卯ノ花と浮竹と京楽3
そんな卯ノ花は、阿修羅の顔ももっている。
にこにこと穏やかな笑みを浮かべながら、病室を抜け出して甘味屋にいくような患者・・・浮竹を簀巻きにしたりする。
京楽の血が珍しいからと、しおしおになるまで献血したりする。
ちなみに、注射の腕は下手だ。
何度もブスブスと刺されるが、回道で癒すので問題はないと思っているようだった。
「卯ノ花隊長、この薬苦すぎるんだ。どうにかならないか」
数日前、肺の病で血を吐いて、入院することになってしまった浮竹は、大分回復して卯ノ花にどどめ色の粉薬を見せた。
「これは、とても効能があるのです。良薬口に苦しというでしょう。諦めて飲んでください」
「そんなぁ」
卯ノ花に飲めと言われたら、飲むしかない。
救護詰所のボスである卯ノ花に逆らえる者はいない。
「この簀巻き、いい加減解いてくれないだろうか」
昨日黙って病室を抜け出し、弁当屋で弁当を頼んでそれを昼食にした件で、勝手に病室から抜け出さないようにと簀巻きにされた。
食事と風呂とトイレの時は自由になるが、その時間以外は簀巻きでベッドの上で放置プレイである。
ただでさえ暇なのに、救護詰所内を散歩もできないし、ずっとベッドの上はきつかった。
「浮竹、見舞いにきたよ~」
「ああ、いいところにきましたね京楽隊長。献血でも・・・・・・」
「急用を思い出したので、帰るね!」
瞬歩で去ろうとする京楽を、がしっと卯ノ花が阻んだ。
「献血、しましょうね?」
「ひいいい」
「京楽、俺の分まで血を抜かれてこい」
「浮竹、そりゃないよ」
「まぁ、冗談はこのくらいにして」
え、冗談だったの?
二人して、目を瞬かせた。
「浮竹隊長は簀巻きから解放します。ですが、くれぐれも許可なく病室を抜け出したりしないように。救護詰所を許可なく出て行ったら・・・どうなるか・・・・わかりますね?」
にこにこにここ。
注射器を片手に、卯ノ花は微笑んだ。
ひいいいい。
浮竹だけでなく、京楽も青ざめた。
「新しい毒に対する血清が完成しまして、それのテストがまだなので・・・・」
ひいいいいいいい。
毒打たれる!
血清打たれても、そういう毒は絶対猛烈に痛かったりするのだ。
浮竹は簀巻きから解放されて、卯ノ花は病室を去っていた。
「浮竹、大丈夫かい?」
「ん、ああ。相変らず4番隊の飯は味がしないので、昼飯を許可なく抜け出して弁当買ってきて食べたら、簀巻きでベッドに放置プレイされた」
「せめて許可はとろうよ」
「飯の味がしないからという理由では、許可が下りないんだよな、俺の場合」
他の患者は救護詰所の飯に文句をいったりしないので、浮竹が悪い、ということになる。
「君の好きな桃をもってきたんだ。むいてあげるから、食べるでしょ?」
「ああ」
浮竹は、京楽に桃をむいてもらい、一口サイズにカットされたのを食べながら、小首を傾げた。
「それにしても、卯ノ花隊長は恐ろしい」
「うん」
「優しくて綺麗だけど・・・・山姥(やまんば)みたいだよなぁ。悪鬼ともいうべきか。菩薩の顔の裏に阿修羅を隠してる」
「浮竹、めったなこと言うもんじゃないよ!卯ノ花隊長に聞かれたら殺されるよ!ほら、話をすれば卯ノ花隊長が」
「ひいっ」
「あはははは、冗談だよ」
からからと笑う浮竹の頭を拳で殴って、浮竹はベッドに横になった。
「明日には退院できると思う」
「そう。よかった」
叩かれた頭をなでながら、京楽が微笑む。
お見舞いの桃の他にあったおはぎを食べながら、京楽と浮竹は他愛ない会話をした。それから、口づけを交わし合い、互いを抱擁する。
「浮竹隊長、京楽隊長」
音もたてずに現れた卯ノ花に、二人は真っ青になった。
「こここここ、これは別になんでもないぞ!」
浮竹は、京楽を突き飛ばして、ぶんぶんと首を振っていた。
「病室でいちゃつくのは、ほどほどにしてくださいね?」
にーっこりと、卯ノ花は微笑む。
手術を終わらせてきたのか、血の匂いがかすかにした。
「京楽隊長は、とても元気そうですね。献血しましょうか」
ずるずると、卯ノ花に引っ張られていく京楽。
「助けて~浮竹~~~」
「なむ」
「誰か~~助けて~~~~」
助ける者など誰もいないと分かっていても、京楽は助けを求めた。
献血のためと、10回以上も注射器を刺されて、なかなか血管が浮き出てきませんねぇと、回道をかけながら、卯ノ花は笑う。
「浮竹のばか~~~~」
卯ノ花に文句は言えなくて、助けてくれなかった浮竹に文句をたらす。
「京楽のあほおお。京楽が浮竹浮竹うるさいから、俺まで献血に!」
隣のベッドにやってきた浮竹は、副隊長の虎徹に献血のための針をさされた。
「お、うまいな、虎徹副隊長」
「いえ、普通ですよ」
「僕なんて・・・・・」
もう10回以上針を刺されている。それでやっと血管を見つけて、卯ノ花は献血を開始した。
二人して、ちゅーっと血を抜かれていく。
しおしおになるまで。
「はい、献血してくださったご褒美です」
卯ノ花に野菜ジュースを渡されて、それを飲みながら、二人はふらふらと休憩室にかけこんだ。
「絶対、抜く血の量多すぎるよな」
「そうだね。しおしおだ」
野菜ジュースは、おいしくなかった。
「浮竹、なるべく入院しないでね」
「そうしたいが、体がなぁ」
卯ノ花が怖いからとは、二人とも言えない。
だって、背後に卯ノ花がいたのだ。
気づいた時には背後にいて、心臓が止まるかと思った。
「京楽隊長、また献血にきてくださいね。京楽隊長の血は珍しいので、いつでも不足気味なのです。浮竹隊長は、体を大切にしてくださいね。最近寒いので、風邪にも気をつけてください」
にこりと微笑んで、卯ノ花は去っていく。
「こ、怖かったー」
「僕、心臓一瞬止まったよ」
卯ノ花烈。
彼女が、初代剣八であることを、二人はまだ知らない。
長く戦うためだけに、回道を身につけたことも。
それが今や、瀞霊廷で癒し手として欠かせない存在となっていた。
浮竹の一日
「嫌だ!後2時間寝る!」
「浮竹隊長!」
「あと2時間!」
「もう仕事開始の時間ですよ!起きてください!」
「寝るーー」
浮竹は、たまにねぎたない。
海燕に布団を引っぺがされて、毛布だけをなんとか死守してまだ半分眠りの中にいた。
「ええい、いい加減にしてください!」
何処から取り出したのか、ハリセンでスパンと浮竹の頭を勢いよくはたいて、海燕は浮竹から毛布を奪った。
「寒い!死ぬ!風邪をひく!」
「ほら、起きて顔洗って歯を磨いて、朝食食べてください」
海燕の上官である浮竹は、たまに手がかかる。
海燕は、まるで自分が浮竹の母親になったような錯覚を覚えた。
「んー・・・・・・」
「ほら、食べたまま寝ない!」
「ふにゅ・・・・・・」
スパーン。
ハリセンが飛ぶと、浮竹も目を開けて、食事をつづけた。
昔はスリッパだったが、勢いが足りずにハリセンになった。
「やあ、おはよう浮竹。一緒に仕事しよ・・・・って、まだ朝食とってるのかい」
「京楽隊長!京楽隊長も、浮竹隊長に言ってやってくださいよ。この人、放っておくと昼まで寝るんですよ!」
「いっぱい寝て元気が出るならいいじゃない。病気で臥せっているよりもまだましじゃない」
「そりゃそうですけど、いい大人が一人で決まった時間に起きれないなんて、恥ずかしいです」
海燕にとって、浮竹は大切な上官だ。
その世話を焼くのが嫌なわけではないのだが、冬になると冬眠したように長く眠る浮竹が、心配だった。
「一度、卯ノ花隊長に相談したほうが・・・・・」
海燕がそういうと、浮竹は飛び上がった。
「海燕、卯ノ花隊長だけはやめてくれ!明日からきちんと起きるから!」
入院している時、何度怖い目を見たのか数えきれない。
浮竹にとって、卯ノ花隊長は病を癒してくれる大切な友人でもあるが、同時に天敵でもあった。
「ははーん、浮竹、卯ノ花隊長が怖いんだね。まぁ、僕も怖いけどね。この前の献血、僕の血は珍しいってしおしおになるまでとられたからね」
「そうだろう。卯の花隊長は、菩薩だが同時に阿修羅だ」
散々な言われようだった。
その頃、卯ノ花隊長は4番隊の宿舎でくしゃみをしていた。
「誰かが、噂してるのかしら」
「約束ですよ。明日から、きちんと時間通り、8時には起きてくださいね」
ちなみに、死神の仕事の始まりの時間は9時である。
7時には起きていて欲しいが、冬は何故か睡眠の長い浮竹のために、8時に起きることを条件にした。
1時間もあれば、身支度はできるだろう。
京楽はというと、身支度を整えた浮竹の隣で、黒檀の机にもってきた仕事を広げて、少しでも浮竹と一緒にいたいので、一緒に仕事をしていた。
京楽の副官である伊勢は、まだ副官になったばかりだったが、京楽が仕事をためまくって、雨乾堂にくるのを耳を引っ張って連れて帰ることが何度もあったので、浮竹の元に行っていても、仕事をもっていって自分でやってくれるなら、それでいいかという思考の持ち主であった。
浮竹と京楽は、自分たちの関係をあまり隠していない。
尸魂界でもオシドリ夫婦として有名だ。
二人は、一緒に昼飯をとり、午後も仕事をして、仕事が終わると二人でどこかに出かけたりして、夕飯の時間には帰ってくる。
京楽の分まで夕食を用意しないといけないのが面倒だったが、浮竹が喜ぶのであれば、それもやぶさかではない。
京楽は、浮竹の調子が良い時はよく雨乾堂に泊まった。
仕事に忙殺される時などは、自分の館に泊まることもあったが、その時は逆に浮竹のほうが京楽の8番隊に顔を出すのだった。
浮竹も、自分の館をもってはいるが、主に雨乾堂で生活している。
館は他の席官にかしており、浮竹には帰る場所というと雨乾堂なのだ。
そして、それは京楽にとっても同じようなものになっていた。
二人はとにかく距離が近い。
そのくせ喧嘩をして、顔を見合わせなくなると、海燕や伊勢が心配しまくるのだ。
「海燕、風呂入ってくるー」
「僕もー」
お前は一人で入れと、京楽に突っ込みを入れたいが、二人は本当に仲がいい。
雨乾堂の風呂は少し広く作られており、成人男性二人が湯船に浸かっても、少し狭いかなというかんじのところだ。
「今日は泊まるねー」
「今日も、でしょうが」
海燕がハリセンで京楽の頭をスパンと殴ると、京楽は浮竹の分まで布団をしいた。
ああ、やっと帰れる。
海燕は新婚だが、浮竹の面倒を見ていることが多くて、帰る時間が遅い時がある。
「俺は帰りますよ。くれぐれも、無茶はしないでくださいね」
海燕が雨乾堂を後にすると、京楽と浮竹はゴロゴロ布団の上で転がった。
互いの体を貪りあうこともあるが、基本は京楽は泊まるだけだ。
浮竹に無理をさせすぎると、熱を出してしまうので、加減の仕方も心得ている。
「あー、憂鬱だなぁ。8時に起きなきゃいけないなんて」
「僕はいつも6時半には起きてるけどね」
「6時半なんてまだ夢の中だ」
京楽は、6時半には起きて、一度8番隊の隊舎に戻る。
そして9時になると、その日の仕事を手に、また雨乾堂にやってくる。
「もう9時だ。寝るぞ」
「まだ9時だよ」
「いい子は寝る時間なんだ」
「僕ら、いい子じゃないでしょ。ねぇ・・」
「知らん。今日はしない。寝る」
「けち」
「知るか」
消灯。
翌日、京楽はいなくなっていて、海燕にハリセンで頭をはたかれて8時に起きた。
「うー。寒い眠い死ぬ」
昨日と同じような台詞を吐きながら、浮竹は着替えて歯を磨いて顔を洗って朝食を食べた。
9時前には、仕事の準備ができていて、海燕は手のかかる子供がようやく少しだけ成長した気分になった。
ふと、地獄蝶が飛んできた。
「ん?」
メッセージは、今日は一緒に仕事ができないという、京楽からの私的なメッセージであった。
「また仕事がたまったのかな」
京楽がもってくる仕事の量は、そう多くない。仕事がたまりすぎて、きっと伊勢あたりに外出禁止令でも出されているのだろう。
「ああ、隊長、実は今日様子を見に卯ノ花隊長が・・・・」
「ひいい」
卯ノ花が来ると知って、浮竹はガクガクと震え出した。
「冷静に、冷静に・・・・・」
「あ、きました」
「こんにちは、浮竹隊長。お体の具合はどうですか?」
やってきた温和な笑みを浮かべた卯ノ花隊長に、浮竹はにこにことつくり笑いを浮かべて、対応する。
「体のほうは大丈夫だ。ここ1カ月発作もないし、微熱を出したのが2日あったくらいで」
「そうですか。それはよかったですね。くれぐれも、無茶はしないように」
「卯ノ花隊長、浮竹隊長が朝なかなか起きてくれないんです。何か策はありませんか?」
海燕が、余計なことを聞いてくるので、浮竹は海燕の脇腹を蹴った。
「いてっ・・・ったく」
「朝ちゃんと起きれるような薬を、煎じておきましょう。飲めば、きっかり朝に起きます」
「それはいいですね!ぜひその薬をください!」
「やめろおおお、海燕、俺を殺す気か!」
「おや、浮竹隊長は、私の薬で死ぬとでも?」
「いいえ、めっそうもない。大丈夫。薬なんてなくても、自力で起きれる」
顔が青くなっていた。
「お顔の色が悪いですね。どこが悪いところでも?」
あんたのせいだーーー!!!
浮竹は、心の中でそう叫んだ。
海燕のバカヤロー!
後で、海燕のハリセンで海燕をはたいてやろうと思う、浮竹だった。
浮竹の一日は、そんなかんじで朝からはじまるのだった。
説教
「いいじゃない」
「やっ」
「ほら、もっと奥まで入るよ」
「やぁっ」
雨乾堂の中から、そんな声が聞こえてきて、海燕はハリセンを手に扉をあけた。
「昼間っから盛るな!」
「え?」
「へ?」
浮竹と京楽は、固まった。
京楽の太ももに頭を預けて、浮竹は耳かきをしてもらっていた。
「いや、ただの耳かきだよ」
「盛ってないぞ、海燕・・・・・あ、そこ、そこきもちいい」
京楽の手が動いて、浮竹の耳の奥に耳かき棒を入れる。
「ほんと、君は時折甘えてくるよねぇ」
「耳かきは、誰かにやってもらったほうが気持ちいいんだ」
海燕は、ハリセンを構えた。
バシバシッ。
京楽と浮竹の頭をはたく。
「いたっ、上官に向かって何するんだい!」
「海燕、どうしたんだ!」
「紛らわしいんだよ、あんたらは!昼から盛ってやってると思ってしまっただろうが!」
「やだー、海燕君のエッチー」
「卑猥だぞ、海燕」
たしなめてくる二人を、再度ハリセンでスパーンと叩いて。
「そういって、この前朝からやってたのはどこの誰でしょうね!浮竹隊長、京楽隊長」
「ど、どこの誰だろうねぇ、浮竹」
「ああ、どこの誰だろう」
冷や汗をかきながら、二人は海燕から距離をとる。
「どうせ、耳かきの後情事になだれ込むつもりだったんでしょう」
ぎくりと、二人が固まる。
「今日という今日は許しません。そこに正座してください!」
ハリセンでスパーンと二人の頭を叩いて、海燕は1時間以上も京楽と浮竹に説教をするのであった。
呼び声
「やだなあ、そんな縁起の悪いこと言わないでよ」
「本気なんだがなぁ」
「冗談にしては性質が悪いよ」
雨乾堂で、浮竹と京楽はおはぎを食べながら、そんなことを話していた。
ここ3カ月、浮竹は発作という発作も起こさず、熱をだしても微熱程度で健康状態は比較的良かった。
「天気もいいし、散歩にでもいかないかい?」
「ああ、いいな」
おはぎを食べ終わり、仕事も片付いて暇をもてあました浮竹は、了承した。
京楽はというと、また仕事を溜めこんでいるらしいが、あまりに溜まると七緒が問答無用で連れ去っていくので、今はまだセーフの状態なのだろう。
春の季節になっていた。
ぽかぽかした陽だまりがきもちよくて、二人はふらりと少し早い桜の咲く並木道を、二人並んで歩いていた。
「今年も満開だな」
「そうだね。今度、花見しようよ。山奥のいいところ知ってるんだ」
「ああ、いいな。弁当をつくってもらって、酒も用意して二人でばーっと騒ぐか」
「うん」
他愛ない会話を交わして、その日は別れた。
次の日、浮竹は肺の病を急激に悪化させて、血を大量に吐いて倒れた。
3席である小椿が、見つけた時にはすでに血を吐いた後で、意識を失っている浮竹をすぐ、4番隊の救護詰所に連れて行き、浮竹は集中治療室に運ばれた。
容体はかなり悪かった。
下手をすると命が危うい状態だった。
「浮竹・・・・・・」
集中治療室の外で、ガラスごしに京楽は、昨日まで屈託なく笑っていた浮竹の、柔らかな笑みを思い出す。
「花見・・・絶対に、行こうね」
浮竹は、一週間たっても、二週間たっても、目を覚まさまなった。
点滴の管が痛々しい。
まだ集中治療室にいるので、面会はできない。
京楽は、毎日ガラスごしに浮竹に会いにきていた。
「浮竹、桜の枝をもってきたよ」
ガラス越しに京楽は、浮竹に見せるかのように、見事な枝ぶりの桜をもってきていた。
集中治療室に飾ってもらった。
「ねぇ、浮竹。僕はもう何度も君の名を呼んでいるよ?なんで、君は起きてくれないの?僕を一人にしてしまうの?」
このまま浮竹が亡くなってしまうかと思うと、気が気ではない。
最近は仕事もままならない。
そんな日々を送っていると、浮竹の容体がよくなって、個室に移された。
「浮竹・・・・帰ってきて」
元々細いのに、点滴だけで栄養をとっていたので、また細くなってしまった浮竹の頬に手で触れる。
「帰ってきて、浮竹」
浮竹の返事はない。
「また、桜の枝もってきたよ」
もう、満開の季節を過ぎて散り気味の桜の枝だったが、殺風景な個室の病室に飾るには申し分ななかった。
「ねぇ、浮竹。帰ってきて」
浮竹の唇に唇を重ねる。
「きょうら・・・・く?」
ゆっくりと、翡翠色の瞳が開かれていく。
「浮竹!」
「苦しい・・・そんなに・・・・抱き着くな」
「浮竹、ああ、よかった。このまま君が死んでしまうんではないかと思った」
浮竹は、少し生気の戻った顔で弱弱しく微笑んだ。
「川を渡っていたんだ・・・・きっと、三途の川だ。亡くなった祖父が、俺を呼ぶんだ。でも、京楽の俺を呼ぶ声がずっと聞こえていて・・・・川を、渡らなかった」
「名前を呼んだら帰ってきてくれるって、本当だったんだね」
「心配をかけたな・・・・・」
浮竹は、実に三週間もの間、眠り続けていた。
京楽は、仕事を片付けて毎日浮竹に会いにいっていた。
「お前の声は、毎日届いていた」
「うん。毎日、呼んでいたから」
「ありがとう、京楽」
「卯ノ花隊長に、連絡しないと」
京楽は、卯ノ花隊長に浮竹の意識が回復したことを報告した。
浮竹の容体はかなり落ち着いて、一時期は命を危ぶまれたが、危機を脱して快方に向かっていた。
京楽は、浮竹が退院するまで毎日病室を訪れた。
「花見、今年はできなかったね」
「何、また来年すればいいさ」
「君が意識を失ったら、僕は君の名を呼び続けて傍にいるよ」
「仕事、放置するなよ」
「ちゃんと片付けてからきてるから、大丈夫」
退院した浮竹を抱き上げる。
「うわ!」
「体重、軽くなったね。美味しいものいっぱい食べて、体力つけようね」
「京楽、一人で歩ける」
「だめ。さっき少しふらついたでしょ」
「お前には、本当に何も隠せないな」
浮竹は肩をすくめて、京楽の首に手を回した。
「愛してる、春水」
「僕も愛してるよ、十四郎」
そのまま、京楽は瞬歩で浮竹を抱きかかえて、雨乾堂まで戻ってきた。
「うわー、仕事たまってるなぁ」
「仕事はまだしちゃだめだよ。ちゃんとご飯食べて睡眠とって、もっと元気になってからだよ」
「でも、仕事がどんどんたまるだろ」
「君のとこには優秀な3席が2名いるじゃないか」
3席の子椿と虎徹は、優秀だ。たまった仕事も、片付けるのを手伝ってくれるだろう。
ただでさえ、書類仕事を寝込んでいる時になど任せているのだ。
浮竹がいない間、多忙すぎて書類仕事にまで手を出せないでいたみたいだが、浮竹の復帰で声をかける前から書類仕事をこなしてくれているようだった。
「京楽・・・・もしもまた、俺が倒れたら、名を呼んでくれ。絶対に、帰ってくるから」
「何度でも呼ぶよ。愛しい君を。できるなら、もうそんなことにならないことを祈るよ」
浮竹は、京楽の呼び声で死の淵から帰ってきた。
浮竹は、これからも倒れることがあるだろう。
けれど、その度に京楽が名を呼んで、現実世界に帰ってくるように促すのだ。
それは、一種の魔法に似ていた。
浮竹は、酷い発作をおこしても、京楽がすぐ傍にいるとましになる。
京楽は、浮竹にとって一種の薬のようなものだった。
愛し愛され。
二人は、二人三脚で人生を歩んでいくのだった。
オメガバース京浮短編4
体が弱いし肺の病をもっているしで、問題はいっぱいあった。
だが、生まれつきものすごく高い霊圧を持っていて、浮竹の子は限りなく死神の頂点に君臨できると思った両親は、ある上流貴族との婚約を進めた。
婚約相手も、まだ子供だったが、高い霊圧をもっており、何よりアルファの上流貴族だ。
婚姻して番になり、子を産めば、浮竹も幸せになれると両親は思い込み、浮竹を上流貴族の妻にするために、女の子のように育てた。
だが、浮竹はそれとは反対のように、剣が好きで生粋の男の子として生きたがった。
いつも女装させられていた。
白くなった髪も、長く伸ばされてかわいくおさげにされていた。リボンをつけたり、女ものの着物を着せられても、性格はちゃんとした男だった。
「さぁ、紹介するよ。君の未来の妻の浮竹十四郎だ」
「十四郎?女の子なのに、男みたいな名前だね」
婚約相手の京楽春水の前で、ぷくーっと頬を膨らませて、美少女にしか見えない男の子の浮竹は、叫んだ。
「俺は男だ。オメガだが、お前の妻にはならない!番は、女性となる!」
「へ?男?」
「春水、知っているだろう。アルファとオメガは番になれる。オメガは男でも子を生せる。この十四郎は、すごい高い霊圧をもっている。君たちとの間に生まれた子供は、きっと例外なく死神となり、隊長になれる」
「俺は、京楽春水の妻になんてならない!ベータの女の子と結婚して、女の子に子供を産んでもらうんだ!」
「十四郎、君はオメガだ。アルファの子を生すのが仕事だ」
「知らない!ふん!」
浮竹は、怒って走り去ってしまった。
「僕の婚約者がオメガの男・・・・・。でもかわいい・・・・。うう・・・・・」
京楽は、別に子を生せればオメガの男でも仕方ないと思っていたが、想像していた以上に浮竹がかわいくて、頭から浮竹のぷくーっと頬を膨らませた顔が離れないでいた。
「落とす。僕の一生をかけて」
子供であるのに、すでに京楽はアルファとして、オメガの番になるであろう浮竹に好意を抱きまくっていた。
そうして、それぞれの家庭で育てられて、時折顔を見合わせあって。
10年が経とうとしていた。
浮竹は、美しい麗人に育っていた。長い白髪を背に流し、ベータの女の子と付き合っていた。
「浮竹は僕のものだよ」
浮竹の彼女に、京楽は脅しをいれて、浮竹を振らせた。
それを知ってしまった浮竹は、京楽の家に怒鳴り込んできた。
「京楽春水はいるか!」
「僕はここにいるよ」
にこにことした京楽の頬を、浮竹は思い切り叩いた。
「俺の彼女に、何を吹き込んだか知らないが、俺はお前と結婚する気はないからな!ベータの女の子と結婚して、幸せな家庭を築くんだ!」
「いいや、君は僕のものになる。僕の子を産んで、幸せな家庭を築くんだよ」
くすくすと笑う京楽に舌を出して、浮竹は走り去ってしまった。
そろそろ、ヒートがくる年齢にきていた。
浮竹にヒートがきたら、京楽が問答無用で抱いて、うなじを噛んで、番にするのだ。
でも、浮竹にはヒートがなかなか訪れなかった。
浮竹は、年頃になっていたので、京楽の家で京楽の妻としての生活を強いられた。
浮竹は、それを嫌そうにして、京楽と同じ屋根の下で暮らすのを嫌がり、離れに住んでいた。
「ねぇ、好きだよ、浮竹」
「俺はお前のことが大嫌いだ、京楽」
毎日、そんなことを言い合って、生活をしていた。
浮竹にヒートがくれば、すぐにでも落とせるのに。でも、浮竹にヒートはなかなかやってこない。
なので、京楽はヒートがきやすい薬を、隠れて浮竹の食事に混ぜた。
「あ・・・・・・」
ある日、京楽の家で母屋を訪れていた浮竹は、違和感を覚えた。
ヒートがこないのを理由に、京楽との婚姻を拒み続けていたが、本当にヒートになった。
「あ・・・助けて。誰か・・・誰か助けて。苦しい・・・」
「浮竹?」
「あ・・・来るな、京楽!俺は、ベータの女の子と結婚して、幸せな・・・ううう」
「つらいでしょ?今、楽にさせてあげるから」
オメガのフェロモンをもろにくらって、理性が飛びそうになるのを何とか我慢した。
京楽は、この日を待っていた。
待ちに待った浮竹のヒートに、気分が高揚する。
浮竹を風呂にいれてやり、それから寝所に抱きかかえて連れてきた。
「あ・・・嫌だ、嫌だ、オメガとして生きるなんて、嫌だ」
嫌がる浮竹の浴衣を脱がしていく。
「いや・・・・」
「好きだよ、浮竹。愛してる」
「俺は好きじゃない。愛してない。ああ、誰か助けて。俺はオメガとしてなんて、いやだ」
真っ白な肌に、京楽は夢中になった。
雪のような白い肌と髪に、翡翠の瞳をもつ浮竹。ずっとほしかった、番となるべきオメガ。
「痛くないようにするから」
「嫌だ・・・・・あああ」
首筋にキスマークを残されて、浮竹はヒートの熱にうなされながら、首を横に振った。
「こんなの・・・卑怯だ」
「卑怯でもいいよ。君を僕のものにできるなら」
浮竹の唇を奪う。
「んうっ」
ぬるりとした舌が入ってきて、浮竹は目を閉じた。
どんなに嫌がっても、しょせんはオメガ。アルファの支配には逆らえない。
「せめて・・・優しく、しろ」
「うん。優しくするから!」
やっと少し心を開いてくれた浮竹を貪るように、口づけを何度も交わした。
平らな胸をなめて、先端を口に含み、もう反対側をクニクニと指でつぶしていると、浮竹が熱に侵された瞳で見上げてきた。
「前戯なんていい・・・早く、来い」
「だめだよ。ちゃんと気持ちよくさせてあげたい。だから、僕は君を抱く」
「どうせ、突っ込むことに変わりはないだろうが」
「それでも、君に気持ちよくなってほしい。大好きだよ、浮竹」
京楽は、優しかった。
体の全体を愛撫して、浮竹の花茎を舐めあげて、浮竹は京楽の口の中に精を放ってしまっていた。
「あああ!」
快楽に、思考が麻痺する。
嫌だと、心は思うのに、体は貪欲に京楽に種付けされることを望んでいた。
「あ、あ、あ」
潤滑油に濡れた指が、つぷりと浮竹の体内に入ってくる。
そこは熱くて、締め付けがすごかった。
ここに、自分のものをいれるのだと考えただけで、鼻血がでそうだった。
浮竹の前をいじりながら、京楽は手探りで浮竹の前立腺を探した。指の一本が前立腺をかすめて、浮竹が反応する。
「あ!」
「ここ?」
「やぁっ」
「君のいいところ、見つけた」
浮竹の前立腺ばかりを刺激して、前もいじっていると、浮竹は熱で潤んだ瞳で京楽を見上げた。
「もう、いいから・・・子種を、くれ」
「浮竹・・・・・・」
「十四郎と呼べ。俺も、春水と呼ぶ」
蕾をとろとろになるまで解してから、京楽は浮竹の蕾に自身をあてがい、ゆっくりと侵入した。
「あ、あああ!」
ゆっくりと、引き裂かれていく。
潤滑油を大量に使ったおかげで、そこは切れることはなかった。
「ひあ」
とん、と奥をつくと、浮竹の反応が変わった。
「奥、いいの?」
「し、知らない」
一度ずるりと引き抜いて、前立腺をすりあげて奥まで侵入すると、浮竹は甘い声をあげた。
「んあああ!」
「十四郎、我慢しないで。声、出して」
「んあ・・・あ、あ、あ」
熱いうねる熱に包まれて、京楽も限界が近くなっていた。
浮竹のいい場所を突き上げて、こすり、抉った。
「あああ、あ、あ、春水」
「奥に出すよ。受け止めて、孕んでね」
「やっ」
ズッと、子宮口まで侵入してきたものは、浮竹の中で熱を弾けさせた。
最後の一滴までを浮竹の中に注いで、京楽は満足して抜き去ろうとするが、浮竹が締め付けて離さない。
「もう一回、する?」
最初は嫌がってはいたが、快楽の波に支配されて、浮竹は頷いていた。
もう一度、じっくりと交じりあって、そして京楽は浮竹のうなじをかんだ。
「あ!」
全身を支配するような感覚。
番になったのだと、お互い実感した。
「今日のsexで、多分子供がきでる。君は僕の妻になる。いいね?」
浮竹は、満たされてヒートの熱は一時的に引いたようで、不満を口にしながらも、了承してくれた。
「浮気、するなよ」
「しないよ。妻は君だけ。愛人とかも作らないし、花街にもいかない」
浮竹を抱くために、花街に数回いき、女を抱いた京楽であるが、本物の浮竹の方が何倍もきもちよかったし、愛しく感じた。
浮竹は、間もなくして妊娠した。
京楽の家で、浮竹に大事にされている。
子が生まれるまで、ヒートは3カ月に1回やってきた。
京楽と浮竹は、離れで交わりあいながら、生まれてくる子のことを思った。
医者の診断では、アルファの男児とされた。
京楽家の、跡取りだ。
京楽には兄がいたが、もう亡くなってしまっている。
「名前、なんにしよう」
「何がいいだろうな」
浮竹と京楽は、いつの間にか相思相愛になっていた。
やがて産み月になり、帝王切開で浮竹はアルファの男児を産んだ。
「もう、俺はいらないだろう?」
哀しそうに微笑む浮竹に、京楽が首を振る。
「子供はもっといっぱい欲しいし、君を幸せにしたい」
「俺は、お前のことを・・・・・」
「まだ、嫌い?」
「いや・・・・・好きだ。愛している」
「僕も好きだよ、十四郎」
「春水・・・・・」
口づけを交わし合いながら、番になったことを、浮竹が後悔することがなくてよかったと、ほっとする京楽がいた。
散々嫌いだと言われてきた。
ヒートを利用して、自分のものにした。
浮竹の、普通の女性と結婚して子供をもうけるという夢を壊した。
でも、京楽は本気で浮竹を愛していた。浮竹もまた、京楽が自分を愛するあまり、少々強引な手を使ったのだと知ってもなお、別れることはなかった。
二人は、三人の子をもうけて、それぞれ統学院に入り、死神となって隊長となった。
「んあ・・・・もう、子はいらないだろう。アフターピルを飲むぞ」
「もう一人、欲しくない?」
「他の兄弟と、年齢の差がありすぎる。子はいらない」
隊長となっても、番であることに変わりはなかった。
ヒートがくると、浮竹は休暇をとり、京楽家の離れで京楽と過ごした。
子が成長するのは早い。
すでに成人となった三人の子を見守りながら、浮竹はミミハギ様を解放する決意を出す。
大戦で、京楽は最愛の妻、浮竹を失う。
だが、子供たちに囲まれて、穏やかな生活を送った。
「浮竹・・・・そっちに行くには、もう少し待ってね」
総隊長にまで上り詰めて、引退し、余生を過ごした。
寿命を終えようとした時に、迎えにきた長い白髪に翡翠の瞳をした麗人に、微笑みかける。
「待たせたね」
「ああ、ずっと待ってた」
「逝こうか」
「ああ」
二つの魂は、交わりながら、霊子へと還っていく。
京楽家は、浮竹の産んだ子が次々と隊長になり、その孫も隊長になり、長らく栄えるのであった。
魔王と勇者 成人式
16歳である新勇者はまだ子供、ということになる。
「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞーーー!がおーーーー!」
魔王城で、ハロウィンのコスチュームに身を包んで、浮竹に襲い掛かろうとしていた新勇者を、本物の勇者京楽が阻んだ。
「今何月だと思ってるんだい!ハロウィンなんてとっくの昔に過ぎたよ!」
「俺の故郷では、2月がハロウィンなんだ!」
「知ったことじゃないよ!」
「勇者京楽、お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞーー!がおーーーー!」
襲い掛かってきた新勇者の股間を、京楽は聖剣エクスカリバーでチーンと・・・・・。
「のああああああ!!!」
痛みのあまり、もだえている新勇者を窓の外に投げ捨てて、京楽は浮竹に赤くなりながら手をもじもじさせた。
「ねぇ、今日って・・・・・・」
「ああ、バレンタインだな」
「チョコレートは?」
「ここにあるぞ」
浮竹が、座っていたソファーの隣においてあった、でかい包みを取りだした。
30センチはあろうかという、板状のチョコレートだった。
「でかいね」
「それだけ、俺のお前への愛もでかいということだ」
「全部食べたら、絶対太りそう」
「ドラゴンでも倒して、運動すればいい」
「もっと違う運動がいいな」
「なっ」
そう切り返されるとは思っていなくて、浮竹が今度は赤くなった。
「んっ」
京楽が、浮竹の唇を奪う。
「だめだ、この話はR18ではないんだ!」
「いいじゃない、ちょっとくらい・・・・・」
「よくない!」
バキッ。
板チョコで、京楽の頭部を殴る浮竹。
「ああっ、チョコにひびがっ」
京楽が、ひびが入って2つに割れてしまったチョコレートを、かき抱いた。
「ハートマークのやつじゃなくてよかったな」
「うん、そうだね。浮竹のことだから、何するか分からないから今食べてしまおう」
ぱくぱく。
京楽は、バレンタインチョコをでかいのに食べきってしまった。
「げふ・・・・今日は、もう何も食べたくない」
「あれを食べきるか・・・ちょっと、感動した」
「浮竹の愛のこもったものだもの!」
「俺の愛のこもったチョコレートも食え!」
窓の外に放り投げたのに、復活してきた新勇者は、ハロウィンコスチュームのまま、小さなハートマークのちょこを浮竹と京楽に渡してきた。
浮竹と京楽は、一瞬逡巡したが、どうせ新勇者だしと、それを口にした。
「うっ」
「くっ」
「はははははははは!きいただろう、千年かけた呪いのチョコだ!毒は無効化するが、呪いはどうだ?」
京楽の頭に、きのこがはえた。
浮竹の頭には、うさぎ耳がはえた。
「え、あれ?呪われたマンドレイクが生えるはずなのに・・・あれ?」
マンドレイクは、引っこ抜くと悲鳴をあげて、それを聞いた者を死に至らしめる。
薬草などとしてよく取り扱われているが、採集の時は、まず息の根をナイフなどで止めてからひっこぬく。
「あれえええ!?」
にこにこ。
浮竹は、バニーヘアバンドをかぶったような状態で、新勇者の頭を撫でた。
摩擦で、ぼっと火が噴く。それくらい撫でた。
「お礼のいいこいいこ・・・・火が噴くバージョン」
「のぎゃああああああ!俺の大事なづらがあああ!」
銀色の縦巻きロールが腰まであるづらを、摩擦熱で浮竹は燃やしてしまった。
一方の京楽は、ピコピコ動く浮竹の兎耳にばかり目がいっていた。
かわいい。もふもふしたい。今すぐピーーーーーー。
18Rではないので、放送禁止用語は伏せられます。
脳内で、浮竹をピーしていた京楽の頭上のキノコが、にょきっと手足を出して、京楽から分離した。
「ああっ、それは幻の一目ぼれキノコ!」
ツルピカの新勇者は、予備にもっていた黒のアフロのかつらをかぶって、京楽から分離したキノコをじりじりと追い詰めた。
「魔力が極端に高い者に呪いを与えるとまれに生えてくるっていう伝説は、本当だったのか!これを女僧侶に食べさせてピーーーーーーー」
浮竹は、そのきのこを炎で焼いた。
「焼ききのこ・・・おいしそう・・じゅるっ」
新勇者は、幻の一目ぼれキノコを食べてしまった。
「京楽、赤い紐をひっぱってくれ」
「あ、うん」
がこん。
新勇者がいる場所の床に穴があいて、新勇者は落ちていく。
「ああああああ!ああああああ、なんてかわいいんだ、ロクサーヌ!君はロクサーヌだ!一目ぼれなんだ、結婚しよう」
「めええええええ」
暴れヤギにひっついて、求婚する新勇者は見ているだけでは愉快だった。
暴れヤギは暴れに暴れまくった。
それでも、新勇者は愛がどうだのこうだのとわめいていた。
「呪いは、無効化ではなく緩和だからなぁ。ステータス異常は・・・・おきてないな」
「新勇者、ほっといていいの?」
「ロクサーヌと結婚するんだろうさ」
浮竹は、耳が消えないのを気にしているようだった。
京楽は、浮竹の兎耳をさわってみた。もふもふだった。
「呪いは、数日効果が残る・・・・町の教会で、神父に呪いを解いてもらおう」
「そんなのだめだよ!せっかくかわいいんだから!ねぇこのまま僕とピーーーーー」
浮竹は、京楽に丸めこまれそうになっていた。
一方の、新勇者はというと、穴の開いた床で、暴れヤギのロクサーヌとピーーーしてしまっていた。
「あれ、俺は何を・・・何故、下半身が裸!?」
「めえええええええ」
暴れヤギは、雄だった。
でも、契ったことにかわりないので、新勇者を番として認めた。
「めええええええええ!!!」
「ぎゃああああああああ!!!」
ピーでピーでピーーーーーーー。
京楽は生えてきたのがきのこだったので、他に呪いの効果はなかったが、浮竹は数日兎耳のまま過ごすはめになるのであった。
数週間後、暴れヤギと新婚旅行に追い出された新勇者が、ロクサーヌとどうにかして離婚したいと訴えてくるのは、また別のお話。
エリュシオンの歌声5-3
「やっ」
京楽の指が、浮竹の体内から出したものをかき出していた時に意識が戻って、浮竹は赤くなって縮こまった。
「んやっ」
「そんなに、かわいい声ださないでくれる?また襲っちゃうよ」
「やあ。これ以上はだめだっ」
「うん。僕も、さすがにもう出すものないし。何せ5回はやっちゃったから」
「お前は、性欲が強すぎだ!」
「うん。でも、浮竹はそれをも受け入れてくれるでしょ?」
「んっ」
唇を塞がれた。
「んんっ・・・・」
舌が、浮竹の洗い終わった白い肌をはっていく。
「や・・・・」
「君が僕のものって証はすぐ消えちゃうからねぇ。ねぇ、噛みついてもいい?僕にも噛みついていいから」
「好きに、しろ・・・・・いたっ」
京楽は、浮竹のうなじに噛みついた。
やられっぱなしは嫌だとばかりに、浮竹は京楽の肩に噛みついた。
血が出るほど噛みついたわけではなかったが、お互い痛かった。
それさえ、心地よく感じるのだから、愛とは末恐ろしい。
「しばらくは、sexしないからな」
「そんなぁ」
「お前は、しつこいんだ!おまけに粘り強いし、一度抱かれる側の俺の立場になってみろ」
「じゃあ、君が僕を抱くかい?僕は君が相手なら、それでもいいよ」
「いや・・・・遠慮しとく」
もじゃもじゃの京楽の体に、自分が火を灯されることはあれど、どうこうしたいとは思わなかった。
ぱしゃんと、湯が音をたてる。
「んっ・・・・」
唇を重ね合わせる。
「はぁっ・・・・」
互いの唾液を飲みこんで、湯あたりしそうなので、京楽は浮竹を抱き上げて風呂からあがった。
とろんとした瞳の浮竹に服を着せていく。
「浮竹、おおい、浮竹」
「んー、なんだ」
「こんな場所で寝ないでよ。風邪引くよ」
「んー。眠い・・・・・・」
こっくりこっくりとくる浮竹に苦笑して、京楽はその軽い体を楽々抱き上げて、シーツをとりかえたベッドに横たえた。
「愛してるよ、十四郎」
すーすーと眠る浮竹の手にキスを落として、京楽は浮竹を抱き寄せながら自分も眠った。
「腰が痛い」
「ごめんてば」
浮竹は、自分の腰に治癒魔法をかけた。
こんなことに治癒魔法をかける羽目になるなど、最初の頃は思ってもみなかった。男女の交わりとは違い、同性同士だと、時に傷をつくる。
そんな時でも、治癒魔法が使えるので便利ではあるが、京楽の性欲の強さを刺激しているような気がして、なんともいえない気分になる。
乱暴にされても、浮竹はそれを受け入れる。
京楽も、乱暴といっても優しさはちゃんとあるので、加減はしてくれている。
乗り気でない時、犯されたりしない。
ちゃんと互いの同意を得て、ことに及ぶ。
京楽は優しい。
その優しさに包まれると、少しばかり激しい行為も、つい許してしまう。
「はぁ・・・・・俺、一応神子なんだよな?純潔失っても、神子のままってどうなんだろう」
女神アルテナが、時折二人の情事を見ていることを知らない浮竹と京楽は、今日も元気に一日の始まりを朝と共に祈る。
「こんな世界が・・・・ふふふ・・・・・」
女神アルテナが、腐女子と化していたのは、どうしようもないことだった。
エリュシオンの歌声5-2
蕾に入れられた指が、はじめは撫でるように動いていたが、だんだんと動きが激しくなってきて、前立腺をひっかいた。
「んっ」
ビクンと、浮竹の体がはねる。
「今、またいかせてあげる」
「あう」
前立腺ばかりをこりこりと刺激されて、浮竹のものは蜜を垂らしていた。
「先走りがこんなに出てるよ。エッチだね」
「お前、が、そうさせて・・・・・あああ!」
ぐちゃぐちゃと指で入口をかき回されて、浮竹は言葉を発することもできなくなっていた。
「挿れるよ」
「ひああああ!」
めりめりと、後ろを京楽の怒張したもので貫かれて、浮竹は白い髪を宙に舞わせた。
「ちょっと久しぶりだから、君の中、きついね」
「うあ・・・ああ」
ゆっくりと入口付近まで引き抜いて、ぱちゅんと音を立てて最奥まで突き上げた。
「あああ!」
前立腺をすりあげられて、浮竹は段々と思考が真っ白になっていく。
「ひあう!」
ぐちゅり。
結合部が音を立てる。
「あ、あ、あ、あ」
律動に合わせて、浮竹は啼いた。
「奥に出すよ・・・受け取ってね」
「あ・・・や、奥は、奥はだめえぇぇ」
ぱちゅん!
ごりごりっ。
音をたてて、京楽は浮竹の直腸を貫いて、結腸にまで侵入すると、そこで子種をぶちまけた。
「あ、あ、あ、だめぇっ」
京楽は、浮竹の花茎をぎゅっと握って、いかせないことにした。
「やぁ、いかせてっ。出させてぇ」
「かわいくお願いできたら、手を放してあげる」
ちゅっと、おでこにキスをする。
浮竹は、快感でとろけた翡翠の瞳に涙を溜めて、京楽に懇願した。
「あ、あ、あ。奥に・・・俺の奥に出して。京楽のザーメン、全部のませて。胎の奥で孕むくらいだしてっ」
「よくできました」
「あああああ!!!!」
浮竹の前が弾けるのと、京楽の雄が前立腺を突き上げるのが同時。
「あ、ああ、あ、いってるから、もういいから!」
「中からも外からもいけるでしょ?」
「やあっ」
前立腺をしつこくすりあげられて、浮竹は中でもいってしまっていた。
「はぁはぁ・・・・ああ、らめぇ、変になるっ」
ずるりと引き抜かれた京楽の雄は、まだ高ぶっていた。
「や・・・・」
ぐるりと体を反転させられて、背後から貫かれる。
「ひあ!」
ごちゅんと、結腸に入ってくる京楽の雄を、浮竹の内部はきゅうきゅうと締め付けた。
「ああ、きもちいいね。君ももっと、きもちよくなろうね」
ぱんぱんと、体がぶつかり合うほどに挿入を繰り返して、結合部は互いの体液で泡立っていた。
「あ、あ、あ、ひ・・・・・」
突き上げられるたびに、声が漏れた。
二人で住んでいる家なので、声がどこかに届いても問題はない。
「あ!」
ぐちゃりと、前立腺を犯されて、浮竹は背を弓なりに仰け反らせた。
「あああ、いっちゃう、いっちゃ・・・春水っ」
「僕はここにいるよ」
ごりっと音をたてて、体を動かして、浮竹の太ももを肩に担ぎあげると、そのまま入れられたものがごりごりと中を刺激して、浮竹はさらにいってしまった。
「あ、あ・・・・」
薄くなった精液を吐いた後、透明な液体がぷしゅっと流れ出た。
「やあ、おもらし、うあああ、やああ、見ないで」
「潮だね。大丈夫、気持ちよすぎて女の子みたいに潮をふいちゃっただけだから」
「あ、女の子?俺、孕んだ?」
「そうだね。孕んじゃったかもね!」
どちゅん。
最奥にねじ込んで、京楽は熱い熱を最後の一滴まで浮竹の中に注ぎ込んだ。
「あう・・・・あああう・・・・」
やりすぎたせいで、浮竹は意識も朦朧としていて、もはや言葉を紡ぐことができない。
「愛してるよ、十四郎」
「ああ・・・俺、も・・・・・」
かろうじでそう呟いて、浮竹の意識は落ちていった。
エリュシオンの歌声5-1
魔法の癒しが絶大なのだ。
死者さえ、場合によっては生き返らせてしまうほどに。
けれど、ソウル帝国とカール公国は戦争をして、ソウル帝国の勝利で終わり、カール公国の神殿はソウル帝国の聖神殿と統合された。
それでも、世界は浮竹の歌声と魔法の才を欲した。
それを抑止したのは、浮竹の実の父親である現ソウル帝国の皇帝だった。
浮竹を自由に。
一時は、浮竹の首に懸賞金をかけていたが、ルキアにエリュシオンの歌声が宿ったことでそれを撤回した。
だが、ルキアは一時宿っただけで、またエリュシオンの歌声は浮竹の元に戻ってしまった。
でも、皇帝はもう浮竹を追わなかった。
愛した亡き皇后との間にできた、双子だった。
貴族や皇族に双子は禁忌。片方を殺さなければいけない。嘆き悲しんだ皇帝と皇后であったが、背にエリュシオンの歌声をもつ者の証である小さな白い翼を見つけて、喜びあった。
けれど、禁忌は禁忌。
浮竹を、皇后の姓である朽木でも、皇帝の姓でもない亡き祖先の姓である「浮竹」を与え、当時ですでに14人目の子であったから、十四郎と名付けた。
そして、隣国でもある小国のカール公国の神殿に預けた。
その神殿で、浮竹はほぼ幽閉されて育ち、毎日癒し手として、1日1回の奇跡を使っていた。
目も見えず、耳も聞こえず、歌を歌うしか口は許されず、歩くこともできない。神子はその能力が高ければ高いほど、反作用で肉体に欠損がでる。
浮竹は、まさに奇跡を起こすために生まれてきた神子であった。
エリュシオンの歌声があるせいで、神子としての能力は歴代でも類を見ないほどになり、浮竹は神殿の奥に幽閉された。
それを、はじめは殺すためにやってきた、風の魂の盗賊団の首領である京楽が、攫って行った。
あげくに、神子を汚した。
神子は汚されて、神の御業を失ったと、ソウル帝国の皇帝は触れ回った。
実際は、京楽に抱かれはしたが、魔法の才もエリュシオンの歌声も健在だった。
浮竹と京楽は、今はソウル帝国の反対側に位置する大陸、ガリア大陸のイリア王国を訪れていた。
国王の后が、重篤な病で、癒せる者に賞金を与えるというその賞金の額に、京楽が釣られてしまったせいでもあった。
「エリュシオンの扉は開かれる」
それは歌声。でも、呪文として形を成して、国王の后を癒した。
国王は目の色を変えて喜び、少しずつ生気を取り戻していく后のために、浮竹を王宮に滞在させた。無論、連れである京楽も一緒に。
病が重篤すぎて、一度では全快に至らなかったのだ。
何度か日をおいて、后に魔法をかける。后は点滴で生きていたが、果物なら喉が通るほどに回復した。
報酬金ももらい、イリア王国を出ようとした時、その癒しの腕に魅了された国王は、浮竹を奪おうとした。
京楽がそれを阻み、浮竹を連れ去って早馬で王宮を去ってしまった。
「ああ・・・なんということだ。あの奇跡の治癒の腕を活かさないなど・・・なんたることだ」
イリア王国の国王は、浮竹を見つけたら、保護するようにと国中に触れをだした。
そんな国にはいられないと、浮竹と京楽は、隣国サルアに移り、山深い里でひっそりと診療所を開いた。
重篤な場合以外、なるべく自然治癒を促す魔法に切り替えたが、それでも浮竹の治癒の腕は近隣でも有名になった。
「ここも、そろそろ無理かなぁ」
「ねぇ、やっぱ診療所なんて開かないほうがよかったんじゃない?」
「でも、苦しんでる人を放っておくわけにはいかない。このサルアは、イリア王国と何度か戦争していて、優秀な癒し手は王都にいるからな」
最後の客を魔法で癒して、その日の診察は終了となった。
「ねぇ・・・」
「んっ」
同じベッドで眠っていると、久方ぶりに、京楽が浮竹を欲した。
明日は診察が休みだ。
もう10日も浮竹にあまり触れていない。
我慢の限界がきて、京楽は浮竹を押し倒していた。
「あっ・・・・・」
すでに、声も耳も目も足も治った浮竹にとって、京楽と睦み合うのは一種の毒に近かった。
だるくなって疲れるのに、病みつきになる。
「んあっ」
背後から抱かれ、口の中に指をつっこまれた。
その指に舌を絡めると、京楽はくつくつと笑った。
「先生が、こんな淫乱だと知ったら、患者さんはどう思うだろうね」
「京楽が・・・・そうさせているんだろうがっ」
仕返しだと、京楽のほうを向いて、肩に噛みついてやった。
「いてて」
「ふん・・・・・あ、あ」
京楽の手が、慣れた手つきで浮竹の衣服を脱がしていく。
「ふあ・・・・・」
舌が絡みあう深い口づけを繰り返して、京楽は浮竹を全裸にしてしまった。
「やっ・・・見るな」
「どうして。もう何度も抱かれてるし、今更恥ずかしがる必要なんてないじゃない」
「それでも、恥ずかしいものは・・・・あうっ」
胸の先端をかじられて、体全体に雷の電撃が走ったような、ぴりっとした感覚を覚える。
すっかり性感帯にされた部分をいじられながら、京楽は浮竹の花茎に手を忍ばせた。
「あう!」
ぎゅっと、上から包み込むように握られた。
それから、全体をしごかれて鈴口に爪を立てられて、浮竹はあっけなく精を放ってしまった。
「ひあ!」
京楽は、潤滑油を手にとると、人肌で温めてから、浮竹の蕾に指を入れる。
「んう」
キスをされながら、指がくにくにと、蕾の周囲を刺激する。
「んっ・・・・」
つぷりと入ってきた指に、眉を顰めながら、浮竹はもうどうにでもなれと、全身の力を抜いた。
エリュシオンの歌声4-2
浮竹の故郷であるカール公国は、ソウル帝国の手で滅ぼされてしまったけれど。
皇帝は、浮竹の抹殺の命令を取り消した。
皇帝とて、浮竹の存在に全く愛おしさを感じなかったわけではなかったのだ。
だが、ルキアを愛するあまりに、浮竹を殺してでもルキアにエリュシオンの歌声を継承させてやりたかった。
皇帝は、エリュシオンの歌声を失い、ルキアと白哉と和解した浮竹を、どうこうしようとはもうしなかった。
浮竹は、残酷な父でも愛していたのだ。
エリュシオンの歌声を失った浮竹には、もう帰るべき場所などなかった。
ソウル帝国は生まれた国であるが、今更皇族として復帰しても皇位継承権争いに巻き込まれるだけだ。
女神アルテナは、浮竹と京楽を殺さなかった。
ただ、エリュシオンの地から追放しただけ。
二人は互いの無事を喜んで、聖神殿から二人だけで、京楽の愛馬に乗ってまた旅立った。
もう、皇帝の追っ手はこない。
皇帝は、罪を償うつもりで浮竹を皇子として向かえるために、聖騎士をよこしたが、浮竹はそれを蹴って京楽を選んだ。
だって、愛しているから。
「ららら~エリュシオンの地は神の歌声によって開かれる~。でも天使になんてなりたくない、だって人間だから~♪」
浮竹は、変わらず綺麗な声で歌う。
でも、もうその歌声にエリュシオンの歌声は宿っていない。
エリュシオンの歌声を失ったお陰で、体の欠陥は消えた。エリュシオンの歌声を持っているからこそ、神の子はその代償に目が見えなくなったり耳がきかなくなる。浮竹はその典型的な例だった。
「変わらず綺麗な声だな」
「お前のためだけに歌う唄だ」
そっと、後ろに跨る京楽の柔らかな黒いの髪を撫でて、浮竹はちゃんと見える瞳で蒼い空を見上げた。
「京楽は、盗賊をやめてしまったのだな」
「うん・・・・もうあじとには帰れないね」
盗賊の頭をやめてしまった京楽と、エリュシオンの歌声を失い、神子の資格を失った浮竹。
出会いは最悪だった。
京楽は浮竹を殺すために、神殿を訪れたのだ。生きたまま捕らえてもよかった。
でも浮竹の美しさと儚さに捕らえられたのは、京楽のほうだった。
「さて、これからどうするかなぁ」
黒い愛馬のクロウを走らせて、二人でクスクスと笑って、泉があることろまでくると、馬を休ませるために下りた。
「ほら」
「大丈夫、一人で降りれる」
「だめでしょ」
「わっ」
ずっと歩いたことのない浮竹の足は筋肉がついていないため、まだ歩くには十分ではない。
京楽に以前のように抱き上げられて、浮竹はその背中に手を回す。
浮竹にあった、白い翼はエリュシオンの地から去ると同時に溶けてきえてしまった。元からただの神子の象徴であり、飛べるわけでもなかったし、邪魔だったので逆にすっきりしていた。
「エリュシオンで・・・ずっと、君の声を聞いていたんだよ。ありがと。こんな僕を選んでくれて。君は天使になれたのに・・・女神にたてつくなんて、ほんと命知らずだなぁ」
「だって、俺は天使になんてなりたくなかった。愛する者を、京楽を生贄に捧げて天使になんてなれるものか。それに、天使なんてただ長い時を生きるだけで魅力なんてちっともないぞ。人間として、短いけれど精一杯生きるからこそ素晴らしいんだ」
京楽は、浮竹を包み込んで、優しくキスを落とす。
「これからどうしよう?一応、銀行に預けた2億環金貨があるけど・・・・」
「じゃあ、そのお金を少しだけおろして、旅にでよう。俺を、海の向こう側につれてってくれると以前いっていたな。お前はハープが弾けるとか。俺は歌を歌えるだろう?二人で一人の吟遊詩人として、世界をあてもなく旅するなんてどうだろう」
「お、いいね」
京楽は、浮竹を地面に下ろすと、そこらに咲いていた可憐な花を浮竹の髪に飾った。
浮竹は、長すぎた白い髪を切り、今は腰くらいの長さで切りそろえていた。
「隣の国にいこう。クロウ、馬も一緒に・・・隣の大陸から旅をしよう!」
「ああ!」
-----------------------------------
「ほんとにこれで良かったのかよ、ルキア」
「ああ、いいのだ一護」
エリュシオンの歌声を宿らせたはずのルキア。でも、歌声は結局宿らなかった。
宿ったのは数日。
そう、エリュシオンの歌声は歌声を持っている者を殺さない限り、宿らないのだ。
でも、その歌声はエリュシオンの歌声そのもの。違いなど、同じエリュシオンの歌声をもつ白哉でも、判別がつかない。
「一護は、私の傍にいろ」
「わーってるよ」
ルキアの前に跪いて、その手に恭しくキスをする聖騎士の一護。
一人、白哉がそんな二人を見守っていた。
「エリュシオンにいけたというのに・・・・天使にならないとは。さすが、私の半身か」
--------------------------------------------------------------------------------------------
「らららら~~~エリュシオンへの扉は~~~・・・あれ?」
浮竹は、船の上で首を傾げた。
失ったはずの、エリュシオンの歌声が、戻ってきている。
あまりの美しい歌声に、船の乗客は拍手喝さいに涙まで流して、浮竹に続きの歌を歌ってくれるようにせがむ。
遠いエリュシオンの地で、天使に囲まれながら女神アルテナは船の上にいる浮竹と京楽を水鏡で見ていた。
「本当に・・・天使にならずに逃げだすとは。人間はかくも愚かで醜く、それでいて魂は気高く美しく儚い・・・・・・」
天使たちが、エリュシオンの地で笑いさざめいていた。
争いの一切ないエリュシオンの地は楽園.。
長い寿命を持つ天使と、女神アルテナが生きる世界。時折魂に神格を宿した人を招き入れ、天使にしたり、神子がよこした聖なる人間を天使にしたり・・・・。
とにかく、エリュシオンの住民は天使か神かのどちらかだけ。
人間のままエリュシオンの地を踏んだのは、浮竹と京楽くらいだ。
「人は人であるから幸せ・・・か。天使になりたくない。神は、人に天使になれるチャンスを与える。誰もが天使を選ぶ・・・でも、二人は違った」
エリュシオンの扉は、今でもソウル帝国の聖神殿の奥にある。
エリュシオンの歌声をもつ者だけが、扉をあけるとされている。
エリュシオンの歌声をもつ資格があるものが、愛しいものを生贄に捧げて扉を開き、天使となるためにエリュシオンを訪れる。
人は、愛する者を犠牲にしてまで神に近づこうとする。
でも、この世界の浮竹と京楽は違った。
風が緩やかに、ハープの音を運んでくる。
「続き、歌いなよ」
「京楽!」
綺麗なハープの音に重ねるように、浮竹は目を瞑って歌い出す。
そう、エリュシオンの歌声で。
でも、もう浮竹のエリュシオンの歌声は、エリュシオンの扉を開くことはない。
背中にあった白い翼は、消えてなくなってしまった。
エリュシオンの歌声はあれど、その資格がないのだ。
全て、京楽を蘇らせるために捨てたのだ。エリュシオンの歌声でさえ、一度は捨てた。
京楽のハープの調べと美しい浮竹の歌声の旋律。
それこそが、本当のエリュシオンの世界、楽園なのかもしれない。
二人の愛の絆が、本当のエリュシオンへの扉なのかもしれない。
海鳥が二人の頭上を羽ばたいていく。
もう、浮竹は籠の中のカナリアではない。自由をえた美しい声で歌う人間だ。
「ららら~~エリュシオンへの扉は開かれた、天使たちは集う、女神の涙を見るために~。ららら~エリュシオンの地は楽園、神の奇跡の大地~。エリュシオンへの扉は今日も開く~~~でもそこから恋人たちは逃げ出す~。手と手を握りあって~~~♪♪」
逃げ出した京楽と浮竹を映す水鏡を消して、女神アルテナは微笑んだ。
そう、人の愛とは無限なのだ。
船の上を、何羽もの海鳥が蒼い空を飛んで横切っていく。
浮竹の歌声と京楽のハープの音を聞いて、そして飛び立っていくのだ。
ふわふわふわ。
舞い降ちる羽毛は、消えた浮竹の翼に似ていた。
エリュシオンの歌声4-1
女神アルテナ、女神ウシャス、創造神ルシエードと一緒につくったこの世界。
人間のために、選ばれた人間か神の子が、天使になれる世界を造った。それがこのエリュシオン。
楽園と人は呼ぶ。
騒ぎに遠くから、天使たちが集まってくる。
「アルテナ様、この人間たちは」
「いいのです。おいきなさい」
女神アルテナは、浮竹を天使にした。
でも、この浮竹という人間は天使になりたくないという。
そんな人間ははじめてだ。
今まで、このエリュシオンの扉をあけたり、生まれて魂に神格をもちこの地に誘われ、天使となった人間は全てこの女神アルテナに感謝をしていたのに。
敬われ尊ばれてこそが基本なのに、女神に歯向かうなんて。
「天使になんて・・・・誰が、なるものか」
ふわふわと、浮竹の背中の12枚の翼が溶けていく。
女神アルテナが与えた神の力を京楽に与える浮竹。
「ネイ・・・・これが、人の愛というものですか」
違う世界で生きるネイのことを思い出す。人間を作り出した我が妹。人に交じり、人として生きることを選んだ女神、創造神ネイ。
人として生き、そして死んで、また人として生まれ生き続けるネイ。
ネイは、人の愛は無限だと言っていた。女神アルテナには想像もできないもの。
それが人の愛。
「あなたは天使ではなくなりました。エリュシオンにいる資格はありません。消えなさい」
「殺すなら、一緒に殺せ。別れ別れになるのは嫌だ」
なんとか蘇生した京楽を腕の中に抱いて、きっ、と浮竹は女神アルテナを睨んだ。
人の愛は無限だよ。
同じ世界を創造した女神ウシャスの言葉を思い出す。
ウシャスは人が好きだった。アルテナは好きではない。
創造神ルシエードも人は好きではない。
「あなたには分からないんだ、女神アルテナ。人の愛は、神の力なんて必要としない。人は人のままでいいんだ。天使になんて人はなりたいと願わない。だって、人は人なのだから」
透明な、迷いのない翡翠の瞳。
こんな瞳をした神の子ははじめてみる。
そして、自分を否定した神の子も。
女神アルテナは、ざっと手を前に突き出した。
浮竹の生命力と魔力を与えられて生き返った京楽は、浮竹といくつか言葉を交わして、そして今エリュシオンの地にいるのだと分かって、浮竹を庇うように後ろに匿う。
「女神かい・・・・・悪いが、浮竹はやれないよ」
「女神アルテナ。俺は天使にはならない。京楽は生贄ではない。京楽を生贄にして天使になって、何が俺に残るという?愛した人を失って、幸せでいられるはずがないじゃないか。お前は間違っている」
「うるさい。人間が。消えろ」
女神アルテナは顔を歪めて、二人に魔法を放つ。
二人とも消してしまおうか。
でも、二人はお互いを抱きしめあって、とても幸せそうだった。
「消える時は一緒だぞ、京楽」
「うん。ちゃんと歩けるんだ。神の世界だと、目も見えるし耳も聞こえるんだね。歌声じゃなくても言葉を使ってるし」
優しく浮竹を包み込むネイと同じ色彩を持った京楽に、女神アルテナは白い光を向ける。
「消え・・・・ろ・・・・」
女神アルテナの放った魔法が、二人を包み込む。
それでも二人は幸せそうだった。
このエリュシオンにいるどの天使よりも。
ネイ。お前の言葉が分かる気がする。
ウシャス。お前の言葉が分かる気がする。
人間の愛は・・・・。
愛は、神など必要としないのだ。
そう、神の救いなど必要としていない。
それが、人間という存在。
エリュシオンの歌声3-3
浮竹は、自分の目が目えることに、そして自分の足で立っていることに、耳も聞こえることに驚き、そしてエリュシオンの歌声を出そうにももう出ないことに気づいて、愕然とした。
浮竹は自分の翼で羽ばたき、女神アルテナの頭上にいた京楽の体を攫うと、地面に降り立った。
ネイは女神アルテナの妹にして、創造神。ネイは世界を築きあげて、自分によく似せた人間をつくった。ネイは世界の人間の中に溶け込み、その血族の人間は、エリュシオンへの扉を開くことができる。
「天使に、なりたくないというのね?浮竹十四郎。ネイの血族よ」
エリュシオンの歌声3-2
一面に広がる広大な海を、浮竹は見えない翡翠の瞳で見ていた。
魔法によって脳内におくられるイメージは、ただ遠くまで広がる青。波の打ち返すザァンザァンという音は、魔法で拾って直接脳内に送られる。
不自由な体に与えられた神の奇跡。
人々はそういう。でも違う。これは、自分の魔力によって、欠陥の体の部品を補っているのだ。
奇跡でもなんでもない。浮竹が、生きるために必死なって築きあげた自分だけの魔法なのだ。
神は、この世界にいないのだろうか。
(神様・・・・)
蒼い空を見上げて、浮竹は京楽に抱き上げられて、ずっと海を見ていた。
「そんなに海が気に入ったの?」
(ああ・・・潮の匂いは分かる。実感できる。海も、広いのが分かる。世界は、こんなにも広いんだな)
本でしか読んだことのない海。
目は見えないが、書物などは魔法で読み解くことができた。
「そうだよ。この海から船に乗ればいろんな大陸にいける」
(いろんな大陸にか)
「うん。騒ぎがおさまったら、連れてってあげるよ。海の向こう側に」
草原に放った京楽の愛馬である黒い馬は、草を食んでいる。
崖の上から見える海を、浮竹は京楽に抱き上げられてみていた。
(運命と・・・・戦おうと、思う。俺を・・・・ソウル帝国の聖神殿まで連れていってくれ。ルキアと白哉と会って・・・・そして、エリュシオンの歌声を、死とは別の形で譲ろうかと思っている)
「おいおい、帝国にいくなんて、死ににいくようなもんでしょ?それに、どうやって譲れるのさ」
ぎゅっと抱きしめられて、浮竹は京楽の首に手をまわして、その少し硬いウェーブのかかった黒髪を白い細い指で何度も梳いた。
(エリュシオンの歌声が・・・・歌声が、エリュシオンへの扉をあけることができれば。そうすれば、エリュシオンの歌声はもういらないんだ。エリュシオンへの扉は、ソウル帝国の聖神殿にある)
「伝説じゃないのかい。エリュシオンって」
(いや・・・・本当に、存在するんだ。エリュシオンは。神が、作ったとされる楽園・・・・・そこに続く扉がこの世界の、ソウル帝国の聖神殿の奥にあるんだ。ずっと封印されている。過去に何百人のエリュシオンの歌声をもつ者が歌声を響かせても、決して扉は開くことがなかった。でも、きっと、きっと。今の俺にならできる。なぜかそんな確信が湧き上がってくるんだ。きっと開くことができる。そうして、歌声をルキアに譲って・・・・父に許してもらいたい。生きることを。そして、ずっとずっと・・・・)
「どうしたの?」
目を伏せる浮竹。
「変だな。無理やり、連れ去られたのに。体まで奪われたのに。でも・・・・お前が、好きだ。俺を、守ってくれるとお前は言ってくれた。俺を、あの神殿からはじめて解放してくれたお前が、好きだ。可笑しいな。どうしてだろう・・・・お前が、愛しくてたまらない。俺は、ずっと、ずっとお前と一緒にいたい。京楽春水」
ぎゅっと強くしがみついてくる浮竹の長い白髪にキスを落として、京楽は黒い愛馬の名前を呼んだ。
「クロウ、おいで!」
ヒヒーンと高い嘶きを響かせて、黒馬はすぐ近くにやってくる。
その馬の上に、浮竹をまずまたがらせて、そして後ろから京楽が乗る。
しっかりと手綱を握って、黒馬を走らせる。
目指すは、ソウル帝国の聖神殿。
国境を何日もかけて抜けて、二人で長い旅をしていく。
野宿することもあった。
もうカール公国はすでに抜けており、ソウル帝国にはいって2週間は過ぎていた。
「首都が近いね・・・・・」
黒いマントを頭から浮竹に被らせて、京楽は旅を続けていた。
旅費は環金貨をもっている。2億環金貨なんて持ち歩けないので、持ち歩いているのは40枚ほどだが、それでも十分に旅費としては足りた。
浮竹の衣服を買ってやり、美しい外見が目立たないよう外套も買ってそれで包んでやった。
帝国の領土に入ってから、騎士の追っ手は全くこなくなり、旅は順調に進んでいた。
首都を抜けて、さらに進む。
神秘の森といわれる美しい森を抜けた奥に、聖神殿は存在した。
荘厳な建物に京楽は圧倒されたが、見張りの騎士もいないのを不審に思い、剣をしっかりと腰に携え、馬を木に縛り付けてその黒い鬣を撫でると、京楽は浮竹を抱き上げて、馬を降りる。
「なんだ・・・ばかみたいに静かだね」
聖神殿への扉は、内側から開いた。
「ルキア!?」
気配を感じ取って、浮竹が顔をあげると、ソウル帝国の神の巫女姫と名高いルキア姫がそこにいた。
「浮竹様・・・・良かった、無事だったのだな」
側には、ルキアだけの騎士、黒崎一護という少年が控えていた。
ルキアは涙を零して、京楽の腕の中にいる浮竹に近づいて、そっとその手をとった。
「父様が・・・カール公国を攻めると聞いて、まさかあなたの身にまで危険が及んでいるのではないかと」
(それは・・・・ルキア、俺は・・・・)
「いいのだ。何も心配しなくていいのだ。神託が下ったのだ。あなたが、エリュシオンの扉を開けるためにやってくると。神殿を守っていた父様の息がかかった騎士たちは首都に帰した。ここにいるのは、聖職者たちだけだ。あとは、聖騎士のみ。彼は黒崎一護。私の聖騎士だ」
ルキアに紹介され、まだ16、17歳ほどの少年は聖騎士の格好もしておらず、けれど持っている剣は確かに聖騎士のものだった。
「ルキアに危害を加えることは俺が許さねぇ」
「一護。大丈夫だから、控えていてくれ」
「分かった」
奥へ奥へと案内されると、白哉がいた。
「浮竹。兄は、男とかけおちしたと聞いたのは冗談だと思っていたのだが。本当に、そんなどこの馬の骨とも知れぬ男と、行動を共にして大丈夫なのか?」
(白哉)
今は国同士が敵対しているが、かつてはエリュシオンの歌声をもつという、神子、神の巫女としての交流があった。
「兄は・・・・どこかで、見たことあるような気が・・・・まぁいい」
白哉は、京楽に少しだけ興味をもったが、すぐになくなったようで、ルキアの傍にくる。
浮竹は、京楽の腕から降ろされて、車椅子に座らされた。
それを、警戒むきだしで京楽がおしていく。
ルキアと白哉、それに聖騎士の一護と共に聖神殿の奥へと通される。
本当に、他には誰もいないようだ。
他の聖職者は自室で待機しているのだという。
「扉・・・・エリュシオンへの、扉・・・・・」
大きな神話のリレーフが施された扉を見上げて、浮竹は背中の白い翼を広げて、車椅子から飛び立った。
浮竹は、言葉を発していた。歌声ではない、普通の言葉を。
「浮竹!?」
「この扉は、奇跡の力をもっている。浮竹の不自由な体も、エリュシオンの扉が近くにあればなくなるのだ」
ルキアの説明に、京楽が目を見開く。
浮竹は自分の足で立っていた。
浮竹は、扉にそっと手をかけると、目を瞑って、歌い出す。
エリュシオンへの扉は今開かれる
私は人を愛してしまったから
戒律を破りし天使は堕ちていく
神の楽園よ開け 私を自由にするために
神の楽園へと続くエリュシオン さぁ開いてくれ 私は自由になりたい
白哉が、眉を顰めた。
「美しいが・・・なんて歌詞だ。でたらめな歌ではないか。即興のものを歌っても、エリュシオンの扉が開くはずもない」
白哉はばからしいと、双子の片割れを少しだけ憐れんだ瞳で見たあと、驚愕した。
今まで誰も開くことのできなかったエリュシオンの扉が、かすかに開いたのだ。
「そんなばかな!」
「もう少し・・・もう少し・・・・」
浮竹は歌い続ける。
エリュシオンへ誘いたまえ
神よ人々を導きたまえ
エリュシオンの歌声が楽園への扉をあける
エリュシオンの歌声だけが楽園へと導く
喉から溢れる歌声は透明すぎて、ルキアも白哉も一護も、そして京楽でさえも涙を流していた。
何故か、涙が溢れてくるのだ。
それが浮竹の感情にリンクしてしまったせいだとは、誰も気づかなかった。
そして、気づくと完全に扉は開いていた。
ようこそ、エリュシオンへ
そんな声が聞こえた気がした。
エリュシオンの歌声3-1
そのまま、浮竹を抱いて同じベッドで京楽も眠った。
朝になって、外の騒がしさと、女将の悲鳴で京楽は目覚めた。
浮竹はまだ疲れて眠っている。
「きゃああああああ!!」
女将の激しい悲鳴に、京楽はベッドの横に置いていた剣に手を伸ばす。
外の廊下で、何人もの足音が聞こえた。きっと、追手だ。浮竹の首級を持ち帰らずに、盗賊団からいなくなったことを、ソウル帝国の皇帝が、京楽が浮竹を連れだして逃げたと判断したのだろう。
殺気を感じた。こういうことには敏感だ。
長年盗賊なんて伊達にはしてない。
「いるな・・・この部屋だろう。始末しろ」
「は・・・・」
バタンと扉が開かれる。
武装した騎士が何人も飛び込んでくるが、室内はもぬけの空だった。
京楽は浮竹を抱き上げて、荷物を背中に背負い、窓からひらりと飛び降りると、馬小屋にいき、吃驚して起きた浮竹を前に乗せて、馬を走らせる。
(京楽!?)
「やあ、大丈夫?昨日は無理させすぎてごめんね。ちょっとやりすぎた」
かぁぁぁと、浮竹の頬が紅くなる。
(そ、それは!)
「平気?」
(なんとか・・・・)
「追われてるみたいだよ。相手は帝国騎士かな」
(帝国・・・・ソウル帝国の皇帝が俺を殺そうとしているという噂は、本当だったんだな)
「君、怖くないの?」
(怖くなどない。だって、死ねばこの呪われた呪縛から解放される・・・)
「解放、なんてさせないよ!君を殺させたりしない。このまま僕と逃げよう!」
京楽は必死になって馬を走らせる。
追ってきた騎士たちと、馬上で剣を交わしあう。
「エリュシオンの扉よ開け!!」
それは歌声であった。
でも、それは呪文でもあった。
ざぁぁぁと、京楽と浮竹の乗った黒馬の後をついてきて、剣で切りかかってくるソウル帝国の騎士たちの馬の足を、地面から突然生えた蔦が絡めとり、馬は騎士たちを振り落とすと、嘶いてその場で静かになってしまう。
「くそ、何をしている!」
「しかし隊長、馬が!!」
隊長の騎士は、馬の足に絡み付いていた蔦を剣で切り裂いていく。
「神子の歌声は奇跡を呼ぶ・・・か。続け!」
全ての馬の蔦を切り裂いて、ソウル帝国の騎士たちは京楽と浮竹を追い始める。
その頃、大分先に進んだ浮竹と京楽は森の中に入り、馬を下りた。
(どうした?)
ひょいっと浮竹を抱き上げる京楽の顔を見る。
瞳はものを見ていないが、魔法で一応の視界は利く。
「いや・・・・宿の3Fから君を抱いて地面に降りたとき、ちょっと足首を・・・」
(見せてくれ)
「大丈夫だって。こういうことには慣れてるから・・・・」
浮竹は、歌を歌い出した。
「ららら~~エリュシオンは楽園、さぁ誘わん神の子らよ、奇跡をエリュシオンの歌声と共に~♪」
それは、癒しの歌であった。
歌声に含まれた奇跡の魔力で、あっという間にはれていた京楽の右足首の痛みはとれてしまった。
京楽は驚いて、浮竹を抱き上げるとくるくると回った。
(な、なんだ!?)
「すごいね君!ほんとに神子だ。奇跡だね」
子供のようにはしゃいで、京楽はぎゅっと浮竹を抱きしめた。
浮竹は、いつの間にか涙を零していた。
「泣かないで・・・・」
京楽が、その体を抱きしめる腕に力をこめる。
(でも・・・・俺は、もう神殿に帰れない。皇帝が俺を始末しようとしたということは・・・俺がこの世界に必要であることがなくなったことでもある。ソウル帝国の皇帝が、俺を神子として神殿に迎えてくれるようにしてくれた。ソウル帝国の皇帝は、俺の・・・・実父だ。ソウル聖神殿の朽木白哉とは双子だ)
京楽は驚いた。
同じ神の子である朽木白哉も、皇族の血を引いているということは知っていたが、まさか父が皇帝とは。
そういえば、よく考えてみれば神の巫女姫である朽木ルキアは第3皇女で、朽木白哉はその兄にあたる。
ソウル帝国の皇帝の名は朽木ではないので、母親が同じなのだと思っていた。
それでは、この浮竹は皇子・・・。ソウル帝国の正当なる皇族の、しかも皇位継承権をもつであろう直系になるのか。
(父は・・・・何度か、俺に会いにきてくれたが、それは皇帝としてだ。そして・・・・・ルキアを愛しすぎて・・・・ルキアにエリュシオンの歌声を譲れと言った。でも、俺にもそれはできなかった。一度宿ったエリュシオンの歌声は、資格を持っている者が他にいても、すでに宿ったものがもっている限り、消えることがない。そう、殺さない限り・・・・父は、ついに俺を本当に捨てたんだな。歌声をルキアに与えるために、殺すために・・・・お前を雇ったのだろう、京楽?)
「君、何処まで知ってるんだい?」
京楽は、ソウル帝国の皇帝から、ルキアにエリュシオンの歌声を与えるために、浮竹を殺せと命令されていたのだ。
カール公国が滅ぼされようと、神殿の者は普通生き残る。
戦争のどさくさに紛れて、エリュシオンの歌声をもつ浮竹を殺すつもりだったのだ。
(さぁ・・・何処までだろうな)
浮竹は、空を見上げた。
また涙を零す。
「僕は、そのエリュシオンの歌声に囚われたただの盗賊さ」
(京楽?)
浮竹を抱き上げて、休ませていた馬にまたがらせる。
「いったでしょ、君を僕のものにするって。もう僕のものだ。誰にも、たとえソウル帝国の皇帝にも、殺させはしない。絶対に守るよ。守り抜く・・・」
(お前は・・・・愚かだ・・・・懸賞金をかけられたいのか?)
「すでに、騎士団が動いているんだし、もう遅いよ」
(俺を置いていけ)
「そんなこと、できるはずないでしょ」
馬上の上で京楽は浮竹に、ディープキスを繰り返すと、京楽は手綱をさばいて馬を走らせた。
向かう場所はどこだろうか。
遠い異国まで落ち延びようか。
二人は馬で森をかけぬけた。浮竹は、ずっと馬上の上でエリュシオンの歌声を響かせていた。
エリュシオンの歌声2-2
浮かぶ体をベッドにおさえつけて、京楽は浮竹にキスをする。
舌と舌が絡みあう口づけをかわしながら、京楽は浮竹を愛撫した。
「あ、あああ・・・・」
はじめて、浮竹の喉から、歌以外の声が漏れる。
(だめぇ、だめえええ!!)
浮竹は、下肢に京楽が手を伸ばすと、びくんと体をはねさせた。
(あ!)
浮竹の胸にキスして、浮竹をうつ伏せにした。
(そんな・・・ううん)
指が侵入してくる。
前立腺を刺激されて、浮竹は涙を零した。
蕾にいれていた指をひきぬいて、かわりに舌をはわせる。
ピチャピチャという水音が響いて、ピクンと大きく浮竹の体がはねた。
(あああ!!)
シーツの端をきつくかんで、見えない翡翠の瞳からいくつも涙をにじませて、浮竹は声もなくテレパシーで啼く。
「いい声。歌声もいいけど、その声もいい。もっと聞かせてよ」
(あ、あっ!!)
ビクンビクンと痙攣する浮竹の体を食らい尽くすように、舌で奥まで抉る。唾液の透明な線が、蕾から京楽の舌と続いていた。
ゆっくりと、二本の指を中に差し入れる。
(は・・・・ぁあ!)
ビクン!
また痙攣する浮竹の体。
「ここ、か」
(やあああああああぁぁぁ!!!)
何度もそこを指で中をかき回してやる。
(やあああ、かき回さないでえええ!!)
グチュグチュと、念のため買った潤滑油をまとった指が出入りする。
「濡れてきた・・・・」
(ううん、ううあ!)
三本に指を増やして、中をぐるりと抉ると、そのまま引き抜き、京楽浮竹の鎖骨にキスをする。
。
(あ、あ、あ)
トロトロに解された蕾から指がひきぬかれ、京楽は服を脱いだ。
(あ、やめ!あああああ!!!)
一気に引き裂かれて、浮竹はビクンと痙攣した。
「痛くないでしょ。トロトロに溶かしたんだから」
(あ、や、なんか変・・・・・)
「感じてる証拠だよ」
(こんなの間違ってる・・・神様が許してくれない)
「だから、この世界に神なんていないんだよ。いたら、今頃君を助けてるでしょ?」
(んあっ)
ぱちゅんぱちゅんと音をたてて、京楽のものが浮竹の蕾を突き上げる。前立腺をすりあげ、いい場所ばかり刺激していると、浮竹は泣きだした。
(あ、あ、あ・・・もうどうでもいい・・・・お前の子種をくれ)
「いい答えだね。たっぷり注いであげるよ」
ごりっと、直腸を貫いて、結腸にまで入ってきた京楽のものは、何度も最奥をついてから、濃すぎる精液を浮竹の胎の奥で出した。
クニクニと、胸の突起をいじる手が、浮竹をまた快感に渦に浸していく。
輪郭全体を愛撫されて、ピクンピクンと体がはねた。
「感度いいね」
(やんっ)
一度出しただけではものたりないので、処女であった浮竹を自分色に染め上げるように、京楽は浮竹を抱きしめて、キスを繰り返した。
「君を殺さないでよかった。好きだよ。多分、これは愛かな」
(多分なのか・・・俺の初めてを奪っておきながら)
「まだ続けるよ」
(やっ、もうやぁあ」
京楽は、浮竹を騎乗位にすると、ずぶずぶと浮竹は自分の体重で京楽のものを飲みこんでいった。
(あ、あ、あ)
いい場所をこすられて、自然と腰が揺れる。
「いい眺め」
(ばか・・・・)
京楽は浮竹を下から突き上げる。
その激しさに、長い長い浮竹の白髪が宙を舞った。
(や、なんかくる・・・・ああああ!!!)
内部でいきながら、浮竹は射精していた。
(あ、あ、あ、いってるから、いってるから動くなっ)
「僕も君の中でいきたいから無理だよ」
ごりっと、最奥を貫かれて、子種をどくどくと注がれた。
(キスして・・・・)
「いいよ」
浮竹の顎をとらえて、深いキスをする。舌と舌が絡み合う。
京楽は、蛍光ランプの光を少しだけ落とした。
「明るいのは嫌?」
(それは・・・・明るいか暗いか分からないので・・・・・んっ)
カリっと、胸の先端に京楽がかじりついた。もう片方は指で何度も弄っている。
「こうされるの嫌い?」
(そんなこと、されたことなんて・・・)
「それはないだろうね。何せ僕が、君の初めてだから。もう一回、抱いてもいいかい?」
(好きにしろ。もうどうでもいい)
クスリと小さく笑って、何度もちゅ、ちゅと全身にキスしていく。
額にキスしたあとは、首筋、鎖骨、胸元、胸、わき腹、どんどんと下に降りていく京楽の頭を浮竹は手で髪を弄んだ。
「いてて・・・・」
(純潔じゃなくなった・・・俺にはもう、神子でいる資格がない)
「そんなことないでしょ。エリュシオンの歌声をもつ証の白い翼が散っていない」
(俺はまだ、神子でいられるのだろうか」
浮竹は、エリュシオンの歌を歌い出した。
京楽に抱かれながら、歌った。
京楽は浮竹を正常位から犯して、また子種を最奥にたたきつけると、満足したのか浮竹を抱きしめた。
「お風呂に入ろ。僕が洗ってあげるから。中にだしたものかきださないと」
(あ・・・・溢れて・・・・)
浮竹の太ももを京楽の出したものが、伝い落ちていく。
「おっと、タオルタオル」
浮竹を抱きかかえて、京楽は宿の備えつけの大きめの風呂に入った。
「僕が君をを守るから。僕だけを信じて」
(都合のいいことを・・・俺を汚しておきながら)
「責任はとるってば」
(俺はこれからお前といるのか?)
「そうだよ。君と僕は、愛の逃避行をするんだ」
(俺は、お前を愛してなどいない)
「愛してないやつに股を開くの?」
(なっ)
浮竹は、顔を真っ赤にして手で顔を覆った。
(少しは、好きだ)
「少しなの?素直に愛してるっていってよ。愛もないセックスしたわけじゃないつもりなんだけど」
(ああもううるさい!黙ってろ!)
浮竹は風呂からあがると、京楽の手をかりながらベッドに移動して、衣服をきて長い髪の水分をなんとかとって、ベッドでふて寝を始めるのだった。
宿で数日休み、浮竹は京楽に抱かれていた。
(ああああ!!!)
指とは比べ物にならない硬く熱いものが、浮竹の蕾を貫いていた。
なんとか逃れようにも、頭の上で手を戒められていてどうにもならない。
(ううあ!!)
ズクリと、奥まで入り込んでくる熱い熱を無意識に締め付けて、浮竹はシーツに涙を零す。
クチュリ。
結合部から響く水音が信じられない。
(うう、ううん)
ガクガクと激しく揺さぶられる。
最初は体を労わるように優しく、次に壊れそうなくらいに激しく。
何度も奥まで貫かれ、そのたびに浮竹の長い白い髪がシーツを泳いでいく。
(ああ!!!)
うつぶせだった体を仰向けにされて、ズルリと中から京楽が出て行く感触に身震いした。
(あ・・・・)
京楽は、浮竹の手の戒めを解いてやった。
浮竹は、必死で京楽の首に手を回した。
こんな。
こんなことに、なるなんて。
「どうしてほしいの?いってごらんよ」
(そんな・・・むり・・・・あう!)
スプリと、熱でまた犯された。でも、またすぐに出て行く。
(あ・・・・)
ブルリと全身を震わせて、浮竹は涙を零す。その涙を京楽は吸い上げる。
(あ・・・・ぬか、ないで。抜かないでくれ・・・・)
「いい子だね」
(うあああ!!)
激しく突きいれられ、そのまま挿入を繰り返されて、何度も何度も揺さぶられる。
中で京楽がはじけたと分かった後も、まだ揺さぶられ続けて、浮竹は翡翠の瞳で京楽の瞳を見つめた。
実際には見えないけれど、第6感が発達しており、ぼんやりと瞳に影が映り込む。そして、魔法を通して京楽の言葉を脳にとりこむ。
キスを繰り返しながら、浮竹はガクガクと足を振るわせた。
(あ、だめぇ!!)
ビクン弓なりに背がのけぞり、今までよりも一番のオーガズムの波に襲われる。
すでにもう精液を出し尽くしており、内部だけの快楽でいってしまいそうになっていた。
長いオーガズムの波に、浮竹は涙を零した。
(あ、あ・・・・)
「いっちゃいなよ」
(どう、やって・・・・・)
「僕の名前を呼んでいればいい。自然と体がなれてくるよ。いけるようになる」
(あ、あ、春水、春水!ああああ!!)
足を肩に抱えられ、また奥に入って抉ってくる京楽の背中に爪をたてた。
まただ。
また、大きな波に攫われるような感触。
(ああ、春水!!)
「十四郎・・・すごく・・・いいよ」
(うあーー!!)
ビクンビクンと震える全身。そのまま、浮竹は胎の奥に京楽の子種を注がれながら、ドライのオーガズムでいってしまった。
達するという行為に、慣れ始めていた。
ひくつく浮竹の内部から引き抜くと、浮竹はぐったりしていた。
「どうしたの?」
(お前の性欲が強すぎる・・・・初めてから間もないのに、激しすぎる)
「でも気持ちよかったでしょ?」
(それは・・・・・)
浮竹は赤くなって、プイと顔を背けた。
浮竹は、心のどこかで神に救いを求めていた。
神様はいないのだろうか。
この世界の何処にも。
神話はあるけれど、誰も神の姿など見た者はいないのだ。