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桜のあやかしと共に 外伝7

「これが一番おすすめの、惚れ薬です」

「そんなもの、いらないぞ」

「まぁまぁ、そう言わず。すでに惚れている相手に使うと、もう夢中になってきますよ」

「ふむ。まぁいいか。買う」

「毎度あり」

商売相手は、小豆とぎであった。その小豆とぎは、あやかしまんじゅうの経営にも参加していて、商売が好きで、商売上手でもあった。

桜の王には金がある。

それを知って、小豆とぎはなかなか売れない惚れ薬を売り払った。

桜の王に、また愛しい者ができた。

あやかしまんじゅうの販売店でも、噂になっていた。それを聞きつけての、商売であった。

「京楽に飲ませよう。アルコールだと変に思われるから、ジュースに混ぜとくか」

浮竹は、つい軽い気持ちで惚れ薬をオレンジジュースに混ぜた。

そして、数日が経ち、惚れ薬のことなどすっかり忘れていた。

妖狐の浮竹tと、夜刀神の京楽が遊びにきていた。

おみやげにと、シフォンケーキをもってきた。

京楽が紅茶をいれようとして、茶葉を切らせていたことに気づく。

「緑茶でいいかな?」

『なんでもいいぞ:』

「私の緑茶を使うな。なかなか手に入らぬ代物なのだ」

白哉が反対するので、何か飲み物はないかと冷蔵庫を探すと、オレンジジュースがあった。

京楽は、それを出そうとして、浮竹が惚れ薬を入れていたことを思い出す。

「だめだ、飲むな!」

「なんで?」

『どうしたんだ、精霊の俺』

『なにかやましいものでも?』

感に鋭い夜刀神が、にやにやする。

「なんでもない!俺が飲む!」

浮竹は、惚れ薬を飲んでも、京楽を愛しているので、京楽だけに惚れる自信があった。

オレンジジュースを一気飲みして、バタンと浮竹は倒れる。

『精霊の俺!?大丈夫か?』

『ちょっと、そのオレンジジュースの中身の残り、ちょうだい』

京楽が、夜刀神にオレンジジュースを渡す。

『あちゃ、何か薬いれたね。なんの薬かまでは分からないけど』

「十四郎が薬を?ボクに飲ませるつもりだったのかな」

『桜の王のことだし、多分そうだろうね。浮竹、気を付けて‥‥』

ぱっと目覚めた浮竹は、妖狐の浮竹を見た。

「好きだあああああああ」

『ぎゃあああああああああ』

浮竹に押し倒されて、妖狐の浮竹は驚く。

『た、助けてくれ~~~~~~』

『ちょっと、桜の王、何とちくるってのさ』

「十四郎?ボクがいるでしょ?」

「京楽のことも好きだけど、妖狐の俺も好きだ。今すぐ結婚して子作りしよう」

「十四郎!?」

『ぎゃあああああああ』

服をはぎとられて、キスされて、妖狐の浮竹が悲鳴をあげると、夜刀神が人の姿になって、浮竹の頭を殴る。

『しっかりしてよ、桜の王!ボクの浮竹に何するのさ!』

「夜刀神‥‥‥‥お前でもいい。好きだ。結婚して今すぐ子作りしよう」

『もぎゃああああああああ』

節操のない浮竹に、白哉が緑茶をすすりながら。

「これでもいれたのはないか?」

そう言って、惚れ薬の瓶を取り出した。

『あ、それ小豆とぎが売ってるやばい惚れ薬。まさか、ボクと浮竹に飲ませるつもりじゃなかっただろうから、桜鬼のボクに飲ませようとして、証拠隠蔽のために自分が飲んで‥‥桜の王、アホだね』

「やらせろおおおおおおお」

『ほげあああああああ!!!』

夜刀神は、再び浮竹に押し倒されていた。

『こ、こんな効果の出る薬じゃなかったはずなんだけど』

京楽が、浮竹を羽交い絞めにして、夜刀神が不思議がる。

「体質とやらであろう。浮竹は、昔から薬に弱いというか、変な効き方をする」

白哉は、我関せずとうかんじで、シフォンケーキを一人で食べながら、緑茶をすする。

「解毒剤とか何かないの!?」

『あの小豆とぎの惚れ薬は、解毒剤とかなかったはずだよ。自然に効果が切れる待つしかないね』

「浮竹、寝ておけ」

白哉が、桜の術で京楽と白哉以外にせまってくる浮竹を眠らせる。

「二日は起きぬ。目覚めれば、薬の効果も切れているであろう」

「助かったよ、白哉くん」

『精霊の俺が、こんなに力強いなんて思ってなかった。見た目は綺麗だけど、力持ちだな』

『まぁ、ボクの浮竹に被害があまり及ばなくてよかったよ』

『服脱がされたんですけど!キスもされました!』

口調を変えて訴えてくる妖狐の浮竹に、夜刀神は。

『消毒しておかなくちゃね』

そう言って、妖狐の浮竹とキスをする。

そんな二人を生温かい眼差しで、京楽と白哉が見る。

『こ、これは違うぞ!ラブシーンじゃない!』

「兄らにはあまり興味をもっていないので、どうでもいい」

白哉の言葉に、妖狐の浮竹がショックを受ける。

『どうでもいいって言われた~~~』

『ちょっと、白哉くん、そういう言い方はないでしょ』

「好きなだけいちゃついてていいよ。ボクは、浮竹をベッドに寝かせてくるから」

「私も、恋次のところにでもいこう」

妖狐の浮竹と夜刀神だけが残された。

二人は、人の家でラブシーンの続きをするわけにはいかないので、素直に家に帰る。



「白哉、好きだあああああ!!結婚して‥‥あれ?俺は何を言って何をしようとしてたんだろう?」

2日たって、薬の効果の名残を少しだけ残して、浮竹は目覚めた。

抱きつかれた白哉は、優しく浮竹の背中を撫でる。

「兄の愛しい者は、これだ」

「これ‥‥‥十四郎、惚れ薬をオレンジジュースに混ぜたね?」

「あ‥‥京楽に飲ませようと買って‥‥皆に飲ませるわけにもいかないから、自分で飲んで‥‥そこから、記憶が途切れてる」

「はぁ。ボクは、何があっても十四郎だけを好きだし、今更惚れ薬なんて使わなくても、めろめろだから」

「う、うん‥‥‥」

浮竹は赤くなった。

なんだかいつもよりかわいく見えて、京楽は浮竹を抱きしめる。

「愛してるよ、十四郎」

「うん。俺も愛してる、春水」

浮竹と京楽は互いを抱きしめあって、キスをする。

「ほら、恋次、ラブシーンとはあのようにするのだ」

「うっす!勉強になるっす!」

恋次が見ているのに気づいて、浮竹は京楽をハリセンで殴った。

「ハリセンで殴るのも、ラブシーンですか、白哉さん」

「違う。あれは浮竹だけのものだ」

「はい。勉強になりました」

「びゃ、白哉、恋次くんはいつから」

「最初からいましたけど?」

恋次は悪びれもせずに、浮竹に言う。

「わああああ、全部忘れろおお」

浮竹は、恋次にもハリセンを食らわせるのだった。

ちなみに、白哉には弟なのでハリセンはなかった。ハリセンどころか、眠らせて場を解決してくれたので頭を撫でていた。

京楽も恋次も、白哉だけ特別扱いされてずるいなぁと思うのであった。










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桜のあやかしと共に41

「鏡?」

「はい。映った者の姿のままでてきて、ドッペルゲンガーになるんです」

依頼人は、布でくるんだ、古い鏡を京楽に渡す。

「京楽、それ、雲外鏡だ。付喪神がついているわけじゃなくって、鏡自体があやかしだ」

「ひええええ」

依頼人は、京楽に鏡を押し付けると、逃げてしまった。

はらりと、鏡を包んでいた布がとれる。

姿が映ったのは、浮竹だった。、

「十四郎?」

浮竹が、二人になっていた。

「わぁ、俺が二人いる」

「俺のほうが本物だ」

「違う、俺のほうが本物だ」

京楽は、見た目も声も妖力も変わらない二人を見て戸惑う。

でも、はっと思いこんで、二人の浮竹にキスをした。

一人は顔を赤くして、おとなしくなり、もう一人は顔を赤くして、ハリセンで京楽をはたきまわす。

「こっちが、本物だね」

「なぜじゃ。なぜばれた」

「化けた相手の記憶や癖はないようだね。雲外鏡、まだまだ修行が足りないよ」

「そうか。では、記憶も癖も追加しよう」

再び、浮竹が二人になる。

「こっちが偽物だ」

「違う、こっちが偽物だ」

二人はぎゃあぎゃあと言い争いあう。

京楽は、今度は浮竹の尻を触った。

二人とも、怒ってハリセンではたいてきた。

「うーん、どっちも同じ反応‥‥‥そうだ、十四郎はボクだけが好きなんだよね?」

「いや、「春」も好きだし、白哉もあのばかな夜刀神も妖狐の俺も好きだ」

「俺も同じだ。あのあほうの夜刀神は、いつかぎゃふんと言わせてやる」

「困ったなぁ。判別がつかないよ。ボクの前に好きだった人のこと言える?」

京楽が聞くと、浮竹達は自信満々に。

「「春」」が好きだ」

「「春」」を今でも愛してる」

そう言った。

「記憶まで一緒かぁ。参ったなぁ」

京楽は、二人の浮竹を相手に、白哉ならどうだろうと、白哉を呼んだ。

「おーい、白哉くん」

「なんだ、さっきから騒々しい‥‥‥‥浮竹が二人?」

「どっちかが雲外鏡なんだよ。どっちかわかる?」

「浮竹、兄は私に借金があるな?」

「え、そうなの十四郎」

京楽が、反応する。一方、二人の浮竹は。

「「おとついかりたジュース代の120円が借金か」」

声をはもらせて言い返してきた。

「すまぬ。私にも、どちらが本物なのか分からぬ」

「あちゃー、白哉くんでもだめかー。こうなったら‥‥」

京楽は、妖狐の浮竹に電話をかけた。

妖狐の浮竹は、こうもり姿の夜刀神の京楽を連れて、京楽のマンションにやってくる。

『俺をいれたら、3人になるな』

そう言いつつ、匂いをかいだ。

『うーん。こっちが若干油揚げのにおいがする。こっちは、稲荷寿司のにおい』

「ちょっと、君だけが頼りなんだから」

『冗談だ。こっちが雲外鏡だ。古い付喪神のようなにおいがする』

「わしの負けじゃあ。さぁ、叩き割るなりなんなりするといい」

ぼふんと、一人の浮竹が鏡になった。

『もう一度、今度はこっちの浮竹になれる?』

「なれるが、なんじゃ?」

ぼふんと音を立てて、雲外鏡は妖狐の浮竹になった。分かりやすいように、髪をリボンでくくる。

『やぁ、遠慮なしで抱きしめてみたかったんだよね』

そう言って、夜刀神の京楽は、雲外鏡の妖狐の浮竹を思い切り抱きしめた。

ボキボキバキっ。

骨が折れる音がして、浮竹も妖狐の浮竹も、それに京楽も顔を蒼くする。

『京楽、お前、こんなことを俺にしたかったのか』

『できないから、雲外鏡に頼んだの』

雲外鏡は、妖狐の浮竹の姿で気絶していた。妖狐の浮竹は、雲外鏡の傷を癒してあげた。

「助かったわい。わしは、もうしばらく‥‥そうじゃな、こっちの浮竹とやらになっておくとしよう」

京楽は、違いが分かるように、雲外鏡の浮竹の髪をポニーテールにした。

「やばい、偽物って分かってるのに、かわいい‥‥あべし!」

本物の浮竹にハリセンでしばかれて、京楽は本物の浮竹に迫る。

「君の絹のような髪も、結わせて?」

「す、好きにしろ」

「わーい」

京楽は、浮竹の両サイドの髪を三つ編みにして、後ろでくくる。

「かわいいね」

「ふん、知るか。ああ、妖狐の俺に夜刀神、それに雲外鏡も。俺の作る夕飯を食べていけ」

「へ?わしもいいのかいの?」

浮竹の姿のまま、じじ臭い声を出す。

「確かに俺の姿になったが、悪さをしたわけでもない。退治する必要はない。今後、誰かに化けないこと。ドッペルゲンガー状態をやめるのが、条件だ」

「分かった。わしは、この時代にはいらぬのだな。夕飯をごちそうになったら、眠りにでもつくことにするよ」

「そうか」

『俺、においを判別するためだけに呼ばれたのか』

『自分のパートナーも分からなくなるなんて、まだまだだね』

「髪結ってないと、どっちがどっちだったか、分からないくせに」

『なんだって。やる気?』

「そっちがその気なら」

『はい、終了!』

妖狐の浮竹が、京楽たちの不毛な争いを止める。

浮竹はキッチンのほうに行ってしまい、白哉も手伝うと、キッチンに行ってしまった。

できたての夕食を食べながら、雲外鏡はそのおいしさに涙を流していた。

「できれば、俺の姿で泣かないでくれ」

「こんなに優しくされたのは、久方ぶりじゃて」

「思ったのだが、雲外鏡、術者の式になるつもりはないか?」

「へ?わしが式に?」

白哉の言葉に、皆首を傾げる。

「私のパートナーに、式を大量に操れる恋次という者がいる。その者の下で、働いてはみぬか?」

「わし、なんかでよいのか?」

「その、ドッペルゲンガーになれる能力を眠らせるにはおしい」

白哉は、恋次をスマホで呼び出すと、5分もせずに恋次がすっとんできた。

「白哉さん、式にしたいあやかしって?」

「この、雲外鏡だ。雲外鏡、元の鏡に戻ってくれ」

「あいわかった」

元の鏡に戻ると、雲外鏡は白哉の姿になった。

「おお、すごい。こいつは、式の中でもかなり強力な戦力になりそうっす」

「だそうだ、雲外鏡」

「わしでよければ、あんさんの式になろう。名がほしい」

雲外鏡は、元の鏡の姿に戻る。

「じゃあ、今日からあんたは俺の式だ。名は‥‥‥そうだな、雲(くも)でどうだ?」

「安直なネーミングセンスじゃが、それでいい」

「よかったな、雲外鏡」

浮竹がそう言うと、雲外鏡は笑った。

「おぬしらのおかげじゃて」

「恋次くん、雲外鏡をよろしくね」

「ああ、任せてくださいっす」

「恋次、雲外鏡を使いこなせるように、今夜は一緒に特訓だ」

「は、はい!」


そんな5人を、妖狐の浮竹と夜刀神は、ぼけーっと見ながら、浮竹の作ったデザートを食べていた。

『なんか、急に呼び出されたのに、蚊帳の外だね』

『いっぱい食ってやる』

妖狐の浮竹は、デザートを全て一人で平らげる。

白哉と恋次と雲外鏡がいなくなり、浮竹と京楽は、デザートが全部食べられてしまったので、作り置きしておいた苺パフェを冷蔵庫から取り出して食べる。

『あ、パフェなんてずるい!俺にも!』

『まだ、食べるの?』

『デザートは、別腹だ!』

「あと一人分しかないぞ」

『俺が食う』

『うん、ボクはいいよ』

「妖狐の俺、突然呼び出したりしてすまなかった。雲外鏡のことばかりで、あまり相手もできず」

『俺には、京楽がいるから大丈夫だ』

「そうか。帰りには、詫びの意味もかねて、あやかしまんじゅうをやろう」

『わーい』

京楽たちは、微笑みあうそれぞれのパートナーである浮竹たちを見て、苦笑するのだった。



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桜のあやかしと共に40

港町で、人魚が現れて漁場を荒らしているから、退治してほしいという依頼を受けた。

「人魚か。本当にいるんだろか。もうほとんどいないと聞く。肉を食べれば不老不死になると言われているが、実際は毒で、不老不死になってもすぐに死んでしまう」

「人魚じゃ、ないかもね?」

「多分、人魚もどきだろう」

京楽が運転する高級車で、港まで向かった。

異界を通っても、その漁場には行ったことがないので行けない。なので、車での移動になった。

「見えてきた。この港町だ」

車を駐車場に置いて、依頼人の家にまずは行った。

「人魚が本当に出るんです。若い男は、人魚の歌声に惑わされて、食われそうになりました。網にかかった魚を食い荒らして、困っているんです。人も食おうとするし、退治してください」

「その人魚は歌って、人間の男を惑わすんだね?」

「はい、その通りです」

「多分、セイレーンだね。外国の人魚だ。船かなんかについてきて、住み着いてしまったんだろう。セイレーンは人を襲う。退治しよう」

「セイレーンでもなんでもいいです。ぜひ、退治してください」

京楽と浮竹は頷いで、人魚というか、セイレーンが現れる岩場にきた。

そこには、尼僧が立っていた。

「お前は、元鬼女の八百比丘尼じゃないか!600年ぶりだな!」

「あら。桜の王じゃないですか。人魚を退治しに?」

「そうだ。お前は?その姿を保つために、相変わらず魚を生で食ってるのか?」

「生で今も食ってますよ。昨日はタイを生で食いました。久しぶりに、セイレーンでいいから、人魚の肉を食べたくなったので」

八百比丘尼は、浮竹の知り合いであった。

「俺たちは、退治しにきたんだ」

「じゃあ、肉は私にくださいな。食べます」

「浮竹、いいの?」

「ああ。八百比丘尼は元々鬼女だが、人間に害をなすあやかし退治をしてくれる。気まぐれなので、依頼しても引き受けてくれないことが多いがな」

「八百比丘尼のルカと申します、桜の王のパートナーの方」

「これはどうも。京楽春水といいます。術者ですが、桜鬼です」

桜鬼という言葉に、ルカは驚いた。

「桜の王から、桜鬼を引き継いだのですか?」

「うん、そうなるね。堅苦しい言葉使いはやめよう」

「ふふふ。桜の王に、愛しい方ができてしまったけれど、死んでしまったと聞きました。また、新しい愛しい人を見つけたのね」

浮竹は赤くなった。

「ふふ、桜の王は相変わらず恥ずかしがり屋ですね」

「オオオーン」

ふと、人の声が岩場からして、3人は岩に身を隠して様子をみる。

「ララララ~~~~」

綺麗な声で歌う人魚がそこにいた。いや、セイレーンか。

西洋の人魚なので、人魚ではないとは言い切れない。

セイレーンは、人がしかけた網を手に、かかっていた魚を生で丸かじりしだした。

「姿は美しいけれど、野蛮で醜いこと。でも、食べがいがありそう」

ルカはどう調理しようかと、思案する。

「セイレーン、そこまでだ。漁場を荒らし、人を食おうとする。退治する」

浮竹がセイレーンに姿を現してそう言うと、セイレーンは歌いだした。

普通の人間の男なら、幻惑されて誘惑され、セイレーンの元に行くのだが、浮竹は桜の王であやかしである。セイレーンの歌声は通用しなかった。

「く、あやかしか!」

セイレーンは、海の中に逃げようとする。

「縛!」

「な、動けない!?」

「肉は残しておくんだよね?」

「はい」

八百比丘尼のルカは、頷いた。

「じゃあ‥‥天嵐(てんらん)!」

激しい竜巻に、セイレーンは岩場で頭を打ち、意識を失った。

「念のため、俺がとどめをさすがいいな?」

浮竹が桜の花びらを鋭い刃物に買えて、セイレーンの心臓を貫く。

「ぎゃっ!」

意識を失っていたセイレーンは、短い悲鳴をあげて息絶えた。

「鍋にしようと思って。よかったら、一緒にどう?」

「たまにはいいかもな。人魚の肉は美味だ」

「ぞの代わり、人が食べると毒ですけどね。あやかしが食べると毒は効かないし、不老不死にもなりません。私は、伝説の人魚を食せたので、元鬼女であったので、毒はきかないで若いままの姿でいられるけれど。食べた人魚が、偶然不老不死の力をもっていたせいで800年も若いまま」

「セイレーンの肉っておいしいの?」

京楽は、あやかしを食べるのは初めてなので、不思議そうな顔をしていた。

上半身が人の姿をしているので、普通の人間なら食べたいとは思わない。

京楽も、すっかり桜鬼に染まっていた。

「うまいぞ。俺も人魚の鍋を、八百比丘尼に食わせてもらったが、とてもおいしかった」

「じゃあ、今晩は宿の厨房でもかりて、鍋にしましょう」


ということで、まずは外でセイレーンを解体して、食べる部分だけを残し、後は冷凍して八百比丘尼のルカの住まいである寺まで、クール宅急便で届けてもらうことにした。

野菜やきのこ、鮭やらホタテを入れた鍋に、一口サイズに切ったセイレーンの肉をぶちこむ。

湯であがると、鮮やかな深紅になった。

「うん、久しぶりに食うけど、うまいな」

「でしょう。桜の王の料理の腕のせいもあるかもしれませんが」

「セイレーンだと思うと、ちょっとあんまり食欲わかないけど‥‥‥匂いとかおいしそうだし、ボクもいただくよ」

京楽は、初めて食べる人魚ことセイレーンの肉のうまさに、目を見開いた。

「おいしい!!!」

「ほらほら、俺の分もやるから食え」

「ありがとう、十四郎」

あやかしがあやかしを食うのは珍しいことだが、食用のあやかしもいる時代である。

ルカと浮竹と京楽は、セイレーン鍋を楽しみ、酒を飲んだ。

「あ、十四郎はオレンジジュースだよ」

「えー。コーラがいい」

「明日にでも買ってあげるから、今日はオレンジジュースで我慢して」

「あははは、桜の王、酒に弱かったですね。酒乱で、昔は歌いまくって意識を失いましたっけ」

「むう、昔の話はするな」

浮竹がむくれる。

「京楽さん、昔の桜の王のこと、聞きたくない?」

「いや、ボクは今の十四郎が好きだから。過去は詮索しないよ」

「あら、つまらないわ。まぁ、セイレーンだけど人魚の肉を食べれるのは数百年に一度程度。あやかしはほぼ不老なので、わざわざ人魚を食べるもの好きな輩は私たちくらいね」

「人魚が絶滅しかけているのは、やはり人間のせいか?」

浮竹がルカに聞くと、ルカは頷いた。

「人にとっては毒だというのに、不老不死のために密漁されています」

「そうか‥‥」

浮竹も京楽も、どうしようもなかった。

「でも、セイレーンがいるなら、セイレーンが今後の人魚になりそうね」

「セイレーンは厄介だな。人魚に似ているが、人を食う」

「まぁ、どれも人間が招いた結果。私たちは、今を楽しみましょう?桜の王、セイレーンの肉、少し持って帰りません?」

「ん。ああ、いただこう。妖狐の俺と夜刀神は食いたくないだろうから、白哉にでも食わせてみるかな」

「十四郎、一発やらせて」

「はぁ!?」

ルカの前で迫ってくる、京楽の頭をハリセンでたたく。

「あら、忘れていたわ。人魚の肉と酒は、一緒にとると男性は性欲がましましになってギンギラギンになるってこと」

「それを早く癒え!」

「ねぇ、十四郎の胎の奥にボクのもの、いっぱい出していい?」

「教育的指導!」

そう言って、浮竹は桜の術で京楽を寝かせた。

「あら、つまらない」

「面白がるな!」

「ふふふ。鍋も終わりだし、今日はもう寝ましょうか。性欲ましましになった京楽さんも、明日には元に戻っているでしょう」

「今日は、京楽と同じ部屋で寝ないことにする」

「それが正解ね。人魚の肉と酒におぼれた男は、死ぬまでやるから」

「うわー、そんな京楽いやだ」

こうして、人魚ことセイレーン鍋を食べて、退治しおわったことを翌日依頼人に言って、報酬金をもらった。

「そういえば、この前妖狐の俺と夜刀神にも人魚の件がきたらしいが、セイレーンだろうな。人魚は、今の時代じゃあほんとにお伽話の存在だ。八百比丘尼のルカが食った人魚が、多分人里で見れた最後の人魚だろうな」

「ボク、あんまり覚えていないんだけど、すごく十四郎とやりたくなって、それで頭がいっぱいになったところで寝ちゃったんだよ。もう少し起きていたかったねぇ」

「俺はごめんだ」

「うーん、なんで寝ちゃったんだろう?」

「さぁな?」

桜の術でわざと寝かせたと言えなくて、浮竹は適当に誤魔化す。

そしてセイレーンの肉を持って帰り、白哉にも食べさせて、非常に美味であると言わせることに成功するのであった。

ちなみに、妖狐の浮竹と夜刀神は、肉は受け取ったが、食したかどうかは分からないままであった。




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桜のあやかしと共に 外伝6

『これは、ホットケーキというのか。甘くておいしいな』

ある日、浮竹は妖狐の浮竹のためにホットケーキを焼いて、たくさんシロップをかけたものをあげた。

油揚げやら稲荷寿司ばかり食べていたので、久しぶりにあやかしまんじゅう以外に甘いものが食べられて、妖狐の浮竹は嬉しそうだった。

「お前たちの分もあるぞ」

「十四郎がつくると、簡単なおやつでもプロの味になるんだよねぇ」

『ホットケーキくらい、誰が作っても同じでしょ』

夜刀神は、そう言いながら、浮竹の作ったホットケーキを食べようとすると、浮竹にもっていかれた。

『ケチ』

「この際だ、どっちが作ったホットケーキがうまいか、勝負しろ、夜刀神」

『いいね。勝負は嫌いじゃないよ。ボクも料理できるし、君をぎゃふんと言わせてあげる』

「ぎゃふん」

そう浮竹がからかいながら言うものだから、夜刀神に火が付いた。

『真剣勝負だよ。判定は‥‥‥そうだね、浮竹と桜鬼のボクだけじゃあ偏るから、白哉くんにも審査員になってもらおう』

「私は、あまり甘すぎるものは好きではない‥‥‥聞いていないな、二人とも」

『ごめん、白哉。京楽と、精霊の俺につきあわせちゃって』

「まぁ、たまにはよい」

「ボクは十四郎に票を入れるけどね。作る前から、すでに料理の腕に差があるのは明らかだし」

『料理は愛情っていうじゃないか。京楽の作るホットケーキのほうが、うまいかもしれないぞ?』

「それはないねえ」

『むう』

「ケンカはするな。浮竹と夜刀神は、真剣勝負をしているのだ。黙って、完成を待とう」

30分もしないうちに、浮竹がホットケーキをもってやってきた。

「食べてくれ」

『うん、さっき食べたのよりおいしい』

「さすが十四郎だね。ただのホットケーキなのに、すごいおいしい」

「甘い‥‥まぁ、悪くはない」

妖狐の浮竹、京楽、白哉の順で感想を言われる。

『ボクもできたよ。食べてみて?』

『うん、うまいぞ』

「焦げてる。苦い。マイナス100点」

「焦げたホットケーキ‥‥‥‥意外と、悪くないな」

妖狐の浮竹が夜刀神の肩をもつのは分かるが、まさか白哉まで夜刀神の京楽の作ったホットケーキを褒めるとは思わなくて、みんな白哉を見ていた。

「私は、斬新な味なので夜刀神の京楽に票を入れる」

『俺ももちろん京楽に』

「ボクは絶対浮竹だね」

2対1で、ホットケーキの料理対決は、夜刀神の京楽に勝ちになった。

「納得いかない。かせ、食う」

浮竹が、残っていた夜刀神の作ったホットケーキを食べて、眉根を寄せる。

「苦い。ホットケーキの味が台無しだ」

『そ、それでもボクの勝ちだからね』

「勝ったところで、何かが変わるでもない」

『残念でしたー。そっちのボクから、1日君を自由にこき使える権利をもらったよ』

浮竹は、京楽を見る。

京楽は、目をそらして口笛を吹いていた。

「春水、後で覚えておおお」

夜刀神にひっぱられながら、浮竹はたまった洗い物やら洗濯をする羽目になるのであった。


ちなみに、京楽は絶対に浮竹が勝つからと、そんな無謀なことを言ったのだが、1日が終わって自由になった浮竹から、3日間無視され続けるのであった。

合掌。

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結婚記念日

その日は、3年目の結婚記念日だった。

一護とルキアは、休暇をとって、現世の沖縄にきていた。

「って、結婚記念日の旅行なのに、なんでてめぇがいるんだ、白哉!」

「ルキアに誘われたのだ。沖縄には行ったことがないと言うと」

「ルキア!」

名を呼ばれて、ルキアは不思議そうな顔をする。

「兄さまも一緒じゃ、だめだったのか?」

うるうるした瞳で見つめられて、一護は天を仰いだ。

「あー、はいはい。白哉とも仲良く、旅行満喫するか」

泊まるホテルは、隊長であっても泊まれるかどうかの賃金の額を思わせるホテルであった。ちなみに、泊まる部屋はスィートルーム。

白哉が全部負担してくれた。

「ルキア、温水プールがあるのだ。一緒に行かぬか?」

「行きたいです、兄さま!でも、水着をもってきていません」

「ないなら買えばよい」

一護もついていくことにしたのだが、白哉はルキアと自分用の水着を高級なものを買うが、一護が買う水着には1円も出してくれず、一護は自腹で安い水着を買った。

「貧相だな。兄には、お似合いだ」

「がるるるるる。噛みつくぞ、このやろう」

「はしたない。こんなものが、ルキアの夫であるなど、恥だ」

「ムキーーーーー」

「一護、どうしたのだ」

ルキアが、泳げないのでうさぎさん柄の浮き輪で、プールの中を漂いながらこっちを見ていた。

「いや、なんでもねぇよ」

まさか、ルキアにお前の義兄は腹黒でケチで根性歪んでるとか言えない。

更衣室で着替える。

プールに入ると、白哉が水鉄砲で一護の目を狙ってきた。

案外かわいいところあるじゃないかと思えば、水鉄砲の中身は、匂いから柑橘系の果汁であることが分かる。

そんなもの、目に入った日には痛くて目をあけてられない。

「兄さま、おもしろそうですね。私にもやらせてください」

「目をねらうのだぞ。そこが弱点だ」

「はい、兄さま」

一護は、ルキアの水鉄砲から逃げた。全力で泳ぐ。

「むう。一護は、水鉄砲は嫌いなのだろうか」

「ルキアと私の仲を、今は邪魔したくないのであろう」

「一護、兄さまと仲悪そうだったけれど、いつの間に仲良く?」

「さぁ、どうであろうな。あれとは、仲が良いとは言えないのでな」

ルキアは、頬を膨らます。

「兄さま、一護は私の夫です。喧嘩はよくありません」

「分かっている、ルキア」

白哉は、そう言いながら、泳いで戻ってきた一護の目を狙って、水鉄砲をうつ。

「ぎゃあああああ、しみるううううううう」

見事に目に入ってしまい、一護は水の中にもぐって、目を洗う。

「ふむ。すぐに洗えるのが、難点か」

「兄さま?一護が、その水鉄砲の中身を受けて、とても苦しんでいるのですが」

「気のせいだ」

「そうですか。一護は、苦しんでいるふりをしてい                         るのですね。兄さまにやられたと思わせるために」

ルキアの思考は、一護の心配より、白哉と久しぶりにプライベートな時間を過ごせるので、一護より白哉をとった。

「ルキア、泳ごう」

「はい、兄さま」

一護は、すぐに目を洗ったとはいえ、涙が止まらなくて苦労する。

「白哉ああああ。今に見てろおおおお」

温水プールを、一護以外楽しんで、夕飯の時刻になった。

高級レストランに入り、注文する。

「私とルキアは同じ会計で。一護、兄は自腹だ」

「むきいいいいいいい」

「兄様、それでは一護が水だけ飲む状態になってしまいます。会計は同じで」

ルキアが一護の心配をすると、白哉はあっさりと言葉を覆す。

「会計は同じでいい。勝手に好きなものを頼め。私とルキアは、季節のコースを選ぶ」

「じゃあ、俺もそれで」

「やはりやめだ。ルキア、日替わりのメニューを頼もう」

「はい、兄様」

「きいいいいいい」

一護は、噴火するのを耐えるしかなかった。

眠るときも、ルキアの隣のベッドを占領されて、一護だけソファーで寝る羽目になった。ルキアと同じベッドで寝ようとすると、白雷を食らった。

一護は、結婚記念日の旅行で、胃をやられた。

「軟弱者め」

「誰のせいだと思ってやがる!」

「私のせいだな」

「キーーー、認めやがった。でも、何も変わらない。ルキアは俺のものだからな」

「ルキアは、大事な私の義妹だ。兄との結婚をしても、それは変わらぬ」

一護は、白哉を隠し持っていたハリセンでたたく。

「ほう。よほど、その命いらぬものとみえる」

双連蒼火堕の詠唱を始める白哉から、一護は全力ダッシュで逃げるのあった。
ちなみに、一護はストレスで軽い胃潰瘍になってしまい、さすがの白哉も嫌がらせをやめて、一護とルキアを静かに見守るのであった。






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浮竹の生きている世界線3

浮竹が溶けていく。

雨に打たれて、トロトロと。

「浮竹!」

「京楽‥‥お前とまた会えてよかった。もう、思い残すことはない」

「だめだよ、浮竹、いかないで!十四郎!!」

「俺はすでに死んだ身。元の地獄に戻るだけだ。お前の幸福を、ずっと祈ってる」

「ボクの幸福は、十四郎、君がいるからあるんだ!君のいないこの世界なんていらない!」

そこで、はっと目覚めた。



「夢‥‥‥なんてリアルで、不吉な」

ふと見ると、隣の布団で浮竹はすやすや寝ていた。

「浮竹‥‥大好きだよ」

短めの白い髪をそっと撫でて、額に口づける。

「今日は、もう寝れそうにないね」

まだ夜明け前だ。

満月が出ていた。ふと、酒を飲みたい気分になって、冷蔵庫から冷えた酒をもちだしてきて、一気にあおった。

「はぁ、おいしいねぇ」

満月を見ながら、一人で月見をしていたら、浮竹が起きてきた。

「京楽?なんでこんな時間に酒を飲んでるんだ?」

「浮竹‥‥‥‥約束して。ボクを置いて、地獄に戻ったりしないって。消えたりしないって」

「何を言ってるんだ。‥‥‥泣いてるのか?」

「浮竹ぇ」

浮竹は、子供をあやすように京楽を抱きしめて、優しく背中をとんとんと叩く。

「大丈夫だ。俺は消えたりしない」

「ほんとに?」

「ああ」

「じゃあ指切りをしよう」

「いいぞ」

京楽と浮竹は、指切りをした。

「なんか安心したら、眠くなってきちゃった。少し、寝るね」

布団に戻り、横になる。

「俺ももう一度寝る」

浮竹は、自分の布団に入らず、京楽の布団の中に入ってきた、

「京楽は、あったかいなぁ」

「浮竹‥‥ボクをあおらないでよ」

「ただ、一緒に寝るだけだ。手を出して来たら、1日中口聞いてやんない」

子供の我儘のように、浮竹は言う。

「じゃあ、おやすみ」

「ああ、おやすみ」


朝になったと思ったら、昼を過ぎていた。

「わあぁぁぁぁ、大遅刻だあああ」

「そうだなぁ」

「ほら、浮竹笑ってないで着替えて!一番隊の隊舎に行くよ!」

「急いだところで、遅刻は遅刻だ」

浮竹は、浮竹十四郎の弟だと周囲には思われていた。

まさか本物がある日突然蘇り、京楽の傍にずっといるなど、誰が想像できようか。

「まぁ、どのみち昼休憩の時間だ。朝飯兼昼飯を食ってから、執務室に行こう」

急いでいた京楽も、マイペースな浮竹にのまれて、そうすることにした。

昼飯はウナギだった。

「さすが上流貴族。昼飯からウナギか」

「夜は、カニ鍋だよ」

「カニときたか」

京楽は、浮竹においしいものを食べさせることに金を惜しまない。

着るものも何気に高級品を送り、着させていた。

「そういえば、俺の遺品ってどうなってるんだ?雨乾堂がなくなり、俺の墓が建てられたのは知っているけど、遺品は」

「全部、ボクが預かってるよ」

「そうか、よかった。お前からもらった思い出の品がいっぱいだからな」

ぽつぽつと。

雨が降り出してききた。

「浮竹、雨に打たれちゃだめだよ!」

「どうしてだ?」

「溶けちゃう」

「俺は、絵具か何かか?」

面白がって、浮竹は外に出ると、ざーざーと降ってきた雨に打たれた。

「だめだ、行かないで!」

享楽も雨に打たれて、浮竹を抱きしめた。

「あれ‥‥溶けない」

「俺は絵具じゃないって、言ってるだろう?」

平気な浮竹に、京楽は安堵して、浮竹の頭を撫でた。

「ねぇ、また髪伸ばしてよ」

「短いほうがすっきりしてていいんだけどな?まぁ、京楽がそう望むのであれば、また伸ばすことにする」

「いっそ、涅隊長に髪が伸びる薬でも作ってもらおうかなぁ」

「嫌だぞ、俺は!」

「じゃあ、ゆっくりでいいから伸ばして?前の長さになるまでは、毛先以外にはさみいれちゃ、だめだよ?」

「ああ、分かった」

浮竹は頷いた。

「今日は、もう休みにしちゃおうか。こんなに雨に濡れちゃ、風邪ひいちゃう」

「なんでか、俺は肺の病もなおってるし、病弱でもなくなっているんだよな」

「それでも、風邪ひいちゃ大変だから、一緒にお風呂に入ろう?」

「変なことはするなよ?」

「うん、しないから、一緒にお風呂入ろ?」

京楽に強く誘われて、浮竹は京楽と一緒にお風呂に入った。

風呂では何もされなかったが、休みにしてしまい暇をもてあましていと、盛った京楽に襲われて、浮竹はその日とその次の日と、京楽と一切会話をしない刑に処すのであった。



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桜のあやかしと共に39

「天狗?」

「はい。娘が、天狗にさらわれてしまったのです。嫁にすると言って。娘は半年後、結婚式を挙げる予定なのです。どうか、娘を取り返してください!」」

必死な様子の依頼人に、京楽が励ます。

「絶対に取り返してみせますので、ご安心ください」

「ありがとうございます。少ないですが、前払い金です」

依頼人は、200万の札束を置いて帰っていった。

「どう思う?」

「ただ、天狗にかどわかされただけじゃないのか。天狗は人を食わない。助ければいいだろう」

京楽が浮竹に意見を求めると、もっともな意見が返ってきた。

「それならいいんだけどねぇ」

依頼人は、大手の会社の社長だった。

裏に何かある気がした。


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「ここが、その天狗の住処の森だ」

「人の手があまり入っていないようだね。自然のままだよ」

「天狗をどうやっておびき寄せる?森を破壊するとかか?」

「君、かりにも植物のあやかしの王でしょ。もっと平和な方法はないの?」

浮竹は、森中に響き渡るような声を出す。

「やーい、天狗のあんぽんたん!ばーか!まぬけ!」

「十四郎‥‥そんな方法で出てくるはずが」

「誰があんぽんたんだ!人の子の分際で、森からたたき出してやる!」

「誰が人の子だって?こちとら、桜の王と桜鬼だぞ」

出てきた天狗に、浮竹が言い返す。

「げ、桜の王‥‥」

「な、お前は岩凪(いわなぎ)」

「知り合い?」

「古い知り合いだな」

京楽が、岩凪という名の天狗を見る。普通の天狗だった。

「君、人間の女の子かどかわしたでしょう。その子を返してもらうよ」

「俺はかどわかしてなんていない!サキが、俺が好きだからと、嫁にくるといってやってきたんだ」

岩凪は、弁解する。

「ほーら、やっぱり裏があった。前金で200万も払ってくるから、何かあると思ったんだよね」

「そのサキとやらはどこにいる?」

「あ、俺の木の上の小屋にいる」

「とりあえず、会ってみていいかい?」

「桜の王の連れなら、仕方ないな。お前、術者だがあやかしだな?」

「うん。ボク、桜鬼だよ」

「うげぇ」

岩凪は、サキという女性がいる自分の家を指さす。

「あの小屋から、普通の屋敷へのゲートがある。サキはその向こう側だ」

「おじゃまするよ」

「ほぅ、天狗の家を見るのははじめてだが、普通、里で暮らす者が多いが、中から里に繋がる屋敷に出るのか」
浮竹と京楽と岩凪は、木の上にある小屋に入り、岩凪の屋敷までワープした。

「いっちゃん、お帰り。この人達誰?」

「いっちゃん?」

浮竹が首を傾げる。

「サキがつけた俺のあだ名だ」

「ふむ。いっちゃん」

「やめろおお、桜の王!お前にそんな風に呼ばれたら、鳥肌が立つ!」

「十四郎の古い知り合いなんだってね?」

京楽は、あまり岩凪に好印象を抱いていないようだった。

岩凪が見た目がいい。

「い、言っておくが、俺は桜の王とただ知り合いなだけで、特別な関係とかじゃないぞ。友人でもない。ただの、知り合いだ」

「そうだぞ、京楽。嫉妬するなよ」

「自制してる」

嫉妬の心は闇を生み出す。もう、闇に飲まれないように、京楽は精神的な訓練も受けた。

「京楽、顔が怖い」

「ふふふ。元からこんな顔だよ?」

浮竹を抱き寄せる。

「桜の王、この連れはパートナーなのか」

「ああ、そうだ。そして、桜鬼に俺のためになってくれた」

「ボクは、十四郎だけのもので、十四郎もボクだけのものだよ」

「春水、こういうのは後でしよう」

「後ならいいんかい!」

岩凪は、ついついツッコミを入れていた。

「サキ、おいで」

「何、いっちゃん」

岩凪は、サキという人間の女性を横に立たせる。

「サキ、君を迎えにきた術者だ。父親の元に帰るか?」

「いやよ!私、いっちゃんといる!父のところに帰ると、あのヘンタイ男の嫁にされちゃう」

サキは、身の上話を語った。

北条というグループの会社の社長の娘であるが、政略結婚のためにある男の元に嫁がねばならないという。その男がSMが趣味で、何度か会いにいったサキをいたぶり、喜んでいた。それを父親に伝えると、「それくらい我慢しろ。誰のおかげで裕福に暮らせていると思うんだ。絶対に結婚させる」と言ってきたそうだ。

そして、サキは家出して、森の中で迷い子になり、足をくじいたところを岩凪に発見されて手当てされて、岩凪に惚れて嫁になると言い出して、一緒に暮らしだしたのだそうだ。

「うーん。でも、ボクは君を連れて帰れと依頼されてるからねぇ」

「いやよ!」

「サキとやら、一度だけ帰ってくれ。その後で、岩凪とまた暮らせばいい」

「いいの、十四郎」

「俺たちの任務は、このサキを連れ帰ることだけ。その後のことは依頼されてないし、依頼されても断るといい」

「ということで、サキちゃん、一緒にきてくれるかな?」

「いいわよ。またいっちゃんと暮らせるなら」

こうして、浮竹と京楽はサキを社長の元に連れ帰った。

サキは、1週間は大人しくしていたが、父親の金庫から金銀財宝をもちだして、岩凪の元へいき、嫁として里で迎えらえれた。

サキの父親は、再び京楽に、今度は岩凪を含めた天狗の駆除の依頼を出したが、京楽は引き受けなかった。

「たまには、依頼人の依頼を断る必要もあるんだね」

「あやかしの全てが悪いわけじゃないからな。人と結婚か‥‥最後まではうまくいかないだろうが、まぁ仕方ない」

「人は寿命が短い。あの岩凪って子なら、多分サキちゃんを天狗にしちゃうんじゃないかな。だから、里の者も反対しなかったんだよ」

「そうかもな。もしくは、俺とお前のように、契約をするか」

浮竹は、触れるだけのキスを京楽にする。

京楽は、浮竹を抱きしめる。

「ボクらのように、なれるといいね?」

「ああ、そうだな」

浮竹と京楽は、互いを抱きしめあいながら、キスを続けてから、マンションに戻った。

マンションでは、白哉と恋次が今まさにラブシーンに突入しようとしていて、浮竹と京楽は、異界の浮竹の家にこもって、二人の邪魔をしないようにしたのだが。

「きょうが冷めた」

と、白哉は途中で恋次に待ったをかける。

白哉と恋次の恋仲は良好ではあるが、肉体関係にまではなかなかいかないのであった。










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桜のあやかしと共に38

「そういえば、京楽は花鬼になれたのだから、猫にもなれるな?」

「え?猫?」

京楽は、浮竹の言葉に首を傾げた。

「俺と白哉はたまに子猫になるだろう。桜の高位精霊は、みんな猫になれる。京楽の存在も、桜の高位精霊と同じだから、猫になれるはずだ」

「犬になったりしてな」

白哉がからかうと、京楽は猫になれると自信ありげにのたまった。

「ボクも猫になれるよ」

「じゃあ、なってみろ」

「うん‥‥‥あれ?」

なかなか猫になれない。

「京楽、ぱっとしてすっとすると、猫になれるぞ」

浮竹は、久しぶりにオッドアイの白猫の子猫になっていた。それを真似て、白哉も黒い子猫になる。

「ぱっとしてすっと‥‥‥全然分からない」

「猫になるイメージを脳で描けばいい。そうれば、猫になれる」

白哉の分かりやすい言葉に、京楽はかわいい猫を思い描くのではなく、山猫を思い描いた。

ぼふん。

京楽の姿が変化する。

「‥‥‥なんだそれ。あっはっはっは」

「ひしゃげたあんぱんだな」

なんとも珍妙な生き物なってしまい、浮竹はツボにはまったのがかなり笑っていた。白哉の適格な言葉に、また浮竹が笑う。

「あははははは!!」

「え、ええ!も、もう一度!」

白哉の言葉と浮竹の態度に、ショックを受けながら、もう一度、今度は普通のアメリカンショートヘアをイメージした。

「‥‥‥なんだそれは」

「山でみたことがあるな。たぬきだな」

白哉の言葉に、京楽はまたショックを受ける。

浮竹はというと、5千年生きているが、たぬきなど見たこともないという珍しいほうなので、京楽がたぬきになっても、それがなんだかわからなかった。

「あはははは。たぬきか。それはそれで似合っているぞ」

たぬきだが、割と愛らしい顔をしていて、浮竹は気に入ったみたいだった。

「ええと、元に戻るには‥‥」

「あ、やばい。久方ぶりの変化で、きっと時の呪いが発動している。元に戻るのに時間かかるぞ。白哉はどうだ?」

「あいにく、私もだ。数時間はこのままの恰好だな」

「え、じゃあボクも元に戻れないの?」

「京楽なら、元に戻れるだろう。元に戻るとイメージしてみるといい」

ぼふん。

たぬきのままだったが、今度は信楽焼のたぬきになっていて、その不格好さに浮竹が笑う。

「あーっはっはっは。京楽、お前、俺を笑い殺したいのか。金玉が‥‥ひー」

子猫の姿で、床をたしたしとたたきながら、浮竹は爆笑する。

「も、もう一回!」

ぼふん。

今度は、元のたぬきに戻っていた。

「このままでは何も解決せぬな。浮竹、京楽、兄らの友人を読んだらどうだ。あちらも、変化するのであろう?」

「ああ、そうだな。妖狐の俺の電話番号はっと‥‥」

器用に子猫姿でスマホの電話番号を押して、妖狐の浮竹と夜刀神にヘルプを求めた。

2時間ほどして、二人がやってくる。

『子猫のままって‥‥ほんとだ。かわいいなぁ』

妖狐の浮竹が、鍵をあけておいた玄関から入ってきて、オッドアイの白い子猫になった浮竹を抱き上げ、頬にすりすりする。

「妖狐の俺、俺とそっちの黒猫は白哉で、時間が経てば元に戻るんだが、京楽が元に戻れないんだ。お前も狐に変化してから元の姿に戻るだろう?」

『俺も狐になる』

「へあ?」

浮竹は、動物だらけの部屋で、元々こうもりだった夜刀神が、狐になった妖狐の浮竹の頭の上にいいるのを見て、マヌケな声を出す。

「人間の手がほしかったんだが」

『じゃあ、俺が元に戻る』

妖狐の浮竹は元に戻ろうとするが、できなかった。

『なんでだ?元に戻れない』

「あー。俺と白哉の元に戻れない時の呪いを受けたか」

『そんなもの、あるのか?』

「ああ。元には戻れるが、時間がかかる」

「ボクはどうすればいいわけ?」

京楽の声に、夜刀神が反応した。

『桜鬼のボクは、猫じゃなくってたぬきなの。なんかおもしろいね』

「面白がっている場合か。夜刀神、お前も元に戻れないぞ」

「へ?あ、まじだ」

こうして、浮竹と白哉は子猫に、京楽はたぬきに、妖狐の浮竹は狐に、夜刀神はこうもりと、まるで小さな動物園ができたかのようであった。

『桜鬼の京楽、元に戻れるんだろう?方法が分からないだけで。戻り方を伝授してやろう』

「うん、ありがとう」

妖狐の浮竹は、擬音ばかりの戻り方の説明で、京楽には理解できなかった。

「えーと。夜刀神のボク、ざっくりでいいから翻訳できる?」

『いいよ。えっとね‥‥‥‥」

夜刀神の京楽の説明も、妖狐の浮竹とほとんど変わらなかった。

「ごめん、何を言っているのか理解ができないよ」

白哉が、説明する。

「頭の中で人間のイメージをして、全身の血液が心臓に集まっていることを意識すればいい、だそうだ」

「え、白哉君、この二人の言葉わかるの?」

「ざっくりだが、何とかわかる」

「うーん。試してみるね」

京楽は、たぬきから桜鬼の姿に戻れた。

「なんか、ボクだけ人の姿なのもあれだし、たぬきでいいから、変化しよっと」

ぼふん。

「あ、ばか!」

「へ?」

京楽も時の呪い受けて、人の姿に戻れなくなっていた。

「わあああ、どうしよう。みんな動物じゃない」

「世話をしてくれる者が必要だな。仕方ない、恋次を呼ぼう」

白哉は、浮竹のスマホから恋次に電話を入れる。

「はい、阿散井です」

「恋次、私だ。後で説明する故、京楽の家にきてほしい。鍵はあいている」




「なんじゃこりゃああああああああ」


恋次が動物の群れを見て、大声で叫んだのは言うまでもない。



「助かった、恋次」

チュールを恋次からもらいながら、白哉は礼を言う。

「白哉さんって、黒猫の子猫になれるんすね。今日、一緒のベッドで寝てもいいっすか?」

「ああ、よかろう」

ちなみに、他のメンバーの食事は、浮竹にはキャットフード、京楽と妖狐の浮竹にはドックフード、夜刀神にはフルーツだった。

『京楽だけずるいぞ。でも、狐のままでいるせいかドッグフードがとてもおいしく感じれる』

『それにしても時の呪いねぇ。またやっかいな呪詛受けてるねぇ』

「時折子猫になったまま戻れぬだけだ。そう不自由ではないので、放置していた。俺の呪いは、人の姿から動物になる者にうつることを、すっかり失念していた」

『時の呪いは神の呪いだよ。これまた、どうして』

「西洋の桜の女神に求婚された。「春」がいたので断った。そしたら、呪われた」

『あちゃあ。西洋の女神かぁ。呪い、そうそう解呪できないね』

「妖狐の俺でも無理か」

妖狐の京楽は、狐姿で3本の白い尻尾を揺らした。

『さすがに、西洋の神の呪いは理屈が分からない。おまけに力ある女神の呪いだろう?』

「ああ。世界樹の女神の一人だそうだ」

『さすがのボクにも無理だねぇ。神としてのレベルが違う』

夜刀神は、ため息をつく。

「もともと、夜刀神になんて何も期待してない」

『言うね。新しいハリセン、あげないよ』

「夜刀神はかっこいいなぁ」

『はぁ。そんなんだから、西洋の上位女神に呪われるんだよ』

「求婚を断っただけだぞ。それに、当時俺には「春」がいた。断って当り前だろう」

『まぁ、そうだねぇ』

『精霊の俺に非はないだろう。その女神とやらが性悪なんだ』

妖狐の浮竹は、水を飲みながらそう言って、浮竹を庇ってくれた。

京楽は、時の呪いの存在を知らなくて、しょんぼりしていた。

「時の呪いとか、教えてもらえなかった」

「春水、かけられた張本人の俺も忘れていた呪いだ」

「うん。十四郎、呪いも一緒に受けるよ」

「まぁ、変化するあやかしにうつるから、春水も呪われたようなものだな」

『ボクらもね』

「夜刀神は、一応神だろう。呪いは多分今回きりだ。その力の恩恵を受けている、妖狐の俺もだ。桜関係のあやかしは、うつりやすいし、どうにもならん。もう、諦めている。そんなに頻繁に呪いが発動するわけでもないしな」

浮竹は、からりとしていた。

『はぁ。西洋の桜の女神か。とりあえず、注意しておくよ。またいつ来るか分からないし』

「多分こないぞ。同じ世界樹の子である、楓の男の神と結婚して、子供を産んだらしい。俺の存在も、忘れているだろう。多分だが」

「十四郎、呪いを受けるのも一緒で嬉しいよ」

『一人、壊れてるのがいるね』

「まぁ、闇に飲み込まれるよりはましだろう。ああ、春水、ずっと一緒だ。何もかも」

恋次は、できている二人の世界をぽかんと見ていた。

「恋次、眠くなってきた。共に眠ろう」

白哉の言葉に我に返り、顔を輝かせる。

「もふりまくっていいですか」

「もう、十分もふったであろう」

「まだ、足りません」

最近できたばかりのカップルを、浮竹や京楽たちは、興味深そうに見ているのであった。


「じゃあ、俺と白哉さんはちょっと仮眠いってきます」

「右のゲストルーム使ってね?左は、もう一人のボクらが使うから」

『たぬきと狐って、どっちが強いんだろう』

ふと、妖狐の浮竹がそんなことを言う。

「勝負とかするなよ?春水も、妖狐の俺も」

『いや、かわいさで』

『もちろん狐でしょ』

夜刀神が即答する。

「たぬきだってかわいいぞ。な、京楽」

「ボクは、十四郎がそう言うなら、もっとかわいくなるよ」

そう言って、ぼふんと音をたてて、子たぬきになる。

「春水、かわいい」

「十四郎は綺麗だね。子猫でこんな美人な子、みたことがないよ」

二人だけの世界に入っていく浮竹と京楽を、にまにましながら、妖狐の浮竹(狐)と夜刀神(こうもり)は、見つめるのであった。

夜になり、それぞれパートナと眠りにつく。

夜が明けて朝になる頃には、時の呪いは解けて、人の姿になっていた。なので、白哉は早めに恋次をねかせたまま。リビングに移動していた。

「おはよう、白哉」

「おはよう、浮竹。京楽はどうした?」

「まだ寝ていたから、初めての変化で疲れているだろうから、まだ寝かせておいた。白哉も、絵恋次くんを寝かせたままなのだろ?」

「うむ」

「皆の分の朝食を作る。白哉、手を貸してくれ」

「兄がそれを望むのであれば」

浮竹と白哉は、6人分の朝食を用意するのであった。




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桜のあやかしと共に37

京楽は、桜鬼の姿でぼんやりと立っていた。

「京楽」

「十四郎、どうしたの」

浮竹の言葉にしか、反応しない。

一度妖狐の浮竹と夜刀神のところにいったのだが、やっぱりぼーっとして、浮竹の言葉に主に反応を示した。

しかし、妖狐の浮竹の尻尾をもふもふもして寝てしまったり、少しは桜鬼のまま闇にとらわれているのが薄くなってきた。

「京楽‥‥いや、春水。心配しなくても、俺はどこにも行かないし、お魔の傍にいる」

「うん。信じてる」

京楽は幸せそうな顔をする。

その頭を、浮竹は撫で続けた。



「河童の子供がいたずらをするんです」

いつだったか、河童の子供のを退治してくれと言われて、後まわしにしてそのまま忘れていたので、依頼者が再度京楽と浮竹の元を訪れた。

京楽は桜鬼の姿のままだったので、浮竹がさ蔵の術で人の姿に戻していた。

「河童の子供。興味ないね」

「あ、すみません。河童の子供の件は引きうけます。たざし、退治ではなく説得して悪戯をやめさせるか、移動させるかになると思います」

京楽の代わりに、浮竹が依頼を引き受けた。

依頼人は、河童の子供の悪戯がなくなれば、それでいいということで落ち着いて、帰っていった。

「春水、早く元に戻ってくれ」

浮竹は、京楽の頭をただひたすら撫でるのであった。



「河童の子供が出るのはこの辺りか」

依頼人に教えてもらった池に、きゅうりの罠をしかける。

2時間もしないうちに、河童の子供は罠にかかった。

「何するんだこんちくしょう!俺がこの池の主の河童の三平(さんぺい)と知っての仕業か!」

河童の子供、三平は、姿を現した浮竹に泥を投げた。

足首が罠にかかって移動できないでいるが、手は自由だった。

「浮竹に危害をくわえるの?消すよ?」

京楽が、桜鬼の姿になって、術を詠唱しだす。

「極滅破邪!天雷!」

「わあああああああああ!!!」

三平が悲鳴をあげる。だが、三平を浮竹が庇った。

浮竹は、額から血を流す。

「十四郎どうして!」

「こいつは、ただ悪戯を寂しいからして、人間にかまってもらいたいだけなんだ。そうだな?」

「う、うん」

三平は、震えながら頷く。

「春水、元に戻ってくれないなら、俺は一度桜の中で眠る」

「やだ、やだよ。いなくならないで。いつまでも一緒にいるって約束したじゃない」

「お前も、一緒に眠るんだ」

「ボクも?」

京楽は、浮竹の言葉に首を傾げる。

「半月ほど、お互い休眠しよう。桜に包まれて眠れば、お前の中の闇も消えるだろう。俺も一緒に眠るから」

「うん。十四郎が一緒なら、眠ってもいいよ」

河童の三平は、もう悪戯はしないと泣いて、池に戻っていった。

「眠ろう。闇も眠りにまではついてこない。目覚めた時は、元通りだ」

浮竹は、河童の三平の説得を終了したことを依頼人に報告してから、異界にある本体の桜の大樹の中に、京楽を抱きしめながら入り、眠りについた。

白哉にだけは、理由を説明しておいた。


浮竹と京楽がいなくなったと、少し騒ぎになったが、白哉が休みをとっているのだと、言い触れてくれた。

半月が経った。

京楽は目覚めた。

「十四郎、起きて」

浮竹の反応はない。

「十四郎が起きてくれないなら、ボクはもう一度眠るよ?そして起きてもまた十四郎が眠っていたなら、永遠の眠りに二人でついてしまおう」

「春水、そういう考えはよせ。俺はお前を失いたくないし、お前といれるこの時間が大切なんだ」

浮竹は起きた。

京楽の中の闇は消えていて、桜鬼の姿でもなかった。

「もう、闇に飲まれるな」

浮竹は、自分の唇を噛み切って、京楽にキスをして血を飲ませる。

「俺の、闇にとらわれないようにと言霊をこめた血だ。飲め」

「うん。君の血は甘美だね。何よりもおいしい」

「俺以外の血を、飲むなよ?」

「桜鬼になっても、十四郎以外の血はいらない」

京楽は、強く浮竹を抱きしめる。

大きな桜の木は満開で、ちらちらと花吹雪が二人を包み込む。

二人は、桜の大樹の下で近いあうように、深い口づけを交わし合う。

「もう、ボクは大丈夫。闇に飲まれても、十四郎が祓ってくれるから」

「約束だぞ、春水。俺を置いていくな。俺の傍にいろ。俺だけを見ていろ」

「うん」

浮竹は、子供のように我儘をいう。

それを、京楽は浮竹を抱きしめながら受け止める。

「ボクは君だけのもの。君だけのために生きて、死ぬ」

「死ぬときは、一緒だからな?」

浮竹涙を流しながら、京楽の背中に手を回す。

「泣かないで、十四郎。もう、ボクは大丈夫だから」

「本当だな?」

「うん。妖狐の君や夜刀神といちゃいちゃしていても、自制するから」

「いちゃいちゃなんてしない!」

浮竹が声をあげると、京楽はきょとんとなる。

「でも、妖狐の浮竹とキスしてたよね?」

「あ、あれはあいさつみたいなものだ」

「そう。ならいいんだけど」

京楽は、何度か桜鬼の姿になっては人に戻ることを繰り返していた。

「うん。桜鬼から普通に戻れる。夜刀神が言ってたね。ボクは人からあやかしになったから、闇に飲まれやすいみたいなこと。もしも、またボクが闇に飲まれたら、十四郎が元に戻して」

「仕方ないな‥‥‥」

そう言いながらも、闇を追い払い、元に戻った京楽の姿に浮竹は心から喜び、もしも京楽はまた闇に飲まれるようであれば。言霊を混ぜた血を与えて正気づかせるか、それでもだめなら、また桜の大樹で休眠しようと思うのだった。

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桜のあやかしと共に36

凍えるほどに寒い。

季節は春なのに、そこだけ冬。

冬の王である椿の王、日番谷冬獅郎は、氷でできた城に、氷の玉座に一人で座っていた。

身の回りの世話をするのは、氷でできたただの人形たち。

あとは、氷の精霊たちがたまに冬獅郎の元を訪れる。

「椿の王。桜の王が、謁見したいと」

「春の王の桜の王が?冬の譲渡は終わっただろう」

「それが、長老神のことについてと」

氷の精霊は、冬獅郎が氷で作った花から生まれた。

「話すことは何もない。帰ってもらえ」

「はい」

氷の精霊は、浮竹と京楽に帰るように促したが、浮竹は門前祓いする冬獅郎の態度にカチンときて、勝手に氷の城に入っていく。

「ちょっと、十四郎、無理やりはまずいんじゃないの」

「椿の王は、3千年も生きているのに、見かけも中身も、子供だ。中身は大人びてはいるがな」

氷の玉座に、冬獅郎はいた。

「椿の王」

「誰だ」

「桜の王だ」

「桜の王?帰れと伝えておいたはずだぞ」

「門前払いはないだろう。少し話をしないか」

「きたれ、氷の精霊たち。こいつらをつまみ出せ」

現れた氷の精霊たちは、浮竹と京楽をもちあげて、窓から放り投げた。

「同じ王に対して、随分な真似をしてくれるな」

桜でできた翼をはためかせて、浮竹は京楽を抱えて、窓から氷の城にまた入ってきた。

「しつこい大人は、嫌われるぞ」

「いつまでも子供のままのじじくさいガキも嫌われるぞ」

「やるつもりか?」

「そっちがその気なら」

冬獅郎の言葉に、受けて立つと浮竹が。

「ちょっと、二人ともケンカしないで。王同士なのに、レベルが低いよ」

京楽のもっともな言葉に、浮竹がまず非礼をわびた。

「いきなりですまない。長老神の藍染が動きだした。こちらに被害はないか」

「被害など、何もない。ここにあるのは俺と氷だけ。他の冬の花の精霊たちは、氷輪丸が見て、接している」

氷輪丸とは、元々冬獅郎のもっていた日本刀であった。

妖力を帯びていて、人の形になれる上に、冬獅郎のように冷たくなく、冬の花のあやかしである精霊たちに人気であった。

いっそ、冬の王になればいいと言われるほどに。

「俺は孤独だ。俺は一人だ。長老神が手を出すとしたら、氷輪丸のほうだろう。だが、氷輪丸の元には、俺が強い結界をはってある。たとえ長老神でも、やすやすと手は出せないだろう」

「そうか。長老神は、春の王である俺と、秋の王である卯ノ花に、手を出してきた。そして、夏の王である朝顔の王市丸ギンは、長老神‥‥藍染の下についている」

「市丸が?」

「ああ、そうだ」

浮竹と京楽は、立ち話もなんだからと、氷の椅子と机を冬獅郎が作りだす。

はじめは冷たいだろうと避けていたが、温かくて、そのまま氷の椅子に座って話をしていると、氷の人形が暖かな蜂蜜の入った紅茶をもってきた。

「他にあやかしはいないのか?」

「たまに用があってくる氷の花のあやかしと、氷輪丸くらいだ。後は誰も会いにこない」

「さみしくないの?」

京楽が聞くが、冬獅郎は冷めた目で氷の玉座を見た。

「氷の王は、死と終わりを司る。春の王の生と始まりと正反対の。だから、誰もよってこない。冬の花のあやかしたちの面倒は、俺の刀でもある氷輪丸が見ている」

「じゃあ、俺と友達になろう」

「はぁ?」

浮竹のいきなりの提案に、冬獅郎が素っ頓狂な声を出す。

「桜の王である俺と友達になれば、春の花のあやかしとも仲良くなれるぞ」

「別に、そんなの‥‥‥」

「じゃあ、今日から俺と冬獅郎は、友達な。こっちの京楽も、友達だ」

「はぁ。勝手にしてくれ」

浮竹と京楽は、それから冬獅郎の氷の城を度々訪れるようになった。

はじめは氷の人形のようだった冬獅郎も、喜怒哀楽を現して、凍てついているはずの氷の城は、春の温かさに満ちていた。

一人、また一人と、冬の花の精霊たちが冬獅郎の元を訪れて、冬獅郎の好きな甘納豆やら、お菓子やらをもってくる。

「浮竹、お前のせいだぞ」

「何がだ?」

「凍てついていた俺の氷の城と心を溶かしていった」

「それは何よりだ」

浮竹が無邪気に笑う。冬獅郎は、赤くなってうつむいた。

「まぁ、悪くはない。お前と、友になったことは」

「ボクは?」

京楽は一人置いて行かれたかんじで、寂しそうにしていた。

「お前は、浮竹のパートナー。俺にとって、それ以下でもそれ以上でもない」

「そんなぁ。ボク、これでも冬獅郎くんの友達のつもりなのに」

「ど、どうしてもというなら、友達になってやってもいい」

甘納豆をお土産にもってきた京楽を見て、冬獅郎はそう言った。

「全く、3千年も生きてるそうだけど、お子様だねぇ」

「俺を子供扱いするんじゃねぇ!」

ぱぁぁぁと氷の花が咲き、それは京楽を凍てつかせせようとする。

京楽は、冬獅郎に近づいてデコピンした。

「な!」

「友達に、攻撃は厳禁だよ」

「‥‥分かった」

「じゃあ、この甘納豆あげるね」

「今、蜂蜜入りの紅茶を出す。氷の人形たちにクッキーを作らせたから、お茶していけ」

冬獅郎は、この前作った氷の机と椅子を使うように指示した。

「椿の王は、かわいいなぁ」

浮竹の言葉に、冬獅郎は反論する。

「かわいいのは、お前のほうだ」

「そうか?」

「うん、ボクには二人ともそれぞれ違ったかわいさがあると思うよ」

「京楽、甘納豆早くよこせ」

「ほら、こんなとことかかわいいでしょ?」

「確かにかわいいな」

かわいいかわいいと言われて、冬獅郎は赤くなる。

前は怒って氷の花を出して刃になったが、今は氷でできた薔薇を咲かせる。氷の薔薇は、始まりでもある浮竹の妖力に反応して、あやかしとなって命を与えられて、氷の人形たちの中に、感情のあるメイドとして混じった。

今では、冬獅郎の世話をする者の7割が、氷の精霊であった。

「浮竹、お前がいてくれたおかげで、俺は嫌いだった冬が少し好きになりそうだ。春のお前が友になってくれたおかげで、俺の周囲も賑やかになってきた。もう、氷輪丸だけに冬のあやかしの相手をさせない。俺も責任をもって接しよう」

「俺のほうこそ、友人になってくれてありがとう、冬獅郎」

「ボクもボクも」

「京楽、お前の存在はどうでもいい」

「酷い!」

冬獅郎は、くすくすとあどけない顔で笑う。3千年を生きているが、まだまだ子供だった。

「春がくるには冬が必要だ。冬は命を芽吹く準備の季節だ。死と終わりだけの世界じゃない」

「ああ」

冬獅郎は頷いて、氷のメイドがもってきてくれた蜂蜜入りの紅茶を飲み、クッキーと、京楽からもらった甘納豆を食べる。

「冬獅郎、今度はお前が俺と京楽の家に遊びにきてくれ。弟がいるんだ。紹介したい」

「俺なんかが、遊びにいっていいのか?」

「ああ、大歓迎だ」

「でも、この氷の城を抜け出したら‥‥‥」

「大丈夫だ。もう、冬獅郎は一人じゃない」

「そうだな。明日、お前たちの家とやらに、遊びに行く」

そこで、妖狐の浮竹と夜刀神の京楽と会うのだが、それはまた別のお話である。





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それでも勇者。

新勇者は、パーティーメンバーに置いてけぼりにされた。

町の外にあるスラム街で、浮浪児になっていた。

勇者の力を使い、モンスターを討伐していたが、報酬金はワイバーンを退治にいったパーティーメンバーに支払われるようになっていて、金に困り、勇者教でしばらく世話になったあと、町の外でモンスターを狩って、素材を無法で売っていた。

「ああ‥‥‥俺の仲間はどこへ。いい加減、風呂にも入りたいし、魔王城にでもいくか」

浮浪児をしていたので、1か月風呂に入っていなかった。

魔王城にいくと、鼻をつまんだ京楽に、風呂場に連れていかれて、湯に突き落とされた。

「くさいよ、君。仕方ないから、替えの服とか用意してあげるから、綺麗になってから浮竹と会ってね?」

「久しぶりの風呂だああああ!やっほう!」

はしゃぐ新勇者を見て、京楽はため息をついた。

「パーティーメンバーのリーダーで要なのに、どうしたら置いていかれるのかな?」

女僧侶から、事前に新勇者がくるかもしれないが、適当に相手をしてやってくれと言われれていた。

時刻は夕刻で、京楽は浮竹と一緒に、シェフが調理した料理を食べていた。

新勇者は、それを見て盛大に腹を鳴らすので、浮竹は猫まんまをあげた。

「うまい!久しぶりの、残飯じゃない食事だ!」

嫌がらせのつもりもあったのだが、新勇者は猫まんまを喜んで食べた。

「ねえ、君なにしたの?」

「ん?パーティーメンバーの金を着服して、新しい鎧を買っただけだぞ?」

「あー。そいうことするから、置いてけぼりにされるんだよ」

「新勇者である俺のために、金はあるんだ!」

「だめだこりゃ」

京楽は、新勇者の猫まんまのおかわりをあげた。

「今日は、俺の誕生日なんだ」

新勇者は、寂しそうにしていた。

「祝ってやろう」

浮竹の言葉に、新勇者の目が輝く。

「プレゼントは、ミスリルの籠手でいいぞ」

「チュールをやろう」

「俺は猫じゃない‥‥‥でも、チュール美味。もっとちょうだい」

新勇者は、自分が人間であることを放棄しかけていた。

「魔王、俺を飼ってくれ」

「いやだ」

「そう言わず」

「だって、新勇者変態だから」

「う、それは否定できない」

新勇者は、自分が変態であることを理解していた。それに驚いたのは、浮竹と京楽だった。

「自覚あったんだ」

「自覚あるのに直さないとは、相当なものだね」

「にゃーにゃー。チュールもっとくれーーーー」

猫になりきった新勇者は、新スキル「憑依」を使って猫の霊を憑依させる。

浮竹にすり寄って、浮竹は鳥肌を立てながら、新勇者を蹴った。

「にゃおおおおおおおおん」

「どうなっているんだ?」

「鑑定してみるね‥‥猫の浮遊霊を、憑依させたみたいだよ」

「祓えないのか?」

「祓えるけど、このままのほうが平和じゃない?」

「それもそうだな」

こうして、新勇者は猫のまま半月を過ごした。

戻ってきた新勇者のパーティーメンバーは、すっかり猫になってしまった新勇者を殴り倒して、猫の霊を追い払う。

「はっ!俺は、今まで猫に!?」

「キャラがかぶるから、一緒はいやなのにゃ」

獣人盗賊がそう言った。

「世話になった、魔王浮竹、勇者京楽。世話になっ礼に、裸踊りでも‥‥」

「新勇者パーティー。今度から、新勇者を放置しないでね。しわ寄せがくるのはこっちなんだから」

京楽がため息を零す。

「分かったにゃ。奴隷として、連れていくにゃ!」

「俺はパーティーリーダーだぞおおお」

「あ、それ俺が新しいパーティーリーダになったから」

少年魔法使いが、衝撃の事実を新勇者に明かす。

「俺は新勇者だ!勇者だぞ!?」

「勇者でも、生理的に無理なのよねぇ」

女僧侶は、新勇者から距離をとる。

「まぁ、諦めて新しいこのパーティーの戦闘奴隷になるにゃん」

獣人盗賊は、チュールを手に新勇者を誘惑する。

新勇者はチュール中毒になっていた。

「チュールがもらえるなら。(*´Д`)ハァハァ」

「にぎゃああああああ!!!」

獣人盗賊に襲い掛かる新勇者を、少年魔法使いが燃やす。

「あああああ!!!気持ちE--------!!!」

「魔王浮竹、勇者京楽。このまま、新勇者を引き取る気はないか?」

二人は、首を左右に振った。

「猫になってた間、いろいろ調度品壊すし、チュールは1日30本は食うし、キャットフードは高級なものしか食べないし。かろうじで許せるのは、自分でトイレいったり、風呂に入れたからだね。でも、新勇者だからかわいくないし」

「京楽ばかりになついて、俺をひっかいてくるしな」

「よく、新勇者を追放しなかったのにゃん?」

「パーティーメンバーのお前たちがいないからだ。勇者教の者に渡そうとしたら、思いっきり野糞して、勇者教の者に投げていた」

「猫になってても、変態なのにゃん。困ったのにゃん」

「困ったのはこっちだよ。預かっている間にかかった金貨300枚、どうしてくれるの」

「し、知らないわよ!

「そうなのにゃん」

「お前たちが飼っていたんだろう。自腹にしろ」

「そ、それがいいと思うっす」

パーティーメンバーたちの声に、京楽も浮竹も、顔を見合わせて。

「そこに立って。新勇者も」

「チュールくれるか?」

「あとであげるから」

白い紐を、浮竹が引っ張る。

がこん。

音がして、新勇者とそのパーティーは、落ちていく。

「のわああああ、牛糞があああ」

「いやああ、この服買ったばかりなのにいいい」

そんな悲鳴を聞きながら、今度は京楽が赤い紐をひっぱる。

ゴゴゴゴゴゴ。

水が流れてきて、新勇者達は、水洗トイレのように流されていくのであった。



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桜のあやかしと共に35


「恨めしや。我を封印したあの男が憎い。我は復活をはたした。あの男を、今度こそ食い殺してくれる」

それは、飛頭蛮(ひとうばん)であった。

今から150年以上も前に、来栖春(くるすはる)、通称「春」に封印された人食いをしたあやかしであった。

150年が経ったことにも気づかず、また「春」がもうこの世にいないことも理解していなかった。

人間はただのえさ。

飛頭蛮は幼稚な頭で、考える。

どうすれば「春」を食い殺せて復讐できるのか。どうすれば「春」を悔しがらせれるのか。

たどり着いた答えは、「春」の大切なあやかしである、桜の王を食い殺すこと。

己の力の限界など知らず、まして桜の王ほどの妖力の高いあやかしにかなうことこないのも知らず、愚かな飛頭蛮は夜をさ迷うように空を飛び続け、人を襲うのであった。



「飛頭蛮が、「春」に復讐しようと、無差別に人を襲っているんだ。すまないが京楽、囮になっれくれるか?」

「その飛頭蛮って、「春」が死んでしまったことも知らないの?」

「150年前に、「春」が封印したあやかしだ。少ししか知性がないので、150年経ったことも、「春」がもういないことも知らないし、理解できないだろう」

「祓うしかないね」

「ああ。当時は封印だったが、今度は完全に消滅させてしまおう」

浮竹の言葉に、京楽は頷く。

飛頭蛮退治の用意をばっちりして、玄関で浮竹を待っていると。

「京楽、こっちだ」

浮竹がベランダに出て、手招きをする。

ちょっと行儀が悪いが、靴をはいたまま部屋を横切って、浮竹の元へ行った。

「飛頭蛮は野蛮だ。二人とも、気をつけろ」

寝ていたと思っていた白哉が、そういうとまた寝に部屋に戻ってしまった。

「どうしたの、浮竹」

「ここから移動する」

「へ?もぎゃああああああああああ」

京楽は、35階から浮竹に突き落とされた。浮竹も一緒に落ちていく。

地面にぶつかる!そう思って、目をぎゅっとつぶると、ぼふんと柔らかい何かに受け止められた。

「異界送りをした。ここは、異界にある俺の住処のベッドだ。危なくなったり、飛頭蛮は空を飛ぶから、退治しにくいと思う。何かあったらここに閉じ込めてくれ。今の京楽なら、思い描くだけで異界のゲートが開けるだろう」

「う、うん」

飛頭蛮が出るという町にやってきた。

異界を通ってきたので、すぐについた。

「京楽、異界のゲートをあけてみろ」

「分かったよ」

京楽は、異界を開くようにイメージした。目の前で空間が歪み、異界への入り口が開く。

「匂う、匂うぞ。憎き来栖春の匂いだ」

早速、飛頭蛮が現れた。厄介なことに、1匹ではなく3匹いた。

「縛!」

「効かぬ効かぬ。人を食って力をつけた。その程度の術は、我に効かぬ」

「そうよそうよ。憎き人の子め」

「来栖春、お前を食うのだけを目標に封印されてきたのだ」

「耳障りなあやかしだ」

浮竹が桜の花びらを吹いて、落雷を落とすが、ぴんぴんしていた。

「意外とタフだな?」

「くくくく」

「あはははは」

「くすくすくす」

笑う飛頭蛮たちに、京楽は桜鬼の姿になって、また術を使った。

「縛!」

「うぎぎぎぎぎ」

動きを封じれたのは一瞬で、飛頭蛮は浮竹に遅いかかった。

「来栖春の大事な大事な桜の王を食ってやる」

「桜よ!」

桜の花が咲き、幻影の浮竹を飛頭蛮は食う。

「桜の王、なぜ人の子を庇う。それは、我らあやかしの敵の術者ぞ」

「京楽は、「春」じゃない」

「異なことを。同じ匂い、同じ姿、同じ声」

飛頭蛮の一匹が、避けきれなくて浮竹の肩に嚙みついた。

「おお、なんといく美味よ。お前らも、食え食え。桜の王を食って、力をつけてもっと人間を食べるのだ」

「十四郎、大丈夫?」

「ああ」

京楽は、すぐに治癒する。

「十四郎を傷つけた罪、死んで詫びろ」

「京楽?」

京楽は、どこからか日本刀を出した。それは白哉のもつ千本桜に似ていて、桜の花びらをまとい、頭上に掲げると術が発動した。

「極滅破邪!天雷!」

「ぎゃあああああ」

「ひいいいいいい」

「うぎゃああああ」

飛頭蛮たちは、悲鳴を上げて飛び回る。

「これでもまだ死なないの。図太いねぇ。十四郎、一緒にいくよ!」

「ああ」

「「極滅破邪・天焔」」

異界のゲートに、逃げる飛頭蛮たちを押し込んで、閉ざされた空間に向けて、術を放った。

「我は‥‥‥こんなところで‥‥」

そう言って、飛頭蛮たちは息絶えた。念のために死体を浄化して、終わった。

「十四郎、傷見せて。咄嗟だったから、うまく治癒できてないはずだよ」

「大丈夫だ」

「だめ。もう1回治癒する」

浮竹の肩の傷はもうほとんど残っていなかったのだが、片鱗さえないように京楽は治癒術をかけた。

「依頼達成だな。京楽をただの人間と思い、「春」と間違えるからこうなるんだ」

飛頭蛮たちを倒した浮竹と京楽は、父を食い殺されたという依頼者に会って、退治し終わったことを報告し、報酬金をもらった。

「帰ろう」

「うん」

京楽は人の姿に戻っていた。

「なんで‥‥「春」が封印したのに、復活したんだろう」

「封印が時間が経って、効果がきれたんじゃんないか?」

「そうかもね」




「飛頭蛮ごときでは、傷を少しつけるだけかいな。まぁええわ。桜の王の血液は手に入れたからなぁ」

闇の中で蠢く影は、そう言って姿を消そうとする。

「藍染様に、渡すか」

[春」の封印を解いたのは、夏の王である朝顔の王の市丸ギンであった。

長老神の、忠実な部下である。

「まぁ、暇つぶしにはなったわ。また、遊ぼな」

去っていった浮竹と京楽を見送って、市丸はくすくすといつまでも笑い続けるのだった。


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桜のあやかしと共に34

『精霊の俺、たっぷりしっぽりしたんだな。桜鬼の匂いがいつもの10倍は濃い』

浮竹は妖狐の浮竹にハリセンをかませて、自分の腕のにおいをかいでみた。

「何も匂湾ないぞ」

『そりゃ普通ね。君の体内から、匂いがするから』

夜刀神にそう指摘されて、ハリセンではたきながら、浮竹は顔を真っ赤にしていた。

「いやあ、一昨日はしっぽりしたよ。十四郎、かわいかったなぁ」

「京楽、お前まで!」

浮竹は、自分のパートナーである京楽にもハリセンをかますのだった。


時は、一昨日に遡る。

満月の夜で、桜の血が騒ぐのか、京楽は桜鬼の姿になっていた。

瞳の色は桜色じゃなくて、血のような深紅。

けれど、力のコントロールを覚えているので、暴走することはなかった。

「京楽、そのまま桜鬼の姿で暴走することもなかったら、褒美を何かやろう」

「いいね。欲しいの、決まってるんだ」

「金をもつお前がほしいものってなんだろうな?珍しい」

京楽は、深紅の瞳のまま桜鬼の姿で一夜を過ごし、浮竹から褒美をもらえることになった。



「褒美は、浮竹が欲しい」

そう言いだした京楽に、浮竹は呆れた顔をする。

「もう、俺はお前のものだろう」

「そうじゃなくって、しっぽりね?桜鬼の姿のままやりたい」

「はぁ!?却下だ、却下」

京楽は、浮竹をお姫様抱っこした。

「ご褒美、くれるんでしょ」

「う、確かにそうは言ったが‥‥まるで何かのプレイのようで」

「いいじゃない。しようよ。桜鬼プレイ」

「ちょ、春水!」

浮竹は寝室のベッドに運ばれて、上から京楽が覆いかぶさってくる。

京楽の額の角を触ると、京楽は薄く笑った。

「じらされたいの?」

「あ‥‥」

服の上から愛撫されて、浮竹のものは緩く勃ちあがる。

「淫乱だねぇ。服の上から触っただけなのに」

「やだ、春水の意地悪」

浮竹は、妖狐の浮竹直伝の凄いテクのキスをすると、そのまま返された。

「ふあっ‥‥‥」

飲み込み切れなかった唾液が、顎を伝う。

「ふふっ、かわいい」

「春水」

衣服を脱がされて、京楽も脱いだ。京楽の引き締まった筋肉質の体に抱かれるのだと思うと、浮竹は期待で瞳を潤ませる。

「十四郎、たっぷりかわいがってあげるからね?」

「あ、春水」

京楽は、浮竹のものを手でしごいてから、口にふくみ、舐め転がしたりした。

「ああああ」

浮竹は、快感に涙を零す。

鈴口を舌で刺激されて、浮竹は精液を京楽の口の中にだしてしまった。

「あ、今ティッシュを‥‥」

「のんじゃった。君の体液は甘いから」

「ばか‥‥‥」

ローションを手に、時間をかけて浮竹の後ろを解していく。

前立腺をかすめるかと思ったら、いいところは触ってくれなくて、浮竹がねだった。

「も、いいから京楽のちょうだい。京楽の熱いので、俺をめちゃくちゃに犯して」

その言葉に、京楽は浮竹の片足を肩にかついだ。

「いれるよ?」

こくこく頷く浮竹を、貫く。

「ひああああ!!!」

「浮竹は、何度されれてもなれないね?でもそこがいいんだけど」

「あうっ」

入口まで一度引いて、奥まで突き上げると、浮竹は精液を零していた。

「こんなに濡らして」

「ああん」

浮竹の前立腺を刺激してやると、既に2回精液を放っていたが、浮竹のものはまた勃ちあがっていた。

すちゅり、ずちゅり。

恥ずかしくなりそうな水音が、下半身から聞こえる。

「ああああ、もっと、もっと、春水」

京楽は、浮竹の最奥にねじりこみ、そこに子種を弾けさせた。

「いっぱいあげるから、孕んでね?」

耳元で囁かれて、浮竹は熱にういなされたかのように返事をする。

「あ、あ、お前の子供ができちゃう」

男性同士で子供などできるはずもないのだが、このまま交わり続けたら、本当に子供ができそうな気がした。

「ひあああ!!!」

京楽が体勢を変えて、下になる。騎乗位になった浮竹は、長い白い髪を乱しながら、ずぶずぶと京楽のものを飲み込んでいく。

「いい眺め」

「ばかぁ」

桜鬼の妖力を、浮竹の中にも注ぎこみ、まだまだ萎えないようにする。

「あ、あ、あ!」

京楽が下から突き上げるリズムに合わせて、声が漏れた。

「んああああああ!!!」

騎乗位から半身を転がされように押し倒されて、浮竹はごりっと奥をえぐられて、大きく中いきしていた。同時に精液もだしていた。

「いやああ、一緒にいっちゃってるううう」

「浮竹、かわいい。もっと乱れて?」

「やああああん、桜鬼の妖力で、萎えない。終わらせたいのに、終わらない」

「だから言ったでしょ。たっぷりかわいがってあげるって」

「あ、責任はとれよ。春水のばかぁああ」

京楽は浮竹の中を穿ち、何度も精液を注ぎこんだ。浮竹のおなかは、京楽の出したものでぽっこりふくらんでいた。

「ひあああ、意識が、焼ききれ、る」

浮竹も、何度目になるかも分からない精液を吐き出しながら、背をしならせて中いきする。

「ああん、もうやぁ」

桜鬼の妖力は、まだまだ尽きない。

二人は、寝食を忘れて5時間ほども睦みあうのだった。



「やらぁ、もう、春水のザーメンいらない」

「そんなこと言わず、孕むまで犯してあげるから」

「やあ、もう孕んだぁぁ」

「たしかに、おなかぽっこりしてるね。ボクの出した精液のせいだろうけど」

「いやぁ、春水、もう終わってええ」

浮竹はぐずぐずになっていた。思考も精神も体も。

「やあ、また、真っ白いのくるうううう」

中いきしまくって、声もかすれていた。

京楽が浮竹の胎の奥に最後の一滴を注ぎ込む。

京楽の額にあるつのが、淡く輝いた。

「あれ、十四郎気絶しちゃった?」

主が気絶したりすると、額のつのが教えてくれるようになっていた。

「十四郎、ごめんね。いっぱい無理させちゃって」

浮竹の返事はない。

ここまでセックスに付き合えたのは、桜鬼の力であった。

もともと浮竹が桜鬼なので、体の相性の良さは抜群であった。

鋭かった爪は爪切りで切って、浮竹を傷つけないようにした。

時間をかけて後始末を終えて、マットレスにまで精液がしみこんでいたので買い替えることにして、違うベッドの浮竹を寝かせて、京楽は人の姿に戻った。

すると、急激な眠気を感じて立っていられなくなり、浮竹の隣で倒れるように寝た。

桜鬼の力を、エロいことに使いすぎて力尽きたのだ。

浮竹は、次の日に起きてきた。

「春水のアホ。スケベ」

そうやって一日中ののしられて、白哉はまたかと思うのであった。

そして、夜刀神の作るハリセンをもらいに、妖狐の浮竹と夜刀神の屋敷を訪れると、二人は終始にまにましていた。

浮竹が京楽に抱かれたことは、匂いだけでなくキスマークやら気ゃらで分かった。

『桜鬼のボク、そっちの浮竹を壊さないようにね?』

夜刀神がそんなことを言うものだから、浮竹はハリセンで夜刀神をはたく。

『随分と楽しんだんだな。桜鬼の京楽のにおいしかしない』

そう言われて、浮竹はちゃんとさシャワーを浴びて念入りに体や髪を洗ったのだが、内側からのにおいなので、とれなかった。

「浮竹、かわいかったよ。やりすぎて、はじめしかねだってくることはなかったけど」

「春水、お前はいっぺん死んどけえええ」

浮竹はハリセンをうならせながら、桜鬼の姿の京楽とセックスは今度しないと誓うのであった。



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桜のあやかしと共に33

夜、京楽は桜鬼の姿になって、ただひらすら眠る浮竹の髪を撫でていた。

「君はボクのものだ。ボクだけを見て、ボクのために笑って。十四郎、君はボクの全てだ」

すでに、あやかしになっているが、いつ闇に飲まれれてもおかしくない状態だった。

そんなある日、浮竹が夏の朝顔の王に会ってくると言って、出かけてしまった。

京楽はついていきたがったが、王同士の話があり、京楽は連れていけない言われて、しょぼんとなった。

夏の朝顔の王の名は市丸ギン。

京都弁をしゃべる、一見すると普通の青年だが、秘めている力は四季の王の中でも一番強かった。

「十四郎が帰ってこない」

1日経っても帰ってこないので、念のために妖狐の浮竹と夜刀神の元に連絡をいれてみたが、知らないと言われた。

『桜鬼の京楽、闇に飲まれるなよ』

電話ごしにそう言われたが、京楽は姿を桜鬼にして、すでに闇に飲まれていた。

「十四郎の居場所を見つけてきて」

京楽は、200体くらいの式を放ち、夏の朝顔の王近辺を探させた。

すると、浮竹を拉致したのは、朝顔の王だと分かった。

「十四郎を返してもらうよ」

「あちゃー、なんで居場所ばれてもうたんやろ。せっかく、藍染様に捧げようと思ってたのに」

「藍染に?させるものか。ここで、死んでしまえ」

京楽は、桜鬼になったまま、意識のない浮竹を庇いながら、桜の術を使う。

「うわ、なんやのこれ。桜の花びら‥‥刃やんか!」

「切り刻まれてしまうといいよ」

「ほんなん言うても、ボクも夏の朝顔の王やで?ただでやられるわけないやん」

市丸は、朝顔の花を咲かせて、桜の花びらの刃を吸収していく。

「これならどう?」

京楽は、桜の花をふっと吹いて、業火で市丸を包んだ。

「効かへんなぁ。でも、まだ桜鬼をやる時期じゃないし、藍染様も桜の王を今欲しているわけじゃないから、ボクは引かせてもらうわ」

「逃げるの?」

「ちゃうちゃう。見逃してあげるんや。こっちは撤退やで」

市丸は、朝顔の花鬼を大量に召喚した。

「させると思ってるの?」

市丸を消そうとする京楽の体を、朝顔のつるがしめつけて、動けないようにする。すぐに桜の花びらを吹いて、火で燃やすが、もう市丸の姿はなかった。

京楽は、襲い掛かってくる朝顔の花鬼を全て殺した。命乞いをしたり、逃げようとする者も。

「浮竹、起きて。ボクだけを見て。ボクだけのものになって」

浮竹と京楽を心配して、桜鬼の気配が強くなった場所にかけつけた妖狐の浮竹と夜刀神が見たものは、朝顔の花鬼を皆殺しにして、血の海にひたる京楽と浮竹の姿だった。

『桜鬼のボク。闇に、飲まれてるね?』

「また、ボクの浮竹をさらいにきたの。みんな、殺してあげる」

『だめだ、京楽。話し合いじゃどうにもならないくらい、暴走してる』

京楽は、桜の花びらの刃を二人に向ける。

それを、夜刀神がシールドをはって防ぐ。

「桜の花鬼たちよ、やってしまえ」

京楽は、桜の花鬼を数体召喚して、妖狐の浮竹と夜刀神にさしむける。

『この花鬼、普通じゃないね。桜鬼の分身みたいなものだね。でも、片付けても桜鬼には被害がでない‥‥‥‥‥これだから、桜系のあやかしは嫌いなんだよ。桜の王は別だけど』

『全部殺してしまえばいい』

妖狐の浮竹は、鬼火で桜の花鬼たちを灰にしていく。

けれど、灰から桜が芽吹き、また桜の花鬼が復活する。

『これじゃきりがない。術者である、桜鬼のボクをなんとかしないと』

『俺がいく』

妖狐の浮竹は、浮竹に化けた。

「十四郎が二人?」

とまどう京楽の鳩尾に、拳をいれる。

「ぐ‥‥‥‥」

『正気に戻れ、桜鬼』

「ボクは正気だよ」

『まさか、自分から闇に飲まれて、その力をコントロールしているのか?』

「さぁ、どうだろうね。妖狐の浮竹も、夜刀神もいらない。消えて」

妖狐の浮竹は、妖力をまとわせた拳で、再度京楽の鳩尾に拳を入れて、意識を失わせた。

『とりあえず、意識を失わせたが、起きたらまた暴走しそうだ。京楽、暴走しないように術をかけてやってくれ』

人の姿になっていた夜刀神は、京楽に術をかける。

暴走すると、激しい痛みが伴うものを。

「ん‥‥‥俺は?そうだ、朝顔の王に襲われて」

『助けにきた』

『右に同じく』

「京楽は?なぜ、血まみれで息絶えた花鬼たちがこんなにいる?」

『ここじゃ、ゆっくり話もできないね。とりあえず、ボクらの屋敷においで』

夜刀神は、意識のない京楽を背負い、浮竹は妖狐の浮竹に支えられて、異界を通って二人の屋敷にやってきた。

『案の定、桜鬼の京楽は暴走した』

 びくりと、浮竹が強張る。

『力のコントロールの仕方、一から教える必要があるな。俺は嫌だから、京楽に頼もう』

『仕方ないねぇ』

夜刀神は、京楽に力のコントロールの仕方を教えることが決まった。

「ん‥‥‥」

そこで、京楽が目覚める。桜鬼の姿ではなく、人の姿に戻っていたが、瞳は赤いままだった。

「ボクの十四郎を返して」

『何も、とってないぞ』

「ボクの十四郎は、ボクだけがいればそれでいい。ね、十四郎」

「正気に戻れ」

浮竹は、京楽に自分の血を少量分け与えた。

「ああっ、ボクは何を‥‥」

「もういいんだ、京楽。なるべくお前の傍にいるから、暴走しないでくれ」

『ボクが力のコントロールを教えるんだよ?そうそう暴走なんてしなくなるさ』

「ああ‥‥夜刀神、妖狐の浮竹、排除しようとしてごめん」

『今更だね』

『今更だな』

「夜刀神、力のコントロールの仕方を教えて。このままじゃ、十四郎まで傷つけてしうまう」

『仕方ないねぇ』

「京楽、無理はするなよ」

「うん」

二人は、数日屋敷に滞在して、京楽は夜刀神から力のコントロールの仕方を教わり、大分桜鬼でさあることにも慣れたし、妖狐の浮竹が浮竹に抱き着いたりしても、嫉妬で闇に飲まれることはなかった。

「長く、世話になったな。連絡はいれてあるが、白哉が飢え死にしてそうなので、帰る」

『ふふ、帰る理由がそれ?よっぽど白哉くんが大事なんだね』

「当り前だ。弟だからな。ほら、京楽も礼を言え」

「世話になったね。もう、きっと暴走はしない」

『だと、いいけどねぇ』

夜刀神が京楽を見る。

『まぁ、俺が精霊の俺に抱き着いたりキスしても、桜鬼にならなかったから、大丈夫じゃないか?』

『ちょ、浮竹キスって!』

浮竹は真っ赤になった。

「凄かった‥‥テクが、今までの誰よりも凄かった」

『ええっ』

夜刀神も知らない、妖狐の浮竹の一面であった。

『精霊の俺はかわいいな。キスしてもよいと思える』

『ボクがいるのにぃぃ』

夜刀神は、妖狐の浮竹の頭の上で、こうもり姿で嘆いた。

『俺が愛しているのは、京楽、お前だけだ』

『うん』

それを聞いて、京楽も浮竹にささやく。

「愛してるよ、十四郎。でも、君がボク以外を見ても我慢する。いろいろたくさん我慢する」

「春水、偉いぞ」

「ふふ。キスしていい?」

「俺からしてやろう」

浮竹にキスされて、京楽は赤くなった。

「テ、テクが凄い」

『妖狐の俺直伝だぞ」

『ああもう、いちゃつくなら外でやれ』

「ああ、そうする」

浮竹と京楽は、異界渡りをして、浮竹の桜の木がある公園まできていた。

「京楽。もう、俺のせいで暴走なんてしないでくれ」

「うん。でも、君を傷つけたり攫おうとする者は殺すよ?」

「俺は王だ。そうそう簡単にやられない」

「でも、この前は相手が格上の夏の王だった」

京楽は、心配気に浮竹を見つめた。

「市丸には気をつける。あと接触していないのは、冬の王で椿の王である、日番谷冬獅郎だけだな」

「接触するの?」

「桜の王として、椿の王から冬の終わりをもらうからな。椿の王は、3千年を少年の姿のまま生きている古参だ」

「浮竹に惚れない相手なら、いいよ」

「俺に惚れるのは、お前や「春」くらいだ」

「そうでもないよ?君は綺麗だから、いろんな花鬼やあやかしが惚れてる」

それは本当の話であった。

浮竹が気づいていないだけで。

「ねぇ、さっきのキス、もう一回して?覚えて、君にする」

「仕方ないやつだな」

浮竹は背伸びして、京楽に妖狐の浮竹直伝のキスをするのであった。






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寝顔見ながら

「浮竹?よく眠ってるね。でゅふふふふふ」

京楽は、浮竹のかわいい寝顔を見ながら、ベッドで自分のものをしごいてあはんあはんしていた。

「んー。京楽?」

ふと、浮竹は目覚める。

「ぎゃああああああああ」

「いやああああああ」

とんでもない光景を見せられた浮竹は、鬼道を放っていた。

京楽は股間をおっきさせたまま、火だるまになる。

「いやああ、熱い熱い!」

「このまま灰になれえええ!!!!何俺が寝ている隣でナニをしているんだ」

「ちょっとした出来心なんですうううう」

ところどころ焦げてはいるが、鎮火させた京楽は、正座させられていた。

もちろん、服をちゃんと着て。

「ナニをするなら、俺のいないところでやれ!」

「いつもやってますう。刺激が足りないんだよ。君の寝顔見てたらむらむらしてきて、ついやっちゃいました」

ズドン。

浮竹は、百科事典の角で京楽の頭をなぐる。

「もぎゃああああああ」

あまりの痛さに、京楽が涙目になる。

浮竹は、5回百科事典の角で京楽を殴り、気がおさまったのか、正座しなくていいと言った。

「まったく、お前の変態っぷりには呆れる」

「そんなに褒めないでよ」

「褒めてない。けなしてるんだ」

「ボクにとってはその言葉も甘い果実☆」

イラっときて、浮竹は京楽の頭をハリセンで殴る。

スパンといい音がした。

「これ、けっこういいな。通販で買ったんだが」

浮竹はハリセンを気に入ったようであった。

「ついでだ、今まで盗んでたパンツ返せ」

「ええ、いやだよ!ボクのオアシスを壊さないでよ。そもそも、浮竹のパンツは匂いをクンカクンカとかいでいつもおかずにしています。浮竹のパンツはいてナニをやったりしてます」

「もう、俺のパンツは返さなくていい。焼却処分だああああああああ」

「ぎゃああああああ、ボクのオアシスがあああああ」

たんすの中にあった、浮竹のパンツを浮竹は鬼道で全部もやした。

「あああ、頑張ってコレクションしたのに。また、浮竹のパンツ盗まなきゃ。まずは、今はいているパンツをよこせええええええ」

「ぎゃあああああああああ、この変態があああああああ!!!

浮竹のパンツを脱がそうとする京楽を、浮竹は背負い投げして、ベランダに転がすと、そこから外につきおとした。

「わあああああああああああ」

「一回死んでこいいいいいいい」

寮の部屋は3階なので、きっと京楽のことだからたいしたけがもしないだろう。

事実、京楽はぴんぴんして帰ってきた。

京楽をやるとしたら、色じかけで斬魄刀で斬るしかないか。そんなことを考える浮竹であった。



ちなみに。京楽のコレクションの浮竹のパンツを燃やしたので、京楽は浮竹のパンツを毎日盗み続けた。

その度に、通販でパンツを買う羽目になる。

燃やしたのは間違いだったかと、思うのであった。



「うひょう、今日の浮竹のパンツはひもぱんつ♪」

「それ、隣の西宮のパンツ」

「おええええええ。匂いかいでなめちゃった」

「この変態がああああああ!!」

浮竹のハリセンがうなる。

スパーンと顔面を叩かれて、京楽は涙目になった。

「ちょ、顔面はなしで」

「じゃあ、いらないものがついている下半身だな」

股間を思い切り蹴られて、京楽は気絶した。

「ふう。平和になった。今のうちに、課題しておこう」

京楽を紐でしばって、浮竹は燃えるゴミに出した。

京楽が起きる頃には夜は更けていて、なんとか紐の束縛から解放されて、自分の部屋でもある寮の浮竹との相部屋に帰ろうとするのだが、鍵がかけられていた。

今日かえたたばかりらしい。

しくしくと泣きながら、京楽は部屋の外で一夜を明かす。

朝になると、毛布がかけられてあった。

浮竹は何気にツンデレである。

ツンが9割、デレが1割だ。

浮竹のやさしさに、京楽は感謝するというより興奮して、朝食を食べに外にでてきた浮竹の飛びついて、蒼火堕でもやされるのであった。

ちなみに、すぐに火は消えて、京楽は何食わ顔で浮竹の隣を歩き、浮竹に声をかけようとする院生に般若を見せて、浮竹を孤立させるのであった。


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