変態とダッチワイフとパンツ仮面
浮竹は、目を覚ました。
目の前に、自分と瓜二つの人形があって、最初鏡を見ているのかと驚いた。
院生の服を少しはだけさせていて、何処となく物ほしそうにしている表情の人形だった。
「京楽、これは・・・?」
「ダッチワイフ。おぶ!」
京楽の股間を蹴った。
「破道の4、白雷」
「ああああ、僕のスィートハニーが!」
股間を蹴られてのたうちまわりながら、焦げたダッチワイフに涙を零す京楽。
「高かったのに・・・・・」
「知るか!いくら本物に手が出せないからって、ダッチワイフだと!?俺の知らないところでならまだしも、俺が見ている前でダッチワイフとかふざけているのか!」
浮竹はかなり怒った。
ダッチワイフの存在くらいは知っていた。
主に、もてない男性が買うものだ。
京楽はもてる。女には不自由しないだろう。何があったのか、いきなり親友である浮竹のことを好きだ愛してると言い出して、約1年。
浮竹は、京楽の想いに振り向きそうで振り向いてくれない。
浮竹のパンツを盗み、頭に被ったりする変態であるが、ダッチワイフまでいったのは初めてだった。浮竹のダッチワイフを、本人と思い込んでナニをするつもりだったのか。
それは分からずじまいであったが、浮竹は自分のダッチワイフの存在を認めなかった。
焦げて原型のないダッチワイフをごみ袋にいれながら、しくしくと泣いている京楽を見る。
「なんの反応もないダッチワイフと、本物の俺のどっちがいいんだ?」
甘えるように抱き着いて、京楽の目の前で少しだけ院生の服をはだける。
「本物の浮竹がいいです!ダッチワイフはもう要りません!」
ちょろいな。
そう思いながら、京楽のキスを受け入れる。
「んっ」
舌が絡み合う。
ダッチワイフをだめにしてしまったし、少しはいいかと、辛抱していたら、京楽の手が服の中に入ってきた。
鎖骨のあたりにキスマークを残されて、浮竹は京楽と距離をとる。
「そこまでだ」
「もっと浮竹が欲しい・・・・」
「キスとハグまでって言ってるだろう」
「けちぃ」
「まだ俺のダッチワイフが欲しいか?」
「ううん。本物がいい」
たまには甘やかせてあげないと、こうなるのかと思った。
最近、またパンツを盗むようになった京楽に、キスやハグをさせていなかったせいもあるだろう。
とにかく、浮竹のダッチワイフはもう作らせない約束をした。
「特別だ。今日は、甘えていいぞ」
「わーい(*´▽`*)」
ベッドに座り、浮竹を膝の上に乗せる。
「好きだよ・・・」
至近距離でそういって、少し長くなった白髪をいじる。
浮竹を抱き締めて、そのまま二人でベッドに横になった。
何をするわけでもなく、ただ傍に寄り添いあう。
これくらいなら、浮竹も許す。
「変身!パンツ仮面、京楽!」
でも、京楽はやっぱり変態京楽だった。
ぱんつを首まで被り、目と口のとこに穴をあけた浮竹のパンツを被った京楽を、浮竹は無言でその尻を蹴り上げた。
「パンツ仮面か。なんの用だ」
「世界の浮竹のパンツを守るために!今日も日夜浮竹のパンツを盗む!」
「お前に盗まれるのがパンツを守ること?アホか」
追加の蹴りを鳩尾にすると、きいたのかパンツ仮面京楽はその場に屈みこんだ。
「(*´Д`)ハァハァ。パンツ仮面は、暴力に屈しないんだよ!」
「暴力?これは、変態を矯正しようとしているだけであって、暴力にならんな」
げしげしと蹴る。
「(*´Д`)ハァハァ。痛みが快楽に・・・・パンツ仮面は今日も孤独だ」
「痛みが快楽?かなりヤバイところまできてるな」
ああ、どこかに変態の治る薬でもないだろうか。
前に変態を治す薬を飲ませたら、京楽春子と名乗るオカマになった。
オカマと変態京楽・・・・どっちも嫌だ。
「そのパンツ仮面をやめたら、今日は一緒に寝てやる」
「パンツ仮面廃業します!」
見の代わりの早さが、笑いを誘う。
その日は、言葉通り京楽のベッドで眠った。ただし、いつものように京楽は簀巻きにされていたが。それでも幸せそうなのだから、別にいいだろう。
「パンツ仮面か・・・・また新しい変態が出てきたな」
ご褒美を与えても、京楽は変態に走る癖がある。
もう、変態治らないのかなと思いながら、浮竹も眠るのだった。
発作を起こした浮竹と限界までの甘味
目の前で、浮竹は血を吐いた。
ごほごほと咳込む浮竹。
真紅の色だけが鮮明で、京楽は動けないでいた。
それから、はっとなって、浮竹の名前を呼ぶ。
「浮竹、大丈夫かい、浮竹!」
「きょうら・・・・ごふっ」
ヒューヒューと喉が鳴る。様子がおかしい。
「血がのどにつまったのか!」
京楽は、浮竹から血をすいあげて、なんとか呼吸ができるように気道を確保すると、抱き上げた。
「今すぐ、4番隊のところに連れていくからね!」
瞬歩で、4番隊までつくと、すぐに卯ノ花が呼ばれた。
「急に、咳込んで血を吐いたんだよ」
ここ数か月、血を吐いていなかったので、浮竹が肺の病を持っていると忘れていたのだ。
久しぶりの発作は酷く、回道で手当てしても血を吐き続けた。
「まずいですね。集中治療室まで、移動させます」
卯ノ花の決断に、京楽も従う。
浮竹を抱き上げて、集中治療室まで行った。
あとは、浮竹の体力次第だった。
集中治療室の大きな窓の向こう側から、浮竹を見る。点滴を受けて、人工呼吸器をつけられた浮竹を見るのは、半年ぶりくらいだった。
「浮竹・・・」
どうか、回復しますように。
今は、ただ祈るしかなかった。
数日が経った。相変わらず、浮竹の意識は戻らないままで、一度心肺停止状態に陥り、なんとか回復したが、呼吸は浅く、脈も弱いままだった。
「浮竹、大好きだよ」
集中治療室の硝子越しに、浮竹を見る。
「・・・・・・・・きょうら・・・・・く・・・・」
「浮竹!?」
意識を取り戻した浮竹は、立ち上がって、人工呼吸器を外し点滴の管も外して、硝子越しにいる京楽とキスをした。
硝子を一枚隔てたキス。手が、硝子一枚を隔てて、重なり合う。
集中治療室に入り、浮竹をベッドに横たわらせると、ナースコールを押した。
すぐに、卯ノ花がやってきてくれた。
「気づかれたのですね。肺に痛みはありますか?」
「大丈夫だ、卯ノ花隊長。意識もしっかりしている」
「そうですか。では、普通の病室に移動しましょう。念のため、そこで3日ほど過ごして問題がないよなら、退院ですね」
体重の軽くなった浮竹を抱き上げて、普通の病室まで移動すると、あいていたベッドに横たえた。
「京楽隊長も、ちゃんと休んでくださいね」
浮竹の意識が戻らぬせいで、眠るに眠れぬ日々を過ごしていた京楽は、卯ノ花に礼を言うと、仮眠室で横になった。
久しぶりに、深く眠った。
「浮竹、起きてるかい?」
「ん、ああ」
「ここ数日、湯あみできなくて気持ち悪いでしょう。体ふいてあげるよ」
「ああ、頼む」
すっかり肉の削げ落ちた、細くなった体を濡れた蒸しタオルでふいていく。つま先まで綺麗に吹き終えて、大分すっきりしたのか、浮竹は嬉し気だった。
「あと、2日我慢したら、退院できるそうだ」
すでに、食事は普通のものを食べていた。
「退院したら、甘味屋に行こうか」
「お、いいな。満腹になるまで食ってやる」
「君が満腹になるまでって、何人分たべるんだか」
今からでもそんな光景が見えて、嬉しくなった。
やはり、元気な浮竹が一番いい。
病気で儚げない浮竹が嫌いというわけではないが、想い人が元気であることに越したことはない。
それから、2日が経った。
浮竹はそれから発作も起こさず、検査でも異常が見つからなかったため、退院となった。
一度心肺停止状態にまで陥ったことが、嘘のようだ。
瞬歩は体力を使うので、歩いて移動する。浮竹を抱き上げて瞬歩で雨乾堂まで戻ることもできたが、落ちてしまった体力を戻すためのリハビリも兼ねて、徒歩で移動した。
2時間ほどかけて、雨乾堂についた。
「はぁ、我が家だ」
浮竹は、病院で湯あみもしたが、やはり雨乾堂の湯殿が好きなのか、さっそくお風呂に入ってさっぱりしてから、敷かれた布団に横になった。
京楽も、同じ布団で横になった。そのまま、午睡した。
数日がそれから経った。元気を取り戻した浮竹は、よく食べて運動し、落ちていた筋力も戻りつつあった。
「よし、甘味屋にいくぞ!」
もう、瞬歩を使っても平気なまでに回復した。
「壬生の甘味屋までいくぞ、京楽!」
「はいはい」
「どっちが先につくか競争だ!」
お互い、瞬歩で移動した。京楽が勝った。
「くそ、まだ本調子じゃないか」
「あれだけ瞬歩で飛ばせるなら、十分だよ」
京楽が恐れていた通り、浮竹は甘味物を食った。食いまくった。5人前を食べて、やっと満足した
浮竹。勘定は凄いことになっていたが、京楽には痛い額ではなかった。
「うーん。ちょっと食べすぎた」
「そりゃ、あんなに食べたらね・・・・」
「今日は流石に、夕餉は食べれそうにないな」
「あれだけ食べて、夕餉が入るならそれこそ末恐ろしい・・・・」
限界まで食べたので、運動を兼ねて徒歩で帰った。
「ああ、幸せだな」
甘味物を好きなだけ食べたのは、これが初めてかもしれない。いつも、どこかでセーブしていた。限界まで食べたのは、生まれて初めてだ。
糖分のとりすぎとか、問題は普通いろいろありそうなのだが、浮竹は甘味物を食べても太らない。
今日は泊まることにしているので、京楽の分だけ夕餉がでてきた。
デザートは、メロンだった。
じーっとそれを見つめるものだから、浮竹にあげた。
浮竹は、あれほど食べたが、消化が進んだのか、ぺろりと平らげてしまった。
「今日はありがとうな、京楽。甘味屋に連れて行ってくれて」
「入院してた時に約束したからね」
浮竹は、自分から触れるだけのキスをした。
考えれば、浮竹が倒れてからずっとしていないのだ。
「今日は・・・無理かな。明日の夜、いいかい?」
「ん・・・・ああ」
京楽からのキスを受けながら、浮竹は頷いた。
その日は、1つの寝具でお互い何度も口づけあい、抱擁して眠った。
何も異常のない、平和な1日。
それがとても幸せなことなのだと、噛みしめるのだった。
春模様替え
「海燕、そっち持ってくれ」
「はい」
「それはこっちに」
「ちょっと、ここじゃ邪魔になりませんか」
「うーんそうだなぁ。そこの横に置こうか」
「分かりました」
「このちゃぶ台は、右端に設置しよう」
「ここですか?」
「こんなもんで、とりあえずはいいか・・・・・・」
海燕と二人で、浮竹は雨乾堂の模様替えを行っていた。
タンスの位置からちゃぶ台、文机まで、いろいろ移動した。
たんすの裏にはほこりがあったので、それも掃除した。
「うん、我ながら完璧だ」
「ちょっと、文机のあたりが細々としていて、邪魔になりませんか?」
「あれでいいんだ。あれなら、寝転べないだろう?俺は、仕事中疲れると寝転んでしまう癖がたまにあるんだ。そのまま寝てしまったりして、後悔したことは何度もある」
「そうですか。ちゃんと眠い時は昼寝でもいいから、寝てくださいよ!」
「うん、ああ」
海燕は、よくできた副官だ。
上司の浮竹の世話から、執務までこなしてくれる。
よく、寝込んでしまう浮竹の世話をしてくれるのも、海燕だ。ただ、よく京楽がやってくるため、その役割を奪われることはあるが、それはそれで楽でいいと海燕は考えていた。
京楽は、浮竹の世話を、海燕以上に見てくれるから。
「あらー。遊びにきたら、びっくり。雨乾堂じゃないかと思った」
「ちょっと、春模様にかえてみた」
ちょっとした春っぽい置物とか置いてみたり。桜の模様の座布団だったり。
「布団も、花柄に変えてみたんだ」
襖を開けると、薄いピンク色の布団が2組あった。
浮竹と、泊まる時の京楽用のものだ。
「最近ぽかぽかしてきたし、いいんじゃない?」
「そうだろう、そうだろう」
うんうんと、浮竹は頷く。
いい年したおっさんが、花柄ってどうよ?って海燕は思ったが、口には出さない。
まぁ、年中頭が春のような浮竹には、似合っているとも思う。
おっと。心の声が漏れてしまったようだ。
「誰の頭が年中春だって?」
海燕の頭をぐりぐりする浮竹。
「痛い痛い!すみません、もういいません!」
「全く、俺の副官は・・・・・」
「でも、海燕君以上の副官はそうそういないんじゃないかなぁ」
「そうですよ、もっと言ってやってください、京楽隊長!」
「七緒ちゃんと交代する?」
「だめだ、海燕はやらんぞ」
海燕の体を捕獲する浮竹。
「僕だって、七緒ちゃんはあげないよ。かわいいもんねー」
「む。俺の副官の海燕だってかわいいぞ」
「どこが?」
「この、無駄に長い下睫毛とか、無駄にある筋肉とか」
「下睫毛、無駄に長くて悪かったですね!筋肉は無駄についてません、ちゃんと鍛えてるんです」
海燕が、浮竹の手を振り払って、反論する。
「それ、可愛いって言わないよ」
「む」
「むしろ、かわいいのは君だよ、浮竹。副官のことで拗ねたり、言動がかわいい」
「むう」
ぷくーっと、怒る浮竹も可愛かった。
「ああ、君はなんでこんなに可愛いんだろうね?」
「可愛いんじゃない、かっこいいんだ」
「はいはい」
頭を撫でていると、もっとと強請ってくる。
京楽の膝に頭を乗せて、京楽の髪をいじりだす浮竹。
長い白い髪を指で梳いてやりながら、浮竹の機嫌をとる。
「今日は、いいかい?」
「ああ、いいぞ」
「副官がいるのに、何夜の段取りきめてるんですか!」
「いや、海燕は俺たちが体を繋げているシーンも見たことがあるだろうし、これくらい平気だろう?」
「好きで見たわけじゃありません!目撃してしまったのに終わらせない隊長達も悪い!」
「いや、いきなりやめろと言われても無理がある。なぁ、京楽」
「そうだね。途中ではやめれない」
「いい年なんだから、あんまり盛らないでくださいよ」
「大丈夫だ、週2だ」
「そんな生々しい答えはいりません!」
海燕は、浮竹と京楽のために茶を入れていたのだが、京楽には茶を出して、浮竹の分を飲んでしまった。
「海燕、俺のお茶は?」
「はいはい、今入れますから」
新しく買った、桜の模様の湯呑に、茶を注いで浮竹に渡す。
いつも通りの、高い玉露の茶だった。
お茶っぱまで、京楽のお金が回っている。
「本当なら、こういうのいけないことなんですけどね」
自分の隊に金をかけるなら分かるが、他の隊にまで金をかける京楽の酔狂さに、海燕は罪悪感を抱きつつも感謝していた。
お陰で、浮竹は好きなものを好きなだけ食せる。
「そうそう、壬生の甘味屋でおはぎを買っておいたんです。食べますよね?」
「食べる!」
浮竹の答えに苦笑しつつも、隊舎に一度下がって、おはぎをもってきた。
「んー美味しい」
浮竹は幸せそうだった。
京楽と海燕も食べた。
3人分ではたりないだろうと、5人分用意しておいて正解だった。次々とおはぎを平らげていく浮竹は、最後の1つになったおはぎを見て、悲しそうな顔をする。
「俺が食べると、皆の分まで食ってしまうからなぁ」
「気にしないでいいよ。最後のも食べちゃっていいよ」
「隊長、京楽隊長もそう言ってるし、俺はもうおなかいっぱいなんで」
「そうか、じゃあ悪いが最後の1個ももらうな」
もぐもぐと食べていく、浮竹が可愛いと京楽も海燕も思うのだった。
煙管煙草
「え、いいけど。浮竹って、吸うの?」
「一度吸ってみたいと思って」
ゆっくりと火をつけて、煙草の煙を肺にとりいれて、紫煙をあげた。
咳込むことはなかった。
「どう?」
「なんともいえない。おいしいとも感じないし、まずいとも感じない。そうだな、しいていえば煙草の香が染みつきそうであんまりよくはないか」
煙管煙草を、京楽に返す。
京楽は、それを吸った。
「これは大人の味だからね」
「む。俺が子供とでもいいたいのか」
「君、確か珈琲もダメでしょ」
「何か文句でもあるのか」
「酒はいけるけど、ビールもだめだし。甘いお菓子は大好きだし、お酒も甘いものが好きだし」
「なんだ、何か文句でもあるのか。はっきりいえ」
浮竹が京楽から、煙管煙草を取り上げた。
「味覚がお子様なんだよ」
その言葉に、浮竹は煙管煙草の中身を灰皿にいれた。
「ああっ、まだ吸えたのに・・・まぁいいか」
煙草の1つや2つ程度、かかるお金はたかが知れている。
「味覚がお子様で悪かったな。ふん」
気分を害したらしい浮竹の長い白髪を手にとってキスをする。
そのまま、どんどん近づき、浮竹の手にキスをした。唇が重なる頃には、浮竹はとろんとした目つきになっていた。
「んっ・・・・・煙草の味がする」
「キスでの煙草の味は、でも、嫌いじゃないでしょ?」
「ああ。でも、肺に悪いし俺はお前にあんまり吸ってほしくないけどな」
「たまにしか吸わないよ。いつもはただくわえてるだけ」
そういえば、よく屋根の上に寝転がって煙管煙草をくわえている京楽に出会うことはあるが、いつも紫煙があがっていなかった。
本当に、時折なのだろう。
京楽から煙草の匂いがするのは、けっこう少ない。
いつも、柑橘系の香水をつけているので、その匂いが浮竹は好きだった。
今日は、柚子の香がした。
「んんっ・・・・・香水、変えたのか?」
「うん。柚子のやつに。嫌い?」
「そんなことは、ない・・・・・・んっ」
何度も口づけられ、肌を手が這っていく。
「あっ、このままするのか?」
「今日は、調子ちょっと悪いでしょ?止めておくよ」
「微熱があるからな・・・・・・」
額に手を当てられる。
確かに、少しだけ体温が高かった。
こんな調子の時に抱かれると、高熱を出すことが多いので、抱かないと言われて内心ほっとしたのと、残念がるもう一人の自分がいることに気づく。
ぼーっとしていると、だんだんと呼吸が苦しくなってきた。
「すまない、熱があがってきたみたいだ・・・・遊びに来てくれたのはうれしいが、寝る」
布団を敷かれて、その上で横になった。
眠気はあまりなかったが、目を閉じているといつの間にか闇に落ちるように意識をなくしいった。
「うう・・・・・」
「浮竹?」
何か、悪夢でも見ているのだろうか。
起こしてあげようかとも考えたが、せっかく寝ているので様子を見る。
「死ぬな、京楽・・・・・・・」
ぽろりと、閉じられた翡翠の瞳から涙が滴り落ちた。
これは、起こしたほうがいいなと思い、浮竹を揺さぶる。
「浮竹、起きて、起きて」
「はっ!京楽!?生きていたのか、よかった・・・・・!」
そのまま、泣きだしてしまった浮竹を、雨乾堂の入口からじーっと見てくる影があった。
「あ、海燕君、これは違うんだ、別に浮竹を泣かしたのは僕じゃないんだよ!」
「隊長、泣いてるじゃないですか。京楽隊長以外に人がいないなら、京楽隊長のせいでしょう」
海燕は、熱を出してしまった浮竹の様子を見に来たのだ。
「ほら、浮竹も泣いていないで、海燕君に誤解だといってよ」
「京楽のせいだ。京楽のせいで泣いている」
まだ夢の中で、自分を庇って真っ赤な血を出して死んでしまった京楽の姿が脳から離れなくて、浮竹は涙を滲ませながら、京楽のせいだと繰り返す。
熱は、下がっていないようだった。
「浮竹、解熱剤飲んでもう一度寝よう」
海燕も、やっと事情を呑み込んだのか、京楽に薬と水を渡した。
「ん・・・・・」
口移しで薬を飲まされる。
浮竹はしばらく、熱が高いせいで意識を朦朧とさせていたが、解熱剤に含まれる睡眠薬の成分がきいたのか、すーすーと静かな寝息をたてだした。
「はぁ・・・・やっと、寝てくれた」
浮竹の長い白髪を手で梳くと、さらさらと零れ落ちた。
「本当に、抱かなくて正解だったね」
「京楽隊長、あんたこんな病人を抱くつもりだったんですか!」
「いや、高熱出す前だよ!微熱あったから、やめたし!」
「もしも抱いてたら、もっと酷いことになってましたね」
多分、数日は寝込むことになっただろう。
そうならなくて良かったと、二人して安堵した。
「浮竹隊長は、この通り熱でやられてますけど、今日は泊まっていくんでしょう?」
「うん。浮竹の傍にいてあげたいしね」
「一応、夕餉隊長の分はおかゆで、京楽隊長の分は普通ので用意しておきますね」
「ありがとう、海燕君」
本当に、よくできた副官だ。
海燕がいるから、京楽も安心して浮竹を任せれた。
することもないので、浮竹の寝顔ばかり見ていた。畳に寝そべっていると、いつの間にか睡魔がきて眠ってしまっていた。
「京楽、おい京楽」
「あれ、どうしたの。熱はもういいの?」
浮竹が、畳の上で寝てしまった京楽を起こした。
「それより、こんな畳の上で寝ていたら、風邪をひくぞ」
「大丈夫、僕は鍛えてるから」
「そういう問題じゃないだろう。なんでこんな場所で寝ていたんだ?」
「君の寝顔をずっと見ていたら、いつの間にか寝落ちしちゃたったみたい」
「そうか。せっかく遊びにきてくれたのに、俺が熱を出して寝込んだせいで・・・その、悪かった」
「いや、いいんだよ。それより、熱はもう下がったんだね?」
「ああ、お陰様で」
海燕を呼んで、二人分の夕餉をもってきてもらった。
念のためお粥だったのだが、浮竹は文句も言わずに平らげた。
ただのお粥ではなかった。いろんな海の幸が混じっていて、見ているだけでも美味しそうだった。
「なんか、浮竹が食べていたお粥のほうがおいしそうだね」
京楽のメニューはカツ丼だった。
「うまかったぞ。俺はお粥を食べる時が多いから、料理人がいろいろと工夫してくれるんだ」
デザートは、苺だった。
京楽の分まで苺を食べて、満足した浮竹は食べ終えた京楽と湯あみをした。
風邪をひかないようにと、髪をちゃんと乾かす。
「そうだ、今日どうして僕が死んだ夢なんて見てたんだい?」
「ああ・・・・大分内容を忘れてしまったが、俺を庇って京楽が倒れて、血を流して死んでしまう夢だった」
ちくりと、胸が痛む。
京楽に抱き着くと、京楽は頭を撫でてくれた。
「僕は、誰かにやられて死ぬような玉じゃないよ」
「ああ、そうだな」
まだ病み上がりなので、深酒をしないように注意しながら酒を飲み交わした。
「煙管煙草、貸してくれないか」
「吸うのかい?」
「ああ」
ゆっくりと火をつけて、紫煙をあげる。
数分一服して、浮竹は満足した。煙管煙草を返されて、中身を灰皿に落として、直す。
「もう、寝ようか」
「そうだね」
布団を2組しかれていたが、浮竹が求めるので同じ寝具で、二人寄り添いあって眠った。
もう、浮竹は悪夢を見なかった。
京楽の腕の中で、微睡む。とても幸福な夢を見た。京楽と結婚し、養子をとって引退するまで隊長を続ける夢だった。
京楽も、その日は寝落ちしてしまっていたにも関わらず、深い眠りに入るのだった。
人生ゲームで人生がおかしくなる
背後に京楽を連れた浮竹が、人生ゲームを手に6番隊の執務室までやってきた。
すでに仕事を終えてあるであろう時刻を見計らって。
机の上に、人生ゲームを置く。
白哉は今まで2回人生ゲームをしたことがあるので、普通にプレイしようと長椅子に移動した。
「えええ、隊長って人生ゲームなんてするんすか」
「白哉はいつも一人勝ちするから、このゲームけっこうお気に入りだよな?」
「そうなのかい朽木隊長」
京楽の問いに、白哉は答える。
「この私が勝つのはあたりまえのことだ」
「隊長と人生ゲーム・・・・うぷぷぷ、似合わねぇ」
「恋次、貴様千本桜の錆になりたいのか?」
「な、なんでもないです!はい!」
恋次も現世で暇な時に人生ゲームをしたことがあるらしく、ルールの説明は不要だった。
クジで、1位になった者は最下位になった者に何をするかを決める。
「1位になった者は、最下位の者とキスすること」
「ええええ」
「まじっすか」
ありえないと、皆思ったが、まぁキスくらいならましかとも思う。
他のクジとみると1位になった者が最下位の者に高級酒をおごる、1位になった者が最下位のものに甘味物を腹いっぱいおごるとか、誰がだした意見とか丸わかりだった。
ちなみに、キスの案件をいれたのは京楽だった。
「絶対に負けないぞ」
「負けてなるものか」
「・・・勝負」
「ようは、最下位にならなきゃいいんだよ」
浮竹、恋次、白哉、京楽の順の言葉だった。
1時間ほどでゲームの決着がついた。
やはり、1位は白哉だった。大富豪になり、子供を2人もうけてゴール。
2位は京楽、公務員になり、子供を5人ももうけてゴール。
3位は浮竹、借金まみれで子供なしでゴール。
最下位は恋次、フリーターのまま、子供を1人もうけてゴール。
「最下位俺じゃないっすか!」
「そうだな。頑張れ、阿散井副隊長」
「隊長とキスなんて無理!」
「約束は約束だ。こい、恋次」
恋次の手をとって、白哉は唇を重ねた。
その思ったより柔らか感触と、いい匂いに恋次はディープキスをしていた。
「んんっ・・・・・」
白哉の喉がなる。
浮竹も京楽も、その様をぼけーっと見ていた。
「んあっ・・・・恋次、いつまで呆けておるのだ」
口づけを終えて、真っ赤になった恋次に声をかける。
「俺、急用思い出したんでこれで”!」
恋次は逃げ出した。
「んー。意外と、阿散井副隊長もまんざらではない?」
浮竹が首を傾げると、白哉が笑う。
「そんなばかなことがあるものか」
一番信頼している副官なのだ。上官に、邪な思い何て抱いていないと決めこむ。
「いやー、あの反応は何かあるんじゃないかなー」
京楽が、他人事だと、意地の悪い笑みを見せた。
「それにしても、この人生ゲーム一護君からもらったんだが、尸魂界版もほしいな」
「それなら、私の力でなんとかしよう」
「本当か、白哉」
「この偽札も、本物の金にかえよう」
「いや、それはゲームだから偽札のままのほうがいいと思う」
「そうか?」
「そうだ」
白哉と浮竹の仲はいい。
白哉が子供の頃からの知り合いらしいのだが、白哉は実の兄のように慕っていると周囲にいったことがあった。
浮竹も、白哉を弟のように大切にしていた。
その仲のよさに、京楽も嫉妬を覚える。
「朽木隊長、浮竹と仲がいいね」
「否定はしない」
「なんだ、嫉妬してるのか京楽?」
「そりゃするでしょ。恋人が、こんなにも親しげにしてるんだから・・・・」
「俺の白哉に対する想いは家族愛だ。弟のようなものだ」
「私も、浮竹のことを実の兄のように思っている。ただ、それだけだ。兄が勘繰りたがるような関係ではない」
人生ゲームは、白哉が尸魂界版を作ってくれるそうだから、6番隊の執務室においてきた。
雨乾堂に戻ると、京楽がキスをしてきた。
「どうしたんだ、京楽」
何度も口づけられる。
「ふあっ・・・・・」
舌を絡めとられて、ディープキスになる。
浅く深く口づけを何度か繰り返して、京楽はやっと満足したのか、浮竹を解放した。
「今頃、阿散井君は大変だろうな」
「どうしてだ?」
「君には、まだ分からないよ」
一方の恋次は。
「隊長があんな顔するなんて・・・・・」
かなり、腰にきた。
美形な顔は見飽きるほど見てきたが、あんな声を聞くのもはじめだった。
「はぁ・・・明日、どうやって会えばいいんだか」
そう、悶々と苛立ちを抱え込むのだった。
パンツを盗むその犯人とは京楽以外にありえない
ラメ入りのパンツでめっちゃ目立った。
天井からぶら下げた浮竹のパンツに向かって、正拳突きをしていた。とりあえず、起き上がるとそのけつに蹴りを入れて、パンツを奪い返す。
昨日洗濯して干しておいたパンツだった。
「全く・・・・またパンツ盗みだしやがって」
一時期は収まっていたパンツ盗みだが、また最近ちょくちょくパンツがなくなるようになっていた。仕方ないのでネットで50枚はパンツを注文したのだが、すでに20枚はなくなっていた。
「たくさんあるんだから、ちょっとくらいいいじゃない」
「20枚はもう盗んでるだろう!全然ちょっとじゃない!」
「パンツ代金僕が払ってるんだからいいじゃない」
「そういう問題じゃない」
新品のままのパンツは盗まないのだ。
一度浮竹がはくと、そのパンツを盗むのだ。
今のところ、パンツの使い捨て状態だった。
「あほな恰好してないで、服を着ろ。学院に登校するぞ」
朝食のパンをかじりながら、コーヒーを飲んで、院生服に着替えると浮竹は部屋を出た。ラメ入りパンツ一丁の京楽も、部屋を出た。
「服着ろ!」
浮竹は、京楽のけつを蹴った。
京楽は、手にもっていた院生服をしぶしぶ着だす。
浮竹は筆記用具とかを手にしていたが、京楽は手ぶらだった。ロッカーに全ての荷物をいつも置いているらしい。
手ぶらだが、懐には何かをいれているらしい。
「動くなよ」
ボディチェックをしていく。
ポケットと懐から、浮竹のパンツが出てきた。
「なんだこれは」
「僕のものだよ!」
「一度お前に盗まれると、もうはきたくなくなるから別にいい」
今日の朝のパンツは、まだましだと思って奪い取っておいたのだが、やはり処分しようと決めた。
「行くぞ。ちんたらしていたら遅刻する」
時間にまだ余裕はあったが、京楽の変態ペースに間に合わせていると、完璧に遅刻する。
「ああん待ってマイスウィートハニー」
京楽を無視して、学院に登校した。
ざわざわざわ。
教室がざめめくので、その視線の先をたどると、京楽が浮竹のパンツをたたんでいた。
頭に被るられるよりはましなので、放置しておく。
ざわり。
さざめきが大きくなった。
京楽の方を見ると、浮竹のパンツを頭に被っていた。
「はぁ・・・・・破道の4、白雷」
「あがががががが」
パンツを頭に被ったまま、京楽は気絶した。
教師がやってくる。
「焦げ臭いな・・・・む、京楽、なんだその恰好は。京楽?」
「すみません、ばかが脳まで達したようなので、医務室に連れて行きます」
「ああ、そうか」
教師も、京楽の変態ぶりは承知していた。それくらい、京楽は変態なのだ。
寮の自室だけでなく、学院の中まで浮竹のパンツを被りだすことがあるので、教師も慣れたものだ。
焦げた京楽を、ずるずると足を掴んで引きずっていく。
ゴン、ガンとか頭を打つ音はするけど、無視だ。
医務室にいくと保険医はいなかった。
そのまま、適当にベッドの上に京楽を投げ飛ばす。
頭にはたんこぶだらけで、被っていたパンツは黒く汚れていた。
「あれ、浮竹?あいたたたた、頭が痛い!なんでたんこぶだらけ・・・・」
「お前、学院でパンツ被るのはやめろ」
「え、どうして?」
「どうしてって、変態行為はせめて自室の寮だけにしろ」
「僕、何も変態行為なんてしてないよ」
重症だった。
パンツを頭に被ることが、普通のことだと思っているらしい。
「はぁ・・・・お前の友人であることが、時折悲しくなる」
「じゃあ、今日から恋人で!」
抱き着いてきた京楽の顔面を蹴って、黙らせた。
「酷い!浮竹のバカ!」
「京楽の変態がっ!」
「そんな褒めないでよ(*´з`)」
「褒めてない!どこをどうとれば褒めていると感じるんだ!」
「え、僕にとって変態は輝かしい言葉だよ。何せ変態だからね」
浮竹が驚愕した。
京楽が、自分で自分を変態であると認めたのだ。
「熱はないか?まさかバカのウィルスが本当に脳みそにいったんじゃ・・・」
京楽の額に手をあてると、引っ張られた。バランスを崩して、京楽の上に倒れこむ。
「好きだよ、浮竹・・・・」
「そういう台詞は、せめてパンツを被らずにしろ」
裏拳で顔を殴ると、京楽はまた気絶した。
京楽のかぶっていた汚れたパンツをごみ箱にすてて、京楽の懐からパンツを出すと、それを握りしめさせた。
せめてもの、情けだ。
ちなみに、昼休みには復活して、パンツを被らずに普通に浮竹と食事をとる京楽の姿があったという。
一護の誕生日(閑話)
一護の誕生日であると知ったルキアは、ネットでチャッピーの抱き枕を注文した。
「一護!たたたたた、誕生日おめでとう!」
ケーキは作れなかったが、代わりにクッキーを焼いた。
綺麗にラッピングされたチャッピーの抱き枕を受け取って、一護は照れていた。
「ありがとう、ルキア。まさか死んでからも誕生日を祝ってもらえるなんて、思ってもなかった。中身、あけてもいいか?」
「ああ、いいぞ」
きっと喜んでくれる。そう思っていたルキアとは反対の表情を、一護は浮かべた。
「抱き枕でチャッピーかよ」
少し悲しくなって。
「いらぬのなら返せ!」
「誰もいらねぇなんていってねぇ!」
ふわりと抱き寄せられた。
「ありがとうルキア。気持ちだけでも嬉しいぜ」
「たたたたわけ、愚か者!」
一護の鳩尾に拳をいれて、ルキアは真っ赤になった。
「きいた・・・・・ああ、いい匂いがする」
「あっ、クッキーを焼いたのだ。食べてくれるか?」
「勿論食べるに決まってるだろ」
さくさくと、一護はルキアの手作りクッキーを食べた。
「味はどうだ?」
「うまいぞ。初めて作ったんだろう?」
「何故わかるのだ?」
「焦げたり、形がいびつだったりしてるから。それにルキアは、朽木家の者だしな」
「たわけ、そんなことがはないぞ。これでもたまに料理はするのだ。兄様のお弁当を作ったり・・・兄様がとても喜んでくれるからな」
「なぁ、ルキア」
キスをされて、真っ赤になると、一護が耳元でこう囁いてきた。
「今日だけは、白哉の話はしないでくれ」
「どうしてだ?」
「嫉妬しちまう」
結婚して、1か月はたつというのに、体を重ねてもルキアは初心なところは変わりなかった。
「好きだ・・・・・」
ルキアを抱き寄せて、耳をかじると、ビクンと腕の中のルキアが反応した。
「あ、一護・・・・・・」
「愛してる。俺の嫁は、世界で一番かわいい」
少し長くなった黒髪に口づけられて、そのまま抱き締められて、舌が絡まる深いキスをされた。
「いちご・・・・」
「好きだ。愛してる」
「私もだ、一護・・・・・」
キスに応えてくるルキアはかわいかった。
「にゃあ」
「琥珀、いいところだからあっちいってろ」
猫の琥珀は、またにゃあと鳴いて去って行った。
「今日は、確か白哉は帰ってこないんだよな?」
「ああ、そうだが・・・」
ちょうど、休日だったのだ、二人とも。
「うおっし、久しぶりにイチャイチャラブラブするぞ」
「ええっ!?」
昼食を、全部ルキアの分を一護が食べさせたり、反対に夕飯をルキアが一護に食べさせたり、意味もないのに触れ合ってごろごろしたり、一緒になって一つの布団で昼寝したり。
「今日の最後のプレゼントが欲しい」
「何が欲しいのだ?私で叶えられることなら・・・・・」
「お前が欲しい」
真顔で、そう言われた。
「なっ・・・・・」
「いいだろう?結婚式も挙げたし、もう何度も体を重ねてる」
「仕方ないな・・・いいぞ」
「おっし」
軽いルキアを抱き上げて、一緒に湯あみをした。
髪をかわかしてから、布団の上で睦みあう。
「あ・・・・・・」
真っ白なルキアの肌は、吸い付てきそうなほどにすべすべしていた。
アメジストの瞳が、潤みながら見上げてくる。
「お前が欲しい・・・・」
「んっ・・・・ああっ!」
ルキアの体のそこかしこが甘くて、夢中になった。痕をたくさん残した。
行為後のけだるい雰囲気の中、ルキアは満足そうに一護に抱き着いていた。
「いつか、子ができるといいな」
「そうだな」
朽木家の次代当主になるのだろうか。
ルキアをかき抱いたまま、その日は眠った。
「一護、朝だぞ起きろ」
「ん・・・・もう朝か」
「兄様が戻っていらしている。早く支度をして朝餉をとりにいかねば」
「ちっ、白哉め・・・・・・」
同じ屋根の下で暮らしているのだから、当然のように顔を見ることになる。
離れの屋敷にルキアと住まうことを提案したのだが、白哉に断固と拒否された。シスコンの白哉は、手の届く範囲にルキアを置いておきたいらしかった。
ルキアが一護のことを好きと知って、一護もルキアのことが好きなのをいいことに、勝手に籍をいれるようなやつだ。
棒弱無人。そんな言葉がぴったりと合いそうだった。
でも、白哉は人気だった。隊士からも尊敬されていて、何よりあの恋次が、この人のためならばと、動くような上官なのだ。
「一日過ぎてしまったが、兄への誕生日プレゼントをくれてやろう」
ぽいっとよこされたそれは、一護と迷子札のついた犬の首輪だった。
「白哉義兄様の気持ちだけありがたくいただいておくよ!」
あっかんべーをして、食堂で犬の首輪を投げ返した。
「一護!兄様からのプレゼントなのだ。ちゃんと受け取れ!」
ルキアが、嫌がらせでしかない犬の首輪をもってくる。仕方なしに受け取って、後で処分することにした。
今日の朝餉は、いつもより豪華だった。
「昨日は、楽しんだか、ルキア」
ルキアは真っ赤になった。
「子ができたら、真っ先に教えろ」
「おいおい白哉、一番初めは俺に決まってるだろう」
「ふ、犬がなにかわめいておる」
ピキピキピキ。
一護の額に血管マークがいくつも浮かんだ。
「なぁ、白哉義兄様、もう少し仲良くできねぇか?」
「笑止。無理だ」
「くそったれが!」
こっちから歩み寄ろうとしてもこれだ。
多分、ルキアが恋次と結婚していたら、恋次が今の一護の立場にいるのだろう。
いや、恋次は長年副官として白哉といても平気だから、もっと扱いは違うのか。
そんなことを考えていたら、朝餉を完食する前に下げられてしまった。
「あーもう、いらいらする」
「今日は、6番隊と13番隊で合同訓練がある。行くぞ、ルキア」
「はい、兄様」
「そこの、盛るしか脳のない駄犬も、早めに来ることだ」
「ムキーーーー!」
白哉が去り際に残していった台詞に怒って、ルキアからもらったチャッピーの抱きまくらに、白哉の写真を張り付けて、殴りまくった。
「ぜーぜー。おっとやばい、遅刻する」
一護は、白哉が本気で嫌いなわけではないのだ。本気で嫌いなら、言葉も交わさない。それは白哉も同じことであろう。
「うまくいかねーな」
こじれた嫁と姑の中のようだ。
仕方なしに遅刻しないために、新しい死覇装を着て、副官の証を左腕につけて、一護も出勤するのだった。
ポッキーの日
「京楽の死ぬ日」
雨乾堂で、ごろごろしながら、旅行のパンフレットを見ていた浮竹が、そう言った。
「酷い!僕は死なないよ!」
「んー。温泉にいきたい・・・・・・」
浮竹が見ていた旅行のパンフレットを、京楽がとりあげた。
「それはまた今度にして、じゃーーん!ポッキーの日です」
京楽は、背後にもっていたポッキーを浮竹の前に置いた。
「ポッキーだな」
「うん、ポッキーだね」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
しばしの沈黙。
「で?」
「え、いや、ポッキーの日だからこの通りポッキーを取り寄せたんだよ」
ポッキーの入った段ボール箱が3つほどあった。
「ちょっと、買いこみすぎじゃないか?」
「うんそうだね。でも、君のとこと僕のとこの一般隊士にも1人1個配るから、これくらいの量になっちゃうんだよ」
「京楽サンタか」
「いや違うから。クリスマスにはまだ早いよ」
「でも、今年もあるんだろう、京楽サンタ」
京楽は、サンタクロースに化けていろいろと自分の隊や他の隊長副隊長にプレゼントを配ったりする。ちなみに去年は浮竹もサンタクロースをして、日番谷にお菓子のセットをプレゼントしたら、お返しだと養命酒を送られた。
「養命酒か・・・・・やるな、日番谷隊長め」と言っていた記憶がある。
「どうせだから、ポッキーゲームでもしようじゃない」
「いいぞ」
端と端をくわえて、ポリポリ食べていく。
浮竹は、途中でポキンと折った。
「ああ、何故に!?」
「チョコまみれのキスは、なんかいやだ」
「じゃあ、普通に食べよっか」
ぽりぽりぽりぽり。
その音しか消こえなくなった。
「なんか、思ったより暇だね」
「一般隊士に配るんだろう。俺も手伝うから、用意しろ」
「ああ、そうだった。日付が変わるまでに配り終えないと」
京楽と浮竹は、まだなんとかぎりぎり隊舎にいた死神たちにポッキーを配って行った。
浮竹は、途中で10番隊の執務室により、日番谷に超巨大ポッキーを渡していた。
「おい、こんな巨大なの食えるか!」
「1日少しずつ食べていけば、3か月くらいできっと食べ終えるから!」
浮竹はその辺は適当であった。
京楽家で特別に作らせた超巨大ポッキー。
日番谷の氷輪丸と同じくらいの長さがある。それが5本。
けっこうな金がかかった。でも、受け取らされた日番谷は、全然喜んでくれなかった。
まぁいいかと思いながら、席官にポッキーを渡しておく。
中には、男死神であったが、愛の告白と間違えだす阿呆まででてきた。
「はぁ・・・・3時間かかった」
もう帰ってしまった平隊士は無視して、席官の家におしかけて、ポッキーを渡した。
「七緒ちゃんで最後だった・・・・はぁ、瞬歩こんなに使ったの久しぶりで・・・・」
二人とも、ぜぇぜぇと息が荒かった。
「やっぱ年かな?」
「そうかもな」
若い頃は、これくらいの距離の瞬歩を重ねても息はあがらなかった。
「あ、浮竹にはこれを」
苺味のポッキーを渡された。
「俺はお前からもらったポッキーしかないぞ。お返しなんてできない」
「君の体でいいから・・・・・おぶ!」
張り倒された。
「ポッキーのお返しが俺の体なんて、安すぎだ」
「じゃあ、キスで」
「ん・・・・・・」
触れるだけの口づけを数回かわして、離れた。
そして、浮竹は雨乾堂で京楽の存在を忘れて、また旅行のパンフレットを見だした。
「どこか、いきたいところでもあるの?」
「んー。草津の湯にいってみたいんだが、現世だから無理だろうな」
「現世かー。それはちょっと難しいね」
隊長副隊用クラスが現世に赴く時、限定封印を受けていくのが習わしだ。
藍染の反乱の時は限定封印なしだったが、空間凍結があったからこそだった。
「どこか、似たような温泉を探しておくよ。二人で、旅行にいこう」
「ああ、それもいいな」
旅行代なんて出す金はない。京楽に払わせてしまえと思いながら、パンフレットを放りだして京楽と一緒にごろごろするのだった。
メロンとメロンソーダとメロンアイス
「ほんとに、美味しそうに食べるね」
浮竹は、メロンを食べていた。普通のメロンと、メロンソーダ、さらにはメロンアイス。メロン尽くしであった。
「あーんしろ」
「あーん」
京楽の口の中に、メロンアイスを放りこむ。
「ん、これはうまいね」
「こっちも飲んでみろ」
メロンソーダを飲ませると、炭酸がきいたのか、少ししてから意見を出す。
「この色だけみると、飲み物としては体に悪いと思うんだけど、味はいいね。そしてまぁ、飲んでも平気なくらいだから、体にそう悪くもないんだろうね」
普通のメロンは、京楽も食べていた。
今年初のマスクメロンだった。
けっこうな金額だったが、浮竹の喜ぶ顔がみたいと、数個買って冷やしておいたのだ。
最近、現世ではやっているメロンクリームソーダを食べさせてあげたかったが、生憎とメロンソーダは手に入ったが、メロンクリームソーダは入手できなかった。
代わりに、メロンアイスをつけた。
浮竹は甘いものが好きだ。スイーツ系のお菓子から、果物まで。
メロンは、中でも好きな果物の中で5本の指に入る。そのうちに、苺と桃が入っているのは知っていた。
「今度は、苺と桃も同じようなかんじで買ってきてあげる」
苺の果物に、イチゴオレのジュースに、苺アイス、いちごチョコでいこうと思った。
桃は、果物の桃に、桃の天然水の飲み物と、ピーチ味のアイスを。
「メロンはけっこう贅沢な品だからねぇ。貴族なんかはよく食べるけど、普通の死神にはちょっとした贅沢品かな」
「カニみたいなものか?」
「いや、カニよりは・・・・普通のメロンなら、カニよりは安い。でも、初物のメロンは一つ数十万・・・・・・」
「もしかして、これって初物か?」
「よくわかったね」
「お前が買ってくるものは、なんでも桁が1つか2つ違うから。このメロンソーダとメロンアイスは、そこまで高くはないんだろ?」
「あ、うん。現世から取り寄せたから、手間賃はかかっているけど、品物自体は千もしないね」
その言葉にほっとした。
全部で数百万するとか言われたら、お金を食べている気になってしまう。
「おかわりはできるか?」
「メロンソーダは無理だけど、普通のメロンとメロンアイスなら」
「じゃあ、それで」
メロンソーダを飲んで、浮竹も気に入ったみたいだし、お祭りにはメロン味のかき氷だってあるのだ。
「もっと、尸魂界に普及すればいいんだけどね」
アイスとか、ジュースとか。
まだ、一部の甘味屋した扱っていない。
そんな甘味屋でパフェを食べたことがあるが、その美味しさに感動したのを浮竹は覚えていた。
京楽も、そのいろんな味とボリュームとおいしさを、気に入った一品だ。
「現世のものがこの世界に普及するのは、今はゆっくりだからな。100年前まで、ありえなかった電化製品なるものも普及しだしたのも最近だし」
尸魂界は、鎖国していた江戸時代に何処か似ていた。
建物もそう思わせるものがほとんどだったし、流魂街などまるっきり江戸時代の世界だ。住む住民の髪型は自由だが、生活様式も江戸時代を思わせる。
「メロンの味が、流魂街の民にも知れるような時代がくるといいな」
「んー。でも、流魂街の子は、基本お腹がすかないから食事する必要ないからね」
「でも味覚はあるだろう。甘いものを食べたいだろうと思う」
「おなかの減る子は、学院に通うだろから、子供の頃は少し辛いかもしれないけど、まぁなんとかやっていけるものさ」
「そういうものか?」
アイスを食べた浮竹に、京楽はキスをして、半分とけたアイスを舌でもっていってしまった。
「お前、食べたいなら普通に・・・」
「君の口から食べたいの」
「恥ずかしいやつだな」
ここは、京楽の屋敷であった。
もう何度も訪れたので、何処に何の部屋があるのかも覚えてしまった。
朽木邸ほど広くはないが、京楽がもっている屋敷の本宅なので、朽木邸の3分の2くらいの大きさだった。十分に広い。
京楽の屋敷では、現世の冷凍庫なるものがあって、いろんな食品が冷凍してあった。
夏になると、よくアイスを食べさせてもらう。それに、冷凍みかんとか。
冷凍庫がくるまえは、天然の氷室をいくつかもっていて、そこで食品を冷凍していた。
「現世は本当に便利になったね」
「俺は、今度もしも生まれ変わるなら、現世の人間がいいな」
「脆弱で、寿命も短いのに?」
人間は脆すぎる。死神である京楽は、生まれ変わっても死神でありたいと思った。
「でも、いろんな美味しいものが食べれるじゃないか」
「それは、限定封印をうけて現世に繰り出せばいいだけの話じゃないか」
「そんなことのために現世にいったら、元柳斎先生に怒られる」
「まぁ、隠れて行けばいいんじゃない?」
「隊長格の霊圧だぞ。ばれるに決まっている」
山じいの怒った顔を思い出す。あまりに怒らせすぎた時は、尻に火をつけられたことがあった。あれは恥ずかしい上に、なかなか消えなくて熱い思いをしたものだ。
「それもそうだねぇ。しばらくは、やっぱり一般隊士や業者を使って、手に入れるとするか」
「これ全部、まさか現世のか?」
「そうだよ」
「はぁ・・・・・」
浮竹は溜息を零した。
いくら、浮竹のことが好きだからといって、一般隊士にものを現世からもってきてもらうってどうなんだろうと考えつつも、メロンを食べ続ける浮竹と京楽であった。
海燕が浮竹といかがわしいことしてると勘違いする京楽
「ここですか?」
「そうそう、そこそこ。もっと」
「これはどうです?隊長」
「ああっ・・・いい、海燕」
そんな浮竹と海燕の会話を、雨乾堂のすぐ近くで聞いてしまった京楽は、どかどかと中にのりこんでいった。
「ちょっと浮竹、海燕君、何をいかがわしい・・・・・こと、してないね」
浮竹の腰をもむ海燕の姿に、浮竹が笑い声をあげる。
「俺と海燕がいかがわしいことしてたかだって?そんなこと、あるわけないだろ」
「そうですよ。俺は隊長と違って女性じゃなきゃ無理です」
そういう海燕の頭をばきっと殴っておいて、浮竹は京楽に座るように促す。
「海燕、続きしてくれ」
「はい」
「あん、そこいい」
腰というか全身もみほぐしだ。海燕の腕はいいのか、京楽がマッサージする時よりもきもちよさそうだった。
「ああっ、海燕もっと・・・・」
「ここですね!」
「くーきく」
浮竹は凝りやすい体質なのか、定期的に京楽が海燕が肩や腰をもんだ。
「ああっ」
「やっぱけっこう凝ってますね」
「あんっ・・あ・ああ」
腰や肩を揉まれるたびに、意識しているわけではないだろうが、快感を感じる声をだす。
その声音は、寝所でのものと同一だった。
「ちょっと、浴室かりるね」
「どうしたんだ、京楽」
「君の声聞いてると、たっちゃった」
顔を真っ赤にする浮竹。
「俺、そんなに喘いでたか?」
風呂場に消えた京楽の方を見ながら、副官に問いかけると。
「めっちゃ喘いでますよ。まるで寝所の中みたいな声出してます」
「う、ちょっと京楽には悪いことしたな。でも、声は出てしまうし・・・・」
「抑えてみてはどうですか」
「がんばってみる・・・・・」
京楽が浴槽に消えて10分は経った。
「あーきくきく」
「少しは声ましになったんじゃないですか」
「そうか。あー、そこだ、そこ。凝ってるから・・・きくー」
「一気におっさんくさくなりましたね」
「実際おっさんだからいいんだ」
ようやく、すっきりした顔で京楽が浴室からでてきた。
「京楽、海燕の腕はかなりいいぞ。お前も揉んでもらったらどうだ」
「じゃあ、たのもうかな」
海燕は少しだけ嫌な顔をしたけど、大好きな上官の大好きな相手を無視することもできない。
京楽の、浮竹とは違うごつい体をもんでいく。
「うおっ・・・・・きくねぇ」
「そうだろ!俺も揉んでやる」
二人がかりで京楽を揉みだした。
「海燕君、ほんとにうまいねー。浮竹はなんかさわさわしてるかんじで、こそばゆいんだけど」
「あ、おかしいな?これでどうだ」
「あいたたたた、そこ、揉む場所じゃないから!」
「じゃあここは?腰だぞ」
浮竹が揉むと、京楽はやっときもちよさそうな顔をした。
「あーそこだよ、そこ。そこもっと揉んでほしいんだ」
ぐりぐりと肘で圧をかけると、京楽は天の昇るような心地を味わった。
「きくね・・・・眠くなってきた・・・・・・」
「あ、ずるいぞ京楽。一人でマッサージされて眠るなんて。そんな幸福な眠りはこうだ」
足の裏を思い切りこそばしてやった。
「わあ」
驚いて、京楽が起きる。
「あれ、僕眠ってた?」
「ああ。ずるいぞ京楽。マッサージしてもらって寝るなんて」
「そんなこと言っても、きもちよくて眠くなっちゃう・・・・・・ふう。もういいよ、海燕君、ありがとう」
「あ、海燕今度はもう一度俺を揉んでくれ」
「海燕君は人気だね」
促されて、仕方なく今度は自分の上官の体をもんでいく。
さっきまで揉んでいたので、体は大分ほぐれていた。
「もう、あんまり凝ってませんよ」
「いやいや・・・マッサージされながら眠りたい」
そういって、数十秒後には寝ていた。
「ふう、今日はもう終わりです」
海燕が、手が痛いと言い出した。
浮竹は寝ている。
「起こしますか?」
「いいや。こんなに幸せそうに寝ているんだもん。このまま寝かせてあげたい。僕もまた眠くなってきたし・・・・ふあ~」
太陽の光が入ってきていた。
ぽかぽかした日差しがきもちいい。
浮竹の隣で京楽も午睡をはじめた。
「この二人は・・・・全然違うのに、こういうところは似ているんだな」
人前で、無防備に眠りだすところが。
副官だからと、安心するところが。
「はぁ。俺も眠くなってきた・・・ふあ~」
雨乾堂で、副官である海燕も眠りだした。ただ畳の上で寝っ転がっている上司たちとは違って、背を壁に預けて。
万が一何かが起きた時のために。
そんな万が一など、起きることもなく平和な何気ない日の午後は過ぎていくのだった。
朝から盛っている二人をみてしまいその後、梅で花見。
「あん、京楽」
朝っぱらから、やっている二人のいる雨乾堂まで入ってきてしまって、海燕は固まった。
幸いなことに、服を着ながらやっていたので、自分の上官のあられもない姿を見ることにはなったが、肌色は少なかった。
「きょ、京楽!海燕がきたから!」
「だから、なんだってんだい。続けるよ」
「んあっ・・・あ、あ、京楽!」
ピキピキピキ。
自分の存在をないこととして扱われて、海燕は怒鳴った。
「朝餉、なしですね!」
「あ、海燕まて・・・・ああっ!ううん」
浮竹の声は、確かに聴いていると腰にくるものがある。
あんな上官であるが、大切なのは確かだ。
手早く行為を終わらせて、浮竹が海燕のいる隊舎までやってくる。
「すまない、海燕!京楽がなかなか終わらせてくれなくって」
「それより、朝から盛るのはやめてくれませんかね。せめて夜になるまで待ってください」
「それは京楽が!」
「朝餉、運びますから。湯あみ、してきてくださいね。京楽隊長の匂いがする」
かっと朱くなって、浮竹は朝から京楽と湯あみをした。
新しい死覇装と隊長羽織をまとって、やり直しで今日の一日のはじまりだ。
「あ、京楽の焼いた鮭の方が大きい」
「はいはい、取り替えてあげるから」
この二人を見ていると、もはや夫婦にしか見えないのだが。
「あーんして」
「あーん」
浮竹の口の中に、デザートの栗のモンブランケーキをいれる京楽。
お前ら、熟年カップルか!
そう言いたくなった。
だって、連れ添うようになって数百年。もう、夫婦でも熟年カップルに入るだろう。
そもそも、京楽も起きたのなら、13番隊で朝餉をとらずに、8番隊に戻ればいいのに。
「京楽隊長は、泊まった時ってなんて朝餉13番隊でとっていくんですが」
「だって、ここのご飯できたてで美味しいんだもん」
「そりゃ、確かに金銭面で京楽隊長が出してくださってるお陰で、他の隊より豪華な食事はとれますが、それは8番隊もでしょう?」
「だめだめ。8番隊の食事は冷めきっていてね。美味しいことは美味しいけど、13番隊の食事には及ばない。それに、食事内容もはっきりいって13番隊のほうが豪華だ」
病弱な浮竹のために精を付けてもらおうと、市場で新鮮なものを買ってきては調理されて出されている。
浮竹のご飯はとくにデザートがこっている。今日は、栗のモンブランケーキだった。
京楽の分まで食べて、満足そうでほっこりした浮竹に、海燕も自然と顔を緩めていた。
「ああ、僕も13番隊の子になりたいなぁ」
副官の七緒が聞いたら、切れるだろう。
「京楽は、8番隊の隊長だから、いいんだ。同じ隊長でないと、距離感がでてしまうだろうが」
浮竹は、席官の京楽になんて興味なさそうだった。
「まぁ、8番隊の隊長長年してるけど、浮竹とのこの距離感がいいよね。気が向いたら自然と雨乾堂に遊びにこれる今の距離感、好きだよ」
「副隊長の時はどうしてたんですか?」
海燕が問うと、浮竹も京楽も苦笑した。
「あの頃は忙しかったからねぇ。逢瀬もたまにだよ」
「もう、副官はしたくないな」
「ああ、まぁなんとなくわかります」
朝から、上官の世話を焼くこの一日が、大変といえば大変なのだ。
隊長なら、仕事をためこんでしまうが、数日は自由がきく。その代わり、ためこんだ仕事に忙殺される日々がくるが。
京楽は、明らかに仕事をためこみ、忙殺される日々を送るタイプだろう。自分の上官である浮竹は、臥せっている時以外は、仕事は常にこなすので、その点では副官を泣かせない。
京楽の副官である伊勢七緒には、少しばかり憐れみを覚えた。
「とにかく、今度から朝から盛るのはやめてください。そして、俺を無視して続きやるのも勘弁してください」
「なるべく、そうならないようには努力するよ」
「ああ、俺もだ」
とはいえ、浮竹も京楽も一度火がついてしまうと、収まらない。
朝からはなしにしようと告げて、それで終わった。
「今日は何をしよう」
「そうだね。この季節は梅が咲いているね。梅をみながら花見でもして、ぱーっと飲もう」
「仕事は?」
海燕が問う。
「今日の分はあるのか?」
「いえ、今日の分は昨日隊長が片したやつです。それより、京楽隊長の仕事です」
「ああ、僕はいいの。あと半月分くらいため込んで、1週間かけて終わらせるから」
「その方法なんとかならないか?1週間もお前に会えないのは辛い」
「そんな時が、浮竹が8番隊にきてくれるじゃない」
「まぁ、それはそうなんだが」
「昼飯の準備してきますから。適当に酒を選んで、出発の準備しててください」
「ほんとによくできた副官だね、海燕君は」
「やらんぞ」
「欲しいけど、七緒ちゃんがいるからね」
七緒の怒った般若のような顔は怖いが、あれでも性根は優しい。
ちゃんと食事を届けてくれるし、仕事を溜めこんでいる時とかは、仮眠をとってくださいと休憩時間をくれる。
「どこの梅を見に行こうか?」
「白哉に頼んで、朽木邸の梅を見させてもらおう」
「ああ、朽木邸の梅はすごいからね。亡くなった緋真ちゃんが梅が好きで、植えさせていたほどだから」
今頃、花盛りだろうと、思案する。
「でも、大丈夫かい?朽木隊長、許してくれるかな?」
「ああ、平気だぞ。去年、新人会を朽木家の桜の花を見ながらさせてもらった」
「へぇ。あの屋敷、桜もすごいのかい」
「ああ。桜の雨のようだ。旬の花をいつも何処かに植えていて、冬は椿が綺麗だったな」
「朽木隊長は優雅だからね」
「白哉は、梅も好きだが桜も好きなんだ。幼い頃は、よく肩車して桜の花をとってやったものだ」
「朽木隊長とは、そんなに古くからの知り合いなの」
「かれこれ200年にはなるかな?」
なんだかんだと話ている間に、海燕が重箱のお弁当をもってきた。
急いで酒を集めて、出発する。
「白哉、梅をみたいんだ。庭を貸してくれるか?」
「兄の頼みなら仕方あるまい・・・・・」
本当に、すんなりと庭をかしてくれるものなのだなと、京楽も海燕も思った。
朽木邸の梅は、今が一番の見どころだった。
紅梅も美しいが、白梅も美しかった。
「京楽は、紅梅と白梅、どっちが好きだ?」
「紅梅かな。君の髪に似合いそうだ」
すまないとは思いつつ、一輪だけつみとって、浮竹の髪に飾った。
「俺は白梅かな。隊長の髪みたいで綺麗だ」
「海燕は白梅か。俺は両方好きだな」
甘い果実酒の中にまざっていた、梅酒を取り出す。
「梅酒、けっこううまいんだよな」
「梅は、咲くだけのものもあるけど、実をとれるものもあるからね」
古来より、梅は存在した。
もともとは中国あたりからもたらされてきたものだ。
山本元柳斎重國あたりなら、梅がもたらされた歴史を詳しく知っているだろう。何せ、遣唐使などが派遣されていた時も、死神をしていたのだ。
「まぁ、一杯」
京楽が、梅酒を浮竹と海燕の杯に注ぐ。浮竹が、京楽の杯に注いだ。
その日は、昼過ぎまで梅を見ながら飲んだのだった。
今日のパンツは緑
もぞもぞと、音が聞こえる。
息が苦して、顔にかぶらされていたものをとると、京楽のパンツだった。
「京楽、お前はなに、眠っている人さまに自分のパンツ顔にかぶせてるんだ!」
京楽は、スタンばっていた。
浮竹が投げてよこしたパンツをキャッチして、はく。
「(*´Д`)ハァハァ浮竹の温もりと香があるパンツ。最高」
「お・ま・え・は!」
パンツ一丁だった。
朝から、全裸で浮竹が起きてぱんつを投げてよこすのを待っていたのだ。
かなり引いた。
「お前のパンツコレクションに火をつけてやる」
ライターを片手に、京楽コレクションとかかれている袋に火をつけようとして、部屋の中ではまずいかと思い、外にでようとする。
ずるずると、パンツ一枚の京楽ついてきた。
「ノンノン、僕から宝もののパンツを奪わないで。また盗むよ」
その言葉に、浮竹がパンツコレクションから手をどける。
最近、やっと京楽のパンツ盗みがなくなったのだ。再発してもらっては困る。
「く、それは脅しか!」
「純粋なる愛だよ!」
「純粋な愛があるやつは、想い人のパンツなんて盗まない」
「(゚Д゚;)!!!」
京楽は、ショックあまりムンクの叫びになっていた。
そのまま、ばたんとドアを閉めた。
「ああ、浮竹、部屋にいれてよ!」
今日は、休日だ。これで、安心して一人でもう一度眠れると眠ったが、叫び声でとび起きた。
「きゃあああああ!」
隣の部屋からだった。
「どうした!」
部屋に入ると、ベランダに京楽がいた。ベランダごしに、自室に戻ろうとしているのだ。しかもぱんつ一丁で。
「すまない、こいつは俺が回収していく」
そんな京楽をの首をこきっと回して気絶させて、ずるずると足を引きずって自室まで戻ってきた。
「本当に、この変態は・・・・・」
「痛い!全身が痛い!」
「起きたのか。とりあえず、服を着ろ」
「わかったよ」
着換えを待っていると、終えたと京楽がこっちにきた。
浮竹のパンツを頭に被り、浮竹のパンツをはき、手と足に浮竹のパンツを通した京楽がいた。
「・・・・・破道の4、白雷」
「あががががが」
ぷしゅーっと焦げた京楽から、パンツを回収してごみ箱に捨てていく。
「全く、これだから変態は・・・・・」
室内が焦げたが、まぁ京楽が勝手に手配して直してくれるだろう。
「たまには、暇つぶしに使うか・・・・」
京楽を簀巻きにして、目の前に浮竹のパンツを置いた。
「おい京楽目を覚ませ」
「ん・・・僕は・・・・はっ、また簀巻きに!くんくん・・・浮竹のパンツの匂いがする!」
浮竹は、自分のパンツに紐をつけていた。
「ほれほれ」
京楽の目の前で見せびらかすと、京楽は口でぱんつをとろうとする。
そんな京楽をからかいまくった。
「ほーれほれほれ、もう少しだがんばれ」
「あと5センチ届かない・・・ムキーーーー」
躍起になる京楽をからかいまくって、浮竹のほうが力尽きた。
「わーい、浮竹のパンツだぁ」
苦労して手に入れたパンツにすりすりして、股間の部分をちゅっちゅとキスをする。
「はぁ・・・・京楽のせいで疲れた」
その日一日のカロリーを全て使い果たした気がした。
夕食の時間にになり、仕方ないので京楽の簀巻きをとく。京楽は、院生の服をきて、でも浮竹のぱんつを懐にいれて食堂に移動した。
「Cランチ定食で」
「僕はAランチで」
変態京楽であるが、いつも一緒に行動しているせいで、もう変態行為にも慣れてきているのか、浮竹は京楽が自分のパンツの匂いをかいでから食事をする京楽を見ても、何も思わなかった。
ざわりと、変態だ!と連呼する声が聞こえる。
「え、誰が?」
京楽がきょろきょろ周囲を見回す。視線は、京楽に集まっていた。
「え、僕?」
片手には浮竹のパンツ。もう片手にはフォーク。
「自分でなんとかしろ。俺はもう食べ終わった。じゃあな」
「ああっ浮竹!今日のパンツの色は、緑だね!?」
浮竹は、去ろうとしていたが、京楽の首を締めあげた。
「なんで知っている」
「僕の匂いをかぎわけるセンサーが、今日の浮竹のパンツは緑色のやつっていってるんだ」
「お前は犬か!なんだその嗅覚!」
頭をはたかれて、でも京楽は嬉しそうだった。
「浮竹もかわいそうに。変態が当たり前すぎて、普通につっこんでる」
「一度、警邏隊に相談してみればいいのに・・・・・」
そうするだけ無駄だということを、彼らは知らない。
一度、元柳斎先生に、変態が酷くて困っていると相談を持ち掛けたら、愛し合う二人の問題だといわれて、それで終わってしまった。
他の教師に相談しても同じようなものだった。
自分の身は、自分で守るしかないのだ。
「はぁ・・・・ほら、食い終わったならいくぞ」
ナプキンのかわりに、パンツで口を拭う。
そうやって汚れた、日常生活用のパンツは、洗って綺麗にしてまた使うのだ。
京楽は、ナニをする用のパンツ、観賞保存用、実用と、3つにパンツを使い分けていた。
実用に中には、頭に被るパンツも含まれていて、一番パンツの枚数が多かった。
「変態が・・・・」
舌内して、浮竹は横になる。
(*´Д`)ハァハァと荒い息が耳元でして、浮竹はスタンガンをとりだしてぶつけた。
「あがががががが!」
ばちっと、こげた京楽が床に倒れる。
「護身用に買ったんだが・・・鬼道みたいに他に被害がでなくて使えるな、これ・・・」
ネットの防犯グッズで取り寄せたのだ。
他にも防犯ブザーとかも買った。
少しは、京楽の変態がましになりますようにと願いながら、眠りについた。
お盆の日には幽霊浮竹が帰ってくる
先祖の霊が、戻ってくるという。
親友の霊もいいから、戻ってきてくれないかと、牛と馬にみせたナスとキュウリに割り箸で足をつくった置物を置いた。
「戻ってくるとはいいなと思ったけど、ほんとに戻ってこられたら、いろいろと問題があったね・・・・」
後ろにとり憑いた浮竹の霊を、どうしようと思う。
「浮竹?」
「やあ、元気か?」
「僕は元気だけど・・・君は霊子になってしまったんじゃ?」
「ああそうだぞ。お盆だから、特別に形をなして現れたんだ」
「でも、君ともう一度話せて嬉しいよ」
「あの世っていうか、隊長が落ちる場所からお前のことをみていた。総隊長として、がんばってるな」
「ああ、うん。もっと褒めて」
瞳から、大粒の涙が滴った。
「お前を泣かせるために、戻ってきたんじゃないんだぞ」
「でもね・・・・死んだ君にまた、たとえ幽霊でも会えるなんて・・・・・」
浮竹は、透けた手でよしよしと京楽の頭を撫でた。京楽の背後に憑いていたが、移動したいと強く念じると、足のない透けた体が移動した。
「俺は、今でもこんなにもお前を愛してる。お前も、俺を愛してくれている。俺も、死んだのにもう一度お前と話せて嬉しい」
落ち着きを取り戻した京楽の隣に、幽霊浮竹はずっといた。
「お盆の間だけだから。いろいろ、ゆっくり話そう」
「そうだね」
お盆は、死神の仕事も休業になる。
「何はともあれ、朝餉でもいただくか」
「あ、食べる前に俺に供えてくれ」
「うん、そうだね」
「ありがとう」
「その、幽霊とかって味とかわかるの?」
「分からないけど、供えられるとなんとなく満腹感を抱く。悪霊にならないためにも、定期的に供養とか、お供えとか、いると思う」
「そうなんだ。いつも薔薇の花を供えて、お酒を墓石に注いでいたけど、どうだった?」
「ああ、よかったぞ。幽霊なのに酔ってた」
「幽霊って、酔うんだ・・・・」
「何せ、隊長の落ちる場所は色のない世界。じご・・・・と、なんでもない」
「浮竹?」
「甘味屋へ行きたい」
行ってもいいが、幽霊の浮竹は目立つだろう。そう思ったが。
「ああ、俺はお前以外に見えないから、大丈夫」
「そうなの」
京楽は、いつもよりテンションが高めで、七緒に熱でも出したんじゃんいかと言われたほどだった。
壬生の甘味屋へいく。
白玉餡蜜一人前と、おはぎを3個頼んだ。
「僕だと、これくらいしか食べれないけど」
まずが浮竹にお供えした。
「すまん、京楽!」
浮竹は、すぽっと京楽の体の中に入った。
「ええ!?」
京楽の意識があるのに、体が勝手に動く。
もぐもぐと、美味しそうに食べる。浮竹が。体を共有することで、味もわかった。
浮竹は、満足して京楽の体から出て行った。
「そうか。他人にはとり憑けるんだ・・・・・」
「ちょ、僕以外にはとり憑かないでよ」
「ああ、それは大丈夫。お前以外にとり憑いても、お前が困るだけだろう?」
「うん」
ずっと、虚空と話しをしていたので周りの客から奇異の目で見られていて、それに気づいた京楽が、勘定を払って外に出た。
「僕だけに見えるってほんとなんだね」
「嘘をついてどうする」
「何はともあれ、お盆の間は話ができる、そう思っていいんだね?」
「ああ」
何気ない幸福なお盆の日は、あっという間に過ぎて行った。
「もう、盆も終わりだな。そろそろ戻らないと」
「戻らなかったら、どうなるの?」
「虚に落ちる。駆逐されたあとは霊子の渦に還って、新しい命となる」
「そうか。このまま傍にいてほしいけど、虚になられるわけにもいかないしね」
「心配するな。また、来年の盆も帰ってくるから」
唇を重ねると、少しだけ触れた感覚があった。
「お前の霊圧をずっと浴び続けていたせいか、少しだけ実体化できるようだ」
「じゃあ、実体化してほしいな」
「いいぞ」
目の前に、生前となんらからわぬ浮竹がいた。
京楽は、浮竹に抱き着いた。
「愛してるよ、十四郎。君がいないこの世界は寂しい」
「俺も愛してる、春水。でも、俺がいなくてもやっていけたじゃないか。また来年もくるから、それまで頑張れるか?」
「うん・・・・・僕、頑張るよ」
触れるだけの唇を重ねた。
すーっと、浮竹の体が溶けていく。
「待って!」
「ごめん、時間切れだ。戻る。愛してるぞ、京楽」
浮竹は、笑顔で消え行った。
「ばいばい、浮竹・・・・また、来年」
一度失った恋人を、また失ったかのようなショックだったが、また来年も会いに来てくれるという。
それまで、またがんばろう。そう思う京楽であった。
焦り
天井の高い洞窟の中で、一人黙々と卍解の修行に励む日番谷を見て、浮竹は思う。
若いな、と。
藍染に、結果的に護廷13隊は勝てなかった。
勝ったのは、一護。その一護ですら、不死の体になった藍染を殺すことはできず、浦原がしかけた封印を基本に、藍染は五感の全てを封じられて、2万年の投獄がきまった。
無闇という、光も音さえもない場所に今は封印されている。
雛森を守り切れなかったことが、よほど堪えたのだろう。日番谷はいつも真っすぐで、ひたむきなまでに純粋に強さを求めている。
それは、浮竹がなくしてしまった心でもあった。
強さはもっている。それをなくなさいように、落とさないように鍛錬はする。でも、もう高みに登ろうとしても、剣の腕はそれ以上あがらず、鬼道の腕も変わらずだった。
いつの頃からだろうか。
「強く」あろうとすることを諦めたのは。精神的には諦めてはいないと思う。鍛錬し、より高みに登ろうとしても、年とそして病弱さと肺の病が、それを許してくれなかった。
強くなろうとして、自分を追い込めば追い込むだけ、病に蝕まれる。
若かりし頃は、それでも鍛錬しまくり、病を克服したかに見えた。けれど、不治の病はじわじわと浮竹を侵食していく。
「俺ももう一度、ああなりたいな・・・・・・」
帰り道を歩いていると、ふわりを抱き寄せられた。
柑橘系の香水の匂いで、ああ京楽かと、振り向く。
思った通り、京楽がいた。
「何、一人で黄昏ちゃって」
「ああ、日番谷隊長の自己鍛錬を見てたんだ。卍解してた」
「日番谷隊長は、藍染にこっぴどくやられたからね。桃ちゃんも、日番谷隊長が刺しちゃったし」
未だに、意識の戻らぬ重篤な雛森を思う。
「日番谷隊長は、強くなるね。あの子はまだ子供だ。大人になったら、どれだけの腕になるか、今考えるだけでぞっとするよ」
「お前も強いしな」
「どうしたの。褒めても、何もでないよ」
クスリと、笑みを零す京楽。
「いや。俺も強くありたいものだと思って」
「浮竹は十分強いよ」
「でも、藍染たちと十刀(エスパーダ)の戦いでは、お前はスタークをやっつけたのに、俺はただ子供にやられただけだった」
「ワンダーワイス。あの子は特別仕様だったんだよ。対総隊長用だ。気に病むことはないよ」
「それでも・・・・」
それでも、もう少し力になりたかった。
「なぁ、京楽」
「なんだい」
「久しぶりに、切り合いをしないかい」
「おいおい、本気かい?」
「さすがに斬魄刀を使うわけにはいかないから、木刀にはなるが」
「まぁ、構わないけど・・・・・」
それから1時間ほどして、浮竹と京楽は、木刀を手に草原に佇んでいた。
「破道の4、白雷」
「甘い!」
雷を避けて、踏み込んできた京楽に、蹴りを入れる。
「ちぃっ!」
浮竹が子供の頃に自分の身を守るために覚えさせた蹴術は、すでに自己防衛の域を出て、敵を倒すために在るようになっていた。
キンキンカン。
木刀で何度も切り結びあう。
これが斬魄刀だったら、お互い体中にいたるところから出血していただろう。
「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し・痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ!破道の90・黒棺!」
浮竹は、切り結びあいながら詠唱を完了させた。
巨大な重力を帯びた、黒い箱が天から降ってくる。
それをまともに受けて、京楽が地面に膝を立てる。
「ぐあああああ・・・・ぬおおおお!」
腕力と脚力で立ち上がり、90番台の破道をかき消した。
でも、その時には浮竹の竹刀が、京楽の首につきつけられていた。
「降参。僕の負けだよ」
「本気じゃなかったろう?」
「そんなことないよ。本気で戦ってた」
「でも、殺そうとまでは戦っていなかった。俺は殺そうという勢いで戦った」
「浮竹・・・・何をそんなに焦っているんだい?」
「俺は別に・・・・・」
すとんと、その言葉が胸に落ちた。
何もできなかったことを後悔して、焦っているのだ。
「はははは・・・・・京楽のお陰で、すっきりした」
「なにがなにやら・・・」
浮竹は、京楽の腰を抱いて瞬歩で雨乾堂まできた。
そして中に入ると、京楽を押し倒した。
「ちょ、ちょっと浮竹・・・・・」
浮竹は、ぺろりと自分の唇を舐めた。
「情欲してるの・・・・?」
「そうだと言ったら?」
「ああ、わけがわからないけど、君が情欲するのは普段ないから」
キスを浅く深くしながら、互いに着ている隊長羽織と死覇装を脱がせていく。
「あっ」
首筋にぴりっとキスマークが残された。
「見える場所に痕をつけるな」
「いいじゃない。どうせ、みんな知ってるんだし」
「それでもだ・・・・んんっ」
ぺろりと、胸から臍にかけて舐められる。胸の先端をはじかれて、ぴりっとした電流が流れた。
「あ!」
「相変わらず感度はいいね」
「うるさっ・・・・ああ!」
潤滑油に濡れた指を体内に侵入させられて、浮竹の息もあがっていく。
「あ、あ、あ・・・・・・ひうっ」
こりこりと、前立腺のある場所をひっかかれた。
とろとろと先走りを出していた浮竹の花茎に手をそえてしごくと、けっこうな量の白濁した液がでた。
「最近してなかったから・・・溜まってたんだね」
「はあっ・・・それは、お前もだろう」
指をひきぬかれて、熱い雄があてがわれ、一気に貫かれた。
「んああああ!」
ぎちりと締め付ける中を堪能するのは久しぶりで、藍染との戦いが終わってから、期間にすると1か月以上交わっていなかった。
前立腺をすりあげながら、奥をつきあげていく。
「はうっ」
中を抉り、角度を変えて貪ると、中が締め付けられた。
「んっ・・・・・・僕もいくよ」
「あ、一緒に・・・・好きだ、春水」
「僕も大好きだよ、十四郎」
愛を囁いて、浮竹の腹の奥に、子種を出した。
かなりの量をそそがれて、ひきぬくととろりと白い液体がでてきた。
「お前も、かなり我慢してたんだな」
「本当は、もっと求めあいたいけど、生憎仕事が残ってるしね」
「ああ、俺もだ」
二人で湯あみをして、湯の中で互いにぬきあって、その日は終わった。
「そうか・・・俺は焦っていたのか。皆に後れをとるまいと」
まだまだ、現役の隊長である。
その力は確かなものだ。
「京楽のお陰でスッキリした」
京楽が、仕事を終えてもってきたおはぎを口にしながら、そう一人ごちた。
京楽は、昼に抱いた浮竹の体調が悪くなっていないかを確認した後、おはぎをおいて、お茶だけ飲んで帰ってしまった。
「今度、礼を言いに行くか」
わかめ大使でももって。
窓から空をみあげると、三日月が笑っていた。
残った傷跡
100まである鬼道の全てを一字一句間違えないように暗記した後、100ある縛道を同じように一字一句間違えないように記憶し、数日かけて暗記を繰り返した後で、テストを行われる。
浮竹や京楽クラスになると、詠唱を破棄してもそこそこの威力を出すが、鬼道の正確な暗唱を蔑ろにしてはいけない。
90番台になれば、果てしなく長い詠唱が待っている。それを200個、短期間で覚ようとするには無理があるが、その日を境に少しずつ覚えていくのだ。
浮竹は、特進クラスで出されたそのテストを100点満点で通過した。
テストの点が悪かった場合、補習もあるのだ。
京楽はというと、85点。
鬼道は使えるが得意というわけでもなく、詠唱のほとんどを破棄して覚えていたための点数だった。
次は、実技テスト。
これは浮竹でなく京楽も高い点数を出した。
詠唱破棄で、的を粉々にする。
教師たちがこそこそと話しをする。
「末恐ろしい生徒たちだ」
後に、学院からはじめての隊長格となる、京楽と浮竹の若かりし日があった。
「なーんかさー。最近つまんないね」
「何がだ?」
「なんか、周りと差ができちゃってさ。昔はわいわいしてたけど、今は指をさされて「ああなりたい」とか言われる始末じゃないか」
「友人は、けれどいるだろう?」
「いるけど、すでに護廷13隊の席官クラス入りって決まってるから、どこかよそよそしいんだよね」
今は、5回生だった。
ごろりと、校庭の芝生の上で寝転がっていた。
今は授業は自習で、まだ遅れている生徒たちは、死神に、護廷13隊に入りたいと死にもの狂いで鍛錬している。
それを、こうやってのどかに青空なんて見上げている二人を妬む者もいるのも事実だ。
「下級貴族のくせに・・・・・」
上流貴族の、ある男が、浮竹と喧嘩をした。
下級貴族のくせに、護廷13隊入りの席官クラス入りなんて間違っていると言い出したのだ。同じ上流貴族の京楽が止めに入ったが、京楽にも刃の先を向けた。
「背後から根回しして、きっと金の力だ!」
そう言い出す男に、京楽は。
「そういう君こそ、金の力でどうこうしようとしてできなかったんじゃないの」
そう図星を言い当てて、怒らせまくった。怒りの果てに、浮竹に鬼道をあてて、浮竹は1週間の怪我を負った。
無論、将来の有望な優秀な生徒に怪我を負わせたことで、1か月の停学を食らっていた。
「ねぇ、君、もう一回見せて?」
草っぱらに寝転びながら、京楽が半身を起こして、隣で同じように寝転がっていた浮竹を見る。
「え?昨日も見せただろう?」
傷跡のことだ。
うなじの普段は見えないあたりに、傷跡が残った。火傷の、ひきつれた後の皮膚に、やっぱりと、京楽は思う。
「4番隊の子に知り合いがいるんだ。傷跡も消してくれるらしいし、行かない?」
「俺は別に・・・・・うなじだし、別段見えるわけでもないし」
「髪の毛くくったら、見えちゃうでしょ!いいから一緒にくるの!」
その日は、自習になった授業以外は、遅れている生徒の指導の授業が入っているため、優等生である浮竹と京楽は自由だった。
さわさわと、緑が風で揺れた。
長くなった白髪が揺れて、白いはずのうなじに残ったひきつれた傷跡が目立った。
「行こう」
半ば無理やり、浮竹を伴って4番隊の隊舎までやってきた。
「4席の子呼んでくれるかな。京楽春水って名前だすと分かるだろうから」
「え、あ、はい・・・・・・」
出てきたのは隊長だった。
「隊長の卯ノ花烈です。今4席は生憎と、故郷に戻っているので、代わりに私が要件を聞きましょう」
まだうら若い女性なのに、もう隊長とは。
緊張しながらも、浮竹の傷跡を治してくれと頼むと、卯ノ花は手を浮竹のうなじにあてた。
ぽうっと、白い光が出て、浮竹のうなじの傷跡は綺麗に消えてしまった。
「学院の子たちですね?」
「あ、はい」
「はい」
「いつか時が廻れば、同じ隊長として護廷13隊に在るかもしれませんね」
ふふっと微笑んで、卯ノ花は去って行った。
「なんか・・・・不思議な人だったね」
「俺は母性を感じた」
「お母さんって呼びたくなったよ」
「それは失礼だろう。年はそんなに大きく変わっていないだろうし」
学院に戻ると、綺麗に消えた浮竹の傷に京楽は満足して、寮の自室にもどった。お互い4回生までは同じ部屋だったのだが、5回生から一人部屋に移動していた。
「今夜、泊まってもいいかい?」
「ああ、いいぞ」
酒盛りをした。
浮竹が酔い始めたことで、酒盛りは終わる。
そっと、ベッドに寝かせられた。
大切なものを扱うように、壊れものを扱うように、触れてくる。
「京楽、俺は硝子細工じゃない。もっと乱暴にしても構わない」
「浮竹・・・・」
口づけが、浅く深くまじりあう。互いの服を脱がしあった。院生の服が、ぱさりとベッドの下に落ちる。
「ん・・・・・・」
浮竹は、キスが好きだった。
「もっと・・・」
急かされるままに、口づけを繰り返す。
背骨のラインをたどる手が、鎖骨に移動して、そこにキスマークを残された。
「あっ」
胸の先端を口に含まれて、舌で転がされ、反対側は指でつままれた。
「んっ」
浮竹の花茎に手をかける。
「ああ!」
口腔にいれられて、指とは比較にならない快感が襲ってくる。
「や、きょうら・・・く・・・ああっ」
刺激に弱い浮竹は、あっという間に射精してしまった。
潤滑油で濡れた指がはいってくる。こりこりと前立腺を刺激しては狭い蕾を解していった。
「んう」
暑い灼熱があてがわれる。
ズズっと、入ってくる音が分かった。京楽は、一気に貫くか、ゆっくり挿入してくるかのどっちかしかない。今回はゆっくりのほうだった。
先端が入ると、後はスムーズに入った。
「あ、あ、あ・・・・・・・・・」
奥まで入れられて、揺さぶられた。
「んっ」
前立腺をこすりあげて、奥まで入ってくる。
「京楽・・・キスを・・・・」
行為の最中も何度もキスを繰り返した。
「ああ!」
狭い入口に指までいれられた。
「ひう、むりっ!」
ゆっくりと、体内に埋め込まれる。
「ああああ」
ぎちぎちと、限界にまで広げられら蕾から指をひきぬくと、少し余裕ができた。
そこを狙って、何度も穿たれた。
「んあああ!!」
「浮竹・・・一緒に、いこう」
ぐちゅぐちゅと内部を侵す雄は、硬くて力強くて。
「んーー!」
キスをしながら、浮竹は自分の腹にむかって精を吐き出していた。
「んんっ」
京楽の果てた熱が、内部に広がる。
「ん・・・・・・はあっ」
「愛してるよ、十四郎」
「俺もだ・・・・春水」
舌を絡ませあいながら、また求めあった。
若いので、京楽の欲望もすぐに硬くなった。
二度目の精を放つころには、浮竹は体液にまみれてドロドロになっていた。
いきすぎたせいで、目がトロンとなっている。ドライのオーガズムでも何度かいっている。
「湯あみにいこう」
「んっ」
だきあげられて、バスタオルを片手に、備えつけの浴槽に湯をはって、浮竹を洗い清めた。
「キスを・・・・・・」
「浮竹は、キスが好きだね・・・・・・」
何度もせがむたびにキスをした。
浮竹の放ったものをかきだして、体も髪も洗って、風呂からあがった。
「ちゃんと、かわかさなきゃね」
肩より少し長い浮竹の髪の水分をバスタオルですいとる。
「やっぱり、傷跡なくなって正解だね。あんな傷跡、君には似合わない。うなじは白くて綺麗なままの今がやっぱりいい」
ふと、4番隊の隊長を思い出す。
卯ノ花烈。
その後、学院を卒業し、8番隊と13番隊の3席になった二人は、卯ノ花烈とまた会うことになる。さらにその50年後には、京楽も浮竹も、8番隊と13番隊の隊長にまで登りつめた。
卯ノ花烈は、ずっと死神だった。
若く見えたが、もう浮竹や京楽が隊長になる数百年も前から、隊長を務めているという。
「あの頃の坊やたちが、今はこうして肩を並べて一緒に隊長をしているは、何かの縁(えにし)でしょうか」
「卯ノ花隊長、坊やはやめてくれないかい。未だに山じいにまで子供扱いされるし」
「卯ノ花隊長は、花があっていいな」
「ふふふ、お世辞として受け取っておきますね」
浮竹は病弱でよく肺の発作を起こすため、卯ノ花とは個人的に交流があった。
京楽も、そんな浮竹を抱き抱えてよくやってくるでの、卯ノ花のことを信頼していた。
死剣・卯ノ花烈。その正体が明かされるのは、遥かなる未来。