簀巻き
ブラーン。
布団で簀巻きにされた京楽が、ベランダに干されてあった。
つーんと、浮竹は無視する。
「浮竹、ほんとにごめん、僕が悪かった。もうしないからほんとに許してぇぇぇ」
ミノムシのようにな状態で干されている京楽は、動ける範囲でくねくねしていた。
「次、破ったら、俺はこの部屋を出ていく」
きっぱりそう言って、浮竹は京楽を下ろした。でも、簀巻きのままだった。
「できれば、この布団の簀巻きもなんとかしてくれると嬉しいなぁ」
「だめだ。罰にならないだろう。しばらくそうしていろ」
「飯とかトイレは!」
「飯もトイレも我慢しろ」
「そんな殺生な」
まぁ、本気で我慢させるつもりは浮竹にもなかったのだが。
ことの始まりは、休日の朝の湯あみ。
朝からいい匂いをさせていた浮竹に、京楽が飛びついた。
ハグをして、何度もキスをしていたら、浮竹はとろんとした目で京楽を見ていた。
「もう少しだけ・・・・・ね?」
服の上から、背骨をなぞってくる。
「んっ」
それから、服の裾から手をいれて、膝を膝で割ってきた。
「・・・・・・いい加減に、しろ!」
鳩尾を蹴られて、京楽は蹲った。
「ぐほ・・・・・きいた・・・・・」
それから、股間を蹴り上げた。
「ぬおおおおおおおおお」
苦しむ京楽に、怒った浮竹はベッドの上の布団をもってきて、京楽を簀巻きにして縛りあげて、
ベランダに干すように吊るした。
そして今に至る。
キスとハグ以上はしない。
それが、二人の暗黙のルール。
破れば制裁が待っているし、本気で破って抱いてくるようなら、寮の部屋から出ていくつもりだった。
探せば、空き部屋くらいあるだろう。なければ頼みこんで誰かと部屋を交換してもらえばいい。
元々、相部屋の相手は違う人物だった。京楽がコネを使って、浮竹と同じ部屋で生活しだした。
最初は毎日のように好きだといってくるくらいだったが、いつの間にかキスとハグをするようになっていた。
そして、それでもそれ以は京楽に与えないので、飢えた京楽は変態行為に手を出し始めた。
浮竹グッズを作ったり、浮竹の隠し撮りの写真を集めたり、パンツをかぶったりスーハースーハーしたり・・・・・少しずつ、酷くなっているような気がするが、浮竹が部屋を出て行けば、多分京楽は移動した部屋の相部屋相手を金を掴ませてでも出て行かせて、また同じ部屋での生活をするようになるだろう。
「はぁ・・・・・」
もっとまともな相手に好かれたかった。
できれば女性がよかった。
がたいのいい、190センチもある京楽は見栄えはいい。2回生の終わり頃まで女遊びが激しくて、よく廓にいっていた。
浮竹も、何度か連れられて廓にいったことがあるが、いい思い出はなかった。
浮竹が好きだといいだしたのが、2回生の終わりごろ。
3回生になる頃には、あれだけ激しかった女遊びをやめて、付き合っていた女生徒を振った。というか、振られた。
浮竹ばかりを見ていると。
京楽が浮竹に告白したということはすぐに学年中に知れ渡って、それを浮竹が断ったということも知れ渡った。
最初は差別があるのではと、思っていたが杞憂だった。
浮竹の周囲には、そんな友人はいない。言い出す人間がいると、みんなで庇ってくれる。
今では、浮竹と京楽は付き合っていると言われる始末だ。
付き合ってはいないのだが、もうキスとかハグは付き合っていないとしないと知って、ショックを受けたこともあった。
浮竹は恋愛ごとには奥手だ。
それをいいことに、京楽は浮竹を手に入れようとした。
でも、友人たちの厚い壁に阻まれて、京楽は浮竹に最後までできなかった。
それでよかったのだと思う。
好きだという確信がないまま、抱かれて京楽のものになるよりは。
「本当に反省しているな?」
「してます」
京楽を簀巻きにしていた縄と布団をとってやる。
「次やったら、部屋を出て行ってもお前はついてくるだろうから、お前についているものをもぐからな」
あひん。
京楽は、その言葉だけで精神に550のダメージを受けた。
「ひいいい、それは勘弁してえええ」
「お前が余計な手出しをしてこなければしない」
浮竹は溜息をつく。
「食堂に昼飯を食いに行こう」
「あ、うん」
休日ではあるが、食堂は休日でも空いている。院生の、寮に暮らす学生が食べる場所が他にないからだ。
浮竹の跡を、尻尾を振るようについてくる京楽は、さしずめ駄犬というところか。
何度教えても、芸を覚えこまないような、駄犬である。
「今日の昼は焼肉定食だよ」
「うわ・・・・・食いたくない」
「そんなことを言うと思って、サラダとか買ってきておいたから。今年初のメロンが手に入ったから冷やしてもらっておいたんだ」
厨房から、サラダとカットしたメロンを受けとって、浮竹の前におく。
この時期のメロンは高い。
「いくらしたんだ」
「安かったよ。27万」
「それは安いとは言わない・・・・・・」
でも、もう買われてカットまでされてあるので、食べなければもったいない。
まずサラダを完食してから、メロンを食べた。
甘い味が口中に広がる。
にこにこにここ。
焼肉定食(大盛)を食べながら、京楽は浮竹がメロンを食べいる姿をみるだけでも幸せそうだった。
「ほら、口あけろ」
「あーん」
口の中に、やや乱暴に、スプーンでとった果肉を入れてやる。
「んーよく冷えてるし、安かったわりにはいい味だね」
「どこが安いんだ」
「あれ、教えてなかったっけ。去年君に食べさせた初メロンは130万だよ」
聞かなかったことにしよう。
そう思う浮竹であった。
王様ゲーム
「いえーい、第1回王様ゲーム」
松本が、楽しそうにしていた。
集まったメンバーは、松本、日番谷、浮竹、京楽の4人だけ。本当はもっと呼ぼうとしていたのだが、恥になるからよせと日番谷の命令だった。
それぞれ、くじをひく。何番かがかかれてあって、王様は朱い色をしていた。
「王様は俺だ。1番が3番に肩もみする」
日番谷が王様だった。
「あたし1番だ」
「3番は俺だな」
松本が、浮竹の肩をもみだす。
「ああ、そこそこ・・・・・きくなー」
「ちょっとー浮竹隊長意外と肩こってますねー。一回、専用のマッサージ屋にいってみたらどうです?
「それもいいかもなぁ。でも高くないか?」
マッサージとか、エステ系はどうしても高いイメージが拭えない。
「もみほぐしコースで3千とかの店ありますよ。よければ紹介しますけど」
「それって、浮竹が裸に近い恰好になって、誰かに体を触られるってことだよね?断然却下だよ。浮竹のもみほぐしは僕がする」
「えー京楽が?お前に任せると、いかがわしいことしそうでいやだな・・・・・・」
「いやいや、真面目にするから。これでも、山じいから肩たたきのプロと言われた腕だよ」
「えー意外ー」
松本が、浮竹の肩をもみながら言う。
「次ひきましょ」
「王様誰だ」
「僕だね。2番が3番の胸に顔を埋める」
「2番あたしー」
「3番は俺かよ!」
「さぁ、隊長、神々の谷間にどうぞ」
「窒息させる気だろ!そうだろ!」
問答無用で、松本は日番谷の顔を胸に押し付けた。
「ちょっとうらやましい・・・・・・」
「同意見」
日番谷は、慣れていることとはいえ、松本の豊満すぎる胸に顔をおしつけられて、呼吸ができなくて苦しんでいた。
「ぶはっ、一瞬三途の川わたってた・・・・・走馬燈が」
日番谷が落ち着くのを少し待ってから、続きをする。
「なぁ、この遊びあぶねーと思うんだ。やめねえか?」
日番谷の言葉に、浮竹は賛成したが、松本と京楽は別だった。
二人して、にんまりとあやしい笑みを浮かべる。
「次の王様は・・・・・・また俺か」
日番谷が王様になった。
「3番が2番にパンチ」
「3番は僕だねぇ」
「2番はあたし・・・京楽隊長、歯食いしばってね」
思っきりパンチをしてきた松本に、京楽が吹っ飛ぶ。
「あべし!」
京楽は、けれどにょきっと復活して、すぐに次の王様をきめ出す。
「王様はあたし」
きたきたー。京楽はほくそ笑んだ。
「1番が3番にディープキス」
「1番は・・・・・・俺だ」
浮竹が一番で。
「3番は僕だよ」
きたきたー。これを京楽待っていたのだ。
「仕方ないな・・・・・」
松本と日番谷の目の前で、浮竹は京楽の服の襟をつかんで引き寄せると、ディープキスをしだした。
「んっ・・・・」
一度では足りないと、京楽は貪ってくる。
そのシーンを、松本は写メでとりまくっていた。
「松本おおおお!やめねーか!」
「無理です隊長!(*´Д`)ハァハァ」
「さてはお前ら、こうなることを見越してゲームを・・・・・」
松本と京楽が、繋がっていたのかと気づく。
「もういいだろう、京楽」
「もう少しだけ・・・・」
「いい加減にしろ」
頭をはたかれて、京楽は幸せそうな笑みを零した。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
と、何故か松本が答える。
浮竹は、情事の後っぽい気だるい雰囲気を出していて、色っぽかった。
「次で最後だ!」
日番谷が決める。
「えー、あたしまだやりたーい」
「僕もしたい」
「俺はもういい・・・・・」
潤んだ瞳と上気した頬のまま、浮竹はもう勘弁願いたいと思っていた。
「次も王様もあたしー!」
松本は調子に乗り出す。
「2番と3番が、ハグの後ディープキス」
「2番は俺だ・・・・・」
日番谷だった。
「3番は僕だ・・・・・」
京楽だった。
松本は鼻息も荒く、様子を見守っている。
「ハグくらいなら平気さ!」
京楽の大きな体が、小さい日番谷を抱き締める。
「もじゃもじゃがいてぇ!胸毛が顔にくる!」
日番谷は散々文句をたれた。
そして、いざディープキス・・・・・・。
「できるわけねーだろ、蒼天に座せ氷輪丸ーーーーー!」
「あーん、せっかく禁断の京楽×日番谷のシャッターチャンスが!」
ひゅるるるるるるどっかーん。
松本と京楽が吹き飛んでいく。ついでに浮竹もふっとんでいった。
顔を真っ赤にさせて、日番谷は舌打ちした。
「松本おおお、覚えてろよ」
当分の間、仕事づけにしてやろうと思う日番谷であった。
ピザだよ珍しいよ
「ピザ?・・・・ああ、現世にいたころそんな店あったな。松本、茶を二人前いれてくれ」
10番隊の執務室に遊びにきた浮竹は、ピザのはいった荷物を手にやってきた。
「えーあたしの分はないんですかー浮竹隊長」
「そういうと思って、もう1枚買っておいたんだ。なんでもデリバリーとかいう配達を、電話をすればしてくれるらしくて・・・・まぁ、浦原に頼んだんだが」
藍染との闘いが終わり、浦原と尸魂界とつながりが再びできるようになって、現世の代物がどさりと尸魂界に流れてこんでくるようになった。
「茶はいらんぞ。コーラなる飲み物ももってきた」
「なんだこれは?黒いお茶か?」
日番谷も現世にいたときがあったとはいえ、短期間だったために現世のものにあまり触れていなかった。
「炭酸飲料で、ふると中身がこぼれるから・・・・・・」
「それを早く言え」
松本が思いっきりシェイクしたコーラをあけて、松本も日番谷もコーラまみれだった。
とりあえずふいて、食べた後に湯あみすることが決まった。
「けこっううまいな、この飲み物」
コーラを手に、それを飲んでいく日番谷。
3人でピザをつまんでいた。ハーフ&ハーフで、2枚で4つの味が楽しめるようになっていた。
「お酒にあいそう~~~」
松本は、どこから取り出したのか酒をもちだした。
それを、日番谷が没収する。
「あーん隊長酷い」
「こんな真昼から、仕事もせずに飲むの許すわけねぇだろ!」
10番隊の執務室の窓に、べったりとはりついている何かが・・・・いや、京楽がいた。
「あのおっさん何してるんだ?」
「さぁ、混ざりたいんじゃないのか」
「声をかけてやらねーのか?」
「あいつ、朝からやりにきて満足して自分だけ眠りやがった」
ブーーーーー。
日番谷が、コーラを吹き出した。
「あ、朝から大変だったんだな・・・・・・」
「浮竹ぇ、僕だけ仲間外れにしないでくれー」
「1週間、甘味屋壬生に連れていくこと。それが参加条件だ」
「それでいいなら!」
どよーんとしていた京楽の雰囲気が、すぐに明るいものに変わる。
「そんなことでいいのかよ、浮竹」
「こいつとは、まぁ長年の付き合いだしな」
長椅子の浮竹の隣に座り、ピザを食べだす京楽。
「やっぱ現世の食べ物はうまいねぇ」
何気に4人分のコーラのペットボトルがあったのだ。浮竹も、最初から京楽を誘うつもりだったのだと分かって、安堵したような気持ちになる。
「ピザを食べるのは初めてじゃあないけど、いろんな味があっていいね」
「なんだ京楽、こんな珍しいもの食ってたのか」
「いやね、現世にいった子がお土産にいろいろもってくるから。その中に、冷凍ピザなるものがあってねぇ。火をおこして温めて、食べたことがあるよ」
「いいなぁ、京楽隊長。あたしも、現世にまたいきたーい」
「松本おおお!お前、この前仕事ほっぽりだして現世に買い物にくとかいって2日も行方くらましたばかりだろうが!!!」
日番谷に怒鳴られて、松本が反論する。
「非番の日でした!」
「1日だけな!2日目は非番じゃなかったろうが!」
「あーん隊長、そんなけちけちしないでくださいよー」
「誰のせいだと思ってやがる」
京楽と浮竹は、仲よくピザを食べている。
「はぁ・・・・」
怒っていても、ピザがなくなるだけなので日番谷も食べた。
美味しいが、とても珍しいのだ、尸魂界では。こんなもの、現世に行った時くらいしか食べれない。今後、隊長である自分が現世に行けるかどうかも分からない。
「まぁ、浦原か夜一に頼めば、手に入らないでもないから」
日番谷の考えていることを、浮竹が言う。
「たまには、食べてみたくなる味だろう」
「まぁな」
浮竹がさ、さっと自分と日番谷の居場所を瞬歩で入れ替えた。
「なんだ・・・・・・って、ぎゃあああああああああ」
さわさわ。
尻をなでてくる京楽の手に、日番谷は斬魄刀を解放した。
「蒼天に座せ、氷輪丸!」
「ぎゃああああああ、いつの間に浮竹が日番谷隊長と入れ替わって!?」
「このむっつりすけぺ野郎が!」
浮竹が、氷の龍の範囲の外から京楽にむけて舌を出していた。
「日番谷隊長に氷漬けにされるがいい」
「浮竹、お前も悪いいいいい!蒼天に座せ、氷輪丸!」
「のああああああ」
「隊長、あたし関係ないのになんてあたしまでええええええええ」
松本が巻き込まれて、天高く氷の龍と共に昇っていく。ピザとコーラをなんとか死守した日番谷は、一人で残りのピザを食べてしまった。
「ああああああああああ」
がっしゃん。
松本が、さかさまになって戻ってきた。
浮竹と京楽は、さすがというべきか氷漬けにされた部分を砕いて、瞬歩で逃げ出したようだった。
「浮竹のやつ、日頃から京楽にセクハラされてるのか・・・・・・?」
院生時代はよくあったが、その時はたまたまだったのだが。
「浮竹も、俺に相談すればいいものを・・・・・」
ちょっと心配になる日番谷であった。
院生時代の部屋32
運動して汗をかいたところを、京楽が近くにきて匂いをかいでくる。
立派な変態行為であるが、慣れてしまっている浮竹は、とりあえず京楽を蹴り転がした。
「君って、汗かいてても花の香のほうが勝るんだね」
「そうなのか。自分ではわからない」
自分の肌や髪から自然と放たれる、甘い花の香に嗅覚はもう麻痺していて、かいでも何も感じなかった。
「もっとかがせてーーー」
「断る!」
京楽を踏みつけて、浮竹は寮の自室に入ると、さっと汗を流して、院生の服も新しいのに変えた。
昼休みだったので、本当に汗を流しただけだ。湯あみもしたかったが、時間がなかった。
食堂にいくと、京楽が待っていた。
「Bランチ定食で」
「同くBランチ定食でお願い、綺麗なお姉さん」
「あらやだ京楽ちゃんったら、大盛ね」
ただでさえボリュームがあるのに、大盛にされてよく食べきれるなと、浮竹は思った。
同じ席に座り、向かい合って食べる。
今日は野菜のサラダがメインの、ヘルシーな食事だったので、浮竹も残すことなく食べれた。
「え、君の食べ残しがない!?くっ、せめて使っていたそのフォークを!」
フォークをぺろぺろしだす変態の脛を蹴る。
蹴ったところで動じないので、浮竹ももうかなり慣れた。
変態京楽。その名の通り、変態である。ただし、浮竹オンリー。
京楽から変態行為を取り除けば、紳士が残るが、変態を取り除くことは不可能なので、浮竹もその対応にたまに困る。
この前は、ベランダで干していたお気に入りの下着をもっていかれた。
今は、浮竹印の抱き枕があるくらいで、浮竹グッズは封印されている。
きっと、浮竹がいない間に浮竹グッズを出して悦に浸っているであろうことは、明白である。
「授業に遅れるから、いくぞ」
京楽は、フォークをなめるのをやめて、食器類を洗いものいればに置くと、浮竹に急かされて教室へと移動した。
今日の午後は、鬼道の練習だった。一度教室に集まり、鬼道の詠唱を覚えさせられて、運動場にでて、的に向かって打つ。
「破道の4、白雷」
詠唱破棄で、的を真っ黒焦げにした浮竹に、教師も舌をまく。
「破道の4、白雷」
同じく、京楽も詠唱破棄した。的は黒焦げになった。
「さすが浮竹と京楽だ。教師でも、もう鬼道の腕は叶わんな」
「そんなことありません、先生」
他の生徒たちは、ちゃんと詠唱を行って、的がやっと焦げる程度だった。詠唱をすると、周囲に被害が出るので、わざと詠唱破棄したのだ。
「まだ教わっていない鬼道もありますし、縛道なんて半分しか使えません。回道も習いたいし・・・・・・」
「おいおい、もう縛道の半分も詠唱できるのか。凄いな」
浮竹も京楽も、鬼道が得意というわけではない。ただ突出した霊圧のお陰で、威力が他の生徒の何倍にもなるのだ。
すでに3回生にも関わらず、席官入りの話が出ていた。
「回道は・・・・得手不得手があるからな。今後の授業で学んでいくが、あまり使えなくても気落ちするんじゃないぞ」
「はい」
「ふあ~」
浮竹が教師と真面目な話をしている間、京楽は眠そうにずっと佇んでいるだけだった。
「先生に失礼だろう」
浮竹の蹴りが、京楽のけつにヒットした。
「あいた!」
「全く、お前は・・・・・」
その後も鬼道の授業は続いた。まだ学んでいない鬼道の詠唱を覚え、放つ。やはり、他の生徒の数倍の威力があった。それでも、威力を抑えたつもりであった。でも、風がおこり、他の生徒の一人が倒れて腰を打った。
すぐに、回道の得意な子が傷を癒してくれたので、大事に至らずにすんだ。
「なんだかねぇ。思いっきり、鬼道詠唱して、威力だしてやってみたいね」
「ばか、そんなことしたら授業じゃなくなるだろう!」
本当なら、高学年に移動するほどの成績なのだが、当時の学院には、スキップ制度がなかった。
一日の授業が終わり、鬼道ばかりを使っていた浮竹は、他の生徒の指導も任されて、疲れていた。一方の京楽は、授業の途中からさぼってしまい、何処かへ行ってしまった。
浮竹のお陰でみんなけっこうすんなりと破道の4白雷を覚えて、授業が早めに終わった。
湯あみをしよう。そう思って、寮の部屋に戻ってきたのだが、鍵がかかっていた。またかと思って、心を落ち着かせて、合鍵で部屋の中にはいる。
この前、盗まれた下着を、京楽は頭にかぶっていた。
「・・・・・・・破道の・・・」
「ま、待った!このまま鬼道を受けたら、僕のコレクションのパンツまで黒こげになってしまうよ!部屋中も滅茶苦茶になるよ!この前みたいに、鬼道を室内で使って怒られたくないでしょう!?」
その言葉は最もだった。
「歯をくいしばれ」
蹴りがくると身構えていた京楽の頬を、ビンタした。10往復ビンタされて、はれがあった頬を手に、京楽は嬉しそうにしていた。
「浮竹の愛を感じる・・・・・いつもの蹴りでも愛を感じるけど、今回は更に愛を感じる」
だめだ。
こいつ、変態だった。
蹴りもビンタもパンチも、愛だと感じ取れるその性分が凄い。
「はぁ・・・・誰か、部屋入れ替わってくれないかな」
退学した友人のいた相部屋は、すでに他の人が入っているので、泊まれない。
ふと、パンツを置いて、真面目な顔をされた。
トクンと、胸が高鳴る。
「君が好きだよ・・・・浮竹」
「んっ」
触れるだけのキスをされて、抱き締められた。
何度かキスしているうちに、パンツを頭にかぶっていたことがどうでもよくなってくる。
今回は、俺の負けということにしておこう。
「キスもハグももういい。湯あみしてくる」
京楽は、浮竹の裸を見れるチャンスなのでそわそわしていた。でも、浮竹もバカではない。脱衣所に鍵をかけるようになった。最初はそれを壊していたのだが、浮竹が怒るので、壊さなくなった。
浮竹が、鍵を開けて中から出てくる。
少し伸びた髪から、雫がぽたりと落ちた。
「風呂上がりの浮竹の匂い~~~」
スンスンと臭いをかいでくる京楽を無視して、ベッドに横になった。食堂で弁当を買ってきたので、夕食は後にとることにする。
「疲れた。少し眠る」
「おやすみ」
当たり前のように、浮竹のベッドに寝転がってくる京楽。最近寒いので、湯たんぽ代わりにしているので、浮竹も文句を言わなかった。
ふと、京楽は真面目な顔で、眠った浮竹に口づける。
「道化である限り、君は迷わなくてすむ・・・・だから、道化を演じる・・・・なんてね」
にんまりと笑みを零して、やっぱり京楽は京楽なのであった。
朽木隊長と浮竹2
ゴロゴロゴロ。
畳の上を転がる浮竹に、白哉は溜息を零した。
「兄は、仕事はどうした」
「それが、臥せっていた間に3席の清音と仙太郎が全部してしまって・・・・」
「恋次、遊んでやれ」
「ええ、なんで俺なんですか!」
「この中で、浮竹に次いで暇なのは恋次、兄であろう」
「阿散井副隊長でもいい、遊んでくれー」
ゴロゴロゴロ。
転がってくる浮竹を避けて、恋次は逃げ出した。瞬歩だ。
「ああ、逃げられた・・・・・」
転がるのをやめた浮竹は、去ってしまった恋次があけていった窓を見る。
「というわけで、白哉、遊んでくれ」
「兄は・・・・・はぁ」
珍しく、白哉が戸惑っていた。
浮竹に、暇なら遊びに来いといったのは白哉自身だ。だが、こんなにも早くに遊びに来るとは思っていなかった。
「仕事、手伝おうか?」」
「いらぬ。兄に心配されずとも、もう終わる」
そう言って、白哉は仕事を終えた。
「何をして遊ぶつもりなのだ、兄は」
「何も考えてこなかった・・・・・・・」
「ここにわかめ大使の着ぐるみがある」
ごくり。
それをどうしろと?
「着るか?」
「いや、着ない」
「私も着ない。恋次に着させようと思っていたのだ」
「阿散井副隊長に着せて、どうしようと?」
「写メをとって、ルキアに送るのだ」
阿散井副隊長が逃げ出したのには、そんなわけがあったのかと、浮竹は思った。
わかめ大使、おいしいけど、見た目がな。
「ここはシンプルに・・・・トランプでもしよう」
トランプなるものが尸魂界ではやりだしたのは、数年前から。
浮竹の持ってきた荷物の中には、他にも双六、花札、オセロ、人生ゲームがあった。
それらをとりだしていると、白哉は人生ゲームに興味を示した。
「これはなんだ?」
「現世での遊びで、サイコロのコマをまわした数だけ進んで、人生を決めていくんだ。双六みたいなものかな」
「ふむ。これがいい。これを兄としよう」
こうして、二人だけで人生ゲームをはじめた。
結果、白哉は社長になって大金持ちになり、子供も4人もできた。浮竹は借金を背負って結婚したが離婚された。
「子供ができる以外、あまり現実と変わらぬな」
社長という存在も、白哉には分かっているようで、大金持ちなのに人生ゲームでも大金持ちになってつまらないようだった。
「兄の人生ゲームの結果のほうが面白そうだ」
「ええ、借金抱えて離婚されるんだぞ」
「四大貴族なのに、ゲームの中でも金持ちになっても意味がない」
「白哉は我儘だなー」
「兄の人生は・・・・兄は、今幸せか?」
「うん?俺は幸せだぞ。確かに肺の病せいもあって、幼少の頃は生きているのも嫌だったし、家族に迷惑をかけて薬代で借金を両親は重ねたりしてたがな。今は隊長になって京楽と一緒にけっこう羽目外したりして元柳斎先生に怒られたりもするが、比較的幸せなほうだと思う」
「総隊長に怒られるとは、どのようなことを?」
「よっぱらって、隊舎半壊にさせた」
「それは怒られるであろうな」
ふと、白哉の顔に笑みといえる表情が浮かんだ。
緋真を亡くしてから、さらに感情が読み取れなくなったのだが、義妹であるルキアと和解し、雪解け水のように凍っていた関係が解けてきている今は、表情も豊かになった気がする。
「浮竹ー」
「あれ、京楽?」
ここは、朽木家の屋敷にある、白哉のための執務室だ。6番隊の執務室では狭いというので、朽木家に執務室を構えていた。
その部屋に、京楽がやってくる。
「お邪魔してるよ。家人には、ちゃんと許しはもらったから」
隊長格、副隊長格であれば、何も言わずに通せと、白哉は家人に命じてあった。
「浮竹、仕事終わったから・・・・って人生ゲーム?朽木隊長が人生ゲーム!?」
「何かおかしいか」
「いやあ、意外過ぎてちょっと笑える」
「こら、京楽失礼だぞ。あそうだ、これ京楽着てみろ」
有無を言わさず、無理やりわかめ大使の着ぐるみを着せられた京楽は、心なしかしょんぼりしていた。
伝令神機で写真をとられているうちに、どうでもよくなかったのかポーズまでつけだした。
それを、浮竹は笑って写真をとっていた。心なしか、白哉も口元にうっすらと笑みを刻んでいた。
「はぁ。もう十分でしょ。疲れた。この格好、けっこう暑いね」
「兄のお陰でいい写真がとれた。ルキアに送っておこう」
浮竹に手伝われて、わかめ大使の着ぐるみを脱いだ京楽は、散らかっていた人生ゲームとかを片付けて、浮竹に渡す。
「白哉、今日は遊んでくれてありがとう。またくる」
「兄の好きなようにしろ・・・・・」
朽木家を出ると、京楽は浮竹にキスをした。
「んう・・・・・・」
「君が、朽木隊長に大事されて、何もないとは分かっているんだけどね」
「杞憂だ」
浮竹が、京楽の髪をひっぱる。
ねだられて、もう一度キスをした。
「はっ・・・・外でこういうのって、ドキドキするな」
「もっとしてもいいんだよ」
「だめだ。キスとハグまで。仕事は全部片したんだろうな?」
「当たり前でしょ。そうじゃなきゃ、七緒ちゃんが解放してくれないよ。この前暇だから、大分片付けておいたお陰で、午前中だけの拘束ですんだ」
「こんな時に限って、日番谷隊長と松本副隊長は現世だしな」
暇で仕方ないから、白哉の元に遊びにいった。白哉がまだ隊長になる以前からの付き合いだが、昔は少しやんちゃであったが、今では死神と貴族の手本のように生きている。たまにわかめ大使とか変なとことはあるが。
「朽木隊長と浮竹ってけっこう仲いいからね~。この前の乱菊ちゃんの小説のようなことにはならないって分かってるけど、心配になる」
「だから、杞憂だって」
「とりあえず、雨乾堂に帰ろうか」
「そうだな」
二人が去ったのを確認して、白哉は恋次の名を呼んだ。
「兄は、いつまで隠れているつもりだ」
「だって、あんなシーンで出れるに出れないでしょうが!」
「兄は、この後わかめ大使の着ぐるみを着ろ」
「命令系だ!隊長、職権乱用だ!」
「それがどうした」
「あーもう、逃げた意味がねぇ」
結局、恋次もわかめ大使の着ぐるみを着せられて、その写真はルキアの元に送られ、ルキアから一護に送られ、一護から他の死神たちに送られて、恋次は笑われるのであった。
甘味屋
技術開発局のパソコンありき、伝令神機ありき、その他もろもろ。
「人間ってすごいな」
「何を突然いってるんだい」
「いやぁ、このこたつを編み出した人はすごいと思って」
こたつが尸魂界でもでできたのはここ数年のことだ。それまでは寒さをごまかすとしたら火鉢しかなかった。雨乾堂でも火鉢は置いてある。
でも、こたつのほうが楽だし暖かい。
「おはぎを考えたのも人間だし、梅干し茶漬けを考え出したのも人間だし・・・・・」
「言い出したら、きりがないよ」
「とにかく人間は素晴らしい。と思う。多分」
「まぁ、学院ができた頃なんて現世の日本じゃ弥生時代とかすごいことになってたからね。文明開化の起こった以後の日本は凄いと思うよ。特にここ数十年は、ほんとにすごい。現世じゃエアコンなるものがあって、夏の暑い時は冷房を、冬の寒い時には暖房を・・・・・それが当たり前の時代になってるからねぇ」
「尸魂界は少し閉鎖的だからな。鎖国してい江戸時代に少し似ている気がする」
「まぁ、古きよき時代をいつまでもってわけにもいかないからね。このこたつみたいに、現世から入ってきたものも多い。伝令神機だって、携帯っていう現世のものを真似ているからね」
京楽は、自分のもっている伝令神機にメールを送る。
それは浮竹の元に届いた。
(今日の夜、抱いてもいいかな)
(却下)
すぐにそう返されて、京楽はがっくりと肩を落とした。
(甘味屋につれてってくれるなら、考えないこともない)
(今すぐ甘味屋へいこう)
京楽は、浮竹の腕をとって草履をはいて歩きだす。
「待て、京楽」
あまりにも急なものだったから、こたつの上に自分の伝令神機をおきっぱなしにしていた。
「とってくる」
肌身離さず、なるべく持っているようにと言われているので、京楽も浮竹を待った。
「またせたな」
外は寒いので少し厚めの上着を着た。
「今すぐ甘味屋へ行こう今すぐ今すぐ」
「どんだけ行きたいんだお前。そんなに俺を抱きたいのか」
「そりゃもちろん。許されるなら今すぐ押し倒して・・・・・・」
その続きを、浮竹は京楽の手で塞いで言わせなかった。
「ここだと、清音と仙太郎に聞こえる」
ちょっと頬を朱くしたところとか、かわいいと思ってその頬にキスをする。
「壬生の甘味屋まで行こう」
少し遠くになるが、味がよく、流行っているお店だった。
二人そろって、歩きだす。
いつの間にか、手を繋いでいた。
「隊長、こんにちわ」
「浮竹隊長、デートですか」
「浮竹隊長、京楽隊長と相変わらず仲いいですね」
すれ違う死神たちは、浮竹と京楽の仲を知っているので、手を繋いでいても誰も不思議に感じない。違和感のない今のほうが不自然であると、二人は気づいていない。
手を繋いで歩く仲。これが二人にとっての自然体なのだ。
寒いなと思ったら、少し早いが雪が降ってきた。
「もう冬か」
「今年は暖冬になるとかいってたけど、いまいち当たらないね。夏も冷夏だっていってたのに酷暑だったし」
「今年の夏は一段と暑かったなぁ。あまりにも暑いので水かぶってたら熱出したし」
「君、僕のいない時にそんなことしてたの!真夏でも、君は水なんかかぶっちゃだめだよ。きっと、濡れた髪のままで、そのまま寝て風邪ひくんでしょ」
「お、正解。よく分かったな」
「君の行動って、たまに規格外のこと起こすから」
「この前、元柳斎先生に給料あげてくれっていったら、飴玉もらった」
「あああ、何してるのこの子!」
はやくなんとかしなければ。でも何を?
「飴玉でごまかされたから、次の日給料あげてくれっていいに行ったら、おはぎをもらった」
「だめだ、もう手遅れだ・・・・・・」
京楽の心配事は尽きない・。
「甘味ものでつられないぞっていって、給料あげてくれっていったら、お茶をだされた。作法忘れがちだったから、思い出すのに苦労した」
浮竹が給料あげてくれと言って、甘味もので誤魔化されいるシーンを想像すると、なんか萌えてきた。
「何このかわいい生き物・・・・・・・」
「ついたぞ。座る場所あるかな」
壬生と書かれた看板と旗があった。
中に入ると人気があるだけあって、混雑していた。幸いにも並ぶほどではなかったので、店の中に入って二人であることを告げると、奥のテーブルに案内された。
「白玉餡蜜3人前」
「いきなりそんなに食べるの?」
「おなか減ってるから」
「昼餉、ちゃんと食べた?」
「食べた。甘味屋にくるとお腹がすくんだ」
どういう体の構造してるんだろうとは思ったが、口には出さない。
「お姉さん、白玉餡蜜3人前と、抹茶アイス1つ」
給仕係を呼んで、注文する。
白玉餡蜜を3人前ぺろりと平らげて、浮竹はさらに注文していく。
京楽も白玉餡蜜を注文してみたが、一人分で十分だった。
「満足した」
3人前くらいは平らげて、浮竹は言った。
「まぁ、こんなに食べればね・・・・・」
テーブルの上には、下げられた分を除いても、けっこうな空の皿があった。
「これで、夕餉も食べるんでしょ?」
「当たり前だ」
「よく食べれるね。僕なら胃もたれおこしそう」
「甘味ものは別腹だ」
ここまで完全に別腹にできるのも珍しいと思うが、口には出さない。浮竹の勘定の分も、京楽が払って甘味屋を出た。
「今日は抱いていいの?」
「1回だけなら」
京楽は、店の外でガッツポーズをとった。
ちらちらと、視線が痛い。
「ほら、帰るぞ」
「はいはい」
また手を繋いで歩きだす。
雪が本格的に降り始める前に帰るために、少し歩行の速度をあげた。その気になれば瞬歩があるが、普通に歩けるときは歩くべきだ。
「雪、つもるかな?」
「んーこの調子なら、積もる前に解けちゃいそうだね」
「残念」
吐く息が白い。繋ぎあった手は、でも暖かい。
雨乾堂まで手を繋いで帰ると、清音と仙太郎がいた。
「どうしたんだ?」
「隊長にお茶を持って行こうと思ったら・・・・・」
猫が一匹、こたつにもぐりかけていた。
「はっくしょん。だめだ、僕猫アレルギーなんだ。なんとかしてよ」
「こんなにかわいいのに」
浮竹が、雨乾堂でこたつの近くで猫をゲットして、仙太郎に渡した。
「この子、5席の子のとこの猫だ。渡しておいてあげてくれ」
「了解であります隊長!」
「ええ、隊長私は!?」
「清音は・・・・・そうだな、玉露のお茶を二人前入れてくれ。お前の出すお茶が一番うまい」
どうだみたかと、清音は仙太郎を見る。仙太郎は、燃えるように嫉妬しながらも、猫を抱いて隊舎に戻っていく。
ちらつく雪が、窓から入ってくるので、窓をしめた。
こたつの中に入って、だらだらしだす。
「隊長、お茶です」
「ああ、ありがとう・・・・・・」
暖かいお茶を飲んでいると、眠気が襲ってきた。
「少し寝るかい?僕が起きておくから、1時間くらいしたら起こしてあげるから」
「そうしてくれ・・・・」
布団をしいて、横になる。意識はすぐに落ちていった。
「浮竹、浮竹」
「んー?」
「もう一時間以上たってるよ。何度起こしてもおきないんだから・・・・・・」
「あー、もうこんな時間か。湯あみして、夕餉にするか」
今日も、平和な何もない一日が過ぎていく。
でも、それもまた幸せの形なのだ。
双魚のお断り!
瀞霊廷通信に載せるための小説を、浮竹は書いていた。勧善懲悪の、一話完結型の小説だ。月に一度の連載であるが、浮竹の体調によっては休載の時もある。それにも関わらず、瀞霊廷通信の中で人気のある作品であった。
「遊びにきたよー浮竹ー」
「よし悪は京楽の息子ということにしよう」
「浮竹ー?僕、結婚してないから息子なんていないんだけど・・・・・あ、もしかしてそっちのほうの息子?」
下ネタできた京楽を、浮竹は足払いをしてこかした。
「もぎゃっ」
見事に躓いた京楽の潰れた蛙のような悲鳴を聞きながら、浮竹は原稿を完成させた。
「よし、後はこれを檜佐木副隊長に渡せばOKだ」
「浮竹、それより足どけて。僕踏んでるから」
片方の足を、京楽にのせたままだった。わざとしていたので、謝らない。京楽はよく足癖が悪いというが、幼い頃、見目のよかった浮竹は人さらいに攫われそうになったこともある。それを心配した祖父が、幼かった浮竹に護身術として、蹴りに重点を置いた格闘術を授けた。そのせいで、特に京楽には手が出るより先に足が出る。
やっと京楽から足をどかしたかと思うと、今度は京楽の背中に座った。
「ちょっと浮竹、僕は椅子じゃないよ」
「昨日の今日だぞ。よく遊びにこれたな」
1週間に2回と決めているのに、京楽は昨日浮竹に手を出した。1週間で3回目になる。約束を破ったことに、浮竹は腹を立てていた。
「だって、風呂上がりの浮竹があまりにも色っぽかったから」
「約束は破るなと、あれほど口を酸っぱく言っておいたよな?」
「うわーん、ごめんなさい。僕が悪かったよ。1週間は手を出さないから、それで勘弁してくれないかい」
「2週間だな」
「そこをなんとか1週間に」
「いいや、2週間だ」
「1週間」
「3週間のほうがいいか?」
「2週間我慢します・・・・・ガクリ」
力尽きた京楽の上からどいて、浮竹は白い半紙に書をしたためた。そこには大きな文字で2週間禁欲と書かれた。達筆だった。それを、壁に飾る。
「これを見て、反省するように」
「はい・・・・・」
項垂れた京楽は、何か荷物を持っていた。その包みをとると、おはぎが入った重箱があった。
「これで、俺の気を紛らわせようと?」
「うはっ、バレバレ・・・・」
「清音ーーー!」
「はい、隊長!」
「お茶を二人分入れてくれ。この前京楽にもった玉露のやつを」
「分かりました!」
奥の隊舎のほうにひっこんでからすぐに、いい香りをさせたお茶をいれた湯呑が2つテーブルの上に置かれた。
「はぁ。お前は昔から決め事を守らないやつだからな。もう流石になれた。この関係を数百年も保っていくのに、お前の決め事を守らないことにずっと腹を立てていると、生き辛くなるだけだ」
「まぁまぁ、僕だってなるべく守ろうとしてるよ。でもたまにはいいじゃない」
「よくない。決め事は守れ。仕事もまた溜まっているんだろう?」
「はははは・・・・・2か月分溜まってる」
よくもまぁ、2か月分も溜めれるものだと思う。浮竹でも、臥せっている時期が終わればすぐに仕事にとりかかり、溜めても半月分を1週間でこなして終わる。
「仕事もちゃんとしろ。いくら伊勢副隊長が代わりに仕事をしてるといっても、隊長でなきゃ片づけられない仕事も多いだろう」
「そうだねぇ。こういう時は日番谷隊長を見習いたくなるね」
「日番谷隊長は事務系の仕事が得意だからな。他の隊に回そうかって案件になると、よく10場番隊に書類が回される」
日番谷は仕事ができるが、副隊長に恵まれていない。日番谷の副官である松本は、真昼間から酒を飲み、よく仕事をさぼる。この位置に、七緒をいれたら、仕事ができぱきできるコンビが完成するだろう。もしも京楽の副官が松本であれば、8番隊はいつまでたっても仕事が終わらない場所になってしまう。仕事の能力もだが、一番は戦闘能力を重心に隊長と副隊長を分けているため、どうしても仕事の嫌いな死神というのも出てしまう。
護廷13隊で、一番滞りがちなのは、やはり8番隊か。10番隊は日番谷が副隊長の分まで仕事をするため、それほど滞らない。
お茶をすすってから、重箱をあける。おはぎを1つ食べて、またお茶をすすった。いつでもお茶がいれられるように、清音は急須とお湯を置いてくれていた。
「うちんとこの清音と仙太郎も、仕事というか俺の世話とかよくしてくれるけど、京楽の場合は伊勢副隊長に耳を引っ張って持っていかれるもんな」
「ああっ、この前のことは忘れて!滅茶苦茶かっこ悪いから!」
顔を手で覆う京楽が面白くて、浮竹は続ける。
「栄養ドリンク片手に、2日徹夜、だったっけ?」
「あああああ」
地獄を思い出して、京楽が泣き真似をする。
「浮竹が苛める!」
「京楽なんて、苛めたところで所詮京楽だしな」
「酷い!僕とのことは遊びだったのね!」
「おはぎ食えよ。お前の分がなくなるぞ」
「いいよ、全部食べても。まぁ、全部食べたら夕餉が食べれないだろうけど」
「いや、普通に夕餉も食うが?」
「食べすぎじゃない?ああでも、浮竹は甘いもの食べても太らないからね。まぁ、夕餉を食べても変わらないからいいか」
京楽も、重箱のおはぎに手を伸ばした。
「これ、新しくできた甘味屋のやつだけど、悪くはないね。まぁ、特に美味しいというわけでもないけど」
「俺的には、壬生の甘味屋のおはぎが好きだな」
「今度は、そこのを買ってくることにする」
おはぎを入れている重箱の一番下には、チョコ饅頭が入っていた。
「新しくでききた甘味屋の、目玉商品らしいよ」
手に取って食べてみる。
ほんのりとしたチョコの味と、白いあんこがよくあっていた。
「普通に美味いな」
「そうだね」
「これといって新鮮さがない。ちょこ饅頭なんて、他の店でも売ってるだろうし・・・・多分、新しくできたとこ、1年もしないうちに潰れるじゃないか」
行く前から、すでに潰れるを宣言された甘味屋は、本当に1年ほどして潰れることになる。
「今日は泊まっていくか?」
「うん、いいなら泊まっていく」
「夕餉まで時間があるな。先に湯あみして、花札でもやろう」
二人して背中を流しあい、髪を洗いあった。風呂上がりの浮竹は、とにかく甘ったるい香をさせていて、つい手が出したくなのだが、壁に飾られた2週間禁欲の文字を見て、とほほと呟く。
髪が長いため、昔は乾かすのに時間がかかっが、今では現世のドライヤーなるものを取り入れているせいで、長くても湯冷めすることなく髪を乾かせた。
二人して、1時間ほど花札をしただろうか。段々飽きてきた。
「少し早いが、夕餉にしよう」
「そうだね」
「清音、仙太郎!!夕餉の用意をしてくれ!」
「隊長、かしこまりました!」
「あ、インキンタムシ、あたしが先に呼ばれたのよ!ひっこんでなさいよ!」
「なんだとこのクソゴリラ女が!!」
「ほら、二人とも仲良くしなさい。京楽がいるんだぞ」
清音と仙太郎は言い合いをしながらも、それぞれ浮竹と京楽の分の夕餉を持ってきてくれた。
「今日はちらし寿司か。お、うなぎがのってるな」
昔は高級魚として、貴族くらいしか口にできなかったが、養殖が始まって一般隊士や、流魂街の民もある程度は口にできるほどにまで、値段が下がっていた。それでも、いちおう高級魚なので、一般隊士が口にするのも年に数度というかんじだろうか。13番隊の朝餉、昼餉、夕餉は、基本、味噌汁、ごはん、つけもの、焼魚というなんとも質素なものばかりがでていたのを、京楽が金を出して変えさせた。浮竹にもっと美味しいものを食べてほしいからだ。
ちらし寿司に乗っているうなぎは、天然もので脂がよく乗っていて旨かった。
「んー美味しいね」
同じくらい金をかけているのに、8番隊と13番隊ではこんなにも食べるものが違う。8番隊は上級貴族の京楽のために、こった料理が出されるが、冷たくておいしさも半減してしまう。
13番隊のご飯は、夕餉の時間に合わせるように調理されて、ご飯でさえ湯気がたつような温かさで、どこか家庭的で美味しかった。
「僕、13番隊に移動しようかな」
「やめろ、お前のような酒ばっかり飲んで仕事もしない、ごくつぶしを雇用する気はないぞ!」
「酷い!僕とのことは遊びだったのね!」
「お前、最近その台詞多いな」
「あれ、そう?」
「うん」
「うーん、マンネリ化してきたかな」
「どうでもいいが、デザートの梨は食べないのか?」
「いいよ、君にあげる」
浮竹の夕餉は、京楽のものの3分の2しか量がなかった。食が細いのだが、デザートや甘味物といったスィーツ系は別腹らしい。よくこんな量が食えるなというだけ食う。
梨をもらって、幾分ご機嫌な浮竹の白い髪を手に取って、口づける。禁欲生活を強いられているので、できるのはキスとハグまで。それ以上したら、浮竹の怒りを買う。
「はぁ・・・・院生時代はよかったなぁ」
「何が」
「いや、毎日のように体つなげれたし」
真っ赤になった浮竹が、京楽の脛を蹴った。
「あいた!」
「デリカシーのないやつだな!禁欲3週間にするぞ」
「うわああああ、ごめんってば!」
「今度の双魚のお断りは、貞操を狙ってきた悪を退治する話にしよう」
「え、それもしかして僕を敵に見立てて書くの?」
「そうだ。何か文句でもあるか」
「ありまくりだよ!僕はそこまで無節操じゃないよ」
「似たようなもんだろ」
浮竹に言わせれば、京楽は性欲の権化だ。週2でもきついのに、この年で週3にするなど、浮竹にとっては無理があった。
夜は、泊まることになっていた。布団は2組あったが、結局ほだされて同じ布団で寝た。京楽の腕の中で寝ることに慣れすぎてしまって、それが禁欲生活を厳しくさせているのだと、本人は気づかない。
「あー。これって生殺しっていうんだよね」
腕の中で、いい匂いをさせてすうすうと眠る麗人を抱き締めて、京楽もいつの間にか意識は闇の中へ落ちて行った。
「よし、できた」
「何が」
「昨日書いた双魚のお断り!に今日落という無節操なエロ好きの敵をだしてみた」
「今日落・・・・京楽。響き一緒じゃないか!」
「いいだろう、そのくらい」
「絶対、その原稿の敵、僕だって一部の読者というか、死神は気づくんじゃないの」
「別に知られても痛くもかゆくもない」
「僕が痛いよ!やっぱり、僕とのことは遊びだったのね」
「さて、入稿してこよう」
「無視とかひどい!」
泣き真似をするが、浮竹が歩き出すその後を、あひるのひなのようについていく。檜佐木のところまでくると、京楽は相変わらず、浮竹の後ろをついて歩く。
「あれ何っすか、浮竹隊長」
「ああ、新種の生物、キョウラークだ」
「聞こえてるからね!?」
「キョウラークは、人語を理解できる」
「どういう設定!?」
「さて、帰るか。いくぞ、キョウラーク」
「あ、待ってよ」
ぱたぱたと、駆け足で浮竹についていく。その姿が、恋人同士というより夫婦に見えて、檜佐木は溜息をつくのであった。
スマイル0円(閑話)
接客ではなかったのでよかったと思いながら、昼の一番混んでいる時間には接客もさせられた。
「いらっしゃいませ」
笑顔をつくっているはずが、頬の筋肉が引きつる。
「うわーーん、まま、このおじちゃんこわいよー」
「お、おじちゃん!?」
一護はまだ10代だ。18歳だった。幼い年齢からみれば、おじちゃんなのであろうか。
もうバイトは首を覚悟に、適当に接客した。
だが、首にならなかった。女性客が3割増えたそうだ。一護がきてから。
「スマイルを。あとダブルチーズバーガーのセットを」
スマイル0円。それがマクドナルドの売りであるのは知っている。
ぎこちない笑みを顔に刻むと、客は写メで一護の写真を撮った。
「やーん、やっぱかっこいいー」
そういって、品物を受け取って去って行った。
「大分繁盛しているようだな」
「いらっしゃいま・・・・・・ぶはっ」
いつ現世にきたのか、客として並ぶルキアの姿があった。
「ご、ご注文はお決まりでしょうか」
「スマイルをくれ」
にっこりー。
バイトして2週間で培った、営業スマイルを浮かべる。
パシャり。それを伝令神機でとると、ルキアは拡散するように一護の知り合いの死神たちに向けてその写メールを送った。
「おい、何してやがる」
「あらー、お客様にむかってその態度はなんなんでしょう」
店長が、ギロリと睨みをきかせてくる。
「お、お客様、ご注文はお決まりでしょうか」
「スマイルを」
ぴきっ。一護の額に血管マークが浮かんだ。ルキアはわざとだ。わざと、からかっているのだ。
「何か注文しやがれ」
小声でいうと、ルキアはこういう。
「お前のおごりで、月見バーガーセットを。ドリンクはコーラで」
「金くらい自分でだしやがれ」
「あいにくと、今手持ちがないのだ」
にこにこにこにこぴきっ。
「だったら並ぶな」
「一護、おごってほしいぞ」
「ああもう、おごってやるからさっさと行け!」
注文をうって、自分の財布からお金をだしてレジに入れる。
店長は、違うところを見ていたので、ばれなかった。
客をおごるなんて、普通なら言語同断である。後でお金を返してもらうならいざ知らず、その場でバイトをしている者が金銭をレジにいれることは普通ない。
接客を他の店員に任せて、月見バーガーのセットをルキアの座る机の上に置く。
「貴様も座れ」
「無理言うな。俺はいまバイト中だ」
「ちっ、つまらん」
「そもそも金がないならなんできた!」
「貴様に会いたかったから」
顔が赤くなるのを感じた。
「たまにしか現世にこれんのだ。たわけ、それくらい察しろ」
「あと2時間でバイト終わるから、それまでそのセットでも食ってねばってろ」
コーヒー一杯で3時間とかねばる客もいる。
「ふむ・・・・まぁまぁの味だな。ジャンクフードは体に悪いから兄様になるべく食べないようにと言われているが・・・・・うむ、いけるではないか」
あろうことか、ルキアはおかわりを所望した。
一護を呼びつける。
「なんだよ、今接客で忙しいんだよ!」
「あの月見パイとマックシェイクが飲みたい。もってこい」
「あのなぁ。並べ!ちゃんと客の列に並んで、注文しやがれ。あとこれ、それを買うための金!」
テーブルの上に、ばんと、千円札を置いた。
「ふうむ。注文するのにまた並ばねばならぬのか。変わった店だな」
マクドナルドのような店にきたのも始めてで、久しぶりに味わう現世は美味しいものだらけだった。
ルキアは、大人しく客の列に並ぶ。
一護は祈った。どうか、ルキアに当たりませんように。
「いらっしゃいま・・・またお前か」
「月見パイ1つと、マックシェイクのM、バニラ味で」
「よく食うな」
「お客様に向かって失礼であろう!」
鳩尾に拳をいれられた。
「おうふ・・・・・・・この野郎、後で覚えてやがれ!」
結局、ルキアは注文したものを全部一人で平らげてしまった。
細いのに、どこにそんなに入るんだと、一護も不思議に思ったくらいだ。
やがてバイトが終わり、ルキアを連れてアパートに帰る。
一護のスマホに、死神仲間からメールが届いていた。
「何々・・・・ひきつった笑顔が気持ち悪い、一角。美しくない、弓親。スマイルするならもっと練習しろ、冬獅郎。アホみたいな顔してる、乱菊。ま、愛嬌があっていいんじゃないの、京楽。夜一様の笑顔の方が美しい、砕蜂。バカ面してんじゃねぇよ、恋次。兄の顔は間抜けだ、白哉・・・・・・・(#^ω^)」
「ははははは、面白い顔だな、一護」
「誰のせいだと思ってやがる!!!!」
ルキアをベッドに押し倒した。
「はははははは」
それでも笑っているルキアの足をこしょこしょしてみた。
「あっはははは、かゆいかゆい」
「お前なぁ。俺の部屋にいるんだぞ。もうちょっと、色気のある言葉しゃべれねーのかよ」
「兄様を呼べばいいのか?」
「だああああああ、止めろ!」
婚約を交わしたとはいえ、こんな場面を白哉が見ようものなら、千本桜を手に追いかけてきそうだ。
「好きだぜ、ルキア」
シャンプーの匂いがする体を抱き締める。
ルキアも、一護に抱き着いた。
「私も貴様が好きだ、一護。明日も、マクドナルドとやらにいってやろう。10万あれば足りるか?」
「ああもう、お前も白哉も金銭感覚崩壊してるな!1万もあれば十分だよ!厳密にいえば普通なら千円あれば事足りる」
「そうなのか。兄様からこれだけ借りてきたのだか」
札束の数を数えると、2千万はあった。
「家が1軒買えるじゃねか。こんなにいるか、あほ!」
「追伸、兄様へ。一護が兄様のことをアホといっていました、と。送信完了」
「だああああああああ!何してやがる!!!」
ルキアから、白哉専用携帯を取り上げる。
「兄は、何をしているのだ?私のどこがあほだというのだ?」
背後から声をかけられて、一護は飛びあがった。
「出たあああああああ!」
一護は、死神化してアパートの室内から走り去ってしまった。それを軽やかに追う白哉。
「兄の笑顔、実に間抜けであった」
「うっせえええええええええ!」
「何故逃げる!」
「じゃあ、なんで千本桜、始解してやがるんだあああああ!!!」
今日もまた、夜は更けていく。
一人取り残されたルキアは、一護の部屋の冷蔵庫を勝手に漁って夕飯を食べていたという。
ブーケ
13番隊の6席の男性死神が、5番隊の一般隊士の女性と結婚することになった。
「おめでとう!」
「ありがとうございます」
雨乾堂で報告をしてきた6席に、祝いの言葉をかけた。
「式は、いつあげるんだ?」
「それが迷っていて・・・・籍を入れるだけで十分だと妻になる人はいうんです」
「それはだめだ。一生の思い出が残るんだから、ちゃんと式を挙げないと。金銭面で困っているなら相談にのるぞ」
そういう浮竹も、金銭面では余裕がなくて京楽に頼り切りだが。
少しくらいなら、部下のために使える額くらいはなんとかあった。
「緊張しちゃうじゃないですか!俺、極度の緊張屋で・・・・・その」
「大丈夫だ。笑顔でにこにこしていればいい。それで大抵なんとかなる」
「そういうもんですか?」
上官である浮竹とは何度も会話し、緊張はしないが、他の席官や妻となる人の5番隊の隊長は反旗を翻した藍染なため、今は隊長は空席となっているが、副官の雛森が出席することになるだろう。そう考えただけで緊張で汗が流れて、動悸がしてくると訴えてきた。
「まぁ、俺に任せろ」
「はい、隊長に相談してよかったです。じゃあ式の日取りとかも決めてもらっていいですかね?」
「まぁ任せろ」
その時はそう言ってしまったのだ。なんとかなると思って。
後日、結婚式の資料を集めていると、京楽がこう言ってきた。
「浮竹、僕と式をあげる気になったんだね」
「アホか。隊長同士、しかも男性同性で結婚なんてできるか」
「最近は、同性でも結婚式を挙げることが多いみたいだよ。主に現世で」
「現世と尸魂界は違う」
洋風にするか和風にするかに悩む。
結局、和風を基本に洋風も取り入れた、最近の現世でするような結婚式にしようと思った。
「俺のとこの6席が、5番隊の子と結婚するんだ。その役目を引き受けてな」
「あちゃー5番隊かー。桃ちゃん、ちゃんと出れるかな」
未だに藍染を慕っている雛森は、まだ万全でなくよく通院していた。
「最悪欠席でもいい。祝いの言葉を記録しておけばいいから」
「そういう君も、発作や熱だしたりして、式に出れないってことは避けなきゃいけないよ」
「あ、忘れてた・・・・・・」
結婚式だと舞い上がって、自分の体調のことをすっかり失念していた。
「なんとかなる・・・・・多分」
式は、6月に決まった。
新郎には和風のスタイルで、新婦にはウェディングドレスを手配する。採寸をしてもらった5番隊の女性隊士は、わざわざ浮竹が式の進行を執り行ってくれることに、大変恐縮していた。
「こここここ、このたびは、わわわわわたしなんかの式にぃっ」
金銭面の問題で、レンタル式のウェディングドレスを着ることになった。
「おふっ」
躓きかけて、浮竹の隊長羽織を掴んだが、びりっと破けてしまった。
女性隊士は、愛らしかったが、かなり緊張していた。この子は、あの6席と同じくらい緊張屋さんかもしれない。
「ぎゃあああああ、うううう浮竹隊長の隊長羽織がああああああああ」
「ああ、気にするな。替えはあるから」
「ああああああああ、私はもうだめだわあああああ!」
「まぁ、落ち着いて」
「あああああ、やってしまったのかお前!」
6席が、ウェディングドレスを着た妻に、顔色を変えていた。
「我が隊の隊長の隊長羽織を破くとは・・・・・・どうしよう!?」
二人で、あわあわしていた。
6席は妻のウェディングドレス姿に感動するより先に、破れてしまった隊長羽織を気にしすぎて、二人してパニックを起こしていた。
「二人とも、落ち着け!」
「は、はい」
「すみません」
式の流れを説明して、雛森にも来てもらえることを了承してもらった旨を伝える。
「ひひひひいいいい!ひーーーーーー」
雛森の名をあげたいのだろうが、悲鳴になっていた。
「おい」
「ひひひ雛森副隊長がきてくださるなんて!」
ぼろぼろと泣き出す5番隊の子に、浮竹が焦る。
「その程度で泣いてどうする!」
「うわーーーーん結婚式あげることになったよかったかもーーー」
5番隊の子は、夫となるべき6席ではなく、浮竹に抱き着いた。
冷たい霊圧を感じて振り返ると、京楽が様子を見に来てにこにこしていた。
「違う、これはっ」
「まぁ、全部まとめて後でね」
ぞくりを肌が粟立つ。
なんやかんやあって、6月の1日に式を挙げることが決まった。
13番隊の席官全員と、一般隊士から名乗りを上げた者、5番隊は雛森副隊長をはじめとして、あとは席官と今回の主人公である女性となかのいい一般隊士が参列した。
「あなたは、この者を夫とし、病める時も健やかなる時も、共にいると誓いますか?」
「ちちちちっちちちっちちちちちかかかかあかいいいいいま、あべし!」
ウェンディングドレスのまま派手にこけた5番隊の子は、起き上がると夫となる6席の手をとった。
「あなた、愛しています」
「俺も愛しているよ」
誓いの言葉をお互いに交わして、指輪の交換をした。
そして、キスをする。
すると、京楽が用意していたのか、建物の上から花びらが降ってきた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
新郎新婦は、なんとか式を終えて、皆に祝福されていた。
「七緒ちゃん、もう花弁はいいから・・・・・・ごふっ」
花びらの残りが入った籠を京楽に投げつけて、七緒は二人に花弁を巻いた。
「お幸せに」
七緒は、新婦と顔見知りしらしく、いくつか言葉を交わしてから、参列者に交じった。
花嫁は、ブーケを手にしていた。
そのブーケを投げる。
受け止めようと女性隊士たちが押し寄せよてくる。
「うわ」
参列者の中に混じっていた浮竹の手の中に、ブーケは落ちた。
「わー、これって僕らも結婚しろってことかな?」
今回、助っ人をしてくれた京楽も、式に参加していた。
「ばかいうな」
女性隊士たちは、二人を取り囲んでキャーキャー言っていた。
「ほら、受け取れ」
もう一度ブーケを投げた。
それは、七緒の手の中に落ちた。
「あはは、七緒ちゃんには相手になるような猛者がいないもんね」
一言多い京楽を殴って、七緒は少し赤面してブーケを受け取った。
こうして、部下の式は終わった。
「ねぇ、浮竹」
「なんだ、京楽」
「僕たちも、いつか式をあげよう。二人きりでいいから」
「いつか、機会があればな」
浮竹は、別に結婚式とかにこだわるタイプではない。それも京楽も同じだろうが、やはり式を挙げるのは愛の証になるのだろう。
「お前がウェディングドレスを着ろ」
「うわー想像しだだけで寒気がする。自分の屈強な身体が入るウェディングドレスとか・・・特注しなきゃ無理だね」
「冗談に決まっているだろう」
くすりと、浮竹が笑った。
「君もウェディングドレスなんて着ないでしょ?」
「当たり前だ。式をあげるとしたら、二人揃って、一族の家紋いりの和風の礼服を着てだな・・・・・・・」
それからと、夢物語をする。
新婚旅行は現世の外国がいいだの、あの国に住んでみたいだの・・・・・。
全ては夢。
でも、だから語って想いを馳せることができる。
「そうそう、式はできないけど、これなんてどうかな」
京楽が、小さな箱を取り出した。
中身は、翡翠をあしらった指輪だった。2つ入っていた。
「そっちの大きいのが僕ので、そっちの小さいのが君の」
「指輪交換か・・・・・」
「そう」
二人で、指輪をはめあう。
「愛しているよ、十四郎」
「俺も愛している、春水」
式を挙げるわけでも、立会人も、祝う人も誰もいないけれど。
それでも、二人は愛を誓いあう。
世界は廻る。
どちらかの命が尽き果てるか、世界が終わるまで。
二人は、愛を誓い合うのだった。
院生時代の部屋31
「・・・・・・あーん」
朝っぱらから何をしているかというと、風邪をひいて熱を出した浮竹の世話を、京楽がしていた。
卵粥をもってきてくれたのはいいが、一人で食べられるというのに、あーんをさせられていた。
「やっぱり一人で食べられる」
「だめだよ!無理しちゃいけない」
熱でくらくらするが、一人で食べれないわけではない。
「はいあーん」
「・・・・・あーん」
なんかこんなやりとりをしていると、余計に熱があがってきた。
「だめだ、これ以上起きてられない。寝る」
ベッドに横になる。
京楽が、残りの卵粥をたべて、スプーンをぺろぺろなめている変態行為をしているが、つっこむ元気もなかった。
「水を・・・・・」
オレンジの果汁をいれた天然水のペットボトルを渡されて、半身だけなんとか起き上がらせた数口飲むと、少し熱がひいたような気がした。
解熱剤を多めに、いつもの薬を飲む。
10分もたたないうちに、意識は闇の中へと落ちていった。
「ん・・・・・・」
起きると、日付が変わっていた。
「まだ夜か・・・・って、京楽・・・・・・」
同じベッドで、京楽は眠っていた。
額には、濡れたタオル。椅子の上には、水の入った洗面器。
ああ、看病してくれていたのかと思うと、蹴り落とすのもまだ体力的につらいし、仕方ないのでそのままにしておいた。
「うふふふ浮竹のハーレム・・・・・うふふふ」
「なんの夢をみているんだが・・・・・・」
きっと、いかがわしい夢でも見ているんだろう。
熱は大分下がり、身動きがとれそうだったので、ベッドからおりた。
冷蔵庫から、天然水をとりだして飲むと、今度は桃の味がした。天然水シリーズといって、瀞霊廷ではやいっている、果実の味をした透明な飲み物である。
「柿か・・・・」
冷蔵庫を見ると、柿が冷やしてあった。
おさな心に、柿の木の実を妹や弟たちが、よその家の柿の木によじ登ってはとっていたのを思い出す。
あの頃は、浮竹の薬代のせいで、借金をしていたせいで、貧しいともいえなくはなかった。幸いなことに、借金のかたにと、妹や弟が売られていくまではいかなかったが。
両親を失えば、きっと浮竹もどこかに売られていただろう。見た目がよいから、薬の借金を重ねながら色子でもさせられていたかもしれない。
柿をあらって、皮ごと食べてみる。
懐かしい味がした。
「浮竹、もう起きて大丈夫なのかい」
京楽が起きてきた。
「柿、よければむくよ」
「いや、このままでいい。皮つきのほうが好きなんだ」
「へえ、変わってるね。それより、ベッドに戻って。まだ熱あるでしょ」
下がったとはいえ、微熱よりまだ少し体温は高かった。
ベッドに横になりながら、柿を食べた。
「もう1個食べる?」
「ああ・・・・・」
考えてみれば、朝に少し卵粥を食べただけで、それ以外水分しか口にしていないのだ。お腹がすいているわけだ。
京楽から、冷えた柿をもらって、しゃくりと皮つきのままかじれば、また懐かしい味がした。柔らかいよく熟したものよりも、少し硬い色づいたばかりの柿の方が好きだった。
そういえば、同じ柿でも干し柿は最近食べていないなと思う。
あれはまたあれで、美味いのだが。でも、普通の柿の方が好きだった。
「この時期だけど、知り合いがビニールハウスで苺を栽培しているんだ。熱がさがったら今度の
休日にでも苺狩りにでもいかないかい」
苺は大好物だった。
「ああ、いいぞ」
「約束だからね」
翌日には熱も下がり、いつも通りの毎日が訪れる。毎日学校にいって、座学の他に鬼道に剣の腕を磨いた。
やがて、休日になった。
「さぁ、いこうか」
「どこへ」
「え、覚えてないの。苺狩りにいこうって約束したじゃない」
「そういえば、そんなこといっていたな。忘れてた」
「そんな、ひどい!僕とのことは遊びだったのね!」
「あのなぁ。ああ、でもなんとなく覚えている。熱があったせいで、はっきり記憶できていなかった。水筒に薬に弁当。こんなもので荷物はいいか?」
水筒はすでに二人分用意されてあったし、弁当は食堂で買ったものが2つ用意されてあった。浮竹がもっていくとしたら、薬くらいだ。
「うん、荷物はそれくらいだね」
二人で、瞬歩はまだ使えないので、人力車で移動した。
流魂街に近い瀞霊廷に、畑が広がっていた。ビニールハウスもある。
「おーい、おじさん」
「おう、これは京楽の坊ちゃん」
「苺狩りにきたよ」
「そっちの別嬪さんは、京楽の坊ちゃんのいってた、いい人かい?」
「お前は、何を吹き込んでいるんだ」
京楽の頭をはたいた。
「ははは。照れてるんだよ」
「一度灰にしてやろうか・・・・・・・」
「・・・・・・・( ゚Д゚)」
「今日はお世話になります」
浮竹は、ぺこりと頭を下げた。
「いいってことですよ。うちは、京楽家に金をだしてもらって栽培してますから。京楽家を中心に苺を卸していますから、坊ちゃんの友人は歓迎します。いい人ならもっと歓迎です」
「この駄犬とは、ただの親友です」
「僕って犬だったのか・・・・・」
ビニールハウスの中は、少し暑かった。
苺を食べる分だけとって、外にでて涼みながら食べた。
「とれたてはまた味が濃いな。すごく甘い」
「きてよかったでしょ」
「そうだな」
持って帰る分の苺ももらった。しばらく苺はみたくないってくらいに食べたので、満足だった。
「では、ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ。坊ちゃん頑張ってくださいね」
「おじさんもありがとね。これ、臨時収入に」
金の塊をぽいっと放り投げる京楽。
相変わらず、金銭感覚は狂っている。
「浮竹、はいあーん」
「自分で食える」
苺を食べていると、キスされた。
「ふふ、苺の味がする」
口の中の果実をもっていかれた。
「このばか!」
帰りは、のんびりと歩いて帰っていた。
人前でキスしたことになる。少しだけ視線を感じて、浮竹は京楽の手をとって走った。
「学院内ならともかく、外でキスはするな」
「学院内なら、いつしてもいいの?」
「時と場所をわきまえられないなら、ハグとキスを永久禁止にしてもいいんだぞ」
「京楽春水、言われたことは守ります!」
また、並んで歩きだす。
寮につくころには、日が暮れていた。急いで食堂にいって夕食を食べた。
苺を、冷凍室にいれておいて、シャーベットにしておいた。それを食後に食べて、浮竹は幸せそうな顔をしていた。
「よければ、また苺狩りにいこう。蜜柑狩りもできるよ。あとは葡萄と・・・」
「一気に行かなくてもいいだろう。あと3年もあるんだ」
「そうだね。でも逆を考えてごらん。千年はある生きる時間のうち、あと3年しか、一緒にいられないんだよ」
「ばか、一緒に死神になると誓っただろう。一緒に護廷13隊に入るんだ」
一緒にという言葉を強調したら、京楽は笑顔になった。
「そうだね。大人になっても一緒にいようね」
「ああ」
二人で、シャーベットにした苺を食べた。
とても甘い味がした。
黒薔薇姫
といっても、夏の頃の薄い死覇装が分厚いものになるだけで、隊長羽織は変わらずで、あまり死神たちには衣替えの意味はなかった。
「よっと、お邪魔するよ」
ドアを開けて、暖簾をくぐってやってきら京楽は、自分の登場にも気づいていない浮竹の背後に回った。
浮竹は、仕事に集中していた。
ハンコをおして、書類をしたため、可か否かをかいて、またはんこを押す。
髪に何かを飾られて、浮竹は吃驚した。
「京楽・・・・入ってくるなら、そうと言ってくれ」
「ちゃんと、お邪魔するよっていったよ」
「あれ、俺が聞き逃したのか」
「まぁ、気配は消してたからね」
「何故気配を消すんだ」
「君が、仕事に夢中になってるから、驚かせようと思って」
ふと、手に取った髪に飾られた何かを見る。
手折られた、黒薔薇であった。濃い紫の黒に限りなく近い薔薇。
京楽の手には、黒薔薇の99本の花束があった。
「最近、やっぱり薔薇に凝ってるな」
「ちょっとね。花言葉とかけっこう深いし。黒い薔薇は「永遠の愛」「決して滅びることのない愛」「貴方はあくまで私のもの」っていう意味があるよ。もっと深いのになると、縁起の悪い花言葉もあるけどね」
浮竹は、中断していた仕事を始める。
「すまない、あと30分ほど待ってくれ。仕事を終わらせたい」
「いつまでも待つさ」
京楽は、浮竹の手から渡された黒薔薇を、再び浮竹の白い髪に飾った。
「んー。蒼薔薇や赤薔薇ほどじゃあないけど、黒薔薇もいいねぇ」
「そうか?」
ハンコを押しながら、浮竹は応えを返す。
京楽が、2つの花瓶に水をいれて、約50本ずつにわけた黒薔薇をいれる。大きめの花瓶であったが、入りきらずに、空になった酒瓶に水をいれて飾ってみた。
「酒瓶も、酒を飲む以外にも役に立つんだなぁ」
自分で活けておきながら、自分で歓心していた。
やがて、仕事の終わった浮竹がやってくる。
「今度はなんだ。黒薔薇姫とでもいいだすのか?」
「その通り」
1本の黒薔薇を、浮竹の前へ。
「あなたは私のもの・・・・・・永遠に変わらぬ愛・・・・・」
「花言葉だろう?」
「君に贈るのに、今まで一番ふさわしい花言葉だと思う」
その黒薔薇を受け取る。
「永遠に変わらぬ愛を君に」
耳元で囁けば、くすぐったそうにする浮竹。
ふと、金木犀の香がした。
「ああ、あの金木犀の芳香剤使ってるんだ」
少し甘いが、いい匂いだと思う。
「悪くはないだろう?」
「そうだね」
元は何もなかった雨乾堂であるが、京楽が泊まるようになってからいろんなものが増えた。まずは一組しかなかった布団が、客人の分もいれて二組になった。
椅子も2つになったし、座布団も2つだ。
たんすの中には京楽の死覇装や隊長羽織がいれられてある。
京楽と浮竹用の酒も置いてあった。
それなりの広さだった雨乾堂も、二人で過ごすようになって大分手狭になった気がしないでもないが、雨乾堂ができる前から恋人同士だったので、それでもいいかと、思うのだった。
「僕の黒薔薇姫。一番気に入った薔薇はなんだい?」
「やっぱり、蒼薔薇かなぁ。珍しいし、綺麗だし、金もかかってるしな」
「じゃあ、今度はまた蒼薔薇をもってこようか?」
「だめだ、高いだろう!」
「じゃあ、鉢植えのを取り寄せそう」
「それならまぁ・・・・・」
鉢植えなら、来年も咲く。枯らしたりしない限り。
「僕だけの黒薔薇姫。愛してもいいかい?」
翡翠の瞳が臥せられる。長い睫毛が、頬に影を作り出す。
「俺が姫なら、お前は王子ってとこか?もじゃもじゃだが」
「もじゃもじゃは余計だよ」
クスクスと笑いあいながら、畳の上に寝転がる。
キスをされたので、キスをし返すと、布団がしかれた。
その上で、互いの衣服を脱ぎあっていく。
「んっ」
うなじから肩甲骨にかけて、舌がはう。次に背骨のラインをたどられた。
「あっ」
薄い胸の先端を摘みあげられて、声が漏れた。
「んんっ」
全体のラインをたどるようにキスと愛撫が繰り返される。
京楽は、反応しかかっていた浮竹の花茎を口に含んだ。そのまま手で上下に扱われて、あっけなく白濁した液体を京楽の口の中に放った。
「京楽・・・・・・・」
潤んだ瞳で見つめられて、京楽も限界だった。
浮竹が、京楽のものを口に含んだ。いつもはしない行為に、少しだけ京楽が戸惑うが、その気持ちよさにすぐに虜になった。
「ああいいよ・・・・・その調子で」
鈴口にちろりと舌を這わせると、京楽も浮竹の口の中に白濁した液体を放った。
「んっ」
潤滑油で濡らされた指が入ってきて、浮竹はその動きに翻弄される。
いつものように前立腺を刺激された。指が3本に増やされて、ばらばらに動かされる。指が抜かれた後は、大きな質量をもつものが宛がわれた。
「あああああ!!!」
一気に貫かれた。
「あ!あ!」
前立腺をすりあげる動きに、浮竹が濡れた声をあげる。
「ああっ」
最奥を貫かれながら、体位を変えられた。
「ひっ」
内部を抉る動きに、悲鳴が漏れる。
「ひあっ」
ぱんぱんと、腰と腰がぶつかる音する。じゅぷじゅぷと結合部は泡立ち、濡れた音を立てた。
「やっ・・・・・あああああ」
後ろから貫かれて、そのまま花茎に手でしごかれて、白い髪が宙を舞う。
二度目の精を放ち、敏感になった体を貫かれた。
「やああああ!」
京楽は、浮竹の甲高い悲鳴に似た喘ぎ声を聞きながら、最奥に欲望を迸らせた。
「うあっ」
まだ質量を保ったままの京楽に、浮竹が首を横に振る。
「もう少しだけ・・・・・」
「あと3分だ」
「十分」
「ああ!」
3分でラストスパートを京楽がかけてくる。その動きに翻弄される。
「んんっ」
キスをしながら、突き上げられる。
「んあっ・・・・もっとキス・・・・・」
ねだられて、いく前にキスをした。そして、最奥ではなく入口付近で精液をぶちまけた。
ぬきとると、こぽりと、白濁した液体が漏れた。
「春水・・・・・・・もっとキス・・・・」
「十四郎・・・・・好きだよ」
キスをしながら、愛を囁くと、浮竹もそれに応えた。
「すきだ、春水、愛してる」
「僕だって、愛してるよ」
いつの間にか、浮竹の白い髪を飾っていた黒薔薇が、布団の上に落ちていた。
それを髪に飾り直して、余韻にひたる。
やがて、湯あみの時まで髪飾りとして、黒薔薇は輝いていた。
金木犀
「え、それいつもの君の香でしょ」
「ちがうちがう。もっとこう・・・ああ、金木犀だ」
橙色の小さな花を集めて咲いた木を見上げる。
「ああ、金木犀の匂いか・・・・たしかに、甘ったるいよね」
「俺もこんなに甘い香がするのか?」
「いや・・・君は甘い花の香はするけど、湯あみでシャンプーとか石鹸の匂いがまじっていない限り、甘ったるくないね」
「つまり、湯あみした後は甘ったるいのか?」
「少しね」
溜息をつく。それは生来のもので、赤子の頃花の神に捧げられ、祝福を受けた証として、浮竹はいつも甘い花の香がしていた。
「でも、高級ってかんじの匂いで、悪くはないよ」
散っていく金木犀の花を集めてみた。
その香はけっこう好きだと、浮竹は思う。
「今みたいな10月の半ばに花を咲かして、2週間ばかりで散ってしまうか・・・・・」
花としては2週間もてばいいほうだろう。
「何、金木犀気に入ったの?」
「ああ。けっこう好きだ、この甘い香」
「へぇ。じゃあ、金木犀の香水でも・・・・・・ああ、でも君は元来の甘い花の香があるからね。室内に置いておけるタイプの芳香剤でも買ってあげるよ」
「そんなの売ってるのか?」
「このサイト・・・・・いろいろそろってるから」
伝令神機の、雑貨屋を見せられる。検索すると、金木犀の芳香剤がでてきた。
その値段に驚く。
「3万・・・・・けっこう、高いんだな」
「いや、安いでしょ。このサイト、僕はよく利用しているけど・・・というか、上級貴族向けのサイトだからね。3万は高いのかい?」
「普通なら、高くても3千くらいだろう」
「ふーむ。まぁいいや、ぽちっとな」
テロレロリンと音が鳴って、購入した証のデータが出てきた。
「ここの便利なとこは・・・」
テロレロリン。
音がして、金木犀の芳香剤がぽんっと届いた。
「ほら、ごらんの通り・・・・注文したら、すぐ届くんだ。場所とか関係なく」
「どうなってるんだ一体・・・・」
「僕にもよくわからないけど、技術開発局もかかわってるらしいから、簡易の転送じゃないかな」
「ふーむ」
芳香剤の入った箱をいろんな角度から見てみたが、これといって怪しい箇所はなかった。
「まぁいいか。ありがたくおもらっておく」
「何か欲しいのあれば、君も伝令神機で買うといいよ」
「金がない」
「僕のアドレスとID教えておくから。1500万までは使えるから」
家が1軒買える値段に、浮竹が驚く。
「そんなに、こんな雑貨屋に使うのか?」
「いやー?ただ、僕のクレジットの残高。最近けっこう使ったから、10分の1以下になってるけど」
10倍・・・1億5千・・・・くらりと眩暈をおこしそうだった。
「お前の金銭感覚は、相変わらずだな」
「えーそうかい?まぁ、屋敷買うわけじゃないし、今は1500万でいいかなーって」
「この雑貨屋で屋敷を買うのか?」
「そうだよ。雑貨屋っていうより、なんでも屋だね。職人とかもくるから便利でね・・・他のとこのほうがもっと安くつくだろうけど、手続きとか簡単だから、いつもここを使ってるね」
「13番隊の隊舎の一部に雨漏りがあって、困っているんだ」
「屋根修理だね。頼んでおいたよ。今回は安いね50万だって」
いや、普通5万くらいだろう・・・・思ったが、浮竹は何も言わなかった。京楽の懐から13番隊の隊舎を直させるのに、良心は痛むというより、経費を使わなくてすんでいいなと、ちょっと腹黒くなっていた。
「この芳香剤、雨乾堂に置いてくる」
「ああ、僕もいくよ」
雨乾堂から出て10分もしない道端での会話だったのだ。
風がふく。
ちらちらと、橙色の花が散っていく。
桜の花ような可憐さも美しさもないけれど、これはこれでいいと思えた。
後日、購入履歴を見たのだが、浮竹グッズばかりで、浮竹は京楽の院生時代の変態さを垣間見た気がして、困ったという
紫薔薇姫
月が綺麗な夜だった。
「お、白哉じゃないか」
向こう側からやってくるのは、浮竹だった。
「どうした浮竹。こんな時間に」:
「いや、最近臥せって運動不足だったから、運動とあとはずっと寝ていたせいで眠れなくてな」
そういう浮竹の額に、白哉は手を当てた。
「熱は、もうないようだな」
「そうじゃないと、外出なぞせん。隣いいか?」
「好きにするがよい」
浮竹は、白哉の隣に並んで歩きだす。
「月が綺麗だな」
「今宵の月は格別だ」
月光の中を、二人で他愛もない昔話をしながら歩く。
「母上は、かなり美人で、俺は母上似なのだ」
「・・・・母親が生きているだけいいではないか。私は、最愛の妻とも死別してしまった」
「やっぱり、再婚する気はないのか?」
「緋真以外に、娶りたい女性などおらぬ」
「朽木の妹は妹だしな・・・・・」
「そういう兄こそ、所帯はもたぬのか」
「こんな病弱なのに、結婚なんてできない。それに、俺には京楽がいるからな」
何気にのろけられた。
「はっくしょん」
「今宵は冷えるな。これでも被っていろ」
そう言って、銀白風花紗を浮竹の首に巻いた。
「お前、これめっちゃ高いやつ・・・・」
「心配無用だ。すでに1つ、この間兄が血を吐いた時に、つかいものにならなくなったものがある」
「うわあ、弁償したいけどできない・・・・・・・・」
浮竹は頭を抱えた。
「兄に弁償しろなどとは言わぬ。それに、発作は仕方のないことだ。兄に近づかなければ銀白風花紗は汚れなかった。だが、倒れた兄を放置しておくわけにもいかぬだろう」
「ありがたいけど、そのシーンを京楽に見られたら、あいつのことだから絶対嫉妬しそう」
「京楽隊長は、兄のことになると性格が変わる。あれは独占欲の塊だ」
「まぁ、そう言わないでやってくれ。あれでも、とても優しいんだ」
「それは兄にだけであろう」
「ああ、うん、そうかも・・・・・」
「そろそろ私は帰る。その銀白風花紗は今度会う時に返してくれればいい」
「あ、待て白哉!」
白哉は、瞬歩で消えてしまった。
「これをもって帰れと?」
仕方なく、浮竹も瞬歩で雨乾堂に帰った。次の日、天日に干していた銀白風花紗を見て、京楽がにっこりと笑んだ。
「あれは何かな?」
「あれは、昨日夜の散歩をしていたら白哉に会って、くしゃみをしたら首に巻かれて、そのまま今度返せばいいと言われて・・・・・・・」
「へえ。病み上がりなのに、夜に散歩に。朽木隊長に・・・・・・・」
「京楽、勘違いするなよ、何もなかったからな!」
「何もなくてもね・・・・・・」
ちりっとした感覚を、首に感じた。、
キスマークを残された。
「こら、京楽!」
「大人しくしてないと、またキスマーク残すよ」
びくりと、浮竹の動きが止まる。
「ほんとにこの子は・・・・・・」
抱き締められて、何度もキスされた。
「ふあっ・・・」
服の上から体の輪郭をなぞられる。
「あ・・・・・・」
「99本の紫の薔薇をもってきたのに」
薔薇の花束。99本の意味は永遠の愛。
「紫の薔薇の花言葉は「誇り」「気品」「尊敬」だよ」
「白哉に合いそうだな・・・・・・・」
「まぁそうだね。朽木隊長にぴったりの花言葉だろうねぇ」
薔薇を一本手折って、いつものように浮竹の髪に飾る。
「僕だけの紫薔薇姫。せめて、一緒にいる間はあまり他の男のことを考えないで」
「そんな無理なことを・・・・・・」
「浮竹は今、この薔薇の花を朽木隊長に渡してみたいって思ってるでしょ」
「なんで分かるんだ?」
「花言葉がぴったりだから、でしょ」
「それもあるが、銀白風花紗を返したい」
「あれは、僕が責任をもって朽木隊長に渡しておくから」
「そうか?すまないな・・・んっ」
口づけられて、押し倒される。
「最近臥せっていて、お預け食らってた分、もらってもいいよね?」
「好きにしろ・・・・・・・・」
浮竹は、全身から力を抜いた。
「愛してるよ、十四郎」
「俺も愛してる、春水・・・・」
交じりあいながら、愛を囁く。
紫の薔薇も、ドライフラワーにされて、蒼薔薇の隣にかざられるのであった。
カニ鍋2
一護の他にも、井上、石田、茶虎がきていた。
「ああ、一護君」
「浮竹さん、久しぶり。体はいいのか?」
「ああ、この通り最近は元気なんだ。熱も出ないし、肺の病の発作もないし」
「そりゃよかった」
「こら一護!浮竹隊長に失礼であろう!ちゃんと敬語で話せ!」
「うっせーなルキア」
「まぁまぁ、朽木もそのへんにしておけ」
「なりません、浮竹隊長!こやつは、つけあがると・・・・・」
ぐりぐりと、一護の頭を拳で殴っていたルキアを、一護が振り切る。
「さっきから大人しくしてると、いてぇなこの野郎!」
「もきゃあ!?」
尻もちをついたルキアを、一護が助け起こす。
「仲がいいんだな、二人とも」
「こ、こんなたわけのことなどどうでもいいのです!」
真っ赤になったルキアが、ぶんぶんと首を振る。
同じく真っ赤になった一護が、ルキアを指さす。
「こ、こんな傲慢で我儘なルキアのことなんて!」:
「おーい、みんな、私たちもいること忘れてないー?」
井上が、石田と茶虎を連れてきた。
「ぬおっ、井上!そうだ、兄様に井上を紹介しに行かねば!」
「私なら、先ほどからここにいるが?」
「兄様、いつの間に・・・・気配を絶っておりましたね?」
「騒がしいのは、好かぬ」
「兄様、こやつが井上織姫!現世の、高校なる場所で出会った、一番の友人です」
「朽木さん、一番の友人だなんて照れるなぁ」
「ふむ。井上とやら、ルキアを今後も頼む」
「あああ、朽木さんのお兄様、それはこちらのほうから言いたい言葉です」
わいわいと賑わっていたら、京楽がやってきた。
「おや、珍しい面子がそろっているねぇ」
「京楽!日番谷隊長と松本副隊長は!?」
「ちゃんといるよ。ねぇ?」
「なんなんだ、いきなり呼びつけたりして」
「なんか美味しいもの食べさせてくれるらしいですよ」
松本がわくわくしていた。
すでに、段取りは決まっていた。
朽木家に移動して、座敷でカニ鍋が現世組、ルキアと白哉用、日番谷と松本用、浮竹と京楽の、4つの鍋があった。
現世組は人数が多いので大鍋だった・
「白哉を口説き落として用意させたんだ。みんな、カニの季節だし好きなだけ食べていってくれ」
「わーカニなんて久しぶりー」
井上がとても嬉しそうにしていた。
「隊長、カニですよカニ。最近食べてませんね」
「俺はこの前食べた」
「ええっ、ずるい!」
「ばあちゃんちで、カニ鍋したんだよ!ばあちゃん、質素な生活してるから、俺が帰らないと、豪華なもの食わねーからな」
「へえ、冬獅郎ってばあちゃんいるのか」
一護が、珍しそうな声を出した。
「いちゃ悪いのかよ!」
「なんでそうなるんだよ!」
「日番谷隊長と呼べ!」
ワイワイ言ってる間に、鍋が沸騰しだして、カニや海老、はまぐりに鮭、あとは白菜、椎茸、えのきだけ、人参、うどんなどを入れていく。
「んー美味しい」
「美味しいー」
松本と井上の反応は似ていた。
白哉は、ややためらいがちに、はじめて誰かと鍋をつつくということを経験していた。
「兄様、カニはこうすると身がとりやすいのです」
「こうか?」
「お上手です、流石兄様!何をされても絵になります!」
「まぁ、上手に朽木隊長を口説き落としたもんだねぇ」
「3日かかった」
「うわぁ。さすがに朽木隊長に同情しちゃうよ」:
「でも、皆でカニ鍋を囲むのも悪くないだろう?」
「まぁ、人数が多すぎて鍋は別々だけどね」
楽しそうに浮竹は笑う。
その笑顔を、京楽だけでなく日番谷と白哉も見ていた、
段取りまで時間がかかったせいもあって、その日の夕方にが一護たちは現世に帰ることが決まっていた。
「じゃあ、みんなまたな!」
一護が、手を振る。ルキアは現世組についていって現世に戻るので、白哉はルキアにマフラーをもたせた。
「風邪など、ひかぬように」
「ありがとうございます兄様!それではまた戻る時まで、しばしの別れです」
「気を付けて。一護君も、元気で」
「ああ、浮竹さんもな!」
京楽は、小声で「一護君はもうこなくていいよ」とかいってたので、浮竹がその頭を殴っていた。
「白哉、朽木家を貸してくれてありがとうな」
「兄がそうしないと、血を吐くと脅したせいであろう」
実際、脅しているわけではなかったが、一度血を吐いた。浮竹は発作の我慢はできないが、血を吐こうとしたら、そうできるときがあるので、白哉も気が気ではなかった。
「京楽も、手伝ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
皆、帰路についていく。
その日の夕焼けは、いつもより格段に綺麗だった。
夕日に照らされて、紅色に染まる白い髪を見ていた京楽は、その髪に口づけた。
「楽しかったかい?」
「ああ、久しぶりに楽しんだ」:
「今日の夜、いいかい?ご褒美に」
浮竹は、夕暮れのせいではない朱さで頬を染めた。
「仕方ないな・・・・・・」
3日前にしたばっかりなので、1週間に2回と決められているせいで、そろそろいいかと思っていたのだった。
「じゃあ、雨乾堂に戻ろうか」
「ああ、そうだな。京楽」
「なんだい?」
「俺は白哉に日番谷隊長に一護君が大好きだが、一番大好きなのはお前だからな!」
顔を真っ赤にしながら、そう叫んだ。
「浮竹は、かわいいね」
にんまりとした優越感に浸る笑みを、京楽が刻む。
こうして、冬も過ぎていくのであった。
朽木白哉と浮竹
「断る」
「そう言わずに・・・・・・」
朽木家の用意されていた執務室で、浮竹が白哉に甘えていた。
ゴロゴロゴロ。
広い畳の上をゴロゴロ転がって、甘えているのだが、白哉はなかなかうんと言ってくれないのだ。
「隊長・・・・・・あのかわいい生物、どうしましょう」
「兄にやる」
恋次は、ゴロゴロとやってきた浮竹を見て、思わず頭を撫でた。
「どうした、阿散井副隊長」
「あんまりゴロゴロ転がらないでください。かわいいから」
「うーん?もう少し転がっとく」
恋次を置いて、白哉のほうに転がっていく浮竹。
「兄は何がしたい」
「だから、カニ鍋を・・・・・」
「そんなもの、個人で食せばいいだろう」
「いや、鍋をみんなで囲むから楽しいし美味しいんだ」
「兄はそうかもしないが、私はあいにくと鍋を囲むようなことはしたことがない」
「だから、これを機に、他の隊長たちと仲良く・・・・・・ぐっ」
「浮竹?」
「ぐっ・・・・ごほっごほっごほっ」
突然だった。白哉の近くにまで転がってきたかと思うと、急に咳込みはじめた。
「すまな・・・・ごほっ」
ぼたぼたぼた。
執務室の畳の上が、血で汚れた。
「ごほっごほっ」
ぼたぼたと、口をおさえた手の隙間から大量の血を吐く浮竹。
「恋次、京楽隊長と卯ノ花隊長を呼んでこい」
「は、はい!」
白哉は、衣服をが汚れるのも構わずに、浮竹の背をなでた。
「薬はあるか?」
苦しそうに、携帯用の薬の入った箱を出す。
「しばしして落ち着いたら、飲むといい。今布団をしく」
白夜自らが布団をしいて、その上に抱き上げた浮竹を寝かせた。
「ごほっごほっ・・・・・すまない、白哉・・・・・」
「すぐに京楽隊長と卯ノ花隊長がくる。それまで、しばし我慢しろ」
白い長い髪を撫でる白哉の表情は、慈愛に満ちていた。
「ごほっ・・・・・・・」
しばらくして、京楽と卯ノ花がやってきた。
「これまた酷く吐血したねぇ」
それ1つで家10軒が建てられるという、銀白風花紗も血まみれだった。
「あまり動かさないほうがいいですね。朽木隊長、屋敷をお借りします」
卯ノ花が、回道で手当てを開始した。
京楽は、その傍で様子を見守っていた。同じように、白哉も様子を見守っている。
「すまないねぇ、朽木隊長。銀白風花紗、弁償するよ」
「いらぬ。それより兄は、浮竹を大事にしているか?」
「それはもちろんだよ」
「そうか。それならいい」
そのまま、白哉は薬を飲んで眠ってしまった浮竹の顔を見ていた。
「じゃあ、雨乾堂に帰るから」
浮竹を抱き上げようとした京楽を、百哉が制した。
「まだ寝たばかりだ。動かしては起きるだろう。このまま寝かせておけ」
「でも、君の屋敷が・・・・・」
「浮竹が眠っている間くらいは構わぬ」
「そうかい。じゃあお言葉に甘えるよ。僕もいていいのかな?」
卯ノ花は、あとは本人次第だといって帰ってしまった。
「兄を放り出すと、浮竹が悲しむ」
「朽木隊長って、浮竹のこと呼び捨てにするんだね」
「それがどうした」
「交流は、けっこう前から?」
「ああ。ルキアが13番隊に所属した頃から、少しだが交流がある」
「そうかい」
心なしか、京楽の態度が少し強張った気がした。
「別に、兄のように浮竹をどうこうするわけではない。ただ、わかめ大使を与えたり、遊びにきた浮竹を構うだけだ。仲のよさなら、日番谷隊長のほうが上だろう」
「日番谷隊長は子供だからね・・・・」
「どういう意味だ」
「別に・・・・・」
「兄は、浮竹のこととなると大人げなくなるな」
「恋敵は、一人でも少ない方がいいからね」
「下らぬ。私は、兄のような感情を浮竹には抱いておらぬ。ただ純粋に兄のようだと思っているだけだ」
「ああ、それは浮竹も言っていたね・・・・君のことを、弟のようだと」
「浮竹は兄弟が多いからな・・・・一番下の弟と、同じ年くらいだそうだ」
「それは新情報だね」
それを京楽には教えずに白哉にだけ教える浮竹に、少し複雑な感情を抱く。
「約束しろ。兄は、浮竹を大切にすると」
「勿論約束するよ。約束しなくても、大切にするけどね」
そのまま、結局京楽は朽木家で一晩を明かした。
朝になる頃には、浮竹の意識も回復していた。まだ無理は禁物だが、雨乾堂に帰るくらいはできそうなので、京楽と浮竹は、京楽は普通の朝餉を、浮竹には卵粥が出された。
それを食してから、浮竹は京楽に抱き上げられて、雨乾堂に帰ることになった。
「すまない白哉、世話になった」
「構わぬ。また、気が向いたら遊びにくるといい」
「ああ、そうする」
「じゃあいくよ、浮竹。しっかり捕まってなよ」
瞬歩で、雨乾堂まで走る。
「浮竹と朽木隊長は、思っていた以上に仲がいいんだね」
「まぁ、弟のようなものだ」
「そうかい。それを聞いて安心したよ」
恋敵にならなくて、と、心の中で付け加えた。