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始祖なる者、ヴァンパイアマスター14後編その2

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風呂の中で、浮竹は京楽に抱かれていた。

「あ・・・・・」

声が少し響くが、どのみち古城には浮竹と京楽以外は、戦闘人形しかいない。

「んんっ」

ボディーソープで体全体を洗ってくる京楽の手は、きわどい場所ばかり洗い、肝心の部分に触ってくれない。

「あ!」

胸の先端をかすめた泡だらけの指先は、浮竹の顎に伸びる。

「んっ」

京楽と、口づけをしていた。

「ふあっ・・・・・」

浮竹のものは勃ちあがり、だらだらと先走りの蜜を零していた。

「もうやっ。触って、春水」

「よく言えました」

「ああっ!」

浮竹のものをしごきながら、京楽は熱いシャワーを出して、浮竹のものの鈴口にシャワーのヘッドを押しあてた。

「ああああ!!!」

水圧にビクンと、浮竹が反応する。

「やあああ!」

浮竹は、精液を吐き出していた。それは、熱い湯と共に、排水溝へと流れていく。

「浮竹、おいで」

お風呂の中で、京楽が浮竹を抱き寄せた。

「んっ」

お湯は浴槽の半分ほどしか入っておらず、てらてらとグロテスクに光る京楽のものがそそり立っていた。

「自分でいれてごらん」

ローションを渡して、浮竹に自分で蕾を解すように誘導する。

「あ、や・・・・」

浮竹は、熱に思考を侵されて、指を二本自分の体内にいれた。

「んっ・・・届かない。京楽のものじゃないと、届かない」

「じゃあ、自分でいれてみて?」

「んあっ」

ローションまみれの京楽のものに、おざなり程度に解した蕾をあてがう。

「あああ、んあっ、大きい、ああああ!!!」

いつも京楽を飲みこんでいるせいもあるし、ローションの助けもあって、浮竹は京楽のものを全部飲みこんでいた。

「あ、あ、あ!」

京楽は、下からリズムつけて突き上げる。

「あああ!」

浮竹は、長い白髪を宙に乱れさせた。

「んあ!」

ごりっと、結腸にまで入り込んできた熱を、締め上げる。

浮竹は、唇を舐めると、京楽の耳元で囁いた。

「俺の中で、いけ」

「あっ」

京楽は珍しく声をだしていた。

浮竹が、わざと強く締め付けてきたからだ。

その誘惑に負けて、京楽は浮竹の胎の奥に精子をぶちまけていた。

「あああ!!」

浮竹のものを、京楽が握る。

「やっ」

「まだ、いけるでしょ?さぁ、一緒にいこうか」

「やあああ!!!」

突き上げてくるリズムが早くなった。

前立腺をコリコリと抉られて、浮竹は生理的な涙をこぼす。

それは、ぽちゃんとお風呂の湯に混ざった。

「ん、いくよ。さぁ、君も」

「ああああ!!!ひあああ!」

京楽が浮竹の最奥に熱を叩きつけるのと、京楽の手が浮竹をおいあげて精液を出させるのがほぼ同じタイミングだった。

「吸血するよ?」

「だめぇええ、今、いってるから、ああ!」

浮竹を抱き寄せて、その喉元に噛みついて、京楽は浮竹の血をすすった。

「ああ、甘い。美味しい。君の血で、僕はどうにかなってしまいそうだ」

「それは、こちらの、せりふ、だ!」

浮竹は吸血されたことへの大きな快楽を乗り切って、京楽の心臓の位置の、胸に噛みついた。そのまま牙を深くたてて、血を飲む。

「ああ、いいね。君に吸血されるの、好きだよ、僕は」

「快楽にしかなっていない・・・・お仕置きにもならない」

そんなことを言う浮竹に、京楽は浮竹の筋肉は薄くついているが、どちらかというと京楽に比べれば華奢な体を抱きしめた。

「愛してるよ、十四郎」

「俺も愛してる春水」

深く口づけしあいながら、また乱れあう。

湯が満タンになる頃には、浮竹は意識を失っていた。

「ちょっと、血を飲みすぎちゃったかな」

軽い浮竹の体を抱き上げて、水分をとって寝間着を着せた。

「また明日。十四郎、おやすみ」

ちゅっとリップ音をたてて、京楽は同じベッドで眠りについた。

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朝起きると、浮竹の姿がなかった。

「どこだい、浮竹?」

京楽は、古城を探し回った。

離宮や錬金術の館にもいなかった。東洋の妖(あやかし)からもらった、いつも肌身離さずもっているはずのお守りが、ベッドの上にあった。

「どこにいったんだろう?」

古城の近くの湖に、浮竹はいた。

「浮竹?」

「ああ、キミがこの子の血族かい?」

「君は誰だ!」

浮竹の隣に現れた、黒尽くめの男に、京楽が威嚇する。

「僕は藍染惣右介。始祖の魔族さ」

始祖の魔族という言葉に、京楽が強張りつく。

「浮竹、危ないからこっちにおいで?」

「お前は・・・・・誰だ?」

「え?」

京楽は、呆然となった。

「浮竹・・・。十四郎?」

「俺はお前を知らない。俺が知っているのは、俺を愛しているこの始祖魔族の藍染惣右介だけ」

愛おしそうに、浮竹は藍染の肩にしな垂れかかった。

「浮竹!そうか、お守りを持っていなかったから、呪いが!」

「呪い、ではないよ。記憶を、少しいじったんだよ。今は、ボクが浮竹の中で愛しい血族だ」

「そんな!おい、藍染といったな、目的はなんだ!」

「目的?そんなもの、このヴァンパイアの始祖の浮竹以外、ないだろう?」

藍染は、あろうことか、京楽の見ている目の前で、浮竹に口づけた。

「惣右介・・・早く、戻ろう?城へ」

「そうだね。戻ろうか」

浮竹を抱き上げて、藍染は闇の中に滲んでいく。

「まて、藍染!浮竹を返せ!」

「ふふふ・・・イグル大陸の魔都サラテアル。来れるものなら、来てごらん」

「浮竹ーーーーーーー!!!!」

浮竹は、藍染の腕に抱かれて、闇の中に完全に溶けてしまった。

「浮竹・・・嘘だろう?」

君が、僕以外を愛するなんて。

君が、僕を忘れるなんて。

君は僕のもの。僕だけのもの。

「始祖魔族、藍染惣右介。イグル大陸の魔都サラテアル。地獄だろうと何処だろうと、行ってやろうじゃないの」

京楽は、浮竹が最近いつも身につけていたお守りを握りしめて、空に向かって咆哮した。

「うおおおおおおおお!!!!」



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始祖なる者、ヴァンパイアマスター14後編

猫の魔女、松本乱菊の滞在は長かった。

やってきてすぐに、浮竹と京楽の友人として打ち解けた。

一度は魔女の里に帰ったが、また遊びにきた。

その時の乱菊はヴァパイアの始祖を屠れという密命を帯びていたが、始祖のヴァンパイアである浮竹を殺す方法などないし、友人を手にかけることなどしたくないと、魔女会議で決定された事柄を無視した。

乱菊が戻ってきて、3日が過ぎた頃、エリクサーの材料で、市場で出回っていない世界樹の雫を手に入れるために、S級ダンジョンにもぐることにした。

S級ダンジョンは1つではない。

世界にいくつか存在した。

3人は、1週間分の食料を3人分アイテムポケットにいれて、出発した。

まず、S級ダンジョンのある国の首都に、空間転移魔法陣を起動させて、転移する。そこから馬車で2時間ほど揺られて、ダンジョンの最寄りの街に移動して、宿屋で一日休息をとり、空間転移で失った魔力を補充した。

街から徒歩一時間ほどした場所にS級ダンジョンはあった。

まだ来たことのないS級ダンジョンであった。

主にドラゴン系が住み着いており、難攻不落とも言われていた。

ドラゴン系といっても、個体数200しかいないドラゴンうち2体がボスをしているだけで、後のドラゴンは雑魚で真のドラゴンとしては分類されなかった。

200体しかいないドラゴンは竜族と呼ばれている。

その他のドラゴンは、ただの雑魚ドラゴンだ。

かつて、浮竹が退治したブラックドラゴンやファイアードラゴンは竜族だ。

竜族と雑魚ドラゴンの違いは、人語を理解し人型をとる知恵あるドラゴンか、人語を理解しない頭の悪いドラゴンかの違いであった。

始祖竜であるカイザードラゴンは、人型をとり人語を理解する。

もっとも、浮竹は竜族だろうが雑魚ドラゴンであろうが、関係なく倒してしまうが。

一階層を進むと、プチドラゴンと呼ばれる、雑魚ドラゴンの幼体ができてた。

「このダンジョン、雑魚ドラゴンや竜族でできているから、素材が金になる」

浮竹は、スパスパと血の刃ででてくるプチドラゴンを倒していった。

乱菊も魔法を使い、プチドラゴンを倒す。

京楽は、倒されていったプチドラゴンの素材にできる部分だけを切り取って、アイテムポケットに収納していった。

「あ、宝箱!」

「ちょっと、浮竹!」

「あがががが、いつもより痛い!」

浮竹をがじがじと噛むミミックは、エンシェントミミックだった。

「暗いよ~狭いよ~怖いよ~生暖かいよ~」

乱菊は、腹を抱えて笑っていた。

「あはははは、始祖ヴァンパイアがミミックに食われるなんて・・・おかしい、あははは」

「見てないで助けてあげて?浮竹ってミミックが大好きで、宝箱を発見してそれがミミックでもわざと食われにいくんだよ」

京楽は、エンシェントミミックに食われてじたばたしている浮竹の下半身を見ていた。

「京楽、助けてくれ」

「全く、君のミミック好きには毎度あきれるよ」

エンシェントミミックも通常のミミックと同じで、押し込むことでおえっとなって、浮竹をはきだした。

「ボルケーノトライアングル!」

浮竹が、火の範囲魔法でエンシェントミミックを退治する。

「ちょっと、オーバーキルだよ」

「今日初めて会ったミミック様だ。盛大に燃やそう」

「ミミック様って・・・」

「古城のポチを象徴として、俺が勝手に設立した、ミミック教だ!」

それを聞いて、京楽は眩暈を覚えた。

「ミミック教っていっても、ミミックは結局倒すんだね」

「倒さなきゃ、宝物を落としてくれないだろうが」

「あはははは!あなたたち、いつもダンジョンでこんな風なの?漫才してるみたい」

「これが俺と京楽の通常運転だ」

「違うよ、乱菊ちゃん!浮竹が暴走してるだけだよ」

「お、魔法書が3つか。ラッキー」

浮竹は、エンシェントミミックが残していった魔法書を手にとった。

2つは民間魔法で、肩こりが余計にひどくなる魔法、10円ハゲを作る魔法だった。

「あまり役に立ちそうにないな」

2つの民間魔法を習得する。

「役に立ちそうにないとかいいながら、ちゃんと覚えるんだね」

「京楽、10円ハゲできる魔法使ってもいいか?」

「やめてよ!僕を実験台にしないで!」

京楽は、乱菊の後ろに隠れた。

「ちょっと、あたしもいやよ!10円ハゲなんて!」

「血をやると再生するから、10円ハゲを作らせてくれ」

「血がもらえるの?10円ハゲ、こさえてもいいわよ」

乱菊は、現金だった。

浮竹が魔法を唱えると、豊かな金髪に10円ハゲができた。

「おお、本当に10円ハゲができた」

「血をちょうだい。治さなきゃ」

浮竹は、自分の血の入った小瓶を、乱菊に渡した。

再生の力だけが宿っていて、レアなポーションの材料になる血ではなかった。

「あら、魔力を帯びていないのね。残念。でも、これはこれで大けがを治すとかによさそうだから、とっておくわ」

乱菊は、血を少しだけなめた。

10円ハゲだった部分にぶわっと髪が生えてきた。長くなりすぎたので、もっていた短剣で適当な長さに切った。

「もう一つの魔法書は・・・古代の、炎の魔法。おお、すごいぞ、俺がまだ覚えていない魔法だ。攻撃魔法で覚えていない魔法を覚えるのは久しぶりだ。えーと、ファイアオブファイア!」

ごおおおお。

すさまじ炎が踊り、地面が黒こげになった。

「浮竹、その魔法あんま使わないでね?火力強すぎるよ」

「そうだな。ドラゴン系の素材を燃やしてしまったら、もったいない。これからも今まで通り、血の刃で殺すとしよう」

「あたしも覚えられるかしら」

「試してみるか?」

「ええ」

浮竹は呪文の詠唱を破棄しているが、魔法は通常呪文の詠唱がいる。

「その身に宿るのは己が意思の炎。天よりきたりて我が前に立ちふさがりし愚者を炎の贄にせよ!ファイアオブファイア!」

シーン。

魔法は発動しなかった。

「だめだわ。魔力が足りないみたい。浮竹さん、よくこんな魔法を簡単に使えるわね」

「俺は魔法を極めているからな。魔力も、自分でいうのもなんだがこのガイア王国一だと思う。
血の帝国でも多分一番だ。ブラッディ・ネイが魔法の腕をあげていなければの話だが」

「ブラッディ・ネイって、血の帝国の女帝の名前だわよね?」

「そうだよ。浮竹の実の妹だよ」

京楽の言葉に、乱菊が驚く。

「ええっ、女帝の兄!あの女帝は8千年も血の帝国に君臨し続ているのに、浮竹さんは女帝の代わりに皇帝になったりしないの?」

「一時期、皇族王をしていた。皇帝にはなる気はなかったな。俺には、血の帝国の統治には向いていない。ブラッディ・ネイは一人のヴァンパイアとしては問題がありすぎたが、血の帝国をちゃんとまとめあげて政治を行っている。今は白哉が、皇族王の地位にあり、摂政としてブラッディ・ネイの右腕をしている」

「白哉クンも大変だよね」

「選んだのは白哉だ。後宮に入り浸るブラッディ・ネイを快く思わない者もいるからな。そういう女帝排斥派を黙らすのが、白哉の仕事でもある」

そんな会話をしながら、モンスターを倒して5階層にまできた。

「ボスはワイバーン。数は1体。楽勝だな」

「ワイバーンはあまり素材にならないからね」

「さっきの魔法でやっつけちゃえば~?」

「シャアアアアアア」

襲い掛かってくるワイバーンの攻撃を3人とも躱して、浮竹は魔法を使った。

「ファイアオブファイア!」

「シャアアアアア!」

ワイバーンは雄叫びをあげて、灰になった。

骨すらも残らなかった。凄まじい火力であった。

「ちょっと、これ禁呪に近いかもしれない。あまり使わないようにする」

浮竹が、覚えたての魔法を初めてモンスターに使ったが、その威力の高さにびっくりしていた。

「そうだね。ちょっと威力が高すぎるかな。ボス戦以外では、使わないようにしようよ」

「ボスはドラゴン系だから、ボスにも使わない。素材がだめになる」

あくまで、浮竹の中でドラゴン系統は素材の山という認識だった。

10階層まで進むと、アンデットドラゴンがボスとしてでてきた。

骨だけのドラゴンだった。

「骨と牙と爪は素材になる!コアを破壊しよう!」

スライムなどの不定形の魔物や、アンデット系の魔物にはコアへの攻撃が一番よく効いた。

「ファイアオブファイアじゃ、骨も残らなさそうだな。京楽、任せてもいいか?」

「もちろんだよ!」

「あたしは援護にまわるわ!」

「頼む!」

「エクステンドアイビー!」

浮竹は、蔦を伸ばす魔法を使って、アンデットドラゴンの動きを封じた。

乱菊がコアの周りの骨を、魔法で破壊する。

そこに、聖なる魔力を宿した、京楽のミスリル銀の剣がコアを粉々に切り崩した。

「ギャルルルル」

雄叫びをあげて、アンデットドラゴンは活動を停止した。

「ドラゴン素材だ!金になる!」

道中の雑魚ドラゴンより、このアンデットドラゴンの素体は竜族であったので、素材として雑魚ドラゴンの2~3倍はした。

竜族の素材には魔力が満ちている。

雑魚ドラゴンの素材には魔力がない。どちらを加工すればいい武具ができるかなど、一目瞭然であった。

そうして、一行は4日かけてダンジョンの最深部までやってきた。

S級ダンジョンなだけあって、出てくる敵は強く、階層が下になればなるほど、ボスのような個体がわんさかと出てきた。

始めは素材のため、と言っていたが、出てくる数が多いので、ファイアオブファイアで焼き払う始末だった。

「は~。やっと70階層まできた。このダンジョン、何階層まであるの?」

「確か、105階層だ」

「うえーまだそんなにあるの」

ボス部屋の前のセーブポイントで昼食をとって休憩を入れながら、浮竹はこう言った。

「世界樹の雫がとれる階層は、77階層。ここのボスを倒したら、終わりだ」

「やったー!地上に帰れる!」

「あたし、お風呂に入りたい」

リフレッシュの魔法で体の清潔さを保ってはいるが、お風呂に入る爽快感はない。

「さて、いこうか」

「うん」

「ええ」

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「きしゃああああああああ!!!」

75階層で待ち受けていたのは、真のドラゴン、竜族であった。

だが、呪いでステータス異常を起こしていた。

魂にまで刻み込まれた呪いなので、聖女でもいない限り解呪はできないだろう。

「竜族か。話し合いで片をつけたかったが、憤怒のステータス異常だ。解呪できないし、このままにするのも哀れだ。せめて、俺たちの手で屠ってやろう」

ドラゴンは、エンシェントドラゴンであった。

カイザードラゴンほどではないが、3千年は生きている、竜族の中でも古い個体だった。

「エンシェントドラゴンが、100年ほど前にいなくなったと聞いていたが、こんな場所にいるとは」

「ぎゃるるるるる」

炎のドラゴンブレスを吐かれて、浮竹と京楽はシールドを展開する。

そのシールドに罅が入った。

浮竹が、もう一枚シールドを増やす。

「何て威力だ。ブレス特化か!」

次は、氷のブレスを吐いてきた。

シールドでずっと防ぎ続けるが、魔力の消耗が激しかった。それほどの威力のブレスだった。

炎、氷、雷、水、風、大地、光、闇。

エンシェントドラゴンは、全ての属性のブレスを吐いた。

それを、シールドで防ぎ続ける。

「このままじゃ、こっちの魔力が尽きる」

「なんとかしないと!」

乱菊は、危ないのでセーブポイントにいてもらった。

乱菊のレベルでは、竜族にダメージを負わせるのがやっとで、足手まといになるからと、説得した。

「がんばって、浮竹さん、京楽さん!」

扉の向こう側で、そんな乱菊の言葉が聞こえた。

「ドラゴンの弱点である、顎の逆鱗をついてくれ、京楽!」

「そうは言われても、このブレスじゃあ、近くによることもできないよ」

「俺がなんとかする。エターナルアイシクルワールド!」

禁呪でもある氷の魔法を放ち、エンシェントドラゴンの下半身を氷漬けにすると、エンシェントドラゴンは、炎のブレスで氷を溶かそうとしていた。

封印の威力もあるので、氷の魔法は溶けない。

「ぐるるるるるる!」

エンシェントドラゴンの瞳には、浮竹が映っていた。

「我を・・・・殺せ。始祖の、ヴァンパイア」

「エンシェントドラゴン?呪いが消えたのか?」

「我は、100年前、始祖魔族藍染惣右介の手で、ここに閉じ込められた。外に出ることもかなわず、ただSランク冒険者の相手を、時折していた。殺さず先に行かせたことも何度かある。我の呪いは魂への呪い。時折ふと元に戻ることはあれ、もう呪いは解けぬ。このような場で生き続けるよりも、我は死して新たなるエンシェントドラゴンとして生まれ変わりたい」

輪廻転生。

それは竜族だけがもつ、転生の在り方。

「分かった。京楽!」

「うん!」

炎の魔法を帯びた魔剣で、京楽はドラゴンの弱点である、逆鱗を斬り裂いた。

「ありがとう・・・・我は眠る。次にまた会いまみえることがあれば、我は幼体であろう。その時は、かわいがってくれ」

「さよなら、エンシェントドラゴン」

エンシェントドラゴンはずどおおんと、巨体を倒して、死んでいった。

浮竹と京楽は、エンシェントドラゴンの体をアイテムポケットに入れる。

体が巨大なので、浮竹のアイテムポケットには入りきれなくて、結局中身があまり入っていない京楽のアイテムポケットに入れた。

「勝ったの、浮竹さん、京楽さん」

「ああ、一応な」

「エンシェントドラゴンは?」

「倒したので、素材としてアイテムポケットにいれた」

その言葉に、乱菊が顔を引き攣らせていた。

「真のドラゴン、竜族も素材にしちゃうのね」

「また竜族の個体が減ったな。恋次に連絡して、減った数のドラゴンを孵化させてもらおうか」

「うん、そうだね」

「じゃあ、77階層目指して、がんばりましょう!あと一息よ!」

るんるんと前を歩く乱菊の後を追う。

「ちょっとたんま。休憩しよ」

京楽が、魔力切れを起こしていた。浮竹の魔力もかなり減っていた。

76階層のモンスターは、上のほうの階層のボス並みの相手がほとんどだ。

なんとかセーブポイントを見つけると、浮竹はテントを張った。周囲には、念のための魔物避けのお札を置いた。

「今日は、ここで休息しよう。俺も京楽も、随分と魔力を消費した。一日経てば元の状態に戻るだろうから」

「じゃあ、あたし食事つるくわね」

浮竹のアイテムポケットから食材を出してもらい、乱菊は豪快に野菜をきっていって、鍋でいためて水をそそいで、シチューを作っているらしかった。

なんともいえない、つーんとした匂いのするシチューができあがった。

「味見したか?」

「いやねぇ。するわけないじゃない!だって不味いんだから!」

「不味いなら、最初から作るな!」

「あら、そんなこと言っていいの?これ、魔女の特選のレシピ、魔力を回復させるシチューよ?本当なら薬にして、1個金貨3枚はいただくんだけど」

乱菊は、もってきていた薬草のほとんどを鍋にいれてしまったらしかった。

「せめて、薬の形がよかったよ・・・・・」

京楽は、文句を言いながらもシチューを全部食べた。浮竹もそれを見習って、不味くて苦いが、シチューを全て食べた。

「お、大分魔力が回復してるな」

「ほんとだ」

「ふふふふ、魔女の調合する薬をなめないでもらいたいわ」

そのまま、3人は時間が夜になっていることもあり、テントで就寝した。

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「これが世界樹の雫・・・・・・」

乱菊は、目をウルウルさせていた。

77階層に生えている世界樹の葉に宿る、虹色に光る世界樹の雫の結晶を、そっと大切そうに鞄にしまいこむ。

「ここまできたんだ。とれるだけとってしまおう」

浮竹は、世界樹の雫の結晶をいっぱいとって、アイテムポケットに入れていた。

世界樹の雫は、液体ではない。液体だとすぐに蒸発してしまうので、宝石のように固まった結晶だった。

「これだけあれば、エリクサーも作れるだろう」

浮竹も乱菊も、好きなだけ世界樹の雫をとった。

このS級ダンジョンの77階層に生える世界樹しか、世界樹の雫を生み落とさないので、S級ダンジョンにもぐるSランクの冒険者が、世界樹の雫を冒険者ギルドに売らない限り、市場には出回らない。

乱菊はちまちま市場に出して、金を稼ぐつもりであった。

大金になると、喜んでいた。

浮竹は、エリクサーの材料にするので売る気はなかった。

ガイア王国に帰り、3人は冒険者ギルドの解体工房でエンシェントドラゴンの遺体を出した。

受付嬢は、浮竹と京楽が以前ブラックドラゴンを持ち込んだ時に居合わせたので、驚くものかと心がけていたが、更に上位のエンシェントドラゴン、真竜に口をぽかんとあけて、その鮮度の高い遺体を見ていた。

「肉はある程度もらう。あと、瞳と血もだ。残ったのを買い取ってくれ」

認識阻害の魔法をかけているので、浮竹はエルフの魔法使いで京楽はハーフエルフの剣士にみえた。乱菊は獣人族の盗賊に見えていた。

ギルド長が、他のギルド職員と相談して、買取金額を提示してきた。

「ブラックドラゴンの時が金貨5千枚だったが、今度はエンシェントドラゴンの真竜。魔力の保有量が桁違いだ。状態もいい。瞳と血と肉以外でも、金貨7千枚で買い取りたい」

「いいぞ。その値段なら、売ろう」

浮竹は、あっけなく売ることを承諾した。

乱菊はその値段の高さに、もう慣れてきたとはいえ、驚いていた。

「あの、世界樹の雫を1つ売りたいのですけど」

「世界樹の雫だと!今、ちょうど市場でも出回っていなくて、ミスリルクラスの錬金術士が欲しがっているんだ。金貨2千500枚でどうだろう?」

「お売りします」

乱菊は、世界樹の雫を売った。

こんなに高価だとは思っていなかったので、喜びを隠しきれないでいた。

「自分で使う分を置いておいても、あと10個はあるわ。里の近くの冒険者ギルドで定期的にうりましょっと」

乱菊は、里にある自分の家をもっと広い家に建て替えて、魔女として薬の調合の腕もあがったことだし、良い薬を作って、里の外の人に薬を売ろうと思っていた。

商会は通していないので、乱菊は自分で薬を売る。

貧民や平民には安価に、貴族や大金持ちには少々高く売りつけた。

いろんな病気の薬だったり、怪我を治癒するポーションだったり、毒を無効化する薬だったりと薬の内容は多岐に渡った。

痺れ薬、毒薬、惚れ薬、自白剤・・・そんなものも取り扱っているが、顧客は王侯貴族である。

薬を買って、それをどう使うかは、買った者の自由であった。

だが、犯罪に使われるようなら、冒険者に依頼して、薬を取り返してもらっていた。

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「約束だ。エリクサーを調合しよう」

「待ってました!」

浮竹は、京楽も伴って、錬金術に使っている館で、乱菊の前でエリクサーを調合した。

はじめの5回は失敗。

失敗するたびに爆発するので、京楽にシールドを張ってもらった。

6回目にしてようやく成功した。

液体に世界樹の雫を液状化したものを混ぜると、エリクサーになる予定の小瓶に入った水色の液体は、まざりあい虹色の光をきらめかせた。

キラキラと光る七色の液体は、まぎれもない本物のエリクサーであった。

「成功だ。最後に、世界樹の雫を入れるんだ。肌の温度と同じくらいに液状化したものでないと、失敗する」

「うわぁ、本物のエリクサーだぁ。そうやって調合するのね。失敗すると爆発すると」

乱菊は、メモに材料と調合の時の注意点などを書いていた。

「俺の弟子になったことで、今乱菊は金クラスまで腕があがっているはずだ」

「ほんとぉ?やったあ!」

上から3位目のクラスだ。

「魔女の最高位クラスでプラチナが一人いるだけなのよね。金クラスは8人いるけど、あたしをいれてこれで9人だわ!大金持ちになったし、魔女の里でのあたしの地位もあがるはず。あたしをおばさん呼ばわりした始祖ローデン・ファルストルめ、ざまーみろだわ。仇のヴァンパイアの始祖に弟子入りした魔女なんて、絶対未来永劫あたしくらいだわ」

「その、いいのか、乱菊。仇である俺の弟子になったこと」

「いいのいいの、気にしないで。魔女の始祖は、世界征服するとかアホなこと言ってたけど、それに同意していたのはごく一部の者よ。血の帝国に戦争しかけて、敗戦して。戦後賠償金を払わないといけないから、里の者たちにも罰金がくるのよ」

「ああ、ローデン・ファルストルが戦争をふっかけてきたけど、血の帝国全土を巻き込む大きな戦いにならなかったから、ブラッディ・ネイが出す戦後賠償金もそれほど桁は大きくないと思うよ」

京楽が、賠償金に悩んでいる乱菊に助け舟を出した。

「京楽、かっこよく決めているつもりだろうが、髪型がアフロなせいでアホに見えるぞ」

浮竹と乱菊をエリクサー調合の失敗の爆発から、シールドでその身を守っていたが、一度自分自身を守るのを忘れたのだ。

京楽の髪は、アフロになっていた。

「ムキー!アフロで悪い!?」

「あはははは!」

乱菊は、腹を捩って笑っていた。

「ついでに、十円ハゲを作ってやろう」

「ぎゃはははは!!」

アフロのいたるところに10円ハゲができて、乱菊は笑いすぎで呼吸が苦しそうだった。

「浮竹、僕のこと本当に愛してるの?」

「ああ、愛して・・・・・ぷっ」

浮竹もまた、ひどい恰好になった京楽の姿を見て、笑った。

「酷い!」

「悪い悪い。血を飲んでいいぞ」

「遠慮なくもらうよ」

京楽は、浮竹の首に噛みついて、その血を啜った。

髪型が元に戻っていく。

「ああ、君の血の味は甘いね。チョコレートや砂糖菓子より甘い」

「んっ」

乱菊は目を手で隠していたが、指の隙間からばっちり見ていた。

「見せつけてくれるわねぇ」

「あ、すまない乱菊。京楽の吸血行為はいつものことだ。乾きを覚えたら、俺の血を吸うようにさせてあるから」

「そういえば、京楽さんは人工血液飲まないのね?」

「僕は浮竹の血だけでいい。浮竹になにかあって、乾いていたら人工血液を口にすることはあるけど、あの微妙な甘ったるさは嫌いだよ。浮竹の血のほうがまろやかで美味しい」

「ふーん。あたし、明日には魔女の里に帰ろうと思うの」

「急だな」

「でも、これ以上長居したら、その、あなたたちの夜の生活がね?」

浮竹は真っ赤になって、京楽も少しだけ照れていた。

「じゃあ、今日はお別れの送別会を開こう。戦闘人形に、フルコースを作るように頼んでおく」

「ありがとう、浮竹さん!」


その日の夜は、乱菊の送別会としてささやかなパーティーが行われた。

七面鳥を焼いたものやら、フォアグラやトリュフやキャビアやらと、高い食材をふんだんに使った料理がでた。

エンシェントドラゴンのステーキもあった。

ちなみに、ポチは今古城で放し飼いになっていた。晩餐の広間にやってくると、勝手にドラゴンステーキを食べていた。

「こら、ポチ!食べる前はちゃんと牙を洗いなさい」

「浮竹、それ無理あるから。ポチもお腹すいてるんだね。もっとドラゴンステーキあげていい?」

「いいぞ」

「よかったね、ポチ」

ちなみに、ポチはミミックだ。

最近は浮竹を見てもすぐには噛みつかない。餌をくれようとする瞬間に、えさごと噛みついた。

京楽がポチにドラゴンステーキをあげるのを、羨ましそうに浮竹が見ていた。

「浮竹が、ポチにご飯あげる?」

「そうする!」

ポチにエンシェントドラゴンのドラゴンステーキを与えた。

「うわー、暗いよ狭いよ怖いよ息苦しいよーーーー」

ポチに噛まれた浮竹を助け出している京楽に、乱菊もまじって浮竹を救出した。

「るるる~~~~~~」

ポチはそう鳴いた。

「ポチが初めて鳴いた!あと、ポチの中にダイヤモンドがあった」

大粒のダイヤモンドを、ポチは浮竹に与えた。

いつもドラゴンステーキをくれるお礼だった。

その日は、遅くま騒ぎ合った。



「じゃあ、いつかまた」

「またね、乱菊ちゃん」

「浮竹さん、京楽さん、ほんとにお世話になったわ~。また遊びんいきていいかしら?」

「いつでも遊びにおいで」

「うん、僕も待ってるよ」

「じゃあ、あたしもう行くわね」

猫の魔女、松本乱菊は、猫に化身して、空を飛ぶほうきに乗って、去って行った。

「いい子だったね」

「ああ。京楽がいなかったら、血族にしたいくらいの子だった」

「浮気はだめだからね、浮竹?」

「お前もだぞ」

二人は、顔を見合ってから、古城の中に戻っていった。













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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

「お守り?」

「そう。東洋の妖(あやかし)の俺らからもらったものだ」

「ああ、夢渡りであったあの二人かい?」

「そう。俺にと、蛇の抜け殻が入ったお守りをもらった」

「効果は?」

「金運UP。あと、俺くらいの強さの相手からかけられた呪詛を、跳ね返して相手に負わせることができるそうだ」

「なにそれ。すごくいいじゃない」

「ああ。お礼に木苺のタルトとケーキとジュースをあげた」

「なんか釣りわないような」

「俺は魔法書とか呪術の書やら、古代の魔道具とか、もしくは金銀財宝しかもってないだろう」

浮竹は、返せるものがないのだと、言葉を濁す。

「じゃあ、金銀財宝あげればよかったじゃない」

「ああ、一応大粒のエメラルドを、付け足しておいた」

多分、今頃気づいて喜んでくれているだろうかと、浮竹は遠い東洋の島国いる、自分たちにそっくりな妖を思った。

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夢渡りを利用して、世界を渡り歩いた。京楽と浮竹は、東洋の島国にいた。

東洋の京楽は、じっと目の前の瓜二つの、西洋の浮竹と京楽を見つめていた。

すると、急に西洋の浮竹に手を伸ばし東洋の京楽は触ろうとするが、隣の東洋の浮竹がぷくぅーと頬を膨らましてそっぽを向く。

(ごめん、十四郎。機嫌直して?)

(おれよりもそっちの十四郎の方がいいのか?)

(ううん、そっくりだったから触っても大丈夫かな?って思っただけだよ?)

(ホントだな?)

(うん、ホントだよ?後で日光浴付き合うから赦して?)

そう東洋の京楽が言うと東洋の浮竹の頬に手を這わす。

東洋の浮竹は、それに対して嬉しそうに頷く。


「本当に、京楽そっくりだな」

西洋の浮竹は、八岐大蛇である東洋の京楽の顔を、穴が開くほど見ていた。

(そんなに見られると照れるなぁ)

そんな東洋の京楽に、東洋の浮竹は、怒っていた。

(ごめんごめん。キミが一番可愛くて美人だよ)

頭を撫でて抱きしめると、東洋の浮竹は機嫌を直した。

「東洋の京楽は、嫉妬の嵐と聞いたんだが」

(うん。ボクの十四郎が、たとえ似た存在とはいえ、東洋のボクに触れるのはいやかな)

「そうか」

(うん)

「京楽、東洋の俺に触るなよ」

「ええっ。触りたいのに」

「だめだ。東洋の俺は、東洋の京楽のものだ」

西洋の浮竹は、ヴァンパイアの始祖としての顔を見せた。

(西洋の十四郎って、キミと同じ顔をしているのに、すごく気高いかんじがするね?)

(そうだな。気品がある)

「一応、俺はヴァンパイアの始祖であり、皇族でもあるからな」

「え、浮竹って皇族だったの?」

「ブラッディ・ネイと生活していた時期があった。今の白哉の地位の、皇族王をしていた」

「初耳だ・・・・・」

東洋の京楽は、初めて知ったと、興味津々だった。

(皇族だって。やばい、ボク、何か無礼なことしたかな)

(大丈夫だ春水。無礼なら俺たちの存在自体が無礼になる)

「ああ、大丈夫。お前たちのことは、親友だと思ってる」

「うん。東洋の島国に、退治屋をしている僕と浮竹。貧乏だけど、慎ましく生きている。涙を誘うねぇ」

「お前は、俺の金があるから楽な生活をできているだけだろう」

「ヒモで悪いかい!?」

(おい、こっちの春水はヒモなんだそうだぞ)

(えええ~~!かっこ悪い!ボクでもあるんだから、もうちょっとしっかりしてよ!)

「無理だよ。僕は浮竹のせいですっかりお金持ちな生活に慣れてしまった」

西洋の京楽は、悟りを開いていた。

(入れ替わったりでもしたら、こっちで生活していけそうにないね)

「まさにその通り!」

東洋の京楽の言葉に、西洋の京楽が頷いた。

「で、僕らをこんな東洋の島国に呼んだりして、何かあったのかい?」

「そうだな。夢渡りを利用して世界を渡るのは、時間制限がある」

(いや、純粋に十四郎に血を分けてくれたことの感謝を伝えたくて)

(ああ。俺を元に戻してくれるために、わざわざ血をくれたから)

「そんなこと、お安い御用だ。同じ姿形の者が、低俗なヴァンパイアの眷属になっているなんて、放っておけなかったからな」

「うんうん」

西洋の京楽も頷いていた。

(お前に悪い気が迫っている。これはそれを受け付けないためのお守りだ)

東洋の浮竹はそう言うと、懐から片手で持てるサイズのお守りを取り出して西洋の浮竹に差し出す。

(血族にも効果はあるがあとは気の持ちよう…だ)

そう東洋の浮竹は言って、西洋の京楽を見る。

(ボクと瓜二つのキミには怒りで我を忘れないようにしてね?怒りは全てをダメにするから…)

東洋の京楽は西洋の京楽にそう言うと笑いかける。その笑い方は自分も暴走した経験があるような苦労した笑い方だ。

「ああ、ありがとう。このお守り、大切にする。とりあえず、お礼だ」

そう言って、西洋の浮竹は、アイテムポケットから大量の木苺のタルト、ケーキ、ジュースを取り出した。

「ああ、もう時間切れのようだ」

(お守りの効果、詳しく書いた紙をいれておくから)

「ありがとう」

「またね、東洋の浮竹と僕」

そう言って、西洋の浮竹と京楽は、元いた世界に戻ってしまった。

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「ねえ」

「なんだ、京楽」

「僕らも、東洋の僕らみたいに仲良くしようよ」

「すでに仲はいいだろう」

「そういうことを言ってるんじゃなくって!もう、分かるでしょ?」

「分からない」

そう言って、クスクス笑いながら、浮竹は京楽の衣服を脱がせていく。

「何、君も、その気だったの?」

「抱き合って仲を深めたいんだろう?」

「うん」

浮竹の直球の言葉は、妖艶な笑みとセットだった。

「ああ、僕たべられちゃう。始祖の君に」

「骨の髄まで、しゃぶり尽してやる」


「あ、あああ、あ!」

浮竹は、京楽に食べられていた。




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始祖なる者、ヴァンパイアハンター14

「にゃああああ」

京楽は、白猫にキスをした。

白猫はぺろぺろと応えてくれた。

白いオッドアイの猫を見て、浮竹は眉を顰めた。

「どうしたの浮竹。猫、嫌い?」

「いや、嫌いじゃない。でも、猫は寿命が短いから、飼うのはちょっと・・・・」

「じゃあ、始祖の血をあげたら?」

「猫に始祖の血が効くのか?」

「分かんない。試してみれば?」

浮竹は、指を噛み切って、血をにじませるとそれを猫の口元に持ってきた。

「にゃあん」

猫は、浮竹の怪我をした傷口を舐めるように、血を口にした。

そして、京楽の肩に乗った。

「やったー!始祖の血よ!」

ドロン。

音がして、京楽を下敷きにして、肌も露わな神々の谷間を持つ、金髪の美女がいた。

「胸が重い・・・・」

「えー。あたしの胸は、楽園よ?」

「と、とにかくどいてくれないかな」

「やーん。あたしとキスした仲じゃない?」

「京楽・・・浮気は・・・・」

怒りに震える浮竹に、京楽が首を振る。

「うわー、違う、浮竹、これは違う!」

「あら。いい男だと思ってたら、奥さんいたの」

「奥さん?誰がだ」

「だって、あなたからこの男の匂いがする」

浮竹は、真っ赤になって、美女をどかそうとした。すると、美女は神々の谷間にその手を誘導した。

「いやん、エッチ♪」

「お前は誰だ。魔女だろう」

「あら、ばれてるの?」

「魔女の使う、香の匂いがする。何より、その身に宿す魔力が尋常じゃない。人ではないのがすぐに分かる」

浮竹は、美女と距離をとる。

「あたしは、猫の魔女、松本乱菊。始祖のローデン・ファルストルを封印した始祖のヴァンパイアがいるって聞いて、魔女の代表として会いにきたの。よろしくね?」

「敵でも打とうというつもりか?」

「ううん。あたし、あの始祖嫌いだから。ちょっとあたしより見た目が若いからって、あたしのことおばさんっていうのよ、あの始祖!ほんと許せない!」

「おば・・・・」

「何か言おうとした?」

「な、なんでもない」

浮竹は、猫のように爪を尖らせた乱菊を見て、顔を青くさせた。

乱菊は猫の時のように、オッドアイだった。

銀と金の、綺麗なオッドアイだった。

「魔女の中には、瞳に力を持つ者がいる。オッドアイはその傾向が強い。乱菊、お前もそうだろう?」

「そうよ。あたしは、あたしの目で見つめた者を、自分の虜にできる。でも、あなたたち二人は、できてるみたいだから、あたしの目を見てもなんにもならないみたい」

「それはよかった」

「とりあえず、どいてくれないかな、乱菊ちゃん」

「あら、ごめんなさい。まだ名前を聞いていなかったわね?」

「俺は浮竹十四郎。お前の下にいるのが京楽春水。俺の血族だ」

「あら、お熱いのねv」

また、浮竹は真っ赤になった。

「お前のその瞳は、過去も見れるのか!?」

「そうよ。未来はほとんど見えないけど、過去はよく見るわ。あら、ホントに熱い。あなた、華奢なのにこの京楽さんって人と最後まで睦み合えるのね?」

浮竹は、ゆでダコのように真っ赤になって、乱菊の下から這い出してきた京楽を、拳で殴った。

「痛い!なんで僕を殴るの!何もしてないよ!」

「この魔女は過去を見る力がある。俺とお前がセックスしてるシーンを、見られ放題なんだ」

乱菊は、浮竹と京楽の睦み合う過去を見つめた。

浮竹の、そのけしからん色っぽさに、乱菊も鼻血を噴き出した。

「ああ、いいもの見せてもらったわ」

「勝手に過去を見るな!」

「僕は別に構わないよ?」

「俺が、嫌なんだ!」

浮竹は、乱菊に命令した。

「しばらくの間この古城にいてもいいが、過去をむやみに見ないこと!分かったな?」

「あら~。話が分かる人で助かったわ。始祖の浮竹さん?あなたの血、確かにいただいたわよ」

そういう乱菊の舌の上には、凝固された浮竹の血の結晶があった。

「この血があれば、いろんなポーションが作れそう」

魔女は、薬を作ることが多く、大半は錬金術士の資格を有している。

「あ、それはエリクサー!」

浮竹は、わざとエリクサーを乱菊に見せた。

「これが欲しいか?」

乱菊の前で、ゆらゆらとエリクサーの中身を振ってみせる。

猫の魔女だけあって、じゃれついたように反応した。

「もらい!」

口で、エリクサーをくわえて、乱菊はエリクサーを大事そうに神々の谷間に入れた。

「売れば大金持ちよ!」

「ちなみに、そのエリクサーは俺が作った。大人しくしているなら、このミスリルランクの錬金術士としての腕を、見せてやらんでもない」

「ええ、マジなのそれ!みたい、みたいわ!ミスリルランクなんて、この世界で五人もいないじゃないの!」

「ふふふふ・・・・・・」

浮竹は、乱菊の懐柔に成功した。

「浮竹さん、約束よ?ちゃんと、エリクサー作る場面見せてね?」

乱菊は、猫の姿になると、浮竹の肩に乗って、浮竹にキスをした。

「あ、浮竹、浮気は許さないよ」

「ただのあいさつだろう」

「そうよ。魔女の世界では、キスはただの挨拶。まぁ、唇には普通しないんだけど」

「やっぱり浮気だ!」

食ってかかる京楽を、スリッパではたいて、浮竹は寝るために寝室に戻っていった。

「しくしく・・・・(ノД`)・゜・。」

一人取り残された京楽は、涙するのであった。

----------------------------------------

まだ、魔女の乱菊が来る前の、浮竹と京楽が睦み合っていた頃。

「うふふふ。兄様素敵。兄様、兄様・・・・・・」

血の帝国の宮殿にある後宮で、千里眼をもつ寵姫に、浮竹と京楽が睦み合っている姿をイメージで分けてもらって、ブラッディ・ネイはもだえていた。

本棚には、京楽×浮竹とかいう同人誌が、置かれていた。

ブラッディ・ネイは実の兄、浮竹に固執している。

変態的な意味でも。

実の兄の情事を盗み見て、興奮していた。

「キュリア、もういいよ。ボクは、君を抱きたい」

「ブラッディ・ネイ様・・・・」

寵姫キュリアは、頬を染めて、体をブラッディ・ネイに任せた。

「兄様って呼んでいい?」

「ブラッディ・ネイ様のお好きなように・・・この身はブラッディ・ネイ様のもの。あなたが望まれるのなら、この千里眼をいくらでもお使いください」

キュリアの肩に噛みついて、吸血する。

キュリアは、その快感に頬を薔薇色に染めた。

「あああ、ブラッディ・ネイ様」

「兄様、兄様・・・ああ、愛してるよ兄様。たとえ京楽が相手でも、許してあげる。兄様が愛しているなら・・・。兄様、愛してる」

寵姫キュリアに接吻する。

甘い血の味を、キュリアにも味合わせた。

「ボクの血を飲んで、キュリア」

「はい、ブラッディ・ネイ様」

キュリアは、ブラッディ・ネイの肩に噛みついて、吸血した。


セックスの時の吸血行為は快感でしかなく、ブラッディ・ネイもキュリアも、どちらもお互いを吸血しあいながら、乱れていった。

「ああ、愛してるよ兄様。もっと、もっと乱れて?もっとボクを求めて?ああ、いいね、兄様・・・・」

「ああん」

甘い声をあげる寵姫を抱きながら、脳内では浮竹を犯していた。


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「ここでこうだ」

ボン!

錬金術士の館で、浮竹は魔女の姿に戻った乱菊の前で、エリクサーを調合していたのだが、失敗して黒こげになっていた。

せっかくの白い髪も、焦げてしまっていた。

金髪の乱菊の髪はアフロになっていた。

「神の涙というだけあって、調合が難しいわね」

「そうなんだ。成功率は5%以下。材料費が高いから、元をとるためにどうしても高くなる」

「おまけに、エリクサーを調合できる、ミスリルランクの錬金術士は世界に5人しかいないわ。浮竹さんを入れて、6人かしら」

「まぁ、俺は正式に錬金術士ギルドに登録してないからな。一応金クラスってことにはなってるらしいが」

「あら、もったいない。ミスリルクラスなら、依頼がいっぱいきてうはうはじゃないの。まぁ、金クラスでも依頼はたくさんくるでしょうけど」

錬金術士は、銅、鉄、鋼鉄、銀、金、プラチナ、ミスリルの順でランクが高くなっていく。

浮竹が装っている金クラスは、上から3つ目で、かなりの上位であるが、昔人間社会の錬金術士ギルドに登録した頃から、金クラスのままだ。

ミスリルクラスになったことを、報告していなかった。

ミスリルクラスになっていれば、ガイア王国から王宮への徴収がかかる。

そんなの、死んでもごめんだった。

おまけに始祖ヴァンパイアだと分かると、退治されそうだ。死なないけど。

「今日はこのへんにしとこう。エリクサーの材料が切れた。町に、買い出しにいってくる」

浮竹は、自分の焦げた髪を再生させて、アフロになった乱菊の髪にも血を少しだけわけてあげて、普通の髪型に戻してやった。

「あら、あたしもついていくわ」

「だめだ。お前の美貌は目につくから、認識阻害の魔法をかけなきゃいけない」

「浮竹さんは、自分にもいつも認識阻害の魔法をかけてるの?」

「ああ。京楽と冒険者ギルドに行く時とかなんかにかけてる」

「あたしも、これでも魔女よ。自分に認識阻害の魔法くらい、かけれるわ」

「じゃあ、この材料を買ってくるか?」

「うーん」

ずらりと書かれた材料に、果たしてお金はどれくらいかかるのだろうかと計算していた。

「浮竹、乱菊ちゃん、昼食の用意ができたよ」

「あら、京楽さんのビーフシチュー、おいしくて私好きなのよね」

「今日はカレーだよ」

「それもおいしそう」

「乱菊、あまり京楽を調子づかせるな。また明日もカレーになるぞ」

「あら、おいしいならいいじゃない」

「3日間、3食カレーとか体験してみろ。絶対、嫌になる」

「それはさすがに嫌ね」

「酷い!」

泣いたふりをする京楽を無視して、食堂に移動した。

テーブルの上では、おいしそうなシーフードカレーが、海鮮サラダと一緒に三人分用意されてあった。

飲み物は、最高級クラスのワインだった。

「あら、このワイン、やだ、年代ものじゃない。金貨10枚はするわよ」

「金は腐るほどある。金がなくなったら、ドラゴンを退治して素材を売りさばいて、住処にためこんだ金銀財宝もいただく」

「やだ、鬼畜だわ」

「まぁ、性格の穏やかなドラゴンは倒せないから、金銀財宝を奪うだけになる時が多いが」

「やだ、ドロボーだわ」

「乱菊ちゃん、それ浮竹には全然ダメージにならないよ。浮竹、楽しんでるから」

浮竹は、くつくつと笑った。

「反応が新鮮で面白い。魔女の友人なんてできるとは思わなかった」

「あら、あたしもヴァンパイアに友人ができるとは思わなかったわ」

「僕も、その中に入ってるよね?」

「あら、京楽さんはただの知り合いよ」

「酷い!僕とのことは遊びだったのね!」

泣きだす京楽を無視して、二人はカレーを食べだした。

「あら、おいしい。隠し味に、人間の血を使ってるでしょ?」

「なんでわかったんだい?」

「あなたの過去を少し見たの。浮浪児の少女から、注射器で血を抜いて、金貨を10枚握らせているシーンが浮かんだわ」

「京楽、カレーにまた人間の血を混ぜたのか」

「ごめん、いつもの癖で」

「魔女には、口に合わないだろう?」

「別に大丈夫よ。魔女の中には、処女の血が長生きの否決になるって、ヴァンパイアみたいに襲って血をぬいたりするバカもいるくらいだし。人間の血を好むはずのヴァンパイアと一緒にいれば、自然と血を口にするときもあるでしょうし」

「なんていうか、心が広いな。嫌いじゃない」

「あら、嬉しいわ。あたし、浮竹さんのこと、けっこう好きよ?」

「俺も乱菊のことは、けっこう好きだ」

「浮気はだめだよ!」

二人は、顔を見合ってクスリと笑った。

「あくまで、友人としてだ」

「そうよ。血族のいる始祖ヴァンパイアに惚れるほど、愚かじゃないわ」

カレーとサラダを食べ終えて、浮竹と京楽と乱菊の三人で、町に買い出しに出かけた。

食材は戦闘人形が買ってきてくれていたので、主に錬金術の材料になるものを買い漁った。

魔法屋で、浮竹はわけのわからない古代の魔法書を、金貨4枚で購入していた。

「水虫が早く治る魔法だそうだ。民間魔法の一つだな」

浮竹は、宝箱のミミックに齧られて倒して魔法書を手にする以外にも、魔法や呪術を集めている。民間魔法は生活の中にある魔法であって、普通の攻撃魔法などのように、伝えられていかない。

呪術も同じで、同じ呪いをしないようにと、呪術を記した古文書がたまに発見されるくらいだ。

浮竹は、大金をはたいて古文書や古代の魔法書を買い漁る。

長い時間を生きていると、趣味も変な形になってくる。

「あ、これもいい」

「浮竹、それ水虫を感染させる魔法だよ。誰にかけるの」

「京楽に」

「酷い!僕ってモルモット?」

京楽は、浮竹から水虫を感染させる魔法書をとりあげて、浮竹の背では届かない棚の上に置いた。

「まったく、浮竹は変な魔法ばかり欲しがるんだから」

「むー」

浮竹は、ふてくされた。

でも、他に4つ魔法書を買い、古代の魔道具を3つほど買って、魔法屋を後にした。

「浮竹、いつまですねてるのさ」

「ふん」

「帰ったら、プリン作ってあげるから」

「プリン!約束だぞ?」

浮竹の機嫌はすでに直っていた。

戦闘人形はある程度のデザートは作れるが、プリンやらアイスクリームは作れなかった。

浮竹はスイーツが大好きだ。

以前、レストランで生まれて初めてプリンを食べて、感動していた。

京楽は、浮竹を喜ばせるためにレシピを取り寄せ、最近ようやく納得のできる代物が作れるようになったのだ。

結局、魔法屋で金貨40枚を使った。

「浮竹さんって、金銭感覚ずれてると思うの。金貨5枚あれば、一家四人が一カ月は楽に生活できる値段だわ」

浮竹は、もっていた魔法書やらをアイテムポケットに収納した。

「そのアイテムポケット、いいわね」

「魔法道具屋で、金貨100枚で売ってるぞ」

「高すぎるわよ」

「そうか?」

「まぁ、浮竹は収集物に金をかけるの好きだから。金持ちだし。僕も浮竹にいつも買ってもらって・・・・・・はっ、僕って、ヒモ?」

「ヒモね」

「ヒモだな」

京楽は、二人の反応にズーンと落ち込んだ。

「ヒモでもいいじゃないか、京楽。俺は、ヒモでもお前を愛してるぞ」

「こんな往来でラブシーンかますの?」

「はっ、ここは古城の外だったな」

「認識阻害の魔法がかかっているとはいえ、目立つから駄目だね」

そのまま、3人は錬金術士ギルドでエリクサーの材料をいくつか買い、市場でプリンの材料をかって、古城に戻った。

「見てくれ。新しく習得した暖かい空気を出せる魔法なんだが、髪を乾かす時なんかにいいと思わないか?」

浮竹が魔法を使うと、熱風とまではいかなかったが、温かい風がでてきた。

「お、その魔法いいね。寒い時なんかでも使えそうだ」

「あらほんと。髪を乾かすのに便利そうね」

「買って正解だった。民間魔法の中には、こんな風に役立つ魔法もあるから、魔法収集は止まらない」

浮竹は、古今東西の魔法書を買いあさり、ほとんどを会得していた。

火属性の魔法が得意だが、全属性の魔法を使える。聖属性の魔法は苦手であるが。

禁呪といわれる魔法にも、手を出していた。

禁呪の魔法は、威力がけた違いなので、いつもは封印している。

ちなみに、始祖魔女ローデン・ファルストルを封印した魔法は禁呪の魔法の一つであった。

浮竹がその気になって、禁呪を使えば、こんな古城は跡形もなく消しとぶだろう。

今日の夕食のメニューは、ピザにポテトフライ、唐揚げ、プリンだった。

「うーん美味しい!カロリーめちゃ高そうだけど、止まらない!」

戦闘人形に、人間世界のジャンクの食べ物のレシピを渡して、作らせたものだった。

「ピザは、チーズがうまいな。それにプリンもある」

「約束だからね」

夕飯ができるまでの間、浮竹は乱菊と錬金術について語っていた。

魔女と錬金術は切っても切れない仲だ。

乱菊自身、鋼鉄クラスの錬金術士だった。

夕食を食べ終わり、風呂に入って三人が今後のことについて話していた。

「エリクサーの材料に、世界樹の雫がいる。S級ダンジョンの深層部でしか手に入らない。まず今市場には出回ってないな」

「じゃあ、とりにいく?」

「とにりにいこうよ」

乱菊がまずとりにいくといって、次に京楽がとりにいくことを承諾した。

それから数日がすぎた。

浮竹の元で、乱菊は錬金術の腕を磨いていた。銀クラスまで腕があがっていた。

「ふう、今日はここまでにしよう」

「ありがとう浮竹さん。もう、師匠ね。浮竹師匠って呼ぼうかしら」

「普通に浮竹でいい」

その日の夜。

「乱菊、S級ダンジョンのモンスターは倒せるか?」

「力不足だったら、後ろからついていくでいいわよ?」

「乱菊ちゃんの身は、僕が守ろう」

「あら、嬉しい」

「乱菊・・・・その、今夜はその」

「あー、そういうことね。あたしは3階のゲストルームで寝るし、二人についての過去は覗かないって約束したから、早めに休むわ」

「すまん」

「もうあたしがここにきて半月ですもんね。そりゃ、我慢も限界になるでしょ」

京楽と浮竹は顔を見合わせあって、赤くなるのであった。


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「ああっ!」

浮竹は、乱れた。

数日に1回は必ず睦み合うのだが、乱菊が来てから一度も肌を重ねていなかった。

「浮竹のここ、きゅうきゅう絞めつけてくる」

「やっ」

最奥を抉られて、浮竹は啼く。

「あああ、あ!」

京楽の熱は、やや乱暴に浮竹の中を出入りした。

「気持ちいいかい?」

「あ、気持ちいい・・・血を、血を吸ってくれ」

吸血もされていなかった。

京楽は、肩にもちあげた浮竹の太ももに噛みついて、吸血した。

「ああああ!」

びくんと浮竹の背がしなり、浮竹は精を吐き出していた。

「乱菊ちゃんが同じ古城にいると思うと、燃えるね」

「やあああ、あ、あ!」

「十四郎は、燃えない?」

「あああ、背徳感が、する、ああ!」

ずちゅりと中を犯していく熱に、思考まで侵されていく。

「乱菊ちゃんもかわいいけど、やっぱり浮竹が一番かわいくて美人だよ」

「やあっ」

「僕の精子、たっぷり受け止めてね?」

「ああああ!!!」

京楽は、猛った己のもので、浮竹を貫いた。

最奥までくると、びゅるびゅると、最近溜まっていたので濃い精子を吐き出していた。

「ああ、うあああ」

浮竹も、京楽の手の中に白い液体を吐き出していた。

「んん・・・・」

何度も口づけを交わし合い、お互いに吸血を繰り返した。

そんな夜も更けていく。

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始祖なる者、ヴァンパイアハンター13

ローデン・ファルストルは、始祖の魔女。

始祖には死がない。不老不死である。

「厄介な・・・・」

目覚めた浮竹が初めて口にしたのは、そんな言葉だった。

ブラディカの言葉を受けて、目覚めた京楽と浮竹は、早速血の帝国へと出発した。

一方、血の帝国では、始祖の魔女ローデン・ファルストルが攻めてきたと、ブラッディ・ネイが指揮をとり、騎士団を総動員して、攻撃を開始していた。

ローデンは、まず最初に強敵である血の帝国を自分のものにしようとしていた。

ブラディカの夢渡り、夢で告げられた言葉と映像を信じて、浮竹と京楽が見たものは、始祖の魔女ローデンに苦戦する、血の帝国の騎士団の姿だった。

「ブラッディ・ネイ。戦況は?」

「兄様!相手は始祖の魔女といっても一人。今は旗色が悪いが、魔力を消耗させ続ければ、こちらも好機は十分にあると思う」

「俺と京楽は、白哉と恋次の元に向かう。お前には、ローデンの操る部隊を叩いてほしい。ローゼンそのものは俺がなんとかする」

「兄様が、ボクを頼りにするなんて珍しいね」

「時間がない。俺と京楽は、もう行くぞ!」

「兄様も気をつけて!」


白哉は、血を流して傷ついていた。

傷は再生していくが、再生を始めた傍からまた怪我をした。

「恋次、しっかりしろ、恋次!」

「愛しの白哉。殺して食ってやる。俺の血肉にする」

「恋次!」

白哉は、恋次が始祖のカイザードラゴンであることを念頭にはしていたので、千本桜を解放して、血の花びらで、数億の刃として恋次に向けた。

「ぎゃああああああ!!」

恋次が悲鳴をあげる。

その悲鳴に、びくりとなって、千本桜の刃を止める。

「白哉さ・・・俺を、殺してくれ」

「何を言っておるのだ、恋次!」

「始祖の魔女に洗脳された。俺は殺しても死なない。一度死ねば、タトゥーを刻んでまた再生する。その時には、きっと洗脳はとけている・・・・」

「恋次、恋次!」

恋次は、ついに人型からカイザードラゴンの姿に戻ってしまった。

「ぎゃおおおおおおお!」

「恋次!!」

白哉は、怪我を再生させた恋次に、魔力をこめた刃を向ける。

「白哉!始祖の洗脳は、俺がなんとかする!」

「浮竹!それに京楽も・・・・式を飛ばしていないのに、何故ここが?」

「ブラディカの言ってた通りだね。白哉クンと恋次クンが危ないって、浮竹の血族であった女性が知らせてくれたんだよ」

「何か分からぬが、始祖である浮竹に頼む。恋次を、恋次を助けてやってくれ」

「もちろんだ、白哉」

浮竹は、始祖の血の刃で、カイザードラゴンの鱗を斬り裂く。

「ああああ、痛い、痛い!」

「恋次!」

「白哉クン、ちょっとごめんね」

京楽が、白哉の背後から、首の根元に手刀を入れて、白哉を気絶させる。

「浮竹、これで思う存分暴れていいよ」

「すなまい、京楽!」

浮竹は、炎の精霊フェニックスを召還した。同時に、最近やっと手に入れたイフリートを出す。

「炎の精霊たちよ!燃やし尽くせ!」

「キシャアアアアアアア!」

「シャオオオオオオオ!」

二匹の精霊は、雄叫びをあげながら、カイザードラゴンに巻き付いた。

「熱い、熱い!」

カイザードラゴンは、氷のブレスを出す。

だが、二匹の精霊の炎の方が上だった。

黒こげになりながら、恋次は暴れまわった。宮殿の外であったが、その暴れ具合に宮殿の建物にも被害が出始める。

「浮竹、トドメを!」

京楽からの血の刃を受け取って、浮竹は瞳を真紅に輝かせた。

「ヘルインフェルノ!」

カイザードラゴンの心臓めがけて、地獄の業火を叩きこむ。

カイザードラゴンは、煙をあげて倒れた。

守護騎士姿の人型に戻ると、恋次は目を覚ました。

大やけどを負っていたので、浮竹が指を歯で噛みちぎり、始祖の血を数滴その怪我に滴らせると、あれほど大きかった大やけどが再生して綺麗に治った。

「あ、俺は・・・・・?」

「ローデン・ファルストルに洗脳されて、白哉を殺そうとしていたんだ」

「そうだった。くそ、ローデンめ!白哉さんは!?」

ぐったりとした白哉を抱き抱えている、京楽の傍にかけつける。

「大丈夫、気を失ってるだけだよ」

「よかった・・・・。助かりました、浮竹さん京楽さん」

「洗脳は、解けたのか?」

「そうみたいっス」

「じゃあ、今回の原因である本体を叩くか!」

「そうだね」

「俺も、加わります。よくも、白哉さんを俺の手で傷つけさせてくれたな」

ゆらりと、始祖のドラゴンの力を滲ませる恋次に、京楽が圧倒される。

浮竹は、静かに恋次の肩を叩いた。

「怒りに我を忘れるな。大切な者を守りたいなら、冷静でいろ」

「はい」

「浮竹がそれを言う?怒りで血を暴走させたこと何度もあるのに」

「そういう京楽こそ、血で暴走しただろうが!」

ぎゃぎゃあ言い合いになって、恋次はほんとにこの面子で大丈夫なんだろうかと思った。


「キャハハハ!」

ローデン・ファルストルの笑い声は、苛立ちをさらに助長させるものだった。

「キャハハハ、みんなで争いあって死んじゃえ」

ローデンは幻覚の魔女。幻を見せて、同士討ちをさせていた。

けれど、ヴァンパイアは分類すると魔族にあたり、魔法に対する耐性が強い。

ローデンの力をもってしても、ヴァンパイアの騎士たちに、全てに幻覚を見せることはできなかった。

幻覚を見て仲間に襲いかかった者は、他の騎士に魔法をぶつけられて我に返る。

「一護、負傷者を運んでくれ!冬獅郎は、氷で重傷者の血を止めてくれ!」

ルキアが、傷ついて倒れる血の帝国の騎士たちを癒してく。

戦争なのだ、これは。

血の帝国に対する、侵略行為だった。

だから、いつもは肉欲の快楽にふけるだけの、ブラッディ・ネイも参戦した。

いい加減なように見えて、ブラッディ・ネイはそれでも女帝として、8千年も君臨し続けるほどの手腕の持ち主であった。

最近は白哉を摂政の皇族王としておいて、統治の右腕としていた。

「よくもボクの国を。ボクの騎士たちを・・・許さない」

ブラッディ・ネイは始祖に近い血の海を作り出し、ローゼンの手下たちから血を全て抜いて、干からびさせて殺した。

「キャハハハ!ブラッディ・ネイ、これでも攻撃できる?」

ローデンの腕の中には、ロゼ・オプスキュリテがいた。

「ロゼ!」

「ネイ様、助けて!」

「貴様、ロゼを離せ!」

「やーだよ。こんな小娘こうだ」

美しいロゼの顔を、ローデンは硫酸で焼いた。

「あああ!!!」

「やめろ!ロゼ、ロゼ!」

ローデンは興味を失ったように、ロゼを放り投げた。

ブラッディ・ネイは血を分け与えようとして、我に返る。

ロゼ・オプスキュリテなら、この程度の怪我自分で癒せる。それに本物のロゼは ボクをネイ様だなんて呼ばない。ブラッディ・ネイ様とフルネームで呼ぶ」

そう言って、ブラッディ・ネイはロゼの頭を踏みつぶした。

ぐしゃりと音を立てて、ロゼの体が崩壊していく。

「やーだ、ブラッディ・ネイってば、本物ならどうするの?」

「ボクの寵姫たちには、僅かだけどボクの血を与えている。そう簡単に、捕まったりするもんか!」

ブラッディ・ネイは、今は血族をもっていない。

2年前に死去した、ブラドツェペシュを血族としていたが、彼女は死んでしまった。

自分のせいで。

なので、ブラッディ・ネイは今は血族を作っていなかったし、すでに血族であった者とは盟約を破棄させた。

かわりに、寵姫たちに数滴の血を与えて、血族のような関係を与えていた。

疑似血族である。

ヴァンパイアロード以上のクラスになれば、複数の者に血を与えて血族として迎えいれられるが、今のブラッディ・ネイは浮竹の影響か、いい方向へ進んでいた。

ブラッディ・ネイはある意味色欲魔だ。後宮に10歳~15歳くらいまでの美少女を数十人囲っている。

どの寵姫もブラッディ・ネイの血を少し与えられており、普通のヴァンパイアより長生きするし、美貌を損なうこともなかった。

ブラッディ・ネイの後宮の寵姫たちは、侵略者に震えてブラッディ・ネイの後ろにいるではなく、自ら武器を手に取り、最前線で戦っていた。

ブラッディ・ネイの血を分け与えられたことで、傷の回復が早いので、騎士達よりも戦果をあげていた。

「残るはローデン・ファルストル、お前だけだ」

ブラッディ・ネイは空に浮かんでいるローゼンに、ヴァンパイアの翼を出して同じように空中に浮いた。

「ヘルインフェルノ!」

「ちょ、いきなりなんなの!」

「兄様、ボクを巻き込もうとしたね!?」

突然の攻撃に、ローゼンは驚きと共に、実の妹であるブラッディ・ネイも巻き添えにしそうな攻撃に、眉を顰めた。

「ブラッディ・ネイはゴキブリ並みにしぶとい。俺の魔法を受けて炭化しても、また別の体に転生するだけだし、問題はない」

「兄様、酷い!」

泣き真似をするブラッディ・ネイを無視して、浮竹は血の糸を作り出してローゼンを拘束すると、地面に引きずり下ろした。

「アタシを、始祖の魔女ローデン・ファルストルと知っての狼藉なの!?」

「血の帝国に攻めてくるなど、愚行の極みだな」

「そうだね」

「俺に殺させてください!」

京楽は、浮竹の拘束の血の魔法に魔力を注ぎ、ローゼンが身動きできないようにしていた。

恋次は、血走った眼で、守護騎士の剣を抜いた。

「ま、待ってよ!平和的に解決しようよ!」

恋次は、自分のドラゴンの牙で作り出した、竜の剣をもっていた。

それで、袈裟懸けにローゼンを斬った。

「何故・・・・恋次」

そこに倒れていたのは、白哉だった。

「白哉さん!?」

恋次は驚いて、浮竹の血の拘束を取り除き、怪我に浮竹から念のためにともらっていた血を惜しげもなく注いだ。

「アハハハハ、こんな簡単な罠にひっかかるなんて傑作!キミ本当に始祖竜?始祖も種族によって、こんなバカもいるんだ」

「な!」

確かに、その存在は白哉に見えた。魔力も白哉のものだったし、存在感も白哉そのものだった。

「アタシは幻惑のローデン・ファルストル。幻覚が本物にしか見えない時もある」

「では、その幻惑の魔法を呪って使えなくさせよう」

「え?」

浮竹は、持っていたエリクサーに呪詛を吹き込み、それをローデンに投げた。

「ああああ!?」

ローデンは、得意の幻惑魔法を使おうとした。

でも、足元がもつれた。

いつの間にか、浮竹が地面に始祖の血で、網のようなものを作っていたのだ。

地面に部様に転がったローデンに、呪詛を含んだエリクサーの入った小瓶はまともに当たって、中身はローデンの体を濡らした。

「いやああああ、体が、体が焼けるように熱い!」

「幻惑の魔法を使おうとすれば、地獄の業火に焼かれる呪詛をかけた。エリクサーを媒介に使ったから、エリクサーでも治せない」

浮竹は、冷酷であった。

大事な友人である白哉と恋次を傷つけ、多くのヴァンパイアを巻き込んで、攻め込んできたローデンの存在を許すわけにはいかなかった。

「あと、エリクサーの入った小瓶は2つある」

「浮竹、何気にそんなに隠しもってたの!?」

「浮竹さん、そんな神薬をほいほい使って・・・金持ちなんスね」

周囲の者の反応は微妙であったが、浮竹はさらに呪詛をエリクサーにこめて、地獄の業火で焼かれ、やけどを負ったローデンの口をあけて、中身を無理やり飲ませた。

「ぐぇっ、げほっ、げほっ」

「血の帝国にいる限り、魔法は使えない呪い」

「くそがああああ!ぎゃあああああ!!」

ローデンは魔法で脱出しようとして、全身が針で刺されたような痛みを覚えた。

「痛い痛い痛い!始祖魔女に、なんてことをするんだ!」

「そう。お前が始祖であることが、一番大変な理由なんだ。始祖である限り死なない。死んでも肉体は再生するか、転生する。お前の場合、後者だろう。転生を繰り返している」

「何故、知っている・・・・・」

「俺は始祖ヴァンパイア。他の始祖の情報を集めていても、不思議ではないだろう?」

「ぎゃあああああ、痛い、痛い!熱い!」

二重の呪いで、ローデンは息も絶え絶えだった。

「いいさ、こんな体、捨ててやる・・・・!?」

「俺の特別な血を混ぜておいた小瓶を、浴びただろう。あれには、転生を阻害する呪詛をかけておいた」

「キャハハハ!アタシを、それでやっつけたつもり!?アタシは始祖!転生の阻害なんてされても、その程度の呪詛なら自分で解ける!」

「だから、お前を封印する」

「え、できるですか、浮竹さん」

恋次が、驚いた顔で浮竹を見ていた。

「できなきゃ、この始祖はまた血の帝国にくるだろう?」

「さすが僕の浮竹。惚れ直しちゃう」

「ローデン・ファルストル。幻惑の魔女にして始祖の魔女よ。始祖ヴァンパイア浮竹十四郎が命じる。永久(とこしえ)の封印の眠りにつけ!」

渦巻く魔力が、ローデンを満たしていく。

「いやだ、アタシは世界を手に入れるんだ!こんな、血の帝国のヴァンパイアの始祖如きに!」

ザシュリ。

京楽の剣が、ローデンの腹部を貫いていた。

「僕の浮竹を侮辱するのは、許さないよ」

「アタシは、始祖の魔女。転生を、転生を・・・・・・ぎゃああああああ!!覚えてろ!次、目覚めた時がお前の最期だ!」

魔法でなんとかしようとするローデンが、体中に針をさされたような痛みに転げまわる。

「エターナルアイシクルワールド!」

始祖の魔女は、始祖ヴァンパイア浮竹の手によって、封印された。

その体は巨大な氷の塊に封印された。

始祖である、浮竹が生き続ける限り、封印は解けない。

「そうだ、白哉さんは!?」

「ルキアちゃんのところに預けてきた。今頃目を覚ましている頃だよ」


「ルキア、ここは?」

「あ、兄様、目覚められましたか。負傷者を集めたテントです」

「私は行かねば」

「あ、兄様どこへ!?」


白哉は、ちょうど浮竹が氷のローデンを氷の中に封じ込めるのを見ていた。

「白哉、もう大丈夫なのか?」

「元々、大した怪我は追っておらぬ。それより恋次!」

「はい!」

怒られると思っていた恋次は、白哉の黒曜石の瞳が、優しく自分を見ているのに気づき、抱き着いた。

「好きです、白哉さん!」

頭をはかたかれていた。

「その、すまぬ。お前を傷つけた」

「いや、俺の方こそ、傀儡になっていたとはいえ、自分が守護すべき白哉さんに傷を負わせた」

「もう、再生している」

「そうみたいっすね」

ふわふわと、薔薇の花びらが降ってきた。

それは一枚の手紙になった。

「ブラッディ・ネイの薔薇の魔法だ。戦利を祝って、祝賀会をあげるそうだ」

「浮竹、参加するの?」

「いや、古城に戻る。あの性悪の妹の傍にいえると、またロゼ・オプスキュリテに中身を入れ替えられて、貞操の危機になる」

「帰ろう浮竹。ブラッディ・ネイの毒牙のかかる前に、帰ろう」

せかす京楽を先に空間転移魔法で古城に帰して、浮竹は白哉と恋次と別れをすまし、旅立つ前にルキアと一護と冬獅郎の元を訪れた。

「今回は、活躍したようだな」

「はい。何人が、敵の将を討ち取りました」

一護の言葉に、冬獅郎が浮竹をみる。

「一番は、お前にもっていかれたみたいだがな」

「ローデン・ファルストルは始祖の魔女だ。まだ冬獅郎君、君では力不足だ」

「そうだな。俺はもっと強くなる。雛森を守れるくらいに!」

「雛森?」

「あ、浮竹殿。私の身の回りの世話をしている、雛森桃という少女の名です。冬獅郎に一目ぼれしたみたいで、冬獅郎もまんざらでもないようで・・・・」

「すみにおけないな、冬獅郎君も」

クスリと笑う浮竹に、舌を出して、冬獅郎は走り去った。

「あの氷の封印、浮竹さんが生きている限り続くんすよね?」

「そうだ」

「じゃあ、もうこんな戦争はおきないですよね」

「それは分からない。世界には他の始祖もいる。それに最近、始祖魔族が活動をはじめたという噂を聞いた」

「俺らも、神族にとっては魔族なんすよね?」

「ああ。でも、本当の魔族はもっと闇が濃い」

「浮竹殿は、祝賀会には参加しないのですか?」

「ああ、俺はもう戻るよ。京楽を先に行かせてしまったし」

「ではまた、古城で。また遊びにいきます。なぁ一護、冬獅郎・・・・と、冬獅郎は自分の部屋に戻ってしまったか」

「では、また」

浮竹は、ヴァンパイアの翼を広げると、広い宮殿の空を飛び、空間転移魔法陣がある場所まできた。

「先に帰ってなかったのか」

「君が、ブラッディ・ネイに何かされるんじゃないかって心配で」

「ブラッディ・ネイも、さすがに祝賀会で何かをしかけてくるほど、性格は悪くない・・・・と、言いたいんだが」

浮竹の元に、薔薇の花びらが降ってきた。

それはお風呂グッズになった。

薔薇の魔法は、ブラッディ・ネイだけのオリジナルの魔法だ。

「風呂グッズ。また、これか」

「せっかくだし、使っちゃおう」

「俺は気乗りしないんだが」

「ここに説明書あるよ。何々・・・ただの薔薇の香りがするだけで、他には何もない・・・だってさ」

「ブラッディ・ネイだしなぁ」

「まぁまぁ、たまには妹を信用してやりなよ」

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結局、ブラッディ・ネイの薔薇のお風呂グッズを使って、二人でお風呂に入った。

もみほぐし券というのを使うと、顔が薔薇で体がマッチョな謎の生物が出てきて、浮竹と京楽の体をマッサージしてくれた。

「ああいい、そこそこ」

「うわぁ、きもちいいねぇ」

二人は、最後にサウナに入り、かいた汗を水風呂で流すと、二人して腰に手をあててフルーツ牛乳を一気飲みした。

パンツ一丁で。

浮竹は服を着たが、京楽はパンツ一丁のままだった。

「服を着ないのか、京楽」

「喉が渇いたんだ。君の血を飲みたい・・・・・・あと、ね?」

硬いものが浮竹の腰に当たった。

「また盛ってるのか」

「うん。君の裸を見てたら、むらむらしてきちゃった」

「今度から、一緒に風呂に入るのはやめよう」

「ああああ!僕の楽しみをとらないでよ、浮竹!」

「それでするのか、しないのかどっちだ」

「する!」

京楽は、浮竹を抱き上げて寝室まで運んだ。

「薔薇のいい匂い・・・・・・」

浮竹の長い白髪に顔をおしつけて、京楽は薔薇の香りを楽しんだ。

「お前の薔薇の香りもすごいぞ。多分、精液もまた薔薇の味になってるんだろうな」

「確認しよう」

「ちょ、春水、いきなり・・・ああっ!」

浮竹の衣服を脱がすと、京楽は浮竹のものを口に含んだ。

「薔薇の味がする」

先走りの蜜が、すでに薔薇の味をしていた。

「やっ、しゃべるなら、舐めるな!」

「やだ。舐める」

犬がバターを舐めるように、ペロペロと舐め続ける京楽の行為に我慢できなくなって、浮竹は京楽の口の中に精液を吐き出していた。

「薔薇の蜜みたい。甘い」

「ばか!」

起き上がろうとする浮竹を押し倒して、通販で買ったローションを手に取る。

「今日はローションなのか」

「こっちのほうがベタベタしないから」

「んっ」

京楽は、浮竹の胸の先端を口に含むと舌でつついた。

「あっ」

それに敏感に反応する浮竹がかわいくて、もう反対側をきゅっと抓ると、浮竹はびくりと体を震わせた。

「やっ」

「いやなの?もうここ、こんなになってる」

触られてもいないのに、浮竹のものは勃ちあがっていた。

「や、見るな」

「エロい浮竹、かわいいからもっと見せて?」

京楽の目を塞いで、浮竹は噛みつくようなキスをした。

「んんっ」

京楽は浮竹の舌を絡めとった。

舌を引き抜かれると、つっと銀の糸が垂れた。

「あ!」

体内に、京楽の指が入ってくる。

もう慣れてしまったはずの行為だが、恥ずかしさは今でもある。

「んん!」

前立腺を刺激されて、浮竹のものはだらだらと先走りの蜜を零していた。

目を閉じる。

ぐちゃぐちゃという水音が耳に響いた。

「あああ!」

指を引き抜かれて、京楽のもので貫かれると同時に、浮竹は瞳を真紅にして、京楽の肩に噛みついて、吸血した。

「ん、きもちいいけど、どうしたの、十四郎?」

「喉の渇きを覚えた。こんなの、久方ぶりだ」

「もっと飲んでいいよ?」

「だめだ。お前は俺と違って、人工血液をすぐに血液に転換できない」

「じゃあ、僕が君の分まで、吸血してあげる」

ズッと、京楽は浮竹の中に打ちこんだ楔を動かす。

「あああ!!」

同時に首に噛みつかれて、吸血されていた。

「ああ、ああ!あ!」

浮竹は、シーツに白い精液を飛び散らせていた。

ごりごりと、奥を抉ってくる京楽の熱を締め付ける。

「んっ、浮竹、そんなに締め付けたら・・・・」

濃い精子を、京楽は浮竹の胎の奥に出していた。

浮竹がペロリと自分の唇を舐める。

その妖艶な姿に、京楽はゴクリと喉を鳴らした。

「もっとだ、春水。もっとお前をくれ。お前の精液で、満たして?」

「好きなだけ、あげるよ、十四郎」

奥をごりごりと削りあげれば、浮竹はオーガズムでいっていた。

「あ、あ、そこいい!もっと、もっと!」

「く、またそんなに締め付けて・・・・僕のほうがもたないよ」

最奥で、再び京楽は熱を弾けさせていた。

浮竹が唇をまた舐めた。

「もっと・・・・」

「ん、これが最後だよ。受け取って!」

「ああああああ!!!」

前立腺をすりあげて、奥をごりごりと抉られて、浮竹はオーガズムでいっていた。

もう、出すものがないのだ。

ぷしゅわああと、透明な潮をふいた。

「ああああ!!」

「女の子みたいだね、十四郎」

いっている最中なのに、京楽は浮竹の肩に噛みついて、吸血する。

二重の快感に、浮竹は意識を失っていた。


「ん・・・・・・」

「気が付いた?」

「また俺は、気を失っていたのか」

「水?人工血液剤?それとも人工血液?それとも僕?」

「お前で」

「まじで」

「そんなわけあるか!人工血液でいい」

京楽に思い切り血を吸われたせいで、軽い貧血になっていた。

人工血液をワイングラスに入れて、飲みほしていく。

輝く赤い雫は、本物の血そっくりであるが、成分は同じだが、人の血より甘くできていた。

血の帝国のヴァンパイアは、皆、人工血液か人工血液剤で生きている。

人間の血のほうが不味いのだ。

ワインや料理に入れて、隠し味に人の血を入れることはある。

浮竹や京楽も、そうして時折人の血を口にすることはあった。

「腰、大丈夫?」

「大丈夫じゃない。加減を考えろ」

「だって君がかわいくおねだりしてくるから」

「ああもう、その話はなしだ」

「明日、S級ダンジョンにでも行こうか。エンシェントミミックを狩りに」

「ミミックだと!?」

とたんに瞳を煌めかせる浮竹に、京楽は機嫌を損なわずに済んだと、安堵した。

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「にゃあああ」

「おや、かわいい猫ちゃんだね。迷いこんできたのかい?」

「にゃああ。みゃあああ」

「ここは怖いヴァンパイアの住む古城だよ。人間の世界にお帰り」

白いオッドアイの猫は、京楽の肩に乗った。

「仕方ない、古城においで?」

「にゃあ」

その白い猫が、猫の魔女と呼ばれる、松本乱菊だと、京楽はまだ知らなかった。








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始祖なる者、ヴァンパイアハンター12

ブラディカ・オルタナティブは、京楽に口づけた。

口づけられた京楽は、眠りの海に旅立つ。

「ブラディカは、京楽、あなたも愛してる。浮竹が愛する者は、ブラディカも愛してる」

夢の中で、京楽は浮竹とブラディカと一緒に暮らしていた。

幸せだった。3人の子供に恵まれて、どちらがどちらの子なのか分からなかったが、そんなことはどうでもいいほど幸せだった。

「起きろ、京楽、おい、京楽!」

「うーん、いい夢を見ているんだ。もう少し寝かせて」

「京楽、それはブラディカが見せている夢だ。起きろ!」

バシンと頭を叩かれて、京楽はゆっくりと目を開けた。

浮竹の隣で、ブラディカ・オルタナティブは浮竹の腕を抱きしめていた。

「浮竹・・・浮気は許さないよ」

「ブラディカ、いい加減離してくれ」

「いや。ブラディカは浮竹のもの。浮竹もブラディカのもの」

ブラディカは、妖艶な美女であったが、口調は幼かった。自分のことをブラディカと呼んだ。

「キスしてくれたら、手を離してあげる」

浮竹は逡巡してから、ブラディカの額に口づけた。

「唇がいいのに」

「ブラディカ、簡便してくれ。2千年前、休眠したまま眠り続けた俺を見限って、お前は違うヴァンパイアロードの男と結婚して、二人の子をもうけていたじゃないか」

「あんなの、ブラディカにとっては遊び。二人の子ももう死んでしまった。ブラディカは浮竹の血族。夢から覚めたあなたを迎えにきた」

「もう、120年以上も前に起きてる。何より、お前は死んだはすだ。ブラディカはヴァンパイアハンターに殺された」

「ブラディカは今ここにいる。ヴァンパイアハンターには、確かに殺された。でも、浮竹の血族であったせいで、長い休眠に入り、傷を癒していた」

「ここにいるブラディカは反魂ではないと?」

「そう。ブラディカは本物」

「じゃあ、血族を解く。お前との血の契りを破棄する」

ブラディカは、見る見るうちに涙をためて、泣きだした。

「浮竹が意地悪する!京楽、助けて!」

泣きじゃくる美女を、京楽は庇った。

「浮竹、血族なんでしょ。もっと優しくしてあげなよ」

「俺の血族は、京楽、お前だけでいい」

「僕はそれでもいいけど、せめてもう少しだけこのブラディカって子に優しくしてあげて?僕はもう浮竹の血族だから分かるけど、血族を解かれて血の契りを破棄されるのは、すごく悲しいことなんだよ」

「ブラディカ、すまない。俺は、今は京楽だけを愛してるんだ」

「ブラディカは、それでも構わない。浮竹が京楽だけを好きでもいい。でも、ブラディカも浮竹のことが好き。愛してる」

「なんかこれ・・・・泥沼の、三角関係?」

京楽の言葉に、浮竹は頭を抱えた。

「もともとの原因は、ブラディカを血族にして、死んだ確認をせずに休眠に入ったままで、覚醒したら京楽を血族にした俺が悪いのか・・・・」

「浮竹、血族なら死んでるか生きてるか分かるんじゃないの?」

「ブラディカは休眠に入っていたんだろう?」

「うん。ブラディカは眠っていた」

「休眠は限りなく死に近い。死んだと判断しても仕方ない」

浮竹は、ブラディカを血族から外すことを決めた。

「俺は、血族は常に一人だけだ。俺はブラディカ、お前をもう愛していない。血の契りを破棄する」

「酷い!ブラディカの心を弄んだの!?」

「お前だって酷いじゃないか!俺がいるのに、夫を迎えて子供を二人も作って・・・浮気、だろう」

びくりと、ブラディカは浮竹の言葉に反応する。

「ブラディカ、あの時は夫を好きだったの。浮竹も好きだった。それじゃだめ?」

「だめだ。誰か一人にしないと、浮気になる」

「ブラディカ、浮気、してたの。ブラディカ・・・・浮竹に必要なくなるなら、死ぬ」

ブラディカは、血の刃で作り出したもので、自分の心臓を突き刺した。

「ブラディカ!」

浮竹は、指を噛み切って、その傷ついた心臓に、血を滴らせようとする。

それを、京楽が阻む。

「どうしてだ、京楽!」

「浮竹は僕を選んでくれたんでしょ?ここでブラディカを助けたら、また三角関係の泥沼だよ」

京楽の静止をふりきって、浮竹はブラディカの始祖の血を癒しの力として分け与えた。

「だからといって、血族をむざむざ死なせるわけにもいくか!」

「そう。じゃあ、僕は浮竹の元から去るよ?」

「嘘だ、京楽!」

「もう、君には愛想がつきた。僕は、君の血族であることを破棄するよ。ばいばい、浮竹」

「待ってくれ。京楽、京楽!」

涙を流す浮竹は、これが現実であるわけがないと、歯ぎしりする。

「こんなことは起きるわけがない。京楽は俺を愛している。俺も京楽を愛している。ブラディカ・オルタナティブ。夢渡りにして、夢を操る魔女の末裔よ。俺は目覚めるぞ!」

カッと、浮竹の体が光った。

ゆっくりと目を開けると、心配そうに覗き込んでくる京楽がいた。

「ブラディカは?」

「隣で、寝てるよ」

ふりあげた拳は、けれど女性であるのだしと、力なく降ろされる。

元を言えば、確かに浮竹が全部悪いのだ。

ブラディカを血族にしなければ、こんなことにはならなかった。

「ブラディカ。ここに、血族の破棄を盟約する」

ブラディカは目覚めると、涙を流して京楽に泣きついた。

「こんなに愛してるのに・・・浮竹、酷い」

「酷いのはどっちだ。こんな悪夢を見せて・・・・」

「ブラディカ、悪くないもん!悪いのは、全部浮竹でしょ!」

パン。

乾いた音が、鳴り響いた。

「浮竹のせいにしなさんな。浮竹がいながら、夫をもって子を二人ももうけて。浮気していたのに、それも全部浮竹のせいにするの?」

「京楽、酷い・・・・」

ブラディカは、京楽に頬を叩かれて、血を暴走させた。

「こんなの、ブラディカは望まない。みんな、ブラディカのこと愛してくれた。ブラディカを愛さない存在なんていらない!」

血の刃が、浮竹と京楽を襲った。

二人は、自分の血のシールドでそれを防ぐ。

「ブラディカ・オルタナティブ。血族の主に向かって攻撃することは、何を意味するのか分かるな?」

「あ・・・・。やだ、ブラディカ死にたくない!ブラディカは、浮竹の血族として永遠を生きるの。そうじゃないと、ブラッディ・ネイからもらったこの命の意味が!」

「ブラッディ・ネイ?ブラッディ・ネイがお前に何かしたのか!?」

「ヴァンパイアハンターに殺された後に、ブラディカに血をくれた。おかげで、ブラディカは一命を取り留めた」

「ブラッディ・ネイ・・・・余計なことを」

「ブラディカはもう、この世界に絶望した。もう、こんな世界、いらない」

「そうか。お別れだ、ブラディカ・オルタナティブ」

ゆっくりと、浮竹は始祖の血の刃で、ブラディカの心臓を突き刺していく。

「愛していた、ブラディカ。俺の手で、せめて眠ってくれ」

浮竹は、ブラディカを強制的に休眠状態にさせた。

殺すことはできなかった。

かつて愛した女性を、手にかけることは、とうとう最後まで無理だった。

「いい夢を。ブラディカ」

浮竹は、ブラディカの体を、青い薔薇の入った棺に入れて、そっと蓋を閉じる。

浮竹が生き続ける限り、ブラディカは休眠状態のまま生きるだろう。

それは、限りなく死に近いが。

「浮竹・・・・」

「今は、何も言わないでくれ」

浮竹は、京楽に抱き着いて、涙を零した。

こんな結末しか用意できなかった自分を、恥じた。

「浮竹は、何も悪くないよ。血族のまま眠り続けるなら、きっといい夢を見ているさ。夢渡りの
夢を操れる魔女の末裔でしょ?」

「ああ」

「きっと、いい夢を見て眠っているよ」

「京楽、俺はもう、本当にこれが最後だ。血族にするのはお前が最後」

「うん。僕以外に血族を作ったら、僕がその血族を殺すから」

京楽は、ブラディカが女でなければ、すでに殺していただろう。

夢渡りの魔女は、永遠に近い眠りについた。

それを脅かす者は誰もいない。

「ブラディカは青い薔薇が好きだった。せめて、棺を青い薔薇で満たしてやりたい」

「青い薔薇?そんなの、存在するの?」

「S級ダンジョンの26階層、薔薇の洞窟に咲いている」

「じゃあ、そこに青い薔薇を摘みにいこう」


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さすがにS級ダンジョンなだけあって、出てくるモンスターも強かった。

5階層、10階層、15階層とボスを倒して、出てきたお宝や、素材として売れるモンスターだけを選んでアイテムポケットにいれる。

5階層はケルベロスが3体。10階層はリッチが5体。15階層はワイバーン5体だった。

20階層に続く階段を、京楽は浮竹と二人で降りていく。

19階層は、城のダンジョンだった。

複雑に入り組んだ地形を、マッピングしながら進んでいく。

「あ、宝箱!」

「ちょっと、浮竹!」

「もがーー!かじられるううう」

普通のミミックではない、エンシェントミミックだった。

がじがじと浮竹の上半身をかじっているが、殺すつもりはないのか、はてまた殺すまでの威力がないのか、牙でがじがじと浮竹の上半身をかじるだけだった。

京楽に助け出されて、浮竹は魔法を唱える。

「アイシクルランス」

氷でできた槍に貫かれて、エンシェントミミックは宝物を残して消えてしまった。

「ドラゴンウルフの毛皮で作られたコートか・・・・」

ドラゴンウルフは、狼系モンスターの最上位である、氷の精霊フェンリルの次に強いモンスターだ。

「ドラゴンウルフ?聞いたことないね」

「古代の生物だから。地上では絶滅してしまった。S級ダンジョンとかに少しだけ生息している」

「ふーん。そのドラゴンウルフの毛皮はすごいの?」

それを聞くと、浮竹は目を輝かせた。

「耐熱性と氷の耐性に優れていて、ドラゴンのブレス程度なら弾ける。それに、毛皮はキラキラしていて、星が瞬いているようで綺麗なんだ。防寒装備にもなるし、軽いし、とにかくいい装備なんだ」

「じゃあ、浮竹が着て?」

「でも、俺は別にこんな装備なくても、結界でドラゴンのブレスくらい反射できるし」

「その星の瞬きのように、毛皮がキラキラ光ってるの、気に入ったの。浮竹が着たら、絶対似合う」

「そ、そうか?」

「うん、着てみてよ」

浮竹は、京楽に勧められて、着てみた。

でろでろでろ~~~。

音楽が流れて、装備が呪われていたことが分かった。

「ああ!呪われていて脱げない!」

「そんなことだろうと思った」

「おい京楽、呪われたと知っていたなら、何故止めなかった」

「浮竹は、何気にエリクサーもってるでしょ。それで解呪できるじゃない」

「エリクサーを隠しもっていることにも気づいていたのか。抜け目のないやつだな」

「浮竹、この前金クラスの錬金術士って言ってたけど、実はミスリル級でしょ。そのエリクサー、自分で作ったね?」

「な、なんのことだ」

「古城の離れにある館、錬金術士が住んでいるような風情になってた。エリクサーの失敗作が散乱してた」

「ぎくっ」

浮竹は白状した。

ブラックドラゴンの財宝を売った金で、エリクサーの材料を買いあさり、何度も調合して失敗を繰り返してできた3つのうちの1つだという。

エリクサーは、別名神の涙。奇跡の薬。

どんな呪いも毒もステータス異常も治してくれる。

「エリクサー、高いんだぞ」

「どれくらい?」

京楽の耳に、浮竹はぼそぼそと値段を言う。

「ええ、まじで?」

屋敷が一軒建てれそうな値段だった。

「浮竹、呪われたままでいなさいな。そんなコートのために使うなんてばかげてる。古城に帰ったら、血の帝国からルキアちゃんを読んで解呪してもらえばいい」

「それもそうだな」

そのまま階段を降りていくと、20階層に続く扉があった。それを開けて中にすすむと、更に扉があった。

その手前が、セーブポイントになっていた。

「外はもう、太陽が沈んでいるだろう。今日は、ここで野営しよう」

「うん、分かった」

アイテムポケットからテントを取り出して、テントをはると、浮竹はまたごそごそとアイテムポケットを漁り、ドラゴンステーキを取り出した。

「まだあったの、ドラゴンステーキ」

「まだまだあるぞ。ブラックドラゴンの肉、けっこうもらったからな」

ブラックドラゴンを退治した時、冒険者ギルドには肉以外の全てのものを売った。肉は一部をのぞいて、浮竹がもらっていった。

ドラゴンの肉は、とにかく美味い。シャトーブリアンなんて目じゃない。

世界に200体いるかどうかという、ドラゴンは絶滅危惧種だ。

だが、個体数が150を割ると、次のドラゴンが次々と孵化するので、絶滅はしない。

そうなるよう、始祖ドラゴンのカイザードラゴン、恋次が調節している。

20階層のボスの扉の前で一夜を明かすと、二人は顔を洗って、簡単な朝食をとり、持ち物をチェックしてから、ボスの部屋に続く扉を開けた。

「うわ、くっさ!ドラゴンはドラゴンでも、腐ってやがる」

「ドラゴンゾンビだね!うわぁ、肉が!僕、もうドラゴンステーキ食べれないかも・・・」

浮竹は火の上位魔法ヘルインフェルノをドラゴンゾンビに叩きつけた。

ドラゴンゾンビの弱点は、聖属性か炎属性だ。

「燃え尽きろ!ヘルインフェルノ!」

一撃目をくらって、肉のほとんどを蒸発させて、骨だけになったドラゴンゾンビは浮竹に襲い掛かった。

それを、浮竹がもう一度ヘルインフェルノを使って、ドラゴンの骨ごと炎の魔法でつつみこむ。

「浮竹、止めは任せて!」

ホーリーエンチャント、聖属性をもたせたミスリルの剣で、京楽はドラゴンゾンビのコアを破壊した。

「ぎゃるるるるるう!」

ドラゴンゾンビの体が崩れていき、ばらばらの骨になった。

「何してるの、浮竹」

「見ての通り、ドラゴンゾンビの骨や牙を回収している」

「お金になるの?」

「死んでもあくまでドラゴンだぞ。その骨と牙と爪は通常のドラゴンと同じ値段で売買される」

「うわぁ、またお金もちになるんだね」

「金はあればあるほど困らない」

「また、エリクサーの材料買い漁って、失敗させて館を爆発させるんだね」

「な、館を爆発させたことを何故知っている!」

「1週間前、爆発させてたの、気づかないとでも思った?」

「く、気づかれていたとは。今度は聖女の涙でも錬金で作ろうかな」

「今度はアクセサリー?」

「せっかく8千年もかけて最高位のミスリルクラスになったんだ。たまには錬金術で遊ぶのもいい。金にもなるし、一石二鳥だ」

聖女の涙とは、オパールのような見た目の宝石で、聖女と同じ聖なる属性をもち、闇を祓う。そこらのモンスターなら、持っているだけで浄化される、世界三大秘宝の最後の一つであった。

「よし、26階層に向けて進むぞ」

「うん」

ドラゴンゾンビの素材をアイテムポケットにいれて、けっこう強いモンスターたちを蹴散らして、25階層にまできた。

「今度のボスはなんだろうな?」

「さぁ、ドラゴンだったりして」

「それはないだろう。このS級ダンジョン、50階層まであるんだぞ。50階層なら分かるが、25階層にドラゴンは・・・・・・・」

「シャアアアアアアアア」

扉の中を覗き込んだ京楽が、顔を青くさせた。

「いた、ドラゴンだ。しかもカイザードラゴン」

「恋次君か?何してるんだ、恋次君」

「シャアアアアアアアって、浮竹さんじゃないっスか」

カイザードラゴンは、大きな翼を折りたたむと、浮竹と京楽を見下ろした。

「俺はたまにここの階層のボスをするようにしてるんスよ。暇な時だけ。力ある者には祝福を、力なき者には敗北を」

人型になり、タトゥーを刻んだ体はまたタトゥーが増えていた。

「また、最近死んだのかい?」

恋次もまた始祖で、死なない呪いをもっている。でも、一応死ぬのだ。復活するが。

「ああ、先週毒殺されたっス。毒殺は慣れないから、いつも毒を入れられるんですよね」

「ここにエリクサーがある。これをもっていけ」

「ええええ!エリクサーって、めっちゃ高い神薬じゃないっすか!」

「俺の血も混ぜてある。毒が含まれていたら、近くにおいておけば色が変わって、教えてくれるだろう」

「ただでもらって、いいんすか?」

「ふふふふ。今度、遊びにおいで。ドラゴンの素材から作りたい薬があるんだ。ちょっと、体で返してもらうだけだ。ぐふふふふふ」

「浮竹、顔が悪人になってるよ。台詞もいっちゃってる」

京楽のつっこみに、浮竹は咳払いした。

「とにかく、それで毒殺は防げるはずだ」

「ありがとうございます。あ、俺を倒したってことでいいっすよ。先に進んでください」

「ああ、ありがとう」

「恋次クン、また古城に遊びにおいで」

「ああ、白哉さんを口説きにいくついでに、寄らせてもらいます!」

始祖竜、カイザードラゴンは、S級ダンジョンで25階層のボスをしていた。力試しにと、ソロで訪れていた白哉に負けた。初めてのことだった。

8千年生きてきて、それまで敗北したことはなかった。

黒髪の美しいヴァンパイアロードに、気づけば恋をしていた。

自分が皇帝をしている帝国をほっぽりだして、よく血の帝国で白哉の守護騎士として過ごしていた。ちなみに、皇帝ではあるが、お飾りなので影武者をたてているだけで問題なかった。

問題があるとすれば、その影武者がよく毒殺されかかるくらいだろうか。

「じゃあ、先に進む。ありがとう、恋次君」

「おつかれっす」

「恋次クン、またね」

「はい」

26階層は、薔薇の洞窟。

出てくるモンスターも、薔薇だった。

「ヘルインフェルノ!」

「ファイアエンチャント!」

浮竹は炎の魔法で薔薇のモンスターを焼き払い、京楽は炎を帯びた剣で焼き殺していく。

「この、26階層の奥に、青い薔薇の群生地がある」

「囲まれたよ。どうする?」

「ここは、他にも珍しい薔薇があるから、なるべく火魔法は使いたくないな。氷の魔法でいく。
ヘルコキュートス!」

地獄の氷で凍らされて、薔薇のモンスターは粉々になった。普通の薔薇は、氷がとけてきらきらと咲いていた。

「浮竹の魔法の威力ってすごいよね。さすが始祖」

「京楽、お前もその気になれば、俺の使える魔法を使えるだろう」

「いや、けっこう制御が難しいから、暴走しそうであんまり使いたくない」

「今度、恋次君相手に修行させてもらったらどうだ」

「うん、それもいいかもね。始祖ドラゴンなら、どれだけ傷ついても死なないし」

「あった、青い薔薇だ!」

洞窟の一番奥で、青い薔薇はそこだけ天上に穴があいていて、月の光を受けながら美しく咲いていた。

「ブラディカがよく眠れるように、花を摘もう」

「うん」

二人は、青い薔薇を摘んで、アイテムポケットに入れた。二株ほど根をつけたままとった。

「それはどうするの?」

「性悪の妹に、たまには手土産を。ブラッディ・ネイは薔薇が好きだからな。青い薔薇の存在を知ったら、欲しがると思うから」

「浮竹ってさ、なんだかんだいっても妹のブラッディ・ネイに甘いよね」

「そうか?」

首を傾げる浮竹は愛らしかったが、京楽は口づけしたいのを我慢した。

「まぁいいや。古城に戻ろう」

「ああ。ブラディカが待っている」

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古城に帰還すると、離宮に赴き、ブラディカを入れた棺の蓋を開ける。

褐色の肌に金髪の絶世の美女が眠っていた。

アイテムポケットから青い薔薇を取り出し、ブラディカの眠る棺にしきつめてまた蓋をしめた」

「ヘルコキュートス」

薔薇が枯れないように、休眠状態であるブラディカが半永久的に眠り続けるようにと、冷凍魔法をかけた。

「おやすみ、ブラディカ・オルタナティブ。いい夢を・・・・・・」


浮竹と京楽は、古城のいつも過ごしている部屋に戻った。

「ねぇ、浮竹は僕だけのものだよね?」

「何を言っているんだ」

「ブラディカを、もう愛していないよね?」

「京楽?」

「怖いんだ。これが、ブラディカのが見せている夢の続きじゃないんだろうかと思えて。このまま、君は眠りから覚めたブラディカと何処かへ行ってしまう気がして」

京楽は、浮竹を抱きしめると、深い口づけをした。

「そんなに怖いなら、確認すればいいだろう。俺が、誰のものであるか」

「いいの。嫌って言っても、やめないよ」

「俺が嫌がってお前が途中でやめたためしがないんだが」

京楽は、浮竹を天蓋つきのベッドに押し倒した。

「待て。昨日風呂に入っていない。先に風呂に入ろう」

「ああ、うん」

二人で風呂に入り、二人は全身から薔薇の匂いをさせていた。

「あの入浴剤、まさかブラッディ・ネイの式がいれたのか・・・・・・」

「さぁ。でも、催淫作用はないみたいだし、いい匂いするだけだから、いいんじゃない?」

二人は風呂に入り、上がると早速浮竹は京楽にベッドに押し倒されていた。

「春水、落ち着け」

「落ち着いてるよ?」
衣服を脱がされて、浮竹は早速潤滑油を手にとった京楽にまったをかけた。

「いきなりするなら、させないからな」

「分かったよ。たっぷり、愛してあげる」

骨の髄まで愛されるのではないかという、愛撫を受けた。

「あ、ああ!」

白い肌には、いくつもの花を咲かせていた。

「んんっ」

耳を甘噛みされる。

浮竹は耳が弱い。

「あ、だめっ」

「ここ、好きだよね?」

耳を甘噛みして、噛みついて吸血すると、浮竹は情欲で濡れた瞳で京楽を見た。

それを合図に、京楽は浮竹を全裸にすると、胸の先端を口に含んで転がした。

「んっ」

深く口づけしあい、舌を絡めあう。

飲みこみ切れなかった唾液が、浮竹の顎を伝った。

「うわ、めっちゃエロい・・・・・十四郎、かわいいね?」

「あ、春水・・・もう、我慢できない」

「僕の十四郎は、素直でいい子だね?」

ゆるりと勃ちあがっていた浮竹のものに、京楽はしゃぶりついた。

「あああ!!」

全体を指でしごいて、先端の鈴口を舌でちろちろと舐めていると、甘い薔薇の味がした。

「精液が甘い薔薇の味がする」

「ブラッディ・ネイの式だな・・・・・薔薇の魔法をかけていったようだ」

「僕はいいけどね。甘いから病みつきなりそう」

「俺は嫌だ。何処かで覗いているかもしれない」

「見せつけてやればいいのさ」

京楽は、潤滑油を手に取って、浮竹の蕾を撫でた。

「んんっ」

「もうひくついて、僕を誘ってる」

「あ、あ!」

つぷりと、京楽の指が入ってくる。

浮竹は、自然とそれを締め付けていた。

「君の中、すごく熱くて締め付けてくる」

「や、言うなっ」

「どうして?かわいいよ、十四郎」

指を増やしてばらばらに動かずと、前立腺を刺激したのか、びくんと浮竹の体がはねた。

「ここ、いい?」

こりこりと、前立腺ばかりを刺激されて、快感で浮竹は生理的な涙を流した。

「ああ、もういいから、早く!春水!」

妖艶な浮竹に、ごくりと喉を鳴らして、京楽はたけったものを宛がった。

ずぷりと、音を立てて貫くと、浮竹は精液を迸らせていた。

「ああああ!!!」

「挿れただけでいっちゃうなんて、淫乱な子だね」

「あ、あ、春水、春水」

「僕はここにいるよ。大丈夫だから」

ズチュリと音を立てながら、浮竹を犯していく。

「あ、あ、あ!」

ごりっと奥まで入ってきて、浮竹は啼くことしかできなかった。

「あああ!!!」

「ここ、君、好きだよね?」

「やあああ、奥、ごりごりしないでぇっ」

最奥の結腸に入り込み、ごりごりと抉ると、浮竹はオーガズムでいっていた。

「ひああああ!」

「君の奥深くで出すからね」

京楽は、浮竹の胎の奥で子種を注いでいた。

「あああ、やぁ、春水、吸血は、やぁ!」

浮竹をいかせながら、京楽は浮竹の首筋に噛みついて、吸血していた。

「やあああ、変になる、やだぁっ」

精液もでなくなった浮竹は、透明な液体を出していた。潮をふいたのだ。

「やあ、おもらし、やあああ!」

「潮吹いてるだけだから。十四郎、僕の血も吸って?」

差し出された右手の甲に噛みつき、浮竹は京楽の血を啜った。

「ああ、気持ちいいね。セックス中の吸血は最高だ」

「んん・・・・・・ん」

舌を絡め合いながら、落ちていく。

京楽が体液を全て浮竹の中に注いで、満足する頃には、浮竹はぐったりとしていた。


「ごめん、加減できなかったね」

「体をふいてくれ」

「うん。中にだしたものも、かき出すよ」

とても風呂にいく気力はなくて、京楽の手で逢瀬の名残を清められた。

浮竹の肌には、京楽が咲かせた花がいっぱいあった。そのまま、眠りの海に誘われる。

「待っていたの、浮竹、京楽」

「ブラディカ?これは夢か?」

「そう。二人の夢を渡り歩いて、くっつけたの」

「ブラディカ、休眠に入ったんじゃないのか?」

「休眠状態でも、ブラディカは夢渡りの魔女の末裔。少しは、力が残っているから。これは警告。白哉の存在が、危ないの」

「白哉が?」

「始祖竜が、傍にいる。守護騎士として。その守護騎士は、白哉を愛している。でも、それにつけこまれて、白哉を食べてしまおうとしている。始祖竜が」

「恋次が!?そんな馬鹿な!始祖だぞ、始祖を操れる者など・・・シスター・ノヴァ、あるいはブラッディ・ネイ、あるいは他の誰か・・・・」

「白哉と始祖竜を助けてあげて。ブラディカの力は、これでおしまい。どうか、血の帝国の心臓を守って」

白哉は、血の帝国の皇族王であり、女帝ブラッディ・ネイの次に偉い。

同時に摂政であり、血の帝国においては心臓であった。

夢渡り魔女の末裔、ブラディカ・オルタナティブは、そのまま二人に笑顔を向けると、消えてしまった。

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白哉は、血を流しながら、千本桜を手に、恋次と睨み合っていた。

「愛している。愛しているから食って殺す。血肉にして愛する」

「お前は、気がふれたのか、恋次!」

自分の守護騎士である恋次に、刃を向けられて、白哉は戸惑っていた。

相手は始祖竜だ。

己が皇族のヴァンパイアロードだとはいえ、敵うかどうか。

リィィン。

「鈴の、音?」

白哉の耳には、確かに鈴の音が聞こえた。

それは眠っていた浮竹と京楽の耳にも、聞こえていた。


「キャハハハハハハ!アタシは、始祖の魔女ローデン・ファルストル。人間の国も、血の帝国も、聖帝国も、全部アタシのもの!キャハハハハ!」

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始祖なる者、ヴァンパイアハンター外伝

「ねぇ、十四郎」

「なんだ、春水」

「愛しているよ、十四郎」

「俺も愛している、春水」


遠い東洋の島国に迷いこんだ浮竹と京楽が見たものは、同じ姿形をした、異質な存在が睦み合う世界だった。

(俺はどうにかなってしまったのか、京楽)

(いや、これは・・・夢だね。誰かが僕らの体に夢を見せている)

(では、これはただの夢の幻か?)

(それが・・・・なんだか、こういう世界があるみたいだよ。並行世界っていうのかな。パラレルワールドだよ)

目の前にいる二人は、始祖ヴァンパイアとその血族ではなく、八岐大蛇(やまたのおろち)とそれに愛された青年であった。

(俺は・・・・違う世界でも、お前に愛されているのか。それは嬉しいことだな)

(僕もだよ。君を愛するのは、僕の宿命のようなものかな)

東洋の京楽と浮竹は、西洋の京楽と浮竹のように仲睦まじいようだった。

「何か、力を感じるね。強力な・・・吸血鬼の力だ」

「気をつけろ、春水!」

「何だろう・・・魂だけの存在みたい。悪さをする妖(あやかし)ってわけでもなさそうだから、放置しておいても大丈夫そうだよ」

「春水、魂であっても、悪さをするモノはいる」

「大丈夫みたいだよ。なんだか、君に似た気配を感じる」

「俺に似た気配?」

「うん。十四郎が二人いるみたい」

「じゃあ、春水も二人なのか」

「そうなるね」

二人は顔を見合わせて、クスリと笑んだ。

(あ、こっちの浮竹かわいい。素直で、僕に心を開いてくれてる)

(悪かったな、俺は素直じゃなくって)

(違うよ!そうじゃないの、浮竹)

(ふん!)

(あああああ)


「魂が、喧嘩してるみたいだよ。十四郎、僕をいじめないでね」

「春水、何言ってるんだ。俺が、お前をいじめるわけないだろう」

「いや、君に似た魂が、怒ってる」

「春水のことを怒るなんて、なんて俺だ!おい俺!もっと春水をかわいがれ!」

「はたからみたら、わけわからないだろうね」

「確かに、そうだな」


二人は、手を繋いで歩き出した。

浜辺を歩いていた。

ざぁんざぁんと、押しては引いていく波に足をひたして、ただ黙々と歩いていく。

「あ、白い貝殻。ネックレスにしたら、かわいいかも」

「こっちには巻貝があるぞ。春水、白い貝殻と交換しよう」

「いいけど、どうして?」

「俺のものがお前のものになって、お前のものが俺のものになるから」

浮竹はそう言いながら、顔を真っ赤にしていた。

(ああ、こっちの浮竹すぐ赤くなる。かわいいなぁ)

(こっちの京楽は、凄く優しい)

(あ、何それ。僕が君に優しくない時なんてあるかい?)

(ないけど・・・)



「ああ、魂たちが去っていくようだよ」

「さよなら、俺と春水」


眠りの狭間で、京楽は浮竹の記憶を見ていた。

「ブラディカ・オルタナティブ。俺の最後の血族になるだろう。お前を愛している」

(君を愛しているのは、僕だけだよ。僕を見て!)

夢の中の浮竹は、絶世の美女の腰を抱き寄せて、自分の指を噛み切って、滴る血をワイングラスに入っていたワインの中にいれて、それを美女に飲ませた。

「ブラディカは、あなただけを愛しているわ」

「ブラディカ・・・俺が休眠を選んだら、一緒に休眠してほしい」

「ブラディカは、あなたの願いを、叶えてあげる。あなたが休眠したら、ブラディカも休眠する」

「ああ。時が永遠であればいいのに。俺には永遠があるのに、ブラディカには永遠がない・・・」

「でも、ブラディカはそれでもあなたの傍にいる。ブラディカの願いは、浮竹といつまでも一緒にいること」

ブラディカ・オルタナティブ。

2千年前、浮竹が最後の血族にと、選んだ美女。

褐色の肌に金髪の、紫の瞳をした女性。

(僕は・・・・君が他に愛した人がいても、君だけを愛している)


目覚めると、いつもの天蓋つきのベッドの中だった。

隣には浮竹が眠っていた。

「変な夢を見たよ。東洋にいる僕らの夢。でもその夢の狭間で、君の過去の記憶を見た。ブラディカ・オルタナティブ。例え、まだ浮竹を愛していても、浮竹はあげない」

ブラディカ・オルタナティブは、夢を渡り歩く。

「ブラディカの大切なものは、浮竹。浮竹の大切なものは、ブラディカにも大切なもの」

ブラディカは、ゆっくりと覚醒した京楽に、唇を重ねた。

ブラディカ・オルタナティブは、魔女。魅了(チャーム)を司る、魔女の末裔。

「ブラディカ。僕は、君を受け入れない。僕が愛しているのは、浮竹だけだ」

「ブラディカは哀しい。京楽は浮竹の血族。私も浮竹の血族。同じ血族同士、仲良くしましょう?」

ブラディカ・オルタナティブは、甘い、甘い毒を吐く。

京楽は、また眠りに誘われた。

眠りの底で、浮竹とブラディカが睦み合っている姿を見せられた。そこに京楽を招き入れて、ブラディカは浮竹と京楽、二人の男を受け入れた。

「さぁ、ブラディカの愛の毒に、甘い毒にひたされて、熟れて、食べごろになったら。ああ、なんて甘いの。甘い甘い果実。ブラディカはこれが好き・・・・」

ブラディカは、夢の樹に実る果実をもぎとると、しゃくりと音を立てて齧った。

「ブラディカの夢で、幸せになりましょう、京楽、浮竹」

ブラディカ・オルタナティブ。

夢渡りの、魅了の魔女の末裔。夢の毒婦。

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始祖なる者、ヴァンパイアハンター11

「彼」は浮竹十四郎。

正確には、細部まで真似たコピー。

ドッペルゲンガーであった。ドッペルゲンガーの上位個体が、S級ダンジョンで浮竹十四郎をコピーした。

ドッペルゲンガーは、喜びに打ち震えた。

始祖、神に近いものになれたのだ。

通常、モンスターはダンジョンの外に出ない。

スタンピードという、ダンジョン内のモンスターが周辺地域に湧き出すことは時折あるが、そんなことにならないように、ガイア王国では定期的に騎士がモンスターを駆除していた。

「彼」は、浮竹十四郎になった。

「彼」は、血の帝国に行きたいと願った。

そして、気づけば大地に這い出していた。

「彼」は、他の冒険者に助け出されて、S級ダンジョンのある近くの街まで運んでもらった。

まだ完全に浮竹十四郎になりきれていなかった。

それでも「彼」は浮竹十四郎のコピーであって、始祖であった。

助けてくれた人間の血を、死なない程度に吸って、街を転々と移動した。

やがてついたのは、ガイア王国の王都。

聖神殿を見て、「彼」は清浄な力に惹かれて、聖神殿の中へ入った。

「な、一体何者だ!」

行く手を遮る者を、その膨大な魔力で戒めて、「彼」は清浄なる力の持ち主を捜した。

「私は井上織姫っていいます。一応、聖女です。そんなあなたは、誰ですか?」

「ヴァンパイアの始祖、浮竹十四郎」

「始祖様!?なんの種族であっても、始祖様は偉いから!こんな神殿に、私に、何かようですか?」

驚く井上織姫に近づき、跪いて手に接吻した。

「俺の血族になってくれ」

「ええ!」

織姫は、真っ赤になった。

異性から、恋のプロポーズを受けたのだ。男性のヴァンパイアにとって、人間の女性を血族にすることは求婚に値した。

やがて、数日が経った。


「聖女、井上織姫」

「はい」

「汝を、第15代目の使者として、血の帝国に派遣します」

血の帝国と、人間社会は完全に国交を開始していた。

「血の帝国はもう、脅威ではない。血の帝国からの使者もいる」

血の帝国の使者―――そういう設定になっている「彼」は名を呼ばれて顔をあげた。

「始祖、浮竹十四郎」

「はい」

「井上織姫との婚姻を、ここに認めるものとします」

真っ白な長い髪をもつ美しい始祖は、ゆっくりと頷いた。

「彼」は井上織姫を抱きよせた。

「始祖の名において、彼女を血族として、愛することを誓います」

「彼」は、自らの指を噛み切って、血を織姫に与えた。

「あの、何も変わらないんですけど」

ヴァンパイアになる覚悟ができていた織姫は、「彼」の血を飲んでも、ヴァンパイアになれなかった。

いくら細部までコピーしても、コピーはあくまでコピー。

その血で、血族を作ることはできなかった。

「ちょっと、失礼するよ」

現れたのは、身長190センチはあろうかという、鳶色の瞳をした美丈夫だった。

「君は、浮竹十四郎であってはいけない」

「何故だ?」

「君には始祖は無理だ。君に血族は作れない。君は浮竹十四郎になれない」

「そんなことはない」

「無理だ。本物の君の血族を、服従させることもできない「浮竹十四郎」はいらないよ。僕は京楽春水。始祖、浮竹十四郎の本物の血族であり、愛される者」

京楽春水と名乗った青年は、「彼」を血の刃で袈裟懸けに斬り裂いた。

「何故、京楽春水。俺は、お前を、愛して・・・・・」

「さっきまで、この女の子と結婚しようとしてたじゃない」

どくどくと流れる血は、再生しない。

「俺は・・・俺は、誰だ?」

「さぁ?僕は知らないよ。でも、浮竹十四郎じゃない。彼は、ここにいる」

その場にいた全員が、凍り付いたように動きを止めた。

ただ、美しかった。

氷のような美しさと、雰囲気を兼ね備えていた。

それは、本物だと、誰もが分かった。

これが、本物の始祖。始祖ヴァンパイア。

真っ白な長い白髪を持つ、美しいその人は、自分と同じ容姿をもつ「彼」に近づいて、怒りのためか翡翠の瞳を凍らせて、「彼」を睨んだ。

「偽物が。俺を真似るな。ドッペルゲンガー如きが、始祖になれると思ったか!」

強大な魔力が渦巻いた。

人々が我に返る頃には、「彼」の姿はなかった。

本物の浮竹十四郎の姿も、血族と名乗った京楽春水の姿も、そして新しき聖女、井上織姫の姿も。

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「わぁ、可愛いなぁ」

ミミックのポチを、井上織姫は撫でていた。

始祖の住む古城で、織姫は客人として招かれていた。

「あの場にいた者全員の記憶を改ざんした。俺と京楽のことは誰も覚えていない。織姫君、君は行方不明ということになっている。俺と婚姻しようなどと、本気で思ったのか?」

「んー、だってあの子、とっても愛しそうに私を見てくるから。血族になってあげてもいいかなぁって思ちゃったんです」

明るく笑う少女は、浮竹の中で大きく輝いた。

人間の全てがこんな少女であれば、人間を嫌いになることもなかっただろう。

「あれはドッペルゲンガー。俺に成りすました、俺のコピーだ。すまないが、俺にはすでに血族がいて、京楽春水という。俺は京楽だけを愛している」

京楽は、浮竹の座るソファーの隣で、愛おしそうに、浮竹の白い長い髪を撫でていた。

「その、二人はその、いけない関係、なんですか?」

きゃーっと、顔を隠す織姫に、京楽が囁く。

「その、いけない関係なんだよ、僕たち。愛し合っていて、体の関係もある」

「きゃーー!」

織姫は、真っ赤になって二人を交互に見た。

「聖女シスター・ノヴァの四天王だったって聞いたけど、ただの女の子だね。確かに聖女の力はもっているけど」

「あ、聖女シスター・ノヴァはどうなったのか知ってるんですか?行方不明になって、全然帰ってこないんです」

「浮竹の怒りを買って、今頃聖帝国で地道に聖女活動してるんんじゃないかなぁ」

京楽は、もうシスター・ノヴァに興味はないのだと、浮竹の頬にキスをした。

「京楽、織姫君が見ている」

「いいじゃない。ねえ、織姫ちゃん。僕らがいちゃついても、平気だよね?」

「あ、全然平気です。でも、私、第15代目の血の帝国への使者になっちゃてるから、血の帝国に行かないと。血の帝国でも、私のことを待っているはず」

「それなら、僕らが連れてってあげる」

京楽の言葉に、浮竹が京楽の、長いうねる黒髪をくいっと引っ張った。

「おい、ブラッディ・ネイが見たら、自分のものにしたがるぞ。こんな美少女」

ブラッディ・ネイの謹慎は、もう半年以上前に解けている。

ブラッディ・ネイは牢屋に1カ月監禁されて、少しはこりたのか浮竹と京楽に接触してこようとはしなかった。

「大丈夫。ブラッディ・ネイは巨乳好きじゃないんだよね。それに、十代後半はあまり寵愛してないでしょ。後宮にいたのは、10歳くらいから15歳くらいの美少女だ」

「ブラッディ・ネイのこと、よく知ってるな」

「そりゃ、君を困らせる存在だけど、殺しても死なないから、せめて情報くらいは握っておかないと」

「血の帝国に連れて行ってもらえるんですか?」

浮竹は、頭を抱えていたが、京楽はにこにこしていた。

「うん、いいよ。連れてってあげる。僕と、浮竹が」

その言葉に、浮竹は天を仰いだ。

あの実の妹と、また会うことになるからだ。


-------------------------------------


「彼」は、本物の怒りを受けて、霧散したはずだった。

気づくと、血の帝国の女帝、ブラッディ・ネイの元にいた。

「そっくり・・・ねぇ、君は誰なの?」

「始祖、浮竹十四郎・・・のはず。元はドッペルゲンガーと呼ばれていた」

「そう。ドッペルゲンガーの上位個体か。でも、このまま君を死なせるのはすごくもったいない」

ブラッディ・ネイはドッペルゲンガーである「彼」に抱き着いた。

「ブラッディ・ネイ。俺の、妹」

「そうだよ、兄様の愛しい妹だよ」

「同じ血を分けた者。愛している」

「彼」はコピーであったが、本物の魔力を浴びて、歪(いびつ)な形に歪んでいた。

ブラッディ・ネイを、始祖であればその実の妹を愛するだろう。そう思っていた。

「もうすぐ、ボクの元に人間の使者がくるんだ。兄様の怒りを買うだろうから、君は、隠れていてね」

「分かった」


「人間界からの使者殿のおなり~」

ぎいいと、門が開け放たれた。

いくつもの薔薇でできたアーチをかいくぐり、門をくぐって、やっとブラッディ・ネイの住む宮殿までついた。

「ああもう、無駄に広いんだから、嫌になる」

「そういえば、浮竹はこうやって、ブラッディ・ネイの元に訪問するのは初めてかい?」

「いや、何度かあるが。休眠に入る前に、一応お別れを言っていた」

「僕がいる限り、休眠なんてしないよね?」

「ああ、当たり前だ」

口づけを交わしあうバカっプルは、織姫の咳払いで我に返った。

「あの、私、本当にこんな場所にきてよかったんですか。使者は他にもいるはずなんですけど」

「使者は君だけだと記憶やらなんやら改ざんしておいたので、大丈夫だ。もしもブラッディ・ネイが君に何かしようとするなら、命がけで護る」

美しい始祖の浮竹に、護ると言われて、織姫は頬を赤く染めた。

「でも、浮竹さんには京楽さんがいるんですよね」

「京楽は、俺の血族だ。特別存在。何にもかえがたい」

その言葉に、京楽はうんうんと頷いていた。

「エロ魔人で、性欲の塊で、何かあればすぐ俺を犯そうとするちょっと頭がいかれたやつだが」

なぬ?

僕の浮竹の中の評価って、以外と低い?

「またまたぁ。浮竹ってば、そんなこといって。ツンデレさん」

「だれがツンデレだ!ツンもなければデレもない!」

「でも、僕のこと愛してくれているんでしょ?」

「それは、当たり前だ。やっ、何をする」

京楽は、浮竹の耳を甘噛みした。

ふっと息を吹き込むと、浮竹は耳が弱いのか、京楽の頭を殴って、宮殿の中へと入っていく。

「愛が痛い・・・・」

「ふふふ、浮竹さんと京楽さんって、ほんとに仲がいいんですね」

「そうだよ。僕は浮竹だけを愛してるから」

「ああ、私にもそんな人がいたらなぁ」

「きっと、いつかいい人が見つかるよ。こんなに可愛いんだから」

京楽に褒められて、織姫は栗色の髪を翻して、にこりと微笑んだ。

「もう、京楽さんってば!」

その微笑みは、慈愛に満ちていた。

浮竹も、京楽も、その微笑みに魅入ってしまう。

「あ、ついたぞ」

ブラッディ・ネイは玉座に座っていた。その右隣には、ロゼ・オプスキュリテが、背後には12歳くらいの美しい少女が侍っていた。

足元には、ルキアによく似た、13歳くらいの少女を侍らせていた。

「相変わらず、肉欲の塊だな、ブラッディ・ネイ」

「兄様、うるさいよ。へぇ、君が人間からの使者なのかい?名前はなんていうんだい?」

織姫の美貌に興味をもった、ブラッディ・ネイが名を尋ねる。

「井上織姫といいます。ブラッディ・ネイ様におかれましては、ご機嫌うるはべっ。舌、舌噛んだ!」

織姫は、噛んだ舌を自分の聖なる癒しの力で癒していた。

「へぇ、織姫ちゃんっていうんだ。聖女なんだね?」

「あ、そうです。聖女シスター・ノヴァの四天王ってことになってたんですけど、シスター・ノヴァの後継者みたいな形になってます」

「聖女シスター・ノヴァはもう聖女じゃいからね、人間社会では。聖帝国では、未だに聖女として崇めるやつがいるらしいけど。ボクはあんな醜女には興味ないから」

「シスター・ノヴァの転生する度に醜くなるように、呪詛をかけていたそうだな」

浮竹がそう言うと、ブラッディ・ネイは悪びれもせずこう言った。

「だって、ボクの兄様に馴れ馴れしいから」

「俺は俺のものだ。後京楽のもの」

「兄様もさぁ、血族にする者ちゃんと選べばいいのに。何もこんなひげもじゃを血族しなくたって、もっといい男いるじゃない」

「何故そこで、男が出てくる」

「だって、兄様、女より男のほうが好きでしょ?海燕クンをはじめとする5人の血族のうち4人が男だったじゃない。6人目の京楽クンも男だし」

「ちょっと、浮竹、今までの血族のうち4人も男がいたなんて、聞いてないよ」

「ああもう、京楽は黙ってろ」

浮竹は、ブラッディ・ネイと視線を絡め合わせた。

「俺のなりそこないを、匿っているな?」

「あは、ばれちゃった?」

「俺と同じ魔力を感じる。出てこい、ドッペルゲンガー!」

ぱしっと、空間に罅が入るくらいの魔力が渦巻いた。

「ちょ、兄様、ここはボクの宮殿だよ!やり合うなら、外でやってよ!」

魔力の中心にいた浮竹は、ドッペルゲンガーがいる部屋までずかずかと入ってくると、その存在を消そうとした。

「薔薇の魔法・・・。ブラッディ・ネイの魔力で守られているのか」

「兄様!その子はもう悪さしないよ。許してやってよ!」

「俺の姿をとっている限り、お前はこれを愛するのだろう?」

「そりゃそうだよ。素直な兄様なんて、かわいすぎてよだれものだよ」

「素直な浮竹・・・僕の下では、よく素直になるんだけどねぇ」

「うるさいねぇ、このもじゃひげの血族が!」

「もじゃひげで悪いか!」

「ああ、悪いとも!髭があるのはいいとして、その濃い胸毛!腕毛!スネ毛も許せない!」

「浮竹、ブラッディ・ネイがいじめる。ボクの毛を否定する!」

「ブラディ・ネイ。京楽はもじゃもじゃだからいいんだ」

「え、そうなの浮竹」

「兄様、嗜好変わった?」

なんだか漫才めいた会話になっていて、くすくすと織姫は笑っていた。

「血の帝国の女帝というから、どんな怖い人かと思っていたから、あーあ、緊張するだけ疲れちゃいました」

「あ、織姫ちゃん・・・ああもう、いいよ。これは兄様に返す。兄様の代わりになれるわけないものね」

「嫌だ。俺は生きる。俺は始祖の浮竹十四郎。俺は神。俺は世界」

ドッペルゲンガーの浮竹は、浮竹の魔力に作り出された血の刃によって、粉々に壊れてしまった。

「あーあ、容赦ないねぇ」

京楽が、硝子人形になって粉々になったドッペルゲンガーを見た。

「ブラッディ・ネイの薔薇の魔法に思考まで汚染されていた。俺は神なんかじゃないし、世界でもない」

「そう?ボクの中では兄様は神様で、世界だよ。始祖の始まり、ヴァンパイアの世界そのもの」

ブラッディ・ネイは玉座に戻っていった。

皆、その後を追って玉座にある部屋に戻る。

「織姫ちゃんだっけ。ちょっとだけ、血をもらってもいいかな?」

「だめだぞ、織姫君。ブラッディ・ネイは性悪だから、血だけじゃすまさない」

「ちぇっ、ちょっと味見するくらいいいじゃない」

「「よくない」」

浮竹と京楽はハモった。

「ブラッディ・ネイ様。15代目人間の使者として、ここに国交の本格的な正常化と、互いの領土不可侵の契約書を持ってきました。どうか、サインを」

「はいはい、分かったよ」

ブラッディ・ネイは書類に目を通して、血文字でサインした。

「では、私の役目は終わりました」

「ねぇ、織姫ちゃん、ボクの後宮のぞいていかない?ちょっと好みより年上だけど、ボク、巨乳嫌いって思われがちだけど、けっこう好きなんだよね」

舐めるような視線で見られて、織姫は背筋がぞわっとした。

「え、遠慮しておきます。では、浮竹さん京楽さん、帰りましょう!」

「ええ!使者をもてなす晩餐の用意もできてるのに!」

「絶対、媚薬とかしびれ薬入ってるから、口車に乗せられちゃだめだぞ」

「浮竹さん、実の妹さんに厳しいんですね。でも、実の妹さんにしてはあまり似てませんね?」

「ブラッディ・ネイは俺と同じで死なない。完全に不死ではないが、それに限りなく近い。死すればヴァンパイアの皇族や貴族の少女の中に転生をして、ずっとそれを繰り返してきた。今で9代目だったか」

「うわ、すごいですね。浮竹さんは、転生しないんですか?」

「僕の浮竹は、一人だけだよ。ねぇ、浮竹?」

みんなの前でハグされた上に口づけられて、浮竹は顔を赤くして、京楽を押しのけた。

「とにかく帰ろう。ブラッディ・ネイが追ってこないうちに」

空間転移の魔法陣に乗ると、3人は古城の地下へとワープしていた。


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「ただいま、ポチ。ほーら、好物のドラゴンステーキだぞ」

ミミックのポチにドラゴンステーキをやろうとして、浮竹はポチに食われていた。

「暗いよ怖いよ狭いよ息苦し・・・くない?ポチ、お前どうした」

すぽっと、自力で脱出して、浮竹はミミックを観察した。

「ポチ、お前レベルがあがったのか!ドラゴンステーキは経験値あるからなぁ」

「ええっ、飼われてるのにLVが上がるミミックって何それ」

「いや、その前に飼われてることがおかしいですよ!」

織姫の的確なツッコミに、二人して首を傾げる。

「ミミックを飼うってそんなにおかしいか?」

「さぁ。ワイバーン飼うよりはましなんじゃない?」

二人の感性は、ヴァンパイアであるせいか、どこかずれていた。

「ブラッディ・ネイの晩餐には及ばないだろうが、今夜は御馳走を用意してある。思う存分食べて、聖神殿に戻ってくれ」

「ありがとうございます、浮竹さん」

「僕は、木苺のタルト焼くよ。デザートに食べていって」

「はい!」

その日の晩は、織姫のために、フルコースの料理が用意された。

京楽の作った木苺のタルトは絶品で、浮竹も織姫も食べながらうまいと、京楽を褒めた。


「じゃあ、私はこの辺で・・・・・」

「ああ、またよければ遊びにきてくれ」

「たまにはまた遊びにおいで、織姫ちゃん」

「はい!」

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「京楽、ちょっといいか?」

「何?」

「お前のの体から、薔薇の香りがする。この古城に薔薇園はないはずなのに」

「うん、ブラッディ・ネイからもらった入浴剤だね。他にもいろいろ、ブラッディ・ネイからもらったよ。害意はないようなグッズだったから、使わせてもらってる」

「朝にお風呂に入ったのか?」

「うん」

「入浴剤の他に、何をもらった」

「石鹸と、シャンプーとリンス、あと潤滑油」

「潤滑油・・・・。まあいいか。ああ、いい匂いだな・・・・なんか興奮してきた。やらせろ」

はぁはぁと、浮竹が興奮していく。

「ブラッディ・ネイ、まさか入浴剤に何か入れてたの!?」


「うふふふふ。今頃、あのひげもじゃ、兄様に抱かれてるんだろうなぁ。それとも、逆に兄様が抱かれているのかな?ロゼの能力で、また入れ替わってもらおうか」

そんなことをブラッディ・ネイが、玉座の上で漏らしていた。

ちなみに、入浴剤の他に、京楽が使った石鹸、シャンプーとリンスには、その匂いを嗅いだ者を性的に興奮させる魅了の魔法がかけられていた。入念にかけられた魔法なので、浮竹にも分からなかった。


「京楽!!」

ある程度手入れされた庭のベンチの上に、浮竹は京楽を押し倒していた。

「浮竹、ベッドにある場所に行こうよ」

「ここがいい。ここでする。お前を抱く」

深く口づけられて、浮竹は薔薇の匂いをまき散らす京楽に、うっとりとなっていた。

「ああ、今すぐお前が欲しい」

「すでに、僕は君の手の中だ。でも、僕は君を抱きたいな」

反対に押し倒されて、浮竹は戸惑っていた。

「俺は、京楽を抱きたいんだ」

「うーん、僕は浮竹を抱きたいから。それに、君の今の行為は襲い受けだよ」

「襲い受け?」

「そう。受けの子が、襲い掛かってきて逆に食べられちゃうこと。ベッドに行こうか」

ドサリと寝室の天蓋つきのベッドに押し倒されて、浮竹は京楽が手に入るなら、どちらでもいいかと思った。

「俺がお前を抱きたかったが、お前が俺を抱きたいなら、別にそれでもいい」

「十四郎、君には僕の下で乱れてほしい。僕の太陽」

「んっ、春水・・・俺が太陽なら、お前は月だ」

「月は、太陽がなくっちゃだめなんだよ」

「ああ!」

衣服を脱がされて、胸の先端をつままれる。

「んっ」

口づけを受けて、唇を開くと、ぬめりとした京楽の舌が入ってきた。

「んんっ」

混ざった唾液を、こくりと喉を鳴らして嚥下する。

京楽は、唇を舐めた。

自分の下で乱れる浮竹の妖艶な姿に、自制が効かなくなる。

「あああ!!!」

浮竹のものにしゃぶりついて、精液を出させると、それを味わって嚥下した。

ブラッディ・ネイの薔薇の魔法のせいか、精液は薔薇の味がした。

ブラッディ・ネイの薔薇の魔法、悪くないかもと、京楽は思った。

「やっ」

潤滑油にも、薔薇のエキスが入っていた。

ブラッディ・ネイからもらったグッズの一つだったが、使うなら今しかないと思った。

「やぁん」

指を入れると、浮竹はかわいく啼いた。

「やっ」

「こんなに僕の指を飲みこんで。ああ、ここ気持ちいでしょ?」

こりこりと、前立腺を刺激すると、浮竹のものはゆるりとまた勃ちあがった。

それをしごきながら、京楽は指を引き抜いて、己の熱で浮竹を貫いた。

「あああああ!!!」

薔薇の香りが、部屋中に満ちていた。

自分と同じ匂いを纏う浮竹に、夢中になる。

何度も前立腺ばかりをすりあげていると、浮竹がもどかしそうにしていた。

「もっと、もっとお前が欲しい、春水」

「十四郎・・・・・」

結腸をこじ開けるように、奥をとんとんとノックして侵入した。

「あ、あ、そこいい、もっと、もっと」

ごりごりと結腸の中まで押し入ってきた熱に、浮竹はうっとりとなった。

「孕むまで、犯せ」

「それだと、永遠に君を犯し続けなくちゃいけないよ」

「あああ、春水、春水!」

「大好きだよ、十四郎」

「あ、好きだ、愛している、春水」

じゅぷじゅぷと、そこは濡れた水音を立てる。

「あ、あ、あ、あ!」

浅く抉り、次に深く貫かれて揺さぶられた。

快感に脳が支配されていく。

「血を吸うよ、十四郎」

「俺も、お前の血を吸う」

互いに肩に噛みつきあって、吸血した。

「ああああ!!!」

「んっ」

「ああ、春水の声、すごくいい。もっと、聞かせてくれ・・・・・」

「んんんっ・・・・・ああ、気持ちいよ、十四郎。もっと吸って?」

浮竹は、京楽の首筋に噛みついて、血を啜る。

京楽は、セックス中の吸血の快感によいながらも、浮竹を犯した。

「ああ、あ、吸血されながらは、だめぇっ!」

浮竹の喉に噛みついて、吸血しながら浮竹を犯した。

「ああああ!」

ぐりぐりっと、結腸にまで入り込んできた熱が弾ける。

むせ返るような薔薇の匂いに包まれて、二人して意識を飛ばしていった。


「最悪だ」

そのまま、数時間眠ってしまったのだ。

シーツは体液でかびかびだし、ドロリとした京楽が出したものがまだ体内に残っている。

「ごめんなさい」

「まずは風呂だ。その間に戦闘人形にシーツを洗ってもらう」

こんな時、本当に戦闘人形はありがたい。

後始末のシーツを一人洗う羽目になると、悲しいものがある。まぁ、乱れた浮竹を思い出してにまにまするのだが。

浮竹は、京楽がブラッディ・ネイからもらった、入浴剤やらシャンプーリンス石鹸などは全部処分した。

「ああ、もったいない・・・襲い受けの浮竹、素敵だったのに」

「胸毛剃るぞこら」

「ごめんなさい」

一緒に風呂に入り、浮竹の体内にまだあった京楽の体液をかき出して、浮竹は湯に白桃の入浴剤をいれた。

ほんのりと甘い香りに、疲れが癒されていく。

「ブラッディ・ネイから何かもらったら、今度から俺にちゃんと報告すること。いいな?」

「はーい」

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「あそこが、今の十四郎が住んでいる、古城」

ブラディカ・オルタナティブは、真紅の瞳を瞬かせた。

浮竹の5人目の血族にして、浮竹が唯一血族として愛した女性だった。

褐色の肌に、金髪の、紫色の瞳をしたそんじょそこらでは見かけないほどの美女だった。

「待っていて、愛しい十四郎。ブラディカ・オルタナティブは、今日、休眠から目覚めました」

浮竹の2千年前の、恋人であるブラディカは、妖艶に微笑んだ。

「新しい血族がいるなら、それでもいいわ。二人まとめて、愛してあげる」

真紅の瞳は、いつの間にか紫色にもどっていた。
     

          次の話は、佐助さんとのコラボにて番外編です



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始祖なる者、ヴァンパイアハンター10


赤子として転生した女帝ブラッディ・ネイは、その親であった少女を洗脳して、赤子を殺させた。

結果、ブラッディ・ネイは皇族の末席にいた少女の肉体に宿り、完全な復活を遂げた。

ブラッディ・ネイは今、ロゼ・オプスキュリテというヴァンパイアの貴族である少女に、夢中になっていた。

ルキアにも夢中であるが、全然振り向いてくれないので、ロゼを寵愛した。

ロゼは、特殊な能力を持っていた。

誰かの相手と、一時的に中身を入れ替えることができるのだ。

それに、ブラッディ・ネイが目をつけた。

愛しい兄を、抱きたい。そんな欲望を、生まれた時から抱いていた。

兄に抱かれるのではなく、抱きたいのだ。

兄妹としての関係は、すでに始祖であった頃から破綻していた。それでも、ブラッディ・ネイが真に愛するのは、実の兄浮竹十四郎、ただ一人であった。

「兄様待っていて。アハハハほんとにすごいね、ロゼ。君はボクの宝物だよ。だから、分かっているよね?隙をついて、兄様と入れ替わるんだよ」

ロゼ・オプスキュリテは、初めて自分を愛してくれる存在に出会い、言われた通りに行動した。

始祖である、浮竹十四郎の元へ行き、何度も通うことで敵対心をなくさせた。

「ロゼ・オプスキュリテと申します。ブラッディ・ネイ様の身の回りの世話を行っています。浮竹様も、何かあればこのロゼ・オプスキュリテに命じてください」

「いや、いいから。君は俺の愚昧の世話をしてくれているんだな」

「ブラッディ・ネイ様の寵愛をいただき、後宮で普段は暮らしています」

「あの愚昧が・・・・。嫌になったら、いつでも俺たちのいる古城においで。もう、友人だろう、俺たち」

ロゼは、頬を染めた。

「そんな、始祖であられる浮竹様とご友人など、恐れ多いです」

「俺は、君のこと、けっこう好きだぞ」

「私も、浮竹様を愛しています」

いい雰囲気を醸し出す二人に、京楽が黙っていなかった。

「ちょと、ロゼちゃん。僕の京楽が好きでも、あげないよ」

「おいおい、ロゼが恐縮してるだろう」

「いいや、はっきり言わせてもらうよ。浮竹は僕のものだ。僕を愛して、僕に抱かれて乱れる。そんな浮竹を、想像できるかい?」

ロゼは真っ赤になったが、臆することなく京楽を見た。

「私は、ブラッディ・ネイ様の御寵愛を一身に受ける身。たとえ始祖の浮竹様の血族であろうと、私の存在を無下にすることは許しません」

「言うねぇ」

京楽は、血の刃を作り出した。

「やめないか、京楽!女の子だぞ!」

「浮竹こそ、分かってないね。あのブラッディ・ネイの寵愛を受ける少女だよ。何をするか分からない」

その言葉通りだった。

光が煌めいた。

その時、その光を見た京楽は、無垢なる者になっていた。

「ボクは、ブラッディ・ネイ。君の主だよ」

まるで刷り込みの現象のように、現れた9代目ブラッディ・ネイに跪き、恭しくその手をとって口づける。

「京楽、しっかりしろ!」

浮竹が叫ぶが、浮竹の言葉は届いていなかった。

「ブラッディ・ネイ・・・・転生していたのか」

「兄様の呪いで、赤子に転生してしまったけど、その母親を洗脳して支配してボクを殺させた。赤子で死ぬなんて、初めての体験だよ。痛かったなぁ。その分、兄様をいじめるけど、いいよね?」

クスクスと、ブラッディ・ネイは笑う。

「さぁ、ロゼ。君も・・・・」

「はい、ブラッディ・ネイ様。あなたの御心のままに」


「なんだ?意識が―――」

浮竹は、気づくとロゼ・オプスキュリテになっていた。

「なんだこれは!」

「ウフフフフ。兄様、かわいいよ、兄様」

「近寄るな!」

「これで、兄様はボクのものだ。兄様、愛してる。ボクに愛されて、ボクの子を孕んで?」

女帝ブラッディ・ネイは同性愛者だ。年端もいかぬ少女か、十代前半の美しい少女を愛して、男の精子なしで、相手を懐妊させることができた。

「さぁ、ロゼ。いや、兄様。大事な血族の京楽を無事返してほしければ、ボクに抱かれて?」


-----------------------------------------


それはロゼがくる数日前。

浮竹は、ミミックのポチに餌をやっていた。

「ほーら、ポチの好きなドラゴンステーキだぞ。うわあああ!」

浮竹の叫び声に、慌てて駆け付けた京楽が見たものは、いつものようにミミックに食べられている浮竹の姿だった。

「暗いよ~怖いよ~狭いよ~息苦しよ~。でもなんかいい。ポチの中あったかい」

京楽は、慌てて浮竹を救出した。

「ちょっと、ミミックの中が居心地がいいとか、ポチに食べられすぎて脳みそいかれたの!?」

「京楽も食べられてみれば分かる」

どんと、突き飛ばされて、京楽もポチに食べられた。

「なにこれ・・・まるで真っ暗な闇の中、温泉にひたってるかんじ」

京楽は、自力でポチから脱出した。

「君の言いたいことは分かった。確かにミミックのポチの中は居心地がいいのは認めよう」

「じゃあもっかい食べられる!」

「あ、こら浮竹!」

「暗いよ~怖いよ~狭いよ~息苦しよ~。ああっ、宝石発見!」

ミミックのポチは、ドラゴンステーキを与えられる度に、小粒であるが上質の宝石をくれた。

「今日はエメラルドだ。わーい」

無邪気に喜ぶ浮竹をそれ以上怒れなくて、京楽は頭を抱え込むのだった。


冒険者ギルドに来ていた。

認識阻害の魔法をかけているので、他の皆からは浮竹はエルフの魔法使い、京楽はハーフエルフの剣士に見えた。

Sランクの冒険者ということで、それにあった依頼が舞い込んでくるが、浮竹はCランクの依頼を引き受けた。

内容は「ミミックの異常繁殖!駆除求む!」と書いてあった。

「やっぱり、それ引き受けると思った」

京楽は、ミミックと書かれた依頼書を見た瞬間から、あ、これ絶対浮竹が受けそうと思ったのだ。

「ミミックの駆除?Sランク冒険者さんでしょう?もっと、聖剣入手ができるSランクダンジョンのモンスター討伐依頼を受けたりしませんか?」

「いや、俺はこれがいい。というかこれしか引き受けない。これでいい」

ギルドの受付嬢は、エルフのイケメンに見える浮竹に頬を赤くしながも、その依頼を受けたものとして受理してくれた。

「あの、今度時間が空いている時に、お茶でも・・・・」

京楽は、受付嬢を睨みつけた。

「僕と浮竹はパートナーなんだよ。人生においてもね」

「し、失礼しました!」

受付嬢は、今度こそゆでだこのように真っ赤になって、浮竹と京楽をうっとりと見つめていた。

ヴァンパイアである時のほうが美しいが、認識阻害の魔法で作らせたエルフとハーフエルフの見かけも、浮竹は美しい青年であり、京楽は美丈夫であった。

「浮竹、なんでミミックなの。ポチがいるじゃない」

「世界のミミックは、俺を待っている!」

すでに、自分の世界に入り込んでいる浮竹を引きずって、冒険者ギルドから出た。

Sランク冒険者がCランクの依頼を受けたと、騒ぎになっていたからだ。

「ちょっと待たれよ!某(それがし)は、Sランクの魔剣士。Sランクでありながら、Cランクの依頼を受けるなんて、Cランク冒険者の邪魔をするようなもの!聞けば、以前も同じようにBランクの依頼を受けたとか」

「なんかわいてきたな」

「最近あったかくなってきたからねぇ。いろいろわくんだよ」

「な、某をボウフラのように言うでない!このことは、ギルドマスターに報告して、Sランクであるのかが正しいかを吟味して・・・・・・」

Sランクの魔剣士とやらは、フルチンになっていた。

「なああああ!いやああ、恥ずかしい!」

京楽が、血の刃で魔剣士の服をズタズタに斬り裂いたのだ。

「受付嬢さーん。ここに露出狂のSランク冒険者がいまーす!」

大声で呼ぶと、他の冒険者も一緒になってやってきた。

「きゃあああああ!フルチンよ!」

「フルチンのSランクだ。傑作だなぁ」

浮竹と京楽は、すでにその場にはいなかった。

少し遠い場所から、様子を見ていた。

「某が悪いのではござらん!さっきのSランク冒険者にきっとやられたのでござる!と、とにかく何か着るものを!」

浮竹は、魔法を使って近くにあった洗濯ものを干しているロープから、女性の下着のパンツをとると、それをフルチンで必死で股間を隠している魔剣士の頭に被せた。

「いやあああああ!!変態よ、変態だわ!このことは、ギルドマスターに報告させていただきます!」

「某が悪いのではござらん!エルフとハーフエルフのSランク冒険者のしわざでござる!」

「そんな冒険者いたっけ?」

「さぁ?」

認識阻害の魔法は、記憶にも阻害を与える。

「確かに見たのでござる。エルフと・・・エルフ?どんなエルフでござっただろうか。もう一人は人間だったような?あれ?」

結局、そのSランク冒険者は、露出の罪で三日間牢屋に入れられる羽目になるのであった。


「ここが、ミミックが異常繁殖しているダンジョンか」

古城のあるガイア王国から遥か北に来ていた。

空間転移の魔法陣を使い、C級ダンジョンに来ていた。

「少し、寒いな」

北国なので、無論温度が低い。

京楽は、寒がる浮竹に、アイテムポケットから取り出したマフラーを首に巻いてやった。

「すまない、京楽」

「君が風邪ひいたら、看病するのは僕だしね」

それに、むーっと、浮竹が頬を膨らませた。

「始祖だぞ、俺は」

「はいはい。始祖でも風邪ひくんだから、用心にこしたことはないよ」

以前風邪をひいた時、念のためだとルキアの聖なる力で癒してもらい、風邪を治してもらった。

ルキアの力は聖女としては、シスター・ノヴァに匹敵する力をもつ。

さすがにヴァンパイアの死者を蘇らことはできなかったが、重篤な病気でも癒すことができたし、聖女の祈りの聖水で再生できなかったり、いろんなことで再生できない怪我を癒した。

「さぁ、ダンジョンにもぐるぞ!」

「浮竹、これ身に着けといて」

「なんだこのペンダント」

「一度、命を守ってくれる。念のためのものだよ。始祖の君がいくら死なないと言っても、転生しないから、肉体が酷く傷つけば再生するのに時間がかかるから」

「ミミック如きに、殺される俺じゃないぞ」

「はいはい。先進もうか」

ダンジョンの中には、ずらーっと宝箱が並んでいた。

「あ、宝箱!」

「ちょっと、浮竹!」

ミミックに食われながら、浮竹は「ファイアボール」と呪文を詠唱して、ミミックを倒していく。

いつものミミックにかじられるだけの、浮竹ではなかった。

「おし、古代の魔法書ゲット。こっちは魔道具か」

浮竹は、ミミックを複数のファイアボールで倒していく。宝物を残すミミックと、そうでないミミックがいた。

それに、京楽が首を傾げた。

「浮竹、ミミックだよ?君の大好きなミミック」

「ああ。食われた分かったが、ミミックもどきだな。本物のミミックじゃない。本物のミミックは、暗くて狭くて息苦しい。なのに、ここのミミックもどきはかじると舐めてくるんだ。害はあまりないが、本物のミミックと勘違いされそうだから、ミミックもどきはファイアボールで倒す」

「うーん、僕には違いが分からないよ」

「かじられてみればわかる」

どんと、京楽を突き飛ばしてミミックもどきにかじらせた。

「なにこれ。舐めてきた。気持ち悪い」

京楽は、もっていたミスリルの剣でミミックもどきを倒した。

「なんだ、金銀財宝か」

浮竹は、ブラックドラゴンの住処で金銀財宝を大量に入手したので、興味なさげであった。

「金があれば、君の大好きな古代の魔法書や魔道具、古代の遺物が買えるよ?」

京楽は、その金銀財宝を自分のアイテムポケットに収納した。

「それもそうだな!きりきり、金になりそうなもの集めるぞ!」

浮竹の変わり具合に、京楽は苦笑するのだった。


「あ、これは本物の宝箱だ」

3階層まできていた。

モンスターは出たが、雑魚ばかりだった。

「本物の宝箱ってことは、いいもの入ってるってことだよね?」

京楽の言葉に、浮竹は首を傾げた。

「うーん、確かに本物の宝箱のほうがいいもの入ってる時はあるが、ミミックのほうが古代の魔法書やらを出してくれるから、俺はミミックのほうがいいな。あ、鍵かかってる」

「無理やり壊す?」

「いや、俺にはこれがある」

浮竹が懐から取り出したのは、針金だった。

それを鍵穴につっこんで、カチャカチャさせると、カチリと音をたてて宝箱が開いた。

「うわ、毒ガスだ!京楽を、息を止めろ!」

中には、毒ガスの罠があった。

「キュア!」

浮竹は、毒ガスを通常の空気に転換した。

「ふう、危なかった」

「浮竹、鍵穴をあけるスキルって、盗賊のだよね。どこで身につけたの、そんなの」

「何、8千年も生きていると、いろいろ身につくものだ」

浮竹は、何気に錬金術の金クラスの資格をもっていたりする。

京楽の知らない、浮竹の姿はまだまだありそうだった。

「中に入ってたのは・・・エリクサーか。これは貴重だ。ちょっと古くなってるけど、錬金術士に高く売れるだろう」

エリクサーは、別名神の涙と呼ばれた。どんな呪いも、ステータス異常も治してくれる、神の薬であった。

最高クラスである、ミスリル級の錬金術士が、金をかけて一生に数度くらいしか作り出せない、奇跡の薬だ。

浮竹は、それを懐にしまった。

結局、ミミックは3階層までで、それ以上はでなくなった。

4階層、5階層と進んで、5階層でケルベロスと会った。

「ボスか。ケルベロスは炎の属性だ。京楽、気をつけろ、火を吐くぞ!」

「あおーーーん!!!」

仲間を呼ぶケルベロスの三つの頭をかいくぐって、アイスエンチャントで氷をまとわせたミスリル製の剣で、京楽はケルベロスの心臓を突き刺していた。

どさりと、ケルベロスが倒れる。

ケルベロスの遠吠えでかけつけてきた雑魚モンスターを倒して、浮竹は京楽の頭を撫でた。

「ケルベロスは、最近貴族の女性に人気の毛皮だからな。心臓を刺して即死させれば、毛皮の傷みが少ない・・・んっ」

もっと撫でてと意思表示してくる京楽の頭を撫でていると、京楽が口づけしてきた。

「こんな場所で・・・・・」

「うん。キスだけだから」

「んっ・・・」

舌を絡めあってから、離れた。

「ケルベロスは、肉はまずくて食えないが、とにかく毛皮が高く売れる。あと、血は錬金術の材料になるし、爪は牙は武器の材料になる」

「うん」

京楽は、すでに疲れているようだった。

ここまでくるのに、50回ほどは浮竹はミミックに食われて、それを救出してきたのだ。疲れていても仕方ないだろう。

「今回は、この5階層で引き上げるか。これ以上潜ってもミミックは出なさそうだし、Cクラス冒険者の邪魔になるだろうしな」

5階層までのモンスターは、全部倒してきた。

素材になりそうなモンスターは、片っ端からアイテムポケットに収納した。

ダンジョンウォークという、ダンジョン脱出専門の魔法を使ってダンジョンを抜けると、外は雪が積もっていた。

「雪か。そうか、だからあんなに寒かったんだな」

ダンジョンの中の温度は一定に保たれているが、ダンジョンの外では雪が降っていた。

雪ではしゃぐ浮竹を、温かい目で京楽は見守った。

ガイア王国に戻り、冒険者ギルドの解体工房で、ケルベロスの遺体を見せると、受付嬢が顔を引きつらせた。

「これは・・・・懸賞金のかかっていた、ユニークボスのケルベロスですね。通常Sランクのダンジョンのボスとして登場するので、懸賞金がかかっています。遺体の状態もいい。高めに買い取らせていただきます」

懸賞金の報酬として、金貨2百枚をもらった。雑魚のモンスターで金貨8枚、ケルベロスの買取金が金貨40枚だった。

ドラゴンの素材が、どれほど高価であるか、京楽もようやく理解した。

「ねぇ、たまには人間社会のレストランに行かない?」

報酬金でほくほくの二人は、そんな会話をしていた。

「たまにはいいか」

「僕は、前から君を連れて行きたいレストランがあったんだよ。ちょっと高いけど、いいでしょ?」

「金は腐るほどあるから、いいぞ」

確かに高級なレストランで、オーダー見るとどれも金貨3枚以上からした。

適当に、魚介類を中心としたメニューを注文する。

やってきた料理はどれも新鮮で、美味しかった。

「なかなか美味いな。味は覚えた。今度から、戦闘人形が再現してくれるだろう」

「君の戦闘人形って、ほんとに便利だね」

「俺もそう思う」

そんなこんなで、浮竹はエリクサーを入手していた。


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「さぁ、愛し合おう兄様」

「やっ」

ブラッディ・ネイにキスをされていた。

縮こまっった、浮竹の舌を、ブラッディ・ネイの舌が絡み、吸い上げていく。

実の妹の唾液は、とてつもなく甘かった。

ぼっと、ロゼ・オプスキュリテの体が火照るのが分かった。

「やめっ」

「やめないよ、兄様。ああ可愛いよ、兄様。ずっとそのままならいいのに。残念ながら、ロゼの精神交換は時間制御があるから」

柔らかな胸を、もみしだかれた。

先端をつままれると、全身に稲妻が走ったような感覚を覚えた。

「いやっ」

トロトロと蜜を零す女体の秘所に、ブラッディ・ネイの指が入ってくる。

「ああああ!!!」

陰核をつまみあげられて、浮竹は女の体でいっていた。

はぁはぁと、荒い息をついて、エリクサーのことを思い出した。

「京楽に、何をした」

「別に命の別状はないよ。ただ、混乱を与えて、ボクが主になっていることにしただけ」

浮竹はロゼ・オプスキュリテの体で、魔力を拳にこめた。

「さぁ、愛し合おう。続きをするよ、兄様。ぐっ!」

魔力をこめた拳で、ブラッディ・ネイの鳩尾を打つ。

ブラッディ・ネイは意識を失った。

「あ、ブラッディ・ネイ様!」

駆けつけてくる自分の体の懐からエリクサーを出して、まずは口移しで京楽のませた。

「あれ、僕は何を?」

「よかった、元に戻ったんだな」

「君はロゼ?何故、浮竹の匂いを・・・・・・」

「説明は後だ。こっちにきなさい、ロゼ・オプスキュリテ」

「はい・・・・・」

「この能力は、自分で解けるか?」

「できません」

「呪いの一種だな・・・・。エリクサーだ、飲め」

「でも」

「始祖の名によって名じる」

「はい・・・・・・」

浮竹の体のロゼは、エリクサーを一口、口にした。同時に、ロゼの姿の浮竹が、エリクサーを口にする。

お互いの体がぱぁぁぁと輝いて、精神は肉体を移動して、元に戻っていた。

「どういうこと、浮竹」

浮竹は京楽に、全てを説明した。

「ブラッディ・ネイにはしばらく謹慎させる」

浮竹は、ブラッディ・ネイに戒めの魔法を使うと、拘束した。

「ん・・・兄様?なーんだ、元に戻っちゃったのか、つまんなーい」

「ブラッディ・ネイ。反省しろ」

「嫌だね。ボクは、ボクのやりたいようにするし、好きなように生きる」

「ライトニング!」

「ぎゃあああああああああ!!!」

ブラッディ・ネイは感電していた。

ぱちぱちと火花が弾ける。

「く、兄様、魔法で無理やりボクを屈服させるつもり?その気になれば、ボクは自害して次のブラッディ・ネイになるよ」

「転生を続ける呪いか。呪いに呪いをかける」

浮竹は、蝙蝠の血やらトカゲの尻尾やらを取り出して、混ぜ合わせると薬を作った。

「飲め、ブラッディ・ネイ。一カ月転生を封じる薬だ。飲まないなら、10年間転生を封じる呪いをかける」

「えー。仕方ないなぁ。まぁ、それで兄様の気が収まるなら」

ブラッディ・ネイは飲むふりをした。

浮竹は眉を顰めて、中身を口にすると口移しでブラッディ・ネイに飲ませた。

「にがーい」

そう言って、ブラッディ・ネイは再び意識を失った。

「ロゼ・オプスキュリテ」

「はい!」

「始祖の名において命じる。ブラッディ・ネイを血の帝国の王宮の牢に入れて、1カ月監禁すること」

「でも、私の力では・・・・」

「白哉」

「ここにいる」

「浮竹、いつの間に?」

「ロゼに体を支配される一瞬の隙に、式を放っておいた」

白哉は、つい今しがた到着したばかりで、呼吸が乱れていた。

「ブラッディ・ネイが浮竹に何かしたのか」

「ああ、したとも。嫌なことをな。ということで、こいつを持って帰って、王宮の牢屋に入れておいてくれ。これは、始祖の名による懲罰書だ」

ブラッディ・ネイの体を受け取り、懲罰書を確認すると、白哉はブラッディ・ネイとロゼと共に帰ってしまった。

「ねぇ、浮竹・・・・・・・」

「京楽、今回のことは不測事態で・・・・・・」

にーこっりと、京楽は微笑んだ。

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「やぁ、もういかせてぇ!」

「だめだよ。そんな簡単にいかせたら、罰にならないでしょ?」

浮竹のものの根元を、魔力の通ったヒモが戒めていて、精液を出すことを許さななかった。

浮竹は目隠しをされていた。

京楽が突き上げる度に、びくんと体を反応させる。

「君がブラッディ・ネイなんかにいかされたなんて、僕が怒って当然でしょう?」

「あれは、ロゼ・オプスキュリテの体だった!」

「でも、精神は浮竹のものでしょ?」

「やぁっ!」

最奥の結腸をこじあけられて、どくどくと京楽は精液を注ぎ込んだ。

「やぁ、いきたい、いきたい。外してぇ」

「だーめ。最後の最後にとってあげるから」

「ああああ!!!」

真っ白な太ももに噛みついて、京楽は浮竹の血を啜った。

「あああ!」

弾けさせれない熱に、体がどうにかなりそうだった。

吸血による快楽を与えられながらも、これが実の妹のに好きなようにされた罰なのかと、遠のく意識の狭間で思う。

「あ・・・ああ・・・・・・」

目隠しは、いつもより快感を多く浮竹に与えた。

「やっ、もう限界!」

浮竹が、自分で戒めを外そうとするが、京楽の魔力が通っているせいでとれない。

「とってぇ、お願い、春水、春水」

かわいく啼く浮竹に、京楽は浮竹にディープキスをしながら、戒めを解いてやった。

「ああああああああああ!!!」

びくんびくんと、体がはねる。

大量の白い精液をシーツに零しながら、浮竹はいっていた。

「吸血、するよ?」

「やぁぁぁ、だめえぇっ」

いっている最中の吸血行為は、本当に気が狂いそうな快楽を浮竹に与える。

浮竹は、それが怖かった。浮竹がいっている最中に血を吸われることを嫌いだと承知の上で、京楽は浮竹の喉笛に噛みついて、血を啜った。

「ああ、甘い。君の血は、誰よりも甘い」

「あああ!京楽、おぼえ、て、ろ・・・・・・・・・・」

そうして、浮竹は意識を失った。


京楽は、正座をさせられていた。

「ごめんってば」

「謝れば済むと、思っているのか」

ぷんすかと怒る、意識を取り戻した浮竹が、衣服を着て最初にしたのは、京楽へのビンタだった。

根元を戒められて、目隠しをされたことがよほど気にくわなかったらしい

「2週間の禁欲と、俺への吸血禁止だ」

ぷりぷりと怒る浮竹は可愛かったが、いかせん京楽には重すぎる罰だった。

「そんなぁ。ああ、君の好きなミミックのいっぱいいるダンジョンへ行こう」

「何、ミミックがいっぱいだと?」

早速顔色を変える浮竹に、京楽はしめしめと思いながら、浮竹と一緒に朝食をとり、シャワーを浴びてから、二人でSランクのダンジョンにこもるのであった。


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「聖女、井上織姫」

「はい」

「汝を、第15代目の使者として、血の帝国に派遣します」

人間社会もまた、変わっていく。

「血の帝国はもう、脅威ではない。血の帝国からの使者もいる」

にこにこと、血の帝国の使者は和やかに笑んでいた。その名を、呼ばれて「彼」は顔をあげた。

「始祖、浮竹十四郎」

「はい」

「井上織姫との婚姻を、ここに認めるものとします」

真っ白な長い髪をもつ美しい始祖は、ゆっくりと頷いた。

「彼」は井上織姫を抱きよせた。

「始祖の名において、彼女を血族として、愛することを誓います」





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始祖なる者、ヴァンパイアハンター9

「でたぁ、ブラックドラゴンだぁ!」

「ひいい、逃げろおおお!!」

「いやああ、まだ、まだ子供がああ!」

「諦めろ!ブラックドラゴンのブレスであんたも焼け死ぬぞ!」

隣国ウルト共和国では、ブラックドラゴンが暴れまわっていた。

人や家畜を襲って、食った。

金銀財宝に目がなく、奪った。

「金銀財宝をため込むという点で、その金銀財宝だけ奪ってリリースするのはどうだろう」

「やめておきなよ。怒り狂って、人間たちの手に負えなくなるよ」


(ブラックドラゴンよ。神代から生きるヴァンパイアの始祖が命じる。大人しく山に帰れ。そうすれば、命だけは助けてやる)

古代語で思念で話かけると、ブラックドラゴンは浮竹と京楽の前に降り立った。

「神代から生きるヴァンパイアの始祖だと?そんな始祖が我に何の用だ」

「単刀直入に言うと、退治させろ」

「ガハハハハ!我は六百年を生きる、ドラゴン!ヴァンパイア如きに、殺されるものか!」

ブラックドラゴンは、古代語で浮竹と京楽に話しかけた。

京楽には古代語の知識はなかったが、浮竹を介して理解できた。

「そのへんでやめといたほうがいいんじゃない、ブラックドラゴン。僕の主は、南のファイアードラゴンを葬っているよ」

「何、ファイアードラゴンだと。かの者は我の中よき友人であった。ヴァンパイアよ、許さぬ」

ブラックドラゴンは、炎のブレスを吐いた。次に、氷のブレスを吐いた。

「ふはははは、焼け焦げたか、それとも凍ったか?」

ブレスの直撃を受けたはずの二人は、京楽が張った血のシールドによって、無事だった。

「我がブレスを受けても平気だと?馬鹿な、ヴァンパイア如き・・・・始祖、始祖だと。始祖とは我が師、神代より生きるカイザードラゴンと同じ、始祖か!」

「そうそう。そのカイザードラゴン、竜帝は、今は南の帝国で皇帝やってるよ。人間化して、人間の中で生きている。君と違って、温厚でドラゴンとして崇められるよりも、人として生きるのが好きで、たまに古城にお忍びで遊びにくるんだ」

京楽の説明に、ブラックドラゴンがその金色の瞳の瞳孔を縦に収縮した。

「笑止!カイザードラゴンはそんな存在ではないわ!」

「え、浮竹、そうなの?たまに遊びにやってくる人って、カイザードラゴンって言ってたけど、全然関係ない人?」

浮竹は、微笑んだ。

「カイザードラゴンと友人なのは本当だ。京楽も、信じられないか。神代から生きるカイザードラゴンが人として生きているなんて」

「そんなことないけど。浮竹の説明通りに話しても、このブラックドラゴンに通用しないよ」

「仕方ない、殺すか」

「待て、始祖よ。我の力を与えよう。始祖である汝は、我と・・・・・」

「エアリアルエッジ」

浮竹は、風の精霊エアリアルに命じて、真空の刃を起こさせると、それでドラゴンの鱗も貫き、首を落としてしまった。

「始祖よ・・・せめて、我が魂を持っていけ」

キラキラと、ドラゴンの魂の結晶が、浮竹の手の中にあった。

「ドラゴンの聖なる魂のオーブ。三大秘宝の1つじゃないか!」

京楽は、浮竹の手の中にある物を見て、その値段にびびっていた。

古城を10個ほど買えるし、200年以上遊んで暮らせる額の秘宝で、神族の皇族の心臓、魂のルビーと並ぶ、三大秘宝の一つであった。

「なんちゅーものもらってるの、浮竹」

「これは・・・・置いておくと、人間同士で醜い争いが起きそうだ。もらって帰るか」

浮竹は、ドラゴンのオーブをアイテムポケットにしまいこんだ。

そして、ドラゴンの巨大な肉体ごと、アイテムポケットに入れた。血の一滴も残さず収納しおえる。

山に移動して、ブラックドラゴンの住処をみつけだして、金銀財宝を全てアイテムポケットにいれて、浮竹は京楽と共にウルト共和国を後にした。

古城のある、ガリア王国の冒険者ギルドの解体工房で、浮竹はブラックドラゴンの遺体を出した。

その場にいた皆が、顎が地面に落ちそうなくらい口をあけて、驚愕していた。

「間違いない。ウルト共和国で暴れまわっていたブラックドラゴンだ。左目に傷がある」

「ドラゴンの眼球は高く売れるんだけどな。1つしかないのは残念だ」

浮竹の言葉に、皆浮竹を見た。

京楽は、ハラハラしていた。

「このブラックドラゴンは、あなたが倒したのですか?」

「ああ、そうだ」

「たった一人で?」

「いや、京楽と二人で」

嘘こけ。一人で倒しただろとツッコミを入れたかったが、京楽は黙っていた。

「ガリア王国の冒険者ギルドにおいて、あなたがたをSランクの冒険者として認定します」

「ありがとう」

「早速ですが、このドラゴンの遺体は買い取ってもいいのですか?」

「ああ、もちろんだ。肉は少々いただくが、後は素材となりうるもの全て、後血も売る」

「ありがとうございます。この契約書にサインを」

浮竹は、すぐにはサインせず、魔力を流して呪術的なものがないかを確認してから、達筆な文字で浮竹十四郎と書いた。

「ありがとうございます。しめて金貨3千枚になりますが、よろしいでしょうか」

「新鮮だぞ。3千枚なら、隣国で売る」

「し、失礼しました!金貨5千枚で買い取らせていただきます」

「それならいい」

浮竹も納得がいったのか、ドラゴンの素材を、ステーキにする分の肉の塊をとって、その他の全ての部位を、冒険者ギルドで売り払った。

Sランク冒険者。

ギルドでさざめきが起きる。

「私、Aランクのハーフエルフのミレーネっていうの!一緒にパーティー組まない?」

「パーティーは、相方がいるので組まない」

「そんなこと言わずにさぁ・・・・・」

浮竹に胸を押し付けるハーフエルフに、京楽は殺気に満ちた視線を送った。

「ひっ!あ、あなたの相方、目つきが異常よ!呪われてるんじゃないの!?」

「京楽を馬鹿にするな、人間」

「浮竹、だめだよここで暴力沙汰は。Sランクの冒険者らしく、堂々と振る舞ってればいいんだよ」

「冒険者のランクなんてどうでもいい」

「おい、それは聞き捨てならないな。俺の名は風のヒューイ。Sランク冒険者だ。あんたに、決闘を申し込む!」

「買った」

浮竹は、京楽が静止の声を出す間もなく、決闘を受け入れた。

「では、冒険者ギルドの裏手で、試合をしよう。木刀で試合だ」

「魔法は?魔法は、使っていいのか?」

「ああ、もちろんだ」

「ちょっと、浮竹」

「京楽。人間どもに思い知らせる必要がある。Sランク冒険者となった俺たちの力を」

「だからって、何も決闘を受けなくても・・・・」


数十人が見守る中、決闘は行われた。

みんなどっちに賭けるか勝負していて、大半がヒューイとかいう冒険者に賭けていた。

「さぁ、どっからでもかかってきなさい、お嬢さん」

風が吹いて、浮竹の美しい長い白髪が流れる。

「エアリアルエッジ
マジックブースト
ヘルインフェルノ」

三重に、魔法を詠唱していた。

エアリアルエッジで、相手がもっていた木刀を斬り裂き。

マジックブーストで、身体能力をひきあげて木刀を相手ののど元につきつけ。

ヘルインフェルノで、隣の空間を焼き払い、自分の魔力の高さを見せた。

「ま、負けだ、俺の負けだ!なんなんだ、魔法の三重詠唱だと?魔法使いでもないのに、ありえない!」

「誰が魔法使いなどといった?俺は剣士であると同時に、魔法士だ」

ざわめきが大きくなった。

魔法士。

宮廷にいる、魔法使いがそう呼ばれていた。

もしくは、それに匹敵する者。

「魔法士だという証拠がどこにある!」

「そんなの、いらないでしょ?3重に魔法を使える魔法士なんて、この子以外にいるの?この子以上の魔法の使い手はこの国にいるの?」

京楽の言葉に、シーンと場が静まり返った。

「行こう、京楽」

「でも浮竹、記憶は消しておいたほうが」

「また、冒険者ギルドには厄介になる。いいから行こう。強い魔力の反応が、古城にある。侵入者だ」

浮竹も京楽も、急いで冒険者ギルドを後にすると、認識阻害の魔法をかけてから、ヴァンパイアの証である真紅の翼を広げて、古城へと帰還した。

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「いよーっす。待ってました、京楽さん、浮竹さん」

「なんだ、お前か、恋次」

「いい酒手に入ったんで、一緒に飲もうと思って」

やってきたのは、例のブラックドラゴンがいっていた、カイザードラゴン、始祖のドラゴンが人化した青年であった。

赤い髪に、体中にいれこまれたタトゥーが印象的だった。

「白哉さんに、酒もっていったんだけど「いらぬ、お前が傍にいると心穏やかで過ごせぬ」とか言って追い出された。俺、あの人のこと何度も好きだっていってんのに、いつも振られてる。守護騎士をたまにしてるけど、やっぱり振られる」

恋次は、名を阿散井恋次という。

南のほうの帝国、アバー帝国の皇帝だ。

それが、抜け出して遊びにきたということは、今頃影武者が皇帝をしているのだろう。

アバー帝国では、ドラゴンは神である。その始祖であるカイザードラゴンが人型になった瞬間、人々は恋次を皇帝へと押し上げた。

元々の皇族を処分して。

暗殺やら毒殺やら、いろいろされたが、恋次もまた始祖であるが故に死ねぬ呪いを体にもっていて、死ぬ度に体にタトゥーが付け足される。

もう30回以上は死んでいる計算になるだろうか。

「いやぁ、この前は酒に毒が入ってて死んだから、酒にも毒見役をおいたんすよ。そしたら、みんなばたばた死んで。ああ、これヤバイなって思って、酒に携わった者全員にカイザードラゴンの姿になって真意を聞いたら、みんな気絶しちゃって」

「そりゃあ、ただの皇帝がドラゴンになったら、誰でも驚くだろう」

「一応、カイザードラゴンだって言って何度か変身してみたんスけどね。俺の姿を見たことのない人間は、俺の皇帝の地位を狙って毒殺してこようとするんスよ。別に俺は、皇帝なんてどうでもいいんんだけど。執務は大臣に任せっきりで、名前だけの皇帝っすね」

「アバー帝国では、ドラゴンは神なんだよね?」

「そうっすよ」

「僕と浮竹で、今日の朝隣国ウルト共和国で暴れまわってたブラックドラゴンを退治してしまったんだけど、これって大丈夫なのかな?」

京楽の言葉に、恋次は目を丸くしてから、朗らかに笑った。

「あの悪戯ドラゴンか。何度叱っても、人間や家畜を襲うんスよね。手に負えなくて、殺そうか迷ったけど、同族だから野放しにしておいたら、人間じゃなくってヴァンパイアの始祖に殺されるなんて。まぁ、運が良かったというべきか。強い人間相手だったら、呪術で服従を強いられて、言いなりになるしかない。ドラゴンは束縛が嫌いなんスよ」

「知ってる。お前とは、始祖の時代からの知り合いだ」

「始祖の時代からの知り合いっていっても、あんまり交流なかったし、浮竹さんすぐに休眠に入っちゃうし」

恋次は、そう言って酒を見せた。

戦闘人形たちが、料理を用意して振る舞ってくれた。

「いやぁ、恋次クンのもってきた酒はうまいねぇ」

「そうでしょ、そうでしょ。こんなにうまいのに、白哉さん飲んでくれないんすよね」

「それは、君に下心があるからじゃないの」

「だって、一目ぼれなんスよ。聖女のルキアも好きだけど、兄である白哉さんも好きだ」

「兄妹揃って手に入れようなんて、考えてないよね?」

「できるなら、とっくにそうしてるっスよ。ブラッディ・ネイのせいで、できないけど」

「白哉とルキア君と付き合いたいなら、まずは俺を説得することだ」

一人黙々と飲んでいた浮竹は、目が座っていた。

と思ったら、赤い顔をして服を脱ぎ出した。

「うわぁ、浮竹、何、酔ったの!?いつも酒飲まないから知らなかった。酔うと脱いじゃうんだ。今度利用しよう。でも、今は恋次クンがいるからね?」

「浮竹さん、ちゃんと食ってます?相変らず線細いっすよね」

「うわぁ、恋次クンは見ちゃだめ!目をつぶってて」

「はい」

恋次は言われた通りに目をつぶった。

その間に、半裸になった浮竹に服を着せて、眠り薬を飲ませた。

「ちょっと、浮竹寝かしつけてくるから、戦闘人形のリーダーと飲んでて」

「分かりました」

浮竹は、薬がすぐ効いたのか、スースーと静かな寝息を立てていた。

その軽い体を抱き上げて、寝室までくると、天蓋つきのベッドに寝かせて、毛布と布団をかけた。

戻ってきた京楽が見たものは、酔いつぶれて裸で踊っている戦闘人形のリーダーと、それに拍手喝采を浴びせている恋次の、なんともいえない姿だった。

「いや、戦闘人形って便利っすね。家事もしてくれるし、戦闘もしてくれるし、こうやって酒と酔っ払いの相手もしてくれる」

「いや、この子が特別製だからだよ。他の戦闘人形は、言葉は理解できるけど意思疎通は難しい」

「んー。でも便利っすよね。浮竹さんの血で、作られているんでしたっけ」

「そうだね。浮竹にしか使えない魔法というか、呪術に近いね」

「俺、魔法も呪術もからっきしで。剣の腕だけは、それなりだけど。人型って不便なようで便利で、でも不便」

「どっちなんだい?」

「さぁどっちでしょうね。まぁ、今日はお開きにしましょうか。浮竹さん寝ちゃったみたいだから」

「君も、泊まっていくかい?」

「いや、白哉さんのとこいってきます。この時間だと起きてると思うし」

白哉だけでなく、血の帝国の民は夜行性である。

浮竹と京楽の方が変わっているのだ。通常、ヴァンパイアは夜行性で、闇に生きる者である。浮竹と京楽は、朝に起きて日中に活動した。

「今日こそ、白哉さんを振り向かせてみせる!」

「がんばれ、恋次クン」

そうやって、恋次は白哉に告白し、振られて大ダメージを被ることになるのだった。


----------------------------------------

「んー、春水、春水」

「あれ、起きてたの、十四郎」

同じベッドで眠ろうとした京楽は、薬を飲ませて先に寝かせたはずの浮竹が起きているので、少し驚いた。

「俺には、薬はあまりきかない。そういう体質なんだ。多分、強めの薬を飲ませただろう」

「うん。ちゃんと寝てほしかったから」

「2時間で目が覚めた。暇だ春水。恋次君はもう帰ってしまったのか?」

「白哉クンを振り向かせてみせるって、意気込んで血の帝国に向かう地下の空間転移魔法陣で、行ってしまったよ」

「あーあ。きっと振られるだろうなぁ」

「なんで分かるの?」

「白哉には想い人がいる」

「え、マジなの」

「ああ。緋真という、ヴァンパイアの皇族の末席にいる姫君だ」

「ああ、知ってる。ルキアちゃんとよく似た子でしょ」

「恋次君、盛大に振られるだろうなぁ」

「じゃあ、せめて僕たちは仲良くしないと」

服の裾から入り込んできた手に、浮竹が京楽を抱きしめた。

「好きだ、春水。酒を飲んでいた時の記憶がふっとぶから、俺は普段酒を飲まないんだ」

「おまけに脱ぐしね」

「ああ、それもあるから、普通は酒は飲まない」

酒の勢いのせいか、京楽はいつもより強引だった。

「あ、あ、あ・・・・・・・」

浮竹の衣服を脱がしながら、自分も裸になった。

「んんっ」

胸の先端を甘噛みして、舌で舐め転がす。反対側は指でつまみあげた。

「あ!」

もう百年以上も睦み合ってきたせいで、浮竹の弱点など知り尽くしている。

浮竹の勃ちあがったものを手でしごいて、口に含んで奉仕すると、浮竹は薄い精子を京楽の口の中に放っていた。

昨日、睦み合ったばかりであった。

「このまま続けるよ。いいかい?」

「好きにしろ。体にスイッチが入った。責任はとれ」

浮竹の体全体を愛撫して、耳を甘噛みして囁いた。

「大好きだよ、十四郎」

潤滑油の力もかりて、ぬるりと中に入り込んできた指を、浮竹は知らない間に締め付けていた。

「十四郎、力抜いて」

「んっ・・・・・ああ!」

前立腺をこりこりと刺激されて、浮竹のものはまた勃ちあがっていた。

その根元を、京楽は紐で戒めた。

「やああ、いきたい!やだ、春水!」

「我慢しようね?いっぱい我慢した後でいくと、すごく気持ちいいから」

「やあ!」

指が抜きされて、京楽のものがズズっと入り込んでくる。

その熱さに、浮竹は先走りの蜜をダラダラ零していた。

「やあ、いきたい、いきたい」

「もうちょっと待って」

浮竹のいい場所ばかりを突き上げると、京楽は涙を零す浮竹の涙を吸い上げて、結腸に向かってごりっと押し込んだ。そのまま射精した。

「あああああ!!!」

浮竹を戒めていた紐をとってやると、勢いよく精子が飛び出した。

京楽は、いっている最中の浮竹の首に噛みついて、血を啜る。

「いやあああ!変になる、やあああ!!!」

二重の快楽に、浮竹は京楽の下で乱れた。

そして、ぐったりとなる。

その体に覆いかぶさって、口づける。

「君は僕のものだ、十四郎。この甘い体は、僕だけのもの」

「あ、春水、愛してる。もっと、ちょうだい?春水のザーメン、もっといっぱい欲しい。胎が疼くんだ。お前の子種が欲しいと」

「淫乱だね、春水は」

「お前のせいだ」

「そうだね。僕が、十四郎の体をこんなにしちゃった。責任とるから、いっぱい受け止めて、孕んでね?」


「あ、あ、ああああ!もれる、もれる!」

潮をふいた浮竹は、おもらしをしたと勘違いして、泣いていた。

「潮をふいただけだよ、十四郎。きもちよくなっちゃったんだね」

「やああ、もうや!春水、春水」

「僕はここにいるよ」

ぐちゃぐちゃと、熱で浮竹の内部を犯しながら、また噛みついて血を啜ってやった。

「ああああ!」

浮竹はまたいっていた。もう出すものもなく、たまに潮をふいて、後はオーガズムでいくだけだった。

「や、もう限界・・・」

浮竹は、薄くなっていく意識の狭間で、京楽の顔をしっかりと脳裏に焼き付ける。

「君は、僕のものだ」

最後の一滴まで、浮竹に注ぎこんで、京楽は満足した。

もう、浮竹の意識はなかった。


「だから、そんなに怒らないでよ。君も感じてたじゃない」

「潮吹きだなんて、おもらししているようで嫌なんだ!」

「ただ感じちゃってるだけだから、大丈夫だよ」

「嫌なものは嫌だ。2週間は、もう京楽とはセックスしない」

「そんなぁ」

禁欲令を出されて1週間もしないうちに、京楽が浮竹を抱いてしまったのは、また別のお話。


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「君の名は?」

「京楽春水」

「君の主は?」

「ブラッディ・ネイ」

「あははは、ねぇ兄様!兄様、愛しい者を奪われるってどんな気持ち?」

「ブラッディ・ネイ!お前は!」

浮竹の体は、十代のヴァンパイアの少女になっていた。

「ボクの子供、産ませてあげる、兄様。ボクの子供、孕んで?」

「ブラッディ・ネイ。何処までも、愚かな俺の妹よ・・・・・」

「アハハハハハ、愛してるよ兄様、兄様!」

実に妹に体を好き勝手されて、浮竹は目を閉じた。

京楽を無事取り戻すためなら、妹に服従してもいい、と。








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始祖なる者、ヴァンパイアハンター8

「助けてくれ、浮竹さん、京楽さん」

「浮竹、京楽、力を貸してくれ」

ある日突然、古城にやってきたのは、一護と冬獅郎だった。

全身に怪我とやけどを負っていて、やけどは聖女シスター・ノヴァの聖水によるものだとすぐに分かった。

「どうしたんだ、一護君、冬獅郎君」

「ルキアが!ルキアが攫われた!」

「なんだって!」

「本当なのかい、一護クン冬獅郎クン」

京楽が、指を噛み切って二人の傷に血を注ぎ、再生を促しながら問いかけた。

「ああ。なんでも、聖女シスター・ノヴァの四天王とかいう、石田雨竜っていう人間にやられた」

「あいつ、ルキアを盾にとりやがった。卑怯なやつだぜ」

一護も冬獅郎も悔しそうであった。守護騎士でありながら、むざむざ守るための者を攫われてしまったのだ。

「一護君も、冬獅郎君も相当な手練れだろう。それを手傷を負わせるなんて。その石田雨竜って人間、もしかして滅却師かい?」

「ああ。滅却師だと言っていた」

「厄介だね」

最近、滅却師のモンスターハンターが、ヴァンパイアロードを狩っていると耳にしたのだ。

「京楽、ルキア君の居場所は分かるか?」

「多分、聖女シスター・ノヴァのところじゃないかな。聖女としてのルキアちゃんの血が必要なんだろう。高等な呪詛を解呪するには、聖女の血がいる。聖女シスター・ノヴァにかけられた呪詛は、自分の血では解呪できないから。それに、聖女シスター・ノヴァの四天王なら、主の元に帰還するはずだ」

「俺が、聖女シスター・ノヴァに魔眼の呪いをかけたせいだろうか」

「浮竹のせいじゃないよ」

浮竹を抱きしめる京楽に、一護がこほんと咳払いをした。

「あ、いちゃついてる場合じゃなかったね」

「そうだぞ、京楽。ルキア君を助けるための策を練らないと」

「浮竹さん、京楽さん、無理を承知で頼みます。ルキアを助けてください」

「浮竹、京楽。ルキアは友人だろう。無論、助けるのに協力してくれるな?」

「一護君も冬獅郎君も慌てない。聖女の血が必要であれば、殺されたりはしないはずだ」

「でも、ルキアを傷つけるんだろう!血が必要ってことは!」

「高等な呪術に対する解呪に必要なのは、聖女の生き血だ。それほど怪我は負わせられないはずだ。それに、ルキア君に何かあったら、ご執心のブラッディ・ネイが許さないだろう」

ごくりと、一護も冬獅郎も唾を飲みこむ。

ブラッディ・ネイの力は強大だ。血の帝国を8千年にわたって繁栄し続けさせており、太陽の光を通さない空の血の結界は、ブラッディ・ネイの魔力によって維持されていた。

彼らは知らなかった。

ブラッディ・ネイが聖女シスター・ノヴァに、転生しても醜くなる呪詛をかけているなど。まして、醜悪な老婆の姿にさせられたなど。


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「ん・・・・・」

ルキアは気がついた。

「一護、冬獅郎!」

がばりと起き上がると、天蓋つきのベッドで寝かされていた。

「ここは・・・?」

「ここは、聖女シスター・ノヴァの住む館。君は、僕が血の帝国から攫ってきた。一護と冬獅郎とやらは無事だ。無駄に血を流すのは好まないタイプだからね、僕は」

「貴様、私を血の帝国の第3皇女、朽木ルキアと知っての所業か!」

「血の帝国の皇族だろうとなんだろうと関係ない。聖女シスター・ノヴァがあなたの血を欲している」

「起きたのかしら」

入ってきたのは、醜い老婆であった。

取り巻く清浄のな聖なる力を知って、それが聖女シスター・ノヴァであることが分かった。

「聖女シスター・ノヴァ。我ら聖女の光」

ルキアは、跪いた。

「あら、あなたはちゃんと道理を弁えているのね。嫌いじゃないわ。この身に降りかかる呪詛を解呪するために、あなたの生き血を少しもらいます。いいわね?」

「はい」

聖女シスター・ノヴァはルキアに優しかった。

とても、始祖を殺そうとした者には見えなかった。

注射器をチクリと刺されて、血を抜かれていく。

聖女シスター・ノヴァにとっても、ルキアを傷つけるのは血の帝国、つまりはブラッディ・ネイを完全に敵に回すことだと分かっているので、あえて注射器にした。

抜いたルキアの生き血をガラスのグラスに入れて、老女は祈りをこめた。

真紅の血が、金色に輝いた。

それを飲み干す。

そこに、老婆の姿はなかった。

知らない間に、ブラッディ・ネイに魂に刻み込まれた、転生しても醜くなるという呪いさえも、解呪できていた。

「ルキア。あなたは私と同等の聖女なのね。ありがとう、恩に着るわ」

美しい少女がいた。

素体であった、美しい農民の次女の姿になっていた。

「うふふふ。これで、転生しても美しくいられる」

「あの、私はもう帰ってもいいだろうか。皆が心配している」

「だめよ。あなたは切り札。あなたを追って、始祖はやってくる。あなたに呪詛をかけるわ」

「どうしてだ、聖女シスター・ノヴァ!」

「心配しないで。あなたにかける呪詛は、あくまであなたには降りかからない。始祖にふりかかる」

「浮竹殿には、そんな目にあってほしくない。呪詛をかけるというなら、例え聖女の光であるシスター・ノヴァであろうと許さない」

ゆらりと、ルキアの影から血が滲みでる。

その血は、式神となって聖女シスター・ノヴァに襲いかかった。

「な、小癪な真似を!」

その間に、ルキアは窓から飛び出していた。

ヴァンパイアのもつ翼を広げて、滑空する。そのまま、ルキアは逃げた。

「何をしているの、石田雨竜!早く、ルキアを捕まえなさい!」

「もう、ルキアさんの役目は終わったはずだ。僕は、無益な争いは好まない」

「施設の孤児たちが、どうなってもいいと?」

美しい少女は、それでも中身はやはり聖女シスター・ノヴァであった。なぜこんな性格の悪い女が聖女でいられるのだろうと思いつつも、石田は孤児たちのために決意する。

「分かった、連れ戻す」

「それでいいのよ石田雨竜。あなたはわたくしの四天王の一人。わたくしだけの言葉を聞いていればいいのだわ」

石田は、魔法で空を飛んだ。

そして羽ばたいて逃げているルキアに追いつくと、魔法でできた網をかぶせて、捕まえると大地に降り立った。

「離せ!一護!冬獅郎!」

「残念ながら、君の守護騎士たちは聖女の祈りの聖水で焼いておいたから、しばらくは使い物にならないと思うよ」

「皇族の血を、なめるな!」

ルキアは、血の刃を作り出すと、自分を戒める網を斬り裂き、石田に向かって血の刃を向けた。

それを、石田は吸収してしまった。

「な!?」

「僕は人間と名乗っているけれど、実はヴァンパイアとのクォーターでね。血の武器は、吸収できる、特殊性質をもっている。僕に血の武器は効かないよ!」

「くそっ」

ルキアは舌打ちして、それでも血でできた刃を放った。

ヴァンパイアの武器は、己の血でできたもの。

一方の滅却師である石田の武器は、弓矢であった。

「悪いけど、足を撃ち抜かせてもらう。逃げられないように」

「あう!」

びゅんと風を裂いて飛んできた弓矢は、ルキアの右足を貫通していた。

すぐに、再生が始まるはずが、始まらない。

「く、聖女の祈りの聖水か!」

「ご名答。僕が扱う弓矢の全てに、聖女の祈りの聖水を降り注いである。ヴァンパイアと敵対することを今回は念頭に入れてあるからね」

「一護!冬獅郎!」

ルキアは、石田の肩に抱きかかえられて、魔法でできた縄で戒められながら、愛しい自分を守ってくる守護騎士の名を呼んでいた。

「ルキア!」

「一護!?」

天空から降ってきた影が、踊る。

一護は、石田からルキアを奪い取ると、背後に隠した。

ブラドツェペシュをオアシスに連れていく時、乗っていたワイバーンに乗って、やってきたのでであった。古城の近くに住み着いていたのだ。

そのワイバーンに浮竹、京楽、一護、冬獅郎は乗り込んで、聖女シスター・ノヴァのいるグラム王国の聖神殿を目指している途中で、ルキアの血の匂いがして、方向転換したのであった。

「ルキア、足を怪我してる!大丈夫か!?」

「大丈夫だ。これしきの傷・・・それより、貴様と冬獅郎のほうこそ大丈夫か!?聖女の祈りの聖水で酷いやけどを負っただろう!」

「ああ、京楽さんの血で治してもらった。京楽さん、浮竹さんに血を流させたくなかったんだろうな」

「一護、ルキア!」

冬獅郎がワイバーンから降りてきて、レアメアル、ミスリルでできた剣をかまえた。

「こいつに血の武器は効かない。魔法と剣でなんとかするしかない」

「く、多勢に無勢か。僕は降参するよ」

「降参だと?」

冬獅郎が、氷の魔法を発動させながら、剣で切りかかった。

それを避けながら、石田は空に飛びあがった。

「聖女シスター・ノヴァは聖神殿ではなく、近くの館にいる。煮るなり焼くなり、好きにすればいい。もう頃合いだ。聖女シスター・ノヴァの代わりに、聖神殿は井上織姫を聖女に認定し、聖神殿のシンボルとする!」

それは、このグラム王国第一王子である、石田の政治的意味を含めた言葉であった。

「待ちやがれ、てめぇ、このまま勝ち逃げする気か!」

「機会があったら、また会おう!」

そのまま、石田は一度孤児院に行くと全員を王宮で一時的に保護し、四天王の座をいらないと言って、聖女シスター・ノヴァに・・・・・いや、聖女でなくなったシスター・ノヴァにつきつけた。

「どいつもこいつも!わたくしのお陰で、この神殿があるのに!」

シスター・ノヴァは、ご隠居様として聖神殿で巫女司祭の位を与えられることになる。


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「聖女シスター・ノヴァ。覚悟は、できているだろうな?」

始祖である浮竹の静かな怒りに、聖女シスター・ノヴァは可憐な外見で泣きだした。

「許してください、始祖。わたくしは、ただ元の美貌が欲しかっただけ。今回は死者もでていません」

「お前が海燕にしたことも、忘れろと?」

「それは・・・私ではなく、井上織姫がやったことです」

「井上織姫・・・小さな聖女として、最近有名な人間の少女か」

「そうです。恐ろしいことに、わたくしの地位をねたんで、反魂の法を使いました。証拠は、ここに」

井上織姫が反魂をしている写真が数枚、ばらまかれた。

捏造されたものだと分かっていたが、そのまま浮竹は話を進めた。

「そうか。四天王の一人だったな」

「はい」

「では、お前の監督不届きということで、お前に罪がいく。それでいいな?」

「な、始祖!それはあまりに横暴な!わたくしは、海燕に無理やり抱かれていたのですよ?始祖の力を上回るためにと!」

「醜女であったお前を抱いていたと?」

「そうです」

「ますます許せないな。あれは俺の血族であった者だ。俺のものに手を出し、そして死なせた。ルキア君をさらい、血を抜いた挙句、守護騎士であった一護君と冬獅郎君を傷つけた。全部、お前のやらかしたことだ」

聖女シスター・ノヴァは、空間転移して逃げだした。

ゆらりと空間を渡ったその先には、京楽と浮竹が待っていた。

「な、何故!ここは聖神殿の聖域!わたくし以外、入れるはずがない!」

「石田雨竜という者が、ここに入る資格であるこの金の鈴をくれた」

ちりんと、金の鈴が音をたてた。

「おのれ、石田雨竜!」

「お前は、聖女でなくなるそうだ」

「な!」

聖女シスター・ノヴァは、顔を真っ赤にした。

「そんなこと、許されると思っているの!わたくしは聖女よ!神代の時代から生きる、神族の聖女!」

「聖女を続けたいなら、聖帝国にでも帰ることだ。このグラム王国で築いた富は、石田が没収すると言っていた」

「あいつ・・・くそ、確か第一王子。くそ、くそ、くそおおおお!!!」

聖女シスター・ノヴァは、祈りの聖水を渦巻かせて、それを京楽と浮竹に浴びせた。

「浮竹に傷を負わせるわけのはいかないからね」

京楽は、血の渦で祈りの聖水を相殺させた。

「死ね!お前らヴァンパイアは、みんな死ね!」

「とうとう本性をだしたね」

京楽は、血でできた鎌をもって、それでシスター・ノヴァを袈裟懸けに切った。

「痛い!あああ、祈りの聖水よ、わたくしに力を!」

祈りの聖水で、シスター・ノヴァは傷を癒した。

肌も露わな美しい少女の見た目であったが、今は醜悪な姿になっていた。

「祈りの聖水よ、汚らわしき存在を焼き滅ぼせ!」

シーン。

祈りの聖水は、反応しなかった。

「なぜだ!」

「今、君は聖女の資格を失った。そうだね、浮竹?」

「ああ。聖神殿での、聖女認定儀式が済んだんだろう。お前はもう、聖女シスター・ノヴァではなくただのシスター・ノヴァだ。聖人ではあるだろうが、聖女ではなくなっただろう」

「どいつもこいつも!わたくしのお陰で、この神殿があるのに!」

「終わりだ、シスター・ノヴァ。聖帝国で転生して、せいぜいまた聖女になる苦労を重ねることだ」

浮竹は、始祖の血を京楽によこした。

京楽は、頷いて血の剣を作り出す。

「ああああ、許さない、お前も始祖も!この命尽きる時、お前たちには呪詛が」

言葉の途中で、シスター・ノヴァは動かなくなった。

京楽が、始祖の血を混ぜた血の剣で、その首をはねたのだ。

呪詛を与える猶予も与えなかった。

「覚えてろ・・・・始祖と、その血族」

それだけ言い残して、シスター・ノヴァは死んだ。

死んだといっても、女帝ブラッディ・ネイのように転生を繰り返す。

シスター・ノヴァは転生先の農民の少女の中に芽生えた。

聖女として、嬉しがられた。

ああ。

この世界は、聖帝国ならまだわたくしを聖女として必要としてくれる。

シスター・ノヴァは泣いた。

そんな感情を抱くのは、実に5千年ぶりだった。


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「ねぇ、浮竹、いいでしょ?」

「おいこら、一護君と冬獅郎君とルキア君が見てる!」

「いいじゃない。はいアーン」

京楽は、帰還した古城で戦闘人形に交じって浮竹の夕食だけ、自分で作った。

「お前の場合、カレーかオムライスか、クリームシチューかビーフシチューしかないから、飽きるんだ!」

今日の浮竹の夕食は、クリームシチューだった。

「いいじゃない。はいアーン」

しぶしぶ口を開けると、京楽は嬉しそうに浮竹の口の中にスプーンを入れる。

それを咀嚼して、浮竹は目を瞬かせた。

「このコクのある味・・・・聖女の血か。ルキア君から、さては血をもらったな」

「細かいことはいいじゃない」

ルキアは顔を赤くしていた。

浮竹と京楽が、そういう大人の関係だと知っていたが、実際目の前でみると恥ずかしい。

京楽と浮竹は慣れているので、恥ずかしいという気持ちも大分薄れている。

「はいアーン」

「お前も自分で少しは食べろ!」

スプーンをひったくって、京楽の口に入れてやった。

「うん、流石聖女の血の隠し味。すごくおいしく仕上がってるね」

「その、浮竹殿と京楽殿は、やっぱり、その、できているのか?」

「ん?ああ、京楽は性欲の塊でな。相手をするのも苦労する」

「またまた。そんな僕のことが好きなくせに」

京楽は、浮竹の頭を撫でた。

「子供扱いするな!」

「かわいいねぇ、浮竹は」

真っ赤になってわめく浮竹を、一護と冬獅郎は冷めた視線で見つめていた。

「なぁ、始祖って男が好きなのか?」

「さぁ」

「ブラッディ・ネイも女のくせに少女が好きだよな。始祖と始祖に近い者は、同性愛者の傾向があるって聞いたけど、本当かもな」

「さぁ、どうだろな」

一護の言葉に、冬獅郎が適当に相槌を打って返していた。

「始祖って、よくわからねぇ」

冬獅郎は、頭を抱えるのだった。

そんな和やかな夕食が終わり、一護と冬獅郎とルキアは、血の帝国に帰っていった。

「ああ、ポチに夕食やるの忘れてた。ほらポチ、ご飯だぞ」

浮竹は、古城でミミックを飼っている。

名前はポチ。

性格は狂暴で、よく浮竹を食べた。

「暗いよ~怖いよ~狭いよ~息苦しいよ~~」

ポチに上半身を食われて、浮竹はいつものように叫んでいた。それを京楽が助けた。

「全く、浮竹は学習能力ってものがないねぇ。ポチに餌を与える時は、近寄りすぎないようにって言ってるじゃない」

「だって、ポチを見るとつい宝箱を漁りたくなるんだ」

「普段は宝箱の形してるからね。でもポチを倒さない限り、宝箱は・・って、その宝石は?」

「ポチの中にあった」

浮竹の手の中には、5カラットはあるかというサファイアがあった。

「ああ、ミミックの中には一定期間で宝物を変える個体がいるからね。ちょうどその時期なんだろう」

「やった、ポチから得た宝物だ!ポチ、ドラゴンのステーキだぞ」

「ちょっと浮竹!何さり気なく、ドラゴンのステーキなんてアイテムポケットから出してるの!そもそも、ドラゴン退治に行った時のステーキ、まだ残してたの!」

ついこの間、冒険者稼業でドラゴン退治をしたのだ。

E級ランクの冒険者がドラゴンを退治したと大騒ぎになった。

ドラゴンは、とにかく無駄がない。その骨や牙や爪は武器に、鱗は防具になった。

また、血は錬金術で必要となる素材として高い。肉は食用になり、霜降り和牛も目じゃない値段がつく。

ドラゴンの肉は、肉食であるのとても美味であった。

好事家は大金をはたいて、ドラゴンの肉を欲しがる。

冒険者ギルドに行った時、ドラゴンの素材を全て売り払った。ドラゴンを倒したことで、自動的にAランクになっていた。

懐が潤いまくりの二人を狙って、冒険者ギルドから出た二人を、悪そうな顔のAランク冒険者が取り囲んだ。

「その懐の金、それにアイテムポケットを置いていきな」

「断る」

「なにぃ、死にたいのか!」

「死にたいのは、お前たちのほうだろう」

浮竹は、瞳を真紅にして、冒険者を威圧した。

「なんだこいつ!普通の人間じゃない!?真紅の瞳・・・・ヴァンパイアだ!」

「ひいい、なんで日中にヴァンパイアが活動してるんだ!逃げろ、血を吸われるぞ!」

逃げようとする冒険者から、浮竹の代わりに京楽が、記憶を奪っていく。

縄でしばりあげて、冒険者ギルドに連れていくと、犯罪まがいのことをしている冒険者で、指名手配がかかっていることが分かって、報酬金金貨20枚をもらった。

それから、Aランク冒険者として依頼を請け負ってくれと言われたが、断った。

ドラゴン退治のことは、ギルド職員も冒険者たちからも記憶を奪って、忘れさせた。ただ、Aランクの冒険者がドラゴンを退治したことにはなっているが、それが浮竹と京楽であることを忘れさせた。

「ドラゴンのステーキ、美味しいんだよな」

夕食を食べた後なのに、浮竹はそう言って、ドラゴンのステーキを一枚食べてしまった。

「ドラゴンを食べるなんて・・・・もぐもぐ、ドラゴンに対する、もぐもぐ、冒涜だよ、もぐもぐ」

「ドラゴンのステーキ食いながら、何を言っている」

浮竹は、もう一枚ドラゴンのステーキを出すと、少しだけ懐いてきたポチにあげた。

ポチは、柱から繋がれた鎖の距離が大分長くなっていた。

ポチは、見事にジャンプしてドラゴンステーキだけを食べてしまった。皿は木製だったので、割れなかった。

「偉いなぁ、ポチ」

もっとくれとポチはぱかぱかと宝箱をあけて、表現するが、あいにくさっきのでドラゴンステーキは終わりだった。

「ごめんな、ポチ。またドラゴン狩ってくるから、その時はドラゴンシチューでも食わせてやるよ」

「腹ごしらえもすんだことだし、お風呂いこっか、浮竹」

「ん、ああ、そうだな」


---------------------------------------------------------------」


「やあっ」

お風呂の中で、やっていた。

京楽はその気はなかったのだが、ドラゴンステーキに精強剤の効果もあって、裸の浮竹にむらむらしてしまって、ルキアと一護と冬獅郎も帰ったことだし、ゆっくりと浮竹を味わった。

「やあ!」

背後から貫かれた結合部は、泡立っていた。

パンパンと肉のぶつかり合う音を立てて、交じりあう。

「あ、そこだめぇ!」

ごりごりと結腸にまで入り込んできた京楽の熱に、湯に浸かりながら浮竹は啼いた。

「あああ!」

浮竹は、精液をお湯の中に放っていた。

「あ、お湯が、お湯が中に!」

一度ズルリと引き抜いたものは、まだ硬さを保っていた。

すでに、2回は浮竹の中に注いでいるのに、まだ足りなかった。

「知ってる、浮竹。ドラゴンのステーキには、精強剤の効果もあるんだよ?」

「やあああ、そんなこと、知らない。やだぁっ」

「嫌だっていうわりには、ここは僕を求めてひくついているけどね?」

白い精液を垂れ流す浮竹の秘所に手を這わせる。

「やっ」

「ほら、僕を飲みこんでいく。おいしそうに」

「ああああ!」

ゆっくりと挿入される京楽の熱に、思考が麻痺していく。

「今、血を吸ってあげるから」

浮竹の肩に噛みついて、吸血した。

「ひあああ!!」

セックスの間に吸血されるのはすごい快感を伴い、浮竹は口では嫌だというが、セックス中に血を吸われるのは好きだった。

「ああ、いいね。君の中、うねって締め付けてくる」

「やぁん」

ちゃぷちゃぷと、湯が揺れる。

激しい京楽の動きに合わせて、排水溝に流れていく。

「あああ、ああ!」

ごりっと結腸をつつく熱に、浮竹は眩暈を覚えながら意識を失った。


「浮竹、浮竹?」

「あ・・・・京楽?俺はどうしたんだ」

「湯あたりだよ。のぼせちゃたみたい」

「あ、お前が!っつ!」

腰の鈍痛に、苦手である癒しの魔法をかけながら、浮竹は喉の渇きを覚えた。

「水が欲しい」

「分かったよ。今、とってくるから」

京楽は、氷の浮いた水を、コップのグラスに入れてもってきてくれた。

「あの湯、ちゃんと抜いただろうな?体液が混じった湯につかるなんて、嫌だぞ」

「もちろん抜いたよ。今、戦闘人形が掃除してる」

家事のほとんどを、浮竹の血から作り出された戦闘人形が行っていた。

浮竹は、氷の入った水を飲んだ。

「甘くて少し酸っぱい。木苺の果汁か」

「あ、よくわかったね。この前とった木苺、まだたくさん残ってるから。明日、タルトを作ってあげる」

「楽しみにしておく」

京楽の料理の腕はそこそこだ。

お菓子を作るのもうまい。もっとも、戦闘人形に手伝ってもらいながらなので、まだ自力で完全に作れるわけではなかった。

ヴァンパイアは、特に始祖とその血族は悠久を生きる。

「ドラゴンステーキか。ドラゴン退治にでも、行くかな」

浮竹は、隣国を荒らしまわっているという、ブラックドラゴンの手配書を思い出していた。

けっこうな報酬金がかかっており、Aランクパーティーが一時的にレイド、つまりは協力しあって倒そうとしたが、失敗に終わったらしい。

ドラゴンなら、たんまりと金銀財宝をもっているはずだ。

そこにいる宝箱のミミックの姿を思い描いて、浮竹は楽しそうだった。








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始祖なる者、ヴァンパイアハンター7

青年の名は、志波海燕。

かつて7千年前、始祖浮竹の血族となり、浮竹に愛され、浮竹を愛したヴァンパイアであった。

その海燕は、今ではヴァンパイアであるのに、ヴァンパイアを狩るヴァンパイアハンターになっていた。

今の海燕に、浮竹の血族であり、浮竹を愛し愛されていた頃の記憶はない。

聖女シスター・ノヴァを守護する、四天王の一人だった。

四天王といっても、聖女シスター・ノヴァがそう言っているだけで、4人いるが別に彼女を守っているわけではない。

実際、聖女シスター・ノヴァは怒りに暴走した浮竹に、一度殺されている。

殺されても死なない聖女シスター・ノヴァに、護衛などいらなかった。

四天王の一人である志波海燕の他は、人間の石田雨竜、井上織姫、茶渡泰虎であった。

四天王の名前だけもっていて、それぞればらばらに動いていた。

石田雨竜は滅却師というモンスター討伐の専門家で、井上織姫は神殿の巫女であり、茶渡泰虎は冒険者だった。

「ああ、瞳が痛い・・・この呪詛は、なぜなくらないの。もういいわ、新しい体に転生しましょう」

聖女シスター・ノヴァは自害した。

そして、その魂は別の神族の少女に宿った。

「今日から、わたくしが聖女シスター・ノヴァです」

呪詛は、転生先にまできたが、痛みは消えた。

光を失った金色の瞳で、もうこれ以上転生を繰り返しても、呪詛は魂に刻まれていて、光を取り戻すことはできないと覚悟して、始祖を憎んだ。

素体となった少女の両親は、泣いて喜んだ。

聖女シスター・ノヴァの転生先に選らばれたのは、貧しい農民の次女だった。

聖女に転生したことで、富を与えられた。

莫大な富を与えられた、その日を食べていくのも難しいはずの農民の一家は、貴族となった。

神族の暮らす聖帝国は、痩せた不毛の大地だ。オアシスを有する作物が育つ地域は、皇族直轄か、貴族の領地になっている。

神族のほとんどが農民だった。奴隷のように働かされて、涙を流すことを強制させられた。

涙を宝石にできるといっても、買い取ってくれる相手がいないと、何の意味もない。

聖帝国は、神族を外に出さないようにしていた。表向きは、鎖国ということになっている。

血の帝国と秘密裏に貿易をして、宝石の代わりに新鮮な食料と水をもらっていた。

その食料は配給制で、農民たちは苦しい生活を強いられた。

聖帝国を逃げ出す者は、後を絶たなかった。

でも、逃げ出した先で待っているのは、人間によって奴隷にされる結末であった。

自由ではあるが、常に飢えているか、自由ではないが、飢えてはいないか。

それだけの差であった。

聖女シスター・ノヴァは聖帝国と人間社会の行き来を許された、特別な存在であった。

時折、聖女シスター・ノヴァは人間の手で奴隷に落とされた者たちを買い上げて、人間の土地での平和な生活を保障した。もっとも、彼らが流す涙の宝石は聖女シスター・ノヴァの財産として扱われた。

人々は彼女こそ、神の御子、聖女であると崇めた。

聖女シスター・ノヴァは大金をもらっては、死者を蘇らせて、重篤の病の者を癒した。

時折気が向けば、平民の治療もしたが、それは名声を得るため。

聖女シスター・ノヴァの聖なる癒しの能力は、大金持ちか王侯貴族のものであった。

そんな世界の中で、四天王の一人である、井上織姫が小さな聖女として名をあげていた。

平民だけでなく、貧しい者からも一切金を取り立てないで、傷を癒した。その能力は聖女・シスター・ノヴァには至らぬものの、四肢の欠損を補うほどの治癒術をもっていた。

いずれ、聖女シスター・ノヴァに静粛されるだろう。

人々はそんなことを言って、井上織姫を守ろうとした。

結果、井上織姫に待っていたのは、幽閉であった。

けれど、そこにも貧しい者たちがおしかけて、織姫をさらい行方不明となっていて、現在は四天王は3人になっていた。

「まったく四天王なのにわたくしを裏切るなんて。孤児であったのを、育ててやった恩を仇で返すなんて信じられないわ」

井上織姫は孤児でスラム街出身であった。同時に、茶渡泰虎も同じ孤児でスラム街出身である。

だが、聖なる奇跡を起こせる織姫は、神殿の巫女として受け入れられて、高い戦闘力を有する茶渡泰虎は、時折四天王として聖女シスター・ノヴァの護衛につきながら、冒険者をやっていた。

同じ四天王の石田雨竜は、聖女シスター・ノヴァが活動する王国の王子であった。

「俺には、あんたの存在が信じられないけどなぁ。血の帝国の女帝、ブラッディ・ネイのように死しては転生を繰り返すなんて」

「わたくしは始祖の神族よ。下等なヴァンパイアなどと一緒にしないでちょうだい」

「ヴァンパイアハンターであるが、その前に俺は一人のヴァンパイアだ。あんまりコケにしてると、四天王の座を去って、血の帝国側につくぞ」

「嘘よ!今のは全部嘘!わたくしには、もうあなただけなの、海燕」

甘い声を出すが、見た目はドブスなので、海燕は少しもときめかなかった。

「このブス!いろいろ隠してるくせに」

「あら、この下まつ毛どばどば男。わたくしを疑うの?どうでもいいから、早く始祖を殺しに行きなさい」

「言っとくが、あんたの命令でいくんじゃないからな。始祖のヴァンパイアマスターを討伐できると思うと、腕が疼く」

「失敗は許さないわよ。わたくしは、お前のコアを握っているのだから」

志波海燕の命は、聖女シスター・ノヴァが握っている。

コア、即ち人間でいうところの心臓は、聖女シスター・ノヴァの手の中だった。志波海燕は、すでにこの世から死去している。

それを、聖女シスター・ノヴァが呪術で、奴隷であった神族の青年の体を依代にして、蘇らせたのだ。

神族の青年は、志波海燕として復活したが、生前の記憶はなかった。依代はヴァンパイア化を成功させていた。呪術は大成功だった。

ただ、刷り込まれるようにヴァンパイアハンターであると教えられた。

対始祖の浮竹用に、聖女シスター・ノヴァが作り出した、兵器であった。

海燕は、呪術で生き返ったが、聖なる力を宿した呪術だったので、ヴァンパイアにとって猛毒である聖女シスター・ノヴァの祈りの聖水は、効かなかった。

ただ、始祖のヴァンパイアを討ち取るために、銀の弾丸に祈りの聖水をひたし、固形化したものを弾丸の中身とした。

持っていくものは、銀の銃と聖女の血でできた血の剣、それと聖女の祈りの聖水を小瓶にいれたものをたくさん。

「待っていろ、始祖ヴァンパイア。俺が、必ず殺してみせる」


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「そして、八岐大蛇(やまたのおろち)を愛した青年は、八岐大蛇に愛されて、幸せに暮らしました」

子供向けの絵本や物語を、浮竹に読んできかせていた。

京楽は、たまに本を浮竹に読み聞かせる。

浮竹は小難しい古代の呪術書や魔法書を読むが、絵本や物語などは読まない。

そんな浮竹に、本を読んで聞かせるのが、京楽の趣味になっていた。

「八岐大蛇ってなんだ?どんなモンスターなんだ」

「これは極東の島国の話らしいけど、ヒドラみたいに複数の首をもつドラゴンもどきらしいよ」

「ドラゴンもどき?」

「大蛇ってついてあるから、蛇のモンスターなんだと思う」

「ジャイアントスネークみたいなものか。食べれるのか」

浮竹が顔を輝かせた。

「なんでそこで食べれるとかでてくるの。幸せになりましたの終わりで、いいじゃない」

「いや、食べれたら食べたいだろう」

「愛したモンスターだよ?それを食べたいの?」

「モンスターと人間は普通共存できない。それに、時にはモンスターも貴重な食料だ」

「ああ、この前食べた猪のモンスターの肉のこと?」

「あれは美味しかった。蛇も食べてみたい」

「げてもの食いになるから、やめておきなさい。普通の肉屋で蛇の肉なんて売ってないよ」

「じゃあ、今度町の冒険者ギルドで依頼を受けて、ジャイアントスネークを退治しよう。食べてみたい」

極東の島国の物語を読み聞かせたら、浮竹の興味は食のほうへと向いてしまった。

「八岐大蛇・・・・実在したら、討伐してシチューにでもするんだがな」

「食あたりおこしそうだから、実在しても食べさせないよ」

京楽は呆れていた。

ハッピーエンドものでも、悲恋ものでも、浮竹は意外な反応を示して、それが京楽の楽しみの一つでもあった。

「明日は、苺狩りに行こうよ。山の木苺が実って熟している季節だ。農家の苺でもいいけど、木苺のほうがヴァンパイアだってばれる可能性はないし、安全だから」

「ああ、いいな。明日は戦闘人形に命令して、お弁当を作ってもらおう。ハイキングも兼ねて、木苺を取りに行こう」

「いいね。じゃあ、今日はもう暗いから、おやすみ、浮竹」

京楽は、ちゅっとリップ音をたてて浮竹の額にキスをして、室内の照明を落とした。

浮竹は、寝息をたてて寝るふりをした。

そして、京楽が去っていったことを確認して、窓を開けた。

ホウホウ。

白い梟が飛んできて、浮竹の肩に止まった。

足にくくられている文をとり、読む。

「ヴァンパイアによるヴァンパイアハンター・・・・名前は、志波海燕・・・・・」

浮竹は、梟を森に返した。

町にいるヴァンパイアからの情報であった。

「ばかな。志波海燕は死んだはず。俺の腕の中で、息を引き取った。遺体は火葬したし、灰は海にまいた・・・・・まさか、反魂の!?」

浮竹が、唇を噛む。

反魂は、呪術の中でも高位で、浮竹にさえできない。

聖なる魔力をもっていないと無理だ。

普通の魔力で反魂を行うと、術者が命を落とす危険性もあったし、ただのアンデッドができあがる。

「聖なる魔力の反魂・・・聖女シスター・ノヴァ?でも、魔眼の呪いもあるし、気にしすぎか。
志波海燕をの名を語るヴァンパイアは今までもいた。きっと、気のせいだ」

そう自分に言い訳をして、浮竹はベッドに戻ると眠りについた。

その日見た夢は、懐かしいものだった。

かつて7千年前、浮竹が血族にして愛した男の夢を、一晩中見た。

朝起きると、最悪だった。

忘れていた男への恋心が復活していて、京楽にばれないように、記憶を封じこめる。


「浮竹、準備できた?ハイキング兼木苺狩り、行こうよ」

京楽は、すでに準備ができているようで、山登りに適した服装に運動靴を履いていた。

「ああ、ちょっと待ってくれ。運動靴はどこにしまったかな・・・」

「こっちでしょ」

京楽が、クローゼットを開ける。

「ああ、あった。この靴が運動靴の中では気に入っているんだ」

浮竹が休眠から復活し、活動しだしたのはここ100年と少し前くらいの出来事だ。

埃がつまっていた古城を、戦闘人形に掃除させてぴかぴかにすると、もっていた金のインゴットやら宝石やらを売り払って、人が住める状態にした。

家具は全部、人間に運んでもらったが、帰る時には記憶を消して、古城の主が美しい白い青年だということを忘れさせた。

衣服や靴は長くはもたない。

数百年の眠りについていた間にボロボロになっていて、全て買い換えた。

保存の魔法を使うこともできたが、休眠から起きる気はなかったので、保存の魔法はかけていなかった。

最近は、古城に幽霊が住んでいる、という設定になっている。

子供が悪戯心で遊びにこないように、森から古城にくる道に、阻害の魔法をかけていた。

実力のある人間、例えばヴァンパイアハンターなどが、森を抜けて古城までくることができた。

時折、阻害の魔法を乗り越えて古城にくる人間もいたが、そういう時は古城での記憶を消して、森の外で寝かせた。

モンスターに食べられないように、すぐに人が発見されやすい場所に置いたり、魔物よけの護符を与えたりもした。

「浮竹とデートだ!」

「え、ハイキングってデートになるのか?」

「なるよ。二人きりで出かけるんだもん。町をデートするのも楽しいけど、浮竹は町はあんまり好きじゃないでしょ」

「人間は、好きじゃない」

「僕は元々人間であったせいか、人間はそれなりに好きだけどね。さぁさぁ、準備ができたら出発しよう」

朝の早いうちから、戦闘人形に頼んでお弁当を2人分作ってもらっていた。

そのお弁当と、木苺を摘むたのめ籠を手に、二人は山に登って行った。


「お、生ってるね。どれどれ」

京楽が、早速見つけた木苺を摘み取って食べた。

「うん、甘くていいかんじ。浮竹、向こうにも実ってるから、まずは今食べる分を取ろう」

ハイキングも兼ねていたので、運動はそこそこしたはずだ。

浮竹は、食べる分だけと言われたのに、大量に木苺を摘んだ。

「そんなに摘み取って、どうするのさ。持って帰るの、大変だよ」

「いや、アイテムポケットあるだろう」

ぽんと、京楽が掌を手で叩いた。

「その手があったか。アイテムポケットに入れればいいんだね」

「摘んだままいれるなよ。ちゃんと籠とかに入れてから収納しろよ。そのまま入れると、他のアイテムポケットに入っているのとごちゃ混ぜになる」

浮竹は、アイテムポケットから、いくつかの空の籠を出して、代わりに木苺でいっぱいになった籠をアイテムポケットに収納した。

「木苺のタルト、ケーキ、ジュース、ジャム。いろいろ作れそうだね」

京楽は、暇なので家事をしはじめていた。

最近の夕食は、デザートだけでなくメインディッシュも、京楽が調理したものが出てくる。

シェフの腕をもつ戦闘人形にいろいろ教わって、いろんなメニューを作れるようになっていた。

二人では摘み取り終わるのに日が暮れてしまうと、浮竹は戦闘人形を作りだして、木苺を摘み取らせた。

「この辺にしておこう。全部とってしまうと、生態系に影響がでそうだ」

まだたっぷりと木苺は残っていたが、動物やモンスターのために残すことにした。

「けっこう摘み取ったね。1年は、木苺に困らないんじゃない?」

アイテムポケットの中身は、時間の経過が止まっているので、アイテムポケットにいれた木苺が腐ることはない。

「毎日木苺は飽きるから、毎日はやめてくれよ」

「えー。せっかく収穫したんだから、しばらくは木苺のメニュー、食べてもらうから」

「仕方ないな。もう日が暮れる。帰りは、空間転移魔法で帰ろう」

「浮竹、空間転移魔法も使えるなら、はじめからここに来ればよかったのに」

そんな京楽の言葉に、浮竹は首を横に振った。

「一度訪れた場所じゃないと、空間転移魔法は使えない。それに、消費魔力が多すぎて、1日1回が限度だ」

「じゃあ、今日はもう戻ろうか」

「ああ」

浮竹も京楽も知らなかった。

留守を任せていた、戦闘人形がヴァンパイアハンターに殺されていたなんて。


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「どうなっている!生きている戦闘人形はいないのか!」

血まみれになって倒れている、戦闘人形のリーダーの元へ駆けつけた。

リーダーの戦闘人形は、意思をある程度もち、会話が成り立つ。

「どうしたんだ!」

「志波海燕様が・・・・・」

「海燕が、どうしたんだ!」

「ヴァンパイアであられるのに、ヴァンパイアハンターでした。気をつけてください、マスター。あの方は、もう昔の・・・・・」

ことり。

戦闘人形は、それだけを口にすると腕を地面に落として、息絶えてしまった。

「海燕・・・やはり、お前はヴァンパイアハンターなのか!」

「海燕って誰、浮竹」

「京楽、嫉妬はするな。7千年前、俺が愛して血族にしたヴァンパイアだ」

「君は、ブラドツェペシュ以外にも、そんな人がいたの?」

「俺は8千年を生きている。5千年は休眠して過ごしたが、あとの3千年は生きて過ごしていた。孤独に堪え切れず、血族にしたのは5人。そのうちの一人が志波海燕だ。ブラドツェペシュは血族していなかったので、入っていない」

「君は僕のものだよ!」

京楽は、浮竹を抱き寄せた。

「分かっている。今は、お前だけだ」

京楽を抱きしめ返す。

「戦闘人形を皆殺しにしたってことは、それなりの力のあるヴァンパイアハンターだね。ヴァンパイアでありながら、ヴァンパイアハンターだなんて。例え、昔の浮竹の恋人でも、僕は容赦しないよ」

「いやあ、そのほうがありがたいな」

志波海燕だった。

聖女シスター・ノヴァの血、それも祈りの聖水を含んだものを、刃にした剣で、浮竹は心臓を突きさされていた。

「海燕・・・・お前は・・・・ごほっ」

大量に吐血する浮竹を見て、京楽の血の暴走が始まる。

「海燕クンだっけ?死んでよ」

血でできた真空のカマイタチを、海燕に向かって放つ。

それを、海燕は聖女の剣で弾き飛ばした。

「浮竹!」

浮竹は、血の結界をはって、携帯していた人工血液剤を噛み砕き、心臓の傷を癒していた。

「大丈夫だ・・・急所だが、俺は死なない」

空間転移魔法で、魔力をごっそり持っていかれていたが、心臓を貫かれ時、必死で血の膜をはって、直撃を避けた。

「へぇ、始祖ってほんとに死なないんだな。でも、聖女の祈りの聖水を浴びれば、やけどをするよな?」

浮竹のはった結界を無理やりこじ開けて、海燕は聖水の入った小瓶を破壊して、浮竹に浴びせた。

「ああああ!!!!」

じゅうじゅうと、肉の焼ける匂いがした。

「いい匂い。うまそうだ。殺す前に、血を飲んでやろうか」

「俺は死なない。何をされても死なない」

「始祖ってのは厄介だなぁ」

海燕は、我を忘れて切りかかってくる、京楽の血の刃を後ろから受けて弾いた。

「許さない。浮竹を傷つけた。僕は君を許さない。死んでよ」

白哉の時とは比べ物にならない魔力が、京楽の手に集まる。

「ヘルインフェルノ!」

「な、お前、魔法が使えたのか!?聖女シスター・ノヴァの話では、身体強化とエンチャント系の魔法なだけのはずだ!」

「へぇ、君、聖女シスター・ノヴァの知り合いなんだ。ますます許せない」

「聖女シスター・ノヴァの四天王、志波海燕だ」

「どうでもいいよ、そんなこと」

京楽は、自分に宿った浮竹の魔力で、浮竹の代わりに魔法を放つ。

暴走状態に陥らなくてもできるが、暴走状態のほうが魔法は使いやすい。

「ボルケーノトライアングル!」

火の魔法を受けて、炭化してしまった左腕を自分で切り落として、海燕は聖女の剣で京楽と切り結びあう。

火花が何度も散った。

「ヘルコキュートス!」

浮竹は、あくまで火の魔法が得意なだけであって、全属性の魔法を操れた。血族である京楽は、浮竹の使う魔法を使えた。

大地に足を凍らされて、海燕が舌打ちする。

自分の足を砕く。

炭化していた左腕と、砕いた足が再生していく。

凄まじい再生スピードであるが、守りががら空きだった。

京楽は、浮竹を血の結界で護りながら、微笑んだ。

「浮竹を愛していないんだね。そんな血族、いらないよね、浮竹」

「京楽、一思いに殺してやれ。反魂で生き返らされた、彷徨う亡者だ、彼は。俺が愛した志波海燕じゃない」

「反魂?なんの話だ・・・・・・」

京楽は、浮竹の流した血をボウガンの形にして、浮竹の血を弓矢にして、それは複数の形となって海燕の腹と心臓を貫いていた。

「心臓を貫いても死なない・・・浮竹の血で死なないなんて、心臓つまりはコアが違うところにあるのかい?」

始祖の血は、莫大な力を注ぎ込む。けれど、使う者次第で、猛毒にもなった。

海燕は、大量の血を吐きながら、それでも京楽に斬りかかった。

「俺は、こんなところでは死なない!俺には愛する人がいるんだ!」

海燕の傷口は、再生しなかった。

始祖の血が、海燕の再生を拒んでいるのだ。

「もう楽になってしまいなよ」

京楽は、海燕の心臓をまた刺していた。大量の血を流すが、まだ海燕が息絶える気配はない。

海燕は、せめてと、聖女の剣についた始祖の血をなめて口にした。

光が煌めいた。

「俺は・・・そうか。反魂か。愛していた、浮竹・・・・」

「海燕?」

血の結界から出ようとする浮竹を、京楽が押しとどめる。

「せめて、お前の手で葬ってくれ」

「海燕、お前、まさか記憶が戻ったのか?」

「浮竹、だめだよ!危ない!」

浮竹は京楽の血の結界を破り、海燕を抱きしめた。

「愛していたよ、海燕。俺の、血族よ」

「俺も愛していた、浮竹。俺は、もう死んでいるんだな。ここにいるのは、反魂で生き返らされた、俺の亡霊か。肉体の元になっているのは、神族の青年か。かわいそうだが、一緒にいこう」

「京楽、これは俺の我儘だ」

浮竹は、京楽に微笑みを向けて、海燕がもつ聖女の剣で、自分ごと海燕を刺していた。

「ごふっ・・・・。だめだ、俺の心臓であるコアは、聖女シスター・ノヴァの手の中だ。こんなんじゃ、死なない」

「灰になれば、死ぬか?」

「ああ。愛していた浮竹――――」

「ヘルインフェルノ!」

浮竹は、自分ごと海燕を地獄の業火で燃やした。

残ったものは、灰になった海燕と、やけどを負った浮竹。

「浮竹・・・・・・」

「絶対に許さない、聖女シスター・ノヴァ。死者を弄ぶだなんて」

しゅうしゅうと、傷ついた体を再生させながら、浮竹は泣いていた。

「泣かないで、浮竹」

「京楽。今だけは、今だけは他の男のことを想い、涙する俺を許してくれ」

「うん。許すよ」

「うわあああああ」

浮竹は泣いた。

今まで生きてきた中で、泣いたことはあるが、誰かのために泣くことは少なかった。

「愛していたんだ。お前を。海燕。俺の初めての血族であり、俺の恋人だったお前を」

それを、京楽は複雑な気持ちで見ていた。

そっと抱きしめると、浮竹は涙を流したまま京楽に抱きついた。

「京楽。お前は、こんなことにはなるな。お前だけは、俺の傍にいてくれ」

「うん。約束するよ。僕はずっと君の傍にいる。僕が死ぬ時は、浮竹、君も、死んで?」

死んだ海燕のために涙する浮竹を、強く抱きしめた。

嫉妬の感情は、不思議と沸いてこなった。

「約束だ」

唇を重ね合った。

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「ああもう、どいつもこいつも!使えない!ええい、石田雨竜はいるか!茶渡泰虎でもいい!」

聖女シスター・ノヴァは、砕け散ってしまった海燕のコアを、その破片を踏みつけていた。

「あーあ。兄様を怒らせちゃったねぇ、聖女シスター・ノヴァ」

「ブラッディ・ネイ!?ばかな、血の帝国から出られないはずだわ!今のお前は、赤子!」

「うふふふ。ボクはねぇ、兄様のことが大好きだけどさぁ、兄様を助けるつもりはないんだけど、今回はねぇ。ちょっと、ボクも海燕のこと、好きだったからさぁ。だから、ねぇ?」

神族の少女に降臨したブラッディ・ネイは、聖女シスター・ノヴァに血でできた短剣を向けた。

「転生しても、転生しても、醜い姿で生まれてくるのは、ボクのせいだよ」

「何!」

「ボクが、兄様に恋慕する君に、呪いをかけたのさ。何度生まれ出でても、同じ姿形になるように。今度は、もっと醜くくなればいい。そうだね、しわくちゃのお婆さんになっちゃいないよ」

「ぎゃああああああああああ」

全身を焼く呪いの炎。ブラッディ・ネイは、血の刃の短剣を、聖女シスター・ノヴァの心臓に突き立てた。それは呪いの言霊をなって、聖女シスター・ノヴァの全身を巡っていった。

炎の後には、醜いしわくちゃの老婆が立っていた。

呪いが強すぎて、浮竹の呪いの魔眼は上書きされていた。

光を戻した聖女シスター・ノヴァは鏡で自分の姿を見た。

老婆、しかも醜い。

「いやああああ!!わたくしの、わたくしの顔が、体が!若いわたくしの体が!」

「あははははは!ざまーないね、聖女シスター・ノヴァ。せいぜい、信者に愛想つかされないように、がんばるんだよ」

ブラッディ・ネイがかけた呪いは、転生しても転生しても醜い老婆になる呪い。

ブラッディ・ネイの降臨が終わった神族の少女は、ヴァンパイアになっていた。

「ああ、美味しい、美味しい」

「いやあああ、わたくしの血を吸わないで!こんな体では、魔法が!」

聖女シスター・ノヴァの悲鳴を聞いて駆けつけてきた者が見たのは、しわくちゃの醜い老婆の干からびた死体だった。

ヴァンパイアになった少女は、銀の武器で殺された。


「あはははははは!」

赤子の姿のまま、血の帝国の後宮で、ブラッディ・ネイは笑っていた。

「醜いね、なんて醜いんだろう、聖女シスター・ノヴァ」

自らの子に転生させられたブラッディ・ネイは、狂ったように笑い続けた。

「兄様。愛してるよ、兄様。兄様は、ボクだけのものだ」

ブラッディ・ネイの狂気にあてられて、後宮の少女たちは次々と意識をなくしいくのだった。


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「愛してるよ、十四郎」

「あ、春水」

浮竹と京楽は、同じベッドの上睦みあっていた。

「あ、あ、愛してる、春水、春水」

愛しい血族の男は、愛しい始祖を貫きながら揺すぶった。

「あ、あ、あ、だめぇ、奥はだめ!」

「奥、ごりごりされるの、大好きでしょ?」

「だめぇ!」

浮竹の蕾に入り込んだ京楽の熱は、浮竹の前立腺をすりあげながら、最奥の結腸をまで入り込んでいた。

「ああああ!!」

揺さぶられて、突き上げられて、浮竹は吐精していた。

「やっ!いったから、いったからもう!」

「そういえば、吸血まだ今日はしてなかったよね」

海燕のせいで負った怪我は、治りにくい聖女の祈りの聖水でできいた。

京楽は、自分の血を滴らせて、浮竹の傷を治癒した。

浮竹の白い肌には、やけどの痕も、剣で斬られた痕も残っていなかった。

「あ、今日はだめ!血を失いすぎたから、だめぇ」

「人工血液、ちゃんと準備してあるから大丈夫」

京楽は、浮竹の心臓の位置に牙を突き立てた。

深く牙を突き立てて、心臓の血を嚥下する。

「あ、あああ、心臓が、焼ける!」

焼けるような快感を与えられて、どちゅんと最奥を突きあげられて、浮竹はオーガズムでまたいっていた。

「出すよ。君の中に僕のザーメンたっぷり出すから、孕んでね」

「あ、孕んじゃう!やだ、やぁっ」

ドクドクと、大量の京楽の精液を胎の奥で受け止めながら、浮竹は京楽の首に手を回した。

「ん?」

「お返しだ」

京楽は、浮竹に首筋を噛まれ、大量に吸血されて、貧血に陥った。

二人仲良く、人工血液を口にした。

「僕は君と違って、すぐには人工血液を自分の血液に還元できないんだよ。少しは容赦してよ」

「俺の体を散々弄んでおいて」

「いや、ごめん。でも愛してるよ、十四郎。君になら、体中の血液だってあげる」

「そんなものいらん。意趣返しで噛みついて吸血しただけだ。血族の血を飲んで生き延びるほど、乾いていない」

浮竹は、頬を膨らませてすねていた。

「どうしたの、浮竹」

「木苺のタルトが食べたい」

「はいはい、すぐ作ってあげるから」

「木苺の入った果物の蜂蜜漬けも食べたい。あと、木苺100%ジュースが飲みたい」

「注文が多いねぇ」

「腹が減った」

ヴァンパイアは人の食べ物も食べる。

渇きを覚えた時だけ、人工血液や人間の血を口にした。

「隠し味は、処女の血がいい」

「ちょっと、無理言わないでよ。さすがにこんな時間に町をうろついて、孤児の子らの血を抜いていてたら、見つかってしまう」

「冗談だ」

嘘とも冗談ともとれる言葉に、京楽はため息をついた。

浮竹はその気はなかったのだが、京楽が海燕のことをまだ思う浮竹の中の海燕に嫉妬して、浮竹を自分のものだと分からせるために、強制的に抱いたせいであった。

頬を膨らませて、飯を強請る浮竹は可愛かった。

「今作るから、ちょっとまってて」

「寝ておく。完成したら、起こせ」

「分かったよ。まったくもう、仕方ないね」

きょらくは、浮竹に甘い。浮竹もまた京楽に甘いが、今日だけは浮竹は京楽に抱かれたくなかったのだ。

否が応にも、海燕と体を重ねた記憶が蘇った。

京楽が残したキスマークを指で辿りなはら、浮竹は眠りへと落ちていく。

浮竹が今愛する者は、京楽ただ一人。

それを、京楽もまた理解していた。

外では、雨が降っていた。

久しぶりの、嵐にになりそうだった。


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「え、海燕君が死んだ!?それに聖女シスター・ノヴァ。その体はなんですか。本当に聖女シスター・ノヴァなのですか!」

石田は、突然の訃報に、立ち上がっていた。

「女帝ブラッディ・ネイに呪詛を受けた。その結果がこれだわ」

しわくちゃの醜い老婆は、神聖な力を見せた。

その力は、確かに聖女シスター・ノヴァのものであった。

「その呪詛を解く方法はないのですか」

「同じ聖女の血。血の帝国の聖女、朽木ルキアの生き血がいるわ」

「僕が、血の帝国に赴いて、聖女朽木ルキアをさらってきましょう」

「たのむわよ、雨竜。もう、わたくしにはお前くらいしか、頼れる者がいないのです」

石田雨竜は、ヴァンパイアロードを退治したこともある、凄腕のモンスターハンターであった。

人間の雨竜にとって、ヴァンパイアもまたモンスターであった。












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始祖なる者、ヴァンパイアハンター6

「わたくしは美しくなりたい。始祖の血を得れば、きっと美しくなれる。ああ、待っていて信者たち。美しくなったわたくしを見て」

聖女シスター・ノヴァは神代から生きる神族。転生をくりかえし、ブラッディ・ネイのように少女の中に転生しては聖女となった。

彼女には一つの悩みがあった。

それは容姿だ。

どんなに美しい少女に転生しても、前と同じ外見になるのだ。

痩せこけた、そばかすだらけの、醜女になる。それがたまらなく嫌だった。ブラッディ・ネイから血をもらい、美しくなろうとしたが失敗した。

始祖である浮竹に、魔法で消し炭にされた。

あの恐怖を思い出しつつ、聖女シスター・ノヴァは血の帝国に行った時、暗示をかけて服従させた朽木白哉を連れていた。

「わたくしのかわいい白哉。さぁ、始祖を殺してしまいなさい」

「兄は・・。誰だ」

「わたくし?わたくしのあなたの主」

「兄のために、始祖を殺そう。愛しい兄のために」

暗示で、聖女シスター・ノヴァは、白哉の中ではルキアになっていた。

ルキアと似ても似つかぬ醜女が、ルキアに見えた。

白哉の催眠暗示は深い。

少しのことでは、解けないないだろう。


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「はい、浮竹あーん」

「一人で食べれる、京楽」

「だめだよ。君、血を暴走させて力を使いすぎたでしょ。はい、あーん」

しつこい京楽に、浮竹も仕方なく口を開く。

オムライスだった。

最近の京楽は、料理に凝っている。だが、作られるメニューはオムライスかカレーかクリームシチュー、ビーフシチューのどれかだった。

「甘い・・・血か。また、町にいって孤児の少年か少女から、血を抜き取ったのか」

「うん」

「記憶を消し忘れたり、していないだろうな?」

「大丈夫だよ。それに忘れていたとしても、金貨10枚握らせてあるし。古城には悪霊が住み着いていて、入ったら呪われて死ぬって噂になってるから、まさか古城にヴァンパイアが住んでいて、そのヴァンパイアが料理の隠し味のためだけに、孤児の少年少女に金貨を与えて血を抜いているなんて思わないよ」

「人に吸血は、するなよ?どんなことがあっても」

人の血の味を知ってしまったヴァンパイアの中には、もう人の血しか受け付けなくなるヴァンパイアもいた。

そんなことがないように、人工血液は十分に栄養価が高くできており、人の血よりも甘い味がするように作られていた。

血の帝国にいるヴァンパイアたちは、皆、人工血液を口にして生きている。でも、その外の世界では、人工血液を口にせず、人を吸血して殺すヴァンパイアがいるのも事実だ。

だから、ヴァンパイアハンターがいる。

「人を吸血したり、しないよ。僕は君の血しか吸わない。ああ、僕も喉が渇いてきた。血を吸わせて?」

浮竹にオムライスを与えながら、京楽は瞳を真紅に輝かせた。

「お前、以前よりも血を欲しがっていないか。一度暴走したせいか・・・」

浮竹がヴァンパイアハンターに傷つけられて、怪我をした時、京楽は我を忘れて暴走した。自我があっただけまだましで、浮竹は自分の血を飲ませて、京楽の暴走を鎮めた。

そんな浮竹もまた、前回愛した神族の少女、ブラドツェペシュに起きたことを聞いて血を暴走させた。

もしも、京楽に何かあって暴走したら、京楽も止められるか分からない。

「今夜はカレーだから。楽しみにしておいてね」

「お前の作ったカレー、凄く辛いから蜂蜜と林檎をいれてやる」

「あ、酷い!妻の手料理に手を加えるだなんて!」

「誰が妻だ!」

「僕が妻」

自分を指さす京楽に、浮竹は眉を顰めた。

「ヴァンパイアが、血族にする場合通常は花嫁か花婿として迎える。京楽の場合、花嫁に・・・うーん、花婿?うーん・・・」

浮竹は首をひねった。

「どっちでもいいじゃない」

浮竹の白い髪をかきあげて、首筋を露わにすると、京楽は牙を伸ばして噛みついた。

「あっ」

吸血行為は快楽を伴う。

「やっ、京楽・・・まだ、飯の途中だぞ」

「待てない。君が欲しい」

ごくりと、京楽は浮竹の血を飲んだ。

コップ一杯分くらいを飲み干して、京楽は満足して浮竹から離れた。

「一気に飲みすぎだ、アホ!貧血になるだろうがっ」

「ほら、ちゃんと人工血液と人工血液剤用意してあるから。どっちがいい?」

「苦いから、人工血液剤はあまり好きじゃない。人工血液でいい」

ヴァンパイアで始祖である浮竹は、京楽に与えて失った血を、人工血液を口にすることで自分の血に還元できた。

「全く。昔はもっと遠慮していたのに・・・・あの頃のかわいい京楽は、何処へ行ったんだ」

「ここにいるよ。エロい君の体と血に惑わされて、君の虜になった」

「エロいっていうな」

「エロいよ・・・ほら、ねぇ?」

「んっ、やっ、やめっ・・・・・」

浮竹はオムライスを食べ終えていた。

「続きはベッドでしようか」

「バカ・・・・」

抱き上げられて、浮竹は京楽の肩に顔をおしつけて、真っ赤になった顔を見られまいとしていた。

「照れてる君も好きだよ。可愛い」

「男に向かって、可愛いはないだろ」

「そんなことはないよ。君は可愛いし綺麗だ」

どさりと、寝室の天蓋つきのキングサイズのベッドに横たえられて、浮竹は目を閉じた。

「好きだよ、十四郎」

「んっ」

京楽の舌が、浮竹の唇を舐める。

浮竹は、自分から口を開いた。

ぬめりとした京楽の舌が入ってくる。舌を絡めとられて、牙で少しだけ傷つけられて、吸血された。

「んあああ!」

「エロいね・・・・・」

「血を、吸うなっ」

「無理いわないで。僕は君の血で生きてる。君のものであり、君は僕のものだ」

「始祖である俺を、自分のものだというのはお前くらいだ」

「だって、それだけ十四郎を愛しているから」

服を脱がされて、全裸にされた。

胸のあたりにキスマークを残していく京楽は、浮竹をあおむけにして、その綺麗な背骨のラインを指でたどる。

「翼、出せる?」

「ああ・・・・・」

ヴァンパイアは、真紅や黒の翼をもつ。皮膜翼で、蝙蝠のそれに似ていた。

浮竹は、ばさりとヴァンパイアの翼を広げた。

真紅の立派な大きさの翼だった。

京楽は、久しぶりにみる浮竹の大きな翼に感嘆しながらも、翼に噛みついた。

「んんっ」

浮竹は、翼を消してしまった。

血は吸えたので、京楽はペロリと唇を舐めた。

「浮竹の翼の血って、濃いから好き」

「翼は敏感なんだ。血を吸われ続けたら、病みつきになるからしない」

「病みつきになってもいいのに。僕は、どんな浮竹でも好きだよ」

「ばかっ」

浮竹は赤くなっていた。

あおむけのまま、秘所にトロリとローションが垂らされる。

「んっ、なにこれ、冷たい」

「すぐ暖かくなるよ。ローションっていって、人間社会で最近流行ってるやつ。試しに買ってみた。通販で」

「通販って、どこから!」

「血の帝国の。古城まで届けてくれたよ」

「最近こそこそしていたのは、そのせいか」

「うーん、そうかもね。他にも、大人のグッズがいっぱいあったけど、興味なかったから、このローションってたつだけ買ってみた」

「薔薇の匂いがするな。この匂いは、嫌いじゃない」

甘い薔薇の香りがして、浮竹は心が洗われるのを感じていた。

「ちょっとだけ、媚薬成分入ってるから、気をつけてね?」

「あ!」

ローションが、京楽の指と一緒に体内に入ってきたのと同時に、スイッチを押されたかのように体が火照りだした。

「あつい、春水・・・・・・」

「あれ、もう効いてきたの?」

「春水、早く」

ぐちゅぐちゅと蕾を解していたが、いつもの潤滑油よりぬるぬるで、これなら痛みもなくするりといけそうだと判断して、京楽はそそり立つ己のものを、浮竹の蕾に押し付けた。

「あ、あ、意地悪しないでくれ」

「股閉じて?」

「ん・・・素股か?」

「最初はね。ちょっと僕も一発抜いてから、浮竹の中に入りたい」

「んっ、こうか?」

太ももを閉じた浮竹に、京楽は一物を押し付けて、強弱をつけて出し入れした。

パンパンと音がした。

「んっ、いいよ、十四郎。その調子」

「あっ、春水、俺のも触って!」

「うん、一緒にいこうか?」

「あああーーー!!」

京楽は、浮竹の太ももに精液を散らして、浮竹は京楽の手でこすられて、京楽の手の中で精を放っていた。

「まだ、体が熱い・・・」

「今、あげるからね」

正常位になり、浮竹の右足を肩にかついで、京楽は浮竹の蕾を己で抉っていた。

「ひああああ!」

浮竹は体が柔らかい。

少々の無理な体位も、受け入れた。

「んっ、ローションのせいでぬるぬるだね、お互い」

「後で、風呂にいれないと、承知、しない、から・・・ああああ!」

ズチュズチュと挿入を繰り返す。

浮竹の前立腺をすりあげて、京楽は最奥の結腸にまで入りこみ、浮竹をわざと乱暴に揺すぶった。

「あ、あ、深い、だめぇっ」

「ここ、好きでしょ?」

結腸にぐりぐりと熱をあてると、浮竹の内部が締まった。

「ああ、あ、あ・・・・」

中いきしていた。オーガズムでいっている最中の浮竹の首に噛みついて、仕上げだとばかりに吸血してやった。

「いやああああ、あああああ!!」

セックス中の吸血は気持ちよすぎて、浮竹は首を左右に振る。

白い髪が乱れて、シーツの上を泳ぐ。

「あ、あああああ!!」

浮竹は、触られずに射精していた。

昔は、触らないといけなかった。今では、オーガズムによる中いきも覚えてしまって、おまけに吸血を同時にされると快感に支配されて、意識を飛ばすこともしばしばあった。

「春水・・・」

「ん?」

浮竹は、牙を伸ばして、愛しい男の手に噛みついて吸血した。

「ああ、気持ちいいね。君の血肉になれるなら、僕は全ての血液を君にあげるよ」

「バカ、お返しに吸血してやっただけだ」

「もっとする?」

「お前は、慣れていないだろう。また今度でいい」

「ローションはどうだった。媚薬、ちょっと入ってたみたいだったけど」

真っ赤になりながら、浮竹はぼそぼそと呟いた。

「何、聞こえないんだけど」

「だから、き、きもちよかったと言っている!いつもより感じた」

「買ってよかったよ。大人のグッズは・・・十四郎、そういうの好きじゃないでしょ」

「当たり前だ。俺で遊んだら、禁欲一カ月は覚悟しておけ」

「一カ月はきついねぇ」

くすくすと、京楽は笑う。

そして、京楽の中からずるりと引き抜いた。

「あっ」

浮竹の太ももを、ローションとお互いの体液がまじった白い液体が流れていく。

「よっと」

京楽は、シーツごと京楽を抱き上げた。

「お風呂、いこうか」

「一回しかしてないが、風呂で盛るなよ」

「それは分からないなぁ」

二人は、風呂でもう二回やってしまうのであった。


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リンリン。

結界内に、侵入者がきた。

鈴の音に、迷いこんできた人か、遊びにきたヴァンパイアかと、思案を巡らせる。

音は古城の地下からしていて、誰かが血の帝国から空間転移魔法を使い、やってきたようだった。

「ルキアちゃんや一護クンたちかな?」

「何かあった時は、最初に式を放ってくると思うから、ただ遊びにきただけじゃないのか」

式は、本当にやってきた。

そこには、乱暴な文字で「兄様を止めてください」と書かれてあった。

「この文字、血でかかれてるね。兄様ってことは、白哉クンか」

「白哉が?白哉が、どうかしたのか?」

浮竹にとって、白哉は実の息子か弟のような存在だ。

古城の地下にいくと、人影があった。

「兄の首を、もらいにきた」

リィン。

音がした。

そこにいたのは、朽木白哉だった。

「散れ、千本桜・・・・・」

血でできたその刀は、無数の血の花びらとなって、浮竹と京楽に襲い掛かった。

「危ない!」

京楽が展開したシールドで、血の花びらを弾く。

「白哉!?どうしたんだ、白哉!」

「どうやら、正気じゃないようだね。操られているのかも!」

「白哉、俺だ、白哉!」

「危ない!」

浮竹を抱き抱えて、地面を飛んだ。

「兄を殺す。邪魔をするなら、血族の兄も殺す」

「白哉・・・・・・」

自分を殺そうとする白哉が信じられなくて、浮竹は血を躍らせると、白哉の全身を包み込み、動けないようにした。

いや、したつもりだった。

じゅうううと、血が焼ける音がした。

「くぅ、聖女シスター・ノヴァの祈りの聖水か!厄介な!」

白哉にとっても、毒である。

聖水がつまった小瓶を、いくつも白哉は浮竹に向かって投げた。

回避すると、白哉は血の花びらで浮竹の元へと誘導して、小瓶を破壊した。

「く・・・・・・」

じゅうじゅうと、やけどを負った。

それを見た京楽が、鳶色の瞳を真紅に変えた。

「よくも僕の浮竹を・・・・・許さない」

「京楽、相手は白哉だ!」

「誰であれ、浮竹を傷つける者は許さない」

京楽は、血の結界をはって、浮竹がこれ以上けがをしないように、閉じ込めた。

「京楽、ここから出せ!」

「だめだよ、白哉クンは君を狙っている。多分、聖女シスター・ノヴァに操られているんだろう。近くに気配はないから、暗示か何かにかかっているんだと思う」

京楽は、血の刃をいくつも作りだして、白哉の千本桜と切り結び合った。

「さすが、純血の皇族。浮竹と同じ血を、色濃く引き継いでいるだけあるね」

白哉は、生粋の皇族だ。

皇族のはじまりは、初代ブラッディ・ネイの子から続くもの。

今は同性しか愛せないブラッディ・ネイであったが、神代の頃に同じく生まれ出でた始祖に近いヴァンパイアと番になり、子をもうけた。

その子供の血が、皇族のはじまりであった。

だから、白哉もまた浮竹の血を引いていることにもなる。

ブラッディ・ネイは血を浮竹と分け合っていて、実の兄妹である。浮竹とブラッディ・ネイは同じ神から生み出された。

一方は始祖ヴァンパイアとして、永遠の死ねぬ呪いを身に受けて。もう一方は、始祖の次のヴァンパイアとして、死すれば転生することのできる呪いを受けて。

「白哉、正気に戻れ!」

浮竹がいくら叫んでも、白哉は顔色一つ変えない。

「やめろ、京楽!こんな戦い、俺は見たくない!」

「でも、ここで白哉クンを止めないと、君に危害を加える。それだけは、僕が許せない」

何度も、血の刃と血の花びらで、火花を散らした。

「白哉クン、ごめんね」

浮竹の血を媒介に、大きな鎌を血で作り出すと、それで白哉の体を斬り裂いた。袈裟懸けに斬られた体は、大量の血を流した。

「兄は・・・兄は、ルキアを殺そうとした。殺す」

しゅうしゅうと、傷口が塞がっていく。

ヴァンパイアは再生力が高いが、血の刃で負わされた怪我は再生が遅い。それが瞬時に再生することは、聖女がいる証。ルキアはいないようなので、除外されて残るは聖女シスター・ノヴァ。

「いないようで、いるのか。聖女シスター・ノヴァ!」

「うふふふふ。さぁ、存分に殺し合ってちょうだい」

「お前は、確かにあの時殺したはず!」

「あら、浮竹、忘れたの?わたくしは始祖の神族。始祖は死が遠いのよ」

同じ始祖であるが、神族の始祖は死なないわけではない。死は限りなく遠いが。何度死んでも、また同じ神族の少女の中に転生して、復活する。

「始祖の血が欲しいの。浮竹、再生するのに時間がかかるくらい、ずたずたになるといいわ。同じヴァンパイアなら、それも友なら、殺せないでしょう?」

「甘いね、聖女シスター・ノヴァ」

京楽は、白哉を血の糸で戒めて、聖女シスター・ノヴァ、正式にはその分身体に血の刃を飛ばした。

それは、分身体の首を落としていた。

「あははは、この分身体は特別製なの。わたくしの分身体を傷つけても、本物のわたくしは傷一つ負わない。さぁ、殺し合いを続けてちょうだい、白哉」

「ルキアの願いだ。兄を、殺す」

「おいおいおい。こんなブスが、ルキアちゃんに見えるのかい?」

「誰がブスだ、このもじゃひげブ男!」

「ブスにブスって言っても罰は当たらないよ。白哉クン、しっかりして。ルキアちゃんは、こんな醜女じゃないよ」

「白哉!浮竹はいいから、先にこの京楽を始末しなさい」

「分かった、ルキア。散れ、千本桜」

血でできた、桜の花びらが散っていく。

数億の血の花びらを、京楽は血のシールドで防ぎ、血の刃で白哉の心臓を貫いた。

「白哉!」

浮竹が叫んだ。

ビクンと、白哉の体がはねて、心臓の鼓動を止める。

「な、早く立ち上がって京楽を殺しなさい!白哉!」

「京楽、俺の血だ!早く白哉に飲ませろ!」

浮竹は、血の結界をこじあけて、自分の血がつまった小瓶を京楽に渡した。

白哉は、今仮死状態にあった。

京楽は、白哉の口に浮竹の血を数滴注いだ。

かっと、白哉が目を見開く。

「私は・・・・何を。ルキアは?ルキアはどこだ?」

「白哉、早く浮竹を殺してその血をわたくしにもってきなさい!」

聖女シスター・ノヴァは白哉が一度肉体的に死に、暗示が解けてることに気づいていなかった。

「兄は・・・そうか。私は兄に操られて・・すまぬ、浮竹、京楽」

「ちい、どいつもこいつも使いものにならない!こうなったら、わたくしの聖水で全部もやして・・・・・・ぎゃあああああああああああ」

浮竹の魔力を宿した、京楽が立っていた。

始祖は、血族にその力を与えることができる。

「ヘルインフェルノ」

京楽が、血の結界の中にいる浮竹の代わりに、魔法を放っていた。

「な、京楽、何故、浮竹の魔法を・・・・・・・」

「浮竹は始祖だからね。その気になれば、僕に力を宿すこともできる。浮竹、呪いの魔眼でいいのかい?」

「ああ。分身体をそれで呪えば、本体にも呪いはうつるはずだ」

浮竹は、呪術にも長けていた。

呪いの魔眼。相手の目を焼いて、未来永劫光を奪う呪詛であった。

それを、京楽は聖女シスター・ノヴァの分身体にかけようとした。

「やめて!違うの、これは、そ、そう、ブラッディ・ネイに命令されたの!信者たちを殺されたくなければ、浮竹を殺せって!」

「残念、今のブラッディ・ネイは赤子だよ。赤子でなくても、実の兄を手にかけるような愚行までする妹じゃない、ブラッディ・ネイは」

浮竹が、京楽の張った結界から出されて、一人取り残されたボロボロな、泣きじゃくる聖女シスター・ノヴァの元にやってきた。

「聖女シスター・ノヴァ。今後、俺たちに二度と関わらないと約束するなら、呪いの魔眼は・・・・」

「あはははは!死ね、死ね、死ね!」

聖女の祈りの聖水で作りあげた短剣で、聖女シスター・ノヴァは浮竹の腹部を刺していた。

「あははは、手に入れた。始祖の血だ!」

ぺろぺろと自分の手をなめる聖女シスター・ノヴァには、もう光は見えていなかった。

「いやああああああ、目が、目がああああ!何も見えない!焼けるように熱い!」

浮竹は、残像であった。

腹部を貫かれたのは、幻の浮竹。

「ヘルインフェルノ」

「アイスコキュートス」

浮竹の炎の煉獄で身を焼かれた後は、白哉の氷の魔法で凍てつかされた。

「あああ・・・・許さない。神の寵児であるこのわたくしを呪うなんて。いつか、呪いはお前を殺すだろう・・・ああ、口惜しい」

「頑丈だな。死ね」

スパン。

浮竹は、血の刃で聖女シスター・ノヴァの首をはねていた。

それでも、聖女シスター・ノヴァは動いた。

体は炭化し、氷ついているのに、まだ動いた。

「始祖の力を、なめるなよ、浮竹」

「それはこちらの台詞だ」

浮竹は、聖女シスター・ノヴァの体をみじん切りにしていた。

さすがに、もう言葉もしゃべれない。

それをさらにヘルインフェルノで焼いた。

「ああ、古城の地下がぼろぼろだ。魔法陣は幸いなことに無事だが」

京楽と白哉のぶつかりあいで、古城の地下は上の階と同じ煌びやかな空間であったが、壁にひびは入るわ、絨毯は焼け焦げて炭化しているわで、ボロボロだった。

「すまぬ、浮竹、京楽。迷惑をかけた。聖女シスター・ノヴァの傀儡にされるなど・・・・」

「白哉は悪くない。悪いのは聖女シスター・ノヴァだ。今頃、呪いでもだえ苦しんでいるだろうが。ざまぁないな」

浮竹は、意地の悪い笑みを浮かべた。

「私は、確かに死んだ。なのに、何故生きている?」

「京楽が、俺の血を切っ先に乗せた刃で、心の臓を貫いて、一時的に鼓動を止めさせた。仮死状態にして、俺の血を与えることで鼓動は復活する。これも、呪術の一種だな」

「浮竹は、呪術も使えるのか」

「伊達に、神代の時代から生きてるわけじゃあないからな」

「そうそう、あっちも凄くて・・・・・・」

京楽の悪乗りに、浮竹は顔を真っ赤にして、京楽を殴り倒した。

「何するの!?花嫁に向かって!」

「そうか、そんなプレイをしていたのか。すまぬ、気づかなかった」

「いや、違うからな、白哉!こら、京楽も何か言え!」

「あ、式がきたよ。ルキアちゃんたちがくるらしい」


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「兄様、無事でよかった!」

白哉は失踪した後、一度血の帝国に戻り、ルキアと一護と冬獅郎を殺そうとした。

だが、白哉は暗示をかけられて操られながらも、愛しいルキアとそれを守る守護騎士を殺せなかった。

ルキアは血を流したが、術で一護と冬獅郎と自分を治癒した。

そして、浮竹を殺すといっていたので、急いでいたので血文字で兄様を止めてくださいと書いて、浮竹と京楽に向かって式を飛ばした。

「白哉、これをもっていけ」

「これは?」

「俺が作ったアミュレットだ。俺より下の者に、呪われたり操られたりしなくなる」

浮竹は、蒼い宝石のついたアミュレットを白哉に渡した。

「もらっておこう。恩に着る。今回は、迷惑ばかりをかけた。すまない」

「また遊びにこいよ!」

「兄も、たまにはこちら側に遊びにくるといい」

「ああ、今度血の帝国にいくさ」

「僕も一緒にね」

「京楽は、ついてこなくてもいいんだぞ」

「あ、酷い。さっきの花嫁プレイの件、まだ怒ってる?」

「知るか!」

ぽかりと、京楽の頭を殴って、浮竹は笑顔で皆を見送った。

皆が去ってから、京楽は真剣な顔つきになった。

「浮竹、ほら、脱いで!」

「な、なんだ!こんなところで盛るのか!?」

「違うよ。聖女シスター・ノヴァの聖水の中身をかけられた場所のやけど、まだ治ってないでしょ!ルキアちゃんに治してもらえばよかったのに」

「ルキアくんには、いらぬ心配をかけたくない」

「頑固者なんだから!ほら、僕の血で癒すから、服脱いで」

浮竹は、素直に上の服を脱いだ。

聖女の祈りの聖水は、始祖にとって一番の毒だ。やけどは再生しつつあったが、まだやけどとして残っていた。

「君の、シミひとつない白い肌に、やけどの痕が残るなんてごめんだよ」

京楽は、自分で指を噛み切って、滴る血で浮竹のやけどを癒した。

血族の血は、時に主にとって薬となる。始祖の血は、血族の薬ににもなる。お互いが薬になれるのだ。

どちらかが再生に間に合わぬ傷を負うと、どちらかが血を与えた。

「これで、聖女シスター・ノヴァもこりればいいんだけどな」

「どうだろうね。一層僕らを殺したがってるじゃないかな」

「聖女シスター・ノヴァ如きで散る命じゃない、俺も京楽も」

「うん。あの醜女の最期の姿、傑作だったね」

「下手な芝居ではぐらかそうとしても、見え見えだからな」

京楽は、浮竹を抱きしめた。

「京楽?」

「浮竹にやけどを負わせた、聖女シスター・ノヴァは僕が殺す」

「もう大丈夫だ。それに、俺たちは平和主義者だ。多分。一応。喧嘩を売られない限り、動くことはあまりない」

「うん。十四郎、大好きだよ。愛してる」

「俺も愛している、春水」

ベッドに押し倒されて、浮竹は目を閉じた。

啄むようなキスが降ってくる。

血族にした男の下で、始祖は喘ぎ、乱れた。


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「あああああああ!あ”あ”あ”!目が、目が見えない!目が痛い!痛すぎて何もできない!」

聖女シスター・ノヴァは人間社会にある、聖神殿の聖域で、身悶えていた。

「殺す!浮竹も京楽も白哉も!」

「そんなことがきるのか、聖女シスター・ノヴァ」

「ヴァンパイアでありながら、ヴァンパイアを狩るハンター、志波海燕ですか。あああ、痛い、痛い!」

「うるさいな、ババァ」

「きいいい!でも、初めて血族にした男が生きていて、ヴァンパイアハンターをしていると知ったら、あの綺麗な顔は歪むのでしょうね。ああ、想像するだけで濡れてきたわ。さぁ、わたくしを抱きなさい、海燕」

「醜女だから、あんまりその気にはなれないんだけどなぁ」

「愛する、始祖を思い浮かべればいいでしょう。私も始祖。種族は違えど、血の味は同じはず」

海燕は、聖女シスター・ノヴァを抱き、血を啜った。

「ああ、いい!もっと、もっと!」

「おいブス。聖水ではなく、お前の血を武器にしたい。聖女の祈りこもった聖なる血の武器。強そうじゃないか?」

「あら、それはいい考えね。ああ、痛い、痛い・・・・始祖め、今度こそ、殺して血を飲んでやる」

志波海燕。

かつて7千年前、浮竹が血族として迎え入れ、愛した男の名であった。










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始祖なる者、ヴァンパイアハンター5

ブラドツェペシュ。

かの有名な串刺し王の名であり、少女の名であった。

少女は神族の、聖皇帝の愛娘であった。皇女であった。

その時代、聖帝国は血の帝国と戦争を起こした。勝者はどちらでもなく、引き分けに終わった。

というか、ヴァンパイアが神族に血を与えて、聖帝国から血の帝国に寝返る者が後を絶たなかった。

寝返った者を、神族は癒して元の神族に戻すことができた。

神族は攻めに転じれば、ヴァンパイアに血を与えられて同胞を失った。

防御に転じれば、ヴァンパイアは何もできず、ただ時間だけが過ぎていった。

神族の寿命は三百年。

戦を起こして、もう三十年も経っていた。

いい加減、決着をというところで、その時代の聖皇帝ブラドウェルイの愛娘であり、第一皇位継承者であった皇女ブラドツェペシュをよこすのなら、休戦してもいいと、6代目ブラッディ・ネイがそう言ってきた。

ブラッディ・ネイは幼い少女を愛する。後宮に十代前半の少女を置いて、おもちゃにして遊んでいる。

そんな話を耳にしていたので、聖皇帝は、それを却下とした。

けれど、ブラドツェペシュは聖帝国のためにと、人未御供よろしく、一人で血の帝国まで赴いた。守る者は、聖女シスター・ノヴァただ一人。

聖女シスター・ノヴァは人間の世界で生活している。それを、聖皇帝が切り札として戦争に徴収したのだ。

シスター・ノヴァは多くの血を与えられた神族を癒して、元の神族に戻した。

ブラドツェペシュは、ブラッディ・ネイと会った。

「君がブラドツェペシュか。ボクはブラッディ・ネイ。そこの聖女シスター・ノヴァの友人さ」

ブラッディ・ネイは美しかった。

ブラドツェペシュも美しかった。

だが、聖女シスター・ノヴァは見た目は普通の地味な少女だった。

「これで、契約は成立だね、聖女シスター・ノヴァ?」

「ええ。今後千年、血の帝国は聖帝国に手を出さない。6代目ブラッディ・ネイの名においての調印を、ここに」

「ただし、6代目だけだからね。ボクが死んで7代目になったら、休戦協定はなしとする」

「約束が違います!ブラッディ・ネイ!」

ブラドツェペシュは、ブラッディ・ネイに縋りついた。

「君は、ボクの下で可愛く囀っていればいいのさ」

ブラドツェペシュは、金色の瞳を潤ませた。

涙を零した。

それは宝石となった。

「オパールか。やっぱり、神族はいいね。涙が宝石になるから、荒れ果てた大地でも生きていける。鎖国していると言いながら、血の帝国と秘密で貿易してるから、どっちも潤う。血の帝国は美しい宝石を。聖帝国は貴重な食料と水を」

神族の涙は、宝石となった。

それを知った人間たちは、神族を奴隷にした。その奴隷を、ブラッディ・ネイがまるごと買い上げて保護した。

その保護した奴隷を、ブラッディ・ネイは解放せず、血の帝国の奴隷とした。

神族は涙を流すことを強制させられたが、人間の奴隷であった頃のように、犬畜生のように扱われることはなく、衣食住を保証されて、自由もあった。

血の帝国で、聖帝国出身の神族は増えていった。

そんな矢先に、聖皇帝が、ブラッディ・ネイが神族を虐げていると、戦争を起こした。

実際は、保護しているのだが。

争いは憶測を呼び、争いは鎮火することなく全土に広まった。

けれど、ブラッディ・ネイは決して保護した神族を殺さなかった。

社会的な地位を得ていた神族たちは、元の故郷に戻ることを拒んだ。

聖帝国とは名ばかりで、荒れ果てた大地が故郷だった。ろくな食べ物さえなかった。血の帝国は、穏やか気候に、太陽の光はさしこまないが、魔法の人工灯が美しい、故郷とは比べ物にならない天国だった。


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「ブラドツェペシュ。どうしても、行くのか?」

「ああ、浮竹。私は、ブラッディ・ネイのものになる」

「お前も聖女シスター・ノヴァもバカだ!あんな妹の言いなりになる必要なんてないのに!」

「浮竹十四郎。私が愛した、ヴァンパイア。記憶を、消すよ。あなたの中から、私のことの記憶を」

「やめてくれ!俺はお前を愛しているんだ!」

「私は神族、あなたは始祖ヴァンパイア。一緒になることはできない。世界が、それを許さない」

「ブラドツェペシュ。せめて、これを君に」

あげたのは、浮竹の血。

始祖の血を飲めば、始祖の血族となる。

「いつか、飲むかもしれない。でも、保留しておく」

「愛している、ブラド」

「私も愛していた、浮竹十四郎」

もう、八百年以上も前の、出来事。


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「浮竹ー起きてよ」

「んーブラドツェペシュ、愛してる・・・・んー・・・・・」

「浮竹?ブラドツェペシュって誰?」

京楽は、浮竹を起こした。

「え?誰だろう・・・なんだか、胸が痛い。頭も痛い」

「変な夢でも見たの?」

「そうみたいだ。なんだろう。悲しくないのに、涙が・・・・・」

浮竹は、翡翠の瞳から涙を零した。

それはこつんと音を立てて、エメラルドになった。

「え。どうなってるの」

「俺も分からない。涙が宝石になるのは、神族ならではのものだ」

「今の君・・・ヴァンパイアじゃないね。神族なの?」

「え・・・・・」

涙がまた流れた。

コツン。

それは音をたてて、オパールになった。

「俺は・・・ブラドツェペシュを愛して・・・ブラッディ・ネイと約束を・・・・聖女シスター・ノヴァと契約を・・・・・」

そのまま、浮竹は意識を失った。

意識を失っている間に、浮竹の体は元の始祖ヴァンパイアに戻っていた。


---------------------------


浮竹は、一週間意識を取り戻さなかった。

病気か何かかとルキアを呼んでみたが、深い昏睡状態になっているだけで、異常はないという。

その昏睡状態は、ヴァンパイアの休眠に似ていて、京楽は不安になった。

「浮竹殿は、休眠に入ったのではないのですか?」

「休眠に入るなら、僕に何か言うはずだ」

何も言わず、休眠に入るほど、浮竹は薄情ではない。

「とにかく、時間が経過すれば起きるはずです。一護、例のものを」

「ほら、京楽さん」

ルキアについてきていた一護は、小瓶に入った赤い液体を京楽に渡した。

「なんだい、これは」

「私の血と、私が祈りをこめた聖水を混ぜたものです。分からない症状にも効きます。近頃、血の帝国では突然休眠に入るヴァンパイアが増えています。その者らにこれを飲ませたら、覚醒しました。浮竹殿に飲ましてやるのがよいでしょう」

「ありがとう、ルキアちゃん!」

「それより、浮竹殿の体が僅かな時間とはいえ、神族になったのが気にかかります。存在変化の呪いでしょうか・・・・・」

「それは僕も分からない」

浮竹は呪いにはかかっていないようで、実は呪いにかかっていた。でもそれが平常だし解呪できない。

不死の呪いであった。

創造神の子として生まれた始祖として、不死の呪いを魂に刻まれた。死することができぬ呪い。たとえ死んでも蘇る。肉体を失っても肉体は再生し、生き続ける。

そんな孤独に耐えきれず、浮竹は休眠を選んだ。

時折活動しては、血族の者を作って愛した。京楽もそんな愛されし血族であった。

京楽は怖かった。

いつか自分が、浮竹をおいて死んでしまうのではないか。

それは浮竹も同じだだった。

いつか自分を置いて、京楽は死んでしまうのではないか。

触れてはいけぬタブーを口にせぬまま、過ごしてきた。

一護とルキアが帰ってからも、浮竹は眠り続けた。

自然に起きるのを待つつもりだったが、一週間経った時点で我慢の限界だった。

「浮竹、起きて・・・・」

ルキアからもらった血と聖水を混ぜたものを、口移しで飲ませると、浮竹は目覚めた。

「京楽か。すまない、心配をかけた。呪いをかけられて、反射したら呪詛をかけられた。呪詛といっても、休眠に入るだけだから、原因も分からなかっただろう」

「浮竹、どうしたの。なんか変だよ」

浮竹は、いつもならすまないといって京楽に抱き着いてくるのに、京楽と距離をとろうとする。

「思い、出したんだ。俺は、ブラドツェペシュを愛していた。彼女を、救わなければ」

「ブラドツェペシュって誰。僕以外に、愛している者がいるの?」

京楽が、悲しそうな目で見つめてくる。

「違う、京楽!今はお前だけを愛している!ブラドツェペシュは八百年前に愛して、血族にしよとした神族の少女だ。今は・・・・ブラッディ・ネイの血族にされて、後宮の奥深くに閉じ込められている」

「君は、僕だけを愛してほしい」

「京楽・・・・・」

気づけば、浮竹を押し倒していた。

「んっ」

ぬるりと入り込んできた舌が、浮竹の縮こまっていた舌を絡めとる。

「京楽は、僕のものだ。僕も京楽のもの。君が他の誰かを愛するなんて、許さない」

京楽は、気が昂ったのか、元の鳶色の瞳が真紅に輝いていた。

「愛しているよ、浮竹」

「あああ!春水!」

浮竹の服を脱がして、キスマークを全身につけていく。

胸の先端を舐め転がして、牙をたてて吸血した。

「ああっ」

吸血行為はとてつもない快感を与える。

その行為だけで、浮竹はいきそうになっていた。

「あ、やっ」

「こんなにして・・・僕が、欲しいんだね?」

下着の上から、ゆるく勃ちあがっていたもの触られて、その刺激にビクンと体がはねる。

コクコクと、素直に浮竹は首を縦に振った。

「お前が欲しい・・・・」

「いいよ、十四郎。いっぱいあげる」

ぐちゃぐちゃと音をたてて、潤滑油と一緒に浮竹の蕾を解していく。

「あ、早く、春水・・・・・」

わざと前立腺を触らずに、いい場所をかすめるように指を動かした。

浮竹は我慢の限界を感じていて、京楽を求めた。

「あ、春水、もっと右・・・・」

「だめだよ、十四郎勝手に動いちゃ。これじゃあ、罰にならないでしょ?」

浮竹は、涙を流しながら哀願する。

「はやくきてくれ。そして、俺の血を啜ってくれ」

くちゅり。

音をたてて浮竹を引き裂く熱に、浮竹は恍惚とした表情をした。

美しい白いヴァンパイア。

始祖の浮竹十四郎。

「今、噛みついてあげる」

「ああああーーー!!」

最奥の結腸に入り込んできた熱に、浮竹は我慢ができずに精を放っていた。

同時に、京楽は浮竹の肩に噛みついて、血を啜った。

「あああ!」

あまりの快楽に、意識が混濁する。

「まだ、僕は満足してないよ。ほら、がんばって」

「やぁ!もう、吸血はいいから・・・春水をくれ」

セックスをしながらされる吸血は、麻薬のようで。

前立腺をすりあげて、突き上げてくる愛しい男を締め付ける。

「くっ・・・・・」

切なそうに眉を寄せる京楽に、今度が浮竹が噛みついて吸血した。

「うわぁ、これは気持ちいいいね・・・・・」

浮竹に吸血されるのは初めてだった。

吸血鬼に血を吸われるのは、快楽の塊だった。

一度その味を知ってしまうと、病みつきになりそうだ。

「ほら、もっといけるでしょ?」

「あ、あ!」

京楽は、浮竹が与えてくれる快楽を受け取りながらも、浮竹を攻め立てる。

「あああ!」

ぱちゅんと音をたてて入ってきた京楽のものは、結腸まで入り込んで、そこで濃い精液を放っていた。

「僕はまだいけるよ」

「やぁ。だめぇ」

浮竹の太ももに噛みついて吸血しながら、まだ硬い己を浮竹の腰に当てた。

「ほら、まだこんなに昂ってる」

「あ・・・・・」

吸血されて、快感にもだえながら、挿入される快感も味わう羽目になった。

「もうやっ・・・・」

「十四郎。僕だけものだ。僕も、君だけのものだ」

浮竹は、京楽に揺さぶられながら、自分の中で再び京楽が弾けるのを感じていた。

浮竹が京楽に噛みついて、吸血する。

お互い噛み傷だらけになったが、ゆっくりと再生した。

血族の血を啜ることは、ヴァンパイアにとって、愛を与えることに似ている。

互いに血を啜りあいながら、濃い朝を迎えようとしていた。


「浮竹、食事は?」

「んー。腰が痛いし、お前の血を吸ったせいで腹が減ってない」

「でも、僕は大分君の血を吸ってしまった。人工血液を飲むでしょ?」

「ああ」

「じゃあ、せめてデザートにパイナップルを切ったものを食べてよ。熟れて食べ頃なんだ」

買い物をしに町に行った時、パイナップルを二つ買ったら、男前だからと、果物屋のおばさんにカットしたものを余分にもらったのだ。

戦闘人形に頼んで、カットされたパイナップルを一口サイズに切ってもらい、それを浮竹の口に運んだ。

「はい、あーん」

「京楽、一人で食べれる」

「だめだよ、人工血液をすぐに自分の血液に還元できるっていっても、限度があるでしょ。ほら、口あけて」

素直に、浮竹は京楽の口元にもってこられたパイナップルを口にした。

「甘いな」

「そう、おいしいでしょう。此処より南の、僕の故郷だった地域の食べ物でね。ああ、この味懐かしいなぁ」

浮竹に食べさせながら、時折京楽は自分でも食べた。

二人で食べてしまうと、パイナップルはあっという間になくなった。

「もう少し食べたい」

「戦闘人形に切ってきてもらうよ」

浮竹も京楽も、基本家事はしなかった。

戦闘人形に任せておけばいい。自分たちでは、力の使い方を謝ってしまって、ものを壊すことが多かった。

浮竹の戦闘人形は本当に便利だ。戦闘に特化してるのに、家事もできる。町に買い物にもでてくれる。

簡単な意思疎通はできるが、一人で暮らすには寂しすぎた。

だから、浮竹は京楽を血族にした。

はじめは友人だった。だが、時を経るごとにその関係は変わり、主従はないものの、血の絆でしばられていた二人は、すぐに恋仲に落ちた。

浮竹は、京楽とまたパイナップルを食べながら、今後のことをどうしようかと思案していた。


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数日が経ち、浮竹は意を決して、京楽に全てを打ち明けた。

かつて、ブラドツェペシュという愛した少女がいたこと。ブラドツェペシュは血族になることを拒み、聖皇帝の愛娘で皇女であったこと。

その皇女に目をつけたブラッディ・ネイが、戦争の休止と引き換えにブラドツェペシュをよこせと言ってきたこと。調停役に聖女シスター・ノヴァを出してきたこと。

ブラドツェペシュにその愛した記憶を奪われ、今まで生きてきたこと。

そして、体が神族になる呪詛を、ブラドツェペシュは浮竹にかけた。それは時間の合図。

ブラドツェペシュの身が危ういサイン。

京楽は、冷静に聞いていた。自分以外にも愛した者はいただろうと分かってはいたが、少なからずショックを受けた。


「それで、浮竹はどうするの」

「ブラドツェペシュを、聖女シスター・ノヴァに診てもらって、神族に戻し、聖帝国に返そうと思う」

「それをブラドツェペシュが望んでいなかったら?」

「すでに、聖女シスター・ノヴァに式を飛ばしておいた。聖帝国の近く砂漠のオアシスまで来るようにと。ブラドツェペシュを連れてそこまでいくと、すでに言ってある」

ため息をついて、京楽は浮竹の長い白髪を撫でた。

「決意は変わらないんだね。僕たち、ブラッディ・ネイに指名手配されるかもしれないよ?」

今のブラドツェペシュは、ブラッディ・ネイの後宮の奥深くにいる。ブラッディ・ネイに血族にされて八百年。神族の寿命は約三百年だ。そのほぼ三倍を生きている。

もう、生きることに疲れているのかもしれない。

「あれは、俺を殺せない。俺はあれを殺せる。指名手配されたところで、あれには俺たちを止める手段はない」

浮竹は、もう決めたのだ。

ブラドツェペシュを愛したことのある、浮竹は。ブラッディ・ネイからブラドツェペシュを奪いとり、神族に戻して聖帝国に返すと。


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「行くぞ」

「うん」

古城の地下にある、血の帝国に繋がる空間転移魔法陣に、魔力を漲らせる。

二人の姿は、ふっと消えて、気づくと血の結界のドームに守られた、血の帝国の中にいた。

「浮竹殿、京楽殿!」

一護と冬獅郎を連れた、ルキアが出迎えてくれた。

式を飛ばして、事の次第はすでに知らせておいた。

「私が、ブラッディ・ネイを引き付けておきます。その間に、後宮に潜り込んでください。後宮の館の鍵は、ここに」

チャリンと、水晶でできた鍵を、ルキアは浮竹に渡した。

その鍵を手に入れられるのは、ブラッディ・ネイのお気に入りたちだけだ。

すでにいつでも後宮にきていいと言われていたルキアも、後宮の館の鍵を持っていた。

後宮は、閉鎖的な空間に見えて、案外自由はきく。その気になれば、ブラッディ・ネイの戦闘人形つきであれば、外出も許された。

だが、ブラッディ・ネイから逃げられた者はいない。

逃げ出す必要性がないからでもあるが、皆ブラッディ・ネイに魅了されて、抗う者などいなかった。

だが、ブラドツェペシュは違う。

ブラッディ・ネイを選べば永遠の血族として、悠久を生きれる。富も思いのままだ。聖女シスター・ノヴァを選べば、元の神族に戻れる。

だが、もう父も他の友人たちも、皆寿命は神族は三百年程度で、死んでしまっている。

それでも、故郷に戻りたかった。

「浮竹・・・・どうか、私を殺して」

外から見える満月を、その金色の、神族独自のがもつ瞳の光の色で見つめた後、ブラドツェペシュは瞳を閉じた。

「侵入者だ!」

そんな騒ぎを聞いて、ブラドツェペシュは微睡みから目覚めた。

もう、自分の死を悟っていた。

浮竹が神族になった。同時に、ブラドツェペシュは気づく。己がかけた呪詛が発動したということは、死が迫っていること。浮竹はすぐに始祖ヴァンパイアに戻るだろうが、呪詛が発動すれば封印していた記憶も戻っているだろう。

きっと、浮竹は私を助けに来てくれる。

「ブラドツェペシュ、助けにきた!」

入ってきた浮竹に抱き着いて、ブラドツェペシュは涙を零した。それはオパールとなって、かつんかつんと床に転がった。

「早く、私をここから出して・・・・」

後ろに京楽がいることに気付いて、ブラドツェペシュは浮竹から離れた。

「そう。もう、あなたには愛した血族がいるのね。これを返すわ」

それは、いつの日にか、浮竹が渡した、浮竹の血が詰まった小瓶であった。八百年も経っているのに、まだ中身は新鮮な血のままだった。

「いや、それはもっておけ。何かあれば、お前の身を守ってくれる」

浮竹は、京楽にブラドツェペシュを抱きかかえさせて、後宮の外に出た。


幸いなことに、ブラッディ・ネイは、ご執心であるルキアが足止めをしてくれている。

それでも、周囲を取り囲む騎士たちがいた。

「何者だ!ブラッディ・ネイ様の寵愛される寵姫をかどわかすつもりか!」

襲い掛かってくる騎士たちを、浮竹は音もなく血で斬り裂いていた。

全員、ブラッディ・ネイの血で強化されたヴァンパイアであった。ブラッディ・ネイ直属の騎士たちだ。

「その白い髪、翡翠の瞳・・・・あああ、あなた様は・・・・・」

「俺は始祖!俺は始まり!ヴァンパイア共よ、道を開けろ!俺の前に立ちふさがる者は、たとえ妹であろうとも容赦しない」

その絶対的な言葉に、隣にいた京楽以外のヴァンパイアが平伏した。

「始祖の浮竹様・・・・全ては、あなたの御心のままに」

ブラッディ・ネイの血族であっても、ブラッディ・ネイから血を与えられた強化ヴァンパイアであっても、始祖の偉大な存在に、ひれ伏すことしかできなかった。

浮竹と京楽は、ブラドツェペシュを連れて、ワイバーンを飼育している部屋にくると、ワイバーンを一匹外に出して、その背中に跨った。

浮竹、京楽、ブラドツェペシュと乗り込んで、ワイバーンは羽ばたいた。

「目的地は、砂漠のオアシスだ。頼むぞ、ワイバーン」

「きゅるるるるるる」

ワイバーンは、始祖の血を少しだけ与えられて、浮竹に服従を誓った。

そのまま、空を飛び、数刻で砂漠が見えてきた。

オアシスを近くに見つけると、少し遠いところでおりて、浮竹、京楽、ブラドツェペシュの順に降りた。

「行こう、ブラドツェペシュ。お前を神族に戻し、願い通り聖帝国に戻す」

「浮竹・・・・・」

ブラドツェペシュは、ただ浮竹を見ていた。

愛していた。でも、今の浮竹の愛は京楽のもので、今の浮竹はブラドツェペシュを愛していたという、過去形だった。

「いこう、ブラドちゃん」

京楽が、細いブラドツェペシュを抱き上げる。

長いこと運動をしていなかったため、元より体の弱かったブラドツェペシュは、咳き込んだ。

「ごほっごほっ」

「大丈夫か?これは、聖女であるルキアが処方した、血と聖水で作り上げた万能薬だ。飲んでおけ」

与えられた薬を飲みほして、やや頬に赤みを戻して、ブラドツェペシュは問いかける。

「あなたは、なんていう名なの。浮竹を愛しているんでしょう?浮竹の血族なんでしょう?」

「僕は京楽春水。浮竹は、僕のものだ」

十代前半に見えるブラドツェペシュの年齢は、846歳。

京楽は120歳くらいだった。

「私は、別にもう浮竹を愛してはいないし、浮竹もまた私のことを愛していないわ。お互い、愛いていたと、過去形よ」

京楽は、美しいブラドツェペシュは、浮竹にお似合だと思いながらも、ブラドツェペシュを抱いてオアシスまでやってきた。

「いるんだろう、聖女シスター・ノヴァ」

「はい、ここに」

「ブラドツェペシュを連れてきた。これで、契約は果たされる。ブラドツェペシュを、神族に戻してやってくれ」

聖女シスター・ノヴァは、浮竹の弱点である特殊な聖水を作り出すことができる。

京楽は、念のために聖女シスター・ノヴァを見張っていた。

「神の奇跡よ、今ここに・・・・・・・・」

ぱぁぁぁと光が満ちた。

その後に残されたのは、神族に戻り、血族ではなくなったブラドツェペシュであった。

「血の呪いがない!私は自由だ!」

ブラドツェペシュは喜んだ。

聖女シスター・ノヴァはすることは終わったと、転移魔法ですぐに人間の元に戻ろうとした。

「何故、そこまで急ぐ、聖女シスター・ノヴァ」

ふと、浮竹がそんな言葉を発していた。

「なんのことかしら。わたくしは、もうすることがなくなったので、帰還するだけですわ」

「ブラッディ・ネイに会ったな?そこでお前は聖水を神族と人間のハーフに与えて、俺にけしかけた」

「なんのことかしら」

聖女シスター・ノヴァは汗を垂らしながら、否定した。

「過去に交わした契約の中に、ブラッディ・ネイと内通するというものはなかった。そこにいるんだろう、ブラッディ・ネイ。いや、分身体というべきか」

「あははは、兄様、怒ってる?」

「ブラドツェペシュに何をした」

「ただ、血族にしただけだよ。ただ、子供を何人も産んでもらって、それをボクが食べちゃった、それだけだよ」

ブラッディ・ネイの分身体に向けて、浮竹は怒りのあまり血が暴走しようとしていた。

「だめだよ浮竹、こんなところで暴走しちゃ!」

「殺してやる、ブラッディ・ネイ。分身体を殺せば、お前本体にも相当のダメージがいくはずだ」

「いいの、兄様。ボクを今殺せば、聖女シスター・ノヴァが兄様の愛しい血族を殺すよ」

「聖女シスター・ノヴァ!ブラッディ・ネイにそこまで協力する理由はなんだ!」

「簡単なことですわ。わたくしは長生きしたい。だから、ブラッディ・ネイ様に血をもらうのです」

「聖女シスター・ノヴァが見た目通り醜女だからねぇ。僕は、その気になれないんだよ。働き次第では、血をあげるって約束したんだ」

「君ら、グルだったのか!」

京楽が、怒りに我を忘れそうな浮竹を鎮めながら、怒りに拳を震わせた。

「何人も子供を孕ませて産ませて、その赤子を食べたっていうのかい?」

「そうだよ。兄様のお気に入りの京楽春水」

「殺す。よくもブラドツェペシュを、こんな目に・・・・・・・」

「浮竹、抑えて!始祖の君が暴走したら、僕にも止められないかもしれない!」

「ブラッディ・ネイ。それに聖女シスター・ノヴァ。死ね」

浮竹は、真紅に瞳を輝かせて、血を暴走させた。

すさまじい魔力が満ち溢れる。

「あははは、兄様に殺されるなんて、はじめての体験だ!痛いね!」

「いやぁあ、助けて!」

ブラッディ・ネイは死にゆくように渦巻く魔力の中心に向かう。反対に、聖女シスター・ノヴァは失禁して、その場で蹲っていた。

京楽は、血の暴走をした浮竹から離れて、ブラドツェペシュを連れて、結界を張った。

「こんな結界、意味ないかもしれないけど」

「京楽様、あなたがあの人を鎮めてあげて」

「でも、君一人じゃ・・・・・・」

「結界を維持するくらいの力は残っています」

「分かったよ」

トルネードだった。

周囲のテントも何もかも巻き込んで、吹き飛ばされていく。

浮竹は、自分の血を刃に変えて、トルネードの中に放ち、ブラッディ・ネイと聖女シスター・ノヴァはトルネードに巻き込まれて天高く飛びあがり、血の刃で体をずたずたにされて、空から落ちてくる。

「いやああ、わたくしの、わたくしの足が、手が!」

右足と左腕をなくした聖女シスター・ノヴァに向かって、浮竹が手のひらを向ける。

「ヘルインフェルノ」

「いやあああああ、ぎゃあああああああああ」

甲高い悲鳴をあげて、聖女シスター・ノヴァは消し炭になった。

「あはははは!傑作だね、兄様!」

「ブラッディ・ネイ。俺を怒らせた代償に、魂に呪いをかける。次の転生は、後宮の十代の少女ではなく、お前と少女の間にできた子供にする。殺しても死なないお前は、赤子からやり直せ」

「いやあああ、遊べなくなるじゃない、兄様!やめてよ!たかが神族を血族にして遊んだだけじゃない!」

「俺は!俺は、ブラドツェペシュを愛していた。俺から奪った!許せない!死ね!」

びちゃっと音をたてて、ブラッディ・ネイは肉塊になった。その肉塊が蠢いて、声を出す。

「あはははは、ボクを殺したね、兄様。ボクの呪いを・・・・あれ、発動しない。なんで、なんで!」

血を暴走した状態で、浮竹は言葉を発する肉片を踏みつけた。

「消えろ。ヘルインフェルノ!」

「ぎゃああああああああ!!!」


「ぎゃああああああああ!!!」

血の帝国で、ルキアに夢中になって口説いていたブラッディ・ネイの体が、地獄の炎を身にに纏わせた。

「ぎゃあああああ、焼ける、焼ける!兄様、許して、兄様!許してぇ、兄様!」

駆けつけた騎士が見たものは、黒焦げで虫の息の女帝の姿だった。

再生がはじまらない。

ざわざわと、さざめきが広まっていく。

「どけ!」

ルキアは、これが浮竹がしたことであろうと分かっていたし、ブラッディ・ネイをこんな目に合わせるほど怒らせたと分かっていても、聖女として傷を癒す魔法をかける。

ブラッディ・ネイは治療のかいなく、死去した。

新しいブラッディ・ネイが生まれた。

8代目ブラッディ・ネイは、十代の少女のではなく、赤子だった。赤子が流暢に言葉をしゃべる。

「全く、兄様も酷いよね。ボクの転生先を勝手に決めるんて」


一方、浮竹は血の暴走が収まらなくて、自分をなんとか制御しようとしていた。

「浮竹!」

「京楽、危険だ、こっちに来るな!」

「大丈夫だよ、浮竹。僕は君に何もしない。ただ、君を愛している」

京楽は、優しく浮竹を抱きしめた。

渦巻く魔力の渦で、たくさん血を流しながら。

浮竹に口づけると、トルネードは止まった。

「京楽・・・・愛してる」

「僕も、君を愛してる」

浮竹の血の暴走は、収まった。

浮竹は、京楽の怪我に、血を与えてやりながら再生を促した。


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「もう、お前は自由だ、ブラドツェペシュ」

「ありがとう。ずっとずっと、血の帝国の後宮で夢を見ていたの。あなたに愛されていた頃の夢を」

「ブラドツェペシュ、俺はもうお前のことは・・・・・」

「もういいの。自由だわ。自由のまま、死ねる」

「え?」

浮竹が、目を見開いた瞬間のできごとだった。

ブラドツェペシュは、もってい短剣で、自分の喉を掻き切っていた。

「ごほっ、ごほっ!愛していたわ、浮竹。私が生きていた証を、あげる」

神族は、少しのことでは死なない。それはヴァンパイアに似ていた。

「私の心臓を、あげる」

ブラドツェペシュは、右手で自分の心臓をくり抜いた。

眩しい光を放ち、それは世界の三大秘宝の一つである「魂のルビー」になっていた。

金貨数百億枚の価値のある、神族の皇族だけがもつ、宝石だった。

生きたままくり抜かねばなならぬので、世界にほとんど流通していない、幻の秘宝である。

「ブラド!なんて愚かな真似を!」

浮竹が、指を噛み切って血を与えようとするが、ブラドツェペシュはそれを拒んだ。

「浮竹、逝かせてあげなさいな」

「でも!」

「彼女の心は、もうとっくの昔に死んでいたんだよ。ブラッディ・ネイの血族だから死ねなかった。ただ、死にたかったんだ」

「ブラド、嫌だ、こんな形で逝かないでくれ!」

浮竹は、涙を流した。

ブラドツェペシュも、涙を流していた。

「あなたに愛された日々は、楽しい思い出だったわ。それだけを頼りに生きてたけど、もう限界なの。もう子を産んで、食べられたくない」

「もう自由なのに!どうして!」

「私の心は、とっくの昔に死んでいたの。ああ、さよなら、私が愛した、始祖のヴァンパイア・・・・・・・・・・」

ブラドツェぺシュは、ひっそりと息を引き取った、

浮竹は、京楽に抱き着いて、ずっとずっと泣いていた。

そして、ブラドツェペシュが残した、魂のルビーを手に、ブラドツェペシュの遺体を火葬して、灰を海にまいた。

魂のルビーは、鎖穴をあけてチェーンを通して、浮竹が身に着けていた。

「さよなら、ブラド。俺が愛した、神族の少女」

浮竹は泣いた。

そっと京楽が寄り添い、その涙を拭き取る。

「お前は、俺より先に死ぬな」

「死なないよ。死ぬ時は一緒さ」

始祖のヴァンパイアである、浮竹に死はない。訪れることはない。

でも、休眠すれば、限りなく死に近い形になれた。

「お前が死んだら、俺は永遠の休眠につく」

それはほぼ死を意味していた。

「僕は、ずっと君の傍にいるよ・・・・・」

口づけを交わし合いながら、二人はいつまでも海を眺めていた。




「ちくしょう、ちくしょう!このあたくしが、ヴァンパイア如きにやられるなんて!」

神族の少女に転生した聖女シスター・ノヴァは爪を噛んだ。

今度の素体は、美しい少女であったが、聖女シスター・ノヴァが宿ると以前と同じ醜女になった。

「あああ、どうしてわたくしは美しくなれないの!覚えてらっしゃい、始祖め!」

聖女の祈りをこめた聖水を、たくさん作り出した。

「あなたの出番よ、朽木白哉」

黒髪の美しいヴァンパイアは、ブラッディ・ネイの血を引いたヴァンパイアロード。

「あなたを手に入れるために、ブラッディ・ネイと組んだのですもの。さぁ、ショーの始まりよ。ヴァンパイア同士で争うといいのだわ!」

夜色の瞳で、朽木白哉は言葉を紡ぐ。

「ルキア・・・・」

















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始祖なる者、ヴァンパイアハンター4

ギィィィ。

キィィィン。

浮竹が古城の周囲にはった結界に、引っかかる者がいた。

侵入者だった。

普通の人間が迷い込んできたりした場合は、古城での記憶を消して、森の外で寝かせた。冬の季節なら、毛布もかけるし雨が降っていたら、洞窟に置いた。

浮竹と京楽は、人を襲わない。

京楽が時折、孤児の少年少女から注射器で血をもらい、大金を渡すことはあったが、そんな場合は少年少女からヴァンパイアを見たという記憶を消していた。

他のヴァンパイアが侵入してきたことはあったが、その場合はただの人間の時と同じで、リンリンと鈴がなるような音がする。

京楽は、浮竹の血を啜って、浮竹の存在に近くなっているせいか、結界の音が頭に響いてどうしようもなかった。

キィィイン。

眩暈を覚えるような警告音に、浮竹の元に急ぐ。

浮竹は、普段温厚な翡翠の目を。血と同じ真紅に輝かせていた。

「だめだ、戦闘人形たちがやられた」

浮竹は、悔しそうな顔をしていた。

そんな顔を見るのは初めてで、京楽は驚いた。

「君の戦闘人形って、バトルドールたちだろう?戦いのプロフェッショナルじゃないの」

浮竹の血でできた戦闘人形、バトルドールたちは、普段はメイドとして働いているが、その時になれば主である浮竹を守るための戦闘特化タイプになる。

「一応、もう一度戦闘人形を放つ。それでもだめなら」

「僕がいくよ」

「だめだ。俺もいく」

浮竹も京楽も、侵入者がきた古城の一階にやってきた。

十代後半の少年だった。

「ヴァンパイアよ、滅びよ!」

銀の十字架を掲げる。

浮竹も京楽も、銀など効かぬ。

平気な顔で攻撃すると、ヴァンパイアハンターは顔色を変えた。

「ブラドツェペシュの、言った通りか」

「わけのわからないことを!」

浮竹が血の刃で斬りかかると、ヴァンパイアハンターは銀でできたダガーで浮竹の首を切った。

その傷は、けれどすぐに再生した。

「この化け物どもが!」

ダァン。

音がした。

浮竹の肩から、血が滴っていく。

浮竹は、肩を撃ち抜かれた。

銀の弾丸は、始祖ヴァンパイアには効かない。

だが、その銀の弾丸の中身は、この世界の聖女の祈りのこめられた聖水を固めたものでできていた。

始祖の唯一の弱点、それは銀でも普通の聖水でもなく、清らかる乙女、聖女シスター・ノヴァの祈りがこめられた聖水。

聖女シスター・ノヴァはブラッディ・ネイに似ている。

死しては年端もいかぬ少女の体に宿り転生し、また聖女になった。

聖女の奇跡は素晴らしいもので、時に死者を蘇らせ、時には重篤な病の患者を完全に治療した。

教会は聖女を象徴として、信者数を増やして、寄付金で成り立っていた。教会の上位の者は寄付金を横領したりしていたが、聖女シスター・ノヴァには関係のないことだった。

聖女は、聖水だけで生きている。

聖女は、浮竹と同じ始祖の神代(かみよ)の時代に生まれた神族であった。

真の神の子である。同じ神の寵児とされた浮竹とは正反対の位置にいた、穢れを知らぬ清らかなる者。

浮竹は、始祖ヴァンパイアとして憎悪と殺戮と恐怖の象徴として生まれ出でた。

同じ始祖であるので、シスター・ノヴァと似ていながら、対極の存在であった。

「浮竹、しっかりして!」

京楽が、浮竹の傷を見た。

普通なら、すぐに再生が始まるはずの傷が、再生しない。

あふれ出す浮竹の血は、甘美な匂いを放っていたが、それどころではない。

「大丈夫だ京楽、これしきの傷・・・・っつ」

動脈を貫通していた。

血が止まらなければ危うい。そう判断した京楽は、自分の指を歯で噛みちぎって、鮮血を滴らせた。

「京楽?」

「僕の血で、止血する」

京楽は、自分の血を浮竹の傷口に滴らせて、強制的に止血をした。それでも血はあふれ出してこようとする。

なので、京楽はもっと深く、今度は自分の手首に噛みついて、流れ出たたくさんの血を、浮竹の傷口に滴らせた。

浮竹の傷は、なんとか血を流すことをやめた。

「よくも僕の浮竹を・・・・許さない・・・・」

ゆらりと、京楽の流れ出た血が踊る。京楽の傷口は、すでに再生していた。

京楽の血は、相手を斬り裂く刃となって、ヴァンパイアハンターを襲う。

「この程度!神族の血を引く俺に通用すると思っているのか!」

ヴァンパイアハンターが、シールドを展開して、血の刃を防ぐ。

ヴァンパイアハンターは、ただのヴァンパイアハンターではなかった。

ヴァンパイアは分類上、魔族になる。その対極に位置する、聖女シスター・ノヴァと同じ神族と人間の間に生まれたハーフだった。

「神族であろうと人間であろう、浮竹を傷つける者は、許さない」

京楽の脳裏に、処刑されて死んでいった両親の顔がちらついた。

その顔が、浮竹になっていた。

「許さない・・・・・」

「京楽、落ち着け。血が暴走している。落ち着け!」

京楽の血の暴走は止まらない。

影が踊る。

「な!」

ヴァンパイアハンターの影に潜んだ京楽は、真紅の血を鎌の形にして、ヴァンパイアハンターを斬り裂いた。

ヴァンパイアハンターは、自分の傷口に聖女シスター・ノヴァの聖水をふりかけた。

白い煙を出しながら、傷が再生する。

それでも、失った血までは戻せなくて、ヴァンパイアハンターは青白い顔で叫んだ。

「神族とのハーフである、この俺が、この程度で殺せると思っているのか!」

「神族の血を引いていることが、随分自慢なんだね。殺す・・・殺す。浮竹を傷つける者は、全部殺す」

「京楽!」

浮竹の必死の声も、京楽には届かない。

浮竹は、失ってしまった血を取り戻すかのように、人工血液剤を噛み砕いた。

ヴァンパイアハンターは、銀の弾丸を撃ってくる。京楽も浮竹もそれを血で作り出したシールドで弾いた。

「許さない。殺す」

京楽は、始祖の血を毎日のように飲んでいる。

始祖を守ろうと、体と心が勝手に動くのだ。

「京楽、血に飲みこまれるな!しっかりしろ!」

「は、血で暴走したヴァンパイアごときに・・・・・・」

ザシュリ。

京楽はその血の存在自体が、刃となっていた。

浮竹の流した血と交じりあった血が、杭の形となってヴァンパイアハンターの腹を貫通した。

「ごふっ!」

血を吐き出す、ヴァンパイアハンターの体を蹴り転がす。

「京楽、元に戻れ、京楽!」

京楽は、浮竹を押しのけて、ヴァンパイアハンターのところまでやってきた。

「何か言い残すことはあるかい?」

「けっ、滅んじまえ。お前も、お前の主も」

ぼきり。

京楽は、怪力でヴァンパイアハンターの首をもぎ取った。

その血を口にする。

神族の血は、甘い。

「甘い・・・。でも、浮竹ほどじゃない」

死体を弄ぶように、息絶えたヴァンパイアハンターの四肢を、血の刃で切断する京楽の姿を見ていられなくて、浮竹は口の中を切って血で満たすと、京楽に口づけた。

ごくり。

京楽の喉が、浮竹の血を嚥下する。

京楽の血の暴走が、収まっていく。

「あれ、僕は何を?」

「京楽、よかった!暴走したまま、戻ってこないのかと思った!」

浮竹にぎゅっと抱き着かれて、京楽は目をぱちぱちさせた。

血が暴走していた間の記憶がないらしい。

「京楽は、俺が怪我をして血を流したことで、我を失って暴走していたんだ」

「僕が、暴走?」

「そう。俺が主だから、眷属のお前は主を守ろうとする。俺の血の中に含まれた潜在的なものに取り込まれたんだ。元を言えば、怪我をした俺のせいだ。すまない」

「浮竹、傷は!?」

はっとなって、浮竹の肩の傷を見る。

ゆっくりではあるが、再生していた。

「聖女シスター・ノヴァの聖水を織り交ぜた弾丸なんて思わなかった。ただの銀の弾丸なら、貫通してもすぐに傷が再生する。シスター・ノヴァとは昔何度か話したことがある」

「そんな、昔の人なの?」

「ああ、神族でな。俺と同じ、不死の呪いを持っている。ブラディ・ネイに似ていて、ある程度年齢を重ねたら、死して幼い少女の中に転生して、また聖女となる」

「げ、ブラッディ・ネイにそっくり・・・・・」

「ああ、だからあまり彼女のことは好きじゃないんだ。父が・・・創造神が、俺のヴァンパイアとしての弱点として作り出したのが彼女だったから」

「兄弟姉妹になるの?」

「いや、父が自分で作り出した神族の子として生まれてきた。神族の始祖だ。俺と同じような存在ではあるし、よく眠りについて活動していない期間もある」

「そういうところは、浮竹に似ているね」

「聖女シスター・ノヴァの血は美味かった。あれに勝る味は、まだ出会ったことがない」

「僕の血は?」

「お前の血もうまいぞ。シスター・ノヴァの次くらいに美味い」

「浮竹、手当てしよう。肩の傷、まだ完全に再生してないでしょ」

「それより、この血をなんとかしないと。始祖と、それに連なる者の血の塊だ。何かのモンスターが口にしたら、狂暴化して手に負えなくなる」

「じゃあ、燃やす?」

「そうだな。ヴァンパイアハンターの死体ともども、塵をなってもらおう。ヘルインフェルノ!」

ごおおおおおおおおお。

浮竹が生み出した地獄の炎で、ヴァンパイアハンターの遺体は灰になっていく。浮竹と京楽の血も蒸発して、後に残されたのは焦げたヴァンパイアハンターの持っていた、ロケットペンダントだけだった。

そのロケットペンダントの中身を見て、浮竹が目を見開いた。

「6代目のブラッディ・ネイだ」

「え?」

何故、ヴァンパイアハンターがブラッディ・ネイの写真をロケットペンダントに入れていたのか。

謎が残った。


-------------------------------------------------


平穏な生活が戻ってくる。

浮竹と京楽は、一護とルキアと冬獅郎に、ダンジョンに潜らないかと、誘いの文を持たせた式を放った。

半日遅れて、ルキアと一護と冬獅郎の姿が、古城のダイニングルームの中にあった。

夕食を、五人で食べた。

戦闘人形にフルコースを作らせて、デザートだけはルキアが作った。

「ルキア君の手作り・・・なんだろう」

「どうせ、白玉餡蜜だろ」

「ああ」

一護と冬獅郎が、興味なさそうに紅茶を啜った。

「どうせとはなんだ、どうせとは。食わせんぞ」

「あ、わりぃ。悪い意味でいったんじゃねぇ」

「一護の分は、俺がもらってやろう」

「あ、冬獅郎、ずるいぞ」

ギャーギャー言い合う二人を、ルキアは見守っていた。

「けっこういけるな」

「うん、おいしいよ、ルキアちゃん」

「ありがとうございます。始祖の浮竹殿と、その眷属である京楽殿にそう言ってもらえるのは、兄様に褒められた時と同じくらいうれしいです」

頬を赤らめるルキアは可愛かった。

「ここに、俺の開発した、自動皿洗い機がある!一護君、モニターになってくれないか」

ふと、突然浮竹が変な機械を取り出した。

「嫌っすよ!バチバチ言ってるじゃないっすか!」

「何、静電気のようなものだ」

浮竹は、かぽっとヘルメットのようなものを一護にかぶせた。

「あああああ、感電するううううう」

ばちばちと音をたてて、自動皿洗い機は動きだした。

洗っては置いて、洗っては置いての繰り返しで、ずっと洗っていた。

「浮竹さん、痺れるうううう」

「この発明は、どうやら失敗だったようだ。この前、ダンジョンで潜った時に見つけた、静電気で感電死する魔法からヒントを得て、魔力を静電気にして、その静電気を電気にして動かす機械だったんだが」

「ややこしいんだよ!」

一護が、やってられるかと、ヘルメットを地面に叩きつけた。

「よし、じゃあダンジョンに潜ろうか!」

これもまた突然だった。

「いいのですか、浮竹殿。今は夜。あなた方にとっては、眠りの時間では」

「いや、たまには夜更かしもいいかなと思って」

「単に暇なだけなんだよね、浮竹も僕も」

武器は手にしていない。

「宝箱~宝箱~♪」

浮竹は、早速わくわくしていた。

A級ダンジョンにやってきた。

夜なので、見張りの兵士はいなかった。

3回層までいったことがあるので、セーブポイントを経由して空間転移する。

4回層にきていた。

オーガやコボルトが出た。

一護と冬獅郎に任せた。

「おい、おっさんらも手伝え」

「僕と浮竹は、オーバーキルになるから」

「俺たちでもオーバーキルだぞ」

冬獅郎の言葉を、浮竹も京楽も聞いていなかった。何故なら、また浮竹が宝箱だと勝手にあけて、それがミミックだったのだ。

「怖いよ~暗いよ~狭いよ~息苦しいよ~」

「ああもう、浮竹はミミックが好きだね。いっそのこと、ミミックと結婚すれば?」

京楽が呆れ気味に、ミミックに浮竹を押し付ける。

ミミックはおえっとなって、浮竹を吐きだした。

「ミミックと結婚したら、京楽が泣くだろう?ファイアアロー」

ギィィイ。

断末魔を残して、ミミックは死んだ。

ポンっと音をたてて、宝物が出現する。

古代の魔法書だった。

浮竹は古代から生きているが、眠っている時間が長すぎたために、古代文明の魔法は知らない。

「神代の・・・憤怒を治す魔法?・・・・呪いを解呪する魔法かな?」

「え、なんですかそれ。新しい解呪の魔法ですか?」

ルキアが身を乗り出した。

「神聖魔法のようだ。俺は使えないし、一護君も冬獅郎君も使えないだろうし、もちろん京楽も使えない。ルキア君にあげる」

「わぁ、ありがとうございます。早速・・・・誰か、憤怒のステータス異常になってくれ」

「いや、無理でしょ」

京楽の言葉に、浮竹がにんまりとした。

「ここに、俺の開発した、すぐ怒るゾウ君がある。さぁ、京楽これを被って・・・・・」

「ムキーー!もう怒った!浮竹のおたんこなす!」

憤怒の状態ではあるが、低俗な状態で、一護と冬獅郎は笑っていた。

「ムキーー!ムキムキーーー!!」

「解呪!」

ぱぁあぁと白い清浄な空気が舞い降りてきて、「すぐ怒るゾウ君」で憤怒状態に無理やりさせられた京楽は我を取り戻した。

「ちょっと、浮竹!暇だからって、変な発明しないでよ!それを許可なく使わないでよ!」

「いいじゃないか。まだまだあるぞ。この全自動魔力洗濯機や、全自動散髪きるきる君、全自動耳かきかきくけこ君、それに・・・・・」

ごそごそと、アイテムポケットからわけのわからない発明品を出す浮竹を、京楽は全て破壊して床に投げ捨てた。

「酷い!」

ルキアに抱き着いて、さめざめと泣くふりをする浮竹に、京楽はやりすぎたかと、猫なで声をだす。

「浮竹、僕が悪かったから。ほらほら、ミミックの宝箱だよ」

小さなミミックの宝箱を見せられて、浮竹は宝箱をあけた。

「指をはさまれたあああ!」

「指、つっこんだら?」

その通りにしたら、ミミックがおえっとなった。短剣でしとめると、ぼふんと音をたてて、指輪になった。

「装飾品か。珍しいな」

「どれどれ・・・・永久の命を啜る、魔力増加の指輪。なにこれ」

「どうやら、神代時代のアクセサリーだ。古いけど、まだ動いてる」

京楽と浮竹は、顔を見合わせた。

「ヴァンパイアなんかがつけるには、もってこいだな」

「僕はやだよ。呪われてそうだもの」

「俺がつけよう・・・・と見せかけて、京楽にはめる!」

「ぎゃあ!あれ、なんにも起こらない・・・・あ、ぎゃああ、血、血吸われてる。ちょっとだけだけど、この指輪血を吸った!」

「元々ヴァンパイアの持ち物だな。血を吸わせることで、魔力をあげるんだろう。京楽は魔力はあるけど、あんまり魔法が使えないから、俺がつけておこう」

京楽から指輪をぬきとって、浮竹は自分の指にはめた。

ちゅるるるる。

音をたてて、指輪は浮竹の血を吸って、真紅色に輝いた。

「ファイアアロー」

念のために魔法を唱えてみると、威力が若干あがっていた。

「これ、結構使えるな。装備しておこう」

「呪いとか、大丈夫なのかな?」

「見た感じでは、呪いはありません」

ルキアの言葉に、京楽も浮竹もほっとした。

つけておいて、呪いがあったなんて、笑い種にもならない。

冬獅郎と一護は、そんな面子を残して、どちらがより多くモンスターを倒せるかで競いあっていた。

「冬獅郎、一護、どこまでいくのだ」

「あっちにコボルトの群れがある!あ、そっちに一匹いったぞ」

一護が殺し損ねたコボルトが一匹、ルキアたちがいる方に向かってきた。

「ルキアちゃん、危ないよ!」

「なんのこれしき。聖なる力よ集いて槍となれ!ホーリースピア!」

神聖魔法の攻撃魔法を喰らって、コボルトは灰になった。

まるで、浮竹のヘルインフェルノ並みの威力だった。

「ルキア君は、ただの聖女じゃないな。聖女シスター・ノヴァも、こんな聖女だったら、仲良くなれたんだがな。あれは、全自動癒しのイヤシマッス君に、性悪のブラッディ・ネイを混ぜたようなものだから・・・・・・」

浮竹が、感慨深げに腕を組む。

「聖女シスター・ノヴァと既知なのですか!?」

浮竹に詰め寄るルキアの首根っこを、モンスターを退治してきた一護が掴んだ。

冬獅郎は、討伐数で負けて悔しそうな顔をして、一護の足を踏んでいた。

「って、冬獅郎、てめぇなぁ!」

「ふん」

「それより、聖女シスター・ノヴァは、種族を問わず聖職者の憧れ。浮竹殿は、その存在に触れられたことが?」

「ああ。神代の時代から生きる知人だ。性格が歪んでいたから友人にはならなかったが。始祖の神族だぞ」

「え、神族?」

「俺たち、ヴァンパイアは分類されると魔族だ。神族は、その正反対だな」

一護が言った。

神族に知り合いは聖女シスター・ノヴァ以外いないが、あまりいい噂は聞かない。

血の帝国のように、聖帝国に神族は住んでいて、聖帝国は鎖国している。神族と知り合いの人間は少ないが、ヴァンパイアに至っては神族の天敵ともいわれているので、まず会う機会がないし、会っても駆除される。

血の帝国は、一度だけ聖帝国と戦争を起こしたことがあった。

聖帝国とは、引き分けで終わった。

ヴァンパイアたちは、神族の血を啜り、特にブラッディ・ネイは神族の少女を気に入って血を与えて眷属にした。

その眷属となった幼い少女は成長したが、十代前半の容姿を保ったままで、今もブラッディ・ネイの後宮に住んでいる。

少女の名は、ブラドツェペシュ。

かの有名な串刺し王と同じ名だった。


結局、一行は10回層まで潜って、浮竹の眠気がピークに達したので、ダンジョンから地上に戻った。

朝焼けが、黄金色に輝ていた。

「怖いよ~暗いよ~狭いよ~息苦しいよ~」

浮竹はミミックをかぶったまま、地上に出てきていた。

「もう、君って子は!」

京楽が、深いため息をついて、浮竹をミミックに押し付けようとして、やめた。

「京楽?いるんだろ、助けてくれ」

「自分でミミックをもっと喰い込ませれば、出れるでしょ」

「それもそうか」

えいというかけ声と共に、浮竹はミミックに頭突きをかました。

「いてぇ!」

ミミックが、人語を話して、浮竹からポロリと落ちる。

「やい、てめぇ、俺を誰と思ってやがる!かの有名な大悪魔メフィストフェレス様だぞ!」

「京楽、これ飼っていい?」

「いいけど、ちゃんと世話するんだよ。ミミックの餌って、残飯でもいいのかな?」

浮竹は、人語をしゃべるミミックに驚きはしたが、これなら飼えるかもと、ドキドキしていた。

「おいきけよこのケツの青いガキどもが!あ、やめて、宝箱漁らないで!あはん!」

「宝物はもっていないか。やっぱ倒さなきゃ、落とさないのかな」

「あはん!うふん!俺を倒せるものか!俺は大悪魔ヴェルゼブブ」

「さっき、メフィストフェレスとか言ってなかった?」

一護が、ミミックを見下ろした。

「しゃべれるモンスターはほら吹きが多いからな」

冬獅郎が、そのミミックを蹴った。

「暴力反対!」

「そうだぞ。ポチは、古城の飼い犬ならぬ飼いミミックになるんだ」

浮竹は、よいしょとポチと名付けたミミックを、アイテムボックスに収納する。

「おいこら、暗いぞ何も見えないぞ!俺は大悪魔サタン・・・・・・・」

完全にアイテムボックスに収納されて、ポチの声は聞こえなくなった。


パーティーは、そのまま解散ということになった。

古城で、ルキア、一護、冬獅郎は三日ほど滞在した後、血の帝国に帰って行った。

古城の地下には、血の帝国に通じる空間転移魔法陣があるので、会おうと思えばいつでも会いにいける。

古城の一階に、ミミックのポチは鎖で柱につなげられていた。

「ほーら、えさの残飯だぞ、ぽち」

「がるるるるる」

「怖いよ~暗いよ~狭いよ~息苦しいよ~」

ミミックに食われて、浮竹は足をばたばたさせていた。

「浮竹、またやってるのかい。ポチの餌は僕があげるから」

「いやポチに食われることで、一日の始まりを体験しているからいいんだ」

「じゃあ、放置でいいのかな」

「ああっ!京楽、助けてくれ!」

「仕方ないなぁ」

ここ数日、浮竹は毎日のように朝になるとミミックのポチに食われていて、それを助けるのが京楽の日課になっていた。




血の帝国の後宮で、少女は金色の瞳で月を見上げた。

少女の名は、ブラドツェペシュ。

聖帝国、26代目皇帝ブラドウェルイの愛娘。

「シスター・ノヴァ。それにブラッディ・ネイ・・・・・。私は、どちらを選ぶのだろう」

神族でありながら、ヴァンパイアでもある少女は、クスリと笑って、金色の瞳を閉じた。




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