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インフルエンザ(イチルキ

季節の変わり目は、病気になりやすい。そのせいかどうか分からないけれど、ルキアがインフルエンザになった。

同じ部屋で生活している身としては、うつされたら困るだろうが、その年一護はきちんと予防注射を受けていた。

「一護・・・・・・目が回る」

「熱出してるんだから大人しくしてろ」

「しかし・・・・虚が・・・」

「そんなの、俺が倒してくる」

ルキアは一護のベッドの上で、力なくまた横になる。義骸が人間の病気にかかるなどとは思わなった。精巧につくりすぎているな、と思った。

「ただいま。おい、大丈夫かよ?」

額を額をくっつけられて、熱のせいで赤いのに余計に赤くなった。

「あー少しまだたけぇな。なんか食いたいものあるか?」

「アイス。アイスにアイスにアイスに苺」

「どんだけアイスくいてぇんだよ」

「フラフラする。関節と喉が痛くて頭も痛い。眩暈もする」

「大人しく寝てろ」

「尸魂界にいけば薬が・・・・」

「そこまでたどり着く体力もねーだろ。現世の医療だって発達してるんだ。アイス買ってくるから、少し待ってろ」

一護は、インフルエンザでダウンしているルキアを残して、スーパーまで足を運んだ。アイスは簡単に見つかったが、苺が季節外れで売っていなかった。

ふと、練乳味のアイスの上に、凍った苺をのせているアイスがあったので、手にとる。他のアイスの2倍の値段がした。少し高いなとは思いつつ、かごにいれてレジに並ぶ。

帰宅すると、家の玄関でルキアが倒れていた。

「おい、しっかりしろ」

ふと、ルキアが気づく。

「どうしたんだよ、こんなとこで倒れてて」

「貴様がおらぬから・・・探したのだ、一護。寂しい。傍にいてくれ・・・・・・」

いつもの、傲慢なルキアがいない。

細い体を抱き上げて、一護は室内に戻るとルキアをベッドの上に横たえた。

冷えピタの熱さまシートを額にはる。

「冷たくて心地よいな・・・・」

一護の手に、すり寄ってくる。

「貴様の手も、冷たくきもちいい」

一護は、思い切り我慢していたが、我慢ができずにルキアの唇に自分のものを重ねた。

「ふわっ・・・・・・世界が廻る」

「アイス、一人で食えるか?」

「無理だ。貴様が食べさせろ」

「仕方のねーやつだな。苺は売ってなかった。シャーベットになってるのしかなかった」:

「それでもよい・・・・・」

一護の手から、ルキアは少しずつアイスを食べた。苺のシャーベットを最後に食べて、とても幸せそうな顔をするルキアに、一護の心も温かくなった。

「お粥食えるか?」

「貴様の手作りなら食べてやらぬこともない」

いちいち条件指定してくるところが、ルキアらしい。傲慢で不遜で・・・・でもかわいくてかっこいい。
ルキアはかわいいが、言動ださっぱりしているので、そんなところがかっこよかかった。

「これでも、一応大学は一人暮らし希望だからな。料理もそこそこにはできるぞ」

「では、美味なものをもってこい」

「はいはい」

キッチンに向かって、卵粥を作ると、それをもってあがった。

ルキアは伝令神機をいじっていた。

「虚か?」

「違う。インフルエンザで帰れぬと、連絡をいれておいたところだ」

もともと、現世に虚退治のために派遣されたが、定期的に尸魂界にいって、報告をしなければいけなかった。それが無理になり、伝令神機で連絡を入れていたのだ。

「いい匂いがする」

「ただの卵粥だけど・・・・」

「うむ。食わせろ」

「お前さ。もう少しかわいげのある言葉いえねぇのかよ」

「私の何が不満なのだ」

「ああ、もういいよ」

せめて、食べさせてくれというのなら、まだ少し可愛げがあるのに。ルキアは、本当に傲慢で不遜だ。でも、それがルキアのもち味だった。

スプーンですくって、冷ましたものをルキアの口に入れる。

「美味いな・・・・・」

「鮭いれてるからな。その味もするだろ」

「本当だ。余計に美味いではないか!貴様、朽木家の厨房係になれ!」

「無理言うなよ。まだただの高校生だ」

「高校生兼代行死神だ。それを忘れるな」

「へいへい」

卵粥を食べさせて、薬を飲ませることにした。

「苦いのはいやだぞ!」

「今時の薬はだいたい錠剤タイプが多いんだよ」

解熱剤を含めて、5錠くらいの薬を渡されて、ルキアの顔が辟易となる。

「こんなに飲まねばならぬのか」

「お前、保険証がないから病院につれてけないからな。アホでも一応親父は医者だから、親父が処方した薬だ」

「ふむ、貴様の父上か」

ルキアは素直に薬をのんだ。コップの水を飲み干して、こういう。

「汗で気持ち悪いのだ。浮竹隊長はよく臥せっておられるとき、風呂に入れぬ日は濡れたタオルでふいてもらっていたときく。一護、お前も私の体をふけ」

どんな拷問ですかこれ。

「俺は男だぞ!」

「それがなんだ」

「ああもう!体ふくのは遊子と夏梨に任せるから、少し辛抱してろ!」

遊子と夏梨を呼んで、ルキアは濡れタオルで体をふいて身を清めてもらい、一護の新しいパジャマを着て寝ていた。

「そうか・・・貴様も、一応男だったな。付き合ってもいない男女がする行為ではないか」

「当たり前だろう!」

「ふふ。でも、触れたりキスはするのにな」

「うっせぇ。お前だって、拒んでねぇじゃねぇか」

「私は拒まぬよ。一護といつまでもこんな時間を過ごせたらと思う」

「俺も、こうして平和にお前の隣にいたい。薬がきいてくるだろうから、もう寝ろ」

「寝るまでの間、手を握っていてはくれまいか。寂しいのだ」

「手を握るくらいでいいなら、いつでもそうしてやるよ」

ルキアの小さな手を握る。白くて柔らかかった。

一護の体温に安心したのか、ほどなくしてルキアは寝てしまった。

「明日には、熱さがってるといいな」

ちゅっと音をたてて、ルキアの頬にキスをした。

尸魂界に戻らねばならぬ日が近づいていた。

たとえ、進み道がどんなに違っていようと、二人は寄り添いあう。

それは、比翼の鳥にどこか似ていた。


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学校へ行こう!

「私には――好きな人がいますーーーーーー」

屋上で、ルキアは叫んでいた。

地上には、全校生徒が集まっていた。

屋上からの告白。

それが今回のイベントだった。

「「「だーれー」」」

全校生徒が、ルキアの言葉の続きを待つ。

「私こと、朽木ルキアは黒・・・・・・もがーーーーーー!!」

一護に口を封じられ、台から引きずり降ろされ、ルキアは憤慨した。

「貴様、何をする。せっかく全校生徒の前で、貴様を好きだと告白ようとしたのに」

「少しは恥じらいをもてええええ」

好きだと言ってくれるのは嬉しい。実際、ルキアが好きだった、

だからといって、全校生徒の前で告白されるなんて、ムネキュンを通りこして胸に穴があきそうだ。

「貴様は私が好きなのであろう。ならば、知らせれたくらいで恥ずかしがるでない!」

「思いっきり恥ずかしいつうのこのやろう!」

ルキアの頭をぐしゃぐしゃにしてやった。

「何をするたわけ!」

ルキアが、一護の頭を踏みつけた。

「ピンクのチャッピー柄」

それが、ルキアの義骸がはいている下着の色と柄だとわかって、ルキアは足をどけて、真っ赤になって後ずさった。

「き、貴様という男は、わ、私の身につけている下着を盗む見るなど、万死に値する!」

ぽかぽかと、一護の頭をたたく。

「いてててて」

かわいい怒り方に、さっきまで抱いていた感情も薄れる。

アメジストの目を見つめる。

「な、なんだたわけ」

「好きだ。卒業したら、結婚しよう」

「けけけけけけけ、けっこけっここけこっこー?」

あまりに衝撃的な言葉に、ルキアの脳が処理することを否定した。

「もう、場所も決めてあるんだ。バイトでためた金で、結婚式をあげよう」

「ちょっとまて一護!まだ私はその!心の準備が!」

「なーんてな。冗談に決まってるだろバーカ」

あっかんべーをする一護に、ルキアが怒った。

「ななななな乙女の純情を踏みにじりおって!」

「乙女って年かよ」:

「許さぬ!もしもし、兄様?」

「だああああああああああ」

ルキアは、必殺の白哉召喚用の携帯を手に取っていた。

「見ていたぞ。兄が、ルキアの下着を盗み見た瞬間も。万死に値する。散れ、千本桜」

「だあああああああああああああ」

屋上から逃げ出す一護を、桜の花びらが追っていく。

「ルキアのあほおおおおおおおおお」

一護は、どこまでも逃げていく。

「平和だな」

そう口にして、ルキアは屋上を去って行った。、

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愛されないと消えてしまう世界

完全パラレル話。領主京楽×愛玩奴隷浮竹

ファンタジー世界。

異世界からの来訪者である浮竹と、領主から王になった京楽。


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異世界からの来訪者は、愛されないと消えてしまう-----------。

そんな昔話があった。異世界からきた一族は、瘴気を浄化する存在として大切にされた。



その日は、月に一度の領主の視察会だった。もともと上流貴族であった京楽家は、春水が当主の時代になって王家に次ぐ権力をもつようになり、まさに怖い者なしだった。

その日、京楽は自分の影武者に視察を任せて、城下町の治安の調査をしていた。

「この、金がかかるだけのできそこないがっ!」

「ううーーー」

奴隷商人と、奴隷らしかった。

京楽春水が敷いたルールとして、たとえ奴隷であってもわけなしでは迫害してはいけないと掟を出しているが、それに従う奴隷商人は少なかった。

奴隷は、口をふさがれているわけでもないのに、かすれた悲鳴をあげて、うなっていた。

「うーーーーー」

「この口も聞けないできそこないがっ!」

鞭うたれ、ぼろきれのような服しかまとっていない奴隷の白い背中に鮮血が散る。

「この!」

次の一撃は、いつまでたってもこなかった。

目をつぶって身を守っていた奴隷----------浮竹は、奴隷商人を振り返った。

「う・・・・?」

奴隷商人の手を、京楽がしっかりと掴んでいた。

「奴隷売買条約第16項。奴隷とはいえ、無駄に虐待及び迫害を行わないこと。これを守らぬ者は奴隷商の資格をはく奪される」

「お、お客様でしたか。そんな条約、知りませんでした」

「ああそう。じゃあ18項は知ってる?迫害されている奴隷は、違う奴隷商に委ねられる」

京楽は、奴隷商を蹴り飛ばした。

「僕は奴隷商じゃないからこうするけどね」

財布から金貨を数枚地面に落とす。

「この子は、僕が保護する」

「金、金、金だああああああ!お客様、好きにしてください!そんな病弱な奴隷、金さえもらえれるなら喜んで手放します!」、

「だそうだよ。君は今日から、京楽春水の奴隷だよ」

「うーーーーーー」

「いたた、噛みつかないでよ」

浮竹を抱き上げて、京楽は馬車を拾うと、近くの宿屋までやってきた。そこの女将に、風呂の用意をさせて、新しい衣服を買ってくるように頼み、幾枚かの金貨を握らせた。
金貨が1枚あるだけで、こんな宿屋には半月は滞在できるだろう。

「うーー」

「名前は?」

「う、うう・・・かひゅっ」

名を名乗ろうとして、喉が鳴った。

「かわいそうに、声がでないのかい。紙と鉛筆渡すから、名前かける?」

紙に、走り書きで浮竹十四郎と名をかいた。

「浮竹?・・・・・聞いたことあるね」

「ううっ」

紙に文字を書く。

(異世界からの来訪者、浮竹一族。長兄の十四郎)

「ああ、この国でも有名な浮竹一族か!そんな存在がなんで奴隷なんかに!?」

異世界からの来訪者は、この世界を救ってくれる大切な存在である。瘴気を、浄化できる。この世界は、常に瘴気にさらされて、瘴気にあたると植物は枯れ、動物は死に絶え、人間は狂ってしまう。
だから、異世界からの来訪者である浮竹一族は、王家の管理の元でとても大切にされているはずだった。

(浮竹一族は皆、黒い髪に青い瞳をもっている。俺だけ色が違う。瘴気を浄化できなかった。怒った王が、俺を奴隷に落とした。しかも、愛玩用。それでも、お前は俺をお前の奴隷として扱うか?)

「浮竹一族の子を奴隷になんてできない!元々、奴隷から解放してあげようと思っていたからね」

(愛玩用だぞ、俺は。その意味がわかっているのか?)

愛玩用の奴隷に落とされると、最低月に1回は誰かと交わらなければ色狂いになり、正気をうしなう。そして、その奴隷の所有者となった者は、月に一度は体液を与えないと、愛玩用の奴隷は主に牙をむく。

(おまけに俺は異世界からの来訪者。愛を与えられないと、この世界から消える)

たくさんの不幸を抱えている浮竹に、京楽は決心した。

「君を、僕の愛玩奴隷にする。ただし、奴隷としては扱わないし、所有される証の刻印も刻まない。ただ君を愛し抜こう。異世界の来訪者は愛されないと消えてしまうからね」

「かひゅっ・・・・・」

浮竹は何かをいいたげだった。

女将がはいってきて、風呂の用意と着換えの用意ができたと告げてきた。

ぼろぞうきんのような浮竹を連れて、風呂に入れた。灰色だった髪を洗うと、純白の雪のように白い髪が現れた。汚れていた肌を洗うと、真っ白な体が現れた。鞭うたれた痕があるが、それは魔法で癒そうと京楽は思った。

「うーーーーーー」

裸にされ、洗われるのが恥ずかしいのか、浮竹が抵抗した。

「あ・・・う、ああ・・・・」

「喉、一度医者に診せるか・・・・・大丈夫、何もしないよ」

その言葉を信用したのか、浮竹はされるがままだった。風呂に入れられ、身綺麗になり、新しい衣服をまとっそた浮竹は、年にすれば18あたりの、美しい青年だった。

白い髪の人間など、みたことがない。翡翠色の瞳もだ。

この世界の人間は、黒い髪に黒い瞳で、年がいって髪から色がぬけると茶色になった。

浮竹の世界では、髪から色が抜けると白くなるらしい。

「きょ・・・ら・・・く」

「お、言葉少ししゃべれるのかい?」

「かひゅっ」

もう一度名を呼ぼうとすると、喉が鳴った。

「うーーー」

自分の喉をなでて、苛立たしげにしている浮竹を連れて、京楽は屋敷に戻った。

「うーーー」

豪邸だった。すぐに医者が呼ばれた。

「心的ストレスからくるものでしょう。治癒術士に診せたほうがいいですね」

そして、今度は国でも選りすぐりの治癒術士が呼ばれた。

「心の傷を軽くします。それと、鞭うたれた後の傷を癒します」

治癒術士は、呪文を歌のように紡ぎ、杖の先から光があふれ出た。それは浮竹を包み込み、鞭うたれた背中の傷を癒し、心を清め、最後に喉に光が宿った。

「きょら・・・・く」

浮竹は、驚いて自分の喉に手をやった。

「こえ・・・・・・で・る・・・・・・・・」

「しばらくはたどたどしいでしょうか、直にしゃべれるようになるでしょう。何か、心的ストレスでしゃべれなくなっていたみたいですね」

「君の身に、何があったんだい?」

「しょか・・・・され・・・・・とき・・・・おこた・・・・王に・・・・犯され・・」

召喚された時、浮竹一族の色をもたない十四郎は、特別扱いされた。とても美しかったので、王の妾となる予定だったのだ。だが、瘴気を浄化できななくて、それに怒った王が浮竹を犯して、愛玩奴隷に落としたのだ。

まだきちんとしゃべれないので、紙を渡すとそれまでの経緯を浮竹は文字で綴った。

「かわいそうに」

抱き締められて、浮竹の翡翠の瞳から、涙が零れた。

王家の手で召喚された時、すでに浮竹一族はある程度おり、大切にされていたが、反面瘴気の浄化を強制されていた。

一族を庇う形で王に意見した十四郎は、浄化もできないできそこないと分かって、王に散々弄ばれた上に、愛玩奴隷に落とされた。

珍しい色の愛玩奴隷だと、始めは喜んでいた奴隷商であったが、浮竹が声もでない欠陥品で、あげくに病弱過ぎること原因で、迫害された。

京楽は、ずっと浮竹を抱き締めていた。

「落ち着いた?」

こくりと、浮竹は頷いた。

「この館は、今日から君のものでもある。好きなように使うといいよ」

「きょら・・・・・あり・・・・がと」

「無理に、声を出さなくていいから」

抱き上げると、ふわりと浮竹からは甘い花の香がした。

「香水が何かつけてるの?」

「ちが・・・・うまれた・・・とき・・・・」

(生まれた時、花の神に祝福され愛されて、肌や髪から自然と甘い花の香りがするようになった)

「へえ」

抱き上げられたまま、そのまま食堂に連れていかれた。

「僕には家族は今はいないからね。今日から、君が家族だ」

「ん・・・・・」

たくさんの暖かい料理が運ばれてきた。それを、京楽が手に取って浮竹の口をあけさせて、食事をさせる。

「君は、愛を注がれなないと、消えてしまうからね」

ちゅっと、うなじにキスされて、浮竹は真っ赤にあった。

「自分で・・・・・たべ・・・れ・・・・・る」

「だめだよ。これも愛の一つだ。僕の手から食べなさい」

とろとろになるほど甘く接された。

「ほら、特別に調合した薔薇水・・・・・喉にもいいから、飲んでごらん」

一口含むと、ぶわりと口の中に甘さが広がり、次にすっとするミント系の味がした。

「ああーー、あいうえお・・・・・」

「お、ちゃんと話せるようになったかい?」

「なんで?さっきまで掠れてたのに」

「不治の病でも治すとわれる、人魚の涙をいれた薔薇水だ」

値段を聞くと、別荘が建ちそうなくらいだったので、浮竹は頭を抱えた。

「そんなに、返せない」

「君は、僕だけに愛を囁けばいい」

食事が終わると、湯あみだった。いい匂いの香油でマッサージされて、眠気がきて少し眠ってしまったようだった。

「あ・・・・」

起きると、薄い肌着だけで、京楽のベッドに寝かされていた。

「あの・・・・・・」

「なんだい、十四郎」

「俺、初めてじゃない。それでもいいのか?」

「そんなこと、気にしないよ」

京楽が、服を脱いでいく。やせっぽっちの自分の体が恥ずかしくて、視線を伏せる。

「おいで。愛してあげる--------------------」




心も体もとろとろになるように愛されて、浮竹の少し透けていた手がくっきりと形になった。暴力的な愛では、決して一度透き通った体を元に戻すことはできない。

そして、解放された身分とはいえ、愛玩奴隷だったせいで、主は京楽と上書きされた。
月に一度は京楽の体液をもらわないと、京楽を殺してしまう。

「君は、これからどうしたいの?」

「分からない。ただ一族を解放させたいと思ったけど、大切にされているようだし、逃げ出したいという子はいなかった・・・・・」

俺以外は、とつけ加える。

それから、週に一度は抱かれるようになった。

「あああっ!」

「声が出るのはいいね。君の声は、心地いい」

前立腺をつきあげられて、浮竹は背中を反らせた。

「あっ!」

ぬるりと外にでた灼熱が、ずるずると音をたてて内部に入ってくる。ぱちゅんぱちゅんと音をたてて出し入れをされて、浮竹は欲望をシーツの上に吐き出していた。

「いったから・・・・京楽、やだ、犯さないでっ」

「気持ちよくなるだけだから、大丈夫」

栄養のある食事を続けさせたせいで、肋骨が浮くほど細かった体には、しなやかな筋肉がついた。

「ああああああ!!」

膝を抱えられて、無理な体勢で侵入されたが、柔らかな身体をもつ浮竹は、少々強引な体位でも受け入れた。

「さぁ、愛を注いであげよう。たくさん受けとるといい」

ドクドクと、直接体液を体の奥に注がれて、浮竹は愛玩奴隷としての自我を目覚めさせる。

「もっと・・・・・・・」

ねだるままに、口づけをかわして、体液を注いだ。

「愛されないと消えてしまう世界」

そういって、浮竹は意識を失った。


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その日は、百年に一度のお祭りだった。この世界の人間の寿命は長い。寿命は500~700年だった。

「あれも、かっていいか京楽!?」

はじめてのお祭りに、浮竹がはしゃいでいた。

生まれ故郷では貧しくて、食べるために、妹が売っていかれた。浮竹も、一度は色子として売られて行ったが、病弱なせいで戻された。

「ああ、あんまり遠くにいくんじゃないよ」

京楽の見守る中。浮竹はもらったお金でいろんなものを買って、食べたりして喜んだ。

輪投げをして、チャッピーなる謎の等身大人形をもらって、困っていると幼子が欲しそうにみていた。
浮竹は、人形を子供にあげた。

「そろそろ帰るよ、浮竹」

「わかった、京楽」

金魚という魚の入った袋を手に、浮竹は馬車に乗せられて京楽家の屋敷に戻った。

小さな水槽をみつけて、色ガラスを一杯沈めて水を注ぎ、そこに金魚を泳がせた。

「宝石みたい」

色ガラスが綺麗でそう言っていると、京楽が一つの髪飾りをもってきた。

「今日の祭りで買ったんだ。君の瞳と同じ色の翡翠があしらわれている」

「綺麗だな」

「君のために買ったんだ。つけてくれるかい?」

「俺でいいのか?こんな高価なもの、俺がもらっていいのか?」

「君にだから、もらって欲しいんだよ」

京楽に髪飾りをつけられて、浮竹はいつまでも笑顔を絶やさなかった。


ある日、浮竹が咳こんだ。

「ごほっ、ごほっ」

「大丈夫かい、浮竹?」

「すまない・・・俺は、肺の病を患っているんだ。でも、人にはうつらないから・・・ごほごほっ」

ごぽり。

大量の血を吐血した浮竹を抱き上げて、京楽はお抱えの国でも5本の指に入る治癒術士のところに運んだ。

「どうなされたのですか。旦那様!」

「浮竹が血を吐いた!」

「そこに横にさせてください。今すぐ、治癒魔法をかけます」

歌のような旋律の呪文で、魔法は完成した。いくつもの光が、浮竹の胸の肺のあたりに入っていく。

「どうやら、浮竹様は子供のころからこの病気を患っているようです」

「なんとかならなないのか!?」

「人魚の涙でも、無理だと思います・・・…この世界の病気ではありません」

浮竹が、意識を取り戻した。

「平気だから・・・・・少し、眠らせてくれ・・・・・・・」

意識をなくした浮竹の傍に、京楽はずっと寄り添って看病を続けた。

朝になると、ベッドの上に浮竹はいなかった。

どこからか、美しい歌声がする。

「浮竹?」

京楽が外にでると、小鳥たちが群がってきた。

「なんだい、これは・・・・・」

「俺の故郷の歌を歌っていると、鳥たちがよってきたんだ」

また、美しい旋律が浮竹の喉から流れる。

その歌に耳を傾けてしばらくすると、京楽は浮竹を抱き上げた、

「まだ、寝ていなさい」

「でも。暇で・・・・・」

「お話をしてあげるから」

「むう」

ふくれる浮竹が可愛くて、その頭をなでた。

「愛しているよ、浮竹」

「・・・・・・俺も、多分愛してる」



その年の冬、浮竹は今までにない高熱をだした。

治癒術士の手でも治せなくて、どうしようかと悩んでいると、王家で保護されていた浮竹一族の少女が、手紙をよこした。

そこには、この世界に召喚されて高熱を出すのは、愛に飢えている証拠なのだと書かれていた。

そういえば、最近浮竹の調子が悪いので、抱かなかった。

よくみると、足のほうが透けていた。

愛されないと消えてしまう世界。

それが、浮竹が生きる世界だ。

京楽は、熱をだしてうなされている浮竹を抱いた。

壊れものを扱うように、優しく優しく。

体液を注ぎこむと、浮竹の熱は嘘のように去っていった。輪郭がボケていた足も、元に戻っていた。

「本当に、君は手のかかる子だね」

寝ている浮竹に、触れだけのキスをした。

「愛しているよ」

浮竹は、元気になるとよく歌を歌うようになった。不思議なことに、浮竹が歌を歌うと植物が成長し、動物が集まってきた。

「まるで、歌姫だね」

長いままの白い髪が風で揺れた。お祭りの時に買ってあげた、翡翠の髪飾りをいつもつけていた。

月日を重ねるたびに、京楽は浮竹への愛を深めていく。そして浮竹もまた、それに応えるように、愛を受け入れ、愛を囁いた。


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浮竹を手に入れて、どれくらい経っただろうか。

ある時、京楽が視察のために海外に出張するこになった。浮竹はついていきたかったが、仕事なのでだめだと言われた。

美しい声で啼く白い小鳥を、京楽は囲っている。そんな噂話が出るようになっていた。その小鳥を手に入れれば、永久を約束される-----------------。

どこからの情報かでは定かでないが、そういわれていた。浮竹は瘴気を浄化できない代わりに、違う力をもっていた。自分が受けた愛を他人に与えて、不治の病でも癒してしまうのだ。

治癒術士でも治せない傷を治せる。

それが、王の耳にまで届いた。

王は、一度の感情で愛玩奴隷に浮竹を落としたことに後悔していた。そして、浮竹は上流貴族の京楽の手の中にあると知って、京楽が視察でいないことをいいことに、影の仕事を背負う者たちに命じて拉致させた。

「十四郎。愛を注いでやろう。そのかわり、私の病を癒せ」

幸せの中、いきなり王の前にひきたてられて、浮竹は叫んだ。

「俺を一度は捨てておきながら、都合がよすぎる!」

「まぁそういうな。愛してやろう」

王は、美しい男だった。乙女なら喜んだかもしれないが、浮竹も男だ。京楽とは体の関係をもっていたし愛され愛していた。だが、最終的には自分が生きるためでもあった。

王の寝室に閉じ込められて、鎖に繋がれた。

「私の病を癒さぬ限り、元の場所へは戻さん」

浮竹は、王に強姦された。京楽がいない間、毎日、毎晩。生きているのが嫌になった浮竹は、王の病を癒すことなどなく、体を透けさせていった。

「浮竹!」

王に拉致されて、囲われていることを知った京楽は激怒した、

京楽は、浮竹を助け出そうとしていた。王の側近を切り、王の寝室で鎖に繋がれていた浮竹を解放した。

その浮竹に、京楽は剣で貫かれていた。

愛玩奴隷としての性(さが)

最低月に一度体液をもらわないと、主に牙をむく。

浮竹は、主を王としなかった。京楽が助けにきて、もしも牙をむきそうになったら、自害しようと思っていた。

「京楽!」

浮竹は、自分の手から剣を滑り落とした。

「いやだ、死なないでくれ!愛玩奴隷のルールなんてくそくらえだ!」

そして、最後の愛された力を振り絞って、京楽の傷を癒した。

「浮竹・・・・今すぐ、愛してあげるから」

「もういいんだ、京楽。俺は、消える。それがこの世界に召喚された時に決まっていた結末だったんだ」

浮竹は、体をどんどん透けさせていった。

透明になって、もう抱き締められない。

浮竹が世界から消えた時、京楽は初めて泣いた。



王を殺し、京楽が王についた。

京楽は、異世界からの来訪者たちを保護し、無理やり瘴気を浄化させることはしなかった。

何度目の召喚だろうか。

失敗続きだった召喚に、膝まで伸びたぼさぼさの灰色の髪、泥で汚れた汚い体の男を召喚した。

「浮竹!」

王となった京楽は、王の秘密を知った。透けて消えてしまった異世界からの来訪者は、死んで消えるわけではない。元の世界に戻るのだ。

だから、何度も浮竹を召喚しとようとした。

「・・・・・・かひゅっ」

喉から、声がでないその体を抱き締めて、風呂を用意させて髪と肌を洗い綺麗にすると、そこには少し背が伸びた浮竹がいた。

「かひゅっ」

精神的なストレスのせいで、浮竹はまた言葉を失っていた。

治癒術士に治癒させ、特別な薔薇水を飲ませると、声が戻った。

「京楽?本当に?」

浮竹は、涙を浮かべて京楽に抱き着いた。
もう、忌々しい愛玩奴隷というルールは敷かれていない。

「愛している」

王である京楽に抱きしめられて、浮竹は幸せそうだった。

愛を与えられた。

たくさんの愛を。

「ああああっ」

中をこすりあげられて、浮竹は啼いた。

「あっあっ」

背後から貫かれて、浮竹の体が震える、

「ううん!」

前立腺を突き上げてきた京楽は、浮竹の花茎に手を回した。

後ろを貫かれながら前をいじられて、浮竹はあっけなく性液を吐き出した。

「愛している。愛を注いであげる」

「いああああ!!」

体の一番深いところで精液を吐き出して、京楽も満足した。


湯あみを終えて、昔のように膝に乗せられて、京楽の手から食事を与えられた。

今までの召喚で、何人かの浮竹一族の者がきたが、京楽は手厚く保護し、望む者だけに伴侶を与えた。

体を透けさせて、故郷に戻りたいものはそのままにしておいた。

「僕は、君を伴侶にする」

浮竹は驚いた。伴侶は、一度決めると変えれないのだ。

「本当に、俺でいいのか?」

「君だからだ。君が透明になって消えたくなっても、愛を注いで消えさせてやらない」

やがて、数十年の時が流れた。

長命種である京楽に寄り添う浮竹は、召喚された時間から時を止めていた。

京楽は20代後半から、30代前半くらいの見た目になっていた。

伴侶として、常に傍に浮竹がいた。

愛されないと消えてしまう世界の中で、浮竹は常に京楽に愛され、京楽を愛した。

長い長い時を、一緒に生きた。

そして、京楽この世を去ると、浮竹は透けるのではなく粉々に散っていった。

伴侶の死と共に死ぬ。それが、浮竹の出した答えだった。

もう、世界に瘴気はなかった。王となった京楽の手により、様々なことが改善された。

異世界の来訪者は、時折またこの愛されないと消えてしまう世界に迷いこむ。


京楽と浮竹は、天界からその様子を見ながら、永遠のまどろみを続ける。

今日も、明日も-------------------。



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浮竹が視力をなくした。

それはあまりにも突然のことで、京楽すらそんなことになると思っていなかった。

原因は、最近新たに開発された薬だった。

肺の病によく効いて、発作もなくなるほどの効き目に、バカ高い値段のそれを求めて京楽は走り回った。

やっと手に入れて、浮竹に飲ませたころには、服用したほんの一部の者が視力を失うという、致命的な副作用があると知った後だった。

「浮竹、僕が見えるかい?」

「だめだ・・・・ぼやけていて、輪郭くらいしか分からない」

浮竹の場合、完全に視力をなくしたわけではないが、明るさがわかったり人の姿をかろうじで映すくらいで、症状としては酷いことに変わりはなかった。

4番隊の卯ノ花に見てもらたところ、眼球にも神経にも異常はなく、時間の経過と共に自然に見えるであろうという診断だった。

最初は大騒ぎだったが、視力をなくした者が、なくした順から徐々に回復していると知って、京楽も胸をなでおろした。

でも、浮竹が視力を取り戻すには1週間以上はかかりそうだった。

「こっちであってるかな・・・・」

雨乾堂で、壁伝いに歩いていると、机につまずいてこけた。

「なんだ?机・・・・・・?」

手でさわってみるが、散らばった書類があるようだ。手探りでそれを集めて、机をなんとか元にもどしてその上においてみる。

「こっちで・・・・」

雨乾堂の外の鯉に、餌をやろうと思ったのだ。

それくらい、目が見えていなくてもできるだろうと思って。

「うわ!」

掛軸の前においてあった花瓶を割ってしまった。けっこう値段がしたのに。溜息をつきながら、移動する。

鯉の餌をおいてあった袋を手にして、池にいる鯉に餌をやろうとして、滑ってこけた。

バシャン。

池に落ちて、浮竹はもうどうにもできずに、清音を呼んだ。

「清音ー。助けてくれー」

「隊長!目が見えないのに、なに無茶してるんですか!」

やってきた清音に怒られた。

「いや、鯉に餌をやろうと思ってな」。毎日していることだから、それくらい目が見えなくても大丈夫と思って・・・・」

この冬の冷たい時期に、池に入って水浸しになるなど、風邪をひけといっているようなものだ。

「とにかくあがってください!」

手をかされて、浮竹が池からでた。

「こっちへ」

手をとられていたが、見えない中どんどん進んでいくものだから、恐怖心にかられた。

「うわっ」

雨乾堂にある僅かな段差に躓いた。こけて怪我をするはず・・・だったが、暖かい腕の中に抱き込まれて、それが誰であるかすぐに分かった浮竹は、名を呼んだ。

「京楽・・・・・」

「浮竹、無理しないで!これは僕のせいだ!」

自分を責め続ける京楽の姿を、見えない目でとらえる。ぼんやりとした輪郭しか見えなかったが、それで充分だった。

「俺のために、薬を手に入れてくれたのだろう?確かに副作用でこんなことになるとは思っていなかったが、今は肺が楽なんだ。薬は確実に効いている」

「副作用さえなければ・・・・・」

そうすれば、浮竹が肺の病で吐血することもなくなるのに。もどかしい思いを抱えたまま、京楽は浮竹を抱き上げた。

「山じいには、許可をとってあるから。目が見えるようになるまで、ずっと傍にいるよ」

「おいおい、大げさな・・・・・」

「大げさじゃないよ!見えないだろうから分からないだろうけど、慣れた雨乾堂の中でさえ、躓いたりしてるじゃないか!」

京楽は、浮竹を抱き締めた。

「本当にごめんね・・・・・ああっ、怪我してるじゃないの!」

「え?」

「足の指から、血がでてる」

裸足で移動していたせいだろうか。多分、花瓶を割った時に、怪我をしたのだろう。痛みをさほどかんじなかったせいで、分からなかった。

「清音ちゃん、救急箱もってきて」

「はい!」

まずは、衣服を着換えさせて、用意されていたタオルで浮竹の長い白い髪から水分をとると、ドライヤーで乾かしていく。

「救急箱もってきました」

「ありがとう。さがっていいよ」

「ああ、清音ありがとう。あとは京楽に任せるから」

「はい。京楽隊長、浮竹隊長をお願いします」

清音はそれだけ言い残すと、隊舎のほうへ下がってしまった。

「これ、本当に痛くないの?」

傷口をつつかれたが、痛みは微塵も感じなかった。

「もしかすると、これも薬の副作用・・・・?」

「勘弁してくれ。痛覚がないと、何かで怪我しても分からない」

「大丈夫、目が見えるようになるまで僕がいつでも傍にいるから」

足の傷口を、京楽が舐めた。

「なにやって・・・・」

「消毒」

「ばかっ!」

ちゃんとアルコール消毒され、ガーゼで傷口を覆った。

「そのなんだ・・・・目が見えないせいで、何もできないのは苦痛だな。東仙は、こんな世界を生きていたのか・・・・・」

今はもういない、東仙要のことをふと思い出した。

「東仙君は、もとから目が見えないから暗闇になれていたからね。突然視力を失うほうがきついと思うよ・・・」

京楽に抱き上げられて、いつの間にか布団に寝かされていた。

「んっ」

触れられただけなのに全身に雷が走ったような衝撃を覚えた。

「京楽・・・・?」

「見えなくなると、感じやすいってきくけど、本当みたいだね」

衣服をはだけられて、胸の先端をつままれた。

「あああ!」

浮竹は驚いていた。愛しい京楽の姿が見えないのに、快感だけを与えられていく。

「んんっ」

舌が絡まるキスをして、離れていく京楽を、浮竹は求めた。

「京楽、もっと・・・・・・」

「キス、好きだね?」

口づけしながら、京楽は浮竹の花茎に手をかけた。

「ああっ」

いつもの数倍感じた。

「だめだ、いってしまう・・・・・・」

「まだ、触っただけだよ?」

「もういい。中にこい」

ぐちぐちと、指を潤滑油まみれにして、性急に蕾をほぐしていく。

前立腺を触られるたびに、あられもない声をだした。

「ああああっ」

京楽に貫かれたのと同時に、浮竹はいってしまった。

びくりと、体が痙攣する。はぁはぁと荒い息をつく浮竹が、酸素を求めてくる。

口づけすると、浮竹は京楽に抱き着いた。

「いつもより、積極的だね?」

「お前が見えないのが、怖い」

「ごめんね」

前立腺を幾度もこすりあげられ、突き上げられて、浮竹は精を放った。

「ああああ!!!」

びりびりと、全身を快楽が突き抜ける。前でいってるのと同時に、後ろでもかんじていってしまったのだ。

「春水、春水」

「ここにいるよ、十四郎」

抱き締めてくる腕に、ほっとする。

そのまま何度か、結合部が泡立つまで挿入を繰り返されて、京楽も浮竹の中に欲望をぶちまけて果てた。

「何も見えないのは、確かにいつもより感じるが、でも不安の方が大きい」

「いきなり抱いたりして、ごめんね。目隠しプレイ一度やってみたかったんだけど、君が嫌がると思ってしてこなかった。目がみえない今ならと思ってしまって」

「このバカ!」

蹴りを放つ。

それはひょいっと避けられてしまった。

「こっち側だよ、浮竹」

「あれ?」

暗闇におちた。

「何も見えない」

「えっ。影も?」

「光も見えない」

「ちょっと!」

浮竹と京楽はさっと湯あみを済ませると、4番隊舎の卯ノ花に浮竹を診てもらった。

「大丈夫です。視力を取り戻そうとしているだけです。あと2~3日もすれば、ぼんやりとですが次第に見えるようになってくるでしょう」

その言葉に、二人してほっとした。

それから、浮竹が光を取り戻す間、京楽は常に傍にいた。

光を認識し、ぼやけていた輪郭がはっきりと見えてくる。

「不細工だな」

歪んで見える視界には、京楽の姿も歪んでいた。

「酷いな」

「大丈夫だ、今の俺にはどんな美人を見せようと、等しく不細工に見える」

「浮竹隊長、目が見えなくなってしまったというのは、本当ですか」

「その声、朽木か」

「そうです・・・本当に目が・・・・」

翡翠色の視線が、アメジストの視線と合わさるが、どこか違うところ見ているようだった。

ルキアの頭を、浮竹は撫でた。

「大丈夫、少しずつ視力は戻ってきている。今の朽木は相当な不細工に見えるが、一応視力は戻ってきているよ」

「そうですか!白哉兄様がとても心配していたのです」

「あの白哉がか」

「そうです。日番谷隊長も、同じようなかんじでした」

「嬉しいな」

浮竹は微笑んだ。

そっと耳打ちされる。

「京楽隊長が邪魔で、お見舞いにもいけないと言っていました、二人とも」

「そうか」

くすくすと笑う。

「どうしたんだい、浮竹、ルキアちゃん」

「なんでもない」

「なんでもないです」

それから3日経って、浮竹の視力は完全に回復した。まだ薬の効果は残っているのか、肺の病独特の痛みはなかった。

それから1か月は、肺の病の発作は一度としてなかった。

副作用さえなければ、浮竹の肺は治るのに。

もどかしい思いを抱えている京楽が、浮竹の傍にいた。もう視力は戻っているが、いつも通り視力があろうとなかろうとべったりなのだ。

その邪魔な京楽のせいで、白哉も日番谷も、結局浮竹が遊びにくるまで、見舞いどころか雨乾堂までいけないのであった。

京楽が放つ、浮竹は自分のものというアピールは、確実に効いていた。





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花街夜話

「かわいいね。君どこの店の子?」

「椿の廓の--------」

「そう。椿の廓の遊女か」

女ものの着物を着せられて、肩までの髪を結い上げて、少しだけ値段のする髪飾りをして、化粧もしていた浮竹は、その男に遊女と間違われた。

本当は、色子なのに。

自分の容姿がいいのは知っていた。
できれば、死神になりたかった。学院に通いたかったが、今までかかった薬代のかたにと、色子として売られて行ってしまった。
両親には浮竹をいれて8人に子供がいた。浮竹は病弱で、特に肺の病が酷くて、両親は借金に借金を重ねて、過労で死んでしまった。
残った7人の兄弟たちも、いずこかに売られていってしまった。

残ったのは、下級貴族という称号と浮竹。

浮竹は病弱のせいで、容姿がいいので色子として売られていくのは決まっていたが、買い手がなかなかつかないでいた。
その浮竹を買ったのが椿という廓だった。遊女も色子もどちらもいる廓で、花街の中では3番目に大きい廓だった。

そんな廓に、よく遊びにくる男がいた。護廷13番隊8番隊の隊長、京楽春水だった。

色子として、生きる術を教えられた。でも、それがいやでいやで、抜け出そうとしたら、酷い折檻を食らった。
半ば、心は死んでいるような状態。

その京楽という男は、廓の花魁とを買いにやってきた。熱が出て、とても客の相手をさせれないが、少しくらい働けと言われて、本当は禿がするであろう花魁の周りの世話をしていた。

熱のせいで、呼吸が乱れる。くらくらして、世界が廻っているようだ。

「ぐっ・・・・」

けほけほと咳込むと、花魁の椿姫という女は、いやなものを見る目でこっちを見てきた。

「その病、ほんとに人にうつるものじゃないんでしょうね!」

「これは・・・・ちがう・・・・」

喉がからからに乾いていた。水を飲むと、椿姫にぶたれた。

「何勝手に水なんて飲んでるの!この店の水はね、特別に調合されているんだからね!お前のような客がつかない色子風情が飲むもんじゃないんだよ!」

「何か飲むものを・・・・・・」

喉が渇いて、死にそうだ。

「これをお飲み」

浮竹の細くまだ幼い体を、少し毛むくじゃらの手が、支えていた。

「京楽の旦那、それ甘露水じゃないか!そんな高いもの、こんなできそうこないにやることはないわ!」

京楽の手から、甘露水を奪おうとする椿姫を、京楽が見る。

「君が、こんな酷い子だとは思わなったよ。今日はこの子を指名する」

「なんだって!この泥棒猫、京楽の旦那に言い寄ったのかい!」

再びぶたれそうになった。椿姫の手を、京楽が止めた。

「君にはうんざりだよ。今日はこの子を買う」

「京楽の旦那、そんなこと言わずに。それにその子は色子だよ、旦那にそっちの趣味はなかったでしょう。あたいが満足させてあげるから、いつもみたいにあたいを買っておくれよ」

「興味ないね」

一度、京楽に見捨てられたら、二度と買ってもらえない。色街でも、有名な噂だった。

「そうだ、その子をいれて3人でするのはどうだい」

いいことを思いついたと、椿姫は京楽の腕から浮竹を奪うと、その衣服を脱がしていく。色子なのだと分からせれば、興味を失うと思って。

「やめなさい、椿姫」

細い体を毛布でくるんで、京楽はまだ幼い浮竹の体を抱き上げた。
年の頃なら、13、14歳くらいだろうか。色子が春を売る時間は短い。二十歳をいくつか過ぎても春を売る色子もいるが、たいてい二十歳くらいには花街から身請けするか年季あけで、いなくなってしまう。

「名前は?」

京楽に抱き上げられて、浮竹はかすれた声をだしていた

「翡翠・・・・・・」

瞳が極上の翡翠色だと、廓の女将が喜んでいた。そのまま、翡翠という名が与えられた。

色街は、色を売る場所。春を売る場所だ。
色を求めて群がってくる男どもに、本当の名を明かすことなどほとんどない・

「翡翠か・・・いい名前だね、今日の昼、色街の外れであったね。覚えてる?」

コクリと、浮竹は頷いた。

「遊女だとばかり思っていたけど、色子だったのか。熱があるね・・・君は僕が買うから」

その言葉に、びくりと浮竹の体が強張った。

「大丈夫、何もしないよ」

褥に横たわらせて、甘露水を店の主人に頼んだ。甘露水の他にも薔薇水や檸檬水などを注文する。

「飲めるかい?これは薔薇水・・・・・・」

「ん・・・」

こくこくと、白い喉を薔薇水が嚥下していく。

「こっちは檸檬水。少しすっぱいけど、飲んでこらん」

「ん」

檸檬水を飲んで、その甘酸っぱさに、浮竹は目を見開いた。檸檬をしぼった汁に、蜂蜜をまぜてあるのだ。甘露水は砂糖だ。

どちらも高値で、とてもじゃないが稼ぎのない色子風情の浮竹が、口にできるものではなかった。

「あの、お金・・・・・・」

「気にしなくていいから」

「でも・・・・俺、まだ何もしてない・・・・・」

「君みたいな小さい子を、買って無理やりするような大人じゃないよ、僕は。そうだ、これ椿姫にあげようと思っていたんだけど、君にあげるよ」

上半身を起こしている浮竹の細い体を支えて、京楽は翡翠の髪飾りを浮竹に与えた。

「似合っているよ。かわいいね、翡翠」

少し毛深いけど、美丈夫な京楽は、女たちにもてた。花街で、抱く相手に困ったことはない。いつも美しい遊女や花魁を相手にしていた。

最近お熱だった椿姫に愛想をつかせた京楽は、戯れに買った浮竹に手を伸ばす。

深く口づけられて、浮竹は驚いていた。

「檸檬水の味がするね・・・何か、熱を下げたりする薬もらってないのかい?」

「奥の部屋の戸棚に・・・・・」

とてもじゃないが、立ち上がって取りに行く体力など残っていなかった。

京楽が、薬を手に戻ってきた。廓の者に命じて、井戸から冷たい水をもってきてもらい、タオルをひたして、それを額の上に乗せられた。
そして、口移しに薬を飲まされた。解熱剤もあって、その成分に含まれる睡眠薬のせいで、いつの間にか浮竹の意識は闇に墜ちていた。


次の日、目覚めると隣で寝ている京楽に気づき、悲鳴をあげそうになった。

「そうだ・・・・俺は、この男に買われて・・・・・」

でも、キスしたくらいで、それ以上は何もしていない。

まだ、初めてさえ経験していないのだ。初めてを売るのは、あさってと決まっていたが、京楽が浮竹を買ったことにより、浮竹の初めては京楽が相手ということにされた。

京楽は、起きると浮竹の幼い体をまさぐった。

「な、何・・・・?」

「君・・・・ちゃんと、食べさせてもらってるかい?肋骨が浮き出ているじゃないか」

「この前、2回目の脱走してから、あまり食べさせてもらってない」

「僕がきちんと店の主に言っておくから。ちゃんと食べなさい」

きちんと衣服を着せて、京楽は浮竹の細い体を抱き寄せた。

「またくるから」

そう言って、京楽は廓を去ってしまった。

触られた場所が、ぽかぽかする。心に何かがしみわたってくる。絶望のどん底にいた浮竹は、翡翠という名で椿の廓で色子として売られるようになるまで、時間はかからかった。

「またきたよ」
「京楽・・・・・・」
「こら、翡翠!京楽様とお呼びしなさい」
店の前で、道路に水を撒いていたら、京楽がやってきた。名前を呼び捨てにすると、同じく店の前の道路に水を撒いていたいた店の主人に怒られた。
「あれから、君を買った人はいるかい?」
そんな質問をされた。
ぷるぷると首を横に振ると、京楽は心から安堵したように浮竹を抱き上げた。
「今日も君を買うよ。主人、この子を指名する」
「はい、京楽の旦那様」
病を抱え、熱を出して寝込み・・・・廓の主人でさえ、こんな色子買うんじゃなかったと後悔していたのだが、色街でも有名な上流貴族の京楽に指名される浮竹に、廓の主人も満足げだった。
何せ、椿姫を捨てたという。椿姫には他にも常連のいい客がいたが、一番のお気に入りの京楽を奪われて、嫉妬で浮竹をいじめていた。
はじめは、廓の主人も注意しなかった。ただの京楽の気まぐれだろうと。
だが、3回、4回と浮竹を買っていく京楽に、京楽の旦那様は色子の翡翠がお気に入りという噂も広まって、頬を叩いたり、蹴ったりという暴行をくわえていた椿姫にお仕置きがされた。
「これにこりたら、もう翡翠に手をだすんじゃないぞ!何せ、毎日のように京楽の旦那様がきてくれる。お前の時は2週間に一度だった。翡翠の値段をお前と同じにしたけど、毎日買ってくれるからな。棚から牡丹餅だよ。買って損したと思っていた翡翠は、まるで金の成る木だ]
店の主人は、逃げ出そうとして折檻をしていた浮竹が、逃げようとしなくなったことにも満足していた。
京楽は、浮竹を買った。最初はお菓子を与えていたり雑談するだけだったが、そのうち肉体関係をもつようになった。
「あっ・・・・」
まだ幼い浮竹のそこは狭くて、異物を排除しようとする動きが酷く心地よかった、
「翡翠、痛くないかい?」
京楽に貫かれて、でも浮竹は首を横に振っていた。
「大丈夫・・・・・・・」
「ごめん、少し動くよ・・・・」
ずずっと、中の前立腺をすりあげように動かれて、浮竹は啼いた。
「ああっ!」
その珍しい白い髪は、肺の病にかかった時になってしまったのだという、
「んあっ」
京楽の手が、まだ精通を迎えて間もない、浮竹の花茎に手を伸ばす。
「あっあっあっ」
前も後ろも愛されて、ぐちゃぐちゃになっていく。
「春水っ」
「翡翠っ」
浮竹の体の奥に精液を吐き出して、京楽は浮竹の体を抱き締めた。
「ごめんね。こんな幼い君を抱いて。でも、君に夢中なんだ」
「京楽が俺を求めるから、それに応えている。別に、謝らなくていい」
濡れたタオルで全身を清められて、浮竹は京楽の腕の中でまどろんでいた。
その日も、京楽は浮竹の元で泊まっていった。
それを快く思わない者がいた。花魁の椿姫だ。店の看板の名を与えられ、廓のNO1の花魁だった。それなのに、翡翠に京楽を奪われたと憤慨していた。
暴力を与えて折檻していたのが店にばれて、花魁なのにお仕置きをされた。
それさえ屈辱で。
椿姫は、まだ京楽しか知らない浮竹を呼びつけた、
「なんだ」
「いいご身分ね」
「用がないなら、帰る」
「おっとまちなよ」
椿姫が、浮竹の細い腕をとった。
「へへへ・・・・・・」
「ひゅーかわいい」
「ほんとにただでやってまっていいのか?」
3人の男に囲まれて、浮竹はやばいと思った。
「いいんだよ。金払ってる分、可愛がってやっておくれ」
3人の男は、椿姫の馴染みだった。しけた金額しか払わなないので、まだ抱かせてやったこともない。そんな男たちに、自分を抱かせる権利と金を与えた、
色子の、翡翠を穢せと。
「やめろ、何する!」
椿姫の褥で押し倒された
「この!」
暴れると、殴られた。
「いやだ、いやだ、京楽!」
浮竹は、涙を流して京楽の名を呼ぶが、それに応えてくれるものはいなかった。
どれくらい時間が経っただろうか。
輪姦された浮竹は、ボロボロになった着物のまま、自分の部屋に戻って行った。
そして、何度も風呂に入り、男たちに穢された体を洗った。皮膚が赤くなるまで洗っていると、京楽が呼んでいると言われた。
「京楽・・・・・・」
京楽はぎょっとした。泣きはらした赤い目に、着物の合わせ目から見えるキスマーク。細い手首には、戒められた痕まであった。
「誰にやられたの」
「京楽・・・俺は穢された。京楽が抱くと、京楽まで穢れる・・・・・・・」
「そんなことないよ」
抱き締められた。
翡翠の瞳からいくつも涙があふれ、滴っていく。
「あ・・・・・・」
押し倒されて、その優しさに浮竹は言葉を飲み込んだ。
「君を身請けする。もう、君は僕だけのものだ」
「ああっ」
輪姦されたせいでもあるが、すでにとろとろにとけていた場所を貫かれて、浮竹は涙を零した。
「もっと、京楽でいっぱいにして・・・・・」
「君は、僕のものだ・・・・・」
自分がつけたのではないキスマークを上書きするかのように、痕を残していく。
「あああああああ」
京楽で満たされて、いっぱいになる。
貫かれ、揺さぶれて、いつの間にか射精していた。
「んあああっ!」
世界が真っ白になっていく。男たちに汚されたことなど、まるで初めからなかったかのように思えてきた。
「あっ」
京楽に抱きかかえられて、足を広げられた。
「やだっ、奥までくるっ」
騎乗位にされて、軽い体重ではあまり京楽のものを飲み込めなかったので、京楽が浮竹を抱き下ろした。
「ああっ」
深く繋がって、一つになって溶けていく。
「んんっ」
激しく突き上げられる。
いつもより激しく抱かれて、いつの間にか浮竹は意識を失っていた。
その間にも時間は進む。浮竹の話から、浮竹を穢した男たちを探り当てて、自分の手で半殺しの目に合わせた。それから、それを企んだ椿姫を身請けした。椿姫は喜んだが、身請けされてつれてこられたのは、下級の廓。病気もちの女がいるような店に、はした金で売られた。
「京楽の旦那、あたしが悪かったよ!もう翡翠には手だししないから、こんな廓に売るのはよしとくれ!」
泣き叫ぶ椿姫の髪をひっぱって、廓に戻す。
「その美貌があれば、直に違う廓にうつれるさ。まぁ、病気をもらわなきゃね」
こんな下級の廓にくるのは、病気もちの男ばかりだ。
---------------------------------------------
「ん・・・・・・・・」
浮竹が気づくと、そこは知らない部屋だった。
「気づいたかい?」
「ここはどこだ?」
「僕の館だよ」
「え」
浮竹が、京楽を見る、
「言ったでしょ、君を身請けするって」
「本当に?俺は自由なのか?」
「ああ、自由だよ。ただし、君は僕のものだ」
「んっ」
深い口づけを受けて、浮竹は泣いた。
「本当の名前、教えて?翡翠の他にも、名前があるんでしょう?」
「・・・・浮竹十四郎」
「そう。これからは、十四郎と呼ぶね」
京楽は優しかった。仕事に出かける時以外は、常に傍にいてくれた。そして、他の場所に売られていった妹や弟たちを買い戻してくれた。
浮竹には、一軒の屋敷が与えられて、そこで兄弟仲良くくらしていた。毎日のように京楽が来る。
京楽の館に連れていかれては、抱かれた。
「春水っ」
「十四郎・・・・僕のものだ」
やせ細っていた体は、栄養があるものをたくさん与えられて、細いがしなやかな筋肉がつくようになった。
「そういえば、君は死神になりたがっていたね。霊圧はあるし・・・・今度の学院の試験、受けてみるかい?」
「いいのか?」
浮竹が、おずおずと京楽の様子を見る。
「君が死神になったら、僕のところにこれるようにする。そしたら、仕事の時間も一緒にいられるしね」
「春水、大好きだっ」
思いきり抱き着かれて、京楽は尻もちをついた。
その後、無事に学院の試験を突破し、特進クラスに進み、飛び級で学院を卒業して、京楽と同じ8番隊になった。
周りが羨むほど、二人の仲はよかった。
「春水、愛している・・・・」
「僕もだよ、十四郎・・・・・・」
二人は、いつまでの共にいた。やがて浮竹が成人すると、3席に置かれた。そして、とても大切にされた------------。




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院生時代

院生時代に時は遡る。

その日、浮竹は京楽がやってこないことに、多少の心配を抱えていた。
今日は、学院も2学期を迎え、新しく委員を決める日だった。

事前に、大切な日であるから必ず来いと伝えておいた。なのに、京楽は学校をさぼり、あろうことが廓にいったという。

(どうなっても、知らないからな・・・・・・・・)

クラスの委員長には、浮竹が選ばれた。自薦ではない。推薦から選ばれて、多数決によってだ。それに否を唱えると、もう一度多数決がとられるのだが、浮竹は元々人をまとめるということが得意なので、自然と委員長になることを承諾していた。

いくつかの委員が決まって、最後に風紀委員を決めることになった。

風紀委員はとにかく、朝早くに学校にこないといけない。登校してくる生徒の服装の乱れをチェックするのだ。他の生徒の風紀の乱れを正すために、憎まれやすい。一番人気のない委員であった。

(ほら、やっぱり----------------)

京楽が休みなのをいいことに、風紀委員の名前に京楽が推薦された。
多数決をとる。圧倒的な数で、京楽は風紀委員になった。そもそも、風紀委員になった京楽そのものが、風紀の乱れの塊であるのだが。

「よし、今学期の委員決めはこれにて終了する」

特進クラスを受け持つ教師がそういうのと、チャイムが鳴るのが同時だった。

「おはよ~」

「おはよう」

昼から登校してきた京楽に、浮竹は風紀委員になったぞと言えば、京楽は顔を蒼くした。

「ええっ、風紀委員だって!?そんなバカな!」

「だから、あれほどさぼるなといった。お前がちゃんといれば、否と答えて拒否することができたのに」

もう後の祭りだ。

明日から、京楽を見る教師の目も厳しくなるだろう。さぼることも、なかなかできないかもしれない。

「ああでも・・・・・お前が風紀委員になれば、おちおち廓にもいけなくなるから、それはそれでいいかもな」

「そんな殺生な」

女遊びの塊みたいな京楽から廓を取り上げると・・・・・骨が残りそうだ。

「自業自得だな」

浮竹は、昼食をとるために食堂に移動した。何故か京楽も一緒だった。

「なんだ京楽。食堂にくるなんて珍しいな」

ここ最近、付き合っているいう女生徒の手作り弁当を食べていた京楽は、振られたのだと話した。
友人たちが、京楽を取り囲む。

「京楽が振られた?」

「ああ。翡翠ばっかりおいかけて、こっちを見ていないだって」

「翡翠?なんだそりゃ」

浮竹が、テーブルの下から京楽の足を蹴った。

「いてて」

「どうしたんだ?」

「ううん、なんでもないよ」

翡翠とは、浮竹のことだ。京楽が浮竹のことをたまに翡翠と呼ぶのだ。

「翡翠はご機嫌斜めな時があるから・・・・ああお嬢さん、Bランチ定食大盛で」

食堂のおばちゃんに、お嬢さんという京楽は、年齢に関係なくもてた。

「きゃあ、京楽ちゃん。お嬢さんだなんてやぁねぇ。メガ盛にしとくわ」

浮竹もBランチ定食を頼んでいたが、食が細いため残してしまっていた。

「もったいない。食べないなら、僕がもらうよ?」

「好きにしろ」

おしぼりで口をふいて、浮竹は立ち上がった。

「教室に戻る。委員長としてまとめなきゃいない書類があるから」

その言葉に、京楽が驚いた。

「また今年の今期も、委員長をするの?」

毎年じゃないかと、心配げに見てくる京楽が鬱陶しくて、浮竹がテーブルの下の京楽の足をけった。

「まったく、つれないなぁ」

「どうしたんだ?」

他の友人たちが、京楽の輪に集まりだす。

浮竹は、それを翡翠の視線でちらりと見てから、教室に戻った。

教室には、誰もいなかった。

安堵する。

京楽がまた廓に出かけたことを怒っていたのだ。京楽の、浮竹への気持ちは知っていた。もっと身辺をすっきりさせるなら、真剣に付き合ってもいいと考えていたが、廓に平気で通うような男と関係を持つ気はなかった。

書類をまとめあげても、1時間はある昼休憩は長くて、暇を持て余していた。

ガタン。

音がする方を見たら、京楽がたっていた。

「君さ・・・体弱いのに、また委員長なんて責務おって・・・大丈夫なの?」

「臥せる時もあるが、なんとかなる」

そのまま、手をひっぱられて、カーテンの影に引き込まれた。

「んうっ」

舌が絡まるキスをされた。

「なっ・・・この!」

ひっぱたこうとして、逆に手を引かれて京楽の腕の中にいた。

それから、肩まで伸びた髪に、翡翠の髪飾りを留められた。

「これは?」

「廓で身請けした子からもらった」

「身請け!?」

妾か何かにするのだろうか。

「おっと、勘違いしないで。その子、翡翠の瞳をしてたんだ。君と影が重なって、可愛そうに思えて身請けしたんだ。今では、京楽家の侍女として働いているよ」

「手を出さなかったのか・・・・」

どこかほっとしている自分がいた。

「ねぇ、前にもいったでしょ。廓にはいくけど女は買ってないって」

「信じられるか」

そういうと、また唇を唇で塞がれた。

「どうしたら、信じてくれるの?」

「お前、今も女と付き合っているんだろう?」

「ああ、遊びだけどね。それがいやなら、それもやめる」

「お前は行動が軽すぎる。信じてくれというなら、身辺整理をしてこい」

「わかった」



それから数日して、京楽は女生徒と別れ、廓にもいかなくなった。

放課後、残るようにと言われた。

京楽の変わりように、浮竹自身も戸惑っていた。

「身辺整理、ちゃんとしたよ。君も、いい加減疲れるしょ?僕のものになっちゃいなよ」

「何言って・・・・・あっ」

腰に手が回された。

「細い腰。体もこんなに細い。もっと食べなくちゃ」

口の中に、飴玉をほうりこまれた。

「ん・・・甘い・・・・」

「君、甘いのすきだものね」

「悪いか」

「いいや」

「甘味屋で何かおごれ。そうすれば、考えてやらないこともない」

元から、答えは決まっていたけれど、京楽があまりにも女遊びを繰り返すものだから、答えを保留にしておいたのだ。

「よし、今から甘味屋へ行くよ!」

「おい、京楽!」

浮竹の手をとって、走り出す。

「人が見てるから!」

「そんなこと、どうだっていいじゃない」

京楽は嬉し気だった。

その顔を見ていると、浮竹も仕方ないかと半ば抵抗を諦めた。

「風紀委員がんばるから。君も委員長、がんばってね」

「ああ・・・・・・・」

ふわりと、甘い花の香がした。

浮竹の匂いだ。浮竹からは、香水もなにもつけていないのに、その体と髪からは甘い花の香がした。なんでも、赤子の頃に花の神という地方で祭られている神に捧げられて、愛児となって祝福をうけた証だとか。

「君は甘い花の香が良く似合う」

「俺も、この香は嫌いじゃない・・・・・」

甘味屋に向かって、走り出す。
甘味屋につくと、普段は食が細いのに、よくこれだけのものを食えるなという量を平らげる浮竹を、京楽は幸せそう見ていた。

抹茶アイスを頼んだだけで、他に食べない京楽を見る。

「お前は、それだけでいいのか?」

「うん。僕は、君が食べているその姿を見ていたいから」

顔が真っ赤になっていた。

たまにキスされるが、まだ答えはいっていない。

「俺の答え、聞かせてやる。俺はお前を------------------------」

その言葉を聞いて、ガッツポーズで叫んでいる京楽の姿があった。

今は遠い、院生時代のお話。

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ドッキリ

「え」

朝起きると、そこは雨乾堂ではなかった。見知らぬ部屋だった。

隣を見る。服を着てはいたが、乱れた衣服の日番谷の姿があった。

首筋とかに、キスマークがついていた。

「ええっ!」

あまりのことにパニックを起こす。

確か、昨日の飲み屋で京楽を見かけて、声をかけて。
それから、えーと。
日番谷がやってきて、京楽が日番谷をお子様扱いして、酒も飲めないといいだして「俺も酒くらい飲める」と怒りだしして。
それから、えーと。

日番谷が、いつも京楽が飲んでいるきつい日本酒を飲み干した。ついでに浮竹もそれを飲んでべとんべろんに酔っぱらった。

「あーーーーーー」

これはやらかしてしまったかな?

「ん・・・・・」

日番谷が目を覚ますと、そこには土下座している浮竹の姿があった。

「はあ?」

部屋を見てみる。
自分の屋敷だった。なぜ、そんな場所で浮竹が土下座しているのか分からなくて、浮竹を見つめる。

「すまない、日番谷隊長。一晩の誤りとはいえ、この浮竹十四郎、責任はとる。どうか俺のお嫁さんになってくれ」

「はぁ?」

頭がずきずきと痛かった。

確か、京楽の酒を飲んで、浮竹も酒を飲んで、二人でべろんべろんに酔っぱらって・・・。

体は軽いし、何処にも違和感はない。でも、衣服はやばい方向に乱れているし、何よりベッドの下に脱ぎ散らかされた隊長羽織と死覇装があった。
いつの間にか、パジャマを着ていた。

浮竹は、頬を赤くして、こっちを見てきた。

「本当にすまない。俺が全て責任をとる。お嫁にきてくれ」

「責任ってなんのだよ」

「俺は、どうやら日番谷隊長の初めてをもらってしまったらしい。記憶はないんだが・・・・その、首とかにキスマークが」

「はぁ!?」

鏡をの前に出る。本当に、首とかにキスマークが残っていた。

でも、何処も痛くないし。最後までしてないと、思いたい。

「いや、何処も痛くねぇし、多分未遂だと・・・・・」

「未遂でも、責任はとる。お嫁さんに・・・・」

「うるせぇ!」

浮竹を蹴り飛ばした。

「なんで俺が嫁なんだよ。結婚するなら、お前が嫁になれ!」

「ええっ!」

上気した頬で、潤んだ瞳で見つめてくる浮竹のほうが、よほどお嫁さんになりそうで、日番谷は
浮竹に嫁にこいといいだした。

「嫁にくるのは、日番谷隊長のほうだ」

「いいや、嫁にくるならお前のほうだ!」

何度か言い争いをしていると、扉があいて松本と京楽がやってきた。

「ジャーーン!ドッキリでしたーーー!」

浮竹も日番谷も、口をぽかんと開けていた。

「松本おおおおおおおお!」

「京楽ーーーーーーーー!」


二人の怒号が、響きあっていた。


怒った日番谷と浮竹に叱られまくって、頭をなぐられてたんこぶを作った二人は、10番隊の執務室で土下座をさせられていた。

「うわーーーんただのドッキリなのにーーー」

松本は泣いていた。

京楽はというと、日番谷をお嫁に迎えるという浮竹の発言にすねていた。

「京楽、すねてないで少しは謝罪の気持ちを見せろ」

「ふーんだ。僕がいなかったら、浮竹は日番谷隊長とできてたんだね」

「そんな仮想で!」

「もういい。二人ともぉ、覚悟ができてるんだろうな?」

ゆらりと、日番谷の霊圧があがる。

「下がってろ、浮竹」

浮竹は、日番谷の後ろに隠れた。

「ちょ、ちょっとまって隊長!話せばわかるから!」

「日番谷隊長、冗談でしょ?」


「卍解、大紅蓮氷輪丸ーーーーーー!」


「「ぎゃああああああああああああああ」」

10番隊の執務室は、全壊になった。

松本と京楽は、氷漬けにされてやっと謝罪の意思表示をした。

それでも足りなくて、日番谷は松本には減給、それから京楽からしばらく浮竹をとりあげたそうな。

それはまた、別のお話。

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キス

「京楽が浮気したんだ」

10番隊の執務室にきてそうそう、浮竹はそう口にした、

「ああそうか」

日番谷は、毎度のことなので適当に受け流して、お茶をすすり、大好物である甘納豆を口にした。

「日番谷隊長~なぐさめてくれ~」

「だああああああ!重い!」

浮竹が、素っ気のない日番谷に、伸し掛かってくる。頭の上に浮竹の上半身がある形になって、日番谷は鬱陶しそうに浮竹の体を退けた。

「京楽が・・・・・」

「気のせいだろ」

「でも、キスしてた」

「まぁ、いいんじゃないか」

キスくらいで、ぐちぐちと。
別に他の相手と寝たわけじゃあないだろうと聞くと、目をうるうるさせて浮竹が抱き着いてきた。

「日番谷隊長~なぐさめてくれ~」

「だああああああ!抱きついてくるな!」

浮竹は、見た目は細いのに、何処にそんな力があるのか、時折凄い怪力を出す。

びくともしない浮竹に、日番谷は少し焦った。

「松本おおお!何写真とってやがる!」

「やぁん隊長!すごくいいです。(*´Д`)ハァハァ」

松本は腐っていた。腐女子なので、男性同士の恋愛とかに興味津々だ。

「わかったから、浮竹、離れろ。こんな場面、京楽のおっさんに見られたら、何をいわれるか・・・・・・」

「すでにいるよ」

にこにこしながら、でも額には血管マークを浮かべて、京楽が浮竹の背後にきた。

「浮竹、浮気はだめだよ?」

「うるさい!京楽、お前が浮気したんだから、俺も浮気してやる!日番谷隊長と浮気してやる~~~~」

なぜそこで、今ここにいる異性の松本の名が浮かばないのか、日番谷には謎だった。昔いた副官の海燕といい、黒崎一護といい。浮竹が浮気をしただの、気があるだのもめてくるのはいつも男だった。

「キスしてるところ、見てたんだとよ」

「ああ。リサのことか」

「やっぱり浮気してた」

「違うよ。あの子は姪っ子さ」

「姪っ子でも浮気だ!」

「あのねぇ、浮竹」

浮竹と日番谷を離す。かなり苦労した。浮竹の力に、京楽も呆れ気味だった。

「姪っ子は家族だよ。家族としてのキスだよ。あの子、現世でアメリカなる外国にいって、その文化にかぶれてるんだ」

「アメリカ?聞いたことはあるが、その文化って?」

浮竹が小首を傾げた。

ああ。おっさんなのに、可愛いと思ってしまう俺も目が腐ってるのかもな・・・・日番谷は、そう思った。

「家族や親しい人間にキスするんだよ。主にほっぺと額。リサのキスは唇に近かったけど、一応ほっぺだよ」

「そんなことで騙されるとでも・・・・・・んう」

「キスは、こういうのをいうの」

舌が絡み合うディープキスをして、京楽は浮竹を抱き上げた。

「やけに日番谷隊長に絡むと思ったら、熱あるね」

「まじか」

日番谷が驚く。

熱があるようには、全然見えなかった。

「ほら」

日番谷の身長でも触れれるように、抱き上げた浮竹の腕の位置を下す。

浮竹の額に、日番谷が手を当てた。

「すげぇ熱じゃねぇか!京楽、さっさともっていけ!」

「俺はものじゃないぞ・・・・」

渋々な様子の浮竹に、京楽はまたキスをした。

「いいから、いくよ。雨乾堂で横になろう」

瞬歩で、京楽は走り出す。

京楽の腕の中で、浮竹は意識を失った。


「はぁ?俺が日番谷隊長と浮気しそうにしてた?なんの話だ」

「やっぱり覚えてない・・・・」

浮竹は、高熱をだすとたまに記憶を飛ばすことがあった。

「それより、お前浮気してただろう」

また最初から説明する羽目になった。

でも、相手が日番谷隊長でよかったと思う。まだお子様だし、何より日番谷隊長には雛森という想い人がすでにいる。

もしも、浮竹が浮気するといって、その気になる者には、いろいろと後悔を覚えるようにしてやろうと思う京楽だった。

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禁忌という名の(番外編)

昔、京楽春水という名の総隊長がいた。愛する者のために、全てを捨てた男。総隊長でありながら、その責務と責任を放棄して、違う世界へ渡った者。


「まってよ十四郎」

「いやだ。ここまできてみろ、春水」

その双子は、十四郎と春水と名付けられた。


兄が十四郎。珍しい白い髪に、翡翠色の瞳の少年。

弟が春水。黒い髪に、黒い瞳の少年。


双子が生まれた時、双子は小さな翡翠の石を持って生まれてきた。

特別な双子として、神の愛児として可愛がられた。


神の名は、花の神。椿の狂い咲きの王。
地方で祭られていたが、流魂街でももう名を知らぬ者はいないほど有名な創造神の一柱だ。

花の神は、たまに人の姿をして降臨する。

その神子(みこ)に、二人の幼い双子が選ばれた。


昔、この世界に、浮竹十四郎と京楽春水という、それぞれ護廷13場隊の隊長であった者たちがいた。

その者たちは愛し合い、そして一人は命を散らし、一人は生き残った。でも、生き残ったほうの春水が、十四郎に恋い焦がれて、花の神に新しい十四郎を与えられた。

二人は1年という短い時間を共に生き・・・・・・その後、行方知れずとなったという。

双子の十四郎と春水はいつも一緒だった。

まるで、かの浮竹十四郎と京楽春水のように。常に二人一緒だった。


力を取り戻した花の神は、二人の神子に、愛児の魂を授けていた。

十四郎と春水は、時折記憶をよみがえらせながらも、笑顔を絶やさず生きる。



この世界に、再び芽生えた命として。





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禁忌という名の7

4月になった。

最近浮竹の様子がおかしい。今までのよう甘えてくるが、どこか違う場所を見つめていた。

全ての隊長と副隊長のところにいって、挨拶をしたり遊びにいったりした。

12番隊の涅マユリのところにいくと、こう言われた。

「偽りの命にしてはもったものだネ。約1年か・・・・もう、存在することの限界もきているようだしネ。新しい器はもうできている。君が死ねば、不完全ではあるが君に真似て作った義魂丸をクローン体に与えて、それを京楽総隊長が受け取る」

「そうか・・・・・・」

京楽が愛する浮竹が消えるわけではない。代替わりするのだ。だが、今の浮竹のような豊かな感情表現のない、静かな人形のようなものになるだろう。

不完全な義魂丸では、それで手一杯なのだ。

花の神が、祝福にと与えてくれたこの命------------最後まで、京楽の傍に在ろう。



キスされて、キスをしかしたら、不思議そうな顔をされた。

「何を考えているの?」

「何も・・・・」

「何か、僕に隠しているね?」

「何も隠していない」

京楽が「こっち側」へくることを望んでいるといったら、京楽はなんて答えるだろう。

総隊長としての責務と責任がある。

これは、浮竹が思い描いただけの我儘。

「なんでもない」

そう答えると、京楽は浮竹を抱き締めた。

「涅隊長から、代替わりになる話は聞いているが、僕の「浮竹」は君だけだよ。君以外の「浮竹」はいらない」

「俺がもうすぐ消えることも、知っているのか?」

とても辛そうな顔をされた。

「知っている。花の神に教えられた。あと半月の命だって・・・・・・」

「京楽。この一年間、お前に愛されて生きていて本当によかったと思う。どうが、別れの時は笑って別れよう」

つっと、涙が頬を伝った。

「無理しないで」

「無理なんてしてない」

「じゃあ、なんで泣いてるの」

「泣いてなんて・・・あれ?涙が出てる。おかしいな、何処も痛くないのに・・・」

浮竹の翡翠の瞳の光彩が、オパール色に輝いた。

それは、クローンの浮竹だけがもつ、特別な光。

浮竹からする甘い花の香は今もする。でも、だんだんとその香は強くなってきていた。

最後の花を咲かせるために、花は艶やかに咲いた。


「君を失いたくない」

京楽の腕の中で、まどろみながら浮竹は、京楽を誘う。

「じゃあ、一緒にきてくれるか・・・・・ふふ、嘘だ」

悲しそうに臥せられる翡翠色の瞳に口づける。

「その時がきたら、答えは分かるよ」


京楽は、またしばらく総隊長に白哉を代わりにしてもらい、浮竹が味わったことのないような現世のいろんな場所を、二人で海で漂う海月のようにふわふわと彷徨った。

4月15日。

クローンの浮竹は、1歳を迎えようとしていた。

たくさんの者から、祝いの言葉とものをもらった。


朽木家で、浮竹の新しい誕生日が祝われた。

4月で少し散りかけているが、まだ桜の花はあった。少し季節は遅いが、花見をしよう。そんな話になって、みんな無礼講で酒を飲みあった。

浮竹は、昔のように甘い果実酒を飲んでいた。

「これも飲んでよ、浮竹隊長~。ひっく」

「こら松本おおおおお!」

松本にからまれながらも、杯は酒で満たさせていた。

「このお酒~うぃっく。高かったんですから~」

飲んでみると、その甘さに驚いた。

ふわりと一枚の桜の花が散ってきて、浮竹の杯の上に浮かんだ。

「みんな、ありがとう。俺は、とても嬉しい」

涙が零れた。

ここまで、受け入れてもらえるとは思っていなかった。

「いい年したおっさんが泣くなよ」

日番谷に頭を撫でてもらって、浮竹は少し恥ずかしそうにしていた。

その日は、夕方で解散になった。片付けられていく宴の後で、浮竹はまだ花の咲いている桜の木の下にいた。

「浮竹?」

「愛している・・・・京楽」

桜の木の下で、キスをした。

「そういえば、初めて告白を受けたのも、桜の木の下だったな」

「そうだね」

二人して、懐かしそうに想いを馳せる。

あやふやだが、クローン浮竹には生前の浮竹の記憶があった。院生時代の記憶もちゃんともっていた。

抱き締めあい、桜の木の下に座り込んだ。

さぁぁぁぁぁぁ。


桜の雨が降ってきた。

ちらちらと咲いている桜が散っていくのではない。それは、白哉の千本桜に似ていた。

「時間か・・・」

京楽の腕の中の浮竹が、ふと立ち上がった。

「どこへ行くの」

「もう、行かなきゃ・・・・」

「だめだよ。君は僕のものだ。僕以外の者の傍にいってはだめだ」

京楽は、黒曜石の瞳に涙を浮かべていた。

その京楽の頭を撫でる。

「言っただろう?別れの時は笑顔でって・・・・・」

そういう浮竹も、泣いていた。



「愛児--------------迎えに来た」

花の神は、院生時代の京楽の姿をしていた。

「京楽。またいつか、どこかで巡り合おう。きっときっと、何かに転生して、お前の元へいくから」

「花の神-----------浮竹は、渡さない」

「ほう?」

院生時代の京楽の姿をした花の神が、不敵な笑みを浮かべる。

「その覚悟があるなら、我が手をとれ。愛児の、浮竹以外の全てを失う覚悟があるなら」

花の神の手を、京楽はとった。

「京楽!?」

「僕はね・・・・我儘なんだ。君のことに関しては、とにかく我儘で・・・・・」

ふっと、笑った。

ぶわりと、京楽の体から甘い花の香がした。

「だめだ、こっちにくるな!戻れ、京楽!」

「本当は、一緒にいたいくせに。ずっと僕と一緒にいたいでしょう?」

「だけど!」

まず、花の神が花びらとなって散っていった。

次に浮竹の体が。その次に京楽の体が。

「総隊長には、朽木白哉がつく・・・・・・」

「京楽!」

「もう、後のことは頼んであるんだ。さぁ、一緒にいこう、浮竹。いつまでも、君と共に・・・・・・・」

「京楽・・・・」

「愛している、十四郎」

「俺も愛している、春水」

花びらとなって散っていきながら口づけを交わす。

それが、二人がこの世界でした最後の会話。







ゆらりと。水底で、花の神は目覚めた。

傍らには愛児。その傍らには、同じく愛児となった京楽の姿があった。



花の神が目覚めると、愛児である二人も目覚めた。

そして、お互いを抱きしめあいながら、愛を囁く。

「愛してる」

「愛してるよ」

二人の愛児は、花の神の傍らで眠りについた。

いつかいつか---------------。

この命が、再び芽吹くまで。

「好きだ。愛している」

「好きだよ。愛してるよ」

幾千幾万の時を、無限に。


それは禁忌という名の願い。

共に世界に在れるようにとの願い。

禁忌の世界に墜ちた二人は、今日も永久に愛を囁きあう。



          禁忌という名の  fin

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禁忌という名の6

花の神のお陰で、空間を渡り、浮竹の元にこれた。

いきなり、目の前の空間がねじ曲がったものだから、京楽は驚いた。でも、その先から花の神の声がして、なんだろうと思った。

「愛児が危ない。孤独なる王よ、椿を助けたければ、命の代償を支払い、我も愛する愛児の元へ行くがよい」

命を代償にといわれてたが、躊躇などしなかった。花の神がいう椿とは、浮竹のことだろう。そして孤独なる王とは、京楽のこと。

実際に、空間を渡ったとき生気を吸われているのが分かった。数年分の寿命を吸い上げられたが、そんなことはどうでもいいのだ。

目の前の光景に、京楽は初めて本格的な殺意を覚えた。

浮竹は、足のアキレス腱を切られた上に、犯されかけ、舌を噛み切ったのか、口から大量の血が流れていた。

花の神に浮竹のことを任せた。浮竹の傷は、花の神の力によって応急手当がされて、一命は取り留めた。

その後のことは、あまり覚えていなかった。ただ、その場にいた人間を、姫以外を残して全部殺した。姫には、醜くなってもらいたかったから、回道でも癒えない酸で顔を焼いた。

その後は--------------。


応急手当がされた浮竹を、瞬歩で4番隊の総合救護詰所に緊急搬送させた。

きちんとした回道の手当てがされて、1週間の入院が告げられた。傷は塞がったが、高熱を出したのだ。精神的なショックも大きかった。

体があまりにも透けているものだから、悪いことだとはわかっていたが、意識がもうろうとしている浮竹を病室で抱いて、愛していると何度も囁くと、透けていた輪郭は取り戻すことができた。

「浮竹、愛しているよ」

「・・・・俺もだ、京楽」

熱にうなされながらも、浮竹は京楽の想いに答えてくれた。

キスをすると、透けかけていた手の輪郭が戻ってくる。

前々から、花の神に言われていたことがあった。愛して体を繋ぎあうことが、透けた時の対応の一番になると。

だから、浮竹の体に直接体液を注ぎ込んだ。

浮竹は、悪夢を見ているのか、時々また輪郭を透けさせた。それを京楽が抱いて戻して・・・そんなことを続けていたものだから、総隊長としての責務を、一時的ではあるが免除させてもらった。白哉が、京楽がいない1週間の間、京楽に代わって総隊長を務めた。

やがて、輪郭も取り戻した浮竹を抱きあげて、一番隊の執務室に戻ってきた。

「兄らか・・・・思ったより、遅かったな」

1週間と少しを留守にしていた。

浮竹の精神状態がうまく落ち着かなくて、鎮静剤をうってもらったりしていたら、帰るのが遅くなった。

「京楽総隊長。兄に、全てを返却する」

白哉は、自分の仕事は終わりだとばかりに瞬歩で去ってしまった。

「浮竹、ついたよ。一人で歩けるかい?」

「ああ、大丈夫だ・・・・・・」

少しふらついてはいるが、体はもう平気そうだった。

「京楽・・・・・お前、瑠璃院家のことは」

「ああ、霊圧も残していないからね。賊の仕業として処理させているよ」

「あの姫は?」

「あの女は、醜い顔に絶望して自殺したらしいよ。お似合いの結末だ」

くすくすと笑う京楽が、どこか怖かった。浮竹のことになると、京楽は人が変わる。

「今回のことで実感した。もう、君は一人で行動させない」

「仕方ないか・・・・・・・・」

自分の身に起きたことを思えば、それが普通の対応なのだろう。

「ただ、身辺警護をつけることを了承するなら、僕がいない時でも外にでていいよ」

「そうか」

また、日番谷やみんなのところに遊びに行けると知って、浮竹は嬉しそうだった。

「でも、しばらくは外出禁止だよ。まだ精神的に落ち着いていないからね」

念のために精神安定剤をもらった。

浮竹は、それを服用していた。

それは眠りを誘う作用もあって・・・・悪夢にうなされる浮竹に飲ませると、すっと深く眠ってくれるので、しばらくは必要かもしれない。

「愛しているよ」

「俺も、愛している」

執務室の椅子に腰かけて、その膝の上に京楽をのせて、今日も京楽は仕事をこなしていく。

「はぁ・・・・もう、何を言っても無理ですね」

「わかってるじゃないの、七緒ちゃん」

浮竹は、なるべく邪魔をしないようにと、静かにしていた。ただ、上半身は京楽の首に手を回していた。



「白哉、遊びにきたぞ」

身辺警護に、二人ばかりの死神をつけられた,。

「兄は・・・・暇人だな」

「ああ、俺は暇人なんだ。浮竹として仕事を処理することは許されてないから、毎日が暇で暇で・・・・・」

京楽が仕事でかまってくれないので、6番隊の執務室に遊びにきていた。

「兄は、これでも食べていろ」

「お、わかめ大使・・・・・むむっ、中身が白あんこだと!?」

「新商品だ」

「白哉、これは売れるぞ」

「そうか」

白哉は嬉しそうだった。


他愛のない時間は、過ぎていく。

クローンの浮竹が生まれ、1年目の春が過ぎようとしていた。




水底で、花の神は花びらを散らしていく。

「愛児よ------------この春が終わる時、愛児はもうの世界には在れない」

雨乾堂の池の前で、その水底の花の神を、浮竹はただ見ていた。

「せめて、4月まではいられるか?」

「あと1か月・・・・・・ちょうど、4月のなかばまでなら」

「そうか・・・・・・」

浮竹の覚悟は、もうできていた。

大好きな人たちに、お礼をして去りたい。
できれば京楽には---------------こちら側にきてほしいが、それは我儘すぎるだろう。

でも、と思う。

もし、京楽がきてくれるなら?

全てを捨てて、俺と共に在ることを望んでくれるなら?

「ふふっ・・・紛い者の命には、大胆過ぎるか」

浮竹が迎えた初めてで最後の春は、4月になろうとしていた。




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禁忌という名の5

京楽が、上流貴族の姫に手をかけた。

その噂は瀞霊廷中に知れ渡ったが、姫は生きていて、無事だということがわかり、騒ぎはほどなくして収まった。

「京楽・・・・・」

「どうしたんだい、浮竹」

「上流貴族の姫は、生きていたんだな。ほっとした」

「ああ、あの子しぶといね。殺すつもりで切ったのに」

京楽は、浮竹のことになるとどこまでも残酷になる。
それに少し戸惑いながらも、今日も京楽は浮竹に愛を囁いた。

「愛してるよ、浮竹」

「俺も・・・・・・」

「ごほん」

七緒が、咳ばらいをした。

「ここは執務室です」

「知ってるよ、七緒ちゃん」

一番隊の執務室の、椅子に腰かけた京楽の膝の上に、浮竹はいた。膝の上に座り、上半身は京楽の首に手をまわしていた。

「ところかまわず、いちゃつかないでください」

「えー。これくらいいじゃない」

京楽が口を尖らす。

「ちゃんと仕事はしているんだし」

浮竹に抱きつかれながら、書類をてきぱきと処理していく。

「はあ・・・・もういいです。好きにしてください」

七緒は、最初浮竹の存在を嫌っていたが、今では普通に接してくれる。京楽と共に在る浮竹は、とても幸せそうで・・・・愛され続けていたので、ここ最近は体が透けるということはなくなっていた。

瀞霊廷の中で、異質の存在となっていた浮竹は、今は隊長ではないが、本物の浮竹のように扱われていた。それにとても満足しているのは京楽だった。

「日番谷隊長のところにいってもいいか?」

「ああ、構わないよ。夕方にまでは戻るんだよ」

瀞霊廷で、浮竹の存在が認められはじめて、隊長や副隊長もクローンの浮竹を、浮竹隊長と扱いだしていた。
中でも、一番怒っていた日番谷と京楽が和解したのは大きかった。

浮竹は、瀞霊廷であればある程度一人で行動することを許されていた。いつものように、お菓子を手に10番隊の執務室にくる。

「浮竹か・・・・」

「日番谷隊長、わかめ大使だ、食うだろう?」

「ああ。松本、茶を入れてくれ」

「は~い。浮竹隊長、愛されてますね。首にキスマーク残ってますよ」

その言葉に、浮竹は顔を真っ赤にして手で覆ってゴロゴロしだした。そんな癖さえ同じで・・・本当に、クローンではなく元の浮竹が蘇ったかのようだった。

「お前は、愛され、愛されているという実感がないと、生きていけねぇんだろ?」

「そうだが。それがどうかしたのか?」

「つまりは、京楽がいないと生きていけないんじゃねぇか。その辺、どうにかならねぇのか?」

エメラルドの瞳に見つめられて、浮竹の翡翠の瞳に虹色の輝きがともる。浮竹の瞳の色は日番谷と同じ緑だが、光彩の中に時折オパールの色がまじって、とても美しかった。

「それは俺にも分からない。俺という存在の元になる義魂丸は、花の神からもらったものらしい。それが、クローンの俺の体と混じり合って一つになって・・・・」

「そもそも、その花の神があやしいんだよ。文献で調べたが、地方に祭られている小さな神様じゃべねぇか。椿の狂い咲きの王だっけ?冬に椿の姫に恋い焦がれて、狂った王。まるで、椿が浮竹で京楽が王みたいじゃねぇか」

「あ、俺もそれは思ってた」

あの声を思い出す。愛児と、愛しげに接してくるあの神は、嫌いではなかった。

何より、条件つきではあるが、この世界にもう一度、在れるようにしてくれた。条件とは、愛され愛されているという実感がなければ、透けて消えてなくなってしまうこと。

「まぁ、今は問題ないし。なんとか、生きていくよ」

「神様の気まぐれほど、性質の悪いものはねぇな」

10番隊の執務室で、松本が入れてくれた茶を飲み、わかめ大使を食べながら、日番谷と松本と三人で談笑した。本当に、クローンではないように振る舞われて・・・時折、涙が零れそうになる。

涙が浮かび始める前に、目をこすって浮竹は微笑んだ。

「もうすぐ夕方になるから、帰るよ。日番谷隊長、またな」

「ああ、また来いよ」

その言葉に、ぽろりと一粒の涙が零れたが、背中を向けていたので気づかれなかった。

「・・・・・帰ろう」



「もしもし、そこのあなた」

「え?」

「そこの白い髪のあなたですわ」

立派な籠に入っていた女性が、暖簾をかきわけて、手招きしてきた。

「どうしたんだい?」

近づくと、籠をの外で待機していた者が、浮竹の首の後ろに手刀を落とした。

「え・・・・・」

ぐらりと、体が傾ぐ。

意識を失いつつ、ただ思ったのだ、京楽のことだった。

「綺麗な男・・・・・・」

籠に入っていた女は、京楽に振られ、殺されかけた上流貴族の姫君だった。

浮竹を籠の中にいれて、命令する。

「このまま、運んでちょうだい」

男たちが、籠をを運びだす。浮竹がさらわれたことに気づく者は、誰もいなかった。



ばしゃっと、冷たい水をかけられて、浮竹は意識を取り戻した。

「あなた、綺麗ね」

「誰だ・・・・・」

手を、縄で後ろでくくられていた。

「京楽様に振られた、上流貴族の姫といえば、分かるでしょう?」

「君が・・・・・・・」

浮竹は息をのむ。確かに、装いはとても高い着物に髪飾りをしていたが、顔に切られた後の傷跡が醜く残っていた。

「その傷・・・・・」

「あなたを殺すと何度も脅したら、京楽様に斬られたの。回道でも治せないし・・・あなたに、責任をとっていただこうと思って」

きらりと、刃物をつきつけられる。浮竹は、安堵した声でいう。

「俺を切ることで、京楽が助かるなら、好きにするといい」

「この!」

姫は、浮竹の頬を切り裂いた。ぽたぽたと、血が滴っていく。

「やっぱり、あなたのような淫乱には、血では足りないのね。京楽様をたぶらかしたこと、思う存分後悔させてあげる。お前たち」

「は」

「はっ」

「この男をぐちゃぐちゃに犯しなさい」

「なっ・・・・・・・」

浮竹が、身を強張らせる。

男たちは、何かの薬を与えられた。欲情した目で、浮竹を見てくる。

「やめろ!」

覆いかぶさってくる男が気持ち悪くて、逃げ出そうにも、まずは足のアキレス腱を切られた。

「京楽!いやだ、いやだ、京楽!!!」

服を破られる。縄で縛られているので、完全にではないがドンドン破かれて、危ういラインが見えた。

「綺麗な身体・・・・全部、汚してあげる」

今の浮竹に、霊圧はほとんどない。

「いやだ、やめろ!」

乱暴に愛撫してくる手が気持ち悪くて、入ってきた舌を噛み切った。

「この!」

殴れて、口の中を切って、血の味がした。

「いやだあああああ!!!」

あまりのことに、このまま消えてなくなりたいと思った。思ったら、そのとたんに体が薄くなってきた。

それでも構わずに、男たちが浮竹を辱めようとする。

「京楽----------------!」

絶望の涙を流して、浮竹は自分の舌を噛み切った。



愛児の悲鳴にきづいた花の神が、降臨した。今の花の神は、京楽の院生時代の姿をとっていた。

「京楽様?・・・・・・違う、貴様何者ぞ!ここを瑠璃院家と知って入ってきたのか!」

姫が、悲鳴をあげた。

「愛児をこんな目に合わせて------------------」

花の神は、心から怒っていた。

「きたれ」

ゆらりと、水の波紋が空間に描かれる。花の神は、あるだけの力を添えて、京楽を今この場所に召喚した。

「ここは・・・・浮竹!?」

死覇装をびりびりに破かれて、足首と口からたくさんの血を流している浮竹の姿を見て、京楽は切れた。

「花の神、浮竹を頼む」

「愛児はお前以外の者に辱められそうになり、舌を噛み切った。アキレス健もやられている。我が力で、できるだけの治療はする」

ひらひらと、花びらが散っていく。それは、浮竹の傷口を癒していった。

京楽の目に、狂気が宿っていた。
その場にいた男たちを、虫けらを殺すように、いたぶって殺していく。さんざん命を弄んで、命乞いする男たちを殺していく。

「僕の浮竹をこんな目に合わせて・・・・・許せない」

「ひいいいい!」

一人残された姫は、失禁して悲鳴をあげた。

「君さ。せっかく命、拾ったのに。残念だったね」

京楽は、何かの大きなカプセルを砕いた。

「ぎゃああああああああああ!!!!!」

それは硫酸となり、姫の顔を焼いた。

「ぎゃああ、水、水うううう!!」

「その醜い姿で、生きながらえるといいよ。君は殺さないでいてあげる。このカプセルに入っていた硫酸は特殊でね。回道でも傷は癒えないんだよ。その酸で焼けた醜い姿が、君にはお似合いだよ」












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禁忌という名の4

京楽に、見合い話が舞い込んだ。

相手は、京楽よりもさらに上級貴族の姫らしい。断るのが難しいと、京楽が言っていた。

「なんだろう、この気持ち・・・・・・」

胸がざわざわする。

いつもはドキドキと高鳴る胸が、不安で押しつぶされそうだった。

愛されていることを実感しないと、透けて透明になって消えてしまう。そんな非常識な自分の体が疎ましいが、どうすることもできない。

それから数日の間、京楽は見合いのため、いつもいる一番隊の執務室にいなかった。

「寂しい・・・」

いつもなら、愛してると囁いて傍にいてくれる京楽がいないだけで、こんなにも物足りなくかんじるなんて。

浮竹は、京楽といつも一緒だった。

クローンであるが、浮竹として他の死神が接してくれるのが嬉しかった。

ルキアなど、泣きまくって仕方なかった。

「はぁ・・・寂しい」

一人で、大きな寝台に横になる。

毎日のように抱かれている体が、疼く。

「んっ」

自分のものに手を這わせて、いつも京楽がしているように、自分で慰めて射精すると、後悔と不安だけが押し寄せてきた。


「こんな体・・・・・・」

肺の病はなくなったが、熱をだす病弱なところは変わっていない。

その日の午後、けっこうな高熱をだした。そして、執務室で倒れてしまった。

「ん・・・朽木?」

ちゃぷりと、水で浸された布を、額に置かれた。

「浮竹隊長・・・・大丈夫ですか?熱が下がりません」

「俺は、お前の隊長じゃない」

「でも、他になんとお呼びすればいいのかわかりません」

「ここは?」

周囲を見回す。見慣れた執務室でも、寝室でも、隊首室でもなく、何処か分からなかった。

「ここは、私の家です」

「朽木家の本家か・・・・・・」

「はい。浮竹隊長が倒れているのを、どうすればいいのか分からなく・・・兄様に頼ったら、朽木家の本家に運べと言われて」

「白哉がか・・・・・」

「はい」

そうしていると、白哉がやってきた。

「兄は、何故、京楽総隊長の傍におらぬ?その体は、愛されていることを感じていないと、透けて消え去ってしまうのであろう?」

「え、そうなのですか、兄様!」

翡翠色の瞳を、紫水晶の瞳が心配そうにのぞき込んできた。

「京楽総隊長から、直接そう聞いたのだ・・・」

「そうか、京楽から・・・・」

また、寂しさで胸の中に空洞があいたような虚無感を感じた。

「手が、大分透けている。京楽総隊長には、ちゃんと言伝しておいたから、兄は京楽総隊長がくるまで、養生していろ」

「俺の手・・・・・・」

大分透けていて、それは腕まできていた。

「このまま、消えてしまうのだろか」

「京楽隊長!せっかくこの世に生を受けたのです!弱気になってはいけません!」

ポロポロと、ルキアが涙を流す。

ルキアが涙を流すたびに、透けていた輪郭が少し戻ってきた。

「私の涙でも、なんとかなるのですか!」

「分からない。ただ、朽木に愛されているなと思ったら、胸のあたりが少しぽかぽかした」

「私でよろしければ、いくらでも涙を流しましょう!」

ぎゅっと手を握られて、ルキアは長い浮竹の白髪を撫でた。

そして、子守唄を歌いだす。

「音痴だな・・・・・・」

「ふふ・・・・そうでしょう?兄様にも音痴だと、よく言われるのです」

他愛ない話をしている間にも、また体が透け始めた。

「遅い!」

白哉が、珍しく苛立っていた。

「兄は、もう少しの辛抱だ」

やがて、夜になる前に京楽が姿を現した。その姿は、かなりやつれていた。

「浮竹、ごめんね!」

抱き締められる。それだけで、腕まで透けていた体が大分輪郭を取り戻した。

「白哉、すまないが床(とこ)を借りるよ」

「好きにすればいい」

ルキアと白哉は、連れ立っていなくなってしまった。

「京楽・・・・・・・」

「こんなに透けてしまって・・・・僕のせいだね」

「そうだ、お前のせいだ。責任をとれ・・・・・んっ」

深く口づけられた。舌と舌が絡まる。

「はあっ」

全体の透けている輪郭を愛撫される。キスの雨が、全身に降ってきた。

「んっ」

胸の先端をつままれると、背筋に電流が走った。

「俺を、愛せ・・・」

「愛してるよ、十四郎」

浮竹の花茎をしごきあげて、一度浮竹をいかせると、潤滑油をとりだして蕾を解すための指がtつぷりと体内に侵入してきた。

「ああっ」

前立腺ばかりを、すりあげられる。

「十四郎、愛している」

「あうっ!」

指がバラバラに動き、ある一点をついた。また、背筋を電流が走ったような衝撃を受けた。

前立腺の中でも一番感じる場所をすりあげられて、浮竹は涙を零した。

「直接、中に注ぐほうが効果があるみたいだから。君の体の透けた状態を回復させるには・・・・・・」

「んんっ」

ずるりと、奥まで入ってくる京楽の熱に、侵される。

突き上げられて、白い髪がぱらぱらと舞い散った。

「ああんっ」

前立腺ばかりを突き上げる動きに、嬌声も甘くなる。

「あ、あ、あ・・・・・・・」

ぐちゃぐちゃと侵されて、体も心も喜んでいた。

「京楽は、俺だけのものだ・・・・」

「そうだよ。僕は君のものだ。そして、君は僕のものだ」

それを知らしめるように、何度も突き上げられて、最奥に精液を放たれた。

「手の輪郭・・・・・治ったね」

「ん・・・・ほんとだ・・・・・・」

「ごめんね、君を放置してしまって。上級の姫には参ったよ。結婚しないと君を殺すといいだしてね・・・もう何もいえないように、片してきたから」

殺してきたと言っているのだ、京楽は。

「京楽が怖い」

「どうして?」

「俺のせいで、どんどん歪んでいく」

「それでいいんだよ。君のためなら、悪魔にだってなれる。もぅ、君の傍を離れない」

「今度離れたら、きっと俺は透けて消えてしまう」

「そんなこと言わないで。君だけを愛しているよ」

胸がぽかぽかする。

愛されていると、感じていた。愛し、愛され。愛されている時の気持ちは、まるで太陽を浴びた植物のようだ。

その日は、朽木家で一夜を過ごした。



ふと、花の神は微笑んだ。

「消え去る危機は、去ったか-------------愛児を本当に愛しているのだな」

静かに水面に立つ。

愛児である、浮竹の想い人の京楽の姿をしていた。愛児の記憶に触れて、一番愛しいであろう者の姿をとると、院生時代の京楽の姿になっていた。愛児が、一番激しく恋焦がれた頃の記憶をのぞいたのだ。

「愛児よ。偽りの命のまま、愛されて----------------いつまで、もつのであろうな?その仮初の命は」

もう、今の花の神に、別世界で浮竹と京楽の両方を愛し、祝福を与えたような奇跡は起こせない。

力が足りぬのだ。

力さえあれば、この世界でも愛児を蘇らせてあげたものを。

義魂丸と溶け合った、クローンの体は、偽りの命をもって生きている。
花の神は、泣いた。愛児を想い。愛児は、もう長くないことに、花の神は気づいていた。











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花街

京楽が、廓に通っている。

その言葉を聞いたとき、ちくりと胸の何処かが痛んだ。

「おい、京楽!」

浮竹は、3限目になってやっとでてきた京楽を睨んだ。

「廓にいくのはほどほどにしろ」

「どうして?」

会話の内容が内容なので、廊下の人気のない場所に移動した。

「どうしてって・・・・・俺たちは学生で、死神になるために・・・」

「そんなお堅いこといいじゃない」

「でも」

浮竹は思う。
学生の身分で廓になんて、行けるはずがないと。何より、そんなお金はない。

「君も、一度廓にいってみる?」

「俺は・・・金がないし、そういう場所には・・・」

「僕は、この後学校が終わったら行くよ。おごるから、一緒にいこうよ」

「お前に、ついていく」

気づくと、そんな答えを返していた。



ああああああああ。

ああああああああああああ。

あああああああああああああああ。


俺は何をしているんだろう?親友をずれた道から、軌道修正させるつもりではなかったのだろうか?
頭の中を、いろいろぐるぐると回る思考をまとめられない。

「おいで、浮竹」

手を握られて、廓のある花街までやってきた。

その鮮やかな世界に、浮竹は言葉を失った。

「京楽のだんな、また遊んでいきよ・・・・おや、その子は色子だね。想い人かい?」

「い、色子!?」

何せ、色街なのに手を繋ぎあったままだ。

今の浮竹は、学院の服ではなく私服をきていた。普通の衣服のつもりだったが、この前京楽にもらった着物だった。男でも女でもどちらでも着れる着物だった。

「まあまぁ。浮竹、そんなに驚かなくても」

「お前も、俺が色子に見えるのか?」

京楽に聞くと、京楽は笑った。

「君は容姿がいいから、そんな着物を着ているから、間違われるんだよ」

「これは、お前からもらったものだぞ」

「うん。着てくれてすごく嬉しいよ」

色合いからして、どちらかというと女性が着る着物に見えないこともない。

京楽は、廓に上がることなく花街を案内し、一つの店を指さした。

「髪飾り、買ってあげる」

「おい、俺は男だぞ!」

「いいじゃない。君のその白い髪には、簪や髪飾りがよく似合いそうだ」

ぐいぐい引っ張られて、店の軒先までくる。そして、京楽は小粒の翡翠があしらわれた、螺鈿細工の髪飾りを手に取った。

「おや、京楽の坊ちゃん。想い人ですかい?安くしておきますぜ」

京楽は、色街でも有名らしかった。

上級貴族でほいほい金をばらまいていくので、上客だったのだ。

「これ、もらうよ。勘定はこれで足りるかな?」

浮竹は、目の飛び出るような金額を平気で出す京楽を、揺り動かした。

「京楽、こんな高いのもらえない!」

「いいから、もらってよ。僕の気持ちだから」

「でも!」

「京楽の旦那に甘えときなさいな、お嬢ちゃん」

肩までの髪に、髪飾りをつけられる。そして、店の主人には女性と見間違われていた。

「これが色街・・・・・・・」

くらくらする。

「おもしろいでしょ」

京楽は、悪戯をする子供のように瞳を煌めかせていた。

「あの廓にいこう」

「え」

指さされたのは、陰間茶屋。つまりは、色子となにをする場所だ。

「ちょ、京楽!」

「おや京楽の旦那・・・色子連れで、どうしたんですかい?」

「奥の座敷、借りてもいい?」

「他の色子は呼ばなくていいんですかい?」

「この子を休ませてあげたいだけだから。女のいる廓だと、自分を買え買えとアピールしてきて、うるさくて休めないからね」

「え?」

「浮竹、気づいてないでしょ。熱あるよ」

自分の額に手をあてると、本当にいつの間にか発熱しているらしかった。

陰間茶屋の主人は言う。

「今まで色子に手を出してこなかった旦那の想い人ですかい。かわいい子ですね。学生じゃなかたら、スカウトしたのに」

耳まで真っ赤になった。

「よっと」

京楽は、浮竹を抱き上げると、陰間茶屋の奥の座敷をかりた。

色子は、花魁なみに金がかかる、何せ、その花をうる期間がとても短いのだ。

奥の座敷には、一組の布団。なにをするための、潤滑油だの香油だの、お香だの道具類だの・・・・いろいろそろっていたが、京楽は見向きもしなかった。

「何もしないから。安心して寝るといいよ」

ズキンと、胸の何処かが痛んだ。

気づくと、浮竹は噛みつくようなキスを京楽にしていた。

「今日のお礼!」

荒々しくそういって布団に横になる。

「うん」

京楽は、嬉しそうに隣の畳で寝そべって、浮竹が眠りに入るまでずっとそうしていた。



「ん・・・今何時?」

「夜の10時」

「だあっ!」

浮竹は、飛び起きた。

寮の門限が9時だ。9時になると門がしまる。塀をこえて中に無断で侵入するか、どこかに泊まるしかもう道は残されていなかった。

「帰ってももう閉まってる。どうして起こしてくれなかったんだ」

「だって、君、熱あったし。それに君の寝顔を見ていられて、こっちは幸せだったから」

そんな簡単なことで、幸せを感じられるものなのだろうか。

「もういい。今日はここで泊まる。お金はお前が出せ」

「うん、いいよ」

そっと、抱きしめられた。

「熱、大分さがったね」

「その気がないんだろう。抱き着いてくるな」

「え、あるよ」

「え」

「え」

お互い、顔を見合わせる。

「なかったことにしよう」

浮竹は、耳まで真っ赤になった顔を布団で隠してしまった。

「浮竹・・・・・・」

京楽が、熱っぽく布団にくるまった浮竹に語りかける。

「ずっと好きだった・・・浮竹も、僕とそういうことになっても、構わないの?」

「だから、なかったことにしようと言っている」

「いやだ。僕は君が好きだ」

耳元で囁かれて、浮竹は身を固くした。

「俺も・・・・・お前が、好きだ」

あああああ。

あああああああああああ。

ああああああああああああああああああ。

言ってしまったあああああああああああああああああああ


後悔が、駆け巡る。


「もう、廓で女を買わない。君がいれば、それだけでいい」

「俺は色子じゃないぞ!お前の欲望をすっきりさせるためにいるんじゃない!」

「うん。ただ、隣にいてくれたらいい。それだけで、十分だから」

ちゅっと、音がするキスを頬にされた。

「京楽・・・・・・・・」

もつれあう。抱きしめあい、キスをする。でも、浮竹はそれ以上が怖いので、京楽の手を拒んだ。

「君が、いつか受け入れてくれるまで、いつまでも待ってるから」

京楽に我慢を強き続けて、6回生になっていた。

卒業間近のある日、浮竹は長くなった髪に、あの時の翡翠に螺鈿細工の髪飾りをしていた。

「今日、おれの全部をくれてやる!よく4年も我慢できたものだな」

半ばやけくそ気味に、京楽にそう言うと、浮竹に告白してから女遊びをやめていた京楽は、浮竹を抱き締めた。

「このまま卒業しても、待っているつもりだった。大好きだよ、浮竹」

「俺もお前が大好きだ」

身長差は、ほとんどなくなっていた。その日の夜、相部屋だったのでお互い緊張してぎくしゃくしていたが、口づけを交わしあうと、もうどうでもいいのだと、お互いを貪りあった。

「お前・・・8番隊の3席になるんだってな」

「そういう浮竹こそ、13番隊の3席じゃないか」

卒業していきなり護廷13番隊の席官クラスは初めての例らしい。

「多分、しばらくは忙しいだろうけど、会いにいくから」

「僕も、会いにいくよ」

結ばれた二人の恋人は、口づけをかわしあいながら、まだ見ぬ未来に想いを馳せた。






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禁忌という名の4

「ん・・・・・・・・・」

朝気づくと、腕の中に浮竹がいなかった。

「浮竹!?」

急いで服を着替えて、寝室から執務室にいくと、そこに浮竹はいた。

ぽたぽたと、ただ涙を零していた。

「どうしたの、浮竹」

「聞いたんだ。全て」

「何を?」

浮竹は、翡翠の瞳を伏せた。

「俺は浮竹十四郎のクローンで、紛い者。偽物だって」

その言葉に、京楽の方が傷ついた顔になった。

「どうしてだ!どうして俺はクローンなんだ!京楽への、この想いも偽物なのか!?」

涙を零しながら、縋りつくてくる浮竹を抱き締める。京楽の黒曜石の瞳からも、涙が零れ落ちた。

「違うよ・・・君は、浮竹十四郎だ。君のその想いも、僕の君への想いも、本物だ」

「でも!」

言葉を封じるように、唇で唇を塞いでいた。

「クローンでも、君は浮竹十四郎で、その心の元になっている義魂丸は特別で、君を愛した花の神からもらったものなんだよ」

「花の神?俺が赤子の時に祝福を受けた?」

「そう。その花の神が、もう一度僕に、浮竹を・・・君をくれたんだ・・・ほら、君の肌や髪からは、祝福を受けた証の甘い花の香がする」

自分の髪の匂いをかいで、そこから甘い花の香がすることに、少しばかり浮竹が安心する。

「俺の存在は、祝福を受けているんだな?」

「そうだよ」

そう思い込むしか、京楽に道はなかった。花の神が、戯れに与えた命だとしても。

今の浮竹に、本当の浮竹が持っていた霊圧はほとんどない。存在するだけの霊圧はあるが、とても死神としてやっていけそうにもないし、そうさせる気も京楽にはなかった。

「君はね、僕の傍にただいて、笑っていてくれれば、それでいいんだよ。君が欲しいものは、叶うならばなんでも与えよう。でもね、忘れないで。君は僕のものだよ」

狂ったオルゴールが、旋律の外れた音楽を奏でるように。

二人の存在は、世界にとって異質だった。


「京楽総隊長!」

七緒が、緊急連絡をしにやってくる。

「なんだって!虚の群れに破面が多数まざっているだって!?」

何故今更、破面が・・・・・・・・。

「仕方ない、出動だ!浮竹、ちょっと行ってくるから、いい子にして待っていてね」

頭を撫でられて、寝室に取り残された。

京楽は、10番隊と11番隊にも命じて、虚及び破面の殲滅を命じた。総隊長である京楽本人も出撃した。

10番隊の日番谷とは、喧嘩別れしたようなかんじだったが、ちゃんと協力してくれたし、一緒に殲滅に力をかしてくれた。

「なんだよ京楽・・・・ふぬけになったんじゃねーのかよ」

「口の減らないお子様だね、君も・・・・僕はまだまだ現役だよ!」

京楽総隊長は、その日卍解した。そして、その力を瀞霊廷中に見せつけた。

その圧倒的な力に、浮竹のクローン問題を口にしようとしていた者たちは、口を閉ざした。

「僕に何か意見がある者は、一番隊の執務室にきなさい。ただし、僕は今の浮竹を愛している。その仲を壊すような者に容赦はしないよ」

そう言って、京楽は愛しい浮竹の待つ、一番隊の執務室の奥にある寝室に向かった。


「これ・・・・・なんだろう?」

浮竹は、薄くなっていく自分の手を見ていた。

何もない場所から、花びらが降ってくる。

「なんだ!?」

それは、院生時代の京楽の姿をしていた。

「私は、花の神---------------愛児よ」

浮竹は、数歩下がった。

「君を司る義魂丸は、その体と溶け合い一つになった。君は、誰かに愛され、その愛を感じなけば、その存在は消滅してしまう。体が透明になって、最後は消えてしまうんだよ・・・・」

「浮竹!」

その言葉を、京楽も聞いていた。

「狂った花の王よ。愛児に「愛」を与えて「愛」をかんじさせてあげなさい」

それだけ言い残して、花の神は花びらになって散っていった。散っていく花びらは光となり、空間に溶けていく。

「浮竹、おいで」

「京楽・・・俺は・・・・・」

「いいから、おいで」

すーっと、透明になっていく指先を、京楽が掴んだ。半透明なその手にキスをすると、透明だった浮竹の手に色と現実感が戻ってきた。

「こんな俺でいいのか?俺は、クローンなんだぞ」

今にも泣きそうな顔をしていた。

「君を生み出させたのは僕だ」

ドクンと、浮竹の鼓動が高鳴る。

「君を失いたくなくて・・・・・君を作り上げた。君だけを、ただ狂おしいくらいに愛している」

たくさん口づけられて、浮竹は甘い吐息をもらす。

「ああっ、京楽・・・・・・・・」

「君は、僕の傍にいて僕の愛を感じとっていればいい。何も怖いことはないよ」

抱き締められた。

何度も口づけられている頃には、立っていられなくなった。

「本当に、俺でいいのか?お前の浮竹は-----------」

「今は、君が「浮竹」だよ」

ベッドに横にさせて、これでもかと愛を囁いて、混じり合った。

(手・・・…透けてない・・・・・・・)

不思議な感覚だった。

口づけを受けた場所から、ぽかぽかと何かが体全体に染み込んでいく。

これが「愛される」ということなのだろうか。

そして、その愛を知るということなのだろうか。

京楽を見る。本当に、幸せそうな顔をして、こっちを覗き込んでくる。

「まだ、足りないかい?僕の愛は」

「十分だ!」

これ以上抱かれたら、こっちの身がもたない。

でも、本当に心が暖かかった。

これが、愛されるということのか。

誰かに愛され、その愛を感じなけば、その存在は消滅してしまう。

でも、逆に愛を感じていればずっと生きられるということなのだろうか。

「ぽかぽかする・・・」

「どの辺が?」

「心臓のあたりが・・・・」

京楽が、浮竹の胸に耳をあてる。

トクントクンと、心臓は脈打っている。

「俺は浮竹十四郎---------------そう思っていいんだな?」

「そうだよ。君は浮竹十四郎だ」

狂ったオルゴールの旋律は、いつしか静かな子守歌になっていた。

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