凍った砂時計 家族
女児で、苺花と名づられた。
3人目の子もできた。男児で、一音と名づけられた。
「父様、今日も稽古をお願いします」
「ああ、一勇。今日はだめだ」
一勇は8歳になっていた。
「ルキアの誕生日なんだ」
「母様の!」
「母様、誕生日なの?」
苺花は6歳で、一音は2歳だ。
やんちゃな一音を、苺花がしっかりと面倒を見ていた。
ルキアは、護廷13隊の13隊隊長に就任していた。副官は一護だ。
「みんなで、ルキアの誕生日を祝おう!」
バースディケーキを用意して、ルキアが帰ってくるのを待った。一護はこの日のために休暇をとっていた。
アメジストのピアスを、一護は大前田の宝石店から買ってきていた。
ルキアが帰ってくる。
「ハッピーバースディ、ルキア!」
ぱんぱんと、クラッカーをならすと、本当に驚いたようで、じんわりと涙を零し始めた。
「母様、どこか痛いの?」
「違う。お前たちの気持ちが嬉しいのだ」
「ルキア、誕生日おめでとう。これ、誕生日プレゼント」:
「ピアスか。だが、ピアス穴がない・・・・・」
「俺があけてやるよ」
消毒した針で、ピアスのための穴をあけた。
「痛いか?」
「少しだけ。でも、この一護からもらったピアスをつけるためだと思えば、痛みすら甘い」
「母様、僕からも誕生日プレゼント!白哉叔父様とつくったんだ!」
それは、ビーズ細工の指輪だった
拙かったけど、義兄である白哉も一緒に作ってくれたと知って、感動も普通の2倍だった。
「ルキア、一護、おるか」
「はい、白哉兄様!」
「どうしたんだ、白哉!」
「誕生日プレゼントだ」
わかめ大使のパジャマを、一護の分まで渡された。
「おう、俺にまでありがとな、白哉。お前がいなかったら、俺は死神にならず、こんな幸せ、手に入れることができなかった」
「兄は・・・十分ルキアを愛してくれている、子も二人もできたし・・・・・」
「白哉叔父様、私、大きくなったら、叔父様の花嫁になる」
苺花がおませことを言うが、白哉静かに微笑んで、苺花の頭を撫でた。
「そうか。その日を楽しみにしている」
「はい、白哉叔父様!」
白哉は緋真以外の妻を娶る気はなく、朽木家時期当主は、女であるが順番からして苺花だった。
かわいそうだ、一勇には罪人の血は流れているとのことで、当主にはなれないようだ。
もっとも、一勇も自分が罪人の血を引いてると知って、一時期塞ぎこんだが、一護の「お前は俺とルキアの息子だ」という言葉に、徐々に笑みを取り戻し、今では克服していた。
「そういえば、白哉も誕生日近いんだよな。ちゃんと祝うから、その日は休暇とってくれよ」
「兄は・・・・私の誕生日まで、祝うつもりか」
「だって、家族だろ」
もう二度と手に入らないと思っていた、家族団らんの愛が、白哉にも向けられていた。
「ルキア、ケーキ食べよう。白哉にはカラムーチョな」
一勇と、苺花と、一音にもケーキを食べさせた。
「おいしいな」
「ああ、美味いな」
朽木家の料理人に頼んで作ってもらったのだ。
その日の夕飯は豪華だった。ルキアにだけ、白玉餡蜜がついていた。
子供たちも欲しがったが、子供たちには特別に菓子を与えた。
夕飯後の菓子なんて、体に悪いのだが、今日は特別だ。
夜になって、ルキアと一護は褥を共にした。
無論、避妊している。
さすがにこれ以上、子供はいらない。
「ああっ、一護!」
乱れていくルキアを見るのは、一護だけの特権だった。
「ルキア、いくつになっても綺麗だ。とても3児の母親には見えない」
「これでも、食事とか運動に気を配っておるのだ・・・・・・ああ!」
朽木一護。
人間であることを捨てて、家族も友人も捨てた。
でも、それ以上の幸せを手に入れた。
10代後半のままで時を止めた二人は、長い長い死神の寿命を、いつも共に在りながら、すごしていくのであった。
凍った砂時計
fin
凍った砂時計 最愛の者
「ああ、ありがとう白哉」
ルキアは一護のことを全て思いだした。
一護と出会い、死神の力を託したこと。仲間と力を合わせ、強敵と何度も戦ってきたこと。1年と7か月の空白の末に、再会したこと。
それに、高校生活の最後の4か月間。
ルキアに好きと告げ、ルキアからも好きと告げられたこと。
2カ月目に、初めて結ばれたこと。
全てを鮮明に思い出して語ってくれた。
涙が出そうになった。
ルキアは、一護にべったりだった。
「そうそう、結婚式の日取りが決まったって・・・・」
「貴様との婚礼か!今からでも待ち遠しい」
すでに籍はいれてあるが、結婚式を挙げていなかったのだ。白哉の言葉もあり、二人は婚礼を挙げることにした。
結婚式当日。
4大貴族、上流貴族の他に、護廷13隊の隊長副隊長も出席して、とても賑やかな結婚式になりそうだった。
「なあ、冬獅郎、俺の恰好変じゃないよな?」
日番谷にそういうと、日番谷は苦笑しながら答えた。
「どこも変じゃねーよ。ちゃんと、朽木家の家紋の入った正装だ。似合っている」
「よかった・・・・・」
やがて、同じく正装した白哉に連れられて、白無垢姿のルキアがやってきた。
「ルキア、綺麗だ・・・・・・」
「一護もかっこいいぞ」
二人は並び、結婚することを誓いあい、酒を飲み交わし合い、指輪をはめた。
「これで、俺たちは夫婦だな」
「ああ、そうだ」
ルキアにとって、これは二度目の婚礼になるが、一度目ははめられたのだ。ノーカウントだろう。
一勇は、始め市崎ナガレの両親が次期当主だから渡せとうるさかったが、白哉が黙らせてくれた。今は乳母に預けている。
「なぁ、俺女の子がほしいんだ」
白無垢姿のルキアの耳元にそういえば、ルキアは頬を朱くして頷いた。
「子供は・・・運を天に任すしかないが、たくさん作ろう」
「あんまり大過ぎても負担が大きいから、一勇も居れて二人でいい」
「二人でいいのか?」
「もっと欲しいのか?」
「貴様との愛の結晶だ。何人いても構わぬ」
「じゃあ、3人」
一護が、笑った。
ああ。この笑顔を思い出すのに、1年もかかったのだ。そんな自分を呪いながら、けれどまた結ばれたことに天に感謝した。
「私はただ巻き込まれただけなのだヨ!なのに減俸半年などありえない・・・・」
毒々しい姿の涅マユリの姿があった。
記憶置換で、市崎ナガレは、一部の隊長の記憶まで改竄した。それはもはや、護廷13隊に対する反乱であった。処刑されたのは、ルキアを好き勝手にしたことと、隊長への記憶の改竄のせいだった。
上流貴族で罪に問えないのではと、一部の者が心配していたが、本物の4大貴族の白哉の嘆願もあり、処刑となった。
処刑されぬようにと、市崎ナガレの両親が詫びにやってきたのをつっぱねた。四楓院家でも、処刑をと、嘆願が出された。夜一からのものであった。
今はもう、ルキアは他の男に穢されたことも克服し、一護と二人幸せに向かって突き進んでいく。
結婚式は厳かだったが、派手に行われ、他の4大貴族も集まるということで、これ以上ないくらいの美酒と御馳走が振る舞われた。
「あーん、このお酒おいしい!こっちの料理もおいしい!流石朽木家の結婚式」
「松本お!ただ飯とただ酒にありつくために、きたんじゃないぞ!恥ずかしいからやめろ!」
日番谷に怒られても、松本は平気な顔をしていた。
檜佐木など、たっぱに料理をつめていた。
さすがに貴族たちに嫌な顔をされていたが。
結婚式の2次会は京楽が主催で、一番隊執務室で行われた。そこでも美酒と御馳走がふるまわれた。
「はぁ疲れた・・・・」
「私も、くたくただ・・・・・・・」
結婚式がなんとか終わり、普段の死覇装に戻った二人は、褥に横になった。
「初夜なんだけど・・・・いいか?」
「ああ。私を一護色に染め上げてくれ」
「んな可愛いこと言ってると、手加減できなくなっちまう」
「手加減などいらぬ。市崎ナガレとの初夜を消し去ってくれ」
「ルキア・・・・・・」
「んっ・・・」
まず、口づけた。そっと抱き締める。
ルキアは泣いていた。
「貴様のことを忘れていたなど・・・・・私は、愚かだ」
「お前のせいじゃない」
唇を深く重ねていく。
死覇装の紐をしゅるっと解き、襦袢を脱がせれば、白い肌が露わになった。
全身にキスマークを残していく。
「ああ!」
「もっと乱れろよ」
秘所に指を差し込んで、くちゅくちゅといじってやれば、びくんとルキアの体が痙攣した。
「あああああああ!」
「好きだ、ルキア」
「いちごお」
秘所に指を深くいれて、折り曲げる。
いい場所にあたって、またルキアが啼いた。
「ああ!」
「ここが、いいんだな?」
「あう!」
灼熱を宛がい、そこめがけて突き上げる。
「ひあ!」
びくんと、またルキアが痙攣する。
「ごめん、ルキア。初夜だし、手加減できそうにない。あいつのことも忘れさせてやる」
「ひああああ!」
奥に突き上げると、きゅうっと中がしまった。我慢できず、1回目の欲望をルキアの中に放った。
ズチュズチュと音がなるくらい突き上げていく。
「はう!」
「気持ちいいか?」
「あ、いちごお。きもち、いい・・・・」
淫らなになったルキア。
一護は、純白の雪のようなルキアをそうさせた。
結合部は泡立ち、突き上げるたびに秘所はくちゅりと音を立てた。
「ああああ!」
もう何度目かも分からない。オーガズムで何度いっただろうか。
一護が満足する頃には、ルキアはぐったりとなっていた。
「ごめんな、ルキア」
「よいのだ。あいつとの初夜が上書きされた。それだけでも嬉しいのだ」
「子供、できるといいな」
「そればかりは、運を天に任すしかあるまい」
それからの新婚生活が順風満帆だった。
一勇もいれて、3人で仲睦まじく過ごした。
凍った砂時計 始まりの関係
ルキアと一護の距離はますます縮まっていく一方だった。
クラス中で話題になった。
一護の家から、ルキアが出てくるところを見られたせいで、親の許可をもらって婚約しているという噂が流れたが、二人は肯定も否定もしなかった。
手を繋いで、登下校を繰り返し、学校の中でも常に一緒にいた。
付き合う前から二人の距離は近かったが、その距離はもっと縮まっていた。
「黒崎のやつ、朽木さんと付き合ってるんじゃない?」
たつきのその言葉に、井上がいう。
「何言ってるの。黒崎君は人間だし、朽木さんは死神だよ?付き合っても別れが見えてるんだから、きっと付き合ってないよ」
それは、井上の願望。
井上は一護のことが好きだった。
藍染のところに連れていかれた時、命をはってまで助けにきてくれて、愛されていると思った。
でも、あの頃からも一護の視線の先にいるのはルキアで・・・・・・。
「朽木さん、次体育だよ。移動しよ」
体育は男女別々なので、一護は名残惜しそそうにルキアと別れた。
「ねぇ、朽木さん。黒崎君のこと、同おもっるの」
「別に何も」
嘘をついた。
「信じていいんだよね?」
「井上?」
「私、黒崎君が好き」
「井上・・・・・・」
でも、こればかりは譲れない。
一護はもう、ルキアのものだ。
その会話は、バスケットボールが始まるのと同時に打ち切られた。
「どうしたんだ、ぼーっとして」
放課後、椅子の上でぼーっとしているルキアを、一護が心配した。
「いや、そろそろ一度、尸魂界に戻らねばと思って」
「おい、もう戻っちまうのかよ!?」
「案ずるな、ただ様子を見に行くだけだ。すぐに帰ってくる」
「それなら、いいんだけど・・・・なぁ」
「なんだ」
「卒業しても、こっちにこいよ。俺たち、付き合ってるんだから」
「分かっておる。休暇の日はちゃんと現世にくる」
「約束だからな」
世界が軋む。
音を立てて。
一護とルキア。出会いは突然、別れもあり、また戻ってきた。激しい戦いがあった。互いに生きているのが疑わしい時があった。
手に入れた平穏な生活を満喫するが、僅か4か月。
与えられた時間は少なかった。
一護は、ルキアの後をばかりを見て、ルキアばかりを見ていた。ルキアも、一護の後ばかりを見て、一護ばかりを見ていた。
学校の放課後、誰が来るかも分からない教室で互いを抱き締めあい、キスをした。
「ん・・・・・」
触れるような優しいものから、舌が絡むよな激しいものまで。
「ふあ・・・・・・いちご・・・・・」
「ルキア、かわいい・・・・」
一護は思う。
ルキアを手に入れることができるなら、なんでもするのにと。
付き合っていると言っても、死神と人間だ。その差は大きすぎる。
いつか、ルキアを置いて俺はいってしまう。よぼよぼになった時、ルキアは今のように愛していると言ってくれるだろうか。
不安ばかりが募って、ルキアを抱き締める手に力がこもってしまった。
「一護、痛い・・・・・」
「あ、ごめんルキア!」
すぐに離して、頭をなでてやると、気持ちよさそうにルキアはアメジストの瞳を細めた。
買ってやった、アメジスのペンダントをいつもルキアは身に着けいた。一応、記憶置換で優等生で頭がよく、朽木家という大財閥のお嬢様と生徒や先生に記憶させているので、アメジストのペンダントのことで怒られたことはなかった。
「家に帰ろう、ルキア」
「ああ・・・・」
手を繋いで、歩き出す。
あまり遠くないその距離を、ゆっくりと歩いた。
黒崎家に辿り着く。
「一兄、ルキアちゃんお帰り。一兄、ルキアちゃんとイチャこらするのはいいけど、せっかく大学進学がきまったんだから、ほどほどにしなよ」
「ルキアは・・・卒業したら、実家に帰るんだ」
「え、ほんとなのルキアちゃん」
夏梨の言葉に、ルキアは戸惑いの表情を出す。
「で、でも土日には黒崎家に遊びにくるから!」
「それでも寂しい~~~」
遊子も、寂しそうな顔をした。
「今日はルキアちゃんの大好きなカレーだよ!エビフライもついてるの!誕生日なんでしょ!白玉餡蜜もあるよ!」
「あ、ルキアの誕生日・・・・俺、何も用意してない」
「貴様には、この前アメジストのペンダントをもらった。あれが誕生日プレゼントだと思っている」
「そっか。誕生日おめでとう、ルキア。生まれてきてくれてありがとう」
「ありがとう、一護」
「ほらほら、妹たちの目のある場所でいちゃつかないの!」
その日、ささやかなルキアのバースディパーティーが開かれた。遊子が買ってきたケーキを、一護と一護の家族全員とルキアで分けて食べた。
おいしかった。
世界は軋む。
音を立てて。
砂時計は凍る。
まるで、ルキアの斬魄刀のように。
凍った砂時計 一護とルキア
市崎ナガレと婚姻する前だ。
一護に、残された期間は僅か4か月。
「なぁ、ルキア」
「なんだ」
同じべッドで横になっていた。
一護の腕の中に、ルキアはいた。
それは、一護がルキアを好きだと言い出す前からの行動で、当たり前のようにルキアは一護の腕の中で、その細く小さい肢体をすっぽりと収めていた。
「付き合おう、俺たち」
「え・・・」
「だって、お前も俺のこと好きなんだろ?じゃあ、付き合おうぜ」
「う、うむ・・・・」
一護の腕の中で、ルキアは真っ赤になっていた。
「なんだよ、照れてるのかよ。今更だろ。この体勢も前からだし・・・・そもそも、お前は男に対して無防備すぎるんだよ!まさか、恋次ともこういう風に寝てたんじゃねぇだろうな」
「う・・・・・」
図星だった。
たまに、恋次と飲みにいって酔っぱらった後、恋次の腕の中にいることがあった。
「もう、俺以外の男に気を許すなよ」
「兄様もか?」
「いや、白哉はいいけど。お前の兄貴で家族なんだし」
その言葉に、ルキアはほっとしていた。
「なぁ、ルキア」
「なんだ」
「明日、デートしようぜ。ちょうど土曜だし」
「でででで、デート!?」
「なんだよ、嫌なのかよ」
「そうではないが・・・・・」
どう答えればいいのか、ルキアには分からなかったのでこういった。
「き、貴様とのデート、受けてたってやろう」
「おい、決闘じゃねーんだぞ」
「私にとっては似たようなものだ!でででデートなど、けしからん!」
「だめなのか?」
「だめじゃない」
「あーもう、ルキアかわいすぎ」
一護は、腕の中のルキアを抱き締めた。
「もう寝るぞ!」
「ああ、そうだな」
明日か。わくわくする。そう思いながら、ルキアも一護も眠った。
「おい、起きろ一護!」
「んー、後1時間・・・・」
「私とデートする約束はどうなるのだ!」
そう言われて、一護はばっと飛び起きた。
「ええっ、もう1時かよ!」
一護は慌てて支度をして、1時半にルキアと一緒に外に出た。
まず、ファミレスで食事をとった。
3時から2時間ばかり、恋愛ものの流行りの映画を見た。
それから、デパートで買い物をした。
ふと、ルキアが宝石店のアメジストのペンダントを見ているのを見て、その値段を見て一護は決意する。
「これ、ください」
「おい、一護!こんな高いもの・・・・」
「いいんだよ。バイトしてためた金あるから」
本当は、一人暮らしの時のためにためていた金であるが、ルキアを喜ばせるめなら惜しくなかった。
包装してもらわず、そのままルキアの首に飾ってやった。
「似合ってるぜ、ルキア」
「一護・・・・・・ありがとう」
その日は、それが最後だった。
それから毎週、土日はデートした。ルキアと在れる時間を大切にした。
ルキアと付き合いはじめて2か月目。
父親と、双子の妹が旅行に出かけた。
「なぁルキア・・・・・抱いていいか」
一護とルキア以外、誰もいない黒崎家で、一護がそう言った。
ルキアは、体を硬くさせた。
「私は・・・初めてなのだ。その、こんな私でいいのか?」
「お前じゃなきゃだめなんだ」
「構わぬ。抱け」
ベッドに大の字で寝転ぶルキアに、苦笑を零して、その体を抱き寄せた。
「優しくするから・・・・・」
口づけられた。
「んっ・・」
キスは、もう何十回としてきた。
一護は、ルキアの服を全部脱がせると、自分も裸になった。
「ルキア好きだ・・・・」
「ああっ!」
輪郭全体を愛撫され、薄い胸に手をかけられる。全体をやわやわともみしだかられて先端を口に含まれた。
「んあっ」
もう片方をつままれると、甘い電流が全身に走った。
「あ・・・」
くちゅりと、濡れてしまった秘所に手を這わされる。
「や・・・」
「優しくするから・・・・」
くちゅくちゅと、手で愛撫されて、ルキアは頭が真っ白になった。前立腺を刺激されて、陰核をつままれて何も考えられなくなる。
「ああああああ!」
「いったのか?」
「いく・・・これが?」
「ああ。気もちいい?」
「あ、気持ちいい、一護、もっと・・・・」
キスを何度もされた。
やがて、一護自身がルキアの中に入ってくる。
「んあああ」
ぶちぶちと音をたてて、処女膜が破られる。
「ごめん、ルキア・・・・」
「あ・・・・・」
優しく貫かれた。何度も気持ちのいいとろを突き上げられて、何度もルキアはいった。
ズチュリと音を立てて、奥まで犯される。
「ああ!」
一護は、ルキアの体の中に、欲望を放っていた。
「避妊してなかったけど・・・・大丈夫だよな?義骸だし・・・」
「ん・・・・ああ、義骸が妊娠することなどない」
「よかった・・・・・」
ルキアは何度もいかされたが、一護がいったのは一回だけ。
「物足りぬであろう」
ルキアに手淫されて、一護は二度ほど欲望を放って、その日は一緒に湯浴みして、眠った。
凍った砂時計 始まりの砂
ある、穏やかな土曜日。
「ルキア」
「一護、どうしたのだ」
一護の部屋で、一護は真剣な表情でルキアを抱き締めた。
「おまえが好きだ」
「え・・・」
「ルキア、ずっとずっと、お前のことを見ていた。好きだ、ルキア」
一護の腕の中で、ルキアは身じろいだ。
「私は、死神だぞ」
「知ってる。俺は死神代行だけど、ただの人間だ。それでもルキア、お前のことが好きなんだ」
「私は・・・・・」
ルキアは逡巡する。
死神である自分。人間である一護。
それでも。
それでも、。
ルキアは一護に口づけていた。
「ルキア!」
「私も・・・・貴様のことが、好きだ」
「俺は、お前を愛している」
「一護・・・・」
一護は、腕の中のルキアを抱き締めた。
「この感情に、名があるとしたら、きっと恋なのであろうな」
ルキアを抱きしめて、ベッドに横になる。
「ん・・・・抱くのか?」
「いきなり抱いたりしねーよ。ただ、こうして体温を共有しあって、横になりたいだけだ」
「一護・・・・」
「ルキア・・・・・」
出会って、3年。
一護は、密かにルキアに恋をしていた。でも、ルキアもそれは同じで。
高校3年の終わり。
大戦が終結し、本来なら尸魂界に帰らなければならないルキアは、現世にいた。
一護の我儘だった。
せめて、高校を卒業するまではルキアと共に過ごしたいと、総隊長である京楽に願い出た。尸魂界を二度にまで渡った英雄の言葉に「本当はいけないんだけどねぇ」と言って、京楽は許可をくれた。
高校卒業まであと4か月。
ルキアと共に居れる時間は、あと4か月しかなかった。
今までのように、ルキアに普通に接しようと思っていた。でも、ルキアのはにかむゆうに笑う笑顔に、我慢という言葉は粉々に崩れ落ちた。
アメジストの瞳が綺麗で好きだった。
柔らかい艶のある黒髪が好きだった。
その、細いあまり胸のない肢体が好きだった。
よく笑う、その笑顔がすきだった。
「うーーー、お前のこと好きすぎて、どうにかなりそうだ」
「貴様、どれだけ私のことが好きなのだ」
「世界一周するくらい」
「世界・・・それだけなのか?」
不満げなルキアに、一護は付け加える。
「太陽の距離くらいまで」
ルキアは微笑んだ。
「太陽は、貴様そのものであろう。このオレンジの髪も、太陽のようだ」
「じゃあ、ルキアは月だな」
「私が、月?」
「太陽がいないと、始まらない、月だ。月の女神みたいに綺麗だぜ、ルキア」
「貴様は、恥ずかしい台詞を堂々と・・・・」
ルキアは真っ赤になっていた。
「ルキアは美人だぜ。綺麗だ。確かにちょっと胸がたりな・・・・おぶ!」
最後まで言わせず、一護の顔面にルキアの飛び蹴りが炸裂した。
「胸のことは気にしているのだ!井上のように豊満ではないからな!」
「いや、それがいいんだよルキア。貧乳最高」
すぐに復活した一護がそう言うので、ささやかな膨らみしかない胸に、一護の手を当てた。
「これでも、いいと思うのか?」
やわやわともみしだかられて、ルキアが甘い声をもらす。
「あっ・・・・」
「最高。このまま死んでもいい」
ビービーと、伝令神機が鳴った。
「虚か!」
「俺も行くぞ!」
ルキアも一護も、死神化して虚の出現現場に向かった。
3匹の虚がいた。
1匹が、瞬歩より早くルキアの背後に移動して襲いかかる。
「危ない!」
一護は、虚の攻撃をまともに受けた。
「一護!この!」
虚を退治していく。
一護は、背中に血を滲ませていた。
「すまぬ、一護!」
「いいんだよ。そんな傷ついた顔すんな。お前が無事でよかった」
「今、井上のところに連れていく!」
瞬歩で井上のところにまでくると、井上は驚いた顔をしたが、すぐに一護の怪我を癒してくれた。
「黒崎君、大丈夫?」
「お、すまねぇ井上。お陰でもう大丈夫だ」
「黒崎君が怪我するなんて、何があったの?」
「一護が、私を庇ったのだ」
「そう。朽木さんが無事でよかった・・・・」
「すまぬ、井上。心配をかけた」
井上の家を後にして、2人は黒崎家の一護の部屋まで帰ってきた。
「貴様、私を庇うなど無茶をしおってからに」
「俺は、誰であろうと庇ったぜ。でも、ルキアは特に庇う」
「一護・・・・・」
一護は、ルキアの顎に手をかけた。
「一護?ふあっ・・・・」
舌が絡まる。
「んんっ・・・・」
始めは驚いて一護の肩を叩いていたが、そのうちルキアの手が一護の背中に回された。
つっと、銀の糸を引いて舌が出ていく。
「好きだ、ルキア。俺は、どうしようもないくらいに、お前が好きだ」
「一護・・・・私も、貴様が好きだ。月は、太陽がないと死んでしまうのだ。お前がいないと私は死んでしまう」
残された期間が4か月。
一護とルキアの、物語が始まろうとしていた。
凍った砂時計 蘇る記憶
ある日、一緒にいると、ふとルキアが動きを止めた。
ボロボロと涙を零し出すルキアに、一護がぎょっとなった。
「ルキア、どこか痛いのか?」
「思い出したのだ。貴様のことを。貴様に死神の力を託し、処刑されるはずだった私を助けに来てくれた。一緒に虚圏にいって、戦った。大戦では、一護の存在がなかったら勝てなかった・・・・」
「ルキア、思い出してくれたのか」
「ああ、何もかも鮮明に・・・付き合い始めた頃のことも、貴様と初めて体を重ねた時のことも・・・・・ああ何故私は今の今まで、これほど大切なことを忘れていたのであろうか」
ルキアを抱き締めた。
「お前は何も悪くない・・・・・」
「一護、愛している。私には、貴様だけなのだ」
ルキアと一護は互いを抱き締めあい、長い時間抱擁しあっていた。
ルキアが、ある日こう言った。
「貴様を死神化するという話が宙に浮いたままになっていたな。今日、その薬を飲んでもらうことになる」
「そうか」
白哉に呼び出された。
そして、死神に完全になるという薬を渡された。
一護は、白哉とルキアの目の前で、その薬を飲んだ。。
「だあああ、まずい!しかも辛い!水、水!」
ルキアに水を与えられて、それをごくごくと飲んでいった。
「これで、兄は晴れて死神の仲間入りだ。ルキアとの婚礼も控えているし、護廷13隊13番隊の3席が、兄には用意されてある」
「ああ、白哉いろいろとすまねーな」
白哉も市崎ナガレに記憶をいじられていたが、4番隊に診てもらい、完全に記憶は戻っていた。
ルキアは、一護のことを思い出してくれた。
記憶がなかった時、ルキアは、また一護を選んでくれた。一護の手を取ってくれた。それだけで十分だった。
「ルキア、俺との婚礼大丈夫か?市崎ナガレのこと、フラシュバックしたりしないか?」
「あのようなクズのことなど忘れた。一護、貴様と私は結ばれる。私には、貴様と出会い共有した3年間といく記憶を失っていたが、それでもまた一護、貴様のことを好きになった」
「ああ、嬉しいぜルキア」
「もう、決して私を手放すな。一護、愛している」
「俺も愛している、ルキア」
ルキアは、愛らしい男児を産んだ。市崎ナガレとの子であったが、一護は自分の子として迎え入れた。
すでに、ルキアと一護は籍が入れられており、一護が朽木家に婿入りした形であった。
その日の夜。
一護は、ルキアを抱いた。市崎ナガレに抱かれたことをずっと気にして、体を許してくれなかったルキアであったが、一護が自分のために人間であることを捨てて死神となったのだ。ご褒美を与えてあげないといけないと思った。
「ルキア・・・綺麗だ」
「あ、一護・・・・・」
寝室で睦みあった。
子を産んだが、体形はどこも崩れておらず、細かった。
子を産んだせいで、少し豊満な胸にしゃぶりつくと、母乳が出てそれを一護は当たり前のように飲んだ。
「貴様、それは一勇の・・・・」
男児は、一勇と名付けられて、ルキアと一護が育てていた。
「いいじゃねぇか、減るもんじゃなし」
「減るわたわけ!」
蹴られて、でも一護は微笑んでいた。
「好きだ、ルキア」
「私も好きだ、一護・・・・」
お互い、一糸纏わぬ姿になって、褥に横になった。
「ああっ」
輪郭全体を愛撫してやり、胸を揉んだ。
「んっ・・・」
舌が絡まるキスをした。
秘所に手を這わすと、そこは濡れいた。
「んあああ!」
一護が、秘所に舌を入れてきた。あふれ出す愛液を舐めとる。
「い、一護、そのような・・・・」
「一度、いっちまえ」
指で秘所の前立腺がある天井部分をくちゅくちゅとこすってやり、陰核を摘みあげると、びくんびくんとルキアの体がはねた。
「あああああ!!」
ルキアの中で、何かが弾けた。
「ああああ!」
何度も手で秘所をいじられていると、体全体が熱くなり、指では物足りなくなってきた。
「一護、もう指はよい。早く、来い」
「抱いても、大丈夫そうか?」
「大丈夫だ。お前と、早く一つになりたい・・・・・」
一護は、ルキアの希望通り、ルキアを貫いた。
「ひああ!」
体をずりあげて逃げようとするルキアの体を、抑え込む。
「逃げるなよ」
ぐちゅぐちゅと、結合部はいやらしい音を立てた。
「あ、あ、あ!」
何度も突き上た。
陰核を摘みあげると、ルキアはまたいってしまった。
「あああああああ!
「もっといけよ」
「ああ、一護!一護も一緒に・・・・・」
「ああ、ルキア、愛してる」
ルキアの子宮の奥まで突き上げて、中にびゅるるると、濃い液体を注いでやった。
「あああ!」
一護は、それだけでは終わらなかった。
ルキアを、背後から貫いていく。
「あ、この体勢、嫌だ・・・」
「なんで?」
「貴様の顔が見えない・・・見えないのは、嫌だ・・・ああああ!」
中を抉るようにしに、元の体位に戻る。
それから騎乗位にして、ルキアを下から突き上げた。
「んあう!」
「ルキア、ここ好きだよな?」
くちゅくちゅと、前立腺のある入り口の天井あたりを灼熱でこすってやると、ルキア涙を零した。
「ああ、今一護と一つになってどろどろに溶けている・・・・・・」
「もっとどろどろになれよ。俺以外のこと、忘れるようなくらいに・・・・・・」
「ひああああああ!」
前立腺を突き上げられて、ルキアは今日何回目にかになるかも分からない、女としての喜びを与えられて、いってしまった。
結局、一護はルキアの中で4回も弾けた。
「子種、たくさん注いいでやったから、子供できるかもな」
「貴様との子なら、さぞ愛らしいであろうな・・・・・・」
「今度は、女の子がいい」
「子ができるのも、性別も、天に運を任すのみだ・・・・」
その日の夜は、二人で同じ褥で眠った。
凍った砂時計 救出
幸いなことに、見張りの姿はなく、まずは白哉を救い出すために動いた。
「う・・・・兄は・・・夜一も・・・・・私は、何を・・・・」
幸いなことに、白哉は少し記憶をいじられて、あとは睡眠薬を大量に与えられて眠らされていただけなので、記憶はあやふやだが元に戻りつつあった。
「黒崎一護・・・私の、義妹を、頼む・・・・」
そう言って、白哉は再び意識を失った。
清家を呼び、至急4番隊のところにまで運んでもらった。
薬で眠らされていたせいで、体力の消耗が激しく、すぐに入院が決まった。
「ルキア、待ってろよ」
ルキアの霊圧は弱弱しく、霊圧探知能力の低い一護では場所が分からなかった。
「どうやら、ルキアは朽木家にはいないようじゃ。そうすると、市崎家か。行くぞ、一護」
「ああ、夜一さん!」
瞬歩で市崎家までくると、ルキアはナガレと睦みあっている途中だった。
「ああん、ナガレ、いい、もっと!」
「本当にあなたは淫乱だ。だが美しい」
「ああ、いい、そこもっと!」
まず、夜一が音もなくナガレの首をコキリと音をたてさせて気絶させた。
「なっ、四楓院夜一殿!私の夫に何を!」
「それより、服をきたらどうじゃ」
ルキアは、服を着た。
さっきまで、ナガレと睦みあっていたルキアは色っぽかった。
「一護じゃ。覚えておるか?」
「いちご?誰だ、それは」
「ルキア!俺のことがわからねぇのか!」
「だから、誰なのかと聞いておる!」
ルキアは、愛する夫と幸せに体を重ねている時に急に現れた、オレンジの髪の少年に、嫌悪を覚えた。
「こちらにくるな!吐き気がする!」
「ルキア・・・他の男に抱かれてたっていい。たとえそれで子供を孕んでもいい。好きだ、ルキア」
「近寄るな!」
「ルキア・・・・」
一護は、一歩一歩ルキアに近寄った。
「誰か、誰かおらぬか!」
ルキアが大きな叫び声をあげると、家人がやってきたが、夜一が気絶させた。
「帰ろう、ルキア。記憶がないなら、また一から築いていこう」
一護は、ルキアを抱き締めた。
「あっ・・・・」
ルキアの太腿を、ナガレが出した精液が伝う。
「ちくしょう・・・・ちくしょう!」
一護は、ルキアを抱き締めながら泣いた。
一護が泣くのは、本当に珍しいことだった。
「貴様、私が市崎ルキアと知って・・・・・・」
「ルキア、好きだ、愛してる」
「いち・・・・・ご・・・・・」
「ルキア!?」
ルキアは、意識を失った。
揺り動かそうとして、夜一に止められた。
「無理やり記憶置換で記憶を何度も改竄されておる。体にも相当負担がかかっておるようじゃ。白哉のように、4番隊で診てもらおう」
そっと、その細い体を抱き上げるが、どうしても我慢できなくて、ナガレを斬魄刀で切り殺そうとした」
「やめよ。これでも、4大貴族の次に名のある男じゃ。殺してしまえば、こやつに罰を与えることができぬ」
「でも夜一さん、こんな屑・・・・・」
「愛しい者をとられたお主の気持ちは痛いほど分かる。じゃが、こやつなどのためにお主がさばかれるのは見とうない」
「夜一さん・・・・」
ルキアを抱き上げて、4番隊に移動する。
警邏隊を呼び、砕蜂の手で捕縛させた。
罪状は、朽木白哉及び朽木ルキアの記憶改竄と傷害罪、その他の一部隊長の記憶改竄など。
四十六室で裁かれることになるが、極刑は免れないだろう。
「うう・・・・」
総合救護詰所で、ルキアは気が付いた。
「ここは・・・・・?」
「ルキア、俺が分かるか?」
「?貴様は誰だ」
ルキアのかけられていた記憶置換による記憶の改竄を、なんとかできるところまで回道で癒した。結果、ルキアは自分が朽木ルキアであり、市崎ナガレの手によって無理やり花嫁にされて身籠ってしまったことを認識した。
だが。
だが、ルキアの中から一護のことが空白になっていた。
「ルキア・・・・・・・」
「貴様は誰だ」
「俺は黒崎一護。死神代行で、お前の恋人だ」
「私の恋人・・・・・・うう、頭が痛い!」
虎鉄隊長が叫ぶ。
「黒崎さん、あまり朽木さんに刺激を与えないでください!記憶が絡み合って、人格にまで支障をきたすほど、精神が蝕まれています!」
「分かった・・・・ルキア、俺を見てくれ。愛してる。もう一度、最初から始めよう。俺は黒崎一護。ただの、死神代行だ」
「私は朽木ルキア・・・・護廷13隊、13番隊副隊長」
その日から、ルキアと一護の、新しい一日が始まった。
ルキアは退院しても、一護のことを思いださなかった。
だが、大切な存在であるとは分かるようで、いつも傍にいた。
「一護・・・・私は、孕んでおるのだろう?」
「ルキア・・・・・」
「おろしたいが、せっかく宿った命。その命に罪はない。私は産みたいと思う。貴様は、反対はせぬのか?」
「ルキアの子供、俺の子供だ。おろせとは言わねーよ」
ルキアと一護の距離は、どんどんと近づいていった。
「ルキア、そなた一護のことを思いだしているのか?」
「兄様、いいえ、相変わらず一護との記憶は戻りません。でも、とても大切なのです。私は、一護を好いております」
「そうか。そなたは、記憶をなくしても、もう一度黒崎一護を選ぶのだな・・・・・」
白哉は、優しく微笑んだ。
市崎ナガレの処刑を、二人で見守った。
「おのれええええええ、覚えていろ黒崎一護おおおおお!ルキアああああああ、お前は私のものだあああああ、私の子供を孕んでいるのだからなああああ!」
スパンと。
市崎ナガレの首がはねられた。
間近で見ていた一護の頬に、ぴっと、血が飛び散る。
「哀れな男だ」
「そうだな」
ルキアを奪還した。ルキアは俺のことを覚えていないが、また好きだと言ってくれた。
大切だと言ってくれた。
それだけで十分だった。
「ルキア、甘味屋に寄ろうぜ。お前の好きな白玉餡蜜、おごってやるよ」
「本当か!」
ルキアは顔を輝かせて、一護の手をとる。
二人は取り戻した。
絆を。
凍っていた砂時計は、再び砂が流れ出す。
一護が尸魂界にきて、1年が経とうとしていた。
凍った砂時計 偽りの結婚式
市崎ナガレと市崎ルキアの結婚式だった。朽木家ではなく、市崎家で行われた。
他の4大貴族を呼んでの婚礼であるが、ルキアの部下の姿はなく、朽木白哉の姿もなかった。
朽木白哉は、今、睡眠薬を無理やり大量に投与され、ここ数日昏々と眠り続けている。
「ルキアが、市崎ナガレと結婚じゃと?」
呼ばれていた夜一は不審がるが、あまりにルキアが幸せそうな顔をしているので、ルキアが記憶を改竄され、好きでもない相手と結婚式をしているとまで思いつかなかった。
「ルキアよ。その方、一護はどうした」
「一護?ああ、あの死神代行のことか。あやつはもう、知らぬ。私は市崎ナガレの妻、ルキア。ナガレ以外に、慕いもうしているのは、兄様だけ」
「ふむ―—-----市崎ナガレ、貴様、白哉はどうした?」
「朽木白哉様なら、体調を崩されて臥せっておられる」
「ふむ・・・・」
こうして、恙なく婚礼は執り行われ、その夜初夜を迎えた。
「ああ、ナガレ!愛している!」
ナガレの体の下で、ルキアは乱れた。
「早く子供が欲しいですからね。少しちくりとしますが、我慢してください」
ナガレは、何かの注射をルキアに打った。
「これで、あなたは100%私の子を孕む。さぁ、ルキア・・・・・」
「ナガレ!」
口づけしていると、ふとルキアが止まった。
「いち・・・・ご・・・・・」
ボロボロと、涙を零す。
「ち、まだ完全でないか」
記憶置換を使った。
「ああっ、ナガレ!」
その日、ルキアは何度もナガレに抱かれた。そして、ナガレの言う通り、子を孕んだ。
一方、一護はずっと牢に繋がれていた。
傷の手当てはされたが適当で、捨て置かれていた。
「くそ、ルキア、ルキア!白哉!」
「その様子じゃと・・・ルキアは、心から望んで市崎ナガレに嫁いだわけではないようじゃな」
「夜一さん!」
「待っておれ、今ここを出してやる」
「それより、ルキアと白哉を!」
一護は訴えるが、夜一は首を振った。
「もう、手後れじゃ。ルキアは市崎ナガレと婚姻し、初夜を迎えた。白哉の居所が掴めんが、市崎ナガレの手の中にあるのは確実じゃ」
「ルキアが俺以外の男と結婚・・・・・初夜・・・・」
その言葉に、一護は大きなショックを受けたが、痛む傷に手を当てて、立あがる。
「待つのじゃ、一護、そのような身体でどこへいく!」
「決まってるだろ!ルキアを取り戻すんだ!」
夜一が殴りかかると、あっさりと一護は頽れてしまった。
「今は、傷が塞がるのを待て。これ以上、事態は重症化せぬ」
「でも!」
一護の気を失わせて、夜一は一護を牢から出すと、砕蜂の元へ向かった。
「夜一様!この者は、朽木白哉を襲った大罪人では」
夜一は、砕蜂に口づけた。
ごくりと、何かを飲み込まされる。
「夜一様に、それに黒崎一護?どうなっているのだ」
「警邏隊まで手が回っているということは、もはやこれは尸魂界をまきこんだ反乱じゃな」
けれど、今の市崎ナガレは、臥せっている白哉の代わりに、朽木家の当主も兼ねているという。
「元、4大貴族市崎家。そうそう、手を出せる相手ではないのお」
一護は、夜一の元で怪我が癒えるのを待った。
数日間であったが、一護には数十年に感じられた。
「白哉が巻き込まれているのであれば、儂も見ている、というわけにはいくまい。いくぞ、一護!」
「おう、夜一さん!」
市崎ナガレは、朽木邸にいた。
隣には、自分のものにした朽木家の姫、ルキアを侍らせていた。
「ナガレ・・・・私は、何かがおかしいのだ」
「何がですか?」
「眠ると・・・あの、黒崎一護という死神代行と、夜を共にする夢を見るのだ」
「そんなもの、ただの夢です。あなたは市崎ルキア。市崎家の次期当主を産む、愛しい私の妻です」
ルキアの顎に手をかけて、キスを与える。ルキアは幸せそうだった。
「ふふっ、そうだな。貴様以外の男など、おらぬ・・・ああっ。こ、このような場で」
「あなたは私の妻だ。妻を抱くのは夫の権利でしょう」
「だが、このような、誰かも分からぬ場で・・・・」
「ルキア、あなたのお腹の中には、小さい小さい大切な市崎家の次期当主である、私の子が宿っています」
その言葉に、ルキアは愛おしそうに自分の平らな腹を撫でた。
「男であろうか、女であろう?」
「100%妊娠するようにしたので、男の子です」
「そうか。名は・・・一勇というのはどうだ?」
「悪くありませんね。それにしましょう」
ナガレは、幸せそうにルキアを抱き寄せた。
「愛していますよ、ルキア」
それは、既視感。デジャヴ。
「どこかで、このよなことを何度も行ったような・・・・・・・いち・・・・ご・・・・助け・・・・・」
「ちっ、完全には記憶を改竄できないのですか。厄介ですね」
何度も記憶置換を使う。
「そういえば、あなたはそんな安っぽいアメジストの首飾りをずっとしていますね」
「それは*- ----------がくれたから、大切にしている。あ、--------とは、誰であろう?」
「そのような安物、渡しなさい。捨てて、市崎家にふさわしい首飾りをつけてあげましょう」
「いらぬ!この首飾りだけは、絶対に手放さぬ。例え、ナガレの頼みでも」
「ちっ・・・・まぁいいでしょう。あなたはこのまま、私と睦みあい、子を産めばいのですから」
その言葉に、ポロポロとルキアは涙を零した。
「あれ?嬉しのに、何故涙など・・・・・・」
ポロポロポロ。
涙は止まらない。まるで、ルキアの心の傷が泣きだしたように。
「不快ですね。今日は、別々に寝ましょう。また明日、たっぷりとかわいがってあげます」
ナガレは、部屋の奥へと消えてしまった。
「・・・・いち・・・ご・・・許して・・・・・くれ・・・・・いちごおおおお」
誰の名かも分からない。
もう、ルキアの中に死神代行、黒崎一護はいない。愛しているはずの一護はいない。
でも、誰のものかもわからぬ名をずっと呟いて、一護が買ってくれたアメジストの首飾りを握りしめながら、ずっと泣き続けるのであった。
凍った砂時計 市崎ナガレの妻、市崎ルキア
高校3年の、残された時はあっという間に過ぎ去ってしまった。
卒業式の日、ルキアは泣いていた。
この3年間で、半年たらずではあったが、友人たちに囲まれて生活をして、ルキアには一護の他に井上、茶虎、石田という大切な友人たちができた。
「卒業生代表、石田雨竜」
長々とした言葉が続き、継いで在学生代表がまた長々と言葉を続ける。
生徒全員が立ち上がって、校歌を歌いだした。一護も歌っていた。ルキアは校歌なんて聞いたこともないでの、口パクしていた。
一人一人に、卒業証書が渡されて行く。
一護も、卒号証書を受け取った。そしてルキアも。
ポロポロと流れ落ちる涙は、止まりそうにもない。
桜の花はまだ咲いていなかった。代わりに、梅の花が咲いていた。ルキアは桜の花が好きだった。義兄である白哉の千本桜が好きだった。
実の姉であるという、亡き白哉の妻緋真は、梅の花が好きだった。ルキアも、桜の花ほどではないが梅の花が好きだった。
高校の卒業式、ルキアは泣きまくった。
「うわーん、黒崎君、朽木さん、茶虎君、石田君、別れるなんていやだよー」
井上の言葉に頷きながら、井上と一緒になって泣いた。
「貴様らと別れるなど・・・」
「でも、朽木さんはいつでも現世にこれるだろう」
石田の言葉に、茶虎も頷く。
「進路先はみんな別々だが、時折集まって会おう」
「約束だからね、黒崎君、朽木さん」
「ああ、井上」
ルキアは涙をぬぐった。
「黒崎君、私黒崎君のことが好きなの!」
一護の心が、ズキリと痛んだ。
「俺は・・・・ルキアが好きだ」
「うん、知ってた!でも、私も黒崎君のこと好きだって、分かってほしい。また、黒崎君の家に遊びにいくから!」
もう、井上が会いにいっても、一護はその時いないだろう。
一護は選んだ。
ルキアを。
ルキアと共に、尸魂界で死神として生きることを。
「名残惜しいが、ここでさらばだ。井上、茶虎、石田、元気でな!」
「井上さんも元気で!」
尸魂界に帰っていくルキアの背中を、一護がゆっくりとついていく。
「え、黒崎君?」
「井上、ごめんな。俺、人間じゃなくなるんだ。死神になる。緊急事態がない限り、もう現世には戻らない」
「え・・・・」
茶虎と石田も驚いていた。
「おい、黒崎!」
「一護!」
「ごめん、さよならだ」
そうして、穿界門は、3人の前で閉じらてしまった。
井上が、ショックのあまり放心していた。
「黒崎君・・・朽木さんを選ぶってこと・・・・?」
ルキアを選ぶだけならまだいい。ルキアと、同じ死神になる・・・・つまりは、ルキアと生きるということ。
世界は軋む。
音を立てて。
尸魂界に帰還したルキアと、やってきた一護を、市崎ナガレが待っていた。
「あなたは・・・・・」
「待っていましたよ、市崎ルキア。あなたはもう私のものだ。籍をもう入れてあります。あとは婚礼を行って、初夜を迎えて子を産んでくださればいい」
「おい、てめぇ誰だ。ルキアと籍を入れただって?本人のいないところで、何好き勝手やってるんだよ!」
「兄様がこのようなこと、お許しになるはずがない!貴様、兄様に何かしたな!?」
「何、朽木白哉様の記憶を少しいじっただけのこと。涅マユリの薬は凄いですな。後は、あなたが私も元にくるだけだ」
「貴様、兄様を元に戻せ!」
斬魄刀を抜き放ち、切りかかってくるルキアを、市崎ナガレは斬魄刀で受け止めた。
「あなたは、私の妻だ」
記憶置換を、ルキアに向けて使う。
「一護、貴様はナガレの手にかかる前に、一度現世に戻れ!」
最後の力を振り絞って、ルキアは穿界門を開ける。
だが、一護はその場に残った。
ざっと現れた暗殺者たちに囲まれる。
「ルキア!俺を忘れるな!!記憶置換なんかで、記憶をいじられるな!」
「たわけ、当たり前だ!」
「おや、いいのですか?今、朽木白哉様の命が私の手の中にある」
「貴様あああああああああ!兄様を返せええええええええ!!!」
卍解をしようとしたルキアの目の前で、白哉が連れてこられた。
「ルキア、何をしている。早く、ナガレの元にくるのだ。婚礼を執り行わなければ」
「兄様!しっかりしてください、兄様!」
「私は・・・・ルキア、早くナガレの元にくるのだ。黒崎一護は、私が処分する」
「兄様!」
「散れ、千本桜・・・・・」
「白哉!!」
一護は、白哉を切れなかった。暗殺者たちは切り殺したが、白哉を切ることがどうしてもできなかった。
「黒崎一護。我が義弟となる市崎ナガレの邪魔だ。兄は、ここで死ね」
ざしゅっと。
白哉の千本桜が、一護の体に突き刺さっいた。
「いやあああああ!兄様、一護おおおおおおおおお!!!」
「少しうるさいですよ、ルキア。我が妻の元恋人を生かしておけるわけがないでしょう」
「貴様ああああああ!」
強力な記憶置換が、ルキアに使われた。
「ルキア!白哉!」
血を流しながらも、寸前で急所を避けたので一護は生きていた。
血さえ止まれば、なんとかなる傷だった。
砂時計は墜ちていく。
世界が軋む。
音を立てて。
砂時計が凍り付いた。
「ナガレ様、兄様、行きましょう。このような、死神代行など放っておいて」
「ルキア、ダメだいくな!」
ふらつく足で、ルキアの死覇装の裾を握った。
「汚らわしい!私は市崎ルキア。市崎ナガレ様の妻」
市崎ナガレは笑った。
「あははははは!これで、4大貴族の朽木家も私のものだ!」
「ルキアあああああ!」
去っていくルキアと、白哉。そして、市崎ナガレ。
また、暗殺者がたくさん現れた。
一護は、傷ついた体で撃破していく。
もう、目の見える場所に3人の姿はなかった。
「ちくしょおおおおおおおお!!!!!」
暗殺者たちを切り殺していく。
やがて、警邏隊がやってきて。捕縛されたのは一護だった。
「なんでだよ!なんで俺が捕まんなきゃならねぇんだよ!」
砕蜂が現れた。
「全て、貴様の仕業であろう、黒崎一護。朽木白哉の記憶を改ざんし、よりにもよって次期朽木家当主である市崎ナガレを暗殺しようなど・・・・・・」
砕蜂まで、市崎ナガレの手で記憶が改竄されていた。
一護は捕縛され、傷の手当てをされたが、牢に繋がれた。
世界が軋む。
音を立てて。
凍った砂時計 軋む世界
軋む音を立てて。
ルキアは見合いをしていた。
豪華な振袖を着て、黒い髪をまとめあげ、翡翠の髪飾りをしていた。
元流魂街の出身ではあるが、4大貴族朽木家の姫君として扱われた。
ルキアは見合いなどしたくないと言っていたのだが、どうしてもと何度も念をおされて、白哉が貴族の体裁をたもつためにOKしてしまったのだ。
身目麗しい人で、市崎ナガレという名の、4大貴族に勝るとも劣らない上流貴族の当主だった。
長々とした話を、ぼんやりと聞いていた。
ナガレには両親がついていたし、ルキアには白哉がついていた。
「ルキアさん、どうか私と結婚してください」
「すみんせん、私には心に決めた人が」
「それでも構いません。あなたには、私の子を産んでほしい」
ぎょっとした。
心の決めた相手がいるといったのに、全然動じることがなかった。
ああ、貴族の婚姻とはこういうものなのかと思った。
「私はあなたとは結婚しません。好きな方と結ばれます」
ナガレは、少しを顔をしかめた。
「私はあなたを手に入れる。どんな方法を使っても」
「無駄です。私の想い人は人間ですが、私はその方を慕っています」
「言ったでしょう。どんな方法を使っても手に入れると」
ルキアの顔が青白くなった。
この男、本当に何か卑怯な手段を講じてルキアをさらっていきそうな気配がする。
「今日の見合いはなかったことにしてください。それでは」
ルキアは席を立つと、去っていった。
朽木家で行われた見合いであった。
ナガレは両親に止められていたが、それでもルキアを手に入れてみると豪語していた。
「ルキア・・・・先ほどの見合いを破談にするのはいい。私が、ナガレ殿の謝罪しよう。だが、想い人が人間というのは・・・」
白哉は知っている。一護とできているのを。だが、しょせん人間だ。一緒に生きていくことなどできない。
だから、見合いをさせて平穏な死神としての幸せを享受してほしいと思っていた。
「兄様・・・・私には、一護がいるのです。もう、見合いはしません」
「ルキア、本気なのか。黒崎一護人間なのだぞ。結ばれることなどない。例え結ばれたとしても一時的なもの。先にいってしまう。幸せにはなれぬのだぞ」
「兄様。私はもう今十分に幸せなのです。一護の傍にいれる。それだけで幸せなのです。たとえ先にいかれても、魂魄はやがて尸魂界にくるでしょう。いつかまた、巡り合えます」
「ルキア・・・・・」
白哉は長い溜息を零した。
「お前がそこまで言うのであれば、心はもう決まっておるのであろう?ルキア、黒崎一護と本当に付き合うのなら、死神をやめてただの人間になってもらう。それでも、黒崎一護を選ぶのか?」
白哉は思った。
これで泣きついてくるようなら、市崎ナガレとの婚姻を進めようと。
市崎家の当主だ。きっと、ルキアを幸せにしてくれる。身分も確かだし、妾を作るような男でないことは、少しだけ交流のある白夜が知っていた。
ただ、少し我儘なところがあって、欲しいと思ったものは手段を選ばず手に入れきた。でも、そんなこと貴族としては当たり前のことだった。
「人間に・・・・一護と同じ時間を過ごせるのならば、喜んで人間になりましょう。死神とての責務も矜持も捨てることになって、一護を選びます」
また、白哉は大きいため息をついた。
「もうよい。黒崎一護を死神にする方法を、なんとか見つけよう。ルキアは、人間になってもらうといったが、私が嫌なのだ。義妹であるお前が人間になり、儚く散るなど。手放したくない。これは私の我儘だ。ルキア、お前は死神のまま幸せを掴め」
思ってもいない白哉の言葉に、ルキアのアメジストの瞳から涙が零れた。
「兄様・・・兄様、兄様、大好きです。お慕いもうしております、兄様」
白哉の服の裾を掴んで、ルキアはいつまでの白哉のために涙を零していた。
高校3年の終わりは穏やかに過ぎてった。
「貴様、私と結ばれるためならば、なんでもするか?」
「当たり前だろ。ルキアと一緒にいられるなら、なんでもする」
「では、捨てろ。家族も友人も」
そう言われて、さすがの一護も眉を顰めた。
「家族を、友人を捨てろだって?」
「そうだ。私のためなら、なんでもするのであろう?」
「そりゃそうだが、どういうことだよ」
「貴様は本物の死神になるのだ。私が人間になるという選択肢もあったが、兄様が貴様を死神にすると言った。一護、貴様は高校卒豪と同時に尸魂界に迎えられる。今までのように家族や友人と共にはあれぬであろう」
「そういうことか・・・・いいぜ。ルキアと一緒にいれるなら人間をやめる」
「本当によいのだな」
「ああ。死神だろうが破面だろうが、なんにでもなってやるよ」
ルキアは、一護を抱きしめた。
「すまぬ、貴様には辛い思いをさせる」
「お前と一緒にいれるなら、辛くなんてねーよ」
一護の部屋で、夜になり一緒のベッドで横になった。
「好きだ、ルキア」
「私も好きだ、一護」
たとえ、その引き換えに全てを失うことになろうとも。一護は、ルキアと共に在れる選択肢をするだろう。
ルキアの細い体を自分のほうに抱き寄せる。
シャンプーのいい匂いがした。
「ルキア・・・・」
「ん・・」
口づけると、ルキアは一護に甘えてきた。
舌が絡む口づけを繰り替えす。
「あまり、盛るな。貴様が辛いだけだ」
もう、黒崎家では体を重ねることはないだろう。
「大丈夫だ。抱きたいけど我慢するから。今までもずっと我慢してきたんだ。お前の傍にいらるなら、体の関係なんていらない」
「いちご・・・・」
高校の生活終了まであと3か月。
ルキアも一護も、1日1日を大切に過ごしていく。
朝起きると、ルキアは慌てた。
「学校に遅刻するぞ、一護!というか、もう完全に遅刻だ、一護」
時計を見ると、9時を回っていた。
「なんでもっと早く起こしてくれなかたったんだよ!」
「たわけ、貴様が夜中にキスなどしてくるから、ドキドキしてなかなか眠れなったのだ!」
それは本当だった。
一度、肉体関係をもったが、それ以後はそんな関係はなかった。
一護が黒崎家ではもう抱かぬと言っていたが、それでも抱かれるかもしれないと思い、ドキドキが止まらなかったのだ。
一護は、ハグやキスはするが、抱くような行為は一切しなかった。
結局、2時間目から授業に出た。
その日、最後の進路希望先が配られた。
ルキアも一護も、死神と書いて、先生に怒られた。
「こら朽木、黒崎!この死神というのはなんだ!朽木は実家の家業を継ぐ、黒崎は空座大学に進むんじゃなかったのか!」
「あ、先生、俺死神になるんで、大学行きません」
「死神というのが家業ですの」
そう答えると、こっぴどく担任から怒られた。
仕方ないので進路先は一護は空座大学、ルキアは家業を継ぐ、というのにかえた。
本当に、卒業したら死神になるのだが。現世の人間には理解されないであろう。
一護は迷っていた。家族に死神になって現世を捨てることを告げるかどうか。
世界の歯車は廻りだした。
時は加速していく。
緩やかだった砂時計が、砂を凍らせる。
一護もルキアも知らなかった。すでに、ルキアが尸魂界で、市崎ナガレの妻として籍を入れられていることを。
インフルエンザ
名を呼ぶと、ルキアは反応した。
同じ布団で眠っていた。
「なんなんのだ、一護」
「いや、俺のものなんだなーって思って」
「たわけ!いつ誰が貴様のものになった!」
ルキアは、真っ赤になって怒った。
ぽかぽかと殴ってくる手には力がこもっていなくて、それが余計に愛しいと感じた。
「一応、俺はお前の夫だろ?じゃあ、ルキアは俺のものじゃねーか」:
「夫婦でも、貴様のものになったつもりはない」
「じゃあ、この手はなんだ?」
殴ってくる手は、いつの間にか一護の服の裾を掴んでいた。
「べ、別に意味などない!」
「ルキア、かわいい」
抱き締めると、腕の中で細い体が身動ぎする。
「貴様は・・・しゃくだが、かっこいいな」
触れあうだけのキスをする。
「んあっ・・・・」
濡れた声を出すルキアに、けれど一護は我慢した。
昨日、睦みあったばかりだ。
連続だと、負担がかかるだろう。
苺花と一勇は、それぞれの部屋で眠ってしまっている。夜くらいしか、2人きりになれない。
眠る時間を削って睦みあうので、けっこうその次の日は寝不足になってしまう。・
「ルキア、かわいい」
「あっ、いちご・・・・・・」
口づけは、いつしか深いものに変わっていた。
一護は、今は13番隊の死神として働いていた。13番隊の3席だ。実力からいけば隊長なのっだが、隊長はルキアで、補佐する副官は仙太郎だった。
一護は、尸魂界のために死なば本望という、死神としての矜持がない。
真央霊術衣を出ていないせいもあるが、元々死神代行なのだ。その圧倒的な力で、仲間と力をあわせせて尸魂界を二度も救ったが、尸魂界のために死ぬなんてまっぴらごめんだった。
ルキアを救うためなら、死んでもいいとは思うが。
「このまま・・・体を、重ねるのか?」
「いや、明日から虚討伐の遠征だ。寝よう」
二人は、お互いに体に火をつけたまま、その日は眠った。
「母様、父様、何時まで寝てるの?」
「え?ええ、12時!?」
苺花に起こされて、一護はがばっと起き上がった。
「おい、ルキア・・・・ルキア?」
様子が変だった。
汗をかいている。
額に手を当てると、凄い熱だった。
「苺花、誰か呼んできてくれ」
「はい、父様」
一勇は、死神の初等部でかけてしまっていなかった。
苺花は、今日は学年全体で休みだった。
「ルキア様がどうなされたのですか、一護様」
「医者を呼んでくれ。すげぇ高熱なんだ」
「はい、わかりました。至急、かかりつけの医師をお呼びします」
10分程経って、医師がやってきた。
ルキアを診てもらう。
「熱は高いですが、インフルエンザのようですね。薬を飲ませて、点滴を打ち、水分を十分にとらせれば1週間ほどで快癒いたしましょう」
「インフルエンザか・・・・苺花、しばくの間ルキアと会うことを禁ずる」
「えー、何故ですか父様」
「うつるんだよ。俺はもう去年にはインフルエンザにかかったからいいけど、苺花と一勇はしばらくの間、ルキアに会せるわけにはいかねぇ」
13番隊の虚退治の遠征は、延期になった。暴れ回っている虚ではないので、延期になっても大丈夫だった。
「いちごお・・・・体が、熱い」
「インフルエンザだって。去年俺もなったけど、薬のましたし、点滴も受けさせてるし、3日くらいすれば熱も下がる。今はつらいだろうが、辛抱してくれ」
「いちご・・・・傍に、いてくれ」
「ああ。俺も休みをとった。ちゃんとお前の傍にいる」
「苺花と一勇は?」
「白哉と家人に面倒を見てもっている。今はなんの心配もせずに、早く病気がよくなるように、眠れ」
「一護・・・・・」
ルキアは、そのまま眠ってしまった。
ルキアの熱が下がるまで、一護はルキアの傍に付き添い、面倒を見た。
ようやく熱も下がり、食欲も出し始めたルキアに安堵する。
「貴様がインフルエンザにかかった時も大変だったのだぞ。会いたがる苺花と一勇を会わないように家人に預けて・・・・・・」
「あの時はルキアに世話になったからな。今度は、俺がルキアの面倒を見た」
苺花と一勇は、まだ白哉と家人に預けていた。
「早く完全によくなれよ、ルキア」
「言われなくともそのつもりだ。それよりインフルエンザなど、何処でもらってきたのであろうか」
「恋次だよ。あいつも、今インフルエンザで休んでる」
「兄様は!」
「心配いらねーよ。白哉は元気だ」
「よかった・・・・」
まるでに自分のことのように、白哉を心配するルキアは、相変わらずだなと思った。
「白哉も心配してたぜ。うつるから、顔出すわけにもいかねーから」
「兄様には、いらぬ心配をかけてしまった・・・・・」
「言っとくが、俺も心配したんだからな!インフルエンザって分かるまで、心が押しつぶされそうだった。何か酷い病にかかったんじゃなねーかって」
「すまぬ、一護。貴様は優しいな・・・・・愛している」
「俺も愛してる、ルキア。早く完治して、苺花と一勇と会おう」
ルキアがインフルエンザにかかって1週間が経った。
完全に治ったルキアに、苺花と一勇が泣きついてきた。
「母様が死ぬかと思ったの」
「母様、もう大丈夫?」
「ああ、心配をかけたな苺花に一勇、私はこの通りもう元気だ」
「よかった、母様。恋次さんも、インフルエンザでダウンして、それからうつったらしいって父様が言ってた」
「恋次も、今頃治っておるだろう」
苺花も一勇も、インフルエンザがうつらなくてよかったと、ルキアも一護も思った。
白哉もうつらなくてよかった。
「明日からは、虚退治の遠征だ。腕は鈍っていまいな、一護!」
「当たり前だろう!」
「ふ、そうでなくては。貴様は尸魂界を二度も救った英雄なのだ。堂々としろ」
「いや、別に堂々となくてもいいだろ、普通で」
ルキアの自慢の夫は、虚退治の遠征で、久しぶりに卍解を使って襲ってくる虚の群れを、一匹残らず切り捨てて、それを率いていた破面に月牙天衝を食らわせた。
「流石一護だ・・・・・」
袖白雪を始解させていたルキアであったが、切った虚の数は僅か5匹。
数百体いた虚の群れを、ほぼ一護一人で退治してしまった。
「んー。あんま手ごたえなかったなぁ。なぁ、ルキア、もっと強い敵はいねーのかよ」
「たわけ、おるわけがなかろう!体が疼くのなら、11番隊にでもいって、更木隊長にでも相手してもらえ」
「う、俺11番隊苦手なんだよな。一角さんも弓親さんまで手合わせしてこいってうるさいし」
「尸魂界はそこまで平和なのだ。良いではないか」
もう、大戦の爪痕はほとんど残っていない。
死んでしまった死神の数は多かったが、一護もルキアも生還を果たした。今いる者たち全てが大戦を経験したわけではないが、あの大戦はずっと語りづがれていくであろう。
「帰ろうか」
「ああ」
遠征で、1週間かかった。
苺花も一勇も、一護とルキアが帰ってくることを心待ちにしているだろう。
尸魂界は、緩やかに時が流れていく。
苺花と一勇も、いずれ真央霊術院に入り、死神となって、護廷13隊の席官になるだろう。
だが、それはまだまだ遠い遠い、未来のお話。
10番隊でクリスマス
10番隊の執務室に、クリスマスサンタの恰好をした浮竹が現れた。
京楽の手によるものなのだろう。ふりふりのふわふわで、かわいかった。
「ああ、浮竹か。メリークリスマス」
「甘納豆をもってきたぞ。食べてくれ。クリスマスプレゼントは、現世の「せがのびーる」君だ」
なにか、錠剤をもらった。なんでもカルシウムがたっぷりで、飲むと背が伸びるらしい。
「こんなもの、効くのか?」
「さぁ。現世の薬局で健康グッズ漁っていたら、売ってたから買ってみた」
「健康グッズ・・・・何してやがんだ」
「何か、せめて熱をあまり出さないようの体を鍛えようと思って、いろいろ探したが、いまいちぴんとこなかった」
現世にまでいって、健康グッズを漁る病弱な13番隊隊長・・・その姿を想像してみると、けっこう哀れかもしれない。
「あー、浮竹隊長めちゃくちゃかわいい!」
隊首室から顔を出した松本が、浮竹のサンタ姿を伝令神機で写真をとっていた。
「京楽が、これを着ないと襲うというから、着てみた」
「サンタ服で美味しくいただかれる浮竹隊長・・・・・クリスマスプレゼントはもちろん、浮竹隊長ですね!」
「それ、なんかやだな」
「いや、いいね!実にいいね!」
いつ来ていたのか、霊圧を消していた京楽が、松本の言葉に感動していた。
「浮竹、「俺を食べてくれ」ってその恰好でいってほしいな」
「いやだ!本当においしくいただかれるからいやだ!」
「そう言わずに」
「日番谷隊長、助けてくれ」
日番谷の後ろに隠れる浮竹。
「おい京楽、浮竹が嫌がってるだろ。あまり無理強いはするな」
「わかってないなぁ。これも愛だよ、愛」
「京楽の愛は、欲望にまみれている」
日番谷の後ろで、浮竹はそう言った。
「日番谷隊長を俺とお揃いの恰好にできたら、言ってやってもいい」
「おい、浮竹!」
いきなり矛先が自分に向いたので、日番谷が声を出す。
「お前、庇ってやってるのにそんなことを言いだしやがるのか」
「だって、絶対日番谷隊長このサンタ服、似合うと思うんだ」
「ふりふりのふわふわなんて、俺には似合わない・・・・・」
「縛道の六十一 六杖光牢」
「え、おい、京楽!」
鬼道で自由を奪われ、元からそのつもりだったのか、日番谷サイズのサンタ服を手に、京楽と松本がにじりよってくる。
「ぎゃああああああああ」
哀れ。
日番谷は、京楽と自分の部下である松本の手で、ふりふりふわふわのサンタ服を着せられてしまった。
「ああもう、こうなったらやけだ。今日はこの格好でいるぞ」
「やあん、隊長かわいいーー」
「かわいいなぁ、日番谷隊長」
松本と浮竹が、頭を撫でまくった。
「浮竹隊長と並んでくださーい。はい、写真とりますよ」
日番谷は、やけくそで浮竹と一緒にピースサインをした。
「はぁ・・・浮竹とお揃いか」
「嫌か?」
「もうどうでもいい」
本当に、どうでもよさそうだった。
京楽もいれて、4人でクリスマスケーキを包丁がなかったので、斬魄刀で切って食べた。
浮竹が、現世から買ってきたケーキで、とてもおいしかった。
日番谷は足りないのか、甘納豆を口にしていた。
「日番谷隊長、俺にもくれ」
あまりにも日番谷が美味しそうに食べるものだから、浮竹も欲しくなったのだ。
「浮竹、約束の言葉言ってよ」
そんな浮竹に、京楽が唇を尖らせる。
「え、何をだ」
「言ったじゃない。日番谷隊長を同じ格好にしたら、「俺を食べてくれ」と言ってもいいって」
「そ、そんな約束したかな?」
浮竹が誤魔化そうとするが、京楽はふりふりふわふわのサンタ服を着た浮竹を見た。
「言ってくれなきゃ、襲う」
「仕方ないな・・・・・「俺を食べてくれ」・・・」
「その言葉、確かに受け取ったよ!」
「え?」
がばりと、その場に押し倒された。
「お、おい、京楽・・・・・んあっ」
舌が絡まるキスをされた。
服の上から、敏感な部分を触れられて、流石にやばいと浮竹も思った。
「やん、京楽、盛るなら雨乾堂で・・・・やあ」
「お前ら・・・・俺も松本もいるのに、いい度胸だな」
「日番谷隊長・・・ああっ、京楽、やめ・・・・・」
「蒼天に座せ、氷輪丸!」
氷の龍は、盛った京楽と、それをぱしゃぱしゃと写真に撮っていた松本を巻き込んで、天高く昇っていった。
「日番谷隊長?俺は?」
「悪いのは京楽だろ。浮竹のせいじゃねぇ。甘納豆もくれたしな」
「うわーん、日番谷隊長ー!」
浮竹は、日番谷に抱き着いた。
「京楽のやつ、今日は盛りっぱなしで・・・・助かった」
浮竹と日番谷は、半壊した10番隊執務室で、甘納豆を口にしながら、お茶をすするのであった。
院生時代の部屋 クリスマス
「メリークリスマス、京楽」
特進クラス全体で、クリスマスパーティーが開かれた。
女子たちは、クリスマスケーキを手に、意中の相手と話し出す。
浮竹と京楽も、たくさんの女子に囲まれた。
「浮竹君、京楽君、クリスマスクッキー焼いてみたの。食べてくれる?」
「ああ、ありがとう」
今日はクリスマスパーティーだ。
いつもなら接してこない女子たちも、積極的に浮竹と京楽にアピールしてくる。
浮竹と京楽は、できているわけではない。
なので、二人の仲はいいが、別に他の誰かと付き合ってもいいのだ。
「ねぇ、浮竹君なんのシャンプー使ってるの。いつも甘い花の香がするんだから」
それが、生来のものであると話しても、理解してもらえないであろう。
「浮竹はのシャンプーは花王道のものだよ。僕が買い与えているんだ」
「えー、花王道のなの!あの人気の!いいなぁ、京楽君、私も欲しいなぁ」
甘えてくる女子に、京楽はそっけない態度をとる。
「買えるチケットあげるから、勝手にかえば?」
こそこそと、女子たちが話し合う。
「浮竹君、クリスマスツリー見に行こ!」
女子3人に、無理やり部屋を連れ出される浮竹。
「え、ああ・・・・・」
京楽は、5人くらいの女子に囲まれていた。
見目は浮竹のほうがいいが、京楽は上流貴族。付き合うことができて、将来結婚までもっていけばたとえ死神になれなくてに、人生安泰だ。
「浮竹!」
「すまない、ちょっといってくる」
京楽は女生徒に優しいが、浮竹のこととなると、それもあやふやになる。
「君たち、どういうつもり。浮竹を連れ出して、僕に何か用?」
「やだなぁ、京楽君。何も、男の浮竹君じゃなくてもいいじゃない。あたしたちといいことして遊びましょうよ」
一人の女生徒が、京楽の腕に胸をあてた。
その胸を乱暴にもみしだくと、女生徒は叫び声をあげた。
「きゃあああああああ!」
「こんな関係がお望みかい?」
「き、京楽君・・・・」
「僕はね、浮竹以外に興味ないの。たとえ裸で迫ってこられても、たたないって断言できるよ」
「ためしてみないと分からないじゃない」
女子生徒の中でも、クラスの中心人物の一人が、京楽の手をとった。
そして、京楽を連れて寮の自分の部屋までくると、服をぽいぽいとぬいで、妖艶な姿で誘ってきた。
「さぁ、京楽君も・・・・」
服を脱がされてかけて、ぴしゃりとその手をはねのけた。
「君にはたたない。無理」
「刺激与えたら、たつから」
服の上から、裸の女生徒は京楽に刺激を何度も与えた。
「え、嘘・・・・・」
いっこうにたたないのだ。
「こんなのおかしい!」
「おかしいのは、君の頭でしょ。僕の金が目当てなんでしょ?」
「そ、そんなことないよ!京楽君が好きなの!」
「じゃあ、僕が浮竹のことを好きになって追いかけるまで、女の子追い掛け回してた時になんでこなかったの」
「そ、それは・・・・」
「もう気が済んだでしょ。僕は戻るよ」
「あ、待って京楽君!」
無視して、学院に戻ると、ざわざわとざわめいていた。
「どうしたの?」
「浮竹が、女生徒を襲ったって!」
「ちっ」
浮竹のところにいくと、肌も露わな女生徒が泣いていた。
「浮竹君が突然!」
「僕の浮竹が、そんなことするわけないでしょ」
やってきた京楽に、女生徒は目を見開く。今頃、リーダーである女生徒と睦みあっているはずの京楽がいたのだ。
「俺は、何もしていない・・・・・ぐ、ごほっ、ごほっ」
精神的な負担が体にきたのか、浮竹は咳込んで血を吐いた。
「きゃあああああ!」
「浮竹、大丈夫かい!?」
「すまない京楽・・・ここに、いたくない」
京楽は、浮竹を横抱きに抱き上げた。
「こんな体の浮竹が、君を襲ったって?証人をたてても、無駄だよ。山じいにいいつけられたくなかったから、そこをどくんだね」
女生徒たちは、顔色を蒼白にさせながら、どいた。
「ちょっと、やばいんじゃない?」
「アキラの計画通りにしただけじゃない!」
「でも、京楽君がここにいるってことは、アキラ失敗したんでしょ。あたしいやよ!京楽家に睨まれるなんて!」
「あたしも!」
「あたしもいや!」
「ちょっと・・・・私はどうなるのよ!」
肌も露わな女性が叫ぶ。
「知らない」
「あたしたち、何もしらない」
クリスマスパーティーは、教師を呼ぶ事態になった。
「げほっげほっ・・・・」
「医務室にいくかい?」
「学院にいたくない・・・・寮の部屋に、帰りたい・・・・」
寮の自室に戻ると、浮竹の血で汚れた院生の服を着替えさせて、室内着に着換えさせた。
ベッドに横たえて、肺の発作を起こした時の緊急用の薬を飲ませる。
ズキンズキンと肺が痛んだ。
「鎮静剤打つよ」
「ああ」
発作が酷くなる前に、落ち着かせる必要があった。
罠にはめられかけて、気が動転している浮竹の右手に、鎮静剤を打った。
「すまない・・・」
「いいから、大人しくしてて。直きに効くから」
「すまない・・・・・」
「浮竹・・・僕のかわいい、想い人。安心して、騒ぎが全部僕が収まらせるから」
京楽は、鎮静剤で眠った浮竹を置いて、一度学院に戻った。
教師がきて、どういうことかと詰め寄ってくる。
「女生徒が、結託して僕と浮竹をはめようとしたんだよ」
「そうなのか、お前たち」
「違います、先生!」
「あたしたち、アキラに言われた通りにしただけです。全部アキラが悪いんです」
京楽の裸で迫ってきた女生徒の名前だった。
院生の服を着て、そのアキラが現れた。
「君・・・停学は覚悟できているだろうな?」
「私じゃないんです!京楽君が、こうしろって!」
「京楽、どうなんだ?」
「めんどくさいから、山じい呼んでよ」
騒ぎの大きさに、山じいが呼ばれた。
「・・だそうです、山本先生」
「春水の言葉に嘘はなかろう。紫紺アキラ、主を2か月の停学処分とする」
「いやああああああ」
学院で、山じいの手から停学処分に陥った場合、護廷13隊入りの可能性が薄くなる。
アキラという女生徒は泣いた。
「退学にせぬだけ、感謝せよ。春水、これでよいな?」
「うん、山じい。わざわざこんな時間にありがとね」
「何、我が子のような春水のためじゃ。労は惜しむまい。それより十四郎がどうなっておる。血を吐いたと聞いたが」
「寮の自室で、鎮静剤を打ったから、寝てるよ」
「春水、はよう十四郎の傍にいてやれ。お主たちは二人で一つじゃ」
「じゃあ、そういうことだから、戻るね。紫紺アキラ。今度手を出してきたら、京楽家の名の元に、潰す」
「うわあああああああん」
泣く女生徒を無視して、京楽は寮の自室に戻った。
浮竹は、大人しく寝ていた。発作はもう大丈夫なようで、その日はいろいろごたついて、結局京楽はクリスマスクッキーを口にしただけで眠ってしまった。
「おはよう、京楽」
「おはよう浮竹。体は大丈夫かい?」
「ああ。早めに鎮静剤を打ってもらったおかげで、大きな発作にならずにすんだ」
もう、冬休みに入っていた。
「しばらく、学院には行きたくない。食堂を利用する以外は・・・冬の、自己勉強会も、欠席する」
「うん、そうしたほがいいよ。あの連中とは、6回生まで一緒なんだから。早く、忘れててしまうことを祈っているよ」
「ああ・・・・・」
浮竹は、上着をはおって京楽がもってきた弁当を食べた。
「散々なクリスマスだった」
「そうそう、クリスマスプレゼント用意していたんだ。もらってくれるかい?」
「高価なものじゃないだろうな!」
ビーズ細工の、ブレスレットだった。ちょっと拙くて、見た目はあんまりよくない。
「実家の母上からもらった本を見ながら、僕が作ったんだ。手作りだから、見た目はあんまりよくないけど・・・・」
「俺は、翡翠のブレスレットより、こっちを選ぶ、お前の手作り、素直に嬉しい」
はにかみながら笑う浮竹は愛らしかった。
「(*´Д`)ハァハァ好きだよ、浮竹。僕と一つになろう!」
「調子にのるな!」
脛を思い切り蹴り上げられて、悶絶する京楽だったが、浮竹の幸せそうな顔をみて、京楽も満足するのだった。
たまには優しい 院生時代の部屋
京楽が、鼻歌まじりで洗濯物を干していた。
浮竹の洗い物も洗ってくれて助かったのだが、ベランダを見ると普通の院生の服以外にも、ずらりと浮竹のパンツが並んでいた。
アレ用のパンツで、汚れてしまったので洗っているらしかった。
その枚数、実に10。
最近、浮竹のパンツをまた盗まなくなったが、代わりに院生服が1着どこかへいってしまった。
どこだと探すと、京楽がアレ用のパンツと一緒に干していた。
手後れだった。
すでに、院生の服はナニに使われて、浮竹はもうあの院生服は着れないなと思った。
毎日院生の服で過ごすので、お互い10着くらいはもっていた。
1着がなくなったところでどうってことないのだが、ちゃんと分からせておかないと、京楽は浮竹の院生服を全部盗みそうだった。
ちょうど、学院の授業も終わり、夕食も食べ終わて湯浴みもして、自由時間になっていた。
寝るのは11時~0時くらいなので、あと3時間以上はある。
「京楽、ここにこい」
「何、浮竹」
(*´Д`)ハァハァと荒い息をついた京楽がやってくる。
「浮竹の匂い・・・すんすん。浮竹、今日もかわいいね」
「お前、院生の服1着盗んで、ナニに使ったな?」
ぎくりと、京楽が目を逸らす。
「ちゃんとこっちを見ろ、京楽。俺は怒っているわけじゃない」
「うん・・・ごめん」
「と思ったら大間違いだこのバカ!何院生の服までナニに使ってやがんだお前!今度、違う院生の服を盗んだら、お前のパンツコレクション、鬼道で全部灰にしてやる!ついでに、お前の大事な大事な俺の写真をプリントアウトした抱き枕も灰にしてやるから、覚悟しろ!」
叱られた犬のように、小さくなる京楽。
「だって最近、浮竹が触らせてくれないから」
この前、最後の砦のパンツを奪われそうになったのだ。警戒も、普通はする。
浮竹は、溜息をついてベッドの上に京楽を座らせた。
飴と鞭。
さっきは鞭だ。飴も忘れてはいけない。
「ほら!」
手を開いて、こいと意思表示すると、京楽は喜んで浮竹に抱きついた。
「すんすん・・・浮竹のいい匂いがする。甘い花の香・・・君に触れるの、1週間ぶりだね」
抱き締め返すと、京楽はしばらくの間浮竹を離さなかった。
「いい加減、どけ」
「やだ」
「ちょっと、もう30分以上この体勢なんだぞ。いい加減疲れてきた」
「僕は全然疲れてないもーん」
ずるずると京楽を引きずって、移動する。
それでも、京楽は抱き着いて離れなかった。
「この駄犬が!」
蹴りをいれると、それさえ喜ぶ京楽に、不安を抱く。
こいつ、耐性ができてきてるのか。
仕方なく、浮竹は京楽を引きずって、べッドに腰かけると、その顎をとらえて口づけした。
最初から濃厚なやつを。
「ん・・・・」
ぴちゃりと、舌が絡みあう口づけを繰り返す。
京楽の手が、浮竹の背中に回る。
そのまま、ベッドでもつれあった。
「んん・・・・」
やわやわと輪郭を確かめられた。
抱き締める腕に力がこもる。
「んあっ・・・・」
指を、口の中に入れられた。
それに舌を這わせる。
そのまままた口づけられた。
「ん・・・・」
10分ほどそうしていただろうか。
京楽が舌を引き抜いていく。つっと、銀の糸が伝った。
かっと、自分の行動と痴態に、体が熱くなった。
「浮竹・・・・僕だけの浮竹・・・・かわいい・・・・・」
腰に、硬いものが当たった。
「ん・・・言っとくが、抱かせてはやらないぞ」
「うん。キスだけで1回いっちゃたから、僕も満足だよ」
「キスだけで!?」
「君とのキス、1週間ぶりだった。凄く気持ちよかった。浮竹は?」
「悪く、なかった・・・・」
声を漏らすほど、腰にくるキスだったが、浮竹はそのつもりはなかったので、情欲を抱きはしなかった。
だが、京楽は情欲の塊だ。
浮竹がその気になったら、すぐにでも抱いてくるだろう。
「ん・・・暇だ。明日の予習でもする」
けっこう、院生生活は学院に通って自由時間になると、暇になるものだ。
「ん・・・あ・・・・・」
くらりと。
視界が揺らいだ。
「浮竹!?」
「ちょっと・・・熱がでてきたみたいだ。最近、臥せっていなかったから大丈夫と思っていたが、やはり俺の体は弱いな」
「病弱なのは仕方ないよ。吐き気とかない?」
「悪寒がする」
「冬だしね。暖かくしないと。ベッドで横になって、毛布と布団かぶって。湯たんぽ作ってくるから」
こういう時の、京楽はとても優しい。変態じゃない。だから、浮竹は京楽を嫌えないのだ。
「解熱剤、出してくれ・・・」
「うん」
水の入ったコップと一緒に渡されて、飲んで30分くらいしたら、少し熱がさがったのか、悪寒はするが眩暈はましになった。
「明日は・・・・元柳斎先生の授業があるから、休むわけには・・・・」
「浮竹、無理は禁物だよ。熱が下がらなかったら、引きずってでても君を帰らせるからね」
恩師である山本元柳斎重國の授業には、浮竹は少々体調が悪くても出てしまい、その結果悪化させて山本元柳斎重國からも怒られていた。
でも、どうしても授業を受けたくて、無理をする。
でも最近は無理やり京楽が引っ張って帰らせるので、山本元柳斎重國も怒ることが少なくなった。
「先生の授業に出たい・・・・」
「熱が下がったら、出てもいいよ。でも、下がらなかったら、僕が許さない」
うとうとと、解熱剤の成分に含まれる睡眠薬成分で、眠くなってきた。
「分かった・・・無理は、しない・・・・・」
それだけ言うと、浮竹は眠ってしまった。
かわいいかわいい浮竹は、山じいのことになると無茶をする。悪化すると分かっているのに、無茶をする。それを引き留めるのは僕の役目。
山じいからも「十四郎に無理をさせぬように」と言われている。
「明日、熱がさがっていたらいいね」
額に冷やしたタオルを置いて、京楽は眠ってしまった浮竹の唇にちゅっと、音をたてて触れるだけのキスをした。
浮竹が急に熱を出すから、その気になっていた息子さんは静かになってしまった。
まぁいいかと、京楽もベッドに横になり、消灯するのだった。
海燕の結婚
それは13番隊中にすぐに浸透して、みんなおめでとうと海燕と、妻になる都を祝福した。
「おめでとう、海燕」
「ありがとうございます、隊長」
「都は席官だし、しっかりしている。安心してお前を任せられる」
「隊長は、結婚しないんですか?」
ふとした疑問を抱いた。
「俺は・・・・あれだ。病弱だし肺を患っているしな」
「でも、たくさんの女性に恋文をもらっているでしょう。お見合いの話も何十件ときていたはすずです」
「俺には、京楽がいるから」
「やっぱりそうですよね。隊長が、京楽隊長以外と付き合うなんて想像もできません。もしも見合いなんてしたら、京楽隊長がめちゃくちゃにしそうだ」
「あるんだ、過去に1回。見合いをしたことが」
「ええっ!」
思い出す。
あれは、浮竹が隊長に就任して50年ほどした時だった。
上流貴族の姫君に、一目惚れをされたのだ。見合いをしろとしつこかった。浮竹は下級貴族で、逆らうわかけにもいかずに、ついに見合いを受けた。
「周防セツナといいます」
「はぁ。浮竹十四郎といいます」
「この度は見合いを受けてくださり、ありがとうございました」
「はっきり言います。俺は、あなたを幸せにできない」
「何故?」
「他に、好きな、愛している人がいます」
浮竹は、きっぱりと言った。
もうその頃には長い白髪は、腰まで伸びていた。
「何処の誰ですか」
「それは・・・・・」
見合いをしている周防セツナの館に、侵入者がいた。
「お待ちください、いくらなんんでも見合いの場に通せとはあまりな」
家人と両親が、困惑してその人物を見合いをしている二人の部屋に、入らないように必死で止めようとするが、その人物は立ち止まらない。
「浮竹、帰るよ」
「え、京楽!?なんでここが・・・・」
「海燕君に聞いたんだ。君は、見合いを受けちゃいけない」
「あなたは京楽家の・・・護廷13隊8番隊隊長、京楽春水様・・・・・」
セツナは、ほうとため息を漏らした。
浮竹は、正装していたが美しかった。女の自分よりも。そして、同じ隊長である京楽は、美丈夫だった。
「やはり、巷の噂は本当なのですね。浮竹様が京楽様と恋仲という噂」
関係を隠さない二人は、護廷13隊でも「夫婦みたいだ」として有名だった。
「セツナちゃんだっけ、悪いけど浮竹はもらっていくよ。浮竹は僕のものだ。見合いをめちゃくちゃにしたお詫びに、君に合いそうな上流貴族の男性との見合い話を進めておくから」
「いりません。ああ、素敵!」
「え?」
「へ?」
「上流貴族の若君が・・・・下級貴族の美しい青年に夢中・・・ああ、なんて素敵なんでしょう。二人並べば、本当にいいカップルですね」
「セツナちゃん、君・・・・浮竹と本気で見合いする気、なかったでしょ」
「はい。京楽様が怒って、乗り込んでくるのを心待ちにしておりました」
腐女子というやつだ。
京楽と浮竹は、その手の女子に非常に人気が高い。創作ものであるが、二人ができている小説が出回っているくらいだ。
「このセツナ、幸せにございます。京楽様と浮竹様の仲を間近で拝見できて」
京楽は、浮竹を抱き上げた。
「おい、京楽」
抱き上げたまま、キスをした。
「きゃあああああ!鼻血でそう!」
セツナは、鼻血を本当に出していた。
セツナの両親は呆気にとられている。自分の愛娘の縁談を破談しようとした京楽に怒りを抱いていたが、それも霧散してしまった。
「眼福ですわ。これで、小説の執筆もすんなりできそう。京楽様、今巷で流行ってる京楽×浮竹の小説は全部私が書いたものなんです」
「読んだことあるよ。すごくよかった」
「ああ、そう言われて幸せです。新作をどんどん書いていくので、また読んでくださいね」
「ちょっと!京楽!?見合いをぶち壊しにきたんじゃないのか!?」
もっと、荒々しく、浮竹を連れて見合いぶっ壊して、めちゃくちゃになることを危惧していた浮竹は、目を丸くしていた。
「壊しには、この通りきたよ。でも、周防セツナって有名だよ。小説家さ」:
「し、小説家・・・・」
「その子が、僕たちのカップリングの腐った小説書いてるの。いつもハッピーエンドと限らず、悲恋もあって・・・・結構楽しく読ませてもらってる」
「俺はそんなこと、露とも知らなかった」
「浮竹には刺激が強いと思って話してなかっからね。エロシーンがすごいから」
「え、エロシーン」
浮竹は真っ赤になった。
「どうか、後生です。もう一度、愛し合っている場面を見せてください」
「いいよ」
「おい、京楽!」
浮竹を押し倒して、舌が絡まるキスをした。
「ううん・・・・」
「見せつけてやりなよ。どれだけ、僕らはできているのかを」
「あ、京楽、こんな人目のある場所で・・・・ああっ!」
浮竹の服の裾から手を侵入させて、指を這わせていく。
浮竹は、怒って京楽に頭突きをした。
「痛い」
「盛るなら、人目のない場所でしろ!抱かせてやらないぞ!」
本気で浮竹を怒らすと、1週間は口を聞いてくれないので、浮竹を肩に担ぎあげて、京楽はセツナのほうを向いた。
「セツナちゃん、残念だけどここまでだよ」
鼻血をふきながら、セツナは口にする。
「十分でございます・・・・・・ありがとうございました。次の本は、京楽×浮竹の略奪婚に決めました」
「書き上げたら、一番に僕に読ませてね」
「はい、勿論です」
こうして、浮竹の長い人生の中の一度きりの見合いは終わったのだった。
「なんですかそれ・・・周防セツナって、あの文学賞とった、周防セツナですか?」
「ああ、そうだ。当時はあまり売れていなくて、同人誌として俺と京楽の小説を書いていてそれでなりなりの収入を得ていたそうだ。もっとも、上流貴族の姫君だし、今は一般隊士だけど、俺と同じような下級貴族と結婚して、子もいるが」
「はぁ・・・・隊長と京楽隊長の人気は、女性死神に高いですからね。俺も存在をちらっと聞いたことありますよ。隊長たちのできてる同人誌なるものがあること」
「俺は読んだことないけどな。京楽がいうにがエロシーンが凄いとかで・・・・読む気にもなれない」
「やっぱ、本物が一番だって?」
「海燕!」
浮竹は真っ赤になった。
「はははは、冗談ですよ、隊長」
「まぁ、でも確かに本物のほうがいい」
うわー。
言いきちゃたよ、この人。
羊なのに、狼に食べられることが好きなんだ。
海燕は、都も確かそんな小説を持っていたと思いだす。
「都ももってるんですよね。流石に俺も読む勇気は起こらないので、目のとまるとこに置いておかないように、言い聞かせないと」
「都までか・・・そんなに、俺と京楽ができているのって、女性に人気があるのか?」
「もう、夫婦ですかね」
「夫婦?」
「そう。みんな言ってますよ。隊長と京楽隊長は夫婦だって」
「はぁ・・・・・・」
痛む頭を押さえながら、今頃何を言ったところで変わることがないので、諦める浮竹であった。
海燕と都の結婚式が行われた。
正装して出席した浮竹は美人だった。ちらちらと、主役の夫婦よりも視線を集めていた。
浮竹は、仲人として出席した。京楽もだ。
「幸せになれよ、海燕、都」
「ありがとうございます、隊長」
「隊長、ありうがとうございます。私、すでに幸せです」
泣く白無垢姿の都に、涙をふけとハンカチを渡してやる。
「いつか、僕らもこんな風に結婚式をあげれるといいねぇ、浮竹」
「ばかをいうな。男同士で式が挙げられるか。そもそも白無垢なんて着ないぞ。着るならお前が着ろ」
「いいよ」
あっさりと言い放った京楽に、海燕も浮竹も、白無垢姿の京楽を想像して、げんなりするだった。