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始祖なる者、ヴァンパイアハンター外伝

「ねぇ、十四郎」

「なんだ、春水」

「愛しているよ、十四郎」

「俺も愛している、春水」


遠い東洋の島国に迷いこんだ浮竹と京楽が見たものは、同じ姿形をした、異質な存在が睦み合う世界だった。

(俺はどうにかなってしまったのか、京楽)

(いや、これは・・・夢だね。誰かが僕らの体に夢を見せている)

(では、これはただの夢の幻か?)

(それが・・・・なんだか、こういう世界があるみたいだよ。並行世界っていうのかな。パラレルワールドだよ)

目の前にいる二人は、始祖ヴァンパイアとその血族ではなく、八岐大蛇(やまたのおろち)とそれに愛された青年であった。

(俺は・・・・違う世界でも、お前に愛されているのか。それは嬉しいことだな)

(僕もだよ。君を愛するのは、僕の宿命のようなものかな)

東洋の京楽と浮竹は、西洋の京楽と浮竹のように仲睦まじいようだった。

「何か、力を感じるね。強力な・・・吸血鬼の力だ」

「気をつけろ、春水!」

「何だろう・・・魂だけの存在みたい。悪さをする妖(あやかし)ってわけでもなさそうだから、放置しておいても大丈夫そうだよ」

「春水、魂であっても、悪さをするモノはいる」

「大丈夫みたいだよ。なんだか、君に似た気配を感じる」

「俺に似た気配?」

「うん。十四郎が二人いるみたい」

「じゃあ、春水も二人なのか」

「そうなるね」

二人は顔を見合わせて、クスリと笑んだ。

(あ、こっちの浮竹かわいい。素直で、僕に心を開いてくれてる)

(悪かったな、俺は素直じゃなくって)

(違うよ!そうじゃないの、浮竹)

(ふん!)

(あああああ)


「魂が、喧嘩してるみたいだよ。十四郎、僕をいじめないでね」

「春水、何言ってるんだ。俺が、お前をいじめるわけないだろう」

「いや、君に似た魂が、怒ってる」

「春水のことを怒るなんて、なんて俺だ!おい俺!もっと春水をかわいがれ!」

「はたからみたら、わけわからないだろうね」

「確かに、そうだな」


二人は、手を繋いで歩き出した。

浜辺を歩いていた。

ざぁんざぁんと、押しては引いていく波に足をひたして、ただ黙々と歩いていく。

「あ、白い貝殻。ネックレスにしたら、かわいいかも」

「こっちには巻貝があるぞ。春水、白い貝殻と交換しよう」

「いいけど、どうして?」

「俺のものがお前のものになって、お前のものが俺のものになるから」

浮竹はそう言いながら、顔を真っ赤にしていた。

(ああ、こっちの浮竹すぐ赤くなる。かわいいなぁ)

(こっちの京楽は、凄く優しい)

(あ、何それ。僕が君に優しくない時なんてあるかい?)

(ないけど・・・)



「ああ、魂たちが去っていくようだよ」

「さよなら、俺と春水」


眠りの狭間で、京楽は浮竹の記憶を見ていた。

「ブラディカ・オルタナティブ。俺の最後の血族になるだろう。お前を愛している」

(君を愛しているのは、僕だけだよ。僕を見て!)

夢の中の浮竹は、絶世の美女の腰を抱き寄せて、自分の指を噛み切って、滴る血をワイングラスに入っていたワインの中にいれて、それを美女に飲ませた。

「ブラディカは、あなただけを愛しているわ」

「ブラディカ・・・俺が休眠を選んだら、一緒に休眠してほしい」

「ブラディカは、あなたの願いを、叶えてあげる。あなたが休眠したら、ブラディカも休眠する」

「ああ。時が永遠であればいいのに。俺には永遠があるのに、ブラディカには永遠がない・・・」

「でも、ブラディカはそれでもあなたの傍にいる。ブラディカの願いは、浮竹といつまでも一緒にいること」

ブラディカ・オルタナティブ。

2千年前、浮竹が最後の血族にと、選んだ美女。

褐色の肌に金髪の、紫の瞳をした女性。

(僕は・・・・君が他に愛した人がいても、君だけを愛している)


目覚めると、いつもの天蓋つきのベッドの中だった。

隣には浮竹が眠っていた。

「変な夢を見たよ。東洋にいる僕らの夢。でもその夢の狭間で、君の過去の記憶を見た。ブラディカ・オルタナティブ。例え、まだ浮竹を愛していても、浮竹はあげない」

ブラディカ・オルタナティブは、夢を渡り歩く。

「ブラディカの大切なものは、浮竹。浮竹の大切なものは、ブラディカにも大切なもの」

ブラディカは、ゆっくりと覚醒した京楽に、唇を重ねた。

ブラディカ・オルタナティブは、魔女。魅了(チャーム)を司る、魔女の末裔。

「ブラディカ。僕は、君を受け入れない。僕が愛しているのは、浮竹だけだ」

「ブラディカは哀しい。京楽は浮竹の血族。私も浮竹の血族。同じ血族同士、仲良くしましょう?」

ブラディカ・オルタナティブは、甘い、甘い毒を吐く。

京楽は、また眠りに誘われた。

眠りの底で、浮竹とブラディカが睦み合っている姿を見せられた。そこに京楽を招き入れて、ブラディカは浮竹と京楽、二人の男を受け入れた。

「さぁ、ブラディカの愛の毒に、甘い毒にひたされて、熟れて、食べごろになったら。ああ、なんて甘いの。甘い甘い果実。ブラディカはこれが好き・・・・」

ブラディカは、夢の樹に実る果実をもぎとると、しゃくりと音を立てて齧った。

「ブラディカの夢で、幸せになりましょう、京楽、浮竹」

ブラディカ・オルタナティブ。

夢渡りの、魅了の魔女の末裔。夢の毒婦。

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始祖なる者、ヴァンパイアハンター11

「彼」は浮竹十四郎。

正確には、細部まで真似たコピー。

ドッペルゲンガーであった。ドッペルゲンガーの上位個体が、S級ダンジョンで浮竹十四郎をコピーした。

ドッペルゲンガーは、喜びに打ち震えた。

始祖、神に近いものになれたのだ。

通常、モンスターはダンジョンの外に出ない。

スタンピードという、ダンジョン内のモンスターが周辺地域に湧き出すことは時折あるが、そんなことにならないように、ガイア王国では定期的に騎士がモンスターを駆除していた。

「彼」は、浮竹十四郎になった。

「彼」は、血の帝国に行きたいと願った。

そして、気づけば大地に這い出していた。

「彼」は、他の冒険者に助け出されて、S級ダンジョンのある近くの街まで運んでもらった。

まだ完全に浮竹十四郎になりきれていなかった。

それでも「彼」は浮竹十四郎のコピーであって、始祖であった。

助けてくれた人間の血を、死なない程度に吸って、街を転々と移動した。

やがてついたのは、ガイア王国の王都。

聖神殿を見て、「彼」は清浄な力に惹かれて、聖神殿の中へ入った。

「な、一体何者だ!」

行く手を遮る者を、その膨大な魔力で戒めて、「彼」は清浄なる力の持ち主を捜した。

「私は井上織姫っていいます。一応、聖女です。そんなあなたは、誰ですか?」

「ヴァンパイアの始祖、浮竹十四郎」

「始祖様!?なんの種族であっても、始祖様は偉いから!こんな神殿に、私に、何かようですか?」

驚く井上織姫に近づき、跪いて手に接吻した。

「俺の血族になってくれ」

「ええ!」

織姫は、真っ赤になった。

異性から、恋のプロポーズを受けたのだ。男性のヴァンパイアにとって、人間の女性を血族にすることは求婚に値した。

やがて、数日が経った。


「聖女、井上織姫」

「はい」

「汝を、第15代目の使者として、血の帝国に派遣します」

血の帝国と、人間社会は完全に国交を開始していた。

「血の帝国はもう、脅威ではない。血の帝国からの使者もいる」

血の帝国の使者―――そういう設定になっている「彼」は名を呼ばれて顔をあげた。

「始祖、浮竹十四郎」

「はい」

「井上織姫との婚姻を、ここに認めるものとします」

真っ白な長い髪をもつ美しい始祖は、ゆっくりと頷いた。

「彼」は井上織姫を抱きよせた。

「始祖の名において、彼女を血族として、愛することを誓います」

「彼」は、自らの指を噛み切って、血を織姫に与えた。

「あの、何も変わらないんですけど」

ヴァンパイアになる覚悟ができていた織姫は、「彼」の血を飲んでも、ヴァンパイアになれなかった。

いくら細部までコピーしても、コピーはあくまでコピー。

その血で、血族を作ることはできなかった。

「ちょっと、失礼するよ」

現れたのは、身長190センチはあろうかという、鳶色の瞳をした美丈夫だった。

「君は、浮竹十四郎であってはいけない」

「何故だ?」

「君には始祖は無理だ。君に血族は作れない。君は浮竹十四郎になれない」

「そんなことはない」

「無理だ。本物の君の血族を、服従させることもできない「浮竹十四郎」はいらないよ。僕は京楽春水。始祖、浮竹十四郎の本物の血族であり、愛される者」

京楽春水と名乗った青年は、「彼」を血の刃で袈裟懸けに斬り裂いた。

「何故、京楽春水。俺は、お前を、愛して・・・・・」

「さっきまで、この女の子と結婚しようとしてたじゃない」

どくどくと流れる血は、再生しない。

「俺は・・・俺は、誰だ?」

「さぁ?僕は知らないよ。でも、浮竹十四郎じゃない。彼は、ここにいる」

その場にいた全員が、凍り付いたように動きを止めた。

ただ、美しかった。

氷のような美しさと、雰囲気を兼ね備えていた。

それは、本物だと、誰もが分かった。

これが、本物の始祖。始祖ヴァンパイア。

真っ白な長い白髪を持つ、美しいその人は、自分と同じ容姿をもつ「彼」に近づいて、怒りのためか翡翠の瞳を凍らせて、「彼」を睨んだ。

「偽物が。俺を真似るな。ドッペルゲンガー如きが、始祖になれると思ったか!」

強大な魔力が渦巻いた。

人々が我に返る頃には、「彼」の姿はなかった。

本物の浮竹十四郎の姿も、血族と名乗った京楽春水の姿も、そして新しき聖女、井上織姫の姿も。

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「わぁ、可愛いなぁ」

ミミックのポチを、井上織姫は撫でていた。

始祖の住む古城で、織姫は客人として招かれていた。

「あの場にいた者全員の記憶を改ざんした。俺と京楽のことは誰も覚えていない。織姫君、君は行方不明ということになっている。俺と婚姻しようなどと、本気で思ったのか?」

「んー、だってあの子、とっても愛しそうに私を見てくるから。血族になってあげてもいいかなぁって思ちゃったんです」

明るく笑う少女は、浮竹の中で大きく輝いた。

人間の全てがこんな少女であれば、人間を嫌いになることもなかっただろう。

「あれはドッペルゲンガー。俺に成りすました、俺のコピーだ。すまないが、俺にはすでに血族がいて、京楽春水という。俺は京楽だけを愛している」

京楽は、浮竹の座るソファーの隣で、愛おしそうに、浮竹の白い長い髪を撫でていた。

「その、二人はその、いけない関係、なんですか?」

きゃーっと、顔を隠す織姫に、京楽が囁く。

「その、いけない関係なんだよ、僕たち。愛し合っていて、体の関係もある」

「きゃーー!」

織姫は、真っ赤になって二人を交互に見た。

「聖女シスター・ノヴァの四天王だったって聞いたけど、ただの女の子だね。確かに聖女の力はもっているけど」

「あ、聖女シスター・ノヴァはどうなったのか知ってるんですか?行方不明になって、全然帰ってこないんです」

「浮竹の怒りを買って、今頃聖帝国で地道に聖女活動してるんんじゃないかなぁ」

京楽は、もうシスター・ノヴァに興味はないのだと、浮竹の頬にキスをした。

「京楽、織姫君が見ている」

「いいじゃない。ねえ、織姫ちゃん。僕らがいちゃついても、平気だよね?」

「あ、全然平気です。でも、私、第15代目の血の帝国への使者になっちゃてるから、血の帝国に行かないと。血の帝国でも、私のことを待っているはず」

「それなら、僕らが連れてってあげる」

京楽の言葉に、浮竹が京楽の、長いうねる黒髪をくいっと引っ張った。

「おい、ブラッディ・ネイが見たら、自分のものにしたがるぞ。こんな美少女」

ブラッディ・ネイの謹慎は、もう半年以上前に解けている。

ブラッディ・ネイは牢屋に1カ月監禁されて、少しはこりたのか浮竹と京楽に接触してこようとはしなかった。

「大丈夫。ブラッディ・ネイは巨乳好きじゃないんだよね。それに、十代後半はあまり寵愛してないでしょ。後宮にいたのは、10歳くらいから15歳くらいの美少女だ」

「ブラッディ・ネイのこと、よく知ってるな」

「そりゃ、君を困らせる存在だけど、殺しても死なないから、せめて情報くらいは握っておかないと」

「血の帝国に連れて行ってもらえるんですか?」

浮竹は、頭を抱えていたが、京楽はにこにこしていた。

「うん、いいよ。連れてってあげる。僕と、浮竹が」

その言葉に、浮竹は天を仰いだ。

あの実の妹と、また会うことになるからだ。


-------------------------------------


「彼」は、本物の怒りを受けて、霧散したはずだった。

気づくと、血の帝国の女帝、ブラッディ・ネイの元にいた。

「そっくり・・・ねぇ、君は誰なの?」

「始祖、浮竹十四郎・・・のはず。元はドッペルゲンガーと呼ばれていた」

「そう。ドッペルゲンガーの上位個体か。でも、このまま君を死なせるのはすごくもったいない」

ブラッディ・ネイはドッペルゲンガーである「彼」に抱き着いた。

「ブラッディ・ネイ。俺の、妹」

「そうだよ、兄様の愛しい妹だよ」

「同じ血を分けた者。愛している」

「彼」はコピーであったが、本物の魔力を浴びて、歪(いびつ)な形に歪んでいた。

ブラッディ・ネイを、始祖であればその実の妹を愛するだろう。そう思っていた。

「もうすぐ、ボクの元に人間の使者がくるんだ。兄様の怒りを買うだろうから、君は、隠れていてね」

「分かった」


「人間界からの使者殿のおなり~」

ぎいいと、門が開け放たれた。

いくつもの薔薇でできたアーチをかいくぐり、門をくぐって、やっとブラッディ・ネイの住む宮殿までついた。

「ああもう、無駄に広いんだから、嫌になる」

「そういえば、浮竹はこうやって、ブラッディ・ネイの元に訪問するのは初めてかい?」

「いや、何度かあるが。休眠に入る前に、一応お別れを言っていた」

「僕がいる限り、休眠なんてしないよね?」

「ああ、当たり前だ」

口づけを交わしあうバカっプルは、織姫の咳払いで我に返った。

「あの、私、本当にこんな場所にきてよかったんですか。使者は他にもいるはずなんですけど」

「使者は君だけだと記憶やらなんやら改ざんしておいたので、大丈夫だ。もしもブラッディ・ネイが君に何かしようとするなら、命がけで護る」

美しい始祖の浮竹に、護ると言われて、織姫は頬を赤く染めた。

「でも、浮竹さんには京楽さんがいるんですよね」

「京楽は、俺の血族だ。特別存在。何にもかえがたい」

その言葉に、京楽はうんうんと頷いていた。

「エロ魔人で、性欲の塊で、何かあればすぐ俺を犯そうとするちょっと頭がいかれたやつだが」

なぬ?

僕の浮竹の中の評価って、以外と低い?

「またまたぁ。浮竹ってば、そんなこといって。ツンデレさん」

「だれがツンデレだ!ツンもなければデレもない!」

「でも、僕のこと愛してくれているんでしょ?」

「それは、当たり前だ。やっ、何をする」

京楽は、浮竹の耳を甘噛みした。

ふっと息を吹き込むと、浮竹は耳が弱いのか、京楽の頭を殴って、宮殿の中へと入っていく。

「愛が痛い・・・・」

「ふふふ、浮竹さんと京楽さんって、ほんとに仲がいいんですね」

「そうだよ。僕は浮竹だけを愛してるから」

「ああ、私にもそんな人がいたらなぁ」

「きっと、いつかいい人が見つかるよ。こんなに可愛いんだから」

京楽に褒められて、織姫は栗色の髪を翻して、にこりと微笑んだ。

「もう、京楽さんってば!」

その微笑みは、慈愛に満ちていた。

浮竹も、京楽も、その微笑みに魅入ってしまう。

「あ、ついたぞ」

ブラッディ・ネイは玉座に座っていた。その右隣には、ロゼ・オプスキュリテが、背後には12歳くらいの美しい少女が侍っていた。

足元には、ルキアによく似た、13歳くらいの少女を侍らせていた。

「相変わらず、肉欲の塊だな、ブラッディ・ネイ」

「兄様、うるさいよ。へぇ、君が人間からの使者なのかい?名前はなんていうんだい?」

織姫の美貌に興味をもった、ブラッディ・ネイが名を尋ねる。

「井上織姫といいます。ブラッディ・ネイ様におかれましては、ご機嫌うるはべっ。舌、舌噛んだ!」

織姫は、噛んだ舌を自分の聖なる癒しの力で癒していた。

「へぇ、織姫ちゃんっていうんだ。聖女なんだね?」

「あ、そうです。聖女シスター・ノヴァの四天王ってことになってたんですけど、シスター・ノヴァの後継者みたいな形になってます」

「聖女シスター・ノヴァはもう聖女じゃいからね、人間社会では。聖帝国では、未だに聖女として崇めるやつがいるらしいけど。ボクはあんな醜女には興味ないから」

「シスター・ノヴァの転生する度に醜くなるように、呪詛をかけていたそうだな」

浮竹がそう言うと、ブラッディ・ネイは悪びれもせずこう言った。

「だって、ボクの兄様に馴れ馴れしいから」

「俺は俺のものだ。後京楽のもの」

「兄様もさぁ、血族にする者ちゃんと選べばいいのに。何もこんなひげもじゃを血族しなくたって、もっといい男いるじゃない」

「何故そこで、男が出てくる」

「だって、兄様、女より男のほうが好きでしょ?海燕クンをはじめとする5人の血族のうち4人が男だったじゃない。6人目の京楽クンも男だし」

「ちょっと、浮竹、今までの血族のうち4人も男がいたなんて、聞いてないよ」

「ああもう、京楽は黙ってろ」

浮竹は、ブラッディ・ネイと視線を絡め合わせた。

「俺のなりそこないを、匿っているな?」

「あは、ばれちゃった?」

「俺と同じ魔力を感じる。出てこい、ドッペルゲンガー!」

ぱしっと、空間に罅が入るくらいの魔力が渦巻いた。

「ちょ、兄様、ここはボクの宮殿だよ!やり合うなら、外でやってよ!」

魔力の中心にいた浮竹は、ドッペルゲンガーがいる部屋までずかずかと入ってくると、その存在を消そうとした。

「薔薇の魔法・・・。ブラッディ・ネイの魔力で守られているのか」

「兄様!その子はもう悪さしないよ。許してやってよ!」

「俺の姿をとっている限り、お前はこれを愛するのだろう?」

「そりゃそうだよ。素直な兄様なんて、かわいすぎてよだれものだよ」

「素直な浮竹・・・僕の下では、よく素直になるんだけどねぇ」

「うるさいねぇ、このもじゃひげの血族が!」

「もじゃひげで悪いか!」

「ああ、悪いとも!髭があるのはいいとして、その濃い胸毛!腕毛!スネ毛も許せない!」

「浮竹、ブラッディ・ネイがいじめる。ボクの毛を否定する!」

「ブラディ・ネイ。京楽はもじゃもじゃだからいいんだ」

「え、そうなの浮竹」

「兄様、嗜好変わった?」

なんだか漫才めいた会話になっていて、くすくすと織姫は笑っていた。

「血の帝国の女帝というから、どんな怖い人かと思っていたから、あーあ、緊張するだけ疲れちゃいました」

「あ、織姫ちゃん・・・ああもう、いいよ。これは兄様に返す。兄様の代わりになれるわけないものね」

「嫌だ。俺は生きる。俺は始祖の浮竹十四郎。俺は神。俺は世界」

ドッペルゲンガーの浮竹は、浮竹の魔力に作り出された血の刃によって、粉々に壊れてしまった。

「あーあ、容赦ないねぇ」

京楽が、硝子人形になって粉々になったドッペルゲンガーを見た。

「ブラッディ・ネイの薔薇の魔法に思考まで汚染されていた。俺は神なんかじゃないし、世界でもない」

「そう?ボクの中では兄様は神様で、世界だよ。始祖の始まり、ヴァンパイアの世界そのもの」

ブラッディ・ネイは玉座に戻っていった。

皆、その後を追って玉座にある部屋に戻る。

「織姫ちゃんだっけ。ちょっとだけ、血をもらってもいいかな?」

「だめだぞ、織姫君。ブラッディ・ネイは性悪だから、血だけじゃすまさない」

「ちぇっ、ちょっと味見するくらいいいじゃない」

「「よくない」」

浮竹と京楽はハモった。

「ブラッディ・ネイ様。15代目人間の使者として、ここに国交の本格的な正常化と、互いの領土不可侵の契約書を持ってきました。どうか、サインを」

「はいはい、分かったよ」

ブラッディ・ネイは書類に目を通して、血文字でサインした。

「では、私の役目は終わりました」

「ねぇ、織姫ちゃん、ボクの後宮のぞいていかない?ちょっと好みより年上だけど、ボク、巨乳嫌いって思われがちだけど、けっこう好きなんだよね」

舐めるような視線で見られて、織姫は背筋がぞわっとした。

「え、遠慮しておきます。では、浮竹さん京楽さん、帰りましょう!」

「ええ!使者をもてなす晩餐の用意もできてるのに!」

「絶対、媚薬とかしびれ薬入ってるから、口車に乗せられちゃだめだぞ」

「浮竹さん、実の妹さんに厳しいんですね。でも、実の妹さんにしてはあまり似てませんね?」

「ブラッディ・ネイは俺と同じで死なない。完全に不死ではないが、それに限りなく近い。死すればヴァンパイアの皇族や貴族の少女の中に転生をして、ずっとそれを繰り返してきた。今で9代目だったか」

「うわ、すごいですね。浮竹さんは、転生しないんですか?」

「僕の浮竹は、一人だけだよ。ねぇ、浮竹?」

みんなの前でハグされた上に口づけられて、浮竹は顔を赤くして、京楽を押しのけた。

「とにかく帰ろう。ブラッディ・ネイが追ってこないうちに」

空間転移の魔法陣に乗ると、3人は古城の地下へとワープしていた。


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「ただいま、ポチ。ほーら、好物のドラゴンステーキだぞ」

ミミックのポチにドラゴンステーキをやろうとして、浮竹はポチに食われていた。

「暗いよ怖いよ狭いよ息苦し・・・くない?ポチ、お前どうした」

すぽっと、自力で脱出して、浮竹はミミックを観察した。

「ポチ、お前レベルがあがったのか!ドラゴンステーキは経験値あるからなぁ」

「ええっ、飼われてるのにLVが上がるミミックって何それ」

「いや、その前に飼われてることがおかしいですよ!」

織姫の的確なツッコミに、二人して首を傾げる。

「ミミックを飼うってそんなにおかしいか?」

「さぁ。ワイバーン飼うよりはましなんじゃない?」

二人の感性は、ヴァンパイアであるせいか、どこかずれていた。

「ブラッディ・ネイの晩餐には及ばないだろうが、今夜は御馳走を用意してある。思う存分食べて、聖神殿に戻ってくれ」

「ありがとうございます、浮竹さん」

「僕は、木苺のタルト焼くよ。デザートに食べていって」

「はい!」

その日の晩は、織姫のために、フルコースの料理が用意された。

京楽の作った木苺のタルトは絶品で、浮竹も織姫も食べながらうまいと、京楽を褒めた。


「じゃあ、私はこの辺で・・・・・」

「ああ、またよければ遊びにきてくれ」

「たまにはまた遊びにおいで、織姫ちゃん」

「はい!」

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「京楽、ちょっといいか?」

「何?」

「お前のの体から、薔薇の香りがする。この古城に薔薇園はないはずなのに」

「うん、ブラッディ・ネイからもらった入浴剤だね。他にもいろいろ、ブラッディ・ネイからもらったよ。害意はないようなグッズだったから、使わせてもらってる」

「朝にお風呂に入ったのか?」

「うん」

「入浴剤の他に、何をもらった」

「石鹸と、シャンプーとリンス、あと潤滑油」

「潤滑油・・・・。まあいいか。ああ、いい匂いだな・・・・なんか興奮してきた。やらせろ」

はぁはぁと、浮竹が興奮していく。

「ブラッディ・ネイ、まさか入浴剤に何か入れてたの!?」


「うふふふふ。今頃、あのひげもじゃ、兄様に抱かれてるんだろうなぁ。それとも、逆に兄様が抱かれているのかな?ロゼの能力で、また入れ替わってもらおうか」

そんなことをブラッディ・ネイが、玉座の上で漏らしていた。

ちなみに、入浴剤の他に、京楽が使った石鹸、シャンプーとリンスには、その匂いを嗅いだ者を性的に興奮させる魅了の魔法がかけられていた。入念にかけられた魔法なので、浮竹にも分からなかった。


「京楽!!」

ある程度手入れされた庭のベンチの上に、浮竹は京楽を押し倒していた。

「浮竹、ベッドにある場所に行こうよ」

「ここがいい。ここでする。お前を抱く」

深く口づけられて、浮竹は薔薇の匂いをまき散らす京楽に、うっとりとなっていた。

「ああ、今すぐお前が欲しい」

「すでに、僕は君の手の中だ。でも、僕は君を抱きたいな」

反対に押し倒されて、浮竹は戸惑っていた。

「俺は、京楽を抱きたいんだ」

「うーん、僕は浮竹を抱きたいから。それに、君の今の行為は襲い受けだよ」

「襲い受け?」

「そう。受けの子が、襲い掛かってきて逆に食べられちゃうこと。ベッドに行こうか」

ドサリと寝室の天蓋つきのベッドに押し倒されて、浮竹は京楽が手に入るなら、どちらでもいいかと思った。

「俺がお前を抱きたかったが、お前が俺を抱きたいなら、別にそれでもいい」

「十四郎、君には僕の下で乱れてほしい。僕の太陽」

「んっ、春水・・・俺が太陽なら、お前は月だ」

「月は、太陽がなくっちゃだめなんだよ」

「ああ!」

衣服を脱がされて、胸の先端をつままれる。

「んっ」

口づけを受けて、唇を開くと、ぬめりとした京楽の舌が入ってきた。

「んんっ」

混ざった唾液を、こくりと喉を鳴らして嚥下する。

京楽は、唇を舐めた。

自分の下で乱れる浮竹の妖艶な姿に、自制が効かなくなる。

「あああ!!!」

浮竹のものにしゃぶりついて、精液を出させると、それを味わって嚥下した。

ブラッディ・ネイの薔薇の魔法のせいか、精液は薔薇の味がした。

ブラッディ・ネイの薔薇の魔法、悪くないかもと、京楽は思った。

「やっ」

潤滑油にも、薔薇のエキスが入っていた。

ブラッディ・ネイからもらったグッズの一つだったが、使うなら今しかないと思った。

「やぁん」

指を入れると、浮竹はかわいく啼いた。

「やっ」

「こんなに僕の指を飲みこんで。ああ、ここ気持ちいでしょ?」

こりこりと、前立腺を刺激すると、浮竹のものはゆるりとまた勃ちあがった。

それをしごきながら、京楽は指を引き抜いて、己の熱で浮竹を貫いた。

「あああああ!!!」

薔薇の香りが、部屋中に満ちていた。

自分と同じ匂いを纏う浮竹に、夢中になる。

何度も前立腺ばかりをすりあげていると、浮竹がもどかしそうにしていた。

「もっと、もっとお前が欲しい、春水」

「十四郎・・・・・」

結腸をこじ開けるように、奥をとんとんとノックして侵入した。

「あ、あ、そこいい、もっと、もっと」

ごりごりと結腸の中まで押し入ってきた熱に、浮竹はうっとりとなった。

「孕むまで、犯せ」

「それだと、永遠に君を犯し続けなくちゃいけないよ」

「あああ、春水、春水!」

「大好きだよ、十四郎」

「あ、好きだ、愛している、春水」

じゅぷじゅぷと、そこは濡れた水音を立てる。

「あ、あ、あ、あ!」

浅く抉り、次に深く貫かれて揺さぶられた。

快感に脳が支配されていく。

「血を吸うよ、十四郎」

「俺も、お前の血を吸う」

互いに肩に噛みつきあって、吸血した。

「ああああ!!!」

「んっ」

「ああ、春水の声、すごくいい。もっと、聞かせてくれ・・・・・」

「んんんっ・・・・・ああ、気持ちいよ、十四郎。もっと吸って?」

浮竹は、京楽の首筋に噛みついて、血を啜る。

京楽は、セックス中の吸血の快感によいながらも、浮竹を犯した。

「ああ、あ、吸血されながらは、だめぇっ!」

浮竹の喉に噛みついて、吸血しながら浮竹を犯した。

「ああああ!」

ぐりぐりっと、結腸にまで入り込んできた熱が弾ける。

むせ返るような薔薇の匂いに包まれて、二人して意識を飛ばしていった。


「最悪だ」

そのまま、数時間眠ってしまったのだ。

シーツは体液でかびかびだし、ドロリとした京楽が出したものがまだ体内に残っている。

「ごめんなさい」

「まずは風呂だ。その間に戦闘人形にシーツを洗ってもらう」

こんな時、本当に戦闘人形はありがたい。

後始末のシーツを一人洗う羽目になると、悲しいものがある。まぁ、乱れた浮竹を思い出してにまにまするのだが。

浮竹は、京楽がブラッディ・ネイからもらった、入浴剤やらシャンプーリンス石鹸などは全部処分した。

「ああ、もったいない・・・襲い受けの浮竹、素敵だったのに」

「胸毛剃るぞこら」

「ごめんなさい」

一緒に風呂に入り、浮竹の体内にまだあった京楽の体液をかき出して、浮竹は湯に白桃の入浴剤をいれた。

ほんのりと甘い香りに、疲れが癒されていく。

「ブラッディ・ネイから何かもらったら、今度から俺にちゃんと報告すること。いいな?」

「はーい」

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「あそこが、今の十四郎が住んでいる、古城」

ブラディカ・オルタナティブは、真紅の瞳を瞬かせた。

浮竹の5人目の血族にして、浮竹が唯一血族として愛した女性だった。

褐色の肌に、金髪の、紫色の瞳をしたそんじょそこらでは見かけないほどの美女だった。

「待っていて、愛しい十四郎。ブラディカ・オルタナティブは、今日、休眠から目覚めました」

浮竹の2千年前の、恋人であるブラディカは、妖艶に微笑んだ。

「新しい血族がいるなら、それでもいいわ。二人まとめて、愛してあげる」

真紅の瞳は、いつの間にか紫色にもどっていた。
     

          次の話は、佐助さんとのコラボにて番外編です



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始祖なる者、ヴァンパイアハンター10


赤子として転生した女帝ブラッディ・ネイは、その親であった少女を洗脳して、赤子を殺させた。

結果、ブラッディ・ネイは皇族の末席にいた少女の肉体に宿り、完全な復活を遂げた。

ブラッディ・ネイは今、ロゼ・オプスキュリテというヴァンパイアの貴族である少女に、夢中になっていた。

ルキアにも夢中であるが、全然振り向いてくれないので、ロゼを寵愛した。

ロゼは、特殊な能力を持っていた。

誰かの相手と、一時的に中身を入れ替えることができるのだ。

それに、ブラッディ・ネイが目をつけた。

愛しい兄を、抱きたい。そんな欲望を、生まれた時から抱いていた。

兄に抱かれるのではなく、抱きたいのだ。

兄妹としての関係は、すでに始祖であった頃から破綻していた。それでも、ブラッディ・ネイが真に愛するのは、実の兄浮竹十四郎、ただ一人であった。

「兄様待っていて。アハハハほんとにすごいね、ロゼ。君はボクの宝物だよ。だから、分かっているよね?隙をついて、兄様と入れ替わるんだよ」

ロゼ・オプスキュリテは、初めて自分を愛してくれる存在に出会い、言われた通りに行動した。

始祖である、浮竹十四郎の元へ行き、何度も通うことで敵対心をなくさせた。

「ロゼ・オプスキュリテと申します。ブラッディ・ネイ様の身の回りの世話を行っています。浮竹様も、何かあればこのロゼ・オプスキュリテに命じてください」

「いや、いいから。君は俺の愚昧の世話をしてくれているんだな」

「ブラッディ・ネイ様の寵愛をいただき、後宮で普段は暮らしています」

「あの愚昧が・・・・。嫌になったら、いつでも俺たちのいる古城においで。もう、友人だろう、俺たち」

ロゼは、頬を染めた。

「そんな、始祖であられる浮竹様とご友人など、恐れ多いです」

「俺は、君のこと、けっこう好きだぞ」

「私も、浮竹様を愛しています」

いい雰囲気を醸し出す二人に、京楽が黙っていなかった。

「ちょと、ロゼちゃん。僕の京楽が好きでも、あげないよ」

「おいおい、ロゼが恐縮してるだろう」

「いいや、はっきり言わせてもらうよ。浮竹は僕のものだ。僕を愛して、僕に抱かれて乱れる。そんな浮竹を、想像できるかい?」

ロゼは真っ赤になったが、臆することなく京楽を見た。

「私は、ブラッディ・ネイ様の御寵愛を一身に受ける身。たとえ始祖の浮竹様の血族であろうと、私の存在を無下にすることは許しません」

「言うねぇ」

京楽は、血の刃を作り出した。

「やめないか、京楽!女の子だぞ!」

「浮竹こそ、分かってないね。あのブラッディ・ネイの寵愛を受ける少女だよ。何をするか分からない」

その言葉通りだった。

光が煌めいた。

その時、その光を見た京楽は、無垢なる者になっていた。

「ボクは、ブラッディ・ネイ。君の主だよ」

まるで刷り込みの現象のように、現れた9代目ブラッディ・ネイに跪き、恭しくその手をとって口づける。

「京楽、しっかりしろ!」

浮竹が叫ぶが、浮竹の言葉は届いていなかった。

「ブラッディ・ネイ・・・・転生していたのか」

「兄様の呪いで、赤子に転生してしまったけど、その母親を洗脳して支配してボクを殺させた。赤子で死ぬなんて、初めての体験だよ。痛かったなぁ。その分、兄様をいじめるけど、いいよね?」

クスクスと、ブラッディ・ネイは笑う。

「さぁ、ロゼ。君も・・・・」

「はい、ブラッディ・ネイ様。あなたの御心のままに」


「なんだ?意識が―――」

浮竹は、気づくとロゼ・オプスキュリテになっていた。

「なんだこれは!」

「ウフフフフ。兄様、かわいいよ、兄様」

「近寄るな!」

「これで、兄様はボクのものだ。兄様、愛してる。ボクに愛されて、ボクの子を孕んで?」

女帝ブラッディ・ネイは同性愛者だ。年端もいかぬ少女か、十代前半の美しい少女を愛して、男の精子なしで、相手を懐妊させることができた。

「さぁ、ロゼ。いや、兄様。大事な血族の京楽を無事返してほしければ、ボクに抱かれて?」


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それはロゼがくる数日前。

浮竹は、ミミックのポチに餌をやっていた。

「ほーら、ポチの好きなドラゴンステーキだぞ。うわあああ!」

浮竹の叫び声に、慌てて駆け付けた京楽が見たものは、いつものようにミミックに食べられている浮竹の姿だった。

「暗いよ~怖いよ~狭いよ~息苦しよ~。でもなんかいい。ポチの中あったかい」

京楽は、慌てて浮竹を救出した。

「ちょっと、ミミックの中が居心地がいいとか、ポチに食べられすぎて脳みそいかれたの!?」

「京楽も食べられてみれば分かる」

どんと、突き飛ばされて、京楽もポチに食べられた。

「なにこれ・・・まるで真っ暗な闇の中、温泉にひたってるかんじ」

京楽は、自力でポチから脱出した。

「君の言いたいことは分かった。確かにミミックのポチの中は居心地がいいのは認めよう」

「じゃあもっかい食べられる!」

「あ、こら浮竹!」

「暗いよ~怖いよ~狭いよ~息苦しよ~。ああっ、宝石発見!」

ミミックのポチは、ドラゴンステーキを与えられる度に、小粒であるが上質の宝石をくれた。

「今日はエメラルドだ。わーい」

無邪気に喜ぶ浮竹をそれ以上怒れなくて、京楽は頭を抱え込むのだった。


冒険者ギルドに来ていた。

認識阻害の魔法をかけているので、他の皆からは浮竹はエルフの魔法使い、京楽はハーフエルフの剣士に見えた。

Sランクの冒険者ということで、それにあった依頼が舞い込んでくるが、浮竹はCランクの依頼を引き受けた。

内容は「ミミックの異常繁殖!駆除求む!」と書いてあった。

「やっぱり、それ引き受けると思った」

京楽は、ミミックと書かれた依頼書を見た瞬間から、あ、これ絶対浮竹が受けそうと思ったのだ。

「ミミックの駆除?Sランク冒険者さんでしょう?もっと、聖剣入手ができるSランクダンジョンのモンスター討伐依頼を受けたりしませんか?」

「いや、俺はこれがいい。というかこれしか引き受けない。これでいい」

ギルドの受付嬢は、エルフのイケメンに見える浮竹に頬を赤くしながも、その依頼を受けたものとして受理してくれた。

「あの、今度時間が空いている時に、お茶でも・・・・」

京楽は、受付嬢を睨みつけた。

「僕と浮竹はパートナーなんだよ。人生においてもね」

「し、失礼しました!」

受付嬢は、今度こそゆでだこのように真っ赤になって、浮竹と京楽をうっとりと見つめていた。

ヴァンパイアである時のほうが美しいが、認識阻害の魔法で作らせたエルフとハーフエルフの見かけも、浮竹は美しい青年であり、京楽は美丈夫であった。

「浮竹、なんでミミックなの。ポチがいるじゃない」

「世界のミミックは、俺を待っている!」

すでに、自分の世界に入り込んでいる浮竹を引きずって、冒険者ギルドから出た。

Sランク冒険者がCランクの依頼を受けたと、騒ぎになっていたからだ。

「ちょっと待たれよ!某(それがし)は、Sランクの魔剣士。Sランクでありながら、Cランクの依頼を受けるなんて、Cランク冒険者の邪魔をするようなもの!聞けば、以前も同じようにBランクの依頼を受けたとか」

「なんかわいてきたな」

「最近あったかくなってきたからねぇ。いろいろわくんだよ」

「な、某をボウフラのように言うでない!このことは、ギルドマスターに報告して、Sランクであるのかが正しいかを吟味して・・・・・・」

Sランクの魔剣士とやらは、フルチンになっていた。

「なああああ!いやああ、恥ずかしい!」

京楽が、血の刃で魔剣士の服をズタズタに斬り裂いたのだ。

「受付嬢さーん。ここに露出狂のSランク冒険者がいまーす!」

大声で呼ぶと、他の冒険者も一緒になってやってきた。

「きゃあああああ!フルチンよ!」

「フルチンのSランクだ。傑作だなぁ」

浮竹と京楽は、すでにその場にはいなかった。

少し遠い場所から、様子を見ていた。

「某が悪いのではござらん!さっきのSランク冒険者にきっとやられたのでござる!と、とにかく何か着るものを!」

浮竹は、魔法を使って近くにあった洗濯ものを干しているロープから、女性の下着のパンツをとると、それをフルチンで必死で股間を隠している魔剣士の頭に被せた。

「いやあああああ!!変態よ、変態だわ!このことは、ギルドマスターに報告させていただきます!」

「某が悪いのではござらん!エルフとハーフエルフのSランク冒険者のしわざでござる!」

「そんな冒険者いたっけ?」

「さぁ?」

認識阻害の魔法は、記憶にも阻害を与える。

「確かに見たのでござる。エルフと・・・エルフ?どんなエルフでござっただろうか。もう一人は人間だったような?あれ?」

結局、そのSランク冒険者は、露出の罪で三日間牢屋に入れられる羽目になるのであった。


「ここが、ミミックが異常繁殖しているダンジョンか」

古城のあるガイア王国から遥か北に来ていた。

空間転移の魔法陣を使い、C級ダンジョンに来ていた。

「少し、寒いな」

北国なので、無論温度が低い。

京楽は、寒がる浮竹に、アイテムポケットから取り出したマフラーを首に巻いてやった。

「すまない、京楽」

「君が風邪ひいたら、看病するのは僕だしね」

それに、むーっと、浮竹が頬を膨らませた。

「始祖だぞ、俺は」

「はいはい。始祖でも風邪ひくんだから、用心にこしたことはないよ」

以前風邪をひいた時、念のためだとルキアの聖なる力で癒してもらい、風邪を治してもらった。

ルキアの力は聖女としては、シスター・ノヴァに匹敵する力をもつ。

さすがにヴァンパイアの死者を蘇らことはできなかったが、重篤な病気でも癒すことができたし、聖女の祈りの聖水で再生できなかったり、いろんなことで再生できない怪我を癒した。

「さぁ、ダンジョンにもぐるぞ!」

「浮竹、これ身に着けといて」

「なんだこのペンダント」

「一度、命を守ってくれる。念のためのものだよ。始祖の君がいくら死なないと言っても、転生しないから、肉体が酷く傷つけば再生するのに時間がかかるから」

「ミミック如きに、殺される俺じゃないぞ」

「はいはい。先進もうか」

ダンジョンの中には、ずらーっと宝箱が並んでいた。

「あ、宝箱!」

「ちょっと、浮竹!」

ミミックに食われながら、浮竹は「ファイアボール」と呪文を詠唱して、ミミックを倒していく。

いつものミミックにかじられるだけの、浮竹ではなかった。

「おし、古代の魔法書ゲット。こっちは魔道具か」

浮竹は、ミミックを複数のファイアボールで倒していく。宝物を残すミミックと、そうでないミミックがいた。

それに、京楽が首を傾げた。

「浮竹、ミミックだよ?君の大好きなミミック」

「ああ。食われた分かったが、ミミックもどきだな。本物のミミックじゃない。本物のミミックは、暗くて狭くて息苦しい。なのに、ここのミミックもどきはかじると舐めてくるんだ。害はあまりないが、本物のミミックと勘違いされそうだから、ミミックもどきはファイアボールで倒す」

「うーん、僕には違いが分からないよ」

「かじられてみればわかる」

どんと、京楽を突き飛ばしてミミックもどきにかじらせた。

「なにこれ。舐めてきた。気持ち悪い」

京楽は、もっていたミスリルの剣でミミックもどきを倒した。

「なんだ、金銀財宝か」

浮竹は、ブラックドラゴンの住処で金銀財宝を大量に入手したので、興味なさげであった。

「金があれば、君の大好きな古代の魔法書や魔道具、古代の遺物が買えるよ?」

京楽は、その金銀財宝を自分のアイテムポケットに収納した。

「それもそうだな!きりきり、金になりそうなもの集めるぞ!」

浮竹の変わり具合に、京楽は苦笑するのだった。


「あ、これは本物の宝箱だ」

3階層まできていた。

モンスターは出たが、雑魚ばかりだった。

「本物の宝箱ってことは、いいもの入ってるってことだよね?」

京楽の言葉に、浮竹は首を傾げた。

「うーん、確かに本物の宝箱のほうがいいもの入ってる時はあるが、ミミックのほうが古代の魔法書やらを出してくれるから、俺はミミックのほうがいいな。あ、鍵かかってる」

「無理やり壊す?」

「いや、俺にはこれがある」

浮竹が懐から取り出したのは、針金だった。

それを鍵穴につっこんで、カチャカチャさせると、カチリと音をたてて宝箱が開いた。

「うわ、毒ガスだ!京楽を、息を止めろ!」

中には、毒ガスの罠があった。

「キュア!」

浮竹は、毒ガスを通常の空気に転換した。

「ふう、危なかった」

「浮竹、鍵穴をあけるスキルって、盗賊のだよね。どこで身につけたの、そんなの」

「何、8千年も生きていると、いろいろ身につくものだ」

浮竹は、何気に錬金術の金クラスの資格をもっていたりする。

京楽の知らない、浮竹の姿はまだまだありそうだった。

「中に入ってたのは・・・エリクサーか。これは貴重だ。ちょっと古くなってるけど、錬金術士に高く売れるだろう」

エリクサーは、別名神の涙と呼ばれた。どんな呪いも、ステータス異常も治してくれる、神の薬であった。

最高クラスである、ミスリル級の錬金術士が、金をかけて一生に数度くらいしか作り出せない、奇跡の薬だ。

浮竹は、それを懐にしまった。

結局、ミミックは3階層までで、それ以上はでなくなった。

4階層、5階層と進んで、5階層でケルベロスと会った。

「ボスか。ケルベロスは炎の属性だ。京楽、気をつけろ、火を吐くぞ!」

「あおーーーん!!!」

仲間を呼ぶケルベロスの三つの頭をかいくぐって、アイスエンチャントで氷をまとわせたミスリル製の剣で、京楽はケルベロスの心臓を突き刺していた。

どさりと、ケルベロスが倒れる。

ケルベロスの遠吠えでかけつけてきた雑魚モンスターを倒して、浮竹は京楽の頭を撫でた。

「ケルベロスは、最近貴族の女性に人気の毛皮だからな。心臓を刺して即死させれば、毛皮の傷みが少ない・・・んっ」

もっと撫でてと意思表示してくる京楽の頭を撫でていると、京楽が口づけしてきた。

「こんな場所で・・・・・」

「うん。キスだけだから」

「んっ・・・」

舌を絡めあってから、離れた。

「ケルベロスは、肉はまずくて食えないが、とにかく毛皮が高く売れる。あと、血は錬金術の材料になるし、爪は牙は武器の材料になる」

「うん」

京楽は、すでに疲れているようだった。

ここまでくるのに、50回ほどは浮竹はミミックに食われて、それを救出してきたのだ。疲れていても仕方ないだろう。

「今回は、この5階層で引き上げるか。これ以上潜ってもミミックは出なさそうだし、Cクラス冒険者の邪魔になるだろうしな」

5階層までのモンスターは、全部倒してきた。

素材になりそうなモンスターは、片っ端からアイテムポケットに収納した。

ダンジョンウォークという、ダンジョン脱出専門の魔法を使ってダンジョンを抜けると、外は雪が積もっていた。

「雪か。そうか、だからあんなに寒かったんだな」

ダンジョンの中の温度は一定に保たれているが、ダンジョンの外では雪が降っていた。

雪ではしゃぐ浮竹を、温かい目で京楽は見守った。

ガイア王国に戻り、冒険者ギルドの解体工房で、ケルベロスの遺体を見せると、受付嬢が顔を引きつらせた。

「これは・・・・懸賞金のかかっていた、ユニークボスのケルベロスですね。通常Sランクのダンジョンのボスとして登場するので、懸賞金がかかっています。遺体の状態もいい。高めに買い取らせていただきます」

懸賞金の報酬として、金貨2百枚をもらった。雑魚のモンスターで金貨8枚、ケルベロスの買取金が金貨40枚だった。

ドラゴンの素材が、どれほど高価であるか、京楽もようやく理解した。

「ねぇ、たまには人間社会のレストランに行かない?」

報酬金でほくほくの二人は、そんな会話をしていた。

「たまにはいいか」

「僕は、前から君を連れて行きたいレストランがあったんだよ。ちょっと高いけど、いいでしょ?」

「金は腐るほどあるから、いいぞ」

確かに高級なレストランで、オーダー見るとどれも金貨3枚以上からした。

適当に、魚介類を中心としたメニューを注文する。

やってきた料理はどれも新鮮で、美味しかった。

「なかなか美味いな。味は覚えた。今度から、戦闘人形が再現してくれるだろう」

「君の戦闘人形って、ほんとに便利だね」

「俺もそう思う」

そんなこんなで、浮竹はエリクサーを入手していた。


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「さぁ、愛し合おう兄様」

「やっ」

ブラッディ・ネイにキスをされていた。

縮こまっった、浮竹の舌を、ブラッディ・ネイの舌が絡み、吸い上げていく。

実の妹の唾液は、とてつもなく甘かった。

ぼっと、ロゼ・オプスキュリテの体が火照るのが分かった。

「やめっ」

「やめないよ、兄様。ああ可愛いよ、兄様。ずっとそのままならいいのに。残念ながら、ロゼの精神交換は時間制御があるから」

柔らかな胸を、もみしだかれた。

先端をつままれると、全身に稲妻が走ったような感覚を覚えた。

「いやっ」

トロトロと蜜を零す女体の秘所に、ブラッディ・ネイの指が入ってくる。

「ああああ!!!」

陰核をつまみあげられて、浮竹は女の体でいっていた。

はぁはぁと、荒い息をついて、エリクサーのことを思い出した。

「京楽に、何をした」

「別に命の別状はないよ。ただ、混乱を与えて、ボクが主になっていることにしただけ」

浮竹はロゼ・オプスキュリテの体で、魔力を拳にこめた。

「さぁ、愛し合おう。続きをするよ、兄様。ぐっ!」

魔力をこめた拳で、ブラッディ・ネイの鳩尾を打つ。

ブラッディ・ネイは意識を失った。

「あ、ブラッディ・ネイ様!」

駆けつけてくる自分の体の懐からエリクサーを出して、まずは口移しで京楽のませた。

「あれ、僕は何を?」

「よかった、元に戻ったんだな」

「君はロゼ?何故、浮竹の匂いを・・・・・・」

「説明は後だ。こっちにきなさい、ロゼ・オプスキュリテ」

「はい・・・・・」

「この能力は、自分で解けるか?」

「できません」

「呪いの一種だな・・・・。エリクサーだ、飲め」

「でも」

「始祖の名によって名じる」

「はい・・・・・・」

浮竹の体のロゼは、エリクサーを一口、口にした。同時に、ロゼの姿の浮竹が、エリクサーを口にする。

お互いの体がぱぁぁぁと輝いて、精神は肉体を移動して、元に戻っていた。

「どういうこと、浮竹」

浮竹は京楽に、全てを説明した。

「ブラッディ・ネイにはしばらく謹慎させる」

浮竹は、ブラッディ・ネイに戒めの魔法を使うと、拘束した。

「ん・・・兄様?なーんだ、元に戻っちゃったのか、つまんなーい」

「ブラッディ・ネイ。反省しろ」

「嫌だね。ボクは、ボクのやりたいようにするし、好きなように生きる」

「ライトニング!」

「ぎゃあああああああああ!!!」

ブラッディ・ネイは感電していた。

ぱちぱちと火花が弾ける。

「く、兄様、魔法で無理やりボクを屈服させるつもり?その気になれば、ボクは自害して次のブラッディ・ネイになるよ」

「転生を続ける呪いか。呪いに呪いをかける」

浮竹は、蝙蝠の血やらトカゲの尻尾やらを取り出して、混ぜ合わせると薬を作った。

「飲め、ブラッディ・ネイ。一カ月転生を封じる薬だ。飲まないなら、10年間転生を封じる呪いをかける」

「えー。仕方ないなぁ。まぁ、それで兄様の気が収まるなら」

ブラッディ・ネイは飲むふりをした。

浮竹は眉を顰めて、中身を口にすると口移しでブラッディ・ネイに飲ませた。

「にがーい」

そう言って、ブラッディ・ネイは再び意識を失った。

「ロゼ・オプスキュリテ」

「はい!」

「始祖の名において命じる。ブラッディ・ネイを血の帝国の王宮の牢に入れて、1カ月監禁すること」

「でも、私の力では・・・・」

「白哉」

「ここにいる」

「浮竹、いつの間に?」

「ロゼに体を支配される一瞬の隙に、式を放っておいた」

白哉は、つい今しがた到着したばかりで、呼吸が乱れていた。

「ブラッディ・ネイが浮竹に何かしたのか」

「ああ、したとも。嫌なことをな。ということで、こいつを持って帰って、王宮の牢屋に入れておいてくれ。これは、始祖の名による懲罰書だ」

ブラッディ・ネイの体を受け取り、懲罰書を確認すると、白哉はブラッディ・ネイとロゼと共に帰ってしまった。

「ねぇ、浮竹・・・・・・・」

「京楽、今回のことは不測事態で・・・・・・」

にーこっりと、京楽は微笑んだ。

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「やぁ、もういかせてぇ!」

「だめだよ。そんな簡単にいかせたら、罰にならないでしょ?」

浮竹のものの根元を、魔力の通ったヒモが戒めていて、精液を出すことを許さななかった。

浮竹は目隠しをされていた。

京楽が突き上げる度に、びくんと体を反応させる。

「君がブラッディ・ネイなんかにいかされたなんて、僕が怒って当然でしょう?」

「あれは、ロゼ・オプスキュリテの体だった!」

「でも、精神は浮竹のものでしょ?」

「やぁっ!」

最奥の結腸をこじあけられて、どくどくと京楽は精液を注ぎ込んだ。

「やぁ、いきたい、いきたい。外してぇ」

「だーめ。最後の最後にとってあげるから」

「ああああ!!!」

真っ白な太ももに噛みついて、京楽は浮竹の血を啜った。

「あああ!」

弾けさせれない熱に、体がどうにかなりそうだった。

吸血による快楽を与えられながらも、これが実の妹のに好きなようにされた罰なのかと、遠のく意識の狭間で思う。

「あ・・・ああ・・・・・・」

目隠しは、いつもより快感を多く浮竹に与えた。

「やっ、もう限界!」

浮竹が、自分で戒めを外そうとするが、京楽の魔力が通っているせいでとれない。

「とってぇ、お願い、春水、春水」

かわいく啼く浮竹に、京楽は浮竹にディープキスをしながら、戒めを解いてやった。

「ああああああああああ!!!」

びくんびくんと、体がはねる。

大量の白い精液をシーツに零しながら、浮竹はいっていた。

「吸血、するよ?」

「やぁぁぁ、だめえぇっ」

いっている最中の吸血行為は、本当に気が狂いそうな快楽を浮竹に与える。

浮竹は、それが怖かった。浮竹がいっている最中に血を吸われることを嫌いだと承知の上で、京楽は浮竹の喉笛に噛みついて、血を啜った。

「ああ、甘い。君の血は、誰よりも甘い」

「あああ!京楽、おぼえ、て、ろ・・・・・・・・・・」

そうして、浮竹は意識を失った。


京楽は、正座をさせられていた。

「ごめんってば」

「謝れば済むと、思っているのか」

ぷんすかと怒る、意識を取り戻した浮竹が、衣服を着て最初にしたのは、京楽へのビンタだった。

根元を戒められて、目隠しをされたことがよほど気にくわなかったらしい

「2週間の禁欲と、俺への吸血禁止だ」

ぷりぷりと怒る浮竹は可愛かったが、いかせん京楽には重すぎる罰だった。

「そんなぁ。ああ、君の好きなミミックのいっぱいいるダンジョンへ行こう」

「何、ミミックがいっぱいだと?」

早速顔色を変える浮竹に、京楽はしめしめと思いながら、浮竹と一緒に朝食をとり、シャワーを浴びてから、二人でSランクのダンジョンにこもるのであった。


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「聖女、井上織姫」

「はい」

「汝を、第15代目の使者として、血の帝国に派遣します」

人間社会もまた、変わっていく。

「血の帝国はもう、脅威ではない。血の帝国からの使者もいる」

にこにこと、血の帝国の使者は和やかに笑んでいた。その名を、呼ばれて「彼」は顔をあげた。

「始祖、浮竹十四郎」

「はい」

「井上織姫との婚姻を、ここに認めるものとします」

真っ白な長い髪をもつ美しい始祖は、ゆっくりと頷いた。

「彼」は井上織姫を抱きよせた。

「始祖の名において、彼女を血族として、愛することを誓います」





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始祖なる者、ヴァンパイアハンター9

「でたぁ、ブラックドラゴンだぁ!」

「ひいい、逃げろおおお!!」

「いやああ、まだ、まだ子供がああ!」

「諦めろ!ブラックドラゴンのブレスであんたも焼け死ぬぞ!」

隣国ウルト共和国では、ブラックドラゴンが暴れまわっていた。

人や家畜を襲って、食った。

金銀財宝に目がなく、奪った。

「金銀財宝をため込むという点で、その金銀財宝だけ奪ってリリースするのはどうだろう」

「やめておきなよ。怒り狂って、人間たちの手に負えなくなるよ」


(ブラックドラゴンよ。神代から生きるヴァンパイアの始祖が命じる。大人しく山に帰れ。そうすれば、命だけは助けてやる)

古代語で思念で話かけると、ブラックドラゴンは浮竹と京楽の前に降り立った。

「神代から生きるヴァンパイアの始祖だと?そんな始祖が我に何の用だ」

「単刀直入に言うと、退治させろ」

「ガハハハハ!我は六百年を生きる、ドラゴン!ヴァンパイア如きに、殺されるものか!」

ブラックドラゴンは、古代語で浮竹と京楽に話しかけた。

京楽には古代語の知識はなかったが、浮竹を介して理解できた。

「そのへんでやめといたほうがいいんじゃない、ブラックドラゴン。僕の主は、南のファイアードラゴンを葬っているよ」

「何、ファイアードラゴンだと。かの者は我の中よき友人であった。ヴァンパイアよ、許さぬ」

ブラックドラゴンは、炎のブレスを吐いた。次に、氷のブレスを吐いた。

「ふはははは、焼け焦げたか、それとも凍ったか?」

ブレスの直撃を受けたはずの二人は、京楽が張った血のシールドによって、無事だった。

「我がブレスを受けても平気だと?馬鹿な、ヴァンパイア如き・・・・始祖、始祖だと。始祖とは我が師、神代より生きるカイザードラゴンと同じ、始祖か!」

「そうそう。そのカイザードラゴン、竜帝は、今は南の帝国で皇帝やってるよ。人間化して、人間の中で生きている。君と違って、温厚でドラゴンとして崇められるよりも、人として生きるのが好きで、たまに古城にお忍びで遊びにくるんだ」

京楽の説明に、ブラックドラゴンがその金色の瞳の瞳孔を縦に収縮した。

「笑止!カイザードラゴンはそんな存在ではないわ!」

「え、浮竹、そうなの?たまに遊びにやってくる人って、カイザードラゴンって言ってたけど、全然関係ない人?」

浮竹は、微笑んだ。

「カイザードラゴンと友人なのは本当だ。京楽も、信じられないか。神代から生きるカイザードラゴンが人として生きているなんて」

「そんなことないけど。浮竹の説明通りに話しても、このブラックドラゴンに通用しないよ」

「仕方ない、殺すか」

「待て、始祖よ。我の力を与えよう。始祖である汝は、我と・・・・・」

「エアリアルエッジ」

浮竹は、風の精霊エアリアルに命じて、真空の刃を起こさせると、それでドラゴンの鱗も貫き、首を落としてしまった。

「始祖よ・・・せめて、我が魂を持っていけ」

キラキラと、ドラゴンの魂の結晶が、浮竹の手の中にあった。

「ドラゴンの聖なる魂のオーブ。三大秘宝の1つじゃないか!」

京楽は、浮竹の手の中にある物を見て、その値段にびびっていた。

古城を10個ほど買えるし、200年以上遊んで暮らせる額の秘宝で、神族の皇族の心臓、魂のルビーと並ぶ、三大秘宝の一つであった。

「なんちゅーものもらってるの、浮竹」

「これは・・・・置いておくと、人間同士で醜い争いが起きそうだ。もらって帰るか」

浮竹は、ドラゴンのオーブをアイテムポケットにしまいこんだ。

そして、ドラゴンの巨大な肉体ごと、アイテムポケットに入れた。血の一滴も残さず収納しおえる。

山に移動して、ブラックドラゴンの住処をみつけだして、金銀財宝を全てアイテムポケットにいれて、浮竹は京楽と共にウルト共和国を後にした。

古城のある、ガリア王国の冒険者ギルドの解体工房で、浮竹はブラックドラゴンの遺体を出した。

その場にいた皆が、顎が地面に落ちそうなくらい口をあけて、驚愕していた。

「間違いない。ウルト共和国で暴れまわっていたブラックドラゴンだ。左目に傷がある」

「ドラゴンの眼球は高く売れるんだけどな。1つしかないのは残念だ」

浮竹の言葉に、皆浮竹を見た。

京楽は、ハラハラしていた。

「このブラックドラゴンは、あなたが倒したのですか?」

「ああ、そうだ」

「たった一人で?」

「いや、京楽と二人で」

嘘こけ。一人で倒しただろとツッコミを入れたかったが、京楽は黙っていた。

「ガリア王国の冒険者ギルドにおいて、あなたがたをSランクの冒険者として認定します」

「ありがとう」

「早速ですが、このドラゴンの遺体は買い取ってもいいのですか?」

「ああ、もちろんだ。肉は少々いただくが、後は素材となりうるもの全て、後血も売る」

「ありがとうございます。この契約書にサインを」

浮竹は、すぐにはサインせず、魔力を流して呪術的なものがないかを確認してから、達筆な文字で浮竹十四郎と書いた。

「ありがとうございます。しめて金貨3千枚になりますが、よろしいでしょうか」

「新鮮だぞ。3千枚なら、隣国で売る」

「し、失礼しました!金貨5千枚で買い取らせていただきます」

「それならいい」

浮竹も納得がいったのか、ドラゴンの素材を、ステーキにする分の肉の塊をとって、その他の全ての部位を、冒険者ギルドで売り払った。

Sランク冒険者。

ギルドでさざめきが起きる。

「私、Aランクのハーフエルフのミレーネっていうの!一緒にパーティー組まない?」

「パーティーは、相方がいるので組まない」

「そんなこと言わずにさぁ・・・・・」

浮竹に胸を押し付けるハーフエルフに、京楽は殺気に満ちた視線を送った。

「ひっ!あ、あなたの相方、目つきが異常よ!呪われてるんじゃないの!?」

「京楽を馬鹿にするな、人間」

「浮竹、だめだよここで暴力沙汰は。Sランクの冒険者らしく、堂々と振る舞ってればいいんだよ」

「冒険者のランクなんてどうでもいい」

「おい、それは聞き捨てならないな。俺の名は風のヒューイ。Sランク冒険者だ。あんたに、決闘を申し込む!」

「買った」

浮竹は、京楽が静止の声を出す間もなく、決闘を受け入れた。

「では、冒険者ギルドの裏手で、試合をしよう。木刀で試合だ」

「魔法は?魔法は、使っていいのか?」

「ああ、もちろんだ」

「ちょっと、浮竹」

「京楽。人間どもに思い知らせる必要がある。Sランク冒険者となった俺たちの力を」

「だからって、何も決闘を受けなくても・・・・」


数十人が見守る中、決闘は行われた。

みんなどっちに賭けるか勝負していて、大半がヒューイとかいう冒険者に賭けていた。

「さぁ、どっからでもかかってきなさい、お嬢さん」

風が吹いて、浮竹の美しい長い白髪が流れる。

「エアリアルエッジ
マジックブースト
ヘルインフェルノ」

三重に、魔法を詠唱していた。

エアリアルエッジで、相手がもっていた木刀を斬り裂き。

マジックブーストで、身体能力をひきあげて木刀を相手ののど元につきつけ。

ヘルインフェルノで、隣の空間を焼き払い、自分の魔力の高さを見せた。

「ま、負けだ、俺の負けだ!なんなんだ、魔法の三重詠唱だと?魔法使いでもないのに、ありえない!」

「誰が魔法使いなどといった?俺は剣士であると同時に、魔法士だ」

ざわめきが大きくなった。

魔法士。

宮廷にいる、魔法使いがそう呼ばれていた。

もしくは、それに匹敵する者。

「魔法士だという証拠がどこにある!」

「そんなの、いらないでしょ?3重に魔法を使える魔法士なんて、この子以外にいるの?この子以上の魔法の使い手はこの国にいるの?」

京楽の言葉に、シーンと場が静まり返った。

「行こう、京楽」

「でも浮竹、記憶は消しておいたほうが」

「また、冒険者ギルドには厄介になる。いいから行こう。強い魔力の反応が、古城にある。侵入者だ」

浮竹も京楽も、急いで冒険者ギルドを後にすると、認識阻害の魔法をかけてから、ヴァンパイアの証である真紅の翼を広げて、古城へと帰還した。

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「いよーっす。待ってました、京楽さん、浮竹さん」

「なんだ、お前か、恋次」

「いい酒手に入ったんで、一緒に飲もうと思って」

やってきたのは、例のブラックドラゴンがいっていた、カイザードラゴン、始祖のドラゴンが人化した青年であった。

赤い髪に、体中にいれこまれたタトゥーが印象的だった。

「白哉さんに、酒もっていったんだけど「いらぬ、お前が傍にいると心穏やかで過ごせぬ」とか言って追い出された。俺、あの人のこと何度も好きだっていってんのに、いつも振られてる。守護騎士をたまにしてるけど、やっぱり振られる」

恋次は、名を阿散井恋次という。

南のほうの帝国、アバー帝国の皇帝だ。

それが、抜け出して遊びにきたということは、今頃影武者が皇帝をしているのだろう。

アバー帝国では、ドラゴンは神である。その始祖であるカイザードラゴンが人型になった瞬間、人々は恋次を皇帝へと押し上げた。

元々の皇族を処分して。

暗殺やら毒殺やら、いろいろされたが、恋次もまた始祖であるが故に死ねぬ呪いを体にもっていて、死ぬ度に体にタトゥーが付け足される。

もう30回以上は死んでいる計算になるだろうか。

「いやぁ、この前は酒に毒が入ってて死んだから、酒にも毒見役をおいたんすよ。そしたら、みんなばたばた死んで。ああ、これヤバイなって思って、酒に携わった者全員にカイザードラゴンの姿になって真意を聞いたら、みんな気絶しちゃって」

「そりゃあ、ただの皇帝がドラゴンになったら、誰でも驚くだろう」

「一応、カイザードラゴンだって言って何度か変身してみたんスけどね。俺の姿を見たことのない人間は、俺の皇帝の地位を狙って毒殺してこようとするんスよ。別に俺は、皇帝なんてどうでもいいんんだけど。執務は大臣に任せっきりで、名前だけの皇帝っすね」

「アバー帝国では、ドラゴンは神なんだよね?」

「そうっすよ」

「僕と浮竹で、今日の朝隣国ウルト共和国で暴れまわってたブラックドラゴンを退治してしまったんだけど、これって大丈夫なのかな?」

京楽の言葉に、恋次は目を丸くしてから、朗らかに笑った。

「あの悪戯ドラゴンか。何度叱っても、人間や家畜を襲うんスよね。手に負えなくて、殺そうか迷ったけど、同族だから野放しにしておいたら、人間じゃなくってヴァンパイアの始祖に殺されるなんて。まぁ、運が良かったというべきか。強い人間相手だったら、呪術で服従を強いられて、言いなりになるしかない。ドラゴンは束縛が嫌いなんスよ」

「知ってる。お前とは、始祖の時代からの知り合いだ」

「始祖の時代からの知り合いっていっても、あんまり交流なかったし、浮竹さんすぐに休眠に入っちゃうし」

恋次は、そう言って酒を見せた。

戦闘人形たちが、料理を用意して振る舞ってくれた。

「いやぁ、恋次クンのもってきた酒はうまいねぇ」

「そうでしょ、そうでしょ。こんなにうまいのに、白哉さん飲んでくれないんすよね」

「それは、君に下心があるからじゃないの」

「だって、一目ぼれなんスよ。聖女のルキアも好きだけど、兄である白哉さんも好きだ」

「兄妹揃って手に入れようなんて、考えてないよね?」

「できるなら、とっくにそうしてるっスよ。ブラッディ・ネイのせいで、できないけど」

「白哉とルキア君と付き合いたいなら、まずは俺を説得することだ」

一人黙々と飲んでいた浮竹は、目が座っていた。

と思ったら、赤い顔をして服を脱ぎ出した。

「うわぁ、浮竹、何、酔ったの!?いつも酒飲まないから知らなかった。酔うと脱いじゃうんだ。今度利用しよう。でも、今は恋次クンがいるからね?」

「浮竹さん、ちゃんと食ってます?相変らず線細いっすよね」

「うわぁ、恋次クンは見ちゃだめ!目をつぶってて」

「はい」

恋次は言われた通りに目をつぶった。

その間に、半裸になった浮竹に服を着せて、眠り薬を飲ませた。

「ちょっと、浮竹寝かしつけてくるから、戦闘人形のリーダーと飲んでて」

「分かりました」

浮竹は、薬がすぐ効いたのか、スースーと静かな寝息を立てていた。

その軽い体を抱き上げて、寝室までくると、天蓋つきのベッドに寝かせて、毛布と布団をかけた。

戻ってきた京楽が見たものは、酔いつぶれて裸で踊っている戦闘人形のリーダーと、それに拍手喝采を浴びせている恋次の、なんともいえない姿だった。

「いや、戦闘人形って便利っすね。家事もしてくれるし、戦闘もしてくれるし、こうやって酒と酔っ払いの相手もしてくれる」

「いや、この子が特別製だからだよ。他の戦闘人形は、言葉は理解できるけど意思疎通は難しい」

「んー。でも便利っすよね。浮竹さんの血で、作られているんでしたっけ」

「そうだね。浮竹にしか使えない魔法というか、呪術に近いね」

「俺、魔法も呪術もからっきしで。剣の腕だけは、それなりだけど。人型って不便なようで便利で、でも不便」

「どっちなんだい?」

「さぁどっちでしょうね。まぁ、今日はお開きにしましょうか。浮竹さん寝ちゃったみたいだから」

「君も、泊まっていくかい?」

「いや、白哉さんのとこいってきます。この時間だと起きてると思うし」

白哉だけでなく、血の帝国の民は夜行性である。

浮竹と京楽の方が変わっているのだ。通常、ヴァンパイアは夜行性で、闇に生きる者である。浮竹と京楽は、朝に起きて日中に活動した。

「今日こそ、白哉さんを振り向かせてみせる!」

「がんばれ、恋次クン」

そうやって、恋次は白哉に告白し、振られて大ダメージを被ることになるのだった。


----------------------------------------

「んー、春水、春水」

「あれ、起きてたの、十四郎」

同じベッドで眠ろうとした京楽は、薬を飲ませて先に寝かせたはずの浮竹が起きているので、少し驚いた。

「俺には、薬はあまりきかない。そういう体質なんだ。多分、強めの薬を飲ませただろう」

「うん。ちゃんと寝てほしかったから」

「2時間で目が覚めた。暇だ春水。恋次君はもう帰ってしまったのか?」

「白哉クンを振り向かせてみせるって、意気込んで血の帝国に向かう地下の空間転移魔法陣で、行ってしまったよ」

「あーあ。きっと振られるだろうなぁ」

「なんで分かるの?」

「白哉には想い人がいる」

「え、マジなの」

「ああ。緋真という、ヴァンパイアの皇族の末席にいる姫君だ」

「ああ、知ってる。ルキアちゃんとよく似た子でしょ」

「恋次君、盛大に振られるだろうなぁ」

「じゃあ、せめて僕たちは仲良くしないと」

服の裾から入り込んできた手に、浮竹が京楽を抱きしめた。

「好きだ、春水。酒を飲んでいた時の記憶がふっとぶから、俺は普段酒を飲まないんだ」

「おまけに脱ぐしね」

「ああ、それもあるから、普通は酒は飲まない」

酒の勢いのせいか、京楽はいつもより強引だった。

「あ、あ、あ・・・・・・・」

浮竹の衣服を脱がしながら、自分も裸になった。

「んんっ」

胸の先端を甘噛みして、舌で舐め転がす。反対側は指でつまみあげた。

「あ!」

もう百年以上も睦み合ってきたせいで、浮竹の弱点など知り尽くしている。

浮竹の勃ちあがったものを手でしごいて、口に含んで奉仕すると、浮竹は薄い精子を京楽の口の中に放っていた。

昨日、睦み合ったばかりであった。

「このまま続けるよ。いいかい?」

「好きにしろ。体にスイッチが入った。責任はとれ」

浮竹の体全体を愛撫して、耳を甘噛みして囁いた。

「大好きだよ、十四郎」

潤滑油の力もかりて、ぬるりと中に入り込んできた指を、浮竹は知らない間に締め付けていた。

「十四郎、力抜いて」

「んっ・・・・・ああ!」

前立腺をこりこりと刺激されて、浮竹のものはまた勃ちあがっていた。

その根元を、京楽は紐で戒めた。

「やああ、いきたい!やだ、春水!」

「我慢しようね?いっぱい我慢した後でいくと、すごく気持ちいいから」

「やあ!」

指が抜きされて、京楽のものがズズっと入り込んでくる。

その熱さに、浮竹は先走りの蜜をダラダラ零していた。

「やあ、いきたい、いきたい」

「もうちょっと待って」

浮竹のいい場所ばかりを突き上げると、京楽は涙を零す浮竹の涙を吸い上げて、結腸に向かってごりっと押し込んだ。そのまま射精した。

「あああああ!!!」

浮竹を戒めていた紐をとってやると、勢いよく精子が飛び出した。

京楽は、いっている最中の浮竹の首に噛みついて、血を啜る。

「いやあああ!変になる、やあああ!!!」

二重の快楽に、浮竹は京楽の下で乱れた。

そして、ぐったりとなる。

その体に覆いかぶさって、口づける。

「君は僕のものだ、十四郎。この甘い体は、僕だけのもの」

「あ、春水、愛してる。もっと、ちょうだい?春水のザーメン、もっといっぱい欲しい。胎が疼くんだ。お前の子種が欲しいと」

「淫乱だね、春水は」

「お前のせいだ」

「そうだね。僕が、十四郎の体をこんなにしちゃった。責任とるから、いっぱい受け止めて、孕んでね?」


「あ、あ、ああああ!もれる、もれる!」

潮をふいた浮竹は、おもらしをしたと勘違いして、泣いていた。

「潮をふいただけだよ、十四郎。きもちよくなっちゃったんだね」

「やああ、もうや!春水、春水」

「僕はここにいるよ」

ぐちゃぐちゃと、熱で浮竹の内部を犯しながら、また噛みついて血を啜ってやった。

「ああああ!」

浮竹はまたいっていた。もう出すものもなく、たまに潮をふいて、後はオーガズムでいくだけだった。

「や、もう限界・・・」

浮竹は、薄くなっていく意識の狭間で、京楽の顔をしっかりと脳裏に焼き付ける。

「君は、僕のものだ」

最後の一滴まで、浮竹に注ぎこんで、京楽は満足した。

もう、浮竹の意識はなかった。


「だから、そんなに怒らないでよ。君も感じてたじゃない」

「潮吹きだなんて、おもらししているようで嫌なんだ!」

「ただ感じちゃってるだけだから、大丈夫だよ」

「嫌なものは嫌だ。2週間は、もう京楽とはセックスしない」

「そんなぁ」

禁欲令を出されて1週間もしないうちに、京楽が浮竹を抱いてしまったのは、また別のお話。


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「君の名は?」

「京楽春水」

「君の主は?」

「ブラッディ・ネイ」

「あははは、ねぇ兄様!兄様、愛しい者を奪われるってどんな気持ち?」

「ブラッディ・ネイ!お前は!」

浮竹の体は、十代のヴァンパイアの少女になっていた。

「ボクの子供、産ませてあげる、兄様。ボクの子供、孕んで?」

「ブラッディ・ネイ。何処までも、愚かな俺の妹よ・・・・・」

「アハハハハハ、愛してるよ兄様、兄様!」

実に妹に体を好き勝手されて、浮竹は目を閉じた。

京楽を無事取り戻すためなら、妹に服従してもいい、と。








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始祖なる者、ヴァンパイアハンター8

「助けてくれ、浮竹さん、京楽さん」

「浮竹、京楽、力を貸してくれ」

ある日突然、古城にやってきたのは、一護と冬獅郎だった。

全身に怪我とやけどを負っていて、やけどは聖女シスター・ノヴァの聖水によるものだとすぐに分かった。

「どうしたんだ、一護君、冬獅郎君」

「ルキアが!ルキアが攫われた!」

「なんだって!」

「本当なのかい、一護クン冬獅郎クン」

京楽が、指を噛み切って二人の傷に血を注ぎ、再生を促しながら問いかけた。

「ああ。なんでも、聖女シスター・ノヴァの四天王とかいう、石田雨竜っていう人間にやられた」

「あいつ、ルキアを盾にとりやがった。卑怯なやつだぜ」

一護も冬獅郎も悔しそうであった。守護騎士でありながら、むざむざ守るための者を攫われてしまったのだ。

「一護君も、冬獅郎君も相当な手練れだろう。それを手傷を負わせるなんて。その石田雨竜って人間、もしかして滅却師かい?」

「ああ。滅却師だと言っていた」

「厄介だね」

最近、滅却師のモンスターハンターが、ヴァンパイアロードを狩っていると耳にしたのだ。

「京楽、ルキア君の居場所は分かるか?」

「多分、聖女シスター・ノヴァのところじゃないかな。聖女としてのルキアちゃんの血が必要なんだろう。高等な呪詛を解呪するには、聖女の血がいる。聖女シスター・ノヴァにかけられた呪詛は、自分の血では解呪できないから。それに、聖女シスター・ノヴァの四天王なら、主の元に帰還するはずだ」

「俺が、聖女シスター・ノヴァに魔眼の呪いをかけたせいだろうか」

「浮竹のせいじゃないよ」

浮竹を抱きしめる京楽に、一護がこほんと咳払いをした。

「あ、いちゃついてる場合じゃなかったね」

「そうだぞ、京楽。ルキア君を助けるための策を練らないと」

「浮竹さん、京楽さん、無理を承知で頼みます。ルキアを助けてください」

「浮竹、京楽。ルキアは友人だろう。無論、助けるのに協力してくれるな?」

「一護君も冬獅郎君も慌てない。聖女の血が必要であれば、殺されたりはしないはずだ」

「でも、ルキアを傷つけるんだろう!血が必要ってことは!」

「高等な呪術に対する解呪に必要なのは、聖女の生き血だ。それほど怪我は負わせられないはずだ。それに、ルキア君に何かあったら、ご執心のブラッディ・ネイが許さないだろう」

ごくりと、一護も冬獅郎も唾を飲みこむ。

ブラッディ・ネイの力は強大だ。血の帝国を8千年にわたって繁栄し続けさせており、太陽の光を通さない空の血の結界は、ブラッディ・ネイの魔力によって維持されていた。

彼らは知らなかった。

ブラッディ・ネイが聖女シスター・ノヴァに、転生しても醜くなる呪詛をかけているなど。まして、醜悪な老婆の姿にさせられたなど。


------------------------------------------


「ん・・・・・」

ルキアは気がついた。

「一護、冬獅郎!」

がばりと起き上がると、天蓋つきのベッドで寝かされていた。

「ここは・・・?」

「ここは、聖女シスター・ノヴァの住む館。君は、僕が血の帝国から攫ってきた。一護と冬獅郎とやらは無事だ。無駄に血を流すのは好まないタイプだからね、僕は」

「貴様、私を血の帝国の第3皇女、朽木ルキアと知っての所業か!」

「血の帝国の皇族だろうとなんだろうと関係ない。聖女シスター・ノヴァがあなたの血を欲している」

「起きたのかしら」

入ってきたのは、醜い老婆であった。

取り巻く清浄のな聖なる力を知って、それが聖女シスター・ノヴァであることが分かった。

「聖女シスター・ノヴァ。我ら聖女の光」

ルキアは、跪いた。

「あら、あなたはちゃんと道理を弁えているのね。嫌いじゃないわ。この身に降りかかる呪詛を解呪するために、あなたの生き血を少しもらいます。いいわね?」

「はい」

聖女シスター・ノヴァはルキアに優しかった。

とても、始祖を殺そうとした者には見えなかった。

注射器をチクリと刺されて、血を抜かれていく。

聖女シスター・ノヴァにとっても、ルキアを傷つけるのは血の帝国、つまりはブラッディ・ネイを完全に敵に回すことだと分かっているので、あえて注射器にした。

抜いたルキアの生き血をガラスのグラスに入れて、老女は祈りをこめた。

真紅の血が、金色に輝いた。

それを飲み干す。

そこに、老婆の姿はなかった。

知らない間に、ブラッディ・ネイに魂に刻み込まれた、転生しても醜くなるという呪いさえも、解呪できていた。

「ルキア。あなたは私と同等の聖女なのね。ありがとう、恩に着るわ」

美しい少女がいた。

素体であった、美しい農民の次女の姿になっていた。

「うふふふ。これで、転生しても美しくいられる」

「あの、私はもう帰ってもいいだろうか。皆が心配している」

「だめよ。あなたは切り札。あなたを追って、始祖はやってくる。あなたに呪詛をかけるわ」

「どうしてだ、聖女シスター・ノヴァ!」

「心配しないで。あなたにかける呪詛は、あくまであなたには降りかからない。始祖にふりかかる」

「浮竹殿には、そんな目にあってほしくない。呪詛をかけるというなら、例え聖女の光であるシスター・ノヴァであろうと許さない」

ゆらりと、ルキアの影から血が滲みでる。

その血は、式神となって聖女シスター・ノヴァに襲いかかった。

「な、小癪な真似を!」

その間に、ルキアは窓から飛び出していた。

ヴァンパイアのもつ翼を広げて、滑空する。そのまま、ルキアは逃げた。

「何をしているの、石田雨竜!早く、ルキアを捕まえなさい!」

「もう、ルキアさんの役目は終わったはずだ。僕は、無益な争いは好まない」

「施設の孤児たちが、どうなってもいいと?」

美しい少女は、それでも中身はやはり聖女シスター・ノヴァであった。なぜこんな性格の悪い女が聖女でいられるのだろうと思いつつも、石田は孤児たちのために決意する。

「分かった、連れ戻す」

「それでいいのよ石田雨竜。あなたはわたくしの四天王の一人。わたくしだけの言葉を聞いていればいいのだわ」

石田は、魔法で空を飛んだ。

そして羽ばたいて逃げているルキアに追いつくと、魔法でできた網をかぶせて、捕まえると大地に降り立った。

「離せ!一護!冬獅郎!」

「残念ながら、君の守護騎士たちは聖女の祈りの聖水で焼いておいたから、しばらくは使い物にならないと思うよ」

「皇族の血を、なめるな!」

ルキアは、血の刃を作り出すと、自分を戒める網を斬り裂き、石田に向かって血の刃を向けた。

それを、石田は吸収してしまった。

「な!?」

「僕は人間と名乗っているけれど、実はヴァンパイアとのクォーターでね。血の武器は、吸収できる、特殊性質をもっている。僕に血の武器は効かないよ!」

「くそっ」

ルキアは舌打ちして、それでも血でできた刃を放った。

ヴァンパイアの武器は、己の血でできたもの。

一方の滅却師である石田の武器は、弓矢であった。

「悪いけど、足を撃ち抜かせてもらう。逃げられないように」

「あう!」

びゅんと風を裂いて飛んできた弓矢は、ルキアの右足を貫通していた。

すぐに、再生が始まるはずが、始まらない。

「く、聖女の祈りの聖水か!」

「ご名答。僕が扱う弓矢の全てに、聖女の祈りの聖水を降り注いである。ヴァンパイアと敵対することを今回は念頭に入れてあるからね」

「一護!冬獅郎!」

ルキアは、石田の肩に抱きかかえられて、魔法でできた縄で戒められながら、愛しい自分を守ってくる守護騎士の名を呼んでいた。

「ルキア!」

「一護!?」

天空から降ってきた影が、踊る。

一護は、石田からルキアを奪い取ると、背後に隠した。

ブラドツェペシュをオアシスに連れていく時、乗っていたワイバーンに乗って、やってきたのでであった。古城の近くに住み着いていたのだ。

そのワイバーンに浮竹、京楽、一護、冬獅郎は乗り込んで、聖女シスター・ノヴァのいるグラム王国の聖神殿を目指している途中で、ルキアの血の匂いがして、方向転換したのであった。

「ルキア、足を怪我してる!大丈夫か!?」

「大丈夫だ。これしきの傷・・・それより、貴様と冬獅郎のほうこそ大丈夫か!?聖女の祈りの聖水で酷いやけどを負っただろう!」

「ああ、京楽さんの血で治してもらった。京楽さん、浮竹さんに血を流させたくなかったんだろうな」

「一護、ルキア!」

冬獅郎がワイバーンから降りてきて、レアメアル、ミスリルでできた剣をかまえた。

「こいつに血の武器は効かない。魔法と剣でなんとかするしかない」

「く、多勢に無勢か。僕は降参するよ」

「降参だと?」

冬獅郎が、氷の魔法を発動させながら、剣で切りかかった。

それを避けながら、石田は空に飛びあがった。

「聖女シスター・ノヴァは聖神殿ではなく、近くの館にいる。煮るなり焼くなり、好きにすればいい。もう頃合いだ。聖女シスター・ノヴァの代わりに、聖神殿は井上織姫を聖女に認定し、聖神殿のシンボルとする!」

それは、このグラム王国第一王子である、石田の政治的意味を含めた言葉であった。

「待ちやがれ、てめぇ、このまま勝ち逃げする気か!」

「機会があったら、また会おう!」

そのまま、石田は一度孤児院に行くと全員を王宮で一時的に保護し、四天王の座をいらないと言って、聖女シスター・ノヴァに・・・・・いや、聖女でなくなったシスター・ノヴァにつきつけた。

「どいつもこいつも!わたくしのお陰で、この神殿があるのに!」

シスター・ノヴァは、ご隠居様として聖神殿で巫女司祭の位を与えられることになる。


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「聖女シスター・ノヴァ。覚悟は、できているだろうな?」

始祖である浮竹の静かな怒りに、聖女シスター・ノヴァは可憐な外見で泣きだした。

「許してください、始祖。わたくしは、ただ元の美貌が欲しかっただけ。今回は死者もでていません」

「お前が海燕にしたことも、忘れろと?」

「それは・・・私ではなく、井上織姫がやったことです」

「井上織姫・・・小さな聖女として、最近有名な人間の少女か」

「そうです。恐ろしいことに、わたくしの地位をねたんで、反魂の法を使いました。証拠は、ここに」

井上織姫が反魂をしている写真が数枚、ばらまかれた。

捏造されたものだと分かっていたが、そのまま浮竹は話を進めた。

「そうか。四天王の一人だったな」

「はい」

「では、お前の監督不届きということで、お前に罪がいく。それでいいな?」

「な、始祖!それはあまりに横暴な!わたくしは、海燕に無理やり抱かれていたのですよ?始祖の力を上回るためにと!」

「醜女であったお前を抱いていたと?」

「そうです」

「ますます許せないな。あれは俺の血族であった者だ。俺のものに手を出し、そして死なせた。ルキア君をさらい、血を抜いた挙句、守護騎士であった一護君と冬獅郎君を傷つけた。全部、お前のやらかしたことだ」

聖女シスター・ノヴァは、空間転移して逃げだした。

ゆらりと空間を渡ったその先には、京楽と浮竹が待っていた。

「な、何故!ここは聖神殿の聖域!わたくし以外、入れるはずがない!」

「石田雨竜という者が、ここに入る資格であるこの金の鈴をくれた」

ちりんと、金の鈴が音をたてた。

「おのれ、石田雨竜!」

「お前は、聖女でなくなるそうだ」

「な!」

聖女シスター・ノヴァは、顔を真っ赤にした。

「そんなこと、許されると思っているの!わたくしは聖女よ!神代の時代から生きる、神族の聖女!」

「聖女を続けたいなら、聖帝国にでも帰ることだ。このグラム王国で築いた富は、石田が没収すると言っていた」

「あいつ・・・くそ、確か第一王子。くそ、くそ、くそおおおお!!!」

聖女シスター・ノヴァは、祈りの聖水を渦巻かせて、それを京楽と浮竹に浴びせた。

「浮竹に傷を負わせるわけのはいかないからね」

京楽は、血の渦で祈りの聖水を相殺させた。

「死ね!お前らヴァンパイアは、みんな死ね!」

「とうとう本性をだしたね」

京楽は、血でできた鎌をもって、それでシスター・ノヴァを袈裟懸けに切った。

「痛い!あああ、祈りの聖水よ、わたくしに力を!」

祈りの聖水で、シスター・ノヴァは傷を癒した。

肌も露わな美しい少女の見た目であったが、今は醜悪な姿になっていた。

「祈りの聖水よ、汚らわしき存在を焼き滅ぼせ!」

シーン。

祈りの聖水は、反応しなかった。

「なぜだ!」

「今、君は聖女の資格を失った。そうだね、浮竹?」

「ああ。聖神殿での、聖女認定儀式が済んだんだろう。お前はもう、聖女シスター・ノヴァではなくただのシスター・ノヴァだ。聖人ではあるだろうが、聖女ではなくなっただろう」

「どいつもこいつも!わたくしのお陰で、この神殿があるのに!」

「終わりだ、シスター・ノヴァ。聖帝国で転生して、せいぜいまた聖女になる苦労を重ねることだ」

浮竹は、始祖の血を京楽によこした。

京楽は、頷いて血の剣を作り出す。

「ああああ、許さない、お前も始祖も!この命尽きる時、お前たちには呪詛が」

言葉の途中で、シスター・ノヴァは動かなくなった。

京楽が、始祖の血を混ぜた血の剣で、その首をはねたのだ。

呪詛を与える猶予も与えなかった。

「覚えてろ・・・・始祖と、その血族」

それだけ言い残して、シスター・ノヴァは死んだ。

死んだといっても、女帝ブラッディ・ネイのように転生を繰り返す。

シスター・ノヴァは転生先の農民の少女の中に芽生えた。

聖女として、嬉しがられた。

ああ。

この世界は、聖帝国ならまだわたくしを聖女として必要としてくれる。

シスター・ノヴァは泣いた。

そんな感情を抱くのは、実に5千年ぶりだった。


--------------------------------------------

「ねぇ、浮竹、いいでしょ?」

「おいこら、一護君と冬獅郎君とルキア君が見てる!」

「いいじゃない。はいアーン」

京楽は、帰還した古城で戦闘人形に交じって浮竹の夕食だけ、自分で作った。

「お前の場合、カレーかオムライスか、クリームシチューかビーフシチューしかないから、飽きるんだ!」

今日の浮竹の夕食は、クリームシチューだった。

「いいじゃない。はいアーン」

しぶしぶ口を開けると、京楽は嬉しそうに浮竹の口の中にスプーンを入れる。

それを咀嚼して、浮竹は目を瞬かせた。

「このコクのある味・・・・聖女の血か。ルキア君から、さては血をもらったな」

「細かいことはいいじゃない」

ルキアは顔を赤くしていた。

浮竹と京楽が、そういう大人の関係だと知っていたが、実際目の前でみると恥ずかしい。

京楽と浮竹は慣れているので、恥ずかしいという気持ちも大分薄れている。

「はいアーン」

「お前も自分で少しは食べろ!」

スプーンをひったくって、京楽の口に入れてやった。

「うん、流石聖女の血の隠し味。すごくおいしく仕上がってるね」

「その、浮竹殿と京楽殿は、やっぱり、その、できているのか?」

「ん?ああ、京楽は性欲の塊でな。相手をするのも苦労する」

「またまた。そんな僕のことが好きなくせに」

京楽は、浮竹の頭を撫でた。

「子供扱いするな!」

「かわいいねぇ、浮竹は」

真っ赤になってわめく浮竹を、一護と冬獅郎は冷めた視線で見つめていた。

「なぁ、始祖って男が好きなのか?」

「さぁ」

「ブラッディ・ネイも女のくせに少女が好きだよな。始祖と始祖に近い者は、同性愛者の傾向があるって聞いたけど、本当かもな」

「さぁ、どうだろな」

一護の言葉に、冬獅郎が適当に相槌を打って返していた。

「始祖って、よくわからねぇ」

冬獅郎は、頭を抱えるのだった。

そんな和やかな夕食が終わり、一護と冬獅郎とルキアは、血の帝国に帰っていった。

「ああ、ポチに夕食やるの忘れてた。ほらポチ、ご飯だぞ」

浮竹は、古城でミミックを飼っている。

名前はポチ。

性格は狂暴で、よく浮竹を食べた。

「暗いよ~怖いよ~狭いよ~息苦しいよ~~」

ポチに上半身を食われて、浮竹はいつものように叫んでいた。それを京楽が助けた。

「全く、浮竹は学習能力ってものがないねぇ。ポチに餌を与える時は、近寄りすぎないようにって言ってるじゃない」

「だって、ポチを見るとつい宝箱を漁りたくなるんだ」

「普段は宝箱の形してるからね。でもポチを倒さない限り、宝箱は・・って、その宝石は?」

「ポチの中にあった」

浮竹の手の中には、5カラットはあるかというサファイアがあった。

「ああ、ミミックの中には一定期間で宝物を変える個体がいるからね。ちょうどその時期なんだろう」

「やった、ポチから得た宝物だ!ポチ、ドラゴンのステーキだぞ」

「ちょっと浮竹!何さり気なく、ドラゴンのステーキなんてアイテムポケットから出してるの!そもそも、ドラゴン退治に行った時のステーキ、まだ残してたの!」

ついこの間、冒険者稼業でドラゴン退治をしたのだ。

E級ランクの冒険者がドラゴンを退治したと大騒ぎになった。

ドラゴンは、とにかく無駄がない。その骨や牙や爪は武器に、鱗は防具になった。

また、血は錬金術で必要となる素材として高い。肉は食用になり、霜降り和牛も目じゃない値段がつく。

ドラゴンの肉は、肉食であるのとても美味であった。

好事家は大金をはたいて、ドラゴンの肉を欲しがる。

冒険者ギルドに行った時、ドラゴンの素材を全て売り払った。ドラゴンを倒したことで、自動的にAランクになっていた。

懐が潤いまくりの二人を狙って、冒険者ギルドから出た二人を、悪そうな顔のAランク冒険者が取り囲んだ。

「その懐の金、それにアイテムポケットを置いていきな」

「断る」

「なにぃ、死にたいのか!」

「死にたいのは、お前たちのほうだろう」

浮竹は、瞳を真紅にして、冒険者を威圧した。

「なんだこいつ!普通の人間じゃない!?真紅の瞳・・・・ヴァンパイアだ!」

「ひいい、なんで日中にヴァンパイアが活動してるんだ!逃げろ、血を吸われるぞ!」

逃げようとする冒険者から、浮竹の代わりに京楽が、記憶を奪っていく。

縄でしばりあげて、冒険者ギルドに連れていくと、犯罪まがいのことをしている冒険者で、指名手配がかかっていることが分かって、報酬金金貨20枚をもらった。

それから、Aランク冒険者として依頼を請け負ってくれと言われたが、断った。

ドラゴン退治のことは、ギルド職員も冒険者たちからも記憶を奪って、忘れさせた。ただ、Aランクの冒険者がドラゴンを退治したことにはなっているが、それが浮竹と京楽であることを忘れさせた。

「ドラゴンのステーキ、美味しいんだよな」

夕食を食べた後なのに、浮竹はそう言って、ドラゴンのステーキを一枚食べてしまった。

「ドラゴンを食べるなんて・・・・もぐもぐ、ドラゴンに対する、もぐもぐ、冒涜だよ、もぐもぐ」

「ドラゴンのステーキ食いながら、何を言っている」

浮竹は、もう一枚ドラゴンのステーキを出すと、少しだけ懐いてきたポチにあげた。

ポチは、柱から繋がれた鎖の距離が大分長くなっていた。

ポチは、見事にジャンプしてドラゴンステーキだけを食べてしまった。皿は木製だったので、割れなかった。

「偉いなぁ、ポチ」

もっとくれとポチはぱかぱかと宝箱をあけて、表現するが、あいにくさっきのでドラゴンステーキは終わりだった。

「ごめんな、ポチ。またドラゴン狩ってくるから、その時はドラゴンシチューでも食わせてやるよ」

「腹ごしらえもすんだことだし、お風呂いこっか、浮竹」

「ん、ああ、そうだな」


---------------------------------------------------------------」


「やあっ」

お風呂の中で、やっていた。

京楽はその気はなかったのだが、ドラゴンステーキに精強剤の効果もあって、裸の浮竹にむらむらしてしまって、ルキアと一護と冬獅郎も帰ったことだし、ゆっくりと浮竹を味わった。

「やあ!」

背後から貫かれた結合部は、泡立っていた。

パンパンと肉のぶつかり合う音を立てて、交じりあう。

「あ、そこだめぇ!」

ごりごりと結腸にまで入り込んできた京楽の熱に、湯に浸かりながら浮竹は啼いた。

「あああ!」

浮竹は、精液をお湯の中に放っていた。

「あ、お湯が、お湯が中に!」

一度ズルリと引き抜いたものは、まだ硬さを保っていた。

すでに、2回は浮竹の中に注いでいるのに、まだ足りなかった。

「知ってる、浮竹。ドラゴンのステーキには、精強剤の効果もあるんだよ?」

「やあああ、そんなこと、知らない。やだぁっ」

「嫌だっていうわりには、ここは僕を求めてひくついているけどね?」

白い精液を垂れ流す浮竹の秘所に手を這わせる。

「やっ」

「ほら、僕を飲みこんでいく。おいしそうに」

「ああああ!」

ゆっくりと挿入される京楽の熱に、思考が麻痺していく。

「今、血を吸ってあげるから」

浮竹の肩に噛みついて、吸血した。

「ひあああ!!」

セックスの間に吸血されるのはすごい快感を伴い、浮竹は口では嫌だというが、セックス中に血を吸われるのは好きだった。

「ああ、いいね。君の中、うねって締め付けてくる」

「やぁん」

ちゃぷちゃぷと、湯が揺れる。

激しい京楽の動きに合わせて、排水溝に流れていく。

「あああ、ああ!」

ごりっと結腸をつつく熱に、浮竹は眩暈を覚えながら意識を失った。


「浮竹、浮竹?」

「あ・・・・京楽?俺はどうしたんだ」

「湯あたりだよ。のぼせちゃたみたい」

「あ、お前が!っつ!」

腰の鈍痛に、苦手である癒しの魔法をかけながら、浮竹は喉の渇きを覚えた。

「水が欲しい」

「分かったよ。今、とってくるから」

京楽は、氷の浮いた水を、コップのグラスに入れてもってきてくれた。

「あの湯、ちゃんと抜いただろうな?体液が混じった湯につかるなんて、嫌だぞ」

「もちろん抜いたよ。今、戦闘人形が掃除してる」

家事のほとんどを、浮竹の血から作り出された戦闘人形が行っていた。

浮竹は、氷の入った水を飲んだ。

「甘くて少し酸っぱい。木苺の果汁か」

「あ、よくわかったね。この前とった木苺、まだたくさん残ってるから。明日、タルトを作ってあげる」

「楽しみにしておく」

京楽の料理の腕はそこそこだ。

お菓子を作るのもうまい。もっとも、戦闘人形に手伝ってもらいながらなので、まだ自力で完全に作れるわけではなかった。

ヴァンパイアは、特に始祖とその血族は悠久を生きる。

「ドラゴンステーキか。ドラゴン退治にでも、行くかな」

浮竹は、隣国を荒らしまわっているという、ブラックドラゴンの手配書を思い出していた。

けっこうな報酬金がかかっており、Aランクパーティーが一時的にレイド、つまりは協力しあって倒そうとしたが、失敗に終わったらしい。

ドラゴンなら、たんまりと金銀財宝をもっているはずだ。

そこにいる宝箱のミミックの姿を思い描いて、浮竹は楽しそうだった。








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始祖なる者、ヴァンパイアハンター7

青年の名は、志波海燕。

かつて7千年前、始祖浮竹の血族となり、浮竹に愛され、浮竹を愛したヴァンパイアであった。

その海燕は、今ではヴァンパイアであるのに、ヴァンパイアを狩るヴァンパイアハンターになっていた。

今の海燕に、浮竹の血族であり、浮竹を愛し愛されていた頃の記憶はない。

聖女シスター・ノヴァを守護する、四天王の一人だった。

四天王といっても、聖女シスター・ノヴァがそう言っているだけで、4人いるが別に彼女を守っているわけではない。

実際、聖女シスター・ノヴァは怒りに暴走した浮竹に、一度殺されている。

殺されても死なない聖女シスター・ノヴァに、護衛などいらなかった。

四天王の一人である志波海燕の他は、人間の石田雨竜、井上織姫、茶渡泰虎であった。

四天王の名前だけもっていて、それぞればらばらに動いていた。

石田雨竜は滅却師というモンスター討伐の専門家で、井上織姫は神殿の巫女であり、茶渡泰虎は冒険者だった。

「ああ、瞳が痛い・・・この呪詛は、なぜなくらないの。もういいわ、新しい体に転生しましょう」

聖女シスター・ノヴァは自害した。

そして、その魂は別の神族の少女に宿った。

「今日から、わたくしが聖女シスター・ノヴァです」

呪詛は、転生先にまできたが、痛みは消えた。

光を失った金色の瞳で、もうこれ以上転生を繰り返しても、呪詛は魂に刻まれていて、光を取り戻すことはできないと覚悟して、始祖を憎んだ。

素体となった少女の両親は、泣いて喜んだ。

聖女シスター・ノヴァの転生先に選らばれたのは、貧しい農民の次女だった。

聖女に転生したことで、富を与えられた。

莫大な富を与えられた、その日を食べていくのも難しいはずの農民の一家は、貴族となった。

神族の暮らす聖帝国は、痩せた不毛の大地だ。オアシスを有する作物が育つ地域は、皇族直轄か、貴族の領地になっている。

神族のほとんどが農民だった。奴隷のように働かされて、涙を流すことを強制させられた。

涙を宝石にできるといっても、買い取ってくれる相手がいないと、何の意味もない。

聖帝国は、神族を外に出さないようにしていた。表向きは、鎖国ということになっている。

血の帝国と秘密裏に貿易をして、宝石の代わりに新鮮な食料と水をもらっていた。

その食料は配給制で、農民たちは苦しい生活を強いられた。

聖帝国を逃げ出す者は、後を絶たなかった。

でも、逃げ出した先で待っているのは、人間によって奴隷にされる結末であった。

自由ではあるが、常に飢えているか、自由ではないが、飢えてはいないか。

それだけの差であった。

聖女シスター・ノヴァは聖帝国と人間社会の行き来を許された、特別な存在であった。

時折、聖女シスター・ノヴァは人間の手で奴隷に落とされた者たちを買い上げて、人間の土地での平和な生活を保障した。もっとも、彼らが流す涙の宝石は聖女シスター・ノヴァの財産として扱われた。

人々は彼女こそ、神の御子、聖女であると崇めた。

聖女シスター・ノヴァは大金をもらっては、死者を蘇らせて、重篤の病の者を癒した。

時折気が向けば、平民の治療もしたが、それは名声を得るため。

聖女シスター・ノヴァの聖なる癒しの能力は、大金持ちか王侯貴族のものであった。

そんな世界の中で、四天王の一人である、井上織姫が小さな聖女として名をあげていた。

平民だけでなく、貧しい者からも一切金を取り立てないで、傷を癒した。その能力は聖女・シスター・ノヴァには至らぬものの、四肢の欠損を補うほどの治癒術をもっていた。

いずれ、聖女シスター・ノヴァに静粛されるだろう。

人々はそんなことを言って、井上織姫を守ろうとした。

結果、井上織姫に待っていたのは、幽閉であった。

けれど、そこにも貧しい者たちがおしかけて、織姫をさらい行方不明となっていて、現在は四天王は3人になっていた。

「まったく四天王なのにわたくしを裏切るなんて。孤児であったのを、育ててやった恩を仇で返すなんて信じられないわ」

井上織姫は孤児でスラム街出身であった。同時に、茶渡泰虎も同じ孤児でスラム街出身である。

だが、聖なる奇跡を起こせる織姫は、神殿の巫女として受け入れられて、高い戦闘力を有する茶渡泰虎は、時折四天王として聖女シスター・ノヴァの護衛につきながら、冒険者をやっていた。

同じ四天王の石田雨竜は、聖女シスター・ノヴァが活動する王国の王子であった。

「俺には、あんたの存在が信じられないけどなぁ。血の帝国の女帝、ブラッディ・ネイのように死しては転生を繰り返すなんて」

「わたくしは始祖の神族よ。下等なヴァンパイアなどと一緒にしないでちょうだい」

「ヴァンパイアハンターであるが、その前に俺は一人のヴァンパイアだ。あんまりコケにしてると、四天王の座を去って、血の帝国側につくぞ」

「嘘よ!今のは全部嘘!わたくしには、もうあなただけなの、海燕」

甘い声を出すが、見た目はドブスなので、海燕は少しもときめかなかった。

「このブス!いろいろ隠してるくせに」

「あら、この下まつ毛どばどば男。わたくしを疑うの?どうでもいいから、早く始祖を殺しに行きなさい」

「言っとくが、あんたの命令でいくんじゃないからな。始祖のヴァンパイアマスターを討伐できると思うと、腕が疼く」

「失敗は許さないわよ。わたくしは、お前のコアを握っているのだから」

志波海燕の命は、聖女シスター・ノヴァが握っている。

コア、即ち人間でいうところの心臓は、聖女シスター・ノヴァの手の中だった。志波海燕は、すでにこの世から死去している。

それを、聖女シスター・ノヴァが呪術で、奴隷であった神族の青年の体を依代にして、蘇らせたのだ。

神族の青年は、志波海燕として復活したが、生前の記憶はなかった。依代はヴァンパイア化を成功させていた。呪術は大成功だった。

ただ、刷り込まれるようにヴァンパイアハンターであると教えられた。

対始祖の浮竹用に、聖女シスター・ノヴァが作り出した、兵器であった。

海燕は、呪術で生き返ったが、聖なる力を宿した呪術だったので、ヴァンパイアにとって猛毒である聖女シスター・ノヴァの祈りの聖水は、効かなかった。

ただ、始祖のヴァンパイアを討ち取るために、銀の弾丸に祈りの聖水をひたし、固形化したものを弾丸の中身とした。

持っていくものは、銀の銃と聖女の血でできた血の剣、それと聖女の祈りの聖水を小瓶にいれたものをたくさん。

「待っていろ、始祖ヴァンパイア。俺が、必ず殺してみせる」


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「そして、八岐大蛇(やまたのおろち)を愛した青年は、八岐大蛇に愛されて、幸せに暮らしました」

子供向けの絵本や物語を、浮竹に読んできかせていた。

京楽は、たまに本を浮竹に読み聞かせる。

浮竹は小難しい古代の呪術書や魔法書を読むが、絵本や物語などは読まない。

そんな浮竹に、本を読んで聞かせるのが、京楽の趣味になっていた。

「八岐大蛇ってなんだ?どんなモンスターなんだ」

「これは極東の島国の話らしいけど、ヒドラみたいに複数の首をもつドラゴンもどきらしいよ」

「ドラゴンもどき?」

「大蛇ってついてあるから、蛇のモンスターなんだと思う」

「ジャイアントスネークみたいなものか。食べれるのか」

浮竹が顔を輝かせた。

「なんでそこで食べれるとかでてくるの。幸せになりましたの終わりで、いいじゃない」

「いや、食べれたら食べたいだろう」

「愛したモンスターだよ?それを食べたいの?」

「モンスターと人間は普通共存できない。それに、時にはモンスターも貴重な食料だ」

「ああ、この前食べた猪のモンスターの肉のこと?」

「あれは美味しかった。蛇も食べてみたい」

「げてもの食いになるから、やめておきなさい。普通の肉屋で蛇の肉なんて売ってないよ」

「じゃあ、今度町の冒険者ギルドで依頼を受けて、ジャイアントスネークを退治しよう。食べてみたい」

極東の島国の物語を読み聞かせたら、浮竹の興味は食のほうへと向いてしまった。

「八岐大蛇・・・・実在したら、討伐してシチューにでもするんだがな」

「食あたりおこしそうだから、実在しても食べさせないよ」

京楽は呆れていた。

ハッピーエンドものでも、悲恋ものでも、浮竹は意外な反応を示して、それが京楽の楽しみの一つでもあった。

「明日は、苺狩りに行こうよ。山の木苺が実って熟している季節だ。農家の苺でもいいけど、木苺のほうがヴァンパイアだってばれる可能性はないし、安全だから」

「ああ、いいな。明日は戦闘人形に命令して、お弁当を作ってもらおう。ハイキングも兼ねて、木苺を取りに行こう」

「いいね。じゃあ、今日はもう暗いから、おやすみ、浮竹」

京楽は、ちゅっとリップ音をたてて浮竹の額にキスをして、室内の照明を落とした。

浮竹は、寝息をたてて寝るふりをした。

そして、京楽が去っていったことを確認して、窓を開けた。

ホウホウ。

白い梟が飛んできて、浮竹の肩に止まった。

足にくくられている文をとり、読む。

「ヴァンパイアによるヴァンパイアハンター・・・・名前は、志波海燕・・・・・」

浮竹は、梟を森に返した。

町にいるヴァンパイアからの情報であった。

「ばかな。志波海燕は死んだはず。俺の腕の中で、息を引き取った。遺体は火葬したし、灰は海にまいた・・・・・まさか、反魂の!?」

浮竹が、唇を噛む。

反魂は、呪術の中でも高位で、浮竹にさえできない。

聖なる魔力をもっていないと無理だ。

普通の魔力で反魂を行うと、術者が命を落とす危険性もあったし、ただのアンデッドができあがる。

「聖なる魔力の反魂・・・聖女シスター・ノヴァ?でも、魔眼の呪いもあるし、気にしすぎか。
志波海燕をの名を語るヴァンパイアは今までもいた。きっと、気のせいだ」

そう自分に言い訳をして、浮竹はベッドに戻ると眠りについた。

その日見た夢は、懐かしいものだった。

かつて7千年前、浮竹が血族にして愛した男の夢を、一晩中見た。

朝起きると、最悪だった。

忘れていた男への恋心が復活していて、京楽にばれないように、記憶を封じこめる。


「浮竹、準備できた?ハイキング兼木苺狩り、行こうよ」

京楽は、すでに準備ができているようで、山登りに適した服装に運動靴を履いていた。

「ああ、ちょっと待ってくれ。運動靴はどこにしまったかな・・・」

「こっちでしょ」

京楽が、クローゼットを開ける。

「ああ、あった。この靴が運動靴の中では気に入っているんだ」

浮竹が休眠から復活し、活動しだしたのはここ100年と少し前くらいの出来事だ。

埃がつまっていた古城を、戦闘人形に掃除させてぴかぴかにすると、もっていた金のインゴットやら宝石やらを売り払って、人が住める状態にした。

家具は全部、人間に運んでもらったが、帰る時には記憶を消して、古城の主が美しい白い青年だということを忘れさせた。

衣服や靴は長くはもたない。

数百年の眠りについていた間にボロボロになっていて、全て買い換えた。

保存の魔法を使うこともできたが、休眠から起きる気はなかったので、保存の魔法はかけていなかった。

最近は、古城に幽霊が住んでいる、という設定になっている。

子供が悪戯心で遊びにこないように、森から古城にくる道に、阻害の魔法をかけていた。

実力のある人間、例えばヴァンパイアハンターなどが、森を抜けて古城までくることができた。

時折、阻害の魔法を乗り越えて古城にくる人間もいたが、そういう時は古城での記憶を消して、森の外で寝かせた。

モンスターに食べられないように、すぐに人が発見されやすい場所に置いたり、魔物よけの護符を与えたりもした。

「浮竹とデートだ!」

「え、ハイキングってデートになるのか?」

「なるよ。二人きりで出かけるんだもん。町をデートするのも楽しいけど、浮竹は町はあんまり好きじゃないでしょ」

「人間は、好きじゃない」

「僕は元々人間であったせいか、人間はそれなりに好きだけどね。さぁさぁ、準備ができたら出発しよう」

朝の早いうちから、戦闘人形に頼んでお弁当を2人分作ってもらっていた。

そのお弁当と、木苺を摘むたのめ籠を手に、二人は山に登って行った。


「お、生ってるね。どれどれ」

京楽が、早速見つけた木苺を摘み取って食べた。

「うん、甘くていいかんじ。浮竹、向こうにも実ってるから、まずは今食べる分を取ろう」

ハイキングも兼ねていたので、運動はそこそこしたはずだ。

浮竹は、食べる分だけと言われたのに、大量に木苺を摘んだ。

「そんなに摘み取って、どうするのさ。持って帰るの、大変だよ」

「いや、アイテムポケットあるだろう」

ぽんと、京楽が掌を手で叩いた。

「その手があったか。アイテムポケットに入れればいいんだね」

「摘んだままいれるなよ。ちゃんと籠とかに入れてから収納しろよ。そのまま入れると、他のアイテムポケットに入っているのとごちゃ混ぜになる」

浮竹は、アイテムポケットから、いくつかの空の籠を出して、代わりに木苺でいっぱいになった籠をアイテムポケットに収納した。

「木苺のタルト、ケーキ、ジュース、ジャム。いろいろ作れそうだね」

京楽は、暇なので家事をしはじめていた。

最近の夕食は、デザートだけでなくメインディッシュも、京楽が調理したものが出てくる。

シェフの腕をもつ戦闘人形にいろいろ教わって、いろんなメニューを作れるようになっていた。

二人では摘み取り終わるのに日が暮れてしまうと、浮竹は戦闘人形を作りだして、木苺を摘み取らせた。

「この辺にしておこう。全部とってしまうと、生態系に影響がでそうだ」

まだたっぷりと木苺は残っていたが、動物やモンスターのために残すことにした。

「けっこう摘み取ったね。1年は、木苺に困らないんじゃない?」

アイテムポケットの中身は、時間の経過が止まっているので、アイテムポケットにいれた木苺が腐ることはない。

「毎日木苺は飽きるから、毎日はやめてくれよ」

「えー。せっかく収穫したんだから、しばらくは木苺のメニュー、食べてもらうから」

「仕方ないな。もう日が暮れる。帰りは、空間転移魔法で帰ろう」

「浮竹、空間転移魔法も使えるなら、はじめからここに来ればよかったのに」

そんな京楽の言葉に、浮竹は首を横に振った。

「一度訪れた場所じゃないと、空間転移魔法は使えない。それに、消費魔力が多すぎて、1日1回が限度だ」

「じゃあ、今日はもう戻ろうか」

「ああ」

浮竹も京楽も知らなかった。

留守を任せていた、戦闘人形がヴァンパイアハンターに殺されていたなんて。


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「どうなっている!生きている戦闘人形はいないのか!」

血まみれになって倒れている、戦闘人形のリーダーの元へ駆けつけた。

リーダーの戦闘人形は、意思をある程度もち、会話が成り立つ。

「どうしたんだ!」

「志波海燕様が・・・・・」

「海燕が、どうしたんだ!」

「ヴァンパイアであられるのに、ヴァンパイアハンターでした。気をつけてください、マスター。あの方は、もう昔の・・・・・」

ことり。

戦闘人形は、それだけを口にすると腕を地面に落として、息絶えてしまった。

「海燕・・・やはり、お前はヴァンパイアハンターなのか!」

「海燕って誰、浮竹」

「京楽、嫉妬はするな。7千年前、俺が愛して血族にしたヴァンパイアだ」

「君は、ブラドツェペシュ以外にも、そんな人がいたの?」

「俺は8千年を生きている。5千年は休眠して過ごしたが、あとの3千年は生きて過ごしていた。孤独に堪え切れず、血族にしたのは5人。そのうちの一人が志波海燕だ。ブラドツェペシュは血族していなかったので、入っていない」

「君は僕のものだよ!」

京楽は、浮竹を抱き寄せた。

「分かっている。今は、お前だけだ」

京楽を抱きしめ返す。

「戦闘人形を皆殺しにしたってことは、それなりの力のあるヴァンパイアハンターだね。ヴァンパイアでありながら、ヴァンパイアハンターだなんて。例え、昔の浮竹の恋人でも、僕は容赦しないよ」

「いやあ、そのほうがありがたいな」

志波海燕だった。

聖女シスター・ノヴァの血、それも祈りの聖水を含んだものを、刃にした剣で、浮竹は心臓を突きさされていた。

「海燕・・・・お前は・・・・ごほっ」

大量に吐血する浮竹を見て、京楽の血の暴走が始まる。

「海燕クンだっけ?死んでよ」

血でできた真空のカマイタチを、海燕に向かって放つ。

それを、海燕は聖女の剣で弾き飛ばした。

「浮竹!」

浮竹は、血の結界をはって、携帯していた人工血液剤を噛み砕き、心臓の傷を癒していた。

「大丈夫だ・・・急所だが、俺は死なない」

空間転移魔法で、魔力をごっそり持っていかれていたが、心臓を貫かれ時、必死で血の膜をはって、直撃を避けた。

「へぇ、始祖ってほんとに死なないんだな。でも、聖女の祈りの聖水を浴びれば、やけどをするよな?」

浮竹のはった結界を無理やりこじ開けて、海燕は聖水の入った小瓶を破壊して、浮竹に浴びせた。

「ああああ!!!!」

じゅうじゅうと、肉の焼ける匂いがした。

「いい匂い。うまそうだ。殺す前に、血を飲んでやろうか」

「俺は死なない。何をされても死なない」

「始祖ってのは厄介だなぁ」

海燕は、我を忘れて切りかかってくる、京楽の血の刃を後ろから受けて弾いた。

「許さない。浮竹を傷つけた。僕は君を許さない。死んでよ」

白哉の時とは比べ物にならない魔力が、京楽の手に集まる。

「ヘルインフェルノ!」

「な、お前、魔法が使えたのか!?聖女シスター・ノヴァの話では、身体強化とエンチャント系の魔法なだけのはずだ!」

「へぇ、君、聖女シスター・ノヴァの知り合いなんだ。ますます許せない」

「聖女シスター・ノヴァの四天王、志波海燕だ」

「どうでもいいよ、そんなこと」

京楽は、自分に宿った浮竹の魔力で、浮竹の代わりに魔法を放つ。

暴走状態に陥らなくてもできるが、暴走状態のほうが魔法は使いやすい。

「ボルケーノトライアングル!」

火の魔法を受けて、炭化してしまった左腕を自分で切り落として、海燕は聖女の剣で京楽と切り結びあう。

火花が何度も散った。

「ヘルコキュートス!」

浮竹は、あくまで火の魔法が得意なだけであって、全属性の魔法を操れた。血族である京楽は、浮竹の使う魔法を使えた。

大地に足を凍らされて、海燕が舌打ちする。

自分の足を砕く。

炭化していた左腕と、砕いた足が再生していく。

凄まじい再生スピードであるが、守りががら空きだった。

京楽は、浮竹を血の結界で護りながら、微笑んだ。

「浮竹を愛していないんだね。そんな血族、いらないよね、浮竹」

「京楽、一思いに殺してやれ。反魂で生き返らされた、彷徨う亡者だ、彼は。俺が愛した志波海燕じゃない」

「反魂?なんの話だ・・・・・・」

京楽は、浮竹の流した血をボウガンの形にして、浮竹の血を弓矢にして、それは複数の形となって海燕の腹と心臓を貫いていた。

「心臓を貫いても死なない・・・浮竹の血で死なないなんて、心臓つまりはコアが違うところにあるのかい?」

始祖の血は、莫大な力を注ぎ込む。けれど、使う者次第で、猛毒にもなった。

海燕は、大量の血を吐きながら、それでも京楽に斬りかかった。

「俺は、こんなところでは死なない!俺には愛する人がいるんだ!」

海燕の傷口は、再生しなかった。

始祖の血が、海燕の再生を拒んでいるのだ。

「もう楽になってしまいなよ」

京楽は、海燕の心臓をまた刺していた。大量の血を流すが、まだ海燕が息絶える気配はない。

海燕は、せめてと、聖女の剣についた始祖の血をなめて口にした。

光が煌めいた。

「俺は・・・そうか。反魂か。愛していた、浮竹・・・・」

「海燕?」

血の結界から出ようとする浮竹を、京楽が押しとどめる。

「せめて、お前の手で葬ってくれ」

「海燕、お前、まさか記憶が戻ったのか?」

「浮竹、だめだよ!危ない!」

浮竹は京楽の血の結界を破り、海燕を抱きしめた。

「愛していたよ、海燕。俺の、血族よ」

「俺も愛していた、浮竹。俺は、もう死んでいるんだな。ここにいるのは、反魂で生き返らされた、俺の亡霊か。肉体の元になっているのは、神族の青年か。かわいそうだが、一緒にいこう」

「京楽、これは俺の我儘だ」

浮竹は、京楽に微笑みを向けて、海燕がもつ聖女の剣で、自分ごと海燕を刺していた。

「ごふっ・・・・。だめだ、俺の心臓であるコアは、聖女シスター・ノヴァの手の中だ。こんなんじゃ、死なない」

「灰になれば、死ぬか?」

「ああ。愛していた浮竹――――」

「ヘルインフェルノ!」

浮竹は、自分ごと海燕を地獄の業火で燃やした。

残ったものは、灰になった海燕と、やけどを負った浮竹。

「浮竹・・・・・・」

「絶対に許さない、聖女シスター・ノヴァ。死者を弄ぶだなんて」

しゅうしゅうと、傷ついた体を再生させながら、浮竹は泣いていた。

「泣かないで、浮竹」

「京楽。今だけは、今だけは他の男のことを想い、涙する俺を許してくれ」

「うん。許すよ」

「うわあああああ」

浮竹は泣いた。

今まで生きてきた中で、泣いたことはあるが、誰かのために泣くことは少なかった。

「愛していたんだ。お前を。海燕。俺の初めての血族であり、俺の恋人だったお前を」

それを、京楽は複雑な気持ちで見ていた。

そっと抱きしめると、浮竹は涙を流したまま京楽に抱きついた。

「京楽。お前は、こんなことにはなるな。お前だけは、俺の傍にいてくれ」

「うん。約束するよ。僕はずっと君の傍にいる。僕が死ぬ時は、浮竹、君も、死んで?」

死んだ海燕のために涙する浮竹を、強く抱きしめた。

嫉妬の感情は、不思議と沸いてこなった。

「約束だ」

唇を重ね合った。

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「ああもう、どいつもこいつも!使えない!ええい、石田雨竜はいるか!茶渡泰虎でもいい!」

聖女シスター・ノヴァは、砕け散ってしまった海燕のコアを、その破片を踏みつけていた。

「あーあ。兄様を怒らせちゃったねぇ、聖女シスター・ノヴァ」

「ブラッディ・ネイ!?ばかな、血の帝国から出られないはずだわ!今のお前は、赤子!」

「うふふふ。ボクはねぇ、兄様のことが大好きだけどさぁ、兄様を助けるつもりはないんだけど、今回はねぇ。ちょっと、ボクも海燕のこと、好きだったからさぁ。だから、ねぇ?」

神族の少女に降臨したブラッディ・ネイは、聖女シスター・ノヴァに血でできた短剣を向けた。

「転生しても、転生しても、醜い姿で生まれてくるのは、ボクのせいだよ」

「何!」

「ボクが、兄様に恋慕する君に、呪いをかけたのさ。何度生まれ出でても、同じ姿形になるように。今度は、もっと醜くくなればいい。そうだね、しわくちゃのお婆さんになっちゃいないよ」

「ぎゃああああああああああ」

全身を焼く呪いの炎。ブラッディ・ネイは、血の刃の短剣を、聖女シスター・ノヴァの心臓に突き立てた。それは呪いの言霊をなって、聖女シスター・ノヴァの全身を巡っていった。

炎の後には、醜いしわくちゃの老婆が立っていた。

呪いが強すぎて、浮竹の呪いの魔眼は上書きされていた。

光を戻した聖女シスター・ノヴァは鏡で自分の姿を見た。

老婆、しかも醜い。

「いやああああ!!わたくしの、わたくしの顔が、体が!若いわたくしの体が!」

「あははははは!ざまーないね、聖女シスター・ノヴァ。せいぜい、信者に愛想つかされないように、がんばるんだよ」

ブラッディ・ネイがかけた呪いは、転生しても転生しても醜い老婆になる呪い。

ブラッディ・ネイの降臨が終わった神族の少女は、ヴァンパイアになっていた。

「ああ、美味しい、美味しい」

「いやあああ、わたくしの血を吸わないで!こんな体では、魔法が!」

聖女シスター・ノヴァの悲鳴を聞いて駆けつけてきた者が見たのは、しわくちゃの醜い老婆の干からびた死体だった。

ヴァンパイアになった少女は、銀の武器で殺された。


「あはははははは!」

赤子の姿のまま、血の帝国の後宮で、ブラッディ・ネイは笑っていた。

「醜いね、なんて醜いんだろう、聖女シスター・ノヴァ」

自らの子に転生させられたブラッディ・ネイは、狂ったように笑い続けた。

「兄様。愛してるよ、兄様。兄様は、ボクだけのものだ」

ブラッディ・ネイの狂気にあてられて、後宮の少女たちは次々と意識をなくしいくのだった。


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「愛してるよ、十四郎」

「あ、春水」

浮竹と京楽は、同じベッドの上睦みあっていた。

「あ、あ、愛してる、春水、春水」

愛しい血族の男は、愛しい始祖を貫きながら揺すぶった。

「あ、あ、あ、だめぇ、奥はだめ!」

「奥、ごりごりされるの、大好きでしょ?」

「だめぇ!」

浮竹の蕾に入り込んだ京楽の熱は、浮竹の前立腺をすりあげながら、最奥の結腸をまで入り込んでいた。

「ああああ!!」

揺さぶられて、突き上げられて、浮竹は吐精していた。

「やっ!いったから、いったからもう!」

「そういえば、吸血まだ今日はしてなかったよね」

海燕のせいで負った怪我は、治りにくい聖女の祈りの聖水でできいた。

京楽は、自分の血を滴らせて、浮竹の傷を治癒した。

浮竹の白い肌には、やけどの痕も、剣で斬られた痕も残っていなかった。

「あ、今日はだめ!血を失いすぎたから、だめぇ」

「人工血液、ちゃんと準備してあるから大丈夫」

京楽は、浮竹の心臓の位置に牙を突き立てた。

深く牙を突き立てて、心臓の血を嚥下する。

「あ、あああ、心臓が、焼ける!」

焼けるような快感を与えられて、どちゅんと最奥を突きあげられて、浮竹はオーガズムでまたいっていた。

「出すよ。君の中に僕のザーメンたっぷり出すから、孕んでね」

「あ、孕んじゃう!やだ、やぁっ」

ドクドクと、大量の京楽の精液を胎の奥で受け止めながら、浮竹は京楽の首に手を回した。

「ん?」

「お返しだ」

京楽は、浮竹に首筋を噛まれ、大量に吸血されて、貧血に陥った。

二人仲良く、人工血液を口にした。

「僕は君と違って、すぐには人工血液を自分の血液に還元できないんだよ。少しは容赦してよ」

「俺の体を散々弄んでおいて」

「いや、ごめん。でも愛してるよ、十四郎。君になら、体中の血液だってあげる」

「そんなものいらん。意趣返しで噛みついて吸血しただけだ。血族の血を飲んで生き延びるほど、乾いていない」

浮竹は、頬を膨らませてすねていた。

「どうしたの、浮竹」

「木苺のタルトが食べたい」

「はいはい、すぐ作ってあげるから」

「木苺の入った果物の蜂蜜漬けも食べたい。あと、木苺100%ジュースが飲みたい」

「注文が多いねぇ」

「腹が減った」

ヴァンパイアは人の食べ物も食べる。

渇きを覚えた時だけ、人工血液や人間の血を口にした。

「隠し味は、処女の血がいい」

「ちょっと、無理言わないでよ。さすがにこんな時間に町をうろついて、孤児の子らの血を抜いていてたら、見つかってしまう」

「冗談だ」

嘘とも冗談ともとれる言葉に、京楽はため息をついた。

浮竹はその気はなかったのだが、京楽が海燕のことをまだ思う浮竹の中の海燕に嫉妬して、浮竹を自分のものだと分からせるために、強制的に抱いたせいであった。

頬を膨らませて、飯を強請る浮竹は可愛かった。

「今作るから、ちょっとまってて」

「寝ておく。完成したら、起こせ」

「分かったよ。まったくもう、仕方ないね」

きょらくは、浮竹に甘い。浮竹もまた京楽に甘いが、今日だけは浮竹は京楽に抱かれたくなかったのだ。

否が応にも、海燕と体を重ねた記憶が蘇った。

京楽が残したキスマークを指で辿りなはら、浮竹は眠りへと落ちていく。

浮竹が今愛する者は、京楽ただ一人。

それを、京楽もまた理解していた。

外では、雨が降っていた。

久しぶりの、嵐にになりそうだった。


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「え、海燕君が死んだ!?それに聖女シスター・ノヴァ。その体はなんですか。本当に聖女シスター・ノヴァなのですか!」

石田は、突然の訃報に、立ち上がっていた。

「女帝ブラッディ・ネイに呪詛を受けた。その結果がこれだわ」

しわくちゃの醜い老婆は、神聖な力を見せた。

その力は、確かに聖女シスター・ノヴァのものであった。

「その呪詛を解く方法はないのですか」

「同じ聖女の血。血の帝国の聖女、朽木ルキアの生き血がいるわ」

「僕が、血の帝国に赴いて、聖女朽木ルキアをさらってきましょう」

「たのむわよ、雨竜。もう、わたくしにはお前くらいしか、頼れる者がいないのです」

石田雨竜は、ヴァンパイアロードを退治したこともある、凄腕のモンスターハンターであった。

人間の雨竜にとって、ヴァンパイアもまたモンスターであった。












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始祖なる者、ヴァンパイアハンター6

「わたくしは美しくなりたい。始祖の血を得れば、きっと美しくなれる。ああ、待っていて信者たち。美しくなったわたくしを見て」

聖女シスター・ノヴァは神代から生きる神族。転生をくりかえし、ブラッディ・ネイのように少女の中に転生しては聖女となった。

彼女には一つの悩みがあった。

それは容姿だ。

どんなに美しい少女に転生しても、前と同じ外見になるのだ。

痩せこけた、そばかすだらけの、醜女になる。それがたまらなく嫌だった。ブラッディ・ネイから血をもらい、美しくなろうとしたが失敗した。

始祖である浮竹に、魔法で消し炭にされた。

あの恐怖を思い出しつつ、聖女シスター・ノヴァは血の帝国に行った時、暗示をかけて服従させた朽木白哉を連れていた。

「わたくしのかわいい白哉。さぁ、始祖を殺してしまいなさい」

「兄は・・。誰だ」

「わたくし?わたくしのあなたの主」

「兄のために、始祖を殺そう。愛しい兄のために」

暗示で、聖女シスター・ノヴァは、白哉の中ではルキアになっていた。

ルキアと似ても似つかぬ醜女が、ルキアに見えた。

白哉の催眠暗示は深い。

少しのことでは、解けないないだろう。


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「はい、浮竹あーん」

「一人で食べれる、京楽」

「だめだよ。君、血を暴走させて力を使いすぎたでしょ。はい、あーん」

しつこい京楽に、浮竹も仕方なく口を開く。

オムライスだった。

最近の京楽は、料理に凝っている。だが、作られるメニューはオムライスかカレーかクリームシチュー、ビーフシチューのどれかだった。

「甘い・・・血か。また、町にいって孤児の少年か少女から、血を抜き取ったのか」

「うん」

「記憶を消し忘れたり、していないだろうな?」

「大丈夫だよ。それに忘れていたとしても、金貨10枚握らせてあるし。古城には悪霊が住み着いていて、入ったら呪われて死ぬって噂になってるから、まさか古城にヴァンパイアが住んでいて、そのヴァンパイアが料理の隠し味のためだけに、孤児の少年少女に金貨を与えて血を抜いているなんて思わないよ」

「人に吸血は、するなよ?どんなことがあっても」

人の血の味を知ってしまったヴァンパイアの中には、もう人の血しか受け付けなくなるヴァンパイアもいた。

そんなことがないように、人工血液は十分に栄養価が高くできており、人の血よりも甘い味がするように作られていた。

血の帝国にいるヴァンパイアたちは、皆、人工血液を口にして生きている。でも、その外の世界では、人工血液を口にせず、人を吸血して殺すヴァンパイアがいるのも事実だ。

だから、ヴァンパイアハンターがいる。

「人を吸血したり、しないよ。僕は君の血しか吸わない。ああ、僕も喉が渇いてきた。血を吸わせて?」

浮竹にオムライスを与えながら、京楽は瞳を真紅に輝かせた。

「お前、以前よりも血を欲しがっていないか。一度暴走したせいか・・・」

浮竹がヴァンパイアハンターに傷つけられて、怪我をした時、京楽は我を忘れて暴走した。自我があっただけまだましで、浮竹は自分の血を飲ませて、京楽の暴走を鎮めた。

そんな浮竹もまた、前回愛した神族の少女、ブラドツェペシュに起きたことを聞いて血を暴走させた。

もしも、京楽に何かあって暴走したら、京楽も止められるか分からない。

「今夜はカレーだから。楽しみにしておいてね」

「お前の作ったカレー、凄く辛いから蜂蜜と林檎をいれてやる」

「あ、酷い!妻の手料理に手を加えるだなんて!」

「誰が妻だ!」

「僕が妻」

自分を指さす京楽に、浮竹は眉を顰めた。

「ヴァンパイアが、血族にする場合通常は花嫁か花婿として迎える。京楽の場合、花嫁に・・・うーん、花婿?うーん・・・」

浮竹は首をひねった。

「どっちでもいいじゃない」

浮竹の白い髪をかきあげて、首筋を露わにすると、京楽は牙を伸ばして噛みついた。

「あっ」

吸血行為は快楽を伴う。

「やっ、京楽・・・まだ、飯の途中だぞ」

「待てない。君が欲しい」

ごくりと、京楽は浮竹の血を飲んだ。

コップ一杯分くらいを飲み干して、京楽は満足して浮竹から離れた。

「一気に飲みすぎだ、アホ!貧血になるだろうがっ」

「ほら、ちゃんと人工血液と人工血液剤用意してあるから。どっちがいい?」

「苦いから、人工血液剤はあまり好きじゃない。人工血液でいい」

ヴァンパイアで始祖である浮竹は、京楽に与えて失った血を、人工血液を口にすることで自分の血に還元できた。

「全く。昔はもっと遠慮していたのに・・・・あの頃のかわいい京楽は、何処へ行ったんだ」

「ここにいるよ。エロい君の体と血に惑わされて、君の虜になった」

「エロいっていうな」

「エロいよ・・・ほら、ねぇ?」

「んっ、やっ、やめっ・・・・・」

浮竹はオムライスを食べ終えていた。

「続きはベッドでしようか」

「バカ・・・・」

抱き上げられて、浮竹は京楽の肩に顔をおしつけて、真っ赤になった顔を見られまいとしていた。

「照れてる君も好きだよ。可愛い」

「男に向かって、可愛いはないだろ」

「そんなことはないよ。君は可愛いし綺麗だ」

どさりと、寝室の天蓋つきのキングサイズのベッドに横たえられて、浮竹は目を閉じた。

「好きだよ、十四郎」

「んっ」

京楽の舌が、浮竹の唇を舐める。

浮竹は、自分から口を開いた。

ぬめりとした京楽の舌が入ってくる。舌を絡めとられて、牙で少しだけ傷つけられて、吸血された。

「んあああ!」

「エロいね・・・・・」

「血を、吸うなっ」

「無理いわないで。僕は君の血で生きてる。君のものであり、君は僕のものだ」

「始祖である俺を、自分のものだというのはお前くらいだ」

「だって、それだけ十四郎を愛しているから」

服を脱がされて、全裸にされた。

胸のあたりにキスマークを残していく京楽は、浮竹をあおむけにして、その綺麗な背骨のラインを指でたどる。

「翼、出せる?」

「ああ・・・・・」

ヴァンパイアは、真紅や黒の翼をもつ。皮膜翼で、蝙蝠のそれに似ていた。

浮竹は、ばさりとヴァンパイアの翼を広げた。

真紅の立派な大きさの翼だった。

京楽は、久しぶりにみる浮竹の大きな翼に感嘆しながらも、翼に噛みついた。

「んんっ」

浮竹は、翼を消してしまった。

血は吸えたので、京楽はペロリと唇を舐めた。

「浮竹の翼の血って、濃いから好き」

「翼は敏感なんだ。血を吸われ続けたら、病みつきになるからしない」

「病みつきになってもいいのに。僕は、どんな浮竹でも好きだよ」

「ばかっ」

浮竹は赤くなっていた。

あおむけのまま、秘所にトロリとローションが垂らされる。

「んっ、なにこれ、冷たい」

「すぐ暖かくなるよ。ローションっていって、人間社会で最近流行ってるやつ。試しに買ってみた。通販で」

「通販って、どこから!」

「血の帝国の。古城まで届けてくれたよ」

「最近こそこそしていたのは、そのせいか」

「うーん、そうかもね。他にも、大人のグッズがいっぱいあったけど、興味なかったから、このローションってたつだけ買ってみた」

「薔薇の匂いがするな。この匂いは、嫌いじゃない」

甘い薔薇の香りがして、浮竹は心が洗われるのを感じていた。

「ちょっとだけ、媚薬成分入ってるから、気をつけてね?」

「あ!」

ローションが、京楽の指と一緒に体内に入ってきたのと同時に、スイッチを押されたかのように体が火照りだした。

「あつい、春水・・・・・・」

「あれ、もう効いてきたの?」

「春水、早く」

ぐちゅぐちゅと蕾を解していたが、いつもの潤滑油よりぬるぬるで、これなら痛みもなくするりといけそうだと判断して、京楽はそそり立つ己のものを、浮竹の蕾に押し付けた。

「あ、あ、意地悪しないでくれ」

「股閉じて?」

「ん・・・素股か?」

「最初はね。ちょっと僕も一発抜いてから、浮竹の中に入りたい」

「んっ、こうか?」

太ももを閉じた浮竹に、京楽は一物を押し付けて、強弱をつけて出し入れした。

パンパンと音がした。

「んっ、いいよ、十四郎。その調子」

「あっ、春水、俺のも触って!」

「うん、一緒にいこうか?」

「あああーーー!!」

京楽は、浮竹の太ももに精液を散らして、浮竹は京楽の手でこすられて、京楽の手の中で精を放っていた。

「まだ、体が熱い・・・」

「今、あげるからね」

正常位になり、浮竹の右足を肩にかついで、京楽は浮竹の蕾を己で抉っていた。

「ひああああ!」

浮竹は体が柔らかい。

少々の無理な体位も、受け入れた。

「んっ、ローションのせいでぬるぬるだね、お互い」

「後で、風呂にいれないと、承知、しない、から・・・ああああ!」

ズチュズチュと挿入を繰り返す。

浮竹の前立腺をすりあげて、京楽は最奥の結腸にまで入りこみ、浮竹をわざと乱暴に揺すぶった。

「あ、あ、深い、だめぇっ」

「ここ、好きでしょ?」

結腸にぐりぐりと熱をあてると、浮竹の内部が締まった。

「ああ、あ、あ・・・・」

中いきしていた。オーガズムでいっている最中の浮竹の首に噛みついて、仕上げだとばかりに吸血してやった。

「いやああああ、あああああ!!」

セックス中の吸血は気持ちよすぎて、浮竹は首を左右に振る。

白い髪が乱れて、シーツの上を泳ぐ。

「あ、あああああ!!」

浮竹は、触られずに射精していた。

昔は、触らないといけなかった。今では、オーガズムによる中いきも覚えてしまって、おまけに吸血を同時にされると快感に支配されて、意識を飛ばすこともしばしばあった。

「春水・・・」

「ん?」

浮竹は、牙を伸ばして、愛しい男の手に噛みついて吸血した。

「ああ、気持ちいいね。君の血肉になれるなら、僕は全ての血液を君にあげるよ」

「バカ、お返しに吸血してやっただけだ」

「もっとする?」

「お前は、慣れていないだろう。また今度でいい」

「ローションはどうだった。媚薬、ちょっと入ってたみたいだったけど」

真っ赤になりながら、浮竹はぼそぼそと呟いた。

「何、聞こえないんだけど」

「だから、き、きもちよかったと言っている!いつもより感じた」

「買ってよかったよ。大人のグッズは・・・十四郎、そういうの好きじゃないでしょ」

「当たり前だ。俺で遊んだら、禁欲一カ月は覚悟しておけ」

「一カ月はきついねぇ」

くすくすと、京楽は笑う。

そして、京楽の中からずるりと引き抜いた。

「あっ」

浮竹の太ももを、ローションとお互いの体液がまじった白い液体が流れていく。

「よっと」

京楽は、シーツごと京楽を抱き上げた。

「お風呂、いこうか」

「一回しかしてないが、風呂で盛るなよ」

「それは分からないなぁ」

二人は、風呂でもう二回やってしまうのであった。


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リンリン。

結界内に、侵入者がきた。

鈴の音に、迷いこんできた人か、遊びにきたヴァンパイアかと、思案を巡らせる。

音は古城の地下からしていて、誰かが血の帝国から空間転移魔法を使い、やってきたようだった。

「ルキアちゃんや一護クンたちかな?」

「何かあった時は、最初に式を放ってくると思うから、ただ遊びにきただけじゃないのか」

式は、本当にやってきた。

そこには、乱暴な文字で「兄様を止めてください」と書かれてあった。

「この文字、血でかかれてるね。兄様ってことは、白哉クンか」

「白哉が?白哉が、どうかしたのか?」

浮竹にとって、白哉は実の息子か弟のような存在だ。

古城の地下にいくと、人影があった。

「兄の首を、もらいにきた」

リィン。

音がした。

そこにいたのは、朽木白哉だった。

「散れ、千本桜・・・・・」

血でできたその刀は、無数の血の花びらとなって、浮竹と京楽に襲い掛かった。

「危ない!」

京楽が展開したシールドで、血の花びらを弾く。

「白哉!?どうしたんだ、白哉!」

「どうやら、正気じゃないようだね。操られているのかも!」

「白哉、俺だ、白哉!」

「危ない!」

浮竹を抱き抱えて、地面を飛んだ。

「兄を殺す。邪魔をするなら、血族の兄も殺す」

「白哉・・・・・・」

自分を殺そうとする白哉が信じられなくて、浮竹は血を躍らせると、白哉の全身を包み込み、動けないようにした。

いや、したつもりだった。

じゅうううと、血が焼ける音がした。

「くぅ、聖女シスター・ノヴァの祈りの聖水か!厄介な!」

白哉にとっても、毒である。

聖水がつまった小瓶を、いくつも白哉は浮竹に向かって投げた。

回避すると、白哉は血の花びらで浮竹の元へと誘導して、小瓶を破壊した。

「く・・・・・・」

じゅうじゅうと、やけどを負った。

それを見た京楽が、鳶色の瞳を真紅に変えた。

「よくも僕の浮竹を・・・・・許さない」

「京楽、相手は白哉だ!」

「誰であれ、浮竹を傷つける者は許さない」

京楽は、血の結界をはって、浮竹がこれ以上けがをしないように、閉じ込めた。

「京楽、ここから出せ!」

「だめだよ、白哉クンは君を狙っている。多分、聖女シスター・ノヴァに操られているんだろう。近くに気配はないから、暗示か何かにかかっているんだと思う」

京楽は、血の刃をいくつも作りだして、白哉の千本桜と切り結び合った。

「さすが、純血の皇族。浮竹と同じ血を、色濃く引き継いでいるだけあるね」

白哉は、生粋の皇族だ。

皇族のはじまりは、初代ブラッディ・ネイの子から続くもの。

今は同性しか愛せないブラッディ・ネイであったが、神代の頃に同じく生まれ出でた始祖に近いヴァンパイアと番になり、子をもうけた。

その子供の血が、皇族のはじまりであった。

だから、白哉もまた浮竹の血を引いていることにもなる。

ブラッディ・ネイは血を浮竹と分け合っていて、実の兄妹である。浮竹とブラッディ・ネイは同じ神から生み出された。

一方は始祖ヴァンパイアとして、永遠の死ねぬ呪いを身に受けて。もう一方は、始祖の次のヴァンパイアとして、死すれば転生することのできる呪いを受けて。

「白哉、正気に戻れ!」

浮竹がいくら叫んでも、白哉は顔色一つ変えない。

「やめろ、京楽!こんな戦い、俺は見たくない!」

「でも、ここで白哉クンを止めないと、君に危害を加える。それだけは、僕が許せない」

何度も、血の刃と血の花びらで、火花を散らした。

「白哉クン、ごめんね」

浮竹の血を媒介に、大きな鎌を血で作り出すと、それで白哉の体を斬り裂いた。袈裟懸けに斬られた体は、大量の血を流した。

「兄は・・・兄は、ルキアを殺そうとした。殺す」

しゅうしゅうと、傷口が塞がっていく。

ヴァンパイアは再生力が高いが、血の刃で負わされた怪我は再生が遅い。それが瞬時に再生することは、聖女がいる証。ルキアはいないようなので、除外されて残るは聖女シスター・ノヴァ。

「いないようで、いるのか。聖女シスター・ノヴァ!」

「うふふふふ。さぁ、存分に殺し合ってちょうだい」

「お前は、確かにあの時殺したはず!」

「あら、浮竹、忘れたの?わたくしは始祖の神族。始祖は死が遠いのよ」

同じ始祖であるが、神族の始祖は死なないわけではない。死は限りなく遠いが。何度死んでも、また同じ神族の少女の中に転生して、復活する。

「始祖の血が欲しいの。浮竹、再生するのに時間がかかるくらい、ずたずたになるといいわ。同じヴァンパイアなら、それも友なら、殺せないでしょう?」

「甘いね、聖女シスター・ノヴァ」

京楽は、白哉を血の糸で戒めて、聖女シスター・ノヴァ、正式にはその分身体に血の刃を飛ばした。

それは、分身体の首を落としていた。

「あははは、この分身体は特別製なの。わたくしの分身体を傷つけても、本物のわたくしは傷一つ負わない。さぁ、殺し合いを続けてちょうだい、白哉」

「ルキアの願いだ。兄を、殺す」

「おいおいおい。こんなブスが、ルキアちゃんに見えるのかい?」

「誰がブスだ、このもじゃひげブ男!」

「ブスにブスって言っても罰は当たらないよ。白哉クン、しっかりして。ルキアちゃんは、こんな醜女じゃないよ」

「白哉!浮竹はいいから、先にこの京楽を始末しなさい」

「分かった、ルキア。散れ、千本桜」

血でできた、桜の花びらが散っていく。

数億の血の花びらを、京楽は血のシールドで防ぎ、血の刃で白哉の心臓を貫いた。

「白哉!」

浮竹が叫んだ。

ビクンと、白哉の体がはねて、心臓の鼓動を止める。

「な、早く立ち上がって京楽を殺しなさい!白哉!」

「京楽、俺の血だ!早く白哉に飲ませろ!」

浮竹は、血の結界をこじあけて、自分の血がつまった小瓶を京楽に渡した。

白哉は、今仮死状態にあった。

京楽は、白哉の口に浮竹の血を数滴注いだ。

かっと、白哉が目を見開く。

「私は・・・・何を。ルキアは?ルキアはどこだ?」

「白哉、早く浮竹を殺してその血をわたくしにもってきなさい!」

聖女シスター・ノヴァは白哉が一度肉体的に死に、暗示が解けてることに気づいていなかった。

「兄は・・・そうか。私は兄に操られて・・すまぬ、浮竹、京楽」

「ちい、どいつもこいつも使いものにならない!こうなったら、わたくしの聖水で全部もやして・・・・・・ぎゃあああああああああああ」

浮竹の魔力を宿した、京楽が立っていた。

始祖は、血族にその力を与えることができる。

「ヘルインフェルノ」

京楽が、血の結界の中にいる浮竹の代わりに、魔法を放っていた。

「な、京楽、何故、浮竹の魔法を・・・・・・・」

「浮竹は始祖だからね。その気になれば、僕に力を宿すこともできる。浮竹、呪いの魔眼でいいのかい?」

「ああ。分身体をそれで呪えば、本体にも呪いはうつるはずだ」

浮竹は、呪術にも長けていた。

呪いの魔眼。相手の目を焼いて、未来永劫光を奪う呪詛であった。

それを、京楽は聖女シスター・ノヴァの分身体にかけようとした。

「やめて!違うの、これは、そ、そう、ブラッディ・ネイに命令されたの!信者たちを殺されたくなければ、浮竹を殺せって!」

「残念、今のブラッディ・ネイは赤子だよ。赤子でなくても、実の兄を手にかけるような愚行までする妹じゃない、ブラッディ・ネイは」

浮竹が、京楽の張った結界から出されて、一人取り残されたボロボロな、泣きじゃくる聖女シスター・ノヴァの元にやってきた。

「聖女シスター・ノヴァ。今後、俺たちに二度と関わらないと約束するなら、呪いの魔眼は・・・・」

「あはははは!死ね、死ね、死ね!」

聖女の祈りの聖水で作りあげた短剣で、聖女シスター・ノヴァは浮竹の腹部を刺していた。

「あははは、手に入れた。始祖の血だ!」

ぺろぺろと自分の手をなめる聖女シスター・ノヴァには、もう光は見えていなかった。

「いやああああああ、目が、目がああああ!何も見えない!焼けるように熱い!」

浮竹は、残像であった。

腹部を貫かれたのは、幻の浮竹。

「ヘルインフェルノ」

「アイスコキュートス」

浮竹の炎の煉獄で身を焼かれた後は、白哉の氷の魔法で凍てつかされた。

「あああ・・・・許さない。神の寵児であるこのわたくしを呪うなんて。いつか、呪いはお前を殺すだろう・・・ああ、口惜しい」

「頑丈だな。死ね」

スパン。

浮竹は、血の刃で聖女シスター・ノヴァの首をはねていた。

それでも、聖女シスター・ノヴァは動いた。

体は炭化し、氷ついているのに、まだ動いた。

「始祖の力を、なめるなよ、浮竹」

「それはこちらの台詞だ」

浮竹は、聖女シスター・ノヴァの体をみじん切りにしていた。

さすがに、もう言葉もしゃべれない。

それをさらにヘルインフェルノで焼いた。

「ああ、古城の地下がぼろぼろだ。魔法陣は幸いなことに無事だが」

京楽と白哉のぶつかりあいで、古城の地下は上の階と同じ煌びやかな空間であったが、壁にひびは入るわ、絨毯は焼け焦げて炭化しているわで、ボロボロだった。

「すまぬ、浮竹、京楽。迷惑をかけた。聖女シスター・ノヴァの傀儡にされるなど・・・・」

「白哉は悪くない。悪いのは聖女シスター・ノヴァだ。今頃、呪いでもだえ苦しんでいるだろうが。ざまぁないな」

浮竹は、意地の悪い笑みを浮かべた。

「私は、確かに死んだ。なのに、何故生きている?」

「京楽が、俺の血を切っ先に乗せた刃で、心の臓を貫いて、一時的に鼓動を止めさせた。仮死状態にして、俺の血を与えることで鼓動は復活する。これも、呪術の一種だな」

「浮竹は、呪術も使えるのか」

「伊達に、神代の時代から生きてるわけじゃあないからな」

「そうそう、あっちも凄くて・・・・・・」

京楽の悪乗りに、浮竹は顔を真っ赤にして、京楽を殴り倒した。

「何するの!?花嫁に向かって!」

「そうか、そんなプレイをしていたのか。すまぬ、気づかなかった」

「いや、違うからな、白哉!こら、京楽も何か言え!」

「あ、式がきたよ。ルキアちゃんたちがくるらしい」


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「兄様、無事でよかった!」

白哉は失踪した後、一度血の帝国に戻り、ルキアと一護と冬獅郎を殺そうとした。

だが、白哉は暗示をかけられて操られながらも、愛しいルキアとそれを守る守護騎士を殺せなかった。

ルキアは血を流したが、術で一護と冬獅郎と自分を治癒した。

そして、浮竹を殺すといっていたので、急いでいたので血文字で兄様を止めてくださいと書いて、浮竹と京楽に向かって式を飛ばした。

「白哉、これをもっていけ」

「これは?」

「俺が作ったアミュレットだ。俺より下の者に、呪われたり操られたりしなくなる」

浮竹は、蒼い宝石のついたアミュレットを白哉に渡した。

「もらっておこう。恩に着る。今回は、迷惑ばかりをかけた。すまない」

「また遊びにこいよ!」

「兄も、たまにはこちら側に遊びにくるといい」

「ああ、今度血の帝国にいくさ」

「僕も一緒にね」

「京楽は、ついてこなくてもいいんだぞ」

「あ、酷い。さっきの花嫁プレイの件、まだ怒ってる?」

「知るか!」

ぽかりと、京楽の頭を殴って、浮竹は笑顔で皆を見送った。

皆が去ってから、京楽は真剣な顔つきになった。

「浮竹、ほら、脱いで!」

「な、なんだ!こんなところで盛るのか!?」

「違うよ。聖女シスター・ノヴァの聖水の中身をかけられた場所のやけど、まだ治ってないでしょ!ルキアちゃんに治してもらえばよかったのに」

「ルキアくんには、いらぬ心配をかけたくない」

「頑固者なんだから!ほら、僕の血で癒すから、服脱いで」

浮竹は、素直に上の服を脱いだ。

聖女の祈りの聖水は、始祖にとって一番の毒だ。やけどは再生しつつあったが、まだやけどとして残っていた。

「君の、シミひとつない白い肌に、やけどの痕が残るなんてごめんだよ」

京楽は、自分で指を噛み切って、滴る血で浮竹のやけどを癒した。

血族の血は、時に主にとって薬となる。始祖の血は、血族の薬ににもなる。お互いが薬になれるのだ。

どちらかが再生に間に合わぬ傷を負うと、どちらかが血を与えた。

「これで、聖女シスター・ノヴァもこりればいいんだけどな」

「どうだろうね。一層僕らを殺したがってるじゃないかな」

「聖女シスター・ノヴァ如きで散る命じゃない、俺も京楽も」

「うん。あの醜女の最期の姿、傑作だったね」

「下手な芝居ではぐらかそうとしても、見え見えだからな」

京楽は、浮竹を抱きしめた。

「京楽?」

「浮竹にやけどを負わせた、聖女シスター・ノヴァは僕が殺す」

「もう大丈夫だ。それに、俺たちは平和主義者だ。多分。一応。喧嘩を売られない限り、動くことはあまりない」

「うん。十四郎、大好きだよ。愛してる」

「俺も愛している、春水」

ベッドに押し倒されて、浮竹は目を閉じた。

啄むようなキスが降ってくる。

血族にした男の下で、始祖は喘ぎ、乱れた。


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「あああああああ!あ”あ”あ”!目が、目が見えない!目が痛い!痛すぎて何もできない!」

聖女シスター・ノヴァは人間社会にある、聖神殿の聖域で、身悶えていた。

「殺す!浮竹も京楽も白哉も!」

「そんなことがきるのか、聖女シスター・ノヴァ」

「ヴァンパイアでありながら、ヴァンパイアを狩るハンター、志波海燕ですか。あああ、痛い、痛い!」

「うるさいな、ババァ」

「きいいい!でも、初めて血族にした男が生きていて、ヴァンパイアハンターをしていると知ったら、あの綺麗な顔は歪むのでしょうね。ああ、想像するだけで濡れてきたわ。さぁ、わたくしを抱きなさい、海燕」

「醜女だから、あんまりその気にはなれないんだけどなぁ」

「愛する、始祖を思い浮かべればいいでしょう。私も始祖。種族は違えど、血の味は同じはず」

海燕は、聖女シスター・ノヴァを抱き、血を啜った。

「ああ、いい!もっと、もっと!」

「おいブス。聖水ではなく、お前の血を武器にしたい。聖女の祈りこもった聖なる血の武器。強そうじゃないか?」

「あら、それはいい考えね。ああ、痛い、痛い・・・・始祖め、今度こそ、殺して血を飲んでやる」

志波海燕。

かつて7千年前、浮竹が血族として迎え入れ、愛した男の名であった。










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始祖なる者、ヴァンパイアハンター5

ブラドツェペシュ。

かの有名な串刺し王の名であり、少女の名であった。

少女は神族の、聖皇帝の愛娘であった。皇女であった。

その時代、聖帝国は血の帝国と戦争を起こした。勝者はどちらでもなく、引き分けに終わった。

というか、ヴァンパイアが神族に血を与えて、聖帝国から血の帝国に寝返る者が後を絶たなかった。

寝返った者を、神族は癒して元の神族に戻すことができた。

神族は攻めに転じれば、ヴァンパイアに血を与えられて同胞を失った。

防御に転じれば、ヴァンパイアは何もできず、ただ時間だけが過ぎていった。

神族の寿命は三百年。

戦を起こして、もう三十年も経っていた。

いい加減、決着をというところで、その時代の聖皇帝ブラドウェルイの愛娘であり、第一皇位継承者であった皇女ブラドツェペシュをよこすのなら、休戦してもいいと、6代目ブラッディ・ネイがそう言ってきた。

ブラッディ・ネイは幼い少女を愛する。後宮に十代前半の少女を置いて、おもちゃにして遊んでいる。

そんな話を耳にしていたので、聖皇帝は、それを却下とした。

けれど、ブラドツェペシュは聖帝国のためにと、人未御供よろしく、一人で血の帝国まで赴いた。守る者は、聖女シスター・ノヴァただ一人。

聖女シスター・ノヴァは人間の世界で生活している。それを、聖皇帝が切り札として戦争に徴収したのだ。

シスター・ノヴァは多くの血を与えられた神族を癒して、元の神族に戻した。

ブラドツェペシュは、ブラッディ・ネイと会った。

「君がブラドツェペシュか。ボクはブラッディ・ネイ。そこの聖女シスター・ノヴァの友人さ」

ブラッディ・ネイは美しかった。

ブラドツェペシュも美しかった。

だが、聖女シスター・ノヴァは見た目は普通の地味な少女だった。

「これで、契約は成立だね、聖女シスター・ノヴァ?」

「ええ。今後千年、血の帝国は聖帝国に手を出さない。6代目ブラッディ・ネイの名においての調印を、ここに」

「ただし、6代目だけだからね。ボクが死んで7代目になったら、休戦協定はなしとする」

「約束が違います!ブラッディ・ネイ!」

ブラドツェペシュは、ブラッディ・ネイに縋りついた。

「君は、ボクの下で可愛く囀っていればいいのさ」

ブラドツェペシュは、金色の瞳を潤ませた。

涙を零した。

それは宝石となった。

「オパールか。やっぱり、神族はいいね。涙が宝石になるから、荒れ果てた大地でも生きていける。鎖国していると言いながら、血の帝国と秘密で貿易してるから、どっちも潤う。血の帝国は美しい宝石を。聖帝国は貴重な食料と水を」

神族の涙は、宝石となった。

それを知った人間たちは、神族を奴隷にした。その奴隷を、ブラッディ・ネイがまるごと買い上げて保護した。

その保護した奴隷を、ブラッディ・ネイは解放せず、血の帝国の奴隷とした。

神族は涙を流すことを強制させられたが、人間の奴隷であった頃のように、犬畜生のように扱われることはなく、衣食住を保証されて、自由もあった。

血の帝国で、聖帝国出身の神族は増えていった。

そんな矢先に、聖皇帝が、ブラッディ・ネイが神族を虐げていると、戦争を起こした。

実際は、保護しているのだが。

争いは憶測を呼び、争いは鎮火することなく全土に広まった。

けれど、ブラッディ・ネイは決して保護した神族を殺さなかった。

社会的な地位を得ていた神族たちは、元の故郷に戻ることを拒んだ。

聖帝国とは名ばかりで、荒れ果てた大地が故郷だった。ろくな食べ物さえなかった。血の帝国は、穏やか気候に、太陽の光はさしこまないが、魔法の人工灯が美しい、故郷とは比べ物にならない天国だった。


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「ブラドツェペシュ。どうしても、行くのか?」

「ああ、浮竹。私は、ブラッディ・ネイのものになる」

「お前も聖女シスター・ノヴァもバカだ!あんな妹の言いなりになる必要なんてないのに!」

「浮竹十四郎。私が愛した、ヴァンパイア。記憶を、消すよ。あなたの中から、私のことの記憶を」

「やめてくれ!俺はお前を愛しているんだ!」

「私は神族、あなたは始祖ヴァンパイア。一緒になることはできない。世界が、それを許さない」

「ブラドツェペシュ。せめて、これを君に」

あげたのは、浮竹の血。

始祖の血を飲めば、始祖の血族となる。

「いつか、飲むかもしれない。でも、保留しておく」

「愛している、ブラド」

「私も愛していた、浮竹十四郎」

もう、八百年以上も前の、出来事。


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「浮竹ー起きてよ」

「んーブラドツェペシュ、愛してる・・・・んー・・・・・」

「浮竹?ブラドツェペシュって誰?」

京楽は、浮竹を起こした。

「え?誰だろう・・・なんだか、胸が痛い。頭も痛い」

「変な夢でも見たの?」

「そうみたいだ。なんだろう。悲しくないのに、涙が・・・・・」

浮竹は、翡翠の瞳から涙を零した。

それはこつんと音を立てて、エメラルドになった。

「え。どうなってるの」

「俺も分からない。涙が宝石になるのは、神族ならではのものだ」

「今の君・・・ヴァンパイアじゃないね。神族なの?」

「え・・・・・」

涙がまた流れた。

コツン。

それは音をたてて、オパールになった。

「俺は・・・ブラドツェペシュを愛して・・・ブラッディ・ネイと約束を・・・・聖女シスター・ノヴァと契約を・・・・・」

そのまま、浮竹は意識を失った。

意識を失っている間に、浮竹の体は元の始祖ヴァンパイアに戻っていた。


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浮竹は、一週間意識を取り戻さなかった。

病気か何かかとルキアを呼んでみたが、深い昏睡状態になっているだけで、異常はないという。

その昏睡状態は、ヴァンパイアの休眠に似ていて、京楽は不安になった。

「浮竹殿は、休眠に入ったのではないのですか?」

「休眠に入るなら、僕に何か言うはずだ」

何も言わず、休眠に入るほど、浮竹は薄情ではない。

「とにかく、時間が経過すれば起きるはずです。一護、例のものを」

「ほら、京楽さん」

ルキアについてきていた一護は、小瓶に入った赤い液体を京楽に渡した。

「なんだい、これは」

「私の血と、私が祈りをこめた聖水を混ぜたものです。分からない症状にも効きます。近頃、血の帝国では突然休眠に入るヴァンパイアが増えています。その者らにこれを飲ませたら、覚醒しました。浮竹殿に飲ましてやるのがよいでしょう」

「ありがとう、ルキアちゃん!」

「それより、浮竹殿の体が僅かな時間とはいえ、神族になったのが気にかかります。存在変化の呪いでしょうか・・・・・」

「それは僕も分からない」

浮竹は呪いにはかかっていないようで、実は呪いにかかっていた。でもそれが平常だし解呪できない。

不死の呪いであった。

創造神の子として生まれた始祖として、不死の呪いを魂に刻まれた。死することができぬ呪い。たとえ死んでも蘇る。肉体を失っても肉体は再生し、生き続ける。

そんな孤独に耐えきれず、浮竹は休眠を選んだ。

時折活動しては、血族の者を作って愛した。京楽もそんな愛されし血族であった。

京楽は怖かった。

いつか自分が、浮竹をおいて死んでしまうのではないか。

それは浮竹も同じだだった。

いつか自分を置いて、京楽は死んでしまうのではないか。

触れてはいけぬタブーを口にせぬまま、過ごしてきた。

一護とルキアが帰ってからも、浮竹は眠り続けた。

自然に起きるのを待つつもりだったが、一週間経った時点で我慢の限界だった。

「浮竹、起きて・・・・」

ルキアからもらった血と聖水を混ぜたものを、口移しで飲ませると、浮竹は目覚めた。

「京楽か。すまない、心配をかけた。呪いをかけられて、反射したら呪詛をかけられた。呪詛といっても、休眠に入るだけだから、原因も分からなかっただろう」

「浮竹、どうしたの。なんか変だよ」

浮竹は、いつもならすまないといって京楽に抱き着いてくるのに、京楽と距離をとろうとする。

「思い、出したんだ。俺は、ブラドツェペシュを愛していた。彼女を、救わなければ」

「ブラドツェペシュって誰。僕以外に、愛している者がいるの?」

京楽が、悲しそうな目で見つめてくる。

「違う、京楽!今はお前だけを愛している!ブラドツェペシュは八百年前に愛して、血族にしよとした神族の少女だ。今は・・・・ブラッディ・ネイの血族にされて、後宮の奥深くに閉じ込められている」

「君は、僕だけを愛してほしい」

「京楽・・・・・」

気づけば、浮竹を押し倒していた。

「んっ」

ぬるりと入り込んできた舌が、浮竹の縮こまっていた舌を絡めとる。

「京楽は、僕のものだ。僕も京楽のもの。君が他の誰かを愛するなんて、許さない」

京楽は、気が昂ったのか、元の鳶色の瞳が真紅に輝いていた。

「愛しているよ、浮竹」

「あああ!春水!」

浮竹の服を脱がして、キスマークを全身につけていく。

胸の先端を舐め転がして、牙をたてて吸血した。

「ああっ」

吸血行為はとてつもない快感を与える。

その行為だけで、浮竹はいきそうになっていた。

「あ、やっ」

「こんなにして・・・僕が、欲しいんだね?」

下着の上から、ゆるく勃ちあがっていたもの触られて、その刺激にビクンと体がはねる。

コクコクと、素直に浮竹は首を縦に振った。

「お前が欲しい・・・・」

「いいよ、十四郎。いっぱいあげる」

ぐちゃぐちゃと音をたてて、潤滑油と一緒に浮竹の蕾を解していく。

「あ、早く、春水・・・・・」

わざと前立腺を触らずに、いい場所をかすめるように指を動かした。

浮竹は我慢の限界を感じていて、京楽を求めた。

「あ、春水、もっと右・・・・」

「だめだよ、十四郎勝手に動いちゃ。これじゃあ、罰にならないでしょ?」

浮竹は、涙を流しながら哀願する。

「はやくきてくれ。そして、俺の血を啜ってくれ」

くちゅり。

音をたてて浮竹を引き裂く熱に、浮竹は恍惚とした表情をした。

美しい白いヴァンパイア。

始祖の浮竹十四郎。

「今、噛みついてあげる」

「ああああーーー!!」

最奥の結腸に入り込んできた熱に、浮竹は我慢ができずに精を放っていた。

同時に、京楽は浮竹の肩に噛みついて、血を啜った。

「あああ!」

あまりの快楽に、意識が混濁する。

「まだ、僕は満足してないよ。ほら、がんばって」

「やぁ!もう、吸血はいいから・・・春水をくれ」

セックスをしながらされる吸血は、麻薬のようで。

前立腺をすりあげて、突き上げてくる愛しい男を締め付ける。

「くっ・・・・・」

切なそうに眉を寄せる京楽に、今度が浮竹が噛みついて吸血した。

「うわぁ、これは気持ちいいいね・・・・・」

浮竹に吸血されるのは初めてだった。

吸血鬼に血を吸われるのは、快楽の塊だった。

一度その味を知ってしまうと、病みつきになりそうだ。

「ほら、もっといけるでしょ?」

「あ、あ!」

京楽は、浮竹が与えてくれる快楽を受け取りながらも、浮竹を攻め立てる。

「あああ!」

ぱちゅんと音をたてて入ってきた京楽のものは、結腸まで入り込んで、そこで濃い精液を放っていた。

「僕はまだいけるよ」

「やぁ。だめぇ」

浮竹の太ももに噛みついて吸血しながら、まだ硬い己を浮竹の腰に当てた。

「ほら、まだこんなに昂ってる」

「あ・・・・・」

吸血されて、快感にもだえながら、挿入される快感も味わう羽目になった。

「もうやっ・・・・」

「十四郎。僕だけものだ。僕も、君だけのものだ」

浮竹は、京楽に揺さぶられながら、自分の中で再び京楽が弾けるのを感じていた。

浮竹が京楽に噛みついて、吸血する。

お互い噛み傷だらけになったが、ゆっくりと再生した。

血族の血を啜ることは、ヴァンパイアにとって、愛を与えることに似ている。

互いに血を啜りあいながら、濃い朝を迎えようとしていた。


「浮竹、食事は?」

「んー。腰が痛いし、お前の血を吸ったせいで腹が減ってない」

「でも、僕は大分君の血を吸ってしまった。人工血液を飲むでしょ?」

「ああ」

「じゃあ、せめてデザートにパイナップルを切ったものを食べてよ。熟れて食べ頃なんだ」

買い物をしに町に行った時、パイナップルを二つ買ったら、男前だからと、果物屋のおばさんにカットしたものを余分にもらったのだ。

戦闘人形に頼んで、カットされたパイナップルを一口サイズに切ってもらい、それを浮竹の口に運んだ。

「はい、あーん」

「京楽、一人で食べれる」

「だめだよ、人工血液をすぐに自分の血液に還元できるっていっても、限度があるでしょ。ほら、口あけて」

素直に、浮竹は京楽の口元にもってこられたパイナップルを口にした。

「甘いな」

「そう、おいしいでしょう。此処より南の、僕の故郷だった地域の食べ物でね。ああ、この味懐かしいなぁ」

浮竹に食べさせながら、時折京楽は自分でも食べた。

二人で食べてしまうと、パイナップルはあっという間になくなった。

「もう少し食べたい」

「戦闘人形に切ってきてもらうよ」

浮竹も京楽も、基本家事はしなかった。

戦闘人形に任せておけばいい。自分たちでは、力の使い方を謝ってしまって、ものを壊すことが多かった。

浮竹の戦闘人形は本当に便利だ。戦闘に特化してるのに、家事もできる。町に買い物にもでてくれる。

簡単な意思疎通はできるが、一人で暮らすには寂しすぎた。

だから、浮竹は京楽を血族にした。

はじめは友人だった。だが、時を経るごとにその関係は変わり、主従はないものの、血の絆でしばられていた二人は、すぐに恋仲に落ちた。

浮竹は、京楽とまたパイナップルを食べながら、今後のことをどうしようかと思案していた。


-----------------------------


数日が経ち、浮竹は意を決して、京楽に全てを打ち明けた。

かつて、ブラドツェペシュという愛した少女がいたこと。ブラドツェペシュは血族になることを拒み、聖皇帝の愛娘で皇女であったこと。

その皇女に目をつけたブラッディ・ネイが、戦争の休止と引き換えにブラドツェペシュをよこせと言ってきたこと。調停役に聖女シスター・ノヴァを出してきたこと。

ブラドツェペシュにその愛した記憶を奪われ、今まで生きてきたこと。

そして、体が神族になる呪詛を、ブラドツェペシュは浮竹にかけた。それは時間の合図。

ブラドツェペシュの身が危ういサイン。

京楽は、冷静に聞いていた。自分以外にも愛した者はいただろうと分かってはいたが、少なからずショックを受けた。


「それで、浮竹はどうするの」

「ブラドツェペシュを、聖女シスター・ノヴァに診てもらって、神族に戻し、聖帝国に返そうと思う」

「それをブラドツェペシュが望んでいなかったら?」

「すでに、聖女シスター・ノヴァに式を飛ばしておいた。聖帝国の近く砂漠のオアシスまで来るようにと。ブラドツェペシュを連れてそこまでいくと、すでに言ってある」

ため息をついて、京楽は浮竹の長い白髪を撫でた。

「決意は変わらないんだね。僕たち、ブラッディ・ネイに指名手配されるかもしれないよ?」

今のブラドツェペシュは、ブラッディ・ネイの後宮の奥深くにいる。ブラッディ・ネイに血族にされて八百年。神族の寿命は約三百年だ。そのほぼ三倍を生きている。

もう、生きることに疲れているのかもしれない。

「あれは、俺を殺せない。俺はあれを殺せる。指名手配されたところで、あれには俺たちを止める手段はない」

浮竹は、もう決めたのだ。

ブラドツェペシュを愛したことのある、浮竹は。ブラッディ・ネイからブラドツェペシュを奪いとり、神族に戻して聖帝国に返すと。


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「行くぞ」

「うん」

古城の地下にある、血の帝国に繋がる空間転移魔法陣に、魔力を漲らせる。

二人の姿は、ふっと消えて、気づくと血の結界のドームに守られた、血の帝国の中にいた。

「浮竹殿、京楽殿!」

一護と冬獅郎を連れた、ルキアが出迎えてくれた。

式を飛ばして、事の次第はすでに知らせておいた。

「私が、ブラッディ・ネイを引き付けておきます。その間に、後宮に潜り込んでください。後宮の館の鍵は、ここに」

チャリンと、水晶でできた鍵を、ルキアは浮竹に渡した。

その鍵を手に入れられるのは、ブラッディ・ネイのお気に入りたちだけだ。

すでにいつでも後宮にきていいと言われていたルキアも、後宮の館の鍵を持っていた。

後宮は、閉鎖的な空間に見えて、案外自由はきく。その気になれば、ブラッディ・ネイの戦闘人形つきであれば、外出も許された。

だが、ブラッディ・ネイから逃げられた者はいない。

逃げ出す必要性がないからでもあるが、皆ブラッディ・ネイに魅了されて、抗う者などいなかった。

だが、ブラドツェペシュは違う。

ブラッディ・ネイを選べば永遠の血族として、悠久を生きれる。富も思いのままだ。聖女シスター・ノヴァを選べば、元の神族に戻れる。

だが、もう父も他の友人たちも、皆寿命は神族は三百年程度で、死んでしまっている。

それでも、故郷に戻りたかった。

「浮竹・・・・どうか、私を殺して」

外から見える満月を、その金色の、神族独自のがもつ瞳の光の色で見つめた後、ブラドツェペシュは瞳を閉じた。

「侵入者だ!」

そんな騒ぎを聞いて、ブラドツェペシュは微睡みから目覚めた。

もう、自分の死を悟っていた。

浮竹が神族になった。同時に、ブラドツェペシュは気づく。己がかけた呪詛が発動したということは、死が迫っていること。浮竹はすぐに始祖ヴァンパイアに戻るだろうが、呪詛が発動すれば封印していた記憶も戻っているだろう。

きっと、浮竹は私を助けに来てくれる。

「ブラドツェペシュ、助けにきた!」

入ってきた浮竹に抱き着いて、ブラドツェペシュは涙を零した。それはオパールとなって、かつんかつんと床に転がった。

「早く、私をここから出して・・・・」

後ろに京楽がいることに気付いて、ブラドツェペシュは浮竹から離れた。

「そう。もう、あなたには愛した血族がいるのね。これを返すわ」

それは、いつの日にか、浮竹が渡した、浮竹の血が詰まった小瓶であった。八百年も経っているのに、まだ中身は新鮮な血のままだった。

「いや、それはもっておけ。何かあれば、お前の身を守ってくれる」

浮竹は、京楽にブラドツェペシュを抱きかかえさせて、後宮の外に出た。


幸いなことに、ブラッディ・ネイは、ご執心であるルキアが足止めをしてくれている。

それでも、周囲を取り囲む騎士たちがいた。

「何者だ!ブラッディ・ネイ様の寵愛される寵姫をかどわかすつもりか!」

襲い掛かってくる騎士たちを、浮竹は音もなく血で斬り裂いていた。

全員、ブラッディ・ネイの血で強化されたヴァンパイアであった。ブラッディ・ネイ直属の騎士たちだ。

「その白い髪、翡翠の瞳・・・・あああ、あなた様は・・・・・」

「俺は始祖!俺は始まり!ヴァンパイア共よ、道を開けろ!俺の前に立ちふさがる者は、たとえ妹であろうとも容赦しない」

その絶対的な言葉に、隣にいた京楽以外のヴァンパイアが平伏した。

「始祖の浮竹様・・・・全ては、あなたの御心のままに」

ブラッディ・ネイの血族であっても、ブラッディ・ネイから血を与えられた強化ヴァンパイアであっても、始祖の偉大な存在に、ひれ伏すことしかできなかった。

浮竹と京楽は、ブラドツェペシュを連れて、ワイバーンを飼育している部屋にくると、ワイバーンを一匹外に出して、その背中に跨った。

浮竹、京楽、ブラドツェペシュと乗り込んで、ワイバーンは羽ばたいた。

「目的地は、砂漠のオアシスだ。頼むぞ、ワイバーン」

「きゅるるるるるる」

ワイバーンは、始祖の血を少しだけ与えられて、浮竹に服従を誓った。

そのまま、空を飛び、数刻で砂漠が見えてきた。

オアシスを近くに見つけると、少し遠いところでおりて、浮竹、京楽、ブラドツェペシュの順に降りた。

「行こう、ブラドツェペシュ。お前を神族に戻し、願い通り聖帝国に戻す」

「浮竹・・・・・」

ブラドツェペシュは、ただ浮竹を見ていた。

愛していた。でも、今の浮竹の愛は京楽のもので、今の浮竹はブラドツェペシュを愛していたという、過去形だった。

「いこう、ブラドちゃん」

京楽が、細いブラドツェペシュを抱き上げる。

長いこと運動をしていなかったため、元より体の弱かったブラドツェペシュは、咳き込んだ。

「ごほっごほっ」

「大丈夫か?これは、聖女であるルキアが処方した、血と聖水で作り上げた万能薬だ。飲んでおけ」

与えられた薬を飲みほして、やや頬に赤みを戻して、ブラドツェペシュは問いかける。

「あなたは、なんていう名なの。浮竹を愛しているんでしょう?浮竹の血族なんでしょう?」

「僕は京楽春水。浮竹は、僕のものだ」

十代前半に見えるブラドツェペシュの年齢は、846歳。

京楽は120歳くらいだった。

「私は、別にもう浮竹を愛してはいないし、浮竹もまた私のことを愛していないわ。お互い、愛いていたと、過去形よ」

京楽は、美しいブラドツェペシュは、浮竹にお似合だと思いながらも、ブラドツェペシュを抱いてオアシスまでやってきた。

「いるんだろう、聖女シスター・ノヴァ」

「はい、ここに」

「ブラドツェペシュを連れてきた。これで、契約は果たされる。ブラドツェペシュを、神族に戻してやってくれ」

聖女シスター・ノヴァは、浮竹の弱点である特殊な聖水を作り出すことができる。

京楽は、念のために聖女シスター・ノヴァを見張っていた。

「神の奇跡よ、今ここに・・・・・・・・」

ぱぁぁぁと光が満ちた。

その後に残されたのは、神族に戻り、血族ではなくなったブラドツェペシュであった。

「血の呪いがない!私は自由だ!」

ブラドツェペシュは喜んだ。

聖女シスター・ノヴァはすることは終わったと、転移魔法ですぐに人間の元に戻ろうとした。

「何故、そこまで急ぐ、聖女シスター・ノヴァ」

ふと、浮竹がそんな言葉を発していた。

「なんのことかしら。わたくしは、もうすることがなくなったので、帰還するだけですわ」

「ブラッディ・ネイに会ったな?そこでお前は聖水を神族と人間のハーフに与えて、俺にけしかけた」

「なんのことかしら」

聖女シスター・ノヴァは汗を垂らしながら、否定した。

「過去に交わした契約の中に、ブラッディ・ネイと内通するというものはなかった。そこにいるんだろう、ブラッディ・ネイ。いや、分身体というべきか」

「あははは、兄様、怒ってる?」

「ブラドツェペシュに何をした」

「ただ、血族にしただけだよ。ただ、子供を何人も産んでもらって、それをボクが食べちゃった、それだけだよ」

ブラッディ・ネイの分身体に向けて、浮竹は怒りのあまり血が暴走しようとしていた。

「だめだよ浮竹、こんなところで暴走しちゃ!」

「殺してやる、ブラッディ・ネイ。分身体を殺せば、お前本体にも相当のダメージがいくはずだ」

「いいの、兄様。ボクを今殺せば、聖女シスター・ノヴァが兄様の愛しい血族を殺すよ」

「聖女シスター・ノヴァ!ブラッディ・ネイにそこまで協力する理由はなんだ!」

「簡単なことですわ。わたくしは長生きしたい。だから、ブラッディ・ネイ様に血をもらうのです」

「聖女シスター・ノヴァが見た目通り醜女だからねぇ。僕は、その気になれないんだよ。働き次第では、血をあげるって約束したんだ」

「君ら、グルだったのか!」

京楽が、怒りに我を忘れそうな浮竹を鎮めながら、怒りに拳を震わせた。

「何人も子供を孕ませて産ませて、その赤子を食べたっていうのかい?」

「そうだよ。兄様のお気に入りの京楽春水」

「殺す。よくもブラドツェペシュを、こんな目に・・・・・・・」

「浮竹、抑えて!始祖の君が暴走したら、僕にも止められないかもしれない!」

「ブラッディ・ネイ。それに聖女シスター・ノヴァ。死ね」

浮竹は、真紅に瞳を輝かせて、血を暴走させた。

すさまじい魔力が満ち溢れる。

「あははは、兄様に殺されるなんて、はじめての体験だ!痛いね!」

「いやぁあ、助けて!」

ブラッディ・ネイは死にゆくように渦巻く魔力の中心に向かう。反対に、聖女シスター・ノヴァは失禁して、その場で蹲っていた。

京楽は、血の暴走をした浮竹から離れて、ブラドツェペシュを連れて、結界を張った。

「こんな結界、意味ないかもしれないけど」

「京楽様、あなたがあの人を鎮めてあげて」

「でも、君一人じゃ・・・・・・」

「結界を維持するくらいの力は残っています」

「分かったよ」

トルネードだった。

周囲のテントも何もかも巻き込んで、吹き飛ばされていく。

浮竹は、自分の血を刃に変えて、トルネードの中に放ち、ブラッディ・ネイと聖女シスター・ノヴァはトルネードに巻き込まれて天高く飛びあがり、血の刃で体をずたずたにされて、空から落ちてくる。

「いやああ、わたくしの、わたくしの足が、手が!」

右足と左腕をなくした聖女シスター・ノヴァに向かって、浮竹が手のひらを向ける。

「ヘルインフェルノ」

「いやあああああ、ぎゃあああああああああ」

甲高い悲鳴をあげて、聖女シスター・ノヴァは消し炭になった。

「あはははは!傑作だね、兄様!」

「ブラッディ・ネイ。俺を怒らせた代償に、魂に呪いをかける。次の転生は、後宮の十代の少女ではなく、お前と少女の間にできた子供にする。殺しても死なないお前は、赤子からやり直せ」

「いやあああ、遊べなくなるじゃない、兄様!やめてよ!たかが神族を血族にして遊んだだけじゃない!」

「俺は!俺は、ブラドツェペシュを愛していた。俺から奪った!許せない!死ね!」

びちゃっと音をたてて、ブラッディ・ネイは肉塊になった。その肉塊が蠢いて、声を出す。

「あはははは、ボクを殺したね、兄様。ボクの呪いを・・・・あれ、発動しない。なんで、なんで!」

血を暴走した状態で、浮竹は言葉を発する肉片を踏みつけた。

「消えろ。ヘルインフェルノ!」

「ぎゃああああああああ!!!」


「ぎゃああああああああ!!!」

血の帝国で、ルキアに夢中になって口説いていたブラッディ・ネイの体が、地獄の炎を身にに纏わせた。

「ぎゃあああああ、焼ける、焼ける!兄様、許して、兄様!許してぇ、兄様!」

駆けつけた騎士が見たものは、黒焦げで虫の息の女帝の姿だった。

再生がはじまらない。

ざわざわと、さざめきが広まっていく。

「どけ!」

ルキアは、これが浮竹がしたことであろうと分かっていたし、ブラッディ・ネイをこんな目に合わせるほど怒らせたと分かっていても、聖女として傷を癒す魔法をかける。

ブラッディ・ネイは治療のかいなく、死去した。

新しいブラッディ・ネイが生まれた。

8代目ブラッディ・ネイは、十代の少女のではなく、赤子だった。赤子が流暢に言葉をしゃべる。

「全く、兄様も酷いよね。ボクの転生先を勝手に決めるんて」


一方、浮竹は血の暴走が収まらなくて、自分をなんとか制御しようとしていた。

「浮竹!」

「京楽、危険だ、こっちに来るな!」

「大丈夫だよ、浮竹。僕は君に何もしない。ただ、君を愛している」

京楽は、優しく浮竹を抱きしめた。

渦巻く魔力の渦で、たくさん血を流しながら。

浮竹に口づけると、トルネードは止まった。

「京楽・・・・愛してる」

「僕も、君を愛してる」

浮竹の血の暴走は、収まった。

浮竹は、京楽の怪我に、血を与えてやりながら再生を促した。


--------------------------------------------------------------


「もう、お前は自由だ、ブラドツェペシュ」

「ありがとう。ずっとずっと、血の帝国の後宮で夢を見ていたの。あなたに愛されていた頃の夢を」

「ブラドツェペシュ、俺はもうお前のことは・・・・・」

「もういいの。自由だわ。自由のまま、死ねる」

「え?」

浮竹が、目を見開いた瞬間のできごとだった。

ブラドツェペシュは、もってい短剣で、自分の喉を掻き切っていた。

「ごほっ、ごほっ!愛していたわ、浮竹。私が生きていた証を、あげる」

神族は、少しのことでは死なない。それはヴァンパイアに似ていた。

「私の心臓を、あげる」

ブラドツェペシュは、右手で自分の心臓をくり抜いた。

眩しい光を放ち、それは世界の三大秘宝の一つである「魂のルビー」になっていた。

金貨数百億枚の価値のある、神族の皇族だけがもつ、宝石だった。

生きたままくり抜かねばなならぬので、世界にほとんど流通していない、幻の秘宝である。

「ブラド!なんて愚かな真似を!」

浮竹が、指を噛み切って血を与えようとするが、ブラドツェペシュはそれを拒んだ。

「浮竹、逝かせてあげなさいな」

「でも!」

「彼女の心は、もうとっくの昔に死んでいたんだよ。ブラッディ・ネイの血族だから死ねなかった。ただ、死にたかったんだ」

「ブラド、嫌だ、こんな形で逝かないでくれ!」

浮竹は、涙を流した。

ブラドツェペシュも、涙を流していた。

「あなたに愛された日々は、楽しい思い出だったわ。それだけを頼りに生きてたけど、もう限界なの。もう子を産んで、食べられたくない」

「もう自由なのに!どうして!」

「私の心は、とっくの昔に死んでいたの。ああ、さよなら、私が愛した、始祖のヴァンパイア・・・・・・・・・・」

ブラドツェぺシュは、ひっそりと息を引き取った、

浮竹は、京楽に抱き着いて、ずっとずっと泣いていた。

そして、ブラドツェペシュが残した、魂のルビーを手に、ブラドツェペシュの遺体を火葬して、灰を海にまいた。

魂のルビーは、鎖穴をあけてチェーンを通して、浮竹が身に着けていた。

「さよなら、ブラド。俺が愛した、神族の少女」

浮竹は泣いた。

そっと京楽が寄り添い、その涙を拭き取る。

「お前は、俺より先に死ぬな」

「死なないよ。死ぬ時は一緒さ」

始祖のヴァンパイアである、浮竹に死はない。訪れることはない。

でも、休眠すれば、限りなく死に近い形になれた。

「お前が死んだら、俺は永遠の休眠につく」

それはほぼ死を意味していた。

「僕は、ずっと君の傍にいるよ・・・・・」

口づけを交わし合いながら、二人はいつまでも海を眺めていた。




「ちくしょう、ちくしょう!このあたくしが、ヴァンパイア如きにやられるなんて!」

神族の少女に転生した聖女シスター・ノヴァは爪を噛んだ。

今度の素体は、美しい少女であったが、聖女シスター・ノヴァが宿ると以前と同じ醜女になった。

「あああ、どうしてわたくしは美しくなれないの!覚えてらっしゃい、始祖め!」

聖女の祈りをこめた聖水を、たくさん作り出した。

「あなたの出番よ、朽木白哉」

黒髪の美しいヴァンパイアは、ブラッディ・ネイの血を引いたヴァンパイアロード。

「あなたを手に入れるために、ブラッディ・ネイと組んだのですもの。さぁ、ショーの始まりよ。ヴァンパイア同士で争うといいのだわ!」

夜色の瞳で、朽木白哉は言葉を紡ぐ。

「ルキア・・・・」

















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始祖なる者、ヴァンパイアハンター4

ギィィィ。

キィィィン。

浮竹が古城の周囲にはった結界に、引っかかる者がいた。

侵入者だった。

普通の人間が迷い込んできたりした場合は、古城での記憶を消して、森の外で寝かせた。冬の季節なら、毛布もかけるし雨が降っていたら、洞窟に置いた。

浮竹と京楽は、人を襲わない。

京楽が時折、孤児の少年少女から注射器で血をもらい、大金を渡すことはあったが、そんな場合は少年少女からヴァンパイアを見たという記憶を消していた。

他のヴァンパイアが侵入してきたことはあったが、その場合はただの人間の時と同じで、リンリンと鈴がなるような音がする。

京楽は、浮竹の血を啜って、浮竹の存在に近くなっているせいか、結界の音が頭に響いてどうしようもなかった。

キィィイン。

眩暈を覚えるような警告音に、浮竹の元に急ぐ。

浮竹は、普段温厚な翡翠の目を。血と同じ真紅に輝かせていた。

「だめだ、戦闘人形たちがやられた」

浮竹は、悔しそうな顔をしていた。

そんな顔を見るのは初めてで、京楽は驚いた。

「君の戦闘人形って、バトルドールたちだろう?戦いのプロフェッショナルじゃないの」

浮竹の血でできた戦闘人形、バトルドールたちは、普段はメイドとして働いているが、その時になれば主である浮竹を守るための戦闘特化タイプになる。

「一応、もう一度戦闘人形を放つ。それでもだめなら」

「僕がいくよ」

「だめだ。俺もいく」

浮竹も京楽も、侵入者がきた古城の一階にやってきた。

十代後半の少年だった。

「ヴァンパイアよ、滅びよ!」

銀の十字架を掲げる。

浮竹も京楽も、銀など効かぬ。

平気な顔で攻撃すると、ヴァンパイアハンターは顔色を変えた。

「ブラドツェペシュの、言った通りか」

「わけのわからないことを!」

浮竹が血の刃で斬りかかると、ヴァンパイアハンターは銀でできたダガーで浮竹の首を切った。

その傷は、けれどすぐに再生した。

「この化け物どもが!」

ダァン。

音がした。

浮竹の肩から、血が滴っていく。

浮竹は、肩を撃ち抜かれた。

銀の弾丸は、始祖ヴァンパイアには効かない。

だが、その銀の弾丸の中身は、この世界の聖女の祈りのこめられた聖水を固めたものでできていた。

始祖の唯一の弱点、それは銀でも普通の聖水でもなく、清らかる乙女、聖女シスター・ノヴァの祈りがこめられた聖水。

聖女シスター・ノヴァはブラッディ・ネイに似ている。

死しては年端もいかぬ少女の体に宿り転生し、また聖女になった。

聖女の奇跡は素晴らしいもので、時に死者を蘇らせ、時には重篤な病の患者を完全に治療した。

教会は聖女を象徴として、信者数を増やして、寄付金で成り立っていた。教会の上位の者は寄付金を横領したりしていたが、聖女シスター・ノヴァには関係のないことだった。

聖女は、聖水だけで生きている。

聖女は、浮竹と同じ始祖の神代(かみよ)の時代に生まれた神族であった。

真の神の子である。同じ神の寵児とされた浮竹とは正反対の位置にいた、穢れを知らぬ清らかなる者。

浮竹は、始祖ヴァンパイアとして憎悪と殺戮と恐怖の象徴として生まれ出でた。

同じ始祖であるので、シスター・ノヴァと似ていながら、対極の存在であった。

「浮竹、しっかりして!」

京楽が、浮竹の傷を見た。

普通なら、すぐに再生が始まるはずの傷が、再生しない。

あふれ出す浮竹の血は、甘美な匂いを放っていたが、それどころではない。

「大丈夫だ京楽、これしきの傷・・・・っつ」

動脈を貫通していた。

血が止まらなければ危うい。そう判断した京楽は、自分の指を歯で噛みちぎって、鮮血を滴らせた。

「京楽?」

「僕の血で、止血する」

京楽は、自分の血を浮竹の傷口に滴らせて、強制的に止血をした。それでも血はあふれ出してこようとする。

なので、京楽はもっと深く、今度は自分の手首に噛みついて、流れ出たたくさんの血を、浮竹の傷口に滴らせた。

浮竹の傷は、なんとか血を流すことをやめた。

「よくも僕の浮竹を・・・・許さない・・・・」

ゆらりと、京楽の流れ出た血が踊る。京楽の傷口は、すでに再生していた。

京楽の血は、相手を斬り裂く刃となって、ヴァンパイアハンターを襲う。

「この程度!神族の血を引く俺に通用すると思っているのか!」

ヴァンパイアハンターが、シールドを展開して、血の刃を防ぐ。

ヴァンパイアハンターは、ただのヴァンパイアハンターではなかった。

ヴァンパイアは分類上、魔族になる。その対極に位置する、聖女シスター・ノヴァと同じ神族と人間の間に生まれたハーフだった。

「神族であろうと人間であろう、浮竹を傷つける者は、許さない」

京楽の脳裏に、処刑されて死んでいった両親の顔がちらついた。

その顔が、浮竹になっていた。

「許さない・・・・・」

「京楽、落ち着け。血が暴走している。落ち着け!」

京楽の血の暴走は止まらない。

影が踊る。

「な!」

ヴァンパイアハンターの影に潜んだ京楽は、真紅の血を鎌の形にして、ヴァンパイアハンターを斬り裂いた。

ヴァンパイアハンターは、自分の傷口に聖女シスター・ノヴァの聖水をふりかけた。

白い煙を出しながら、傷が再生する。

それでも、失った血までは戻せなくて、ヴァンパイアハンターは青白い顔で叫んだ。

「神族とのハーフである、この俺が、この程度で殺せると思っているのか!」

「神族の血を引いていることが、随分自慢なんだね。殺す・・・殺す。浮竹を傷つける者は、全部殺す」

「京楽!」

浮竹の必死の声も、京楽には届かない。

浮竹は、失ってしまった血を取り戻すかのように、人工血液剤を噛み砕いた。

ヴァンパイアハンターは、銀の弾丸を撃ってくる。京楽も浮竹もそれを血で作り出したシールドで弾いた。

「許さない。殺す」

京楽は、始祖の血を毎日のように飲んでいる。

始祖を守ろうと、体と心が勝手に動くのだ。

「京楽、血に飲みこまれるな!しっかりしろ!」

「は、血で暴走したヴァンパイアごときに・・・・・・」

ザシュリ。

京楽はその血の存在自体が、刃となっていた。

浮竹の流した血と交じりあった血が、杭の形となってヴァンパイアハンターの腹を貫通した。

「ごふっ!」

血を吐き出す、ヴァンパイアハンターの体を蹴り転がす。

「京楽、元に戻れ、京楽!」

京楽は、浮竹を押しのけて、ヴァンパイアハンターのところまでやってきた。

「何か言い残すことはあるかい?」

「けっ、滅んじまえ。お前も、お前の主も」

ぼきり。

京楽は、怪力でヴァンパイアハンターの首をもぎ取った。

その血を口にする。

神族の血は、甘い。

「甘い・・・。でも、浮竹ほどじゃない」

死体を弄ぶように、息絶えたヴァンパイアハンターの四肢を、血の刃で切断する京楽の姿を見ていられなくて、浮竹は口の中を切って血で満たすと、京楽に口づけた。

ごくり。

京楽の喉が、浮竹の血を嚥下する。

京楽の血の暴走が、収まっていく。

「あれ、僕は何を?」

「京楽、よかった!暴走したまま、戻ってこないのかと思った!」

浮竹にぎゅっと抱き着かれて、京楽は目をぱちぱちさせた。

血が暴走していた間の記憶がないらしい。

「京楽は、俺が怪我をして血を流したことで、我を失って暴走していたんだ」

「僕が、暴走?」

「そう。俺が主だから、眷属のお前は主を守ろうとする。俺の血の中に含まれた潜在的なものに取り込まれたんだ。元を言えば、怪我をした俺のせいだ。すまない」

「浮竹、傷は!?」

はっとなって、浮竹の肩の傷を見る。

ゆっくりではあるが、再生していた。

「聖女シスター・ノヴァの聖水を織り交ぜた弾丸なんて思わなかった。ただの銀の弾丸なら、貫通してもすぐに傷が再生する。シスター・ノヴァとは昔何度か話したことがある」

「そんな、昔の人なの?」

「ああ、神族でな。俺と同じ、不死の呪いを持っている。ブラディ・ネイに似ていて、ある程度年齢を重ねたら、死して幼い少女の中に転生して、また聖女となる」

「げ、ブラッディ・ネイにそっくり・・・・・」

「ああ、だからあまり彼女のことは好きじゃないんだ。父が・・・創造神が、俺のヴァンパイアとしての弱点として作り出したのが彼女だったから」

「兄弟姉妹になるの?」

「いや、父が自分で作り出した神族の子として生まれてきた。神族の始祖だ。俺と同じような存在ではあるし、よく眠りについて活動していない期間もある」

「そういうところは、浮竹に似ているね」

「聖女シスター・ノヴァの血は美味かった。あれに勝る味は、まだ出会ったことがない」

「僕の血は?」

「お前の血もうまいぞ。シスター・ノヴァの次くらいに美味い」

「浮竹、手当てしよう。肩の傷、まだ完全に再生してないでしょ」

「それより、この血をなんとかしないと。始祖と、それに連なる者の血の塊だ。何かのモンスターが口にしたら、狂暴化して手に負えなくなる」

「じゃあ、燃やす?」

「そうだな。ヴァンパイアハンターの死体ともども、塵をなってもらおう。ヘルインフェルノ!」

ごおおおおおおおおお。

浮竹が生み出した地獄の炎で、ヴァンパイアハンターの遺体は灰になっていく。浮竹と京楽の血も蒸発して、後に残されたのは焦げたヴァンパイアハンターの持っていた、ロケットペンダントだけだった。

そのロケットペンダントの中身を見て、浮竹が目を見開いた。

「6代目のブラッディ・ネイだ」

「え?」

何故、ヴァンパイアハンターがブラッディ・ネイの写真をロケットペンダントに入れていたのか。

謎が残った。


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平穏な生活が戻ってくる。

浮竹と京楽は、一護とルキアと冬獅郎に、ダンジョンに潜らないかと、誘いの文を持たせた式を放った。

半日遅れて、ルキアと一護と冬獅郎の姿が、古城のダイニングルームの中にあった。

夕食を、五人で食べた。

戦闘人形にフルコースを作らせて、デザートだけはルキアが作った。

「ルキア君の手作り・・・なんだろう」

「どうせ、白玉餡蜜だろ」

「ああ」

一護と冬獅郎が、興味なさそうに紅茶を啜った。

「どうせとはなんだ、どうせとは。食わせんぞ」

「あ、わりぃ。悪い意味でいったんじゃねぇ」

「一護の分は、俺がもらってやろう」

「あ、冬獅郎、ずるいぞ」

ギャーギャー言い合う二人を、ルキアは見守っていた。

「けっこういけるな」

「うん、おいしいよ、ルキアちゃん」

「ありがとうございます。始祖の浮竹殿と、その眷属である京楽殿にそう言ってもらえるのは、兄様に褒められた時と同じくらいうれしいです」

頬を赤らめるルキアは可愛かった。

「ここに、俺の開発した、自動皿洗い機がある!一護君、モニターになってくれないか」

ふと、突然浮竹が変な機械を取り出した。

「嫌っすよ!バチバチ言ってるじゃないっすか!」

「何、静電気のようなものだ」

浮竹は、かぽっとヘルメットのようなものを一護にかぶせた。

「あああああ、感電するううううう」

ばちばちと音をたてて、自動皿洗い機は動きだした。

洗っては置いて、洗っては置いての繰り返しで、ずっと洗っていた。

「浮竹さん、痺れるうううう」

「この発明は、どうやら失敗だったようだ。この前、ダンジョンで潜った時に見つけた、静電気で感電死する魔法からヒントを得て、魔力を静電気にして、その静電気を電気にして動かす機械だったんだが」

「ややこしいんだよ!」

一護が、やってられるかと、ヘルメットを地面に叩きつけた。

「よし、じゃあダンジョンに潜ろうか!」

これもまた突然だった。

「いいのですか、浮竹殿。今は夜。あなた方にとっては、眠りの時間では」

「いや、たまには夜更かしもいいかなと思って」

「単に暇なだけなんだよね、浮竹も僕も」

武器は手にしていない。

「宝箱~宝箱~♪」

浮竹は、早速わくわくしていた。

A級ダンジョンにやってきた。

夜なので、見張りの兵士はいなかった。

3回層までいったことがあるので、セーブポイントを経由して空間転移する。

4回層にきていた。

オーガやコボルトが出た。

一護と冬獅郎に任せた。

「おい、おっさんらも手伝え」

「僕と浮竹は、オーバーキルになるから」

「俺たちでもオーバーキルだぞ」

冬獅郎の言葉を、浮竹も京楽も聞いていなかった。何故なら、また浮竹が宝箱だと勝手にあけて、それがミミックだったのだ。

「怖いよ~暗いよ~狭いよ~息苦しいよ~」

「ああもう、浮竹はミミックが好きだね。いっそのこと、ミミックと結婚すれば?」

京楽が呆れ気味に、ミミックに浮竹を押し付ける。

ミミックはおえっとなって、浮竹を吐きだした。

「ミミックと結婚したら、京楽が泣くだろう?ファイアアロー」

ギィィイ。

断末魔を残して、ミミックは死んだ。

ポンっと音をたてて、宝物が出現する。

古代の魔法書だった。

浮竹は古代から生きているが、眠っている時間が長すぎたために、古代文明の魔法は知らない。

「神代の・・・憤怒を治す魔法?・・・・呪いを解呪する魔法かな?」

「え、なんですかそれ。新しい解呪の魔法ですか?」

ルキアが身を乗り出した。

「神聖魔法のようだ。俺は使えないし、一護君も冬獅郎君も使えないだろうし、もちろん京楽も使えない。ルキア君にあげる」

「わぁ、ありがとうございます。早速・・・・誰か、憤怒のステータス異常になってくれ」

「いや、無理でしょ」

京楽の言葉に、浮竹がにんまりとした。

「ここに、俺の開発した、すぐ怒るゾウ君がある。さぁ、京楽これを被って・・・・・」

「ムキーー!もう怒った!浮竹のおたんこなす!」

憤怒の状態ではあるが、低俗な状態で、一護と冬獅郎は笑っていた。

「ムキーー!ムキムキーーー!!」

「解呪!」

ぱぁあぁと白い清浄な空気が舞い降りてきて、「すぐ怒るゾウ君」で憤怒状態に無理やりさせられた京楽は我を取り戻した。

「ちょっと、浮竹!暇だからって、変な発明しないでよ!それを許可なく使わないでよ!」

「いいじゃないか。まだまだあるぞ。この全自動魔力洗濯機や、全自動散髪きるきる君、全自動耳かきかきくけこ君、それに・・・・・」

ごそごそと、アイテムポケットからわけのわからない発明品を出す浮竹を、京楽は全て破壊して床に投げ捨てた。

「酷い!」

ルキアに抱き着いて、さめざめと泣くふりをする浮竹に、京楽はやりすぎたかと、猫なで声をだす。

「浮竹、僕が悪かったから。ほらほら、ミミックの宝箱だよ」

小さなミミックの宝箱を見せられて、浮竹は宝箱をあけた。

「指をはさまれたあああ!」

「指、つっこんだら?」

その通りにしたら、ミミックがおえっとなった。短剣でしとめると、ぼふんと音をたてて、指輪になった。

「装飾品か。珍しいな」

「どれどれ・・・・永久の命を啜る、魔力増加の指輪。なにこれ」

「どうやら、神代時代のアクセサリーだ。古いけど、まだ動いてる」

京楽と浮竹は、顔を見合わせた。

「ヴァンパイアなんかがつけるには、もってこいだな」

「僕はやだよ。呪われてそうだもの」

「俺がつけよう・・・・と見せかけて、京楽にはめる!」

「ぎゃあ!あれ、なんにも起こらない・・・・あ、ぎゃああ、血、血吸われてる。ちょっとだけだけど、この指輪血を吸った!」

「元々ヴァンパイアの持ち物だな。血を吸わせることで、魔力をあげるんだろう。京楽は魔力はあるけど、あんまり魔法が使えないから、俺がつけておこう」

京楽から指輪をぬきとって、浮竹は自分の指にはめた。

ちゅるるるる。

音をたてて、指輪は浮竹の血を吸って、真紅色に輝いた。

「ファイアアロー」

念のために魔法を唱えてみると、威力が若干あがっていた。

「これ、結構使えるな。装備しておこう」

「呪いとか、大丈夫なのかな?」

「見た感じでは、呪いはありません」

ルキアの言葉に、京楽も浮竹もほっとした。

つけておいて、呪いがあったなんて、笑い種にもならない。

冬獅郎と一護は、そんな面子を残して、どちらがより多くモンスターを倒せるかで競いあっていた。

「冬獅郎、一護、どこまでいくのだ」

「あっちにコボルトの群れがある!あ、そっちに一匹いったぞ」

一護が殺し損ねたコボルトが一匹、ルキアたちがいる方に向かってきた。

「ルキアちゃん、危ないよ!」

「なんのこれしき。聖なる力よ集いて槍となれ!ホーリースピア!」

神聖魔法の攻撃魔法を喰らって、コボルトは灰になった。

まるで、浮竹のヘルインフェルノ並みの威力だった。

「ルキア君は、ただの聖女じゃないな。聖女シスター・ノヴァも、こんな聖女だったら、仲良くなれたんだがな。あれは、全自動癒しのイヤシマッス君に、性悪のブラッディ・ネイを混ぜたようなものだから・・・・・・」

浮竹が、感慨深げに腕を組む。

「聖女シスター・ノヴァと既知なのですか!?」

浮竹に詰め寄るルキアの首根っこを、モンスターを退治してきた一護が掴んだ。

冬獅郎は、討伐数で負けて悔しそうな顔をして、一護の足を踏んでいた。

「って、冬獅郎、てめぇなぁ!」

「ふん」

「それより、聖女シスター・ノヴァは、種族を問わず聖職者の憧れ。浮竹殿は、その存在に触れられたことが?」

「ああ。神代の時代から生きる知人だ。性格が歪んでいたから友人にはならなかったが。始祖の神族だぞ」

「え、神族?」

「俺たち、ヴァンパイアは分類されると魔族だ。神族は、その正反対だな」

一護が言った。

神族に知り合いは聖女シスター・ノヴァ以外いないが、あまりいい噂は聞かない。

血の帝国のように、聖帝国に神族は住んでいて、聖帝国は鎖国している。神族と知り合いの人間は少ないが、ヴァンパイアに至っては神族の天敵ともいわれているので、まず会う機会がないし、会っても駆除される。

血の帝国は、一度だけ聖帝国と戦争を起こしたことがあった。

聖帝国とは、引き分けで終わった。

ヴァンパイアたちは、神族の血を啜り、特にブラッディ・ネイは神族の少女を気に入って血を与えて眷属にした。

その眷属となった幼い少女は成長したが、十代前半の容姿を保ったままで、今もブラッディ・ネイの後宮に住んでいる。

少女の名は、ブラドツェペシュ。

かの有名な串刺し王と同じ名だった。


結局、一行は10回層まで潜って、浮竹の眠気がピークに達したので、ダンジョンから地上に戻った。

朝焼けが、黄金色に輝ていた。

「怖いよ~暗いよ~狭いよ~息苦しいよ~」

浮竹はミミックをかぶったまま、地上に出てきていた。

「もう、君って子は!」

京楽が、深いため息をついて、浮竹をミミックに押し付けようとして、やめた。

「京楽?いるんだろ、助けてくれ」

「自分でミミックをもっと喰い込ませれば、出れるでしょ」

「それもそうか」

えいというかけ声と共に、浮竹はミミックに頭突きをかました。

「いてぇ!」

ミミックが、人語を話して、浮竹からポロリと落ちる。

「やい、てめぇ、俺を誰と思ってやがる!かの有名な大悪魔メフィストフェレス様だぞ!」

「京楽、これ飼っていい?」

「いいけど、ちゃんと世話するんだよ。ミミックの餌って、残飯でもいいのかな?」

浮竹は、人語をしゃべるミミックに驚きはしたが、これなら飼えるかもと、ドキドキしていた。

「おいきけよこのケツの青いガキどもが!あ、やめて、宝箱漁らないで!あはん!」

「宝物はもっていないか。やっぱ倒さなきゃ、落とさないのかな」

「あはん!うふん!俺を倒せるものか!俺は大悪魔ヴェルゼブブ」

「さっき、メフィストフェレスとか言ってなかった?」

一護が、ミミックを見下ろした。

「しゃべれるモンスターはほら吹きが多いからな」

冬獅郎が、そのミミックを蹴った。

「暴力反対!」

「そうだぞ。ポチは、古城の飼い犬ならぬ飼いミミックになるんだ」

浮竹は、よいしょとポチと名付けたミミックを、アイテムボックスに収納する。

「おいこら、暗いぞ何も見えないぞ!俺は大悪魔サタン・・・・・・・」

完全にアイテムボックスに収納されて、ポチの声は聞こえなくなった。


パーティーは、そのまま解散ということになった。

古城で、ルキア、一護、冬獅郎は三日ほど滞在した後、血の帝国に帰って行った。

古城の地下には、血の帝国に通じる空間転移魔法陣があるので、会おうと思えばいつでも会いにいける。

古城の一階に、ミミックのポチは鎖で柱につなげられていた。

「ほーら、えさの残飯だぞ、ぽち」

「がるるるるる」

「怖いよ~暗いよ~狭いよ~息苦しいよ~」

ミミックに食われて、浮竹は足をばたばたさせていた。

「浮竹、またやってるのかい。ポチの餌は僕があげるから」

「いやポチに食われることで、一日の始まりを体験しているからいいんだ」

「じゃあ、放置でいいのかな」

「ああっ!京楽、助けてくれ!」

「仕方ないなぁ」

ここ数日、浮竹は毎日のように朝になるとミミックのポチに食われていて、それを助けるのが京楽の日課になっていた。




血の帝国の後宮で、少女は金色の瞳で月を見上げた。

少女の名は、ブラドツェペシュ。

聖帝国、26代目皇帝ブラドウェルイの愛娘。

「シスター・ノヴァ。それにブラッディ・ネイ・・・・・。私は、どちらを選ぶのだろう」

神族でありながら、ヴァンパイアでもある少女は、クスリと笑って、金色の瞳を閉じた。




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始祖なる者、ヴァンパイアマスター3

ヴァンピール。

ヴァアンパイアと人間の間に生まれ落ちた、呪われし子。

通常、ヴァンパイアと人間の間に子は生まれない。時折生まれるも、普通のヴァンパイアを凌ぐ力を持って生まれてきて、その力に溺れて、制御できなくなって命を落とす。

そんなヴァンピールの少年が、捨てられた。

名前は日番谷冬獅郎。

父がヴァンパイアで、母が人間だった。

父親であったヴァンパイアは、冬獅郎の母親を無理やり犯して、妻として迎え入れた。通常、花嫁になる者は血を与えられて、ヴァンパイアにされる。

それを、冬獅郎の父は人間のまま妻として迎え、犯して子を何人も産ませた。

冬獅郎の母は、珍しい血を持っていて、ヴァンパイアの子を孕んで産むことができた。

父親は、力になるヴァンピールを求めていた。

自分の手足として動く、力あるヴァンピールを。

冬獅郎には5人の兄弟姉妹がいた。

4人とも、力に溺れて自分の力を制御できずに、幼くして死んでいった。

唯一生き残った冬獅郎は、父親に期待されていた。

けれど、母親であった人間の母は、冬獅郎を連れて父親の元から逃げ出した。

父親は、母親を殺した。もう、子は必要ないと。

冬獅郎さえいれば、それでいいと。

冬獅郎は、気づけば父親を殺していた。

親殺しのヴァンピールと蔑まれて、生きてきた。仲間であるヴァンパイアたちは、孤児(みなしご)である冬獅郎を、蔑みはしても一応は育ててくれた。

でもある日、ヴァンパイアの、冬獅郎と同じくらいの少女が、氷漬けになって死んだ。

それは、冬獅郎が自分の力の制御に失敗したせいだった。

ヴァンパイアたちは、冬獅郎を殺そうとした。

それを、気づけば冬獅郎が返り討ちにしていた。

俺は、いらない子。この世界に不必要。

血の帝国の外で生まれた冬獅郎は、血の帝国という存在を知り、そこに行きたかった。

女帝を殺して、この世界から血の帝国をなくして、世界からヴァンパイアを駆逐したかった。

冬獅郎は、血の帝国に入り、そこで同じヴァンピールである黒崎一護と出会った。

一護は、ヴァンピールであるのに、皇族の朽木ルキアの守護騎士であった。

鮮烈だった。

守護騎士になれるヴァンピールが存在するのか。

とてつもなく惹かれた。

ヴァンピールである自分も、生きていていいんじゃないかと思った。

そこに、女帝ブラッディ・ネイが介入してきて、ルキアと一護を、冬獅郎ともども、浮竹と京楽の住む古城に押し付けた。

「あー。朝っぱらから、厄介なことを。ブラッディ・ネイめ、覚えてろ」

浮竹は、突然の訪問者たちに、ただ実の妹であるブラッディ・ネイを恨んだ。

「ブラッディ・ネイもやってくれるね。厄介ごとを、僕たちに押し付けるなんて」

浮竹の隣で紅茶を飲んでいた京楽は、浮竹を見た。

浮竹は頭を抱えて、唸っていた。

やってきた訪問者は三人。皇女である朽木ルキアと、その守護騎士黒崎一護、そしてブラッディ・ネイの命を狙った孤児のヴァンピール日番谷冬獅郎。

古城で、お茶を飲むルキアの隣に座って、一護はルキアを守護していた。いつも魔剣を所持していた。

甘いケーキの茶菓子を、生まれて始めて食べる冬獅郎は、その甘さに目を丸くしていた。

「甘い。美味い」

「あ、おかわりあるぞ?」

まだ子供の冬獅郎に、浮竹は甘かった。

「おかわり、もらっていいか?」

ヴァンピールは、人の血を吸わない。人と同じ食事で生きていける。それに、ヴァンパイアのように太陽の下にいても、普通に生活できる。

ルキアもまた、皇族であり、ブラッディ・ネイの血を引く存在のヴァンパイアロードだったので、太陽の光は大丈夫だった。

「眠い・・・」

ルキアは、大きな欠伸をした。

夜型の生活のルキアと一護にとって、朝という時間は、今から寝る時間である。

「俺の城にきたからには、日中活動にしてもらう。ここは血の帝国じゃない。夜は眠る時間だ。昼に寝たら、たたき起こすからな」

「ふぁい」

半分眠りかけながら、ルキアは返事した。

一護は、そんなルキアに毛布をかけてやろうとして、京楽にスリッパで頭をはたかれていた。

「姫であっても、たたき起こしなさいな。浮竹のいるこの古城では、浮竹のとる生活時間で成り立っている」

「京楽さん、ルキアは昨日眠っていないんだ。血の帝国からここにくるのに、空間転移魔法陣を展開するのに時間をかけて、不眠不休のままだった。ちょっとだけ、眠らせてやりたい」

「仕方ないねぇ。三時間だよ。それ以上寝たら、叩き起こすから」

「ああ」

「浮竹、んでどうするのさ」

「んー。とりあえず、血の帝国と転移魔法で行き来が可能になっているから、ブラッディ・ネイに抗議の嫌がらせ魔法を含ませた式でも飛ばしておく」

「転移魔法ができるようになったなんて、前回僕らが苦労して血の帝国に行ったのはなぜだったんだろう」

京楽が、一人でツッコミを入れていた。

「始祖である俺が、血の帝国に入ったことで、停滞していた神の魔法が使えるようになった。転移魔法は神の魔法だからな。転移装置を動かすのにも、力がいる。よほど魔力が高くないと、転移魔法陣は動かない。今回は、ルキア君のお陰で無事こちら側にこれたようだが」

浮竹は、始祖ヴァンパイアだ。

始祖と知って、冬獅郎は威嚇しだした。

でも、のほほんとお茶を飲むただの麗人に、毒気を抜かれた顔をして、勧められるままに茶菓子を口にする。

「美味しい・・・・・・」

クッキーを口にして、冬獅郎は浮竹の前で初めて笑った。

「あ、今笑ったな?写真、写真とろう」

「うるさい、始祖ジジイ」

「始祖ジジイ・・・・」

ぷっと、京楽が吹き出した。

笑いをこらえているその頭に拳を炸裂させて、浮竹は眠るルキアとそれを見守る一護を見て、最後に冬獅郎を見た。

「冬獅郎君は、力の制御の仕方を覚える必要があるな。あと、一護君も基礎になるかもしれないが、冬獅郎君と一緒に力の制御の仕方を学んで、彼に教えてやってほしい」

「はぁ・・・・・」

一護は、気乗りしないようであった。

「修行に付き合ってくれたら、俺の血をやろう。君の力を増幅させるだろう」

「始祖の、血ですか。でも、眷属になるのでは?」

「眷属にならないように、魔法をかけたものをあげよう」

「力が増すのなら、俺は構いません。引き受けます。ルキアを守れるのであれば」

ルキアの守護騎士一護は、ブラッディ・ネイからルキアを守る必要があった。

ブラッディ・ネイは、ルキアを手に入れようとしつこい。

ルキアが断っても、ルキアを後宮に入れたがっていた。ルキアが聖女であるので、ルキアは後宮に入らずにすんでいる。

だが、もしもブラッディ・ネイが本気でルキアを手に入れようとすれば、どんな手を使ってくるか分からない。

一護は、どうてもルキアを守りたかった。

「ブラッディ・ネイはルキア君にご執心のようだ。始祖の血から生み出される力の前では、いくらブラッディ・ネイでも抗えない」

ごくりと、一護が唾を飲みこんだ。

「始祖の血の力・・・・・・」

「始祖はこの世界で俺だけだからな。ブラッディ・ネイでも、俺の血の力の前では抗えない」

神の寵児、始祖の浮竹と、呪われしヴァンピール、一護、冬獅郎。

その関係は、対極のようで、でも近い。

浮竹は、神の寵児である。だが、神の呪いを受けている。永遠に死ねない呪い。不死の呪いに。


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「人間がいっぱいだ」

隣町に足を運んだ一行の中で、ルキアが目を輝かせた。

もう何度か外の世界に出ているので、浮竹も京楽も人の多い人間社会には慣れていた。

「人間なんて、珍しくもなんともねぇ」

冬獅郎は、つまらなさそうに人ごみを見ていた。

最初、みんな黒いフード付きのマントを被っていたのだが、人数が多いので逆に悪目立ちしてしまうので、普通の服装で外にいた。

ルキアは、白いワンピース姿に麦わら帽子をかぶっていた。

一護は、普通のシャツとズボン。冬獅郎も似たような恰好だ。

浮竹と京楽もラフな格好で、外の世界で買い物をした。

「まずは、ルキア君と一護君、冬獅郎君も外の人間社会に慣れてもらう」

浮竹が、三人を連れて、いろいろと町の中を案内した。京楽は、念のために見張りをしていた。

一護は魔剣をぶら下げていた。

街の中で武装している者は冒険者が多いので、一護たちは冒険者と思われているようだった。

「どうせだから、人間の冒険者ギルドにでも行って、冒険者登録してダンジョンでも潜るか?」

浮竹の言葉に、京楽が頷いた。

「ああ、それいいかもね。モンスター相手なら、力が暴走しても平気だし」

「おい、俺は修行なんてしないぞ」

嫌がる冬獅郎を引きずって、浮竹たちは冒険者ギルドに移動した。

「初めてのご登録では、銀貨二枚が必要になります」

「金とるのかよ」

一護が、文句を言った。

ギルドの受付嬢は、にこにこした笑顔で冒険者登録用紙を、五人分渡してきた。

浮竹が、銀貨十枚を支払った。

銀貨二枚とは、舐められたものだ。新米の冒険者だと、登録できない値段だ。普通、銅貨五枚とかが相場なのだが、この町はインフレが起きているのか、他の街に比べて物価が高かった。

「名前とか適当でいいんすか?」

「今後も利用するかもしれないから、名前とかは本名でいいだろう。ただ、魔力測定があるから、そこは力をセーブして測定されるように」

「浮竹、ずっと前に登録しようとして、魔力がSランクだって言われて、慌てて逃げてたからね」

クスクスと、京楽が笑った。

「とにかく、魔力はほぼない状態で測定されるように」

「魔力がほぼない?どうやってやるんだ?」

「ああ、冬獅郎君はコントロールがまだできないだろうから、素のままでもいい。多分、Aランクの魔力とか言われるけど、測定器の故障ということにされるだろうから」

見た目が12、13歳の冬獅郎が、魔力がAランクなはずはないと、結局は本当に測定器が壊れたということになった。

浮竹のジョブは魔法使い。京楽が剣士で、ルキアが神官、一護が魔剣士だった。冬獅郎は、精霊使いになっていた。

「氷の魔法を使うなら、精霊魔法が一般的だからな。実際、契約しているんだろう?」

「ああ。フェンリルと氷女を使役している」

「その年でフェンリルを使役できるなんて、才能にあふれてるな」

浮竹が、羨ましそうにしていた。

「浮竹も、フェニックスとなら契約してるじゃない。イフリートには振られちゃったけど」

「振られたわけじゃない。フェニックスと契約しているなら、私はいらないなって、去っていっただけだ」

「それを振られたっていうんだよ」

「違う」

「僕は魔法はからっきしだから、それでも羨ましいけどね」

「京楽は俺の血族だろう。魔力はあるから、その気になれば魔法は使えるはずだ」

「適性の問題なんだよね。覚えれた魔法は身体強化とかエンチャント系の魔法で、浮竹みたいに炎を操ったり、冬獅郎クンみたいに氷を操ったりできないから」

京楽は、身体強化の魔法を使ってみせた。

「あ、俺も同じっス。属性系の魔法は使えません」

「おお、一護クン。同志だね」

「俺はエンチャント系も身体強化の魔法も使えないっす。魔力はあるけど、魔法は使えないみたいで・・・・・・」

「一護君の場合、魔剣に魔力を吸わせているから、魔剣がなんらかの属性を持っているんじゃないか?」

「あ、そうですね。雷系の魔剣です」

「魔剣を使うことで魔法も使えるはずだ」

「そうなんすか?」

「冒険者登録もすませたし、修行のためにダンジョンへ行こう。初心者向けだと人目があるから、A級ダンジョンに行こうか」

「A級ダンジョンだと、見張りの兵士がいるよ。どうするの」

京楽の問いに、浮竹が答える。

「眠りの魔法をかける」

「君、炎の魔法以外も使えたの」

「炎が一番適性が高いだけで、一応どの属性の魔法も使えるぞ。さすがに回復魔法はないが」

「君って、そんなに力あったんだ」

「これでも始祖だからな」

浮竹は、ふふんと鼻で笑った。

結局、皆はA級ダンジョンへやってきた。

見張りの兵士には、浮竹が眠りの魔法をかけて、ついでにいい夢がみれるようにルキアが好きな夢を見れる魔法をかけた。

「あはん!いいわ、いいわ!」

びくり。

もだえだした兵士に、皆驚いた。A級ダンジョンにもぐって1分もしないうちに、モンスターと出くわした。

A級ダンジョンといっても、一階層は雑魚でできていた。

「ゴブリンだ。さして強くない。日番谷君、ゴブリンを殺さない程度の魔法を使ってみろ」

「殺さない程度・・・・難しいな」

冬獅郎は、氷の刃を作り出して、ゴブリンを攻撃した。

それは、ゴブリンの首をはねてゴブリンを氷漬けにして、殺してしまった。

「うーん、魔力が過剰すぎるね。もっと、押し殺すかんじてだしてみて・・・・あ、宝箱!」

浮竹が、宝箱を見つけた。

「浮竹、きっとミミックだからやめたほうがいいよ」

「いや、たとえミミックでも中に何か持っているはずだ。ゴミに見えても、けっこういいものだったり・・・・・・」

浮竹は宝箱をあけた。

ミミックだった。

「暗い~怖い~狭い~息苦しい~~~」

「ほーら、いわんこっちゃない」

「京楽、助けてくれ~~~」

浮竹をひっぱるけど、なかなか出てこない。、

「あ、ひっぱるのがだめなら押し込んでくれ。ミミックがおえってなって、離れるはずだから」

京楽は、浮竹をミミックに押し込んだ。

ミミックはおえっとなって、浮竹を吐き出した。

「ファイアボール」

めらめらと燃えたミミックの後に、古い金貨が残された。

「やった!古い金貨だ」

「それ、価値あるの?」

「いや、金貨だろ?金貨だから・・・・」

「古すぎて使えないよ?」

京楽の言葉に、浮竹が困惑する。

「金だから、溶かせば何かに」

「たった一枚の金貨を溶かして、何を作るの。そもそも、そんなことをしてくれる人がどこにいるの」

「京楽がいじめる!」

浮竹は、ルキアに抱き居ついた。

「ちょ、浮竹さん、ルキアに抱き着かないでくれ」

「浮竹殿、その、離してもらえないだろうか」

「バカじゃないのか」

冬獅郎は、そんな面子を見て、先に進んだ。

「あ、だめだよ、そこは罠・・・・・・」

「え」

ごろごろごろ。

大きな丸い岩が転がってきた。

「うわあ、お約束!どうやって・・・・」

「破壊するぞ。ルキア、下がっててくれ」

「一護、無理はするなよ!」

一護は、魔剣を抜き放って、大きな丸い岩を細切れ状に斬り裂いていた。

「凄いね」

「うん」

浮竹と京楽は、まだ年若いヴァンピールである一護が、此処まで強いとは思っていなかったのだ。

「一護君の魔力の流し方は完璧だ。冬獅郎君、一護君みたいにできるか?」

「分からない。ただ、魔法の力のセーブの仕方は少し分かった気がする」

出てくるゴブリンを倒しながら、一行は先へと進む。

訓練のために、一護と冬獅郎に討伐させた。

「冬獅郎君、半殺しにできるかい?」

「やってみる」

氷の刃でゴブリンの両足を斬り裂いた。

ゴブリンはうぎゃぁと叫んで、自分の血の海に沈んだ。

「上出来だ。その調子で、魔力のコントロールを覚えるんだ。それが、力のセーブに繋がる・・・・・・あ、また宝箱!」

「いや、どうせまたミミックでしょ。って浮竹、あけないの!」

「うわー、ミミックだぁ!暗い~怖い~狭い~息苦しい~~~」

「はいはい、引っ張るんじゃなくって押し込むね」

京楽は、もう慣れたようで、浮竹をミミックから解放していた。

ミミックを倒した後には、魔法書が残った。

「何々、静電気で感電死する魔法?使えないね」

「好事家には、涎ものだ!新しい魔法だぞ!持って帰る!」

浮竹は、アイテムポケットに魔法書を入れてしまった。

一階層で、浮竹は5回ミミックに食われた。

ミミックは、必ず何かしらの宝物を残した。

古代の遺物とか、どう見てもゴミな代物を、浮竹は宝物だといって、アイテムポケットにいれた。

神代(かみよ)の時代から生きるヴァンパイアの感覚って分からないと、皆思うのであった。

2階層に移動した。

「あ、宝箱」

「てやっ」

ルキアが、結界魔法を反転させた魔法で、ミミックをこじ開けた。

ミミックは、悲鳴をあげると宝物を落とした。

「どうしたの、浮竹」

「ミミックに食われないと、宝物を得たかんじがしない。なのでルキア君、宝物は俺に任せてくれ。あ、あっちにも宝箱・・・・・・」

ルキアは京楽を見た。

京楽は、首を横に振った。放置しておけということだった。

「暗い~怖い~狭い~息苦しい~~~」

「はいはい、今出してあげるから」

京楽は、もうそんな浮竹が可愛く見えて、わざわざ付き合っていた。

「今度の宝物は、メダルか。そういえば、さっきの別れ道でメダルをはめるような場所があったな。きっと宝物のある隠し部屋への鍵だ!」

「はいはい、先に進むよ」

「京楽、宝物が先だ!宝物、宝物!ミミックでいいから、宝物!」

地団駄を踏む浮竹に、皆ため息をつきつつ、この始祖ってかわいいと思うのであった。

結局、隠し部屋にいき、宝箱がたくさんあった。

けれどミミックはいなくて、浮竹はがっかりした。

「ミミックのいない宝箱なんて魅力を感じない」

「あんた、どんだけミミックが好きなんだ」

一護が、呆れた声を出していた。

京楽が、浮竹の代わりに宝箱をあけていく。毒矢が飛び出してきたり、罠がしかけられていた。

「これだと、ミミックの方がましかもねぇ」

出た宝物は、武器や防具で、浮竹は興味をそそられななかった。

「この肩当て、ミスリルでできてる。売れば結構な額になりそうだ」

一護が、ミスリルの肩当てを人工の光に掲げてみてた。

「それ、呪わているぞ、一護!」

「え、まじか!」

ルキアの言葉に、一護がミスリルの肩当てを落とした。

「身に着けたら、ステータスに衰弱がつく。HPが徐々に減っていく。解呪には、幸い私は使えるが神聖魔法が必要だ」

ルキアは呪文を唱えて、白い清浄な光で解呪した。

「もう大丈夫だぞ。解呪しておいた。呪いはない」

「そうは言われても・・・・・まぁいいか、浮竹さん、アイテムポケットに」

「俺のアイテムポケットは、そんな武器防具を入れるためにあるんじゃない。武器防具は京楽のアイテムポケットでも使え」

つーんとそっぽを向く浮竹に苦笑しつつ、京楽が一護から武器防具を受けとってアイテムポケットにしまった。

一護とルキア、それに冬獅郎はダンジョンの潜るなんてはじめてで、冒険者が持っていて当たり前のアイテムポケットがなかった。

浮竹と京楽のアイテムポケットは特別製で、屋敷がまるまる入る容量をほこる。

売れば金貨百枚はくだらないだろう。

浮竹は、アイテムポケットから何やら怪しいものを取り出しては、それをモンスターに投げたり、罠の解除をしたりしていた。

分厚い本も出した。

地図が自動的にマッピングされる魔法書で、これまた金貨五十枚はするだろう代物だった。

「この先を右にいこう」

2階層のモンスターは、ホブゴブリンとゴブリンシャーマン、それにふわふわの何か分からない毛玉だった。

ふわふわの毛玉は、現れてはぽんぽんはねるだけで、かわいかった。

「浮竹、だめだよモンスターだよ!」

「元々精霊もモンスターだろう」

浮竹はそっとふわふわの毛玉に触れてみた。毛玉は牙をむき、浮竹の腕を噛んで血を啜った。

「浮竹!」

「やばい、血を吸われた。始祖の血をとりこんだモンスターは厄介だ」

ゴゴゴゴゴ。

毛玉は震えて巨大になっていく。牙をむきだしにした、醜悪な姿になった。

「浮竹さん、下がって!ここは俺と冬獅郎でなんとかする!」

「何故俺まで入っている!」

「力の制御、大分できるようになったんだろ?」

「そりゃまぁ・・・・・・」

「きしゃああああああ」

有無を言わせずモンスターが襲い掛かってきた。それを魔剣で斬り捨てるが、傷はすぐに再生した。

「俺の、始祖の血をとりこんだから再生力が無尽蔵なんだ。炎でもやしつくすくらいか・・・ああ、冬獅郎君、力を爆発させる勢いで、その化け物に氷の魔法を放ってごらん」

「どうなっても、知らないからな」

冬獅郎は、もてる魔力のほとんどを氷にして、化け物にむけた。

「ぎいいいい」

化け物は氷の彫像になった。でも、まだ生きている。ちなみに、周囲の空間も氷漬けになった。

「俺に任せろ!」

一護が、氷漬けになったモンスターに魔剣をふりおろして、粉々に砕いた。モンスターはまだ生きていた。

「再生する。俺が燃やす」

「浮竹殿は手を出さないでください。私がなんとかします」

ルキアが前に出て、呪文を唱える。

モンスターの肉の破片が、灰になっていく。

「ルキア君、すごいな。聖女と言われるだけある。ヴァンパイアが神聖魔法を使うと知ったら、ヴァンパイアハンターの連中が嘘だっていうだろうな」

浮竹は、ルキアが聖女であるいことに、納得がいったようだった。

「浮竹さん、始祖の血ってすごいっすね。あんな大人しそうなモンスターが、たった数滴吸っただけで、再生力の無尽蔵な化け物になるなんて」

「ふん、元をただせばあんなモンスターに血をとられる浮竹のせいだ」

「こら、冬獅郎!」

一護が冬獅郎を怒るが、冬獅郎はそっぽを向いた。

「ふん」

「それにしても寒いね。冬獅郎クン大丈夫?大分魔力を使ったようだけど」

京楽が、周囲まで凍らせてしまった冬獅郎を見た。

「どうって、こと、ない・・・・・」

「冬獅郎殿、魔力を回復させる魔法をかける」

「朽木ルキア・・・・余計なことを」

「こら、冬獅郎!ルキアが癒してくれるなんて、普通なら1回金貨200枚なんだぞ」

「そんな大金、もってねぇ」

「ふふ、私も冬獅郎殿からとりたてるような真似はせぬ」

魔力回復の魔法をかけられたお陰か、冬獅郎の顔色もよくなった。

ヴァンパイアの力の源は血。その血を使った術の他に、魔法を使えた。人間の魔法より遥かに強力で、ヴァンパイアが恐れられる原因の一つになっていた。

一護は、冬獅郎に力の制御についてあれこれと教えて、時折ルキアが説明の足りない部分をカバーしたり、実際に魔法を使って見せたりした。

浮竹と京楽は、そんな三人をほっこりしながら見ていた。

「ブラッディ・ネイに式を放ったのは悪かったかな。たまにはこんな、知り合いと冒険もいいな」

「まぁ、ブラッディ・ネイの真意はどうであれ、冬獅郎クンの力の制御はなんとかなりそうだね。これなら、もう暴走する心配もないだろう」

「だが、その存在をどうするかだ。いっそ、俺たちの子として引き取るか?ブラッディ・ネイのいる血の帝国は嫌いなようだし」

ぎゃあぎゃあ言っていた三人が、浮竹を見た。

「浮竹、俺は血の帝国に入る。ルキアの守護騎士見習いになることにした」

「え、そこまで話すすんでたの」

「ああ、冬獅郎は筋がいい。同じヴァンピールだし、冬獅郎は行く当てもないみたいだから」

「僕らの古城で、住んでもいいんだよ?」

京楽の甘い誘いを、冬獅郎は蹴った。

「お前らみたいな平和ボケしたヴァンパイアと生活してたら、こっちまで怠惰になる。一護と一緒にルキアを守りたい」

「冬獅郎殿、無理はしないでいいのだぞ」

「俺が決めたことだ。俺は、ルキア、お前に忠誠を誓う」

すっと片方の足を跪かせて、冬獅郎はルキアの手に接吻した。

「あ、冬獅郎てめぇ、ルキアに何してやがる!」

「ふん。ヴァンパイアの、花嫁にするための行動だろう?俺は、ルキアに求愛している」

「冬獅郎殿!」

ルキアが真っ赤になった。

すると、反対の手に一護が片足を跪かせて接吻した。

「もてもてだねぇ、ルキアちゃん」

「もてもてだな」

「京楽殿、それに浮竹殿まで!」


「あれ、いいね。僕も君に求婚するよ」

さっとその場で片足を膝まづかせて、京楽は浮竹の右手をとって、接吻した。

「僕の花嫁になってくれるかい」

「いやだ」

「振られちゃった・・・・・」

がっくりと項垂れる京楽に、浮竹が言う。

「お前が嫁に来い」

「え、そっちなの?そっちならOKなの?」

「俺はお前を血族にした。俺が求婚すべきだろう」

「まぁ、どっちでもいいけどね」

一行は、結局3回層まで進んで、ダンジョンを後にした。

途中で、浮竹がミミックに食われること、実に十二回。

もう、みんな浮竹はミミックに食われるものだと思った。浮竹はミミックから京楽に助けられてはファイアーボールでミミックを倒し、宝物を手にした。

武器防具は捨てていくので、京楽が回収する。

魔法書を、浮竹は特に喜んだ。始祖は、多彩な魔法を使う。炎属性が一番適性があるので炎の魔法を好むが、闇や光の魔法も使えた。

後は、呪術やら式を使役したりもしていた。

一行はダンジョンを出て、戦利品を冒険者ギルドに売った。初級冒険者がミスリルの防具を持っていたことに、受付嬢は驚きはしたが、一護の魔剣を見て納得したようだった。とてつもない魔力を帯びているのを、肌で感じ取ることができた。

「Eランクですが、Bランクへの昇格試験を受けてはどうですか?」

「興味ないからいい」

一護は、そっけなかった。

「では、他の方々もCランクへの昇格試験を・・・・・・・」

「いや、別に冒険者稼業やっていくわけじゃないから」

「右に同じだよ。浮竹が受けないなら、僕も受けない」

「私もいらぬ」

「俺もいらねぇ」


いきなりEランクからCクラスやBクラスに昇格試験を受けるのは、相当な手練れだということだ。

それを断るとは。

ざわめく冒険者を無視して、モンスターの素材やら魔石、あとは宝箱から出た武器防具を売り払って、金貨40枚になった。

「5人で分けると、金貨8枚か。しけてるな」

冬獅郎の言葉に、受付嬢は顔を引き攣らせた。


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それから4週間は、ルキア、一護、冬獅郎は浮竹と京楽の住む古城で世話になった。

浮竹が、つきっきりで冬獅郎に、力の制御を教えた。

ルキアは一護と一緒に、ダンジョンに潜ったりしていた。モンスター討伐が楽しいらしい。

A級ダンジョンの最深部まで攻略したと聞いて、浮竹も京楽も驚いた。

「あのA級ダンジョンの最深部のボスはドラゴンだろう。大丈夫だったのか?」

「それが、古代語であるならば理解する知恵あるドラゴンでした。友人になりました」

「そうなんだよ、ルキアのやつ、危ないからやめとけっていってるのに、ドラゴンに近づいて話しかけて・・・びっくりしたけど、害のないモンスターだった」

友人の証である、ドラゴンの宝玉のネックレスを見せられて、浮竹も京楽も冷や汗をかいた。

さすがに力の強いヴァンピールである一護に守られてるとはいえ、ドラゴン相手だと殺される可能が高い。

ドラゴンは、始祖ヴァンパイアと同じで、始祖ドラゴンがいる。その始祖から誕生した血脈のドラゴンは、とにかくめちゃくちゃ強い。

A級ダンジョンに住まうドラゴンは、始祖の血脈である。

始祖同士は神代(かみよ)の時代から生きていて仲がいい。ルキアから始祖の匂いを感じ取ったドラゴンは、好意的であった。


時が流れるのは早く、冬獅郎は完全に力の制御の仕方を覚えた。もう、暴走させることはないだろう。ルキアの元で守護騎士見習いとして、一護のサポートをするらしい。

「では、浮竹殿も京楽殿も、達者で。短い期間でしたが、ありがとうございました」:

「ルキア君、堅苦しいことはなしだ。血の帝国とは空間転移魔法で行き来が可能だから、俺たちも近いうちに、また血の帝国にいくさ」

「その時はぜひ、遊びにきてください!」

ぱっと顔を輝かせたルキアの背後で、守護騎士の制服に身を包んだ一護と冬獅郎の姿があった。

「お前たちも元気でな!」

「ルキアちゃんを、ブラッディ・ネイから守ってね!」

「当たり前だ!あ、浮竹さん、血をもらうの忘れてた!」

「あ、俺も忘れてた。ほら、これがそうだよ」

小さな瓶に入った浮竹の血液を受け取って、一護は浮竹に礼を言った。

「ありがとうございました!また、遊びにきます!」

「その血には、魔法をかけてあるから、悪用はできない。一護君の力を増す役割を果たすし、ブラッディ・ネイにも魔剣の力が届くようになるだろう」

ブラッディ・ネイは始祖ではないが、始祖の次に生まれた、神代から生きる、転生を繰り返すヴァンパイアだ。その体に通常攻撃は効かず、ブラッディ・ネイを倒すには魂を、精神体を攻撃する必要があった。

もっとも、精神体を攻撃されてもダメージを受け、依代である肉体を離れて休息に入るだけで、ブラッディ・ネイを殺せるのは、実の兄である始祖の浮竹だけだ。

ブラッディ・ネイはいろいろ、年端もいかぬ少女を後宮に入れて、欲を満たしたりしてだめなところもあるが、あれでも統治者としては優れている。

八千年もの間、伊達に血の帝国に女帝として君臨しているわけでない。

空間転移の魔法陣は、浮竹の古城の地下にあった。

ルキアが祈りをこめて、魔力を流す。こちら側に来たときは初めて神の魔法に触れたので、一昼夜かかったが、浮竹も魔力を流してくれたので、すぐに転移魔法陣は動きだした。

「では、お元気で」

「またな」

「浮竹さん、京楽さん、本当にありがとう!」


転移魔法が発動し、三人の姿が消えていく。

浮竹と京楽は、去っていった三人に向かって、手を振るのだった。


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「んっ」

京楽に、ベッドに押し倒されていた。

「京楽?」

「やっと邪魔者たちが去ったんだ・・・今夜は寝かさないよ」

「春水、愛してる」

「僕も愛してるよ、十四郎」

互いを貪りあうよう、深い口づけを繰り返して、京楽の下で浮竹は乱れた。


「朝食の用意ができているよ。今日は僕が作ってみたんだ。早く起きて」

浮竹の長い白髪を手ですきながら、京楽は浮竹の眠るベッドに腰かけた。

「ん・・・誰かさんが、明け方までしつこかったからまだ眠い」

「朝食とってから、また寝たら?」

「そうする」

バスローブのガウン姿で、浮竹は起きて、京楽の首に手を回し、キスをした。

「誰かにいっぱい血を吸われたせいで、くらくらする」

「人工血液剤あるよ」

「五錠ほど、くれ」

独特の苦みがある人工血液剤を噛み砕いて飲み干すと、貧血はすぐに治まった。

「また寝るから、着替えはいいか」

浮竹は起きだして、京楽に手をひっぱられてダイニングルームまできた。

「おいしそうな匂いがする」

「オムライス作ってみた。隠し味に、処女の血を数滴」

「誰の血だ」

「昨日、町に買い物ににいったら幼い孤児の少女が身を売っていたので、注射器で血を少々いただいて、金貨10枚を握らせて、孤児院に置いてきた」

「誰にも見られなかっただろうな。最近、隣町の近くにまでヴァンパイアハンターがきているらしい」

「冒険者ギルドにも、懸賞金がかかって乗ってたよ。普通のヴァンパイアだけど、処女の幼い少女を六人も殺しているそうだよ」

「京楽、見つけ次第駆除しろ。俺たちの生活を脅かす存在は、人間であろうがヴァンパイアであろうが、許さない」

浮竹の翡翠の瞳が、真紅になっていた。

始祖の血が、敵は排除しろと疼く。

ふっと、怒りを鎮めて、浮竹はオムライスを食べた。

「案外うまいな」

「戦闘人形のメイドに、作り方教えてもらったからね」

「処女の血の隠し味がうまい。やっぱり、俺もヴァンパイアだな。人工血液も好きだが、人間の血もうまい」

「それは、どのヴァンパイアでも同じだよ。血の匂い嗅いでたら、君の血が欲しくなった」

「昨日、あれだけ吸血しておいて・・・・・」

「食べてもいい?」

「ああもう、好きにしろ。人工血液を、用意しておけ」

始祖の血は、中毒性のある甘美な麻薬。

それにすっかり虜になっている京楽は、浮竹が嫌がるまで吸血した。


「もお、やぁっ」

セックスをしながらの吸血行為は、酷く快感を吸われる者に与える。

「あ、や・・・・・」

ズチュリと中を侵す熱に、意識が飛びそうになる。

「昨日、あれだけ抱いておいてまだ足りないのか」

「一カ月ぶりだよ。君を抱くの。以前は一週間に一度は抱かせてくれてたじゃない。ああ、君の血は甘い。毒だね、まるで」

「始祖の血をここまで飲めるのは、お前くらいだ」

過去に血族にした者もいたが、渇きを覚えるたびに血を与えたことはなかった。

ぐちゅっと音をたてて、結腸にまで入り込んできた京楽のものに、意識をもっていかれそうになる。

「あああーーーー!!」

中でいくことを覚えた体は、射精せずとも高みへと浮竹を導いた。

「あ、だめぇ、いってるのに、吸血は、だめぇ」

浮竹の太ももに牙を立てて、京楽は血を啜った。

その快感は浮竹には大きすぎた。

射精しながら、びくんびくんと体を震わせた後、意識を失った。

京楽は、浮竹の胎の奥に子種を注ぎ込む。

「君は、僕だけのものだ。君の血も、僕だけのもの・・・・」

浮竹が一護に、浮竹の血の入った小瓶を渡すのに、嫉妬を覚えたなんていえない。

浮竹の白い頬を手でなでて、その白い長い髪を手ですいていく。


ざわり。

浮竹の張った結界に侵入者を探知して、京楽は衣服を整えると、浮竹にガウンを着せて、窓を開け放った。

「ヴァンパイアハンターか・・・・」

銀の匂いに、眉を顰めた。







































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色子と京楽春水

京楽春水は、上流貴族だった。

色事に長けていて、護廷13隊の8番隊隊長であった。

よく花街に出入りしていた。

その日も、いつもの馴染み廓、桜亭で花魁の桜姫(おうき)を抱いていた。

普通の遊女ならともかく、花魁はとにかく金がかかる。話をするだけでも、一般庶民の数日分の稼ぎが消えていった。

そんな花魁と火遊びをしていて、ふと桜姫が最近の話題に上っている、色子花魁のことを口にした。

「翡翠っていってね。色子なのに、花魁なの」

「花魁の色子?」

「隣の椿亭に居る子なの。とっても綺麗でね。私より美しいかもしれない」

「君より美しいって、どれだけ綺麗な子なのか、興味がわくね」

桜姫に、その色子についていろいろ教えてもらった。

京楽は、色子には興味なかったが、色子が花魁をしていると聞いて興味を持った。

次の日、桜姫の元にはいかず、椿亭にやってきた。

「色子の花魁に会いたいんだけど」

廓の女将に、じろじろと見られた。それから、女将は京楽が上流貴族であるのを知って、にこやかに笑って、色子花魁の翡翠を呼んだ。

「翡翠、お客さんだよ」

「女将、俺は今日は眠いんだ。微熱もあるし、休みをもらいたい」

「会うだけ、会ってやってくれないかい。上流貴族のお偉いさんだよ。頼むよ翡翠。後で、甘いもの好きなだけ食べさせてあげるから」

「女将がそこまで言うなら・・・・」

京楽は、奥の間に通された。

そこに、色子花魁はいた。

長い白い髪を結い上げて、いくつもの上等な簪をさしていた。

首飾りには大きな翡翠があしらわれていた。着物は椿模様の、金糸の縫い取りのある上等なものを着ていた。

美しかった。白粉や紅をさした様子もないのに、肌は色白で、唇は桜色をしていて、思わず吸い付きたい感覚を覚える。

長い白髪を持っていて、瞳が名前の通り翡翠色だった。

「俺が、色子花魁の翡翠だ」

「翡翠・・・・源氏名だね。本名は?」

「浮竹十四郎」

「綺麗だね。君みたいな綺麗な子が色子なんて、信じられない」

京楽は、浮竹に触ろうとして、浮竹に止められた。

「俺は、今日は誰にも抱かれるつもりはない」

「口づけもだめなのかい?」

「金をたっぷりとるぞ」

「それでもいいよ」

「んっ」

色子花魁の翡翠こと浮竹を抱きしめて、そっと唇を重ねた。

桜色の唇は、紅をさしていなかったが、甘い味がした。

「甘いね・・・」

「さっきまで、甘露水を飲んでいたから。肺を患っていて、あまり客の相手ができない。なのに、廓の女将は俺を色子花魁にして、金もうけをしている」

「君の客は多いのかい」

「ほどほどに。馴染みの旦那も、何人かいる」

「僕も、その中に入れるかな」

「金次第だ」

京楽は、もう一度浮竹を抱きしめて、口づけた。

シャランと、浮竹の髪に飾られた簪が音を立てる。

「ちょっと、しつこいぞ。しつこい客は嫌いだ」

「ごめん。あんまりにも綺麗なものだから」

そっと、京楽は離れた。

色子花魁に魅入られると、もう他の花魁じゃあ勃たなくなると、隣の桜亭の桜姫が言っていたのを思い出す。

本当に、その通りかもしれない。

浮竹に夢中になった京楽は、次の日から毎日のように、浮竹の元に通うようになっていた。


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もう、通い始めて半月が過ぎていた。

かなりの金が飛んでいった。色子でも花魁であるから、客の選り好みはできる。

元々体が弱く、よく熱を出したり、酷い時は発作をおこして吐血するので、酒を飲んで他愛のない話をして、夜は過ぎていく。

「今度君を抱きたい。いいかい?」

「もう、通い始めてくれて半月だからな。いいぞ。いつにする?」

「3日後に。お代は、女将に先に払っておくから」

「分かった」

ついに、浮竹を自分のものにできるのだと、京楽はドキドキする胸を押さえて、浮竹と別れた。

浮竹は、その次の日に血を吐いて倒れた。

約束の3日後も、臥せったままだった。

「約束破ってしまってすまない・・・・・」

布団に横になり、会うだけだと廓の女将に念押しされて、京楽は浮竹と会った。

「君の肺の病、治らないのかい?」

「今の医学では無理だそうだ。死ぬわけじゃあないし、人にうつるものでもないから、花魁としてまだ在れるが、こうも臥せりがちだと、そのうち花魁じゃなくなってしまうかもな」

「じゃあ、僕が君を身請けしても問題ないね?」

「は?おい、まだ俺を抱いたこともないだろう」

「君が好きだ。身請けしたい」

「せめて抱いて、もっと考えてからにしたらどうだ」

布団の横になりながら、話を進める京楽に、浮竹は呆れていた。

「君が、他の男に抱かれるのが嫌だ」

「そんな子供みたいな・・・・・・」

「五億環。これだけあったら、身請けできる?」

五億環。

浮竹の身請け金は二億環だ。

「そんな大金・・・・確かに俺を身請けできるが、そんな大金を俺につぎ込んで大丈夫なのか?」

「僕は上流貴族だよ。君のためなら、全財産をなげうっててもいい」

「その話、女将にはするなよ。身請けの金額を釣り上げるだろ、あいつは。今日はとにかく、もう帰れ。今度来た時、身請けの話を聞く」

「うん、分かった」

京楽は、浮竹の口づけると、椿亭を後にした。

次に京楽が来た時、浮竹は元気そうだった。

「京楽、来てくれたのか」

浮竹は、京楽に抱き着いた。

「俺を身請け、本当にしてくれるのか?お前になら、身請けされてもいい」

酒を飲み料理を食べながら、そんな話をしていた。

「女将に、身請けについて相談したよ。2億環でいいと言われた」

「俺が売られた金額が3千万環だからな。随分稼いだし、病気もあるから身請け金はこれ以上値上がらないと思うんだが」

「明日、二億環をもってくるよ」

「気をつけろ。最近、身請けの金を巡っての強盗が流行っている」

「僕は護廷13隊の8番隊隊長だよ?」

「そうだったな。お前は隊長さんだった」

浮竹は、安堵したかのように胸をなでおろした。

翌日、京楽は馬車でやってきた。

「いろいろ、持っていくものも多いでしょ」

「こんな豪華な馬車、見たのは初めてだ」

「僕の屋敷で所有しているものの中で、一番立派なやつを持ってきた」

「ばか、余計なことしてると・・・・・」

「翡翠の身請け話、ちょっと先延ばしにさせてほしいの。値段を間違えていたわ」

椿亭の女将が、にまにまとしながら、浮竹を京楽から奪い、男たちに身を預けさせた。

「約束が違う」

「あら、そんな約束したかしら」

「女将、いい加減にしろ。京楽が上流貴族だからって、搾り取ろうとするな」

「翡翠は黙っていなさい」

男に口を塞がれて、浮竹は身を捩った。

京楽は、馬車の扉をあけると、そこから金塊やら宝石と札束を取り出して、地面に無造作に放り投げた。

「十億環分ある。浮竹は、身請けするよ」

一億環で、現世でいう一億円になる。それの十倍だ。

女将は、欲望に顔をたぎらせて、店の者と一緒になって、地面に転がされた金塊やら宝石、札束を拾っていた。

「金よ、金だわ!あはははは、翡翠、せいぜいその旦那に尽くすことね。大金だわ、あはははは!」

浮竹は、京楽のもつ馬車に揺られて、京楽の屋敷にやってきた。

京楽の屋敷の広さに驚きながら、浮竹は物珍しげにきょろきょろと周囲を見ていた。

色子になるまで、下級貴族の長男として育てられた。薬代がかさみ、借金のかたに売られた。

13の時に売られて、客をすぐに取るようになった。

そんな色子稼業を続けて18歳になっていた。

京楽は、20代前半くらいだろうか。

精悍な引き締まった体をもつ、美丈夫だった。

一方の浮竹は、18歳。病気のせいもあり、年齢も見た目より幼く見えて、見た目は15歳くらいだった。

「ばか、あんな大金払う必要なかったのに!」

「僕にとって、君はあの金以上に魅力がある。今度こそ、本当に抱くよ。いいね?」

「ああもう、好きにしろ。お前に身請けされた瞬間から、俺はもう、お前のものだ」


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「あ、あ、あ」

じゅぷじゅぷと音をたてて、京楽のものが浮竹の中を出入りする。

男を銜え込むことを覚えた体であったが、京楽のものは大きすぎて、全部を受け入れるのに一苦労した。

「あ、いい、そこ、もっと!」

「ここかい?」

そこを突き上げられて、浮竹は全身を震わせながら、精液を放っていた。

「やっ、俺ばっかり・・・・京楽も、いけ。俺の中で」

京楽のものをわざと締め上げると、京楽は少しうめいて、浮竹の胎の奥に、精液をびゅるびゅると注いでいた。

それに、ぺろりと浮竹は自分の唇を舐めて、京楽に口づけると、騎乗位になった。

「身請けされた分、体で払うから」

浮竹が動き出す。

そのテクニックに京楽はすぐに果てた。

「ああ、君をじっくり味わいたいのに」

「そうか、それを先に言ってくれ」

浮竹は、京楽の上からどいた。

浮竹の蕾から、京楽の出したものが滴り落ちてくる。

「もっといっぱい、しよ?」

色子花魁といわれるだけあって、性的なことは浮竹のほうが数段と上だった。

「俺を本気にさせてみろ。んっ、ああ、いい。そこ、そこいい。んっ」

正常位で浮竹を突き上げて、いいという場所をしつこく突きあげて抉り、最奥まで犯した。

「ああああーーーー!!」

浮竹が背を弓なりに反らせて、射精することなくいっていた。

ふと悪戯心をくぐすられて、浮竹のものを扱いて射精させると、浮竹は涙を零した。

「やあ、二重はだめぇっ!いってるのに、いってるのに・・ああああ!!!」

ブレーカーが落ちるように、ガクリと浮竹は意識を失った。

「十四郎、十四郎?」

ぺちぺちと頬を叩くと、浮竹は気づいた。

「あ、俺は意識を失っていたのか?」

「うん」

「お前、凄いな。こんな大きな一物をもっているだけじゃなくって、テクもすごい。男抱くの、始めだろう?」

「そうなるね」

「何人の女を泣かせてきたんだか」

「今は君を啼かせたいね」

「すでに、十分啼いた。もう、今日はしまいでいいか」

「まだ余力あるんだけど」

「嘘だろう。あれだけ抱いておきながら、まだするのか?」

「だめかな?」

「仕方ない、俺が口でしうてやる」

ぴちゃぴちゃと、自分のものを舐めあげる浮竹は、情欲に濡れた瞳のままだった。

「翡翠」

「何だ?俺の名前、翡翠で呼びたいのか?」

「いや、違う。ただ、君の瞳の色は本当に翡翠色で綺麗だと思って」

「お前の瞳の色も綺麗だ」

鳶色の京楽の目を見あげながらも、浮竹は京楽に奉仕していた。

「んっ、もういくから、離して」

「俺の口の中で出せ」

色子としてのテクニックは健在で、京楽は浮竹の口の中に出していた。

「何度も出したのに、まだ濃いな。まさか、まだ抱くとか言わないよな?」

「だとしたら?」

「簡便してくれ。俺は体が弱いんだ。手加減というものを覚えてくれないと、今後抱かせてやらないぞ」

「我慢する。ちょっと、風呂場で抜いてくるよ」

「俺がいるのに、風呂場で抜いたりするな。もう一度、口で奉仕してやるから」

もう一度奉仕されて、京楽もさすがに出すものがなくなった。

風呂に入り、清めて中に出したものをかきだされて、シーツを変えた布団で、浮竹はクスクスと笑っていた。

「上機嫌そうだね」

「お前、男を抱くのは初めての割にはうまかったな。きもちよかった」

「勉強したからね」

「他に色子でも抱いていたか?」

「いや、書物で」

また、浮竹はクスクスと笑った。

「君には、笑顔が似合う」

ふと思い出して、近くにあったたんすの引き出しから、翡翠細工の髪飾りを出してきて、それを浮竹の髪に飾った。

「似合うね。君のために買ったものだったけど、渡すのを忘れていたよ。10億環出すのに、屋敷を一軒売ったからね」

「痛い出費だったか?」

「いや?屋敷はまだいくつもあるから」

浮竹は、京楽に口づけた。

「旦那様って呼ぼうか?」

「いや、春水でいいよ」

「じゃあ、春水、これからもよろしくな」

「うん」

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「楽しそうだね」

「ああ、新しい鬼道を習ったんだ。詠唱破棄でもけっこうな威力が出るから」

「学院は楽しいかい?」

浮竹は霊圧が高かった。

真央霊術院に入り、今2回生になっていた。

将来、死神になって、京楽と同じ8番隊に所属するのだと、嬉しそうだった。

「特進クラスだからな。あと1年で、卒業できるって言われてる。学院は楽しいぞ。友達もたくさんできたしな」

「誰も、君を元色子花魁だと思う者はいないだろうね」

「まぁ、ばれないほうがいい。色子だったことがばれると、いろいろ言われそうだ」

「僕と君だけの、秘密だね」

甘い毒を共有しあった。

京楽ははっきりと、周囲に浮竹を娶ることを公言していた。両親は大反対をしていたので、連絡はとっていない。

「卒業したら、結婚しよう」

「本当に、こんな俺でいいのか?」

「君だから、結婚したいんだよ」

もう、そこに色子花魁と言われていた少年の姿はなかった。

美しいが、死神見習いであった。

「君が卒業したら、8番隊にくるように根回ししておくから」

「その、総隊長に何か言われないか?」

「山じいのお説教には慣れているからね」

手を握り合って、啄むようなキスを繰り返した。

「俺は、幸せだ。お前に身請けされてよかった」

「君の幸せは、僕の幸せでもある」

その後、1年経って浮竹は学院を卒業し、死神となって八番隊に入り、よく京楽の傍にいた。

やがて出世して、席官となる。

それでも、京楽の傍にいるのだった。

二人は、比翼の鳥のように、日々を過ごすのであった。










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オメガバース京浮短編6

浮竹はオメガだった。

浮竹には許嫁がいた。上流貴族の男だった。

オメガの男は、子を産むことができる。死神の隊長にまで上りつめた浮竹の子は、霊圧が高くてきっと将来隊長になるだろうと、望まれての縁談だった。アルファの子を産めば、その子供のほとんどがアルファになった。

浮竹の婚約者は、アルファだった。


浮竹は、京楽のことが好きだった。

ずっと、学院時代から。

でも、自分は違う男と結婚するのだと、すでに諦めていた。

始めてヒートになった学院時代、浮竹は京楽に抱かれた。京楽はアルファだった。

ヒート抑制剤を飲んでいたが、ヒートは収まらず、京楽に助けを求めて抱かれた。

京楽との関係は、不思議なものだった。

恋人というわけでもなく、けれど親友以上で。

浮竹は、婚姻を何かと理由をつけて先延ばしにしていた。

ヒート期間に京楽に抱かれるたびに、アフターピルを飲んだ。


そんな浮竹も、婚約相手が雨乾堂までやってくるようになって、京楽のことを諦めて嫁ぐ覚悟を決めた。

結婚式は盛大に行われた。

初夜で、浮竹が初めてではないと知った夫は、怒りはしなかった。

優しかった。

それが、辛かった。

首筋をかまれて、番となった。

ああ、俺はこの男を愛するのだ。

愛さなければ。

けれど、心は京楽を愛していた。

結婚して日にちが経つたびに、けれど夫のことも愛するようになっていた。

「愛している、十四郎」

「俺も、愛している」

夫のことは、嫌いではなかった。

逢瀬を重ねるたびに、京楽に抱かれ慣れていた体は、やがて夫の色に染まるようになっていた。

京楽は、長い間遠征に出ていた。

帰ってきた時、浮竹は上流階級の男に嫁いだ後だった。


身を引き裂かれる思いを抱いた。

京楽は、浮竹を奪おう。

そう心に決めた。


浮竹は、妊娠していた。

大切にされて、幸せだった。

その幸せを全部ぶち壊すかのように、現れた京楽は、浮竹を有無を言わせず攫った。

「京楽、どういう真似だ!」

「君が、僕以外の男のものになるのが許せない」

「俺が婚約相手を持っていると、知っていただろう!」

「まさか、本当に結婚するなんて思ってなかった」

「俺はもう、結婚してあの男の番で妻で、子を妊娠しているんだ」

びくりと、京楽の体が強張った。

「じゃあ、そのお腹の子は僕の子ってことにする」

そう言いだす京楽に、浮竹は恍惚となった。

ああ、俺は京楽に愛されている。

「君を愛している、浮竹」

「俺も、お前を愛している」

夫も愛しているが、それよりも京楽を愛し続けていた。

「僕はばかだ。もっと早くに君を番にすればよかった」

「俺は、夫の番だ。どうするつもりなんだ」

「金があれば、番を解消させる薬なんかも手に入れられるんだよ。これだ」

透明な薬を見せられた。

雨乾堂に連れてこられて、布団をしいてその上に横たえられた。

「ねぇ、浮竹。僕だけのものになって」

「京楽・・・・俺は、もう、お前のものじゃない」

「じゃあ、体に教えてあげる」

透明な薬を京楽は口に含み、浮竹に口移しで飲ませた。

「あ、あああ!?」

ズクリと。

体が熱くなった。

番の印である噛み傷の痕が消えていた。

そして、浮竹は強制的なヒートになっていた。

「熱い。体が熱い。助けてくれ、京楽」

夫の名は口にしなかった。

遠い昔から、京楽を愛していた。夫も愛するようにと心がけて、やっと愛せるようになったのに。

その矢先の出来事。

まさか、京楽がこんな強硬手段に出るとは思っていなかった。

「大好きだ、浮竹。こんなことになるなら、学院時代に君を番にすればよった」

「あ、俺はもう何度も夫に抱かれて・・・・」

「そんなの関係ない。君は僕のものだ。僕のものであるべきだ」

京楽は、独占欲の塊になっていた。

愛しい相手が、遠征から帰ってきたら他の男の妻になっていた。

そんなこと、耐えられるはずがない。

たとえ上流貴族同士のいざこざが起きても、もう浮竹を手放すつもりはなかった。

死覇装を脱がされて、浮竹は学院時代に戻った錯覚を覚えていた。

この浅ましい体は、ヒート期間京楽に抱かれたことをきちんと覚えていた。

「抱くよ。そして、僕の番にする」

「あ、番にしてくれ、京楽。お前以外、もう何もいらない」

浮竹は妊娠していた。

そんなこともお構いなしに、やや乱暴に口づけた。

「んう」

舌と舌を絡みあわせて、どちらのものかもしれない唾液が顎を伝った。

「かわいいね、十四郎」

すでに浮竹のものは、とろとろと先走りの蜜を零していた。

「あ!」

それを、京楽が口に含んだ。

根元を手でしごきながら、鈴口を舌で突かれて、浮竹は京楽の口の中に精を吐き出していた。

「薄いね。君の夫は、何度君を抱いたの」

「あ、昨日、抱かれた。何度になるか、数えたことはない」

「君を、再び僕色に染めないと。僕だけのものだって、体に刻まないと」

そういって、京楽は服を脱いだ。

「あ、春水、春水」

学院時代のヒート期間に戻ったかのようだった。

浮竹はただ京楽を求め、京楽もまた浮竹を求めた。

薄い胸板を撫でて、先端をつまみあげて、もう片方を舌で転がした。

「春水、はやく、きてくれ」

「指で慣らさないと」

「そんなのいいから!どうせオメガの俺は濡れる。だから、だから!」

求めてくる浮竹に応えて、京楽は己のもので浮竹を貫いた。

「ああああああ!!!」

同時に噛みつかれた。

番になった証が、右の首筋にくっきりと浮かび上がる。

電流が体中を走り回った。

「あ、番になった・・・・俺は、夫をもちながら、京楽の番に・・・・」

どちゅんと最奥の子宮口を貫かれて、浮竹は背を弓ぞりにしならせた。

「あああ!」

「ここ、好きだよね。奥でぐりぐりされるの」

「や、だめ、赤ちゃんが、赤ちゃんが」

「君の赤ちゃんも、僕の精液が欲しいっていってるよ。ここきゅきゅうしめつけてくる」

「あ、や、春水」

前立腺ばかりを突かれて、京楽はは勃ちあがった浮竹のものを手でこすった。

「あ、やぁ、変になる!やぁぁ、や!」

「中でもいけるでしょ。外も一緒にいけばいい」

「やああああああ!!」

ドライのオーガズムでいかされながら、射精していた。

二重にいかされて、浮竹はびくんと体をしならせた。

「ああ・・あ・あ」

何度も、京楽のもので突き上げられ、揺さぶられ、抉られた。

京楽が満足して、浮竹の子宮口にびゅるびゅると、濃い精液を注ぎ込む頃には、浮竹はぐったりしていた。

「大丈夫?」

「も、無理・・・・・・」

「まだ、僕は一回しかいってないよ。最後まで、付き合ってね」

「やっ」

内部の熱は、高まって硬いままで、浮竹は口では嫌といいながら、体は浅ましくもっともっとと求めていた。

「胎の奥で、もっと出してくれ。赤ちゃんが、お前の子供になるように」

「うん、いっぱい注いであげる」

京楽は、浮竹の妊娠していることに、気遣うこともなく抱いた。

流産するなら、すればいい。

自分の子供ではないのだ。

その日、浮竹は京楽に激しく抱かれ、次の日熱を出した。

「ごめんね、浮竹。久しぶりすぎて、加減できなかった」

「お前の気持ちを確かめもせずに、嫁いだ俺も悪い」

「そうだね。僕のこと好きなら、婚約破棄してくれればよかったのに」

「相手は上流貴族だ。下級貴族の俺に決定権はない」

「その上流貴族で、元君の夫であった死神と、今日話つけてくるから」


京楽は、浮竹を寝かしつけて、浮竹の夫である死神の元に向かった。

話は、浮竹がまだ京楽のことを好きで、番を解消させて、自分と番になったことを話すと、夫であった男は諦めたかのようにため息をついた。

浮竹と番になるのを認め、離婚を承諾した。

代わりに、浮竹の子は、後継ぎとしてもらう、ということで話は解決した。


それから数カ月が経ち、浮竹は男児を出産した。帝王切開で子を産み、双子だった。

浮竹の意識が戻らないうちに、双子の子は、浮竹の元夫であった者の手に落ちていった。

意識を取り戻した浮竹は、子供を一度も抱くことなく取り上げられたことを悲しんでいたが、京楽が耳元で囁いた。

「退院したら、君を強制的にヒートにして抱くよ。僕の子を孕んでもらう」

ヒートは、薬である程度コントロール可能だった。

なくすことはできないが、ヒートにさせたり、遅らせたりすることはできた。

「京楽!」

真っ赤になる浮竹が愛しくて、京楽は笑っていた。

「結婚式を挙げよう。君が挙げた結婚式よりも派手で、もっと華やかなやつを」

「いや、身内だけでいい」

「だめ。君が僕のものであるって証をみんなに見せないと」

結局、京楽の言う通り、派手な結婚式を挙げた。

オメガの浮竹が短期間で二度も結婚式を挙げたもので、瀞霊廷ではささやか噂になっていた。

あの上流階級の京楽が、なんでも嫁に行った浮竹に懸想して、無理やり奪っていったと。

実はその通りなので、京楽も浮竹も、噂を聞いても何も言わなかった。

やがて、浮竹は女児を妊娠した。

ちゃんとした京楽との間の子で、浮竹も京楽も、生まれてきた我が子をこれでもかというほどにかわいがり、少し我儘でおませな子に成長してしまった。

「ねぇ、今夜二人目作ろうよ」

「でも、明日は隊首会だ」

「一回で終わらせるから。いいでしょ?ああ、それともヒートになる薬を使おうか。そうしよう。そしたら、君は休暇を認められて、夫である僕も休暇を認められるから」

「ちょ、京楽!」

京楽は有無をいわせず、金で買いあさった裏マーケットの品に手を出した。

浮竹に飲ませると、浮竹はヒートを起こした。

既に前のヒートから2カ月半が経っていたので、ヒートがきてもおかしくない時期だった。

「あ、あ・・・・熱い。苦しい・・・京楽が欲しい。京楽の子種を、奥でいっぱい出してほしい。京楽、助けて・・・・・・」

弱弱しく抱き着いてくる浮竹を抱きあげて、京楽は過ごしている自分の屋敷の離れに移動した。

生まれた女児は、乳母が面倒を見てくれていた。

隊長として忙しい二人は、なるべく子育ても自分たちでするようにしていたが、隊長だけにいつも傍にいられるわけではなかった。

「今、熱を鎮めてあげるから」

浮竹に口づけながら、京楽は完全に自分のものになってしまった浮竹に、うっとりとしていた。

「あ、早く!」

急かしてくる浮竹を宥めて、抱いた。

その日、浮竹は4人目の子を懐妊した。

始めに違う男の双子を、次に京楽の子である女児を、その次もまた京楽の子を。

京楽は、番である噛み後をなぞるように、浮竹の首を噛んだ。

「あ!」

浮竹は全身を震わせて、いっていた。

「浮竹、次は男の子がいいな。避妊はしないでね」

「あああ!」

京楽の声は遠く浮竹の元に響いていた。結局その日はアフターピルを飲まなかった。

それなのに、その一夜だけで懐妊した。

オメガは、アルファの子を産む相手として見られがちで、元浮竹の夫であった男も、アルファで浮竹にアルファの子供を出産してもらおうとしていた。

その目論見は成功し、浮竹の元夫は、双子のアルファの男児を手に入れた。

噂では、ベータの女性と結婚したらしい。

ベータの子は、ベータになるのが基本だ。アルファの跡取りがいるので、気楽だろう。


京楽は、生まれてきた男児を、上の女児と同じぐらい可愛がった。

「京楽、もう俺はお前の子は産まんぞ。二人で手一杯だ」

京楽の番にされて、十年以上の時が過ぎようとしていた。


変わらず京楽は浮竹が好きだったし、浮竹もまた京楽が好きだった。

まだ若いので、ヒート期間になると屋敷の離れで睦みあった。

もう、お互いを離さないと、心に決める二人であった。












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始祖なる者、ヴァンパイアマスター2

ホウホウ。

梟の鳴き声で、浮竹は目を覚ました。

京楽と同じベッドで眠っていた。窓辺には、城全体に結界を張っておいたにも拘わらず、梟が開け放たれた窓から入ってきて、浮竹の手に止まった。

足に付けられた紙をとって、梟を外の森に放つ。

窓を閉めた。

夜の肌寒い空気に、眠っていた京楽が起きた。

「寒い・・・・浮竹、どうしたの」

「いや、なんでもない。寝てくれ」

「眠いから、お言葉に甘えるけど、浮竹ももっかい寝なよ。夜明けまで、大分時間あるから」

浮竹と京楽は、ヴァンパイアであるが、朝から夕方にかけて生活していた。

ヴァパイアは夜の住人であるが、京楽が人の名残で、朝方に目を覚ましてしまうので、浮竹もそんな生活に付き合っていると、すっかり昼型のヴァンパイアになってしまった。


梟がもってきた手紙を読む。

浮竹は、頭を抱えた。

向かい側の大陸にある、血の帝国。女帝ブラッディ・ネイが治める、ヴァパイアだけの楽園。

ブラッディ・ネイは浮竹の実の妹だ。

本当の名を、浮竹白(しろ)。

始祖である浮竹の次に生まれた、ヴァンパイアであった。浮竹を生み出した神は、この世界を創造してから間もなく、異界に旅立ってしまった。

浮竹は、その神の寵児。

同じ寵児である、ブラッディ・ネイは始祖ではないので、何度か死んだ。

死ぬ度に転生を繰り返し、ヴァンパイアの皇族の中に生まれ、芽吹き、女帝となる。女帝となるために、10歳以上の少女の中に転生して、元の少女の意識を丸ごと飲みこんで、女帝として君臨した。

女帝、ブラッディ・ネイがいないのは、死後の数日だけ。

数日かけて、ブラッディ・ネイは復活する。

我が子がブラッディ・ネイになるのを、少女の元の母親と父親であった者は喜んだ。神でもあるブラッディ・ネイの血を与えられて。

ヴァンパイアは不老であるが、不死ではない。

その寿命は、個体にもよるが大体千歳程度だった。

千歳以上を生きるのヴァンパイアは、時にヴァンパイアロードとも呼ばれる、始祖の血を口にした者。

ブラッディ・ネイは、10代前半の少女を好き好んで、ヴァンパイアロードにした。その少女たちは、ブラッディ・ネイのお気に入りとして、可愛がれた。

ブラッディ・ネイは同性愛者だ。始祖の浮竹もまた、男を愛する傾向にあった。

生まれた頃は、姿形もほとんど同じで、よく間違われた。

そして、互いに子を成すことはできない、不完全品であった。だが、ヴァンパイアは血を与えればその相手を同じヴァンパイアにできるので、問題はなかった。


今のブラッディ・ネイは・・・・確か、6代目か。8千年続く血の帝国の、6代目女帝、ブラッディ・ネイ6世。

そのブラッディ・ネイが死去した。

半年も経つのに、次のブラッディ・ネイが覚醒しない。

手紙の内容は、そんなことを書いてあった。他にも続きがあった。

これまた厄介なことで。

(どうか、7代目ブラッディ・ネイを見つけてください。実の兄である始祖のあなたなら分かるはず。もしもブラッディ・ネイが本当に死んだのであれば、皇族の少女の一人を血族にして血を分け与えてやってください。始祖のあなたの血をもらった者が、新たなブラッディ・ネイとなり、先代のブラッディ・ネイの残した膨大な記憶を受け継いで女帝となります)

簡潔に書いてあったが、内容は複雑だ。

ブラッディ・ネイが本当に死んだとも思えない。

あれは、少女の、ヴァンパイアの形をしたモンスターだ。

同胞の血肉を喰らう。

死なない程度に血肉を喰らい、再生させた。

ブラッディ・ネイの食事は生きたヴァンパイアであった。

だが、食われるヴァンパイアはそれを名誉として受け入れ、嬉しがる。

ブラッディ・ネイは1日に3人のヴァンパイアを食べた。命までは奪わない。再生をさせて、礼としてブラッディ・ネイの涙をもらえる。

ブラッディ・ネイの涙は血と同じで、寿命を延ばす。

ヴァンパイアロードほどではないが、大幅に寿命が延びるので、ブラッディ・ネイに食べられたがる者は多かった。

「ああ、関係ないと、しらをきりたいんだがなぁ。そうはいかんだろうなぁ」

実の兄である、浮竹のところに手紙がやってきたのだ。

ブラッディ・ネイは多分死んでいない。

なんらかの方法で、覚醒を邪魔されている。もしくは、自分から覚醒をしていないか。

神の寵児である始祖とその血脈をもつ者を、殺せる者は存在しない。

例え、それがヴァンパイアハンターでも。

死しても、浮竹は生き返る。灰となっても、復活する。それは、始祖の呪い。永遠の生命。

親であった創造神は、浮竹に世界の在り方を学ばせた。

今の浮竹にはうろ覚えの記憶だったが。

神代(かみよ)の時代から生きる浮竹に、昔の記憶はあまりない。情報量が多すぎるので、古い順から欠落していくのだ。

ブラッディ・ネイは、その欠落していく古い記憶を、魔法を使って水晶に封じ込めて、覚醒してから水晶を使い、前世の記憶を呼び覚まさせる。

血の帝国は、その名の通り、血の幕を帝国中の空にはっていて、太陽の日光が当たらない。そんな安全な世界で、ヴァンパイアたちは人工血液を口にして、偉大な統治者の女帝を崇め、与えられた職につき、一生を終える。

食事も賃金も住むところも、全部用意されていた。

浮竹は、血の帝国が嫌いだった。

何処へ行っても、真紅の瞳をしたヴァンパイアで満ちていた。自由がなかった。自由に生きようとするヴァンパイアがいなかった。

血をくれと、せがまれた。

女帝の兄として、女帝ブラッディ・ネイの補佐をしていたが、ある日嫌気がさして出奔した。

血の帝国をふらふらして、そして人間の世界に出た。血の帝国では人間は生きれないので、血の帝国から出るヴァンパイアは少なかった。

浮竹が眷属にした者たちが、ヴァンパイアとなって世界中に散っていった。始めは、浮竹一人だった。浮竹が血を与えて血族したヴァンパイアが、また次の人間に血を与えてヴァンパイアにした。

そんな方法で増えていったヴァンパイアは、人工血液を血の帝国から得ることができず、人を襲って血を啜った。そして殺した。

そして、ヴァンパイアハンターは生まれた。

ある一人のヴァンパイアは、千人の処女の生き血を啜り、始祖の血なしでヴァンパイアロードへと至った。

冷酷なヴァンパイアが増えた。

血の大陸から、人工血液を輸入できるようになったのに、ヴァンパイアたちは人間を襲った。

浮竹が飲む人工血液も、血の帝国から輸出されたものだ。

もうかなり古い友人である、朽木白哉からもらっていた。

白哉の両親が、浮竹から血を分け与えられたヴァンパイアロードだった。皇族ということになっている。

血の帝国に、妹の朽木ルキアという皇女がいる。その守護騎士が、黒崎一護。

驚いたことに、黒崎一護は人間とヴァンパイアの間に生まれたヴァンピールだった。

人間とヴァンパイアが愛し合う世界もあるのだと、その存在を知った時、感銘を受けた。


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浮竹は、京楽に全てを話し、血の帝国に旅立つことにした。

「君の妹か~。きっと、君に似てかわいくて綺麗なんだろうなぁ」

「想像するのは簡単だが、死んでは転生を繰り返して、10代の少女に命を宿らせて女帝として復活する化け物だぞ」

「僕たちだって、人間から見れば立派な化け物じゃない」

「あれは・・・もう、俺の手には負えない、はっきり言って。まぁ、匂いだけはわかるから、一応探してはみるが、封印されているとしたら、誰が封印しているかだ。あれは、一応始祖の次に長生きの、神の寵児だからな」

浮竹が化け物というブラッディ・ネイに、京楽はますます会いたくなった。

浮竹と京楽は、使者としてやってきた、黒髪の美しい青年と一緒に、馬車で揺られていた。

「それで、この子は?」

「朽木白哉。俺たちを、血の帝国まで案内してくれる」

「朽木白哉だ。名乗るのが遅れた。すまぬ」

「二人旅を想像してたんだけどねぇ。新婚旅行みたいな」

「兄は、そんな気持ちで血の帝国に行くのか?」

「いや白哉、こいつは俺と一緒に生活してただけで、ヴァンパイアとしての常識とか欠落してるから、多めに見てやってくれ」

「ふん」

白哉は、面白くなさそうに、浮竹のほうを見ていた。

「兄の趣味は変わったか?前は、もっと純粋そうなのを血族にしていたであろう」

「いや、死にかけてたから血族にしたんだけど。まぁ、俺は白哉も好きだけど、京楽のことも大好きだから」

その言葉に、京楽が文句を垂れる。

「何、この白哉って子のこと好きなの?」

「血族の子だからな。俺にとっては実の息子のようなものだ。血の帝国にいた頃からの付き合いでな。一応皇族だから、あまり文句を垂れないように。不敬罪として切り捨てられても、知らないぞ」

「何それ怖い」

京楽は、浮竹の後ろに隠れた。

普通なら、浮竹が京楽の後ろに隠れるのだが、今回ばかりは血の帝国に行くためには、血の帝国内部からの手助けがいった。

この大陸では、血の帝国に向かう船がない。

なので、白哉が血の帝国を出て、わざわざ迎えの船のをよこしてきてくれたのだ。

「手紙は、受け取ったのであろう?」

「ああ」

「ブラッディ・ネイは本当に死んだと思うか?あのマザーが」

「いや・・・どこかで、封印されていると思う。7代目が必要だとすると、次のブラッディ・ネイに選ばれるのは、聖女であるお前の妹だろう」

白哉には、妹がいた。

名を、朽木ルキアという。

どんな病も癒せる聖女として崇められていた。皇女であるが、言葉遣いは男のようであったが、気品あふれる姫君だった。かなりのお転婆ではあるが。

「さぁ、船の乗るぞ」

浮竹が、馬車から降りて、大きな船を見上げた。それを、京楽も見上げた。

「うわ、この大きな船に?」

「人工血液の輸出も兼ねてきていたからな。最近では、人間の血も扱っている。血の帝国のヴァンパイアの間では、人間の世界でいうワインのようなものだ。
人間社会も少し変わった。
血の帝国のヴァンパイアの血を欲しがる者も増えた。もっとも、ヴァンパイアの血を飲んでも、直接ヴァンパイアから血を与えられない限り、ヴァンパイア化することはない。まぁ、ヴァンパイアの血を飲むと、病や傷が癒えるから、今ではエリクサーと同等の扱いだ」

浮竹の説明に、京楽がぽかんとしていた。

エリクサーは、怪我や万病に効くという、珍しく高価な聖なる薬だ。

その代用品として、血の帝国のヴァンパイアの血が求められた。

普通のヴァンパイアの血では駄目なのだ。人語を理解しない、グールという低級なアンデットになる。

血の帝国、マザー、女帝であるブラッディ・ネイに守られた、ヴァンパイアだけの楽園にも、変化が訪れた。

血を売って、住み着く人間が増えたのだ。

血の帝国では、人間は住めないわけではないが、人間には住みにくい土地だ。

人間はよく食事をしなければ死んでしまう。

ヴァンパイアは、別に食べなくなくても、人工血液があれば生きていける。それでも、よく嗜好として食事はとられていた。

なので、人間も食べていけることはできる。

人間の新鮮な血は高いが、ヴァンパイアが人間をさらって、血を抜いて売るような真似をする者はいなかった。

最初にその罪を犯した者はいたが、女帝によって裁かれ、太陽の下で焼け焦げて死ぬまで晒された。

浮竹や京楽もそうだが、白哉もまたヴァンパイアロードの血をもっているので、昼でも活動できた。

「これからは、夜が活動時間の大半になる。今のうちに、夜行型に慣れておくことだ」

「ああ、そうだな」

白哉のもっともな言葉に、浮竹は頷いて、京楽の手をとって船に乗った。

カモメが飛んでいる。

太陽は眩しいほどに輝いていた。


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血の帝国に向かって出発して、1週間が過ぎようとしていた。

京楽と浮竹は、まだ船の中にいた。

夜型に慣れるようにと、徹夜を繰り返して、寝不足気味だった。

最近、ようやく夜目覚めて朝に眠るようになってきた。

「ねぇ、喉が渇いた。血をちょうだい」

「少しだけだぞ・・・・んんっ」

京楽に吸血されて、その快感に全身がピリピリする。本当なら交わりたいが、旅の途中であるから我慢していた。

浮竹は、人工血液剤をかみ砕いた。

人工血液剤は、最近開発されたもので、一錠で一回分の血を吸ったことになる。

人工血液を飲むより手軽で、だが味が最悪なので、服用する者と、今まで通り人工血液を飲む者で別れていた。

「兄ら、もうすぐ着くぞ。下船の準備をしておけ」

「あ、分かった」

「荷物まとめないと」

浮竹と京楽は、荷物をまとめると、停泊した船から降りた。

夜なので、血の帝国は寝静まることなく、活気にあふれていた。

何処を見ても、ヴァンパイアだらけだった。

「さすが、血の帝国。夜が、ヴァンパイアたちにとっての昼だな」

「あそこで血を売ってるよ。買ってきていいかい?」

(新鮮、人間の血あります)という看板を指さして、京楽が浮竹に強請った。こうやって強請るのはいつもは浮竹なので、新鮮であった、

「いいぞ」

「浮竹も、飲む?」

「いや、俺はいい。人間の血を口にすると、魔力が溢れて暴走しがちになるから」

浮竹は魔法が使えた。

主に、火属性の魔法だった。いつもは、暖炉に火をおこすくらいで使わないが、その気になれば人をたくさん焼き殺すこともできた。

「兄の判断は正しい。人間の血など、口にするだけ穢れる」

「いや、いいすぎだろ、白哉」

「血の帝国はヴァンパイアだけの楽園。そこに人間が入り込むなど・・・・駆除すべきだと女帝に進言したが、取り合ってもらえなかった」

「そりゃね。ブラッディ・ネイ・・・・妹にも、妹なりの思惑があるんだろうさ」

その、ブラッディ・ネイは今神隠れしている。

早急に探さないと、白哉の妹に浮竹が血を与えて、7代目ブラッディ・ネイとして、人未御供よろしくになってしまう。

浮竹と京楽は、白哉に案内されて、血の帝国の後宮に入った。後宮が、一番怪しいのだという。

十代前半の少女たちが、肌も露わにして過ごしていた。

「ここは、ブラッディ・ネイの後宮か」

「かわいい子がいっぱいだね」

「死にたいのか、京楽」

「いや、僕の浮竹が一番かわいくて綺麗だよ」

目をキラキラして見つめてくるので、とりあえず目つぶしをかましておいた。

「目が、目がああぁぁあ!」

「うるさい」

「兄は、どう思う?この後宮に満ちた魔力・・・・・。女帝のものだと、私は思うのだが」

「うーん、ブラッディ・ネイの魔力は特殊だからなぁ。愛された少女たちにも宿っているようだし・・・・・・」

ブラッディ・ネイは、長い研究の末、未婚の年若い、十代の少女を自らの手で懐妊する方法を見つけた。

懐妊した少女は、ブラッディ・ネイに愛されて後宮から解放され、離宮へと移される。

現在、懐妊したのは3人。

うちの一人は、皇族だった。二人はすでに子を産んで育てている。残りの皇族の姫が、まだ後宮に留まっていた。

「あの子の体・・・・ちょっと、宿っている魔力がけた違いじゃないか」

「どれどれ・・・ほんとだね。まるで、浮竹みたいだ」

「間違いない。あの子の腹に、ブラッディ・ネイは宿っている」

懐妊して、まだ離宮に移されていない、皇族出身の姫だった。

「ねぇ、君のお腹にいる子・・・・女帝でしょ」

びくり。

少女は顔をあげて、泣きだした。

「ブラッディ・ネイ様が・・・・私を、私を失いたくないと。私の腹の中の子に宿って、女帝になるまで、育ててくれと・・・・・・・」

「ブラッディ・ネイはそんな甘い女じゃない。聞こえているんだろう、ブラッディ・ネイ。出てきたらどうだ」

少女は、少し大きくなった腹を撫でて、クスクスと笑いだした。

「いやだなぁ、兄様。ボクのことを兄様が探すなんて。この子の子供、凄く器にいいんだよ。でも男の子でさ・・・・・ボク、男の子にはなりたくないから、この子が胎児であるうちに器を支配して、この子の体をもらおうと思ってさ・・・・・・」

「ブラッディ・ネイ。後宮は、確かにお前の遊び場だが、普通に転生できないのか」

「それが、ルキアちゃんの術で防がれちゃっててさぁ。ボク、ルキアちゃんが欲しいんだよね。ルキアちゃんの中に転生しようとしたら、結界を張って防がれちゃって。行き場をなくしたボクは、自分の愛する少女の子供に宿ちゃったの」

「で?」

「女の子なら、そのまま育つまで待つのもいいかなぁって思ったんだけど、他の女の子と遊べないじゃない。だから、この子の体、いただこうと思ってさ」

「浅ましい欲でできた妹だな」

「兄様だって、欲にまみれているじゃない。その鳶色の目の青年、兄様のものでしょ」

「京楽は、俺と対等だ」

「あはははは!対等?神の寵児であるこのボクらと対等だって?」

白哉は、自分の愛しい妹が、ブラッディ・ネイに狙われていたのだと知って、蒼い顔をしていた。

「兄に、ルキアはやらぬ。たとえ、女帝でも」

「なんだ、ルキアちゃんのお兄さんか。ルキアちゃんのお兄さんは、兄様の血族の血を引いているんだよね。兄様を抱いたことはある?」

「そのような低俗な行為、したことなない」

「はじめはみんな、そう言うんだよ。でも兄様は、ボクよりも美人だから。みんな、兄様を見ていた。それが悔しくて、ボクは兄様が血の帝国から出て行ってほっとしたよ。でも、ボクを探しに戻ってくるなんて」

「ブラッディ・ネイ。ルキア姫は俺が説得するから、その子を解放しろ。無論、ルキアにも宿るな。念のための、空の器を用意してあるのだろう。それに宿れ」

「何、兄様、それはお願い?」

「命令だ。従わないのなら、妹であっても、消す」

「ひっ」

凄い魔力を向けられて、ブラッディ・ネイはガタガタと震え出した。

「ごめんなさい、兄様。兄様、兄様。いや、いや・・・・。ボクを、置いていかないで。ボクは、兄様がいれば他の女の子だっていらないんだ」

「また嘘をつく」

クスクスと、少女は笑った。

「もう、遅いんだよねぇ、兄様。術式は完成してるんだ。この子は、もうボクのもの。そうだ、この体に宿る男の子に、兄様が転生するってのはどう?兄様は、8千年も同じ体だから、いろいろとガタがきて、苦労してるでしょう?」

ブラッディ・ネイの言葉に、浮竹は首を横に振った。

「お前のように、魔力を無駄に食い散らかして、器の体をだめにしたりしてない。あれほど、魔力調整は練習しておくようにといったのに」

「それができないから、ボクは転生するんだよ。神の寵児は、そんなことも許される」

「それは、お前がそう思っているだけだ」

ふらりと、浮竹はふらついた。

「大丈夫、浮竹!?」

「ブラッディ・ネイ・・・・・俺から、魔力を奪う気か」

「アハハハハ。兄様が出奔してからの7千年で、ボクもいろんな魔法を身に着けたんだ。神の寵児は便利だね。神しか使えない、魂の魔法も使える」

ブラッディ・ネイは浮竹を見えない縄でしばりあげた。

「やめろ!」

「兄様、ボクと一つになろうよ。きっと、気持ちいいよ。吸血されたり、セックスなんかより、もっときもちいいこと、しよ?」

「浮竹を離せ!」

京楽が、ブラッディ・ネイの体を水の魔法で拘束した。

「こんな魔法・・・・あれ。解けないよ兄様、どうして?こんな下等な、兄様の愛人なんかに、ボクがいいようにされていいわけがない」

ブラッディ・ネイは、その愛らしい顔を歪ませて、じたばたともがいた。

「だめだ、これ以上はダメだ!子が!ボクが、流れてしまう」

「えっ」

京楽の拘束が解ける。

少女は、局部から血を流していた。

「流産か!医者を呼べ!」

白哉が、叫んだ。

自由になった浮竹を抱きしめて、京楽は震えていた。

「僕の魔法のせいで・・・・・」

「違う。あの少女の魂が、本体に戻ってきてたんだ。ブラッディ・ネイの体に入って、でも器に魂は一つしか入らないから。妊娠していた男児にブラッディ・ネイは移ろうとしていたけれど、俺が邪魔をした」

「え、浮竹が?」

「念のための空の器に、今頃ブラッディ・ネイは宿っているはずさ」

少女は、結局男児を流産した。

しばらくして、くすんだ灰色の髪と、浮竹と同じ翡翠色の瞳をした少女が、自分はブラッディ・ネイだと言い出した。

「ボクはブラッディ・ネイ。マザーだよ」

神代の魔法を披露して、皆頭を下げて敬礼した。

浮竹と京楽は、ただ黙してそれを見ていた。

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「ああ、兄様のせいで、こんな冷凍していた器に宿ってしまった。次に転生の魔法が使えるまで八百年はいるね。兄様がきたら、ろくなことにならない」

「お前は、また後宮に少女を集めさせているそうだな」

「それの何が悪いの。ボクの趣味まで、とやかく言われる筋合いはないよ」

「お前がこの国に必要でなかったら、お前を消せるのになぁ」

「止めておいたほうがいいよ。太陽の光を遮る、血の結界はボクの魔力で維持されている」

「だから、俺はお前が死んだなどと、思っていなかったんだ」

「そうなの、浮竹」

「兄様、趣味悪くなった?そんなもじゃもじゃな男、兄様にはふさわしくない。白哉みたいな、美しい男が、美しい兄様には似合うと思う」

「もじゃもじゃ・・・・・・」

「京楽俺は気にしてないぞ。お前がもじゃもじゃでも、好きだぞ」

「あは、趣味わるっ」

「うるさい!」

ばちっと、火が散った。

「兄様、怒ると火が爆発するよ。愛しいもじゃもじゃを焼かないように、気をつけることだね」

「ブラッディ・ネイ。いや、浮竹白(しろ)。お前は、本当に嫌な奴だな」

「ありがとう、兄様、最高の褒め言葉だよ」

白哉は、ルキアの無事を確かめるために、ルキアを守るために宮殿のルキアの部屋で、ルキアをずっと見守っていた。

「ルキアちゃん、欲しかったなぁ」

「諦めろ。聖女に手を出したら、流石のお前でも無事ではいられないだろう」

「そうなの、兄様」

「ルキアって子は、魂に神格を宿している。俺たちの父であった、創造神と立ち位置は同じだ」

「うわー。ルキアちゃん、そんなにすごいんだ。後宮に閉じ込めちゃおうかな」

「やめておけ。どんな手を使ってでも、白哉が止める」

「ああ、ボクって愛されてないなぁ。ボクは愛する少女たちも、僕の体液が目当てで、ボクを真剣に愛してくれないし」

「ほいほい、乗り換えるからだ。そもそも、女の身でありながら後宮をつくり、少女を閉じ込めること自体が間違っている」

「兄様が皇帝だったら、そのもじゃもじゃを閉じ込めるんでしょ。それとも、もっといい男を探す?」

「なんで男限定なんだ」

「だって兄様、女抱けないでしょ。男に抱かれるのが、兄様は好きでしょ」

「浮竹、浮気は許さないよ?」

「きょうら・・・・・・ぎゃあああああああああああああ」


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無事、七代目ブラッド・レイは即位した。

たまっていた仕事をさっさと片付けて、後宮でお気に入りの女の子を抱いて、好き放題しているらしい。

浮竹と京楽は、自分たちの住む古城へ戻った。

戦闘人形たちが城を維持していたお陰で、古城には塵一つなかった。

「ねぇ、浮竹。君、処女じゃなかったんだ」

「いや、悪い。昔、遊んでた」

はっきりと言って、浮竹は京楽に謝った。

「神代(かみよ)の時代から生きてるもんね。彼氏や彼女が、数百人いても、不思議じゃないよね」

「俺は、ブラッド・レイのような遊び方はしていなかったぞ。ちゃんと、1人の相手と恋愛していた」

「過去に、何人いたの?」

「5人くらい・・・・・・・・・」

「誰が一番好きだった?」

「京楽、お前が一番好きだ」

「こんなもじゃひげを?」

「そのもじゃもじゃが、これまたいいんだ」

「浮竹って、けっこう悪趣味だよね」

京楽は、からからと笑って、人間の血をいれたワイングラスの中身を飲み干した。

「人間の血って、ワインみたいだね。酔う」

「俺は飲まない。魔力が乱れる。昔、生き血を飲んで、城をふっとばした。引っ越しを余儀なくされた」

「神代の頃は、何を口にしていたの。人工血液がなかった時代」

「普通に、人間の食べ物を食べて生活していた。あと、魔力を維持するために、精霊を体に取り込んでいた」

「精霊。そんなのいるんだ」

「いるぞ。炎の精霊なら呼べるから、呼んでみようか?」

「うん。見てみたい」

「サラマンダーよ、わが呼び声に答えよ!」

じゅわあああああ。

ワインの中の血が沸騰する。

「うわぁ、熱い!」

「熱量を下げてくれ、サラマンダー」

「きゅいいい」

炎を纏わせた人のサイズくらいのトカゲは、身に纏う炎を小さくして、浮竹の頬を舐めた。

「きゅいいい」

「あ、浮竹舐めるなんて、ずるい!僕も舐める!」

「おいおい」

「ついでに、啼かす」

浮竹は、サラマンダーを精霊界に返した。

京楽に横抱きにされて、寝室まで運ばれると、キングサイズのベッドに押し倒された。

「京楽」

「血を吸って、いいかい?」

「最近ご無沙汰だったしな。好きにしろ」

浮竹の衣服を脱がしながら、キスをして、舌に少しだけ噛みついて流れる血を啜った。

「ん・・・・」

ヴァンパイアに吸血されるのは、大きな快楽を伴う。

「あ、首筋を、噛んでくれ。そのほうが、感じる・・・・」

浮竹の服を脱がせて、薄い筋肉のついた胸板を撫で、先端を口に含んだ。

「んっ」

潤滑油に手を伸ばして、浮竹にキスをする。

舌の傷は再生していた。

舌を絡め合わせる。

「ん」

蕾に指を侵入させて、早急に解していく。

「ああ、我慢の限界だ。挿れるよ」

「あああああ!!!」

熱い熱に引き裂かれて、浮竹はいってしまっていた。

同時に、首筋に噛みついてやった。

「ひあああああ!!!」

浮竹は、白い体液を弾けさせながら、びくんびくんと痙攣した。

「きもちよかった?」

こくこくと頷く浮竹は、快楽が強すぎて涙を浮かべていた。

「あ、お前もいけ。俺の中で」

「うん」

京楽のものを締め付けて、浮竹は目を閉じた。

最奥にごりごりと入ってきたものに、目を開ける。

「あ、ああ、深い!」

「ここ、好きでしょ?奥にいっぱい出されるの、好きだよね?」

「あ、あ、好きだからいっぱい出して。血も吸って」

「いただきます」

浮竹の最奥に精液を叩きつけながら、京楽は浮竹の首筋にまた噛みついて、吸血していた。

「あああ・・・あ・あ」

「君の血は、美味しいね。君の体も美味しい。甘いよ。本当に、毒があるみたいに病みつきになる」

「あ、いく、またいく・・・・・」

「何度だっていっていいよ」

「ああああーーーーー!!!」

がくっと、浮竹は意識を失った。

「はぁ。浮竹、大丈夫?」

ぺちぺちと頬を叩くと、浮竹は気が付いた。

「中で出したな」

「君が中で出せっていったんだよ」

「風呂に連れていけ。あと、人工血液剤を5つほど、頼む」

「はいはい」

京楽は、言われるままに動く。


血の帝国から帰ってくるまでの間、吸血行為だけで抱くことをしなかった。

京楽もたまっていたのだ。

互いに発散させあった。

半月ぶりだったので、快感は大きかった。

「たまに禁欲みたいな生活送ってみるのも、悪くないね」

「それじゃあ、吸血もなしだな」

「そんなぁ」

京楽のがっかりした顔を見て、笑う浮竹であった。






















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始祖なる者、ヴァンパイアマスター 1

浮竹は、始祖ヴァンパイアだった。

ヴァンパイアマスター。

始祖、始まりのヴァンパイア。

浮竹の血から、世界に存在するヴァンパイアは生まれ、眷属として仲間を増やしていった。

だが、始祖である浮竹は孤独であった。

あまりに長い時を生き過ぎた。

浮竹の血から生まれた眷属たちは、もう死んでしまった。ヴァンパイアハンターに退治されて。

稀に力をもち、千年以上生きる眷属もいたが、それすらの浮竹の前ではなんの意味もない。

神代(かみよ)の時代から生きる浮竹にとって、孤独は悲しいものではあったが、人生のほとんどを眠っていたせいで、孤独の寂しさ、というものはあまり実感がなかった。

浮竹は、滅びた王国の古城に住んでいた。

そこを訪れる者はいない。

時折ヴァンパイアハンターがやってくるが、浮竹が生み出した戦闘人形の手で葬られた。

浮竹は、自分の身の回りの世話も、戦闘人形にやらせていた。

始祖ヴァンパイアは、悠久を生きる。

ほとんどを眠って過ごした。

そんなある日、血の匂いをまとませた青年が、古城に入ってきた。

たまたま起きていた浮竹は、すぐに排除しようと、戦闘人形をさしむけた。けれど、青年は瀕死の重傷を負っていて、浮竹は驚いて青年の怪我を見た。

もう、治しようがない。

数百年ぶりの、人間。

血族にしてみよう。

気まぐれが起きた。

そうして浮竹は、青年を血族にするために自分の血を与え、眷属とした。



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京楽は、もともと貴族であった。

王国の王位継承権問題に巻き込まれて、淘汰される貴族の中に京楽の両親がいた。両親に待っていた運命は、極刑。

ギロチンで処刑されてく両親を、叫びながら見ていた。

何故、何故。

ただ、第一王子の派閥にいただけなのに。

国王が崩御して、第一王子は、王位継承に敗れて、殺された。第二王子は、容赦のない人物で、第一王子の派閥の中心にいた貴族たちを、次々と処刑していった。

京楽は、伯爵家の次男坊だった。親を殺されて、京楽は第二王子を殺そうとした。

両親は処刑されたものの、なんとか兄と自分だけは助かった。

兄は伯爵となり、第二王子に取り入ろうとしていた。

納得がいかなかった。

親を殺した相手にすり寄る兄を、見ていられなかった。

まだ国王として即位していない第二王子を、その側近である近衛騎士を昏倒させて、京楽は第二王子を殺そうとした。

けれど、第二王子は強かった。

京楽は捕らえられた。

処刑されるのだ。ただ、時を待った。

呪われたかのように呪詛を言葉にして、京楽は自分が処刑される日を待った。

国王として即位した元第二王子は、恩赦を罪人たちに与えた。

京楽は処刑されることなく、奴隷として隣国へ売られた。

「僕を殺さないなんて、きっといつか後悔させてやる」

その言葉を胸に、京楽の他に奴隷落ちした貴族を乗せた馬車で、隣国まで送られた。

隣国に辿り着くその手前で、モンスターに襲われた。

馬車の御者も、馬も、護衛として雇われていた冒険者も、他の奴隷たちも次々とモンスターに食われていった。

「ああ、こんな場所で死ぬのか」

そう思いながら、京楽はモンスターに右腕を食われた。

右腕がなくなったことで、戒めは解かれた。

モンスターは腹いっぱいになったのか、京楽を完全に食わずに森の中へ消えていった。

「痛い・・・ああ、死にたくない。一思いに殺してくれればよかったのに」

ろくに抵抗もできない状態だったので、右腕を食われてしまった。

あと、内臓も。

出血が多すぎて、もう助からない。

分かっていたので、よろよろとした足取りで、歩きだした。

森のすぐ近くにある古城で、せめてそこで息絶えよう。野ざらしのまま死ぬのは嫌だった。

きっと、死体は野犬や鴉に食われてしまう。あるいは他のモンスターの餌になるだろう。

せめて、人の形をしたまま死にたかった。

古城に入ると、そこは廃墟ではなかった。煌びやかな世界が広がっていた。

故郷の王国の王城よりも、美しく華やかだった。

けれど、警備の者もメイドも見当たらない。

「誰か、いないのかい?」

ぽたぽたと滴る血は、一応は止血しておいたけれど、もう血を流し過ぎた。

後は死ぬだけだ。

「ごめん、死に場所間違えたね。このまま僕は死ぬけど、どうか死体は埋葬してほしい。こんな美しい高価そうな絨毯を、血で汚してごめんね」

京楽は、どこから現れたのかも分からない、真紅の瞳をしたメイドの姿をした戦闘人形に囲まれていた。

「ああ・・・ここは、そうか。ヴァンパイアの住処か・・・・僕の血を啜っていいよ。どうせあとは死ぬだけだ。糧になれるなら、それもいい」

「勝手なことを。俺にも、血を吸う相手の選り好みはある」

真っ白な髪に、緑の瞳をした青年が、京楽の傷を診ていた。

美しかった。今まで、こんな美しい人は見たことがなかった。

社交界で見たことのある、貴族の令嬢なんて、足元にも及ばない。

「おい、死ぬのか」

京楽の傷を見るが、もう手当てのしようがなかった。

「・・・ああ、僕夢を見てるんだね。最後にこんな美人に看取られるなんて」

「死ぬのか・・・暇だし、血族にならないか。最近起き出しただが、本当に暇なんだ。人の世界に行くのも面倒だし、眷属が欲しい。俺の血族になれ」

「いいよ。生きれるなら、なんにでもなってやる」

生き延びたら、あの第二王子を・・・国王を、殺してやろう。

浮竹は牙で自分の指を噛んだ。

ぽたぽたと滴る血を、京楽に飲ませる。

京楽はそれを嚥下した。


ざわり。

全身の血液が沸騰する。

失われた右腕が再生していき、内臓の傷も癒えた。

同時に、激しい渇きを覚えた。

「うあ・・・・・・」

「血が飲みたいのか。俺の血で我慢しろ」

差し出された右手に噛みついて、その血を啜った。

甘美な味だった。


---------------------------------



「ん・・・・・」

「気が付いたか」

大きな天蓋つきのベッドで眠っていた。

実家の、自分のベッドより大きくて立派だった。

「あ、ごめん。突然君の城にやってきて、血で汚してしまって・・・・・」

「いや、いい。お前はもう俺の眷属だ。名前は?」

「京楽春水」

「いい名だな。俺は浮竹十四郎。ヴァンパイアマスターだ。始祖のヴァパイアと、人は呼ぶ」

「始祖・・・!僕は、ヴァンパイアになってしまったのかい?」

「そうなるな。だが、俺に吸血したから、別に人を襲って吸血する必要はない。俺の血で、足りるはずだ」

差し出された白い右腕に、噛みついた跡があった。

「ずっと寝ていたので、再生力が落ちている」

「君は、人を襲うの?」

もしそうだとしたら、大変なことだ。ヴァンパイアになってしまった自分が言うのも変だが。

命の恩人が、人を襲って殺すなら、止めたかった。

「いや、人は襲わない。人工血液を口にしている。京楽も、喉が渇いたら俺の血か、人工血液を口にするといい」

ヴァンパイアはこの世界では、ひとつの帝国を築くほどに繁栄していた。

人間を襲うのは、もはや時代錯誤。

人工血液がつくられて、それは本物の人間の血よりも甘美で、ヴァンパイアのほとんどが人工血液を口にして暮らしていた。

人のように食事を楽しむ者も多かった。

それでも、時折人を襲って血を啜り、殺してしまうヴァンパイアがいるので、ヴァンパイアハンターは存在した。

「食事の用意をさせてある。俺の血で作り出した戦闘人形のシェフだが、味はいいはずだ。食べるだろう?」

最初に覚えた渇きはもうなかった。その代わり、お腹が減っていた。

普通の空腹だった。

「うん、いたただくよ」

出された料理はどれもおいしく、デザートまであった。

でも、食べて満足していくと同時に、渇きを覚えた。

「喉が渇くんだ。水を飲んでも乾いて乾いて、仕方ないんだ」

「俺の血を飲め。俺の血には少し中毒性があるからな」

「でも、君が傷つく」

「始祖だ。その気になれば治る」

浮竹は、白い長い髪を背中に流して、白い首筋から肩を見せた。

ごくり。

喉が鳴った。

「ごめん」

そう言いながら、浮竹の白い喉に噛みついて、吸血していた。

「んっ」

吸血鬼に血を吸われるのは、得も言われぬ快感を得る。

浮竹は、他のヴァンパイアに血を吸われることで、性的欲求を満たしていた。

「ああ、もっとだ」

「でも・・・・」

「人工血液を飲むから、平気だ。もっと吸ってくれ」

きもちがいいからとは、言えなかった。

しばらく京楽に血を与えてから、京楽も浮竹も満足して、離れていった。

「俺は人工血液を飲んでくる。お前はどうする?」

「俺は、復讐に・・・・誰に?誰に、何を復讐するんだろう」

京楽が眠っている間に、京楽の記憶を覗きこんだ浮竹は、京楽の記憶から国王のことを消していた。

京楽が、自分の元を去らないように。

もう700年ぶり以来の、血族だ。

孤独はいやだ。

戦闘人形は家事やヴァンパイアハンターの駆除をしてくれるが、感情がない。だからといって、ヴァンパイアハンターを血族にすることはしない。

何より、ほとんど眠って過ごしていたせいで、そのヴァンパイアハンターとさえ会わなかった。

起きていると孤独でむなしいので、眠ることを選んだ。

浮竹の年齢は若いまま止まっていた。

ヴァンパイアにされた者は、その年齢から年をとらない。

京楽もまた、年をとらないだろう。

浮竹は、人工血液を口にして、失ってしまった血液を作り出して、補給をすませてから京楽の元に行った。

「何かしたいことは、見つかったか?」

「いや、特には・・・・・」

「じゃあ、ずっとこの古城に住まうといい。俺の傍で、俺の血族として」

「・・・・・・うん」

京楽は、何か大切なことを忘れている気がしたが、浮竹の傍にいた。


-----------------------------------------------------------------


10年が経過した。

京楽は浮竹の血族として、浮竹の隣にいた。

いつの間にか、恋人同士になっていた。

先に求めたのは浮竹なのか京楽なのか、今となっては分からなかった。

「あ!」

京楽のものがずるりと中に入ってきて、浮竹は背を仰け反らせた。

「やぁっ」

前立腺をすりあげられ、最奥を突かれながら、京楽は浮竹の首筋に噛みついて、吸血した。

その快感はすさまじく、セックスと同時の吸血に、頭がおかしくなりそうだった。

「あ、あ、いくから、いくからもう、やめっ・・・・・」

ずちゅりと奥の結腸を突かれて、浮竹は射精していた。

「ああああーーー!!!」

京楽も、浮竹の中にドクドクと精液を注ぎ込んだ。

京楽は、音をたてて浮竹の血を飲んだ。

はぁはぁと、荒い息を浮竹も京楽もついた。

「僕たち体の相性はいいよね」

「中で出したな。あれほど、中で出すなと・・・・・」

「ごめん。お風呂いこうか」

「人工血液を飲んでからにする。京楽に、血を吸われたから少し血が足りない」

浮竹は、飲んだ分の人工血液を、自分の血液に変換できた。

京楽は喉の渇きを訴えると、浮竹から血をもらった。

人工血液を口にしたことはあるが、血の味がして受け付けなかった。

人工血液で失った血液を補った浮竹は、京楽と一緒に風呂に入った。古城の風呂は広く、浮竹の血液から生まれた戦闘人形たちが、メイドとして二人の面倒を見てくれた。

「何か、大切なことを忘れてる気がするんだ・・・・」

「気のせいだろう」

「僕は、なんで君の血族になったんだろう。確か、森で死にかけてたのをたまたま見つけてだよね?」

「あ、ああ」

京楽の記憶を操作してしまったなど、今更言えなかった。


--------------------------------------------------


ある日、古城にヴァンパイアハンターがやってきた。

浮竹は、一撃で殺してしまった。

右腕をもがれたヴァンパイアハンターは、何も言わない屍となった。

「あ・・・・・・」

もがれた右腕。

失った右腕。

モンスターに食われた。奴隷だった。元は貴族だった。

両親を殺された。

憎い国王。

「思い、出した・・・・浮竹!」

「なんだ、京楽」

「君、僕の記憶をいじったね?僕は、この古城に死ににきたんだ。失血死するしかなくって、この城で息絶えようとしていたのを、君が血族にした。
僕は伯爵家の次男で、両親を王国の国王に殺された。その復讐をしようとして、奴隷に落とされた。僕は森で迷って死にかけていたんじゃない。
隣国に売られるはずだった元貴族の奴隷を乗せた馬車が、モンスターに襲われて、僕は右腕を食われて・・・・・」

「京楽、すまない。お前の記憶をいじったのは俺だ。何をすれば、許してくれる?」

浮竹は、素直に頭を下げた。土下座しそうな勢いに、京楽が浮竹を抱きしめた。

「分かってるよ。僕に、どこにもいってほしくなかったんだね。愛してるよ、浮竹」

「京楽・・・・・俺は、ずっと孤独だった。だから眠っていた。でも、お前が血族になってくれて生きるのが、起きているのが楽しくて・・・・」

「うん、全部分かってるから。ヴァンパイアになって、孤独がどれだけ怖いのかが少し分かった気がする。七百年も一人だと、孤独で眠ることしかなかったんだよね」

「京楽・・・・・・」

「君は、僕のことを愛していない?」

「いや、愛してる。愛してもいない、しかも同じ男に体を許すほど、安くはできていない」

「それだけ、十分だよ」

浮竹が、京楽を血族にしたのは気まぐれだった。

でも、それは必然となった。

京楽は、怒らなかった。

京楽の優しさに包まれて、浮竹はまどろんでいるような錯覚を覚えた。


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浮竹の血族になって、百年が過ぎようとしていた。

古城の外に出ることはあまりない。

時折、ヴァンパイアハンターがくるが、浮竹の戦闘人形が殺してしまった。

「たまには、外に出たいな・・・・・」

「隣町にでも行ってみるか?」

「いいのかい?」

「俺は始祖だ。太陽の下でも活動できる。その血族で眷属であるお前も、昼に出歩いても平気なはすだ」

念のためにと、黒いフード付きのマントを羽織って、太陽が一番高く出る時間に人間の世界に交じった。

「わぁ、変わらないなぁ。王都ほどじゃないけど、この町も賑わってるね」

「隣国が近いからな。貿易の中継都市だ。昔からこの町は賑わっている。それこそ、数百年前から・・・・・・」

最後に血族にした少女は、八百年ほど前に、浮竹のことを喜ばせたいから、珍しいものを買ってくるといってこの町に出かけて、ヴァンパイアハンターに殺されてしまった。

どくりと、鼓動が高鳴る。

ヴァンパイアハンターが襲ってきたら、有無を言わず浮竹は殺すだろう。

ヴァンパイアハンターもバカではない。何度も返り討ちにしてくるような強力なヴァンパイアが、無害であるのなら放置するにこしたことはない。

あの少女は、殺しはしなかったが、当時は人工血液がなくて、人を襲って血を飲んでいた。その血を、浮竹が少女を介して啜ることで、浮竹は生きていた。

今思えば、残酷なことを代わりにさせていたんだと思う。

でも、今隣にいる京楽は違う。

浮竹の血を啜ることで、生きている。

始祖の血は力そのもの。他に食事もするが、始祖の血だけで完成されたヴァパイアは普通のヴァンパイアではなく、ヴァンパイアロードになれる。

京楽は、ヴァンパイアロードにすでになっていた。

瞳の色は真紅に変わり、浮竹の瞳も、いつもは穏やかな翡翠色だが、真紅にもなった。

「京楽、日が沈む。夜はヴァンパイアの時間だ。それを狩るヴァンパイアハンターと。帰ろう」

3日分ほどの食料を買い込んで、その日は古城に戻った。

食料品は、基本戦闘人形が買いに町までいく。

自分たちで選んで買うのは初めてで、なんだか気分が高揚して、二人ははじめて料理というものに挑戦してみた。

結果、焦げたすごい匂いの謎な物体ができあがった。

「食べれるのかな、これ」

「案外、見た目よりいけるかもしれないぞ。俺は毒無効はもってないから、お前が食え」

京楽は、ステータスに毒無効があった。

なので、生贄のように。

食べてみた。

「苦い。しょっぱい。とても食べれたもんじゃないね」

結局、その日の夕食もまた、戦闘人形のシェフに作ってもらった。


その日の夜、浮竹と京楽は同じベッドで眠った。

「ん・・・・どうしたの、浮竹。眠れない?」

「なんか、むしょうにむらむらしてきた」

「って、わぁ!服脱がさないでよ!」

「血を、吸ってくれ。今夜は、それだけでいい」

「僕は、それだけじゃあ満足できないよ。君を抱くけど、いいかい?」

「好きにしろ」


始祖ヴァンパイアは、性欲があまりなかったのだが、京楽を血族して交わるようになってから、性欲が強くなった。

血を吸われるのが好きだった。

そのえもいわれぬ快感が。

ヴァンパイアマスターであり、始祖であるのに、血族の眷属に血を吸われて、抱かれてイッてしまうなど、人間から見たら異常だろう。

京楽は、浮竹の血族であると同時に眷属である。

その気になった浮竹には、逆らえない。でも、浮竹は京楽を自由にさせていた。京楽は浮竹が好きなので、一緒にこの古城に住み続けている。

両親の敵であった国王など、とっくの昔に王位を狙う簒奪者の手によって毒殺されてしまっていた。

もう、人の世界に戻りたいとは思わない。唯一血を分けた兄にさえ、会いにいってなかったのだ。

今はもう、領地は孫かひ孫が継いでいるだろう。

「浮竹、僕はずっとそばにいるからね」

「あう!」

浮竹の胎の奥に子種を注ぎながら、京楽は浮竹のものを握り込む。

「やぁっ、いかせてぇっ」

浮竹に噛みついて吸血しながら、京楽は浮竹のものから手を放した。

「あああ!!!」

吸血されながら、射精していた。

快感の上の快感に、浮竹が泣く。

「あああ、あ、あ・・・・・・・」

始祖のヴァンパイアというが、かわいいものだ。

京楽の下で乱れ、喘ぎ、吸血されて。

美しい顔と体のまま、浮竹は京楽に汚されて、それでも美しく居続けるのだった。


これからも、京楽は浮竹の傍で生きていくだろう。浮竹も、眠りにつくことはせずに、生き続けるだろう。

浮竹の始祖の血をたっぷり吸い続けてきた京楽は、ヴァンパイアロードの力をさらに上回っていた。

血の帝国。

いつか、ヴァンパイアだけの国に行ってみたいと思いながら、二人のヴァンパイアは古城で静かに生活をするのだった。

ただし、ヴァンパイアハンターがきたら殺した。

血の帝国から、手紙がきていた。

血の帝国の女帝、ブラッディ・ネイ。

浮竹の、実の妹。



つづく・・・・・・・かもしれない。

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ケーキバース京浮

世界には、ケーキ、フォーク、その他の人間が存在する。

ケーキは自分がケーキであることに気づかない。

反対に、フォークは味覚が通常なく、ケーキを甘くかんじて捕食行動をとる。時に本当に食べてしまうので、予備殺人者とまでいわれている。

フォークにとって、ケーキのもたらす味は病みつきになるもので、ケーキは個体によってその味が変わった。


そんな世界で、浮竹はケーキで、京楽はフォークだった。

浮竹は自分がケーキであることを知らない。

京楽は、院生時代には味を感じれたのに、隊長になってから味が分からなくなった。フォークになったのだと気づいた頃には、ケーキである浮竹を捕食して、食べてしまいたいという衝動に駆られた。

本当に、その血肉を喰らってしまいたかった。

それでは、まるで虚ではないか。

虚と大差ないと気づき、京楽は自分を恥じた。

そんな京楽は、勇気を出して浮竹に告白した。

「君のことが好きなんだ、院生時代からずっと好きだった。僕と恋人になって!」

振られると分かってはいたが、フォークの衝動が収まらず、せめて恋人同士になってキスだけでも・・・・。

そう考えていたが、浮竹はあっさりと、付き合うことを了承した。

「いいぞ。お前が俺のこと好きなのは気づいてたし、俺も結構お前のこと、気に入ってるから」

「まじで、いいの?」

「ああ、まじでいいぞ」

そんな押し問答を繰り返して、京楽と浮竹、フォークとケーキは付き合うことになった。


「ん・・・・・」

手を舐められた。

何処かれ構わず、京楽は浮竹の手を舐めた。

それがフォークとしての行動であると、浮竹も理解していたが、恥ずかしかった。

「ああ、君は甘いね。チョコレートの味がする」

そう言いながら、京楽は浮竹の手を舐めた。

隊首会でも舐めていたので、山本総隊長に怒られて、火を放たれてあちちちと、逃げ回っていた。


「ねぇ、キスしていい?」

「いいぞ」

「僕のキス、しつこいかもよ?それでもいいの?」

「あんまりしつこかったら殴るから、それでもいいならOKだ」

京楽は、そっと浮竹に口づけた。

唇を舐めると、浮竹は唇を開いた。

ぬめっとした京楽の舌が入ってくる。

手を舐める以上に甘く感じて、京楽はその味にうっとりとなって、しつこく浮竹とキスをしまくった。

浮竹の唾液を何度もすすった。

「あ、も・・・・しつこい!」

ばきっ。

頭を殴られて、京楽は涙目になっていたが、嬉しそうだった。

「君の唾液、甘くておいしい。皮膚だけじゃないんだね。どこを舐めても甘いし、君のあそこの体液も甘いのかな?」

京楽は率直だった。その隠さない問いに、浮竹は赤くなって京楽の頭を再び殴っていた。


それからというもの、京楽はお腹がすくたびに、浮竹にキスをして、その唾液の甘さを味わってから、食事をした。

隊首会でもキスをしていて、いくら隠していなかったとはいえ、山じいの前でのキスは、流石の山じいも固まっていた。その後、京楽を黒こげになるまで炎で燃やしていたが。

13番隊の食堂で、浮竹は飯を食べているところに、京楽がやってきて、ものを食べているにも関わらず、京楽がキスしてきた。

「お前、時と場所をわきまえろ!」

浮竹に怒られても、京楽はへらりと笑うだけだった。

「だって、僕フォークだもの。食事の味が分からないんだ。君は甘い。甘い甘い、チョコレートの味だよ」

京楽の行為で、自分がケーキであると知った浮竹であったが、このまま流されていいのかと思った。


付き合って、毎日何度もキスをした。

付き合い初めて、半年が経とうとしていた。

京楽は相変わらずキスが好きで、お腹が減ると雨乾堂にきては、浮竹に濃厚なキスをかまして去っていった。

「なぁ、京楽、お前はキスだけでいいのか?」

「え、食べてもいいの?」

「どういう意味の食べるだ」

フォークの食べる=人を食べるというイメージがぬぐえないので、浮竹は心配になった。

「君とチョメチョメすること」

率直に言ってきたので、浮竹は飲んでいたお茶を噴き出していた。

「もっと、オブラートに言えないうのか?」

「じゃあ、君とセックスすること」

「同じだ、ばか!」

浮竹は真っ赤になっていた。

「その、お前はこの半年キスばかりで・・・フォークだし、味が分かるのは俺の体だけで・・。甘いから、その味が欲しいだけで、俺と付き合っているのかと、思ってしまった」

京楽は首を横に振った。

「確かに、僕はフォークで毎日君にキスして、甘い味を堪能しているけど、ちゃんと恋愛感情ももっているよ。好きだよ、浮竹」

「んっ」

啄むようなキスをされて、浮竹は京楽の背中に手を回した。

「俺も、お前が好きだ、京楽」

「じゃあ、ちょめちょめしちゃおっか」

雨乾堂にいた。

他に人はいないし、人払いをしている。

おまけに、なんと都合のいいことに、夜になろうとしていた。

「君とちょめちょめしたい。ちょっと、瞬歩でローションもってくる!」

そう言って、京楽は風のように過ぎ去ってしまったかと思うと、すぐに戻ってきた。

にまにまと、笑んでいた。

「いつか、君とちょめちょめするために・・・・・」

「普通に、抱くといえ」

「ああ、うん。君を抱くために、現世の通販グッズで買ったんだ。ローションっていって、同性同士とかでも使うやつらしい」

「ああもう、恥ずかしいやつだな!」

浮竹は、京楽を押し倒していた。

「浮竹?」

「我慢していたのは、お前だけじゃない。俺も、我慢していたんだ」

京楽の死覇装を脱がせて、京楽のものを口に含む。

「あ、僕もする」

「え」

京楽は、あっという間に浮竹の服を脱がしてしまうと、浮竹のものを口に含み、舐めあげた。

「んっ」

「ああ、君はここも甘い。体液も甘いんだろうね」

舐めあげて、扱いていくと、先走りの蜜がでてきた。

それを舐めとって、口の中でよく味わった。

「おいしい」

「やっ」

京楽に奉仕しようとしていたのが、逆に奉仕されて、浮竹は京楽にされるがままになっていた。

「君の精液が飲みたい」

「お前・・・もう少し、オブラートに・・・んんっ」

鈴口に爪をたてられて、浮竹は射精していた。

それを、京楽が舐めとっていく。

「濃厚だね。生チョコの味がする」

「ばか!」

「甘い。浮竹、このまま続けけてもいい?」

「ん・・・ちょ、お前のソレ、でかすぎないか?」

本当に、あんなものが体に入るのだろうか。

男として立派すぎるものに、浮竹が恐怖感を覚えた。

「怖い?」

「怖い」

「じゃあ、今日はいれないで済ませよう」

「抜きあいっこか?」

「ううん、素股で」

「すまた?」

「浮竹、きゅって足閉じて」

浮竹は、言われるがままに足を閉じた。

「そうそう。その、閉じた間に僕のもの出し入れするから」

京楽は自分のものにローションをかけて、滑りをよくすると、閉じた浮竹の太ももの間を出入りさせた。

「あ、あ、なんか、変なかんじだ」

「ごめん、僕だけ気持ちよくなってる・・・・後で、君もいかせるから」

「んっ」

素股をしながら、京楽は浮竹のものを触った。

少しいじりながら、京楽は布団のシーツの上にぱたたたと、精液を零していた。

「次は、浮竹の番だね。素股する?」

「いや、俺はいい・・・・」

「じゃあ、僕が口でしてあげる。浮竹の体液は甘いから、飲みたい」

京楽は、浮竹のものにしゃぶりついた。

「あああ!」

先走りの蜜も、精液も、全てを味わって、京楽はおいしいおいしいと、もっともっととせがむ。

「ああ、や、もう無理っ」

出すものがなくなっても、京楽は浮竹のものを口に含んでいた。

「もう限界かぁ。美味しかったよ、ありがとう」

「体中がべたべたする・・・・・」

交わったわけではなかったので、疲労感はあったが、意識はちゃんとしていた。

「お風呂入ろ。ローションぬるぬるして気持ち悪いでしょ」

「一緒に入るのか?」

「雨乾堂の風呂なら、一緒に入れる大きさでしょ?」

「何故知っている」

「こんな日のために、事前調査を」

ばきっ。

浮竹は、京楽の頭を殴った。

「なんで殴るの。僕のおつむがパーになったらどうするのさ」

「お前はもとからくるくるパーだ。俺の唾液が欲しければ、俺の体を洗え」

「君の体液をもらえるなら、できることならなんでもするよ」

京楽は、石鹸を泡立てたタオルで、浮竹の体を洗ってあげて、シャンプーで髪を洗ってあげた。

「ご褒美の、キスちょうだい」

「んっ」

舌と舌を絡め合わせた。

京楽は、浮竹から唾液を奪い、それを美味しそうに嚥下した。

「ああ、甘い。やっぱり、君が一番だ。昔、他のケーキとキスしたことあるけど、あんまり甘くなかった。やっぱり、愛があれば甘くなるんだね」

「そうなのか?」

「いや、知らないけど」

京楽は、フォークだが人の血肉を口にする他のフォークとは違う。

そんな京楽が愛しくて、浮竹は毎日キスを、更に今まで以上にねだってくる京楽に、唾液を分け与えるのだった。







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