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始祖なる者、ヴァンパイアマスター38

浮竹は、魔国アルカンシェルの離島ハンニバルの、古城にいた。

伴侶にすると言われたが、乱暴に扱われることはなく、古城にはちょっと風変わりな、極東の島国の昔の着物であった、十二単を着させられていた。

魔王アレスも、浮竹のように血でメイドを作り出し、浮竹の世話をそのメイドたちに任せていた。

首飾りに触れる。

豪華な翡翠のあしらわれた首飾りであったが、魔封じの首飾りでもあった。

普通の魔法どころか、血の魔法さえ操れず、浮竹は魔王の元で軟禁されて、ただ時が過ぎていく。

「京楽・・・・・」

今頃、あの愛しい血族は、躍起になって浮竹を救いにくる手はずを整えているだろう。

魔国アルカンシェルと、自分の古城のあるガイア王国は遠い。

「京楽・・・早く、俺を助けにきてくれ。俺は、籠の中の小鳥だ・・・・」

魔法を封じられて、魔王アレスはよく浮竹に歌を歌えと命じた。

適当に、知っていた子守唄を歌うと、魔王アレスは眠っていた。

今だと、外に出ようにも、扉はびくともしなくて、窓にも結界が張ってあって、古城の外には出られなかった。

「汝は、我が花嫁。次の月が満ちる時、汝には我の子を授ける」

次の満月まで、あと半月。

浮竹は、捕らわれの姫のように、ただ京楽が助けにきてくれることを祈るのだった。

--------------------------------------------------------

「というわけなんだ。平子クン、力を貸してくれないかい」

「お安いごようやで。友人のためや、人肌脱ごうやないか」

血の帝国で、古代の遺跡を守護していた星の精霊ドラゴン、平子真子は竜化して、白い羽毛が生えた10メートルほどのドラゴンになると、京楽を乗せて魔国アルカンシェルまで向かった。

魔国アルカンシェルに行くには、いくつもの山脈を越えねばいけず、天候の悪い時は飛ぶことができずに、休憩をとりつつ、一週間かけて京楽と平子は、魔国アルカンシェルに到着した。

そこで地図を買い、離島のハンニバルまで更に飛んだ。

「ここが、魔王の居城・・・・・・」

「ほんとに、俺は手助けせんでええんか?」

「これは僕と浮竹に降りかかった試練だ。ここで待っていてくれないかい」

「分かったで。ここで待機しとくわ」

平子は、ドラゴンの姿のまま、離島ハンニバルにある魔王アレスの古城の中庭に待機するのであった。

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「浮竹、助けにきたよ!」

扉ごと魔法で破壊して中に入ると、魔王アレスが奥の間の玉座にいた。

「よくきたな、勇者京楽」

「はぁ?誰が勇者だって?」

「魔王が連れ去った姫を助けるのは、勇者の役割であろう」

「そんなことはどうでもいい。浮竹を返してもらう!」

「あれは、もう我が子を孕んだ。汝の元に帰しても、我が子を産むだけだぞ」

京楽の顔が一気に青くなった。

「たとえそうだとしても、浮竹は返してもらう!子は、僕の子として育てる!」

その言葉に、魔王アレスはさも愉快そうに笑った。

「此度の勇者は、魔王討伐よりも姫のことに、夢中のようだ」

「当たり前でしょ!僕は浮竹の血族!僕は浮竹のもので、浮竹も僕のものだ!」

ゆらりと、魔王アレスが魔力を揺らめかせた。

「決着をつけようぞ。我は2千年前に人間の勇者に封じられし魔王アレスである」

ぐらりと空間が歪んだ。

「我の空間だ。古城を傷つけたくないのでな。さぁ、どこからでもかかってこい」

京楽は、まずは小手調べだと、炎の魔法を放つ。

再覚醒してから、魔法が自分で使えるようになっていた。

「フレイムロンド!」

「アイスエッジ」

京楽が唱えた火の魔法を、魔王アレスが氷で相殺した。

「なるほど。魔王って名乗るのも、嘘じゃないみたいだね」

渦巻くその魔力の本流に、京楽は好敵手を見つけたかのように、笑んだ。

「我は、あくまで魔王ぞ。そこらの魔族と一緒にしないでもらおうか」

「フレアサークル!」

「アイシクルランス!」

二人の魔力は、ほぼ互角であった。

魔王は余裕をもって、京楽の相手をする。そこに隙を見つけた。

「うおおおおおお!!」

猛毒の血の刃をいくつも作りあげて、魔王アレスに放つ。

魔王アレスはいくつもの血の刃に斬り裂かれて、血を滲ませていた。

「我を傷つけるとは、なかなかやるな。だが、我はこの程度では倒れんぞ?」

傷を再生させながら、魔王アレスは手を伸ばした。

その手は、巨大な影となって、京楽の喉を締め上げた。

「ぐっ・・・・」

血の魔法で、影を切ろうにもすり抜ける。

本体に向けると、血は蒸発した。

「うぐっ・・・・」

「もう終わりか?」

「まだだ・・・エターナルアイシクルワールド!」

絶対零度の氷が、魔王アレスに襲いかかる。

「ほお、氷の魔法の禁呪か。だが、それなら我も使える。エターナルアイシクルワールド」

お互い、氷になりながら、魔力をうねらせていく。

まず、京楽が氷の魔法を割って、アイテムポケットからミスリル銀の魔剣を取り出すと、炎の魔法をまとわせて、魔王アレスに切りかかった。

魔王アレスは全身を炎で焼かれた。

「我はこの程度では死なぬ!」

けれど、魔王アレスは炎に飲まれたまま、京楽の体をその腕で握りつぶしにかかった。

「うおおおおおお」

魔王アレスを包みこむ炎が、京楽にも遅いかかる。

「く、ウォーターワールド!」

水の世界を作りだして、お互い鎮火する。

「ウォーターランス!」

「エアリアルエッジ!」

水と風の魔法がぶつかりかあう。

京楽は、炎の最高位精霊フェニックスを呼び出した。

「ゴットフェニックス!」

それに対して、魔王アレスもまた氷の最高位精霊フェンリルを呼び出す。

「ゴッドフェンリル!」

炎の不死鳥と氷の魔狼は、お互いの属性をぶつけ合いながら、消滅した。

京楽は、ニタリと笑った。影を潜めていた残酷さが滲み出てくる。

「ブラッディ・サークル!」

自分の血を円形状にして、その中にいた魔王アレスをずたずたにした。

「まだ、生きてるの。しぶといね」

魔王アレスは、傷を再生しながら、笑った。

「ふはははははは」

「あはははははは」

二人は笑いあいながら、お互いの隙を狙っていた。

「そこだ!」

魔王アレスが、魔法で作り出した槍で、京楽の胸を貫いた。

「ぐふっ」

吐血しながら、京楽も自分の血の槍で、魔王アレスの胸を貫いていた。

「ごふっ・・・・」

お互い、倒れる。

「よくぞ、我にここまでダメージを負わせた。エターナルアイシクルワールド・・・」

ああ、駄目だ。

僕はここで負けるのか。

そう思った瞬間、浮竹の声が聞こえた気がした。

「京楽、俺を助けにきたんだろう!そんな奴に負けるな!」

浮竹は涙を流していた。

浮竹の涙を見るのは、嫌だだった。

「エターナルアイシクルフィールド!」

さっき唱えた氷の禁呪の魔法よりも、更に高位の禁呪の魔法を繰り出す京楽。

「ぬおおおおお!!!」

魔王アレスは、氷に閉じこめらられていく。

「エターナルアイシクル・・・・・」

呪文の途中で、完全に凍り付いた。

凍り付いた両足をぱきんと割って、上半身でなんとか空間の歪みから脱出すると、目の前には涙を流している浮竹がいた。

「京楽、京楽!」

「僕は大丈夫」

「大丈夫なものか。足がないじゃないか!」

「ああ、魔封じをされているんだね。今、とってあげるから」

魔力を流し込むと、魔封じの首飾りはパキンと割れた。

「今、治癒してやるからな!」

浮竹は自分の血を大量に使い、京楽の足を形成してくっつけた。

「だめだよ、君の血が足りなくなってしまう」

「念のために、血液製剤を服に忍ばせておいた」

それを不味そうにがりがりとかじり、血を補給して、浮竹は京楽に抱きついた。

「バカ!俺のために無茶をしやがって!」

「でも、僕はお姫様を助ける勇者だからね」

「勇者なら、魔王くらい簡単にやっつけて、俺を迎えに来い!」

浮竹は、無茶難題を言ってきた。

「厳しいことを言うねぇ」

「本当に、心配したんだからな!」

「それはこっちの台詞だよ!子を孕まされてはいないね?」

「ああ、何もされていない」

完全に回復した体で、京楽は浮竹を抱き上げた。

「その恰好、どうしたの?」

「魔王アレスが似合っているって、俺にくれた」

「確かに、凄く似合ってるよ。ちょっと重いけどね」

浮竹は真っ赤なった。

十二単を着た浮竹を抱きあげて、古城を出ようとすると、封印されたはずの魔王アレスが立っていた。

「僕の後ろに隠れて」

浮竹は、言われた通り京楽の後ろに隠れた。

「汝は、見事に我に打ち勝った。金銀財宝はないが、代わりにこれをやろう」

すーっと、京楽の手の中に、赤く輝く魔法石のようなものがやってきた。

「これは?」

「世界の賢者や錬金術士たちが欲しがる、本物の賢者の石だ」

「本物の賢者の石だって!」

京楽の背後から浮竹が出てきて、賢者の石を手にとった。

「うわぁ、本物だ。はじめて、本物の賢者の石を見た・・・・」

別名、神の血。

神々でも最高ランクの上位神が流した血が、賢者の石となった。

錬金術でも作れるが、それは仮初の賢者の石であった。

最高位神・・・たとえば、浮竹の父である創造神ルシエードクラスの神が流した血のみが、本物の賢者の石になりえた。

「お前は、これを使わなかったのか」

「我にはいらぬものよ」

賢者の石を使うと、なんでも願いが叶うと言われていた。

例えば、王になりたいとか、世界を支配したいとか、神になりたいとか。

どんな望みでも叶うと言われている。

浮竹は、賢者の石を手に取ると、砕いた。

「何を!?我が秘宝は本物だぞ!?」

「だからだ。こんなもの、世界にあっちゃいけないんだ」

「ふむ・・・・・・」

「もしも藍染の手に渡ると、奴は神になるだろう」

「そうやも知れぬな」

魔王アレスは、同意する。

「だから、こんな賢者の石なんていらない」

「浮竹・・・・」

「俺には、血族の京楽が傍にいてくれる。それだけで、満足だ」

京楽は、感動していた。

錬金術士でもある浮竹なら、喉から手が出るほどに欲しいだろう、賢者の石を砕くとは。

自分がいてくれたら、それだけでいいと言ってくれた。

それだけで、京楽は満足だった。

「お前はこれからどうするんだ?」

「我か?我は、また長い時を眠る。いつか封印が解けた時、また魔王としてこの世界に君臨しようぞ。だから我が嫁にならぬか、浮竹。汝なら、我が封印も解けるはず」

「お断りだ。京楽以外の子を産みたくない。もっとも、俺も男だから子供なんで欲しいとも思わないが」

「賢者の石があれば、可能だったのだぞ。汝らに子を授けることもできただろう」

「それでも、いらない。俺は京楽さえいれば、それでいい。それに育児なんて大変だし、母親の苦労なんてしたくない」

「そうか。引き留めて悪かった。さぁ、いくといい。魔王を倒した勇者として、世界中がお前たちの存在を歓喜するだろう」

魔王アレスの言葉に、浮竹は首を横に振った。

「俺たちは古城でひっそり暮らしている。騒がしいのは、ご免だ」

「つくづく変わった者よ。勇者京楽」

「なんだい」

「この姫の浮竹を、大事にするのだぞ」

「もちろんだよ」

「姫ってなんだ姫って!」

ぷんぷん怒る浮竹がかわいくて、京楽は魔王アレスの前で口づけていた。

「ちょ、京楽、お前!」

「熱いのう。いつか我にも、そのような存在が欲しいものよ。我はまた眠りにつく。始祖ヴァンパイアは悠久を生きる。いつか、また会おうぞ」

「ばいばい」

「じゃあね」

魔王アレスの魂は封印の眠りについていった。

「外の中庭で、平子クンを待たせてあるんだ。彼に乗って、帰ろう」

「ああ、分かった」

中庭に出ると、平子が目を開いた。ドラゴンの姿をしていた。

「なんや、けったいな恰好してるなぁ、浮竹」

「ほっとけ。俺に趣味じゃない」

「でもようにおうとるで。まるで勇者に助けられたお姫様やな」

「どいつもこいつも俺を姫だと・・・・」

浮竹は、怒りそうなったが、平子もわざわざ自分を助けるのに力をかしてくれたので、礼を言った。

「平子、俺を助けにきてくれてありがとう」

「どういたしてましてやな。京楽、あんたは魔王を討ち取ったんやろ?」

「うん。封印だけどね。一応討ち取ったことにはなるのかな」

「血の帝国中で、祝い事せなな。勇者京楽の誕生や!」

「おい、平子、そういう騒がしことは!」

「たまにはええやんか。血の帝国の民はお祭り好きやのに、肝心の祭りがないって嘆いとったで」

「仕方ない。血の帝国に凱旋だ!」

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始祖浮竹の血族、京楽が魔王を討伐したという話は、すぐに血の帝国中に広まった。

新しい勇者として、正式にブラッディ・ネイから勇者王の名を与えられて、皇族に叙された。

「あの京楽が、俺と同じ皇族か・・・・・」

「不満なのか、浮竹」

「ああ、白哉か。別に不満はないが・・・・」

白哉は、恋次を伴って、その戴冠式に出ていた。

「これで、キミも皇族だ。兄様以外の伴侶をとるべきだ」

「いやだね。そこはなんと言われても、僕は浮竹以外の伴侶をとることはないよ」

「勇者の血は、残さなければいけない」

「ブラッディ・エターナルがいるでしょ」

「ああ、それもそうだね」

ブラッディ・エターナルは、浮竹が魔女の秘薬で女体化した時に、そのままの京楽に抱かれたことでできた、受精卵から生まれた子供であった。

だが、公式に浮竹と京楽の子であるとは言われていなかった。

「ブラッディ・エターナルを、今この瞬間をもって、正式に始祖浮竹と血族京楽の子として、皇族にするものとする」

「ああ、また勝手に・・・・あの愚昧は」

浮竹も京楽も、ブラッディ・エターナルを愛していないし、ブラッディ・エターナルも両親として認めたわけではなかった。

「まぁ、勝手にしてくれ。京楽の勇者の血族として必要なら、連れていけばいい」

ブラッディ・エターナルはブラッディ・ネイの寵姫であるが、皇族ではなかった。その存在が皇族に変わったところで、さしたる変化もないであろう。

「帰るぞ、京楽」

「うん、ちょっと待って」

「今をもってこの日を、勇者記念日として、毎年祭りを開催するものとする」

ブラッディ・ネイの言葉に民衆はわああああと、歓声をあげた。

「やってられない。帰るぞ」

「じゃあ、僕は戻るから。あとはそっちで勝手にやっておいて」

「浮竹さん、ほんとにいいんすか!京楽さんも!」

恋次が、二人を呼び止める。

「俺たちには、もう関係のないことだ。勇者記念日とかいうが、ただ祭りをしたいだけだろ」

「そりゃそうでしょうけど」

「だから、ブラッディ・ネイに任せるといいよ。あの子は、性格は歪んでて僕の浮竹に伴侶としての愛を囁くけど、統治者としては有能だから。なんとかしてくれるでしょ」

そうして、浮竹と京楽は古城に戻っていった。


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始祖なる者、ヴァンパイアマスター37

魔女の秘薬。

それは様々な効果をもつ。

媚薬だったり、一時的な若返りの薬だったり、一時的な性別転換の薬だったり。

京楽は、浮竹に内緒で猫の魔女乱菊から、一時的な若返りの薬を買った。おまけに効果は5歳児になるというもの。

いつの日だったか、3歳児になった東洋の浮竹と京楽の可愛さにやられて、自分のところの浮竹が5歳になったらどうなるのだろうかという、純粋な好奇心からきていた。

浮竹の飲み物に、5歳児になる魔女の秘薬を混ぜた。

「京楽、お前俺に何か・・・・」

そう言って、ぼふんと音をたてて、その場に5歳の子供の姿に若返った浮竹がいた。

自分の体を見て、小さく縮んでいるのを確認して、5歳の浮竹はぷりぷり怒りだした。

「魔女の秘薬を飲ませたな!京楽のアホ!」

「浮竹、かわいい!」

ひげづらでほっぺに頬すりされて、浮竹は苦しがった。

「痛い!ひげが痛い!」

「ああごめん。君は、5歳になっても中身はあんまり変わらないんだね。少し残念だよ」

「変わってほしいのか。春水お兄ちゃん」

「今の、今のもう一回言って!」

「春水お兄ちゃん」

見上げながらの浮竹に、京楽は鼻血を出しながら、浮竹を抱きしめた。

「うわあああ、鼻血、鼻血!」

浮竹が、ティッシュを探す。

「この秘薬の効果はどれくらいだ」

「3日間くらいかな」

「長いぞ。京楽のばか!」

ぷりぷり怒る5歳の浮竹がかわいすぎて、京楽はまた浮竹のほっぺに頬ずりしていた。

「痛い!ひげが痛い!!」

ぽかぽかと殴ってくるが、所詮5歳児。

力は全然なくて、京楽は浮竹の手をって服を買いにいこうと言い出した。

今浮竹が着ている衣服も一緒に縮んでいたが、他に着る服がないので、まずは町に服の買い出しにいくことにした。

「迷子にならないようにね?」

「恥ずかしい・・・・」

二人は、ずっと手を繋いでいた。

子供服の店にくると、京楽は浮竹が疲れて帰りたいと言い出すまで、着せ替え人形にした。

「じゃあ、この服とこの服をこの服を買うよ。会計、たのめるかな」

「合計で金貨1枚と銀貨20枚になります」

そこそこ有名なブランドで、少しお高めだった。

「浮竹、その服は着て帰るから、そのままの姿でいてね?」

「納得できん。何故俺の服が猫耳つきのフードの猫の服なんだ」

浮竹の恰好は、猫の着ぐるみの恰好に頭に猫耳のフードがついたものだった。

「それはかわいいから。浮竹はかわいすぎてなんでも似合うけど、着ぐるみみたいな服はめちゃくちゃかわいくて僕がけしからんとなるから」

「言ってることがむちゃくちゃだぞ」

「うん、君のかわいさにやられたから」

帰り道は、浮竹が疲れた様子だったので、京楽が抱き上げて帰った。

古城に戻ると、まずは写真をとられた。

「勝手にとるな!」

「かわいい君の姿を残しておきたいからね」

「むう」

ぷくーっとほっぺを膨らませる浮竹に、京楽はまた鼻血を出しそうになっていた。

「か、かわいい・・・」

「こんな姿、誰にも見せられない・・・」

(やぁ、元気にしてた・・・って、東洋の浮竹、その姿は?)

(西洋の俺!かわいすぎる!)

何故そんな姿になったかも聞かずに、東洋の浮竹は小さくなってしまった西洋の浮竹を抱きしめて、頭をなでて抱き上げた。

「京楽に、若返りの魔女の秘薬を飲まされた、今日から3日間はこの姿だ。中身は元のままだからな」

「それでもかわいい!」

「ちょっと、東洋の俺。東洋の京楽、止めてくれ」

(かわいからいいじゃない。十四郎に、好きなだけ可愛がられるといいよ)

「むう、覚えてろ」

ぷくーっと頬を膨らませる西洋の浮竹に、東洋の浮竹は手土産にもってきたドーナツをちらつかせた。

「ドーナツ!」

味覚は子供に戻ってしまっているようで、東洋の浮竹からドーナツを受け取って、西洋の浮竹はそれをもぐもぐ食べていく。

ちなみに、東洋の浮竹の膝の上だった。

(かわいいなぁ、西洋の俺。ああ、このまま持ち帰りたい)

ダメだよ?西洋の浮竹は西洋のボクのものなんだから持ち帰っちゃダメ!

東洋の浮竹は、まるでおかんのような目つきで、東洋の浮竹をたしなめた。

「ちょっと、いくら東洋の浮竹でも持ち帰りは許さないよ。こんな姿になっても、浮竹は僕のものなんだから」

「お前が悪いんだろが!」

東洋の浮竹の膝の上で、西洋の浮竹は近づいてきた西洋の京楽のひげをひっぱった。

「あいたたた、ひげひっぱるのはやめて!」

「ふん」

(西洋の俺、食事はまだか?)

「ああ、まだだな。そう言えばそろそろ夕飯の時間だな、腹が減った」

(よし、俺がお子様ランチを作ってやろう。春水、手伝ってくれるか?)

(もちろんだよ。立派なお子様ランチを作ってあげるね?)

「むう、俺は見かけはこうだが中身は元のままなんだがな」

「浮竹、彼らの気が済むまで付き合ってあげたら?」

「仕方ない。そうする」

やがてできあがったお子様ランチは、とても美味しくて西洋の浮竹は残さず食べた。

(残さないなんて偉いぞ)

東洋の浮竹に頭を何度も撫でられる。

(ああ、弟ができたみたいで、こういうのいいなぁ)

その日は一緒に風呂に入りたいという東洋の浮竹に負けて、西洋の浮竹は東洋の浮竹に風呂に入れてもらい、髪と体を洗われた。

パジャマは、カエルさんだった。

(ああ、可愛すぎる・・・・)

「東洋の僕ら。ゲストルームで泊まってね?」

(むう、この小さな東洋の俺を独占する気だな)

「まだ、この姿の日は続く。明日はお前と寝るから、とりあえず今日は就寝しよう。俺も疲れて、眠い・・・・・」

こっくりこっくり船をかぐ西洋の浮竹をベッドに寝かしつけて、東洋の二人は仕方なくゲストルームで寝た。

次の日の朝、朝食を皆でとった後、西洋の浮竹がこう言い出した。

「なんだか、むしょうに遊びたい。体がうずうずする」

(じゃあ、木登りでもする?こう見えて俺は木登りが得意なんだ)

「する!中庭に生えている大樹なら、俺も何度か上ったことがある!」

「気をつけるんだよ、浮竹。怪我しないよにね」

(気をつけてね、十四郎と西洋の十四郎。僕とこっちの僕は、食事の後片付けと昼食の用意、それにお菓子を作っておくから)

「お菓子!」

(お菓子、俺の分もあるよな?)

きらきらを目を輝かせる東洋の浮竹と、西洋の浮竹だった。


「ほら、この木の上からだと、一番近い街がよく見えるだろう」

(いい景色だな)

二人は、木登りをした。

東洋の浮竹がするするとあまりにも自然に上るものだから、西洋の浮竹は東洋の自分に助けてもらいながら、木登りした。

「じゃあ、後は追いかけっこ」

(いいよ。僕が鬼になるから、西洋の俺は逃げてね)

(はーち、きゅうー、じゅう!)

数を数えて、東洋の浮竹は逃げる西洋の浮竹を追いかけた。

(待てーーーー)

「うわ、早いな!負けるものか!エアウォーキング!」

魔法を唱えて、西洋の浮竹は空を飛んでしまった。

(じゃあ、俺はこうだ)

東洋の浮竹は、巨大な白蛇を召還してその上に乗ると、宙にいる西洋の浮竹を捕まえてしまった。

「まいった、降参だ」

白蛇は、東洋の浮竹の服を掴んで離さない。

そんな様子を、古城の窓から西洋と東洋の京楽が、微笑ましそうに見つめていた。

(捕まえた。そろそろお昼だな。昼食を食べに行こうか)

「ああ」

東洋の浮竹は西洋の浮竹の小さな手を握って、古城の中に戻った。

昼食を食べ終えて、西洋の浮竹は眠そうに船をこいでいた。

「お昼寝の時間かな」

(そうみたいだね。中身は元の西洋の十四郎のままでも、体が子供だから、お昼寝を体が求めてるんだと思うよ)

(じゃあ、俺が寝かしつけてくるな)

東洋の浮竹は、西洋の浮竹を抱き上げて、寝室に入るとベッドの上にそっと寝かせて、毛布をかぶせた。

(早く元に戻るといいな。その姿もかわいくて大好きだけど、普通の西洋の俺に会いたい)

やがて3日が経ち、西洋の浮竹は元の姿に戻った。

そろそろだろうと、ぶかぶかの元のサイズの衣服を着せれていたので、いきなり裸になるとかいうハプニングは起きずに済んだ。

「世話をかけた。でも、楽しかった」

(俺も楽しかった!まるで弟ができたみたいで!)

(ボクはやっぱりその姿のままが一番だと思うね。今回はどこの誰かさんのせいで、苦労したね)

「全くだ。おい、京楽。覚悟はできてるんだろうな?」

「ぎくり」

「マンドレイク、5本生のまままるかじりだ。いいな?」

「はい」

東洋の京楽は、しゅんとする西洋の京楽の肩をぽんと叩いて満面の笑みで。

(がんばれ)

しょんぼりする今回の騒ぎの犯人あった、西洋の京楽は皆が見ている前でマンドレイクを生で5本まるかじりの刑に処された。

(じゃあ、俺たちは戻るな)

「ああ、本当に世話になった。兄ができたようで、嬉しかった」

(じゃあね、西洋の十四郎。あと、西洋のボクはほどほどにね)

「マンドレイクが、マンドレイクがあああ」

ちょっと混乱に陥っている西洋の京楽を残して、東洋の浮竹と京楽は元の世界へ戻っていった。

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「やっと、帰った・・・・・」

古城の様子を伺っていたゼイラムは、浮竹と京楽が二人いるのに驚き、身を潜めていた。

そして、改めて古城に乗り込んだ。

「やっと出てきたか」

「気配は察知していたんだよね」

浮竹と京楽は、追いかけてくるゼイラムを利用して、庭にまでやってきた。

古城の中では、思う存分に暴れれないからだった。

「俺の、存在が、ばれて?俺は、ゼイラム」

「ばればれでしょ。女神アルテナと藍染の匂いをそこまでさせといて」

ゼイラムは、血の刃を作りだすとそれで京楽に切りかかった。

「な、血の魔法!?ヴァンパイアか!?」

「違う。こいつ、俺の細胞を持っているようだ。気を付けろ。お前が狙われている」

「力の、弱い、血族の、京楽、殺す」

ゼイラムは、浮竹にも攻撃するが、しつこく京楽を狙ってきた。

「京楽、強い、何故?」

「僕は再覚醒したからね。今までの僕と思ったら、痛い目をみるよ!」

京楽は渦巻く魔力を血の鎌にかえて、ゼイラムを袈裟懸けに斬り裂いた。

その傷口は、シュウシュウと音をたてて癒されていく。

「く、ヴァンパイアの癒しの力か」

「灰になるまで攻撃すれば、それも意味をなさないだろう」

「そうだね」

「俺が、殺す、血族の、京楽」

「お前の力を、そいつに見せつけてやれ!」

「分かったよ!」

浮竹の言葉を受けて、京楽は渦巻く魔力を炎に変えて、次に雷にかえた。

「フレイムサンダースピア!」

炎と雷の2重の属性を持った槍が、ゼイラムに襲い掛かる。

「ぎゃあああ!でも、俺には、浮竹の、細胞がある、死なない」

ゼイラムは、血の刃で京楽の首の動脈をかき切った。

「京楽!」

「大丈夫だよ、これしきの傷」

しゅうしゅうと、音を立てて鮮血を噴き上げていた傷がなおっていく、

「俺の存在を、忘れるな」

浮竹が、血の刃を操り、ゼイラムの背中を斬り裂いた。

京楽は、ニタリと笑って、ゼイラムに埋め込まれていた浮竹の細胞を、えぐり取っていた。

「ぎゃああああ、俺の、俺の、力の、源が・・・・・・」

浮竹の細胞は、ゼイラムの右目に集中していた。

ただ、全身にもあるようで、右目をくりぬいたものの、凄まじい速度で再生が始まる。

京楽は残忍に笑った。

「僕の浮竹を傷つけようとする存在は、許さないよ」

右手で、再生されていったゼイラムの右目を再度くりぬいた。

「京楽、行くぞ!」

「うん!」

「「エターナルアイシクルワールド!!」」

それは禁呪の氷の封印魔法。

それをもろに浴びて、ゼイラムは氷ついていく。

「何故、京楽、魔法、使える?」

徐々に氷ついてく体を、ゼイラムはなんとか血の魔法でどうにかしようとするが、浮竹と京楽の魔力は絶大であった。

「俺、死にたく、ない・・・・・」

完全に凍り付いた体に、京楽がトドメをさす。

「アイアンメイデン!」

鋼鉄の処女、拷問器具のアイアンメイデンが現れて、ゼイラムを閉じ込めると、その中にある針で串刺しにした。

血が滲みでていく。

それを、京楽がアイアンメイデンごと、ゼイラムの体ごと業火で焼き払った。

「ヘルインフェルノ!」

アイアンメイデンの鉄が溶けていった。

「終わったね」

「ああ。それにして、京楽、本当に強くなったな。それに残酷になった」

「今までの僕は、君を守りたいと思っても、結局は君に守られていた。君を傷つける存在は、僕が許さない」

「再覚醒すると、ここまで強くなれるものなんだな」

浮竹は、京楽を見た。

「それは、君が強いからだよ。血族として再覚醒した時、君と同じ力を手に入れた。やっと、君を守るための力を手に入れた」

京楽は、浮竹を胸にかき抱いた。

「愛しているよ、浮竹」

「ん、俺もだ、京楽」

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「ああ!」

ベッドの上で、浮竹は喘いでいた。

京楽のものに貫かれて、シーツの上にぽたぽたと欲望を零していた。

「あ!」

京楽のものが、ごりっと音を立てて最奥を抉る。

「ひあああ!!」

浮竹は、ドライのオーガズムでいっていた。

「ああ!」

「愛してるよ、十四郎」

そう耳元で囁かれて、浮竹は自然と唇を自分の舌で舐めていた。

その仕草が、京楽は好きだった。

「ああ、君はやっぱり淫らでエロいね」

「んっ」

浮竹に肩を噛まれて、吸血される。

その凄まじい快感をやり過ごしてから、浮竹も京楽の肩に噛みついて、吸血した。

「んっ・・・いいよ、十四郎。喉が渇いてるんだね?もっと吸っていいよ」

浮竹は、溢れる血を啜って何度も嚥下した。

「お腹いっぱいかな?じゃあ、ご褒美あげないとね?」

ごりっと、奥に侵入した京楽のものが爆ぜた。

「あああ・・・・・・・」

じんわりと広がっていく熱を感じながら、浮竹は自分が京楽のものであると、安堵した。

「春水、春水」

「どうしたの」

「愛している。何が起こっても」

「僕も、愛しているよ。何が起こっても」

「ずっとお前の傍にいたい」

「僕が、君を離さないよ」

二人は、舌が絡みあうキスを繰り返しながら、更に乱れていくのであった。


―-------------------------------------------------------------------------

それは、ずっと封印されていた。

魔王と人間たちが呼ぶ、存在であった。

魔王は、藍染の手で封印を解かれた。

「これが、始祖浮竹だよ」

水鏡で、魔王アレスは藍染に、始祖ヴァンパイアの浮竹の姿を見せられていた。

「強い。我の力と同じかそれ以上に。我の伴侶として、欲しい」

「え、伴侶に?」

「そうだ。我は力の強い者なら、男でも女でも妊娠させれる」

藍染めは、引き気味に魔王アレスを見ていた。

「汝も強い。だが、我の好みではない。この浮竹という始祖ヴァンパイアは美しい。我の妻に欲しい」

「できれば、殺してほしいのだけどね」

魔王アレスは、藍染を睨んだ。

「うわ!」

睨まれたあけで、藍染の手は石化していた。

「我のは絶対。我は欲のままに生きる」

そう言って、魔王アレスは浮竹のいる古城にまでやってきた。

「ヴァンパイアの始祖、浮竹十四郎」

「なんだ。また、藍染の手の者か?」

「ちょっと、浮竹、気をつけて。そいつ、藍染並みに強いよ!」

「我は魔王アレス。藍染に封印を解いてもらった。始祖浮竹よ、汝を我の伴侶とする」

「何を言っている!」

魔王アレスは、浮竹の背後にくると、浮竹の体を抱き寄せて、浮竹を自分の方に向かせると、唇を奪っていた。

がりっ。

浮竹は、魔王アレスの舌を思い切り噛んでいた。

「血迷ったことを。俺は京楽のものだ」

「ますます気に入った。汝を、我が花嫁としよう」

「俺は男だ!」

「我は男でも女でも妊娠させられる」

その言葉を聞いて、浮竹は暴れ出した。

「離せ!離せ、この!!」

「浮竹!」

京楽が血の鎌で切りかかると、魔王アレスは右腕を切り取られただが、すぐに再生してしまった。

「魔国アルカンシェルの離島、ハンニバルに我が城がある。この我が伴侶を助けたければ、そこまでこい」

「浮竹ーーーー!!」

浮竹を腕の中に、魔王アレスは影の中にとぷんと沈んでしまった。

「浮竹・・・・絶対に助け出すから、それまで無事でいてね!!」

京楽は、魔国アルカンシェルに向かうための助力を、星の精霊ドラゴン平子真子に頼むのであった。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

東洋の浮竹と京楽が遊びにきた。

それは、西洋の浮竹が目を離している隙に起こった。

古代の魔道具を、出しっぱなしにしていたのだ。

東洋の浮竹と京楽は、その魔道具をただのランプと思って、部屋が暗かったので灯りをつけた。

「あ、それは!!」

気づいた時には、東洋の浮竹と京楽は、その年齢を一時的に3歳にするという魔道具のせいで、3歳の幼児になっていた。服も縮んでいた。

東洋の浮竹は、西洋の浮竹を見上げて、こう言った。

(お兄たん?)

自分によく似た西洋の浮竹を、兄と勘違いしているらしかった。

「くっ」

西洋の浮竹は、実の弟のようにかわいがっている東洋の浮竹から「お兄たん」と呼ばれて、頭がくらくらしていた。

「浮竹、何かあったの?」

そこに、西洋の京楽がやってきた。

「うわ、その二人の子供・・・・・もしかして」

「ああ。この魔道具を使ってしまったらしい。置いておくんじゃなかった」

東洋の京楽は、ただじーっと西洋の浮竹と京楽を見ていた。

人見知りが激しいらしく、感情を表に出すのが得意ではないようだった。

「浮竹、その魔道具の効果時間はどれくらい?」

「24時間だ」

「じゃあ、1日中彼らの世話をしなくちゃいけないんだね」

「元を正せば、そんな魔道具を置いていた俺のせいだ。二人は責任をもって、俺が見よう」

(お腹すいた。お兄たん、お菓子ちょーらい)

「確か、クッキーがあったはずだな。京楽、持ってきてくれるか」

「クッキーだね。確かキッチンにあったはず。あと、何か甘い飲み物ももってくるよ」

(・・・・・お腹すいたぁ。あーん)

(じゅーしろー。泣くな)

「おい、京楽、クッキーはまだか!」

「今、飲み物作ってるから、少しだけ待って!」

「十四郎に春水、ちょっとだけ、待ってくれ」

(うん)

キラキラした瞳で笑われて、西洋の浮竹はダメージをくらった。

(しゅんすい、どーしたの?)

(ん・・・手、放したくない)

東洋の京楽は、東洋の浮竹の手をぎゅっと握っていた。

「さぁ、クッキーだよ。あと、蜂蜜を入れたミルクももってきたよ」

西洋の京楽は、クッキーの入った籠と、2つのカップを持って戻ってきた。

カップに入った蜂蜜入りのミルクを受け取って、東洋の浮竹は小さい手でそれをこくこくと飲んでいった。

(おいしー。おかわりー)

「おかわりだね!今作ってくるから!」

西洋の京楽は、空になったカップを手に、またキッチンに急いだ。

(しゅんすい、クッキーたべる?)

(ん)

東洋の浮竹が差し出したクッキーを、さくりと齧る。

(おいしい)

(おいしーね?)

東洋の浮竹もクッキーをかじりながら、にこにこしていた。

そして、キラキラした瞳で西洋の浮竹を見上げた。

(おいしーい。お兄たん)

「ぐっ」

西洋の浮竹はまた、ダメージをくらった。

「このまま拉致したい」

それくらい、3歳になった二人はかわいかった。

(あ、おかわりだー)

西洋の京楽が、蜂蜜たっぷりのミルクをもってきてくれた。

(おいしーね)

(ん)

(あまーい)

(ん)

「東洋の京楽は、あまりしゃべらないんだな」

様子を見ていた西洋の浮竹が、東洋の京楽の頭を撫でた。

(やだ)

「かわいいなぁ。やだだって」

「かわいいねー。僕にも触らせて?」

西洋の京楽が、東洋の自分を触ろうとすると、東洋の京楽は影から蛇を出して威嚇してきた。

「お、小さいのにやるな」

(じゅーしろーは、渡さない)

「誰もとりあげたりしないぞ」

(あやしい)

「ぐっ。拉致したいとか思ってるけど、しないぞ」

(あたりまえ。じゅーしろーは、ボクの)

「3歳になっても、仲はいいんだなぁ」

「まるで僕たちの子供みたいだね」

(お兄たん)

「ん、どうした?」

(おしっこ)

「わーーー!京楽、おまるはあるか!?」

「そんなものあるわけないじゃない!」

「十四郎、トイレに行くぞ!」

(や)

東洋の京楽が、東洋の浮竹を抱き上げようとした、西洋の浮竹に反抗した。

「おい、春水。手を離してくれ」

(ボクもいく)

「分かったから、急ぐぞ」

東洋の二人を抱き上げて、西洋の浮竹はトイレに行き、無事用を足した東洋の浮竹が手を洗うのを手伝った。

(お兄たん、大きい。どうやったら、俺もおーきくなれる?)

「ん、いっぱい食べて、いっぱい寝ることかな」

(じゃあ、いっぱい食べていっぱい寝る!)

夕食の時間になり、西洋の京楽はお子様ランチを作った。

(おいしー)

(ん)

二人は、美味しそうにお子様ランチをゆっくり食べた。

それから、西洋の浮竹と京楽と一緒に風呂に入り、髪と体を洗ってもらった。

(お兄たん、くすぐったい)

急きょ買いに出かけた西洋の京楽のお陰で、うさぎさんの形をした3歳児くらい用のパジャマを着せた。

「今日は、俺たちと一緒に寝ような」

(お兄たん、絵本読んで)

「え、絵本か。京楽!」

「こんなこともあろうかと、古城の図書館に行って子供向けの本探してきたから」

「お前、なかなかやるな?」

「ふふん」

(ねむい)

東洋の京楽は、そう言って一足先に眠ってしまった。

「そこで、お姫様は王子様と結ばれて、幸せに過ごしました」

(すーすー)

「あら、東洋の浮竹も寝ちゃったね」

「ああ、今日は一日大変だったな。明日も、元に戻るまで大変だが、がんばるか」

「お菓子、作らないとね」

「俺も手伝おうか?」

「君は、幼い彼らを見ていてあげて?」

「分かった」

そうして、皆は就寝した。


(ピーマンやー。にがいー)

朝食はピラフだった。

ピーマンを嫌がる東洋の浮竹に、西洋の浮竹が困った顔をする。

「好き嫌いしてると、大きくなれないぞ」

「こっちの春水は、なんでも食べるんだけどね」

(じゅーしろーのピーマン、ボクが食べる)

そう言って、東洋の京楽は東洋の浮竹の食べていたピラフのピーマン全部食べてしまった。

「こら、春水」

(ふん)

「むー、お前は3歳児になっても、東洋の俺に甘いな」

(あたりまえ)

「まぁいい。あと8時間もすれば、元に戻るだろうし」

昼食を食べさせて、昼寝をさせて、お菓子のドーナツを与えた後、二人は元に戻った。

(あれ、俺は何をしていたんだ?)

「覚えてないのか」

(どうしたんだ?)

「いや、覚えてないなら、それはそれでいい。それにしても、かわいかったなぁ」

西洋の浮竹は、いい思い出ができたと、心の中で東洋の浮竹に起こった出来事をしまいこんだ。

(なんの話だ?)

(十四郎、覚えてないんだ)

(だから、何をだ?)

(いや、覚えないなら、思い出さなくていいよ。きっと、恥ずかしがるから)

(よくわからん)

「いやぁ、君は覚えてるんだ」

ニマニマした顔の西洋の京楽に、東洋の京楽は。

(貸しひとつだ。いずれ、返すよ)

「返してくれなくてもいいんだよ。君も十分にかわいかったから」

(十四郎には、内密にね)

「分かっているよ」

こうして、東洋の浮竹と京楽が、3歳児になってしまった事件は、終末を迎えるのだった。



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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

(遊びにきたぞ)

(おーい、いないの?)

古城をのぞいてみると、肝心の二人がいなかった。

「ひいいいいい」

「ぎゃあああああ」

(中庭で悲鳴がする!)

(敵襲かい!?)

急いで二人が見に行ったところには、地獄の雄叫びのような悲鳴をあげているマンドレイクを収穫している、西洋の浮竹と京楽の図があった。

(な、何してるんだ?)

「お、遊びに来てくれたのか。見ての通り、マンドレイクを収穫している」

(これがマンドレイク・・・・)

中庭にズラーっと並んでいる人参の色のような物体は、蠢ていて、収穫されるのを待っていた。

「ひぎゃあああああああ」

「マンドレイクの悲鳴は、普通の人間が聞くと死ぬけど、お前たちなら大丈夫だろう?暇なら、マンドレイクの収穫を手伝ってくれ」

(う、うん)

(十四郎、無理はしなくていいんだよ。ボクが手伝うから)

「そうだよ、東洋の浮竹。こいつら、悲鳴だけはすごいから」

「ぎええええええええええ」

そう叫ぶマンドレイクを、東洋の京楽がほいほいと収穫していく。

(よ、よし俺も!)

そのマンドレイクは、涙を流していた。

収穫されるのを拒んでいた。

「東洋の俺、見た目に騙されちゃいけないぞ。一気に引っこ抜くんだ!」

東洋の浮竹が掴んでいたマンドレイクの葉を、一緒になってひっぱった。

「人でなし~~~」

そう言って、泣いていたマンドレイクは収穫されてしまった。

(こ、こんなにマンドレイク収穫して、どうするんだ?)

「ん、近所に住んでいる猫の魔女の乱菊に安価で売るんだ。マンドレイクは収穫の時の悲鳴を聞くと、普通の人間なら命を落とすから、あまり栽培している農家がなくてな。俺も錬金術や料理で使うから、自家栽培を始めたんだ」

(そ、そうか・・・・)

「そうだ。せっかく生きのいいマンドレイクが手に入ったんだ。みんなでマンドレイクを使った料理を作ろう」

「えー。浮竹が料理作ったら、またゲテモノができるよ」

(俺が、西洋の俺に野菜スープの作り方を教えてやろう。マンドレイクも刻んでいれれば、きっとおいしくなると思う)

「東洋の俺、いつの間に料理の腕があがってないか?」

(ふふふふ。春水のおかげさ)

「こっちの京楽は、教えるの全然だめだぞ」

「だめっていう前に、君が途中で放棄してそのまま煮込むからでしょ!」

(ふう、だめだね、こっちのボクは。叱ってばかりじゃ、誰でもいやになるよ?ようはアメとムチさ)

そう言って、東洋の京楽は、生きのいいマンドレイクを数本選び、キッチンに向かってしまった。

西洋と東洋の浮竹も、それぞれ1本ずつマンドレイクをもって、キッチンに向かった。

「待って~~」

西洋の京楽も、マンドレイクを2本手に、キッチンに入った。

コンロでぐつぐつ煮た鍋の中に、いきなり洗っただけのマンドレイクをぶちこみそうになった西洋の浮竹を、東洋の浮竹が止めた。

「どうした?」

(だめだ。ちゃんと、刻まないと。あと、出汁もとらないと)

「出汁?」

教えるところは、まずそこからだった。

(西洋の春水、出汁をとれるものはあるか?)

「ああうん、そっちの棚の上に、かつおぶしと煮干しが入ってる」

東洋の浮竹は、きょとんとしてる西洋の浮竹の前で、まずは鍋に中に煮干しとかつおぶしを入れて、出汁をとった。

「これが、出汁・・・」

(そう。野菜スープの基本材料になるものだ)

「ふむ。メモする」

自動的にインクが滲むマジックペンで、西洋の浮竹は東洋の浮竹から、作り方を聞いてはメモしていた。

(まずは、この人参、じゃがいも、玉ねぎと、マンドレイクを洗って手ごろな大きなに切り分けよう)

「切るのか。マンドレイクを・・・・・」

(切るよ。切らないと、料理にならないからね)

「そうなのか。今まで、生でぶちこんでも料理になると思っていた」

(さぁ、切ろう)

「ああ」

ズダン!

その包丁さばきに、東洋の浮竹がびっくりした。

(そ、そんなに豪快に刻まないで、もっと小さく切って)

「こ、こうか?」

「浮竹が・・・・あの浮竹が、ちゃんと料理してる!」

西洋の京楽は、涙を流していた。

(そんなに驚くことなの、西洋のボク)

「僕が指導してきても、マンドレイクを刻まなかったあの浮竹が、マンドレイクを刻んでる!」

マンドレイクは、刻まれるたびに悲鳴をあげていたが、細切れにされると何も言わなくなった。

一方、西洋の京楽も西洋の京楽と一緒に、マンドレイクを使ったビーフシチューを作り始めた。

(人参はそれくらいで。うん、いいかんじ。やればできるじゃないか)

「そ、そうか?」

(あとは、刻んだ野菜を鍋に入れて、柔らかくなるまで煮込もう)

「なんだか一緒に料理するのって、照れるな」

(でも、楽しいでしょ?)

「ああ、楽しい。料理をするのが楽しく感じたなんて、生まれてはじめてだ」

(西洋の春水は、こっちの俺に料理を教えるのが下手なんだな)

「ぎくっ」

西洋の京楽は、野菜を煮込みながら強張った。

(ほら、続きするよ。固まってないで)

「あ、ごめん」

東洋の京楽に急かされて、西洋の京楽も動くのだった。

煮込んで柔らかくなった野菜に、キャベツを足してまた煮込む。

最後に塩コショウで味つけして、出来上がった。

「早速、味見してみよう」

(そうだな)

「ん、うまい!いつもよりうまい!さすがだな、東洋の俺!」

(西洋の俺も、やればできるじゃないか)

「ほとんどをお前がしてくれただろう」

(ううん、共同作業だ。やればできるじゃないか)

東洋の自分に褒められて、西洋の浮竹は赤くなった。

「こっちもできたよ~」

(マンドレイクを刻んでいれたビーフシチューだよ)

匂いをかいで、西洋と東洋の浮竹は、お腹を鳴らした。

それに、二人そろって真っ赤になる。

「少し早いけど、夕飯にしよう」

(そうだね。出来立てを食べるのが一番おいしいからね)

西洋と東洋の京楽の言葉に、西洋と東洋の浮竹が頷いた。


ダイニングルームにうつり、それぞれ皿にビーフシチューと野菜スープを盛る。

「いい匂いだな。さすが京楽のコンビだけあるな」

(うん、匂いからしておいしそう。でも、俺たちの野菜スープも負けてないぞ)

まずはビーフシチューを頬張り、西洋と東洋の浮竹は、ふにゃりとなった。

「肉が柔らかくて美味しい」

(このまったりしたルーの味がたまらない)

「そうだ、俺たちの作った野菜スープも、食べてくれ」

(うん。西洋の俺も頑張って作ったんだぞ)

「どれどれ・・・・・」

まず、西洋の京楽が野菜スープを一口飲んで、涙を流していた。

「あの浮竹が、たとえ指導があったとしても、こんなおいしいものを作るなんて!」

「京楽、大げさだろう」

「浮竹、やればできるじゃない」

「東洋の俺のお陰だ」

(うん、ほんとに美味しくできてるね)

東洋の京楽に褒められて、西洋の浮竹は赤くなった。

「お前から褒められると、一番照れるな」

(春水のお墨付きだ。もっと誇ってもいいんだぞ、西洋の俺!)

「ああ。これからは、俺もマンドレイクはちゃんと刻んで料理する。東洋の俺のお陰で、料理するのが楽しく感じれた」

(それはよかった)

(うん、本当に)

「あの浮竹が・・・・」

「しつこい」

まだ涙を流して嬉しがっている、西洋の京楽を、ハリセンで赤くなりながら、西洋の浮竹が殴った。

「お陰で、美味しい夕食が楽しめた。ありがとう」

(こっちこそ。こんな機会があって、嬉しかった。ちゃんとやればできているからその調子でやってくれ。お前はやればできる子だから!)

東洋の浮竹は、西洋の浮竹の肩をがしっと握った。

西洋と東洋の京楽は、お互いに握手しあっていた。

「マンドレイクも、ちゃんと調理すれば食べられるのが分かったよ」

(元々は野菜でしょ、あれも)

「まぁ、分類するなら野菜かな」

その日の晩は、東洋の浮竹と京楽は、古城に泊まって次の日の朝に帰っていった。

「京楽、引っこ抜いたマンドレイクの畑に、苗を植えるぞ。また、美味しいマンドレイクを育てよう」

「うん、そうだね」

西洋の浮竹は、その日からたまに、西洋の京楽の料理の手伝いをするようになるのであった。


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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

西洋の浮竹と京楽は、東洋の浮竹と京楽の住む雑居ビルを訪れていた。

「花火大会をしよう」

いつの日だったか、遊園地で見た花火が忘れられなくて、西洋の浮竹と京楽は、大量の家庭用花火を手に、押しかけた。

(まだ花火をする季節じゃなんだけどねぇ)

まだ、春になったばかりであった。

「季節なんて関係ない。したいと言ったら、俺はする」

「ごめんねぇ、そっちの僕に浮竹。こっちの浮竹は、一度言い出すと聞かなくて」

(俺は別にいいぞ。いつでも大歓迎だ。花火大会をしよう)

「分かってくれるのか、東洋の俺!」

西洋の浮竹は、東洋の浮竹に抱き着いた。

(わわわ)

それに東洋の浮竹がびっくりして、顔を赤くした。

(東洋の俺、落ち着け)

「ああ、すまない。いろいろあって、最近お前たちのところにこれなかったから。どうしているかと思って、花火大会を口実に、会いにきたんだ」

西洋の浮竹も、自分でかなり恥ずかしい言葉を言っていると自覚しているのか、顔を赤くしていた。

「ああ、かわいいねぇ」

(そうだねぇ)

もじもじする二人を、西洋と東洋の京楽は心から、平穏であると噛みしめながら、幸せそうにしていた。

「まずは、バケツに水を用意しよう」

(うん、じゃあ俺が汲んでくるから)

「重いだろう。俺が水の魔法で水を出すから、バケツは空のままでいいぞ」

(魔法って、ほんとに便利だな)

「まぁ、その分制約とかも多いがな」

雑居ビルの裏に出て、人通りの少ない道を選んで、花火をすることにした。

空のバケツに、西洋の浮竹が魔法を唱える。

「ウォーター」

何もない空間から水がドバドバ出て、バケツから溢れた。

西洋の浮竹はいきなり家庭用花火1つに、まるまる魔法の炎で火をつけた。

(わあああああ!やりすぎだぞ!)

「浮竹、一気に火をつけすぎだよ!」

(わあ、やっちゃったね!)

ぱちぱちと火花が散って、鎮火する頃には、1つの家庭用花火は焦げてしまっていた。

それにしゅんとなる。

「すまない。一つ一つに火をつけるんだな。俺の火の魔法じゃ強すぎてだめだな」

(西洋の俺は、知らなかっただけだろう?今度から気つければいい)

東洋の浮竹に頭を撫でられて、西洋の浮竹ははにかんだ笑みを零した。

(ろうそくに火をつけて使おうよ)

東洋の京楽が、当たり前な・・・・けれど、西洋の二人には考え付かなかったことを口にした。

「なるほど、ろうそくに火をつけて、それで花火をするのか」

(そうだぞ、西洋の俺)

東洋の浮竹は、まずはロケット花火に火をつけて、離れるように指示を出す。

ロケット花火は宙を飛び、ぱぁんと小さな花火を咲かせて、終わったしまった。

「意外とあっけないな」

「こんなものでしょ。家庭用花火なんだし」

(次の花火をしよう。西洋の俺、その花火に火をつけて)

「わあ・・・綺麗だなぁ。花火の色が変わった!今の見たか、京楽!」

「見たよ!すごいね!」

西洋の浮竹と京楽には、炎の色が変わるのが不思議でならなかった。

(次の花火をしようか)

次の花火は、炎が青から白に変わった。

(そっちの浮竹とボクは、家庭用花火をするのは初めてかい?)

「ああ、初めてだ」

「うん、僕も初めてだよ」

(そうか。じゃあ、この線香花火は、一つずつもって、火をつけるんだよ。ぼとって落ちたら、終わりだからね)

そういって、東洋の京楽は、西洋の浮竹と京楽に線香花火を持たせた。

ぱちぱちと弾ける火花は小さく、あっという間にぼとっと地面に落ちてしまった。

その小さな火花が気に入ったのか、西洋の浮竹は線香花火ばかりをしていた。

「ああ、もう終わってしまった・・・・」

「僕の分もあげるから」

「本当か!」

目を輝かせる西洋の浮竹に、ならばと、東洋の浮竹と京楽も、自分の分の線香花火をあげた。

「ありがとう」

そう言って、一つ一つに火をつけて、線香花火をじっくりと味わった。

他にもたくさんの花火をして、その夜の花火大会は終わった。


「今日は、泊まって行ってもいいか?」

(いいけど、狭いぞ?布団なんてないし)

「空間ポケットに寝袋が入っているし、毛布も布団も入ってる」

(わあ、やっぱりいろいろと便利そうだな)

「まぁ、モンスターに襲われないことを考えると、こっちの世界のほうが、暮らしやそうだが・・・そうか、金を手に入れるには働かないとだめなんだな。俺と京楽は、主に冒険者稼業でもうけているから・・・・」

(こちらの世界でも、悪い妖とかいたりして、たまに苦労するぞ)

「どちらの世界も、平穏無事というわけには、いかないのだな」

(そっちの僕、明らかに強くなってる気配がするんだけど、何かあったの?)

「ああ、ちょっと再覚醒したんだよ。僕の世界の浮竹と同じくらいに魔力はあがったし、魔法も自分一人の手で使えるようになったよ」

(今度、手合わせしてみたいね)

「負けないぞ」

(それはボクもだよ)

そんな会話をしながら、皆で両方の世界の京楽が作った夕食を食べて、西洋の浮竹と京楽は、ダイニングルームとかの空いている空間に布団と毛布をしいて、寝てしまった。

ちなみに、東洋の浮竹と京楽は、同じベッドで眠ってしまった。

それは西洋の浮竹と京楽も同じで、二人は同じ布団で毛布をかぶり、寝ていた。

(起きてきたのか?)

「ああ、ちょっと目が覚めてしまって)

(ココアでも飲むか?)

「なんだそれは?」

(ちょっと待ってくれ。今作ってあげるから)

そう言って、東洋の浮竹は自分の分と、西洋の自分の分もココアを作り、渡した。

「甘い・・・・・」

(暖かいから、体があったまるぞ。春とはいえ、まだ夜は冷えるしな)

「なぁ、東洋の俺」

(なんだ?)

「今、幸せか?」

(うん、幸せだぞ。春水もいるし、こうして時折だけど、お前たちとも会えるし)

「それならいいんだ」

(どうかしたのか?)

「俺のせいで、京楽が傷つくのが怖い」

(それは俺もだ。でも、信じることはできるだろう?そっちの春水も強くなったんだろう?)

「そうだな。伴侶を信じるのは、当たり前だな」

(俺の春水は、とにかく優しいんだ。俺を駄目にさせるのかと思うくらいに優しい」

「俺の京楽も優しいぞ。戦闘メイドがいるのに、わざわざ俺の好きなデザートを作ってくれる」

(お互い、伴侶に恵まれたな)

「そうだな」

顔を見合わせあって、クスリと笑んだ。

「ココアごちそうさま。眠くなってきたから、もう少し寝てくる」

(うん、おやすみ)

そうして、二人はまた眠った。

(ちょっと、二人ともいい加減に起きて。もう9時過ぎだよ)

朝起きると、9時を回っていた。

「わあ、寝すぎた」

「わ、ほんとだ」

実は、東洋の浮竹も8時半には起きてきていた。おはようと言いながら、船をこいでいた。西洋も東洋も、どちらの浮竹も朝に弱いようであった。

(グッスリ寝てたから起こさなかった。朝食の用意はできてある。食べていくだろう?)

「そこまで世話になるつもりはなかったんだが、せっかくだからいただこう」

「いつもは僕が朝に起きて浮竹を起こすんだけどね。向こうの世界と、少し時間の流れが違うのかな?」

「さあ、どうだろう。どっちみち、今日はすることはなかったし、ゆっくりしよう」

東洋の浮竹も京楽も、依頼が来ていないので暇をしていた。

(今日はスーパーでお一人様一品の特売日をしているんだ。よかったら、買い物に付き合ってくれ)

西洋の浮竹と京楽も買い物に付き合った。

おばちゃんの波に押されて、ぐったりしていた。

(こっちの世界のスーパーでの買い物は初めてか)

「いや、花火を買った時とかには利用したが、特売日があるとこうまで女性が多く押しかけてくるとは・・・・・」

雑居ビルに帰って、東洋の浮竹はお一人様一品の品物が4つも買えて、喜んでいた。

(また、遊びに来た時には、スーパーでの買い物に付き合ってくれたら、嬉しい)

「またあのおばちゃんの波にもまれるのか」

「まぁ、いいじゃない、浮竹。世話になってるんだし」

「そうだな」

(じゃあ、昼は・・・)

「ああ、俺たちはもう戻る」

(ああ、じゃあこれ持って帰れ。昼用に作ったお好み焼きだ)

「お好み焼き・・・?」

「こっちの世界特有のメニューっぽいね。レシピはある?」

(これだよ)

いつものように、西洋の京楽に東洋の京楽は、レシピを渡していた。

「じゃあ、僕たちは帰るね。また今度、会おう」

「またな!」

(またねぇ)

(次来たときは、おかしのレシピを用意しといてあげるよ)

そうやって、西洋の浮竹と京楽は、自分たちの世界へと帰っていった。

東洋の浮竹と京楽は、今度は

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター36

「あーんあーん」

小さな女の子が泣いていた。

「どうしたんだ?」

浮竹はその場にしゃがみこんで、女の子と視線を合わせた。

「母様が、命令するの。私、それが嫌で逃げてきたの」

「そうか。じゃあ、俺たちの古城においで」

女の子は、浮竹に手をひっぱられて、古城にやってくる。

その背中を、小さな女の子が刺していた。

「どうして・・・・・」

「あははは!死んで、始祖浮竹!」

再び刃物を手に、女の子は浮竹が動かなくなるまで刺しまくった。

「次は、あなたの番よ?」

ニタァと笑う女の子に恐怖して、京楽は気づけば浮竹の血まみれの体を抱えて、逃げ出していた。

がばり。

起きる。

全身に、ぐっしょりと汗をかいていた。

「ん・・・京楽?まだ夜明け前だぞ・・・」

隣には、ちゃんと無事な浮竹がもぞもぞと眠たげに寝返りを打っていた。

「夢・・・・でも、ただの夢じゃないね。予知夢というやつかな」

京楽は、寝汗を流すためにシャワーを浴びにいった。

シャワーを浴びて、また眠気が襲ってきたので、京楽はまた寝た。

次の夢は、浮竹と花畑で花の冠を作りあって、それを被せ合う、平和な夢だった。

「うーん浮竹、愛してるよ・・・」

そんな言葉を口にして、京楽は結局昼過ぎまで寝過ごすのであった。

------------------------------------------------------

「小さな女の子に気をつけろ?」

「うん。君が刺される夢を見たんだ」

「ただの、夢だろう?」

「いや、あれは予知夢だと思う。女神クレスの血を口にして再覚醒してから、たまに未来の君の姿を見ていた」

浮竹が首を傾げる。

「それは、当たっていたのか?」

「うーん、微妙だね。ただの夢だった時もあるし、全然当たってない時もあるし、ごくまれに見た夢が本当に現実になった時もある」

浮竹は頷いた。

「よし、じゃあ俺は小さな女の子の傍には行かない。それでいいだろう?」

「うん、そうして。何か用があった時は、僕が対応するから」


冒険者ギルドに行くと、ラニとレニと会った。

「あ、浮竹様・・・・・・」

「元気にしていたか、ラニもレニも」

ラニとレニは涙を浮かべて、浮竹に泣きついた。

「うわあああん。裏切ってごめんなさい、浮竹様」

「ごめんなさい、浮竹様」

「冒険者として、立派にやっていけてるようだな」

涙をふいて、ラニとレニははにかんだ。

「私たち、Cランク冒険者になりました。今はBランク冒険者のパーティーにいます」

「Bランクへの昇格も間近だって、ギルドマスターが言ってました」

「そうか。よかったな、ラニとレニ。藍染に、何かされていないな?」

「はい。父様には何もされていませんし、コンタクトもありません」

「このまま成長して、立派な冒険者になるんだぞ、ラニ、レニ」

「「はい!」」

ラニとレニはそう言って、冒険者ギルドの外に出て行ってしまった。

「浮竹。言ったよね。小さな女の子には気をつけてって」

仏頂面で、京楽が浮竹を見下ろしていた。

「ラニとレニは13歳くらいだろう。そんなに、小さな女の子じゃない。それに、藍染とは決別したようだし」

「それでも、僕は心配なの!14歳くらい以下の女の子の近くには行かないこと。いいね?」

「なんだか、浮気を疑われている夫の気分だ」

そう口にして、浮竹と京楽は冒険者ギルドのギルドマスターと会った。

「すまない、急に呼び出して」

「いや、別にいい。それより、依頼の内容は?」

「ガイア王国の闘技場で、今度冒険者ギルドが主催する、闘技大会があるんだ。君たちには、是非闘技に参加して欲しい。どうだろう?」

「俺たちは目立ちたくない」

「僕もだね」

「君たちが、認識阻害の魔法をかけたヴァンパイアであるということは、すでに俺とごく一部の者も知っている。冒険者ギルドで今後も活動したいなら、出てくれないか」

「それは脅しか?」

「どうとってもらってもかまわない。ただ、闘技場に出てくれればいい」

「わざと負けてもいいのか?」

「Sランク冒険者のTOPとして、モンスターと戦う予定になっている。相手はモンスターだから、手加減する必要はないぞ。あと、参加してくれるなら、この間A級ダンジョンで発見された古代の魔法書を10個進呈しよう」

「参加するぞ、京楽」

「ええええ、浮竹!?ほんとにもう、魔法書をちらつかされたら、弱いんだから・・・」

こうして、浮竹と京楽は、闘技場でSランク冒険者として、モンスターと戦うことになるのであった。

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わああああああ。

闘技場が、熱で溢れかえっていた、

たくさんの冒険者や王国の騎士、それに腕に自信のある者が参加して、白熱のバトルを繰り広げていた。

参加者は全員で150人。

それぞれ、6つのブロックに分かれて、戦っていた。

6つのブロックからの勝利者が、準々決勝、準決勝、決勝と試合を進めていく。

浮竹と京楽は、優勝した王国騎士の騎士団長と刃を交えることもなく、特別セレモニーとして用意さえたモンスターと戦うことになった。

「うわぁ、あれドラゴンじゃないか!」

「本当だ!ドラゴンを、あのたった二人のSランク冒険者が倒すのか?」

みんな、ざわついていた。

ドラゴンが檻から出される。

大分弱っていたが、それでもドラゴンだ。

飛翔して、ドラゴンブレスを吐き出した。

「魔法兵、前へ!」

王国騎士団の魔法兵たちが、観客たちに被害がいかないように、結界を張った。

それは、浮竹と京楽が逃げ出すのを防ぐ役割もしていた。

「こんなドラゴン程度で、逃げると思われているなら、そんなことはないと思い知らせてやろう。いくぞ、京楽」

「うん」

二人は、灼熱の業火を身にまとう。

「「フレアランスフィールド!!」」

真っ赤な炎の槍が、ドラゴンの周囲を取り囲み、一気に射出される。

「ぎゃおおおおおおおお!!」

ドラゴンは、断末魔の悲鳴をあげて、どおおおんと倒れた。

「おーっと、これは強い!さすがガイア王国一のSランク冒険者、浮竹十四郎と京楽春水だーーー!!」

マイクをもったナレーターが、浮竹と京楽を皆に紹介するかのように、マイクをもってこっちにやってきた。

そのマイクをぶんどって、浮竹は一言。

「俺たちは強い。未踏破のS級ダンジョンも踏破した」

「おーっと、ここで魔法使い浮竹の言葉がでたー!剣士京楽は、魔法も使えたのですね?」

認識阻害の魔法で、浮竹はエルフの魔法使いに、京楽はハーフエルフの剣士に見えていた。

「あ、やば・・・・・」

京楽は再覚醒してから、身体強化とエンチャト系以外の普通の攻撃魔法も使えるようになっていた。そもそも、その気になれば浮竹の血族であるので、浮竹の魔法は使うことはできたが、京楽はそれを嫌っているようで、自分から魔法を使うことは少なかった。

「京楽、ずらかるぞ」

「待ってよ、浮竹!」

わぁぁあという歓声の合間に手を振りながら、浮竹と京楽は闘技場を後にした。

ギルドの戦士受付所で、報酬の魔法書10冊を受け取り、浮竹はアイテムポケットにそれを入れた。

「お兄ちゃん、すごいね!」

現れたのは、10歳くらいの男の子だった。

女の子ではなかったので、京楽は安心して浮竹の元へ行かせた。

「つめが甘いんだよね」

「がはっ」

男の子は、帽子をとった。

波打つ紫の髪をした、女の子だった。

浮竹は胸を特殊な金属で刺されて、吐血していた。

「きゃああああああ!!」

通行人たちが突然のことに悲鳴をあげる。

京楽は、とっさに浮竹を抱えて古城に戻るゲートを開けて、そこに飛び込んだ。

距離は近かったので、京楽でも帰還の魔法は使えた。

そのゲートに、女の子も一緒についてきていた。

「私の名はセイラン。女神アルテナと、始祖魔族藍染の子」

浮竹は胸に刺さった短剣を投げ捨てた。

「女神アルテナの子・・・これまた、厄介だな」

なんとか血の魔法を使って、止血だけはしておいた。特殊な銀を使っていて、浮竹はダメージを受けていた。

「うふふふ。この特殊な銀は、ヴァンパイアロードを屠るために特別に開発されたもの。傷がすぐに癒えないでしょう」

「浮竹、大丈夫!?」

「ああ、傷はそれほど深くはない。止血はしておいた。再生に時間はかかるが、問題はない」

「よくも僕の浮竹を・・・・・・」

ざわりと、京楽の血が踊り出す。

「特殊な銀を味わえ!」

そう言って、セイランは銃を取り出すと、浮竹と京楽めがけて発砲した。

ドロリと、その弾丸は、京楽の血の炎によって溶かされた。

「そんなばかな!」

セイランが叫ぶ。

「お返しだよ」

「きゃあああああ!!!」

血の炎に囲まれて、セイランは生きながら焼かれた。

「嘘よ、全部嘘!アルテナ母様から、藍染父様から無理やり殺せと命令されたの!私の意思じゃないわ!」

その言葉に、京楽は血の炎をおさめる。

「あははは、死ねぇ!」

京楽の腹を、特殊な銀の短剣が貫いていた。

「京楽!」

京楽はニタリと笑った。

その笑みに、セイランは恐怖を感じて、京楽から距離を取ろうとする。

けれど、特殊な銀をの柄をもった手が、離れなかった。

「子供だからって、容赦はしないよ」

「いやあああああああ!!」

セイランの体が燃え上がる。

再び生きたまま焼かれた。

でも、先ほどの炎よりも高い熱で、セイランが魔法でなんとかしようとしても、炎は消えなかった。

「京楽、大丈夫か?」

「浮竹こそ、大丈夫?」

「ばか、内臓がはみ出しているじゃないか!今、血で癒す」

浮竹は、自分の血を操り、深い京楽の傷を癒した。

「いやああ、助けてええええ!死にたくない!!」

「そのまま、死んでしまうといいよ。女神アルテナも藍染も、僕らにとっては敵だ。その子供というだけで、万死に値する」

「京楽?」

いつもと違う酷薄な京楽に、浮竹が戸惑いがちにその服を引っ張った。

「ん、どうしたの浮竹」

灰となってしまったセイランを確認して、京楽は優しい声を出した。

「いや、なんかいつもの京楽と違うなと思って」

「僕だって、残酷になれるよ。君を傷つけ者は、誰であっても許さない」

「ん・・・京楽、元のお前に戻ってくれ」

浮竹が京楽を抱きしめると、京楽は渦巻く血の海をひっこめて、いつもの京楽に戻っていた。

「うん、心配かけてごめんね、浮竹」

「元に戻ったのなら、それでいいんだ」

優しい鳶色の瞳を確認して、浮竹は京楽を抱きしめ続けていた。

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「藍染って、まるでゴキブリだね」

「それは前から俺も思ってた」

風呂場でそんな会話をしながら、お互いの体を髪を洗い合った。

「あ・・・・・」

京楽の手が、浮竹のものを撫であげた。

「ばか、風呂場だぞ」

「別にいいじゃない。ベッドに行くまで、待てないよ」

「んあああ」

京楽の手にしごかれて、浮竹は京楽の手に欲望を放っていた。

「ああ!」

シャワーで、その手の精液ごと泡が流されていく。

「念のために、ここにもローション置いておいて正解だったね」

「春水の、バカ・・・・・」

そう言いながらも、浮竹の体は貪欲に京楽を求めた。

「あ・・・・・」

京楽の手が、浮竹の胸の先端をつまみあげる。

「んっ」

浮竹のものは、また勃ちあがりかけていた。

京楽はローションを浮竹の蕾に垂らして、意地悪く言う。

「自分でならしてみて?」

「あ、や・・・」

そう言いながらも、おずおずと浮竹は自分の蕾に手を入れて、中をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。

「あ、春水のじゃないと、いいところに届かない。春水、お前をくれ」

「エロくなっちゃったねぇ。ご褒美をあげなくちゃね」

「ひあああああああ!!!」

京楽の熱に引き裂かれて、浮竹は精液を放っていた。

「やあああ」

「こんなに飲みこんで、淫らだね?」

「やっ」

「ほら、鏡に映ってるよ」

結合部を鏡で見せられて、浮竹は眩暈を覚えた。

「やあああ!春水、今日のお前は意地悪だ・・・・・」

「ごめんごめん。優しく愛してあげるよ」

「あ、あ、あ、あ!」

京楽が刻むリズムと一緒に、浮竹が声を漏らす。

「ああああ!!!」

京楽が、浮竹のうなじに噛みついて、血を吸った。

パシャンと、お湯の中に浸かった。

「ああ、や、お湯が入ってくる・・・・あああ」

「ああ、君は僕のものだって、体に刻みこんであげないとね?」

「ひあ!」

ごりっと、結腸にまで入ってきた京楽のものを、浮竹は自然と締め付けていた。

「んっ、中に出すよ?受け止めてね」

「ひああああああ!!!」

びゅるびゅると勢いよく、京楽の精子が浮竹の胎の奥に注がれる。

「まだまだ、いっぱいあげるからね?」

「あ、やあああああ」

結局、二人はのぼせた。

「やっぱり、お風呂でエッチはしないほうがいいね。声が響いていいけど、のぼせちゃう」

「のぼせるまで、お前がエロいことをするからだ!」

浮竹は、氷水を飲んだ。

それを、口移しで京楽にも与えた。

「んっ」

舌を絡められて、浮竹が京楽の頭をこづく。

「もう、今日はしないぞ」

「うん、分かってるよ」

のぼせた体を冷やしてから、二人は寝間着を着てベッドに横になる。

浮竹は、すぐにすうすうと眠りに旅立っていった。

「僕の再覚醒は、君を守るためにあるんだよ・・・・・・・」

京楽は、眠りに旅立った浮竹の白い長い髪を、飽きもせずずっと撫で続けるのであった。


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「また失敗か。まぁいい、次の子はもういる」

藍染は、巨大な試験官の中に漂う、8歳くらいの男の子を見ていた。

「お前の名は、ゼラムだ。さぁ、生まれておいで」

試験官の中の黄金の水が吐き出されて、ゼラムと名付けられた、女神アルテナと藍染の子は、自分の父を見上げた。

「おとうさま?」

「そうだ。私が君の父親だ。母親は女神だ。君は選ばれた子だ。何をすればいいか、分かっているね?」

「始祖の、浮竹と、血族の、京楽を、葬る・・・・・・」

たどたどしい言葉で、ゼラムがそう口にした。

もう、魔人ユーハバッハに血は使っていなかった。

使っても、意味がないと分かったのだ。

女神との間に生まれた子は、飛躍的な身体能力をもっていた。

「ぼく、殺す。始祖、浮竹と、血族、京楽を」

ゆっくりとゼラムは立ち上がり、服を着て、藍染を見上げた。

「おとうさま、ぼく、行ってくる」

「ああ、行っておいで」

幼い我が子を、死地に追いやるように、藍染は笑った。

「ゼラム、君には浮竹の細胞を混ぜておいた。再生能力だけなら、きっと血族の京楽を超えるはずだ」

藍染は知らなかった。

血族の京楽が再覚醒し、浮竹と互角なほどに魔力があがっているのを。

強くなっているのを。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター35

始祖魔族、藍染惣右介は自分の配下であるグリムジョーに、魔人ユーハバッハの血を大量に注射した。

グリムジョーは魔人ユーハバッハの意識に飲まれそうになりながら、己を保った。

「始祖浮竹と血族の京楽・・・・」

藍染にすりこまれた、敵の名前であった。

すこまれた怒りと憎悪は、グリムジョーの心を真っ黒に染め上げた。

「殺す。俺が殺す」

ただ血を求めて、グリムジョーは歩き始める。

魔国アルカンシェルで、グリムジョーは藍染を手にかけていた。

自分をこんな風にした藍染に、耐えきれなくなったのだ。

ぐしゃりと、藍染の顔を床に叩きつけて、その脳みその中身をぶちまけてやった。

でも、藍染は不老不死だ。

ゆっくりと傷を再生する藍染を最後まで見守ることもなく、グリムジョーは魔国アルカンシェルを後にするのだった。

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「浮竹、そのまま動かないで」

古城で、京楽は浮竹をモデルにして絵を描いていた。

「ちょっと見せろ」

「ああ、動いちゃだめだよ!」

浮竹が見た京楽の絵は、例えるならピカソであった。

「これのどこが俺なんだ」

「ほら、こことかちゃんと髪長いし、君のエロティックな瞳もここにちゃんとあるし、桜色の唇だってここに」

スパーーン。

ハリセンをうならせて、浮竹は京楽の頭を殴った。

「恥ずかしいこと言うな!」

「まぁまぁ。続き描きたいから、もう一回座ってモデルになって?」

始めはヌードモデルをしろと言われて、京楽の頭をハリセンが殴り続けたら、普通の姿でいいと言われた。

ソファーに腰かけて、ただ動くこともできずにじっとしてるのは、苦痛だったが。

やがて2時間ほどが経って、絵は完成した。

絵具で塗られた絵は、やはりピカソのようであった。

「ほら、どこからどこを見ても、君にそっくりでしょ?」

「俺がこんな姿なら、顔から目と唇がはみ出ている」

「あくまで君の個性を重点的に描いたから」

瞳は赤く、真紅だった。

背中には、出していなかったヴァンパイアの翼が描かれていた。

「俺かどうかはさておき、とりあえずヴァンパイアを描いたことだけは分かる」

「やだなぁ、そんなに僕の絵が気に入ったの?アトリエとして使ってる部屋に、君の絵は何枚もあるから、壁にでも飾ろうか?」

「やめろ、この美しい古城の中身が損なわれてしまう」

美しく高い調度品が溢れる古城に、京楽の絵を交えると、そこだけ不毛な空間ができそうな気がして、浮竹は断っていた。

「やほー。遊びにきたわよ」

「お、乱菊じゃないか」

「乱菊ちゃん、ちょっとだけお久しぶり」

この前、乱菊が遊びにきたのは今から1カ月ほど前。

ちょうど、浮竹が女神に攫われて4カ月が経った頃だった。

浮竹は相変わらず強いが、京楽は再覚醒をして、今までと比べ物にならないくらい強くなっていた。

「相変わらず、京楽さんの魔力の高さには驚きの言葉しか浮かばないわ」

「僕も、強くなりたくてね。きっかけがあって、再覚醒したんだよ」

「その再覚醒の内容、詳しく聞きたいけど、駄目よね?」

乱菊は、そっと京楽の手をとって、神々の谷間に誘導した。

「いくら乱菊ちゃんでも、言えないね。浮竹が嫉妬しちゃからね」

「おい、京楽、その手はなんだ」

乱菊の神々の谷間に手をつっこんでいる状態に、気づけばなっていて、京楽は焦った。

「いや、これは乱菊ちゃんが勝手に」

「問答無用!」

スパーンとハリセンで叩かれて。京楽は少しだけ涙目になるのであった。


「いやーん、やっぱりこの古城のご飯おいしいわ~」

「好きなだけ滞在するといい」

「じゃあ、お言葉に甘えて、1週間ほどここに泊まってもいいかしら?」

「ゲストルームはいくつもあるし、どれも空いてる。好きなようにするといい」

「やったあ!」

乱菊は、それから1週間泊まった。

その間に、京楽は乱菊にモデルになってくれと頼み、乱菊の肖像画を2枚完成させた。

「うーん、なんていのかしら。斬新だと言われれば、斬新ね」

「僕の浮竹は駄作っていうんだよ。僕の芸術を理解してくれなくてね」

「うーん。でも、プロの人が見たら、何か意見くれるかもね」

「僕にも浮竹にも、プロの芸術家の知り合いなんていないよ?」

「あたしにつてがあるの。ちょっと任してちょうだい」

そうして、乱菊は京楽の絵の何枚かをもって、出かけてしまった。

帰ってもってきたのは、金貨の袋だった。

「凄いわよ、京楽さん。先生が大絶賛なの。絵を売ってくれって言われて売っちゃたけど、別にかまわないわよね?」

「うん、僕はかまわないよ」

「信じられん。あの京楽の絵が売れたのか」

にわかに信じがたくて、その画商の名を聞くと、そこそこ有名な画商で、浮竹もその画商から何枚か高価な絵をかって、古城に飾っていた。

「あの絵がなぁ」

浮竹は、まだ納得がいかないようだった。

「もう、浮竹も素直に僕を褒めてよ!」

「ああ、良かったな京楽。あんな幼稚園児の落書きのような絵が評価されるなんて」

「酷い、何気にけなしてる!」

「まぁ、祝いだ。今日は俺が何か作って・・・・・」

「わあああ!お祝いとかいいから、今日は僕が作るね!」

そう言って、京楽はキッチンに向かってしまった。

その日の夕食を食べて、次の日の朝には乱菊はガイア王国の、古城に近い街にある屋敷に帰っていった。

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「あのー、浮竹さん、京楽さん、これ届け物なんすけど」

現れたのは、一護だった。

「誰からだい、一護君」

「ブラッディ・ネイから」

浮竹は荷物を受け取り、中身を見る。

そして中身を流し台に捨てて、容器をゴミ箱に放り投げた。

「何が入ってたんすか?」

「媚薬だ。おまけに強烈なやつ」

「ええ、勿体ない!」

京楽が、流し台を見るが、全部綺麗に流れた後だった。

「京楽に飲ませたら、お前朝まで俺を犯すだろう!ブラッディ・ネイは変なものしか送ってこない。この前は、大人のおもちゃだったか・・・叩き壊したが」

「はは・・・・」

一護は、乾いた笑いを浮かべるのであった。

「じゃあ、俺の用は済んだんで、戻りますね」

ピリリリリリ。

いきなり、警告音が響いた。

「な、なんすか?」

「侵入者だ。一護君は、安全な場所に避難していてくれ。奥のゲストルームにでも入っていてくれ」

「はい」

「行くぞ、京楽」

「うん、分かってるよ」

侵入者は、若い男だった。

「藍染の匂いと、魔人ユーハバッハの匂いがぷんぷんする」

「魔人ユーハバッハの血を、大量に注射されてるようだね」

「俺はグリムジョー・ジャガージャック。大人しく、殺されやがれ!」

グリムジョーは、鋭い爪で襲い掛かってきた。

「なんて速さだ!反応速度がはやい」

「足場を悪くしよう」

浮竹は、そう言って、足場を沼地にかえた。

「ちっ、これくらいで俺の素早さを奪ったつもりか!」

「浮竹!」

グリムジョーの爪が、浮竹の肩に触れた。

鮮血が舞う。

「よくも浮竹に傷を・・・!」

京楽は、その神に匹敵しうる魔力をとがらせて、グリムジョーに向けては放つが、グリムジョーは特技のスピードで、それを避けてしまった。

「く、ちょこまかと・・・・・」

「フリーズアイビー!」

浮竹が呪文を唱えた。

それは氷の蔦となってグリムジョーの体にまといつき、グリムジョーの動きを封じた。

「今だ、京楽!」

「うん、分かってるよ!」

京楽は、自分の血でできた槍で、グリムジョーの腹を貫ていた。

「がはっ」

「グリムジョー!?」

出てきたのは、一護だった。

「一護君、危ない!」

怪我を負ったものの、致命傷にはなりえず、グリムジョーは尖らせた爪で一護に襲いかかろうとした。

「一護!?一護じゃねぇか!」

グリムジョーは、振り上げていた手を下げた。

「やっぱりグリムジョーだ。懐かしいな」

「一護君、知り合いか?」

「ああ、浮竹さん。こいつ、ヴァンピールなんだ。生まれ故郷で一時期一緒に暮らしてた」

「今回の敵が、一護の知り合いだったとはな。止めた止めた。強そうで勝てそうにねぇし、命は惜しいしな」

そう言って、グリムジョーは尖らせていた爪を元に戻した。

殺気が消えて、一護の知り合いということもあって、浮竹と京楽も昂っていた魔力を通常に戻す。

「君は、魔人ユーハバッハの血に汚染されているね。取り除いてあげるから、こっちいおいで」

「なんだと?そんなこともできるのか?」

グリムジョーは半信半疑で京楽に近寄る。

京楽は魔法陣を描きだすと、グリムジョーの中の血液から、魔人ユーハバッハの血だけを取り除いた。

魔人ユーハバッハの血は、蠢いて次の標的に京楽を選んだ。

「おっと、危ない危ない」

京楽は自分の血を燃やし、ついでに魔人ユーハバッハの血を燃やして蒸発させた。

「これで、君はもう大丈夫だ」

その言葉に、グリムジョーが簡単に動く。前よりもスピードは落ちているが、いつもの自分の肉体だった。渦巻くような血液の濁りが消えていた。

腹の傷も塞がっていた。

ふと、グリムジョーが一護を見た。

「一護、今てめぇは何してやがるんだ」

「ああ、血の帝国で聖女ルキアの守護騎士をしてるぜ」

「守護騎士だぁ?面白そうじゃねぇか。俺も混ぜろとはいわねぇが、お前についていく」

「え、まじかよ。まぁ、俺のだちだし、ルキアに迷惑かけないなら、連れていってもいいぜ」

一護の言葉を受けて、グリムジョーは嬉しそうにしていた。

グリムジョーは戦いが好きだった。戦いの中で己を見つけていた。

「やっぱお前とのバトルが一番滾るからな。一護、今度俺と勝負しろ」

「とりあえず、ルキアの許可を得てからだな」

「話は決まったな。じゃあな、始祖の浮竹とその血族の京楽。藍染からお前らを殺せって命令されてたが、俺にはあいつの言葉を守る義理はねぇ。あばよ」

そう言って、突然襲いかかってきた藍染の手の者は、自分たちに危害をほとんど加えずに、血の帝国に一護と一緒に帰ってしまった。

「なんだか、台風のような子だったね」

「それより京楽、お前いつの間に魔人ユーハバッハの血を取り除けるようになったんだ?」

「ん、再覚醒してからだね。今度、君に魔人の血が入っても、僕が浄化できるから、安心していいよ」

「いや、まずそんな状態になってたらピンチだろ」

二人とも顔を見合わせて、血の帝国に行ってしまったグリムジョーの成功を祈った。

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「グリムジョーめ!あの裏切者が!」

魔国アルカンシェルでは、藍染が怒りに顔を歪ませていた。

「拾って育ててやった恩を忘れるとは・・・・・」

「藍染様」

「なんだ!」

「寵姫アルテナ様がお見えです」

「愛しいあなた」

ゆらりと、女神アルテナの魂を宿した女性が現れた。女神アルテナは、創造神ルシエードに滅ぼされる直前に、魂だけの存在となり、このアビスの世界に逃れてきていた。

「愛しいあなた。今度は、私たちの子がいくわ。注いでやった女神の力で、あのにっくき始祖浮竹と、その血族京楽を殺してやるのよ」

魂だけの存在となった女神アルテナは、アビスで女神の器を探して、藍染と出会った。藍染は、器にと、魔人ユーハバッハの血を与えた寵姫を差し出してきた。

その器は、嘘のようによく女神アルテナの魂と交じりあい、女神アルテナは復活した。女神としての力は魂にあった。憎き始祖ヴァンパイア浮竹とその血族京楽を葬れるなら、女神アルテナはなんでもした。

「女神と始祖魔族の子、セイラン」

「はい、母様」

女神アルテナは、藍染との間に子を産んでいた。子はセイランと名付けられた女の子であった。

臨月までに1カ月、あと4か月をかけて、セイランは10歳まで成長した。

「さぁ、行ってらっしい。始祖魔族と血族京楽を、いたぶってくるのよ」

「はい、母様」

セイランの顔には、なんの感情も生まれていなかった。

あくまで、女神アルテナにとっても、藍染にとっても、駒にしか過ぎなかった。

「女神アルテナ、次の子を産んでくれ」

「いいわ、愛しいあなたのためなら、何人でも産んであげる」

女神アルテナと、藍染は口づけを交わし合いながら、次の子を作るために寝所に引きこもるのだった。





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始祖なる者、ヴァンパイアマスター34

「浮竹・・・・・」

むざむざ、愛しい者を攫われた京楽は、自分の力のなさに嘆き悲しんだ。

血の暴走は止まらず、自分自身を傷つけながら、血の竜巻を起こしていた。

体が燃えるように熱かった。

何かが、自分の中で弾けていた。

ふと、京楽の傍に違う女神が立っていた。

「女神アルテナ、よくも浮竹を!浮竹を返せ!」

それは、浮竹を攫って行った女神アルテナによく似ていた。

「私は女神アルテナの妹、女神クレス」

「そんな存在が、僕になんの用だ!」

「女神アルテナから、伴侶を取り戻したいのでしょう?私の血を飲みなさい。あなたは再覚醒を始めています。私の血を飲めば、再覚醒を成功させるでしょう」

京楽は、その言葉に逡巡した。

「他意はありません。愚かな姉の後始末をしたいだけです。私の血を飲めば、あなたの再覚醒は確実なものとなるでしょう。ただ、私の血を飲むのはきっかけです。始祖ヴァンパイアの血族であることには、変わりありません」

「血を飲めば、強くなれるのかい?その再覚醒とやら・・・この熱い体の鼓動が、どうにかなるのかい?」

「再覚醒をすれば、少なくとも、女神アルテナから伴侶を連れ戻すくらいには、なれるでしょう」

その言葉に、京楽はごくりと唾を飲みこんだ。

女神クレスは、聖杯を取り出し、その中に己の血を注いでいく。

「このまま女神アルテナに愛しい伴侶を奪われたまま嘆くか、それとも私の血を飲んで再覚醒し終わり、女神アルテナから愛しい伴侶を連れ戻すか・・・決めるのは、あなた次第です」

京楽は、やや戸惑いがちに聖杯を手にとった。

そして、中身を一気に飲み干した。

「ああああああ!!!!」

激しい痛みが、京楽を襲った。

「痛いでしょう、苦しいでしょう。でも、それを乗り越えた時、あなたは神の子の血族として、再覚醒するでしょう」

女神クレスは、それだけを言い残して、世界から消えてしまった。

「うああああああ!!」

京楽は苦しんだ。

その、気が狂いそうな痛みと苦しみは、三日三晩続いた。

次に京楽が目覚めた時、己から湧き上がる魔力に驚いた。

「魔力が・・・浮竹くらいになってる・・・・」

じっと目をこらす。

確かに、女神アルテナの残滓と浮竹の気配を感じ取った。

「浮竹を、返せ・・・・」

空間を破り、京楽は女神アルテナの支配下にある空間に、忍び込む。

「誰!?侵入者よ!」

女神アルテナは、自分を守護する使徒たちを、京楽に向けた。

京楽は、猛毒でもあるその血の刃だけで、使徒たちを葬っていた。

「ここは私、女神アルテナの聖域。何人たりとも、無断で立ち入ることは許さないわ」

「許さないのは、僕のほうだよ・・・・・」

ゆらりと揺らめくその魔力は、創造神ルシエードの子、浮竹の魔力のようであった。

「来ないで!この子がどうなってもいいの!?」

女神アルテナは、自分の傍にいた浮竹の首の動脈に、ミスリルの短剣を向けた。

「く、卑怯な」

神の愛の不死の呪いをもっていても、神に殺されるとどうなるか分からない。

「ふふふ。あなたも、この子のように、私の虜にしてあげる」

女神アルテナが近付いてくる。

その魅了の魔法にかかったふりをして、女神アルテナに近づいた。

女神アルテナの胸を、京楽の血の刃が貫いていた。

「ぐふっ・・・そんな馬鹿な・・・女神である私が・・この血の匂い、そうか、女神クレスか!」

女神アルテナは、美しいその容貌を醜くして、叫んだ。

「死んでおしまいなさい、あなたなんて!」

神の呪いがふりかかる。それは即死魔法だった。

でも、京楽はそれを魔法で反射していた。

「ぐ・・・こうなったら、その血、奪うまでよ!」

女神アルテナは、京楽の体から血を抜き取ろうとした。

反対に、自分の血を抜き取られていた。

「ひああああ!?私の、生命の源が!」

女神アルテナは、浮竹にしがみついた。

「助けて、愛しいあなた。私を助けて・・・・」

浮竹は動いた。

まだ女神アルテナの術中にあるだろうと、京楽は攻撃を止めた。

「浮竹、戻っておいで?君のいるべき場所はそこじゃない。僕の隣だ」

浮竹の翡翠の瞳に、光が戻っていく。

「いかないで、愛しいあなた!私を助けなさい!あの、京楽という血族を始末なさい!」

ゆらりと、浮竹の魔力が蠢いた。

女神アルテナでも、ぞっとするくらいの魔力であった。

「こんな存在が、神の子であるなんて・・・どうして、神ではないの?」

そんなことを言う女神アルテナの心臓を、浮竹は自分の血の刃で貫いていた。

「いやああああああ、私の体が!」

美しかった女神アルテナは、神としての力に耐えきれないほどに体が破損していた。

「許さない。絶対に、許さない」

肉体を捨てて、アストラル体となって、浮竹と京楽に襲いかかった。

その、神の証であるアストラル体を、浮竹は血の刃で斬り裂いていた。

「俺は創造神ルシエードの子、始祖ヴァンパイアマスターにして、神の子・・・・」

浮竹は、京楽と手を握りあった。

「京楽、いけるか?」

「僕はいつでもOKだよ」

二人の神に匹敵する魔力が、うねり、波となる。

「あ・・・・助けて」

女神アルテナは、その時になって自分が虜にした存在が、神である自分を超えているのだと知った。

浮竹は精霊神を宿らせて、魔人ユーハバッハの血液を浄化してもらった後、魔力が更にあがった。

そしてついこの間、創造神ルシエードが、始祖浮竹のために生み出した力の残滓である人間の姿をした浮竹を吸収したことで、魂に神格を宿していた。

「助けて・・・・」

「勝手なことを言う。俺を好きなように操っておいて・・・・・」

「助けてくれれば、女神の祝福を与えるわ!不老不死になれるのよ!」

「残念だが、俺は元々不老不死だ」

女神アルテナは、創造神ルシエードの子が神のように不老不死であると知らなかった。

「じゃ、じゃあ金義財宝を好きなだけあげる!」

「金には困ったことはない」

「じゃ、じゃあ・・・・・」

浮竹は、酷薄に笑った。

「この世界から、消えてなくなれ。どうせ、サーラの世界に本体があるんだろう?」

「何故、それを・・・・・・」

女神アルテナは目を見開いた。

「まぁ、こちらもほぼ本体と同じように構築されてある。死ねば、少しは本体にもダメージがくだろう」

「もう、この世界に干渉しないでね。バイバイ」

京楽が、浮竹と手を握りあいながら、空いていた手で女神アルテナに手を振った。

「「ゴッドフェニックス・バーストロンド」」

二人が放った魔法は、二羽のフェニックスの形を纏い、女神アルテナのアストラル体を焼いた。

「いやあああああああ!!!!」

「僕の浮竹に手を出したことを、後悔させてあげる」

火だるまになりながら、転げまわる女神アルテナに、京楽は猛毒の血を滴らせた。

それはじゅわっと音を立てて、女神アルテナの顔を焼いた。

「本体に届くように、女神クレスの血を混ぜておいた。じゃあね」

「いやああああ、私の、私の美貌が!私の顔があああああ!!!」

しばらくのたうちまわった後、女神アルテナはこの世界から消えた。


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「いやああ、私の美貌が、私の顔が!!」

異世界サーラで、女神アルテナの本体は身悶えていた。

アビスの世界で葬られた分身体は、限りなくオリジナルに近くしておいた。

そのせいで、受けた傷も、本体にまで届いた。

女神アルテナは、自慢の美貌が焼けただれていることを知り、自分より身分が下の処女の女神を呼び出すと、殺してその生き血を顔に塗った。

焼けただれていた美貌は、元に戻っていた。

「この私が、ヴァンパイアとその血族如きに・・・・覚えてらっしゃい、必ず後悔させてやる」

復讐心に燃えるが、サーラとアビスの世界へのゲートは閉じてしまっている。

「誰か、誰か女神クレスを呼びなさい!」

下働きの者たちに命じて、自分の実の妹を呼び出した。

「あなたも、分身体をアビスに残していたのね。あなたのせいで、私は屈辱を味わったわ、覚悟はできているんでしょうね?」

「これは、なんだと思います?」

女神クレスは、さっき女神アルテナが殺した下級女神の魂を、保護していた。

「何故、魂がここに!」

「同族殺しは極刑。忘れたわけでは、ありませんね?」

「違うのよ、違うのよこれは!」

「創造神ルシエード。あなたが、決めてください」

現れた、6枚の翼をもつ美しい創造神は、一言だけ言った。

「滅びよ」

その言葉だけで、女神アルテナはさらさらと灰になっていく。

「創造神ルシエード、私はあなたに愛されたかっただけ・・・・・」

それだけ言い残すと、女神アルテナは灰となって消えていった。

「女神アルテナは、あなたの子に干渉しました。どうしますか?」

「あれは、私の手を離れている。私はあれをどうこうしようと思わない」

「御意」

女神クレスは、創造神ルシエードに優雅に礼をすると、女神アルテナが創造神ルシエードの怒りを買い、処刑されたと他の神々にふれて回った。

創造神ルシエードは、神の世界のヒエラルキーのTOPに位置していた。

同格の神々は他にもいたが、皆違う世界で神として君臨し、好き放題していた。

創造神ルシエードは、世界に干渉しない。

創造神として世界を作りあげ、生命を生み出し、しばらくはその世界に留まるが、世界が安定したら、その世界を去った。

アビスとサーラをはじめ、今まで10個の世界を作り上げてきた。

アビスとサーラは双子のような存在で、世界そのものは似ていなかったが、そこに住まう住民である種族は似ていた。

他の世界には、ヴァンパイアは作らなかった。

アビスとサーラの世界にだけ、ヴァンパイアという種族が存在した。

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「浮竹、ああよかった。戻ってきてくれたんだね?」

「京楽、すまない。心配をかけた。それにしても見違えたぞ。いつの間に、そんなに強くなったんだ?魔力に至っては、俺と同等くらいじゃないか」

「女神アルテナに君が攫われた後、再覚醒してね。女神アルテナの妹女神クレスの血を飲んだら、再覚醒を終えたんだよ」

その言葉に、浮竹がそっぽを向く。

「ふん、どうせ女神クレスとやらがさぞかし綺麗だったんだろうな。そんな女神から血をもらえてよかったな」

「浮竹、嫉妬してるの?」

「な、違う!」

浮竹は顔を真っ赤にさせた。

「ああ、嫉妬する浮竹はかわいいね」

京楽は、腕の中に浮竹を抱き込んだ。

「一緒にお風呂入ろ。その後は・・・ね?」

お風呂に入り、身を綺麗にしてから、浮竹はいつもの寝室の天蓋つきのベッドに押し倒されいた。

「ああああ!」

硬くなった京楽のものが、浮竹の中を出入りしていた。

「んああ!」

ずりずりと中のいいところをすりあげて、最奥まで届く京楽のものに、浮竹は涙を零しながら求める。

「あ、春水の、いっぱいちょうだい?俺を満たして」

ペロリと唇を舐める妖艶な浮竹に、京楽は夢中になっていた。

「何度だって、出してあげるよ。君が望むまで」

すでに、浮竹の中で一度熱は弾けていた。

同時に、浮竹のものも弾けて、自分の腹に白い液体を零していた。

それを、京楽が舐めとる。

「やあああ」

「君の体液は甘い。もったいない」

ぺろりと全部なめて、京楽は浮竹の首筋に噛みついて、ジュルジュルと血液を啜った。

「あああああ!!!」

最奥をごりっと抉られながら、吸血されて、浮竹はいきながら吸血されることの快感にも酔わされていた。

「ひあああ!?」

結腸の中を、ごりごりと京楽のものが入っていく。

はじめて味わう感触に、浮竹は泣きながら、許しを請うた。

「やあああ、もうやめ、春水、春水」

「君の中に何度何度でも注いであげるっていったでしょ?」

京楽は、浮竹の最奥に精液を注ぎこんだ。

「ひあう!やあああ!!」

ぷしゅわああと、浮竹は潮をふいていた。

「やああ、潮でちゃう、やだあああ」

「もっと感じて?僕だけのものだよ、十四郎」

「あ、春水、春水」

名を呼ばれて、京楽は浮竹に口づけた。

「十四郎・・・愛してるよ」

「あ、俺も愛してる、春水」

二人は熱い抱擁をしあいながら、更に乱れていった。


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「グリムジョー、期待しているよ」

魔族の始祖である藍染は、十刃の一人であるグリムジョーに魔人ユーハバッハの血を注射した。

「うおおおおおお」

駆け巡る熱い鼓動を抑え込む。

「俺は俺だ!魔人ユーハバッハなどに乗っ取られててたまるか!」

そう言って、藍染に更に魔人ユーハバッハの血を注射される。

「ははははは!私こそ神だ!この世界は全て私のものだ!さぁいっておいでグリムジョー。その大量の魔人ユーハバッハの血で、世界を赤に染め上げるのだ」

藍染は、そう言って笑い続けるのであった。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター33-2

それから、90階層の財宝の間で一晩明かしてから、一気に最深の120階層まで降りた。

120階層のラスボスは、本物にそっくりのコピーだった。

「ちっ、ここまで正確にコピーされるとやりにくい。京楽は補助を。平子が俺を叩け。俺が平子を叩いて、京楽も叩く」

コピーは真っ黒な泥人形でできていたが、持っている魔力から身体能力、魔法までコピーされていた。

「ファイアロンド!」

浮竹のコピーが打ってきた魔法を、平子の魔法がかき消す。

「フレアサークル!」

ごおおおおと燃やされても、浮竹のコピーはぴんぴんしていた。

2時間ほどを費やして、3人はやっとコピーを倒した。

「ああ、もう魔力がすっからかんだ」

「僕もだよ」

「俺もや。魔力切れの時の為に、魔力回復のポーションもってきといたんや。分けたるわ」

「ありがとう、助かる」

「ほんと、助かるよ」

3人は、魔力回復のポーションを飲んだ。

その味のまずさに、水を飲む。

「少しだけ魔力が回復した。これでダンジョンの入り口まで転移できそうだ」

浮竹は、最後の財宝の間をあけた。

金銀財宝から珍しい生き物のはく製、毛皮、貴重なマジックアイテム、それに古代の魔法書があった。

「古代の魔法書がこんなに!見ろ、京楽、平子!」

二人は、魔力切れでポーションで少しは回復したものの、疲れて眠ってしまっていた。

「仕方ないな」

浮竹はテントを出すと、平子と京楽の体を運び、テントの中に寝かせて毛布をかけた。

「今日は、ここで休憩してから、明日帰るか・・・・」

浮竹も、疲労感から眠気を催して、いつの間にか眠ってしまった。

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「浮竹、起きて、浮竹」

「ん・・・・・・?」

「魔法書が、奥の棚からたくさんでてきたんだ」

「何!」

浮竹は、がばりと起き上がった。

「浮竹は魔法書を覚えてコレクションするのが趣味なんやろ?俺は別に新しい魔法なんていらんから、全部持って帰り」

「ありがとう、平子!」

浮竹は、思い切り平子に抱き着いて、スリスリしていた。

「平子君、浮竹は渡さないよ・・・・・」

「ちょお、誤解やって!ぎゃああああ」

京楽にハリセンでしばかれて、平子はドラゴンでもあるので、金銀財宝を欲しそうに見ていた。

「ああ、欲しいなら好きなだけもっていけ。俺は古代の魔法書があればそれでいいからな」

「ええんか?この広間の金銀財宝、全部持って帰るで?」

「いいぞ。別に、金には困ってない。倒したレッドドラゴンをギルドで売れば、ここにある財宝くらいの値段はつく」

「ほんじゃ、遠慮なくもらうわ」

平子は、自分のアイテムポケットに大切そうに金銀財宝を収めた。

「ああ、俺の金銀財宝のコレクションがまた増えたわ。この前、留守の間に大分盗まれてしもうたからなー」

「ああ、浮竹みたいにドラゴンの金銀財宝だけぶんどって、逃げるような存在がそっちにもいるんだ」

「京楽、人聞きの悪いことを言うな!ちゃんと、ドラゴンを殺さず勝利して、戦利品をいただいてるだけだ」

浮竹は、京楽の頭を小突いた。小突かれながらも、京楽は構ってもらえて嬉しそうだった。

「真竜の、竜族を意味もなく殺すことはできないからね」

「あー、こっちではドラゴンの全てが人の形とって、人の言葉しゃべるわけやないからな。昨日のレッドドラゴンは、竜族やないねんろ?」

「そうだ。ただのドラゴンだ。竜族はこの世界には200体ほどしかいないからな。貴重だし、強いからよほどの事情がない限り、手を出さない」

「始祖の竜、カイザードラゴンとは友達なんだよ、僕ら」

「へぇ、すごいんやな。始祖の竜か・・・こっちの世界にもおったけど、不老不死じゃないから、冒険者に倒されて死んでもうたわ」

「カイザードラゴンは不老不死だからな」

「始祖の呪いは、この世界独特のもんやな」

しんみりした空気を追い払うように、浮竹は古代の魔法書をアイテムポケットに入れて、古城で見るつもりだった。

「さぁ、踏破したし戻ろう」

120階層のS級ダンジョンを踏破したとして、ギルドでまた注目を無駄に集めてしまった。

平子は冒険者ギルドに登録したばかりのEランク冒険者なのに、浮竹と京楽と一緒にS級ダンジョンを踏破して、受付嬢を失神させた。

「いやぁ、悪いことてもうたかな」

ギルドの解体工房で、15体のレッドドラゴンの死体を出すと、ギルドマスターも青い顔をしていた。

「ぜ、全部で大金貨6万5千枚になります・・・これ以上は出せません。ギルドが破産してしまいます」

以前のように、金貨かと思っていたら、ドラゴンの素材が不足しているということで、大金貨で買い取ってもらえた。

財布の中が潤った。

そのお金で、浮竹はさっそく魔法屋に出かけて、怪しい古代の魔法書5冊を金貨500枚で買ったりしていた。

「さぁ、とにかく古城に戻ろう。魔法書を見るためにも」

魔法書を手に、目をきらきらさせている浮竹は可愛かった。

「じゃあ、戻ろか」

「うん、戻ろう」

3人は、こうしてまだ未踏破だったダンジョンを攻略して、帰っていった。

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2週間ほど、平子は古城で厄介になった後、血の帝国でドラゴンの竜族が守護すべき金銀財宝のある遺跡があいてると聞いて、平子はそこに行きたいと言い出した。

「いいのか?サーラの世界に戻らなくて」

「あっちの世界は刺激がなくてつまらんねん。女神とその使徒がいばり散らかしててな。服従しろとうっさいねん。このアビスの世界が、よほど心地ええわ」

「じゃあ、この世界に残るのか?」

「うん、そうするわ」

平子の言葉に、京楽が心配そうになる。

「でも、サーラの世界とのゲートはもうすぐ閉じちゃうんでしょ?本当にいいの?」

「他の神々は帰っていったけど、俺は神いうたかて、神界に入れる神とちゃうからな。大丈夫や。たまに遊びに行ってもええか?」

「もちろんだ。盛大にもてなそう」

「おおきに。ほな、俺行くわ」

「元気でな!」

「元気でね!」

こうして、星の精霊ドラゴン平子真子は、この世界、アビスの存在となった。

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浮竹は、S級ダンジョンで手に入れた魔法書を読んでいた。

ちなみに、S級ダンジョンで手に入れた魔法書の数は162冊。

大量だった。

売れば、古城がいくつも買える金になるだろう。

「これも民間魔法か・・・・効果はぱっとしないな」

S級ダンジョンで手に入れた魔法のほとんどは民間魔法で、効果は微妙で、役に立ちそうな魔法書は5冊だった。

それぞれ、違う属性を組み合わせた魔法の魔法書であった。

浮竹はそれを読み、魔法を習得した。

試し打ちしようにも、古城を破壊してしまいそうなので、浮竹はさっそく遊びに来た平子に、次元の空間へと転送してもらい、そこで魔法を放った。

念のために京楽と平子もついてきていた。

「サンダーフレアスピア!」

かっと、青い雷の槍が出現した後で、その場を焦がすような炎が踊った。何もないはずの空間に、罅ができていた。

「ちょお、強すぎへん、その魔法。空間に罅できとるで」

「うーん。威力の調整が難しいな。サンダーフレアスピア!」

さっきより出力を下げて魔法を使うと、いいかんじだった。

「じゃあ、他の魔法も試し打ちするか」

そうやって、次元の空間は浮竹の魔力で揺れた。

「堪忍や。もう、この空間保ってられへん」

「僕も、シールドこれ以上はれないよ」

浮竹の魔法は、その威力の高さを知らずに最大限にまで引き延ばしてしまって、炎やら雷やらが京楽や平子のところにまできて、それを京楽がシールドを張って防いでいた。

「ああ、ありがとう。お陰でどんな魔法か分かった。どれも禁呪に匹敵する。使う時は威力を下げて使う」

「使うことがないよう、祈っておくよ」

「空間から出るで」

3人は、元の古城の中庭に戻っていた。

「今日は、平子の分まで俺が夕食を作ってやろう」

「え、浮竹、料理できたんかいな?」

「ばっちりだ!」

京楽は、顔を真っ青にして首を横に振っていた。

「ま、まぁ食べてみいひんことには、美味いか不味いかもわからんからな」

その日の夕食は、いつの日にか見たことのある、緑色の蠢くカレーだった。

「すごい匂いしとるな。マンドレイクとドラゴンの血、ぶちこんだんやな」

「お、分かるのか」

「マンドレイクもドラゴンの血も大好物やで」

そう言って、平子はスプーンでカレーを口に入れた。

「なんやこれ、めっちゃすごい味するやん。おもしろうて、もっと食べたなるわ。おかわり」

ついでに、京楽は食べ終えて気絶していた。

「お、俺の料理を分かるとは、なかなかだな」

京楽が気が付いた時には、平子は3回おかわりをした後だった。

「平子君、毒消しのポーションと胃腸薬を!」

「そんなものいらへんで?おいしかったし」

「浮竹の料理がおいしい・・・・かわいそうに、今までろくな食べ物食べてこなかったんだね」

涙ながらに、京楽は平子の肩を叩いた。

「まぁ、いつもは竜化して獲物丸のみやからな。毒とか酸もったモンスターは大好物やで」

「つまり、浮竹の毒料理に耐性があるということかい・・・・・」

「おい京楽、誰の料理が毒料理だって・・・・・?」

「いや、違う、これは言葉のあやで・・・・うぎょええええええええ」

口の中に緑色で蠢くカレーと、生きたままのマンドレイクをつっこまれて、京楽はまた意識を失った。

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そうして、平子は血の帝国に、浮竹が作った料理の数々をアイテムポケットに入れて、帰ってしまった。

「浮竹、いい加減機嫌治してよ」

「つーん」

「ああ、ツンデレのツンになってる。君が大好きだよ、十四郎」

耳元で囁かれて、浮竹は赤くなった。

「何をする!」

「君を抱きたい」

「きょ、京楽・・・・」

「春水って呼んで?いつもみたいに」

「あ、春水・・・・・」

ベッドの上に押し倒されて、浮竹は情欲で濡れた瞳で京楽を見つめていた。

「んっ」

京楽のキスを受け入れて、浮竹は自分から舌を絡めた。

「あっ」

胸の先端を甘噛みされて、浮竹は震えた。

衣服を脱がしていく京楽を、ただ見つめていた。

「んっ」

ぴちゃりと浮竹のものに舌が這う。

「ひあ!」

その刺激に耐え切れず、浮竹は精を京楽の口の中に放っていた。

「んっ・・・・」

「どしうたの十四郎、今日はいつもみたいに乱れないんだね?」

「あ・・・春水」

蕾を指でぐちゃぐちゃに解される。

「んあっ!」

貫かれて、浮竹は喘いだ。

「春水、春水」

ただひたすらに、京楽を求めた。

「あ・・・・・・・」

じんわりと広がっていく京楽の熱を感じながら、浮竹は安らかな眠りに落ちて行った。


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「ここが、星の精霊ドラゴン、平子真子の言っていた、創造神ルシエード様の子がいる場所・・・・・・」

それは、女神だった。

サーラの世界に存在する、女神アルテナ。サーラとアビスの世界が繋がった時、こちら側の世界に降りてきていた。

女神は、創造神ルシエードを愛していた。だが、創造神ルシエードが愛していたのは、始祖のヴァンパイアであり、我が子である浮竹十四郎。

その存在が、欲しくなった。

喉から手が出るほど。

その存在を手に入れれば、きっと創造神ルシエードも振り向いてくれるに違いない。

そんな妄想に憑りつかれた女神は、神の力に抗う術を持たぬ浮竹に、魅了の呪文をかけた。

「愛している、アルテナ」

「うふふふ。嬉しい。私も愛しているわ、浮竹」

「浮竹、しっかりして!浮竹!」

女神アルテナは、空間を開いた。そこに、浮竹を誘い入れる。

「ぼうやの浮竹は、私がもらってあげる。私は女神アルテナ」

「浮竹ーーーーー!!」

京楽は、血の暴走を始めていた。

再覚醒が、静かに始まろうとしていた。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター33

「必死ぶりやなぁ。俺や俺」

それは、星の精霊ドラゴン、平子真子であった。

古城の突然の訪問者に、浮竹と京楽はびっくりしながらも、快く招いてくれた。

「そちらの世界とこちらの世界の行き来が可能になったのか?」

「まあ、そんなもんやな。俺の他にもサーラの世界の神々も降りてきとる。まぁ、神様やしこっちのアビスの世界へは干渉しないから、ただの観光旅行にきたようなもんや」

「で、君も観光旅行にきたわけ?君から、浮竹の匂いがするんだけど、どういうことかな」

「あちゃー。もうばれとるんかいな。サーラの世界で創造神ルシエードが作った浮竹の残滓。いわば劣化コピーの人間。それがこっちに来とる。というか、あんたに会いたいうから連れてきた」

平子はそういうと、魔法陣を展開する。

魔法陣の中心には、浮竹が立っていた。

東洋の世界の浮竹とは全く違う、オリジナルの浮竹にどこまでも似せたコピーの人間だった。

「もう一人の俺か。創造神ルシエードが作ったんだな?」

「そうや。戦いになりそうなたったら、俺がとめるからな」

「サーラの世界の俺。俺に何の用だ?」

「浮竹十四郎。創造神ルシエードの子。俺はお前と一つになりにきた」

その言葉に浮竹が驚く。京楽は、もう一人の浮竹を見て、固まっていた。

「俺は、別にお前の存在なんていらない。サーラの世界へ帰れ」

「俺には、お前が必要だ。できそこないの俺には、本物の俺がいる」

「一つになって、お前に意識を乗っ取られたくない」

「大丈夫だ。お前がベースになる。俺は、お前を強くし、より完璧に神の寵児にするだけだ」

ぱぁぁぁぁと、サーラの世界の浮竹が輝いた。

それは、こちらの世界の元の浮竹の胸に吸い込まれていった。

「ちょっと待て、まだ承知したわけじゃないぞ」

すでに吸い込まれてしまった浮竹からの返答はなかった。

「一体なんなんだ」

「そうだよ。浮竹、変なところはない!?」

京楽がそう心配して尋ねてくるが、浮竹はどこにも以上を感じなかったので、頷いた。

「ああ、大丈夫のようだ」

「いきなり、違う浮竹に乗っ取られたりしないよね?」

「それは大丈夫ちゃうかな。さっきの子は、あんたを完璧に生みそこなった創造神ルシエードが、あんたのために用意した媒介みたいなもんや」

「だから、俺が必要だと・・・・」

「感じてみ?魔力があがっとるはずや」

「確かに、魔力があがってる・・・・」

「自由意思をもった、あんたの欠片みたいな存在やった。元の鞘におさまっただけや」

星の精霊ドラゴン平子の言葉を、浮竹も京楽も信じた。

「じゃあ、俺であり続けることに変わりはないんだな?」

「そうなるな。なんか変なことになりそうっやたら、俺の力でどうにかしてたから、大丈夫やろ。それより、この世界のダンジョンにもっかい行きたいねん。冒険者とやらになって。サーラの世界にはダンジョンなんてあらへんしな。こっちのアビスの世界が楽しくて仕方あらへんわ」

「君、神様なのに遊びにきたんだね?」

「まあ、そうなるな。せっかくアビスの世界と繋がったんや。こなきゃ勿体ないやろ」

「この世界は、アビスというのだな」

浮竹は、自分の住んでいる世界が神々になんと呼ばれているのかを知った。

ぐううぅぅ~~~~。

その時、浮竹の腹がなった。

「な、これは!さっき昼食を食べたばかりだぞ!?」

「あんたに吸収された、媒介の浮竹は水も食料もとらずに生きとったからな。いきなり食べ物を必要とするあんたの体に支配されて、空腹を訴えとるんやろ」

京楽は、少し困ったような顔をしながらも、食事の用意をしにキッチンに向かおうとする。

「戦闘人形に作ってもらうけど、平子クン、君の食べたいものはあるかい?」

「ピザが食いたいな。あっちの世界じゃあらへん食べ物や。あと、ポテトフライも食いたいねん」

「はいはい。戦闘メイドに頼んでくるよ。僕はデザートを作ってくるね」

京楽は、キッチンに行ってしまった。

「なんや、浮竹あんたえらい強なったな。前の魔力も桁違いやったけど、今じゃ神を自称してもいい感じやで」

「大袈裟だな」

「いや、まじやて。魂に神格がないのが不思議なくらいや。創造神ルシエード、あんたの父はあんたを神にしたかったんとちゃうか」

「それはないだろう。俺がざ神になる気はないし、父も神にさせる気はないと、同じこのアビスの世界にいたころ、そういう会話をしたことがある」

「創造神ルシエードもこじれたやっちゃなぁ。わざわざ後からあんたに足りないものまで補って。愛されとるねんね」

「俺の魂には、愛の不死の呪いがある。愛されているからこそ、死ねない呪いだ」

「死にたいと思ったことはあらへんの?」

「何回でもあった。でも死ねないから、代わりに休眠に入った。でも、自分に何かあれば目覚める、そんな休眠だった」

「ヴァンパイアって便利やね。俺なんて休眠して、次おきたら人間どもに毛皮はぎとられかかってたんやで。みんなぶち殺したけど。人間なんか、大嫌いや」

「奇遇だな。俺も人間が大嫌いだ」

「そういうわりには、血族の京楽は元人間なんやね」

「京楽を血族にしたのは、寂しさを癒すためだった。今じゃ、俺になくてはならない、かげがえのない大切な存在だ」

頬を染めてそんなことを言うものだから、平子はごちそうさまと言った。

「再度、昼食の用意ができたよ。僕はもうお腹いっぱいだから、デザートだけ食べるね」

ダイニングテーブルに、ジャンクフードでもある熱々のピザと、ポテトフライが用意されてあった。デザートは苺のシャーベットだった。

「うまそうやな。さっそく、食ってもええか?」

「好きなようにするといいよ。浮竹も腹がへってるんでしょ?遠慮なく食べて」

平子はたくさん食べた。浮竹も負けずと食べた。

3人前は用意してあったのに、二人はそれを平らげてしまった。

「やあ、うまいわ。やっぱ浮竹んとこの料理が一番やね」

「俺の戦闘人形は、家事がなんでもできるからな。便利だろう」

「その能力俺も欲しいわ」

「これは俺の血の魔法だから。天性のものだ。他の魔法のように、覚えさせることはできない」

「残念やわ~。神様いうたかて、万能じゃあらへんからな。お、この苺のシャーベットもうまいわ」

「ありがとう。僕の好きなスィーツだよ。苺が好きなんだ」

「うまいわぁ」

「うまいな。この口の中で溶けていくかんじがなんともえない」

「僕も食べよっと」

3人で、デザートを口にして、その美味しさに酔いしれた。

京楽は、自分で自分の腕を褒めていた。

「我ながらいい出来だったよ」

「ごちそうさまや」

「ごちそうさま」

「お粗末さまだよ」

そんな感じで昼食をとって、その日は平子のいるサーラの世界について語ってもらい、夜になって夕食をとり、風呂に入って就寝した。

平子は3階のゲストルームに泊まった。

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次の日になって、浮竹たちが起きてくると、平子の髪が爆発していて、浮竹も京楽も笑った。

「俺専用のシャンプーじゃないと、俺の髪爆発するん忘れとったわ。なんとかならへん?」

それに浮竹は、民間魔法の髪をキューティクルにする魔法をかけた。

「お、元に戻っとる。俺の自慢の髪のままや」

平子の髪は金髪の肩まであるストレートだった。

「その魔法、俺でも覚えれるかいな?」

「覚えれると思うぞ。民間魔法だから、魔力があれば誰にでも使える」

平子は、その髪をキューティクルにするという魔法を覚えて、ご機嫌だった。

「これで、違うシャンプーも使えるわ。おおきにな、浮竹」

「浮竹、今日はダンジョンに潜るのかい?」

「ああ、そのつもりだ」

「ダンジョン!魅惑の響きやね」

3人分のテント、寝袋、食用と水を用意して、S級ダンジョンに潜ることにしたのだが、その場所まで遠く、どう移動しようかと迷っている間に、平子が竜化した。

10メートルはあろうかという、白い羽毛の毛皮に覆われたドラゴンが姿を現す。

「俺の背中にのっけてやろやないか。地図の位置、覚えたから1日もあれば到着するやろ」

1日をかけて、馬車だと10日以上かかる距離を飛んだ。

ダンジョンに着くころには、夜もすっかりふけていた。

とりあえず、一番近い街まで引き返して、宿をとった。

宿は高級の宿をとったので、冒険者の荒くれ者がいるような、普通の酒場兼宿屋をかねた物騒な場所ではなく、3人とも安心して休息した。

「朝やで~。起きや」

「んー、あと3時間・・・」

「そんなに待ってられへん。起きなこちょこちょしちゃうで」

平子は、起きない浮竹の脇腹をくすぐった。

「あはははは、こしょばゆい」

「お、起きたんか」

「平子君?僕の浮竹の上に乗って、何してるのかな?」

「いや、違う、これは誤解やて。ぎゃああああああ」

京楽は、平子に浮竹のアイテムポケットにあったハリセンで頭を一回殴った。

「神様である俺をハリセンで殴るなんて、あんたくいらやわ」

頭にできた小さなたんこぶをさすりながら、それぞれ起きて朝食を宿でとった。

「あんたら、Sクラス冒険者かい?」

「ん、そうだが」

宿屋の女将が声をかけてきた。

「気をつけなさいよ。最近、あのS級ダンジョンに挑んだパーティーが帰ってこなくてねぇ。唯一の生き残りも、手当てのかいなく死んじゃってね。なんでも、下層にレッドドラゴンの巣があるとかいってたよ」

「レッドドラゴンか。素材になりそうだ」

「浮竹、ドラゴンを金として見るのはやめようね?」

「なんや、レッドドラゴンかいな。何度か相手したことあるけど、そんなに用心することもないやろ」

そんな会話を繰り広げるSランクの冒険者に、宿の女将を開いた口が塞がらなかった。

「ほんとに、気をつけるんだよ」

しばらくて、女将にそう言われて、出発するのだった。

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120階層まである、最近新しくできたS級ダンジョンだった。

まだ30階層までしか踏破されていないらしい。

ダンジョンに入るなり、宝箱を見つけて、浮竹は目を輝かせた。

「宝箱だ!」

「ちょっと、浮竹、それ絶対ミミック・・・・・」

「暗いよ~狭いよ~怖いよ~息苦しいよ~」

「何やっとんの、あれ」

平子が、浮竹を指さす。

「ああ、浮竹はミミックに噛まれる趣味をもっているから」

「変な趣味やな。まぁ人それぞれやけど」

京楽は、浮竹を救出した。

「ファイア」

魔法の初級呪文を唱えると、ボンと火花が散った。

「浮竹、本当に魔力があがってるね。威力を抑えたほうがいいよ」

「ああ、分かった」

ミミックを倒した後には、聖なる石板が残されていた。

「何々・・・・この石板を全て集めた者に、究極の魔法を授ける。よし、京楽、平子、宝箱という宝箱を片っ端からあけるぞ!」

意気込む浮竹に、京楽と平子は天を仰ぐのだった。

1日で、30階層まで降りてきた。

出てきたボスはジャイアントケルベロス。巨大なケルベロスだった。

浮竹が氷の矢を放つと、それを溶かそうとジャイアントケルベロスは炎のブレスを吐く。

しかし、浮竹の氷の矢は溶けずに、ジャイアントケルベロスの右目に刺さった。

「ぎゃおおおおおおおお」

叫びわめくジャイアントケルベロスを、平子がどこからか取り出し刀で、一刀両断してしまった。

京楽の出番はなかった。

「君ら、強すぎ」

「敵が弱すぎなだけだろ」

「そうやな。敵が弱すぎる」

京楽一人でもジャイアントケルベロスくらいは倒せるが、オーバーキルにような状態にはならないだろう。

財宝の間が開く。

そこにあったのは、聖なる石板の欠片たちと、魔法書であった。

「魔法書は古城に戻ってからゆっくり読むとして・・・聖なる石板はこれで全て集まった。意外と早かった」

「30層までしか踏破されていないことを踏まえての、ダンジョンマスターの意思じゃないかな」

ダンジョンには、ダンジョンマスターという管理者がいる。主に古代のエルフで、ダンジョンのモンスターや宝箱の配置を行っていた。

「ええと・・・古代の太陽が出て月が姿を消す。サンライトメテオ・・・・?」

「なんやそれ。俺の世界の魔法の禁呪やんけ」

「え、そうなのか?」

「ああ、そうや。消費魔力が高すぎて、誰も覚えんかった魔法や」

「威力はすごいのか?」

「究極の魔法と書いてあったし、凄いんじゃないの?」

「確かにすごいけど、消費魔力が高すぎるから連発には向かんな。今の浮竹なら、それでも4回くらいは使えるやろ」

「4回か。覚えておこう」

こうして、浮竹はサインライトメテオを習得した。

ちなみに平子は使えないからと、覚えれるのに覚えなかった。

30階層の財宝の間で、一晩を明かした。

次の日は、65階層まで降りた。

60階層のボスはまたジャイアントケルベロスで、群れで襲ってきて、浮竹は魔法を唱えた。

「サンライトメテオ!」

巨大な隕石が降ってきた。ぐしゃりぐしゃりと、ジャイアントケルベロスをつぶしていく。

ぞれは、浮竹と京楽と平子もつぶそうとした。

「ウィンドシールド!」

「ウォーターバリア!」

平子と浮竹がシールドの魔法を使い、京楽がそれの補助をして、なんとか生き残った。

「なんだこの魔法。味方も巻き込むのか。使えないな。それに消費魔力も多いし」

「そやろ。だから、誰も使わんから、究極の魔法とか言われるようになったんや」

「浮竹、今後は使わないでね。シールド展開するのに必死にならないと、本当にこっちまで潰れちゃうよ」

「ああ、分かった。封印する」

浮竹は、一度覚えたその魔法を削除した。

石板は粉々にして、もう覚える者も出ないようにした。

財宝の間は10階層ごとのボスを倒した後に出る。

60階層の財宝は金銀財宝で、興味をなくした浮竹はそれの回収を京楽と平子に任せてしまった。

「ほんと、あんたとこの浮竹はミミックと魔法書しか目に入らんのやな」

「まあ、そうなんだけどね。でも、そこがまたかわいいところでもあるんだよ」

「こんな場所でのろけても、つっこまへんで」

「え、つっこんでよ!」

「京楽、あんた俺を誰やと思とるねん」

「ツッコミ役の冒険者C」

「なんでやねん!」

平子は、思わずつっこんでいた。

「あかん、つっこんでもうたわ。いかんいかん、冷静にせな。ドラゴンブレス吐きそうになったわ」

「えええ!つっこまれてドラゴンブレス吐かれたら、焦げちゃうよ」

「京楽の丸焼きのできあがりやな」

おいしくなさそうだと、平子は笑った。

「京楽、平子、65回層まで進んだが、今日はこの60階層の財宝の間で夜を明かそう。財宝の間なら、モンスターは襲ってこないから、寝ずの番をしなくていい」

「そうやな。雑魚でも、眠り邪魔されると鬱陶しいもんな」

「そうだね。財宝の間はモンスターが来ないし、安心して寝れるよ」

3人は、もちこんだ食材でシチューを作り、それを食べて就寝した。

次の日は、90階層まできた。

宿屋の女将が言っていた通り、レッドドラゴンの巣があった。

15匹くらいのレッドドラゴンに囲まれて、京楽はブレスを防ぐシールドを張った。

「平子、行ってこい」

「おや、俺に譲ってくれるんか。おおきにな」

そう言って、平子は真っ白な羽毛をもつドラゴンになると、レッドドラゴンを食いちぎっては投げた。

「まずい。こっちの世界でもレッドドラゴンの味はかわらんのやな」

「平子君、これって共食いになるんじゃ・・・・・・」

「食っとらへんわ。トドメさすのに、首にかみついただけやで」

「ドラゴンの血が流れてる。勿体ないから集めよう」

浮竹は、自分の血を操る要領で、ドラゴンたつが流した血を透明な巨大な瓶に入れると、封をしてアイテムポケットにしまった。

京楽が、ドラゴンの体をアイテムポケットにしまっていく。

「ドラゴン、そういえば素材になるねんあ」

「爪も牙も鱗も血も肉も目玉も骨も、何もかも素材になるからな。金銭に変えるには、一番てっとり早い」

こうして、一向はレッドドラゴンの巣を壊滅させて、財宝の間にきた。

ドラゴンの素材で作られた、高そうな武器防具が置いてあった。

「なんだ、また魔法書はないのか。つまらん」

浮竹の目がきらりと光った。

財宝の間の奥の奥に、宝箱があったのだ。

「宝箱だ!」

「だから、ミミックだってば!」

「暗いよ~狭いよ~怖いよ~息苦しいよ~」

「だから、言わんこっちゃない・・・・・・」

救出しようとした京楽は、浮竹が血を流しているのにびっくりして、ミミックから救出する前にミミックを倒してしまった。

「人食いミミックやな。古代の遺跡とかで稀に出てくるミミックや」

「浮竹、怪我は?」

「かじられたところからちょっと血が出たくらいだ」

傷は、高い自己再生能力で、すぐに塞がった。

「魔法書の代わりに、古代の魔法の石板か・・・・・」

浮竹は魔法関係のコレクターでもあるので、古代の魔法の石板を、自分のアイテムポケットに入れた。

「ちょっと待って。さっきの石板、よく見せてぇな」

「ほら」

平子にそれを渡すと、平子はわなわなと震えた。

「これはあかん。人の手に触れたらあかんことが書かれてる石板の欠片や。粉々にしてええか?」

「別にいいが」

「これは、人が神になるための方法を記した古文書のある場所を示した石板の欠片や」

そう言って、平子は古代の魔法の石板を粉々にした。

「人の手に渡ってはいかんものや。普通の人間でも、神になれてしまう」

「そんな大層な代物が、なんでこんなS級ダンジョンになんてあるんだろうね?」

京楽の質問に、全くだと平子は頷いた。

「こんな石板の欠片、冒険者が出入りする場所に置くもんやないで。ここのダンジョンマスターは、ひねくれとるんやろな」

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター32-2

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「ああ、兄様の料理、思い出すだけで心臓が止まりそう」

後日、回復したブラッディ・ネイは二度と実兄の料理を口にしないと決めた。

それは白哉も恋次もルキアも一護も冬獅郎も、全員そうだった。

「浮竹の料理の腕が、あれほど壊滅的だとは・・・・・」

「白哉さん、3日間寝こんでましたからね」

恋次の言葉に、ルキアも顔を青くしながら頷いた。

「浮竹殿の手料理は今後一切口にしないようにしよう。ちなみに一護は1週間寝こんだ」

「ルキア、それ言うな」

「軟弱だな。俺は2日だけだ」

「それ、自慢になってねーぞ、冬獅郎」

浮竹は、自分の手料理のせいで皆が倒れたことを知らずに、古城に戻っていった。

ちなみに、浮竹の作った海鮮パスタを穴に埋めたところ、穴からマンドレイクが生えてきて、ちょっとした騒ぎになった。

「マンドレイクを、毎度生きたままぶちこむそうだよ、兄様。マンドレイクは主に錬金術の材料で、食べるには向かないのにね」

「浮竹殿は、錬金術で料理を作っているらしい」

「だから、あんなに壊滅的なのか・・・・」

みんな、頷きあった。

ちなみにいつも被害にあっている京楽は、3時間で目を覚ました。

目覚めるまで個体差があるようで、一番長かったのは一護の1週間だった。

ブラッディ・ネイは8千年間浮竹の妹であったが、実の兄が料理している姿を見たことがなかった。いつも戦闘人形を出し、それに調理させていた。

「兄様の欠点を見つけてしまった・・・・・」

ブラッディ・ネイは、もう倒れるのはこりごりだが、愛しい兄の弱点を見つけて、一人ニマニマするのであった。

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「浮竹、そこでマンドレイクを入れようとしない!」

「だって、京楽、スープにはマンドレイクが必須だろう」

「必須じゃないから!マンドレイクを入れずに、煮込み続けてごらん」

浮竹は、京楽の言う通りに調理をした。

それを、京楽は恐る恐る口にした。

そして、倒れた。

「隠し味にドラゴンの血をぶちこんだんのだが、だめだったか?」

「だめに決まってるでしょ!ドラゴンの血は錬金術の材料であって、料理に放りこむものじゃないからね!?」

「だが、俺の料理は錬金術だぞ!」

「料理と錬金術を一緒にしない!」

「京楽がいじめるーーーー」

そう言って、浮竹は東洋の浮竹の元に逃げてしまった。

(どうしたんだ、西洋の俺)

突然現れた、泣いている西洋の浮竹に、東洋の浮竹はその頭を撫でながら、事情を聞いた。

(そうか。手料理がうまくなればいいのにな?)

「こっちの京楽は、うまいといって食べてくれたのに」

(春水はゲテモノ好きだからね)

「俺の料理はゲテモノなのだろうか・・・・」

(うーん、迷うところだなぁ)

「あ、こんなところにいた浮竹、帰るよ!」

「京楽にいじめられるー」

(こら、西洋の京楽。西洋の俺をいじめちゃだめだ)

「いじめてない、いじめない。料理の指導をしてただけだよ」

(でも、向こうの俺は泣いていたぞ?)

「浮竹、泣いてたの?」

「泣いてなんかない!」

そう言いつつも、ぽたりぽたりと、地面に雫が落ちた。

「ごめん、もっと優しく指導するから、泣かないで」

「マンドレイクを」

「ん?」

「生きたままのマンドレイクをまるかじりして食べたら、許してやる」

「ええええ!それ、ちょっとハードル高すぎない?」

「じゅあ、マンドレイク5体にするか?」

「1体で十分です」

「ああ、東洋の俺。浄化のお札をありがとう。おかげで、ネクロマンサーとアンデットの大軍をやっつけれた」

「わあ、役に立ったんだ!嬉しいなぁ」

「凄く役に立ったぞ。お札がなかったら、苦戦していたかもしれない」

西洋の浮竹は、東洋の自分の頭を撫でた。

(こそばゆい)

それに、東洋の浮竹が照れて、顔を赤くする。

(何してるの、3人で)

そこに、東洋の京楽が現れた。

雑居ビルの部屋は、4人で狭くなっていた。

いろいろ事情を話すと、東洋の京楽は西洋の自分を指さした。

(キミが悪い。愛しい伴侶の料理くらい、食べて平気でいるべきだ)

「でもねぇ、自動的に気絶するんだよ!?」

(西洋の浮竹は、マンドレイクを料理にぶちこまないこと。いいね?)

「分かった・・・・・」

「ちょっと、僕の言葉は聞かないのに、こっちの僕のいうことは聞くの?」

「こっちの京楽は、嘘をつかないから」

「僕も嘘はつかないよ?」

「この前、美味しいといって食べた料理、影で毒消しのポーションと胃腸薬飲んでただろ」

「ぎくっ」

「やっぱり、マンドレイク5体まるかじりコースだな」

「簡便してよお」

そんな二人に、東洋の二人も笑うのだった。

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結局、なんとか言いくるめて、マンドレイク丸かじりではなく、マンドレイクのスープにしてもらった。

とりあえず、マンドレイクをそのままぶちこまれそうになったので、刻むようにお願いしておいたら、いつもはマンドレイクをそのままぶちこむ浮竹も折れて、マンドレイクを一口サイズに刻んでくれた。

マンドレイクは刻まれる度に叫んでいて、かなりグロッキーな構図だった。

「うん・・・味は、いつもよりましだね」

マンドレイクだけを煮込んだスープは、ほんのりとした塩コショウの味しかしなかった。

「く、これでは罰にならない」

「罰!?僕、そこまで酷いことした!?」

「まぁいい。風呂に入ろう」

「え、なんでいきなり?」

「仲直りしよう」

「ああ、うん」

お風呂に入り、お互いの体と髪を洗って、風呂場からあがると京楽は浮竹の髪の水分を拭き取った。

ベッドの上で、浮竹は裸になり、足を広げて浮竹を誘った。

「来い、春水」

「十四郎・・・・・」

京楽は、その白い肌の至るところに、キスマークの赤い花びらを散らせていった。

「あ!」

浮竹の感じる部分を重点的に攻めていった。

胸の先端を口に含まれて、浮竹は顔を隠した。

「十四郎、感じてる顔、ちゃんと見せて?」

「嫌だ」

「そんなこと言わないで」

「あっ」

浮竹のものに手を這わすと、ピクリと浮竹の体がはねた。

「ああ!」

京楽の口の中で、浮竹のものはどんどん硬くなっていった。

「ひあ!」

欲望を、浮竹の口の中に放っていた。

「十四郎、愛してるよ」

「あ、春水、春水」

浮竹の欲望を飲みこみながら、浮竹の唇を奪った。

「んんっ」

舌に舌を絡ませあいながら、口づけを続ける。

燃え滾るように昂った京楽の熱をみて、浮竹は唇を舐めた。

「京楽のこれが欲しい」

「今あげるからね」

まずはローションを人肌の温度にまで温めて、浮竹の蕾を解していく。

ぐちゃぐちゃと音を立てて、3本を余裕で飲みこむようになったら引き抜いて、京楽は一気に浮を引き裂いた。

「あああ!!!」

「んっ、出すよ。中で受け止めてね」

「んあああ!」

浮竹の中の浅い部分に精液を放った。

それを塗り込むように、奥へ奥へと侵入する。

「あ・・・・・・」

結腸の入り口をとんとんとノックされて、浮竹はオーガズムでいっていた。

「やああああ!」

「血をすうよ?」

「やあ、だめぇ、いってるからぁ!」

京楽は、浮竹の太ももの内側に噛みついて、吸血した。

「あああ!」

吸血による凄まじい快感を感じながら、京楽のものを締め付けた。

「んっ、僕も君の中で出すよ?受け取ってね?」

「ああーーーーー!!」

京楽は浮竹の最奥で精を放った。

同時に、浮竹もまたシーツの上に欲望をぱたぱたと零していた。

「ん・・・・・」

引き抜かれていく感触に、浮竹が首を振る。

「まだ、繋がっていたい」

「でも、かき出さないと」

「いいから!」

二人は、繋がったまま眠った。

朝起きると、隣に京楽はいなくて、後処理をされて体は綺麗に拭われており、バスローブを着せられていた。

「京楽・・・・」

「ああ、起きた?」

「何をしているんだ?」

「君の手料理を真似て、マンドレイクのスープを作ってみたんだ」

鍋の底には、真っ赤に茹でられたマンドレイクが3体、刻んでいれられていた。

「マンドレイクは隠し味だぞ?」

「まあ、そう言わずに食べてみて?」

恐る恐る口にすると、ほのかな甘みを感じた。

「うまい・・・・・」

「そうでしょ?一晩水につけて、独特の渋みを取り去っておいたんだ。この方法のマンドレイクなら、隠し味にしても、大丈夫でしょ?」

「いや、だめだ」

「なんで!?」

「マンドレイクは生のまま、ぶちこむのがいいんだ」

結局、浮竹の料理に生きたマンドレイクをそのままぶちこむ癖は、治らないのであった。

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「何故だ!何故、私の子ではだめなのだ!」

藍染は、死んだルクレチアを悼むのではなく、怒っていた。

「魔人ユーハバッハの血が足りないのか・・・・いっそ、魔人ユーハバッハの封印を解くか?」

そんなことをすれば、この世界が滅ぶことなど、藍染も承知していた。

「私は神だ。神である私を崇めぬものはいらない」

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異界サーラで、眠っていた星の精霊ドラゴン、平子真子は目覚めた。

「なんや。誰かが、俺を呼んどる」

歌声のするほうに、平子は歩いていった。

純白の羽毛に覆われたドラゴンの姿をしていた。

「おまえが、星の精霊ドラゴン、平子真子か?」

「そやけど、あんたは誰や。いやあんたは・・・浮竹か?」

姿形も、魔力すらもそっくりであった。

「俺は、浮竹十四郎の残滓。創造神ルシエードが、このサーラの世界で作り上げた浮竹十四郎。本物の浮竹十四郎と会いたい。この世界サーラと、始祖ヴァンパイアの浮竹がいるアビスの世界を繋げた。さぁ、共に行こう。アビスの世界へ」

「でも、あんた人間やろ?」

「でも、浮竹十四郎だ」

「アビスの浮竹は俺の友人やで。その存在を傷つけるなら、俺は許さんで」

「一つになるだけだ」

「まぁいい。アビスの世界に運んでやろやないか。そこで、本物の浮竹にボコボコにされるとええわ」

「俺は残滓。浮竹の一部」

サーラの世界と、アビスの世界は繋がった。

神々が降りていく。

サーラの世界から、アビスの世界へ。

星の精霊ドラゴンもまた、神であった。



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始祖なる者、ヴァンパイアマスター32

藍染に突然呼ばれ、犯された魔女の女は、孕んで僅か10日で臨月を迎え、子を出産した。

男児であった。

ルクレチアと名付けられた。

「ああ、愛しいルクレチア。お前のお陰で、母さんは故郷に戻れるのよ」

藍染の寵姫は、皆、美しいからと故郷から無理やりつれてこられた、ある意味の人質でもあった。

ルクレチアの母は、故郷である魔女の里に帰された。

ルクレチアは、僅か半月で16歳くらいの見た目まで成長した。

ルクレチアに与えた魔人ユーハバッハの血は、ルクエレチアをネクロマンサーにした。

ルクレチアには言葉を理解する知能はあったが、自由意思はもたせなかった。

自我はあったが、藍染の言いなりになるように作られた。

「さぁいけ、私のかわいい息子よ。そのネクロマンサーの力で、血の帝国を荒らし、始祖とその血族京楽を引き付けて、封印するのだ!」

「はい、お父様」

もう、ラニとレニのような失敗は繰り返さない。

そう藍染は心に決めて、息子を成長促進の魔法を使って育てた。

「このネクロマンサーの力で、血の帝国をアンデットで満たして、必ずや始祖浮竹とその血族京楽を封印してみせます」

「いい子だ、ルクレチア」

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血の帝国中で、死んだはずのヴァンパイアがアンデット化して、復活する事件が相次いでいた。

藍染の気配を感じたブラッディ・ネイは、すぐに実の兄である浮竹に知らせて、助力をこうた。

「アンデットが出ているだって?」

「そうなんだ、兄様。中には、村一つを滅ぼすアンデットの群れが確認された。ネクロマンサーの存在が確認されたけど、藍染の匂いがするんだ。あと、魔人ユーハバッハの血の匂いもした」

「藍染の子か何かか」

「多分、そう思う。でも、すでにネクロマンサーで死者だ。騎士団を向かわせたけど、みんな瘴気にやられて倒れてしまった」

ブラッディ・ネイは精鋭の騎士団を失って、今ピンチに陥っていた。

「だから、俺と京楽の出番というわけか」

「毎回毎回、藍染もこりないねぇ」

「ラニとレニの件はまだボクも怒っているんだよ、兄様」

「あの件はすまなかったと思っている」

娘にした藍染の双子の娘ラニとレニは、藍染と通じていた。

浮竹は一度刺され、心臓に魔人ユーハバッハの血液が凝固した宝石を砕かれて入れられて、浮竹そのものに魔人ユーハバッハの意識を宿した。

8人の精霊王たちのお陰でなんとかなったが、もしも精霊王と契約していなかったら、今頃好きなように体をユーハバッハに使われていただろう。

そして、それを誰かに封印されていたに違いない。

「もう、同じ過ちは繰り返さない。東洋の俺から、邪気を払うお札ももらったしな。藍染の手の者にも効くそうだ」

「ああ、浄化のお札だね」

それを聞いて、ブラッディ・ネイが微笑んだ。

「なんだ、浄化のお札。そんなものがあるなら、今回のアンデット事件は兄様に任せていいよね?」

「念のため、白哉、恋次君、ルキア君、一護君、冬獅郎君を借りていく。アンデットはいろんなところに沸いているんだろう?」

「それがね、一直線なんだ。この宮殿に向かって、進んでいる」

「ブラッディ・ネイ、お前を狙っているのか?」

浮竹は、ブラッディ・ネイを見た。

ブラッディ・ネイは首を横に振った。

「分からない。もしそうなら、すでにこの宮殿を襲っているはすだよ」

「多分、僕らをおびき寄せるためじゃないかな」

京楽の言葉に、浮竹は頷いた。

「ブラッディ・ネイ。帝都を封鎖しろ」

「うん。もう準備は整ってるし、侵攻されそうな地域の民の避難も済ませてる」

「ブラッディ・ネイにしてはうまくやってるね」

「余計なお世話だよ、ひげもじゃ」

こうして、浮竹と京楽は、白哉、恋次、ルキア、一護、冬獅郎たちと共に、アンデットの群れと対峙するのであった。

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アンデットは、たいていがスケルトンだったが、グールやゾンビもいた。

下位の低級アンデットの群れではあるが、数が数だけに、帝国の騎士団が瘴気に飲まれて倒れるのが分かるほど、空気が淀んで濁っていた。

「神の息吹を。ゴッドブレス!」

ルキアが、瘴気を祓う魔法を唱えてくれた。

「いくぜ、うおおおお!」

恋次は竜化して、炎のドラゴンブレスで敵を焼き払う。

白哉は避難していない者がいないか確かめていた。

ルキアは常に清浄な空気を維持するのに手いっぱいで、その守りは一護と冬獅郎に任せていた。

「お札・・・・始めて使うが、効いてくれよ」

浮竹が手にしたお札は、邪気を払い浄化の力のある護符だった。東洋の浮竹からもらったものだった。

光が満ちた。

お札の光を浴びたアンデットの軍団が、ボロボロと灰となっていく。

「効いてるね!今だよ!」

恋次が、ドラゴンブレスで、アンデットの軍隊の中央にいたボスであろうネクロマンサーを攻撃した。

「笑止!この程度の炎で焼かれる俺ではない。俺の名はルクレチア。藍染様の息子にして、お前たちを屠る者だ!」

ルクレチアは、ネクロマンサーであると同時に、すでに死者であった。

「浄化の札か。厄介な・・・・・・」

浮竹は、真っ赤なヴァンパイアの翼を広げて、お札でアンデットの軍隊を少しずつ小さくしていいく。

長く行列ができていたアンデットたちは、今は丸い円形に追い込まれていた。

「京楽、チェンジだ。お札をもって、更にアンデットを消してくれ」

「分かったよ」

浮竹が、京楽にお札を渡し、今度は京楽が浄化の護符でアンデットを葬っていった。

「おのれ、始祖浮竹!その血族京楽め!」

ネクロマンサーは、呪いの言霊を吐くが、それは反射された。

「まぶしい・・・・」

お札の効果で、それまでネクロマンサーの体を守っていた瘴気が、消えた。

「いけ、フェニックス!」

浮竹は炎の最高位精霊フェニックスを呼ぶと、ネクロマンサーを攻撃した。

「はははは!俺に炎は効かぬ!魔人ユーハバッハの血を注がれた俺に、魔法など効かぬ!

だが、かすかにルクレチアの顔に罅が入った。

「これしきの傷!」

瘴気を生み出し、ルクレチアは傷を癒してしまった。

「いけ、不死の軍団たちよ!」

だが、ルクレチアの操るアンデットたちは、次々と灰になっていく。

「ええい、浄化の札など、こうしてくれる!」

瘴気を、浄化の札にあてた。

浄化の札は、その瘴気も浄化した。

「くそ、くそおおお!!」

ルクレチアは、悔しそうに叫んで、自分の血をアンデットたちに与えた。

「これで、我が軍はそのような札など、効かぬ!」

「そうか?じゃあこれならどうだ!」

浮竹は、浄化の札を中心にして、またもや炎の最高位精霊フェニックスを召還すると、その破壊と再生の炎に、浄化の炎が足されて、アンデットたちを燃やしていった。

「そんなばかな!」

ルクレチアを覆っていた瘴気が、取り払われる。

「いけ、京楽!」

「おおおお!!」

ミスリル銀の魔剣に、聖属性を付与させて、京楽はルクレチアを袈裟懸けに斬った。

ぶわりと濃い瘴気にあてられて、京楽が怯む。

「おのれ、おのれ!!!」

傷口を再生させながら、ルクレチアは、また瘴気に潜んだ。

いつの間にか、アンデットの群れは消えていた。

ルクレチアが吸収したのだ。

浮竹は、手元に戻ってきたお札で、再び瘴気を祓う。

「ぬおおおおおおお」

ルクレチアは吠えた。

その血が溢れるたびに、地面から強化されたアンデットが這い出してきた。

「どうやら、お札の効果も魔人ユーハバッハには決定的には効かないようだね」

「でも、弱らせることには成功している!」

強化されたアンデットたちは、白哉、恋次、ルキア、一護、冬獅郎でなんとかしてくれていた。

「俺たちは、とにかくあの親玉を叩こう!」

「分かったよ!」

浮竹と京楽は、互いの魔力を練り、うねらせて、槍の形を形成した。

それに、お札の効果をエンチャントする。

更に、フェニックスの炎を纏わせて、その上からもお札の効果をエンチャントした。

二重のお札の効果と、破壊と再生を司る精霊の炎と、純粋な魔力槍が、ルクレチアめがけて射出された。

まずはお札の効果で、瘴気を祓い、次の炎で肉体を焼き、更にお札の効果でに腐肉を更に焼いて、露出した心臓部のコアめがけて、純粋な魔力の槍が貫いた。

「おおおおお!!」

「うおおおおお!!」

浮竹と京楽は、純粋な魔力の槍に更に魔力をこめた。

「藍染様・・・・父様、俺は・・・・・・」

どさりと、ルクレチアは倒れた。

「俺は・・・・あなたに、愛され・・・たかった・・・・・」

ボロボロと灰となっていくルクレチアを、浮竹と京楽が哀しそうに見ていた。

「今度生まれ変わってきたら、世界を自由に羽ばたく鳥になるといい」

そう言って、浮竹は鳥の形をした式神を、崩れていくルクレチアの傍に置いた。

「鳥に・・・・俺は、鳥になる・・・・」

ボロボロと崩れていくルクレチアの体からかけたコアの一部が式に宿り、式は意思をもった小鳥となって青空に羽ばたいていった。

「いいの、浮竹。コアの一部を宿らせちゃったよ」

「大丈夫だ。あの式は、お札で清めておいたから、邪悪な存在だと宿れない」

「あのネクロマンサーの子は、元々はネクロマンサーじゃなかったんだね」

「きっと、藍染の息子として生まれてきて、魔人ユーハバッハの血のせいで、ネクロマンサーになったんだろう」

「無事ですか、浮竹殿、京楽殿!」

心配してかけつけてきたルキアに、京楽がその場に座りこんだ。

「ごめん、ルキアちゃん、魔力回復の魔法をかけて。浮竹と魔力を練り合わせて槍を作ったけど、ごっそり魔力をもっていかれて、魔力切れだよ」

「あの程度で音をあげるなど、情けないぞ京楽」

「そうは言ってもねぇ。君の体に精霊神が入った後で、君は爆発的に魔力をあげた。あいにく、こっちはそこまで魔力はないよ。君の3分の1くらいだ」

「前は2分の1といっていただろう」

「それだけ、君が強くなたってことさ」

ルキアから魔力回復の魔法を受けながら、飛び立っていった鳥が大空を旋回し、青い羽毛が降ってきた。

「おやすみ、ルクレチア。いい夢を」

青い小鳥となり、世界へ自由に羽ばたいていくルクレチアを、皆見上げていた。

-------------------------------------------------------------------------------


「今日は、皆に勝利を祝して、俺の手料理を振舞ってやる」

「ええ、浮竹殿の手料理ですか!?」

ルキアが顔を輝かせた。

「お前、料理なんてできたのか?」

「こら、冬獅郎、失礼だろうが!浮竹さん、うちの冬獅郎がすみません」

「京楽?」

浮竹は、京楽の名を呼んだ。

「一番に、お前に食べてほしいんだが」

「ブラッディ・ネイ!乱菊ちゃんの毒消しポーションとかある!?」

「あるが、それがどうかしたの?」

「みんなの分を用意しといて。あと胃腸薬も」

「兄様の手料理くらいで、大げさな・・・・・」


「今日は、海鮮パスタにしてみた」

その物体を見た、皆が顔を青くした。

パスタが青くてビチビチはねていた。

海鮮というが、貝はどす黒く、エビはショッキングピンクだった。

「た、食べてみないと味は分からないからな」

そう言って恋次は一口食べて、倒れた。

白哉もルキアも一護も冬獅郎も、みんな食べて倒れた。

「あれ、おかしいなぁ。マンドレイクぶちこんで、他にもいろいろぶち込んで茹でただけなんさが」

浮竹は、自分で味見してみた。

「うん、うまい。ブラッディ・ネイもどうだ?」

「に、兄様の手料理なら喜んで!」

青い顔をしながら、ブラッディ・ネイは一口食べて泡をふいた。

「きゃああ、ブラッディ・ネイ様が!」

「しっかりして!」

寵姫たちが、慌ただしく医者を呼んできた。

医者は、みんなの容態を見て、次に浮竹の手料理を見た。

「これはなんとも・・・・」

一応、浮竹はブラッディ・ネイの実の兄なので、皇族ということになっている。

不敬なことは言えなくて、困っているところに京楽がかけつけてきた。

「あああ、またやってる!」

「京楽、皆が俺の料理を口にして、倒れたんだ。どこかで毒でも盛られていたのだろうか?」

君の料理のせいだとは言えなくて、京楽は言葉を濁す。

「ああ、医者がきてたの。みんなにこのポーションと胃腸薬を飲ませて」

城に備蓄されていた、乱菊の薬をもって、かけつけてきたのだ。

医者は、それらを皆に飲ませたが、味のショックからか、皆はまだ倒れてうーんうーんとうなっていた。

「京楽なら、俺の手料理、残さず食ってくれるよな?」

キラキラした期待の眼差しで見られて、京楽は覚悟を決めて浮竹の海鮮パスタを口にした。

かっと目を見開いた。

その姿のまま、京楽は気絶していた。

この件があり、浮竹は宮殿のキッチンに出入り禁止の令を、ブラッディ・ネイに受けることになるのだった。


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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝

西洋の浮竹と京楽は、東洋の浮竹と京楽の元に遊びに来ていた。

「遊園地にいきたい。このパンフレットに書いてある、ジェットコースタートやらに乗りたい」

そう、西洋の浮竹は言い出した。

「ごめんね。浮竹ってば、遊園地に行きたいとって聞かなくてね」

(お、今回は貸し切りじゃないのか?)

(いつもほいほい貸し切りにしてたら、お金がもたないよ)

(それもそうだな)

「いや、貸し切りにしようかと思って交渉してみたが、駄目だった。他のお客さんがいっぱいくるからと言われた」

しょぼんと落ち込む西洋の浮竹に、東洋の浮竹はその頭を撫でた。

いつもとは正反対であった。

(人がいっぱいいて賑わっている遊園地もきっと楽しいぞ)

「そうか?そうだな。人で賑わっている中ではしゃぐのも楽しいかもな」

西洋の浮竹はすぐに調子を取り戻して、4人分のお弁当をそれぞれ西洋と東洋の京楽が作って、出発となった。

電車で揺られること1時間。

目的の遊園地についた。

人がたくさんいた。

「あ、あったあれだ!東洋の俺、並ぼう!」

西洋の浮竹が、ジェットコースターを指さした。東洋の浮竹の手を握り、列に並んだ。

平日なので、まだ人ごみは少ないほうであった。

ジェットコースターの列に並んで、西洋の浮竹はわくわくしていた。東洋の浮竹も、ドキドキしてきた。

やがて順番がきて、ジェットコースターに乗りこんだ。

「うわああああああ」

(わああああああ)

両方の浮竹は、その勢いに叫び声をあげていた。

「落ちる、落ちる!」

(大丈夫だ。ちゃんと落ちないようになっている)

「のわああああああああ」

西洋の浮竹は、悲鳴をあげながらも楽しんでいた。

東洋の浮竹も楽しんでいた。

ただ、西洋と東洋の京楽は青い顔をしていた。

「ぎゃあああああ」

(うわわわ)

ジェットコースターから降りる頃には、西洋と東洋の京楽はぐったりとなっていた。

「京楽、お前たちはああいうの苦手なのか」

「高いところは別に平気だよ。でもあのスピードでぐるぐる回られたら、気分が悪くなる」

(ボクは、純粋に高いところがだめだよ)

「なら、無理して付き合ってくれなくてもよかったんだぞ?」

(そうだぞ、春水)

(君を一人で行かせれないからね)

「右に同じく」

しばらく休憩してから、4人はミラーハウスに入り、鏡にぶつかったりしながら、クリアした。

「あれ、これも鏡か。こっちも鏡・・・えええい、ライトニング・・・ムガーー」

魔法をぶっぱしそうになった西洋の浮竹を、西洋の京楽が口を封じてなんとか凌いだ。

「こっちの世界で魔法は禁止だよ」

「すまん。つい癖で魔法を使いそうになる」

(魔法はだめだぞ、西洋の俺)

「ああ、分かった」

(物わかりが早くて助かるね)

絶叫ものは避けて、メリーゴーランドやコーヒーカップに乗った。

ちなみに、西洋の浮竹はコーヒーカップを回し過ぎて、目を回していた。

「あああ・・・・星が回ってる」

「あんなにコーヒーカップを回すからだよ」

(ちょうどいいし、お昼休憩にしようか)

4人は休憩所でお昼を食べることにした。

「うまいな。京楽たちの作った弁当だけあって、おいしい」

(うん、おいしいな)

サンドイッチを中心に、卵焼き、焼いたしゃけ、ウィンナー、ポテトサラダ、カレーコロッケ、唐揚げが入っていた。

「口に合うならよかったよ」

(ウィンナーはたこさんにしておいたよ。ああ、十四郎ほっぺについてる)

東洋の京楽は、東洋の浮竹のほっぺたについていた米粒をとって、自分で食べてしまった。

それに、東洋の浮竹は真っ赤になっていた。

それを見た西洋の京楽は、わざと自分のほっぺたにご飯粒をつけた。

「京楽、ついてるぞ」

そう言って、ハンカチで思い切りごしごしふかれて、西洋の浮竹はちょっとがっかりしていた。

「ああ、僕の浮竹はやっぱり浮竹だね」

「何を言っている」

ポテトサラダを頬張って、西洋の浮竹は西洋の京楽の顔をのぞきこんだ。

「顔が赤いな。熱でもあるのか?」

額と額をくっつけられて、西洋の京楽は嬉しそうにしていた。

「熱もないし、それだけ元気そうなら大丈夫だな、次はお化けや屋敷に行こう」

昼食を食べ終えた4人は、お化け屋敷の列に並んだ。

お化け屋敷は大がかりの仕掛けがしてあったが、妖である東洋の浮竹と京楽は平気そうで、西洋の浮竹と京楽も、モンスターのいるような世界に住んでいるせいで、平気だった。

「本物の幽霊でも出てこないと、怖くないな。まぁ、本物の幽霊が出ても成仏させるだけだが」

「幽霊なんか出てきたら困るよ。成仏させるのに時間かかりそう」

西洋の浮竹と京楽は、そんなことを言っていた。

(妖怪に慣れているせいか、ちっとも怖くなかった。でも、それなりに面白かった)

(お化け屋敷から幽霊が定番だろうけど、その幽霊を生身の人間がしてるんじゃねぇ)

東洋の浮竹と京楽は、怖くはないが、それなりに楽しんでいるようだった。

お化け屋敷の外は人込みに紛れており、西洋の浮竹は西洋の京楽を探した。

「おい、そっちに京楽はいなかったか?」

(いや、見てないぞ)

(僕も見てないね)

「まさか、迷子?」

3人は、西洋の京楽を探したが、一向に見つからなかった。

「仕方ない、迷子のお知らせしてもらおう」

(それってけっこう恥ずかしいような)

(確かに恥ずかしいね)

「俺のところの京楽は、こっちの世界には慣れていないからな。迷子のお知らせをしてもらったほうが早く見つかる」

西洋の浮竹は、西洋の京楽の恥ずかしさなど知ったことではないと、迷子センターに向かった。



その頃西洋の京楽はというと、西洋の浮竹と東洋の浮竹と京楽を見失ってしまい、一人途方にくれていた。

「どうしよう」

きょろきょろと3人の姿を探すが、完全にはぐれてしまった。

魔力で探知しようにも、人が多すぎて無理だった。


その頃。

西洋の浮竹と、東洋の浮竹と京楽は迷子センターに来ていた。

「ここにもいない。呼び出してもらおう」

ピンポンパーン。

音がした。

「迷子のお知らせです。西洋の京楽様、迷子になられているので、お連れの方が迷子センターにまで来ています。どうぞ、迷子センターにおこしください」

場内アナウンスで迷子だと言われて、西洋の京楽は火が出るほど恥ずかしくなった。

穴があったら入りたいとは、このことだろうか。

道を歩いている人に尋ねて、迷子センターの場所を教えてもらうと、西洋の浮竹は駆け足で急いだ。

「迷子のお知らせです。西洋の京楽様を探しています。年齢は・・・」

「ああもう、そんな放送しないで!」

真っ赤になりながら、西洋の京楽は迷子センターにまでやってきた。

「京楽、探したんだぞ」

(よかった、見つかって)

(迷子の放送をされた気分はどうだい?)

「穴があったら入りたいほどに恥ずかしい」

そんな西洋の京楽に、3人とも笑って、見つかってよかったと安堵した。

遊園地を一通り回って、最後に観覧車に乗ることにした。

「東洋の京楽は、高いところがだめなのだろう?待っているか?」

(ううん、十四郎と一緒に乗るよ)

「そうか。じゃあ俺は京楽と一緒に乗ろう。なんでも、一番てっぺんでキスすると、永遠の恋人同士になれるそうだぞ」

「何そのジンクス。早く乗ろう!」

西洋の京楽は、西洋の浮竹の手をとって観覧車に乗った。

その次の観覧車に、東洋の浮竹と京楽が乗り込んだ。


てっぺんにまでくると、西洋の京楽は西洋の浮竹にディープキスをかましていた。

「んんっ」

牙を伸ばされて、吸血までされた。

「んあっ」

何処からかハリセンを取り出すと、それで西洋の京楽の頭を殴った。

「盛るな!」

「ええ、でもてっぺんですると結ばれるんでしょう?もう結ばれてるけど」

西洋の浮竹は赤くなって、何度もスパンスパンと西洋の京楽の頭を殴るのであった。

一方、東洋の浮竹と京楽は、てっぺんにくると、まずその景色を楽しんだ。

それから、啄むような優しいキスを、東洋の京楽は東洋の浮竹に与えた。

(こんなことしなくても、ボクたちは永遠の恋人同士だけどね)

(春水、恥ずかしいからそのへんで止めてくれ)

東洋の浮竹は、真っ赤になって、でも東洋の京楽の胸の中にいるのだった。


「どうだった?こっちは盛ってきたから、成敗した」

「グスン」

ハリセンで叩かれたようで、西洋の京楽は自分の頭を撫でていた。

「浮竹ってば酷いんだよ。ちょっとディープキスして吸血したくらいで・・・・」

「ばか、それは夜の誘いになるって知っててやったんだろうが!」

「えへへへ」

「えへへじゃない」

スパーン。

西洋の京楽は、また西洋の浮竹にハリセンでしばかれていた。


(ボクたちは、普通だったよ。てっぺんでキスはしたけど)

(わーわー!春水、ばらすな!)

(別にいいじゃない。向こうはもっとすごいことになってたみたいだし)

「うん、凄かった。乱れてる浮竹って、色っぽくて・・・」

「京楽、一度灰になるか?」

ゴゴゴゴと、怒った西洋の浮竹に謝りまくって、西洋の京楽はなんとか許してもらった。

夕方になり、遊園地のレストラン夕食をとった。

値段は少し高かったが、そこそこのおいしさだった。

(この後、7時から花火があがるんだ)

「花火!」

西洋の浮竹には、かなり無縁の代物で、花火大会やら普通の家庭でする花火も好きだった。

「浮竹ってば、花火が大好きだからね」

(そうなのか、西洋の俺)

「ああ。あの花のように色鮮やかに咲いて、すぐに散ってしまう風情が好きだ」

(じゃあ、特等席用意しないとね)

東洋の京楽の言葉に、皆頷いた。

ひゅるるるるぱぁあぁん。

ひゅるるるぱああぁあん。

打ちあげられていく花火を、建物の屋上から見ていた。

「綺麗だな・・・・」

「うん、綺麗だね」

(僕の十四郎には負けるけどね)

(こら春水、今は花火を楽しめ!)

(ちゃんと楽しんでるよ?)

(じゃあなんで俺の顔ばっか見ている)

(キミの瞳に映った花火を、見ているの)

「熱いな」

「わあ、熱いなぁ」

西洋の浮竹と京楽は、純粋に花火を見上げて楽しみながら、東洋の二人の邪魔はすまいと、少し離れた。

花火は15分ほど続き、終わってしまった。

「帰ろうか。最後のいいものが見れた。花火を目にするのは数年ぶりだ」

「付き合ってくれてありがとうね、東洋の僕と浮竹」

(いや、こっちこそありがとう。おかげですごく楽しかった)

(うん。こんな一日も悪くないね)

4人は、満足して雑居ビルまで戻った。

ちなみに帰りは、西洋の浮竹もちでタクシーだった。

何気に一万円札を渡し、釣りはいらないと言った。

(今度、外で花大会しようか)

「家庭用の、花火か?」

(うん)

「いいな、それ。俺も混ざってもいいか?」

(もちろんだよ。むしろは花火が好きって君のためにやるんだから、是非参加して)

西洋の浮竹は、ほろりとなって、東洋の自分の頭を撫でた。

「東洋の俺はいいやつだな。いや、そんなこと最初から分かってたけど」

「えへへへ」

撫でられて、褒められて、東洋の浮竹は恥ずかしそうにしていた。

「おっと、もうこんな時間だ。浮竹、そろそろ帰るよ」

「ええ、もうちょっといたい」

「ミミックのポチに餌あげてないでしょ」

「そうだった。あ、東洋の俺からもった金魚は元気にしているぞ。血を与えたから、元気すぎるくらいだ」

(それはよかった)

(ふあ・・・・ボク、眠くなってきちゃった)

時刻は0時をまわりそうだった。

「じゃあ、また。元気でな!」

「元気でね!」

(西洋の俺も、元気でな!)

(西洋のボクも、達者でいてよね)

そうして別れをすませて、二人は去っていった。


「ポチ、えさだぞ~~~」

「るるるるーーー」

ミミックのポチは、浮竹の上半身に噛みついた。

「暗いよ狭いよ怖いよ息苦しいよ~~~~」

「何やってるのさ、浮竹」

「ポチがあらぶってる」

ポチから浮竹を救出して、京楽はぽちの頭を撫でた。

「るるる」

がぶりと噛まれて、京楽は手をさすった。

「ほら、ポチの大好物のドラゴンステーキだぞー」

「るるっるるーーーーーーーー♪」

ポチは、浮竹の手ごとかじりついた。

でも、綺麗にドラゴンステーキだけを持って行った。

「かわいいなぁ、ポチは」

「世界中を探しても、ミミックを飼ってるのは君くらいだよ」

「何せ、ミミック教の教祖様でもあられるからな」

ポチの頭を、浮竹は撫でた。

ポチは噛みつかなかった。

「また、むこうに遊びにいこうな、京楽」

「うん。今回は手土産とかなかったから、何か作ってもっていくよ」

そんなことを話し合い、風呂に入って天蓋つきのベッドで一緒に就寝した。

夢の中で、ポチと花火をしていた。

「んーポチ、むにゃむにゃ」

東洋の浮竹と京楽もでてきた。

肝心の西洋の京楽は、なぜか水を汲んだバケツだったりするのだった。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター31後編「

「何を言ってるんだい、浮竹?」
京楽は、震え出すラニとレニを放置して、浮竹の心臓をもう一度癒した。
「計画は失敗よ、レニ。逃げましょう!」
「待って、ラニ姉さま!」
「逃がさないよ」
京楽が血の結界を作り出して、二人を閉じ込めた。
「私の名はユーハバッハ。人は私を魔人と呼ぶ。私は千年の封印を破り、この始祖ヴァンパイアの体を手に入れた!ははははは!!」
哄笑する浮竹を、信じられないような目つきで、京楽は眺めていた。
「浮竹の体を返せ!」
「もう、この体は私のもの・・・ぐっ、抗うか始祖ヴァンパイアよ」
「浮竹、負けないで!魔人ユーハバッハの血液の欠片を心臓に入れられたんだね!?ほとんどを僕の血液にしたから、ユーハバッハが居続けられるほど、血はまじっていないよ!」
「京楽・・・・ぐっ、ごほっ」
浮竹は、瞳を真紅にしたり、翠色に戻したりして、自分の中の血と戦っていた。
「京楽・・・もしも俺が、魔人ユーハバッハに完全になったら、お前が封印しろ。これをお前に預ける」
それは、黒水晶の結晶だった。
「精霊界にいき、精霊王たちを集めて、俺を封印しろ・・・・ぐっ」
浮竹は頭をかきむしった。
「私はユーハバッハだ!」
「違う、浮竹だ!」
京楽は、血を暴走させて狂暴になった。
「君の心臓が駄目だというなら、抜き取ってやる」
「な、正気か!愛する者をその手にかけるというのか!」
「ユーハバッハに渡すくらいなら!」
京楽は、本当に浮竹の心臓をくり抜いた。
「がはっ」
大きく血を吐く浮竹。
抜き取られた心臓は、赤い結晶にまみれていた。
「私の体が、私の体があああああああ!!」
倒れる浮竹を、京楽は抱きしめた。
「浮竹、戻っておいで、浮竹!」
狂暴な血の暴走は、己の体も巻き込んで、血の竜巻となった。
その様子を、ラニとレニは震えながら見ていた。
浮竹は目覚めない。
心臓は再生を始めているが、また赤い結晶を・・・ユーハバッハの血が混じっていた。
「うわあああああああ!!」
京楽は、絶望した。
何もかもが、どうでもよくなった。
浮竹以外、何もいらない。
浮竹をユーハバッハになど、渡したくはなかった。
「うわああああああ!!」
京楽の絶望に呼応して、古城に罅が入る。
「今だ、逃げようラニ!」
レニが、放心状態のラニを引っ張って、古城を抜け出す。
古城は、京楽の凄まじい魔力の衝撃を受けて、消し飛んでいた。
辺り一帯が、瓦礫にまみれる。
京楽の絶望は、深かった。
浮竹の体をユーハバッハに渡すくらいなら、いっそ一緒に休眠するか封印するか・・・・。
「一緒に行こう・・・・・」
黒い水晶の結晶が、精霊界への扉を開いてくれた。
精霊界に向かわずとも、8人の精霊王が向こう側からやってきた。
「我が友が、我が最も古き友と戦っている」
炎の精霊王はそう言った。
「封印を・・・・」
絶望の中にいる京楽が出した答えは、一緒に封印されることだった。
「待て、我が友の血族よ。ユーハバッハの器には、まだ我が友はなっていない。まだ、可能性はある」
「浮竹が元に戻ると?」
「我らに任せよ。古の封印を解く」
8人の精霊王は、合体して精霊神となった。
「我は神。我は絶対。さぁ、ヴァンパイアの子よ。始祖をこちらに・・・・・」
「浮竹を頼むよ」
精霊神は、浮竹の体に入り込み、浮竹の中から魔人の血を完全に消し去った。
「我は神。我の選択は神の意思。ヴァンパイアの子よ、汝の始祖は、汝を必要としている。いこうとするな」
死の向こう側に旅立ちそうな、京楽を精霊神が呼び止めた。
京楽は、絶望の淵にいた。
愛していた者を傷つけてしまった。
ユーハバッハになる浮竹など、見ていられなかった。
「でも、僕は浮竹を傷つけた。浮竹の血族でいる値など・・・・」
「それを決めるのは、汝ではなく、汝の主だ」
「浮竹・・・・・・」
「ん・・・・」
「浮竹!?」
「京楽・・・・俺は?封印は?」
「8人の精霊王が合体して、精錬神になってくれたんだ。その力で、君を救ってくれた。でも、僕は君を傷つけてしまった。血族を解いてくれ」
浮竹は、泣きながら京楽の頭をポカポカ殴った。
「勝手に俺の血族をやめようとするな!お前になら、殺されてもいい。それくらい愛してるんだ、京楽」
「浮竹・・・僕は、君の血族であり続けていいのかい?」
「当たり前のことを言うな!」
泣きじゃくる浮竹を抱きしめながら、京楽は浮竹の血族でいられることを、神に感謝した。
「では、我はこれで帰る」
精霊神は、8人の精霊王に戻ると、精霊界のに戻っていった。
「浮竹、守れなくてごめんね」
「ラニとレニは?」
「さぁ、どっかに行っちゃった。戻ってきたら、殺すけどね」
「ラニとレニは、短いが娘だった。許してやれ」
「君がそれを望むなら」
ラニとレニは、それ以後浮竹と京楽の元に戻ってくることはなかった。
ガイア王国の冒険者のパーティーにラニとレニによく似た、魔法使いが二人いると風の噂で聞いたが、浮竹と京楽はもう関係ないのだと、放置しておいた。
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「ラニもレニも私を裏切った!」
魔国アルカンシェルで、藍染はいらだっていた。
もう少しで、浮竹と京楽を封印にまで追いこめれたのに。
水鏡で、藍染は全てを見ていた。
「こうなったら、私がユーハバッハの血を・・・しかし、飲みこまれるには不愉快だ」
藍染は。寵姫を一人呼ぶと、その場で犯した。
「私の子を孕ませた。10日でその子は臨月を迎える。子を産んだら、お前は解放してやろう」
「本当ですか、藍染様!故郷に戻っていいのですか!」
犯された寵姫は、元々魔族ではなく魔女であった。藍染の思うままに玩具にされて、絶望していたが、故郷に戻っていいと聞いて、腹を撫でた。
「早く生まれておいで、愛しい子。私の贄となれ。
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ラニとレニがいなくなって、半月が過ぎた。
古城は、カイザードラゴンである恋次の時間回帰の魔法で元通りになった。
しばらくの間、京楽はずっと浮竹の後をついてきた。
まるで、孵化して初めて人間を見たカルガモのひなのように、後ろをついて回った。
「ええい、気が散る!たまには一人でいさせろ」
「やだよ。浮竹が何処かへ行ってしまう」
「行こうとしたのは、お前の方だろう!俺との血族を放棄しようとした!」
「あれはなかったことにして?」
ちゅっとリップ音を立てて、京楽は浮竹の額にキスをした。
「今日、君を抱いてもいいかい?」
「好きにしろ」
浮竹は、久しぶり過ぎて赤くなっていた。
釣られて、京楽も赤くなった。
お風呂に入り、本当に浮竹を抱くのは久しぶりだった。
ラニとレニを預かってから、ずっと禁欲生活を送っていたのだ。
浮竹を抱くのは、実に4カ月ぶりくいらいになる。
「君を初めて抱いた日を思い出すね」
「そんなこと、忘れた」
「100年以上も、昔のことだからね」
浮竹と向かい合って、正座をする。
ぺこりとおじぎをして、まずは唇を重ねた。
「んんっ・・・・」
京楽の舌がは熱く、浮竹の情欲をそそった。
「あ・・・・・」
薄い胸板を撫でられて、胸の先端をかりかりと引っかかれた。
「あ!」
浮竹は、感じているのかもどかしそうにしていた。
「今、触ってあげるから」
服の上からでも分かるほどに勃ちあがり、蜜を零して下着を濡らしていた。
「あ!」
京楽は、服の上から浮竹のものを刺激した。
それだけで、浮竹はいってしまい、精液で下着を濡らしてしまっていた。
「今、服を脱がせるから」
浮竹の着ている服を全てはぎとった。
「綺麗だよ、十四郎」
「あ、や・・・・」
見られるその視線に堪え切れず、浮竹は瞳を閉じた。
鎖骨を噛まれて、吸血される。
「あああああ!!」
襲ってきた快感の波を受けながら、京楽をローションを手に、浮竹の蕾に手はわせた。
「あ!」
浮竹は、たまらずシーツを握りしめた。
「んんっ」
浮竹の下が、蕾に入ってくる。
「やああ!」
次に、ローションにまみれた指が入ってきた。
「んんん!」
京楽の指は、ばらばらに動いた。
そのうちの一本が前立腺を刺激して、浮竹はまた欲望を自分の腹にぶちまけていた。
「あああ!」
「指だけでいっちゃうなんて、昔だと考えられなかったよね?」
「知るか」
「いれるよ?」
「ああああああ!!」
京楽の熱に引き裂かれて、浮竹は涙を零していた。
「あ、春水、春水。俺の前から、いなくなるな」
「うん。もう絶対、血族を解いてなんていわないから」
「春水・・・・」
突き上げてくる熱を感じながら、浮竹はドライのオーガズムでいっていた。
「ひああああ!!」
最奥を抉られて、びくんと浮竹の体が反応する。
「あああ!」
背をしならせて、浮竹はシーツにぱたぱたと精液を零した。
「君の奥で注ぐからね?受け止めてね?」
「ひああああ!!!」
愛奥の結腸をゴリゴリ刺激されて、浮竹はまたいっていた。
熱い京楽のものを胎の奥に受け止めて、幸せを噛みしめていた。
「もう1回、いくね?」
「何度でもこい。お前の全てを注げ」
言われるがままに浮竹を犯して、精液を全て浮竹の体に注いだ。
「ああ、久しぶりすぎて出し過ぎだね」
浮竹の下腹部は、京楽が出したものでかすかに膨らんでいた。、
「いい、お前の子種だ」
「お風呂、いこっか」
「ああ」
二人は風呂でも睦み合った。
そして、浮竹はお風呂からあがり、髪を乾かすと、幸せな眠りへとついていくのだった。
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「君の血を抜くのは、何回目だろうね?」
「知らぬ。始祖魔族如きが」
「おや、言うねぇ。身動きもとれないくせに」
藍染とユーハバッハは、そんなやりとりをしていた。
「次の子には、自由意思をもたせない。君の血を、たっぷりあげるのさ」
「魔人と呼ばれた私も落ちたものだ。始祖魔族如きに、血を抜かれ続けるとは」
海の底で、ユーハバッハはまた微睡み始めた。
「始祖浮竹・・・・・あの体、悪くはなかった。次の器には、あれがいい・・・・」
始祖の体に一度は意識は宿った。
不老不死の神の愛の呪いをもつ、素晴らしい肉体だった。あえて文句があるとするならば、もっと魔力が高ければいい。それぐらいだろうか。
ユーハバッハは、また封印の眠りにつく。それを起こすのは、藍染くらいだ。
かつて栄華を極めた古代魔法文明を思いながら、眠りにつくのであった。

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始祖なる者、ヴァンパイアマスター外伝 ヴァンパイア殺人事件

「えー、容疑者は二人いるようだ」

そこは古城のある、ガイア王国だった。

あろうことか、浮竹の住まう城で、ヴァンパイアの殺人事件が起きたのだ。

被害者は血の帝国に住む、上流階級の女性だった。

容疑者は二人。

被害者となったヴァンパイアの夫と、その愛人であった。

まるでテレビのアナウンサーのように、マイクを構えて西洋の浮竹は、西洋の京楽に聞いた。

「どっちが犯人だと思う?」

「僕は愛人のほうが怪しいと思うね。夫がいるのに逆上して、殺したんだと思う」

「東洋の浮竹はどう思う?」

(自殺の可能性はないのか。銀の武器で頸動脈を切られたことによる失血死だそうだが、普通のヴァンパイアは銀が毒なのだろう?容疑者の二人とも、手に火傷を負っていなかった)

「東洋の京楽はどう思う?」

(ボクは、夫のほうが犯人だと思うね。妻に内緒で多額の借金を抱えていた。相続する財産目当てだと思う」

「うーむ。2人ともアリバイがある。死後約6時間。夫のほうは血の帝国でカジノに行っていたし、愛人のほうは他の恋人のところにいた。むう、難事件の予感だ」

「あの、俺たちいつまでここにいればいいですか」

「そうですよ。ちゃんとした警察を呼んでくれ!」

「警察なら、今目の前にいるだろうが」

「え、どこに?」

「どこですか」

きょろきょろと辺りを見回す容疑者二人に、西洋の浮竹は自分を指さした。

「俺だ。今日の1時間前に、血の帝国の警察に式を飛ばして、警察の職についた。この事件が解決すると同時に退職する」

「めちゃくちゃだ」

「そうだそうだ」

容疑者の二人は、西洋の浮竹の抗議して、殴りかかろうとした。

それを、東洋の京楽は、血の糸で戒めた。

「かわいそうだけど、暴れるみたいだから、縄をかけさせてもらうよ」

そんじょそこらの魔法では解けない、戒めの魔法をかけられて、容疑者の二人は古城の床に転がった。

手足全部、体ごと戒められて、容疑者の二人は床をうねうねしていた。

「こいつが犯人だ!式を飛ばして、殺したんだ!妻の金目当てに!」

「そういうこいつこそ、犯人だ!多額の借金を抱えていたというじゃないか!」

二人の言い合いは、続いた。

「東洋の僕たちなら、何か分かる?」

(うーん、妖なら分かるんだけど、ヴァンパイアだしねぇ。おまけに、こっちのヴァンパイアは血の帝国に住んでいて、人間とあまり大差がない。血が欲しくて殺したんじゃないなら、やっぱり怨恨か金銭トラブルだろうね)

(あの、愛人という男の影にもやもやが見える、被害者に、少なからず恨みを抱いていたみたいだ)

「東洋の俺は、そんなことが分かるのか。すごいな」

西洋の浮竹に頭を撫でられて、東洋の浮竹は恥ずかしそうにしていた。

「えへへ」

そんな二人を、西洋と東洋の京楽は、和やかに見るのだった。


「金ならやる!だから、釈放してくれ!」

「一人だけずるいぞ。どうせ、あの女の遺産なんだろうが!」

「そういう貴様こそ、妻の金を湯水のように使いやがって!目障りなんだよ!」

「お前みたいなハゲでデブと結婚したのが間違いだったと、ステラは言っていた。ステラを返せ!」

「そういうお前こそ、妻を返せ!」

被害者は、ステラという名前だった。

血の帝国の貴族の血を引く、上流階級の女性で、夫がいるのに愛人が途切れたことはなかった。

「古城の庭で、この銀のナイフを見つけた。血がついていた。残念ながら、指紋はついていなかった」

西洋の浮竹が、古城を戦闘人形に探させて、見つけた加害武器であった。

「特殊な銀でできているね。手袋をはめないと、火傷するよ。それも、酷く。この特殊な銀のせいで、被害者は血の再生ができなかったんだろうね」

西洋の京楽が、自分の指をその銀の短剣で切ってみる。通常はすぐに再生が始まるのだが、なかなか再生が始まらず、滲み出た血はそのままだった。

「もったいない」

西洋の浮竹が、西洋の京楽の指を口に含んで、その血を舐めとった。

ごくりと、容疑者の二人が唾を飲みこむ。

血を啜る西洋の浮竹は、淫らでエロかった。

(ちょっと、西洋の俺!俺たちがいるから、そこらへんにしてくれ!)

(ボクは別に構わないけどね?」

東洋の浮竹と京楽の態度は、正反対であった。

東洋の浮竹は、赤くなった。

そんな東洋の頭を、また西洋の浮竹が撫でる。

「もう今日はしないから、大丈夫だ」

(ああ・・・西洋の俺は、優しいな)

(ちょっと、ボクの十四郎はあげないよ)

「ケチ」

そんなやりとりをする二人を、西洋の京楽は仕方なさそうに、東洋の浮竹はハラハラと見守るであった。

ふと、西洋の浮竹が、容疑者の夫と愛人の手を見た。

「この二人、式を使えるようだ。血の帝国のアリバイは崩れるな。式を使って殺すこともできるし、式を使って自分を装うこともできる」

「誤解だ!俺は式なんて使えない!」

「じゃあ、その手の紋章はなんだい?力のない者でも式を使えるようにする、特別な紋章でしょ」

容疑者の夫の手を、西洋の京楽は広げてみせた。

「やっぱり、その夫が犯人だ!」

愛人の男が、まくしたてる。

「それがねぇ。君も、同じ紋章、左手にもってるでしょ」

西洋の京楽が、今度は愛人の男のほうの左手を開かせた。

男の手の平には、被害者の夫と同じ紋章があった。

「これでアリバイは崩れ去った。あとは、どちかが犯人であるかを、明かすだけだね」

「式を呼んでもらおう。式を使ったとしたら、血で汚れているはずだ」

「誰がそんな!」

シャオオオ。

東洋の京楽が、影から複数の蛇を向けると、容疑者の二人はそれに恐怖して、式を呼んだ。

(おや。2人とも、黒のようだね)

(そうなるな)

容疑者の式は、2つとも真っ赤な鮮血に塗れていた。

「どうせもうこうなっては隠し通せない。ハニー」

被害者の夫は、被害者の愛人をハニーと呼んだ。

「ううう、せっかくうまくいきそうだったのに、ダーリン。古城で事件を起こせば、警察の手も伸びないし、他国まで逃亡できるからって、古城を選んだ俺のミスだ、ダーリン」

((まさかできてた!?))

東洋の浮竹と京楽は、見事にはもった。

「ああ、血の帝国は恋愛は自由だからな。同性を愛する者は、お前たちの世界の3倍くらいいる」

(3倍も・・・凄い世界だ)

(じゃあ、犯人はこの二人ということだね?)

「そうなるな。本物の警察を呼んでおいた。身柄は、そちらに引き渡そう」

「僕たちの古城で事件を起こしたのが、そもそもの間違いだったね。血の帝国でも、いずれ捕まってたとは思うけど」


こうして、古城のヴァンパイア殺人事件は、終末を迎えた。

結局、被害者の夫と愛人はできており、被害者の財産目あてで殺したと、自供した。


「事件解決に貢献したとして、警察から謝礼金が出た。俺たちはいらないから、二人でもっていけ」

(え、でもいいのか!金貨だぞ!)

「僕と浮竹は金には困ってないからね。事件に貢献したのは確かなんだから、もらっていきなよ」

(でもやっぱり悪い。受け取れない)

「じゃあ、そのお金で、町にいって食材を買ってきて。僕とそっちの僕で、料理作るから。それなら、いいでしょ?」

(あ、うん。それならいい。預かって、食材買ってくる)

「そっちの浮竹は、節約家だね。質素が好きみたい」

「俺とは正反対だな。俺は豪華なのが好みだ」

東洋の京楽は、金貨を珍しそうに見ている、東洋の浮竹の頭を撫でていた。

西洋の浮竹も撫でたそうで、うずうずしていたが、お互い恋人いるのだしと、納得させた。

「なぁ、京楽。東洋の俺って、なんか小動物のようでかわいくないか」

「あーうん。僕もそう思ったけど、まさか浮竹までそう思ってたなんて」

「思わず、何か食べ物をあげたくなるんだよな」

「その気持ちは、分からないでもないね。すごくおいしそうに食べてくれるから」

認識阻害の魔法をかけられて、東洋の二人は町に買い出しにいった。

戻ってきた二人は、ちょうど金貨を使い果たしていた。

残ったのは銅貨が数枚。

銅貨くらいならいいかと、東洋の浮竹も京楽も、記念に持って帰ることにした。

「さて、腕によりをかけて作りますか」

(ボクはメイン料理作るから、キミはデザートをお願い)

「分かったよ」

今日のメニューは寄せ鍋だった。

西洋の京楽は、食材を切っていく。

戦闘人形を下げさせて、二人の京楽は四人分の夕食とデザートを作ってくれた。

デザートはチョコレートパフェで、東洋の浮竹はおいしそうに食べていた。西洋の浮竹も美味しそうに食べていた。

西洋の京楽はそのまま自分で食べて、東洋の京楽は手をつけなかった。

(それ、食べていいか?)

キラキラした目で、チョコレートパフェをみる東洋の浮竹に、東洋の京楽が頷いた。

(君が欲しがると思って残しておいたんだよ。さぁ、好きなだけ食べていいよ)

(ありがとう、春水!)

その様子を見て、3人ともかわいいなぁと思うのであった。


次の日、視察だとブラッディ・ネイが寵姫ロゼを連れて古城を訪問してきた。

「兄様、会いたかった!兄様、愛してるよ!」

そんな様子のブラッディ・ネイを見て、東洋の浮竹は東洋の京楽の背に隠れると、じーっと様子を見ていた。

「ああ、違う世界の兄様もいるの」

「ブラッディ・ネイ。彼はお前のことを苦手としているから、ちょっかいを出すなよ」

「はーい」

そう言いつつ、ブラッディ・ネイは東洋の浮竹を食い入るように見つめていた。

東洋の浮竹は警戒して、更に東洋の京楽の影に隠れた。東洋の京楽の服の裾を掴む。

(ブラッディ・ネイだっけ。ボクの十四郎が怯えるから、あっちに行ってくれない?)

「向こうの世界のひげもじゃも生意気そうだね。まぁいいや。兄様、今回はヴァパイアの殺人事件に貢献したそうだね。血の帝国中で噂になってるよ」

「そうか。じゃあ、帰れ!」

「早いし、酷くない!?」

「お前がいると、騒ぎが起きそうだ。何か起きる前に帰れ」

「仕方ないなぁ。じゃあ、兄様も、また血の帝国の宮殿にきてね。じゃあ、もう一人の兄様も、バイバイ」

何気に、東洋の浮竹は手だけはかろうじで振っていた。

「ブラッディ・ネイがすまない。あの愚昧には、俺も苦労させられている」

(あ、うん)

東洋の浮竹は、去っていたブラッディ・ネイの背中を見ていた。

西洋の浮竹の実の妹なのが、未だに信じられずにいた。

「東洋の俺は妹がいないからな。警戒したくなる気持ちも分かる」

(ごめん。でも、苦手なんだ)

「気にするな。俺も苦手だ」

二人は、クスリと笑い合った。

そんな二人を、微笑ましそうに、二人の京楽が見守るのであった。












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