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京楽と浮竹と海燕と 実は起きてる

「起きろおおおおおおお」

「起きてる」

ずさーー。

海燕は、いざ布団をひっぺがそうと思って、気合をこめてやってきたのに、浮竹がもう起きていて、畳の上を滑った。

「遊んでいるのか?」

「まだ8時・・・・隊長がこんな時間起きるなんて、明日は雨か・・・」

「失礼なやつだな。昨日はすることもなく夜の8時に寝たんだ。そしたら、朝に目覚めてしまった」

「とりあえず、お湯をはったたらいを用意しますから、顔を洗って着替えてください」

海燕がたらいを用意している間に、浮竹はいつもの死覇装と隊長羽織に着替えた。やがて、お湯の入ったたらいが置かれる。

お湯で顔をあらって、タオルでふく。

まだ水が冷たい時期なので、お湯にされていた。冷たい水だと、熱を出す可能性があるからと。

まさに、副官の鏡とまでいえる気遣いだった。

「朝餉、準備します」

しばらくして、朝餉がやってくる。

焼き魚に味噌汁、たくあんにご飯。いつもより、大分しけていた。

「今日はやけに質素だな」

「13番隊の隊舎の一部で水漏れがおこって、畳のはりかえとか、屋根の修理とかに金がかかって、朝食だけしばらく質素になります」

「そうか。それなら、仕方ないな」

13番隊では、京楽が食事に金を出してくれているが、それは昼餉と夕餉に回された。

隊長だけ朝餉から豪華なものを食べていると知ったら、一部の隊士から差別だと声があがるだろうからだ。

隊士の食事も、京楽の金のお陰で大分いいものを食わせてやれるようになった。

昔は、夕飯も焼き魚に味噌汁、ご飯にデザートと漬物がつくくらいの質素さだった。

それが今や、カニ鍋だの、天丼だの、ちらし寿司だの・・・大分変わった。

「何これ、質素だねぇ」

いきなりやってきた京楽が、せっかくだから一緒に食べようと用意していた海燕の席に座り、勝手に質素だと言いながら、朝餉を食べだした。

「京楽隊長、何質素とかいいながら食べてるんですか。それにそれ、俺のですよ」

「ああ、悪かったねぇ。つい、用意されてたから僕の分かと思った」

かなり嘘だった。

「はぁ。自分の分の朝餉、運んできます」

「ねぇ、浮竹。こんな質素な食事平気なの?」

「ん?ああ、京楽に金を出してもらう前はこんなかんじだったから、慣れている」

「慣れって怖いね」

海燕が、自分の分の食事を運んできて、食べだした。

浮竹が、隙を見てたくあんを盗んでいく。

それに無言でいると、浮竹がつまらなさそうにしていた。

「海燕、それ俺のだ盗るなとか言わないのか」

「言ったところで、何になるっていうんですか。たくあんの一きれくらいで怒るほど、貧乏性じゃありません」

「じゃあ僕も」

京楽も、海燕の皿からたくあんを盗んだ。

「こらそこ、何人のたくあん盗んでるんだ!」

「え、ちょっと、浮竹の時と態度が全然違うんですけど!」

「おかえしです」

海燕は、焼き魚をもっていってしまった。

「ああ、メイン料理が!」

「隙を見せるからです」

「何おう?」

「なんですか、何か文句でもあるんですか」

ギャーギャー文句の言い合う二人を殴って、浮竹はまた食事をしだした。

「痛い」

「痛いです」

「食事中は騒ぐな」

二人揃って、「はい」と答えてしょげた。

京楽がやってきたのは、ただの気まぐれかと思ったら、ちゃっかり書類仕事を持ってきていた。

たまに、京楽は仕事をもってきて雨乾堂で過ごす。

浮竹の傍にいたいからだ。

浮竹も浮竹で、そんな京楽をごく当たり前のように受け止めていた。

「さて、今日もたまには仕事を頑張るぞー」

「頑張れ、京楽」

浮竹の応援に、京楽はばりばりと仕事をはじめるが、1時間もすればだらけてきた。

雨乾堂で一緒に仕事をしていた海燕は、だらけるのが早いなと思った。

すると、浮竹が京楽の耳打ちする。

「最後まで頑張ったら、俺を抱いていいぞ」

「おっしゃー!やる気充填!」

海燕は苦笑する。そんなことで、本気で仕事にとりかかる京楽がおかしかった。

恋人同士なので、睦み合うのは当たり前だが、1週間に一度と決めてあるのだ。それを覆す浮竹の言葉に、京楽は本気になって仕事に取り組んだ。、

やがて、昼餉の時間になり、いつも通りの質素ではないメニューの昼餉を食べた3人は、休憩した後また仕事にとりくんだ。

3時の休憩がくる前に、京楽はその日の仕事を終わらせた。

「終わったー!」

「俺ももうすぐ終わる。待っていてくれ」

やがて仕事が皆終わり、3時の休憩時間で今日の業務は終了となった。

「京楽隊長、くれぐれのうちの隊長に無理はさせないように!」

「分かってるって」

海燕は、雨乾堂から去っていった。

「さて、浮竹。言った言葉、忘れてないよね?」

「こんな日が高いうちからするのか?」

「正確には、君の気が変わらないうちかな。好きだよ、浮竹」

去る間際、海燕は布団をしいていった。

それを知って、浮竹は紅くなった。

「海燕のやつ・・・聞こえてたのか」

「いただきます」

「ん・・・ふあっ・・・」

いきなり舌が絡まるキスをされた。

「んん・・・・」

服の上から輪郭をなぞるように動かれて、隊長羽織と死覇装を脱がされた。

薄い筋肉しかついていない胸を撫でまわされる。

「あっ・・・・」

先端を口に含まれて、声が漏れた。

「声、ちゃんと聞かせて?」

「ああっ!」

すでに反応していた花茎を手でしごかれて、何も考えられくなる。

たらたらと先走りの蜜を零していたそこは、あっけなくいってしまった。

「あああ!」

京楽は、潤滑油を指につけて、蕾に指を入れる。

「んあ!」

前立腺がある部分を指でいじられた。

「んーーー!」

ぐりっと指を折り曲げられて、浮竹は生理的な涙を零した。

くちゃくちゃと音をたてて、後ろをいじられる。やがて指は引き抜かれて、怒張したものが宛がわれた。

「ああ!!」

引き裂かれていく。痛みはあるが、快感もある。

前立腺ばかりを突き上げられて、浮竹は二度目になる熱を放っていた。

「んあああ!・・・ひう!」

最奥をこじあけられて、京楽が熱を吐きだした。

じんわりと腹の奥深くで広がっていく熱をかんじて、浮竹はぼんやりとする。

「んっ!」

ズルリと一度引き抜かれて、また前立腺を突き上げられて最奥まで入ってくる。

「ひああああ!」

悲鳴に近い声が出た。

「春水・・愛してる・・・・キスを・・・・」

「十四郎、僕も愛してるよ・・・」

浮竹の望み通り、何度でも口づけを与えた。

こじあけた最奥が、締め付けてくる。

「ここ、いいの?」

「あ、わららない・・・」

「君は、ここが弱いものね」

前立腺ばかり刺激されて、浮竹は頭が真っ白になった、

「んーーー!あああ!」

三度目の熱を吐きだす頃には、京楽も二度目の熱を浮竹の中に放っていた。

まだ日は高かったので、二人で湯あみをした。

腹の奥に出されたものをかき出す。とろりと、白い精液が流れていった。

体と髪を洗い、湯船に浸かる。

「体、大丈夫?」

「んー。腰が痛い」

「いつも通りだね」

二人して、互いの水分をバスタオルでふきあって、髪をかわかす。

「今日は泊まっていくけど、いいかい?」

「ああ」

夕餉の時間まで、睦み合うような真似ごとを続けていた。

「入りますよ、いいですか?」

「ああ、海燕、いいぞ」

許可を得て、夕餉を海燕がもってきてくれた。今日のメニューは天ぷらだった。

大きな海老が2匹分ついていた。

「天ぷら、俺結構好きなんだよな」

「僕の分の海老も、1匹食べる?」

「いいのか?」

「うん」

「じゃあ、遠慮なく」

浮竹を甘やかす京楽を、海燕は一緒に夕餉をとりながら、ただ見ていた。

「海燕君、今日は泊まるから」

「そうですか」

「地獄蝶、七緒ちゃんに飛ばしておかないと・・・・」

「では、俺はここで。お疲れ様でした」

「海燕、お疲れ」

「お疲れ様」

夕餉を下げて、海燕の長い一日が終わる。

また明日、意地汚く寝る浮竹を起こしにこよう。そう決意する海燕だった。




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京楽と浮竹と海燕と 正月

「起きろおおおおおお!!!」

「嫌だあああああああ!!!」

寒い中、毛布と布団をひっぺがされそうになって、それしがみついて離れない浮竹に、海燕は業を煮やして、ぺっと、雨乾堂の廊下にしがみ付いた浮竹ごと転がした。

「寒い!海燕の人でなしーーー!!」

がたがたと震える。

正月休みが明けたとはいえ、まだまだ寒い。

この季節は椿が見頃だなと、ふと庭に植えていた椿が見頃なのを思い出す。

浮竹は起きた。

どのみち、廊下では寒すぎて、いくら毛布と布団があっても、寝れない。

庭においてあったサンダルをはいて、庭に植えた椿のところにいくと、それを眺めて和んでいた。

「廊下でも寝ているのか、いい加減に起きろーー!!ってあれ、いない・・・・」

庭に出ている浮竹をみて、海燕の顔色が変わる。

「あんた、そんな薄着でいつまでも外うろつかないでください!」

「なんだ。ただ椿を見ていただけだぞ」

「それなら何か羽織ってからにしてください!」

寝るときの着物の恰好のままだった。

海燕は、すぐに上着をもってきて、浮竹に着せた。

「海燕は、心配性だな」

「あんたは気が緩すぎるんです。風邪ひいて熱だしますよ」

「いつものことだろう。どうせ熱だすなら、好きなことしていたい」

「馬鹿ですか!」

海燕に引きずられて、雨乾堂の中に入る。

火鉢に当たらされて、がたがたと震えていた体がやっと収まった。

「海燕ー腹減ったーご飯」

間の抜けた声で、そう言うと、海燕が朝餉をもってきた。

時計を見ると、8時50分。

今から朝餉を食べ終わったら、死神の業務開始時刻の9時を過ぎるが、いつも10時とか11時まで寝ているのだから、まだましだろう。

「なぁ、海燕」

「なんですか、隊長」

「お年玉くれ」

冗談のつもりで、そう言った。

「仕方ありませんね」

お年玉をもらってしまった。

「え、うそ。まじで?」

「いらないなら、奪いますよ」

「いや、いる!」

きっと、肩たたき券でも入ってるのだろう。でも、海燕の肩たたきやマッサージは上手いので、それはそれで嬉しい。

朝餉を食べ終わり、死覇装と隊長羽織に着替えて、お年玉の中身をみると、5千環入っていた。

つまりは、5千円だ。

「ほんとにお年玉もらえた」

500年近く生きてきて、年下からお年玉をもらうのは初めてだった。

ちなみに、今年も山本総隊長からお年玉をもらっていたりする。3万環だった。つまりは3万。

山本総隊長にとっては、息子のような浮竹と京楽の存在は特別で、いくつになってもお年玉をあげたい存在なのだろう。

ちなみに、京楽は2万だった。

1万の差を、差別だと叫んでいたが、日頃の行いの違いだと言われて、京楽はその言葉に言葉を返せないでいた。

9時半になり、仕事をはじめる。

今日は比較的書類仕事が少なくて、昼前には全て終わってしまった。

「今日は終わりだ」

「早いですね。ああほんとだ。今日は仕事があまりありませんね」

「じゃ、そういうことで8番隊に遊びにいってくる!」

「あ、まて!」

海燕の制止の声を無視して、瞬歩で8番隊の前にくると、泣いている京楽を見てしまった。

「京楽・・・・?」

「ああ、浮竹かい!天の助けだ!そこにいる猫、外に出してくれないかな。七緒ちゃんが預かったっていう猫なんだけど、僕は猫アレルギーで。涙も鼻水も止まらない・・ふぇっくしょん」

「この子か?」

「にゃーお」

京楽にすり寄っていた猫は、浮竹のところにくると甘えてきた。

「外に出して戻ってこなかったら大変だ。隊首室に入れておく。それでいいか?」

「うん、執務室に入れないようにしてくれれば、それでいいよ」

京楽は、珍しく泣いていたので、何事かと思ったら、猫アレルギーの症状だったのだ。

「こんなにかわいいのにな?」

「にゃあ」

猫用のトイレと、餌と水を入れた入れ物を、隊首室に置いておいて、扉をしめた。

「にゃあにゃああ」

外に出たがっていたが、しばらく鳴いていると、大人しくなった。

多分、寝たんだろう。

「ああもう、お陰で仕事が全然進んでないよ・・・」

「どんだけ溜めこんだ?」

「まだ2週間分くらい」

この前、七緒が京楽の耳を引っ張って、雨乾堂から連れ去ってからちょうど半月くらいだ。

それに懲りて、始めの頃はまともに仕事をこなしてきたが、そろそろさぼりの癖が出てきて、七緒に怒られたところだった。

「伊勢、お前の猫アレルギーのこと知っているのか?」

「いや、知らないんじゃないかな。知ってたら、嫌がらせで僕の部屋に入れることはあっても、仕事のある執務室に置いていったりしないよ」

「猫はあんなにかわいいのに」

「かわいいけどね。僕もできれば抱きたいよ。でもね、体が拒否反応を起こすんだ」

「俺に猫耳や尻尾をはえさせる薬飲ませて、睦み合った時は平気なのに?」

「う、それは・・・・」

半年前ほどのことだ。

まだ浮竹は根に持っていた。

「あの時は悪かったよ。もうしばらくしないから」

「しばらくってどのくらいだ」

「1年くらいかな」

「お前は、1年もたてばあんな薬をまた俺に盛るというのか!」

浮竹が怒る。

「まぁまぁ。お年玉あげるから」

ぴくりと、浮竹が反応する。

お年玉をあげることはほとんどないが、なぜかもらうことが多い。

京楽からもらったお年玉は、ずしりとしていた。札束などではない。

「何が入っってるんだ?」

中をあけると、見事に研磨された翡翠の石が入っていた。しかも大粒だ。

「売れば、けっこうな額になると思うよ」

「こんな高価なもの・・・・ああでも、どうせ要らないといえば京楽はそこらへんに投げ捨ててしまうんだろうな」

「正解。そんなの、僕が持ってても意味ないからね。適当にタンスの中にでもしまうか、下手するとゴミと一緒に出しちゃうかもね」

勿体なさすぎて、もらう以外の選択肢が出てこなかった。

「じゃあ、俺がもらう」

「ちょっと息抜き。雨乾堂に行こう」

「ああ、いいぞ」

二人で、雨乾堂に帰ってきた。

「あ、隊長。伊勢副隊長から、猫を預かってほしいと言われていたんですけど・・・隊長がいなくなったので、京楽隊長に預かってもらうって・・・・」

「ああ、それで京楽のところに猫がいたわけか。その問題なら、解決した。8番隊の隊首室で預かっている」

「京楽隊長いいな。猫、かわいいでしょ」

「海燕君、僕、猫アレルギーなんだ」

「え、まじですか」

「まじだよ・・・・」

ニヤリ。海燕が笑ったのは、気のせいではなかっただろう。

「俺んちで、猫飼い始めたんです。隊長、今度雨乾堂に連れてきていいですか?」

「ああ、勿論いいぞ」

「海燕君、君ってやつは~~~」

京楽が、海燕を追い回す。

海燕は、楽しそうに京楽の腕から逃げていた。

結局、翡翠を売りにいくと、200万環という値段がついた。

そのお金で、しばらくの間浮竹は海燕や都をおごってやったりした。

「絶対、京楽隊長からお金もらったでしょう!」

海燕の指摘に、浮竹が問う。

「何故気づいた?」

「だって、浮竹隊長は基本貧乏人ですから」

「お年玉に翡翠をもらったんだ。200万環になった」

「200・・・・俺の給料の2か月分ですね」

くらりとした眩暈を覚える。

京楽は、浮竹を甘やかしすぎだ。今度、そこのところを注意しようと思う海燕であったが、おごりの食事はありがたくいだいておくのだった。







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浮竹死んだけど幽霊です憑いてます24 椿

朽木邸に来ていた。

寒椿が見頃で、少しだけ分けてくれと白哉に京楽が訴えると、好きなだけ持って行けと言われた。

珍しく、浮竹は実体化したまま、京楽と散歩に出た。

白哉のいる朽木邸にまできて、浮竹が驚く。

「ここは白哉の家だぞ」

「許可はもらってあるから。こっちだよ」

浮竹の手を引っ張って、歩いていく。

寒椿の見事な紅の花が、咲き狂うようにそこにはあった。

「綺麗だな・・・・・」

1つ手折って、浮竹の髪に飾る。

「やっぱり、君には紅色がよく似合う」

「ばか、椿がかわいそうだろう」

「そんなことないよ。散る前に氷室で補完させるから」

「京楽・・・・」

今日は、1日中実体化していられる日だったが、珍しく睦み合わずに外に出ていた。

そのまま、しばらく椿を鑑賞してから、貴族街の宝石店に行く。

「注文していたものはできているかい?」

「あ、京楽様。ちょうど先日、出来上がったばかりです」

「京楽、何を・・・・」

店員が出してきたのは、椿を象ったガーネットでできた髪留めだった。

「じゃあ、いつもの口座に振り込んでおくから」

「毎度、ありがとうごいます!またご贔屓にしてください」

「うん。君のところ、よい出来のつくってくれるから、また頼むよ」

「京楽・・・・」

浮竹は、京楽の思いに気づいて、潤んだ瞳で京楽を見ていた。

京楽は、浮竹の長い白い髪を一房手にとると、椿の形をした髪留めで留めた。

耳元には、本物の椿。反対側の髪には、ガーネットでできた椿を象った髪飾り。

「椿は、6番隊の隊花だからねぇ。朽木隊長とかにも似合いそうだけど、あの子はこういうの好まないでしょ」

「俺は、ただの椿だけでもよかった。またお前に散財させてしまった」

「まぁそう言わないでよ。去年は忙しくて、君の誕生日を祝えなかったから、その代わりだよ」

「でも、特注品だから高かっただろう?」

「うーん。石がガーネットだから、そこまで飛びぬけて高いわけでもないよ。まぁ、注文した品だからそこそこはしたけどね」

「今日は、君の誕生日を祝えなかった代わりの日だよ。君の好きな場所に行こう」

「じゃあ、壬生の甘味屋にいきたい」

「あそこ、カードでポイント制ができたんだよね。もう会員カード作ってあるから、行こうか」

少し足を伸ばして、壬生の甘味屋にまで出かけた。

「おはぎを10こ、ぜんざいを3人前、白玉餡蜜を3人前、あと団子4つと、羊羹5つ」

「僕は、抹茶アイスとぜんざいを1つ」

注文される量の多さに、給仕係は大変そうだった。

少ししてから、注文した品がやってくる。

浮竹は美味しそうにそれらを食べた。

「ねぇ、生身で食べている時は、実体化するエネルギーにはならないの?」

「いや、そうでもないぞ。ただの食事と一緒で、今ここにいるエネルギーに変わる」

「なるほど」

「次にどこに行きたい?」

「俺の墓参りにいきたい」

「雨乾堂にあった場所に行こうか」

「ああ」

甘味屋を出て、会計をすます。かなりのポイントがたまって、次回から割引ができるようだった。

雨乾堂にあった場所まで、花と酒を手にやってくる。

「俺は幽霊だけど、ここに眠っていることには変わりないからな」

菊の花を添えて、酒を墓石に注いだ。

「あとは?」

「元柳斎先生と、卯ノ花隊長の墓参りがしたい」

「分かったよ」

菊の花を追加で買って、お茶を買った。

山本元柳斎重國は、酒より茶を好んだ。

山本元柳斎重國の墓は立派だった。たくさんの供え物がされていて、墓の管理者が花が枯れたり、食べ物が腐ったりすると、処分してくれた。

「元柳斎先生・・・・俺だけ、生きているように近いかんじなってすみません。どうか、安らかに」

「山じい、まぁ気楽にやっててよ。そのうち、そっちいくから」

墓石に茶を注いだ。

近くに、卯ノ花隊長の墓もあった。

こちらも綺麗に手入れがされてあり、まだ枯れていない花が活けてあった。

「虎鉄隊長のものかな?」

「多分ね」

「卯ノ花隊長・・・・あなたに続くはずだったのに、俺だけこうして幽霊なのに実体化までできて、すまない。どうか、安らかに」

「卯ノ花隊長の死に顔はとても綺麗だったのを、今でも思い出すよ。血をぬぐうと、今にも微笑んででくれそうで。そういえば、君の死に顔も満足したかんじだったね」

「そうなのか?」

「うん。死神としての矜持を果たしたってかんじで。微笑んでくれそうな顔ではなかったけど、卯ノ花隊長と同じくらい綺麗な死に顔だったよ」

「なんか複雑だな。死に顔を見られているのに、今こうしてお前の傍にいれる」

京楽は、嬉し気だった。

「神様の悪戯か何か知らないけど、僕はとても嬉しいよ。君を失った世界は色がなくなった。色のない世界だ。君が幽霊として僕に憑いてくれてから、世界に色彩が戻った」

「その、すまない。お前を置いて逝ったりして」

「君の手紙を読んだよ。いつか引退して一緒に歩んでいこうってくだりには涙腺が決壊して、涙が止まらなかったんだよ」

「あれは・・・あの手紙は、まだ持っているのか?」

浮竹の問いかけに、京楽は首を横に振る。

「持っていても、とても悲しいものだから、読んだ後に鬼道で燃やしたよ」

「そうか。でも、そうしてもらったほうが俺も楽だ」

浮竹と京楽は、手を繋ぎあいながら、1番隊の寝室にやってきた。

そのまま、睦み合うことはせずに、ベッドに横になった。

髪に飾っていた椿は、京楽の氷室で保管するとのことで、帰り道の途中で京楽邸に一護立ち寄った。

「くすぐったい・・・」

背後から抱きしめられて、浮竹はなんともいえない感覚を味わう。

一言でいえば幸せの気持ちだ。

でも、一度死んだ身でありながらという、後悔に似たものもあった。

「今日は、君を抱かない。だけど、こうやって一緒に眠ろう」

「ああ、分かった」

夕飯をとり、湯浴みをすませて、椿の髪飾りを大切にタンスにしまいこんで、ベッドに横になる。

京楽と一緒に眠るので、ベッドはとても広いものだった。

始めはシングルサイズだったが、京楽がベッドをキングサイズに変えたのだ・

体温を共有し合う。

それだけで、安心できた。

「京楽・・・キスしていいか?」

「どうしたの。君からなんて珍しいね」

「なんとなくな・・・・・」

唇を重ねる。

触れるだけのキスは、いつしか貪りあうような深いものにかわっていた。

「好きだ、京楽・・・」

「僕も大好きだよ、浮竹」

抱き締める腕に力がこもる。

「もう、置いていったりしない。ずっと一緒だ」

「うん」

そのまま、眠った。

朝起きると、浮竹はまだ実体化したままだった。

「おはよう」

「おはよ」

京楽は、浮竹の髪を螺鈿細工の櫛で梳いて、椿の髪飾りをつけてやった。

「うん、今日もかわいいね」

「そろそろ、霊体に戻る。無駄に実体化し続けるよりはいいだろうから」

「あ、待って!」

「?」

キスをされた。

「ん・・・んんっ・・・・・」

舌が絡み合う。

「ふ・・・・」

朝から濃厚のなキスをした。

「もぅ、霊体に戻るぞ」

「うん」

すーっと、浮竹の体が透けていく。髪飾りも透けて、霊体の一部になってしまった。

取り外すと、実体化するが。

「君の実体化できる貴重な1日をありがとう」

「そういう俺こそ、俺の我儘に付き合ってくれてありがとう」

新しい朝が始まろうとしている。

不変の愛を奏でながら、二人は寄り添いあうのであった。

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浮竹死んだけど幽霊です憑いてます23 バニーヘアバンド

正月もそろそろ終わりだった。

「今年は兎年だねぇ」

「だからって、これはなんだ」

バニーヘアバンドがあった。

それを見て、京楽がにんまりと笑った。

「つけてくれるよね?つけてくれないと、手袋つけて悪戯するよ」

霊体を触れるという特殊な手袋を、12番隊で開発してもらい、それでよく実体化できない時とか髪を結われたりした。

「お前の場合、悪戯で済まないから性質が悪い」

浮竹は、実体化するとバニーヘアバンドをつけた。

「これでいいのか」

「ああ、浮竹かわいいねぇ」

思い切り抱き着かれた。

ベッドに腰かけて、京楽の膝の上に座らされる。

「言っとくが、10分くらいしか実体化できないぞ」

「十分だよ」

浮竹の柔らかな髪に手を伸ばす。

頭を撫でて、口づけられた。

「んん・・・ふあっ・・・」

最初は触れるだけ。次に舌が絡まるほど深く。

「ああっ・・・・」

衣服の上から体をまさぐられる。

「変なことするな!」

ぽかりと、京楽の頭を殴る浮竹。

「でゅふふふふふ」

気味の悪い笑い声を浮かべる京楽。

やがて10分が経って、浮竹は透けてしまった。

「さぁ、新年の挨拶に出かけるよ」

「え、この格好のままでか?」

「そうだよ。そのためにつけてもらったんだから」

「お前は~~~~」

殴ろうにも、霊体なので殴れなかった。

そのまま、1番隊の副官である七緒に挨拶する。

「新年あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「あけましておめでとう。今年もよろしく」

七緒はぽかんとした顔をしていたが、新年の挨拶を返す、

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします・・・そのバニーヘアバンドは、京楽総隊長のせいですね?ご迷惑をおかけいたします」

「いやいや、伊勢のせいではないからいいんだ」

そのまま、次は6番隊の白哉のところにいく。

「新年あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「あけましておめでとう。今年もよろしく」

「あけましておめでとう。浮竹、似合っているぞ」

「あ、白哉・・・なんか恥ずかしいな、こういうの」

浮竹は、照れていた。

「かわいいでしょー。でもあげないもんねー」

「浮竹はものではないのだ」

正論を言われて、京楽は舌を出した。

「実体化しても触っていいのは僕だけなんだからね」

「実体化できるのか?」

「ああ、あまり長いことは無理だが・・・」

「そうか。まぁ京楽総隊長もほどほどにな」

睦み事のことを言われて、浮竹は真っ赤になった。

次に訪れたのは10番隊の日番谷のところだった。

「新年あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「あけましておめでとう。今年もよろしく」

「ああ、あけおめ。浮竹・・・お前は新年そうそう、京楽のおもちゃにされて大変だな」

「もっと言ってやってくれ、日番谷隊長」

「まぁ、ほどほどにな」

白哉と同じよなことを言われた。

最後に訪れたのは、13番隊。ルキアのところだった。

ルキアは、夫となった恋次と一緒にいた。

「新年あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「あけましておめでとう。今年もよろしく」

「あ、隊長あけましておめでとうございます。今年もよろしくです」

「京楽総隊長・・・この浮竹隊長の耳のやつ、スペアないですか」

「あるよ」

浮竹とルキアが和やかに話し込んでいる裏で、恋次と京楽はこそこそとやりとりをする。

「君も、ルキアちゃんにつけさせたいんでしょ?」

「そうです。かわいいですね、あれ」

「ここにスペアがある。もっていくといいよ」

「ありがとございます、京楽総隊長」

恋次は、早速ルキアを呼んだ。

「おい、ルキア」

「なんだ、恋次」

「これ、つけてくれ」

「これは・・・浮竹隊長とお揃いか!つける!」

お揃いといつことに少しカチンときたが、バニーヘアバンドをつけたルキアは可愛かった。

「お、朽木似合ってるぞ。お揃いだな」

「浮竹隊長こそ似合ってます」

二人は、和やかに笑んでいた。

その二人を、京楽も恋次も、ほんわかとした態度で見守っていた。

「ルキア、今日1日その恰好でいてくれ」

「まぁいいが・・・」

「浮竹は、しばらくそのままね」

「おい、京楽・・・・・・」

「せっかく買ったのに、1日だけとか勿体ないでしょ。だから、つけておいてよ」

「仕方ないなぁ・・・」

今年は兎年。

バニーヘアバンドは少し恥ずかしいが、この程度のコスプレなら許容範囲だ。

さすがの京楽もバニーガールの恰好をしろとは言わないだろう。そんな恰好したら、ただの変態だ。

「いやねぇ、はじめはバニーガールの恰好してもらおうと用意しておいたんだけど、君のことだから絶対着てくれないと思って、バニーヘアバンドだけにしたんだよ」

「当たり前だ!誰がバニーガールの恰好なんかするか!ただの変態だろ、それは!」

「ちゃんと、半ズボンにしておいたし、それほど変態ちっくな格好じゃないんだけどなぁ」

「それでもいやだ!」

「やっぱりねぇ」

京楽は落ちこむが、断固として着ないと浮竹は口にする。

「絶対に着ない。着せようとしたら、1か月禁欲の刑だ」

「ああ、それは困る。仕方ない、処分するか」

鬼道でぼっと火をつけて、その場で京楽は燃やしてしまった。

「何も、鬼道で焼かなくとも・・・・」

「だって、こうでもしないと君が実体化した時着せちゃうよ」

「焼け!もっと派手に焼け!消し炭にしてしまえ!」

浮竹の切り替わりの速さに、苦笑しながらも、今年の正月も終わりを迎えようようといしていた。





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恋い焦がれ エピローグ

5月15日、待ちに待ったルキアとの結婚式の日が訪れた。

一護は、一護現世にいき、死神としてやっていると、石田と茶虎に知らせた。あと一心にも。

3人は、忙しいだろうにスケジュールを5月15日にあくようにしてくれて、結婚式を見届けにきてくれた。

和服で正装した一護と、一護の願いでウェディングドレスを着たルキアがやってくる。

和装で正装した白哉が、ルキアを連れてやってきた。

式の内容としては、和風形式で進めたが、結婚指輪をはめ合うことと、キスを取り入れた。

もう何度目かも分からぬ、ルキアとのキスをして、酒を飲み交わし合って、結婚は滞りなく行われた。

ルキアのウェディングドレス姿はとても綺麗で。

「ルキア・・綺麗だ」

「このようなヴェール、邪魔になるだけかと思ったが、案外よいものだな」

結婚式には、主だった隊長副隊長が出てくれた。

「朽木、幸せになんなさいよ」

「はい、松本副隊長!」

ブーケを持っていた。

それを投げると、砕蜂の手に落ちた。

「これは・・・・夜一様と式を挙げろということか!」

倒錯した思考にいきついた砕蜂に、並ぶように立っていた夜一が耳元で囁きかける。

「結婚などせずとも、儂とそなたは今のままでいいのじゃ」

「はい、夜一様!」

砕蜂は、ブーケを投げ捨てた。

それは、恋次の手に落ちた。

「俺がもらっても意味ねーんだけどな。ま、ありがたくもらっとくぜ」

白哉は、静かに義妹の結婚式を眺めていた。

「緋真、見ているか。そなたの妹は、今結婚式を挙げた」

緋真・・・そう、白哉は繰り返した。

美酒と御馳走が振る舞われた。

朽木家主催なので、豪華な食事と、高級酒が揃っていた。

「きゃー、飲むわよー!」

「おい松本!みっともないからやめろ!」

そういう冬獅郎も、酒を飲んでいた。

いつの日だったか、朽木家の庭で、恋次とルキア、一護と井上で梅の花を見ながら飲みあったことを思い出す。

もぅ、井上とは連絡をとる気もないし、一護を殺したのだ。その魂は、死後地獄へと落とされる。

ルキアと一護も、酔いつぶれない程度に飲んだ。

「ルキア。今、幸せか?」

「愚問だな。幸せ以外の何があるというのだ」

そのまま結婚式は終わり、初夜が訪れる。

二人は、結婚する前から体を重ね合っていたが、今日はとびきり甘くルキアを抱いてやった。

「ああ・・・・一護・・・・そこやっ・・」

本気で嫌がる様子のないルキアに口づける。

ずっと避妊具ありで体を重ねていたが、今日は避妊具なしだった。

次の日、ルキアも一護も疲れて眠ってしまった。

その翌日には、現世のヨーロッパへ6泊7日の旅に出た。

全てが終わり、尸魂界に帰還して仕事に復帰すると、山のように仕事が溜まっていた。

3席になった小椿が大分処分してくれたらしいが、それでも書類は1週間以上分溜まっていた。

「新婚旅行の後はこうなるのか・・・・・・」

「そうだな。まぁ楽しんだし、仕方ないとして諦めるがよかろう」

二人して、書類を片っ端から片付けた。

残業はしなかった。

4日目あたりに、やっと書類仕事の終わりが見えてきた。

やがて月日はめぐる。

結婚して、3年が経っていた。

最近、ルキアの調子が悪いのだ。食欲もなく、吐き気を訴える。

まさかと思い、かかりつけの医者に診てもらうと、懐妊が明らかになった。

2か月目だそうだった。

「4番隊の診察では、男児と言われているのだ」

「そっか。頑張って、元気な子を産んでくれよ」

一護にとって、生まれてくるの始めての子だ。

流産した子が二人いる。井上が勝手に懐妊し、流産した胎児だった。名など、つけていなかった。

「ルキア、くれぐれも流産に注意してくれよ」

「大丈夫だ、一護。私は井上ではないのだ。ちょっとやそっとで、流産などしない」

ルキアが重いものを運ぼうとすると、一護が運んだ。

月に2回は、4番隊の救護院で胎児の様子を診てもらった。

9か月目になる時、ルキアは初産であるが陣痛の痛みを訴え出した。早産である。

一護だけでなく、白哉も慌てた。

4番隊から、産婦人科を診ている死神を緊急で呼び出して、そのまま朽木邸で、産ませることになった。

無理に動いて何かあったら大変だ。

早産で、少し小さかったが、ルキアは待望の子を産んだ。

男児ではなく、女児であった。

産湯に浸かり、へその緒が切られ、乳児用の着物をきた我が子に、ルキアは涙を流しながら、前から考えていた名をつけた。

「一護の文字を入れて、苺花というのだ」

「苺花か・・・・いい名前だな」

赤子を抱き上げる一護。ルキアは一度母乳を与えると、産褥なので疲れて眠てしまった。

それから、ルキアは1年の産休をとることになった。

男児と言われていたので、着る物とか全部男用のものばかりで、気の早い白哉は袴とかまで用意していた。まぁ、袴は女児でも着れる。

女児と知って、気の早い白哉は振袖などを用意していた。

「兄様、早すぎます!」

ルキアの訴えで、それ以上振袖が作られることはなくなったが、代わりに子供用の高価な着物が溢れた。

ベビーベッドに寝かせた我が子を、ルキアは粉ミルクで育てた。普通の貴族は、乳母を雇うのだが、ルキアの希望により、乳母は雇わなかった。

自分の手で我が子を育てるルキアに、一護も率先して赤子の世話をした。

どうしても、隊長でなければ裁可のおりぬ仕事をもちこまれた時などは、一護がいない時は付き人であるちよに、苺花を任せた。

それから、また月日は弓矢の如く過ぎ去っていいく。

苺花は7歳になり、3つ下の4歳の一勇という男児ももうけた。

苺花は、何かあるたびに、弓親のことをちかさんと呼び、懐いていた。

剣のほどきを、一角から受けていた。

「なぁ、ルキア」

「なんだ、一護」

「もう一人子供が欲しいって言ったら、笑うか?」

「いや?子は多い方がよい。ただ、面倒が見切れるかわからぬが」

「そうか。なぁ、ルキア」

「なんだ?」

「愛してるぜ」

「私も、貴様を愛している」

二人は、子供が遊んでいる風景を見ながら、キスをした。

二人で、並んでサッカーという現世の遊びをしている子供二人を見ながら、微笑んだ。

愛の果てにあるもの。きっとそれは、幸せ。

恋い焦がれ合った季節は、とうの昔に過ぎ去ってしまった。

今はただ、傍に在れることが幸せだ。

この幸せは、千年近くも続いていくのだ。

いつか。死が訪れて霊子に還っていっても。きっとまた、結ばれる。

永遠の愛を誓いあいながら。

二人は歩き続ける。

明日へ、向かって。



綺麗な歯車がたくさん廻り出す。

幸せだと泣きながら。

二人の歯車は、永遠に廻り続ける。

ただ、未来に向かって--------------------------。




              恋い焦がれ

               fin

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恋い焦がれ 愛という名のメロディー

一護は行く当てもなかったが、5席ということで館が与えられた。

そこに移動しようとすると、ルキアは一緒にいくと聞かないものだから、白哉が折れた。

一緒に朽木家にずっと寝泊まりしてもいいことを、許可してくれたのだ。

「白哉、なんかわりぃな」

「悪いと思うのなら、尸魂界のために精々身を粉にして働け」

「へいへい」

ルキアと付き合っていることは、白哉も知っていた。

「一護、てめぇ!」

久し振りに会った恋次が、怒っていた。

「あ?なんだよ、今更ルキアを奪ったとかそういうのなしだぜ」

「違うぼけ!残された家族が友人のことをを、少しは考えやがれ!」

「んーとは言ってもなぁ。他界しちまったもんは仕方ねーし。ま、なるようになるだろ」

「ルキアは泣かせてねーだろうなぁ」

「泣かせるかよ!」

一護が、初めてむきになった。

「なら安心したぜ。腕にぶってねぇなだろうな。仕事終わった後で、6番隊の修練場に来やがれ」

「おう」

一護は、その日から13番隊の5席として働きだした。

副官である小椿や隊長であるルキアに手伝ってもらいながら、死神としての能力を、特に苦手そうな書類仕事を任されて、手伝いがあるとしても、短時間で終わらせてしまった。

「貴様、この手の書類仕事は得意なのか?」

「あー。大学でまぁいろいろと学んだことが役に立ってるみたいだ」

その日6時に死神業務終了時間となった。

「ルキア、すまねぇ!恋次と約束してるから、先に帰っててくれ」

「あ、こら一護!全く・・・しょうがないやつだ」

6番隊の修練場にやってきた。

巨大な岩穴であった。

「 卍解!双王蛇尾丸」

「げ、いきなリ卍解かよ!」

「いっけえええええ!」

恋次の容赦なしの攻撃に、一護も卍解する。

「卍解、天鎖斬月!」

二人の力は拮抗していた。

そのまま30分は暴れ回り、地形をクレーターに変えて、二人して息をついた。

「やるな、恋次」

「てめぇこそな、一護」

「やっべ。あんまり遅くなったらルキアに怒られる」

「ルキアのこと、幸せにしてやってくれよ」

「勿論だ、恋次!そんなこと、言われなくても分かってる!」

朽木家に帰還すると、ルキアが遅いとどなってきた。

白哉はもう夕食を食べたが、ルキアは一護と食べるために待っていたのだ。

その日の夕食は豪華だった。

「豪華だな。なんかの祝いの日か?」

「違う。これは朽木家では当たり前の食事だ」

「ほへー。貧乏な俺には、食費さえ払えそうにないわ」

「ばか者!誰が食費などとるか!」

ルキアは、至極落ち着いていた。

もしも尸魂界がなく、一護の魂がやってこなかったら、泣き叫んでいたかもしれないが、一護が現世で生きようと死のうと、どのみち最終的には尸魂界にやってくるのだ。

その時間が早かっただけなのだ。

「式を挙げようと思うのだ」

「誰が」

「私が」

「誰と」

「あほか貴様は!貴様以外にありえぬであろう!」

「ええええええええ!」

一護が叫んでいた。

「貴様には、朽木一護になってもらう」

「ええええ!もうそこ、必須条件なのか?」

「そうだ。兄様に結婚の許可を願い出たら、朽木一護にするのであれば許すと言われたのだ」

白哉の考えることはよく分からないが、とりあず妹を手放したくないことだけは分かった。

「式の日取りとか、決まってないよな?」

「5月15日」

一護は展開の速さについていけなかった。

「来月じゃねーか」

「兄様が、このまま一護を意味もなく寝泊まりさせるわけにはいかぬというので、事情をうかがったら結婚しろと言われた。まさか、嫌なのか?」

「嫌なわけねーだろ!でもなぁ・・・まだ尸魂界にきたばかりなのに」

「兄様は、怖がっておいでなのだ。私が、緋真姉様のようになる前に、結婚させておきたい、と」

「ちょっと、相談にいってくるわ。いくらなんでも、早すぎる」

一護は、白哉と話し合った。

確かに恋人同士ではあるが、まだ結婚するには早すぎると訴えると、白哉はそうかとだけ答え、問答の末に来年の5月15日に結婚式を伸ばしてもらうことに成功した。

ルキアもそれを知り、安堵しているような残念なような、複雑な顔を浮かべていた。

「俺ら、付き合いだしてまだ1年くらいしかも経ってないだろう?だから、いろいろと縛りがないうちにやっておきたいことあるし」

「それはなんだ?」

「いや、デートとか。とりあえず、来月給料でたら、そんな高価なものは買えなけど、エンゲージリング買うわ」

「エンゲージリング?なんだそれは」

「婚約指輪だ」

「こんにゃく指輪だと!?」

「違う、婚約指輪」

「意識して間違えたのだ!つっこめ!」

ルキアのぼけは、微妙すぎて分からない。

次の月になり、一護は得た給料で、ホワイトゴールドの婚約指輪を買って、ルキアの手にはめた。

自分の分は、ルキアにはめてもらった。

裏には一護のものにはRUKIAと、ルキアのものにはICHIGOと、彫られてあった。

「ふふ・・・・・」

ルキアは嬉しそうだった。

それから、余ったお金で買った、アメジストをあしらったペンダントを買い与えた。

「そうか・・・・結婚してしまえば、こんなこと当たり前になってしまうのだな」

「まぁそうだな」

一護は、それから1年非番の日が以外は休まず、5席としての仕事を続けた。

ほぼ1年後。隊首会がまた開かれて、死神業務に慣れた一護は、13番隊の副隊長として就任することが決まった。

「おめでとう、一護」

「ああ、ありがとな」

屋敷ではほぼ常に一緒だが、職場では別々だった。今後は、職場も同じ13番隊の執務室になる。



新しい歯車が、メロディーを奏でだす。

愛という名の、メロディーを。

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恋い焦がれ 新しい歯車

井上が退院した。

しばらくして、また、身籠って一護の前に現れた。

一護は一切認知しないと言った通り、井上を無視した。

「黒崎君、黒崎君、ここにあなたの子供がいるのよ?朽木さんは死神だから、子供l産めないでしょ?だから黒崎君、こっちに・・・・・」

浦原のところで買ってきた、新しい強力な記憶置換を、ルキアは井上に使った。

「あれ?私、何してたんだろう・・・あなた、誰?」

「ただの通りすがりの者だ」

「そう。わざわざご丁寧にありがとうございます」

まるでさっきまでと人が違う井上に、一護がルキアに声をかける。

「記憶置換使ったのか・・・・俺たちのこと、記憶から消したのか」

「ああ。もう、友人にも戻れぬだろうと思ってな」

「そうか・・・・形はどうあれ、お前を一度は裏切った。許してくれるか?」

「許するも何も、井上の手で無理やりだろう。それでも許しが欲しいというのなら、私は一護、貴様の全てを許す」

「ルキア・・・・・」

唇が重なった。

一護に自宅に戻り、互いの服を脱ぎあって、体を重ねた。

「なぁ、ルキア・・・・」

「なんだ」

「井上、どうなるんだろう」

「多分、堕胎するのではないか。それから、大学はすでに違う大学に編入したということにしておいた。大学の学生の多数が、一護と井上の仲を知っているであろう」

「まぁ、そうだな」

苦肉の策であった。

本来なら、井上から一護の好きな感情だけを奪うつもりであったが、もう存在自体が受け付けれない。

目の前から、消えていなくなって欲しい。

それはルキアだけでなく、一護の願いでもあった。

「ん・・・・今日のお前は、少し激しい・・・・んん・・・」

「ルキア。お前だけだ。子供は、お前に産んで欲しい。ルキア、好きだ、愛してる・・.・」

「ああ!」

ルキアは嬌声をあげていた。

やがて行為が終わり、二人で熱いシャワーを浴びた。

ルキアは金曜の夜になってきて、月曜の朝に帰る。

ルキアのいない間は寂しいが、仕方のなことなのだ。

もともと、二人の生きる世界が違う。

尸魂界の住人であるルキアは、きっと一護が生きている間中も、あまり年をとらないだろう。

それも覚悟の上だ。

ルキアの、現世と尸魂界における2重の生活は、1年で幕を閉じた。

それは突然のことだった。

全てを思い出した井上が、一護を車に向かって突き飛ばしたのだ。

「あはははは!これで、黒崎君は永遠に私だけのもの!」

救急車とパトカーが呼ばれた。

パトカーで殺人の疑いで捕まった井上は、ずっと笑い続けていた。

救急車で運ばれた一護であるが、もう手の施しようがなく、ほぼ即死だった。

ゆらりと、魂魄がにじみ出る。

それを知らずに迎えにきたルキアは、相手が一護だと知って驚いた。

「一護!?何故貴様が死んだのだ!しかもこんなに若くに!」

「あー。なんかうろ覚えだけど、記憶置換使ったはずの井上が全てを思い出して、俺を車に向かって突き飛ばしたんだ。これで一生私ものだって笑ってた」

「むう・・・・記憶置換の使いすぎであろうか。それとも、そこまで井上の思いが強かったということか・・・・・」

「どうでもいいけど、こんな幽霊のままじゃ虚を呼び寄せちまう。早く魂葬してくれ」

「分かった」

ルキアは、袖の白雪の柄の先のを一護の霊体の額にあてた。

「ようこそ、尸魂界へ。貴様は記憶も霊圧ももったまま、尸魂界へと送られるだろう。では、先に尸魂界へ戻る」

一護の魂魄は、尸魂界へやってきた。

死んだ時の年齢は22歳。卒業が決まり、就職先も決まったところだった。

一護の姿は、17歳の頃に戻っていた。

「一護!」

「ルキア!」

「酷い恰好だな。死神化してみろ」

「どうやって」

「体から出ることを意識すればいい」

粗末なぼろい着物を着ていた一護は、死神化するイメージで、体を外に出すというイメージを抱くと、チャリと鎖を鳴らした卍解状態の天鎖斬月もつ死神の衣装になっていた。

「イメージが強すぎる。普通の死神をイメージしろ」

「普通、普通・・・」

次は、卍解してない状態の斬月を手に持った、死覇装姿に戻っていた。

「それでいい。しばらくは我が朽木家にこい。行く当てもないだろう」

「ああ、言葉に甘える」

「まもなく、隊首会が開かれるだろう」

「なんでだ?」

「馬鹿か貴様は。若くして貴様が他界などするからだ。私はちょっと用があるので、現世に出かける」

「あ、ルキア!」

ルキアは、穿界門をあけて現世に行った。

場所は、留置所。井上織姫は、黒崎一護殺害容疑で逮捕されていた。

その前に、ルキアが現れる。

「ふふ・・・朽木さん、何の用?黒崎君はね、今私のお腹の中にいるの・・・・」

「一護は、死んだ。魂魄となって、尸魂界へやってきた。私と一護は、特に一護は人生の二度目のやり直しだ。貴様のことを恨んでいないようだが、貴様は忘れていたのか?死すれば、その者の魂は尸魂界へくると」

「な・・・じゃあ、黒崎君は、尸魂界で朽木さんと・・・・?」

「愚かだな、哀れだな、井上。せいぜい、長生きして、こっちにはくるな。もっとも、きたくとも貴様は罪を犯した。死ねば、その魂は地獄に落ちるであろう。一護とは、永遠に会えぬ」

「いやああああああああああ!!!!」

泣き叫び、暴れ出す井上に、警察官が慌てだす。

その太腿から、血が流れだしていた。

「いやああああ、黒崎君が、黒崎君が流れてしまう!あいつを捕まえて!」

井上がルキアを指さすが、霊感のない警察官たちに、ルキアの姿は見えなかった。

「警察病院の手配を」

「はい、もうすぐ救急車が到着いたします」

結局、井上の身籠っていた一護の子は流れた。

井上は精神に異常をきたし、さばかれなかった代わりに、一生を精神病院で過ごすこととなった。

それを聞いた一護は、少し複雑そうな顔をしていた。

「元々は、俺が原因なんだよな・・・・・」

「そう悔やむことはない。全てが井上自分が招いたことだ」

「なぁ、隊首会でなんで俺まででなきゃいけないんだ?」

「ばかか、貴様は!尸魂界の恩人を腐らせておくほど、今の尸魂界は甘くない。人材不足なのだ!」

「え。まさか、俺に隊長や副隊長ををあしろと?」

ルキアはもう、13番隊長になっていた。その副官は小椿だ。

「まだ、死神になりたてのひよっこに、いきなり隊長副隊長はさせぬ。だが、席官入りは確実だ。覚悟しておけ」

やがて、隊首会が開かれて、今後一護をどうするかで言い争いあった。

「じゃあ、もうめんどくさいから、13番隊のルキアちゃんのところで引き取ってもらってことで」

京楽総隊長の言葉に、皆も一応納得したようだった。

「じゃあ、一護君、今日から君は13番隊の5席ね」

「え、あ、もっと低いほうが・・・・・」

「君ほどの力の持ち主を、席官にすること自体がおかしいんだよ。でも、本当の死神になりたてみたいだし」

「はぁ・・・・・」

こうして、一護は尸魂界での二度目の生を、13番隊の5席からスタートすることになった。




狂った歯車は、血と一緒に流れ落ちていく。

もう、メロディーさえも奏でない。

そして、新しい歯車が生まれた。







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恋い焦がれ 狂ったメロディー

その日は、1限だけの授業だったので、ルキアは家でお留守番なる、掃除や洗濯をしてもらっていた。

ルキアは300万円を現金でもってきており、その金でシマムラで下着からワンピース、上着に靴にいたるまで買いそろえた。

「黒崎君・・・・」

泣きはらした目で、井上が久しぶりに学校に来ていた。

「井上・・・・ごめんな」

「少し、話があるの。それがを終わったら、黒崎君のこと全部忘れるから・・・・」

「ああ、分かった」

人気のないところで、井上は何かスプレー状のものを一護に吹きかけた。

「な・・・井上?」

一護の意識が朦朧としだす。

「運んで」

何処かで雇ったのか、男二人が一護の体を裏口からタクシーに乗せた。

タクシーの中で、井上は一護に何かを注射した。

思考がぐるぐるする。眩暈が酷い。

一護は、気づけば井上のアパートのベッドの上にいた。

裸にされて、手足はベッドの柵に括りつけられていた。

「いの・・・うえ・・?」

「私、黒崎君の子供を身籠るの。そしたら、黒崎君も私を無碍にはできないでしょう?」

一護の意識は、そこで途切れた。

遅いので、心配になって霊圧を探ってやってきたルキアに、意識のない一護を引き渡す。

「井上・・・貴様、一護に何をした!?」

「何も・・・ただ、子種をもらっただけ」

「貴様!」

一護を放っておくこともできずに、ルキアはタクシーを呼ぶと意識のない一護を連れて、石田の病院まで訪れた。、

「黒崎がどうかしたのか!」

インターン生である石田が、診てくれた。

「強い睡眠薬を大量に打たれたようだ。あと1日は目覚めないだろう。入院の準備と手続きをしてくる」

「何があったのだ、一護・・・・・・」

一護は、入院した。

丸一日、目覚めなかった。

点滴の管が痛々しい。

「朽木さん!朽木さんも寝ないと!」

様子を見に来た石田が、一睡もしないで一護の傍にいるルキアに、ソファーで横になるように提案した。

ルキアのお金で入院したので、VIPクラスの対応だった。

金は惜しまなかった。

「ああ・・・悪いが、そうさせてもらう。石田、すまないな、迷惑をかけて」

「とんでもない」

横になったルキアは、心労もあってか、眠ってしまった。

次の日の朝、一護が目覚めた。

「ルキア?」

ソファーで横になっていたルキアを揺り起こす。

「ん・・・一護?」

「どうしたんだ、お前、こんな場所で」

「それはこっちの台詞だ一護!貴様、井上に何をされた!」

「井上に・・・俺は・・・・・・」

思い出せない。

そこだけ、もやがかかっているようで、思い出そうとすると頭痛を訴えた。

「もう良い。無理をするな。あと1日安静が必要だそうだ。私が一度家に戻り、着換えとかいろいろもってくる。シャワーも浴びたいしな」

「俺もシャワー浴びてぇ・・・」

「駄目だ。お前がまだ安静にしておらねばならぬのだ。ほら、足元がおぼついていないであろう」

確かに、まだ眠気を感じで足元がおぼつかなかった。

「ここ・・・病院か?やけに豪華な部屋だけど」

「ああ。石田の病院のVIP病室だ」

「そんな金・・・」

「私が出した」

「ルキア!」

「いいのだ。これくらい、させてくれ」

「ルキア・・・・・」

ルキアは、一度一護の自宅に戻り、一護の着換えを下着から上着に至るまでそろえた。

「一護、良いか?」

コンコンとノックして部屋に入ると、一護の声がした。

一護はあれかたもう一度眠り、すっきりした顔をしていた。打たれた眠剤は全てぬけきっているようで、石田の父親にも診てもらったが、一部の記憶の混濁以外は、異常がないということで、今日一日を過ごせば、明日退院だと言われた。

VIP室なだけあって、病室にトイレとバスルームがついていた。

そこで一護は風呂に入り、すっきりして病院服ではない普通の私服に着替えて、一護はベッドで、ルキアはソファーで夜を過ごして、次の日退院になった。

「一護、貴様が思い出せないから何も言わぬが、井上には気を付けろ。もう、一人であやつと一緒にいるのはだめだ」

「ああ。なんか俺も、井上にスプレーみたいなものふきかけられて・・・意識が朦朧としたところを注射されて・・・そっから覚えてねーが、なんか最悪なことされた気分だ」

ルキアは迷った。

一護から子種をもらったという井上の台詞を言うか、言わぬべきか。

思案した結果、言わないことにした。

それから、時間が目まぐるしく過ぎていく。

ルキアは一護と同じラーメン店でバイトするのが板についてきた。最初はメニューを聞いてオーダーを通すのもおぼつかなかったが、今では立派なウェイトレスだ。

そんなこんなで、ルキアがいられる1か月は、あっという間に過ぎ去ってしまった。

ちなみに、一護の入院2日と精密検査で50万はかかったが、それは一護に秘密にしておいた。

最後の夜、ルキアと一護は肌を重ね合わせた。

ルキアは、それから週末になると一護の自宅にきた。金曜の夜にやってきて、月曜の朝、出勤の時刻ぎりぎりまで現世にいた。

そんなこんなで、ルキアが現世にくるようになって2カ月が経った頃、井上が一護とルキアの元にやってきた。

「何の用だ、井上!」

「ふふふ。お腹の中にねぇ、黒崎君の子供がいるの」

「え・・・・・」

一護が目を見開いた。

「お前とする時は、いつも避妊して・・・」

「違うの。この前、一緒に子作りしたでしょ?」

「え・・・そうなのか、井上?」

「騙されるな、一護!全部虚言だ!」

ルキアが叫ぶ。

「でもねぇ、ほら、これ妊娠している証」

産婦人科で、妊娠しているとはっきりと書かれた記録を見せつけられた。

「頭が・・・痛い・・・・」

「黒崎君、帰ってきてよ。愛しいあなたの赤ちゃんがあなたを待ってるよ」

「井上、貴様という女は!一護は渡さぬ!」

蹲ったて頭を押さえている一護を前に立ちふさがり、それ以上井上が近づけないようにした。

「黒崎君、黒崎君、大好きだよ・・・・」

「井上、俺は・・・それでも、ルキアが好きだ!!」

「いやああああああああ!!!!」

井上は錯乱しだした。

手がつけられないくらい暴れ出して、その挙句放心し、太ももから大量の出血をした、

「あは・・・流れてく・・・・黒崎君との、愛の結晶・・・・・」

救急車を呼んで、一護とルキアは念のために井上に付き添った。

「でも、また頑張るから!頑張って、何度でも黒崎君の子供、身籠るから!子種、冷凍保存してもらっているから」

井上は、処置室に連れていかれた。

結果は、やはり流産だった。

ルキアは一護のことを信用している。きっと、眠っている間に井上が一方的に、子を宿す行為をしたのだろう。

病室にいき、一護とルキアは井上をみた。

「ふふ・・・朽木さんと一緒なのは余計だけど、黒崎君、また私のところにきてれた・・・・」

ルキアは逡巡した。

だが、このままでは、狂った井上は何度でも同じことをしでかすだろう。

もしかしたら、自分の命と引き換えにしてでも、ルキアと別れることを言い出しそうで。

「許せ、井上。お前から、一護が好きだという記憶を奪う」

「え、嫌!そんなのいやあああああああああ!!!!」

暴れ出す井上をルキアが抑え込み、記憶置換を使った。

でも、効かなかった。

何故かは、分からなかった。

「あははは、できないんだ。私の記憶、かき替えること。私は何度だって、黒崎君の子供を身籠るよ」

一護は冷たい目でこう言った。

「好きなようにしろよ。例え子供が身籠っても、俺はそれを自分の子供だとは認めねぇ。井上、お前が勝手に育てろ。そこに俺はいない」

「え、嘘、黒崎君・・・?」

「勝手にしろ。俺は一切関知しねぇ」

「そんな、嘘、黒崎君!やだよ!身籠ったら認知してよ!さもないと、レイプされたってみんなに言いふらして・・・・・・・」

ルキアが、井上の喉を締め上げた。

「かはっ・・・・・・」

「そんなこと、してみろ。貴様の名を、全ての知り合いから奪ってやる」

「朽木さ・・・・朽木さんが、全部悪いのに・・・・ぐ、ごほっごほっ」

喉を締め上げていた手を外す。

井上は大きく咳き込んだ。

「言っておくが、私は本気だぞ、井上。お前のバイト先も、親戚も、友人も、教師も。全てから、お前に関する記憶を奪う。アパートにだって、住めなくしてやる」

「そんな・・・・」

泣き叫び、暴れる井上に、医者がやってきて、困りてた末に鎮静剤を投与されて、井上は大人しくなった。



軋んだ歯車が奏でる狂ったメロディーは、通常の者に変わっていく。

静かな音を立てて。





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恋い焦がれ バイトするルキア

次の週の月曜日、一護はゼミとドイツ語の授業があった。

1、2回生の間にできる範囲で単位はとっておいたので、週に3回くらい授業を受けるだけで良かった。

ルキアは、とえあえず1か月は滞在できるそうで、空座町の滞在死神と1カ月間交代することになった。

大戦から3年と少し。被害が大きかった地域の復旧も進み、今は手の足りない死神を育成するために、真央霊術院の4回生以上上を、実際に隊の中にいれて、半ば一般隊士と同じ業務を受けさせていた。

建物の被害は建築すれば元にもどる。

でも、人材ばかりはそうもいっていられない。

失われたたくさんの隊士の死神の数は、半数を超える。

これから死神になる者達には、大きな期待がかけられていた。

ルキアは、いずれ隊長の座に就くことが決まっていた。卍解を扱えて、その上強い。これは、今は亡き浮竹の遺言でもあった。

「であるからにして、これはこうなり・・・・」

ドイツ語の授業に、ルキアも混ざっていた。

人数指定があるので、不思議に思われぬように記憶置換を使った。

「お前なぁ、いくら一緒の授業に出るとはいえ、そうほいほい記憶置換使うなよ」

昼休み、食堂で狐うどん定食を食べていたルキアに、そう言う。

「何かの副作用がでるわけでもない。別にいいではないか」

「でも、人に記憶いじられるの嫌だろ?」

「それがそうだが・・・・・」

「じゃあ、なるべく記憶置換は使わないこと。いいな?」

「分かった・・・・・」

しゅんとしょげたルキアの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。

「何をするのだ!」

「お利口さんって意味」

「口で言えばいいではないか!」

一護は、ルキアと同じ狐うどん定食を口にしながら、話を続ける。

「あと3週間は現世にいられる、でいいんだよな?」

「ああ。多分一度尸魂界に戻るであろうが。それ以後は、週末の土日にはこちら側にくるように手配しておいた」

「なぁ」

「なんだ」

うどんのあげを食べながら、一護が問う。

「白哉は許してくれたのか?」

「ああ・・・・兄様には、恋次と添い遂げられぬこと、一護をが好きなことを全部話した。不機嫌ではあったが、許しはもらえた。土日にこちら側にくる了承も得た」

「あの白哉が・・・ああでも、お前には特に甘かったよな」

「そうか?」

「お前、分かってなかったのか」

「いや、兄様は大分優しくなられた・・・・その実感はある。恋次を振って一護を選んだ時、叱責を覚悟していた。だが、ただ兄様は眉間に皺を寄せて「そうか、では、そなたの好きなように振る舞うがよい」とおっしゃられた」

「あの白哉がなぁ・・・・」

眉間に皺を寄せた顔はすぐに想像できた。中性的な美貌の白哉は、よく眉間に皺を寄せていた。

「あと3週間・・・貴様との蜜月だ」

「ぶーーーーー」

「汚い、吹き出すな!」

「蜜月って、お前なぁ。意味わかって使ってるのか?」

一護の問い、ルキアが口を開く。

「親密な関係・・・伝令神機でも、ちゃんと思った通りの言葉であっていると出てくる」

「なんかいろいろと便利だな、伝令神機」

ビービービー。

アラームが鳴った。

「虚か?」

「そのようだ。チャッピーの義魂丸を入れておくから、後は頼んだ!」

「おい待て、ルキア、チャッピーは!」

ルキアは死神化して、瞬歩で去って行ってしまった。

「うどんの続きを食べるんだぴょん」

「ぴょんぴょんうっせぇな」

「何!貴様のうどんも奪うんだぴょん!」

ルキアが虚を退治している間、食堂ではチャッピーVS一護が互いの昼食をかけてはしで争いあっていた。

やがてルキアが戻ってきた。

5分もかかっていなかった。

「早いな」

「何、小型のが一体だけだった。弱かったしな」

「そのなんだ、お前の腕もこの3年間で上がったのか?」

「勿論だ。卍解してもうごけるようになるまで鍛錬した」

「そうか・・・お前の卍解、見たことないからよくわかんねーけど」

「白霞罸だ。範囲内にいる敵と物体を全て凍り付かせることができる。だが、体全体の体温を少しずつあげていかねば、命に関わることもある。だから、滅多なことでは使わぬ」

ルキアは、それだけ言うとチャッピーの義魂丸を抜き取り、義骸に戻った。

「ルキア、その卍解はなるべく使うなよ」

「無論だ。私とて命は惜しい」

その日は、授業は昼までだった。一護は今はラーメン屋でバイトしていて、ルキアを連れてラーメン屋までやってきた。

「なぁ、ルキア」

「なんだ?」

「俺結構バイトで忙しいから、ルキアが良ければなんだが、同じこのラーメン店で3週間バイトしないか?」

「バイトか・・・賃金を得るのだな。しかし、給仕の仕事か・・・まぁいい、当たって砕けろだ。引き受よう!」

「砕けてどうする・・・・」

一護は店長に、令嬢が社会学の勉強のために3週間ばかりバイトがしたいと言いだした。

店長は、ルキアを頭のてっぺんからつま先まで見て。

「OK。主に、給仕になるけどいいかい?」:

「はい」

ルキアはそう答えていた。

こうして、一護とルキアは、離れ離れになることなく、同じラーメン店で仕事をした。

1週間が経ち、ルキアは現世で初めて賃金をもらった。

きついだろうと、一護より短めに仕事を終わらておいたのので、賃金が1万5千程度だったが、それでもルキアにはとても大切なものだった。

「この金で、貴様に白玉餡蜜をおごってやろう!」

「いいのかよ。頑張って得た賃金だぞ?」

「だからこそ、貴様におごってやりたいのだ」

甘味屋まで出かけて、白玉餡蜜を2人前頼んだ。あとぜんざいも。

「ここでの勘定は私に任せろ」

ルキアは、自分で働いた金で食べれる白玉餡蜜が格別に美味しいのか、味わって食べていた。

「隙あり!」

一護の皿から、白玉を盗むルキア。

「ああもう、欲しいなら最初から言え。お前にやるよ」

「だめだ。貴様が食せ。私は、貴様の皿から奪うのが楽しいのだ」

「なんだそりゃ・・・・・」

ルキアはそれからも隙を見つけては一護の皿からとっていった。

ルキアは楽しそうだった。

実に、3年以上ぶりになる、心から楽しそうな笑顔だった。



噛みあった歯車は軋み出す。

狂ったメロディーを奏でて。






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恋い焦がれ 噛みあった歯車

一護は、無事高校を卒業し、大学に進んだ。井上と同じ大学だった。

石田は医療系の大学へ、茶虎もボクシングをしながら大学へと進んだ。

卒業していった中に、ルキアの姿があったが、ルキアは尸魂界へと戻った。

時折現世に遊びにくるからと、言い残して。それから月日は過ぎていく。一護は井上と付き合ったままだった。婚約はしていないが、多分卒業したら結婚するだろうと思っていた。

肉体関係もあったし、何より井上は一護のことをとても愛していた。でも、一護はルキアのことが心の何処かでまだ好きで。

3年ぶりに、ルキアが現世にやってきた。

一護はそれを心から喜んだ。一護は一人暮らしをアパートでしていて、そこに井上がたまに泊まりにやってくる。

その日、しばらくこっちの世界にいるのだというルキアを、アパートに泊めた。

「私はな、一護。思っていた以上に貴様のことが大切だったらしい。恋次と付き合いだして、けれど心は貴様を恋い焦がれていた」

「ルキア・・・・・・・・」

「3年も放置しておいてと思うだろうが・・・・貴様のことが好きなのだ。恋次とは別れた」

「ルキア・・・俺も、お前が大切で好きだった。お前にのように恋い焦がれて。でも、もう尸魂界から戻ってこないのだと思って、諦めて井上と付き合い続けて。それでもまだ、お前が好きんなんだ、ルキア」

「ふふ・・・・お互い別の相手と付き合ていながら、心は両想いだったのだな。それが分かっただけでも嬉しい。井上と幸せにな」

一護は、去ろうとするルキアの腕を掴んで、抱き寄せた。

「一護?」

「お前、恋次と別れたんだろう?俺も井上と別れるから、付き合おう、ルキア」:

「でも、それでは井上が・・・・・・」

「井上には悪いと思う。自分の心を騙して付き合っていた。でも、本当に好きな相手が目のまえにいて、ルキアをまた失いそうになっているのを前に、動かないなんてできねぇ」

一護は、少し荒々しくルキアを抱き締めた。

「好きなんだ、ルキア。高校卒業する以前から、ずっと好きだった」

「一護・・・・私も、ずっと好きだった。でも、私は死神で貴様が人間で・・・・結ばれないと思い、恋い焦がれる気持ちを封印した。それでも好きだといってくれるのか?」

「ああ。ルキアが死神でもなんでもいい。好きだ」

ルキアはぽろぽろとアメジストの瞳から大粒の涙を零して、一護を受け入れた。

「何故、もっと早くにこうやって、思いを伝えなかったのであろうな?」

高校のあの頃に戻りたい。

他愛もなく、一緒の部屋で住んでいたあの頃に。

一護は決意する。

「井上と別れてくる」

「一護、無理はしなくていいのだぞ」

「いいや、別れる。そしてルキア・・・お前と付き合いたい」

ルキアは逡巡する。

「しかし私は・・・・尸魂界の住民」

「月に2回くらいはこっちにこれねーか?」

「いや、その気になれば土日ごとにこれるが・・・・・・」

「じゃあ決定。俺とお前は付き合う。いいな?」

「う、うむ・・・・・・」

一護に押し切られた形となってしまったが、ルキアも承諾した。

「じゃ、俺井上んちにいってくる」

携帯に電話し、重要な話がるから家で待機してくれと連絡した。

今日は土曜で、休日だった。

井上に別れ話を切り出した。

「黒崎君、やだよ!やだよ、私を捨てないで!」

「井上、ごめんな。高校にいた頃から、ずっとルキアが好きだったんだ。ルキアが死神だからとあきらめて、お前と付き合った。でも、心にはまだルキアがいるんだ」

「酷いよ!酷いよ、黒崎君!」

ポロポロと涙を零して、井上は一護を力のこもっていない手で殴りまくった。

「じゃあ、もう大学であっても、できれば友人として接してほしい」

「そんのいやーーーーー!!!」

一護は、泣き叫ぶ井上を置いて、アパートを出て行った。

「朽木さんさえいなければ・・・・・・」

井上の心に、どす黒い感情がこもる。


一護は、自分のアパートに帰還した。

ルキアがいた。

「ルキア、好きだ」

「私もだ、一護」

抱擁しあい、ベッドに昔のように一護の腕の中に収まるように寝転がった。

「その・・・・してもいいか?」

「ああ。だが、私は初めてではない。恋次と何度か体を重ねている。それでもいいのか?」

「それはこっちの台詞だ。俺も井上を何度か抱いた、それでもいいか?」

お互い、苦笑しあった。

着ているものを脱がしあった。ルキアはワンピース姿だった。

季節は春。

一護は、4回生になろとしていた。

「お前の肌、すっげーすべすべ」

「ん・・・一護は、相変わらず鍛え上げられた体をしているな」

ルキアの体は、恋次に抱かれていたのというのが嘘と思うほど、真っ白で、まるでそんな知識すらもないようで。

「ああっ!」

ルキアを裸にして、体全体を愛撫した。

首やうなじ、鎖骨に胸元に、紅い花びらのようなキスマークを残していく。

「一護・・・・」

ルキアも、一護の鎖骨に、キスマークを残した。

「ルキア・・・・」

薄い胸をもみしだき、先端を口の含むと、びくりとルキアは体を震わせた。

「あ・・・・・・」

「怖いか?」

「怖くなどはない。ただ、純粋に愛しい」

ルキアの秘所に手を伸ばすと、もう濡れていた。

「お前のここは、正直だな」

「あ、そのようなことは・・・・」

手で秘所をの入り口付近の天井を指で刺激されると、ルキアは頭が真っ白になった。

「ああああああ!」

「いったのか?」

「はぁはぁ・・・うむ、そのようだ」

恋次に抱かれてきたので、いったのは始めではない。

「入れるぞ」

「うむ・・・・・ああ!」

指とは比較にならないものを入れられたが、恋次に抱かれ慣れてしまってい体は、敏感に反応した。

「ああ・・・この体を恋次が貪ったのか。全部、俺色で染め上げてやりてぇ」

「では、そうしてくれ。もう、恋次に抱かれることはない。貴様だけだ」

二人は、夜遅くまで睦み合った。

飢えた獣同士のように。

3年以上抱えていた思いを、ぶつけあった。

「シャワー先に浴びるか?」

「ああ」

ルキアが風呂場に行った後、スマホの着信履歴を見ると、井上からだった。

とりあえずざっと内容を読んで、削除した。

ルキアがシャワーからあがった。

一応着換えをもってきていたが、ワンピースだったので一護の服を貸した。

上にスウェットだけで、ぶかぶかだがそれだけでいいとルキアは言った。

井上にも、こんな格好はさせてない。

恋人になったばかりの無防備なルキアの姿に、一護がドキマギしながら自分もシャワーを浴びた。

シャワーからあがった一護は、念を押した。

「いいか、俺以外の前でそんな恰好、絶対にするなよ」

「何が駄目なのだ」

「パンツとか見えそうじゃねぇか!」

「見たいのか?見たいなら見せるが」

「そういう問題じゃない!」

一護が溜息をついた。

尸魂界に戻ってから3年の間で、かなり頭が緩くなってしまったのか。

いや、昔からルキアはこうだ。いつも短いスカートで、階段でパンツが見えてても平気だったのだ。

そのため、一時期は盗撮されるほどの騒ぎに発展した。

全部、一護が締め上げたが。



歯車が廻る。噛みあった。

恋い焦がれた思いは成就する----------------------。

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恋い焦がれ ルキアの思い一護の思い

ルキアと一護が一緒に生活する時間も、ピリオドがこようとしていた。

卒業だった。

「ルキア、おかしいとこないか?」

「いつも通り、おかしい」

「お前なぁ。人が真剣に聞いてるんだ」

「嘘だ。いつも通りかっこいいぞ、一護」

ルキアの笑顔に、一護が朱くなる。

「ルキアは・・・その髪飾り、恋次からもらったやつか?」

アメジストの髪飾りをルキアはしていた。

「そうだ。たまにはつけてやらぬと、恋次が哀れだからな」

本当なら、一護がアメジストの装飾品を渡したかった。でも、ルキアとは付き合っていない。

井上に、この前水晶のペンタンドをあげた。

井上はとても喜んでくれて、毎日それをつけてくれていた。

「時間だ、行くぞ」

「ああ」

高校に通うのも、これが最後。

今日は特別な日だ。

卒業式が終わると、ルキアは尸魂界に戻ることになっていた。

13番隊隊長代理及び副隊長とて、瀞霊廷の復興に尽力を尽くすつもりだった。

今まで、高校に通っていたのは一護の我儘を、京楽が承諾してくれた形であった。

「京楽総隊長には感謝せねばな・・・・貴様といれた時間、楽しかった」

「ああ、俺もだぜ、ルキア」

二人並んで、登校する。どちらともなしに、手を握り合っていた。

学校につく頃には、名残惜しいが手を放した。

卒業式がはじまる。

一護の父親でもある一心も来ていた。

「ううう、ルキアちゃん・・・・・」

実の息子の旅立ちに涙を流さずに、ルキアに対してのみ涙を流しいた。

一心らしいといえば、そうだった。

やがて、卒業生代表として、生徒会長であった石田がスピーチをする。

在学生がスピーチをして、校長がスピーチをして、卒業証書が渡される。

「黒崎一護」

「はい」

巡り巡って、ルキアの順にになる。

ルキアは出席日数も足りず、テストの点の悪いために留年が決定していた。まるごと記憶置換で教師たちの記憶を改竄した。

「朽木ルキア」

「はい」

ルキアは、卒業証書を手にしながら、泣いていた。

今までの3年間を思う。

藍染の反乱や、ユーハバッハによる大戦など、酷いことが起こった。隊長も副隊長も何人か死んだ。

それでも、前を向いて歩き出さなければならないのだ。

卒業証書を手に、ルキアと井上は、泣いていた。

「井上・・・いつかまた、辛なず現世にくるからな」

「うん・・・石田君も茶虎君も、別れ別れだね」

一護と井上は、同じ大学を進む。

「石田と茶虎も元気でな!」

ルキアは大きく手を振って、一護を一緒に帰宅した。

日常品から衣類までを鞄に詰め込んで、準備ができたルキアが、一護に声をかける。

「一護・・・・貴様には、本当に世話になった」

穿界門が開く。

その中に消えていくルキアは一言。

「貴様のことが好きだ」

そう言って、去ってしまった、

その真意を問おうにも、ルキアは尸魂界だ。そんなことのために、現世から尸魂界に行くわけにはいかない。

悶々としたものを抱えながら、一護はルキアが去っていった夕暮れの中、ただ道路に佇んでいた。


「ただいま帰りました、兄様、恋次」

「おかえり、ルキア」

恋次に抱擁されて、ルキアはああ、帰ってきたんだと実感した。

「ご苦労であった、ルキア。空座町の滞在死神を交換する手続きを、このまま13番隊で行ってこい」

「はい、兄様!」

ルキアは思う。

空座町の滞在の死神の座を明け渡したら、もう空座町とは縁がなくなる。

つまりは、一護に会いにいけないのだ。

それでも、死神としての矜持がある。

ルキアはそれに従った。

13番隊で、手続きを終えたルキアは、朽木邸に引き返す途中で、恋次に捕まった。

「恋次・・・?」

「お前は俺のものだ。そう認識して、いいんだよな?」

「う、うむ・・・・・」

「隊長から、結婚の許しが出た。まだ当分先になると思うが、俺で、本当にいいんだな?」

「恋次・・・私には、恋次だけだ」

ああ、嘘をついている。

ルキアの中には一護が住んでいる。

でも、尸魂界の、仲間の平和のためなら、自分を犠牲にすることは厭わなかった。

その日、ルキアは初めて恋次と体を重ねた。

「ん・・・恋次?」

起きると、体中に入れ墨をいれた恋次の背中があった。

「今更、一護が好きだとか、なしだぜ?」

「ああ、分かっておる・・・・・」

もう、戻れぬところまできてしまったのだ。



一方で。

一護もまた、井上と井上のアパートで体を重ねていた。

「黒崎君、大好き」

「ああ、俺もだ井上」

ルキアはもういない。目の前の井上だけを愛し抜こう。

そう決意した。

でも、その決意が揺らぐほどに、ルキアを思っていた。

だから、井上を抱いた。

もう後戻りはできぬように。



歯車は軋んだ。

恋い焦がれた思いは遥か遠く。

やがて、月日はめぐる----------------------。

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恋い焦がれ 廻る歯車

何気ない日常が始まる。

ルキアは、一護のベッドで眠るようになっていた。

一護が、ルキアを抱き抱えるような形で。

そうされると、安心できるのだ。

よく、流魂街で眠る時は恋次がそうしてくれた。

「恋次・・・・」

今ここにいない恋次のことを思うと、胸が切なくなる。

でも、今ここにいる一護のことを思うと、もっと胸が切なくなるのだ。

いっそ、一護に思いのたけをぶつけようか。そう何度も思った。でも、それが一護と井上の仲に罅をいれることになる。

一護のことだから、きっと井上をとる。

そうなった後の自分が惨めすぎて、告白などできない。

それに、自分には恋次がいるのだ。

あの、赤い髪の死神は、ルキアとの幼馴染で子供の頃からの付き合いだ。恋次と付き合いだしたと、白哉に報告すると、白哉は嬉し気に、恋次なら任せられると薄くはあるが、確かに微笑んでくれた。

「兄様・・・・・」

恋次を振るということは、白哉も裏切るに等しい。

何故、一護などを好きになってしまったのだろう。

ああ・・・なんの迷いもなく、一護と仲間でいられたあの日々が懐かしい。

ルキアが一護の腕の中で身じろぎすると、もう朝だったので一護も起きた。

「ふあ~。よく寝た」

「貴様、よだれを垂らしておったぞ」

「まじかよ!」

口元に手をやるが、濡れてはいなかった。

「ルキア、お前なぁ」

「ふふ、騙される方が悪いのだ」

一護は、軽く伸びをしてからルキアの方を向いた。

「それより、今日は尸魂界に戻るんだろ?俺と井上も行っていいか?」

「何故だ?」

「大戦の復興がみたい。後、ルキアと恋次と俺と井上でダブルデートしてみたい」

「ななななな!」

「だめか?」

「駄目ではないが・・・・恋次がなんというか・・・・」

「大丈夫、恋次の奴ならきっとOKしてくれるさ」

念のため、伝令神機に連絡を送ると、恋次はあっさりとOKしてくれた。

「よし、じゃあ俺井上を呼んでくるから。浦原さんの穿界門で帰ろうぜ」

霊体を持たぬ井上は、普通の穿界門が使えない。

浦原の手で体を霊子化させるものがないと、尸魂界に行けないのだ。

15分ほどが過ぎて、井上と一護が帰ってきた。

「私、4番隊に行きたいの。まだ、大戦の傷跡が大きいだろうから、怪我してる人を先に診たい」

「分かった。とりあえず、尸魂界に行こうぜ」

浦原の作った穿界門から、尸魂界に出る。そこから瀞霊廷を目指した。

ルキアの霊圧に気づいたのか、瀞霊廷の中で恋次と出会った。

「おう、一護、元気でやってるか?」

「勿論だぜ!そっちこそ、元気でやってるか?」

「あーそうだといいたいところだが、大戦後の復旧に忙しくて」

「副隊長も大変だな」

「おう、ルキア、お帰り」

「ただいま、恋次」

ルキアは自然を微笑んでいた。

その微笑みに、一護の胸がちくりと音を立てる。

とりあえず、井上の言葉通りの4番隊の救護院に行った。重症の患者はあまりいなかったが、手足が欠損して、培養した手足を繋げる手術前の者たちに、術を施す。

「奇跡だ・・・・失った手が」

「俺の足が・・・・・・」

「あたしの右手が・・・・」

井上は、一人で培養する手足を繋げる予定だった者たちを治してしまった。

「やっぱすげぇな、井上の能力は」

恋次が、驚嘆していた。

皆、リハビリを兼ねて数日入院した後、退院が決まった。

大戦の時は、とにかく命が助かりそうな者の致命傷を治して、傷の全部は診なかった。

大戦が終わり、まだ入院している者の過半数は、井上の手で治療が施された。特に目を欠損した者は、職場復帰が無理だろうと言われていたのに、できるようになって井上に何度も礼を言っていた。

「はぁ・・・・疲れちゃった」

「そりゃ、あんだけ治せばな」

「井上、一護、我が屋敷で花見をせぬか?紅梅の梅が満開なのだ」

「ああ、ダブルデートの約束だったもんな」

一護の井上と恋次は、朽木邸にいき、白哉の了承を得て庭で花見をした。

「うわぁ、満開だね。あっちの白梅も見ごろだね」

疲れた井上には、疲れをとるための薬を入れた特別な飲料が渡された。

「なんか・・・・もりもり元気がわいてきた!」

「おい、ルキア、あの飲み物飲ませたのかよ!」

「少しだけだ。分量を間違えると猪突猛進になるからな」

井上は、朽木家の料理人が作ってくれた料理を、美味しそうに一人で全部食べてしまった。

「おい、ルキア、なんか井上の変な薬でも盛ったのか?」

「いや、疲れをとるための薬を少し混ぜただけだ」

「なんか元気ですぎてねぇか?」

「き、気のせいであろう」

朽木家の中にいき、食べれてないので追完の料理をルキアは頼んだ。

「あー、私お腹いっぱい。梅の花、一輪もらっていい?」

「いいぞ、井上」

そう言われて、井上は紅梅の梅の花を一輪手にとった。

それを、ルキアの髪に飾った。

「井上?」

「朽木さんも女の子なんだから、もっとおしゃれしようよ」

「私はいいのだ・・・・」

「よくねーよルキア。俺が贈った簪だってさしてくれねーじゃねぇか」

「あれは、まぁ・・・ええいもう、恥ずかしいのだ!」

ルキアは顔を真っ赤にした。

それを、一護はああかわいいなと見ていた。

「なーに人の女見てやがんだ、一護!」

「いや、微笑ましいなと思ってさ」

「まぁ・・・・大戦の時はこんな時間が訪れるとは思わなかったからな」

恋次は、朽木家の料理を口にしながら、酒を飲みだした。

ルキアも酒を飲んだ。

「どうだ、一護も飲んでみるか?」

「そうだな。現世じゃ違反だけど、尸魂界ならまぁいいか」

そう言って、一護もほどほどに飲んだ。

井上も乗んだが、すぐに酔っぱらって、一護の膝の上に頭を乗せて寝ていた。

「ほんとは今日中に帰るつもりだったんだが・・・・一泊していっていいか?」

「ああ、いいぞ」

ルキアは、一護が傍にいてくれるだけで嬉しかった。それは一護も同じだった。

お互いに恋い焦がれ。でも、お互いの思いに気づかぬまま。

白哉の許可もあり、一護と井上は、朽木邸で泊まることとなった。恋次は自宅に帰ってしまった。

本当は、もっと尸魂界の復興を見ておきたかったのだが、その日は井上が酔っぱらったせいもあって、お開きになった。

「井上とは、上手くいってるようなだ」

「そういうルキアこそ、恋次と上手くいってるようじゃねぇか」

互いに、追加で酒を飲み交わしあった。

一護は未成年だが、ここは尸魂界だ。

別にいいかと、一護は思い酒を口にする。

甘い、カクテルのような味だった。アルコール度も低い。

「私はな、一護・・・・・いや、なんでもない」

「どうしたんだよ、ルキア」

「井上は幸せ者だな。一護に思われて」

一護の鼓動が高鳴る。

まさか、ルキアは俺のことを?

そう思いながら、先ほどまでの仲のよかった恋次とのことを思い出し、その思考を振り払った。

「ルキアは、幸せか?」

「ああ、幸せだ。恋次も兄様も・・・・・それに、一護もいる」

「ああ。俺ら、仲間だもんな」

「そうだな。仲間だ。どれだけ年月が変わろうとも、それだけは変わらない。どれだけ思いが変わろうとも、それだけは変わらない」

「ルキア・・・・・」

一護は、ルキアの杯に酒を注いだ。

「何に悩んでるのか知らないが、ぱーっと飲んで忘れちまえ」

「そう、だな・・・・・・・・」

結局、一泊してルキアと一護と井上は、復興していっている瀞霊廷を見て回り、夕方には現世に帰還した。


廻り出した歯車が、音を立てて砕けていく。

でも、砕けると新しい歯車が生まれるのだ。

恋い焦がれ。互いの心に気づかぬまま、歯車は廻る。





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恋い焦がれ 一護の怪我

次の日、学校へいくと井上に傷を診てもらった。

「双天帰盾、私は拒絶する!」

屋上で、治癒術にもなる術を施してもらい、一護の腕の傷は完全に塞がった。

「ありがとな、井上」

「ううん、いいの」

「井上の能力はやはり凄いな」

ルキアが感嘆の声を漏らした。

「もう、朽木さんまで!」

照れた井上は、一護の腕を引き寄せた。

ああ・・・見たくない。

この二人の仲のよい姿を。

「それでは、私が少し用があるので先に戻る。貴様らは好きなだけイチャついてろ」

「おい、ルキア!」

ルキアは走り去ってしまった。

「変な奴・・・・」

一護は知らない。ルキアが一護のことを好きだということを。それはルキアも同じで。一護がルキアのことを好きだということを知らない。

そのまま昼休みが終わり、授業が始まる。

ルキアと一護は隣の席同士だった。

くしゃくしゃに丸めた紙を、ルキアに投げる一護。

その紙には、次に尸魂界へ戻るのはいつだと書かれてあった。

ルキアが高校に通う間、空座町の虚退治はルキアの管轄にあった。

時折、尸魂界に帰って報告をしていた。あと、恋次の様子も見に。

(1週間後だ)

そう書かれた紙が、ぽんと一護の頭に当たった。

そのやりとりが少し楽しくて。授業そっちのけでやっていると。

「黒崎、朽木!廊下に立ってなさい!」

そう教師に怒られた。

数学の教師で、一護の成績まぁまぁいいが、ルキアの成績はどん底に近くて、数学の教師はルキアをなんとかしてやろうと思っていたが、結局記憶置換でテストの成績は80点とかにされるので、意味はなかった。

「貴様のせいで、廊下に立たされたのだぞ!」

「いや、お前だって一緒になって紙投げ出したじゃねーか!」

ルキアが言葉に詰まる。

「品行方正で通してあるルキアには、無理だってか?どうせ記憶置換で教師の頭もくるくるぱーになるんだ。いいじゃねぇか」

「なっ!くるくるぱーなどにしてなどおらぬ!あくまで、私個人の成績を改竄しているだけだ!」

「それがくるくるぱーにしてるっていうんだよ」

ルキアは朱くなって反論しだす。

その様子がかわいくて、一護はルキアをからかった。

「お前の数学とあと英語の成績一けただもんな」

「仕方なかろう!あのような授業、尸魂界で受けたのがないのだ!おまけに初めてなのにいきなり難題を出されるのだぞ!」

「んで、教師の頭くるくるぱーにして80点とったってことにするんだろう?」

「記憶置換を使っているだけだ。人格に影響はない!」

ふと、ルキアの伝令神機が鳴った。

「虚か?」

「そのようだ」

「ちっ、最近多いな。大戦が終わってもこれじゃあ、平和になったっていえねぇ」

ルキアはチャッピーの義魂丸と、一護はコンの義魂丸を飲んで、死神化する。

「後は任せた」

「お任せだぴょん」

「コン、変な行動とるなよ!」

「わーってるよ。大人しく、廊下に立ってりゃいいんだろう?」

「じゃあ、俺らいってくるから」

窓から、外に出た。

瞬歩で、空座町の隅っこあたりに出た、虚の大群を一掃する。

「舞え、袖白雪。次の舞、白蓮!」

ごうっと、凍てついた氷の柱ができて、虚の大群はその中に閉じ込められて、粉々に砕け散ってしまった。

残っていた虚を、一護が斬月で切り捨てる。

皆、大人しく霊子の塵となって還っていった。

ビービービー。

ルキアの伝令神機がまたなる。

新しい虚の出現だ。

「どっから湧いてきやがるんだこいつら!」

「あそこだ!あの空間に亀裂がある!」

黒腔(ガルガンタ)が開いていた。

「いかん、このままでも大虚も出かねぬ!浦原に言って、黒腔を塞いでおもらおう!」

ちょうど、大虚のが一匹顔を出した。

「月牙天衝!」

卍解もなしの技で、大虚を駆逐する。

とりあえず出てきた、虚という虚をやっつけていった。

なんとか波が収まった隙に、浦原商店にかけこみ、浦原とコンタクトをとる。

「あー、あれですか。自然に開いてしまった穴ですが、このままだと虚の大群がくるだけだ。よし、わたしが塞ぎますよ」

浦原に頼んで、なんとか黒腔を塞いでもらた。

また伝令神機が鳴った。

「またか!ああでもこの反応・・・1匹だな」

一護が、いつの間にかルキアの伝令神機を手にしていた。

「俺一人で、片付けてくるわ」

「気をぬくなよ!」

「ああ、大丈夫だ」

そのまま、一護は伝令神機を手に、虚退治へと向かった。

出てきたのは、大虚のヴァストローデだった。人型をとっていた。破面だった。

霊圧はさほど感じなかったが、いざ対峙したときに凄まじい霊圧が迸った。

「こいつ・・・グリムジョーくらいか・・・・」

「ほう、グリムジョーを知っているか。あのような敗北者ではない、私は」

一護は卍解した。

急激な霊圧の高まりに、ルキアも、授業を受けていた井上、石田、茶虎もはっとなる。

何度も切り結びあった。

お互い、傷ができる。

軽く殺す、ということはできなかったが、腕は一護のほうが上だった。

何せ、ユーハバッハを倒したのだ。

「月牙天衝!」

その一撃を食らい、破面は倒れ伏した。

「慈悲を・・・・・」

とどめを刺そうとした時にそう言われて、一護は躊躇った。

その隙だった。

一護の足元に絡みついて、破面は自爆した。

意識が遠くなる。

「ああ、ルキア・・・・」

走馬燈のようによぎるのは、ルキアの出会いから大戦に至り、高校生活まで一緒に過ごしてきたルキアの姿。

「ルキア・・・好きだ」

意識が落ちていく。

「一護ーーーー!!」

駆け付けたルキアが見たのは、火傷を負い酷い姿をしている一護だった。

「一護、だめだ、死ぬな!一護、一護!」

ルキアは一護を抱えて、学校の教室に飛び込んだ。

「井上、井上はいるか!一護が!」

「きゃああああ!」

井上は、霊体で他の者には見えない一護とルキアを見て、息を飲んだ。

先ほどの悲鳴は、いきなり机が吹きとんだせいで、一般の女子生徒があげた悲鳴だった。

「屋上へ!」

「おい、井上どこにいく!」

「おなかいたいんでトイレいってきます!」

ルキアが瞬歩で一護を屋上に運ぶ。

「井上、早く術を!」

「うん!双天帰盾、私は拒絶する!」

ぱぁぁぁと音がして、一護の傷も破れた死覇装も元に戻っていく。

しばらくして、一護が目を覚ました。

「ルキア?それに井上?」

「たわけ、心配をかけおってからに!」

「あ・・・俺、自爆に巻き込まれて・・・そうか、井上が助けてくれたのか」

井上は、涙をポロポロと零して、一護に抱き着いた。

「心配したんだから!」

「すまねぇ」

井上が、ルキアの見ている前で一護にキスをした。

ルキアは、悲しそうな顔をしていた。

「では、私は一足先に授業に戻る。今日はもう帰れ、一護。記憶置換で、熱が出て早退ということにしておく。一護を頼んだぞ、井上」

「うん、朽木さんも無理しないでね」

それこそ、無理な話というものだ。

ルキアの好きな一護が、井上を見ている。自分ではなく、井上を。

それがどんなに辛いものなのか、ルキアは痛感した。



廻りはじめた歯車。

恋い焦がれているのに、言葉にだせぬ想い-------------------。

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恋い焦がれ プロローグ

高校生活も残りわずか。

ルキアは、一護を、一護はルキアを思っていた。

だが、互いに口にすることはなかった。

ふと、視線が重なる。どちらかがあらぬ方を向いてしまった。

時折尸魂界へ戻るルキアに恋次が、一護には井上というそれぞれの存在がいた。

だが、井上に向ける視線をいつの間にか気づくとルキアを追っていた。井上は、一護がルキアのこと好きなままでいいから付き合ってくれと言われて、了承した。

ルキアもまた、恋次に一護を思ったままでもいいからといわれ、付き合いだした。

だが、うまく噛みあわない。

互いに恋い焦がれ。

けれど、思いあっているにの付き合わなかった。

それはルキアが死神だからだ。

ルキアが人間であれば、すでに告白して付き合っていただろう。

だが、ルキアは尸魂界の住民だ。死神なのだ。生きる世界が違うのだ。

尸魂界へは滅多なことではいけない一護は、それを知っているのでルキアを好きと言わなかった。

ルキアもまた、それを知っている上で一護に好きだと、伝えられなかった。

「おい、ルキア」

「なんだ」

「次の授業、移動だってさ」

「ああ分かった、今行く」

他愛ない会話はできるのだ。それに、ルキアは一護の家に住んでいる。

押し入れが、ルキア部屋だった。

普通にベッドで寝ろというと、拒否された。

一緒に眠るのは恋人同士ではないからと。

それでも。どちらかが好きと言うことはなかった。お互いに、遠慮し合っていた。

一護には井上がいるからと。ルキアには恋次がいるからと。

「今日の夕飯カレーだってよ」

「本当か!遊子の作るカレーは美味いのだ!」

「んで、俺らに帰る前に福神漬け買って来いだとよ」

「カレーのためなのだ!その程度、どうということはない」

本当に他愛もない話はできる。

「ルキア、俺・・・」

「あ、私は少し用を思い出した。それではな、一護」

一護は、何回かルキアに思いをぶつけようとした。けれど、その度に逃げられた。

「はぁ・・・やっぱ、俺の思いなんて迷惑なだけか」

一護はそう思い込む。

ルキアには、恋次がいるのだ。

なのに、思いを告げるだけ無駄かもしれない。

今のままの関係がいいのだろう。そう思い込むしかなかった。

放課後になり、途中で井上と別れて、ルキアと二人きりでスーパーへと足を向ける。

福神漬けを買って、家に帰宅する途中、虚の気配を感じた。

「俺が行く!俺の体を頼む!」

死神代行証で霊体となって死神化した一護が、ルキアが何かを言い出す前に瞬歩で走り去ってしまった。

「一護・・・・」

ルキアは、動かないほうりだされた一護の唇に、口づけをした。

「ああ・・・この狂おしい思いのがどうにかなればいいのに」

一方その頃、一護は複数の虚と対峙していた。

動きが素早い奴ばかりで、腕を少しだけ怪我した。だが、ユーハバッハを倒した腕は健在だ。虚を倒して、ルキアのいる場所に帰還した。

「ルキア、すまねぇ待たせた」

「一護、血が!怪我をしているのか!」

「ああ、これくらいどうってことないさ」

自分の体に戻る。血の出ている個所が、肉体にも現れた。

ルキアはもっていたハンカチを裂いて、一護の腕に巻き付けた。

「おい、そのハンカチ・・・・・・」

白哉からもらった思い出の品だが、一護の怪我のほうが優先度は高い。

「よいのだ、一護。兄様からもらったハンカチはこれ一枚ではない」

「いいのか、本当に」

「よいのだ・・・・・・」

何はともあれ、福神漬けを手に帰宅する。

台所では、すでに帰宅していた遊子がコトコトとカレーを煮込んでいた。

「あ、お帰りなさ、お兄ちゃん、ルキアちゃん」

「いい匂いだな」

「ルキアちゃん、味見する?」

「いいのか?」

ルキアの瞳が見開かれる。

味見をして、カレーの味に酔いしれた。

ルキアはカレーが好きだ。カレーに限らず、現世の食べ物は好きだった。

「お兄ちゃんその怪我は?」

「ああ、なんでもねーんだ」

血を滲ませた腕に、遊子が心配そうな声を出す」

「一兄、どうせまた喧嘩でもしたんでしょ」

「ああ、似たようなもんだ」

夏梨の言葉に頷く。

「一兄、ちょっときてよ。ちゃんとした手当するから」

「ルキア、先に俺の部屋に行っててくれ」

「ああ、分かった」

一護は、夏梨の手で手当てをされた。

傷は思っていた以上に深いものだったが、縫う、というほどでもなかった。

「もういいぜ、夏梨。あとは友達に診てもらう」

「織姫ちゃんだっけ」

「ああ。特別な治癒能力をもってる」

「じゃあ、後は織姫ちゃんに任せるよ」

父親が帰ってきた。

往診していたらしい。

「一護・・・・虚にやられたのか」

「ああ。かっこわりぃとこ見せちまったな」

「一応これでも俺の息子だ。どれ、有料で傷の手当てをしてやろうじゃないか!」

「実の息子から金とる気かよ!夏梨に手当してもらったから、もう大丈夫だこのばか親父!」

「なにおう!?」

「なんだよ!?」

睨み合う二人を夏梨が頭を殴った。

「喧嘩すんなよバカ一兄と親父!」

「え、ああごめん。俺、部屋戻るわ」

一護は自分の部屋に戻った。

そこで目にしたものは、一護のベッドで一護の服を抱き締めながら眠るルキアだった。

「ルキア・・・」

触れるだけの口づけをする。

少し深い眠りに入っていのか、起きなかった。

髪に手をやる。

「ん・・・恋次・・・・」

その言葉にはっとなる。

何をしているんだ、俺は。

ルキアには恋次が、一護には井上がいるのに。

でも、廻りだした歯車は止まらない。

好きとも告げていないのに。でも、行動で分かる。お互い、多分好きあっている。

でも、言葉に出して拒否されるのが怖かった。

それに、もうすぐ卒業だ。

ルキアは尸魂界へ帰り、13番隊隊長代理お呼び副隊長としての復帰が、決まっていた。

「お前を思うだけ無駄なのにな。でも、この心はどうしよもないんだ」

夜が更けていく。

廻りだした歯車は、軋んだ音を立てていく。

お互いに恋い焦がれ。

けれど、思いを告げぬまま。

時間だけが流れていく。





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最後の冬 終章 二人だけの物語

大学2年になり、二十歳になった。

ルキアとの現世での婚礼をが執り行われることになった。 尸魂界の主だった隊長副隊長も参加してくれて、総隊長の京楽の姿もあった。

みんな、ルキアと一護の結婚式を心から喜んでくれた。

現世の式場で、一護は正装して落ち着かない様子だった。

「黒崎君、落ち着いて!新郎がそんなに緊張してどうするの!」

振袖姿の井上が、そわそわしている一護に声をかける。

井上は、正式に石田と付き合いだしていた。

「だって、結婚式だぞ?一生に一度あるかないかの・・・・あああああ」

一護は軽いパニック状態になっていた。

「おい、しっかりしやがれ!」

ばしっと背中を叩かれて、一護が恋次を見る。

「恋次・・・」

「ルキアを幸せにするんだろう?本当なら、その位置に俺がいたかったんだ。まぁ、ルキアが選んだのがお前だったから、仕方ねーけどな」

恋次は、嬉しさの中にもどこか悲しさを見せていた。

「ああ、すまねぇ。気合い入れ直すわ」

自分の頬をぴしゃりと叩いた。

「黒崎、朽木さんを幸せにしろよ!」

「そうだぞ、一護」

石田と茶虎の言葉に、一護は頷く。

一護は、式場に入場する。父親である一心と遊子、夏梨もきていた。

「新郎、新婦の登場です」

一護が先を歩き、後ろから同じく和装の正装をした、白哉に連れられて、純白のウェディングドレスを着た、ルキアが歩いてくる。

「ルキア・・・・綺麗だ」

「ありがとう、一護」

長いウェディングヴェールを被ったルキアは、綺麗だった。

流石に、朽木家が金を出しただけある。

黒崎家も金を出そうとしたのだが、白哉が出すといってくれたのだ。普通の式場よりも何ランクも高い式場を予約してくれた。

「汝、黒崎一護、病める時も健やかなる時も、黒崎ルキアを妻として迎えることを誓いますか?」

「誓います」

「汝、黒崎ルキア、病める時も健やかなる時も、黒崎一護を夫として迎えることを誓いますか?」

「誓います」

「では、誓いの口づけを」

ルキアのヴェールをとって、一護はゆっくりとルキアに口づけた。

その後、一護がバイト代を貯めて買った、小ぶりのダイヤモンドがあしらわれた、結婚指輪を互いにはめあった。

「ルキア、幸せに・・・・」

「はい、兄様!」

朽木家の名で借りた式場で出されたメニューは、豪華だった。

「朽木、幸せにね!」

松本が、手を振っていた。

「ブーケを投げます!」

わっと、その場にいた女性死神から一護の友人たちまで、群がってくる。

投げたブーケは、井上の手に落ちた。

「ふふ・・・石田君、結婚してっていったら、してくれる?」

井上が冗談でそういうと、石田は顔を真っ赤にさせながらこう言う。

「大学を卒業したら・・・・・」

「え」

「え」

お互い、顔を見合わせた。

ルキアとの挙式は、これないと思っていた死神たちも顔を出してくれて、残りを任さた数名の隊長副隊長は、反乱が起きたらどうしようと考えていたが、何もおこらなかった。

「いや、いいねぇ。ルキアちゃん、ウェディングドレス似合ってるよ。ああ、浮竹にも見せてやりたかったなぁ」

京楽は、ここに浮竹がいたら、きっと泣き出すだろうなと思っていた。

2次会は、ホテルのロビーを貸し切って行われた。

酒が振る舞われて、松本などは早くもできあがっていた。

隊長である日番谷は、年齢を未成年と間違われて、飲酒を禁じられた。

「ったく、こっち世界はいつまで経っても、俺をガキ扱いだ」

「冬獅郎もありがとな。わざわざ来てくれて」

「仕方ねーだろ。尸魂界の恩人が結婚するんだ。出るしかねーだろ」

「恩人とか、そんなんじゃねーよ」

一護も二十歳になったので、酒を飲んでいた。

アルコール度の低いカクテルを飲んでいた。隣には、振袖に着替えたルキアが、同じカクテルを口にしていた。

ルキアの髪は、少し伸びた。

一護は、身長がまた少しだけ伸びた。

ルキアと一護の結婚式は無事終わり、二人はヨーロッパへ7泊八日新婚旅行に出かけた。

それも終わり、白哉の出してくれた金で、一軒家を買った。

そこで、ルキアは昼は尸魂界に、夜は現世にと、2重の生活を送っていた。

結婚したのだからと、京楽がそれを認めてくれたのだ。

「ルキアー。帰ってるかー?」

「あ、一護、晩飯はまだだぞ。先に風呂に入っていてくれ」

大学を卒業した一護は、翻訳家になった。ドイツ語の翻訳家だ。在宅で仕事をしながら、家事のほとんどをこなしていた。

今日は、ルキアが夕飯を作ることになっていた。ルキア専用の穿界門が作られていた。

夜の7時に現世にきたルキアは、自分の自宅でもある一護との新居に入り、まずは夕飯にシチューを作った。ご飯は一護が炊いてくれていた。サラダも作り、自分の好物の白玉餡蜜も作った。

「ルキア、あがったぞー」

「あ、分かった。夕飯ができたのだ。食事にしよう」

二人は食卓についた。

「また白玉餡蜜か・・・」

一護の呆れた声に、ルキアが言う。

「べ、別にいいであろう!嫌ならん食さねばいいのだ!」

「誰も嫌だなんて、言ってないだろ?」

ルキアにキスをすると、ルキアはとろんとした目で見つめてきた。明日は休日なのだ。

久し振りに睦み合う予定だった。

食事を終えて、一護が後片付けをしている間に、ルキアが風呂に入った。

「一護・・・その、するのか?」

「する」

いつもは二重の生活をしているルキアを思い、手を出さないが、一護だって男だ。愛しい妻がいれば、抱きたくもなる。

「あ・・・・」

ルキアの白い肌に、キスマークの花びらを散らせていく、

「んんっ・・・」

ルキアの胸をいじっていた一護は、ルキアに急かされた。

「あ、前戯などいいから、早く・・・・」

ルキアも久しぶりで、飢えていた。

すでに濡れている秘所に指をいれて、天井部分をいじってやる。

「ああああ!」

ルキアは、あっけなくいってしまった。

「い、一護・・・・」

「ルキア、入れるぞ」

「うむ・・・・・あああ・・・・!」

一護に貫かれて、ルキアはその快感に涙を零していた。

「痛いのか?」

涙を吸い取って、一護の動きが止まる。

「違う。もっとだ、もっとお前をくれ。一つに溶けあうくらいに、してくれ」

一護は、そう言われて少し激し目に、ルキアを抱いた。

次の日は、ルキアの非番の日だったので、一日中一護と一緒にいた。

周囲の家の人間には、記憶置換でこの館の住人が年をとらぬことを、不思議がる心を消していた。

死神と人間であるので、子はできなかったが、二人とも愛し合い、最後の時まで一緒にいた。

やがて、自宅で最期の時を迎えることに決めた一護の体から、魂魄が滲み出す。

「行こう。尸魂界へ・・・」

ルキアが、若い少年時代の、17歳くらいの姿になった一護の魂を、魂葬した。

魂魄は尸魂界にやってきた。一護は、久し振りに懐かしい姿に戻って、体を存分に動かせることが嬉しかった。

享年80歳。

ルキアが、息を引き取る間際まで傍に居てくれた。

尸魂界にきた一護には、前世の記憶もあったし、霊圧もちゃんとあった。死神の姿になると、斬月を所持していた。

「迎えに来た」

「おう、ルキア!」

「第二の人生だ。また、結婚しよう。今度は、子が欲しい」

一護とルキアの冬は終わり、また春がくる。冬が終わる度に何度でも春を迎えた。

やがて一護は、尸魂界の正式な死神になり、ルキアの副官になった。ルキアは一護と結婚して数年後には、13番隊の隊長になっていた。

「また、はじめようか。俺たちの物語を」

「ああ、一護、愛しているぞ」

「俺もだ。愛してる、ルキア」

もう、最後の冬はこない。

一護の死も、最後の冬にならなかった。

また、巡り合った。

運命のように。

二人は紡ぎ出す。二人だけの物語を。


------------------------------------------最後の冬は、もう永遠にこない。





             最後の冬
              fin

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