが溢れてくる。



「君は、僕の太陽だ・・・・・・・・」

「変なやつ」

京楽の身を焦がす愛を受け止めつつ、浮竹は静かに目を閉じるのだった。

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祓い屋京浮シリーズ16

術者の浮竹と京楽は、式の禍津神の浮竹と、式の水龍神の京楽で、4人でピクニックに出かけた。

紅葉の秋で、紅葉狩りも兼ねていた。

「いや、いい景色だね」

「お前は、歩け」

「疲れるから今は休憩中」

文鳥姿で、ちゅんちゅんではなく、流暢に人語をしゃべる文鳥を見た、通りすがりの人がこちらを見ながらすれ違う。

「休憩中でいいから、外では人語をしゃべるな。ちゅんちゅん言ってても、伝わるから」

「ちゅん!」

術者の浮竹の肩に止まりながら、式の京楽は歌うように囀る。

『桜文鳥、けっこういい声で鳴くじゃないか。もっとなんか歌え』

「ちゅんちゅん~~る~~~~~~」

『ああ、あの辺がいいね。紅葉も見えるし、景色もよさそうだから、あそこにシートを広げて昼食にしよう』

術者の浮竹がそう言うと、禍津神の浮竹は待ってましたとばかりにお弁当を広げる。

「こら、式の俺、まずはシートをしいてからだ」

『待てない。腹減った』

『あはははは、まぁ十四郎は欲に忠実だから』

「僕も欲には忠実だよ」

「お前の場合は盛ってるだけだろうがああ!!!」

シートをひくのを邪魔して、術者の浮竹の尻を撫でた京楽は、人型に戻っていたので綺麗にアッパーを決められて、地面に倒れた。

「ふふふ、幸せ」

「この変態が!」

「変態でも、浮竹のものだもーん」

「捨ててやるううう」

「ああああ、捨てないでええええ」

そんなやりとりをする二人を見ながら、術者の京楽と禍津神の浮竹はお弁当のサンドイッチを食べていく。

『おーい、痴話喧嘩はほどほどにしないと、全部十四郎が食べちゃうよ』

「あ、俺も食う」

「僕も」

シートの上に座って、二人はサンドイッチを食べだした。

「うん、美味いな。さすが術者の京楽と俺のアホの子の式の京楽が作っただけのことはある」

「アホの子ってなにさ!」

「お前のことだ!」

『はあ、いい天気だな』

『そうだねぇ』

言い争い合う二人を無視して、もう一組の二人は、温かいお茶を飲んでひらひらと舞う紅葉を手で受け止めていた。

『記念に、もみじの栞でも作ろうか』

「お、それは風流でいいな」

まだ何か言っている式の京楽を無視して、術者の浮竹は紅葉を数枚拾い、鞄の中にしまった。

「何か言った?」

式の京楽が首を傾げる。

「いや、誰も何も言ってないぞ」

「声がする・・・・行かなきゃ」

「おい、京楽!!」

『俺も行かなきゃ・・・・・』

『ちょっと、十四郎!?』

式の二人は、ふらふらと歩き出す。

その後を、二人の術者がシートやお弁当を片付けて、ついていく。

「いい子ね、おいで、おいで。さぁ、私の養分になりなさい」

『人面樹か。また厄介なのに魅入られたね』

「浄化しよう。式の俺と式の京楽をターゲットにしたのが運の尽きだ」

式の二人が来た場所には、女の人面樹がいた。

海外では、ドライアドなどの一種として知られていた。

「あら、術者もついてきたの。うふふ、養分にしてあげる」

『京楽、人面樹への攻撃は許さない』

「だめだよ、浮竹・・・・・・」

二人の式は、人面樹を守るように前に出る。

「目を覚ませ、このあほ!ちゃんと意識を保っていられたら、ご褒美をやるぞ。今日、俺を抱いていい」

『十四郎、目を覚まして。帰ったらアップルパイ焼いてあげるから』

「ふふ、その程度で私の幻惑の術が解けるはずが・・・・・・」

人面樹は、怪しく微笑んだ。

「え、まじで浮竹!?」

『アップルパイ!約束だぞ!』

色気と食い気で、人面樹の幻惑の術はあっさりと解けてしまった。

「な、こんな屈辱ってないわ!ええい、みんなまとめて養分にしてくれる!」

蔦のような触手を伸ばしてくる人面樹を、禍津神の浮竹が穢れを与えて枯れさせて、式の京楽が浄化の炎で焼き払う。

「ぎゃあああああああ!!!」

「あの二人に手を出すから・・・・」

『そうだね。容赦ないもんね』

人面樹は、最後は枯れて式の京楽の浄化の炎で灰にされた。

そこから、芽が出る。

人面樹のしぶとさがよく分かった。

いつもなら、違う植物が育つだろうと見逃すのだが、今回ばかりは相手が悪かった。

『この場所、もう人面樹が生えてこないように穢れを与える』

穢れを与えられた芽は、みるみるしぼんで枯れてしまい。

「うぎゃあああ」

と小さな悲鳴を残して、枯れていった。

「浮竹、今日は抱いてもいいんだね?約束だよ!!」

「おい、京楽!」

「約束守らなかったら、襲うからね!」

「京楽!!!」

後輩にあたる術者の京楽と禍津神の浮竹の目の前で、そう言われるものだから、術者の浮竹は真っ赤になって、式の京楽の頭をハリセンではたいた。

「あいた、なにすんのさ」

「盛るからだ!」

「だって、浮竹が抱いていいって・・・・」

「今じゃない、夜になってからだ!」

「今がいい」

「あほか!昼間の外でなんて、絶対しないからな。手を出してきたら、式の契約を解除するからな!」

「そりゃないよ」

哀し気にがっくりとうなだれて、それから文鳥姿になって、浮竹の肩に止まる。

「ちゅんちゅん!!」

『桜文鳥、うまいこと逃げたな。春水、アップルパイ』

『はいはい。帰ったら、好きなだけ作ってあげるから』

人面樹と、ついでに周囲にあった人面樹の苗を浄化の炎で焼いて、一向は浮竹の屋敷に戻った。

術者の京楽の家もそこそこ広いのだが、立地上、術者の浮竹の屋敷に集まるのが多い。

ルキアや海燕といったメイドと執事がいるし、何より信頼できる相手の家だからこそ、集まる場所に選ぶ。

『じゃあ、僕らはこれで。センパイ、ご愁傷さまです』

『じゃあな、桜文鳥と俺。くれぐれも、やりすぎには注意だぞ』

二人はそう言って、自分の家に帰っていった。

「浮竹~~~二人きりだよ~」

「寒気がする。近寄るな」

「今日はいつもより、愛してあげるからね?」

「普通でいい!あんまりしつこいようなら、抱かせなくするぞ」

「それは嫌だ!分かった、普通で」

その普通が、4回5回と、数が多いのだが、それが当たり前になってしまっているので、術者の浮竹は4~5回がセックスでは当たり前の数だと思っていた。

後日、禍津神の浮竹に腰が痛いので相談すると、過剰過ぎると知って、噴火したのはいうまでもない。

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祓い屋京浮シリーズ15

禁忌の術を使って、不老になってから半月が経過した。

禁忌の反動か、一時は浄化の力が弱まったが、今は以前よりも浄化の力が強くなっていた。

「伴侶である水龍神である僕が、元の寿命を取り戻したからね。それを従えている君の力が増すのは、仕方のないことだよ」

「そうか。お前のせいか」

「ちゅん!!!」

禁忌の術を使ってから、京楽はさらに浮竹を求めるようになって、それに応じるのも半分くらいになっていた。

「ちゅんちゅん!!」

浮竹を欲しても、応えてくれない場合、京楽は文鳥姿になって飛び回り、浮竹を困らせた。

「しつこいぞ、今日はしない。おとつい、したばかりだろう」

「ちゅんちゅん!!」

「おとついから日にちが経ってるって?当たり前だろうが」

「ちゅん!」

「うるさい!」

がしっと、文鳥姿の京楽は浮竹の手に捕まって、羽をむしられる。

「ちゅん~~~~~」

「自業自得だ」

「ちゅん」

それでもしつこくちゅんちゅんと浮竹にまとわりついて、怒られて、呪符のはられた鳥かごに放り込まれた。

「ごめんなさい、もう言わないから、出してえええ」

文鳥の姿で人語をしゃべる。力を消費するが、そうしないといつまで経っても浮竹に鳥かごにに入れられっぱなしなので、謝った。

「分かればいい」

鳥かごから出されて、京楽は人型に戻ると、浮竹を抱きしめた。

「おい、京楽」

「これくらい、いいでしょ。抱きしめるくらい・・・・・・」

「仕方のないやつだ」

次の日、依頼が飛びこんできた。

浄化と水を司る水龍神が、穢れをふりまいているというのだ。

「僕の他にも水龍神はいるからね」

「血縁関係は?」

「ないわけじゃないと思うけど、多分遠いいとこだろうね」

「祓うしかないか」

「そうだね」

依頼された現地に到着すると、池の魚が全滅して水面にぷかぷか浮かんでいて、水そのものも濁って、穢れが発生していた。

「これは酷いね。早めに対処しないと、人にも被害が出るよ」

「京楽、元になっている水龍神の居場所は分かるか?」

「うん。強い穢れを感じる。穢れを司る禍津神の君といるせいかな。穢れに敏感になった」

「よし、じゃあその水龍神のところに行くぞ」

「あ、浄化の結界を僕と浮竹にはっておくよ。物凄い穢れだ・・・・禍津神の君ほどじゃあないけど」

池の近くに、洞窟があった。

そこに、穢れをふりまいている水龍神がいるらしい。

洞窟に近づくと、空気が淀んでいるのが分かり、生き物の気配がしない上に、周囲の草木は枯れていた。

浮竹と京楽は、結界を維持しながら洞窟に入った。

「誰ぞ。我が領域に踏み込み荒らすのは誰ぞ」

「俺は浮竹十四郎。術者だ。こっちは水龍神で俺の式である京楽春水。名も知らぬ水龍神よ、穢れをふりまく存在となってしまった以上、浄化する」

「京楽春水・・・ああ、あのかわいかった童(わらべ)か」

「京楽、知り合いか」

京楽が、目を見開く。

「君は・・・・狂い咲きの王に魅入られた僕の叔父じゃないか!」

「ふふふ・・・・その狂い咲きの王に見捨てられたのだ。百花夜行をする狂い咲きの王は、椿の化身。狂い咲きの王の大切にしていた椿を、私が不注意から枯らしてしまい、見捨てられた。ご丁寧に、穢れを刻印してくれた」

「狂い咲きの王・・・・花鬼(かき)や全ての植物のあやかしを束ねる王か」

「そうだ」

「狂い咲きの王をなんとかすれな、叔父上は助かるの?」

「いや、もう手遅れだ。穢れの刻印が、心臓にまで達している。このまま生きていると、穢れで周囲の生きとし生ける者を殺すだけだ」

浮竹が、首を横に振った。

「春水よ。私を浄化してくれ」

「叔父上・・・・・」

「せめて、春水、かわいがっていたお前の手で死にたい。どうせ死ぬのであれば」

「分かったよ・・・叔父上ごめん。最後にあがくよ」

京楽は、ありったけの力をこめて、自分の叔父である水龍神の体を浄化した。

「うわあああああああ」

浄化される痛みで、穢れの水龍神は暴れまくった。

「やっぱり、だめか。心臓にまで達していては・・・刻印が身に刻まれただけなら、なんとかなったのに。狂い咲の王・・・・絶対に、許さない」

「春水、このまま浄化してくれ」

「分かったよ、叔父上。いくよ、浮竹」

「ああ」

浮竹と京楽は、凄まじい穢れをふりまく水龍神を浄化すべく、浄化の力をためこむ。

そして、一気に放出した。

「さらばだ、春水、それに術者の人の子よ」

「叔父上、どうか安らかに。仇はとるから」

術の効果の光が消えると、そこには卵があった。

「卵?」

「俺も力があがったからな。浄化して、再生を与えた。卵から、お前の叔父はまた生まれる。ただ、意識は違った存在になって、お前の叔父が生き返るわけじゃあないが」

「十分だよ。叔父上が違う形であれ、また生まれてくるなら」

「水龍神にはなれないぞ。下位の龍だ」

「それでも、いいさ」

周囲の穢れは祓われて、空気は澄んでいるし、枯れていた草木は芽をだして成長し、魚が死んでいた池は死んでいた魚が蘇り、池は澄みきっていた。

「ねぇ、浮竹、君の再生能力、半端なものじゃなくなってない?いくら僕の再生能力も利用したとはいえ、死んでいる魚を生き返らせるなんて」

「その程度だ。魚や小動物が植物が穢れのせいで死んだのなら、蘇らせることもできるが、それ以上の存在になると蘇らせれない」



「いやいや、大したものだよ」

「誰だ!!!」

洞窟から出ると、そこには柔和な顔立ちの男がいた。

「私は狂い咲きの王。名は藍染」

「狂い咲きの王!叔父上の仇か!」

「あれは、死んでしまったのか。新しい椿が咲いたので、穢れの刻印を取り除いてやろうと思ってきたのだが・・・・これでは、君たちが殺してしまったようなものだな」

「な・・・・」

「京楽、離れろ。こいつ、強いぞ。禍津神の俺くらい強い」

「そんなに?」

京楽と浮竹は、狂い咲きの王から距離を取る。

「ふふふ、今は殺さないから安心したまえ。いつか、また」

「待て!!!何故、椿を枯らしたくらいで穢れの刻印を与えた!」

「それは、私が椿の狂い咲きの王だからだ。椿は私の化身でもある。化身を殺されて、怒らないほうが無理だろう?」

「それは・・・・・」

確かに、自分の化身を殺されたら、あやかしなら力も弱くなるし、命に関わることもある。

「では、いずれまた」

そう言って、椿の狂い咲きの王、藍染は椿の花を残して消えてしまった。

「椿の狂い咲きの王・・・・・百鬼夜行ならぬ、百花夜行を支配する植物のあやかしの頂点に君臨する王・・・・・・・」

「京楽?」

「あ、ごめん、浮竹。ちょっといろいろ考えてた」

「もしも、俺たちに立ちはだかるようであれば、全力をもって封印しよう」

「うん、そうだね」

禍津神の浮竹ほどの力があるというが、力の増した今なら、二人がかりで全力を出せば倒せる気がした。

ただ、植物の頂点に君臨するので、殺すと植物そのものが枯れてしまう可能性が高いので、封印という形になるだろう。

「百花夜行か・・・・一度、見てみるか」

その日から、満月になった数日後、百花夜行が行われていた。

月に一度、満月の夜に植物のあやかしやそれに関係するあやかしたちが集い、酒を飲みながら練り歩く。

その最後尾に、藍染はいた。

「見学かい?」

気配を完全に殺していたのに気づかれて、浮竹と京楽は姿を現した。

「どうだい、私の子供たちは。皆美しいだろう」

見目麗しい花鬼(かき)が中心となって、百花夜行は続く。

「京楽春水、私の元にこないか。浄化と再生の力が欲しい」

「京楽、惑わされるな。こんな男の元に行くなよ!」

「言われなくても、浮竹の傍を離れないよ!」

「そうか。じゃあ、浮竹、君が僕の元にくれば・・・・」

藍染は、凄まじい洗脳を浮竹にかけるが、浮竹はそれをなんとか結界で破った。

「俺は術者だ。王とはいえ、あやかしの下につく気はない」

「それは残念だ。京楽、君の叔父上は簡単に私の洗脳にかかったのだけれど、君はそう簡単には洗脳されてはくれないのだろうね」

「当たり前だよ!」

百花夜行はまだ続く。

藍染は、笑い声をあげながら、百花夜行の最後を歩いていくのだった。



「ねぇ、浮竹」

「なんだ」

「きっと、いずれあいつは僕たちの前に立ちふさがる。その時は、封印しよう。力の全てをかけて」

「ああ」

京楽の叔父である、水龍神の卵を持ち帰っていたのだが、それが孵化して、龍の幼体が生まれてきた。

「にゃあああ」

はずなのだが、なぜか猫だった。

「水龍神の眷属の卵なのに、何故に猫なんだ」

「な~お」

「何、マオ、お前のせいか!」

「な~」

なんでも、猫の式神のマオが温め続けていたせいで、マオの霊力に染まってしまって、猫が生まれてきたらしい。

「まぁいい。新しい式にしよう。名前は・・・京楽、お前の叔父の名はなんだ」

「京楽烈火」

「じゃあ、今日からお前はレツだ」

「にゃあああ」

子猫だが、すでに京楽を狙っている。

「ちょっと、この子、文鳥姿になったら絶対マオみたいに襲ってくるよ!」

「まぁ、がんばれ」

「浮竹のばか~~~~」

浮竹に文鳥姿にされて、マオとレツは嬉しそうに文鳥姿の京楽に襲いかかる。

「ちゅんちゅん!!(食われてなるものか!)」

京楽は羽ばたいて、専用の鳥かごに入ると、マオとレツが諦めるまで、鳥かごの中でチュンチュンと鳴いて、浮竹のバカバカと連呼して、夕飯抜きの刑になるのであった。





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祓い屋京浮シリーズ14

「妻の・・・・記憶を消してください」

60歳くらいの初老の老人は、哀しそうな目で、浮竹を見た。

写真を受け取る。

まだ20歳になったかも分からない少女が映っていた。

「妻は・・・・年を取らないのです。私はそれを不思議に思いつつも、一緒に過ごしてきました。妻が氷女であることを知って、はじめは離縁しようと思ったのです。でも、妻に泣かれて、離縁を諦めました。妻は、私がいないと何もできない子で・・・・私は、末期がんなんです。もう余命いくばくもない。妻にそれを告げると、妻は一緒に死ぬというんです。妻に死んでほしくない。新しい人生を、氷女としてでも人間としてでもいいから、歩んでほしいんです」

「奥さんがそれを望んでいなくても?」

「はい。身勝手なのは分かっています。でも、妻に死んでほしくないのです」

「話は分かりました。今回は退治や浄化でなく、記憶の抹消ということでいいですね?」

「はい」

「浮竹、なんとかならないのかい。その氷女、かわいそうだよ」

「だが、夫のあとを追って死ぬが幸せと思うか?」

「そうは思わないけど・・・・・・」

浮竹と京楽は、溜息交じりにやりとりをすると、依頼人と一緒に、依頼人の家までやってきた。

「ヒナ、君を自由にするよ」

「あなた?その人たち・・・・術者と式ね!私を浄化するのね。覚悟はできているわ。あなたより先に、向こうの世界で待っているから・・・・・・・」

ヒナと呼ばれた、18歳くらいの氷目の少女は、哀し気に微笑んだ。

「違うんだ、ヒナ。君に新しい人生を歩んでほしい」

「何を言っているのあなた。私には、あなただけよ。あなたしかいらない。あなたが死んだら、私も一緒に死ぬわ。あの世で永遠に一緒に暮らしましょう?」

「ヒナ・・・・・お願いします、浮竹さん京楽さん、妻の記憶を・・・・・」

依頼人は、ヒナを抱きしめてから、離れた。

「あなた?まさか、私の記憶を!」

「ヒナ、お別れだ。この35年間、とても幸せだった。ヒナは、また幸せにおなり」

「いやよ!」

ヒナは、氷女として雪吹雪を出すが、浮竹と京楽の結界で防がれてしまった。

「いやよ、いやよ、あなたと一緒に最後までいるの!あなたの死は私の死!約束したじゃないの、いつまでも傍にいるって!」

「ヒナ、愛している・・・・・・・」

「始めます」

「いやああああああああああ!!!!」

氷女のヒナに、式を飛ばして束縛させると、浮竹が祝詞を唱えた。

「愛して、いるの・・・・・」

ヒナはボロボロと涙を零して、依頼人を見る。

浮竹は、複雑な気持ちでヒナの記憶からたくさんの大切な思い出を・・・・夫である依頼人と出会い、過ごしてきた時間を忘れさせた。



「ここはどこ・・・・・おじいちゃん、だあれ?」

「ここは私の家だよ。君は、道端で倒れていたんだ。それを、このお二人が運んでくれたんだ」

「そうなの。ありがとう。私はヒナ。暁ヒナ。氷女です。術者の方々ですね?」

「ああ、そうだ」

「そうだよ」

「私を退治したりしないんですか」

ヒナは、首を傾げた。

「依頼がないかよほど酷いことがない限り、もののけは退治しない」

「そうですか。私は、故郷の雪山に帰ろうと思います。ここは暑いわ」

まだ10月のはじめ。

残暑は厳しい。

氷をフィールドとして生きる氷女には、生きにくい土地だ。

「さよなら、ヒナ」

「あら、さようならおじいちゃん。じゃあ、術者の方も、さようなら・・・・・・」

ヒナは、一礼すると、吹雪となって消えてしまった。



「これで良かったんですか」

「はい。これで、良かったんです」

「僕はそうは思わないけどね。ヒナって子を、一緒に連れてってあげるべきだと思った」

「ヒナは若い。まだ生まれて50年も経っていない。氷女の寿命は500年くらいだそうで」

依頼人は、ヒナの映っている写真を撫でながら、涙を流した。

「愛していたんです。だから、幸せになってほしかった」

「ヒナちゃんは、あなたと出会えたことで十分に幸せになったと思うよ」

京楽の言葉に、依頼人は深いため息をついた。

「私は明日死ぬかもしれぬ身。人間の寿命で氷女が死ぬなんて、おかしい」

「そんなことはないと思うが」

浮竹が、口を開く。

「一応記憶は消しておいたが、完全に消えたわけじゃない。思いが深すぎると、戻ってくる。そうならないことを、祈っておく」

「はい。これは依頼料です。ありがとうございました」



「ねぇ、浮竹、あんなのってないと思うんだけど」

「言うな。もののけと人は、しょせん同じ時間を生きられない」

「それは、僕のことも言ってるの?」

「お前は、俺が連れていく。俺が死ぬ時は、お前も死ぬ。そういう契約で縛っているからな」

「うん」

浮竹は、水龍神である京楽を式にするとき、伴侶として迎える代わりに、同じ時間を生き、同じように年をとる道を選ばせた。

京楽は、喜んでそれを受け入れた。

京楽を式にして10年以上が経過しているが、まだまだ現役だが、確かに少し老けた。

屋敷に戻ると、緊急の電話があった。

記憶を消したはずのヒナが、戻ってきたのだというのだ。

来た道を戻る。

依頼人の家にいくと、氷女の姿で、妖気のほとんどを依頼人にさしだし、共に死にゆこうとしているヒナの姿があった。

「浮竹さん、ヒナを、ヒナの記憶をもう一度消してください!」

「無理だ。あれだけ深い暗示をかけて消したのに、記憶が戻ったということは、それだけ依頼人であるあなたを愛しているからだ」

「ヒナ、お願いだから一人で逝かせておくれ」

「いやよ。あなたと一緒に死ぬの。黄泉の道を、あなたと一緒に歩くの」

ヒナは、依頼人の儚い命に、吹雪をはきかける。

「ヒナ・・・愛しているよ。仕方ない、一緒に逝こう」

「ええ、あなた。一緒に、逝きましょう?」

二人は、浮竹と京楽が静かに見守る中で、黄泉の国に旅立っていった。

死体さえ、残らない。

氷女のヒナの死体も、依頼人の死体もなかった。

まるで氷のように、溶けてなくなった。

「僕は、これでよかったと思うよ」

「俺は・・・・こんなことを、お前に強いている。今からでもいい。取り消そう」

「やだよ!僕は今のままがいい。今のまま、君と歳をとって、死んでいきたい」

「水龍神は千年は生きるだろうが。それを・・・・・」

京楽は、浮竹を抱きしめてから、キスをした。

「ねぇ、浮竹。僕は幸せだよ。君の傍にいれて、君を愛せて。君と同じ時間を歩けて」

「俺は・・・・身勝手だ」

「それでも、愛してるよ。僕は、ヒナちゃんと同じ道を歩む。君が死んだら、僕も死ぬ」

「京楽・・・・・・・」

京楽は、水龍神の姿をとると、浮竹を背に乗せて、空を飛んだ。

「京楽?」

「まだまだ、僕らの道は終わらない。一緒にこの世界を歩いていこう」

「ああ」

水龍神である京楽の背にしっかりと乗って、浮竹は風を全身に浴びた。

「世界は広いからな。禁忌だが、人を不老にする術がある」

「いいねぇ。それ、使っちゃう?」

「そうだな。お前と永遠を生きれるなら」

浮竹と京楽は、空を泳ぎながら、悪戯を思いついた子供のようにはしゃいだ。

そして、屋敷に戻ると、禁忌の術を発動させる。

「不慮の死が分かつまで、永遠の時を」

「永遠の時を」

束縛と服従の契約を書き変える。

永遠を生きるように。

年をとらぬように。

「君は、永遠に僕のものだ」

「お前こそ、永遠に俺のものだ」

二人の式と術者は、こうして永遠を生きることになった。

死が二人を分かつまで。


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祓い屋京浮シリーズ13

「河童がでるんです」

「河童?今時に?」

「そうです。子供を川でおぼれさせたり、洗濯物をよごしたり、赤ん坊を泣かせたり、備蓄の食料を盗んだり・・・・・・はてには万引きまで。どうか、河童を退治してください」

「はぁ。最初の子供を川でおぼれさせるは分かるが、万引き?河童が万引き?」

浮竹は、首を傾げた。

万引きをする河童など、聞いたことがない。

「最近の妖怪は、最先端をいってるやつもいるからね。知り合いのあずきとぎなんて、DJしてたよ」

「あずきとぎがDJ・・・・・・」

京楽の言葉に、さらに首を傾げる浮竹であった。

そんなこんなで、河童退治に赴くことになった。

その河童は沼のどこかにいるので、沼のある場所の近くに、きゅうりをいれた罠をしかけて、河童がかかるのを待った。

「ぎぎゃぎゃ!罠だ!」

「いや、ほんとにかかるもんなんだね。河童ってきゅうり好きなんだ」

「河童と言えばきゅうりだろ」

そんなやりとりをしながら、罠にかかった河童を見ると、体中が傷だらけで、浮竹も京楽もまずは罠から解放せずに、河童の言い分を聞くことにした。

「お前、子供を溺れさせたのか?」

「違う。おぼれていたのを、助けただけだ」

「じゃあ、洗濯物を汚したのは?」

「雨が降ってきたから、取り込んでやろうとしたら、汚れがついてしまった」

河童は、自分が退治されるかもしれないと分かっていても、真面目な顔で答えた。

「赤ん坊を泣かせたのは?」

「かわいかったから近寄ったら、泣かれた」

「備蓄の食料を盗んだのは?」

「いつもきゅうりを備えてくれる会社の人が風邪になってこないから、きゅうりをもらいにいったら、他の妖怪が備蓄の職力を盗んでいて、その犯人にされた」

「じゃあ最後だ。万引きはしたのか?」

「万引きは確かにしたけど、美味い棒1本だ。後で、お金をちゃんと払った。レジの中に、お金をいれた」



「ねぇ、浮竹、この子・・・・・・」

「ああ、嘘はついていないようだ。嘘探知の式が反応を示さない」

「ねぇ、河童君。君を退治しろと、町の人がうるさいんだ。でも、君は退治されるようなことはしていない。僕らが退治しなかったら、次の術者が君を退治にくるだろう。引っ越しを提案するのだけど、どうだい?」

「むう、俺は町の人に怖がられているのか」

「怖がられているというより、嫌われてるね。河童はそう強くないから、人でも退治できるし」

「ぎゃぎゃ。このままでは、俺は死ぬしかないのか?」

「そうなるね。だから、住処を変えよう。僕たちは無益な殺生は好まない性質でね。引っ越しするなら手伝うよ」

「じゃあ、引っ越しを手伝ってくれ。大切な荷物がいっぱいあるんだ」

河童は、隣町の池に引っ越すことになった。

くだらないおもちゃやら、きゅうりをくれたおばあさんの形見やら、とにかくいっぱいものがあって、3往復した。

「ぎゃぎゃ。これで、俺は退治されずにすむのか」

「お前は、もう人前には出ずに、この池で静かに暮らせ。人と関わるな」

「ぎゃぎゃ。そうする・・・・・・・」

依頼人には、河童を退治したのではなく、移動させたと真実を伝えて、依頼料の半額をもらった。

「なんだか、少しかわいそうだったね、あの河童」

「河童は悪戯好きで、子供をおぼれさせて殺したりするからな。あの河童はいい妖怪だ。殺すのは可愛そうだったし、人と関わずに生きていけるなら、もう大丈夫だろう」

「でも、万引きする河童なんて初めて聞いた。しかも代金ちゃっかり払ってるし」

「いい河童だったな」

「そうだね」


屋敷に戻ると、ルキアが術者の京楽と禍津神の浮竹が来ていることを告げた。

「2人はお留守番だ。術者だけの式札の買い物にいってくる。お前たちをもっていることがばれたら、金にものをいわせて取り上げられそうだ。大人しく、留守番してるんだぞ」

「ええ、僕は留守番なの」

『俺も留守番なのか』

『十四郎、素直にセンパイの言葉に従って』

『むう。お前がそう言うなら、仕方ない\』

「僕が禍津神の浮竹と二人きりでお留守番・・・・・ぬああああ」

『鳥、留守番するぞ!』

「ああ、うん。ちゅん」

『羽をむしっていいのか?』

術者の浮竹と京楽が出かけて、二人きりになった式たちは、一方は小鳥になって、一方はその小鳥の羽をむしりたいと目を輝かせていた。

「ちゅんちゅん!!(鳥の姿でいると楽なだけで、羽むしらないで!)」

『鳥の姿にでいると楽・・・・やっぱり、お前水龍神じゃなくってただの鳥だろ!』

「違うよ!」

ぼふんと音をたてて、式の京楽は元の人の姿に戻った。

ぐ~~~。

その瞬間、禍津神の浮竹の腹が盛大になって、禍津神の浮竹は顔を赤くした。

『違う、これは鳥を見て腹が減ったから』

「何食べたいの?作ってあげる」

『鳥・・・お前、料理できるのか』

「浮竹の食べるものは大抵僕が作ってるからね。そっちも似たようなもんでしょ」

『むう。確かに俺は料理はできない・・・・・』

「簡単なもので、オムライスにしよう。作り方も簡単だし、教えてあげるから術者の僕に食べさせてあげなよ」

『鳥・・・・じゃなくて桜文鳥。お前って、けっこういい奴だな』

「鳥から進化した・・・・まぁいいけど」

こうして、式の二人はああだこうだとやりとりをしながら、オムライスを4人分作った。

お腹が減っていたので、式の二人は先に食べた。

『ただいま・・・ああ、疲れたよ。センパイは大丈夫?浄化の札を売ってくれって押しかけられてたけど』

「なんとか生きてはいる。疲れた。腹減った。飯食って風呂に入って、寝る」

『今から食事作るから・・・・どうしたの、十四郎』

にこにこ顔で、禍津神の浮竹は術者の京楽の手をひっぱり、ダイニングルームに連れていく。

『俺が、教えられながらだけど作ったんだ。食べてくれ』

『これ、十四郎が?』

『ああ』

『式のボクに教えられながら、作ったの?』

『そ、そうだ』

『ふふ、十四郎かわいい。いただきます。うん、美味しいよ』

『そうか、良かった』

禍津神の浮竹はにっこりと笑顔になる。

「浮竹も食べなよ。まだあったかいから」

「ああ、いただく。いつ食べてもお前の料理はうまいな」

「ふふん。水龍神の中でも名コックって、名前知れてたんだよ」

「今じゃ、水龍神どころかただの鳥だけどな」

『鳥じゃないぞ、術者の俺。桜文鳥だ』

「お、式の俺は、呼び方が変わったってことは、何かを認められたんだな」

「もちろん、料理の腕を・・・・・」

『いろいろ聞いた。夜の話とか』

バキポキ。

関節を鳴らしながら、オムライスをさっさと食い終わった術者の浮竹が、式の京楽に近づく。

「ぎゃあああああああ」

「いっぺん死ねえええええええええ」

「もぎゃああああああああ」

『『ご愁傷さま』』

離れた場所で、どたばたと暴れる二人を見ながら、術者の京楽と禍津神の浮竹はゆっくりと茶を飲むのであった。


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祓い屋京浮シリーズ12

その日、禍津神の浮竹と術者の京楽は、いつものように術者の浮竹と式の京楽のいる屋敷に遊びにきていた。

今日のお土産は苺ショートケーキで、ずっと眺めて食べない禍津神の浮竹の分の苺を。

「いらないのか。もらうぞ」

そう言って、術者の浮竹が食べてしまったものだから、怒ってしまい、禍津神の浮竹は涙を浮かべて泣き出した。

「すまない。いらないのかと思って」

『むう。好物だからとっておいたんだ。酷いぞ、術者の俺』

わんわん泣く禍津神の浮竹を、二人の京楽がなだめるが、禍津神の浮竹は穢れの黒い靄を出してしまい、これはいけないと、式の京楽が浄化の結界をはった。

やっと泣き止んだ禍津神の浮竹の頭を撫でながら、術者の浮竹は。

「今度、苺をたくさんやるから簡便してくれ」

『それなら、許す』

そんなこともあったが、平和に過ごして、夜になり何故か酒盛りをすることになった。

上等な酒ばかりが用意されて、禍津神の浮竹は少々酔ってしまい、術者の京楽もほろ酔い気分というところだろうか。

だが、術者の浮竹は実は酒に弱く、べろんべろんに酔っていた。

一方の式の京楽は酒豪で、どんなに飲んでも酔わない。

「京楽、おい、京楽、聞いているのか!」

「聞いてるよ。っていうか、そっちは術者の僕で、僕じゃないよ!」

「うぃ~~~~」

なんと、術者の浮竹はは術者の京楽を自分の式の京楽と間違えて、押し倒していた。

『ちょっと、センパイ、やばいですって』

「ん」

『ん~~~~』

キスをされて、禍津神の浮竹がそれを見て怒った。

『春水は俺のものだぞ!いくら術者の俺といえど、譲れない!』

「ん~?なんかいつもの京楽より若い・・・目が悪くなったのか、俺は」

『セ、センパイ』

強烈なキスに、術者の京楽もたじたじになった。

凄いテクニックで、キスだけでいきそうになってしまった。

これを、式の京楽は毎日のように味わっているのかと思うと、少しだけ羨ましい気持ちも出る。

『センパイの伴侶はこっち』

式の京楽は、あまりのことに口をあんぐりと開けて押し黙っていたが、我に返って術者の浮竹に口づける。

「消毒しとかないと」

『ボクは汚くないよ。失礼だね』

「その、浮竹がすまない。僕と勘違いしちゃったみたいで。酒には弱いほうだったけど、ここまでべろべろに酔わせたことはなかったから、こんなことになるなんて思わなかったよ」

『酷いぞ、術者の俺!』

ぷんぷん怒る禍津神の浮竹は、また泣き出した。

それを、二人の京楽がなだめてなんとか機嫌をなおしてもらった。

『ボクは十四郎だけを愛しているから。センパイがいくら魅力的でも、十四郎をとるから』

『当たり前だ。春水は俺のものだ。俺だけのものであるべきだ』

「いやぁ、ごめんねぇ、二人とも。ほら、浮竹も謝って」

「ふにゃ~~~~~。もっと酒もってこ~い」

「だめだこりゃ」



術者の京楽と禍津神の浮竹は、その日、術者浮竹の屋敷にまた泊まった。

今日は何もないようで、術者の浮竹は深く眠っていた。

『術者の俺は、大丈夫なのか。あんなに酔って、二日酔いとか』

朝になり、そう言って禍津神の浮竹が術者の浮竹のところに行くと、記憶を見事に飛ばしているが、元気な術者の浮竹がいた。

「その、昨日はすまなかったな。覚えていないんだが、何か凄いことを術者の京楽にしてしまったようで」

『二度目は許さないぞ』

「大丈夫だ、もう酒はしばらく飲まない。飲んでも酔うまでには飲まないようにする」

『そうしてくれ』

「浮竹は酒に強くないんだから、ほどほどにね」

「ああ」

「ほどほどにだよ?」

「分かっている」

「ほんとに?昨日は術者の僕なんかに・・・・・」

「細かいことは聞きたくない!記憶にないんだ。このままそっとしておいてくれ」

「君は、べろんべろんになって僕にベロチューしまくったの」

「え、そうなのか。皆の前で恥ずかしい・・・・・」

『騙されてるぞ、術者の俺』

禍津神の浮竹がそう言うと、式の京楽は怒られてハリセンではたかれる前に、文鳥になった。

「ちゅんちゅん!!」

「あ、ずるいぞ京楽!ええい、羽をむしってやる!」

「ちゅんーーーーーー!!!」

『俺もむしる!』

二人がかりで羽をむしられて、それを高速再生して、式の京楽は逃げるために自分から鳥かごの中に入った。

「ちゅんちゅん!!(虐待反対!!」

「どうせ生えてくるじゃないか」

「ちゅんーーー!!(そんな問題じゃない!!)」

『はぁ、少しすっきりした。術者の俺のことは許してやる』

「すまない」

『ただし、二度目はないからな』

「大丈夫だ。もう、皆がいる前では酒はな飲まない」

『約束だぞ』

「ああ」

指切りをする二人に無視されて、鳥かごの中で式の京楽は。

「ちゅんちゅん!!(僕にも構ってよ!!)」

と鳴きまくるのだった。

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祓い屋京浮シリーズ11

花鬼(かき)

それは花の精であり、花の化身であり、花のもののけである。

季節は秋。春の桜の花鬼はよく見かけられるし、桜の花鬼が引き起こす事件を解決するのも術者の仕事である。

しかし、今は秋。

桜はない。

代わりに、金木犀が甘い匂いをさせて満開だった。

「俺のこと、好きだっていってくる花鬼がいるんです。気味わるくて。花鬼って生気を吸い取って人を殺すんでしょう?退治してください」

依頼人は、見目のいい芸能人だった。俳優だそうで、時折ドラマなんかで見かけた。

「サ、サインをいただいても?」

式のルキアが、色紙とペンを持って、立っていた。

「ああ、いいですよ」

「やったー!サインもらえました、ご主人様」

「よかったな、ルキア」

「よかったね、ルキアちゃん」

「はい!」

ルキアが、場を明るくしてくれた。

「で、その花鬼は金木犀の花鬼なんだな?君を好きだと・・・・被害は?」

「つきまとわれるんです!俺の生気を吸い取ってるんだ。最近眠りも浅いし、目覚めも悪いし、食欲もあんまりでない」

「ねぇ、君、その花鬼と会話したことは?」

「ありませんよ、あんな化け物!一方的に好きだっていって、まとわりついてくるんです。退治してください。依頼料は前払いで150万」

京楽が、目を閉じた。

花鬼は確かに人の生気を吸い殺す悪いやつもいるが、大抵は人の生気を少しだけ分けてもらい、花を見事に咲かせる花の精だ。

その花鬼が好きだという相手は、もののけだからととりあってくれない人間であった。

浮竹も京楽も、話し合いで解決を望んだが、依頼人は退治を望んでいて、依頼されたからにはそうせざるをえないかもしれない。

術者は、時に冷酷さが必要だ。

依頼人の俳優が、その花鬼の出る金木犀の場所に案内してくれた。



「好きなの・・・・愛しい人。ただ、傍にいさせて」

「うわぁ、でたぁ!花鬼だ!祓い屋さん、早く退治してください!」

「君・・・こんな人間は放っておいて、違う人間にしなさい。もしくは恋心を忘れて、少しの間眠りにつくといい。金木犀が満開なせいで、人に見えるようになっている。時期がすぎれば、そんな一時の感情なんて忘れるよ」

京楽がそう言うと、13歳くらいの少女の姿をした花鬼は泣き出した。

「想いを受け入れてもらえないのは知ってるの。でも、好きなの。どうしようもないくらいに、好きなの。ただ、好きだから傍にいたい。だめ?」

「花鬼が傍にいるなんて知れたら、俺の仕事が減る!だめだだめだ、俺につきまとうなこの醜い化け物が!」

「私は花鬼の鳴(めい)。私のことをどうか忘れないで」

「知るか!」

依頼人は、冷たく花鬼に接する。

浮竹は、見ていられなくて、花鬼の鳴の手を取った。

「俺が、この依頼人のことの記憶を消してやろう。だから、諦めるんだ」

「そんなの嫌。死んでもいいから、記憶に刻まれたい」

「鳴・・・・・・・」

浮竹は、泣く鳴を抱きしめた。

「花鬼なのに、生気を全然吸っていないんだな。もろい。金木犀は満開だが、このままだとお前は消滅するぞ」

「それでもいいの。この人を見ていられるなら」

「ねぇ、浮竹かわいそうだよこの子。退治する以外でなんとかならないの」

「だから、今その方法を模索している」

「ちょっとあんたら、前金で150万も払ってるんだ。さっさとこの化け物を退治してくれ!」

浮竹は、依頼人に依頼料を投げ返した。

「この依頼は受けない。鳴、花の咲く場所を変えよう。俺の家の庭にくるといい。そして、新しい誰かと恋するといい」

「この恋を諦めて?」

「そうだ」

「でも・・・・・・」

「いいから、おいで」

浮竹に抱きしめられて、鳴は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。そう、言ってくれる人がいてくれるだけで十分。私、還るよ。天に」

「おい、鳴!」

「鳴ちゃん!」

金木犀の花鬼は、涙をぽろぽろ流して、すーっと空気に溶けていく。

「だめだ、消えたりしちゃ。怨念が残って、悪霊になる。お前はは生きるべきだ」

浮竹は、再生の力を与えて、消えゆこうとする鳴を、地上に押しとどめた。

「なんだよ、あんたら!依頼を遂行してくれないって、業界に流しやる」

「そんなことしたら、どうなるか分かってるの?」

京楽が、水龍神の瞳で、依頼人を睨んだ。

「ひっ。化け物おおおお!!ひいいいい!!!」

水が溢れて、依頼人を包み込む。

「お、俺が悪かった。何もしないから、殺さないでくれ!」

京楽は、溜息をついて依頼人を解放した。

浮竹は、業者を呼んで、鳴の宿る金木犀を運んでもらい、自分の屋敷の片隅に植えた。

鳴という名の花鬼は、消滅することなく、依頼人を忘れることにして、新しい人生を歩み出す。




「鳴」

「はい」

「元気か?」

「はい、元気いっぱいです。海燕さんが好きです」

鳴を、屋敷の庭にうつして一週間。

鳴は、優しく語りかけてくる浮竹の式神の海燕を好きになっていた。

京楽は安心した。

鳴が、自分か浮竹を好きになることがないように、祈っていたからだ。

浮竹を好きになられたら、残念だが記憶を抹消させるしかないし、自分を好きになっていたら、これまた抹消するしかない。

海燕も満更ではないようで、鳴と仲良くやっていた。

「依頼人、ほんとに僕らのこと業界に流さなかったね」

「お前の脅しが効いたんだろう」

「僕はちょっとだけ、力の片鱗を出しただけだよ」

「それでも十分脅しだ。水龍神だけに、水を操れるから人の体内はほとんど水でできている。血液を少しだけ沸騰させるだけで殺せる」

「僕は無駄な殺しはしないよ」

「当たり前だ」

浮竹は、甘い香りをさせる金木犀の下で、京楽に抱きしめられて、キスをしていた。

「ねぇ、僕がもしも花鬼だったら、君は受け入れてくれた?」

「ああ」

「本当に?」

「本当だ。現に水龍神という、花鬼よりもすごく厄介な存在だが、式にして俺の伴侶として受け入れているだろう」

「そうだね。好きだよ、浮竹」

「ん・・・・・・」

キスが深くなる。

「も、これ以上は・・・・」

「うん、寝室で・・・・」

そんな二人を、不思議な表情で花鬼の鳴は見送るのだった。


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「鳴」

「はい」

「気分はどうだ?」

「うん、いいよ」

もう金木犀も散ってしまう季節。

鳴は、花が散っても眠りにつかず、起きたまま冬を迎えようとしていた。

「海燕とは?」

「うん、付き合ってはもらえないみたいだけど、好きなままでいてくれてもいいって」

「そうか。新しい恋はしないのか?」

「うん。海燕さんが傍にたまにきてくれるから。私も、海燕さんの傍にいても、別にいいって海燕さんが」

「海燕には、都という婚約者がいる」

「うん、知ってる」

鳴は、少し哀しそうに微笑んだ。

「お前だけを思ってくれる式を作ろうか?」

「ううん、いいの。そんな偽りの愛なんていらない」

「そうか」

「ああ、ここにいたの浮竹。鳴ちゃん、数日ぶり」

「京楽さん、浮竹さんを大切にね」

「何当たり前のこと言ってるの。僕は浮竹のもので、浮竹は僕のものだよ。大切にしないはずがないよ」

その言葉に、鳴は微笑んだ。

「いいなぁ、相思相愛で。私も、いつかそんな恋をしてみたい」

「花鬼に寿命は長い。いつか、出会えるさ」

「こんな屋敷で咲いていても?」

「依頼人の中から探せばいい。きっと、理解してくれるいい人がいる」

「そうだといいなぁ」

鳴が、海燕と仲良くはやっていたが、海燕に婚約者がいることを知ったのはここ数日のことだった。

「海燕さん以上の人がいたなら、心代わりするかも」

「婚約はしているが、式だから結婚はできないんだ、海燕は。でも、海燕は婚約者の都を愛している。鳴のことも愛しているだろうが」

「うん」

「二股とはちょっと違うな。鳴への愛は、恋人への愛じゃない。どちらかというと友情の愛だ」

「うん。それでも、私は構わないよ。海燕さんが好き」

「お前も、厄介な相手を選んだものだ」

「浮竹さんや京楽さんを選ぶよりはましでしょう?この前、京楽さんが自分たちを好きになったら、記憶を抹消するしかないって言ってた」

「あいつ・・・・・・・」

「怒らないであげて?現に好きにはなってないんだし」

「ああ」

鳴は、笑った。

明るい笑顔だった。

「私、幸せだよ。あの愛した人は全然会話もしてくれなかったけど、海燕さんは私と同じ時間を歩んでくれる。それだけで、幸せだよ」

「そうか」

浮竹は、長い白い髪を風になびかせた。

「おーい、浮竹、夕ご飯の時間だよーーー」

浮竹を呼びにきた京楽に、浮竹が返事をする。

「今、行く」

「じゃあまたね、浮竹さん。私、冬になるし少し眠りにつくよ。海燕さんにも、そう言っておいて」

「ああ。また、春に」

「春に」

「おーい、浮竹ぇぇぇ?」

「うるさい、鳥!焼き鳥にするぞ!」

「ぴえ~~んん。ちゅんちゅん!!」

小鳥の姿になって、京楽は浮竹の肩に止まる。

一人の幼い花鬼は眠りについた。

それを、二人は静かに見守るのだった。

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