忍者ブログ

プログ

小説掲載プログ
10 2024/11 14 2324 27 28 29 30 12

最後の冬 ルキアの病、5か月の命

憔悴した顔で、一護が帰ってきた。

「全部、兄様から聞いたのであろう?」

「ルキア・・・・なんで、黙ってた?」

「こんな残酷なこと・・・・私の口からは言えぬ。私とて生きたいのだ!最後の最後まで、可能性を模索して足掻いてやる!」

ルキアの細い体を、抱き締める。

「なんか・・・前より、痩せたか?」

「少しな・・・だが、茶虎と石田と井上には内緒だぞ」

「そうだ、井上!井上に診てもらえば・・・・!」

「だめだ。井上の能力は、怪我を治すもの。病気は治らぬよ」

「でも、そんなのやってみなくちゃわかんねーだろ!?」

一護は必死だった。

やっと手に入れた愛しい存在が、あと5か月もすれば消えてなくなってしまうのだ。

「日曜、井上の家にいこう。事情は俺が話すから・・・・・」

「それで貴様の気が紛れるのであれば、行こう・・・」

こうして、次の日は日曜だったので、井上のマンションに出かけた。


「え・・・嘘。朽木さん、嘘だよね?ねぇ、こんなの嘘だよね!?」

井上に事情を話すと、井上はボロボロと大粒の涙を零しながら、それが真実だと知ると、泣き叫んだ。

「いやあああああ!朽木さんがいなくなるなんていや!」

抱き着いてくる井上の背中をぽんぽんと叩き、ルキアは安心させてやった。

「まだ、5か月あるのだ。4番隊で、今この病を治す特効薬を作ってもらっている。状況は芳しくないが、私は最後まで可能性を捨てない」

「双天帰盾、私は拒絶する!」

井上が、回復術でもあるその力を使う。

「どう!?朽木さん、病は!」

「ありがとう、井上。だが、双天帰盾は病を治すための術ではない。私とて、兄様が財を投げ打って、4番隊に特殊な治療を施してくれたのだ。だが、病の進行を遅らせるだけで、完治には至らなかった」

「そんな・・・・・」

茫然とした様子で、井上が泣きじゃくる。

「いや、朽木さん、私たちを残して逝かないで!」

「井上は泣き虫だな、あとまだ5か月はある。なるようになるさ」

ルキアの言葉に、井上が顔をあげる。涙でぐしゃぐしゃだった。

「朽木さんは、死ぬのが怖くないの!?」

「死には、慣れてしまった。自分が死ぬことは恐くはない。ただ、残していく者のことを思うと、悲しみで心が押しつぶされそうになる」

「ルキア、なんでお前はこうやって平然としていられるんだ!」

いつの間にか、一護も泣いていた。

「ふふ・・・私を思ってくれるのか、二人とも。私は、幸せ者だな・・・・」

ルキアを背後から抱き寄せて、一護は止まらない涙を零していた。

「好きなんだ・・・愛してるんだ・・・死ぬな!」

「ああ、私も一護、貴様を好きだし愛している。多分、もう5か月も持たないかもしれないが・・・・私を、愛してくれ」

ルキアは背後から一護に抱き締められながら、艶やかな笑みを浮かべていた。

「ずるいよ、朽木さん!死んじゃったら、黒崎君をとっていかれた意味がないじゃない!」

「井上・・・貴様も泣き虫だなぁ。まだ時間はあるのだ。そのように泣くな。一護もだ」

「馬鹿やろう!恋人の余命が5か月って宣告されて、平気でいられるかよ!」

「そうだよ、朽木さん!あと5か月しかないんだよ」

「反対に言えば、あと5か月はあるのだ。せいぜい、足掻くさ。月に二度は尸魂界に戻って、痛み止めと病気の進行を遅らせる治療を受ける」

ルキアは、自重的な笑みを浮かべていたが、やがて耐えきれなくなったのか、涙を零し始めた。

「ああ・・・一護と、高校を卒業しても歩んでいきたかったなぁ。井上は、きっと一護を好きなまま、誰かを好きになるのだと思っていたが・・・一護のことを頼んでもいいか、井上」

井上は首を横に振った。

「嫌だよ!そんなの嫌!朽木さんのいない世界なんて嫌!」

ルキアは、井上を抱き締めた。

井上も抱き締め返してくれた。

一護は、その様子を涙を滲ませて見ていた。

「ルキア・・・生きよう。なんとしても、5か月の間に、病を克服する方法を見つけよう!」

一護は、井上との抱擁をやめたルキアを抱き上げた。

「どうしたのだ、一護」

「俺が、命に代えても絶対お前を死なせねぇ!」

一護の決意は固かった。

一護も、井上も、もう泣いていなかった。

「私も、尸魂界にいって、4番隊の人達と相談する!絶対、朽木さんを死なせない!」

「貴様ら・・・・・・・」

じわりと、ルキアの涙腺が緩む。

悲しいのではない。

嬉しいのだ。

ああ。ここまで、愛する者と友人に思われているだけでも、もう心残りはない。

そうとさえ思った。

食後に痛み止めを飲む。

もう、慣れてしまった。

味のないカプセル状のものだ。

本来なら、痛みで体を動かせないのを、痛み止めで無理やり動かせていた。

特効薬ができたとしても、末期だ。助かるかどうかは分からない。

それでも、ルキア自身諦めていなかった。

一護は、ルキアの負担にならないように、できるだけルキアを丁寧に扱った。

「よいのだぞ?そのように、優しく扱わずとも」

「無理だ。俺がそうしたいんだ」

ルキアにキスをすると、ルキアはそれに応えてくれた。

「んんっ・・・・・はっ・・・・・ん・・・・・・」

息をつぐ暇を与えず、ルキアの唇を貪った。

「たわけ、苦しいわ!」

一護の頭を殴ると、一護は嬉しそうにしていた。

「ちょっとは、元気でたか?」

「たわけ。薬を飲んでいる間は、元気だ。だがそろそろストックが切れる。食後だけでは足りなくなってきた・・・もっと強い薬に変えるか」

「大丈夫なのか?お前が飲んでるのその痛み止め・・・・・・」

「依存性がある。あまりよくない。だが、痛み止めがないと、動くこともままらなぬ」

その言葉を聞いて、一護が辛そうにしていた。

「ルキア・・・辛いなら、学校休んでもいいんだぜ」

「たわけ!そんなことをしたら、何故私が現世にきたのか・・・その意味がなくなるではないか!」

「それはそうだけど・・・ああ、まぁ一日中ベッドの上にいるのも暇だしな」

「そうだぞ。検査入院の時など、虎鉄隊長から1週間の入院を強制されて、とてもつまらなかった。伝令神機でネットサーフィンをしていたが、充電がしょっちゅう必要で、充電中のつまらないことこの上ない。おまけに、出される飯はまずいし味も薄いし・・・・散々であった」

ルキアは、そこで言葉を区切った。

「明日、一度尸魂界へ戻る。痛み止めをもらいに・・・あと、病の進行を少しでも遅らせるために」

「俺もいく」

「貴様がいっても、何も楽しいことなどないぞ?」

「それでも、一緒にいく。片時も、お前の傍を離れたくない」

「貴様は・・・子供か」

ルキアは溜息を零した。

一護は随分と過保護になっていた。

やはり、病気のことは隠しておいたほうが良かったのだろうか・・・・・そうとも思った。

だが、いきなり死なれるよりも、ちゃんと告知しておいて死んだほうが、悲しみは少ないだろうと思って、わざわざ白哉に話してもらったのだ。

自分の口から言う勇気が、出なかったからだ。

「分かった。明日、貴様と尸魂界へ行こう」

「ああ、ルキア」

一護は、その日もルキアを抱き締めるようにして眠った。




―-------------------------一護とルキアの終わりの冬は、音もなくかけ足で過ぎ去ろうとしていた。







拍手[0回]

PR

最後の冬 ルキアとのデート

ルキアと一護が、学校に通い出して1週間が過ぎた。

ルキアは私服がないので、一護の服を借りていた。

一度、風呂上がりで、一護の上着だけを羽織った姿を見た一護は、「悩殺するつもりかお前!」と鼻血をだしながら、ぶかぶかだがボトムのズボンをはかせた。

「今日は土曜だし、服買いに行くぞ!」

「うむ。流石に遊子の服を借りっぱなしというわけにはいかぬしな」

外に出るにあたって、一護の服はあまりにもぶかぶかなので、遊子の服を借りたのだ。サイズはほぼぴったりで、ルキアは中学生になった遊子と同じサイズかと、少し悲し気だった。

シマムラにやってきた。

「これとこれとこれ。後これも」

「おい、金は大丈夫なんだろうな?」

「任せろ。兄様から、300万をもらった。足りなければ、尸魂界に戻り現世の金と変えて戻ってくる」

「お前ら義兄妹は、ほんと金の感覚がおかしいな」

「そのようなことはないぞ!300万は大金だ!シマムラは安いので、たくさん買っても5万以内には収まるであろう?」

「まぁそうだけど・・・・・」

一護は、荷物持ちをさせられていた。

当分の間の着る物を買うのだ。長袖のワンピースが色違いで10着。上着も10着。さらにその上から着るコートを2着。あとは靴下だの、靴だの・・・・最後にランジェリーのところに着て、一護が朱くなる。

「適当に選んでこい!俺はここで待ってるから!」

「何を照れておるのだ」

「男が女のランジェリーのところにいることの恥ずかしさを、お前に言ってもわかんねーだろ!」

「ほう、恥ずかしいのか」

ルキアがぐいぐい腕を引っ張ってくる。

「勘弁してくれよ」

「貴様でも、情けない声を出すのだな」

ルキアは弱点を見つけたとばかりに、嬉し気だった。

結局一護は、ルキアはどんなパンツが、一護の好みなのかとか聞いてきたので、一護が選んだ。

「ほう、このような幼いデザインが好きか・・・」

「悪かったな!」

一護が真っ赤になっていた。

「まぁ良い。貴様を下着で悩殺などせぬが、貴様が好きなものを着ていたい」

「だから、ワンピースばかりなのか?」

「そうだ。一護も、私のワンピース姿を似合っていると、昔言ってくれたであろう」

一護が、ワンピース以外の服を手にとって、ルキアに渡そうとする。

「もっと他の服も買えばいいだろう。お前に似合いそうな服、いくらでもある」

「よいのだ。私はワンピースが好きなのだから」

それを、ルキアは拒絶した。

「でも冬だぞ?上は上着でなんとかなるけど、足が寒いだろう」

「そんな時のこれ!二ーソックスだ」

「う」

二ーソックスに、膝上のスカートとか、もう悩殺ものだ。そういえば、ルキアの買ったワンピースのうち3着ほどが、スカートが短めだった。

さては俺を悩殺する気か。

そう思いながら、会計を済ませる。いくら安いといっても、買った量が量で、4万を超えた。

ルキアは背中にしょったチャッピーのリュックから、300万をとりだして、レジに置いた。

店員が引き攣った顔をしていた。

その中から一護が5万を取り出して、会計を終えた。

「うわ、すげー荷物の量。一度、家に戻るか」

「そうだな。このような荷物をもったまま、どこかへは行けまい」

ルキアも頷く。

「ま、一応これデートだしな」

「な、なんだと!?こ、これがデートというものなのか」

「彼女の買い物に付き合う。立派なデートだろ」

「ううむ・・・・・」

ルキアは納得がいかなさそうだったが、とりあえず黒崎家に帰り、リビングに大量の荷物を置いて、また外に出た。

「腹減ったな。ファミレスでもいくか」

「うむ」

近くのファミリーレストランにより、一護はパスタを、ルキアが海老のグラタンを頼んだ。

それだけでは物足りないので、ルキアはジャンボパフェを注文した。

「おい、これ一人で食べきれるのか?」

「よく見ろ。スプーンが2ついておるであろう」

「あ、ほんとだ」

一護も、反対側からジャンボパフェを食べだした。

チョコレートの塊を前にして、どちらが食べるか争い、ルキアがちょっと目を離した隙に、一護が食べてしまった。

「貴様、ずるいぞ!」

「いいじゃねーか。チョコレートくらい、後でいくらでも買ってやるよ」

「その言葉、本当だな?」

「ああ」

会計は、一護が持った。

それから、不思議がるルキアを連れて、宝石店に入る。

「なんなのだ?」

「いや、前に見かけた・・・・あ、まだあった」

アメジストのネックレスだった。

金額は高くもないが、安くもなった。

「すみません、これ下さい」

「はい。こちらの商品で間違いはございませんでしょうか?」

「はい」

お金を払う。一護の財布から、一万円札が3枚ほど飛んでいく。

「では、包装を・・・・・・」

「いえ、つけていくのでいいです」

「一護?」

そのネックレスを、ルキアの首に飾ってやった。

「一護、このような高いもの・・・貴様の財布が!」

「いいんだよ。17カ月の間に、このネックレス買って、いつかルキアに送りたいと思ってバイトしてたし。まぁ、大学生になったら、一人暮らし貯める資金でもあるんだけどな」

「そのような大切な金で、何故私にネックレスなど・・・・」

「アメジストだからだ」

「え?」

「お前の瞳と同じアメジスト。ハート型で、中にダイヤモンドが入ってる」

「本当だ・・・・キラキラしていて、綺麗だな・・・・・」

ルキアはネックレスが気に入ってくれたようで、一護も嬉し気だった。

その日の夜は、マクドナルドにいってジャンクフードを食べた。

「体に悪い分かっているが・・・・美味いな」

「ああ。一時期は凄く安かったんだが、最近どこも物価が高くなって、この店もこの前値上げしやがった」

「それでも、ファミレスよりは安いであろう?」

「そうだな」

ルキアは、何かの錠剤を水と一緒に飲み干した。

「薬?どうしたんだ、ルキア?どこか悪いのか?」

「いや・・・義骸との連結を強くするだけの薬だ・・・・・・・」

「そっか・・・・・・・」

食事を食べ終えた二人は、誰もいない公園にきていた。

「なぁ、キスしてもいいか?」

「む、いいぞ」

一護は、ルキアに唇に唇を重ねた。

始めは触れるだけ。次に深く。

舌が絡まり合い、そのようなこと体験したことのないルキアは、震えていた。

ルキアを抱き締めた。

「ふあっ・・・・・・」

舌を引き抜かれると、怒ると思っていたのだが、ルキアは怒らなかった。

「兄様がくる。私は、先に帰っておく。兄様から説明がある。どうか、落ち着いて、心して聞いて欲しい」

「おい、ルキア!?」

ルキアは、走り出して見えなくなってしまった。

「黒崎一護・・・・」

代わりに声をかけてきたのは、少し懐かしい霊圧。朽木白哉だった。

「兄に、知らせておかねばならないことがある」

「なんだよ、改まって」

「ルキアのことだ」

「ルキアが、どうかしたのか?」

一護は首を傾げた。

「妹さん下さいって言ったこと、怒ってるとか?」

「そのようなことではない。もっと重要な話だ」

「なんだよ・・・・まさか、どこかの貴族と見合いして結婚するとか、そんなこと言い出すんじゃないだろうな!」

「違う。もっとルキア自身に関わる、深い問題だ」

「なんだよ」

一護は、白哉の真剣な眼差しに、一護も真剣になった。

「あれは・・・・我が泣き妻、緋真と同じ病を抱えている」

「え・・・・・・・」

「余命は、もってあと5か月」

「え・・・・うそ、だろ?」

「このようなことで、兄に嘘をついてなんになる」

だって。

だってルキアは、とても健康そうで。笑っていた。ついさっきまで、ずっと隣にいた。

「治す方法はないのかよ!何か薬とか!」

「ない。不治の病だ。だが、あれはそれを知っても、日常を兄と過ごしたいと言ってきた。4番隊で診てもらったが、もう末期だそうだ。痛み止めの薬を飲んでいるであろう」

そういえば、食後に何か錠剤のような薬を飲んでいた。

「あれが、痛み止め・・・・・・」

がらがらと、一護の中で何かが崩れていく。

「ルキアが・・・余命5カ月・・・・・」

ちょうど、高校を卒業する頃には、死ぬというのか。

あのルキアが。

とても活発で、笑い、時には涙を零し・・・一見すると健康にしか見えないルキアが。

「そんなの、ありかよ・・・・・・」

「ルキアから、兄に伝えてくれと言われたので伝えた。私からの願いだ。あれを、逝くその時まで愛してやってくれ・・・・・・」

白哉の目から、涙が零れていた。

妻に続き、義妹も白哉を置いていこうとしているのだ。

白哉にとって、生きてさえいれば、たとえ現世に嫁にいってもよかったのだ。

亡き緋真と同じ病。不治の病。薬もない。

「痛み止めさえ飲んでいれば、通常の日常を過ごせる。どうか、最後まであれを愛し抜いてやってくれ」

「うわあああああ!!」

一護は、月に向かって吠えていた。

ルキア、ルキア、ルキア。

あと5か月でお別れなんて、嘘だろう?

誰か、嘘といってくれ。



-----------------------------------------一護とルキアの、最後の冬が、訪れようとしていた。







拍手[0回]

最後の冬 学校生活

尸魂界から、穿界門を通り、現世へと戻ってきた一護とルキア。

ルキアは、まず一心に挨拶して、双子の妹にも挨拶して、また一緒に暮らせることを伝えた。

双子の妹たちは、ルキアを実の姉のように慕い、一心も実の娘のように扱った。

相変わらず双子の部屋を与えられたが、ルキアは一護の部屋でいいと断った。

「ルキアちゃんに手を出すんじゃねーぞ!」

「ああ、それは無理。俺たち、付き合うことにしたから」

「一護、貴様!私と貴様がいつ付き合うとう言った!」

「いや、だってお互い告白し合ったら、後は付き合うしかねーだろ」

「そそそそ、そうなのか?」

ルキアに恋愛面の経験はないので、一護はそうだと言って、ルキアを丸めこんだ。

「井上と茶虎と石田にも報告しないとな。ルキアも帰ってきたって」

早速三人に連絡を入れる、一護の部屋に集まることになった。

井上は、売り残りのパンを、石田と茶虎はお菓子とジュースを手に、集まった。

「朽木さーん!また一緒の高校に通えるなんて嬉しい!」

「うむ、私もだ井上・・・むぐぐぐ」

井上に抱き寄せられて、背の低いルキアはその豊満な胸に顔を圧迫されて、窒息死しそうになっていた。

「おい、井上、ルキアが窒息死する!」

「あ、私ったら、嬉しくてつい」

「黒崎が大戦から帰ってきたら高校の通うのは当たり前だけど、まさか朽木さんまでとは・・・」

「俺が、京楽総隊長にお願いしたんだ」

「そうか・・・・・・」

「みんな、パンあるから食べてねー」

「む、いただく」

よく井上のパンにお世話になっていた茶虎が、売れ残りのパンを口にする。

「それにしても、こんなに売れ残りのパンだして、お前のところのバイト先マジで大丈夫か?」

「えへへ、平気平気」

「あ、あと報告。俺とルキア、付き合うことにしたから」

「たわけ、貴様!」

ルキアが、顔を真っ赤にさせた。

「え、黒崎君と朽木さん付き合うんだ!朽木さんから告白したの?」

「違う、俺からだ」

「黒崎君は優しいから。私も、一度告白したんだけど振られちゃった。朽木さんが好きだって」

「井上・・・・」

「黒崎君、思いがかなってよかったね」

心なしか、井上は少し涙ぐんでいた。

でも、一護にはどうすることもできない。

「まぁ、ぱーっと騒ごうよ!せっかく石田君と茶虎君が、お菓子とジュース買ってきてくれたんだから!」

「ああ、そうだな」

ルキアが頷く。

「私は、明日から復学するこになった。生徒と教師の記憶は、記憶置換で少しいじることになるが・・・・・・」

「ほらほら、石田くんも飲みなよ~。ぐいっと」

コーラをコップに注いで、なくなった側から、井上が足していく。

「ちょっと待ってくれ、井上さん!そんなにコーラばっかり飲めない!」

「じゃあ茶虎君も~」

茶虎も、おなかがたぷんたぷんになるまでコーラを飲まされた。

「ほらぁ、朽木さんも」

「む。私はコーラでなく、オレンジジュースが良い」

「ではオレンジジュースを飲んで~飲みまくって~」

「うむ。苦しゅうない」

どこかの殿さまのようになっているが、上流貴族なのだ。そういう扱いをされるのに、慣れているのだろう。

「朽木さん、今度買いものに行こうよ。冬用の服、持ってないでしょ」

「うむ・・・制服はなんとか、浦原のつてで冬服が手に入ったが・・・」

「浦原さん、そんなことまでするのかよ」

「あやつは、いろいろつてがあるからな」

その日は、深夜近くまで騒いで、解散となった。

井上がもってきたパンとお菓子を食べたせいで、夕飯はいらなかった。

二人分の夕飯は、サランラップで包まれて、テーブルの上に置かれてあった。

「遊子に悪いことをしたな」

「明日食べればいいだけじゃねぇか」

「それはそうだが・・・・・・」

その日は、湯浴みをして眠ることにした。

「ほら、ルキアこっち」

「わ、私は押し入れが恋しいのだ!」

「一緒に寝るぞ」

ルキアをひょいっと持ち上げて、一護はルキアをベッドに寝かせると、その隣で当たり前の用に横になり、腕の中にルキアを抱き抱えて、一護は眠ってしまった。

「一護・・・?」

問いかけてみるが、静かな寝息がするだけで、一護は寝てしまっていた。

「私だけ、意識しすぎなのか・・・・」

一護に好きと言われて、付き合うことになったというものの、ルキアは胸のドキドキが収まらなかった。

やがて、ルキアの意識も闇に落ちていった。

次の朝。

「やっべ、遅刻だ!」

一護が慌てて着替えるものだから、その着替えシーンをばっちり見てしまって、ルキアは頬を赤らめた。

「ルキア、外で待ってるから、早く着換えて用意しろ」

「う、うむ・・・・・」

すぐ扉の外で一護が待っていると考えるだけで、頬が朱くなる。

もう慣れてしまったが、死覇装の袴では見えぬ足が、スカートから膝上くらいから丸見えだった。

「うぬ・・・久しぶりの制服のスカートは、スースーするな」

「いいから、急げ、ルキア!走ればまだ間に合う!」

義骸に入っているので、瞬歩は使えない。

一護も死神でいることが大戦で慣れてしまって、やりにくそうだった。

「瞬歩使えないのって、けっこうきついな」

「そうであろう。私の今までの大変さを貴様も味わえ」

17カ月前。

義骸で過ごしていたルキアの気持ちが、少しだけ分かった。

学校に到着すると、門が閉められていた。

「よっと」

「うむ」

二人はそれをひらりと乗り越えて、教師の怒り声を背後から受けながら、下駄箱のある入り口にいく。

一護は3週間ぶり近くになる登校であったが、自分の下駄箱をあけると、バサバサと溜まっていたラブレターが入っていた。

「ふん。貴様はもてるのだな」

「ルキア、今焼きもちやいただろ」

ニマニマする一護に、ルキアはごほんを咳払いをした。

「そ、そのようなことはない!」

一護は、ラブレターの束を読むこともせず、捨ててしまった。

「じゃあ、なんで眉間に皺寄せてるんだ?」

「そ、それは私の上履きがないからだ!」

「あるだろ。その隅っこの一番上」

「あ、本当だ・・・・」

でも、身長の低いルキアでは届かなかった。

「む、この!」

「どけよ。俺が出してやるから」

「う、うむ。苦しゅうない」

「その苦しゅうないってなんだ?どっかの時代劇の殿様みたいだな?」

ルキアに上履きを出してやり、登校するときはいていた革靴を下駄箱になおす。

「どうでもよかろう、そのようなこと!今は急がねば、朝礼が始まってしまう!」

すでに記憶置換により、ルキアはアメリカに留学していて、今日から復学が決定した設定であった。

「それにしても、アメリカに留学の設定って無理ないか?英語大の苦手だろ」

「そのあたりは、記憶置換でどうにでもなる」

「それ、めっちゃ便利だよな」

「む、貸さなぬぞ!これは人が使ってよい物ではない」

「別にいらねーよ。誰かの記憶を改竄したいなんて思ってねーし」

ガラリと戸を開けると、朝礼の途中であった。

「遅いぞ、黒崎!朽木もだ!」

担任の教師は、一護とルキアを叱った。

ちなみに、一護とルキアは親戚という設定しておいた。その方が、黒崎家から二人が出てくるところを見られても、平気だからだ。

「えーこの度、アメリカ留学から帰ってきた朽木が復学することになった。しばらくぶりなので、いろいろと大変だろうから、いろいろ気を使ってやってくれ」

「おほほほ・・・・よろしくお願いたします」

「きもい」

そう言った一護の頭を殴り、ルキアも一護も席についた。

一護の隣だった。ルキアの席は。

授業を受けるが、ルキアには国語と古典以外ちんぷんかんぷんだった。

一護も一護で、
尸魂界に3週間近くいたせいか、ついていけなかった。

「これはやばい・・・茶虎にでも頼んで、休んでいた間の勉強教えてもらおう」

石田と茶虎と井上も
尸魂界に赴いたが、帰還は一護よりずっと早かった。

「あー、あんた、授業についてけないんでしょ」

「あ、たつき。すまねぇ、休んでいた時の分教えてくれ」

「それは別にいいけど・・・・あんた、いいの?」

「何が」

「朽木さん放っておいて。男子生徒二人に連れていかれたよ」

「まじかよ!」

一護が、男子生徒二人に連れていかれたという屋上にやってくると、ルキアがちょうど男子生徒の一人の顔面に蹴りを入れているところだった。

「あ、パンツ見えた。水玉か・・・・・」

「一護!助けにきてくれたのかと思ったら、パンツなど見よって!けしからん!」

ルキアは体が軽いが、けっこう蹴りは強いのだ。

もう一人の男子生徒も、腹を蹴られて、屋上で蹲っていた。

「おい、お前ら。ルキアは俺のものだ。手だしたら、無事でいられないと思え」

それぞれの生徒の頭を蹴って、ルキアの方を向く。

「だ、誰が貴様のものだ!私は私自身のものに決まっておろう!」

「ルキア、愛してる」

「う・・・卑怯だぞ!そのような切ない顔で、そのような台詞!」

「ルキアは、俺のこと好きか?」

「す、好きに決まっておろう!」

「じゃあ、愛してる?」

「し、知らぬ!」

真っ赤な顔をして、ルキアは屋上から立ち去ってしまった。

「ああもう、かわいいなぁ」

一護は、ルキアに大分毒されているようだった。



―-------------------------------------------二人の最後の冬がやってくる。



拍手[0回]

最後の冬 一護の我儘

「ルキア・・・・」

この1年5カ月、ずっとルキアを思っていた。いや、それはルキアが処刑されるために尸魂界へと、連れ去られたのを助け出したのをきっかけで、ずっとルキアを思っていた。

そして先の大戦から数週間後。

ルキアは、高校生として現世に帰ってきた。

高校卒業まで現世にいさせてほしいという、一護の願いが通じたのだ。

尸魂界を救った英雄。一護はそう呼ばれていたが、英雄でもなんでもない。みんなの力があったから、ユーハバッハを倒せたのだ。

先の大戦で、山本元柳斎重國、卯ノ花烈、浮竹十四郎というメンバーが死んだのは知っていた。

ルキアにとっては、上司である浮竹の死は一番こたえたのではなかろうか。葬儀の時、とてもたくさんの涙を零していた。

浮竹の死は尸魂界侵攻のほぼ終わり頃なので、一護もまだ尸魂界にいて、葬儀に参加した。

真っ白い百合に囲まれた浮竹は、真っ白な髪とあいまって、百合がよく似合っていた。ルキアを含む席官たちが涙を流す。いつも一緒にいた京楽も、とても悲しそうな目をしていた。

「浮竹隊長!」

「ルキア、こっちへこい。一人で泣くな。俺の胸で泣け」

そういうと、ルキアは一護の死覇装を握りしめて、ポロポロといつまでいつまでも泣いていた。

浮竹の棺が蓋をされ、火葬されて灰になって。

ただ、泣いていた。

彼女が泣き止んだのは、葬儀が完全に終わって2時間ほどしてからだった。

泣きはらした目で、朽木邸に帰っていくルキアを、一護は送った。まだ数日尸魂界に滞在する予定だったので、朽木家に泊めてもらった。

これから復興がはじまる。

隊長副隊長は忙しくなる。

分かっていて、京楽に切りだした。

「なぁ、京楽さん。ルキアを------------------せめて、高校卒業まで、現世にいさせてくれないか」

「これまた無茶をいうねぇ、一護君」

「これから復興で忙しいのは知っている。しかもルキアの隊は浮竹さんを欠いている。それでも・・・・ルキアと一緒に過ごす時間が欲しいんだ」

「尸魂界の恩人だしねぇ。まぁいいよ。高校卒業まで、あと5か月もないでしょ。13番隊には、僕からなんとかなるようにしておくから」

「すまない、京楽さん」

朽木家に戻り、ルキアにそれを話すと、ルキアはきょとんとした目をしていた。

「私が現世へ?何故だ」

「高校卒業まで、現世にいさせてくれって京楽さんに頼んだんだ」

「だから、何故だと聞いておる!」

「ああ、もう少しは察しろよ!」

一護は、ルキアを抱き締めていた。

「なななな、何をする!」

顔を真っ赤にさせたルキアに、耳元で囁く。

「好きなんだ、ルキア。お前のことがどうしようもなくらいに、好きだ」

「わわわわ私も・・・・・好きだ」

蚊の鳴くような声だった。

それでも一護にはちゃんと届いていた。

「恋次のことも好きか?」

「ああ、好きだ」

「石田に茶虎に井上のことは?」

「無論好きだ」

一護は長い溜息を零した。

「そいう好きじゃなくって、俺は恋愛感情でルキアのことが好きなんだ」

ルキアは真っ赤になって、倒れた。

「おい、ルキア!」

「たたたたわけ!私の心臓を止める気か!」

ルキアは、朽木邸のルキアに与えられた部屋の中で、真っ赤になって逃げ道を探していた。

「なんで逃げるんだよ」

「にににに、逃げてなどおらぬ!」

「ならこっちにきて、ちゃんと答え聞かせてくれ」

「わわわ私は・・・・・・」

見てるだけで分かるくらいの反応だった。

それでも、答えが聞きたくて、ルキアの細い腰をぐいっと自分の方に抱き寄せた。

一護の腕の中にすっぽりと納まってしまったルキアは、頬を朱くしてぎゅっと目を閉じていた。

「何も、とって食ったりしてーよ」

「ほ、本当か?」

そーっと目を開けるルキア。

ドアップで、一護の顔を見てしまい、そのかっこよさにルキアはプシューと音をたてていた。

「私も貴様のことが恋愛感情で・・・このバカカレーはうまい、兄様に一度は食べさせてあげねば・・・・・・」

ルキアは、真っ赤になって、一護の腕の中にいた。

「少し落ち着けよ」

「落ち着いていられるか馬鹿者!この手を離せ!」

「え、ああすまねぇ」

ルキアを解放すると、ルキアは布団にもぐりこんだ。

「どうしたんだよ、ルキア?」

「すでに答えなら言ったであろう。私も貴様のことを恋愛感情で-----------------と」

ルキアの肝心な部分の沈黙に、一護が言う。

「いや、肝心の部分が聞こえてねぇから」

「貴様を!恋愛感情で!好きだと言っておるのだ!」

「んで、照れて布団被ってるのか?」

「そうだ!何か悪いか!」

「悪くねぇけど、かわいい」

くすくすと笑う一護に憤慨して、ルキアは頭突きを食らわした。

「いってぇ」

「いつまでこっちにいる気なのだ!現世に戻り、高校に通うのであろう?」

ルキアの問いかけに、一護が答える。

「ああ、明後日には現世に戻ろうと思ってる」

「では、明後日には私も現世へか。13番隊はどうなるのだ。隊長副隊長不在では・・・・」

「そこらへんは、京楽さんが何とかしてくれるって言ってた」

「京楽総隊長が・・・・・」

それでも、どうしても不安が残る。隊長副隊長不在が、約5か月ほど続くのだ。

「俺の我儘なんだ。ルキアともっと一緒にいたい。残り5か月もないけど、一緒にいたいんだ」

一護が、背後からルキアを抱き寄せた。

「こら、一護!」

「ルキアの匂いがする・・・・・」

「一護・・・・・」

「ルキア、大好きだ」

ルキアは、ぽろぽろと涙を零した。

「ルキア?」

「分からぬ。分からぬが、心が痛いのだ。浮竹隊長は亡くなられた。なのに、私だけこんな幸せを享受していいのかと・・・・・」

ルキアの頭を撫でた。

「一護・・・・」

「今日、お前の部屋に泊まってもいいか。何もしねぇから。これは絶対だ。何もしねぇと誓う」

「兄様が・・・・許してくれるかどうか・・・・・」

「ああ、それならもうずっと前に、妹さんを俺に下さいって言っておいた。千本桜で切り刻まれそうになったけど、了承はもらったみたいだ」

「兄様・・・このような者、斬り捨ててくればよかったのに」

「そりゃねーだろ、ルキア」

抱き寄せてくる腕に力が籠る。

それでも、優しい腕だった。

「では、貴様は今日も明日もこの私の部屋で寝泊まりするのか?」

「ああ、そうだ」

ルキアは真っ赤になった。さっきから赤くなってばっかりだ。

「だから、何もしねぇよ。まぁ抱き着いたりくらいはするけど。現世にいた頃も、俺のベッドでよく一緒に寝てただろ?あんなかんじだよ」

「あの頃は、お互い何も思っても口に出さなかったからよかったのだ!恋愛感情で好きと言われて、気にしないほうがおかしいであろう!」

「まぁまぁ」

もう夜も遅い。ルキアは、すでにひいていた布団の隣に、もう1つの布団をしこうとして、一護に止められた。

「なんだ」

「お前と一緒の布団で眠りたい」

「勝手にしろ!」

ルキアが布団に入ると、その隣に一護が入ってきた。

「ルキアの心臓すっげードクドクいってる」

「は、恥ずかしいのだ!」

後ろから一護に抱き締められて、腕の中にすっぽりと納まってしまっていた。

一護のほうには恥ずかしく顔を向けれないので、背をむけていると、一護の手がルキアの頭を撫でた。

「子供扱いするな!」

「してねーよ。さらさらの髪だなと思って。昔とちっともかわってねぇな」

1年と5カ月前の頃と、本当に何も変わっていない。少なくとも、外見上は。その戦闘能力は、卍解に至るまでになった。

「ルキア、もうちょっと俺の方に寄って」

「うむ・・・こうか?」

ちゅっと。

音をたてて、頬にキスをされた。

「き、貴様、何もせと言ったであろう!」

「いいじゃねぇか、頬にキスくらい」

「一護のあほ!」

ルキアは拗ねたように、一護の方を向いたと思うと。

ちゅっ。

一護のの頬に、キスをしていた。

「ルキア?」

「これで、お互い同じだ!いいな!」

一護が笑う。

「あーもう、マジでお前かわいい」

「な、何もするなよ!キスもだめだぞ!」

「わーってるって」

一護が、抱き締めてくる腕に力をこめると、細いルキアの肢体は、一護の胸の中へ。

互いに体温を共有し合って眠った。



---------------------最後の冬が、訪れようとしていた。

拍手[0回]

雪遊び

雪が積もった。

瀞霊廷で雪が積もるのは久しぶりで、恋次は6番隊隊舎の庭にでて雪だるまなど作り出した。

「恋次。休憩時間にしろ。今は業務時間だ」

「あ、すみません隊長。あんまりに珍しいので、ちょっと浮かれちゃって」

恋次は執務室に戻ると、体を震わせてまといついていた雪を落とした。

「犬かお前は。そのような行為、室内に入る前にしろ」

「あ、すんません」

口ではすみませんと言っているが、反省は全然していないようだった。

「恋次」

「どうしたんです、隊長?」

「瀞霊廷に雪が積もるは、実に20年以上ぶりだ」

「俺が真央霊術院にいた頃も、一度だけ積もったこしました。同期の吉良と雛森とで遊んだ記憶があります」

もう50年以上も前のことだ。

未だに鮮明に覚えてる。雪かきしなければいけないほどに積もって、グラウンドを使えないし、道場の入口も積もって中に入れないので、みんなで雪かきをした。

雪玉を投げ合ったり、雪だるまをつくったり、雪ウサギをつくったり、かまくらを作ったりして、遊んだものだ。

昼休憩時間になり、恋次は昼飯を早々に食べ終えて、雪だるまをまた作り出した。まださっきまでは途中だったので、見事に完成した雪だるまを、白哉に見せる。

「隊長、見てください!けっこう我ながら力作だと思います」

木の葉や枝で顔と腕を作った。

「甘い」

白哉は珍しく、雪で何かを作り出した。

10分後、雪でできた見事なわかめ大使があった。

「隊長すげぇ。こんな短時間で、こんなに完ぺきにわかめ大使を作るなんて・・・ぶべ」

恋次の顔に雪玉が投げつけられた。

それが白哉が投げたものだと理解するのに、数秒を要した。

まさか、隊長が子供のように雪遊びをするなんて、思わなかったからだ。

恋次はにやりと笑んで、雪玉を作るとそれを白哉に投げた。

白哉はひょいっと避けた。

でも、恋次がもっていた雪玉は1つだけではなかった。2個3個4個tなげていると、そのうちの1個が、白哉の顔面に当たった。

「よい度胸だ」

白哉も雪玉をたくさん作り、二人で投げ合って遊んだ。

「なんか複雑だな」

「何がだ」

「まさか、隊長が雪遊びするなんて思わなくて」

「私とて、たまには童心にかえりたい時もある。こんなに雪が積もっているのだ。20年以上ぶりだ。次にいつ積もるのかさえ、分からぬ」

そういって、白哉は雪ウサギを作り出した。

その隣に、恋次ももう一羽雪ウサギをつくった。

「これ、俺と隊長です。溶けるまで、仲良くここにあります」

「私とお前か。だが、私たちは溶けるようなものではない。ちゃんとここにいて、恋次の傍にいるであろう」

「隊長!」

恋次は白哉に抱き着いた。

そのあまりの勢いに、雪の中に倒れこむ。

「冷たい・・」

「あ、すんません」

「雪がついた。払うのを手伝え」

起き上がった白哉の髪についていた、雪を払ってやる。

「隊長、体が冷たい。早く執務室に戻って、ストーブにでもあたりましょう」

浦原から流通する家電製品の中の、こたつとストーブは、TV、洗濯機、掃除機とまでいかないものの、それなりの人気商品であった。

執務室に戻り、火鉢とは比べものにならない、その暖かさに恋次も白哉もほっとする。

「隊長、風邪引きそうなったりしてませんよね?」

「病弱ではないのだ。この程度で風邪をひかぬ」

今は亡き、浮竹を思い出す。彼なら、多分風邪を引いて熱を出すだろう。

「でもこの前インフルエンザにかかってたじゃないですか」

「それはお前もだろう」

「隊長のがうつっただけです」

「私も、席官がひいていたのがうつっただけだ」

白哉は、インフルエンザになどかかってしまった自分が、情けないと思っていた。

「人は誰しも何かの病にかかりますから」

まるで白哉の気持ちを分かっているような、言い種だった。

「お前はずるいな・・・・私の心をもっていく」

「え、隊長?」

抱き締められて、恋次は慌てた。でもすぐに冷静になり、白哉を抱き締め返した。

「俺には、隊長だけですから」

「私も、お前だけだ・・・・・」

触れるだけの口づけを交わす。

それがいつしか深いものに変わっていた。

「んん・・・・ふあ・・」

抜いていかれた舌が、つっと銀の糸を引く。

「隊長、もっと・・・」

「我慢しろ。この前睦み合って、3日も経っておらぬ」

恋次はそう言われて、我慢するしかなかった。

無理やり襲うこともできるが、そんなことをすれば白哉の怒りはかなりのものになる。

1か月接触禁止とかくらいそうだ。

白哉が恋次から離れていく前に、いつの日にか贈ったエンゲージリングのされた手に、キスを落とした。

「恋次・・・・」

白哉は、切なそうに恋次を見た。

恋次も、白哉を見つめる。

気づけば、またキスをしていた。

「今日はここまでだ。仕事に戻るぞ」

すでに、昼休憩の時間は過ぎていた。

庭に飾られたままの雪うさぎは、白夜所有の氷室にうつされて、溶けることなくその姿を保ち続けるのであった。

拍手[0回]

インフルエンザ

ある日、白哉がインフルエンザにかかった。

原因は、席官がかかっていたのがうつったのだ。

「ごほっごほっ・・・恋次、あまり近よるな。うつる」

「俺、インフルエンザの予防接種受けたから大丈夫です」

「そのような問題ではない。ワクチンを打ったとしても、かかる可能性があるのだ。私のことはよいから、下がれ」

朽木邸の寝室で、寝たきりになっている白哉の傍に、恋次はいた。

確かに、ワクチンを打っていても万能ではない。インフルエンザにかかる可能性があることは、否定できない。

それでも、白哉の傍にいたかった。

「水、飲みますか?」

「ああ・・・」

白哉も、一向に去ろうとしない恋次を諦めて、好きなようにさせた。

「熱ありますね。風呂は入れてないから気持ち悪いでしょう。体ふきますよ」

恋次に蒸したタオルでふいてもらい、氷枕を用意されて、薬を飲んで大人しく横になった。

「6番隊は大丈夫なのか。隊長の私が抜けて、恋次、お前までここにいるということは、隊長副隊長不在であろう」

「大丈夫ですよ。今までも何度もそんなことあったじゃないですか。うちの隊は、隊長副隊長が欠席していても、通常通りです」

そうは言うが、席官が仕事をする羽目になる。あまり無理はさせたくなかった。

「恋次、お前は明日から業務に戻れ」

「ああ、そのつもりです。今日は隊長の様子見に、昼から欠席しましたけど、今日の分の仕事は隊長がやらなきゃいけない重要書類以外は、片付けてきましたから」

恋次は、戦いに熱くなりやすいタイプであるが、書類仕事もちゃんとできた。

そうじゃないと、副官なんてやっていけない。

白哉は、熱があがってきたのか苦しそうだった。

「恋次・・・・傍に、いろ」

「はい、隊長」

白哉の黒髪を撫でた。

今は死覇装ではなく、白い夜着を着ていた。

「恋次が傍にいると、安心するのだ」

熱のせいで、いつもより素直に甘えてくる。

「恋次、手を握ってくれ」

言われた通りにすると、白哉は幸せそうに微笑んだ。

「お前の存在が、私にとってどれだけ大切であるか・・・お前には、理解できまい」

「理解、ちゃんとしてますよ。俺も隊長がいなきゃ、生きていけないくらい好きで愛していて、依存してますから」

「私も、愛している----------------------」

白哉がインフルエンザでなかったら、押し倒していただろう。

素直な白哉はどこか幼く、愛らしかった。

この綺麗な人は、熱にうなされても、やはり綺麗なままなのだ。潤んだ瞳と熱のせいで上気した肌が、とにかく色っぽかったけど、相手は病人なのだと言い聞かせる。

「今夜は、泊まっていきます」

「恋次・・・・・」

インフルエンザがうつるかもしれないのに、恋次は引こうとしない。

そのまま、白哉の部屋で布団をもってきてもらい、眠りについた。

次の日。

恋次も、インフルエンザでダウンした。

「だから言ったであろう。うつると」

「いや、あんたからうつったものだから、別にいいです」

二人一緒に、白哉の部屋で療養生活を続けた。

結局6番隊はしばらくの間隊長副隊長不在で、忙しいことになっていた。

4日ほどが経ち、白哉のインフルエンザが治った。

白哉は、早々に職場に復帰して、溜まっていた書類を片付けた。

「恋次、茶を・・・・・・ああ、いないのであったな」

いつも傍にいる恋次がいないだけで、こんなに寂しい思いになるのかと思った。

恋次は、一人暮らしであったため、自分の面倒が見れないと困るということで、治るまで白哉の部屋で療養を続けた。

白哉から遅れること3日。

恋次もインフルエンザが治り、職場に復帰していた。

「お前のいないこの3日、寂しかった」

白哉に抱き着かれて、恋次は白哉を抱き上げて隊首室に向かった。

「恋次?」

「大人しく、抱かれてください。あんたを抱きたいの、ずっと我慢してたんです」

「館まで、もたぬのか?」

「無理です」

一言ですまされて、白哉も恋次の首に抱き着いた。

「大浴場を、貸し切りにしておけ」

なんとか、白哉の権限で、大浴場を貸し切りにした。

「んう・・・」

舌が絡まる。

隊首室のベッドに、白哉は押し倒されていた。

隊長羽織を脱がされて、銀白風花紗をとられて、死覇装も脱がされた。牽星箝を外されてはらりと肩まである黒髪が頬にかかる。

「は・・・ああ・・・あぁっ」

薄い胸の筋肉をマッサージするように触られて、先端を口に含まれ、もう片方をかりかりとひっかかれた。

恋次の手が、脇腹を撫であげる。

「んん・・・・」

また、舌が絡まる口づけを交わした。

隊首室は、恋次の私室にもなっていたので、潤滑油が置いてあった。

それを指につけて、白哉の体内に指を埋めこんでいく。

「ああ!」

いいところを触られて、ビクンと白哉の体がはねた。

前立腺ばかり刺激されて、白哉の花茎はとろとろと蜜を零していた。それに手をそえられて、しごかれるとあっという間に白哉は熱を放っていた。

「あああ!・・・・ううん」

恋次の指が、生き物のように白哉の中で動く。

やがて指が引き抜かれて、怒張したものが宛がわれた。潤滑油で濡れ、その場所を解されているとはいえ、そういうことに使う器官ではないので、引き裂かれると痛みで、涙が零れた。

「んああああああ!ひあ!」

「すんません・・・痛いですよね。ちょっと我慢しててくださいね」

涙を恋次が唇で吸い取った。

前をいじってくる。

「ああ・・・・そんな・・やめっ」

前立腺を突き上げながら、恋次は白哉のものを手でしごく。

ぬちゃぬちゃと音がした。

結合部は、ぐちゅりと音をたてて、恋次は前立腺をすりあげる。

「あああ・・・・・んああああ・・あっ!」

白哉は、二度目になる熱を放っていた。

月に2回の逢瀬が、最近4回まで増えていた。お互い、まだ若い。

迸らせる熱を感じながら、恋次が白哉の中に放った。腹の奥でじんわりと広がる熱に、白哉は目を閉じた。

「愛してます、隊長・・・・・・」

「私も、愛している・・・」

お互いの思いを確認し合いながら、睦みあう。

ズチュンと奥を突かれて、白哉の体が痙攣する。

「あ、あ、いや・・・・もう、いや」

何度目になるかも分からない絶頂を、もう吐き出すものがないのでドライのオーガズムで達していた。

最後に恋次が、白哉の腹の奥で射精する。

引き抜くと、とろりと白い液体が溢れてきた。

濡れたタオルでそれをふきとって、なんとか死覇装だけを着させて大浴場に瞬歩で向かう。

白哉は、恋次の腕に抱きかかえられていた。

行為後は、必ず風呂に入って清める白哉のために、大浴場を貸し切りにしていた。

「よい。自分で歩ける」

恋次が中に注いだものをかきだされる。

「あっ・・・・」

声が漏れて、白哉は己の口を手で閉じた。

「隊長、声聞かせて・・・」

「んう・・・」

舌が絡むキスを何度か繰り返して、離れた。

「これ以上は、もういらぬ」

恋次は反応しかけていた下肢のものを、自分でしごいて抜いた。

「お互い、若いですからね」

若いといっても、白哉は恋次より50以上は年上だ。それでも、白哉はまだまだ若かった。

互いの髪と体を洗って、湯に浸かる。

「今日のお前は、切羽詰まっていたな。隊首室で私を抱くなど・・・・・」

「すみません。館まで耐えれそうになかったんで」

「よい。どのみち、夜には館に呼ぶ予定だった」

まだ仕事の時間なので、大浴場は貸し切りでなくとも人は入ってこないだろう。

仕事は少し溜まっていたが、二人が本気になると今日の残り時間で片付くだろう。

湯からあがり、着ていた死覇装とは別の、真新しい死覇装をきた。

着ていたものは、体液で汚れてしまっている。

「隊首室でなど・・・・昔の私であったら、許していないであろうな」

白哉も変わった。

緋真だけを愛していたのに、恋次を愛していると気づき、思いを口にした。

恋次は、隊長は俺だけのものだと豪語する。

それもまた、よいかもしれないと思う白哉がいた。

「牽星箝・・・一人ではつけられぬのだ。いつも清家に手伝ってもらっている」

「俺が手伝いますよ」

恋次は、四苦八苦しながら、白哉の髪を乾かして、牽星箝をつけた。

いつも通りの隊長の姿になる。

睦みあった痕跡など、胸のあたりから臍にかけて残したキスマークだけで、はたから見ればいつもの白哉だった。

「お前は、意外に器用なのだな」

牽星箝をつけたことに対して言っているのだろう。

「いや、滅茶苦茶難しかったです」

「そうか・・・やはり、清家でないとだめか」

「その清家さん・・・いつも隊長の支度を?」

「ああ。手伝ってもらっている」

白哉おつきの者だ。嫉妬しても仕方ないが、恋次は軽い嫉妬を覚えた。

「清家に嫉妬しているのか?あれは、私の使用人だ」

「そうですけど・・・隊長と一つ屋根の下で暮らしているのも、納得いきません」

「清家は、使用人のための別宅で暮らしておる。一緒に住んでいるのは、ルキアと一護だ」

ルキアの婿入りをしてきた一護は、今は朽木一護と名前を変えて、貴族になっている。

「一護も奴も、羨ましい・・・・」

「そんなに我が屋敷に泊まりたいなら、たまにであれば、泊めてやろう」

「まじですか」

恋次は食いついた。

インフルエンザの時のような理由もなく、白哉の隣にずっといれるなら、それは理想だ。

「ただし、盛るなよ」

「う・・・・」

痛いところを突かれたが、恋次は結局次の日には早速朽木家の泊まりにいくのであった。






拍手[0回]

12話補完小説「斬月」

真咲は、虚化が進んでいた。

「そのお嬢さん、真咲さんはもう二度と元には戻りません」

そう言われた時石田竜弦は、酷い眩暈を感じた。

「魂魄自殺は防ぐことができます。でも、彼女の命を救い、虚化させず、人間のまま留めるには、更に強い力が必要です。彼女が死ぬときまで、片時も傍を離れず彼女の虚化を抑え続ける、相反する存在が」

虚化を止め、命を救うには、浦原の作った特殊は義骸に入って、一心が常に傍にいる必要があった。

そんなこと、この男にとってなんの 得にならないと、石田竜弦は感じた。

いろいろ条件を言われたけれど、一心は一言。

「わかった、やる」

とだけ答えた。

「未練に足を引っ張られて、恩人を見殺しにした俺を、明日の俺は笑うだろうぜ」

そう言った。

一心は、傍にいることを望んだ。

「俺は、この子を守る」

そう言って、義骸に入ってしまい、死神と人間の中間の位置になった。

真咲が滅却師と虚の中間の位置にいる、反対側の存在へと。

真咲は太陽に似ていた。いや、太陽そのものに見えた。

真咲は明るかった。

真咲に振り回さるのが、嫌ではなかった。

「そして、お前が生まれた、一護」

真咲は、9年前、本来なら死ぬはずではなかった。

聖別(アウスヴェーレン)

ユーハバッハによって行われたその儀式のせいで、真咲は滅却師としての力を奪われて虚に負けて死んだ。

一護には、ユーハバッハの血が流れている。

ユーハバッハは、滅却師の王であり、滅却師の始祖。

その血が、真咲から一護へと伝わっていた。

思い出す。

ユーハバッハと会った時の言葉を。

「闇に生まれし我が息子よ」

そう、確かに言っていた。

自分ことを、息子だと。

「親父・・・・ありがとな」

一護は、全てを語ってくれた一心に、礼を言っていた。

そして、尸魂界へほぼ無理やり連れてこられた。

たくさんいる浅打の中から、一護は一体の浅打を選んだ。

それは、一護に眠る虚自身。

斬月は、見事に二つの刃となって蘇った。

斬月は語る。

「私は、斬魄刀のふりをしていた」

「おっさん・・・おっさんは、斬月なんだろ!?」

「違う。私は・・・・・」

その姿は千年前のユーハバッハ。

「今まで君の内側で、斬魄刀のふりをしていた男のことを!」

刀神の言葉に、はっとなる。

「尸魂界を蹂躙する敵として、現れたはずだ。死神の力じゃない。その男は、君の中の滅却師の力。その姿は千年前のユーハバッハだ!」

はじめてユーハバッハをみたときに、誰かを思いだしそうになったことに、一護は気づいていた。

斬月だ。

斬月を、思い出しかけていたのだ。

その姿はあまりにも斬月にそっくりで。

始めてあいつを見た時に「誰か」を思い出しそうになった。それに、気づかないふりをしていた。ずっと、考えないようにしていた。

「どういうことだ斬月」

「私は、斬月ではない」

「じゃあ、誰だっていうんだよ!」

「私は、お前の中の滅却師の力の根源。ユーハバッハであり、ユーハバッハでないもの」

「わかんねぇよ!敵なのか味方なのか!?どっちなんだよ!?」

「分かっているだろう?お前を救ってきたのが・・・私ではなく、虚だったことを」

「どうして・・・・・」

「私はお前を死神にさせたくなかった。そしていつか必ず、私自身の手でお前を殺さなければならぬだろう」

炎の中に、刃が見てた。

「持っていけ。それがお前の真の斬魄刀「斬月」だ」

―------------斬月。

俺はあんたが誰だってかまわねぇ。あんたは違うと言うだろうけど、あんたもあいつも、きっとどちらも「斬月」なんだ。

斬月として在れた、年月。

「これ以上の幸せがあるものか。身を引けることに、喜びさえかんじている」

斬月は散っていく。まるで桜が風を受けて舞い散っていくように。

「待ってくれ斬月!俺はまだ!」

斬月に向かって手を伸ばす。

でも、その手は、届かなかった。

「もっていけ、それがお前の真の斬魄刀だ。斬月だ」

炎の中から、鍛え上げられたばかりの2対の斬魄刀を手にする。

新しい斬月だった。

「斬月、おれはあんたが誰でも構わない」

斬月と今まで一緒に戦ってきたのだ。

でも、もうそれもしまいだ。

「斬月、俺は俺自身で戦う」

心の中にいる斬月と、決別した。もう散ってしまった斬月と。

「ありがとう、斬月。あんたは俺だ」

一護は、2対の斬魄刀を手にしていた。

その刃で風を切る。余波で、壁が切れた。空間が歪んだ。

「これが、新しい斬月・・・俺の、斬魄刀・・・・・・」

二対になった斬月を手にする。

1つはユーハバッハの姿をしていた斬月で、もう1つは一護に眠る虚の力そのものである錯覚を覚えた。

「よろしくな、斬月!」

一護は、自分の斬魄刀に挨拶をしていた。

これからは、自分の力のみが頼りなのだ。

今まで、散々斬月にの手をかりてきた。でも、それも終わりなのだ。

「斬月・・・心の中にもうお前はいないけど、お前斬月だ」

斬月を手に、歩き始める。

新しい斬月と、共に。

どこまでも、どこまでも。



拍手[0回]

お茶が不味い

「まずい」

だーっと、恋次はお茶を吹き出した。

白哉が、お茶を入れるというので、嬉しくそれを受け取って飲んだのだ。

玉露の最高級の茶葉で入れたお茶が、どうすればこんなに苦く不味くななるのかが知りたくて、白哉のお茶を入れる手順を見せてもらった。

まず、急須に茶葉を入れる。そこの熱湯を注ぐ。そこまではいい。そこから変な実やら薬らしきものまで、ぽいぽいと急須に入れるのだ。

「何、茶葉以外に入れてるんですか!」

「プロテイン、ビタミン剤、栄養のつくという木の実、その他いろいろだ」

「そんなもの、お茶にいれるなーーー!!!」

恋次は、お茶の入れ方というものを白哉に教えた。

「普通に茶葉をいれて、熱湯じゃなしに適温のお湯を注いで茶葉から香りと茶の色がでてきたら、それを注ぐ。簡単でしょう?」

「プロテインにビタミン剤に木の実は?」

「そんなもの入れません!」

しゅんと、白哉はしおれた。

多分、恋次のためを思って茶を入れてくれたのだろう。

その思いは嬉しいが、流石にあんな不味い茶を飲めるほど、鈍感にはできていなかった。

恋次の言う通りに急須に茶葉をいれて、適温の湯をいれて、2~3分経ってから、湯のみに茶を注いだ。

「うん、今度は美味しい。やればできるじゃないっすか隊長」

「ルキアは、私の入れた今までのやり方の茶を美味いといってくれる。なのに恋次は不味いという。どちからが本当であるのであろう?」

「あー。ルキアはあんたのことめっちゃ愛してるから、たとえ不味くても美味しいっていうに決まってます」

「そうか。最近、朽木一護になったあの者にも、同じ茶を飲ませたが、失神しおった」

どんだけ不味い茶を飲ませたんだ、あんた。

めっちゃつっこみをいれたくなったが、かわいらしく首を傾げるそのあどけない表情に釘付けになった。

めっちゃ、かわいい。

執務室でなかったら、襲ってしまいたい。

なんとか理性と戦いながら、まともな入れ方を身に着けた白哉の入れてくれた茶を飲んで、茶菓子を出した。

茶菓子は、わかめ大使であった。

白哉用のものは、中に辛子が入っていて、めちゃ辛い。

一度間違えて食べて、凄い目にあったので、辛子の入ったわかめ大使の袋には、辛子入りと書かれるようになった。

「わかめ大使・・・高級なあんこ使ってるだけあって、美味しいのに売れませんね」

「下々の者は、見る目がないのだ」

いや、完全にあんたのデザインのせいだ。

そうつっこみたかったが、無駄なことで怒らせたくないので、口を閉じた。

高級和菓子店とかに、何気に置かれているわかめ大使。

でも、売れたという報告はたまにしか入ってこなかった。

「この辛いわかめ大使も、和菓子店に置いたほうがいいいのであろうか」

「いや、止めてください!いいですか、絶対に止めてくださいよ!辛いわかめ大使、ピリ辛の域超えてますからね!?普通のキムチより辛いですからね!?」

「ルキアは、泣きながら食してくれるぞ」

おいあんた、何義妹に涙を流させてまで食べさせてるんだ。

っていうかルキアすげーな。

義兄の愛だけで、あの辛過ぎるわかめ大使を、たとえ涙を零しながらでも食うなんて。

「一護には、食べさせたんすか?」

「まだだ」

「じゃあ、今日あたりに食べさせてやってください」

にやりと、恋次は笑んだ。

白哉の近くにいつもいれる、一護が妬ましかった。

恋次は、白哉の恋人とはいえ、同じ屋根の下で暮らしていない。

「ふむ・・・ルキアが涙するほどのものなのだ。あの者も、涙を流しながら感動して食べるに違いない」

その日の夜、白哉は一護に、辛いわかめ大使を食べさせた。

一護は気絶した。

気絶するほどにうまいのかと思いながら、白哉は玉露で入れた茶をすする。

「兄様、今後、一護には辛いほうのわかめ大使を与えないでください。こやつは味音痴なので、兄様の作品のよさが分からぬのです」

「そうか」

必死のルキアのフォローを真に受ける白哉。

ルキアは出された辛いわかめ大使を、1つだけ涙を流しながら食べた。

辛い。泣き出したい・・・いや、すでに泣いている。

ここでくそ不味い、食べられたものでないと訴えると、兄様が酷く傷つく。

その思いだけを胸に、ルキアは食し終わると、今まので不味さとは比較にならない美味しい茶を飲んだ。

「兄様、兄様が入れたお茶ですよね?入れ方変えました?」

「ああ、恋次に不味いと言われて、入れ方を変えてみた」

「このお茶、凄く美味しいです!」

「そうか」

白哉は薄く微笑んだ。

ちなみに、一護は明け方になるまで気絶していた。




拍手[0回]

温もり(恋白)

「お前は温いな・・・・・・」

逢瀬の後、湯浴みも終わり、髪も乾かして同じ布団で眠っていた白哉が、ふと呟いた。

「隊長、寒いんですか?」

「お前の温もりが心地よいだけだ」

なんという殺し文句だと思いながら、もう手は出せないので、白哉の黒髪を手で梳いた。

「寝ないのか?」

「それはこっちの台詞です。ああ、明日は休みか。でもそれでも、早起きするんでしょう?」

「いつも6時には起きる」

「うわ、あと6時間しか寝れないじゃないですか。早く寝てください!」

恋次が、明かりを消した。

流魂街にいた頃は、こんな贅沢な暮らしができるなど、思ってもみなかった。

せいぜい平隊士になれて、こつこつと貯金して生きていくんだと思っていた。

真央霊術院で特進クラスになれて、これは将来期待できるかもしれないと思った。まさか、4大貴族の当主に惚れるなんて、ちっとも考えていなかった。

ルキアを養子にと迎えにきたあの日、これは運命なんだと思った。

それまでルキアばかりを追っていたのに、いつの間には白哉を追うようになっていた。

死神になり、6番隊に配属されなかったことがとても不満だった。

だがやがて実力をつけて、6番隊の副隊長を任せられようになった。憧れの人のすぐ傍にいることができた。

決死の覚悟でアタックした。

想いは実り、憧れの白哉に振り向いてもらえるようになった。

体を重ねあう関係になった。

逢瀬を重ねる時に使う館では、いつも口にできないような豪華な食事と高級酒を口にした。他の誰よりも恵まれていると思った。

ふと、隣で白哉がくすぐったそうにしていた。

いつの間にか、恋次の手は白哉の頭を撫でていた。

「あ、すんません。寝るのに邪魔ですよね」

「もっと撫でても、構わぬ。お前に触れられるのは、嫌いではない」

そう言われて、我慢の糸が切れる気がした。

でも、もう抱くわけにもいかないし、出すものもないくらい睦みあったので、ただ白哉の頭をなで、その黒髪を手で梳いた。

いつの間にか、白哉は眠ってしまっていた。

薄暗いが、少し照明があるので、ぼんやりと白哉の寝顔が目に入った。

あどけない。

そう思った。

中性的な美貌をもつ白哉の顔は、人形のようによく整っていた。美しいと思う。男性に対して使う言葉ではないが、本当に美しかった。

これで、6番隊の隊長で朽木家の現当主というのだから、女は放っておかないはずだ。何度も何度も、見合いの話が舞い込んできた。

それを、白哉は後添えはいらぬと、頑なに断った。

一度だけ、どうしてもと見合いをしたことがあるが、恋次の登場で滅茶苦茶になった。

そんなことはしなくても断るつもりだったのだと、言われた。

今頃、朽木家では本当の死神になり、ルキアの婿養子にきた一護とルキアも睦みあった後で、一緒に眠っているかもしれない。

一護が白哉の傍にいるのは、奇妙な感覚だったが、ルキアしか目に入っていない様子で、安心できた。

そのうち、恋次も眠くなり、意識は闇に滑り落ちていった。

「ん・・・」

ふと気づきくと、白哉の温もりが遠かった。

布団からはみ出してしまいそうな形で眠っていたので、毛布と布団をかけ直して、傍に寄り添って眠ることにした。

次に目覚めると、朝の9時だった。横では、白哉がまだ寝ていた。

いつもは6時には起きるのに、珍しいことだ。

まさか熱でもあるのかと、額に手を置くと、白哉が目覚める。

ばっと時計をみて、眉を寄せた。

「寝過ごして・・・しまった。恋次の温もりに安堵していたら・・・」

なにその殺し文句。

「ああ、めちゃかわいい」

そう言ってキスをすると、白哉は急いで出勤しようとして・・・・今日は休日だったのを思い出して、動きが鈍くなった。

「そうか。今日は休みをとっていたのだ・・・」

「二度寝しますか?」

「もう十分寝た。6時間寝れば十分なのに・・9時間近く眠ってしまった。恋次のせいだ」

「なんで俺のせいなんですか」

「お前の温もりが、とても心地よかったせいだ」

恋次が溜息を零す。

本当に、隊長はこれで誘っていないつもりなのだろうに、誘っているとしか受け取れなかった。

「隊長、寒くて眠れない時あったら、伝令神機でいつでも呼んでください。添い寝しにいきますから」

「そのようなこと、不要だ」

白哉はそっけなかった。

そのそっけない態度と、さっきの言葉が妙にチグハグで、恋次は笑っていた。

「何がおかしい」

「隊長って、かわいいなと思って」

「戯言を・・・」

白哉の手が、長い恋次の髪を掴む。

「あいててて、髪は勘弁してください!」

「ならば、戯言など言うな」

「いや、本気なんすけど」

また髪の毛を引っ張られた。結んでいた髪ゴムが切れて、ばさりと紅蓮の色が広がった。

「焔のようだな。お前の髪は。業火を思わせる」

「そんな綺麗なもんじゃないですよ」

「そうか?私はお前の髪の色が好きだ。炎のようで」

紅蓮色の髪を、恋次は新しい髪ゴむで大雑把にまとめあげた。

「嘘でも、嬉しいです」

「嘘などついて、何になる・・・」

「それより、朝食どうします?」

昨日の夕飯を作ってくれた料理人は、帰った後だった。

「仕方ない。お前も来い。我が屋敷で朝食をとる」

言葉通り屋敷へつくと、一護とルキアが出迎えてくれた。

「白哉、どうしたんだ、遅かったな」

「貴様、兄様は無駄なことはせぬ!何かあったのだ」

「寝坊しただけだ」

白哉の言葉に、ルキアが驚く。

「兄様が寝坊!明日は槍が降る・・・・・」

「大げさだな、ルキア。寝坊なんて、誰にでもあるぜ」

恋次は笑って、4人で食堂で朝食をとった。

一護が婿養子にきてからというもの、朽木家は少し騒がしくなった。

一護の存在が、ルキアも、ひいては白哉も明るくさせているのだ。

一護は、今は13番隊の3席だ。

まだ死神業務になれておらず、いずれ副隊長になるだろうが、今はルキアが隊長で副隊長は小椿だった。

「今日は、俺も屋敷にいていいんですか?」

「好きにするがよい」

そう言われて、恋次は白哉の傍に、鬱陶しいと怒られるまで、傍にいるのであった、





拍手[0回]

温もり

「ん・・・・・京楽?」

「どうしたの」

ふと眠っていると、隣にあったはずの体温が消えていて、不安げな声を出していた。

「京楽、傍にいてくれ」

素直に甘えてくる浮竹は可愛かった。

「どうしたの、何が悪い夢でも見たの?」

「違う・・・ただ、隣に温もりがなくて」

その日は雨乾堂に泊まっていた。

仕方ないねぇと、京楽は僅かな明かりをつけて、浮竹の隣で寝そべりながら小説を読みだした。

「これくらいの光なら、寝れるでしょ?ちゃんと隣にいるから、もう一回寝なよ」

「京楽は、寝ないのか?」

「ちょっと今日は昼寝しすぎちゃってね・・・・眠くないんだ」

いつもなら、眠剤を飲むところだが、小説の続きが気になって仕方なかった。

「なんの小説を読んでいるんだ?」

「青春白書。他愛もない生徒と教師の禁断のラブストーリー」

「生徒と教師・・・なんか萌える設定だな」

「そうでしょ」

1巻を浮竹に渡すと、浮竹も読みだした。5巻で完結だった。

最初は面白くて読んでいたが、眠気にまけて、そのうちスースーと静かな寝息をたてだした浮竹に、苦笑して毛布と布団を肩までかけてやる。

「風邪引かないようにね・・・・・」

眠っている浮竹の顔は、あどけない。学院時代と変わらぬ寝顔だった。

確かにあの頃よりは年は重ねてしまったが、浮竹の寝顔のあどけなさはちっとも変わっていなかった。

実際の年よりも、大分幼く見えた。

「僕も君も、いい年をした大人なのにね」

浮竹と同じ布団で眠っていた。まだ肌寒い季節だ。

京楽も、小説に栞を挟み、横になる。

やっとのことでやってきた睡魔だ。これで寝れなかったら、薬を飲んで寝ようと思った。

次の日の朝、寒さで目が覚めた。

見ると、寝返りを打った浮竹に毛布も布団もとられていた。

なんとか自分の上に毛布と布団をかけて、もう一度眠りだす。

寝た時刻が遅かったので、京楽は昼過ぎまで寝てしまった。

「寝すぎた!」

隣で浮竹はまだ寝ていた。

「ねぇ、浮竹、いい加減に起きなよ」

起こすと、寝ぼけ眼で浮竹が起き出した。

「今何時だ?」

「昼の1時」

「どうせ今日は互いに休日だ。いくら寝ても、誰にも文句は言われないさ」

それでも、寝すぎると夜に眠れなくなるからと、まだ眠り足りなさそうな浮竹を布団から追い出して、布団を畳んで押し入れになおした。

「この時間だと、朝餉は流石にないか。昼餉を食べに行こう」

「ふあ~」

浮竹は大きな欠伸をしてから、伸びをした。

「ふーよく寝た。13時間かな」

「君、それ眠りすぎだから・・・・・」

浮竹は、たまに怠惰だ。それは院生時代から変わっていない。

院生時代は登校時間ぎりぎりまで寝ていて、よく朝食を食べなかった。

13番隊の隊舎にいき、食堂で昼餉を食べた。

それからすることもないので、互いにごろごろしながら、青春白書という、夜に読んでいた小説を読みだす。

浮竹は読むのが早いのか、もう2巻を読み終わってしまった。

今、京楽が読んでいるのが3巻だ。

「早く3巻を渡せ」

そう言われて、読んでいる最中だったが、3巻を浮竹に渡した。

途中なので、4巻を読むわけにもいかず、浮竹のサラサラな白髪を手ですいたり、三つ編みにして遊んでいたら、30分ほどで浮竹は3巻を読み終えてしまった。

「そんなに早く読み終わるの?」

「早読みは得意なんだ」

学院時代、国語の成績は常に学年TOPだったことを思い出す。

古典もだ。

問題文を読むのが早いので、その分回答に時間が回せるのだ。そもそも秀才だ。影で努力をして学年TOPを維持していた。

「なんだか、早読みできるのって、羨ましいけど時間がつぶせなくなって、悲しくもあるね」

「遅く読もうと思ったら、それもできる」

「じゃあ4巻からは遅く読んでみれば?どうせ今日すること何もないんだし」

3巻を京楽に返す。

「そうしてみる」

今度は遅かった。2時間かけて、4巻を読み終えた。京楽は3巻を読み終えたが、4巻を浮竹が読んでいるので、ごろ寝をしていたり、浮竹の膝の上に頭を乗せて寝たりしていた。

「今日は寒いな・・・・」

火鉢にあたりだす。

毛布をだしてきて、それを羽織った。

「大丈夫?」

「お前の温もりが欲しい」

浮竹を抱き締めた。その暖かさに安堵して、浮竹は目を細める。

「お前は、いつでも暖かいな・・・・・」

「ちょっと、体温が高いのかもね」

平熱も、いつも36度7分とかそんなだ。

微熱の範囲など、京楽にとっては熱にならない。

「もっと、温もりが欲しい」

二人は、乱れ合って畳の上に転がった。

「ん・・・・・」

口づけられて、浮竹もそれに応えだす。

いざ衣服を脱がそうとすると、寒いからと駄目だと言われた。

半殺し状態にされて、そんな殺生なと、情けない声をあげる京楽。

「布団をしいて、ぬくぬくしよう」

仕方なしに布団をしいて、睦みあうでのもなしにごろごろしながら、温もりを浮竹に与えた。

「お前は暖かいな・・・人間ホッカイロみたいだ」

「君にだけだよ」

「分かってる」

京楽が、誰かと床を共にするとしたら、浮竹以外にいない。

結局、その日はお互いを抱き締めあいながら、横になって体温を共有しあい、小説の感想など他愛もないことを口にしながら、夜を迎えた。

少し早めに夕餉をとり、明日の朝に京楽は8番隊隊舎に戻るので、一緒に湯浴みをして少し早めに眠った。

その日も寒かった。

「はっくしょん」

京楽は、寒気で目が覚めた。

浮竹がまた、一人で毛布と布団を占領していた。仕方なしにもう一組、布団をしくと、浮竹が目覚める。

「京楽、傍にいろ。お間の温もりが欲しい」

「じゃあ、毛布と布団の独り占めはやめてね」

その声に、自分が京楽の分まで占領していたのだと知って、赤くなった。

赤くなる浮竹もかわいいなぁと、京楽は呑気だった。

次の日は朝の8時に起きた。互いに仕事をがあるので、しばらくのお別れだ。

「また、温もりをくれ」

「今度は抱いてもいい?」

そう耳元で囁くと、浮竹は真っ赤になってバカといいながも、了承してくれるのだった。


拍手[0回]

京楽と浮竹と海燕と 熱を出した浮竹

海燕は、急いでいた。

駄菓子屋にいって、美味い棒10本買って来いといわれた。

自分で行けと言ったが、1万環のお札をぴらぴらされた。

どうせ、京楽にでももらったのだろう。

駄菓子屋にいって美味い棒10本買うだけで、1万環がもらえるのはおいしすぎる。

駄菓子屋で美味い棒を、味が重ならないように買って帰ってくると、浮竹はいなかった。

「どこいったんだ、隊長・・・・」

ぱしゃぱしゃと、池で音がして、まさかと思って外を見てみると、まだ寒い季節なのに浮竹が死覇装に隊長羽織のまま、池に入っていた。

「何してるんですか、隊長!熱出したらどうするんですか!」

海燕が、浮竹をとめに自分も池の中にはいった。

震えるような寒さではなかったが、若干冷たいと思った。

「あれ、海燕?俺は、確か簪を落として・・・・」

水底に、煌めいているものがった。

「これですか?」

「ああ、それだ」

浮竹は、大切そうに簪を懐に入れる。

とにかく浮竹を池からあがらせて、風呂で体を温めさせて、着換えさせた。

懐にいれられていた簪を見る。

翡翠の飾りがついた、見るからの高級そうなものだった。きっと、京楽からの贈り物だろう。

「今日は・・・俺は何をしていたんだろう」

そんなことを言ってくるので、まさかと思い額に手を当てると、凄く熱かった。

「よくそんな熱で動けますね!布団しくから、早く横になってください!」

「うん?」

よく分かっていない浮竹に、熱があると言って、解熱剤と念のために風邪薬も飲ませて横になってもらった。

冷えたタオルを、その額に乗せる。

「あの、美味い棒は・・・・・・」

「美味い棒?それがどうかしたか?」

がっくりときた。やはりあの1万環は、熱で自分が何をしているのか分からない浮竹の仕業だったのだ。考えてみればそれもそうだろう。浮竹なら、自分で駄菓子屋にいって美味い棒を買って帰ってくる。

1万環も誰かにあげて、買ってこさせるほど、無駄遣いではない。

「お邪魔するよ~。浮竹遊ぼ~」

「ああもう、こんな時に・・・・・」

雨乾堂の部屋を見回して、京楽は浮竹の傍にきた。

「浮竹、熱あるんでしょう?眠りなよ」

「それが、目が冴えてて眠れない」

「仕方ないねぇ」

懐から粉薬をだして、それを浮竹に飲ませた。

「おい、あんた何飲ませた」

「軽い、眠剤だよ」

浮竹は眠気を訴えて、しまいには眠ってしまった。

「たまにしか飲ませないけどね。どうしても眠れない時とかにあげてるんだ」

「それ、京楽隊長用に処方されたものなんじゃないんですか」

「そうだよ」

「浮竹隊長に与えていいんですか」

「何、僕もお世話なるのはほんとにたまにだし。体に害はないし、依存性もない軽い薬だから大丈夫だよ」

「それでも、できるだけ隊長に飲ませないでください。自然に寝れなくなってしまう」

浮竹を心配するあまり、海燕は不機嫌になっていた。

「何、そんなに心配?」

「そりゃ心配です。自分の上司ですし」

「じゃあ、これあげるから、今日の夜にでも試してごらん」

粉薬を渡されて、海燕は逡巡する。

普通こういう薬は医者の処方通りに飲む必要があるが、流魂街などでは金を少し出すだけで簡単に手に入った。もっときついやつだが。

「今後も飲ませるなら、一度試してみます」

その日、浮竹は翌日の朝までよく眠った。

家に帰り、都の手料理を食べて、いざ寝るというときに思い切って薬を飲んでみた。

耐性がないので、もっとくらくらするかと思っていたが、体は楽だった。

しまいに少し眠くなってきて、横になると意識は闇に落ちた。

翌日はすっきりしていた。

薬の効果のせいか、深く眠れて、いつもの疲れがとれていた。

「悪くはないのかもしれない・・・・」

そう思った。

熱を出して辛い状態で起きているよりは、薬の効果でも眠っていたほうが楽だろう。

その日、雨乾堂に行くと、まだ布団に横になっている浮竹が、畳の上でごろ寝している京楽と話し合っていた。

「隊長、熱は下がりましたか?」

「いや、まだ微熱だが熱がある。起きているとお前がうるさそうだから、こうやって大人しく床についている」

「床にいて正解ですね。起き出して熱があがったりしたら、俺は無茶苦茶あんたを叱りますよ」

おお怖いといいながら、浮竹は京楽と院生時代のことを話していた。

聞いていると、同じ寮で隣の席で、2回生の冬に告白されて、4回生の終わりに正式に交際しだしたそうだ。

「学院の近くにある、壬生の甘味屋はまだやっているだろうか」

「ああ、あそこは老朽化して潰れたよ」

「なんだって」

驚く浮竹。学院時代は、よくそこの甘味屋に京楽と一緒に通ったのだ。

「代わりに、すぐ目のまえに建てられた建物の2Fが甘味屋になってるよ」

「2Fなのか・・・・客の入り具合はどうだろう」

「この前食べにいったけど、そこそこ客は入っていたよ」

浮竹が拗ねる。

「ずるいぞ、自分だけなんて」

「いや、君が肺の発作で入院してた時だから。見舞いの品であげたおはぎは、そこの店で買ったものだよ」

「そうか・・・未だにあの店はあるんだな。今度暇な時、少し遠出になるが、いかないか?」

「いいよ。でも今は、熱を下げること。少しくらい動いてもいいけど、あんまりふらふら出歩かないでね」

京楽の言葉に頷きつつ、浮竹は起き出した。

でも、あまり動かずに京楽と一緒にまた、院生時代のことについて話し出す。

会話の内容についていけず、海燕は自分一人は蚊帳の外にいる気分だった。

「海燕!今度、海燕も一緒にいかないか。学院の近くの下町にある壬生の甘味屋っていう老舗なんだが」

「ああ、チェーン店構えるとこの、本舗ですか?」

「そうだ」

「行きます」

「だそうだ、京楽」

「海燕君は、自分で食べた分のお金払ってね」

「誰も京楽隊長になんてたからないので、安心してください」

くだらないやりとりだが、楽しかった。

夫婦みたいに幸せな二人の間に入ることになるのだが、二人ともそれが苦ではないらしい。

浮竹は、それ以上熱をあげないために、また横になった。

「ちょっと、暇だし瞬歩で老舗からおはぎ買ってくるね」

京楽がそう言って、出ていってしまった。

30分で帰ってきた。

混んでいたようで、買い求めるのに少し時間がかかったらしい。

「浮竹、熱はもういいの?」

完全に起き上がって、小説を読んでいた浮竹の額に手をあてると、平温にまで下がっていた。

「ああ、もう熱はさがった」

「解熱剤が効いたんでしょう」

海燕もいれて、3人で仲よくおはぎをわけて食べた。浮竹は甘味物をよく食べるので、二人の倍の数を食べたが、そうなるよう調整されていた。

ああ。本当に、京楽隊長は、こんな細かいところまで気配りができて、すごいと思う海燕だった。

京楽と知り合って、まだ20年も経っていないが、京楽はとにかく浮竹に甘い。浮竹も幸せそうで、喧嘩をしている姿はたまに見かけることもあったが、まさに鴛鴦夫婦のようで。

ああ、俺も大分毒されていると思う海燕だった。

拍手[0回]

京楽と浮竹と海燕と さくらさくら

また、花見にいくことになった。

今度は、朽木邸ではなく、山の中にある浮竹と京楽だけしか知らない、秘密の場所だった。

そんな場所に連れて行ってくれると言われて、海燕は逡巡した。

「二人だけの秘密の場所でしょう?俺なんかに教えていいんですか?」

そういうと、浮竹は笑った。

「お前だから、知っておいて欲しいんだ」

素直に、嬉しかった。

上官である浮竹には慕われていういることは知っていたが、秘密の場所まで連れてってもらほどであるのだと知って、喜んだ。

「ただし、海燕は酒はほどほどにな。酔うとキス魔になるんだから」

この前、朽木邸で浮竹と京楽に愛を告げて、キスをしたと知った時、人生が真っ暗になた。

泥酔するほど飲んだのは、あの時が初めてだった。京楽の強い酒を飲まされて、そのアルコール度の高さにやられて、泥酔した。

ただ酔うだけならいいが、キス魔になるなど、自分でも未だに信じられないくらいだが、浮竹と京楽が二人してはめてくることはないだろう。

「じゃあ、果実酒だけ用意しておきましょう。料理は、どうせ京楽隊長に任せればいいはずですから」

花見にいく前日、仕事が終わって浮竹の姿が消えた。

何処にいるのだろうと、探したら調理場にいた。

なんでも、簡単な弁当を作るらしい。浮竹隊長の手料理って、やばそうな気がしたが、たとえどんなに不味くても美味しいとうだけの自信はあった。

翌日。

瞬歩で1時間以上走って、ようやくその場所に辿り着いた。

「わぁ・・・・・」

海燕は、その光景が綺麗すぎて、瞬きするのを忘れていた。

何処までも続く、薄いピンク色の絨毯。

何百本という単位で咲く桜の花たちは、風に花びらを散らせていきながら、浮竹と京楽と海燕を出迎えてくれた。

シートを広げて、そこに座る。

ちらちらと降ってくる桜の雨が、とても綺麗だった。

満開を過ぎている。

あと1週間もすれば、散ってしまうだろう桜に、今だけ感謝を覚えた。

「とりあえず、ご飯にしようか」

京楽の手には、京楽お抱えの料理人が作った重箱の弁当箱があった。

「その、俺も作ったんだ。料理なんて久しぶりだし、美味いかどうか分からないが、たべてくれ」

やや小さめの弁当箱に、色彩豊かなおかずと、ちらし寿司が入っていた。

「これは僕のものだよ!」

奪い取っていく京楽に、海燕が言う。

「あんただけ独り占めはずるい!俺も隊長の手料理食べてみたい」

「二人とも、仲よくしろ」

二人とも頭を軽く浮竹に殴られた。

「器をとってくれ」

言われた通りにすると、京楽と海燕の分ほぼ均等に分けてくれた。

「む・・・・これは!」

かっと、京楽が目を見開く。

「これは!」

海燕も目を見開いた。

どんなに不味くても美味しいと言える自信があった。でも、偽りなしに美味かった。本当に浮竹が作ったのかと疑念を抱くほどに。

卵焼きはだしを使われおり、砂糖の加減が絶妙だった。

他のおかずも美味しく、ちらし寿司もお酢の加減がちょうどよく美味しかった。

「やあ、まるで料理人が作ったような味だねぇ。流石だね、浮竹。前も君の手料理食べたことあるけど、全然衰えていない」

「え、京楽隊長今までにも浮竹隊長の手料理食べたことあるんですか」

「あたりまえでしょ。付き合い始めて何百年が経ったと思ってるの」

確かに、そんな長い人生の間なら、浮竹の手料理を何度か口にしたことくらいありそうだ。

「隊長の手料理まじで美味いです」

「ありがとう、京楽、海燕。作った甲斐があったってもんだ。伊達に、8人兄弟の長男をしてきたわけじゃあないぞ。腹をすかせた妹や弟たちに、よく料理を作ってやったんだ。死神統学院に入る前は、小さめの飯屋で、食事をつくるバイトをしたことがある」

「ああ、俺の出た学院は真央霊術院っていうんですけど、確か昔は死神統学院って名前だったんですよね?」

「そうだぞ」

浮竹は、京楽家お抱えの料理人が作ってくれたという弁当を口にしていた。

「んーやっぱり、京楽家の料理人の味はすごいな。俺にはむりだ、こんな味」

「まぁ材料が高級品なのもあるけどねぇ。浮竹のも悪くなかったよ」

京楽は、重箱の弁当の中身を食べながら、さっそく高級酒を飲みだした。

海燕も、初めてだが京楽家お抱えの料理人が作ったという、弁当を口にした。

「美味い・・・・」

「そうだろう。これは京楽家の料理長が作った奴だな」

「浮竹、そんなことまでわかるの?」

京楽が驚いていた。

「京楽家の料理長は海老をつかった料理が得意だからな。海老の天ぷらにエビフライにえびの姿焼き・・・・・・」

「ああ、そういうえばそうだねぇ」

確かに弁当は海老が多かった。

「いや、美味くてはしがとまらない」

「量は十分あるから、急ぐことはないよ」

「桜も見ながら、ゆっくり食べよう」

浮竹も、果実酒を飲みだした。

海燕も、果実酒を飲みだす。

おはぎももともと、浮竹が好きだったから、好きになったのだ。果実酒も、浮竹が好きなせいで、海燕も気づくとよく飲むようになっていた。

一度甘いお酒にはまると、ビールなんかの苦いのは苦手になった。

日本酒も飲むが、日本酒よりはカクテル系とか、果実の味のする酎ハイなんかが好きだった。

果実酒の中身は、たまに赤ワインだったりすることもある。

今日は、赤ワインだった。

それを浮竹はけっこう派手に飲んでいく。

海燕は遠慮がちの飲んだので、酔うことはなった。

泥酔とまでいかないが、浮竹は酔っぱらってしまった。

「おうおうおうおう、海燕、俺の酒がのめないかー?」

「浮竹、もうそこらへんでやめておいたら」

京楽が、浮竹の手の中から酒をとりあげた。

「おうおうおうおう京楽、俺から酒をとりあげるとはいい度胸だ」

「今日は絡んでくるのか・・・・・こんなのは初めてだねぇ」

京楽は、面白そうそうに寄った浮竹を介抱した。

「ほら、僕の膝に横になって」

素直に横になる浮竹。

「ごろにゃーん」

今度は猫になりだした。

浮竹は酔うとよく饒舌になったり、周りに構わず京楽といちゃつきだすが、こんな酔い方は初めて見る。

「京楽好きだ。ちゅーしてくれ」

あ、いつもの酔い方だ。

そう思っていたら、京楽が浮竹とディープキスをしていた。

海燕も慣れているので、そんな程度では何も言わない。

「俺を抱いてくれ・・・・・」

ぶーーーーー。

海燕は飲んでいた赤ワインを吹き出した。

「ここじゃだめだよ。海燕君がいるからね」

「じゃあ、帰ってから」

「いいとも」

そう言って、浮竹は眠りだした。

その約束を守る浮竹ではない。酔っていた時にいった言動など大抵覚えていないのだ。

だから、帰ってから京楽に抱かれて、浮竹はへそを曲げて拗ねるのだった。





拍手[0回]

院生時代の部屋 BLに汚染される

京楽が珍しく怒っていた。

「どうしたんだ」

「BL注文したのに、違う本が届いた!」

「そんなことで・・・・・」

「僕には死活問題だよ!あろうことか熟女ネタのエロ漫画だった」

ちょっと、興味を持ってしまった。

「返す前に、少し読んでみてもいいか?」

「いいよ」

熟女というが、30代の綺麗な女性を凌辱の限りをつくすエロ漫画だった。

正常な浮竹は、それを読んで少しだけ興奮してしまった。さすがにたつほどではなかったが。

「え、君まさかそんなエロ本に興味あるの?」

「俺は正常だからな。BLよりはこっちのほうが好きだ」

最近暇すぎて、本を買う金もないので、京楽から軽めのBLの本を借りて読んでいた。

浮竹も、BLを平気で読むよになったあたり、かなり京楽に毒されていた。

「とにかくその本は返すから。貸して」

京楽に本を返す。

段ボールに放り込んで、着払いで返品した。

数日後、頼んでいた本物の本がやってきた。

京楽がはまっているエロいBL作家の本で、表紙からしてやばかった。

さすがに浮竹は読む気にならず、軽めのBLの小説を読んでいた。

軽めのBLでもエロシーンがあるので、浮竹はエロシーンを飛ばして読んでいた。

「ねぇ、男の子って後ろでも感じれるってほんとだと思う?」

「さぁ。でも、普通の修道でもそう書かれてあるから、そうじゃないのか」

男の穴の中に、前立腺なる感じる部分があると書かれてあった。

さすがに、自分でためしたくないし、京楽にもされたくないので、適当に答える。

「ねぇ、浮竹・・・・・」

熱っぽく囁かれて、浮竹はすぐに答えた。

「却下だ!」

「まだ何も言ってないのに」

「この本にあるような行為をしたいと言い出すつもりだろう」

「あれ、ばれてた?」

「俺とお前は付き合っていない。そんな行為はしない」

「じゃあ、今から僕と付き合って」

「却下!」

しつこく食い下がる京楽の顔を蹴った。

京楽は、蹴ったせいだけでない鼻血を出して、倒れた。

「あー、浮竹をこうしてるって想像しただけで、鼻血が・・・・・・」

「想像するな!」

頭を踏みつけた。

「もっと踏んで♡」

悪寒がきて、浮竹は踏んでいた足を退ける前に、足を舐められた。

「足を舐めるな!」

「じゃあ、あそこ舐めてもいい?」

「死ね!」

股間を蹴りあげた。ぼぐっと音がした。

「おう、おう、おう・・・・・・」

しばらく身もだえていたが、白目をむいて気絶していた。

ベッドの上で気絶していたので、そのまま放置する。

1時間後には、何もなかったかのように復活していた。

「そろそろ夕飯だねぇ。食堂に行こうか」

普通にしていれば、美丈夫だし上流貴族というだけあって、女生徒が放っておかないのだが、1年以上前に浮竹を好きと言い出してから、何かの歯車が狂いだした。

浮竹の思いは複雑だ。

変態でなかったら、OKを言ってしまいそうで。でも、その先が怖いのだ。
京楽のことを、多分恋愛感情で好きなのだと思う。

そうでもなければ、キスやハグをさせない。

親友だと思っているが、親友以上恋人未満な関係だった。

でも、今はそれでいいと思った。

食堂へいくと、京楽家の料理人がきており、皆に1品だけおかずを増やしていた。

「ありがとう、京楽」

「おしいわ、ありがとうね、京楽君」

ぷりぷりの海老の天ぷらだった。

浮竹も京楽もそれを食べる。

「うん、思った以上の味だね」

「どうしたんだ、みんなの分まで作るなんて」

「いやね、僕と浮竹だけ、料理人の手料理を食べる時があるじゃない。それがずるいって言われたから、たまにはね」

「そうか・・・・」

確かに、浮竹は恵まれている。

京楽の金で飲食を賄っている。

「まぁ、たまにはこういうサービスも悪くないかなと思って。ずるいっていう声も消えたしね」

浮竹は、改めて自分は恵まれているのだと、思うのだった。

拍手[0回]

院生時代の部屋 BLにはまった京楽

「うひひひひひ」

気持ち悪い笑い声をあげている、京楽の読んでいる雑誌をとりあげる。

全部、顔が浮竹になっているグラビアアイドルの写真だった。

「お前は、グラビアアイドルに俺の顔を貼り付けるのか。だが、俺は男だぞ?」

「いやだなぁ、男の体の裸の写真に君の顔を張り付けても、気持ち悪いだけだよ」

「そのわりには、男の娘っていうのには、貼り付けているな」

グラビアアイドルの写真の後半は、男の娘特集と書いてあって、それにも全部浮竹の顔が貼り付けられていた。

「男の娘は、性別は男だけど中身は乙女だから!」

「よくわからない」

とりあえず、その写真集は鬼道で燃やした。

「ああ、僕の愛の泉が!」

「勝手に俺の写真を貼り付けるからだ」

冷たくそういうと、新しい、今度は小説を取り出した。

「(*´Д`)ハァハァ・・・・・けしからん」

なんだろうと思って読んでみると、名前が浮竹と京楽に変換させられたBL小説だった。

「お前はまたこんなのを・・・・・」

「ああ、それ高かったんだから、燃やさないでね!」

「いくらしたんだ」

「僕の名前と君の名前に変換してもうのに、10万環払った」

つまりは、10万円だ。

「また無駄に高い金を・・・・・」

ふと、10万が高いと自覚している京楽に吃驚する。

「お前、10万環が高いって思うのか?」

「いや全然。高いといえば、燃やさないでくれるかなぁと思って」

「やっぱり、お前はそうだよな・・・・」

上流貴族の浮竹にとっては、100万で少し高いかなぁ?と感じ始める程度なのだ。

「まぁいい。10万環も払えないから、この小説は燃やさないでおいてやる」

「やったぁ!続きが気になるから早く返して!」

京楽に返すと、途中で(*´Д`)ハァハァしているかと思えば、笑い出し、最後には泣き出した。

「そんなに面白いのか?」

少し興味が沸いて、読ませてもらった。

なんともいえない、ラブシーンを熱く繰り広げる小説だったが、感情移入がしやすくて、笑えて最後の二人の死には涙を零した。

「僕たちは、こんな最後にならないからね!」

ひしっと抱き着いてくる京楽の頭をはたいて、小説を京楽に返した。

「俺と京楽の名前でなければ、多分もっと面白かっただろうな」

「ノンノン!僕と浮竹の名前だからこそ、(*´Д`)ハァハァして、笑えて、泣けたんだよ」

「そうか?」

「BLは奥が深いよ!」

最近、尸魂界でBL(ボーイズラブ)なるものが流行していた。

男性同士の恋愛を取り扱たったものだが、女性用にできていて、修道のようなものではなかった。

「じゃーん!漫画もあるんだ。勿論、僕と浮竹の名前に変換済み!」

ばっと、奪ってぱらぱらとめくっていくが、その内容の過激さに、京楽に読ませる前に鬼道で灰にした。

「ああ、まだ読んでもないのに!」

「却下だ。お前の思考が汚染されそうな内容だ。すでに汚染されているが、更に汚染されそうだ」

「仕方ない、脳内で浮竹と京楽に変換して読むか・・・・」

名前の変換されていない、オリジナルを取り出す。

どこでそんなものを仕入れているんだろうかと思うと、主にネットでだった。

宅配で注文品が届き、口座に金を入れるだけで、指定された住所にまで届いた。

浮竹は、京楽が注文していた、小説と漫画をキャンセル扱いにした。

でも、もう発送されていて、キャンセルできなかった、

「お前は、こんなもので妄想して楽しいか?」

「勿論楽しいよ。でも、ただの娯楽だよ。本物の浮竹にはかなわない」

むぎゅーっと抱きついてくる京楽を、抱き締め返した。

「いいの?」

「何がだ」

キスをされた。

しかも舌が絡まるディープキスだ。

「んう・・・・・」

しばらくキスをしあい、抱擁を続けていたが、浮竹が離れていった。

「ああ、幸せ。君とキスとハグできるだけで、僕は天国の階段を昇っているようだ」

「大げさな・・・・」

脳内変換で読んでいた漫画は過激で、京楽はたってしまった。

「ごめん、ちょっと風呂場で抜いてくる」

「こんなものでたつなんて・・・どうかしている」

もしも、それが男女のものだったら、浮竹も反応していたかもしれない。

「はぁ・・・・BLねぇ。また厄介なものに京楽もはまったものだ・・・・・」

だからといて、禁止にはできない。

何を読もうが、個人の自由だ。

ただ、名前を浮竹と京楽に変えたものは排除しようと思った。

京楽が、すっきりした顔で風呂場から出てきた。

念のため、下着は変えていた。

「3回もしちゃった♡」

「報告するな、アホ!」

そう言って、京楽の尻を蹴り上げた。

「ああん、もっと♡」

「はぁ・・・京楽菌が・・・蔓延している」

浮竹は、疲れたのでべッドに横になり、することも特にないので、昼寝をしだした。

その日は、休日だったのだ。

チャイムがなり、京楽はBLのエロ本に夢中だったので、代わりに浮竹が出た。

「お届けものでーす」

大量の、BLの本は入った段ボール箱だった。

「はんこお願いします」

浮竹というハンコを押して、宅配人は帰っていった。

「やっほう、これでしばらくの間は暇を潰せる」

「まさかと思うが、これ全部俺とお前に名前変換させたやつか?」

「いや、浮竹が怒ると思って、オリジナルのままだよ」

BLののめりこんでいく京楽を、浮竹はなんとも言えない気持ちで見守るのだった。


拍手[0回]

院生時代の部屋 二人とは

朝起きると、まっぱでフルチンの京楽が踊っていたので、とりあえずパンツを投げつけて、つけないと鬼道でナニを燃やすと脅して、パンツをはかせた。

「朝っぱらから、なんちゅうもんを見せつけるんだ」

「君を虜にするものだよ!」

「誰がそんな汚いもので虜になるか!」

とりあえず、股間を蹴り上げておいた。

「痛いけど・・・快感♡」

だめだこりゃ。

ドンドコドンドコ踊っていた音楽で、いつもより早めに起きてしまった。

そのまま院生の服に脱衣所で着替えて(部屋で着替えると、京楽が凝視してくる)、食堂に向かう。

学院の外にある梅の花が満開になっていた。

「3回生も、もう終わりか・・・・」

肩の長さをすぎれば、京楽の思いに答えをだしてやるといったが、一度切った髪はまた肩あたりまで伸びてきた。

4回生のうちに、肩の長さをこしてしまうだろう。

あれはなかったことにしようと、決める。

「京楽、お前の思いにまだ当分答えられそうにない」

「いいよ。卒業しても、待ってるから」

卒業するまでには、流石に答えを出してやりたかった。

京楽のことは好きだ。多分、恋愛感情でも好きなんだろう。でも、それを告げるのが怖かった。体の関係に発展するのが怖かった。

おまけに京楽は変態だ。

ド変態だ。

「浮竹、朝ごはん食べに行こう」

京楽は、頭に浮竹のパンツを被ったままだった。

それをとってから、外に出る。

「お前は、俺のパンツを被ったまま食堂へいくつもりだったのか」

「いや、ただ単に忘れてただけ」

その言葉に、少しほっとする。

前に一度、京楽のパンツを被ったまま登校されて、さすがに視線を集めてそれが浮竹にも痛かったので、外ではパンツを被らないように言っていた。

その代わり、手ぬぐいのように浮竹のパンツを使う京楽。

何度もやめるように言ったのだが、治らないのでそのまにしておいた。

今日のメニューは、焼き魚定食だった。

元から食の細い浮竹は、残してしまった。

その残したものを、当たり前のように京楽が嬉しそうに食べる。

使っていたはしをなめたりと、変態まっしぐらだ。

「なぁ、お前4回生になってもその変態のままなのか?」

「そうだ、僕は変態だよ。変態のままだよ」

自覚しているのはいいことだが、治そうとしないのは、もう仕方ないのだろうか。

やがて鐘がなり、1限目の授業を受ける。

座学で、期末テストがあるので、進学クラスだしみんな真剣に聞いていた。

浮竹もそうだったのだが、隣の席の京楽が、文を投げてよこしてきた。

ノートに(真面目に授業を受けろ)と書いて、見せる。

文を見ると、(今日も食べちゃいたいくらいにかわいい。君の最愛の京楽は、毎日踊りを踊ってあそこを強化しているから、いつでもカモン)と書かれていた。

くしゃくしゃに丸めて、京楽の頭に投げた。

文の裏側に、大きく(死ね)と書いてやった。

それを見て、京楽はニンマリと笑う。その笑みは、きっと・・・「浮竹ったら、照れちゃってかわいい」とでも思っているのだろう。

そう思っていると、次の文をよこされた。

(浮竹ってばそんなに照れちゃって。かわいいなぁ。ああ、食べたいなぁ)

そう書かれてあった。

何も書かず、文を丸めて京楽の頭に向かって投げた。

教師は気づいていたが、いつものことなので注意しない。

二人とも、成績はTOPクラスで、座学だけでなく、鬼道、剣の腕も申し分ない。

二人は、席が隣になってから、よく他愛もないやりとりをしていた。

それでも、座学の成績は常に優秀なのだ。

授業を真面目に受けていないように見えて、ちゃんと受けていた。

「次の箇所を・・・・京楽君、解いてみなさい」

難しめの算術だった。

京楽はあっという間に答えを書いてしまう。

「うむ、正解だ」

二人とも、期末テストの前になると慌てて勉強をしだすタイプではない。毎日の授業をちゃんと受けて、復習をして頭に叩き込むタイプだった。

寮から帰って、昼飯から寝るまでの間、けっこうな時間があったが、その時間の一部を使ってお互いに復習をしていた。

どちらかが間違うと、どちらかが訂正し、どちからが分からなくなると、どちらかが教えた。

二人そろって間違えたり、分からなくなることがないのが、不思議だった。

やがて鐘がなり、座学はおわった。

次は鬼道の授業だった。

二人とも、的に詠唱を省略した鬼道を見事にあてて、その威力高さに教師もぽかんとしていた。

本当にもったいないと思う。3回生として燻らせるには、勿体ない。

早く卒業させて、護廷13隊に入れてやりたい。

そう山本総隊長に進言した教師が数人いるが、きちんと6回生まで習わせてから護廷13隊にいれると、頑なだった。

1限につき、授業時間は1時間30分。

昼を挟んだ3限目は、瞬歩の授業だった。

京楽が手本を見せるが、みんなその動きについていけず、ばてていた。

唯一、浮竹だけが、京楽の速さに反応し、瞬歩をしていた。

「本当に、お前たちは勿体ないなぁ。早く、護廷13隊に入れてやりたい」

「嫌だな、先生、まだ3回生ですよ。あと3年もあります」

「そうそう、卒業まであと3年・・・・・うふふ、その間に浮竹の心をわしづかみにして見せるよ」

「そう思うのなら、朝っぱらから裸で踊るのをまずは止めろ」

「じゃあ、今度からパンツをはいて踊るよ」

「それならよし」

教師にも、この二人の関係はよく分からない。できていそうで、できていない。浮竹が被害を被っても、肝心の浮竹が嫌だと訴えてこないのだ。

「お前たちの関係は、本当に不思議だな」

「やめてください先生、こいつとセットにしないでください」

「先生、セットで考えてOKだよ。ぜひともそうするべきだ」

二人とも、ちぐはぐな答えをする。

でも、喧嘩をしないのだ。

まぁ、京楽の変態に浮竹が切れて、浮竹が蹴ったり、鬼道を使ったりするのは、教師一同見て見ぬふりをしている。

山本総隊長から、二人の仲に口出しは厳禁と言われていた。

4限まで授業を終えて、帰り道に見事に紅梅があって、それに見惚れていると、花を一輪つんで、京楽が浮竹の髪に飾った。

「ああ、やっぱり君の白い髪には濃い紅色が映えるね」

「花がかわいそうだろう」

そう言いながらも、浮竹は満更でもなさそうだった。

それを見ていた、他のクラスの生徒がいう。

「あの二人のセットって、優秀だけどたまにバカだよな」

よく、二人で痴話げんかのようなことを学院でも起こしていた。

「不思議な二人だね・・・」

そんなことを思われいるとは二人は露知らず、いつも通り漫才のようにどつきあっているのだた。



拍手[0回]

新着記事
(11/26)
(11/25)
(11/25)
(11/22)
(11/21)
"ココはカウンター設置場所"